法制審議会ハーグ条約(子の返還手続関係)部会           第5回会議 議事録 第1 日 時  平成23年10月17日(月) 自 午後1時30分                        至 午後6時12分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  ハーグ条約を実施するための子の返還手続等の整備について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○髙橋部会長 定刻ですので,ハーグ条約部会の第5回会議を開催いたします。   審議に入る前に,事務当局からパブリックコメントについて説明をいたします。 ○金子幹事 御説明申し上げます。前回9月22日に開催されました第4回の部会におきまして中間取りまとめを頂きましたので,その後,民事局参事官室の責任におきまして,これに補足説明を付しました。9月30日からパブリックコメントに入っております。期間が10月31日までということでございます。そのパブリックコメントの結果につきましては,当方で取りまとめをした上,11月以降の部会におきまして御報告させていただく予定であります。 ○髙橋部会長 何か御質問があれば。よろしいでしょうか。   それでは,配布資料の説明に移ります。 ○佐野関係官 今回の配布資料としましては,事前に送付しました部会資料5「「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(仮称)」を実施するための子の返還手続等の整備に関する個別論点の検討(1)」というものと,本日机上配布しております部会資料5の「追加」としまして7の保全的な処分の論点に関するものでございます。 ○髙橋部会長 本日の審議に入るわけですが,その中と申しますか,その前と申しますか,前回の部会におきまして,例えば申立人が転居したような場合に子どもを常居所地国ではない申立人の下に返還することがあり得るのかどうかにつきまして議論がなされました。この点につきまして,外務省から各国の状況などについて説明の希望がございましたので,そのように取り計らいたいと思います。辻阪幹事,お願いいたします。 ○辻阪幹事 前回の部会で横山委員より,今,部会長より御指摘のありました常居所地国に返すのか,それとも違う国へ返すことがあり得るのかという点でございますが,御指摘を踏まえましていろいろ調べてみました。前回の部会で御紹介いたしましたとおり,Elisa Perez-Veraによるエクスプラナトリーレポート(Explanatory Report)によりますと,必ずしも常居所地国ではないこともあるというような書き振りになっておりますし,また,起草経緯を見ましても,常居所地国への返還というのは意図的に落とされたという経緯がございます。その後,条約事務局に照会をしまして,また1999年に出た本ですが,BEAUMONT & McELEAVYによるハーグ条約の解説書ですとか,あと各国の判例等々を検証いたしました。結果として,結論としては先般の部会で御説明したとおりでございますけれども,飽くまでもこのハーグ条約というのは子を常居所地国に戻すための国際的な枠組みを定めるものであるということは何ら変わりないということでございます。条約12条は常居所地国ということは明示的には書いていませんが,基本的には常居所地国に子どもを返還することを念頭に置いた規定であると。ただ,例えば申請者自身が常居所地国を離れて第三国に所在するような場合ですとか,極めて限定的な場合にその常居所地国以外の場所へ返還するということも条約としては必ずしも排除していないということで,常居所地国とは明示せずに前文でそのような趣旨を書いているというふうに理解できると考えております。   このため,結論は繰り返しになりますが,飽くまでも常居所地国への返還で例外的な場合もあり得るということを念のために申し上げた次第でございます。 ○髙橋部会長 何か御質問があれば。よろしいでしょうか。   では,そういう御紹介があったということで。  では,部会資料5の「1 土地管轄の集中」について事務当局から説明をいたします。 ○佐野関係官 では,1について御説明したいと思います。1は土地管轄の集中につきまして検討するものです。   中間取りまとめにおきましては,土地管轄の集中につきましては,東京のみとする甲案,東京,大阪の2庁とする乙案,8高裁所在地とする丙案の3案について検討しておりましたけれども,このうち丙案につきましては,専ら裁判所へ出頭する相手方の負担を重視した案であったかと思います。この丙案が考える負担というのは,電話会議とかテレビ会議システムの活用を含めた裁判運用上の工夫により実際に裁判所に出頭する回数等を限定するなどすれば,ある程度その負担は軽減できるのではないかと考えられましたので,ここでは事件処理の専門的な知見であるとか事例の集積,あと裁判官や裁判所のスタッフ,あと弁護士の専門性の向上,あるいは中央当局と管轄裁判所の連携強化等を重視しまして,甲案と乙案の2案を検討することといたしております。   あと,これまでの部会におきましては,裁判所へのアクセスの距離であるとか時間といった地理的要因を重視しまして,東京,大阪の外,札幌,福岡の4庁に管轄を集中するのが相当ではないかという御意見もございましたけれども,裁判所のアクセスという点を考えても札幌,福岡に管轄を認めるべき合理的な理由というのは必ずしも十分と言えないのではないかと考えられましたので,ここでは甲案と乙案の2案を検討するにとどめております。   あと,部会資料2ページ目の(参考)のところでは,我が国における管轄集中の他の例,その根拠を記載しておりますけれども,そこに挙げております根拠というのはいずれもこのハーグ条約における手続にもある程度当てはまるものではないかと考えております。 ○髙橋部会長 それでは,審議をお願いいたします。 ○磯谷幹事 まず,最初に厳しいお話を申し上げて恐縮ですけれども,前回中間取りまとめでは丙案がございまして,それが国民に向けてパブリックコメントに付されたわけです。そして,その回答が来る前に検討対象の中から丙案を外すということは,これパブリックコメントのやり方として妥当なのかどうか,疑問に感じております。   加えて,落とされた丙案についても,少し意見を申し上げたいと思います。先ほど御説明で丙案は確かに相手方のほうの便宜といいますか,アクセスの便宜というところをお話になりましたが,私の理解では,元々その管轄を定めるに当たっては,基本的には全国の裁判所に管轄を認めるというのが原則であって,しかし,一定の事情があるのでこれを集中する必要があるということなのではないでしょうか。初めから全くフリーハンドで管轄を決めていいということではないのではないかと思っています。先ほど事務当局から甲案,乙案を提案した理由として幾つか挙げていただきましたが,例えば事例の蓄積ということにつきましても,裁判所の間できちんと情報の共有をされれば足りると思われますし,また,弁護士の専門性の向上といっても,これは管轄を集中させたからといって,その場所の弁護士がいつも依頼を受けるというわけではない,東京の裁判所の事件を地方の弁護士が受けるということも十分あるわけですし,そのあたりも必ずしも理由にならないのではないか。それから,他国の例を見ても,確かに一箇所に集中しているところもあったように思いますけれども,一方で日本よりも更に,つまり8庁よりも更に分散させている国というのも複数あったように承知しておりますので,そういう観点からしますと,むしろ丙案は集中の必要性と,それから全国の裁判所に管轄を認める原則論といいますか,その両者の間でバランスを取った案なのではないかと考えております。ということで,現段階で丙案を外されたことについては非常に残念に思っております。 ○棚村委員 私も丙案を当初は支持していたわけですけれども,これは当事者の分布状況とかアクセスということだけではなくて,そもそも管轄権というのは子どもの住所地ということが基本になって,そこでやはり必要な調査とか判断をすることができるということでした。もちろん裁判官や裁判所,調査官等も含めてある程度蓄積とか専門性とかハーグ条約に対する理解とか,そういうようなことが必要になってくるものですから,そのバランスを取って,大谷委員が出されたように4庁程度にしてはどうかと考えました。つまり裁判官の経験とかそういう判断の蓄積ということもある意味ではそういうようなことを経験することによって積んでいかれるということもあると思います。   それで,各国の例も特にそうですけれども,管轄を集中していくときに幾つかファクターがあります。これは補足説明にも書かれているところもありますけれども,手続の迅速化と,それから裁判官を含めた主要機関としての専門性,経験の蓄積,それから条約に対する理解,それから判断基準とか実務の統一と。その他にやはり子どもの福祉とか子どもの問題が返還に非常に関わるということですから,やはり子ども及びその当事者に対する便宜ということです。これらは,テレビ会議とか電話で済むということが本当に理由になるのかなと疑問です。つまり子どもの意見を聴取したり,場合によっては子どもの状態を調査しなければいけないというプロセスが入る手続です。東京と大阪だけということについて,人の問題としては,それから体制を整備するということについては一つとか二つぐらいしかなかなかすぐは用意できないという御提案かもしれませんけれども,これを少し運用していって,今も渉外関係の事件というのは前も御紹介しましたように相当数やっておられて,裁判所にとっての御経験とかそういうものについてはかなり蓄積があると思います。なおかつハーグに伴うような専門的なチームというかスタッフみたいなのをある程度そろえなければいけないとは思いますが,4庁ぐらいでそういうことを試みて,今後更に蓄積とか経験を積まれて状況や件数とかいろいろなものを把握された上で縮小してもいいのではないか。縮小というか絞っていくということはあり得ると思います。   他の国の例えばドイツだとかフランスなんかを見ていても,やはり徐々に絞っていくという方向のほうがむしろ多くて,最初から絞るというのはイギリスの例はありますけれども,そういう意味ではイギリスも例えばイングランド,ウェールズとスコットランドとかアイルランドというところはまた別なわけです。だから,人口の規模とか地理的な状況を考えても,日本の場合にそれほど広いとはもちろん言えませんけれども,広大な国でないにしても,やはり地方アクセスという点では4庁程度ということに合理性があるように思います。 ○古谷幹事 今の子どもの調査の話も出たのですが,子どもの調査については必要がある場合には調査官調査等をすることになると思うので,その点をテレビ会議システムで全て賄うということにはならないと思います。いろいろ御指摘はあるところですが,やはりハーグ事案で求められる専門性等を考えますと,また,これは予測の域を出ませんけれども,提起される事件数等を前提に専門性の向上あるいはノウハウの蓄積ということを考えますと,集中が望ましいのと考えております。 ○金子幹事 パブコメとの関係ですが,パブリックコメント中もこのような審議は進めていかせていただきたいと思っています。最終的な要綱案に向けたたたき台,これはもちろんパブリックコメントの取りまとめ後ということになります。パブリックコメントの結果は最終的な案を取りまとめるに当たって斟酌するということは当然のこととして考えております。では,この間パブリックコメントに付した案以外の選択肢あるいはそれをより絞った形での審議を予想しないかというと,またこれはこれで時間的な問題もあり,あるいはパブリックコメントがオープンのクエスチョンのものだけ更に詰めるということではちょっと足りなくなるかなと思いまして,少し審議を進めさせていただければという趣旨でございます。ですから,例えばパブリックコメントで丙案が多いときは,またそれはそれで考えなければならないというふうに考えております。 ○磯谷幹事 今の御説明で,必ずしも丙案について,パブリックコメントの結果如何にかかわらず,もう採用しないという御趣旨ではないということは理解をしましたが,しかし,本日配布されました部会資料5は,いずれ公表されるものだと理解しております。そうすると,国民の側からすると,パブリックコメントで丙案が出されていて,丙案を支持する回答をしようとしているのに,その間にこの部会資料でもう丙案が削除されているということは,それは「丙案を支持すると言ったところであなたの意見は聞きませんよ」と言われているのに等しいように受け止められるおそれがあるのではないかと思うわけです。ですから,検討を深めることは全く差し支えないと思いますし,例えば補足説明としてここにあるような文章を書かれることについては結構だと思うんですけれども,しかし,この丙案を検討対象から外すということは,やはり国民に対するメッセージとしていかがなものかと思うんですけれども。 ○棚村委員 補足ですけれども,先ほど言いました国の規模とか状況というような関係で言うと,ドイツは各ラントごとに一つの家庭裁判所ということで22です。それから,フランスについては控訴院ごとに一つの大審裁判所の家事事件裁判官がやはり担当するということで,35あるということです。それから,カナダの場合ですと,マニトバ州もクイーンズベンチディビジョンのファミリーディビジョンというか,家事部のところにユニファイドファミリーコートというのがあって,統一家庭裁判所があって州で一つではありますけれども,他の州は子どもの所在地のクイーンズベンチディビジョンの裁判所がハーグ案件も扱っているということです。しかも,実際のカナダのケースの動きを見ると,85%ぐらいモントリオールで申し立てられるケースが確かにあるんですけれども,日本の家事事件の渉外関係の事件を見て,前もそうですけれども,札幌とか福岡はかなり件数がやはりあります。実際の事例なんかを見ましても,少なくとも新聞等の報道されるケースなんかもございますし,やはりある程度子どもの所在,カナダでも言われているのは,管轄の議論をするとき子どもに対する調査とか子どもの生活環境みたいなものをある程度近いところで把握できることが重要だと言われています。子どもの福祉に関する調査みたいなのができるということがありますので,是非管轄を決めるときにそういうようなファクターについても考慮を頂ければと思います。 ○金子幹事 恐らく先ほどの古谷幹事の御発言は,子どもがどこに住んでいてもきちんと調査官が行きますと。必要な事件については調査官がそれを最寄りの裁判所に嘱託するのか,あるいは東京,大阪から出張するのかそれは別にして,調査官がきちんと子どもの養育環境を見に調査へ行きますと,こういうことだったと思うんですね。それが8庁か1庁かによって,それほど大きな違いがあるのかということになると思うのですが,そこは大丈夫だということのように私は受け取ったんですけれども。 ○棚村委員 今聴いていて,要するに東京家裁1庁だけでも出張とか,あるいは飛行機を使ったりいろいろな交通手段で行くから構わないというお話にも聞こえます。そうすると,大阪と東京だけに置く理由というのは体制の問題ですか。つまり専門性とか審理する体制を整えられないということですか。要するに裁判官も調査官も含めてローテーションみたいなのもあるわけです。そこだけに集めておいて,そこで養成をして,そこでとどめておくという趣旨ですか。というのは,海外はこういうような管轄の集中を採りながらも家事事件の裁判官が同じところでワンファミリー,ワンジャッジというぐらいに20年も30年もやっているベテランのほうがむしろ多いのです。日本みたいなこういうシステムを採っている中で専門性もある程度確保しながら,地域にも根差した裁判をするというようなこともあっていいのでは。極論を言いませんけれども,1庁か2庁なのか4庁なのかという選択肢の中に先ほど磯谷委員も言われたように,いきなり8庁はなかなか体制で無理なのではないかということで四つの提案に賛成させてもらったのですが。それが二つになり,一つでもいいのではないかというふうにちょっと聞こえるのですけれども,最終的には国民あるいは一般の人たちが判断することなのかもしれませんが,最初から一つにしなければいけないような理由というのは,体制とか負担とかそういうことでしょうか。 ○金子幹事 言葉の問題かもしれません。体制というのは結局国民へのより良いサービスを提供するだけの体制をどう整えられるかという問題で,最終的には国民サービスの問題,国民サービスとしてどう在るべきかという問題であって,もちろんその中に,では多ければ多いほうがいいのかというと,それは結局今度提供する質の問題が出てくるので,それとの兼ね合いで決まるということかと思います。ですから,理屈の上で体制上,1庁でなければならないということを全然言うつもりはありません。 ○大谷委員 私はこの審議会でも一度発言させていただきましたが,例えば4庁というのは現実的に考えられるのではないかと思っています。4庁ということに対して,今日参考ということで我が国における管轄集中の例というのを御紹介いただいておりますが,例えば2庁であれば例がある,あるいは1庁も例があるということで,4庁というのは前例がないと言われるかもしれないんですが,しかしながら,2庁とか1庁にされたときも,そのときとしては初めてだったと思います。そういう意味では前例がないといっても,もしそれが合理的ということであればそのようなことも考えられるのではないかと思っています。   私自身は応訴の負担,不利益ということ,地方へのアクセスということが言われていますけれども,個人的にはやはり専門性による集中というのは必要だというふうに考えています。というのは,子どものことなので慎重に審議をしなくてはいけないという要請もありますが,他方で本当に返すべき事案であれば,やはりそこは迅速に判断をして現実に返すという要請もあります。そこで余り慣れない,年に何件かしか来ないかもしれないところで幾ら訓練等するといっても,さあどうしようというようなことになるのではなかなか裁判所も,それから対応する弁護士のほうも困るのではないかという感じがあります。日本はまだもちろんこの条約に入っていませんから,そういう意味では未知数のことをこれから経験するわけですが,海外でハーグ条約を専門に扱っている弁護士と話をしておりますし,やはり子どものことであり,外国に返す手続だということで非常に緊張感を持って,大変な事件と思ってやっていらっしゃる。そういうことをやろうというときに,他の国では最初,管轄集中していなかったのが徐々に今,集中傾向にあるという歴史,その推移,傾向がある中で,日本は最初から入ったわけではなくて,これから条約を発効してもう30年もたとうとする中,入るわけですから,他の国が最初はみんなよく分からないけれどもまずは入ってやり出したというところから経験を積んでいくのと違って,入った時点でどう実施していくのかを考えなければならないという側面があると思っています。   その中で,まず広げてというよりはどちらかというと絞ってやって,その中からもちろんもっと扱える人を養成してという,他の国とは逆かもしれませんけれども,場合によっては数年たって体制を整えられれば,もう少し広げるということもあるかもしれませんが,スタート時点としては,私は絞ることに賛成の意見です。ただし,本日の段階で甲案には反対したいと思います。棚村委員の御意見にもありましたように,突き詰めれば1庁でもいいということになりかねませんが,かなりあちこちで応訴の負担,地方アクセスということが言われている中,少しでも広げておくという意味では,私個人はまだ本日現在も4庁に賛成の意見ですし,甲案の1庁というのは,ちょっとそういう国民感情,現実の皆さんがこの手続についてお持ちのイメージからしてもないのではないかなと思います。 ○棚村委員 補足ですけれども,先ほど古谷幹事が調査については出張したりそういうことでできるということなんですが,実際のハーグ案件も含めてですけれども,法務省の委託調査で海外の面会交流支援についての調査をしたときにハーグ案件,国際的な家族紛争,子どもの紛争についての調停と面会交流の支援についての整備状況も調べました。その結果,結局そういう交流支援や調査,それからカウンセリングとかケアをする専門家とかそういうものが要るということが分かりました。日本でも条約第21条で面会交流の支援ということをしなければいけないということになっていますけれども,今回もそうだと思いますが,返還手続の中では従来の今の枠組みの中でやればいいということですよね。そのときに金子幹事もお分かりだと思いますが,家裁に行くと,子どもの引渡しとか親権争いみたいなことが起こっているその中では,試行的な面会交流というのはかなりいろいろな役割を果たします。   そのときに例えば東京だとか大阪だけだということになった場合に,子どもをそうやって連れてきて,日本の場合にはそういうところできちっと面会交流を実施したり何かする安全を確保してやれるようなところというのは非常に限られています。ところが,家庭裁判所には児童室とかそういうところが用意されて,特に高裁管内の福岡とか,あるいは札幌なんかは私も見せてもらいましたけれども,きちっとマジックミラーがあって,監護親というんですか,そういう場所で非監護親と調査官で面接に立ち会っている様子を見られるとか,それから,その子どもの様子を見ながら調査みたいなものも共同で行ったりという非常に手立てが日本の場合にも用意をされているわけです。こういうようなことも例えば面会交流を試行的に行うことによって安心して交流ができそうだから返還の申立てについても和解が成立するというのは結構他でも任意の返還とか和解につながったりすることもあるわけです。そういうことを考えると,前から言いますように,子どもの調査とか試行的面会交流とか,そういうようなことを実施するとか,子どもがやはりできるだけ近いところで可能な状態にやはりしてあげるということは必要だと思います。   ですから,そういうことで体制もあるでしょうし,それから専門性もあるでしょうから,いきなりというわけにはいかないと思いますけれども,是非4庁という案については面会交流の実現ということを考えても,少し子どもの生活環境が全然違うところで違う形での試行的な面会交流というようなことになった場合に,子どもは幾つかやはり環境上いろいろなショックを受けたり傷付いたりということもあるのではないかなと心配します。 ○山本(克)委員 4庁案というのが有力なようですが,具体的にどの4庁をお考えになっているんでしょうか。 ○棚村委員 東京,大阪,それから福岡,札幌ですかね。地域的なことも考えると。 ○山本(克)委員 札幌はどの高裁管内を管轄するんでしょうか。札幌が管轄するのはどの高裁管内でしょうか。 ○棚村委員 恐らく仙台とかそういうあたりになるのだと思いますけれども。 ○山本(克)委員 福岡はどこですか。 ○棚村委員 福岡は四国とか,どっちが近いかの問題になるかもしれません。 ○山本(克)委員 なぜそういうことを申し上げたかというと,地理的な近さと交通の便の良さというのはまた別のものなので,4庁に割ったときに本当に交通の便がいいのかどうかということは考えなきゃいけないんだろうと思うんですね。つまり東北地方から札幌,千歳空港にどれだけの便が飛んでいるのかということも考えると,むしろ東北の方は東京のほうがはるかに時間的には,例えば青森の方でも東京のほうがはるかに近いのではないでしょうか。ですから,その4庁に割るというのは一つの考え方だと思いますけれども,果たしてそれで利便を向上したと言えるのかどうかというのは疑問なのではないかなと。やるのであれば8庁でやるというか,もう2庁,1庁という形で,4庁というのはいかにも合理性がありそうに見えて,実はそれほど利便を向上させないので,むしろ阻害している面もあるのではないかなという気がいたしました。 ○棚村委員 合意ということもあり得るわけですね,当事者の便宜。要するにどっちが近いとか,どこでやりたいということについては合意ということもあるわけです。合意の選択肢というときに,例えば最初から一つとか二つというと,それしかないわけで不便でないでしょうか。 ○山本(克)委員 そこは組み方の問題で,合意があったときに仮に2庁案でも他の庁というのは全くあり得ない話ではないと思いますね,ゼロからのスタートで考えれば。