裁判員制度に関する検討会(第2回)議事録 1 日時   平成22年2月23日(火)16:00〜18:15 2 場所   法務省地下大会議室 3 出席者 (委 員)稲葉一生,井上正仁,大久保恵美子,酒巻匡,残間里江子,四宮啓,土屋美明,角田正紀,前田裕司,室城信之,山根香織(敬称略) (事務局)西川克行刑事局長,甲斐行夫大臣官房審議官,落合義和刑事局刑事課長,岩尾信行刑事局刑事法制管理官,西山卓爾刑事局総務課裁判員制度啓発推進室長,加藤俊治刑事局刑事法制企画官 4 議題   裁判員制度の実施状況について(報告)   法曹三者の裁判員制度への対応の現状   その他 5 配布資料 議事次第 委員名簿 資料①:地検別 裁判員裁判対象事件罪名別起訴件数 資料②:裁判員裁判の実施状況の概要 資料③:裁判員裁判の実施状況について(制度施行〜11月末・速報) 資料④:「裁判員制度の運用等に関するアンケート」 平成21年8〜11月分調査報告書 資料⑤:裁判員等に対するアンケートの自由記載 資料⑥:裁判員裁判の実施状況等について(要約) 資料⑦:調査票の返送・回答状況等について 資料⑧:調査票の回答状況等について 資料⑨:調査票の回答状況等について(要約) 稲葉委員説明資料:「裁判員裁判における検察の基本方針と取組みについて」 前田委員説明資料:「裁判員裁判に関する弁護士会の取組状況」 6 議事 ○ 加藤刑事法制企画官 定刻となりましたので,第2回裁判員制度に関する検討会を開会させていただきます。井上座長,お願いいたします。 ○ 井上座長 皆様にはお忙しい中,御参集いただきましてありがとうございます。今回が2回目になりますが,この間,人事異動があり,それに伴って交代された委員が2名おられますので,まず簡単に自己紹介をお願いします。 ○ 角田委員 東京地裁で部総括判事をしております角田と申します。裁判員制度は歴史的な制度改革だと思いますが,その運用状況に関する検討会に参加する機会を与えていただいて,微力ですが,尽くしたいと思います。よろしくお願いいたします。 ○ 室城委員 警察庁刑事企画課長の室城でございます。辻に代わりまして,1月18日付で着任いたしました。引き続きよろしくお願いいたします。 ○ 井上座長 事務当局のほうでも,今回から出席されている方がおられますので,御紹介いただけますでしょうか。 ○ 岩尾刑事法制管理官 刑事法制管理官の岩尾でございます。前任の辻に代わり,今回から出席させていただくことになりました。よろしくお願いいたします。 ○ 井上座長 次に,本日お手元に配布されている資料について確認をお願いします。 ○ 加藤刑事法制企画官 お手元に配布させていただいた資料ですが,議事次第に続いて,本日の配席図と現在の委員の名簿です。  そのあと,「配布資料目録」に続いて,インデックス付きの資料を何点か編綴しております。インデックスの付いた資料の①から⑨までは,事務当局のほうで用意した資料です。このうち①から⑥までが,主として裁判員制度の実施状況に関する資料です。⑦から⑨までが,裁判員候補者の方にお送りしている調査票の回答状況等に関する資料ですが,これらの資料につきましては,後ほど事務当局から内容を説明させていただきます。なお,資料⑤だけは両面刷りになっております。  その後ろに,稲葉委員と前田委員から,本日の御説明用資料を頂戴しておりますので,これを綴じております。稲葉委員の御説明用資料は折りたたんでいるもので,広げるとA3判になるものです。前田委員の御説明用資料は,2枚紙の資料です。以上の資料を御確認ください。 ○ 井上座長 今,説明がありました資料がお手元に確実に行っておりますでしょうか。よろしいでしょうか。  それでは,早速議事に入りたいと思います。本日は,まず,裁判員制度の実施状況について,事務当局から御報告をいただきたいと思います。前回の第1回会合で何人かの委員の方々から御指摘があり,私からも事務当局に対して,最高裁判所ともよく相談し,この検討会の検討を充実させるための資料を収集していただきたいとお願いしたところです。  その後,事務当局において,裁判員制度の実施状況の把握に努めてきてくださっているようですので,現時点でどのような資料が利用できるのかという点を含め,既に行われた裁判員裁判の実施状況について御説明していただこうと思います。それでは,お願いします。 ○ 西山裁判員制度啓発推進室長 裁判員制度啓発推進室長の西山でございます。私の方から,お配りした資料に基づいて御説明します。  裁判員裁判は,裁判員法が昨年5月に施行されてから本年1月末までの集計で194件,200名の審理が行われました。本年1月末までの裁判員裁判対象事件の起訴件数等については,資料①「地検別 裁判員裁判対象事件罪名別起訴件数」を御覧ください。本年1月末までの全国の起訴件数は1,302件であり,罪名別では,多い順に強盗致傷(強盗傷人)が310件,殺人291件,現住建造物等放火108件,覚せい剤取締法違反93件,強姦致死傷92件となっております。実施状況などの詳細につきましては,本月9日に最高裁判所で行われた第6回裁判員制度の運用等に関する有識者懇談会において,昨年11月までの裁判員裁判の実施状況と裁判員等経験者に対するアンケート結果が公表されておりますので,そのデータに基づいて御報告いたします。  資料②「裁判員裁判の実施状況の概要」,資料③「裁判員裁判の実施状況について」,資料④「裁判員制度の運用等に関するアンケート」の3つは,昨年5月から11月末までに審理が行われた裁判員裁判について,最高裁判所が実施状況と裁判員等に対するアンケート結果をまとめたものであり,最高裁判所における裁判員制度の運用等に関する有識者懇談会で配布され,公表された資料です。また,資料⑤「裁判員等に対するアンケートの自由記載」は,裁判員等に対するアンケートのうち,自由記載欄に書かれた回答が掲載された資料ですが,他の3つと異なり,昨年8月分と9月分のみとなっていますので,御留意いただければと思います。  戻りまして,資料②「裁判員裁判の実施状況の概要」ですが,これは資料③と資料④の内容を要約したものとなっております。1の「概要」にありますとおり,昨年11月末までの間における全国の裁判員裁判対象事件の新受人員は990人,判決まで至った終局人員は82人となっております。このほか,選任手続や審理状況,終局結果のほか,アンケート結果の概要がそれぞれ記載されておりますが,詳細は資料③と資料④で御説明します。  資料③「裁判員裁判の実施状況について」ですが,これは昨年11月末までの間における裁判員裁判の実施状況について,統計的,数値的なデータを取りまとめた資料となっております。この資料の1〜4頁には,新受人員と終局人員のそれぞれにつき,罪名別と庁別の内訳が記載されております。新受人員につきましては,先ほどの資料①に,より新しい本年1月末時点の起訴・罪名等の内訳が記載されておりますので,終局人員についてのみ簡単に触れますと,昨年11月末時点では,罪名では強盗致傷が最も多く,次いで殺人,覚せい剤取締法違反の順となっております。  5頁以降が,「選任手続」及び「辞退の概要」となっております。5頁に表3があり,選任手続の概況が示されています。この表の一番下の欄には,「選定された裁判員候補者数の総数」に対する「辞退が認められた候補者の割合」を示す「辞退率」が示されております。これが53.2%であったことが記載されております。  また,表4の左の図の一番下の欄には,出頭すべき候補者が選任手続に出頭した割合を示す「出席率」がありますが,これが85.3%であったことが書かれております。  次の頁ですが,表5「辞退が認められた裁判員候補者数及びその辞退事由の内訳」で,70歳以上などの定型的辞退事由を除くと,辞退が認められた事由としては,事業における重要用務,疾病傷害,介護養育の順に多くなっております。  7頁ですが,表8以降は判決に至った事案のデータが掲載されており,このうち表9「開廷回数別判決人員の分布」を見ますと,全体の4分の3近くが3回以内で終了していることが分かり,全体を平均すると,開廷回数は3.3回となります。  次に,資料④「裁判員制度の運用等に関するアンケート」です。これは,各裁判所が裁判員,補充裁判員,裁判員候補者に対して行ったアンケート結果を集計した資料となります。1〜5頁には,アンケートに回答した方々の性別等の属性,庁別人員,裁判員や補充裁判員などの内訳が示されております。6頁以降がアンケートの回答結果で,裁判員,補充裁判員,裁判員候補者の順で記載されております。  裁判員に対するアンケート結果について見ますと,6頁ですが,問3「審理内容の理解のしやすさ」では,72.2%の方が「理解しやすかった」と回答しており,問4「法廷での説明等の分かりやすさ」では,検察官,弁護人,裁判官ごとの分かりやすさについて,その内訳が示されております。  7頁に移ります。3段目の問9「裁判員に選ばれる前の気持ち」では,「やりたくなかった」「あまりやりたくなかった」という消極的な回答をした方が合計で58.6%であるのに対し,「やってみたい」などの積極的な回答は,合計で26.2%にとどまっております。これに対し,問11「裁判員として裁判に参加した感想」では,実に98%もの方が「非常によい経験と感じた」「よい経験と感じた」という積極的な回答をしております。これら3つの資料の内容につきましては,資料⑥「裁判員裁判の実施状況等について(要約)」の1枚紙に要約してありますので,御参照いただければと思います。  戻りますが,資料⑤「裁判員等に対するアンケートの自由記載」につきましては,裁判員の回答で申し上げると,1〜3頁が「選任手続」に関する回答,3〜4頁が「法廷での手続全般」に関する回答,4〜7頁が「評議の進め方」に関する回答,7〜10頁が「裁判員に選ばれる前の気持ち」という設問に対し当該回答を選んだ理由,10〜13頁が「裁判員として裁判に参加した感想」という設問に対し当該回答を選んだ理由,13頁以降が「裁判所の対応」や「その他お気づきの点」となっており,18頁からは補充裁判員,25頁からは裁判員候補者についてもおおむね裁判員と同様の順序で自由記載の回答内容が列挙されております。大部にわたりますので,詳細は省略させていただきます。  最後に,「裁判員候補者名簿記載通知」に同封される調査票の回答状況等につきましては,いずれも最高裁判所が資料を公表しており,資料7「調査票の返送・回答状況について」が本年の裁判員候補者に関するもの,資料⑧「調査票の回答状況等について」が昨年の裁判員候補者に関するものになります。このうち,年齢70歳以上や学生・生徒であるなど,いわゆる定型的辞退事由についてのみ申し上げますと,いずれも表2−1にその内訳が記載されており,資料⑨「調査票の回答状況等について(要約)」に円グラフで示しております。平成21年,平成22年の両年とも年齢70歳以上が最も多く,定型的辞退事由の申出者の約3分の2を占め,次に,重い病気・けがが多くなっており,この2つで大半を占める結果となっております。  資料⑦と資料⑧に戻りますが,1年のうち「参加が困難な月」の回答状況を示しております。いずれの資料でも,表3−1にその内訳が示されております。本年は2月から4月にかけてが比較的多いのに対し,昨年は12月や7月,8月が比較的多くなっております。以上で私からの御説明を終わります。 ○ 井上座長 ありがとうございました。ただ今の御説明について質問等がありましたら,どなたからでもどうぞ。 ○ 山根委員 聞き漏らしたと思うのですが,一番最初に194件で200名という数字を伺った気がするのですが,何の数でしたでしょうか。 ○ 西山裁判員制度啓発推進室長 これは裁判員制度が5月に始まってから本年1月末までの集計で,審理・判決に至った事件が194件で,被告人数では200名となっております。 ○ 井上座長 新受人員が多いのに終局までいっていないというのは,まだ準備段階にあるということですか。 ○ 西山裁判員制度啓発推進室長 はい。 ○ 大久保委員 裁判員に対するアンケート調査は,終わったあと,どの程度の期間でアンケートをお願いしたのでしょうか。何日後ぐらいに,例えば当日すぐ渡したとか,あるいは後日郵送で。 ○ 西山裁判員制度啓発推進室長 当日にアンケートを取っているとのことです。 ○ 井上座長 回答も当日もらっているのですか。 ○ 西山裁判員制度啓発推進室長 当日に提出いただいていると聞いております。 ○ 井上座長 ほかに,御意見,御感想でも結構ですが。 ○ 四宮委員 裁判所のことですので,お分かりにならなければ結構です。自由記載がまだ8月,9月の2か月分までということですが,今後このような情報が明らかになる予定が,もしお分かりになれば。 ○ 西山裁判員制度啓発推進室長 今後も取りまとめたものを公表する予定であるとは聞いています。とりあえずは平成21年のものを取りまとめるとは聞いておりますが,その公表の時期まではまだ確認を取っておりません。 ○ 土屋委員 お願いなのですが,個別事件部分で,裁判員候補者がどのぐらい呼び出されているかという辺りを知っておきたいのです。各地裁それぞれ状況は違うと思うのですが,1事件当たり何人ぐらいの人に呼出しをかけているのかという数字がありましたら,あとで結構ですが,いただきたいと思います。それが1つです。出席率が非常に高いというのは分かるのですが,実際何人ぐらい呼び出して,そのうち裁判員,補充裁判員が何人ぐらい決まっているのか。 ○ 井上座長 そういう資料は取れますか。 ○ 西山裁判員制度啓発推進室長 個々の事件については,今我々としても報道を通じてしか把握できていない状況で,正確なところで御紹介できるかどうか自信がないというのが正直なところです。 ○ 土屋委員 まとまったところで結構です。 ○ 加藤刑事法制企画官 統計的な数値としては,昨年11月末までの集計で,事件ごとに選定された裁判員候補者の数が約90人だそうです。ただ,これは選定された裁判員候補者数ですので,その後取り消されている可能性もありますから,呼び出された人数とは必ずしも一致しないものです。 ○ 土屋委員 もう1つ知りたいなと思う資料があるのですが,資料③の6頁に,「辞退が認められた裁判員候補者数及びその辞退事由の内訳」が出ていますが,「事業における重要用務」というのが145という数字で非常に高いですね。この具体的な中身,「事業における重要用務」とは一体何であるか,どういうケースが認められているのかという辺り,個別の事情にわたりすぎるのかもしれませんが,裁判員候補者として裁判所に行く立場になりますと,自分がどういう,ここで当たるのか当たらないのかとか,そういう目安を付ける良い資料になると思いますので,具体的に重要用務として認められたのはこういうケースであるということを,いくつか抜き出していただけませんでしょうか。 ○ 井上座長 そういうデータを取っているかどうかですが。 ○ 土屋委員 そうですね。データがあるかどうかは知りませんが。 ○ 井上委員 可能な限りでということで…。何か御発言はありますか。 ○ 角田委員 重要な用務というのは,一般論ですが,当日の選任手続を含めて個別の裁判体が判断していきますので,それを全部資料として残していく作業はなかなか困難で,おそらくあまり細かいものは取れないのではないかなと思います。 ○ 土屋委員 それはよく分かります。具体的な,プライベートな問題も関係してくる話だと思いますので,なかなか難しいと思うのですが,例えば典型的な例,「海外出張があります」といったときに,どういう海外出張だったら認められて,どういう海外出張は認められないのかとか,そういう辺りの,ある程度目安になるような,典型例みたいなもので結構ですが,いくつか示していただければと思います。 ○ 井上座長 可能なら,とは思いますが,今例に出されたようなことも,おそらく一律には判断できないだろうと思います。その出張の重要度とかによって,ケースに応じて認められる場合と認められない場合があると思うのです。もしそういうデータが取れるならば,ということでお願いしておきたいと思います。ほかにはいかがでしょうか。御意見等でも結構ですが。 ○ 加藤刑事法制企画官 先ほどの土屋委員からの御質問に関係する資料で,資料③の5頁の表4を御覧ください。表4の一番上にある数,事件ごとに選定された裁判員の候補者の総数がカギ括弧内の90.5,その後呼び出さない措置がされた方が26.3なので,呼出状を送付した裁判員候補者が64.2,期日に出席した裁判員の方が37.5というのが,11月末で集計された裁判員の呼出状況です。 ○ 残間委員 資料⑤の3頁に,待ち時間についていろいろな意見がありますね。全体のオペレーションといいますか,裁判以外のところのオペレーションは統一されていて,すべてにオリエンテーションがなされているのでしょうか。意見を拝見しますと,「待ち時間に流す映像は,リラックスできてよかったが,せっかく出頭して来ているので裁判についてとかでも良い」というのは,どんな映像を流したのだろうと。これは裁判ではない映像ですよね。 ○ 角田委員 少なくとも,東京地裁の場合には裁判の概括的な説明になるような映像を流す場合もあります。ただ,全国的には必ずしも,統一的にこれでやろうと決めているわけではありませんので,現段階ではいろいろなものがあるのかもしれません。 ○ 井上座長 全く関係ないものを流すということはないと思うのですが。 ○ 角田委員 それはないと思います。 ○ 井上座長 それでよろしいですか。 ○ 残間委員 はい,結構です。裁判についての映像を流してくれたほうがいいというのがあったので,裁判とは全然関係ないものを流したのかなと思ったものですから。こういう場面で流す映像は,何を流すかによってかなり影響があるような気もするのです。 ○ 角田委員 いろいろな映像がありますが,東京地裁では,裁判手続の概要とか選任手続の説明とか,そういったものを流していると思います。 ○ 残間委員 そうすると,これは東京とは違う地域なのでしょうね。 ○ 井上座長 どうなのでしょう。リラックスできる映像というのはどういうものなのですか。 ○ 四宮委員 裁判所の方,例えば裁判官などが当日お集まりになった候補者の方に語りかけて制度を説明するとか,そういうことは特になさっていないのですか。 ○ 角田委員 それは時間の兼ね合いからいってなかなか難しいところがあるのです。東京地裁の場合,これまでは午前9時あるいは9時10分に来てくださいという呼出しをして,そこから全体のガイダンスまで30分程度で候補者がバラバラと来られますので,そんなにまとまった話をするのは難しいという実情があります。オリエンテーションが始まれば,選任手続がこれからどういう形で進んでいくかとか,当該事件の概要等を書記官から説明したり,大体のプログラムを決めておいて,それに従って行っています。 ○ 四宮委員 これを読んだときか別のものか,記憶がはっきりしませんが,特に選任されなかった候補者の方の御意見の中に,何か満足いただけなかったような,せっかく来たのにというのがあるわけです。例えば,アメリカの陪審などで言うと,個々の法廷に入る前に待合室で,このように裁判のビデオを見せたり,オリエンテーション・ビデオを見せたり,裁判官が来て制度について説明したりということがあって,仮に陪審員に選ばれなくても今日来てよかったと,自分の州の司法システムがよく分かったということで,帰っていく方もおられるようなのです。いろいろな時間の都合がおありになると思いますが,せっかく来ていただけるので,午前中だけでも来てよかったということが何か工夫できたらいいかなと思いました。 ○ 井上座長 時間との兼ね合いなのでしょうね。アメリカの場合は,民事も陪審裁判の対象となり,その陪審の選任も含めて同時にやっていますので,相当の人数が週の初めに裁判所にやって来るのです。個々の事件についての法廷での選任手続に入るまで結構待ち時間があって,その間をそういう形で,できるだけ有効に使うようにしています。日本の場合は,東京地裁などでは複数の事件の選任手続が重なるということもあり得るかもしれませんが,裁判員候補者は特定の事件で来られますから,おそらく呼び出された人が集まったところで選任の手続をスタートしてしまうということなのでしょう。 ○ 酒巻委員 今まで出た話の関連で,私の承知しているところを申しますと,基本的な裁判員裁判の仕組みや選任手続の説明につきましては,候補者名簿に登載されたということを最初に通知する封筒にそのような事項を御説明する資料が封入されています。今年はDVD付きでいろいろな解説が入っていて,その部分はすべての候補者の方に,まずあらかじめ読んだり見ていただくという前提で共通のものになっているだろうと思います。  四宮委員がおっしゃったこととの関連では,多くの方が呼び出された日は休暇を取って来られるので,最終的に裁判員や補充裁判員に選任されなかった方は,例えばほっとして帰る人もいるでしょうし,1日空いているから,これは確かではありませんが,裁判所の方で傍聴席が空いていれば,ほかの刑事法廷を傍聴する御案内をするとか,そのような御配慮はされているのではないかと聞いております。 ○ 角田委員 補足しますと,東京地裁の実情ですが,選任されなかったということで,日程を調整して来ていただいて,不満を持たれる方もいると考えられますので,希望されれば裁判員裁判以外の法廷傍聴を,説明会付きで御案内するということは,いつまでできるかというのは問題だろうと思いますが,当面はそういう試みもやっております。他庁の実情は私は承知していませんので,東京地裁だけの御紹介になりますが。 ○ 山根委員 アンケートに関心を高く持つのですが,これのもともとのアンケート票を見せていただければと思いまして。 ○ 井上座長 どういうアンケート用紙を配っているのかということですね。 ○ 山根委員 はい,項目というか。 ○ 井上座長 それは今用意したものがあるのですか。 ○ 山根委員 後日でも結構ですが。じっくり中身を読んでいろいろ質問をしたかったのですが,この資料については,事前の配布は今回なかったですね。 ○ 井上座長 まだ,これからも機会がありますので,じっくりお読みになってから,御質問等してくださっても結構ですが。 ○ 山根委員 はい,もちろんそうです。じっくり読んでから,また質問も出るかなと思いました。それと,女性で幼児の保育を利用した方は今までいらっしゃるのでしょうか。 ○ 井上座長 そういうデータは取っておりますか。 ○ 西山裁判員制度啓発推進室長 保育の利用状況は,こちらでは今のところ把握をしておりません。 ○ 山根委員 分かったら,それも今度教えていただければと思います。 ○ 井上座長 東京地裁では何か。 ○ 角田委員 すみません,私もそこを確認してこなかったので,次回までに調べて。 ○ 山根委員 一応準備はされているわけですよね。準備というか,事前に申出があれば。 ○ 角田委員 申出があった場合の対応は考えてはいるのですが。 ○ 土屋委員 これもデータがあればいつでも結構なのですが,資料③の6頁の表6に,「理由なし不選任」で442人と,私が考えていたより非常に人数が多いな,という感じが印象としてあるのです。