法制審議会民法(債権関係)部会           第27回会議 議事録 第1 日 時  平成23年6月7日(火)自 午後1時30分                     至 午後5時48分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)                議     事 ○鎌田部会長 それでは,定刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会の第27回会議を開会いたします。   本日は,御多忙の中を御出席いただきまして誠にありがとうございます。   本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 本日の会議ではヒアリングを行うことになっておりますが,そのヒアリング先の各団体からそれぞれ意見書その他の資料が提出されておりますので,それを机上に配布させていただきました。一件一件の表題を読み上げて確認することは省略させていただきますが,各団体からの意見書等がそろっていることを御確認いただければと思います。 ○鎌田部会長 それでは,本日の審議に入ります。   前回の会議以降に中間的な論点整理が公表され,パブリックコメントの手続が実施されておりますが,その点は後ほど事務当局から報告してもらうこととし,本日は早速ヒアリングに入りたいと思います。   2月に開催された第23回会議において,部会メンバーの皆様にヒアリングを希望する団体があれば御紹介いただきたい旨をお伝えしたところ,多くの団体の御紹介を頂きました。そのうち本日は,日本貿易会,情報サービス産業協会,コンピュータソフトウェア協会,日本チェーンストア協会,日本証券業協会,京都消費者契約ネットワーク,消費者支援機構福岡,住宅生産団体連合会から御意見をちょうだいする予定です。   本日の具体的な進行につきましては,事務当局から説明してもらいます。 ○筒井幹事 本日は,ただいま部会長から御紹介がありました順にヒアリングを行う予定をしております。各団体には20分で御報告を頂き,その後,質疑応答を10分ということでお願いしてあります。1団体当たり30分です。もっとも,二番目の情報サービス産業協会と三番目のコンピュータソフトウェア協会は,報告内容が関連しておりますので,両団体から続けて20分ずつの御説明を頂いた後に,まとめて質疑応答の時間を15分ほど取りたいと考えております。よろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま事務当局から説明のありましたように,日本貿易会から意見聴取を行いたいと存じます。参考人の板垣修司さん,よろしくお願いいたします。 ○板垣参考人 ただいま御紹介にあずかりました,日本貿易会法務委員会民法改正検討ワーキンググループの座長を務めさせいただいております,豊田通商の板垣と申します。   本日はヒアリングの機会をちょうだいできまして,どうもありがとうございます。弊団体は意見書を出させていただきますが,時間も限られておりますので,早速ヒアリング発言に移らせていただきたいと思います。どうぞよろしくお願い申し上げます。   まず初めに,日本貿易会の債権法改正に対する意見,スタンスを端的に申し上げたいと存じます。貿易会としましては,確立した判例法理の明確化や,不明瞭な規定を明確化すること,それ自体には異論はございません。ただし,その規定の仕方によっては事業活動の萎縮につながるおそれもあるのではないかということに懸念を示しているというのが意見書,我々のスタンスでございます。   この意見には,大きく二つの実務の感覚,あるいは実情というものから来ているということを,ここで知っておいていただきたいということになります。   まず一つ目なんですが,事業者というのは想定外のリスクが生じることを一番嫌うということでございます。当然ですが,一度合意したものは有効であることを前提に活動いたします。したがい,一度合意したものが無効になったり,取り消されたり,あるいは違反とされるような,そういう規定には特に貿易会としては敏感になります。そのような規定がもしありましたら,ある以上,その濫用のおそれ等々を含め,契約する際には検討しなければなりません。事業者としてリスクを想定内のものとするためには,極端な話,それが適用されることを前提に,契約締結するか否かの判断をせざるを得なくなるという懸念があるという意見が多々あります。そういう意味で,意見書の中には,過敏な反応と思われる拒絶反応と思われる部分はあるかもしれませんが,このような実務の感覚が基にあるということを御理解願えればと存じます。   次に二つ目なんですが,民法の規定は交渉過程で重要な指標になるということです。例えば,お互い交渉を戦わせ,意見を戦わせて,結局平行線みたいになることもあるんですけれども,この場合,では民法,民商法に従おうという話になることもございます。ところが,仮にですが,事業者間の取引にそぐわないような規定が一般化されてしまったとすると,民法で決まっているのだから,民商法で決まっているのだからということで,これが公平なんだという主張を許すことになってしまい,実際には必要である条項を追加したりとか,本来であれば,事業者間であれば公平な条項に修正するというのに,過大なコストが必要になるのではないかという懸念がございました。ということで,もし任意規定だから問題ないと,必要ならば特約を付ければよいではないかと,もしそういう議論があるのであれば,事はそういう単純なものではないということを御理解いただければなと存じます。   以上,総論を述べさせていただきました。   本日は時間も限られておりますので,意見書は順になっているのですが,この順番に限らず,今述べてきた2点を踏まえ,特に御留意いただきたい点について御説明していきたいと考えております。   では,まず1点目の,一度合意したものが無効となったり取消しとなることに対して,実務界が言わば拒絶反応のようなものを示し,濫用のおそれを懸念しているという点に関し,特に御留意いただきたい規定についてコメントしていきたいと存じます。   それでは,意見書のほうになりますが,この代表例としては,期間の定めのある継続的契約の解消に関する制限が挙げられると思います。意見書では87ページになります。この点をかいつまんで御説明いたします。   この点なんですけれども,貿易会としましても,判例法理といいますか,信義則上相当でないと認められるときに更新の申出を拒絶することができない,それ自体に反対しているものではございません。   例えば,ここにも書いてあるんですけれども,一方当事者が当該継続的契約に必要な先行投資を行っていたと,この先行投資が未回収のうちに期間満了してしまったと,そのときに更新拒絶されたという場合には,その先行投資を行っていた当事者を保護するというのは当然理解できるものでございます。ただ,更新拒絶が認められない場合というものは,このような場面に限定されるべきではないでしょうかと考えております。やはり期間の合意をしているのですから,原則として,その期間で終了するのがむしろ当然というのが実務の感覚でございます。   ところが,下級審判決の中には,信頼関係の破壊等の契約を継続し難いやむを得ない事由を必要とするなど,更新拒絶を行う場合に,いわゆる正当事由を要求することと同義であるとも解される判決もあり,これはさすがに契約の拘束力を強め過ぎではないかという疑問も呈されておりました。今後,下級審判例,判例がどのように収れんされていくか,ちょっと分からない,見通しもないように思われますので,結局のところ,この継続的契約の拘束力がどこまであるのかについては,実務界は,結局どこまであるのかというのは,混乱しているというふうに感じております。   その意味では,規定することには一定の意義があるかもしれません。ただ,それは過度に契約の拘束力を強める解釈にならないように,十分に御留意の上,規定のほうを検討していただきたいというのが貿易会の意見でございます。   次に,事情変更の原則を挙げたいと思います。これは80ページから82ページに記載しております。   これも,事情変更の原則という概念自体は判例法理であり,異論はございません。ただ,それは従来個別の案件ごとに,本当に極めて異常な事態に限り適用されてきた原則かと思います。これを法文化することで,契約当事者に安易に履行を拒絶する,そういう口実を与えることになるのではないかと,そういう懸念がございます。   また,事情変更の原則については効果についても検討がありまして,その中では,契約当事者に契約改訂,再交渉義務を課す旨を明文で規定することが検討されているとのことですが,この点については強く反対したいと思います。事情変更の原則の適用にどのような効果を与えるかにつきましても,やはり個別案件ごと,契約内容や事情変更の基礎となる事情によって異なると考えられます。ですから,一律に契約改訂や再交渉義務を課すことは適当でないというふうに考えられます。法律により一般的な契約改訂や再交渉義務を課すことは,結局,交渉を強いるということであり,現実的な解決に至るとは考えにくいのではないでしょうか。これを利用した濫用も当然懸念されます。以上から,事情変更の原則の効果に契約改訂や再交渉義務を課すという点について反対したいと思います。   1点目は以上になります。   では2点目の,交渉指針として民法の意義に照らし事業者間の取引にそぐわない事項が一般化されることを懸念しているという点に関し,特に御留意いただきたい点についてコメントしたいと思います。   この代表例については,契約締結過程による説明義務・情報提供義務の規定が挙げられると思います。意見書の中では23ページから24ページになります。   御承知のとおり,情報というのはそれ自体価値のあるものでございます。事業者というのは,その情報を獲得するために日々奔走しております。また,商社でいえば主要な資産は人と情報であると言っても過言ではございません。そのような大事な,重要な資産である情報を提供する義務を,仮に事業者の間の取引でも課せられるとあれば,これには強く反対したいと思います。   情報は自分の努力で獲得すべきというのが実務の感覚です。情報をいかに引き出すかは事業者の能力であり,価値であるとも言えると思います。もちろん交渉相手をだますということはよくないことは当然ですが,情報の提供は自らの合理的な判断で行うものというのが実務の感覚でございます。   仮に説明義務・情報提供義務が課せられますと,都度開示する義務があるのかを検討せざるを得なくなると思われますが,情報が有用なのか,不利なのか,また不要なのか,それは相手の立場や主観によって異なるはずですから,結局,どこまで開示すれば十分なのかということの判断に苦しみ,結果,迅速かつ活発な経済活動が阻害されるのではないかという懸念がございます。その点を御留意の上,こちらは御検討願いたいと思います。   次に,約款について述べたいと思います。こちらは意見書の26ページから31ページになります。   約款については,特に第2の視点であった消費者取引と事業者の取引において同一の約款規定を課すことについての是非について,慎重に検討していきたいと考えております。約款について申し上げますと,事業者間取引では裏面約款を含む約款というのは重要な役割を果たしております。一言で申し上げますと,ここに長々と書いてあるんですが,商取引の実情に合致した定型的な条項を利用することで,迅速かつ大量の処理を要する商取引に存在するリスクの無限の広がりを最小限にするという役割を担っております。そこでは交渉当事者同士が相互にリスクバランスを考慮した結果,約款に従うことについて合意しており,一概にどちらに不利になるという内容のものではございません。   例えば売買契約の裏面約款においては,商品のリスクを相手方に転嫁するという責任制限条項が置かれる場合が挙げられます。最も単純な場面を想定しますと,相手方は商品のリスクを引き受ける代わりに,例えば仕入れ額を抑えると,そういう判断でこれを受け入れるということも考えられます。このように,裏面約款は必ずしも一方当事者のみを利するものとは言い切れません。   もし裏面約款を含む約款が例えば無効となるような危険をはらむということとなれば,当事者の予測可能性は害され,ひいては事業活動の委縮につながるという懸念はございます。事業者取引と消費者取引は利益状況が異なるということを踏まえ,御検討願いたいと考えております。   次に,不実告知あるいは不利益事実の不告知のあった場合の表意者保護の規定という規定について述べたいと思います。これは,意見書では38ページから40ページになります。   この導入には,基本的には反対したいというのが貿易会の意見でございます。   ただし,その理由は,ここに記載されているとおり,M&A取引において表明保証の効力が何らかの形で否定されないかと,そういう懸念から来ております。御承知のとおり,表明保証というのは現在民法で規定されてはおりませんが,主にM&A取引において広く利用されているものでございます。これは,不実告知あるいは不利益事実の不告知に当たる可能性をはらみつつも,両当事者合意の下一定の事実を表明し,万一不実告知あるいは不利益事実の不告知に当たった場合には,取消しや解除ではなく,それを金銭で解決しようとするのが一般的な内容であると理解しております。それにもかかわらず,これが強行規定とされ,かつ取消しの対象となるのであれば,それは耐えられないことであると思います。   他方で,不実告知あるいは不利益事実の不告知があった場合に,それが重大なものであるときは,当該契約関係から離脱されてしかるべきという意見もあることも承知しております。これについては一理あると考えております。そこで,例えば不実告知の規制をしつつも,表明保証に関する規定,定義,要件,効果等々については新たに規定を創設するというのも一案かと考えております。   なお,不利益事実の不告知についても同様のことが言えるかもしれませんが,ただ,不利益事実の不告知の場合は,規定されることにより実質的な情報提供義務が課せられることにならないかという懸念は残りますので,仮に同様の案を採るにしても,規定の仕方を慎重に御検討いただきたいと存じます。   次に,不当な契約条項の拘束力を制限する規定を設ける,すなわち,不当条項の規制について述べます。意見書では41ページになります。   この規定には反対したいと思います。事業者はトータルのリスクバランス等を考慮して契約しております。例えば,一見不利な契約も将来の布石として契約したり,一見不利な条項を受け入れても他方で有利な条件を得て,バランスを取る形で契約することもあります。約款の規制同様,リスク配分の結果の条項が例えば無効となる危険性をはらむのであれば,当事者の予測可能性は害され,ひいては事業活動の委縮につながるという懸念がございます。   最後に,多数当事者型継続契約の規定に関してコメントをしたいと思います。意見書では88ページになります。   この規定は,フランチャイズ契約を念頭に置いて差別的取扱いを意図されているものと理解しておりますが,たとえそのような場合であっても,契約内容が同一である必然性はないように思います。相手方の信用力とか交渉過程とか,いつ契約に入ったのか,その契約の期間等々によって契約内容が異なるということは認められてしかるべきと考えております。にもかかわらず,多数当事者型継続契約に関して規制がなされ,契約内容を変える場合に逐一合理性の立証を求めるなどということが,検討が必要になるということであれば,これは,商業的にはかなりの負担になるという懸念があるということを御理解願えればと存じます。   以上になります。   初めの2点の主な視点から分けて述べてきましたが,判然と分類できないものも正直ございましたが,便宜的に一つ目,二つ目という形で分類して説明したものであることを御理解願えればと存じます。   最後に一つだけ申し上げさせてください。繰り返しになりますが,情報というのは事業者にとって重要な資産であり,事業者間取引においては,基本的には自らの合理的な判断で必要と考えるときに情報を提供するべきものという感覚を持っております。事業者にそぐわない規定の一般化に対する懸念があることについては,ポイントの2ということで述べさせていただきましたが,その中でも情報提供に影響を与える規定については,特に慎重に御検討を頂きたいというのが我々の願いでございます。我々は,実務の動きや,そこでの悩みという情報を有しております。我々は合理的に判断して,これらの情報というのは債権法改正にとって非常に有用であると考えております。ですから,これからそのような情報を提供していきたいと考えておりますし,すべきであると考えております。   このたびはこのような機会を与えていただき感謝しておりますが,今後もよりよい債権法改正のため,我々の情報を最大限提供していきたいと考えておりますので,何とぞよろしくお願い申し上げます。   ありがとうございました。 ○鎌田部会長 どうもありがとうございました。   ただいまの御意見に関しまして,委員,幹事等の皆様から御質問がありましたら,御自由に御発言ください。 ○高須幹事 ありがとうございました。教えていただいて恐縮でございます。   冒頭で総論として,二つの視点があるということを教えていただきました。そのうちの最初のところで,事業者は想定外の結果が生じることを好まないというか,嫌うというような趣旨の御説明があったと思うのですが,その関係で,例えば御指摘のあった継続的契約の場合の更新拒絶のルールの問題,あるいは事情変更の原則の問題等も,想定できないのかといえば,必ずしもそうではないという印象を持っております。そうすると,むしろ御趣旨としては,後日,信義則等の適用によって,司法に,ある程度の判断が委ねられるということを好まないというような御趣旨なのかな。つまり,自らの契約内容の決定権みたいなことが維持できないことは困るというような御趣旨なのかな,などと思ったりもしたのですが,そのあたりのところを教えていただければと思います。 ○板垣参考人 決定権ですか,そうですね。質問に答えているかどうかは分からないんですが,いずれにせよ実務としては,もう合意したものが,合意した内容を前提に活動しているというものでございますので,本当に信義則上問題あるとか,そういう本当に不当な事案で否定されるというのは,それはもうしようがないとは思うんですけれども。とは思うんですけれども,それが本当に明文化等されてしまうことによって,やはりそれ以上の,本来であれば信義則だけで限られていたものが,拡大して濫用されないかという懸念があるので,ちょっと回答になっているかどうか分からないですが,そういう感覚ではあるということでございます。   すみません,ちょっと回答になっているかどうかはございませんが,恐縮でございます。 ○松本委員 今の御発言の最後の部分について,多数当事者型継続的契約についての御理解なんですが,これは恐らく事務当局にお聴きしたほうがいいかもしれないんですけれども,この立法提案の意味について,私の理解では,フランチャイズ契約で,同一のフランチャイズ契約を使っているにもかかわらず,フランチャイジーが誰かによって差別的取扱いをすることをしてはいけないという趣旨に読んでいたんですね。したがって,そういう条文は民法にはふさわしくないというふうに私は理解していたんですが,今の貿易会の方の理解だと,そうではなくて,フランチャイジーごとに異なった契約書を使うのはよくないというのがここでの立法提案だというふうに御理解されているので,一体どちらなのでしょうかということを,むしろ事務当局に対して,ここの文言の意味は何なのかをお聴きしたいです。そうでないと後の議論ができないということになりますので。 ○板垣参考人 我々としては後者の理解でおりましたが,実際のところ,どうなんでしょうか。 ○松本委員 少なくともと182ページの,3,特殊な継続的契約,多数当事者型継続的契約に書かれている1行目を読む限りは,当事者の一方が多数の相手方との間で同種の給付について共通の条件で締結する継続的契約であってということが書かれているので,これは,同じフランチャイズ契約書に基づいて契約しているにもかかわらず差別的取扱いというふうに私は理解しておりました。 ○川嶋関係官 その点については,基本的に松本委員がおっしゃった趣旨の立法提案があって,それを中間的な論点整理で取り上げたものと理解しております。 ○松本委員 そうしますと,同じ条件,同じ契約であるにもかかわらず,相手方によって違った扱いをするというのは,ある相手方に対しては契約違反をしているということになるので,そんなことをしてはいけないのは当たり前といえば当たり前です。契約どおりの履行を求める権利が各契約当事者にはあるので,それを一人に対して否定するのはけしからんというだけの話で,それ以上は独禁法の世界の話になるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。   特に御質問等,御意見等ないようでしたら,日本貿易会からの意見聴取を終わりたいと思います。   板垣参考人におかれましては,御協力ありがとうございました。 ○板垣参考人 どうもありがとうございました。 ○鎌田部会長 それでは続きまして,情報サービス産業協会及びコンピュータソフトウェア協会から意見聴取を行います。2団体からそれぞれ御意見を聴取した後に,質疑応答の時間をまとめて取りたいと存じます。   まず最初に,情報サービス産業協会の大谷和子さん,よろしくお願いいたします。 ○大谷参考人 情報サービス産業協会の市場委員会の大谷と申します。本日は発言の時間を頂きまして,誠にありがとうございます。   それでは,お手元の資料,水色の資料でございますけれども,「民法(債権関係)において考慮すべき情報サービス取引上の課題」,こちらのパワーポイントの資料に沿って御説明をさせていただきたいと存じます。   情報サービス産業協会は,略称をJISAと申しまして,ソフトウェア業,それから情報処理・提供サービス業等の事業を営む法人団体,約630社から構成されております。JISAの御説明は資料の25ページにまとめております。   26ページを御覧いただきますと,情報サービス産業に関する直近の統計を抜粋して掲載しております。平成21年度の年間売上高は21兆5,000億円,企業数は1万8,000社,従業者数は96万人に上ります。