というよりまず入口として外国から来た人がどの裁判所に出向くべきなのかという問題がまず第一に考えなきゃいけない問題であろうと思いますね。ですから,前も申しましたが,外国倒産処理手続の承認援助手続については東京地裁に集中したのは,一つはそこがあるわけですね。   それからもう一つ,子の住所地が必ずしも明確ではないという場合にどうしたらいいのかという問題も考えておかなければいけないんだろうと思うんですね。このDVの防止の観点から,例えば中央当局が子の所在地を突き止めたとしても,それを申立人に教えていいかどうかというのは一つのイシューだと思うわけですよ。その場合に子の住所地でどこか近縁の高裁所在地の家庭裁判所へ申し立てなきゃならないとしたときに,分からないのはどうしたらいいんだということになりかねないので,そういう点では,私は東京家裁に集中するということにしておいたほうが望ましいのではないか。そして,面会交流についてはその東京家裁に管轄集中したら,必ずそこに子どもを呼び出さなきゃいけないということにはならないと思うんですね。先ほど来おっしゃっていますように,いろいろなやり方があり得るわけで,ですから,まず入口としてどこの家裁に外国の方が来られるべきなのか,そこを考えていただきたいと思います。 ○横山委員 棚村委員の4庁案には疑問があります。一つは私の知っているデータだけから言うと,例えば札幌というのはどこを管轄するかということにも関わると思うんですが,私らのあれでいくと,札幌では国際結婚の数が100分の1,東京は17分の1とか15分の1というので,札幌というのは市町村の中でも非常に少ないエリアですね。どうして札幌家庭裁判所が出てくるのかなというのがよく分からないところです。非常に外国人のケースが少ないエリアではないかなと思います。   それから,もう一つ考えなければいけないのは,他の国でもとおっしゃいますが,その他の国の問題で先ほどカナダの例を挙げられましたけれども,カナダというのは州の中の土地管轄のことを言っておられるのか,カナダ国の各州のどこの州が持つかというところで言われているのか教えていただきたい点です。   それともう一つは,カナダとかドイツ,フランスの例を言われますが,総人口に占める外国人の比率というのは圧倒的に多い国です。日本で外国人が総人口に占める割合は1.7%,比較的少ないフランスでも5%はいるわけですね。やはり人口比の問題を考えてこの裁判所の数も割り出すべきなのではあるまいかということ。それから,盛んにフランス,ドイツの例を挙げられますけれども,本当にこの返還手続で優等だった国としてフランス,ドイツを挙げることができるんだろうか。   それから,最終的な判断は,これはこんなことを言うと裁判所に対して大変失礼なことになるかどうか分かりませんが,やはりエリアによって国際私法の観点からすると,やはりいい悪いはあるような気がしないわけではありません。どこがとは申しませんけれども,やはり均質では必ずしもない。どの裁判所だったら責任を持ってやられるかというのは,これは裁判所が一番御存じなので,やはり私は裁判所の御判断というのが決定的だと思います。 ○山本(克)委員 1点だけ。先ほどお挙げになった国の中の幾つかで連邦制を採っておりますので,第一審のジュリスディクション,裁判権が州なり各邦にあるという国がございますので,その例を挙げて分散しているというのは適切ではないと思います。ですから,フランスはそうではありませんので,フランスの例は確かに意味のあることだろうと思いますが,フランスを私はきちんと調べていなくて,今日も資料を持ってこなかったので分からないんですが,中央当局はどこになっているんでしょうか。それとの絡みというものも考えて立案しないと,フランスがこうだから分散しましょうということには直ちにはならないのではないかと。 ○棚村委員 私がお答えすべきことなのかどうか分かりませんけれども,今言いましたような連邦制を採っているところと,それから,特に家族法の問題については州で専権事項になっているところがあって,連邦と州との二重の構造になっているところを日本と同じようには評価できないのではないかということについては,そういうふうに言える部分はあるかと思います。ただ,先ほどもちょっとお話をしましたけれども,一番最初のほうから言いますと,横山委員のほうから国際結婚の数自体が,これ国際結婚自体,特に日本人と外国人との結婚全体だと一時期4万件ありましたけれども,2009年で3万4,000~5,000件ぐらいに落ち着いているかと思います。これは国内で行われた国際結婚ということになります。離婚自体が2万数千件ということで,かなりの割合で離婚も起こっています。札幌あたりの件数自体は横山委員がお調べになったということですが,ただ,渉外関係についての事件の分布を見ますと,東京が非常に多い,あるいは大阪も多いわけですけれども,札幌とか福岡の分布もかなりあります。それから,広島みたいなところも件数は具体的にちょっと今数字が見当たりませんので何とも言えません。ただ,かなりそういう意味では札幌自体の渉外関係の事件数自体は全体から見ると,これは評価の問題ですから,かなりあるようなふうに私には見ました。それから,フランスと他の海外の例を比較するというようなことについては,やはり僕も比較をアメリカ法についてやっていますから,特に同じように議論をするということは非常に難しいというふうには思っています。ただ,先ほどから言うように,8庁の案を当初出したのは,やはり子どもの住所地みたいなことを中心に考えようということでした。ただ,それをある程度の範囲では絞る必要があるということで8庁から4庁なので,8庁のほうがむしろ合理性があるというようなことであれば,私自身は8庁でやってはどうかというふうな考えは最終的には持っています。   もうこれ以上は言いませんが,子どもについての調査とか面会交流とか,そういうような手立ても先ほど山本委員のほうからもそれは他の裁判所に受託するなり,家裁なりそこで実施すればいいだろうとおっしゃつていました。ただそれで連携が取れるか。それから,管轄の問題と実際の調査とか,それから審理とか調整を行うということはずれても別に構わないということであれば,もちろんそういうような形でもう少し機能的にできるということであれば一つとか二つということもあり得るのかなというふうにはもちろん思います。 ○髙橋部会長 もちろん今日決め切るわけではありませんので,また議論いたしますが,今日の段階でこの問題についての御発言はよろしいでしょうか。 ○相原委員 付け加えるという話ではないんですが,ちょっと確認させて下さい。先ほど少しお話が出ました子の所在を中央当局が確知したけれども,それはLBPには知らせていないと,そういう場合に関しては多分管轄は東京になると。多分これは中央当局がありますし,東京家裁になるという理解をしているんです。つまり中央当局が東京にあって,東京家裁がそれを受けて,その後どうするかというのはまた次の問題になるかもしれませんけれども,多分そうでしかないというふうに私は理解していたんです。ところが先ほど少し御意見の中でいろいろ仮定のお話も出てきたので,そういう理解でよろしいんでしょうか。甲案を採るかどうかは別にして,少なくともテイキングペアレントがどこにいるかを中央当局だけ把握し,中央当局が裁判所には伝えるというふうな形になると,そういう形かなと思っていたんですけれども,それは違うんでしょうか。 ○金子幹事 ここは両方考えられますよね。つまり裁判所のほうは子どもの所在地を把握するんですから,管轄地というのはそれで定まりますので,基本はそこが例えば乙案を採れば東京か大阪どちらかに管轄が定まるということになります。あとは管轄でないところに申し立てられたときどうするかということのその流れだと思います。あるいはそういう場合は東京というふうに管轄を決めるという行き方もあると思います。そこはまだ我々としてこうでなければならないというところまで検討していません。 ○相原委員 では,もし8庁になるとすれば,申し立てて,そしたら確知しない場合に関して,これはどこが受けることになるんですかね。結局申立人のほうはどこにいるか分からず,中央当局が分かっている場合に8庁のうちどこに申し立てるかというのはまだこれから考えるということですか。いや,その場合でも全部相手方のテイキングペアレントの住所が分かっているときには8庁になるか2庁になるか意味があるのかなと思ったんですけれども,分かっていないときは全部東京家裁かなと思っていたんですけれども,まだそこまでは決まっているわけではないと,そういう理解でよろしいですか。 ○佐野関係官 ただ,DV等の理由で子の所在地を中央当局から教えてもらえなかった申立人がどの裁判所に申し立てるかについては,組み方としてはどこでもいいよというのもあるのかもしれないですけれども,取りあえず便宜のためにどこかに申し立てるということも考えられて,その上で,その裁判所が今後審理することとする方式にするのか,あるいは裁判所としては中央当局から情報を得てどこに子どもがいるかということは分かっているわけですから,その裁判所が適宜何か他のところ,その地域に移送するなり何なり,そういうことはいろいろな方法として現実問題はどうか分かりませんが,考えられ得るとは思います。取りあえずまだ管轄は必然的にこうなって,ここで絶対やってもらいますというふうなことまで今決めているというわけでは特にはありません。 ○相原委員 決めていないにしても,例えば西日本だったら西日本にいますよといってテイキングペアレントに説明して,そちらの代理人というか,それは中央当局が言うことなんですかね。中央当局がもし大阪にあると言う可能性があるとすれば,そこまでは所在の可能性が出てくるわけですね,今の御発言では。ちょっと中央当局の子の所在地の確定なんかの問題とも絡む問題かなとちょっと思ったものですから,まだ判然としていないので,これから決定されるという理解でよろしいんですか。 ○佐野関係官 中央当局が,例えば子が中国地方にいますよということを教えていいのかとか,そういうこともあると思うので,そことの兼ね合いで更にどうするかは今後検討するべきかなと思います。 ○大谷委員 今の関連ですけれども,今まで私が思い込んでいただけなのかもしれないんですが,相手方が所在を知られたくないと言っている場合,中央当局がその所在を確知して,申立人としては相手方の所在が分からないまま手続を開始するという場合の管轄は,東京なら東京というふうに決め打つのかなと思っていたんです。その理由は相手方としては知られたくないというわけですから,申立先としては一個に決めておかないと申立人も困ると。その後例えば8庁だとしますと,相手方のほうが名古屋でやりたいんだと,そういうようなことがあれば移送ということもあるのかもしれないんですけれども,今正におっしゃったように,どこどこ地方にいるということさえ知られたくないという場合というのはかなりあるかもしれなくて,もうそう言った途端そこに例えば実家があれば実家だろうというような推測が働いてしまうというようなことも懸念されると,結局最後までどこ地方かも言わないと。結局は東京なら東京ということで最後まで行くことも多いのではないかと。   そうだとすると,何で今発言しているかといいますと,相手方の負担ということがずっと考慮要素としてはあるんですけれども,実際かなりの場合に所在を知られたくないということを言われるケースが多いのかなと。実際始めてみないと分からないんですが,それで分からないままやることになるケースというのも相当あるのではないかと。そのときに自分の所在をはっきりさせていらっしゃる方については,応訴の負担ということを本当に考えなくてはいけないんですが,それであっても,例えば8庁案だとしても本当の近くの裁判所に行けるということではないということを考えると,話が蒸し返しになるんですけれども,8庁といっても応訴の負担というのがどこまで本当に現実的にできているのか。あるいは結局所在を秘匿したままということであれば,東京で最後までいくかもしれない。そういったことも何庁にするのかというときの応訴の負担との関係では考える必要が現実にはあるのかなと思っています。 ○辻阪幹事 今,中央当局の在り方に関するパブリックコメントを実施していますけれども,その中で中央当局は自治体等に対して所在を確知するときに情報の提供を求めることができる。そして,更に提供を受けた場合は,その機関は情報を提供しなければならないという形で,かなり強い形での情報提供を各機関に求めていますが,その代わりとして基本的には申請者ないし申請者の国の中央当局には所在の場所を明かさないという案で,パブリックコメントを実施しているところであります。それで,今の大谷委員のお話にもありましたとおり,基本的には相手方にどこら辺にいるのかということも含めて言わないということを前提に考えていますので,そういう意味では日本国内の居所が分からないときは1か所,東京の裁判所なら東京家庭裁判所というふうに決めていただいて,そこの管轄とするという方向が外務省としては望ましいと考えております。 ○髙橋部会長 それはまた。他によろしいですか。次に移ってよろしいでしょうか。   それでは,次の複数当事者についての規律をお願いします。 ○佐野関係官 では,2の「複数当事者等についての規律」について説明したいと思います。   まず,(1)の「当事者が複数の場合についての規律」の箇所ですけれども,ここは当事者複数のうち特に問題となる相手方適格のある者が複数ある場合に,いわゆる固有必要的共同訴訟であるとか必要的共同審判と同様の規律を設ける必要があるかどうかについて検討しております。この点につきましては,そもそも現に子を監護しているものが複数ある場合であっても,その監護しているもの同士の間には常に法律上の共同関係があるとは限らないということが1点指摘できるかと思います。そして,現に子を監護している者が複数ある場合に,全ての者を相手方にしなければならないという規律にしますと,仮に手続が終了した後に一部の者を相手方としていなかったということが判明した場合には,裁判が無効になってしまうとも考えられます。また,申立人において,事実上子を監護している者全て,相手方適格のある者全てを把握して相手方としなければならないとしますと,これは少し申立人にとって酷ではないかなとも考えられるところです。したがって,このハーグ条約に基づく子の返還手続におきましては,あえて手続を共同とすべき規律を導入する必要はないとも考えられます。   ただ,一部の監護者のみを相手方とするということで手続を共同とする必要はないということとしたとしましても,例えば返還拒否事由の判断におきましては,他の監護者の事情というものを考慮しなければなかなか判断ができないことも多いのではないかとも考えられますし,特に一番問題かと思いますのは,一部の監護者のみを相手にした返還命令では,他の監護者がいるわけですから,この返還命令の強制執行というのが果たしてできるのかどうかということも疑問でありますので,今回の部会ではこのような点も含めて,この規律の在り方について御議論いただければと考えております。   次に,「(2)子が複数の場合についての規律」ですけれども,子が複数の場合,複数の子について返還を求める場合につきましては,申立人はそれらを申立ての段階で併せて申し立てることができるとする併合管轄の規律を設けることが相当であると考えておりますけれども,飽くまで子の返還事由であるとか子の返還拒否事由の判断というのは,当該子ごとに判断されるものですから,申立ての段階での併合管轄の規律以外に,例えば必要的併合等の規律を設けるまでの必要性はないのではないかと考えております。ただ,実際の審理の場面では複数の子についての返還事由であるとか返還拒否事由の資料というのは重複することもまま考えられますし,特に子が兄弟姉妹のような場合には,一部の子の返還の有無の判断というのが他の子の返還の有無の判断に影響を与えることも想定されますから,裁判所としては事案に応じ手続を併合するなどとして対応することが望ましいものとは考えられます。 ○髙橋部会長 いかがでしょうか。 ○山本(克)委員 子の返還手続については,家事事件手続法の第41条第2項が準用になるのか,適用になるのかまだ法制的には分からないですが,ということでよろしいんでしょうか。つまり当事者適格を有する者に対する参加命令は入ってくるという理解でよろしいでしょうか。 ○佐野関係官 御指摘のとおりだと今考えております。 ○山本(克)委員 それであるとすれば,おっしゃったように特に執行の点で間接強制を前提とするのであれば,一部の監護者だけを相手にして,それで間接強制と考えるのは非常に難しいのではないのかなという印象を持っておりますので,この参加命令の制度があるのであれば,相手方の適格を有するものが事後的に判明した場合もこれで救ってやることができますので,やはり訴訟共同の必要性という言葉は適切ではありませんが,そういう共同の必要性を認めたほうが後の処理が楽なのかなという気がいたします。申立て時点で確かに特定するのは難しいかもしれませんが,この参加命令さえあればある程度カバーできるのではないのかなという気がします。 ○古谷幹事 今,山本委員のほうから御指摘を頂いた点がよく分からなかった点で間接強制を考えた場合,一部の監護者に対する返還命令だと,それは間接強制できないという説明もあったところですが,では間接強制を行わせないために,具体的な手続としてはどういうふうな形で誰が争うのかということを質問したかったというのが1点です。   もう一つは実体的な話になろうかと思いますが,共同監護,監護者の外延がどうなるのかということで,例えば親が施設に委託をして施設に入っているという場合,どのように考えればいいのかがどうしても実務上は問題になってきますので,教えていただければ有り難いと考えております。 ○山本(和)委員 私,必ずしも経験がないのですが,ちょっと山本克己委員に御質問で恐縮なんですけれども,間接強制が難しいのではないかというのは,ある一人の人に債務名義を取ったときに,その人だけに対して間接強制を掛けるということはまず基本的にはできないだろうという認識を前提にした……。 ○山本(克)委員 できないということをどこで判断するかが明確ではないというのが一番。 ○山本(和)委員 できないことを前提にされているわけですね。 ○山本(克)委員 はい。 ○山本(和)委員 これは請求権の性質がよく分からないところはあるんですけれども,何となく一種の不可分債務的なような感じもするんですけれども,その連れていくということについてですね。不可分債務だとすると,民事訴訟的に言うと,今の判例だと通常共同訴訟として考えているようにも思われて,それで間接強制ができないかどうかというのもよく分からないところはあるのですが,その債務名義を取った人に対してだけ間接強制を掛けるということはできないのかどうか。直接強制は多分できないんだろうと,別の監護者がいればできないんだろうというのは理解できるんですけれども,そのあたりがちょっと私もよく分からないところなので。 ○山本(克)委員 よく分からないので,一番安全なほうをというふうに私は考えておりました。 ○金子幹事 AとBの二人が監護しているというときにAだけに対する債務名義があり,Bがどうしても引渡しに応じないがゆえにAに対して間接強制を掛けるというのは,言わばAにBを説得して返すように,つまり自分の債務がきちんと履行できるようにAがBに働き掛ける義務を設定しないと出てこないような気がするのです。それで,先ほどの不可分債務的な話が出てくるのかもしれませんが,AとBの関係は事案によっていろいろあり得るので,なかなか一概にそういう義務を観念するのが難しいような気がするのですが,その点は,山本委員どうなんでしょうか。 ○山本(和)委員 いや,それは大変よく理解できるところです。だから,ただ,不可分債務だと考えれば,その人が返す義務を負うということが確定されているわけなので,その人はやはり返さなきゃいけないわけで,しかし返していないというのは,義務を履行していないということは言えるんだろうというふうには思うんですけれどもね。 ○山本(克)委員 いや,それで間接強制金を課して構わないんですか。自分では,独力では返せないという人に対する名義に基づいて間接強制金を掛けていいのかどうかというと,私はかなり疑問だと思うんですが,例えば今,先ほどお話にありました施設に母親が委託し預けているというときに施設の方だけを相手方として申し立てて,施設に対して引渡命令が出たと,返還命令が出たと。そうすると,施設の長は母親との契約を解除してもらわないと返せないはずなんですが,解除する義務が生ずるんでしょうか。それ自体がこれ,私法的な権利義務関係というのをかなり無視した制度ですので,そこまで完全に詰め切ってやるというのは,私は非常に難しい,あらゆるケースを想定して実体法的な規律を完全なものにするというのは非常に難しいという気がしますので,先ほど言ったような方にしたほうが紛れがないのではないかなという気がしているということです。 ○山本(和)委員 よろしいでしょうか。恐らくそれは現行法でも例えば共有物の返還請求について間接強制を入れましたので,同じ問題が多分あって,それで,それ私が調べた限りではどういうふうに考えられたのかよく分からないところがあるので,私も確たることは言えないんですが,仮にだからそれができないということを前提としても,次にまた更にだからといって必ず必要的にやらなきゃいけないかどうかというのは,また別の問題としてあるのではないかという感じがして,共同で従来もそういう場合に共有物の返還は間接強制がなかったら直接強制しかなくて,両方について債務名義がないと駄目だけれども,しかし,通常共同訴訟だと理解されてきたわけですね。片一方に対しては必ずしも債務名義を取らなくても同意するかもしれないとかということが言われていて,別々にやってもいいというふうに正当化されていたと思うんですけれども,それとパラレルに考えれば仮に強制執行がそろわないとできないとしても,ばらばらにやるということはあり得ることかなと思うんですが。 ○山本(克)委員 これは申立ての期間が限られているというのがありますので,あれは順次債務名義を取ればいいという判例ですから,その時間の制約というのは余り考えていないわけですよね。それとともに,直接強制を念頭に置いた判例であるということで,本当に間接強制を認めた後に維持できているかどうかというのを一つ大きな問題ではないのかなという気がいたしますので,あの昭和44年判決を前提に考えるのはちょっと事案が違う,異にするのではないのかなという気がいたします。 ○磯谷幹事 先ほど施設に子どもが入っている場合という話があって,このあたりは今初めてちょっと認識をしまして,なかなか難しい問題だと思って,何か答えがあるわけではございませんけれども,一般に障害児だと少し別かもしれませんが,例えば児童養護施設などですと,これは委託で入れるのではなくて児童福祉法の27条1項3号という行政処分によって,都道府県知事が行政処分をして,そして児童養護施設等に入所措置をすると。したがって,その児童養護施設などは確かに現に子を監護しているとはいえ,それは飽くまでも児童福祉法上の措置によって監護しているということになりますので,したがって,例えば児童養護施設を相手方として申立てをされたときに,施設としては一体どういうふうに考えればいいのか。その行政処分との関係がどうなるのかというところがよく分からないなというふうに正直思いました。   一方で,このハーグの手続とは異なりますけれども,よく児童相談所が子どもをお預かりしているときに例えばお母さんから預かったけれども,その後監護者の指定であるとか親権者変更等でお父さんのほうがその権限を持つということになりますと,返すときは当然お父さんのほうにお返しをするということになっているわけですけれども,このハーグのほうでは,この返還命令というのをそういう実体的なものと考えないとすると,命令が出たことで,では誰にどう返すのかとか,非常にちょっとごめんなさい,私自身も今初めて聞いて混乱しておるんですけれども,なかなかこれ難しい問題だなというふうに感じております。 ○棚村委員 これは多分申立てとか,あるいは参加等も少し関わってくる,相手方ですかね。