「理由なし不選任」の内訳なのですが,検察側の請求なのか,弁護側の請求なのかという辺りの,個別だけで結構ですが。 ○ 井上座長 それは外には出せないのではないでしょうか。御本人にも,なぜ選ばれなかったのかということは知らされていないと思いますし。ともかく理由なしに御就任いただいては困るということを言えるという制度ですから,弁護側がどのくらい行使しているのか,あるいは検察が行使しているのかということも,なかなか外に公に出しにくいのではないでしょうか,制度趣旨からするとですね。 ○ 大久保委員 1つ教えていただきたいのですが,これは裁判員になった方たちへのアンケート調査で,いろいろなことが分かると思いますが,反対に,裁判員になっていただいて,裁判をした裁判所,検察庁,弁護士辺りは,裁判員をどのように感じたのかという辺りを把握するような方法などは考えられたのか,それも実際にやっていらっしゃるのか,今後の方向はどのようなものにあるのか,もし分かれば,教えていただきたいと思います。 ○ 井上座長 そういった調査は今の段階でやっているのでしょうか。私自身は聞いていないですが。 ○ 稲葉委員 裁判員の方の裁判を受けて,検察官がどう感じたかということについては,検察庁としてそれを特にアンケートとか,そういう調査はしておりません。というのは,どう感じようとやっていかなければいけないので,どういう方針で検察として臨んでいるかは,後ほど私が発表させていただくことになっておりますが,判決を受けて,どういう感想を持っているかについては,検察庁として特に今,統計を取るとか,調査をしていることはありません。 ○ 井上座長 感想というか,実際にやってみて,手続の在り方だとか,どういったところにどのような課題があるかなど,そういう意見などを吸い上げておられるのですか。 ○ 稲葉委員 実際に裁判が終わったら各地検で検討会を内部で行っておりまして,捜査から判決に至るまで,どういう点に問題があったかとか,そういうことは内部で検討した上で,改善すべき事柄,あるいはこれは割と一般的に推奨できるのではないかということについては,上級庁にも報告していただくような形で情報収集に当たっております。 ○ 井上座長 弁護士会の方はどうですか。 ○ 前田委員 日本弁護士連合会でも,各裁判員裁判を担当した弁護人には,「情報集約票」という票を送り,アンケート集約はしておりますが,裁判員裁判における裁判員の構成がどうであったかとか,裁判員の方がどういう質であったかという項目は全くありませんで,特に裁判員に着目した集計はしておりません。 ○ 井上座長 裁判官については,そういった調査などは考えにくいようにも思うのですが。 ○ 角田委員 これは特に。しかも裁判員の方に合議体に入ってもらい,共同して一緒に裁判をしているということですので,そのことについての評価うんぬんというのは,そのような発想自体があまりないと思います。 ○ 井上座長 そういうことですが…。 ○ 大久保委員 分かりました。司法の方から見て,もちろん選ばれて裁判員になっていらっしゃる方たちですので,特別に問題となるような方たちはいらっしゃらないとは思いますが,今アンケートを見た結果,「普通の格好でかまわない」とかということもおっしゃっていたので,被害者の立場になると,あまりにもラフな格好をして来られると,とても被害者が軽んじられたという印象も持ってしまいますので,将来的に裁判員の方を見るときにはこういう視点も大事で,裁判員を選ぶ必要があるということの何かが見えればと思って,今の質問をさせていただきました。 ○ 井上座長 実際,それほどひどい格好をして来るようなことはないのではないでしょうか。 ○ 角田委員 そうですね。東京地裁の実情で言いますと,そもそも出頭して来ていただける方は,実際にはそれなりの方だけが来ておられると。結果として,そうなっているということだろうと思います。 ○ 前田委員 弁護士会でも,それぞれ各地で経験交流会をやっておりますが,今のところ裁判員の方々に何か特別の問題があったという報告は,あまり出ていないと認識しております。 ○ 稲葉委員 個別のことは申せませんが,制度的に,仮に候補者で来られたときに,もちろん外見だけの判断ではないでしょうけれど,そのときの御様子からして問題と思われるような方については,たぶん検察官か弁護人が,先ほど内訳は言えないと言いましたが,「不選任権の行使」で,これは別に服装からということではないですが,そのときの言動とか態度から公正な裁判をしていただくことについては問題があるという場合,個別での判断ですが,当事者としていかがかなと思う方については,「不選任権の行使」という手段も取る場合もあり得るのではないかと思います。 ○ 井上座長 もともと英米などで「専断的忌避」,「理由なし忌避」というのは,忌避事由に当たると証明することはできないのだけれど,各当事者から見て,印象とか直感として,まずいのではないかと感じられる人を外すことを可能にするという制度なので,その1つの機能ということなのではないかと思います。 ○ 残間委員 今はまだみんな緊張していると思うのですが,やがてこなれてくると,服装などにある程度のコードは必要かもしれませんね。みんなスーツを着てくることはなくても,こなれてくるとそちらの問題がどうしても出てくるような気がします。 ○ 井上座長 私もいろいろな所で国民が参加した裁判を見てきましたが,大体,着飾るというほどではないですが,普段よりは整った,こざっぱりした格好で来られる人がほとんどです。 ○ 残間委員 これからは分からないと思います。 ○ 井上座長 まだ御質問はあると思いますが,これから法曹三者の方々から実施状況について御報告をいただきます。その中で,この資料に戻って御質問,御意見等いただければと思います。運用状況なのですが,こういう情報は,今後も引き続き,この検討会に随時御報告いただけると理解してよろしいでしょうか。 ○ 岩尾刑事法制管理官 裁判員裁判の運用に関する情報についてですが,今後も収集に努めてまいりまして,本日報告したのと同様の内容について,継続的に報告していきたいと思っております。また,本日も情報収集のポイントについて一部御意見をいただきましたが,今後も特にそういった点で注意すべき点がありましたら,収集の方法も含めて御意見をいただければ,この検討会でも取り上げていきたいと考えております。 ○ 井上座長 是非,そうお願いしたいと思います。  それでは,次に,法曹三者の委員の方々から,裁判員裁判の実施・運用状況に関する御説明をいただけることになっております。御予定いただいているのは角田委員,稲葉委員,前田委員のお三方です。どういう順番でも結構だと思いますが,裁判員の入った公判に先立って行われる「裁判員選任手続」は主として裁判所が主導される領域ですので,その部分を含めて御説明いただくということで,まず裁判官の角田委員からお話をいただき,その後,検察官の稲葉委員,そして弁護士の前田委員という順序でお話を伺いたいと思います。それでは,お願いします。 ○ 角田委員 それでは,裁判所の取組みということで,15分程度時間をいただいて御説明します。  昨年8月に全国で第1号の裁判員裁判が行われ,これは東京地裁で行われたわけですが,それから約半年余りが経過していて,全国で多くの裁判員裁判が行われております。裁判員制度については5年という準備期間が設けられましたので,その5年の期間内,裁判所では,検察庁,弁護士会と連携し,模擬裁判という手法で検討を進めてきました。調べたことがあるのですが,昨年1月の時点で,全国で約560回もの模擬裁判を繰り返していました。それをやりっ放しということではなくて,そのあとの法曹三者の検討会,裁判所について言うと,司法研修所での実務研究会,あるいは中央での検討会といったものを積み重ねて,国民が裁判の判断作用に関与するのは日本の歴史では初めてのことですので,国民の司法参加に相応しい手続はどういう形だろうかということで,検討を重ねてきました。  これまで行われてきた裁判員裁判は,量刑が争点になる自白事件が中心で,東京地裁について見ても,ほとんどすべてがそうです。ですから,それが前提になるわけですが,その実施状況を振り返って,私のほうでは,大づかみに言うと,審理の在り方の問題と,座長から御指摘がありましたが選任手続の問題,この2つの項目について申し上げたいと思います。  「審理」についてですが,これは一言で言うと,従前の刑事裁判の法廷から見ると,激変しております。普通の市民の方に事実認定と量刑判断をしてもらえるような審理はどういうものかということについて,事前の準備をしてきたわけですが,現時点では先ほど御紹介のあった裁判員経験者のアンケート結果等を見ても,非常に多くの裁判員経験者が審理は分かりやすかったという評価をしておりますので,こういう声からすれば,法曹三者がやってきた裁判員裁判に向けての準備は,現時点ではある程度の成果が出ているのではないかと考えております。  4つほど具体的なことを申し上げていきたいと思います。当事者の主張,立証については,分かりやすかったという声が先ほどの御紹介でも圧倒的なわけですが,これは自白事件という,もともと分かりやすい事件類型しかやっておりませんので,主張,立証の内容が本当に十分なものになっているかということの吟味,こういう問題意識は常に持ち続けて,工夫を重ねていかなければならないという認識です。これに関しては,犯罪事実と重要な情状事実を過不足なく法廷に取り出すための工夫として,公判前整理手続という制度が新設されているわけですが,この公判前整理手続の中で検察官,弁護人,裁判所がさらによく協議しながら,これからの難しい事件についても運用を考えていくことが極めて重要だという認識です。  「証拠調べ」の問題につきましては,1つは,重い事件が中心ですので,傷害致死や殺人事件などの場合,証拠としての遺体の写真などは裁判員に精神的な負担を与える可能性があります。こういう証拠調べについて,真にそこまでの写真,あるいは資料が証拠として必要だろうかと,そこまでなくても心証を取ってもらえないかという観点が極めて重要です。これは検察官の立場と,裁判所あるいは弁護人の立場とで,どうしても齟齬が出てくる場合があると思いますが,この問題についてはこれからの実務の運用の中で,どういう線が適切かを見出していくことが大事ではないかと思っております。  証拠調べの方法についても,性犯罪の事件における被害者のプライバシーへの配慮として,東京地裁において,被害状況の一部については調書を朗読しない,被害者の被害を受けている状況について朗読しない,その代わりに,供述調書の写しを裁判官,裁判員に黙読してもらうという工夫をした事例があります。これは一例で,これから無数の問題が出てくると思いますが,こういう工夫を重ねていく必要があるのではないかと考えております。  3番目ですが,経験のない市民に量刑判断,刑を決めてもらうという,非常に難しい判断をしてもらうことの手助けのシステムとして,「裁判員量刑検索システム」というものを最高裁に設けてあります。これがどの程度有効に機能するかは,裁判所としては手探りのところがあったわけですが,これまでの裁判員裁判を見る限り,評議においても,あるいは検察官の求刑とか,弁護人の反論とか,そういう主張においても,この量刑検索システムがかなり活用されていると受け止めております。裁判所側がこのシステムを設けた趣旨は,細かいことではなく,似たような事案,同種事案の大まかな量刑傾向を把握して,それを参考にして裁判員の方に量刑意見を言っていただくと。いわば大づかみの傾向のものとして見ていただく。