法制審議会会社法制部会           第10回会議 議事録 第1 日 時  平成23年2月23日(水) 自 午後1時30分                       至 午後5時41分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  会社法制の見直しについて 第4 議 事 (次のとおり)                議     事 ○岩原部会長 予定した時刻になりましたので,法制審議会会社法制部会第10回会議を開会いたします。本日は,お忙しい中,御出席いただき,誠にありがとうございます。  それでは,事務当局から配布資料の説明をしていただきたいと思います。よろしくお願いします。 ○河合幹事 それでは,御説明いたします。本日は,配布資料目録と部会資料10を事前にお配りしております。部会資料10の内容につきましては,後ほど御説明させていただきます。また,このほか,机上には,追加分の配布資料目録と併せて参考資料22を追加して配布させていただいております。参考資料22は,安達委員作成の「会社法制部会資料10に対する意見」でございます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。それでは,御議論をお願いしたいと思います。まず,部会資料10の第2の「1 社外監査役の要件の見直し」につきまして,事務当局から説明をお願いします。 ○塚本関係官 それでは,御説明いたします。まず,部会資料10の全体像についてですが,部会資料10は,「企業統治の在り方に関する論点の検討(2)」として,「第2」では,「監査役の監査機能に関する論点」を採り上げ,「第3」では,「資金調達の場面における企業統治の在り方に関する論点」を採り上げております。  それでは,「第2 監査役の監査機能に関する論点」の「1 社外監査役の要件の見直し」についての御説明に移らせていただきます。現行法上の社外監査役の定義によれば,例えば,親会社等の関係者は,社外監査役となることができます。当部会において,仮に社外取締役の要件を見直すこととする場合,社外監査役の要件も同様の見直しをすべきであるとの指摘がされていることから,本文は,社外監査役の要件を見直すことについて問うものでございます。この点について,監査役と取締役の権限の相違から,社外監査役の要件は,社外取締役の要件とは別異に考えるべきか,検討を要するものと存じます。また,社外監査役の要件の見直しを検討するに当たっては,既に親会社等の関係者を社外監査役として選任している監査役会設置会社に与える影響を考慮する必要があると思われます。  なお,本文に関連して,社外監査役の要件を追加することとする場合,責任限定契約を締結することができる監査役の範囲や,社外監査役の要件に係る対象期間の限定の当否等についても,社外取締役についての検討と併せて検討する余地があると思われます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございました。それでは,この論点につきまして,皆様から御意見を伺いたいと思います。いかがでしょうか。 ○築舘委員 社外監査役の要件につきましては,前回のこの部会で社外取締役の要件の議論があった際に申し上げましたとおり,社外取締役と同様の見直しについて特段の異論はないという考え方をしております。部会資料10では,もう少し詳細な監査役についての論点整理をしていただいておりますので,これに沿った形で申し上げたいと思います。まず,監査役と取締役の権限の相違と要件との関係ということでございますが,監査役は,取締役の業務執行をチェックするという立場にいるわけですので,ある意味,社外監査役のほうが社外取締役より独立性を求められているとも考えられます。したがいまして,社外取締役と社外監査役との要件を異にする必要はなくて,社外取締役の要件の見直しに沿った形で,社外監査役の要件についても見直しを進めていただくということで結構なのではないかと思っております。  次に,親会社関係者を社外監査役として選任している会社に与える影響についてですが,私ども日本監査役協会のアンケート調査によりますと,これは,私どもの協会は約6,000社弱の会員会社がありまして,そういう範囲内でのアンケート調査ということになるわけですが,社外監査役に占める現職あるいは前職の親会社の役職員の比率は,上場企業で約8%です。それから,非上場企業ですと47%ということですから,約半数近くの監査役が親会社の現職あるいは前職の役職員であるという状況でございます。したがいまして,仮に見直しをしていくということになりますと,非上場企業に与える影響が大きいということになるかと思います。しかしながら,社外役員への期待は独立性にもあるということも考えますと,社外取締役の要件をもし見直すのであれば,社外監査役の要件をそれと違った要件に設定していくという理由はないのではないかと思っています。  ただ,これも,もし仮に見直すということであればという意味で申し上げるのですが,先ほど申し上げましたような数字的な状況でございますので,相当程度の経過措置期間を設けないと,社外監査役選任の実務に影響が生じることも考えられますので,そういうことに対する配慮が必要になっていくのではないかと思います。  それから,社外監査役の要件に関する対象期間の限定の当否についてですが,これは,前回の部会で申し上げましたけれども,要件の対象期間の限定を付していない現行制度は,やはり厳し過ぎると思われますので,多様な人材を確保するという観点から,対象期間を就任前の一定期間とする方向で御検討いただければと思っております。 ○岩原部会長 ほかに御意見はございますでしょうか。 ○八丁地委員 社外監査役の要件の見直しについて,経済界の考え方を述べさせていただきます。社外監査役の要件を加重すべきではないというスタンスであり,これは,前回会議で議論された社外取締役の要件に対するスタンスと変わりございません。   1点目に,御案内のとおり,監査役会設置会社には社外監査役の選任が義務付けられていることや,我が国企業の大多数が監査役会設置会社の形態を採用していることを踏まえますと,要件を加重した場合,現状及び今後の企業の経営組織の在り方や役員の選任に与える影響は,極めて大きいと存じます。  2点目に,実質的に活躍し得る有為な人材を広く集めるためには,形式的な要件を厳格化するのではなく,やはり多様性を認めていただきたいと思っております。機関投資家からの意見も多様ですが,「形式的に独立性を有する者であることよりも,実質的にガバナンス機能を発揮できる者が監査役に選任されることが妥当」との意見も寄せられています。  3点目に,日本企業の今後の経営の動向をふかんしますと,グローバル化が進展する中では,産業の再編成やサプライチェーンの拡大により競争力の向上を図ることが求められるため,組織再編は今後も非常に活発に行われると思います。東証の一部上場企業で連結資産上位200社の平均の子会社数を取りますと,1997年は49社でありましたが,2005年には108社となっております。また,多角化指数を計算しますと,1997年の0.75から2005年には0.89に上昇しており,事業自体の多角化が進展しているとの結果が出ております。こうした状況の中では,親子会社の関係が頻繁に変わることや,サプライチェーンのグローバル化に伴い取引先の関係が頻繁に変わることは日常であり,その都度ガバナンス体制を変更することは,大変難しい課題です。そのため,要件を見直せば,企業活動に対する影響は少なくないと考えております。現在,この問題に関しては,証券取引所で独立役員制度が導入されており,その運用を見守っていくことが適切ではないかと考えます。  なお,社外監査役には多様な人材を確保することが重要です。就任前の一定期間会社との関係がない者につきましては,経営者からの独立性が確保されており,経営者に対するチェック機能を万全に果たし得るし,これまでも果たしてきたと考えておりますので,要件に係る対象期間をできるだけ限定する方向で御検討いただきたいと思います。 ○前田委員 築舘委員の意見に賛成でございまして,社外取締役と要件をそろえるのがいいのではないかと思います。確かに,社外監査役の権限は社外取締役とは違いますけれども,業務執行担当者の影響力を受ける者であっては困るという点では社外取締役と同じでありますし,前回の部会で議論されましたように,利益相反のチェックという観点から,もし,社外取締役について,親会社のように業務執行担当者に影響力を行使できる者の関係者であっては困るというのであれば,やはり社外監査役についても親会社等の関係者であっては困るということになろうと思います。つまり,権限は違いましても,求められている独立性の内容は社外取締役と同じでありまして,社外性の要件はそろえるのがいいのではないかと思います。ただ,築舘委員御指摘のように,経過措置については十分配慮が必要だと思いますし,対象期間の限定につきましても,もし社外取締役のほうに入れるのであれば,こちらもそれにそろえるということになろうと思います。  あと,責任限定契約との関係は,社外取締役のところでも御指摘がございましたように,現行法が,責任限定契約を,取締役についてはなぜ社外取締役に限っているのかと言いますと,それは,人材確保というニーズとともに,理屈としては,社外取締役が業務執行者から独立しているからというよりは,自らは業務を執行していないので,責任を限定しても違法行為の抑止などの点で問題はないからだと考えるのがいいと私も思いますので,監査役につきましては,社外かどうかを問わずに,責任限定契約を利用できるようにすることを考えてはいかがかと思います。 ○静委員 私も,前田委員の意見に基本的に賛成でございます。取締役と監査役ではもともと権限が違うということでございますけれども,社外の方に入っていただく目的というのは,どちらも言わば独立性を高めることだと思いますので,取締役と同様に考えて,監査役についても,社外性の要件を見直すのがいいのではないかと思います。実態の面はいろいろあると思いますけれども,東証上場会社でいいますと,直近のデータで,監査役会設置会社には大体1社平均2.5人ぐらいの監査役がおられて,その8割以上が独立性の高い方というデータが出ておりますので,人材難が壁になるということは余りないのではないかと見ております。もちろん,細かく見ていかなければいけないので,個社の部分を検討する必要はあると思いますけれども,大きな障害にはならないのではないかと思っているということが一つです。  それから,社外取締役にも社外監査役にも独立性が必要ということになりますと,ガバナンス上,重複感が気になるということもあるかもしれないのですけれども,そういうことであれば,以前から部会資料で御提案のある監査・監督委員会設置会社のような選択肢を用意して,重複感を解消することもできるようにすればいいのではないかと考えております。 ○奈須野幹事 ちょっと違う観点から申し上げるのですけれども,社外取締役については,前回申し上げたとおり,親会社出身者は子会社に対する知識・経験や重大な利害関係を持っているので,子会社の監視・監督に掛ける努力の量も大きいはずであり,子会社の企業価値向上の観点から,親会社出身であっても,企業統治の有効性確保が期待できます。したがって,親会社出身の社外取締役は,子会社少数株主・債権者の利益に資することもあり得ると考えています。  しかし,社外監査役については,その法律上の役割は違法性の監査であるところ,会社と株主との間では,法令・定款に違反する行為を行って利益を上げようとする共通の誘因があるので,社外監査役に公平・厳正に監査させることが必要だと思います。したがって,社外取締役と社外監査役の独立性の必要性は分けて考える必要があり,このような観点から,社外監査役に対する親会社その他の大株主からの独立性を高めるべきとする今回の問題意識については,賛成であります。  もっとも,社外取締役と社外監査役との間で社外性の要件を異なるものといたしますと,会社にとっては,会社法上の社外取締役,社外監査役に加え,上場規則で義務付けられる独立取締役,独立監査役という4種類の役員について,要件具備をそれぞれチェックする必要が生じてしまい,制度の運用が著しく複雑になってしまいます。投資家からも,同種の経歴を有する人が,社外役員になれたりなれなかったりするというのは,訳が分からない仕組みだといった批判を招くことになろうかと思います。それから実質的にも,親会社その他の大株主が社外監査役になれないために,子会社に対して社外取締役として配置されることになると,議決権が付与されて,かえって親会社の影響力は高まるという逆説的なことになります。そうだとすると,このような社外監査役の独立性の強化策が子会社少数株主にとって良い結論になるかどうかについては,慎重に考える必要があると思います。したがって,社外監査役と社外取締役の要件を別にすることには消極的です。  そこで考えてみますと,先に述べた監査役の法律上の役割に照らすと,親会社その他の大株主からの独立性を高める必要があるのは,社外監査役だけではなくて,常勤監査役その他の社外監査役以外の監査役も同じではないかと思われるわけであります。こういう観点から,会社の経営に知識・経験のある者を活用しつつ,同時に社外性の要件を改める以外の方法で,監査役の親会社その他の大株主からの独立性を高める方策を考えるべきではないかと思うわけであります。  この点,韓国におきましては,商法490条2項において,会社の3%を超過する議決権を有する株主は,日本の監査役に相当する役員である「監事」の選任議案に当たって,その3%を超過する部分の株式について議決権を有しないとする仕組みが採用されております。この仕組みは,役員の経歴に着目するのではなくて,選任のプロセスを通じて,親会社その他の大株主からの独立性を担保するものと考えられ,先の問題意識に照らし,我が国でも導入を検討すべきではないかと考えます。  なお,前回述べたとおり,責任限定契約を締結することができる役員の範囲を「社外性」の要件とは別に考えていくということについては,形式的にではなく実質的に考えていくべきであると思っております。  それから,社外監査役に係る対象期間の限定の当否についても,前回と同じで,元従業員であっても,退職後一定期間が経過すれば社外監査役になれるものとする見直しに賛成であります。 ○岩原部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○本渡委員 社外監査役の要件の見直しということなのですが,社外監査役は現在も選任が義務付けられているものでして,現状において,親会社と関係している人とか取引先と関係している人が社外監査役になっていて,それで弊害が生じているということは余り聞いていません。したがって,現時点で要件を見直して法律で,強制的に,そういう方たちを排除することが本当に必要なのかどうか,非常に疑問があります。また,親会社とか取引先の人たちは,それなりに当該会社のことも分かっていて,監査もある程度有効にできるのではないかなという気もしています。もちろんそれを推奨するつもりはありませんけれども,排除する必要まではないのではないかなという気がしております。 ○岩原部会長 ほかにいかがでしょうか。研究者の委員・幹事の方,どなたか。 ○中東幹事 基本的には,前田委員や静委員がおっしゃっていた意見に賛成でございます。具体的な話になりますが,親の関係者を社外者として認めてよいかという点については,かなり異論もあったようにも思うのですが,基本的には社外者とは認めないということになろうかと思います。奈須野幹事の話にも少し出たと思うのですが,親会社から派遣された常勤監査役は,大株主たる親会社のために一生懸命に監査するということになるわけですので,これと現在の要件の下での社外監査役がやっていることでは何が違うのかというと,これは分からないと思います。ですので,制度的にも,社外監査役なるものが社内監査役と別建てとしてあるということであれば,当然に親会社関係者は除外しないと,社内の監査役との区別が出ないということだと思います。 ○岩原部会長 ほかに何かございますでしょうか。 ○荒谷委員 私はまだ定見を持っているわけではございませんが,少なくとも,既に社外監査役が存在する監査役会設置会社に,社外取締役制度を新たに採用しますと,非常に複雑で分かりにくいものになるのではないかと思っておりまして,しかも社外監査役と社外取締役の要件を同じにいたしますと,社外取締役と社外監査役の機能がどう違うのかが非常に分かりにくくなるという気がいたします。ですから,もし仮に導入するとするのであれば,社外取締役と社外監査役の要件を分けてもよいのではないか。さらに,これはちょっと言い過ぎかもしれませんが,現時点で皆様のお話を伺っておりますと,社外取締役を導入した場合には,もう社外監査役をやめてしまうというのも一つの方法なのかなという気がしないでもなりません。少なくとも,監査役設置会社に,同じ資格要件の社外取締役と社外監査役を並立的に導入いたしますと,その機能の相違を対外的に説明することがますます難しくなるのではないかというのが,私の素朴な疑問でございます。 ○上村委員 それは,ほかの議論の条件がいろいろありまして,監査役と取締役は概念上一元化してしまえとか,それから,親子会社で親会社の責任がどうなるのかとか,それによって話は違ってきます。でも,現行法の基本概念を何も変えないことを前提にして,取締役とは異なって監査役とは業務執行を監督するという概念を前提にして考えれば,それは独立していなければいけないというのが普通の発想だろうと思います。これも前に申し上げたことですけれども,私は,経営に対する独立のチェック機能がきちんと存在していることこそが,経営者としての存在意義をむしろ肯定する根拠だと思いますので,それを経営者が自由に決めるのだというのは,私は,論理矛盾だと思います。それから,アメリカで社外取締役がかくも普及したのは,やはり訴訟の蓄積によって普及してきたのですね。アメリカには金融審議会も法制審議会もないわけですから,その訴訟で成り立つ制度には,正に日本にとっての立法事実に相当するものがたくさん蓄積されてきているのだと思います。そして,社外取締役も社外監査役も,経営としてどちらがいいかという話は,それはある意味どうでもいい話ですが,不正や違法,利益相反があったときにどうするかというのは正しく法の話であります。私は,八丁地委員はどこかの段階で適当な結論をおっしゃってくださるときが来るような気がしているのですけれども,経営としては自由な選択肢があったほうがいいと言われますが,ここでの議論は経営学の話ではありませんで,飽くまでも,スレスレの法の話でありますから,今の制度を前提にして考えれば,独立性が要求されるのは余りに当然だと,私は思います。 ○岩原部会長 よろしいでしょうか。 ○田中幹事 少しこれまでとは別の論点を申し上げたいと思うのですが,社外取締役に独立性を課す場合と,社外監査役に独立性を課す場合との違いが一つあるとすれば,先日来問題になっていた独立の社外取締役を一人でも義務付けるといった話は,恐らくは大会社だけでなくて公開の大会社,殊に,上場会社を前提にした議論なのではないかと思うのです。特に上場会社などの株主が非常に分散している場合に,言わば株主の代理人として経営陣を監視・監督するという役割が期待されているわけです。ところが,現在の社外監査役は上場会社以外の会社にも義務付けられる。ですから,そのあたりの問題を少し考えたほうがいいのかなと思います。例えば,上場会社の子会社について,そのような役割を果たす人に親会社の出身者でないことまで要求すると,ちょっと厳し過ぎる面もあるのかなという感じがいたしまして,そういった点も少し考えたほうがいいのではないかとも思います。 ○岩原部会長 ほかにございますか。よろしいですか。皆様方の御意見を承りまして,荒谷委員からは,社外取締役と社外監査役の両方を設けることの意義という観点から,ちょっと異なる御意見がございましたが,それ以外の御発言においては,社外取締役と社外監査役の社外性の要件を別にするということを主張される方はいらっしゃらなかったように感じます。その上で,その場合の社外性の要件について,親会社関係者を社外取締役から除くことについては,意見が少し分かれたかと思います。研究者の委員から,除くべきだという御意見も有力でしたけれども,一方で,実務界あるいは一部の研究者委員の方から,必ずしもそうではないという御意見があったところかと思います。  それに対して,対象期間の問題については,これは特に異論がなく,一定期間は制限するという方向の御意見が多かったという感じを持ちました。大体そのような感触でよろしいでしょうか。 ○八丁地委員 1回欠席しただけで随分話が変わるなと思ったのですが,立法事実という点から考えますと,監査役制度に何か破たんがあり,企業の競争力や企業社会に何か問題が生じているのか,経済界としては納得ができないところが大いにあります。皆様の意見を聴いていますと,結局のところ,グローバルスタンダードに近付けようということ以外に立法事実があるのか,私には理解できません。ここでは,法律中心の議論をしておりますが,その結果次第では,企業は規制を受けますし,あるいは競争力の強化を実現したり,事業拡大のインセンティブを獲得したりもします。見直しの結果により,大きな影響を受ける企業経営者がいて,企業のステークホルダーがいるわけです。そのため,企業経営の視点や,企業の置かれている状況,それに至る経緯などともバランスを取りながら,検討を進めていただきたいというのが,私の変わらぬ信念です。今の監査役制度の下で,何か問題が多発しているとは,国際的な視点からも考えられないことや,現在の制度の下で,監査に関するノウハウがたまっていることを十分に考えていただきたいと存じます。何かを入れればいい,導入すれば何か変わるという議論の結果,日本では多くの弊害が生じていると思います。同じ見解をずっと述べているにすぎませんが,こうした点について,是非留意いただければと思います。 ○上村委員 私も同じことをずっと言い続けていまして,それは,企業の本当の成長といいましょうか,あるいはもっと言えば国益といいましょうか,そういうものが非常に大事だという観点から一貫して述べているつもりです。前にも申しましたけれども,監査役制度は,非常に日本で慣れていますし,それから蓄積も多いわけです。委員会設置会社というのは,前にも申しましたけれども,昔のアメリカ型であって,たった二人しか社外取締役が強制されていない。つまり,不出来な委員会設置会社と,慣れている監査役設置会社を比べれば,監査役設置会社で別に何ら問題はないのではないかという感じになるかもしれませんけれども,日本の競争力を本当に高め,成長戦略などが本当に軌道に乗るためには,安心してアクセルを踏めるような強じんな仕組みが必要なのですね。別に何も過大なことは要求していないのです。一人社外取締役を要求するとか,あるいは私の場合ですと,監査役という名前をそのまま残して監査委員会に変えればいいではないかと言っているだけです。恐らく八丁地委員の思いと私が申し上げていることとは全く変わりはないと信じております。 ○荒谷委員 私もちょっと補足させていただきたいと思います。私の考えでは,社外取締役を導入する場合には,社外取締役は,いわゆる独立の社外取締役として要件を厳格にし,社外監査役については,親会社を外すかどうかは別にしまして,少し緩やかな要件にしたほうがよいという意味で別異に考えたらどうかという趣旨でございますので,そこのところだけ,一言補足させていただきたいと思います。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。社外取締役に関する議論は,前回議論しましたように,確かに会社のパフォーマンスを良くするということで,競争力の観点から,どのような制度にするのが適切かということでいろいろ御議論いただいたと承知しております。それに対しまして,社外監査役の職務は違法性監査ですので,違法性のチェックに十全の役割を果たしてきたかということが,正に立法事実として問題になるところです。そこで従来,例えばカネボウの事件とか,そういったかなり多くの粉飾事件や,その他の不祥事のときなどに,日本の監査役が十分働いてきたのかというと,従来の日本の監査役制度は必ずしも十全な役割を果たし切れていなかったのではないかという感じがあるところから,こういった問題が議論されているのかと存じております。よろしいでしょうか。  それでは,第2の2の「(1)会計監査人の選解任等に関する議案等及び報酬等の決定」に移りたいと思います。まず,事務当局から説明をお願いいたします。 ○塚本関係官 それでは,「2 監査役の権限」の「(1)会計監査人の選解任等に関する議案等及び報酬等の決定」について御説明いたします。本文は,会計監査人の選解任等に関する議案等及び報酬等の決定を,監査役(会)の権限とすることについて問うものでございます。この点について,会計監査人の選解任等に関する議案及び報酬等を,監査を受ける立場にある取締役会が決定するという現行法上の仕組みは,会計監査人の独立性の観点から問題があるとの指摘がございます。他方で,当部会において,会計監査人の独立性は,監査役(会)が現行法の下において有する権限を適切に行使することよって確保し得るとの指摘がされております。また,監査役については,業務執行決定機関から分離された監査専門機関であることに鑑み,その任期が4年とされ,株主総会における解任決議の要件が特別決議とされるなど,その地位が強化されております。監査役に,業務執行に関わる事項についての決定権限を付与するかどうかを検討するに当たっては,別の機関による監査を受けることがない業務執行に関する決定を認める結果となることや,監査役による決定に対する是正が必要となった場合において,ただ今述べたような監査役の地位を強化する仕組みとの関係で,その交代による是正が限定的となることなども考慮する必要があると思われます。  なお,本文に関連して,委員会設置会社の監査委員会や,仮に監査・監督委員会設置会社制度を創設することとする場合における監査・監督委員会に,会計監査人の報酬等の決定権限を付与すべきかについても,検討を要するものと存じます。 ○岩原部会長 ありがとうございます。それでは,御議論をお願いしたいと思います。いかがでしょうか。 ○古澤幹事 いわゆるインセンティブのねじれの問題ですが,本件に関しては,先ほど八丁地委員からございました競争力の強化,企業の負担という観点からいたしましても,同意権なのか決定権なのかという話でございますので,さほどこれで負担が増えるという問題ではないという性格があろうかと思います。また,会社の財政状態・経営状態が悪化しているときに粉飾の誘因が高まるという問題について,決定権か同意権かということを変えていくことによって,投資家から見た安全弁としての機能が非常に高まるといった,コストに比べてメリットが非常に大きいということが,指摘できるかと思います。  また,実態といたしまして,同意権で十分けん制が図られているかどうかという事実認識がポイントかと思います。改めて公認会計士協会などにもヒアリングいたしましたが,やはり情報の集まり方といった場合に,同意権にとどまる場合と,それから決定権がある場合では,相当実質的に違いがあるとの感触でございます。  また,部会資料10にございます委員会設置会社の監査委員会,それから,監査・監督委員会設置会社の監査・監督委員会の会計監査人の報酬等の決定権限につきましても,当然付与すべきと考えております。 ○築舘委員 この件につきましては,第3回の部会でも発言させていただいたところですが,若干改めて申し上げたいと思います。会計監査人に関する決定権を監査役に付与すべきであると考える最大の目的は,監査する立場にある会計監査人が,監査される立場にある経営執行者からの独立性を制度的に保持することによって,粉飾決算等の会計不祥事を防止するということにあると考えているわけであります。つまり,会計監査人の独立性を制度的に確保することが肝要ではないかと思うわけでございます。それから,監査制度におきましては,監査に関する情報を利用する人たち,つまり株主とか債権者等が,監査が適切に行われていることを信頼できるということが重要でありまして,そのためには,会計監査人の外観的な独立性も重要になってくるのではないかと思うわけでございます。私ども日本監査役協会では,何年かに1回ずつ,企業不祥事の事例研究も行っております。その趣旨は,そういうものを未然に防止していくためには,どういうポイントで監査をしていくべきなのかということを探りたいということでありますが,そういう研究活動から毎回出てくる内容の一つが,粉飾決算を初めとする会計不祥事は,経営トップあるいは会計財務担当役員が主導的に関与して,そして,いろいろな事情はあるのでしょうが,会計監査人がこれに絡むときに多く発生しているという傾向があると感じています。実は,企業不祥事というのは,こういう会計不祥事以外にも,製品をめぐる不良とかリコールとか,いろいろなことがあるわけでありますが,会計不祥事に関しては,やはりトップが絡んでいるという傾向が他の不祥事に比べると少し多いなという感じがしております。もちろん,これまでもいろいろな方がおっしゃっていますように,現行法制下でも,同意権を最大限に活用して,そして,実質的に決定権と同様の機能を発揮している監査役も少なからずおります。しかし,問題はむしろ,同意権では決定権と同等の効果を上げることが困難な会社―困難とまで言っていいのかどうか分かりませんが―,悩ましい会社も少なからずあるということも,やはり否定し切れないというところにあると思います。こうした会社について,今申し上げましたような経営トップとか会計財務担当役員が主導的に関与して,かつ会計監査人がこれに絡むような不祥事を少しでも防止していくためには,会計監査人の独立性をより高めることが必要ではないかと。そのためには,会計監査人の選任議案及び監査報酬の決定権について,監査役に移管することが望ましいのではないかという考え方を申し上げているわけでございます。  なお,監査役制度の趣旨との関連で,業務執行に関わる事項なのだから,その決定権限を監査役に付与することには問題があるのではないかという御懸念の指摘も,この場でも出ていることを承知しております。これにつきましては,業務執行に関わる事項といえるわけです。しかし,この件は,いわゆる経営戦略的な決定事項といった性格のものでは必ずしもないともいえると思います。それから,会社法上,監査役は監査費用について会社に対する請求権を認められておりますし,したがって,監査費用は本来監査役が判断すべきだという考え方も採られているのではないかと思われる中で,会計監査人の報酬も監査費用の一つであると見ることもできるのではないか。そのようなことをいろいろ考えますと,業務執行の二元化という懸念は必ずしも当たらないといえるかと思っているわけであります。それから,会社法上では既に,これも,これまで委員あるいは幹事の方から御指摘がありましたけれども,監査役は,会計監査人選任議案の総会への提出請求権等の一定の機能を与えられているということで,この問題に触れてはいけないのだということまでは会社法上考えられていないと思いますので,むしろ決定権付与によってその権限を外観的にもより明らかに示していくということが,一つの方向性としてあるのではないかと思っているところでございます。 ○神作幹事 これまでの御議論にございましたように,監査役に現在認められております同意権をどのように評価するかについて,意見が分かれているようでございます。そこは,評価に関わるところでございますので,私自身,どのように評価をすべきかについて確信をもって申し上げることはできないのですけれども,法律論としては,これまでの御議論の中で次の2点が指摘されてきたのではないかと思います。第1は,監査役に業務執行に関わる事項についての決定権限が追加されることを,非業務執行機関としての監査役制度とどのように整合させるのかという問題です。もっとも,この論点についての反論は,ただ今,築舘委員からなされたところであります。第2は,このような規定を置くと,株主総会の意思決定との狭間でデッドロックに乗り上げる場合がある,特に監査役の地位が強化されているためにデッドロックが生ずるおそれが小さくないという御懸念がこれまでの審議の中でも指摘されていたと思います。本日の補足説明のなお書きの部分におきまして,委員会設置会社の監査委員会については,報酬等の決定権限を付与するかどうかということを論点とすべきであるとございますけれども,監査役会と比較すると,監査委員会の場合は今申し上げた二つの問題点はいずれもクリアされているのではないかと思われ,少なくとも委員会設置会社については監査委員会に対し報酬等の決定権限を付与することは十分に考えられると思います。  さらに,より積極的な論点として,監査委員会の場合には,内部統制体制あるいは内部統制部門に対して直接的な指揮命令関係を及ぼすことが可能になりますので,正に当該会社の内部統制体制・内部統制部門と一体となって,会計に係る監督に全面的に関与することになります。したがって,会計監査人の仕事について人事面・報酬面を含めて総合的かつ適正に評価することがより容易になるのではないかと考えられます。要するに,私は,現時点では,監査役会設置会社における監査役会の権限の拡大については慎重に考える必要があるけれども,委員会設置会社の監査委員会については,報酬等の決定権限の付与について積極的に考えてよいのではないかと考えているところでございます。 ○八丁地委員 第一読会で述べたとおりで恐縮ですが,私も,会計監査人の選解任等に関する議案等及び報酬等の決定を監査役の権限とすべきでないと思料しております。いわゆるインセンティブのねじれという問題は,会計監査人自身の職業倫理の強化や見識の向上,監査役が既に持つ権限を適切に行使することで,十分に解決ができると考えております。言うまでもなく,会計監査人の選任に関して,監査役には選任議案・報酬決定の同意権,選任議案の提出権があるため,適切なイニシアティブを取ることができる立場にあると思っております。また,立法事実の話になりますが,この権限の行使で不十分だった事例があるのかということに関しては,そうした事例は出てこないのが現状ではないかと思います。仮に幾つかあったとしても,それはかなり限定的なケースではないかと捉えております。このように,実例の有無などをもう少し踏まえた上で,改正の議論がなされるべきではないかと思います。さらに,部会資料10において,監査役に決定権限を付与すると,別の機関による監査を受けることがない業務執行に関する決定を認める結果となると指摘されているとおり,監査役に業務執行権限を与えることになり,ガバナンスの基本原則に反するのではないかと思います。また,監査役による決定への是正が仮に必要となった場合にも,その交代による是正が限定的になります。  先ほど委員会設置会社はどうするかという意見がありましたが,委員会設置会社における執行と監督の分離を前提に考えれば,会計監査人に支払う報酬は,いわゆる執行の側が所管する会社の資金の配分の問題であって,明らかに業務執行に属することであります。私もこの実務を相当やっていますが,監査委員会に会計監査人の報酬等の決定権限を付与するのは,無理があるという感じがいたします。 ○油布関係官 非常に表面的な分析ということをお断りした上で申し上げます。いろいろコストがあると思うのですが,その部分的なコストの一つということであるのですけれども,一般的に,同意権を持っている人とか提案権を持っている機関が別にありますと,通常,意思決定に当たっては相当な労力が事実上,特に日本の場合は掛かると思うのです。役所の場合は特にそうだったりするのですけれども,そうでなくても,それは時間も浪費されますし,そういうエネルギーが相当費やされている可能性はあるのだろうなと思います。今,八丁地委員がおっしゃったように,現行の同意権・提案権の下で余り問題になっている事案が極めて少ないのだとすれば,なおのこと,そういう同意・提案手続ということに貴重な企業の労力を費やしていいのだろうかと。むしろ,こういう決定権のようなものは,どこか別の機関,すなわち監査役に委ねてしまって,取締役のほうは,ほかにもいろいろ判断すべき大変なことが山ほどございますので,そちらにしっかり集中していただくというのも,大変部分的,表面的な分析でありますけれども,そういうコストが現に掛かっているのではないかという気もちょっといたしました。 ○奈須野幹事 会計監査人の選解任に関する議案の扱いと,報酬の決定に関する議案の扱いは,両者を分けて考える必要があると思います。  まず,会計監査人の選解任について考えます。会社法では,会計監査人による監査手法と監査結果の相当性について監査役は意見を表明するという方法によって,監査役監査の結果を表明するという建て付けになっています。この建て付けでは,監査役監査の前提として会計監査人監査が行われているので,監査役としても,自己の監査機能をしっかりとしたものとするために,信頼できる適切な会計監査人を選択できるようにすることが望ましいと考えられます。  そこで,344条については,会計監査人の選解任については監査役会の決定事項とし,それから,新設が検討されている監査・監督委員会についても決定事項とすることが,会計監査の機能向上の観点から,合理性があるのではないかと思います。委員会設置会社では会計監査人の選解任議案の内容は監査委員会が決定するとなっておりますので,このことで,監査役会設置会社においても,委員会設置会社における監査と同等の監査機能が期待できるのではないかと思います。  一方で,会計監査人の報酬の決定について考えると,会社の財務に関わる経営判断と密接に関係するので,業務執行と切り離して決定するということは妥当でないという八丁地委員の御意見に共感する点があります。たとえ同意権であったとしても,報酬であれば,結局金銭で評価できるので,提案と不同意を繰り返すことによって,いずれかの時点で合理的な水準になると考えられます。信頼関係が前提となる選解任とは,これは少々違うのではないのかという感じもします。  そこで,委員会設置会社の監査委員会,監査役会設置会社の監査役,監査・監督委員会のいずれについても,会計監査人の報酬決定権を付与するということについては,やや慎重な検討が必要ではないかと思っております。 ○上村委員 私は,監査役会に会計監査人の選解任権を与えてもいいと思うのですけれども,金商法の公認会計士・監査法人の選解任はどうするのですか。これは経営者がやるのですか。実際,金商法の公認会計士・監査法人と会計監査人が別の監査法人ということはないわけですよね。すると,金商法の公認会計士・監査法人は経営者が選任しておいて,会計監査人は監査役会ですという話になるのでしょうか。会計監査人の選任にはインセンティブのねじれがあるけど,ここにはねじれはないと言うのでしょうか。この話を突き詰めていきますと,結局,監査役会は,金商法の公認会計士・監査法人,これを商法概念に言い換えたにすぎない会計監査人も一体として選解任するという話にならなければおかしいはずだと思うのですけれども,そうした議論なしで,これは商法なのだから商法の世界だけでやればいいのだということでは済まないのではないかというのが一つです。  それからもう一つは,前から何度も申し上げていることですけれども,金商法の監査証明と監査役の監査報告とは制度の目的が違うと私は思います。つまり,金商法の監査証明は,投資家の投資判断形成のために,期中における有価証券の真実価値を常に把握できるような会計であることを前提に,それを期中監査によって証明できるような監査,言い換えると,資本市場での投資尺度の共通性というか,共通の評価尺度といいましょうか,そういうものを提供するというところに金商法の目的があって,監査役はその目的とそのための手法を持っていないはずなのです。ですから,会計監査人の選解任に関与したりするのは別にいいのですけれども,同時に,自分で選任・解任しておいて,会計監査人といっても,それは金商法上の公認会計士ですから,そうした金商法目的を担う監査証明ないし会計監査の結果の相当性について意見を述べるという,本来かなり無理なことを同時にやりながら,いろいろな権限を付加していくということには,私は,前にも申しましたけれども,違和感を感じております。そうではなくて,会計,監査,内部統制,内部監査といいますか,飽くまでもそういうものに傾斜した業務監査としての監査報告をしていただくというのが本来の在り方のように思います。そのように設計するのであれば,別に金商法と会社法を区別する必要もなく,会社法固有の立場において,会社法目的にかなうかどうかという観点から会計監査人の選解任に関与するのは,十分に成り立ち得る議論だと思います。しかし,そういうことを全然考えないで,公認会計士・監査法人は経営陣が選ぶので,これに関する報酬も経営者が決めますけれども,商法の会計監査人は監査役会です,というようなことで,本当に済むのだろうかというのが素朴な疑問としてあります。 ○岩原部会長 ほかにございますでしょうか。この問題については,御意見が非常に分かれて,一定の整理が非常に難しい感じがしております。まず,監査役が会計監査人の選解任の決定権を持つべきかという問題,それから,監査役が会計監査人の報酬の決定権を持つべきかという問題があります。それともう一つ今日御議論いただいたのは,現行法上は,委員会設置会社は,監査委員会が会計監査人の選解任の決定権を持っていますが,報酬の決定権は持っていなくて同意権だけだというのを,決定権にまで上げるべきかです。この三つの問題が議論されたわけですが,それぞれについて皆様違った御意見で,しかも,それがいろいろなマトリックスで,賛否の結び付き方も様々ですので,一定の整理をすることは非常に困難かと思います。そういうことで,この問題については,多様な御意見を頂いて,かなり違った考え方があるとしか申し上げられないかと思いますが,よろしいでしょうか。  それでは,第2の「(2)取締役解任の訴えの提起権」に移りたいと思います。まず,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○塚本関係官 それでは,「(2)取締役解任の訴えの提起権」について御説明いたします。本文は,監査役の監査機能の強化の観点から,取締役の職務執行に重大な違法があった場合等に,監査役に,取締役解任の訴えの提起権を付与することについて問うものでございます。取締役解任の訴えは,取締役を解任する旨の議案が株主総会において否決されることが要件とされておりますが,当該要件については,当部会において,実務上紛争の解決に寄与する機能があるとの指摘がされております。そこで,株主総会における解任議案の否決という要件との関係で,監査役に,取締役の解任議案が否決されたことの修正を認めることが適切であるといえるか,また,監査役による差止請求権が既に存することから,これに加えて,監査役に取締役解任の訴えの提起権を付与することの当否について,検討を要するものと存じます。 ○岩原部会長 ありがとうございます。それでは,皆様にこの点についての御議論を頂きたいと思います。いかがでございましょうか。 ○三原幹事 この議論と少し違うところも含めてお話しさせていただきたいと思います。前回も議論し,繰り返しになって恐縮ですけれども,実際に取締役の違法行為があったときに,監査役会設置会社制度を前提として,どのような対応がいいのかというのがここでの基本的な問題意識であり,これが今,取締役の地位そのものを奪う解任の訴えという形で提案されています。具体的に監査役が不祥事対応をされている事例を見ますと,本当に裁判所にいきなり持っていくのがいいのかどうかということを感じるわけでございます。実際に取締役の違法行為が起こるのは,具体的には,資金移動ができるような代表権があったり業務執行権がある代表取締役又は業務執行取締役です。監査役は,個々の議案についてはもちろん適法性の意見は言えるわけですけれども,その賛否について取締役会で決定する議決権がないということと,個々の常務的な日常業務は,代表者ないし業務執行取締役が執行するわけでございますから,それを差し止めるにはどうするかというと,具体的には,代表権がなくなる,又は業務執行権がなくなるということであれば,資金移動ができないということになります。