法制審議会    第162回会議 議事録 第1 日 時  平成22年2月24日(水)   自 午後1時40分                         至 午後4時36分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題     1 被収容人員適正化方策に関する諮問第77号について   2 凶悪・重大犯罪の公訴時効の在り方等に関する諮問第89号について   3 会社法制の見直しに関する諮問第91号について 第4 議 事 (次のとおり)              議     事 (開会宣言の後,法務大臣から次のようにあいさつがあった。) ○千葉大臣 法制審議会第162回会議の開催に当たりまして,一言ごあいさつを申し上げます。   委員及び幹事の皆様方におかれましては,公私ともに御多用中のところを御出席いただき,誠にありがとうございます。また,この機会に皆様方の日ごろの御尽力に対し,厚く御礼を申し上げます。   さて,本日は三つの議題について御審議をお願いしたいと存じます。   このうちの二つにつきましては,諮問事項について各部会でお取りまとめいただいた内容を各部会長から御報告いただくものでございます。   議題の第1は,被収容人員適正化方策に関する諮問第77号についてでございます。これについては,被収容人員適正化方策に関する部会において調査審議が行われた結果,要綱(骨子)案が取りまとめられ,本日,部会長から報告されると承知させていただいております。   また,議題の第2は,凶悪・重大犯罪の公訴時効の在り方等に関する諮問第89号についてでございます。これについては,刑事法(公訴時効関係)部会において調査審議が行われた結果,要綱(骨子)案が取りまとめられ,本日,部会長から報告されると承知しております。   これらの諮問事項は,いずれも早急にその法整備を図り,適切な措置を講ずる必要がございますので,委員の皆様方にはできる限り速やかに御答申をいただければと思いますので,よろしくお願い申し上げます。   続きまして,議題の第3は,新たな事項について御検討をお願いするもので,会社法制の見直しに関する諮問第91号についてでございます。   会社には株主のほかにも様々な利害関係者がおります。いまや市民社会においても大変大きな存在となってございます。会社が社会的・経済的に重要な役割を果たしていることに照らしますと,会社法制はこれらの幅広い利害関係者の信頼を得るものでなければなりません。   会社法は平成18年の施行から約3年半を経過して,実務に定着してまいりましたが,企業の統治の在り方は,会社を取り巻く幅広い利害関係者にとって大変重要でございますので,より望ましい企業統治の在り方について見直しの検討を行う必要がございます。   また,親子会社に関する規律は,国会においてもその検討を求める附帯決議が複数されているように,より体系的な整備の必要性が継続的に指摘されており,その具体的な在り方について検討を行う必要が出ております。   そこで,会社法制について,会社が社会的・経済的に重要な役割を果たしていることに照らして,会社を取り巻く幅広い利害関係者からの一層の信頼を確保する観点から,企業統治の在り方や親子会社に関する規律等を見直すことについて御検討をお願いするものでございます。少し幅広い検討ということになろうかと思いますけれども,是非よろしくお願い申し上げたいと存じます。   それでは,これらの議題についての御審議をよろしくお願い申し上げ,一言のごあいさつにさせていただきたいと思います。本日は大変ありがとうございます。 (法務大臣の退出後,本日の議題につき次のように審議が進められた。) ○青山会長 審議に入ります前に,本日の会議における議事録の作成方法についてお諮りしたいと思います。   本日の議題のうち,諮問第77号と諮問第89号の各諮問事項につきましては,被収容人員適正化方策に関する部会と刑事法(公訴時効関係)部会において審議が行われてまいりましたけれども,これらの部会におきましては,発言者を非顕名とする,発言者名を明らかにしない議事録が作成されてまいりました。部会の議事録において発言者を顕名とするか非顕名とするかは各部会において適宜決定されるべき事柄でございますが,それでは本日の総会の議事録はどうするかということが問題になります。会長の私としましては,総会と部会の審議方法の違い等にかんがみまして,顕名で発言者名を明らかにした議事録を作成することで差し支えないように思いますけれども,この点いかがでございますでしょうか。 (「異議なし」と呼ぶ者あり) ○青山会長 それでは,本日の総会の会議につきましては,発言者名を明らかにした議事録を作成することといたします。よろしくお願いいたします。   本日の会議の予定でございますけれども,十分慎重な御審議をいただくことは当然でございますけれども,一応のめどといたしましては,3時40分か50分ころまでに終わることができれば有り難いと考えておりますので,一応お伝えいたします。   それでは,本日の審議に入りたいと存じます。   先ほど法務大臣のごあいさつにもございましたように,本日の議題は三つございます。その第1に入りたいと思います。第1は,被収容人員適正化方策に関する諮問第77号の審議でございます。   まず,被収容人員適正化方策に関する部会における審議の経過及び結果につきまして,同部会の部会長を務められました川端博部会長から御報告をお願いしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。 ○川端部会長 被収容人員適正化方策に関する部会の部会長の川端でございます。私から同部会における審議の経過及び結果を御報告申し上げます。   諮問第77号は,「被収容人員の適正化を図るとともに,犯罪者の再犯防止及び社会復帰を促進するという観点から,社会奉仕を義務付ける制度の導入の当否,中間処遇の在り方及び保釈の在り方など刑事施設に収容しないで行う処遇等の在り方等について御意見を承りたい。」というものでございました。   平成13年度以降,刑事施設における過剰収容の状態が続いていることを契機として,刑事施設の収容能力の向上だけではなく,これと併せて,刑事施設に収容しないで行う処遇等の充実・強化についても検討する必要があり,そのことによって,犯罪者の再犯防止・改善更生という刑罰の目的の一つをよりよく達成しつつ,被収容人員の適正化を図るとの考えから,今回の諮問がなされたものです。   この諮問第77号につきましては,平成18年7月26日開催の法制審議会第149回会議において,まず部会において調査審議すべき旨が決定され,これを受けまして,被収容人員適正化方策に関する部会が設けられました。その後,部会では,平成18年9月28日から昨年平成21年12月22日までの間,合計26回の会議を開催し,諮問第77号について審議を重ねてまいりました。  その間の昨年平成21年2月4日開催の法制審議会第158回会議において,私の方から中間報告として御報告したところでありますが,改めて,部会における審議経過の概略を御報告いたします。   部会では,諮問第77号を踏まえ,「社会奉仕を義務付ける制度の導入の当否」,「その他の社会内処遇及び中間処遇の在り方」,「刑執行終了者の処遇の在り方」,「保釈の在り方」などの大きなテーマごとに,関連する外国法制の調査を行いつつ,幅広く議論してまいりました。   このうち,「刑執行終了者の処遇の在り方」や「保釈の在り方」といったテーマにつきましては,一定の法整備に向けて直ちに意見の一致が見られる状況ではございませんでした。   他方,「社会奉仕を義務付ける制度の導入の当否」のテーマでは,保護観察処遇の選択肢を拡充し,その再犯防止・改善更生のための機能を一層充実させることが重要であるとされました。その観点から,保護観察の特別遵守事項の類型に社会貢献活動を加えることについて大方の意見の一致が見られたのであります。また,「その他の社会内処遇及び中間処遇の在り方」のテーマでは,施設内処遇及び社会内処遇を連携させて再犯防止・改善更生を図るという観点から,刑の一部の執行猶予の言渡しを可能とする制度を導入することについて大方の意見の一致が見られました。   そこで,部会では,これらについて法整備に向けて,より具体的な議論を行っていくこととし,まず事務当局において作成した参考試案をたたき台として議論を行いました。その参考試案については,昨年2月の中間報告の際に皆様にお配りして御説明したところであります。   そして,参考試案をたたき台とする議論を踏まえて作成された要綱(骨子)案について更に議論を重ね,平成21年12月22日の第26回会議において,全会一致をもって,本日配布資料1としてお手元に配布しました要綱(骨子)案のとおり法整備をすることが相当であるとの結論に達しました。   配布資料1の要綱(骨子)案につきましては,中間報告の際に御説明した参考試案の内容とほぼ同様のものでありますが,改めて,要綱(骨子)案の概要について御報告いたします。   まず,要綱(骨子)案第一の「刑の一部の執行猶予制度」について御報告いたします。   そのうち,一の「初入者に対する刑の一部の執行猶予制度」における「初入者」というのは,前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者,又は前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても刑の執行猶予中若しくはその執行を終わった日等から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者,つまり刑務所に入ったことがない者,あるいは出所後5年以上経過している者という趣旨で「初入者」と呼んでおります。 この「初入者に対する刑の一部の執行猶予制度」は,このような初入者が,3年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受ける場合に,判決により,その刑の一部の執行を猶予することができるものとし,その猶予の期間中,必要に応じて保護観察に付することを可能とするというものです。   具体的に言いますと,例えば,「懲役2年,うち6か月につき2年間保護観察付きの執行猶予」という判決の言渡しがあった場合,判決確定後,懲役2年の刑のうち,まず1年6か月間懲役刑が執行され,その後,残りの6か月の懲役刑の執行が2年間保護観察付きで猶予されることとなります。これにより,まず1年6か月間,刑事施設において施設内処遇が行われた上,引き続き,2年間保護観察による社会内処遇が行われることとなるわけです。 なお,仮にその間に再犯を犯せば,執行猶予が取り消され,残りの6か月の刑が執行されることとなります。   また,二の「薬物使用者に対する刑の一部の執行猶予制度」は,二の1以下に記載しておりますように,一の1の(一)又は(二)に掲げる者以外の者,すなわち初入者以外の者であっても,規制薬物等の自己使用又は単純所持に係る罪を犯した者については,一の1を適用することができるものとして,刑の一部執行猶予の言渡しを可能とするとともに,その猶予の期間中,必ず保護観察に付することとするものです。   そこで,このような制度の導入に関する部会の議論の概要を報告いたします。   御案内のとおり,現行制度では,懲役刑又は禁錮刑に処する場合,その刑期全部の実刑を科するか,それとも刑期全部を執行猶予とするかの選択肢しかございません。   しかし,部会の議論では,犯罪者の中には,刑期全部を実刑にして施設内処遇のみを行い,あるいは刑期全部を執行猶予にして社会内処遇のみ行うのではなくて,まず一定期間の施設内処遇を行った上で,その処遇による改善更生の効果を維持・強化することができるよう,引き続き,相応の期間の社会内処遇を行うことが,その者の再犯防止・改善更生のためにより有用といえる者が含まれるのではないかとの意見が多く見られました。   この点,現行制度でも,刑期全部の実刑の場合に施設内処遇と社会内処遇を連携させる制度として仮釈放の制度がありますが,部会の議論では,仮釈放制度によって可能となる社会内処遇の期間は,いわゆる残刑期間に限られており,例えば,懲役6か月など全体の刑期が短い場合には必然的に仮釈放に付することのできる期間が限られますので,施設内処遇と社会内処遇の連携を十分に図ることができない場合があるのではないかとの問題意識が多く示されました。   そこで,部会では,裁判所が,刑期の一部を実刑とするとともに,その残りの刑期をその期間に限定されず,相応の期間執行猶予とする判決を言い渡すことを可能とする「刑の一部の執行猶予制度」の導入が支持されたのであります。   そして,部会の議論において,「刑の一部執行猶予制度」の対象とするのが適当と考えられる犯罪者の類型として支持されたのが,「初入者」と「薬物使用者」でありました。   まず,初入者を制度の対象としたことについて御報告いたします。   例えば,それまで刑務所に入所したことがないものの,比較的軽い犯罪を繰り返したような者の中には,その刑事責任の重さに見合った刑を科するという観点からは,およそ刑期全部の実刑とすべき場合と,およそ刑期全部の執行猶予とすべき場合,更にその中間の領域にあると認められる場合があると考えられます。   他方,その者の特別予防の観点からは,前述のとおり,刑期全部の実刑又は執行猶予では十分ではなく,一定期間施設内処遇を行った上,その効果を維持・強化するため,相応の期間の社会内処遇を実施することが,その者の再犯防止・改善更生のためにより有用である場合があると考えられます。   そこで,部会では,初入者が,比較的軽い罪を犯し,刑期全部の実刑と刑期全部の執行猶予の中間の領域にあり,施設内処遇と社会内処遇の連携が再犯防止・改善更生のために必要かつ相当である場合には,刑の一部執行猶予の言渡しを可能とし,その刑事責任を果たさせつつ,再犯防止・改善更生を図ることとされたのであります。   次に,薬物使用者を制度の対象としたことについて御報告いたします。   「初入者」に当たらない者,つまり,過去5年以内に服役歴のある者については,現行制度では「刑期全部の実刑」しか選択肢がありません。しかし,薬物使用者の再犯防止・改善更生のためには,刑事施設において薬物への傾向性改善のための処遇を行うだけではなく,薬物の誘惑があり得る社会内においても,その処遇の効果を維持・強化することこそが取り分け重要であると考えられます。   そこで,部会では,薬物使用者については,初入者でなくても,刑の一部の執行猶予の言渡しを可能とすることにより,施設内処遇と社会内処遇を連携させて再犯防止・改善更生を図ることとされました。   以上が刑の一部執行猶予制度導入の趣旨に関する議論でありますが,その要件に関する議論を2点御報告いたします。   まず,刑の一部の執行猶予制度では,要綱(骨子)案記載のとおり,初入者についても薬物使用者についても制度の対象となる刑について,「3年以下の懲役又は禁錮」としております。   この点,部会における議論では,3年を超える懲役・禁錮の言渡しを受ける者について一部執行猶予の言渡しを可能とすることの当否も議論されましたが,3年を超える懲役・禁錮が言い渡されるような事案は,相応に重大・悪質なものであり,そのような事案についてまで,一部とはいえその刑の執行を猶予することを可能とするのは,刑罰に求められる様々な要請に沿わず,国民一般,特に犯罪被害者等の理解を得ることも困難ではないかとの意見が多く,「3年以下の懲役又は禁錮」とすることが相当とされました。   