ですから,具体的な使い方としては,例えば,懲役何年から何年までがこんなグラフになっているとか,棒グラフのような形で示す場合が多いようですが,現時点では,大づかみのものとして考えているシステムが比較的有効に機能しているように見えるという点はほっとしております。ただ,これがこれからも十分に有効なものかということについては,検証を続けていきたいと考えております。  最後に「判決書」の問題です。これは,報道の代表の方もおられるので関心のあるところかと思いますが,判決書については従前の判決では駄目だということははっきりしているわけです。それでは,どういう判決が適切なのかについては,正直に申し上げると,試行錯誤の段階です。ただ,自白事件について言いますと,量刑理由について,従前の裁判官の判決は,被告に不利な事情を網羅的に挙げて,次に有利な事情を網羅的に挙げて,以上を総合すればというパターンが非常に多かったと思いますが,これからは裁判官と裁判員の評議が判決に反映されるものだとすると,こういう判決はそもそも無理ではないかということがあると思います。評議の中でそういったすべてのものを網羅的に取り上げて,精密な議論をすること自体が無理なところがありますし,あまり意味がないのではないかと。  公判前整理手続の段階から,その事件で量刑を動かす大きな要素は何かを議論して,検察官の方も3つなら3つ,これとこれとこれが核心ですという言い方をし,弁護人の方もあまり総花的ではなくて,被告人にとって,この点とこの点とこの点は考慮してくださいという形で,きちんと重要なものを出し合ってもらい,それに即した証拠調べをして,その結果で評議をする。それをそのまま判決にすると。総論的に言うと,そういうことを試行しておりまして,今,裁判員裁判の判決として御覧になっているものに対する評価はいろいろだと思いますが,裁判所の側としては,今申し上げたような発想で判決書を作成しようということでやっております。  「審理」の点について今4点申し上げましたが,いずれにしてもこれから犯人性を争う,あるいは刑事責任能力,例えば心身喪失で無罪だと弁護人に主張されて鑑定を行うという難しい事件が,続々と東京地裁をはじめ全国で行われることになってきますので,この点については審理期間の問題,争点の整理の問題,判決書の問題など,十分な検討と工夫をしながら対応していきたいと考えております。  次の項目,「選任手続」の問題について申し上げます。大ざっぱなイメージとしては,東京地裁ではこれまでは,大体午前9時あるいは9時10分の2種類でやっていると思いますが,呼出しではその時間で来てくださいという連絡をします。そして,選任手続当日は,大体9時30分ぐらいから出頭した全員の方に対してオリエンテーション,一日の進行がどうなるかとか,留意事項,事案の概要などの説明をして,当日質問票という形で,公平でない裁判をするおそれがないかどうかや,あるいは事前質問票の記載等に変更がないかどうかを確認した上で,辞退事由の判断をすることになります。  また,全体質問ということで,出頭した全員の方に対して,裁判長のほうで全員を相手に質問をします。その中で個別に事情を聞いたほうがいいという方だけを別室で個別の質問をします。これには検察官,弁護人も立ち会っております。その後,辞退を認めるかどうかの判断,あるいは理由あり,理由なしの不選任請求をされるかどうかの手続を行って,残った方について,パソコンを1回押すだけですが,くじ引きで6名の裁判員,事案に応じて補充裁判員を何名か選任いたします。こういうことで,大体午前9時ころに集まっていただいて,11時過ぎ,遅くても11時半ぐらいには選任が終わって,基本的な刑事裁判のルールの説明や,宣誓の手続に入るというのが大方の事例だと思います。  そういう実情を踏まえて少し御説明しておきたいのは,私は東京地裁の実情しか直接は承知しておりませんが,総じて滞りなく選任手続が運用されているだろうということです。先ほど事務当局のほうで,資料③の統計で,出席率が85.3%,85%余りに上っているということがありました。これは事前に辞退を認めて,例えば70歳以上で辞退したいという方はなるべく前倒しで辞退を認める判断をし,呼出しをしない,あるいは取り消すという措置をしますので,本来その日に出頭していただくことが期待できる方の85.3%の方が来ているということだと思います。これは日本国民のまじめさを改めて確認するような数字ではないかと感じております。  ただ,出席率がこの水準だとすると,選定数が多すぎるのではないかと,せっかく出頭しているのに,選任されない方の数が多すぎるのではないかという問題意識を我々も持っております。これは経験のないことをやるものですから,どうなるか分からないところがあり,少し慎重になっていた面があります。あるいは,去年の秋にインフルエンザの蔓延等があって,私が東京地裁の第2号事件をやった際には,インフルエンザの蔓延期で,慎重に10人ぐらい多く選定したということもありまして,選定数を少し落としていって,どこまで落としても大丈夫かということを試行しながらやっているのが実情です。  「辞退事由の判断」ですが,これについては裁判所も非常に議論を重ねてきました。1つは,一方で裁判員になっていただくことは国民の義務だということがありますが,逆の面で,国民にあまり負担をかけるような制度ではうまくいかないということがあって,このバランスに留意しながら個別の判断をやっていこうということです。もう1つは,バランスと同時になるべく前倒しで,辞退を認める場合にはなるべく早いほうがいいということでやっております。  統計によりますと,これも先ほど御紹介があったと思いますが,当初の80人なら80人,100人なら100人,この選定された候補者のうちの53.2%の方が辞退を認められています。そういう形になっていて,しかもその大半が選任手続期日よりも前に,前倒しで辞退が認められております。これは別の見方をすると,当初の調査票,あるいは裁判所から出す事前質問票が,ある程度有効に機能しているのではないか,こういう評価も可能ではないかと考えております。  選任手続期日における質問手続ですが,なるべく当日質問票あるいはオリエンテーションのDVDを活用するようにして,最初はこちらも余裕がなかったのですが,なるべく所要の時間を短くする運用も心掛け,かつ事件関係者,特に被害者のプライバシーに配慮して,事案の概要の説明を裁判員候補者の方にする際には,なるべく抽象化して行っています。ただし,あまり抽象的にしすぎると,一体どのような事件かが分からない,例えば自分が近所に住んでいる人間かどうかも分からないということになって,辞退申出もできないことになりますので,そのバランスだと思います。現時点では,1件1件相当な吟味をしながらやっており,特に性犯罪などでは,ここにかなりのエネルギーを使っているのが実情です。  私からの説明は以上ですが,全般的にはマスコミからの評価でも,比較的順調なスタートを切ったと言っていただいていると思いますが,これからがいよいよ正念場と言いますか,複雑困難事件の審理に本格的に入っていきますので,この円滑な運用については,検察庁あるいは弁護士会とも連携し,議論をさらに活発化して対応していきたいと考えています。以上です。 ○ 井上座長 御質問等があると思いますが,できればあとのお二方からも御報告いただいた後,まとめて御意見等をいただいたほうがいいかと思いますので,引き続き,稲葉委員からお願いします。 ○ 稲葉委員 現在,最高検察庁の裁判員公判部におります稲葉から,「裁判員裁判における検察の基本方針と取組みについて」ということで,検察官の方針,どのように取り組んでいるのかということについて,特に裁判における立証という場面に焦点を当てて,本日は説明させていただきます。お手元に,簡単にポイントをまとめたA3判の1枚紙を用意させていただきましたので,適宜御参照していただきながら,私の話を聞いていただければと思います。  まず,「公判手続の流れ」,裁判での立証という場面の流れですが,日ごろ刑事裁判に直接かかわっておられない委員もおられますので,ごく簡単に手続の流れと,その中で検察官はどのようなことをしているのかを説明します。レジュメの左上のほうを御覧ください。  「冒頭手続」というのは,裁判の始まりに,裁判長が被告人の名前を確認したり,起訴された人物に間違いないかを確認した上で,検察官が起訴状を朗読しまして,裁判長が被告人に黙秘権などを告知した上で,今読んだ事実に間違いがあるかどうかという,最初の認否を聞いたりする手続です。  その手続が済むと,まさに裁判の審理の中心部分となる「証拠調べ手続」に入っていきます。この手続の最初に,検察官は「冒頭陳述」というものを行うことになっています。この冒頭陳述というのは,これから検察官が証拠によって立証しようとする事実を明らかにするもので,当該事案がどのような事件であるのか,その全体像を含めて,当該裁判での審理の対象となる事実を明らかにするものです。具体的にどのようなものかは,あとで説明させていただきます。  その後,被告人・弁護人側の冒頭陳述が行われ,検察官が請求した証拠の取調べを実施します。証拠の種類としては,例えば現場に残された凶器などの証拠物であったり,捜査機関が作成した証拠書類であったり,直接法廷に来ていただいて,目撃者,被害者等から証言をしていただくという,証人等の人証であったりするものがあります。  刑事裁判では,被告人が行ったとして検察官が起訴した事実については,どのようなことを行ったのか,そして発生した結果についても,検察官において合理的な疑いを入れない程度に証明しなければならないと言われています。すなわち検察官が証明する責任を負っているというのが日本の刑事裁判です。「疑わしきは被告人の利益に」という言葉がありますが,最終的に裁判官が,検察官の証拠調べでやったことを全部見ても,被告人が犯人である可能性はあるけれども,犯人でない可能性も排斥できないという場合については,無罪という結論になる。簡単に言うと,そのような法則があります。したがいまして,検察官が証明する責任があるのだという制度になっております。逆に言えば,弁護人の方は,犯人ではないということをはっきりと証明しなくても,疑いを挟む程度に反証されれば,無罪になるというような仕組みになっているわけです。  そして,検察官は,起訴した事実だけではなく,どのような量刑が必要か,それについて判断する重要な情状事実も立証しなければなりません。そして,そのような証拠調べが終わった最後に,「弁論手続」として,論告というものを検察官が行います。  この「論告」というのは,検察官が証拠調べの結果に基づき,どのような証拠から,どのような事実が認められるか,また量刑を決するに際して,どのような事実を考慮すべきかなど,事実認定や法律問題,さらには量刑に関する検察官の意見を述べる公判活動です。  特に,具体的に科すべき刑罰の関係についての意見を「求刑」という言い方をしておりまして,懲役何年に処するのが相当だと考えるという意見を述べています。検察官の論告・求刑のあと,弁護人の弁論,被告人の最終陳述,裁判所の評議を経まして,最後に判決という流れです。  裁判員制度が始まりましたが,刑事裁判の仕組み,あるいは刑事訴訟法で定められている証拠の法律的な定めなり法則については,基本的に変わりはありません。したがいまして,裁判員裁判においても,検察官が証明する責任を負っているわけです。これまでの裁判は,職業裁判官が裁判をすることを前提とした検察官の公判活動でしたが,裁判員裁判では,裁判には日常かかわったことのない一般国民から選ばれた裁判員が,職業裁判官と一緒になって,また同等の権限に基づいて,審理と評議に参加して,判決内容の決定にかかわるわけです。