法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会           第3回会議 議事録 第1 日 時  平成23年9月20日(火)自 午後 1時32分                      至 午後 4時26分 第2 場 所  東京高等検察庁第2会議室 第3 議 題  時代に即した新たな刑事司法制度の在り方について 第4 議 事 (次のとおり)                議     事 ○吉川幹事 ただいまから法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会の第3回会議を開催いたします。 ○本田部会長 本日は皆様,大変お忙しい中,御出席をいただきまして誠にありがとうございます。   本日は,まず委員及び幹事の異動がございましたので,御紹介をさせていただきたいと思います。まず,委員に関してでございますが,法務省における異動に伴いまして,西川克行氏がこの部会の委員を退任されまして,新たに法務省刑事局長に就任されました稲田伸夫氏が委員に任命されました。また,警視庁等における異動に伴いまして,岩瀬充明氏が委員を退任され,新たに警視庁副総監の髙橋清孝氏が委員に任命されました。新たに委員になられたお二人には,簡単な自己紹介をお願いいたしたいと思います。 ○稲田委員 ただいま御紹介のありました稲田でございます。8月11日付けで法務省刑事局長を命ぜられました。その関係で先任の西川に替わりまして当部会の委員を命ぜられることになりました。どうぞよろしくお願いいたします。今回の部会のテーマは,私ども刑事司法に携わってまいる者にとりましては,極めて重大なテーマでございまして,それにこういう形で関与することになりましたことに,非常にその責任の重さを感じております。本田部会長の御指導の下,この部会の審議が積極的で前向きなものとなりますように,努力してまいりたいと思いますので,どうぞよろしくお願いいたします。 ○髙橋委員 8月24日付けで警視庁副総監に着任いたしました髙橋でございます。前任の岩瀬同様,よろしくお願いします。警察は様々な現場で24時間,様々な事象を扱っておりますので,本当の現場の実態,犯罪の実態でありますとか,犯罪組織の実態,犯罪被害者の実態,あるいは犯罪捜査の実態,そういうものを皆さんに御理解いただけるよう説明しながら,私としても当部会の議論に参加していきたいと思いますので,よろしくお願いいたします。 ○本田部会長 よろしくお願いいたします。   次に幹事に関してでございますが,警察庁等における異動に伴いまして,貴志浩平氏と室城信之氏が幹事を退任されまして,新たにお二人の方が幹事に任命されました。順に御紹介をいたしたいと思います。 (本田部会長により,島根幹事及び露木幹事の紹介がなされた。) ○本田部会長 更に法務省におきます異動に伴いまして,黒川弘務氏に替わりまして,新たに法務省大臣官房付に就任されました林眞琴氏に,関係官として当部会に出席していただきたいと考えておりますが,よろしいでしょうか。 (「異議なし」と言う者あり) ○本田部会長 それでは,林官房付には当部会の会議に出席していただくことといたします。どうぞよろしくお願いいたします。   それでは,まず本日の配布資料につきまして,事務局の方から御説明をお願いします。 ○吉川幹事 それでは,席上にございます配布資料について御説明いたします。資料18-1から18-6までにつきましては,本年8月8日に公表いたしました法務省における取調べの可視化に関する勉強会の取りまとめ結果の関係資料です。これらの内容につきましては後ほど御説明いたしますので,この場ではごく簡単に御紹介するのみとさせていただきます。   まず,資料18-1の「被疑者取調べの可視化の実現に向けて」と題する書面は,省内勉強会の取りまとめ結果を踏まえ,法務省として,法制審議会の審議を経た上で,制度としての取調べの可視化を実現していくという方針を示した書面です。   次に,資料18-2が今回の省内勉強会の取りまとめ結果の概要版であり,資料18-3が取りまとめ結果の報告書です。   そして,資料18-4及び18-5は,今回の取りまとめの前提となった国内外の調査の報告書であり,資料18-4が国内調査の報告書,18-5が国外調査の報告書です。   また,資料18-6の「取調べの録音・録画に関する取組方針」という書面は,省内勉強会の取りまとめ結果を踏まえて,江田前法務大臣が笠間検事総長に対して行った指示文書です。既に実施されている録音・録画の試行を着実に実施することのほか,裁判員制度対象事件における検察官の被疑者取調べの録音・録画の範囲を試行的に拡大するようにとの内容となっております。   資料19は,江田前法務大臣からの指示を受けて,最高検が本年8月9日付けで発出した「裁判員裁判対象事件における被疑者の取調べの録音・録画の試行的拡大について」と題する事務連絡です。   資料20につきましては,資料14として既にお配りしました,国家公安委員会委員長主催の「捜査手法,取調べの高度化を図るための研究会」の中間報告の概要をまとめた資料です。   なお,第1回及び第2回の部会で既にお配りいたしました,資料14の国家公安委員会委員長主催の「捜査手法,取調べの高度化を図るための研究会」の中間報告と,資料17-1及び17-2の警察における取調べの録音・録画の試行の検証結果の報告書及びその概要版につきましては,本日,その内容を警察庁の方から説明していただく予定となっておりますので,これらの資料についても重ねて配布させていただいております。 ○本田部会長 それでは,本日の具体的な議事に入らせていただきたいと思います。   前回のこの部会の席で,法務省における取調べの可視化に関する勉強会の取りまとめが発表になれば,次回会合で事務当局からその説明をしていただきたいと申し上げておりました。その取りまとめが発表されましたので,本日はまず法務省における勉強会の取りまとめ結果等について御説明していただきたいと思います。よろしくお願いします。 ○吉川幹事 それでは,引き続き私の方から,取調べの可視化に関する省内勉強会の取りまとめ結果について御説明いたします。   法務省は,平成21年10月に,政務三役を中心とする被疑者取調べの可視化に関する勉強会を設けました。そして,平成22年6月の中間取りまとめを経て,一つ目として,実務に即した現実的な形で取調べの可視化を実現するため,その対象とする事件や範囲について検討を行うこと,二つ目として,録音・録画が捜査公判の機能や被害者を始めとする事件関係者に与える影響及び録音・録画の有用性についても調査・検討の上,その具体的な在り方について検討を加えることという方針の下で,国内及び国外の調査を実施しました。そして,本年8月8日,その調査結果を踏まえて,省内勉強会としての検討の成果を取りまとめて公表いたしました。   そこで,最初に,その前提となった国内及び国外の調査結果の概要について御説明して,その後に,取りまとめの内容について御説明いたします。   まず,国内の調査結果でございますが,本日,資料18-4としてお配りいたしました「取調べに関する国内調査結果報告書」を御覧ください。目次を御覧いただくと,国内調査の項目が記載してあります。つまり,「はじめに」以降ですが,「第2 取調べの実態に関する調査」,「第3 任意性等の争いに関する実情調査」,「第4 検察における取調べの録音・録画の調査」,「第5 取調べの適正確保方策の運用状況調査」,「第6 確定事件記録の検討」,そして,「第7 ヒアリング調査,検察官アンケート調査」の項目が記載されております。これが国内調査の項目でございます。   そこで,まず,1ページの「第2 取調べの実態に関する調査」について御説明いたします。最初に「1 被疑者取調べの時間」という項目がありますが,これは,検察官や警察官が行った被疑者の取調べの時間を各事件ごとに調査したものです。この調査は,被疑者を逮捕・勾留したいわゆる身柄事件と言われるものを対象としております。そして,調査期間につきましては,一般事件は1か月間,事件数が比較的少ない裁判員制度対象事件などにつきましては3か月間といたしました。   2ページの表1を御覧ください。この表は,被疑者取調べの平均時間を,全事件の場合と裁判員制度対象事件に限った場合とで,それぞれ整理したものです。3ページの一番上の部分を御覧いただきますと,被疑者1人当たりの平均取調べ時間は,全事件の平均で21時間35分,うち裁判員制度対象事件の平均では43時間14分でした。   また,その下の表2を御覧ください。被疑者取調べの平均時間を,起訴された事件と不起訴とされた事件の別で見たものです。起訴された事件で平均23時間,不起訴とされた事件で平均16時間56分となっております。このように,結果として不起訴となった事件でも,一定の時間の取調べを実施していることが分かります。   4ページの表3を御覧ください。これは,被疑者取調べ時間を主な罪名別で整理したものです。これを見ますと,ちょうど真ん中辺りにあります「収賄」で130時間28分,そのすぐ下の「公職選挙法違反」で69時間36分,一番上の,これは裁判員制度対象事件ですが,「傷害致死」で63時間24分,そのすぐ下の「殺人」で51時間12分など,これらの被疑者取調べの時間が,全事件の平均よりもかなり長くなっておりました。これらの調査結果からしますと,我が国における身柄事件の被疑者の取調べは,平均でも20時間余りをかけて行われており,法定刑が重い重大事件や一般に証拠関係が複雑な事件などでは,更に取調べ時間が長くなる傾向にあると言えると思います。   次に,6ページの「2 検察官による取調べの実態」のところを御覧ください。これは,調査対象期間とした30日間に,東京地検,大阪地検などの全国20地検に所属する検察官が行った被疑者・参考人の取調べの時間・場所等を全て調査したものです。7ページの表5を御覧ください。例えば,この30日間に身柄事件の被疑者の取調べは,一番左側ですが,合計2万191回行われていますが,そのうち1万4,345回の取調べにおいて供述調書が作成されています。つまり,約71%の取調べにおいて供述調書が作成されていることが分かります。   8ページの表6を御覧ください。これは,被疑者・参考人の取調べがどのような場所で行われたかをまとめた表です。これも例えばですが,合計欄を見ていただくと,取調べが行われた場所やその割合は,個室の取調室で45.7%,それから大部屋の取調室,これは,一定の広さのある室内にパーティションを設けるなどして,複数の検察官が同時に取調べを行えるようにした取調室ですが,この大部屋が41.5%,警察署2.2%,拘置所・刑務所2.1%などとなっています。このように,検察官による取調べであっても,検察庁以外の場所で行われる場合が一定程度あるということが分かります。   次に,10ページを御覧ください。項目が変わりまして「第3 任意性等の争いに関する実情調査」とありますが,これは,平成22年6月から平成23年5月までの1年間に第一審で判決があった事件のうち,公判で被告人の捜査段階における自白の任意性が争われた状況を調査したものです。   11ページの表9を御覧ください。これは,任意性が争いとなった事件数や割合について調査したもので,自白の任意性が争われた事件数とその割合は,全事件で218件,割合にしますと0.29%,裁判員制度対象事件で合計61件,割合で3.69%でした。そして,最終的に裁判所によって任意性に疑いがあると判断された事件とその割合は,全事件で9件,割合で0.01%,裁判員制度対象事件で1件,割合で0.06%でした。なお,これとは別に,自白の任意性が争われて,任意性は認められたものの信用性が否定された事件数とその割合は,全事件で9件,0.01%,裁判員制度対象事件で4件,0.24%でした。このように,自白の任意性が争われる事件は,割合としては極めて少ないと言えますが,その中では,重大事件と言ってよい裁判員制度対象事件について任意性が争われる割合がやや多くなっていると言えます。   12ページの表10を御覧ください。これは,任意性が争われた事件数を身柄事件と在宅事件とで整理したものですが,これを見ますと,自白の任意性が争われた事件218件のうち,身柄事件は190件,身柄拘束をしていない,いわゆる在宅事件は28件であり,任意性が否定された事件9件は全て身柄事件だったことが分かります。なお,この表のすぐ上の部分に記載していますが,一般に,事件としては身柄事件であっても,実際に逮捕する前などに,在宅での取調べが行われることがあります。身柄事件の中には,そうした在宅での取調べのときに作成された供述調書の任意性が争われた事件もあり,それが合計19件でした。もっとも,そのうち任意性あるいは信用性が否定されたものはありませんでした。このような調査結果からは,任意性が争われる事件の大部分は身柄事件であって,かつ,身柄拘束中の取調べ時に作成された供述調書の任意性が争われているということが言えると思います。   14ページの表12を御覧ください。これは,任意性が争いとなった事件における被告人の主張内容を整理したものです。これを見ますと,任意性に関する被告人の主張内容は,一番多いものが「利益誘導を用いた取調べ」で55件,続きまして,「過度の誘導による取調べ」,「暴行・脅迫による取調べ」,「被疑者の体調に配慮しない取調べ」などでして,具体的な主張がなかったものも9件ありました。   次に,15ページの表13を御覧ください。これは,自白の任意性が争われた公判の審理内容をまとめたものです。15ページから16ページにかけての記載ですが,取調官の証人尋問が行われたのは81件,約37%でした。そして137件,約63%では取調官の証人尋問が行われず,被告人質問等のみによって任意性に関する判断がなされていました。   続きまして17ページの表15ですが,これは,裁判員制度対象事件で自白の任意性が争われた61件について,取調べの録音・録画を実施していた件数,そして,録音・録画したDVDが公判で取り調べられた件数などを示したものです。裁判員裁判において自白の任意性が争われた61件のうち,検察官が被疑者取調べの録音・録画を実施していた事件は44件であって,その全ての事件でDVDが弁護人に開示されていました。そして,そのうち25件の公判でDVDの取調べが行われ,その全ての事件で任意性が肯定されていました。   18ページからの表16は,取調べを録音・録画したDVDが取り調べられた事件のうち,その判決の中でDVDの証明力などについての言及があった11件を抜き出してまとめたものです。