また,要綱(骨子)案第一の二の「薬物使用者に対する刑の一部を執行猶予制度」では,「薬物自己使用等事犯及び他の罪」を犯した場合,例えば,覚せい剤の使用の罪を犯すとともに,窃盗罪を犯したような事案についても,刑の一部執行猶予を言い渡し得るものとしております。   この点,部会における議論では,他の罪を犯した場合であっても,薬物自己使用等事犯を犯していれば,その犯罪的傾向の改善が必要であり,一部執行猶予を言い渡すべき事案も考えられる旨の意見がございました。また,例えば,他の罪の性質・内容や刑事責任の重さなどにより,刑の一部執行猶予を言い渡すことが適当ではないと考えられる場合については,要綱(骨子)案第一の一の1に記載されている「相当であると認められるとき」という要件により,刑の一部執行猶予の言渡しをしなければよいことから,薬物自己使用等事犯のほかに,他の罪を犯した場合についても,刑の一部執行猶予を言い渡し得るものとしてよいのではないかとの意見などがありました。   そこで,部会では,薬物自己使用等事犯とともに,それ以外の罪を犯した場合についても,刑の一部執行猶予を言い渡し得るものとされたものでございます。   続きまして,要綱(骨子)案第一の三から五までについて御報告いたします。   これらは,これまで御報告した刑の一部の執行猶予制度の導入に伴い,規定を整備する必要のある技術的な性格のものであります。   まず,第一の三は「刑の一部の執行猶予の取消事由」であり,刑の一部の執行猶予の言渡し後に再犯を犯して禁錮以上の刑に処せられた場合など,現行の刑期全部の執行猶予について規定されている必要的又は裁量的取消事由とほぼ同様の取消事由を記載しています。   次に,第一の四は「刑法第二十五条による刑の執行猶予の取消事由」であり,刑法第25条による刑期全部の執行猶予中に再犯を犯した場合,再犯について一部執行猶予を言い渡すことが可能ですが,先に言い渡された刑期全部の執行猶予についてはこれを取り消すものとするなど,現行の刑期全部の執行猶予の取消事由について,刑の一部の執行猶予制度の導入に伴う所要の改正を内容とするものです。   また,第一の五は「刑の一部の執行猶予の猶予期間の起算日」であり,刑の一部執行猶予制度が施設内処遇に引き続き社会内処遇を行うことを趣旨としていることを踏まえ,「その刑のうち執行が猶予されていない期間の刑の執行を終わった日から起算するものとすること。」と記載するなどして,実刑部分等の刑の執行が終了し,所要の施設内処遇を行った後に,残りの刑の執行猶予期間となっている社会内処遇を行うことを明らかにしたものであります。   次に,要綱(骨子)案第二の「社会貢献活動を特別遵守事項とする制度」について御報告いたします。   これは,更生保護法に定める保護観察の特別遵守事項の類型に社会貢献活動に従事することを加えるというものです。   部会では,保護観察処遇の選択肢を拡充し,保護観察対象者に,例えば公共の場所の清掃活動等の社会貢献活動を特別遵守事項として義務付けることができるものとすることにより,その者の善良な社会の一員としての意識のかん養及び規範意識の向上を図り,その再犯防止・改善更生を図ることを趣旨とする制度として,これが支持されました。   したがいまして,要綱(骨子)案第二の制度は,保護観察処遇の一環として社会貢献活動をその「特別遵守事項」とするものであり,罪を犯したことに対する「刑罰」や「制裁」として社会貢献活動を義務付けるものではございません。   要綱(骨子)案の概要は以上のとおりでありますが,最後に,昨年2月の中間報告の際に受けた御指摘に関連して御報告いたします。   まず,中間報告の際,「被収容人員の適正化を図る」などとする諮問第77号と,刑の一部の執行猶予制度等がどのように関連するのかとの御指摘がございました。   諮問第77号は,単に被収容人員を減らすことのみを目的とするものではなく,「犯罪者の再犯防止及び社会復帰を促進するという観点から」とされておりますように,刑罰の目的の一つである再犯防止・改善更生をよりよく達成することをもその趣旨としております。   この点,要綱(骨子)案の制度は,刑事施設に収容しないで行う処遇を充実・強化させて犯罪者の再犯防止・改善更生を図ることを趣旨とするものであり,諮問第77号の趣旨に沿うものであると考えております。   また,中間報告の際,要綱(骨子)案第二の制度の「社会貢献活動」との名称について,「社会奉仕活動」の方が適当ではないかなどとの御指摘をいただきました。   この点につきまして,要綱(骨子)案第二において「更生保護法第五十一条第二項各号に定める特別遵守事項の類型に,次のものを加えるものとすること。」とされておりますとおり,この法整備がなされた場合に実際に法律に規定されることとなるのは「善良な社会の一員」以下の文言であり,「社会貢献活動」との名称が法律に規定されることとなるわけではありません。これは,いわばそのような活動の通称にすぎないことを御理解いただきたくお願い申し上げます。   そして,「社会貢献活動」との名称がそのような性格にすぎないことを前提としつつ,中間報告の際における御指摘を踏まえ,部会でも改めて議論いたしました。要綱(骨子)案第二の制度は,保護観察対象者に客観的に社会に役立つ活動に従事させることを趣旨としておりますが,我が国において「社会奉仕」といえば,道徳的なものと結びつけて考えられてきた面があり,その点では,社会に役立つ活動という趣旨をより客観的・中立的に表現し得るものとして,「社会貢献」という用語の方が妥当ではないかとの意見が述べられるなどして,部会では,「社会貢献活動」の名称が支持されたわけであります。   以上で,当部会における審議の経過及び結果の御報告を終わります。 ○青山会長 どうもありがとうございました。   それでは,ただいまの川端部会長の御報告及び要綱案の全般的な点について御質問及び御意見をいただくことになりますが,まず御質問がございましたら承りたいと思います。   御質問がなければ,御意見がございましたら,どうぞお述べいただければと思います。 ○西田委員 質問も兼ねて意見ということで,2点お伺いいたします。   第1点は,第一の「刑の一部の執行猶予制度」の二の「薬物使用者に対する刑の一部の執行猶予制度」に関する1の3行目ですが,「薬物自己使用等事犯及び他の罪を犯し」というところまでこの刑の一部執行猶予の適用範囲を拡張されておられます。この部分は一の1の「相当であると認められるとき」というところで絞りをかけるということでいいという御報告でございましたけれども,この「他の罪を犯し」という場合,そもそもこれが再度の執行猶予の例外的な規定であるという前提に立った場合,この「他の罪を犯し」というところの理解としては,例えば薬物の自己使用のために金が欲しくて窃盗をやったとか恐喝をやったというような,そういう関連性みたいなものが前提として考えられているのか,それとも,全く無関係に,自己使用と全く別の犯罪があっても,なお相当と認められるときにはこの「他の犯罪」の中に入ると理解するのか,それが第1点でございます。   もう1点は,例えば先ほど部会長がお示しになられた例ですが,懲役2年,そのうち実刑が1年6月,残り6月について刑の一部執行猶予,ただし保護観察を付け,執行猶予期間は2年というような場合,保護観察を2年間受けるぐらいなら残刑期間の6か月を務めた方がいい,それは自分にとっては好ましい刑でないという理由で,一部執行猶予を言い渡されたことについて,量刑不当を理由として控訴できるのかどうか。   この2点だけお伺いいたします。 ○川端部会長 ただいま2点の御質問がございましたが,これはかなり技術的な要素も入っておりますので,この点については事務当局から御説明していただきたいと思います。 ○甲斐関係官 今,2点御質問がございました。   1点目の薬物自己使用等事犯について,他の余罪も併せて犯したときに一部執行猶予はどういう場合に言い渡すことができるか,他の余罪が関連性がある場合に限られるのかということでございますが,文面上は特にそれについて関連性があることが要求されているわけではないと思います。   考えてみますと,一番典型的なのは,今,西田委員がおっしゃったように,覚せい剤の自己使用の罪を犯して,その覚せい剤を買う金欲しさに別の窃盗を犯したという場合ももちろんあろうかと思いますが,いろいろバリエーションはあり得て,覚せい剤の自己使用の罪とは関係なく,たまたま別の傷害事件を犯したというような場合もあり得るのだろうと思います。先ほど部会長からも御報告がありましたけれども,薬物自己使用等事犯のみならず,他の罪も併せて一部執行猶予の対象にしようというのは,当該他の罪を犯したことに関する被告人の問題性を含めて考慮し, 被告人の全体として再犯防止・改善更生の観点から見て,薬物自己使用の犯罪的傾向を改善するために刑の一部執行猶予を言い渡すことが役立つのであれば,その言渡しをすることが相当であるのではないか,他の罪が非常に重いとか,一部執行猶予の言渡しが不相当な場合には相当性の要件で切れるのではないか,また,薬物使用者に対する一部執行猶予の場合であっても,全体としての刑が懲役3年以下であるという縛りがございますので,必ずしも不当な結論にならないのではないかというような御議論があったものと承知しております。したがって,他の罪の内容が必ず薬物自己使用等事犯と関連性がなければならないというところまではいかないと思っております。   2点目の控訴できるかという問題でございますが,なかなかそういう場合がどこまで現実としてあり得るのかと思いますけれども,まず上訴をするには当然のことながら上訴の利益というものがないといけないのだろうと思います。御質問の趣旨は,そのような上訴の利益の観点から,一部執行猶予の判決,例えば今例に挙げられた,懲役2年,うち1年6月が実刑で,残り6月が執行猶予だといった場合,一部執行猶予は嫌だと主張して控訴できるかということになろうかと思います。その場合,いわば重い判決を求めて上訴するということは上訴の利益はないということになるでしょうから,やはり軽い判決を求めて上訴するということになるのだろうと思います。   それでは重い判決なのか軽い判決なのかをどのように判断するのかという問題になろうかと思いますが,この点については,実刑判決の場合と刑の執行猶予がついた判決の場合とをどのように判断するかということについて,最高裁は,各判決の具体的な刑を総体的に比較して実質的に考察すると判示しておりまして,個別いろいろな場合がございますのでなかなか一概には言い切れないと思いますが,こういった判例に照らして判断することになるのだろうと思います。   ただ,比較的はっきりしているのではないかと思われるのは,今の例で,懲役2年,うち1年6月が実刑,6月が執行猶予といったときに,その6月の執行猶予部分は余計である,懲役1年6月の実刑だけならまだしもと,こういうことで上訴されるのであれば,6月分が軽くなるわけですので,それは上訴の利益はあるのだろうと思いますが,更にその中で,例えば,では懲役1年8月を求めるのであれば上訴の利益はあるかなどと区切って考え始めると,そこは個別の話になろうかと思います。 ○西田委員 今の甲斐関係官のお話の中で,執行猶予部分だけではなくて,その執行猶予に保護観察がついた場合,例えば,懲役2年のうち6月について2年間その執行が猶予され,その2年の執行猶予期間中保護観察が付いているという場合,つまり,6月の懲役を保護観察付きで2年間執行猶予にするというものと,その6月の懲役を実刑にするという場合との比較を私は申し上げたので,保護観察が付いている場合についても同じお答えになるかどうか,その点だけ確認しておきたいと思います。 ○甲斐関係官 判例がどこまでのことをおっしゃっているかということは必ずしも自明ではありませんので,御指摘の点について確たることは申し上げられませんが,執行猶予に保護観察が付いているかどうかという面では,やは り一般的には保護観察がついている方が被告人側に負担になるのかなとは思いますので,それとの比較では保護観察のない単純な執行猶予を求めるということであれば,それはあり得るのではないかとは思います。 ○西田委員 薬物使用者に対する刑の一部執行猶予制度では保護観察は必要的ですから,その場合には,保護観察付きでない執行猶予を求めて控訴することはできないということですよね。 ○甲斐関係官 薬物使用者に対する一部執行猶予のときは保護観察は必要的でございますので,それを求めることは無理だと思います。 ○青山会長 萩原委員。 ○萩原委員 本件の諮問が立法化されて実施されたときに被収容者の適正化のためにどの程度の効果があると考えておられるのか。もう一つは,被収容者の適正化の問題は刑の一部執行の部分だけで何とかしようとしているのか,それ以外の方策も含めて適正化の問題をお考えになっているのか。これは意見ではなくて質問で申し訳ありませんが,教えてください。 ○川端部会長 少なくとも一部執行猶予されているという場面については,その分は施設内から出ますので,その分の被収容者の数が減ることは明らかでございますが,これですべてが解決するという趣旨ではございません。   なお,ほかの点につきましても事務当局から改めて御説明をお願いしたいと思います。 ○甲斐関係官 何分,新しい制度を実施した場合に一部執行猶予の判決がどれぐらい言い渡されるのかというのは正に個別の事案に応じて裁判所が御判断される事柄でございますので,目分量でこれぐらいというのはなかなか申し上げにくいのですが,分かる範囲で申しますと,平成20年の新受刑者,刑務所に新しく入る人は2万8,963人であったということです。今回の要件,一部執行猶予の制度が二つございますが,一つ目の初入者というのは,初入者で,かつ刑期3年以下というのが外枠の要件に入っておりますが,この両方の要件に該当するのが約1万人ございます。それから,もう一つの薬物使用者の方については,かなり多くは覚せい剤取締法違反の事件になりますが,覚せい剤取締法違反の罪を犯し,かつ入所度数2度以上の再入者が対象になりますが,これは約3,500人になります。したがって,合わせると約1万3,500人になります。このうち,裁判所において個別の事案に応じてどれだけかが一部執行猶予に付されるかということになろうかと思います。 ○青山会長 よろしゅうございますか。 ○萩原委員 はい。 ○青山会長 ほかに御意見は。 ○水野委員 この議案につきましては私は賛成でありますので,議案そのものについての意見はございません。ただ,これに関連して一言,要望を申し上げたいと思います。   今,部会長から御報告がありましたように,この部会は,平成18年9月から昨年12月まで3年3か月間,実に26回にわたって熱心に検討されました。外国調査もされたと聞いております。   その中で,我々弁護士が非常に関心を持っております保釈制度の改革について,先ほどの御説明では,意見の一致を見なかったということで今回具体的な案が提示されるに至らなかったということで,この点は非常に残念に思っているわけです。部会とこの総会の役割分担といいますか在り方について私はよく承知しておりませんけれども,やはり最終的に検討するのはこの全体の会議でありますから,保釈制度の改革について意見の一致を見なかったとしても,例えば両案併記で出していただいてここで議論して決めるというのが本来の筋ではないのかなと思って,残念に思います。