法制審議会会社法制部会           第3回会議 議事録 第1 日 時  平成22年6月23日(水)  自 午後1時30分                        至 午後5時37分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  会社法制の見直しについて 第4 議 事 (次のとおり)                議     事 ○岩原部会長 予定した時刻がまいりましたので,法制審議会会社法制部会第3回会議を開会いたします。   本日はお忙しい中,御出席いただきまして誠にありがとうございます。   それでは,早速,本日の審議に入りたいと存じます。まず,事務当局から配布資料の説明をお願いしたいと思います。よろしくお願いします。 ○河合幹事 それでは,まず配布資料について御説明を申し上げます。   本日は,お手元に参考資料10から14までを配布させていただいております。参考資料10は,静委員御提出の「コーポレート・ガバナンス向上に向けた上場制度の整備について」,参考資料11は,奈須野幹事御提出の「今後の企業法制の在り方について」,参考資料12は,築舘委員御提出の「監査役制度の実効性確保に関する日本監査役協会の考え〜制度的担保の必要性〜」,参考資料13は,八丁地委員御提出の「会社法制の見直しについて〜企業の競争力強化に資する会社法制の実現を求める〜」です。以上,御説明したものは,いずれも委員,幹事から御報告を頂戴する際の資料となります。また,参考資料14は,三井幹事御提出の「金融・資本市場の観点から重要と考えられる論点」です。なお,本日は,部会資料はございません。 ○岩原部会長 どうもありがとうございました。   それでは,本日の審議に入りたいと存じます。前回の部会におきまして御案内を申し上げましたとおり,本日は,静委員,築舘委員,八丁地委員及び奈須野幹事から御報告を頂くことになっております。御報告を頂く順番等につきましては,部会長である私に御一任を頂き,事務当局において御検討いただくということにいたしました。そこで,まず事務当局から,本日の具体的な進行の予定について,御説明を頂きたいと思います。 ○河合幹事 それでは,御説明いたします。   本日は,まず,静委員,奈須野幹事の順に,約20分から約30分までの間でお話を頂戴し,そこで30分程度,質疑応答と議論をお願いしたいと存じます。その後,築舘委員,八丁地委員の順に約20分から30分程度,お話を頂戴しまして,その後,30分程度,同じく質疑応答と議論をお願いし,残りましたお時間で更に総括的な議論をしていただきまして,論点の洗い出しのための御審議を終えていただきたいと考えております。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。   それでは,ただいま事務当局から説明がございましたように,まず,静委員,奈須野幹事からお話を頂きました後,御議論等をお願いしたいと思います。静委員,どうぞお願いします。 ○静委員 御指名をいただきましてありがとうございます。貴重な発言の機会を頂戴いたしましたので,この場で取り上げていただきたい点につきまして,できるだけ簡潔にお話をさせていただきたいと思います。   現実のマーケットの中で毎日のように起こる問題に,リアルタイムで対応していくというのが,私ども市場開設者の大事な仕事だと思っております。前回もお話ししましたけれども,私どもは,ちょうど会社法が施行されました今から4年ほど前から,現在の法令を所与の前提とした場合に,どうやったら市場秩序は維持できるのかとか,あるいは株主・投資家の権利あるいは利益を不当な侵害から守れるかといった観点に立ちまして,上場制度の整備に努めてきたということでございます。中でも,ここ2年ぐらいにつきましては,特にコーポレート・ガバナンスの向上のための制度整備というものを中心に,力を入れてまいったということでございます。その中には,今から振り返ってみますと上場制度に独自のもの,あるいは特有なものというのも多くあるんですけれども,中には法令の手当てを検討すべきではないかと思われる事項も少なからずあります。特にその中でも会社法の分野につきましては,そうした課題があるように思いますので,今日はそうした観点から,幾つか提案をさせていただきたいということでございます。   私どもの今日,提案させていただく基本的なスタンスといたしまして,新しい規制の導入というものは,新規産業の育成を抑制しかねないという側面も副作用としてございますので,そういうものは必要性を吟味して,慎重に検討していくという必要があるということは,申すまでもないと思っているわけでございますけれども,既に上場制度で一定程度,定着した内容であれば,そうした心配もございませんし,市場に対する信頼を高めることで,成長を後押しするということにもつながると思いますので,ちゅうちょする必要はないのではないかと考えて,提案をするということでございます。   まず,それでは資料に基づきまして説明させていただきたいと思いますが,二,三枚開けていただきまして,4ページから具体的な内容になっておりますので,そちらから御説明をさせていただきます。これまでの検討の経緯ということでございます。このページでは,大きく2回に分けて規則改正が行われているということだけ,御確認を頂きたいと思います。平成21年8月のところに真っ赤な欄があります。それから,同じく平成21年12月に真っ赤な欄がありまして,両方とも規則改正と書いてございますけれども,この2回,規則を大きく改正しているということでございます。1回目,8月の分につきましては,第三者割当増資ですとか株式併合といった,言わば株主や投資者の権利・利益の保護に関する改正だったと言ってよろしいかと思います。基になったのは,金融庁さんで御検討いただいた金融審議会スタディグループですとか,あるいは私どもの諮問機関であります上場制度整備懇談会といったところの提言でございまして,それらを制度化したものでございます。更にさかのぼりますと,その図の左のほうにあると思いますけれども,平成20年6月から7月にかけて,私どもが上場会社のコーポレート・ガバナンスに関して,世界中の投資家から意見を募集したということがありまして,その意見を下敷きにしております。2回目のほうは,平成21年12月と書いてあるところでございますけれども,幾つか中身はありますが,独立役員制度を初めとする上場会社のガバナンス機構に関するものでございます。こちらは先ほど申し上げました金融庁のスタディグループ,そして経済産業省の企業統治研究会という二つから頂いた提言を制度化したというものでございまして,結果から見ますと,先ほど申し上げました投資家向け意見募集の中で,積み残しになっていたものの多くがこの中に入っていると考えてもよろしいのではないかと思います。   5ページをお開けください。その投資家向け意見募集でございますが,内外の機関投資家,それから,それ以外の個人投資家のものもありましたけれども,内外の投資家を中心に41件もの詳細な御意見を頂戴いたしました。個々の項目の説明は,そこに書いてあるとおりですので本日は割愛させていただきます。この中から,私どもでは投資家の要望が大きく,しかも緊急性も高いと思われる課題につきましてピックアップをして,対応策を制度化したというのが,1回目の改正でございます。その柱は先ほど申し上げましたとおり,第三者割当てと株式併合が中心でございました。   2ページ,お開けいただいて,7ページでございます。第三者割当ての問題性について簡単に触れておきたいと思いますが,御覧いただいております図にありますように,平成13年ぐらいから上場会社の資金調達手法の中で,第三者割当増資の件数というのが急増してきているという傾向が見られます。海外では,例えばアメリカのような公募が原則という国もあれば,イギリスのような株主割当てが原則という国もあるようでございますけれども,いずれの場合にも経営危機に陥った会社くらいしか,この手法は使わないという極めて例外的なものでございますので,これが主流になっているという私どものマーケットの状況というのは,海外から見れば異常と言っていいのだろうと思います。しかも,第三者割当てそのものには,既存株主の持分を希薄化するという側面もありますし,更に加えて特定の株主だけに持分を与えるといった問題もございます。したがいまして,アメリカでもイギリスでも,実施には総会決議が必要ということになりますけれども,我が国では取締役会の決議で,しかも最大限,発行済みの3倍まで新株発行が可能だということになっているということでございます。このために海外の投資家の方から見ますと,夜,寝て,朝,気が付いてみたら第三者割当てが決まっていて,自分の持分が4分の1に希薄化すると決まっているというようなことが日本では起こり得るということでございますし,実際にそれは夢ではなくて,それに近いことが少なからず起こっていたということでございます。   それどころではない極めて極端な例があったということで,次のページ,8ページを御覧いただきたいと思います。この会社は実際にあった例なんですけれども,まず,定款を変更いたしまして,授権枠と申しますか,発行可能株式総数を発行済みの3倍まで拡大をいたしました。次に,第二弾としまして10株を1株にする株式併合を行いました。仕上げといたしまして,その両方を使いまして発行済みの約30倍の新株発行を,しかも第三者割当てで企てた。こういう会社が実際に現れてまいりました。私どもの上場会社でございます。実際に,この会社は株式併合には成功はいたしましたものの,資金調達のほう,第三者割当増資には失敗をいたしました。その後,時価総額が私どもの定める基準を満たせなくなったために上場廃止になりました。けれども,最後はとうとう上場廃止後に破産ということになりました。上場している間には,最初の第一弾の株式併合のところで,全株主の8割の地位を奪うことになりましたし,残った既存株主にも先ほど申しました30倍という大規模な希薄化を覚悟するように迫ったものであります。上場廃止になった後を見てみますと,地位を奪ってしまった株主に本来支払うべき株の売却代金は支払えないまま破産したというわけでございまして,ある意味,法制度の濫用を絵にかいたような実例のようにも思われるわけでございます。   第三者割当てそのものには,今,申し上げたのは基本的に希薄化の問題でございますけれども,ほかにもにわか買収防衛策として使われたのではないかとか,あるいは相場をいじるための情報操作に使われたのではないかとか,あるいは反社会的勢力が経営的に弱った会社につけ込むために使われたのではないかとかいった,種々の指摘を受けるケースが少なからずあったということで,大きな問題になっていたということでございます。   1ページ,お開けください。9ページでございます。そこでということで,私どもが昨年8月の第1回目の改正で行ったことをそこに記載してございます。様々な制約を第三者割当てに課しております。今日は時間の関係もございますので,そのうち,二つだけ,この後の話に関係する部分を紹介させていただきたいと思います。一つ目は左上のほうなんですけれども,授権資本制度の脱法的行為と書いてあるところでございます。先ほども申しましたけれども,発行済みの3倍を超えるような新株発行を伴うような第三者割当てにつきましては,私どもの上場制度上で実質的な審査のプロセスを設けまして,問題のあるものを上場廃止にすると,こういう仕組みをつくりまして未然防止を図ることにいたしました。二つ目は真ん中の下の欄なんですけれども,支配株主との不当な取引と書いてあるところでございます。支配株主の異動を伴うような第三者割当てにつきましては,新しく支配株主として出現した割当先から会社が不当な取引を強要されるといったことがないように,その後,3年間は継続して会社と支配株主との取引が健全なものかどうかを確認するというプロセスを私どものほうで設けまして,問題のあるものにつきましてはやはり上場廃止にすると,こういう仕組みにいたしまして,こちらも未然防止を図るということにいたしました。これが9ページのところで説明を申し上げたいところです。   10ページでございます。こちらは先ほどもお話ししました株式併合でございますが,こちらにも一定の制約を課しました。株式併合の結果,1株に満たない端数が生じた場合には,その部分については株主としての権利を失いますし,もしそういう部分しか持っていなければ,株主としての地位すらも失ったりもいたします。したがいまして,株式併合の実施というのは少数株主にとってみれば,極めて重大な問題となり得るということだと思います。そこでこの株式併合につきましては,株主の権利の不当な制限といった観点から,私どもでやはり実質的な審査のプロセスを設けまして,問題のあるものにつきましては上場廃止にするという仕組みをこちらにも導入をいたしまして,こうした事例を未然に防止するということにしたということでございます。   次,11ページでございます。第三者割当てと深く関係する問題ではあるんですが,ちょっと筋の違う問題ではございますけれども,第三者割当てに関連しまして,海外の投資家から既存株主の権利の希薄化に配慮した手法として,ライツ・オファリングと呼ばれる資金調達手法を日本でも普及させるべきだという声が私どもに盛んに寄せられておりました。日本でこれを実現しようといたしますと,新株予約権を株主に割当てをしまして,しかも,それを取引所に上場するという仕組みにする必要があるわけでございますけれども,実は私どもの上場基準が実務上の最大のネックになっているという御指摘がございましたので,上場基準上の障害を昨年12月に撤廃するという改正を行っております。その後,1例だけ実例が出てきておりますけれども,まだ,今のところはそのような段階ということでございまして,更なる普及のためには日程の短縮がどうしても不可欠だと言われております。今,御覧いただいている11ページは,新株予約権無償割当ての日程の一例でございますけれども,全部で2か月半ほど掛かります。関係者の御努力で最近になって短縮されたんですけれども,それでも2か月半でございます。イギリスでは1か月ほどで完了するということでございます。こういう問題がまだ残っていると考えているということでございます。   以上,今までお話しさせていただいたことを踏まえまして,第三者割当てと株式併合に関しまして,四つほど問題点をこれから述べたいと思います。資料はございませんけれども,一つずつ申し上げておきます。   一つ目は,発行済みの3倍を超える新株発行の問題でございます。そのような第三者割当てにつきましては,先ほども説明を申し上げましたように,私どもで上場廃止の実質審査を行うという形で,会社に思いとどまっていただくような未然防止策をつくっているわけでございますけれども,万が一,何らかの理由で強行突破をされるというような場合には,株主は希薄化で損害を被った上に,上場廃止で売却機会も閉ざされるという,こういう筋に合わない結果になりかねないというリスクがあります。第三者割当てでなくても,発行済みの3倍を超える新株発行というのは,もともと脱法的な行為でもあると思われます。したがいまして,法令で手当てをしていただくのが筋ではないかと思いますので,是非,検討の対象にしていただければ有り難いと思っております。これが一点目でございます。   二点目でございますが,第三者割当てによって新たに出現した支配株主から,会社に不利益な取引を強要されかねないという問題でございます。理屈で申し上げますと,支配株主が会社にそうした取引を求めてきても,会社が断ればいいということなのでしょうから,先ほどのように3倍の話とは違って,脱法行為とまでは言い切れないかもしれません。しかしながら,事実上,会社が支配株主に抵抗するのは簡単ではないということを考えますと,釈然としないものも残ると思います。支配株主と少数株主の利益衝突の問題ということだと思いますし,角度を変えまして,最後にもう一度,この件をお話ししたいと思いますけれども,ここでは新しい支配株主が現れた場合に,少数株主の権利保護をどうするかといった観点から,法令上の手当てにつきまして,要否も含めて検討の対象にしていただけないかと思っておるということを申し上げておきたいと思います。   三つ目は株式併合に関連する問題でございます。株式併合につきましては,例えば市場全体で売買単位の統一を図るために,株式併合を行うといったこともございますので,そういうものは市場全体の利便性を高めるためのものでございます。私どもが実質審査をして,不当なものだけを上場廃止にするということでもいいのではないか,逆に申し上げますと,法令上の手当ては不要なのではないかとも思いますけれども,一方で,株式併合で権利を失う株主に対する救済の問題というのは,解決していないのではないかと思っております。先ほど申し上げました例はちょっと極端過ぎると思います。端数に相当する売却代金が破産で支払われなかったというケースでございますので,これは論外かもしれません。しかしながら,そのケースでも実はなぜ売却代金がそれまで支払われなかったのかといいますと,端数を市場で売却して分配したくても,株数が多過ぎて短期間ではさばけないとか,さばけたとしてもかなり安くなってしまうといった問題があってさばけないで,最後は破産まで至ってしまったということだと聞いております。そこで,株式併合で権利を失う株主に対しまして,株式買取請求権のようなものを認める必要がないかどうかという点について,検討の対象にしていただければ有り難いということが三点目でございます。   四点目,最後でございますが,先ほど日程を紹介申し上げましたライツ・オファリングの件でございます。増資の場合の選択肢の一つといたしまして,既存株主に優しいこの手法を普及させていくということは,非常に大事なことではないかと思っておりますけれども,会社法上の制度の中で,日程短縮の制約になっているものがございます。例えば11ページの真ん中に赤い字で抜いておりますけれども,2週間以上と書いてあるのは,割当通知の法定の期間でございますけれども,こういったものを含めまして,見直しを検討の対象にしていただけないかというのが四点目でございます。ここまでが第三者割当て,株式併合関係でございます。   続きまして,13ページに移らせていただきます。2回目の規則改正に関連する部分,つまり,ガバナンス体制に関する規則改正に関連する部分でございます。特にその中でも,今日申し上げたいのは,独立役員制度についてでございます。独立役員というのは,一般株主の保護のために,社外取締役か社外監査役の中から,一般株主との利益相反が生じるおそれのない者を1名以上確保するように私どもで義務付けをしていると,こういうものでございます。一般株主というのは経済産業省の企業統治研究会の提言の言葉をそのまま使っているわけでございまして,定義は置いてございませんけれども,イメージとして申し上げますと,私どもが持っているのは市場での売買で日々,流動する可能性がある株主で,しかも,持分が少ないために経営に影響力を持ち得ない株主,これを一言で申し上げますと,上場会社の少数株主ということだと思いますけれども,こういうものをイメージしております。   次の14ページでございます。14ページは私どもが設けております独立役員の要件でございます。二つの要件を設けておりますけれども,一つ目が独立性の判断基準という要件でございます。そこの図にあるどれかに抵触してしまう場合には,明らかに一般株主との間の利益相反を生ずるおそれがありますので,独立役員にはなれません。これが独立性の判断基準と呼ばれるものです。「×」がかいてあるものはみんなそうだということでございます。一方で,下の注の二番目,*印の二つ目にございますように,開示加重要件という要件が別にございます。この要件につきましては,どれかに抵触したからといって,独立役員になれなくなるわけではありませんけれども,利益相反を一般株主との間で生ずるおそれがありますので,抵触してもなお独立性があると会社が判断する理由を説明をしていただいて,開示をしていただくということが求められる要件でございます。この二つの要件を持っているということを初めに申し上げておきます。   次の15ページでございます。独立役員は今のような要件に沿ってお選びいただくわけでございますけれども,一般株主保護のための制度とはいえ,独立役員がいるだけで保護が進むとは限らないと思います。そこで,独立役員に期待される役割につきまして,上場制度整備懇談会で御議論を頂きまして,その結果を取りまとめて公表しておりますので,簡単に紹介させていただきます。独立役員制度の意義というところでございますけれども,会社には多様な利害関係者がおりますけれども,その中で上場会社に特有の利害関係者で,しかも共通する利害関係者というのは,ここで言う一般株主だということでございます。しかも,一般株主の利益というのは,上場会社の利益,純粋な利益とも一致するというのが通常でございますので,一般株主の利益に配慮して会社の経営が行われるということは,上場会社にとっては極めて重要だということになります。以上のように独立役員の意義を整理した上で,期待される役割につきましては,下のほうですけれども,次のようにまとめております。いわく,独立役員には,上場会社の意思決定プロセスにおいて,一般株主の利益に配慮する観点から,発言機会を求め,必要な問題点等の指摘を行い,そうした問題意識が取締役会に出席する他のすべての役員に共有され,その上で取締役会などにおける判断が行われるように努めるなど,一般株主の利益保護のために行動することが期待されるということでまとめていただいております。この役割につきましては,現在の私どもが持っている独立役員制度は,一人でもいいし,複数でも構わない,社外取締役でもよければ社外監査役でも構わないと,こういう仕組みになっているということを前提にいたしまして,一人でも複数でもできること,社外取締役でも社外監査役でもできることという条件を満たすものは,恐らくはこういう役割であろうということで取りまとめていただいたものだと理解をしております。   次に16ページでございます。私どもの上場会社は原則としてこの6月の総会以降,独立役員を確保していただくということになっております。その前に,3月末時点でどの程度が確保をされているのかという状況を調べてまとめたのが,今,御覧いただいているグラフでございます。左側にございますように,上場内国会社が2,302社ありましたが,その段階で,その9割に当たる会社が既に独立役員を確保しているということでございます。また,右側を御覧いただきますと,独立役員を確保した2,067社のうち,独立取締役のみを確保している会社,これは全体の大体1割ぐらい,それから,独立取締役と独立監査役の両方を確保している会社,これが全体の2割ぐらいでございまして,独立監査役のみを確保しているという会社が7割をちょっと超えたところということがお分かりをいただけると思います。   次,17ページでございます。こちらは会社の観点ではなくて人の観点から見たものでございますけれども,左側にございますように,3月末時点で,独立役員は3,945名いると私どもに届出を頂いておりますが,そのうちの75%,つまり,4人に3人が監査役ということになっております。右側の表では独立役員3,945人のうち,6%ぐらいの方が開示加重要件に抵触しているということ,そして,その大部分は主要な取引先の出身者ということがお分かりいただけるようになっております。そのほとんどは取引のある金融機関の出身者というのが実態でございます。   以上のような制度と実態を踏まえまして,ガバナンス体制についての課題を一つだけ申し上げたいと思います。独立役員の権限あるいは責任といった問題でございます。独立役員につきましては,先ほど申し上げましたように,一般株主の利益保護のために発言をし,行動するという重要な役割を期待されておるわけでございます。しかしながら,会社法上の地位という目で見ますと,社外取締役であれば社外取締役と,社外監査役であれば社外監査役と,権限,責任は同じと考えられます。この場合,特に,社外監査役を独立役員としている会社の場合には,今申し上げました一般株主の利益保護のために発言をし,行動するという権限がどこに書いてあるんだと言われれば,発言すらしにくくなることも懸念される部分があるかと思います。そこで,この制度をしっかりと機能させるために,法令で権限あるいは責任といったものを明確化していただくことを検討の対象にしていただけないかと考えております。   資料に関して提案を申し上げたいのは以上でございますが,最後に,資料にはありませんけれども,企業結合法制に関連しまして,上場子会社の少数株主保護という問題について,一言,コメントをさせていただきたいと考えております。私ども東京証券取引所には,今,約2,300の上場会社がございます。そのうち親会社のある会社,いわゆる上場子会社と言われているものが大体260社ほど,1割強ということでございますが,あります。実は,時価総額の高い会社を上からずらっと並べていきますと,少なからず子会社あるいは元子会社というところも並んでおりまして,そうした上場会社の一事業部門あるいは社内ベンチャーから始まった会社が,我が国の新規事業の育成に重要な役割を果たしているということがうかがえます。