日 時
平成18年1月13日(金)午後2時〜午後4時50分
場 所
法務省大会議室(地下1階)
出席者
〔委 員〕
(座長) 博 方 大宮法科大学院大学教授,一橋大学名誉教授
井 嶋一 友 弁護士,元最高裁判所判事
江 川紹 子 ジャーナリスト
葛 西敬 之 東海旅客鉄道株式会社代表取締役会長
菊 田幸 一 弁護士,明治大学法学部名誉教授
久保井一 匡 弁護士,元日本弁護士連合会会長
佐 藤英 彦 警察共済組合理事長,前警察庁長官
瀬 川  晃 同志社大学法学部・大学院司法研究科教授
成 田頼 明 日本エネルギー法研究所理事長,横浜国立大学名誉教授
(敬称略,五十音順)
〔事務局・法務省〕
小 津博 司 官房長
小 貫芳 信 矯正局長
三 浦  守 官房審議官(刑事担当)
山 下  進 官房審議官(矯正担当)
林  眞 琴 矯正局総務課長
北 村  篤 官房参事官(刑事・矯正担当)
〔事務局・警察庁〕
安 藤隆 春 官房長
片 桐  裕 官房総括審議官
岩 瀬充 明 官房総務課長
福 田守 雄 官房総務課留置管理室長
山 田知 裕 官房総務課理事官
配布資料
 法務省 PDF  警察庁 PDF
議事経過
冒頭
事務局補充説明
日本弁護士連合会補充説明
事務局説明(法務省,警察庁及び日本弁護士連合会の主張)
議論
今後の日程
冒 頭
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【山田官房総務課理事官(警察庁)】それでは,予定の時刻になりましたので,ただいまから未決拘禁者の処遇等に関する有識者会議の第4回会議を開催いたします。
それでは,南座長,よろしくお願い申し上げます。
【南座長】本日は,皆様には大変御多用中のところ,またこのお寒い中御出席いただきまして,誠にありがとうございます。
前回までは日弁連の方に質疑応答の度に随行者席から発言席を往復していただいたのでありますが,今回から,委員から質疑があり座長から発言を求める場合に限って,マイクを持っていきますので,その席から応答していただくということにしたいと思いますが,いかがでしょうか。
よろしゅうございますか。それでは,そのようにさせていただきます。
なお,論点が多岐にわたり,またいろいろ御意見もおありかと思いますので,座長としましても議事進行の円滑につきましては極力努めるつもりでございますが,委員の皆様におかれましてもどうぞ御協力のほどお願いいたします。

事務局補充説明
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【南座長】それではまず法務省から,配付資料について説明があるとのことですので,よろしくお願いいたします。
【北村官房参事官(法務省)】前回江川委員から,警察留置場に留置された被疑者やその弁護人からの留置場所の変更の申立ての状況について御要望がありました件でございます。前回も申し上げましたとおり御要望に沿うような統計はございませんで,網羅的な状況,年ごとの状況の変化については調査することはできませんが,代用監獄に勾留されている被疑者,弁護人等からの勾留場所の変更を求める内容の準抗告の申立ての最近の状況につきまして,短期間の中で可能な範囲で調査をいたしましたので,その結果について御説明をさせていただきます。
配付資料の「勾留(被疑者)の裁判に対する準抗告の状況」と題する資料でございますが,これを御覧ください。これは,東京地裁,広島地裁,福岡地裁の各本庁におきまして、昨年の1月から11月までの間になされた被疑者に係る勾留裁判の件数,これに対する弁護人等による準抗告の申立ての件数,この準抗告申立てのうち勾留場所の変更を求めることを内容とするものの件数を取りまとめたものでございます。これにございますとおり,弁護人等からの勾留場所の変更を求めることを含む準抗告の件数は少なく,被疑者の勾留に関する裁判件数に対する割合はせいぜい0.1%程度という状況にございます。なお今回の調査は,大阪,名古屋などの5庁についても行おうといたしましたけれども,容易に調査結果を出せる資料がございませんで,調査はできませんでした。また、この資料の3庁分につきましても,参考資料として保管されているものがあったことから,それらの資料に基づいて調査したものでございまして,件数に若干の誤差がある可能性もあり得ますが,概況といたしましてはこの資料が示す状況のとおりでございますので,そのようなものとして御理解いただければと思います。以上でございます。
【南座長】ありがとうございます。
それでは,次に警察庁から配付資料について御説明をお願いいたします。
【福田留置管理室長(警察庁)】説明の前に,前回の有識者会議の際に,オーストリアのヨーゼフシュタット拘置所の視察におきまして,視察の前に面会室からの逃走事案があったため,面会室の面会者側と被収容者側の間仕切りがなかったところを間仕切りの設置工事をしていた旨の説明をさせていただきました。この間仕切りは署名等を求めるために書類の授受ができる程度の仕切りのない部分は確保されておりましたので,その点を申し上げます。
それから,まず瀬川委員の方から前回お求めがありました勾留施設における処遇の改善についてでございます。配付資料の「勾留施設における処遇改善」を御覧いただきたいと存じます。
警察留置場の御視察もいただきましたが,プライバシーへの配慮でございますが,被留置者の適切なプライバシーの確保のための具体的措置としまして,居室配置の変更ということで,従来居室の配置は扇型でございましたが,その扇の要の位置にある看守台からの動静監視は,効率的でありますが他方被留置者に常時監視下にあるとの無用な圧迫を与えるおそれがございますということもありまして,昭和55年以降の新設の留置施設におきましては居室の配置を、御覧いただきました櫛形―左側にも写真で出しておりますけれども―に改めることとしております。従来の扇形は左下に図示させていただいております。
それから遮蔽板の設置でございますが,これも御視察のときに御覧いただきましたけれども,昭和55年以降各居室の正面に,大体1メートルくらいでございますが,不透明なアクリル樹脂等の遮蔽板を設置し,これにより被疑者の一定のプライバシーを確保できるようにしているところでございます。
3点目に留置場の位置等でございますが,昭和55年以降留置場を被疑者の出入りが一般の来庁者の目に触れない位置に設置し,通用口につきましても別個に設けるということでございます。また屋外から留置場内が見えないようにという配慮もしてございます。
次のページでございますが,Aとして良好な衛生環境の確保。エタノールの手指の消毒器とか,布団乾燥機,それから除湿機等,感染症の蔓延等を防止するための環境の整備ということで,設備の整備をしてございます。
それから,下のところでB適切な居住面積でございます。居室面積につきましては,昭和55年以降,個室としては一人当たり4平方メートル,それから共同室の方は一人当たり2.5平方メートルを基準点として設置してございます。収容基準人員ということを前に申し上げましたが,これが今過剰収容状況でございますので,共同となっている部分が多数ございまして,それが2.5平方メートル,一人当たりということでございます。
それから右側に参りまして,C適切な糧食の提供でございます。留置施設におきまして提供する糧食は,近場の業者さんが調理したものを調達しておりますけれども,大体2,300キロカロリーを基準とする糧食を提供しております。それから留置施設におきましては3か月に一度糧食のカロリー計算を実施し,その適切性も確保してございます。
続きまして3ページ目でございますが,5番目に快適な居住環境ということでございまして,冷房装置,暖房装置の整備ということで,冷房装置の場合には北海道・東北で一部設置していないところもありますが,設置率91.4%。それから暖房装置につきましては逆に鹿児島・沖縄では設置していないところもございますけれども,こちらの方は約99%という整備状況でございます。
右側のE施設の面からの捜留分離でございますが,昭和55年以降捜査と留置の分離の趣旨を徹底するため,留置場と刑事課事務室の位置関係は,別フロアーか可能な限り離れた位置に設置してございます。
それからFその他でございますが,昭和55年以降接見室の面積を10平方メートル以上を基準とするなど,弁護人等との接見の利便性を高め,また運動場につきましても原則として戸外,それから日照,通風がよいものとし,面積も9.9平方メートル以上は確保するということで整備してございます。
以上が処遇の改善の関係でございます。
続いて,江川委員の方から捜査と留置の分離,それから女性の留置場の環境ということで御質問がありまして,御説明申し上げます。
まず捜査と留置の分離につきましては,図を御覧いただきますと,捜査部門,左側の方でございますが,昭和55年以前は捜査部門が捜査業務と留置業務を所管しておりましたところでありますが,55年に組織上,運用上分離いたしまして,右側のごとく2部門が留置業務をということで,警察庁は刑事局から長官官房に,それから都道府県警察におきましては刑事部等から管理部門たる警務部又は総務部,それから警察庁におきましては警務課,総務課,また留置管理課があるところもございますけれども,こういった管理部門が留置を担当するということに峻別されたところでございます。
次のページを御覧いただきますと,今の点書いてございますけれども,昭和50年代、法制審議会における監獄法改正作業の検討の中でいろいろ御指摘もございまして,そういった批判にこたえる形でもありまして,昭和55年に捜査と留置を分離いたしました。下の半分のところに書いてございますけれども,規定としましては,都道府県につきましては国家公安委員会規則で全国についての標準を決めておりますが,被疑者留置規則で警察署の総務主管又は警務主管の課又は係の長は,留置主任官として留置場の管理についてその責めに任ずるということで,従前は刑事主管となっていたところを総務主管,警務主管というふうに変えたところでございます。それから国の方は一番下にありまして,警察庁組織令という政令で,従前は刑事局捜査一課でございましたが,改正されまして長官官房総務課にということで政令改正がなされたところでございます。
それで,この関係の通達なのでございますが,縦長の「留置業務管理体制の改善整備について」という通達を配付させていただいておりますが,昭和54年のこれは警察庁の次長通達でございますが,こちらで昭和55年の4月をもって行政管理部門に移すということで通達されていたところでございます。
それから,次の「被留置者の健康保持のための手続について」という通達も配付させていただいておりますが,これは前回江川委員の方から,取調べで若干遅くなるようなときは,翌朝起床時間をおくらせるとか,そういった措置もとられているのでしょうか等の話がございまして,通達化されておりますということでございますが,御覧いただきますと従来より十分に配意してきたところであるということで,それをこの平成元年の時点で総務課長通達という形で,連名通達でございますが,課長通達で改めて出しているものです。従前からされていたことでございますが,そこで1の(1)のところでありますが,被留置者が疾病等にかかった場合には,その疑いがある場合は医師の診療を受けさせるなど所要の措置をとり,その旨を関係簿冊に記入し,その場合には被留置者の健康状態に応じて捜査書任官に対して取調べの中断その他の措置を要請するとともに,その旨を関係簿冊に記入する。それから,取調べの中断その他の措置について調整を必要とする場合には,警察署長にその旨報告し,報告を受けた警察署長は事実関係を調査の上適切な措置をとるということと,2項目目に,日課時限による就寝時刻経過後においても引き続き取調べが行われているときは,捜査主任官に対して取調べの打切りについて検討するよう要請するとともに,その旨を関係簿冊に記入すること。被留置者の取調べの打切りについて調整を必要とする場合には,警察署長にその旨報告し,報告を受けた警察署長は事実関係を調査の上適切な措置をとること。
(3)で,先ほどの(1),(2)の場合に,警察署長に報告した場合には,報告の日時及び内容並びに警察署長の措置を関係簿冊に記入すること。
(4)項目目。やむを得ない事由により,食事,運動,入浴,就寝及び健康診断を所定の時刻に実施できない場合には,確実に補完措置をとるとともに,その理由及び補完措置の実施状況を関係簿冊に記入することということでありまして,就寝につきましてもそこには掲げておりますが,その場合に確実に補完措置をとる。具体的な内容としては,翌朝の起床時刻よりも遅い時間に起きて結構ですよという話を申し上げて,御本人がそれでということであれば少しおくらせて起こす。
それから,本人がそれは結構です。通常どおり起きますから,食事もありますということもございまして,その場合はその旨またそういうことも記録にとどめていくということでございます。それが5番目に書いてございまして,被留置者の食事,運動,入浴及び健康診断を辞退した場合においても,その旨及びその理由を関係簿冊に記録するということでございます。
2番目の方の捜査主任官の方も,先ほど申し述べました(1)の項目の方の,留置主任官からの要請があったときは適切に協力せよということ。それから被留置者に関する取調べ等は,就寝等について日課時限が定められている趣旨にもとらないように実施することが原則であるとされており,先ほどの留置主任官からの要請があったときも適切に協力せよということで通達されているところでございます。
次に女性被留置者に対する対応ということで,江川委員からお尋ねがあった件でございます。女性専用留置場の整備状況という資料を配らせていただいておりますが,女性専用留置場というのは女性被留置者のみを留置し,また女性警察官が常時看守業務に従事する留置場でございまして,現状におきましては平成17年12月1日現在でありますが,警察庁では全国的に整備を進めておりまして,23都道府県に50場,収容基準人員の合計は1,102人ということになってございます。
右側の方に,着々と整備が進んでいる状況を掲げさせていただいております。
その次のページでございますが,女性集中留置場の整備状況ということでありまして,専用留置場というのは女性被留置者に女性警察官が常時対応するということなのですが,それには女性警察官の配置をしなくてはなりません。女性警察官の採用もかつてに比べまして非常にふえてきておりまして,警察内における女性警察官がふえてきておりますし,その従事する分野も警察内でどんどん拡大してきているところであり,もちろん留置業務の方でも活躍しているところでございますが,とはいいながら、なかなかその女性警察官による対応を完全にし切れるという体制を確保しがたいという場合もございまして,そうした場合においても女性を集中して留置することにより,常時複数の女性被留置者を留置する。そしてその女性警察官による看守を原則とするのですが,確保できない場合には男性警察官が看守業務に従事するという留置場もあるところでございまして,先ほど御説明した専用留置場との関係でいきますと,それは専用留置場の整備の方が望ましいのですが,申し上げましたような事情からなかなか専用とすることが困難な場合には,集中留置場という形で運用してございます。こちらの方は,17年11月1日現在でございますが,28道県に64場,収容基準人員は362人ということでございます。
