日 時
平成17年12月22日(木)午後2時〜午後5時30分
場 所
法務省大会議室(地下1階)
出席者
〔委 員〕 |
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(座長) |
南 | | 博 方 |
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大宮法科大学院大学教授,一橋大学名誉教授 |
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井 嶋 | | 一 友 |
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弁護士,元最高裁判所判事 |
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江 川 | | 紹 子 |
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ジャーナリスト |
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葛 西 | | 敬 之 |
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東海旅客鉄道株式会社代表取締役会長 |
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菊 田 | | 幸 一 |
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弁護士,明治大学法学部名誉教授 |
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久保井 | | 一 匡 |
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弁護士,元日本弁護士連合会会長 |
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佐 藤 | | 英 彦 |
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警察共済組合理事長,前警察庁長官 |
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瀬 川 | | 晃 |
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同志社大学法学部・大学院司法研究科教授 |
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(敬称略,五十音順) |
〔事務局・法務省〕 |
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小 貫 | | 芳 信 |
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矯正局長 |
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三 浦 | | 守 |
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官房審議官(刑事担当) |
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山 下 | | 進 |
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官房審議官(矯正担当) |
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林 | | 眞 琴 |
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矯正局総務課長 |
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北 村 | | 篤 |
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官房参事官(刑事・矯正担当) |
〔事務局・警察庁〕 |
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片 桐 | | 裕 |
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官房総括審議官 |
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岩 瀬 | | 充 明 |
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官房総務課長 |
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福 田 | | 守 雄 |
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官房総務課留置管理室長 |
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山 田 | | 知 裕 |
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官房総務課理事官 |
【北村官房参事官(法務省)】ただいまから,未決拘禁者の処遇等に関する有識者会議の第3回会議を開催させていただきます。
なお,本日,成田委員は所用のため御欠席でございます。
それでは,南座長,よろしくお願い申し上げます。
【南座長】今日はお寒い中,皆様お集まりいただきまして誠にありがとうございます。
まず,法務省から,前回の配布資料について訂正があるということでございますので,この点について説明していただくことにいたします。よろしくお願いします。
【北村官房参事官(法務省)】前回配布させていただきました資料のうち,資料8でございますが,「拘置所における未決拘禁者の外部交通の状況」と題する資料につきまして,休日における信書の発信件数が242件ではなくて54件であるなど,件数に誤りがございましたので,おわび申し上げますとともに,本日改めてお配りしておりますものに差し替えていただけますようにお願い申し上げます。
【南座長】それでは,第1回会議におきまして法務省,警察庁,日弁連からそれぞれの基本的なお考えを伺ったところでございますが,これについて御質問があればお伺いしたいと思います。なお,御意見にわたる事項につきましては,これからの御議論の中で御発言いただきたいと存じますので,今のこの段階ではプレゼンテーションの内容に関して是非確認しておきたいという御質問に限ってお願いできればと思います。
【久保井委員】久保井ですが,法務省のプレゼンテーションをお聞きして,私は大変驚いたことがあります。それは,刑事の方面の知識が十分でなかったことにもよるのでしょうが,現在拘置所における勾留の割合がかつてからだんだんと少なくなって,1.73%まで下がっている。いただいた資料6−2によりますと,昭和46年には18.48%,昭和55年には10.23%ということで,かなり拘置所が利用されていたようですが,これが大変下がっている。いわゆる代用監獄については国際的にはほとんど例のない施設だ,したがって日本もできるだけ早い段階で減らしていくべきだということが言われていたにもかかわらず,事実は逆の経過をたどったのはなぜなのか。その点についての御見解といいますか,経過,理由をお聞かせいただきたいと思います。
その他警察庁に対する御質問もありますが,後にいたしますので。
【南座長】それでは,法務省よろしくお願いいたします。
【北村官房参事官(法務省)】御質問の関係でございますが,これは前回のプレゼンテーションでも御説明をさせていただきましたが,勾留場所は,裁判官が捜査の事情ですとか,被疑者のいろんな事情,親族のことですとか,いろんな事情を総合的に判断して,拘置所がいいのか代用監獄がいいのか,代用監獄だったらどこの代用監獄がいいのかというのを,いろんな諸事情を総合的に判断して勾留場所を決めている,決定されている,こういう中で,裁判官の判断がこういう結果に出てきているということでございまして,その原因を分析したものは承知しておりませんが,代用監獄の環境などがいろいろと改善されてきているというようなことも含めて,裁判官の判断がそちらの方に変わってきているのだと,そういうことになるのだと思っております。
【久保井委員】しかし,勾留請求される際に検察官が勾留場所についての希望を述べられるから,裁判官がそれを尊重して勾留場所を決めるということになっているのではないですか。
【北村官房参事官(法務省)】実務の運用では,捜査側が希望を述べるということが行われておりますが,最終的な判断は,もちろん裁判所で,裁判官の判断で行われていることでございます。
【久保井委員】その点,また意見は後で申し上げます。
【南座長】あと,何かもう一件。
【久保井委員】警察庁のプレゼンテーションについて,前回のプレゼンテーションで,警察留置場は現在全国で約1万室ある。そのうち面通し,いわゆる取調べ中に被疑者が犯人かどうかを参考人に確認してもらうマジックミラーのある施設,それが警察には約2,800ある。しかし拘置所,刑事施設には取調室が660あるけれども,そういうマジックミラーの設備のある部屋は一つもないという実態の説明をされたわけですけれども,それは拘置所でもそういう施設をつくろうと思えばつくれたのになぜおつくりにならなかったのかということ,これは警察庁,法務省どちらでも結構ですからお答えいただきたいと思います。
【南座長】警察庁でも法務省でも,どちらかお答えいただけますか。
【北村官房参事官(法務省)】では,法務省の方から。確たることは申し上げられませんが,面通し室はつくろうと思えばそんな大変なことではありませんので,きっと,これまでそういう必要性もないという現状で動いてきたので,こういう結果になっているということだと思います。もし本当に必要性があるならそれぐらいの整備は可能であったと思われますので,そういうことだろうと思います。
【久保井委員】マジックミラーがないから留置場を使わざるを得なかったという御説明だったと思うのですけれども,そうではなくて,つくれば拘置所で調べることも十分同じようにできたはずだと思うのです。その点がちょっと不思議に思いましたので,お聞きするのです。
【北村官房参事官(法務省)】ニワトリと卵みたいな話かもしれませんが,拘置所がいろんな事情から勾留場所として適切だということで勾留場所にされる,そうなって,捜査上その設備がないと困るというようなことが起こっていたら,整備をすることになっただろうとは思います。
【久保井委員】あとは意見になりますから,それで質問……。
【南座長】まだございますか。
【久保井委員】もう一つ,二つお願いしたいのですが。これも前回私初めてお聞きしたのですが,犯罪捜査にかかる身柄の拘束時間の国際比較の一覧表をいただきまして,ドイツ,フランス,オーストリアが挙げられておりますが,イギリス,アメリカはどうなっているのでしょうか。身柄の拘束時間が日本は逮捕24時間,48時間,72時間ですけれども,その後20日間が限度になっているのに比べて,外国は勾留期間が長いということで一覧表の説明があったのですけれども,その中にイギリスとかアメリカとか典型的な国の例が記載されていないのですけれども,この実態はどうなっているかお分かりでしたら。
【南座長】これは,警察庁の方で,もしお分かりならお答えいただけますか。
【片桐総括審議官(警察庁)】イギリスとアメリカの制度はここに挙げていないのですけれども,それはなぜかと言いますと,刑事手続が日本とは全く異なっておりまして余り参考にならないということでございます。例えばイギリス,アメリカともに無令状で逮捕されるわけでありますけれども,警察がごく短時間調べてすぐに起訴するかどうかを決めてしまうという制度でございまして,非常に取調べ時間が短い。ただ起訴するかどうかの基準が,日本のような精密さはございませんで,嫌疑の程度が5割をちょっと超えればいいぐらいだというふうなこともありまして,ですから起訴するかどうかの基準も全く異なりますし,警察が取り調べる時間も異なりますし,そういったことでこれは余りにも制度が違うので挙げていないということでございます。
【久保井委員】それから,最後にもう一点だけ。前回の警察庁のプレゼンテーションで,被疑者の勾留場所の条件として二つの条件が必要である。一つは,捜査機関との間に距離が余り離れておっては不便である,近接性が要求される。それからもう一つは,先ほどのマジックミラーではないですけれども,取調室が整備されていなくてはいけない。その二つの条件が必要だと。だから留置場を多用するということにせざるを得ないのだという趣旨の御説明がありました。それはもっとも,理解はできるところでありますが,もしそうだとしたら,これは仮定の質問でありますけれども,現在の警察の留置場は非常に整備,物的条件がよくなってきているようですから,これを拘置所として位置づけて,別に拘置所をつくらないでそのまま法務省の所管に移す。そういうことをもしすることができるとしたら二つの条件は満たすことになると思うので,私は今回の会議がそういう方向で両者の隘路を見出すことができるのではないかと思っておりますが,そのことは意見として後刻申し上げますが,そういう留置場を拘置所として位置づけることにすれば,その2点の問題点は解消するのではないかという私の考えについてどういうふうにお考えか,参考のために御意見がありましたらお尋ねしたい。
【南座長】この問題は多少御意見にわたるところもございますし,それから次回代用監獄制度の在り方について議論することになっておりますので,そのときではいかがでしょうか。
【久保井委員】それで結構です。
【南座長】よろしくお願いいたします。
【菊田委員】前回のプレゼンテーション,要するに警察庁と日弁連と意見が非常に対立したということが浮き彫りにされたことは,それだけであったというふうに思いますけれども,今の座長の提案で意見を述べるなということですので,意見を述べることはちょっと不謹慎だと思いますが……。
【南座長】これは,後で,どうぞ御意見を述べてください。
【菊田委員】そこで,そういう代用監獄廃止か廃止でないかということについての発言をする機会を,次回ではなくて,今回,中身に具体的に入るまでに設けていただけないかという申込みをしたいと思います。それ以外にも二,三,私,全体,これからの会議に影響のあることについて,今話をしておかなければ中に入っていけないという課題を抱えておりますので,そのことの発言の機会を与えていただきたいと思っております。
【南座長】菊田委員の今のお考えというのは,本来代用監獄というのは廃止すべきであって,代用監獄の議論をするのに先立って,そこに収容されている者の処遇を議論するというのはむしろおかしいのではないか,逆ではないかというように考えるわけです。
確かにおっしゃるとおり,この会議においては代用監獄の制度についてもしっかり議論をする,議論を尽くすということは必要でございます。しかし,本日の議題は,御案内のとおり未決拘禁者の処遇の在り方の問題でありますが,決してこれは代用監獄の存続を前提として御議論していただくというものではございません。したがいまして,本日の御議論におきまして代用監獄に収容されている者の処遇等について発言をされたからといって,その御発言が必ずしも代用監獄の存続を認めるというような立場を前提することにはならないと考えております。
菊田委員のお立場,お考えというのは十分に私も御理解しておりますけれども,そのことをひとつ御確認いただいて,本日の未決拘禁者の処遇問題について御議論を進めていただきたいと思っております。
【菊田委員】分かりました。大変恐縮ですが,もう一つそれにつけ加えてですけれども,例の死刑囚の処遇というのも未決拘禁の大きな枠の範疇に入っているわけです。これについては別扱いにするというふうに聞いておりますけれども,前回の行刑改革でも別扱いになり,今回も当初から別扱いになるという形で,印象としては宙に浮いているということになっているわけですけれども,これについても,今どうということではないですけれども,要するに死刑囚の処遇について将来的にどういう検討,あるいはどういうような規則等々を制定することを前提としてこの未決という限られた問題について議論するのかという枠組みを設定していただければと思っております。
【南座長】死刑確定者の処遇につきましては,法務省の方から御説明いただくことにいたします。
【小貫矯正局長(法務省)】今回の会議は,三者,すなわち法務省,日弁連,警察庁の共通の課題であります未決の処遇に限りまして,有識者の方々の御議論と御検討をお願いする,こういう会と考えております。
もとより死刑確定者の問題は大変重要な問題でございますし,なおかつ日弁連等を始めとしていろんな御意見があることは承知しております。これから法案の検討をするに当たりまして,日弁連等からもいろいろ御意見をちょうだいしつつ,法案の中身を検討してまいりたい,このように思っている次第でございます。
【菊田委員】そうすると,有識者会議は外して,別に法務省と例えば日弁連とが継続的にこれから議論されると,こういうことですか。
【小貫矯正局長(法務省)】そのように……。
【菊田委員】有識者会議の意見は入れないとか,チャンスを設けないと,こういうことを予定されているわけですか。
【小貫矯正局長(法務省)】そういう考え方でございます。
【菊田委員】有識者会議の見解は,参加は許さないというか,考えていない,こういうことですね。
【小貫矯正局長(法務省)】この会議の中で,それを議論する機会は恐らくないだろうというふうに思っております。
【菊田委員】少なくとも死刑確定者の処遇については,新たな規則なり何なりを制定するということを目標として,検討する何らかの機会を設けると,こういうことですね。
【小貫矯正局長(法務省)】それは日弁連等とも十分協議してまいりたいと考えております。
【江川委員】それぞれに伺いたいことがあるのですけれども,まず警察の方に対しては,この間2か所留置場を見せていただいて,女性の方の留置施設も拝見して,そのときにいろいろ口頭で伺いました。多分警視庁は全国でも女性の留置施設に関しては最も進んでいる状況だと思うのですが,気になるのは地方でどういうふうになっているかということなのです。女性専用の留置施設がどういうふうになっているのかという資料については御提出いただけますか。今すぐもしなければ,今どうなっているか,そして例えば今後5か年でどういうふうに計画されているかとか,そういうことがあれば教えていただきたいと思いました。
【岩瀬官房総務課長(警察庁)】委員御指摘のように,女性被留置者への配慮ということで,御覧いただいたように,十分な配慮をした上で処遇するということで努力しているところでございます。今御要望の全国の女性留置者,留置場の設置状況,あるいは計画予定,こういうものにつきましては,また追ってまとめさせていただいてお示しをしたいと思っております。
【江川委員】よろしくお願いします。
それから,弁護士会の方になのですけれども,この間プレゼンテーション,かなり大きな枠組みでのプレゼンテーションだったと思うのですが,日弁連が将来的に留置場というか,代用監獄をなくしてほしいというお立場は分かったのですけれども,ただ差し当たって今日,明日にすぐなくせというのは現実的でないという認識も持たれていることも分かりました。では差し当たって今の拘置所に対してどういうことを求めているかということについては,日弁連の方がまとめられた「提言の骨子」というものがありますが,そこに集約されているということで判断してよろしいのでしょうか。
【西嶋勝彦弁護士(日弁連)】基本的には,そのように理解していただいていいと思います。かいつまんで申し上げますと,例えば問題のある被留置者といいましょうか,被疑者,被勾留者,これは例えば女子とか重罪事件,否認,黙秘,こういう人は速やかに拘置所の方に移してもらいたいし,移監請求権を本人,弁護人に与えていただきたい。それから大型留置場等,本来これは拘置所として今すぐ所管替えもできるのではないかというようなことをそこに書いてございますけれども。基本的には……。
