法制審議会 第153回会議 議事録 第1 日 時  平成19年3月5日(月)   自 午後2時00分                        至 午後2時58分 第2 場 所  東京高等検察庁第2会議室 第3 議 題  自動車運転による過失致死傷事犯等に対処するための刑法の一部改正に         関する諮問第82号について 第4 議 事 (次のとおり) 議        事    (開会宣言の後,法務大臣挨拶を法務副大臣が代読した。)  法制審議会第153回会議の開催に当たり,一言御挨拶申し上げます。  委員及び幹事の皆様方におかれましては,公私ともに御多用中のところ御出席をいただき,誠にありがとうございます。  さて,本日御審議をお願いいたします議題は,自動車運転による過失致死傷事犯等に対処するための刑法の一部改正に関する諮問第82号についてでございます。  本諮問につきましては,刑事法(自動車運転過失致死傷事犯関係)部会において種々の角度から議論が尽くされ,本日その結果が部会長から報告されると承知しております。  近時,飲酒運転中の死傷事故などの悪質な自動車事故がなお少なからず発生しており,そのような死傷事故に対する業務上過失致死傷罪による処罰について,その罰則が国民の規範意識に合致しないとの指摘があり,また,平成14年以降の自動車運転による業務上過失致死傷罪の科刑状況を見ると,法定刑や処断刑の上限近くで量刑される事案が増加しております。  そこで,自動車運転による死傷事故に対し,事案の実態に即した適正な科刑を行うため,早急に,その法整備を図り適切な措置を講ずる必要がございますので,委員の皆様方には,できる限り速やかに御答申をいただけますようお願い申し上げます。  それでは,どうぞよろしく御審議をお願いいたします。  (委員の異動について紹介した後,本日の議題について次のように審議が進められた。) ● それでは,本日の議題,自動車運転による過失致死傷事犯等に対処するための刑法の一部改正に関する諮問第82号について御審議をお願いしたいと思います。   最初に,刑事法(自動車運転過失致死傷事犯関係)部会における審議の経過及び結果につきまして,この総会の委員でもいらっしゃいます○○部会長から御報告をお願いいたします。 ● 刑事法(自動車運転過失致死傷事犯関係)部会長の○○でございます。   私から,同部会における審議の経過及び結果を御報告申し上げます。   諮問第82号は,自動車運転による過失致死傷事犯等の実情等にかんがみ,その事案の実態に即した適正な科刑を実現することができるよう,罰則を整備するため,要綱(骨子)についての意見を求めるというものでございました。   そして,去る2月7日に開催されました法制審議会第152回会議におきまして,まず,刑事法部会に検討させる旨の決定がなされ,これを受けまして,刑事法(自動車運転過失致死傷事犯関係)部会が設けられました。   同部会では,合計5回にわたり,諮問に付された要綱(骨子)について,集中的に審議を進めましたが,このうち,第2回会議においては,交通事故の被害者等の団体と,トラック,タクシー,バスなどの事業者団体やその従業者の労働組合の合計13の関係団体の方々からのヒアリングを実施し,要綱(骨子)に対する御意見を直接伺いました。   そして,関係各団体から伺った御意見も踏まえ,議論を重ねた結果,賛成多数により,本日配布資料1としてお手元に配布しました要綱(骨子)のとおり法整備をすることが相当であるとの結論に達しました。   それでは,まず,要綱(骨子)第一の「自動車運転過失致死傷の罪の新設」についての議論の概要を御報告申し上げます。   自動車の運転上必要な注意を怠って,他人を死亡させ又は負傷させた場合,現在は業務上過失致死傷罪等が適用されており,その法定刑は,5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金とされています。   要綱(骨子)第一は,このような行為について,業務上過失致死傷罪ではなく,自動車運転過失致死傷罪という新たな罰則を設け,その法定刑を,7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金にすることとするものです。   この点についてまず問題となりましたのは,そもそも,自動車運転による過失致死傷事犯について重い罰則を設ける必要があるのか,という点でした。   