3ページ目でございますが,女性専用または集中留置場以外での女性被留置者の処遇でございますけれども,留置につきまして可能な限り近隣警察署と調整し,女性被留置者を集中して留置する。直前に申し上げました集中留置場は,ある警察署を,周辺署において対応するべきところを,ある署を固定して集中して女性を運用する。固定して女性集中留置場として運用している場合ですが,今ここに挙げておりますのは,固定はしておりませんが近隣署で調整をして複数の女性被留置者を集中して留置する運用をしているというところも、もちろんございます。こうした場合にも、男性被留置者と分隔された留置室に留置いたしますし,また看守勤務員としましては女性警察官が看守業務を行えるよう確保に努めております。女性警察官が確保できず男性警察官が看守業務を行う場合には,男性警察官を複数配置しまして,相互牽制ということもあるということで,複数配置もしてございます。
身体検査,入浴の立会いなどは,必ず女性警察職員が行うということでございまして,夜間に新規留置があります場合には,当直の女性警察官が対応する。留置の専務員が当直していない場合がございますけれども,それはその他の分野の女性警察官が当直している場合には女性がきちっと対応しますし,小さい規模の警察署の場合で女性警察官が万が一いない場合には,そこは日勤の女性の看守勤務員等を呼び出して,対応しておりますし,また入浴の立会いも女性警察官が対応してございます。
それから管理体制の強化ということで,幹部による巡視の強化ということで,留置主任官等の幹部がおおむね1時間に1回以上はちゃんと巡視するということと,夜間においては当直責任者が留置室の鍵を保管することとしておりまして,大体警部でありまして課長級でございますが,鍵を保管し,看守警務員が当直責任者の承認なく留置室に立ち入ることはできないということでございます。以上でございます。

日本弁護士連合会補充説明
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【南座長】ありがとうございました。
次に,前回の有識者会議において,瀬川委員から日弁連への質問がございました。この質問につきまして,日弁連から補充の説明を行いたいということですので,よろしくお願いいたします。
【西嶋勝彦弁護士(日弁連)】では西嶋の方から。お手元に1枚のA4のペーパーPDF がございますけれども,プレゼンテーションで私の方から,未決には懲罰が禁止されるのだということで国連文書を引用して説明したことに対する瀬川委員の御質問でした。十分そのときお答えできませんでしたので,このとおり原典に当たって調べましたとおりのことを記述してございます。御参考に提供したいと思います。
【南座長】なお,本日菊田委員から第3回未決拘禁者の処遇等に関する有識者会議の補充発言PDF という書類が届いておりますので,御参照いただきたいと存じます。
【菊田委員】一言。
【南座長】これは,お読みいただければよろしいでしょう。
【菊田委員】そうですか。はい,分かりました。

事務局説明
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【南座長】本日は,代用刑事施設制度の在り方につきまして,御議論をお願いしたいと存じます。前回同様,議論を充実したものとするために,事務局に日弁連の主張と法務省・警察庁の立場を対照した表を作成していただきました。三者のそれぞれの立場を確認し,どういうところに論点があるのかということをはっきりさせた上で委員の皆様から意見を出していただくのが効率的と存じますので,事務局からこれらの主張の整理について御説明をお願いいたします。よろしく。
【福田留置管理室長(警察庁)】それでは事務局から,代用刑事施設制度の在り方について,日本弁護士連合会の主張と法務省・警察庁の主張を説明させていただきます。
お手元に各論点に関する主張を整理した表を配付させていただいておりますので,御参照いただければと存じます。
まず最初に,代用刑事施設制度の存廃でございます。項目番号1でございますが,そのうちの一つ目の○でございます。
左側の方に一応日本弁護士連合会の主張を掲げさせていただいておりますが,日弁連は代用監獄(警察留置場)は冤罪と人権侵害の温床であり,捜査機関である警察署が被疑者の身体を管理する異常な事態は絶対に是正されなければならない。また「代用」を恒久化することは許されず,代用監獄は是非とも廃止されなければならないと主張しております。
表の右側でございますが,法務省及び警察庁は,警察においては昭和55年以来捜査部門と留置部門を組織上,運用上分離・峻別し,それぞれの立場から適正かつ厳格に業務を遂行しており,被疑者の身柄拘束が取調べに不当に利用されるおそれはなく,代用刑事施設が冤罪と人権侵害の温床であるとの実態はない。また,起訴までの身柄拘束期間が短期間に制限されている下で,被疑者の取調べその他の捜査を円滑かつ効率的に実施するためには,警察留置場に被疑者を勾留することが必要かつ現実的である。更に,これにより家族,弁護人等との接見の便にも資しているという主張をしてございます。
二つ目の○でございますが,代用監獄廃止の方策としては,日弁連でございますが,拘置所を新増設するほか,警察署に附属しない独立留置場など,一定の警察留置場を法務省所管に移して拘置所とすべきであると主張しております。
拘置所の新増設につきましては,法務省及び警察庁の右側でございますが,裁判所や検察庁・警察署に近接する市街地で用地取得は極めて困難であることから,代用刑事施設を廃止してこれに代え,多数の拘置所を新設するというのは現実問題として不可能であると主張してございます。
また一定の警察留置場を法務省所管に移管する,拘置所にするということにつきましては,法務省及び警察庁は次の3点の理由から,到底実現不可能であると主張してございます。
1番目は,警察留置場は被勾留者を留置する施設であるばかりではなく,警察が逮捕した被疑者を留置するための施設でもございまして,これらの用途に用いることにより都道府県の治安を確保するということで,都道府県が整備しているところでございます。被勾留者にかかる代用刑事施設の機能を分離して国に移管するというのは不可能という主張をしてございます。
2点目でございますが,警察留置場は,都道府県の独自の財源で設置し増強を図っておりまして,またその要員は都道府県の警察業務一般に従事するものとして採用された地方公務員でございます。これらのため,法務省への移管は現実的でないという主張をしてございます。
第3点目としては,都道府県警察の留置管理業務のうちの主要な部分の一つが,警察官の取調べ,勾留質問等のための護送業務でございまして,このために留置管理の専務の警察官だけでは体制上対応がし切れず,他部門の警察官,地域警察官ですとか,その他そういった補勤を得て対応している現状にあるところでございまして,護送業務に従事する専務の法務省職員を別途確保して常時配置するのは現実的でないというふうに主張してございます。
続いて三つ目の○でございますけれども,左側の日弁連でございますが,仮に今すぐ廃止できないとしても,最低限度代用監獄の暫定的性格を法律上明確にした上,漸減条項―これは代用監獄を漸次減らすという意味でございますが―を法律の本文に盛り込み,上記の方法などによってこれを実行に移すべきであると主張してございます。
法務省及び警察庁は,勾留場所を代用刑事施設とする割合を減らしていくべきであるとする漸減条項は,現在の司法の運用実態に照らして非現実的であり,また現下の厳しい犯罪情勢を反映しまして,刑事施設及び警察留置場とも厳しい過剰収容状況にあるところ,その増強は不可欠でありまして,仮に代用刑事施設の漸減を条文化する場合は,収容力増強のための予算・定員措置を講ずることが難しくなるばかりではなく,これらの削減を余儀なくされるということまでも考えられるところでございまして,また接見交通の充実等被勾留者の適正処遇のための取組みにもかえって大きな制約要因となってしまうという主張をしております。更に,地理的条件等を度外視して拘置所に勾留するということは,捜査の円滑,効率的な遂行を著しく阻害すると考えるという主張をしてございます。
次に各論的なところでございますけど,項目番号2の,次のページでございますが,警察留置場における防声具の使用についてでございます。
日弁連は,留置場において廃止された防声具は,現に死亡例が最近も発生しており,拘置所においてもその危険性ゆえにその使用が廃止された。また自白を強制する手段として利用される危険がある。3番目に,保護室が整備されていれば防声具を使用する必要はないことから,警察留置場における使用を全面的に禁止すべきであると主張しております。
警察庁は,被留置者が留置業務担当者の制止に従わず大声を発し続け,他の被留置者にとっても極めて迷惑となる場合が生じているところでございまして,こうした場合に留置場内の規律・秩序の確保のため防声具を使用する必要があると主張してございます。なお保護室,警察では保安室と言ったりもしておりますが,保護室についてはこうした被留置者に対する対応策として有効であるということは認識しておりまして,その整備を鋭意推進しているところでございますが,その整備済みの留置場は現在のところまだ約14%でございまして,防声具を使用せざるを得ない場合は引き続きあると主張してございます。
それから3項目目でございますが,警察留置場における医療でございまして,日弁連は警察留置場における医療を警察の管理と責任の下に置き,十分な医療体制のない施設の使用を認めないと主張しております。
警察庁は,被留置者に対する医療については,月に2回嘱託医が健康診断を行うこと,また被留置者が病気やそのおそれがある場合には,公費により薬の提供をしたり,速やかに嘱託医等の診察を受けさせていること等,被留置者の健康管理に十分に配慮した対応をとっておりまして,このような措置の制度化,新法において規定していくといったことを検討しているところでございます,と主張しております。
それから項目4番目でございますが,警察留置場に係る視察委員会でありますが,日弁連は警察留置場につきましても,刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律で刑事施設に設けられることとなっております刑事施設視察委員会と同等の目的・権限を持つ視察委員会を整備すべきと主張しております。
警察庁は,刑事施設に導入される刑事施設視察委員会による施設運営の透明性の確保等の意義は認識しておりまして,警察留置場についても都道府県警察に視察委員会を設けることを検討しているところでございます。
それから5項目目,警察留置場内の処遇に係る不服申立審査機関でありますけれども,日弁連は,刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律には明文で規定されなかったが,刑事施設内の処遇について刑事施設不服審査会が設置される。警察留置場についても,同様の不服申立審査機関を設置すべきであると主張しております。
警察庁は,刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律により刑事施設に導入される不服申立制度と同様の制度を留置施設にも導入することを検討しているところでございますが,刑事施設及び矯正管区といったところが法務大臣の指揮監督の下にあるのと異なりまして,都道府県警察の留置業務は第三者機関たる都道府県公安委員会が管理していることから,不服申立制度の中に都道府県公安委員会を位置づける,ということで同様の不服申立審査機関を設ける必要はないのではないかと主張をしてございます。
それから,最後の6番目の項目でございますが,重大事件,否認事件に係る未決拘禁者と弁護人による拘置所への移監請求権等でございます。
日弁連は,死刑,無期の法定刑の定められた一定の重大犯罪や否認・黙秘事件については,自白強要のおそれがあるので,拘置所への収容を原則とすべきである。また少年は少年鑑別所に,女性は拘置所に収容を義務づけるべきである。それから未決拘禁者とその弁護人に,これらの場合における拘置所への移監請求権を認めるべきという主張をされております。
法務省及び警察庁は,被疑者の勾留場所は個々の事案ごとに捜査目的の迅速・適正な達成の見地等諸々の諸般の事情を総合的に考慮しまして,裁判官の裁量によって決定されるべきものであって,一律に形式的な基準を定めることは困難であるばかりでなく適当でもないということ。それから,またそもそも警察においては捜査部門と留置部門の分離峻別を徹底してございまして,御指摘のような自白強要のおそれというのは,御指摘でございますが,そういった実態はない。勾留場所について限定を加える意義は見出しがたいと主張してございます。以上でございます。

議 論
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【南座長】ありがとうございます。代用刑事施設制度の在り方に関する論点は,事項的に申しますと,番号1の代用刑事施設の存廃と,番号2〜6までの警察留置場における防声具の使用や,警察留置場における医療などの警察留置場に関するその他の問題に分類することができると思います。時間の関係もありますし,今日は是非休憩時間もとるようにというような御要望もございますので,できれば3時30分ごろまでの間に前者の代用刑事施設制度の存廃に関する論点を御議論いただければと存じます。また,日弁連の見解とこれに対する警察庁及び法務省の考え方については,ただいま御説明のあったところでありますが,これらについて御意見があればお伺いし,更にその点について各委員の皆様の御意見を伺うと,そういう進め方で御議論をお願いしたいと存じます。それでは,皆様よろしくお願いいたします。
【菊田委員】発言よろしいですか。
【南座長】はい,どうぞ。
【菊田委員】原理原則を申し上げて恐縮です,後から各論については話をまた続けさせていただければと思いますけれども,基本的に警察という機能は逮捕という機能でありまして,その後における勾留被告の段階においては,これは司法のコントロール下に置かれている,御存知のように裁判官によるコントロールによって行われている,令状によって身柄を拘束されている身分であります。したがって,外国でも特にそうですけれども,その司法的コントロール下に置かれる人物を警察の管理下に置くということ自体が,今問題になっている代用監獄という,「代用」とあくまでも代名詞がついている位置づけであるわけです。したがって,明治時代から今日まで100年以上にわたって,当時の監獄法起草者の一人,重要な人物でありました小河滋次郎という人がおりますが,この方はもう代用を廃止すべきだということを主張しております。
