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文書提出命令制度小委員会(第7回)議事要旨

平成10年1月30日
担当:法務省民事局

1 日  時  平成10年1月30日(金)13:30~16:30
2 場  所  法務省第1会議室
3 議  題  法律案要綱案(案)の検討
4 会議経過
 (1)  議論に先立ち,日弁連から提出された意見書の趣旨について,弁護士会推薦委員から説明がされた。
   ・  本日提出した意見書は,日弁連の対策委員会の検討結果を,本日の小委員会に間に合うように暫定的にまとめたものであり,理事会を通した正式なものではない。日弁連としては,後日,正式な意見書を提出するとのことである。
 まず,前回配付された骨子一の2の公務秘密文書については,昨年7月に提出した意見書と同様に,「公共の重大な利益が害されることが明らかなもの」と絞りをかけるべきであるという意見である。骨子一の4に対しては,自己使用文書が公務文書にかかることは不適当であり,公務文書については,これを削除されたいという意見である。骨子一の5の刑事記録等については,前回の骨子で初めて示されたものであり,一般的に除外することは,証拠が提出されにくくなるおそれがあり,問題がある。少年保護事件の記録については,もっともな点もあるが,一律に除外する点が問題である。骨子三のいわゆる特別席については,私文書との格差が生じ,この部分については,インカメラ審理の対象とならずに決定がされる危惧がある。提出除外事由の立証責任について,特に公務秘密文書については文書を所持する側に秘密であることの立証責任があるとすべきである。
 (2)  「民事訴訟法の一部を改正する法律案要綱案(案)」(以下「要綱案(案)」という。)について,事務当局から説明が行われた後,これに基づいて議論がされた。その内容は,おおむね次のとおりである。
  ○ 要綱案(案)の「文書の所持者」概念について
   ・  今回の要綱案(案)では,国も所持者であることが読める点で,骨子よりも良くなっている。しかしながら,国のみを所持者とすることに具体的な不都合があるのかは,疑問である。現行法との連続性にとらわれる必要はないのではないか。
   ・  国を所持者とすることに不都合はないと思われるが,他方,現行法との連続性,文書を直接握持する者も所持者とする,これまでの民事訴訟法の一般的な解釈との整合性ということから,国だけが所持者と明定する必要があるかは疑問もあり,公務員個人を所持者としても実際には不都合はないだろう。
   ・  公務員が所持している文書につき,私人間の訴訟において,国を相手方とする文書提出命令の申立てをした場合には,法務大臣権限法の適用がない場面であることから,国のみを所持者とすると不都合な事態が生じ,全体の法制と平仄がとれない点が生じてくるのではないか。
  ○ 要綱案(案)一の除外文書に関する証明責任について
   ・  証明責任を国側に負担させることに実質的に不合理な点があるのであれば,除外事由構成でも理解できる。しかし,除外事由と構成することの理由が,拒絶事由とすると法文の表現が誤解を招くということであるのならば,実質的趣旨を十分に説明すれば足りるのではないか。
   ・  証明責任の点については,公務秘密文書特有の問題というより,そもそも現行の220条の4号の考え方自体に内在する問題であるといえるのではないか。
  ○ 要綱案(案)一2について
   ・  2は,所持者については,国や「公務員又は公務員であった者」以外も含めるものであり,公務員の職務上の秘密に関する文書であれば,現在の所持者が誰かは問わないものである。二1で意見聴取先となる「当該監督官庁」とは,権限を有する監督官庁という意味であり,ここでいう「当該監督官庁」とは,所持者に対する監督官庁ではなく,秘密を前提に考え,当該守秘義務を解除することについての判断権限を有する監督官庁という意味である。二1の括弧書部分は,そのことを前提とした表現となっている。証人尋問の場合は,人の記憶内容を対象とすることから,証拠調べの対象となる者と守秘義務を負う者とが分離する可能性はないが,文書の場合は占有が移転し得ることから,所持者と守秘義務を負う者とが分離する場合があることになる。