その必要性はないとの立場からは,罰則を重くしても,交通事故を防ぐ効果がないのではないか,その前に,他の交通安全施策等を十分に実施するべきではないか,航空機事故や列車事故など,自動車運転の場合に劣らず危険なものもあるのに,自動車運転の場合のみ,罰則を重くすることは不合理ではないか等の御意見が述べられました。   これに対して,飲酒運転中のものなど,悪質・重大な交通事故がなお少なからず発生しており,その被害者・御遺族を始め,国民の間に,罰則の強化を求める声が見られ,また,最近,このような事故に対し,裁判所で法定刑等の上限近くの刑が言い渡されるなどしていることから,その罰則の法定刑を引き上げる必要があるとの御意見や,罰則の強化は,飲酒運転などの悪質・危険な運転を自制するよう促すことが期待でき,一般の運転者にも,一層の安全運転に努めるよう促すことも期待できるとの御意見,さらに,自動車運転の持つ一般的な危険性や,そのコントロールが運転者個人にゆだねられていることに着目し,自動車運転の場合に限って罰則を重くすることに合理性があるとの御意見等が述べられ,大勢を占めました。   なお,諮問第82号として諮問がなされた際の要綱(骨子)は,「自動車の運転に必要な注意を怠り」という表現でしたが,部会における審議の中で,この表現では,ハンドル操作等の運転行為それ自体に過失があった場合に限定されるとの懸念があることから,これを「自動車の運転上必要な注意を怠り」という表現に改めることとされました。   次に,問題となりましたのは,自動車運転過失致死傷罪の法定刑の上限をどのようにすべきかという点でした。   ヒアリングでは,交通事故の被害者等の団体の方々から,最低でも,10年以下の懲役・禁錮にしてほしいとの御意見が述べられました一方で,事業者団体や労働組合の団体の方々からは,罰則を重くすることについては,慎重に検討してほしいとの御意見がありました。   この点に関しましても,部会において,様々な議論がなされましたが,現行刑法は過失犯と故意犯を明確に区別していること,自動車運転過失致死傷罪の法定刑の上限を10年にまで引き上げてしまうと,その上限が5年の業務上過失致死傷罪とのバランスを欠いてしまうこと,他方,業務上過失致死傷罪の刑の上限を引き上げるべき状況にはないことなどの理由から,自動車運転過失致死傷罪の法定刑の上限は,7年とするのが相当であるとの意見が大勢を占めました。   また,前回の法制審議会総会において,自転車についても,自動車運転過失致死傷罪の対象に加えることができるかどうか,刑事法部会で検討していただきたいとの御意見がありましたが,部会では,エンジン等がついておらず,人力によって走行する自転車には,自動車同様の一般的な危険性は見いだし難いことなどから,自転車を自動車運転過失致死傷罪の対象に含めるべきであるとの結論には至りませんでした。   続きまして,要綱(骨子)第二について御報告申し上げます。   これは,危険運転致死傷罪の対象を「四輪以上の自動車」から「自動車」に改め,二輪車もその対象に含めることをその内容とするものです。   部会では,そもそも,このような法改正を行う必要がないのではないかという御意見もありましたが,危険運転致死傷罪が新設された後に発生した二輪車の事故を見ますと,原動機付自転車によって発生したものを含め,酒酔い運転によるものや,赤信号無視によるものや,著しい速度超過によるものなど,危険かつ悪質な運転行為によって被害者を死亡させたり,重大な障害を負わせるなどした事故が少なからず発生していることから,法整備が必要であるとの意見等が述べられ,要綱(骨子)のとおり,危険運転致死傷罪の対象を「自動車」とし,二輪車もその対象に含めることに賛成する意見が大勢を占めました。   概略,以上のような審議に基づき,諮問第82号につきましては,諮問に付された要綱(骨子)のうち,御説明いたしました箇所につき一部修正したものが採択され,本日配布いたしました修正後の要綱(骨子)のように法整備を行うことが相当である旨の決定がされた次第であります。   なお,刑事法部会の議論では,委員の中から,このような罰則強化だけではなく,各種の交通安全施策を実施するなど,国を挙げて,交通事故の抑止に取り組む必要があるとの御意見もありましたので,この機会に,併せて,御報告させていただきます。   以上で,当部会における審議の経過及び結果の御報告を終わります。 ● どうもありがとうございました。   それでは,ただいまの○○部会長の御報告及び要綱案の全般的な点につきまして,まず御質問がございましたら,どうぞ御発言をお願いいたします。 ● 5年から7年というところの説明は,今,承ったんですが,罰金の100万円ということに関しては,何か御意見がヒアリングの中では出てこなかったんでしょうか。 ● ヒアリングでは,自動車運転過失致死傷罪の罰金刑の在り方につきましても,いくつかの御意見がございましたが,部会におきまして,これにつきましても審議した結果,このようになった次第でございます。 ● ヒアリングにおきまして,罰金に特化して,こうすべき,あるいは,こうしてほしいという御意見があったというよりも,被害者遺族の方々からは懲役・禁錮の上限を大幅に引き上げるとともに,むしろ刑の下限を設けてほしいという御意見もございました。その趣旨からすると,罰金をむしろなくす,あるいは,その懲役・禁錮の下限として1年とか2年という刑を設けるという御趣旨ではないかと思われます。それを踏まえて,部会におきましても,そういった下限を設けること,あるいは,罰金刑をどうするかということについて御議論いただいたところでありますが,現行の業過の罰金と同様,100万円以下の罰金を選択刑で設けるという形で結論に至ったということでございます。 ● よろしゅうございますでしょうか。   ほかにどうぞ。 ● 7年以下というのが一つの論点のように伺いましたが,7年以下と仮にしても,併合罪になると1.5倍まで加重される可能性があるわけですね。それで,こういう場合,併合罪になるのかどうかということなんですけれども,例えば,学童の列に突っ込んで複数の学童が死んだという場合,これは併合罪なのか,それとも観念的競合,一罪なのか。それから,バスの運転手やタクシーの運転手がこれに当たって複数の乗客が死亡したという場合は併合罪かどうかと,その点を伺いたいと思います。 ● 理論的な観点からしますと,行為は一個でございますから,観念的競合とするというのが一般的な扱いになっております。それから,ほかの行為が連動した場合には併合罪となるということになります。 ● 今,部会長から御説明がありましたように,委員が言われたような一個の事故によって被害者が複数発生したような場合は,観念的競合という形でこれまで理解されており,実務上も処理されていると考えております。   他方,運転者がその事故を起こす際に同時に酒に酔っていたということで,道路交通法上の酒気帯び運転であるとか,あるいは酒酔い運転であるとか,道路交通法上の別途の犯罪が成立する場合には,併合罪として処理されるということがございますので,そういう場合はその道路交通法の法定刑にもよりますけれども,自動車運転過失致死傷罪の法定刑の1.5倍の上限まで行くということになると考えております。 ● よろしゅうございますか。   ほかに御質問,いかがでしょうか。 ● 本件の要綱(骨子)第一については,幾つかの改正のための背景あるいは一般的にいう理由,こういったようなものがしっかりとしていないと,刑法の基本法でありますからいけないと私は思っているわけなんですが,この辺について先ほど幾つかの簡単な報告があったんですけれども,何かそれを裏付けるような基礎事実,そういったようなものが具体的にあったのかどうか,それがどのように議論されていたのか,それがどのように結論付けられて今回の意見になったのかと,こういった点が非常に関心があるんですね。したがって,そういった背景事実,改正のための背景事実,そういったような点について,もう少し詳しい御報告をいただけないでしょうか。 ● 要綱(骨子)第一の項目につきましての今回の立法の背景事実といたしましては,前回の総会で事故の状況あるいは量刑の状況に関する資料をお配りしたところでございますけれども,部会におきましても,さらにそれを詳しいものとして資料を作成してお配りし,議論をいただいたところでございます。   具体的に申しますと,いろいろな交通安全のための施策がこれまで累次採られてきたところではございますが,なお死傷を伴う交通事故が多数発生しており,死亡事故自体は若干減少してきておりますが,依然として重度後遺症障害が残るといったような重傷事犯は非常に高い水準で推移しているということでございますとか,その交通事故の中身を見ましても,酒に酔った事犯,あるいは信号無視した事犯等々,様々な悪質な態様のものがあるということでございますとか,先ほどの御説明の中にもございましたけれども,裁判所の量刑を見てみますと,業過の法定刑である5年でありますとか,あるいは道交法と組み合わせた処断刑の上限に近い実刑の判決が言い渡される事犯というものが,ここ数年非常に増えてきているといったような,統計資料や,具体的にどういう事件でそのような量刑が言い渡されているのかが分かる事例集もお配りし,これらを見ていただいて御審議をいただいたというところでございます。 ● 今の御質問についてはよろしゅうございますか。 ● 一部の回答のようにも思うんですが,具体的な事例で,こんな事例で非常に多くなっているんだというようなこと,あるいは私の方の知り得た事実で言えば,非常に悲しい事件がございますよね。埼玉で起きた事件なんかはそうなんですが,そういう事件などが検討対象にもなっていたんでしょうか。対象となっていたとすれば,どんな形で対象になって議論されたんでしょうか。 ● 先般の危険運転致死傷罪が設けられて以降の自動車運転による悪質・重大な過失致死傷事犯について,業務上過失致死傷罪だけで量刑がされた事例,それから業務上過失致死傷罪と道路交通法違反等の罪で量刑がされた事例,それぞれにつきまして,法定刑や処断刑の上限近くで処理がされた相当数の事例を,それぞれ事故の態様を示して,見ていただき,御議論いただきました。ですから,直接的にその川口の事故なり,あるいは,ほかの特定の事故を取り上げて,それを分析したということではございませんが,少なくともその法定刑や処断刑の上限近くにおいて処理されている事例がどのようなものであるかということを具体的に見ていただき,議論をしていただいたということでございます。 ● もう一ついいでしょうか。   今回,業過の規定を特別に自動車運転ということで,今までの業過から切り離して特定した刑として立法すると,こういうことになったんだけれども,従前の業過の中において処理するということは無理だったんですか。そういう点についての議論はなかったんですか。 ● 今の点ですが,自動車の運転による過失致死傷事犯に限定して新たな犯罪構成要件を設定するという点につきましては,自動車の運転は,危険性が類型的に高く,また,自動車運転による過失致死傷事犯は,その発生を防止するためには,基本的に運転者個人の注意力に依存するところが大きいことから,これに特化した構成要件を新設し,法定刑を上げるべきではないかという議論などがなされました。 また,従来,業務上過失致死傷罪の「業務」について,自動車運転を広くこれに含めるなど,日常用語の「業務」という言葉からかなり離れて解釈・運用されている面があるのではないかという御指摘もございました。   その意味でも,自動車運転による過失致死傷事犯については,従前のように,自動車運転が広く「業務」に当たるという解釈を維持して業務上過失致死傷罪の法定刑を引き上げるのではなく,これだけに特化した罰則を別途設けるのが望ましいのではないかという議論がございました。 ● そうすると,業務性という点についてはいわば除外というか,排除したということになりますか,要件としては。 ● 自動車事故に関しますと,そういうことになります。   つまり,従来の業務上過失致死傷罪は,業務上過失致死傷罪として,そのまま条文は残りますので,それ以外に自動車運転による過失致死傷事犯に特化した構成要件が規定されたということになります。 ● 構成要件の範囲としては広くなるというのが基本的なものでしょうか。適用の対象としては行為が広くなるんでしょうか。 ● その点につきましては,特段に広げるという趣旨ではございません。あくまでも処罰範囲は従来と異なるものではないという理解で審議がなされたものでございます。 ● 自動車運転による過失致死傷事犯につきましては,現在,そのほとんどは業務上過失致死傷罪で処理をされているところでございまして,それ以外で処理されるものとしては,初めての運転で,これからも繰り返し運転する意思がないような事例について重過失致死傷罪で処理されている例が若干あるところでございます。   今回の法整備は,基本的には,これらのものにつき自動車運転過失致死傷罪の対象にするものでありまして,その結果として言いますと,まさに自動車運転による過失致死傷事犯を対象とすることになるわけでございまして,その意味で,処罰の対象が広がるものではないと考えております。 ● 一般的には業務性があるかないかという議論をまずやりましたよね,前。今回の場合は,業務性の問題ではなく,運転行為ということに伴う事故と,こんなような形に見ていくという意味では広がっていくのかなと感じているんですけれども,そうでもないんですか。前は一回だけの事件というような場合であれば,運転行為が業務性のないような場合は重過失があったかないかということで議論していたようにも思うんですが,その辺の議論はどんなふうに進んでいたんでしょうか。 ● 業務性を要件とすべきかどうかについては,確かに議論がございましたが,今までどおりの事故態様のものが適用の対象となりますので,それほど差はないというのが審議結果であると理解しております。 ● 非常に重要な事項なんで,刑法改正というところですから,もう一点質問させていただきますが,さっき意見の中で刑を上げること,又は新たな構成要件を設定すること等について抑止効果がないのではないかとか,他の安全施策との関係で,そういった点も配慮しながら行うべきであって,今回の案については賛成できないという趣旨のことがあったという御報告でしたね。本件のときに私も非常に交通事故の結果が大きいことがたまたまこのごろありましたですね。私なんか埼玉ですから,川口のことは非常に胸が痛いわけなんですが,こういう事案が非常にちょっとしたことで起こり得る事態が今あるのかなと。そういう意味では道路の在り方,あるいは安全の設備の在り方,そういったようなものが本件のところでどういうふうに絡んでくるんだろうかというようなことを常に感じるわけなんですね。そういう意味では,安全施策の関係でそこを強化発展させることで,刑を重くしないでやる方法はないのかという点での議論はどんなふうに進んだのか,そこら辺をちょっと詳しくお願いしたいんですけれども。 ● ただ今委員御指摘のとおり,安全施策の実施も大事だという御意見はございました。確かに,十分にそういう安全施策を講ずるべきであり,現に,それによって一定の効果を上げている面もございますが,にもかかわらず,やはり多くの交通事犯が生じているわけでございますから,それに対応するため,自動車運転による過失致死傷事犯の法定刑を引き上げるなどして,自動車の運転者に対し,より注意を深くして運転行為に臨むべきであることを示すべきであるという御意見や,その行為についての国民の評価とか,行為規範としての側面とかを重視して,新しい構成要件を設け,法定刑を上げることに合理性が認められるという御意見が多数でございました。 ● ほかに質問がございますでしょうか。もし質問がなければ,次に御意見がある方はどうぞ御発言をお願いいたします。 ● 法律案要綱については,原則論として賛成かなと思っておりますが,ただ交通事故を厳罰化すればなくなるなんてものではもちろんないわけだろうと思いますし,アメリカ等では,車内に開栓したアルコール飲料等の持込みをさせないとか,そのチェックを厳しくするなんていう話も聞いておりますし,最近は,運転席にアルコールを飲んでいて座るとエンジンがかからないとか,そんな技術もいろいろ研究されているなんていうことも聞きますし,またアルコール常習者というのはそれぞれの地域社会でどこまで把握できているのかという問題もあるでしょうし,今,安全施策の問題もありましたが,そういうことも重層的にやらないと交通事故問題は,なかなかいい方に向かわないんじゃないかなと思っております。労働組合からもヒアリングをしていただいたということですが,今,特に交通運輸関係の仕事に従事しております者は,一種の過重労働というか,非常に規制緩和等もいろいろやっていただいたせいか,競争環境が非常に厳しく,労働が非常に過重になっていて,みんなへとへとで仕事しているみたいなところが感じられるようになりました。これは警察庁の仕事だけというわけにはいかないかもしれませんが,国土交通省なり,あるいは厚生労働省とも御相談いただいて,その辺の業務上で車に乗らざるを得ない人たちの一種の就労環境といいますか,就労条件といいますか,その辺もこういう交通事故事犯に関連して,いろんなアプローチもやはりしていただくべきではないかなと,そんなことを意見として申し上げておきたいと思います。 ● ただ今の委員御指摘の点でございますが,刑事罰則といたしましては,今回の刑法の改正,それから大きなところでは道路交通法につきましても今回警察庁の御所管で改正が検討されているわけでございますけれども,それだけではなく関係省庁がそれぞれの所管の問題につきまして,いろいろな角度から取り組んでいくべき問題であろうと,もちろん我々も思っているわけでございまして,部会の中でもその辺りのところにつきまして,何人かの委員の方からそこは是非そうすべきであるということについて御発言もあったということで部会長から御報告もあったところでございます。そのような今の○○委員の御意見,我々としてもまた肝に銘じてやっていきたいと思っております。 ● ほかにどうぞ。 ● いろいろ議論が出ているんですけれども,今後の安全対策ということで各省庁はそれぞれ取り組むだろうということでお聞かせいただいたんですが,この交通安全に関しては社会全体で国を挙げて,国も地方も,その労働組合も企業も全体で取り組むということが必要だということはみんなコンセンサスが得られている考え方だろうと思いますので,国としての何か枠組みというか,全体のグランドデザインを描いて各省庁及び各部門がそういうふうに取り組めるような,相互の情報交換とかお互いのプラスの仕組みを構築していく上での協議とか,具体的なそういう取り組みというのは可能性はあるのでしょうか。