そうすると,それを裁判所に持っていかないといけないのか。特に裁判所に,代表権ではなくて,取締役の地位そのものを奪う形で持っていかなければいけないのか。そのためには,そもそも選解任権は取締役会ではなくて株主総会にありますから,株主総会での決議をもっていったん否決して,その上で取締役の解任が株主総会で否決された場合に初めて裁判所に持っていくのがいいのかという話になってくるわけでございます。これは,私が勝手に言っていることではなくて,ほかの委員のお話も踏まえて言っているわけですけれども,監査役にも代表権の解任の議決権だけは,定款自治の範囲内で,定款で認めた場合には,取締役会で議決権があるということであれば,それを前提にして,取締役会において,監査役が代表権を奪うための決議をし,それに賛成する。もちろん,反対する取締役がいれば,反対する意見を書いていただくなり,議論を議事録に残すという形にして,取締役会の中でこの代表権ないし業務執行権だけを剥奪するといったことが制度としてはできないのかということを疑問として思っております。もちろん,今のこの解任の訴えの提案について,これ自体に特に異論があるとか,問題があるとかということではありません。その前にできる制度がないのかな,ということを思う次第でございます。前回の御議論を繰り返して,恐縮でございます。 ○前田委員 監査役に取締役解任の訴えの提起権を与えるということは,違法行為の是正措置の一つとして検討に値するとは思うのですけれども,取締役の違法行為があるときに,個々の行為について差止めをしたり,責任を追及したりするのとはまた別に,ここまで監査役の権限を拡大することが本当に適当かということが問題になるのだろうと思います。そして,もしもこの制度を導入するのであれば,解任議案否決の要件につきましては,前にここで議論がございましたように,仮に現在の株主による解任の訴えのほうでは維持するといたしましても,この監査役による訴えにつきましては,不要とすべきではないかと思います。つまり,監査役による訴えであれば,株主による訴えほどに,そう濫用的な利用の心配はないと思いますし,特に監査役は,自分自身では株主総会を招集したり,解任議案を提出することもできないのですね。ですから,もしこの制度を入れるのであれば,解任議案否決を要件にするのは,何か中途半端な気がいたします。 ○築舘委員 監査役としても悩ましいところなのですが,この問題については,私ども監査役自身がこれまで要求してきたようないきさつというよりはむしろ,海外の投資機関等からの意見とか批判があって,そういう中から問題提起がされてきている経緯が強いのかなとも思っております。今既にお二人からお話が出ましたけれども,私ども現役の監査役としても,法律論的にはどういう整理がされればいいのかというイメージがなかなかきちんと描きにくくて悩ましいところなのですが,まずは,現状の監査役制度の機能発揮に対する状況認識が必要だと思います。つまり,今の状況で支障がないのか,あるのかといったことです。それから,既に監査役に付与されている取締役の違法行為等の是正手段,差止請求権があるわけですが,それで不十分なのか,十分なのか,そのような検討が必要なのだろうと思います。  それで,更になのですが,取締役の職務執行に重大な違法があった場合等といった条件設定の下に今日の問題提起がされているわけですけれども,その要件をどう考えればいいのか,あるいは株主総会での取締役解任決議案の否決という要件をかませていくような場合には,株主総会の決定について監査役が争うという権限を与えることの会社法としてのその辺の考え方というか,整合性をどう考えるかといったいろいろな整理をしていただきながら御議論をお願いしたいなと感じております。 ○奈須野幹事 監査役は,違法行為に対する監査権限を持っていて,その実効性を担保するために,取締役が法令・定款違反行為をするおそれがある場合などにおいて差止請求を行うことができます。ただ,行為が行われてしまった場合は,差止めの意義も失われてしまいますし,又はこれを後になって巻き戻すということは,現実にはできなくなってしまうので,このような場合に備えて,取締役の解任をもって担保する必要性があるのではないかと思います。したがって,取締役の職務執行に重大な違法があった場合などに,監査役が取締役の解任に関与できるものとするということが実効的ではないかと思います。  ただし,取締役の選解任そのものは,株主総会が一義的に判断するべきものであって,監査役に取締役解任の訴えの提起権を付与することは,社内対立を生の紛争のまま裁判所に持ち込むことになるおそれがあるので,消極的に考えております。854条との関係でも,役員解任の訴えは,株主総会で否決された場合に,3%以上の議決権を有する株主にしか認められていないので,現状このような権限を持たない監査役がいきなり解任請求をできると改めるのは,妥当でないように思われるわけでございます。  そこで,提案ですが,監査役が取締役の解任に関与する方策として,取締役の職務執行に重大な違法があった場合などにおいて,当該取締役の解任議案を決議する臨時株主総会の開催を請求する権能を監査役に付与し,取締役解任の判断を株主総会に委ねることができるような仕組みが考えられるのではないかと思います。このことによって,監査役の監査機能が強化されて,3%の議決権に満たない少数株主の保護にも資することが期待されるのではないかと思われます。  ちなみに,韓国でも,日本とほぼ同じで,商法402条で監事による差止請求権が定められており,監事による取締役解任請求権の規定はありません。日本との違いがあるのは商法412条の3で,監事の臨時株主総会招集権限というのがありまして,私が今申し上げたようなことができるような仕組みになっているのではないかと推測するわけです。そこで,我が国でも,この韓国の仕組みを参考に議論すべきではないかと考える次第です。 ○野村幹事 一応,現行法の確認ということから始めさせていただければと思います。現在,監査役が取締役の不正行為等を発見した場合には,382条というところで,取締役に報告するということになっておりますし,また,それを受けて383条の第2項では,監査役自身が取締役会を招集することができるという仕組みになっているかと思います。その上で,383条の第1項を見ますと,監査役は,当然その取締役会で意見を述べることができるわけですので,代表取締役に不正行為があるならば,場合によっては代表権を奪うべきではないか等々の意見を述べるということができるのだろうと思います。そういう意味では,先ほど三原幹事から御提案のあったような問題というのは,決定権までは持っていませんけれども,かなりの部分で取締役会というものをワークさせるような仕掛けが現行法の中にはあるだろうと思っています。この場合は,代表取締役の代表権の解職の問題だけのみならず,取締役の解任の議案を株主総会に提案すべきではないかということも,この取締役会で審議されることになるだろうと思いますが,そこは,場合によっては取締役会がそこまで必要がないということであれば,そこで取締役の解任に至る道筋が途絶えてしまうという可能性があるかとは思います。そこで,先ほどの奈須野幹事のような意見が出てくるわけで,確かに監査役に臨時株主総会の招集権を与えるというのも一つの政策としてあり得ると思いますが,現実には,株主提案という形で,他の株主が取締役の解任を訴えてくるというルートももちろんあるわけで,これが現行法上の正規のルートだろうと思います。ところが,そういった株主総会が少数株主によって提案され招集された場合というのは,ほとんどの場合は否決に向かっていくわけでありまして,実際それがそこで止まってしまうというのが恐らく問題点なのだろうと思います。現行法では,株主総会に提案される議案について監査役がチェックした上で,そこに法令違反や著しく不当な行為があった場合については,384条で,監査役はその議案に関しては株主総会に報告する義務を負っているという形になっていますので,それを一歩進めて,取締役の解任が議題となっている株主総会では,監査役の発見した取締役の違法行為について,株主総会で意見を述べることができる,あるいは意見を述べなければいけないといった形にすることによって,他の株主の判断に供するという形にすれば,奈須野幹事の御提案の一歩手前のところで一つの解決策を見いだせるのではないかと思います。  それでもなお株主総会においてその議案が否決されたという場合は,それは株主の意思でありますので,後は伝統的な資本多数決の修正手段として,少数派株主が解任の訴えを提起することで足りるのではないかと思います。したがって,繰り返しになりますが,改善すべき点があるとするならば,現行法のぎりぎりのところでの改善策としては,少数株主等によって株主総会において取締役の解任の議案が提起されている場合に,監査役が何らかの意見を陳述するということで,解任決議に影響を与える道を開くのが妥当かと思います。  ただし,このアイデアは,株主が提案権を行使してくれなければワークしないわけですから,奈須野幹事の御提案との分かれ目は,株主が要求していない場合にまで株主総会で審議する必要があるのかという点に尽きるように思います。 ○岩原部会長 ほかに御意見はございますでしょうか。この問題については非常に多様な御意見を頂きました。しかも,単に取締役解任の訴えの提起権ということだけではなくて,その前提となる問題を含めて,違法な取締役の行為があるときにどのような対応が考えられるかということにつき,かなり多様ないろいろな御意見を頂いたところだと思います。例えば,三原幹事のような御意見もあったところです。そこで,今日ここで皆様の意見を集約するのは難しいと思いますので,多様な御意見を踏まえて,今後更に御審議を頂くということにさせていただきたいと思います。  それでは,第2の「3 監査の実効性を確保するための仕組み」に移りたいと思います。事務当局からの御説明をお願いします。 ○塚本関係官 それでは,「3 監査の実効性を確保するための仕組み」について御説明いたします。監査役による監査については,その実効性を確保するための仕組みの見直しとして,事業報告の内容に,業務の適正を確保するために必要な体制の運用状況の内容の概要等,すなわち内部統制システムの整備に関する決定に基づく具体的な運用の実態という事実関係の概要等を追加することが考えられます。このほか,当部会において,内部統制システムに関する事項に,監査役の職務を補助すべき使用人に対する監査役の指示の実効性確保に関する事項や,監査費用に係る会社の方針に関する事項を追加すべきであるとの指摘がされており,いずれも検討の余地があるものと存じます。本文は,これらに加え,監査のための情報収集をより充実させるための仕組みを見直すことについて問うものでございます。  この点について,従業員が監査役に不祥事等の情報を提供しやすくするという観点から,従業員が監査役のうち一部の選任に関する株主総会の議案を決定することとすべきであるとの指摘がございます。これに対しては,当部会において,仮に監査役による監査のための情報収集について不十分な点があるとすれば,会社が,取締役及び使用人が監査役に対して法令違反等についての情報を提供するための体制を整備することによって対処することがより適切であるとの指摘がされております。現行法の下においては,内部統制システムに含まれる事項として,「取締役及び使用人が監査役に報告をするための体制その他の監査役への報告に関する体制」が挙げられております。この点に関して,不祥事等の情報がより適切に提供されるようにするため,内部統制システムに含まれる事項として,例えば,「使用人が監査役に法令違反等の情報を提供したことを理由として当該使用人に対して不利益な取扱いをしないようにするための体制」を明記することについて,検討の余地があると思われます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。それでは,この第2の3の問題について御議論を頂きたいと思います。本文の,情報収集をより充実させるための仕組みについて御議論を頂く前に,補足説明の前半にございます,監査の実効性を確保するための仕組みについて,まず御意見を頂きたいと思います。いかがでございましょうか。 ○築舘委員 今の法制度の下でも,各社が自主的に内部統制システムの運用状況を事業報告あるいは監査役の監査報告書に記載することは可能であります。しかし,第3回で申し上げましたように,積極的に言及している例というのはまだ少数でありまして,パーセンテージでいいますと一桁にとどまっているというのが実情です。このような状況を改善していくためには,内部統制システムの基本方針に限らずに,その運用状況や評価結果についても,事業報告並びに監査役監査報告書に記載されるようにしていってはどうかという提案をしているわけでございます。やろうと思えばできるではないかという話もありますので,私ども日本監査役協会としましては,取りあえずできることをベストプラクティスとして,取締役が行った内部統制システムの運用の評価結果についても事業報告で開示してもらうように,監査役が経営者に働き掛けていこうではないかということを会員に呼び掛けてアクションを取ろうとしております。各監査役としても努力していきたいということなのですが,一方で監査役が置かれている監査環境といいますので,これは千差万別でありまして,会社の規模とか業種・業態,それから経営者の姿勢とか,ボリシーとか,いろいろなことで様々な監査環境に一人一人の監査役は置かれております。監査役自身の頑張りとか努力とか,モラールとか,それは目いっぱい頑張るわけですが,しかし,それで済むとは言い切れない面もあるわけです。したがって,監査役制度全体の実効性を確保するためには,それらの個別の監査環境に左右されないような,そして,監査役が主体性を持って職責を果たしていけるような環境や条件を整備する必要があるということで申し上げているわけでございます。本日の部会資料10にもこういう方向で検討が必要ではないかと書いていただいているわけですけれども,是非この先の検討も進めていただければと思います。 ○逢見委員 ただ今の築舘委員の御意見に賛成でございます。会社のコントロール,ガバナンスを行う上で,株主からのガバナンス,それから,監査役が内部統制との関係の中でガバナンスをするという仕組みがあると思います。しかし,我が国では,減少傾向にあるとはいえ,株式の持合いが依然として存在しており,また,非上場オーナー会社も数としては相当多いため,こうしたところで株主のガバナンスというのは,まだまだ非常に弱いと言わざるを得ないと思います。そういう意味では,監査役監査が十分に機能する必要があると思います。そのためには,監査環境の整備ということで,ここに指摘されているように,監査役のために働くスタッフの拡充あるいはそのための監査費用の充実によって,監査役が十分に機能を発揮できるような環境を整える必要があるのではないかと思います。 ○八丁地委員 経済界の意見を申し述べます。監査の実効性の確保は,本来は各社が経営のシステムの中で自主的に取り組むべき課題であるという認識です。そもそも会社法の施行規則にも,監査役が十分に機能を発揮するため,取締役は,監査役の職務執行のために必要な体制の整備に留意することが明記されており,既にほとんどの企業は,内部統制部門との連携も含めて,体制を整えているのではないかと思います。事業報告には既に業務の適正を確保するための体制の記載等もありますし,開示事項の追加が必要かということに関しましては,慎重に考えていただきたいと思います。  それから,内部統制システムの整備に関する事項として,情報提供した使用人への不当・不利益な取扱いをしないようにするための体制を明記するとの提案がございますが,公益通報者保護制度の下で,そうした取扱いをしないことは当然のことではないかと思います。こうした内部通報システムに関しては,多くの会社が,執行側のシステムの整備とともに,執行側の内部通報の報告や自ら内部通報を受ける監査側のシステムを整備しており,また,委員会設置会社では取締役対応のシステムも併せて整備しております。 ○岩原部会長 前半の,監査の実効性を確保するための仕組みについては,特にないですか。 ○上村委員 これはただの確認ですけれども,監査役による監査のための情報収集という場合には,これは当然,金商法の有報とか半期報告書,四半期報告書,臨時報告書,タイムリーディスクロージャー,これは全部監査役の監査のための情報であるという前提で築舘委員がおっしゃっているのかどうかです。もうこれは開示されていますし,誰もが利用していますから,そんなことを言っても言わなくてもいいようなものですけれども,どうも,そうでないと言う人もいるようなので,別に築舘委員でなくてもいいのですけれども,それが当たり前だということが前提になって情報収集をより充実させる仕組みという提案になっているのかどうかですね。そこはどうなんでしょうか。 ○築舘委員 金商法の世界が監査役の監査の対象に含まれるかどうかという話とも関係するのですが,この内部統制のことが出てきたときに,監査役協会としては,金商法の内部統制,経営者が行う内部統制及び会計士が行う監査,これは,言うならば経営執行部の業務である,したがって,広い意味で業務監査の対象に広い意味で含まれるという考え方の整理をして,いろいろな基準・規程類の整理をしておりますので,今,上村委員のおっしゃった,含まれているのかという意味では,含まれているという認識で私どもは考えております。よろしいでしょうか。 ○上村委員 内部統制だけではなくて,ディスクロージャーも全部ですね。 ○築舘委員 そうです。 ○藤田幹事 私も単なる確認のための質問です。「内部統制の必要な体制の運用状況の内容の概要等」という事項の事業報告の内容への追加ですが,あるいは一部の委員・幹事の方と認識が違うのかもしれませんが,これは,内部統制システムの評価ではなくて,具体的にどんな内部統制システムを置いているかという純粋客観的な情報だけの開示ですね。金商法上の内部統制報告書は評価の開示を要求しているのですが,それに並ぶような性格のものではないと理解してよろしいですね。なぜそれを伺うかというと,内部統制システムの評価まで書かせたいという御意見をお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんが,そのようにすると,例えば評価を誤りますと虚偽表示になってしまう可能性があり,429条2項の責任等,いろいろな副次的効果が付いてきてしまうのです。そういうことを考えると,自発的に評価を書くのはもちろん自由なのですけれども,強制的に評価まで書かせることには制度的に疑問もあります。そういう意味で,ここで言及されているのは事実についての記載であって,評価は含んでいないという理解でよろしいですね,提案は。 ○河合幹事 今の御質問につきましては,先ほど御説明させていただいたように,内部統制システムの整備の決定に基づく具体的な運用の実態という客観的な事実関係の概要を念頭に置いています。したがって,評価は含まないものとして提案しております。 ○築舘委員 第3回目ぐらいからこの件を申し上げているわけですが,今のお話と同じような認識でおります。 ○岩原部会長 これについて,ほかに御意見がございますでしょうか。今までの御発言を伺っておりまして,また,特に御発言がない方々も恐らく,この部会資料10の3あるいはその補足説明の前半に書いてありますような,監査の実効性を確保するための仕組みについては,比較的異論がないのではないかと承知しております。そのようなことでよろしいでしょうか。  それでは,それを前提にさせていただくこととして,後段の,情報収集をより充実させるための仕組みについては,先ほど八丁地委員から若干言及がございましたが,ほかの方からはまだ御意見を伺っておりませんので,従業員による監査役の一部の選任の制度を導入すべきか,あるいは従業員からの情報提供の在り方についての制度整備につき,御意見を頂きたいと思います。いかがでしょうか。 ○逢見委員 従業員からの適切な情報提供がなければ監査役がその役割を十分に果たすことができないという点については,以前から私も意見として申し上げているところであります。このベースになるのは,従業員の立場から見ますと,現行の監査役と従業員との間の信頼関係が構築されているかということだと思います。それがなければ,従業員から情報を提供することにためらいを覚えることになると思います。今回提案として,報告を監査役にした場合の使用人に対する不利益取扱いをしないという点を挙げていますが,これは言わば当然のこととして受け止めているのですが,果たしてそれだけで十分かということでございます。従業員との信頼関係をしっかり持つ監査役という意味では,従業員が一部の監査役の選任議案を決定する従業員選任監査役という制度は,今回の会社法見直しの視点である,会社を取り巻く幅広い利害関係者からの一層の信頼を確保するという観点から,意味を持つものではないかと思っております。 ○岩原部会長 ほかに御意見はございますでしょうか。 ○野村幹事 今の御提案のあった点なんですけれども,逢見委員のほうからも既に具体的な御提案がなされておりますように,監査役の選任というものが株主総会の決議事項であるということと,きちんと整合性を取った形で御提案を準備されているものと理解した上で,あえて申し上げさせていただきたいと思いますが,従業員が単に候補者を提案できるというだけでは株主総会で否決されるだけですので,仮に従業員のほうからの提案に一定程度配慮した形で監査役を選ぶべしといった制度を仕組んでいくということになった場合には,現行の会社法の基本的な考え方からややかけ離れてくるという部分があるのではないかなと危惧するわけでございます。