本日は,事業の中でも5割以上の売上げを占める受注ソフトウェアに関する事業者間取引を中心的な素材といたしまして,債権法に関する課題について整理したところを御発言させていただきます。   それでは,資料1ページにお戻りいただきたいと存じます。   本日は,JISAの立場から新たな債権法に期待することとして,五つの提言を述べさせていただきます。   まず,JISAにおける検討の経緯と目的とを御説明させていただきます。資料の2ページを御覧ください。   御高察のとおり,情報システムは今や社会経済にとって欠かせないものとなっております。また,そのソフトウェアは一層複雑さ,高度さを増していると言えます。例えば,御承知のことと存じますが,大手の都市銀行の合併に伴うシステム統合では,4年半の開発期間中に3,300億円の投資を行い,ピーク時のシステムエンジニアの数が6,000人に上る一大プロジェクトということでございました。このようなプロジェクトを成功裏に導き,また完成した情報システムの信頼性を確保するということは,社会的な重要課題と考えております。この課題に対応するために,プロジェクトの可視化,いわゆる見える化のための試みを行ってきております。   JISAでは,平成14年に現在のものの前身となるモデル契約を策定いたしました。そのとき,伝統的な典型契約に当てはめても解決できない様々な課題があることを認識いたしました。資料の左側にある幾つかの課題ということでございます。   代表的なものといたしましては,開発すべきソフトウェアの仕様の確定,それから,検収等の段階でユーザーの主体的な参画を求めるにはどうすればよいかという問題がございます。これらはプロジェクトマネジメント上の課題でもありますので,そのプロジェクトマネジメントの在るべき姿について,ユーザーとベンダーとの間で合意するモデル契約を作成して,その普及・啓発というものを通じて取引慣行の醸成を図ってまいりました。その動きは,公的なものとしては,平成19年に経済産業省のモデル契約が公表されておりまして,そちらにも官民の協働の成果として結実しているということが言えます。   JISAとしては,法的なインフラである民法上のデフォルトルールにおきましても,モデル契約に定めてあるプロジェクトマネジメントを推進できるような,基本的な規定を置くようなことを願っておりまして,当事者の権利義務を明確化することによって無用の紛争を減らし,ひいては情報システムの信頼性を更に高めることができるものと確信しております。   そのような目的の下で取りまとめた報告書が資料の3ページの写真でございます。ちょっとぼんやりとしていますが,今年の3月にサマリーをJISAのホームページにも掲載しております。検討を進めるために,情報サービス業における代表的なサービス類型を6種類に整理いたしまして,それらのサービスの下に,契約の交渉から締結,そしてサービスを提供し,サービスを終了させるという,サービスのライフサイクルにおいて生じることのある様々な事象,特にユーザーとベンダーとの利害が対立する事象を抽出いたしまして,それぞれの事象ごとに,現在の債権法ではどのような解決が図られるのか,また,2年前に学識経験者のグループによってまとめられている改正基本方針ではどのような解決となるかを比較対照して検討し,現行法の課題を抽出するという作業をいたしました。   御覧の報告書の第3章というところが論点ごとの分析となっておりますが,そこで得られた論点ごとに提言をまとめているということでございます。本日は,そこでまとめた提言の中から,限られた時間の中で,特に説明したい事項を五つ選んで御説明をさせていただきたいと思います。   それでは,4ページを御覧いただきたいと思います。   JISAでは,新たな債権法に期待することとしては,大きく分けますと三つございます。   まず,情報サービス取引に見られる当事者間の協力関係,それを促進するということで,協力関係を推進する規律というものを新たに加えていただき,それによって,紛争を予防する礎となる契約の締結を促すスキームができれば有り難いと考えております。   次に,契約の安定性を確保する分かりやすい規律というものが新たに加わっていただくことによって,紛争の解決に際して適用される規律が当事者間で細部まで明確になるということを願っております。   そして,規律全てについてですけれども,無体物である情報財の特性に配慮していただくこと。   ということで,五つの提言,右の欄にあるとおりですが,その一つ一つの内容について,少し詳しく御説明をさせていただきたいと存じます。   5ページを御覧いただけますでしょうか。提言の一番目は,ユーザーすなわち注文者の協力的関与を促す規定の新設ということでございます。   ソフトウェアの開発委託契約というのは,もともと何もないところから,無から有を生み出し,しかも,出来上がったものが無形のソフトウェアであるという契約でございます。ここでは,出来合いのソフトウェアではなく,ユーザーの特定の業務に特化した情報システムの開発委託を念頭に置いていただきたいと存じます。   そのような場合に,ユーザーが思い描く情報システムを構築するためには,そのシステムの具体的なイメージを仕様として確定することが必要です。そのためにユーザーは,契約交渉の段階で提案依頼書,RFP,Request For Proposalを発行します。そして,その上でベンダーから提示される提案書を見比べて契約を締結いたします。契約を締結した後に,その履行過程でも開発プロセスの要所要所で,未決事項があればそれを確定させ,また,想定外の事情が発生したときには,書面により変更管理を行っていくということが必要となります。また,受領ということでは,最終成果ばかりではなく,中間的な成果も含めて,適時適切に受領行為,つまり検査を行いまして,問題があればタイムリーにベンダーに指摘するなどの行為が必要でございます。このようなユーザーの行為がなければ情報システムの構築が決して前進しないということをユーザー自身によく御理解いただき,ユーザーが分担とされている事項を明瞭に認識し,適時にそれを果たしていく主体的な関与が不可欠でございます。   これらの事項は,この5ページに書いてあるもの全て,経済産業省のモデル契約を作った際の報告書に明示されていることの引用でございますけれども,そのように現在は共通理解として普及させたいと思っている事柄でございます。   そこで,6ページを御覧いただきたいと思います。   この点につきまして,中間論点の整理案として取りまとめていただいた中に,注文者には報酬支払義務しか規定がされていない現行民法の課題を述べられています。この点については大いに共感を覚えるところでございます。   JISAとしては,抽象的な協力義務もさることながら,ソフトウェア開発委託契約の各局面でユーザーが情報提供義務を果たし,また分担した業務を誠実に果たし,仕様確定のための適時適切の意思決定を行うなどの,具体的な行動に結び付く規定の導入を希望しております。そして,それが実行されなかった場合の協力義務不履行の効果としましては,情報が開示されなかったり,ユーザーの意思決定が遅れたりということになりますので,これ以上作業が継続できないという局面で,ベンダーの側から業務の停止,契約解除,損害賠償の請求も可能となるような義務として規定していただくことが必要だと考えております。   これらのことは契約に規定すれば十分ではないかとお考えになるかもしれませんが,現状の実務では,なぜユーザーがこのような義務を負わなければならないのか,ユーザー自身に納得いただくことに非常に困難を覚えております。それを納得いただかないと,ユーザーの個別の役割分担を契約で決めていくという個別の作業に支障が生じます。サービスの種類によっては,ユーザーに求められる協力義務の内容というのはそれぞれであろうと思いますが,特にユーザーの行為がなければ一歩も前に進めることのできない情報システムの世界では,不可欠の考え方と思っている次第です。   この点につきましては,ユーザーの立場からは,ベンダーがそのユーザーの協力義務の違反という主張を濫用するのではないかという反論もあり得るものと思います。もっとも,ユーザーの協力義務の範囲というのは,ベンダーが主張すればいかなるものも認められるのではないということは,既に出されている幾つかの裁判例でも明らかになっていると思われます。   そこで,7ページを御覧いただけますでしょうか。ユーザーのその懸念に対して何らかの指針と言える,下級審裁判例ではありますが,まず平成9年の判決は,ユーザーが自ら実施すべき役割を果たさなかった場合の義務違反が認められて,ベンダーが履行遅滞の責めを免れたケースというものです。そして,その下のほうの平成16年の判決は,ユーザーが過大な要求をするということ,そのものはユーザーの義務違反ではないと。むしろ懸案事項の解決を遅延したこと,あるいは,それについて意思決定をぐずぐずしていたということが,開発作業の遅れの一因となったということを指摘しております。   いずれもベンダーの責任を軽減する方向で出されている判決でございますが,あいにく現行法のもとではベンダーからの攻めの権利として構成することは難しい状況にあります。そこで,協力的関与を促す規定の新設という提言になったということでございます。   では次に,駆け足でございますが,提言の二番目に入らせていただきます。   8ページを御覧ください。ここの図では,上段に準委任契約が役務提供型契約の受皿となっている現行民法の姿をまとめております。そして中段には,それぞれの契約類型に該当する情報サービス取引の代表例が記載されております。例えば準委任契約の典型例としておりますのが,上流工程においてユーザーの要件定義,つまり,作りたいシステムのイメージですね,それを支援するベンダーのコンサルティング的なサービスです。また,下流工程におきましては,プログラムを完成させる責任が生じる請負契約。また,引渡しを観念することができないものとして,保守サービスなどもございます。   こういう姿になっているということを前提に,次に9ページを御覧いただけますでしょうか。ソフトウェアの開発委託契約では,ユーザー自身が自ら思い描いているシステム像を描き出すための,要件定義と呼ばれる最上流工程が非常に重要です。このため,要件定義までを全体から切り離し,独立の工程としまして,ユーザーの主体的な責任を明らかにするために,準委任契約としております。ユーザーとベンダーの共通理解の下に作成されたモデル契約は,このような意味での多段階契約となっております。この要件定義工程でのユーザーとベンダーの権利義務を的確に表現していると思われますのが,現行民法における準委任の規律でございます。中間論点整理案に先立って,学識経験者のグループでおまとめいただいている新たな役務提供の受皿規定というのは,必ずしも準委任の規律が全て踏襲されておりませんで,情報サービス業においては,多くの場合,準委任の規律がそのまま継承されることが適切だと考えております。   そこで,次のページを御覧いただきたいと思います。10ページになります。この表は3月までに取りまとめたものでして,改正基本方針による御提案との比較対照を行っているものですので,詳しい説明は割愛させていただきますが,準委任の規律として残したいものを挙げております。   次に,11ページを御覧いただきたいと思います。   中間論点整理案では,何らかの総則的な受皿規定の必要性に言及されているものの,個別具体的な規定案が示されているわけではありませんので,同じような比較検討はできませんけれども,あえて申し上げるのであれば,報酬請求権について,成果完成型,履行割合型というようなタイプに分けて論じることについては,実務にも合っておりますので,共感を覚えております。   他方,役務提供者からの契約解除の扱いについては,やはり現行規定と同等のものを求めたいというのがJISAの考えでございます。   では,次に12ページを御覧いただけますでしょうか。ここでは三つ目の提言ということですが,瑕疵の定義に関する裁判例を規定化していただきたいという提言でございます。   ソフトウェアの瑕疵に関する下級審の裁判例で,おおよそ定着している考え方としては,ここに挙げている平成9年,平成14年の裁判例,それから,それ以後の幾つかの裁判例でも共通して書かれているように,注文者から不具合が発生したとの指摘を受けた後,請負人が遅滞なく補修を終えるか,注文者と協議した上で相当な代替措置を講じたと認められるときは,システムの瑕疵には当たらないものと解するのが相当だとする考え方です。この裁判例のおおもとには,前提条件といたしまして,情報処理システムの開発に当たっては作成したプログラムに不具合が生じることは不可避であるという,情報財の特殊性への認識が横たわっているものと考えております。   そこで,13ページを御覧いただきたいと思います。   これらの裁判例があるということは,瑕疵の定義と,それからそれについての救済方法をめぐって,しばしばユーザーとベンダーとの紛争が生じていることを意味しております。したがいまして,瑕疵の定義について,できるだけ過去の裁判例を踏まえて明確化していくことには意味があるものと考え,御覧の提言となっております。   また,現行民法における請負人の担保責任の存続期間の考え方につきましては,現在1年という除斥期間が明示されておりますが,個別取引における合意形成に一定の役割を担っていただいているものと考えております。このような目安となるデフォルトルールの必要性というのは,今後も変わらないものと認識しております。   では,次に14ページを御覧いただきたいと思います。   中間論点整理案では,下請負人の直接請求権について,慎重な検討を要する旨のコメントが比較的詳しく取り上げられております。その一つ一つに大いに共感を覚えておりますので,ここに引用させていただきました。   これを受けてのJISAの提言も同様でございまして,特に情報サービス取引における多重下請構造についてはよく知られていますが,その中には,やはり技術やスキルの分業的補完という意味で,合理性を有している場合もあります。そのようにたくさんの当事者が関わっているのがシステム開発の世界ですが,このような場合に下請負人の直接請求権を広く認めてしまいますと,直接契約当事者ではない下請負人がどのような業務を履行したのかというのを特定することが難しくなりまして,履行の状況に対する評価をめぐって紛議となるケースが多いものと思われます。また,成果物に関する知的財産権の権利処理なども必要になりますことから,一方的に下請負人からの報酬請求のみを認めたのでは,やはりそのプログラムの引渡しを受けたとしても,ユーザーの委託目的が達成されない場合もあり得るということを懸念している次第です。   次に,15ページには,約款における不当条項規制への懸念を掲載しております。この点につきましては,次にプレゼンテーションを予定していらっしゃるコンピュータソフトウェア協会から詳しい御説明があると思われますので,慎重な検討を求めるにとどめさせていただきたいと思います。   資料の18ページから24ページまでは参考資料でございまして,サービス類型ごとに同じ説明を繰り返したものとなっております。   これまで検討してまいりまして,民法が最初に制定された110年以上前には,情報システムの利用,あるいは情報システムに関する取引というものは全く想定されておりませんでした。そのために,ユーザーやベンダーの契約に関する合意の成立を促すような規律というものも導入される必要はなかったわけですが,この機会に,社会経済を支える情報システムというものの信頼性を確保するために,より取引コストを合理的な水準に引き下げるためのデフォルトルールの導入,そして法的インフラの構築に,私どもとしては大きな期待をかけている次第です。どうぞよろしくお願いいたします。   ありがとうございました。 ○鎌田部会長 どうもありがとうございました。   それでは次に,コンピュータソフトウェア協会,舟山聡さん,よろしくお願いいたします。 ○舟山参考人 それでは引き続きまして,コンピュータソフトウェア協会の舟山から御説明を差し上げたいと思います。   まずは,このようなヒアリングの機会を設けていただきまして大変ありがとうございます。   コンピュータソフトウェア協会からは,お手元に資料を二つほど用意させていただいていると思います。一つは「債権法改正に伴い考慮すべきIT関連取引の課題」ということで,10ページまでのものになっております。もしお手元の資料で落丁等ございましたら,余部がございますので御指摘ください。あるいは,もう一つが「民法改正に関する意見」というものでございまして,こちらは1月に取りまとめをしたものでございます。1ページから21ページまでになっております。   それでは,パワーポイントの資料に基づきまして,御説明を随時させていただきたいと思います。   まず1枚目ですが,コンピュータソフトウェア協会の概要を記載させていただきました。   現在,会員数は434社でございまして,基本的にはパッケージ・ソフトウェアと呼ばれる箱に入って,メディアが入っていて,それをインストールして御利用いただくというようなビジネスモデルを採っている会社を中心として構成されております。   こちらの債権法改正に関する取組といたしましては,昨年の秋以降,コンピュータソフトウェア協会とシステム販売店協会様とで合同ワーキングを設置いたしまいて,法律の専門家の先生方にも入っていただきながら,改正基本方針の検討をさせていただきました。大なり小なり延べ10回ほどの意見交換,検討を重ねてきております。その上で,先ほど資料として御紹介しました「民法改正に関する意見」というものを取りまとめさせていただきました。   2枚目をめくっていただきますと,ソフトウェア業界の市場実態ということで御紹介をさせていただいております。   ソフトウェアの位置付けですけれども,パソコン出荷台数が2011年度,1,456万5,000台,普及率75.9%ということで,かなりの普及率ということになっております。また,市場の裾野も拡大をしております。最新の傾向としては,クラウドコンピューティングといって,言わば所有から利用へといったような形でのソフトウェアの利用形態ですね。ベンダー側でデータセンターを持ちながら,ユーザーである企業様側はそれを利用するような形態のビジネスモデルが普及しつつあります。販売サポートに関しても販売チャネルが多様化してきております。   また,サポート体制もソフトウェアの特質に由来するところがありますが,不具合があった場合に,それをアップデートという形でインターネットで配信して,それをパッチを当てると言いますけれども,不具合を修正していくようなことをさせていただいております。   今回の民法改正に関しましては,我々会員企業の中からも,なかなか実際に具体的な懸念が,どういう場合にどう生じてくるのかというのが分かりにくいという指摘がございました。そういったことを踏まえまして,我々のビジネスモデルで改正基本方針を読みながら,どういったところが具体的に懸念になり得るだろうかという,少し批判的な立場からビジネスの実務的な観点を抽出するような検討の方向を置こうとして進めてまいりました。   今日は,その改正に関する意見として取りまとめた幾つか事象がございますけれども,その中から大きく二つを取り上げて御説明をさせていただきたいと思います。一つは,3枚目から6枚目までのところでの約款に関するもの。それから二つ目が,7枚目から9枚目にあります不当条項規制というところが,我々の業界的には非常に懸念があるということで指摘が多かったものですから,この場をお借りして御説明を差し上げたいと思っております。   約款の組入れ要件,3枚目に戻りますと,中間取りまとめでは,この約款が,運送規約ですとか,保険約款ですとか,銀行取引約款,そういったものを想定しながら約款に関する規定が設けられていることは業法上ありますけれども,民法にはこれに関する特別な規定はありませんということで,この約款の内容を了知して合意しているわけではない,あるいは契約内容になっているかどうか不明確というような指摘がなされております。したがって,この約款というものをIT産業に置き換えて考えますと,我々,ソフトウェアのライセンスは使用許諾契約と呼んでおりますが,これが,基本方針で言うような大量の契約に用いる定式化された条項の総体ですということになりますと,約款に該当するように思えるわけですけれども,そうすると契約内容として,どういう場合にそれが開示され組み入れられ,契約内容となって有効となっていくのかというところが非常に,直接の利害が生じ得るところとして指摘がされました。   具体的には4枚目以降になりますが,約款の開示のところですね。   判例上では広く約款の有効性が認められているものの,開示の要件については民法上規定がないということでございました。これを,実務を混乱させないようにしていただきたいということがございます。現行法の運用としては,そこにありますように,組入れ要件の規定は存在せず,解釈に委ねられているというところで,中間取りまとめの考え方については,まず一つ目として,相手方に開示されていること,それから二つ目として,約款を契約内容にする旨の当事者の合意が必要ということなんですが,果たして,この開示というのが,どういう形でされれば開示というふうに言えるのかというところでございます。   ソフトウェア販売実務においては,現在,販売時に,皆様も御想像していただけるといいと思うんですけれども,販売店で例えばソフトウェアを購入するような場合,ソフトウェアの使用許諾契約,お金を払うまでの間に提示を受けているかというと,受けていないと思います。実際には,そのソフトウェアをインストールして使い始める前までに,それがリンクが例えば張ってあって,そこのウェブを見に行くと,使用許諾契約がウェブ上で表示されているというようなことが一般的になっております。   こういった実務上の一般的な慣行と,それからこうした約款の開示との関係が,もしこれが開示の要件を満たさないということになりますと,使用許諾契約が約款に該当するとするならば,その効力に問題が生じるという形になります。したがいまして,これを組入れ要件として考えるに当たっては,使用許諾契約は約款であるということになった場合には,開示の要件として,相手方に知り得る状態に置いた場合に組み入れていただけるような,そして実務を包含するような形にしていただきたいというのが,この提言の1でございます。   