結局現に監護をする者という形で相手方を考えて,そして,今言った手続の併合とか,それから参加とかということでも結局他でも問題になってくるのは,やはりどういう範囲の人であれば当事者に準じて扱えるかという中で,よく出てくるのは里親とか事実上の両親とか,あるいは祖父母とか,それから児童養護施設なんかの場合も出てくる余地があると思います。こういうときに監護権を侵害されているというような概念をどういうふうにライト・オブ・カスタディとか,それをどうするかというので,広く見るところとやはりかなり限定的に見るところがあります。それから,今年のイギリスの最高裁のリーイー事件なんかですと義理の姉が問題になっています。要するに再婚を母親がした後にその義理の妹たちが別れてノルウェーから結局イギリスのほうに母親が里帰り型で来てしまって,ノルウェー人の父親が申立てをしたケースです。そのときに,これは欧州人権条約の解釈が問題になったのですけれども,結局その義理のお姉さんに当たるような人も申立て資格みたいなことが認められるのか,利害関係を持つのかどうかとか,日本でもそういうことが起こってくると思います。ですから,やはりこのあたり,余りそういう人をたくさん入れると審理が複雑化したり,それから遅延をしたりという問題になりますし,実質的な当事者になるような人を含めておかないと山本委員が言われたように,実効的な解決につながらないのではないかという問題が出てきますので,恐らく参加とかそういう他のところでも相手方をどういうふうに捉えていくかということ,それから,手続をどういう形でもって併合していくかというのは非常に関連してくるのではないかと考えます。そのときにやはり監護権が侵害をされているというその概念も大いに問題になります。これは注釈書とかいろいろなところで議論になってきますけれども,誰を相手にしてどういう手続で,どんなような形で処理をすることが一番余り複雑にしないで実効的な解決ができるかという点は各委員がおっしゃったように,最終的に審理の構造とかイメージをどういうふうに持っていくかということと関連しているので,ここだけで多分答えが出てこないのではないかという感じを持ちました。 ○髙橋部会長 古谷幹事が御指摘の現に子どもを監護しているものの範囲というのは,棚村委員御指摘のように次の参加でも出てきます。(1)の点は二つの考えが出されましたが,(2)の「子どもが複数の場合の規律」は特に必要的併合の規定までは設けない。併合管轄の規定は設けてもいいけれどもというあたりでよろしいでしょうか。   それでは,関連いたしますので,参加のところに入ります。 ○梶原関係官 参加について説明します。   まず,「(1)手続からの排除」についてですが,当事者であった者が当事者となる資格を有しないことが判明した場合や当事者となる資格を喪失した場合には,裁判所の判断でそのようなものを手続から排除することができるとする規定を設けるものです。これは本手続が子の社会的背景に関する情報を含め,個人のプライバシーに関わる情報を扱うことから,そのような者をいつまでも当事者としての地位にとどめておくと,例えば当事者として記録の閲覧などができ得るということになるなどの弊害が生じ得ることから,こうした事態を防ぐ必要があることを考慮したものです。   次に,「(2)利害関係参加」についてです。返還を求められる子についてですが,裁判の結果により直接の影響を受ける立場にあることを考慮し,利害関係参加を認めることを前提としています。ここでは,法文上どのような表現をするかは別として,返還を求められている子以外にどのようなものに当事者に準ずるような立場で手続追行することを認めるのが相当かを御検討いただきたいと存じます。一般的には本手続が迅速処理の要請が高く,手続が複雑になることを避ける必要があり,現に監護している者について十分に手続追行の機会を与えれば,それ以外のものに独自に手続の追行を認める必要はないとも考えられます。   検討すべきものとしては,①として返還申立ての対象とならなかった兄弟姉妹,②として現に子を監護していない親が挙げられます。①の兄弟姉妹については,独自に手続の追行の機会を与える必要は乏しいと考えられる一方,兄弟姉妹が分離されないことの利益を考慮し,返還を求められる子に準じて考えることもできるのではないかとも考えられます。なお,ここでの兄弟姉妹には返還を求められる子と同居しているものの満16歳に達している子も含まれます。②の現に子を監護していない親についてですが,本手続が子の返還の可否を判断するものであって,監護権の所在について判断するものではないことからすると,現に監護している者とは別の法的利益を認めることはできず,参加を認める必要はないとも考えられます。なお,例えば返還を求められる子とは仕事の都合上同居できないために両親に子の監護を一応委ねているものの,常に子の監護に気を掛けているものについては現に子を監護している親として相手方に含めるものと考えることもできそうです。   この他に利害関係参加を認めるのが相当なものとしてどのようなものが想定されるのか御意見を頂きたく思います。また,部会資料には直接記載していませんが,利害関係参加するに当たって,家庭裁判所の許可を必要とするかどうかということも問題になりますが,許可を必要とすることを想定しています。   さらに,3の(注)に記載しておりますが,返還を求める子及びその兄弟姉妹で未成年であるものについては,手続に参加することで一層父母間の対立に巻き込まれるなど,これらのものの年齢や成熟度によっては参加を認めることがこれらのものの福祉の観点から好ましくない場合も想定されます。そこで参加がそのものの利益を害すると認めるときには,参加を認めないこととする規定を設けることが考えられます。   参加は以上です。 ○髙橋部会長 いかがでしょうか。 ○棚村委員 先ほどもありましたけれども,現に監護をしている者といったときに,前のときもちょっと御質問したのですけれども,事実状態として監護という概念を把握していくのか,それとも法律状態として把握するのかということで,私はある程度相手方の資格とか適格性を判断しなければならないので,かなり明確な基準にしないといけないと思います。ところが,今言ったように事実上の監護状態だけを問題にすると,法的な監護状態というんですか,そういうようなものが完全に抜け落ちてしまうときに何らかの形でやはり参加という道も入れておかないとならない,申立ての資格のときにある程度限定をして,なおかつ法律状態に関わって非常に複雑な問題が生じたとき,例えば海外ですと,先ほど言った祖父母とか,親代わりで育てていた祖父母とかそういう人たちが非常に関わってくる場合があります,子の返還について。そのときの議論をちょっと見ていると,やはりもし現に子を監護している者を監護状態の現状,事実的に把握をするということになると,法律的には先ほど磯谷幹事がおっしゃったような事例というのが出てくる可能性がありますので,そのあたりのところでどういうふうにお考えかとお聞きしたい。つまり参加の範囲を更に限定してしまいますと,実効的な解決ということがなかなか難しいということは起こらないかということをちょっとお尋ねしたいというご質問です。   つまり現に監護していない親ということを全く排除してしまうと,場合によっては,法的には先ほど言った児童福祉施設に行政処分として,措置として同意に基づいて入っているという場合がありますね,お子さんが。そのときに返還の相手方となるのは施設ということ,児童福祉施設とか養護施設ということになって,施設長を相手にするということになるのか,それとも同意をして措置は採ったけれども,親権とか監護権というのは親のほうにもやはりあって,場合によってはそれを返してくれと言われた場合には返す必要が出てくる場合もあります,程度とか内容によりますけれども。そのときには要するに事実状態と法的な状態というのが少し複雑に絡んでいる場合には,これ参加ということを認めることによって,現に事実状態として監護はしていないけれども,法的にはいつでも返せということが言える人まで入れる必要はないのでしょうかという質問です。 ○佐野関係官 ここの参加の範囲をどのようなものまで認めるかというのと,あと,相手方適格あるいは当事者適格をどこの範囲で認めるかというのは,多分こっちを広くすると,こっちは狭くなって,でも,こっちを狭くすると,こっちは広くなってという関係にあると思うので,そのような観点も含めてこの,全体的に建て付けとしてどういうものがいいのかという点を積極的に御議論いただければと今回は考えております。棚村委員の御指摘も踏まえて,更に他の委員,幹事の方から御意見を頂ければと思います。 ○犬伏委員 当事者の概念が事実,やはり現に監護しているということは事実の状態を指しているように思うのですが,そこのところの事実概念なのか,先ほど古谷幹事もおっしゃったように,実体法的な権限が参加のほうで入れていくのか,あるいは執行の点で債務名義の債務者がそういう事実的な概念に基づいた債務者というふうになっていくのか。当事者が事実概念に基づけばそれが債務者になろうとは思うのですが,そこのところはまだはっきりしていないということで今後議論して詰めていくということでしょうか。 ○佐野関係官 元々相手方適格のある者というのは,条約を素直に読むと,現に子を監護しているという事実状態から出発しているんだろうとは思うんですけれども,子を実際に監護しているかどうかだけで判断していいのかと。結局,相手方適格で排除してしまうと,必要な者が相手方にならなくて,必要な者が手続に出てこなくなって,場合によっては参加もできなくなってとかということにもなり得るので,今回この二読では,相手方としては元々の出発点としては御指摘のとおり事実上の監護だろうとは思うんですけれども,参加で吸収するか,相手方適格で吸収するかということも含めて,全体的な整合性の中で御議論いただければと思っている次第です。 ○大谷委員 正に今おっしゃったとおりと思っていまして,迅速な手続なのでたくさんの人が入ってきて複雑にしないようにという配慮も他方でありますけれども,こぼれ落ちてしまって一回的な解決にならないということも避けたいということからしますと,例えば想定できるとすれば,親が連れ帰ってきて,それで完全におじいちゃん,おばあちゃんが監護していると。そのために連れ帰ってきた親は現に監護していないと。ただ,そういう関係はその後どうなるかやはり分からないと,申立人からしますと。一時的にそういう状態なのかもしれないしとか,いろいろな場合が想定されると思うんですね。なので,私どもいろいろ検討した中では,ここについてはそれを利害関係参加できないというふうに決め打ってしまう必要はないのではないか。やはり広めに参加できるようにしておいたほうがいいのではないか。特に参加が職権で引き込むのと申立てとあると思うんですけれども,仮に申立てで来ているとすれば,それはやはり参加させておいたほうがよいのではないかと,そのように考えた次第です。   それから,ついでに申し上げますと,子の兄弟姉妹ですが,確かにそういう兄弟姉妹まで入れてしまうと広がり過ぎるのではないかという懸念がある一方で,諸外国の裁判例等を見ておりますと,やはり兄弟姉妹の不分離ということがかなり子の利益として配慮されているという実態が見える中で,そのような申立ても認めている諸外国の裁判例も見られます。そうすると,そこもやはり事案によってということがあって,完全に排除してしまう必要はないのではないか。結論的に申し上げますと,利害関係参加をすることができる者は広めにしておいてよいのではないかと。そうしますと,私が誤解していたら訂正していただきたいんですが,現在の家事事件手続法の42条のような規律をもし置くとしますと,先ほど御説明のありましたとおり,許可を得てということなわけですよね。この許可が申立てさえあれば許可しなければいけないというようなことであるなら別ですが,そこで一応の裁判所としての裁量で許可しない場合が入るということなのであれば,利害関係参加ができるような人の範囲としては広めでよいのではないかというふうに考えます。もしそうだとすると,42条の現在の規律だと,審判の結果により直接の影響を受ける者又は当事者となる資格を有する者ということで,例えば子の兄弟姉妹や現に子を監護していない親がこの現在の42条の直接の影響を受ける者に入るのかどうかという観点では,もし私が今申し上げているような広めという規律にするのであれば,表現方法は少し検討の必要があるのかなというふうに考える次第です。 ○山本(和)委員 私,実はよく分かっていなかったんですが,子の返還拒否事由とかの中に相手方が同居する家庭で暴力を受けて子に著しい心理的外傷を与えることになるというようなものが入っていて,この場合の相手方というのは,先ほどのような児童養護施設とか,あるいはその親の両親とか,そういうものだと考えると,ほとんど無意味な規定になるような気がして,ここで想定されているのは,元々同居していた配偶者のことを意味しているのかなと思っていました。ですから,そういう人は相手方になるのかなと思っていたのですが,もし今のようなお話で,基本的には働いているので両親に預かってもらっているというような場合には両親が相手方になるとか,あるいは児童養護施設が相手方になるということであれば,少なくともこの利害関係参加のところでは現に監護をしていない親に参加を認めないと,恐らく今のようなところでは自分が暴力を受けたのでということを言う機会をやはり与える必要はあるのかなと思いますので,もしそこはそういうふうに当事者適格が決まるんだとすれば,この②も認める必要が少なくともある場合はあるのではないかなという印象を持ちました。 ○磯谷幹事 なかなか当事者かこの利害関係参加かで錯綜するところですけれども,私もまだよく検討しなければいけないとは思いながら,先ほどの施設ということも考えると,やはりこの当事者,つまり相手方になるべき人というのは,やはり何らか私法上の権限に基づいて子を監護している人でないとおかしいのではないか。先ほどのように児童養護施設などというのは行政処分によって子どもを預かっているということで,この児童養護施設が相手方になるというのは本当に私としては非常によく分からない。そんな返還命令を出されたところで,行政処分のほうが消えなければ,これはそのまま返せないわけですし,ましてや児童養護施設がそれを常居所地国に子を連れていくのかというのも非常にちょっと想像し難い場面だと思うんですね。また,別の例ですけれども,おじいちゃん,おばあちゃんに仕事の関係でお母さんが子を預けているというような場合も,これおじいちゃん,おばあちゃんというのは独立した何か利益があってということではなくて,やはり決定権というのはお母さんにあるはずで,ですから,命令を出す相手というのはやはりお母さんでよろしいのではないか。つまりお母さんが返すということであれば,おじいちゃん,おばあちゃんについても特段異論はないのでしょうし,逆に何も権限のない人が持っているということになれば,別途例えば人身保護請求などで対応が可能なのではないかというふうに,私も余りそのあたりは経験がないので分かりませんが,そういうふうに思うと,やはり相手方になる人というのは何らか私法上の権限があって子の監護をされている人というふうに考えるべきなのではないかなというふうに今のところは思います。 ○山本(克)委員 今の私法上の権限というのは何法によって判断されるんでしょうか。つまりこれ,渉外的な法律関係を前提としていますので,日本法が適用されるとは限らないわけですよね。むしろ監護権侵害があって子を連れてきたというのが想定されているわけで,子を連れてきたことが監護権侵害に当たるんだということを前提としているわけですから,連れてきた人に監護権があったら,そもそも成り立たない。条約の適用の範囲を超えているわけなのではないのかなと私は思っておりまして,その私法上の権限ということに着目することはできないケースだからこそ,現に監護している者ということになっているわけで,おっしゃる趣旨は行政処分との関係とかそういうところは今後詰めなきゃいけない問題だというのは私も御説明を受けて認識いたしましたけれども,私法上の権限と言ってしまうと,準拠法をもって判断しなきゃいけないはずなので,そこのところを抜きに何か日本法が適用はあるんだということを前提に議論するのは,この制度との関係では適切ではないんだろうと思います。 ○棚村委員 私も当事者というか相手方ですね。相手方になる人については現に監護する者ということでいいかと思っています。ただ,問題は磯谷幹事もおっしゃっているように,相手方についてはやはりかなり一義的に明確にしておいたほうがいいのではないか。それから,ただ問題は,先ほど言ったみたいに事実状態と,それから法的な状態が非常に複雑になって分離したり,それが一時的に分離をしている場合も起こり得るわけなので,参加の範囲を先ほど言いましたように,少し広げるということで引き込んで問題の解決や審理の適切さみたいなのを確保するのに必要な範囲でもって,特に祖父母なんかがやはりかなり問題になるのと,それから,最近はやはり横の拡大家族として再婚したりいろいろなことありますから,兄弟姉妹も実は親と同じように面倒を見たというような場合もあり得るわけです。見ていたとかそういうことはあり得るので,親代わりみたいな,ロコペアレンティスみたいなことで出てくることがあると考えられます。それから,兄弟姉妹の関係を先ほど大谷委員が言ったように分離をやはりすることは子の福祉にとってよくないというような場合もあり得るので,利害関係の範囲を少し調整して相手方,申立人については,私自身は現状の現に監護をするという形で一応落ち着かせていいのかなと思います。山本委員もおっしゃっていたようなところで落ち着かせた上で,法律の利害関係ということがちょっと厳し過ぎて,家事事件手続法のほうでいくと当事者に準じるという形で,かなり限定的な形になっていますので,それを少し緩める可能性はないかという大谷委員の意見とほぼ同じです。 ○磯谷幹事 私も本当に考えながら今しゃべっているような感じで,今,山本委員のおっしゃったのはなるほどというふうには感じました。ただ1点,確か監護権はもちろん相手方,つまり連れてきたお母さんのほうが監護権を持っていたとしても,なお置いてきている親の監護権も侵害していれば,それはそれで対象になるということなんだろうと思いますが,それはともかくとして,そうすると,現に子の監護をするという監護の中身についてですけれども,私法的なところということでないにしてもやはり掘り下げる必要があるのかなと思うんですね。本当に余りありそうもない例で申し訳ないんですけれども,例えば子が何かちょっと非行して少年院に入っているとかいうふうな場合に,では誰を相手にするのかとかいうことにもなりかねないので,やはり全くまだ感覚的なところですけれども,やはり行政処分とか司法の作用によってというところは,果たしてそれがここで言う現に監護に入るというふうに考えていいのかなとか,ちょっとそのあたりはなお検討の余地があるのではないかなと感じました。 ○大谷委員 すみません,また祖父母の例を出して申し訳ないんですが,例えばですけれども,親が仕事の都合で祖父母に預けているから,その決定権は親にあるといいましても,そうは言っても実際に命令が出ると,祖父母は子を離したくないとか,あるいはいろいろな例を考えられるので,私は基本的に広めにとにかく当事者なり利害関係参加なり,先ほど事務当局のほうでおっしゃったように,どっちで拾うかの話かもしれませんが,広めに手続が及ぶようにしておくことがよいと。児童養護施設に預かっている場合とか少年院の場合とか考えると,出すと分からないんですけれども,そういう場合も大変単純な発想で申し訳ないんですが,親も一緒に掛けておくということで,ともかく申立人のほうとしてはいろいろやってみて,せっかく命令まで行ったのに,何かそれでは足りなかったとかうまくいかないと言われるということが非常に問題なわけで,先ほどの論点で必要的にするかどうかという話にも関わってきますけれども,私は手続としてはできるだけ広く拾えるようにしておくのがよいのではないかというふうにもう一度繰り返させていただきます。   もう一点,ちょっとここで申し上げておきたかったのは,先ほど事務当局のほうからの論点として御紹介のありました子の利害関係参加ですけれども,もちろんおっしゃるように子の年齢や発達の程度等から,かえって手続に参加させることが好ましくないという場合が可能性としてあるということは私も承知いたします。ただ,そうは言いましても,このハーグ手続というものが非常に子自身にとっても重大な影響を及ぼす事項で,児童の権利条約第12条の趣旨から言って,できるだけ参加を認めようと。他国でも,当初は手続が複雑になるからということで余り認めなかった傾向があるように思いますけれども,最近はむしろ広げてきているように話を聞いている限りで理解しております。その中で,また先ほどの論点に戻るんですけれども,少なくとも家庭裁判所の許可ということがワンクッションあって,そこでやはりこの場合は認めるべきでないだろうということがはねられるのであれば,私はわざわざ家事事件手続法第42条第5項のような,まるで何か参加をさせることがその子の利益を害するようなことがかなりあるような,そのときには却下しなければならないとまでの規律を置くということについては賛成できないと。むしろ許可というところの中に読み込んでいただくのでよいのではないかと思います。 ○山本(和)委員 今までの御議論で,当事者で拾うのか利害関係参加人で拾うのかという話になって,こっちが縮まればこっちが広がるというお話になっていますが,ただ,当事者と利害関係参加人で違うのは,当事者に対しては命令が出せる債務名義になるわけですね。利害関係参加人は飽くまでも参加人ですから,その人に対して何か命令をするということは基本的には想定されていないと思うんですね。ですから,まず確定すべきは先ほどの強制執行をするには,誰に対して債務名義を持てば強制執行ができるのかということを確定して,先ほどの例で言えば,祖父母に出せばできるのか,親に対して出せばできるのか,あるいは両方に出さないとできないのかということをまず確定して,その必要最小限の相手が当事者になるべきものということになるんだろうと思います。誰が当事者になるかということが決まってから,残った人は利害関係参加人として認めるべき地位を持っているかどうかという議論でないと,何かどっちかに入っていればいいよと。手続保障の観点からすれば,どっちかに入っていればいいとは言えるんだろうと思うんですけれども,その強制執行も考えると,両方に今債務名義が必要だという前提でお話ししていますが,そういう立場を採れば,そこをまず確定する必要があるんだろうと思います。 ○大谷委員 ありがとうございます。おっしゃるとおりだと思います。そうだとすると,すみません,もう一回整理しますと,当事者として拾うべき現に監護する者というのは事実上でよいと思いますが,その判断が現実にはなかなか非常に難しい。その判断を実際には結構広めに取らざるを得ない場合が多いんだろうと思います。そういうことで,先ほどの発言をどっちかで拾えばいいというのは若干不正確でしたので訂正させていただいて,むしろ債務名義が及ぶかどうかという観点では,当事者で拾うべき場合というのを当事者の定義を変えるつもりはありませんが,かなり実際の手続では広めに考える必要があるんだろうということを前提に,ただし,さりながら,利害関係参加の範囲としても私としては広め,特に先ほどの子の兄弟姉妹の点などは広めでよいのではないかという意見はまだ維持しております。 ○山本(克)委員 子の兄弟姉妹の参加というときには,一つの要因としてはそういう人たちとの生活環境を変えることが対象である子にとって望ましいかどうかということの判断が容易になるというお話がちょっとあったように思うんですが,それはしかし,調査対象の問題であって,参加の問題ではないと私は思います。参加というのはやはりその独自の利益を持って手続に影響を与える利益を有しているかどうかということで,子の兄弟姉妹にそんな利益があるんでしょうか。それ自体がよく分からないんですが。 ○相原委員 この観点につきましては,先ほど棚村委員もちょっとおっしゃったかと思うんですが,実務上も単なる間接的な影響というよりは現実に兄弟が一緒に育っていくということに対して,それなりの価値が認められていると思います。