上場子会社の株主は,親会社とその他の少数株主の二つに分かれると思いますけれども,この両者の間で利益の衝突が起こりますと,親会社によって少数株主の利益が害されるという可能性が構造的なリスクとして存在すると言われております。先ほど申し上げた第三者割当てで新たな支配株主が出現した後の問題と同じ問題でございます。一方で,これを投資家のサイドから見ますと,上場子会社にもメリットがあると言われております。成熟期に達した親会社の一部を切り離して,成長部門だけに投資をすることができるというメリットですとか,親会社が持っているブランドを初めとする様々な経営資源を活用して,成長をしていくことが期待できるであるとか,あるいは親会社による行き届いた経営監視も期待できると,そういう利点があると言われております。つまり,投資家のサイドから見ますと,良い面もあれば,悪い面もあるということなのだろうと思われます。私どもではできるだけその悪い面を抑えるということで,上場制度上,今,可能な限りの手当てをして,少数株主の保護に努めてまいっております。先ほど申し上げた第三者割当てで新しい支配株主が現れた際に,取引の健全性を3年間,検証するということを申し上げましたけれども,そのほかにも,一般的に子会社が新規上場する際には,親会社からの独立性の審査と称しまして,取引の健全性をかなり詳細に検証しております。また,上場した後につきましては,少数株主保護についてどんな方針を持っているんだ,あるいはその方針を1年間,どうやって実践してきたんだといったこと,方針ですとか実績といったものを毎年,必ず開示をしていただく。子会社の場合にはそうしていただいておりますし,これはまだ始まっていない制度なんですけれども,間もなく導入する制度として,支配株主との間で会社が重要な取引をするときには第三者の意見を入手して,その概要を開示していただくという制度も間もなく導入する予定でございます。   事ほどさように,少数株主保護にはそれなりの対応を採ってきているわけでございますけれども,上場制度でできることには残念ながら限界もあるのではないかと思います。つまり,新規上場を審査するときですとか,第三者割当てによる上場廃止を審査するときですとかいった,言わば上場の資格を問うような有事の局面では,私どもが会社の中に入り込んで取引の健全性を検証するという理由も当然あるということになるでしょうし,会社もこれに応じて,詳細な内容を取引所に対して明らかにするという理由もあると思いますけれども,そうではない平常の局面,つまり,審査上の必要もない中で,取引所が日常的に取引の健全性を検証する理由というのは,なかなか思い付かないというのが現実でございます。一方で,私どもの現在の制度で用意している平時の仕組みというのは,先ほど申しましたように少数株主保護の方針と実績を開示していただくとか,あるいは重要な取引を会社と親会社の間でやる場合に,第三者意見を入手していただいて,それを開示していただくと,こういう仕組みでございますが,これらだけでは有事に私どもで行っているような取引所による検証作業に代わるようなものには,なかなかなり得ないのではないかと言われれば,それもそのとおりだと思います。それならば,一層のこと,子会社上場は廃止すべきではないかという声があるというのも存じてはおります。しかしながら,内外の投資家の皆さんから私どもに寄せられる声というのは,少数株主の保護が十分でないという理由で,上場子会社に投資できなくなるというのは本末転倒だと,むしろ,少数株主保護に問題があるならば,少数株主の保護策を充実させてもらいたいというものばかりでございまして,少なくとも投資家は,廃止は望んでいないと感じております。したがいまして,既に支配株主が存在する会社の少数株主保護といった観点からも,法的な手当ての要否を含めまして,検討の対象にしていただければ有り難いと考えております。ありがとうございました。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。それでは,引き続きまして奈須野幹事から御報告を頂きたいと思います。よろしくお願いします。 ○奈須野幹事 お時間を頂き,ありがとうございます。経済産業省産業組織課長の奈須野でございます。私からの説明は,参考資料11でございます。「今後の企業法制の在り方について」ということで,2種類,資料を用意させていただきまして,私からの説明は,大体,概要と記載がある資料に基づいて説明させていただきまして,重要なところは本文を参照しながら御説明を申し上げたいと思っております。全体の構成でございますが,4章立てになっております。第1章が「成長戦略」としての企業法制見直しの必要性,第2章が企業の組織再編・M&Aの支援,第3章がグループ総合力を生かした経営の推進,第4章がコーポレート・ガバナンス向上による「変化対応力」強化となっております。諮問との関係で申し上げますと,親子会社の関係を中心に記述しているのが第3章のグループ総合力を生かした経営の推進,それから,コーポレート・ガバナンスの部分は第4章ということになりまして,特に我々からは第2章の企業の組織再編・M&Aの支援の部分についても,特に御検討をお願いしたいなと思っているわけでございます。   その背景でございますけれども,今回の会社法制の見直しを成長戦略として考えてほしいなという希望でございます。平成18年の会社法施行後,やはり企業の低収益体質というものには変わりがなくて,国内に多数のプレーヤーがひしめき合っていると。産業構造として新陳代謝のメカニズムが不足しているのではないかと,こういう問題意識がございます。それから,新しい経営手法としての選択と集中ということで,外部の経営資源を取り入れて,あるいは切り離して新しいビジネスを展開していくということがグローバルに展開されるようになってきて,そういうことに日本企業が後れているのではないかと,あるいは国際金融危機の中で,マネジメントの変化に対応できるような力をつけていくということが必要で,そういう意味で,ぶれない企業法制が望まれるのではないかと,こういうことでございます。このような問題意識から,今回の会社法の見直しについては,成長戦略として国際競争力の強化や資本市場の活性化に資するような見直しをお願いしたいということでございます。この考え方につきましては,先般,経済産業省で取りまとめました産業構造ビジョンの中でも,同種の考えに基づいて記述がなされております。それから,6月18日に閣議決定されました新成長戦略におきましても,M&A等の組織再編手続の簡素化・多様化のための措置の在り方の検討,それから,コーポレート・ガバナンスの強化についての検討というものが,いずれも閣議決定の対象となっている工程表の中に位置付けられているということでございまして,こちらについて御検討をお願いしたいと思っております。   まず,第2章の企業の組織再編・M&Aの支援でございますけれども,問題の所在として,前回の会社法の改正によりまして,様々な組織再編・M&Aの手法が整備されましたけれども,実際には複雑な手続が掛かる,あるいは過大なコストが掛かるということで,開店休業状態になっているような手続も存在するということであります。あるいは買取請求権などの紛争によりまして,会社財産が流出しているということで,こういったものに対応していく必要があるのではないかという問題意識でございます。   そこで,まず,M&A・組織再編の選択肢の多様化については,概要の紙では四つ,提案をさせていただいております。   一つ目が自社株を対価としたTOBの利用の促進ということでございまして,現行法でももちろん可能になっているわけですけれども,会社役員及び応募株主のてん補責任があるのではないかということで,実際にはほとんど利用されていないということでございます。一方で,日本企業は旺盛な自社株買いを続けていて,償却されていない金庫株が10数兆円あるということでございます。そうすると,今後のM&A市場の活性化のためには,金庫株を使えるような武器にしていくということが必要であろうと思っておりまして,この観点から,自社株を対価としたTOBについて,てん補責任を軽減するような措置を御検討いただきたいと考えております。   二つ目はスクイーズアウト・セルアウト制度の創設でございます。現行の会社法では完全子会社化のみを目的とした手続は存在しない。御案内のとおりでございますけれども,一方で,完全子会社化したいというニーズは現にあるわけであります。そういう中で,実際には全部取得条項付種類株を発行して,少数株主を締め出すということが行われているわけですが,これは実際には少数株主に対する強圧性が高いということで,適切な手続ではないのではないかというような疑問もあるということで,紛争も起きているということでございます。そういう中で,企業側のニーズとしては,やはり,こういったスクイーズアウトを安全確実,迅速に行いたいというニーズがあるわけでございまして,若干,要件が上がったとしても,このような手続を設けていただきたいというニーズがございます。諸外国でも例えばヨーロッパでは9割とか95%とか,かなり高い比率で株式を取得した場合に,残余の株主をスクイーズアウトできるというような立法がございまして,こういったものを参考にしながら,我が国に適したスクイーズアウトの手続を検討していただきたいと思っております。セルアウトにつきましてはその前段でございますけれども,TOBの追加応募機会の具備みたいなようなものでございまして,このことによりまして,強圧性を軽減するということを検討いただきたいなと思っております。   提案としては一つ飛びますけれども,概要の紙では三つ目にございます会社による選択的対価でございます。昨今,外国人株主が非常に増えておりまして,3割,4割,5割という外人株主がいる企業も多くなっているわけでございます。このような場合に,その外国人の属する国における金商法なり,会社法なりの仕組みが域外適用されることによって,日本の金商法なり,会社法と二重に適用されるという問題が起きております。このことによって,外国人株主が多い会社ほど組織再編やM&Aがしにくくなっているという問題が起きております。具体的には,アメリカのSEC規則のフォームF−4の関係で,10%以上のアメリカ人株主がいる場合に,SECルールが二重適用されるということでございまして,このことによって実際に経営統合が遅れると,あるいは経営統合にコストが掛かるというようなことも起きているということでございまして,できれば会社による選択的対価ということで,ある株主については金銭を対価にキャッシュアウトすると,そのほかの株主については金銭又は株式というような選択を認めていただきたいという要望がございます。こちらにつきましては,株主平等原則との関係が問題になるわけですけれども,対価として均等であれば,その理由に相当なものがあれば,合理的な理由に基づいて,そのような選択的対価の措置を講ずるというものであれば,そのこと自身は,あながち株主平等原則に反するものではないのではないかと考えております。   それから,事業譲渡の際の許認可承継,こちらは会社法プロパーの問題というよりも,そのほかの問題でもあるんですけれども,事業譲渡の際に許認可がついていかないということで,手続に時間が掛かったり,あるいは別の仕組みを使ったりというようなことが起きておりまして,事業譲渡の際に許認可が承継されるような仕組みを検討いただきたいと思っております。   続きまして,M&A・組織再編に伴う株主保護手続の問題ですけれども,ちょっと提案3を御覧いただきたいのですが,12ページでございます。現行の組織再編手続におきましては,一律に株主総会決議を経て買取請求権を与えるという仕組みになっているわけです,簡易組織再編は別としても。果たして,それが現状のM&A・組織再編の実態に適して合理的かという問題意識でございます。例えば13ページの上にございますように,株主の持分権に直接の影響が生じない場合,こういった場合には株主総会の承認も不要で,あるいは買取請求権を適用除外とするということでもよいのではないかという問題意識であります。逆に,株主の持分権に直接の影響が生じる場合,先ほどの静委員から第三者割当て,株式併合の話が出ましたけれども,問題意識としてはそれと同じでございまして,一定程度以上に株主権の希釈化が生じる,あるいは支配株主の異動が生じるような場合には,独立役員や過半数を組織する特別委員会の承認手続であるとか,買取請求権の整備などが必要ではないのかという問題を持っているということでございます。こちらについては,また,後でも触れさせていただきます。その上で,株式買取請求権制度の見直しにつきましては,17ページの提案6−1として,先ほど株式の持分権に直接の影響がない場合,かつ会社の基礎にも変更がないと,こういう組織再編については買取請求権は不要とすべきではないかと,こういう問題意識であります。一つ目は一定の要件を満たす現金株式交換における完全親会社のようなケース,あるいは現行でも株主総会がない簡易組織再編,こういったものについては制度趣旨からすると,買取請求権を除外してもよいのではないかという考え方であります。   それから,もう一つ,17ページの提案6−2でございますけれども,買取請求権の濫用防止として,請求者適格の範囲についても,見直しを行っていただきたいなという希望を持っております。例えば,対応策(案)として書いておるところでございますけれども,組織再編に関する株主総会の招集通知発送時などに,当事会社が組織再編に関する議案の内容を公告すると。この中で恐らく合併比率などの詳細な情報が公表されているわけですけれども,その公告後に株式を取得した者については請求を認めないと。公告していない場合も考えられますので,そういう場合は,総会決議後に取得した者については保護しないというようなことを,後者については現行法でもそのような解釈があり得るとは思いますけれども,今回,改めて検討するのであれば,このことについても明確化していただきたいなという希望を持っております。18ページの6−3は法定利率への対応ということで,法定利率の改定あるいは供託制度の設定ということを御検討いただきたいなということでございます。   それから,もう一つ,その下に商事・金融高等裁判所というのが書いてあります。19ページの注21でございますけれども,最近におきましても,ごく1か月少々の間に,同種の事件について,同一の裁判所で3種類の判断が出るというようなことが起きていて,ちょっとこのようなことだと,企業側としては,どの判決に従ったらいいのかということについては,疑義が生じるということでございます。そこで,M&Aや組織改編に係る紛争事案あるいは金商法に係る事案について,集中して審理できるようにして,なるべく判例にそごが生じないような仕組み,あるいはスタッフを充実させて,しっかりした審理ができるような仕組み,こういうことを御検討いただきたいなということでございます。若干,会社法のスコープと離れますけれども,会社法のエンフォースメントをしっかりしたものにしていくという意味で,この点についても重要な問題であろうかと思っております。   第3章でございます。グループ総合力を生かした経営の推進と書いてあります。御案内のとおり,現行法では企業を単体として見るということが会社法の建て付けになっておりまして,一方で企業はグループで経営しているわけでございますので,このこととの間で矛盾関係が生じているということです。このことによりまして企業の経営の機動性が損なわれたり,あるいは親子間の責任の所在が不明確になるというおそれがあるということでございます。   こういった問題に対して,立法提案としては,子会社の重要な意思決定について親会社の株主総会の承認を取るべきだというような立法の提案であるとか,あるいは多重代表訴訟あるいはコンツェルン規制のような規制を前提とした解決策というものの御提案もあるわけですけれども,まずはグループ経営をしやすくする,あるいは合理化をしていくというような措置を検討するのが,議論の建て付けとしては先であろうかと考えております。その上で,グループ経営を合理化した結果,株主保護に問題が生じるという局面になりますれば,先ほど申し上げたような株主保護の制度について,検討するということになるのではないかということであります。そこで,グループ経営の合理化については四点,提案させていただいております。   一つ目が法人選任取締役ということでございまして,親会社から子会社に取締役を派遣する場合に,個別に子会社の株主総会の承認は要らないのではないかということで,何人を派遣するということを決めておきさえすればよいのではないかと。派遣された取締役は親会社の指示に従ってくださいということにして,そのことによって子会社に損害を与えた場合には,故意・過失のない限り,指示を与えた親会社が責任を負うということで,親会社と子会社の間の責任と権限の関係を明確化すると,すべきではないかということであります。   二つ目はグループ・ガバナンスということで,完全子会社について,一々,監査役を置く必要があるのかなと。実際には,親会社の中でグループ全体の監査を行っているケースも多いのではないのかなということでございまして,そうであれば,親会社の監査役が子会社の監査を行うことができるということを正面から規定して,制度を整備したほうがよいのではないかということであります。   三つ目はグループ配当金ということで,現行法上,分配可能額は法人単位で会社ごとに見ていくということになっております。グループ経営をしている場合に,親会社には配当可能利益はないけれども,子会社には配当可能利益があるという場合が当然あるわけでございます。例えば組織再編時に持株会社をつくって,親会社をつくりましたという場合には,親会社側に配当可能利益は初年度はないということですし,あるいは多くの製造企業がやっているように原材料の調達であるとか,あるいは為替リスクのヘッジみたいなものを親会社でやっているというケースにおきましては,原材料の変動であるとか,為替変動による影響を親会社がもろに受けるということで,製造子会社には利益があるんだけれども,親会社には利益がないと,少ないということが類型的に生じ得るわけでございます。そのような場合に,子会社に配当可能額があって,そういう場合にはグループ全体として見て,配当可能利益があるのであれば,親会社の株主に配当可能とするというようなことで,親会社の株主に不利益が生じないような仕組みを導入したらどうかということであります。   それから,グループ会計開示ということで,今後,IFRSが導入される中で,IFRS基準と日本基準の選択ということが必要になってくると。それから,グループ経営をしていく中では,単体と連結をどうしていくのかという問題も生じるわけでございまして,この問題について統一を図ると,負担軽減を図るということが必要ではないかということでございます。   このようなグループ経営の合理化のための措置を講じた後,次に株主保護制度の検討に入るわけでございますけれども,まず,考え方としては次のようになっております。21ページでございますけれども,現状の法制度の問題として,例えば純粋持株会社を設立してグループ経営を行うという場合におきましては,主要な事業活動は子会社を通じて行われるということでございますので,株主権の縮減という問題が生じるということであります。あるいは先ほど静委員から御指摘があったように,上場企業について新たに支配株主が現れましたと,あるいは支配株主に変更がありましたということになって,新しい支配株主の下でグループ経営が展開されるということになれば,従来とは違った世界が従来の株主にとっては生じるということであります。そして,支配従属関係が継続されている場合には,親会社の圧力の下で,子会社にとって不利な取引が強要されるかもしれないということであります。こういった問題点に対して,それぞれ反論が想定されるわけですけれども,例えばこういった株主権の縮減というのは,法的保護に値するほどの重大な問題なのかと,あるいは支配従属関係にある企業間で子会社にとって不利益な取引があるとして,それは本当かと,そういう問題があるわけでございまして,こういったときにグループ利益を優先するのか,あるいは子会社の利益を優先するのかということについては,今のところ,定まった考えはないということであります。グループ経営といっても多様なものでございまして,これらに対して何らかの画一的な規制を導入するというのは,ちょっとグループ経営の効率を害するのではないかということであります。しかしながら,こういった懸念に対して何もしないということですと,安心して投資をすることができないということでございまして,夜もおちおち寝ていられないと,夜が明けてみたら支配株主が登場していたということにもなりかねないということでございまして,そう考えますと,任意の措置も含めまして,今,どのようなことができるのかということをきちんと整理して,不足があれば補うということが必要ではないかと,考えられるわけでございます。   そこで,株主保護制度の具体的な検討でございますけれども,26ページに提案12として上からの規律というのが挙げられています。上からの規律というのは親会社株主保護なんですけれども,類型としては2種類ございまして,第1類型が事前の規制ということで,第2類型が事後の救済ということです。事前の規制につきましては,立法提案としては子会社の重要な意思決定について,親会社の承認を取るべきだと,こういう立法が外国にございまして,こういったものを日本に導入すべきだというような提案がございます。しかしながら,もともと,こういったグループ経営をしていく趣旨として,できる限り,意思決定を分散化して,それぞれの持っている会社の長所を生かしつつ,グループ全体としての最適化を図っていこうというのが,このグループ経営の趣旨でございますので,こういったグループ経営の機動性あるいは柔軟性を阻害するような制度を一律に導入するということについては,我々は消極的であります。現行法を前提といたしますと,例えば親会社の取締役を通じて間接的にではありますけれども,子会社の事業活動を監視・監督できる仕組みが何らかの方法で具備されるのであれば,親会社の株主が直接に子会社の事業活動を監視・監督すべき必要性は,減少するのではないかと考えられるわけでございます。例えば純粋持株会社について,重要な子会社の代表取締役について親会社の役員を兼任させるであるとか,あるいは取締役ごとにどの子会社の監督をやるんだということを明確にすることによって,人事上,親会社の株主が親会社の役員の責任を追及するということを容易にするということも考えられるわけであります。あるいは子会社の重要な意思決定のうち,例えば全部の事業譲渡のように,親会社の基礎の変更にも当たり得るような意思決定については,親会社の株主総会の承認を取るということを定款で任意に定めるということも考えられるわけでございまして,そういった人事上の配慮であるとか,あるいは任意の定款の定めによりまして,安心して親会社に投資ができるというような環境を具備していくということが期待されるのではないかと考えます。したがいまして,こういったものを逆に義務付けるということについては消極的でございまして,例えば親会社の株主に対して重要な子会社の意思決定について,きちんと責任を果たしてくださいというような任意の措置あるいは自主的な取組,こういったものが重要になってくるのではないかということであります。   事後の救済につきましては,多重代表訴訟を認めるべきだというような,制度化すべきだというような立法提案がございます。ただ,こちらにつきましても,どういう人に原告適格を認めるべきか,あるいはどのようなケースで代表訴訟を提起できることとするかについては,なかなか困難性がございます。諸外国におきましても,多重代表訴訟が制度として存在するというよりも,極端な事案を具体的に適切な回答を見出すために,多重代表訴訟の制度になっているというような判例の世界で形成されているものではないのかなと考えます。そのように考えますと,現行の会社法や不法行為法でよることができないというような極端な場合を想定して,多重代表訴訟の制度を立法により手当てすることは困難ではないかと考えます。そこで,親会社株主としては,子会社を監督する親会社の取締役の解任や,あるいは求償などを通じて救済されるというような原則にのっとるべきではないかと考える次第でございます。   28ページ,29ページは,今度は逆に下からの規律ということで,子会社株主保護のことについて書いてございます。従来,子会社株主保護については,30ページにありますような支配従属関係継続時の従属会社の株主保護について,様々な研究がなされてきた次第でございます。例えばドイツのコンツェルン規制などがそうですけれども,親会社に対して子会社をしっかり守ってくださいと,こういう義務を課して,きちんと指揮権を与えると,親会社が子会社に対する指揮権を与えるということで,子会社に損害が生じた場合には子会社の株主は親会社の役員に対して,代表訴訟を提起することができると,こういうような立法でございますけれども,日本におきましてはドイツと異なりまして,親子上場の慣行・習慣がございまして,子会社には多数の株主が存在するということでございます。