【江川委員】その中でちょっと分からなかったのが,例えば権利として認めるとか制度として認めるとか,あるいは何もそれが書いていないのがあるのですけれども,それは権利として認めるというのが一番強く求められていて,制度として求めているのがその次でとか,そういう順序づけみたいなのは。
【西嶋勝彦弁護士(日弁連)】厳密な区分けは必ずしもしていないかと思います。「権利」という言葉がないから,権利じゃなく運用でいいのだということではございません。
【江川委員】はい,分かりました。
それから,これはどこに……法務省に恐らく聞いたらいいと思うのですけれども,留置場が問題であると,例えばAという被疑者が入っていて,非常に問題があるので拘置所の方に移してくれとか,そういうような本人,あるいは弁護人からの申立てについてどの程度把握されているのか,教えていただきたい。例えばそういう申立てが増えているとか減っているとか,そういったことについて何かデータをお示しいただけそうなのかどうかということを教えてください。
【北村官房参事官(法務省)】代監に入っている被疑者,その弁護人が拘置所の方へと求める場合は,幾つかやり方があり得ると思いますが,普通のやり方の一つとしては,準抗告を申し立てるという形で,つまり,勾留の決定の勾留場所部分について不服があるという形での準抗告を申し立てて,その中で拘置所に移してくれみたいな主張といいますか,要求をすることになります。ですから,準抗告の件数,それからどういう理由で準抗告がなされているかというのを調べることによって,ある程度の概要を把握することはできます。ただ,この部分につきまして正式な統計は現在のところございませんので,正確な統計,数字ということで御要望にお応えすることは難しいところはございますが,できる限り御要望に応えられる,実態がどうなっているのかをお示しできるような調査はできる限りでやってみたいと思います。
【江川委員】留置場がものすごく使用が増えているわけですよね。それに伴って,例えばクレームが増えているのかどうかというのは大事なところだと思いますので,よろしくお願いします。
【瀬川委員】3点あるのですが,まず第1,前回の警察庁のプレゼンテーションで,留置場の居住環境,生活条件の改善ということを言われた。更に前回の視察の折にも,確かに我々が昔のテレビドラマで見ているようなそういう感じではなくて,生活条件が改善された様子というのは分かった。ただこの会議としては,それで,ああ,そうですかと終われないような大事な問題だと思いますので,この点具体的に是非教えていただきたい。大まかにというよりもむしろ個別に教えていただきたいと考えております。この間の視察の折に話を聞いておりましたら,昭和55年を境に急速に改善された感じがいたしますので,私の要望ですけれども,できれば昭和55年以前と55年以後に,昔はどうで今はどう改善されたのかということを具体的に教えていただきたいと思うのです。今すぐというのは無理かもわかりませんけれども,できれば一覧表というか,項目ごとに示していただければ有り難いということでございます。
【片桐総括審議官(警察庁)】55年に全部変わったわけではなくて順次変わっておりますが,御趣旨を踏まえまして,施設とか運営の状況とか改善状況が分かるような資料を作成してお示ししたいと思います。
【瀬川委員】お願いします。
それから2番目なのですけれども,日弁連のプレゼンテーションのところで,精密司法から核心司法への転換ということをおっしゃったのですけれども,このことはいずれも恐らく一般の人にとってはなじみにくい言葉だと思うのです。研究者にとっては精密司法ということは比較的なじんでいる言葉かと思うのですけれども,日弁連が言われる核心司法の中身ですね,これはどんなことを構想されているのかということです。
【西嶋勝彦弁護士(日弁連)】精密司法から説明していった方が分かりやすいかと思いますけれども,それは省略いたします。核心司法という言葉で代表いたしましたのは,重点的な立証といいましょうか,そういうことに一語に尽きるだろうと思います。自白調書が全部そろわなければ起訴できない,あるいは有罪にできないということではなしに,基本的な要証事実を証明する証拠があれば自白がなくてもいい,あるいは間接証拠を重視するとか,いろいろな立証方法が考えられるのではないかということでございます。
【瀬川委員】第3番目なのですけれども,前回の日弁連のプレゼンテーションの中に,無罪推定を処遇原則にということについて。素朴な質問なのですけれども,「国際準則から見た刑務所管理ハンドブック」というコイルの書物を引用されて,それで懲罰が行われてはならないということはここから出てくるのですという形で言われているのですが,このハンドブックの文章は,刑務所管理というか,いわゆる既決囚に関することなので,ここで未決拘禁者に懲罰が行われてはならないということをここから出てくるのかどうか。
【西嶋勝彦弁護士(日弁連)】明文の記述があったかと思いますが。受刑者とは違うのだということを書かれておったかと思いますが。
【瀬川委員】そうですね,受刑者とは違うのだというのは分かるのですが,懲罰ということがここからなぜ出てくるか。ストレートにこういう形で,論理必然的に出てくるのかどうかということですね。
それから,その関連で,日弁連の資料8なのですけれども,ここで「未決拘禁に関する国際基準ハンドブック」というのがありますね。さっきのコイルの矯正協会から出ています「刑務所管理ハンドブック」については資料にはなかったのですが,この資料8のものをちょっと見せていただいたのですが,懲罰という用語を探してみますと,16ページのところに,いずれの場合にも未決拘禁者は懲罰に付されてはならないと確かにあります。このハンドブックの13章に,「未決拘禁における懲罰と制圧」という章がありますね。ここに書いてある記述を見ますと,懲罰があることを前提に書いてあるように見受けられるので,統一的な理解としてどう考えたらいいのかということなのですが。
【西嶋勝彦弁護士(日弁連)】私どもの理解としては,懲罰は科さない,制圧その他,説得その他で対処しているというふうに理解いたしておりますけれども。
【瀬川委員】そうすると,「未決拘禁に関する国際基準ハンドブック」の13章というのは何を意味しているのかということなのですが。ここでは未決拘禁に関する国際基準ハンドブックですから,「未決拘禁における懲罰と制圧」という章を設ける意味ですね。ここに書いてあるのは,いわゆる不合理なというか,過剰なそういうことはしてはいけないというのは確かに書いてあるように思えるのですが。
【西嶋勝彦弁護士(日弁連)】著者の意図は分かりませんけれども,私の理解では,無罪推定を受ける立場にある未決拘禁者に対しては懲罰というのはできないのだという,その一つの思想といいましょうか,考え方を示したものではないかと思いますが。
【瀬川委員】もしまた御議論の中でどう理解したらいいのか教えていただきたいと思います。
【西嶋勝彦弁護士(日弁連)】分かりました。
【江川委員】警察の方にお伺いしたいのですけれども,この間のプレゼンテーションの図面の15番で,警察と留置の分離・峻別という図面がありますけれども,実際行ってみて確かに施設的にも分かれているなというのは分かったのですが,ただちょっと気になるのは捜査部門と管理部門のいわゆる力関係というのでしょうか,例えば日課は決まっているけれども,捜査の方のいろんな都合もあるでしょうから,9時までに寝るといっても,そうもいかないときもあるのだと。そうすると,例えば次の日の午前中に朝を少し遅くするとかそういうようなことをやっていらっしゃるのだということを現場の方はおっしゃっていましたけれども,そういうことに対して何か,つまり捜査の側の都合で留置の方のルールが侵されないような何か,つまり箱を分けているだけでなくて,そういうような例えば規則だとか通達だとか,そういうのがあるのでしょうか。例えば9時を過ぎて出したら,何かちゃんと理由を報告しなければいけないとか,あるいは何かペナルティがあるとか,あるいは次の日に同じ時間遅くしなければいけないとか,何かそういう現場の運用だけではなくて,何か形になっているものがあるのでしょうか,峻別するためのものが。
【岩瀬官房総務課長(警察庁)】委員御指摘のように,さまざまな場合において留置主任官と捜査主任官との間での連絡を取り合ってやっているということは事実でございます。それについての根拠といいますと,これは通達で全国に示して,それに従って運用されているというのが実情でございます。
【江川委員】その通達は,見せていただけますか。
【岩瀬官房総務課長(警察庁)】はい。今日は持ち合わせておりませんけれども,確認をいたします。
【南座長】それでは,ほかにございませんでしょうか。
【菊田委員】議事進行の点ですが,予定されている今日のこの中身を見ますと,ものすごく範囲が広いですね,また諭点がたくさんあると思います。今日で終わるということでなくて,次回に延期してでも議論するというようなことで,議論を尽くすということをひとつお願いしておきたいと思います。
【南座長】はい,それは承っておきます。
【西嶋勝彦弁護士(日弁連)】ちょっと済みません。日弁連ですけれども,今日皆さんのお手元に前回の私のプレゼンテーションの際に配付した資料の一部訂正と,それから追加して配付したい資料が3点ございまして,若干このコメントをお許しいただきたいと思います。
【南座長】簡単に御説明お願いします。
【西嶋勝彦弁護士(日弁連)】配付資料の差し替えというのは,ここにございますように一部脱落があったものを差し替えておりますので,これと全面的に差し替えさせていただきたいと思います。これが一つ。
それから,配付資料目録というのがありまして,
補充資料
ということで,資料1「韓国における画像面会システム」,資料2「法廷における被告人の処遇に関する要望書」,資料3「現職警察官からの内部告発」と三つございます。簡単に一,二だけ御説明させてください。
この資料1の方は,前回のパワーポイントでもあったのですけれども,ここに言葉で補っておりますように,韓国でも電話を超えて写真といいましょうか,映像といいましょうか,カメラとマイクをつないだパソコンを使用して,音声又はチャット方式で面会のシステムが確立しているということを御参考に供したいというのが,この資料1でございます。これはつい先月,東京弁護士会の視察チームが視察をして撮ってきた写真でございます。
それから資料2,これは日弁連に設けられております市民会議というところが,法廷における被告人の服装その他について要望していただいたものでして,特にそのうちの一つ,被告人が希望する服装や髪形で裁判を受けられるようにする。つまり,現在は腰縄つきで,靴を履けない,スリッパで法廷に引きずられてくる。それからまた,ネクタイも外される。市民的な感覚としてはどうも異様に映る。是非これは通常の容姿,姿で裁判を受けられるように是非してほしいということの要望を,日弁連を通じて関係当局に働きかけてほしいという要望でしたので,この機会に参考に供したいと思います。
それから,資料3は前回の12月6日のこの第1回の有識者会議の次の朝,新聞報道で有識者会議のことがニュースになりましたけれども,そのニュースを見た某県警の警察署の留置係の方が,日弁連に早速電話で,内部の事情はそうではない,警察庁が説明しているような内容ではないということで,1から7までの項目に分けて詳しく聞き取った内容がございますので,参考に供したいと思います。例えば先ほどちょっと議論がありましたように,7というところでは,捜査の方が消灯時間を過ぎても10時,11時ごろまで取調べをしている。それを留置記録の入房記録を改ざんして,9時前に房に戻した,そういう取扱いも現実にあるのだというようなことが赤裸々に語られておりますので,是非この実態にも御注目いただきたいということで,皆さんの参考に供しました。よろしく。
【南座長】どうぞ。
【片桐総括審議官(警察庁)】今のその資料3でございますけれども,これについてどのように日弁連が真偽を確認されたか分かりませんけれども,こういった真偽の確認ができない資料をお出しになることについては,是非慎重であっていただきたいというふうにお願いいたしたいと思います。
【西嶋勝彦弁護士(日弁連)】それで,あえて警察署とか名前を伏せてございますけれども。
【片桐総括審議官(警察庁)】もし例えば7の問題でこういった問題があるのであれば,これは虚偽公文書作成でありますから,事実であれば我々厳しく対応しますので,是非お知らせいただきたいと思います。
【西嶋勝彦弁護士(日弁連)】分かりました。検討いたしましょう。
【葛西委員】資料3については,日弁連ではこれを真実であるというふうに考えて出されたのですか。それとも,私らもいっぱいこういう経験がありますけれども,多くの場合,まあほとんどが事実でないというケースが多いのですね。ですから,たった一つあるものをこういう形で資料に出されるというのは,これは真実だというふうに確信される何か根拠があるのですか。
【西嶋勝彦弁護士(日弁連)】基本的には,日弁連に多数の告発,その他の被害申告がございます。人権委員会に対する申立てということもあれば,それまで経ないで,こういうことがあるから是非注意してほしいという申告がございます。これは余りにもリアルタイムで,有識者会議の翌日の報道を見て事実と違うということで申告されてきたということで,私どもはこれは事実であろうという確信を持っております。
【葛西委員】リアルタイムであるということは,むしろその報告,情報を出してきた者の意図を示しているものであって,真実を示しているものとは逆に離れているというふうに理解することもできると思いませんか。
【西嶋勝彦弁護士(日弁連)】いや,私どもは今,委員がおっしゃる意図というものはよく分かりません。どういう意図でおっしゃっているのか。
【葛西委員】翌日に出してくるというのは,正に余りにもタイムリーであり過ぎるということから見ると,例えば資料を見たときの判定する際の,プラスと,真実と判定するか,それともそうではなくて一定の意図を持って日弁連を支援するためにこういうふうに出してきたのだというふうに理解することもできるわけですよね。何も根拠は書いていない。
【西嶋勝彦弁護士(日弁連)】それは委員のお考えがそうかもしれませんが,皆さんの御判断にお任せしたいと思います。
【葛西委員】日弁連としては,これが真実であるというふうに理解しているということですか。
【西嶋勝彦弁護士(日弁連)】そういうことですよ。当然,そういう前提でお配りしております。
【南座長】日弁連としては,こういうふうなものもありますよというようなことで,参考の資料としてお出しになったのだと私は理解しております。よろしゅうございますか。
【西嶋勝彦弁護士(日弁連)】はい。
【南座長】それでは,議事を進めていきたいと思います。
説明資料
【南座長】本日は,未決拘禁者の外部交通の在り方を中心とする処遇の在り方につきまして,議論をしていただきたいと思います。法務省,警察庁及び日弁連の基本的な考え方はプレゼンテーションで伺ったところでありますが,議論を充実したものとするために,事務局に日弁連の主張と,法務省,警察庁の立場を対照した表を作成していただきました。三者のそれぞれの立場を確認し,どういうところに論点があるのかをはっきりさせた上で,委員の皆様から御意見をお出しいただくのが効率的,効果的であると思いますので,事務局からこれらの主張の整理について御説明をお願いしたいと思います。よろしくお願いします。
【北村官房参事官(法務省)】それでは,事務局の方から,未決拘禁者の処遇の在り方につきまして,日本弁護士連合会からどのような主張がなされ,これについて法務省,警察庁においてどのように考えているのかということにつきまして簡単に御説明をさせていただきます。なお,座長からの指示もございましたので,各論点に関する三者の立場を対照した表,「法務省,警察庁及び日本弁護士連合会の主張の整理」と題する表を用意いたしました。御議論いただくに当たりまして,御参考にしていただければと思います。
外部交通の在り方(総論)
論点は,対照表の1ページと2ページに記載しております「外部交通の在り方」と3ページと4ページに記載しております「その他の処遇の在り方」に分けることができますが,最初に,「未決拘禁者の外部交通の在り方」について総論的にどのように考えているのかを御説明させていただきます。
未決拘禁者の防御権を実質的に保障する上で,その外部交通を充実させることは重要であります。
しかしながら,他方で,捜査段階の未決拘禁者の外部交通については,その地位の性質にかんがみまして,捜査の必要との調整を図る必要がございます。また,不適切な外部交通によって罪証隠滅が行われるなど,勾留目的を阻害するような事態は避けなければなりませんし,さらに,施設の人的・物的体制の制約があることから,拡充の必要性の程度も勘案しながら,可能な範囲で外部交通の拡充を図るという現実的な対応を考えなければならないと考えております。
夜間・休日接見
外部交通に関する具体的な論点の一つ目は,夜間・休日接見の実施・拡充についてであり,日弁連は,被疑者・被告人の弁護を受ける権利を保障するため,拘置所における弁護人等との夜間・休日接見は不可欠であると主張をしているところでございます。先日の御視察でもお分かりいただけたと思いますが,警察留置場は,終日開庁し様々な業務を行っている警察署内に設けられていることから,管理体制が整う限りにおいて夜間・休日接見に対応している実情にあり,現に相当件数行われていると聞いております。一方,拘置所は,警察留置場と比べて被収容者数が格段に多いことが通常でありながら,夜間・休日は基本的に最低限度の業務を行えば足りるため,そのための職員配置をしているにとどまることから,夜間・休日における接見に対応することは困難な体制にございます。そのため,拘置所におきましては,弁護人等との接見についても,原則として執務時間内に限る運用をしているところであります。もっとも,翌週に公判期日が指定されている場合など一定の場合には,弁護人等との接見を認める必要性が高いことから,休日の接見を認める運用をしているところでございます。
しかしながら,平成21年5月までには短期間での連日的・集中的な公判審理の必要性が格段に高い裁判員裁判が始まり,連日夕刻まで公判が開かれることも想定されるため,翌日の公判に備えて平日の夜間に接見を実施する必要が高まります。そのため,法務省といたしましても,何らかの対応をとることが必要であると認識しているところでございます。
もっとも,拘置所の夜間・休日における職員配置は極めて少ないことから,警察留置場において実施しているように,一般的に弁護人等との夜間・休日接見を実施することは極めて困難でございます。
結局,夜間・休日接見の実施拡充につきましては,必要性が高い場合に限定してこれを行うのが相当であり,法務省としては,このような観点から,具体的な範囲・方法について検討しているところでございます。
また,日弁連は,一定の条件のもとで休日の一般面会も認められるべきであると主張しているところでございますが,人的・物的体制の制約がございますので,まずは,防御権の実質的な保障のために必要性が高い弁護人等との夜間・休日接見の方を優先させるべきであって,一般面会の方については,これを実施することは到底困難であると考えております。
電話による外部交通
次の論点は,電話による外部交通についてでございます。
この点につきましては,日弁連は,この対照表に記載しておりますように三つのパターンでの電話,これはテレビ電話を含むものでございますが,これを認めるべきであると御主張されているところでございます。
まず,法律上の可否について申し上げますと,刑事訴訟法39条の「接見」には,電話による外部交通は含まれず,未決拘禁者には,現行法上電話による外部交通を行う権利はないと解されておりますが,刑事訴訟法は,これを認めることを禁止しているものではないと解されますので,運用上これを認めることは法律上は可能であると考えております。