実務上私なんかも体験したケースでも,葛藤している高葛藤の両親の下では兄弟姉妹の結び付きというのは非常に重要ですし,それは当該の対象となる子だけでなく,一緒に育っている兄弟姉妹,ここにおける利害関係を主張するという子の利益でもありますし,相互の利益として十分認められるし,価値があるものというふうに感じております。 ○山本(克)委員 よろしいですか。その対象の子以外の兄弟姉妹の健全な発達を阻害するかどうかという点が返還拒否事由になっているのであれば,当然私は利害関係参加を認めるべきだと思いますけれども,そうはなっていないわけですよね。飽くまでも当該子の福祉という観点を判断しなさいというふう条約はそういうふうになっているんだと私は思っております。純粋に国内法の問題であれば,そのような考え方というのは非常に説得力があるんだろうなというふうに伺っていて思いましたが,条約にはそういうことは私は書いていないように思いました。ですから,条約の拒否事由との関係で何らかの独自の利益があるのかどうかという点が一番重要なのではないでしょうか。 ○棚村委員 今,ハーグの常設事務局で整理したり何かしている最近の判例なんかを見ましても,子に対する重大な危険,グレーブリスクというときにDVとかファミリー・バイオレンスという問題がもちろん注目もされていますけれども,兄弟姉妹との関係とかそういうことについても子に対する耐え難い状況とか,そういう精神的な状況ということで主張もされていますし,問題にはなっているかと思います。 ○山本(克)委員 決してそれを否定しているのではなくて,当該対象の子以外の兄弟姉妹の福祉というものの利益をこの手続に反映すべきものなのかということが問題だというふうに申し上げているわけで,当該子の福祉だけを考えるのであれば,兄弟姉妹を調査対象とすれば足りるのではないかと。独自の手続保障を与える利益が果たしてあるのかどうか,条約の構造との関係でそういう利益を認めることができるのかどうかはまだ説得されていないということです。 ○相原委員 調査対象とすれば足りるということですか。ただ,その主張自体を子どもと,それからテイキングペアレントが必ずしもできるのかというふうにも思ったりするんです。つまり調査対象として兄弟姉妹の主張について,必ずしも確実に調査ができるかどうかということは不確実ではないかなという気がするんですが,いかがでしょうか。 ○山本(克)委員 そこは実務的な話なので,よく分かりませんが,むしろ裁判所の方にお教えいただければと思います。 ○金子幹事 最後の問題は返還を求められていない兄弟姉妹から分離されたときに,返還を求められている子の返還拒否事由をどう拾うかという問題かと思うんですが,そういうことですよね。それは多分かなり実務上の運用に委ねられて,通常の参加概念は,参加するもの自らの手続上の地位という角度から議論されていたので,別の人のために自分が参加するということを想定している利害関係参加としては考えていないのです。別の観点から新たな参加概念を作るというのなら別ですけれども。 ○棚村委員 多分家族の中でそういう絆とか関係というのがどういう意味を持っているかという評価の問題になってしまうのかもしれませんけれども,少なくともいろいろな家族の関係の中で兄弟姉妹との関係というのは相互的なものですから,そういう意味では先ほど言ったようにおじいちゃん,おばあちゃんが実は親代わりをするとか,それから,年が少し離れたそういうお姉さんが下の子の面倒を見るとかいうことはあり得るわけです。ですから,それが直接独自の利益として家族関係の中で重要な役割を果たして,子の福祉にも直接のやはり影響を与えるような立場であったら,それは参加を認める可能性はあってもいいのではないかということなので,必ずしも兄弟姉妹だからイコール直ちに当事者に準じて扱えというのは,家族内の質とか中身とか実情とかによって相当変わってくると思います。ですから,そういう可能性を残しておくべきであろうという意見なものですから,御理解いただければ。 ○早川委員 兄弟姉妹が非常に重要だというのは確かにそのとおりなのですが,やはり参加する人の独自ないし固有の利益を手続の中に反映させる必要があるかが問題なのではないでしょうか。棚村委員がおっしゃったのは,返還が求められている子の福祉のために兄弟姉妹のことをも考えなければいけない,そのためには兄弟姉妹が参加人として出ていって話したほうがいいだろうということではないかと思うのですが,兄弟姉妹自身の固有の利益が正面から問題になるのではないとすれば,参加人とすることまでは必要ではないのではないかという気がいたしますけれども。 ○大谷委員 山本委員が整理してくださったので,なるほどと思って聴いていたんですけれども,先ほど私が発言したときも頭の中は返還の審理対象になっている子のために何か言うみたいなことで自分は考えていたというのがよく分かりました。その上で,諸外国の裁判例でも子の兄弟姉妹から参加の申立てがあれば常に認めているということではなくて,かなり限定的だと思うんですけれども,それでもなぜ迅速だと言われている手続でも可能性として残されているように見えるのはどうしてだろうと今考えていて,実際の事例を見ていますと,こういうことがあるんですね。   例えば上の子が16歳未満で,やはりこの返還審理の対象になっているんだけれども,14,5歳,それで下の子がかなり小さいと。そういう場合に上の子については子の異議でもう既に返還しないということが一応判断されていると。その下の子についてどうしようということになったときに,兄弟姉妹不分離ということで一緒に返さないという判例もあるんですけれども,私から見ると乱暴なんですけれども,兄弟姉妹不分離なので一緒に帰りなさいということを命じたものもあって,日本ではそういうことが起きないだろうと思っていますが,それで,実際に現実のことを考えますと,例えば子が小さいときに下の子について返還命令が出ると,親としては一緒に帰るという選択をせざるを得なくなる場面というのがやはりあるんですね。そのときに上の子については確かに返還命令としては,子の異議なので命令は出ないけれども,結局の下の子が帰りなさいということになると,親もついていくと。そうすると,自分だけ残れないので結局は帰らざるを得ないといったようなことで,やはり子本人,下の子のために自分も参加して何か言いたいということではなくて,上の子自身の問題として参加をしたいという場面があると。かなり限定的な例を申し上げているかもしれないんですが,そうしたこともあるので,私も棚村委員と一緒で,兄弟姉妹から参加の申立てがあれば全て認めるべきと思っているわけではなくて,可能性としてやはり様々な場合を考えて広めにしておいたほうがよいのではないかと考えます。   そうしますと,先ほど私が家事事件手続法第42条の直接の影響を受けるものというところは広くしたほうがいいのではないかと申し上げたんですが,今のようにもし考えて,そのような子の兄弟姉妹も利害関係参加の範囲にもし入るとしたら,それはやはり審理の結果により直接の影響を受けるものということでの参加というふうに整理するべきなんだろうなと考えながら,先ほどの発言について自分で訂正したいと思います。 ○山本(和)委員 いや,もう基本的に今,大谷委員が言われたことと同じことを言おうとしました。まず,参加できる審判の結果により直接の影響を受けるというのは,結局対象の兄弟が帰ってしまったことによって親も一緒に帰るとか,あるいは別れてしまうということが直接の影響であるというふうに認められるのであれば,そこで参加の利益というのはあるんだろうと。あとは,そのこと自体は返還拒否事由にはなっていないので,個別の返還拒否事由を主張しなければいけないと,主張していくということになるわけですが,その地位を認められるというのはそういう場合が兄弟姉妹の場合にはあり得るだろうということは言えるんだろうというふうには思います。 ○山本(克)委員 今の例については私も異論ございません。最初おっしゃっていたのは,どうも兄弟の本当独自の利益というものをお考えになっていないようだったので,それで私は発言しましたので,今おっしゃった事例は私,想定しておりませんでしたので,それについては大谷委員や山本和彦委員がおっしゃるとおりだと思いました。 ○早川委員 私も,山本克己委員と同じく,大谷委員や山本和彦委員の御意見を伺って,なるほどそのとおりだろうと思いました。 ○金子幹事 そのとおり返還を求められていないほうの兄弟姉妹の独自の利益をそう観念するなら,そういう理解が可能なんだと思いますが,家事事件手続法第42条で想定していたものよりはかなり広い気がいたします。もう少し直接的な影響を想定していましたので,法律上の直接的な影響ということを想定していたので,少しこの文言をそのまま使うと,家事事件手続法との関係を整理しなきゃいけないという気がしています。 ○棚村委員 1点だけ補足しますけれども,フランスなんかは祖父母の面会交流権というのはかなり古くから血のつながりがあるからということだったんですが,アメリカでもどこでも最近はやはりかなり離婚とか再婚とかいろいろなことも増えますので,拡大家族についても面会交流権を一定の親とは違うちょっと厳しい基準で積極的に子の利益になるのであれば認めるという条文があり,その中に兄弟姉妹もかなりもう入ってきています。そういう意味では家族が再編したり離婚,再婚のときに実は兄弟のきずなというのは大切なんだけれども,それをやはり引き離していいのかということも問題になっていますので,独自の利益をやはり面会交流権の規定なんかは実体法上持っているところがありますので,そういう傾向も海外から連れ去られた場合なんかは特にあり得るのではないかと思って発言しました。 ○古谷幹事 注書きのところで未成年者の利害関係参加の申立ての参加を許さない規定を設けるかというところで,先ほど大谷委員から御指摘があったと思います。この点については,参加を認めること自体が子の利益にならないという事態は想定されるところなので,何らかの形でその参加を認めない規律を設ける必要があると考えています。   その方法として,今の家事事件手続法第42条第2項のような形にするのか,第5項のような形にするのか,これは議論があり得ると思いますけれども,家事事件手続法においては直接の影響等の要件については第2項で判断して,子の福祉,利益の関係は第5項で判断するという整理であり,もしそのような整理をされるのであれば,第5項のような形での規定を設ける必要があると考えています。 ○髙橋部会長 分かりました。 ○織田幹事 利害関係参加者の範囲についての御議論は非常によく分かりました。ただ,そのように解した場合に,誰が利害関係参加者であるのかという確定をするためには,かなり中身に立ち入って考えて検討しないといけないということにならないだろうかということがちょっと疑問に思いましたので,質問させていただきます。 ○髙橋部会長 どなたへの質問かというのはありますが,審理はそれだけ深くはなりますが。 ○棚村委員 利害関係の有無ということと,それから,ちょっと規定振りで先ほど古谷幹事が言った子の利益になるかならないかということで二つ置くとしたら,そこのところで判断せざるを得ない感じはすると思います。今法律上の利害関係というときの直接といったときの直接性を厳しめにすればかなり限定されるし,ちょっと運用していってチェックをし,審理の遅延とか複雑化を避けるということでやれば,私たちが言っている少し実態に応じた参加ということの可能性はあるのではないかと思うのですが。 ○金子幹事 参加のところでも当事者というか,相手方の適格については少し広めに取ったほうがいいのではないかという御意見が出ましたが,もう一度翻って,そのような議論を踏まえて必要的手続共同のあたりをもう少し御意見いただけると有り難いのですが,いかがでしょうか。 ○大谷委員 私は民事執行法は不勉強で,先ほど御議論を伺っていて間接強制ができなくなるのではないか。つまりA,Bいる場合にAだけに対して債務名義がある場合ですけれども,そこら辺が不勉強で申し訳ないんですが,不勉強を前提に申し上げますと,もしそうなのであれば,それは実務の立場から言いますと,せっかく返還命令まで出ているのに間接強制すらできないというような事態というのは避けなくてはいけない。そうすると,必要的共同にすると,それを全部入れておかないと手続として問題が出るという複雑さはありますけれども,そうであったとしても,必要的共同と決まれば,もうそれに合うようにこちらとしてはやっていかざるを得ないというだけのことなので,必要的共同なら必要的共同というふうにしていただいて,間接強制ができないような事態は避けるべきではないかと思います。 ○山本(和)委員 必要的共同審判にする場合とそうでない場合の違いというのは,恐らく必要的共同審判ということだとすると,誰かが漏れていると,今までやっていた人との関係でもその審判は効力がないということにならざるを得ないのではないかということで,そうではないと考えると,漏れていた人については後からもう一回申し立てて,元の人との関係では効力を保ったまま,漏れていた人にもう一度申し立てて審判を取れば全体について債務名義がそろうということ,それを認めるかどうかということなのかなと思っています。ですから,個別にできたほうが元の審判を生かせるという意味ではいいのかなというふうには思うんですけれども,だから,先ほど山本克己委員が言われた申し立てる段階では,特定は困難だけれども,そうやって広く相手方を取ったとしても,審理の途中でだんだん分かってきて,全員を捉えることはさほど困難ではないのだとすれば私もそれは必要的にしても問題はそれほど少ないのかなと思うんですけれども,そこが本当にそうなのかどうか,後から漏れていたということが分かった場合に,今までやってきたことが全部無駄になるということをどういうふうに捉えるのかなという問題かなと思っています。 ○清水委員 必要的共同審判ということになると,一番真っ先に実務的に頭に浮かぶのは遺産分割の審判です。遺産分割については戸籍がきちっとあるので,当事者を網羅するということはできるわけですけれども,この手続で恐らく事実上の監護をしている人を全部必要的共同の関係で捉えるとなると,先ほど話が出ましたように,後で手続の安定を害するという可能性が非常に高いのではないかという心配がありまして,私としては山本委員が言われたように足りない部分は後から申し立てればいいというような構造のほうがこのハーグの迅速性とか制度趣旨からするとふさわしいのではないかなという気がいたします。 ○豊澤委員 相手方となるべき者は,できるだけきちんと最初から捕まえておく,あるいは審理の過程の中で分かったらその都度拾っていくというのはおっしゃるとおりだと思います。運用としてはそういう方向に行くのだろうと思いますが,清水委員から指摘のありましたとおり,本当に相手方となるべき者を漏れなく捕まえきれるのかという点については心配なところもあり,後で相手方となるべき者の存在が分かると,当該決定が全部無効になって改めて相手方全員に対して裁判をやり直さなくてはならなくなってしまうという結論はなかなか厳しいのではないかと思います。最終的には迅速性の要請にも反するでしょうし,手続を主宰する裁判所の立場からしてもちょっと切ない感があります。   さらに言えば,手続係属中単独で監護しているはずだったのが,後になって生活を共にして監護する人が二人に増えているというようなことがあっても,手続が最後の経過まで来ていると,これを把握できず,手続きに的確に反映されないというようなこともあるかもしれません。これは杞憂かもしれませんが,あり得ない話でもないように思われるで,そんなことも考えれば,固有必要的とまでは言わずとも,分かればその都度相手方として追加していって,なおそれでも更にこぼれがあるのであれば,別途の申立てで何とか処理するという方がいいような気がします。 ○大谷委員 私も最初からというのではなくて途中で分かったらどんどん引き込むことでいいと思うんですが,ただ,先生方がおっしゃられた最後に出てしまった後で誰か実は他にいたということが分かった場合,もう一度追加でということで,そのほうがすっきりするというのはお伺いしていてそのとおりだと思いました。そうでないと,その前の手続が無効になってしまうと。ただ,そのときに条約第12条の例外返還拒否事由との関係で,その場合,前の返還手続を申し立てたのが連れ去りから1年以内というけれども,その次の本当に後で分かった事実上監護している人に対して始めたときが1年を超えていた場合,これは最初の手続開始が1年以内であれば条約第12条第2項で言う手続開始が1年経過後と見ないというような扱いになるのかどうか,そのあたりで不利益にならなければ,またやり直しということでいろいろ審理のし直しというようなことにならないのであれば,先生方がおっしゃるような在り方というのが現実には即しているんだろうと思います。 ○山本(克)委員 私もこれがなければ順次やればいいと,類似必要的でいいと思っておりますが,この1年という期間を厳格に適用するんだという前提で先ほど考えておりましたので,固有必要的にせざるを得ないのではないかと。後に上訴の話が出てまいりますが,上訴の組み方次第では,もう1年は簡単に過ぎてしまう可能性がありますよね。その後に追加をするときに,1年の提訴期間の遵守の効果が第二手続のほうにも及ぶんだという立場であれば,それは今,家裁関係者の方からおっしゃっていただいた案でもよろしいかと思いますが,そこをどう考えるかというのは一番この点では大きい問題だろうと思います。 ○相原委員 私も余りよく分からないまま発言してしまうんですが,固有必要的というのはないだろうなと私も読んで思って,補足説明などはなるほどと思っていた口なんです。ただ今の1年との関係では,確かにその場合という制限があるとすれば厳しいなという気もするんですけれども,海外の場合というのは,現実にはどうなっているのかもし分かる人は教えてください。 ○棚村委員 この1年をどこから起算するかという問題がやはり争われていて,故意に隠して隠し続けたほうは非常に有利になってしまうので,そういう事実があった場合には,少し延長させてはどうかという議論が条約の判例の中ではされています。ただ,どこの時点から起算して,どうやるべきかということについては,条約それ自体は基本的には不法な連れ去りや留置から1年でなれ親しんだという条件をやっています。ただ,不法に隠し続けた場合にそれを起算するかというのは,前の論点の整理をされたときも多分出ていたと思いますけれども,そこはやはり議論されて,山本委員がおっしゃったように,1年ということをきっちり連れ去られたときからということでやるのであれば別ですけれども,大体判例を見ていると,やはり1年というのはあっという間に居所を隠して1年たってしまっているケースというのはかなり多く出ていますので,そういうときに所在発見のための努力とか,最初にいろいろな関係機関に居所を探すための努力をどういうふうにしたかみたいなことも勘案されて1年の起算日みたいなのが検討されているのではないかと思います。 ○大谷委員 条約第12条第2項の1年の起算点なんですが,各国の裁判例を読みました印象では,棚村委員おっしゃったように,隠していた場合に起算点をずらすという考え方をとっている国はありますが,私が調べた限りではアメリカだけで,他の国では,アメリカではそういうやり方をしているけれども,そういう考え方は採らないとはっきり言っている国のほうが多いという印象です。私個人はそういう隠した場合に1年をずらすということはしないほうがよいと個人的には考えていまして,それとの関係で今の議論もその流れで考えています。ですから,もし類似的で,後で分かった場合にはもう一度やり直すということにした場合,隠していたというときにずらすかどうかという論点とはまた別の話として,そのときに限っては,後から分かった場合に限っては,前の1年開始というのが後の手続にもそのときには最初の手続の開始をもって1年以内であればよいというふうにするんだということであれば,その範囲では,私はそういう在り方も採れるのではないかと思います。つまり隠していた場合とは少し類型の違う問題として,後から分かった場合に関してという限定つきでです。   ただ,そのときにそれを解釈上,実際の裁判でするのか,法文に書くようなことではないと思われますので,コンメンタール的にそこはそういうふうに考えるのだということで整理をするのかということかなと思います。 ○山本(克)委員 今の提案というのは魅力的だと思うんです。ただ,第二手続の開始時期を前の裁判の確定からいつまで認めるのかという問題を別途考えておかないと,それで5年も6年もたってからというのは駄目ですよね。ですから,やはりそれは法律で決めないとかなり難しい問題ではないかと思います。コンメンタールで書くだけで私は足りない事項なのではないのかなと思います。   それと,類似必要的だとするのであれば,家事事件手続法第41条第2項はできるとなっていますが,しなければならないというふうに義務的に分かった以上は相手方に関しては追加するんだという形にしないとまずいのではないのかなという気が,これは固有必要的でも同じかもしれませんが,できるではやはりまずいのではないでしょうかね。 ○髙橋部会長 それでは,相手方は現に監護している者という従来から考えてきた線は崩す必要はないと。逆にしたがって,現に監護している者はどう規定したところでやはり幅がある,実情のところが入ってくると。それを前提にいたしまして,相手方そのものとするか,利害関係参加の余地をどうするかと,そういうあたりをそれではまた第三読会になりますか,検討したいと思います。   ただ,織田幹事が言われたところなのですが,許可を入れますと,即時抗告が出てきまして,家事事件手続法で即時抗告を入れているのにこれだけ入れないというわけにはちょっといかないのかなというところもあって,その辺も含めて議論したいと思います。   もうここで切らざるを得ませんが,休憩いたしまして,後半に移ります。           (休     憩) ○髙橋部会長 再開いたします。   7ページの「4 裁判記録の閲覧等」,ここから再開いたします。 ○梶原関係官 「4 裁判記録の閲覧等」について説明します。   当事者からの裁判記録の閲覧等については,当事者の手続保障と関係者のプライバシー保護の調整を図る必要があることから,裁判所の許可に係らしめた上,原則として許可するものとしつつ,例外として許可しないことができる事由を列挙しておくのが相当と考えられます。そこで,ここでは当事者から閲覧等の請求があった場合に裁判所が許可しないことができる事由としてどのような規定を設けるのが相当かを検討するものです。事務当局としましては,実質的に開示不相当なものにどのようなものがあるかをまず想定した上,家事事件手続法47条を参考に許可しないことができる事由として,まずは①から③まで置くことを考えています。具体的に①の返還を求められる子の利益を害するおそれについては,例えば連れ去り前,子が申立人から暴力を受けており,子の居場所を申立人に知られると,子は暴力を受けるおそれがある場合における子の住居地を想定しています。②の当事者又は第三者の私生活又は業務の平穏を害するおそれについては,例えば申立人にDVが疑われる場合における相手方の住所又は勤務先に関する情報,調査官による子の生活状況の調査の結果を知ると,申立人が情報を提供した子が通う学校等に押し掛けるおそれがある場合における調査報告書の記載が考えられます。③の当事者又は第三者の私生活についての重大な利益が明らかにされることにより,その者が社会生活を営むのに著しい支障を生じ,又はその者の名誉を著しく害するおそれについては,当事者の犯罪歴や病歴等が考えられます。   さらに①から③までの事由には当たらないものの,審理の状況や記録の内容等に照らし,開示を不適当とする特別の事情があり得ることを考慮し,④としての規定を設けるものとしています。一例として,子の所在発見のため捜査当局から中央当局に提出された情報が裁判所の調査嘱託により中央当局から裁判所に提出された場合において,開示されると犯罪捜査に支障を来したり,関係者のプライバシーを害したりするおそれがあるときがあります。 ○髙橋部会長 記録の閲覧,いかがでしょうか。 ○相原委員 事由として①から④までが書かれているんですが,そして,これが家事事件手続法第47条を参考に書かれているというのは理解しているのですが,②と③の関係がちょっと,③というのは②にそのまま入るような印象を持ちます。やはりこういう書き方になるのでしょうか。