法制審議会会社法制部会           第4回会議 議事録 第1 日 時  平成22年8月25日(水)  自 午後1時30分                        至 午後5時28分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  会社法制の見直しについて 第4 議 事 (次のとおり)                議     事 ○岩原部会長 それでは,予定した時刻が参りましたので,法制審議会会社法制部会第4回会議を開会いたします。   本日もお忙しい中,また暑い中,御出席いただきまして誠にありがとうございます。      (幹事及び関係官の異動紹介につき省略)   それでは,本日の審議に入ります前に,配布資料の説明をさせていただきたいと存じます。事務当局からお願いいたします。 ○河合幹事 御説明いたします。配布資料目録,部会資料2,「会社法制部会の当面のスケジュール(案)」を事前にお配りしておりますほか,お手元には,追加の配布資料目録と併せて,参考資料15をお配りしております。   まず,部会資料2は,「企業統治の在り方に関する検討事項(1)」でございます。部会資料2と「会社法制部会の当面のスケジュール(案)」につきましては,後ほど御説明いたします。また,参考資料15は,本渡委員及び三原幹事御提出の「会社法制の見直し(現行会社法に関する要改正事項)」でございます。 ○岩原部会長 それでは,本日の審議に入りたいと思います。   まず,前回の部会において御説明をさせていただきましたとおり,事務当局におきまして,前回までの論点の洗い出し作業の結果を整理していただきました。そこで,事務当局から,論点の洗い出し作業の結果に基づきまして,今後のスケジュールにつき御説明を頂きたいと思います。 ○黒田関係官 お手元に配布させていただきました「会社法制部会の当面のスケジュール(案)」を御覧ください。ここでは,当部会におけるこれまでの御議論の結果を踏まえまして,第一読会で調査・審議すべきと考えられる論点を前提とした当面のスケジュール案を示しております。   ここで採り上げております論点でございますが,これまで御指摘又は御提案いただいた様々な論点のうち,諮問事項と関係が深く,かつ,これまでの御議論における委員・幹事の皆様の問題意識が高いと考えられるものを中心に,まずは具体的な内容を対象とする論点を採り上げることとしております。もっとも,ここで採り上げております論点は,最初に御調査・御審議いただきたいという趣旨のものであり,事務当局としては,ここで採り上げた論点以外を一切採り上げないという趣旨ではございません。後ほど御説明いたしますが,12月に「残された論点・その他」というテーマを予定しておりますので,必要なものについては,そこで御審議いただきたいと考えております。   それでは,スケジュール案を説明させていただきます。本日,この後から第一読会の御審議をしていただく予定です。8月と9月は,企業統治の在り方についてです。まず,「監査役の監査機能に関する検討事項」のうち,監査役の権限に関する事項については,経営者の選解任に監査役が関与することの当否や,会計監査人の報酬等の決定権を監査役に付与することの当否を採り上げる予定です。監査の実効性を確保するための仕組みとしては,監査役と内部統制システムとの連携などの監査を支える体制や,監査役による情報収集の在り方を採り上げる予定です。なお,従業員選任監査役制度に関する御指摘もございましたが,不祥事等の情報が従業員から監査役に対して適切に提供されていないという御指摘の背景を踏まえますと,論点としてはここに整理することが適切でございますので,併せて御議論いただきたいと存じます。「取締役会の監督機能に関する検討事項」としては,これまで当部会において賛否両論の様々な御議論がございました社外取締役に関する事項について,御審議いただくことを考えております。また,次回以降となりますが,本日の議論の状況や結果を踏まえ,必要に応じ,取締役会の監督機能の充実に向けた機関設計という論点も採り上げたいと考えております。次に,「資金調達の場面における企業統治の在り方に関する検討事項」ですが,これまで頂いた御指摘を踏まえて,大幅な希釈化を伴う第三者割当てによる募集株式の発行,株式の併合や,その他の不公正ファイナンスといった事項も,企業統治の在り方にかかわる問題ですので,ここで採り上げることを考えております。併せて,近時注目を集めております新株予約権無償割当てを用いた資金調達,いわゆるライツ・イシューでございますが,これを念頭に,会社がより円滑に資金調達をすることができるための方策について御審議いただきたいと存じます。   10月と11月は,親子会社に関する規律についてです。親子会社に関する規律は,大きく「親会社株主の保護」,「子会社株主・債権者の保護」,それと「企業結合の形成過程等に関する規律」に論点を分けてございます。   まず「(1) 親会社株主の保護」としては,多重代表訴訟と子会社の意思決定に係る親会社の株主総会の権限に関する事項を御審議いただきたいと存じます。「(2) 子会社株主・債権者の保護」のうち,子会社の少数株主保護については,利益相反の場面に関し,親会社・支配株主の責任や利益相反取引に関する規律という形で採り上げております。これについては,結合企業関係の形成過程あるいは解消といった場面における少数株主の保護の問題と相互に関連する部分もございますが,その部分については,(3)のところで挙げてございます。また,(2)では,子会社の債権者保護についても御審議いただきたいと存じます。「(3) 企業結合の形成過程等に関する規律」では,主として,結合企業関係の形成過程あるいは解消といった場面における少数株主の保護の問題を取り扱うことを予定しております。もっとも,効率的に議論を進めていただく観点から,ここでは厳密な意味での講学上の企業結合の形成過程の概念よりは若干広く取ってございます。そこで「キャッシュ・アウトに関する検討事項」,「組織再編における少数株主の救済手段に関する検討事項」,「組織再編の手続に関する検討事項」を挙げております。また,セル・アウト法制についても,少数株主の保護という観点から,ここで併せて御審議いただくことを考えております。   12月で第一読会は終了となりますが,ここでは,これまでの御審議で採り上げた論点のうち,残ってしまった論点を継続審議していただくとともに,11月までに採り上げることのできなかった論点を,必要に応じて,「残された論点・その他」として御審議いただくことを予定しております。   以上,御説明したことを前提といたしますと,年が明けた1月からは第二読会を開始することとなります。 ○河合幹事 その後のスケジュールについて,若干補足させていただきたいと思います。   今回採り上げております内容と大きく異ならない範囲で調査・審議が進むことを前提としますと,第二読会は来年の春ごろまで行い,中間試案の公表は,夏前ころとなることが見込まれます。 ○岩原部会長 なお,本渡委員及び三原幹事から,「会社法制の見直し(現行会社法に関する要改正事項)」というペーパーを提出いただいております。これにつきまして,補足いただく点はございますでしょうか。 ○三原幹事 提案内容は記載のとおりでございます。今後の審議に当たりまして,これも踏まえて検討の課題としていただければ,大変有り難いです。是非よろしくお願いいたします。 ○河合幹事 参考資料15につきましては,当面のスケジュールの中で採り上げる予定の論点とも関連するものも含まれておりますので,採り上げるかどうか,その時期も含めて今後検討させていただきたいと思います。 ○岩原部会長 第一読会のスケジュールにつきましては,ただいま事務当局から御説明いただきましたとおりでよろしゅうございましょうか。特に御意見等ないでしょうか。   それでは,第一読会のスケジュールにつきましては,ただいま事務当局から御説明いただきましたような形で進めたいと存じます。   次に,企業統治の在り方に関する検討に入りたいと思います。まず,部会資料2について,「第1 監査役の監査機能に関する検討事項」の「1 監査役の権限」と,「2 監査の実効性を確保するための仕組み」までを,事務当局から一括して御説明いただきたいと思います。 ○内田関係官 それでは,部会資料2について御説明いたします。   まず,全体像についてですが,部会資料2は,表題にもありますとおり,企業統治の在り方に関する検討事項を整理したものでございます。(1)とありますが,本日の会議では,経営の監督を担う機関である監査役及び取締役会の機能に関する検討事項について,御議論いただければと考えております。大きな項目立てとしては,まず,冒頭の第1は,監査役の監査機能に関する検討事項,次に,5ページから始まります第2は,取締役会の監督機能に関する検討事項,取り分け,社外取締役に関する事項という構成となっております。   まずは,「第1 監査役の監査機能に関する検討事項」のうち,「1 監査役の権限」及び「2 監査の実効性を確保するための仕組み」の部分を御説明申し上げます。   1は,監査役の監査機能に限界があるとの指摘がされていることを踏まえ,監査役の権限について問うものでございます。当部会においても,監査役の監査機能が不十分であるという指摘の多くは,監査役が経営者の選解任権を有しないことを理由に挙げており,また,監査役と取締役の兼任を認めることなどにより,代表取締役の選定及び解職に関する取締役会決議において,監査役が議決権を行使することを認めるべきであるとの指摘もあります。そこで,(注)にありますとおり,そのような関与を認めることが監査役制度の本質と整合し得るか,取締役会の監督機能との役割分担という観点と併せて,御議論いただければと存じます。また,1ページの一番下,「なお」で始まる段落にありますように,監査役の監査機能の強化という観点から,監査役に取締役解任の訴えの提起権を付与することも,理論的には検討の余地があると思われますが,解任の原因は重大な違法行為等に限定されるとすれば,結局,監査役の監査機能に限界があるとの指摘に十分には答えることができないのではないかとも考えられるところです。この点も踏まえ,監査役に取締役解任の訴えの提起権を付与することについて,二読以降において具体的な検討を進めるべきとの御意見がありましたら,御指摘を賜れればと存じます。   次に,2ページですが,2は,監査の実効性を確保するための仕組みについて問うものでございます。具体的には,まず,(注1)にありますとおり,監査役の監査を支える体制に関する規律の在り方について,見直しを検討すべき事項はあるかを御議論いただければと存じます。この点につきましては,会社法施行規則に定める事業報告の内容を追加すべきであるとの指摘もされていますが,その他,監査を支える体制に関する規律の在り方について,具体的に見直しを検討すべき事項があれば,御指摘を賜れればと存じます。   また,(注2)は,監査役による監査のための情報収集に関するものです。この点に関連して,不祥事等の情報が従業員から監査役に対して適切に提供されていないという認識を背景に,いわゆる従業員選任監査役制度,すなわち,監査役のうち一部の選任に関する株主総会の議案を従業員が決定する制度を導入すべきであるとの指摘もあります。監査役による業務執行機関や従業員等からの情報収集について,そもそも不十分な点があるか,また,仮に不十分な点があるとすれば,(注1)で御議論いただくように,監査を支える体制に関する規律の在り方を見直すことによって対処することがより適切ではないか,などの点について,御議論を頂ければと存じます。   なお,従業員選任監査役制度を導入すべきであるとの指摘の背景としては,監査役が実質的に経営者によって選任されていることから,実効的な監査を果たせないという認識も挙げられていますが,累次の法改正によって既に導入されている様々な仕組みに加えて,更に監査役の経営者からの独立性を確保するための方策が必要であるか,あるいは必要でないか,検討を要するものと思われます。 ○岩原部会長 それでは,「1 監査役の権限」から御議論をお願いしたいと思います。まず,(注)について,いかがでございましょうか。 ○前田委員 代表取締役の選定・解職決議について監査役に議決権行使させることは,補足説明のところで指摘されていますように,監査役が業務執行の決定に関与するということになりますので,監査役制度の本質に反するのではないかと思いますし,それとともに,取締役会制度のほうから見ましても,代表取締役の選定・解職は,言うまでもなく,取締役会による意思決定の最も重要な事項の一つであり,また,監督権限の最も重要な発動でもあります。取締役会がこの中核的な機能を果たすべき場面で,ほかの機関である監査役の干渉を認めるのは,取締役会制度の基本的な在り方に反するのではないかと思います。例えば,ある代表取締役を,取締役の多数が解職しようと考えたときに,ここだけ監査役が出てきて監査役の反対で解職できないというような事態になりますと,取締役会の基本的な職務の遂行に支障が生じるのではないかと思います。ですので,代表取締役の選定・解職が適正に行われるようにするためには,監査役とは離れて,後で出てまいります社外取締役制度などによる取締役会の監督機能強化の問題として検討するのがよいのではないかと思います。   ただ,監査役の監査機能を強化すべきだという方向性については,何ら反対ではありませんで,例えば最後のほうに御提案されていますように,取締役解任の訴えの提起権を監査役に与えるということは,十分検討に値することだと考えております。 ○岩原部会長 ほかに,あるいはただいまの前田委員の御発言に関連して,御意見等ございませんでしょうか。 ○静委員 私も今の御発言と基本的に同じ意見を申し上げたいと思います。事務局でお作りいただいた資料の後半にあるとおり,ガバナンスに記載されている機能には大きく分けて有事の機能と平時の機能があるのだろうと思います。   有事の機能につきましては,先ほどお話があったとおり経営者の暴走を止めるというのももちろんそうですし,それから,企業価値を向上させないとか,下げるような経営をストップさせるような機能が挙げられるだろうと思いますけれども,そういう機能は,やはり経営者の人事に直接関与するような権限がない人だとなかなか担えないと感じるのが普通だろうと思いますし,特に海外を中心に,投資家が人事権のない監査役の制度では駄目だと言っているのは,そういうことなのだろうと理解しております。もし仮に,そういう権限を監査役が持つことが監査役制度の本質と整合しないとか,先ほどの御意見のように,取締役会制度の本質とも相容れないということであれば,その部分を監査役に期待することはなかなか難しいということだと思いますので,社外取締役のほうに期待するしかないと,こういうことになるのではないかと思います。   一方で,平時の機能というのも大事だと思いますけれども,平時の機能は資料にもありますように,どちらかというと,株主に対する説明責任を経営者がしっかり果たすように見守るような機能だと思います。私どもの制度で,独立役員の役割ということで期待しているのは,主にこちらのほうの機能だと思います。この機能につきましては,人事権がない人でも担うことは可能だと思いますけれども,一方で監査役がもとから持っている適法性の監査という権限の範囲では,これをやろうとするのはなかなか心もとないということなのではないかと考えております。   私どもより先般御説明申し上げましたように,上場会社の調査をしたところ,独立役員の4人に3人は社外監査役ということでございますので,せめてこの平時の機能を果たすために必要な権限を法令等で明記していただけないかと考えております。 ○奈須野幹事 今のお二人の発言とちょっと似た話で,少し違う発言ですけれども,前回の会議でも申し上げましたとおり,私どもは企業のコーポレート・ガバナンスの実態に応じた形で,監査役が非業務執行の取締役を兼ねることができるような仕組みを選択できるという仕組みを導入すべきと考えております。一律に監査役に代表取締役の選定・解職に関与する権限を付与するということについては,おっしゃるとおり,監査役制度を変えるものであるという観点から消極的です。しかし,社外取締役の役割に期待するというような声もありましたが,実態を申し上げますと,過半数の企業で社外取締役を置いていないという実態がある一方で,現行法でも監査役は取締役会には出席義務があるということです。したがいまして,企業の実態に応じてその権限を行使できるよう,選択肢を多様化していくというのが監査役の監査機能に関する見直しのポイントではないかと思っております。   業務執行の監視の類型としては,監査という客観的な基準に基づいて業務執行状況を監視するという役割のほかに,今,御指摘のありました,必ずしも客観的な基準によらないでも,その業務執行をモニタリングする監督という役割が二つあるわけです。昨年の企業統治研究会の報告書では,まずは社外取締役を置いてください,もしも置かない場合は企業の独自の方法で企業統治体制を整備・実行することについて開示してくださいという取りまとめ結果になっております。これに基づきまして,今回,上場企業につきましては,この統治研の報告書に従った形で,社外取締役を置かない場合にはどのような方法でその役割を果たしていくのかということについて,開示を行っております。そこで,私どもで上場企業1,681社−東証一部ですけれども−調べまして,そのうち,860社では社外取締役を置いていないということになっております。この860社につきまして,今申し上げたとおり,社外取締役を置いていない以上は,どのような体制でこのコーポレート・ガバナンスを実行していくのかということが問われるわけですけれども,うち734社,つまり約85%の企業が,監査役あるいは監査役会に対し社外取締役に期待されるような監督の機能も与えているのであると回答しているわけでございます。そのように考えますと,もはや85%の企業では監査役が社外取締役に比肩すべき機能を果たしているということでございますので,この実態に対応した形で,そういった企業については監査役が非業務執行の取締役を兼ねる,そしてそのことによって人事や報酬決定に反映させるようにできるというような選択肢を用意すべきだろうと思っております。これに伴いまして,任期の調整の問題であるとか,独任制の部分をどうするのかと,ちょっと技術的な問題点は幾つかありますけれども,基本的にはそのような考え方でもう少し選択肢を多様化していくべきだと思っております。それから,監査役が取締役を兼ねるということになりますと,一種,自己監査的なニュアンスもあるわけですけれども,ただ,それに関して言えば,今申し上げているのは非業務執行の取締役ですので,経営の監督の局面については,非業務執行の取締役としてやっていくということで,現行の監査役の制度と,さほど劇的に大きな違いがあるというようにも考えられないわけです。むしろ実態に合った仕組みというものを検討いただきたいと考えております。 ○岩原部会長 ただいまの御発言で,一点確認させていただきたいと思います。監査役が非業務執行取締役になれるような制度改正を提案されたわけですけれども,一方で,その後で確か監査役に代表取締役の選解任権を与えることには消極的であるとおっしゃったかと存じます。その関係はどのようなものなのでしょうか。 ○奈須野幹事 監査役自身に人事権,報酬決定権を与えるということについては消極的です。監査役にということではなく,申し上げているのは,非業務執行取締役としてそのような権限を行使するということです。 ○岩原部会長 監査役が非業務執行取締役としてそのような権限を行使することを可能とすべきであるということですね。そうすると,取締役と監査役の兼任禁止の規定をそのような範囲で修正すべきだという御発言ですね。 ○奈須野幹事 そうです。 ○八丁地委員 まず,監査役の権限ということで見直しを検討すべき事項があるかということですが,会社法制は基本法でありまして,すべての企業について,大小を問わず,業種を問わず,適用される基本的な法制ですので,立法の事実を十分に見極めて検討をしていくことを,是非お願いをしたいと思います。立法の事実の確認を,監査役の権限に限らず,すべて会社法制の検討において,基本的な視点としていただきたいと思います。   その過程で,監査役の権限について見直さなければならない立法事実,問題は生じているのかどうかという検討をすることが必要だと思います。監査役は,取締役の善管注意義務に反する業務執行等に対し違法行為の差止請求権を持っております。また,監査報告書への意見の記載等を通じて,株主に対して直接その意見を開示することもできます。また,監査法人等から,業務執行上の違法行為等についての情報伝達もなされるという仕組みがあります。加えまして,取締役会への出席の義務,意見陳述の義務があり,取締役会において必要に応じて発言することも可能です。また,意見を述べることができる範囲に特段の制限は設けられてはいません。したがって,現在の監査役の権限について,現行の法制で特に不足をしているという立法事実はないと考えますので,見直しを行うべき事項はないと考えます。   それから二点目の,代表取締役の選定や解職に関与することはどうかという御質問がありましたが,監査役制度は,業務執行及びその決定と監査をそれぞれ別な機関が担うということが基本だと考えております。業務を執行し決定する機関と分離をされた監査の専門機関が監査を行うところに,この制度の本質的な意義があると考えております。業務執行の機関である代表取締役の選定及び解職に関する取締役会決議において,監査役に議決権行使を認めるということに関しては,そのような監査役制度の本質と整合し得ないと考えております。言い換えますと,監査役が取締役会における議決権を持つこととなりますと,それは監査役ではなく取締役となるのではないかと思います。この点で現行の監査専門機関としての制度との乖離が大きく生じると考えております。 ○野村幹事 既に,先ほど部会長のほうからも御整理いただきましたが,問題点として最初に検討しなければならないのは,今の監査役という制度を前提とした上で,その監査役に対し,代表取締役の選定権限を与えるかどうかということであって,まずその点をしっかりと議論する必要があるだろうと思います。