なお,この11件の判決においては,自白の任意性の判断のための証拠として取調べの一部の録音・録画では不十分である旨の指摘がなされた例というものは見当たりませんでした。   そして,22ページからの表17は,任意性が否定された9件の内容をまとめた表です。また,25ページの表18は,信用性が否定された9件の内容をまとめた表です。これらの個別の内容につきましては,後ほど御覧いただければと思います。   それでは,少し先にいきまして28ページを御覧ください。項目が変わりまして「第4 検察における取調べの録音・録画の調査」という項目があります。検察におきましては,平成21年4月から裁判員制度対象事件であって,かつ,自白調書を証拠調べ請求することが見込まれる事件について,検察官の判断において,身柄拘束中の被疑者取調べのうち相当と認められる部分の録音・録画を実施しております。この調査は,平成22年6月から平成23年5月までの1年間に,全国の地検におけるその実施状況を調査したものです。   28ページの下から6行目からですが,調査対象期間中,取調べの録音・録画の実施指針上,録音・録画の対象となり得る裁判員制度対象事件は1,790件ありました。そして,そのうち約88%に相当する1,583件で取調べの録音・録画が実施され,録音・録画をしなかったのが207件でした。   29ページから30ページにかけての表20を御覧ください。録音・録画を実施しなかった207件のうち,被疑者が録音・録画を拒否した事件が155件を占めていました。また,組織犯罪等,録音・録画を行うことによって,取調べの真相解明機能が害されたり,関係者の保護や協力確保に支障が生じるおそれなどがあった事件が8件,外国人事件で通訳人の協力を得られない場合,録音・録画を実施することが時間的又は物理的に困難な場合など,録音・録画の実施に支障があった事件が14件でした。   30ページの表21は,被疑者が録音・録画を拒否した理由をまとめたもので,「取調べを受けている姿を他人に見られたくない」が38件,「弁護人の指導・助言により応じられない」又は「弁護人と相談しなければ応じられない」が23件,「事実を供述しており録音・録画は必要ない」が20件,「緊張して十分供述ができない」が8件などというものでした。   次に,32ページを御覧ください。項目が変わりまして「第5 取調べの適正確保方策の運用状況調査」という項目があります。検察においては,取調べの適正確保のための方策として,「逮捕・勾留中の被疑者と弁護人等との接見に対する一層の配慮」というものと,「取調べに関する不満等の把握とこれに対する対応」というものを行っております。この調査は,平成22年6月から平成23年5月までの1年間における全国の地検での,それらの運用状況などを調査したものです。   まず,「逮捕・勾留中の被疑者と弁護人等との接見に対する一層の配慮」についてですが,33ページから35ページまでに記載されています。その記載を要約いたしますと,調査対象期間中に,検察官が被疑者又は弁護人などから接見などの申出を受けた件数は3,280件であって,そのうちの98.6%に当たる3,235件において,直ちに弁護人に連絡し又は接見をしてもらうなどの措置が講じられていました。また,その他の場合も,できる限り早い時期に接見を認めるなど,適切な措置が講じられていました。   次に,「取調べに関する不満等の把握とこれに対する対応」についてですが,35ページから39ページまでに記載があります。その内容を要約しますと,調査対象期間中に,検察官が弁護人又は被疑者等から取調べに関する不満などの申入れを受けた件数は,その1年間に477件ありまして,決裁官,すなわち事件を担当する検察官の上司による調査の結果として,そのうちの2.3%に当たる11件において,決裁官から取調べを担当した検察官に対して,指導を行うなどの必要な措置が講じられていました。その具体的内容につきましては,37ページの表25に記載されています。   次に,39ページを御覧ください。項目として「第6 確定事件記録の検討」という項目がございます。これは,既に判決がなされて確定した個々の事件の記録の内容を合計956件分,個別に検討したものです。この検討などを通じて,裁判での事実認定において自白が果たしている役割や,取調べの録音・録画の有用性,取調べの録音・録画が取調べに与える影響などに関して,参考になる事件について事例集を作成いたしました。この事例集は,別添資料1としてつづられております。   この事例集の1ページからは,自白があったからこそ死体が発見されて立件できた事例など,自白の役割を考える上で参考になる合計20の事例を紹介しています。また,この事例集の8ページからは,録音・録画がなされていれば,公判で取調べ状況をめぐる争いが生じるのを防げたと考えられる事例など,録音・録画の有用性を考える上で参考になる事例が,合計5件紹介されています。さらに,事例集10ページからは,被疑者が,共犯者のことを含めて自白したものの,報復を恐れるなどの理由から調書化を拒否した事例など,録音・録画が取調べに与える影響を考える上で参考になる事例が,合計25件紹介されています。詳細につきましては後ほど御覧いただければと思います。   そして,この事例集の次に別添資料2がございますが,これは検事や警察官などからのヒアリング結果をまとめたものです。   この資料の1ページには,取調べや自白の位置付けに関する意見が記載されており,例えば,供述を得なければ検挙できない事件がたくさんあって,自白がなければ,取り分け密室犯罪の検挙や組織犯罪での中心人物への突き上げ捜査が困難になるなどという意見が紹介されています。   この資料の2ページでは,録音・録画の有用性に関する意見として,全過程を録音・録画すれば任意性・信用性が争われる事件が減るのではないか,あるいは,取調べの適正を確保することで不当な取調べの防止に資するなどという意見が紹介されています。   また,この資料の3ページには,録音・録画が取調べの機能等へ与える影響に関する意見が記載されています。例えば,名前を出さないことを前提に情報提供を受けて,これを端緒として捜査を進めて立件につなげていくことが難しくなるなどという意見が紹介されています。   そして,この資料の4ページでは,被疑者取調べの可視化の在り方に関する意見のほか,通訳人から伺った御意見も併せて紹介されています。   最後に,別添資料3として,検察官アンケート調査の結果がまとめられております。   この別添資料3の2ページに「2(1)」という問があります。取調べの可視化について,取調べの適正確保の効果があると考えるかという問について,合計約77%の検事が,適正確保の効果があるという回答をしています。   また,この資料の4ページの「(3)」を御覧いただくと,取調べの可視化により,公判における自白の任意性の立証・判断を容易にすることができると考えるかということについて,合計約85%の検事が,容易にすることができると回答しています。   さらに,この資料の7ページの「3(1)」を御覧いただきますと,取調べの可視化により,被疑者の心理に与える影響から,取調べで真実の供述を獲得することが困難になるとの指摘をどう考えるかにつき,91%の検事が,供述獲得が困難になると回答しています。   最後に,この資料の10ページの「(4)」ですが,取調べの可視化を実施した場合,被害者らのプライバシーにわたる事項が録音・録画されて公になると,被疑者を含む関係者の名誉・プライバシーを害するおそれがあるとの指摘をどう考えるかということにつき,約90%の検事が,関係者の名誉・プライバシーを害するおそれがあると回答しております。   このように,取調べの録音・録画の在り方に関して,様々な事項について回答を得ているところですが,その他のアンケート結果についても,後ほど御覧いただければと思います。   以上,非常に駆け足でございましたが,国内調査の概要についての説明を終わらせていただきます。   引き続き,国外調査の概要について御説明いたします。資料18-5を御覧ください。   今回の国外調査は,被疑者取調べの録音・録画制度が導入されている国・地域を中心として,各国の刑事司法制度の中で,取調べの録音・録画がどのような制度として設計されて運用されているのか,主要な証拠収集方法はどのようなものなのかなどについて,その実情を把握するために行ったものです。   資料18-5の目次を御覧いただくと,調査対象とした国と地域が記載されております。アメリカ,イギリス,フランス,ドイツ,イタリア,オランダ,オーストラリア,韓国,香港,台湾の合計10の国と地域です。   これから,この資料の要点として,各国それぞれ,一つ目として被疑者の取調べの実情,二つ目として取調べの録音・録画制度の内容と運用状況,三つ目として特徴的な捜査手法の順に概要を御説明いたします。この資料は非常に大部でございますので,必ずしもこの資料に沿って御説明できるわけではございませんが,適宜,御参照いただければと思います。   まず,アメリカの調査結果は資料の2ページ以下にあります。   御承知のとおり,アメリカは連邦制を採用していて,各州において刑事司法制度は異なっていますが,広く無令状逮捕が認められています。アメリカでは,身柄拘束下の被疑者を取り調べる場合,捜査官は,まず,黙秘権や取調べに弁護人の立会いを求める権利があることなどを告知しなければならず,被疑者がその権利を放棄しない限り,取調べは行われていません。そして,被疑者が権利を放棄しても,多くの州では,取調べが行われるのは逮捕後24時間又は48時間以内であって,実際の取調べ時間は数時間程度です。先ほどの日本の取調べ時間と比べますと,非常に短いものとなっています。   もっとも,アメリカでは,我が国と異なり,被告人が公判で有罪の答弁を行った場合には,事実の審理を行うことなく,直ちに量刑の審理に移行します。また,司法取引によって捜査・公判への協力を得ることも可能です。そのため,アメリカにおける取調べの主眼は,事実の解明というより,むしろ被疑者に対して手持ち証拠の強さを示すことによって,捜査・公判に協力する態度にさせるということにあるようです。   アメリカにおける司法取引の活用につきましては,例えば,資料の25ページを御覧ください。事例1と記載したものですが,これは薬物密売グループによる麻薬密売事案の捜査過程等を記載したものです。この事案では,最初に通信傍受を行うなどして,密売グループの構成員の一人を逮捕しました。逮捕された被疑者は事実を否認しましたが,逮捕から3日後には薬物の譲渡目的所持で起訴されました。その後,検察官は,その被疑者との間で司法取引を行い,共犯者等に関する供述を得た上で,その供述などに基づいて主犯格を起訴して,その結果,主犯格には17年の自由刑が言い渡されました。一方で,司法取引を行った者は,起訴された罪の法定刑が10年以上の自由刑又は終身刑でしたが,司法取引を行った結果,判決は9か月の自由刑となりました。   次に,アメリカにおける取調べの録音・録画制度について御説明します。まず,資料の24ページを御覧ください。アメリカの地図があります。アメリカにおいて被疑者取調べの録音・録画制度が導入されているのは,ここに記載していますコロンビア特別区を含む19の州です。もっとも,被疑者取調べの録音・録画制度の内容は各州によって様々です。詳しくは資料の中に記載していますが,被疑者取調べの録音・録画を義務付ける規定等があるのは12州であって,その他の7州については,そのような義務付け規定等はありません。また,録音・録画が実施されなかった場合の法的効果についても,当該取調べで得られた供述の証拠能力が否定されるとしている州もあれば,法的効果を定めていない州などもあります。   また,対象犯罪については,19の実施州のうち14州で一定の重大犯罪に限定していますし,身柄拘束との関係では,17州で身柄拘束下の被疑者の取調べのみを録音・録画の対象としています。さらに,15州において録音・録画の例外事由が設けられていますが,その内容は様々です。   このように,一口にアメリカの被疑者取調べの録音・録画制度といっても,各州によってかなり異なる制度となっていますし,連邦やその他の州においては,このような制度は導入されていません。詳しくはこの調査報告書の中にも記載されていますし,この報告書の一番後ろに,実施州の制度の内容等をまとめた表がありますので,適宜,御参照いただければと思います。   なお,カリフォルニア州においては,これまで2回にわたって,被疑者取調べの録音・録画を義務付けることを内容とする法案が州議会で可決されたようです。しかし,いずれも,州知事が,捜査官の活動に不必要な制限を課すものであるなどとして拒否権を発動したために,制度の導入には至っていないとのことです。   アメリカにおける特徴的な捜査手法ですが,これにつきましては資料の17ページ以下に記載しています。項目だけ申し上げますと,先ほどの事例にも出てきた司法取引が活発に行われていますし,客観的な証拠の収集手段として,通信傍受,全米規模のDNA型データベース,おとり捜査,潜入捜査などが活用されているようです。   次に,イギリスについては,資料の34ページ以下に記載しています。   イギリスにおいても無令状逮捕が広範に認められています。逮捕に伴う身柄拘束時間は原則として24時間であり,その間に短時間の被疑者取調べが行われますが,黙秘する被疑者も多いようです。もっとも,イギリスでは,被疑者又は被告人が,質問に対して,通常であれば何らかの弁解をするであろう状況で,弁解せずに黙秘をした場合は,黙秘したという事実から適当な推論を導くことができるとされています。その意味で黙秘権が一部制限されているとの指摘もあります。そのため,黙秘又は否認する被疑者の取調べにおいては,いたずらに追及するのではなく,順次,一定の事実を示していき,不合理な黙秘や否認をしていることを証拠化するという方法がよく行われているとのことです。   また,イギリスでは,重大事件を含めて,短期間の捜査によって,我が国よりも相当緩やかな基準によって起訴が行われているという特徴があります。資料の35ページの真ん中辺りに記載がありますが,公判で無罪答弁をした被告人については,2009年の統計によると,約62.2%が無罪となっています。   次に,取調べの録音制度について御説明しますと,イギリスでは,1980年代に,刑事手続に関する王立委員会において,それまでの刑事実務の問題点の検討が行われました。