   ・  証人尋問の場合の191条は,たとえ従前の監督官庁の秘密に関する場合であっても,当該公務員の現在の監督官庁であると解しているのが多数説的な解釈であるが,この部分については,誰が問題となった事項についての守秘義務の解除権者かという公務員法上の解釈問題と思われる。
   ・  191条の当該監督官庁の意義については解釈が分かれており,あるいは証人尋問とは異なることになるかもしれないが,ここでは当該秘密に関する監督官庁という意味で捉えればよいのではないか。
  ○ 要綱案(案)一4(自己使用文書)について
   ・  公務員個人が,勤務時間中に,公務に関して作成した文書であれば,自己使用文書とする必要はないのではないか。
   ・  国を所持者とした場合に自己使用文書が認められるかどうかは,将来の解釈の問題であろう。
  ○ 要綱案(案)一5(刑事記録等)について
   ・  従来から刑事記録も1号から3号までの規定により文書提出命令の対象とされていたのであるから,刑事記録の開示については専ら刑事訴訟法等の規律によるということは,必ずしも,刑事記録を除外する十分な根拠とはならないのではないか。
   ・  少年保護事件や刑事公判中の事件については,民事事件を担当している裁判官ではなく,少年保護事件や刑事事件を担当している裁判官が記録の開示の可否を最も良く判断できるという点は理解できるが,刑事確定記録については民事事件の担当裁判官が判断してよいのではないか。
   ・  仮に,要綱案(案)一の5のような刑事記録等に関する規定を設けるとしても,例えば「刑事記録であって,訴訟関係人の名誉その他の利益を著しく害するおそれがあるもの」等の限定を付した方がよいと思われる。
   ・  刑事記録等を除外する要綱案(案)一の5のような規定を設けた場合には,現行法の220条3号についての解釈も狭くなるおそれがあるのみならず,送付嘱託や弁護士会照会についても,影響が生じるおそれがある。
   ・  被害者が原告となっている訴訟では刑事記録を利用したいと思う場合があるが,株主代表訴訟や住民訴訟の場合には,証拠漁り的な申立てがあったときは,民事の裁判官が,刑事記録の提出について判断することにはちゅうちょを感じる。刑事記録を一般義務の対象から除外した場合に,例えば,違法捜査を理由とする国家賠償請求であれば,現行法の確定した解釈で提出を命ずることができるだろうが,犯罪被害者については,現行法の解釈で提出を命ずることができる場合は少ないだろう。もっとも,この点は,別途の検討が必要な問題ではないだろうか。
   ・  この点については,法務省内部で,犯罪被害回復制度研究会を発足させて,犯罪被害者の民事的救済を図るための方策についての検討が開始されている。この中で,例えば,付帯私訴のように民事と刑事とをリンクさせた被害者救済のための制度等を設けることの可否についても検討しており,この種の手続ができた場合には,同一の訴訟記録となるので,問題の解決が図られることになると思われる。犯罪被害者の民事的な救済も,全て文書提出命令によって図っていくということは適当ではなく,このような法制度全体の検討の中で実現を図っていくべきではないか。
   ・  刑事記録の除外については,従前,研究会においても議論されておらず,どのような経緯で入ったのか。また,刑事事件や少年保護事件の記録のうち,民事事件に出すべきではないものがあることは承知しているが,逆に民事事件において利用すべきものもあり,一律に除外するという点は疑問がある。
   ・  刑事記録について除外するという考え方は,情報公開法の要綱案の考え方の中でも,関連制度との調整として,適用除外文書の一つとされており,その意味では,既に指摘されていた考え方である。
  ○ 要綱案(案)二1(監督官庁の意見聴取)について
   ・  監督官庁の意見聴取について,訴訟当事者でない国を相手方とする提出命令の申立てがあった場合には,国を第三者として審尋し,更に監督官庁に対して意見を求めることになるが,国の内部問題として,監督官庁の意見聴取をすれば足りるのではないか。国会・裁判所の秘密との関係では疑問もあるかもしれないが,少なくとも行政庁との関係では,内部問題として処理すれば足りるのではないか。