と申しますのは,これは釈迦に説法でございますけれども,本来,会社法は,投資者であります株主が自ら経営を行うべきところ,自己の財産の管理をその経営者に委ねるということから生じます所有と経営の分離に対して,いわゆるエージェンシー問題が生ずるということから,経営者の暴走を,出資者である株主が自らに代わって監査をしてもらう人を常駐させるというところに監査役の基本があるかと思いますので,そういう意味では,監査役に本来の機能を十全に発揮してもらうためには,監査役という制度の中に異なるベクトルを持ったものを含めることが必ずしも合理的ではないと思われる部分があるからでございます。  そういう点で考えてみましたところ,会社法そのものの基本法制を検討するこの会社法制部会において,果たして今の御提案がどのぐらいのコンセンサスを得ているのかということは慎重に諮っていただいた上で,部会での御提案としていただければ有り難いなと思います。と申しますのは,これからの審議の経緯から考えていきますと,恐らく,部会の一つのアイデアとして一定の方針が固まっているものについては,その方向で一般の方々にパブリックコメントをお願いするという形になり,また,提案がある程度拮抗していて,どちらに決すべきか意見の分かれる論点について,広く一般の考えを問うていくというのが,これまでの法制審議会の一般的な段取りだと思いますが,部会においてある一部の御提案があるからといって,それが部会全体のコンセンサスにもならないのはもちろんのこと,かなりの方々が反対されているという実態がある中で,それをあたかも部会の中で審議の俎上に載っているかのような形で御提案をされることに対しては,私は強い違和感を感じます。そのような採り上げ方は,かなり世の中に誤解をもたらすことになるのではないかなと思いますので,できますれば,方向感を明確に確認した上で,中間試案に載せるかどうかを慎重に御検討いただければと思います。  私は,冒頭申し上げたような理由から,会社法の基本的な考え方,これは本質に関わる問題ですので,一部の政策的な配慮から,根本を揺るがすような改正をすることには基本的に反対という立場を採っているところでございます。 ○岩原部会長 ほかの御意見はいかがでしょうか。ほかには御意見はないでしょうか。 ○上村委員 私は最初にも申しましたけれども,従業員の監査役会参加が公開会社法だと言われて困ったのです。また,具体的な提案の形として,せっかく選任提案を出しても株主総会で否決されたらおしまいといったことではなく,もっと洗練された形での提案があり得ただろうとは思います。しかし,今,野村幹事がおっしゃったような会社法の基礎理論からおかしいというような主張に対しては根本的に大反対です。この話をここで展開するわけにはいかないでしょうけれども,つまり,株主の代理人として経営者を選んで,監査役も株主のために選んで,という説明はあり得たことも事実ですけれども,所有と経営の分離とおっしゃったのは,これは資本市場で公開した場合にそういう現象が出てきたはずです。公開前と公開後では株式会社の本質は変わるのでして,ガバナンスとか,経営目的とか,経営のミッションとか,それがまず先行していて,それを受けて投資家が出たり入ったりする,それらを評価した投資家がその会社の株式を買った時に彼は初めて「株主になる」という逆の説明,つまり株主は投資家の後から出てくるという説明もあり得るわけです。そうした観点からは,労働者はミッション実現組織としての株式会社の真っ当な構成員とみることも自然な理解です。黙っていると,野村幹事の意見に賛成したと言われるといけないので,そうした理由については抵抗があるということだけ申し上げておきます。 ○野村幹事 ここで上村委員と論争する気は全くないのですが,株主と投資家というところでどのような考え方の整理をすべきかということについては,上村委員の御意見に私も十分耳を傾けているつもりでありますし,そこでいわゆる資本市場の利用者として資本を出している人たちが株主として会社法上位置付けられているとしても,投資家としての側面を十分配慮した上で法制度を構築すべきだという上村委員の御意見には,基本的に私は賛成している立場でございます。しかし,そのロジックからいっても,基本的には,投資家あるいは株主というものから大きくかけ離れている従業員に監査役という役割を果たさせるということは,我が国の基本的なガバナンスの仕組みの中では,これまでも考えてこられませんでしたし,必ずしも必要性があるとは思っていないということでございます。 ○上村委員 私の立場からどうなるかは私に聞いていただかないと。ドイツでもやっているように,大きな話をし出せば,立法論としては労働者のガバナンス関与は理論的にも十分にあり得ると思います。しかし,今回はそういう話はしそうにないということですから,あえてこの問題を正面から議論の対象にしていないだけであって,もうちょっと大きな話で論議をすれば,労働者がいろいろな形で会社法の様々な局面に関わるということは,各国の会社法では普通のことですし,何ら不思議なことでも何でもないのですね。日本だけが論理的にそういうことはあり得ないということはないので。ただ,今回の改正については,そういう議論をする準備があるという感じはしないというだけです。 ○野村幹事 私は,従業員出身者が経営者の大勢を占めている我が国の会社法制の下において,重ねて従業員が何らかの形で監査に参加するというメカニズムをもし必要とするのであれば,そこで言っている従業員というのは,上村委員が想定されている諸外国における従業員の経営参加とは随分と違ったものを要求しておられるだろうということを前提として反論させていただいている次第でございます。 ○逢見委員 今回の会社法改正の諮問事項の中には,会社を取り巻く幅広い利害関係者からの一層の信頼を確保する観点ということが求められているわけです。したがって,今回,会社法制部会として何らかの報告を出すとすれば,その諮問事項にどのように答えるかということが求められているのだと思います。そういう場合に,従来の伝統的な会社法の概念からすると従業員の関与というのはあり得ないから,一部の議論として葬り去るべきだということは,諮問の姿勢から見て,必ずしもそういうことを求めているのではない。異なる意見があったからといって,それを伝統的な商法理論によってはじき出すことを求めているのではないのだと思います。 ○岩原部会長 この点について,あるいは補足説明の最後のところの,情報提供するための体制に関する御意見でも結構ですので,何か御発言はございませんでしょうか。 ○八丁地委員 経営においては,従業員から情報を得る仕組みの構築に,百数十年の歴史を持って十全に取り組んでいますし,既にいろいろな法的な手当てもあると思います。監査役は,会社に対する善管注意義務を持ち,非常に多くのステークホルダーの利害を代表するものと認識していますが,監査役の一部の選任議案を従業員が決定すれば,特定のステークホルダーの利害を代表する者が監査役に就任することになると考えられます。監査の実効性の確保や情報収集の必要性と,従業員選任監査役制度との関係は余りよく分かりませんし,従業員により選任されたほうが株主も含めた多くのステークホルダーの利害を適切に代表できるかということにも定見を持ち合わせておりません。このような観点から,従業員選任監査役制度の導入には反対であります。 ○岩原部会長 ほかにいかがでしょうか。情報収集をより充実させるための仕組みを含めて,御意見は何かございませんか。  従業員選任監査役の問題は,かなり意見が分かれたと言わざるを得ないかと思います。逢見委員のような御意見と,それに反対される八丁地委員,野村幹事のような御意見とがございました。情報収集をより充実するための仕組みについては,特にないですか。これ自体は,特に反対という御意見もないということでしょうね。では,そのように理解させていただきたいと思います。  それでは,ここでいったん休憩にさせていただきたいと思います。           (休     憩) ○岩原部会長 それでは,そろそろ再開させていただきたいと思います。よろしいでしょうか。第3の「1 第三者割当てによる募集株式の発行等」に移りたいと思います。まず,事務当局から説明をお願いします。 ○内田関係官 それでは,「1 第三者割当てによる募集株式の発行等」について御説明いたします。第三者割当てに関する現行法の規律については,会社の経営者が支配株主を選択することができる点で問題があるとの指摘がされています。1の本文は,そのような問題意識から,支配株主の異動を伴う第三者割当てに際して株主総会の決議を要するものとすることの当否について問うものでございます。当部会における議論では,検討の対象とすべき第三者割当てとして,(a)にあるような,引受人が親会社となるような第三者割当てや,(b)にあるような,引受人が発行済株式の議決権の5分の1以上を有する株主となるような第三者割当てが挙げられています。ただ今述べました,会社の経営者による支配株主の選択に対する問題意識に応える観点からは,このうち(a),すなわち引受人が親会社となるような第三者割当てを検討の対象とすることが考えられます。他方,会社法において第三者割当てに株主総会の決議を要するものとすると,資金調達の緊急性が高い場合に,かえって株主の利益に反する結果となることもあり得るとの指摘がされています。また,既存株主の保護は,差止請求権の活用によって図ることも可能であるとの指摘もされています。引受人が親会社となるような第三者割当てに際して株主総会の決議を要するものとすることの当否については,これらの点も踏まえて検討を要するものと存じます。  なお,第三者割当てによって親会社・支配株主となった者に対する株式買取請求手続を創設することの要否については,子会社少数株主の保護の在り方に関する議論を踏まえた上で検討することが適切であると思われます。  次に,(注)は,本文のような見直しの当否とは別の論点として,支配株主の異動を伴う第三者割当てに関し,社外取締役の意見の開示など,情報開示の在り方を見直すことについて問うものでございます。会社の経営者による支配株主の選択に対する問題意識を踏まえますと,支配株主の異動を伴う第三者割当てについては,差止請求権や株主総会での議決権などの行使に関する十分な判断資料が株主に提供されるよう,情報開示の在り方を見直すことも考えられます。例えば,第三者割当ての必要性・相当性に関する事項や割当予定先に関する事項を,株主に対して通知・公告すべき事項や株主総会参考書類の記載事項に加えることなどについて,検討の余地があると思われます。また,当部会においては,第三者割当ての必要性・相当性について,社外取締役の意見が開示される仕組みを設けるべきであるとの指摘がされています。支配株主の異動を伴う第三者割当てにおいては,経営者と会社又は既存株主との間に利益相反が生じ得ることから,社外取締役に期待される利益相反の監督機能に鑑み,社外取締役の意見が開示される仕組みを設けることも考えられます。社外取締役と同様,監査役についても,その意見が開示される仕組みを設けるべきであるとの指摘がされています。第三者割当ては,会社の資金調達に関する高度な経営判断を伴う側面も有するため,業務執行及びその決定に関与しない監査役の意見が開示される仕組みを会社法において設けることの当否について,検討を要するものと存じます。また,仮にそのような仕組みを設ける場合には,意見の主体を監査役のうち社外監査役の要件を満たす者とすることや,意見の対象を募集株式の発行等の差止事由の有無とすることなど,具体的な仕組みの在り方についても併せて検討を要するものと存じます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございました。それでは,まず,本文について御議論を頂きたいと思います。いかがでしょうか。 ○静委員 3点ほど申し上げたいと思います。まず,基本的なところでございます。1点目ですけれども,この問題の基本は,部会資料10にもありますように,たとえ資金調達という大義名分があるような場合であっても,取締役が逆に支配株主を選ぶというのは本末転倒なのではないかという考え方なのだろうと思います。そのように考えますと,少なくとも支配権の異動があるものについては,株主総会の決議を求めるべきだろうと思います。併せまして,差止請求権の活用で総会決議に代替するということは,ちょっと筋が違うのではないかと思うということでございます。一方,御指摘もありますとおり,緊急性の高い資金調達ニーズというのもありますので,こういうものに対応しないと,例えば資金繰りに詰まって支払不能のおそれが生じていったケースは救えなくなってしまうというのは,もっともな話だと思いますので,そういう場合には総会決議を省略できるといった例外を用意することも必要なのではないかと考えます。これが1点目でございます。  2点目に,情報開示の問題です。総会での株主の判断材料として,情報開示は大変重要だと思いますし,部会資料10にありますような参考書類に幾つかの事項を追加するということも大事だと思います。あるいは,必要性とか相当性につきまして,独立性の高い方の意見を開示してもらうというのがやはりいいのではないかと思っております。既に私どもの上場ルールでは,補充意見として第三者委員会の意見でも構わないといったことで,実施に移しているわけでございますけれども,社外取締役のような株主の負託を受けられた方の意見であることのほうが望ましいと考えております。これが2点目でございます。  3点目でございますが,最後に監査役の意見について触れられている部分がございます。監査役の意見という意味で申し上げますと,私どもの上場ルールでは,有利発行の該当性について御意見を頂戴して開示してもらうということをしているわけでございますけれども,例えばここで例示されておりますような差止事由の有無のように,適法性の範疇に近いものということであれば,社外監査役,社内監査役を問わず,監査役に意見を開示してもらうというのはよいことではないかと思います。 ○前田委員 親会社が出現するような第三者割当ては,実質的には組織再編に近い影響を株主は受けることになりますので,株主総会決議を要するという考え方に賛成でございます。そして,具体的な規律を考えていくときには,親会社といいましても,現行法の実質基準による親会社概念では,こういう支配関係の形成段階では,現実には使えないということになろうかと思いますので,議決権の過半数という形式基準を採らざるを得ないのではないかと思います。本来は,ここに限らず,会社法の実質的な親子会社概念は,開示の関係はいいとしても,効力に響いてくるところは形式基準に戻すのがいいのではないかとは思うのですけれども,それはまた非常に大きな問題ですのでさておくといたしまして,この場面では,形式基準を採って,かつ,支配株主が出現するのであれば,その支配株主は特に事業体に限る理由はないと思いますので,結局引受人が議決権の過半数を有することとなる第三者割当てについて,株主総会決議を要するという規律を考えていくのがよいのではないかと思います。 ○八丁地委員 経済界の意見ですが,支配株主の異動を伴う第三者割当てによる募集株式の発行等に際して,株主総会の決議を要するということには反対であります。理由は3点挙げられます。   1点目に,既存の株主の保護に関しましては,差止請求権の活用等によって図ることも可能であると思います。  2点目に,上場会社に関しましては,取引所規則により濫用的な第三者割当てが規制されております。見直しを検討する前に,まずは当該制度の導入による効果を見極める必要があります。  3点目に,会社法でこうした規定を設ければ,資金調達の緊急性が高い場合に柔軟な対応が難しくなります。それはかえって株主の利益に反するのではないかという懸念があります。総会の開催には時間が掛かり,危険なケースでは,倒産ということもあり得ます。本日,安達委員から提出された意見書の第3の1「第三者割当てによる募集株式の発行等」には,「特に非上場企業にとって公募増資は困難な状況にあり,第三者割当増資は有力な増資手段であることから,株主総会決議を要するものとされると,非上場企業の資金調達が機動的にできなくなり,非上場企業にとって深刻な影響が生じます」との指摘がございます。こうした点も踏まえ,企業の財務戦略や資金調達の緊急性にも十分配慮すべきであると考えております。  (注)に関しましては,社外取締役による意見開示が前提の記載になっておりますが,企業からは,この点にはナーバスな意見があります。社外取締役に限らず,監査役,第三者委員会など,経営陣から一定程度独立した者の意見でよいのではないかと思っています。 ○濱口委員 私は,株主権の基本的な保護という観点も踏まえて,静委員のおっしゃったように,原則として株主総会の決議を要するという方向に賛成です。ただ,その割合について,過半数若しくは5分の1がどういう点で合理的なのかというのはまだ定見がございませんので,その辺は慎重にトリガーのレベルを議論する必要はあると思います。  一方で,資金調達の緊急性への対応の問題,上場・非上場の区別の問題については,情報が足りないので,現にいろいろな過去の事例で,どういうケースがあって,どういうケースが救われなくて,どれほどの問題が起こり得たのかというあたりを少し検討した上で,静委員がおっしゃったような対策が必要なのかどうか議論してはと考えます。  このディスクロージャーについては,ここに書かれているようなことで,どこまで法で義務付けるのか,若しくは東証のルール等で追加していくのか。その辺は,今後のいろいろな事例への柔軟性という意味では,必ずしも法で規制するよりは柔軟なやり方のほうがいいような気もします。方向性としては,ディスクロージャーを強めるというのはもちろん賛成です。 ○田中幹事 2点ほど意見を述べさせていただきます。1点目は,このような規制をなぜ設けるのか,あるいはその裏側として,なぜこのような規制に反対するのかということの検討が必要かと思います。もちろん賛成派は,会社の支配権の異動に結び付くような決定に対しては株主が決定権を行使すべきである,会社の支配に関わることは株主に決定させるべきであるという考え方があると思います。そのような考え方に対する異論というのは二通りの方向があり得て,一つは,株主に決定させることは原理的には望ましいのだけれども,ただそのような決定を常に行わせることは時間と費用が掛かるから好ましくないという考え方です。これは,理論的に言えば,もし時間も費用も掛けずに株主の意見が聴けるのであれば,株主の意見を聴いても差し支えないという考え方になると思います。しかし,少なくとも理論的にはあり得て,しかも現在の法制度と整合的なのはむしろこちらではないかとも思われるもう一つの反対論があります。それは,取締役会の決議でもって,会社の支配に関する決定もできるとしていいのではないかという考え方であります。これが理論的ではなく現行法とも整合的かもしれないというのは,皆様も御承知のように,現在の,新株発行の差止めの訴えに関し形成されてきた主要目的ルールというのは,実質的には資金調達の目的が主要であるかどうかということに着目する結果として,資金調達の必要性があるとされたときは,客観的には支配権の異動に結び付くような,それこそ,今いる支配株主からその地位を奪って別の支配株主を作り出すことも取締役会の決議でできてしまうということがございます。ですから,提案されているような会社法のルールを設けるかどうかを考える上では,現在行われているルールの評価が重要であって,もしも,現在行われているルールは不十分であると,つまり株主からコントロール権を奪うということの弊害が極めて大きいと考えるのであれば,正に現在の差止請求に関する判例法理よりも株主の地位を強化するものとしてこういう制度を入れるべきだということになると思います。これに対して,現行法でも差止請求権があるから十分であるという反論は必ずしも有効な反論ではない。もし反論するのであれば,取締役会の決定で会社の支配権を変えるということも望ましいことは十分あるのだということを主張されるべきではないかと思います。これに対して,先ほどの第一番目の反論として言われた,株主の決定には時間と費用が掛かるということが問題だとすると,先ほど静委員も言われたとおり,資金調達の緊急性が高い場合には例外にするという条項を置くという解決策になるのだろうと思います。この場合に,例えば親会社になるような新株発行に対しては,原則的には株主総会の決議が必要なのだけれども,資金調達の緊急性が高いと,これは株主総会決議を採っていれば間に合わない,資金調達自体できなくなってしまうということを取締役会が主張して,新株発行を決議する。それに対して恐らく株主が差止請求を起こしてくるわけでして,その場合の裁判所で争われることは資金調達の緊急性ということになるわけで,これは,現在の主要目的ルールの資金調達の必要性よりはずっと厳しい要件の下に審査されるということになると思います。こういうルールの方向性があるかと思います。私自身の考え方は,基本的には,会社の支配権の問題については株主が決定するというのは,株主が会社に安心して投資をするという制度を確保するために不可欠な条件だと考えておりますので,原則的にこのような支配権の異動を伴う株式の発行に対しては株主総会の決議を必要とするという方向でのルールに賛成であります。以上が1番目であります。  2番目は,もう少し具体的な要件設定の問題であります。つまり,支配権の異動というときに,議決権の過半数を要件にしますと,実際には,支配権の獲得は議決権の過半数の取得をしなくてもできてしまうことが多いと思いますので,これだと,実際的な決定は株主総会の同意なく行われるということになります。こういうルールでも,支配権の異動は基本的に株主が決めるものなのだということを明らかにするという象徴的な意味はあるかもしれませんが,どの程度拘束性のあるルールになるかという疑問があると思います。その点,目安になるルールとして,例えば金融商品取引法の強制公開買付規制においては,3分の1というルールがあるわけで,3分の1というのは,そのぐらい取れば会社の実質的な支配権が移転すると考えられるという発想でできているわけですが,これを参考にすることも考えられると思います。