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文書提出命令制度小委員会(第4回)議事要旨

平成9年10月24日
担当:法務省民事局

1 日時   平成9年10月24日(金)13:30~16:30
2 場所   法務省第1会議室
3 議題   研究会成果の報告並びに論点の整理及び分析
4 会議経過
 (1)  竹下小委員長から,委員の異動が報告され,新任委員が自己紹介を行った。
 (2)  事務当局から,文書提出命令制度研究会(第5回から第8回まで)における議事の概要について説明がされた。
 (3)  事務当局作成の「文書提出命令制度論点メモ」(以下「論点メモ」という。)に基づき,意見交換が行われたが,その内容は,おおむね次のとおりであった。
  ○ 「提出除外(拒絶)事由」(論点メモ第2の2)
   ・  情報公開法ができると,従来から言われている職務上の秘密の概念がかなり明確になるから,文書提出義務については,従来のように「職務上の秘密」という概念を使って規定してもよいであろう。
   ・  情報公開法の不開示情報と職務上の秘密との関係はどうなっているか。
   ・  情報公開法の不開示情報に該当しない情報については,職務上の秘密に該当しないと考えてよいだろう。したがって,情報公開法の手続で請求されて開示したものについては公務員法上の守秘義務違反に問われることはないと考えられる。もっとも,情報公開法で不開示情報に該当するが,別の公益目的のために裁量で開示する場合については,守秘義務を解除するものかどうかについて議論があり,もともと違法性がないという見方と,もともと違法性はあるが阻却されるという見方とがあった。
   ・  情報公開法によって請求されて開示した場合にだけ守秘義務違反にならないことになるのか。行政庁が不開示としたが,情報公開訴訟で不開示処分が取り消された場合はどうか。
   ・  情報公開法では,開示するかどうかを決めるのは行政機関の長(例えば,各省庁の大臣)であり,守秘義務違反になることはないと考えられる。訴訟になって,最終的に裁判所が判断して不開示情報に当たらないということになれば,守秘義務はないはずだと考えられよう。
   ・  行政機関の長ではなく,下級の公務員の場合には,守秘義務と開示すべき義務との衝突が起こることもあるのではないか。
   ・  一般的な定めである公務員法の場面と民事訴訟という特別な場面とで,秘密の度合いが違っていても,法的な手当ては必要がないと思われる。
   ・  日弁連案の「公共の重大な利益が害されることが明らかなもの」における「明らか」という文言は,手続的にはどのような意味があるか。
   ・  裁判所が判断する際の証明の程度において,「害されるおそれ」では足りず,「害されることが明らか」でなければならないという点で違いがある。
   ・  手続的に十分証明しなければならないという意味しかないとすると,「明らか」と書かなくても同じことではないか。
   ・  実体的な要件として,開示すれば重大な公益が害されるという因果関係が明らかなことが要件となっているから,手続的にも関係することになる。
   ・  日弁連案で「明らかなもの」としたのは,刑事訴訟法で「公共の重大な利益が害される」ことに「行政の運営上著しい支障を生ずるおそれ」がある場合を含むという解釈があり,この場合を含まない趣旨をはっきりさせるために「明らかなもの」を入れたものである。
  ○ 「その他」(論点メモ第2の3)
   ・  情報公開法においてグローマー拒否が問題になるのは,不開示情報によって保護すべき利益が,文書の存否を明らかにするだけで害される場合である。民事訴訟でグローマー拒否が問題になる場面は二つ考えられる。第1は,文書を具体的に特定して文書提出命令を申し立てたときに,行政庁側が文書の存在を明らかにすること自体が秘密を明らかにすることになるために差し支えが生ずるという場面である。この場面では,仮に当該文書があるとしても,拒絶事由があるというように,仮定的主張をし,裁判所も,文書の存在を仮定して,拒絶事由について判断し,拒絶事由がないときには,文書の存否について具体的に審理すればよいのではないか。第2は,文書の特定ができないときに,文書を十分に特定しないで文書提出命令を申し立て,相手方に文書の表示とその趣旨を明らかにするように求めた場面である。この場面では,行政庁が存否を明らかにしないと,およそ文書の特定ができないことになる。新法第222条第2項には,「文書提出命令の申立てに理由がないことが明らかな場合を除き」とあるので,拒絶事由の存否という点で議論すべきだろう。いずれにしても,グローマー拒否に類することを明示的に規定する必要はないと考える。
   ・  新法第222条第2項において,「文書の所持者に対し,同項後段の事項を明らかにすることを求めることができる」ということの法的性質については,議論があるところであり,前記の第1の場面では,グローマー拒否が問題になることもあり得る。
  ○ 「提出義務の存否の判断権の在り方」(論点メモ第3の1)
   ・  最終的判断権というのは,第一次的判断権はだれか別の者にあって,それが正しいかどうかを裁判所が判断するという趣旨か。
   ・  常に第一次的判断権者がいるという趣旨ではない。