今それを言っても仕方がないと思いますので,それを申し上げることについては差し控えます。   ただ,せっかく長期間にわたる調査研究をされて,いろいろな資料も蓄積されたと思いますので,法務当局におかれましては,近いうちに改めて未決勾留制度あるいは保釈制度の改革について是非諮問いただいて,新たな部会で検討いただくようにお願いしたい。この諮問は当時の杉浦法務大臣からの諮問だったわけでありますけれども,杉浦法務大臣は,人質司法と言われている保釈制度の在り方について問題意識を持っておられて,そういったものを含めて改善するようにということで諮問されたと聞いております。是非そういう方向で改めて議論する場を設けていただきますように法務当局にお願いしておきたいと思います。 ○青山会長 ただいまの御意見は承っておくということでよろしゅうございますでしょうか。―それではそのようにさせていただきます。   ほかに御意見はございますでしょうか。 ○徳永委員 この制度は,考え方は非常にすばらしい,すべて運用にかかっているのではないかと思いまして,施行の際にはしっかりした運用で治安の改善につながるような形に持っていってほしいと思います。   それと,直接この件には関係ないのですが,この機会にちょっと言わせていただきたいのは,先日も千葉県で出所間もない者の侵入強盗事件とか人命が奪われる事件がありまして,あれは服役した罪も若い女性宅に侵入しての強盗傷害と聞いているわけですけれども,そういう女性がねらわれるといいますか,そういうものについていかに出所後の再犯を防ぐか,被害を最小限に食いとめるかということで,これからいろいろアイデアを考えてやっていただければとお願いしたいと思っている次第です。子どもの暴力的性犯罪については法務省と警察庁の間で出所後の住所地を知らせる等の制度があるようですけれども,そういうものをもっと拡大して,非常に手数もかかるのかもしれませんけれども,ああいう女性宅への侵入強盗のようなものまで広げることが可能かどうかとか,そういうことも含めて凶悪犯罪の出所後の再犯を防ぐ手立ても知恵を絞っていただければなということを意見として言っておきたいと思います。 ○青山会長 ただいまの意見も承りたいと思いますけれども,事務当局の方でもしお答えする用意があれば。 ○坂井関係官 いわゆる性犯罪の犯罪者の処遇の実情について若干御説明を申し上げたいと思います。   数年ほど前から,こういった性犯罪者に対しましては,矯正当局は刑務所の中で,私ども更生保護当局は出所した後の保護観察の段階で,性犯罪に対する処遇プログラムというものをつくりまして専門的な処遇プログラムを実際に実施しております。これは,施設内の処遇と出てからの社会内処遇を連携させて,いかにして二度と性犯罪を犯さないようにするかといういわば教育について,私どもの力の及ぶ範囲でできる限りのことはさせていただいて,この取組を始めたところだという実情があるということを御理解いただけたらと思っている次第でございます。 ○青山会長 ほかに御意見ございますでしょうか。 ○今田委員 全体の御提案には大変賛成なのですが,最後の社会貢献活動に関して,是非これが日本社会に定着していくことが期待されるのですが,地域社会に根ざした,受け入れられるような社会貢献活動をどのように定着させていくかの具体的な仕組みというようなことについて,これから大変ではないかなと思うのですけれども,こういう部会で議論され,今後の方向みたいなものについて何かお考えが固まっていれば教えていただければと思うのですが。 ○坂井関係官 部会でこの制度を取り入れていただいた経緯は,実は現在でも,これは少年が中心でございますけれども,保護観察中の少年に対しまして社会参加活動ということを実際に行っております。これは任意で,相手の同意を得てやっているわけでございますが,例えば公園の掃除とか介護施設の介護の補助といったもの,さらには,この場合は少年で同意を得ておりますので,もう少しレクリエーション的なものをやっているようなものもございますが,いろいろな形で少年を社会的ないろいろな活動に触れさせて,そこで改善更生を図っていくという取組を既に何年か前からやっております。その実績を私どもが御報告させていただいて,そういう実績を踏まえてこういう制度を部会で御議論いただいたという経緯がございますので,私どもとしますと,この制度をつくっていただいた後には,今行っております社会参加活動の実績を一つの土台といたしまして,それを踏まえて,新しい制度の趣旨に沿ったものを構築していきたいと思っている次第でございます。 ○青山会長 よろしゅうございますか。 ○戸松委員 私も今田委員とほぼ同じような質問であります。この「善良な社会の一員としての意識のかん養及び規範意識の向上」というのは大変すばらしいことでありますが,ただ,何が「善良な社会の一員」,「規範意識の向上」かという具体的な問題を考えるときに,個人の生きざまとか信念とか,そういうこととの衝突が起きたりするときのことについてどのようにお考えになっていたのか。例えば公共の場所での清掃活動というのは本当にそれでいいのかということなどもお考えになった上での結論だったのでしょうか。 ○川端部会長 その点についても詳しい議論がなされたわけですが,現実の実践を踏まえての議論でしたので,事務当局から御説明していただきたいと思います。 ○坂井関係官 私ども,保護観察中の者を「対象者」と呼んでおりますけれども,確かに対象者の人柄とか経歴とか,どういう犯罪を犯したかとか,いろいろな要素によって,どういうことを行わせるのが一番いいのかというのはかなり千差万別的なものがあろうかとは思っております。それとともに,この活動はやはり受け入れていただく場所がありませんとなかなか実施できないということで,先ほど御説明申し上げました社会参加活動の中で今回の制度と見合うようなものといたしますと,清掃活動と介護施設の補助的な活動の二つしか実際に行っていないという現状がございます。ただ,この新しい制度をつくっていただきました場合にはそれよりも更に広げて,この制度の趣旨に沿うような,またいろいろな対象者が本当に処遇をして効果が上がるような活動,場面をこれからいろいろ広げて開拓していかなければいけないなという思いを抱いている次第でございます。 ○戸松委員 私が言っている趣旨はこういうことです。すなわち,私は大学で応援団の部長をしておりまして,応援団の部員は自発的な活動として学内とか近隣の道路の掃除をやっています。これは自立的,自発的にやっていることであり,この場合は犯罪者の処遇とは全く異なることであります。その意味での報告は先ほどなさっていますけれども,その辺の問題点はどのようにお考えになっているか,こういう微妙な問題にかかわっているところについてお尋ねしているのでございます。 ○坂井関係官 そのあたりも部会でいろいろ御議論をいただいたところでございますけれども,現在行っております社会参加活動は,同意が必要でございますので,少年によってはなかなか同意しない少年もおりまして,それを活動の趣旨を説明して,やってみないかといろいろな形で勧めて,最初は渋々,じゃあしようがないなと言ってやってみたところが,実際にやってみると,あっと初めて気がつく,気がついて処遇効果が上がっていくという例も既にこれまでの実績で見られるところでございます。そうしますと,そういった対象者に対しましては,処遇効果が上がるものについては,自主的な自発性ということを一歩踏み越えて,義務として課してみるという取組みを行うことも必要ではないかという議論をしていただいて,こういう制度をつくっていただいたと承知しているところでございます。 ○青山会長 ほかに御意見,御質問ございませんでしょうか。 ○八丁地委員 社会貢献活動は私も1回コメントさせていただきました。どなたかからかお話がありましたが,自発的という要素が大変強いということで,自発的な要素というところを社会に役立つ活動と規定されたのは非常にすばらしいことだと思います。是非,こういう活動の定着でありますとか,社会がどう受け止めているのかとか,一定時間こういう活動をされた方の意識の涵養だとか規律の向上がどのように進展したのか,若しくは滞ったのか分かりませんが,そういうことをよくウォッチ,フォローされて,できれば定量的に示されて,メルクマールを持ちながら運用されていくというのが非常に重要ではないかと思います。企業の社会的貢献活動というのは割合メルクマールがはっきりしていまして,そこに行くためにどうしようかを見ながらやっているところがあります。是非そのような格好で,目標を持ちながら,レビューしながら定着させていただくことを強く期待しています。よろしくお願いします。 ○青山会長 ほかに御意見ございますでしょうか。 ○岡田委員 イメージとしてわかないのですけれども,薬物使用者に対する刑の一部執行猶予というのが大変だろうなという気がひたすらするのです。必ず再犯を犯すということで最近の事件が続いているので,この辺に関しては差し当たってどういうことを考えていらっしゃるのか聞かせていただければ,イメージがわくかなという感じがするのです。 ○坂井関係官 これも部会でいろいろ御議論していただいておつくりいただいた経緯といたしますと,私ども,新しい更生保護法を一昨年から施行させていただいておりますが,この中で,先ほど性犯罪について申し上げましたが,あれと同じようなプログラム処遇というものがございまして,この中で覚せい剤のプログラム処遇というものも既につくりまして,これを実施させていただいております。これは原則として特別遵守事項という形で義務付けてやっているわけでございますが,その実績というか,まだ実績というほどのものはございませんが,それを既にある程度やっているということを前提といたしまして,それを踏まえた処遇を付すということが部会での御議論でもあったと理解しておりますので,私どもといたしましては,この制度ができました後には,現在行っております覚せい剤事犯者に対するプログラム処遇をどう新しいものに発展させていくか。これは,実は,どういう体制を組んでいくとか,いろいろな問題がございますけれども,いろいろなことを検討しながら,よりよい処遇を実施していきたいと思っているところでございます。 ○岡田委員 大変期待しております。 ○青山会長 よろしゅうございますでしょうか。   御意見がなければ採決に入らせていただきたいと思いますが,よろしゅうございますでしょうか。   それでは,異議がないようでございますので,採決に入らせていただきます。   諮問第77号につきまして,被収容人員適正化方策に関する部会からただいま報告されました要綱(骨子)案のとおり法務大臣に答申することに賛成の方は挙手をお願いいたします。 (賛成者挙手) ○青山会長 念のため,反対の方,いらっしゃいますか。 ○小山司法法制課長 済みませんが,もう一遍確認していただけますか。申し訳ありません。 ○青山会長 それでは,お手数を煩わせますけれども,原案のとおり答申することに賛成の方は手を挙げていただけますでしょうか。 (賛成者挙手) ○小山司法法制課長 会長を除くただいまの出席委員数が15名でございますところ,賛成の委員が15名でございます。 ○青山会長 採決の結果,全員賛成でございましたので,被収容人員適正化方策に関する部会からただいま報告されました要綱(骨子)案は原案のとおり採決されたものと認めます。   採択されましたこの審議結果報告につきましては,本会議終了後直ちに法務大臣に対して答申することといたします。   川端部会長におかれましては,部会において,3年数か月でしょうか,多岐にわたる論点につきまして調査審議をしていただきました。どうもお疲れさまでございました。ありがとうございました。 ○川端部会長 どうもありがとうございました。 ○青山会長 引き続きまして,第2の議題であります凶悪・重大犯罪の公訴時効の在り方等に関する諮問第89号の御審議をお願いしたいと存じます。まず,刑事法(公訴時効関係)部会における審議の経過及び結果につきまして,同部会の部会長を務められました井上正仁部会長から御報告をお願いいたします。 ○井上部会長 刑事法(公訴時効関係)部会長を務めました井上でございます。私から部会における審議の経過及び結果について御報告申し上げます。   諮問第89号は,近年における凶悪・重大犯罪をめぐる諸事情にかんがみ,公訴時効の在り方等を見直す必要があると思われるので,凶悪・重大犯罪の公訴時効見直しの具体的在り方等三つの事項を始め,その法整備の要綱骨子を示されたい,というものでございました。   近時,公訴時効制度につきましては,犯罪被害者の遺族の方々を中心に,主として殺人等の凶悪・重大犯罪の公訴時効の在り方を見直すことを求める声が高まっており,この種事犯においては,これまで公訴時効制度の趣旨として一般に言及されてきた事情が必ずしも妥当しなくなっているのではないかとの指摘もなされているところです。このような諸事情にかんがみ,凶悪・重大犯罪の公訴時効の在り方等を見直す必要があると考えられたため,今回の諮問がなされたものであります。平成21年10月28日開催の本審議会第160回会議におきまして,この諮問についてはまず部会で検討させる旨が決定されたことから,これを受けて刑事法(公訴時効関係)部会が設けられた次第であります。   部会には犯罪被害者団体の方にも構成員として加わっていただき,昨年の11月16日から平成22年,今年の2月8日までの間,合計8回にわたって審議をいたしました。部会におきましては,当初から具体的な要綱(骨子)案を示して審議を進めるのではなく,被害者団体からのヒアリングや,部会で議論のたたき台とした案に対する賛否などを含めた国民の皆様からの意見募集などを行い,また配布資料5の内閣府による世論調査の結果をも踏まえて,公訴時効制度に対する国民の意識がどのようなものかということを探りつつ,特に最も大きなテーマである公訴時効の在り方につきましては,複数の見直し方策の案を試みに作成し,これに基づいて議論を行うなど,幅広く多角的な観点から議論を進め,それをもとに要綱(骨子)案を組み立ててまいりました。   そして,諮問事項に掲げられた各項目について,いずれも賛成多数により,本日,配布資料3としてお手元に配布されております要綱(骨子)案のとおり法整備をすることが相当であるという結論に達しました。   次に,部会における議論の概要につきまして御説明申し上げます。   最初に,要綱(骨子)案の第一の「人を死亡させた罪の公訴時効の改正」についてでございますけれども,部会ではまず,平成16年に公訴時効制度の改正があったことを踏まえて,現時点における公訴時効の見直しの必要性や妥当性についてどのように考えるべきかという最も基本となる論点から議論が行われました。   この点について委員の間から様々な意見が示されましたけれども,平成16年の改正は,凶悪・重大犯罪の増加傾向を踏まえて,これに適正に対処するために罰則を強化することの一環として行われたものでありまして,いわばその時点から先に,将来に向けて凶悪・重大犯罪に対する効果的な刑事政策を実施することを主眼にしたものでありました。