   ・  所持者としての意見と,秘密の解除権者としての当該監督官庁の意見では,後者は秘密の開示の当否という点に特化したものであり,内容が異なるのではないか。裁判所が秘密について判断する際の参考として,秘密の開示についての判断権者の意見を必ず聴くという手続にしておくことにより,参考意見の聴取が制度的に確保されることになり,制度としても望ましいのではないか。
   ・  裁判所が監督官庁から直接に意見を受けられる方が,手続を明確にし,責任の所在が明らかになり,必要があれば意見の趣旨を確認することも容易になるので,実務的には効率的なのではないか。
   ・  仮に裁判所が監督官庁の意見を聴かないで命令を出したときには,監督官庁は即時抗告をすることができることになるのだろうか。
   ・  提出命令はあくまでも所持者である国又は公務員に対するものであるし,監督官庁自体には法主体性がないので,即時抗告の主体となることは,考えにくいのではないか。
   ・  「当該監督官庁」という用語が,公務員個人を監督する官庁という印象を与えるので,仮に別の用語が考えられるのであれば,改めてはどうか。
   ・  民事訴訟法・刑事訴訟法では,国家公務員法上の「所轄庁の長」と地方公務員法上の「任命権者」とを包摂する概念として「当該監督官庁」との文言を用いている。証人と文書とで証拠方法の性質上の違いから表現が多少異なってはいるが,実質については,問題となる秘密について守秘義務の解除をする権限を有している官庁という意味で,同一の概念を用いているものである。
   ・  対人的な文脈で使われることの多い「監督」という用語が使われているのは,国の秘密といっても,国固有の秘密が観念できるものではなく,個々の公務員が職務上守秘義務を負っている事項を総体としてとらえて,国の秘密を観念すべきものであることによるのかもしれない。
  ○ 要綱案(案)二2(いわゆる特別席)について
   ・  特別席について,「相当であると認めるに足りない場合に限り」と規定されると,相当性の有無に疑問がある場合のリスクは申立人側が負担することになり,骨子に比べて,インカメラ手続を利用できる範囲が狭くなるおそれがあるとともに,裁判官の判断が及ぶ部分が狭くなるのではないか。
   ・  骨子から実質を変更したものではなく,専ら条文にした場合に表現がどうなるかという観点から,表現を修正をしたものである。骨子の実質を端的に条文化すると「相当と認められない場合には,却下する。」などと書くことになるが,このような表現が適当かという問題もあり,要綱案(案)の表現にしたものである。
   ・  「認めるに足りない」とか「限り」という表現を用いていることが,範囲が狭いと受け取られる原因となっているのではないか。表現ぶりを工夫してはどうか。
   ・  手続過程が分かりやすくなるように,「意見が相当か否かを審理して判断する。」ということを法文上明確にした方が説得的ではないか。
   ・  相当性の判断は,(1)事実の根拠が欠けているかどうか,(2)推論の過程に合理性があるかどうかによって,することになろう。(2)の判断は,意見そのものに基づいて行うことになるが,(1)の判断は,事実が記載されているかどうかをインカメラで審理する必要がある場合があろう。
   ・  手続的にも,申立人には反論をする機会が与えられることになろう。例えば,この点を明確にするために,規則で,反論が出たときは相手方へ通知をするというような手当ても考えられるのではないか。
   ・  特段の手続規定を設けなくても,実務上は,裁判所が当然相手方に意見を聴く運用となるのではないか。
   ・  情報公開法においては,不開示情報であることの立証責任は行政機関にあり,当該立証に成功しない限り裁判所は開示を命じなければならないという責任を負っているので,裁判所の負担を軽減する観点で,特別席というものが意味がある。他方で,文書提出命令では,除外文書に該当するかどうか不明であるときは,命令を出さなくてよいのだから,この点が異なっている。よって,特別席について判断の仕方を変える必要はないのではないか。