例えば先ほど具体例をおっしゃいました当事者の犯罪歴や病歴等というのは,私生活の平穏を害するおそれに十分当たるのではないかなと思えるのですが,やはりあえて②,③というこういう書き方になるのでしょうか。教えてください。 ○髙橋部会長 ②ですね。 ○梶原関係官 ②については,書いていますように,例えばDV事案で申立人等に居場所などが知られると押し掛けたりする。それによって平穏が害するおそれというのを想定していまして,③については当事者又は第三者の名誉等に関する犯罪歴ですとか病歴等が一般的に公になることによって,それらの当事者又は第三者の名誉等を害するおそれということを想定していますので,別の枠組みとしているものです。 ○髙橋部会長 表現が適切かはまた考えますが,②は押し掛けてきてしまうというわけですね,典型例は申立人側が。③はむしろ社会一般にあの人は犯罪者だったというのを流布するということで,違うという頭で書いているのですが,これが分かりやすいかとかその辺はまた表現次第でしょうか。 ○相原委員 平穏を害するおそれに全て含まれるのではないかと。一瞬読んでどう違うのかが補足説明を読まない限りはよく分かりませんでしたので,伺ってみました。 ○髙橋部会長 表現の問題でして,家事事件手続法のほうから影響があるかもしれませんが,表現はまた考えます。他にいかがでしょうか。 ○宮城幹事 補足説明のところ,多分ちょっと誤解を招く表現であるので直したほうがいいのではないかなというところがございます。捜査のほうの話でございますが,8ページの4,④に「子の所在発見のため中央当局が捜査機関から提出を受け」と書いてあります。これですと,子の所在のために捜査を行うというふうな前提で書かれているように見える。多分これはそうではなく,いわゆる行方不明者の発見活動の一環であるということですので,これは若干ミスリーディングになるかと思います。ですので,ここのところにつきましては,捜査機関というのは警察等というふうに直していただくほうが誤解がないかと思いますし,その意味からいきますと,「開示されると犯罪捜査に」,こちらはこれでもいいんですが,実はこれも多分もう少し広い話がありますので,これは例えば警察なら「警察の業務の遂行に」というふうに直していただかないと,理解にそごを来しますので,そこだけ直していただくとよろしいかと思います。 ○髙橋部会長 ありがとうございます。 ○山本(和)委員 この④についてなんですけれども,私の理解では人事訴訟の同様の規律は①から③だけを規定していると。家事事件手続法,非訟事件手続法もそうだったかもしれませんが,④を入れたわけですけれども,私の理解は人事訴訟の場合にはある程度保護すべき利益というのがスペシフィックに決まっているので①から③で書き切ると。ただ,非訟事件とか家事事件というのは様々な事件類型があるので,スペシフィックに書き切ることは難しいので,④のようなバスケットクローズを置いたというのが私の理解です。これは誤っているかもしれませんが,それを仮に前提にすると,本件の場合はもう少しスペシフィックに書けるのではないかと。かなり事件類型は特定されていて,そこで問題になる利益というのもある程度予測可能ではないかという感じがしていて,そういうふうに申し上げるのは,この補足説明に書かれているように,この場合の裁判記録の閲覧というのは,正に手続保障の根幹をなすものであるので,当事者に対してそれを否定する場合は,できる限り限定的であるべきであると。それは恐らく人事訴訟のときも非訟事件のときもそういう理解やコンセンサスはあったのではないかと思いますので,仮に④で挙がっているのが今御指摘がありましたけれども,こういうような理解に限られるんだとすれば,もう少し何か書きようがあるのではないか。その公務の遂行に支障があるとか,そういうような形で書けるのではないかという気がして,他にも考えられる例があるんだとすれば,それがどうしても想像できないようなものもあるのではないかということになれば,この④のようなことになっても仕方がないのかもしれませんけれども,今の時点ではやはりもう少しスペシフィックに書くということを考えていくべきなのではなかろうかという印象を持っております。 ○相原委員 あと,大谷委員のほうからかなり補足していただこうと思います。日弁連内のWGでいろいろ議論した中で,先ほど中央当局が子の所在の特定のための調査をすることに関して開示義務を課すということの関連で,子の所在発見のための中央当局から提出を受ける情報というのは一体何なのか。それから,それを開示することに関する規定あるいは開示しないということを定めるということに関して,きちんとしたものが必要なのではないのかというような議論が強く出ております。したがいまして,今先ほどから少し御指摘があったりするのと重なっている部分もあるのかなと思いますが,このままであると,子の所在発見のための中央当局,先ほど御指摘もありましたけれども,一体提出を受けるものが何なのか,基本的には,私の少なくとも理解としては,いわゆる住所なのかなと思っていたわけです。中央当局が裁判所に提出する当初の情報というのは,少なくとも裁判所の命令とかで中央当局から開示しろというような職権調査とかそういうのではない限りは住所であろうと。そうしたら,それに関しては開示しないような法制度をきちっと作っていただく必要があるのではないかなというふうに感じております。   したがいまして,このままの書き方というのでは,他の事情に関してはあるんですけれども,①から④だけではその部分がどうなってしまうのかがよく分からない。また,これは中央当局との役割との分担がありますので,ここで決めてしまうものではないのかもしれませんが,裁判記録の閲覧の中で調査官が調査しに行って,そこで住所が出てきてしまうとかそういうことなのかもその後出てきてしまうことをすごく危惧します。一方で,開示義務を課したりする結果,出てきている子の所在発見のための情報が間接,間接で裁判記録に残って,それを閲覧することによって当事者,テイキングペアレントのほうが不安に思うというようなことがあっては,最終的な子の所在発見のための制度作りとしては不完全ではないかというような議論がありました。非常に危惧がありますので申し述べさせていただきます。 ○大谷委員 今の相原委員の御発言を前提に,具体的な意見として述べさせていただきます。   まず,この補足説明のほうの4の下から3行目,「裁判所が調査嘱託により中央当局から得た情報」という点なんですけれども,ちょっと相原委員の発言の若干繰り返しになりますが,私どもとして理解しているのは,中央当局が子の所在確知のために関係各機関から情報提供義務に基づいて情報を得ることができると。そこではかなり義務付けをしていただいて,きちんと子の所在確知ができるようにしていただきたいと考えております。ただ,そのことを実効あらしめるために情報を出した人の,情報がいろいろ漏れて,何かトラブルに巻き込まれるというようなことの心配がないようにするためにも,出た情報というのは裁判所にしか伝えないと。そのときに伝えるべき内容なんですけれども,得た情報というのは様々ある可能性があるんですが,そこから最終的に知り得た子の所在,簡単に言うと住所のみを裁判所に伝えていただくということで足りるのではないか。それ以外の生の情報を出す必要もないし,それから,それについては調査嘱託であっても出すべきではないという意見がございましたことを御紹介したいと思います。   仮に住所だけを最終的に出すということにした場合なんですが,具体的な記録の編てつとして,それが何らかの形で閲覧のときに出てしまうようなことでは,結局漏れないようにするといったことの趣旨が損なわれるために,そこは細かいことなんですが,記録にも書かないような形で,何らかの形で裁判所のほうで住所については保管をしていただくような制度を作っていただくのがよいのではないかということが1点です。   2点目に①から③の中で申立人にDVが疑われるような場合に,その所在特定に関わるような情報は開示しないようなカバーができていると思いますが,そうではなくて,DVが疑われるかどうかではなくて,相手方が所在を秘匿していて,その子の所在というのが中央当局の活動によって知り得た場合というのは,申立ての最初から最後までそれが分からないような形で審理がなされるべきであるということをもし考えますと,その裁判記録,今,相原委員の話にありましたが,結局裁判所としては中央当局から聞いて子の所在が分かっていると。そこにもしかすると調査官が行くかもしれない。そうした中で,二次的ではありますけれども,調査官の報告書の中に所在特定に関わるような情報が入っている可能性があると。そのときにせっかく秘匿しているはずの子の所在の特定に関わる部分というのは,これはDVのある,なしではなくて,相手方が秘匿している以上は開示しないと,記録の閲覧・謄写を許可しないと。それについては今,①から④は許可しないことができるという裁量的なといいますが,むしろ許可しないという形で,裁量ではない規律を別の形で設ける必要があるのではないかと。それは今までの人事訴訟法とか家事事件手続法とは違う相手方の所在が分からないために,普通ですと子の所在が分からなければ手続を開始できないところを中央当局の活動によってそれができる。しかも,申立人が知らないままで手続ができるような特別の手続を設ける以上は別の規律が必要なのではないかということを考えております。 ○山本(克)委員 この問題に直接関わる話ではないんですが,相手方が住所を秘匿している場合の扱いで考えておかなきゃいけないことの一つとして,間接強制金を実現するための金銭執行をどうするのかという問題があると思うんですね。つまり債権執行でやるとすると,管轄裁判所は債務者の普通裁判籍の所在地になりますので,そこのところは非常に悩ましいところで,そこにまで特則を設けるのか。でも,間接強制金すら実現できない手続だと,これは何なんだということになりかねませんので,そこは先走った話をして恐縮ですが,ちょっとそういう問題点もあるということを申し上げておきます。 ○金子幹事 一般的に住所を知らせないまま進めるということまで,全ての事案についてそうするということが大丈夫なのか。山本克己委員の方から具体例を挙げていただいたのですが,そのような場合でなくても,ある程度DV等の徴ひょうがあるような場合は,その段階で住所の問題を扱うということではなく,一般的に分からないまま最後まで進めることをこの手続の原則とすることでいいのかというあたりは,割り切れない気がしています。中には途中で両方会って話し合いたいというようなケースもあるわけでしょう。そうすると,一切秘匿するということもどうなのかと思います。また,その判断を相手方に委ね,裁判所は相手方が秘匿すると言ったら,それは言わないし,どうぞと言えば裁判所は教えるということになるのか,DVがあったとか客観的事情を別にした希望的なものを手続に反映させるというとなると,それも手続として相当なのかという問題があるように思います。 ○清水委員 先ほどの大谷委員のお話の中でちょっと気になったのは,住所の点を記録にするかしないかという点と,それから,秘匿するかどうかというのはやはり別の問題として捉えるべきではないかなと。だから,記録の一部ではあるんですけれども,当事者の意向等を踏まえて相手方に開示しないという扱いも十分可能だと思いますので,住所の点だけを記録化しないというところは果たしてどうなんだろうかという点があるんですが。国内事案の場合を考えても,申立人サイドから住所を秘匿する場合もありますし,相手方から住所を明らかにしてほしくないという秘匿希望が出ることもありますし,そういう場合はその希望を尊重して調停の場でも審判の場でも秘匿希望の住所は尊重しなさいということでやっておりますけれども,だから,そういう実務上の運用の問題とそれをどう扱うか,記録とそもそもしないという問題とはちょっとレベルの違う問題ではないかなと思います。 ○大谷委員 委員個人としてここには参加しているのですが,ここは非常に日弁連の中でも大変いろいろな意見があるところので,それをちょっとそのまま御紹介しますと,おっしゃるとおり記録の中に入っていても,それを閲覧許可しないと,開示しないという扱いというのは十分今現在もなされているわけですが,記録の中に例えば細かい話で恐縮ですが,中央当局が子の所在を確知して,それを裁判所に知らせるというときの具体的な知らせ方なんですが,電話でということもないだろうと。そうすると,書面で行くのではないかと。その書面が記録の一番最後の雑記録か何か分かりませんけれども,編てつされると何らかのときにそれを見るということも出てくるのではないか。あるいは今の4のこの規律というのは家事事件手続法の規律の仕方に倣っているので,許可しないことができる,しかも原則は許可しなければならないというところにどうしても裁量で出てしまうのではないか。それを完全に排除しようと思うと,そもそもこれはもう裁判記録に入らないという扱いができないかというようなところまで議論が行って,先ほど御紹介したような意見が出ているということです。   御指摘の点はよく承知しておりますし,実際の実務の中でそれは特に法文の問題ではなくて,運用の問題だとおっしゃるかもしれないんですが,そこは非常に中央当局がこの所在確知をきっちりしてもらいたいということの担保のために,それが漏れないような制度設計をどこまで厳格にできるかということとセットで今議論を私どもしているところがあるものですから,極端な意見に聞こえたかもしれませんが,そのような議論がなされているということで,金子参事官がおっしゃられたことについても,気持ち悪いのですけれども,そういう制度設計にするということでこの所在確知をきちっと中央当局ができるようにすると。そのためには,その申立ての最初の段階だけではなくて,最後まで絶対に相手方がノーと言う以上は住所が出ないということでやるべきだという大変強い意見がございます。 ○髙橋部会長 他にいかがでしょうか。   では,「5 証拠調べの具体的な規律について」に移ります。説明をお願いします。 ○松田関係官 それでは,説明いたします。   「5 証拠調べの具体的な規律について」の(1)は中間取りまとめの20において提案しておりましたとおり,証拠調べについて当事者に申立権を認めるものとすることを確認するものです。(2)は中間取りまとめの21の(6)と同様に,証拠調べにつきましては,原則として民事訴訟法第2編第4章第1節から第6節までの規定と同様の規律を設けるものとすることを前提に,中間取りまとめではなお検討するものとしておりました,本手続の性質に鑑み同様の規律を設けることが相当でないものを具体的に検討しているものです。   民事訴訟においては弁論主義が採られていますけれども,本手続は職権探知主義を原則とするものであり,弁論主義を前提とする規律は基本的には妥当しないものと考えられますので,そういった観点からここでは①から④までの規律は設けないものとする整理をしております。   まず,①ですが,本手続では裁判上の自白に拘束力がなく,当事者の自白があったとしても,それは裁判所の認定の一資料になるにすぎないものと考えられますので,民事訴訟法第179条と同様の規律を設けるのは相当でないと考えるものです。なお,この第179条にあります顕著な事実については証明を要しないとの規律につきましても,民事訴訟法の規定は厳格の証明の方法による事実認定を前提としておりますけれども,本手続ではそのような厳格な証明の方法による事実認定を前提とはしておりませんので,そういった厳格な証明の方法による事実認定を前提とするものは妥当しないものと考えられますので,部会資料の補足説明のほうは少し理由付けとして不正確な記載をしてしまっておりますけれども,いずれにしましても,民事訴訟法第179条と同様の規律を設けるのは相当でないと考えられます。   ②につきましては,本手続では民事訴訟のような争点及び証拠の整理手続を設けることは想定しておりませんで,迅速処理の要請などを踏まえますと,事案に応じて適宜のときに必要な証拠調べをすることができるとしておくのが相当かと考えられますので,民事訴訟法第182条に相当する集中証拠調べの規律を設けるのは相当でないと考えるものです。   ③は,民事訴訟法第187条は参考人や当事者本人を審尋することができる旨を規定しておりますが,このような規定がなくとも本手続では裁判所が事実の調査として職権で参考人などの審尋をすることができますので,同様の規律を設ける必要はないと考えるものです。   ④は,民事訴訟法第207条第2項は当事者本人尋問の補充性を前提とするものと考えられますが,本手続では当事者本人が最もよい証拠方法である場合も多いと考えられますので,同様の規律を設けることは相当でないと考えるものです。   次に,(3)については真実擬制の規律を設けることの適否についての検討を提案するものです。まず,その前提としまして,文書提出命令に関する規律を設けることの適否についてですが,文書提出命令の申立てについての手続が重く,時間を要することが少なくないことから,この手続における迅速処理の要請に沿わないおそれですとか,引き延ばしのために濫用されるおそれなども否定できませんけれども,子の返還事由や子の返還拒否事由については証明責任を負う当事者に第一義的な立証義務を課すことを想定していることも踏まえますと,立証活動における当事者間の公平を図るために当事者が他方当事者等の所持文書にアクセスする余地を認める必要があると考えられますので,本手続においても文書提出命令の規律を設けるのが相当と考えております。   このことを前提に(3)では,文書提出命令等に違反した場合や正当な理由なく出頭しない場合における真実擬制の規律については,子の返還事由及び子の返還拒否事由についてこれを設けるものとすることを提案しております。その理由としましては,まず,子の返還事由及び子の返還拒否事由については,当事者の証明責任及び証明義務を認めるものとすることを想定しております点で,通常の職権探知主義と異なり,弁論主義的な性質を帯びるとも評価し得ること,本手続では常居所地国への子の返還という当事者間で基本的には任意処分することが可能な事項のみを取り扱うものでありまして,身分関係を確定するための手続ではない点で,家事審判手続や人事訴訟手続とは同一ではないと言えること,また,ハーグ条約の趣旨を踏まえますと,本手続でも子の利益のために裁判所が後見的に関与することが求められていると考えられますが,子の返還事由や子の返還拒否事由について最もよく知るものは当事者でありまして,裁判所の職権による事実の調査や証拠調べにもおのずと限界があると考えられること,それから,真実擬制の規律を設けたとしても,文書提出命令違反等があれば必ず真実擬制をしなければならないものではなく,真実擬制をすることにより,むしろ真実に反するおそれがあると裁判所が考える場合には真実擬制をしないこともできると解されることなどを踏まえますと,本手続においても裁判所が事案の具体的状況によっては必要に応じて文書提出命令違反などにより真実擬制をすることができるものとし,それによって子の利益に合致した判断をすることができるものとするのが相当ではないかと考えていることが挙げられます。   5につきましては,以上です。 ○髙橋部会長 証拠調べの具体的な規律ですが,いかがでしょうか。 ○相原委員 不出頭等の効果のところの民事訴訟法第208条ですが,当事者本人を尋問する場合においてということで,正当な理由なく出頭せずということですが,ハーグ条約のこの関係は海外の申立人が予想されるというのが当然であるし,また,相手方は司法アクセスの観点から結構地方にいるという場合も考えらます。そういう場合が普通の事案よりも相当考えられるケースではないかと思います。その場合,この正当な理由なくというところで出頭しないという場合,遠いということ,それから交通費が掛かるとかそういうことがかなり考えられるかなと思うんですが,そこら辺はどのようにお考えなんでしょうか。 ○松田関係官 裁判所の事案による運用というか解釈,適用だと思うんですが,基本的にやはり正当な理由なくというところで遠いですとか旅費が掛かるとかそういったことで出頭がどうしても困難だということは,ここで拾うべきものは正当な理由に当たるということで拾うのではないかなというふうに考えておりますので,遠いからといって来ないことで必ずしも常に正当な理由があるとは言えないという判断がされることにはならないのではないかと考えています。 ○相原委員 すみません。例えばドイツなんかはかなり集中して費用もある程度出して,1週間ぐらいすぐに来てもらって対応するとかというような例は頂いた資料の中から拝見したりするんですけれども,そういう海外からでも原則は出頭を義務付けるという形なんですか。それとあと,テレビ会議だとか電話会議とか,そういう利用にも間接的につながる話かなと思うんですけれども,今のお話だとすると,原則的には遠いというのは理由にならない可能性が高いという理解でよろしいですか。 ○松田関係官 必ずしも原則としてどうかということが一概に言えるかどうかについては疑問に思っているんですけれども,遠いから来られないというのは仕事の関係ですとか,やはりその人の資力ですとか,そういったものを総合的に考えて,来ないことで足りるかどうか,来なくても書面審尋ですとかそういったもので手当できるかどうかとか,そういったことの総合的な判断になるのかなと思いますので,一概に何が原則とここは言えないのではないかなというふうには考えています。ただ,確かに海外,ドイツとかと違って陸続きではないですし,外国にいる申立人が簡単に来られるかというと,なかなか難しいことが多いと思いますので,そういったことはやはり考慮すべきではないかと個人的には思っております。 ○山本(克)委員 (3)は家事事件手続法第64条第1項とは別のこと,違う定めをするということでよろしいんですね。なぜ違う定めをしなきゃならないのか理由がもう一つよく分からないんですが,つまり真実擬制をするかしないかは裁判所が適宜判断しましょうということであれば,そういう不出頭であるとか不提出であるとかいうことを弁論の全趣旨として斟酌するということとほとんど変わらないのではないのかなという気がしまして,そこで拾えるものなら特に違うことをやる必要はないのではないのかなという気がします。   それと,理由付けとして証明責任を負う事実について最も知るのは当事者であるというふうに書いてございますが,これ,本人尋問であれば相手方申立てによる本人尋問で,その申立人が証明責任を負う事実について尋問したいということで,しかし,反対当事者は出てこなかったというような場合は当てはまらない話ではないのかなという気がするんです。例えば相手方が拒否事由について立証するために申立人の尋問をしたいという場合には当てはまらない。申立人は来なかったという場合には,ここでのこの補足説明に書いてあることは当てはまらないのではないのかなという気もしますので,もう少しちょっと検討したほうがいいのではないのかなと。   それと細かいあれですが,証明義務を負う事実というのが(3)の本文に書いてあるんですが,証明義務というのがよく分からない。協力義務ですよね。そういうものを一般的に観念できるかどうか自体がそれこそ理屈の上ではいろいろあり得るところだと思いますので,ちょっと何かまだすっきりと頭に入ってこないという印象を持っています。 ○山本(和)委員 今の(3)の点ですが,実質論としては,私はこの(3)は分かるような気がして,というのは,結局真実擬制を外せば家事事件手続法第64条第3項にあるように,制裁がもう過料しかないということになってくるわけですが,この事件の類型というのは一番過料が効きにくい類型のような気がして,つまり要するに子を守りたいので,とにかく子を取りたいのでお金のことはさておいて子を取るということを優先することがかなり定型的に予想されるような事件類型だと思っていまして,そういう意味では当事者に対する制裁が過料であるということでは,恐らくこの文書提出命令その他,ほとんど実効性がなくなってしまうだろうというふうに考えます。だからそういう意味では,場合によっては真実擬制ができるという一種の脅しで真実の解明を迫るということは,実質論として私は理解できるところです。   