それから,戦後もずっと何十年にもわたって代用監獄廃止ということがうたわれてきたわけです。特に国連のこの人権規約,これを日本は1980年ごろに批准しておりますけれども,その勧告によりますと,具体的には第4回の日本政府の報告に対する国連規約人権委員会の勧告がございますけれども,これは明らかに日本の代用監獄はこれは廃止すべきだということ,この被勾留者の権利の侵害をしているということを明らかに指摘して廃止すべきことをうたっております。御存知だと思いますけれども,この人権規約というのは1997年に日本の国内での有効な国内法であるということの認定を受けております。したがって,これは国際的にも国内的にも,代用監獄というのは少なくとも将来に向かって廃止しなければならないものであると。各論的に,今御説明がありましたように,今の留置場そのものが非常に近代化し,また可視化と言われる面においても進んできていることは認めます。そして,具体的に非常に人権の侵害が起こらないような留置と捜査の二分化ということを実施しているという説明を受けましたが,基本原則からいきますと,分ける分けないということよりも,この拘禁するという,されているというその管轄というのは,これはあくまでも司法でコントロール内の内在的な問題であるということをまず意識して,今後の議論をしていただきたい,まず最初にそのことだけを申させていただきたいと思います。
【南座長】それでは,ほかに御意見。はい,どうぞ。
【成田委員】基本的な話になりますが,今お話がありましたので,私の立場から2点ほどちょっと指摘したいと思います。
ただいまのお話では,逮捕は警察の本来の任務であるけれども,捜査というのは司法のコントロールのもとで行われる,司法の作用だというふうにお考えのようですけれども,かつては確かに捜査というのは検事の個別的な指揮監督を受けて,そのもとで警察が捜査に当たったわけです。けれども、昭和23年の警察法のときから警察権は地方に分権されたわけです。教育権と並んで警察権が分権され,警察については逮捕と並んで捜査についても,そのやり方についてはもちろん刑事訴訟法のコントロールを受けますし,それから裁判官の令状をとらなければならないということにはなりますが、逮捕した被疑者の取調べ・捜査という仕事それ自体は地方公共団体である都道府県の事務ということになったのです。かつてはこれを機関委任事務という形で警察本部長に委任された事務だというふうに考えていた時期がありますけれども,行政改革のときに行革審の勧告によって、機関委任事務を整理合理化した時期があるのです。そのときに,警察関係の事務についてはわずか2件を除いて機関委任事務から団体委任事務になったわけです。そのあと平成12年の分権改革一括法によって団体委任事務は原則として全て自治事務に切りかえられました。地方公共団体が法令によって処理する事務のうち、国が本来果たすべきもので、国としてその適切な処理を特に確保する必要のあるものについては法定受託事務と呼ぶことにしたのですけれども,これは極力限定しようということで,個別の法律で特にこれは法定受託事務だということを指定して,一覧性を確保する地方自治法別表に載せることとされたわけです。この二つのカテゴリへの割り振りについては、分権推進委員会で各省庁とそれぞれの法律についてグループヒアリングと称する折衝をやってまいりました。各省との折衝の中では、今ここで取りあげている代用監獄の管理に関する事務を法定受託事務にすべきだという話は、警察庁からも法務省からも全然ございませんでした。この事務は既に団体委任事務になっていたものですから,それを元に戻すという話はまったくありませんでした。平成12年以前の地方自治法のもとでは,地方公共団体は司法に関する事務を行ってはいけないという規定がありました。ただ、法律で特別な例外をつくれば別だということがあるのでしょう。しかし、警察が行う逮捕、捜査は先ほど申し上げたように、刑事訴訟法の制約を受けるとしても,司法事務ではなく,都道府県は警察固有の仕事になっているわけです。今はそういう形で地方自治体の自治事務になっているという点が一つです。
それからもう一つは,先ほど国際法関係のお話がございました。これについては,いろいろ私も調べたのですが、今御発言のあったところと我々の認識とはかなり食い違いがあるわけで,若干誤解されている面もあるのではないかと思うのです。と申しますのは,国際人権B規約は、加盟国の法制度を統一することを目的としているものではないのです。刑事の捜査や取調べの過程の中で,デュープロセスその他の人権の侵害があれば,その問題について改善の勧告をするという形になっているわけです。刑事に関係したある国のある制度を廃止するかどうかということは,人権規約の固有の目的ではないのです。人権規約というのはセルフエクゼキュートな条約ではないのです。ですから憲法98条を通じてその条項がそのまま国内法としての効力を持つということではないわけです。セルフエクゼキュートではない条約ですので国内法で受けとめ,それを国内法措置をとる,それで初めてB規約が国内法として生きてくるという性質のものなのですね。その点をちょっと誤解されているのではないか,こういうことです。
代用監獄という制度それ自体を廃止するか否かというのは,B規約との関係では個々の国の主権問題であり,そこまでは立ち入らないというのがB規約の趣旨だろうと思うのです。日本はかつて在留外国人登録の指紋押捺についても勧告を受けていたと思うのですけれども,それは指紋押捺の制度それ自体をやめよというふうに言っているわけではなくて,指紋を押捺する過程で本人の意に反するような強制があってはいけない,あるいは不当差別があってはいけないということを言っているわけです。制度それ自体を残すか廃止するかは,個別の国の主権に関わる事項です。
それから、この人権規約委員会勧告を読んでみましても,代用監獄を廃止せよということは言っていないと思うのです。代用監獄の留置・拘禁の手続や処遇をB規約に適合するように処理しなくてはならないということでありまして,警察庁の当時のコメントがありますが,代用監獄制度の運用に問題があるのでそのような運用は改めなさいということを言っているにすぎないとしています。私はこのコメントが正しいのではないか,こういうふうに思っているのです。
もう一つ,人権規約委員会の勧告があったことは事実ですが、所詮、勧告は勧告であって,それ自体に法的拘束力はなく、それをどう国内法上どうするかということは,個々の国の主権マターなのですね。直接ここで議論している問題とは関係がないのですけれども,国際社会における今の人権問題の主要な関心というのは,これは御承知でしょうけれども,独裁国家における刑事施設の処遇問題とか,あるいはイラクの,戦時捕虜条約との関係で,その収容に関する問題などです。ですから,国際社会の1990年代の関心と現在の国際社会の関心というのは非常に大きく違ってきている,代用監獄よりもっとひどい人権がいま国際的に問題になっているということをちょっと付け加えます。
【菊田委員】座長,反論の機会は……。
【南座長】どうぞ,よろしいですよ。
【菊田委員】細かいことについて,国際法上の問題について反論している時間はございませんので,後ほどそれは時間があるときに徹底的に私の立場から反論したいと思いますけれども,少なくともこの条約を批准し,そして国内法が有効であるという状況の中で,国際的に代用監獄という言葉が国際用語にもなっているぐらい,日本の恥部の代表的になっているわけです,刑事分野において。それについての勧告を受けているわけですから,その勧告を忠実に守るということが,少なくとも現状はともかくもその将来に向かってこの代用監獄を漸減するなり廃止するという方向での一つの国際的な基準をもとにした理論的根拠にしなければならないということを,今日の原点において私は申し上げたいと,こういうことです。
【成田委員】理論的根拠はそれはそれで結構ですけども,私は見解が違うということを申し上げたかったわけです。
【菊田委員】それは見解の相違かもしれませんけれども,国際条約というのはそんな見解の相違で解釈が異なるものではありませんから。
【成田委員】人権問題というのは,しばしば政治的に別の目的に使われることがあるのですね。これは警戒しなければいけないということを申し添えます。
【南座長】分かりました。それでは,ほかに何か御議論ございますか。
【久保井委員】私はこの代用監獄の問題は,これは今回の有識者会議において最大の問題で,長い間非常に未解決のまま年月を費やしてきましたので,21世紀を迎えたこの新しい時代に何とか解決を,対立状況を解消して,円満な合意点にどうしても到達してほしいというふうに思います。またその状況は,十分にその解決ができる状況が出てきていると思います。それは,1989年にいわゆるベルリンの壁が崩壊して,日本の国内では55年体制というものがなくなって,共通のテーブル,国民各層が立場の違いはありますけれども共通のテーブルについていい社会をつくる,いい国家制度をつくるということを協議できる状況が整ってきている。もちろん警察と弁護側,被告人側とは立場の違いがありますから,立場の違いによる意見の対立,これはまあどんな社会になってもやむを得ないことで,そのことはやはり克服しなければいけないと思いますけれども,いわゆる冷戦構造下のような体制側か反体制側かというような,そういう厳しい対立状況は解消しているわけですから,この問題が今日まで何十年間と据え置かれてきたのは,基本的にはそういう反体制運動のような,弁護士会の主張がそういう誤解を招いたといいますか,そういう面もあるのではないかと思いますが,そういうベルリンの壁が崩壊してもう10数年たっていい時代が来ているので,これは私は解決できるのではないかと思います。
そこで具体的に,私はこの代用監獄を廃止するということが必要だと思いますが,非現実的ではないか,そういう主張が,現在ほとんど留置場に代用監獄で勾留されているのにほとんど拘置所は使われていない,1.何%ですか,そういう状況で非現実ではないかというふうにお考えかも分からないけれども,その解決策は後で申し上げるとして,私はどうしても代用監獄を廃止する方向に持っていかなければならない理由が二つあると思うのです。
一つは,やはり今議論が出た国際条約に反するとか反しないとかいう問題はそういう問題は別として,世界の各国を国際的な状況を見たときに,代用監獄が存在する国というのはもう日本のほかにはほとんどない。ゼロかどうかは分かりませんけれども,ほとんどない。そういうことは,やはり我々として有識者という立場に立ってみたときに,無視できない状況ではないかと思います。日本の国は戦後急速に発展して,今では世界第2の経済大国と言われて,世界各国から羨望,尊敬,もちろん批判もありますけれども,そういう国になっているわけですから,そういうことにふさわしい国家の体制,刑事施設も含めてそういうものをやはり備えなければいけない時代が来ている。
確かにプレゼンテーションで詳しく伺いました。警察庁・法務省のプレゼンテーションを伺いまして,ごもっともだと思う部分も多いのですけれども,やはり一番のかなめは捜査に支障を来すとか,あるいは精密司法をとっている国,諸外国と違って日本は非常に精密な司法をとっているために,自白調書,できたら自白というものが必要なんだ。状況証拠だけで起訴したり有罪判決をするということは日本の国では好ましくないんだというような,だからそういう取調べが支障を来すような改革は非現実的なんだという,そういう御主張だったと思うのですけれども,私はこの2〜3年前から始まっている司法制度改革審議会のことを思い出すのですけれども,陪審制を日本でもとるべきだということで,長い間そういう主張が展開されてきた。それに対して裁判所側は,日本はそういう専門家による精密な司法をずっと伝統的にとってきたので,素人を裁判に参加させるということは極めてラフなジャスティス,ラフジャスティスに転換することになって好ましくない。やはり精密司法というのを維持すべきだということで,それでずっと最高裁判所を初めとしてそれは日本の実情に合わないということで,ずっとこれを据え置いて今日まで来たわけです。しかし,やはりもう陪審制をとっていない国はほとんどない。発展途上国も含めて非常に少ないということが明らかになってきたので,結局国際的な整合性といいますか,国際社会における足並みをそろえるということをしないと,日本はずるい国だと,日本の政府は楽をしていると。確かに専門家による司法ということになれば煩わしさがないですから,非常に能率もいいし楽だし精密かも分からないけれども,それをやはりやめようということで,今回陪審制そのものではないけれども,それを少し修正した裁判員制というものの採用に踏み切ったわけです。その踏み切ったのは,やはり何が決定的かというと,誤判を防止するとか,冤罪を防止するとかいう理屈づけをする学者もいらっしゃいますけれども,やはり国際的な整合性を足並みをそろえる。そうしないと国際社会で笑われるということが大きな動機だろうと私は思います。それで,やはりこの代用監獄は,現実的にはなかなかやめにくいということはよく分かりますけれども,新しい世紀が来た今日,ちょうど裁判所が陪審員制に近いものの採用に踏み切ったと同じように,この未決拘禁施設においても,難しいかも分からないけれども何とか前向きに突破口を切り開いていく知恵を絞るべきではないかというふうに私は思います。
その国際的整合性ということのほかに,もう一つの理由があります。それは,日弁連のプレゼンテーションにもありましたけれども,無理な取調べの温床になっていると。要するに拘置所と違って身柄が捜査官の手元に近いところに近接した場所にありますから,調べが非常にしやすい。そしてまた,捜査機関と勾留とが同じ警察署の中,組織的,構造的に分離されているといっても,同じ建物の中にある以上,別な場所にある拘置所よりも,あるいは拘置所になりますと法務省の所轄になりますから,調べがしやすいということで,どうしても無理な調べにつながっていく。無理な調べがしやすいということがあるので,そういうことをなくする必要がある。これは,ずっと言われてきていることですけれども,さっきの御説明だと,そういう人権侵害,自白強要の実態はないという御説明でしたけれども,それは毎日毎日そういう人権侵害が行われているとは思いません。それは恐らく適正な捜査がなされていると思いますけれども,やはり否認事件でかなり無理な取調べをして,それが結果的に誤った事実認定にもつながって冤罪になっているということも,これは否定できない。どの程度あるかは別として,そういうこともある,あるいはそういうことにつながりやすいということがある以上,さっきの国際的に歩調を合わせるということに加えて,実質的な理由になりますが,その二つの理由から私はやはり代用監獄をやめる方向で,やめることによって日本の治安が悪化するとか捜査が著しく阻害されるような,そういうことになってはいかんという,そのことは分かりますから,それとの両立ができる方法,治安の悪化,取調べに大きな支障を来さないでなおかつ代用監獄もやめる。その両立できるそういう解決策があると思うのです。それを,ここでやはりみんなで知恵を絞って見つけていく,方向性をそこに置いて努力していくということがどうしても必要だと思います。
