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文書提出命令制度小委員会(第5回)議事要旨

平成9年11月28日
担当:法務省民事局

1 日時   平成9年11月28日(金)13:30~16:30
2 場所   法務省第1会議室
3 議題   論点の整理及び分析(続)
4 会議経過
    前回に続き,事務当局作成の「文書提出命令制度論点メモ」(以下「論点メモ」という。)に基づき,意見交換が行われたが,その内容は,おおむね次のとおりであった。
  ○ 「文書提出命令と情報公開制度との関係」(論点メモ第5)
   ・  情報公開法においては,開示請求の相手方は行政機関になるが,民事訴訟においては,文書提出命令の相手方である「所持者」は,「公務員又は公務員であった」個人として考えるのか,公務員に行政庁を含めて考えるかについて,どのように考えたらよいか。
   ・  従来は,証人尋問の場合と同様に考えてきたが,この点についてはもっと分析が必要であろう。
   ・  これまで,行政庁を名宛人として文書提出命令が出されたことがあるのではないか。
   ・  行政訴訟では,行政事件訴訟法第11条により,行政庁に被告適格が認められており,行政庁単位で文書提出命令の所持者を観念しているのが一般の扱いであろう。そのため,A税務署長が被告のときに,B税務署長の所持する文書は第三者の所持する文書ということになる。これに対し,国家賠償等の民事訴訟では,国を所持者とする文書提出命令の申立てが多いように思われる。この場合でも,国側が所持者が特定されていないとして争う例はほとんどないのではないか。
   ・  国家賠償請求訴訟では,国や地方公共団体自体を所持者とする申立てが多いと思う。
   ・  民事訴訟法では,もともと機関という概念がなく,国が所持者で公務員が機関であるとの考え方にはなじみにくい。また,国が所持者だとすると,国について監督官庁を観念することができるかは,難しい問題であろう。
   ・  文書提出命令の相手方は訴訟上の権利主体である必要があると考える。私人についてみれば,会社の一社員が文書を持っている場合でも,所持者は会社になるから,国の場合にも,所持者は国ではないか。
   ・  新法第224条の真実擬制との関係でみて,行政訴訟において,被告でない行政庁に対して文書提出命令が発せられたが,文書を提出しなかった場合にどうなるかという問題がある。
   ・  所持者をどう考えるかに関し,不提出の場合の過料の制裁も問題になるが,行政訴訟では,行政庁が不提出の場合に国に対して過料を課すことは執行法上の制約からやむを得ないと考えられている。
   ・  政府原案の段階では,監督官庁の承認という制度にしていたのであるから,証言拒絶の場合と同様に,自然人を所持者として捉えていたのではないか。行政庁を所持者として,文書提出命令の申立てがあった場合には疑問がある。
   ・  新法第220条第2号の請求権に,情報公開法上の開示請求権が含まれると考えてよいのではないか。日弁連案で,「公務所等」としているのは,単に「公務所」としただけでは,特殊法人を含まないと考えるからか。
   ・  日弁連案で,「公務所等」としているのは,単に「公務所」としただけでは,特殊法人を含まないと解釈される可能性があるからである。また,「公務所等が保有する文書の開示を求める公法上の請求権」としているのは,公務所等が私人に対して有する閲覧又は調査請求権を含まない趣旨である。
   ・  日弁連案で公法上の請求権を含むとした場合,情報公開法案や情報公開条例における文書の所持者は行政機関であることを前提にしているのか。
   ・  十分検討していないが,行政機関を所持者だと考えることになろう。
   ・  公務員個人を所持者と捉えることはないと思う。情報公開法における行政機関なのか,民事訴訟においては,国になるのかは議論があるかもしれない。
   ・  日弁連案の「公務所等が保有する」において,保有と所持の関係はどうなるのか。
   ・  保有と所持は同じ意味である。
   ・  新法第220条第2号は,伝統的には私法上の請求権を考えていたと思う。
   ・  日弁連案は,伝統的な考え方よりも,情報公開法との整合性を重視している。
   ・  新法第220条第2号の請求権には,公法上の請求権も含むと解するが,公法上の請求権の存否の最終的判断権者はだれか,文書提出命令というルートを通って文書を提出させるのが本来の姿かについて立法上慎重な配慮が必要だろう。