次にめくっていただきますと,約款の組入れ要件の開示の時期についてまとめてあります。   先ほど少し申し上げましたように,パッケージ・ソフトウェアの販売は,販売店からパッケージをお金を払って入手します。その後に実際に,個人ユーザーであれば,それを家に持ち帰ってパソコンに入れてインストールするときに,言わばソフトウェアメーカーとのライセンス契約が結ばれる形になっておりまして,ここでベンダー,ソフトウェアメーカー,事業者から,販売店を経由してユーザーにパッケージ・ソフトウェアが渡っていくようなビジネスモデルになっております。そして,その後,ベンダー,ユーザー間でライセンス契約が結ばれるという形になっております。   先ほど,その販売形態も多様化しておりますというお話を差し上げましたが,最近ではネットでダウンロードして,直接ソフトウェアメーカーから入手するというような形態もございます。この場合には,ベンダーとのダウンロード提供契約と,ほぼ同時にライセンス契約も締結されるというような形態がございます。   まず,ここで販売店からパッケージを入手するようなケースを想定してみると,この販売店,ユーザー間のメディアの提供契約ですね。ライセンスを契約締結することができる地位ですとか,媒体やマニュアル等の有体物を提供契約として引き渡され,そしてユーザーからお金が払われる。このときにライセンス契約自体の内容が明示されていない場合,この提供契約の効力がどうなるのかということが問題になります。   実務慣行としては,電子商取引の準則等で示されておりますとおり,次をめくっていただきますと,提供契約自体は有効ですということになっておりまして,ただし,そのライセンス契約に同意いただけない場合には別途御連絡くださいということで,返品をしたり,返金に応じたりというプロセスが用意されております。そうしたことを前提とすれば,提供契約自体の効力が無効になるものではないというふうに取り扱われております。これが今後どういう形になっていくのかというあたりが,非常に懸念として指摘があった部分でございます。   中間取りまとめでの考え方としては,先ほど申しましたように,契約締結までに約款が相手方に開示されていることというふうになりました。そうしますと,ライセンス契約が約款に当たるとすると,この開示は誰がどういう形でやる必要があるのかという問題が起きて,場合によっては無効になってしまう。それでは既存のビジネスモデルが否定されてしまう可能性がありますというところが懸念でございます。   したがいまして,提言2としては,これまでの実務慣行どおり,ライセンス契約の締結時にその内容が開示されて,もしユーザーの側で不同意であれば,提供契約自体も解除できるという場合には,提供契約の締結時には開示がされなくても取引自体は有効とすべきである。こういった提言をさせていただいております。   次をめくっていただきますと,不当条項規制(損害賠償の制限)という指摘でございます。   皆様も幾つかソフトウェアのライセンス契約を目にしたことがあろうかと思いますが,大抵の場合,損害賠償については上限が設けられております。これは,ソフトウェアの特徴としまして,どうしてもユーザー側のシステム,ソフトウェアの利用の仕方に依存して不具合が発生したり,あるいは,第三者のマルウェアとか,セキュリティー上の脆弱性をついて攻撃が行われた場合に不具合が生じたりというようなことも含めますと,いろいろなケースが想定できて,バグと呼んでいますけれども,不具合が生じるということが不可避的に発生をいたします。そうしますと,ユーザーの側でも何が起きた場合にどういう損害が起きるのかということを予測できないということはありますが,それ以上に,そうしますとベンダー側もその損害を予測することができません。そうした中で全ての責任をベンダー側に負担するのは不適切だろうということで,契約上で一定の損害賠償制限規定,これを設けているケースが多いわけでございます。   こうした損害賠償を制限することが契約の目的を達成不可能にする場合に,不当条項に該当するとして,効力を制限するといったようなことが仮に入ってしまった場合には,これまでの実務慣行に多大な影響を及ぼすということで,損害賠償が巨額となって,結局のところ,それがコストにはね返ってくるということになりまして,ここに書いてありますのは,ライセンス料への,コストへの反映ということを書いてありますが,保険といったものへの影響ですとか,もっと広い意味で言いますと,外国との関係で言うと,市場の参入における萎縮的効果が事業者のほうに生じるのではないかというような懸念の指摘もございました。   8ページ目にいきますと,不当条項規制の一方的変更ということを書かせていただきました。これは,特に近時のクラウドコンピューティングなども含めまして,問題となり得るということで指摘をさせていただきました。   ソフトウェアは,販売後の情報セキュリティー対策,バージョンアップの対応が不可欠である。これは先ほど御説明したとおりです。そうしますと,契約内容に事業者側の任意の不履行が生じる場合がありますですとか,あるいは,状況によってこの内容が変更されることがありますですとか,あるいは,一定の場合にオンラインサービスが終了する場合がありますとか,機能が一部提供の停止をすることがありますとか,そういった条項が含まれることが一般的です。それをユーザーの側も理解していただいた上で,値段見合いになると思いますけれども,それを御理解いただいた上で御利用いただいているというふうに理解をしております。   特にクラウド・サービスというのは,これまでのITアウトソーシングと違いまして,各ユーザーに合わせたシステムを作り込んでいくという形ではなく,非常に大規模のデータセンターを置いて,大量の顧客に一律に提供していくようなサービスになります。言わばITインフラをベンダー側が用意してカスタマイズはしないと,それをユーザーの側が利用していくようなビジネスモデルなんですけれども,そうしますと,共有されているサーバーのアップデートがかかる場合には,それが一方的な変更として必要になってくる場合がございます。また,そのセキュリティー上のパッチを当てるというようなときには,緊急にそうした対応が必要になることがあって,例えばその都度の合意が必要だというようなことになってしまうと,ぜい弱性に対する対応が遅れてしまうというような問題も発生し得ます。   それから,条項の必要性として,右側に書かせていただきましたのはサポート・サービスの話でございますが,サービスの停止についても実務上の必要性がありまして,ユーザーの利用状況等を考慮しながら,ソフトウェアについては一定のサポートサイクルの期間年限みたいなものを設けさせていただいております。こうしたことができないということになってしまうと,非常にこれは実務上も影響があるということになります。また,ハードウェアのほうの製造のライフサイクルに合わせまして,ソフトウェアのライフサイクル自体もサービスの停止せざるを得ない場合も出てきますので,こうした相互依存性というようなものも踏まえてサービスの終了について条項化する必要があって,これを場合によっては不当条項だということになりますと,非常に困った事態になってしまうということになります。   こうした指摘が,ここで述べさせていただきたかったことでございます。   9枚目にまいりますと,最後になりますが,不当条項規制と役務提供の任意解除権というところで書かせていただきました。   ライセンス契約,使用許諾契約が約款だということに仮になったとして,かつ,その合意解除の条項,これがこれまでの実務慣行とは異なる形で,一定の場合には不当条項に該当するということで無効になりますと,民法の規定に従うということになると思いますけれども,そこで新しく役務提供の枠組みが提示されております。この中で,任意解除権がベンダー側からの,役務提供者側からの任意解除権を制限するような議論が改正基本方針の中ではされておりました。   こちらが,実務実態としては,準委任契約がようやく定着してきつつあるというような中で,任意解除権を広く入れながら実務運用をしているところがあります。例えば業務分析,改善提案などのコンサルティング業務ですとか,設計・移行・運用支援業務・保守業務といったようなものについては,準委任契約として整理してきておりますが,これらの中にも任意の解除権というものを広く入れて確立しておりますので,これらについて制限を掛けてしまうと,非常に影響があるということになります。   それから,無償の役務提供ということもソフトウェアの業界では多くされております。無償サポートですとか,マニュアルのダウンロードサービスですとか,無料の電子メールサービス,こういったものがございます。これらが果たして無償役務提供ということで明確に切り分けられるのか。それとも,そこの周辺部分のソフトウェアの,有償によるソフトウェアの提供と付随的で,その一部であるというような形で,無償役務提供ということになって任意解除ができなくなってしまうのかというようなところが,懸念として指摘をされておりました。   それから三つ目は,やはり情報提供サービスですね。あるいは,ここに書いてありますクラウドのコンピューティングサービス。これらも先ほど申し上げたように,事業者側からの任意解除権というものが大抵の場合において入っております。それも,先ほど申し上げたような合理的な根拠,理由,ビジネスニーズといったものに基づいて規定をされておりますので,こうしたものが任意解除権,認められないと困りますというような指摘がございました。   ここでは提言として最終的に,そこの任意解除権,役務提供の任意解除権については事業への影響が大きいので,幅広かつ慎重な検討をお願いしたい。このような形でまとめさせていただきました。   非常に限られた時間でございますので,約款の規制の話と,不当条項の規制の話に絞らせていただきました。また,我々のほうで意見を取りまとめたのが1月の時点でしたので,必ずしも今回の中間論点整理と完全に合致した形になっていなかったかもしれませんが,その点,おわび申し上げて,私からの意見ということでさせていただきたいと思います。   御清聴ありがとうございました。 ○鎌田部会長 どうもありがとうございました。   ただいまの御意見に関しまして,委員,幹事等の皆様から御質問がありましたら,御自由にお出しください。 ○松本委員 コンピュータソフトウェア協会の御説明についての質問なんですが,最後のところで,ライセンス契約の現行法における法的性質について,準委任だというふうに位置付けられているような印象を受けたわけですが,そういう理解でよろしいのでしょうかという話と,準委任ではなくて,むしろライセンス契約というきちんとした典型契約を民法に定めるべきであるというような議論は,協会のほうとしてはなさらないのかということ。これが第1点ですね。   もう一つは,現在,典型契約としてリースを加えるという提案があります。そして,リースという場合に,ハードウェアだけではなくてソフトウェアも込みにしたリースというのが現実において行われています。そういうソフトウェアのリースとは一体何ぞやということについて,協会としてはどういうふうに整理されているのか。   以上,2点をお伺いできたらと思います。 ○舟山参考人 ただいま御質問いただきました第1点目ですが,最後のページ,9枚目で御説明しようと思いましたのは,ライセンス契約が準委任契約でありますというお話ではなくて,ここで申しますとコンサルティング業務ですとか,設計・移行・運用支援業務・保守業務といった内容について,準委任契約ということで申し上げたつもりでございました。ですので,ソフトウェアのライセンス,ライセンスと言った場合にもベンダーによって,いろいろな考え方,使い方をしているところがございまして,純粋に著作物の使用許諾ということで考えているベンダーから,あるいは最近ですと,クラウドコンピューティングのサービスの利用についてもライセンスと呼んでいるところもあります。その意味では準委任の考え方が一部入ってくる契約内容のものもあるかとは思いますが,ここで御説明しようとしたのは,伝統的なライセンスと準委任が同じですという御説明を意図したものではございませんでした。   それから,この1点目に関して協会として,何でしたっけ,ライセンス……。 ○松本委員 ライセンス契約を典型契約として,この際,民法に入れようというような提案はございませんか。 ○舟山参考人 ライセンス契約を,以前,少しそういうお話が出たことがございましたけれども,現行実務運用の中では,使用許諾契約がほとんどの場合,ベンダーとユーザーを規律しているような形で,余り問題なく運用がされているということで,民法の中にライセンス契約を典型契約として入れた場合に,ちょっとどうなるのかという議論がよく見えなかったものですから,積極的に民法の中にライセンス契約を典型契約として入れるべきだという意見は,現在のところ,ございません。   2点目,ファイナンス・リースの件に関しまして御質問を頂きました。   御指摘のように,ソフトウェアもハードウェアと一体になってリースに掛かっていることが現実として多く発生しております。ただ,実務の中ではハードウェア一式というような形で,リースにソフトウェアも一緒くたになって掛かっているような実態がございまして,ソフトウェアのライセンス契約の実態に合った形でのリース実態が必ずしもあるわけではないというふうに認識をしております。   そういった中で,今回のファイナンス・リースのハードに関する議論が民法に入ってきたときに,それと同じレベルでソフトウェアのファイナンス・リースも規定されたとき,ソフトウェアベンダーとして,リースを基本的には許容していない使用許諾契約が使われている場合が多数なので,非常に実務上の運用に混乱を来すのではないかという意見が出ておりました。他方で,ハードウェアのみを念頭に置いてファイナンス・リースが議論されているようだけれども,ここでパソコンを考えれば,ハードだけではなくソフトも入ってきているので,こういったことも検討の範疇に入れていただいたらどうかという御意見もございました。   その意味では両方の御意見がございまして,協会としては,ファイナンス・リースに関してもし規定を入れるのであれば,ソフトウェアのリース実態についてももう少し検討を進めていただいた上で,具体的な話として進めていただければと思っております。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。   大変細かいことですけれども,このレジュメの中に中間取りまとめの考え方というふうな表現が出てきますけれども,これは論点整理の中に取り上げられている考え方という意味ですね。 ○舟山参考人 はい,そうです。 ○鎌田部会長 ほかに,特に御質問ございませんか。   それでは,情報サービス産業協会及びコンピュータソフトウェア協会からの意見聴取を終了させていただきたいと思います。   大谷参考人及び舟山参考人におかれましては,御協力ありがとうございました。   それでは続きまして,日本チェーンストア協会からの意見聴取を行いたいと存じます。参考人の井上淳さん,中村美華さん,よろしくお願いいたします。 ○井上参考人 日本チェーンストア協会の専務理事をやっております井上と申します。本日は,このような機会を頂きましてありがとうございます。   座って,では説明させていただきます。   お手元に「チェーンストアのビジネス及び取引の特徴ならびに実務に照らした懸念事項等」というのがお配りさせていただいていると思います。チェーンストア協会,小売業界の中核の団体ということであります。小売といっても多種多様でございまして,皆様方の各地で,日本全国どこでもよく見かけるスーパー,あるいはホームセンター,そういうところをイメージしていただければよろしいかなと思います。メンバーについては3ページ目に会員企業名がございますので,恐らく日々の買い物で身近なお店が並んでいるかと思います。こういうところをメンバーとする団体でございます。   なお,いわゆるコンビニエンスストア,これはフランチャイズ・チェーンシステムという特殊な形態でやっておりますので,私どもとは同じ小売といっても団体がちょっと違うということで。1ページ目の真ん中のところの四角い箱の中で,一番下に書いてありますけれども,私どものほうは店舗を直接運営することと特質としていると,こうちょっと書いてあります。   こういうチェーンストアの特色が,めくっていただきますと5ページ目に書いてございます。1から5まであります。イメージされるように,本当にあらゆるいろいろな商品というものを,広域で展開された多数の店舗で取り扱っております。そういうもののサービス,商品の同一性,均質性というものを担保するために膨大なデータを集約して,独自の情報システム,物流システムを構築しているということです。   債権債務関係ということですから,当然取引の相手方,契約の相手方ということですけれども,川上,川下と,両方ございまして,その川上,すなわち商品を仕入れるほう,これは卸さんであるとかメーカーさんであるとか,もう数千に及ぶ多様なメーカー,卸さんとの間で,その相互の信頼関係というものをベースにして大量の取引,これは日々,受発注書によって行っているという特色がございます。一方の川下,これはお客様になります。これは当然,不特定多数のお客様との間で様々な取引,大量の取引をやっていると,こういうことでございます。したがって,当然その取引のほうも,お客様との間で一々書面を取り交わすということは基本的には,皆さんも当然そうだと思いますけれども,ございません。それから,その取引先との関係でも,要点のみ記載した簡易な書面によっての取引というのが中心になると。こういう大量取引ということでございます。   そういう業界から,今の民法部会での御議論,これは誤解も相当あるかもしれませんけれども,拝見させていただきますと,6ページ目に書いてありますように幾つか,懸念というか,要望も含めて,ございます。ここに1から,五つが懸念,最後は,六つ目が要望ということなんですけれども。   規範として今動いている条項というのがなくなってしまう,あるいは修正されるということが,非常に混乱を招くのではないか。あるいは,日々非常に有益なものとしてやっている行為,これが改正によって実務・日常生活に悪影響を及ぼすのではないか。それから,その当事者間の合意というものが何か否定されてしまって,これも日常のビジネスに大きな影響があるのではないか。四番目は,その大幅なコスト増。5ポツ目は,先ほどの3ポツ目と似たようなところですけれども,やはりその当事者間の合意というものを割とステレオタイプ的に強者・弱者というような捉え方で,一方,弱者のほうを有利に扱うというようなことで,当事者間の合意というものが軽んぜられてしまうのではないか,こんな懸念。最初に申し上げたように誤解もあるかもしれませんけれども,そんな心配,懸念をしております。   6ポツでは,こういうことについても,実務上どうしたらいいかということ,困っているところもあるので,民法の改正という機会の中で議論していただいたらどうかというような項目もございます。   そういうようなことで,7ページ目の四角の中で書いてありますように,会員の中には,これは繰り返しで恐縮ですけれども,部会の議論が余り見えていない故の意見かもしれませんけれども,実務あるいは実社会とのコミュニケーションというものがない中で,机の上だけで議論がどんどん進行していってしまうのではないかなという,その強い懸念を抱いている会員もございます。   逆に,本日こういうような機会を頂きましてヒアリング,それから今後,今日をその機会としてということかもしれませんけれども,十分コミュニケーションが取られることを期待したいと思います。   今日は短い時間でございますので,特に業界固有の問題を中心に,幾つかの懸念事項を具体的に,以下御説明をさせていただきます。 ○中村参考人 中村でございます。   今の大枠のところに従いまして,私のほうからは詳細な部分につきまして御説明をさせていただきたいと思います。   まず,6ページのⅢの1の詳細ということでございますけれども,7ページ1ポツのところで,債務者の責めに帰すべき事由についてというところでございます。   こちらの意味・規定の在り方についてということで,こちらの法制審議会の部会の中の議論の中で,契約上の拘束力ということについての議論が若干行われているように思われます。その際に,今御説明がございましたように,私どもの取引では多くの,例えば1日数百万件あるいは数千万件といった口頭契約といいますか,書面をやっていない取引という現物の取引というのが行われているということでございまして,この中には,目には見えませんけれども,今の民法の規定の任意規定というものが作用しているということでございまして,そういった意味合いにおいて,任意規定についての重要性ということについても改めて御留意を頂きたいということでございます。   また,書面による契約という場合につきましても,多くの契約において「債務者の責めに帰すべき事由」という文言が使われておりまして,こういった現行民法の条文に依拠して,具体的な内容について特に記載することなく,いろいろな取引が動いているということでございますので,この点につきましても「債務者の責めに帰すべき事由」という文言を変更する場合には,現行の契約の在り方について影響を与えるものであるといったようなことにも御留意を頂きたいということでございます。   これは,任意規定ということに関しましては,この部分に限らず,全般的に削除をしてはどうかという御提案が幾つかあるように拝見をしておりますが,そういう全般的なところにつきまして,任意規定は今の現代の取引におきましても大きな役割を果たしているということで,例えば,特定物の引渡しにおける善良な管理者の注意でございますとか,瑕疵担保責任における隠れた瑕疵ということについても,そのような御留意を頂きたいということが第1点目でございます。   また,債務者の責めに帰すことができない事由の要否ということの検討の中で,解除,無催告解除というところの議論がございまして,必ずしも書いてあること自体に対応していたことではございませんけれども,無催告解除というものについて,倒産の場合に迅速な対応を可能とするとために,大きな意味を有しているということでございます。