そして,今日のように通信手段が発達している状況下におきましては,電話による通信を導入することも検討する余地はあると思われます。
もっとも,未決拘禁者に電話を使用させる場所ですとか電話設備の確保,それから,電話をさせる場所までの未決拘禁者の連行,その動静を監視するための職員の配置など,電話による外部交通を実施するためには,人的・物的体制の整備が必要になります。このことを踏まえると,まずは,弁護人等との電話による外部交通を優先させるべきでありまして,一般人との電話についてまで実施することは到底困難であると言わざるを得ないと考えております。また,弁護人等との間の電話につきましても,これを認めるべき具体的な必要性の程度も勘案しながら,慎重に検討していく必要があると考えているところでございます。さらに,その場合,弁護人等であることを確実に確認できるスキームをとることが不可欠であると思われます。
ファックスによる外部交通
電話の使用のほかに,日弁連は,電話による外部交通を補完するものとして,ファックスの導入を主張されております。拘置所におきましては,電報の発信を認め,ファックスについては,この対照表に記載しているような理由からこれを認めていなかったところでございますので,こうした観点からの検討が必要になるものと考えております。また,警察留置場におきましては,従来から留置担当官が未決拘禁者から弁護人等への接見や差入れの要望を伝言していることから,簡便な緊急連絡方法としてのファックスを認める必要性は必ずしも認められないのではないかと思われるところでございます。
外部交通(その他)
日弁連は,これらのほか,弁護人等との外部交通に関しまして,弁護人等との間で発受する信書の検閲の問題,遮へい板のない面会室の整備の問題,弁護人等との接見における録音機等の利用の問題について,主張しているところでございます。
そのうち弁護人等との間で発受する信書の検閲についてですが,先に成立いたしました「刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律」におきましては,「内容の検査」と「確認の限度の検査」という二つの方法の異なる検査を規定しておりますが,この二つの違いについて簡単に御説明をいたしますと,「内容の検査」が信書に施設の規律・秩序を害したり罪証隠滅に及ぶような内容の記載がないかどうかを検査するものであるのに対しまして,「確認の限度の検査」は,ここで言いますと,真に弁護人等から発せられた信書であるか,又は弁護人等にあてて発せられた信書であるかを確認するために,それに必要な限度で信書の検査をするというものであります。
弁護人等との間で発受する信書のうち,弁護人等が未決拘禁者に発する信書につきましては,現行法では内容の検査を行うものとされておりますが,弁護人等が発する信書につきましては,通常不当な内容のものではないということ,それから,未決拘禁者が受けた信書が転々流通するなどして,他の者がその内容を知り得る可能性は少ないことから,現行法を改め,弁護人等が未決拘禁者に出した信書である旨を確認する限度での検査にとどめるのが適当であると考えております。
これに対しまして,未決拘禁者が弁護人等に発する信書につきましては,収容の目的,施設の規律・秩序を害するおそれのあるものも少なくないこと,また,信書そのものが弁護人等以外の者に転々流通するおそれがあり,その場合には弁護人等以外の者との間で直接信書の発受がされたのと同じ効果を生ずることになることなどから,一般人との信書の発受の場合と同様に,内容の検査を行うことが必要であると考えているところでございます。
弁護人等との遮へい板のない接見室における書類の授受,それから,接見時の録音機等の使用につきましては,未決拘禁者から弁護人等に渡された書類ですとか接見時に録音されたテープ等が弁護人等以外の者に転々流通するおそれが信書の場合と同様にございまして,信書の検査と同じ問題があると考えているところでございます。
なお,弁護人等との間とはいえども,職員の立会いのない場での直接の物の授受を認める場合には,施設の規律・秩序を害するおそれのあるものが検査なしに授受される危険があるということにも留意する必要があると考えております。
作業・教育の機会の保障
次に,「未決拘禁者のその他の処遇の在り方」に移らせていただきます。
まずは,未決拘禁者の作業・教育の機会の保障についてでございますが,日弁連は,拘置所において,未決拘禁者自身が望む場合には,受刑者と同様の作業,教育,薬物アルコール対策などのための自助グループのコースへの参加などを認めるべきであると主張しております。刑が確定していない者に対して作業や教育を実施することの当否も問題になると思われますが,現実問題といたしましても,未決拘禁者が希望により行う作業―請願作業と言っておりますが―この請願作業はほとんど行われておらず,行われている場合であっても居室内での紙張り作業のようなものがほとんどという実態にございまして,現状では,拘置所における適切な作業の確保が困難であること,教育等を実施するための体制が整っていないことなどから,直ちに実施することは困難であると考えております。
居室外での処遇
次に,居室外での処遇等についてですが,日弁連は,拘置所においては,夜は単独収容を原則とし,昼間は共同スペースでの活動を保障すべきである,また,広い共同運動場での運動を行うべきであると主張をしております。
夜間の単独室収容につきましては,予算の制約の中で可能な限りその整備に努めていきたいと考えております。他方,共同スペースや共同運動場での処遇につきましては,まずもって,罪証隠滅の防止という勾留目的を阻害するような事態を避けられる範囲であることが前提となりますし,また,拘置所の人的・物的体制が整うことが前提となりますので,直ちに実施することは困難であると言わざるを得ないところでございます。
懲罰の廃止
次は,未決拘禁者に対する懲罰についてでございますが,日弁連は,未決拘禁者に対する懲罰は無罪推定を受ける地位と相容れず,廃止されるべきであると主張しております。
懲罰は,規律・秩序を維持するために,これを乱す行為に及んだ者に対して科されるものでございまして,刑が確定しているか否かとは全く関係のない性質のものであります。法務省といたしましては,未決拘禁者の収容を確保するとともに,集団生活をしている未決拘禁者の安全で秩序ある生活と適切な処遇環境を確保するためには,規律・秩序が維持されるべきことは当然の要請であり,そのためには懲罰制度を設ける必要があると考えております。
また,警察留置場の現場では,意図して大声で騒ぐなど,施設の規律・秩序を害する問題被留置者に対する対応に大変苦労しているところであり,警察庁としては,こうした問題に対する対策を懲罰の活用も含めて十分に検討する必要があると考えていると聞いているところでございます。
生活条件
次は,拘置所における生活条件についてでございます。
日弁連は,@拘置所の居室から窓の外の風景を見ることができるようにするなど,居室環境の改善に取り組むべきである,A拘置所における居室の室温が適当な水準に保たれるように,冷暖房設備が整備されるべきである,B未決拘禁者は,生活の拘禁性が受刑者と比較してはるかに高いので,戸外運動の必要性が極めて切実であり,拘置所においては,天候が許す限り,毎日少なくとも1時間の戸外運動を認めるべきである,C未決拘禁者についても,健康保険及び雇用保険を適用すべきであると主張しております。
このうち,まず,居室の窓から外の風景を見ることができるようにすべきであるという点でございますが,東京拘置所のように都市部に設けられた高層の拘置所の場合には,周辺住民等に対する俯瞰防止等に配慮する必要がありますし,施設外からの撮影等の防止等の観点からも,通風や採光をできる限り確保しつつ,必要な範囲で視界を制限することがやむを得ない場合もあると考えているところであります。
冷暖房設備につきましては,予算的な制約がある中で,施設の場所,構造,国民感情等の諸事情を総合的に考慮して設置の是非を判断すべきものと思われますが,暖房設備につきましては,増改築の際に導入するようにしているところであり,今後も同様に拡充していくこととしております。冷房設備の方につきましては,今後とも,社会生活の変化や国民の意識なども参考にしながら検討していきたいと考えているところであります。
運動の機会の保障につきましては,なるべくその実現に努めるべきものと考えておりますが,そのためには,運動スペースや職員配置などの問題が解決されることが前提となりますし,さらに,未決拘禁者の場合,受刑者とは異なりまして,罪証隠滅の防止のために他の未決拘禁者との接触を断たなければならないことに伴う制約があることも御理解いただきたいと考えております。また,未決拘禁者の場合,出廷等のために昼間は拘置所にいないことがあり,夜間,戸外で運動させることは難しいことから,この点で例外を設けざるを得ないと考えております。
最後に,健康保険及び雇用保険の適用の点についてであります。健康保険の適用につきましては,日弁連は,自己の費用により未決拘禁者が指名する外部の医師による診療を受けることを可能にするために,健康保険の適用を認めるべきであると主張しているところでありますが,健康保険の適用につきましては,行刑改革会議においても御議論され,提言の37ページのところにございますが,妥当ではないという結論に至っているところでございます。また,刑事施設に収容されている者につきましては,雇用保険法4条3項の「労働の能力」を有しない,したがって,被収容者が労働に就かない状態は,雇用保険法の給付の対象になる失業には当たらないと解されているところでございまして,直ちに雇用保険の適用を認めることは困難ではないかと思われます。
【南座長】ただいま,事務局から主張の整理について説明をいただきました。論点は,大きく分けますと,一つは未決拘禁者の「外部交通の在り方」,もう一つは「それ以外の処遇の在り方」でありますが,「外部交通の在り方」については,大きくまた三つのグループに分けられると思います。一つは,番号の1,夜間・休日の接見の機会の拡充,それから,番号の2,3の,電話,ファックスによる外部交通の導入,それから,第3番目のグループとして,4,5,6の未決拘禁者と弁護人等との間の信書の検査などの在り方に分けることができると思います。時間の関係もございますので,未決拘禁者の外部交通の在り方について,およそ4時ごろまでに御議論をいただきたいと考えております。
法務省及び警察庁の考え方について今御説明を受けましたので,それについて御異論あるいは御意見がございますれば,それをまずお伺いいたしまして,その点について各委員の御意見を伺うという進め方で御議論いただきたいと思います。
【南座長】まず,夜間・休日接見について御異論,あるいは御意見ございますでしょうか。
【菊田委員】まず,議論の前提として,基本的に無罪推定の者である,原則無罪推定の人間であるというスタンスをはっきりと柱として認識して,この問題について対処していただきたいと思います。あくまでも無罪推定されている人物であるということですね。あたう限り,これは一般社会人と同じ扱いをするというのが大原則です。これは国際的にもそういう柱が指摘されて,また先進国ではそれを十分柱として確立しているところです。そういう枠の中で,まあ,いいです,代用監獄を今後の課題としましても,警察における代用監獄に置かれている人間について,やはりこれは無罪推定という大きな柱があるということです。それに対して,家族,それからそこに弁護人がついてまいります。その弁護士,弁護人というのは,法律の専門家である。その専門家として被疑者・被告人のために対応するわけですから,その弁護人とのやりとりが何らかの不正が起こるのではないかというような危惧すること自体が,私は弁護士そのものの専門家に対する不信感が前提にあると思わざるを得ないわけです。もしそういう不審なことが起こるということなら,起こったときに対処するということこそ必要だと思いますが,起こる前から,あらかじめ起こるだろうということを想定してもろもろ何らかの制約をしていくということは,私は基本的にあってはならないと思っております。具体的なことについては後で述べたいと思います。
【南座長】そのほかには,何か御異論ございますでしょうか。
【久保井委員】済みません,総論的なことではなくて各論的なことをいきなり申し上げたいと思いますが,まず,夜間・休日の接見で,法務省,警察庁の方で,新しく始まる裁判員制度に対応するために,弁護人との接見についてはやはり準備の必要があるということから,これまでの方針を改めて広げていただくようなことを考えていただいておりまして,それは大変好ましい,有り難いと思います。
ただ,一般人の面会については,そこまでは手が回らないという趣旨だろうと思いますけれども,それもよく分かるのですが,現状の負担を余り変えない範囲内で一般人の面会も少しは導入するということは可能ではないかというように思います。平日だけということになりますと,勤労している,普通は会社に勤めたり自分の事業をやったりして働いているわけですから,休日は一切だめということになると面会の機会が非常に制限されるので,例えば休日を土曜日,あるいは日曜日のどちらかを認めるかわりに,平日のある日を認めない,つまり入れかえる。トータルとしては当局の負担を増やさないで,休日も入れるかわりに平日はその分減らすとか,何かやりくりをして認めるようなことは,さほど今までと違った予算を使わなくても,あるいはそういう手当てをしなくても少し工夫すればできるのではないかと思うので,そういうことはちょっと考える余地があるのではないかという感じがします。
一般人は当然困難だとおっしゃるけれども,もう少し胸襟を開いていただいてもいいのではないかという感じがいたします。
【佐藤委員】これは全般についてですが,まず夜間・休日のことを中心にやるべきですか。
【南座長】今のところは一応区切っておりますけれども,関連がございましたらどうぞおっしゃってください。
【佐藤委員】それでは,とりあえずは夜間・休日の問題についてちょっと申したいと思うのです。この法務省,警察庁の説明では,夜間・休日の接見を実施するに当たって考慮すべきことというのは,職員の配置を中心とした体制の問題をもっぱら述べている。ただこの文章の中に,「職員配置の観点等に照らし」という,この「等」というのが何を含んでいるのかちょっと定かではありませんので,後ほど御説明いただければと思います。ところで,私はここには重要なことが一つ欠落しているのではないかと思うのです。それは何かといいますと,第1回のときの説明の中にもありましたけれども,特に夜間の接見を増やすということについて,非常に積極的な措置をとっている旨の話があったやに記憶しております。しかし,考えるべきは,職員の体制だけではなくて,いま一つは就寝時間を超えて起こすということは,同じ留置場に入っている他の留置人に対して大変な迷惑を与えることになります。したがって,留置場ではそれらが紛議,紛争の原因になったりしている事実がございます。これは一般人の生活を考えたってそうだと思うのですが,就寝しているときにだれか一人起こせば,当然みんなが目を覚まさせられてしまう。したがって,この間の警察署の視察の際の説明ですと,確か夜の9時が就寝というところが多かったように思いますけれども,9時を過ぎても接見をさせるということは,よほどのことであるべきではないのか。先ほどの御説明のように,集中的に連日公判審理が行われる,したがって翌日の公判対策について打合せをしなければならない等々の,従前にはないような事情もこれからは生じてくるのかもしれません。したがって,それはそれで考慮されてしかるべき事情だと思いますけれども,しかし,一方で就寝時刻を超えて起こすということについての特段の配慮があってしかるべきだ。したがって,そういう接見の必要性と対応して,看守体制のみならず同室の者の人権というものもあわせて考慮をした運用がなされてしかるべきではないのか。そういう意味において,ここでは1点欠落していると言わざるを得ないと思います。
この点については以上なのですけれども,先ほど冒頭にお話がありました無罪推定を大原則として考えるべきだということについて,1点コメントをさせていただきたいと思います。未決拘禁施設に勾留されている人たちは,犯罪が明らかだということで現行犯で逮捕された者と,犯罪を犯した疑いが相当である,ないしは十分であるということで逮捕状を裁判官が発して,その逮捕状に基づいて逮捕され,また,勾留裁判によって勾留されている人たちである。したがって,この人たちに対しては,その容疑を明らかにすべく捜査をする責任が捜査機関にはある,そういう人たちだということも,これは厳然たる事実だと思います。したがって,その人たちが確かに果たして有罪であるかどうかということをこれから明らかにするために拘禁しているという側面がもちろんありますから,これは裁判を経なければ分からないことでありまして,その意味において無罪の推定があるのだという意味であるならば,私はそれはそうだと思いますけれども,しかし,大前提として,今申し上げたようなことがあるということも御認識をいただいた上で考えていただくべき,そういう人たちではないのかと思いますので,御意見を申し上げました。
【南座長】ほかに。
【江川委員】今の御発言の前半の部分なのですけれども,9時過ぎてというのは,捜査の方も9時過ぎて取調べをやったりしているわけですから,お互いさまと言っては何ですけれども,どちらも,そういう9時過ぎてということはなるべくなくしていくという方向でやっていくというのが建設的かなという感じがしました。ただ,夜間・休日の接見については,警察の問題というのは余り弁護士会の方もおっしゃっていなくて,むしろ拘置所の方が問題で,つまり警察の方では今現在できているわけですね,一応基本的には。
【佐藤委員】いや,私は,夜間の就寝時間を超えても接見を認めて,どんどんやればいいと警察庁は考えているのではないかと危惧を持って申し上げたつもりです。
【江川委員】ただ,これから裁判員の制度が始まるので,少ない時間で集中的に裁判をやるためには……。
【佐藤委員】その必要があるというのは新たに生じるだろうなと思うのですけれども,しかし,どんどんどんどん接見の要請が多くなったとき,一般的に夜間会わせるのがいいことだということでは必ずしもないだろうという意味において申し上げたのですけれども。
【江川委員】恐らく一般の国民の思いとしては,何か悪いことをした人はきちっと罰してほしいし,それからもう一つは冤罪があっては困るという,この両方のことを思っていると思うのですよね。だから,それで何か,例えば弁護人との接見が増えて問題になるということは,その観点からありますですかね。
【佐藤委員】というのは,既に夜間の接見が急増しているように思うのです。そうじゃなかったですかね。
【瀬川委員】日弁連の側の夜間というのは,大体何時ごろから何時ごろまでを意味しているのか。例えば夜中の3時,4時に会いに来るということは到底考えられないので,まあ9時が就寝時間だとすれば,10時か11時程度じゃないかと推測しますけれども,日弁連の側で夜間というのは何時から何時,また現実に拘置所の方で本当に困った事例が最近たくさんあるのかどうかということも含めてお聞きしたいと思います。
それから,先ほどから拘置所の職員配置のことが出ていますが,刑務所も恐らく夜間どれぐらいいるかというのは余り公にしませんので,恐らく拘置所の秘密に属するかもわかりませんけれども,拘置所の人員配置というのは夜間どれぐらいなものなのか,あるいはどういうシフトをとっているのかということ,可能であればということで結構ですが,お聞きしたいと思います。
【南座長】それでは,夜間について。
【西嶋勝彦弁護士(日弁連)】日弁連に対する御質問がありましたので。現状の警察留置場における夜間の面会は,幸いに警察の御協力で大体9時,10時ごろまではそうトラブルなく行われております。ただ,逮捕直後とか,そういう例外的な場合には,10時,11時とか,あるいは前の弁護人が接見室を使って−今全国の警察で接見室一つしかないものですから,面会希望者がダブる場合には待たされるということで,10時,11時という場合もありますけれども,基本的には9時ないしは10時ごろで大体接見を終わっております。私どもが「夜間」と言う場合,大体10時ぐらいをめどに考えております。ただ,これは留置場が現在そうなっているということで,それで同じように拘置所でもお願いしたいということを,ここの有識者会議の方に申し上げているところです。