そういう中で,こういったドイツ型のコンツェルン規制みたいなものが導入されると,果たしてグループ経営の効率を害することにならないかという問題意識がございます。そもそも,こういった親子間にある企業間で,子会社に不利な取引が強要されているのかについても十分な事例の蓄積がない,あるいは先ほど静委員からお話があったような上場ルールで予防的に措置できるというような部分も,多いのではないかと考える次第でございます。そこで,どういった子会社の株主に要保護性があるかということを考えますと,親子上場が行われているケースにつきましては,子会社株主は親会社が存在するということを知って,ある意味,親会社から何らかのメリットがあるのではないかということを若干期待しながら,株主になっているのが実態ではないかと考えるわけでございます。そう考えると,そうでない株主について保護の必要性があるのではないかということで,これが29ページの(@)の支配従属関係形成時の対象会社株主保護でございます。ヨーロッパでは,対象会社の支配をもたらす一定割合の議決権を保有したものに対して,全株主を対象とするTOBを行うということを義務付ける制度が導入されているわけでございます。特に日本におきましてはTOBや市場での取引のほか,第三者割当てを通じて支配株主が登場し,あるいは異動するということが類型的に想定されるということでございます。そう考えると,我が国におきましても,このような支配株主の登場時又は異動時において,新たな支配株主の下でこの会社が経営されることになったという場合に,残余の株主について適正な価格で退出することができる仕組みを検討すべきではないかと考えます。29ページの下のほうに,具体的な制度の提案もございますが,例えばTOB時に任意のセルアウトを行う,あるいは買取請求権の整備として会社が支配株主に対してツケ払い,ツケを払ってくださいというようなことができるようにする,あるいは直裁に支配株主に対する買取請求,こういったものも検討の選択肢に入るのではないかと考えている次第でございます。   そのように支配従属関係が形成される段階におきまして,従前の株主について退出のチャンス,残るか,あるいは出ていくかというチャンスが与えられると。それから,支配従属関係継続時については,それと知って取引関係,株主になっているということでございますので,そうなると,残された(A)の支配従属関係継続時の従属会社株主保護については,取引関係の透明化を図る措置,こちらが必要になるのではないかということでございます。例えば上場ルートが金商法の情報開示によることも可能でしょうし,あるいは31ページの「そして」のパラグラフの真ん中辺りの「例えば」のところにございますが,親子会社間の取引について会計監査人による監査などの仕組みに加えて,子会社株主の求めにより選任された検査役が親子会社間の取引に関する調査報告を行うことができる制度,こういったものによって親子間の取引を透明化して,株主になっている人が安心して株主でいられるような仕組みを整備すべきではないかと考える次第でございます。   最後に,コーポレート・ガバナンス,第4章でございます。先般,証券取引所等の御協力を頂きまして,独立役員制度を導入しております。ただ,導入してみますと,多くの会社が独立役員を1名しか選任していないということでございまして,一部,まだ選任していないという企業もございます。その背景として,現行の会社法の社外役員の規定が,過去に一度でも従業員であった人について社外役員になれないと,こういう規定になっているわけですけれども,そのことによって対象となるべき人の幅が狭いのではないか。特に独立役員になった場合には取引関係が入ってくるわけですので,過去に取引関係があった会社にいたことのある人について,独立役員になれないという問題があるのではないかと考えております。そこで,一定期間経過後は社外独立役員に選任できるように,諸外国並みに対象となるべき人材の幅を拡大していただきたいと考えております。   続きまして,従業員選任役員制度でございます。こちらは提案15でございます。前回のこの部会におきまして,逢見委員から提案がございました従業員役員,従業員選任監査役制度でございますけれども,確かに選任プロセスに経営陣が関与していないということで,経営陣からの独立性が高いということで,コーポレート・ガバナンスの向上に資する可能性があるとも考えられるわけでございます。このような仕組みはヨーロッパにも類例が多いということでございます。一方で,日本の特徴としてヨーロッパとの違いとして,企業内組合が基本になっているということで,労働組合の幹部が将来,経営幹部に昇進するケースも多いということであります。35ページのグラフにかいてありますとおり,私どものヒアリングの結果,18%の企業が労働組合幹部というのは出世コースで,将来,経営幹部になると。ちょっと見づらいですけれども,47%が可能性があると言っているわけでございまして,このような日本の企業内組合の実態を踏まえると,果たしてこれが経営陣の牽制・監督に機能するかということについては疑問なしとしないと,萎縮してしまうのではないかという懸念であります。あるいは,一部の企業から寄せられているのは,労使の対立がある場合に,これが役員会に持ち込まれると経営を混乱させることになるのではないかという懸念がございます。したがいまして,この制度につきましては,株主による選解任権の担保,あるいは代表訴訟による規律,社外・独立役員による監視,あるいはスタッフの充実など,労使のなれ合いを防ぐと,こういった仕組みが必要になってくるのではないか。あるいは労働組合幹部が直後に就任することはできないというような仕分けも,必要になろうかと考える次第でございます。36ページになりますが,日本の場合,約4,000,大体3,700の上場企業があるということでございまして,企業の規模,業態,労使関係,経営統合の経緯など,様々な事情の差がございますので,こういった制度を一律に義務付けするということについては,慎重な検討が必要なのではないかと考える次第でございます。   36ページ,37ページは,機関設計の柔軟化でございます。先般の前回の会社法,商法の改正によりまして,委員会設置会社の仕組みができておりますが,実際には2%少々の企業しか,この仕組みを活用しておりません。それでは,執行と監督を分離していくというような委員会設置会社の発想自身が間違いだったのかというと,それは必ずしもそうではないと考えております。私どもが行ったアンケート調査によりますれば,約6割の企業が執行役員制度を導入していると,それから,約3割の企業が監査役会とは別に,監査委員会あるいは内部統制委員会のような委員会を設けていると,あるいは8%の企業が報酬諮問委員会のようなものを設けている,あるいは5%の企業が指名委員会みたいな委員会を設けているということでございまして,経営の執行と監督を分離していこうというようなものについては,一定のニーズがあると考えております。そこで,新たな提案としては,37ページの上にありますとおり,3種類の機関設計の類型を考えたらどうかと。@は委員会設置会社ということで,これは現行と同じでございます。B,これは監査役会設置会社ということで,これも基本的には同じなんですけれども,先ほどの委員会を設置したいというニーズがあるということを踏まえまして,任意に委員会を設置できるというようなことに改めるということであります。そして,新しいのが真ん中の合同監査委員会設置会社なんですけれども,監査役会と例えば内部統制を担当するような内部統制担当の取締役のような,そういったものを兼務できるようにすると。監査役が非業務執行の取締役を兼務できるようにして,その非業務執行取締役兼監査役が監査役会あるいは監査委員会の間のような合同監査委員会を組織して,経営の執行の監督に当たると,こういう仕組みでどうでしょうかということであります。この場合においても,委員会を設けたいというニーズがあるようですので,これに対応できるようにすると。一方で,社外役員をどうするのかと。こういう御質問もあろうかと思いますけれども,確かに諸外国では,上場企業においては半分を社外役員としてくださいと,こういうようなルールがあるわけでございますけれども,実際には社外役員を置いている企業のほうが少ないということでございますし,そのうち,ほとんどが1人とか2人とか,ごくわずかの社外取締役しか置いていないということであります。そういう前提の下で,形式的に半分であるとか,3分の1であるとか,そのような義務をすることについては,わら人形のような取締役を増やすということで,コーポレート・ガバナンスの実質に向上しないのではないかというような心配がございます。そこで,社外役員,独立役員を過半数以上組織した場合には,何かメリットがあるということにして,義務ではなくてメリットでこういうことをすればいいことがあるよという方向で,社外独立取締役の導入を促進すべきだと考える次第でございます。それが37ページの「また」のパラグラフで書いてあることでございます。   38ページ,監査役によるガバナンスということですけれども,こちらについては先ほどお話ししたとおり,監査役が非業務執行の取締役を兼ねるということができるようにして,監査役の監査の結果が報酬や人事に反映できるようにするということで,現行の監査役の諸問題を解決する余地があるのではないかと考えている次第でございます。現行の監査役の独任制を生かしながらも,それが報酬や人事に反映できるということを御検討いただきたいと考えております。   それから,株主によるガバナンスということでございますけれども,39ページですけれども,こちらでは無記名投票あるいは議決権行使状況の開示,それから,実質株主の開示・登録,こういった仕組みを整えることによって,株主が安心して議決権を行使することができる,あるいは会社側にとってみても株主と対話ができると,こういうような環境を整備していただきたいと考えております。   それから,40ページが提案19でございまして,総会運営の明確化ということで,現行では会社法上,株主総会の運営については特段,定めがございませんけれども,今後,株主総会をめぐって紛争が生じる,あるいは株主総会における議案の議決権行使結果を開示するということになりますと,株主総会の運営のルールを明確化していくことが必要になってくるわけでございます。また,企業側におきましては,昨今のIT技術の向上を踏まえた株主総会の運営の合理化・効率化についても一定のニーズがございます。そこで,40ページにございますとおり,事後の集計,事後の投票,あるいはインターネットでの中継,サイバー総会といった株主総会の運営の合理化の仕組みについても,検討をお願いしたいと思っております。   最後,42ページ,43ページはエンフォースメントの部分でございまして,企業行動の規律の在り方ということで,課徴金制度,無過失責任制度あるいは過料の仕組みについて,所与の見直しを図っていただきたいという要望でございます。   以上,長くなりましたが,私からの報告を終わりにします。 ○岩原部会長 どうもありがとうございました。   それでは,ここから質疑応答と議論に入りたいと思います。静委員と奈須野幹事の御報告について御質問がございましたら,御自由に御発言を頂きたいと思います。また,併せて静委員と奈須野幹事の御報告を踏まえ,御意見と御議論を頂きたいと存じます。 ○荒谷委員 奈須野幹事の御提案は,従来の制度に比べますとかなりドラスティックな内容だと思いますので,取りあえず,二点ほどお伺いしたいと思います。   まず,一つ目は14ページの提案4,会社による選択的対価制度を創設するということについてですが,組織再編に当たり株主の側から選択権を行使できるというのは,その賛否は別としましても,理解できないわけではありませんが,会社側が自分の都合で株主の属性などによって,対価の種類を選択できるとすることは,仮に正当な理由があるということを説明したといたしましても,具体的にどのような場合が正当な理由として認められるのかという点もよく分かりませんし,いずれにしても株主平等原則に反するのではないかという気がいたします。この場合,実際に異なる種類の対価間の価値の均等はどうやって担保するのか,それから,これを望まない株主には,どのような手当てをするのか,それから,この点はちょっと聞き逃したかもしれませんが,会社が選択した株主グループ以外の者にも,常に対価の選択権を与えるのか,それとも,例えば,株主の売主追加請求権のように選択権の追加請求のような形で,株主に会社が選択した株主グループと同じ対価を選択することを認めるといったことをお考えなのか,その点についてお教えいただければと思います。   それから,もう一点ですが,これは資料の36ページ以下の提案16,それから,17に関連してお伺いしたいのですが,機関設計の選択肢といたしまして取締役が監査役を兼任することを認めて,この監査役兼任取締役によって構成される,いわゆる合同監査委員会というものを新たに機関設計の選択肢の一つに加えてはどうかという御提案ですが,我が国では既に業務執行と監督機能を分離・分掌するという観点から,業務執行権限を有する取締役による監査と,監査を専門に行う監査役監査という,いわゆる二重の監査システムを採用するとともに,監査される者と監査する者が同一人であることは,その趣旨から見て妥当ではないとの観点から,取締役と監査役の兼任を禁止するという制度がずっと維持されてきたわけです。今回の御提案ですと,監査役が取締役を兼任することを認めるということですが,そういたしますと,監査役はその名前が変わるだけで,いわゆる業務執行を担当しない取締役と実質的には同じということになりますので,監査役を置く意義そのものがなくなってしまうのではないか。もっと言うと,監査役制度そのものを見直すことにもつながるかなりドラスティックな御提案なのかなという気がいたしました。ただ,前回の参考人の方々のお話ですと,現在の我が国の監査役制度,監査役と取締役会による二重監査制度を,海外の機関投資家の方々に説明し,理解していただくことはなかなか難しいとのことでしたので,新たに合同監査委員会というものを設置するということになりますと,更に説明が難しくなるのではないかという気がいたします。つまり,監査役と取締役の兼任を認め合同監査委員会を設置するということになりますと,執行機能と監督機能の分離・分掌という観点から見ると,私自身,この制度をイメージし,理解することが難しいというのが率直な感想です。そこで,この制度を具体的にイメージするために伺いたいのですが,御提案の合同監査委員会と,取締役会の業務監査機能とはどのような関係になるとお考えなのでしょうか。また,この場合,監査役制度を廃止する趣旨ではないと私は理解したのですが,その場合,取締役を兼務する監査役と従来の監査役と2種類の監査役が存在するということになるかと思いますが,その場合,この2種類の監査役あるいは監査役全体について,権限,職務内容あるいはその責任について,どのようにお考えになっていらっしゃるのかお聞かせいただければと思います。 ○奈須野幹事 まず,会社による選択的対価の制度なわけですけれども,確かに見かけ上,株主平等原則に反するようにも見えるわけですけれども,我々の理解としては,そこは実質的に考えていくことも許容されるのではないかと考えております。その背景として,そもそも,このような自国の国民を保護するような法制を海外に域外適用していくということ自身がルールとして疑問があるということで,ヨーロッパにおきましては,こういったような選択的対価の仕組みも,株主平等原則に反するものではないという理解で,運用されているものと考えております。そういう中で,日本が国際競争に負けないようにするためには,外国のおかしな仕組みがあるからといって,それを唯々諾々と従うのではなくて,もっと戦略的に会社法制度というものを,自国の競争力を維持するために活用していくということも,必要なのではないかと思っております。ただ,これは飽くまでもアメリカにおけるSECルールの域外適用が問題となっている局面でございますので,そのように考えると,会社法におきまして恒久的な仕組みとして存置するのではなくて,もしかしたら時限的な仕組みとして,別の特別措置法などで対応するということも考えられるかもしれません。これが一点目でございます。   もう一つ目が合同監査委員会なんですけれども,問題意識としては先ほど荒谷委員から御指摘があったとおり,外国の機関投資家から見ると,取締役と監査役の違いが説明困難であるというようなことが動機としてございまして,そういう中で実際にやっていることも,金商法の内部統制システムの義務付けなどを通じて,金商法上の内部統制の仕組みと会社法上要求されている監査役の職務とのオーバーラップの局面が大きくなっているようにも思われるわけです。そうだとすると,その両者を統合的にやるということについても,相応のニーズがあるのではないのかなと考えた次第でございます。それから,荒谷委員の御指摘の中で,監査役の中に非業務執行の取締役を兼ねる者と,そうでない者があり得るのではないかという御指摘がありましたけれども,我々としては一応全員が非業務執行の取締役を兼ねるということを念頭に置いておりまして,イメージとしては取締役としての権限を付与するのに近いものと考えております。これは非業務執行ですので,業務執行ではないということですから,代表取締役の業務執行を監督していくという意味では,共通性を有するというものではないかなと思っているという次第でございます。また,この仕組みを導入することのメリットとして,現在,監査役については社外監査役として半数,社外役員を置くということが義務付けられておりまして,この仕組みを前提といたしますと,社外取締役の導入が円滑化されると,そういうような効果もあるのではないか考えております。 ○三井幹事 先ほどの荒谷委員の御質問のうち,提案4のところに関するところを補足させていただきたいと存じます。奈須野幹事の参考資料11の14ページの下の注15というところに詳細に書かれているとおり,これは事実でございまして,アメリカの証券法,SECの規則におきまして,アメリカの取引所に上場しているわけでもなく,アメリカで特段のファイナンスを行っているわけでもない日本企業の株を,たまたま日本のマーケットで米国人株主が買ったとします。アメリカは資金力があって投資ファンドがたくさんありますので,その結果,アメリカ人株主全体として,一人ではなくて全体として,日本企業の10%を超える議決権を有するに至った場合,仮に企業再編を日本国内でいたしますと,その企業は全くアメリカに何の接点もないにもかかわらず,たまたまアメリカ人株主が一人又は複数でその会社の株式を買った結果,その株主が10%を超えるだけで,アメリカにあるSECに,日本で言う有価証券届出書に相当する書類を,英文で,かつ会計基準は米国基準又は国際会計基準に基づいて,提出しなければいけないという開示義務が掛かります。   これについては,世界中の実務家なり当局から不満があります。当局同士の話合いはオープンにはできないんですけれども,各国とも当局も含めて,それなりの問題意識を持っているということでございます。これに対してアメリカのSEC当局は,従来,これがはっきりした10%というルールになっていなくて,あいまいなルールであったところ,数年前に10%という基準を明確化したり,あるいは規制の内容を明確化したり,軽減化したというふうな説明をされていますが,アメリカ以外の企業にとっては,十分満足できる状況ではないと承知してございます。それに対してヨーロッパのある弁護士なり,あるいは当局の人から又聞きしたところでは,域外適用ですので,これに対してはむしろそれぞれヨーロッパの国によっては,自国の株主なり,会社なり,企業なり,国民の保護という観点から,それを不当と位置付けるのかどうかはともかく,受容できない規制として,規制の適用を受けなくてもいいような企業再編なりTOBができると扱われるという話を聞いたことがございます。したがって,TOBでは現に実務がございまして,日本の金融商品取引法でも株主に対しては平等に公開買付けというものを行うと,こういう規制になっていますけれども,事実上,アメリカの株主にはオファーを出さないという実務は,日本のみならず,各国でございます。したがって,奈須野幹事の御提案はその延長線上のものではないかと推察する次第でございまして,一般的に不平等取扱いをするということではなくて,アメリカの特定の特殊な域外適用に関するものと理解してございます。 ○八丁地委員 奈須野幹事のプレゼンテーションに関しまして,大変ありがとうございました。多様な提案があったわけですが,企業の立場から見ますと,会社法の問題である問題も,そうでもない問題もあるのではないかと思っております。企業側の率直な印象としては,ニーズが余りはっきりしない御提案が幾つかあったと思われますので,会社法の改正全体では立法事実を実務側と議論させていただく機会をこれから持たせていただき,慎重に検討を進めてはどうかと考えておりますので,よろしくお願いします。   以下何点か,個別の論点をコメントいたします。まず,企業の組織再編・M&Aの支援というパートの御提案の中で,特に企業側から強い要望がありますのは,株式買取請求権の見直しというところでございまして,これは是非,御検討いただきたいと思っております。それ以外の企業再編・M&Aに関しましては,大体,これまでの商法改正ですとか,会社法の制定等で手当てが済んでおり,現状の対応で不都合があるという具体的な事例は余り挙がってきておりませんので,この辺も是非よく議論をさせていただければと思っています。   それから,プレゼンテーションでは,グループ経営力,グループマネジメント,あるいはグループ総合力,ということへの経営の推進が非常に強くうたわれております。奈須野幹事も最初におっしゃられたと思いますが,現状の会社法の私どもが親しんでいる建て付けは,親会社と子会社は,それぞれ独立の別個の法人格であるという前提があります。これで会社法制定からでも数年間,更にそれ以前からも長期間この前提で実務を進めておりますので,是非もう一回,この前提を明確にするということをしていただきたいと思います。例えば法人選任取締役という提案がございましたけれども,親会社等により選任された取締役ということとか,親会社の指示の下で役員としての法的責任を負う場合ということは,現実にはあるのかという実務的なところからの議論の立て方をもう一回,御検討いただければと思っております。仮に小さい子会社であっても,取締役はその会社の株主総会で選任されるわけでありまして,事実上,親の意見が反映されるにしても,子会社の取締役としての善管注意義務とか,忠実義務を果たすという相手方は,当然,当該子会社であって親会社ではないということであり,この法人選任枠の取締役等でその責任を親に帰すということになると,かえって子会社の取締役個人のモラルハザード等があるのではないかという懸念があります。グループ・ガバナンスでも同様のことが幾つかございますので,これも是非,グループにした経緯でありますとか,競争力上の背景でありますとか,独立性や迅速性などの実務的な観点も踏まえて,よく議論をさせていただければと思っております。   それから,奈須野幹事には詳しい御説明はありませんでしたが,提案19の株主総会運営の明確化という項目の幾つかの御提案の中で,事後集計と事後投票に関しましては,少なくとも経団連の会社としては,そのようなニーズがあるという認識はほとんどありません。現在,株主総会の時期ということで申し上げるわけではありませんが,株主総会は企業の最高の意思決定機関でありますので,ここでの議決が確定しないということがもし想定されるのであれば,現状の株主総会の実務やそのあり方そのものを根底から変えなければいけないことを私どもとしては非常に懸念をしております。株主総会運営の明確化とありますが,私は実務では株主総会運営は現在で相当明確なものであるという信念の下に運営されていると考えますので,是非,御一考を賜ればと思います。   いずれにいたしましても,御提案に関する立法事実とか背景というところは,改めて議論させていただいて,進めさせていただければと思っておりますので,よろしくお願いします。 ○奈須野幹事 では,まず幾つかコメントできることについてお答えすると,例えば法人選任取締役につきまして,私どもがアンケート調査をやった限りでは,親会社から子会社に役員を派遣するときに,その者が親会社の指示の下で役員としての法的責任を負った場合に,親会社はどう責任を取るんだということについて,契約上,明確になっているのは6%にすぎないということでございまして,その結果,現在,親会社から子会社に派遣されている方の地位というものがどうなのかなと,こういう心配があるわけでございます。それから,いずれにしても,こういった仕組みについても我々なりに,それなりにアンケート調査を行って,一定のニーズがあるのかなというふうな印象を持っております。グループ・ガバナンスについても同様でございます。   