その上で,新たな制度設計として,例えば監査役と取締役の兼任を認めるかどうかといった問題点や,新しいガバナンスシステムを考えるのかといった問題点は,また別な論点として議論したほうが分かりやすいのではないかなと思います。その上で,今私が最初の論点として申し上げた,現行の監査役に代表取締役の選定権限あるいは解職権限を与える必要があるかどうかという点に関しましては,私自身は消極的な意見を持っております。   その理由といいますのは,そもそもその代表取締役というのを選定するというのが,どういう意味を持っているのかということがかねてから議論されているわけですが,ちょっとやや概念法学的で恐縮ですけれども,一方の考え方としては,代表取締役を取締役会の派生機関としてとらえるといった議論があるかと思います。これは,そもそも取締役には,業務執行の意思決定の権限と,業務を執行する権限が委任されていると考える立場です。しかしながら,意思決定は複数でできますが,執行という行為自体は複数の者で行うのが困難であるため,その取締役会の協議によって,各取締役が本来行うべき執行権限を特定の取締役に任せる形になると考えるわけです。このように本来自分がやらなければいけない職務を特定の取締役に任せるということから生ずる帰結は,復代理の場合と同様に,代表取締役の経営上の失敗について自らも責任を負う可能性があることを覚悟しながら,自分にとって適切な者を代表取締役として選ぶという構図が生まれてくるということだと思います。代表取締役を取締役会で選定するという行為の中に,そういう本質的要素があるのだとすれば,やはり業務執行の責任を負っている者たちが選ぶという,そういうメカニズムにならなければ,体系的な整合性がとれないのではないかなと思われるわけです。監査役の場合には,取締役の業務執行について,適法性の観点から監査する責任を負っておりますけれども,代表取締役が行っております執行行為それ自体については,経営責任を負わない立場にありますので,監査役に取締役の選定権限を与えることは,大雑把に言えば経営責任を負わない者が経営者を選ぶことになる点で,やや問題があると思います。   そういう意味では,責任との整合性を考えていくならば,やはり代表取締役の選定及び解職というのは,業務執行権限を本来有すべき取締役たちによって担われていくべきものではないかなと考えます。そういう点では,先ほどの奈須野幹事のお話にありましたように,もしその問題をクリアするんだとすれば,それは監査役を取締役として選ばなければいけないということになるんだと思いますが,ここはまた別論点としまして,そうした兼任が監査役という制度と相容れるものなのかどうかを慎重に検討する必要があると考えます。 ○上村委員 今,野村幹事から御発言がありましたけれども,現行の制度を前提にすればと言われました。それから業務執行を決定と執行に分けるという考え方も従来の通念を前提にされるのですね。ですから,現行制度と通念を変えなければ何も変わらないということになるのは当たり前の話であって,それは一種のトートロジーになっているのですね。先ほど奈須野幹事がおっしゃったように,どう変えるか,あるいは変える必要がないのかというのが基本的な問題だと思います。   そこで,ここの議論を見ておりますと,一つは代表取締役の選任ですね。解任の訴えもあり得るみたいなことが書いてありますし,それから妥当性監査についても言及があります。要するに監査役は取締役になりたいと言っているのではないかと私は思いますので,取締役にさせたらいいのではないかというのが私の意見です。つまり,前にも何度か申しておりますので,若干繰返しになってしまうかもしれませんけれども,要するにそもそも平取締役というのは,実はよく考えると監査役みたいなものではないでしょうか。そうだとすると,監査役設置会社も平取締役という監督機関と執行担当者が分離・兼任していると見て良いですので,そういう意味では,以前に申しましたように,委員会設置会社と監査役設置会社は基本構造において大して差はないと私は思っております。その上で三委員会の強制を任意化ないし自由化して,監査委員会の監査委員を監査役という名前に変える。そうでないと監査役協会もお困りでしょうから,本当は取締役なのですが,現に監査委員と呼んでいるのですからこれを監査役と呼んでもいい,ということになれば委員会設置会社と監査役設置会社を並立させておく意味はなくなる,そのようなことを申し上げたわけです。   ただ,現在の制度のままでいきますと,これも前に申しましたけれども,会計監査人の監査の結果の相当性意見を述べるという権限・責任がありますが,会計監査人がやっているのは金商法監査ですから,それをするには一年間を通じた期中監査の積み重ねがあって,やっと監査証明といいましょうか,監査意見を述べることができるわけです。それをやるという覚悟のない会社法上の独自の機関である監査役が,金商法概念である会計監査人監査の結果の相当性について意見が述べられるという構造そのものが,論理的にいっても実際論から見てもおかしいのですね。それから監査の対象ですが,金商法の制度は,現在の会社法に一部取り込まれていますので,その関係で本審議会の議論の対象になるというのは,岩原部会長もそういう御意見だったと思いますので申しますけれども,例えば,有価証券報告書は,これは決算公告に代わるものという位置付けになっています。現行会社法には有価証券届出書も目論見書も出てきます。そうしますと,これらはそもそも監査役の監査の対象なのか対象でないのか,ということになります。有価証券報告書は会社法上の概念という性格をすでに有していますので,監査の対象になるに決まっていますが,では半期報告書や臨時報告書やタイムリー・ディスクロージャーは対象にならないのかというと,それも変な話ですね。有価証券報告書の書き方については金商法ルールである内閣府令に書いてあるのですが,そこの財務に関する部分の書き方も内閣府令である財務諸表等規則によるはずですが,それも当然会社法なのでしょうか。結局,こういうことは全体として理論的に整理しなければもたないのではないでしょうか。要するに監査役監査の対象が不明な中で,金商法会計の監査について監査役に専門家監査の相当性に関する意見を言わせる制度自体を止めるべきではないかと思います。そうなると,監査役はますます取締役そのものに近いことになります。   結局,ただいまの議論は,監査役は代表取締役の選任・解任に関わり,その意味で取締役とほぼ同じ地位にあり,そして会計監査人,つまり公認会計士の監査結果については相当性意見を述べることができて,かつ任期が4年という,スーパースター級の機関を構想し,主張していることになってやしないでしょうか。私は,そういうことはあり得ないのではないかと思っております。私は個人的には,取締役という名前にするというといささか抵抗があるのであれば,監査役という名前を残したまま取締役会の構成員にして,監査意見についても整理して,任期も取締役と同じにするというような方向性も考えられるのではないかと思います。 ○築舘委員 監査役の当事者なものですからなかなか言いにくい面もあるんですが,この問題は監査役自身が中心になって言ってきたというよりも,むしろ監査役以外の方々の,特に海外の投資機関等が,日本の監査役制度は機能していないのではないかと。その理由はということで,この代表取締役の選定・解職の権限とか,あるいは取締役解任の訴えの提起権が認められていないので,したがって監査役制度というのが根っこのところで十分に機能していないのではないかと言われてきていると,当事者としては思うわけです。ですから,この問題を考えるときには,私ども監査役自身はもちろんなんですが,それ以外の関係する皆様方も,今現在の状況で,日本の監査役制度がきちんと機能しているという状況認識をするのかどうかというところが出発点になるような気がするんです。もし,引き続きやはり機能していないのではないかという声が内外から継続的に出てくるんだとすれば,それはやはり望ましくない状況だと思いますので,そこをどう解消していけばいいのかという,幅広い議論をお願いしたいなと,そんなふうに感じているところです。 ○中東幹事 監査制度の本質ないし意義については,前田委員,静委員,八丁地委員などがおっしゃられたとおりに考えております。業務執行(決定)機関と監査機関とは別立てのものであって基本的に監査役が代表取締役の選定・解職に関与するという考えは整合的ではないと思っています。築舘委員がおっしゃっていた点にも関係いたしまして,現状が機能しているかと言えば,機能していない会社もあるというのが恐らく事実で,ただ,例えば法律の仕組みが分かって度胸のある監査役が既にいる会社ではきちんとやっている。他方でやっていない会社はやっていないと,そういうことではないかと思います。そういう意味で,上村委員もおっしゃいました現状がどうか,あるいは八丁地委員がおっしゃいました現在の実態からして必要性はあるのかという点で言えば,恐らくきちんとやっている会社であれば,代表取締役の選定・解職に対して意思決定に参加できなくてもきちんとできる法制度になっていると思えます。例えば,監査役は取締役の違法行為の差止めもできまして,その仮処分や本案で裁判が確定するまでに,問題のある取締役の任期が来るでしょうから,その任期が切れたときに株主総会での選任について意見を述べればよいと思います。ですので,やれる会社では今ある制度で十分にできている。やれない会社については,あるいはやるような環境をつくれていない会社については,このような権限を付したところで,何も変わらないのではないかと思っております。 ○逢見委員 築舘委員から,監査役として今機能しているのかどうかという問題があるという点について,私も以前発言いたしましたけれども,現行の監査役制度では監査機能が十分発揮されていないと思っております。代表取締役の選定は,私自身はそこまで関与しなくてもいいのではないかと思いますが,解職,それから取締役解任の訴えという権限は付与すべきではないかと思います。その理由は,例えばオーナー経営者とか,あるいはオーナーでないにしても,長期にわたって代表取締役として君臨しているというような企業のケースもあって,私も幾つかそういうところを見てきたわけですけれども,そういうところでの取締役会というのは,事実上,そのオーナー経営者なり,トップの発言がすべてであって,それ以外の人たちは何かそれに違う意見を言うと,それ自体でもう飛ばされてしまうというようなところがあるわけです。結局,最終的にオーナー経営者,そこの判断が正しければいいんですけれども,しかし,晩節を汚すというか,長くやっているとだんだんきちんとした判断が伴わなくなってくるような場合があって,そういうときに一体だれがその人をやめさせるのかというときに,監査役にはそういう業務執行上の法令違反があるかどうかとか,あるいは著しく不当性があるかどうかということについて判断して,その指摘をする権限があるわけですから,最終的にそこで解任なり解職というようなことが提起できる,あるいはそれに関与できるというのが,監査役としてのやるべき仕事の最も大きな部分ではないかと思います。そういう意味で,現行の機能を強化する意味で,必要ではないかと思っております。 ○岩原部会長 ほかに何かありますか。 ○伊藤幹事 今まで話を伺っていて,ちょっとどうしても違和感があるところがございますので,それだけ話させていただきます。監査役制度が機能しているのかということは,各幹事・委員がおっしゃっているところで,監査役制度が機能していないのではないか,逆に十分機能しているといえるのではないかといった話は出ているわけです。しかし,用意していただいた部会の資料を見ましても,監査役制度が機能しているとはどういうことかということについては,何も書かれておりません。監査役制度が機能するとはどういうことかを考えるには,まずそもそも監査役が法律上,今どのような権限ないし機能を有しているのかというところから出発する必要があるかと思います。会計監査人がいる会社を前提にしますと,それは業務監査であり,業務監査を行う際の基本的な基準は,適法性です。それから監査役制度が機能するということは,個別の会社ベースで見る話なのか,全体で見る話なのか。監査役制度が機能しているというためには,全部の会社で不祥事ゼロという状況が実現しないといけないのかといいますと,私はそうではないと思います。全体を見て,コストに見合っただけの不祥事の削減率といいますか,そういうものが達成していればいいという話なのではないかと思います。以上のように考えたとして,あともう一つ考えなければいけないのは,監査役が適法性監査の機能を果たすために,代表取締役の選定・解職権がいるのかということでして,私個人はそのような権限はいらないのではないかという意見でございます。 ○齊藤幹事 これまでの御発言と余り変わらないかもしれないのですけれども,私もこの選定・解職の権限が,監査役制度の改善のキーファクターになるとは考えておりません。現行の監査役には,既にかなり多くの権限が与えられておりまして,しかしながらそれが十分に使われていないというところにまずは問題があると思います。実際に,事案によっては,監査役の差止めなどが行われ,その差止めによって直接経営者が解任されるわけではありませんけれども,そういうアクションが起こされることによって,経営の健全化が図られるというようなこともございますので,現在の監査役が今持っている権限を使おうと思えば,かなり多くのことができるのではないかと思っております。   現在の監査役制度で機能している会社もあれば,そうではない会社もあるという認識については,私も共有しております。制度としての脆弱性は,海外の人からは必ずしも理解されていない部分はあるかもしれませんけれども,日本における終身雇用制度の慣行と,役員市場の欠如というようなものと,密接に結び付いているものでございますので,例えば今の制度を改正して,監査役に選定・解職の権限を与えたからといって,急に何か大きく変わるというものではないだろうと思います。現在の監査役制度の選任の在り方というのは,現在の取締役会メンバーの選任の在り方と似ている部分がございますので,現在の取締役会において代表取締役の選定・解職が,もしも実質的に行われていないのだとすれば,そこに新たに監査役が加わったからといって,より頻繁に行われるようになるということにはならないのではないかと思います。 ○藤田幹事 代表取締役の解職に監査役が関与する話については,これまで議論がたくさんあったところですけれども,現行の監査役の枠組みの中で,監査役に解任権を与えることについて違和感があるという点は,これまでの多くの方の御発言と一緒です。それに加えて,監査役に取締役解任の訴えを与えることについても,今議論するのでしょうか。その点について,触れられている方々がこれまでいらっしゃいましたので,もし議論するのでしたら,若干コメントもあるのですけれども。   それではコメントさせていただきます。申し上げたいことは,確かに取締役解任の訴えのほうは,会社法854条1項も不正の行為や法令・定款違反を前提にしていますので,こちらは監査役の権限行使となじむ面はあります。たとえ監査役が業務執行権限を持っていなくても,こういうことを主張することは,矛盾はないとは思います。ただ,もう一つ考えなければいけないのは,現在の取締役解任の訴えは,株主総会が否決した場合にそれは裁判所に訴えるというつくりになっていて,要するに多数株主が解任する必要がありませんと言ったことに対して,いや,それは内容が間違っているから解任してくださいという,そういうことを裁判所に求める権限なのですね。これが少数株主が多数株主の不正な決議によって,不当な内容の決定がされたからやめてくださいといって裁判所に行くというのは,まだ分かるのですけれども,株主総会の決定を内容が間違っているという理由によってチャレンジする権限を監査役に与えるというのは,この問題に限らず監査役の権限及び株主総会の決定をだれがどういう形で争うかという,そういう観点から見て整合性があるのかという,そういう観点から検討しなければいけないと思います。決してこの取締役あるいは代表取締役に対する監査役の監督権限として適切かという観点だけが問題ではないということから―私も最終的にどうすべきかについて定見は持っていないんですけれども―,やや違和感がある提案かなという印象は持っております。 ○岩原部会長 皆様の間では,ここに出ているような代表取締役の選定あるいは解職に関する権限を監査役に与えるということは,監査役制度の本来的な性格からは,やや違和感があるのではないかという御意見が多かったように思います。   ただ,一方では,上村委員の御指摘等にもかかわるのかもしれませんけれども,先ほど築舘委員が御指摘になった海外投資家からの批判というのは,多くの委員・幹事の御発言のような,現在の適法性監査権限を監査役がきちんと果たしているか,その権限行使について十分かどうかという観点からの御議論を超えた部分での批判ではないかという感じもいたします。つまり適法性を超えた経営の妥当性について監督しチェックする機能が,日本のコーポレート・ガバナンスにおいては足りないのではないかという批判です。その批判を言わば受けた形で,この代表取締役の選定・解職について権限を持つという提案は,正に上村委員がおっしゃいましたように,監査役に取締役の権限を与えるというか,ドイツ式の監査役会の権限を日本の監査役に与えようとするのに近いものかもしれません。ドイツでは監査役会が業務監査権限も持ち,その行使として取締役という業務執行者を選任します。そういう適法性監査という従来の我が国における監査役の役割を超えた業務監査権限が,言わば代表取締役の選定・解職権という形で,日本で監査役に与えるための一つのアイデアとしてここで書かれているのかなと感じます。ですから,監査役の役割につき,言わば従来の枠を超えたものをここで導入をして,従来の監査役の枠を超えたような機関にすべきかどうかというのが,ここでの問題の投げ掛けかなという感じがします。   それに対して,従来の監査役の権限なり役割を超えるものだから適当でないと批判するだけでは,足りないようにも思われます。しかし,そこまで行くべきかどうかというのは,非常に大きい問題になるし,かつそれならばこの制度でうまくいくかというと,多分,これだけでこういう形でやって本当にうまくいくのか疑問があり得るかと思います。ドイツの監査役会というのは,全面的な業務監査権限を持った上で,全員が取締役から独立性を持っているというか,取締役と完全に切り離されて,彼らだけで取締役の選任・解任等を決定するわけです。また,アメリカ型のいわゆるモニタリングシステムの場合は,過半数が独立取締役で構成されている取締役会が,その根源的な業務執行権限に基づいて,オフィサーに対する全面的な監督権を行使した上で,オフィサーを選ぶということになっているわけです。けれども,これに対しこの提案にあるように,多くの場合,取締役に比べ少数である監査役が,取締役会の中で代表取締役の選定・解職についてのみ取締役と同等の権限を持ったとしても,それ以外には業務監査権限を有するとされているわけではないし,代表取締役の選任・解任の決議についても,彼らが多数を占めるわけではないですから,必ずしもドイツの監査役会やアメリカのモニタリングモデルにおける独立取締役と同じ機能を果たすというわけにはいかないわけです。もしそういう従来の枠を超えた制度を考えるとすれば,ある意味でまだ中途半端な提案なのかなと思います。そういう意味では,従来制度との整合性はとれないし,もしもっと根本的な制度改革を考えるとしたら,アイデアとして十分には熟していないのかなというのが,私の極めて素朴な印象であります。やや近いとすれば,イギリスのThe Combined Code における非業務執行取締役の制度かもしれません。彼らは,経営からの独立性を持って取締役会で取締役としての権限を行使しますが,取締役会の多数を構成することまでは必ずしも要求されず,取締役会において経営陣に対する第三者の声を代表することが期待されているわけです。   それで,解任については藤田幹事からの御指摘だけがあったわけですけれども,これはむしろ解任制度のほうをもう一度考え直さなければいけないという面もあるのではないかと感じています。藤田幹事御指摘のように,現在は,株主総会で否決した取締役解任議案について,当該取締役に重大な違法行為等があったときに,解任の訴えを起こせるという制度になっています。現在の制度は,取締役に何か重大な違法行為があっても,いったん株主総会で解任決議を否決してもらってからでないと,株主は解任の訴えを起こせないという制度になっています。そのような現在の制度自体が違和感のあるところで,もしそれを変えて株主総会決議を経ることなしに株主が取締役解任の訴えを提起できることとすると,監査役が株主と並んで解任の訴えを起こすということも,制度として考えられるようになってくるかもしれない。そこら辺,恐らく解任の訴えの制度と併せて検討される必要があるのかなと思います。 ○上村委員 今の点,もともと私は株主総会の決議をかませる必要はないと思っておりますけれども,仮にそうなっても監査役は取締役会に出席しているわけですね。そして,発言も幾らでもできるわけです。監査意見も書けるわけです。そういう人がその場で最大限の行動ないし努力をしているのかしていないのかよく分からないまま,訴えに走るというのは,非常に違和感があります。もし訴えに走るとすれば,もし監査役に議決権があったとしたら否決できたのに,というときにできる,というようなことになるのではないでしょうか。しかし,それは議決権が欲しいと言っているのに等しいですので,やはりまた取締役になりたいといっているのだという話になってきます。そういう意味では株主総会をかませるかかませないかが決定的かどうかは疑問もあり得るので,もうちょっと議論する必要があるかと思います。 ○岩原部会長 そのような御指摘もあり,監査役の取締役解任の訴えの提訴権をもし考えるとすると,非常に課題が多いというところかと思います。ちょっと他の論点も押しておりますので,もし特に御意見がなければ先に進めさせていただきたいと存じます。   続きまして,監査役監査の実効性を確保するための仕組みについて,御議論を頂きたいと思います。この(注1)について,いかがでございましょうか。 ○中東幹事 積極的に考えるべきであると思っています。単に権限を増やすことは,余り効果的ではないと私も思っていますし,そういう方が多かったと思います。