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刑事手続における犯罪被害者保護のための法整備に関する要綱骨子

平成12年2月22日

法務大臣 殿


法制審議会会長
答        申



 諮問第44号について,別紙のとおり答申する。






(別紙)
刑事手続における犯罪被害者保護のための法整備に関する要綱骨子



第1  性犯罪の告訴期間の撤廃

 親告罪のうち,刑法第176条(強制わいせつ)の罪,第177条(強姦)の罪,第178条(準強制わいせつ,準強姦)の罪,第225条(わいせつ目的等略取及び誘拐)の罪,同条の罪を幇助する目的で犯した第227条第1項(わいせつ目的略取等幇助目的被略取者収受等)の罪,同条第3項(わいせつ目的被略取者収受等)の罪及びこれらの罪の未遂罪につき行う告訴については,刑事訴訟法第235条第1項本文の規定による告訴期間の制限を適用しないものとすること。

第2  ビデオリンク方式による証人尋問

 ビデオリンク方式による証人尋問
 裁判所は,次に掲げる者を証人として尋問する場合において,検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き,相当と認めるときは,裁判官及び訴訟関係人が証人を尋問するために在席する場所以外の場所(これらの者が在席する場所と同一の構内に限る。)に証人を在席させ,映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話することができる方法によって,これを尋問することができるものとすること。

(1)  刑法第176条(強制わいせつ)の罪,第177条(強姦)の罪,第178条(準強制わいせつ,準強姦)の罪,第179条(これらの罪の未遂)の罪及び第181条(強制わいせつ等致傷)の罪,わいせつ又は結婚の目的で犯した第225条(わいせつ目的等略取及び誘拐)の罪,わいせつ又は結婚の目的で犯した同条の罪を幇助する目的で犯した第227条第1項(わいせつ目的略取等幇助目的被略取者収受等)の罪,わいせつの目的で犯した同条第3項(わいせつ目的被略取者収受等)の罪及びこれらの罪に係る第228条(未遂罪)の罪並びに第241条前段(強盗強姦)の罪及び第241条前段に係る第243条(強盗強姦の罪の未遂)の罪の被害者

(2)  児童福祉法(昭和22年法律第164号)第60条第1項(児童に対する淫行)の罪及び第34条第1項第9号に係る第60条第2項(児童に対する有害支配)の罪並びに児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平成11年法律第52号)第4条から第8条までの罪(児童買春等)の被害者

(3)  (1)及び(2)に掲げる者のほか,犯罪の性質,証人の年齢,証人の心身の状態,証人と被告人との関係その他の事情から,裁判官及び訴訟関係人が証人を尋問するために在席する場所において供述するときは,圧迫を受けて,精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認められる者

 ビデオリンク方式による証人尋問の録画

(1)  1に規定する方法により証人尋問を行う場合,裁判所は,検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き,その証人が後の刑事手続において同一の事実につき再び証人として供述を求められることがあると認めるときは,その証人の尋問及び供述並びにその状況を記録媒体(ビデオテープその他映像及び音声を同時に記録することができる物をいう。以下同じ。)に記録することができるものとすること。ただし,その証人の同意があるときに限るものとすること。

(2)  (1)により証人の尋問及び供述並びにその状況を記録した記録媒体は,訴訟記録に添付して調書の一部とするものとすること。

(3)  (1)により証人の尋問及び供述並びにその状況を記録した記録媒体については,刑事訴訟法第40条,第180条第1項及び第270条の規定にかかわらず,検察官及び弁護人は,これを謄写することができないものとすること。

 ビデオリンク方式による証人尋問を記録した記録媒体の取調べ

(1)  被告事件の公判準備又は公判期日における手続以外の手続において1に規定する方法により供述者が証人として尋問を受け,その尋問及び供述並びにその状況を記録した記録媒体を添付した調書は,証拠とすることができるものとすること。ただし,裁判所は,当該記録媒体が添付された調書を取り調べた後,訴訟関係人に対し,その供述者を証人として尋問する機会を与えなければならないものとすること。

(2)  (1)に規定する調書の取調べをするについては,裁判所は,当該調書に添付された記録媒体を再生しなければならないものとすること。

(3)  (1)により取り調べられた調書に記録された証人の供述は,刑事訴訟法第295条第1項前段並びに第321条第1項第1号及び第2号の適用については,当該被告事件の公判期日における証人尋問においてなされたものとみなすものとすること。

(4)  (1)により取り調べられた記録媒体については,刑事訴訟法第40条及び第270条の規定にかかわらず,検察官及び弁護人は,これを謄写することができないものとすること。


第3  証人尋問の際の証人の遮へい

 裁判所は,証人を尋問する場合において,犯罪の性質,証人の年齢,証人の心身の状態,証人と被告人との関係その他の事情から,証人が被告人の面前において供述するときは,圧迫を受けて,精神の平穏を著しく害されるおそれがあり,相当と認めるときは,検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き,被告人と証人との間で,一方から又は相互に相手の状態を認識することができないようにするための措置をとることができるものとすること。ただし,被告人から証人の状態を認識することができないようにするための措置については,弁護人が出頭している場合に限り,これをとることができるものとすること。