確かに通常の取引で,この取引をやめたいなという場合については,催告をして解除していくということが一般的なやり方ではございますけれども,それができないような状況というときにこそ,そういった条項が生きてくるということでございます。   それから,取引関係の継続の判断ということの中で,債務不履行の重大性ということを判断基準にしてはどうかということについても御議論があるかと思いますけれども,これは取引関係を継続するかどうかというのは,実際の取引の中では不履行自体の重大性ということだけではなくて,この取引先と最後までやっていくということが,実際的に最終的に債務が達成をしていただけるのかどうか,きちんとした,例えば製品を納入していただけるのかどうか,といろいろなそういった配慮に基づいて判断が行われるということでございますので,特定の不履行自体の重大性ということだけで判断が行われることではないということにも御留意を頂きたいということでございます。   二番目の2ポツのところでございますけれども,ここのところは6ページで申し上げますと,「日常的な行動や社会的に意味を持っている行為に関する規定の改正によって,悪影響を及ぼすのではないか。」という懸念のところでございます。   ここにつきまして,2ポツ,保証債務についてということでございますけれども,会社の代表者である個人を連帯保証人とすることは広く行われております。例えば私ども取引ですと,テナントさんに入っていただくというときに,小さい会社であるというときに,新しいところと取引をするのでというようなことで,会社の代表者の個人の方を連帯保証人とするというようなことがございます。これは,特にその個人に対して債務を追求しようと,そういうことを意図しているわけではございませんで,小さい会社ですと,会社の実体そのものがそれほど確立をしていないという中で,例えば個人のほうにはお金があるけれども会社にお金が無くなってしまって,例えば役員報酬をたくさん支払って会社にお金が無くなってしまうと,こういったことも考えられるわけでございまして,そういった意味合いも含めて,個人と会社とが両方とも責任を持って取引をすると。そういったことで小規模の会社さんにも取引機会が拡大するという意味もございますので,一律にこれを否定するということも,場合によっては問題があるのではないかということでございます。   次に3ポツのところでございますけれども,日常生活に関する行為の特則というところで,日用品の購入等の日常生活に関する行為の特則につきまして,意思無能力者の保護に欠けるおそれがあるなどから取消可能とすべきと,このような議論が行われているかと思います。   この点につきまして,私どものところで日常生活に関する商品を買われるというお客様がたくさんいらっしゃるわけでございますけれども,こうしたときに,これから高齢化する社会になりまして,例えば後見人が付いているような方という場合に,そういった方について,では,日常品の食事等がもう自分で買ってはいけないのかというようなことでありましたり,あるいは未成年につきましても,日常的にいろいろな買い物を安価であればされるわけですけれども,そういった方たちについて一律に取消可能というふうにするのがいいことなのであるかどうかと。あるいは,こういう形で仮に日常的に取引はできるけれども,取消しは可能なんだということにいたしますと,かえって,例えばちょっとこの人は後見人が付いているような方なのではないかというようなことで,あなたにはお売りができませんというような話になったり,あるいは,私どもの小売業ということについて非常な困難を来すと,こういったことになってくるのではないかと。こういうことについて御配慮を頂きたいということでございます。   4ポツから6ポツのところは,6ページの3というところでございまして,今まで通常に行われている取引について阻害するのではないかというところの懸念でございます。   4ポツのところでございますが,債権譲渡の禁止特約,これは他の業態に関しても御意見が出ているかもしれませんけれども,相手方との信頼関係を基礎に置いて,月間又は週単位で,私どもの場合は数百から数千に及ぶ仕入れ先に対する支払処理を行っているところでございますので,譲渡禁止特約と申しますのは,そこの支払先が私どもが取引先として登録をしているところに自動的に払っていけばいいということを担保するものでございます。これは,譲渡禁止特約の効力を否定するということになりますと,本当にそこに払っていいのかどうかということを確認しなければいけないといったことにもなりかねないということでございまして,これは,例えばある取引先について自動的に,別の例えば銀行に振り込めばいいということであれば対応が可能かもしれませんけれども,現実的にはそのような運用にはならないということでございますので,これは実務的には非常に問題があるという認識でございます。   5ポツのところでございますけれども,支払の差止めを受けた債権を受働債権とする相殺の禁止ということでございます。これにつきましては,他の業種についてもいろいろ御意見があるのではないかと思いますけれども,私どもの業種におきましても期限の利益喪失約款というのはしばしば行われているところでございまして,特に私どもの取引におきましてはお互いの,こちらからお支払をするというケースが多いわけですけれども,他方で,いろいろな別の関係で相殺をするという関係が一般的によくございます。そうした中で,例えば倒産のケース等に期限の利益喪失条項が否定されるということになりますと,その相互の取引関係のバランスというものが崩れるということになりますので,そういった意味合いにおきまして,現状行われている取引に悪影響を及ぼす懸念があるということでございます。   6ポツのところですけれども,約款の定義ということでございまして,約款の定義のところで,消費者に対する契約に関しまして,それが画一的な内容であるということで,約款ということは一般的な定義かと思いますけれども,今回の議論の中では,ビジネスにおいて画一的な契約ということについても適用がされるという検討がされているように見えるところでございます。しかしながら,現代のビジネスにおきましては,確立されたシステムに基づく契約を展開しなければ,ビジネスとして採算に合わないという場面が多く存在いたします。この場合には,取引の相手方との契約というのは必然的にひな形に基づくということになります。このような当事者の合意によりまして定式された契約条項が否定されて,あるいは制約を受けるということになりますと,そもそもシステムのビジネスが成り立たないということになってまいります。   したがいまして,これはまずは取引先,いわゆる事業者間の取引について,一定のひな形に基づいた契約ということが,ひな形に基づいているから,それは効力について一方的に行われた懸念があるということではなく,これはシステムに基づく契約であるから,そういう条項が変えられないということがあるということでございまして,こういったことについて,効力を制限するというような形については反対をしたいというところでございます。   7から8,7ポツ,8ポツのところは,Ⅲの4というところでございまして,6ページの4ポツのところでございまして,コスト増につながるのではないかという懸念のところでございます。   債権譲渡の対抗要件につきまして,登記を全ての対抗要件にするという議論が一部行われているように拝見をしておりますが,先ほどの債権の多数の支払を行っている私どものビジネスというところから,登記が全て対抗要件になるということでございまして,私どものところでお支払をする際に登記をチェックしていくということになりますと,その弁済の管理ということが極めて困難であるのではないかという懸念をしているところでございます。   8ポツの消滅時効についてでございますけれども,ここの部分につきましては,全般的に従来の消滅時効のままでいいかということについては御議論があるところかと思いますが,私どものところで申し上げますと,生産者,卸売商又は小売商人が売却した産物又は商品の代価に係る債権の消滅時効ということで規定がございまして,現行法で2年ということになっております。これが変更され,延長された場合という場合につきましては,多くの企業においては,システム変更や,あるいはデータ保存に必要な,多額の費用の発生が見込まれるのではないかということを懸念しているところでございます。この点につきまして,消滅時効が短期や長期になったとしても,税務上の書類の保管期限というところが7年というところになっておりますが,それで大丈夫なのではないかという御意見も聴くところでございますけれども,必ずしも消滅時効に関してこれを証明する資料あるいはデータというものにつきまして,それが税務上の書類と同一に行われているということではございませんので,その点につきましても御留意いただきたいというところでございます。   6ページというところの5ポツのところの,一定の属性や類型を観念的に想定して一方的に有利に扱うことによって,取引をゆがめるのではないかというところの懸念でございますけれども,9ポツの条項使用者不利の原則というところで,統一形式の契約による契約,これは先ほども御説明したところでございますが,統一した条項を使うことによってビジネスが成り立つというところから用いられているところでございまして,これは一方的な意思を,これを強制的に適用しようと,そういうところから行われているものではございません。したがいまして,安易に当該原則を適用されるという場合には,ビジネスモデル自体が瓦解することになりかねないと。あるいは,お客様に対して安価に提供されている商品あるいはサービスが,コストがアップをして安価な提供ができなくなると,そういったことになってくる懸念があるところでございます。   10ポツのところでございますけれども,継続的契約の解消の場面に関する規定ということでございまして,継続契約の解消に関して,これを一定の,やむを得ない事情がある場合等にしか解消を許さないというような考え方もあるというように伺っておりますけれども,これは継続契約の期待と,あるいはその解消の場面ということにつきましては,例えば多額の投資をしている場合ですとか,あるいは別の取引先がいるのかどうか,そういったいろいろな期待の度合いというのはまちまちであるということでございまして。また,ビジネスというのは,先ほどのところでもございましたけれども,相性といいますか,この取引先とやりたいと,あるいは,この取引先は信頼できないと,いろいろな配慮に基づいて取引先を選定しているということでございますので,これを,いったん取引をしたのだから,相手方が継続をしたいと言うからといって,特定の取引先に拘束をされるというのは経済活動のダイナミズムを失わせるというふうに考えるところでございます。雇用契約や不動産賃貸借契約のように,強者と弱者というところを制度的に保証しようという関係につきまして,その更新が繰り返した場合の継続の期待というところは,政策的な意味も含めまして支持されるというふうに考えておりますが,そのことを一般的な契約において普遍化すべきではないのではないかというふうに考えるところでございます。   また,こういうことは先ほどの約款のところで,消費者との関係というところに関しましても,やはり一律に消費者と事業者ということで,全てについて一方的に事業者について不利に考えるというところではなくして,全般的に,例えば安価に消費者に対して商品等が提供される利益ということと,それから,その条項が一方的に適用されるような状況というようなことの,全てを勘案した上で判断がされるべきところではないかというところでございますので,そういった意味合いにおいて,一律な規定ということについては御留意を頂きたいというところでございます。   最後に,11,12というところに関しましては,私どもの業界の中で今議論されていることの中で,新たにといいますか,御配慮というか,御検討を頂いてはいかがかというふうに考えるところでございます。   11ポツの敷金返還債務の承継ということが議論されておりまして,所有者が移転した場合に敷金が,資金債務が承継をされる,そういったときに,そのことについては何ら異論がないわけでございますけれども,承継がされた新家主が,例えば海外のSPCであったり,あるいは,非常に資力の低いところに意図的に引き継がれるといったような場合の返還請求権の在り方等について,どういうふうに考えるべきかというようなことも検討はできないかということでございましたり,あるいは,一旦新所有者に引き継がれた後に,その新所有者が倒産をしたと,こういったときに,その債務というのが,そもそもの契約のまま,本当にきちっと引き継がれるのかどうか。倒産法の中では敷金につきまして,一定の金額といいますか,一定の何か月分というようなことで,制限して判断されるというような運用もございますので,そうしたことの中で承継されるということで考えるのであるならば,そこのあたりの取扱いとの整合性ということについても御検討を頂きたいということでございます。   最後でございますけれども,12ポツのところで,消費者から無償で預かって引き取られないままの商品等の法的な取扱いということでございまして,ここは新しい論点ではないかと考えておりますけれども,私どもの業種で,お客様が買い上げられた商品を一時的に預かって,それを一定期間過ぎても取りに来られないというような事例がある程度生じておりまして,こうした場合に,最初の時点では無償寄託ということかと思いますけれども,これが一定期間たったのであれば,保管料が請求できる,あるいは,その商品を処分して価格相当の金銭を一定期間保管すれば足りるということでありますとか,あるいは,そのものの供託というようなものについての制度が制度化できるのかどうかと,こういった点について御検討いただければと考えているところでございます。 ○鎌田部会長 どうもありがとうございました。   ただいまの御意見に関して,委員,幹事等の皆様から御質問がありましたら,御自由にお出しください。 ○道垣内幹事 事実の問題としてお教えいただきたいのですが,日本チェーンストア協会に所属されている企業などが仕入れ先に対して負っている債務については,多くの場合,債権譲渡禁止特約が付けられているという理解はよろしいのでしょうか。これが第1点です。第2点は,それと逆の問題で,もちろん会員企業の中には日本を代表する大企業もありますが,地域的な展開をしているのみであり,率直に申し上げると,それほど大きな会社ではないものも含まれているような気がいたします。このような会社が,例えばある一定の大手,例えば企業でもいいですし,官公庁でもいいですが,に対して何らかの継続的な供給をしているというときに,そこから生じる債権を担保にしたり,ないしは売却したりして資金調達をするというふうなニーズは,会員企業の中には存在していないのでしょうか。両方とも事実の問題で恐縮なんですが,お教えいただければと思います。 ○中村参考人 まず,前者のほうの御質問でございますけれども,私の認識する限りでは,各企業におきまして,ほとんど全ての契約に譲渡禁止特約が付されているというふうに認識をしているところでございます。   後者のほうには,井上のほうにも若干補足いただければと思いますけれども,余り基本的には私ども,小売業ということで,いわゆる消費者に対する供給ということでございますので,今のような債権という形で大手に対して持って,債権譲渡をしたいというところは余り聞かないところというふうに認識をしております。 ○道垣内幹事 どうもありがとうございました。 ○松岡委員 私も譲渡禁止特約が全ての契約にほとんど自動的に付いているのかどうかを伺いたかったんですが,それは道垣内幹事の御質問と重なっていまして,既にお答えをちょうだいしましたので,それを前提にした上で,更に伺います。納入をしている企業等が資金調達の必要性上,債権を譲渡したいというような希望を伝えてきた場合,個別にその譲渡禁止特約の解除の処理をされることになるのでしょうか。それとも,基本的には,そういう個別の譲渡禁止解除も一切行わないのでしょうか。 ○中村参考人 私どもの多くの企業で,例えば末締めの20日払いですとか,かなりサイトが短い形で取引がされておりますので,債権譲渡をするメリットということは余りないのではないかというふうに考えておりまして,例えば私が属しております企業の中では,十数年振り返りまして二,三件,そういう要望はあったことはございますけれども,基本的には,それが1件とかであれば対応はできるかと思いますが,たまたま来たところに認めるというわけにはまいりませんので,やはり1社に認めるのであれば全てに認めなければいけないということで,個別に対応するということは基本的には考えておりません。   ただ,たまたまその企業につきまして民事再生が行われて,それの協力として一時的に,しばらくの間,そのような対応をするということについては,協力をしたことはございます。 ○大村幹事 今の前の二人とは別の話題ですけれども,最初の方がコミュニケーションということが非常に重要だとおっしゃったのは,この立法をしていく上で大事な点だと思って伺いました。私どももこの場で長いこと審議しておりますけれども,言葉の意味などについてすり合わせをするのに,かなりの時間が掛かっていることも考えております。   それを前提に,今のお話に対する感想を述べ,質問をさせていただきますけれども,チェーンストアの業界は,書面が少ないということが契約の特色だとおっしゃっていたかと思います。そのことから出発した危惧というのがかなりあるのではないかと思って伺いました。今回の債権法改正の中で,契約を重視するものだということが一方で言われるわけですけれども,そのときに契約書に書かれていないことは全く認められないのだろうかというと,そうではない。しかし,そういう危惧をお持ちになっておられるのではないか。他方,今日,約款のお話もありましたけれども,事前に紙に書いたものというのは,それはもう全て約款だということで規制の対象になる。そうお考えのように伺ったわけですけれども,前者については,口頭で合意をされていなくても,契約の内容に含まれるというのは様々な場合にあると,この場では考えていると思います。解除との関係で申しますと,契約の内容によっては,それは無催告で解除が認められてしかるべき場合もあるという前提に立っているのではないかと思いますけれども,そういう理解に立ったときに,現在の解除に関するルールについてどうお考えになるのかというのが第1点です。   それから第2点は,資料の中には当事者の合意によるという言葉がありますが,当事者が合意していれば,それは対象が約款であると言うか言わないかはともかくとして,それが契約の内容になるということについては,異論はないと思います。全く合意がないようなものについて,約款であるということで規制をかけるかどうかということ,契約内容になるかどうかという規制をかけるということが,ここで問題になっているのではないかと思うのですけれども,そういう理解に立ったときに約款という概念を使うことについてどうお考えになるのかということを,もしこの場でお聴かせいただけるのであればお聴かせいただきたいと思いますし,更に検討が必要であるということであれば,お持ち帰りいただいて,また御意見を伺う機会があればと思います。 ○中村参考人 今の御説明いただいたことに対しまして,正しく理解できているかというところはございますけれども,一部についてお答え申し上げますと,全般的な私どもの理解としては,現行の民法で十分に今機能していて,それに基づいていろいろな活動が行われているので,それが,文言がいろいろ変わるということによって違う解釈になってきたことで,今まで余り契約書に書かれないで運用されている,前提となって運用されていることが,変わることでいろいろな対応が必要になったり,大きな問題が生じたりしないかというところが全体としての不安であるというところでございます。具体的に,これからどういうような結論を出されてくるかということによって,当然,結果的には問題なかったということもあるのではないかと思いますけれども,今の書かれているということの中で,懸念を感じているというところは一つ今回お伝えしたかったところです。   あるいは,あと任意規定というところに関しまして,その記載を,要らないのではないかというようなお話も書いてはございましたので,そのことについては,やはり必要であるというところをお話し合いしたかったというところでございます。   ちょっとお答えになっているかどうか分かりませんけれども。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○井上参考人 それから,2点目のほうですけれども,今ちょっと御説明で,ああ,そういうことなのかなと若干思ったのが正直なところです。当然,その合意をされているということの中の一つの類型として約款というのがあるのかなという頭でおりましたので,そもそもそういうところの外のところでの議論だということであれば,またちょっとそういう目で検討をさせていただきたいとは思います。 ○鎌田部会長 予定の時間をちょっと過ぎていますから,高須幹事,手短にお願いします。 ○高須幹事 頂戴した資料の7ページでございますが,債務者の帰責事由のところの1ポツのところですかね。(1)のところの4行目以下のところで,この債務者の責めに帰すべき事由という条項を削除・修正すると規範の喪失につながることを懸念すると,こういう御指摘が書かれておるわけですが,この趣旨というのは,債務者のいわゆる帰責事由というのが,債務不履行法理の規範として役に立っている,あるいは,意味を持っているというような御趣旨と理解していいのかどうかが1点と,それから,もしそうだとすれば,その場合,どういう意味で役に立っているのか,もしお考えがあれば教えていただきたいというのが2点目でございます。よろしくお願いします。 ○中村参考人 最初の質問に関しましては御指摘のとおりで,私どもとしては,現行の規定が役に立っているということでございます。   