したがいまして,そういう観点から,立証責任を負っている検察官として,裁判員裁判において配慮しなければいけない事項というものがあります。レジュメの右上を見てください。  まず,そのような裁判員の方が審理の内容を十分に理解され,容易に適正な心証を形成していただけるような点に配慮した公判活動を行うことが,検察官に求められます。すなわち,まずもって検察官が行う立証は,裁判員に分かりやすい立証であることが必要であります。また,裁判員には本来の仕事や用務など,日常の一部を割いて参加していただくことになるわけですから,拘束時間は合理的な範囲で,できるだけ短くして,その負担をできるだけ軽くすることに配慮した審理を行うことが求められます。したがいまして,検察官の立証は,できるだけ迅速な立証であることも求められます。  と言っても,分かりやすくて早ければいいのかというと,スカスカの骨だけの立証でいいとは言えません。事件というのは,被告人や被害者,様々な人生,生活,そういうかかわりの中で生じているものです。いわゆる血の通った裁判を実現するという観点からも,また,裁判員に,これだけで判断するのかという不安を感じることのないよう,安心して評議に参加してもらうためにも,事案に応じて,例えば被告人の生い立ちや家庭環境,被害者等事件関係者の生活状況,あるいは被告人が逮捕に至った経過などについても,適切な方法で証明していく必要があります。  最初に述べた,適正な心証を形成していただく観点からも,併せて検察官の立証というのは,要点を漏らさない的確な立証であることが求められています。このように,検察官は分かりやすい,迅速な,そして要点を漏らさない的確な立証,この3点を特に意識しての立証活動を,裁判員裁判ではやっていかなければいけないということを検察の基本方針として打ち出しました。  実は,この裁判員裁判における検察の基本方針については,昨年2月に最高検察庁が取りまとめをして,公表しています。これは最高検もホームページを開いていまして,そこからも御覧いただけますし,『法律のひろば』の別冊で『裁判員裁判の実務』というものが出まして,この中にも検察の基本方針についての解説記事が出ています。  こういう基本方針に基づいて,検察官は法廷での立証にどのように取り組んでいるのかについて,冒頭陳述,論告,そして,検察官が証拠調べを行う立証の場面,特に書証での立証,あるいは証人等の人証で行う立証について,従来の状況と比較しながらポイントについて説明させていただきます。  まず,「冒頭陳述・論告」です。従前は,職業裁判官に対して分かってもらうということで,極めて詳細で,わりと長文の文書形式の書面を作成し,それを法廷で長々と朗読し,その書面を提出するというやり方でした。書面の分量は被告人が事実関係を争っているかどうかなど,様々な要素で異なりますが,数十頁にわたるものもざらにありました。これは法廷外で裁判官に読み直してもらうことも想定し,詳しく作っているのが実情でした。しかし,裁判員が参加される場合に,それでは分かりにくかったり,時間がかかります。先ほど角田委員もおっしゃっていましたが,法廷の場面がコロッと変わったという1つが,この冒頭陳述や論告の場面だと思います。  まず,「冒頭陳述・論告」の「裁判員裁判での取組み」の部分を見ていただければ,「冒頭陳述メモの使用」「論告メモの使用」というのがあります。これは,検察官が冒頭陳述や論告で述べる内容のポイントをA3判の用紙1枚か2枚程度にまとめて,それをメモとして配布し,適宜そのメモを参照してもらいながら,検察官の冒頭陳述や論告を行うというものです。今日私がA3判の用紙でレジュメを用意したのは,そのイメージを御理解いただくことを考えてです。検察官が言いたいことをこの程度の大きさの紙に,色刷りや図表を入れ,例えば「冒頭陳述メモ」では,事案の概要,事件関係者,犯行に至る経過,犯行状況,さらに犯行後の状況や当該事件の争点は何か,その争点に対して,検察官は,どのような証拠でどのような事実を証明しようとしているのかを,分かりやすくまとめたメモを配布して述べています。このメモとともに,事案に応じてボードを使ったり,あるいはプレゼンテーションソフトを用いながら,法廷のモニター(裁判員の前には小さなモニターがあります)に適宜映しながら,冒頭陳述や論告を行っています。  次に,立証(書証について)の関係です。立証に用いる証拠としては,供述調書,実況見分調書,検証調書,報告書,鑑定書など,様々な書類があります。従前の裁判官だけによる裁判の場合には,検察のやり方として,証拠請求の仕方としても,事案の全容を詳細に立証しようとするため,捜査で収集した多くの書類の中から,内容的に重複するものがあっても,できるだけ多くの書証を出すことをやってきました。  また,実務の運用としては,裁判官に,あとで裁判官室でじっくりと読んでもらうことを前提として,法廷では簡単に内容の要旨を告げて,詳細はじっくり読んでくださいという運用がなされていた面もあります。  ところが,裁判員裁判となると,裁判官との評議の場で,あの点はどうだったかともう一度確認していただく場面はあるのかもしれませんが,裁判員の方に,改めて多数の書類を法廷外でよく読んでくださいということは想定することができません。したがいまして,まさに刑事裁判の原則に戻って,法廷で,目で見て,耳で聞いて心証を形成していただけるような証拠調べをしなければいけないということになります。  そこで検察官としては,まず請求する証拠も厳選します。さらに,証拠の内容としましても,分かりやすく簡潔なものにするという点で配慮しています。あまり長い調書で,それを延々と朗読していきますと時間もかかりますし,集中して聞いていただくにも限界もあるでしょうから,かえってわかりにくくなってしまうこともあります。証拠を厳選すると言いましても,1つの証拠では十分でない場合については,複数の証拠で立証する場合もあります。さらに,証拠の取調べの方法については,法廷モニターを使ったりしながら,分かりやすく説明,あるいは図面や写真などを映しながら,図面の説明部分を読み上げるような工夫を行っています。  先ほど角田委員から指摘のありました殺人事件等の被害者の遺体の写真等については,必要なものについては請求させていただいていますが,やたらと多くではなく,必要なものを限定し,かつ,なるべく裁判員への精神的な負担を考慮するような選定の仕方に努めていますし,実際の証拠調べにおいても,急にお見せするのではなく,「これから遺体の写真をお見せします」「何枚あります」ということを前もって言って,心構えをしていただいてからお見せするような配慮をしています。また,性犯罪についての証拠調べも,先ほど角田委員からお話があったような配慮を,検察官が被害者の意向等を聞きながら,行っているところです。  証人等の尋問については,従前はどちらかというと時間をかけて,詳細に尋問を行い,尋問調書という裁判の記録にそれを残し,裁判官が判決を書かれるときには,もう一度その証言調書をよく読み直していただくことを念頭に,詳細に記録に残すことを重視し,尋問をやってきたところがあります。しかし,これも職業裁判官による裁判ですから可能であった運用ですが,裁判員裁判になりますと,先ほど申しましたように,法廷で心証を形成していただく必要があります。したがいまして,法廷において正しく心証が形成できる,効果的な尋問を検察官が行わなければならないということで,焦点を絞った分かりやすい尋問を行うことが求められるわけです。  しかし,これは言うは易しですが,実際にやるのは難しい面があります。特に,これまでは若干証人尋問が下手でも,自白事件でしたから,大きな問題は生じずにきているのですが,今後は本格的な否認事件等で,まさに検察官が的確な尋問を行い,そして裁判員を含めて,適正な心証を形成していただけるような尋問をできるかどうかが,非常に重要な課題だと認識しておりまして,そのような能力を向上させるべく努力をしているところです。以上です。 ○ 井上座長 次に,前田委員からお願いします。 ○ 前田委員 弁護士の前田でございます。お二方の御説明と相当部分で重なる部分はありますが,日弁連の裁判員制度の取組みについて御説明させていただきます。日弁連は裁判員裁判について,よりよい刑事裁判を実現できる制度と評価をしまして,裁判員裁判が充実したものとなるよう,積極的に取り組んできたというのが,基本的なスタンスです。  まず第一に,裁判員裁判が始まるまでの取組状況について,簡単に御説明をさせていただきます。法律が成立した直後に,日弁連では,「裁判員制度実施本部」という組織を立ち上げました。また,各地の弁護士会では,それぞれの地域の裁判所あるいは検察庁と協議を重ねてきたという実績があります。  その中身について,いくつか御紹介します。1つは法廷弁護技術の向上に向けた取組みです。先ほど裁判官であられる角田委員が,「法廷が激変した」という表現を使われましたが,裁判員裁判では,法廷で直接見たり,聞いたりしたことに基づいて判断が下されるわけです。従来は専ら書面に頼っていましたので,法廷でのプレゼンテーションの能力などはほとんど求められておりませんでした。しかし,裁判員裁判では,当事者としましては,法廷でのプレゼンテーションの能力とか,先ほど検察官の稲葉委員も指摘しておられましたが,優れた尋問技術が必要となってきたわけです。そのような法廷弁護技術の向上のために,日弁連ではアメリカでの経験豊かな法廷弁護士を招きまして,複数回にわたって研修を行いました。また,日本の弁護士をアメリカに送りまして,アメリカで技術を学ばせました。その技術を学んだ弁護士らを中心にして,全国各地で研修を行うなどをしたわけです。そして,この法廷弁護技術に関するテキストも出版しました。四宮委員もその執筆者の1人です。  「弁護戦略の検討」が次の課題です。被告人の言い分を,裁判員の方により適切に判断してもらうためには,単に法廷での弁護技術があればいいというものではありません。裁判員に向けた分かりやすい,明確な方針を持って弁護活動をしなければならないのであります。  例えば,事実に争いのない情状に関する弁護を考えてみますと,今までは被告人に有利な事情をたくさん挙げまして,それを裁判所に提供すれば,あとは裁判官にお任せするというのが大半の弁護活動でした。ただ,先ほどの角田委員からの御指摘にもありましたように,これでは裁判員には通用しないことが,模擬裁判などを通じてはっきりしてきたわけです。ポイントを絞って,なぜそれが被告人にとって有利な事情になるのかを説得的に展開しなければならないということがはっきりしてきています。従前のように,漫然と事実を突き出して,裁判官の前にその材料だけを提供すればいいということでは済まないというのが,裁判員裁判の実情です。  したがいまして,日弁連では主に模擬裁判の検証結果などを前提にして,裁判員裁判の弁護活動の在り方の検討をしました。その検討結果を踏まえて,研修などを行いました。また,日弁連の機関誌であります『自由と正義』に,その検討結果を継続的に連載をして,出版などをしています。  3番目は,「公判前整理手続の充実」です。裁判員裁判では,準備手続が絶対的に必要となりまして,その手続として公判前整理手続が法定されました。裁判員裁判が実施される前から,公判前整理手続というのは実施されていたわけです。公判前整理手続は,裁判員裁判の公判が充実したものになるかどうかにとって,非常に重要な手続であると弁護人としても認識しています。