 裁判所は,証人を尋問する場合において,犯罪の性質,証人の年齢,証人の心身の状態,証人の名誉又は心情その他の事情を考慮し,検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き,相当と認めるときは,傍聴人と証人との間で,相互に相手の状態を認識することができないようにするための措置をとることができるものとすること。

 1及び2の規定は,第2の1(ビデオリンク方式による証人尋問)の方法により証人を尋問する場合及び第2の3(ビデオリンク方式による証人尋問を記録した記録媒体の取調べ)により調書を取り調べる場合において,準用するものとすること。

第4  証人尋問の際の証人への付添い(証人付添人)

 裁判所は,証人を尋問する場合において,証人が著しく不安又は緊張を覚えるおそれがあると認めるときは,証人の年齢,健康状態その他の事情を考慮し,検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き,その不安又は緊張を緩和するのに適当であり,かつ,裁判官若しくは訴訟関係人の尋問若しくはその証人の供述を妨げ,又は供述の内容に不当な影響を与えるおそれがないと認める者を,その証人の供述中,証人に付き添わせることができるものとすること。

 1により証人に付き添う者は,その証人の供述中,裁判官,検察官,弁護人若しくは被告人の尋問若しくはその証人の供述を妨げ,又は供述の内容に不当な影響を与えるような言動をしてはならないものとすること。

第5  被害者等の傍聴に対する配慮

 裁判長は,被害者又はその法定代理人(被害者が死亡した場合においては,その配偶者,直系の親族又は兄弟姉妹。以下「被害者等」という。)から,公判手続の傍聴の申出があるときは,傍聴席及び傍聴希望者の数その他の事情を考慮し,申出をした者が傍聴できるよう配慮しなければならないものとすること。

第6  被害者等による公判記録の閲覧及び謄写

 裁判所は,第一回の公判期日後被告事件の終結まで,当該被告事件の被害者等又はその被害者等から委託を受けた弁護士から,その裁判所の保管する当該被告事件の訴訟に関する書類の閲覧又は謄写の申出があるときは,検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き,当該被害者等の損害賠償請求権の行使のために必要があると認めるときその他正当な理由があって,犯罪の性質,審理の状況その他の事情を考慮して相当と認めるときは,申出をした者にその閲覧又は謄写をさせることができるものとすること。

 裁判所は,1により謄写をさせる場合において,謄写した書類の使用目的又は使用方法を制限し,その他適当と認める条件を付することができるものとすること。

 1により訴訟に関する書類を閲覧し又は謄写した者は,閲覧若しくは謄写により知り得た事項又は謄写した書類を用いるに当たり,不当に関係人の名誉若しくは生活の平穏を害し,又は捜査若しくは公判に支障を生じさせないよう注意しなければならないものとすること。

第7  公判手続における被害者等による心情その他の意見の陳述

 裁判所は,被害者等から,被害に関する心情その他の被告事件に関する意見の陳述の申出があるときは,公判期日において,その意見を陳述させるものとすること。

 1による意見の陳述の申出は,あらかじめ検察官にしなければならないものとすること。この場合において,検察官は,意見を付して,これを裁判所に通知するものとすること。

 裁判長及び陪席の裁判官は,被害者等が意見を陳述した後,その趣旨を明確にするため,当該被害者等に質問することができるものとすること。

 訴訟関係人は,被害者等が意見を陳述した後,その趣旨を明確にするため,その旨を裁判長に告げて,当該被害者等に質問することができるものとすること。

 裁判長は,被害者等のする陳述が既にした陳述と重複するとき,又は被告事件に関係のない事項にわたるときその他相当でないときは,これを制限することができるものとすること。訴訟関係人の被害者等に対する質問についても同様とするものとすること。

 第2の1(ビデオリンク方式による証人尋問),第3(証人尋問の際の証人の遮へい)及び第4(証人尋問の際の証人への付添い)は,1に規定する被害者等による意見の陳述についてこれを準用するものとすること。

 裁判所は,審理の状況その他の事情を考慮して,相当でないと認めるときは,意見の陳述に代え意見を記載した書面を差し出させ,又は意見の陳述をさせないことができるものとすること。

 裁判所は,1による陳述又は7による書面を,犯罪事実についての認定のための証拠として使用してはならないものとすること。

第8  民事上の和解を記載した公判調書に対する執行力の付与

 被告人及び被害者(被害者が死亡した場合においては,その配偶者,直系の親族又は兄弟姉妹を含む。以下第8において同じ。)は,被告事件に係る被害を含む被告人と被害者との間の民事上の争いについて合意が成立した場合,弁論の終結までに,公判期日に出頭し,共同で裁判所にその旨を申し立てることができるものとすること。

 1の合意が被告人の被害者に対する金銭の支払をその内容とする場合において,被告人以外の者が当該合意に係る債務について,保証する旨又は連帯して責任を負う旨を約したときは,その者も,公判期日に出頭し,被告人及び被害者と共同してその旨を申し立てることができるものとすること。

 1及び2により申立てをする者は,当該合意及びその合意に係る民事上の争いを特定するに足りる事実を記載した書面を裁判所に提出しなければならないものとすること。

 1及び2により申立てをした者が出頭した公判期日の公判調書に,当該申立てに係る合意を記載したときは,その記載は,裁判上の和解と同一の効力を有するものとすること。