   ・  国防の秘密などについては裁判所としても判断に慣れていない面があり,特別席のような規定があれば,判断の仕方についての参考となるのではないか。
   ・  二2については,「相当であると認めるに足りない場合に限り・・提出を命ずる」ではなく,「相当であると認める場合を除き・・提出を命ずる」という表現になるのではないか。
   ・  220条を改正する際に,1号から3号までと4号とを折衷して作ったために形がうまくまとめられていないが,この際,実質できちんと定めておくべきではないか。
   ・  「相当であると認めるに足りない場合に限り」とは,「相当であると認める場合」以外の場合を意味しているので,相当であるか否かの判断が付かない場合が観念できるとすれば,その場合にも提出命令を発することができることになる。このように,原案の表現でも,決して範囲が狭くなるものではないと考えるが,表現については,更に工夫したい。
   ・  特別席のような考え方を採るのであれば,公務秘密自体についての立証責任を所持者側に負わせないと理論的に一貫しないことにならないか。220条4号の柱書にただし書をいれることはできないか。
   ・  原則である一2との関係では,申立人が挙証責任を負うが,監督官庁において特別席に該当することを主張した場合には,挙証責任が転換し,官庁側がその責任を負うこととなるのではないか。原案の「相当であると認めるに足りない場合」との表現からすると,そのように理解できるのではないか。
   ・  特別席の規定は,判断方式に関する規定であり,裁判所が秘密該当性を初審的に判断するのでなく,ここに規定されているような方式で判断することを定めているものと考えられるのではないか。この場合においては,監督官庁には特別席に該当することの指摘義務というようなものは発生しているが,厳密な意味での主張立証責任というようなものを考えることは,実益があるかどうか疑問もあろう。
   ・  一2により除外文書かどうかの立証責任は申立人が負っているとしても,二2の場合には,一段下の理由についての判断をすることになるので,特別席に係る指摘義務があるというのみでなく,その意見が相当であるということが監督官庁によって立証されなければ命令が出るということにしても,制度として矛盾するということにはならないのではないか。「意見が相当であると認められる場合を除き」というような表現にすればよいのではないか。
   ・  「相当であると認めるに足りない場合」には,必ず提出命令が出ることになるのか。それとも,一2の「おそれ」というものも別に判断することになるのか。「限り」との表現が採られていると,別の要件があるようにも読めるのではないか。
   ・  公務員の職務上の秘密に関する文書について,裁判所が監督官庁に意見を求めた場合に,監督官庁側の意見の中に,二2の各号に規定する国防上の秘密等である旨の主張がされているときは,その意見の相当性についての審理を行うことになる。このような規定ができると,当該各号に該当するものである場合には,監督官庁の方から,その旨の指摘がされ,ここに規定した特別の判断方式が採られることになろう。このように特別の判断方式が採られるかどうかは,監督官庁がそのような指摘をしてくるかどうかにかかっていることになるが,指摘がなければ,通常の公務秘密と同様に審理されることになる。いずれの場合であっても,必要があればインカメラをすることはできることになろう。
   ・  結局,直接に秘密該当性を判断するのか,いわば事後審的に監督官庁の意見の相当性を判断するのかという違いなのではなかろうか。
   ・  特別席の規定があるがために,インカメラが使われる場面が減るのではないかという危惧もあるが,裁判官の間で話し合ったところ,インカメラの運用がある程度は抑制的になっても,差し支えないのではないかとの意見が多かった。むしろ,インカメラ手続になると対審構造が停止してしまい,それ以上議論が行われないことになってしまうので,過度にインカメラ審理に頼るのは適当ではないのではないか。
 (3)  上記のような議論を踏まえて,要綱案(案)に修正を加えたものを部会に提出し,部会において更に審議をすることで了承された。