確かに前田委員もおっしゃったように,もしこのルールの違反が株式発行の効力に影響するとしますと,ある程度形式的に考えなければいけないのですが,形式的に考えるとしても,必ずしも議決権の過半数にする必要はありませんので,形式的に判断できる要件にはしつつ,しかし,実質的に支配権を取るのに必要な株式割合はもう少し低いだろうと考えてルールを作ることも可能かと思います。 ○奈須野幹事 部会資料10では,引受人が親会社となるような場合に株主総会決議を要するものとするという提案がなされています。しかし,親子関係が形成される場合はもちろん,親子関係形成まで至らない所有比率であっても,支配株主の異動を伴う第三者割当増資は,従前の株主にとっては投資の前提となる会社の基礎の変更をもたらし,かつ,そもそも会社の経営者が支配株主を選ぶということになって,株式会社本来の在り方と異なるものですので,株主総会による承認を必要とすることが適当と考えます。  ところで,210条の差止請求権は,法令・定款違反,著しく不公正な場合で株主が不利益を受けるおそれがある場合に認められるということですので,この仕組みがあることをもって,支配株主の変動をもたらすような大規模な第三者割当増資がなされることに対する株主総会決議が不要となるものではないと考えます。  それから,このような場合には,反対株主保護の仕組みとして,支配株主を買主とする株式買取請求権の仕組みが必要と考えておりますが,これについてはまた別の会で議論されるということですので,あらかじめこのような論点がある旨を申し上げておきます。  それから,八丁地委員が御指摘になった問題意識は確かにありまして,第三者割当増資でこのような支配株主の変動を伴うようなものについて,株主総会決議を常に要するとした場合には,日本の株主総会の現状を考えると,株主総会での審議は形式的なものになって,一般株主保護の観点からの吟味がおろそかになるおそれがあります。それから実際の問題としても,企業の事業再生その他の迅速な資金調達ニーズに応えられなくなるおそれがあると思われます。  そこで,独立性を有する取締役を設置していない会社は,原則に従い,株主総会の承認を要するものとしても,独立性を有する取締役が過半数を構成する取締役会の決議,又は同様に独立取締役が過半数を占めるような特別委員会を設置して,その委員会の決議を経た場合には,株主総会決議を不要ということでよいのではないのかなと思っております。  それから,後段との関係でもありますが,こういった見直しを行った場合には,既存株主の利益を保護するための有利発行規制を重ねて適用すべき理由に乏しいので,これを撤廃すべきであろうと思っております。新株の有利発行が合理的であるかどうかは,ビジネスジャッジメントに属する事項といえまして,その他の経営判断事項と同様,事前の情報開示をしっかりするということと,事後的な役員の責任追及に委ねることが,監視の効率性の観点からも適当と考えるからでございます。 ○中東幹事 私も,皆さんがおっしゃったことに大体賛成で,株主総会決議を必要とすべきであると考えております。八丁地委員がおっしゃった,証券取引所の規制があるではないかということにつきましては,確かにおっしゃるとおりだと思うのですが,くしくも静委員からは,総会決議が必要とせよという御提案がありましたように,最初から上場廃止をいとわない会社に対しては,証券取引所としては,どういうペナルティーも課しようがありませんので,そこは,会社法で手当てしないといけないと思っております。資金調達の機動性については,八丁地委員がおっしゃいましたように,慎重に考えないといけないと思います。その点で,濱口委員がおっしゃいましたように,どれほどこれで機動性が損なわれるのか,その辺は確認しないといけないとも思われます。恐らく,もし参考になるとすれば,この間いろいろな場面でこういうものが使われてきていて,もしスポンサーとなる会社が,今いる株主にはいったん出ていってほしいというときに,そのために全部取得条項付種類株式を入れたわけですが,それを使う場合にも倒産手続に入らなければ株主総会は必要だという設計になっておりますので,旧グッドウイルなどに事例が限られているのでしょうが,どれほど実際に不便が出ているのかということは検証する必要があるかと思っています。 ○神作幹事 私も,支配権の変動を伴う場合には,基本的には株主が何らかの形で関与できるような仕組みが良いのではないかと思っております。支配権の変動が生じ,支配株主が生じた場合において,一般投資家といいますか,少数派株主に何らかの不利益が生じるおそれが生ずるわけですけれども,そういった不利益を事後的に救済するというのは,これは,実効性の面等から見ても非常に困難な面が少なくないと思われますので,こういったプロセスの初期の段階といいますか,支配権の変動があるという,入り口のプロセスに着目をして,何らかの形で株主の意思を反映させることが望ましいと考えます。  ただ,他方で,これまた多くの方々が御指摘されていますように,資金調達のニーズにどう応えるのか。迅速な資金調達に失敗をしたりすると場合によっては会社がつぶれてしまうことにもなりかねず,それでは元も子もないと思いますので,そのようなニーズをどのように取り込むのかが大きな論点ではないかと思います。静委員から資金調達の緊急性という一つのキーワードが出されましたけれども,主張立証責任をどちらに課すのかというところで勝負が決まってしまう面が強いように思います。一つ参考になり得るのは,簡易組織再編などにおいて,一定の量の株主が反対すると株主総会決議を要するという規律です。もっとも,当該第三者割当増資に反対することまで必要なのか,あるいは単に株主総会を開けと言えばいいのか,そのあたりの制度設計はもちろんいろいろとあり得るかと思いますけれども,例えば一定量の株式を有する株主が株主総会を開けと言ってきたような場合には株主総会を開催するといった考え方も一つあるのかなと思います。具体的な制度設計の在り方につきましては,株主総会決議の承認を要することを原則にするのか,それとも例外的な場合にのみ必要とするのか,原則をどちらにするのかという話にも関わってくるかと思いますけれども,簡易組織再編において株主総会決議を要する場合についての制度設計は大変参考になり得るかと思います。他方,仮に株主総会決議を必要とするとしてどのような場合に承認を要するかについて,形式的・単純な基準を用いますと,潜脱することが簡単にできてしまい,規律の実効性を欠くことになってしまいますので,例えば過半数を取得する場合に限るとしても,合算すべき範囲などにについて,そういった潜脱が極力防止され規律されるべきものが規律されるように,できる限りの努力をしてみることが必要であると考えております。 ○藤田幹事 ほかの委員の方々と余り変わらない意見なので若干発言するのにちゅうちょするのですが,まず基本的な点として,そもそもこの提案のように第三者割当てに株主の関与を要求するのが発想として正しいのか,間違っているのかという整理―田中幹事が最初に言われたところですが―について,まず答えなければいけないと思います。株主総会決議は,手間が掛かる,コストが掛かるから現実的ではないという議論に行く前の話としてです。実は,現行法がどう考えているかも実はよく分からないところがあるのです。誰が経営者となるかは株主が選ぶべきであるというのが会社法の基本だとよく言われます。確かに,不公正発行をめぐる主要目的ルールなどのところではそういう考え方が非常に強調されています。ただ,下級審裁判例にみられる主要目的ルールは,飽くまで支配権の争いが生じた段階で適用されるもので,完全に友好的な形で支配権を移すような種類の第三者割当増資について,あのルールが適用されるかどうかは,実ははっきりしません。一つの極端な立場としては,友好的に支配権を移すような取引は一種の経営判断事項である,支配権の争いが生じた場合にどちらがふさわしいかは株主に決めてもらうのですけれども,友好的な支配権取引は事業提携の一種等と同じ経営判断なのですという考え方が,論理的にはあり得る。そういう見方をしてよいかということが,一番根本的な問題だと思います。今回の提案に対する一番強い反対論はこういう観点からそもそも株主が口を出すべき事柄ではないというものですが,この点に関しては,私は,多くの委員の方がおっしゃったように,支配権の移転については,たとえ友好的なものであっても,株主が関与すべきものだと考えており,理論的にはそういう整理でいくべきなのだと思っております。問題がある場合には差止めを認めれば足りるではないかといった議論については,今のような認識を前提にすると,そもそも主要目的ルールによる不公正発行の差止めはおよそカバーしないところ,ひょっとすると,不公正発行としてコントロールすべきではないと考えられているところに踏み込む話なので,差止めでは,総会決議の代替にならないのは当然であります。  基本的な考え方はそうだとして,そこから先がむしろ難しい問題です。不必要に資金調達や業務提携の妨げにならないために何を用意すべきかということですが,まず,要件のほうで,ここで書かれている5分の1というのは確かに低過ぎるような気はします。また,要件を客観的かつ形式的基準で設けるべきであるというのも,多くの委員・幹事の皆さんの意見と同じです。その上で,例外の設け方ですが,緊急性のある資金調達というのもあるいは必要かもしれませんが,形式基準による例外も幾つか用意する必要があると思います。一つには,今,神作幹事が言及された簡易再編のような例外―あるいは例外ではなくて全部の場合について簡易再編のような制度にすべきという意見もあるかもしれませんが―,つまり一定の規模,例えば発行株式数や議決権割合によっては,株主総会決議が省略できて,株主から一定数の異議が出た場合に総会を開かなければいけなくなる―建て付けは技術的にいろいろあるでしょうけれども―,そういう例外を広く認めることもあり得るかもしれません。そして,株主の関与が要求される要件と,その関与の仕方,総会を必ず要求されるのはどういう場合かといったあたりの設計を丁寧に考えることが重要なのだと思います。  株式買取請求の話については,今日はやらないということですので,余り深入りしませんけれども,一点だけ確認的なことを申し上げます。組織再編と同列にということを言い出すと,株式買取請求権といったことが出てきかねないのですけれども,そういう話ではないという気がします。現在,金商法の下では,3分の1以上の議決権を取るような株式の取得には公開買付けが強制され,3分の2を超える場合だと全員から買うようにしないといけないのですが,後者は,議決権の3分の2を取られてしまうと,残された株主の地位が非常に不安定になるからという説明をしているはずです。どんなやり方で3分の2を取ろうがそれは同じはずなのですが,現在の規制は,金商法上は強制公開買付けの枠組みの中でそれを作っているものですから,強制公開買付けによって3分の2を取る場合だけ,そういう不安定さを勘案するという変な制度になっています。それを変だと考えるのであれば,3分の2を取られたときには,その取得の手法を問わず,株主に退出する権利を認めよとすべきではないかということになり,そして,強制公開買付けによって取得した場合に限定しないとなると,金商法では収まりが悪く,受皿は多分会社法しかないということで,会社法の改正に入ってくることになります。これは,今ここで議論してる第三者割当てとは確かに次元の違う話で,特定の人によって第三者割当てか否かを問わず一定以上の議決権が取得された場合一般の話です。今日議論しないにせよ,どういう話か,第三者割当てを組織再編と見るから買取請求という筋の話でもないことだけは確認しておきたかったので,申し上げました。  最後に,誰の意見を開示するかという話で,社外取締役だけということには抵抗があるのかもしれませんが,他方,社外監査役の意見となりますと,今度は,これは本当に監査役の業務なのだろうかという気もします。違法な第三者割当てについてのチェックならいいのですが,例えば業務提携上必要な第三者割当てなのかという判断になってきますと,伝統的な監査役の役割から離れていってしまいます。今どれにしろという意見を申し上げるつもりはありませんけれども,「社外取締役あるいは社外監査役」といった具合に,とにかく社外が付く人を混ぜればいいといった発想で作ることだけはやめていただきたいと思います。 ○神田委員 ここでおっしゃっている支配株主の異動を伴う第三者割当てを,前田委員や藤田幹事が言及された組織再編と同じように,あるいは,同じでなく考えるかということに関して,ちょっと技術的なことなのですけれども,ここで株主総会決議を要するという御提案は,これは,特別決議をお考えなのか,普通決議を考えておられるのでしょうか。そして,もし特別決議を考えておられるとすると,特別決議があった場合についても現在の差止請求権は残るというお考えなのかどうか。これは,組織再編と並びで考えれば,今御指摘のあった買取請求権という問題もあるでしょうし,他方で,合併とかの組織再編では,通常の場合には,現行法では差止請求はない。しかし,立法論として,この部会で検討の対象にはなっていると思うのですけれども。いずれにしても,株主総会の特別決議ということになりますと,組織再編という言葉がいいのかどうか分かりませんけれども,その辺との横断的な整理ということも,やってみる必要があることになると思います。 ○岩原部会長 今の点について,部会資料10を作った事務当局のほうの説明をちょっとお願いしたいと思います。 ○河合幹事 私どもとしては,組織再編に近いという観点から,特別決議を前提に考えてこのような提案をしており,また,募集株式の発行の差止請求については,特に制限することまでは検討しておりませんでした。もっとも,必ずしもこれに限られるというものではありませんので,普通決議が適切であるということであれば,御指摘いただければと思っています。 ○田中幹事 たびたび申し訳ありません。今までの御議論をお聴きしていて,2点ほど申し上げたいと思います。1点目は,神田委員がおっしゃった,株主総会決議を仮に要求するとしても,それが特別決議か普通決議かという問題ですが,特別決議にするのは,今まで会社に投資していたことの前提が変わる,と考えられる場合です。組織再編を例に採りますと,元来は,株式を売ったり買ったりするのと同じぐらいに投資の前提が変わる行為をするときは,本来は株式を売ったり買ったりするのと同じなのですから,個々の株主の同意が必要になるというべきところを,それでは会社の利益になるような組織再編も行われなくなってしまうので,特別決議にするという発想だと思います。これと並びで考える,つまり,支配株主が今までいなかった会社に支配株主が現れるとか,従前の支配株主と違う者が支配株主になるということが,従前の投資の基礎が変わっていると考えるのであれば,特別決議になるかと思います。しかし,これに対して,この問題は,誰が会社の経営を支配するかの決定をするということなのだと考えると,それは,取締役を選ぶということとかなり同じレベルに考えることができるのではないかということがあると思います。取締役を選ぶ場合は,従前,誰が取締役になっていようと,その時点における株主総会の多数派が選んだ者が取締役になる。この決定と同じように考えるという考え方があります。その場合は,普通決議ということがあり得ると思います。御参考までに申し上げれば,このような支配権の異動に結び付くという理由で株主総会決議を要求するという国を見ますと,この辺はちょっと法律ではないわけですが,例えばニューヨーク証券取引所の規制ですと,普通決議なわけです。それから,現在はちょっと法律に近いものになりましたが,イギリスのシティコードでも,第三者割当増資で30%以上の株式を取得する場合は,原則的にはTOBをかけなければいけないのだけれども,しかし,株主の多数決による同意があるなど一定の場合を満たすときにはそれを例外とするということで,結局は株主の多数決の同意があれば第三者割当増資ができるようになっているわけですが,あの要件も普通決議になっています。これは,イギリスの弁護士に直接伺ったことですが,普通決議になっている理由は,決議に積極的に参加した株主の中で多数の支持を得ていれば,それはそれをやっていいと考えるべきではないかと。決議に参加しなかった株主は必ずしも反対しているというわけではないからということを言っていました。特別決議を要求するということは,突き詰めれば少数派の意見が通ってしまうとことを容認することになりますから,誰が会社を支配するかということを株主が決めるべきだという理由でこういった規制を要求するとすれば,その際に特別決議を要求することは,あるいはそぐわなくなってしまうかもしれないことがあり得ると思います。以上が1点目です。  2点目は,奈須野幹事がおっしゃったような,社外取締役や社外監査役の同意を得ることで株主総会決議に代えるという制度があっていいのではないかというお話であります。私は,もちろん理論的にはそういった制度は考えられるのですけれども,その制度の下で社外者が決定することは,もし株主総会にかけられれば株主は賛成するだろうという判断でなければならないと思っています。そのことの意味は,もし株主総会にかければ多分否決されるけれども,それでもこの新株発行をしたほうが会社のためになるからこの新株発行を認めようという判断はさせるべきではないということです。これは,社外者,つまり社外取締役や社外監査役が誰のために行動するかといえば,株主の利益のためでありまして,株主からも独立で判断をするという権限まで認めたら,社外取締役や社外監査役は,会社の利益に対して無関心になってしまうのではないかと思います。だから,社外者にはそういう権限は認めるべきではないと思います。これは,アメリカの判例法理などは独立の社外取締役にかなりそういう権限を認めていることを承知の上で言っていることでして,アメリカのルールは,この点では余りいいルールではないと思っております。やはり株主に決定させるべきだということが前提であって,株主に決定させることの手間と費用を省くために社外者がいるということです。社外者が本当に株主の利益どおり行動するのであれば,社外取締役の決定に株主は異を唱えないでしょうし,仮に,社外者の決定に株主が異を唱えたとすれば,社外者よりは株主の意思のほうが貫徹されるべきだと思っています。この点は,ルールメーキングをする際には非常に重要な論点であると思いますので,十分に御議論の上で,在るべき規制を考えていくべきかと思います。 ○藤田幹事 先ほどの発言の際に明確にしていませんでしたので補足しますが,田中幹事の整理で言うと,私は,後者,つまり普通決議という前提で考えており,組織再編の決議と同じ要件の決議という想定でありませんでした。取締役の選任と同列で捉えるという説明もありましたが,若干細かいですが,役員選任の場合の定足数についての特別な要件は適用がない普通決議ですけれども,そういうものだと思っていました。 ○三原幹事 余り理論的な話で,これをどうするかということではなくて,実務を執行する立場から,もしこれを仮に導入する場合には,基準を明確にしていただくということを視点としていただくと有り難いと思います。つまり,株主総会決議が必要なのか,必要ないのかが分からないと,結局やるかどうかというところで微妙になってしまいます。例えば,支配株主となる人が一人であることが議論の前提ですが,これが二人になっていて,その二人がTOBにおける共同買付けをする場合のように何か合意をしているときには,それは一人として―20%か,33%か,51%か,何でもよいですが―考えるのか。二人になったら,それは途端になくなってしまうのかとか,あるいは2回か3回に分けて期間を分割すると,これは脱法のようなものですけれども,それはいいのかどうか。例えばTOBの急速買付けのような規制がありますけれども,それをどうするのか。そういうことを考えていかないと,具体的に,例えば実務で,これは総会決議が要りますといったら,ではこうすればいいんですか,ではこうすればいいんですか,そういう相談を受けるわけでありまして,では半年で分けて2回にやればいいですねとか,では3人に分ければいいですかとか,そういう議論が出てきたときにどうするか非常に困りますので,基準の明確性ということで,実務の実際の執行において困ることがないようにという視点が必要かなと思います。そうでないと,株主総会決議が必要なのに必要でないということになりますし,それは,違法な決議ないしは機関決定のない新株発行になってしまうということもあります。導入が是か非かという議論をしているわけではなくて,こういう要件の場合には,脱法というわけではないのですけれども,要件が明確でないと,故意なのか過失なのかは分かりませんけれども,そうでない場合の状況が出現してしまって,後々から実は必要だったということになって問題が起こるということもありますので,それをどうするのかということもお考えいただければと思います。 ○岩原部会長 ほかに何かありますでしょうか。よろしいでしょうか。 ○築舘委員 (注)のほうでもよろしいでしょうか。 ○岩原部会長 はい,結構です。 ○築舘委員 支配株主の異動を伴う第三者割当てについて,社外取締役と同様に監査役についても意見の開示をする仕組みを設けるべきかどうかという御提案ですけれども,是非前向きな引き続きの御検討をお願いしたいと思います。本日の部会資料では,その場合の意見の開示の仕組みについて,監査役に関しては,5ページのちょうど真ん中あたりですが,意見の主体と,それから意見の対象ということについてどう考えるかという論点が挙げられております。それで,まず,意見の主体についてでありますけれども,支配株主の異動を伴う第三者割当てにつきましては,社外取締役などと同様に,監査役は,非業務執行役員でありますから,経営者と会社あるいは経営者と既存株主の間の利益相反を監視して検証するという責務を負っているわけでございます。この点で社外であるかどうかの区別はないと思っております。むしろ実態面から言えば,一般に非常勤監査役である場合が多い社外監査役と限定するよりも,常勤監査役の場合には,毎日会社の中にいていろいろな社内の状況を見ておりますので,会社の資金調達に関する経営判断の状況をより的確に見ることができることも多いと思いますので,意見の主体という意味では,社外監査役に限らずに,監査役とすることが望ましいのではないかと思います。  