また,弁護人にとっては,検察官からの証拠の開示が非常に重要で,捜査機関の有する証拠をいかに開示していただくか,そこに意を払うわけです。そのため,日弁連では,公判前整理手続の運用状況などを踏まえまして,あるべき公判前整理手続の在り方などを検討してきておりまして,それに関する研修を実施し,出版などもしてきたということです。  「法廷での用語」についても検討を重ねてきました。法廷で裁判員の方に,やり取りがより分かりやすく,また正確に御理解いただくために,専門用語を見直す必要があるのではないかという観点からの取組みでした。日弁連は,そのために弁護士以外の委員の方も混じえたプロジェクトチームなどを作りまして,その成果として,『裁判員時代の法廷用語』という冊子を発行しています。  それから,「裁判員裁判を担う弁護士の確保」に努めました。裁判員裁判と時を同じくしまして,被疑者段階での国選弁護の大幅な拡大が実施されました。そこで,被疑者国選を含めまして,裁判員裁判を担う弁護人の確保のために,各弁護士会ではそれぞれ工夫をしまして,対応態勢の名簿を整理しました。その一環として,日本司法支援センターの常勤スタッフ弁護士の確保に努めてきた次第です。さらに市民の皆さん方が,裁判員裁判の趣旨や意義を理解していただくために,裁判所,法務省,検察庁と共同で,広報活動を行ってきたことは御承知のとおりです。また,日弁連独自の活動としては,シンポジウムの開催,広報用映画の制作,ホームページの作成,パンフレットの作成,講演依頼などの対応を行ってきていました。  次に,裁判員裁判が始まって以降の取組状況です。基本的には裁判員裁判が始まるまでの取組みと,ほとんど異なっておりませんが,日弁連は組織の改編を行いまして,「裁判員制度実施本部」というものを解消しまして,各地で実際に裁判員裁判を担っている弁護士を委員とする「裁判員本部」という新しい組織を作りました。実際の裁判員裁判の実情を踏まえながら,裁判員裁判がより充実したものとなるための諸活動を行うという方針を確立したわけです。やっている中身は同じですので,繰り返しにはなりますが,具体的に次のような活動をしていることを御報告します。  1つは,「法廷弁護技術や弁護戦略のための研修」です。先ほど来出ていますが,裁判員の方が見て,聞いて分かる法廷での弁護技術の向上ですとか,裁判員の理解を得られる弁護戦略の検討のための研修を行っております。その方法としては,全国8つの地域での,各ブロックごとの,いわゆる実演参加型の研修ですとか,衛星放送を利用したサテライト研修などを行っているわけです。また,各地の弁護士会でも,同じような研修を実施しています。  それから,裁判員裁判が実際に始まって以降は,各地で裁判員裁判を経験した人を中心とした交流会を実施しています。  日弁連は日弁連で裁判員裁判の情報を,日常的に集約して分析していますが,各地で経験された弁護人の方が経験交流を行っています。全国的には,昨年10月に,全国各地の経験者が集まりました全国経験交流会を実施しましたし,その成果を冊子にまとめて会員に情報提供しました。第2回の全国経験交流会は,2010年9月を予定しています。全国レベルでは,最高裁判所,法務省,日弁連の三者で,裁判員裁判に関する運用協議会を実施していますし,各地の弁護士会では,それぞれ裁判所,検察庁と,三者による協議会を行っております。私自身も東京三会に所属しておりますので,東京三会,東京地検,東京地裁と協議会を重ねているところです。それから,日弁連では,随時会員に運用状況や各種の通達,研修会の開催情報などをファックスなどで周知しておりますほか,メールマガジン,日弁連新聞,ホームページの『自由と正義』などによって,情報を伝達しております。  「裁判員裁判を担う弁護士の確保」という点に関しては,各弁護士会ともなかなか苦労している実情がありますが,裁判員裁判を担う弁護人の多くが国選弁護人です。約7割から7割5分が国選弁護人で占めているわけで,その国選弁護人の対応態勢名簿の再検討を行っています。実際,実施前に苦労をして,弁護士の名簿を作ったわけですが,いざ実施してみますと,なかなかうまくいっていない地域も各地で見られまして,名簿についての再検討をしているのが実情です。なお,弁護人の希薄な地域については,日本司法支援センターの常勤スタッフの補充を行ったというような実情もあります。  「今後の取組課題」についての我々の評価ですが,これまでの裁判員裁判の運用状況については,弁護士会としても,比較的順調に滑り出したのではないかと評価しているところです。ただ,先ほど来出ていますが,これまでは事実関係に大きな争いのない事件が中心です。これからは事実関係に深刻な対立のある事件,あるいは死刑が求刑されるような重大な事件が増えてきますので,これからがまさに正念場であると我々も認識しておりまして,それは裁判所や検察庁と共通する認識ではないかと思っています。  したがいまして,その観点から日弁連としては,今後取り組む課題を2つ指摘させていただきます。1つは弁護活動のさらなる充実強化です。これまで様々な研修を弁護士会は弁護士会なりに行ってきたわけですが,今日配布されているアンケートなどを見ますと,法廷における検察官の法廷活動は分かりやすかったけれども,一方で弁護人の活動が分かりやすかったかという比率を比較すると,検察官のほうが圧倒的に分かりやすいという数値が出ているわけです。そういう意味では,我々としてはこの数字を真摯に受け止めまして,これまで以上に法廷での弁護活動の在り方についての研修を重ねなければならないと考えています。  それから,「今後の運用や制度の見直し」についての検討です。裁判員裁判の経験が増えるにつれまして,おそらく様々な課題が浮上してくると予測されます。新しい制度である以上,当然のことです。この検討会自身も現状分析をして,裁判員裁判の運用や制度に関する見直しをするかどうか,それを含めて検討し,議論する場であると認識していますが,ここでの議論などを参考にしながら,日弁連でも,ともにこの裁判員制度についての運用や制度の見直しの必要はないか,必要があるとすれば,どのような点を変えていったらいいのかを,これから十分に議論をしたいと考えています。  簡単でございますが,日弁連が取り組んできた活動と課題について御紹介させていただきました。以上です。 ○ 井上座長 3人の委員の方々から,法曹三者それぞれの取組状況あるいは実施状況についての認識や課題について,御報告いただきました。どなたに対してでも結構ですので,御質問,御意見,御感想をいただければと思います。 ○ 前田委員 今の選任手続は,候補者全員の方に説明をすることを原則にしておられますよね。それで質問票などを見て,個別の質問をする人を選んでいると。個別質問をされる割合はどの程度なのかについては,分かりますか。 ○ 角田委員 東京地裁に関してだけで考えても,その統計はきちんとした形で取れていないのではないかと思うのです。事前質問票の回答で,個別質問でお聴きしないといけないと判断できる場合もありますが,当日の質問票の答え等から,個別質問にと判断する場合も当然あるので,ちょっと統計の形では出てこないのではないでしょうか。  大ざっぱに,大体このぐらいということは,ある程度の時期になれば,東京地裁あるいは全国の裁判所ということで,目安の割合はお示しできるものはあるのではないかと思いますが,厳密な意味での統計というのは無理なのではないかと思います。 ○ 井上座長 これまでの経験された中では,結構やるほうでしょうか。それともかなり絞られているのでしょうか。 ○ 角田委員 もちろん事案によって違うと思います。ただ,個別質問をしなければならない方が一人もいないという事例はほとんどないと思います。 ○ 四宮委員 もちろん,いろいろなケースで違うと思うのですが,今のように当日の質問票に基づいて個別質問する必要があるということもあるでしょうし,主にどのようなことから,どのようなことを原因と言うか,これはほかではそれぞれ分からないと思いますが,例えば角田さんの御経験したケースでも結構なのですが,差し支えのない範囲で,どういうことで質問されるのか。それが1つです。  それからもう1つは,個別質問で検察官や弁護人から,裁判長にこのような質問をしてほしいという要請というのは,大体どのくらいあるのでしょうか。これも分かりにくいようであれば,御経験の範囲で結構なのですが,どのくらいあって,また,それは大体認められているものなのかどうか。 ○ 角田委員 まず,前提として,自分が担当した事件について,裁判長のほうで個別の事情をあまり明らかにはしないというのがルールになっています。ただ,いろいろな資料を見たり,聞いている範囲で言いますと,普通に考えても,当日質問票の中に,「向こう3日間は仕事の予定が入っているので辞退させてください」と,これだけの申出があった場合には,その仕事の内容はどのようなものかはお聞きしてみないと,辞退を認めることが相当かどうかを判断できませんので,それは個別質問に回すと思います。これは非常に分かりやすい事例です。あるいは3日の審理予定であるけれども,そのうちの最終日に親御さんの介護の関係でどうしてもこれこれのことをやらなければいけない,それは具体的な形で質問票で答えていただければ,質問票の回答だけで判断できるでしょうけれども,それが抽象的な形で書かれているとなれば,それは個別質問でお聞きしなければ判断できません。結局辞退を認めるかどうかの判断をしなければいけないわけなので,そのようなことが分かりやすい例としてはあると思います。  それから,検察官,弁護人から,個別質問において裁判長に質問してほしいということでどうかということですが,まず,東京地裁での議論では,選任手続というのは,裁判員の方の性格や資質を選別したり,選んだりする手続ではないと。もともとが無作為に抽出して,どのような方でも,やるという意思を示していただけるのであれば候補対象として,あとはクジで選ぶという思想で考えております。ですから,裁判長のほうから,質問手続の中で質問するという,当事者の検察官,弁護人から求められて,何か質問をしなければならないというのは,普通には想定しにくいと考えているのです。  それをしたという事例はあまり聞いたことがありませんので,確認はしたことがないので断言はできませんが,おそらく運用としてもほとんどないのではないかと思っています。非常に曖昧な答えで申し訳ありませんが。 ○ 四宮委員 ありがとうございました。 ○ 井上座長 他の方はいかがですか。 ○ 山根委員 最初に質問票を郵送しまして,それに何も返答してこない人,あるいは当日全く出頭しない人に対して,何か問合せをしたり,あとのアクションはされているのですか。 ○ 角田委員 事前質問票はかなりの回答をしていただけますが,もちろん回答が戻ってこない事例,あるいは住居不明で戻って来る場合など,いろいろあるわけですが,それをいちいち調査して,追いかけてということはしていません。というよりも,できないというのが実情です。 ○ 大久保委員 先ほど審理の在り方と選任手続ということでお話をいただきまして,審理の在り方ですが,今4つ問題となっていることがあるということでしたが,その結論を出すために,どのようなメンバーで,またその検討の進捗状況はどのようになっているのか,あるいはその結論はどのような形でいつごろ出るのでしょうか。流れが分からないものですから,お尋ねしたいと思います。 ○ 角田委員 私の説明が抽象的だったので分かりにくかったのかと思います。