あと,私の解決策については,また後で申し上げます。
【南座長】分かりました。それでは,江川委員お願いします。
【江川委員】さっきから国際的なことが出ているのですけれども,もちろん海外からの提言やあるいは海外でのいろんな制度でいいところを取り入れるというのはとても大事なことだと思うのですけれども,ただよその国がこうしているから,あるいは国際的にはこれが多いからこっちもこうすべきだというのはちょっと違うのではないかなという気がしています。
もう一つ,私は一番最初に,私は冤罪の取材を幾つかしてきたというふうに申し上げてきました。その中では,実際に警察の留置場に入れられていて,つまり代用監獄にずっといて,それがうその自白につながるという例も随分とあったと思います。ですから,そういう意味でこの日弁連が代用監獄は冤罪と人権侵害の温床であるということでずっといろんな努力をされてきたことは,非常に大きな意味があったと思います。実際に中に女性の被疑者で男性の看守に強姦されたという例も,残念ですけれども何件かあったようです。ですから,そういう意味で今までのやっていらしたこと,非常に大きな意義があったと思います。それがあったからこそ捜査と留置の分離ということも行われたのでしょうし−私は今日この法務省から出てきた数字,私はもっと実は多いかと思っていたのですが−勾留場所を変えてくれという不服申立てが少ないということは,それだけ留置場の改善が進み、問題が少なくなってきたということでもあると思うのです。それはやはり,今までのいろんな努力の効果であったと思います。そしてある一定の効果を上げたところで,私はやはり次の段階に行く時期ではないかなと思っています。それは,これだけ財政難の中で留置場を一刻も早くやめてという方向よりも,むしろ例えば留置場の中のいろんな問題を透明化していく,あるいは捜査の過程を透明化していくという,その透明化の部分がここからの大事なステップになっていくのではないかなと,そちらの方にもっと重点を置く方が私は効果的ではないかなということを今考えています。ですから,代用監獄を廃止して拘置所に移せというのは,私はやはり現実的ではないし,むしろそれを求めていくことで透明化というような努力が遅くなっていくよりも,むしろそちらの透明化の方に全力を傾注した方がいいのではないかという気がします。
ただ,もちろんこれは件数が少ないといっても準抗告が起きていることは事実ですし,恐らく弁護士さんのもとには幾つか問題のある事例もあると思うのです。前回葛西さんの方から,フェールセーフという言葉がありました。これには本当に万全を尽くさなければいけない。つまりそれは安全の面でもそうですし,それと同時にやはり冤罪をなくすという面でも,1件でもあってはいけないわけなので,それにもこのフェールセーフの発想が私は必要だなと思うのです。だから,そうするとやはり代用監獄で今問題があると思われる事例は速やかに拘置所に移す,そういうことをどうやって確保していって,そして留置場と拘置所の役割分担をうまくやっていくかということではないかなという気がしています。
ただ一つ気になるのは,警察の方は今留置場が非常に足りないということで,留置場をいろいろつくる努力をされているようなのですけれども,一つ警察の方に伺いたいのは,いわゆる大規模留置場というのは全国でどういうふうな展開になっているのかということ。もう一つは法務省に伺いたいのですが,警察の方はいろんなところで努力して留置場の確保というのをやっていらっしゃるようなのですけれども,拘置所の方は,拘置所を増やす努力というのは今されているのでしょうか。そのことをちょっとお伺いしたいと思います。
【南座長】それでは警察庁の方から先に御質問にお答えください。
【山田官房総務課理事官(警察庁)】大規模留置場ということで御質問があったのですけれども,御指摘のとおり最近の過剰収容状況にかんがみまして,各警察署,警察署で地域地域でどれぐらいの収容力が必要なのかということを勘案しつつつくっているということなので,それに伴ってだんだんと大きなものができているというような状況にあろうかと思います。それとあと,関連して留置場というのは警察署にあるのが普通なのですけれども,昨今の過剰収容ということで,収容力を確保するために,その都道府県の中で努力いたしまして,敷地を確保し,そこに留置専用施設というようなものをつくっているというようなことで,現状に対応するために必要な収容力を確保しているというところでございます。
【江川委員】具体的にどういうふうな計画になっていますか。計画というか,どういうふうに。原宿の方は知っているのですけれども,それ以外にはどんなものがありますか。
【山田官房総務課理事官(警察庁)】それ以外は,各県の財政状況等もありますので,例えば何十年単位で警察署の建かえ時期にかかった警察署の留置場の収容力をふやすというようなことで,建かえのときの増員等で計画しているのですけれども,ただいま具体的な数字を申し上げますと,例えば17年度ですから,あとわずかですけれども,17年度運用開始予定のところで約600人増加。18年度運用開始予定のところで約450〜460人ぐらいの増加。19年度で460人ぐらいの増加分を見込んでおります。
【南座長】法務省にも御質問ございましたので,よろしく。
【林矯正局総務課長(法務省)】拘置所の増設,収容能力の増強についてでございますが,予算的な問題等々あって必ずしも容易ではないけれども,少なくとも例えば昭和55年と平成16年,未決収容の定員を比べますと,平成16年ですと1万6,962という数字でございますが,昭和55年当時ですとこれが1万5,133となりまして,その間で1,800名ほど増強しております。なお、トピックの話としましては,平成17年の補正予算案によりますと、名古屋拘置所がございます。名古屋拘置所は一番最初に建てられた高層拘置所の1つでございますが,ここにつきまして300名を増強する補正予算を組んでおります。今後ともこういった拘置所の収容能力の増強ということについては,努めていこうと考えておるところでございます。
【南座長】よろしいですか。それでは佐藤委員,お願いします。
【佐藤委員】今総括的な議論が行われているようですので,そのことに関して。2番目の丸,あるいは3番目の丸についてはまた後ほどの機会に申し上げたいと思います。今久保井委員の方から非常に大きな観点からのお話がありましたけれども,大変啓発を受ける内容の御発言であったと思います。そういうこととのかかわりで,私の考え方を述べさせていただきます。世界とのかかわりで申しますと,日本の治安が非常にいいと言われておりましたころに,よく各国の政府機関あるいはマスコミの方から,なぜ日本の治安はいいのかという質問を受けたものであります。その当時の日本の犯罪発生というのは,交通事故に起因する事件は除きますけれども,それを除いた刑法犯の数というのはおおむね140万件前後だったのです。一番多いときでも160万件台でありました。そういう状況の日本の治安で,日本人自体も治安はいいと思い,その治安のよさというものを誇ってきたと思うのですね。ある意味日本の伝統文化と並び称するぐらいに,日本人の性格であるとかあるいは町における人と人とのきずなの在り方の問題でありますとか等々,治安をよくしていく要素というのは社会の中に多々あったと思いますけれども,その一つに注目をされたのは,日本の捜査制度であったり,あるいは警察,刑事司法制度だったと思うのですね。裁判については,先ほどお話がありましたように,現在新しい動きというものに向けて急ですけれども,この警察制度についてちょっと申しますと,これは世界にないのですね。世界の警察制度の主流というのは国家警察か,あるいは自治体警察一本なのですね,どちらかなのですね。それは,警察権というのは国の統治の根幹を占めるということで,国家がその警察権を担うというのが普通の考え方でありますけれども、しかし住民に極めて,住民の人権その他にかかわりが深いということで,多くの国がいかにして住民との接点を増やすかということを考えてきました。その一つの在り方として自治体警察,アメリカなどがそうですし、イギリスがそうだと思いますけれども。日本の戦前は国家警察一本だったわけですが,多々問題があったということで,戦後は自治体警察と国家警察の二本立てにしたわけです。誤解されていますけれども,終戦直後は国家警察が逮捕権等の執行権を行使していたわけですね。それと市町村警察との二本立てとなっていた。しかし、その警察制度の持つ諸問題が顕在化して,昭和29年以降現在のような都道府県警察制度、すなわち、執行権は都道府県という自治体の警察一本としつつ、国の警察機関は一定の関与をすることにとどめるという警察制度になっていますけれども,これは世界に例がない警察なのです。したがって,代用監獄制度も世界に例がないかもしれませんけれども,日本の警察制度自体が世界に例がない警察制度であります。そういう統治機構でもって,日本の治安を維持してきたという,そういう側面も一つ見逃すことはできないと思うのですね。
それが今日,先ほど申し上げましたけれども140万件前後の刑法犯であった犯罪発生状況が,平成14年がピークでしたけれども285万件までになったわけです。つまり倍増したわけですね。そのころに日本人自身が治安の悪化を感ずるようになってきた,いろんな事件が起きるようになってきたということもありますけれども,その背景には,犯罪全体が急増してきている,それも倍増してきているという,そういう中にあって治安の悪化という問題が国民的課題になってきた。その治安悪化にいかにして対応するかということで,政府はもちろんですけれども,各自治体,住民の皆さんあるいは報道機関等々,関係の方の努力でようやく現在犯罪の発生が減り始めておりますけれども,しかしまだまだ250万件ぐらいは一昨年発生しているということですね。したがって,こういう状況になった中で留置場もいっぱいになり,拘置所もいっぱいになり,刑務所もいっぱいだ。先ほど本来じゃないという意味の代用ということをおっしゃっていましたけれども,そういうことであるとすれば,拘置所に入れてしかるべきものがまだ20%ぐらい留置場に,代用監獄に置かれているという現状が生まれてきているゆえんというのは,そういう犯罪発生の倍増を中心とする治安の悪化に起因しているというときに,果たしてこれからこういう治安の回復を願う国民の要望に応えていくべく,国としていかにあるべきかという観点も,また欠くことのできない観点ではないかと思うのですね。
しかし,捜査というのは当然本質的に人権との調和というものがこれは宿命的に持っているものでありますから,先ほど来お話がありましたように,その調和をどうやってとっていくかという,これは確かにおっしゃるとおり知恵だろうと思います。江川委員もおっしゃいましたけれども,種々の日弁連初めいろいろな方々の意見を受けて,あるいは提言を受けて,警察も運用を変え制度を変えてきたというゆえんは,確かにその調和を求めてきた姿勢のしからしむるところだと思うのですね。したがって,その意味でこの調和をこれから引き続きどうやって求めていくのか,そして治安の回復を図りつつ,また国民の人権を損なう例が一つでも少なくしていくためにどうしていくべきか,こういう観点で,私は議論をしていきたいと思いますし,そうしていただきたいと願うものであります。
【南座長】それではどうぞ。
【井嶋委員】この代用監獄問題というのは,今までいろいろ御議論がございましたけれども,私自身は次のように考えております。つまり,この問題の根っこにはやはり刑事司法というか,もっと具体的に言えば捜査といいますか,犯罪捜査に対する基本的な理念あるいは制度の在り方といったような根幹的な哲学の部分に,世界的な潮流もそうでありますけれども,根本的な対立がある。そういう中で,いわゆる英米法流の当事者主義を純化しようとする一派と,ヨーロッパ大陸法系の糾問主義的な捜査観を持つ考え方といったものとの相克の中で,この議論がずっと行われてきておるわけでありまして,これはもう水と油でありますから,これは交わることはないという非常に不幸な事態を今まで経験してきているのですね。そういう意味で,いつまでも交わらないのではいけないというのは,正に久保井さんがおっしゃるとおりなので,何とかこの際しなければいけないという気持ちは私も全くそのとおりでございます。しかし,そこでどういうふうに考えていくかということでありますが,やはりこの前のプレゼンテーションにありましたように,全く対立する意見でお互い述べ合っていたのでは,これはなかなか解決していくものではないわけでありますから,この際これを何とか知恵を出してやっていこうという皆さんの気持ちをこの際まとめるとすれば,どういうふうに考えるべきなのかということを,具体的に前向きにやっていかなければいけないということが,私の基本的な立場であります。
そこで,まずいろいろな誤解がありますけれども,各国の刑事司法あるいは刑事手続,司法手続というのは,それぞれ各国独自に歴史と国民性を根っこにして発展してきているものでありますから,それが国際的な基準でもって廃止すべきであるとかすべきでないとかといった議論に直接的に対応するのではなくて,やはりそれぞれの国が持っている独自の制度をいかに国際的な基準で言われるところの理念に合わせていくかというところに問題の根本があるのであって,制度そのものをやめるとかやめないとかという議論ではないということを,まず認識しておく必要がある。その中で,その理念に合致するように今までいろいろ考えてきたのが代用監獄の歴史の中で見ると,いわゆる昭和55年の捜査と留置の分離という基本的な改革であったと思います。ですから,これは正に国際的なそういう風潮,主張をある程度を取り入れて,政府としてもそういう考えを持つに至ったということなのだと思います。したがって,それ以来各委員が視察されましたように,最近の留置施設には非常にそういう理念に適合するような形で物理的にも,あるいは制度的にも,あるいは人員配置的にも改革が行われてきているという現実があります。そういう現実があるところに,更に今回この既決と同じように未決についても新しい,古い監獄法を改めて新しい法律でもって権利規定も義務規定も含めてきれいに近代的な法制として整備しようということで行われている改革の動きでありますから,これまたこの機会を利用して更によいものにしていく,更に国際基準にも適合するような理念を持った,そしてかつ我が国伝統に根差したこの代用監獄制度といったものをより改善し,純化して整備していくという機会ではないのか。したがって,私は今回はそういう方向へどういうふうにして持っていけばよりいいものができるかということに,皆さんの意見を集約していってもらいたいというふうに思うわけであります。
