組織的な犯罪に対処するための刑事法整備に関する諮問について
同審議会においては,刑事法部会で先に審議することとし,現在,同部会において審議が行われています。
第1 組織的な犯罪の実情と法整備の必要性
1 最近における組織的な犯罪の実情
○ これらの組織の不正な権益の獲得・維持を目的とした各種の犯罪
○ オウム真理教事件のような大規模な組織的形態による凶悪事犯
○ 会社などの法人組織を利用した悪徳商法等の大規模な経済犯罪など
このような組織的な犯罪が多発し,我が国における平穏な市民生活を脅かすとともに,健全な社会経済の発展に悪影響を及ぼしかねない状況にある。
2 国際的動向
○ 特に様々な犯罪組織の犯罪活動により,各国の社会の安定や経済の発展に重大な悪影響を及ぼすことが懸念されている。
○ 犯罪収益の規制措置など,国際的にも協調した対応が強く求められており,主要国においては法制度の整備が進んでおり,日本の法制とのギャップが著しく拡大してきた。
3 組織的な犯罪の特徴
○ 犯行の態様はもとより,罪証隠滅工作や犯人隠避工作等を含めて密行性が高い。
○ 犯罪による収益が多額にのぼり,犯罪的な組織の維持,事業活動への投資又は犯罪の実行への再投資に利用されやすい。
4 法整備の必要性
○ 没収・追徴を含め,犯罪収益の利用を規制するための刑事法上の措置が十分でない。
○ 密行性の強い犯罪に対する捜査の手段が十分でない。
○ 証人等の保護を図る措置が十分でない。
第2 法整備の位置付け
第3 諮問の内容
別紙
第一 組織的な犯罪に関する刑の加重等
一 一定の組織的な犯罪の刑の加重
犯罪実行のための組織を作り又は団体の不正な権益に関連して犯した犯罪(以下「組織的な犯罪」という。)に該当する一定の罪(例えば,賭博開張図利,殺人,逮捕監禁,強要,詐欺,恐喝等)につき,その刑を加重すること。
二 組織的な犯罪に係る犯人蔵匿等の刑の加重
組織的な犯罪に係る犯人蔵匿等,証拠隠滅等及び証人等威迫の罪につき,その刑を加重すること。
三 予備罪の刑の加重及び新設
組織的な犯罪に該当する殺人の罪につき予備罪の刑を加重し,組織的な犯罪に該当する営利目的等略取及び誘拐の罪につき予備罪を設けること。
第二 犯罪収益等による事業経営の支配等の処罰
一定の罪(例えば,財産上の不正な利益を得る目的で犯した死刑又は無期若しくは長期五年以上の懲役に当たる罪及び懲役以上の刑に当たる罪であって多額の財産上の不正な利益を生ずることが多いもの)の犯罪行為により得た財産等を犯罪収益等とし,これについて,次の行為を処罰すること。
1 犯罪収益等の出資,貸付け等による影響力を利用して,法人等の事業経営を支配し,又はこれに干渉する行為及び法人等の事業経営を支配し,又はこれに干渉する目的で犯罪収益等の出資,貸付け等をする行為
2 犯罪収益等を隠匿する行為及びこれを収受する行為
第三 没収及び追徴の拡大
一 犯罪収益等の没収及び追徴
犯罪収益等については,その没収の対象を金銭債権に拡大し,その他その没収及び追徴の制度を整備すること。
二 犯行供用物件等の没収
法人等の構成員が法人等の物を組織的な犯罪の犯罪行為の用に供した場合等に,その没収を可能にすること。
第四 令状による通信の傍受
一定の罪(例えば,死刑,無期懲役又は無期禁錮に当たる罪,薬物又は銃器に関する罪,略取及び誘拐の罪等)の捜査に関し,裁判官の発する令状により,犯罪の実行に関連して行われる電話その他の電気通信を傍受する制度を設けること。
第五 証人等の保護
証拠の閲覧及び証人尋問に際して,証人等の氏名,住居等,その特定に関する事項の取扱いにつき,証人等の安全に配慮する措置を講じること。
第六 没収に関する手続等
第三の一の没収の範囲の拡大に伴い,必要な手続等を整備すること。