あるいはそういう議論はどこかでなされているのでしょうか。もしあるようでしたらお聞かせいただきたいということと,やはりそういう全体のデザイン,仕組みを今後作っていくという,法務省だけでやれるわけじゃないんです。やはり法務省はかなり重要な役割を担うと思いますので,法務省としてどういう取組がその点に関してなされている,その辺りをお聞かせいただければと思います。 ● 交通安全施策につきましては,歴史的には相当以前から対策が,政府を挙げて採られております。例えば,昭和30年に内閣に交通事故防止対策本部が設置されて,それ以降,累次交通安全基本計画が定められて実施に移されているところであります。現在も中央交通安全対策会議など,政府全体でいろんな施策を取り組むための機関を設けまして,平成18年には第8次の交通安全基本計画を定め,それを全国的に実施をするという形で取り組みが行われているところでございます。もちろん政府の中だけで実現できるということではございませんので,そういった基本計画は,地方自治体あるいは社会の中で,どのようにそれを実現していくかということを含めて,いろいろな施策が盛り込まれているわけであります。そういう中で,例えば国民の意識の改革でありますとか,そのモラルの高揚であるとか,そういったことも取り上げて細かな施策の実施をしていこうということが今行われているということでございます。詳細は相当細かい内容になっておりますので,省略いたしますけれども,そういったことは政府としても全国のレベル,あるいは全国民のレベルで行うという問題意識で取り組んでいるということでございます。 ● ほかに御意見ございますでしょうか。 ● 1の点について特に申し上げたいと思うんですが,刑法の基本的な条項の改正,特に業過の致死傷の条文から切り離して新しいものを作るというものについて,特段の背景事実,立法事実が私たちに示されていないものですから,詳しくは非常に分かりにくいんですが,部会で相当やっていたということなんで,本来ならば事前にそういうものも見させていただきたいというのが,まず第一の希望です。   次に,本件の場合は過失を基本とする事案ですよね。したがって,刑法上の扱いとしてみれば過失の問題と故意犯は,やはり峻別して議論していくべきだと思いますし,相当慎重な上にも慎重に過失犯の刑罰を設定すべきではないかと思っているわけです。今回のものが先般法令化された危険運転の関係で議論されているには違いないんですが,それの刑が結構重いわけですから,それとの関係で,あるいはバランスをとったというようなこともあり得るのかなということもあって,そこをあまり適切ではないんじゃないかと思います。いずれにしても慎重な上にも慎重な判断が必要ではないかと思っています。   それから,本件の背景で私はもう少し正確に知りたかったんですが,車両が非常に多くなっていますよね。それと運転をする方が非常に多くなっているという中で,日常的に主要道路が渋滞化しておりまして,道路を急ぐ人とか何か非常に多くなっているのは私の経験からいってもそうなんですね。そうしますと,主要道から離れて一般生活道に入っていく人たちがたくさんあって,あるいはそのような道が空いているよというような情報が流されているとかいうようなことがあって,一般道とかいうのが車歩道の区別が非常にあいまいであったり,縁石やそのガードレール等の安全制約が現実的にはないところが多いというようなことがあって,または速度制限が厳しくなされていないというようなことがあって,私としてはそういう現状の中で刑を上げるということだけで,だけとは言いませんが,上げることが適当なんだろうかということで疑問を持つんですね。したがって先ほどから質問をしましたし,御意見もあるように国家の道路安全の施策を相当徹底して,特に生活道路などには十分な配慮をされてしかるべきではないかと思っています。現状において,だから直ちに7年に上げることについては,ちょっと消極的なところがありますので,その意見を述べさせていただきたいと思います。 ● ほかにどうぞ。 ● 最近の交通事故の被害にあっている方というのが子供であったり,年寄りであったりということで,大変自分自身で避けることができないような,そういう状況での事故に遭っているわけですね。