それから,総会運営でございますけれども,今般,金商法の内閣府令が改正されまして,議決権行使結果を開示するということが義務付けられているわけでございます。これは別に1票1票を数えるということが,今,現時点では全部数えるということが義務付けられているわけではございませんが,仮に紛争になり得るべき事態になって,きちんと票を数えなければいけないということになった場合においては,過半数を超えていることが明らかであれば,あと,1票2票の差というのについては,事後に確認をするというような仕組みもあり得るのではないかと考えております。それから,事後の投票につきましても,諸外国におきましては株主総会を出るときに投票するというような仕組みを導入されているやに聞いておりますので,こういったものについてニーズがないというようなお話がございましたけれども,私どもも一応,それなりに企業さんからお話をお伺いして,そういうニーズもあり得るということを聞いておりますので,そこは企業ごとにそういう仕組みを導入した場合に,それによって総会決議取消しの訴えが起きるわけではないということを明確にすることに,意義があるのかなと考えた次第でございまして,これについてもまた追って議論させていただければなと思っております。 ○田中幹事 選択的対価と株式買取請求のことでコメントさせていただきます。組織再編の選択的対価というのは,日本人といいますか,アメリカ国民以外の株主に対しては組織再編の対価として株式を交付して,アメリカ人には現金を交付するということになるのでしょうが,その場合,公正な価格が同じであれば,特に上場会社なんかを考えたら,ほとんど変わりがないではないかというお考えはあると思うんですけれども,やはりその場合の公正な価格が幾らなのかというのが,そう簡単には分からないというのが正に問題になると思っております。こういうルールと,TOBにおいてアメリカ人からの買取りは制限するというルールとの違いは,組織再編の場合,現金を交付されるアメリカ人が不満を表明したときに,アメリカ人のほうが声が大きいとすると,そちらの不満を解消するためにはたくさん現金を配るということになるから,日本人といいますか,アメリカ人以外の株主にとって,必ずしも有利でない結果になる可能性があるということがあります。これは,TOBルールのときはなかったことで,TOBルールを考えるときは,アメリカが理不尽な規制をかけてくるのだから,日本の法制ではアメリカ国民は余り保護しなくてもいいだろうという,それ自体,問題がないわけではないとは思いますが,そういう発想でやれるんですけれども,この組織再編の選択的対価のルールについては,それとはまたちょっと違う問題が出てきてしまうのではないかなと思っています。   実務上,確かに非常に困っているんだということは,私もある程度,理解しているつもりですので,何か手当ては必要かとは思うんですけれども,やはり対価の公正という実質的な判断を要する問題が出てきてしまいますから,アメリカ人株主が多いことからアメリカの証券規制が掛かってきてしまうという,そういう特定の問題が起きるだけに限って,かつ対価の公正についてはある程度,行政庁の判断も及ぶというような,そういう仕組みにすることが考えられると思います。これは,恐らく会社法本体というわけではなくて,むしろ金融庁が所轄するかのような規制になることも考えられると思いますが,いろいろな可能性を含めて,考えていく必要があるのではないかと思っています。   次に,株式買取請求のほうですが,私は,株式買取請求について,内容に踏み込んだ提案をされてたことは大変良いことだと思っております。現在の株式買取請求というのは,本当にこの制度が本来意図しているような,会社の基礎的な変更があるときに株主にエグジットの権利を与えるという制度になっているのかどうかという問題があります。つまり一方では,子会社を吸収合併するような簡易の組織再編であっても,原則的に株式買取請求権が発生する一方で,例えば第三者割当増資で50%以上の株式を発行したりして,会社が第三者の支配下に入ったときには,この権利が発生しないというように,どういうポリシーでこの権利が認められたり,認められなかったりしているのかがよく分からない制度になっているわけです。ですから,その中で,一方では簡易の組織再編については,この権利は必要ないのではないかと提案をされる一方,他方では,第三者割当増資のような形で会社が他者の支配下に入る場合に,この権利を認めると。その場合,会社に対して認めるという制度にする必要は必ずしもなくて,むしろ支配株主に対して認めるという制度も十分にあり得ると思っております。こういった制度の創設も可能性も含めて検討するべきではないかと思っています。   それで,最後,御質問なんですけれども,17ページのところで提案6−2というのがあって,まず,現行制度の問題点の中で,「株式買取請求権の本来的機能としては,組織再編に反対する株主の投下資本回収としての機能や,組織再編の公正さのチェック機能が挙げられる」とあります。私はこれは大変画期的な議論だと思っておりまして,従来,学説はこういうことを言ってはいるんですけれども,必ずしも裁判所が正面から,この権利が組織再編の公正さのチェック機能を持っているんだと言ったものは,恐らくないのではないかと思います。で,この説が学説で言われることの実質的効果は何かといえば,もしもこの権利について,反対株主の投下資本回収としての機能だけを強調すると,組織再編があると知って株主になった人には,もうこの権利はなくてもいいだろうという議論になるわけですよ。だけれども,チェック機能というのを強調すると,悪い組織再編が行われようとしているのではないかということで株式を購入して,この権利を行使するということも,決してこの制度の趣旨に反することにはならないという議論になるわけです。そうすると,後の対応案のところで,17ページの最後で組織再編に関する株主総会の招集通知発送時などに,組織再編に関する議案の内容を公告した後で株式を取得した者は,株式買取請求の適格を認めないというのは,この制度の趣旨を組織再編の公正さのチェック機能も持つと認めることとどうかかわってくるのか。組織再編のチェック機能というのを認めたら,別にこの場合に株式買取請求権を認めない根拠は必ずしもないんですね。むしろ認めるという方向に持っていく議論だろうと思うんですね。今現在,株式買取請求が非常に濫用的に使われていると見られているのは,私の理解では,税制の問題とか,あるいは金利の問題とか,株式買取請求制度自体の問題というよりも,種々の周辺的な制度のゆがみの問題だと思っております。制度改正によって,それらのゆがみを是正することができれば,悪い組織再編が行われようとしていることを知って株式を買い,その上で,この権利を行使しようという者に対して,必ずしも法的な制約を課さなくてもいいのではないかと思うのです。この点についてお考えをお聞きしたいと思います。 ○奈須野幹事 田中幹事のお考えはそのとおりでございまして,原則は恐らく総会決議を分水嶺とすべきだろうかなと思うわけですけれども,一方で,濫用的と思われるような,田中幹事は濫用ではないとおっしゃるかもしれませんけれども,事態もあるわけで,そういう中でどこで分水嶺を設けることが実務的なニーズと,田中幹事がお考えになるような,あるいは我々が考えるような理論的な部分との整合性が取れるかということで,現行は早い段階で組織再編をアナウンスするという慣行があるわけですけれども,そこの段階を分水嶺とするわけではないということで,それよりも後だけれども,株主総会よりも前ということで,中間的な案を考えてみたということでございます。 ○前田委員 株式買取請求権について,濫用的な行使を抑えるための手当てが必要だという御提案につきましては,私も賛成なのですけれども,他方,株主権の希釈化等がない場合に,株主総会決議も株式買取請求権もなくてよいとされている点につきましては,疑問があります。対価として株式が交付されずに,株主権の希釈化等がなくても,会社に著しい損害が生じるということはあり得ると思うのです。典型的には,ひどい実質的債務超過会社を吸収合併するというようなケースがそうですけれども,その場合に株式買取請求権がなければ,結局,株主には実効的な救済の手段がなくなってしまいます。ですので,何か別に,例えば略式の手続に倣って差止めの制度を入れるとか,代替的な救済措置を手当てするならともかく,希釈化等がないというだけで株式買取請求権をなしにしてしまうわけにはいかないと思います。   それから,ほかに例えば法人選任取締役という御提案は,非常に興味深くお伺いしたのですけれども,法人選任取締役の枠が子会社に設けられますと,親会社以外の株主はその枠の取締役選任には関与できないことになる。したがって,選任につきましてはあたかも選解任種類株式に似たような側面が出てくると思うのです。そういたしますと,選解任種類株式のところで議論されましたように,公開会社でこのようなものを認めて濫用のおそれはないのかということが気になるところです。むしろ,この法人選任取締役の制度が,御指摘のように,責任関係を明確化するということをねらっているのであれば,端的に親会社の不当な影響力行使で子会社に損害が生じたときに,親会社自身の責任を認める制度を構築することを考えるほうがいいのでないかと思いました。   あと一点,株主保護制度の検討のところで,上からの規律ということで,子会社の基礎的変更等に親会社株主を関与させる制度ですとか,あるいは多重代表訴訟の制度につきましては,法的な規制を設けることに,現段階では消極的なお立場であるとお伺いしたのですけれども,しかし,昔から指摘されておりますように,ある事業を子会社の形で行うか,それとも一事業部門で行うかは,株主から見れば,実質的・経済的には同じことです。そして,経済的実質が同じであれば,できるだけ同じ規律を適用するのが望ましいということは,平成17年の会社法制定のときにも言われていた基本的な立法の考え方だと思います。確かに,御指摘にございますように,技術的にいろいろ難問は出てくるとは思うのですけれども,少なくとも完全子会社については,そう複雑な問題はないのではないか。ですから,検討してみて,どうしても技術的に無理だというなら仕方ありませんけれども,少なくとも完全子会社についてだけでも,ここは前向きに検討すべきではないかと思います。特に多重代表訴訟の制度は,もしこれがなければ,完全子会社の取締役というのは事実上,およそ責任追及される可能性はないのですね。正しく定型的な提訴懈怠の可能性が存在しているわけであって,それを放置しておいていいのかという問題意識を持っております。 ○神作幹事 私も結合企業に関連する点につきまして,三点,コメントさせていただきたいと思います。第一点は多重代表訴訟制度に関連することでございまして,今,前田委員が御指摘されたことと全く同様ですので,その点は省略させていただきたいと思いますが,多重代表訴訟には下から上への多重代表訴訟というのもございまして,子会社の少数派株主が親会社ないし親会社の取締役に対して子会社に生じた損害の賠償を会社に代わって請求することの可否及び要件が問題となります。このような下からの代表訴訟についても,上からの場合だけでなく検討する必要がございますし,現にドイツ法ではそのような制度が既に導入されています。ドイツ株式法148条でございますが,2005年に新設された株主代表訴訟に類似の制度の中で,当該会社の取締役の責任追及だけではなくて,影響力を行使した者が会社に対して与えた損害についても株主訴訟の対象とすることが可能ということになっておりますので,親会社であれ,あるいは支配株主であれ,親会社の取締役であれ,子会社に対し支配的影響力を行使したことにより子会社に損害を与えた場合には,当該子会社の株主が影響力を行使した者に対し代表訴訟を起こすことができると規定されております。現にそのような法制を既に導入している国もありますので,この点も前向きに検討されるべきではないかと思われます。   第2に,奈須野幹事の御報告の中で,グループの配当金の考え方ですけれども,これはやはり非常に興味深く伺いまして,例えば配当など子会社に上がった利益を親会社の配当に使う場合についてのルールについて御提案がなされております。もっとも,これは原則として法人格が違えば独立した別々の会社だという会社法の大前提の例外といいますか,親子会社関係あるいはグループ会社関係に特有な問題とも言えまして,恐らく24ページ以下のグループ配当金の問題というのは,単なる会計の問題に尽きる話ではなくて,例えばドイツ法の下では利益移転契約あるいは一部利益移転契約という結合企業法上の問題として,結合企業関係に特有の規律に服することになるものと思われます。そのときには,単に開示をすればいいという話でなくて,特に従属会社の少数株主及び債権者のための規律を手続的規律も含めて会社法上考えることが必要になると思われます。私は,立法事実として,グループ会社の場合には,形式的には法人格が別であり独立して運用されているといっても,経済実態としては必ずしもそうでない場合というのがあるのではないかと推察しておりまして,そのような場合があるとしたら,やはり実態と法律とを合わせるべく努力をしていくということは考えられる論点で,グループ会社間の利益移転の問題を含め,今後の議論において取り上げていただければ大変有り難いと存じます。   第3は,結合企業法制の入口規制をするかどうかにかかわる論点です。支配権が移転したり,新たに支配権を取得する場合に退出権を認めるべきではないかという問題提起がございましたけれども,これは国によっては公開買付法の中で行っているという国もあるようでございまして,結合企業法について検討する際には,どうしても公開買付法と会社法上の少数派株主保護との役割分担ですとか,その要件や効果についての調整は議論する必要がどうしてもあるのではないかと思いましたので,その点も追加させていただきます。 ○伊藤幹事 私のほうからは奈須野幹事の御報告の中で,企業の組織再編とM&Aの支援というところでおっしゃったことについて幾つか述べたいと思います。株式買取請求権については既に幾つもお話がありましたので,選択肢の多様化というところでおっしゃったことについて,幾つか申し上げます。   八丁地委員が,このあたりについては実務のニーズが定かではないとおっしゃったところで尽きるのかもしれないんですけれども,例えば最初,自社株対価TOBの利用を促進するために,こういう場合には検査役調査を要らないようにしたい,あるいはてん補責任を取締役が負わないようにしたいという話がございました。こういった新株発行の際の検査役調査というものが債権者の保護のためになるのかということについては,争いがございます。けれども,少なくともこれらが,既存の株主を保護するための制度であることについては,争いはないかと思います。奈須野幹事から配布いただいた詳細な資料で申しますと,9ページから10ページ辺りのところで,検査役調査とてん補責任を免除するということが書かれているわけですけれども,そうすると,買付者たる会社の旧株主の利益はどのような仕組みで保護されるのかということが心配になってくるところでございます。   それから,会社による選択的対価制度の創設という話で,複数の委員ないし幹事から既にお話はあるところでございますけれども,私としてもこれはやはり株主平等原則と矛盾する可能性が極めて高いと思います。三井幹事のほうからは,こういうことによってフォームF−4の適用を免れるニーズは極めて高いのであるという話がありました。しかし,このような制度を仮に会社法制上設けるとしまして,適用範囲をそういう実際のニーズがあるものに絞れるかどうかが分かりません。会社法が制定されたときに,全部取得条項付種類株式というものが当初は100%減資を行うための制度として考えられていたところが,適用範囲が結局は限定されなかったために,一般的に締め出しの手段として,今,使われているわけでございます。そうしますと,選択的対価制度というものを仮につくってしまいまして,しかも適用範囲をやはり限定できなければ,今度は対象会社の株主のうちで一部のみを締め出す一般的な方法となる可能性が高いと思われます。そういう意味で,かなり問題は多いのではないかと思われるわけです。   それから,奈須野幹事の配られた資料でいいますと,9ページの注6というところがございまして,「産活法による手当を行うことも考えられるが」と述べられているわけでございます。しかしながら,そもそも,こういうふうな会社法制のかなりの根幹にかかわるルールについて,産活法によって何かルールをいじるということ自体についても,慎重であるべきではないかと思います。 ○三原幹事 まず,第一に東証の静委員へ,また一部について奈須野幹事へ御質問させていただきます。今日のお話はほとんどが上場会社を中心にしたお話ですが,会社法としましては,第1回での議論のとおり,非上場の一般の普通の会社もあるわけでございます。会社法を,上場会社あるいは有報提出会社を念頭に置いて改正するかどうかという議論は,重要な問題ではございますけれども,我々在野法曹としては,それ以外の一般の非上場の普通の中小企業ということも念頭に置いて,いろいろ日々,業務をしているわけでございますので,この辺の視点がどうなのかという問題意識もございます。もう少し細かいことを申しますと,上場会社の場合,上場申請中の会社の場合,これから上場申請する会社の場合,あるいは上場審査や上場承認が終わって公募している会社の場合もありますし,それから,上場後に上場廃止になってしまった会社もあり,その場合には,上場廃止の直後もまだ有報提出義務が若干残っている会社の場合もあるわけですが,上場という点をとってもこのような様々な場合があり,いずれの段階から独立役員の選任義務が生じるかなど,会社としての負担はどこからどこまでになるのか。こういった視点については,どう考えておられるのかということが第一の質問でございます。   それから,二つ目は,奈須野幹事よりお話のありました法人選任取締役につきまして,親会社から来た取締役は,誰に対して善管注意義務や忠実義務を負うのかという点が明確ではなかったように思います。選任の経緯は別にして,選任された以上は取締役としてその会社に対して負うのではないか,それとも,忠実義務なりは親会社から来たので親会社に対して負うのか,この点がよく分かりませんでした。   それから,三点目としましては,先ほど八丁地委員から御説明のありました立法事実ということは,我々も非常に重視しているという点です。例を申しますと,先ほどの組織再編での選択的な対価という議論の中で,F−4の問題がございました。この点につき,良いかどうかは別にしまして,実際の実務を申し上げますと,F−4の問題がありますと,こういう再編を検討しているときに,事実上,公表前に米国弁護士からは,場合によっては,SECレビュー期間として3か月から4か月掛かるかもしれませんという助言を受ける場合もあり得ます。米国法の10%基準という点も公表日の60日前を基準に決定するというのが原則でありまして,そうでない場合には更に何十日かさかのぼれるというルールになっておりまして,常に直近の3月末の株主名簿の基準日を利用できるというわけでもありません。そうなりますと,公表直前の株主の調査をすることになります。調査する場合にも独立の調査会社を雇わなければいけないという要請を求められる場合があります。その上で確認の手続をしなければいけない。ですから,実務では非常にF−4の適用そのものが負担になっています。また,実際にF−4の提出が必要となる場合には,この組織再編は断念するという場合も実例としては存在し得る可能性があるぐらい非常に重いわけでございます。以上の次第ですので,それが良いかどうかは別にして,こういうニーズがあるという立法事実としては,若干,御紹介したいと思いまして,例として挙げさせていただきました。それから,伊藤幹事より御指摘のあったように,選択的対価を会社法に導入した場合,その適用対象をF−4の場合だけに限れるのかという点が,これも大きな問題でございます。会社法において,F−4の場合には選択的対価を適用すると規定することは難しいと思いますので,そうすると何%以下の株主にはキャッシュアウトだ等という規定を導入するなどという話になってくるおそれもあります。したがいまして,F−4への対応というニーズの問題はあるんですけれども,それを会社法として導入したときに,どういう建て付けがあり得るのかというのはすぐにはよく分からないと思います。   それから,最後に総会の事後投票という御提案がございましたが,これは現在もある制度として,例えば投票を電子的にして,そこで総会が終わるのか,それとも,総会の期日が終わって,例えばあと3日以内に事後投票をしてくださいという話で御提案なのか,いかがでしょうか。総会が当日に完結しないのかというところが,電子的な投票とはコンセプト的には随分違う話でございまして,その日にすぐ総会が完了し,通常は有報提出会社であれば,その直後に有報を出して完了という話なのですが,事後投票制度では,その日にはまだ総会決議が確定しないとなると,つまり,何日かするとそれが分かりますということで事後投票を提案されるのか,そのあたりの御趣旨が分からなかったのですが,もしも,その点につき御説明いただければ有り難いと思います。 ○静委員 私が今日,申し上げて御検討いただきたいと申し上げた中には,確かにどこまでを適用範囲にするのかということがあり,ここもよく考えなければいけない問題はあると思います。また,少数株主が存在するということを前提にしたものもあるのだろうと思います。ただ,建て付けの問題はあるかもしれませんが,例えば先ほど御指摘の独立役員の件でいえば,定義とか権限とか責任ということを明示することが大事だと思っておりますので,独立役員を置くこととか,何人置くかといったことについては,会社によって,あるいは上場している,上場していないによって違うので,上場している取引所の市場開設者が決めるといったような柔軟な仕組みを採っておかないと,確かにお話のとおり,未上場の会社とか,未公開の会社は関係ないだろうということになるかと思っております。それから,逆に上場会社でもいろいろな市場があるので,それに全部,同じ規制をダイレクトに適用していいのかというと,それぞれ違った適用の仕方があり得るだろうということでございますので,そういうところは配慮すべきと考えております。 ○奈須野幹事 法人選任取締役や株主総会については,また,機会を改めて御説明を頂く機会を与えていただいたほうが,きちんと整合的な御説明ができると思いますので,そのようにしたいと思います。   それから,公開会社,非公開会社については,原則として公開会社を対象に考えています。公開会社でない会社,上場会社でない会社を論点にいたしますと,我々とは中小企業振興であるとか,あるいは持分会社の利用拡大であるとか,ちょっと論点が拡散してしまうので,今回では挙げなかったということで,問題意識としては持っているということです。 ○岩原部会長 三原幹事が御指摘のように,非公開会社も非常に重要でありまして,静委員が先ほど御報告されました第三者割当て等の問題は,ある意味で非公開会社では持分割合希釈化の問題がより深刻とも言えますので,それはここで検討しておく必要があると思います。 ○上村委員 まず,最初に取引所の件ですけれども,かねてより私は何か世の中で不祥事とかが起きますと,三井幹事に怒られるかもしれませんけれども,マーケット絡みのことがあると,これは東証が悪いと,会社絡みのことがあると公認会計士が悪いというようなことがあって,それはどうかなという気持ちがあったんです。しかし,今の会社法は有限会社が株式会社だというところまでいっておりまして,マーケットとの距離がかなり開いておりますので,やはりもうそうも言っていられないと思います。つまり,取引所が一定の役割を当面,果たさざるを得ないということは確かだろうと思います。   ただ,やはり取引所の役割と機能といいましても,例えばイギリスですと,自主規制機関のルールはこの間の2006年の会社法でみんな法令になっています。つまり,たった今,法令ですといっても何の違和感もない,そういうレベルのルールがもともと取引所のルールとして存在していたということです。他方で,アメリカの場合の取引所ルールの役割というのは,いつも申しておりますけれども,連邦会社法がないアメリカでは,連邦証券規制で会社法の代わりをする,あるいは連邦の取引所のルールで会社法の代わりをしなければならないという切実な要求があって,やらざるを得ないということがあろうかと思います。それに対して日本の場合の取引所ルールの役割と機能というのは,私はやはり立派な会社法があって,証券市場をきちんと想定した本来の会社法があって,なおかつ必要な取引所ルールの機能とは何かということを,きちっと論ずる必要があるだろうと思っております。そういう観点から見ますと,やはり大事なのは取引所のルールの水準が法令より上なのか,下なのか,同等なのかが問題です。証券取引所のルールには,法令などより上のものがいっぱいあると思うんですね。例えば取引所の中の価格形成に関する取引参加者のルールとか,あるいはタイムディスクロージャーも,これは有価証券報告書よりも日々の市場取引にとってはよほど大事で,あれがないとマーケットは成り立たないです。