【南座長】それでは,法務省の方で。
【北村官房参事官(法務省)】夜間の勤務体制の御質問がございましたが,これを明らかにするのは適当ではないので,御容赦いただければと思います。ただ,若干申し上げますと,東京拘置所の場合,先ほども申し上げましたように土曜日の弁護人接見を認めております。数としては,翌週に公判が予定されている場合などに限定されていますので,平日に比べてかなり数は少ないところでありますが,それでも,土曜日の弁護人接見に対応するために,そのためだけに,弁護人接見の数にもよりますが,6人から10人の職員を余分に配置しなければならない状況になっております。
【葛西委員】二つ。一番最初に菊田委員が言われたことについて,一部佐藤委員がお話しされましたが,無罪を推定されているということは,全く一般社会人と同じだというわけではないのでありまして,これはやはり一般の大多数の社会人の安全とかそういうものが犯罪によって脅かされることのないように捜査の対象になっているということは,我々は常識的に考えればそう見るべきであって,同じようにするということにはならないだろうというのが第1点です。
第2点は,多分,夜間・休日の接見,職員配置の不足でできない場合は,なしで接見を認めるべきだという御意見かと思いますが,弁護士は単独で会わせれば何か悪いことをするかもしれないという不信感を前提にしてものを考えてはいけないというのはそのとおりかもしれませんが,弁護士は絶対に悪いことをしない人たちであるというふうに考えるのも不自然なのじゃないかなというのが一般的なものの見方でありまして,したがって,普通の人と同じように扱っていく。普通の人と同じとは言いませんが,専門的な知識を持った普通の人格者というふうに考えていくとすれば,やはり,職員の配置の問題というのは非常に重大な問題になるのだと思います。
また,ウイークデーを減らして夜間・休日を増やすというのは,要員配置のことを実際にやっている仕事から考えますと,定性的にはありそうに見えるのですが,具体的に勤務の交番をつくるとかいうことになると,なかなか難しい要素もあるのではないかなというふうに思いました。
【菊田委員】それでは,御指名がありましたのでお答えしたいと思います,私の見解。一つは,弁護士というのはこれは広い意味の司法機関の一翼を担っている専門家ですから,その弁護士が信書なり接見をするということは,それは他の家族とかそういうのとは違って,専門家としての特別な扱いをされるべきだということです。もちろんさっき言ったように,その人が何らかの法に定められた約束に違反するようなことが発覚した場合は,これは弁護士であろうと厳重な処罰対象にすべきだと思います。だけれども,危険性があるからといって一般人と同じように防御策をとると,これは後からいろいろ出てきますけれども,そういうことは私はとるべきではないということを申し上げているわけです。
それから,もう一つは,前後しましたが,無罪推定というのは,被告人,被疑者というのはあくまでも裁判を受ける前ということで,当然無罪推定という意味です。同時に,拘置されているということは,逃走防止それから証拠隠滅という二つの大きなことを確保するために隔離しているわけですから,それ以外の諸条件というものはあたう限り,もちろん秩序維持ということがいろいろ出てきますけれども,あたう限り無罪推定されている通常の社会人として扱うべきだと,こういうことを申し上げているわけで,お分かりいただけましたでしょうか。
【葛西委員】犯罪の捜査に必要な限りでの制約は認めた上で,あとは一般社会人と同じようにという意味ですね。
【菊田委員】そういうことです。
【葛西委員】結構です。
【瀬川委員】菊田委員のおっしゃることというか,基本的な趣旨というのはよく理解しているつもりなのですけれども,その場合に無罪推定という言葉を最初に使って処遇にまで及ぶことが妥当なのかどうかというのは,もう少し検討する必要があるのではないか。先生のおっしゃった後半の趣旨は,私は賛成なのですけれども,無罪推定というのは我々の理解では,もともと証拠法のルールで,立証責任といいますか,いわゆる証明の問題として扱われたのが,これまでの普通の例だと思うのです。日弁連の前回のプレゼンテーションの,その辺は私は意識されて書かれているように見えます。つまり,無罪推定を処遇原則にという意味は,無罪推定の従来の使い方ではないということを認められているわけであると思うのです。だから,思想としてというか,スタンスとしては,私はこの日弁連の考え方というのは間違いではないと考えておりますし,菊田委員のおっしゃるように考えております。ただ,その場合に,無罪推定というのを使うということが妥当なのかどうかは検証の必要がある。恐らくおっしゃりたいというか,私が賛成する意味は,未決拘禁者に対していわゆる既決と同じような扱いをすべきではないというのが第1だと思います。2番目には,処罰の先取りというか,そういうことはすべきではない。これは当然だろうと思うのです。したがって,いわゆる必要最小限の制限にとどめるべきだという趣旨では賛成なのですけれども,処遇の場面でそこで無罪推定という言葉を使うかどうかは,いささか疑問があるということを申し上げます。
【菊田委員】それは,国際的な基準から言っても,国際人権規約等々から言っても,被疑者・被告人が無罪推定されるということは大原則としてあるわけですから,それは今中身について議論するつもりはありませんけれども,そこはやはり私は曲げることは……。
【瀬川委員】大原則であることは認めますし,それで結構です。しかし,いわゆる証拠法上の事柄なので,拡大して適用するというのは,やはりもう少し検証が必要なのではないかと思っています。
【江川委員】先ほど佐藤さんの方からも質問があって,全く私も同じことを法務省に聞きたいのですけれども,職員配置の観点等と,この「等」ですよね。つまり,これを実現するのに障害になっているのは,さっきもおっしゃいましたけれども,人の出し入れとかで職員が要る,どうやって人をやりくりするかという問題があるということですけれども,この夜間・休日の弁護人との接見を阻むというか,難しく困難にしている要因はほかに何があるのでしょうか。
【林矯正局総務課長(法務省)】もちろん人的な配置ということを申し上げましたが,当然この「等」というのは,広く,大勢の被収容者をそこに入れて管理しているということであれば,やはり管理全般から来る制約というものは当然あろうかと思います。そういうものが現実問題としては生じてくるだろう。それは人的配置であったり物的な体制であったり,例えば,夜間,面会室まで連れていくのに,仮にその施設では少し長い距離を連行していかなくてはいけないとなれば,そのときの逃走の問題であるとか,いろいろ問題があり,単なる人的配置だけの問題ではなかろうかと思います。
【江川委員】でも,基本的には人の問題ということですよね。
【林矯正局総務課長(法務省)】当然こちらで大きく考えているのは,人的体制の問題をでありますけれども。
【南座長】それでは,もう次の問題に移ってよろしいでしょうか。
【南座長】それでは,第2グループの電話による外部交通とファックスによる外部交通について,御議論をいただきたいと思います。
【菊田委員】法務省,警察庁のこれを見ても,「電話による外部交通を実施するための……優先させるべきである」というふうに書いていますから,これはもう意見の対立はないのではないですか。電話の使用は当然前向きに検討するに値する課題だと,私は思っていますが。
【葛西委員】法務省の見解を読ませていただきますと,「電話による外部交通を行う権利はない」と,接見に含まれないと書いてあります。しかし禁止しているわけでもないから,運用上認めることは可能であると,何か非常にあいまいな書き方になるのですが,物事を決めるときには,通常原則としてこういうふうになっていて,例外として認められるとか何とか,そういうふうに書くのが普通ではないかと思うのですね。これは法律上どうなっているのかは私は素人で分かりませんが,法務省の御見解としては,それは原則として接見に含まれないので電話の使用は認めるべきではない,しかしながら特殊な場合において限定的に条件が満たされる限り認めるという,そういう趣旨に考えればよろしいのでしょうか。
【北村官房参事官(法務省)】ここの部分は,刑事訴訟法上どうなるかという法律上の解釈を書いただけであります。それで,刑事訴訟法39条は,身柄の拘束を受けている被疑者・被告人が何ができるかという観点から被疑者・被告人の権利を書いている条文でありまして,その権利としてできることの中に電話は入らない,原則として入らないのではなく,絶対に入らない。そういう意味で,被疑者側が要求できるものではないけれども,捜査側なり,施設側なりが,被疑者側の要求に応じなければならないという形での権利ではなく,認めて……裁量的に電話をかけることを認めるということをしてはいけないと刑訴法は言っていないということでございます。そういうことで御理解いただければと思います。
【佐藤委員】法律がそうであるにかかわらず,権利はないのに認めることは可能だから認めてやろうではないかという,そこまでやろうとされるゆえんというのはどういうところにあるのですか。
【北村官房参事官(法務省)】基本的には,現代社会において電話は一般的に通常の通信手段となっているということが背景にあって,もちろん,ここの「もっとも」以下に書いてある制約がいろいろとございますので,全部権利としてとか,あるいは一般的にとか,そういうことはできないということはここに書いてあるとおりでありますが,そこでできるのであるならば,弁護人,被疑者・被告人側の利益にもなるので,できるのであればやることを検討してもいいのではないかというスタンスで考えているものであります。
【瀬川委員】この点は,秘密交通権,防御権の問題ですので,弁護人の側からも,被疑者・被告にとっても重要な問題だと思いますので,できるだけ範囲を広げていくという方向というのは,私は正しいと思っています。ただ,恐らく法律ができた当時というのは電報が主だった時代ではないかと思います。つまり,電話ももちろんあるのですけれども,電話とかというのは非常に高級なものであった時代ではないかということを背景にしているのではないか。ファックスもそうだと思うのですね。恐らくこの当時,昔私の子供の時代なんかは,チチキトクとか,入試でもサクラサクとかいう時代ですので,電報がやはり主だったと思うのですけれども,電話というのは非常に希少なものであったという時代を背景にしているのではないかと思われます。したがって,今日のように電話が主たるものになり,テレビ電話ができ携帯電話ができている時代ですから,それを手段に防御権を保障する方向性というのは適切であると思います。
【葛西委員】私は,電話は,非常に便利な手段だと思うのですが,電話により伝えられる情報は極めて限定的でありますし,私自身の電話に対する対処姿勢で言えば,顔と名前と声を覚えている人間以外の電話に対しては一切応答しないというふうにするぐらい,電話というのはある意味で便利であるがゆえのリスクも伴うと思うのですね。ですから,犯罪の捜査の対象になっている人の場合,捜査にマイナスになるようなことが一切ないということが条件でなければ,電話による接見の代用というのは認めるべきではないのではないかという気がいたします。途中で人が入れかわるとか,あるいは本人でない者が,それはいろいろ条件をつけられるから大丈夫なようにするのだろうとは思いますけれども,非常に電話というのはそういう点での危険がある。
第2に,電話により伝えられる情報というのは,実際に面接をして話し合う情報に比べますと,極めて限定的な情報になると思います。人間は面接をしてフェイス・ツー・フェイスで話をすれば多次元の情報を発信いたしますが,電話というのは単なる音声のトーンだけになってしまいます。したがいまして,弁護を真剣にやろうというときには,やはり接見を原則とすべきであって,電話で代用するというのはやはりいささかイージーに過ぎていないだろうかという感じがいたします。電子メールになると,更にこれは電報と同じぐらいに情報は限定的になってしまうのではないかなという感じがいたします。
【菊田委員】いやいや,違うのですよ。弁護士というのは接見はもう常時やるわけです。現状では,例えば本人でも弁護士に来てくれと連絡したいときでも,電話できなければ今でも電報とか,そういうことでやっているわけですよ。だから,緊急の場合に電話するとか,あるいはこれから接見に行くのについてどうだというような,こういう付属的なものとして電話というのをやるべきだというのが,今の状況だと思います,原則的には。
【瀬川委員】葛西委員に同感で,無原則にやってはいけないと思っています。したがって,当然捜査現場への混乱というのは避けるべきですし,確実にその人物であることを確認できるスキームをつくるというのは,当然の前提でお話ししています。
【久保井委員】それほど大きな意見の違いが皆さんの中にあるとは思いません。葛西さんからかなり慎重論が出ておりますけれども,絶対反対というふうな御意見でもないように思います。私は,基本的には,瀬川委員の御意見で正しいのではないかといいますか,同感です。確かに刑事訴訟法39条ができたころは,弁護士と被告人なり被疑者が打合せをする。これは結局公判準備とかそういう訴訟当事者としての準備活動が十分できるための権利というか,そういう面が中心ですから,それは直接会って打合せをするという,そういう時代だったと思います。その後電話がもう正にどんどん普及して,今携帯電話まであって,そういう時代が来ていますから。刑事訴訟法39条の条文の中の接見の中に電話が入るか入らないかという議論は,それは確かに形式論としてはあると思います。もし入るというなら現行法のままでいいし,入らないというなら刑訴法の改正だって場合によったらやってもいいし,また法務省がおっしゃるように禁止しているわけではないから,運用で広げるということだって許されると思います。だから形式論の議論は余り僕は必要ないと思いますけれども,こういう今の21世紀社会,正にインターネットが普通の時代になっているこの社会で,弁護士と被疑者・被告人が打合せをするについて,この極めてポピュラーな手段である電話を認めていくと,弊害を除去する方法は必要ですけれども,基本的には広げていくということはもう当然で,受刑者の場合でもヨーロッパを視察して電話を利用する道を開いたわけですけれども,これは受刑者と違いまして裁判の当事者として準備活動が必要なのですから,これを正面から認めていくということはどうしても必要です。
今回の有識者会議は,もちろん代用監獄をどうするかという大問題はありますが,この秘密交通権の問題を,外部交通をどの程度広げるかというのは,恐らく大きな目玉,有識者会議が国民に対して提示する報告書の最大の目玉がこの電話による外部交通,それ以外も重要ですけれども,それは最も重要な部分だと思いますので,やはりこれは社会の実態に合わせた形で大きく我々としては打ち出すべきだ。
裁判員裁判が始まったということを言われましたけれども,それ以外に被疑者について国選弁護が全部今度つけられる時代が来るのですね。被告人だけではなくて,被疑者段階から国選弁護人がつくということになって,これが何年か後には全部の被疑者につくような時代になってくる。そうすると,やはり弁護士がすべての被疑者に遠隔地であれ,何回でも何回でも面会に行けるかというと,限界があると思います。弁護士も複数の事件をやっておりますし,一つの事件だけやっているわけではないですから。だからちょこちょこ常に面会を求められても不可能でありまして,その面会による打合せを補うものとして電話による打合せというのは是非必要だ。
ファックスは,今菊田先生がおっしゃったように,伝言的な,今電報でやっていることをファックスでやる。今は弁護士に対して面会に来てくれということを電報を打っているわけですけれども,それをファックスでやる。ファックスというものはごく最近普及してきたわけですから,いろんな負担はあるし誤送信の問題はあると思いますから,注意はしなければいけないと思いますけれども,これを毛嫌いする必要は全然ないと思うので,だから,電話,ファックスは,私は積極的にこの有識者会議の報告書の目玉商品として打ち出すべきだというふうに思います。
【井嶋委員】今,久保井委員が言われましたが,蛇足ですけれども,受刑者について電話による通信を認めました。これは,この条文に書いてありますように,開放的施設に入れるような優良な受刑者について,改善のグレードを上げるために,更に社会復帰へスムーズに移行できるようにというような配慮から,その段階における電話通信を認めようという法律になったと思います。そういう意味で,もちろん社会の進歩がありますから電話による通信連絡を認めていくというのは一般社会の常識ですから,行刑においても可能な限り認めていくべきだと思いますけれども,受刑者に認めたのはそういう趣旨で若干ニュアンスが違うと思います。
それに反しまして,未決勾留の場合は,特に捜査段階での被疑者の場合には,先ほど来出ておりますように,国家の権能としての捜査権の遂行という大きな目的との調整の中でどう判断するかという問題が常につきまとうわけでございますから,そういう中で考えることが一つと,それから,刑事訴訟法ができました当時に接見というものの中に電話という概念はなかったというのは確かにそのとおりなのですが,それはまあ一種の詭弁であって,やはり社会的に進歩して電話というのが通信手段として認められた以上は,これをどう包含させていくかというのが法の執行者の考えていくべき方向だろうと思います。そういう意味で,既決に認めましたように電話の通信というのを認める方向が正しいのだろうということを,法務省が先ほど説明したペーパーに書いてあることは,僕は正しいことだろうとは思いますが,ただ余りにも唐突でございまして,そういった体制にない,警察にしましても拘置所にしましても,そういったことをおよそ想定せずに今までやってきておりますから,そういった観点からそういう連絡手段を導入したらどういうことになるのだろうかということが実は全くまだ私自身は少なくとも頭の中で絵がかけません。ですから,そういうことを踏まえながら,そして,瀬川先生や葛西委員がおっしゃったような総合的な判断をどういうふうにしていくのかということを,条件的なものですね,そういったものをどういうふうに考えていくのかということを慎重に検討してもらって,次のステップといいますか,将来の方向としては正しいのだろうと思いますけれども,いきなり既決に書いたような形で今回書けるのかどうかということについては,私は若干危惧を持っております。しかし,相当な条件,例えば弁護士会と拘置所との直通の電話のラインをつくるとか,そういったような極めて限定的な運用を考えてしてみるかなというようなことから始めるのかなというような印象を持っていますが,いずれにいたしましても,捜査の遂行という点との調整というのが一番大事ですから,そこを考えた上で慎重に検討してもらいたいというのが私の考え方です。
【佐藤委員】趣旨その他は今の御説明,御意見等でよく分かりましたけれども,今,井嶋さんがおっしゃいましたように,これを認めたときにどういう姿になっていくだろうかということを考えますと,恐らくこれは電話が中心になっていくのではないかなと。それは便利ですし,どこから架電をするように義務づけるかという問題はありましょうけれども,もし近間の公的な施設から架電をするということで,そのラインも混線の可能性のない電話回線を用いるとか,いろいろあるにしても,相当数利用されていくようになるのは,これは自然ではないかなと思うのですね。そうしますと,今は直接の接見しかない状態から,これがどんどんどんどん増えていって,どの程度になるか分かりませんが,半数近いものが電話でやるというようなことになっていくかもしれないことを想定しますと,そういうことを想定しておいてどうやっていくのかということをスタートのときから考えていかないと,思わぬ状況が生まれてしまうのではないかなという気がいたします。
私も定かには承知しておりませんけれども,聞くところによると,どこでしたか,イタリアでしたかイギリスでしたか,これを導入した国は,どこかありませんでしたかね。