これに対し,今回の改正は,人の生命を奪った殺人などの犯罪については,時間の経過によって犯人が処罰されなくなってしまうのはおかしいのではないか,従来公訴時効制度の趣旨とされてきたところが果たしてこれらの犯罪について妥当するのか疑問である,そういった意識が被害者の遺族の方々を含めた国民の間で広く共有されるようになっていることを受けて行うものでありまして,そういった問題意識はこれから発生する事案のみに向けられているものではなく,過去に発生した事案に対する訴追の可能性についても,あるいはそれにこそ向けられたものであるということからしても,平成16年の改正とは趣旨がかなり異なるから,平成16年の改正を踏まえてもなお公訴時効を見直す必要性がある,こういう意見が多く示されたのであります。   これに対しては,犯罪発生後長い期間が経過した後に起訴がなされると,証拠が散逸し被告人の防御が困難になるという指摘もありましたけれども,時間の経過による証拠散逸の影響は,犯罪の成否,被告人の刑事責任の有無について全面的な立証責任を負う検察官にとってより重い負担となり,訴追自体すら困難にし得るものである上,最終的には裁判において有罪の立証が尽くされているかを厳格に判断することによって対応すべき問題であり,殺人等の罪で確実な証拠により真相を正しく認定できる事件についてまで訴追を許さず,裁判を行えないこととする決定的な理由とはならないのではないかという意見が大勢を占めたのであります。   次に,凶悪・重大犯罪の公訴時効を見直すとして,具体的にどのような方策をとるべきかにつきましては,先ほど申し上げたとおり,複数の案を試みに作成しまして,これをたたき台として議論が進められました。大体四つの案をたたき台としたのですが,論理的に考えますと,見直しの方策としては,公訴時効を廃止する,公訴時効期間を延長する,それと,個別の事件の公訴時効の進行について特別の取扱いをする,という三通り考えられるわけですけれども,最後の個別の事件について特別の取扱いをすることにつきましては,これまでの議論において指摘あるいは提案されているところを参考にしまして,二通りの案をたたき台として用意したのであります。一つは,犯人が遺留したものと思われるもの,例えば,体液等から検出されたDNA型情報等ですが,これに合致する人が被告人であるという形で起訴することにより公訴時効の進行を停止させることを可能にするという方策です。もう一つは,一定の要件を満たすだけの証拠がある場合に,検察官の請求に基づいて,裁判官の決定によって公訴時効の進行を停止又は中断するという方策です。この二つを用意しまして,合わせて四つの案を基に検討を進めたのであります。   その結果,これらの見直し方策案のうち最後の二つ,つまり,個別の事件の公訴時効の進行について特別の取扱いをするという案につきましては,幾つかの問題点のあることが指摘されました。   一つは,犯人と思われる者のDNA型情報が残っているなど,特定の時点で一定の証拠があるかどうかというのは偶然に左右されるわけでありまして,そのような要件がたまたま備わっている事案については停止とか中断を認めるが,そういうことが整っていないものについては認めない,こういうふうに取扱いに大きな差を設けるのは正当なこととは言えず,不公平ではないか。これは果たして先ほど申し上げました被害者の遺族の方々を含む国民の意識あるいは声に十分応えることになっているのかというと,なっていないのではないか,ということです。   もう一つは,公訴時効制度というのは,個別の事件における証拠の状態などの事情によらずに,一定の罪種については一律に取り扱うという性格を有しているものでありまして,こういう個別的な特別の取扱いはそれに適合しないのではないか。これは理論的あるいは技術的な問題ですが,そちらの観点からも問題が多いということが指摘されまして,消極的な意見が多く示されたのであります。   他方で,今回の見直しの趣旨が,殺人等の凶悪・重大犯罪については,時の経過によって犯人が処罰されなくなってしまうのはおかしい,すなわち,いわゆる逃げ得を許すべきではない,あるいは被害者の遺族を含めた社会の処罰要求が時の経過によって薄くなるようなことはない,といった国民の意識に対応するものであるとしますと,人の生命というかけがえのない法益が不可逆的といいますか,取り返しのつかない形で侵害されてしまった人を死亡させた犯罪のうちでも特に重大な殺人等については,公訴時効を廃止するという方策がふさわしいという意見が多数を占めました。さらに,そのように殺人等の最も重大な罪を特別に取り扱うとしますと,他の生命侵害犯の公訴時効についても,その他の犯罪とは異なる取扱いをすることが相当であると考えられることから,公訴時効期間を相当程度延長するべきであり,その場合の延長期間の幅は,現行法での取扱いを前提としまして,それぞれほぼその2倍とするのが適当であるとの意見が大勢を占めたのであります。   なお,今回の公訴時効の見直しの対象とする犯罪の範囲につきましては,重篤な傷害を発生させた殺人未遂とか傷害罪,更には性犯罪といった罪をも含めるべきかどうかも議論いたしましたけれども,平成16年の改正により凶悪・重大犯罪について法定刑を基準として一般的に公訴時効期間が延長されたことを踏まえてもなお公訴時効の在り方に疑問が呈されているのは,やはり人の生命というかけがえのない法益が不可逆的に失われた犯罪についてでありまして,公訴時効について特別な扱いをすることについて,被害回復が絶対に不能な場合であることから合理的に説明がつくと考えられるのに対して,殺人未遂などについての場合には,傷害等が重い場合もあれば,軽微な場合,あるいは殺人未遂などですと傷害が全く発生していない場合があるなど,その態様は実に様々ですので,その罪種一般について特別の取扱いをすることは適当ではないと考えられる。また,性犯罪については,御案内のとおり,特に被害者が年少者である場合などにおいては,被害を申告することができる状態になるまでに相当の期間を要するということが指摘されているところでありまして,配慮を要するのは確かですけれども,今回の公訴時効の見直しの趣旨とは異なる性質の問題であり,性犯罪について課題とされる他の事項とともに別の機会に検討されるべき事柄である。そういった意見がありまして,最終的に,それらの犯罪は今回の公訴時効見直しの対象には含めないということにしましたが,それについて特に強い異論はございませんでした。   このような検討の結果,要綱(骨子)案の第一に記載したとおりの結論を得た次第です。その内容を御覧いただきますと,第一の一におきまして,人を死亡させた犯罪のうち法定刑として死刑が定められているもの,殺人罪や強盗殺人罪が既遂に至って被害者が死亡している場合などですけれども,これらの犯罪については公訴時効を廃止することとしております。   次の第一の二におきまして,人を死亡させた犯罪のうち懲役刑又は禁錮刑が法定刑として定められているものにつきましては,法定刑の重さに応じて,無期刑が定められているものは現行15年である公訴時効期間を30年に,有期刑の上限である20年の刑が定められているものについては現行10年のところを20年にすることにしております。ここに属するのは,人の死亡について殺意までは認められないものの故意の犯罪行為を行って結果として人を死亡させた犯罪の既遂犯でありまして,無期刑が定められているものとしては,例えば強姦致死罪,20年の有期刑が定められているものとしては傷害致死罪とか危険運転致死罪などがあります。人を死亡させた犯罪のうち,これ以下の懲役・禁錮刑が定められているものにつきましては,現行おおむね5年の公訴時効期間を10年にする。これに当たるものとしては,自動車運転過失致死罪などがありますが,そういうことにしております。   以上の要綱(骨子)案の第一に記載した内容につきましては,私を除く出席委員14名のうち,賛成11名,反対3名の賛成多数でこの結論に至りました。   なお,公訴時効の見直し方策につきましては,一定の証拠がある場合に,検察官の公告によって時効を中断する制度を導入するという修正案も一部の委員から提出されましたけれども,先ほど御説明した個別の事件の公訴時効の進行について特別な取扱いをすることに関する問題点に加えまして,公告というのは,例えば押収物を没収しようとする場合において,それが第三者の所有に属しているものである可能性があるときに,その権利者に権利主張する機会を与えるために公告をすることがあるように,正当な権利者に権利主張の機会を与えるために用いられる方法なのに,公訴時効を中断するために公告という方法を用いるのは,公告というものの性質にそぐわないのではないかという,問題点も指摘されまして,結局,採決の結果,私を除く出席委員14名のうち,賛成2名,反対12名で否決されたのであります。   次に,要綱(骨子)案の第二の「第一の適用範囲」について御説明申し上げます。   この問題は,公訴時効制度を見直すこととした場合,その方策を,既に犯罪が発生し,現に時効が進行中である事件についても適用することとするかという問題であります。この問題は,遡及処罰の禁止等を定める憲法第39条等との関係で,公訴時効制度に関する改正法を現に時効が進行中の事件についても適用するという立法がそもそも許されるものかどうかという論点と,そのような適用も許されるとしても,そうすることが立法政策として果たして妥当なのかという論点の二つに分けて考えることができますが,部会における議論もその二つの論点に沿って進行いたしました。   まず,憲法第39条は「何人も,実行の時に適法であつた行為……については,刑事上の責任を問はれない」と規定しているわけですけれども,この憲法の規定の趣旨がどこにあるのかと申しますと,実行時に適法であった行為について処罰をしたり,違法性に関する評価を変更して刑を後から重くするということは,行為者がその行為を行う際に,それが処罰の対象となり,あるいはそれだけの重い刑を科され得るものであることについて事前の告知がなく,予期できなかったのに処罰するということになりますので,行為者の予測可能性を害し不当だと考えられることから,こういう事後的な立法による遡及処罰や刑の加重を禁止したものと考えられます。ところが,公訴時効の定めは,犯罪の実行時に行為者に対し一定期間逃げ切れば処罰されなくなることを約束するものではありませんし,仮に行為者がそういう期待を抱いたとしても,その期待は法的な保護に値するものではなく,憲法もそれを保護しているとは考えられませんので,公訴時効について犯罪行為時の法規ではなく裁判時の法規を適用しても憲法第39条に違反するものではないとする意見が多数を占めました。また,国家がいったん法律という形で自らの権限に課した制約について,それを改めた法律を後から遡及的に適用するのは禁反言の法理に反し,国権行使の在り方という観点から見て特別の事情がない限りとるべきではないのではないかといった指摘もありましたが,そうすることが直ちに憲法の規定に反するものではないという意見や,公訴時効というのはそもそも,犯罪行為の時点において国家が当該犯罪に関する自らの公訴権ないし刑罰権に時期的な制約を課すものというよりは,訴追が問題となる時点において,犯罪発生時からの時間の経過にかんがみ国家が公訴権ないし刑罰権の行使を断念するというものであり,そういう観点からは,訴追が問題となる時点ないし裁判時の法規を適用するのは何ら国が前言を翻すといったものではなく,不当なことでもないという意見が多数を占めたのであります。   そして,当・不当の問題としましても,現に時効が進行中で近い将来自分たちの事件の時効が完成することに危機感をお持ちの被害者の遺族の方々から,公訴時効を見直すとともに,それを自分たちの事件に適用することを求める強い要望が示されており,世論調査の結果などに照らしましても,そのことは,生命というかけがえのない法益を不可逆的に奪った殺人等の事件に対する刑事責任を追及する機会をできる限り確保することを求める国民の意識にも合致すると考えられるから,改正法をそのように適用することについて憲法上問題がないとすれば,そのような適用を認めるべきだろうという意見が多くの方々から示されたところであります。   このような議論の結果,要綱(骨子)案の第二に記載したとおり,公訴時効に関する今回の改正の適用範囲について,改正前に犯された犯罪でも,公訴時効が完成していない限り,つまり現に時効が進行中の事件についても適用することとするという結論に至った次第です。   この要綱(骨子)案の第二に記載した内容につきましては,私を除く出席委員14名のうち,賛成10名,反対4名の賛成多数でこの結論を得たものでございます。   最後に,要綱(骨子)の第三の「刑の時効の改正」について御説明申し上げます。   刑の時効制度は,一定の時間の経過により刑の執行権が消滅するというものでして,その意味で公訴時効と共通する面があるため,公訴時効制度を見直すこととする場合には,刑の時効も見直すべきか否かが問題になりますし,もし見直すとすると,公訴時効に関する改正内容を踏まえて,刑の時効についての見直しの具体的な在り方をどうするかが問題となります。さらに,公訴時効の場合と同様,刑の時効を見直した場合に,それを現に刑の時効が進行中の事件に適用するかどうかということも問題になるわけであります。   そこで,部会において,これらの論点について審議・検討を行った結果,要綱(骨子)案の第三に記載したとおりの結論を得ました。   その具体的な内容を御説明しますと,刑の時効というのは,御案内のとおり,判決で刑罰を宣告された後に逃亡するなどによって刑が執行されていない者,典型的には逃げてしまったという人なのですが,そういう人に対する時効でありますので,例えば,殺人を犯した者について,裁判までは時効にかからないのに,裁判を経て死刑を宣告された場合には,時効があり,逃亡などしますと時効期間の経過により実際に処罰されることがなくなってしまうというのは不当ではないか。公訴時効を見直す以上,刑の時効も見直して二つの制度の間の整合性を確保すべきである。そういった意見が大勢を占めたことから,死刑判決の言渡しを受けた者については,時効によって執行を免除されることがないようにすることといたしました。   同様に,法定刑の上限として無期・有期の刑が定められている犯罪についても,当該犯罪について最も重い刑を言い渡された場合の刑の時効期間が当該犯罪の公訴時効期間よりも短くなってしまうのはバランスを失しますので,そうならないよう,公訴時効期間を改めることに対応しまして,最低限それとバランスを失しない範囲で刑の時効期間も見直すことが適当との意見が大勢を占めました。   そこで,言い渡された刑の軽重を基準とする現在の刑の時効制度の枠組みを維持しつつ,無期刑の判決の言渡しを受けた場合の刑の時効期間は30年,10年以上の有期の懲役・禁錮刑の判決の言渡しを受けた場合の刑の時効期間は20年とすることとした次第です。   最後の,以上のような刑の時効に関する改正法を現に刑の時効が進行中の事件にも適用するかどうかという問題につきましては,平成20年末現在において,10年以上の懲役又は禁錮の確定判決を受けた上で,刑の執行を受けずに逃亡等をしているために刑の時効が進行している者は2名だけであり,しかもこの2名はいずれも人を死亡させた罪で刑を言い渡された者ではありません。そういう実態を踏まえますと,未解決で犯人が検挙されていない状態で時効が進行している事案が相当数あり,今回の改正法を適用する必要が高い公訴時効の場合とは異なり,刑の時効につきましては,今後,対象となるような重い刑を言い渡されながら逃亡するような者に改正法を適用することを考えれば足り,現に刑の時効が進行中の者に対して適用することとするまでの必要性はないと考えられたことから,改正法の施行後に判決が確定した者に限って適用することとされた次第です。   