そして,その委員会の提言を受けて,警察による捜査権限の強化等に関する法律が制定され,その際,取調べの録音に関する規定が盛り込まれました。イギリスにおける取調べの録音制度は,一定の重い類型の犯罪について,警察官が警察署において被疑者の取調べを行う場合に,原則として,その全過程の録音が義務付けられているというものです。イギリスでは,コスト等の関係から録音と録画が区別されて議論され,録音のみが義務付けられているという特徴があります。   録音義務の例外としては,被疑者が録音を拒否した場合などが規定されていますし,当該犯罪事実以外の情報を入手する目的で取り調べる場合は,録音義務の対象外とされています。   公判では,ほとんどの場合,録音テープではなく,それを反訳した書面が証拠請求されているようです。多くの場合,証拠請求されているのは自白ではなく否認を内容とする供述のようですが,検察官は,それを証拠とすることによって,被告人の供述が客観的な証拠と矛盾することなどを指摘して,被告人の弁解が信用できないことを立証しているようです。   イギリスにおける特徴的な捜査手法などについては,41ページ以下に記載されています。例えば,検察官と弁護人との間における答弁取引も行われていますし,被疑者が捜査等に協力した場合に,刑の減軽等の恩恵を受けることができる制度も導入されています。そのほか,客観的な証拠収集手段として,CCTVと呼ばれる街頭の防犯カメラ,DNA型データベース,通信傍受,会話傍受,GPS機器による位置情報の収集,潜入捜査などが活用されているようです。   次に,フランスについては,56ページ以下に記載しています。   フランスでは,ガルダ・ビュー,警察留置と呼ばれる無令状での被疑者の身柄拘束が認められています。その身柄拘束期間は原則として24時間であり,その間に短時間の被疑者取調べが行われています。その後,検察官は,重罪と呼ばれる一定の重い類型の事件については,起訴が可能かつ必要と判断した場合には,予審と呼ばれる手続の開始請求を行うこととされています。この予審手続は,予審判事と呼ばれる裁判官によって,捜索・差押,通信傍受,証人尋問,予審対象者の尋問などが行われる証拠収集手続です。そして,最終的に,予審判事がその事件を公判審理に付すか否かを決定するということになっています。予審が開始された場合に,重罪につきましては原則1年,最長で4年間の身柄拘束が可能であって,実際の身柄拘束期間は平均15か月程度とのことです。起訴前の拘束時間は日本と比べて長いのですが,その間に予審判事による対象者に対する尋問が行われるのは数回程度で,1回当たりの時間も長くて数時間程度とのことのようです。   次に,取調べの録音・録画制度について御説明しますと,フランスでは,今御説明したように,警察留置という段階と予審という段階がありますが,まず,警察留置中の18歳未満の少年被疑者の取調べについて,原則として全過程の録音・録画が義務付けられました。その後,ある強姦等事件で多くの被告人が無罪となって,これをきっかけとして,刑事司法制度全体の改革が進められました。その改革の中で,2007年に,重罪事件で警察留置中の成人被疑者の取調べ,さらに,重罪事件の予審対象者の尋問についても,原則として全過程の録音・録画が義務付けられたという経緯をたどっております。   なお,例外等につきましては,一定の組織犯罪につきましては,録音・録画の対象犯罪から除外されております。そして,この組織犯罪の定義は広く,共犯事件や共犯の存在がうかがわれる事件がこれに該当し得るとされているところです。   フランスにおける特徴的な捜査手法等については,65ページ以下に記載されていて,通信傍受,会話傍受,潜入捜査,DNA型データベース,公共交通機関等に設置されている監視カメラなどが活用されているようです。   次に,ドイツについては,75ページ以下に記載があります。   ドイツでは,起訴の前後を問わず,原則6か月間の勾留が可能であって,殺人や組織犯罪といった重大事案では多くの場合,起訴するまでの勾留期間は3か月間から6か月間とのことです。その間の被疑者取調べは,通常,警察において1回ないし数回行われるに過ぎないのが実情です。また,ドイツでは,被疑者が否認又は黙秘をした場合は,すぐに取調べが打ち切られて,その後は取調べが実施されることはありません。特に,組織犯罪の場合は,被疑者の多くは供述を拒むので,数分間の取調べしか行われないといったケースも珍しくないようです。   そして,取調べの録音・録画に関する規定は,ドイツには存在しません。被疑者の承諾があれば,録音・録画を実施することはできると考えられていますが,録音・録画を実施する例はほとんどないとのことです。   ドイツにおいて取調べの録音・録画制度の導入が議論されていない理由としては,被疑者の捜査段階と公判段階の供述が異なったとしても,取調官を証人尋問すれば信用性の判断は十分に可能であること,他の客観証拠によって正しい事実認定が可能であることなどが指摘されているとのことです。   ドイツにおける特徴的な捜査手法は,81ページ以下に記載されていて,通信傍受,潜入捜査などが活用されています。また,王冠証人制度といって,特定の犯罪行為の解明や防止に協力した者について,形の減刑又は免除を可能とする制度も活用されております。   次に,イタリアについては,90ページ以下に記載されています。   イタリアでは,逮捕後48時間以内の身柄拘束が可能であり,一定の重大犯罪については,更に検察官の請求によって,原則として1年間の身柄拘束が可能とされています。もっとも,取調べにおいて被疑者が自白することはほとんどないようで,そのため,被疑者の取調べはほとんど行われておらず,行ってもせいぜい1回,時間にして,1,2時間程度とのことです。そもそも,イタリアでは取調べに真相解明機能は求めておらず,被疑者に弁解・反論の機会を与えることが目的であると考えているようです。   被疑者取調べの録音・録画制度について御説明しますと,イタリアでは,身柄拘束下の被疑者の取調べの全過程について録音又は録画が義務付けられています。そして,対象犯罪に限定はなく,例外も定められておらず,録音・録画義務に違反されて行われた取調べにおいて得られた供述については,公判で証拠として使用することはできないこととされています。   イタリアにおいては,捜査における取調べの比重が極めて低い一方で,取調べ以外の様々な捜査手法が導入されています。具体的には,96ページ以下に記載されているように,客観的な証拠の収集手段として,通信傍受,会話傍受,おとり捜査,潜入捜査などがありますし,97ページの下の方ですが,内務省に設置されている中央データバンクシステムによって,戸籍・居住地情報,銀行口座情報,納税情報,自動車所有情報など,種々の情報を捜査機関が直接取得できる仕組みなどが整備されています。また,改悛者制度といって,特定の犯罪行為の解明や防止に協力した者について,刑の軽減等の恩恵を付与する制度なども活用されています。   続いて,オランダについては,102ページ以下に記載されています。   オランダでは,検察官の命令により,最長で6日と15時間の警察留置,更に検察官の請求により,原則として14日間,最長104日間の勾留が可能とされており,検察官はこの期間内に起訴の判断を行うこととされています。その間,警察官・検察官などにより,被疑者の取調べは複数回行われているようですが,オランダでは,軽微な犯罪や日常的な事件を除くと,被疑者が自白することはほとんどないと考えられています。そして,供述以外の証拠の収集が重視されていて,取調べにおいては,被疑者が語るストーリーを確認することに重点が置かれているとのことです。   オランダにおいては,取調べの録音・録画に関する法令等はありません。もっとも,捜査機関の運用によって,人が死亡している事件などの一定の重大事件については,被疑者及び参考人の取調べの全過程を録音することとされております。さらに,その対象者が16歳未満の未成年であったり,精神障害者等の場合には,録画も行うこととされています。   オランダにおける特徴的な捜査手法としては,109ページ以下に記載されているように,通信傍受,会話傍受,おとり捜査,潜入捜査,組織的に人の追尾・観察を行う「監視」制度,DNA型データベース,王冠証人制度などが活用されています。   次に,オーストラリアについては,115ページ以下に記載しています。   オーストラリアにおいては,無令状逮捕が広範に認められています。逮捕に伴う身柄拘束期間は,原則として4時間,最長12時間であって,その間に,通常1回,短時間の被疑者取調べが行われます。取調べにおいては,被疑者が黙秘することも多く,自白の獲得よりも,被疑者の言い分を聴取してこれを固定化させることに重点が置かれているようです。   オーストラリアの録音・録画制度につきましては,録音・録画を直接義務付ける規定は設けられておりません。しかし,取調べの録音・録画がなされていない限り,原則として,被疑者の捜査官に対する自白等は証拠能力を有しないという規定が設けられています。   特徴的なことは,複数回の取調べが実施された場合に,全ての回の取調べが録音・録画されていなくても,自白がなされた取調べの最初から最後までの録音・録画がなされていれば,その自白の証拠能力を認めることができるということです。なお,取調べの録音・録画をするときは,供述調書を作成しないのが通常で,公判では,録音・録画の記録媒体,つまりDVD等が証拠として提出されています。公判で録音・録画の記録媒体を再生する場合には,全部再生することが多く,事案によっては数時間に及ぶものもありますが,陪審員の集中力が途切れることがないよう,何度か休廷しつつ再生を行っているようです。   オーストラリアにおける特徴的な捜査手法については,122ページ以下に記載しており,共犯者等の証言を確保するために刑事免責を与える制度,通信傍受,各種の監視装置を用いた捜査,潜入捜査などが活用されているとのことです。   次に,韓国については,127ページ以下に記載しています。   韓国では,捜査段階において,警察が身柄拘束をした場合は最長で30日間,検察官が身柄拘束した場合は最長で20日間の被疑者の勾留が可能です。韓国では,我が国と同様に,取調べが重要な捜査手法として認識されていて,連日,長時間にわたる取調べを行い,否認している被疑者を説得・追及して真実の供述を得ようと努めることが少なくないとのことです。   韓国では,2004年に,我が国の最高裁に相当する大法院が判例を変更して,検察官調書の内容が争われた場合に,その調書に証拠能力が認められるためには,その調書の内容と捜査段階の被疑者の供述内容とが同一であることが立証されなければならないとされました。そこで,検察においては,その立証のために取調べの録音・録画を推進することとなり,2007年の刑事訴訟法改正によって,取調べの録音・録画制度が導入されました。この制度では,公判で,検察官調書の内容が争われた場合は,検察官は録音・録画の媒体その他の客観的方法によって,調書の内容と捜査段階の被疑者の供述内容とが同一であることを立証しなければならないなどとされました。   もっとも,取調べの録音・録画は,義務ではなく,捜査機関の権限とされていて,録音・録画を実施するか否かは捜査機関の裁量に委ねられています。また,録音・録画を実施する場合でも,取調べの最初から最後までを録音・録画しなければならないとされているだけで,どの取調べを録音・録画するかについても捜査機関の裁量に委ねられています。そのため,韓国における取調べの録音・録画は,主として自白事件で実施されていますが,全ての取調べについて録音・録画するという運用はほとんど行われていないとのことです。まずは録音・録画することなく取調べを行って,被疑者の供述内容を確認した上で,立証上,必要と判断した一部の取調べだけを録音・録画するという運用が採られているようです。なお,録音・録画を行った事件については,公判で供述調書の内容が争われるケースはほとんどないとのことです。   韓国における特徴的な捜査手法については,136ページ以下に記載されていて,17歳以上の全国民の指紋登録制度,DNA型データベース,犯罪申告者の保護措置などが活用されています。   最後に,香港と台湾につきましては,それぞれ録音・録画制度について簡単に御説明いたします。   まず,香港においては,被疑者取調べの録音・録画を義務付ける法律等は存在しませんが,警察の運用により,一定の重大事犯について,被疑者取調べの録音・録画が実施されています。また,台湾においては,原則として被疑者の取調べは全過程を録音しなければならないとされていますが,これに違反した場合でも,そのことのみを理由として供述調書の証拠能力が否定されるものではないとされております。   大変駆け足でございましたが,国外調査の概要についての説明を終わらせていただきます。 ○加藤幹事 最後に取りまとめの結果の概要について説明します。   資料18-2が概要版でございますが,ここでは本体版であります資料18-3に沿って説明を進めますので,そちらを御覧いただきながらお聞き取りください。題名に「法務省勉強会取りまとめ」とあるものです。   先ほど冒頭にも説明いたしましたが,法務省省内勉強会におきましては,平成22年6月に公表いたしました中間取りまとめの方針に従って,これまで説明いたしました国内外調査の結果をも踏まえ,制度としての被疑者取調べの可視化の在り方について,幾つかの項目ごとに検討が行われました。   資料18-3の目次の第3「被疑者取調べの可視化の在り方(検討結果)」というところの1から5までが主な検討項目として取り上げられたものでありまして,具体的には,「可視化の目的等」,「対象事件の範囲」,「対象とすべき取調べの範囲」,「録音・録画の対象とするのが相当でない場合」,「証拠能力との関係」などとなっております。   そのうち,最初の検討項目であります「可視化の目的等」についての検討概要は,39ページの1というところに記されております。39ページを御覧いただきますと,そこではまず,既に取調べの録音・録画制度を導入している諸外国においても,導入の目的は一様ではないものの,少なくとも,後日の裁判手続における争いに備えて,供述が得られた取調べ状況を客観的に記録するという点では共通するものと考えられるということや,また,国内における議論としても,不適正な取調べによって得られた誤った自白によって,えん罪が生まれることを防ぐという点を重視する見解や,特に裁判員制度の下で自白の任意性が争われた場合に,その判断を容易かつ誤りのないものにする点を重視する見解が有力に主張されているが,いずれの見解も,公判での争いに備えて,供述が得られた取調べ状況を客観的に記録しておくということを前提としている点では共通するものと考えられることが指摘されています。   