【福田留置管理室長(警察庁)】オーストリア,イタリアの拘置所がございます。
【佐藤委員】多分そういう国でも,電話が多くなっていっているのではないかと思うのですけれども,そういうことをやはり考えていくべきだろうなと思います。これは人間の常だろうと思うのですね。したがって,施設にいたしましても人的体制にしても,どこまでそれに対応できるのかということをよくよく考慮した上でスタートするならすべきではないかなと思います。
それで,ちょっとこれは,刑事訴訟法の分野についてこういう考え方はおかしいぞと言われてしまうのかもしれませんけれども,行政的な措置ということの常識から言うと,これは法律で権利として認めてないわけですよね。にもかかわらずそれを認めよう,しかも,それは捜査と被疑者の人権なり防御権ということとの調整をどのようにやっていくかという,非常にシビアな問題であるにかかわらず,法律の規定によらずにやろうとすると,表現は何と言うのか恩恵と言うのか何と言うのか知りませんけれども,そういう類のサービスだと。そうしたら,普通の行政機関の場合は手数料を取るのですよね。特定の者に対するサービスというのは必ず手数料を取るとしたものなのですが,これは違うのですかね。
【久保井委員】それは取ってもいいのではないですか。
【佐藤委員】ないしは架電可能なように施設をそのときに拡充しなければいけない。その施設の拡充に要する費用は,その受益をする者から徴収するというのは,これは行政の常識だと思うのですが……。
【菊田委員】それは問題ないでしょう。電話の使用料は,それは使用した人が負担してもいいと思います。架設は,これは関係ない。
【佐藤委員】これは違うのですか。
【久保井委員】普通の場合の料金でも,架設費用も織り込んだ料金が出ているわけですからね。
【佐藤委員】ああ,そうですか。
【久保井委員】ちょっと話が飛躍するかもわからないけれども。
【佐藤委員】変な話をして済みません。
【久保井委員】既決のときの論議が,非常に最初の出発点より進んだ理由は幾つかあると思います。世論が味方したとかいろんなことがあると思いますけれども,ヨーロッパを見に行った。ドイツ,フランス,イギリスを見に行って,やはりここまではしないとしようがないなという気にだんだん我々も変わっていったということがあると思うのですね。だから,時間がないのが非常に困るのだけれども,1月は正月だし2月ということになるともうすぐですけれども,近くの国に,例えば韓国がやっていると日弁連おっしゃって,さっきの写真を見ましたけれども,韓国とかそういうところを見に行って,電話の利用はどういう方法で行われてどういう実態になっているのか,料金はどういうふうにセットされているのか,そういうことを場合によったら会議と会議の間に2〜3日出張したらできることですから,見て調査してもいいのではないかという感じもしますね。
【江川委員】今の議論を聞いていますと,どなたもこれは絶対にだめだという方はいらっしゃらないと思うのですね。ただ,やはり幾つかの心配点があるということだと思うのです。さっきと繰り返しになりますけれども,裁判員制度が導入されると,いかにスピードアップをするかというのがとても大事な問題で,弁護人が準備ができてないので今日はできませんとか,そういうふうに裁判が長引くというのは避けなければいけないということがあるわけで,そのためにも弁護人と被告人が十分に打合せをするという機会を極力増やすというのはとても大事な時代の要請だと思うのですね。ですから,電話は基本的に認める方向だけれども,ただ,多分恐らく捜査とかいろんな方が心配なさっているのは,弁護人であることをどうやって確認するのか,弁護人がずっと話し続けているということをどうやって確認するのかということと,それからさっき佐藤さんがおっしゃったようにひっきりなしにそれがかかってきて,人的あるいは経費とか,そういう問題がどうなのかということだと思うのですね。だから,大きな流れとしては認める方向だけれども,そういうことについて例えば詳しくこれから検討するとか,そういうような方向性ではどうかなと思ったのですけれども。
【南座長】今の御意見を聞いていますと,基本的に絶対反対というようなお考えはないと思うのですね。ここで出ていますのも,これを認めるべき具体的な必要性の程度も勘案し,慎重に検討する,あるいは,弁護人等であることを確実に確認できるスキームをとるというのは不可欠だと,そういうふうないろんな条件がついておりますが,基本的には絶対反対という考えはないというような感想を持ちました。
ファックスによる外部交通については,どうでしょうか。
【瀬川委員】私もこれは賛成です。事務負担の増加とか誤送信というのですけれども,これは確かにあるかもわかりませんけれども,先ほど言いましたような被疑者・被告人の権利保障という点から見れば,この点はさほど大きな問題ではないのでないか。誤送信の場合はチェックすれば済むことではないでしょうか。何回も何回も1日にファックスを打ちつづけるということは到底考えられないように思いますので,必要なときはこれを認めていいのではないかというふうに思っております。
【江川委員】今電報だということなのですけれども,電報は,例えば費用とか手続とか,そういうのは。例えば打ちたいというときには必ず,例えば警察に留置されている人が電報を打ってくれということになると,確実に打つあるいは確実に伝言するということなわけですか。そして,その費用とかそういうのはどこがお持ちになっているのでしょうか。
【菊田委員】払っていますよ。電報でしょう。
【北村官房参事官(法務省)】拘置所の電報は,本人負担であります。
【江川委員】警察の方も同じですか。
【佐藤委員】警察のこれは,何かサービスで。
【久保井委員】弁護士の事務所に電話をかけて,一人ずつ……。
【佐藤委員】伝言しているというやつは,これは。
【福田留置管理室長(警察庁)】お答え申し上げますと,弁護人の方に面会とか差入れの要望がある場合には,留置の担当者がその旨を聞いたら,事務所の方に電話をかけさせていただいて取り次がせていただいています。そういうことをやっていますので,あえて電報というのはまずないのではないかと思います。
【菊田委員】電報はよくありますよ。
【佐藤委員】費用はどうしているって。
【久保井委員】電話代は。
【菊田委員】本人負担でやっていますよ。
【福田留置管理室長(警察庁)】電話で取り次いでいる負担は,特段お取りしているわけではございません。
【久保井委員】裁判員裁判という言葉が出ましたけれども,この11月1日から公判前整理手続という刑事訴訟の改正がもう既にスタートしておって,争点整理を短期間にやらなければいけない。弁護士は,どこを争うのか,何と何,どの点を争うのかということをはっきりさせなければいけないのです。だから,連日的開廷が始まる前でも,その密接した短期間の打合せをどうしてもしなければいけない。そういう構造になってきているのですね。
【南座長】法務省の方で検討が必要だとされるのが三つほど理由が挙がっていますが,この点一番問題はどれなのでしょうか。誤送信の防止策。通信費用は,例えば自己負担ということは考えられる。
【北村官房参事官(法務省)】どれも小さな問題で,どれが大きいということもないのですが,例えば,通信費用に関しましても,本人負担で,それは考え方としてはそうなのですが,例えばファックスの場合は何人か分を一挙に送るみたいなことになるかもしれなくて,そのときにどうやって分担させるか,本人から取るのはいいのですが,どうやって計算してどうやって取るのかという,細かな事務手続上の問題があります。
【江川委員】警察の方に伺いたいのですけれども,ファックスを認める必要性は認められないということですが,ファックスにすると困ることというのは何かありますかしら。
【片桐総括審議官(警察庁)】今申し上げましたように,電話の取次ぎを我々はやっております。それに加えてまたファックスということになりますと,いろんな手段,方法が出てまいりますから,もしファックスでやるのならば今の電話取次ぎをやめていただくとか,そういう整理をしていただけないかなという趣旨でございます。ですから,今の電話取次ぎでよろしいという話であれば,これを続けていきたいということでございます。
【江川委員】両方はやはりだめですか。両方というか,この人はファックスだけれどもこの人は電話とか,そういうのだとだめですか。
【片桐総括審議官(警察庁)】それはいずれかにしていただきたいと思います。
【江川委員】とりわけ弊害とか,そういうのはありますか。
【片桐総括審議官(警察庁)】ファックスの問題は,それ以外にも今言われました誤送信の問題とかいろいろございまして,また,ファックスでございますと一遍こちらが送った後にまた連絡をしなければいけないとか,結構手間がかかるのですね。きちんと着いたかどうかということを確認しなければいけませんから。そういった問題がありますので,できれば我々は今のままの方が,運用のまま続けるのであれば続けて,これでよろしいのであればこのままがいいのかなというふうには思っております。
【菊田委員】やはり時代が変わっているのですから,今まででいいというような発想はやめて,どういうふうに改良しながら合理性を導入していくかという発想で物事をやってもらいたいと思います。総合的に考えれば,ファックスとか電話とかいうことで利用していくようになると,接見する人も若干減る,これは弊害があるかもしれないけれども減ることもあり得るわけで,むだな接見もなくなるわけだから。トータルでいけば職員の人の仕事も減るということもあり得るわけで,だからいかに被疑者なり被告人の置かれている状態を社会人と同じ意味での通信を適用していくかという,そういう基本的な考えでやっていただく必要があると思いますね。
【葛西委員】ファックスでも私はいいかとも思うのですが,電報の場合だと,あれは郵便局ですよね。郵便局は,たしか法律で,必ず相手側に届ける義務がありますから届かないということはないのだと思うのですよ。ですから,納税通知書とかあるいは選挙券だとかは必ず郵便で来るのですよね。ファックスというのは,これはもしかすると別のところに行ってしまって正しいところに打ったつもりでいるなんていうこともあり得るわけで,私は,どちらか一つにするのであれば,自分の権利を厳しく守ろうとすれば,国家権力によって必ず届くということが保障されている電報にするのが自然の形だと思うのですよね。便利であるのだけれども不正確なものと,必ず責任を持って国が届けるものと,どちらにすべきかといえば,私は選挙券や納税通知書と同じように扱うべきではないかなという気もしますが,いかがでしょうか。
【江川委員】確かにそうだと思うのですけれども,それは本人が選べばいいのではないかと思うのですね。だから,今お話を伺っていても,確かに警察は若干手間が増えるとか,そういうことはあるのでしょうけれども,例えばファックスでも通知しましたと表示が出るようなモードにもできますよね。だからそういう工夫をして,それを欲する人には認めるということで,それほど何か大きな弊害はないような気がするのですけれども。
【瀬川委員】時間が相当して,延々続きそうな感じがするのですが,一つだけ意見を言いますと,やはり人間として直接的に弁護人に自分の書いたものが届くというシステムの方がいい。人づてに伝えるとかではなくて,やはりファックスできちっと伝える。それも電報に比べ非常に時間的に早く伝わるというのは非常にメリットなので,やはり現代的な文明の利器を利用する方向でよいのではないか。弊害は幾つか考えられるかもわかりませんけれども,やはりそのメリットというのは否定できないと思います。
【南座長】ここのところは,メリットとデメリットを比較勘案して法務省と警察庁とで詰めていただけませんでしょうか。法務省の方は必ずしも否定的ではないと思いますので,よろしくお願いしたいと思います。
【南座長】それでは,4の弁護人等との間で発受する信書の検閲,5,接見時の書類等の授受,6,接見における記録方法の拡充について,御異論がございましたらお話しください。御意見がございましたらよろしくお願いいたします。
【江川委員】弁護士会に質問なのですけれども,これについて警察と法務省が共通しているのは,転々流通するおそれがあるということが書いてあるのですけれども,それに対して何か御意見,あるいはこういう防止策があるとかこういうことはだから心配ないとか,何か御意見がありましたらお伺いいたします。
【西嶋勝彦弁護士(日弁連)】お答えいたします。どういう場合を想定されるのか,私どももこの反論といいましょうか,懸念の対応がよく分からないものですから。私どもの理解では弁護人の良識に基づいて自分の手元に置いて処理するのではないか。中には確かにルール違反で,これを外部に広く広めるという者が出るかもしれない。一人もあり得ないということは,これは将来のことは分かりませんので,そのときには厳格な懲戒とか,そういうことで対処できれば済むのではないかと考えております。
【江川委員】弁護士会の方でそれを処罰というか懲戒処分にするということでガードするということですね。
【西嶋勝彦弁護士(日弁連)】それしかありません。
【佐藤委員】ちょっとお尋ねしますけれども,4の信書の検閲のところですけれども,前段と後段に分かれていまして,現在は弁護人等が発した信書についても検査を行っているけれども,それを弁護人等であるかどうかを確認する限度に控えるようにすると,こういう趣旨ですよね,これ,前半。あえてそこまでするというのは,どういう理由なのですかね。従前どおりでなぜ支障があるのでしょうか。
【北村官房参事官(法務省)】先ほども若干御説明させていただきましたが,これは法制審議会でも議論をされてこのとおりの結論になっているところでありますが,もちろん一つは,なるべく防御権に配慮すべきだという考え方が背景にあって,他方で,弁護人が未決に発する信書については,弁護人が作成するものなので,不当な内容の記載があることは少ないだろうし,弁護人から施設の中にいる未決のところに送られてくるもので,通常届いてから後はその未決の手元にとどまって,そこから更に転々流通することもない。そういう意味で,未決が弁護人に出す手紙と違って弊害が余り考えられないので,ここはこの限度でいいのではないかというのが法制審の結論の理由でもございますし,我々はそういう考え方でいいのではないかと思っているところでございます。
【佐藤委員】そうすると,未決の拘禁者から弁護人等に発する信書については,ここに書いてあるように現状どおりと。
【北村官房参事官(法務省)】とりあえずはそういう考え方であります。
【佐藤委員】皆さんいかがですかね。私は何度かそういう経験をしたのですけれども。と言いますのは,現職当時のことですけれども,私あてに来た文書,親展で送られてきて,確かに差出人は私の知った人である。それでずっと読んでいったら,文面がおかしいので,最後まで読んだわけですけれども,その最後に,実は私は別人であると書いてあって,なかなか役所のことだから御自身に届かないでしょうから,恐縮だけれども人の名前をかたらせていただいたという手紙を,こういうのは大体告発文ないしは苦情,陳情でしたけれども。つまり,読んでみないと差出人が誰であるか分からないという,そういう手紙というのは現実にあるのですよね。そういたしますと,差出人が弁護人等である旨を確認する限度での検査というのは,検査する人は非常に難しいのではないかなと思うのですが,どんなものですかね。
【葛西委員】出した手紙が弁護人の方から出たものであっても,途中ですり変わるという可能性がありますよね。私は自分のところに来た手紙が途中で読まれた経験が度々ありますが,これは,郵便局に投函してそれから配達,集めて郵便局を経過して届くまでの間に中を読むということはできないことはないのですよね,もしその気でやれば。組織犯罪みたいな場合には,そういうことが可能ですよね。そうすると,やはり中身はきちんと見ておかないと,途中ですり替わるという可能性は,弁護士さんが悪いことをすることはまずないと想定したとしても,手紙が,本当に当人の出したものがきちんと届いているかどうかというのは,経験からして確認の必要があるような気がします。
【久保井委員】今の議論は,被疑者・被告人と家族,友人との間の一般の手紙ではなくて,弁護人と被疑者・被告人との間の手紙ですね。だから,これは,言ってみたら裁判準備が大半を占めるといいますか,その事件についての相談といいますか。だから,被疑者・被告人と弁護人との間は,基本的には外部から監視されずに秘密交通権が保障されるというのが刑事訴訟法の大前提だから,やはり,今提案されている弁護人から出すのはいいけれども,被疑者・被告人から弁護人に出すのは内容チェックが要るというのは,ちょっと往生際が悪いのではないかと。やはり,双方向的に,被疑者・被告人から出すものであっても同じように扱って,秘密交通は認めるべきだというふうに思います。ただ,いろんなケース,確かにたまに変な弁護士がおることも事実ですね。だからそういう者に対して,今説明のように懲戒で事後的に対処するというだけで足りるか,あるいはそういう例外的な緊急の危険性,特殊な案件で,これについては危ないという具体的な危惧がある場合には,場合によったら検査できる,例外的に検査できる,検閲できるというような,そういう道は残してでも,原則はやはり秘密交通を双方的に認めないと,刑事裁判というのは当事者主義ですから,こちらがどういう準備をしているかということが捜査側に全部漏れてしまうということは裁判の基本ルールに反するわけだから,私はむしろこの今のものを一歩進めるべきだという考えですね。
【葛西委員】私が今お話ししたのは,弁護人から被疑者に行くものについて,弁護人が出したという確認だけでいいというのは不十分だということを申し上げたので,被疑者から弁護人に渡すものは当然チェックしないと,既に恐らくいろんな例があって,多分証拠隠滅だとか,あるいは脅迫だとか,さまざまなことを依頼するようなことが起こることはあり得るだろうと思うのですよね。ですから,それは見るべきだと。弁護人が出したものを,弁護人が自分で書いたものについて言えば,それは一般的に信頼してもいいかもしれませんが,それは物理的にその同じものが本人のところへ届くプロセスというのはいろんな人の手を通っていきますから,そのときに何が起こるかはだれも保障できないので,中に毒物が入る可能性もあるかもしれないし,内容が変わるかもしれませんから,ここはやはり見るべきだと。両方見るべきだというのが私の見解です。
【久保井委員】済みません。もうちょっと補足しますと,おっしゃることは十分分かります。分かりますが,勾留されていない在宅起訴の案件もいっぱいあるわけですね。まだ起訴前の被疑者も,取調べ中,勾留されていない取調べが多いわけですね。そういう場合は,弁護人との間で信書のやりとりは自由にできるわけですね。全く自由ですね。だから,勾留されたからといって,その施設に危害を加えるような,爆破するとか,そういうおそれがあるなら別だけれども,やはり原則としてその事件について本当に相談が自由にできるということをしてやらなければいけない。それは,在宅起訴だろうが勾留中の被告人だろうが同じように,そこは弁護人との打合せが十分できるようにしてやる必要があるのだから。勾留されている者だけ全部中身をチェックしてしまうとアンバランスになってしまうのですね。その理屈で言うと,被疑者と被告人,在宅のものもチェックしなければいけないということになってしまうので,私は,やはりそこはちょっと心配はあるとしたら,緊急的な危険性がある場合には検閲できるという,そういうただし書を入れてでも,私は認めるべきだと思いますけれどもね。
【菊田委員】今おっしゃった御意見と,私全く同感です。欧米諸国では,受刑者でも弁護士それから裁判所に出す信書については絶対に検閲しないというのは昔から確立しているのですね。日本でも,これから少なくとも未決から弁護士,裁判所等々法的な機関に,公のところに出す信書は検閲しないという原則を確立すべきだと思います。もし何らかのことを起した場合は,既決の場合はアメリカでは特に懲罰の対象になります。未決にしても,それ以後は出させないとか,いろいろ制裁の仕方はあると思います。懲罰ではなくても方法はあると思います。そういう違反したことが自分にとっては不利益なのだという,そういうことは知らせなければならない何らかの措置はとる必要があると思いますけれども,基本的には検閲しないという,これは確立していただきたいと思いますね。