国際基準について先ほど菊田先生がおっしゃいましたけれども,国際基準というのはそれぞれ全く制度の違う国を束ねて,その理念を何とか近代的なものに持っていこうとする動きでありますけれども,それはやはり各国の制度そのものを批判するのではなくて,その中に国際的な標準に,基準に合う理念を盛り込んでいくべきだという主張だというふうに,運動だというふうに私は考えておりますので,直ちに廃止しなければならないというようなのが国際的な基準であるというようなお考えには,全く賛成はできないということであります。
【南座長】どうぞ。
【成田委員】話を少し進める上で,2番目の丸のところに関連した発言をさせていただきたいと思うのです。私は、本来拘置所に収容すべき人をいわゆる代用監獄に置いているというのは,これはやはり変則的だと思うのですね。そこは筋を通して,移監待機者のように、拘置所に収容すべき人は拘置所に収容するということでなるべく分離を図っていくというのが,筋だろうというふうに思っているわけです。その場合に,ここに書いてありますように、現在警察留置場になっているものを法務省の所管に移せと,こういう主張をされていますけれども,国有財産であれば、法務省所管の財産を例えば総務省に移したり,総務省の財産を法務省に移したりするということは,国有財産法上所管がえが可能なわけです。主張されている、法務省に所管を移すということの意味はよく分かりませんけれども,これは右から左に所管を移すというふうにお考えだとすると,大きな誤解があると思います。現在警察官署に付属する留置施設というのは地方公共団体の公有財産であり,行政財産なのです。行政財産について定めた地方自治法(238条の4第1項)の規定によれば、原則として他に譲与できないわけです。これまでに行政財産を国に譲与した例があるのかということを関係方面に聞いてみたところ、普通財産に切りかえて譲与するということはあったかもしれないが、近年はほとんどないということでした。しかし警察官署に附置されている留置場として使われている限りは,国とは法人格を異にする都道府県という自治体の行政財産です。普通財産ですと,議会の議決があれば払い下げや譲与もある程度可能です。国と地方の役割分担の変更にかかわる財産の移管ということになりますと,これは極めて大きな問題であり、特別の法律によらなければできないのではないかというふうに考えるのです。
【南座長】それでは,瀬川委員どうぞ。
【瀬川委員】もう少し総論の部分に戻したいのですけれども,私の発言の前にちょっと確認というか,理解の整理のために法務省,警察庁の御意見があればお聞きしたいのですけれども,条約違反というのがずっと長く言われているのですが,この点についてどう考えておられるのかというのが1点。
2点目は,先ほど来言われていることとの関連で,いわゆる諸外国と違うということを言われて,それがお互いの意見が分かれることになっているのですけれども,その点諸外国,前の矯正局長の冒頭のところでも,欧米諸国等と異なるということを言われているのですけれども,その部分是非,要約的で結構ですし,逆に通り一遍の答えでなくてエッセンスですね,その点を少しお答え願って次のステップに入ったらどうかと思いますが。
【南座長】これは二つとも警察庁,法務省への御質問ですか。それでは,警察庁の方から,まずお答えください。
【山田官房総務課理事官(警察庁)】それではお答え申し上げます。まず国際条約のお話でございますけれども,先ほど来プレゼンテーションでも申し上げましたとおり,外国の法制度につきましては,各国ごとに異なる刑事司法制度を有しているということで,その法制全体との関連で最も相当と思われる拘禁制度を採用しているものと考えております。日本では日本の刑事制度があるのですけれども,それと国際条約とを見ますと,例えばいわゆる人権B規約など法的拘束力を有する国際条約やそのほかの国際準則と言われるものを照らしても,ほぼ充足する運用をしているというふうに考えております。外国と違う制度だという御指摘に対してなのですけれども,繰り返しになりますが,例えば日本では勾留期間が20日と非常に短くなっているということですとか,あと外国と違いましてと言うか,外国では無令状逮捕がかなり広く認められているところもある,また勾留期間もかなり差があるということで,そういった具体的な刑事司法制度をすべて比べてみないと分からないだろうということで,代用監獄制度というのは現在の日本の刑事司法制度下では必要であるということなのですけれども,外国の例なのですが,私承知している限りでは,例えば韓国などはいわゆる勾留期間に相当する期間,警察の留置場に拘束するというようなことが制度的になっているというふうに承知をしております。いずれにせよ,そのほかの行政検束的な制度を認めている国もあるというふうに承知しておりますし,それぞれ国によって違う制度を取り入れているので,特に日本が不合理であるというふうには考えておりません。
ただいま人権B規約をお配りしております。下線部でありますが,「刑事上の罪に問われて逮捕され又は抑留された者は,裁判官又は司法権を行使することが法律によって認められている他の官憲の面前に速やかに連れていかれるものとし,妥当な期間内に裁判を受ける権利又は釈放される権利を有する」とございまして,文言上警察に勾留してはならないというようなことは読み取れないというふうに考えております。以上でございます。
【南座長】それでは,法務省の方いかがですか。
【林矯正局総務課長(法務省)】外国制度について,1点ほど補足させていただきます。すべての制度について承知しているわけではもちろんございませんけれども,例えば日本と一番対照的な国としてはフランスの制度があると思います。これは大体48時間,やはりフランスも場合によっては警察による無令状での逮捕が認められていて,その後必ずそれが司法官の下に連れて行かれます。それは当然,今警察庁から言及のあった国際人権規約9条の3,要するに裁判官の下に連れて行きなさい,逮捕してから連れて行きなさいということとも当然合致しているわけですが,フランスの場合はそれまでは身柄は警察におるのですが,司法官に連れて行ってから更に身柄を勾留するとすれば,それは拘置所に移ります。その意味で,警察の留置場から拘置所にその段階で完全に移るということになっています。ただこれは,いわゆる司法官の面前に連れて行ってからも勾留を続けるというのは,これは予審の勾留でございますので,その後更に予審の勾留の下で調べをするのは予審判事でございます。予審が始まりました後は、警察官は被疑者につきましては一切取調べができない状況になります。要するに,予審が始まってから勾留が付けば,警察官はその被勾留者の調べができない状況になっている。そのことと連動して,身柄は拘置所の方に移っているということでございます。
他方で,日本と同じような国として,警察からもございましたが韓国の例がございます。韓国も当然警察が逮捕いたしますが,やはり48時間ぐらいの留置期間がございます。その後,やはり韓国も国際規約に合致するように,少なくとも司法的コントロールが次に来ます。要するに、更に勾留するかどうか,韓国では拘束と言っていますが,拘束令状を出すかどうかということがございます。韓国の場合は,48時間の警察の留置の後に拘束令状が出てから拘束,いわゆる勾留がなされてから最初の10日間は警察勾留となります。要するに、警察の留置場に勾留がなされます。その後10日間が終わりますと,今度は拘置所に移りまして,拘置所に更に20日間ほど,今度は検察官勾留のような期間がございます。こういった形で,問題は韓国の場合は司法官のコントロールが入ってからも,やはり10日間は警察の留置場で勾留がなされるということでして,これはむしろ代用監獄というよりは、警察の拘束を本監獄という形で扱っているような状況がございます。2点,二つの国について御説明申し上げました。
【南座長】以上の説明でよろしいですか。
【瀬川委員】その点については,また検証は後でやっていただきたいのですけれども,総論的なことを,我々というか葛西先生もしゃべっていませんので発言を許していただきたいと思います。恐らく従来の議論の中では,代用監獄というのはイコール悪という時代が確かにあったというように思われます。しかし、現在では、私は相当時代の変化というものがあるのではないかと考えております。特に昭和55年の法制審の監獄法改正の骨子となる要綱,あれは先輩というか先人の実務家あるいは学者の方々の英知を絞ったものだと私は評価しますけれども,それ以後非常に時代の変化というのがあったと思われます。一つは,先ほど来から問題になっています捜査部門と身柄管理部門とを分けることがそれ以後なされたということ。それから次に,居住環境の整備というか改善につきましては,さきほどビジュアルにといいますか,明確に示されたというふうに思う。ただまだ改善点は幾つかあると思いますし,その改善はこれからだと思いますけれども,ひとまずそういう形で,この四半世紀というか,25年が経過して一定の改善がなされたという評価をしていいと思われます。
それから3点めは,我々が日ごろ接する弁護士さんの意見なんかを聞きますと,接見する際に拘置所が遠いということはよく言われていますし,留置場の方が便利だということを言われるわけで,この点は意見として我々は踏まえておく必要がある。一方的に代用監獄は悪で反対であるという議論ではなくて,かなりの実務家,弁護士の方々は,そういう形でやはり便利性ということを考えているという現実がある。
それからもう一つ,4つめに、資料から明らかなように,接見交通についてはかなり実際に配慮されているという現実も評価すべきだと思いますし、この会議でも前向きに議論してきたところです。単に何かドグマのように代用監獄は悪でこれはだめだという議論というのは,もう通用しないのではないか。特に監獄法が改正されまして既決と未決との処遇の格差ということが非常に明確に表れてしまっていますので,私はこれを放置することは重大な問題だというふうに考えております。したがって,むしろ法的な整備が早急にやはり求められるべきで,私は考えております。そういう意味で,代用監獄が善か悪かの議論で決着がつくという時代ではなくて,戦後でももう60年たち,昭和55年の要綱からも四半世紀たっているという経過を見ましても,理念と理念との対立というものでは意義が少ないように思います。もともと代用監獄というのは私の見方によれば理念と現実との妥協ですので,今後実質的な議論を重ねる中でより合理的な妥協をはかって決着されるべきであると考えております。以上です。
【井嶋委員】先ほど佐藤委員がおっしゃったように,我が国の警察,独自の警察というものをおっしゃったのですが,別の角度からちょっと補充しておきたいのは,我が国の刑事訴訟法上は警察が第1次捜査権を持っている。先ほど韓国の説明がございましたけれども,我が国の刑事訴訟法上は第1次捜査権は警察が持っているわけであります。そして,我が国の刑事訴訟法は,これは戦後の英米法との融合の中で残った部分でありますけれども,被疑者を取調べの対象とする,つまり被疑者を取り調べるということが可能であるという,当事者であるはずの被疑者を取り調べることができるというところに,日本の刑事訴訟法の一つの大きな特徴があります。この二つ,この権限をいかに行使していくかということの上において,警察留置場の勾留を引き続き警察の1次捜査の貫徹のために利用するというのが,これは極めて捜査の迅速,適正な実行のためには必要だというような考え方も当然あったわけでありまして,先ほどの説明だと10日で韓国は何か検察,検事勾留にかわるというお話でしたけれども,日本はそこは10日あるいは20日間警察が捜査を,1次捜査をするという上において,この制度が非常に有効に活用されてきた,機能してきたということが言えるのだろうと思います。その結果が,先ほど佐藤委員が言われたような良好な治安,あるいはまた言い方を変えれば精密司法といいますか,犯罪の実態を,ほとんど実体的真実に近いほど証明をして,そして極めて綿密な量刑をして刑事司法というものが完結していくという我が国の伝統がつくられ,かつそれが我が国の国民性に合致してきたものとしてずっと戦後行われてきたということがあるわけで,そういった意味で訴訟法上の制度として警察が送致後も勾留を利用して捜査をするというのが義務づけられているという点に注目をしていただきたいというふうに思います。
【南座長】それでは,葛西委員どうぞ。
【葛西委員】何か私だけ発言をしないのもいけないと思いますが,皆さん方がほとんど言われたところで尽きておりますが,私は専門家ではない者としての実感で言いますと,日本の警察あるいは司法制度というものが,人権という観点で見ますと世界の中で最も誇り得るぐらい人権に配慮した実態になっているのではないかというのが,私並びに私の周辺にいる人たちの実感だと思います。もし何かそういうトラブルに巻き込まれることが万一あったとすれば,外国でなくて日本であることが望ましいと思っているように思います。その意味で,日本の国の司法あるいは治安維持の仕組みというのは,非常に人権に配慮をされたマイルドな,しかし効率的な仕組みであったのだと思うのですが,時代の要請という観点から見ると,今はむしろ犯罪が増えたという先ほど佐藤委員のお話もありましたし,逮捕の率は下がっているというふうには思われますし,凶悪化もしているということもありますから,できるだけ持っている力を最大限度,人的,設備的,制度的な力を最大限度利用して,今は治安を回復するという時代の要請にある時期にあるように思われます。久保井委員が,ベルリンの壁が崩壊していわゆる思想の対立みたいなものはなくなってきたということを言われました。全くそのとおりと思うのですが,であるからこそそういう思想対立の言ってみれば一つのシンボリックな現象であるような話を乗り越えまして,制度を定着させていくということが必要であり,現在捜査のために持っている能力を効率的に最大限度活用できるように当面していくことが一番大切なことではないかと思います。また,設備を拝見させていただいたところでは,その人権に対する配慮というのは非常にできる限り細やかに行われているように実感をされたことを付け加えさせていただきたいと思います。以上です。
【久保井委員】先ほどから多くの委員の方の御発言をお聞きしておって,意見の違いは私の想像していた以上に大きくないのではないかという感じがいたしております。代用監獄が善か悪かという,そういうパターナリスティックな,そういう論争になるかと思って大分心配をしておったのですけれども,やはり今の皆さんの意見は日本の社会を少しでもいいものにしなければいけない,治安をよくする。一方では,やはり被疑者,被告人の人権もできるだけ尊重していく。そういう調和の在り方というか,ポイントをどこに求めるかということで,少なくとも総論的には同じ,余り大きな違いがないのではないかという感じがいたしております。