そして,そのような認識を踏まえて,取調べの録音・録画制度に求められている中心的な要請は,取調べの状況を客観的に記録し,公判での自白の任意性をめぐる争いが生じた場合に,その客観的な記録による的確な判断を可能とすることであると結論付けているところです。   次の検討項目であります「対象事件の範囲」についての検討概要は,41ページの2というところでございます。省内勉強会の中間取りまとめにおきましては,全ての事件について取調べの録音・録画を行うことは現実的でなく,可視化の目的に照らして実施の必要性が高く,早期かつ円滑に実現可能な事件の範囲について検討することとされておりました。この点について,今回の取りまとめでは,42ページの6行目辺りになりますが,取調べの録音・録画の対象としては,まず,裁判員制度対象事件が考えられるとしており,その理由が41ページから42ページにかけて幾つか挙げられております。   すなわち,第1に,諸外国の状況を見ても,多数の国や地域においては録音・録画の対象犯罪に絞りをかけており,おおむね重大な犯罪が対象とされているということ,第2に,任意性等の争いに関する国内調査の結果を見ますと,被告人の捜査段階における自白の任意性が争われる事件は,全事件では公判請求されるものの0.3%程度と極めて少ない値になっているのに対し,重大事件の典型と言える裁判員制度対象事件では3.7%程度とやや多くなっており,取調べ状況をめぐる争いは重大事件で多く発生しているということ,第3に,裁判員制度対象事件においては,裁判員が取調べ状況に関する的確な判断を求められることからも,任意性に関して特に分かりやすい立証を行うことが強く要請されることが挙げられています。   また,42ページの(2)あるいは43ページの(3)におきましては,知的能力等に起因する一定の事情が認められる被疑者の取調べの録音・録画や,検察の独自捜査事件における被疑者取調べの録音・録画等についての言及がございますので,その点も御参照ください。   次に,対象とすべき取調べの範囲についての検討概要が43ページの3というところでございます。取調べの範囲の問題につきましては,中間取りまとめにおいて,可視化の目的に照らして必要性が高く,早期かつ円滑に実現可能な取調べの範囲について検討するとともに,録音・録画が捜査・公判の機能や被害者を始めとする事件関係者に与える影響等についても調査・検討の上,その具体的な在り方について検討を進めるとされてきたところでありまして,特に,身柄拘束との関係及び取調べの全過程を録音・録画の対象とするべきかという観点からの検討が行われました。   まず,そのうち1点目の身柄拘束との関係については,43ページの(1)に記載されているとおりでございまして,結論としては,身柄拘束下における取調べを録音・録画の対象とするべきであるとされています。その理由としては,第1に,諸外国では,少なくとも実際の運用においては,身柄拘束下の取調べを録音・録画の対象としているところがほとんどであると言えるということ,第2に,任意性等の争いに関する実情調査の結果を見ても,自白の任意性が争われている事件の大部分は身柄事件であり,かつ,身柄拘束中の取調べ時に作成された供述調書の任意性が争われているということ,第3に,任意捜査の段階でいわゆる無理な取調べをしていれば,身柄拘束後の取調べ状況にも反映されると考えられること,第4に,特に在宅段階の取調べは,一般に通常の取調室に限らず多様な場所で行われており,これらについて録音・録画を実施するのは実際上困難であると言えることなどが挙げられています。   このように,在宅での取調べについては,録音・録画の必要性は相対的に低いと考えられます上,実務上困難な課題も伴うことから,身柄拘束下における被疑者取調べを録音・録画の対象とするべきであるとされたものであります。   次に,身柄拘束後の取調べの全過程を録音・録画の対象とするべきかという点については,44ページから始まる(2)に記載されております。この部分の検討は44ページから,ア,イ,ウ,エと進みまして,その結論部分は50ページのオとある部分にあるとおりであります。すなわち,取調べの可視化の趣旨・目的に鑑みれば,身柄拘束後のできる限り広範囲の取調べを録音・録画の対象とすることが望ましいとも考えられるが,幾つかの事柄を考慮すると,一律に録音・録画を義務付けるような制度を構築することは適当ではなく,取調べの録音・録画制度の構築に当たっては,その必要性と現実性や捜査・公判の機能に与える支障等との間で,バランスの取れたものとすることが必要であるとされております。   そのような考慮事項について三つ挙げられているわけでありますが,その一つ目は先ほどの44ページに戻っていただきまして,イという項目に記載されております。その内容は,検察で実施している裁判員制度対象事件における被疑者取調べの録音・録画について,今回の国内調査の結果等を見ると,取調べの一部の録音・録画であるにもかかわらず,自白の任意性を肯定する証拠としても否定する証拠としても有効に機能しており,取調べの全過程を録音・録画していないがゆえに深刻な問題が生じているといった状況はうかがわれないということであります。   また,考慮事項の二つ目は,46ページのウに記載されておりますが,身柄拘束後の取調べの全過程を録音・録画の対象とした場合の負担・コストが相当なものとなるという点であります。   例えば,取調べの実態に関する調査によれば,身柄事件における被疑者1人当たりの取調べ時間は全ての事件の平均で約22時間,裁判員制度対象事件の平均では約43時間に上っていることなどからすると,取調べの全過程を録音・録画した場合には,捜査官や弁護人がそれらの視聴をする負担は相当に重いものとなり,さらに,裁判官や裁判員についても,最終的にはそれらの視聴の負担を負うことになる可能性を否定できないこと,その上,取調べの全過程の録音・録画の実施に要する費用や膨大な録音・録画媒体の適正な保管に関するコストも,相当なものとなると考えられることなどが指摘されております。   さらに,考慮事項の三つ目が46ページから50ページにかけてのエの部分です。この部分の総括的な記載は,48ページの(カ)ですが,今般の調査結果によれば,我が国の現状においては,取調べが事案の真相解明のために極めて重要な役割を果たしており,録音・録画の導入は,捜査・公判の機能や被害者を始めとする事件関係者に種々の影響を与え,それによって取調べの機能が少なくとも一定程度損なわれるおそれが大きいことが否定できないものと考えられたという点が指摘されています。   そのように考えられる理由につきまして,47ページから48ページにかけて(ア)から(オ)として記載されているとおりです。   時間の関係もございますのでかいつまんで申し上げますが,このうち(イ)のところでは,録音・録画がされていれば被疑者から自白を得ることができなかった事例が相当数認められたとされております。相当数認められた事例の内容につきましては,先ほど説明がございました国内調査結果報告書の事例集を御覧いただきたいと存じますが,一例として,ただいま説明しております資料18-3の20ページを御覧いただきますと,上から2行目にエの(ア)というのがありまして,その中に一つ目の「○」がございます。ここには,外国人による組織的な覚せい剤密売の事案で,被疑者は密売組織の全容等について自白するに至った後も,「弁護人とその同行の通訳人は組織の人間であり,弁護人を通じて供述内容が組織に伝わると,家族に危害が及ぶおそれがある。」などと述べて,組織に関する自白内容の調書化を拒否したことから,当初から録音・録画をしていた場合,そもそも被疑者から組織に関する自白を得ることができなかった可能性があると考えられる事例が挙げられております。   また,48ページの(ウ)では,被疑者の供述に関係者の名誉に重大な影響を及ぼす内容が含まれる事例がある旨が指摘されており,その具体例も事例集に幾つか載せられておりますが,そのような例としては,20ページの二つ目の「○」,「②に該当する事例として」という記載の下に書かれているように,実際の捜査対象となっている事件の直接の関係者でない者の過去の行為が,被疑者の供述に含まれているような事例が挙げられております。これらの事例につきましては,後ほど事例集等を御参照ください。   このような事例の検討も含めて,今回の取りまとめにおいては,録音・録画の導入が捜査・公判の機能や被害者を始めとする事件関係者に種々の影響を与えるものと考えられたとされているところであります。   もっとも,50ページの(キ)のところに記載がございますように,今回の検討におきましては,広範囲の取調べの録音・録画を実施又は試行した実績が乏しかったために,録音・録画が捜査・公判の機能等に与える影響の有無・程度について,必ずしも実証的な検討を十分に行うことができなかった面は否定できないとされております。そこで,録音・録画が捜査・公判の機能等に与える影響の有無・程度については,これらの録音・録画に関する検証結果をも踏まえて,更に実証的な検討を加えることが必要と考えられるものとされました。   以上のような検討を経まして,今回の取りまとめにおきましては,一律に録音・録画を義務付けるような制度を構築することは適当でないとしており,録音・録画制度の構築に当たっては,その必要性と現実性や捜査・公判の機能に与える支障等との間でバランスの取れたものとすることが必要であるとしているところであります。   さらに,次の検討事項として,録音・録画の対象とするのが相当でない場合についての検討概要は,51ページの4の部分に記載されております。まず,今回の取りまとめでは,例えば,被疑者が録音・録画を拒否した場合,通訳人の協力が得られない場合,録音・録画機器に故障が生じるなどして使用できない場合など,合理的な理由により録音・録画の実施が困難な場合については,録音・録画義務の対象とすべきではないとしています。また,罪種によって録音・録画の範囲を定める考え方もあり得るところですが,録音・録画の対象とするのが適当でない場合については,個々の事案の性質や特有の事情を考慮しなければ決せられない側面もあるため,現時点において,その全てを類型化することは困難であると考えられました。   そこで,この問題については,録音・録画の範囲を一定の基準によって適切に画することの可否を含め,録音・録画が取調べの機能に与える影響等の有無・程度に関する実証的な検討とも併行して,今後,更に検討を深めていく必要があるとされているところであります。   最後に,証拠能力との関係についての検討概要が52ページの5に記載されております。これは,取調べの録音・録画制度を導入し,一定の場合に捜査機関に録音・録画の義務を課すこととした場合,その義務に違反して行われた取調べによって得られた供述の証拠能力をどのように取り扱うかという問題であります。この点につきましては,諸外国の取扱いも区々に分かれておりますし,国内においても義務違反の場合には供述の証拠能力を制限すべきであるとの意見もございます。その一方で,そのような取扱いは,任意になされたものでない自白に限って証拠能力を否定することとしているいわゆる自白法則や,証拠の収集過程に一定の重大な違法があって,これを証拠とすることが相当でないと認められる場合に限って証拠能力を否定することとしている,いわゆる違法収集証拠排除法則といった一般原則との整合性に難があるなどの問題点も指摘されているとされています。   また,そもそも録音・録画の義務付けの在り方としては,一定の場合に捜査機関に録音・録画を直接義務付けるという方法のほか,録音・録画を自白の任意性の立証方法の一つとして規定することにより,間接的な形で録音・録画の実施を促す仕組みとすることもあり得るとされております。そこで,証拠能力との関係については,このような録音・録画の義務付けの在り方のほか,録音・録画の対象とすべき取調べの範囲の在り方等とも密接に関連する問題であるとして,今後,これらの問題と併せて検討する必要があるとされております。   以上が各項目ごとの検討概要でございまして,これらをまとめた内容が53ページの6に記載されております。この中で,取調べの録音・録画の具体的な制度設計につきましては当審議会における検討に委ねることとされておりますが,その検討に当たっては,今回の省内勉強会における検討の成果や,国家公安委員会委員長主催の研究会における検討の成果を十分に踏まえるとともに,検察における録音・録画の試行に関する検証結果を十分に活用すべきであるとされております。   その上で,55ページの7に記載されておりますとおり,当審議会において十分な実証的資料に基づき,充実した調査審議が行われることに資するため,現在実施している裁判員制度対象事件における検察官による被疑者取調べの録音・録画の範囲を試行的に拡大し,様々な録音・録画を行うこととするべきであるとしているところであります。具体的には,①として,現在の実施指針上,録音・録画の対象となる事件については,原則として全事件において録音・録画を行うこと,②として,さらに,例えば,否認事件についても録音・録画の対象とするほか,身柄拘束の初期段階の取調べ等を含め,様々な録音・録画を行うことなどを求めています。その上で,1年後を目途として,録音・録画の有効性及び問題点等について多角的な検証を行い,その結果を公表することを検察に求めているところであります。   以上のような取りまとめ結果を踏まえ,江田前法務大臣から最高検察庁に対し,資料18-6としてお配りしている「取調べの録音・録画に関する取組方針」が示され,これを受けて,最高検察庁においては,資料19としてお配りしている事務連絡を発出したものと承知しております。 ○本田部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま大変長い時間が掛かって皆さん大変だったと思いますけれども,法務省における可視化勉強会の取りまとめ結果等につきまして,御質問等がございましたらお願いしたいと思います。できるだけ平易な言葉でよろしくお願いいたします。では,御質問等はございませんでしょうか。 ○後藤委員 必ずしも質問ではないですけれども,意見あるいは希望でもよろしいでしょうか。 ○本田部会長 御意見も御質問の一環として,ただ,時間的な制約もありますので,できればこのまとめについての御質問を中心にお願いいたしたいと思います。 ○後藤委員 それでは,ごく簡単に申します。取調べの録音・録画のメリットないし効果について,一連の御報告では,供述が得られた状況を客観的に記録することがまず第一,それから自白の任意性の判断を的確にする点でメリットがあるとされていると思います。それは確かにそのとおりだと思います。けれども,それに加えて,一つは供述の形成過程が事後的に検証できるので,供述の信用性評価の材料が格段に増えるという点,それから,もう一つは取調べが客観的に記録されるために,それを見直すことによって取調べの技術が向上するといった点についても,録音・録画の効果として考える必要がありはしないか。これが第1点でございます。   もう一つは,希望ないし質問です。勉強会の検討結果中で,私どもに対して,現在検察庁が行っている試行と検証の結果を参照するように求められています。その検証の方法について,検察官だけで検証をされると,どうしても検察官の見方での検証になってしまうと思いますので,それ以外の方,例えば心理学者といったような方にも加わっていただいて,検証の検討の中にそういう方の意見も加えて,報告していただきたいというのが私の希望でございます。 ○加藤幹事 まず,第1点目のメリットの点でございますけれども,私どもがここで御説明できますのは,法務省省内勉強会の取りまとめの内容について説明ができるだけでございまして,後藤委員の御意見に賛否を申し上げる立場ではございません。その範囲で申し上げると,確かに御指摘のとおり,今回の取りまとめにおきましては,取調べの状況を客観的に記録して,公判での任意性をめぐる争いが生じた場合に,その的確な判断に資するということが,録音・録画制度の中核的な要請であると考えられるとしているところでございます。ただ,その上で,取調べの録音・録画には,その他にも様々なメリットがあると考えられるという点も記載してございまして,例えば,具体例として,取調べの適正確保に資するという点などを示しているところであり,取りまとめに明示しているもの以外のメリットを否定するという趣旨ではないと考えられます。では,具体的な制度設計について,どの部分を重視するのかという点については,今後の御議論をお願いしたいと考えます。   それから,試行の検証に関しての意見の聴取という点でございますが,検証の方法等につきましては,第一義的には,この審議会における調査審議のためにどういうものが有益であるかという点を含めて,検察当局において適切に判断するものと考えております。もっとも,取調べの状況が記録されたDVDを含む証拠の内容等を検察から外の第三者に明らかにするという点につきましては,関係者のプライバシー保護ですとか,将来の捜査活動に与える影響等の観点というものも考慮しなければなりませんので,そういった点には留意が必要であると考えております。御意見は御意見として承りたいと存じます。 ○村木委員 大変詳しい国内外の調査をしていただいたことに大変感謝を申し上げます。   それで,ちょっと確認をしたいのですが,資料18-1というのがあります。膨大な資料を読みこなせないので,この短いものから先に読んでいったのですが,18-1の1ページ,下から7行目なのですが,今回の法務省の勉強会の結果として5行ほどにまとめてあるのですが,省内勉強会では,我が国において録音・録画の対象とすべき範囲として,まず,裁判員制度対象事件の身柄拘束下における被疑者の取調べが考えられることなど,一定の方向性を示したと,こう書いてあるのですね,この紙には。先ほど聞いた御説明はもうちょっとここまで限定して,まずはここからやるのだという結論には聞こえないような御説明だったように思うのですが,結局,勉強会の御検討として,こういうかなりはっきりした方向性があるのかどうかというのを教えていただきたいということでございます。   率直に申し上げて,随分,要約版は限定をしたものだけをやろうということになっていて,しかも裁判員制度というかなり公開の公判中心で,既に一部の録音・録画もやっているようなところを拡大してやりますよというような結論になっていたので,大変心配をしているのですが,もう少し幅広くきちんと検討していただけると理解していいのかどうかというのを確認させてください。 ○加藤幹事 まず,取りまとめに関する御評価につきまして,御評価はいろいろだと存じますので,その点についてはまた御意見として承らせていただければと存じます。なお,取りまとめが一定の方向を示したというのは,省内勉強会の検討を経て,勉強会としての一定の方向を示したというものでございまして,この部会での御審議を拘束するという意味合いを持つものではございません。この取りまとめについて,どのようにお取扱いをいただくかということは,部会において御検討いただく事柄だと存じますが,法務省の省内勉強会の取りまとめにつきましても,十分に踏まえて御審議をお願いしたいということでございます。 ○村木委員 取りまとめとしてはこの理解でよいという,短いバージョンというのは法務省の勉強会の方向性だと理解すべきという御回答なのでしょうか。 ○加藤幹事 資料18-1でございますね。法務省の勉強会としての考え方は,この紙にまとめたとおりでございます。 ○上冨幹事 補足させていただきます。法務省勉強会の取りまとめとしては,本日,御説明いたしました資料18-3が取りまとめの本体でございます。53ページ以下にまとめという部分がございますが,その中の54ページの最初のところに,「これに加えて知的能力等に起因する一定の事情が認められる被疑者の事件や検察官による独自捜査事件を対象とすべきかについては,検察における録音・録画の試行の状況やその検証結果を踏まえて,改めて検討を行うべきである。」と記載されていますが,このようなことまで含めて取りまとめの内容でございます。 ○小坂井幹事 2点ほど,ちょっと教えていただきたいと思います。   一つは,一番最後,55ページのところで,加藤幹事が読まれたところで,いわゆる運用の録音・録画の拡大についてです。いろいろなことが挙げられておって,様々な録音・録画を行うことと,こうまとめられておるのですけれども,この中に全過程という言葉が実は出てこないのです。が,これは全過程も含むのだと,だから,様々な録音・録画なのだと,そういう理解でよろしいのでしょうかというのが一つ目の質問です。   もう一つは,54ページの方で,具体的な制度設計として,真ん中,③の第2段落ですけれども,例えばとしてどうも3点ほど挙がっているように見受けられるのですね。いずれかの機会の取調べについてというのと,後,弁解録取手続を含めうんぬんというのと,それと三つ目として原則として全過程の録音・録画を行うこととしながら適切な例外を設けることと,こう三つ書いてあるわけです。法務省の方で法務省として責任を持って制度としての可視化を実現していかなければならないという決意を表明されたことには,本当に敬意を表したいと思うのですが,この三つを挙げられている54ページの例からしますと,三つ目が制度だというのは非常によく分かるのです。しかし,前の二つはどうも私の読み方がもし間違っていたら,間違っているという御指摘をいただければいいのですけれども,取調官の裁量によってその範囲を決めるのだというように読めてしまうのです。そうだとすると,運用で基本的に足る話なのではないのか。   制度設計というときに,これが制度の名に値するのかというと失礼なのですけれども,制度だというのはいかなる意味合いからそうおっしゃっているのか,もし理由付けがあれば教えていただきたい。取りあえず,その2点を質問したいと思います。 ○加藤幹事 まず,後半のお尋ねでございますが,まず,今回の取りまとめでは,録音・録画の対象とする取調べの範囲については,個別の具体的事情を問わずに一律に録音・録画を義務付けるような制度を構築することは適当とは考え難く,諸要素の間でバランスの取れた制度を検討することが必要であるということが前提となっております。もっとも,このような考え方から,直ちに特定の制度設計が導き出されるというものではなくて,具体的な制度設計としてはいろいろなものが考えられることから,いろいろなものがあるという点で具体例を挙げているということでございますので,具体的にどういう制度設計をしていただくかということについては,更に専門的・技術的な検討が不可欠であるということで,当審議会における検討に委ねられているというものでございます。 ○小坂井幹事 最初の二つは,そうすると取調官の裁量に委ねるのだというような趣旨の制度設計なのでしょうか。54ページ,③の第2段落ですけれども。 ○加藤幹事 例えば裁量的要素が全くないものがよいのか,あるいは裁量的要素を一部含むものがよいのかというのも,それは制度設計の一部として考えられると思われます。 ○小坂井幹事 ごめんなさい。そうすると,ここで言うその全過程という言葉自体が出てくるのですけれども,それは裁量に委ねられるようなものでも,例えばそういう法律,訓示規定といいますか,精神条項といいますか,言葉はちょっとややこしいかもしれませんが,訓示規定だけでも制度設計なのだというのが法務省の御見解なのでしょうか。 ○加藤幹事 省内勉強会の取りまとめとしてはここに書かれているとおりでありまして,今後,どういう制度設計があり得るかということについては,部会で御審議いただくことだと考えております。   それから,全過程の問題でございますけれども,お尋ねの点につきましては,特捜部や特別刑事部の試行については全過程というのが入っていることとの対比でお尋ねではないかとも思われますが,一つは特捜部や特別刑事部の独自捜査事件では,検察官のみが被疑者の取調べを行うわけでありまして,裁判員制度対象事件の大半が警察送致事件であるのとは異なります。検察官だけではなくて警察官も被疑者取調べを行うことからいたしますと,検察官による取調べの全過程というのは,全体から見れば取調べの一部に過ぎないわけでありまして,十分な意味があるかどうかという点で疑問がありますし,かえって,そのように記載したとしても誤解を招くおそれがあるということを考慮しているものでございます。   また,裁判員制度対象事件は,事件の性質が人の命を奪ったりするなど重大な犯罪でありまして,事案の真相解明,あるいは犯人の的確な検挙・処罰が特に強く求められるというものであることからいたしますと,録音・録画が捜査・公判の機能等に影響を与える可能性についても十分に配慮する必要があって,必ず全過程の録音・録画は実施しなければならないという形で義務付けるのは,必ずしも適当ではないと考えられたことから,その全過程ということはあえて明記されなかったというものであると承知しております。もっとも,実際には,個別事件における検察官の判断の結果として,検察官による取調べの全てについて録音・録画が行われるということは排除されないと考えております。 ○周防委員 今のやりとりを見ていて,すごく基本的なことで,今,そんなことを言うなよと,そんなことは聞かないでと言われそうなのですけれども,例えば表題にある「被疑者取調べの可視化の実現に向けて」という,この頭には「<検察官による>被疑者取調べの可視化の実現に向けて」という,そういう言葉は入るのですか。警察も一緒だと読むのですか。それとも,飽くまでもこの勉強会は「検察官の被疑者取調べの可視化の実現に向けて」の勉強と読むのですか。 ○加藤幹事 趣旨としては,制度としての取調べの可視化を取り扱っていたわけでございますので,検察官の取調べに限定するという趣旨は含まれておりません。 ○安岡委員 国外調査のことで,韓国とそれからオーストラリアの部分でちょっとお聴きしたいのですが,両方の国とも録音・録画をしていない調書については,証拠能力を認めないという制度になっていると読めるのですが,韓国の方は検事調書一般について,つまり,被疑者だけでなく参考人の調書についても同じような条件,制約がはめられていて,オーストラリアは被疑者の自白調書にのみ,そういう制約が掛けられていると読めるのですが,そういうことでよろしいのでしょうか。 ○吉川幹事 韓国においても,オーストラリアにおいても,参考人については,被疑者の場合と同様の証拠能力に関する制限は掛けられておりません。 ○安岡委員 そうすると,韓国の調査報告の128ページに検事調書についてという書き方をしているのですが,検事調書も被疑者を取り調べた調書ということで,どちらの国も参考人の調書については,そういう制限はないということですか。 ○吉川幹事 そういうことです。 ○後藤委員 2回目ですけれども,よろしいですか。今度は本当に質問です。今回の国内と国外の調査結果を拝見して,私にとって一番印象的だったのは,やはり日本では取調べの時間がすごく長いということです。今までも経験的にそうだろうと,皆,思っていたけれども,それが実証的に確認されたということは,学術的にも大きな意味がある調査だったと思います。けれども,問題は,なぜ日本では取調べの時間が,諸外国と比べてこれほど長いのかということですね。この報告書から読み取れる一つの仮説は,恐らく諸外国では被疑者取調べ以外の証拠獲得手段,捜査手段がいろいろあるから,取調べが短くても済むのだという仮説だろうと思います。その仮説が当たっているかどうかはともかく,この勉強会では,そのほかに何か,なぜ,これほど違いがあるのかについて,検討はされたでしょうか。 ○加藤幹事 学術的に意味があるものとの御評価を頂きまして,誠にありがとうございます。ただ,後藤委員から御指摘を頂きました点以外に,なぜ,我が国において特に取調べが長時間にわたるのかということについては,勉強会として検討・分析して一定の結果を出している,結論を出しているというものではございませんので,今後の検討課題ということになろうかと存じます。 ○本田部会長 まだまだ,御質問等があろうかと思いますけれども,ほかの議事もございますので,取りあえず,質問はこれで終わらせていただきます。ただ,大変分厚い大部の資料を頂きましたし,まだ全部お読みになっていない方もおられると思いますので,またお読みになって,その後,いろいろと御質問等がありましたら,今後の調査審議等の場で,また御質問いただければと思います   なお,時間も半分以上過ぎましたので,これから休憩とさせていただきます。 (休     憩) ○本田部会長 それでは,引き続きまして,警察における取調べの録音・録画の試行の検証結果及び捜査手法,取調べの高度化を図るための研究会における検討に関する中間報告の御説明をいただきたいと思います。