【佐藤委員】制度の問題を云々しているのではなくて,弁護士,弁護人の方が云々ということでもないのですね。つまり,弁護士,弁護人の名をかたって出す手紙というのがあり得ると。これは,暴力団事件で共犯事件の場合には十分あり得ると思うのですね。ですから,過去にも幾つか私自身もそれに似たことを体験しておりますけれども,ある暴力団の組長に指図をした組長について,自供されてはかなわないとその組が考えたときに,それをどのように被疑者に,被拘禁者に伝えるかというといろんな方法があるわけですけれども,そのうちの一つの方法として弁護士の名をかたるということは十分あり得る。それを,弁護士が変だと,こういうことを申しているわけでは決してないのですね。
弁護人等である旨を確認する限度での検査といったときに,仮に看守なり刑務官なりの人が読んでしまった。先ほど申し上げたようなことで,読んでみなければ分からないということはあると思うのですよ。そうしたときに,それは確認する限度を超えているのではないかとかということで紛議になったりすると,現場は非常に混乱するのではないかと思うのですね。そうすると,結局一切見ないとか,あるいは全部読んで判断するとか,どっちかになってしまうのではないかなと。こう書かれて一見いいように見えますけれども,本当に実効性があるのかなと,こういう疑問を感ずる表現なのですが。そういう意味でちょっと申し上げているのですけれども。
【江川委員】佐藤さんに質問なのですけれども,その可能性としてやはり一番危惧されるのは,そういう暴力団のことですか。
【佐藤委員】ないしは,ちょっとまた……。
【江川委員】組織犯でオウムみたいなところとか。
【葛西委員】実際にそういう例というのは,警察の方では幾つか既に今まで何かそういう例があるのでしょうか。出したものの中に,本当は伝わってしまってはまずいというようなものが,例えば被疑者から出したもの,あるいはその逆さまのもの。
【福田留置管理室長(警察庁)】現在被収容者,被留置者の方から弁護人あてに発します信書については,内容の検査を法令に基づいてやっておりますが,その中で最近ありました事例では,一つは暴力団員であります被勾留者の人が弁護人あての信書に,交際中の女性の人に暴力団事務所へ電話させて,暴力団関係者のAと仮に言うとすると,Aを呼び出して,別の暴力団幹部Bの連絡先を聞いてほしいと。そこは捜査対象になっている者の関係者であったわけですけれども,それは通謀,証拠隠滅のおそれがあるということで,該当部分の削除という対応をした例がございます。
そのほか,別の事例でございますが,被勾留者から弁護人あての信書に,共犯関係にある他の女性被勾留者にあてて,取調べでは余計なことを言うなよとの記載があり,これまた通謀,証拠隠滅のおそれがあることから該当部分を削除した例がございます。
また,別の例では,殺人事件の被疑者である被勾留者から弁護人あての信書に,被害女性の交際相手で証人出廷の予想される男性の方にあてまして,証人等威迫罪等の刑罰法令に触れるおそれのある記載がありました。刑罰法令に触れる結果を生ずるおそれがあることから,発信を差し止めした例でございます。
警察はといいますか,拘置所もそうでしょうけれども,内容を弁護人あてといえども検査しております。そういう前提のもとでも,なおこういう事例がある。被収容者の方は検査をするということは恐らく知っていると思います。そういう中でも,まだこれがあるということでありまして,現場の方ではこれを愚直に検査する中で,通謀等の危険の排除のために一生懸命やっているところでございます。
【江川委員】逆はあるのですか。弁護人からの書面で問題があるというのは,あるいはさっき佐藤さんがおっしゃっていたような,かたってみたいなのとか,そういうのは事例としてはありますか。
【福田留置管理室長(警察庁)】弁護人からの信書につきましては,法令上は今現在の監獄法でございますけれども,検査可能なのですけれども,昭和55年の法制審答申で,弁護人から被収容者あてという信書につきましては,弁護人からのものであることに信頼して,そこにかんがみて,警察におきましては運用上弁護人から来たことを確認すること。もちろん中に変なものが入ってないかと,そういうことは見ますけれども,内容を見るというところまではしておりません。そういう運用を今,弁護人からのものについてはしておりますので,中身について云々というのは承知しておりません。
【江川委員】今のところ,それで大きな問題は生じていますか。それでだれか被害を受けたとか,そういうのが具体的に何か。今そうやって運用されて,何か問題は。
【福田留置管理室長(警察庁)】弁護人からのものにつきましてはそういう運用をしておりますが,それによる問題というのはないというふうに考えます。
【菊田委員】今いろいろ議論されていますけれども,逆に言うと,どんなに厳しくしても漏れるものは漏れるということなのですよ。だから問題は,そういう厳しくすることによって,例えば厳しくしてはいけないものも厳しくするということがあり得るということなのです。ですから,これはそういう通信なりあるいはその他の権利とまでは言わないけれども伝達手段というものを,人間として認めてあげるという前提,そしてその約束に違反した者に対してはどう処理していくかという発想が必要なので,刑務所でも,刑務所で許されてない伝達手段でも一般の人にも伝達することは幾らでも方法は彼らは工夫します。だからそれがあるから,原則はだめだというふうな論理は,これは絶対に私どものいわゆる有識者の中でとってほしくないと思いますね。
【井嶋委員】この問題は,先ほど申し上げましたが,勾留の目的というか,そういう国家権能の行使の部分と弁護人の秘密交通権という,これは憲法上の被告人・被疑者の弁護人依頼権に由来するところの権利ですけれども,これとの調整の問題でございます。弁護人の発する書面については,弁護人の特性にかんがみて今回は確認の限度にとどめようという,一つ新しい施策を出す。しかし,弁護人に対するものについては,もう先ほど例がありましたようにまだいろんな問題が発生し得る余地がありますから,ましてや勾留の目的との関連で一番重要な問題点がございますから,これは従来のように内容の検査をするということにしようという一つの調整の結果なのだろうと思うのですね。内容の検査というのは,内容を見て内容が発信あるいは受けることが不適切なものは,内容の良し悪しによって拒否するという意味がある。弁護人の発するものかどうかを確認するというのは,弁護人の発するものであると確認されれば,中身が,それは公序良俗に反するようなことは別としまして,中身がどんなものであれ,それはその理由では拒否しない,こういう違いがあるということでございますから,その限度で双方の合理的調整をした結果として,そういう方向でいこうという原案の考え方は,私はそれなりに理解し得るし,この辺が限度かなという感じがいたしております。
【久保井委員】外国はどうなっているか,もし法務省なり警察庁の方で知識があるなら,説明していただけませんか。
【菊田委員】それは,私がさっき申し上げたように,少なくともアメリカでは裁判所,弁護士等々に出す信書等は全部無検閲です。それは確立しています。
【江川委員】前半の部分については,実際もう今や運用されていて,それほど問題も出てないということなので,確かに佐藤さんからさっき言われたときに,ああ,そういう問題もあるのかというふうには思いましたけれども,もちろん100%完璧な制度はないということを考えると,前半の方は何か問題が起きたときには厳しく対応するということでいいのではないかなという,私はそういう気がしました。
問題は,やはり後半の方で,実際幾つかそういう事例があるということを考えると,何らかそれをもし野放図にしていて被害が出るようなことがあれば,では警察は何をやっているのだ,拘置所は何をやっているのだということになるわけなので,そこのところはもし例えば必要以上に検閲をするようなことがないように注意するということをみんなでお約束するということにして,ある程度チェックするのはしようがないのではないかなという気がするのですが。
【久保井委員】いろんな事件の状況にもよりますよね。危険性のある事件とか,全然そういう危険性が感じられない事件とかあるでしょう。だから運用の現場で,そこはやはり上手にやっていただくという江川説でいいのではないかと思いますけれどもね。
【南座長】恐らく運用としても,そういう内容の検査にしても,事件の種類によってやはり違うのではないかと思いますね。ですから,この弁護人等が発する信書については,これは確認する限度でいかがでしょうか。一方,未決拘禁者が発する信書については,内容検査をするにしても行き過ぎがないようにしていく。これは事件の性質だとか種類によって違ってくる問題ではないかなという感じがするのですけれどもね。今日の御議論を聞きまして,またいろいろ後で取りまとめたいと思います。
【岩瀬官房総務課長(警察庁)】未決拘禁者からの分について御理解は大分いただいていると思いますが,そこで事件の性質について判断を例えば現場の一人一人の勤務員に求めていって,それを常に適正に判断をしてやらせるというような基準でやるのは,これはなかなか現場サイドの声からしますと非常に難しいことになるのではないかという声も十分ございますので,その点も十分踏まえてお考えいただきたいと思います。
【南座長】その点は踏まえて,よろしくお考えください。
5の接見時の書類等の授受,これはいかがですか。
【久保井委員】これは,是非認めていただきたいですね。やはり弁護人選任届をとったり,あるいは事件についての説明をさせたり,接見時に被疑者に対して説明を求めるのに地図を書かせたり,いろんなことをやらせないと飲み込めない場合がありますからね。だからそういう意味では,今の建前は,事前に差入れ手続をとってきちっとやればできるのだけれども,その場でやりとりが何もできないというのは非常に不便で時間がかかっているので,これは是非認めていただきたいというふうに,認めるべきだと思います。
【葛西委員】私は,この原案どおりがよろしいかと思います。
【江川委員】書類及び物の授受というのは何を指しているのですか。例えばオウムの事件のときに,オウムの青山弁護士というのが当時いて,オウムのいろんな麻原の書いたものをこうやって見せたりして,それをある種脅迫的に使うということもあったのですよね。だから,そういうことが非常に,つまりいろんな組織犯罪とかそういうことについてはとても気になるところなのですけれども,何を指していらっしゃるのかということをもう少し具体的に。
【西嶋勝彦弁護士(日弁連)】日弁連が考えております書類等は,基本的には事件関係の記録,供述調書とか写真とか,現場検証の写真あるいは弁護人が用意している弁論の要旨の原案とか,そういうものを直接やりとりして,速やかに次の活動に生かす,そういうことを念頭に考えております。
【江川委員】それを受け取ったものを全くチェックなしで自分の房まで持ち込んで,それを保管するという,そういう想定ですか。
【西嶋勝彦弁護士(日弁連)】はい。ただ大半は,また持ち帰ることが大半です。99%恐らくそのまま弁護人が……弁護人が持ってきた資料を打合せ用に使って遮へい板のないところで渡して,見てくれ,ああ,そうかと,そこに丸をつけてくれと,また持ち帰る。それが基本です。渡しっきりの場合もあるいはあるかもしれないけれども,その場合には房内検査その他で十分処置ができるのではないかと思います。
【佐藤委員】法務,警察両省庁の文書の中には,それを否定する見解が述べられていますけれども,今のことについてそれぞれどう考えておられるのですか。大いに認めて結構だ……。
【北村官房参事官(法務省)】いや,そういうつもりでは全然なくて,要するに,一つ目に書いておりますのは,ここは弁護人と未決との面会の場面ですから,もちろん立会いはない,そのときに,遮へい板もないところでやられると,弁護人ですから,そんなにないのかも……余り想定できないのでしょうけれども,例えば逃走用具みたいなものを渡される,そういうことが起こると,それは到底無視できませんから,その問題を考える必要がある。そういう弁護人から未決の方への物の交付というのは,面会が終わった後に未決の身体検査をちゃんとやれば防げる問題かもしれません。ですが,今は,遮へい板のあるところでやっていますから,面会が終わった後に身体検査をする必要はもちろんないわけですが,そういう余分な業務が出てくるわけでありまして,それをどう考えるか。
それから,他方で,未決から弁護人の方への問題として,遮へい板のないところで面会をすると,例えば,弁護人が持ってきたノートか何かに未決が自分の意見を書いて,自分の言いたいことを書いて,これをだれかに見せてくれという形で,無検閲での信書の発信と同じことができることになるわけです。それは,弁護人が出ていくときに,弁護人の身体検査,所持品検査をすれば防げるのかもしれませんが,それはさすがに全然現実的ではない。結局,先ほど,同じ問題だと申し上げましたのは,未決が発する信書について内容の検査をするという考え方をとるのであるならば,それが妥当であると考えるのであれば,立会いのない面会室でやる,立会人のない面会になる未決と弁護人との面会を遮へい板のないところでやるというのは,到底認められないという結論になるはずだということでございます。
【西嶋勝彦弁護士(日弁連)】その点,ちょっとよろしいでしょうか。私どもの経験では,少年鑑別所では,現在でも遮へい板のないところで少年の被疑者・被告人と……被疑者ですね,鑑別所ですから,勾留中の被疑者と弁護人が部屋の中でテーブルを挟んで握手をしたり,あるいは物の授受をしたり物を見せたり,これを自由にやっています。先ほど言われた弊害がもしあり得るとすれば,あるいは何万人に一人というケースがあるとすれば,それは,先ほど江川委員にお答えしましたように,厳重な懲戒等で対処する。そのために残りの何万人かの弁護士が全部の検閲を受けるということは,余りにも不合理ではないかというのが,弁護士会の考え方です。諸外国の例でも,遮へい板のないところでの接見が自由に行われていますけれども,弊害は聞いたことはございません。
【南座長】お伺いしますが,ここで「授受」とありますけれども,これは見せるというだけではなくて渡してしまうということも入っているわけですか。
【西嶋勝彦弁護士(日弁連)】はい。
【南座長】見せるだけではだめですか。
【西嶋勝彦弁護士(日弁連)】いや,見せるだけでも障害があるのです。遮へい板がありますから。
【南座長】今のは分かりますけれどもね。
【西嶋勝彦弁護士(日弁連)】「授受」で認めてほしいということです。
【葛西委員】諸外国の例とおっしゃったのですが,諸外国というのは,どことどことどこのことですか。
【西嶋勝彦弁護士(日弁連)】韓国もそうですし,この前見に行きました,三者で合同調査,先ほど前回にお配りしました三者で見に行った調査報告書がございますけれども,ウイーンの警察あるいは拘置所,それからローマの警察,拘置所,全部これは自由に遮へい板,仕切り板がないところで弁護人と被疑者・被告人が面会しております。
【久保井委員】物の授受。
【西嶋勝彦弁護士(日弁連)】それも自由にされております。
【葛西委員】全体の例えば犯罪を予防するとか,捜査して裁判にかけていくというシステムを比較したときに,どういうふうになっているかというのが非常に問題だと思うのですが,局部だけを見て,この局部だけの話で何が自由で何が不自由かというふうに考えますと,たくさんの変数のある方程式に,関数の中の一つの変数について偏微分をかけたような話になると思うのですね。ですから,そういう形ではなくて,全体を比較するのでないと,諸外国ではというのは,その点については余り意味がないのではないでしょうか。
【西嶋勝彦弁護士(日弁連)】勾留の期間とか,あるいは場所とか,そういう刑事手続全体の中で多少はあるかもしれませんが,接見の問題に関してはいかなる刑事手続であろうと差はないと思いますが。私は,それは影響はないだろうと思います。
【葛西委員】例えば事前に電話の傍聴を認めている国は多いですよね。それから特定の団体,一定の条件下において手紙を開いてみるということをやっているところもありますし,常時監視体制を敷いているところはあると思うのですよ。ですから,これからの例えば犯罪の様態がどういうふうになっていくかということは,例えばテロリストとどう対峙するかというような話になったときに,いろんな形で動いていくと思うのですね。ですから,そういうところまで含めて考えてみたときに,一体どういうふうに予防能力が,抑止能力が備わっているかというのは,トータルのシステムとして比較してみないと,日本の方が厳しいとか日本だけが厳しいとかいう議論というのは,私は素人だからよく分かりませんけれども,何か正に局部だけをとらえた議論のように聞こえるのですけれども。
【西嶋勝彦弁護士(日弁連)】お言葉ですけれども,それは原則と例外の問題だろうと思います。何を原則として何を例外として認めているかという問題だろうと思います。
【佐藤委員】今日の会議は,この有識者会議のメンバーでの議論をするというのが趣旨ですよね。意見交換といいますのは。そうすると,いかがなのでしょう。委員相互での意見交換を主にしていただくことの方がよろしいのではないでしょうか。
【南座長】質問は……。
【佐藤委員】というのは,でないと制限された時間の中で……。
【南座長】ちょっと分からないのですが。
【佐藤委員】この委員のメンバーの相互の間での意見交換を主とした会議であってほしいなと,こういう希望を申し上げている次第です。
【南座長】まあ参考人といいますか,参考意見としてお聞きしているということですけれども。
【佐藤委員】私,この問題は,何か非常に唐突に出てきているように思えていたし方ありません。これは単にこの問題だけではありませんし,先ほど法務省からの説明にもありましたように,信書の検閲で被拘禁者等の方から発する信書についてどう取り扱うかということとの整合も必要なことでありますし,この部分だけを取り上げて論ずるべきものではないと思うのですね。その意味ではいかがかなという,内容においてもですけれども,そう感ずるのでちょっと申し上げました。
【江川委員】ただ,どこで線引きするのかがすごく難しくて,弁護人を通じていろんなほかのところに話が行くとなると,弁護人との面会の場面もやはり何を言うか分からないから,どういうことが伝わるか分からないから立ち会わなければいけないということに,極論すればですよ,なってしまうわけです。ではどこで線引きするのか。手紙を出すのを一応制限しようとなったときに,では,その面会したときに何かメモしたりする可能性とか,そこのところを,話の延長線だというふうに見るのか,それとも改めて手紙を出すのと同じだというふうに見るかということだと思うのですよね。先ほど法務省の方の御説明だと,一つは弁護人から中に持ち込まれる,渡されるというものについては検査が大変だということだと思うのですが,それ以外については確かに手間はかかると思うので,人を増やさなければいけないとか,そういうことはあると思うのですが,それさえすればそんなに問題はないのではないかなという気がするのですが。だから,問題は,被告人あるいは被疑者から弁護人に渡されるものを手紙と見るのか,あるいはしゃべっている伝言の延長だというふうに見るのかで,このことは判断が変わってくるのではないかなと思うのですけれどもね。
【瀬川委員】今の点なのですけれども,先ほどから出ているように,秘密交通権の問題ですので,余り上から制限してがんじ絡めにするということでは,そうすべきではないと考えています。したがって,秘密交通権というのはできるだけ認める方向で進めて,その範囲で何か弊害が出る,あるいは何か危険性があるとすれば,弊害をチェックし,防止する方策を進めるべきだというふうに考えています。