私は,この国際的によそがやっているから日本もやれという,そんな短絡的なことを言っているつもりはないのですが,しかし各国独自の制度は確かにあり,またそれを尊重しなければいけない,また誇りを持つべきだ,それはそのとおりだと思います。しかし,やはり国際的なものに含まれている共通の価値ある理念というか部分というのは,やはりそれは吸収していく努力も一方では怠ってはならない。日本の民法,商法,刑法,憲法も,全部他の国が苦労して獲得してつくり上げた制度を取り入れて,それでできている。刑事拘禁施設にしても,日本が独自につくったものではなくて,諸外国の制度を吸収し,あるいは刑事訴訟法にしても刑事裁判にしても,そういうものを吸収した結果取り入れているわけです。だから,今の段階でやはりせっかくこういう会議ができたわけですから,現時点で国際的なもののうちどの部分を取り入れるかということの相談は当然しなければいけないと思います。
昭和55年に法制審議会が答申を出して,そのときにやはり捜査と勾留,身柄の管理を別にしなかったらいけないという,それはその時点での皆さん方の国際的な価値ある部分を取り出して,一部そういう形で採用された,実行されたのだろうと思います。その段階では,少なくともできることであれば将来代用監獄は減らしていく方向で努力しなさいというような文言も入りました。そこで,私もやはりここで現実離れした意見を言うつもりはないわけで,少なくとも私はそういう社会の安定と人権の擁護の調和点を見出す努力をすべきだと思っていますので,そうだとしたらこの代用監獄の廃止といったら,すごい強烈な言葉に見えますけれども,別の建物を全国にたくさんつくって,そこに全部移しかえなさいというようなことは,それは到底難しいと思うので,そうではなくて,やはりここの整理表に出ておりますが,警察の中での組織的な分離を更に一歩進めて,同じ建物の中の現在の留置場を法務省の所管にする。もちろん成田先生,専門の先生がおっしゃられる行政法の理論があって,法律を改正しないとできないというようなことをおっしゃいましたけれども,譲与,自治体の財産を国が譲与を受けるということについては法律の改正が必要であれば,その法律の改正をあわせてしていただきたいと思いますが,それができないのであれば,それは地方自治体の財産を国が借りることも可能なので,譲与を受けなくても国の施設として使う道は恐らくあるのではないかと思うのですね。だから,余り現在の捜査の便宜を変えないで,かつ身柄と捜査の分離を,55年から今昭和81年ですから26年たっているわけですね。もう一段進める。更に進んだ遠い将来は,別の建物にという完全な分離という時代が来るかも分からないけれども,今そんな完全な分離というのは現実性がないのは分かりますから,今の分離を更に一歩進める分離,同じ建物の中だけれども所管をかえるというぐらいであれば,調和点の一つの,平たく言うと示談ができる線で,示談のラインとして可能なラインではないかというふうに私は思うので,その辺のことを真剣に,私は弁護士でありますけれども,弁護士会そのものではありませんので,良識があるつもりですので,真剣に考えていただきたいと思います。
【南座長】どうぞ,簡単に。
【佐藤委員】今お話があった件,成田委員が先ほど法律上の問題として言われたことにあわせまして,私は一つの情勢論みたいなことでちょっとお聞き取りいただければと思うのです。今留置場をたくさんつくっていっているというのは,これは都道府県の負担においてつくっているわけですね。相当な額の経費を投入してつくっているわけですけれども,なぜそうかといえば,それは治安を回復する責任というのは都道府県にあると知事が考えているからなのですね。したがって,その知事の包括的に治安を全うする責務を負っている立場にある者として,東京都では都議会の,また他の県では県議会の承認を得て予算を執行してつくっているわけです。それで一方で,今どういうことが県で行われているかといいますと,県庁の職員を削減し,それから場合によっては教員の定数も削減して,警察官を増やしているわけです。そういうことをなぜやっているかというと,今それが県にとって必要だと考えているからやっているわけですね。すなわち,成田委員がおっしゃいましたように,警察行政を含めた治安の維持をする責任事務を都道府県に委任した,自治事務になったということは,その全うする責任は都道府県にあるということなのですね。その先頭に知事が立つ。そうしますと,それに要する費用は都道府県が負担をする。一定の支援を国がするかどうかというのは,これは別の要素でありまして,基本的に負担を都道府県がするということは,義務が都道府県にあるからなのですね。そうしてつくった施設,またそうして得た人員を留置場,代用監獄に配置をしている。その一部を国の機関に所管を変えるということは,一体何を意味するか。知事にすれば,自分たちの責任であればこそそこまでの負担をして県民の理解を得てそういう施設をつくり,人を増配置をしてやろうとしていることを,つくった途端に国に所管を変えるということは,それは国が責任を負うということなのかという,責任をいずれが負うかという問題になってくると思うのですね。そうだとしますと,留置場というのは逮捕して48時間留置しているものと,引き続いてその施設に勤務する看守が引き続き勾留事務を行うという一つの分けがたい施設になっているわけですね。その一部を更に引きちぎるという,観念的なことになるだろうと思うのですけれども。それが非常に不合理だと私は思います。いずれにしても観念的に見れば区分けすることが可能なように思いますけれども,その施設の運営自体はその県の治安にかかわる部分の重要な環として行われているというものについて,その一部を国に所管を移すということは,これは都道府県にとってはどういうことだという話になるに違いない。それならば,いっそのこと治安責任は国が負えという議論に仮にならないとも限らない。つまり、単に施設の所管をどうするこうするという,そういうことではないのではないか。
ただ,久保井委員がおっしゃるように何とかそういうことで更に合理的な知恵を生み出していこう,そういう視点でおっしゃっているということは十分理解しているつもりですけれども,このこと自体についてどうかといえば,私はそう思います。
【南座長】ありがとうございました。
【菊田委員】関連で。
【南座長】各論とも関連するのではないですか,2以下でも。
【菊田委員】今の発言との関連でちょっとお許しください。
【南座長】その場でいかがですか。2以下の発言の問題のときにお話になったら。ちょっと休憩をしたいと思いますので。
ただいま,代用刑事施設制度の存廃について御意見を伺いました。それぞれの角度,お立場から大変有益な意見が出されたのでありますが,時間の関係もございますのでここで10分ばかり休憩をとった後で,番号2から6の,警察留置場における防声具の使用や,警察留置場における医療などの代用刑事施設に関するその他の問題について議論を移したいと思います。
〜 休憩 〜
【南座長】それでは,議事を再開いたします。
今防声具を回覧しております。これについて,警察庁からの何か御説明がございますか。
【山田官房総務課理事官(警察庁)】それでは,防声具について御説明させていただきます。防声具といいますのは,被留置者が大声を発し続けて他に迷惑をかけるというような場合に,その声を抑えるための戒具と呼ばれているものなのですけれども,これ実はおととしの4月にこの防声具を施用中の被留置者が誤った使用法によって死亡したという事案がございまして,それ以降、念のため使用を停止しておりまして,現在も使用停止中なのですけれども,この防声具につきましては改良を加え,また使用の再開に備えることとしているのですけれども,改良の要点なのですが,こちらは旧式ですけれども,声を抑えるためのゴム製のラバーがあるのですが,(防声具を施用した係員を指して)新式は,これはもう施用した状況,このような形で施用するのですが,ここに穴があいてございまして,鼻がこう詰った状態でも口から楽に呼吸ができるというような形で,外と,外気とこの中との通気孔を確保,新しくつくったものであります。回覧をさせていただきますので,よろしければお手にとって御覧いただければと思います。
【南座長】それでは,番号2から6の警察留置場における防声具の使用や,警察留置場における医療などの代用刑事施設に関するその他の問題について,どの点からでも結構ですので,御意見があればこれを伺いまして,その論点について各委員の御意見を伺うという方法で議論を進めたいと思いますが,いかがでしょうか。
【菊田委員】先ほどちょっとお休みになったので,失礼しました。防声具については後でまた述べたいと思いますけれども,今までいろいろおっしゃられましたが,最後のお話の話題のところは,警察の施設を国に移動するかどうかということで何かおっしゃっていましたけれども,これは本来警察が管理しなくてもいい人間を,被疑者を,地方の警察の名のもとでつくったわけですから,だからそれは本来国がやるべきことを勝手にというか,やるべき必要のないのをやっているという理屈もあるわけですよ。そういう意味では,国がこの先独立をつくるなり,あるいは先ほど久保井先生がおっしゃったように賃貸するとか,そういうことだって十分考えられるということですね。
それと,その背景に何か犯罪がむちゃくちゃ増えているということをおっしゃいましたけれども,これは今の我々が議論している代用監獄の問題とは本質的には関係ないのですね。容疑者であり無罪推定されている人間の箱をどうするか,管理をどうするかという課題ですから,これは犯罪が増えようが増えまいが,先ほど申し上げたように100年来の代用監獄という議論をしている中で,そういう犯罪が増えたか増えないから今どうこうと,早急にどうあるという根拠には全くならないということを申し上げたいのですね。
それからもう一つは,先ほど警察庁の方で国際会議,人権規約の問題についてのお答えをやられまして,私今そこで担当者の返事をいただこうとは思いませんけれども,国連の,先ほど申し上げたように規約人権委員会が批准している日本に対して勧告しているわけです。その勧告にあのような答えをしているということは,正にそれは全く国際感覚の点においては日本は発展途上国だと一部で言われているようなたぐいのものだというふうに私は思っています。そういう点では,一々聞いていますと実に問題があるわけで,そもそも瀬川さんはどういうようにおっしゃったかちょっと覚えてないですけれども,刑事施設法案というものは,その前も含めてもずっと30年にわたって議論されてきたわけです。その中に,この最後にできる骨子のところでは,その他になりますけれども刑事施設の増設及び収容能力の増強に努めて,被勾留者を刑事留置場に収容する例を漸次少なくしていくという,漸減宣言というものを,この法制審議会という専門家ないしは専門的な実務家を,学者を含めて長い間議論した結果そういうものを資産として残しているわけです。そういうことを踏まえて議論しなければいけない。今警察がどうこうだとか犯罪が増えたというような,近代化されたという,あるいは二分化されたということの以前に,こういう問題をちゃんと構えて議論してもらいたいと思います。少なくとも私は,今ある代用監獄を直ちに、皆さんと同じように、廃止しろというようなことを過激なことを言うつもりは毛頭ありません。ただ,可視化され近代化されていくことは,これはもう結構なことだと思います。けれども,それはあくまでも被疑者と,司法コントロールの中にある人間をいつまでもそういうことではなくて,将来に向かって漸次減らしていく,警察の代用というのは,ということを前提の上で今ある代用監獄の人権の侵害をどう防いでいくかということを,その先議論してもらいたいというふうに思います。
ついでながら申し上げますと,防声具の点ですけれども,これは前回議論がありました懲罰にかかわってくると思います。この懲罰を被疑者,被告人に科すかどうかという基本的な問題を論じることなく,防声具のことについてどうかというようなことになるのは,私はいかがかと思います。少なくとも無罪推定者に対して,懲罰を科す対象ではないわけです。それはそういう逮捕された人間でも,あるいは被告人でもいろんな人間がいます。それに対して制止といいますか,そういうものは必要です。だけど制止ということと懲罰ということは全くこれは次元が違うことですね。懲罰となると,これは人権上の問題がありますから,厳格な法的手続というものをしなければいけないし,そういうものを仮に設定しても,例えば拘置所においては,それは今も行われているしそれなりの法的あるいは現在なくなったかもしれませんが監獄法の一部を適用するという形で根拠があったとしても,警察の代用監獄の段階で懲罰を科すということは,これは先ほどから出ていますように冤罪の根本になっているわけです。そういう懲罰があることで虚偽の供述を強制するとか,そういうことに徹底的に結びついているわけですね。それは、かつて,死刑囚が代用監獄の中でそういった自白を強要されて,そして死刑まで言い渡された人間が何人も出ているわけですよ。そういうことを踏まえた上で,警察段階において懲罰というものが本当に法的に基礎づけられるのかどうかということから根本的に議論してもらいたいと思います。
【南座長】今のことですか,関連してですか。
【成田委員】今のお話に関連して反論したいことはたくさんあるのですけれども,時間の関係もあるので,それはまた別の機会に譲りたいと思うのですけれども,私は基本的には,江川委員がおっしゃったように,現在の制度というものを前提にした上で,その処遇の透明化を図っていく,管理手法の透明化を図っていくということがやはり基本だと思います。この前拘置所を拝見しましたけれども,そこの拘置所の所長さんが,同じような性質の施設については同じように扱うのが原則ではないですかということをおっしゃっていました。私は正にそうあるべきだと思います。処遇は事柄の性質に反しない限りにおいて,なるべく普通の刑事施設といわゆる代用監獄というものは同じようにあるべきだと思うのです。
今度法律をつくるときに,「代用」という言葉を使うかどうか,これは大きな問題があるところですけれども,私はやはり一定の期間内は警察の捜査の一環として取調べをすることが認められているので,そういう施設だということで位置づけた上で,その中での管理処遇をなるべく近代的な考え方にマッチするようにしていくということが筋だと思います。1995年ごろと比べますと,現在では公正,透明化のためのいろんな行政上の仕組みが立ち上げられ全体として大きく変わってきています。これは自分でも驚くぐらいにすべての,行政スタイルが変わってきている。これは皆さんもよく御存知だと思うのですけれども,行政手続法ができたり,行政情報公開法ができたり,それから個人情報保護法ができたり,あるいは公益通報制度ができたり,パブリックコメント制度ができたり,過去の弊害を除去するためのいろんな制度できてきたということで,既に国際的なスタンダードや,勧告を日本として国内法化して満たしているのではないかというふうに理解をしているわけです。そういった意味で,必要が有ればより一層公正,透明化を図って,各国から非難されないようにしなければいけないと考えています。