この研究会での中間報告や警察における検証結果というのは,今回の諮問の内容と非常に密接に関連するものでございますので,今回の調査審議を行う上でも参考になると思いまして,御説明をお願いしたところでございます。それでは,よろしくお願いいたします。 ○島根幹事 お時間を頂きまして,まず,警察における取調べの録音・録画の試行の検証結果について御説明をいたします。資料につきましては,あらかじめ「警察における取調べの録音・録画の試行の検証について」と題した冊子,資料番号は17-1になります。それから,その概要と題した2枚物,資料番号は17-2でございますが,この2種類について配布をしていただいております。適宜,御参照していただきたいと存じます。それでは,基本的には17-2の概要ペーパーに沿って御説明をいたしますので,御覧いただきたいと存じます。   試行の経緯につきましては資料記載のとおりです。この度取りまとめた検証結果は,全国都道府県警察において試行を開始した平成21年4月から本年3月までの2年間の試行についてのものです。   試行の目的ですが,裁判員裁判における自白の任意性の効果的・効率的な立証方策の検討でございます。   実施要領は次のとおりです。録音・録画は,捜査が一定程度進展した時点において,犯行の概略と核心部分について供述調書を作成する場合に実施し,録音・録画により,供述調書の内容を被疑者に読み聞かせ,閲覧させ,署名押印又は指印を求めている状況のほか,被疑者が任意に発言できる機会を設けた際の状況等も併せて記録しております。   実施件数は717件で,被疑者632人について実施しております。罪種別件数については資料記載のとおりですが,いずれも裁判員裁判対象事件です。被疑者が録音・録画を拒否した事例は14件になります。被疑者が拒否した理由については,録音・録画をされることに対する羞恥心や嫌悪感といったものでした。被疑者の具体的な言動については冊子の5ページに記載をしております。   公判におけるDVDの利用状況等については,警察のDVDが証拠開示された事例は,本年3月末までに174件把握しております。公判においてDVDの証拠調べが行われた事例は3件で,いずれの事例においても警察における自白の任意性が認められております。その事例の要旨は冊子の6ページ及び7ページに記載をしております。   次に,試行に従事した取調官とその意見について御説明をします。試行に従事した取調官は2年間で613人です。30代から40代の警部補,巡査部長が中心となってこれに当たっております。警察庁においては,以下のとおり,この試行に従事した取調官から意見を聴取しております。まず,試行による被疑者の心理に対する影響については,57.3%の取調官が,録音・録画時に被疑者の態度が変化したと回答しております。変化の内容ですが,その多くが緊張していたというものであり,手が震えていた,落ち着きがなくなったなどでありました。そのほかといたしまして,言葉遣いや態度が丁寧になった,言葉が少なくなったなどであります。具体的な意見については冊子の9ページと10ページに記載がございます。   試行による録音・録画の有効性に関する評価については,現在の方法で大きな効果がある,又はある程度の効果はあるとの回答が97.1%,証拠価値は乏しいとの回答が2.9%でありました。大きな効果がある,又はある程度の効果はあると回答した者が挙げた主な理由は,読み聞かせのときの表情や気持ちを聞いたときの受け答えなどから,被疑者が任意に供述していることが分かる,あるいは訂正を求めたときの状況から,被疑者が供述調書の内容をしっかり確認していることが分かる,取調べが適正に行われていることが分かるなどであります。具体的な意見については11ページと12ページに記載をしてございます。一方,証拠価値は乏しいと回答した者が挙げた主な理由は,自認直後や弁解録取時など,録音・録画を行う場面について更に検討を要する,供述態度が不自然であったなどであります。具体的な意見については冊子の12ページに記載をしております。   試行による取調べの機能への影響に関する意見については,害されないと思うとの回答が65.8%,害されると思うとの回答が14,9%,分からないとしたものが19.2%でした。害されないと思うと回答した者が挙げた主な理由は,被疑者との人間関係の構築や追及・説得の場面が録音・録画されないので,取調べの機能は害されないと思うなどであります。具体的な意見は冊子の13ページに記載をしております。一方,害されると思うと回答した者が挙げた主な理由は,被疑者が公判での印象を意識し,率直な供述ができなくなるおそれがある,取調官が必要な追及・説得ができなくなるおそれがあるなどであります。具体的な意見は冊子の13ページから14ページに記載をしております。   取調べの全過程を録音・録画することについての意見につきましては,そうするべきではないという回答が90.9%,そうするべきであるとの回答が1.0%,どちらでもよい,又は分からないとの回答が8.1%でした。そうするべきではないと回答した主な理由は,被疑者の心を開かせるための信頼関係の構築に支障が生じる,被疑者が残る映像を意識し,真実の供述が得られなくなるなどであります。具体的な意見は冊子の15ページから17ページに記載をしております。一方,そうするべきであると回答した者が挙げた主な理由は,被疑者にとって不利益な場面が記録されるなどであります。具体的な意見は冊子の17ページに記載をしております。   これらを踏まえました検証結果につきましては,冊子では17ページから23ページに記載しておりますが,これをまとめますと,現在の試行による録音・録画は裁判員裁判における自白の任意性の効果的・効率的な立証方策となり得る,現在の試行によっても取調べの真相解明機能に影響を及ぼす場合があることから十分な配慮が不可欠である,いまだ実施件数が十分とは言えないことから,今後,より柔軟に多様な試行を積み重ねる必要があるということであります。   この検証結果を受けまして,裁判員裁判対象事件における自白の任意性の効果的・効率的な立証にはいかなる方策が有効であるかについて,より多角的な検証を行うとともに,取調べの録音・録画の今後の在り方に関する議論に有効な検討材料を提供するため,より柔軟に多様な試行を実施する方針としております。具体的には,冊子でいいますと22ページの15行目以降になりますが,自白の任意性の立証上,録音・録画をする意義が認められるような場合には,捜査過程の段階を問わず録音・録画を実施するなどとしているところであります。   警察における取調べの録音・録画の検証についての説明は以上でございます。   それでは,続きまして,捜査手法,取調べの高度化を図るための研究会における検討に関する中間報告について説明をいたします。資料として中間報告の冊子,資料番号14になりますが,配布をいただいております。また,本日は,中間報告の内容について,警察庁におきまして説明用に1枚にまとめましたA3のペーパー,資料番号20を配布いただいております。説明に際し,御参照していただきたいと思います。   この中間報告は,平成22年2月に研究会が発足してからおおむね1年を過ぎた時点でそれまでの議論を整理し,今後の検討課題を明らかにするために取りまとめたものです。では,中間報告の概要について説明します。A3のペーパーを御覧いただきたいと存じます。   中間報告の構成は,「第1 研究会の目的」,「第2 検討の概要」,「第3 検討事項ごとの検討状況」,「第4 今後の検討課題」となっております。   まず,第1の研究会の目的についてであります。本研究会は,刑事法,社会政策,心理学専攻の学者の方,元裁判官,元検事,弁護士,元警察幹部,ジャーナリストの部外有識者12名から成る委員で構成され,国家公安委員会委員長が主催する研究会として発足いたしました。委員名簿につきましては冊子の本体の末尾に別添1として添付しております。研究会の目的は冊子1ページに記載されておりますが,治安水準を落とすことなく取調べの可視化を実現するため,捜査構造全体の中での取調べの機能をどうするか,どのように取調べの可視化・高度化を図るか,取調べ以外の捜査手法をどのように高度化するか等について,幅広い観点から検討を行うことです。研究会における検討事項につきましては,研究会第2回会議で決定されました。冊子の1ページから2ページにかけて太字で記載されておりますので御覧ください。   また,A3ペーパーですが,第2の検討の概要について御説明をいたします。研究会については中間報告を取りまとめるまでに,昨年2月5日から本年3月11日までの間,13回の会議を開催いたしました。この間に研究会では委員による知見発表,ヒアリング,警察庁による諸外国の刑事司法手続,取調べの比重・役割・可視化,捜査手法等に関する調査結果の報告などを行っております。ヒアリングにつきましては刑事事件の被告人となり,無罪,再審無罪となられた方々,犯罪被害者の御遺族,オーストラリアの司法当局幹部や韓国の法学専門大学院教授等の各種専門家,現に取調べに従事している警察官の合計10名から行いました。   また,警察庁による諸外国に関する調査については,イギリス,アメリカ,ドイツ,フランス等,9つの国や地域について調査をしております。   ここで,ヒアリングで発表された主な御意見について御紹介をいたします。冊子の5ページ以下を御覧いただきたいと存じます。志布志事件,富山事件,足利事件で無罪,再審無罪となられた方々からのヒアリングの概要が記載されております。これらの方々からは,刑事は私の主張を全く聞き入れず,机を拳でたたいたり,足で蹴飛ばしたりした,えん罪を防ぐには取調べの全過程の録音・録画が必要,また,自白のみに頼る捜査・裁判はおかしい,取調べを最初から録音・録画してほしい,また,取調べには弁護士が立ち会えるようにしてもらいたいなどの御意見がありました。   次に,冊子の7ページ以下を御覧ください。犯罪被害者の御遺族からのヒアリングの概要が記載されております。いずれも犯罪により親族の命を奪われた方でありますが,これらの方々からは,一番望むことは真実を解明してほしいということ,可視化がその障壁となるのであれば捜査・取調べの目的・使命の達成を優先してほしい,特に性被害の場合に被害者の名誉を傷つけるような聞くに堪えない記録が残っていると,被害者は一生平穏な暮らしができなくなる,被害の届出もためらわれることになるなどの御意見がありました。   次に,冊子の12ページを御覧ください。現に取調べに従事している警察官からのヒアリングの概要が記載されております。警視庁刑事部捜査第一課で勤務した経験のある警部は,死体の遺棄場所不明,殺人そのものを否定していた被疑者を取り調べた経験ということに基づきまして,少年時代のプライバシーにわたる話などをすることによって被疑者との距離が縮まった,被疑者の不幸な生い立ちや家族との関係等の話は,被疑者自身が一番他人に知られたくないものであったが,それを話せる関係にならないと殺人を犯した本当の話は出てこないなどの御意見,また,警視庁刑事部捜査第二課で勤務した経験のある警部からは,大型詐欺事件で,当初,お前らに話すことはないといった態度であった被疑者を取り調べた経験に基づき,被疑者の心の傷を語らせないと事件の本質は見えてこない,一番言いたくないことを言わせるのが取調べ,犯行には動機がある,動機は人間の醜い部分,愚かな部分を含むが,動機を語らない被疑者が全容を話すことはあり得ないなどとの意見があり,いずれも録音・録画の下では,こういった取調べは困難という見解でありました。   A3のペーパーに戻っていただきまして,第3の検討事項ごとの検討状況について御説明をいたします。これは,我が国と諸外国の制度及び実態についての検討状況を研究会の検討事項ごとに整理したものです。研究会の検討事項である取調べの機能,取調べの可視化,捜査手法等の順に従って説明をいたします。   まず,取調べの機能についてですが,我が国では取調べの捜査における意義・役割が大きく,真相解明に重要な機能を果たしていることが明らかになりました。一方,既に取調べの可視化を実施している諸外国では,1回当たりの取調べ時間が短く,取調べの回数も少ないこと,また,取調べの捜査における意義・役割が我が国に比して小さいこと,取調べの内容も弁明を聞く程度で,自白率も低いことが明らかになりました。例えばイギリスですが,取調べは逮捕後,1,2回で,1回につき30分程度であり,自白率は警察署が扱う事件で40ないし60%台で,重大事件では自白はまれにしか得られないとのことです。また,アメリカでは黙秘権の行使又は弁護士の立会い要求があった場合,実務上,取調べは行われないとのことですが,この結果,事件の約20%について取調べそのものが行われていないとのことです。   この取調べの機能について委員からも様々な御指摘がありました。一部ですが,御紹介いたしますと,犯行動機や背景等は科学捜査だけでは分からない,真相解明に供述は不可欠といった意見がある一方で,志布志事件等は密室での取調べというシステム自体に問題があることを示している,自白を取るという観念が捜査官全体にあり過ぎるのではないかとの意見がありました。これらのことにつきまして,詳しくは冊子の24ページから27ページに記載がされております。   次に,取調べの可視化についてですが,我が国では裁判員裁判対象事件に対する取調べの録音・録画の試行を行っているところです。一方,諸外国では,調査した9の国・地域のうち,8の国・地域において録音・録画の制度を導入していることが判明しており,その制度は,法令又は判例により義務付けているもの,録音・録画のある供述証拠に証拠法上の優位性を認めているものなど,様々であります。また,録音・録画を導入している国であっても,台湾を除いて,その範囲については対象犯罪や身柄拘束の有無等により限定されていることが明らかになりました。   録音・録画の制度を導入しているオーストラリア,韓国については,研究会において専門家からヒアリングを実施しております。オーストラリアでは,自白を得られなくとも,通信傍受,会話傍受等で証拠を収集するので捜査上の困難は少ない,韓国では,録音・録画制度の導入により捜査力が低下し,捜査力の低下を補うために刑法,刑訴法の改正を検討中といった説明がございました。   取調べの可視化について委員からも様々な御指摘があり,一部を紹介いたしますと,可視化の導入に積極的な委員からは,可視化にはえん罪防止機能,虚偽自白防止機能,取調べ検証機能があるといった御意見があり,他方,可視化の導入に慎重な委員からは,自白に必要な信頼関係の構築が困難となる,組織犯罪の解明に支障を生ずるといった御意見がありました。