次に,意見対象についてでありますけれども,有利発行該当性に関する適法性の監査について,監査役は,実務上,当該資金調達の意思決定プロセスにおいて,有利発行規制,それから開示制度の趣旨を踏まえて,適正な社内手続を経たかどうかをチェックした上で,引受人にとって特に有利でないと判断したプロセスの合理性について意見を述べるのが妥当ではないか。つまり,資金調達というのは,すぐれて経営戦略的なことでありますので,その内容の妥当性というよりは,プロセスの合理性について意見を述べるという立場になるのかなと思います。それで,今回提案されている支配株主の異動を伴う場合ということですが,これについては,有利発行該当性の監査に加えまして,ある意味,企業買収防衛策の発動と似たような局面になるとも考えられますので,監査役は,非業務執行役員として,経営者と会社あるいは既存株主との間の利益相反の有無を監視するという観点から,会社役員の地位の維持を目的として,株主の共同の利益に反するものではないかどうかということについて監査をしていくことになるのかなと思います。 ○岩原部会長 ほかにありますでしょうか。よろしいでしょうか。 ○上村委員 これも第一読会のときに申し上げたことなので,簡単に申しますと,日本のような個人株主の少ない市場構造を持っているマーケットでは,基本的には公募原則がまず必要で,それである程度機関投資家と個人株主が増えたというところでライツ・イシューつまり株主割当てで,そして,イギリスもそうだと思いますけれども,救済とかの必要がある場合には,三番目の選択として第三者割当てが出てくる。こういう順序がはっきりしていれば,株主総会の決議が必ずしもいるわけではないと思います。ただし,そうではなくて,第三者割当増資というのは割当自由の原則の具体的な表現だというような理解が前提で論じられているのだとしますと,第三者割当てによって支配権が安易に移転することに対しては一定の歯止めが必要だと思います。ただ,その場合も,株主総会の決定というものが信頼できるような状況と,そうでない状況とがあって,ガバナンスが非常にしっかりしていれば,私はそれをガバナンスに委ねるということもあり得ると思います。しかし,ガバナンスそれ自体が経営の選択肢だ,裁量だというような話ですと,そんなガバナンスに委ねるわけにはいきませんので,株主総会の決議が必要だと思います。その場合,特別決議か普通決議かについては,普通決議だという先ほどの御意見にも一定の理由があるのかなと,今私は思っております。 ○岩原部会長 よろしいでしょうか。非常に活発な御意見を頂きまして,ありがとうございます。全体として,まず対象として考える第三者割当てについて,支配権の異動を伴うものなのか,それよりももうちょっと広く,濱口委員のおっしゃった,5分の1あるいはそれを上回るぐらいのものまで含めて考えるかという問題もありますが,多分多くの方が念頭に置いておられるのは,支配権の異動を伴うような第三者割当てについては,少なくとも株主総会の決議が必要ではないかという御意見が多かったように承知しております。  その上で,緊急性,特に資金調達の緊急性等を考えた一定の例外が必要かということについては,一つには,正に緊急性ということを要件にして,そういう場合に例外を認めるような規定を考えてはどうかという御意見があったかと思います。現行法で言いますと,極めて例外的な場合に,株主総会の決議なしに一定の効果を認めるものとして,例えば426条1項など,取締役会が特に必要と認めるときということで,株主総会決議なしに取締役の責任の一部免除をすることを認めているような例もないことはない。かつて自己株の取得につき,消却特例法にそういう特例規定を設けたことがありましたけれども,現在は廃止されています。そういう御意見が一つございました。それに対してもう一つの御意見は,そういう抽象的,一般的な例外規定ではなくて,先ほど簡易組織再編を例に出されておりましたが,簡易組織再編ですと,発行済株式の議決権総数の6分の1以上の株主からの異議があった場合については,原則に戻って株主総会の決議を必要とすることになっておりますので,第三者割当てについても,そのような手当てをするということも考えられるのではないかというものです。以上,二つの例外を認める御意見があったところであります。  そして,決議の要件については,これは,特別決議というお考えと,それと普通決議というお考えと両方あったかと思います。先ほど田中幹事が整理してくださいましたように,基本的な組織変更であって,言わば合併等に対比できるようなものだと考えると,特別決議ということになりましょうし,そうではなくて,一時的な支配権の異動にすぎないものとして考えれば,普通決議という考えが出てくる。それには,先ほどの,本当に支配権の異動があったのかどうかということを要件にするかどうかということも関わってくると思います。先ほど田中幹事が挙げられましたアメリカのニューヨーク証券取引所のルールは20%以上の新株を発行する場合ですし,それから,イギリスのシティコードの場合は30%ということですから,過半数にいっていない場合に普通決議でというルールなわけで,その辺をどのように考えるかということがあるかと思います。  そのほかに,ここの説明のところで書いてあります開示については,開示の充実は比較的異論が少なかったと思いますが,若干議論がございましたのは,監査役も開示の対象になる意見を述べる主体にすべきかという点についてです。これにつきましては,監査役がそういう非常に政策的なことについて意見を述べるのはどうかという違和感が表明されたわけですけれども,一方では,築舘委員が御指摘になりましたように,現に既に現行会社法施行規則では,買収防衛策についての意見を監査役が事業報告に関して述べるという制度になっているところでありまして,その辺をどう考えていくのかというところで考え方が分かれてくるかと思います。  おおよそ以上のように皆様の御意見を整理できるかなと思いますが,よろしいでしょうか。それでは,この問題はそれぐらいにさせていただきまして,次に,第3の2の「(1)株式買取請求制度の創設」について,事務当局から御説明をお願いしたいと思います。 ○内田関係官 それでは,「2 株式の併合」のうち,「(1)株式買取請求制度の創設」の部分について御説明いたします。(前注)にありますように,株式の併合については,①一株に満たない端数となる株式について交付される対価に関する指摘,②第三者割当てとの組合せによる既存株主の持株比率の希釈化に関する指摘及び③多くの株主がその地位を失うことに関する指摘がされていますが,③の指摘を踏まえた規律の見直しにつきましては,キャッシュ・アウトに関する規律として検討することが適切であると考えられます。そこで,今回は,株式の併合に固有の論点として,①及び②の指摘を踏まえた現行法の規律の見直しについて,御検討いただければと存じます。  (1)は,株式買取請求制度の創設に関するものです。本文は,株式の併合に際して端数株式が生ずる場合に,株主が会社に対して株式の買取りを請求することができる制度を創設することについて問うものでございます。株式の併合に際して生ずる端数株式については,金銭交付による処理が定められていますが,現行法上,端数株主に対し,端数の処理により交付されるべき金銭の額は,市場価格による売却等によって実際に得られた端数株式の代金の額とされています。このような処理によると,株式の併合に際しては,処理される端数が多く生ずる結果,市場価格が下落する場合や売却先の確保が困難となる場合があり得るため,端数株式について適切な対価が交付されないおそれがあります。そこで,当部会における議論を踏まえ,端数の処理において端数株主の利益が不当に害されないよう確保する観点から,本文のような株式買取請求制度を創設することが考えられます。他方,このような制度を創設する場合には,現行法における端数の処理と比較して,株式の併合をする場合における会社の資金負担が増加し得るほか,買取請求がされず,現行法における端数の処理によることとなる端数株式と買取請求がされる端数株式とで別々の手続が必要となるなどの点で,手続的コストが増加し得ると思われます。株式買取請求制度を創設することの当否や,具体的な制度設計を検討する際には,これらの点も踏まえて検討を要するものと存じます。  (注1)は,本文のような株式買取請求制度を創設することとする場合の具体的な制度設計について問うものでございます。まず,本文のような株式買取請求制度を創設する趣旨が,端数の処理において端数株主の利益が不当に害されないよう確保する点にあることから,買取請求の対象とする株式の範囲は,端数株主が有する株式の全てではなく,株式の併合の結果端数株式となる部分のみに限定することが考えられます。  次に,株式の併合による会社の価値の増加分も含めて適切な対価が端数株主に交付されるよう,買取価格は「公正な価格」とし,裁判所による価格決定手続等を設けることが考えられます。  また,株式の併合に反対しなかった株主は,買取請求による保護の必要性は高くないと思われ,そのような株主にまで買取請求を認めることは,会社の資金負担や債権者保護の観点から適切でないと思われます。そこで,買取請求をすることができる株主は,株主総会において株式の併合に反対した株主等に限定することが考えられます。  最後に,分配可能額に関する規制の在り方についてですが,会社が端数株主による買取請求に応じて自己株式を取得する場合には,自己株式の取得財源に関する規制は適用されないものとすることが考えられます。  なお,自己株式の取得の対価が分配可能額を超える場合について,会社法第464条第1項のような業務執行者の責任を定めるべきであるとの指摘がされているため,この点についても併せて検討を要するものと存じます。  (注2)は,(注1)で御検討いただく具体的な制度設計を踏まえ,本文のような株式買取請求制度の適用対象となる株式の併合の範囲について問うものでございます。本文のような株式買取請求制度を創設する場合には,会社の資金負担や手続的コストが増加し得る一方,現行法における端数の処理も一定の有用性があることからすると,株式買取請求制度の適用対象は,端数株主の利益が害されるおそれが高い株式の併合に限定することが適切であるとも思われます。具体的には,例えば,併合の割合が一定以上,例えば,10分の1以上であるような株式の併合に限定することが考えられます。さらに,併合の割合が一定以上であっても,単元株式数に相当する数の株式が整数株となるような場合には,端数となるのは単元未満株式の部分のみにとどまることから,株式買取請求制度の適用対象から外すことが考えられます。  なお,本文のような株式買取請求制度の適用対象については,キャッシュ・アウトを目的とする株式の併合に限定すべきであるとの指摘もされています。端数株主の利益が害されるおそれが高いのは,必ずしもキャッシュ・アウトを目的とする株式の併合に限られないように思われますが,併合の割合に応じて適用対象を限定することにより,このような指摘にも一定程度配慮することができると思われます。 ○岩原部会長 ありがとうございます。それでは,(注1)から御議論をお願いしたいと思います。補足説明の2では,具体的な制度設計の在り方として4点挙げられておりますが,一括して御意見を頂きたいと思います。いかがでしょうか。 ○静委員 私が提起させていただいた問題だと思いますので,最初に発言させていただきたいと思います。併合で生じる端数株式につきまして買取請求権を認めていただけるという方向の御提案でございまして,大変大きな前進であると思いますので,歓迎したいと基本的には思っております。ただ,1点気になっておりますのは,実際に発生した事件のことを前にもお話ししましたけれども,その事件が提起した問題の本質とは何なのだろうかと考えますと,端数株式はお金でしか補償されないにもかかわらず,端数株式になった後も,いつまでたってもお金を支払ってもらえなかった,その結果,倒産で,最終的には支払がなかったという形になってしまったということだと思います。つまり,併合に反対していないからとか,あるいは併合の割合が小さければ被害が小さいだろうからということで,株が売れないということで支払を延ばしてもいいといったことを認めたままの制度になってしまいますと,これは,何らかの形で抜け道を作るところがまた出てきかねないといったことが心配されます。つまり,そういう言い訳を許さないようにしないと,再発防止にもならないし,問題の解決にもならないのではないかというところをちょっと心配しているということでございます。したがいまして,併合で生じました端数株式につきましては,今申し上げましたような反対していない株主には認めないでいいとか,あるいは割合が小さい併合については認めないでいいといった限定を加えずに,買取請求を認めるということが必要なのではないかと,私は考えております。 ○田中幹事 株式の併合について,株式買取請求権を反対株主に付与するという提案に賛成したいと思います。それで,私は,前回この問題が話し合われたときに,キャッシュ・アウト目的の株式の併合に限定してこのような制度を設けるということも示唆したかと思うのですが,考えてみますと,株式の併合において端数になった株主は,飽くまで端数になった株式分だけ反対株主の買取請求権を行使できる,例えば,従前9株の株式を持っていた株主が,2対1の株式併合をやられたという場合は4株になるわけですから,その場合は従前の1株分についてのみ株式買取請求権を行使できるという制度にすれば,必ずしも株式の併合の割合とかキャッシュ・アウトされる株主の割合とかで限定を設ける必要はないのではないかと思うようになりました。もちろん,この提案の最後に書かれていますように,株式の併合とともに単元数も変更して,実質的に従前の単元株主が端数になることはないようにするという形の株式の併合については,全体として株式買取請求の例外とするということでいいと思いますが,そうでない場合は,基本的には端数になった部分については株式買取請求を認めるということでいいと思います。規模の小さい株式の併合についても株式買取請求を認める必要があるかという問題もあるかと思いますが,その場合は,株式買取請求をしてくる株主も少ないはずですから,会社の利益に対する影響もそれほど大きくないのではないかと思います。そして,株式の併合後にかなり多くの人が株主として残る場合であっても,同じように多くの株主が株主たる地位を奪われていて,そして端数株式の売却も進まず代金の分配が受けられないという場合に,併合の割合が小さいということから株式買取請求を認めない理由も特にないと思いますので,基本的には,端数部分について一般的に株式買取請求を認めるという制度でよろしいのではないかと思います。  最後に申し上げますと,そのように株式買取請求という制度が整備されれば,むしろキャッシュ・アウトは株式の併合でやっていくというほうがいいのではないかと。実際にも,現在,キャッシュ・アウトの手段として使われている全部取得条項付種類株式は非常に分かりにくい制度で,どれだけ使い続けても一般株主には分かりにくいと思うのです。その点,株式の併合は,2株を1株にするということで,そうしたら従前の1株の株主は株主ではなくなってしまうことは誰でも分かることです。それから,交付金組織再編についても,キャッシュ・アウトの目的で組織再編をするというのは,目的に対して見れば手段過剰になっているわけですし,現実的な問題として,交付金組織再編が税制上不利になってしまうから使えないということもあるわけですから,反対株主に株式買取請求権を認めることで,株式併合に対するネガティブなイメージ自体を払拭した上で,キャッシュ・アウトはこれでやっていくという方向で制度を作ることも,十分検討に値するのではないかと思います。 ○八丁地委員 株式買取請求制度の創設につきまして,経済界の意見を申し上げます。いわゆる濫用的な株式買取請求に対する措置を検討することを前提に,株式の併合に際して,端株株主の利益が不当に害されないようにするということであれば,この制度の創設を検討することに賛成であります。  (注1)の制度設計の問題に関しまして,買取価格の算定に当たっては,「公正な価格」として,株主管理コストの削減等による会社価値の増加分を算定するという記述がございますが,これは,実務上はなかなか難しいのではないかと思います。  また,(注2)に関しまして,この制度の適用対象は,対処が必要なケースに限定すべきです。そのため,部会資料10に御指摘のとおり,適用対象を端数株主の利益が害されるおそれの高い株式の併合に限定いただきたいと思います。 ○神作幹事 私も基本的に,株式の併合の場合に株式買取請求権を与えることに賛成なのですが,1点少し気になっているところがございまして,分配可能額の規制の在り方でございます。会社法464条1項の過失責任を課すという規律だけで果たして足りるのかどうか,やや懸念をもっております。株式併合は,簡単にと申しますか,相手方が要らずに会社だけで行うことができることですから,場合によっては,会社財産の還元の手段として使われるということもあり得なくはないのではないかと思います。少なくとも,分配可能額の規制については,会社債権者等を害することがないよう,慎重な検討が必要なのではないかと考えております。 ○前田委員 私も,このような制度を入れるという考え方に賛成でございます。株式併合の際の株主保護を徹底するというのであれば,株式併合の場合は,現行の端数処理を適用せずに,端数株主は反対株主かどうかを問うことなしに,会社が端数を公正価格で買い取るという制度一本にしてしまうというのがいいのでしょうけれども,補足説明でも御指摘がありますように,会社の資金負担,更に今,神作幹事御指摘の会社債権者の保護という問題を考慮いたしますと,何らかの合理的な説明の付く絞りは掛けざるを得ないのではないかと思います。株式併合に反対しなかった株主は,端数処理について市場価格下落のリスクを負担するということまで同意したとは当然にはいえないと思いますので,反対株主以外には買取請求権を与えないという措置でいいのかは,問題がなくはないように思うのですけれども,ここはやむを得ないのではないかと思います。  そして,端数株主の利益の大きさということから,私も,この買取請求権の対象は株式併合に限るということでいいとは思うのですけれども,元のサイズが大きければ,併合の割合が小さくても端数の規模は大きくなってきますので,田中幹事の御指摘にもございましたように,併合の割合を基準にした絞りを更に掛けるというのは,難しくはないかという感想を持ちました。 ○藤田幹事 私も,基本的にここに書かれている内容のもので賛成なのですが,これは事務当局へ1点質問です。提案されているのは,前田委員から指摘のあったように,反対株主の買取請求権という建て付けですね。ということは,現在の株式併合ですと端数に幾らお金を払うかについて明示されないで決議されると思うのですが,株式買取請求権とセットにする場合,端数として幾ら払いますということ―組織再編でいえば組織再編対価に相当するもの―は明示するという前提でしょうか。さもないと,不満について表明する機会が事実上失われることになりかねませんので,そういうものと,それについての説明が入るという前提で,一応賛成とさせていただきたいと思います。  あと,ちょっとこの論点そのものから外れてしまうところがあるのですが,一点補足です。こういう形の決議への反対を前提とした株式買取請求権による株主への保護という制度は,もちろんあったほうがいいのでそれに反対するつもりはないのですが,追い出された後にいろいろなことが続いて起きて,追い出された株主からすると,「私たちを追い出しておいて,実はそんなことをする計画だったのですか?それだったらもっと対価をもらうべきだった」と言いたくなるケースが考えられます。現に日本高速物流事件のような例もありました。締め出しの時点においてその後の計画についての情報の開示の仕方が不十分だから反対しませんでしたといった株主は,たとえ株式買取請求権による保護は用意したとしても言わば全員足切りで救済されません。株主総会決議の取消訴訟もいろいろな事情からどこまで実効性があるか分からないとすると,キャッシュ・アウトされた場合の救済手段は依然不十分であるのは確かで,株式併合を使った場合の穴を埋めることに反対しているわけではないのですが,株式買取請求というものの限界というのは理解しておく必要はある。今回の手当てで,締め出しに関する穴はふさがったからもう十分だという話ではないような印象を持っております。 ○齊藤幹事 端数の部分について経済的価値を保障するという考えには賛成ですが,幾つか疑問がございます。1点目は,藤田幹事がおっしゃったように,株主総会の決議につき,何に反対あるいは賛成したことにより,請求権が付与される,又は付与されないことになるのか,現行の制度との関係ではよく分からないという点でございます。  もう1点は,反対した者についてのみ端数の買取請求を認めるという点なのですが,これは,併合後の持分が株式部分と端数部分に分かれる株主に対して,賛成すべきか反対すべきかについてジレンマに陥る可能性を開くとともに,場合によっては,反対の票が増加する可能性が高くなるのではないかと思います。 ○岩原部会長 先ほどの藤田幹事の御質問に対する答えも必要だと思いますので,河合幹事,お願いします。 ○河合幹事 まず,開示の点は,通常の端数処理においては,競売や売却時の市場価格等という将来的な予想に関わる事項となりますので,事前に確定額を開示することは難しいのではないかと思っております。ただ,今お話を伺い,株式買取請求制度の導入に伴い,株式の併合における開示の充実という観点から,可能な範囲で開示の充実を図ることについては,更に検討していく余地は十分あると考えております。  また,そもそも反対株主に限るかどうかの点につきましては,会社の資金負担という問題に加え,分配規制の対象とするかどうかという問題とのバランス論ということもございまして,その意味で,株主の保護と債権者の保護とのバランスも考えて,一定の者に絞るという観点から,反対の株主に限ってはどうかという提案をさせていただいたわけでございます。