それから、さきほど漸減条項についての発言がありました。私は改めて昭和55年の法制審答申を拝見したのですが,「監獄法改正の骨子となる要綱」という法制審の答申は、代用監獄制度をやめてしまえということは言っていないわけですね。拘置所の収容者を増やしなさい,そうすれば必然的に拘置所に収容する者の数がふえていくでしょうという,運用上の扱いを言っているにすぎないので,それを漸減条項として法制化するということはどういう意味を持つのか、よくわかりません。私は仮に漸減条項というものを法律の条文として入れたとしても,その規定は法的にはほとんど意味がないと思います。というのは,最近そういうことを法律の中に書く事例が増えていますけれども,そういう条項があるからといって財政当局がこういう法律の規定があるから予算をつけましょうということにはなりません。財政当局は財政当局独自の判断で,毎年毎年の予算の査定をやっているわけですね。政府の犯罪対策閣僚会議は,先ほど佐藤前長官のお話がありましたように,平成15年12月に「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」を決めて,その中で過剰収容を解消するため留置施設を増やすということを明言しています。そういう関係で予算もどんどんついているということです。法務省も是非これと同じように拘置所をできるだけ増やしていくのが筋なのではないかというふうに思うのです。
【江川委員】防声具に関して議論しているのですか,2から以降全部,どの項目でもということですか。
【南座長】どの項目でも結構です。今のに関連してですか。
【久保井委員】防声具の問題について,私はこれはやはり懲罰に結びつきやすいという話がありましたが,裁判,未決の場合は裁判の当事者,反対当事者という面もありますし,起訴される前であっても事件の対象者,当事者という面がありますから,既決者の場合と違って慎重なやはり配慮が要るだろうと。ただ,その施設の中の秩序を乱した者に対して,何らそれに対する制御措置ができないというのでは,施設の管理が困難だということも分かりますから,それはやはり今の保護室とか保安室とか,そういうものを整備する形でやはり進めていくべきだ。この2年前の和歌山の事件ですか,そういう不祥事が起きた,不幸な事故が起きた。それ以降2年間は事実上やめているというようなお話がありましたが,もしそういうことで賄えているのであれば,今それをあえて導入するということについては,これはやはり絶対に賛成できないと思います。
【江川委員】防声具に関して質問なのですけれども,警察の方に質問です。この防声具というのは,今回使用停止される前まで,どの程度どういう人たちにどういう状況で使用されて,そして例えば懲罰として使用されないような規定ですよね,どういう例えばだれかのチェックが必要だとか,あるいは何分おきにどういうふうに観察しなければいけないとか,何かそういう注意事項みたいなのがもしあれば教えてください。
【南座長】どうぞ。
【山田官房総務課理事官(警察庁)】防声具の件ですけれども,まずどういう人に使うかということについては,大声を発して周りに迷惑をかける人ということでありまして,その当該迷惑な行為をその場で抑止するために使うのが戒具でありまして,これは懲罰とは全く関係がないということであります。それと使用の手続ですけれども,留置担当者,看守勤務員がそのような状況を現認した場合に,警察署長の指揮を受けて,先ほどのようなお見せしたような形で使用するということになっております。その際には,例えばもちろん使用している間はずっと十分な監視体制をとりなさいよといったことですとか,使用する必要がなくなったらすぐにとりなさいよといったようなことですとか,通達では3時間たったら一度その時点でまた再度警察署長に更に引き続き使用するかどうかを伺いなさいよとか,そのような具体的な注意事項を指示しております。先ほど使用件数のお尋ねでございますけれども,昨年は,4月までなのですけれども,15年,おととしですか,の件数を申し上げますと,135件となっております。以上です。
【片桐総括審議官(警察庁)】この防声具なのですけれども,裁判中の話なので余り細かい話をすることは適当でないかもしれませんが,和歌山の事例というのは旧型の防声具を二重にかけて,その上からまた布団をかけたという事案でありまして,今お見せしたように,今の防声具ですと口がふさがれますので,それで鼻がふさがれますと呼吸ができないという問題があります。ですから,原因はまだはっきりはしないのですけれども,何らかの形で鼻がふさがれた。それは二重にしたことなのか,それともまた布団をかけたことなのか,恐らくいずれかであろうと思われますので,今の旧型の防声具が直ちに危険だと,すれば人が死んでしまうとかいうふうな話ではない。ただ我々は,鼻がふさがれると非常に危険だということはありますから,口からの呼吸ができるように今新しい防声具をつくっているという状況でございます。
【南座長】今防声具について江川委員から御質問がありましたけれども,これは何によって決まっているわけですか。この使用の基準というのは。通達によって決まっているのですか。
【山田官房総務課理事官(警察庁)】使用の要件は,まず今生きている法律としては監獄法と,被逮捕者の部分については被疑者留置規則で,使用の要件等につきましては留置規則を受けて警察庁の訓令,通達等で細かい具体的な留意事項について指示しております。
【江川委員】使用したことは記録に残りますか。
【山田官房総務課理事官(警察庁)】はい,残ります。
【南座長】防声具についてのお話が出ましたので,何かございませんか。
【菊田委員】やはり防声具という使う場が出てくるということは想定はされますが,なぜ防声具をやらなければその人間がそういうことになったかという背景というのは複雑なものがあるわけですよ。捜査の段階,逮捕された段階で異常に理不尽な扱いを受けて,それで怒ることだって普通はあり得るわけです。だからそういうことに対してまた防声具をやる。だから防声具をやられるから素直に応じるという,要するにそういった順繰りのことが起こるわけ。だから物理的なもので人間を制約するというのは,これはよほどの本人自体が持つ病的なものとか,そういうことの場合以外は使ってはいけないという大原則がなければいけないですよね。そういう意味では,本来なくても十分間に合うものだと私は思っています。もし病気だったら,それはそこに置くべき人間ではないですから。警察に置くべき人間ではないですから。その程度のやはり抑止力というものを設けなければいけない。ましてや我々市民が見ることのできないところでそういうものが使わせる可能性があるということを,やはり私は考える必要があると思っていますよ。
【南座長】ほかに何か,御意見。
【葛西委員】御質問をしたいのですけれども,その防声具を使ったケースの中で,精神的な障害があったというケース以外に,意図的に周囲に迷惑をかけて捜査あるいは取調べを妨害しようという意図,あるいはそれに拒否姿勢を示すためにやるというケースというのも結構あるのではないかと思うのですが,そういうケースというのは実際には相当あるのですか。
【山田官房総務課理事官(警察庁)】個々のケースについてどういう理由でそのような行為をしたのかということについては把握しておりません。
【葛西委員】多分何人もの人が同じところでいわば共同に生活をともにする形になったときに,周りに非常に迷惑をかけた場合どうするのかということですよね。そのときに保護室のようなものがあればそれが一番いいだろうというのは確かかもしれませんけれども,例えば保護室の数にも限りがあるでしょうし,ない場合もあるでしょうから,必要やむを得ざるときに迷惑を最小限にするための防声具を使うことは,むしろためらうべきではないのではないかと私は思うのですね。次善の策ということかもしれませんけれども,それを禁じてしまうということは,今度はその留置している目的そのものを阻害してしまうというか,妨害する形になるのではないかと思いますので,私はここに書いてある案のとおりでよろしいのではないかと思います。
【南座長】それでは,3の医療の問題に移りましょうか。医療について。
【成田委員】医療については,先日、東京拘置所を拝見いたしまして,医療機器も充実していれば医師も充実している状況をつぶさに見て参りましたので,私も老後は老人ホームのかわりに入りたいなというふうに感じたぐらいでした。ただ、医療水準の低いところも一緒に見せてもらった方がよかったのではないかと思うのですけれども,地方都市では、とても東京拘置所のような充実した医療スタッフを確保できるかどうか疑問に思われます。まして警察署の留置場になりますと難問も多いと思われます。今、大都市と地方とでは医療格差が非常に大きくなっています。公立の病院も私立の病院でも,医師の確保は容易ではありません。大学病院から派遣医,嘱託医としていろんな医師に来てもらっているようですが,近年はそれさえもうまくいかないということで,小児科などではたらい回しで何とかしなければいけないというふうな状況にあるわけです。ですから一般市民の感覚としては,一般市民でさえそういう状態にあるのに,どうして刑事施設や留置施設に収容されている人のために一般市民以上の医療サービスをしなければならないのかという素朴な疑問があると思うのですね。そういう点も考えていただきたいと思います。留置施設では、今でもちゃんと定期的な検診もあるし,異常があれば病院に移送する手配をするということになっているわけですから,特に大きな問題だとは思えません。何かあった時の法的責任がどこにあるかという問題は残るかもしれませんけれども,やはりそういうことも総合的に勘案してこの問題を考えた方がいいのではないかと思います。
【南座長】ほかに何か,御意見ございませんか。
【瀬川委員】この警察留置場に関しての医療の問題なのですけれども,ここの対立点は一体何なのか,少しちょっとあいまいなところがあるかと思うのですね。医療について十分なことをやるというのは,これは当然だと思うのですが,ここの対立点は,むしろ何か事故があった場合にどういう責任をとるのかというように思えるのですが,どうですか。
【南座長】いかがですか。
【山田官房総務課理事官(警察庁)】この点につきましては,恐らく刑事施設におきましては刑事施設の職員たる医師という方々がおられまして,その方が医療に当たる。警察留置場におきましてはではどうなのかということで,嘱託医,個別の診療や健康診断の機会に個別にお医者さんにお願いをしているところなのですが,その医療行為に対する警察の責任といいますか,どこまで見るのか不明確なのではないかというような御指摘かなと思っております。それで,この右側の警察のところに記載してございますとおり,やはり拘束している以上は医療の提供というところまで警察が責任を負うべきだという考え方もあるなということで,御議論に供しているところではないかと考えております。
【瀬川委員】やはりそれは警察の中で処理されることなので,警察側の責任も,あるのではないかと思います。その点で,踏み込んで考えていただきたいというように要望いたします。
それから,もう一つは,やはり心理的な負担というのは被疑者にとっては非常に大きいと思いますので,身体的な医療だけではなくて精神的な面ですね,この点も十分配慮していただきたいということを要望したいと思います。以上です。
【南座長】よろしいですか,ほかに。
それでは,4の視察委員会について,御議論いただきたいと思います。
【江川委員】質問ですが,余り対立点はないような感じはするのですけれども,ただ警察の方が具体的に視察委員会を設けることを検討しているというふうに書いてあるのですけれども,この弁護士会の方が刑事施設視察委員会と同等の目的,権限を持つ視察委員会を設置すべきであると,これと警察が用意したいというふうに考えているものは一致しているというふうに受け止めていいのですか。それとも何かずれがあるのでしょうか。
【山田官房総務課理事官(警察庁)】まだ現在検討中なのですけれども,こちらに記載してございますとおり,都道府県警察ということで,都道府県に一つずつというような置き方が適切なのかなと考えているのですけれども,刑事施設の方は刑事施設,何々刑務所,何々拘置所ごとに設けられているというような点は,若干そういう点では差異が出てこようかと思いますけれども,基本的な委員会の機能といいますか権能といいますか,そういったものは均衡を図る必要があると考えております。
【南座長】今のよろしいですか。ほかに何か,視察委員会について御意見ありませんか。
それでは,5の不服申立審査機関について,御意見を伺いたいと思います。
【江川委員】日弁連の方に質問はしてもいいのですか。
【南座長】よろしいです。
【江川委員】この「不服申立審査機関を設置すべきである」というふうにありますよね。警察の方は公安委員会でということですね。この不服申立てというのは,視察委員会と同時に同じぐらい透明化という面ではとても大事なことだと思うのですけれども,弁護士会が考えていらっしゃるこの不服審査機関というのは,公安委員会というのでこれで争点はないというか,十分考えていらっしゃるのと一致しているということでよろしいのですか。
【西嶋勝彦弁護士(日弁連)】この整理表はつい最近いただいて,そこで初めて公安委員会を位置づけているということを初めて見ましたので,まだ具体的中身についての照会といいましょうか,協議が警察と日弁連の方の二者協議というのでしょうか,そういうところでまだ示されておりませんので,これでいいというところまでまだいっておりません。
【南座長】今そのような御質問がありましたので,警察庁の方で何かこの点お考えであれば。
【片桐総括審議官(警察庁)】公安委員会制度と,それから今苦情申出制度というのがありまして,これについて余り一般国民から理解されてない部分がございますので,ちょっと今日この機会に御説明をさせていただきたいと思います。
公安委員会制度というのは,戦前の警察が政治化をし,また非常に独善化したという教訓がありまして,これをそういった反省から,警察は政治的中立が図られるべきである,また民意に沿った民主的な運営が図られるべきであるというふうなことから,昭和23年の旧警察法の中にこの公安委員会制度というのが取り入れられたということでございます。それが昭和29年の現警察法にも引き継がれて,現在もこの公安委員会制度というものが置かれていて,ずっと今日に至っているという状況でございます。
その中身でございますけれども,お示しした横長のこのカラーの図面がございますけれども,公安委員にはどういう方がなるのかというと,必ずしも警察の専門家でない方にお願いをするということでありまして,それは知事が県議会の同意を得て任命をするという形になっています。県によって違うのですけれども,政令指定都市を抱える大きな県は5人の委員,それ以外の県は3人の委員から成る合議体の機関でございまして,民意を反映させるような警察の管理運営を図ろうということで,警察本部長の上にこういった合議体の機関を置いたということでありまして,本来その県の行政機関というのは知事がすべて管理監督をするというのが原則でしょうけれども,そうではなくて政治家である知事になりかわってこの公安委員が合議体として県警の民主的運営を図る,他方で政治的中立を図るということになっているわけであります。