ただ,家事事件手続法等でもそういう事件例はないのかというふうに言われれば,そういう事件もそっちでもあるのかもしれないという気もするので,それがどの程度ディスティングイッシュの理由になるかというのは,山本克己委員が御指摘されるところも分かるんですけれども,ただ,実質論としてはこうせざるを得ないのかなという気もしているということです。 ○山本(克)委員 今の御質問ですが,弁論の全趣旨としてもしんしゃくできないという前提でしょうか。 ○山本(和)委員 いや,そんなことはないと思います。経験則上,要するに自分に不利になるから,その文書を出さないんだろうということが経験則で言えるんだとすれば,出さなかったことによって不利に認定するということは,これは私,当然できるんだろうと思います。ただ,そこまで言えないという場合に,この民事訴訟法第224条のところが効いてくるわけですよね。 ○山本(克)委員 いや,むしろそういうときには,裁判官は真実擬制をされないのではないかなという印象を持っておりますけれども。 ○山本(和)委員 それは民事訴訟法第224条不要説につながっていくということでしょうか。 ○山本(克)委員 だから,本当に民事訴訟法第224条をいかそうと思うと,ある程度裁量性というのはできるのではなくて,しなければならない場合というのを解釈論上考えていかなきゃいけないというふうに私は思っております。 ○大谷委員 私もこの(3)を設けなければいけない理由というのが御説明でも余りすとんと来ていないというか,説得されていないんです。先ほどから御指摘のあるように,弁論の全趣旨で済む問題ではないのかなと。むしろ不出頭の場合だけを採りますと,幾ら正当な理由というのが言葉としては入っていたとしても,海外にいる申立人に対して,ドイツは陸続きとかいうだけではなくて,法律扶助で裁判所に来る,その国に来るための費用まで出ると,そういう制度まで備えて,とにかく当事者は一回来なさいというところまでされているというのに対して,日本でここだけ何か非常に実際どう使われるかは別として,法文上この規定が入るということのメッセージ性というのはいかがなものかなという気がしています。   また,翻って考えますと,証明責任の問題でありますけれども,基本的にこの手続というのは申立人において返還事由を証明し,それを争う側において返還拒否事由を立証できるかと,そういう構造になっている中で,このような規定を設けなければいけない場面というのは相当裁判所のほうでこれを出しなさい,あれを出しなさいとおっしゃってというような審理を想定されているのかなと。それは余りこの手続の本来の性質からして,結局出すべきものを出せないということで審理としては進むのではないかなと。そこの審理のイメージとこの3を設けようとされる御説明とがうまく頭の中でかみ合っていないので,私の理解がもし足りなければもう少し御説明いただけると有り難いと思います。 ○松田関係官 すみません。では,私のほうもちょっとよく分かっていないところがあるのかもしれませんけれども,基本的にこの文書提出命令など申立てをするのは相手方の場合が多いのかなというふうに考えていまして,逃げてきたというか,子と一緒に急きょ戻ってきたということで,いろいろなものを準備せずに来てしまったので立証に資するような資料を置いてきてしまったというときに,申立人側に出してほしいというような要望があったときに文書提出命令の申立てがされることもあるのではないかと考えまして,圧倒的にこの常居所地国にいる申立人のほうが立証の容易性というのはあって,そこの立証の難易の差というのを何とか公平化するような制度的なものがほしいのではないかと考えて,文書提出命令というのはやはり必要なのだとして,文書提出命令の規律は置くことを前提にしますと,先ほど山本和彦委員からも御指摘がありましたけれども,では文書提出命令といって裁判所が出せと言っているのに対して従わなかったときの制裁としてどうするかというと,真実擬制をしなければ家事事件手続法のような過料の制裁ということになってしまいますけれども,過料の制裁ではやはり外国にいる申立人には特に効かないので,結局実効性のない文書提出命令となってしまって,そもそも文書提出命令を置く意味があるのかということになってしまうのではないかと考えまして,文書提出命令に従わなかったことによる真実擬制を働かせる場面というのは,本当に基本的には実際の審理の中では少ないのかもしれませんけれども,ぎりぎりの場面でこういった判断もできるということを置いておく意味が全くないわけではないのではないかと考えて,今回こういう提案をさせていただいているところです。   あと,家事事件手続法のほうでは真実擬制を設けなかったのに,こちらでは設けるというところですが,やはり家事事件手続法のほうはいろいろな事件が対象になりまして,必ずしも当事者が自分で処分できる権利というか事項について裁判対象にしているものばかりでなくて,当事者ではないものがその裁判の直接の効果を受ける,裁判を受けるべき者になるという場合もありますので,そういったことを考えると,真実発見の要請が非常に強いと考えられて,真実擬制の規律は相当でないと考えられますけれども,本手続は子の返還ということに尽きるので,家事事件手続法と異なる規律ということも考えられるのではないかなと思った次第です。ただ,考え方に不適当なところですとか,実際上の不都合などがありましたら指摘していただきたいと思います。 ○大谷委員 今の御説明でちょっと気になるので確認させていただきたいんですが,そうすると,想定されているというのはどちらかというと相手方が抗弁事由,返還拒否事由の立証のために申立人が持っているであろうはずの文書の提出を求めると。裁判所が提出命令を出すと。それを申立人が出さないことによって,場合によっては真実擬制がされて返還拒否事由が認められることがあり得ると,そういうことをお考えなのかなと思って今聞いていたんですが,実際にはどのような書類が考えられるんでしょうか。 ○松田関係官 必ずしもきちんと分かっているわけではないと思うんですけれども,例えば向こうにいる間に子が暴力を受けたということで診断書を取ったりですとか,病院のカルテの写しを取っておいたけれども,それを仮に置いてきてしまったという場合ですとか,そういったことがある可能性はあるのかなと考えていたぐらいです。 ○大谷委員 それは,基本的には取ってきたそのもの,実際一回取ったものを置いてきてしまったということはあり得るとは思うんですが,それを例えば相手方のほうでもう一度申請して出すということができるような種類の文書なのではないでしょうか。そのような場合に文書提出命令を課して,相手方の抗弁事由についてそれを申立人が出さなかったから真実擬制で真実と認める可能性を今のような事例で想定されるとすれば,ちょっとやはり意図されているところがいかがなものかなというふうに率直に思いました。 ○松田関係官 そうしますと,文書提出命令の規律自体この手続では,必要性はどうかというところもあるのでしょうか。 ○大谷委員 ごめんなさい,ちょっとそこまで今は考えていないです。 ○磯谷幹事 私もまだ考えが固まっているわけではございませんが,私は今の法務省の御説明にかなり納得をしているところで,確かに具体的な文書とかなかなか今すぐ思い浮かばない部分もあり,また,必ず真実擬制が適当だというような場面というのもまた十分に特定できるわけではありませんが,やはり先ほどの証拠の偏りという部分もあるということを考えますと,やはりこのような制度を設けておく必要というのはあるのではないかと思います。 ○山本(克)委員 今の事務局から御提示のありました例ですが,それは診断書が存在するということが明らかである場合にしか成り立たない話ですよね。場合によっては,ありもしない診断書の提出命令を申し立てて,裁判所はよく分からないから発令して,それで出さないというので真実擬制で返還拒否事由があるということもあり得るので,ちょっと例としては大谷委員がおっしゃったように,もう一度お金さえ掛ければ取れる話ですので,例としては適切ではないのではないのかなと。それから,先ほど和彦委員がおっしゃったのは,むしろ申立ての相手方の方の話ではないのかなというので,ちょっとその申立ての相手方の方で適切な例があるのかどうかというのももしお考えであれば教えていただければと思います。 ○松田関係官 すみません,相手方の方については,ちょっとまだ具体的には考えておりません。 ○犬伏委員 山本委員と同じような疑問を持ったんですけれども,やはり文書提出命令の前提としては特定されている必要がある。こういう文書があるということで提出命令が出されるという前提ですよね。当てずっぽうにあると思うとか,あるだろうということで出さなかったから不利益を受けるというのはちょっと考えられない事態ですけれども,そこら辺は確実に存在するという文書についての命令というふうに理解してよろしいですか。 ○松田関係官 はい,文書提出命令を出す段階でそこは認定するんだと思っております。 ○山本(克)委員 それが確実にできるかどうかというのが問題なんだろうと。余りこれは文書提出命令を否定する話になりかねないので,これ以上申しません。 ○棚村委員 訴訟法のほうはちょっと分からないのですけれども,一般的に例えば抗弁拒否事由のほうでもどういうふうに立証するかというときに一番問題になるのは,陳述書というか宣誓供述書とかというのは問題になります。主張はするけれども,それを出してくれないということとか,それに関連することで先ほど言ったみたいな診断書とか,個人でしか取れないものとか,そういうようなものは是非職権というか裁判所としては必要なものだから出してほしいと言っているにもかかわらず出さないというような場合のサンクションとして,例えば私たちはどっちかというと,アメリカなんかでも財産分与とか養育費というときに自分の資産とか収入の資料を出さない場合に,この擬制みたいなことで申立人のほうの主張をむしろ認めると,開示をしろと言っているのに開示しない場合に,そういう形の使い方であればあり得なくはないと思っています,例としては申立人が出さないというより,相手方のほうが抗弁事由というか拒否事由に関わって出してほしいというのを出さない。所持しているのも明らかであるにもかかわらず,そういうケースは想定されないのでしょうか。むしろそっちのほうが自然だと思ったのでが,もしあるとしたら。 ○松田関係官 すみません,別に相手方についてこの規律を適用しないということを前提にしているわけではなくて,検討の過程で代表的な例として頭に浮かんだのが申立人のほうが持っている文書についての事案かなと思いましたので,相手方が持っている文書に提出命令が出る例として,具体的にこういったものがあるということであれば,是非教えていただきたいと思います。 ○棚村委員 先ほど言ったみたいに財産関係ですと,割合とその真実擬制というのはある一定の資料がなければもう前提となって判断ができないということはありますね。そういう例があればこういうような規定を置くことに意味があると思うのですが,具体的な例を相手方になった人も隠すわけですね,もし不利だと判断したら。そのときの文書提出命令ということは余りないのでしょうか。ちょっとすみません,聞き方が悪いのかもしれませんけれども,申立人が例えばその診断書とかそういうものを出せと言うのに出さないから不利な判断として真実擬制を行われるというケースが余りイメージとして浮かんでこなかったものですから。 ○松田関係官 すみません,おっしゃっているのは例えば相手方が返還拒否事由として向こうの常居所地国に自分も子と一緒に戻ったら生活できませんと言っているときに,では資産的なもの,例えば通帳を出してくれとかいうときのことでしょうか。 ○棚村委員 例えば生活維持が困難だとかいろいろなことを言われますよね。それで,子の利益に反するとか。では,そういうものを具体的に出してくださいというふうに言って出さない場合に,拒否事由の判断をできない場合が起こりませんか,文書の提出を。 ○松田関係官 出してくださいというのは何を受けて出してくださいと。裁判所の職権でという意味ですか。 ○棚村委員 職権でというか,いろいろな方法があるのでしょうね。釈明権みたいなのを行使して手続に協力しろというレベルから,文書提出命令が今問題になっているのですよね。出頭しないとか,そのときのサンクションとしてこれだけのものを出すのだったら,それなりの必要性とか想定されるケースみたいなものが挙げられないと,なかなか分かりにくいということです。それで御質問したのですけれども。一番一般的なイメージにあるのは,手続協力義務をやったときの要するに資産状態とか財産状態とか,いろいろな必要な判断をするときの資料をやはり出してもらいたいわけです,裁判所が探すとかいっても限度があるので。それが子の返還というこの問題について具体的にどういう攻防がされるかというと,やはり一番大きいのは返還事由の存在と返還拒否事由の問題がかなり大きいのではないかと思うんですね。そのとき必要な資料として出されるものとして,是非裁判所としてはこれだけは出してもらわなきゃいけないというもののイメージを具体的に教えてほしいのですが。 ○松田関係官 すみません,私が申立人のほうの事例ばかり申し上げたのでちょっと議論が混乱したかもしれないんですけれども,確かに相手方が返還拒否事由としてこういうことがあると言っているときに,その裏付けとなるような資料が出されていない場合に,今回の5で提案しているのは証拠調べ手続としての文書提出命令と,それに伴う真実擬制ですので,申立人のほうからそういう主張があるなら裏付け資料として預金通帳を出せとかそういうことの申立てがあって,それに対して文書提出命令を仮に裁判所が相手方にした場合に,相手方から提出がなければもちろん資産が乏しくて常居所地国では生活できないと言っているけれども,その事実はないんだろうというような認定にいくのかなと思うんですけれども,そこは心証と自由心証の問題で片が付けられるとも考えられますし,そこで真実擬制を働かせるべきかどうかというのはちょっとすみません,詰めて考えていないので,そういう事案が適当かどうか分かりませんけれども,相手方についても同様に考え,具体的な事案としてどういうものがあるかは,直ちには申し上げられませんけれども,同様かなとは思っております。 ○朝倉幹事 要するに,この文書提出命令を発令して,それに従わないときには真実擬制をするという話ですから,立証責任を負う者について,常に立証責任の所在との関係で問題となると思います。立証責任を負う者が文書を出さなければ,それは単に認定されないだけの話なので,真実擬制を設ける必要がなく,立証責任を負っている人と証拠を持っている人が異なったときに初めて問題になると思います。したがって,今,棚村委員がおっしゃられたように,相手方が自分は財産がないと言っていて,財産がないということの証拠を出さなければ,財産がないと認められないだけの話で,真実擬制が働く必要はないから,この射程の範囲にならないと思います。先ほどから法務省が相手方ではなくて申立人の話をしているというのは,おそらく立証がされるかどうか問題になるのが拒否事由のことが多く,拒否事由については主張している人と証拠を持っている人がずれる場合があるから問題にしておられると思います。多分返還事由そのものは要件が比較的単純なため,立証責任を負う者と証拠の所在が余り異ならないけれども,返還拒否事由のときになると異なるので,この問題が生じ,そのときに文書提出命令を使う可能性が出てきて,そうすると真実擬制が必要なのではないか,そうではないと実効性がないのではないかと,こういう御議論ではないかと思います。 ○磯谷幹事 具体的な例ということで,国によって制度も様々ですけれども,例えばあり得ると思うのは,例えば行政機関などがある原本を申立人のほうに渡したことは確実,そこに例えば子の福祉に関する事項が記載されていることも確実。それは渡したほうからきちんとした何かヒアリングでも何でもできていると。ところが,しかしながらその申立人が出さないというふうなことが一つ考えられるのと,それから,例えば学校で子が作成したもの,それをやはり学校のほうは確実に例えば先週申立人に渡しましたというふうに言っているんだけれども,それについて出さないとか,中にはもらっていることは認めるけれども出さないとか,そういうふうな場合にはやはりこの文書提出命令は生きてくるのかなと。ですから,具体的なそういう文書というのはよく分かりませんし,本当にケース・バイ・ケースだと思いますけれども,やはりいろいろな可能性が考えられるのかなと思います。 ○大谷委員 今,大分整理していただいたので,そういう必要がある場合というのがあり得るんだなと。それから,文書の所在と立証責任が分かれるからこそ必要なので,弁論の全趣旨だけではないのではないかというのもそのとおりかなと思ってお伺いしていたんですが,ただ,やはり先ほど挙げられた例というのは,非常に私は例として挙げられること自体にちょっと危惧がありまして,もちろん子を連れて帰ってくる親が暴力を受けているケースというのが実際にありますし,そういう場合のこと,特に証拠の偏在についてこの担保法の中で気を配りながら設計していく必要があるということ自体は同感です。ただ,今,磯谷幹事が挙げられたな例は特別かもしれませんが,例えば最初にちょっと例に挙げられたような診断書の場合など,元々暴力,ドメスティック・バイオレンスという主張がかなりいつも出てくるというようなことがハーグ手続全体について言われている中で,例えば具体的な話として申立人がそれを相手方が持っていたのに更にそれを暴力で取り上げたとか,何か特別な事情が本当にあれば別ですけれども,急いで帰ってきたので家に置いてきたというような話のときに,申立てに対して文書提出命令が出て,それで出さなかったら真実擬制になるというようなことというのは,ちょっと想定としてかなり手続の公正の観点から誤解を受けるような例かなと思いました。ただ,それは真実擬制の問題ではなくて,おっしゃるとおり文書提出命令をそのような場合に出せるかどうか,あるいは出すべきかという観点かもしれませんので,そちらの観点で考えていけばいいのかもしれません。 ○髙橋部会長 問題点はかなり明らかになってきたと思いますので,次に進んでよろしいでしょうか。   では,「6 裁判の取消し等」ですが,説明を。 ○松田関係官 では,裁判の取消し等について説明させていただきます。   「6 裁判の取消し等」では,中間取りまとめの31における甲案及び乙案を前提に具体的な規律の内容についての検討を提案するものです。(1)は裁判の不当な蒸し返しを防ぐ必要性ですとか,子の監護環境の早期安定を図る必要性などの観点から,本手続における裁判の取消し等の規律については,甲案によるものとすることを提案するものです。甲案は,裁判確定前の事由を理由とする裁判の不当は原則として即時抗告又は再審によって対応すべきものと整理した上で,裁判の取消し等の規律の対象を裁判確定後の事情変更を理由とする裁判の不当等に限定するものでありまして,即時抗告の制度趣旨を尊重し,即時抗告,再審,裁判の取消し等の各規律ごとにその役割分担を明確に切り分けるものです。   これに対しては,例えば常居所地国では十分な治療を受けることができない疾患が子にあることが子の引渡しの裁判確定後に判明した場合など,再審事由には必ずしも該当しないものの,その裁判を維持することが子の利益に合致しないと認められるような場合に対応できないとの御指摘がありましたけれども,子の利益に照らして是正する必要性があると認められる事案については,例えば部会資料のほうにも記載しております平成16年12月16日の最高裁決定のように,裁判の取消し等の規律の要件や再審の要件の解釈によって個別に救済する余地はあると考えられますので,裁判所の裁量に委ねられるという面はありますけれども,問題となる事案に対応することは不可能ではないというふうに考えられます。   これに対しまして乙案のほうは,裁判を不当とする事由が裁判確定前に存したものか確定後に新たに生じたものかを問わず,広く裁判の取消し等を認めるものですが,裁判確定後もその確定前に存した事由を理由にその取消し等を求めることができるものとしますと,実質的には裁判がいつまでたっても確定しないことと同様のような状態になりまして,不服申立ての方法を即時抗告に限定して法律関係の早期安定を図った趣旨が失われてしまう結果になると考えられます。   また,裁判確定前の事由であっても,裁判の取消し等を求めることができるとしますと,裁判の不当な蒸し返しが容易にされるおそれが考えられまして,そのような蒸し返しがされますと,本来は早期に常居所地国に返還すべきである子の迅速な返還の実現が阻害され,ひいては子の利益に反する結果になることが懸念されます。さらに本手続では再審の規律を設けることを想定しておりますけれども,再審事由があれば再審も裁判の取消し等もいずれも申し立てることができることになりますので,当事者が採り得る裁判の是正手段がこのように重複するということとなる規律の相当性も問題になるのではないかと思われます。このように甲案と乙案を比較しますと,乙案を採った場合に2週間の即時抗告期間が実質的に意味を失ってしまい,裁判の蒸し返し的な取消し等の申立てがされることによって,法律関係の早期確定や子の監護環境の早期安定といったことが阻害されるおそれが生ずることとなる弊害は,実際の制度の運用の場面では問題が大きいのではないかと考えられますけれども,このような弊害に対して有効な対策を講ずることが容易ではないように思われますので,(1)では本手続における裁判の取消し等の規律としては,甲案を採用することを提案しております。   (2)のほうでは,(1)では甲案をということで提案しておりますけれども,仮に乙案を採用するものとした場合に,その場合に生ずる問題点に対処するための方策について検討することを提案しております。   ①は再審との規律の重複について,これを放置すべきでないとした場合に採り得る対応策としてどのようなものがあるか検討することを提案するものでありまして,補足説明のほうでは,例えば再審の規律は設けないものとすることですとか,裁判の取消し等を求めることができる理由から再審事由を除外すること,裁判の取消し等の理由となる裁判確定前の事由を子に関する事由に限定することなどを具体例として挙げております。   ②では,乙案では裁判確定前の事由も理由とすることができることから,裁判の不当な蒸し返しが起こることが具体的に懸念されますので,これを防止するための措置を可能な限り講じる必要があると考えられますが,具体的にどのような手立てを講ずることができるかについて検討することを提案しております。例えば①の再審の規律との調整も兼ねまして,裁判の取消し等の理由となる裁判確定前の事由を子に関する事由,例えば子がその常居所地国に戻ることを強く拒否していることですとか,子がその常居所地国では十分な医療を受けられない疾患を有していることが判明したことなどに限定することも考えられますが,実際に裁判の取消し等の理由とされる事由のほとんどが子に関する事由ではないかと考えられますので,現実的な効果としては疑問もあるように思われます。   ③は,裁判確定前の事由を理由とする裁判の取消し等について法的安定及び子の監護環境の安定の要請に照らしまして,期間制限を設けることを提案するものです。ここでは民事訴訟法の再審の期間制限や家事事件手続法の裁判の取消し又は変更の期間制限に倣い,裁判確定後5年間とすることを提案しておりますが,この手続の性質上,より短い期間とすることも考えられると思われます。なお,裁判確定後の事情変更を理由とする場合は,期間制限になじまないものと考えられますので,期間制限を付さないこととするのが相当ではないかと考えております。   (3)では,裁判の取消し等を扱う裁判所について検討することを提案するものです。   まず,乙案のうち裁判確定前の事由を理由とするものにつきましては,再審と同様に従前の手続を再開続行して,その裁判の是正を求めるものと位置付けることができますので,そうである以上,裁判の取消し等をする裁判所は,その裁判をした裁判所に限られることになると思われます。他方,甲案及び乙案における裁判確定後の事情変更を理由とするものにつきましては,新たな事情に基づくものである点で,別個の新たな手続が開始すると観念することもできるように思われますが,この手続が子の監護権を侵害されたものを申立人,現に監護しているものを相手方として子の返還の可否を判断する手続である以上,判断対象を同じくする裁判の取消し等の申立てに係る手続を当初の申立てに係る手続とは異なる別個の新たな手続として位置付けることは,本手続の性質に沿わないもののように考えられます。