これらにつきましては冊子の28ページから32ページに記載されております。   続いて,捜査手法等について御説明いたします。A3のペーパーの国旗が並んでいる部分の表を御覧ください。DNA型鑑定については,調査した9の国・地域のうち8の国・地域において,犯罪予防等を目的として,捜査が終了した事件の被疑者や有罪確定者等からDNAを強制的に採取し得る制度を有しております。また,DNAデータベースの登録件数は,判明した7の国等のうち5カ国において,30万件以上,うち3カ国は100万件以上であり,我が国と比較して多くのデータを有していることが明らかになりました。イギリスは人口の約1割の登録件数があります。人口10万人当たりで見ますと,我が国の登録件数が最も少なくなりますが,我が国におきましては,逮捕した被疑者等から一律にDNAを強制採取する制度がないといったような事情が考えられます。   次に,通信傍受については,我が国ではその対象犯罪が組織犯罪の銃器犯罪,薬物犯罪,組織的殺人,集団密航の4種類のみでありますが,諸外国では,殺人,強盗,強姦,放火,誘拐,詐欺,贈収賄等,多種にわたっており,また,対象を組織犯罪のみに絞っている国はありませんでした。我が国の通信傍受法は厳格な要件・手続が法律上課されていると考えておりますけれども,捜査での活用件数は,我が国が年間23件であるのに対し,イギリス,アメリカでは1,500から2,000件,フランス,ドイツで2万件前後,イタリアで13万件と格段に違う実態が明らかになっております。会話傍受につきましては,調査を実施した国・地域のうち,韓国,台湾を除く国・地域で,住居や車両内への秘匿による監視機器の設置が可能であり,これによって得た音声を刑事手続に使用していることが判明しております。   司法取引,刑事免責等につきましては,調査した9の国・地域のうち8の国等において,自認,有罪答弁により刑を減免する制度や,共犯者等に関する供述により刑を減免する制度等を導入していることが明らかになりました。これらのことについては,冊子の33ページから38ページに記載がされております。   最後に,第4として今後の検討課題について御説明いたします。冊子の38ページを御覧いただきたいと思います。これまで説明しましたように,研究会においては,我が国の捜査構造と取調べの機能について検討するとともに,広範囲の関係者からのヒアリングを実施し,また,既に可視化を実施している国を中心に9の国・地域について,それぞれの刑事司法の構造,取調べの機能,可視化の状況,導入されている捜査手法等について調査・検討を行ってまいりました。これらを通して,諸外国においては,我が国と体系の異なる手続の下で,我が国にはない様々な捜査手法を有する一方,我が国における取調べは諸外国に比べ真相解明上の意義・役割が大きいこと,また,諸外国は我が国と比して人口当たりの認知件数・逮捕人員が多く,無罪率が高いことも明らかになりました。現在,それらを踏まえ,研究会の目的である治安水準を落とすことなく,取調べの可視化を実現するための方策について検討を行っております。   具体的には,取調べの高度化と可視化につきましては,取調べにどのような機能・役割を果たさせるべきか,取調べの可視化の目的をどう考えるべきか,録音・録画の対象・範囲をどうするのか,録音・録画の実施をどのように確保するのか,取調べ技術をどのように高度化するかといった点について,検討を行っております。   また,捜査手法の高度化については,これまで調査対象としたほぼ全ての国が持つ,以下の捜査手法等を中心に,我が国においてどのような捜査手法等を導入すべきかの検討を行っております。具体的には,DNA型データベースの拡充その他の犯罪の追跡可能性を高めるための方策,通信傍受制度の見直し,会話傍受制度の導入その他の取調べ以外の場面における被疑者等の言動を捕捉するための方策,司法取引,刑事免責その他の取調べの機能を補強するための方策などが挙げられております。   また,このほかにも諸外国の刑事手続におきましては,潜入捜査,無令状の逮捕・捜索・差押え,黙秘に対する不利益推定,証人保護制度,CCTV,性犯罪者等へのGPS監視,全国民の指紋登録制度,参考入の出頭・証言強制等の捜査手法等の存在と相まって運用されていることを踏まえ,これらについても必要に応じ,検討を加えることにしております。   研究会については,中間報告の取りまとめ以降,5回開催され,現在までに合計18回,開催されております。これからの議論の推移によりますが,設置からおおむね2年となる来年春ごろを目途に,検討結果が取りまとめられる見込みであります。その結果についても本特別部会において紹介をさせていただければと存じます。第一線の捜査現場の大部分は警察が担っているところであり,研究会の検討結果も十分に踏まえた御審議をお願いしたいと思います。   研究会における検討についての中間報告について説明は以上でございます。どうもありがとうございます。 ○本田部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま御説明がありました国家公安委員会委員長主催の研究会の中間報告並びに警察における録音・録画の試行についての検証結果に関しまして,御質問等がありましたらお願いいたします。 ○大久保委員 それでは,警察の取調べに関しまして,御質問させていただきたいと思います。被害者がいる犯罪の場合,被疑者・被告人は自分の罪を軽くしたいがために,やはり,被害者に落ち度があったとか,被害者が悪いというような虚偽の供述をすることがあると思うのですね。可視化された場合,その勝手な言い分を,例えば裁判員ですとか,裁判官が見たり,また,いつ再生されるかと思うだけで被害者は精神的に追い詰められてしまいまして,なかなか回復できず,一生苦しんでしまうということが現実問題としてあります。先ほどの休憩前の法務省での国内調査結果では,検察官の93%以上の方が被害者の名誉やプライバシーを害するおそれがあるということを答えていらっしゃいました。警察官の調査結果では,その点はいかがだったのでしょうか。もしよろしければ差し障りのない範囲で,具体的な例も教えていただけばと思いますが,よろしくお願いいたします。 ○島根幹事 試行に従事した取調官に対するアンケートにおきましても,複数の取調官から,取調べの録音・録画によって被害者の名誉・プライバシーを侵害するおそれがあることを懸念した回答が見られたところであります。具体的な例を挙げますと,全過程の録音・録画をすることについてどう思うかという設問につきまして,先ほどの資料17-1の報告書の15ページのところに回答がございます。これは少し丸めた形になっておりますけれども,こういった回答があったほかに,特に性犯罪事件,取調べの中で被疑者が被害者をやゆするような言動があったり,あるいは犯罪の立証に必ずしも必要のないことについても,やはり自分の犯したことを軽くさせようということで,そういったことを赤裸々に事実を話して,被害者のプライバシーを侵害することがあるといったような回答があったところでございます。 ○井上委員 御説明ありがとうございました。   資料17-1の冊子の23ページの「今後の方針」のところについて,2点,御質問したいと思います。1点目は,「当面,必要な改良を加えながら,試行を継続する」となっていますけれども,必要な改良を加えながらというのは,例えばどういうことをお考えなのかということです。2点目は,結果の検証を適宜行って国民に分かりやすく示すと書かれているのですけれども,この研究会自体が来春にまとめを行うことを目途に検討されているということなので,大体,それと足並みをそろえて検証結果も出てくると理解してよろしいかということです。 ○金髙委員 警察庁の刑事局長でございます。録音・録画の必要な改良ということにつきましては,現在の今までのやり方が,先ほど説明を申し上げましたように,一定程度,捜査が進んだ段階で犯行の中核部分について調書を作成する際に,録音・録画を行うという形で進めてきておりますけれども,それだけではなくて,もう少し早い段階で,部分的な自認が得られたとき,あるいは非常に大きな意味を持つ供述が得られたとき等についても,捜査の段階に関わりなく録音・録画の対象にしていこうということです。それによって,いろいろな場面を増やし,回数を増やそうという意味で,改良を加えたいということで実施に移しているものでございます。   それから,国家公安委員会委員長主催の研究会の方向性がまとまる時期に,録音・録画の方の検証も再度行うかということにつきましては,最終的に研究会での方向性を出すときに,材料として必要なものはできるだけ提供させていただきたいと思っておりますけれども,期間が数か月ということになりますので,どれだけ意味を持つ検証になるか,ちょっと分かりませんけれども,その時点でどういう問題が生じているか,あるいはどういう効果が得られているかということにつきましては,なるべく研究会の方に提供させていただきたいと考えております。 ○後藤委員 この試行と検証の中で,録音・録画によって被疑者の態度がどう変化するかという関心での調査がされています。それと同時に,録音・録画によって取り調べる側の態度が変わるのか,変わらないのかというのも重要な観点のように私には思えます。それを今後,検証することは考えられないでしょうか。 ○金髙委員 御指摘の点につきましては,確かに,もしできれば意味がある検証になると思いますので,考えてみたいと思います。 ○安岡委員 今後の検討課題の中で,5番目に挙げていらっしゃいます取調べ技術をどのように高度化するかと,こういうことなのですが,これまでも当然,捜査の中で非常に重要な部分を占めているということですから,取調べ技術の研修であるとか,そういう高度化を目指したことを警察庁なり,各都道府県警でやられていたと思うのですが,それはどのようなことをやっていらっしゃったのか。それから,今後の検討課題で言っていらっしゃる高度化というのは,おおよそどのような目的で,どのようなことをやっていこうというふうなことを考えていらっしゃるのか,この2点をちょっとお願いします。 ○金髙委員 今までも取調べが非常に重要な意味を持つので,取調官の育成というのは警察としては努力をしてまいりました。具体的には,各階級ごとに警察官の教養,研修がございますけれども,その中で取調べ技術について教育をするというやり方,それから,職場でやはりかなり優れた取調官がおりますので,伝承教育,伝承教養を行う。例えば取調べの立会いとして若い人,補助者を付けて,オン・ザ・ジョブトレーニング的な育成を図る等々の努力をしてきているところでございます。   今回,更に取調べの高度化が必要だという御指摘がこの研究会でもされておりまして,例えば,諸外国で行われている取調べ手法について学ぶところはないのか,あるいは私どもの研修教育の中でも,ロールプレイングをもっと取り入れるべきではないか等々の御指摘をいただいているところでございます。そういう御指摘を踏まえて,これからどういう形で更に能力をアップするかということを考えていくということにしたいと思っております。 ○村木委員 ありがとうございます。大変興味深かったです。   録音・録画を始めたときに,被疑者の態度が変わったかどうかという数字があって,警察の方の数字は57.3%というデータが出ておりましたけれども,最初に聴いた検察の方ですか,法務省の方の調査では14%という数字があったと思うのですが,非常に差があるなと思って拝見したのですが,何かこういう点が原因ではないかというようなことで,何かお考えがあれば教えていただきたいなと思ったのですが。 ○加藤幹事 御指摘の点,数字の違いについて特に検討したということではございません。ただ,この場で一つ思い当たるとすれば,被疑者の取調べについては,通常,警察の取調べの方が検察の取調べに先行するということが多いわけであります。警察の取調べが行われた上で,更に検察官の取調べが行われるという時間的な関係にも影響を受けているのではないかということは一つ推測されますが,ただ,ほかにどういうことが考えられるかという点も含めて,今後の課題とさせていただければと存じます。 ○神津委員 取調べの全過程を録音・録画することについての意見で,そうすべきではないというのが90.9%。それで,この理由に,被疑者との信頼関係の構築に支障が生じるというのがあって,これは非常に独特な表現だなと思って,具体的にはどういう意味なのかなと思って,本文の中の12ページに,実際に取調べに従事している警察官,これにイのJ警部というのがあって,これがいわゆる信頼関係というところの具体的にはこういう姿なのかなと,こう思ったのですけれども,何かすごく職人技みたいな,ちょっと表現が適切かどうかはあれですけれども,そういう部分がすごく日本の警察の取調べの一つの特徴なのかなと。   したがって,先ほど御報告があった,要するに取調べの時間が日本の場合,すごく長いということとも結び付いているのかなと,こう思ったのですが,質問というか,むしろ要望になるかもしれませんが,こういったことが今までいろいろなえん罪事件があったのですけれども,こういう取調べの在り方というのとえん罪事件が発生してしまったこととの関わりというのをどう御覧になっているかというのは,非常にポイントになるところではないかなと勝手に思うのですけれども,今,ここでのお答えということよりも,そういった観点も是非考えていただきたいなと思います。 ○金髙委員 御指摘のとおり,取調べは特に重要犯罪といいましょうか,凶悪犯罪になればなるほど被疑者が言いたくない,できれば逃げたいという精神状態になっている人が多いわけです。場合によっては完全に後ろを向いて何も言わない,あるいは取調官に対して食って掛かるような状態の人もいます。その人と最初に出会って,それから心を解きほぐしていくような,そういう過程がおそらくあります。最終的には最も言いたくない,あるいは知られたくないようなことも含めた真実の話を引き出すということについては,それなりのやはり能力,技術が要るものだろうと私どもも思っております。その過程で,本当のことをしゃべろうと思うに至るその関係を,適切な言葉かどうか分かりませんけれども,ここで言う信頼関係というものの一つと受け止めていただいていいのではないかと思います。   