裁判員制度に関する検討会(第8回)議事録 1 日 時   平成23年12月13日(火)13:30〜16:52 2 場 所   東京高等検察庁第二会議室 3 出席者   (委 員)井上正仁,大久保恵美子,菊池浩,酒巻匡,残間里江子,      四宮啓,島根悟,土屋美明,栃木力,前田裕司,山根香織 (敬称略)   (事務局)稲田伸夫刑事局長,甲斐行夫大臣官房審議官,和田雅樹刑事      局刑事課長,上冨敏伸刑事局刑事法制管理官,西山卓爾刑事局参      事官 4 議 題  (1) 裁判員制度の実施状況等について(報告)  (2) ヒアリング 全国交通事故遺族の会 全国犯罪被害者の会(あすの会) 性暴力禁止法をつくろうネットワーク 少年犯罪被害当事者の会  (3) その他 5 配布資料   議事次第   委員名簿   着席図   資料1:地検別 裁判員裁判対象事件罪名別起訴件数       (制度施行〜平成23年11月30日)   資料2:裁判員裁判の実施状況について       (制度施行〜平成23年7月末・速報)   資料3:特別資料1(量刑分布)   資料4:特別資料2(求刑分布)   資料5:アンケート調査結果報告書       (平成23年1月〜6月分)   資料6:裁判員等経験者アンケート・データ   資料7:裁判員裁判の実施状況等について(要約)   全国交通事故遺族の会説明資料           「裁判員制度に関する交通事故遺族の意見書」 全国犯罪被害者の会(あすの会)説明資料1 「意見書」 全国犯罪被害者の会(あすの会)説明資料2           「裁判員裁判について被害者遺族が感じたこと」 性暴力禁止法をつくろうネットワーク説明資料           「性暴力事件の裁判員裁判1年目のまとめ」 少年犯罪被害当事者の会説明資料           「裁判員制度に関する検討会への意見書」 6 議 事 ○西山参事官 予定の時刻となりましたので,裁判員制度に関する検討会第8回会合を開会させていただきます。 井上座長,お願いいたします。 ○井上座長 本日もお忙しい中御参集いただきまして,ありがとうございます。  まず,事務当局から本日の資料について確認をしていただきます。 ○西山参事官 本日の資料は,議事次第,配布資料目録,インデックス付きの資料が1から7までと,本日ヒアリングを行います全国交通事故遺族の会から「裁判員制度に関する交通事故遺族の意見書」と題するもの1枚,全国犯罪被害者の会から「意見書」と題するもの3枚と「裁判員裁判について被害者遺族が感じたこと」と題するもの3枚,性暴力禁止法をつくろうネットワークから「性暴力事件の裁判員裁判1年目のまとめ」と題するもの4枚,少年犯罪被害当事者の会から「「裁判員制度に関する検討会」への意見書」と題するもの1枚の資料でございます。 ○井上座長 不足がありましたらお申し出いただければと思いますが。よろしいですね。 それでは,議事に入りたいと思います。 最初に,裁判員制度の実施状況等について,事務当局から説明していただきます。 ○西山参事官 それでは,裁判員制度の実施状況等につきまして,本日お配りしているインデックス付きの資料1から7までの資料に基づいて御説明いたします。 資料1は,毎回お示ししている地検別,罪名別の起訴件数をまとめた資料で,裁判員制度施行後,本年11月末までのものです。 資料2から6までは,いずれも本年10月に最高裁判所で行われた裁判員制度の運用等に関する有識者懇談会において公表されたもので,そのうち資料2及び5の主な内容を法務省において要約して,1枚にまとめたものが資料7です。 まず資料1により,裁判員裁判の起訴件数・判決人員等について御説明いたします。 本年11月末までの全国の起訴件数は,合計4,665件となっています。罪名別では,強盗致傷ないし強盗傷人,殺人,現住建造物等放火の順に多く,検察庁別では,千葉地検,東京地検本庁,大阪地検本庁の順に多くなっており,この順は前回の検討会で報告いたしました起訴件数の順序と変わりありません。 裁判員裁判の判決人員については,11月末までで,判決言渡し人員は合計3,003人となっており,これを判決言渡し件数に直しますと,3,372件になります。起訴件数のうち約72パーセントについて判決まで至っていることになります。 次に,資料2に基づき,裁判員裁判の実施状況について御説明いたします。これは制度施行から本年7月末までの統計です。 まず,裁判員候補者の選任について,5ページの表4を御覧いただきますと,個々の裁判員裁判を行う段階で選定された裁判員候補者の総数は21万4,826人,呼出状が送付された方が15万8,195人,実際に選任手続期日に出席された方が7万9,909人となっております。そして,裁判員候補者の出席率は80.3パーセントとなっており,第6回検討会で御報告した本年3月末までのものでは80.2パーセントでしたので,ほぼ横ばいの状況にあると言えます。 次に,5ページの表3によると,選定された裁判員候補者のうち,辞退が認められた候補者数は11万7,598人であり,辞退率は54.7パーセントとなっています。第5回検討会で御報告した昨年11月末までの辞退率は52.3パーセント,第6回で御報告した本年3月末までの辞退率は54.4パーセントであり,徐々に増加している傾向が見られます。辞退の理由については,6ページの表5のとおり,従前と同様70歳以上などの定型的辞退事由を除くと「事業における重要用務」「疾病障害」「介護養育」の順に多くなっております。 次に,7ページの表7を御覧いただきますと,本年7月末までに選任された裁判員は1万4,564人,補充裁判員は5,153人となっております。終局件数は2,388件ですので,終局件数1件当たりの補充裁判員の数は約2.2人となり,この数は本年3月末までと同様です。 続いて,裁判員裁判のために要する期間等について御説明します。 7ページの表9では,公判前整理手続期間が自白・否認別にまとめられており,本年7月末現在で公判前整理手続の平均期間は全体で5.5か月,自白事件で4.7か月,否認事件で6.8か月となっています。本年3月末までの平均期間は,全体で5.4か月,自白事件で4.6か月,否認事件で6.7か月であったことと比較すると,自白・否認のいずれも平均期間が若干延びていることが分かります。また,公判前整理手続期間が6か月を超えている事件が822件ありますが,この中で最も長いものは617日,すなわち約1.7年であるとのことです。 開廷回数については,7ページの表10にあるとおり,本年7月末現在の平均開廷回数が全体で3.9回となっており,本年3月末までの平均開廷回数は3.8回でしたので,全体としては少し延びております。なお,開廷回数が3回又は4回の判決人員数が全体の77.6パーセントを占めています。 次に8ページの表11−1を御覧いただきますと,起訴から終局までの審理期間の平均は,本年7月末現在で,全体で8.3か月であり,自白事件につき7.2か月,否認事件につき10.1か月となっています。本年3月末では,全体で8.2か月であり,自白事件につき7.2か月,否認事件につき10.0か月でしたので,ほとんど変化が見られません。また,表11−2によりますと,第1回公判から終局までの実審理期間は,本年7月末現在で最も多い3日が796人で約31.6パーセント,次に多い4日が650人で約25.8パーセントとなっています。 さらに,表12は評議時間についての表ですが,本年7月末現在,全体の平均評議時間が521.6分,すなわち約8時間40分であり,本年3月末現在では,これが514.6分,すなわち約8時間35分でしたので,大きな変化はないと言えます。 次に,資料3及び資料4は,制度施行から本年8月末までの量刑分布と求刑分布について,裁判員裁判と裁判官裁判を対比してまとめたもので,それぞれの資料で,右側の表及び左側の折れ線グラフが,裁判官裁判について青色,裁判員裁判について赤色で示されています。第6回検討会では,施行から本年3月末までの量刑分布と求刑分布につき,同様の資料で御報告しましたが,それと比較して量刑分布状況,求刑分布状況共に大きな変化は見られません。 次に,資料5によりまして,裁判員等経験者のアンケート結果について御説明いたします。 このアンケート調査は,本年1月4日から6月末までに行われた691件の裁判員裁判に関わられた裁判員,補充裁判員及び裁判員候補者に対し,裁判所においてアンケートの協力をお願いし,1万9,829名の方から回答を得られたものです。 まず,7ページを御覧いただきますと,問3「審理内容の理解のしやすさ」とありますが,60.3パーセントの方が「理解しやすかった」と回答されています。なお,これまでの裁判員等経験者のアンケートでは,平成21年では70.9パーセント,平成22年では63.1パーセントとなっており,徐々に減少しております。 次に,8ページを御覧いただきますと,問6「評議における話しやすさ」について,75.1パーセントの方が「話しやすい雰囲気であった」と回答され,問7「評議における議論の充実度」について,71.7パーセントの方が「十分に議論ができた」と回答されています。また,問11「裁判員として裁判に参加した感想」を見ると,「非常によい経験と感じた」と回答された方が53.0パーセント,「よい経験と感じた」と回答された方が42.0パーセントであり,合計95.0パーセントの方が積極的な回答をされています。 11ページから14ページには,補充裁判員及び裁判員候補者に対するアンケート結果の要約が掲載され,15ページから18ページでは「法廷での説明等のわかりやすさ」等の項目について,裁判員及び補充裁判員の各アンケート結果が自白・否認別で掲載されています。 次に,資料6では,一番上に「審理内容の理解のしやすさ」の項目で,「理解しやすかった」との回答における自白・否認の割合や,平成21年,22年におけるそれぞれの割合が掲載されております。これを見ていただきますと,平成23年1月から6月末では「理解しやすかった」と回答した方が自白事件では64.4パーセント,否認事件では53.6パーセントとなっております。また,自白・否認共に年々「理解しやすかった」との回答の割合が減少していることも見て取れます。 御説明いたしました実施状況及びアンケート結果については,主な内容を資料7にまとめておりますので,こちらも御参照いただければと思います。 以上で,私からの御説明を終わらせていただきます。 ○井上座長 ありがとうございました。 以上の説明につきまして,何か御質問等ございましたら。よろしいですか。 それでは,次に,先月の11月16日に,最高裁判所大法廷において,裁判員制度の合憲性について初めての判断が下されました。この最高裁判決について事務局の方から簡単に御説明いただきたいと思います。 ○西山参事官 それでは,先日,最高裁判所大法廷において,裁判員制度が合憲であるとの判断を初めて示した判決が出されましたので,御紹介いたします。 この裁判の事件の概要ですが,覚せい剤約2キログラムをスーツケースに隠し,成田空港において密輸入しようとしたという事件であり,一審の裁判員裁判で有罪判決が出され,弁護人が控訴して控訴棄却となり,さらに弁護人が上告していたというものです。弁護人は上告理由として,裁判員法が違憲である旨主張したのに対し,合憲判断を示したのが今回の最高裁判決です。その概要を説明いたします。 まず,判決は,憲法上,国民の司法参加が一般的に禁じられているとは解されないことを判示しました。 具体的には,憲法に明文が置かれていないことが直ちに国民の司法参加の禁止を意味するものとは言えず,憲法上の基本原理や諸原則,憲法制定の経緯,関連規定等を総合的に検討して判断されるべきとしました。 その上で,憲法上,刑事裁判の基本的な担い手として裁判官が想定されていることに言及し,他方,欧米民主主義国家の多くは陪審制か参審制を採用し,我が国でも陪審裁判が実施されたなどの時代背景と国民主権の基本原理の下で,旧憲法の「裁判官による裁判」から「裁判所における裁判」へと表現変更されたことなどから,憲法制定時において陪審制や参審制の採用も可能と理解されていたものと認められるとし,裁判所法3条3項が「陪審の制度を設けることを妨げない」と規定していることもこの経緯に符合するとし,憲法上,国民の司法参加がおよそ禁じられていると解すべき理由はなく,国民の司法参加制度の合憲性は,その具体的内容が適正な刑事裁判実現のための諸原則に抵触するか否かによって決せられるべきとしました。 そして,判決は,裁判員制度の具体的内容も憲法に適合していることを判示しました。 具体的には,まず,裁判体は,裁判官と公平性,中立性を確保できるように配慮された手続の下に選任された裁判員で構成され,裁判員の関与する判断は,必ずしもあらかじめ法律的な知識,経験を有することが不可欠な事項ではないことなどからすると,裁判員が裁判官との協議を通じて良識ある結論に達することは十分期待でき,他方,刑事裁判の諸原則の保障は裁判官が判断することなどから,公平な裁判所における法と証拠に基づく適正な裁判が制度的に十分保障されている上,裁判官は刑事裁判の基本的な担い手とされていると認められ,憲法上の刑事裁判の諸原則確保の上で支障がなく,憲法31条,32条,37条1項等に反しないとしました。 次に,裁判官が自らの意見と異なる結論に従わなければならない場合があるとしても,それは憲法に適合するように法制化された裁判員法に拘束される結果であるほか,裁判員制度の下でも裁判官を裁判の基本的な担い手として,法に基づく公正中立な裁判の実現が図られていることからも,裁判官の独立を保障した憲法76条3項に反しないとしました。 そのほか,上訴が可能であることから,特別裁判所を禁止した憲法76条2項に反しないこと,裁判員の職務等の性質などからすれば,憲法18条後段の「苦役」の禁止にも反しないことを判示しました。 以上です。 ○井上座長 どうもありがとうございました。 法律家以外の方には,分かりにくかったかもしれませんが,何かこの段階で御質問がありましたら。 それでは,また判決文をお読みになったうえで御疑問等がありましたら,適宜事務局に御質問いただければと思います。 よろしいですか。 それでは,次に,本日予定しております被害者団体の方からのヒアリングを行いたいと思います。 本日は全国交通事故遺族の会,全国犯罪被害者の会,性暴力禁止法をつくろうネットワーク,少年犯罪被害当事者の会の4つの団体の方々からそれぞれお話を伺うことにします。手順としては,各団体の方からまず御説明いただいた後,質疑応答の時間をとりたいと思います。 ここで,このヒアリングの議事の公開につきまして,お諮りしたいことがございます。 本日のヒアリングでは,被害者の方々あるいは御遺族の方々の実際の裁判員裁判における御経験等をも踏まえての御感想や御意見等をお聴きする,あるいは具体的なお話を御紹介いただくことになっております。その中で,実際の具体的な事件の内容に御説明が及ぶなど,事件関係者のプライバシー等の保護のために,公開に適さない部分が出てくることもあろうかと思われます。 そこで,各団体の御希望をも踏まえまして,4つの団体の方々のうち,性暴力禁止法をつくろうネットワークと少年犯罪被害者当事者の会の方々のヒアリングにつきましては議事を非公開とし,議事録についても可能な限度でその内容を掲載するにとどめるということにしたいと思いますが,皆さんの御意見はいかがでしょうか。 (「異議なし」との声あり) 御異議がないということですので,以上の2団体の方々のヒアリングに関わる議事は非公開とさせていただきます。  それでは,まず,全国交通事故遺族の会の方々からヒアリングを行いたいと思います。 (全国交通事故遺族の会 入室) ○井上座長 本日は,どうもお忙しい中,全国交通事故遺族の会の皆様におかれましては,当検討会にお出でいただきまして誠にありがとうございます。早速ではございますが,よろしくお願いいたしたいと思います。 ○戸川氏 今日はこのような席にお招きいただきまして,ありがとうございます。   私は全国交通事故遺族の会の副会長を務めています戸川と申します。今日,一緒に参りましたのは,私どもの理事で,片瀬邦博と申します。よろしくお願いいたします。   全国交通事故遺族の会というのは,名前が示しますとおり交通事故の遺族だけで構成されている団体です。今年の5月の総会で満20周年という節目を迎えました。日本全国にたくさんの自助団体がありますけれども,一番歴史が長く,会員数も一番多い団体です。交通事故の遺族同士の慰め合い,それからもう一つは交通事故を少しでも減らしていこうという活動を行っています。   時間が非常に短いものですから,本題に入らせていただきます。今日はお手元にペーパーを出させていただきましたけれども,それに従いまして裁判員制度に関する意見,それからもう一つは実際に裁判員裁判の当事者といいますか,遺族の声を聞いたものがございますので,それを紹介させていただこうと思います。   そもそも今回のお話を頂きましたときに,遺族の会を通じて裁判員制度の対象となった人の意見を聞きたいという話がありました。はたと困ったなというふうに実は思ったんです。うちの会は何百人も会員がいるわけですけれども,私の知る限りでは会の中に裁判員裁判をやった人がおりません。そういう意味では,法務省さん,あるいはここの検討会の狙いといいますか,目的とされるところに本当に我々が関わることができるかどうか,大変不安に思いました。たまたま私たちの知り合いに当事者がおりましたので,その人たちの意見を聞いた上で,こういった形でよろしいかと,法務省さんに尋ねましたところ,これでいいですということでしたので,今回出させていただきました。   そういうことで,私自身もそうですけれども,当然当事者でありませんが,遺族の会としましての,裁判員制度についての意見を言わせていただきたいと思います。ペーパーに従ってこれを基に話をさせていただきたいと思います。   裁判員制度は,刑事裁判の結果に民意を反映させようという目的でスタートしたというふうに伺っていますけれども,交通事故に関して私が知る限りでは,厳罰化というものがある程度もたらされたというようなことで,裁判員制度を作った効果はあったのではないかと思います。また,この制度は,国民に「してはならない悪いこととは何か」を知らしめ,それを守らなければ厳しく処罰されるという認識,すなわち法令遵守の精神を刷り込む宣伝効果もあったと考えられます。   言わずもがなですけれども,交通事故というものは,本来,道路交通法をきちんと守れば防ぐことができます。ところが,多くの交通事故の加害者は,危険を承知の上で道交法を破る。法律を破った結果,交通事故は起こしてしまうわけです。私たちは,交通事故は,事故とは呼んでいますけれども,実際はこれは故意犯に非常に近い犯罪,あるいは故意犯ではないかとすら思っています。   交通犯罪は,相手を死傷させる可能性がある事件の件数で,また負傷者数において,全刑事事件の中で,最も大きな比率を占めている犯罪です。しかしながら,起訴率が極めて低いこともあって,刑事裁判に至る率はわずかです。また,不起訴,略式裁判による罰金刑,執行猶予付きの判決,実刑へと処罰が重くなるに従って,適用が極端に減少してきます。従って,現実の交通犯罪は,言わば「おとがめなし」に等しいほど軽く扱われています。   今から大分前になりますけれども,交通事故による死亡者が1万6,000人あった時代があります。余りにも交通事故が増え過ぎたということで,当時の司法の分野は,交通犯罪をきちんと処罰していけば,国中が犯罪者だらけになってしまう,あるいは加害者を収容する施設がなくなってしまうということで,起訴率を大幅に下げてまいりました。一時は最大70パーセントもあった起訴率が,交通犯罪については昨今10パーセントちょっと上回るくらいしかないんです。しかも起訴されるのが1割強にしかすぎないにも拘わらず,実際にこれが裁判という段階になりますと,そのほとんどが略式裁判で罰金刑になってしまいます。さらに,本裁判になったとしても,執行猶予付きの判決が圧倒的に多いのが現実です。   昔,全国あちこちに交通刑務所というのがありましたけれども,今は市原に1か所残っているだけです。しかも市原ホテルとか,収容者に言われているそうですが,そんなふうにやゆされる程,非常に快適な場所だというふうに聞いています。   冒頭に言いましたように,遺族の会という中にあって,やはり今回の裁判員裁判の当事者をこの場に出せなかったという背景は,今言いましたように,まず重く処罰される加害者が非常に少ないということが原因にあるのではないかというふうに,私は考えています。 近年,交通事故は減少傾向にあります。これには様々な要因があってのこととされています。例えば,経済が衰退しているとか,あるいは若者の車離れがあります。特に交通事故の死亡者数におきましては,救急救命医療技術の発達が死亡率を大幅に減らしていると言われています。残念ながらこの分野において,司法が果たした役割効果は極めて低いものと考えられます。少子高齢化により人口減少が始まった我が国にあって,生まれ出た命を一つも無駄にしないで,特に人命に関わる犯罪を抑止すること,すなわち交通事故撲滅に対し,司法も積極的に関わっていただきたいと考えています。 現在の裁判員制度におきましては,危険運転致死罪のみがその対象とされています。 しかし,制度ができて以降,同罪の適用は信じられないくらい少ないんです。私が先般聞いた話では,危険運転致死傷罪ができてまだ50件に満たない,確か47件くらいだと思いましたけど,そんなふうに聞いています。 裁判員裁判は,危険運転致死罪のみが交通事故の場合の対象犯罪ですけれども,それすらこんなに少ないわけですから,先ほど言いましたように,私たちの周りに裁判員裁判の当事者がいないことも,うなずいていただけるんではないかと思います。 これは刑法の一翼を担う危険運転致死傷罪が,十分に機能していないせいではないかと考えます。つまり,危険運転致死傷罪はその立証の難しさから,同罪の適用が検察の場でしゅん巡されているのではないかとすら思われます。   一方,危険運転とされる行為の認定につきまして,法で定められた行為と国民の認識との間に大きなずれがあります。例えて言えば,重過労が悪質行為であると考える国民は比較的少ないと思われるのに対し,無免許運転や暴走族,無保険車など,こういった行為が危険運転に当たると思っている国民は多いのではないかと,私たちは想像します。 また,危険運転致死傷罪の制定後,同罪の重罰適用から逃れようとする,いわゆる「ひき逃げ」が大きな問題になっています。道交法で言うと救護義務違反,通報義務違反ということになりますけれども,これはこの危険運転致死傷罪を作ったがゆえに生み出された一種の産物であります。緊急にこれを是正していただく必要があります。危険運転致死傷罪の適用範囲をさらに広げて,国民が納得する法律に作り変えることが必要です。さらには同法が適用されない一般事故(自動車運転過失致死傷罪・道交法)においても,違法性が高いもの,例えば死亡ひき逃げ事件を指しますけれども,また交通弱者が犠牲となったような事件で,被害が甚大なものにつきましては裁判員制度が適用されるよう,今回の見直しで改めていただきたいと思います。交通弱者というのは,歩行者であるとか,一部歩道上を走っている自転車なんかが対象になります。皆さんたちの御記憶にも新しいと思いますが,栃木県でてんかんの患者が学校の低学年の児童を何人もひき殺したという事件がありました。こういう何の罪もない子供たち,しかも複数の命が奪われるような大きな事故につきましては,仮に危険運転致死傷罪というものが仮に適用できなかったとしても,国民に何が悪いことかを知らしめる意味で,是非裁判員制度の対象としていただきたいと考えるわけです。 交通事故に関するこうした司法面のバックアップが,警察官のモラールアップにつながり,厳正捜査,検挙率の向上につながり,また適正な取り締まりや規制などによって,安全な車社会の構築に寄与するものと考えられます。 現在,警察官は本当にずさんな捜査しかやりません。そして,その調書におきましても,ほとんど警察官がいわゆる絵に描くというやり方で,想像を基に,あるいは思い込みを基に作られているのが圧倒的に多いんです。その背景は何かというふうに考えますと,警察官としても,一生懸命捜査をして正確な調書を作ろうとも,せっかく捕まえた犯人が起訴されるのが1割,その1割につきましても,せいぜい罰金刑で終わってしまう。これでは現場の捜査官も,真剣に自分の職務を遂行しようという気持ちにならないのではないかというふうに考えます。以上のような制度改革を行っていただければ,安全な車社会の実現により一層近づくのではないかというように考えます。 続きまして,裁判員制度に関わった遺族からの声を,代弁をさせていただこうと思います。 ついこの間ですけれども,犯罪被害者週間というイベントがありまして,その席で,埼玉県に住んでいるOさんという方からお聞きしました,裁判員制度に対する御意見です。Oさんと言えば,そのイニシャルを聞いただけで,中にはぴんとこられる方があるかとも思います。埼玉県内の大きな事故で御両親を亡くされた方です。本来であればこういった方たちに,この席に来ていただいて,皆さん方に生の声を聞いていただくのが理想的なんですが,今回は,やむを得ず私が聞き取りまして,このペーパーに落とし込んでおります。 まず,裁判員制度につきましては,飲酒運転を助長させたとして,ドライバーだけではなく,同乗者にも危険運転致死傷罪が適用されるなど,裁判員制度が同罪の間口を押し広げる効果があったようだということで,この制度は大変いいものではないか,飲酒運転を撲滅させるためには非常に効果的であったというような総括をなさっていました。 それから,被害者遺族への扱いについてなんですけれども,裁判に被害者遺族が参加する折,特にその方は,小さな子供がいる母親なんですけれども,小さな子供をどこに預けるかで大変苦労したそうです。例えて言えば,裁判所内に託児施設があるとか,あるいはこういった子供を,民間であるいは地元で預けられるような補助をしてもらいたいという具体的な提案がありました。この問題は,老父母の介護をしている,あるいは障害者の家族がいるというような家族についても,恐らく今後とも共通していく問題ではないかというふうに考えます。 続いて,裁判所に行くまでの時間と旅費の負担が大きいという問題についてです。刑事裁判の開催地について,被害者遺族の意向に沿うべきではないかという御意見でした。裁判に関わることは非常にいいことなんですけれども,残念ながら今の日本の刑事裁判におきましては,その開催地が被害者に配慮した場所ではないんです。事故が起こった場所,事件が起こった場所ということが最優先されますので,被害者の遺族はわざわざ遠くまで出かけていかなければならない。そういう制度上の問題があります。 3番目に,在宅起訴された加害者と,裁判所の廊下で接触する可能性があって,Oさんは精神的に大変混乱に陥ったという話をされました。この事件の加害者は,在宅起訴されていますので,当日裁判所でバッティングする可能性が非常に高いわけです。これは恐らく一般犯罪の刑事裁判とは違う大きな問題だと思います。御自身がその加害者と直接タッチするわけではないんですが,やはりあらゆる面で,自分の家族を殺した者と突然ばったり出くわす可能性があるということは,やはり非常に精神的に不安に陥れられるものではないかと思います。 そういう意味で,一般の犯罪と同じように,拘置所から送られてくる加害者と被害者の遺族がバッティングしないような配慮をしていただきたいと考えます。 最後になりましたけれども,休憩や食事のときに,遺族は,被告人と比べてほとんど無視された存在であるという話がありました。被害者遺族用の控室やアメニティが用意されるべきではないかということです。このOさんは裁判員裁判に出かけていったわけですけれども,結局子供を預けられずに,子供を抱いていったそうなんですね。ところが小さな子供にミルクを与えようと思っても,そういう適当な場所がない。それから,ミルクに用いるお湯もないというようなことで,大変苦労したそうです。逆に,加害者におきましては,恐らく別室であったかいお茶を飲みながら食事をしたでしょう。これは私も正直言って確かめたわけではないので分かりませんけれども,「私たちは子供に与えるミルクのお湯もなかったんです」というようなことをおっしゃっていました。 そういう意味で,裁判における被害者と遺族の立場というのは,当然違うことは私たちも分かりますけれども,片や犯罪の加害者であり,片や被害者の側です。その扱いが裁判の進行上,大変甚だしくかい離があるのではないかというように,私もこの話を聞いて感じました。どうか,こういった被害者の遺族,こういった人たちの扱いにつきまして,今以上にきめ細かな配慮がなされますようにお願いしたいと思います。 以上が,遺族の会としての意見書と,それから裁判員裁判対象事件の遺族からの声をお話ししました。今日一緒に来ています,片瀬のほうから多分一言あるかと思います。よろしくお願いいたします。 ○片瀬氏 片瀬でございます。   今日の趣旨からちょっとずれるかもしれませんけれども,私たち遺族が抱いている率直な思いを2点述べさせていただきたいと思います。   1点目は,私たち家族,つまり亡くなった被害者にも人権があるということを述べさせていただきたいと思います。   加害者は,言うまでもなく,更生を含めて,いろいろな形で人権が擁護されております。それに比べて,日本は昔から亡くなった者は仕方がないという風潮がありまして,亡くなった者に対する人権というものに配慮されることが一切ありません。これは,私たち遺族としては甚だ許し難い,非常に納得のできない思いでありまして,亡くなった者に対しても人権というものがあるのではないかという思いを非常に強くしております。この辺を十分配慮して,判断に当たっていただければというのが1点でございます。   あと1点は,被害者,つまり亡くなった方の人数が一人の場合と複数の場合で捜査や処罰の判断が分かれるケースがままあります。新聞報道なんかを私たちは見て思っておるわけですけれども,亡くなった者あるいはその遺族から見ると,一人であっても,三人であっても命の重さというものは当然変わりがないわけでして,そういう点を十分お含みいただいて,公正な,公正なという言い方はおかしいんですけれども,私たちからするとそういう思いになるんですけれども,判断をしていただければというのが私たち遺族の今抱いている率直な思いであります。   以上です。 ○井上座長 どうもありがとうございました。 それでは,ただいまの御説明につきまして,御質問等がございましたらどなたからでも,御発言いただきたいと思います。いかがでしょうか。 ○大久保委員 どうも本当に貴重なお話を聞かせていただきまして,ありがとうございました。 先ほど危険運転致死傷罪で起訴される人が少ないので,実際に裁判員裁判の適用になる被害者や遺族が少ないというお話がありまして,その中でなるべく多くの裁判員裁判が適用されるようにというお話もあったかと思います。一方で,裁判員裁判を体験した方の御意見といたしまして,余りにも被告人と被害者との対応に差があり過ぎるし,裁判員裁判に出るということだけでかなりの負担で,かなりのものを犠牲にしなければその場にも出ないというようなお話だったかと思いますが,その辺りを被害者の負担を軽くして,なおかつしっかりと裁判員裁判に被害者が出ることができるというようにするには,どのようなあたりを改善すればよろしいとお考えでしょうか。 ○戸川氏 まず,制度についてですけれども,先ほど片瀬は死んだ者の人権の話をしましたが,やはり交通事故犯罪というのは非常に軽く扱われているということです。