株主総会における決議の対象につきましては,株主が株式の併合そのものに反対するというところで仕切るしかないと考えております。 ○奈須野幹事 まず,株式の併合に対する反対株主の買取請求権の創設に対しては賛成であるということを,第一読会のときに申し上げたと思います。また,株式買取請求権の行使について,公表後に株式を取得して買取請求するような機会主義的な行動を防止するため,請求者適格の基準日の見直しと併せてこれをやっていただきたいと思います。これらは,以前申し上げたものと同じ考え方であります。  それで,今日申し上げたいのはむしろ,先ほど田中幹事が触れられたこととも少し関係しますが,株式の併合をする会社がみんな悪い会社かというと,必ずしもそうでもないと思われるわけで,株主管理の合理化についても,それなりの正当なニーズがあるのではないかと思います。なぜかというと,例えば303条2項と305条1項では,少数株主権のうち株主提案に関わる株式保有の要件について,100分の1以上又は300個以上の議決権を要するものと規定しています。しかし,300個以上の議決権というのは,現実問題として,100分の1以上の議決権と大きな乖離が生じています。上場会社では億単位で株式を発行している会社も多く,10億以上の株式をしている会社も上場企業で70社以上あります。日本一は「みずほフィナンシャルグループ」の216億でして,ほとんど天文学的な状況になっています。こういった理由から,産業界からは,株主提案に関わる株式保有の要件を合理化していくことに対する強いニーズがあります。現行法の下でこの問題を解決する一つの方法としては,株式を併合することが考えられるのでしょうが,私からは,この際,303条2項と305条1項を改正して,300個以上の議決権の要件については,例えば,定款で排除できるようにしたらどうかと思うわけです。つまり,あえて株式を併合しなくても,ある程度は株主管理ができるような合理的な仕組みを導入すべきではないかということです。もちろん,このような定款変更によって,株主提案をやろうと思って300個の議決権を持っていた人が,1%に満たないことによって株主提案ができなくなってしまうという弊害は考えられます。しかし,これについては,今議論した株式の併合と同じ処理をすることで解決できるようにすべきだと考えます。すなわち,定款変更により少数株主権を喪失することとなる反対株主に対して,株式買取請求権を与えるといったやり方も一案ではないかと考えます。このように,会社にとって,株主管理を合理化するために株式を併合するか,あるいは定款で300個を排除するという選択が採れるようにして,株主保護の水準において,どちらもさほど大きな違いが生じないような仕組みとするというニーズがあるのではないのかと思っております。 ○田中幹事 先ほどの藤田幹事と齊藤幹事の御意見についてですが,ちょっと,私は,今の実務のやり方を勘違いしているかもしれないのですが,キャッシュ・アウトするときに,少数株主が幾らもらえるか分からないまま株主総会で賛否を表明しなければならないというのは,全部取得条項付種類株式を使ったキャッシュ・アウトでも同じなのではないですか。あれも結局,端数にして,それを処分するという形でお金を交付しているので,多分そうだと思うのですけれども,いかがでしょうか。価格決定の申立てをするためには株主総会で反対しておかなければいけないわけですね。172条がありますから。すみません,ちょっと間違えましたか,私。 ○河合幹事 田中幹事の御指摘のとおりと私どもも認識しております。 ○田中幹事 ですから,今行われているキャッシュ・アウトについて,それで問題になっていないのは,恐らくキャッシュ・アウトのときに,支配株主がいて,この人が恐らくは端数株式についてTOB価格と同じ価格で買い取るという形でキャッシュ・アウトするだろうと他の株主は思っているから,誰も文句を言わないのだと思います。ただ,それが事実上の期待でしかなくて,実際には,TOBのときはもちろん,その後の全部取得条項付種類株式の全部取得の決議においても,端数株式に対してはTOB価格と同額を必ず支払うとは言わないというのが,今の実務だと思うのです。その部分で,何らかの開示を要求するということが考えられるのではないか。これは,株式の併合だけでなくて,全部取得条項付種類株式についても同じようなことが言えるのではないと思います。 ○河合幹事 貴重な御指摘を複数頂きましたので,今の御指摘も含めて,キャッシュ・アウトがされる場合の情報開示の在り方と併せて,検討させていただきたいと思います。 ○野村幹事 私は,皆様方と同様に,今回この株式併合に伴う株式買取請求という制度を考えていく,しかも,本日御提案いただいていますように,端数が生じた部分について,一律に買取りを反対株主についてという制度設計には基本的に賛成したいと思っているのですが,その際考えるべき比較対象となる制度といたしましては,単元未満株式の買取請求という制度があるかと思います。この単元株制度自体は,制度の導入の段階でも,本来,株式併合をすれば株主管理コストを削減することが可能であるにもかかわらず,そういう形をすると,端数処理が必要となってしまうために,需給バランスを崩すことになり,株価が低下してしまうといったことの懸念から,単元をくくることによって,株主管理コストの源であるところの議決権の行使について一定の制約を設けることで,株主管理コストの削減を図ろうという制度設計だったと思います。そういった場合に,単元をくくりますと,当然単元未満株というのが出てくるわけでありますが,単元未満株について,買取請求という制度が存在しているわけです。これは,長い会社法の歴史の中から見ますと,昔,端株の買取請求といったものが存在していたことの名残みたいなところも若干あるわけでございます。しかし,そのあたりの過去の経緯も踏まえた上で,この単元未満株式の買取請求という制度と今回御提案の制度との関係を御整理いただくことが必要なのかなと考えております。そうなりますと,単元未満株の場合については,必ずしも反対した株主とかというコンセプトではなく,単元未満であるという事実をもって買取りをしてもらうという制度になっていますので,やや今の御提案とは筋が違うような形になるのかなとは思います。  他方で,本日,最後のほうにありましたように,単元が整数倍になる場合を例外とする旨の括弧書がありましたけれども,あそこのコンセプトは,単元の問題とリンクしていますので,その点を含めてもう一度御整理を頂く必要があるのかなと考えている次第でございます。 ○神作幹事 現行法下では,端数が生じたときの処理に際し,例外的に自己株式として取得できる場合が認められており,その場合には財源規制が掛かっているのではないかと思います。ですから,現行法は,既に財源規制に関しましては単元未満株と異なる取扱いをしておりますので,単元未満株にそろえるべき部分もあるかもしれませんけれども,特に債権者保護という対外関係につきましては,現行法との整合性にも留意する必要があると思います。 ○野村幹事 もちろん,全部一緒にすべしというお話を申し上げたわけではなく,債権者保護の観点は,先ほど神作幹事がおっしゃっていたことは,私も大変重要な御指摘だと思っています。大量にお金が流出することのないようにするには,取締役が過失責任を負うだけで防止できるのかという,神作幹事の御指摘は非常に貴重な点だと考えておりますが,他方で私が申し上げた点というのは,反対株主の株式買取請求権のコンセプトのほうにそろえていくという考え方と,端数はみんな買ってもらうというところの間の整合性はどうなっているのかという,それだけの疑問点でございますので,それ以上のことでも以下のことでもございません。 ○岩原部会長 ほかにありますでしょうか。よろしいでしょうか。皆様の御意見を承りまして,基本的には,部会資料10の第3の2に書いてあります考え方に皆様賛成だったと思います。 ○上村委員 大体話が終わっているときに申し訳ないのですが,1点だけ。株式の単位の大きさに対する規制というのは,そもそも私的自治の話なのかどうかです。1万分割だろうが,101対1分割だろうが何だろうが,私的自治という前提の話なのかどうか。そもそも,前にどなたかおっしゃっていたと思いますけれども,併合を必要とする合理的な理由があり得るケースというのは幾つか想定できますし,全部取得条項付の場合もそうです。またセルアウトを正面から認めようという話が前に出ておりました。ですから,それとの関係で,こういう制度が活用される合理的な理由というものをかなり厳格に考えた上で,また併合との関係では,単位の大きさというのは私的自治の問題というよりは,取り分け資本市場を有する場合には株主像としてどうした人間を想定するかという公序の問題と見る余地もあるように思われます。キャッシュ・アウトによって被害者が出た以上は,こういう買取請求権を入れるということに私は別に反対しませんし,それは構わないのですけれども,そもそも私的自治の世界なのかなということ自体に私は疑問を持っております。 ○岩原部会長 株式併合等によって株式単位を変更することに一定の制約があり得るかどうかということ,それ自体も一つの問題だと思います。単元株の単元のくくり方も,会社法施行規則34条で,少なくとも200以上の単元株式はなければいけないとしています。それも一つのその考えの現れでしょう。その上で,株式買取請求制度の創設についてはほぼ御異論はなかったと思います。ただ,要件として,反対株主である必要があるかといった点については,もっと慎重に考えるべきだという御意見を何人かの方から頂いたところでありまして,その辺は検討する必要があると思います。検討する一つの材料として,野村幹事からは,単元未満株式の買取制度との比較ということも挙げられました。  そしてまた,まだ必ずしも十分に議論を頂いていませんが,神作幹事から提起されました分配可能額の制限を及ぼすべきかどうかという問題もあります。これも,先ほどの単元未満株式の買取りの場合との比較でも若干議論がありましたけれども,更に皆様からもし御意見があれば寄せていただきたいと思います。よろしいでしょうか。その辺を更に詰めた上で,今後審議を進めさせていただきたいと思います。基本的なところでは,大体部会資料10に書いてあることに賛成いただいたということでよろしいでしょうか。  それでは,次に進ませていただきたいと思います。「(2)発行可能株式総数に関する規律の見直し」について,事務当局から御説明を頂きたいと思います。 ○内田関係官 それでは,(2)について御説明申し上げます。(2)は,株式の併合後における発行可能株式総数が発行済株式の総数の4倍を超えないよう,発行可能株式総数に関する規律を見直すことを提案するものでございます。当部会における議論を踏まえますと,既存株主の持株比率の低下の限界を画するという発行可能株式総数の制度趣旨を実効あらしめるため,このような規律の見直しをすることが考えられます。具体的には,株式の併合に際して株主総会決議により定めるべき事項に「併合後の発行可能株式総数」を追加した上で,当該発行可能株式総数は発行済株式の総数の4倍を超えることができないものとすることが考えられます。これに対して,併合の割合と同じ割合で当然に発行可能株式総数が減少するものとすべきであるとの指摘もされていますが,発行可能株式総数の制度趣旨のほか,会社が現に二以上の種類の株主を発行している場合における種類株主間の利害関係への影響等も考慮しますと,併合後の発行可能株式総数については,発行済株式の総数の4倍を超えない範囲で株主の意思を問うものとすることが適切であるように思われます。 ○岩原部会長 先ほど私は,(1)の(注2)について,特に御意見があれば承るのを失念したのですが,この際,何かあれば御意見を伺いますが,よろしいですか。  それでは,(2)のほうの「発行可能株式総数の規律の見直し」について,御意見を頂きたいと思います。いかがでしょうか。 ○静委員 これも,私どもの問題意識を採り上げていただいたものだと思います。前向きな提案を頂きまして,ありがとうございます。以前は,この併合と同じ割合で授権枠がずっと減っていくという方式のほうがいいと思って,この場でも発言させていただいたわけでございますが,部会資料10の案を詳細に見せていただきまして,株主の意思確認に重きを置いて説明できる仕組みになっているということがよく分かりましたので,こちらの提案で賛同させていただきたいと思います。特に,内外の投資家からは,授権枠の制度というのは余りよくないと,余り評判が良くないところがございまして,毎年でも見直してほしいなどということを言っている人も非常に多いということでございますので,併合の局面だけとはいえ,そういう局面が一つでも増えることは歓迎されるのではないかと思います。 ○岩原部会長 ありがとうございます。ほかに御意見はいかがでしょうか。特にないですか。確かに,株式分割の場合は,分割の割合に応じて,株主総会を経なくても定款の授権株の枠を変えることができるという184条2項の規定があるのに対して,株式併合についてはそれに対応する規定がなく,ある意味でアンバランスになっているわけでありまして,そこから先ほどの静委員のような問題意識も出てくるところかと思われます。ただ,株式分割の場合も,現に2以上の種類の株式を発行している場合には,184条2項括弧書により同項は適用されないわけで,株式併合は,種類株式発行会社の場合は種類株式ごとの併合にしていること等もあり,184条2項のような明文の規定もない中,多分現在の多数説は,株式併合をしても授権株式の枠は変わらないという解釈論を採っているのかと思います。ただ,その結果こういう問題が生じているので,せめて授権枠の問題について手当てをしようというのが,事務当局からの提案かと思います。大体この方向でよろしゅうございましょうか。  それでは,特に御異論がなければ,この問題はそのように扱わせていただき,更に次の問題に進ませていただきたいと思います。第3の「3 仮装払込みによる募集株式の発行等」について事務当局から御説明をお願いしたいと思います。 ○内田関係官 それでは,「3 仮装払込みによる募集株式の発行等」について御説明いたします。3は,仮装払込みによる募集株式の発行等に関与した者の責任について,①及び②のような形で現行法における規律を見直すことを提案するものでございます。現行法においては,仮装払込みによって募集株式の発行等がされる場合,既存株主から仮装払込みをした者に対する価値の移転が生じるおそれがあります。当部会における議論を踏まえると,この点については,取締役に対する責任追及など現行法の規律の下での救済では,必ずしも十分でないと考えられるため,仮装払込みによる募集株式の発行等に関与した者の責任の在り方を見直すことについて,検討を要するものと存じます。平成17年改正前の商法の下にあった引受担保責任は,取締役が所定の手続を経ることなく株式を引き受けることができるのは適切でないと考えられたことなどから,会社法制定時に廃止されたという経緯があります。本文について検討する際には,そのような経緯を踏まえ,仮装払込みによる募集株式の発行等の実体法上の効力や,責任が履行される前後における株式の帰属にも,配慮を要すると思われます。  具体的には,まず,①は,仮装払込みをした者は,払込期日・払込期間の経過後も払込みの責任を負うものとすることを提案するものでございます。判例上,仮装払込みは,払込みとしての効力を有しないと解されており,有効な払込みがない以上,現行法の下では,仮装払込みをした引受人は,会社法第208条第5項の「出資の履行をしないとき」に該当するものとして,募集株式の株主となる権利を失うとともに,払込みの責任を免れるようにも思われます。もっとも,仮装払込みをした者は,仮装払込みにより既存株主から価値の移転を受けた場合には,それを返還すべき地位にあるといえます。そこで,仮装払込みをした者は,払込期日・払込期間の経過後も払込みの責任を免れないものとすることについて,検討を要するものと存じます。具体的には,仮装払込みをした者については,会社法第208条第5項が適用されず,したがって募集株式の株主となる権利を失わない旨や,実際に有効な払込みをした時点で株主となる旨を,会社法上明文で規定することが考えられます。この場合,仮装払込みをした者が払込期日・払込期間の経過後にも払込みにより株式を取得する余地を認めることになる点をどのように考えるか,払込金額に対する遅延利息の定めなど,特別の規律を設けることも含めて,検討を要するものと存じます。  次に,②は,仮装払込みに関与した取締役は,会社に対して仮装払込みの金額に相当する額を支払う責任を負うものとすることを提案するものでございます。当部会における議論を踏まえますと,仮装払込みに関与した取締役は,仮装払込みによる募集株式の発行等について,責めに帰すべき立場にあるといえるように思われます。また,仮装払込みをした者に払込みの責任を果たすよう求めることは困難な場合もあるほか,仮装払込みの抑止という観点からも,仮装払込みに関与した取締役に責任を負わせることが必要であるとの指摘もされています。そこで,仮装払込みに直接又は間接に関与した取締役は,特別の法定責任として,会社に対して仮装払込みの金額に相当する額を支払う責任を負うものとすることが考えられます。このような責任については,その根拠が仮装払込みへの関与についての帰責性に求められることから,仮装払込みに直接関与した取締役については無過失責任,間接の関与にとどまる取締役については過失責任とすることが考えられます。そこで,この点についても併せて検討を要するものと存じます。  なお,本文のような規律の見直しをする場合には,会社設立時における株式の発行に際して仮装払込みがされた場合の規律についても同様に見直すことについて,検討を要するものと存じます。募集株式の発行等の場合と規律を異にすべき理由があれば,御指摘を賜れればと存じます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございました。それでは,仮装払込みによる募集株式の発行等の問題につきまして,御議論を頂きたいと思います。 ○野村幹事 私は,ただ今御提案のありましたことに対しては,基本的に賛成でございます。従来の議論の中で,仮装の払込みを無効とすると,現行法上は失権してしまうという解釈を採らざるを得ない状況にある中で,仮装払込みをした者が責任を負わなくてもよいという結論になることは極めて不合理でありますので,外形的な資金の移動があったことをもって形式的には払込みがあったものと考え,失権を排除し,その後の法律関係は,部会資料10に規定されているようなものにするということを可能とするような法的手掛かりを与えていただくことが必要かなと考えております。  その上で,取締役についての責任が新たに創設されますと,これは,恐らく払込担保責任といった感じの名前で呼ばれるのではないかなと思いますが,そういったものが新設された場合,その後の法律関係として,会社に対してその払込担保責任が果たされた後の法律関係を明確にしていただきたいと思います。具体的には,単に本来の株主の代わりに払い込んだものと整理して,仮装払込みを行っていた者に株式が帰属すると考えるのかが問題になるかと思います。誰のものか分からない株式を作り出すわけにはいきませんので,誰の株式なのかということを考える必要があるわけですが,もし仮装払込みをした者ということになったとしますと,そこに不当利得が生じておりますので,責任を果たした取締役から仮装払込者に対する求償の問題が生じます。それが履行されれば良いのですが,仮に仮装払込者が求償に応じなかった場合の株式の帰属というものについても,一定の手当てをしていただく必要があるかと思います。  今私が申し上げた議論は,かつて旧商法の下で引受担保責任,払込担保責任があった時代の法制度にやや先祖返りする部分があるかと思いますが,現時点では,上場会社については振替決済が行われておりますので,振替の仕組みの中でうまくワークするように,誰のところに記帳されていて,誰のものになっているのかということの実務を詰めていただいた上で,法制度の設計をしていただければと思います。 ○岩原部会長 ほかの御意見はいかがでしょうか。 ○本渡委員 このような御提案をしていただいて,ありがとうございます。仮装払込みだから,一応はお金が振り込まれるわけです。そうすると,それに従って株式が発行されて,その株式が第三者に渡ってしまった場合は,それは仮装払込みなのだから,その株式は無効だと言われればそれまでなのですが,一応第三者に渡ってしまうと,その第三者の権利を奪うというのはすごく難しいし,また,どの株が無効でどの株が有効かというのは分からないので,こういう責任を設けたほうがいいのではないかという発想なわけですから,要するに,仮装払込みをした人がまだ株式を保有している場合は,それは無効として消してしまっても平気なのではないかと思います。そういうことを考えると,責任を追及された取締役がお金を払ったとしても,株式がもう第三者のものになっていれば,その株式の帰属というのは,もう第三者のものになってしまっているという整理でよろしいのではないかなと考えている次第でございます。 ○岩原部会長 仮装払込みによって発行された新株の効力をどう考えるかというのは,非常に難しい問題で,現時点ではっきりしていないのです。学説の間でも分かれています。一方では,とにかく発行された以上は有効だという考えがあります。その中でも,仮装払込みによる新株発行が,新株発行無効事由になって,新株発行無効の訴えの対象となるかならないかについても,考え方が分かれ得るのです。ただ,発行された新株が有効だとしても,仮装払込みをした人が失権して新株につき権利を持たないということになると,権利者のいない権利が成立することになってしまい,法律的に説明が付かない状態になっていたのです。そこから逆に,最高裁判例に従い,仮装払込みの場合は払込みとして無効だということを前提にすると,そもそも新株発行が不存在になるという考え方もあり得て,現にそれを前提にしたような下級審判決もあるのです。ただ,本渡委員がおっしゃるように,第三者が当該新株を取得した場合の問題などを考えると,そこまでいけるかという問題もあるところです。