この要綱(骨子)案の第三に記載した内容につきましては,私を除く出席委員14名のうち,賛成12名,反対2名の賛成多数でこの結論に至ったものでございます。   以上,当部会における審議の経過及び結果について報告させていただきました。 ○青山会長 どうもありがとうございました。   それでは,ただいまの井上部会長の御報告及び要綱案の全般的な点につきまして御質問及び御意見を賜りたいと思いますが,まず御質問の方から,もしございましたら承りたいと思います。   御質問がなければ,それでは御意見をどうぞ。 ○水野委員 私はこの案件については反対であります。その理由をできるだけ簡潔に申し上げたいと思います。   まず第1に,今こういった改正をする立法ニーズがあるのかどうかということでございます。先ほど御報告がありましたように,平成16年に公訴時効が延長されました。つまり,その時点で議論をされて一定の結論を得て,平成17年1月1日から施行されたわけであります。それから今日までの間に一体どれだけの変化があったのかということが極めて疑問であります。今の部会長の御説明では,二つあったのではないかと。一つは,被害者の方々あるいは一般国民の方々の意識が変わってきたのではないかということ,もう一つは,平成16年の改正法のときとは立法の趣旨が違う,この2点であったのではないかと思います。   しかしながら,まず,広く国民が被害者の方々とそういう意識を共有するところがあって,それが変化してきたということが言えるのかどうか,つまり平成16年当時とそういった意識が変わったと言えるのかどうかということについては,何ら立証されていないのではないかと思いますし,それから,平成16年の改正については,これはやはり公訴時効の延長の改正でありますから,趣旨は一致するのではないかと思います。   一般に公訴時効の立法趣旨がどのように説明されているかをちょっと御紹介させていただきますと,二つの理由があると言われています。一つは訴訟法上の理由でありまして,時の経過により証拠が散逸して,もはや真実を発見することが困難になっていること。二つ目は実体法上の理由でありまして,時の経過により犯罪の社会的影響が少なくなり,応報・改善等刑罰の必要性が減少ないし消滅していること。この二つの面から説明がされているわけであります。今御紹介しましたのは,財団法人司法協会から発行されております,裁判所書記官研修所監修にかかる「刑事訴訟法講義案」という書物の紹介であります。あるいは,例えば元東大教授の松尾浩也先生の教科書にも同じような記載がございます。その立法の理由については,刑罰を加える必要が時間とともに希薄化したためだという実体法的な説明と,証拠が散逸して正しい裁判では困難になったためだという手続法的な説明とが併存していると,同じような趣旨のことをおっしゃっています。そして,時の経過がもたらした社会的安定を尊重し,被疑者を訴追の可能性から解放するとともに,捜査機関や裁判所の負担を軽減するのであるというのが松尾先生の説明であります。つまり,こういった形で公訴時効が考えられてきたわけであります。   そうしますと,今の二つの理由,つまり訴訟法上の理由と実体法上の理由,これが今やなくなっているのかということが当然問題になるわけであります。私は,二番目の実体法上の理由,つまり犯罪の社会的影響が少なくなり応報・改善等刑罰の必要性が減少ないし消滅しているという点については変わりはないと思いますが,場合によれば被害者の方々の意識の変化あるいは国民一般の意識の変化によって実体法上の理由が全くないわけではないということは認めます。しかしながら,訴訟法上の理由とされている部分については何ら変わっていない,変化がないのではないかと思うわけであります。   なぜ公訴時効ということを問題にするのかという点でありますが,つまり2番目の点でありますけれども,まず何よりも問題なのは,冤罪の危険が増大するということであります。実際にその人が真犯人であるということがはっきりしている,例えば動かし難い証拠があって,この人が真犯人だということがはっきりしている場合には,時効期間を過ぎて処罰するということにしても恐らく大きな反対はないのではないか,本当にそうであれば幾ら時間がたっても処罰していいじゃないかというのは説得力のある議論ではあろうと思います。しかしながら,問題は,本当にその人が犯人と決められるのかどうかということであります。要するに冤罪の危険ですね。冤罪の危険というのは,言うまでもなく時間の経過とともに増大していくわけであります。そういう危険にさらされるというのは,少しオーバーに言えば真犯人と被害者以外のすべての国民がそういう立場にあると言っても過言ではない。そういうことを全然問題にしなくていいのかどうかということであります。   先ほどの部会長の御説明では,その点については,立証が困難になるのは検察官も同じだ,むしろ犯罪の立証をしなければならない立証責任を負う検察官の方が問題なのだというような意見が出て,それが多数の賛同を得たという部会の御報告がございました。しかし本当にそうなのだろうか。検察官の方は事件直後からたくさんの証拠を集めているわけです。できる限りの証拠を集めている。しかし犯人を特定することはできなかった。一方,何十年か先に被疑者だとされた人が,将来何十年か先に被疑者だとされることを前提に証拠収集の活動をしていたのかどうか。そんなことはあり得ないわけです。例えば,事件直後,事件からまだ日がたっていないときに検察官によって起訴された,これは被疑者の方も我々弁護人と一緒にいろいろな証拠を集めて反証することが可能なわけであります。しかしながら,もう何十年もたった後で,当時の証拠だけを出されておまえが犯人であると決めつけられたときに,果たしてその人が有効適切な防御ができるのかどうかということは極めて疑問であります。私どもは弁護士でありますから,その点を一番問題にする。   とりわけ,今の案では,現行の公訴時効の範囲内の事件であっても,あるいは何十年か先の事件であっても,同じ証拠によって処罰ができるという前提であります。つまり,様々な供述調書によって,そしてそれだけで有罪にできるというのは,公訴時効を廃止した後も同じなのです。果たしてそれでいいのかどうか。刑事訴訟法第321条第1項第2号,第3号という証拠能力の規定がありますが,これは要するに,供述者が死亡,精神・身体の故障,所在不明,国外にいる,そういった場合には調書が出せるという規定になっているのです。そうしますと,公訴時効が廃止されますと,何十年も先にそういった事態が生ずる,つまり,事件直後に検察官によって供述調書をとられていた人が死亡する,あるいは老人になって痴呆になっているとか,あるいは日本にはいないとか,そういった場合には刑事訴訟法の規定に従ってその調書が裁判所に出せるということになります。防御する方はそれに対して反対尋問する機会はないわけです。そういうことでますます冤罪の危険が高まるのではないのかと思うわけであります。あるいは故意ということ。やったことは仮に間違いないとしても,故意なのか過失だったのかという,いわば主観的な要件については物的な証拠というのは基本的にはないわけでありまして,そういったものについて反証するのは非常に困難になるだろうと。あるいはアリバイがあったのかどうか。何十年も前のことをどうだと言われても,これはなかなか立証は困難であると言わざるを得ないわけです。真犯人であるということがはっきりしているときに,なぜその真犯人を時間の経過によって許してしまうのかという議論立て方をしますと,それはけしからんことではないのかということになるわけでありますけれども,問題は,真犯人かどうかを決める,そこが問題なのでありまして,その点について是非お考えいただきたいと思います。   それから,今回公訴時効の廃止の対象となる犯罪でありますが,これは人を殺したという要件でかなり幅広くなっています。例えば諸外国においても,殺人なんかについて公訴時効を設けていない国もありますが,すべての殺人について設けていないという国はないようであります。謀殺とか殺人罪の中でも重大な殺人事件に限って公訴時効を設けているということでありまして,もしこのとおりの立法がされますと,日本は諸外国に比べてもかなり幅広い範囲で公訴時効をなくすべきだということになってしまうということで,それでいいのかどうかということであります。   4番目には捜査機関の問題でありまして,当然限られた人的資源で捜査をしていただいているわけであります。警察あるいは検察庁がそういった限られた人的資源でやっている。公訴時効がなくなるということになりますと,古い事件の担当者の方がずっとその事件の捜査を続けるということになる。そうすると必然的に新しい事件の捜査の人員が希薄になるのではないのかというおそれもあるわけであります。さらには,時々新聞で拝見する程度のことで必ずしも正確ではないかも分かりませんが,公訴時効の直前になりまして,あと6か月,あと3か月で公訴時効になるのだということが新聞などに報道されまして,それで新たな情報が集まって真犯人が検挙されるといったケースがまま報道されています。公訴時効がなくなりますとそういったこともなくなってしまうということがございます。   それから,証拠書類だとか証拠物の保管をいつまでやるのかといったことも問題とされております。   さらに,公訴時効の廃止あるいは大幅な延長によって,つまり今回の改正によって本当に検挙率は上がるのだろうかという疑問も持つわけであります。捜査の担当の方のお話としまして,例えば殺人事件については,検挙された事件の中で1年以内に解決したのがたしか90何%でしたかね。大半の事件はそういう形で解決している。その間に犯人が捕まらないという事件については10年,20年行くわけでありますけれども,ではその10年,20年,30年,あるいは40年後に本当に真犯人が見つかったというケースが果たしてどれぐらいあるのだろうか。つまり,今回の改正によって検挙率が上がるのかどうかということが疑問でございます。もっと言うならば,限られた人的な資源でありますから,それを公訴時効がなくなることによってずっと引っ張っていくということ,あるいは公訴時効の直前の報道等による新しい証拠発見の喚起,そういったものがないということを考え合わせますと,かえって検挙率が下がるのでないかといった疑問すら抱かざるを得ないわけであります。そういう意味で今回の公訴時効の廃止についてはいろいろと問題があるわけであります。   第2の遡及適用の点についても簡単に申し上げますが,これについても私は反対であります。仮に公訴時効の廃止・延長というようなことを設けるとしましても,遡及適用するということは,今の部会長の御説明にありましたように,憲法第39条との関係で大いに問題があるだろうと思います。   公訴時効の規定については,これは訴訟法だとする説と,実体法あるいは実体法と訴訟法のミックスだという説とがあるようであります。公訴時効の規定は訴訟法だという考えに立ちますと,これは憲法第39条に違反するということにはならない。ところが,公訴時効の規定というのは実は実体法なのではないか,少なくとも実体法と訴訟法とのミックスした特別の規定なのではないか,このような議論もされているようであります。最高裁判所の昭和42年5月19日の判例がございまして,これは今問題になっているケースにストレートに適用される案件ではありませんけれども,この判決について解説している学者の解説を読みますと,最高裁判所は明確には言っていないけれども,恐らくは公訴時効については訴訟法と実体法のミックスだと考えているのではないかという解説がございます。そうしますと,もしこの昭和42年の最高裁の判決の立場に立つならば,遡及適用するということなれば憲法第39条違反ということが問題になってくるだろうと思うわけであります。   私は,先ほど部会長から意見として御報告がありましたように,国家がこういった公権力の行使をする場面,とりわけ刑罰を科すといった場面では,やはり抑制的な立場に立つべきではないのかと思います。国家に対する国民の信頼という極めて重要な観点があるわけでありまして,それを維持していくためにも抑制的でなければならないのではないか。少なくとも憲法違反だとすれば論外でありますし,憲法違反の疑いがあるというものについては抑制的にやるべきだと思うわけであります。前回の平成16年の改正では,従前の例によるという形になりました。今回も,刑の時効の点については従前の例によるとしている。しかし,この公訴時効だけは遡及するのだというのは首尾一貫しないわけでありまして,それは絶対に避けるべきだと思います。   最後に,刑事法部会で様々な議論がされました。とりわけ岡村弁護士が委員をしておられて,奥様を殺人事件によって亡くされた。これは大きく報道されましたから御記憶の方もいらっしゃると思います。私は岡村先生は以前からよく存じ上げておりまして,私が尊敬する先生でありますから,先生の無念の心情はよく分かりますし,一般的に,犯罪被害者の方々,その遺族の方,あるいは関係者の方が悲痛な思いでおられるということは承知しているつもりであります。理解していると言いますと怒られるかも分かりませんが,自分としては十分理解しているつもりであります。被害者の,逃げ得は許せない,いつまでたっても心の傷は消えないのだという思いについては正に傾聴に値する点があるということは十分理解しています。しかし,それでもなおかつ,今回の改正についてはやはり反対だと言わざるを得ない。つまり問題が多過ぎるという意味で反対であると申し上げざるを得ないのであります。私は,もしも公訴時効を廃止するということであるならば,仮にそれを導入するのであれば,例えば,供述調書なんかは証拠能力がない,物的な動かし難い証拠がある場合に限って時効が過ぎても処罰できるのだというような一種証拠制限的な縛りをかけて導入するのならまだ分からないではありませんが,先ほど来申し上げた公訴時効が設けられた訴訟法上の理由という二本柱の一つについて全く手当てをしないままこういった形でこれを導入するということについては,極めて大きな問題があると思っているわけであります。先ほど部会長から御紹介がありました四つの案の一番最後の案は,公訴時効の中断について検察官が公告するという制度でありますが,これは一種の証拠制限的な考えに立っているわけでありまして,是非そういった方向もこの法制審議会では検討していただきたい。民主党のINDEX2009というのがございますが,そこにもそのことが政策としてうたわれておりますので,その点も含めてこの総会では御議論をいただきたいと思っています。どうぞよろしくお願いします。 ○青山会長 水野委員から意見をいただきましたけれども,部会長からとりあえず何か。 ○井上部会長 たくさん御意見をいただきましたが,できるだけ簡潔にお答えできればと思います。   立法事実があるのかという点につきましては,先ほどの報告の中でも触れましたが,平成16年以降,被害者ないしその遺族の方々が中心ではあるのですけれども,国民一般に,今の公訴時効,特に凶悪・重大犯罪についての時効制度の在り方でよいのかという声は相当に広く,また高まったと思っています。   その一つの現れは,同じ平成16年に犯罪被害者等基本法が制定されたことで,そこに示されているのは,従来の制度では犯罪被害者の方々の意見は軽視ないし無視されてきたけれど,これからはそれに耳を傾け,正当な意見や要求であるならば,それにきちんと応えていくべきだという姿勢だといってよいと思います。