【福田留置管理室長(警察庁)】先ほど佐藤委員からの御指摘がありましたけれども,先ほどの参考人という日弁連の方のお話にちょっと事実に相違する部分があるのではないかと思いますので。私,外国に皆様と御一緒にオーストリアとイタリアと視察に行かせていただきましたのですけれども,オーストリアのヨーゼフシュタットの拘置所を訪問いたしました際に,収容者が携帯電話ですね,要するに受渡しをしてしまって携帯電話を外部から持ち込んで収得してしまい,秘匿している事例というものがあったということで聞き込んでおりまして,要するに自由に受け渡しているがゆえに携帯電話をこっそり渡されて,その施設の者が発見していた事例もありました。それから,間仕切りがないがゆえに,これは,同じくオーストリアのヨーゼフシュタットの拘置所でございますが,間仕切りがないところでちょうど何か工事をしておりまして,何をしているのですかと聞きましたら,この前ここで逃走されてしまったというので,間仕切りがないがゆえに拘置所の方で不面目だったでしょうけれども逃げられてしまって工事をしていて,ちゃんと仕切りをつくるようにやっている作業中だったとか,そういう事例がございました。
【江川委員】弁護人が渡したのですか。
【福田留置管理室長(警察庁)】弁護人かどうか確認していないということでございます。
【南座長】それでは,この議論はそのぐらいにしまして,6の接見における記録方法の拡充ですが,これはいかがでしょうか。
【江川委員】これも弁護士会に聞きたいのですけれども,録音機というのはまだ分からないでもないのですが,カメラとかビデオというのは,何でここまで出てくるのですか。
【西嶋勝彦弁護士(日弁連)】カメラの例ですと,よく取調べでひどい扱い,中には暴行を受けたというようなことを訴える被疑者がたまにございます。そういう場合,速やかに証拠保全するために,カメラを持ち込んで撮影する。それから,ビデオというのは,例えば公判が始まって,あるいはこれから公判が始まるときに,検察側が証拠調べ請求をしたいと,ビデオなんかの最近よく証拠で用意されている,それを弁護人が持ち込んで見せるとか,そういうことを訴訟活動上の必要で言っております。
【江川委員】ビデオは,撮るのではなくて再生するということですね。
【西嶋勝彦弁護士(日弁連)】撮る場合もございます。本人の,さっき言ったカメラと,動画として容貌とか負傷箇所を撮るという場合もあります。
【瀬川委員】録音機は認めているのでしょうか。
【西嶋勝彦弁護士(日弁連)】許可といいますか,事前に施設側の許可を得て持ち込むということはあると思います。それから,とった場合に,後で何を録音してそれを外に持ち出すかということで検査を受けなければいけないという,そういう手間がございます。
【瀬川委員】それにまつわるトラブルというのは,今まで発生したことはありますか,録音機で。
【西嶋勝彦弁護士(日弁連)】二,三,大阪弁護士会なんかで訴訟というか問題になっているケースがあります。詳細はちょっと分かりませんけれども。
【江川委員】現在は,例えばそのビデオなんかが証拠として出てくると,それを事前の打合せで見る必要があるというときには,どういうふうにされていますか。
【西嶋勝彦弁護士(日弁連)】私,その場面に遭遇してないので,そういう必要性があるということを聞いているだけで,具体的にどうしているかちょっと私には分かりません。
【江川委員】法務省の方,分かりますか。
【片桐総括審議官(警察庁)】被疑者が暴行を受けた場合の採証とおっしゃったのですけれども,留置勤務員は,被疑者が出るとき入るとき,きちんと体の状況を見ていまして,暴行があったかどうか確認をしております。もしお疑いがあれば,弁護士の方から留置勤務員の方に言っていただければ,医者のところに連れていってきちんとその状況は,医者の診断書もとり,採証いたしますので,そういった御心配は私はないというふうに思っております。
【西嶋勝彦弁護士(日弁連)】その辺は見解の相違です。
【葛西委員】テープですとかビデオというのは,編集したり改ざんしたりすることができるのですよね。ですから,これは今のケースとぴったり一致するわけではないのですが,例えば私がインタビューを受ける場合,相手側がテープ録音するならば,こちら側も必ずテープ録音をして,後で何かあったときには照合して,自分の言ったことはこういうことであるということが証明できるようにするのですね。ですから,例えばビデオとかテープとかを使う場合には,当然のこととしてそういう意味での安全保障措置をとっておかないと,勝手に一部を切るとか,一部分をつなぎ合わせると,意味が120度ぐらいは違った形につくれるものであるということは頭に置いておく必要があると思うのですけれども。
【江川委員】それに関してなのですが,テープは今ちゃんと専門家が解析すれば断絶が全部出ますので,そういう点は心配ないと思うのですよね。ただ,私なんかもインタビューやったりするときに,時間を節約するためには,あるいは相手とのコミュニケーションをとりながら,つまり相手の目を見てしゃべった方がいい場合には,メモをとらずに録音するということはよくやります。さっきも繰り返し言っているように,裁判員の制度に伴ってなるべくスピードアップするということを考えると,弁護士の準備も本当に効率よく短期間でやっていただく必要があるということを考えると,録音機というのを認めることで何か問題があるのかなという気がするのですが,どうでしょうか。つまり認めてもいいのではないかと思うのですが,何か弊害はありますか。
【北村官房参事官(法務省)】法務省といたしましては,ここも信書の検査の問題と同じだと考えております。録音機を認めているか認めてないかというと,認めています。認めていますが,先ほど御紹介がありましたように,未決が弁護人に出す信書と同じ問題だというふうに考えておりますので,検査をしなければならないと考えているだけで,録音機を使ってはいけないと考えているわけではないということです。
【江川委員】そうすると,接見の内容を全部チェックする形になるわけですか。
【北村官房参事官(法務省)】はい。
【菊田委員】今までの議論を聞いていますと,弁護士との接見にしても,何か相手を信頼しないというか,そういう事件が起こったらどうするかという発想ばかりが優位に立っているように思えるのですよね。今,葛西さんがおっしゃったようなことでも,刑務所内でも暴行を受けても,そのときに治療しないで治ってから写真撮るとか,いろんな方法をとるわけですよ。だから,逆に,官側もいろんな方法もとれる,テープにしても何にしてもですね。だからお互いに不信感があれば,不信の問題があれば,それは対処しなければならない。だけど,前提として,やはり客観的なものは客観的なものとしてとれるということ,便利なものという,それを発想として基本的に持っておかないと,すべてのことについて事が進まないと思いますよ。先ほどおっしゃった警察の中で,これから当番弁護士制度というものが拡充すればまた多少あれだけれども,警察内での暴行にしましても,今言ったように証拠を残さない方法は幾らでもとっているわけですから,私も事実知っていますから。ですから,そういうことを言っていけばお互いに−人権というものはそういうものではなくて,弊害というかそれを侵す者はいるけれども,侵さない,基本的に知るべきこと,そして客観的なものを入手できるという,そういう体制というものを基本的に推し進めていく。そこから出てくる違反者に対しては,それ相当の措置をするという方向で議論しなければ建設的な議論にならないと思いますね。
【南座長】今までの御議論を聞いていますと,お互いに何か不信感というか,信頼関係がないという気がしますね。
【菊田委員】やはり相手を信頼してかかるという……。
【南座長】一方的ではなくてね。
【菊田委員】信頼してかかるということは大事ですよ。
【江川委員】信頼してないという,それはお互いさまだと思うのです,さっきもおっしゃったように。
【菊田委員】信頼を裏切った人に対しては,それだけの反則をとがめるということは必要ですよ。
【葛西委員】私は鉄道の人間なのですが,鉄道の場合はフェールセーフという,システムを構築するときにはフェールセーフというふうに考えるのが原則になります。それは相手を信用しないからとかするとかということではなくて,必ずどこかでシステムというのはうまくいかない可能性がある。そのときには,列車がとまることによってお客さんの命が失われないようにするという仕組みを極力考えるわけです。ですから,私は,日常生活は相互の言ってみれば信頼の中で行われると思うのですが,例えば犯罪捜査とか安全保障とか治安とかいうことになると,システムの構築はフェールセーフでやっておいて,運用の方で信頼をどこまで加味していくかというふうにするのがシステムの構築論としては世の中の常識なのではないかなというふうに思うのです。ですから,決してお互いに信頼してないから議論があるのではなくて,システムの構築の仕方としては,どういうふうにつくるかというところはやはりきちんと踏まえておかないと,後でもってみんなが大変苦労をするということになるというふうに考えます。
【菊田委員】おっしゃるとおりですが,先ほどもありましたように一つの事件,万の一の事件を起こり得るということで,そしてその他99%について厳格な必要以上の制約をしていくということは,これは歴史的にも失敗しているわけですよ。そこのところは何分の1かの失敗はあり得るけれども,あり得るためにどうするかということは必要だと思いますけれども,そういう,まあ見解の相違ですよ。
【葛西委員】命の問題とかそういうことになれば,100万のうちの一つ,1億のうちの一つにもフェールがあってはならないというか,フェールセーフの方に働かなければならないというのが,私どもの思想で,それが法律,刑法に,刑事訴訟法の世界に適用になるのかどうか分かりませんけれども,やはり安全ということを考えれば,フェールセーフを基本にして考えていくというのでいくのが世界の常識ではないかと私は思うのですけれども。
【菊田委員】少なくとも今議論しているのは未決という,そういう立場に置かれている人間ですからね。
【江川委員】どっちを信頼するかとか,そういうことではなくて,やはりさっきも言いましたように,国民は,悪いことをした人は厳しくやってほしいし,冤罪は出さないでほしいし,しかも裁判は早くやってほしいということでやっているわけなので,その観点から議論できればいいと思うのですけれども。弁護人がとったものを,テープをどこまで使うのかということがやはり一番の多分心配されているところだと思うのですね。それを外に出したり,それからだれかを脅すのに使ったりとか,別にその意図がなくても結果的にそういうことが生じたら困るのではないかということだと思います。それに関して,例えば訴訟の準備として弁護人が事務所の中で活用する限度にとどめるとか,そういうことの,ある種縛りをかけておけば,例えば録音機の問題については全部チェックするとなると,接見交通,秘密の接見交通の問題が侵されるのではないかという心配もありますので,そこのところを弁護士に対する倫理義務規定みたいなことで縛りをかけるということだったらどうかなと思うのですけれども,いかがでしょうか。
【井嶋委員】最近ある殺人事件の弁護人が被疑者に接見をして,その内容をテレビに向かって詳細に述べておられたケースをテレビのニュースで拝見しております。これは日弁連としては懲戒に値するとおっしゃるのだろうと思いますけれども,こういう現実がある以上は,やはり録音は検査が行われるとしましても,カメラとかビデオとかというのはそういう形でもし流れるような事態が考えられるとすれば,これは接見という機会を誤用した話になるのではないだろうかというふうに思います。個人情報の保護の法律も施行されたことでもありますから,これが流通するおそれがあるというようなシステムを官のシステムとして構築しておくということは,やはり非常に難しい。その点では,葛西さんがおっしゃる制度の構築論の原則は私は大賛成であります。したがって,性悪説とか性善説とかということでお互いに,弁護士さんの方は警察の取調べがけしからんとおっしゃる,これも性悪説の前提でおっしゃるのですが,そういうようなことのやりとりではなくて,被告人の人権も保護する,それからイレギュラーな弁護活動も制御するというようないろんな意味を加味すれば,制度としての構築としてやはり限界があるということをしっかり考えないといけないのではないかというふうに私は思います。
【江川委員】くどいようですけれども,裁判員の制度でスピードアップというのは本気で考えなければいけないと思うのですね。この中で恐らく裁判員になる可能性があるのは私と葛西さんぐらいではないかと思うのですけれども,そういうことを考えて,いつそういうことに−例えば何日間も拘束されるということになると,民間で働いている人たちは本当に困るわけですよ。それをどうやって短縮するかということを考えれば,やはり弁護士にも相当に訴訟の促進に対して今以上に協力してもらわなければいけなくて,それを要求しなければいけないと思うのですけれども,そのために必要なことというのは,なるべく弊害の部分をどうやってカバーするか,例えばそれが流出する可能性があるとすれば,さっきも言ったように訴訟の準備で事務所で使用する以外は使ってはいけないとか,そういう幾つかの制約を経て,そういうことを前向きに検討するということは無理なのでしょうか。
【佐藤委員】これはむしろ法務省にお尋ねしたいのですけれども,今テーマになっている接見のときの記録というものが,今,江川さんおっしゃったようにこれがとられるということ,訴訟の促進に資するということとの可能性というのは,どういうものだと判断しておられるのか。弁護士の方の説明はまた後ほど伺うとして。つまり,江川さんの御趣旨は,あくまでも裁判員裁判というものの円滑な運営ができるように,それに資するならばと,こういうお話ですよね。
【江川委員】そうですね。だから自分でインタビューなんかやっていても,一々メモをとるより話をザッとした方がやはり早いわけですから,そういうことに役に立つのであれば認めてもいいのではないかと思ったのです。
【林矯正局総務課長(法務省)】裁判員制度に対しての対応ということが言われておりますけれども,もちろん,まず接見というのが立会いなしで面会をする,それによって話をする,これが大原則のコミュニケーションだと思います。その際にもちろん録音ができれば便利だということは理解はできます。しかしながら,それによって先ほど言ったようないろんな問題も派生して起こってくるとなったときに,裁判員制度に対して何らかの対応をするとすれば,やはり先ほど最初に議論になりました夜間・休日の接見に対してどのように対応していくかとか,基本線の接見についてどのように対応するかがやはり一番大事な対応だろうと考えております。確かに便利性とかそういうことはありますけれども,それよりも,夜間・休日接見とか,そういうことに対する十分な対応ができることによって裁判員制度の裁判が迅速に行われる。そういったところが基本線ではなかろうかなと。
【三浦官房審議官(法務省)】私の方から別の観点で申し上げさせていただきますが,裁判員制度は恐らく当然のことながら迅速に進めなければいけないということなのでございますが,その一方で,当然証拠隠滅といいますか,いろんな捜査なり公判の障害となるような事態が発生してはならないというのは,正に裁判員にとっても非常に大事な問題でございますので,本来勾留というのがそういった罪証隠滅等を防止する目的で認められているときに,この4番から6番までの問題についてどう対応するかというのは,先ほど弁護人側の倫理規定といいますか倫理義務でどうかというお話もございましたけれども,それで果たして大丈夫なのか。4番の後段の問題と同じ問題がやはりそこにはあって,遮へい板なしの書類の授受であるとか,あるいは接見時の記録ということによって,その同じ効果をもたらし得るということも考えていただく必要があるのかなというふうに思います。
【南座長】それでは,ほぼ議論も出尽したように思いますので,本来は休憩時間を入れたいと思いましたが,時間の関係もございますので,引き続き議論を進めていきたいと思います。
【南座長】それでは第2の未決拘禁者のその他の処遇の在り方についてですが,これは,7から10まで一括して御議論いただきたいと思います。
【久保井委員】時間の制約もありますので,この9番の問題に限って意見を申し上げたいと思いますが,未決者に対して懲罰をするということについて,確かにここに書いていただいていますように,刑事施設の規律,秩序維持のために,乱暴な行為をする者について何も手が出せないということではまずいというか,秩序維持ができないということ,そこはよく理解できるのですが,しかし,大声で騒ぐとか,ここに書いてあるような秩序を乱す者については,説得をして聞かなければ保護室に入れるとか,懲罰という形を使わない制圧というものをしないと,裁判の一方の当事者という身分があるのに懲罰をする,仮に捜査部門と勾留部門が警察の中で分かれているとしても,同じ警察,片方が懲罰を加えるということは,これはなるべくというか絶対にしてはならない。だから,秩序,維持が必要だということは私も理解しますが,それは他の方法で制圧するということでないと,やはりこれはいかんのではないか。特に代用監獄がもし存続するというようなことになるなら,なおさら,存続しないということになっても基本原理は一緒かもわからないけれども,存続するということになればなおさら,そこの点は重要な問題ではないかというふうに思います。
【江川委員】警察の方に伺いたいのですけれども,具体的にはどういうときにどういう懲罰をどの限度でされているのでしょうか。
【福田留置管理室長(警察庁)】問題被留置者,場内で大騒ぎしたりとかもろもろ,そういう事例は率直にあるわけなのですが,非常に現場は,ここにも書かれておりますけれども苦労しております。ただ現状は,そこのところを謙抑的にといいますか運用しておりまして,懲罰というものを発動してはございません。
【江川委員】保護するという感じになるわけですか。
【福田留置管理室長(警察庁)】現場の非常に苦心があるところでありまして,事態というか,状況としては対応しなくてはいけないという場合がございましても,現状におきましてはそういう懲罰権というものを発動まではしてはいない。
【江川委員】これは別にもっと発動するチャンスが欲しいということなのですか,それとも現状維持でいいのではないかということなのですか。警察のこの書いてあること。
【福田留置管理室長(警察庁)】今回有識者にお集まりいただいて御意見いただいていますが,この機会が監獄法を改正して−この前受刑者等に関しての法律の改正がありましたけれども,残された未決の処遇を今度立法するに当たって,懲罰制度をどうするのかというときに,問題被留置者対策につきまして,この新制度においてどうするかを現在十分に検討しているということでございます。
【江川委員】でなくて,今の限度でいいのではないかということか,それとももっと厳しい懲罰を入れてほしいという,そういう意味ですか。
【片桐総括審議官(警察庁)】まとめて申し上げますと,今監獄法上は我々懲罰ができると,いろんな懲罰がありますけれども,そういう形になっています。ただ,我々は今施設が小さいとか収容期間が短いとかということで,懲罰は自主的に控えているということでございます。前回の留置施設法をお出ししたときには,懲罰としては戒告というのだけ,非常に軽いものだけをやっていたのですけれども,その後の状況を見ますと,非常に場内における公務執行妨害とか暴行が大変増えておりますので,そういうことを未然に防ぐためにも,前の戒告よりは,余り厳しいものまで求めるかどうかは別なのですけれども,前の留置施設法レベルよりは少し高い懲罰というものがあった方が,そういった暴行事案とか大騒ぎするとかという事案は未然に防げるのではないかというふうな考え方でございまして,余り今あるものをすべて認めてくれとか,それからまたもっと高いレベルを認めてくれとかいう意味ではございません。
【久保井委員】今は戒告もしてないでしょう。制圧はしているけれども。
【片桐総括審議官(警察庁)】ですから,今申し上げましたように,今懲罰は一切控えております。
【久保井委員】してない。
【片桐総括審議官(警察庁)】はい。
【久保井委員】だから,今度の我々のこの改革の会議で,現状以上にその点を厳しくするということについては,これはちょっとこの会議の趣旨にも合わないと思うのですけれどもね。つまり……。
【片桐総括審議官(警察庁)】法的建前としては,今はすべての懲罰ができますので,ですから今より悪くするのがおかしいという話では制度的にはないということでございます。