   ・  そうすると,第一次的判断権というのはどのような意味を持つのか。行政庁の意見を聴き,行政庁が拒絶事由を主張するという意味か。
   ・  行政庁側が拒絶事由があると判断し,裁判所は,行政庁がした判断に合理性があるかどうかということを審査し,拒絶事由の有無を直接判断するのではないという意味であろう。
   ・  情報公開法においては,開示・不開示の処分があり,その処分について司法判断をするから,第一次的判断権者,最終的判断権者という区分になじみやすいが,文書提出命令で,行政庁が述べるのは単なる意見なので,「最終的」という文言は誤解を招きやすいのではないか。
   ・  行政庁が単に意見を述べるだけでなく,正式な形で拒絶するという判断を最初にして,その当否を判断する構造であれば,第一次的判断権といえる。
   ・  行政庁側が提出を拒絶するときには,理由を明らかにしなければならないとの規定があって,その理由を示したときに,どこまで裁判所が審査するかという問題がある。
   ・  民事訴訟法案を審議した時の議論では,形はどのようであっても,行政庁が文書の提出を拒絶するとしたときに,それをそのまま尊重しなければならないのか,それに反して,裁判所が最終的に提出すべきだとの命令ができるのかどうかという点だけが問題とされたものである。
   ・  文書提出命令において,行政庁が提出を拒絶したときに,十分な理由付けを求めるかどうか,そして,拒絶した場合に,裁判所が公共の利益に重大な影響があるかどうかを直接判断するか,又は一応理由を説明させて,それが十分かどうかを審査するかという問題を含めて,最終的判断権として整理しているが,論点の整理のしかたを変えることも考えられる。
   ・  論点の整理のしかたは,事務当局に任せるが,イメージがわかるような形で整理してほしい。
  ○ 「秘密の種類と判断の在り方」(論点メモ第3の2)
   ・  日弁連案において,「最終的な判断権者は裁判所」とある一方で,「監督官庁の第一次的判断を介さずに」とあるのは,どのような関係にあるのか。
   ・  日弁連案では,監督官庁に意見を求める手続を設けていないが,これは,文書の所持者である行政庁が訴訟当事者であれば,文書提出義務の存否を争う過程で意見を述べるはずであるし,行政庁が第三者であれば審尋において意見を述べる機会があるという理由に基づく。また,日弁連案では,第一次的判断権者がないから,最終的ということではなく,直接裁判所が判断するという趣旨である。
   ・  情報公開法においては,不服審査会は,その裁量でインカメラ手続によって文書を見ることができるが,情報公開訴訟では裁判所が非公開審理で文書を見ることは予定していないことを前提にして,国防,外交関係,犯罪捜査等の重大な情報を,裁判所が文書を見ずに判断するのは負担が重いという意見と重大な国家機密については裁判所の最終判断に委ねるわけにはいかないとの意見とがあった。もっとも,私は秘密の種類を書き分けなくても,裁判所は合理的に判断できるとの意見である。また,文書提出命令について,提出除外事由として規定すれば,情報公開法とは形式的構造は違ってくるから,秘密の種類で書き分ける必要はない。
  ○ 「提出義務の審理方式」(論点メモ第4の1(1))
   ・  アメリカのインカメラ手続と新法のインカメラとの違いはどこにあるか。
   ・  公の情報については,裁判官が文書を閲読するという意味でのインカメラ手続を行なうことができるが,国家機密については文書の閲読は予定されていない。また,当事者の立会権においても違いがある。
   ・  イギリスにおいては,秘密の種類による審理手続の違いがあるか。
   ・  必ずしも明確な違いは設けられていないが,若干ニュアンスの違いはある。プライベート・インスペクションは,秘匿特権が問題になるすべての種類の文書について行なうことができる。
   ・  報道関係者のヒアリングの中で,インカメラ手続を日本に導入すると,裁判所にとって負担になるのではないかとの意見があったが,この点はどうか。
   ・  負担において,他の事件と大きな差はない。むしろ,裁判所にどこまで任せてもらえるかに関心がある。
   ・  負担があるとすれば,文書提出命令を出すかどうかの判断においてであろう。インカメラ手続が採用された場合においても,常にインカメラ手続を経なければならないわけではない。
   ・  文書を閲読すれば,すぐに判断できるものもあるが,文書を見ただけでは十分な理解をすることができず,当事者の説明を要する場合も少なくないと思われる。このような場合であっても,インカメラ手続では反対当事者の反論を聞くことができない状態で判断しなければならなくなる点で難しさがある。
   ・  インカメラ手続で文書を閲読するために,裁判所から提示を求められた場合,文書の所持人は監督官庁の承認を得なければならないのか。
   ・  微妙な問題ではないか。
   ・  私文書については,新法で既にインカメラ手続が導入されている。提示を命じても,その命令に強制力はないことを基本に考える必要がある。
   ・  公文書については,インカメラ手続における提示であっても,上級庁との関係が問題になるのではないか。