有報は一年中やってきたタイムディスクロージャーを一年に一度集約した文書でしかないわけです。その他,そういうことはたくさんあるわけです。   そういう意味では,証券取引所のルールは証取法ないし金商法の補完でしかないという従来の位置付けはまずやめる必要があります。もう一つは取引所と発行会社との関係は,上場契約に基づいて始めて要請できるという発想で,従来,やってきたように思うのですが,これは明らかに金商法の1条の目的である公正な価格形成とか資本市場の機能を確保する守護神としての取引所は,その本来的なミッションの観点からいろいろなことを要求できる立場にあるわけでして,上場契約があるから初めて可能になったという,そういう立場もやはり見直す必要があると思います。   それから,コーポレート・ガバナンスについても,何となくコーポレート・ガバナンスではなくて,やはり東証の守るべき価値である市場の機能と役割,公正な価格形成確保というミッション実現のためにはガバナンスのレベルでこういうことが必要だという形で,まずは要求するのが取引所としてまず考えるべきガバナンスではないかと思います。世間で言っているようなガバナンス論を何となくやるというのではないのではないでしょうか。私は一定規模の大きな投資家であれば,投資家に対してでも一定のことを要求することのできる立場に証券取引所はあると思っております。その辺の基本的な立場を十二分に反映した本来のあり方,つまり立派な会社法ができたにもかかわらず,なおかつ取引所がどういう役割と機能を持っているのか,そのことをまずは証券取引所としては突き詰めて考えるべきだと思います。私は飽くまでも現場での要請,売買審査とか上場審査とかタイムディスクロージャーとか,そういうものをまずきちっと押さえた上で,そこから先に何ができるかを検討することが大事ではないかと思っております。   それから,すみませんが,もう一点だけ,業務執行の制度設計との関係で,奈須野幹事が言われたことについてちょっと思っていることを申しますと,現在の取締役会の性格ですけれども,平取締役というのは一体何なのかというのがよく分からないんですね。使用人兼務取締役ですと,使用人部分というのは給料体系もありますし,この場合の取締役とは平取締役のことだという認識があります。それから,三越事件のときの小山取締役みたいな方は,ただの平取締役なわけですけれども,あの方は監視・監督のためにいたわけですね。実は平取締役とは最小限の社外取締役だったのです。業務執行を担当している専務取締役とか常務取締役というのは何かというと,もし取締役という概念がそういう監視・監督のための平取締役概念だとすれば,その中心業務は執行部分なのです。内部職階制と言ってきましたけれども。この場合,取締役の報酬でも責任でも,実は執行部分の責任のことを取締役の責任という名前で呼んできたように思います。あるいは,業務執行をする取締役とか,しない取締役といった概念がその後入りましたが,その場合の取締役という概念は何なのかというと,業務執行をしない取締役とは平取締役,監視目的の取締役のことだと思います。現行の会社法では,従来からそうですが,実は業務執行を業務執行の決定と執行と分けて,取締役会というのは業務執行の決定機関である,としてきております。しかし,ここらでそろそろ取締役というのは一人一人は監視・監督で,業務執行部分というのがもともと存在していて,その部分について責任や報酬を想定してきたのだ,ということを明らかにすべきではないでしょうか。業務担当部分に取締役の責任を類推と言っても言わなくてもいいですが。こう考えますと,実は監査役設置会社の取締役会も取締役と執行が概念上分離していたのだ,ということになりますから,委員会設置会社と監査役設置会社の違いはこの点ではないことになります。どこが違うかというと,三つの委員会が強制されているのと,監査役制度がある点だけなのではないでしょうか。しかし,大本の取締役会の理解が委員会設置会社とほぼ同じであれば,なぜこうした強制が存在するのか,ということにもなります。そうなると,先ほどの奈須野幹事の報告でいいますと,執行・監督機関の設計の自由化ということで,三委員会の強制というところが柔軟化してくる。それから,合同監査委員会設置会社という概念が入ることによって,実は監査役会も,あるいは監査役も,実はあれは社外取締役でしたと言ってしまえという話ですね。私もそれに似たようなことを前から申し上げていたのです。私の場合はもうちょっとドラスティックで,委員会設置会社の監査委員会のメンバーを監査委員と言っていますけれども,あれを監査役という名前にしてしまったらどうかと。そして,一緒にしてしまったらどうかというようなことを申しました。この合同監査委員会設置会社というのはほぼそれに近くて,結局,たくさんいる監査役さんは,実は社外取締役なんですよということになりますから,日本の社外取締役比率は世界に冠たる比率に一気に上がって,ガバナンスの評価が急に変わるかもしれないということもあります。   ですから,何が言いたいかと申しますと,要するに平取締役とか平執行役とか取締役会とか,そういう基本的なワードとか概念について,やはり研究者を中心にきちっと議論して,委員会設置会社と監査役設置会社の違いというのは一体どこにあるのかをきちんと議論すべきではないでしょうか。私は違いはほとんどないのではないかと思いますので,だからこそ,どちらにも優位性はないと言われているのも,どちらももともと同じだからなのではないかという気もしております。そういう意味では,奈須野幹事がおっしゃったことを全体をトータルに受けて考えますと,そういう本質的な議論こそが必要だということを申し上げたいと思います。これは一つの意見として,質問ではなくて申し上げさせていただきます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。   まだまだ御意見はあるかと思いますけれども,それはまた最後に場合によっては戻って論じていただくということにして,いったん,ここで休憩を取らせていただきまして,その次には築舘委員,それから,八丁地委員に御報告を頂くということにさせていただきたいと思います。それでは,休憩に入ります。           (休     憩) ○岩原部会長 時間でございますので,再開させていただきたいと存じます。   それでは,引き続きまして築舘委員から御説明をお願いしたいと思います。どうかよろしくお願い申し上げます。 ○築舘委員 日本監査役協会の築舘でございます。本日は発言の機会を与えていただきまして,どうもありがとうございました。   会社法制の在るべき基本的な姿とか形ということについては,前回の会議も含めまして,いろいろな方が触れられておりますので,私はそういうところはスキップいたしまして,本日は監査役の現場感覚といいますか,現場実態を踏まえまして,いきなり具体的な事項について幾つか述べさせていただきたいと思っております。御説明は,お配りしてある資料に,基本的には沿ってさせていただきたいと思っております。   緒論のところに書いてありますけれども,私ども日本監査役協会では,監査役の立場から見たコーポレート・ガバナンスの在り方について,いろいろな関係方面の有識者の方々にも御指導いただきながら,2年間にわたって議論を続けてまいりました。その結果,監査役制度の将来の在るべき方向性を実現していくためには,協会は現行法制下でも監査役自身の取組により,直ちに実行が可能であって,立法趣旨にのっとって監査役の責務を確実に果たすことで対応すべきもの,できることと,それから,法改正等の立法的措置を講じなければならないのではないかという,そういう問題の二つの方向性から,今後,対応していこうということになってきております。前者につきましては,監査役のベストプラクティスと,協会内部ではそんなネーミングにいたしまして,監査役が立法趣旨にのっとった活動を具体的に実践するためのモデル的手続として位置付けまして,具体的な監査の実施項目,方法,それから,留意点等を整理いたしまして,既にいろいろな機会に協会員にも呼びかけているところでございます。後者につきましては,当協会として関係諸団体とも連携をとりながら,その実現を図っていこうではないかと,こんなことにしているわけでございます。本日はこれ以降,監査役監査のベストプラクティスと,それから,法改正等の立法的措置に関しまして,三つのテーマ,項目ですね,内部統制システム関連,会計監査人関連,そして,三点目としては株主と経営執行者との利害調整関連のこの三つの論点に分けて,御説明をさせていただきたいと思っております。   まず,各論のところの1.のベストプラクティスの実践というところからでありますが,三つの論点のうちの一点目,内部統制システム関連のベストプラクティスであります。内部統制システムに関する監査役監査のベストプラクティスの要点というのは,下に@からCで示しました四点だと思っております。監査役は監査活動を通じまして,内部統制システムの基本方針について監査することにとどまらずに,その適切な運用状況についても関心を持って対応した上で,株主等に積極的に開示していくことが重要であると考えております。一点目でありますが,取締役が内部統制システムの構築と運用について評価して,そして,その結果を取締役会に報告するように監査役が働きかけること。それから,二点目でありますが,取締役が行った内部統制システムの運用の評価結果についても,事業報告で開示するように監査役から働きかけること。三点目としましては,取締役会における運用評価の結果と監査役会の判断又は監査意見に相違がある場合には,相互に検証を行っていくと。四点目として,監査役会監査報告において,監査役が自主的に内部統制システムの運用状況の監査結果や監査意見についても開示していこうではないかと,こういうことであります。   論点の二番目に当たります会計監査人関連のベストプラクティスであります。会計監査人の監査報酬及び選任議案の同意に関する監査役監査のベストプラクティスにつきましては,監査役が現行法の同意権を適切に行使するために,経営執行部門が実質的に決定した内容を追認するのではなくて,事前の情報収集等に努めて,かつ,それをルール化していくことが重要だと考えております。ここも四点で整理しておりまして,ベストプラクティスの一点目が事前の情報収集・報告聴取を早期に着手すること,それから,二点目として会計監査人の監査計画の内容及び報酬見積もりの算出根拠の適正性・妥当性について,監査役が主体的に検討・判断していくということ,それから,三点目として会計監査人と緊密な連携を図っていくこと,四点目が同意に係る一連のプロセスについて,経営執行部門との間でルール化して,かつ手続を記録することと,甚だ実務的な表現になっておりますが,こういうことをきっちりやっていこうではないかということであります。   論点の三点目,株主と経営執行者との利害調整関連,この問題のベストプラクティスであります。第三者割当てにつきましては,内部統制関連や会計監査人関連のベストプラクティスとは異なりまして,事の性格上,非日常的であると,それから,緊急性を要する事象であるというようなことから,監査役は日ごろから経営執行部門の資金状況等に関心を持って,第三者割当てに至る検討プロセスや決定に至る状況について,注視しておくことが重要となってくるということであります。具体的には,ここでも四点に整理しておりますが,一点目としてプロセス監査を基本とすること。二点目は外部の専門家から意見を取得して,慎重かつ適正な社内手続を経て発行条件等の意思決定が行われているかどうかということを監視・検証するということであります。三点目は監査役意見は監査役会で審議をして,意見表明していくことにしようではないかと。四点目でありますが,会社の資本政策や資金計画,それらの実行について日常的に会社の資金ニーズと調達の状況を確認・把握するということであります。   ここまでは,今の法制度での建て付けの中で,監査役がきっちりやっていこうということを決意表明しているというか,そういう認識をしているということであります。ともすれば,今の法制度でも監査役は何でもできるではないかと。それを本当にしっかりやっているのかというお話も時としてあるものですから,まず,自ら汗をかいて,きっちりやっていこうという,こういう決意表明をしているところでございます。   2.の法改正等の立法的措置(制度的手当)とありますが,これ以降がこの部会で取り上げていただければという論点の提案でございます。監査役がベストプラクティスを実践したとしても,その置かれた監査環境といいますのは,会社の規模でありますとか,業種・業態,それから,経営者の姿勢とか影響力などによって様々でございまして,監査役自身の自己研さんとか努力にも,残念ながら,現実問題としては限界があることが少なくありません。監査役制度全体の実効性を確保するためには,それら個別の監査環境に左右されずに,監査役が主体性を持ってその職責を果たしていくための環境や条件を整備する必要があるということで,そのためには法改正等の立法的措置を講じることもあるのではないかと,こういうことであります。   それで,論点の一つが内部統制関連でございます。内部統制システムの運用状況の開示についてということでありますが,申すまでもないことでありますが,現行法制下ではすべての大会社において,内部統制システム構築の基本方針は,取締役会の専決事項となっておりますとともに,事業報告や監査役監査報告に一定の記載をするということになっております。一方,内部統制システムの運用状況及びそれに対する取締役の評価並びに監査役の監査結果につきましては,会社法上,事業報告や監査役監査報告に記載を求める規定はございません。しかし,内部統制システムの基本方針は,事業年度の運用状況を毎年踏まえて,そして,翌年の事業年度の基本方針に反映させていくという,言わば継続的な見直しが行われるべき性格のものであると思います。また,内部統制システムについてはその構築のみならず,適切に運用されているということが重要だと思うわけであります。確かに現行法制下でも各社が自主的に内部統制システムの運用状況やその監査結果等を記載することは可能であります。しかし,事業報告や監査役監査報告に,内部統制システムの運用状況の評価でありますとか,監査結果にまで積極的に言及している例は,現状では少数にとどまっているのが実態でございます。日経平均株価採用会社のうちの21年3月期決算会社,202社だそうですが,これについて私どもの協会で調べましたところ,運用状況にまできちんと言及しているのは,事業報告,それから,監査役監査報告で共にほんの数%というオーダーにとどまっております。   内部統制に関してもう一つ申し上げたいのは,期ずれの問題でございます。内部統制システムの監査結果につきまして,会社法上の監査役監査報告の記載と,それから,金商法上の監査人の監査証明との記載の間に,その作成時期の違いから不整合が生じる可能性があるという,いわゆる期ずれの問題がこれまでも指摘されてきているわけであります。この問題につきましては,金融庁さんが昨年公布した企業内容等の開示に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令によりまして,有価証券報告書の前倒し作成・提出に関する法的制約が低減されたということでございまして,そういう意味では,この課題に関して一歩前進になったと理解をしております。この問題については今後とも会社法と金商法の整合性を勘案しながら,法定開示及び適時開示の一元化でありますとか,更にはそれを実現するための開示項目の簡素化,なかなか具体的にはどうなんだと言われると悩ましいところもあるわけですが,こういうことも検討すべき課題であると認識しているところでございます。   御提案したい検討課題の二番目は,会計監査人関連でございます。いわゆる会計監査人の選任議案及び監査報酬の決定権について,インセンティブのねじれと言われている問題でございます。会社法では,会計監査人の選任議案及び監査報酬の決定に関しましては,監査役には同意権が付与されているところでございます。現行法制下でも,同意権を最大限に活用して,実質的に決定権と同様の機能を発揮している監査役も当然おります。一方で,同意権の行使が形式的な手続に終わっていて,実質的には経営執行部門の提示額を事後的に同意しているにすぎない監査役も少なからず存在しているという現状も分かってまいりました。ここで,一番最後に別紙参考という紙がついているんですが,御覧いただきたいと思います。上の1.の監査役の同意権行使の実態というところでございます。私ども協会はインターネットによるアンケート調査を平成21年10月に集約いたしました。その結果,こういうことがだんだん分かってまいりました。会計監査人の監査報酬の決定に関して,担当取締役等から説明又は情報提供があったか,なかったかということであります。上のほうの表の左側,全体というところがありますが,情報提供があったが93.4%,なかったが6.6%であります。ほとんどはあったということであります。その下の表ですが,担当取締役から説明又は情報提供があったケースのうち,担当取締役と会計監査人との間で,ほぼ結論が出された段階で,それを初めて受けたかどうかという辺りを見ますと34.8%という数字が出てきております。上の6.6%と34.8%を合わせますと,約4割の会社で,監査役はほぼ結論が出されてから,同意判断に必要な情報を初めて受け取っているという姿であります。これを上場会社,非上場会社別に見ますと,非上場会社は二つの表の右側に書いてありますが,情報提供が全くなかったというのが10.4%,それから,事実上,執行部と会計監査人の間で話がついてから知らされたというのが37%,これを両方合わせますと5割近い会社が事後的に知らされているという姿であります。いわゆる同意権の問題を考える際には,かなりの比率の監査役が経営者から言葉は適切かどうか分かりませんが,パッシングされていると,そういう実態もあるのではないかということを認識する必要があると思います。このような状況に対しまして,立法趣旨にのっとった現行同意制度の実効的な運用に向けて,監査役が同意権行使のためのベストプラクティスに努めていく,頑張っていくということが在るべき姿だと。それは私どもも認識しているわけであります。しかし,現実には監査役と経営者との立場にも左右されるということもあり得るわけでありまして,現行の同意権では,すべての監査役がその主体性を十分に発揮するには限界があるというのも,残念ながら,現実と言わざるを得ないと思います。すなわち,立法趣旨の実現化を監査役の個人的倫理観とか使命感に頼る,とにかく頑張れということだけではなくて,会計監査人の独立性の担保と会計監査の実効性確保のために,監査役がより一層の役割を果たすための制度設計が必要であると考えるに至ったところでございます。私どもも相当の時間をかけて,いろいろ協会内で議論したんですが,結論といたしましては,会計監査人の選任議案及び監査報酬に関して,監査役の同意権を決定権とすべきではないかという思いに至ったところでございます。   ここでもう一度,先ほどの別紙参考のところを開けていただきたいんですが,下半分でございます。監査役というのは,この問題についてどんな気持ちでいるのかということについてのアンケート調査結果であります。上のアンケートと同じでやっております。まず,現行法の会計監査人の監査報酬に対する同意制度の運用についてどう思うかということで,左側の赤というんでしょうか,そういう色で塗ったのが,決定権をやはり監査役に付与すべきだと。右側のブルーが現行制度でいいと,今のままでいいと,改正は不要だと,こういう意見分布であります。これを更に我が国のコーポレート・ガバナンスの今後の望ましい在り方を念頭に置いた場合,どう思うんだという更問いをしてみますと,上の7割のブルーのところが二つに分かれまして,実は何とも言えないという人が25%ぐらい出てきます。ここをどう,上の二つのグラフと下のグラフを比較しながら読むかということでありますが,若干,私の私見になるかもしれないんですが,どうも上のグラフの7割の現行制度改正は不要だという人は,今の制度で同意権をきっちり自分としてはやれている,そういう自負を持っている監査役がある程度いると。一方で,現在の自分の監査環境では,決定権まで与えられるとちょっと荷が重そうだから現状維持でいこうかと。そういうような両者があるのかなと思ったりしますが,ここは申し訳ないんですが,数字的な裏付けはございません。   こういう協会としての結論に達したわけですが,監査役が決定権を有効に運用するための環境整備ももちろん必要でございまして,具体的には,第一には監査役のうち少なくとも一人は,やはり財務及び会計に関する相当程度の知見を有する者が望ましいこと。それから,第二には,その決定権を行使するに当たっては,十分な情報に基づいて適正な判断を行えるように,執行部門や会計監査人からの情報を収集し,その内容に基づいて判断ができる体制・プロセスの確保等々の充実を図ることが必要だと,そういうようなことでございます。   今,協会としてはそういう思いに至ったということを申し上げたわけでありますが,しかしながら,その考えに対してはいろいろな異論,反論があるということも,協会としては承知しております。会計監査人の監査報酬及び選任議案の決定権を監査役に付与することについては,懸念とか指摘がなされていると。   そのうち,三点について私どもの考え方を申し上げさせていただきますと,第一に指摘されていることは,業務執行の二元化をもたらすのではないかという,こういう御指摘であります。この点については,現行会社法においても監査役は会計監査人選任議案の総会への提出請求権等の一定の機能を有していると,与えられているということですから,決定権付与により外観的権利をより明示的に示すということは,今現在の会社法の考え方と整合が取れているのではないかとも考えるわけであります。また,会社法上,監査役はその監査費用について会社に請求権を有しているわけでありまして,監査費用は本来,監査役が判断すべきとの考え方が会社法上は採られているのではないかと考えるわけですが,会計監査人の報酬も一種の監査費用としての面を有しているのではないかということであります。第二に指摘されていることは,監査役へこういう権限を与えていくということについて,監査役制度全般に与える影響を慎重に検計すべきではないかという御指摘であります。この点については,会社と取締役との間の訴えの際に,監査役が会社代表になるんだということが規定されていることとか,内部統制システムの基本方針の相当性や買収防衛策についての意見を監査報告に記載するというようなことなどから考えますと,会社法は適法性の監査に必ずしも限定していなくて,必要があれば,会社の業務執行に係る妥当性判断的なことについても,監査役に求めているとも解せられるのではないかと考える次第であります。取締役による会計監査人の報酬及び選任議案の決定には,場合によると利益相反のリスクというのも潜在するわけでありますので,同じような考え方を採ることも可能ではないかと思います。第三に頂いている指摘というのは,権限を監査役に付与した場合,監査役は実務的に対応可能なのか,できはしないのではないかということでありますが,今現在でも,拒否権を伴う同意権ということを会社法の理念に沿う形で,きっちりやっている監査役も少なからずおります。それから,先ほど申し上げましたベストプラクティスを定着させていくことで,監査役の力量ということも上げていくことができると思います。更には,こういうことになっていきますと,監査役の候補者を選定するに当たって,経営者サイドにおいてもしかるべき人材を選んでいくという,そういうインセンティブにもつながっていくのではないかとも思う次第であります。   このインセンティブのねじれ問題を考える場合には,法制度の目指す理念,目的と,それから,やはり企業現場の実態を両方にらんで臨んでいくということ,その場合にはきっちりしっかりやっている優良企業ということだけでなくて,いろいろなサイズの企業,いろいろな業態の企業があるわけですが,そういうところまで,可能な限り,目を配るということも肝要ではないかと思う次第であります。   この部会で取り上げてほしい論点の三点目は,株主と経営執行者との間の利害調整関連の第三者割当増資についてでございます。現行法上は,株主と経営執行者との利害調整が必要な事項の一つとして,買収防衛策に関しまして事業報告とか監査役監査報告に記載することとなっております。また,監査役には,取締役に対する違法行為差止め請求権が付与されているわけでございます。他方で,第三者割当てにつきましては先ほどもお話も出ておりましたが,株主と経営執行者の利害が対立するケースも増加してきているという実態があるわけであります。この第三者割当てに関しましては,資金調達の必要性や調達手段の選択の適正性など,業務執行の内容の妥当性にわたる事項でありまして,監査役が対外的に意見を述べる権限・義務はないと解されているわけであります。