   ・  情報公開条例では,閲覧請求権者に住民要件を課しているものがあり,新法第220条第2号に公法上の請求権を含むとすることだけで公文書の問題に対処するものとすると,住民かどうかによって違いが生じ,民事訴訟の在り方としておかしなことになってしまう。公文書については,すべて一般義務の問題として扱うのが妥当である。
   ・  文書について,新たに一般義務を定めたとすると,それと新法第220条第1号から第3号までとの関係が問題になる。
   ・  一般義務と新法第220条第1号から第3号までとの調整をどこでやるかの問題があるが,第4号で調整を行なうとすると,情報公開法で自己使用文書を不開示情報としていないので,整合性に問題がある。
   ・  情報公開法上の不開示情報と文書提出命令における提出除外(拒絶)事由との関係や整合性をどう考えたらよいか。
   ・  情報公開法上の不開示情報を民事訴訟の手続で提出を求めれば開示されるということは不合理であるし,民事訴訟法上の提出除外(拒絶)事由があるときに,文書が提出されないのはやむを得ない。基本的には,両方の制限を受けることになってもやむを得ないのではないか。
   ・  調整のしかたとして,例えば,新法第220条第4号に職務上の秘密の点を書き,その中で情報公開法によって開示されるものは除くとすることになるのではないか。この点では,アメリカの情報自由法と秘匿特権との関係が参考になる。また,情報公開法で開示されるものは文書提出命令でも提出されることは,解釈論ではなく,明文で第2号に規定すべきである。
   ・  政府原案を審議した時点では,情報公開制度はまだ固まっていなかったが,民事訴訟法は情報公開法よりも進んでいてよいと思う。
   ・  立法技術的にはいろいろあるが,文書提出命令では,情報公開法の開示文書にプラスアルファした文書の提出が認められるべきではないかと思う。
   ・  情報公開法と民事訴訟法とにおいて,提出される文書の範囲を単純に比較することはできず,事件の内容によって異なるのではないか。新法第220条第1号から第3号までは,情報公開法とは異なる部分であり,この部分は既に民事訴訟法の方が広いことになっている。
  ○ 「証言拒絶権との関係」(論点メモ第6)
   ・  最近の日弁連の考え方は,文書提出命令だけでなく,公務員の証言拒絶についても改正すべきだとの意見が強くなっている。例えば,証言拒絶における監督官庁の承認も司法審査の対象にすることが考えられる。
   ・  証言拒絶においては,尋問を受ける前に,公務員と監督官庁とが協議することが可能であろうか。
   ・  尋問事項書を詳しく書くなどの実務上の対処が考えられる。
   ・  証言拒絶と文書提出命令との関係においては,司法審査の対象になるかどうかという点と秘密として保護される範囲の点との2点について,歩調を揃えるかどうかが問題になりそうだが,この点はどうか。
   ・  証言拒絶権との関係がネックになって,文書提出命令制度の改正が進まないことは好ましくない。証言拒絶と文書提出とで異なる扱いをすることが,理論上,おかしくないといえるかどうかは問題であろう。
   ・  文書提出命令と証人尋問とでは,相手方が異なると考えられるのではないか。公務員を証人として尋問する場合には,国や監督官庁が有する秘密について秘密を有する本人が証言することにはならず,本人以外の者が証言することになる。しかし,文書提出命令の場合には,国等が持っている文書を国等が出さなければならないかどうかを決する問題であり,両者は次元が異なるのではないか。
   ・  文書は,既に存在するが,証言は,聞いてみなければわからないという点で,証拠方法の性質が違うと考えられる。また,インカメラ手続ができるのは文書に限られるので,両者の整合性をとろうとしても容易にはいかない。
   ・  新法第191条第2項の承認については,行政不服審査又は行政訴訟で争えるとの見解もあるようだが,争えないことを前提に議論することになるのか。
   ・  行政訴訟の対象にならないと判断した裁判例があるようである。
  ○ 文書提出義務の要件の立証責任について
   ・  文書提出命令について,証言拒絶とは別のものとするのでない限り,新法第220条の書きぶりと同じようなことになるのではないか。立証責任についても証言拒絶との関係で整合的に説明できるかが問題である。情報公開法では,一般的な開示請求権であるから,拒絶事由とし,民事訴訟法では,裁判の公正のためであることから除外事由とするということになってもかまわないと考える。