ただし,そういう取調べとえん罪が直接リンクするのかということについては,少なくとも私どもはそうは思っておりませんで,えん罪が起こった過程を見てみると,そういう関係にはなっていないのです。やはり非常に問題のある取調べが行われたり,強圧的な一方的な取調べが行われる。あるいは裏付けがほとんどきちんと取れていない,思い込みで捜査が進んでいるというところがえん罪の大きな原因になっているのではないかと私どもは見ております。 ○本田部会長 まだ,御質問等がおありかと思いますけれども,先ほどの法務省の取りまとめと同じように,資料等をまたお読みいただいて,今後の調査審議等で何か御質問等がありましたら,その場でお願いをいたしたいと思います。   それでは,本日,最後の議題となりますけれども,当部会におきます今後の調査審議の進め方について御議論をいただきたいと思います。前回会合で委員の皆様から今後の当部会で行うべき調査,現段階で検討すべきと考える課題,その他検討の進め方等についてお伺いしたわけでございますが,様々な御意見を頂きました。   その中で,現段階で考えられる検討事項といたしましては,委員の皆様から次のような実に多くの問題提起を頂いております。取調べの録音・録画の在り方,新しい捜査手法の導入,司法取引等の導入,供述調書の作成・利用の在り方,取調べへの弁護人の立会制度,被疑者・被告人の身柄拘束の在り方,公判における供述・証言の真実性担保の方策,司法妨害の防止方策,証拠開示の在り方,再犯防止制度の構築や量刑手続の在り方,犯罪被害者に配慮した刑事司法の在り方,一般国民の健全な社会常識に裏打ちされた刑事司法の在り方等々でございます。こうした多岐にわたります検討事項につきましては,なるべく早い時期に,当部会におきまして,より具体的な論点整理を行う必要があろうかと考えております。   そして,今後の調査審議の進め方に関しましては,多くの委員の方々から,まずは刑事司法の現状及び問題点につきまして認識を共有すべきであるという御意見を頂いております。さらに,そのために,ヒアリングや視察等を実施したり,諸外国の制度を調査することなどが必要という御意見も頂いております。また,取調べの可視化に関しましては,取調べの可視化を先に議論して,先に結論を出すべきとする御意見,取調べの録音・録画の試行の結果等を踏まえて検討すべきとする御意見,刑事司法全体の議論の中で可視化を検討すべきとする御意見や,議論の先後関係は問わないけれども,可視化と捜査手法を別々に議論すべきであるという御意見等々を伺ったところでございます。   今,申し上げましたような御意見を踏まえ,私なりに当部会において充実した調査審議を行っていくための進め方について,まず,御提案をさせていただきたいと思います。すなわち,論点整理をするといたしましても,専門家や実務家以外の委員もいらっしゃいますので,問題点の抽出・整理に先立ちまして,まずは視察やヒアリングというものを行いまして,刑事司法制度の現状を把握しまして,その認識をまず共有することが望ましいのではないかと考えます。   また,具体的な論点につきまして,どのような順序で検討すべきかにつきましては御意見が分かれているところではありますが,この点につきましては,現時点で確定するのでなく,現状を把握して認識を共有した上で,論点整理の結果を踏まえて具体的に議論するのが適当ではないかと考えます。その上で,当面のスケジュールといたしましては,なるべく早い時期に論点整理を行う必要がございますことから,次回と次々回,すなわち,第4回と第5回におきまして,視察,ヒアリングを実施しまして,第6回の部会から論点整理に入るのが適当ではないかと考えておるところでございます。   調査審議の進め方に関しましては,このように御提案させていただきますが,いかがでございましょうか。委員・幹事の皆様から御意見を頂ければと思います。なお,できるだけ多くの方からの御意見を頂きたいと思いますので,1回当たりの発言はできるだけ簡潔にお願いいたしたいと思います。なるべく多くの委員・幹事の皆様に十分発言していただけますよう,よろしくお願いいたします。ただいま,私の申し上げました提案につきまして,御意見等がございましたらお願いします。   一般の有識者の委員もいらっしゃいますので,多岐にわたる論点を整理するためには,まず,前提といたしまして刑事司法制度の現状や問題点を把握して,委員相互の認識をまず共有することが必要かと考えており,視察やヒアリングを行うことで,その中からおのずと論点なりが整理されてくることもありますし,また,逆に新たな問題点が浮上してくることもあるのかと考えます。当面,このような方法で調査審議を進めていきたいと思いますが,いかがでございましょうか。 ○宮﨑委員 ただいま,おっしゃったような方向で別段,異議はないわけですけれども,要は中身の問題でありまして,刑事施設を見学するとか,現場を見学しましても,警察の方は御苦労さんですね,刑務所の方,御苦労さんですねということだけでは,問題点の把握に一体どう貢献するのかという疑問があります。ヒアリングにつきましても要するにどういう方から何を聴くかということが大事なんだろうと,このように思いますので,現在の刑事司法をめぐる諸課題というのか,問題点をよく分かるような形で視察先とか,ヒアリング先とかを御検討いただければと,このように思います。 ○本田部会長 今,これから視察の場所なり,また,ヒアリング等についてはお諮りしようと思ったのですけれども,視察にしましてもヒアリングにしても,宮﨑委員の御意見をも踏まえながら実施させていただきたいと思います。 (「異議なし」と言う者あり) ○本田部会長 それでは,今申し上げたようなことで次回と次々回につきましては,視察とヒアリングを実施し,第6回から論点整理に入っていくということにさせていただきたいと思います。   次に,具体的な予定,すなわち,視察先をどうするかという問題,また,どのような方のヒアリングを実施するかという問題がございます。この点につきましても,委員の皆様から前回伺った御意見等を踏まえまして,部会長として,刑事司法制度の現状なり問題点を把握するという観点から,どのような視察,ヒアリングが適当かという私なりの考え方をまず申し上げたいと思いますので,お聞きいただきたいと思います。   まず,視察先に関してでございますけれども,前回,委員の皆様,大勢の方から,警察,検察の現場の視察,保護・矯正現場の視察,公判傍聴などというような御意見を頂いております。今,申し上げましたような御意見を踏まえますと,まず,第4回部会におきましては,一連の捜査の流れや手続等についての認識を共有するということが大事だという点から,東京地検及び警視庁などの視察を行うのはいかがかと考えております。なお,それ以外の視察先につきましては,論点整理までの間に,期日外に希望者を募るなどいたしまして実施する方向でも検討させていただきたいと考えています。ただし,今申し上げた東京地検なり警視庁,これはできるだけ全員の方に行っていただいて認識を共有できるようにしたいと思います。期日外については,皆さんお忙しいので,全員ということは無理かもしれませんけれども,そういうことで実施させていただきたいと思います。   ヒアリングに関しましても,前回の部会で委員の皆様から,警察官,検察官,犯罪被害者や御遺族の方,弁護士,いわゆるえん罪の被害に遭われた方などの御提案を頂いたところでございます。このヒアリングにつきましても,視察と同様,今後,更に追加して実施することも考えられるところではございますけれども,第5回部会におきましては,委員の皆様の御意見を踏まえ,警察官,検察官,弁護士,犯罪の被害に遭われた方あるいはその関係者及びいわゆるえん罪の被害に遭われた方あるいはその関係者を,それぞれ1名ずつ,合計5名の方のヒアリングを実施するのはどうかと考えているところでございます。   このように,第4回部会では東京地検及び警視庁の視察を行い,第5回部会では,今申し上げた合計5名の方のヒアリングを行うことでどうかと御提案をさせていただきたいと思いますが,この点についてはいかがでございましょうか。よろしいでしょうか。 ○村木委員 きっとプロの方はこういう要望はしないのかもしれませんが,検事さん,警察官の意見,弁護士さんの意見を聴いて,どうして裁判官の意見を,一番,この制度がどうなるかということについて,最後にこの制度を活用して判断をされる裁判官のお話というのを聴きたいなと,きっと難しいのだろうと想像はできるのですが,是非,お願いができないかと思います。 ○本田部会長 今,村木委員の御意見がありましたけれども,この点につきまして,皆さんの方で何か御意見等はございますでしょうか。 ○井上委員 御趣旨はよく分かりますが,それぞれの委員が,ほかにもこういう人に聴いてみたいという御意見があるのではないかと思います。あるいは,1名では足りないのではないかという意見も多分あると思うのですけれども,この段階でのヒアリングというのは,我々が全体としてこれから論点整理をしていく,その前提として行うものであり,時間も限られていますので,最低限の範囲にとどめざるを得ないのではないでしょうか。   裁判官についてももちろん,今後,例えば,公判での立証全体の中で供述調書等がどういう位置付けを持っており,その取扱いが変わると立証や認定にどういう影響が考えられるのかといった点について伺ってみるというのは,意味があるかもしれないと思います。現役の方はなかなか難しいかもしれませんが,そういうふうに論点が絞られた上で,それとの関係で必要があれば,それに応じてお聴きするということは考え得るし,裁判官に限らず,個々の論点との関係で必要に応じ,また適当な方から実情ないし意見をお伺いするということにするのがよいのではないかと思います。これが最後だということではなく,取りあえずは必要最小限にして,審議の状況に応じて,また必要があればお伺いしていくというような形にした方がよい。そうでないと収拾がつかなくなってしまって,この限られた時間ではちょっと無理ではないかと思います。 ○本田部会長 私自身も,今井上委員がおっしゃったようなことを考えております。恐らくこれからもいろいろな方のヒアリングが必要になってくるのだと思うのですけれども,当面,4回目と5回目の視察とヒアリングは,どちらかというと全体的な認識の共有ということで,その後の具体的な検討の中で必要があれば,裁判官などのヒアリングも検討していくこととしたいと考えています。まずは,当事者的立場にあります方々のヒアリングを先行させて,しかるべきタイミングなり課題のときに,ほかの方のヒアリングということも,当然検討しなければならないと考えているところでございます。 ○大久保委員 期日外の視察といたしまして矯正関係への視察ということも先ほどおっしゃいましたけれども,もし矯正関係に行くのであれば,やはり被害者支援センター関係も視察先に入れなければバランスが悪いと思いますので,是非,その辺りもいずれ御検討いただければと思います。 ○本田部会長 御意見を踏まえて検討させていただきたいと思います。 ○酒巻委員 酒巻でございます。ヒアリングのことで一つ質問があるのですが,今日も何度も出てきたえん罪という言葉ですけれども,えん罪被害者ないしえん罪という言葉の意味内容が私にはいま一つよく分からないところがありまして,大変ぶしつけな質問ですけれども,「えん罪被害者」とはどのようなお方をお考えなのか,今想定しておられる範囲で教えていただければ有り難いと思います。 ○本田部会長 先ほど,今回は5名の方のヒアリングを実施したいということを申し上げましたが,それぞれ具体的にどういう方がいいかというのは,委員の皆さんとも御相談しながら,できるだけ早く決めてまいりたいと思います。その段階でお知らせしたいと思いますので,よろしくお願いしたいと思います。 ○後藤委員 視察の場所についての希望でございますけれども,視察の場所として警視庁が先ほど挙がっておりましたね。警視庁で取調室とそれから留置施設は拝見したいという希望でございます。それから検察庁も挙がっておりましたね。検察庁では見学することが可能かどうか,分からないのですけれども,警察から被疑者が連れてこられて取調べを待っている間にいる場所がありますね。そこを私は一度も見たことがないので,もしできれば見せていただきたいと思います。 ○本田部会長 警視庁にしても東京地検にしても,具体的にどこの場所かという点につきましては,施設の問題もありますし,もし御希望があれば事務局の方にできるだけ早目におっしゃっていただいて,調整をさせていただきたいと思います。また,今回の視察は2か所ですけれども,そのほかの施設等につきましても,もし御希望がありましたら,できるだけ早目に教えていただいて,調整をさせていただきたいと思っております。 ○周防委員 個別にどなたに投げればいいのですか。それともこういう場で言うのですか。 ○本田部会長 事務局の方に具体的におっしゃっていただければと思います。もちろん,相手もある話ですから,全部分かりましたとはいかないことがあることも御理解いただきたいと思います。   それでは,次回は東京地検と警視庁の視察を実施することといたしまして,具体的な視察内容や順序等につきましては,次回までに調整させていただきまして,皆様に御連絡をさせていただくということにさせていただきたいと思います。また,それ以外の視察先につきましても,期日外に希望を募るなどして実施する方向で検討させていただきたいと思います。追って御連絡させていただきたいと思います。   さらに,第5回部会におきましては,警察官,検察官,弁護士,犯罪の被害に遭われた方あるいはその関係者及びいわゆるえん罪の被害に遭われた方あるいはその関係者の合計5名のヒアリングを実施することといたしますが,ヒアリング対象者の人選に関しましては,先ほど申し上げましたように,委員からの御意見を踏まえて検討させていただき,追って御相談させていただきたいと思います。   それでは,本日は,予定していた事項は終了いたしましたので,議事を終わりたいと思います。なお,本日の会議につきましては,特に公表に適さない内容にわたるものはなかったと思いますので,発言者名を明らかにした議事録を公表することとさせていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。   なお,次回の日程につきましては,10月26日の午後1時30分を予定しております。また,次回は視察を実施する予定でございますが,ひとまず,本日と同じく東京高検第2会議室へお集まりいただきたいと思います。   本日はこれで閉会といたします。長時間,誠にありがとうございました。 -了-