ですが,現にある権限をきちんと働かせるという工夫と申しましょうか,監査制度の趣旨が実践されていない会社を言わば底上げするための法の整備は必要であると思います。このような視点からでございましょうか,この補足説明では,省令事項になっていることについても検討してくださっている点に敬意を表したいと思います。会社法ができたときに,こんなはずではなかったという省令がいっぱいできましたので,こういう形で法制審で議論されていることは非常に重要なことであると存じます。   ここでは,内部統制システムの一部として監査役の監査が実効的になると,開示を通してのルールとして,事業報告の内容が挙げられています。この点に関しては,例えば監査役の監査費用についての方針等について,記載させるのも一案かと思っております。恐らくは,前職は副社長などであった方が,常勤監査役,常任監査役になっている会社では,何ら不自由なく監査費用を使っていらっしゃると思うのですが,実際に非常に遠慮をしている方もたくさんいて,会社によっては時の社長に一言断ってからでないと,お金が払ってもらえないとも聞きます。これでは抜き打ちで応査等をしたいときにどうするのかという感じがしますが,いずれにしましても,法が本来予定しているように監査費用を自由に使えることについて事業報告等で開示させて,監査役の活動に関する執行部からの理解ないし認識を外から見える形で監査役にも伝えることが大事であると思えます。具体的に監査費用が幾らであったかを開示させるのは,この会社は問題あったのかと邪推されることにもなりかねませんから,そういう必要はないと思います。ただ,執行部のほうで自由に使ってもらっていると,あるいは代表取締役と同待遇で応査等には行ってもらっているなどという形で,執行部は監査役の監査を期待していることを対外的に示させることに意味があると思います。先ほども申し上げましたが,執行部で上位まで行った方が常任・常勤監査役になられている会社が現に今やられていることを,他の会社にも実践していただくということにとどまることで,きちんとやっている会社には追加的な費用を掛けず,同時に,そうでない会社では底上げができる例の一つかと思っています。 ○奈須野幹事 たびたびすみません。確かに監査の実効性を高めるために,体制を整備していこうという,そこの基本的な考え方自身については,皆さんはそうだそうだということではないかと思います。一方,ここで対象になっている会社は,恐らくこれは公開会社が対象になっているのだと思うのですけれども,それでも大きなものから小さなものまで様々なものがあるわけです。その中にはコーポレート・ガバナンスがうまくいっている会社もあれば,そうでない会社もあるという,その多様性を踏まえますと,良いことだからといって,それを一律に義務付けるということが,良い結果を招くかということについては,ちょっと慎重な検討が必要かなと思っております。   例えば,会社法だけではなくて,昨今,金商法におきましても内部統制を強化するということが法律上義務付けられているわけでございます。私どもが行ったアンケートによりますと,監査役の監査とそれから業務執行部門の内部監査・内部統制について,約5割の企業が両者の間で重複がある,又は負担となっている,あるいは監査役にはスタッフがいない企業が多いものですから,監査役の監査は空洞化しているというような,えんさの声が挙がっているわけであります。一方で,監査役会設置会社であったとしても,監査委員会であるとか,あるいは内部統制委員会だとか,コンプライアンス委員会であるとか,監査委員会類似の仕組みを約3割の企業が導入しているということです。この結果,監査役とは別途監査体制の整備が進められ,そのことが企業に過大な負担になっていないかと懸念しています。そこで先ほどの話とのつながりですけれども,ここで我々としては,やはり監査役が非業務執行の取締役を兼任することができれば,そういった内部統制部門との連携がスムーズに図られて,企業にとってみれば,体制を効率化しつつ実効性を高めることができるというような効果もあるのではないかと考えております。 ○岩原部会長 ほかにいかがでしょうか。今最後におっしゃった,監査役が非業務執行取締役を兼任することができるようにするかというのはもう一つの論点で,先ほどの議論の中では必ずしも十分には議論されていなかったところでもありますので,あるいはそこの点について,御議論いただいても結構かと思います。 ○野村幹事 今の論点に関して言いますと,非業務執行の取締役を兼ねないと監査役は内部監査部門と連携できないのかどうかということは,もう少し議論を詰めたほうがいいのではないかなと思います。兼任禁止規定について非常に厳格な解釈を念頭に置いて,少しでも業務執行部門と接触を持つことはいかがわしいことだからやってはいけないんだという,そういう硬直的な考え方を採れば,業務執行者が設置した内部監査部門と接触することは,監査役のあるまじき行為だと,こんなことになってしまうのですけれども,そういう古い考え方はもうとうに克服されているのではないかと思います。そういう意味では,内部統制部門と監査役の相互連携というものは,もう少し柔軟に考えてもいいのではないかと思います。つまり,監査役という制度のままでも,内部統制システムとの連携をもっと実効性のあるものにしていくという方向感は,否定されないのではないかなと思います。   ちょっとついでに恐縮ですが,(注2)にも絡んでしまうのかもしれませんけれども,かつて私は金融検査マニュアル等を策定する際に,金融機関の内部監査部門の方々からのヒアリングを実施したことがあるのですが,その際に,内部監査部門の方々は結構いろいろな情報を拾ってくるという現状が明らかになりました。特に後になって出てまいりますけれども,従業員の方々の中には,内部告発の正式なルートにはなかなか通報しにくいという声があります。自分から直接電話をかけてどこかに連絡をしたりとか,あるいは書面で内部通報するということはハードルが高いわけですが,内部監査の方の話では,監査に行った先で,もじもじしていて,何か言いたい様子の従業員が見つかる場合があるらしいんです。そういう時は,ちょっと用を申し付けて別室に呼べば,そこで内部告発に近い情報を提供してもらえるらしいんですね。そういう意味では,監査役と内部監査の連携がうまくいけば,従業員選出監査役のご提案の理由となっている「内部告発」を受けやすくするという問題は,解消してしまうのではないかとも思われるわけです。つまり,監査役が内部監査部門の情報収集能力をうまく活用する形でその監査機能を高めるという方向を議論の本筋に据えて,それを大きな幹にしていくような形で議論するのがよいのではないかなと思います。 ○前田委員 野村幹事が今おっしゃったことに全く同感でございまして,委員会設置会社の監査委員に限らず,監査役についても,経営陣側がつくった内部統制システムと連携しなければ,自分だけで行う監査,あるいは自分のスタッフだけで行う監査では,実効的な監査は期待できないと思います。そして,監査役と内部統制部門との連携について,補足説明のところでも御指摘がありますように,現在でも整備すべき体制として,取締役会設置会社ですと,会社法施行規則の100条3項4号,「その他監査役の監査が実効的に行われることを確保するための体制」,ここに恐らく含まれていると読むべきなのでしょうけれども,「その他」のところで解釈で読み込むのではなくて,例えば明文で監査役と内部統制部門との連携に関する体制というようなことを明示していただくと,連携すべきだとか,あるいは連携していいんだということがより明確になっていいのではないかという感想を持っています。 ○齊藤幹事 先ほど奈須野幹事より御指摘いただいたことに共感しております。一方で機能の重複,他方では監査役のために働く人材不足が指摘されるというところにつきましてでございます。現行法においては,その内部統制システムは代表取締役ないし取締役会の指揮の下に置かれる。他方で監査役は業務監査を行うというところで,何か二本立てのシステムを用意しなければならないのであると。また,監査役は内部統制システムとどのように連携をとるのかということについて,いろいろと実務の方のお話を伺っておりますと,使用人への報告の聴取という形で行うことが多いとおっしゃっておられまして,基本的には内部統制システムの運用やその他について,監査役がかかわったり,あるいは積極的にその機構を使ったりということを遠慮されておられるようなところがあるという印象を持っております。しかしながら,これらはすべて会社経営の健全化をどのようにして確保するかという問題の下で,それぞれの時代に良いと思われるシステムが提案されてきたものでございますので,基本的な権限分配の問題を超えて,何か法が特定の制度のみが適正なものであると予め想定しているようなことをうかがわせるような文言を法規定において使用することにつきましては,慎重になる必要があるのではないかと思っております。これは,もしかしたら,法規定をどのように変えるかという問題ではなく,きちんと整理をして,実務の人がいろいろな制度設計をすることを可能にするような基礎を提供していくという法理論の仕事かもしれませんけれども,現状はまだ改善の余地があるのではないかと思っております。 ○上村委員 今の議論ですけれども,大会社を想定して,あるいは公開会社を想定した議論だとしますと,多くは金商法の財務に関する内部統制の話なんですね。それを会社法がどう受け止めるかという問題ですので,これはそういう問題であるということをまず確認しておきたいと思います。その内容とか制度構築については,金商法の内部統制の問題が大半であるということです。金商法を超える問題もあるかと思いますけれども。   そうではなくて,会社法一般だということになりますと,先ほど来,お話にありますように,齊藤幹事もおっしゃっていましたし,奈須野幹事もおっしゃっていましたけれども,取締役が一人しかいない会社で,一体何を書くのかということもありますので,そこは分けて議論したほうがいいのではないかと思います。そして,私の理解では,先ほど申しましたように,監査役こそこういう問題について意見を述べる必要があると思います。先ほど申しましたように,会計監査人の監査の結果の相当性意見は,私はやめた方がいいと思っておりますので,そうなりますと監査役の監査報告というのは,会計に傾斜した業務監査とこういうイメージになりますので,そうなるとこうした問題こそ監査役の監査報告で書かれるべきものではないかと思います。戦後,監査役が会計監査のみからスタートした経緯がありますけれども,これは公認会計士制度が確立するまでの期間の過渡的・経過的措置だというのが当時の理解でありまして,それがその後は,問題が起こるたびに監査役の権限を強化してきたというのが歴史であります。野村幹事のおっしゃったことと同床異夢かもしれませんけれども,結論的には私はそう考えております。 ○神田委員 ちょっと細かい点かもしれませんけれども,現行の監査役制度の枠組みを維持するということで考えますと,この点についてちょっと一点意見というか,感想を申し上げます。といいますのは,現行の枠組みは監査する人とされる人を比較的厳格に区別するという制度でできているわけですので,既に御指摘がありましたように,内部統制システムというのは,現在の法制度では経営者側というか,今の言葉でいいますと,監査する側がつくって運営するものなわけです。実際にはそことの連携なしで監査役が仕事ができないというのは,もう御指摘があったとおりで,その点はそのとおりなのですけれども,やはり監査役が仕事をしていく上で,監査役の指揮命令に服するスタッフなり,体制というものが必要であると思います。会社の規模によるとは思いますけれども,監査される人がつくったものに全部依存するというのは,もちろんそこで報告を求めたり,いろいろなことができるし,すべきですし,現在の制度もそれを想定してつくられているのですけれども,やはりちょっと限界があると思います。監査役の指揮命令に服するようなスタッフなり,体制なり,何と呼ぶのか良い名称は浮かびませんけれども,そういうものの設置を確保するということが,法律レベルの話なのか,省令レベルの話なのか,すぐには分かりませんけれども,検討されてしかるべきだと思います。 ○八丁地委員 大体,皆さんの意見と同じかもしれませんが,業務執行に関する監査・監督機能の充実強化を図るということであれば,現行の法制に対して改正を加えることに関して,現場としては,立法事実はないのではないかと思っております。むしろ監査役が既に果たすこととされている権能とか機能を十分発揮できるための取組,どちらかというと経営からの取組だと思いますが,それを第一に考えるべきと思っています。監査役の業務をサポートする事務局体制は,多くの会社が持っていますが,この充実や内部統制部門との連携は,当然のことです。   それから情報の伝達とか,社内の説明体制の整備については,これだけ内部統制や監査の機能が,既に金商法,会社法で規定されている中で,また世論もこれらを注目しておりますので,それを認識していない会社のトップは,多いとは考えておりません。これらは,義務付けというよりも,真摯に受け止めて,制度や体制の整備を経営者が更に工夫を凝らして正しく行うということがポイントではないかと思います。   また,内部統制のいろいろな法的な枠組みは,執行されてそれほどの年数も経っておりませんが,その年数から見れば,体制の整備だとか,その実行の現実化とか,慣れとか,定着ということは,相当に進んでいると思います。具体的に経営者の努力によるところは十分あると思いますので,そこでまず対処をして,工夫を凝らすということのほうが,法制について改正を加えるよりも,適切ではないかと考えております。 ○築舘委員 今,神田委員,それから八丁地委員のおっしゃられたことの関連で言いますと,監査役の活動をサポートする体制を整備するということは,これは会社法ができて以来,言われてきているわけです。各社も例えば内部統制の基本方針のどこかの項目に,そういうようなこともうたったりしている会社が多いと思うんです。一方,これが実態的にどういう具合に,どの程度それぞれの企業で行われているかという辺りが,各企業の判断次第という面もありまして,どのぐらいの裏付けのあるというか,手ごたえのある状況になっているのか,なかなか把握しにくいなということを,監査役の立場から感じています。これは感想です。   ちょっと違ったポイントになってよろしいでしょうか。実は前回のプレゼンテーションをさせていただいたときに,内部統制システムの基本方針につきましては,事業報告と監査役監査報告でも触れることが義務付けられているんですが,実はもうスタートしてから数年もたって,投資家あるいは株主の関心はその運用状況に当然のことながら移ってきていると思うので,その運用状況について触れることも何らかの制度化が望ましいのではないかと,問題提起をさせていただきました。そういうことで,今回の補足説明の中にもそういう問題提起もあったと書いていただいて感謝しております。これは一見,単なる事務的でかつ断片的なことのようにお受け止めになる方も多いかなと思いますけれども,実はそこの運用状況まで触れるか触れないかということで,経営執行部,あるいは監査役の意識の引き締まりといいますか,そういうところにおのずと影響するものだと私は思っております。余り無責任に申し上げてはいけないのかもしれないんですが,仄聞するところによりますと,法律に決められていないことはむしろ触れないほうが,余計な責任が及ばなくていいということになるんだから,無理に触れなくてもいいんだよというようなアドバイスをする方もいらっしゃるように聞いたりいたします。それであるがゆえかどうかは分かりませんが,前回御説明したように,経営執行部のほうの事業報告でも監査報告書でも運用状況にも触れているのは,まだ一けた台ぐらいの比率しかないというようなことを申し上げたんです。やはりここはもうちょっと引き締めていくためにも,何らかの一歩踏み込んだ御検討を頂ければと思います。金商法のほうはもう当然経営者は内部統制報告書を作り公表し,会計監査人も監査報告書を作成し,公表しているという状況が一方にあるわけでございますので,念のための発言をさせていただきました。 ○岩原部会長 ただいま,御指摘されましたように,現在の会社法施行規則129条1項5号・118条2号の規定からは,事業報告の内容となって監査役による監査報告書でその相当性につき意見表明がなされるのは,取締役・取締役会による内部統制システムの整備についての決定又は決議の内容の概要についてということです。取締役・取締役会として内部統制システムについてどういうことをするということを決めたかということだけが,その事業報告,そして監査報告書の内容になるわけで,実際にどういう内部統制システムがつくられて,それがどう運営されているかということについては,今,築舘委員がおっしゃったように,現在の事業報告書や監査報告書では説明されたり,それについて監査報告がされるという体制には,少なくとも制度上ではなっていないわけです。築舘委員が御指摘になったのは,それを改善すべきではないかということだと思います。   ほかによろしいでしょうか。現在の監査役設置会社の下における内部統制等についての監査役による監査の実効性を上げる必要がある,より良くすべきだという点については,恐らく皆様御異論のないところだと思いますが,それについて,現在の制度の上での運用の改善で足りるのか,それで十分なのかどうかというところが,多分,今までの多くの御意見で,若干分かれたところかと思います。実際,監査役協会の実施されました現在の内部統制についての会社の実態調査でも,監査役設置会社と委員会設置会社を比較した場合に,委員会設置会社における監査委員と会社の内部統制にかかわる部門との連携と比べて,監査役設置会社における監査役と会社の内部統制にかかわる部門との連携は,ある程度の差があるということも,見てとれるところでありまして,それをどうやって改善していくのか。運用でどこまで改善できるのかということと,先ほど神田委員が御指摘になりましたように,制度的にやはり現行制度では何らかの限界といいますか,問題があると考えるべきなのか。奈須野幹事の御指摘は,そういう発想から,監査役が取締役を兼ねるということができるようにすることが,それに対する一つの改善の方法だと多分お考えだったのではないかと思います。現行法の制度で申しますと,監査役は会社法の381条2項で会社の使用人に対する質問権等を行使するという形で,事実上そういう連携を求めることになりましょう。会社法施行規則105条2項等もそのようなことを前提とした規定と考えられます。そしてまた,実際に神田委員御指摘の,監査役の実際に手足になってくれるような組織としては,会社法388条を使って,監査役自身がそういうスタッフを雇って,その費用を会社に請求するという形で対応するというのが,恐らく会社法の制度上の建前だと思います。しかし,果たしてそれでうまくいくのかという問題と,先ほど御指摘があった,それは二重の内部統制システムになって,コストが過重になるから,むしろもっと会社の内部的な内部統制システム,内部検査部門などを活用できるようにすべきだというお考えとあって,仮に後者のようなお考えを採るんだったら,どういう制度的な改革をすれば,それが実際に可能なのか,そこら辺をそういう立場のお考えの方から御提案を頂けたら,より建設的な議論になっていくのかなという感じがいたします。 ○逢見委員 (注2)の論点についてですが,我が国において企業の不祥事とか,あるいは法令違反というのは,個人で行われているものもありますけれども,組織的に行われている。いわゆる上司の指示に基づいて行われているというものがあって,そういうものは現場の従業員が薄々知っている,あるいは中には詳細に知っているという者があって,そういう情報がどのように従業員から上がっていくかということでいうと,ルートとしては三つあるわけです。一つは内部監査,この内部監査の場合は,執行ラインにつながっているものですから,もしそれが組織的に行われるとしたときに,実は指示している人が内部監査の最高責任者にもなっているということがあって,従業員にとってみると,そのことを通報したことによってそれがきちんと処理されるのか,あるいは逆にそのことによって自分が報復を受けるのではないかというおそれがあって,内部監査に対してやはり信頼できないところはあるんだろうと思います。もう一つ,公益通報者保護制度というのがありますが,これは事業者,外部への通報については厳しい要件があり,非常に使いづらいものになっています。もし,内部に通報したときには,内部監査と同じように,自分がこのことによって報復を受けるのではないかということで,事業者内部への通報についてはちゅうちょすることになります。もう一つのルートは,監査役に対して通報するというのがあるんですが,これは実は監査役の多くが大体その前職が経営者と関係が深かったり,あるいはその経営者から事実上指名されて監査役になっているというのが多いわけです。日本監査役協会の調査を引用いたしますと,監査役になる前の職が何であったかというので一番多いのが,監査関係以外の部長等,あるいは取締役でそこから監査役に移ったとか,そういう方々が多いわけです。そういう人たちは現在のトップと長いこと一緒に仕事をしてきたというような方が多くて,そこに通報しても受け止めた監査役は,果たしてそのことをきちんと処理してもらえるのかどうか,今のトップと非常に親しい関係にある人だと,それができないのではないかというのがあって,そういう意味では,本来,独立すべき監査役がそういう選ばれ方をしていると,従業員から信頼されないのではないかと思います。不祥事があったときに,果たしてここに通報していいかどうか分からないというのがあって,やはりそういうところに問題点があるのではないかと思っております。   私は以前にも意見として申し上げましたけれども,こういう問題を解決する一つの方法として,従業員が監査役を選任する。それは最終的に株主総会の決議を受けるとしても,現経営者によって選ばれ,指名される監査役ではなくて,従業員から選ばれる。そうすればそこの従業員との意思疎通がもっと円滑に行われるようになって,現場からの情報をより吸い上げられやすい。不祥事というのは早いうちに芽を摘んだほうがいいわけで,それが大きくなってしまってからでは,もう取り返しがつかなくなってしまう。