部会資料10の提案は,その権利関係をはっきりさせて,株主になる者を法律上確定することによって,新株発行の効力は否定しないということを前提にした考え方でできているのかと思います。したがって,本渡委員が御指摘のように,第三者に譲渡された場合は,少なくとも第三者は善意取得できるわけでありますので,保護されるということになると思います。ですから,部会資料10で扱っている問題は,今申し上げましたような新株発行の効力の問題を視野に入れて,事務当局としては提案されているものと理解しております。  いかがでしょうか。確かに,野村幹事御指摘のように,後の求償関係その他の難しい問題がなお残っていまして,部会資料10に書いてあるだけでは,全て問題が尽きているわけではないのですけれども。 ○荒谷委員 野村幹事と同じような疑問を抱いたのですが。今の本渡委員と岩原部会長のお話を総合しますと,取締役が特別法定責任を負うというのは分かるのですけれども,仮装払込みをした本人がお金を後から払ったが,そのときにはもう第三者に渡ってしまっていたときに,第三者は善意取得をするけれども,お金を払った人はどうなるのか。私の理解が不十分かもしれないのですが,そのあたりの権利関係を整理する必要があるのではないか。場合によっては,何らかの手当てが必要なのではないかという気もいたしますが。 ○河合幹事 解釈論によって整理されるべきところでもあるかもしれませんが,まずは,株式は有効になるということを前提に考えておりまして,その場合に,払込みがされていない段階は誰に帰属しているのかというのは,考え方はいろいろあるのかもしれませんが,自己株式となるということも一つの整理としてあり得るかもしれません。これを前提にしますと,その株式が第三者によって善意取得し得ることになるという整理となろうかと思います。今,荒谷委員の御指摘のことにつきましては,仮装払込人は,仮装の払込みを行っている上,第三者に譲渡した段階で,譲渡の対価を既に取得しておりますので,その意味でも,仮装払込人が第三者の善意取得後に払込責任を果たした場合でも,その保護を改めて図る必要はなく,善意取得がされた株式は,第三者が取得したままにとどまるというのも一つの在り方ではないかと思います。そのため,このあたりのところは,法律上特に手当てはしなくてもよいのではないかと思っていますが,特に規定が必要となる部分があるのであれば,御指摘を賜ればと思います。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。この,誰が発行された新株の権利者になるかというのはなかなか難しい問題で,今,河合幹事のおっしゃったような考え方も一つあり得ると思いますけれども,野村幹事の御指摘になったようなことを含めて,もっといろいろ考える必要が多分ある。それは解釈論で大部分は解決せざるを得ないのかなという感じはしています。 ○上村委員 私もよく分からないので,確認ですけれども,有効だということが前提だと河合幹事はおっしゃっていますね。そうすると,払い込んでいないけれども,有効で,払い込めば堂々と権利者になれる地位というのは,会社の自己株式と同じように見るというお話ですね。ということは,会社が仮装払込みをした株主についての株主だということになるのですか。会社自身が不正株主なのですね。後で処分したときはどうなるのか,無から有が生ずるのでしょうか。とにかくこれは分からないことだらけですね。それから,仮装払込みをした人も,自分は仮装だとは思っていないのではないですか,恐らく。見せ金の認定は必ずしも容易ではありませんので。後で有効な払込みといっても,自分は立派に払い込んでいるのだと思っているときに,「あなたは仮装払込みをした人です」とどうやって確認するでしょうか。それから,一度,不正な行為である仮装払込みした人間が後で堂々と株主になって,堂々たる株主として場合によっては支配権を有するということもあり得ることになりますが,それは何か非常に気持ち悪いという感じがします。財産的利益だけは保障するけれども,議決権は3年間与えないとか,そういう何らかの制裁を考えてはどうかなとも思います。全部疑問ですので,いずれ考えていければと思いますが。 ○中東幹事 上村委員が最後におっしゃったことに関係すると思うのですが,仮装払込みをした者に幾ら支払わせるかということについて,遅延利息などの特段の規律ということをお考えになっていると思うのですが,株価がその後ずっと上がってしまっており,仮装払込みが分かったのは随分先でといった事案を考えると,仮装払込みだということが分かってから実際の払込みに応じたということになれば,もうかることにもなりかねません。その意味で,遅延利息5%にしても十分高いのかもしれませんが,悪質な事案においては,もう少しきちんと利益を奪い取ることができるような形にしたほうがいいと思えるのですが,その点を御検討いただけますでしょうか。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。確かにいろいろ問題があり得るところで,ここの制度設計は非常に難しいと思います。 ○田中幹事 確かに,既存の法律関係を前提にして考えると複雑なルールかもしれませんが,実質的には,株式自体は発行したことになるけれども,払込みをするまでは仮装払込人は何の権利も行使できないという制度にしようということでありまして,法律を作れば,それほど困難なことではないのではないかと。仮装払込みが払込みとしては無効とされても,登記をしている以上は株式自体は有効に発行されたことになる,そのため,仮装払込人は株主にはなるのだけれども,ただ,払込みを完了するまでは全ての権利が停止されていると考えるわけです。現行法でも,自己株式というのは基本的には全ての権利が停止されますから,これと比べればそれほど奇異な制度ではないと思います。そして,そのような権利の停止というのが一種の抗弁のようなもので,善意者が株式を取得すると,そのような抗弁が切断されて,善意の株式の取得者は全ての権利を行使できるようになる,と考えればいいのではないかと思います。  それから,野村幹事の提起された問題については,解釈論に委ねるということでもいいかもしれないのですが,私自身は,この御提案は,従来の引受担保責任をそのまま復活させるのではなくて,飽くまで過失のある取締役に払込責任を課すにとどまるというものですので,たとえ取締役が仮装払込人に代わって払込みをしても,取締役が株主になるわけではないと思っておりました。そうなると,確かに仮装払込人は何の財産的出捐もすることなく株主になれてしまうわけですが,その場合は,取締役が仮装払込人に対して求償していくということになるのではないかと。ここはいろいろな考え方があり得るところですが,取締役が株主になるという制度も,当初想定されていた引受人と違う人が株主になってしまうわけですから,他の株主との関係でいろいろな問題が生じてしまうのではないかと思っておりまして,ここはそういう割り切りでいいのではないかなと考えております。 ○藤田幹事 まず基本的に,こういうルールを設けること自体は賛成です。そこから先は,野村幹事を皮切りにいろいろな難しい問題が提起されたのですが,一番割り切って整理するなら,会社法213条に規定されている,現物出資した場合の価額てん補責任のアナロジーで,仮装払込みだから形式的には払込みはしたのだけれども,実質的には額面相当の価値を拠出していなかったと扱いてん補責任を認めたと割り切ってしまうのが分かりやすいでしょう。仮装払込人が,額面どおりの価値のないものを現物出資した人に相当すると考え,法定責任が発生し,取締役―設立であれば発起人―が更に重畳的に責任を負うこととする。株式の帰属は,価格の足りない現物出資財産を出資した人が株主になるのと同じように,形式的な払込みをした仮装払込人にあって,その人から株式を譲り受けた人は当然権利を取得する。仮装払込状態あるいは不十分な現物出資状態で,実質的な拠出をしていない者がどんな権利行使をできるかはまた別途考え,規制する必要があると考えるなら規制する。このように割り切るのが,整理としては一番きれいだと思います。どこまで条文で書くのが必要かという話と,既存の法制度とどう整合的に説明するかという話は,その先の問題だと思います。例えば,現在,株式の帰属について,いわゆる実質説という考え方が通説と言われていますが,それとどう整合的に説明するのかというのは―実質説というのもお金の出所だけで決めているのではなくて,当事者の意思を勘案していますので,幾らお金を出したって,自分が株主を引き受けたつもりはなく,責任を取らされただけの取締役に帰属させる必要はないわけですから,私は,この提案とも整合的に説明できると思いますけれども―,それはその先の問題です。今の提案というのは,差し当たりは現物出資価額填補責任のような形の規律をここに設けるというものと理解して,基本的に賛成いたします。  なお,多くの人は議論していないところですが,設立の場合も同じような規律を置くことでいいと思います。 ○野村幹事 すみません,問題を提起してしまいましたが,私は,田中幹事がおっしゃったような引受担保責任を復活させるというアイデアを持っているわけでは全くありません。払込担保責任と先ほども申し上げたと思うのですけれども,正に払込みだけをして,その都度自動的に仮装払込者が株主になるという制度をイメージしています。ただ,その場合でも,求償が問題となるわけですが,それに応じてくれなかったときに,それでもなお,仮装払込者は株主として扱い続けることで良いのかということがちょっと気になったものですから,そのときにはその責任を果たした取締役が株主になるといった制度,例えば払込みによって有効に成立した株式を求償権の担保として取るといったイメージはあり得るのかどうか,そのあたりを詰めて法制度を設計していただければということを申し上げただけです。  それから,本渡委員のほうからも出てきておりましたけれども,善意取得の問題が当然絡んできますが,その場合,理論的には,先ほど河合幹事からあったように,自己株式であるとしても,振替法上は仮装払込者の株式として記帳されていると思います。そうしますと,それを信じて取得した人は,振替法上の善意取得という形で整理されていくのだろうなとは思っています。ただ,そうなったときに,もともと株式は一体誰のものなのかという理論的な疑問がまた出てくるので,そこも一応整理しておいてくださいということを申し上げただけです。それは別に法制度が必要なのではなくて,解釈に委ねられるのだと思いますので,むしろ私たちの仕事なのかもしれませんが。 ○本渡委員 私の理解が違っていたのかもしれませんが,仮装払込みをした株式があります。それで,もう発行されてしまったから,それは有効なのか無効なのかはちょっと分かりませんが,その株式を第三者に移転して,第三者が善意取得してしまった場合は,その株は有効にならざるを得ないと思うのです。だけれども,まだ仮装払込みをした人の名義のままの場合には,それは,無効として抹消できるのではないかという気がするのです。そうすると,要するに,第三者に移転してしまって有効になった株についてだけ取締役の責任を追及できるという形でいいのではないかなという気がしているのです。 ○岩原部会長 本渡委員がおっしゃったようなお考えは,鈴木竹雄先生の新株発行無効に関するお考えと大体同じようなお考えかと思いますが,しかし,現在の最高裁判例に従いますと,新株発行不存在といわないのであれば,発行された以上はもう株式としては有効に成立しており,新株発行無効事由にするか否かも,第三者への移転の有無を問わずに決めることになります。したがって,たとえ仮装払込人の手元に新株がまだあっても,株式としては有効なものとして成立しており,新株発行無効の訴えの対象にもならないという前提でこの案は書かれていて,それを今皆さんに御議論いただいていると思っております。よろしいでしょうか。大体問題点はかなり明らかになったかと思いますし,整理もされたかと思いますので,先に進ませていただきたいと思います。  次に,第3の「4 新株予約権無償割当てを用いて行う資金調達」,最後の論点でございます。 ○内田関係官 それでは,「4 新株予約権無償割当てを用いて行う資金調達」について御説明いたします。4は,ライツ・イシューを完了するのに必要な期間を短縮するため,新株予約権無償割当てにおける割当通知に関する規律を見直すことについて問うものでございます。現行法においては,会社は,新株予約権無償割当てに際して交付する新株予約権の行使期間の初日の2週間前までに,株主及び登録株式質権者に対して,割当通知をしなければならないものとされています。割当通知の期限が新株予約権の行使期間の初日の2週間前とされている趣旨については,新株予約権無償割当てを受けた株主に対して,新株予約権の行使の準備をする時間的余裕を与えるためであると説明されています。そのような趣旨からは,新株予約権の行使期間の末日の2週間までに割当通知をすべき旨の規律で足りるように思われます。そのような規律とする場合,割当通知の時期によっては,新株予約権を行使して取得した株式を売却して利益を得る機会について株主間で差異が生ずる可能性があります。もっとも,売却機会についての差異は,新株予約権自体の売却が可能となる新株予約権無償割当ての効力発生日の時点で既に発生しているとの指摘がされており,行使期間中についてのみ当該差異を問題とする必要はないようにも思われます。割当通知は,新株予約権無償割当てにより株主が有する権利の内容に変更が生ずることから,その内容を株主及び登録株式質権者に知らせるという機能も有すると考えられ,このような機能を通じて,売却機会に関する株主間の差異についても一定程度配慮することができると思われます。そこで,このような機能を実効あらしめるため,新株予約権無償割当ての効力発生日後遅滞なく通知をすべき旨の規律を加えることについても,併せて検討を要するものと存じます。  以上を踏まえますと,新株予約権無償割当ての効力発生日後遅滞なく,かつ,新株予約権の行使期間の末日の2週間前までに割当通知をすべき旨の規律とすることが考えられます。このような規律とする場合には,割当通知の時期にかかわらず,新株予約権の行使期間を開始することが可能となります。ライツ・イシューにおいては,十分な行使期間の確保が想定されることを踏まえますと,このような規律とすることにより,ライツ・イシューによる資金調達を完了するのに必要な期間を短縮することが可能となるように思われます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。それでは,この論点について御議論いただきたいと思います。 ○古澤幹事 御提案ありがとうございます。全面的に賛成でございます。2点,付け加えさせていただきます。  この通知と並行いたしまして,金商法においても株主に対する目論見書の交付という問題がございます。これにつきましては,去る1月19日に金融庁の開示制度ワーキング・グループにおいて報告書を公表いたしました。この報告を受けて,目論見書の交付方法の弾力化などの措置を講じるため,金商法の改正を手当てしようと考えております。その際,公募増資とライツオファリングとの優先関係の議論がございましたが,この点につきましては,金融庁ではどちらが優先だという位置付けはせず,「増資手法の選択肢の整備」と整理いたしております。これは1点,御報告でございます。  2点目は,技術的な点ですが,今回の御提案の「効力発生日後遅滞なく」の具体的な解釈の問題かもしれませんが,通知に至るには,保振における割当株主の確定手続,それから信託銀行や証券代行などにおける株主名簿の変更手続など,それなりに日数が掛かる事務もございますので,「遅滞なく」という点が,実務との関係でうまく接合するように御検討いただければと思います。 ○岩原部会長 ほかに何か御意見はありますでしょうか。 ○田中幹事 第一読会のときの意見と完全に重複してしまうのですが,やはり意見としてとどめたほうがいいと思いまして申し上げますけれども,この方法ですと,新株予約権無償割当ての差止めの請求をする時間が,極端な話,全くないことになる可能性があると思うのです。新株予約権の無償割当て自体は,基準日を定めない場合,時間的間隔なくできますので,権利を割り当てられた株主はその後すぐにこれを行使できるとしますと,どんどん株式が発行されていってしまいますから,仮に,新株予約権無償割当てが違法なときにはその行使による新株発行が差止めの対象になり得るという解釈を採るとしても,事実上,どんどん行使されると,救済が間に合わなくなる可能性がございます。今はもう敵対的買収がすっかり影を潜めていますから,差別的新株予約権無償割当てのときにどのようにルールを設けるかとかは,もう関心が薄れているかもしれないのですが,いつかはまたそういった問題が起こるはずですので,このように,ぎりぎりまで期間を効率化すると,いったん問題が起きたときに適切に対処できないのではないかという懸念を持っております。これは,この問題についての議論なのか,それとも差止請求という制度一般の問題として考えていくかはともかく,どこかでこれを検討していただきたいと思っております。 ○岩原部会長 第一読会でも田中幹事から御指摘のあった論点でありますが,いかがでしょうか。 ○奈須野幹事 これも第一読会のときに申し上げたことを繰り返し申し上げますと,ライツ・イシューに時間を―あるいはコストもあるのですけれども―要することになっている要因の一つは,この割当通知の問題もあるかもしれませんが,実質的には,アメリカのフォームF4との関係で,株主の判明調査を行わなければならなくなったり,あるいは米国人株主の割合が一定比率以上に当たることが判明した場合に,米国の証券取引法に基づく所定の手続を踏まなければならないということが原因になっています。そこで,このことについての会社法上の扱いも明確化する必要があります。 ○三原幹事 私も,今既にお話がありましたので,繰り返しになりますが,まず公募原則が前提ではないかと思っています。実際の資金調達の場面を見ますと,公募には,証券業協会での引受ルールに基づく公平配分ルールや,需要予測に基づくブックビルディング制度などがあって,比較的きちんとなされていますし,公募の場合には引受審査などという制度も割ときちんと構築されています。一般公募の形には,今までの歴史もありますし,問題点も洗い出されていて,それと,目論見書の交付もなされますから,上場企業ということを考えますと,資金調達としては,公募原則というのがまず一つあるものと思います。その上で,新たな選択肢としてライツ・イシューという制度があるということであって,では,今度新たなライツ・イシューができたら,公募原則をやめてしまってヨーロッパ型のような形になって,そこは例外になるのですという形になると,今までの公募としてやっていた制度そのものを非常に減殺してしまうと思います。公募原則の市場における重要性と存在価値を十分認めた上での議論であるという前提でお考えいただくということで,今まで話が進んできているものと思っていましたので,繰り返させていただきました。  それから,あと二つあるのですが,一つ目は,奈須野幹事がおっしゃった米国法でのF1という問題があります。米国株主が10%おられればアメリカでの登録届出書の提出が必要という規制について,アメリカ人の場合には,例外もありますが,M&Aのような場合の差別的行使条件の形で,行使条件で差別的なものが認められて,株主平等原則の例外的な措置ができるのか,あるいは,行使条件のような形で韓国でやっている例を使って同じような形で対応ができるのか。この辺のところも,会社法で少なくとも議論をしていただいたほうがよろしいのではないかと思っております。  最後に,御提案の中の「割当ての効力発生日後遅滞なく,かつ,新株予約権の行使期間の末日の2週間前までに」と,「遅滞なく,かつ」という点ですが,その間が割と比較的長い場合には,「遅滞なく」のほうが優先するのか,「末日の2週間前まで」のほうが優先するのかがよく分かりません。その間が例えば3日とか4日しかなければいいのですが,例えばその間が1か月ある場合には,「遅滞なく」のほうが優先してしまうのか,「末日の2週間前まで」なのかという点はどうでしょうか。現実の日程表を見ますと,恐らく1か月ぐらい間があるものと思います。どちらが優先する「かつ」なのかがよく分からなかったということで,これは質問かもしれませんが,申し上げておきたいと思います。 ○河合幹事 今の御質問ですが,ライツ・イシューのときに,行使期間が例えば1か月ぐらいあるということであれば,それはまず「行使期間の末日の2週間前まで」が一つの基準になりますし,「効力発生日後遅滞なく」の時点がどのぐらいなのかというのは,先ほど古澤幹事が言われたような,合理的に必要な手続を経た後にすぐにということになるかと思いますけれども,その時点との二つの基準のいずれか早いほうとなりますので,要件としてどちらが優先するというものではないと思っています。 ○岩原部会長 ほかに何かございますでしょうか。よろしいですか。なお幾つかの御指摘を頂きましたので,その点は留保して,それ以外の点では特に御異論はなかったということかと思います。  ということで,大体,今日審議すべき事項は御審議を頂いたかと思いますが,特に何か御発言漏れなどがございましたら,この時点でお願いしますが,よろしいでしょうか。それでは,本日の部会は終了させていただくことにしまして,その前に,次回の部会の予定について,事務当局から説明を頂きたいと思います。 ○河合幹事 次回は,平成23年3月23日水曜日午後1時30分から午後5時30分まで,場所は本日と同じ法務省20階第1会議室となります。本日で「企業統治の在り方に関する論点」を一旦終わらせていただきまして,次回は「親子会社に関する規律に関する論点」の御検討をお願いする予定でございます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。それでは,会社法制部会第10回会議を閉会させていただきます。本日も熱心な御審議を頂き,誠にありがとうございました。 -了-