これは社会的なニーズ,要するに安全な社会を作る,日本から交通事故をこれだけ減らしていきたいという,いわゆる国家戦略もあるわけですから,それに沿ったものにするために,司法としてどう関わっていくかということの問題ではないかというふうに考えます。危険運転致死傷罪がどうとかいうことではないと私は思っているんです。   要するに,交通事故をやっても大方の人が許されてしまうというような社会を直す。そのためには一つの手段として,今,危険運転致死傷罪を見直して,今の適用されている飲酒とか赤信号無視だけではなくて,例えば無免許運転,無保険車,暴走族,こんな悪質運転も加えてはいかがかなというようなことを考えているわけです。   もう一つ,大久保委員がおっしゃった裁判に関わる当事者の問題ですけれども,せっかくこういう裁判員裁判という制度ができたにもかかわらず,余り言葉はよくないかも分かりませんけれども,いわゆる箱物の方の整備がされていないんですね。私はやはり,法廷はそのままにして,今の制度を取り入れているわけですけれども,この裁判員裁判,あるいはそれだけではなくて,被害者参加制度,こういったものをやっていく上で,きちんと被害者が待機できる場所とか,先ほど言ったように飲み物とか,そういった細かいことまで含めた配慮がされていないと,単なる呼んだからいいですよ,意見を言わせましたよということだけで終わってしまうのではないかと考えるわけです。 そういうことで,わざわざ裁判所の中に新たな部屋を造ったりするというのはいかがなものかという考え方もあるでしょうけれども,最低限のことだけは整備してやらないと,せっかく制度は作ったけれども,当事者としては不満が残ってしまう。せっかくいい判決をもらっても,やり切れないものが残ってしまう。いわゆる二次被害と言えばちょっと語弊がありますけれども,それに近い形になってしまうのではないかなというふうに思ったりします。 ○井上座長 ありがとうございました。ほかの方,いかがですか。 ○島根委員 どうも大変,お話ありがとうございました。先ほど交通違反捜査に絡んで,ちょっとずさんな捜査が行われているのではないかと,厳しい御意見を頂きました。   現場でいろいろ交通事故の捜査をやるときに,被害者の,特に遺族の方から,要するに警察の方がかなり被疑者の一方的な言い分の方にある意味かなり沿って,それで現場の例えば実況見分とかも作ってしまうのではないかという声をお聞きすることがあります。そういうことが,先ほど,推測とか思い込みで,ずさんな捜査ということになるのではないかというようなお話がございました。そういう御意見は御意見としまして,一つありましたのが,決してどうせ起訴されないからとか,略式程度に済んでしまうからということで事件としての処理を軽くやっているということではないということは御理解いただきたいと思っていまして,可能な限り客観的な状況というのをよく認識した上で,いろいろな捜査を進める,それが当たり前でございますけれども,そういった被害者の方のお声があるということは重く受け止めて,また対応はさせていただきたいと思います。 ○戸川氏 理解はさせていただきたいと思います。でも現実には,そういったことがよく実際に問題化することも多いんです。そちらの方も是非御理解をいただきたいなと思います。   警察官にも本当にまじめに丁寧にやってくださっている方がいます。でもなかなか,危険運転致死傷罪の適用は難しい。それと同じように,交通事故も一方が死んでしまうと,残った側の生きた者からの意見しか取れないんです。そういうことで,死んだ側の本当の事件究明に対する尽力がなされていないじゃないかと思います。それゆえに,片瀬があのような意見を述べたのではないかと思います。   本当にお忙しい御職業であるとは,私も思いますけれども,是非今まで以上に,こういった被害者がいるということを念頭において,捜査等に当たっていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。 ○井上座長 ほかの方,よろしいですか。   それではどうもありがとうございました。本日は短い時間で申し訳なかったのですけれども,御準備いただきましてありがとうございました。 ○戸川氏 どうもありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。 (全国交通事故遺族の会 退室) ○井上座長 次に,全国犯罪被害者の会の方々からヒアリングを行いたいと思います。しばらく控室の方でお待ちいただいておりますが,御登場いただくまで少し時間があります。 ○土屋委員 黙っているのもなんですから,ちょっと今出たお話の中で,裁判所の方に要請したいと思うんですけれども,加害者と被害者が廊下でバッティングするという事態というのは,できるだけ避けるように法廷を開廷したときに手当てされたりもしていますけれども,在宅起訴された場合というのは,やはり不十分さがあるのではないでしょうかね。そういうバッティングしないような工夫というのは,もうちょっと裁判所の方でした方がいいのではないかという気が私はするんです。同じ思いをしました。 ○大久保委員 せっかく土屋委員がおっしゃってくださいましたので。今,在宅起訴のお話をなさいましたけれども,起訴されている被告人には家族がいるわけですね。そうしますと,家族も傍聴に来ますので,そこで被害者や被害者遺族とバッティングをして恐怖を感じるということも現実にありますので,その点も併せて是非裁判所の方には考慮をしていただければと思います。 ○酒巻委員 在宅起訴あるいは保釈されている被告人に対して行動の自由を制約したり,コントロールすること自体は法的にはおかしなことです。例えば家庭裁判所では当事者同士がバッティングしないように,動線を考えたりという工夫をされていると承知しています。同じような配慮は可能でしょう。しかし被告人やその家族であるからということで行動の規制を考えるというのはバランスを欠くと思います。 ○井上座長 拘束しろという御趣旨ではなく,バッティングしないように物理的に工夫し,あるいは接遇に配慮をしてほしいということではないでしょうか。 (全国犯罪被害者の会 入室) ○井上座長 本日は,全国犯罪被害者の会の皆様におかれましては,わざわざこの検討会にお越しいただきまして,ありがとうございます。これから御意見をお伺いしたいと思いますので,よろしくお願いします。 ○松村氏 私は全国犯罪被害者の会,あすの会の代表幹事代行松村でございます。今日はこのような裁判員裁判に関する意見を述べさせる機会を与えてくださいまして,どうもありがとうございます。   本日は,当会の副代表幹事である高橋弁護士と,会員であります小沢さんから意見を述べさせていただきますので,よろしくお願いいたします。   では,高橋さん,お願いします。 ○高橋氏 私は,平成12年の全国犯罪被害者の会(あすの会)が設立された当初からあすの会に関わってきました弁護士で,現在,副代表幹事をやらせていただいております高橋正人と申します。今日はこのような機会を頂きまして,誠にありがとうございます。   さて,私は既に,後で小沢さんが発言されます危険運転致死傷幇助について1件,あと殺人事件について2件,既に被害者参加弁護士として裁判員裁判を経験させていただきました。さらにそれに加えて,現在,殺人事件で2件,強姦致死傷事件で1件,進行中の裁判を抱えております。本日も午前中,さいたま地裁で裁判員裁判がありましたが,共同受任している他の弁護士にお願いして,休廷中に退席してきました。   こういった経験から,まず結論から申し上げますと,被害者にとってこの裁判員制度は非常によい効果を生んでいると,そういう印象を正直持っております。と申しますのは,被害者の生の声がやはり一般市民である裁判員に共感を呼び,そのことが判決の結果とか,あるいは理由に明確に表れるようになってきたからであります。   私の経験した事件でこんなことがありました。   20歳になる娘さんが同級生,やはり20歳ですが,殺害された事件であります。別れ話のもつれでありました。被害者の娘さんのお父さんが,意見陳述でこのように申しました。「私は今日のようなつらい日を迎えるためだけに,20年間娘を育ててきたと思うと悔しくてしょうがない。君はどう思うか。」と,そう声を詰まらせながら訴えておりました。裁判員は皆大きくうなずきながら聞いてくださいました。さらに,被害者の母親が被告人に対して直接質問をしました。「昨日の弁護人による尋問では,『生きて償いたい』とそう弁解をしたが,私の娘は首を絞められているときに,心の中で何て叫んでいたか。あなたには聞こえますか。私には生きたい,生きたいとそう聞こえますよと。それでも生きて償うと言うんですね。」と。女性の裁判員の中には涙を流す人もおられました。   被害者参加弁護士をこの事件で担当した私も,こういった発言がありましたから,次のような被害者論告をさせていただきました。「犯した罪の中には,反省して償える罪と,反省しても償えない罪があるのではないか。肉体を滅ぼす殺人と心を滅ぼす強姦。これはどんなに反省し,更生し,真人間になっても,それは償えないのではないか。確かに反省し,真人間になってほしいと誰でも思っているし,それは大切なことです。しかし,どんなに反省しても,亡くなった娘が生きて帰らないから,心が取り戻せないから,だから死んで償ってくれ,厳罰に処してくれと,そう遺族や強姦の被害者は考えているんだ。」と,私は論告したわけであります。   そうしましたところ,それを聞いておりました裁判官の一部の方が,「賛成できない」と言わんばかりに,大きく首を横に振られました。しかし,残りの裁判官と裁判員6名全員は,大きくうなずきながら,身を乗り出すように真剣に聞いてくださいました。 実は私もこのような考えを最初から持っていたわけではございません。今から述べるような一つの経験があって,そういう考えを少し持つようになりました。青森地裁であった裁判です。殺人事件です。裁判長が被告人に最後に「被害者の冥福を祈りなさい。」とそう諭したわけであります。これを新聞記事で見ましたあすの会の前代表幹事の岡村勲弁護士が「冥福を祈りなさいというのは,成仏してください,安らかにお眠りくださいということだと。娘を殺した犯人に安らかに眠ってほしいと,そう願ってほしいと思う親がどこにいるか。」と取り囲む記者団に怒りをあらわにしておりました。今,こちら,隣に座っております文京区音羽事件の被害者遺族である松村もその場におりまして,同じ意見を述べておられました。 私も実は記者団のすぐ近くにおりまして,その話を聞いておりました。正直,はっとしました。私も万が一裁判官になっていたら,同じことを諭していただろうなと思ったからです。所詮,私も凶悪犯罪には遭ったことがない幸せな人間で,そんな目で事件を見ていたんだなと,非常に自分の不甲斐なさが恥ずかしくなりました。 こんなことがありましたから,私は先に述べた20歳の娘さんの事件で,先ほど述べたような被害者論告をさせていただいたわけであります。裁判員の皆さんが身を乗り出すように真剣に聞いてくださったのは,恐らく私が岡村や松村の話を聞いて,はっとしたときと同じ思いを裁判員の皆さんが持ってくださったからではないでしょうか。市民感覚で裁判をする,正に裁判員裁判になって,私は本当によかったと,そう思えた瞬間でした。 事件の判決は,加害者が20歳になって間もないこと,事件直後すぐに自首しているということもありましたが,それにしては相場を上回る13年の実刑判決でした。もうこの事件は確定しております。 ただ,裁判員裁判は,必ずしもいいことばかりではありませんでした。悪いこともやはりありました。一つは殺人事件ですが,事件は母親の目の前で,父親が自分の息子を窒息死させてしまった事件であります。殺意を否認する過失致死という主張で,一部否認事件でありました。第一審判決は12年が出ましたが,現在控訴中のまだ生きている事件であります。目の前で息子を殺された母親が,密室なものですから唯一の目撃証人で,非常に重要な証人として最初に呼び出されました。検察官が主尋問し,弁護人が反対尋問し,最後にいよいよ補充尋問のときであります。裁判員の構成は6名のうち5名が女性,5名のうち3名が20代の女性でありました。その20代の女性の裁判員が次々に代わる代わる母親に質問攻めをしました。 お配りした書面に書いてありますが,「あなたは銀座のホステスをしていたとのことですが,ホステスとしての収入は幾らですか。」,「そのうち,幾ら家に入れていましたか。」,「15万円の収入から家に入れていた3万円を引くと,12万円ですよね。被告人である夫が働かなくても,十分やっていけるのではないか。」,「あなたは,結婚当初は夫に対して愛情があったと思いますが,愛情を築いていく上で,実家から通っていてお金が掛からないのに,ホステスをどうしてもしていかないといけない何か特別な事情でもあったのですか。」,「ホステスをしていて,夫に対する愛情が冷めませんでしたか。」などと延々に続きました。 この事件は,殺意があったかなかったかが争われている子殺し事件です。母親が銀座のホステス業であることとは何の関係もありません。にもかかわらず,複数の女性裁判員がこういう関係のない質問を代わる代わる延々としました。明らかに興味本位としか思えませんでした。被害者参加弁護士である私が本来なら異議を言うべきところなんですが,制度上,異議権が被害者に与えられていません。そこで私が検察官に耳打ちをして,異議を言ってくれるように打ち合わせをすべきだったんですが,それを怠った私自身に,やはり一番大きな非があったと思っております。 ただ,同時に,法廷内で一番力を持っているのは,訴訟指揮権を持っている裁判長であります。やはり事件と関係のない質問なのですから,制止をしてほしかったなと私は思いました。 結局,一般素人の心ない質問で,被害者はさらに二次被害を受けてしまったことになりました。非常に私にとっては苦い経験でありました。 最後に,もう一度まとめさせていただきたいと思います。あすの会としての裁判員制度に対する考え方であります。 一つ目は,裁判員裁判の推奨すべき点であります。やはり被害者の生の声が裁判員に伝わり,それが一般市民の感覚で,判決の主文や理由中に反映するようになったこと,これは司法に対する被害者の信頼が強まってきております。これは間違いありません。 二つ目は問題点であります。一つは今述べましたように,素人が事件と関係のないことで興味本位に質問してしまって,二次被害を与えてしまう可能性があるということです。そのための改善策としては,当然,裁判長には開廷前に,被害者参加制度の趣旨を十分に御説明いただき,事件と関係のない質問をして被害者を傷つけないよう指導していただきたいと思っております。 さらに,これは大切なことだと思うんですが,裁判員の人選にも配慮してほしいと思います。男女別,年齢別に気を遣っていただければと思います。 実は,私が担当しているさいたま地裁の殺人事件の裁判員裁判も,6人中5人が男性,5人のうち4人が20代の男性,30代男性が1名と非常に偏った人選でありました。もちろん意図的にそんなことをしているわけではなくて,抽選でたまたま残ったのがそうなったんだと思います。 問題の2点目は,裁判員の負担の軽減に配慮し過ぎる余り,刑事裁判の本来の機能が十分に発揮されていないのではないかと,私は実は懸念しております。証拠を事前に厳選し過ぎてしまって,充実した審理,真相の解明がおろそかになって,様々な利害関係人に不満を残していることがしばしばあります。 私が先ほど述べました20歳の娘さんの殺人事件では,自白事件ではありましたが,殺害に至るまでの動機について大きな争いがありました。当初は「死人に口なし」ということで,被告人の言いたい放題の法廷になりそうでした。私は公判前整理手続の途中から,検察官を通して関与が,唯一反論できるのは,娘さんとコミュニケーションをふだんからとっていた母親だけでした。私が介入したときには,母親の証人尋問は10分しか予定されていませんでした。これでは十分に反論できません。