そういう点から,企業価値を毀損してしまうことにもなるので,そういう企業価値の毀損を小さくするという意味からでも,従業員の声や情報を的確に吸い上げられる仕組みとしての従業員選任監査役ということを,是非検討願いたいと思っております。 ○岩原部会長 ただいまの御意見等について,何か御意見等ございますでしょうか。特にございませんか。よろしいでしょうか。   特になければ,次の3の会計監査人の選解任等に関する議案等及び報酬等の決定権の問題に議論を進ませていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。まず,先に事務局から御説明いただきたいと思います。 ○内田関係官 それでは,部会資料2の3ページ,「3 会計監査人の選解任等に関する議案等及び報酬等の決定」について,御説明申し上げます。3は,インセンティブのねじれとも呼ばれている問題に関するものでございます。具体的には,会計監査人の独立性を確保するため,会計監査人の選解任等に関する議案等及び報酬等の決定を監査役又は監査役会の権限とすべきであるという指摘がされていますので,(注1)にありますとおり,この点についてどのように考えるかを御議論いただければと存じます。   この点については,4ページの補足説明の2にあるような四つの点,すなわち,監査役や監査役会が既に有する同意権等の権限を適切に行使することによる対処の可能性,別の機関による監査を受けることがない業務執行の決定を認めることの当否,会社・取締役間の訴訟のような場面と同様に取り扱うことの適否,更には,会社全体の財務状況も考慮した適切な判断の可否などについて,検討を要するものと思われます。   なお,財務及び会計に関する監査役の知見につきましては,会社法上の公開会社において監査役が相当程度の知見を有している場合には,その事実を事業報告の内容に含めるべき旨,会社法施行規則第121条第8号で定めておりますが,会計監査人の選解任等に関する議案等及び報酬等の決定を監査役や監査役会の権限とする場合には,その適切な行使を担保するため,それ以上に現行法の規律を見直すことについても,併せて検討を要すると思われます。   次に,(注2)は,(注1)に関連して,委員会設置会社において,会計監査役人の報酬等の決定を監査委員会の権限とすることについて問うものでございます。監査委員は,取締役会の決議により,取締役の中から選定されることから,現在決定権を認められている会計監査人の選解任等に関する議案に加え,会計監査人の報酬等についても,会社全体の財務状況を考慮した上で,適切に判断し得る立場にあるのではないかという点について,御議論いただければと存じます。 ○岩原部会長 それでは,まず(注1)の監査役会設置会社の場合について,いかがでございましょうか。 ○古澤幹事 本件に関しましては,先ほど岩原部会長から御指摘ございましたように,現行の監査制度の見直しによりその実効性をどうやって高めていくかというスタートラインに立つべきと考えます。この場合,今御説明いただきました四つの事項のうち,まず一つ目の「同意権を有するから大丈夫ではないか」という議論については,今の制度が不十分とのスタートラインと異なるのではないかと考えます。   それから,四つの項目のうちの三つ目の項目に,「直接の利害対立が顕在化している部分に限られる」という論点がございますが,第2回のこの会議における友永委員のプレゼンにありますとおり,現在,会計監査人の選任に関しましては,それなりの数の直接の利害対立が見られる状況にございますので,ここの直接の利害対立,もちろん会社・取締役間の訴訟のような極端な事例とは違うかもしれませんけれども,それなりの重要性があるのではないかということを指摘したいと思います。   それから最後でございますけれども,この会計監査人の選解任,報酬の決定の問題は,直前に御議論いただきました「監査の実効性を確保するための仕組み」という議論のコンテキストでも,大事な問題と思われます。すなわち,会社法で,会計監査人につきましては,監査役に対する報告義務が規定されてございます。そういう意味では,監査役と会計監査人が連携して監査の実を高めていく枠組みを制度的に確保していくという観点からも大切な問題と思います。 ○田中幹事 この問題に関してですが,以前から気になっていたことなんですけれども,同意権と提案権を両方持っているケースと,同意権しか持っていないケースは,明らかに違うはずで,同意権と提案権があれば,それはもう決定権と実質変わらないはずなんですよね。監査役は,取締役側の提案は同意権でブロックして,自分の意に沿う候補者を提案することができますから,結局決めることと変わらない。こちらの場合に,もし同意権と提案権があるだけでは,十分機能しないと,つまり監査役はその権限を実効的に行使できない状況があるとすると,それはやはり法律の問題というよりは事実の問題ではないかと。多くの監査役が必ずしもそういう権限を実際に使いこなせと言われても,難しいという実態があるのではないかと思うのです。これに対して,同意権しかないと,監査役が同意しないという状況では,会計監査人の報酬は決まらなくなってしまうわけですから,デッドロックになります。その場合,監査役には提案権がないですから,監査役側から事態を打開することができないので,結局,妥協してしまうということになるのではないかと。そういう理由から同意権が機能しないとすれば,それは法律の問題になると思うんです。この部会の場でも,監査役に対するアンケート調査が出てきましたが,必ずしも同意権だけのときと,同意権と提案権のときとで,それほど区別された意見が出てこないんですね。そうだとすれば,この問題は法律の問題ではなくて,実態の問題かもしれない。実態の問題だとすると,法律で決定権を付与しても,今とそれほど変わらなくなる可能性があります。ただ,先ほど言ったように,理論的にはやはり同意権だけという制度は,同意権と提案権とは違う仕組みですから,同意権だけだと機能しないので,決定権を付与する。決定権を付与するのは,結局,同意権に加えて提案権を付与するのと一緒だと私は思うんですけれども,それは意味があると思います。ちょっとその部分について,議論を明確にすべきではないかなと思います。   それからもう一つは,決定権を与えることが業務執行になるということですね。業務執行になるので,監査役の役割を超えるのではないかというのは,ややドグマティックな意見のようにも思いまして,監査役は,監査の体制をどのように整えるかという部分では,妥当性の判断も当然しなければならないわけでして,今でも,複数の監査役がいれば,その間でどのように役割分担するかというのは,かなりの部分はコストベネフィットの判断をしなければいけませんから,妥当性の問題になるはずです。ですから,会計監査人の監査報酬をどれだけにするかというのは,どれだけにすればその監査がコストベネフィットに見合うかという問題ですから,基本的には監査の問題に含めることもできるということではないかと思います。これはちょっと業務執行か監査かという二者択一ではなくて,監査の問題であっても,業務執行に近い部分もあっていいのだという考え方でいけるのではないかと。監査役に決定権を与えるかどうかというのは,是々非々の判断といいますか,そうすることによって監査役が実効的に権限を行使できるかという観点から判断すべきで,制度的に報酬の決定は業務執行だからできない,というような類の問題ではないと認識しております。 ○岩原部会長 最初に田中幹事が指摘された,同意権プラス提案権は,決定権と同じだとおっしゃった点については,少し違うところがあり得るような感じもします。例えば,取締役会側から提案の意思が反映されない形で,監査役のほうだけの意思決定で提案されることになるという点が,決定権と違い得るのではないでしょうか。つまり,監査役側のほうの決定だけで会計監査人が決まる。 ○田中幹事 今の制度でも,監査役が請求をすれば,それは株主総会に上げなければいけません。 ○岩原部会長 取締役会として株主総会への提案をする権限がそもそもなくなる。 ○田中幹事 株主総会に上げなければいけないわけですから。つまり監査役が請求しても,取締役がそれは駄目だよと言えるのであれば,それは全く違うんですが,請求権というのはそういうものではないと思いますので。そうすると,実質的には同じだと私は思っています。 ○岩原部会長 決定権が監査役にあるということになると,取締役会側からの提案,株主総会に対する,会計監査人をだれにするかということを取締役会が言い出せなくなるのではないですか。 ○田中幹事 監査役に決定権があっても,現実的には取締役が原案を出すという形で候補者の提案ができると思いますので,実質がそれほど大きく変わるわけではないのではないか。例えば委員会設置会社の指名委員会でも,経営者が原案を出すことは可能でありまして,制度上,それほど大きな違いがあるとも思えないです。 ○岩原部会長 実際上の違いはないでしょうか。決定権が監査役に付与されると,取締役会は取締役会としての会計監査人の選任議案を言いだす名目が立たなくなるということはないでしょうか。 ○田中幹事 原案を出すことはできますので。つまり監査役にこれでいかがですかと諮ることはできます。 ○岩原部会長 それはできるでしょうけれども,そもそも直接,自分たちも会計監査人の選任議案を言い出す法律上の権限がなくなる。そのような権限が取締役会にあると,権限に基づく議案ということになって,監査役としてもそれを拒否するには,それなりの理由が必要になったりして,実際上の影響はあり得るような感じもします。 ○田中幹事 現行制度でも,取締役の提案は監査役の同意権でブロックされますので,結局,監査役が同意しなければ議案を出すことはできないです。 ○岩原部会長 取締役会に本来的に議案の作成権限があるかないかという法制度の建前の違いが,実際上,取締役会と監査役のどちらがリーダーシップをとって会計監査人の選任議案を作成するかに影響を与えるかもしれないと思ったのですが,厳密な法律論としては,田中幹事のおっしゃるようなことになるのかもしれません。 ○八丁地委員 たびたび立法事実の話になって恐縮ですが,監査役及び監査役会の機能というのは,従来の商法,会社法の改正で,独立性の強化とか,権限・権能の拡充がなされてきたわけであり,これに伴って企業としては対応を図ってきたところです。このインセンティブのねじれとして議論されている問題も,監査役が持っている権能を,会計監査人と連携しながら十分発揮して,利益相反のリスクを排除するということは可能になっていると思います。例えばある取締役会がそれまでの会計監査人を解任して,新たに経営陣にとって都合のよい会計監査人を選任しようとした場合が想定されるといたします。監査役会がその会計監査人は適当でないと判断をした場合ですとか,会計監査人に対する報酬が適正でないと判断した場合には,こうした議案とか,報酬決定に対して,監査役が同意を与えないということができると思いますし,そういう面で監査役の意見を反映することができると考えます。これで,取締役に対する牽制機能としては十分と思います。また,監査役が会計監査人の選任に関して,議案提出請求権も持っているということで,イニシアティブはとれると考えます。そこで,この選任議案の決定や報酬決定を含め,取締役の業務執行に対する監査役による監督機能の充実強化を図る必要がもしあるとすれば,先ほど来の主張と同じになりますが,現行の法制に改正を加えるよりも,監査役が既に持っている機能とか権能を,十分発揮できるように企業努力をするということになろうかと思います。法を改正するという立法上の事実というのは,極めて少ないと考えております。 ○築舘委員 監査役協会としては,前回プレゼンである程度の時間を頂いて,御説明をさせていただいたように,決定権を監査役のほうに移していただくのが望ましいのではないかと思っております。繰返しになりますので,その点は省きますが。   実は今回,お取りまとめいただいたペーパーの中に,監査役がその二つの決定権を仮に持つとした場合の留意事項として,会社全体の財務状況も考慮して,会計監査人の報酬等について適切に判断し得るかについても,併せて検討を要するという表現が二か所ほど,監査役とそれから監査委員のところに出てくるんですね。どういう文脈で読み取らせていただければいいのかなと思ったんですが,まず申し上げたいのは,監査役は常任監査役という立場の者もいますので,会社のいろいろな,ほとんどといっていいぐらいの会議に出たり,それから執行ラインとの意見交換とか,情報聴取もしていますので,会社の財務状況について知り得る立場にあるかどうかという点では,ほとんど問題ないと私は思っています。もう一つ,少し気になりましたのは,もしも会社の財務状況によって会計監査の手加減をしたりするというような,そういうような文脈であるとすると,ちょっとどうなのかなと。つまり,私の監査役としての通常の心構えからしますと,経営状況が厳しくなればなるほど,一般論ですが不正経理的な懸念も増えるということから,お互いに呼び掛け合いながら,引き締めて,そして丁寧にやっていこうとしているわけです。ですから,この会社の財務状況と会計監査のやり方ということが,どういうふうな意味合いで,ここに書かれているのか。万一,私が読み取らせていただいたような文脈だとすると,ちょっと御議論いただきたいなと思ったりしました。   それからこの議論は,皆さん御存じのように,非常に長い経緯があるわけですけれども,その中で出てくる議論の一つが,監査役が会社の経営状態あるいは経営執行部の意に反して,何か監査報酬について暴走的な判断とか行動を採るのではないかというような御指摘もあったりするわけです。しかし,実際問題として,仮に監査役の同意権から決定権ということになっていったときには,全く自分の独断で目をつぶって決めるということはまずはないはずで,会計監査人の監査計画を聴き,そして経理部門の意見を聴き,そして判断をしていくということになりますので,私は監査役というのはそれなりに合理的な判断ができる立場にあるし,心構えもあるのではないかと,そんなふうに思っています。 ○岩原部会長 ほかに何かございますでしょうか。 ○上村委員 これはこの問題だけを限定して議論するなら,ある程度合理性のある点もあると思っています。なぜインセンティブのねじれということを言うのか,私はよく分からないんですけれども,法律の議論というのは大抵何らかの形で,インセンティブのねじれにかかわらない問題はないのではないかと思いますので,何でこれについてばかりインセンティブのねじれと言われるのかは,私にはよく分からないんですが,それはともかくとして,最初のほうの議論で,代表取締役の選任権をよこせ,解任の訴えもよこせと言っておいて,そして,会計監査人の選任の決定権もよこせと言って,任期は4年だと言う。そうなりますと,監査役の横暴をチェックするための第二監査役が必要なのではないかと思ってしまいます。   やはり問題を整理して,ここはこういう制度を前提にすればここまでで,こういう問題はこの場合には主張しないとか,何か整理していただかないと,全体をトータルで見ると,どこまでもどん欲に求め続けるのかというような感じを持ってしまいます。そこはもうちょっと整理していただきたいと思います。主張するほうでですね。 ○中東幹事 御検討いただきたい点ですが,築舘委員が以前御報告をくださったときに,報酬決定に限ってのお話でございますが,会計監査人に対する報酬は監査費用のようなものであるというお話があったかと思います。それは私,そうだと認識しております。期中で監査役が何かイレギュラーなことを発見した場合に,追加してその会社の会計監査人に何かやってもらいたいということになったときに,別にこれを執行部が決めなくてもそのままやってもらって,監査費用として会社に払わせればよいということになろうかと思います。その場合に,既にタイムチャージベースで監査法人との報酬は決まっているはずですので,監査役としては,イレギュラーなイベントについても調べてほしいということになれば,同様の報酬を追加して支払って監査役監査に協力してもらうことができると思います。この点,もし何かありましたらお教えいただければ幸いです。監査費用と同じようなものと理解する場合に,最初から監査役が会計監査人の報酬を全部決めるのがいいという考えもあり得ると思いますが,他方で,当初の監査報酬の枠では足りないときには追加して,タイムチャージベースで監査費用の一環として監査役が会社に費用を負担させることにすれば,濫用的な報酬を懸念することなく,適切な報酬額の支払ができるのではないかとも思えます。 ○築舘委員 企業によっていろいろな相違はあるかと思いますが,私の理解での標準的なパターンで申し上げますと,経理部門とそれから会計監査人が,当該年度の会計監査計画の策定のために,どういうことを重点にしながら,どういうスケジュールでやっていくかという計画を詰めていきます。その過程で何度も何度もすり合わせがあるわけです。どれだけの人数と時間が投入されて,どういうランクの人たちが投入されるかということも決まった上で会計監査計画が仕上がり,それに基づいて年度の監査報酬が決まるということになります。   それが,経営執行部から監査役のほうに回ってきまして,議論した上で同意をするという流れになっていると思います。中東幹事がおっしゃられた何かイベントが起きて,事件があって,追加的に年度の途中で調査する必要が生じたときにどうなるのかということですが,それはだれに調査してもらうかということから始まりますが,仮に同じ会計監査人に調査してもらおうというときには,年度の計画にオンされる業務ですから,当然,そのための費用が発生しますし,支払わなければいけない。その場合には,会社法の建て付けですと,監査役が必要と思う調査については,それを執行部に請求することができるということになると思います。 ○中東幹事 ありがとうございました。 ○岩原部会長 あと,委員会設置会社における監査委員会が,現行法のもとでは会計監査人の選任権は有しておりますけれども,その報酬の決定権は有していないということになっておりますけれども,この論点についてはいかがでしょうか。 ○八丁地委員 (注2)に関してですが,委員会設置会社は,執行と監督の分離ということが既に前提として設計されていますので,会計監査人に対して支払う報酬というのは,いわゆる執行役が管掌し,あるいは所管すること,マネジメントしている会社の,先ほど築舘さんからもお話のありました,財務上の問題であり,これは明らかに業務執行の範囲だと思っております。ここで監査委員会が決定すると,それ自身が自らの執行に対して監査しなければならないという,自己監査の問題が出てくると思いますので,現行どおりの執行役の権限として運用をして,問題がないと考えております。 ○古澤幹事 この論点につきましては,(注1)と(注2)のほうが食い違うというようなことになれば,非常に更に分かりにくい制度になるのではないかという気がいたします。 ○岩原部会長 現在の制度は,当時の委員会等設置会社について,平成14年改正で入ったのですけれども,そのときの法務省の解説では,会計監査人の選任のほうについては,委員会等設置会社では特に監査委員会と会計監査人の密接な連携が必要だということから,会計監査人を委員会等設置会社では監査委員会が決定するということが説明として書かれておりますけれども,報酬について,監査委員会の決定権限にしなかった理由は特に書かれていないのです。先ほど八丁地さんがおっしゃったような業務執行かどうかという観点からすると,会計監査人の選任も業務執行の一例のような感じもしますので,説明としての一貫性というか,そこら辺の考え方の整理はやはり必要かなという感じがするのですけれども。何か御意見ございますでしょうか。   サーベンス・オクスリー法なんかでは,監査委員会というのは会計監査人の選任と報酬の両方の決定権を持つということになっておりますが,いかがでしょうか。特にございませんでしょうか。 ○野村幹事 ちょっと時機におくれているんですけれどもよろしいでしょうか。一つ前のところの,監査の実効性を確保する仕組みについて,最後に従業員選出の監査役の御提案があったんですけれども,ちょっと即座に考えがまとまりませんでしたので,ちょっとだけここで発言させていただきたいのですが。 ○岩原部会長 では,簡潔にお願いいたします。 ○野村幹事 ありがとうございます。御指摘をいただいている御提案というのは,恐らく従業員の方がなかなか声を上げにくいという問題が一つと,仮に声を上げたとしても,それを受け止めてしっかりと改善につなげる者が役員の中にいないという問題が,二つ一緒に提起されているのではないかなと思われるわけです。まさに,これを一遍に解決する方策として,従業員が選出する監査役という制度を御提案いただいているんだろうと思います。   しかし,この二つを解決する方策はたくさんあるわけでありまして,今御提案いただいている制度も一つの案かとは思いますけれども,今申し上げましたように,問題が二つあるとすれば,それぞれの問題についてそれぞれ解決していくという考え方もあるのかなと思います。例えば従業員の方が声を上げにくいということが構造的に存在していることを前提に,既に会社の中には外部の法律事務所等を使ってホットラインを設けて,匿名で告発をすることができるというような制度を使っているところもあるわけです。もちろん,こうした形の制度を義務付ける必要はないわけですが,内部統制システムの一項目として,内部告発を容易にするための体制の構築を要求し,その中身は会社ごとに考えさせるというルールを作ることは可能ではないかなと思います。   次に,後者の問題,すなわち,内部告発が経営陣のほうに伝わっても,自ら率先して不祥事の解決に動いてくれないという問題については,例えば監査役の耳に入ったとしても,監査役が積極的に改善策を講じてくれないという形で批判されるわけですが,この問題は伝統的に独立性のある役員を置くということによって解決すべき問題と位置付けられてきたように思います。社外監査役というのが正にその役を担えるものとして考えられてきたわけですし,また,社外取締役もそういったような議論の中から出てきているのだろうと思います。だとすると,会社の利益の名の下に隠蔽を図ろうとする危険性がある社内出身者ではなく,独立性を伴った社外者を任命すれば足りるわけで,必ずしも従業員を選ばなければいけないという帰結にはならないのだろうと思うわけです。にもかかわらず,必ず従業員から選ばなければならないとすることには,やはり限定的過ぎるわけで,多様な選択肢の中から適任者を選べるようにすることが大切なのだと思います。