確かに債務者の責めに帰すべき事由といいますと,実際には内容がないのではないかという御指摘もあるのかと思いますけれども,それがやはり,いろいろな規範といいますか,書かれていること,あるいは一般的な規範の考え方,こういうことはやっていいだろう,いや,やってはいけないだろう,こういうことはこの人が責任を取るべきだろうという一般的な感覚といいますか,そういうことも踏まえた上で,実際的には「債務者の責めに帰すべき事由」という言葉の中で,一定の取引の中では理解がされているということと考えております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○佐成委員 時間のないところ恐縮ですが,1点だけ確認させてください。6ページのところで,改正によって実務に大幅なコスト増が強いられるのではないかということで,二つ掲げられている点についてです。5ページに書かれているチェーンストアビジネスの特徴というのは,恐らく非常に効率的に高品質のものを安価に提供するということでしょうから,かなりしっかりしたシステムを構築されていて,それによって我々の日常生活の豊かさを支えているのだと思います。そうだとしますと,6ページの二つの点だけではなくて,多分ほかのいろいろな論点も大幅なコスト増として影響するのではないかという気がしたんですけれども,二つだけを特に書かれた理由をお伺いしようと思ったところです。 ○井上参考人 そういう意味では,全部を詳しく精査しているわけではありません。おっしゃるように,またほかのところも今後あるかと思います。今回は20分ということでございましたので,幾つかに焦点を絞らせていただいたということでございます。 ○佐成委員 ありがとうございます。 ○鎌田部会長 それでは,日本チェーンストア協会からの意見聴取を終わりたいと思います。   井上参考人及び中村参考人におかれましては,御協力ありがとうございました。   ここで休憩を取らせていただきたいと思います。   再開後は日本証券業協会から意見聴取を行います。では,よろしくお願いします。           (休     憩) ○鎌田部会長 それでは,再開をいたします。   意見聴取に先立ちまして,パブコメに関しまして,事務当局から御説明を頂きます。 ○筒井幹事 前回の会議以降に,中間的な論点整理とその補足説明を公表するとともに,先週,6月1日からパブリックコメントの手続がスタートしておりますので,まず,その経緯を簡単に御報告いたします。   中間的な論点整理につきましては,前回4月12日の会議で,当日の審議結果の反映を部会長と事務当局に一任するという形で御決定を頂いたところですが,その反映作業を終えた後の5月10日,法務省ホームページに掲載して公表いたしました。その後,パブリックコメントの期間を6月1日から8月1日までの2か月とするということを決め,次いで,「民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理の補足説明」を事務当局の責任において作成して5月25日に公表いたしました。   以上の経緯は,部会メンバーの皆様には個別に電子メールなどで連絡を差し上げた後,法務省ホームページに順次掲載してきたところですけれども,改めて,この場で御報告をさせていただきます。   次に,パブリックコメントの手続は,今申しましたように6月1日からスタートし,締切りは8月1日と設定いたしましたが,この締切りに関して,このたびの大震災との関係で期限までに意見を提出することが困難であるとして,個別に例外的な取扱いを求める声が寄せられております。パブリックコメントの締切りは,もともとその後の意見提出を一切排除するといった趣旨のものではありませんので,従来から個別の事情に応じて柔軟に対処してきたところであり,例えば,期限までに団体の機関決定を経ることが困難である場合に,個別の相談に応じて締切り後の意見提出を認めたという例が多数あると思います。それに加えて,今回の場合は,未曾有の大震災であり,被災地域も大変に広いことから,個別の事情に応じて,より一層柔軟な対応をさせていただこうと考えております。   この関係で,既に日本弁護士連合会からは,個別に締切りの延期を認めるよう要請を受けており,事情をお聴きいたしますと,大変もっともなことだと思いますので,日弁連の意見書は,本年10月末までにお届けいただくことにいたしました。   他の団体等につきましても,個別に御相談を頂ければ,最大でも10月までに限らせていただきますが,柔軟な対応をさせていただこうと考えております。もっとも,個別の延期要請が余りに多くなってしまいますと,寄せられた意見の集約作業に困難を来します。事務当局では,本年秋以降の本格的な審議に備えて,意見集約の事務作業を基本的には8月中に終えたいと考えておりますので,意見の提出をお考えの関係団体等の皆様には,できる限り本来の期限内か,あるいは若干の遅れといった程度で御意見をお寄せいただきたいと考えております。どうかよろしく御協力をお願いいたします。   続きまして,この部会の実質審議のスケジュールとも多少関係することを申し上げます。   先ほど申し上げましたように,パブコメの意見の提出期限を最大で10月末まで個別に延期するといたしますと,パブリックコメントの結果をこの部会に報告する時期にも遅れが出るわけですが,それまで部会の実質審議を全く行わないというのでは,この部会に託されている任務を十分に果たすことができなくなると私は思います。ですので,この部会の実質審議につきましては,パブリックコメントの結果報告を待たないで再開することとし,その代わりに,11月ころ,パブリックコメントの結果を報告する機会を改めて持ち,その際に,それまでに実質審議を行った論点項目について,おさらいといいますか,補充的な議論をするという進め方をしてはどうかと考えております。このような方向で進めることについて,御理解を頂きたいと思います。   更に続けて,7月の審議日程について簡単に御説明させていただきます。本日の最後にも申し上げますが,6月中に3回の会議を開いてヒアリングを行うことを予定しております。その次の会議については,7月12日に開催の可能性があるということで,これまで日程を空けておいていただいていると思いますが,この7月12日については開催を見送ることとして,その次の7月26日の会議から,第2ステージといいますか,中間試案の取りまとめに向けた議論を始めたいと考えております。もちろんこの日は,今後の作業スケジュールと審議の進め方などをお決めいただくことが重要な課題となるわけですけれども,それとともに個別の論点項目についての実質審議にも入ることができるよう,事務当局としては,事前送付資料の作成準備を進めようと考えております。この日から実際に本格的な実質審議に入るのかどうかは,今後,私どもにおいて十分検討するとともに,おいおい御相談をさせていただこうと考えております。   本日のところは,まず7月の会議について,12日は開催せず,26日は開催するということを御報告し,26日の議事内容については,追って詳しく御説明をさせていただくということをお伝えさせていただきます。 ○鎌田部会長 何か特に御発言ございますでしょうか。 ○中井委員 確認ですけれども,パブコメについて,8月1日を一部個別に最大10月末まで延ばすことができるというお話でしたけれども,この個別にというのは,各団体ごとに個別に法務省事務当局に御相談申し上げて,手続を採るという理解でよろしいのでしょうか。 ○筒井幹事 そのようにお願いしたいと思います。 ○中井委員 もう1点。パブリックコメントの取りまとめを夏休み中にもしていだけるようですが,他方で10月末まで提出を認めるとなると,ずれが生じる。その結果の取りまとめは11月とおっしゃられたのでしょうか。8月1日までに出たものは,9月から実質審議が始まる前に,一定取りまとめを公表される予定があるのか,ないのか。この点はいかがでしょうか。 ○筒井幹事 部会への報告は,まとめて11月にすることを考えております。ただ,私どもの事務作業の進め方,時間の使い方として,8月中にある程度の作業を終えておかないと,その先の作業に支障を来すということを,先ほど申し上げたつもりです。事務当局の内部においては,できれば8月中にどんどん作業を進めておきたいということです。 ○鎌田部会長 よろしいですか。   それでは,意見聴取を再開したいと思います。   どうもお待たせいたしました。日本証券業協会から意見聴取を行いたいと思います。参考人の望月洋幸さん,よろしくお願いいたします。 ○望月参考人 ただいま御紹介にあずかりました望月でございます。   本日は,我々証券業界にこのような場でヒアリングの機会を御用意いただいたことに,まずはお礼を申し上げたいと思います。ありがとうございます。   それでは,始めさせていただきます。お手元にございますパワーポイントの資料を基に,御説明を進めさせていただきます。   本協会では,去る平成22年12月27日付で,法務省民事局参事官室に宛てまして意見書を提出させていただきました。これから申し上げます意見は,今般のヒアリングに際しまして,本協会のワーキンググループにおきまして検討を重ねてきたものでございます。12月27日に提出しました意見書に新たに加わったものもございますので,こちらのパワーポイントの資料を基に御説明をしたいと考えております。   本協会では,今回のヒアリングに加えて,民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理につきまして,別途正式に意見提出を行う予定でございます。今後の検討に当たりまして,これらの意見を十分斟酌していただき,より良い法制としていただければと考えております。   それでは,お手元の資料の2ページ目から御説明をさせていただきます。まず,契約の締結交渉の段階につきまして,証券業界の実務の観点からの要望でございます。   金融商品取引法の下では,投資家を特定投資家と一般投資家,いわゆるプロとアマに区分しまして,この区分に応じて行為規制の適用を区別することで規制の柔軟化というものを図っております。仮に民法で説明義務・情報提供義務の規定が設けられるとすると,例えばプロを相手とする場合に求められる説明の程度について,アマを相手とする場合に求められる説明の程度と同等のものが求められるようにはならないかというのが我々の懸念でございます。   この点に関しましては,民法という一般法に対しまして金商法という特別法という,そのように関係を位置付けられれば解決につながるのかもしれないのですが,金商法は一面では業者を規制する業法という側面も有しておりますので,単純に特別法というふうに考えてよろしいかどうかという点が,疑問が残ります。法制化に当たりましては,この点を明確にしていただければというふうに考えております。   次に,3ページ目に移ります。約款についてです。約款につきましては,契約成立時点での組入れ条件につきましては既に深く議論がされておりますので,特に今回は約款の内容の変更についてコメントをさせていただきたいと思います。   約款を変更するに際し,仮に顧客からの合意まで取り付けることを要するとなると,ささいな変更であっても,その都度,不特定多数の全ての顧客から合意を取り付けるということになりまして,実務上,非常に困難が生じます。他方,このような煩雑な事態を避けるために,約款を顧客の同意なく変更できる条項を設けるならば,不当条項規制に該当してしまう懸念があるというふうに考えております。基本的には,現在我々の金融商品取引業者の間での実務で採られております,不利益変更にならない限りは通知,個別の通知ではなくて,例えばホームページ等で公表すれば足りるというような内容を踏襲できればと思っておりまして,変更の内容が顧客にとって不意打ちになるようなものでなければ,合理的な方法が認められてよいのではないかというふうに考えております。   この点につきましても,約款の変更についての議論というのが部会の検討の中で,必ずしも成立の段階と切り離して議論してよいのかどうか,考えてよいのかどうかというのが読み取れなかったものですから,提言として,コメントとして入れさせていただきました。   それから,次に不当条項規制についてです。   不当条項規制の適用対象として約款が挙げられておりますが,金融商品の販売に関しましては,業法において,その責任が重く規定されております。相手方の事情で販売対応が変わってくるというものでありますので,一律に類型化することは実態にそぐわないというふうに考えております。   もう少し具体的に御説明いたしますと,例えば口座の解約事由。反社会的勢力であるですとか,もう長年にわたって稼働していない,取引がないといった場合に解約をする内容ですとか,若しくは外国株式に関する諸通知を行う,どこまでの通知を行う義務があるのか等についての記載,それからあるいは,先ほど申し上げた約款の変更時の通知に関する記載等があります。   また,その約款以外の,現状では契約書という形でお客様との間で締結をしております,例えばデリバティブ契約の契約には解約料に関する規定がございます。合理的で客観的な金額で,業者の側が提示したものであれば,それが解約料になるというような規定もございます。あるいは,アドバイザリー契約の中で使われています表明保証条項,この保証はギャランティのほうの保証ですけれども。あるいは,インデムニティのほうでの補償といった条項。若しくは財務制限条項等。これらのものに関しまして,不当条項とみなされてしまうのかどうかといったところは非常に懸念をしております。   次のページにまいりまして,消費貸借契約についてです。ここでは特に解除権についての懸念点を述べさせていただきます。   金融商品取引業の実務におきましては,諾成的消費貸借契約というのは既に多種多様なものが多数存在しております。消費貸借の借主の解除権を認めるということになりますと,商取引に混乱をもたらすおそれがあるのではないかと考えております。   一例といたしましては,株券貸借取引を挙げますと,顧客に株券を貸し付けるために株券を調達してくる。株式を調達してくるということが金融商品取引業者の業務としてございますが,これが一方的に解除をされるということになりますと,業者としては調達した株券の価格変動リスクを負わなくてはならないという問題がございます。また,例えばストックオプションの権利行使に伴いまして,払込みに必要となる資金を貸し付けるといった業務を行っている証券会社がございます。これらの貸付けが,実際に資金が提供される前に解約をされるということになりますと,調達コストの負担等についても問題が生じてくるかと思われます。またあるいは信用取引,株式の信用取引のように,与信と有価証券の取引とが複合的に一体化しているもの,これについて与信の部分,消費貸借の部分が解約をされると,そうすると残りの部分についての取扱いはどのように考えればよいのかといった問題もあるかと思われます。   損害賠償請求権というものが認められると,解約は認めるけれども,それとはまた別個に損害賠償請求はできるのだということであれば,エコノミー的には解決をする話ですが,現在の部会での審議の内容からは,賠償が必ず認められるものなのかどうかというのが明確ではありませんでしたので,コメントとして提出させていただきました。   それから次のページ,委任についてです。   委任者の指図に従うことが委任者の利益に反すると認められる場合には,指図遵守義務を負わないと規定すべきとする見解がございますが,いかなる場合が委任者の利益に反すると認められる場合を指すのかというのが明確ではないため,投資一任契約の受任者となり得るような金融商品取引業者にとっては,自らが指図遵守義務を負うか否かが的確に判断できないのではないかという疑問が生じております。   一例といたしましては,投資一任業務におきまして,顧客から米国株式と米国債券を半々のポジションで運用をしてほしいという依頼を受けた場合に,例えば米国の株式市場が暴落をして,日本時間ではこれは深夜若しくは早朝でありますので,顧客の確認が取れないときに,果たしてその金融商品取引業者は顧客の当初の指示に反して米国株式の運用比率を下げるべきなのかどうか。そういう自由があるのか,若しくは,そうしなければいけないのかといったところが明確ではないという懸念がございます。   次に7ページ目ですが,準委任にかわる役務提供契約の受皿規定ということで,こちらに関しましては,7ページの報酬に関する規律と,それから次のページの任意解除権に関する規律と,二つの要望がございます。   まず,報酬に関する規律ですけれども,財務コンサルティング契約や各種のアドバイザリー契約,これはM&Aのアドバイザリー契約等を想定していただければと思います。これらの契約においては,成果完成型か履行割合型かをあらかじめ確定しておくことが難しい場合もございます。つまり,案件の進行に応じて役務受領者のニーズも変化する場合もあります。また,役務受領者の望む形でのM&Aの実現に至らなかったとしても,M&Aに向けたアドバイスを提供することで,役務受領者側のニーズを満たす場合もあり得るかと思います。提案によりますと,このような場合,成果が完成しなかったとして,報酬を請求することが認められないということになりかねないのではないかという懸念を有しております。このように企業経営という高度に専門的で定型化しにくいニーズに対するアドバイザリー契約ゆえ,一律の報酬規律にはなじまない側面があるのではないかというふうに考えております。   次に,任意解除権に関する規律です。証券会社における,金融商品取引業者における口座開設契約ないし保護預かり契約を想定しております。これらは従前,寄託類似の契約,あるいは準委任契約というふうに解釈されていた場合が多いかと思われます。役務提供受領者(顧客)が反社会的勢力等である場合に,直ちに口座解約などの措置を採る必要がございますが,役務提供者(金融商品取引業者)側に任意解除権が認められないのであれば不都合であると。明確に反社会的勢力,すなわち指定暴力団の組員等ということが認められる場合であれば,やむを得ない事由として問題はないかと思われますが,それ以外の場合において,どのように考えていけばよいのかというのが疑問,疑念点であります。   それから9ページ目,債権譲渡契約です。   債権譲渡に関しましては,譲渡禁止特約についての絶対的効力案,相対的効力案というものがございますが,実務の観点からは,飽くまでも譲渡が有効であるという相対的効力に基づいて考えたほうが,ビジネスとしてはより資金調達の可能性等も広がると。こちらのほうが実務的には都合がよいというふうに考えております。   それから,もう一つの問題点としましては,将来債権譲渡につきまして,その効力の限界についてコメントさせていただきます。将来債権の流動化促進などの観点からは,将来債権の譲受人は,将来債権譲渡の効力を譲渡人が倒産した場合にも,管財人に対して対抗できると考えるべきというのが要望です。将来債権に経済的な価値があるということを前提に譲渡がなされている現実に鑑みまして,譲渡し人が倒産した場合に,それが巻き戻ってしまうとなりますと,譲受人ないしそこから転々流通した先に対しまして,不測の損害を与えることになりかねないかというのが懸念点でございます。   それから,10ページに移りまして,相殺に関してです。   相殺に関しましては,相殺予約に対して常に差押え債権者に対抗することができる効力を付与するとする見解,中間論点整理で無制限説と呼ばれているものと,それから,一定の場合にその効力を制限すべきとする見解,便宜的に制限説というふうにここで呼ばせていただきますが,この二つがございまして,制限説の中には,両債権が特定の継続的取引から生じたものであるときに限り,差押え債権者に対抗できるとすべきであるとの見解があるかと存じ上げておりますが,国際標準化されているデリバティブ基本契約書,ISDA MASTERというふうに一般に業界では呼ばれていますが,それや,信用取引口座設定約諾書等には,相殺予約の条項が入っており,制限説によれば,仮にこれらに基づく取引が特定の継続的取引に該当しなければ,相殺をしても差押え等に対抗できなくなってしまうということが考えられます。現行実務上,法的安定性を伴って行われている金融取引が,本提案によって阻害されることのないような取扱いをしていただければと考えております。   「特定の継続的取引」という文言は,必ずしも部会の中ではそのような表現はされていないかとは思いますが,特段この表現自体にこだわりはございません。自働債権または受働債権が相互に信用を供与し合うという社会的な定型性を有すると認められる関係という考え方で,我々もそのようなことで考えております。   それから最後ですけれども,事情変更の原則についてです。金融商品取引業者は,業務上,種々の契約を締結しておりますが,事情変更の原則が明文化されれば,本来的に要件を満たしていないものも含めて事情の変更があったとして,契約改訂の再交渉を求める申出が増えることが予想されます。金融商品は,もともとが経済情勢の変化を前提に取引されているものでありまして,事情変更との境界を引くということは非常に困難であると考えられます。そのようなことを前提にしますと,申出への対応が極めて煩雑になる可能性があり,その点を懸念しております。   こちらの資料に書かれていることは以上でございますが,金融商品取引業界としましては,やはりもう一つ,不実表示と契約の効力というものについてはちょっと懸念をしておりまして,一般には,例えばM&A等では表明保証というものが行われておりますが,仮に不実表示と契約の効力の論点整理の中で言われていますように契約自体が無効になってしまう,若しくは取り消し得るものになってしまうということになりますと,業界で一般的に行われています損害賠償での補填ということが否定をされることになりかねませんので,こちらの点につきましても懸念をしているところでございます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ただいまの御説明につきまして,御質問等ございましたらお出しください。 ○山本(敬)幹事 御説明,どうもありがとうございました。   一番最後に言われた点について確認をさせていただければと思います。不実表示に関する規定を明文化すると,実務で使われている表明保証条項の効力はどうなるかが懸念されるところであるという御指摘でした。表明保証条項の効力が,明文でか,あるいは解釈でかは別として,原則として否定されないということにもしなるとすれば,この不実表示に関する規定を明文化することについて反対はされないのか,それでもなお懸念が残るというご趣旨なのかという点を,確認させていただければと思います。 ○望月参考人 まだその議論が煮詰まっていない段階で,一般的に答えるというのは非常に難しいかとは思いますけれども,不実表示がなされていたことに対して,一般的に,後になってから契約自体の効力が争われ,無効になるということは,その内容次第では当然にあってしかるべきではないかというふうに考えております。一般的に,そのような効力を否定するということは,契約の効力が無効になってしまうということがおかしいというふうには思いませんけれども,ただ,個別の事情においては,もう少し柔軟な対応が採られてもいいのではないかと。   例えば証券会社の訴訟等におきましても,現在では損害賠償という形で顧客との間で紛争を解決するというのが実務慣行になっておりまして,顧客の保護という観点からも特段,そのような対応で不足があるというふうには考えておりませんので,選択肢としてはいろいろなものがあってよろしいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○佐成委員 1点だけ確認をさせていただきたいのですが,3ページの約款のところの最後のところで,変更の内容が顧客にとって不意打ちになるようなものでなければ,合理的な方法が認められるべきであるということが書かれています。先ほどの御説明だと,その点を「不利益でない場合」というふうにおっしゃっていたように感じたので,そのあたりを,もう一回教えていただければと思います。 ○望月参考人 現状,実務的には不利益変更の場合には,きちんと顧客への通知を行うという対応が採られております。こちらのパワーポイントの資料では「不意打ち」と,もう少し程度が重いもので記載をさせていただいておりますが,実務的には不利益かどうかというのを基準に考えております。 ○佐成委員 ありがとうございました。 ○道垣内幹事 同じところに関して簡単な確認なんですが,不利益でない場合あるいは不意打ちでない場合には約款で定められた内容の変更ができるという実務の根拠は,不利益でない場合あるいは不意打ちでない場合には,例えばホームページの掲載によって,契約条件を変更することがありますという合意があるということに基づいていると理解されているのか,およそその程度の変更は事前の合意なく認められるという御理解なのかということを確認させていただければと思います。 ○望月参考人 現状では約款の中に,顧客の利益に重大な影響を与えるものでない場合には,ホームページ等での公表をもって代えさせていただきますというような内容が入っているケースが多いのではないかと思います。 ○道垣内幹事 それは多いという事実の問題であり,そのような条項がなくても,およそ一定の変更権限はあるというお考えなのかという点はいかがでしょうか。 ○望月参考人 すみません,私は野村證券でございますが,ほかの証券会社について一般的なことは分かりませんけれども,少なくとも弊社におきましては,一方的にそのような通知をもって契約内容,約款の内容を変えられるというふうには考えるべきではないだろうとの考えの下に,お客様に特段不利益でないものに関しましては,軽微な変更につきましては,ホームページの発表で代えさせていただきますということを事前に約款の中に明示することによって,御了解を頂いているというふうに考えております。 ○道垣内幹事 どうもありがとうございました。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。   それでは,日本証券業協会からの意見聴取を終わりたいと思います。   望月参考人におかれましては,御協力ありがとうございました。   では続きまして,京都消費者契約ネットワークから意見聴取を行いたいと存じます。それでは,参考人の長野浩三さん,よろしくお願いいたします。 ○長野参考人 御紹介いただきました,適格消費者団体NPO法人,京都消費者契約ネットワーク理事・事務局長の長野でございます。ふだんは弁護士をしております。   京都消費者契約ネットワークは,現在九つある適格消費者団体のうち,四番目に認定された適格消費者団体でありまして,不動産賃貸借における敷引特約,定額補修分担金等の不当条項,それから,結婚式場,冠婚葬祭互助会,携帯電話会社の不当な解約料条項等の使用差止請求訴訟,未公開株の勧誘についての差止訴訟等を提起しております。差止訴訟の件数は,全ての適格消費者団体の中で最も多い団体であります。   早速意見を述べさせていただきます。意見を述べるに当たっては,網羅的な検討は私自身できておりませんので,消費者の権利擁護にとって重要と思われるものを挙げたいと思っております。今日お配りしております意見陳述要旨に沿ってお話ししたいと思います。   まず第一に,「第62 消費者・事業者に関する規定 1 民法に消費者・事業者に関する規定を設けることの当否」についてでありますけれども,この規定を設けることについては賛成であります。社会における取引の多くは,消費者と事業者の間のいわゆる消費者契約であり,消費者契約については一般法である民法で規定すべきであると考えております。ただ,その際には,消費者契約について,消費者契約法,消費者基本法が規定しておりますように,「消費者と事業者の間の情報の質及び量並びに交渉力の格差」という基本理念を民法に規定すべきであります。この規定は,消費者契約法における基本理念として重要であり,また,現行消費者契約法10条などを初めとする消費者契約に関する規定の解釈の際の解釈指針となるものでありまして,極めて重要であると認識しております。   二番目に,同じく第62の「2 消費者契約の特則」についてでありますが,ここに挙げられております①から⑫を含めて賛成であります。現行の消費者契約法の実体法規定について,より消費者の権利擁護を図れるようにした上で,民法に取り込むべきであるというふうに考えております。無効とされるべき不当条項については,詳細なリスト化が必要であると考えております。   最高裁判所第一小法廷平成23年3月24日,これは裁判所ホームページに載っておりますが,この判決は,マンション賃貸借契約の敷引特約の効力に関し,そこの⑧にあります,消費者契約において賃貸借契約終了時の通常損耗の回復費用を消費者負担とする条項の効力が認められないとすること,このことに反すると解されかねない判断をしております。これまで下級審では敷引特約について,消費者契約法10条により無効とする多数の判決がございました。また,大阪高等裁判所平成16年12月17日(判例時報1894号19頁)などは,通常損耗の回復費用を消費者負担とする条項を消費者契約法10条により無効としております。これらは,消費者契約法の理念を理解した下級審の裁判所によって積み重ねられてきたもので,関西の主要地裁では敷引特約についてはいずれも無効判決が主流と言っていい状況でありました。また,最高裁判所平成17年12月16日(判例時報1921号61頁)は,意思表示レベルで実質的な内容コントロールを行って通常損耗の回復費用を賃借人負担とする条項の効力を認めませんでした。また,国土交通省においては,賃借人が負担すべき回復費用についての原状回復ガイドラインを作成し,現在改訂作業を行っておりますけれども,これは通常損耗の回復費用は賃借人負担としないことが前提でありました。先ほどの3月24日の最判は,これらのここ10年来の下級審裁判所,最高裁判所,更に行政が積み上げてきた消費者の権利擁護の活動の意義を根底からひっくり返しかねない判断でありまして,消費者の権利擁護の観点からは極めて不当な判断であると認識しております。これよって,従前極めて大問題となっていた敷金問題が,更に混乱する可能性があります。   最高裁でもこうですから,このような事態が生じないように,民法改正において消費者契約に関する規範を取り入れる際には,具体的なリストを初めとする,できる限りの具体化が重要であると考えております。リストについては,中間的な論点整理「第31 不当条項規制 5 不当条項のリストを設けることの当否」でも触れられておりますけれども,ブラックリストとグレーリストを準備すべきかと思います。   三番目に,「第59 契約の解釈 3 条項使用者不利の原則」についてでありますが,賛成であります。取り分け消費者契約においては,消費者有利解釈の原則として機能すべきであります。これは,2000年に立法化された消費者契約法立法時にも検討された事項であり,是非導入していただきたいと思っております。   四番目に,「第31 不当条項規制 2 不当条項規制の対象から除外すべき契約条項」についてでありますが,消費者契約においては,個別交渉条項,中心条項を対象から除外すべきではないと考えております。   個別交渉条項については,現行消費者契約法1条で規定されているとおり,事業者と消費者との間には情報の質及び量並びに交渉力の構造的格差が存在します。このことから,実質的交渉が確保されることは困難であり,個別交渉を経たことを根拠に不当条項を有効化することは許されないと考えております。個別の交渉について,形式的な交渉では足りず,飽くまで実質的な交渉でなければならないとしても,そのような個別交渉であったかどうかを後に判断するのは困難であり,契約書の手書き部分が個別交渉とされる危険性もあります。これに関連して,消費者契約における不当条項規制については,幾ら説明しようが内容の不当性が問題となるのですが,消費者契約法に関する訴訟を行っている場合,事業者側からは当該条項が開示されているから不当ではないとする趣旨の主張がよく見受けられます。しかし,この主張は情報提供をした合意の場面と内容コントロールの場面を混同するものであります。伝統的な対等当事者間の民法を勉強してきた現在の実務家にはなじみやすい発想のようですが,安易に個別交渉をしたから有効とされることのないよう,個別交渉条項の不当条項規制からの除外は,少なくとも消費者契約においてはやめていただきたいというふうに考えております。   中心条項については,中心条項と付随条項の区別が困難であること,中心条項を除外することを正当化する情報提供が特に消費者契約の分野では現在十分でないこと等から,除外すべきではないと考えております。   私がやっている訴訟でありますが,高額パケット料金の問題があります。これを不当条項規制のレベルで解決しようとすれば,一定額以上のパケット料金条項を無効とする必要があります。携帯電話のパケット料金ですけれども。現に数日間で20万円ものパケット料金を課金された消費者の例として,私が訴訟代理人として訴訟を行っております。総務省の資料では2,000万円もの請求を受けた事例があるという例が報告されておりますが,100万円を超えるようなパケット料金,数十万円ものパケット料金,通信料は,説明の問題ではなく,欠陥商品ならぬ欠陥役務として,契約ないし条項が無効として扱われるべきであると考えております。   五番目として,同じく「4 不当条項の効力」についてでありますけれども,当該条項全体が無効であるとされるべきであります。そうでなければ,契約条項使用者はあらかじめ検討して不当条項を排除するということをしないようになりますので,不当条項の使用が排除されないという結果になります。   六番目として,「第30 意思表示 5 意思表示に関する規定の拡充」については,既に述べたとおり,不実告知につき民法が規定することは賛成であります。   ただし,現行消費者契約法と同様,消費者が事業者に対して不実告知を行った場合には,事業者に取消権を認めるべきではないというふうに考えております。これは消費者と事業者の格差の観点から,このように扱うべきだというふうに考えております。消費者契約における事業者の断定的判断の提供,現行消費者契約法4条1項2号,更に不利益事実の不告知,同条の2項も,民法で規定すべきであります。   また,次の事業者の行為による消費者の意思表示を取消し可能とすべきであります。一番目としては,重要事項に関して消費者が理解できる方法で情報提供を行わなかったこと。二番目としては,当該消費者を威迫すること。三番目としては,当該消費者の私生活又は業務の平穏を害すること。四番目として,当該事業者が当該消費者を心理的に動揺させること。五番目として,当該消費者の知識の不足,加齢・疾病・恋愛感情・窮迫状態等による判断力の不足を知り,又は知り得るため,信義則上勧誘を行うべきでないにもかかわらず勧誘を行うこと。六番目としては,あらかじめ当該消費者の要請がないにもかかわらず訪問等の不招請勧誘行為を行うこと。七番目としては,信義誠実の原則に反する行為。これらを取消事由として規定していただきたいと思っております。これらは,日本弁護士連合会の2006年12月14日付の消費者契約法の実体法改正に関する意見書と同様のものであります。   七番目としては,「第28 法律行為に関する通則 3 強行規定と任意規定の区別の明記」についてでありますが,これは是非明記していただきたいと思っております。これ,私自身は法律家ですので余り思わなかったんですけれども,適格消費者団体で検討を行っている人たちから,差止請求の検討において,民法のどれが強行法規でどれが任意法規かが分からないとの意見が私のところに届けられております。法律家でなければ,この区別はなかなかできないと思われますので,民法を市民のための法律にするためには,この点の配慮が必要かと思われます。   この第28の1,(2)公序良俗違反の具体化について,状況の濫用などが提案されておりますが,消費者契約に関し,消費者の知識・経験・理解力・必要性・財産の状況に照らして,不適当な消費者契約は無効とするという旨の規定を是非設けていただきたいと思っております。   八番目として,「第23 契約締結段階 2 契約締結過程における説明義務・情報提供義務」についてでありますが,事業者の消費者に対する重要事項についての情報提供義務を定め,既に述べたように,この義務違反による消費者の意思表示につき取消権を付与すべきであります。   九番目として,「第12 保証債務」における保証人の保護についてであります。「1 保証債務の成立 (2) 保証契約締結の際における保証人保護の方策」,さらに,同じく「7 根保証」などに記載されております保証人保護の方策については賛成でありますが,より根本的に,事業者でない者(消費者)の人的保証を無効とすべきではないでしょうか。物的保証は別にして,人的保証を無効とすべきではないでしょうか。保証債務の負担によって,生活が破綻させられている例が多く見受けられます。   十番目としては,「第56 新種の契約 2 ファイナンス・リース契約」についてであります。このファイナンス・リース契約については,典型契約として規定すべきかどうかは慎重に検討すべきであり,少なくともユーザー保護が厚く図られるべきであると考えております。少なくとも消費者契約においては,このファイナンス・リース契約を定型化する必要性はないのではないかと思います。金融が必要な場合は,貸金,割賦販売,リースが考えられるわけでありますけれども,少なくとも現行の法律で規制されております前二者の規制に比べて緩い規制であってはならないというふうに考えております。ファイナンス・リースは,消費者に準ずるような零細事業者が被害に遭っている例が非常に多数見受けられます。特に電話リース,それから最近では,物ではない,ホームページリースといったようなものも見受けられます。リース業者はサプライヤーの行為によって利益を上げており,サプライヤーの不当な行為については連帯して責任を負うべきであります。   以上,早口になりましたけれども,意見を述べさせていただきます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいまの御意見に関しまして,委員,幹事等の皆様から御質問がありましたら,御自由にお出しください。 ○岡委員 どうもプレゼンありがとうございました。   一つお伺いしたいのですが,この立場に立った場合,消費者契約法の実体法部分はどんなふうにすべきであるという御意見になるんでしょうか。 ○長野参考人 実体法部分を民法の中に取り入れていただくということになろうかと思います。そういう趣旨でよろしいですか。   民法に取り入れることについては,消費者問題を扱っている者の中にもかなりいろいろな意見がありまして,反対意見も見受けられるところですけれども,これは私の個人的な,飽くまで個人的な見解ですけれども,民法の中に入れるほど,消費者契約法規範は既に社会の中で実質的な民法を形成しているというふうに私自身は思っております。いろいろな面で改正が遅くなるのではないかとか,法律の所管はどうなるのかとかいった問題もいろいろと言われておりますけれども,そこは消費者庁と法務省との共管としていただいてやっていただきたい。さらに,実体法規定については,この民法の改正の議論についてもそうですし,民法改正の基本方針の議論でもそうでしたけれども,そこでなされている消費者契約法規範に関する議論は,少なくとも2000年に行われた消費者契約法の立法のときよりも数段進んだものであるというふうに私は認識しておりまして,是非法制審議会のここでも,迅速な形で,消費者庁と協議した形で所管していただいて,充実した消費者契約法規定を維持・作成していただければというのが私の意見であります。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○中井委員 消費者契約法の実体法規を民法に取り入れるという御見解ということですけれども,そのときの消費者概念であるとか事業者概念について,特段御意見はお持ちでしょうか。 ○長野参考人 どこかで線を引かざるを得ないだろうなと思っておりまして,現行の消費者契約法が一つ線は引いているわけですけれども,私自身は,消費者契約法の趣旨が事業者と消費者との間の格差,これは同種行為の反復継続したことによる情報・交渉力の格差にあるというふうに考えるならば,現在の事業のための要件が少し変わってもいいのではないかと思います。   例えば,現行の事業のためにでは,個人事業主が事業所のために花瓶を買うような行為は,恐らく「事業のために」になって消費者契約にならないと思うんですが。個人事業主が家のために花瓶を買うのと,事業とは関連のない,事業所に飾るために花瓶を買うのと,これは花瓶を買うという売買行為についての情報力・交渉力については全く同じです。これは日弁連が提案している案でもありますけれども,事業に直接関連する目的での行為についてのみ事業者として扱って,間接的にしか関連しない,例えば事業所に花瓶を置くような,その当該事業に直接関連しないような行為については消費者として扱うという,消費者を少し広げるような形で規定すればいいのではないかと思います。   ただ,それでも零細事業者については消費者概念に入ってこないことがありますので,そこは類推適用であるとか,適時の柔軟な解決が実務の中では要請されてくると思っております。きれいに全部,消費者と事業者で線を引いてというのは,なかなか難しいと思っておりますが,先ほど申し上げたとおり,少し広げる形で規定すればいいのではないかと個人的には考えております。 ○松本委員 ①から⑫まで含めて賛成であるということの意味なんですが,その次のところに,現行の消費者契約法の実体法規定について,民法に取り込むべきであるということも書かれているわけです。ところが,ここの①から⑫は消費者契約法に規定のないことがいっぱい書いてあるわけですよね。両者の関係は,消費者契約法を丸ごと民法に取り入れた上,さらに,それから漏れているけれども,個別に消費者保護のための特則として検討されていることについても,まずは消費者契約法に入れ込んだ上で民法に統合すべきだということなのか。それとも,消費者保護のための現行民法の特則をもっといろいろ考えて,個別に民法の中にほうり込んでいく,そしてそれをする際には消費者庁と法務省との共管にするという御趣旨なんでしょうか。 ○長野参考人 プロセスについては,どちらを先にして,まず消費者契約法に取り込んでとか,民法でまずとかいうことについては,私自身は実際のところ考えておりません。結論として,現行消費者契約法の規範と,ここに書いておりますような消費者契約の特則を民法に取り込むような形で規定していただければいいのではないかと。それまでのプロセスについては,検討というか,所見を持ち合わせておりませんので,失礼いたします。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。   よろしいですか。   どうもありがとうございました。京都消費者契約ネットワークからの意見聴取を終わりたいと思います。   長野参考人におかれましては,御協力いただきましてありがとうございました。   それでは,消費者支援機構福岡から意見聴取を行いたいと存じます。予定より少し早い時間にお願いすることになりまして申し訳ございません。参考人の黒木和彰さん,よろしくお願いいたします。 ○黒木参考人 法制審議会の民法(債権関係)部会で発言の機会を与えていただき,大変感謝しております。ありがとうございます。   それでは,参考人としての発言をさせていただきます。   まず,私が肩書としております特定非営利活動法人消費者支援機構福岡について御説明申し上げます。2007年(平成19年)に福田康夫内閣総理大臣が就任直後の所信表明演説で,生産第一という思考から国民の安全・安心を重視し,真に消費者や生活者の視線に立った行政に発想を転換し,消費者保護のための行政機能の強化に取り組むと述べ,2008年1月18日の第169回の通常国会の施政方針演説では,各省庁縦割りになっている消費者行政を統一的・一元的に推進するための強い権限を持つ新組織を発足させて,併せて消費者行政担当大臣を常設すること,新組織は国民の意見や苦情の窓口となり,政策に直結させ,消費者を主役とする政府のかじ取り役になるものとするということを表明されております。そして,これを受けまして2009年5月29日には消費者庁設置法案等の消費者庁関連法案が可決成立いたしまして,正に行政のパラダイムシフトとして,消費者行政の指令役としての消費者庁が設置されることになりました。   福岡県弁護士会では,消費者庁設置関連法案の準備段階である2008年7月19日に,「消費者庁構想を考える~真に消費者の頼りになる消費者庁実現に向けて」というシンポジウムを行いました。