しかし,一方で株主と経営執行者の間に利益相反が生じ得る経営執行者の業務について,監査役には監査役監査活動でありますとか,監査意見の開示等,株主に対する説明責任を明確な形で示していくことが要請されてきているのではないかとも,状況の流れの中で,私どもとしては感じているところでございます。事実,平成21年8月の東証さんの規則改正の中では,一定の第三者割当てに係る有利発行の該当性に係る適法性に関する監査役意見の開示が必要になりました。したがって,大規模第三者割当てによる既存株主の持ち株比率の希釈化を初め,株主と経営執行者との利害が対立する可能性が大きい第三者割当てについても,株主保護の観点から監査役が果たすべき役割について,法整備を図る必要があるのではないかと考えている次第でございます。   監査役による差止請求権の拡充について最後に触れさせていただきますが,監査役による差止請求権の行使の拡充に向けた法改正ということも,実は私どもとして問題意識がございます。つまり,株主の利益侵害に対する監査役の役割についても,株主の利益侵害を防止するために取締役の行為の差止め請求権を行使できるようにすることは,株主保護の観点から重要であると思うわけであります。会社法では,監査役には会社に著しい損害が生じるおそれがあるときには,取締役の違法行為差止請求権が付与されているわけですが,株主の利益の直接的な侵害を要件としているわけではありません。そこで,経営執行者から法的に独立している監査役による取締役の違法行為差止請求権について,会社の利益が害されそうな場合に加えて,株主の利益侵害を防止するためにも行使できるような法的措置を講じることについても,検討していただきたいと思う次第であります。   問題提起的には以上でございます。なお,あと,数分,お時間を頂けますでしょうか。過去2回,そして,今日もですが,御議論の中で社外取締役とか社外監査役とか,あるいは監査委員とか,そういうようないろいろ話が出ておりまして,一体,どうなっているんだという,そういうこともありましたものですから,協会のコアメンバー的な会社さん,5社程度に個別のヒアリングをしたり,それから,20社ぐらいの会社さんとちょっとグループディスカッション的な意見交換をしたんですが,そこから私どもなりに把握した状況をちょっと話題的にお話をさせていただきたいと思います。   まず,社外取締役と社外監査役の実情というか,イメージはどうなっているのかということなんですが,大規模な会社の監査役設置会社におきましては,一般に社外監査役に他の企業の会長とか社長とか,あるいはその経験者とか,本当に経験豊かな学識経験者というような方々を選任しているケースが多くて,取締役会における発言もそれぞれの方々の知見とか見識とか経験等に基づいて,取締役あるいは監査役といった立場を特に意識することなく,経営について幅広い観点から自由かつ活発な御発言がされているということのようであります。そういう方々の発言ですので,執行部としても極めて重く受け止められているというのが実情でございまして,取締役会における発言のスタンスとか,その影響力というのは,取締役か,監査役かという立場の違いよりも,むしろ社外役員としてどういうような人材を人選するのかというところに,かなり懸かっていると思っている監査委員及び監査役が多いようでございます。社外取締役がいない会社における社外監査役の方は,取締役会においては文字どおり,取締役,監査役にこだわらないような,そういう発言をされているということであります。それから,あと,もう一つ,おもしろかったのは,社外監査役あるいは社外監査委員は取締役会のほかに監査役会とか監査委員会も会社では開催されますので,したがって,会社の社内情報に接する機会が社外取締役の方よりもかなり多くて,したがって,情報量も相当あって,それに裏付けられた発言もいろいろされているということのようでございます。   それから,もう一つ,監査委員会というのがどう運営されているかということを聞いてみたんですが,一つ浮かび上がってきた姿は,やはり常勤の監査委員を置いたり,それから,監査委員そのものではなくても,事実上,常勤の監査委員的な役割を担う取締役を設置したりして,運営しているというところが多いようでございます。やはり,常勤者として社内に常時いる立場の方と,月に何回かだけ会議に出席されるという立場の方では,情報量が相当違うということのようでありまして,監査役会あるいは監査委員会のいかんにかかわらず,やはり常勤者の存在というものが非常に重要なことになっているというような姿が浮かび上がってまいりました。   それから,最近,監査委員会から再び監査役設置会社に戻ってくるような会社の情報もありますが,実際には,委員会設置会社に数年前に移行した会社さんは,今現在でも,これで良いと思っている会社さんがほとんどだというようなことも分かってまいりました。   あとは,最後に,情報入手について,この会議でも何度か話題になりましたけれども,監査役あるいは監査委員として苦労しているかどうかという意味では,ほとんど,そういうことは余り強く感じていないという,そういう方々が多かったですね。   そんなところでございます。とりとめのない話題的な話でありますが,ただ,どうしても急いで聴くために,協会の理事会を構成するようなコアメンバーの会社の方に集まっていただいた限りのものですから,実際にはもっと会社のサイズとか業態とか,いろいろなところに幅広く網を広げて,実態を知る必要があるのかなと思っております。私ども協会としても,この部会での議論が進むに応じて,もし調査する必要があって御指示があれば,機動的な調査をすることについてはやぶさかではないと思っております。どうもありがとうございました。 ○岩原部会長 どうもありがとうございました。   それでは,引き続きまして,八丁地委員から御報告,御意見を頂きたいと思います。どうかよろしくお願いいたします。 ○八丁地委員 八丁地でございます。こういう機会を与えていただきまして,大変ありがとうございます。主として日本経団連の会員企業の意見が中心でございますけれども,企業の会社法制の見直しに対する考え方ということで述べさせていただきます。   基本的な考え方は,表題に書いてございますように,「企業の競争力強化に資する会社法制の実現を求める」というものでございます。   次のページに移らせていただきます。僭越ではございますけれども,まずは会社法制の在るべき姿ということに関します,私どもの基本的な考え方を述べます。言うまでもなく,会社法制はすべての会社を対象とする事項につきまして規定をする基本法であるということでありまして,弊害の事実に対して規制をするということで,弊害規制を原則とすべきではないかと考えております。二点目に,国民にとって分かりやすい法律であるべきであると考えます。三点目に,個々の企業のグローバルなマーケットにおける競争力の向上と,我が国産業の健全な発展に資する法制であるべきと考えております。また,そのためには各企業が自立的に創意工夫の発揮ができまして,それぞれに適した企業統治が実現できるように必要な選択肢が用意され,機動的かつ柔軟な対応ができるような制度であるべきだと思っております。もとより,企業が中長期的な企業価値の増大のために,会社法は多様なステークホルダーとの対話が継続できるフレームワークであるべきと考えております。   見直し上のポイントについて何点かお話しさせていただきます。   第一のポイントは,立法事実の見極めということであります。見直しに当たりましては,是非,立法事実を見極める必要があるのではないかと思います。各種の提案がなされてございますけれども,これにつきまして提案に至る原因でございますとか,事実関係というところまでさかのぼって,それぞれの提案の背景にある考え方を確認をする必要があると思います。問題が生じていれば法改正が必要でございますけれども,実務的な対応で解決可能なところも相当量あるのではないかと思っております。法改正のうち会社法制による対応が必要な部分と,他の法制による対応のほうが適切な部分もあるのではないかと思われます。会社法制による対応が必要な場合におきましても,改正の影響を精査された上で,改正の在り方を検討をするというプロセスが必要かと思います。   二点目のポイントでございますけれども,やはり日本の社会・風土に適合した会社法制を企業としては求めております。幾つかの諸外国法制の導入の提案があるのは承知をしております。それにつきましては,それがよって立つ基盤となる法体系,また,関連法制の違い,社会・経済の実態の違い,カルチャーとかモラルとか道徳観念もあろうかと思いますが,そうしたことを十分に踏まえて検討,評価をすべきだと考えておりまして,安易な移植は避けていただきたいと思います。それから,やはり我が国では多くの企業が経営者と従業員が一体感を持って,企業価値の向上に努力し続けているという日本企業の文化も是非,踏まえる必要があると思います。   三点目のポイントは,会社法の見直しが与える影響への配慮という点でございます。大多数の日本企業は,現行の法制にのっとって適正にガバナンスを機能させております。にもかかわらず,一部企業による不祥事があることも確かではございますけれども,日本企業全体に,このために一律的に過重な規制を課すということは避けていただきたいと思います。規制によって企業の活力をそぎ,ひいては日本経済全休の持続的な成長を阻害することのないようにすべきであります。また,会社法制の見直しに当たりましては,ガバナンス等に係るコストが相当量掛かり,これは最終的には株主等の御負担になること,また,改正が会社自体ではなくて,株主を含むステークホルダーにも大きな影響を与えることになることにも,配慮が必要であると考えております。会社法制は日本企業の競争力強化を促し,日本の産業の健全な発展に資するものとなることを目指すべきであろうと考えております。   6ページ以降は,法制審議会への諮問第91号にございましたとおり,今回の見直しは企業統治の在り方及び親子会社に関する規律を見直す必要があると記述をされております。その二点について企業の考え方を申し述べます。   まず,企業統治の在り方についての企業の考え方であります。コーポレート・ガバナンスとは,言うまでもなく企業の不正行為の防止並びに競争力・収益力の向上という二つの視点を総合的にとらえ,長期的な企業価値の増大に向けた企業経営の仕組みをいかに構築するかという問題でございます。コーポレート・ガバナンスの向上につきましては,国内外の様々なステークホルダーの声を踏まえておりますけれども,これを踏まえた各企業の多様かつ自主的な取組を尊重するということが基本でありまして,機動的にガバナンスの向上につながる取組を実施ができるような柔軟性の高い枠組みが必要でございます。形式が中心ではなくて,法の中身,企業の実質に着目して,実効性のある取組を推進すべきであると考えております。また,充実した開示を通じまして企業経営の透明性を向上させ,株主や投資家が判断・選択できる仕組みが適切になされているかという点での見直しは,大いに必要と考えております。   7ページに,企業の立場から会社法に加えまして,金融商品取引法及び取引所規則の関係についてまとめております。金融商品取引法に関しましては,内部統制報告書,企業統治に関する開示規制の強化,内容はコーポレート・ガバナンスの体制,役員の報酬,株主総会の議決結果の開示等々であります。また,取引所の規則におきましては,コーポレート・ガバナンスの報告書,大規模第三者割当増資の規制,独立役員の届出制等があり,これらに関して近年,度重なる法改正と上場規則等の拡充がなされておりまして,企業統治上,これで既に十分に手当てされている点も多いのではないかと,企業としては考えております。これらの効果若しくは影響について,見直しに当たりましては事前に十分に検証していただく必要があるのではないかと思います。また,相互の整合性,相互の役割の分担,また,法令遵守のコスト,また,体制等に関しまして,不断の見直しが不可欠であると考えているわけであります。   会社法制と企業統治の在り方につきまして,何点か,ポイントがございますので,これについて述べさせていただきます。   論点の一点目は,ガバナンス機構の在り方であります。現在の会社法制の下では,企業に与えられた選択肢といたしましては,監査役設置会社と委員会設置会社がございまして,これは会社法制上,ガバナンス体制として等価値であると理解をしておりまして,これは引き続き維持すべきであると考えます。すなわち,それぞれの事業内容等に適したガバナンス体制を企業が選択できる環境は,維持されるべきだと考えております。   論点の二点目は,社外取締役であります。執行に対して適正な監督を行うことのできる取締役であるか否かに関しましては,社外取締役であるかどうかといった形式ではなくて,実質を重視して判断をすべきであると考えております。どのような取締役会の構成とするかにつきましては,各企業の自主的な選択がより認められるべきであると考えております。取締役が必要な適正・能力を備えているかどうかという実質につきましては,開示情報に基づきまして,役員選任議案への投票行動によりまして,最終的には株主の方々に判断をしていただくという仕組みをとっておりまして,この枠組みが適切であると考えております。そのために株主に提供しております必要な情報は,既に開示を通じまして十分に提供をされていると判断をしております。ゆえに,「社外取締役の一律的な義務付け」と書いてございますが,こうしたことは各企業の規模,業態,業種等々の点から,ガバナンス体制の構築を制約することがあるのではないかと考えておりまして,社外取締役の選任は,各企業の自主的な判断にお任せいただきたいと考えております。   論点の三点目は,従業員選出監査役制度に関してのものであります。監査役の一部が従業員によって選出をされる御提案と理解をしておりますが,こうされますと,この監査役は従業員の利益代表としての性格を持つことになります。特定の利害を代表する者が監査役に就任することによりまして,本来,会社に対する善管注意義務(責任)を負うべきであるにも関わらず,深刻な利益相反を生じ,適正な監査に支障を来す危険があると思っております。また,選ばれた監査役が他の監査役と同じ責任と義務を負うことができるのかどうかという疑問も持っております。   論点の四点目は,ただいま築舘委員から御指摘がありました,いわゆる監査のねじれ問題でございます。現行制度におきまして監査役の役割と権限を振り返ってみますと,監査役の権能は度重なる会社法の改正によって拡充されてまいりまして,その趣旨を踏まえ,企業は対応を図ってまいりました。昭和49年改正での単独での差止請求権の行使,また,平成5年改正での会計監査人の選任についての議案提出請求権の付与,また,最近では平成13年改正での会計監査人の報酬についての同意権というような改正がなされてまいりまして,企業は対応を図ってきたところでございます。12ページですが,ゆえに監査役が既に与えられております権限を十分に発揮することによりまして,会計監査人の選任,報酬決定についての利益相役のリスクは,排除ができるのではないかと考えるところでございます。すなわち,監査役は,会計監査人の選任議案及び報酬の決定について同意権を有しておりますし,もし,取締役会が選任しようとする会計監査人が適当でないと判断した場合,また,報酬が適正でないと判断した場合には,監査役が同意を与えないことによりまして,監査役の意見を反映することができ,取締役会に対する牽制の機能となるものであります。また,監査役は会計監査人の選任に対して,議案提出請求権も有しておりまして,イニシアチブを取れるお立場にあると,私どもは理解しております。   13ページは,築舘委員と同じアンケートの結果を一部,使っておりますけれども,団体が違いますのでパーセンテージが違うという評価かもしれませんが,選任議案の決定権の付与,また,監査報酬の決定権の付与に関しましては,多くが現状では必要ではないという御判断をされているものと読んでおります。   ということで,監査役がもとより権限を十分に発揮するためには,社内のサポート体制が重要であることには論を待たないわけでございまして,監督機能の充実・強化を図る必要があるとすれば,現行の法制についての改正を加えるより,監査役が現在,お持ちの権能を十分に発揮できるために,監督機能を担う機関である取締役会と監査役会が協調して,体制の整備,社内連携の強化等に取り組む,例えば事務局体制の充実でございますとか,情報共有体制等の整備を更に図るということが実務的には有効ではないかと考えております。   続きまして,統治と並んで見直しの対象となっております親子会社に対する規律に関しまして,企業側の意見を申し述べます。親子会社,グループ企業と申しましても,その関係は極めて多種多様であろうかと考えております。これを一律に論じることは,なかなか現実には難しいのではないかと思っております。また,たとえ親子の関係でございましても,これは別の法人格でございまして,それぞれに法的には独立の存在でございまして,有限責任が基本であると理解をしております。ゆえに,親子会社は法律上は別の法人格であることを前提に,様々な法理が形成されておりまして,これと不整合を生じないような理論的かつ多面的な検討が必要であると考えております。果たして親子会社の関係で具体的に生じている問題は何でしょうか。   次の論点は,親会社の株主に子会社役員に対する代表訴訟提起権を与えるべきかどうかという点であります。企業といたしましては,親会社株主に子会社役員への代表訴訟提起権を付与すべきでないと考えております。子会社の経営は,一義的には子会社の役員の責任でございまして,親会社は株主としての権限に基づいて,重要事項について株主総会における議決権行使等を通じまして,子会社を間接的に監督をしていると理解をしております。当該親会社の取締役がその任務を懈怠して,子会社の役員に対する会社法上の訴えを提起しない場合におきましても,それ自体が善管注意義務違反を構成するものとして,親会社の株主は当該親会社取締役に対して,株主代表訴訟によって責任を追及することができるからであります。   次なる論点は,子会社株主総会決議事項について,親会社の株主総会決議を必要とすべきかどうかという論点であります。これについても決議を要することとすべきでないと考えております。親会社の取締役による子会社に対する株主としての権利の行使,例えば子会社の株主総会での議決権行使などでございますけれども,これに問題があれば親会社の株主は親会社の取締役に対して責任追及することができるわけでございます。子会社を別法人として設置をして,企業経営の機動性,効率性を図るという日本企業のグループ・ガバナンスの目的を損なうおそれがあると懸念をしております。   次の論点であります。これは「会社」とありますが,「親会社」と書いていただいたほうが分かるかと思いますが,親会社の子会社少数株主・債権者に対する責任であります。この問題は種々論じられておりますけれども,具体的に現行の法制で解決できない問題があるのかどうかを更に明確にした上で,議論をすべきであると考えております。すなわち,子会社の少数株主,債権者保護につきまして,現行の法制で不足する点があるのかどうかについて,確認をすべきであると企業としては考えております。   次の論点は,親子会社間等の取引であります。関連当事者等の取引につきましては,既に御案内のとおり,開示規制が存在をしておりまして,これに基づき開示をしております。また,株主に対する利益供与は禁止をされております。例えば税制上,時価取引でなければ,その差額につきましては寄附金として取り扱われておりまして,それ以上の法制対応が必要かどうかは,具体的な事例を踏まえた慎重な検討が必要であると考えております。子会社の取締役は,会社に対して忠実義務,善管注意義務を負っておりまして,これに反して子会社に損害を与え,親会社,これは特定の株主と考えるべきかもしれませんが,の利益に沿った行動をとった場合には,彼らの責任追及は免れないと理解をしているところであります。   次の論点でありますが,第三者割当増資であります。これは今までの議論でも何度も出てまいりましたが,大規模な第三者割当増資によりまして支配株主が異動したり,既存株主の権利が一方的に縮減されるなどの問題点の指摘がございます。これは証券取引所におきまして,上場規則等の改正により濫用的な第三者割当増資を規制しており,少数株主の保護が図られていると私どもは理解をしております。   次の論点は親子上場でございます。親子上場には利益相反が生じ得るということを問題視する指摘がございます。この指摘は親子上場特有,固有の課題ではなく,いわゆる支配株主のいる会社に共通する課題であろうかと思います。支配株主による濫用的なマネジメント・バイアウト等につきましては,証券取引所規則等による行為規制で弊害を排除ができると考えております。   以上,二点,企業統治と親子関係の見直しについて,諮問に従いまして,論点を整理してまいりました。四番目にその他の論点ということで,何点か,まとめております。これは経済界,企業における会社法制のニーズをくまなく調べたというわけではございません。最初の問題提起として,例えばこういう論点が考えられないかということでリストアップをしてみたものでございますので,御検討を賜れば幸いであります。   第一は株式買取請求権を行使できる株主の範囲の見直しであります。例えば簡易組織再編の場合に,存続会社の株主への影響は軽微であるため,株式買取請求権を与える必要性は乏しいとか,組織再編等に関しまして,案件公表後に株主となった者に株式買取請求権を付与する必要はない,ということです。関連した論点に関しましては,買取請求権を行使した者については,振替法により振替を制限し,買取請求権行使の撤回を事実上,行えないようにすべきというようなアイデアが出ているわけであります。   その他の論点があと数個あります。一つは株券の電子化に伴いまして生じました信託銀行等に開設されている特別口座を減少するような仕組み,これは口座の振替コストが大きな負担となっていることもございまして,こういう仕組みの御検討は可能かどうかということであります。   それから,三点目には企業再編時のブランド保護という点で,商号の仮登記制度の復活は検討できないかということでございます。これは類似商号規制が前回の商法改正時に廃止をされまして,同一地番,同一名称でない限り,第三者による登記が妨げられないために,必要であれば商法とか不正競争防止法で,他者による商号使用を排除しなければならない等々があるわけでありますけれども,企業の再編でございますとか,切り離し等々におきまして,こういうニーズが高いと思っております。   四番目は,企業組織再編等により子会社の手元にある親会社株式の継続的保持ということであります。子会社が合併等をしたときに,合併の相手方が親会社の株式を持っていた場合に,それが手元にあるというような事例が幾つかございます。この規制の柔軟化は,細かい論点ではございますけれども,ニーズがあろうかと思っています。   五番目は若干マクロな論点でございますけれども,長期保有株主に対する優遇策を何か検討をお願いできないかということであります。会社法上では大変難しい問題であるということは分かっておりますけれども,具体的な提案まで,当方も煮詰まっているわけではございませんが,まずは検討の俎上にのせていただければと考えているところであります。 ○岩原部会長 どうもありがとうございました。   それでは,ここで質疑応答と議論に入りたいと存じます。築舘委員と八丁地委員の御報告につきまして,御質問,御意見がございましたら承りたいと思います。どうぞ御自由に御発言いただきたいと思います。 ○安達委員 私は前回もお話ししましたとおり,未公開企業,未上場企業を中心にサポートする立場として,先ほど来,部会長も含めていろいろ上場会社の話,未上場会社の話という区分けの話がありましたけれども,社会の経済の成長という観点から,やはり日本はこの数年間,国際競争力という意味で非常に厳しくなっていますのは,新しい活力のある会社がなかなか出てこないということが,非常に大きい問題だと認識しております。我々の責任も当然重いものがありますけれども,今回の会社法見直しは非常に重要なテーマですので,これはしっかりと議論させてもらいます。特に未上場会社が将来,上場を目指すという具体的なプロセスに入った場合,前回の内部統制というのは非常に重たいテーマでして,上場を目指す会社にとって非常に負担が重かったということは,皆さん,既に十分御認識されていると思います。今回の見直しによって更に規制強化を伴う場合は,当然,上場を目指す会社にとって非常に重たくなり,コストも掛かりますし,人材の投与の必要もありますし,大変な負担が掛かると思っておりますので,ここら辺も是非,皆さんに認識いただいて,議論の際,いろいろと皆さんの御意見を賜りたいと思っています。   やはりちょっと口幅ったいようですけれども,ある程度,新陳代謝が発生しないと新しい産業も興りませんし,活力を生まないということで,やはり上場会社の力とこれから出てくる新興企業の一点突破の活力といいますか,それとの組合せによって経済は発展すると思っていますので,是非,上場を目指すポテンシャルの高い企業に対する取組という観点からも,皆さんに是非,御理解いただいて,御意見を賜ればと思っております。