そういうことを含めて今の社会的な要望とか,その辺を受けて過失でありながら7年まで上げたということに関しては,部会の方の審議というのは大変御苦労なさったんではないかと思います。ただ,その一方でやはり実際に被害に遭った人からすれば,やはり7年ではまだ短いという声も多くあると思います。やはり法律家の理論というんでしょうか,それではなくて,今回この改正案を見ていて,やはりそこに現状とそれから国民の理論というものを考慮していただいているんではないかと思います。その辺ではその過失と故意との判断,これはあくまでも裁判の場で証拠として出てくるんだと思うんですけれども,その辺に私たち国民としては期待をしたいと,そういうふうに思います。 ● 本日の部会長の御報告及び引き続いたこの会での御審議の中で,法定刑を引き上げることと犯罪を抑止する力との関係が議論になりました。この点は部会でも繰り返し論議された点でありますが,ごく一般論としましては法定刑の引上げが即犯罪の抑止につながるかということについてはかなり懐疑的な意見も強いわけですが,しかし,この業務上過失致死傷,特に自動車運転という問題になりますと,これは,対象者はごく普通の市民一般であり,その人たちは本来は犯罪とは無関係の生活をしている一般の市民でありますので,いろいろと社会生活,日常会話,友人との接触等の関係で人身事故に対する罰則が厳しくなったということを認識する機会は十分にあるだろうと思います。その辺につきましては,報道機関にも御協力をいただきたいような気がいたしますし,あるいは地方自治体などで掲示板にポスターを張るとか,過失による人身事故というものについてはもっと注意するようにということをPRする可能性は十分にあるのではないか,そういうことによって犯罪の抑止力につながるのではないかというような趣旨の議論が部会でも展開されたと思います。 ● どうもありがとうございました。   ほかにどうぞ。 ● 皆さんから出たように,この法律の改正のもともとは,本来であれば,安全な交通の状況というんですか,自動車の運転を安全にしていただきたいという気持ちを込めての改正ですので,様々な専門家の御意見でこのようになったのは聞いていて仕方がないというと変なんですが,こういう落ち着きどころなのかなと聞くわけですが,先ほどの委員からもありましたように,7年ということに対して私の目から見ると,上限であるということを聞けば聞くほど,別に必ずしも全員が7年になるということを決めているのではなくて,法律の上限を決めているというふうな観点からすると,やはり,どうもそれではまだ足りないのではないかと感じることと,それから,先ほどの罰金が変わらずに100万円である。この100万円という金額の意味も過去に設定されたときの,多分お金の価値観と今日の100万円という価値観を考えると,ここが5年から7年になったのにもかかわらず,上がらなかったというのも少し理解が難しいという気がしているということは,私個人の意見として申し上げておきたいと思います。 ● どうぞ。 ● 先ほどの御質問のときにその点を突っ込んで御説明しませんでしたが,実はこの罰金の100万円でございますが,業務上過失致死傷罪の罰金100万円については,昨年の刑法の改正によりまして50万円であったものが100万円に引き上げられたところでございます。そのときの趣旨は,業務上過失致死傷罪について,もちろん懲役・禁錮の刑が相当な事案もあるけれども,他方で過失の態様がそれほど悪質ではなく,またその被害者との関係でも十分慰謝の措置が講じられて被害者側も特段重い刑を望んでいないというような場合など罰金が相当な事案もあり,その場合の罰金の上限として,それまでは50万円であったものが,それでは軽すぎるのではないかということで100万円に引き上げられたという経緯がございます。今回,懲役刑,禁錮刑の上限を引き上げる場合に,罰金についても,その上限を引き上げるかどうかというのは,おそらく想定する事案が大分違うということがございまして,軽い方の事案について罰金刑をどうするかという判断になってまいりますと,やはり昨年 そういう議論の過程を経て100万円に引き上げたところということもございますので,それはそのまま維持しようというのが基本的な考え方と考えているところでございます。 ● ほかに御意見ございますでしょうか。 ● 今回の部会で業者の方々もお呼びになったということで,そこの御意見では先ほどは刑の点については5年を超えて7年にするということについては,比較的消極的な話があったということでしたね。私の考え方で見れば,業者若しくは事業者の運転行為に対する考え方というのは大きく二つあるように思っているんですね。