
矯正職員は、愛と絆を持ったスペシャリスト集団
網走刑務所 刑務官

「矯正職員は犯罪者を改善更生させるスペシャリスト集団」と言い切る男性刑務官。その評価に値するだけのことを行ってきたと胸を張ります。しかし、そうした取組ではなく、職員による不祥事ばかり注目を浴び、社会から厳しい目を向けられている現状を憂いてもいます。もっと矯正を良くするカギは、愛と絆に根ざした親身な姿勢。それは、職員、被収容者、被害者、社会のいずれの関係においても必要だと言います。
職員同士の対話から働きやすい職場が生まれる
私が理想だと思うのは、職員同士、気軽に相談できる関係が築けている職場です。私自身も、先輩や後輩の関係は大切に勤務してきました。刑務所では、職員が一人ではなく、チームとして仕事をすることがとても大切です。だからこそ、お互いに声を掛け合ったり、困ったことがあれば、すぐに相談できる雰囲気を率先して作っていくことが大切ですし、後輩たちをサポートできるように心掛けています。
大切にしているのは、まずは相手と話すこと。コミュニケーションをきちんと取ることです。それは、幹部職員であろうと、一般職員であろうと関係ないと思います。働きやすい職場は、職員一人一人が、お互いの違いを認め合った上で、対話しようとする姿勢を持つことから始まるんだと思います。
被害者の声や思いを矯正の現場に
被害者の方は、刑務所が、加害者にとって厳しい場所で、反省をさせるために管理してほしいと考えているのではないかと勝手に想像しています。「勝手に想像」と言いましたが、これは、私たち矯正職員が、被害者の方の気持ちや考えを知る機会がほとんどないからです。加害者を更生させる場所が刑務所であるならば、被害者の方の声をもっと聞かなければならないと思います。しかし、一職員が被害者の方と直接関わりを持つことはできませんし、これまでなかったことについて、施設としても身動きが取りづらいのではないでしょうか。矯正全体の大きな動きとして、被害者の方の声を伺うなど被害者の方々との関係性について考え、少しずつ距離を縮めていくべきだと思います。
「スペシャリスト集団」として見られるために
刑務所や刑務官に対する社会の印象は、決して良いものではないと思っています。刑務官の不祥事を伝えるニュースを聞くたびに、とても悔しい気持ちになります。なぜなら、矯正の仕事は、誰にでもできる簡単なものではなく、専門性が高い仕事だと思っているからです。刑務所の実情はあまり知られていませんが、どんなに重大な事件を起こした人であっても、また、粗暴性が高くて処遇することが難しい人であっても、断ることなく、必ず受け入れ、同じ人間として向き合っている場所は、刑務所以外にはないと思います。社会の人たちには、どんな人であっても、きっと立ち直ってほしいと思いながら、日々指導を行っている私たちの姿を見てほしいですし、「スペシャリスト集団」であると評価される仕事にしたいです。
「誰にでもできる仕事ではない」ことに誇りを
矯正は、非常にやりがいのある仕事だと思います。誰でもできる仕事ではないですし、誰でも見ることができる世界でもありません。この「誰でもできる仕事ではない」というところに誇りを持って仕事をする。そこにやりがいを感じています。
でも、社会の方からは見えづらく、評価される場面や機会に恵まれていないことが残念です。
「刑務所って素晴らしい組織だね」と評価される組織になるためにも、社会の人にも施設の実情を見てもらったり、知ってもらったりする活動を意識的にしていく必要があると思います。「誰でもできないことをやっている」職員たちの姿を、もっと見てほしいです。
そのためにも、職員同士がお互いに助け合うような良い職場であるためにも、「愛と絆」をもって「親身になる」ことを大切にしたいです。これは、職員だけでなく、受刑者に対しても同じで、こうした姿勢を組織全体で共有できれば、矯正は、もっと良い組織になっていくと思います。
簡単なことではありませんが、今の矯正を取り巻く雰囲気であれば、不可能ではないはずです。私自身、引き続きそのような意識で勤務していきたいと思っています。