   ・  国の安全や外交上の秘密について,挙証者側に立証責任を負担させると,挙証者が知る可能性の低い事項について立証責任があることになり,そのような考え方には疑問がある。
   ・  情報公開法で開示されるようなものについては,不開示情報に該当することの立証責任を行政機関が負うことにしないと,情報公開法との整合性がとれない。民事訴訟法にだけ規定されているものについては,従来のように除外事由でもやむを得ない。そのためには,例えば,第4号において「ただし,情報公開法で開示されるものは除く。」とすればよいのではないか。
   ・  民事訴訟法にだけある部分についても拒絶事由とすべきではないか。
   ・  新法第220条第4号については,立証責任は挙証者にあると言いながら,実際には所持者側が立証するというような解釈もあり得よう。しかしながら,立法として考えるのであれば,全体として拒絶事由として規定する方がよい。拒絶事由として規定してはじめて,一般義務にしたといえるのではないか。
   ・  新法第220条第4号は,第198条と明らかに整合性がない。第220条第4号の規定ぶりに疑問がある。秘密保持,黙秘義務の免除の立証責任を挙証者側にあるとするのは,不可能に近い立証となるのではないか。
   ・  立証責任がどちらにあるかということよりも,どんな文書が存在するかに主要な立証のテーマがあるので,どちらに規定しても実務への影響は少ないと考えられる。
   ・  立証責任における真偽不明とインカメラ手続との関係はどうなるか。
   ・  公文書について,インカメラ手続を導入するとした場合と導入しないとした場合の両方で,立証責任を考える必要がある。そこで,インカメラ手続まで使ったが,真偽不明という場合もあり得る。
   ・  イギリスでは,インカメラ手続を利用する前の段階で,真偽不明と判断して,申立てを却下する例があり,議論になっている。イギリスは,拒絶事由の構成であるが,一般文書全般についてそうなっている。仮に,日本で,公文書と私文書の間で立証責任が異なることになるとすると,そのように区別する合理性には疑問が残るのではないか。
   ・  第三者保護を図るあまり,文書提出義務の要件が厳しくなりすぎることは妥当でないが,第三者に対する手続保障が必要であれば考えてみるべきだとの意見が日弁連内に出ている。
   ・  第三者の保護を図るには,第三者の利益を保護するための除外(拒絶)事由を設けることになるのか。
   ・  第三者が提供した文書について,著作権法上の公表権との関係が問題になるのではないか。証拠調べについて非公開審理を認めないのであれば,第三者の保護を無視できない。
   ・  第三者の保護は,所持者が図ることで十分ではないか。
   ・  裁判所が任意的に第三者を審尋する手続があった方が,手続を円滑にすることになると考える。
   ・  経済団体の方からのヒアリングでは,第三者の秘密について,行政庁が秘密の重要性についての判断を誤る危険があることを指摘していた。
   ・  行政庁が判断を誤って,提出してしまった場合はやむを得ないのではないか。
   ・  裁判所から第三者に対して意見を聴くとなると,多数の第三者に聴かなければならない場合が起こり得る。裁判所が第三者の意見を聴くとしても,挙証者や所持者の意見をきっかけにせざるを得ない。裁判所の裁量で意見を聴く制度にしないと,制度が働かない懸念がある。第三者審尋に関する新法第335条と同様に考えることができないか。
   ・  行政庁で一綴りになった文書がある場合において,文書提出命令の対象となる文書は,全体を言うのか,その中の個々の文書を言うのか。
   ・  事件ごとに判断するほかはないだろう。
  ○ 情報公開訴訟における文書提出命令について
   ・  文書提出命令によって裁判所に文書が提出されることと不開示処分取消訴訟で請求が認められることとは,法的効果において同じか。
   ・  開示事由の定め方で,仮に民事訴訟法の方が広いことになると,情報公開法で出せない文書が文書提出命令によって提出されることになり,本案の先取り以上の効果が文書提出命令に与えられてしまう。
   ・  文書提出命令の方が広く文書が提出されるとなると,手数料等の行政上の開示のための手続を,省略できることになるのではないか。
   ・  現行法第312条第2号に公法上の請求権を含むかどうかの議論において,その点は問題にされている。
   ・  現行法第319条ただし書に照らして,手数料等の手続を省略できないと解すべきことになるのではなかろうか。
   ・  日弁連案では,手数料等の手続を省略できることをメリットと考えている。