したがって,情報を受け止めた監査役が,実効性ある形で不祥事の解決に尽力することができる体制を整えるのだとすれば,監査役の独立性を高めることを検討すれば足りるのではないかと思われるわけです。したがいまして,御提案の趣旨はよく理解できますけれども,従業員選出監査役の制度に帰着することにはならないのだろうと思います。 ○岩原部会長 よろしいでしょうか。   それでは,ここでいったん休憩をとらせていただきたいと思います。           (休     憩) ○岩原部会長 それでは,審議を再開させていただきたいと存じます。最初に,先ほどの監査役の問題,その権限その他の問題について,補足していただくことがございましたらお願いします。 ○三原幹事 先ほどの監査役制度の関係で,簡単に補足ないし追加で発言の機会を頂ければと思います。   全体としましては,監査役の監査機能の強化と,ガバナンスの実効性の確保,健全性の確保については,もちろんこの方向性に全く異論はありません。賛成です。ただ,具体的にどうするのかというのがここでの議論だと思います。その中で,例えば監査役の権限という1のところでも,見直し事項として,基本的には現行制度の枠組みを前提とし,適法性の監査であって,妥当性監査権限は基本的にはないという立場の中で,監査役という監査をする者と,執行する者を分離するという今までの制度を前提としますと,例えば業務執行者の代表である代表取締役の解任権等について踏み込むということは,やはり制度としてはなかなか難しそうだなということを,先ほどの議論を聴いて思いました。そういう方向は私としては個人的には賛成し難いということで補足させていただきます。代表取締役の解任権が監査役にあるという形になると,会社が非常に混乱するのではないかと思います。選任と解任の権限が一体として取締役の中にあったほうが良いと考えます。また,監査役は妥当性等の監査については関与せず,監督・監査機能をするということでよいかと思います。   次に2の実効性確保のところですが,先ほどのお話の中で幾つかございました,事業報告等に基づく市場ないし株主を通じたモニタリングというのは,非常に重要ではないかと思います。会社法施行規則の内部統制に関する98条等の中に,監査役と内部統制機関との連携に関する事項とすること,また会社法388条の監査役の費用償還請求権も,もちろんこれは全体の予算と決算,執行の中で決まることですが,費用償還請求の状況と今期の監査報酬にかかわる費用予算措置といった事項も含めて事業報告の中に記載していくことによって,どれぐらいの事項が会社法388条にて求められていることになるのかが株主からも分かるようになります。それは会社ごとに違うものですけれども,いきなり今期になったら何億円も請求するなどということではなく,通常であれば今期の監査報酬で会社法388条に基づく費用償還請求はどういう状況か,通常であれば,一年間の監査の業務体制と統制機関との内部連携との関係で予算措置等が決まってくるわけでございます。そのような事項を例えば開示するということです。施行規則にない事項を事業報告に任意に書くのはどうかという点につき,先ほどもお話がございましたが,私ども弁護士としても,法令にない項目を書くとなると,それはどういうことを書くのかというルールづくりから非常に困難を極めますので,会社法施行規則に,上記事項の形で,記載項目を追加していただけると,我々も正しく連携が必要であるということを前提とした形で助言ができますし,そういった情報が市場に提供されていくということになろうと思います。   それから(注2)の従業員選任監査役の件ですが,これにつきましては,従業員選任監査役に期待される機能というのは何か。つまりそれを選任することによる保護法益は何かということかもしれませんが,それで何を守るのか。その結果,だれが責任を負うのかを明確にする必要があります。従業員代表の監査役は,では従業員に対して何か直接責任を負うのか,責任についての提訴権か何かが与えられるとして,それを受けての責任を,会社に負うのか,株主に負うのか,従業員に負うのか,その点もなかなか整理が難しいと思います。しかし,株主総会で選任される以上は,善管注意義務は対会社という形で一本化されるはずです。そうなると,従業員は代表取締役の補助執行者であるために,その監査をする者が監査される者の代表という関係になるとすると,そこはまた先ほどの話ではないですけれども,これもねじれ問題になってしまうという印象を持ちました。   それから会計監査人選任の件でございますが,これは会社法344条2項があるということは,前回発言させていただきましたので,これは繰り返し申し上げませんけれども,運用の問題ではないかと考えております。 ○河合幹事 監査役の話が続いておりますので,先ほど築舘委員から御発言のありました会計監査人の報酬等の決定に関する部会資料の内容について,若干御説明をさせていただきます。   部会資料2の中で,「監査役が,会社全体の財務状況も考慮して,会計監査人の報酬等について適切に判断し得るかについても,併せて検討を要する。」と書かせていただいた趣旨は,法制審議会会社法(現代化関係)部会の際に,委員の中から,監査役が会計監査人に余りにも会社の経営の状況をわきまえずに多額の報酬を払うことについて,懸念が表明されたということがございましたので,そのような観点から書かせていただいたものです。経営が悪化しているときに,適正な報酬自体を削るべきであるとする趣旨ではございませんので,念のため付け加えさせていただきます。 ○岩原部会長 それでは,第2の取締役会の監督機能に関する検討事項に移りたいと思います。まず事務当局から,「1 社外取締役の選任の義務付け」と「2 社外取締役の要件の見直し」について,一括して御説明をお願いいたします。 ○内田関係官 それでは,部会資料2の「第2 取締役会の監督機能に関する検討事項」について,一括して御説明申し上げます。   まず,5ページの「1 社外取締役の選任の義務付け」は,監査役会設置会社において社外取締役の選任を義務付けるべきであるとの指摘があることから,この点について問うものでございます。社外取締役の選任を義務付けることの当否については,社外取締役に期待される機能を整理した上で,機能ごとに分析的に検討する必要があると考えられます。また,このような機能の整理は,後から御議論いただく社外取締役の要件を検討するに際しても有用と考えられます。補足説明の2では,5ページから6ページにかけて,そのような整理を試みておりますが,社外取締役に期待される主な機能については,6ページの冒頭にありますとおり,三つに整理することができるのではないかと考えられます。@は,経営効率の向上のための助言を行う機能であり,ここでは助言機能と呼んでおります。Aは,経営者の評価・選解任その他の取締役会における重要事項の決定に関して議決権を行使することなどにより,経営全般を監督する機能であり,ここでは経営全般の監督機能と呼んでおります。Bは会社と経営者との取引の承認など,会社と経営者等との間の利益相反を監督する機能であり,ここでは利益相反の監督機能と呼んでおります。AとBの機能は,監督という点では共通いたしますが,Aの機能は,経営が適切に行われているかどうかという視点から,経営者から離れた外部者の立場で行う監督に関するものであるのに対して,Bの機能は,経営者が会社の利益を犠牲にして自己又はその関係者の利益を図っていないかという視点からの監督に関するものである点で,監督の視点を異にしますので,両者を区別して扱って分析することが有用と考え,このように整理しております。   以上のような整理を前提としますと,まず,@の助言機能を活用するかどうかは,会社をどのように経営するかという点に関する意思決定そのものであり,経営者の判断にゆだねることが適切といえるため,@の機能は,社外取締役の選任を義務付けるかどうかの検討の基礎とはならないのではないかと考えられます。(注)は,本文に関する検討の前提として,まずはこの点について認識を共有していただくことを意図したものです。   これに対して,Aの経営全般の監督機能及びBの利益相反の監督機能については,経営者が監督を受ける立場となりますので,それらの機能を活用するかどうかを経営者の判断にゆだねるのではなく,法的ルールによりその活用を一律に強制する余地もあると考えられます。そこで,社外取締役が一般的にそれぞれの機能を実効的に果たし得るといえるかどうかを検討する必要がありますが,Aの経営全般の監督機能との関係では,事業内容の理解を前提とした高度な政策的判断が必要となる場面も少なくないと思われるため,社外取締役が一般的にそのような機能を実効的に果たし得るといえるか,検討を要するものと存じます。他方,Bの利益相反の監督機能との関係では,経営者から独立して監督を行い得る立場にあるかどうかが,より重要となるのではないかと考えられるため,社外取締役は,一般的にそのような機能を実効的に果たし得ると言えるようにも思われます。社外取締役の機能としてBの機能をどの程度重視すべきと考えるかは,利益相反を監督すべき場面をどの程度広くとらえるか,すなわち,経営の全般にわたって利益相反の監督を要すると考えるか,それとも,個別の利益相反取引等の監督をすれば足りると考えるのかなどにもよるところかと存じます。   以上についての御議論の結果,仮に社外取締役の選任が望ましいということになったとしても,監査役会設置会社においては,社外監査役の選任が義務付けられておりますので,それに加えて社外取締役の選任を義務付けるとすると,各会社に適した柔軟な企業統治体制の構築を阻害することとならないか,また,人材確保の点で会社に過度の負担を課すこととならないかといった点も検討する必要があるものと思われます。   なお,補足説明の4にありますとおり,社外取締役の機能を重視するのであれば,そのような機能を期待される存在として社外取締役の位置付けを明確化するため,社外取締役の選任手続の在り方を見直すことについても,併せて検討する余地があろうかと存じます。   続きまして,7ページにございます「2 社外取締役の要件の見直し」について御説明申し上げます。2は,御説明申し上げた社外取締役の機能の整理を踏まえて,社外取締役の要件について問うものでございます。具体的には,(注1)に挙げたアからウまでの各要件を社外取締役の要件に追加することについて,どのように考えるかを御議論いただければと存じます。   とりわけ,経営の監督という観点から,6ページの冒頭で整理いたしました社外取締役の機能のうち,AとBの機能についてそれぞれ考えますと,まず,Aの経営全般の監督機能との関係では,社外取締役が経営者から受ける影響が問題となりますので,社外取締役と会社等との間にどのような関係があれば,経営者から影響を受けることにより,監督の実効性が阻害される類型的なおそれがあるといえるかを検討する必要があろうかと存じます。その際,会社や経営者と一定の関係を有することは,監督の実効性を高める方向に働くこともあり得る旨の指摘があることにも,十分な配慮を要すると考えられます。   他方,Bの利益相反の監督機能との関係では,利益相反の相手方に応じた検討が必要と思われますが,経営者自身との利益相反に関しては,社外取締役が経営者から受ける影響が問題となるため,そのような影響力の有無,程度等について,Aの機能に関する議論が同様に妥当すると考えられます。これに対して,経営者以外の利害関係者との利益相反については,各利害関係者が経営者に対して及ぼし得る影響が問題となるものと存じます。そこで,検討対象となる各利害関係者が有する影響力の根拠・原因も考慮しつつ,そのような影響力により,経営者が会社の利益を犠牲にして当該利害関係者の利益を図る類型的なおそれがあるといえるかを検討する必要があると思われます。例えば,アの要件で問題とされている親会社や支配株主等は,株主総会における議決権行使を通じて取締役の選解任を実質的に決定し得るため,それを根拠として,経営者に対して影響を及ぼし得る立場にあるといえるのではないかと思われます。これに対して,イの要件で問題とされている重要な取引先等の場合には,取引関係を原因とする経営者への影響力が問題となりますが,そのような影響力の有無や程度は,取引関係の状況によって様々であると考えられます。また,法的安定性の観点からは,社外取締役の要件は,その充足の有無を客観的に判断し得る明確なものであることが望ましいと考えられますので,問題とすべき利害関係者については,その範囲の明確性も考慮する必要があろうかと存じます。   以上が,社外取締役の要件に関して特に御議論をお願いしたい点でございますが,その他,補足説明の3には,これに関連する検討事項を二点挙げております。まず,現行法における社外取締役の要件に加えて,アからウまでの要件の全部又は一部を満たす取締役に関し,その監督機能にかんがみ,一定の権限や法的効果を定めることについてでございます。その当否や,具体的な権限・法的効果の内容などについては,社外取締役の機能などに関する本日の御議論の内容を踏まえ,二読以降で御議論いただくべき検討課題かと存じますが,現時点で御意見がありましたら,御指摘を賜れればと存じます。また,もう一つの検討事項として,取締役としての責任の一部免除の場面における特別の規律の適用範囲についても,別途問題となるものと存じます。   次に,(注2)は,社外取締役の要件に係る対象期間を,例えば10年間など,一定期間に限定することについて問うものでございます。現行法では,社外取締役の要件は,就任前の全期間を対象としており,過去に一度でも経営者の指揮命令系統に属したことがある者は,社外取締役の要件を満たさないこととされていますが,この対象期間を一定期間に限定することにより,いったん要件を満たさなくなった者にも,その一定期間を経過すれば再び社外取締役となる余地を認めるべきであるとの指摘があります。もっとも,社外取締役の要件に係る対象期間の限定については,社外監査役の要件について当初規定されていた5年間という対象期間の限定が平成13年改正により撤廃されたという経緯を踏まえて検討する必要があろうかと存じます。そこで,社外取締役に関する規律のせん脱につながるおそれがないと評価し得るよう,どの程度の期間が経過すれば経営者からの影響力が十分に弱まると考えられるかなどの点に配慮しつつ,人材確保の要請等も考慮して,限定の当否や具体的な対象期間の年数等を検討する必要があると考えられます。   なお,補足説明の5にありますとおり,社外取締役の要件を見直すこととする場合には,社外監査役の要件についても同様の見直しをすべきかどうかが問題となり得ますが,この点については,大幅な希釈化を伴う第三者割当てによる募集株式の発行などの場面において監査役に一定の関与を認めるか認めないかなど,監査役の権限に関する整理も踏まえた上で,二読以降に改めて御議論いただくことが適切かと存じます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。それでは,議論に入りたいと存じます。皆様,いかがでしょうか。まず,社外取締役の選任の義務付けについて,いかがでしょうか。 ○伊藤幹事 第2の1の6ページのところで整理を頂いた,社外取締役に期待される機能ですけれども,この中でAの機能とされているものについては,内容をもう少し明確化する必要があるかと思います。Aの機能と申しますのは,経営者の評価・選解任その他の取締役会における重要事項の決定に関して,議決権を行使することなどにより,経営全般を監督する機能と書かれているものですけれども,その他の取締役会における重要事項の決定というものの中には,例えば会社法362条4項所定の取締役会の専決決議事項のようなものも含まれているのでしょうか。もし含まれるとしますと,そのようなものについての決定は,これは明らかに経営者の評価ですとか,それを前提にした経営者の選解任とは別の事柄といいますか,別の能力を要する事項のように思われます。   他方で,このその他の重要事項の決定というものには,余り意味はなくて,要するにAの機能というのは,その後の括弧でまとめられているように,経営者を評価して,それを基に代表取締役などの選解任を行うということに尽きるのであれば,またそれはそれで考えるべき点があるかと思います。経営者の評価ですとか,それを前提にした経営者の選解任という機能について,社外取締役にどういうふうな識見ですとか,能力が必要なのかということには一つ議論があるところです。6ページの真ん中少し下のところでは,Aの機能を果たす上では,必ずしも社外取締役というものは会社の事業の内容に精通しているとも言えないので,これを実効的に果たし得るかどうかは検討を要するとは書かれており,少しネガティブに書かれているように思うわけです。しかしながら,そのような機能を果たすためには,社外取締役は必ずしもその会社の事業の内容に精通している必定はないという考え方も十分あり得るわけでして,例えばアメリカのモニタリングモデルの前提になっている考え方というのは,正にそういう考え方であったように思います。 ○前田委員 同じく議論の前提にかかわる問題なのですけれども,社外取締役に何を期待するかによって,義務付けの要否は異なってまいりますし,また社外取締役の要件も異なってまいりますので,補足説明として,社外取締役に期待すべき機能に分けた整理がされているのは,大変明快であると感じたのですけれども,期待すべき機能として,今,Aの問題について伊藤幹事から御意見があったところですが,この@,A,Bのうち,現在我が国で企業統治の在り方の見直しとして,取締役会の構成が検討課題となりますのは,主にAの問題ではないでしょうか。Aの機能というのは,効率性向上のためのモニタリングですね。そうしますと,要件の見直しのところでも,主にこのAの機能に着目して要件を立てるのがいいのではないでしょうか。Bの機能,利益相反の監督機能は,Aの効率性向上のモニタリングとは全く別の観点からの監督です。特別利害関係,あるいは特別利害関係と明確に言えないまでも,その延長線上にあるような利益相反関係がある場合の話であって,例えば買収防衛策導入というような,会社が個別具体的な行為をするときの話だと思います。つまり,AとBは全く別ですので,A,Bの両方を同時に満たすような社外取締役の要件の立て方は難しいのではないかというように思います。 ○八丁地委員 社外取締役と取締役の監督機能等々に関する詳細に入る前に,もう一度,実務のスタンスを御説明させていただきますが,何度も申し上げておりますとおり,会社法制は基本法でありますので,立法事実を十分に見極めていただき,また会社法制の見直しが企業の競争力の強化に,本当に結実するかどうかを,よく考えていただきたいと思います。特に,執行と監督の分離というのは基本的な課題として議論がされておりますので,ここをよく踏まえて,社外取締役の制度を考える必要があるかと思います。一律に社外取締役を義務付けるということは,いかがなものかと思います。   二点目は,諸外国の制度の応用,転用ということがあるかと思いますが,御案内のとおり,取締役と一言で言いましても,日本と諸外国ではその機能とか役割は相当違っておりまして,諸外国では取締役会の多数は外部者が占めていますけれども,これは監督機能のみであるということが前提であり,業務の意思決定というのは,やはり執行役が行っており,取締役会は意思決定を行わないわけであります。今の議論でいきますと,意思決定を行う機関に社外役員を入れることを義務付けることは,諸外国でも例がないと思いますし,そういうことはすべきではないと思います。   三点目は,企業のガバナンス構造は,各企業の規模,業種,業態,不祥事の発生度などによって,いろいろな形があり,一律ではないと思います。そこで形式的なルールを入れることが果たして意味があるのか,疑問を持たざるを得ないわけです。どういうガバナンスのメカニズムを各企業が確保するかということを考えるべきであり,社外取締役もその選任がガバナンスのために必要であるかどうかに関しては,できる限り各企業の自主的な判断に任せるべきというのが基本的なスタンスです。   それから三つの機能に分けていただいたのは大変良く分かりやすくて感謝をしております。ここにあるとおり,助言機能というのは既に各社がいろいろな形で運用をしておりまして,社外のアドバイザーとか,パートナーとしてのいろいろなアドバイスを得ずに経営しているという企業は,皆無であると思います。外部者をどういう形で使うかということは,会社の経営の意思決定そのものであります。これを経営者の判断にゆだねるべきということは御指摘のとおり適切だと思います。ですから,助言機能が社外取締役の選任を義務付けるかどうかの検討の基礎にはならないというのは,妥当と思います。それから利益相反の監督機能については,現状の法制の建て付けでは,取締役会及び監査役が担うこととなっており,特に社外からの目線という点では監査役会に半数以上含まれている,社外監査役によって担われているということで,二重に担保されている形であると理解をして経営をしております。利益相反の監督機能という面でも,これ以上の法的の手当てが必要であるのかについては,コストとかベネフィットとの見合い等を考えて,よく御判断を頂きたいと思いますが,私どもとしては,必要なことではない,現状で十分であると考えています。   それから要件の見直しに関して,幾つか御指摘がありましたが,親会社の出身者を社外にすべきではないという主張があります。これは親会社という大株主の意向がかなり強く重視されるので,一般株主,少数株主の利害が毀損されるということが理由かと思いますが,仮に取締役として親会社からの社外取締役が忠実義務に違反して,親会社の利益を優先させるということがあれば,これは忠実義務違反でありますし,会社法上もそのような行為は許されないわけであります。そういう面では親会社の関係者ではないということに関しては,既に一つの手段が講じられていると思います。社外役員に関して,形式的に独立性の要件を非常に厳格にするという議論がありますが,我々としてはこれだけ数多くの企業が日本にはありますので,より多様性を認めていただいて,その代わり,開示を更に充実をすることが望ましいと考えます。実質的に社外役員として経営陣に対するチェック機能を果たせるかどうかということを,総会の役員選任議案として,今,株主の判断に最終的にゆだねているわけですので,その形を充実させることが望ましいのではないかなと考えております。