【菊田委員】それは制度として懲罰を設けるとなると,警察という時点では,捜査とかそういう点に,自白の強要とか,そういうことに懲罰というのがバックに置かれることになって,非常に逆行する方向になる可能性があると思いますよ。法的な権利としてそういうものがあるということになってきますとね。それはちょっと認められませんね,そういうことについては。
【葛西委員】私はちょっとよく知らないものですから質問をさせていただきたいのですが,制圧というのと懲罰というのはどう違うのか。具体的には何が懲罰で何が制圧なのかというのは……。
【菊田委員】私が答える必要はないかもしれませんけれども,今だったら例えば保護房へ入れるとか,それが制圧というのですが,そういうものができるわけですよ。保護房というのがありますから。懲罰となると,具体的に……。
【江川委員】警察の方に答えていただいたらどうですか。
【南座長】現行法でも,懲罰制度はあるわけですか。その懲罰の種類というのは,どんなのがあるのですか。それを運用としてはやってないということですよね。
【久保井委員】懲罰の制度は今でもあるのですか。
【片桐総括審議官(警察庁)】今でもあります。今でも監獄法が適用になりますので,今でもできるということです。
【福田留置管理室長(警察庁)】御説明を申し上げますと,現行は監獄法なのでございますが,60条で幾つか,叱責とか賞遇の三月以内の停止,賞遇の廃止,文書,図画閲読の三月以内の禁止等ありまして,要するに拘置所の方に性質上なじむものもございますけれども,例えば糧食自弁の15日以内の停止,自弁に係る衣類臥具著用の15日以内の停止,運動の5日以内の停止とか,こういったものにつきましては,警察留置場におきましても適用可能なものは性質上あるわけでございます。それにつきましては,先ほど総括審議官が申し上げたような状況でございます,運用としてはですね。
【葛西委員】伺ってみると,余り大したものではないですよね。自粛する必要もないぐらいのものではないかなと思うのですけれども,制圧の方がよほど厳しいのではないですか。制圧って,取り押さえることですよね。暴れている人を取り押さえて例えば動けないようにするとかいうこと。懲罰もあっても,当然現行法にある程度あってもいいような感じがしますけれども。
【久保井委員】60条というのは未決勾留者に対する規定ですか。準用されているわけ,既決者の条文が。ちょっと勉強不足で申し訳ないけれども。
【福田留置管理室長(警察庁)】はい。
【久保井委員】それは未決者に対する条文ですか。そうではなくて,既決者の条文を準用するということになっているのですか。
【北村官房参事官(法務省)】現行の監獄法の懲罰に関する規定は在監者全部に対する規定です。未決,既決問わず,在監者全部に適用される規定です。ただ,今年の5月に成立した受刑者処遇法で監獄法は未決対象の法律になることとなりましたので,来年の5月以降は,その規定は未決に対する規定になります。
【福田留置管理室長(警察庁)】未決については,監獄法の内容がそのまま残される形になりますのでということですが。
【久保井委員】現在は当然,未決にも適用されるのですか。
【北村官房参事官(法務省)】はい。現在は,全在監者に適用される規定です。
【江川委員】今のところ警察の方では懲罰の方を控えていらっしゃるということで,警察の特に捜査段階にある被疑者が懲罰の対象になると,恐らく被疑者としては警察に罰を受けたということで,警察としては厳格に分けていても,被疑者としては多分捜査とそれが連動しているように受けとめられる可能性があるということで控えられていると思うのですよね。やはり,捜査段階においては,そういう形での何か懲罰というのは好ましくないというふうに思うのですね。ただ,もちろん本当に大声を,奇声を発したり,そういうことがあって本当に手を焼くことは多分たくさんあると思うのです。ですから,そういう面については,例えば保護施設の拡充とか,そういうところで対応をなるべくしていただくという形の方がいいのではないかなと私は思いました。
【久保井委員】江川さんの点は,捜査段階でなくても公判段階の未決勾留でも同じだと,裁判の相手方ですからね,言ってみたら。当事者主義の刑事裁判では。だから,それは濫用される危険性もありますから。しかも,未決勾留というのは,そんなに長くないことが前提になって行われているわけですから,その短期間の間で手に負えない被疑者・被告人が出てきた場合は,それは放置できないのは分かりますから,それについては懲罰以外の制圧手段,保護室の確保とかいろんなことがあると思いますが,そういうことでやるべきで,懲罰という手段でやるのは,私はこれは絶対反対ですね。
【菊田委員】それのみならず,懲罰となれば監獄内の懲罰だったらまたそれなりの審査委員会とかいろいろな形の委員会を設置して決定しなければいけないのですけれども,警察でそんなことができるわけがないですよね。だから,それは不公平な懲罰の一方的な言い渡しということになるわけで,とてもそれは現在の体制としてはとるわけにいきませんね,そういう形は。
【葛西委員】私はここに書いてあるとおりだと思うのですけれども,留置場というところはいわば一つの社会ですから,その社会の中で生活している者が一定の規律に従わないときに,それに対して規律を回復させるための手段というのはなければいけないと思うのです。懲罰という言葉が何かいかにも厳しいように聞こえますが,私なんかが聞くと会社では懲戒処分というのがありますけれども,戒告が一番軽くてその次は減給とか何とかとありますが,留置場の中ではそういうようなものもないようでありますし,余り大して厳しいものとは,さっきちょっと伺ったところでは思えなかったのですね。制圧される方がよほど大変だと思うのですけれども。でも,いずれにせよそういう社会の中で,言葉は変えたっていいかもしれませんけれども,秩序を維持するということがなければ,公判を維持することもできないわけですし,正当な裁判を受ける他の人の権利も侵害するかもしれませんから,秩序維持のための何かのルールといいますか,懲戒ルールは当然あるべきだと思います。それは刑罰と混同されるから,何かまだ決まってないものに刑罰ということになるのだろうと思うのですが,そうでなくて,それは一つの複数の人がいる社会の中における一定の社会秩序を維持するためのツールだというふうに思えば,当たり前のことではないかと私は思うのです。だから,ここに書いてあるとおりでよろしいのだと思います。
【菊田委員】いや,それは違うのですよ。どんな少数集団の中でも,それに違反したら,その人本人にとってみれば違反してないということも出てくるわけですよ。それなら証人はだれだとか,それで客観的に本当にしているのかどうかという,そういう事実に基づいて制裁というのはやらなければいけないわけですよね。懲罰にしろ制裁にしろ。だからそういう意味では,人権を守っていくという体制を前提とした場合,少数の中で一方的にやられるシステムでは対応できないです。家族の問題ではないのですから。
【江川委員】法務省の方に伺いたいのですけれども,例えばそういう懲罰を受けたときに,それに不満な場合,不当な懲罰を受けたというときには,その不服の申立てというのはどういうふうになっていますでしょうか。あるいは警察で例えば懲罰というのを認めたときに,不当な懲罰を受けたということで不満を訴える先というのは,どこになって,どういう手続になるのでしょうか。
【北村官房参事官(法務省)】現行法のもとでは情願の対象になるのみでありますが,刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律,今回5月にできた法律では,審査の申請の対象にしておりまして,刑事施設においては,管区長それから法務大臣に対する審査の申請の対象になります。
【江川委員】警察の方は。
【山田官房総務課理事官(警察庁)】警察におきましては,現在警察法に基づきまして苦情の申出の制度がありまして,もし現時点で仮に懲罰をかけるとすると,その苦情の申立ての先は警察法の苦情の申立てと,それに加えて裁判に訴えるという手段もあるかと思います。受刑者処遇法におきましては,警察留置場における受刑者に対する懲罰の規定は,現在は設けられておりません。
【南座長】一応これは情願の適用があるわけですよね。ないのですか,現行法では。
【福田留置管理室長(警察庁)】ありません。
【南座長】60条で懲罰の種類,例えば叱責だとかそんなのも入っていますけれども,そういうのは懲罰なのですか。刑事施設ニ於ケル刑事被告人ノ収容等ニ関スル法律。
【福田留置管理室長(警察庁)】監獄法でございますか。
【南座長】警察留置場の場合も入っていますね。
【福田留置管理室長(警察庁)】一部残っている方のでございますか。
【南座長】全然そういうものもやってないわけですか。
【福田留置管理室長(警察庁)】監獄法の中身はそのままでございますので。
【片桐総括審議官(警察庁)】今回その懲罰を行うという前提であれば,それは当然審査請求とかそういう手続は整備しなければいけないと思っています。今の監獄法のもとでの制度の中ではそういった手続はないのですけれども,これは当然そういった新しい法律で整備するのであれば,そういった事前,事後の手続を整備するということになると思います。
【江川委員】警察が今非常にそういうのに抑制的であるということは,このまま引き続きあるべきだと思うのですけれども,もし何らかの懲罰を文言として残すのであれば,それに対する不服申立てを権利としてきちっと確立しないといけないのかなという気がしました。
【久保井委員】私は,改革の中には,未決拘禁者にとって不利益な改革は絶対許されないとは思わないけれども,100年ぶりに監獄法を見直すというのは,これは世界の人権の進展の中で見直すということが基調ですからね,現在よりも不利益な扱いをするというのは,有識者会議としてそういう提言をしたらやはりいけないと思いますね。だからもしやるのだったら,この有識者会議にかけないでやっていただきたい。
【瀬川委員】参考までにお聞きしたいのですけれども,拘置所での懲罰の件数は分かりますか。その点がもし分かればと思います。
【北村官房参事官(法務省)】今年の1月から9月の9か月間の未決に対する懲罰の件数は,1,726件になっております。受刑者一人当たりの件数,割合で見ると,受刑者の3分の1程度になっております。
【瀬川委員】拘置所ですね。
【北村官房参事官(法務省)】1,726件と申し上げたのは,刑事施設における未決に対する懲罰件数です。
【佐藤委員】懲罰に関しては,今制度上はあるにかかわらず,運用上適用していないということで,新たに懲罰という制度をつくろうということではないのですよね。それで,ただ現在の制度では懲罰の制度はあるけれども,これについての不服申立て等の手続が備わっていない。したがって,引き続き懲罰の制度を存置していくときに,当然不服に関わる手続もあわせて定めていくこととするということですから,恐らく今より進んだ制度に変えようという,そういう姿勢なのだろうと思うのですよ。これは運用の話ではなくて,制度の話としては。しかし,その運用も含めて総合的に理解したとき,これはいかがかというのなら,この資料から9番を落としていただければよろしいので,載せた以上は議論せざるを得ないだろうと思いますね。
【南座長】ただ,懲罰の種類だとか,どういう場合に懲罰をする。懲罰という言葉が適切かどうかは分かりませんけれども,どういう場合にするかとか,そういう要件なんかがはっきりしていませんのですね。
【佐藤委員】そうですね。それから性質の違うものがありますから。
【南座長】そういう制度そのものがやはり不備はあると思うのです。それからもう一つ,今おっしゃったように,それについての救済措置ですよね。不服申立ても完備していない。そういうものも含めて検討をしようと考えておられるのではないかと思うのです。それならばよろしいのではないかと。確かに懲罰という言葉は別としましてね。
【久保井委員】懲罰ではなくて,そういう秩序維持のための制圧を制度化するというような道はありませんですかね。保護房に入れるとか,あるいはその他秩序を破壊する者に対して何ら手が打てないというのでは困るという当局のお考えは分かりますけれどもね。
【南座長】懲罰に代わるですね。ここにもありますように,大声を出したり騒いだり,あるいは集団の秩序を乱すという場合には,やはり何らかの措置というのは必要かもしれませんね。それは,例えば恐らく,鎮静衣を用いたり,あるいは保護室に入れたり,そういうふうなことをなさってはいるのではないかしら。
【久保井委員】それは法的根拠があるのですか。
【片桐総括審議官(警察庁)】それは戒具の使用に関する規定がございますので,それに従って戒具を使用する。また保安室に入れるということをやっております。
【久保井委員】根拠規定があるわけですね。
【片桐総括審議官(警察庁)】そうですね,はい。
【南座長】そういうことでは対応できるわけですね。
【久保井委員】そういうことで対応するのは,私は当然必要だと思いますけれどもね。
【井嶋委員】ただ,懲罰の対象になるものの中には,実力の制圧だけで対応し得るもの以外の規律違反があるのでしょうね。ですから,やはり前提としては実力の制圧という,そういう戒具の使用の部分と,懲戒の発動としての処分とは,やはりちょっと筋が違うという部分がどうしてもありますから,組織をつくる以上は,特に刑務所なり留置場というのはその秩序の維持が大事ですから,そういう規律が必要だという部分は,これはやはりどうしてもその要請は消えないのではないかなという気はしますけどね。
【久保井委員】現実にはもう死文化している法律が動き出すことになるからね。だから,ちょっとそこは慎重にやらないと。
【南座長】これを見ますと,叱責のほかに,例えば文書,図画閲読の3月以内の禁止,請願作業の10日以内の停止,自弁に係る衣類等の停止,糧食自弁の停止,運動の5日以内の停止とか,そんなのが種類になっていますけれども。
【井嶋委員】現在拘置所でも,もう運動の停止とかそういったことはやってないはずですね。現実にやっているのは軽屏禁だけですか。
【北村官房参事官(法務省)】主なものは,軽屏禁,それから文書,図画の閲読禁止。
【井嶋委員】その二つぐらいで,あとは全部謙抑的にやっているわけです。ですから,新しく懲罰,規定をつくるとしても,どういう中身にするかということは,正に現代に即したものにしないといけないだろうと思いますが,少なくとも規律を維持するための,秩序を維持するための制裁は,規定は,組織をつくる以上は置かなければいけないだろうというふうには思うのですけれどもね。
【南座長】それでは,懲罰の方はその程度にしまして,そのほか概括的に何かございませんでしょうか。
【江川委員】7番のところで教育の問題が出ているのですが,実施するための人的・物的体制が整っていないということになっているのですけれども,例えば通信教育とかそういうことで自分で勉強するとか,そういうことは今はどうなっているのでしょうか。
【北村官房参事官(法務省)】それは可能です。ここの論点は,国が国の費用でやることを認めよという,そういう論点でございます。
【江川委員】自分で自分の費用でいろいろ秩序維持に問題がない限りは,今でも認められているということですね。
【葛西委員】一般的な印象を。この間,綾瀬の留置場とそれから東京拘置所を拝見した印象ですと,まじめに働いて税金を納めている中小企業の社員がいたとしますよね,あるいは失業する人もいるわけですけれども,そういう人とあそこに入っている人たちの国のお金によるテイクケアの度合いから見ると,何かいささか均衡を失しているかのように思えたのですよね。それは特別に自由を拘束されているのですから,ある程度は税金を使って保護することは当然かと思いますが,必要十分の待遇が与えられているように私は実感したのです。それは考えとして間違っているのかどうか,皆さん方の感じがどうなのかお伺いしたいなという感じがします。
【久保井委員】今,葛西さんの言うように,そういう感じがするということも理解できないではないけれども,私は常々思うのは,アメリカの米軍基地の軍人が沖縄なんかで婦女暴行事件を起こして,身柄の引渡しを日本の政府が要求したら,そのときの抗弁が,常に日本の拘禁施設の後進性といいますか,発展途上国,諸外国に比べると非常に遅れている。そういう後進的な刑事拘禁施設を持っている国に対しては引渡しができないというようなことを常にアメリカは言うのですね。私はどんな後進的な施設であっても,日本で犯罪を犯した以上は日本人と同じ扱いをすべきであって,それは当然なので,そういう抗弁はけしからんと思いますけれども,やはり大きく見るとそういう先進国の刑事拘禁施設に比べて遅れている部分があるから,そういうことをアメリカが言っているわけで,そういうことを考えると,確かにまじめに苦労して世間で働いて自力で生きている人に比べて待遇が良すぎるというような印象もそれは一部では当たっていると思うけれども,大局的見地に立つと,やはり国際社会に遅れているということは率直に認めなければいけないと思いますね。
【葛西委員】私は,アメリカがそう言ったのは引き渡したくないから言ったのであって,アメリカの留置場は入ったことはありません,日本にも入ったことありませんが,そんなに悪くないのではないかと思うのですけれども。
【久保井委員】それはそうでしょう。しかし,全然根拠がなかったらそういう理屈は言わないと思うのですが。
【江川委員】葛西さんのおっしゃるのも分からないでもないし,そういう施設は別に宿泊施設とは違うわけなので,おっしゃっている意味は分からないではないのですけれども,やはり捕まった人たちの中にはいろんな人たちがいるわけで,その中にやってない人たちもいる可能性もあるわけですよね。そういう意味では,余り劣悪な環境に置いて,そのことのゆえに後々の裁判に問題が生じるということは避けなければいけないので,全体的に少しずつ向上して裁判がスムーズにいくようにということでは,法務省なんかが目指されている方向性というのは違ってないような気がします,警察も含めて。
【葛西委員】それは同感でありますから,今より悪くした方がいいとは僕は一向に思いませんが,均衡をある程度考えれば,今は国の財政も苦しくなっていますから,できるところまではやっているのかなという印象を受けたというところまでであります。あれより悪くしろとは私も思いませんが。
【南座長】ほかに何かございませんか。もう時間もそろそろ参りましたので。
【南座長】本日の御議論はこの程度にしたいと存じます。本日検討した点につきましては,各委員の方々の間で意見が一致していると思われるものもありますが,一致していない点もございます。これらの点につきましては,なお議論を続けることが必要だと思いますが,今日出ました各意見を事務局において取りまとめていただきまして,これをたたき台にして次々回,第5回の会議で更に検討を続けたいと存じます。事務局の方で次々回の会議までに,本日の議論を整理して取りまとめた資料の作成をお願いいたします。
次回はいわゆる代用監獄制度に関する諸問題について議論をしたいと思います。事務当局から,時間と場所についてお願いをいたします。
【北村官房参事官(法務省)】次回は,明年1月13日の金曜日,午後2時から5時まで,この会議室でお願いしたいと思います。
【久保井委員】これ大問題で,何十年という歴史のある問題ですね。だから,2月で終わるという前提で進んでいますけれども,どうしても2月に終えなければいけないという,たとえ1年ぐらい延びたって,もっと十分な協議をするとか,既決者のときには参考人のヒアリング,受刑者をヒアリングしたり外国を見に行ったりいろいろしました。だから,この会議でどの程度のことをするかは別として,もう少し時間をかけて来年の通常国会にすぐ間に合うようなこと,通常国会は6月までしかありませんが,それに合わせようと思ったら,それは2月,3月に上げなければ仕方がないけれども,何十年と引きずってきた問題をこの2か月ぐらいの会議で,有識者が不用意に結論を出すというのでいいのかなと非常に危惧しておりますので,できたら当局の方にももう一度,もう少し時間をかける方向がないものか,我々としてはそれを望みたいと思います。
【南座長】今までの御意見,御要望を踏まえて,ひとつ事務局の方でもよろしくお考えいただきたいと思います。
【南座長】それでは,本日はこれで終わりといたします。大変皆さん,長時間にわたって活発,有益な御議論をいただきましてありがとうございました。これをもって閉会といたします。