そこで25分要求し,実際の裁判では35分認めてくれました。母親が証言を始めると,前日までの被告人質問の法廷の雰囲気が一変しました。緊張感が漂って,裁判員は皆,目を潤ませていました。本当のことが分かって,正に娘さんの名誉が回復された瞬間でした。 後に述べます小沢さんの交通犯罪事件でも,顔面に重篤な後遺障害を負った被害者の写真が,何と証拠採用されませんでした。裁判員裁判が始まる前で,交通事故で被害者の写真が証拠採用されないなんて,聞いたことがありません。 こういった弊害を除去する改善策としてはもちろんのことですが,できるだけ多くの証拠を出していただく。その上で負担の軽減は証拠を分かりやすく説明する努力を今以上にしていただくということで,解消できるのではないでしょうか。 あすの会として申し上げたい,最後の三つ目でございます。今後,当然問題となるでしょう性犯罪についての取扱いです。性犯罪では,裁判員裁判の選択制も一つの選択肢として検討してほしいと考えています。性犯罪の被害者の中には,自分の住んでいるところと同じ地域から裁判員が選ばれますから,知られたくないと思う人もおります。反面,一般の市民に苦しみを理解してほしい人もおります。 正直申しまして,いろいろな性犯罪の人にお会いして,一つの意見にまとめることは難しいと私は感じております。ですから,どちらにも不公平にならないように,選択制ということを検討していただきたいと考えております。 以上,3点を強調して,あすの会としての意見を終わらせていただきたいと思います。本日は,最後まで御清聴いただきまして,ありがとうございました。 ○小沢氏 私は交通犯罪によって義理の両親を亡くした被害者遺族の小沢樹里と申します。隣にいるのは,事故当事者の小沢恵生と申します。今日はよろしくお願いします。   義理の双子の弟や妹も,その事件によって重傷を負いました。妹は顔面を複雑骨折し,前歯6本を折り,表情が事故前と大きく変わってしまいました。弟は排尿,排泄障害になりました。また,妹と弟はともに高次脳機能障害となるほど大きな後遺症障害に悩んでいます。私は事故後,夫とともに弟と妹の二人を引き取り,一緒に暮らして面倒を見ています。   事故の概要をお話しさせていただきます。2008年2月17日,家族4人の乗った車が,埼玉県熊谷市の路上で事故に,事件に巻き込まれました。加害者運転手が飲酒し,泥酔運転の末,連続カーブの時速40キロの道路を100キロから120キロで走行し,コントロールを失ったまま反対車線を走っていた2台の車に衝突したのです。そのうちの1台が私の義理の弟が運転していた車で,妹と両親が同乗していました。両親は即死でした。   加害者側の運転手は,既に危険運転致死傷罪により16年の実刑判決が確定し,服役中です。また,酒を飲ませた飲食店店主も道交法上,酒類提供罪で懲役2年,執行猶予5年の有罪判決を受けました。そして,同乗者二人は,さいたま地裁で危険運転致死傷の幇助罪として,全国初の裁判員裁判を受け,実刑2年の判決が今年2月14日に下りました。被告人は控訴しましたが,東京高裁で先月17日に棄却され,現在,無罪を主張して,上告中です。   裁判員裁判に関与した内容をお話しさせていただきます。被害者参加は,4人で行いました。当初,私,小沢樹里は長男の嫁であり,血族ではないので,被害者参加ができないという誤解もありました。ですが,委託弁護士にお願いしたところ,姻族の直系親族の場合でも参加資格があると確認され,裁判に参加することができました。証人として,事故当事者の弟,妹二人と私と夫の4人で証言台に立ちました。被害者の意見陳述は主人が行いました。犯罪事実について,私が被告人両名に直接質問し,また,被害者としての論告求刑も,委託した弁護士だけではなく私自身も直接行いました。ちなみに,情状事実についても,被告人両名に被害者が直接質問しようとしましたが,後で述べますように,極めて不適切で全く納得のいかない訴訟指揮で認められませんでした。   裁判員裁判でよかったと感じた点について述べたいと思います。私たちは4人の被告人に対して3つの裁判を経験してきました。一つ目は危険運転致死傷罪で,運転手に対する裁判,二つ目は道交法上は被害者がいないとされた飲食店店主に対する酒類提供罪の裁判,そして三つ目が同乗者二人に対する危険運転致死傷幇助罪の裁判です。最初の二つの裁判とは異なり,三つ目だけが裁判員裁判でした。私たちが告訴しなければ,道交法上の同乗罪として裁かれ,裁判員裁判になることはなかったでしょうし,道交法では被害者なき犯罪として扱われますから,私たちも被害者参加することはできなかったと思います。 この三つ目の裁判員裁判が最初の二つとはっきり違った点は,裁判が大変に分かりやすかったという点です。裁判員に理解ができるように進行したため,突如遺族になった私たちにも,最初の二つの裁判と比べて,十分に理解ができました。 二つ目に,また私たちは法律論よりも,事件に関係した人の日常や当日の行動が聞きたかったのですが,裁判員も私たちと同じ感覚で,普通の疑問を被告人に質問してもらいました。例えば,同乗者同士である被告人Aと事件当日に一緒に酒を飲んでいた被告人Bに対して,裁判員は補充質問で,「以前,被告人Aから暴行を受けたことがあると言っていましたけれども,何回ありますか。」と聞きました。被告人Bは「1回だけです。」と答え,裁判員は「どういう暴行でしたか。」とさらに聞き,被告人Bは「こぶしで背中を何回かたたかれました。」と答えたのです。 このように会社内で役職上は横並びであっても,実際は被告人二人の間に上下関係があったことを的確に浮き彫りにしてくれました。 三つ目に,さらに,情状立証に入ろうとしたとき,裁判長は法廷に入ってくると,いきなり「本日の予定を変更します。裁判員らの強い要望により,更に罪体について審理を続けます。ついては,証拠請求がされていない証拠のうち,被告人Bの検面調書を職権で採用したいと考えます。」と言ってくれたのです。裁判員が強く要望してくれたおかげで,公判前整理手続で検察側が取調べ請求を諦めた証拠を,裁判所によって改めて証拠採用してもらうことができたのです。これは市民感覚の意義をとても感じました。 次に,裁判員裁判において問題となった,又は問題と思われたことについてお話をします。 一つ目は,私たちの裁判では,せっかく被害者参加をして被告人質問する準備をしていたのに,情状事実については,被告人が「無罪を主張する以上,情状については包括的に黙秘権を行使する」と主張したために,裁判所が検察官や私たちの発問自体を認めてくれませんでした。私たちが委託した被害者参加弁護士が「黙秘権は黙っている権利であり,相手側の発問自体を制限する権利ではない。」と強く裁判所に異議を述べ,少なくとも質問を発すること自体は認めてくれるように求めてくれました。ですが,結局,異議は認められることはありませんでした。私たち被害者は事件以来ずっと被告人に聞きたいと思っていた情状について,質問することもできませんでした。被告人に聞きたいことがあるから,被害者参加制度を利用して法廷に立とうと決めたのに,裁判官の制度への無理解からそれを無視されたのです。 私たちの疑問を法廷で聞いてもらえなかったことは,被害者側の問題にとどまりません。私たちの裁判を担当した裁判員にとっても,大きな問題として残ってしまったと思います。私たちの疑問が明確にならない状況があったのですから,裁判員にとっても事件の真相をしっかりと理解してもらえなかったと今でも思っています。 先ほど述べたよかった点と関連しますが,裁判を通じて,裁判員が聞きたいことと,私たち遺族が聞きたいということは,とても近いと感じました。その一方で,被害者側が聞きたいことは,法律の専門家が聞きたいこととは視点が違います。事件の真相を追究するといっても,どんな点が知りたいのか,何を聞きたいのかについては,職業裁判官に比べて,同じ一般市民である被害者と裁判員のほうが,同じようなことを考えているのだと私は思いました。職業裁判官だけで判断するのではなく,一般市民の感覚を取り入れることが裁判員裁判を作った理由だと思います。被害者遺族と裁判員の疑問や意見が似ているのですから,被害者が裁判への参加制度を利用して,自ら疑問を生の声で伝えて,しっかり法廷で明らかにすることは,裁判員が市民感覚を生かした判断をするために必要不可欠だと思います。   二つ目に,先ほど述べたことと関連しますが,私たちの裁判では,公判前整理手続でははじかれた証拠が,被害者の気持ちを理解したと思われる裁判員の強い要望によって,裁判所の職権で復活し採用されました。裁判員の負担を考慮し,審理をスムーズにするための公判前整理手続だったはずが,その手続で証拠を絞り過ぎて,裁判所が改めて証拠採用しなければ,裁判員の判断に支障が出るようでは全く意味がありません。裁判員の負担ばかり考慮した,今の裁判所の運用では,被害者の立場からすると真相を十分に解明できず,不満が強く残ります。   なお,現在,公判前整理手続には被害者が立ち会うことも,意見を言うこともできませんが,もし公判前整理手続に被害者側弁護士だけでも参加することができれば,私たち被害者の意見を酌んでもらえて,証拠の絞り過ぎに歯止めをかけられて,結果的に裁判員の理解を助けることにもなるのではないかと思います。 証拠については,重傷を負った妹の事故前,事故後の顔写真を証拠採用してもらえず,裁判員に見てもらうことができませんでした。まだ20代の妹が顔にどんな被害を受けたのか一目で分かる写真です。それを見てもらえたら,事件がいかに悲惨だったかということを分かってもらえたのに,証拠採用を強く反対されました。ここでも裁判員への配慮のため,過剰に証拠が厳選されてしまったことに強く疑問を覚えます。最近は被害者も尊重されてきていますが,裁判員裁判でも被害者を尊重し,被害者の従来あった姿をそのまま見てもらいたい,本当の被害状況を知ってもらいたいのです。   次に,裁判員と比べて,被害者の立場で考えさせられたことについてお話しします。   私たち被害者は,通常の生活をやりくりして,遠くから裁判に参加しているのですが,その横で裁判員だけが受けられるサービスがあることに私たちは気づきました。保育や介護サービス,決まった回数の心理カウンセリング・電話相談です。裁判員が数日間裁判に関わることで,カウセリングが必要になるくらい精神的負担が生じる場合があるのも分かりますが,それは被害者にとって,遺族にとっても同様です。また,保育や介護については,殺人や交通事犯も含め,常時必要不可欠です。介護を担わなければならない遺族が,裁判所に向かうことができない現状を御存じでしょうか。ですから,被害者も裁判員同様,最低限,保育や介護,カウンセリングを受けられるようにしてもらいたいのです。裁判員への負担を軽減するだけではなく,被害者にも負担の軽減をしてもらいたいのです。   最後になりますが,裁判員裁判で裁かれる事件は,より罪の重いものだと聞いています。それだけに被害者や遺族には,事件の記憶を呼び起こす大きな悲しみ,苦痛を伴います。しかし,それでも真相を知りたいのです。だから裁判に臨むという苦渋の決断をしていることを,裁判員の皆さんにはまず知っていただきたいのです。特に遺族は,失った家族のために己の身を犠牲にしてでも真相を知りたいのです。   裁判員裁判の制度が今後より多く活用され,被害者の命の重みと人を裁く重みが多くの人に伝わり,社会の多くの人が「犯罪を起こしてはいけない」と思ってもらえるように運用されていくことを切に望みます。   ここまで聞いてくださり,ありがとうございました。これで終わりにさせていただきます。ありがとうございました。 ○井上座長 どうもありがとうございました。   それでは,ただいまのお二人の御説明につきまして,御質問等がございましたら,どなたからでも御発言願います。 ○大久保委員 本当に貴重なお話を聞かせていただきまして,どうもありがとうございました。最後に小沢さんがおっしゃってくださいましたように,正に被害者遺族というのは,本当に自分の命をかけて,真相を知ってほしい,失った家族のために自己を犠牲にしてでも,何とかその名誉を回復したいとか,いろいろな思いで裁判に関わってくださるわけですけれども,先ほど全国交通事故遺族の会の方のお話の中にもありましたように,被告と被害者との権利が余りにも違い過ぎる。待遇が違い過ぎる。それと同時に,今のお話の中からは,裁判員の方と,また被害者との待遇面が全く違うので,裁判にしっかりと関わりたいと思っても,なかなかそれもできず,そして,実際にどれだけ多く被害に遭ったのかということをしっかりと伝えたくても,また証拠制限がされてしまって,本当のことが伝わらない中で,本当に適切な判決を出してもらえるんだろうかということを,ずっとまた一生引きずっていかなければいけないと思いますし,そのことは大変感じ取ることができましたので,具体的に,かなりのことをお話しくださいましたけれども,今後の在り方といたしまして,例えば裁判員裁判に関わるときには,それに関わりたいという思いがあるのと同時に,負担がとても大きいと思うんですね。そういう辺りで,例えば,性犯罪の場合でしたら,選択制というお話も先ほどありましたけれども,では被害者が少しでもその負担を軽くして,被害直後からいろいろな情報も得ることができて,刑事裁判にもすぐに相談できる相手の方が横にいて,安心して裁判に関わることができるという方法を採ることができるとすれば,どのような具体的な方法が,ほかにあればよいとお考えでしょうか。   高橋弁護士さんに教えていただければと思います。 ○高橋氏 今述べたことで尽きると思うんですが,一つは形式面で言えば,そういった介護とか保健のサービスですね。あるいはお子さんを見てくれる保育士の方が一緒に裁判所にいるとか,そういったことは形式的には必要かと思います。ただ,より実質的な中身の方に入りますと,やはり思うのは証拠が随分制限されているなと。裁判員制度が始まる前に比べると,何で,裁判にこんなに被害者の心情を書いた調書すら出てこないんだろうと。   ということで,随分被害者側が求めている証拠というのはすごく制限されている。それは強く感じます。そういった形式面と実質面,二つ,私は改善していく必要があるのではないかと考えております。 ○井上座長 ほかの方,いかがですか。 ○甲斐官房審議官 今日はありがとうございます。最初の方の話で,性犯罪について,裁判員裁判の選択制を検討してほしいという御意見をいただきました。この場合,裁判員裁判をするかどうかというのを,それに関わる当事者の人が選択するような仕組みを考えるとなると,別の場面で,例えば被告人側が裁判員裁判を選択できるようにしろという意見も一部あるように思うんですね。そういう選択制について,被害者の立場から見てどのようにお考えになりますか。 ○高橋氏 まず選択制は性犯罪に限って考えています。確かに被告人にも選択権を与えるべきだと,そういう議論があることは知っております。あすの会の顧問弁護団の中でもそういった議論がなされました。   ただ,被告人に選択権を与えてしまうと,それこそ被害者にとってみれば,二次被害を受けてしまう可能性があるので,それは何としても避けてほしい。ではその理論上の根拠をどこに持っていくのがいいかなと,私なりに個人的に考えてみたことがありました。憲法32条の裁判を受ける権利は,専門技術的な知識を持った職業的な裁判官が入った裁判を受ける権利を一つは保障していると思います。となると,裁判員制度であっても,裁判員制度でなくても,被告人に対してはその権利はきちんと保障されることになるから,被告人に選択権を与えなくても問題ないと考えます。   他方,被害者についてはどうかということなんですが,やはり平成16年の犯罪被害者等基本法で法体系が大きく変わったのではないでしょうか。被害者の尊厳というのを重んじなければいけない,被害者の尊厳を尊重する権利が明確に定められたのですから,性犯罪についてはそこを少し強調していただいて,選択権を与えてもいいのではないかなと,私は個人的には思っております。 ○甲斐官房審議官 ありがとうございます。 ○高橋氏 ただし,その会の中でも議論はたくさんありまして,これはあくまでも案としてということであります。 ○井上座長 ほかの方,いかがですか。   他の方から御発言がないようですので,私から質問させていただきますと,高橋さんの御説明の中で,裁判員の選任において,結果として見ると性別だとか年齢が偏る場合があるという御指摘がありましたけれども,それがどういう影響を与えるのか。体験されたいくつかの事件で裁判員の構成がそうなっていたということは分かったのですけれども,そのことによる影響があり得るとすれば,どういう場合にどのような影響があり得るのかですね。   また,裁判員の選任は抽選で無作為的にやっているわけですけれども,そのような偏りが生じないようバランスをとるためには具体的にどういう方法が考えられるのか。アイデアがありましたら,お伺いしたいと思います。 ○高橋氏 まず,最初の点ですが,いわゆる親族間の犯罪というのは,どうしてもいろいろな背景がありますから,そこの背景に裁判員が入り込もうとして二次被害が生じる恐れがあります。事件は単なる殺人で,殺したことが問われているのに,事件とあまり関係のない家庭問題に不必要に入り込もうとして,被害者遺族を傷つけてしまうことがあります。そこに裁判員の選任が偏るという要素が加わると,さらに二次被害が助長されてしまうように感じております。   あと,後者の御質問ですが,まずやはり男女の比率はきちんとした方が良いのではないかと思います。3人と3人にすべきですね。あと,年齢別は確かに難しいかもしれませんが,20代の男性が5人というのは,これは幾ら何でも偏り過ぎているのではないかなと思います。ですから,ある程度年齢を20代から40代,40代から60代,60代以上とか,3つぐらいに分類するとか,そのことぐらいのことは抽選の段階で分類分けをして,抽選してもいいのではないかなと私は思います。 ○井上座長 わかりました。   ほかの方,いかがですか。よろしいですか。   それでは,皆様にはわざわざおいでいただき,準備も大変であったのではないかと思いますが,御意見を伺えましてありがとうございました。 (全国犯罪被害者の会 退室) ○井上座長 感想とか意見をお述べになりたいかもしれませんが,これはヒアリングの後にとっておいていただき,ここで休憩を挟ませていただきたいと思います。15時15分までお休みいただければと思います。   再開後の次の性暴力禁止法をつくろうネットワークの方々からのヒアリングから,議事は非公開とさせていただきますので,御了承いただきたいと思います。 (休憩) (性暴力禁止法をつくろうネットワーク 入室) ○井上座長 それでは,性暴力禁止法をつくろうネットワークの皆様からのヒアリングを行いたいと思います。本日は本検討会においでいただきまして,ありがとうございます。   早速でございますけれども,よろしくお願いいたします。 ○周藤氏 よろしくお願いします。性暴力禁止法をつくろうネットワークの周藤由美子です。 ○望月氏 同じく性暴力禁止法をつくろうネットワークの弁護士の望月と申します。 ○周藤氏 まず,周藤の方からネットワークの意見としてお話をさせていただこうと思います。   性暴力禁止法をつくろうネットワークというのがどういう団体であるのかは,既にお手元にリーフレットを配布させていただいていると思いますので,そちらの方も参照していただきたいと思います。   この性暴力禁止法をつくろうネットワークは,性暴力をなくして被害回復を図るための法整備を実現していきたいということで結成された全国組織です。被害者の方もたくさん参加されておりますし,私はカウンセラーをしているんですけれども,望月さんのような弁護士の支援者,それから,性暴力関係の研究をされている法律家ですとか様々な研究者など,いろいろな立場の方が参加しており,2008年5月から活動を行っていますが,現在会員数は528名になっております。ネットワークは性暴力に関する社会的な動きがあった場合には,提言活動を行っているんですが,裁判員制度が始まるというときに,性犯罪も裁判員制度の中に入っているということに気がつき,裁判員制度が開始されるときには,性犯罪被害者のプライバシーを守ってくださいという要望活動も行っておりました。   1年たったときには,実際どういうふうに性犯罪が裁判員制度で審理されたのかということを,新聞報道が中心ですけれども,傍聴も会員がたくさんしておりましたので,そういう様々な情報を集めてまとめましたのが,お手元にある「性暴力事件の裁判員裁判1年目のまとめ」です。こちらの方から,簡単に私たちが性犯罪に関する裁判員制度について考えていることをお話しさせていただこうと思います。   簡単に言いますと,性犯罪について,これまで職業裁判官の審理でその性犯罪被害者の打撃といいますか,その性犯罪がいかに深刻なものなのかということを十分分かっていただいているのかと思っていた被害者にとっては,一般の方,市民の方が本当に性犯罪ってこんなに被害者にとって打撃が大きいんだということが理解され,これまでの刑が軽過ぎたのではないかという,結果として重罰化になったということで,非常によかったと思われる面もあります。それと同時に,プライバシー保護というふうなところで非常に不安を感じられるというところもあるということで,両方の意見が実際に会員からも寄せられています。   裁判員の選任については,具体的なところの感想は望月弁護士の方から詳しく説明をしていただくのと,お手元にある被害者,弁護士の方の意見の集約を見ていただいたらと思います。これは1年目のまとめということですので,もしかするとそれ以降に何か改善されたところがあるかもしれませんが,裁判員の候補者に,性犯罪だけではないと思いますが,「被害経験がありますか。」と,被害経験がある場合には公正な判断ができないのではないかということで排除されるというような趣旨で,被害経験を問われていたということを私たちは聞いております。性暴力被害者にとって被害経験を,そういう裁判員の候補になるかどうかというところで質問されることが,非常に心理的に負担ではないかという意見も出されておりました。   そういう形で被害経験のある方は排除されて,一方で軽微な加害者でしたら,その加害者は裁判員になってしまうのではないかというところの不公平さといいますか,どうしてだろうというような意見,それから,男女の比率についてもどうなんだろうかという話もたくさん出ておりました。   公判につきましては,プライバシー保護は本当にケースによってまちまちなところもあり,だんだん改善されてきたように思うのですが,中には被告人の弁護人側から弁論で,被害者の職業や言動を落ち度としてあげつらうような配慮に欠けるものが実際ありました。これは具体的には,甲地裁で行われた裁判員裁判なのですが,被害者に対して,集団強姦致傷等ということで,会員が傍聴しておりました。そこで,被害者の母親に対する尋問が行われて,その中で被害者のアルバイトの内容を問われ,被害者が水商売をされていたということで,「アルバイトを隠していたそうですね。それはどうしてなんですか。」というような質問や,当時の服装のことや,夜中に徒歩で帰宅をして被害に遭っているということで,母親に「夜中に徒歩で帰宅するということについて,注意をしましたか。」というような質問がなされたということがありました。ですから,被害者に直接ではなく母親に対してなんですが,水商売をして,夜中にちょっと華美な服装をして出歩いていたことで,被害に遭ってもやむを得なかったのではないかというような趣旨で,被害者の方にも問題があったのではないかというような尋問がされたということが実際にありました。そういうことについて,実際に,被害者に対して直接そういった質問があった事例というのは,まだ私たちは聞いておりませんけれども,今後そういうことが行われる危険性というのを指摘したいと思っております。   今,「性暴力事件の裁判員裁判1年目のまとめ」の要約に沿って御説明をしておりますが,「判決について」というところでは,こちらの方で最近でも実際関わっていたり,報道されているケースでは,被害者が非常にたくさんいる,常習的な加害者が,本当に改悛の余地もないというか,これはひどいなと誰の目から見ても明らかなケースについては,懲役何十年というような形で重罰化になっている一方で,そこに「強姦神話」ということを書かせていただきました。強姦神話といいますのは,例えば強姦というのは見知らぬ相手から襲われるものだとか,被害者の服装や態度で挑発された加害者が性欲を刺激されて,抑えられなくて襲いかかるものだとか,嫌だったら死ぬまで抵抗したら被害に遭わなかったのにというような,そういう性犯罪,性暴力に関する,実態とは違っているけれど,これが常識だというような考え方をいいます。そういう強姦神話に当てはまらないケースになった場合には,どういった結果になるのだろうか。果たして,本当にひどいねということで重い刑が下されるのか。それとも,やはり被害者の方にも問題があるのではないかということで,無罪判決が下されるのかという,そういう疑問を非常に感じております。   提言としましては,実際,性犯罪を裁判員裁判の対象に入れるのかどうかということについては,後の望月弁護士の方から詳しく話があると思いますが,特に今申し上げておきたいのが,今日はネットワークとしてお話をさせていただきますし,望月弁護士の方からは,裁判員裁判に参加をした,参加ができた被害者,それからそういう被害者の代理人をされた弁護士さんの意見をお伝えするということなんですけれども,裁判員裁判に参加できない,参加したくないといいますか,しようと思っても難しいというような被害者が実は膨大にいるんだというところで,そういった被害者の気持ちといいますか,意見を想像していただきたいということを,そういうことを伝えてくださいというように会員の方からも聞いておりますので,特にそれを伝えさせていただきたいと思ってまいりました。   ちょっと,まとまらなかったですけれども,では続いて,望月弁護士からお願いします。 ○望月氏 ネットワークの運営委員をしております弁護士の望月と申します。   私の方からは,この性犯罪被害者及び家族,代理人弁護士の意見という,こちらに基づいてお話をさせていただきたいと思っています。 これは性犯罪の被害者なので,そんなに数多くの声は集められなかったといいますか,被害者4名,被害者の家族1名,それから弁護士5名の声を集めたものです。これは皆さんが寄せてくださった声を,そのままそのとおりに集めてありますので,私の方で簡単に要約したものを,今から御報告したいと思います。   まず,そもそも性犯罪がこのまま裁判員裁判の対象でよいのかという点ですが,それについては「今のままでよい」という意見は,今までこの意見書に限らずどこでも聞いたことがありません。選択制とすべきという声と,また裁判員裁判の対象から外すべきという二つがほとんどですけれども,この意見書の中では,こうやって声を届けられる,実際に自分が裁判に参加できたという被害者の方で,御自身は裁判に参加してよかったと,悔いがない,やることをやれてよかったという方がほとんどです。けれども,その一方で,被害者同士としてつながっている中で,ほかの性犯罪被害者は絶対反対だと,裁判員裁判から外してほしいと言っている被害者が多いという,その伝聞を寄せてくださっています。実際,裁判員裁判を避けるために被害を届け出ない,もしくは強姦致傷ではなく,強姦にするということで,被害を軽く申告する被害者がいる。また,今後そういった被害者が増えていくのではないかということを,仲間の被害当事者として非常に懸念されています。その上で,被害者としては,自分たちができることをやりたいという意味で選択制がよいのではないかという声が比較的多いかもしれません。   一方,どちらかというと弁護士側では,裁判員裁判の対象から外すべきではないかという声が多いと思うように聞こえます。私自身もいろいろな中身を考えると,対象から外した方がよいのではないかと思っています。それについてはまた後で述べさせていただきたいと思います。   次に,裁判員裁判ということを前提としたときに,その制度の問題点,裁判員裁判になった場合にここを改善していただきたいという点を述べさせていただきます。   まず,公判の前ですが,公判前整理手続に被害者参加弁護士,被害者の代理人の弁護士も参加できるようにしてほしいと思います。これは被害者支援をしている私たち弁護士はみんな思っていることですけれども,実際,今回被害者の方からもそういった意見が寄せられました。裁判員裁判では,裁判が始まる前の公判前整理手続で,裁判の中身,どういったことをするのかということが分刻みでいろいろな争点を整理して決められていきますけれども,その中で被害者側というのは蚊帳の外に置かれていて,参加するという場合であれば,検察官を通じて情報を得ることもできますけれども,それも検察官がどこまで丁寧に対応してくださるかとか,時間の制約もありますし,なかなか被害者が満足できるような公判前整理手続への関与の仕方というのが,今なされているとは思いません。   それに関連しまして,これはもっと基本的なことではないかと思うんですけれども,公判の日程を決めるに当たって,被害者の予定をきちんと聞いてほしいという声があります。特に被害者参加をする場合でも,自分の裁判の日程を新聞で知ったなどという,それは本来であれば参加をする場合には,被害者の予定も当然に聞いて,被害者が参加できる日程を組むべきであるにも関わらず,そういったことがまだなされていない現状があるようです。被害者のための裁判ではないという意見,そういうふうに被害者が感じてしまうというのは非常に悲しいことです。公判の日程を決めるに当たって,被害者の予定というのはきちんと聞いていただきたいと思います。   次に,裁判員裁判の基本的なことですけれども,やはり選任手続,裁判員裁判が導入される前に性犯罪について問題になった,この選任手続の中で被害者のプライバシーが漏れてしまうのではないかというところで,それによって,現在ではいろいろと配慮はなされていますけれども,それでもやはりまだまだ不十分だと思います。検察官を通じて,裁判員候補者の名簿を見せていただいて,被害者がそれを見て,この中に知っている人がいないのかというのを選ぶということをさせていただいていますが,実際に私も拝見しましたけれども,裁判員の名簿,名前がずらっと50人とか100人とか書かれている名簿を見ても,その中に知り合いがいるかどうかというのを特定する作業は非常に難しいです。例えば友達の友達とか,近所に住んでいる人,昔のお友達とか,友達が結婚して名字が変わっています。顔は知っている顔見知り,しゃべったこともある,あいさつもしている。だけどフルネームは知らないという方は,むしろ世の中で非常に多いわけで,そういった方を,名簿をちらっと見て排除することは不可能だと思います。   被害者の方からは,名簿を見るだけではなくて,選任手続に実際に参加して,候補者の顔を見ることで確認をしたいという声も出ています。ただ,そういったことを行っても,将来知り合いになる人が裁判員になる可能性というのは,どうしても排除できません。実際,この間,大学生で裁判員裁判を経験されたという方が,私はこれから大学を卒業して社会に出ていくと。ここで気持ちの区切りをつけていきたいんだけれども,では自分が就職して社会に出たというときに,自分の裁判を経験した裁判員に当たってしまったらと思うと不安でたまらないというふうにおっしゃっていました。この将来知り合いになる人が裁判員になる可能性というのは,どうやっても排除することができません。   あとは,どういったことがあるかというと,被害者として裁判員の男女比を等しくしてほしいですとか,できるだけ幅広い年齢層とか職業の人が入るようにしてほしいですとか,医師,弁護士,カウンセラーなどの専門家に入ってもらいたいとか,そういった声も出ています。