これでずっと来ているわけでございますけれども,平成11年の秋ぐらいから全国で警察不祥事が頻発をいたしまして,その中で公安委員会が警察不祥事について何ら報告を受けていなかった。したがって,その不祥事の処理について何らの管理も行っていなかったということが厳しく批判をされたわけでありまして,これは警察本部側がきちんとした説明をしていなかったということが私は大きな原因だと思うのですけれども,そういったことで公安委員会制度が形骸化しているのではないかということで厳しい批判を浴びたわけです。
それ以外にも,警察についていろいろな御批判があったわけでございまして,それを受けて平成12年に警察刷新会議というものが設けられております。お手元に「警察改革要綱」という,このとじ込んだ冊子をお手元にお配りしてございますけれども,その中の4枚,5枚目に,この刷新会議の名簿がつけてございますが,こういった方々にお集まりをいただき,ここで今後の警察の在り方について,これは公安委員会制度も含めて活発な議論がなされたわけでございます。そしてその議論を踏まえて,そこにございます「警察刷新に関する緊急提言」というものが取りまとめられまして,この中でさまざまな改革案が提示をされたということでございます。
このうち,公安委員会関係は6ページ目と7ページ目でございまして,ここにさまざまな公安委員会の管理機能を充実すると、要するに県警本部長をきちんと,民意の代表者である公安委員がきちんと管理監督をする,そういった機能を今後も更に充実強化すべきであるということで,こういった改革案が取りまとめられております。ここにある改革案は,すべて現在実施に移されているということでございます。
それと,ちょっと戻っていただいて4ページ目でございますが,苦情申出制度というものがここで設けられまして,これも公安委員会が中心になって国民又は住民からの苦情について適切に対処していこうという制度を設けたわけでございます。その制度がこのポンチ絵に書かれている制度でございまして,一つはまず国民が公安委員会に直接苦情を言うことができるという制度でございます。これは文書でも,また文書以外でもいずれでもいいのですけれども,法律上は文書による苦情が規定をされておりまして,この法律上文書による苦情を受けた場合には,公安委員会は所要の調査を遂げた上で文書でそれに対して回答をする,必要な改善措置があれば改善をするということになっております。
それから国民は,この公安委員会だけでなくて,都道府県警察,これは本部長でも署長でもいいのですけれども,これに対して苦情を言うことができるということであります。これは、通達レベルなのでございますけれども,これも文書で苦情を受けた場合には文書で回答しなさいという形にしてあります。それ以外の場合には,適宜の方法でもって必ず回答しなさいという形になっております。いずれにせよ,公安委員会はこうした苦情についてすべて何らかの形で報告を受け,管理をするという形で運用がなされているところでございます。
その結果今どうなっているかということを若干申し上げますと,平成16年中でございますけれども,全国で相当数の苦情が寄せられているところでございますけれども,このうち警察側に非があるというふうに私どもが認めて謝罪をするなりまた何らかの改善措置を講じたものは,全体の17%ございます。きちんと調査をし,改善すべきは改善するという努力を我々はしてきているつもりでございます。
それから留置関係では,どういった苦情があるのか。要するに被留置者も苦情を言うことができますので,そういった留置関係でどういった苦情があるのかということなのでございますけれども,これはちょっと時期は違うのですけれども,平成15年1月から昨年6月末までの数字を申し上げますと,公安委員会あてに17件の苦情があった,またそれ以外の本部長あて,また署長あてに106件の苦情があったということでございますけれども,このうち公安委員会あてで3件についてこちらに非があったということで謝罪ないし改善措置を講じた。またそれ以外の106件中23件について,警察側に非があったということを認めて謝罪ないし改善措置を講じているということでございます。したがって,公安委員会制度,きちんと機能を果たしていないのではないかということをおっしゃられる方もいるのですけれども,平成12年以降こうしてきちんと管理機能を強化し,警察の苦情を初めさまざまな業務について管理監督が行われているわけでございますので,この第三者的,客観的管理機能というものについては是非御理解を賜りたいと思っています。
【南座長】今までの御答弁に対して,何か御質問はありませんか。
それでは,また後で御意見があればお伺いすることにいたしまして,6の重大事件,否認事件に係る未決拘禁者と弁護人による拘置所への移監請求権,これについて御議論していただきたいと思います。
【久保井委員】先ほど佐藤委員が,地方,都道府県が頑張って留置場をつくっておる。国がそれをもし譲与を受けるとか国が扱うことになると,自治体のやっていることを取り上げるといいますか,そういうことにつながるというようなお話がありましたけれども,どうもそのことはちょっと私の聞いている話と違いまして,東京都は法務省に,拘置所をつくってくれという申入れをずっと続けておってもつくってくれないから,やむを得ず原宿なんかの留置場を都がやっているのだと。だから国がつくってくれるのであれば,国の拘置所をまずつくってほしいというようなことを言ってきたと聞いているので,その辺のところを,私の聞いている話と違うのですが。
そのことはさておいて,この6番のことは,暫定的な制度として是非これは,例えば運用でもできることですね。法律をつくらなくても運用でもできることですが,移監請求権という権利を与えるとなると,法的な位置づけが要るかも分かりませんけれども,この未決拘禁の改善には二つの柱があると思うのです。一つはいわゆる施設の客観的な物理的な条件をアップするという,環境を整備するという,狭い意味での処遇を改善するというそういう面がありますが,もう一つは処遇そのものはかなり高いレベルに達して,今は昔の留置場に比べると非常にレベルアップしているから,もうこれ以上贅沢をさせる必要はないじゃないかという御意見も出ておったと思いますが,幾ら環境面で整備されても,捜査との関係で,捜査と身柄の分離が55年で一応分離ができたけれども,少なくともこの改革会議で有識者会議でもう一歩その分離を進めると。完全な分離ということになりますと,別の建物に移すということになりますが,そこまでいかないでもできる分離を促進するということは是非とも,それこそ知恵を絞って,今具体的にどうこう言うだけの知恵がありませんけれども,知恵を絞っていただいて,そういう一歩でも二歩でも前進させないと,我々がせっかく集まって相談した値打ちがありません。このまま更に10年,20年対立状態を放置して進むのがいいとは思いませんので,是非やってほしいのですが,しかしそれにもある程度の相談も要ると思うし,環境整備も要ると思うので,その間に無理な調べがなされないようなやはり手はずとして,ここに書いていただいているようなことを是非ともやっていただきたいと思います。
【南座長】ほかに御意見,ございませんでしょうか。
【井嶋委員】今の最後の論点ですけれども,おっしゃる趣旨はよく分かりますけれども,現在留置場所についての不服がある場合には裁判官の決定に対して準抗告ができる形になって,不服申立てができるわけですから,これは何度でもいつでもできるわけですから,それをお使いになれば実質は同じことになるわけでありまして,要するにあくまでも裁判官の許可を得なければできない話ですから,ですからその辺のところをどういうふうにお考えなのかということを逆にお伺いしたいわけでございます。それと同時に,先ほどの統計によると,準抗告は余り最近出てないようでありますので,その辺との関係をどうお考えなのか。おっしゃる趣旨はよく分かるのですけれども。
【久保井委員】これは,物の見方,立場が違うと説明が違ってくるのでやむを得ないと思いますが,弁護士としては,移監請求権という制度,法的な根拠がないので,準抗告しても通らないのですね。通らないから,結局通らないことをやっても仕方がないからもう申立てをしなくなってしまったというのがこういう数字になって表れているので,現状で満足しているから準抗告件数が少ないのではなくて,制度として移監請求権という制度がないのに抗告しても,これは裁量権の範囲内だということで通りませんから,結局こういうことになっている。だから,私は是非ともそこを,できればこの有識者会議で一定の場合は移監請求権が与えられるというようなことを打ち出していただく必要があるのではないかと思います。
【井嶋委員】もう一つ付け加えさせていただければ,そういう権利を認めるかどうかということは,やはり単なる施設の問題だけの問題ではなくて,刑事訴訟法全体の不服の申立てと,それから請求権の問題ですから,これはやはり刑事訴訟法全体のあるべき,裁判員制度との絡みでいろいろこれから議論が起こってきますから,そういったものの中で議論されるテーマかもしれないとは思いますけれども。
【久保井委員】代用監獄をやめることに比べればはるかに負担の低いことだから,このぐらいのことはやっていただかないと,有識者会議の値打ちがないのではないかと思いますけれども。
【江川委員】本当は,やはりここに裁判所が来てくれて,それに対する意見を言ってくれるとよかったのではないかなと思います。ただやはり今も井嶋先生もおっしゃいましたように,ここですぐ結論が出る問題でもないと思うのですね。しかも,やはりこういうことが問題になるということはその代用監獄という箱のことだけが問題ではなくて,やはり捜査の中での代用監獄の位置づけというのが問題なわけです。重要なのは捜査全体の在り方をどうやって考えるかということだと思うのですね。ですから,ここでは恐らく時間も短いですし,すぐに結論は出ないと思うので,これはやはり積み残された問題があるわけで,何らかの提言みたいなのを出すとすれば,やはり捜査の在り方も含めて被疑者の取扱いについては更に議論し,改善に努めていくというようなことは,書き加えておく必要があるのではないかなということは思います。
【葛西委員】今、久保井委員の方からお話があって,私は全く逆さまのケースを体験しているので,非常に具体的な一例にすぎませんけれどもお話ししたいと思うのですが,某現場である一部の職員が助役を取り囲みまして,30人ぐらいで,暴行,脅迫を加えました。それを警察は家宅捜索をやり,そして送検をしてくれたのです。でも彼らは全くの完全黙秘をいたしまして,結果として起訴猶予になってしまいました。彼らの書いたビラによりますと,完全黙秘を徹底したことによって勝利をかち取ったというビラが出まして,大変我々としては不本意だったのですが,送検はしたのですけれども起訴猶予になりました。そういうケースで,ここに完全黙秘とは書いてない,黙秘,否認の場合はあたかも無理な捜査が問題になるかのように思うのですが,戦術として黙秘を使うことが捜査を妨害して一般的な善良な市民の安全と安寧を阻害しているケースもあるので,いろんなケースがあるということを前提に制度をお考えいただかないと,国家権力による人間の権利の侵害というのは日本の国においては鉄道のフェールセーフと同じようなもので,もう限りなくゼロに近いと私たちは実感しております。しかしながら,そうでない形でのいわゆる犯罪を犯す人間の巧緻とか戦術的な形で,実際には善良な人間の権利が侵害されるケースというのは,それに比べると限りなく大きいというふうに実感しております。したがいまして,制度をつくるときには善良な人間の側に立って制度をつくられるように,私は要望申し上げたいと思うのです。
【久保井委員】おっしゃった事件はいつごろの事件ですか。最近の事件ですか。
【葛西委員】もう10数年前です。その後民事では私どもは起訴猶予ということは事実があったということなのだから,起訴はされなかったけれども解雇いたしました,数名を。これは最高裁まで争って勝ちましたので,我々は民事的には目的を達したのですけれども,その種のものというのは私の聞くところでは枚挙にいとまなくある。さまざまな組織的な背景を持った犯罪の場合には非常に頻繁に使われるということもありまして,今日本の国が治安問題として対処しなければいけない話としては,テロリストによる攻撃,これに対する国際的な標準を満たすということが必要だと思うのですね。そのようなときに一体どうしたらいいかというのは,被疑者の人権を守ってあげるという観点と同時に,国際的な標準に照らして日本の国の治安を維持するという能力が十分あるかどうかというところを御配慮の上で,いろんなことを考えていただきたいなという感じがいたします。
【菊田委員】それは法律家として一言言っておかなければいけないのですが,それは証拠がなかったからそうなったので,それは捜査の問題なので,起訴猶予になるか,あるいは黙秘権というものは法的に認められているのですから,黙秘してもそれで立証できなければそれは起訴猶予になるか,起訴猶予自体が問題だと思いますがね,私は,そういうことなので……。
【葛西委員】その場合は証拠はあったのですよね。あったから送検された。ですから,起訴猶予は微罪起訴猶予ということだったのでね。
【菊田委員】それなら分かりますけれども。
【葛西委員】ですから,そこは僕が言いたかったのは,それは実際問題として行政的にきちんと始末をつけたのですけれども,そういうものが戦術として使われ,戦術として使ったことを誇りであるとして宣伝しているような人たちもいるということは,是非頭の中に入れておいていただきたいということを申し上げたかったのですね。
【南座長】そのほかに,何かございませんでしょうか。
それでは,議論もほぼ出尽くしまして,予定の時間も参りましたので,本日はこの程度にしたいと思います。本日御検討いただきました点につきましては,代用刑事施設制度の存廃問題,あるいはそれに関連する重要問題につきまして,各委員の中で御意見が一致したところもあればまた一致しない点もあったかと思いますけれども,いずれにしろ一致しない点についてはなお議論を進める必要があろうかと存じます。そういう意味で,事務局の方でこれまでの議論等を踏まえまして,各委員の意見を取りまとめていただきまして,これをたたき台として次回第5回の会議で更に検討を続けたいと思います。事務局の方で次回の会議までに,これまでの議論を整理しまして,これをまとめた資料の作成をお願いいたします。次回は,これまでの議論全般について総括し,提言の方向性を決めていきたいと思います。事務局から,時間と場所についてお願いをいたします。

今後の日程
議事経過へ

【山田官房総務課理事官(警察庁)】次回につきましては,1月27日(金)午前9時30分から午後0時30分,お昼の0時30分まで,警察庁の第1会議室,警察庁の16階にございます第1会議室において会合を用意してございます。よろしくお願いいたします。
【南座長】ただいま事務局からお知らせがございましたように,次回は1月27日(金)午前9時半から,警察庁第1会議室,警察庁の16階を用意しております。
本日はこれをもって閉会とさせていただきます。大変有意義,活発な御議論をいただきましてありがとうございました。