また,消費者庁発足直前であります2009年8月1日には,「出来たよ消費者庁!創ろう適格消費者団体! 今,消費者被害の予防と回復のため私たちが出来ること」と題するシンポジウムを行いました。そのシンポジウムで,同年9月には適格消費者団体を目指す団体を福岡県でも設置することを決議いたしました。そして,9月26日に特定非営利法人消費者支援機構福岡を設置するということになったわけであります。   以上のように,この特定非営利活動法人消費者支援機構福岡というのは,消費者庁の構想と同時に企画されたものでありまして,福岡県を中心とした北部九州地域で,消費者契約法に定められた差止め請求権の訴権を行使することを目的として設置された団体ということになります。そのために理事長には,8月1日のシンポジウムのパネラーであり,本日一緒にお越しいただいています朝見教授に御就任いただきました。また,福岡県弁護士会,福岡県司法書士会の有志に加えまして,民事訴訟法の研究者であります上田竹志九州大学法科大学院准教授にも就任していただきました。それに福岡県内の生協連,エフコープ,グリーンコープの生協といった団体から理事を出してもらっている形でやっているということであります。   なぜ適格消費者団体を目指すのかということの意味について御説明いたします。他の適格消費者団体は,既に存在していた消費者保護団体が,その活動を認められ適格消費者団体の認証を受けているというものだと考えられます。この特定非営利活動法人消費者支援機構福岡は,初めから適格消費者団体になるために作ったというものであります。したがって,当初から消費者契約法13条各号の要件を満たすということが,当然の目的となっております。13条3項2号で,認定される適格消費者団体を目指すものとしては相当期間継続的に適正に消費者保護の活動を行うことが必要でありますので,それが重要な活動目標ということになります。   そうすると,消費者契約法12条が差止めの請求権という訴権行使を認められるための要件でありまして,これと重複していますので,同条により,消費者契約法4条から3項までの行為を行っている事業者に対する働きかけ,それから,同法8条から10条までに規定する消費者契約法の条項を利用している事業者に対する働きかけを意識的に行うことが,当初からビルトインされていた,換言すれば,初めからそのために作ったということになりました。   このために,当初から,主に福岡県内の事業者の契約締結過程や契約内容の問題を分析していくことが我々の使命になっております。私どもの法人では現在,専門部会を設置しておりまして,活発な意見交換を行いながら,事業者に対して申入れその他の活動をしております。その活動内容は本日の配布資料の資料1というものであります。資料1を見ていただけば御理解いただけると思いますけれども,その問題となっている法律関係,契約関係は,契約各則では多様な法分野に及んでいます。   契約関係や条項を事業者に対して任意に提出を求めて,改善の要求を行うという活動を行っているわけでありますけれども,現在のところ,私どもの法人は適格認定を受けているというわけではありません。訴権を持たない完全な一私法人として働きかけをしているだけであります。このように限定された活動しかできませんが,この法人の理事会や専門部会には弁護士や司法書士を初め多くの専門家,消費生活相談員が正に手弁当で集まって,活発な議論を繰り返しています。   これはなぜかといいますと,第一次的には適格消費者団体の認定をもらいたいということですが,認定をもらったからといって,参加者に何か直接的なメリットがあるかというと,全くありません。結局は,この活動の源泉となっているのは,個々の消費者契約のトラブルを個別解決しているだけでは限界があるという共通認識があり,そのトラブルの解決方法として,団体を通じた申入れが必要となっているという確信を多くの関係者が共有しているからです。この意味で,消費者法,消費者問題は,正に日々新しい法律問題が生起している現場であって,解決が迫られている現場です。しかも,その消費者問題を団体的な観点で検討していかなければならないということについて,法律専門家のみならず多くの関係者が同意しているということ,このことが福岡のこの活動で,私は事実として認められるのではないかと思っております。   この活動から見えてきた債権法改正について申し述べさせていただきます。   正にこの消費者支援機構福岡の法人の設立準備をしておりました2009年4月に,債権法改正の基本方針が発表されました。この基本方針の債権法改正手続における位置付けについては,また議論があるところでありますから,私がそのことについてコメントできる立場にはありません。しかし,民法や手続法の研究者が私的とはいえ集中的に討議された結果であるということでしたので,その内容は極めて重要なものだと考えられていました。   ところが,この基本方針では,改正民法典では消費者取引,事業者間取引に関するルールを全て民法に取り込むこと,一般法化,統合することを前提としているとされていました。また,一般化と統合によって消費者取引のルールを民法典への完全取り込みを図る場合には,消費者契約法に実体規定である第2章は設置する必要がない。少なくとも当面は,消費者契約法を消費者団体訴訟を中心とする法律として再編するのは適当であるとされていました。正に消費者契約の実体法規に関する問題を専門的に分析しようとしていた当法人の設立時に,この基本方針が発表されて,法制審議会でこの部会が設置されて議論が始まろうとしていたという,そういうタイミングということになります。   この基本方針の一般化と統合については,これは多くの実務家が反対していたと考えています。その内容については多くの指摘がありますので,私も繰り返しになりますから,詳細な指摘は省きます。簡単にいうと,そもそも,第一次的には統一的な消費者系法典を作成すべきであって,消費者契約法はその中心法典であべきであり,この実体法規を民法に移すということに対する抵抗感があったと考えられます。第二に,今まで申しましたような消費者問題を扱っている現場の感覚からして,この基本方針のように民法典に消費者契約法を取り込むと,日々現場で生起している問題の解決について迅速・的確な法改正ができるのかという懸念があり,消費者保護それ自体が大幅に後退するのではないかという危惧があったということだと思います。   では,NPO法人消費者支援機構福岡内部で基本方針やその後の法制審議会の審議について,理事会や専門部会で議論して私がここに来ているのか。つまり換言いたしますと,本日の私の今から先の発言が当法人内内部の集中的な議論の集約の結果としてなされているかということを問われると,全くそうではありません。それだけ申し上げます。何でお前は来たのかと言われると困りますけれども。   その理由を申し述べたいと思います。そもそも,生協そのほかの関連団体出身理事者にすると,改正されるかもしれない民法という仮定を論議して,その内容をフォローしていくという必要性を彼らは感じていないということであります。また,消費者相談員出身の理事からすると,消費者法とは民法ということではなくて,消費者契約法や特定商取引法,割賦販売法であって,これらの法律の要件に該当するかどうかということが相談業務の中心であったということであります。裁判官は消費者法を知らないのではないかという批判がありますが,同時に,消費者相談の現場にいる相談員は,民法の問題,例えば動機の錯誤といったようなことが問題となると,弁護士に相談者を紹介することで一件落着であって,動機の錯誤の限界と不実表示取消しの関係を考えて相談をすることは考えられていないということだと思います。したがって,基本方針で消費者契約法の実体規定が民法典に一般化され統合されるという提案がなされたことがどういう意味を持つのかということが,まだ相談の現場の中ではさほど大きなインパクトを持たなかったのではないかと思います。   私ども,当法人の目下の中心的な課題とすると,今年の6月5日に福岡市で行われた,国民生活センターの見直しに係るタスクフォースの中間整理に対する対応といったようなことのほうが,むしろ非常に重要であると思っているところであります。   では,このように,では何で,お前は何を言っているのかということになります。そこで,これから先はかなり私の個人的な意見を申させていただきたいと思います。   まず,消費者問題については,今まで申しましたように,改正すべき論点が山積している法分野であることについては間違いないと考えています。かつ,消費者目線での行政や立法というのは,現代では選挙におけるスローガンの一つになっていまして,消費者中心の社会というパラダイムシフトの起点として消費者庁が設置されているというものであります。これは,国や地方の消費者行政の位置付けというのが,単なる業者規制の副次的な効果としての消費者保護から消費者を中心とした行政行為に変化するということであり,その社会的必要性は司法や民事実体法の分野でも同様であると考えられます。   したがって,消費者契約法が策定されたということでありますが,これだけでは不十分であって,いずれにしろ消費者契約法も重要な法典としての消費者をめぐる行政手続や行政法,その他民事手続法の整備が不可欠であります。そして,そのような法領域に分かれる法整備の必要性のキーワードは,恐らく情報力や交渉力の格差が歴然としてこの社会に存在し,それを無視した法律手続は,その正当性を欠いているということについての理解ではないかと考えます。となりますと,この情報力や交渉力の格差,換言いたしますと,契約では一定の場合,契約内容を精緻に検討しないでも自然人は契約することができるということ,もっと言うと,愚かである権利を真正面から認めるべきであって,これに対処する民事実体法の法規範ということであれば,これは消費者契約法のみに規定される必要はないのではないかと思っています。   この点で,消費者契約法と民法の関係を申しますと,行政で消費者相談の窓口で活躍している方々に,消費者関係法令を民法典に一般的に入れてしまって,その精緻な理解がないと相談に応じられないというのは,余りに相談担当者に対して過剰な負担になるのではないかと。民法という社会の基底を支える法律には,この情報力や交渉力の格差がある場合に,形式的な意思の合致では法規範として不十分であることを一般的に宣言していただき,個別的な問題については,それを踏まえた消費者契約法のより詳細化・実効化ということを図るという必要があるのではないかと考えています。   もう一度換言いたしますと,民事実体法の基底をなす民法では,通奏低音として格差とその是正の法理を奏でていただき,社会の表層で日々生起する消費者トラブルについてはメロディとして,消費者契約法も含めた消費者法規範群が対応するということを考えられるのではないかと考えています。しかも,消費者契約法では通常の奏者に加えて,適格消費者団体という新たな奏者が導入できているわけですから,より多方面から議論を深めるということが,最終的には消費者保護につながるのではないかと考えています。そして,私どもの法人もその新たな奏者として,消費者契約法上の問題を広く情報を収集・分析して,消費者と事業者の情報力・交渉力の格差を是正する社会的な存在として,今後も活動していきたいと考えているところであります。   この中で消費者概念について申しますと,このような格差を端的に表す概念として消費者という概念を民法典で検討することは,私は必要だと思っております。もちろん当法人は消費者契約法の適格消費者団体の認定を受けることを目的としておりますので,認定は行政手続であり,かつ消費者契約法の消費者概念は消費者安全法の消費者概念,同2条と同様の内容でありますから,これと異なる概念を理事という立場で言うというのはいささか不自然かもしれません。しかし,個人の立場で自由に議論させていただくと,小規模事業者の事業外契約などについても一定の保護を与えるべきではないかと,事業活動に直接関連しない目的の取引についても保護するといったような形の考え方を採るべきであると考えております。   そのような観点で先日発表されました中間論点整理を読ませていただいて,簡単なコメントをさせていただければと思います。   中間論点整理のうち,第62以下に書かれたのが,私が今回発言した主な内容に関するところであると考えております。そのうち,第62の1に記載されております,民法に消費者・事業者に関する規定を設けることの当否ということにつきましては,従来議論されていた部会資料20では明確に論点として記載されていたのかどうか,ちょっと読み取れず,新しく入ったのではないかと思われております。その意味で,明示的に中間論点整理としてこの当否を問われているということについては,高く評価をしたいと考えています。そして,それに対しての私個人,あるいは現場にいる弁護士の一人としての意見は既に述べたとおりであります。   続いて個人的なところで,保証の問題について最後に一言言わせていただきたいと思います。保証につきましては中間論点整理で第12で議論されておりまして,その中に,新たな論点として,その他として(8)というものが規定されています。自然人が無限定に保証債務を負担できるという現行法制には,私は多くの欠陥があると考えております。   したがって,社会実態として自然人に保証債務を負担させることの必要性を,他の代替的な制度の関係で一つ一つ精査すべきではないかと考えております。そして実際上は,このヒアリング資料の最後に付けております図で記載していますとおりでありますが,保証債務を負担したとしても,自然人の将来収入部分が実際上はこの債務の引き当てとなっている部分であって,他はそれぞれの制度によって代替できる部分がほとんどではないかと思っております。そうすると,一部の極めて例外的な場合を除きまして,およそ弁済資力として,自然人が将来収入でできるものというものが本当にそんなに確実な,安定的な担保になるだろうかと疑問を持ちます。したがって,自然人の保証ということについては実体法規範の観点,つまり,今は私もこの資料2に付けさせていただいておりますけれども,いろいろな金融庁その他の監督指針といったようなもの,あるいはその他の政府の融資の際のものとして議論されておりますけれども,そのような単に経済的,あるいは行政的な規制だけではなくて,実体法上の観点からも制限をかけていくことが必要なのではないかと,このように考えている次第であります。   この第二番目につきましては,私の考えをジュリストに論文を書かせていただいたので,ここで御紹介という趣旨でお話しさせていただいたということでございます。   以上,本日のヒアリングに向けまして,まず私のほうで発表させていただきたい内容は以上のとおりでございます。   御清聴ありがとうございました。 ○鎌田部会長 どうもありがとうございました。   ただいまの御意見に関しまして,委員,幹事等の皆様から御質問がありましたら,御自由に御発言ください。 ○山野目幹事 御説明を頂きまして,ありがとうございました。種々の観点から御指摘を頂きまして,大変よく分かりました。  1点のみ,御感触というか,もし御意見がおありでしたらお教えいただきたいというふうに考えますのは,消費者契約法と民法との関係,るる御指摘いただいたことに関わることです。消費者契約に関する様々な規律を民法に移すとかいうことが議論されておりますけれども,この移す,ということの意味ないしそのイメージということについて,少し確かめさせていただきたいと考えます。そのような規律を民法に置くということが,直ちに論理的に消費者契約法からばっさり削ってしまうということには直結しないものであろうというふうに私は考えておりまして,同一又は類似の規律を民法に置くとともに消費者契約法に置くということも,我が国の従来の法制の仕方においては余り見かけないことではありますけれども,今後の検討の中においては,頭から否定してかかる必要はないというふうに感じておりますけれども,参考人はどのようにお考えになるか。もし御意見がおありでしたら,お教えいただきたいと考えます。 ○黒木参考人 ありがとうございます。   私自身も,その点につきましては正に,かなり抽象的あるいは広範囲なものを民法に置き,より詳細なものを消費者契約法その他のところ規定することを考えています。規定の内容が,お互いに齟齬があって,その二つの規定の解釈を巡って難しい判例等が出てくると,解釈上も実務上も面倒くさくなると思います。その意味で,その立法技術に関しての議論というのはあると思います。しかし,先ほど通奏低音とメロディと言ったのは,同じ社会現象に対して,民法の中にその基底となる価値規範が規定され,そして,より詳細,より実効的な規定が,同じ価値感覚の上で特別法である消費者契約法に詳細な規定を置くということです。そして,特別法は様々な紛争,様々な消費者を狙った,あるいは消費者が巻き込まれるトラブルが日々発生しますので,それに実効的に対応できるように改正をしていく。あるいは,場合によっては下位規範である政令その他のところに次々と,指定取引等を置いていくといったような形で処理していくということを考えられるのではないかと。そういう趣旨で申しましたので,正に多少ダブっているというか,かなりダブったとしても,それは法形式としてはあり得ると思っています。むしろそうしていただいたほうがいいのではないかというふうに考えているということであります。 ○鎌田部会長 よろしいですか。   ほかにいかがでしょうか。   それでは,ほかに御発言がないようでしたら,消費者支援機構福岡からの意見聴取を終わりたいと思います。   黒木参考人におかれましては,御協力ありがとうございました。 ○黒木参考人 どうも貴重な時間を頂きまして,ありがとうございました。 ○鎌田部会長 それでは続きまして,住宅生産団体連合会から意見聴取を行いたいと存じます。予定よりも少し早目に意見聴取を始めることになりましたけれども,よろしくお願いします。参考人の八田政敏さん,よろしくお願いいたします。 ○八田参考人 よろしくお願いします。   住宅生産団体連合会,八田と申します。本日はよろしくお願いいたします。   既に,簡単ではございますが,ペーパーを本日はお配りしておりまして,基本的にはそれを簡単にふえんするような格好で説明させていただきたいと思います。   まず,「はじめに」というふうに書いてございますが,私ども住宅建設業者にとりまして法律との関係といいますと,民法の請負というイメージをしておりまして,民法の規定にありますように,仕事の完成ということが住宅の完成ということで,比較的いろいろな請負の中でも住宅を完成するという意味で,非常に今の現行の民法がフィットするようなイメージを持っておりますが,その中でも,取引の相手が基本的には一般のお客様,一般の消費者であること,また1件当たりの契約金額が,よく一生の買い物だというふうにお客様から言われますけれども,非常に高額であることというような特徴があるというふうに考えております。かつ,非常にお客様もこだわりがございますし,契約の履行そのものも,建物の詳細を詰めるところから始まりまして最終的にお引渡しをするまで,非常に長期にわたり,またそこにはいろいろな工程,いろいろな下請業者が関わりというところが,住宅の請負の特徴であるかというふうに考えています。   したがいまして,国交省さん管轄の建設業法という業法もございますが,そこでも要請されておりますように,必ず契約した際にはそれを書面化し,お客様にお渡しするということが業法の規制でもありますとおり,契約の明確化というのが特に要請されております仕事だというふうに考えておりまして,私たちは,民法の規定,もちろん請負の趣旨の部分,それから同時履行の部分,それから請負人の瑕疵担保の部分を,民法の規定を具体化する,あるいは,大きな規制法としては建築基準法であるとか,住宅の瑕疵を担保する法律であるとか,そういったものも含めまして,具体的に契約約款という形で作りまして,それを基にお客様と契約させていただき,業務を行っております。   そういう意味で,そのベースになっております民法というのが今般改正される,そのための議論がなされているということは,私たちにとっても非常に影響が大きいですし,特に請負の部分について御意見をさせていただきたいということで本日はやってまいりました。網羅的に書いてはおりませんが,特に1,2,3,4,5,6と6項目につきまして,私たちの仕事の現状を踏まえまして,御意見をさせていただきたいと思います。   まず,注文者の義務というものを規定してはどうかというところにつきましては,先ほど来申し上げておりますように,通常の商品の売買と異なりまして,私たちの住宅の請負という仕事は非常に長期にわたるということもありますし,お客様のお持ちの土地の上に建築させていただくということが基本的ですので,仕事を完成するとはいっても,まずはお客様の土地に立ち入らせていただかなければ仕事ができないというところから始まりまして,そこにも記載させていただいておりますように,土地を掘ったり,音がしたり振動がしたりという工程もございまして,非常に建築という仕事は,ほかに与える,いわゆる迷惑をかける仕事ということで,周囲からのクレームというものも多うございます。   また,そもそも境界が違うではないかとか,それ以外にも,建物ができることによって日が陰るとか風通しが悪くなるとか,そういった周りの方への影響を及ぼすことが多い仕事ではございますが,お客様の感覚では,業者はプロなんだから全部任せたということで,お隣の人,あるいは周囲の人への御挨拶から対応まで一緒に請け負っているのが現実と。しかしながら,そういった問題は基本的には相隣関係の問題でございまして,お客様とお隣の人の問題ということで,法的には,最終的にはお客様に矢面に立っていただかなければいけないんですけれども,なかなかお隣同士で直にそういうことを申し上げるのは角が立つということで,業者が言ってくれということが多くございます。   したがいまして,飽くまでお客様が正しく建築主でございまして,あなたが建てるんでしょうというようなことは申し上げていますけれども,なかなかそうはならないという意味で,私たちは請負契約約款の中に,まずは建設用地をあなたが確保してくださいというような約定を定めております。それは権利関係の問題も含めてですね。