これは当事者の主張,立証の在り方にしても,証拠調べの方法の問題点にしても,あるいは判決書をどのようなスタイル,内容にするかにしても,結局これからの実務の運用の積み重ねの中で,1件1件一所懸命各当事者も裁判所もやると思いますので,その積み重ねの中で結果が出てくる問題だろうと思います。  ただし,そうは言っても,大きな問題点を取り上げて議論をして,この方向性がいいのではないかということが示せる場合はありますので,東京地裁で言いますと,公判審理の委員会ですとか,公判前整理手続について検討する委員会とか,委員会を設けて,10人程度の裁判官のメンバーで,各部等から上がってくる問題点について議論をして,方向が示せるものは一応の目安ですが,示していくことには着手しています。ただ,おそらく無数の問題点がありますので,いつまでにまとまった結論が出るということではなくて,よりよい運用に向けて積み重ねていくという話だと思います。 ○ 井上座長 検察側から,書証と立証について御説明があったのですが,従来だと書証が大量に出てくることが多かったわけですけれども,裁判員裁判で書証に依存する程度は,どのくらいなのでしょうか。これまでのところ自白事件なので,争われる事件だとまた違ってくるかもしれませんが。 ○ 稲葉委員 自白事件の場合については,中心は書証による立証になっています。というのは,事実関係を争わなければ,被害者の方など,わざわざ法廷に出てきて証言していただく負担にも配慮しなければなりません。そこで,弁護士も調書を同意ということであれば,その調書を朗読することで基本的には足りることから,それで対応しています。  ただ,事案によって,一応事実関係に争いはないのだけれども,当該被害者が,私は直接法廷で証言するということで,立証としても,そのほうがより的確な立証になると判断される場合については,最初から被害者の方に証人として証言してもらうという例もありますが,どちらかというと,それは例外的なもので,争わない事件については,書証中心の立証になっています。  また,書証で立証しても,分かりやすい書証にしていかなければいけないということで,立証に向けた書証,場合によっては分厚い書証の中で,当該事案で適切な部分で抄本を作ったり,あるいはいくつかの証拠を集めて統合捜査報告書というものを作って,ポイントとなる立証に必要な部分だけをまとめた,新たな分かりやすい報告書を作り直すとか,そのような形で書証を法廷で朗読し,あるいは写真を示しながら読み上げることによって,それで十分に分かっていただけるような立証を行っているのが実情です。 ○ 井上座長 そういう事件の場合は,主には量刑事情ということですか。 ○ 稲葉委員 量刑の場合に,被害者の方なり遺族の方が意見陳述を行う希望がある場合については,その希望に沿って書面でやる場合,直接言いたいという場合,そこまでは要りませんという場合,そこはその被害者の意向を確認しつつ適切に対応しています。 ○ 酒巻委員 関連してですが,被告人は法廷でずっと黙っている黙秘権があるのですが,でも弁護士さんの質問とかで,しゃべられる被告人もいますよね。自白事件でも,目の前に被告人がいて,捜査段階で自白していて調書がある場合でも,基本は調書をお読みになるのか,それともせっかくいるのだから,検事と弁護人で,話を生で聞いてもらったほうが裁判員に分かりやすいのではないかという議論もありますが,その辺について,被告人についてはどうされていますか。 ○ 稲葉委員 検察の基本的な方針としては,捜査段階で検察官が,簡にして要を得た自白調書を取るように努めており,自白事件ではその調書を朗読することによって,当該事案の重要な部分,必要な部分については,よく分かるような内容がまとめられていて,それを法廷で証拠として,朗読することを想定しています。  確かに,公判前整理手続の中で,特に弁護人側からの被告人質問を,調書の調べの前に行うべきである,先に本人から聴くべきだということを強く主張され,また裁判体によっては,そういう自白事件であっても,被告人質問を先行される場合もあるのですが,検察官としてはどちらが裁判員に分かりやすいかという観点が大切だと思っております。一般論としては被告人に直接聴いてもらうのがいいように思われるかもしれませんが,法廷で分かりやすく,全体を的確に本人がちゃんとしゃべることができるか,あるいは被告人が法廷にいくと後退するような話をする場合もあるものですから,自白事件で,捜査段階で簡にして要を得た調書が作成されているのであれば,まずその調書を調べていただくと。その調書を朗読した上で,裁判員にもおおよそどういうことかを分かっていただいた上で,それに表れていないこととか,そことは違うのだということを尋問していただくほうが,一般には分かりやすいのではないか。したがって,検察としては,まず基本的には,調書を先に調べてくれと求めていっているのが実情です。 ○ 酒巻委員 意見も入っているのですが,この5年間の準備期間中に法曹三者がものすごく努力されているのは私も承知していますし,ほとんど皆さんのお書きになったものは読んでいるつもりなのですが,先ほど稲葉委員がおっしゃったとおり,公判前整理手続の新設導入は別として,刑事訴訟法それ自体は基本的に変わっていない。法律が大きく変わっていないにもかかわらず,裁判員制度が導入されて,このような今日御説明のあった運用の充実した裁判ができている。私自身はそれが今の刑事訴訟法の本来予定している裁判だと思っていまして,とてもいいことだと思っているのです。現状において,裁判員裁判で法曹三者の皆さん一生懸命になっているから,それだけでとても大変だとは思うのですが,ところでほかの刑事事件の審理のやり方は昔のままなのかなというのが気にかかるのです。私は理想型としては,ほかの刑事裁判もやはり同じ刑事裁判なのだから,長い目で見ると,これが本当の裁判だというふうに思われて,みんなこちらのほうになっていけばいいなと思っているのです。これは,そうしてほしいという希望です。現状は,ほかの事件は昔のままより少しでも影響して,裁判員裁判のやり方に近づいているのではないかなという気もするのですが。 ○ 井上座長 前田委員にも質問しませんとフェアではないので,質問させていただきますと,弁護士会では研修会などを随分やっておられるようですが,出席率はどの程度なのでしょうか。それから,先ほど対応態勢名簿を作ったのだけれども,うまくいっていないということでしたが,具体的にはどのようなことが問題になっているのでしょうか。  もう1つは,裁判員対象事件の弁護人になろうとする人についての研修などがあると思うのですが,弁護人が被告人と打ち合わせるときに,裁判員裁判ということを念頭に置いて,これまでとは違った対応の仕方というものがあるのでしょうか。例えば法廷であまり変なことするなと言ったり,弁明の仕方についても,ある程度ブリーフィングみたいなものをするのではないかと思うのですが。 ○ 前田委員 まず,研修に関しては,私も具体的な数字を持ってきておりませんが,先ほど申しました日弁連が衛星放送を利用したサテライト研修,この間何回か実施しておりますが,全国の弁護士の2,000人ぐらいがこの研修に参加しているという報告もあります。もちろん,それぞれの研修によって数の多少はありますが,その程度の弁護士が研修に参加しているということではないかと思います。私自身の東京での経験によりますと,大体50人から100人ぐらいの規模での研修会を何回かやっているという状況です。  それから,国選の対応態勢の名簿というのは,これは各弁護士会にすべて任せていますので,各地で名簿の作り方というのは相当異なっているのです。大ざっぱに言いますと,裁判員裁判の対応をするためだけの名簿を作った弁護士会と,裁判員裁判も含む重大事件の名簿を作った地域とがありまして,裁判員裁判の対応だけの名簿を作った地域では,今のところさほど問題はないのですが,被疑者国選から始まるものですから,かなりの数を覚悟しておかなければいけないという配慮がありまして,裁判員裁判に対応できる人だけの名簿ではない,かなりその周辺を含めた数多い名簿を作ったところでは,たまたま裁判員裁判にぶつかってしまって,これまでの模擬裁判の経験が全くないですとか,あるいは,先ほど申し上げたような研修会にも参加してこなかったというような方が裁判員裁判の受任弁護士になりまして,それで,その弁護活動について若干いろいろ問題にされているというケースがあるわけです。もちろん,サポート名簿というのを作っていまして,裁判所も理解を示していただいて,裁判員裁判には複数の弁護人態勢というのが採れることになっていますので,サポート名簿で模擬裁判等の経験がある方を入れるということにはしているのですが,それでも,初期の段階で,これまでの準備段階での経験がなかった方がついてしまったというケースがあったというのが,私が申し上げた中身です。  裁判員裁判における被告人の対応等についても,捜査段階といいますか,被疑者弁護段階から多少変わったといいますか,従前の弁護活動とは異なった対応が必要ではないかということで,まさに個別に対応がいろいろ異なりますので,こういうパターンしかありませんということはありませんが,少なくとも,法廷で見て聞いて分かる弁護活動をしなければならないという観点から,被告人に対する弁護士としてのアドバイスも変わってくるというようなことはございます。  先ほど稲葉委員の話にもありましたが,被告人質問をきちんとやるのかどうかということについても,いろいろありまして,弁護士会としては,法廷に被告人がいる以上,被告人にすべてをしゃべらせるというのが裁判員裁判の法廷の在り方ではないかということで,日弁連としては被告人質問先行型を推奨しているわけで,御本人がきちんと裁判員の前でしゃべれるのかどうかということも含めて,弁護人としては被告人と十分な協議をしなければいけないという状況がありますので,そういうことを含めて一応対応はしているつもりです。 ○ 四宮委員 補足と質問なのですが,弁護士会の研修は,今お話があったサテライト式のものと,さっきも御紹介のあった実演型のものとがあります。今年度は実演型は,日弁連が全国10カ所を選んでやっていまして,各研修に大体30名前後が実演型で参加をしていますので,今年度で300名前後が実際に模擬法廷に立って,インストラクションを受けるということでやっています。  そうやっているにもかかわらず,このアンケートによると,検察官と弁護人の分かりやすさの差が約30ポイント近くあると。これに私も大変ショックを受けました。実は,さいたまで行われた第2号事件を私は傍聴したのですが,そこでも3Dのコンピューターグラフィックスを使った検察官の説明,立証がありました。これも大変ショックを受けました。大変インパクトがあって。ショックを受けたというのは,その分かりやすさへの力の検察官と弁護側との間の格差と言うと問題がありますが,ギャップなのです。  今日も稲葉委員がパワーポイントをお使いになると説明されました。それで質問なのですが,最近の報道によると,検察庁では,とにかく幹部を除いた全検察官が裁判員裁判を経験すべきだとなったと報道されていました。その検察庁の研修体制はどうなのか。企業秘密ではないと思うのですが,例えばパワーポイントは検察官自身がお作りになるのか,あるいは各庁に専門の事務官の方がいらっしゃるのかとか,そういった技術と,そのツールについて,今どんな段階にあり,どんな方向でこれから考えていらっしゃるのか。弁護人を務めるかもしれない私が伺うのはルール違反かもしれませんが,お差し支えない範囲で。 ○ 稲葉委員 研修のことなのですが,検事が受ける研修としては,法務総合研究所が従前からやっている検事一般研修と検事専門研修です。