あとは,今までのところ,裁判員候補者に被害者特定事項とかそういったことが漏れたというのを聞いたことはありませんけれども,裁判員候補者は守秘義務がないですから,裁判員候補者に知れてしまった場合に,あの事件の被害者は誰々なんだよということが候補者から漏れても,それをもちろん止めるすべもないですし,漏れてしまったからと言って,何らの制裁もないということで,裁判員候補者にも守秘義務を課してほしいという意見もございます。   次に,実際の裁判,公判の中で被害者が感じていることが,プライバシーが守られていないということです。裁判員に対しては被害者の顔,名前,住所,こういったものが全て分かってしまいます。こういったことを裁判では裁判員には分からないようにできないかというのが被害者の意見です。例えば事件の場所が自宅であったとき,これは裁判員に対しては「市内某所」とするですとか,何とか特定できないようにしてほしいというのが被害者の切実な声です。また,顔,名前もそうですけれども,実際に証言をする場合,声を変えるマイクを導入できないかという意見もあります。被害者の方は勇気を振り絞って,被害者参加をされたり,どうしてもやむを得ず証言をするといったことになるわけですけれども,そういった場合,法廷に出るとどうしても顔を見られてしまうことになります。実際,私が支援をした被害者の方は,意見書の中でも書いてくださっていますけれども,自分はとにかくやれることはやりたいと言って裁判に参加したんですが,マフラーで顔をぐるぐる巻きにして,黒縁のすごく大きなめがねをかけて,後で自分が見られても分からないようにと工夫をされていました。   後はちょっと物理的なことかと思うんですけれども,審理途中,裁判員と法廷の外で会わないように離れた専用の待合室を造ってほしいですとか,被害者としては裁判員からの質問は受けたくない。自分は裁判に出るとしても,一般人であることが裁判員の利点ではありますけれども,何もよく知らない裁判員からの質問を受けることによっての二次被害が怖いといった声もあります。 それから,裁判手続には直接関係ありませんが,裁判員には交通費が出る,無料のカウンセリングも受けられるようになっていると聞きますけれども,裁判員は他人の事件を数日間審理して,それによってショックを受けるということですが,被害者は自分の事件として体感しているのであって,裁判員に交通費や無料カウセリングが出るというのであれば,被害者にも交通費,カウンセリングを出してほしいといった切実な声もございます。 それから,裁判員裁判に限らずに,裁判一般の問題点として被害者から届けられている声としては,犯行態様の調書の読み上げですとか,再現写真をモニターで映される。これは,今は工夫されていて余りないのではないかなと思いますけれども,モニターでその再現の状況を映されるということが非常に苦痛だという声もあります。一方で,裁判員の人に黙読してもらうのであれば,傍聴にも公開してほしいといった声もありました。ですので,こういった証拠の提示の仕方というものについては,検察官が被害者の方とよく打ち合わせをして,被害者の希望に沿った形をとっていただければいいのではないかと思います。 また,興味本位で性犯罪裁判ばかりを傍聴するマニアがいるということは御存じの方もいらっしゃるかと思いますけれども,そういうマニアを何とかして排除できないかと。一つの案として,開廷表の罪名を「住居侵入」とするなど性犯罪であることが分からないような工夫をしてほしいという意見もありました。 それから,これは我々弁護士からの希望でもあるんですけれども,私たち弁護士が被害者の支援,代理人として付いた場合に,必ずしも傍聴席の確保をしてもらえない。被害者が参加していればいいんですけれども,参加しない場合には親族にしか傍聴席を確保しないといった扱いがされていると,被害者から依頼を受けて,代わりに傍聴しようとする弁護士が傍聴できないといった事態が起きてしまうということで,傍聴席の確保をしてほしいといった声もあります。 今までのを簡単に,本当に大ざっぱにまとめさせていただきますと,性犯罪の裁判員裁判の対象とすることについてのメリットとして,被害者の方がこれは残しておいてもいいのではないかと考えるのは,やはり裁判員の一般人の感覚が反映される。特に刑が重くなったということが被害者にとってメリットであるから,そのまま外さないでという声があるんですけれども,一方で,でも控訴されて覆ってしまったらどうなのか。被害者はそこにも懸念を持っています。 また,先ほど強姦神話の話がありましたけれども,一般人の感覚と言っていいのかわかりませんが,言葉がうまく見つからないんですけれども,いかにもかわいそうといった被害者の場合には裁判員裁判はいいかもしれませんけれども,被害者が責められる,「何でお酒を飲んで帰ったんだ。」「何で加害者と一緒にお酒を飲みに行ったんだ。」というような,先ほどの水商売の例もそうですけれども,そういったときに一般人の感覚というのがなじむのかどうか。被害者を更に傷つける二次被害を与えないのかという不安もあります。その一般人の感覚の反映というのがどこまでよいのか,それは翻ってみれば,職業裁判官が一般人の感覚とかい離してしまっているという問題点の指摘ではないのかというふうにも考えられるのではないかと思っています。 一方,この裁判員裁判のデメリットとして,やはりプライバシー保護が守られない。これについては,先ほど将来知り合いになる人が裁判員になる可能性はどうやっても排除できないというふうに申し上げましたが,やはり裁判員裁判で被害者のプライバシーを100パーセント守る方法というのはないのではないかと思います。裁判員裁判によって被害者に掛かる負担も多いですし,そうするとそういったメリット・デメリットを考えていったとき,今後,性犯罪を裁判員裁判の対象とし続けるのか,選択制とするのか,いっそのこと外すのかということはよく被害者の声も聞いて,被害者の声というか,実際ここで声を上げられない被害者ですね。先ほども申し上げました裁判員裁判が嫌だから,強姦致傷ではなく強姦にするとか,むしろ被害届すら出すことを諦めてしまう。そういった被害者が多いということも是非考えていただいて,検討していただければと思います。 ありがとうございました。私からはこれで終わります。 ○井上座長 ありがとうございました。   それでは,ただいまの御説明につきまして,どなたからでも御質問等がございましたら,御発言願います。 ○酒巻委員 今日はどうもありがとうございました。 たくさんおっしゃられたことの中で,私の方でも整理し切れていない点がありますのでお尋ねいたします。性犯罪被害者として刑事裁判に参加される場合,あるいは証人として呼ばれる場合の,いろいろなつらい事柄,それゆえ刑事司法関係者が常に配慮しなければならない点というのはよく理解できるところです。もっとも,これは裁判員裁判であろうが,これまでの刑事裁判であろうが,基本的には変わらない問題点であるように思われます。今日お話しなされたことの中で,裁判員裁判だから特につらいことが加重した問題点,そのポイントはどこでしょうか。 一つあるのは,選任手続のところでどんな人が来ているか分からないというのが大きいと思います。あとは,参加されて法廷で,例えば傍聴人に見られるとか,弁護士にいろいろな,あるいは被害者として質問されるとか,そこは多分裁判員裁判であっても,そうでなくても変わらないと私は思うのですけれども,裁判員裁判になったから大変困るという,そのポイントはどこでしょうか。 ○望月氏 参加も自由なわけですけれども,証言には立たなければいけない場合もありますよね。その場合に,裁判員にはどうしても被害者が顔を見られてしまうというのが一つ大きいと思います。もちろん,現状の制度では名前も住所も知られてしまいますけれども,なおかつ顔を知られるということで,特定が,会ったときに分かってしまうという。顔が知られるというのを被害者はとても嫌がります。それはとても大きいと。あとは,やはり裁判官が1人なり3人なり座っているのと,9人壇上にいるというのでは,全然圧迫感が違うというのもあり,それは心理的な問題かもしれませんけれども,やはり裁判員に顔を知られるというのは被害者は非常に恐れているというか,嫌がっています。 ○酒巻委員 ありがとうございました。 ○井上座長 ほかの方,いかがですか。   お話の中で,裁判員の選任に関し,男女比のことをおっしゃいましたけれども,かなり一般的な現象として,偏りがあるということなのかどうかということと,偏るとどういう影響があるのかということ,アメリカなどではいろいろなことが言われているわけですけれども,一般論より,実際にそういう現象が起きていて,不都合が生じているとすると,それは具体的にどういう不都合なのか,教えていただきたいのですが。 ○周藤氏 1年目のまとめというときに,配布の中ではどこまで書いていたかというのが……。 ○井上座長 正確な数字でなくても個々的にそういうことがあるということなのか,それともかなり広くそういう傾向が見られるのかということなのですが。 ○周藤氏 1年目のまとめで,裁判員のジェンダーということで,見ていったときには,やはり女性の方が少ない。最初は女性一人だったとか,6名の中で女性が一人というようなケースは少なくないんですね。ただ,傍聴ですとか,結果を見ていったときに,女性が少ないから何か被害者に対する理解が少ないかというと,必ずしもそうではなく,逆に女性の裁判員の方が加害者に対して,自分の息子だったらどうだろうというような想像をされて,男性の裁判員が,自分は男性だから分からないけれども,というような想像のされ方をしたり,自分の娘が被害に遭ったらというようなことで想像をされたりというところで,必ずしも女性だから,男性だからという結果には結びついていないんですが,どうも被告人の弁護人が,女性の方が被害者の味方になってしまうのではないかということで,女性を排除されるという傾向は,やはりあったように思われます。 ○井上座長 ほかの方,いかがですか。 ○山根委員 今日はありがとうございました。   2点お伺いしたいんですけれども,1点は,1年目のまとめの中にもありますように,裁判員が性暴力の構造的背景とか,執行猶予中の更生プログラムなどを十分に理解していないのではないかというようなことを書かれていますけれども,これは例えば裁判員に選ばれた人が,事前学習のようなことでレクチャーを受けるとか,そういう制度がきちんとできれば問題がなくなるというふうにお考えかどうかということをお伺いしたいのと,あともう1点,仮に選択制のようなことになったとして,裁判官裁判よりも裁判員裁判の方が厳罰が望めるからというようなことを考えて,選択するようなことがあるとお考えかどうかをお伺いしたいと思います。 ○周藤氏 まとめのところで,先ほど,事前にそういう性暴力についてのレクチャーということと,それから,実際,保護観察付きの執行猶予という判決が多かったということと,二つの話があるかなと思いまして。保護観察付きの執行猶予というのが裁判員裁判の判決として比較的たくさんあったというふうに,1年目のまとめの中で印象があったんですね。それは単に罰する,重罰というだけよりは加害者にきちんと,何をしたのかというのが分かって,更生していってもらうというような趣旨のことを皆さん考えられたと思うんですけれども,加害者に対する矯正プログラムというのがどこまで実効性があるものなのかというのを,1年目のまとめのときには,私たちは疑問に思っているところがありました。   というのは,実際,加害者プログラムを受けて,執行猶予中であったにもかかわらず,また再犯をしたというケースも,裁判員裁判の中でもあったということを知りまして,そこら辺も含めて裁判員の皆さんに分かっていただいた上で保護観察付きの執行猶予の判決を出されたのかというようなことを,もう少し知っていただくといいというような話をしていたのと,事前のレクチャーは本当にしていただきたいというふうに私たちは思っています。ただ,そこら辺が,裁判員制度の構造的にといいますか,裁判員を選任して,一定期間の間に審理してもらう中で,どこまで事前レクチャーをしてもらう時間があるのかということ。それで,私たちが望んでいるのは,例えば,被害者が突然襲われたときに,本当に恐怖やショック状態で,体もこわばってしまって,声も出せないということが一般的なんですよというようなことをレクチャーしていただきたいと思うんです。けれども,そこら辺はもしかすると被告人の立場からすると,一方に偏ったようなレクチャーになるのではないかとか,そういうようなところを含めて,難しいのかもしれないんですが,被害者心理,被害者の対処行動について,一般の方はよく御存じないかもしれないですけれども,こういう実態がありますというようなことは,是非レクチャーをしていただきたいというふうに考えております。 ○望月氏 後半は私の方で。   今,おっしゃっていただいたことが,正に選択制の問題点ではないかというふうに私は思っているんですけれども,そういうことは起きると思います。裁判員裁判ではなくても,被害者の意見陳述制度で,検察官からやはり被害者が法廷に出た方がインパクトがある。それは裁判員に限らず,職業裁判官に対してもですね。そのために是非法廷に出て,意見陳述をしたらどうかというプレッシャーのようなものが被害者に掛かることがあると聞いています。   選択制にしたときに,誰が裁判員裁判のメリット・デメリットを説明するかによっても大きく変わってくると思うんですけれども,そういう厳罰に処すのがいいという方向に力が入って,あなたが裁判員裁判になって参加すれば刑が重くなる可能性が高いよと言われると,やはり被害者としては,私は参加すべきなのではないかと。ほかの被害者のためにも私が声を上げて,やるべきではないかというプレッシャーが掛かってしまう。   一方,被害者のプライバシーの問題ですとか,そういったデメリットを,あなたをできるだけ保護するとは言われているけれども,100パーセントではないよと。裁判員裁判というのはこれだけデメリットもあると言われているんだよというふうに力点を置いて説明するかによって,被害者がどちらを選ぶのかというのは随分変わってくるのではないかと思います。   やはり裁判員裁判を選択しないということは,弱い被害者なんだというふうに思われてしまう。そうすると,またそこで被害者が自責の念を持ってしまったりですとか,自分を責めて,それこそ二次被害ではないけれども,そこでまた被害者が苦しむのではないか。そこで選択する責任を被害者に負わせるのはどうなのかということは懸念されると思います。   ですので,今御指摘いただいた,刑が重いから裁判員裁判を選択するという,そういう理由で選択をする被害者というのは出るというか,そういうプレッシャーが掛かるのではないかと思います。 ○井上座長 よろしいですか。 ○山根委員 はい。ありがとうございました。 ○井上座長 ほかに御意見,御質問等がありましたらどうぞ。 ○残間委員 冷静,客観的に大変きちんと聞き取りをしてくださったように思うのですが,お二人が様々な事例を体験なさったり,聞いたりして,今まとめのところには,条件説が付いて,こうならこうというふうに書いてありましたが,やった方がいいのか,選択制にした方がいいのか。あるいはここで見直してやめてもらいたいと思うのか。個人的意見で構いませんので,お二人から御意見をそれぞれ伺いたいと思います。 ○周藤氏 そうですね。本当に難しいなと思っていまして。ただ実際,自分は裁判員裁判で審理してほしいとおっしゃる方もいらっしゃるので,実際,参加されて,自分はやってよかったとおっしゃる方がいらっしゃる以上,本当の意味の選択制が保障されるといいというふうに思っています。   