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適任者確保の方策

 適任者確保の方策
 (1 ) 人権擁護委員の選任
 研修等により人権擁護委員の資質向上を図ることにはおのずと限界があることから,適任者確保のためには,まず人権擁護委員にふさわしい人物を選任することが重要である。そのためには,以下のとおり,委員の資格,選任基準及び選任方法を見直す必要がある。
  ア  人権擁護委員の資格,選任基準等
   ○  人権擁護委員は,それぞれの地域社会において各種の人権擁護活動に積極的に従事することが求められることから,人権擁護委員としての熱意,人権に対する理解に加え,地域社会で信頼されるに足る人格識見や中立公正さを兼ね備えていることが必要である。また,特定の人権課題や法律,心理等特定の領域に専門性を有する人権擁護委員の確保も必要である。
   ○  現在の一般的なライフスタイルを勘案すると,時間的余裕のある定年退職後の年齢層が一定割合を占め,人権擁護委員の平均年齢がある程度高くなることはやむを得ないが,人権擁護委員も,社会の構成を反映して様々な年齢層の者で構成されることが望ましい。若年者の確保を図るためには,職場の理解も得つつ,在職中の者からの選任を進めることも一つの方策であり,また,女性や各種人権関係団体のメンバーの選任を進めることもそれにつながる。なお,人権擁護委員の年齢や再任の回数について画一的な上限を設けることは妥当でないが,積極的な活動が期待できる委員を確保する必要から,新任時65歳,再任時75歳を一応の上限とする現行の運用は維持すべきである。
   ○  男女共同参画社会の実現が重要な人権課題となっていることからも,これに寄与すべき人権擁護委員としては,その半数が女性であることが望ましく,女性の選任を一層進めるべきである。
   ○  人権擁護委員法も,人格識見高く,広く社会の実情に通じ,人権擁護について理解のある者と並んで,人権擁護にかかわる団体の構成員の中から人権擁護委員を選任すべきことを明記している(同法6条3項)ところであり,様々な分野で人権擁護に取り組んでいる各種団体のメンバーからも適任者の選任を図るべきである。そのためには,人権委員会は,弁護士会その他の団体に協力を要請するなどして,専門性を有する委員を全国的に十分確保することができるよう努める必要がある。
   ○  我が国に定住する外国人が増加していることなどを踏まえ,市町村の実情に応じ,外国人の中からも適任者を人権擁護委員に選任することを可能とする方策を検討すべきである。
  イ  人権擁護委員の選任方法
   ○  地域社会に根ざした活動が期待される人権擁護委員の性格に照らし,市町村長の推薦に基づく現行の選任方法を基本的に維持するのが妥当である。
 しかし,市町村長が候補者を推薦するに当たっては,現在,あらかじめ一定の地区,団体等に推薦定員を割り振った上で,人選を依頼している例が少なくないが,硬直化して適任者の人選に支障を来している面もみられる。そこで,市町村当局に対し,前記アの選任基準や選任に関する留意点の周知を図った上で,適任者を推薦し得るよう従来の人選の方法を再検討することを要請すべきである。
   ○  各市町村においては,上記の再検討の中で,様々な工夫を重ねながら,適任者確保に資する人選の方法を確立することが期待される(注4)。人権委員会も,情報の提供等を通じてこれに協力すべきである。
   ○  人権委員会は適任者に関する情報の提供等を通じて適任者の推薦に協力すべきであるが,専門性を有する委員の確保などの観点からは,市町村長が推薦した者に加え,市町村長の意見も聴きながら,必要に応じて,人権委員会が把握するその他の適任者をも選任することを可能にするための補充的なルートを設けることが適当である。
 (2 ) 人権擁護委員に対する研修
  ○  人権擁護委員は常に自己研さんに努めることが求められている(人権擁護委員法12条1項参照)が,これを補う研修は,職務遂行上必要な基礎的知識や技術の修得に重点を置くべきである。一部の委員に求められる高度の専門性を研修を通じて養うことは一般に困難であり,これは主として適任者の選任により確保される必要がある。
  ○  具体的な研修課題としては,人権擁護委員の使命・職務とこれに関する規律,人権保障に関する基本的法令・条約・計画,各種人権課題の状況,関係機関・団体等に関する基礎的知識や,啓発,相談,人権侵害事案の把握に関するノウハウ等が挙げられる。
 このうち,各種人権課題の状況に関しては,各地域の実情に応じた人権課題の選択が行われると同時に,男女共同参画社会の実現等の重要課題に配慮した研修内容とする必要がある。委員すべてが個別人権課題について専門家としての知識を修得することは期待できないが,委員に対する研修は,その内容が委員を通じて地域社会に広められるという意味において間接的な啓発活動であり,このような観点からも,各種人権課題に関する実践的な研修を積極的に実施すべきである。
 人権擁護委員の活動の中で大きな比重を占める人権相談は,極めて有効な人権救済の手法であるが,他方で一定の面談技術が要求されることから,カウンセリングにおける専門的知識・技術等も参考にしつつ,人権相談に関する留意点等について十分な研修を実施する必要がある。
  ○  研修を効果的に実施するためには,講義形式によるもののほか,事例研究等の参加型研修を取り入れるなどの工夫が必要である。研修の講師については,特定の人権課題や法律,心理等の特定の領域に専門性を有する人権擁護委員を積極的に活用することが望まれる。オン・ザ・ジョブ・トレーニング(実際の仕事を通じての訓練)の発想も取り入れる必要がある。
 人権擁護委員協議会や都道府県人権擁護委員連合会(注6参照)が自主的に企画実施する研修は,人権委員会が行うこととなる研修を単に補うだけでなく,委員の視点から必要な研修を選び出し,適宜自らの研究成果等も踏まえつつ実施される有効な活動であり,今後も積極的に実施されることが期待される。また,近時,地方公共団体等において,人権問題にかかわる様々な講演,研修等が企画されていることから,これらも有効に活用すべきである。


(注 4)市町村における候補者の人選の在り方
 市町村における候補者の人選の在り方については,意見募集においても,推薦委員会の設置や公募制の採用等様々な意見が寄せられたが,本審議会としては,全国一律に一定の手続を定めるよりも,むしろ各市町村がこれらのアイデアを参照しながら,各地の実情に応じた実効的な人選の在り方を追求していくことが適当であると考える。
(注 6)人権擁護委員の組織体
 人権擁護委員の組織体として,原則法務局・地方法務局の本・支局単位で設置されている人権擁護委員協議会,都道府県単位で設置されている都道府県人権擁護委員連合会及び全国人権擁護員連合会がある(人権擁護委員法16条)。このほか,法律上の組織ではないが,全国8ブロックにブロック人権擁護委員連合会が設けられている。
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