そういう趣旨の法律が制定されたというのは,国民一般がそういう姿勢をとったと考えられるわけで,そこに象徴されるように,被害者の方々がいろいろ声を上げられるようになり,それに国民が耳を傾けるようになったということは,紛れもない事実だといえます。公訴時効との関係でも,例えば,その平成16年ごろに,御記憶と思いますが,東京の足立区で小学校の女性教諭が何年も前に殺害されていたことが判明したということがありました。その事件では,同じ小学校の警備員をしていた人が犯人で,自分の家が取り壊れることになり,その家の床下であったか,そこに被害者の遺体が埋められていたのですけれども,それが発見されそうになったので,覚悟をして告白したので発覚したのですが,しかしその時点ではすでに公訴時効が完成していたために訴追はできなかったのです。被害者の遺族の方からは民事賠償の請求をし,民事裁判では公訴時効に相当する除斥期間の規定の適用がないと裁判所が判断して救済が図られたのですが,刑事訴追はできなかった。ほかにももう一つ同じように時効完成後に犯人が明らかになった事件があり,こういったことをきっかけに,広く国民一般の間で,公訴時効の在り方,特に被害者が亡くなってしまっている事件について,今のような公訴時効の在り方でよいのかと問題視する声が非常に高くなった。それは事実であります。つまり,委員が御指摘になった,公訴時効制度を支える根拠―どれか1本で立っているというものではないと思うのですけれども―その主要な支柱の一つである実体法的な側面において,国民の評価が大きく異なってきた,しかも,ただ量的に異なってきただけではなく,そもそもそういった一番重大な犯罪について公訴時効というものがあってよいのだろうかという声すら,高まってきたわけです。これは立法事実なのか立法動機なのか分かりませんけれども,紛れもない事実であり,それを無視することはできないだろうというのが,第1点目のお答えです。   第2点目の被告人の防御との関係については,平成16年改正の際の議論には私自身は加わっていませんでしたので,そのときの法制審部会の議事録などを精読しましたけれども,同じような議論がなされておりまして,その議論の蒸し返しであるわけです。一般的に言って,時間の経過によって証拠が散逸していく傾向があり,検察側のみならず被告人側にも不利益な状況が進行していく,場合によってはそれが被告人側にとって大きな問題になるということが指摘されたわけですが,そういった面と,犯人であることがほぼ間違いない,あるいは確実な証拠で犯人であろうことが分かった場合に,その刑事責任を追及できる可能性を確保する必要と,この両方のバランスの問題だろうと思うのです。今回の部会におきましても,その点についてはかなり突っ込んで議論したつもりです。先ほどの報告の中で検察官に重い挙証責任があることを指摘させていただいたのは,一般的に検察官にも不利になるということを言おうとしたのでは必ずしもなく,例えば被告人・弁護人の方からアリバイの主張が出るとか,故意について立証がないというような指摘があった場合に,それがそれなりに納得できるような主張であれば,アリバイはないとか,故意があったといったことを立証する責任を検察官は負うわけで,そういう挙証責任の配分を前提として,最終的には裁判所が厳しく事実を認定していくことにより対応する。そういうふうに考えるべきではないかということです。また,何年もたって証人が死亡してしまっているような場合には,ずいぶん前に取られた検察官調書が証拠として出てくることになり,問題だという御指摘については,確かにそういう場合には,供述調書を証拠とすることが考えられますけれども,果たして,何年も前の供述で供述者本人に反対尋問もできないというものが,本当に信用性が高いと評価されるものかどうか。もちろん,その調書の内容が客観的な事実と照らして符合するところが多いということならば,信用性が高いと評価されることはあるだろうとは思いますけれども,一般的に言えば,そういった相当以前の供述調書で,供述者本人に反対尋問できないようなものが,そのままで信用されるということにはならないように思うのです。そういうことから,最終的には,事実認定を厳しく行っていくことで対応すべき問題ではないかというのが部会で多数を占めた意見です。   それに,冤罪の危険性については,例えばドイツや,アメリカ,イギリスなど,一定の犯罪について公訴時効がないところで,公訴時効がないために犯罪発生後長期間たってから訴追されたために冤罪が起こったというようなことは聞いたことがありません。ある新聞でどなたかが同趣旨のインタビューに答えて,アメリカなどでは捜査の過程から被疑者の人権が守られ,きちんとしているから冤罪がないのだというようなことを言っておられましたが,実はアメリカでは,死刑判決を受けた者で,執行済みのものも含め,裁判所等公の機関が無実であったことを認めた事件が何百とあるのです。日本よりはるかに多い数ですけれども,その中で公訴時効がないためにそういうことが起こったという例は,私もそういう事件についてのレポートを分析したことがありますけれども,なかったと記憶しています。日本で,全くその可能性がないとまで言い切ることはできないでしょうが,そのような一般論では済まないのではないかと思われるのです。   もう一つは,公訴時効廃止の対象犯罪の範囲が広過ぎるのではないかという御指摘ですけれども,例えばアメリカのカリフォルニア州を見ますと,殺人とおっしゃったのはhomicideの訳だと思うのですが,homicideというのは人が死亡したものは全部homicideですので,故意によるものもあれば過失によるものある,無謀な行為によって死に致したものというものもあり,全部含めてhomicideと呼ぶのです。そのうちのmurder,謀殺と訳されるものですけれども,謀殺罪については1級も2級も公訴時効はありませんし,一つ下のカテゴリーのmanslaughter(故殺)も重度のものについては公訴時効がない。相当その範囲は広いのです。ですから,今回の骨子案のような立法を行ったとしても,日本だけが異常に広いことになるわけでは必ずしもないように思われます。また,日本の殺人罪の規定がかなり幅広いものとなっているので,一番重いところを基準にして公訴時効の在り方も考えざるを得ないという事情もあって,今回こういう要綱(骨子)案になったということです。   捜査資源の問題については,私たちの部会においても警察の方から御報告をいただきました。それによりますと,捜査本部が置かれた重大で難しい事件の中で,解決しているのは80%強で,その解決した事件の90%が事件発生後3年以内に解決しており,それ以上時間が経つと解決は非常に難しくなるとのことでした。しかし,そうだから5年ぐらいで公訴時効にして捜査を打ち切るのがよいかというと,そんなことはだれも言わないし,考えない。ですから,公訴時効を無くしたり,その期間を延ばせば,事件の解明あるいは犯人の検挙という点で効果が上がるかどうかという問題ではそもそもなくて,後で確かな証拠である人がほぼ間違いなく犯人だということが判明した場合に,その刑事責任を追及することができるかどうかという問題なのだと思うのです。もともと,犯罪発生後時間がずいぶん経ってから犯人と思われる者が判明し,検挙されるというのは数少ないケースであるわけで,しかし,そういうことになった場合に訴追できないというのは不当ではないかということが今回の問題の中心だろうと思うのです。もちろん被害者遺族の方々も,捜査資源に限界があるということは分かっておられ,いつまでも捜査を続けろとまでは言いません。ただ,犯人が判明した場合に訴追できないというのはやはり許し難いし,社会から見捨てられたように感じられるのだとおっしゃっているわけで,それはそれとして正当な意見ではないかと思います。   憲法問題につきましては,基本的に先ほど申し述べたとおりですので繰り返しません。ただ,若干補足しますと,実体法か訴訟法かという単純で図式的な議論で片付く問題でなく,憲法第39条の禁止規定の趣旨はどういうことなのかに立ち返って上って考えてみる必要があり,部会の議論ではそうしたということであります。   それとの関連で,委員が言及された最高裁の判例について一言申しておきますと,その判例で問題となったことの中心は,法定刑について改正があった場合に改正後の刑を基準とした公訴時効期間が適用されるのか改正前の刑を基準とした公訴時効期間が適用されるのかということでして,それについては,当該事案に適用される法定刑,改正後の法定刑がそれ以前の法定刑より重くなっている場合は,改正前の法定刑を適用するというのがルールですから,こそ実行期間もその適用される法定刑を基準にして決めるというのが当然の帰結であり,最高裁もそのことを確認したものでして,したがって,その判例は今回の問題について何ら語っているものではないわけです。判例解説というのは判例そのものではありません。判例それ自体の趣旨はおっしゃったようなものとは違うと思います。   今回の改正を現に時効が進行中の事件にも適用するかどうかという点で,公訴時効についての扱いと刑の時効についての扱いとの間に不整合があるという御指摘については,先ほど既にご説明したところですし,最後の,公訴時効に関して個別事件ごとに対応するという方策つきましても,部会で指摘があった問題点について御報告したとおりでありますので,繰り返しません。 ○青山会長 ほかの委員から御意見ございますでしょうか。 ○川端委員 ただいま部会長の御報告を伺いまして,短期間に集中的にここまで御議論されて成果を出されたことに対して敬意を表したいと思います。   中身について,私自身は基本的には賛成でございます。先ほどの御意見の中で触れられた立法事実の存否の問題といわゆる遡及効の問題について,私は研究者としての立場からの意見を持っておりますので,この2点に絞って意見を述べさせていただいて,更に議論を深めていただければと思っております。   まず立法事実の存否についてでございますが,先ほど部会長がお話しになられましたように,平成16年の法改正との関連がやはり重要な意味を持つと思います。あのときの法改正は,実体法の側面において,凶悪犯罪をいかに抑止するかという観点から,厳罰化の方向が示されて,これに基づいてなされたものであり,国民の多くの支持を得たところでございます。立法にあたっては,国民の意識の反映が重要な意味を持ちますので,国民意識に重大な変化が生じたというのであれば,これはやはり立法事実として素直に承認されるべき事態だろうと思うのであります。平成16年の法改正のときの議論では,あくまでも凶悪犯罪対策ということがあって実体法の側面に重点が置かれ,公訴時効はある意味で付随的な手続的側面のみから議論され,根本的な観点からの議論はなされていなかったのではないかというのが私の認識でございます。その意味で,時効制度本来の根本を変えるかどうかについて議論するというところまでは行っていなかったのではないかと思っております。   ところが,先ほど部会長が御指摘されましたように,被害者の立場の尊重ということが大きな社会問題とされ,それがいろいろな立法にも影響を及ぼしてきております。そのような場面で,国民が従来余り意識していなかった,その意味において顕在化していなかった問題意識が新たに生じてきて,それについて圧倒的な支持が得られたというのであれば,これは大きな立法事実になると思うのです。従来,刑事手続におきましては被害者の立場は余り尊重されてこなかったというのが客観的な事実であります。例えば訴訟法的な観点では,あくまでも被害者は一個の証拠としての意味しかなかったという指摘があります。少し極端な言い方になりますが,そのような思考が訴訟の場面で前面に出てきて,被害者の立場をきちんと評価した上で刑事裁判がなされていないという不満が非常に強かったと思われます。それが被害者の声という形で前面に出てまいりました。それを踏まえて,時効という制度を考えてみた場合に果たしてそれでいいのだろうかという国民意識が芽生えてきたといえます。   次に,法体系との関係という観点があります。法体系の中で我が国は大陸法系を採用いたしております。フランス法をもとにして治罪法が制定されたときに時効制度が導入されて定着してきているわけですが,専門的な立場から国民に対して,時効にはこういう制度趣旨があって,こういう具合にして運用されるべきものだという法教育がなされてきておりまして,それが判例となり,学説となり,国民がそれを支持してきたと言えると思います。ところが,先ほど御紹介がありましたように,英米法系では重大犯罪に関して時効というものがそもそも存在しないわけで,それについて国民が余り知らなかったという面がございます。これは法体系が違いますから,法教育の中で,我々も大学で教える場合には,基本的には大陸法系の観点から,時効制度とその存在理由について説明してきたのであります。ところが,国際化が進み国民の多くがほかの法制度との比較という視点を持つようになりますと,果たして従来のままでいいのだろうかという根本的な疑問が出てくるという事態が生じます。正にそれが今生じていますので,そのような意見が強くなったという事態を重視すれば,これが今回の法改正の立法事実となり得ると私は考えております。   それからもう一つのいわゆる遡及効の問題でありますが,これは確かに実体法的側面と訴訟法的側面を持ちます。しかしどちらの側面がより強いかといいますと,これはあくまでも公訴提起手続の問題でありますので,訴訟法的な性格を持つものであると思います。憲法第39条は基本的には実体法に関して,適法行為を後から違法としてはいけないという趣旨を規定していると解すべきであると考えておりますので,その観点から は,訴訟法的な手続に関しては新法主義が妥当すると考えております。そうしますと,いわゆる遡及効について憲法上も疑義はございませんし,抑制的である必要もないと思われます。 ○徳永委員 専門家の方が部会で練り上げた結論で,特にそれに異論はないのですが,特に殺人の公訴時効の廃止部分で,これは要するに殺人のような凶悪犯罪の刑事責任は一生消えないのだというような,国としての考え方の転換といいますか,そういう気もするわけですけれども,これは部会でも出たのですけれども,いずれにしても犯人も生命は有限で,幾ら時効廃止といっても,何十年もということは現実的ではないわけで,先ほど水野委員も言われた捜査当局へのマイナスの影響みたいなものとか,いろいろこれに対する疑問も出ているわけで,そういうものの疑問がなるべく解消されるよう,運用上注意してやっていただければというようなこと,特にそういう印象を持ちます。   あと,捜査機関としては,早期検挙がますます重要になる。初動捜査を含めた早期検挙,あと防犯カメラ等,様々な治安改善の取組もあわせてやっていただければと思います。あくまで感想です。 ○佐藤委員 大きなお話の中で今日は余り出てこなかったのですけれども,部会の中では何度か出ておりました女性の強姦致死に関する時効に関してですが,今回の諮問の趣旨とは違うからだということだと思うのですけれども,今回の案は法定刑に応じて公訴時効をどうするという話になっているので,そのまま置き去りにされているのではないかと思うのです。強盗致死と強姦致死がどう違うのかというと,人間の尊厳という意味では全く変わらない。