   ・  例えば,登記の場合には,現場の登記官が処分権限を有しており,記録も保管する責任があるので,上級官庁に意見を具申することがあっても,それはあくまで参考であり,最終的判断は登記官が行なうことになるだろう。
   ・  インカメラ手続のための提示を求められた場合に,上級庁が応じないということは,提示を拒否する法律上の理由にはならないことになるのか。
   ・  そのように思われる。
   ・  日弁連案で,インカメラ手続を公文書にも及ぼしたときにも同じ結論になるか。
   ・  インカメラ手続における提示をしなかった場合の影響は,立証責任の問題も関係し,事案に応じた判断となり,一義的には決まらないのではないか。
   ・  文書を提示しない場合よりも,文書をインカメラ手続で提示して,一方だけが説明した場合にどう判断するかが実務上問題である。
   ・  その点は,ヴォーン・インデックス等によってある程度問題を解消できるのではないか。
  ○ 「情報公開訴訟における文書提出命令申立て」(論点メモ第4の1(2))
   ・  情報公開法要綱案では,情報公開訴訟において,開示・不開示が争われている文書だけではなく,そもそもインカメラ手続は導入しないことにしているのか。
   ・  そもそも導入しないという考え方である。
   ・  情報公開訴訟で開示・不開示が争われている文書そのものについて文書提出命令を認めると,文書提出義務の審理で本案の目的を達してしまうので,当然そのような申立ては許されないことになろう。新法では,証拠調べ自体を非公開でやることは定めていない。
   ・  この論点は,こうした問題について法的な手当てをすべきかどうかである。
   ・  情報公開法で,「情報公開訴訟については,この限りでない。」との規定があればよいが,民事訴訟法に規定を置くのは難しいのではないか。
   ・  実務において,ヴォーン・インデックスに似た方式を使う可能性はあると思うが,特別に法的手当ては必要としないと思われる。条理上このような申立ては許されないと考える。
   ・  情報公開訴訟において,開示・不開示が争われている文書が当該訴訟における文書提出命令申立ての対象にならないと理論上当然に言うことはできないから,何らかの規定が必要となるのではないかと考える。
   ・  地方自治体の情報公開条例をめぐる訴訟では,事実上インカメラ手続を利用したケースがあるとの報道もあるようだ。
   ・  和解手続で文書を見て,一部開示の和解が成立したとの話は聞いたことがある。しかし,この論点について,特別の規定を置くと,裁判所が実務上の工夫をする余地をなくしてしまうことになりかねないので,特別の規定を置くことには反対である。
  ○ 「インカメラ手続以外の審理方式」(論点メモ第4の2)
   ・  ヴォーン・インデックスは,アメリカの法律又は規則で規定されているのか。
   ・  規定はないと思う。
   ・  ほとんどは,宣誓供述書の形をとって,整理されているようだ。ヴォーン・インデックスにより裁判所にも分かりやすく説明すると,インカメラ手続を使わずに済むことも少なくないようだ。
   ・  ヴォーン・インデックスの方式で出された宣誓供述書等は相手方当事者にも見せるのか。
   ・  相手方にも見せるから,納得を得られやすい。
   ・  情報公開条例に関係する訴訟では,ヴォーン・インデックスに類似した方法を実際に用いている。また,文書の一部の提出命令の規定がある新法では,ヴォーン・インデックスに類似した方法を実際に使わざるを得なくなるだろう。
   ・  民事訴訟規則に規定を置くことも考えられるのではないか。
   ・  運用の妙味を殺さないような規定ができれば,民事訴訟規則に置くことも考えられる。新民事訴訟規則第140条第1項及び第2項によって,文書提出命令の申立ても,それに対する意見も書面で出すようになっていることが手がかりになるだろう。
   ・  特に規定を置かなくても,運用で十分対処できるのではないかと考える。
   ・  もし,ヴォーン・インデックスに関する規定を置くと,私文書も対象とせざるを得ないのではないか。
  ○ 「第三者の保護」(論点メモ第4の3)
   ・  第三者が不服申立てをすることのできる情報公開制度とは異なり,民事訴訟では,行政庁が拒絶事由を主張する中で,第三者の利益を反映させることしか考えられないだろう。
   ・  第三者の利益を保護するために,文書提出命令の要件のハードルが高くなるのは妥当でない。
   ・  情報公開法要綱案の第三者保護手続は,情報公開条例にある手続よりも厳格になっており,日弁連は,第三者保護に厚いあまり,開示の要件が厳格になるとして反対している。民事訴訟と情報公開制度とでは構造が全く違うし,解釈上は第三者の秘密も所持者の秘密の一つとして考えることになるので,特に第三者保護の規定を置く必要はない。
   ・  第三者本人を所持者とする文書提出命令の申立てがあったときに,第三者が提出しなくてよい場合には,たまたまその文書を公務員が所持していても提出しなくてよいと解釈するのが基本であるから,第三者の意見聴取の規定を置く必要はないのではないか。
   ・  場合によっては,公共の利益を害し,又は公務の執行に支障を生ずるという中に含めて考えることも可能だということになろう。
   ・  第三者の意見を聴く仕組みを設けた上で,第三者に不服申立権を認める考え方もありうると思う。