それから人材のプールという面におきましても,形式的な要件を厳しくし,親会社からの役員は,これは絶対に社外として認めないということになりますと,その確保にも課題が生じますので,限定的にするべきではないと思います。こういう動きの中で,東証等で独立役員の設置についての届出制度が運用され始めたばかりですので,法律上の要件の見直しについては,もう少しこの独立役員の運用の動向等を注視して,具体的にこれが競争力の向上につながるとか,日本企業の活力につながるかどうかということを判断してからでもよいと考えます。 ○油布関係官 大分核心に入ってきたように思うんですけれども,ちょっと戻してしまって恐縮なんですが,八丁地委員も一部触れられましたけれども,やはり@,A,Bの分け方で,私,もやもやしていたのは,伊藤幹事と前田委員の御発言で大分すっきりしたような気持ちになっておりまして,@とAを見たときに,やはり経営効率の向上のためのというところが,@にはあってAにはないという,この非対称性が若干私は気になって,もやっとしていたんですけれども,やはり経営効率の向上のためのモニタリング機能というんでしょうか,あるいは業務執行の決定も含まれるかと思うんですけれども,そういうものが恐らくあって,それは6ページの真ん中あたりに書かれておりますような,単に経営がきちんと行われているかというネガティブチェックだけではなくて,もうちょっとポジティブコントリビューションみたいなイメージのものもあるのではないかと。そうしますと,それは例えば会社のこと,その事業のことを必ずしも知らなくても,もうちょっと多様な視点,別の視点,社外の視点とかから,貢献,コントリビュートできるという,そういうメリットといいますか,プラスの要素になるのではないかなと。この6ページの真ん中のところには,ちょっとややネガティブなニュアンスのデメリットが書いてあるように思いましたので,そういうメリットもあるのではないかなというふうな気がいたしましたので,ちょっと発言させていただきました。 ○荒谷委員 補足説明にある社外取締役に期待する機能についての三つの分類は,伊藤幹事がおっしゃっているように,確かに不明確な点もございますが,一般的には大変分かりやすい整理の仕方だと思いますので,一応,この場では,この三つの機能に従って,私も少し意見を述べさせていただきたいと思います。   前田委員の御発言にもありましたように,@,A,Bのうち,AとBの機能については,全く別物を言っていると私も理解しておりまして,個人的にはBの機能が非常に大きいのではないかと考えております。つまり,Aの経営全般の監督機能につきましては,既に八丁地委員もおっしゃっておりましたけれども,現在,監査役会設置会社におきましては,社外監査役が少なくとも半数は含まれておりますので,今のままでも,十分監督機能を期待できるのではないかと考えております。そこにまた社外取締役を選任する必要が果たしてどこまであるのかなという気がいたしますので,少なくとも,Aの機能に着目するならば,社外取締役は任意設置にしてはどうかと考えます。それから仮に強制するといたしましても,例えば7ページにア,イ,ウとして列挙されているような厳格な資格要件を課す必要があるのか,むしろ,モニタリング機能という意味では,親会社ですとか,重要な取引先等の方が,効果を期待できる場合もあり得ることを考えますと,社外という外形にこだわって非常にリジットな要件を課すと,かえって中身がないものになってしまう可能性があるのではないかという懸念を抱いております。   これに対しまして,Bの利益相反の監督機能という点につきましては,最近,いろいろなことが問題になっておりますので,社外取締役にかなり期待できるのではないかと考えております。そして,この場合には,株主の利益のために経営者その他の関係者等から中立的立場で判断することが必要不可欠となりますので,東証さんが導入しておりますような,いわゆる独立取締役という形で,会社とは全く関係のない者を1名ないしは複数名選任することによって,第三者によるチェック機能を働かせることが必要ではないかと考えます。したがって,Bの利益相反の監督機能という点に重点を置いて社外取締役制度を考える場合には,いわゆる社外の独立取締役を強制する形で導入し,その他のいわゆる広い意味での社外取締役は任意設置とし,その要件もフレキシブルな対応をするのがよいのではないかというのが,現在の私の個人的な意見でございます。 ○安達委員 ただ今の荒谷委員,それから先ほどの八丁地委員と,基本的に同意する立場です。まず,毎回言っておりますけれども,会社法は基本法ですので,すべての会社に適用されるという法律だと思うのですけれども,実態としましては,上場会社,非上場会社をはっきり分けないと,特に,できて間もない会社に東証一部上場会社と同じものを適用するというのは非現実的な話になりますので,これは是非御考慮いただきたいというのが第一点でございます。それで,今の荒谷委員のお話にもありましたとおり,三つの機能で区分けいただいていますけれども,実態としましては利益相反,社会性といいますか,世間の常識と言ったら良いでしょうか。それも含めた利益相反,それからコンプライアンス関係の監督機能というのはよく分かりますけれども,特に二番目,経営全般の監督機能,これは非業務執行の方が現実的に社内取締役と同レベルで判断できるかというと,多分,私はできないと思います。会社の価値をいかに高めるかということは,日々社内取締役でも既にやっているわけで,それに対して世間の常識とか,利益相反,そういう観点が見えるということは,別の立場で良いのですが,その場合,一つ忘れてはならないのは,少し趣旨が違うかもしれませんが,今日前半でお話しがありました,監査役の権限の強化というところで,それはそれで強化し,更に加えて社外取締役をこういうように強化するということは,お互いの立場だけで強化し合った結果,かなり屋上屋を重ねることに結果的になるような気がします。部分最適だけで議論せずに,全体最適ということを最終的に御判断いただく必要があろうかと私は思います。   それからもう一つ,社外取締役の要件の話もさせていただきますと,私,ベンチャー投資している会社なものですから,私も既に2社,社外役員をやっております。この要件におきますと,アに当たります。思い切り資本関係にある会社の役員をやっていますので,これも非現実的な話になります。当然,事業成長に向けた方向は一致しますので,私の投資家としての利害と,会社の利害が一致しています。会社をどうやって成長させるかという観点で取締役会で発言しています。当然,ある時点で利害が一致しないこともあり得ますので,上場申請した段階では社外取締役,一般的にいうと降りるんですけれども,会社によっては申請後も,又は上場後も,ベンチャーキャピタル,またそのファンドが役員をやっている例もございます。したがって,この点に関しても,別途十分議論を頂く必要があるかなと私は思います。 ○田中幹事 まず,選任の義務付けとの関係では,社外取締役の機能を@,A,Bに分けたというのは,大変良いことだと思っております。一つ補足させていただければ,この議論は,飽くまで社外取締役の選任義務化を基礎付ける議論だということです。つまり公開大会社は日本に1万社から2万社近くあるのではないかと思いますが,それに対して,法律で一定の要件を満たす役員の選任を強制するという,ある意味大それたことをしようとすることがどうしてできるのかという,そういう問題を非常に深刻に考えた中から出てきた議論だと思うんですね。ですから,この補足説明の文章でも十分そこは明らかになっていると思うんですけれども,ちょっと注釈させていただければ,先ほど助言機能について,少しネガティブに書かれているというのは,正にその義務付けの観点からは,これは義務付けの根拠にならないだろうということです。もちろん,助言をして会社の経営にコントリビュートする部分もたくさんあると思います。しかし,もし助言をしてくれることで,会社の経営にコントリビュートしてくれるのであれば,別に義務付けなくても,経営者自身がその人を社外取締役にするのではないかと思えるわけです。ですから,普通であれば会社のことを一番よく知っているのは経営者ですから,経営者の判断に任せればいいだろうということになるわけです。しかし,少なくとも経営者自身を評価するとか,選解任といったような場面では,自分を実効的に評価し,あるいは解任してくれる人をあらかじめ取締役に選ぶということは,よほど優れた経営者でないとなかなか難しいのではないかということがあるわけです。それから,経営者と会社の間で取引をするというときに,その取引はアンフェアであると言ってくれる人を,経営者があらかじめ選ぶというのはなかなか難しいのではないかということもあります。だからこの二つは義務付けの根拠になるのではないかということだと思うんです。これはもう,補足説明の文章の中で明確に書かれているとは思うんですけれども,少し私の感じたことを補足させていただきました。   その上で,この議論についてコメントさせていただきますと,これはロジックとしては非常によく分かるんですけれども,もちろんこの議論は,飽くまで義務付けを正当化する可能性を示しただけで,実際に義務付けをしたほうがいいかどうかというのは,これは正に今まで何度も出てきていますが,立法事実との関係,つまり,社外取締役を入れることで,事態は改善するか,あるいは,そもそも対処すべき問題というのが本当にあるのかというところは,もちろん考えなければいけないと思うんです。その観点から私が少し気になるのは,立法事実というのが余りこの部会の場で出てきていないといいますか,もちろん,各界の代表の方々が自分の意見を言い合うことで,それが立法事実になっているということもあるかもしれないんですが,もう少し客観的なデータのようなものがあったほうがいいのではないかと。例えば私たち会社法学者が,アメリカ型のモニタリングモデルを,これは良いものなのではないかなと思ったのは,90年代の後半ぐらいに,業績の悪かった上場会社のCEOが,もう次々解任されたわけです。ああいうことが,社外取締役が過半数いるとできてしまうんだという,ちょっと衝撃に近いものがあって,これがモニタリングモデルを支持する議論の根源になっていると思うんです。そういう観点から言えば,例えば今の日本の経営者の交代メカニズムというのはどうなっているのかと。業績が悪くなったときに経営者の交代比率がどのぐらい高くなっているかというようなことが,もう少しこの会議の場で出てくるべきではないかと。そういったことを研究されている学者は実はたくさんいらっしゃるわけですよ。国際的にも論文が書かれていますし,本も出ていますし,そういうことを研究されている経営学者,経済学者の方に,もっと発言していただいたほうがいいのではないかなと思っています。これはちょっと遅まきながらの運営に関する提案でございます。 ○奈須野幹事 私どもからは,社外取締役の義務付けについては消極的であるということで,その理由を四点ほど述べさせていただきます。   第一点は,一言で言うと現実を直視する必要があるということでございます。先ほど申し上げたとおり,現時点においても過半数の上場企業で社外取締役を一人も導入していないという実態があります。導入している企業についても,わずか一人とか,少数しかいないということで,諸外国の過半数とはほど遠く,その中で現実的な対策を法制度としてはとる必要があると考えております。実態面としては,先ほど御紹介したとおり,社外取締役を置いていない企業について,代わりにどのような体制で社外取締役に期待される機能を果たしているのかということについては,監査役,あるいは監査役会,こういったもので果たされていると企業は認識しております。そのことによって大きな問題が発生しているとも考えられませんので,このような対応をしている実態を尊重したほうがいいのではないのかと考えております。Aの機能として,経営全般の監督機能,こういうものが社外取締役に期待されるというような御意見もあろうかと思います。しかし,そうであるとすれば,このような実態を踏まえまして,監査役が非業務執行の取締役を兼任することによって,Aの機能は果たせると考えております。一方,これまでの議論では,Bの機能を根拠に社外取締役を義務付けるべきだというような御提案もございました。しかし,これは常時ではなく特殊な局面で問題になるわけですから,必ずしも社外取締役でなくても,独立監査役によっても役割を果たせる場合はあろうかと思います。したがって一つ一つ問題となるような利益相反の局面において,詳しく対策を検討すべきであろうと思います。Bが社外取締役の義務付けの理由になるとは考えておりません。   第二が,若干理屈っぽい話ではあるのですけれども,社外取締役と社外監査役とは,やはり期待される役割が異なるということでございます。したがって,社外監査役とは異なりまして,社外取締役について法律で義務付けられるということについては,ちょっと抵抗があるということであります。例えばAの機能は,企業価値向上に向けて会社の意思決定が妥当になると,そのように経営を監督していくということですけれども,そのことによって利益を受ける人は,基本的には株主ですから,企業の実情に応じてどのような最適な統治構造があり得るかということについては,一義的には株主の責任で,株主の判断で決めるべきであって,いかに良いアイデアでも我々の側から特定の統治構造を押し付けるということについては謙抑的であるべきだと考えております。一方で,違法性の監査につきましては,会社側と株主においては違法な行為を行ってまでもうけようという共通の誘因があり得るので,こちらについては社外監査役を義務付けるという現行の立法には合理性があろうかと思います。いずれにせよ,金がもうかるかもうからないかと,こういう問題につきましては,法律で義務付けるような話ではないと思っております。   第三の理由で,技術的な話ですけれども,法律で義務付けると,それがその会社の設立無効であるとか,あるいは取締役決議の無効原因となるということで,そこまでの効力を持たせるべき話だろうかという疑問があります。確かに社外取締役が設置されると,妥当な判断がなされる可能性があると,これは言えるかと思うのですけれども,ただ,それは可能性にとどまるのであって,社外取締役を導入している企業が一般的に良好なパフォーマンスを上げているということは,何ら実証されていないわけであります。そういう中で,逆にデメリットとしては,社外取締役がいない会社と取引した企業については,その取引に無効事由ができる可能性があるということで,取引の安定性が損なわれる。このため,常に商業登記簿を見て,社外取締役がいるかどうかを心配しながら取引しなければいけない。したがって,メリットとデメリットのバランスを比較してみると,ちょっと法律で義務付けるような話かどうかということについては,疑問を持っているということであります。   それから最後に四点目で,また更に技術的な話なのですけれども,社外取締役を義務付けた場合,他の制度に対する影響が大きく,見直しをしなければならない点が多いということです。日本の場合は特に代表訴訟が他国と比べて容易に起こせるということで,取締役の責任が重くなっているという実態があります。社外取締役を義務付けようとすると,その部分を見直していく必要が出てくるかと思います。また,これまでの議論でも出てきましたとおり,社外取締役のマーケットというものが若干限られておりますので,義務付けるとなった場合には社外性の要件というのをかなり緩めなければならない。このように,義務付けた場合の影響が大きく,これにかんがみても消極的ということでございます。   以上,この1の部分の選任の義務付けについてお話しさせていただきました。 ○濱口委員 この機能の区分けについては,こんなものかなと思っていまして,そういう意味では,助言機能のための社外取締役という観点からの義務付けの議論はないと思います。   我々は公開会社において,一般の不特定多数の株主からのガバナンスが効きにくいために社外取締役が必要だということを言っていますので,非公開も含めた会社について一律義務付けるというのは相当無理があると思います。その公開上場会社に限る議論についても,現状で総合的に判断しますと,私は一律に義務付けるというのは時期尚早で,むしろ消極的です。むしろ社外取締役はいろいろな観点から望ましいので,それを誘導するような,そういう方向で議論するのであればすべきであろうと考えます。その義務付けに消極的というのは,仮にその一定割合というのが,例えば過半数とかというようなレベルでもし議論できるのであれば,相当の議論を重ねた上で意味はあると思うのですが,そうなりますと,取締役会の性格自体も相当変わりますでしょうし,今の現状では恐らくそういう議論にはならないだろうと思います。そうしますと,例えば一人とか二人,義務付けただけで事が収まるといいますか,議論が済むというのは非常に危険で,形式論に走るおそれがある。例えば持合いの状況なんかを残したまま,社外取締役がいるからいいだろうという,そういう議論にもなり得る。むしろ実質論を問うべきなので,一律に義務付けというのはそういう意味でも,流れに反することかなとは思います。   要件の見直しですが,確かに例えば独立社外取締役の有効性には疑問があるというような議論もありますが,有効性の機能はそれこそ社内取締役の方が果たされればいいので,独立性で議論をすればいいと思いますが,具体的に法律でこのア,イ,ウといった要件を明確に規定できるかというと疑問で,当面は今スタートしています東証のルールと開示で対応して,最終的には投資家の判断に任せるということで対応していくのがよいと思っています。 ○藤田幹事 1の義務付けの話と要件論と皆さん併せて議論されているので,私も若干併せてお話しさせていただきます。皆さんがこの分類論を非常に称揚されている中で,若干はばかられるのですが,要件論を念頭に置く場合,この三つの分類論が間違っているというわけではないのですが,少なくとも皆さんの受け取り方を前提にすると,多少違和感があります。その点を含めて,概念整理的なコメントと,要件論についての各論的なコメントをさせていただきたいと思います。   まず,ちょっと現行法を離れて,社外取締役が持ち得る機能ということで考える,たぶん資料の@,A,Bというのもそういう含みで書かれているのだと思いますが,現行法を離れて持ち得る機能として考えますと,二つの違った思想があり得ると思います。つまり業務執行者から距離のあるという意味で独立性のある人が監督しなさいという要請が一つで,もう一つは,業務執行者と距離があるだけでは足りなくて,更に何か特定の会社と違う利害関係がある人であっても駄目ですという要請です。この二段階のレベルの違う要請があると思います。そして,資料であがっている@(助言機能)が設置強制とか要件論に直結しないというところは,私はそのとおりだと思うのですが,A(経営全般の監督機能),B(利益相反の監督機能)が今の話と対応するかというと,実は完全には対応していないのです。といいますのは,例えばBの「利益相反」というのがだれとの利益相反を問題にするかというところがはっきりしていなくて,Bでは経営者との利益相反とそうではない人との利益相反も,同時にここで拾っている可能性があるから,ちょっと方向がずれているような気がするわけであります。経営者から独立している人でないといけないという話と,別の利害関係を持ち込む人であってはいけないという話の区別が,社外取締役の要件論を考えるときには重要で,どちらを重視するか,片方だけでいいか,両方とも要求するかで,各々の要請からどこまでの要件が要求されるかということを整理すべきだと思うのですけれども,そういう観点からは,@,A,Bの整理はちょっとずれがある。   そしてア,イ,ウの要件の見直しのところを見てみますと,まず2の(注1)ウの,「近親者ではないこと」というのは,経営者から独立性のある人が監督しなければいけないという発想―これは現行法が既にとっている社外性の発想ですが―からも,比較的素直に出てき得る話だと思います。近親者というと,どこまで含むか,あいまいになるとか,そういう議論はあるかもしれませんし,一つの割り切りとして,こういう要素を一切入れないという選択肢もあるのかもしれませんが,少なくとも現行法が前提としている経営者から距離がある人,執行者から距離がある人ではないといけないという発想からも十分説明できるような話です。(注1)イの「会社と一定の事業上の関係を有する者(重要な取引先等)の関係者でないこと」のほうは,これは会社と違う利害関係がある人であってはいけないという,現行法では取られていない別の要素を持ち込まないと出てこない要件で,そういったものが良いか悪いかという話です。言うまでもありませんけれども,インセンティブや能力を考えると,こういう要件で資格を否定してしまうと問題があるのではないかと議論があるところです。私も強制する場合の要件論としては,ちょっと引っ掛かりがあるのは多くの方の発言と同じであります。   問題は,(注1)アの「会社と一定の資本関係を有する者(親会社,支配株主等)の関係者でないこと」であります。これは性格が難しいのですね。つまり経営者と距離がある人が監督すべきであるという思想なのか,それとも特別な利害関係を持っている人はよくないという話なのか,両方から見ることができるいわば中間なのです。つまりある意味,特殊の,会社全体ではなくて大株主の利益を代表している可能性があるといったことを強調すると,もう特別な利害関係を持っている人はいけないという思想の表れのようにも見えるのですが,実はそういう人は経営者の選任に密接に関係するという意味では,経営者と距離のある人でなければいけないという観点からも,出てこないでもない発想ではあります。だから,ウあたりまでは,現行法の枠組みを変えなくても,ある程度取り組めるような話と言いましたけれども,アは中間ということになります。今は,経営者から支配されている,経営者がコントロールしているような人だけを経営者と利害が一致した距離のない人と見ているのですけれども,必ずしもそう限定する必要はない,経営者との距離というのは,現経営者を支配できているということのみならず,密接不可分に利害関係を持っている人というとらえ方もできて,そう見ると,アは入ってきても必ずしもおかしくないという,そうなるのだと思います。   