先ほど望月弁護士が言われたように,判断するときに必要な情報をきちんと伝えてもらって,本当に自分の意思で選択できる状態を保障していただけるといいでしょうし,酒巻委員がおっしゃったように,裁判員裁判だからという問題以外の問題の方が,多分,性犯罪,性暴力犯罪の裁判は大きいんだと思うんですけれども,そういうものに乗って裁判員裁判があるわけですから,そちらの問題を何とか改善していっていただく方向で,私は本当の意味の選択制ができればと思っています。 ○残間委員 本当の意味の選択制が実現できるかどうかというのに懸かっていますよね。それでは,今,おっしゃったようなことができると思いますか。きちんと客観的に,メリット・デメリットの説明をするというようなことが,この国の法曹制度の中であり得るかどうかという実感を聞かせていただきたいのですが。 ○周藤氏 実感的には難しいと思います。 ○望月氏 私も全く同じというか,理想は選択制ではありますけれども,それは無理だと思っています。ですので,私は弁護士会とかでも,対象事件から外すべきだというふうに申し上げています。   一つはプライバシーの問題,どんなに私たち弁護士がそばにいて支援をしていても,選任手続とかそういうところで被害者の個人情報が漏れるということを100パーセント防止することはできない。今までなかったからといって,これから起きる可能性はあるわけですよ。そうなってしまった第1号被害者が出てしまってからでは遅い。やはり私は被害者を守るという意味では,裁判員裁判は選任手続とか,いろいろなところでどういうことをやったとしても無理だと思うんですね。ですので,まず一つ,プライバシーの保護が守られないということ。 それから,先ほど申し上げましたけれども,被害者にかかるプレッシャー,選択制というものを採ったときに被害者が,特に性犯罪の被害者がPTSDになったり,フラッシュバックとかそういう中で,どれだけ冷静な判断能力を持っているというか,別にばかにしているわけでは全くなくて,判断ができるのかと。誰がどれだけ十分な説明をして,どれだけきちんとした判断能力を持って決められるのかという問題で,あとは,ではいつまでに決めなければいけないのかと。例えば,あるときには,検察官から説明されて,では裁判員裁判やりますと答えてしまったと。裁判員裁判の選任手続なりが始まっていった後に,やはりすごく怖くなって,もう絶対無理だ,私には絶対できないとなった後に,「いや,だってあなた,自分で決めたんでしょう。だから裁判員裁判,頑張りなさい。」と言われてしまった被害者のことを考えると,そこの責任を,「私たちは全部説明しました。国は,検察官は,弁護士は説明責任を果たしました。それを全部聞いてあなたは決めたんですよね。だから,あとはあなたの責任ですよ。」というふうに被害者に投げることはできないというふうに思っています。 ですので,確かに理想は選択制なんですけれども,理想の選択制というのは無理なので,私は,個人的には外すべきというふうに考えています。 ○残間委員 ありがとうございます。 ○井上座長 ほかにも御質問がおありとは思いますが,大分時間も押してきていますので,このくらいにさせていただきます。本日はお忙しい中,御準備いただきまして,ありがとうございました。 ○望月氏 ありがとうございました。 (性暴力禁止法をつくろうネットワーク 退室) (少年犯罪被害当事者の会 入室) ○井上座長 それでは少年犯罪被害当事者の会の方々からのヒアリングを行わせていただきます。   本日は,お忙しいところ,お運びいただきまして,ありがとうございます。時間は限られておりますけれども,よろしくお願いしたいと思います。 ○武氏 こんにちは。私は少年犯罪被害当事者の会の代表をしています武るり子といいます。隣におられますのは,大久保巌さん,そして大久保ユカさん御夫婦です。   私は会の代表として話をします。大久保さんには裁判員裁判を経験されているので,それで一緒に今日は参加をしてもらいました。どうぞよろしくお願いします。   まずは,私の方から話をしたいと思います。先に今日,このような私たちの話を聞いてくださるという機会を頂いたことに,本当に心から感謝をしております。ありがとうございます。   では,私の会の人たちの意見をまとめたものを言いたいと思います。   まずは,私たちの会がどのような会か少し話をします。私たち少年犯罪被害当事者の会は,少年によって最愛の我が子,そして家族を殺された遺族の会です。97年に会ができてから,子供を殺された家族が中心となって,一切の政治や宗教などにとらわれることなく,少年犯罪被害者の現状を話しつつ,少年法の問題など,理不尽な体験を各方面に話してきました。そして会を作って,もう14年になります。 裁判員裁判に関する会の意見を言いたいと思います。私たちが一番望むことは事実認定をしっかりしてほしいということです。それは,裁判員裁判であっても,逆送の刑事裁判であっても,家裁の審判であっても差を付けずに,正確な事実認定ができる仕組みを確立してほしい。現実は,家裁の審判と刑事裁判,裁判員裁判では事実認定の厳格さに大きな差があると感じています。それは最もあってはならないことです。 その上で,審判しか受けていない会員は,裁判員裁判に賛成の意見を持つ人もいます。そもそも裁判官への心証が非常に悪いことが原因にあります。裁判官が少年事件という固定概念を持ち,十分な審理もせずに終わらせてしまった,被害者が関与できない密室の中で知らないうちに,全てが終わっていたという体験があるからです。 少年法改正前の事件の人たちは,ほとんどが四十九日という法事の前に,大切な少年審判までが終わったという経験があるからです。そういう人にとっては,一般市民の公開の下で裁判が行われるということは非常に重要です。裁判員裁判であるなら,判例に基づいた判決しか出さないであろう裁判官よりも,もっと心の込もった判決が出てくるのではないかという期待があるのも事実です。裁判員裁判を受けた被害者の人に話を聞いたところ,法定刑の中で最大の判決を得ることができ,そのような画期的な結果が出たのは,市民参加があったからではないか,そのことが大きかったのではないかと聞いています。意見陳述を裁判員が涙を流して聞いてくれたのもうれしかったと聞いています。 会員の多くは,裁判が流れ作業のように行われたと感じています。大切な人の命が奪われたにも関わらず,一人の大切な命に目を向けてもらえなかった。多くの事件を抱える裁判官の下で,多くの事件の一つにしか過ぎないように扱われたと思っています。そういう意味で裁判員なら,もっと本質に触れるように扱ってもらえるのではないかと期待をせざるを得ないのです。 さらには,多くの裁判員が事件に触れることで,被害者の現状や更生施設の不十分さ,再犯の実情,先月の新聞では,少年の場合,再犯が4割,そして暴力団へ流れていく少年たちも多いと書いてありました。そんなことにも,もっと一般の人たちが関心を持ってくれるようになり,全てが不十分な仕組みを改善するきっかけにつながればいいなとも思っています。 そうはいっても,裁判員裁判での審理にも流れ作業のように感じることがあります。公判前整理手続が非常に長く,裁判が始まってからの審理時間が余りにも短い。公判前整理手続には被害者は入れず,公判で初めて知る事実や,加害者の供述がほとんどです。知った事実や言葉に対して,遺族が理解したり考えたりするのにはとても長い時間が掛かります。それなのに,整理できないまま連続の開廷で,裁判が終われば結局は取り残されたような気持ちになるのです。そのときは無我夢中なので,裁判が終わってしばらくして落ち着いたら,ああすればよかった,こうも言えたと後悔します。そのときに遺族ができる手段はもう何もないのです。これからは被害者側にも被害者支援の弁護士が付き,裁判の1回1回,一つ一つを丁寧に説明していくことが必要なことだと思っています。 裁判員裁判は,裁判員の負担の軽減に一番重きを置かれているようにも感じます。裁判とは誰のものなのでしょうか。裁判員が楽に参加できる仕組みが,被害者と加害者が向き合ったり,事件の本質を明らかにする時間を制限するのであれば,本末転倒だと思います。誰のための裁判か,それを一番に考えてほしいと思います。 さらに,費用面においても,裁判員制度が本当に必要なのかと言われると疑問を感じます。会員の家族が裁判員候補者になったことがあるのですが,過剰に立派な設備や,交通費などにおいても無駄が多過ぎると感想を持ちましたし,限られた予算の中で莫大な費用を裁判員制度の維持に充てるのか,被害者支援や更生施設の充実に充てるべきなのかと問われると,後者です。被害者国選や民事裁判の費用,支払われない損害賠償金など,被害者の置かれた現状も,加害者が事件に向き合うための更生施設の体制もまだまだです。優先順位で言うならば,裁判員制度よりももっと大切なことに費用を使ってほしいなと感じています。 ほかにこんな意見もあります。私たちの場合は少年犯罪なので,加害者が少年なんですね。10代の少年なんですね。そうなると,もう見ただけで未熟な少年というのが目に入るわけです。 私は刑事裁判,裁判員裁判に傍聴に行きました。そうすると,犯罪を犯したときのような凶暴な顔,顔というか感じとか,例えば,凶器を持って立っているわけではありません。そうなると,何か1年以上たった少年が大人しく法廷に入ってきて,10代ですから未熟な感じに見えてしまうんですね。そうすると,一般の裁判員裁判の人はどう見るのだろうと。もしかしたらかわいそうだなと思うのではないかと。それだけで,印象がとても頭に焼き付くのではないかという心配がありました。そして,さらに加害者には弁護士が付きます。その弁護士がとても弁の立つ弁護士だった場合,加害者のことを本当にあらゆる言葉を使って,未熟さや将来のことをとっても訴えるんです。そうなると,今まで裁判の経験のない一般の人たちが,事実認定をきちんと重きに考えて見てくれるだろうかと,私は心配になりました。 もう一つ思ったことは,それに比べて,被害者は死んでしまってもういないわけです。もちろん,凶器を見せたり,写真を見せたりはします。でも,とてもひどい状態の亡くなった当時の被害者の姿は見られないわけです。生のものは見られないわけですね。だから,そのときに,何か平等ではないのではないかということを感じたのは確かです。だから,やはり事実認定に重きを置くということを,裁判員の人たちもしっかり分かっていただいた上で裁判員に参加してほしいなというのは本当に感じたことでした。 繰り返しになりますが,私たちは裁判員裁判に賛成でも反対でもありません。最も重要なのは,大切な命を奪われた事実をどう扱われるか。まずはしっかり調査,捜査をしてほしい。そして事実認定をきちんと対審構造でしてほしい。そして少年であっても,罪に合った罰をしっかり与えてほしいということなのです。誰も殺されない社会をどう作っていくのか,そのことなのです。 犯罪を起こすような危険のある少年たち予備軍がたくさんいるんです。そういう子たちというのは,きちんと法律のこと,社会のことを見ているんです。だからしっかりと責任の在り方とか,そういうことは示すべきだと思います。 私たちが最初から言い続けていることは,子供たちをこれ以上,被害者にも加害者にもしない,そのことなんです。それに最もふさわしい国の仕組みの在り方をどうぞ検討していただけることを望みます。 以上です。 では大久保さんに替わりたいと思います。 ○大久保巌氏 初めまして,大久保巌と申します。妻のユカです。   私は,子供を殺された親なんですけれども,机にお配りしている意見陳述というのがあるんですね。まず,配布資料1と配布資料2,これは皆さんそれぞれまた目を通していただけたら,ただちょっと心配なのが,表現が適切でないと自分でも感じているんですけれども,ただ,気持ちをそのままぶつけて,実際にこれ,裁判で言いました。気持ちを全部書いていますので,そういう意味で見ていただいたらと思います。   本当に今回このような機会に呼んでいただいて,ありがとうございます。   実際に,裁判員制度についての意見というか,まとめてきましたので,一応お配りしている中にもあるんですが,読ませてもらいます。   私は2009年に起こった殺人事件で被害者となった次男の父親です。この殺人事件で,犯人は少年ですが,罪は認めていたので,自白事件ということになります。裁判では責任能力,心神耗弱による刑の減軽や,刑務所での処遇の適否などが争点となりました。   裁判の前に,非公開の少年審判へ参加する機会がありました。少年審判の傍聴と,裁判官への意見陳述をすることができました。家庭裁判所で行われたのですが,驚くようなこともありました。私らの傍聴前ですが,金属探知機で身体検査を,みんなされました。あと,常に裁判所の職員の方,3,4人ついてこられて,僕らが何かしたのかというような状況でした。   傍聴のときなんですけれども,裁判室みたいなところに呼ばれたのですが,一番後ろの席で机と職員さんに阻まれた状態で,犯人の顔や表情も見ることすらできませんでした。もうほとんど,ただその場におらされたというだけでした。よかった点は,犯人とその両親の話を聞くことができたことですね。それと,意見陳述によって,裁判官へ気持ちが伝えられたことはよかったと思っています。   それと,実際の裁判員裁判なんですが,被害者参加,それと被告人質問,意見陳述をすることができました。裁判の前に行われる公判前整理手続,これに1年以上の時間が掛かりました。公判前整理手続を繰り返している中で,幾つか驚いたことなどがあります。   まず,司法の場においての被告人の人権,今回は少年だったので,少年法による配慮等は最優先で考えているのは当然とは思えるのですが,同じ人間であるはずの被害者遺族の人権は余り重点を置いていません。これは現実です。被告人のための裁判ということは,検察庁の方から聞きました。被害者の命や人生を台無しにされたことへの感覚の違いには,驚きました。   その考え方が随所にも表れていました。意見陳述の時間も,裁判所からは,当初5分間にしてくれと言われたんですね。その場で即,裁判所に抗議に行くと私は言ったんですが,検察官から話をするからということでお願いして,実際には25分ぐらい頂いたんですが,何かまるで自己紹介程度のような感覚なんです。ちょっと余りにも他人事というか,こっちの状況を理解していないというか,びっくりしました。軽犯罪とか,そういうのならまだしも,こんな殺人事件に関してはちょっとどうかなと,私は正直思いました。   あと,ほかにも被害者側が参加できる機会というのは限られていまして,私たちもいろいろな希望を言ったんですが,余り反映されていません。本当に流れるような,先ほど武さんが言われたような感じです。   あと,検察庁においても,もちろん過去の判例や状況に照らし合わせて,検察庁は無難な方法しかまずとらないです。ですから,僕らにしたら初めての裁判,何とかしたいという気持ちがあるんですが,向こうは手続上,無難な方法しかしませんので,検察庁での担当検事,その上の検察庁の方の判断を優先する体質なので,それもちょっとびっくりしました。ですから,被害者参加制度とありますが,もうその名のとおり参加であって,現実は被害者の意見はなかなか聞いてもらえません。   そうとしましても,裁判員裁判自体は,私たちにとっては大変意味のあるものでした。裁判官の事務的な状況と対照的に,裁判員の方々,一般の方々が事件の経過説明,あと私たちの意見陳述,その中でも明らかに表情が変わったり,涙を流していただく方,実際にありましたので,被害者遺族の気持ちが少しでも伝わったと,そういうのは感じました。それが判決にも反映されたと思います。   判決自体は,やはり少年法の絡みがあるので,今でも納得はできていません。ただ,裁判官からの異例の説明や,今の法律,特に少年法についての現状に適合していない法律の不備な点,それにより今回の判決しか選択できなかった点などを,判決の前に説明をわざわざしていただきました。これは裁判員の方々が親身になっていただいた結果だと感じました。 一部ちょっとその判決文より抜粋したのを載せています。 