是非,よろしくお願いしたいと思います。 ○岩原部会長 御意見として承ります。問題としては,今,御指摘の内部統制というのは,むしろ金融商品取引法上の内部統制でしょうね。 ○野村幹事 築舘委員のほうの御提案について,一点だけ確認ないしは意見を申し上げさせていただきたいと思います。既に八丁地委員のほうからも御指摘がありますように,我が国の監査役制度というのは非常に権限が強化されていて,相当程度の権限を持っているということができると思います。したがって,御提案に出されている内容についても,監査人の報酬決定権の問題はありますけれども,大きく権限を増やすべきという御意見ではないということは了解しましたし,私もその方向に賛成です。ただ,そういう中にあって御質問させていただきたいと思いましたのは,7ページのところにあります監査役による差止請求権の拡充という御提案についてです。現行法は,ここに御指摘のとおり,会社に著しい損害が生ずる場合についてはということで,会社の損害を防止するための差止請求権の仕組みになっております。会社法360条の建て付けからしますと,会社に著しい損害が起こる場合についての差止請求権は株主が行使すべきものとされているわけですが,監査役が設置されている場合にはその行使を監査役に委ねる方が合理的かつ実効的ということで第一次的には監査役が差し止めることとし,会社の損害が回復できないときに限って株主が出ていくというスキームになっているものと思われます。これは,会社全体に損害が生ずるということは,実質的には株主全体の損害なんだから,それを防止するために差し止めるということを前提につくられているスキームだと思います。   それに対して,会社法210条などにありますような,例えば第三者割当増資が起こることによって,希釈化が生ずることによる株主の不利益についての差止請求権を与えるという制度が別途あるわけでございますが,これは当然,会社に損害がないのに,特定株主に何らかの不利益が生ずるというシチュエーションがあることを前提としてつくられたものとして,その存在意義は広く承認されているところです。それどころか,この種の差止請求権の適用場面を拡充する必要があるのではないか,という点が論点になっていることは周知のとおりです。ただ,こうした場面の問題点というのは,実は株主の間に得をしている人と,損をしている人がいるということでありまして,株主自身が差し止めるのには適しているものの,果たして監査役による差止めになじむのかという問題があると思います。私自身の考えでは,本来,全体の株主から監査役として委任を受けて監査をするという立場にありながら,そういった特定の株主の不利益に配慮して差し止めるということは恐らくできないのではないかと思うのです。   そうだとすると,会社法上の文言として,もし新たに付け加えることがあるとすれば,例えば帳簿閲覧請求権に対する拒絶事由の中に出てくるような株主共同の利益が侵害されるというような場合について監査役による差止めを認めるという形に帰着するような気もするわけです。私の理解が間違っていれば御訂正いただければと思いますが,もし,今の前提だということになりますと,会社に損害が起こらないのに株主共同の利益が侵害されるという場合が,本当にあり得るのか,なかなかイメージしにくいわけであります。特定の株主の不利益に配慮して監査役が差し止めても構わないというならば別ですが,現行法と同様にそこは不利益を被っている株主に任せるということを前提とするならば,今回の御提案の適用対象について具体的にどういうような場面を想定しておられるのかがちょっと分かりにくい気がします。繰り返しになりますが,もし210条のような特定株主が不利益を被る場合に監査役が出ていくというのであれば,差し止めてほしくないと思っている株主もいるはずでございますから,それは難しいのではないかと考えますが,いかがでしょうか。 ○築舘委員 どういう場合なのかというのは,実は私ども監査役としては具体的なケースを設定したり,経験したりしているということではないんですけれども,第三者割当増資的な動きが出てくるときというのは,非常に計画的に手順を追って出てくるということだけではなくて,突発的に出てきて,物すごい勢いで事が進んでいくというケースもあり得るわけですよね。ですから,そういうときにどの株主の利益が阻害されることということなんですが,ある限定された特定の株主の利益を守るということでは,少なくともないのだろうと思うんです。株主全体から負託を受けている監査役として,やはり最大公約数的な株主の利害が損なわれるかどうかという,そういう判断になるんだと思うんですね。ですから,ここは申し訳ないですが,私どももまだ具体的なケースをイメージとして持っているわけではございません。ただ,何となく第三者割当増資については,そういうような皮膚感覚的な問題意識を持っているものですから,この場で御議論を専門家の方々にしていただけると有り難いなと思うわけです。   私ども監査役の立場からしますと,こういう権限が欲しいとか,権限をくれとか,すべてのテーマについて言っていることでは全然なくて,監査役の現場で実務をやっていて,そして,法律ではこうなっているんだけれども,建て付けはこうなっているんだけれども,うまく我々としてやり切れていないという,そういうような気持ちから,結果として監査役がやはりその役を担うべきなのではないかというような気持ちで,今日,三点,提案させていただいた次第です。どうもお答えにならなかったようで申し訳ないんですが。 ○田中幹事 私は監査役による差止請求権の拡充に賛成します。本来,これは当然,そうなるべきルールであると思っています。つまり,差止請求は,元来,昭和25年改正において,アメリカの差止請求権と代表訴訟の提起権を導入した格好にはなっているんですが,アメリカの場合は,取締役は会社及び株主に対して信認義務を負うものであって,株主の権利というのはその信認義務の履行を要求するものであります。したがいまして,会社に損害が及んで,その間接的な被害として株主に損害が生じるという場合だけでなくて,直接,取締役の行為によって株主に損害が及ぶ場合であっても,差止めが認められる。むしろ,そういう間接損害だとか直接損害だとかを区別するといった発想自体がなくて,要するに認めているということなんですね。   それから,今,野村幹事から問題提起がなされた,取締役の行為が会社の損害を通さず,直接に株主共同の利益を害する場合はどういう場合かということにつきましては,まず,著しく有利な払込金額による第三者割当増資で希釈化が発生するということもあります。それから,組織再編において株主に交付される対価の額が非常に低い場合には,組織再編対価は直接,株主に交付されますので,この場合も会社に損害があるとは言いにくいわけです。もっとも,第三者割当増資における株式の有利発行の場合は,本来,入ってくるお金よりも少ないお金しか会社に入ってこないから,会社に損害があるとも言えるという考え方もあるのですが,組織再編の対価が不当に低い場合は,会社に損害があるというのは困難で,株主に直接不利益が及んでいるというしかありません。そのほか,まだ,我が国では議論の端緒に着いたばかりですが,ディール・プロテクションといった他者による買収を困難にするような仕組みがとられ,株主が買収提案を受ける機会を失うことがあり得ます。これも直接,会社に損害を発生させずに株主に不利益が及び得るわけですが,現行法の下では,株主も監査役もどういう請求をすればいいか,必ずしもはっきりしないということがあります。ある意味では,従来の日本法は,取締役の権限行使によって株主に直接被害が及ぶ可能性がある中の,新株発行という本当に限定された場面だけ,なぜか株主に権利を与えているというだけ,ということが言えるわけです。   それで,ここは野村幹事のお考えとちょっと違うかもしれませんが,基本的には会社法の場合は,公開会社では監査役が取締役の違法行為を是正するという第一義的な権限が与えられていて,監査役がそれをやってくれるからこそ,株主の違法行為差止請求権は,そうではないときは「著しい損害」が要件になるのに,監査役が権限を行使できる会社においては「回復不能の損害」が要件になるというふうに,直接,株主が権利行使できる場面というのは狭くできるという,これも第一義的には監査役がやってくれるという前提でルールができているわけです。ですから,私はこの会の第1回目で,株主が損害を被る場合における違法行為差止請求権というのを考えるべきではないかと申し上げたんですが,もし,そのような立法が実現するとすれば,当然,監査役の違法行為差止請求権と監査委員の違法行為差止請求権も同じように拡充すべきであると思います。   それから,野村幹事が最後に懸念を示された,株主の利益を害するときには差止めを認めるというルールにしたときに,もちろん,一部の株主の利益だけをそれによって図るべきではないというのは当然のことなんですが,今,私が例に挙げたようなケースは皆,どの株主も一般的に利益を害されるわけで,株主共同の利益を害していると言っていいケースであると思います。ですので,こういうルールができたことによって,何か特定の株主だけが不当に利益を得るということは,実際にはそれほどないのではないかと思っております。 ○藤田幹事 野村幹事のコメントを経ての話なので,野村幹事に先にお話しいただいたほうがいいかもしれませんが,私のコメントも田中幹事と似たような内容です。   まずこの話は,恐らく監査役の権限拡充の角度からではなくて,差止制度の検討という角度から検討すべき問題でしょう。それ自体としては非常に大きなアジェンダなので,そういうものとして,この部会では認識し検討したほうがいいと思います。   次に野村幹事の疑問に対する直接の答えとしては,今現在,典型的に問題があるのは二つです。田中幹事もおっしゃったことかもしれませんが,一部の組織再編のように,株主間の利益移転があるが会社全体としては害がないと言われかねないケース。こちらについては差止めの制度を拡充するとしても,ひょっとすると被害をこうむった株主で差し止めなさいという方向でいく余地はあるのかもしれません。もう一つの違う類型は,意思決定のプロセスが株主で決めなければいけないのをその機会を与えなかったというようなタイプのものです。これは本当に会社に害があるかどうかは分からないけれども,とにかく善し悪しを株主が判断しなさいというのを邪魔したというケースです。例えばニッポン放送事件でも機関権限の分配ということが言われたのですけれども,機関権限の分配秩序に反することが行われないように監視する機能は恐らく監査役にも持たされていると思うのです。防衛策の発動なんかに関して,多くの場合,監査役が独立の委員会に入ってチェックするという,そういう仕組みを採っていますし,そういったことがきちんとなされているかどうかということに関しては,恐らく監査役も株主も差止権があってもいいと思うのですが,今の日本法では,問題の行為が新株発行や新株予約権の発行以外の場合はできるか疑わしいわけです。   もちろん差止権を拡げたときに,要件としてどういう形の絞りを加えるかということは全く別の問題としてありますが,いずれにせよ,差止めの導入されたときの会社法と現在の会社法は余りにも姿が違います。会社のやれることが多様化し,証券の内容も多様化し,当時では考えられないタイプの利害対立が行われている中で,そのままの制度だと対処できない現象がいっぱい起きていますので,そういうものに対する対処として再検討することが重要だと思います。 ○野村幹事 何度も発言して恐縮なのですが,会社に損害が起こらないのに株主に不利益が起こるというシチュエーションがたくさんあることは私も承知しています。そうした場面における株主による差止めを拡充すべきだという点については,私も大いに賛成しているところです。私が問題にしているのは,そこではなく,そうした特定株主の不利益に関する差止請求を監査役に担わせることが妥当なのか,仮に妥当な場合があるとすれば,それはどのような場面なのかという点なのです。といいますのは,今,お話がありましたけれども,株主が察知できないということが構造的に存在していて,それで,株主がやれないところを監査役が代わってやらなければいけないんだという話であれば分かるんですけれども,そうだとすればそうした立法事実があるのかどうかを検証する必要があるということになると思います。私の発言は,飽くまでも役割分担の話でありまして,監査役の方々がもしこの権限を持ってしまいますと,義務として行使しなければならなくなり,場合によっては不作為の責任も負ってしまう可能性があるわけなので,そういう意味で,監査役の皆さんが実務の中で本当に権限不足を痛感されているのかどうかを伺いたかったわけです。 ○三原幹事 差止請求とは話題が変わってしまいます。違う話題になりますが,もし差止請求の御意見があれば,私の発言なり,質問の後にまた続けていただくということで,御了承ください。八丁地委員の御発表については,これは質問ではございませんが,一つコメントをさせていただくこととしまして,それと,築舘委員には一つ御質問させていただきたいと思います。   まず,八丁地委員の御説明の中で,1ページ目の基本的考えから立法事実,日本の社会・風土,影響という,この5ページまでの記載がありますが,これは非常に大事なことでございまして,私の個人的な意見として申し上げますが,個人的には賛成しております。なぜかと申しますと,立法事実というのは非常に重要でございます。我々,実務法曹は非常にこれを重視しておりまして,法改正をしても,それが社会になじまない,あるいは使われない,あるいは弊害が起こるということは影響度の見極めの問題でありますし,日本の社会の風土に合わないものを持ってきても適切な法改正はできないということです。   特に諸外国の例というのが非常によく引用されるわけでございますけれども,諸外国の例をそのまま持ってくればできるというわけではないと思います。やはり我が国法制あるいは我が国の社会制度,企業文化に合ったものを立法事実に基づいて導入していくということが大事なことだと思います。これはコメントでございますが,八丁地委員の御説明の1ページ目から5ページまでの記載につき,個人的意見でございますが,賛成させていただきたいと思います。   それから,もう一つ,質問の点でございますが,築舘委員の頂いた本日の御説明,ありがとうございました。2ページ目の(2)の会計監査人関連のベストプラクティスという記述に関してでございます。ここに書いてあります「会計監査人の監査報酬及び選任議案の同意に関する監査役監査のベストプラクティスについては」と書いておられ,「監査役が現行の同意権を適切に行使するために」ということで,同意権の部分だけを書いておられますけれども,現行法には344条2項に議案提出請求権が監査役あるいは監査役会と読み替える規定もあるわけでございますので,なぜ,ここに同意権だけがあって,監査役ないし監査役会における選任議案の提出請求権という344条2項の規定が記載されていないのかという質問です。ベストプラクティスとは,現行法においてできることという御説明でございましたので,現行法としてできることの中には,344条1項の同意権のほかに,344条2項の議案提出請求権もございます。この点もベストプラクティスの現行法の枠組みに入るのではないかというのが私の質問でございます。   なお,これは資料のペーパーだけの問題ではなく,非常に重要な問題かなと思っておりまして,資料の最後のページにあります別紙参考の1.の同意権行使の実態というアンケート調査でも,先ほどの立法事実という趣旨でございますが,「パッシング」,つまり,監査役を通り越してしまっているのではないかという御説明で,監査役への情報提供がないのではないかとの問題意識をいただきました。ここでお伺いしたいと思ったのは,344条2項の議案提出請求権もどう使われているのかという点です。私の記憶では,これは平成5年から存在する制度でございまして,年限としては10年以上の実績があると思いますけれども,そうだとすると,議案提出請求権の実態,これが使われていないかどうか,ベストプラクティスを活性化するという御意向を監査役協会としてはお持ちなのかどうか,あるいは,ここのところはなくてもいいのかどうかということでございます。   同じく資料の4ページの(2)@のところでも,これは立法の御提案の記載でございますが,「会社法では,会計監査人の選任議案及び監査報酬の決定に関しては,監査役には同意権が付与されている」と言って,会社法344条が引かれています。これは344条1項だけの引用だと思いますので,ここには344条2項の議案提出請求権があるということは記載されないのでしょうか。そして,議案提出請求権の内容については,立法担当者が当時から,この請求があった場合には,取締役は監査役の請求に従い,会計監査人の選任議案を株主総会に提案しなければならないと解釈されていました。例えば「論点解説 新・会社法−千問の道標」の416ページを見ていただきますと,請求があれば取締役は必ず議案を総会に提案するという説明になっています。したがって,パッシングされた場合には,実態として,これを監査役会のほうで,それほどパッシングするのだったら,監査役会は選任議案を出すぞというふうな実態があるのかどうかという立法事実論としての現状を,もしお分かりであれば,教えていただきたいと思っております。これが先ほどの質問であり,現行法の枠組みの問題なのか,改正法の問題なのかという点であります。   付け加えますと,ねじれ問題というのは会社法の法制度がねじれているのか,運用がねじれているのか,制度があるけれども,使えないからねじれているというのか,それとも,そもそも監査役はそういう権限を行使すると飛ばされてしまうとか,そういった事実上の問題があって,これが使えないために,それで決定権という形の改正提案になっているのか,その辺のところがなかなか私には理解できなかったものでございますから,お教えいただければ有り難いと思って御質問させていただきました。 ○築舘委員 344条2項がどのぐらい使われているかということですが,私としては状況は把握できておりません。推測するに,ほとんど実績はないに等しいぐらい使われていないと思います。それはどうしてかということなんですが,会計監査人の選任議案,それから,報酬の決定というのは,344条がメインルートではなくて,やはり経営執行部がその案をつくり,そして監査役に同意を求めてくると。これがまず第一義的なルートになっていると。それが毎年,行われると,繰り返しですね,そういう実態になっているんだろうと思います。したがいまして,毎年のことでありますので,これがどのように運用されているかということが今までも実はこの場だけでなくて,いろいろな場でこの問題は議論されてきたというのが事実なんだろうと思います。   それで,何がねじれなんだということなんですが,私の理解ではねじれというシンボリックな言葉になっていますけれども,ある事柄を評価する人とされる人がいて,評価される人がする人を選ぶと,それで,報酬も決めると。そこにインセンティブのねじれがあるのではないかと。だから,もうちょっと中立的な人がそれを決めるべきではないかという問題意識があって,一方では,いや,現状でいいんだという御意見もあって,この問題がずっと議論されているのではないかと,そんなふうに理解をしております。   監査役として拒否権を伴った同意権ということですから,納得できなければ拒否して,そうすれば,そのプロセスはそこで止まりますから,もう一度,執行部が案をつくり直して同意を求めてくるか,あるいは344条2項ですか,そちらのほうへということもあるんですが,実体論としては一つの企業の中で経営者がおり,そして監査役がいるというときに,よほどのことがないと,お互いにそういうことについてとことん争うというようなことにはならない。特に経営者とそれから一つの企業にほんの数名いるだけの監査役という立場になったときに,本当の意味で,どう見ても究極的に納得できないというときには拒否をすると思いますが,何割は同意できないけれども,何割はしようがないなというようなときには,実体論としては同意しているケースというのが多いんだろうと思うんですね。この辺をパッシングされているというような表現が妥当だったかどうかは分かりませんが,私が言いました4割とか5割の監査役がきちっと採るべき行動をとればいいかということかと思いますが,企業の内部の実体論的に言うと,必ずしもそう理屈どおりにはいっていないと,そういうことだと私は状況認識しております。 ○三原幹事 そうしますと,これは実態論ということになるわけでしょうか。それとも,法制度論なのかというのがちょっとよく分かりませんでした。 ○築舘委員 プレゼンでも申し上げましたが,法が求める理念とか目標と実態をよく突き合わせて,現状でしようがないのか,あるいは法が求める目的を達成するために,もうちょっと手を加える余地があるのか,その辺を御議論いただきたいというのが私の問題提起です。 ○岩原部会長 まだまだ御議論はあるかと思いますが,それ以外の総括的な議論もしていただかなければいけませんので,築舘委員,八丁地委員の御報告に関する議論はこれくらいにさせていただきたく存じます。なお,その前の野村幹事が提出されました問題についての田中幹事,それから,藤田幹事との御議論のことですけれども,差止請求権の問題は藤田幹事が御指摘になったように,差止請求権全体として在り方を検討する必要があって,しかも,先ほど大いに議論のありました株式買取請求権の役割と併せて検討しなければいけないと思います。現行会社法はある意味で余りにも株式買取請求権に多くのものを期待し過ぎているのではないか,ある部分は差止請求権等で代替していく必要があるのではないか,というようなもっと大きい問題の中で検討されるべき課題かなと感じております。   先ほど申しましたように総括的な議論をしていただきたいと思います。それに関して三井幹事から参考資料14を御提出いただいておりますので,まず,三井幹事から参考資料14について御説明を頂いた上で,前半のほうの御議論と併せた総括的な御議論をお願いしたいと思います。   それでは,三井幹事,お願いいたします。 ○三井幹事 恐縮でございます。参考資料14でございます。   1回目の会社法制部会におきまして,金融審議会の報告書から法制審議会の議論に期待するものといたしまして,株式併合におけるキャッシュアウトの対価の多寡を争う手続,それから,企業集団法制,会計監査人の選任権及び報酬決定権について,取締役会から監査役会,監査役に移すことについての検討をお願いしたいと,こういったことを申し述べました。その金融審議会の報告書の2年前の報告書では,金融証券・商事に関する専門的な高等裁判所の創設といったくだりもありますけれども,これは奈須野幹事が御説明されましたので,今回,これらの点の説明は省かせていただきます。お配りしたものについては,今日が論点の抽出の最後の日ということで,金融商品取引法を所管している金融庁として,会社法と交錯する論点について,これまでの蓄積から是非,論点として取り上げていただきたいと考えているものをお持ちした次第でございます。   一つ目のエンプティ・ボーティング,実質株主という論点でございます。会社法では御案内のとおり,実際の株主に対して株主名簿,それから,上場会社の場合には電子決済でございますので,総株主通知を受けて振替口座簿に記載された株主を株主名簿に反映するという手続をもって,実際はだれが株主であるかということを会社が扱う,あるいは対抗要件として位置付けられると,こういった法制の下にあるわけでございます。1枚,おめくりをいただきまして,2ページ目のポンチ絵みたいなものがございます。実際には株主権と言われているもののうち,経済的利益とそれから議決権を初めとする共益権が分離するケースが,取り分け上場企業においては,最近,見受けられます。この真ん中のところでございますけれども,トータルリターン・スワップというやや耳なれない言葉をお聞きになった方がいらっしゃるかもしれません。例えば上の株主というところがヘッジファンドや言葉は悪いですけれども,ハゲタカファンドだったと仮定します。この人たちが実際には経済的な利益はそれ以外の人,例えば組合だったりとか信託だとか,貸株の形を採ったりとか,デリバティブの形を採ったりとか,様々な法形態があるわけですが,実際の経済的な利益は自分たちは一切持っていないと。議決権の部分だけを有していて,それで例えば現行経営陣の全面入替えを迫るとか,大幅な経営転換を迫ると,こういったケースが実際,海外ではございました。金融危機の直前には,次は日本でもあるかもしれないと,こういった状況であったかと思います。投資家の立場から見ますと,例えば株式持合いで議決権は事実上,持合いの会社が持っているけれども,経済的な利益はほかに移転してしまっているので,バランスシートからは落ちていると,こういったことが貸株とかデリバティブとか,様々な法形態を利用して可能でございます。