以上お話ししたように,@,A,Bの分類論は,これはこれで分かるのですけれども,社外取締役の要件論と対応させるなら,むしろ経営者との距離が問題でそういう意味での経営者からの独立ということを問題にすべきだという話なのか,それとも社外の特定の利害関係を持ち込むべきではないという観点を持ち込むか,その上でアのような関係はあるけれども,支配しているわけではないというのをどう見るかというふうに整理したほうが,恐らく議論は分かりやすいのではないかと思っております。 ○三原幹事 この社外取締役の義務付けの問題ですが,ここに書いてありますとおり,6ページの@,A,Bの社外取締役に期待される機能は何かということは,期待される機能を守るということでありますから,これも保護法益は何かということに関連してくるお話と思います。社外取締役の義務化で何を守るべきなのか,あるいは何が今のコーポレートガバナンスの改正について期待されているのかということです。不祥事の問題についての制度的な担保が求められているのか,又は海外からの投資家の要請ということが,当初いろいろな形でプレゼンテーションで説明があって,外から分かりにくいとか,社外者がいないという御指摘もありましたが,それへの対応が求められているのか,その点をもう少し整理したほうが良いという意味では,この@,A,Bの区分けというのは非常に意味があると私は前向きに評価しております。   アメリカの制度の御説明もありましたが,いわゆるモニタリング機能を重視するモニタリングのスーパーバイザリーボードのような形のものと,それから助言機能を重視するアドバイザリーボード的な機能のどちらがいいのかという問題があり,これらは海外の法制度ですが,日本は,恐らく両方とも期待されていますし,両方ともあると思います。現行会社法362条でも,取締役会には取締役の監視監督義務が明記されていますから,監督しますし,また実態を見ても,多くの取締役は業務執行取締役ですから,日々,会社に来て,毎日業務をしているということで,執行面もやっているわけでございますので,会社の価値を向上させるということもあります。そのような意味からしますと,この@の助言機能というのは会社の価値の向上,これを社外取締役が期待されてできますかという話があると思いますが,立法事実の話として,これができる方というのはそれは世の中にはいるものだと思います。いるものだと思いますが,ではそれが法令上の義務付けの根拠になるかというと,またこれは別の問題です。これに対してAないしBは,恐らくモニタリング機能のほうを重視したお考えかなと思って分析しておりましたが,特にBですと,個別具体的な取引における個々の利益相反と,それからAのほうが経営全般における日々の業務なり,平時の体制をどうとらえるということ,恐らくそういうことを−細かいところはありますけれども−中心にしてある程度機能を分離して議論の整理をされたのかな,ということからしますと,社外取締役に機能を期待するとして,このモニタリング機能を期待する,その結果,義務付けるということはあり得ると思います。これに対し,アドバイザリー機能は先ほどのとおり,外部アドバイザーを雇うとか,いろいろな形で意見を求めるということはできますので,それはそれで現行でも取締役がやっておられるわけですから,これがあるから義務付け可能だということになるかというと,これはなかなか難しいのかなということで,先程の田中幹事の御説明は,私は共感するところがございました。   それからこのモニタリング機能だけということに限るとすると,では今度は社外監査役という監査役会の半数を社外にしているということとのこの重複感,これをどうするのかということがあり,この点の整理も必要と思います。それから上場会社に限ってですが,独立役員制度が導入されています。こことの関係も整理する必要があります。それから義務付けの場合には,これは反対するという意味で言っているわけではないのですが,よくよく考えると義務付けをする場合には,途中で退任されたときのことを考えると,補欠の社外取締役も必要になってきますので恐らく最低二人いないといけない。そうでないと,そのときに臨時株主総会を開かないといけないという問題が出てくるかもしれないということで,現実の状況としては,最低一人義務付けるとプラス補欠が一人ということも出てくるのかなと思います。   それからあともう一つ,2の要件の見直しのところですが,ここが実際には大変重要なところであると思っていまして,社外だ社外だと言っても,では具体的にどういう人にどういう機能が期待されて,どういうことができるのですかとの問題です。例えばアのところで資本関係とあり,これを一律に駄目だと私は思っておりませんが,何を期待するのかということの関係では,この要件,特に期間の限定の復活をするかどうかも視野に入れて考えるべきであって,いったん,何かの関係があったらもう永久に要件は駄目だということになってしまうと,なかなかこれは難しいし,機能も期待ができないと思っております。   あと,それから範囲の問題が一つありまして,全会社にこれを導入するとかなり重いことになります。ではどこまでの範囲にしますかというと,考えられるのは三つか四つしかないのですが,公開会社だけにしますか,あるいは大会社だけにしますか,あるいはちょっと違う概念ですが,有報提出会社にしますか,上場会社にしますかという,別の金商法の概念を持ち込むかどうかという話で,そうでないと全株式会社に持ち込んでしまうという話になって,非常に影響が大きい話でございます。義務化をするということを議論する場合には,この範囲の問題は非常に重要でございまして,大会社の概念がありますけれども,これももう少し整理して,導入する場合には,上場会社に匹敵するほどの社会的な影響度ないし,社会的な貢献度ないし有用度があって,重要性が高いもの,大大会社に限って,例えば導入する等ということも考えていかないと,例えば公開会社ということを入れてしまいますと非常に大きな影響があるということではないかと思っております。 ○本渡委員 仮に社外取締役の選任の義務付けをするとしても,その対象となる会社については,かなりの限定が必要だと思います。というのは,東京証券取引所の一部上場企業でも,社外取締役を選任しているのは半数ぐらいです。したがって,少なくとも財務的にも別に困らない程度の特大会社でないと,とても義務付けはできないと思います。   しかし,この前からのプレゼンテーションを聴いていますと,かなり多くの外国の投資家等が,取締役会に社外の方がいないのはおかしいのではないかと指摘しているとのことです。今までの御議論だと,経営効率の向上のための助言を行う機能,助言機能を根拠にして義務化するのは難しいとのことですが,現実的には少なくとも大きな会社の半分くらいは社外取締役を選任しているわけですから,やはり効率化のために内部者だけではない,外部の人の視点を取り入れるというのは,すごく大事であるということは,かなり共通認識になっているのかな,という気もします。   経営効率の向上,要するに会社がより良い経営ができるようにするために法律もその一端を担っても良いのかな,という気もしております。 ○野村幹事 今の御発言にもやや関連するかもしれないんですが,義務付けの問題を考えるときには,やはり一律に義務付けることにメリットを感じる部分と,デメリットを感じる部分というのが恐らくあるんだと思います。メリットを感じる部分は,良い薬だということを知っているのに飲まない人に,そのままだと非常に株価のパフォーマンスも悪くなっていくのが目に見えているのに,どうしてやらないのだろうと思う会社に,ややおせっかいにやったほうがいいですよと義務付けるという,これがメリットなんだと思います。一方で,その薬よりももっと良い薬があるということを自分で見付け出して一生懸命やっている人にとってみると,全く無駄な義務付けでありまして,もっと良いやり方をきちんとやっていて,それをきちんとIR等を通じて説明している人にとってみると,極めておせっかいという話になるのではないかなと思います。我が国でも既に委員会設置会社を採らずとも,助言の機能を与えるための委員会に外部の人たちを大量に集めてきて,助言を受けているという会社はあるわけでありまして,それが例えば外国人の方々に来ていただいているような会社の場合には,その方々に社外取締役になっていただくことは,実は難しいわけですから,そうしますと,今のほうがよほど良い助言を受けているのに,もっとある意味では質の悪い人を取締役にしなければいけないと。これはややおせっかいなのではないかなという感じもします。あるいは取締役が密に連絡を取るために,頻繁に取締役会を開いているような,そういう会社の場合には,社外者の方は出席は非常に難しい。そうなると今は社外者も出席回数とか発言とか,そういうのを全部開示しなければいけなくなりますから,そうすると,結局それにお付き合いいただける人しか選べなくなってくるということになって,かえって変な人を招かなければいけない。そうなると,やはりせっかく良いことをやっているのに,余計なおせっかいですよねということになる。こういう会社まで巻き込まなければいけないほど,気が付いていない人たち,その人たちのために,余計な法規制をしなければいけないのかどうかということを考える必要があるかが問題になると思います。そして私は結論的に言えば,気が付かない人は自己責任であって,それで正に投資家から見放されていくのであれば,それはその企業の経営判断にミスがあるということになるのではないかなと考えています。   もう一点,今度は要件の見直しの件なんですが,(注2)のところにあります期間のこの改正の問題でありますが,これはちょっとやや立法という点で見ると,過去の経緯から言ってハードルが高いとお考えになる方も多いのかなとは思います。それは平成13年12月の段階で,いったん5年間と規定していたものを,これまで一度もというものに変えたという立法事実があるということが,背景にあると思いますが,私自身はやはりもうちょっとそこを再検討してもいいのではないかなと考えています。といいますのは,あのときの議論の中心は,社外監査役の要件だったと思います。社外監査役の要件を議論するときに,一番の問題点となっていましたのは,横滑り監査役というものが実務慣行として存在していて,それが断ち切れないということだったと思います。具体的に言えば,5年間我慢すれば,その人は社外要件を満たすので,結局,5年前の取締役は社外監査役となり得て,以後,ずっと横滑りが慣行化していくということが,それが問題提起されていたんだと思うわけです。しかし,そのときの議論というのは,今日も実は前半に議論がありましたように,執行から完全に独立している人こそが監査役にふさわしい人なんだという,その大前提があるわけでありまして,それを担保する要件として議論していたと思うわけであります。それは委員会設置会社等をつくったときに−今の現行で委員会設置会社ですが−,そこのときの社外取締役の要件にそのままスライドさせてしまったということが,やや社外取締役の要件を厳格化し過ぎているということにつながっているのかなというような感じはします。もちろん,これは改めて考えるということになれば,社外監査役の要件も一緒に見直さないと何となく平仄が合わないという議論もあるのかもしれませんけれども,一応,かつての立法事実が高いハードルだということであるとすれば,そういう歴史的な経緯の中から出てきたものだということで,改めて要件の見直しの可能性というのはあると考えてもいいのではないかと思います。ただ,その際,どうもこの要件があることによって,適切な人が選べないという例として挙がっていますのは,過去,自分の会社の従業員だった経験のある人が,その後,非常に能力を高めて他の会社の経営者になっていると,そういう方を呼んでくることができなくなるではないかというのはよく言われますけれども,本当にそれほど深刻な人材確保の障害になっているのかどうかという実態分析をある程度した上で,そういったようなニーズがあるというのであれば,大胆に見直すということも考えていいのではないかなと思います。 ○上村委員 今の野村幹事のお話ですと,東証が独立役員をやっているのも余計なおせっかいということになるんですかね。やめろということになるんでしょうか。まあ,それはともかくとして。実は私も社外取締役をやっております。あいつで務まるのかと思われるかもしれませんけれども,結構優良会社ですが,私がいるから優良だとはもちろん全く思っておりません。ただ,ここで言われている助言というのは,私は僭越で,助言しますなんてとても言えないですね。会社の中の人の顔といっても取締役会に関係する人の顔と名前をようやく知っているぐらいですし。それから二番目の経営全般の監督ですが,これも一か月に一回ぐらい行って,監督しますというようなことも,私はそんなことは言えないですね。ただ,三番目の不正とか違法とか,あるいはそれに近い行為があったときには,これは利益相反に限らず,きちんと対応しなければなりません。だめなら最後は社外取締役を辞任するのが努めだと思っております。社外取締役が辞任した会社だというのは,これは大変大きな意味を現実に持つかなと思います。   では,お前は普段は何をやっているのかと言われるかもしれませんが,私は社外取締役が必要とされる,つまり独立性が高ければ高いほど必要なのはなぜかというと,これは社外取締役という会社の内部に精通していない人,もちろん平均以上の理解力のある人でないといけないと思いますが,そういう人に対して,経営者がまず状況をきちんと説明をする。そうした説明を社外取締役は理解しようと努める。そして,そのことについて評価をし,信任を与える。そのことによって,経営権の権威が高まる。それが社外取締役の基本的な機能で,それが結果的に経営の効率性にもつながるはずだし,もし訴訟になったような場合に,そういうプロセスをきちっと踏んでいれば,経営者は訴訟から守られる可能性が高い。つまり,会社と無関係な独立の人が会社の説明を理解し,信任しているということが,経営権の権威を高める,そういうところに社外取締役の意味があると私は思っております。ですから,ある意味では不正が起きるとか,それからこの間のトヨタのような問題が起こるとか,何かいわゆる戦時といいましょうか,異常事態といいましょうか,そういう状況があったときに効いてくるのが社外取締役ないし独立取締役制度の意義だと思います。前にも申しましたけれども,アメリカは経営効率向上のためといった号令の下に独立取締役を立法政策として導入してきた訳ではなく,訴訟で負けるからやってきたわけですね。ただし,訴訟のときだけ役に立てばいいというわけではありませんので,それが社外取締役ないし独立取締役を置いた以上は,訴訟のような事態に陥るようなことがないように,日ごろより,ただ今申し上げましたような機能を果たすことで,経営者としての経営権の権威を高めていくのだと思います。そうしたことをいつもしていることで,いざとなったときには,特にそのことが意味を持ってくる。その意味では日常的にはパートナー的な意味を持つかもしれませんけれども,それでいいんだというのが社外取締役の機能だと思っております。ですから,そういう意味では,助言,監督と必ずしも私は分ける必要はないので,それが助言の意味を持つ場合もあるし,監督の意味を持つ場合もあるし,その間にいろいろな質問をしたり,評価をしたりする過程こそが大事だと思っております。その意味では,平時の機能と,それからいざ問題が起きたときの機能というのがあって,私は常に思っているのは,何か本当に問題だなと思ったら,最後の手段が尽きたら,辞任するということをいつも考えておりますが,そうした者がいること自体に意味があるのかなと思っております。   それから,東証の独立役員ですけれども,上場会社には独立役員がいるけれども,有報提出会社にはいらないという,その理由はどう考えても説明が付かないのではないでしょうか。私はやはりこれは東証の独立役員というのは−私はこれを否定するわけではないのですが−やはり急場しのぎのものであって,やはり会社法上,きちっと位置付けることが必要なのではないかと思っております。先ほど申しましたように,私は日本の経営者の皆さんのために,こうしておいたほうがいいですよと申しているのでして,経営権の権威というのは,経営者が有能だから高まっていますと言っているだけでは通用しませんよということを申しているのです。   このペーパーの論理は,先ほど田中幹事がおっしゃったように,義務付けの論理としてはこういうのがあり得るのではないかということで,おっしゃっているというのは分かるんですけれども,結果的にやめようという話に塩を送っていることになっているのではないでしょうか。つまり,やはり会社に精通していないと駄目なんだということになっているように思えるのです。私は独立取締役の機能というのは,そういうものではないのではないかと思っております。   それから奈須野幹事が,社外取締役の義務付けには消極的だとおっしゃったのですけれども,しかし,監査役イコール取締役というのを主張されているのですね。これはどうみても謙抑的ではないのではないでしょうか。どうもその辺,整合性が取れているのかなという感じが否めないところです。 ○野村幹事 東証の独立役員は,独立の社外監査役でもいいという制度になっていますから,既に設置が義務付けられている社外監査役の独立性の問題を含んでいるわけです。したがって,先ほど申し上げたんですけれども,正に違法性監査を社外者の目線で行う,すなわち,違法行為が発覚した後に力を尽くしてくれる人,正に会社から独立して是正してくれる人を選ぶように促す機能を果たしているわけですが,今のここでやっている議論は,社外取締役を義務付けるかどうかという話ですので,少し違った考慮が必要だろうという趣旨で発言しました。違法性監査とは異なり,経営判断をする人は必ず独立している必要があるのかという点については,検討の余地があるという意味で,先ほどやや否定的な発言をさせていただきました。 ○上村委員 監査役に独立性を強制したときにも,同じ理論はあり得たのではないですか。余計なおせっかいだという議論は。 ○野村幹事 いやいや,私が申し上げているのは,経営についての助言を必ず外部の人から受けているほうが見栄えが良いですよという議論は,ややおせっかいではないかということを申し上げただけのことです。 ○三原幹事 一言だけ補足させてください。私が申し上げたかったのは,簡単に言いますと先ほどの本渡委員と同じなのですが,入れる場合には限定して義務付けしないといけない,社外監査役が少なくとも二人いて,あと二人の社外取締役が必要となり,さらにその要件も考えてということで,先ほどのア,イ,ウの要件も含めて,限定して入れるということを考えたほうがいいと思います。また,義務付けがあるかないかではなくて,要件とセットだということだけ,補足で申し上げたいと思います。 ○静委員 皆さんの御意見を伺っていると,会社法に基づく一律な社外取締役の義務付けには消極的な御意見がほとんどのようですし,今回独立役員制度を導入したので,先ほど濱口委員から,当面これでやっていくべきではないかという御意見もありましたが,率直に申し上げまして,少なくとも私どもが知っている限りでは,東京市場の売買の主要を占めている海外の投資家の評価というのは,余り満足をしていないと言っては変ですけれども,正確に申し上げるとまだ道半ばだという評価だろうと思います。つまり,彼らは相変わらず,資料の言葉で言いますと取締役会による全般的な監督機能というか,経営効率の向上のためのモニタリングのようなものを含めた監督機能に対する期待を非常にまだ大きく持っているということでありまして,それが独立役員制度で確実に実現できるとはまだ信じていないということなのだろうと思っています。したがいまして,東京証券取引所としては,皆さんと若干意見が違うかもしれませんけれども,社外取締役の選任につきまして,何らかの義務付けのようなものを−法律でなくてもいいのかもしれませんが−検討すべきだと言わざるを得ないだろうと思います。ただ,会社の規模の大小はもちろんそうですし,上場している,していない,あるいはしている市場がどんなコンセプトのマーケットかによっても,これが必要かどうかにつきましても随分違うというところもございます。つまり,人員確保の要請が大分違うということがありますので,そうした事情がきちんと反映できるような仕組みであることが大事だと思います。安達委員がおっしゃったのもそういうことなのではないかなというように思います。それが一つでございます。   二つ目は,三つの機能のうち@の助言機能との関係で,確かに事業内容に精通している人はこういうことができるのだろうと思います。しかしながら,助言機能というのは義務付けの要素を検討する基礎にはならないのではないかという御指摘について申し上げますと,これはそのとおりだと思います。ただ,経営効率を高めるための助言機能として記載されている部分には,経営者が経営効率や企業価値を高める経営をしているということについて,株主や投資家への説明責任を果たさせるというような意味合いもあるだろうと思います。これは経営効率にかかわる問題ではありますが,どちらかというとAのほうの監督機能の一部なのであって,義務付けの要素を検討する基礎になると思います。先ほどもそのような御指摘があったと思いますが,それでよいということであれば,投資家も受け入れやすいのではないかと思っております。そして,社外取締役がそのような経営の監督機能を果たすためには,その業界に精通しているかということよりも,経営効率を高める経営をしていることの説明が求められているということを知っていることが大事です。投資家はやはり資産配分の検証をきちんとやってもらっているとか,無駄なお金を持っていないできちんと還元してくれているとか,自分たちが期待している資本コストを賄うことができるようなものを選んで投資をしてくれているとかいったことを説明できるような経営をしてほしいと思っているものが通常でございますので,そういうことの説明の仕方さえ知っていれば,どの業界の方でも社外取締役の資格はあるだろうと思います。逆に申し上げますと,会社の事業をどうやってやればもうかるかということが分かっていなくてもいいのではないかということですけれども,そう整理されればいいのではないかと思います。   それから独立性要件につきましては,私どもの要件も参考にしていただいているようなので,一言だけ申し上げておきたいと思います。