一般研修というのは検事になって3年目ぐらい,大体地方に行っているぐらいのときに受ける研修,専門研修はもうちょっと経って7,8年目ぐらいでしょうか。これは従前から行われています。裁判員裁判が実際に始まるということで,始まってからでは遅いということで,その研修の中で,裁判員裁判を意識したといいますか,そういうカリキュラムが組まれるようになっています。もう1つ,新任検事研修,検事に任官してすぐの研修もありますが,そこは,裁判員裁判のことに全く触れないわけではないですが,それよりもっといろいろなこと,最初に教えるものがありますので。研修としては,そういう制度化された研修が従前からありますし,特に裁判員裁判を意識した研修として法務総合研究所がどういうことをやってきたかというのは,先ほど紹介した雑誌でも少し紹介させていただいています。 ○ 井上座長 その雑誌は,法律専門家にはなじみがあるものですが,法律専門家でない委員の方もおられるので,差し支えなければ,コピーを事務当局から配布していただければと思います。 ○ 稲葉委員 研修だけでうまくいけるかというと,そういう認識はありませんで,まさに1つひとつの実践で身に付けていく能力というのが,きわめて重要だと思っています。  パワーポイントは検事がやっているのか,事務官がやっているのか。これは,両方といいますか,検察庁の中では,特に裁判員裁判のいろいろな業務を中心的にやる事務官を指名しまして,その検察事務官が裁判員裁判に関しての証拠の管理から,検察官の立証の補佐をする体制を組んでいます。ですから,検察官が「こういうのを作ってくれ」と言って事務官が作る場合もありますし,検察官が自らできれば,自ら作るほうが早い場合もありますし,それは人によってまちまちだと思います。 ○ 井上座長 まだ御質問があるかと思うのですが,予定された時間がほぼ来ましたので,あと少しでおしまいにさせていただければと思いますが,さらに御質問等がありますか。 ○ 残間委員 専門知識以外に,スキルというのがあると思うのです。表現力とか論理構成とか,そういうことは研修ではやらないのですか。人の耳目にさらされたり,メディアの取材を受けたり,人の目によっていろいろな技というのは洗われていくものですが,やはり向いていない人というのは向いていなくて,下手な人は下手だと思うのです。  実は,事業仕分けの作業を見に行ったのですが,後半になるに従って官僚が非常に上手になってきていたのです。最初のころはみんな駄目でしたが,最後のころになると,コミュニケーションスキルの長けた人が来ていて,役所の仕分けのされ方が成功しているのです。いくら勉強ができて,その道で知識があっても,やはり伝える能力のない人とか,感じの悪い人というのはいるので,そういうのをどこで,どういう形で。それはすごく大きいと思うのです。裁判員の人もそうだけれども,世論に対しても。その辺というのは,こうやってさらされる機会が増えれば,違う研修をしないとまずいですよね。可視化の問題も,それに結構絡んでくると思うのです。見られているとか,人の前でどう自分が主義,主張するか,弁護士さんも,検察の人も。その辺は,今のところ全く視野には入れていないのですか。 ○ 稲葉委員 全く視野に入れていないかと聞かれると,それは視野には入れていますが,かといって,検事もいろいろなタイプが確かにいますし,もともとプレゼン能力に長けているような者もいれば,口べたもいますが,それでは,口べたは裁判員裁判をしなくていいのかというと,そういう観点からの仕分けはできません。向いている者だけやればというのではなくて,我々の認識としては,裁判員裁判対象事件というのは,刑事事件の重要な事件は全部そうなってきます。今はまだ始まったところで,特殊な態勢でみんな取り組んでいますが,これからは日常業務になってくるのだという認識です。特別な業務ではない。ごく当たり前の業務となります。人が亡くなられたような,あるいは重大な死刑,無期の法適用がある事件など,たくさんの刑事事件があります。年間2,000件ぐらいの事件がある。そういう通常の刑事裁判での通常の業務の中でやっていかなければいけないという認識ですので,下手な者についても,きちんとそれなりにできるように,とにかく現場で訓練していくというような発想でやっています。確かにアピールする能力,プレゼン能力というのも必要ではありますが,現場の検察官の認識としては,プレゼンだけに走っても,これはちょっと上滑りになるので,朴とつでも,言うべきことをきっちり誠意を持って示してくる,そういう態度が必要なのだと。あまりプレゼンのほうばかりに意識が行くな,という逆指導もしているような実情があります。 ○ 残間委員 プレゼン能力の中には,朴とつも入るのですが。 ○ 稲葉委員 そうですね。まさにそういう専門のアドバイスをいただいて。 ○ 井上座長 稲葉委員なら,ぴったりだと思いますね。 ○ 山根委員 マスコミの報道の在り方というのも,今後大きな議論になるのかなと思っているのですが,現時点で三者の方々がマスコミの方々とどういうやり取りをしているのか,取組みの指標のようなものがあれば簡単に教えていただきたいのと,課題として大きく持たれていることは何なのかということを一言言っていただければと思うのですが。 ○ 土屋委員 メディアの関係は,活字のメディアと放送のメディアと大別して2つ,今マスメディアとしてあるわけですが,それぞれ対応が違っているのです。まず,日本新聞協会がありまして,これは主に活字メディアが中心になっているところなのですが,その中にはNHKなどの電波メディアも加わっていますので,メディア横断的な組織です。そこで2008年1月16日に,裁判員制度の開始にあたっての事件・事故・裁判の取材・報道指針を決めています。インターネットのホームページにアップされていますので,見ていただけると分かりますが,「公正な裁判と報道の自由の調和」を図る立場に立ち,最初から被告人が犯人だと決めつけたような報道はしないとか,そういう報道の仕方などについて基本原則を確認しています。  それから,日本民間放送連盟という,これは民放のテレビ局,ラジオ局,FM局が加入している組織ですが,ここも新聞協会の翌日に,裁判員制度の下での事件報道について考え方を公表しています。大体,新聞協会に準じたような内容になっています。電波メディアの特性として,映像と音声について報道できるように,これは裁判所にもお願いしているところですが,そういう要望を出しつつ,裁判員裁判が円滑に行われるようにしていくための原則というものを合意しています。  ただ,活字メディアの中で,日本雑誌協会は内部的な議論のほか,最高裁判所とも接触などもしてはいるのですが,これは,メディアとしてどうするかという基本的な合意をつくっていません。雑誌協会はそういうものは必要ないという考え方に立っています。そういう意味では,メディアの統一性はとれていない部分もあるのですが,一般の方が目にするような新聞,テレビなどでは,大体基本的なルールを自分たちで決めて実行していこうという考え方がとられています。  ただ,それぞれの社の編集権といいましょうか,社論といいましょうか,主張といいましょうか,そういうものがそれぞれ違うものですから,なかなか統一したルールに服するということができなくて,ある社がこの部分を重視して,報道上留意すると強調すれば,また,別の社はそれほどではないという,濃淡があります。裁判員経験者が記者会見などをやっていく中で,いろいろまた共通のものが生まれてくるのではないかと思っているという状況です。 ○ 山根委員 ありがとうございました。 ○ 土屋委員 1つ,簡単に伺えればいいのですが,法曹三者の方たちにお伺いしたいことがあります。公判が終わったあとの翌日の準備の話なのです。私が傍聴した事件を例にとりますと,翌日の準備のために,弁護人の方も検察官の方も,翌日の明け方ぐらいまでかかって準備をされている。それで公判に臨んでいらっしゃるという状況がありました。非常に大変だと思うのです。審理日程がタイトなために,そういうことになってしまうのか。もしタイトすぎてそういうことになってしまうとしたら,寝不足で頭がぼけたような状態で公判をやってもよくないと思われます。何か考え直す必要があるのかどうなのか,ちょっと疑問に思っている部分がありますので,その辺りの実態,翌日の準備というのは現実にどうされていらっしゃるのかという辺りをお話し願えませんか。改善の余地があるのか。 ○ 井上座長 おそらく個別の事件によっても違うのだろうと思いますが,全般的な状況については…。 ○ 前田委員 私自身は,まだ公判前整理手続の段階での事件しか受任していませんので,実際の法廷は経験ありませんが,私の所属事務所では,今やっているものを含めて2件,裁判員裁判の経験者がいましたが,確かに,冒頭陳述をやるとか,弁論の前は,ほぼ徹夜状態でやっていたという現実があります。それは,やはり連日開廷という制約の中でやるという,そのことのゆえとしか言いようがないですよね。どうしても,その翌日,あるいはその日のうちに意見を述べろということになると,その準備としては,その日のうちにやってしまうしかないと,こういうことではないかと思います。今までの裁判ですと,比較的余裕がありましたから。 ○ 井上座長 そのことに伴って問題があるかどうかという点も含めて,簡単にコメントさせていただきますと,陪審制度を採っているアメリカなどでも,そういったことは日常茶飯事で,文字通り連日開廷ですので,重要なポイントになれば検察側も弁護側も徹夜で準備をしたり,調査をしたりすることがあります。それ自体は別に珍しいことではないのです。 ○ 酒巻委員 私の知る限り,世界中の法律家はみんなプロですから,依頼人のために,民事でも刑事でも,徹夜するのは当たり前ではないかと思いますが。 ○ 井上座長 もちろん,それが非常に病的な状態で,そのために正しい裁判ができなくなるような状態ならば,工夫しなければならないとは思います。 ○ 土屋委員 私がお伺いしたいのは,ちょっとニュアンスが違っていて,例えば公判が夕方6時,5時までかかって終わると,そのあと翌日の準備をする。弁護人であれば,被告人と打合せをしたりする,いろいろ時間をとる必要もあったりするだろうと。そういう辺りが十分できているのでしょうか,ということなのです。 ○ 井上座長 そこのところは,実態を把握してみないと何とも言えないと思います。急がせて申し訳ないのですが,会場の都合もありまして,御質問はこのぐらいにさせていただきたいと思います。  今日報告していただきましたように,運用事例がある程度は集まってきているものの,まだ,今の段階で何が課題であるかということを拾い上げるのは難しいのではないかと思います。特に,先ほどお話が出たように,争いのある難しい事件はこれからですので,そういう実績を踏まえた上で,考えなければならないと思います。次回以降の進め方につきましては,また私と事務当局のほうで考えさせていただき ,皆様にもお諮りしたいと思います。当面は裁判員制度の運用の状況を継続的に把握しながら,検討すべき課題は何なのかを見定めていく,というのが適切ではないかと思われます。そういうことでよろしいでしょうか。  それでは,本日の議事はこれで終了させていただきます。最後に事務当局から,次回の予定の確認をお願いしたいと思います。 ○ 加藤刑事法制企画官 次回の日程は,6月15日(火)午後3時からとさせていただきたく存じます。会場あるいは議題等については,あらかじめ御案内を申し上げます。 ○ 井上座長 本日の議事はこれで終了したいと思います。どうもありがとうございました。