先ほどから出ているように被害者の立場の尊重ということがこれだけ言われるのであれば,そこに言及がないのはちょっと不自然だという気がいたします。これからこの議論になっていくのだと思いますけれども,誤解が世の中に生じないように,その辺は気をつけないといけないところではないかなと。男性と女性の違いが,こういう殺人でも種類によって時効が違ってくるということ。刑が違うのがそもそも問題なのですが,そこが問題で今回の時効もその結果ですけれども。この要綱には全くそういうことに触れられていなくて,法定刑に準じて説明がなされていますけれども,表にしてみたらそれが出てきますので,マスコミなんかでは多分こういうことが出てくると思いますし,これを問題視する人もいるのではないかと思います。次の展開に是非つなげていただきたいと思います。 ○井上部会長 簡単にお答えしますと,私が申し上げたのは,致死がついてない強姦罪や強制わいせつ罪についても公訴時効を見直すべきではないかという御意見も一部にはあるのですが,今回の改正の趣旨とは性質が異なる問題ですし,性犯罪についてはほかにもいろいろ課題とされることがあり,これはそれ自体として正面から取り上げて総合的に検討する必要があるので,その中で,公訴時効の問題についても検討すべきだろうということです。また,強盗致死罪と強姦致死罪との間の不整合については,強姦致死罪の方が致死罪の法定刑としては通常の形で,強盗致死罪が特殊なものでして,強盗致死は,故意で人を死亡させた場合(いわゆる強盗殺人)だけではなく,殺意はなかったものの結果として被害者が死に至ったという場合を含めて,法定刑が死刑と無期なのです。立法としてそういうことになってしまっていますので,非常に重い犯罪類型になっている。これに対して,強姦致死罪の方は,殺意がなかったが結果として被害者が死亡したという場合,無期又は5年以上の有期懲役ということになっているので,法定刑を基準に公訴時効の取扱いを決めるという枠組み維持する限り,不整合が生じるように見えるのはやむを得ないところがあります。しかし,強姦の場合にも,被害者を故意に殺害した場合には殺人罪が同時に成り立ち,殺人罪は御承知のように,最高刑が死刑ですので,強姦致死と殺人は観念的競合の関係に立ち,両方が重なって成立し,公訴時効については,そのうちの重い方の最高刑を基準にして決めるということになりますので,殺人罪についても今回の提案では廃止ということになっていますから,結果としては平仄が合うのです。そもそもの刑法の法定刑が違っているものですから,そこを今回の公訴時効の関係だけ改めるというのは適当ではないだろうということでです。 ○青山会長 ほかに御意見ございますでしょうか。 ○水野委員 先ほど意見を申し上げまして,部会長からも御説明をいただきました。そのときの御説明で,確実な証拠によって真犯人が分かった場合に処罰しないのはいかがなものかという御説明がありました。これは先ほど申し上げたように,そういう場合に処罰するなという意見はほとんどないと思うのです。問題は,確実な証拠によって犯人と分かったのかどうか,そこがどう担保されるのかということなのです。我が国の刑事裁判は極めて精緻であって,冤罪というのはありませんと断言できるのであれば,これはもうそれでいいのです。しかし実際には冤罪があるということは最近の例からも明らかなのです。つまり,犯罪が起こってから間がない時期にいろいろな証拠を集めて裁判にかかって,それによって有罪になった,そういう事件ですら,後になって冤罪だったということが分かる事件があるわけです。我々が習うのは,要するに100人の犯罪者を見逃しても一人の無辜を出してはならない,これが刑事法の鉄則だと習うわけです。そういう観点からしますと,今言ったように確実な証拠によって犯人だということが間違いないというところの担保をしないでおいて,公訴時効を廃止する,あるいは延長するということについては,いかがなものかと思っていますので,議論の立て方として,犯人がはっきりしているのに処罰できないのはおかしいのではないかというような議論を立てるとなかなか本質的な議論にならないということを申し上げておきたいと思います。   もう一つは,国民の意識の変化ということが言われるのですけれども,この法務省から配布されました世論調査を見ますと,54.9%の人が「短すぎる」,「どちらかといえば短すぎる」という御意見のようです。その二つの答えをした人に対して,廃止か延長か個別取扱いかという質問をしたところ,49.3%の人が廃止だということなのです。時効が短過ぎると感じておられる人の中でも,廃止したらいいということについては半数にも至っていない。これは全体で言いますと約27%になりますね。つまり,100人のうち27人の人が廃止には賛成しているというのがこの世論調査だと思うのです。そういう中で廃止という思い切った措置をやってしまっていいのかどうかということについて,やはり疑問であるということを申し上げておかなければならないと思います。しかも,こういった極めて重要な,単に延長するというだけではなくて廃止するといういわば質的に変化のあるような重要な問題について,8回の議論,実質審議は6回ぐらいだと言われていますけれども,その議論とこの総会だけで簡単に決めてしまっていいのかどうかということについては非常に疑問に思っているのです。ですから,この委員会で結論を出すにしましても,やはりもう一回ぐらいは期日を入れていただいて,十分な議論をした上で結論を出していただきたいというのが私の希望であります。 ○青山会長 ほかに御意見があれば承りたいと思います。   今の水野委員の御意見について更に何かございましたら…… ○井上部会長 私は部会の議論を取り次ぐだけですけれども,第1点につきましては,委員の御発言でも,確実に犯人だと思われる場合は別だという趣旨も入っていたと思うのです。個別の事件ごとに対応するという案はそういった発想を貴重にしているわけですが,現実に日弁連案というか弁護士委員から出てきたものは,確実に犯人を認められるというのではなく,逮捕できる程度の要件に当たる,DNA型情報などに合致する人,だれか分からないのですけれども,そういう人がこの犯罪を犯したと疑うに足りるだけの理由があれば,検察官は公告して公訴時効を中断して,公訴時効期間を2倍まで延長できるという案でした。これでどうして十分なのか,提案者の委員御自身が指摘していたような防御上の懸念がないのか,私などにはよく分かりませんでした。たたき台とした案の中には,それよりもっと証拠の程度を高く設定するという案もあり,それについても議論したのですけれども,先ほど御報告の中で申し上げたとおり,ある時点でそういう証拠が残っている事件ばかりではないわけです。現に,先ほど挙げました,足立区の小学校の女性教諭が殺害され長期間経過してから埋められていた遺体が発見されたという事件,あれはそれまで事件性さえはっきりしなかった。行方不明かもしれないと言われていた事件で,捜査もある程度されたのですけれども,分からなかった。ところが犯人が告白して,それでその家の地下を掘ったら出てきた。この事件でも,もちろん,殺意については立証を要すると思いますが,まず確実にその人がやったといえる事件だと思うのです。そういう場合も,水野委員がおっしゃる,訴追が問題になる時点ではほぼ間違いないという例になると思うのですが,個別の事件で対応するという案ではそういうものは拾いあげられない。そうすると,不公平になるのではないか,というのが先ほど申したことです。 ○青山会長 ほかに御意見ありますでしょうか。 ○戸松委員 水野委員のおっしゃることはなかなか説得的な点もありますけれども,ただ,公訴時効の問題だけでいいのかどうか,刑事司法・裁判の在り方そのものにも関係することでありますので,それとも一緒に考える必要があるのではないかということです。それから,以前から問題となっている,日弁連の委員の人たちも強く指摘されている刑事司法における刑罰の厳しい傾向ですね。刑罰の厳格化とか,少年法の改正とか,刑事事件における被害者の裁判参加だとか,いろいろ刑事司法の在り方自体にも大変関係している問題です。そちらとの関係で考えていって,将来例えば死刑を廃止するとかそういう問題になってくると,もっと根本的に考え直さなくてはいけないということでありますので,おっしゃる点はいろいろなところに関係してくるのではないかという気がいたします。したがって,憲法第39条の遡及処罰禁止規定にかかわる問題につきましては十分説得力ある御議論のもとの結論だと思いますので,今回はひとまずこれで賛成でよろしいのではないかという気がいたします。 ○井上部会長 1点だけ補足させていただきますと,余計なことかもしれませんが,部会では,この問題を遡及効の問題とは必ずしも位置づけておらず,公訴時効について,犯罪行為時の法規を適用するのか,裁判時の法規を適用するのかという問題であるととらえて議論しました。遡及効の問題と位置付けるのは,ある一定の立場を前提にした問題設定になり得るので,よりニュートラルな表現をするようにしたということです。 ○戸松委員 私もそういう位置付けはしていなくて,憲法第39条の意味のコアのところとはかなり射程が違うところだと思っております。 ○青山会長 ほかに御意見はいかがでございますでしょうか。   御意見がなければ,私は今日採決しようと考えておりましたけれども,先ほど水野委員から,もう一回ぐらいこの総会の場で議論した方がいいという御意見がございましたので,もう一回ぐらい議論した方がいいということに賛成の方がおられれば御意見をいただきたいと思いますけれども,そういう方はいらっしゃいますでしょうか。   それでは,十分この総会で意見が出たということで,採決に移らせていただいてよろしゅうございますでしょうか。   それでは,採決に移らせていただきたいと思います。   諮問第89号につきまして,刑事法(公訴時効関係)部会から報告されましたただいまの要綱(骨子)案のとおり法務大臣に答申することに賛成の方は挙手をお願いいたします。 (賛成者挙手) ○青山会長 反対の方,挙手をお願いいたします。 (反対者挙手) ○小山司法法制課長 採決の結果を御報告申し上げます。   会長を除くただいまの出席委員数は15名でございますところ,原案に賛成の委員は14名,反対の委員は1名でございました。 ○青山会長 ありがとうございました。採決の結果,賛成者多数でございましたので,刑事法(公訴時効関係)部会から報告されました要綱(骨子)案は原案のとおり採決されたものと認めます。採決されました結果につきましては,本会議終了後直ちに法務大臣に対して答申することといたします。井上部会長には大変タイトな日程の中で慎重かつ集中的な審議をしていただきまして,大変ありがとうございました。お疲れさまでございました。   ちょっと時間が押しておりますけれども,もう一件だけでございますので休憩を入れずに進行させていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。   第3の議題であります会社法制の見直しに関する諮問第91号の審議をお願いしたいと思います。   まず初めに,事務当局に諮問事項の朗読をお願いいたします。 ○河合参事官 民事局で参事官をしております河合でございます。諮問事項を朗読させていただきます。  諮問第91号  会社法制について,会社が社会的,経済的に重要な役割を果たしていることに照らして会社を取り巻く幅広い利害関係者からの一層の信頼を確保する観点から,企業統治の在り方や親子会社に関する規律等を見直す必要があると思われるので,その要綱を示されたい。   以上でございます。 ○青山会長 それでは,この諮問の内容,諮問に至る経緯及びその理由等につきまして,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○團藤関係官 会社法制の見直しに関します諮問第91号につきまして,提案に至りました経緯及び諮問の趣旨等を御説明申し上げます。   会社法は,平成17年に,複数の法律に散在しておりました規律を一つの法律に統合した上で,これらの規律を体系的に見直すことによりまして単行法として制定されたものでございますが,平成18年の施行から3年半を経過し,実務に定着してきているものと考えております。   しかしながら,近時,経営者から影響を受けない外部者による経営の監督の必要性や監査役の機能強化等,経営者である取締役の業務執行に対する監督・監査の在り方を見直すべきではないかといった企業統治の在り方に関する指摘がございます。この企業統治の在り方は,株主や債権者を含む幅広い利害関係者に影響を及ぼすものでありますので,会社を取り巻くこれらの利害関係者の一層の信頼を確保するという観点から,より望ましい企業統治の在り方を検討する必要があるものと考えます。   また,会社法制につきましては,従前から,親子会社に関する規律を見直すべきではないかといった指摘もございます。この親子会社に関する規律は,企業結合法制とも呼ばれておりまして,親会社の株主の保護のためのものや,子会社の少数株主・債権者等の保護のためのものがございます。親子会社に関する規律につきましては,会社法におきまして既に一部実現しておりますものの,国会におきましてもその検討を求める附帯決議が複数されておりますように,より体系的な整備の必要性が継続的に指摘されております。そこで,会社を取り巻く利害関係者の一層の信頼を確保するという観点から,親子会社に関する規律につきましてもその具体的な在り方を検討する必要があるものと考えます。   以上のように,会社法制につきまして,会社が社会的,経済的に重要な役割を果たしていることに照らして,会社を取り巻く利害関係者からの一層の信頼を確保するという観点から企業統治の在り方や親子会社に関する規律等を見直す必要があると思われますので,法制審議会の意見を求めるものでございます。   諮問第91号につきましての御説明は以上のとおりでございます。よろしくお願い申し上げます。 ○青山会長 ただいま御説明がありましたように,諮問第91号につきましてこういうことでございますけれども,御質問及び御意見を賜りたいと思います。   まず,質問があれば質問から先に承りたいと思います。 ○萩原委員 ただいま御説明を受けましたけれども,実は3年ほど前に全面的な会社法の改正をし,実務界としてはようやくその前回の会社法が定着しつつあるような状況にあると考えております。そういう中で,企業統治の在り方や親子関係に関する規律につきましても種々いろいろな意見があることは承知しておりますけれども,それが実際上著しい不具合を生じているとか,あるいは極めて緊急性のある課題で,これを直していかなければいけないというニーズが本当にあるのだろうかと。   もう一つは,今回の諮問の内容を見ますと,「企業統治の在り方や親子会社に関する規律等」と言っているのですが,先ほどの法務大臣の冒頭のごあいさつの中にもありましたように,幅広に会社法制の在り方について議論してほしいということは,一体何を意味しているのか。要するにこの諮問の対象になっている範囲というのはどこまであるのかということについて必ずしも明確に把握できない状況がございます。それとの関係で,新聞紙上等では,公開会社法を制定すべきだ,あれは大変必要なのだと言っている一部の人たちもいるわけですけれども,この諮問の内容として,企業統治の在り方や親子会社に関する規律が中心になっているのか,単にこれは例示的に置かれて,もっと幅広に検討しろということを言おうとしているのか,もっと言えば,公開会社法の立法化みたいなことも視野に入れてこの諮問がなされているのかというあたりについて御説明を追加していただきたい。