一つは,非常に安全を重視して業者が運転者に対して教育をきちっと行っているような事業者は事故が非常に少ないと思うんですね。それから,逆に今度は非常に業者といってもいろいろと規模がありまして,利益等を非常に追求するようなものについては,先ほどもありましたが,過酷な労働条件のもとで働いている人がいるということは私も承知しているわけで,そういうところでの場合は,やむを得ず非常に厳しい運転行為をしているというようなこともあって,できれば,ひとり運転者のみに責任を帰するというんではなくて,何とか考えてもらえないかという議論があったと思うんですね。   もう一つは,業者でない人たち,これは運転免許を今やもう既に成人になればすべての人が持っているといっても過言ではないほどにお持ちですよね。それも全国津々浦々で運転をしているんですね。そういう人たちは日常の方ですよ。全くもって生活を車でもってやらなければならないようなところから,あるいはその小さな町中でもそういう人たちが運転をしているわけで,こういう人たちが,ごく普通の過失,ちょっとしたことで結果が大きなものになってしまうということはあることで,特に今回の埼玉の事件などは,生活用道路の中で起こった,安全設備がほとんどないようなところで起こった結果の重大なものだったと認識しているんですが,こういう中である事故が起こる,そういうことをいつも国民の一般的な人たちは気にしながら運転をしなくてはいけない,こういうことになります。そのときに,7年というのは決して軽いものとはとても思えないんですね。先ほどこういったようなことで,事故が発生しないようにすると施策をもう少しきちんとする,あるいは道路安全設備を充実させるという点は,そういう一般の方々の運転が前提にあるんだということを私が認識するもので申し上げるんですね。そういった点を法案作成段階もしくは審議段階で議論されればありがたいなと思っております。そんなところを意見として述べておきます。 ● ほかに御意見ございますでしょうか。それでは,御意見がなければ,原案につきまして採決に移りたいと存じますが,採決に移ってよろしゅうございますでしょうか。   それでは,採決に移らせていただきます。   諮問第82号につきまして刑事法(自動車運転過失致死傷事犯関係)部会から報告されました,ただいまの要綱(骨子)のとおり答申することに賛成の方は挙手をお願いいたします。 (賛成者挙手) ● 念のため反対の方は挙手をお願いいたします。 (反対者挙手) ● 採決の結果を御報告申し上げます。   議長を除くただいまの出席委員は14名でございます。原案に賛成の委員は13名,反対の委員は1名でございました。   以上です。 ● どうもありがとうございました。   それではお聞きになりましたとおり,採決の結果,賛成者多数でございますので,刑事法(自動車運転過失致死傷事犯関係)部会から報告されました要綱(骨子)は,原案のとおり採決されたものと認めます。採決されましたこの要綱につきましては,この会議終了後,直ちに法務大臣に対しまして答申することといたします。   ○○部会長,どうも御苦労さまでございました。どうぞ席にお戻りください。 ● どうもありがとうございました。 ● これで,本日の議題,こちらで用意しております議題は終了いたしましたが,ほかにこの機会にもし御発言がございましたら,どうぞ御自由に御発言いただきたいと思います。 ● 恐縮ですが,今日は非常に諮問があってから期間が短かったと思うんですね。ですから,十分ではなかったかと思いますが,この審議会の趣旨が十全なものとしてできるように,できれば比較的分かりやすい資料をもう少し配布されていいんじゃないかと,今後検討いただければありがたいと。そうしますと,私も独自の意見をもっと幅広い面から発言できるんじゃないかと思いますし,一般の委員の方もそうじゃないかと思います。部会の方で一所懸命なさっているということは聞いておりますから,それをもちろん尊重させていただきますけれども,やはりどういうものでどう審議されたかということを知ることは,ここは非常に重要なんじゃないかと思っていますので,要望として申し上げておきます。 ● どうぞお願いいたします。 ● 御指摘を踏まえまして,今後検討させていただきたいと思います。 ● それでは,ほかに御意見ございますでしょうか。それでは,本日はお忙しいところお集まりいただきまして,かつ非常に熱心な議論を展開していただきまして,ありがとうございました。   これにて本日の総会を終了いたします。   どうも御苦労さまでございました。 -了-