独立性の定義や独立性を有している者の権限,責任という問題については法定していただきたいと思っているわけですけれども,個々の要件につきましては,先ほど藤田幹事がおっしゃったこととの関係で申し上げますと,私どもの独立性要件の考え方は,どちらかというと経営者との距離というよりも,会社と直接的に重要な利害関係を有している者との関係で独立しているかどうかということでございまして,つまり,会社との利害関係に左右されずに,一般株主というか,少数株主の利益とか権利を純粋に考えられると,外から見て分かる人と,こういうような意味合いでつくっているわけでございます。法律の改正論議の中で独立性を議論するのであれば,そういう考え方もあるということを御理解いただければと思っております。 ○前田委員 社外取締役の義務付けについては,まだ完全に考えがまとまっているわけではないのですけれども,議論をお聴きしていると,全体に慎重論が多いようですので,一言意見を申し上げさせていただきます。この問題は,平成14年改正のときに随分詰めた議論がされまして,そのときは結論としては,社外取締役の設置は当時の委員会等設置会社と,重要財産委員会を利用するときだけということになったのですけれども,いずれの制度もほとんど利用されないまま,現在に至っているのであって,もう一度,これらが使われないことを前提として,社外取締役の設置の義務付けの要否を今検討すべきなのだと思います。   確かに一人,二人の社外取締役を入れたからといって,どれだけ効果があるのか疑わしいという意見があることは承知していますけれども,昔から言われていますように,少なくとも外部からの目を入れることによって意思決定の透明性が増すということは,十分に期待できるところではないかと思います。そして,経営陣を監督する仕組みというのは,経営陣に任せておいてはなかなか最適な仕組みはつくられませんので,決しておせっかいではなく,法律が介入することが期待される事項だと思います。取締役会の構成のような問題は,会社の自由に任せよという意見が少なくありませんけれども,もう既に会社の自由に任せて60年やってきたのですね。今回は何らかの見直しを検討する絶好の機会であると思いますので,全体には随分消極論が多いようですけれども,そう簡単に断念することなしに,もう少し議論を継続していただければと願っております。 ○神作幹事 社外取締役の機能に関しまして,二点発言させていただきます。   第一に,資料の6ページ記載の社外取締役の機能を三つに分けられたうちの二番目と三番目の分類についてでございますけれども,伊藤幹事から御発言がございましたように,Aの中に大きく異なるものが二つ含まれているように思います。経営者の評価・選解任というのは,その他の個別の業務執行に関する決定とは非常に大きく性質を異にしており,それらはむしろBの類型に含まれるある種の利益相反と共通する面が多いと考えられます。すなわち,取締役の業績や能力等に係る評価ですとか,地位にかかわる利益相反ととらえますと,AとBの類型に含まれるある部分は,必ずしも境界がはっきり引かれるわけではないように思われます。他方,B類型の利益相反も,これまた非常に広い概念でございまして,BのほうもAと同様に分けて考える必要があるのではないか。経営者とその株主との利益相反,あるいは経営者の背後にいる大株主と少数株主との利益相反のように,個々の利益相反取引というよりもより大きな構造的な利益相反という観点からとらえると,実はAの前段の評価・選解任の問題と,Bの例えば敵対的買収の防衛策の発動等に関する利益相反というのは,必ずしも区別して考える必要はなくなるのではないか。そのように考えると,AとBの類型は,整理の仕方によっては,止揚され統合される可能性があり得るのではないかと思っております。   もっとも,このような構造的な利益相反の問題に対処するために社外取締役が機能を発揮するためには,ある程度,社外取締役がボードの中で多数派と申しますか,相当程度の影響力を持たなければならないということになるのではないかという気がいたします。   第二に,しかしそうは申しても,社外取締役はたとえ一人であっても入っていたほうがいいのではないかという意見もあるかと思います。上村委員から御指摘された点と類似する面があるかと思いますけれども,助言機能と言ってしまうと,確かに会社の自由であろうということになるかもしれませんが,社外取締役の最も基本的な機能の一つとしてよく指摘されるのは,取締役会をより開かれたものにする機能だと理解しています。社外取締役は,取締役会の場にいて場合によっては一言も発言しなくても一定の意義があり得るということです。仮に,取締役会で説明され議論されていることがもし分からなかったら,何を話しているのか分からないと,そのような疑問を発するだけでも,取締役会はより一般的な言葉で分かりやすく議論される可能性があり,そこに社外取締役がたとえ一名でも存在していることの意義があると言われていると思います。言葉を換えれば,これは取締役会を少しでもオープンにするという機能であると思いますけれども,たとえ一人であっても社外取締役にはそのような機能があり得るかと思いますので,A,Bが中心になるとは思いますけれども,それが困難なときに最低でも一人でも社外取締役を入れるという選択肢も排除しないで検討していく価値があると考えます。   前後して恐縮ですが,前者すなわち利益相反の観点に戻って付言いたしますと,日本の株式会社において,どういうタイプの利益相反がだれとだれの間でより一般的に生じやすい状況にあるのか,大株主と少数株主の間なのか,それとも株主がきちんと経営者をコントロールできないという点が問題なのか,そのあたりを見極めていく必要があり,そのことが社外取締役に期待される機能や制度設計に当たり重要な影響を与えることになると思います。 ○神田委員 私もA,Bに関連して,一点感想めいたことを申し上げたいと思います。東京証券取引所で独立役員の制度を導入したときに,上場制度整備懇談会というところで,物の考え方みたいなものを簡単に公表しております。これは独立役員制度ですので,決して社外取締役制度ではないのですけれども,そこでの整理は,独立役員に期待される役割は,一般株主の利益への配慮であると,簡単に言うとそういうことなのですけれども,ただ,これは取引所でルールをつくって上場会社にお願いをすると,あるいは求めていくという場合の物の考え方として整理したわけであります。しかも,独立役員です。これは会社法上の制度として,例えばここでも問題になっております社外という概念を,言わば独立という概念に変更してはどうかとか,あるいは今ここで社外取締役に何を期待するのかという議論をするときには,もうちょっと基本的というか,もう少し考え方について,今の東証の考え方も含まれるとは思いますけれども,広げて考えてしかるべきではないかと思います。   そしてこの資料にありますように,@,A,Bを区別するというのは私も良いと思いますけれども,AとBで私自身が誤解しているのかもしれませんけれども,ちょっとよく分からないところがあって,諸外国におけるコーポレート・ガバナンスの議論で,一番中心になっている部分とはちょっとずれているというか,A,Bではうまく切れないような気がします。それはどういうことかといいますと,諸外国は監査役制度というのはもちろんありません。多くの国では。そういう国で一番議論されている話というのは,企業の業績が物すごく悪くて,ずっと悪い状態が続いているのに,社長さんを初めとして経営陣が居座っていると。こういうときにどうするかという話なのですね。この話は何かAのようにも見えますし,Bのようにも見えますし,私も読み方が悪いのかもしれませんけれども,いずれにしてもこれが諸外国などでは一番言われている話で,日本でも何か答えが必要だと思うのですね。投資家が言ってくるのもどうもそういうところですから。答えは社外取締役で何とかしておりますでもいいですし,ひょっとすると,社外監査役でそういうことができるのかどうか分かりませんけれども,しておりますという答えもあるのかもしれません。あるいはそれ以外の仕組みで対応していますという答えももちろんあり得ると思います。少なくともどうしておりますというか,何とかする体制がうちの企業ではこうですということが開示できるような程度には持っていかないと,なかなかこれまでずっと指摘された投資家の声というものに応えることにはなりませんし,またそういう声が多いということは,いろいろ議論し始めると長くなるかとは思いますけれども,それなりの理由があって,そういう指摘がなされているということもあると思いますので,この社外取締役の問題を考える際には,ちょっとその点を少し深めていただけると私としては有り難いと思います。 ○岩原部会長 今,神田委員が御指摘になった点は,先ほど田中幹事が御指摘になった,1990年代のアメリカで起きたような,パフォーマンスの悪化が数字で明確に出ている会社の経営者をいかにチェックするかというようなことが,現に今ある意味で日本で起きつつあるので,そういうときに海外の機関投資家等から,日本の現在の企業のパフォーマンス,そしてガバナンスについて寄せられているかなりの不満,先ほど本渡委員も御指摘になりましたし,静委員も御指摘になりましたけれども,そういうものに対して,きちんと答えることができるかどうか,それに答えるように,法制度としてできるだけのことをしたと言えるようなものになっているかどうかということが,多分問われているのだろうと思います。先ほどの@からBの議論でいうと,Aの監督のところで,監督する立場の者が業務執行についてよく知っているかどうかということがもう問題にならないほど,もう明確にパフォーマンスの悪さが業績,数字で表れているときに,社内取締役ばかりで,それに対して何もできないような会社のガバナンスでいいのですかということが,海外の機関投資家等から問われているように思います。そういうときにこそ,経営者等から独立した社外の役員が今の会社経営ではまずいのではないかということが言えるような制度を考える必要はないですかと,そういう問題が提起されたのではないかと思います。   ほかに何かございますでしょうか。 ○田中幹事 社外取締役の要件の見直しについてなんですが,これは理念として筋が通っているのはどちらか,あるいは国際標準としてどちらが標準かということと,日本のこれまでの制度の経緯から現実的な提案はどういうものか,ということとに分けて考えたほうがいいと思っております。国外の投資家に,親会社出身者とか支配株主は,インディペンデント・ディレクターズですかと聴いたら,それはとんでもないと,そんなわけないではないかと答えると思うんですよね。それはもう静委員から十分説明がありましたけれども,基本的には,インディペンデント・ディレクターズというのは,一般株主の利益の代弁者になってくれる人という意味で,必ずしも経営者だけを念頭に置いているわけではないわけです。といいますか,コーポレート・ガバナンスの課題といったときに,株主の所有構造が分散しているために,余りその会社の株式を持っていない経営者が上場会社の支配を握っているというのは,アメリカとイギリスと日本ぐらいというか,少なくともそういう会社が上場会社のマジョリティになっているのは,その三国ぐらいで,ヨーロッパの国は,大体上場会社にも支配株主がいるわけです。だから,むしろ支配株主が会社に指図して,すごく不公正な取引をやるということが問題になるわけです。しかも,経営者の場合には,普段いかに威張っていても,結局,取締役会の多数決で解任できますから,経営者が不公正な取引で利益を得るとか,そんなとんでもないことをしたら,やはり解任されてしまうわけです。ところが支配株主だと,取締役を全部自分で選べますから,どうしようもないんですね。だから,むしろそっちのほうが問題だと思っている人のほうが多いぐらいではないかと思っていまして,ですから,支配株主とか親会社の出身者は,もう当然,インディペンデント・ディレクターズではないねということになると思うんです。ただ,日本はちょっと日本の事情があるといいますか,やはり社外取締役は支配株主出身者でもいいということで,制度ができてしまっていますので,例えば,親会社が子会社管理の手段として委員会設置会社をつくっているとか,そういうのがありますから,そういう制度の選択肢を用意した後で,急にそれをやっては駄目とか言ったり,それから,親会社出身者とか重要な取引先が,社外取締役として責任制限契約を結んで取締役になっているのに,急に責任制限契約は駄目ですよということはやはりできないと思うんですよね。ちょっとそういう現実的な問題があるのかなと思っています。   私自身は,経営者が実際上,社内で強い権力を握っているときに,比較的形式的な要件を満たした社外取締役を一人とか二人選べという規制を作っても,実効性は疑問だと思っております。現状は,純粋な投資家である株主の利益をちょっと軽視したガバナンスが行われているのではないかというのが問題の本質だと思いますので,その対処は,やはり基本的には株主権それ自体を強化することで行うのが本来の在り方ではないかと思っています。ですから,この社外取締役については,やはり義務付けという方向ではなくて,選択肢を増やすというか,選任したいときに選任しやすくするということが重要ではないかと。それは,例えば社外取締役と監査役の兼任を認めるというのも一つの選択肢でしょうし,社外の要件を少し緩和するというのも,一つの選択肢としてはあり得るのではないかと思っております。 ○奈須野幹事 同じく社外取締役の要件の見直しです。二つありまして,一つ目が7ページの真ん中に書いてあるア,イ,ウの要件を追加するや否やということです。こちらについては,今しがた田中幹事から御指摘のあったとおり,社外とはこういうものだという認識が既にございますので,新たな要件を追加するということについては消極的で,別途,独立役員は独立役員として,社外とは並んで必要に応じて定義をしていくのかなと思っております。   二点目は,これは野村幹事も御指摘になられた過去要件です。平成13年の議事録を見ますと,横滑り監査役の問題が,この過去要件の撤廃の理由であるとしているわけですけれども,そうであれば横滑り監査役は禁止すると書けばいいだけのことで,過去要件を廃止するという話ではないのかなと思っております。したがって,平成13年の改正の趣旨をそのまま反映するとすれば,常勤監査役から社外監査役になることはできないという立法にすればよいと思っております。 ○岩原部会長 平成13年の改正については,商法の会社に関する規定につき,閣法による改正のほかに議員立法による改正が2回行われていまして,その関連もあって現行法のような社外の定義になったと理解しています。単に閣法に係る法制審議会で説明されているような理由のほかに,いろいろな複雑な事情があったということは御理解いただきたいと思います。 ○八丁地委員 立法事実に関するいろいろな議論が出たこと,大変うれしく思います。この三分類は大事にしていきたいと思います。ここで,お話したいことが三点ほどあります。第一に,この専門性を持つ経営全般への監督機能と,利益相反の監督機能とは,それほど簡単に切り離せないことだと思います。6ページの下のほうに指摘がありますが,機能を実効的に果たすには具体的な事業内容の理解の程度よりも,経営者から独立して監督を行える立場にあるかが重要であるとありますが,具体的な事業内容の理解の程度ということの必要性は否定されていないわけであり,事業内容の理解がなく,ただだれか本当に客観的な立場の人がいればいいということは,現実的にはあり得ないことだと思います。事業を理解する熱意とか,その勉強のレベルとか,現場に入っていこうというメカニズムがない限り,日本企業でBの機能が果たせるということは,現実的にはあり得ないと思います。経営全般の監督機能と利益相反の監督機能というのは,車の両輪であって,Bをより目的志向的に運営するために,Aが必要であるということが現実的と思います。そうであれば,その機能を果たす人が社外取締役である必要があるのか,本当に今社外監査役では何が不足なのか,私には腑に落ちないところがあります。社外性というものをそれほど重層的に求めることが本当に有効なのか,是非議論していただきたいと思いますが,私はそれほど有効ではないと思います。   第二に海外の投資家に関してですが,私は海外の投資家にも多くの方がいて,多様な流れがあると思います。特に日本にはないタイプとしては,ディープバリューの長期的視野を持っている投資家がいますが,この人々は,ガバナンスというよりも,やはり投資対象の会社が持っている経営の実力の方を見て投資判断をされているところが多く,またそういう投資家の方が日本企業の実力を理解していると思います。ですから,日本企業の実力とか,投資家のビヘイビアとか,企業を見る本当の観点はどこなのかということは,それほど簡単に分析はできないと思います。だから,企業は多くのIRを実施し,毎回,いろいろ厳しい意見を頂きながら改善を進めていると思います。投資家の意図が完全に分かっていればIRの必要はないわけです。そもそも投資家がお持ちになっているところの観点は多様であるし,ガバナンスそのものに対しても多様な関心があるから,この企業を評価するかどうかという点は,企業としての説明,すなわちIRだと,常々思っています。経団連でも,海外の投資家とは年に一,二度,交流会をやっていますが,話せば分かるという部分は6割ぐらいあると思います。説明が足りない,と言われることも多いので,より開示を進める必要はあると思います。   第三に,先ほど60年間何をやって来たかという議論がありましたが,これは企業だけ責められてはたまらないなという感じがいたします。企業とは何か,という議論にもつながりますが,企業としても別に惰眠をむさぼっていたわけではないわけでありまして,日本を形成するステークホルダーとの協力関係がどうであったかとか,海外との関係がどうであったかということを総括的に見て,その中でガバナンスは何だったかということを考える必要があるのではないかと思っております。我々も謙虚に議論を重ねる必要があると思いますが,ガバナンスというのは何だろうかということに立ち返ると,効率性の向上と不正の排除が,その体制の如何を問わずきちんとできているかということだと思います。最近のガバナンスの進歩は,何といってもオプションが非常に増えてきたことだと思います。監査役会設置会社と委員会設置会社は,等価値であるということは,監査役会設置会社は,委員会設置会社のことを非常によく勉強し,それから委員会設置会社も,監査役会設置会社のことをよく勉強しながら,どちらかを選んでいるのだと思います。今後与えられたオプションをどう使うのかというところが,これからのグローバルな企業としては最大のポイントだと思っております。   社外取締役のメリット,デメリットについて今まで拝聴し,多くのメリットが提示されましたけれども,デメリットをお考えの方も同じくらいいるのではないかと思います。メリットについても,今までのお話を分析しつつ考えていますけれども,相当に広範囲だと思います。そうすると,義務付けになったときに,メリットをどこに置くかということは,まだまだ単純に整理ができる課題ではないと思います。ですからメリットを使うのか使わないのかということは,企業の大きな意思決定の一つとして自主判断にお任せいただいたほうがいいと思います。よろしくお願いします。 ○岩原部会長 よろしいでしょうか。そろそろ時間でございますので,特に御発言をということがなければ,そろそろ本日の議論は終了させていただきたいと思います。   最後の社外取締役につきましては,大分議論が分かれた感じがございまして,基本的に,社外取締役の意義については,かなりの理解が皆様にあったと思いますけれども,それを義務付けるかどうか,義務付けるとしたらどの範囲にどのようにして義務付けるかというようなことについては,いろいろ多様な御意見を頂いたということかと思います。義務付けの消極論も,その中にもいろいろな色合いがあったように思いまして,本来はそうなったほうがいいけれども,法律で義務付けるというやり方が賢明かどうかということとか,あるいはかえってそれが一種の言い訳に使われるのではないかとかいうような見方,いろいろなニュアンスでの御意見があったかと思います。そこで,この問題については,以上のように方向性が一致しているわけではございませんし,一方で企業統治の在り方に関して非常に重要な課題でございますので,引き続き検討をしていくということにさせていただけたらと思います。よろしゅうございましょうか。   社外取締役の要件についても,これまたかなり意見が分かれたように思います。これはもう本当にいろいろ考えるべきことがあり,いろいろな御意見があると思いますので,この問題についても今後更に議論を引き続き進めさせていただきたいと考えております。 ○古澤幹事 河合幹事から,2011年のスケジュールの話が出ましたので,一言だけ,企業会計のほうの動きを報告させていただければと思います。御案内のとおり,企業会計につきましては,「2012年に連結財務諸表に国際会計基準を強制適用するか否か」,また最近それと併せて「単体の財務諸表に国際会計基準を任意適用するか」という議論がございます。企業会計審議会では,それらについて2012年に議論する際には,会社法における取扱いがどうなっているのかが非常に影響があるので,会社法などの対応がどうなっていくのかということも,2010年,2011年に議論を深めていただいた上で,2012年に強制適用の判断を行うことも必要ではないかということが議論されておりますので,また御相談させていただければと思います。 ○岩原部会長 御紹介,どうもありがとうございます。よろしゅうございましょうか。   それでは次回の部会の予定等につきまして,事務当局から御説明をお願いします。 ○河合幹事 次回の日程は,平成22年9月29日水曜日,午後1時30分から午後5時30分までという予定で,本日と同様,法務省の20階,第一会議室で行わせていただきます。次回は,冒頭にお決めいただいたスケジュールのとおり,本日に引き続きまして,企業統治の在り方に関する検討をお願いする予定でございます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。それでは,特に御発言がないようでございましたら,法制審議会会社法制部会第4回会議を閉会させていただきたいと思います。本日は長時間にわたりまして,熱心な御討議を賜り,誠にありがとうございました。 −了−