そうでないと,この諮問を受けて今後検討していくときの範囲が必ずしも明確でないと感じておりますので,よろしくお願いいたします。 ○團藤関係官 それでは,御説明を申し上げたいと思います。   まず最初に,先ほど冒頭説明で申し上げましたように,施行から3年半,実務で相当程度会社法が定着してきております。これは正に会社法に基づいた実務を運営していただいている企業の関係者の皆さんの御努力の成果だろうと思っております。   今回の諮問の趣旨は,諮問事項にもあらわれておりますように,現在の実務の状況に何か差し迫って手直しをしなければいけない不具合があるからそれを直すというものではございませんで,株主や債権者といった会社を取り巻く幅広い利害関係者からのより一層の信頼を確保するという趣旨のものと御理解いただければと思っております。   その対象についてでございますが,先ほど,「等」の中に何が含まれるのかというお話もございました。諮問自体は,先ほど来出ておりますように企業統治と親子法制ということが挙げられているわけでございますが,それに関連して,会社を取り巻く幅広い利害関係者の一層の信頼を確保する観点から必要とされる事項があるであろうということから,この「等」というものが入っているものと私どもは理解しております。今後の法制審での御審議の中で,なるほどこの二つのテーマに密接に関係して,より一層の信頼確保という観点から言ってこういった点もあるのではないかという御指摘もきっと出てくるのではないかと考えておりますが,そういった趣旨のものとして御理解いただければと考えております。   それから,先ほど公開会社法の関係についてお話がございました。今回の諮問は先ほどの諮問事項のとおりでございます。いわゆる公開会社法として様々な御提言があるということも承知しておりますが,その具体的な中身も,論者によって,あるいは提言主体によって必ずしも一様ではないとは思いますが,共通して言えることは,その提言の中身を拝見してみますと,そのほとんどが会社法の問題だろうと考えておりますし,また提言しておられることの個別具体的な中身が直接どうかという点はおくといたしましても,底流に流れております問題意識は,私ども法務省といたしまして従来から立法課題として検討対象としていたものも数多く含まれていると考えております。したがいまして,この諮問につきましては,まずは会社法制一般の問題として検討していただくべきテーマであろうと考えておりまして,御指摘のように公開会社法なるものを立法するために諮問が行われているとは私どもは理解しておりません。この点は,本年1月の千葉法務大臣の記者会見におきまして,記者の方々からの公開会社法なのかどうなのかという御質問に対し,大臣もまず中身を検討することが重要だとお答えになっていることからも,諮問の趣旨は明らかであろうかと考えております。 ○青山会長 よろしゅうございますか。 ○萩原委員 分かりました。   ということは,直接的に公開会社法の立法を目指したり,あるいはそれを視野に入れた問題ではないにしても,会社法一般にということでありますと,ここにある統治の問題と親子会社の問題だけではなくて,利害関係者の信頼を一層確保するためにというような幅広な概念から見れば,相当広範囲のことについて議論するということを期待しての諮問になるわけですね。 ○團藤関係官 大きな柱はこの二つでございます。当然,法制審議会において,専門的な見地から,あるいは多角的な観点からこの二つの大きなテーマについて御議論をいただく過程におきまして,様々な附随する論点あるいはテーマも浮上してくるのではないかと思われます。そういった議論の過程で浮上してきた論点など,幅広い利害関係者からのより一層の信頼を確保するという観点からそういった課題についても何らかの手当てを施すことが適当だという結論に議論の過程でなるのであれば,そういったものも含めていただければとは考えておりますが,私どもとして,諮問に挙がっております二つの大きな柱のほかに是非こういった点もそういったものとして含めていただきたいという考え方を具体的に持ち合わせているわけではございません。 ○青山会長 内容に関して,ほかに御質問あるいは御意見ございますでしょうか。 ○八丁地委員 今のお話で大体理解はしましたので,経営の立場から申します。冒頭に大臣がお話しになられましたように,3年半を経て会社法はほぼ定着したと思います。ほぼ定着したというのは,幅広い利害関係者との間でも定着したと私は思っているのです。企業の中だけでこれが定着したということではなく,例えば当時想定していなかったタイプの利害関係者の方もたくさんいらっしゃったと思いますけれども,そういう方も含めて,その間でも我々は信頼を十分醸成したために定着したと思っております。そのために3年半を使ったと思っていたのです。この段階でなぜ見直されるかというのは,企業側としては腑に落ちていないところが随分あるのではないかなと,私自身も思っております。   それで,どういうものを信頼というのかは非常に難しい問題だと思っているわけであります。多分,企業がこの3年間に信頼を得るために投下した人的な問題,お金の問題,製品の問題があります。しかも活動の範囲がグローバルに広がったときの信頼感の醸成というのは,経営環境にある資源を最大限,ある程度利益を度外視しても,しかもこのタフな3年半の間に実行してきたのではないかと思っています。信頼とは何なのか,企業に対する信頼というのは企業が利害関係者の方の信頼を得るという関係もあると私は思うので,もう少し双方向にとらえていただいて,企業は利害関係者の方に対するこういう信頼の期待を持っているということも是非エクスプレスさせていただきたいなと。幅広い利害関係者の方から企業に信頼への期待があるというのは,いたく理解に努めているわけでありますが,ともするとその関係が非常に単方向でありまして,我々が利害関係者の方にこういう信頼の関係を持ちたいということは取り上げていただけないということもあります。これを読みますと,利害関係者の方「からの」というのがあるのですが,利害関係者の方「への」信頼というのも持てるような形も考えていきませんと,企業が非常に片務的に努力をした割に信頼感を持たれていないという気持ちをお持ちになっている会社も少なからずあると思うわけであります。その辺のバランス,私は日本こそ将来に向けてそういう関係を持った会社の在り方を追求すべき社会ではないかと思っておりますので,是非その辺のことをやっていただきたいと思っています。実行するのは企業でありますので,是非ここに目を向けた法制を持っていただきたいと思いますし,もちろん企業の経験だけでは不十分でありますので,そこに理論というもの,経験と理論,それから双方向の関係の構築ということでやっていただければと思います。   2番目は,信頼を双方に得るということは何に役に立つかというと,企業の競争力,よりよい企業をつくり,それが国益に反映し,最終的には世界の安定に反映するというところがポイントなので,信頼の先に何があるのかという幅広い視野を持っていただいて,これは法務省さんのお立場ではないところがあるのかもしれませんけれども,今大変混迷しておりますので,是非そういう広い観点から御検討賜れればと思っているわけであります。   それから,よりよい法制をということでありまして,今の関係官のお話の中にもあります様に,現行法が悪いというのではなくてもっと良くしようということであれば,その方向について,なぜこういう見直しが起こるのかというところの具体的な原因について,具体性を欠いた議論ではなくて,具体的な背景,場面というようなものできちんと議論をしてよりよい方向を探して,何らかの対処をするという方向でお願いしていきたいと思います。   大変生意気なことを申し上げましたけれども,私は,多くの日本企業は信頼感ということは大変大事な徳目としておりますし,万全とは言えませんけれども,ほかの世界の企業よりもそこに対する思いは非常に強いと思っているわけでございますので,そういう気持ちも御理解賜って検討していただければと思っております。 ○青山会長 ほかに御意見ございますでしょうか。   なければ,この諮問91号の審議の進め方について御意見があれば承りたいと存じます。 ○野村委員 今のお話を伺っていても,かなり専門性が高くて,今たまたまこの中には会社法の専門の学者はいないのですけれども,部会をつくって議論していただいた方がいいのではないかと思うのです。民法の改正についても今部会で議論していますけれども,あの中では,もともと諮問の中にも文言が入っていたかと思うのですけれども,国民にとっての分かりやすさというのが非常に重要な課題と意識されているのです。私は民法を専門にしていまして,時々会社法も見ることがあるのですけれども,なかなか難しくて,これは全面的な見直しでないのでそれをやるわけではないのでしょうけれども,少なくとも新しくつくる部分についてはなるべく分かりやすさを求めてほしいという希望を申し上げたいと思います。 ○青山会長 ほかに御意見ございますか。   それでは,審議の進め方でございますけれども,ただいま野村委員から部会設置等の御提案がございました。部会を設置して審議を進めていただく,そしてその部会の報告を受けてこの総会で更に審議をするということでよろしゅうございますでしょうか。 (「異議なし」と呼ぶ者あり) ○青山会長 御異議がないようでございますので,そのようにさせていただきます。   それでは,新たに設置する部会でございますが,その部会に属すべき総会委員・臨時委員及び幹事につきましては,これは従来からそうでございますけれども,会長に御一任いただきたいと思いますが,これもよろしゅうございますでしょうか。 (「異議なし」と呼ぶ者あり) ○青山会長 ありがとうございました。   もちろん,その部会に属すべき委員・幹事・臨時委員の方々は,見識もあり,この問題について最も精通している,また国民の各界を代表できる方という形の構成を考えたいと思っておりますので,御理解を賜りたいと思います。 ○萩原委員 それに関連して,企業にとっては非常に大事な,中核になる法律の見直しということになりますので,是非その専門部会の中に経済界あるいは実務界から複数以上の委員といいますか部会員を御選任いただければと,これは要望としてお出ししておきます。といいますのは,法律議論になりますと部会にはたくさんの学者先生もおられるわけで,実務サイドの意見は理論闘争の段階では必ずしも受け入れてもらえない。一人だけだと孤立してしまうこともないわけでもないということで,やはり経済界の実態をよく理解していただくためには複数の部会員が入っている必要があるのだろうと思いますので,これは是非御検討いただきたい。   それからもう一点は,先ほどのような形で,八丁地委員の言葉を借りれば企業と利害関係者の相互の信頼関係を一層高めるというようなことになるのでしょうけれども,いずれにしても相当幅広な議論が行われるに違いない。そうなると,部会で結論を出す前に,必要なタイミングに応じて,最近では議事録は来ておりますけれども,中間報告を進ちょくの途中でこの審議会に出していただけるように,これも要請ですけれども,是非よろしくお願いしたいと思っております。 ○青山会長 ただいまの御要望は,御要望として承っておくことにいたします。   ほかにございますでしょうか。 ○八丁地委員 私も同様に,こういう機会があって,経済界,実業界,企業経営者がステークホルダーの方を知る機会としても非常に大事だと思いますので,企業を取り巻くというのではなくて,企業も取り巻くというような形で,専門部会をバランスのとれた構成にしていただけると双方にとってよりよい関係,見直しができるのではないかなと思いますので,よろしくお願いします。 ○青山会長 ほかに御意見ございますでしょうか。   なければ,その部会の名称でございます。これはここで決めさせていただきたいと思いますが,諮問事項との関連から,この諮問第91号につきましては,ちょっと大きいかもしれませんけれども,「会社法制部会」という名称にいたしたいと思います。諮問事項は,先ほどの二つの柱と,「等」というのはそれに関連する事項ということでございますが,名称としては「会社法制部会」という名称にしたいと思いますが,これでよろしゅうございますでしょうか。―それでは,特に御異議もないようですので,そのように取り扱わせていただきます。   何かほかにこの機会に御発言があれば承りたいと思いますが,何かございますでしょうか。   なければ,本日の予定は以上で終了させていただきます。   それから,本日の会議の内容につきまして,後日,御発言いただいた委員の皆様には議事録案をメール等で送付させていただきます。御発言の内容を確認していただきましてお返しいただきたいと思います。法務省のホームページになるべく早く公開したいと思っておりますので,どうぞよろしくお願いいたします。   最後に,事務当局から事務連絡がございますので,お願いいたします。 ○深山関係官 前回の総会において,水野委員から議事録を送付いただく際には配布資料がないと審議内容が分からないではないか,また部会からの報告を予定している事項については総会までにすべての部会会議議事録を送付してほしいという御要望がございました。そのときも若干答えましたけれども,改めて事務当局の検討結果をお伝えしたいと思います。   法制審議会の議事録と配布資料につきましては法務省のホームページに全部掲載しているところですけれども,これまでは議事録だけを送っておりました。事務当局といたしましては,今後は,総会委員の皆さんに部会の議事録を送付する際には,その会議において配布された資料もあわせて送付させていただくことといたしました。場合によっては非常に大部になるかもしれませんが,よろしくお願いいたします。   また,総会において部会からの報告を行う際には,当日までにできる限り委員の皆様に部会の全議事録をお送りするよう努めたいと思いますけれども,前回も申し上げましたが,部会の取りまとめから総会までの期間が切迫している場合には,最後の回の議事録などを送付することが事務手続上物理的に困難な場合もないわけではありません。ただ,そういう場合にも議論の内容を取りまとめた議事概要は早期にできますので,せめてもこれはお送りして,部会の審議状況をできる限り事前に御確認いただけるようにしたいと考えておりますので,よろしくお願いいたしたいと思います。   最後に次回の総会の開催予定についてです。御案内のとおり法制審議会は2月と9月に開催するのが通例となっておりますけれども,次回の総会につきましては,現在のところ例年どおり9月上旬に審議をお願い申し上げる予定です。具体的な日程につきましては後日改めて調整,御相談させていただきたいと思います。 ○戸松委員 部会資料に関して,興味ある部会については資料が欲しいのですが,そうでないのは結構ですという,そういう申出はよろしいですか。 ○深山関係官 結構でございます。 ○青山会長 それでは,それは個別的にお伺いさせていただきますので,よろしくお願いします。   それでは,本日はお忙しいところをお集まりいただきまして,大変熱心に議論をいただきました。そのために時間を1時間近く超過いたしまして,大変ご迷惑をお掛けいたしましたけれども,本日の会議はこれで終了させていただきます。どうもありがとうございました。 −了−