恐らく会社法の想定している株主というのは,経済的な利益と議決権が一致した形で,それが最も効率的なあるいは企業の価値の向上,経済成長に資すると,こういった考え方もあってのことかと存じますが,現在の金融技術ではそれを分離することが非常に自由になってございます。   それに似た話で,また,違う切り口の問題として,このポンチ絵の右側でございますけれども,機関投資家は実際,取り分け海外の機関投資家もそうなんですけれども,日本の機関投資家も含めまして,ノミニーと言われている信託銀行が実際には名義人になっていますが,本当の株主はその背後にいる機関投資家でございます。そうした方々が議決権を行使されるときには,株主名簿に載っているのかどうかという問題もあり,背後にいる機関投資家が議決権を行使できるのかできないのかという問題がある中で,何となく行使できているという状況で,法的に安定性がどうもはっきりしない,株主総会で株式の議決権を行使できる人が株主に限定されるという定款が入っている企業では,株主総会に出席する権利が制限される可能性があると,こういった御指摘もあります。現行の会社法制では,株主名簿というもので規律しているということは十分承知しているわけですが,上場会社に限ってみますと,株主名簿の規律に加えまして,その背後に実際の投資家がいる,あるいは更には金融技術によって経済的利益と議決権を分離してくると,こういったものがありまして,これらを会社法の中でどのように取り込んでいくのかという議論を是非していただければ有り難いと存じます。実は,これは公開買付けや大量保有報告では,実際,マーケットで問題になっている視点でございます。   実は,会社法と公開買付けは事実上,交錯している部分がございまして,二番でございます。この二番では,今,申し上げましたエンプティ・ボーティング,それから,議決権と経済的利益の関係,一番にも絡んでいるわけですが,二番はちょっと切り口を変えまして,公開買付けなどの規制違反は金商法の規制違反ですので,刑事罰や課徴金,それから,民事賠償責任の特例規定がございます。これが主なエンフォース手段でございますが,参考の表の中にありますうち,ドイツ,フランス,イギリスも含めたヨーロッパの国々の規制を見ますと,先ほど奈須野幹事がおっしゃいましたもののうち,セルアウトの制度,提言2,それから,支配従属関係形成時の対象会社の株主保護で,株式買取請求権制度の整備ないしは既存株主の退出権保障というのを会社法の論点として御提言されています。このドイツ,イギリス,フランスなどでは,これが資本市場法制として,ドイツでは買収法,それから,フランスでは通貨金融法典という日本の金融商品取引法に相当する法律及びそれに基づく規則において規律されてございます。こうしたものの中では,資本市場法制についての規律違反ではございますけれども,その場合に一定の範囲で,一定の限度で議決権を停止するという制度がございます。具体例を申し上げますと,例えば先ほどのセルアウトとか,あるいは退出権,こういったものを保障しないまま,例えばTOB規制違反で支配権を取得したと。もしTOB規制にのっとれば,一定の価格以上で退出できたということなんですけれども,それがないままに新しい経営者に代わり,少数株主から見れば企業価値がどんどん下がっていくので,退出したいという状況で退出権が行使できないという違法状態のまま,企業価値がどんどん下がっていったと。その結果,最後の段階で何らかの別の手続に行って,実際に退出できたときには,本来,TOB規制が守られれば退出できたであろう価格よりもかなり安く,あるいは紙切れになっていたかもしれないと,こういうふうな状況になる前に,例えば新しい経営陣に代わるか決める株主総会の時点で新たな支配者は議決権が行使できないで,残りの株主で株主総会が運営できると。そういう権利があってもおかしくないのではないかという論点でございます。   4ページ目のファイナンスでございまして,これは奈須野幹事からも御説明がありました期間の短縮のための論点でございまして,会社法上の規律で権利行使開始日の2週間前までというところについて,何か考えられないかという点,それから,もう一つはアメリカの証券法の規制の域外適用との関係の論点を掲げております。もう出た議論でございますので,中身は割愛します。   四番目の株式対価の公開買付け,これも奈須野幹事がおっしゃっていました。一点,補足したいわけでございますけれども,確かにこの点,実は私のペーパーの4ページの下のほうには「また」のところで,当方の監視委員会が証券市場における様々な不正行為を見ていきますと,先般の会社法の改正後の柔軟化された制度の下で,例えば不動産を現物出資にした場合の不動産の鑑定といいますか,検査役の検査の代わりに一定の専門家による財産評価の証明書で代えることができるわけですが,それが若干悪用されたケースであるとか,第三者割当てなどでもやや濫用的な事例があります。したがいまして,私どものこの四項目全般にわたる話で,単純に規制緩和ということではなくて,株主なり,あるいは関係者,ステークホルダーの権利をきちんと保護された形で,かつ金商法とのかみ合いをよくしていくと,重複的に矛盾する規制をなくするような形,あるいは海外ではできるけれども,日本でも今できないものを,あるいはやりにくいものを公正な形でできるようにすると,こういう趣旨でございます。そうした観点で四番も同じでございまして,TOBをかけるという場合には,TOBには実は金商法で非常に充実した規制が掛かっております。単純にディスクロージャーを求めるというだけではなくて,かなりサブスタンシャルな規制が掛かってございます。そうした中で,TOBをかけるときには通常,プレミアムをつけてかけろというのが一般的なプラクティスでございます。市場価格が100だとしますと,2割,3割高い,120,130円という価格をつけてTOBをかけるということがございます。そうしますと,キャッシュを使う場合にはマーケットで100円の株価がついているものに,対価120円とか130円とか,場合によっては,5割ものプレミアムをつけた150円の対価を払うことがあるわけでございまして,買収者からしてみると,100円の株価のものに対して150円の対価を払って買収するわけですから,かなりのキャッシュの流出がございます。その意味では,買収者が一般の会社である場合には,買収する会社からしてみると,大きな重要な財産の流出に相当する場合でございまして,その金銭的な損得勘定だけをいいますと,実は現物出資で株式対価のTOBをかけたときに,払込金額がプレミアム分だけ少ないということと似たような経済状況が生じているわけでございます。日本の場合には,それをキャッシュを用意しないとやりづらいと。日本の企業に対する買収については,海外の法制では株式対価のTOBが会社法上も問題なくできるような形になっていますので,海外の企業が日本企業を買い付けるときには,もちろん,現金対価を選択肢として用意するということは,通常,あるわけでございますけれども,税務上の問題をさておけば,株式もその対価のチョイスとして使えるような状況にあるということで,果たして,これでよいのだろうかという問題提起でございます。   以上のような点も検討項目に加えていただければ,大変有り難いと存じます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。   いずれも極めて難しく,極めて大きい根本的な問題を提起していただきました。特に最初のエンプティ・ボーティング,これはもうかなり根本的な問題で,社債,株式等の振替に関する法律の建て付け,例えば154条の個別株主通知の制度の在り方とか,そういうところを多分,全部,洗わないと検討ができない非常に難しい問題かと思います。二番目は,正に会社法と金融商品取引法との間の関係をどう規律するかという根本問題にかかわってくる非常に難しい,しかし,重要な点を御指摘いただいたかと思います。その後の第三点,第四点についても非常に難しい法技術的な問題を含めて御指摘を頂いたかと思いますが,何か皆様のほうからございますでしょうか。 ○上村委員 最初の実質株主の話ですけれども,これはなぜストリートネームが必要だったかというと,やはり投資信託とか年金とか,背後の出資者が不特定多数だということが一つの原因だと思います。それは大抵は個人,労働者,公務員だったりですので,ストリートネームが必要なのですね。しかし,特定少数者を出資者とする場合の名義株主というのは,状況が全く違います。私は名義株主に対して直接的に指示や指図ができる関係がある場合には,その背後者は株主そのものだと思います。これは従来の会社法の解釈でも西武鉄道事件でも,一貫して実質を中心に考えてきたと思います。そのことが非常に大事な問題だと思っております。   それから,公開買付けとか,こういう証券規制の問題については,アメリカは確か34年法で違反したら無効だという包括的な規定があったかと思います。ですから,これは場合によっては金商法で書いてしまう可能性もあるかなというのが一つです。それからもう一つ,大事なことはそもそも議決権行使とか,そういう問題にいく前に金融庁が192条の差止請求権の規定,これについてはかつて神田委員も随分強調されていたことがございますが,やはり差し止めるべきものは差し止めていただくという運用が存在することが非常に大事だと思っております。例えば公開買付けをやった直後に株式分割をしたというような案件がありましたけれども,あれは明らかに公開買付制度を壊す会社法的な行為ですから,これは金融庁として差し止められたのではないかという感じがあります。その辺の金融庁としての差止めの問題と,それができなかった場合に,本来なら差し止められるべき不当な行為を経た者による議決権行使の効力問題を,両方,あいまって考える必要があると思います。それから,もう一つの大事な視点は,金商法に違反したけれども,私法上,効力が有効だという,そういうことになりますと,本来市場に入ってはならない有価証券が市場に参入してしまうわけですので,そこでは公正な価格形成という金商法が守るべき価値がそれによって阻害されていることになります。そういう金商法的な観点から会社法上の行為の効力を検討するという見方も重要だと思っております。私の意見です。 ○岩原部会長 今の三井幹事から提起された問題,あるいはそれに対する上村委員からのコメント,あるいはそれ以外の点を含めて,今日の最初からのすべての問題についての総括的な御意見等があれば承りたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○前田委員 総括というわけではないのですけれども,今日,何度か出てまいりました第三者割当てにつきましては,先ほど築舘委員の御提案の中で,差止請求権の拡充と並べて,第三者割当てにおける監査役の役割について会社法上の手当てをしてはどうかという御提案がございまして,私はこれに賛成です。初めに静委員から御説明がございましたように,現在,既に東証の規則に基づいて,監査役は第三者割当てについて意見を述べることができるようになっていますけれども,それは会社法上の監査役の職務として定められたものではありませんので,法的にどういう意味を持つのかが不明確な状況になっていると思います。つまり,監査役としての職務執行をしているのか,それとも,監査役たる地位とは別に会社から意見を示すように委託をされたにすぎないのか。このことは監査役の責任あるいは監査役の報酬にかかわってくると思うのです。もし,監査役の職務としてやっているのであれば,著しく不当な意見を書けば責任免除の困難な会社法上の監査役の責任を負うし,そうでないならば,普通の債務不履行責任にすぎない。報酬についても,監査役の職務執行なら,もし対価を払うのであれば監査役報酬の枠の中で手当てをしないといけないというような問題が出てきます。できれば,ここは会社法で監査役の職務として手当てをするのが望ましいという感想を持ちました。 ○逢見委員 三井幹事が出された問題は非常に大きな問題だと思います。従業員の立場からも実際に日本の市場でも起こっている問題でありまして,特に一番のエンプティ・ボーティング等の問題はリーマンショックで止まったとはいえ,国際労働組合の中でも,こうしたエクイティ・デリバティブ等が事実上の実質の投資者がだれだかよく分からないという議論があります。しかし,この会社を買うぞといって出てきたときに,姿が見えないところで翻弄されてしまう。それが本当に企業を経営しようとしているのか,ただ単に利ざやを取るために来ているのか。従業員にとっても分からないために,それをもっと透明化して姿を現してほしいというのもあるし,そもそもエクイティ・デリバティブという,そのものの存在が有用なのかどうかという議論をやっていて,こういうものをヨーロッパでは法律的な規制が入っているにもかかわらず,日本はほとんどできていなかったという反省があって,そういう意味で,今回の見直しの中でも,エクイティ・デリバティブについてどう対応するかというのは必要だろうと思います。   4.の公開買付けも,対抗手段としてTOBで価格をつり上げることによって,会社の持っている資産が現金として流出していくわけです。そのため,本来,従業員が営々として築き上げて,それは内部留保であったり,あるいは土地等の資産であったりするわけですけれども,そういうものが一瞬にして飛んでしまって,あとに残ったのは自分たちの雇用の場が失われ,あるいは得られるべき賃金も下げられるという形で,実際に公開買付け後のやせ細った企業の姿の中で,従業員が全く自分たちがかかわることができない中で,そういう目に遭っているというのが実態として存在しているわけです。私どもはステークホルダーとしての従業員がそういうものに対して何も意見,発言する機会もない,知らないところで進んでしまうという,非常に関与の仕方が弱いということについて,今回の諮問の中で多様なステークホルダーに配慮するという点について,こういった具体的な問題を考える必要があるだろうと思います。   それから,もう一つ,八丁地委員から示された意見ですが,基本的には形式が重要なのではなくて,実質でやればいいということについてです。例えば5ページ,6ページのところにある一部企業が不祥事を起こしているので,全体が迷惑を被るのは困るというようなことなんですけれども,実際の日本企業で起こっている不祥事を見ると,早く発見して早く芽を摘んでおけば,企業価値が毀損しないで済んだのに,隠蔽しようとするとか,あるいはトップにマイナス情報が通っていなくて,トップはそんなことが起こっているとはちっとも知らなかったといって,最終的にどうしようもなくて辞任してしまうとか,そういう問題を見ると,それはやはりどこか仕組みに問題があるのではないか。ガバナンスに問題があるから,そういう不祥事が後を絶たないということだと思うんです。そう考えると,実質をうまく回していけばうまくいくということではなくて,やはり制度そのものの見直しということも含めて,ガバナンスをよくしていかなければいけないと思います。特に不正行為の防止と競争力の強化を総合的にとらえるということですけれども,不正行為については,そこはやはりきちんと問題が処理できなければ前へ進むことができない。競争力,収益力と不正行為の防止を総合的にとらえるということではなくて,まずは,コンプライアンス,そこができていないと企業価値の上昇につながらないと思うんです。そういう点で,今の企業統治の在り方の問題点を洗い直して,改善すべき点を改善するという方向が必要だと思っております。 ○野村幹事 先ほど前田委員がおっしゃられたことに対してなんですが,私はその提案については賛成です。先ほど部会長がお話しされたように,差止請求権については後から総合的に検討する事柄ですから,そのときに話すべきことなのかもしれませんけれども,私がちょっと危惧しておりますのは,現行法は一応,監査役の差止めの領域と株主の差止めの領域というのを分けていまして,個々の株主の利益が損なわれる場合には株主自身に差止めさせるという形になっていると思います。そうした株主自身による差止請求の制度が,ピンポイントで募集株式の発行のところと,略式組織再編のところだけにある現行法に対しては,ほかにも同じことが起こるのではないかという問題意識を私も共有していますし,制度の拡充を図るべきだと考えています。   ただ,それを議論する際には,先ほど田中幹事がおっしゃったように,監査役の差止めの領域と株主の差止めの領域を分けている現行法の建て付けがおかしいんだと考えていて,監査役の差止めの領域を拡充すべきだと考えるのか,それとも,現行法の建て付けはそれなりに合理的なんだと評価していくのかということは,慎重に検討する必要があるかと思っています。それは先ほど言いかけたことなんですが,監査役に権限を与えてしまうと義務になってしまうので,差し止められる可能性が高まるわけです。それに対して,不利益を被っている株主自身が自ら判断をして,やめてほしいときにはやめられるという現行法のスキームであれば,こちらは株主は義務ではありませんので,自分の判断でディールを止めないという判断の余地も残ってくると考えられるわけです。   そうだとすると,もし,従来の建て付けを残すという形だとすれば,株主に対しての情報提供の充実など,株主が差止めの機会を十分確保できるようにする方向で議論を進めていけばよいことになります。もし,それが実務的に難しく,結局は株主に情報が届かないままスルーしてしまうということであれば,監査役が差し止めるべきだというような議論をしなければならなくなるのかも知れません。いずれにしてもこの点を慎重に議論する必要があるという点ついて,今日の議論の成果として,確認しておいていただければ有り難いなと思います。 ○八丁地委員 逢見委員が考えていることは,それほど私とは変わりがないと思っておりまして,企業としてコンプライアンスが重要であり,ガバナンスが重要であるというのは,身にしみて理解しております。私が申し上げたいのは現在の会社法の体系ですとか,金商法の活用ですとか,取引所の規制を十分に使いこなせて組み合わせることにこそ,力が注がれるべきであって,それらを活用すれば,多くのことはその規模,業種,業態,カルチャーに従って,対策できるのではないかと思います。そういうモチベーションを企業に与えたほうが,新しい規制を全面的に掛けるよりも,効果的ではないかと考えているところであります。ですから,ガバナンス体制をきちんと構築し,工夫をし,そこで与えられたもののみではない開示の工夫をし,ディスクローズをして理解を求めていくことが必要です。そのためには,投資が要りますけれども,更に進めていくことに関しては,企業はコミットしなければならないと思っています。 ○田中幹事 エンプティ・ボーティングについてコメントさせていただきます。私の考えでは,日本における最大のエンプティ・ボーティングは,総会日から3か月も前の基準日株主に議決権を行使させていることであります。既に株式を売った人が議決権を行使するので,究極のエンプティ・ボーティングで,しかも,これはエクイティ・デリバティブのような複雑な仕組みを一切必要としない。制度的にそうなってしまっています。   もともと基準日株主に権利を行使させているというのは,多分,株主総会で利益処分をしているので,その利益というのは期末の利益だから,これを処分するかどうかは期末の株主が決めるということだったのでないかと思うんですが,もちろん,期末の利益の処分といっても,利益を現金化して金庫に入れて総会までしまっておくわけではないわけですから,処分というのも,結局,総会日の株主が会社のお金をどう使うかということですから,原理的には総会日の株主に決めさせるのがいいわけですね。仮にそれが技術的に困難だとしても,次善の策としては,できるだけ総会日に近い株主に議決権を行使させるのがいいわけです。それなのに,日本は期末を基準日にすることによって,事業年度末から総会日まで3か月という,諸外国に比べれば,相当,タイトなスケジュールでやっているんですけれども,それでも招集通知の期間が短いとか,特定日に総会が集中するとかいって,諸外国から批判を受けているという状況なわけです。   それから,先ほど話題になった期ずれの問題なんかも,今述べたことに起因しているわけでして,本来であれば期末から3か月以内に有価証券報告書を出して,それから,ゆっくり招集通知を出して,7月に総会を開けばいいわけです。ところが,有価証券報告書を先に出すかはともかく,どうしても期末から3か月以内に総会を開かなければならないため,招集通知を出すまでに監査役は監査をやっていなければならない。期ずれの問題はそこから起きているわけです。それから,もう一つ別の期ずれの問題としましては,ほとんどの会社では有価証券報告書が株主総会の後で提出されますので,提出したときの役員というのは総会で選ばれた役員ですから,1日しか役員になっていないわけですが,そういう人たちが有価証券報告書に虚偽記載があると責任を問われてしまうわけです。ですから,有価証券報告書は期末から3か月で出せばいいんですが,基準日は5月とか,場合によっては6月中の日を基準日にして,そこから,7月に総会を開けば,今,言った問題は解決するはずなんですね。これは,物すごく単純な話だと思うんですけれども,それにもかかわらず,ずっと昔から現在の実務のようにやられているから変わっていないだけなのではないかと個人的には思っています。これは法規制の問題では必ずしもないかもしれませんが,エンプティ・ボーティングという関係では非常に重要な問題だと思って,発言させていただきました。 ○上村委員 築舘委員の御報告について,選任議案の決定権を監査役,監査役会が持つということですけれども,立派な会計監査人を選べば,その人に監査意見は任せたらいいのではないでしょうか。監査役は先ほどの一番最初の御報告を見ても,たくさん業務がありますよね。たくさん業務があって,しかも,立派な会計監査人を選任しておいて,自ら会計監査人の監査の結果の相当性の意見まで述べるというのは,どうなのでしょうか。自分が自信を持って選任しておいて相当ではないとは,多分,言わないのではないでしょうか。そもそも監査役には会計に傾斜した業務監査的な機能がたくさんありますので,公認会計士の監査意見についてはかかわらないということも,一つの選択肢かなという感じがするんですが。選任権があれば,ますます,そういうことになりはしないか。今日ではなくてもいいんですけれども,お聞きしたかった点です。 ○藤田幹事 4人ぐらいの方の御報告に少し関係があるのですけれども,最後の三井幹事の話と関連し,金商法と会社法との交錯という観点からは,奈須野幹事の報告の中にあった支配権の移転や支配株主の出現があった場合の退出権の保障という観点からの公開買付制度という提案は,テークノートしておいていただければと思います。取り分け,これは静委員の最初の報告であったように親子上場は禁止しないということとし,かつ八丁地委員の意見にあった親子会社間の取引みたいなものに過剰に事後的に介入することは,グループ企業の活力をそがないという観点から,慎重にするという政策的な選択をしたときには,支配株主の出現時点での退出権の保障を与える必要があるのではないかというのはかなり重要なアジェンダになってくると思います。   今日はお話ししませんけれども,日本の金商法の強制公開買付けというのは,比較法的にみるとかなり特異な制度で,諸外国とは非常に異なる建て付けになっており,そのねらいも特殊です。それを会社法との接合を考えながら,少数株主保護制度の中に位置付けて再検討するというアジェンダは,少なくとも要検討事項としては置いておいていただけないかと思います。最終的に何か現行法を変えられるかどうかというのは別問題で,金融庁の規制との兼ね合いなど,いろいろ検討しなくてはならない点はあるでしょうけれども,現段階では差し当たり検討事項としてテークノートしておいていただければと思います。 ○岩原部会長 それでは,ほかに特にないでしょうか。なければ,本日はこれにて終了させていただきたいと思います。   それでは,部会の終了の前に次回の部会の進行についてお諮りしたいと思います。まず,事務当局から説明をお願いいたします。 ○河合幹事 まずは,次回の日程から御案内いたします。日時は本年8月25日水曜日,午後1時30分から午後5時30分までの予定で,本日と同じ法務省第1会議室で開催されます。当日の予定としましては,第1回会議においてお諮りしましたとおり,次回から第一読会を開始したいと考えております。御案内のとおり,事務当局にて,第1回から本日の会議までの御調査,御審議を踏まえまして,論点の洗い出し作業の結果を整理させていただきたいと存じます。次回の会議におきましては,まず,事務当局のほうから論点の洗い出し作業の整理をしたものの結果,それから,第一読会における大まかな審議スケジュールなどを御提案させていただくことを予定しております。よろしくお願いいたします。 ○岩原部会長 ありがとうございました。   ただいまの事務当局の説明のとおりでよろしゅうございましょうか。   それでは,そのようにさせていただきたいと存じます。   それでは,法制審議会会社法制部会第3回会議を閉会させていただきたいと思います。長時間,熱心な御討議を誠にありがとうございました。 −了−