そこで,裁判確定後の事情変更を理由とする場合であっても,再審と同様に従前の手続の再開続行であると位置付け,その裁判をした裁判所がこれを扱うこととするのが相当ではないかと考えられます。   (4)では,裁判の取消し等を求める申立てについての具体的な審理手続について検討することを提案するものです。裁判の取消し等の手続が子の返還の可否を改めて判断するものである以上,当事者の手続保障の観点から基本的には子の返還を求める申立てについての手続と同様の規律,すなわち裁判の取消し等の申立書の写しの送付,事実の調査の通知,必要的陳述聴取,審理の終結,裁判日の規律によるものとすることが相当であるというふうに考えられますが,裁判の取消し等の手続を従前の手続の再開続行とする位置付けを前提としますと,必ずしも全て同様の規律によるべきものとは限らず,例えば必要的陳述聴取については,裁判を取消し又は変更する場合に限定するということも考えられると思われます。   6については以上です。 ○髙橋部会長 裁判の取消し,いかがでしょうか。 ○磯谷幹事 幾つか御質問があるんですけれども,まず一つはパブコメのほうで公示送達をもう手続の当初から使うということも想定して書かれていたかと思うんですけれども,そうすると,実質的には子の状況とか全く考慮できないまま返還命令が確定するということがあるわけですが,こういった場合に,後に明らかに子どもの返還理由があったというふうな場合はどういうふうな形で救済するのかというところが1点です。幾つかありますけれども,2点だけちょっと申し上げます。   もう一点は,22ページのところで乙案を採った場合に,いわゆる返還命令がなされたものだけに限らず,返還申立てを却下する裁判についても取消しの対象に含まれることになるというふうに書かれているわけですけれども,多分その言わんとするところはある程度理解してはいると思うんですが,しかし,これ必ずそういうふうに限定しなければいけないものなのかどうか。例えば裁判所が返還命令を出したということは,その返還命令によって子の地位が変動するわけですが,一方,返還申立てを却下した場合は子の地位は変動しないわけで,両者は全く同質とは言えないのではないかと思うので,こういうふうに断定的に書かれることについて,本当にそれでいいのかどうかという点を御質問したいと思います。 ○松田関係官 まず1点目の公示送達によって手続を開始して相手方が実質的には関与せずに返還を命ずる裁判が出た場合ということですけれども,その場合には,客観的には裁判時に存した事由が,相手方から取消しの申立てがあったときの取消しの理由として主張されることになるかと思いますけれども,そういったときに甲案ですと,基本的には裁判時の事由は駄目ということになりますけれども,公示送達で進めた手続において,仮に相手方が現実に関与し,その場で主張されていれば返還拒否事由として認めたであろうというものが出てくれば,先ほどの平成16年の最高裁決定ですとかこういったものに倣って,裁判の取消しの要件の解釈によってそこを若干緩めたりとかいうことで,裁判所の運用になってしまいますけれども,そういったもので対応するしかないのではないかと考えております。   あと,2点目の乙案を採ったときに却下を含めることについてですけれども,乙案というのは裁判時に存した事由を理由とする裁判の不当による取消しも認めるものですので,申立てを却下したものについて,裁判時に本来考慮すべき事由があったのに,それを考慮せずに却下という結論が出て,それが不当だということであれば,取消し又は変更の裁判ではなく新たな申立てをしなさいということになってしまいますと,1年の期間制限との関係もありますし,やはり子の利益のために在るべき判断をすべきだということは,返還を求める裁判の場合も却下する裁判の場合も同様だと考えられますので,裁判確定前の事由を理由とするものについては却下も含める必要があるのではないかと考えて,こういった規律を考えているところでございます。 ○山本(和)委員 私は以前の機会にやはり子の利益を害するおそれがあるような場合には,何らかの取消しの方法を残しておく必要性があるのではないかという意見を申し上げました。結局これ,補足説明を読ませていただくと,そこはそうだとして,問題はこの平成16年決定のような判例法理というか解釈で対応するのか,明文でそこを書くのかというところなのかなというふうな印象を持ちました。この平成16年決定のような形の解釈で対応できるということであれば,そのことに私は反対するものではないのですが,しかし,やはり若干の危惧を覚えます。この平成16年決定のようなものは,これは過料の裁判か何かでしたか,果たしてこういう利害対立がある意味で非常に争訟的な裁判についても,なお決定の射程が及ぶのかどうかということについて必ずしも確証はないような気がして,本当にこういうことで例外の余地として大丈夫だろうかと思うのと,それから,この事件の当事者になるものとして外国人等が多いように思うんですが,法律の条文には事情変更しか取消し原因としては認めないと明文で書いておきながら,実は事情変更でなくても著しく正義に反すれば取り消せるんですというのが果たしてどの程度説得力を持つのだろうかという疑問を持っております。   国際倒産についての規定を置くときもその利用者がやはり外国人であるということを考慮して,できるだけ明文で規定を設けるということが望ましいというような姿勢で法律を作ったように思います。この場合に果たしてこの解釈に委ねるという解決方法が妥当なのかどうかということについては,なお懸念を持っております。恐らくただ,全ての原因が取消し事由になるということになると,書かれているようないろいろな問題が生じるのは間違いないので,それはやはり限定する必要があって,実質はこの判例が言っている著しく正義に反するということを書くということになるのかなと。ただ,正義に反するというのはなかなか法文としては恐らく書けないのはそのとおりだと思いますので,私自身は,これは基本的には子の利益を守るための取消し事由だというふうに整理をして,子の利益を著しく害するということで書くことになるのかなと思っております。   ただ,しかし,それだと不当な蒸し返しを防ぐためにどの程度の効果があるのかということは確かに疑問になるところで,実際上は,それでは蒸し返しが一杯出てどうしようもないんだと。実務上それでは耐えられないということであれば,もう私はそれ以上申し上げませんけれども,しかし,やはりこの甲案に現段階で限定するということについては,なお危惧は持っているということは申し上げたいと思います。 ○古谷幹事 運用する側からしますと,甲案に賛成です。その一番の理由というのはやはり紛争の蒸し返しに対する危惧が非常に大きいというところでございます。即時抗告まで一応手続としては整備された上での話になりますので,その点はやはり考慮していただく必要があるのかと思います。   ただ,確かにそういった制度の切り分けをしたときに,こぼれ落ちてしまうところについては何らかの形で手当をしなければいけないとは考えておりまして,そのあたりは平成16年の決定等を踏まえて対応していくということになるかと考えております。 ○棚村委員 私も前回ちょっとお話ししたのですけれども,判決時までに分かっていたり存在をした事由と,それから,その後に起こった事情というのは非常に微妙なときがあったりします。そういうものを救済するときに,やはり子の心身の精神的,情緒的,身体的な福祉を明らかに害するとか,ちょっと著しく害する場合とか,何かそういう条項を設けて救済はできないのかということで,心身の疾患等があって常居所地国では治療とかそういうものを受けられない場合を挙げたのですけれども,そういうものを具体的に含むような条項を作ることによって取消しの事由みたいなものを一つ置くということが不可能ということであれば仕方ありませんが,可能であればそういうことも必要かなと思います。というのは,お子さんにしても,返還にしても,非常に流動的な要素があって,どの時点まで言うべきだったとか,どの時点には存在したんだということがなかなかそのプロセスの中では基準時で切れない,ここで切ってしまうと後は再審とか,その前のときはということが言えないような事情がやはりあるような感じを感覚としては持っています。ですから,考慮いただけると結構かなと思います。 ○大谷委員 質問なんですが,甲案も乙案も取消し以外に変更するという文言が入っているんですが,これはどのような変更を想定されているんでしょうか。 ○松田関係官 今のところ裁判の主文でどの主文になるのかというのが法文にも書くことではないと思うんですけれども,今までの議論を前提としますと,子を常居所地国に返還せよというだけの主文ではなくて,ドイツみたいな二段階の主文についても一応まだ検討の材料に上がっているというだけですけれども,いついつまでに返還しなければ申立人に引き渡せですとか,そういった二段階的な内容になったりですとか,あと,間接強制的なものも併せて主文に入れるというようなことも可能性としてはありますので,そういったことを考えますと,変更というのもあり得るのかなと思いまして,一応取消しだけでなくて変更も入れております。 ○村上幹事 基本的な質問なんですけれども,甲案も乙案もいずれもただし書がありますよね。子が常居所を有していた国に戻った後はというのは,これは任意に履行がされた場合あるいは執行が完了した後はという意味だと思うんですけれども,それと期間制限を設けることの意味がちょっとよく分からないんですが,いずれにしても,子がもう常居所地国に戻ってしまった場合は裁判を変更したり取り消したりすることはできないということですよね。そうすると,24ページの期間制限についての説明のところで,まず甲案を採った場合は期間制限を設けないというふうにはなっていますが,でも,これはもう戻ってしまったら変更はできないという意味で,ある意味では期間は制限されていると,そういう趣旨と理解してよろしいんでしょうか。   あともう一つは,乙案のほうで「裁判が確定したときから5年を経過したときは」というその5年という期間制限を設けるという案がなされているんですけれども,これは執行に5年ぐらい掛かってしまうと,そういう前提で期間制限を考えているのか,ちょっとその執行がつまり戻ってしまった後は変更できないということと期間制限とをどうやって考えたらいいかがちょっとよく分からないので,質問させていただきました。 ○松田関係官 期間制限と戻った場合の関係については,もう子が戻ってしまえばその監護環境を安定させるほうが優先するので,それはもう取消し変更の対象とはならないと。それがまず優先しまして,子がまだ戻っていない段階について乙案によった場合は,裁判確定前の事由を理由として,子が戻っていない以上はいつまでたっても前の裁判について取消し変更が言えるのかというと,そこは法的安定というか,その裁判をかなり年月がたってから前にあった事由を理由に変更できるとするのは安定性を欠くと考えられるので,期間制限をすべきではないかということで,部会資料では一応5年というふうにしていますけれども,これは再審とか家事事件手続法の規律に倣ったものでして,今回のこの手続で迅速性が要求されている中で5年というのが長過ぎるというのであれば,もう少し短い期間とすることも考えられるところでして,執行までに5年掛かるとかそういったことを念頭に置いているものではありません。 ○磯谷幹事 この家事事件手続法の中では,審判の取消しというのが規定されていますけれども,今の家事審判でも可能でしたでしょうか。仮に今の家事審判で可能な場合というのは,取消しの申立てがあったりすると,どういうふうに審理をされているのかなと思ったんですが,そのあたりは何か情報がございますでしょうか。 ○松田関係官 基本的に今の家事審判法は非訟事件手続法を準用していますので,即時抗告ができないものについては非訟事件手続法の取消し変更の規律がかぶるというか,それの準用でいくことでいいのではないかなと思っています。 ○磯谷幹事 そうすると,即時抗告ができるものについては,もうそれで取消し等はできないという形になるわけですか。 ○松田関係官 そういうことになります。 ○磯谷幹事 そうすると,現状では裁判所の実務で今回の子の返還命令のような,もちろん返還命令ではないんですけれども,こういった一定の命令についてまた取消しの申立てがあるとかということは実務上余りないということでしょうか。 ○松田関係官 当事者対立型のものであれば,基本的に即時抗告の規定は置いているのが通常だと思われますので,そういった当事者対立型のもので即時抗告以外に裁判の取消し変更ということはできないことになりますし,あと,即時抗告ができない代表的なものというと選任型になると思うんですけれども,そういったもので実際取消し変更がされているかどうかというのは,ちょっとこちらではすみませんが,把握しておりません。 ○金子幹事 今の家裁の実務で取消し変更の例としては,遺留分放棄があったと記憶しています。それ以外は,例えば,成年後見人の選任では,別途取消し変更の規定を別の類型である解任の審判として設けていますので,取消し変更で対応しているものはほとんどないように聞いていますけれども。 ○清水委員 例えば財産管理人選任といった類型の事件において,これは対立構造型の事件ではないんですけれども,いわゆる甲類審判事件において審判の取消しというのはたまにはあると思います。例えば相続人が不分明だとして財産管理人を選任したんですけれども,何らかの事情で相続人がいるということが判明したようなケースで,選任の審判を取り消すというようなことは実務的にはあり得ます。 ○相原委員 裁判の取消しに関しましては,前回でもかなり御議論があったと思うんですが,日弁連のワーキングで議論した結果につきましても,ここで御指摘されたというか,法務省の御提案にもかなり詳しく詳細にありますように,裁判の不当な蒸し返しを防ぐための方策というかなり非常に重要な問題点が指摘されているところを十分踏まえつつも,考え方としては乙案を採るべきではないだろうかという意見が非常に大勢を占めております。ただ,今申し上げましたように,不当な蒸し返しを防ぐための方策と115ページ等にもありますように,例えば以下のかなり問題点の指摘がありますので,ではこれに対してどうするのというのを多分突き付けられるであろうというところですけれども,まだちょっと十分議論ができず回答を用意できていない現状であります。   不当な蒸し返しがあって延々と続くということ自体,子にとっても良くないことがあるというのはもう御指摘のとおりでありますし,一方,本当に子の福祉の観点から見逃せない案件というか,取消しというのと,それから再審との重複というリスクはありつつも,両方残しておくべきではないかという意見も強い状況でございますので,その点を勘案してもう少し検討したいと思っております。   なお,やはりもし乙案を採るとすれば期間制限を設けるのが安定的な対応のためには必要であろうという意見でございましたので,ちょっと御紹介しておきます。 ○磯谷幹事 すみません,質問ばかりで恐縮ですが,仮に再審という規律でやる場合に,この26ページのところで民事訴訟法の再審事由が並べられておりますけれども,これはもうこのとおりでやるほかないのか,あるいはこの再審事由のほうをある程度いじるということも考えられるのか,このあたりはいかがでしょうか。 ○松田関係官 再審の規律を設けるとした場合に,法文上この再審事由を規定上何かするかというと,やはりちょっとそこは難しくて,民訴と同じような規定振りにせざるを得ないのかなと思っておりまして,あとは例えば再審事由の3号などの解釈,運用に委ねるということにならざるを得ないかなとは考えているところです。 ○横山委員 取消しの手続法上の実際的な効果とか法制度の位置付けは分からないですけれども,ただ,取消しの事由として山本和彦委員がおっしゃったような子の著しい不利益というような基準は,この条約の目的からやはり逸脱するのではないかなと思います。棚村委員がおっしゃったように,常居所地国で十分な医療を受けることができないとう点を持ち出すと,発展途上国から子が来たという場合には,必ず持ち出されるのではないでしょうか。   甲案を採った上で,本当に駄目なときだったら,それは最高裁の判例法もあるということであれば,それでいいのではないかなというふうに考え,幾らスペシフィックに十分な医療が受けられないとか病気が理由になっても,ちょっとこれをやり始めると発展途上国から日本への奪取の場合には,ちょっと誤解を招く規定になりはしないかということを感じました。 ○磯谷幹事 今の点につきましては,恐らく取消しをするとしても結局のところは抗弁事由が立ったんだと,結果的に,というふうなことであるので,条約の何か趣旨に反することにはならないのかなというふうには思っております。これが1点と,それから,これはちょっと事務当局のほうに確認をしたいんですが,今回取消しをするという場合には,そうすると即時抗告は,これはないということになるんでしょうか。このあたりがよく理解をできていなかったものですから。 ○松田関係官 すみません,まだ詰めて考えていませんが,取消し変更の裁判に対しては,やはり即時抗告を認めざるを得ないのではないかなというふうには今のところ考えています。 ○磯谷幹事 分かりました。 ○横山委員 子の利益というのは,条約では前文しか規定の上ではなくて,条約第12条の担保法でも乙案はもうはっきり言ってぎりぎりの表現なのではないでしょうか。これをまたわざわざプラスするというのは,担保法の中で,私はちょっと結構きついなという気がします。 ○清水委員 若干補足したいんですけれども,先ほど取消しの事例として申し上げたのは飽くまで甲類審判事件で,対立当事者型の事案ではないので,実務的には対立当事者型の乙類審判で基本的には調停から始まり,調停ができずに審判になり,審判の結果に対して不服があるほうは即時抗告し,そして,そうやって争いがずっと続いてようやく確定して,それにもかかわらず取消しが申し立てられる事件というのは,言ってみれば稀有というか,紛争を蒸し返すというような事案に限られ,しかも,代理人がついているケースはともかくとして,特異な本人のケースなんかでそういうケースはたまにありますけれども,率直に言って,実務的な感覚としてはこういう対立当事者型のもので取消しが本当に問題になるというのは極めて少ないという感じがしておりまして,やはり基本的には乙案というのはかなり蒸し返しに使われる懸念を抱いております。 ○磯谷幹事 なるほど,いろいろと議論状況がよく分かりました。それでただ,今回子も戻す,戻さないというふうなことが問題になる案件で,先ほどの冒頭申し上げましたが,最初から公示送達でやって,それは結果的に相手方の責めに帰すべき事由で,連絡が取れなかったなら事実論としてはしようがないのかとは思うんですが,必ずしもそうでもない状況下で返還命令が出て,そして,それの取消しと言っていいのかどうか分かりませんけれども,その救済がこの最高裁の判例みたいな話というのは,やはり非常に違和感といいますか懸念が残ります。取消しという制度そのものに非常にこだわるあれではないのかもしれませんが,先ほどのやはり公示送達を最初から使うということとの兼ね合いで,やはりなお懸念が残りますので,ここはやはり十分にちょっと検討していただきたいと思います。 ○髙橋部会長 申立人の虚偽なら再審の3号も使えるのですけれどもね。これも大きな問題ですが,今日追加資料がございますが,少なくとも説明はさせていただきたいと思っておりますので,保全的な処分,こちらに移ってよろしいでしょうか。 ○佐藤関係官 では,説明させていただきます。   今,部会長からもお話しございましたように,議論自体は次回メインというふうに考えておりますけれども,まだ踏み込んだ議論をしていないところでありますし,採り得る結論もいろいろあるところでございますので,早めの段階で事務局の問題意識等をちょっと御説明させていただきたいと思います。時間の許す限り,少しさわりのところで御意見を頂ければと思っております。   では,「7 保全的な処分」ですが,こちらは子の返還を実現するために必要な保全的な処分の在り方について検討するものであります。子の返還を申し立てても裁判がされるまでの間に子が国外に出てしまうと,子が出国したことは申立ての却下事由ともされておりまして,返還実現はおよそ不可能になってしまうということから,(1)に記載しておりますように,子の返還の実現を確保するために子を出国させない方策を講じる必要があると言えます。これについては従前,司法的な方策,すなわち保全的な処分というのを保全処分として念頭に置いて検討してきたと思いますけれども,迅速かつ確実な方策として行政的な措置を講じるというところも考えられるところです。司法的方策と行政的方策はそれぞれ効果や問題点が異なるものでありますために,まずはこのような大きな視点で保全的な処分の在り方について御議論いただいて,次回以降の部会で採り得る方策の詳細についての検討に入りたいと考えております。   それぞれの方策の具体的な例や問題点は,(2),(3)に対応した補足説明の第2項及び第3項に記載がございますけれども,行政的な方策としては,例えば旅券の効力を失わせる,出入国管理によって出国をとめる等が考えられます。これについては,行政目的による私権の制限となることから合憲性が問題となる上,出国管理上の規制については現在出入国管理及び難民認定法上認められているものは,外国人に対する出国確認留保,参照条文が後に記載ございますけれども,そちらのみで,出国をとどめたり禁止したりするものではなく,その原因事由も重大犯罪により訴追されているなどの限定的な場合であり,本件と同じような措置を採ることができるかという問題がございます。また,旅券の効力を失わせるということについては,そもそも外国旅券に対してはできないという問題がある外,旅券の効力を一時的に制限するということは難しいようでありまして,詳細は補足にも記載ございますけれども,他方,一時的ではなく効力を失わせてしまうものとすると目的に比して強過ぎるのではないかという問題がございます。このように行政的な方策は強い効力を及ぼすことができるものではございますが,立法に当たって解決しなければならない問題も多くございます。   次に,司法的な方策としては,個別事案に応じて出国を禁止し,その実効性を担保するために旅券の提出を命ずるということが考えられます。これについては,外国旅券の場合,提出命令を出すこと自体に国際法上問題があり,可能かどうかは外務省とも協議しているところではございますけれども,もし外国旅券に対しては提出命令を出すことができず,結局出国禁止の実効が上がらないとすれば,日本旅券のみ提出命令の対象とすることの意義が問題になります。また,保全申立ての相手方も返還申立ての相手方である子の監護者,現実の監護者とすることが考えられますが,子名義の旅券の提出をその相手方に対して命ずる根拠をどこに求めるのか。むしろ例えば子を相手方とすべきなのかということが問題になります。さらに提出命令を出したとしても,その具体的な実現をどのように確保するのか。どのように提出させて,誰がどのように保管するのかということが問題になります。なお,裁判所による命令の実効性を確保するために,司法上の強制執行によるのではなくて,命令を契機として何らかの行政的効果を及ぼすことができるようにするということも策としては考えられるところであります。   保全的な処分については,主としてこの国外への再連れ去りを防止するための方策を講じる必要があるという観点から,今御説明申し上げたとおり検討しておりますけれども,他国では他の例もあるところでございまして,国外への再連れ去り防止以外に何らかの方策を講じる必要があると考えられる具体的な場面があれば,ここで御提案いただき,御審議いただきたいと考えております。   説明は以上になります。 ○髙橋部会長 なかなか難しい問題があるという説明ですが,こういう点はどうかというふうなことをどんどん積極的に出していただければ検討の材料が増えますので,お願いいたしたいと思いますが。 ○織田幹事 この問題について,私自身はまだ結論には至っていないんですけれども,例えば親権者の変更の事案などで,裁判所に係属している間に海外へいた母親が子どもを連れ去ってしまったとか,そういう場合に何かせめて裁判所に係属している事案については,何かできなかったかなというのが本当にそういう素朴な感覚は持っております。ただ,いろいろと法務省の御説明によると,やはりいろいろ難しい点があるというのも改めて認識いたしまして,また私自身もこれから考えていきたいと思いますけれども,そういう事案について何か皆様のほうから御提案があればお話を伺いたいと存じます。 ○大谷委員 私も妙案があるわけではないんですが,御説明を伺っていて何点か気付いたところというか,このように考えられないんだろうかという点だけ意見として述べさせていただきます。   司法的な方策,行政的な方策もそうでしょうか,この話になりますと,必ず子の海外渡航,移動の自由,憲法上の人権の制限の点で合憲性が問題となるという話が出てくるんですが,私個人は子の人権というものを最大限尊重しながらも,この場面においてむしろここでは子を再連れ去りから保護するという目的で考えているものであって,その子自身の保護のためにその子の移動を一時的に制限するということは目的の点でも,それから目的手段の関連性,その手段の限定性の点からも必要性の点からも私は可能だというふうに考えています。   それから,中間的な話として裁判所がそもそもこういう保全命令を出せるのかどうか。出すとして法的な根拠を改めて何か設けなければ出せないのか。例えばハーグ用に特別な規定を置かなくても,今現在でも出せるのではないかみたいなことをいろいろ考えますと,今回このためにハーグ用の保全手続としてこのような出国禁止を出せるようにするかどうかということは別として,今の現行法でも出せると考える余地はあると思っていまして,仮に出た場合に,それが止められないということが素人的で申し訳ないんですけれども,理解ができないので,そのような場合に出入国管理法の現在の出国を止める対象は外国人に限られるといった御説明を何度か伺ってはいるんですけれども,新たな制度としてそのような裁判所から命令が出ている場合には止められるようにする,あるいはこれは全体的なことと関係しますが,できるだけ私たち,子の返還手続の中で任意の話合いによる解決ができれば好ましいと考えております。   そのようなことを考えると,例えばですけれども,申立人が日本に来て手続に参加すると。その中でできれば面会も行い,話合いをしようというような機運が生まれたときに,相手方の方としては申立人による再連れ去りも心配ですので,場合によっては当事者の合意によってこの手続の間,お互いに子を連れ去らないという合意をすることが考えられると思うんです。そのような合意があったときに,それを最低限担保するように,それにもかかわらず子の出国がなされようとするときには止められるというような,最低限そこだけでも何か立法措置でしていただけないものかと。   それから,パスポートの保管も果たしてそれができるか,あるいは外国旅券には及ばないので結局のところ難しいのではないかと,いつもこういう議論になるんですが,ここも同じことで,場合によって任意の話合いを進めるためというようなこともあって,当事者たちがその話合いをする間,面会もさせるし,そのときにパスポートを預けようということを合意して面会しようというような場合に,それを預かるところがないと,そうした話合いも進まないという意味では,裁判所が命令できるかどうかはともかくとして,本人たちが合意をした場合にそれを預かるような機関,これはこちらの法務省の方ではなくて,むしろ外務省懇談会のマターかもしれないんですが,最低限そのようなところだけでも整備をすることが可能なのではないかというふうに考えております。 ○棚村委員 この問題については保全処分ということですけれども,子どもの返還をやはり実効的にするためには,やはり再連れ去りとか移動範囲で禁止するということは必要だと思います。ただ,各国を見ていますと,やはりでは具体的にどういうことが問題になるかというと,今,大谷委員から言われましたように国境コントロールとかパスポートの取り上げとか,それから,場合によっては暫定的な交流を禁止することがあります。というのは面会交流を求めているときに先ほどちょっとあったように連れ去られるということもあるので,その危険性があるとそういうようなことにも及ぶようです。イギリスなんかですと,パスポート命令とか保全的な措置として子の所在についての情報の確保のための子の所在確定の命令とか,それから,今言いましたように,子を一時的に取り上げて申立人又は適当なものの監護下に置いておくとか,そういうような保全措置を裁判所に期待する,あるいはさせているところがあるわけです。ところが,今言いましたように司法機関ができることあるいは範囲というのですか,それと行政機関がやれること,やるべきこと,そのあたりの少し議論を整理しながら進めてはどうかなということを考えました。   非常に抽象的ですけれども,子の返還を実効的にするために必要な措置というのもそれぞれ各国の保全措置の位置付けが違ったり,あるいは中央当局がかなり関与したり援助したり,それから他の行政機関の協力を求めたりしてやっていることがありますので,私自身は司法機関,特にリロケーションの問題なんかを見ていますと,結局最終的には国際的にも国内的にも転居するということがどの範囲で認められるかどうかということの基準作りとかそういうことにも関係してくると思います。もちろん常居所地で最終的にそれは判断をされるということですけれども,連れ去ったところでも司法機関がやはりどこまで本案との関係で保全措置を採れるかというのは,実は行政機関がどういう連れ去り禁止のための対応を採れるかということをある程度詰めながら,司法機関としてそれの隙間になるような,例えばパスポートの取り上げの問題もかなりいろいろな問題がありますので,それから,そもそも先ほど言いましたような他の保護のために,例えば適切な監護状態みたいなものまで確保するかどうかというのは各国によって幅があると思いますので,行政機関ができることと,それから,子の連れ去りの防止のためにできること,子の保護のためにできることを少し分けて議論していくことがいいかなと考えました。私の意見は,その進め方の問題ですけれども。 ○村上関係官 先ほど棚村委員から御指摘のあった司法機関と行政機関との分担というところもあるのですけれども,ちょっと今日の資料の関係で2点ほど補足という形で申し上げればと思います。まず,やはり現行の行政事件訴訟法,行政不服審査法の問題がございまして,行政的な措置を採ると,やはり行審法,行訴法に係ってくるという問題があるかと思います。全体の子の返還手続というプロセスを議論している中で,行政的な方策を採るとこの部分だけ実は行政的な処分となってしまいまして,この部分だけ切り離されて,究極的には地方裁判所での行政訴訟になってしまうと。もちろん民事訴訟で本案と保全が分かれて争われるというケースはもちろんあるかと思いますけれども,大抵は同じ裁判所が出すということかと思います。他方,片や子の返還手続が家裁に係っているのにもかかわらず,行訴法,抗告訴訟が地裁に係ってしまうというようなシステム上の問題というのも考慮に入れておく必要があるのかなと思っております。   2点目,先ほど法務省の佐藤関係官から御説明のありましたところで,④のところなのですけれども,旅券はやはり運転免許証と違いまして,一定期間免許停止,免停というわけにはいきません。基本的には一度発給されましたら,例えば10年なら10年,基本的にはそれが失効するまでは有効なものとして扱おうという基本的な考え方がございます。なので,④の部分はそういう点があるということについてちょっと補足させていただければと思います。 ○大谷委員 度々すみません,1点だけちょっと皆様に御知見を伺いたいんですが,先ほども発言したんですけれども,子の移動の自由の制限になるということの議論がどうしても毎回よく分かりません。と言いますのは,例えば諸外国におけるハーグ条約に関する裁判例を読んでおりますと,当初は自国民である子を外国に送り返すということそのものが憲法違反であるというようなことが争われて,いや,そうではないのだという整理が次第に各国でなされたような裁判例があります。今も二重国籍の子とかが多いと思うんですけれども,かなり日本国籍を持っている子が多いと想定される中,この手続というのは,同じような話でいえば,本来国際法的にも自国へ帰る権利というのはかなり強い権利だと思われますけれども,それにもかかわらずこの条約の下で子を外国へ渡すというような手続を今考えているわけですよね。   その他方で子が手続中に先ほども申し上げましたけれども,子が連れ去られることが子自身にとって一般的には有害なことが多いという想定の下に始まっていることの手続の中で,かなり限定的な場面で子を日本から出国させることの自由をここまで強調しなくてはいけないと。こういう発言をしますと,大谷は子どもの人権を考えていないのかと言われそうなので自己弁解のために申し上げますと,私自身は先ほど申し上げましたように,子どもの人権という観点からずっと考えているつもりですが,それでもこの議論が繰り返し出てくることがどうしても理解し難くて,また質問を申し上げているわけです。ここはやはり頭を切り替えて,その憲法上の自由というだけでこれはできないのだということで固まってしまうのではなくて,やはり全体的にこの手続自体が本来子の利益のために作られた,そのような価値観を受け入れた上での手続だということで議論する必要があるのではないかなと思っております。 ○佐藤関係官 すみません,一番最初の御発言についてちょっと確認したい点が1点あるんですが,規定を特に設けなくても現行法で十分対応できるのではないかと大谷委員が御発言されていた点について,具体的に教えていただければと思います。 ○大谷委員 そういう趣旨ではなくて,現行法の下でも出る可能性があるのではないかと。出た場合には,それが実効性あるものにすべきではないかという意味です。 ○佐藤関係官 その現行法でもとおっしゃっているイメージが例えば民事保全でできるのではないかという御趣旨なのか,そうではないのかをちょっと確認させていただきたかったんですが。 ○大谷委員 民事保全の場合もあり得ると思います。 ○佐藤関係官 前提として事務当局のほうで考えておりますのは,民事保全だと民事保全法第1条の民事訴訟の権利を保全するためという規定がございますので,民事保全ではできないのではないか。もしやるとすれば,何らかこの法律の中で手当する必要があるのではないかというような前提で考えておりますので,もしかしたらそちらにも御反論はもちろんあるかと思いますが,ちょっとそちらを確認させていただきたかったというところでございます。   あと,先ほど大谷委員に御指摘いただいた子の再連れ去りというのは,そもそも子の害になるというところ,もちろんそのとおりだと思っておりますし,そういう正当な目的が立ち得るものだということはございますけれども,子が出国したい場合というのはいろいろ想定されますし,例えば行政規制でやるという場合の作り方によってはやはり広過ぎる,強過ぎるということはございますので,何らかの憲法論というのはやはりどこかで残ってくるのかなとは思って,広めに問題点を拾っているというところでございます。 ○大谷委員 新たな規定を設けないとそのような命令が出せないということだとすると,私自身は規定を設けることを検討すべきだという意見です。それから,子自身が出たいという場合があると。抽象的にはそう思うんですけれども,具体的に子の返還手続をやっている最中で,親とは別に子自身がどうしても出たいという場合というのはどの程度あるのか。それを否定するつもりはありませんが,そのようなときには裁判所が適切に例えばですけれども,修学旅行でどうしても海外へ行かなくちゃいけないと,そういうときは当然出るということになるだろうという前提の下で私自身も話しております。ただ,そういうことを原則的に考えて,およそ子の憲法上の事由によってその出国を止めることができないと言ってしまうこと自体に疑問を感じているということです。 ○棚村委員 先ほどもちょっと言ったことですけれども,具体的にパスポートを取り上げるとか身分証明書とかチケットとかいろいろそういう出るのに必要なものを止める,取り上げるというやり方はあると思うのですが,海外だと出国禁止令状というか,そういうような形でかなり包括的に出ることを禁じるということができるところもあります。そのときの多分根拠になっているのは,親が持っている居所指定権とかそういう親としての権利みたいなものが一応前提にはなっていると思います。ただ,問題はそういう制度を作らない限り,日本ではなかなか難しいのか,それとも可能なのか,どんなふうに考えるべきか。先ほど可能性が全くないと思うのですが,民法でも父母であれば監護教育権とか居所指定権とかやはりあるわけです。それで,そういう権利に基づいてそれを連れ去られてしまったと,あるいは連れ去ろうとしているとかいうときに,再連れ去りについて一般的に持っている居所指定権とか子はどこに住んだらいいかということについて,それを本案として民事上の仮処分を掛けるということは不可能なのでしょうか。   例えば俳優さんがストーカー行為をされたものに対して,接近禁止みたいな仮処分を掛けることがありますよね,実際の例で。それと同じように,親が子に対してどこに住んだらいいかということをコントロールできる一定の利益なり権利があって,それを被保全債権として,それを再連れ去りのときに予防するために民事保全という可能性は保全の必要性とか本案の認容の蓋然性で言うと,ちょっと難しい部分はあると思いますが,全く可能性はないのでしょうか。 ○佐藤関係官 すみません,抽象的に保全だけを見てそれがあり得ないかということをお話ししていたのではなく,やはり本案との関係で保全というのは考えないといけませんので,今回本案として想定しているものが子の返還手続であるということから考えますと,民事保全の手続そのものには乗ってこないだろうということをお話ししただけです。 ○棚村委員 子連れ去りを防止するというハーグの手続の保全処分として,新たに規律を設けるわけですよね,手続的にも。 ○佐藤関係官 もし司法的な方策でやるとすれば,この担保法の中に何らか規定を設けないといけないのでないかと考えております。 ○棚村委員 私はどっちかというと,その出国禁止令状とか命令みたいなものが即制度としてあるのであれば問題ありませんけれども,それを実効的に再連れ去りを防止するために個別にどういう段階を踏んで,どんな措置が可能かとお尋ねしたいのです。特に裁判所としては,現行の枠の中で新たなものを作るというのはなかなか難しいとすると,それが例えば家事事件手続法でどこに住んだらいいかとか,国内事件でも起り得ますよね。親権者を決めている最中に先ほど織田幹事がおっしゃった監護者の裁判のときに連れ去ってしまったとか,面会交流の子の監護に関する処分,監護者の指定とかをやっているときに連れ去ってしまったというときがありますよね。 ○佐藤関係官 委員が御指摘いただいているのは,行政的な方策が何らか取り入れられないかというものと同じ御指摘のように聞こえるんですけれども,いずれにしても,当然検討したいと思っておりますので,(2)のところで次回以降御審議いただきたいなと思っているところであります。 ○棚村委員 いや,現行の枠の中でできるものはないでしょうか。 ○佐藤関係官 現行の枠の中ではちょっと,現行の枠でそのまま直接利用できるというものは,もしあれば御指摘いただきたいですが,事務当局としてはないのではないか,難しいのではないかと,そのまま使うというのは困難ではないかと考えています。 ○棚村委員 再連れ去りを予防するような保全命令みたいなものは,例えば連れ去るなとか。 ○佐藤関係官 先ほどのお話にそれ自体を本案としてやるということがあり得ないかと。民事訴訟としてやるということがあり得ないかと言われると,申立てすること自体は自由なのかもしれませんけれども,ちょっと難しいのではないかなと思います。 ○朝倉幹事 若干今までと少し観点が違うかもしれませんが,子の国外への連れ去りを防止する必要があるというお話はよく分かりました。そうでないと,この手続が結局無意味になってしまうということになるのだと思います。そうだとすると,要するに子はこの手続をやっている間は出国してはいけないのだということになりますので,子の出国を一律に禁止するという規定がないと,そもそもそのような申立てをする権利があるのかという話になってきます。したがって,実体法的に子の出国を禁止する規定が必要なのではないかと思うところであります。   そうだとすると,結局,子の出国を禁止する規定があっても実効性がないと意味がありませんので,そうすると,どうやって実効性を担保するかという話になると思います。これが事案ごとに差があるのであれば,要件を定めて,その要件に当てはまるかどうかを裁判官が審査して命令を発する,発しないと考えるのでしょうが,今のお話を聞いていると,要するにどんな子でもこの手続が始まったら出国してはいけないのだということだとすると,一律に止めなければいけないということでして,しかも,それは緊急に止めないと,1か月後と言われても1か月の間に逃げてしまいますから,何らかの一律の措置が必要なのではないかと思います。そして,それは本当に司法的な措置によるべきなのかという観点がまずあるのではないかと思います。ですから,そういう意味では何らかの行政的な措置ができるのであれば,そちらが本来は在るべき本筋なのではないかと思います。   もう一つ,今も議論になったところですが,保全処分と位置付けると,これは被保全権利はないという話になってしまい,しかも,出国してもよい場合の条件をどのように考えるのかという問題は非常に難しい問題であると思います。出国禁止をするに際し,便宜上何らかの司法的な関与が必要だということであれば考える余地はありますけれども,本来の保全手続かと言われると,それは違うのではないかと思うところです。   それから,外務省と調整中というお話でしたが,そもそも外国旅券の取り上げができるのかという話です。出国禁止ができなければ,旅券を取り上げれば実質出られないではないかと,こういう話ですが,外国旅券の場合にはこれを取り上げて本当にいいのかという問題が前提としてあると思います。ここは先般,長嶺委員のほうから国際法上の問題点があり得るという御指摘があったところで,国際法上問題があるのであれば,それは行政機関がやろうが,司法機関がやろうが国際法違反になってしまうということでしょうから,その点についてクリアできるのかどうかという問題もあります,更に言えば,外国籍の外国旅券を持っている子は止められないけれども,日本国籍しか持っていない子は止められるということになると,これは憲法上の平等の問題が出てくるのではないかという気もいたします。   最後にもう一つ申し上げると,仮に裁判所のほうで何らかの形で旅券を取り上げるということになり,執行官を使うということになると,本当に執行官が取り上げられるのかという問題があります。通常,動産の引渡し等における捜索という場合,警察や検察が行っているように,何十人も現場に投入して行うようなものではないところ,旅券のように小さいものをそれで本当に見付けられるのかどうかというあたりに疑問が残るだろうと思います。いろいろ申し上げましたが,必要性は非常によく分かりますが,行政的な手法も,まして司法的手法にはかなり困難があると思うところであります。 ○相原委員 まず,こういう問題に関して一番多く想定される,連れ去り事件として日本で考えられている日本に母親が子を連れて帰ってきているようなケースに関して,その人たちが更に海外に出ていくというのは,現実にはそれほどないのではないかなというふうに率直に思っております。むしろ海外の親がやって来て連れ去っていくことを何とか防止して,円満な解決をするというところに重点を置いてほしいなというのが個人的な意見でございます。そうすると,先ほどの任意に面会交流とかというのを実質化するというところに何とか旅券を確実に預かるとか,旅券の問題とか国際法的な観点からのいろいろな問題がたくさんあるんでしょうけれども,先にハーグ条約を締結している海外において行き着いたところのやはりこの旅券の問題と出入国の問題に関して,一応きちっと対応している。いわゆる先に行っている人の知恵といいますか,それについてはできるだけ学んでいただきたいというふうに理解しております。 ○大谷委員 若干混乱があるようなので1点だけ。先ほどの民事の保全はできないと思うと御説明になられたのは,恐らくハーグの返還手続を本案と考えて民事保全はできないという御説明だったと思うんです。それは私もできないと思っています。ただ,多分棚村委員もおっしゃられようとして,私もその前に発言していたのは,そうではなくて何らかの本案の被保全権利というものを考えて,それを被保全権利として一般の民事保全でできる可能性が全くゼロではないのではないかと。そうすると,結局今の議論が例えばここで議論が尽くされて,新たにハーグ用の保全として出国禁止というのを作るのが難しいと仮になったとします。そうすると,例えば私がハーグ返還手続の仮に代理人だったとすると,やはりそういう必要があったときに現行のもので何かできないだろうかと必死で考えてやるだろうと思うんですね。そこで出るかどうかというのは,それこそ被保全権利を何にするのかとか裁判所の御判断になると。それは分かっているんですが,それで仮に出た場合に,それさえも実効性がないというのが今の現行法では仮に裁判所が命令を出してもそれが止められないと,そこは何とかならないのかという問題意識を持っています。 ○織田幹事 保全処分について全体的なことはちょっと私もまだ検討中ですけれども,例えば国外への出国禁止などを考えてみますと,先ほど朝倉幹事も整理してくださったように,手続が始まったら子を外に出さないと,そういうことがやはり緊急に大事になってくると思うので,ここの追加資料で(1)のところに「子の国外への再連れ去りを防止し,又は子の安全を確保し,将来の子の返還命令の実現を可能とするために」と,一応こういう趣旨で保全処分というのを考えているわけですけれども,少し観点を変えまして,その子の返還手続,その手続の適正を確保する。例えば調査官による調査を受けられないままに子が外に連れ出されてしまう。そうしますと,適正な手続を確保することができないということになりますので,適正な手続を確保するその手続的な観点から何かこういう措置を取ることができないだろうかというふうにちょっと考えたんですけれども,いかがでしょうか。 ○髙橋部会長 今日は検討課題を頂きたいということですから,それを含めてまた検討させていただきますが,他にいかがでしょうか。   それでは,本日の協議は以上とさせていただきます。次回以降のスケジュールについてお願いいたします。 ○金子幹事 それでは,次回のスケジュールについて御説明します。   まず,内容ですが,次回は既にお知らせしておりますとおり,ヒアリングの機会を設けたいと思います。当方のほうで人選をさせていただきましたが,お一方が長谷川京子弁護士,兵庫弁護士会所属でDV関係にお詳しい方というふうに伺っております。もう一方が山口惠美子さん,この方は元家裁調査官で公益社団法人家庭問題情報センター,通称エフピックの現在常務理事をされていて,子どもの調査等にもお詳しい方というふうに聞いております。所定のヒアリングの手続が終わりましたら,時間があると思いますので,引き続き調査審議のほうをお願いしたいと思っていまして,その内容としましては,今御議論いただいておりました保全的な処分の残りの部分,それから,調停と和解の在り方,それから子の返還拒否事由のあたりを予定しております。   日時と場所ですが,10月28日金曜日,13時30分から,場所ですが,あるいは司法法制部のほうから別の場所を一旦御連絡したかもしれませんが,場所は法務省の第一会議室,20階になります。もし誤ったアナウンスが行っていたとすれば変更になっておりますので,よろしくお願いしたいと思います。可能であれば必要な部会資料は事前にお送りしたいと思います。 ○髙橋部会長 よろしいでしょうか。28日1時半,一番上ですね,20階,ヒアリングと審議の両方をやるということであります。   では,今日の部会は閉会といたします。熱心な審議,ありがとうございました。 -了-