借地の場合も含め,業者が工事をできるように敷地を確保してくださいというようなものを定めていますけれども,今般,注文者の義務を定めていただけるというようなお話があって,そういうような方向性というのは非常に有意義ではないかというふうに考えております。   それから,次のページですけれども,受領義務という議論がございます。実情を書いているわけですけれども,非常にお客様のこだわりというところがございまして,また請負という,目的物が大きゅうございますから,できてみないとイメージがわかないというようなこともありまして,契約どおりの建物を完成させたにもかかわらず,いろいろ注文を受ける,あるいは,こんなのではなかったというようなことでお引受けをしていただけない,したがって,お金を払っていただけないというケースが散見されます。そういうような意味で,一応予定どおりの,契約どおりのものが完成したんですからお引受けください,それはお客様の義務ですというような趣旨の民法の規定があれば,一旦は受け取っていただくというようなことになるのではないかというふうに期待するところがございます。   あと,これは一番最後にも申し上げたいと思っていますけれども,この業界の特殊性として,多重構造といいますか,私ども請負人は,全て自分たちだけでその仕事を完結するのではなくて,それを様々な業者に対して,下請業者に対して注文していきます。すなわち,お客さまに対しては請負人の立場ですけれども,一方,下請業者に対しては注文者の立場ということで,請負契約が何重にもなるのが建設工事ということで,そういう逆の立場になって考えたときも,当然,下請さんを保護しなさいという議論が最近またありますけれども,下請さんに対して私たちは当然協力しなければいけないし,下請さんが仕事を完成したよと言えば,確認して引き受けなければいけないしという意味で,そういう意味でも契約の履行が円滑になるのではないかというふうに考えております。   それから次の,報酬の支払時期という項目でございますが,先ほどから特色的なところは重複しますので割愛しますけれども,非常に思い入れがあって,細かいことをおっしゃることが多い。特にイメージの問題,クロスの張り方,床の仕上げ,それが違う。完成というものをどう考えるかなんですけれども,そこの考え方の違いによって,引渡しのときにトラブルになることも多いわけですけれども,この点で,議論されていますように,成果が契約の内容に適合することを注文者が確認し,履行として認容いただいて初めてお金をお支払いいただけるというようなことになりますと,私どもの立場としては,今まで以上にお金を最終的に頂くのが難しくなるのかなという気がしております。   特に住宅の場合は,大半の方がローンという形でお金を調達いただくわけですけれども,ローンの実行は一番最後ですね。当社が,請負人のほうが基本的には材料を調達し,職人さんの手配をし,言わば原価を発生させて先履行していくわけですけれども,できるだけ早く,契約時金,中間金という形でお金を頂ければいいわけですけれども,大半の方が大半のお金をローンという形になりますと,そういう資金の回転という意味で非常に厳しくなって,なおかつお客様のほうにそういう契約を認容していただけないと請求権が発生しない,あるいは支払時期が来ないということになりますと,そこに書いていますように,更なる細かい過剰な要求を余計にさせるようなことになってしまったり,若しくは,基本的には素人さんであるお客様のほうに,非常に多くの工程の非常に多くの箇所のチェックをさせるという,過度な負担を強いるということにもなろうかということで,ちょっと憂慮しております。   それから,三つ目ですけれども,目的物が滅失した場合の報酬請求権。これも非常に悩ましい問題ではございますが,基本的に請負という仕事は完成というのがゴールである以上,よほど特別な資材を用いるとかということでない限りは,履行不能にはならないということで,地震等で目的物が滅失しようと,また請負人のほうが一からやって完成させなければならないというのは基本的な理解として持っておりますが,そうしますと,そのコストは誰が持つのかということが常に問題になるわけですけれども。やはり請負人のほうは,特にお客様と業者という見方をした場合は,仮に地震が予測できたとしても,お客様がここで建ててくれと言われたら,基本的に業者は拒絶できない立場でございますし,そういう意味で,建設業界一般としましては,よほど業者側が善管注意義務を怠ったというような事情がない限りは,お客様が御負担ですよというような契約約款でやっているのが大半です。   しかしながら,この東日本大震災にも見られますように,現実,そういうような約款どおりの運用をお客様が納得されるかといいますと,決してそうではなくて,また,たまたま地震というのはめったに起きないということがありましたので,今まで読み飛ばしていただいた約款も,このように現実に大きな震災被害が起きますと,お客様はまずそこに注目するということで,この東日本大震災の被害についても,基本的にはお客様に追加コストを請求できたケースというのは聞いたことがございません。請負人サイドで負担しつつ,仕事を継続するという形でやっております。   また,地震という形でなくても,火災であるとか,あるいは第三者の車が工事現場に突っ込んだとか,そういった場合の請負人の責めに帰すべきというような状況でない場合の保険であるとか,そういうコストも基本的にはなかなかお客様には請求できないという実態がございまして,これを債務不履行の問題,危険負担の問題,その議論の問題はともかくとして,実態として,なかなかどういうふうに解決すべきかというようなことは非常にずっと悩ましいところで。このあたりが,筋論,理論の問題はともかくとして,民法において,債権者負担,債務者負担という議論になるのか,債務不履行の問題になるのかは分かりませんけれども,何らかの基準が示していただけると有り難いなということでございます。   それから次の,完成した建物の所有権ということですけれども,ここは,読ませていただくと,必ずしも請負人側に原始的に帰属するということが論理必然というわけではなくて,注文者帰属説もあるんだよというお話ですけれども,私たち業者の立場からしますと,基本的には全ての資材を提供し,全ての労力をつぎ込み完成させるという現実から言いまして,その出来上がりのものが原始的にお客様のほうに帰属してしまうというのは,非常に感覚としてなじめないところがありますし,それが既にお客様のものということになりますと,最後の代金回収というところにも支障が来るのではないかと。今,現実は,できたところで当社の建物ですということで,何らかの形でお支払を拒む方には逆にお引き渡しできませんという形でやっている関係で,もともとお客さんのものだと言われてしまうと,ちょっと困るなという感じを持っております。   それから,瑕疵担保責任のところでございますが,やはり先ほど来申し上げていますように,細かい仕上げも含めてお客様の思い入れが強いところで,あと,建設特有でしょうけれども,基本的にはきっちり直して完全なものをお渡しするということでやっておりますので,かかるコストの多寡によって,修補ではなくて金銭でということになった場合に,お客様に御納得いただけるのかなという懸念がございます。   それから,634条ただし書,瑕疵の程度に比して過分の費用を要する場合は金銭でというところは,現実にもございますし,それは非常に合理的な考え方ではないかなというふうに考えております。   それから二番目の,契約の解除ですね。現行法では,完成してしまえば解除できないというところに対して,判例では建て替えを認めるようなものが出てきているというところは,我々プロの建設業者としても真摯に受け止めて,建物だからといって解除がないわけではないんだよというようなことは啓蒙しているところでありますが,現実問題としては,解除するということは基本的になかったことになると,すなわち建物を収去しなさいということになりますので,それは大変なことでございます。   ただ,それは全くあり得ないということではないのでしょうから,どんな場合に解除が認められるのかということにつきましては,慎重に議論いただきまして,明確な基準を立てていただきたいというふうに考えますし,現実,お客様から持って帰れと言われることもあるわけですけれども,それはお客様の過剰な思い入れであるとかいうことも多くて,現実は,自ら建て替えてしまうケース,あるいは,それに代わる金銭賠償をするケースということで処理している現実もございます。   最後でございますけれども,これもちょっと業界からは奇異な感じがしましたけれども,下請人のほうから注文者に対して直接報酬を請求するという話ですけれども。そこに書いてございますように,飽くまでお客様は,数ある建設業者の中から比較検討をして,ある業者に対して住宅を注文すると。そこには一定の信頼関係であったり,営業マンが気に入ったということもございますけれども,そういう中で,全てオーダーを業者に言うということですけれども。ある日突然,誰かも分からない人から請求が来ると,実はあなたの家の基礎をやった業者でございますとか,実はあなたの家の柱を入れているので代金下さいとかいうことになると,非常にやはり混乱もありますし,私どもの立場から言えば,いわゆる原価があからさまになってしまって,より値引きを要求されるのではないかとかですね。そういうことも含めまして,ちょっとこれは現実的ではないのかなという印象を持っております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ただいまの御意見に関しまして,委員,幹事等の皆様から御質問がありましたら,御自由にお出しください。 ○深山幹事 住宅建築の実態,実情をお聴きします。標準契約約款と言われるものを,しばしば目にするのですが,そもそもこの標準約款が住宅建築取引全体の中でどのぐらい使われているのか,もし統計的に,あるいは感触的にお分かりだったら,お教えいただきたいんですが。   標準約款を使った場合には,一々個別に契約条項を作り込まなくても,比較的簡便に契約書類ができるという便利な面ももちろんあると思うのですが,裏を返せば,みんな画一的な契約内容になってしまいます。個別的な事情などが,もちろん特約事項を書くことはできますけれども,限られたスペースにいろいろ書いているものを見ないこともあって,結果として非常に画一的な契約になってしまうという,デメリットの面もあるのかなと思います。標準約款が一定程度使われているとしたら,そのことが業界の建てる側の認識として,非常にうまく機能しているというふうにお考えなのか,そうだとしたら,どういう点で非常にうまくいっているということなのか。逆に,うまくいっていない場面があるとしたら,どういう場面でうまくいっていないのか。   標準約款を使った取引の中でトラブルが起きたときに,約款を持ち出すことによってうまく解決できたら,それは約款がうまく機能したというプラスのほうの評価になるんでしょうし,逆に,その約款がうまく解決のルールにならなかったとか,あるいは約款があるがためにかえってトラブルが広がったということになると,マイナスに作用したということになるんでしょう。どちらの方向であれ,どの程度使われていて,そのことによってどういうメリットがあるのか,デメリットというかマイナス面があるのかというあたりを,実態としてお伺いしたいと思います。 ○八田参考人 まず,どれぐらい標準約款が使われているかということでございますけれども,基本的には建設業界の標準的なものとして,現在,民間連合の契約約款みたいなものがございます。これは,大きなゼネコンさんから基本的には使われているという,我々住宅業界とはちょっと違いますけれども,基本的にはあれを使って契約しているというふうに聴いておりますし,私どもの住宅業界に関しましては,例えば住団連で全部共通かというと,そうではなくて,基本的には,先ほど申し上げています民間連合約款ベース,民法ベースで,ある程度業界ですり合わせをして,細かいところで各社の特色を出している。しかし基本的には,いろいろな業者さんはございますけれども,たまたま私はプレハブメーカーということで,工業化住宅を提供するということですけれども,そんな会社も何社かあるわけですけれども,そういう意味で,工業化,すなわち基本的には企画ものを渡しているので,そういう意味ではお客様に逆に不公平があってはらないということで,全部同じ契約約款でやらせているんですよと,やらせていただいているんですよという形でやっていますので。もう大半が,ある程度業者サイドで決めた約款で契約をしているのが実態だと思います。   ただ,最近はお客様の契約,消費者の意識といいますか,契約意識も高まってきておりますので,契約というのは飽くまで意思の合致であって,個々に決めるのでしょうというようなことを言われるお客様もいて,それは個々に対応しておりますし。   あと,約款も問題を先ほどから議論しておりますが,住宅請負の契約の中身・内容の大きな部分というのは,むしろ契約約款よりも,どのような建物を建てるのか。それが設計図書であったり,仕様書であったりという,そちらのほうをきっちり詰めるというのが重要なころでして,そういう意味では,所有権がいつ移転しますかとか,瑕疵担保がどうですかというのは,そのお客様が望まれる目的物を決めるということに関しては,どちらかというと副次的な要素なのかもしれないので。そういう意味では,そちらに余り時間を掛けないで,標準的なものでやっていただくという運用というのは,そこそこ成功というか,いい方向にいっているのかなと思っております。   すみません,答えになっているかどうか。 ○深山幹事 おっしゃるとおり,注文する人はどういうものを作るかということに関心があって,例えば工事が遅れたら1日当たり幾らの遅延損害金が発生するかというネガティブなことは余り関心がないと思うんですね。そういうことは約款に書いてあったりするんだけれども,そんなことは余り見ない。そもそも約款そのものを余り見ない人が多いだろうと思うんですが,そのことによって,後々,何かもめたときに,トラブルがより解決しにくくなるとか,あるいは,それを読めば書いてあるんですよということで納得されて,案外あっさり収まってしまうように機能しているのか。その辺,何か問題が起きたときに,約款があることによってトラブルがうまく解決できているのか,むしろできていないのかというあたりをちょっとお聴きしたかったんです。 ○八田参考人 副次的とは言いましたけれども,確かに,そんなのいいよという,見ない人も多いんですけれども,最近はやはり,プロのといいますか,業者の説明義務なんていうことも言われますので,必ず契約約款は一通りお客様に説明するというプロセスを取っておりますし。それでも,基本的には工事の遅れとかイレギュラーなことはないだろうという前提で進めておりまして,万が一起こったときは今御質問のとおり,比較的遅延損害金の問題,しっかり約款が機能しているという現状ですね。 ○鎌田部会長 ちょっと時間超過しておりますので手短に。 ○中田委員 引渡しあるいは受領の現在の実務について,教えていただきたいと思います。現実に,その引渡しの際に何をするのかです。検収のようなことをするのかどうかということと,それから書面を受け取るのかどうか,注文者のほうからですね。受け取るとすれば,どういった内容のものなのかをお教えくださいますでしょうか。 ○道垣内幹事 それに関連して,受領のときが支払時期だということについて反対されて,引渡しで報酬をもらえないと困るとおっしゃったんですが,そこにおいて,受領と引渡しというのをどういう違いのあるものとして捉えておっしゃったのかということを,今の中田委員の質問と併せてお教えいただければ有り難いんですが。 ○八田参考人 言葉の違いというところをうまく説明できるかどうか,自信がないですけれども。   実務として,若干各社によって違いはあるかもしれませんけれども,私どもは,工程が完了した段階でお客様に,完了証明書という言葉はおかしいですね,証明という言葉がおかしいんですけれども,完了を確認いただく書類に署名押印を頂いております。それは,単に確認したよだけではなくて,ここにクロスが剥がれていますねとか一個一個,確認後に補修・手直しを要する項目を全部列挙して,完成してこれだけがちょっと,もうちょっとやってもらわなければいけないねというような書類で,あと,そこには残代金として幾ら残っていますというものを確認して,署名押印を頂いています。したがって,完成したということを確認いただいたので,あとはこれだけお支払いくださいよ,払いますよという書面をもらっております。   引渡しと受領,受領というのをどう理解したらいいか,ちょっと分からないんですけれども,物が完成したという,私どもは,今のところは完成したものは私どもの所有物だというふうに理解していますので,請負代金全額をお支払いいただいたときに観念的な所有権もあなたに移りますし,引渡しというのは基本的には鍵,鍵をお渡しするという儀式をですね。完了確認,竣工立会いをしていただいて,先ほどの書面に署名いただく儀式の後に,では,お金も入金いただきましたので鍵を渡しますと言って,お引渡しの儀式をしているという現実でございます。 ○松本委員 意見書の3と4の関係なんですが,3を見ますと特約で,双方の責めに帰すべからざる事由で,途中で例えば地震等でもう一度やり直さなくなった場合には,全て注文者側が経済的なコストは負担するというふうにされている。他方で4では,しかし,完成した建物の所有権は,これは完成しようがしまいがでしょうけれども,ずっと請負人側が持っているんだということを前提にされているので,この両者の関係が何となく,ちょっとバランスが取れていないと思います。つまり,地震によるコストの負担について,それは注文者の所有物なんだから,どちらの責めにも帰すべきでない場合には所有者がリスクを負担するんだというのは大変分かりやすい理屈なので,3を主張されるなら4も,注文者側に所有権帰属というほうが一貫していて,3をよりサポートできるのではないかなと思います。3と4がちょっと後ろを向きあっているのではないかという印象を受けるんですが,いかがでしょうか。 ○松岡委員 今の点に関連して,4番の完成した建物の所有権の帰属について伺います。確かに心理的にはおっしゃるとおり,まだ代金をもらっていない,材料も全て請負人が負担して作った建物については,引渡しまでは請負人に所有権あると考えておられるのは,理解できます。しかし,所有権が請負人になくても,請負の代金が払われるまでは引渡しをしないことはできます。逆に,建物の所有物が請負人にあるといっても,飽くまで注文者若しくは第三者の所有する土地の上にある建物なので,利用権もないのに建物だけを売り払うこともできないでしょう。そうしますと,請負人に建物の所有権があるということは心理的なもの以上に,何か代金債権の担保として意味があるとお考えでしょうか。 ○八田参考人 なかなか難しい問題ですけれども,現実は,法律的な理屈は先生方の前ではあれですけれども,実際に所有権を留保する,私どもが持っているとか,あるいは留置権であるとか,あるいは本当に破綻してしまった場合に,売却,基本的にはないんですけれども,土地も含めて競売にかけるとか,確かに観念的な所有権が移転した後でも引渡しをしないということはできるんですけれども。   あと,前の先生から御指摘いただいたように3と4のバランスということも,確かに御指摘いただきますと,おかしいなというところもあるんですけれども。危険負担といいますか,コスト負担については,あなたが注文したから私どもがそこに作っているんだという。そんなことをお客さんに決して言えないんですが。いうことで,そのあなたが持っている土地のエリアに地震が来てしまったんだから,全て請負人負担というのは酷ですよねというような,全然論理的ではないのかもしれませんけれども,実際の契約約款であったり,実際の運用であったりというのは,そういうような感じでやらせていただいているんですが。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   議論し始めると幾らでも発展しそうですけれども,予定の時間をかなり大幅に超えてしまっておりますので,申し訳ありませんけれども。 ○佐成委員 1点だけ確認させて頂きたいと思います。1ページのところの注文者の義務で,協力義務の話を書かれていると思うんですけれども,仮に協力義務の規定を民法に入れるとしても,かなり一般的抽象的な規定が入るのではないかと思います。ここでは具体的に,「事前に周囲の協力を取り付ける」ということが書かれてありまして,実際,工事するときに周辺トラブルというのはかなり多いと私も思うんですが,それを「協力義務」という一般的抽象的な規定の中で読み込むという,そういう御趣旨ですね。要するに,近隣紛争というのは注文者のせいだから,あなたが解決しなさいという,そういうようなところまで読み込むと,そういうような感じでしょうか。そこだけ1点確認させて下さい。 ○八田参考人 どこまで具体的にというのは,そこまでは考えていなかったですけれども。少なくとも,その仕事がお客様の土地の上で,しかもお客様の支配する範囲の中で他人が入ってやるという以上は,お客様に協力いただかなければいけないよということをちょっと認識していただくだけでも大分違うのかなという。ですから,事前に協力しなさいよというところまで書けるかどうかは,ちょっとそこまで考えていませんけれども。すみません。 ○佐成委員 ありがとうございました,どうも。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。住宅生産団体連合会からの意見聴取を終了したいと思います。   八田参考人におかれましては,御協力ありがとうございました。 ○八田参考人 ありがとうございました。 ○鎌田部会長 それでは最後に,次回の議事日程等について,事務当局に説明してもらいます。 ○筒井幹事 次回の日程ですけれども,6月21日,火曜日,午後1時から午後6時まで,場所は本日と同じ法務省20階,第1会議室です。本日に引き続きヒアリングの第2回を行いたいと考えております。よろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 ほかに,委員,幹事の皆様から特に御発言ございますでしょうか。   それでは,本日の審議はこれで終了といたします。御熱心な御審議を賜りまして,ありがとうございました。 -了-