現行法上,有期懲役刑を選択した場合には,少年である被告人に対し科し得る最も重い刑は,5年以上10年以下の不定期刑であるところ,「5年で刑の執行終了となる可能性がある点においても,また,10年を超えては服役させられない点においても,本件犯行の凶悪性,結果の重大性に照らして,とても十分なものとはいえない」ものの,無期懲役を選択すべき事案とまではいえないため,上記不定期刑を選択せざるを得ないこと。受刑者の処遇に関しては,「仮釈放や5年経過後の刑執行終了処分は,地方更生保護委員会が判断する事項であるものの,上記のように当裁判所としては10年という懲役でも本来十分でないと考えるものであり,上記各処分を行うのは慎重にされるべきであると希望する」こと,「今回,裁判所自身十分でないと考える刑期を定めざるをえなかったのは,少年法が上記のような狭い範囲の不定期刑しか認めていないためである。この規定の妥当性については従前から議論があったところであるが,本件を機に改めて議論が高まり,適切な改正がされることが望まれる」ことなど。 以上のとおり,裁判所は,現行の少年法の枠内においては5年以上10年以下の不定期刑という,本件犯行に対する刑罰として余りに不十分な刑期を選択せざるを得ないことを素直に認め,その不条理を最小限に抑えるために,刑の執行時における処遇を適切に行うことを希望する旨を,判決理由中の付言として示すという異例の判断を行っています。 今後の問題として,是非にお願いしたいのは,裁判員裁判そのものの問題とは異なりますが,少年法の改正です。現在の犯罪が低年齢化する中で,犯行も残虐性を増しています。少年法自体を否定するものではなく,犯行内容にて少年法の取扱いを考えるべきではないかと思います。少年が重犯罪を犯しても,少年法により軽微な刑期で出所して,再犯を繰り返している現実をよく考えてください。重犯罪者には厳罰化すべきです。年齢によって犯罪の内容が変わるわけではありません。犯罪の内容によって刑罰を判断するべきで,何もかも少年法で判断するのには現実に無理があります。軽犯罪と重犯罪を区別するべきだと思います。 少なくとも小学校レベルで,他人の命を奪うということは許されないことであるという認識は普通にできているんですね。一般の人が考えている以上に,犯罪者の少年は大変なことをしてしまっています。 それと司法の場において,被害者の人権は軽く考えており,一つの判断材料のようなものになっています。他人事のように物事を運んでいきます。人間の命,人生はもっと大切なはずです。犯罪により同じ人間の命,その人だけの大切な人生を,他人により変えられたり,奪われたりしたわけですから,被害者の人権をもっと重く考えてください。加害者の少年に未来があるのなら,被害者の少年の未来はどうなのでしょうか。 現在,被害者の状況は平等ではありません。それに対して,加害者は法律により過剰と言えるほど守られています。被害者には少なくとも同等以上の権利があって当たり前のはずですが,現実は違います。そして,被害者遺族は生きる気力もなくしている場合がほとんどだと思います。 それと,今回の事件を通して,私は様々な状況を知ることができました。それは,裁判に被害者参加人として参加し,質問や意見陳述ができたこと,検察官を通じて裁判に参加できたこと,家庭裁判所の傍聴や意見陳述ができたこと,事件直後よりの警察の親身な対応など,当たり前のように感じていましたが,少年犯罪被害者の会で話を聞ける機会がありまして,それ全てが最近になってようやくできるようになったことだということを聞きました。同じく少年により子供を殺された方々に,私も話を実際に直接聞きました。以前は,事件の状況すら教えてもらえない,自分の子供が殺された原因も教えてくれない,被害者遺族の知らないところで加害者の処分が決まっていたり,殺された子供に代わって意見を言うことすらできなかったというのも聞きました。 皆様による長い年月と大きな努力のおかげで,私は被害者参加でき,意見陳述ができたのだということを知りました。ですから,さらなる是正を是非ともお願いします。 以上です。よろしくお願いします。 ○井上座長 ありがとうございました。   それでは,ただいま伺った御意見につきまして,御質問等がございましたら,どなたからでも御発言願います。 ○大久保委員 今日はどうもありがとうございました。こちらでお話をしているだけでも,その当時のことが目の前とか頭の中によみがえってきて,大変つらかったと思いますけれども,どうもありがとうございました。  先ほどのお話の中で,被害者は精神的な衝撃が大きいためになかなか正常な判断ができないで,後で後悔しがちだというお話がありましたが,では,その被害者が裁判員裁判に出て,自分の心情や役割をしっかりと伝えることができて,裁判員裁判に関われてよかったとか,そのように思えるためにはどのような制度ですとか,どこかの改善をされるという面があればよいとお考えでしょうか。 ○武氏 私はやはり,私たち遺族というのは,突然事件に遭うんですね。そうすると,子供が殺されて,法律がどうあって,裁判がどう進むかまず分からないわけですね。自分の子供が殺されて,裁判になって,裁判員裁判になりましたと言われました。そうしたら,裁判員裁判とは何だろうと,まず分からないと思うんですね。裁判員裁判と普通の刑事裁判の違いも分からないので,やはりきちんと説明が大事だと思うんですね。その前からの被害者支援というのはもちろん大事なんですけど,警察の段階から被害者支援というのが大事で,例えば警察の支援,それから民間支援団体の支援,いろいろな支援があって,そして裁判員裁判が進みますよね。そうしたら,そこでやはりできたら,私は被害者のことをとても理解してくださる被害者支援の弁護士が付いて頂きたいと思います。   よく私は言われます。法テラスがありますとよく言われるんですけど,私はやはり法テラスですと,どんな弁護士が登録しているか分からないわけですね。だから,私はなるべくなら,その県,府,市とか弁護士会の弁護士の被害者支援委員会というのがあるんですが,そこの先生方にできたら動いていただきたいんですね。それも被害者が突然事件に遭って,弁護士をお願いするというのはとても難しいんですね。だからその前から関わっている警察だとか,支援団体とかがこういうつながりを持っていただいて,その支援する弁護士さんがいるという道をつくっていただきたいんですね。   多くの遺族は,突然事件に遭うと,不信感からまず入るんです。弁護士が突然パンフレットを持ってこられたり,送ってこられても大丈夫かな,まず不信感から持つので,やはり直後から関わっている支援の人たちがきちんとつないでいただきたいんですね。そうしたら信頼できる人たちが言ってくださるのだから,ではこの弁護士は大丈夫だと,そこでまず安心するんです。そうしたら,信頼関係がつくりやすいんですね。その先生に関わっていただいて,一つ一つを丁寧に,裁判の流れから,裁判員裁判の違いから,細かなことを一つ一つ説明していただきたいと思います。そうすると少し不安が取れたり,とても緊張もしますので,裁判というのは。そういうことも少しほどけるのではないかなと私は思います。そういうことの連携,バトンタッチの仕方,そして被害者支援の弁護士が増えること,そういうことが私はこれからは大事だと思います。 ○井上座長 ありがとうございます。ほかの方,いかがですか。 ○甲斐官房審議官 今日はどうもありがとうございます。   一つ教えていただきたいんですけど,少年事件の場合,被告人が少年で,そういう場合の裁判員裁判をどうするのかということについては,いろいろな御意見があると思うんです。その中には,裁判員裁判だから裁判官3人と裁判員が6人,それで9人の大人に取り囲まれたような状態になって,少年が被告人として1人ぽつんと立たされるのでは,萎縮してしまって,言いたいことが言えないのではないか。だからもっと何か保護する方法を採るべきではないか。あるいは,少年事件の場合は,その人の家庭環境とかを十分に調べなければいけないので,そういうプライバシーに関わるようなことを事実調べの中でもやっていかなければいけないけれども,それが裁判員裁判では十分にできなくて,不十分な審理になってしまうのではないかという御懸念を言われる方もいらっしゃるかと思うんですが,被害者としての立場で見たときに,そういった裁判員裁判,問題として言われている事柄について,何か御意見があれば教えていただければと思うんですけど。 ○大久保巌氏 実際には加害者の少年にはすぐ国選弁護人が付きます。しかも選りすぐりの達者な弁護士さんが付きます。それで裁判所からの意見,検察官からの意見に対しても,はっきり言いまして,少年に対する意見は事前に申し出ないとだめなんですね。だから,その場でいうのはかなり限られています。1件こういう質問ですと。そしたら,答えを用意するんですよ,向こうで。はっきり言って今回の事件でも,少年は,実際に反省していませんから。萎縮するどころか,少年は皆さんが思っている以上にふてぶてしいですよ。   ですから,そういう弁護士が,私らの場合にも3人付きましたから。選りすぐりのね。あることないこと,弁護士さんがうまいこと言いますよ。ですから,少年が萎縮するうんぬん,いや,こっちがもっと萎縮してほしいなと思うぐらいです。人を殺しておいてね,という気持ちでしたね。それで,片やこちらの方は,はっきり言って弁護士はすぐ付かないですから。加害者の裁判ですからね。そういう主導で行きますからね。そういう感じですね。   ですから,萎縮もしないと思いますよ。周りがそれ以上にものすごい気を遣って進めますから。 ○甲斐官房審議官 ありがとうございました。 ○武氏 私もいいでしょうか。裁判員裁判になると言えば,少年犯罪の場合,もう本当に重大犯罪なんですね。ほとんどがならないで,すごい重大犯罪しか裁判員裁判になりません。そうしたら,先ほど大久保さんが言われたように,その土地の本当に優秀な弁護士が加害少年に付くことが多いんです,本当に。裁判員裁判を見に行きましたけど,弁護士は,繰り返し,繰り返し保護するようなことをおっしゃいます。将来があるし,とてもいい子だみたいなことも言いますしね。だから私は,萎縮するどうのこうのというのは余り関係ないと思うし,もしその少年が萎縮したなら,本当の姿で萎縮したなら,人間として私は大切なことだと思います。でも,ほとんどの加害少年は,そのようなことはないです。萎縮したそのときにしっかり教えるべきだと思うんです。被害者が萎縮しただけではなく,どれだけの恐怖を感じたか,などしっかり教えることが必要だと思います。 そして,プライバシーが出るとか,育ち方がどうのこうのといろいろことが出ると言います。でも,それは必要なことなんです。少年は十何歳です。そしたら,やはり育ち方やいろいろなことが関係してくるのが当然なんです。それは親の責任があったりするわけです。そういうのを全部出さないと,何でその犯罪が起きたかは見えないんですね。そこを本当に隠したまま審理されても,本当に上辺だけの審理になるなと思うので,どんな育ち方をしてというのを,やはり必要なことだと思うんです。それは事件を起こした少年だから,事件を起こすことに関係しているから必要なんです。私たちはプライバシーが知りたいわけではないんです。自分の子供が殺された,大切な命を殺したその原因に関するから必要なんですね。 だから,それに比べて言いますと,被害者のプライバシーはどんどん出ます。それは余り言われません。亡くなった子供たちのこと,いろいろなプライバシーが出てしまうんです。それは法廷でなくても,また報道とかでいろいろなプライバシー,名前もどんどん出ます。加害少年は,名前は出ません。でも被害者の名前は出て,それはプライバシーと言わないんでしょうか。被害者はそれでも我慢するんです。なぜかと言うと大事な命の裁判だからなんです。 それに比べて,人を殺した少年の萎縮するとか,プライバシーとかそういうことを余り大きく言うのは,私はおかしいと思うんですね。いつもそういうふうに思います。その少年のためにも,私は必要なことだと思います。向き合うべきです。それを隠して,伏せて,上辺だけで保護したり,処分を受けても私はいけないと思います。全部受け入れた上で,何をして悪かったか。そして保護する人がいたら,保護したらいいと思います。その後のこと,更生のこと,そのプログラムのこと,施設のこと,考えないといけないことはあると思います。でも,その前に必要なことはまだまだやはり欠けていると思います。余りにもプライバシーとか,そういうことを言い過ぎると思います。 ありがとうございました。 ○井上座長 まだまだお聞きしたいところですけれども,全体の時間がかなり押していますので,これくらいにさせていただきます。本日はわざわざおいでいただきまして,ありがとうございました。 (少年犯罪被害当事者の会 退室) ○井上座長 それでは,これ以降,議事を公開することにいたします。 (報道関係者入室) ○井上座長 かなり予定の時間をオーバーしておりますけれども,本日のヒアリングを行いまして,それに基づき何か御意見あるいは御感想等がありましたら伺いたいと思います。むろんこれは今日だけというわけではなく,後で御相談しますけれども,今後の論点整理の中で御意見を承る機会はまだまだあると思いますが,この段階で何か御発言がございましたら伺いたいと思います。 ○大久保委員 今の4つの団体の方たちのヒアリングをお聞きいたしまして,共通するものがたくさんあるということを感じましたので,その共通する部分をもう一度この検討会として取り上げていただいて,どのような形であればよいのかというような時間を作っていただければ有り難いと思いました。 ○井上座長 今触れました論点整理をするための議論の中で十分御意見を伺ったり,問題の整理をすることはできるかと思います。   ほかの方,いかがですか。よろしいですか。   その他全般について,何かこの際,御意見等ございましたら,お伺いしたいと思います。よろしいですか。   それでは,今後の予定ですけれども,第5回検討会において,皆様方から検討方法や検討事項について御意見を伺った上で,今後の議論の進め方として,全体をもう一度丹念に点検しながら,十分な論点整理を行い,それに従って,順次議論をしていくということにしておりますが,次回からその議論に入っていきたいと考えております。   その議論の進め方ですけれども,いろいろなやり方があろうかとは思いますが,一番分かりやすいのは,基本的に手続の流れに沿って,選任手続,公判前整理手続,審理,評議,判決,控訴審といった順に進め,しかしそれでは拾い上げられない問題,例えば対象事件の範囲の在り方ですとか,裁判員の負担軽減の問題,あるいは守秘義務,今日ヒアリングがありました被害者の方々への配慮等々,制度全体に関わる問題についても取り上げて議論を進めていく。そういうことにしてはいかがと思いますけれども,御意見がありましたらお伺いしたいと思います。それでよろしいでしょうか。 (「異議なし」との声あり)   それでは,そのようにさせていただきます。   次回の議論の具体的なテーマあるいはその範囲については,私の方で整理して,また御相談したいと思いますが,そういうことでよろしいでしょうか。 (「異議なし」との声あり)   どうもありがとうございました。   本日予定された議事は以上でございますけれども,そのほか御意見とか御注文がありましたらお伺いしたいと思います。よろしいでしょうか。   それでは,最後に事務当局から,次回の日程の確認をお願いしたいと思います。 ○西山参事官 次回でございますが,委員の皆様の日程調整をさせていただきまして,来年3月14日水曜日,午後1時30分からとさせていただきたく存じます。場所等については追って御案内申し上げます。   以上です。 ○井上座長 少し間が開いてしまうのですけれども,皆さんなかなかお忙しくて,日程がなかなか調整できなかったので,そういうことにさせていただきたいと思います。 これで第8回の検討会を終了いたします。本日は長時間,どうもありがとうございました。 —了—