法制審議会ハーグ条約(子の返還手続関係)部会           第7回会議 議事録 第1 日 時  平成23年11月11日(金) 自 午後1時30分                        至 午後5時09分 第2 場 所  東京地方検察庁会議室 第3 議 題  ハーグ条約を実施するための子の返還手続等の整備について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○髙橋部会長 それでは,ハーグ条約部会,第7回になりますが,開催いたします。   では,配布資料の説明を事務当局からお願いします。 ○佐野関係官 本日の配布資料ですけれども,事前にお送りしました資料番号7の部会資料7のほかに,席上配布資料としまして,外務省で開催されました前回の懇談会の概要とその議事録を資料番号17,18で配布していると思いますので,御確認ください。 ○髙橋部会長 よろしいでしょうか。   まず,具体的な部会資料の検討に入る前に,今,紹介のありました外務省の第3回目の懇談会において実施されたヒアリングの概要について御紹介いただければと思います。   辻阪幹事,お願いいたします。 ○辻阪幹事 参考資料の17と18でございますが,今回ヒアリングを行ったということで,参考資料18として,その時の議事概要の全文をお配りしております。参考資料17に沿って御説明いたします。インカミングケースやアウトゴーイングケースを多く扱った経験のある弁護士や,DVなど関連事案を扱ったことのある弁護士の方4人に来ていただきました。その中で,基本的には中央当局に対して何を望むのかという観点からお話を伺ったのですが,中央当局にはとどまらず,もうちょっと幅広い御意見がありましたし,こちらの部会で関係がある論点も若干ありましたので,そのあたりを中心に御説明したいと思います。   参考資料17です。最初のページの一番下のところ,これは池田弁護士から出た御意見ですが,政府全体として我が国における面会交流が実効的なものとなるような制度構築を進めてほしいという意見が出ました。   次のページをめくっていただきまして,鈴木弁護士からの御意見で,2番目の●の部分ですが,日本の民法では離婚後は共同親権制が採られていない,また,事実婚・認知の場合も母親のみが単独親権を有する制度となっているため,連れ去られた親が子を事実上監護している場合であっても,法律上の監護権がないためにハーグ条約を使えないという事態が相当数生じることを懸念しているというような御意見とか,4番目のところですけれども,外国籍の調停委員が認められていない現状は改善の余地がある,調停を行う際に外国の生活・文化のバックグラウンドが必須であり,当事者の気持ちの面でも重要という御指摘もありました。   次のページに行っていただきまして,上から四つ目の●のところです。これは谷弁護士の御発言ですが,子に対する更なる害の防止に関しては,居所変更の届出を義務付ける必要があるほか,国外への出国を防止する制度を創設すべしという意見もありました。   そのほか,質疑応答で出た意見ですけれども,同じように,その下の●の部分ですけれども,出国禁止命令という関係で,子の更なる害の防止の観点から裁判所が保全命令の一環として出国停止を命じ,出入国管理で出国制限を採れる制度の構築が必要という意見も出ていました。   あと,その下の接触の権利の2番目のところで,これは先ほどと若干繰り返しになりますが,調停委員は日本人に限るべきではなく,調停では日本語以外も使用できる制度にすべしという意見もありました。   最後に,その他のところの1番目の●のところで,国際離婚の事案において問題と感じる点は,我が国が共同親権ではないこと,面会交流が法的な権利として認められていないこと,家裁の調停委員には高齢者が多く,母親の下での養育がよいという伝統的な固定観念を持つ人が多いことなどが挙げられるというような指摘が出ました。   御参考までに紹介させていただきました。以上です。 ○髙橋部会長 ありがとうございました。   ただいまの説明に対しまして,何か御質問なり御意見なりがございましたら,お願いいたします。   よろしいですか。それでは,本日の審議に入ってまいります。部会資料7に基づきまして,引き続き個別の論点の議論を予定しております。   今回はまとめずに一つずつということで,まず「1 当事者適格,利害関係参加」について,説明をお願いします。 ○佐野関係官 では,1について御説明したいと思います。   1は,第5回の部会におきまして,利害関係参加人の範囲を御議論いただいたかと思うのですけれども,それを踏まえまして,手続に関与する当事者と利害関係参加人の範囲について改めてまとめて検討するものです。   まず(1)の「当事者適格」におきましては,これまで検討してきましたとおり,子の連れ去り又は留置により監護権が侵害された者に申立人適格を認めることとし,現に子を監護している者に相手方適格を認めることを前提としまして,この資料に記載のとおり,①としまして,子を連れ去ったが子の日常生活の世話をしていないものの,子に対して何らかの関与が認められる親に当事者適格を認めるかどうか。また,以前の部会で出ましたように,②としまして,子が入所している児童福祉施設の長に相手方適格を認めるかどうかを取り上げております。   まず,①につきましては,全く子の監護に関与していないにもかかわらず,単に子を連れ去った親であるとの一事をもって,直ちに相手方適格をその親に認める必要はないのではないかとは考えられますが,一方で,実際に返還命令が出された後に円滑に強制執行するという観点を考えますと,子の監護に何らかの形で関与している親については,広く相手方適格を認めるのが相当ではないかと思われます。   では,具体的にどの程度子の監護に関与していれば相手方適格が認められるのかというのは,最終的には具体的な事案によると思うのですけれども,例えば部会資料に挙げました,現に子の日常生活の世話をしていない親であっても,子についての重要事項について決定を行う親であるとか,定期的に子との面会交流を行う親につきましては,相手方適格を認めるのが相当ではないかと考えられます。   次に②の児童福祉施設の長に関してです。具体的には児童福祉施設の長,施設長に相手方適格を認めるかどうかということになるかと思いますけれども,施設長は,児童福祉法第47条第2項及び第3項に規定されているとおり,入所中の子の監護を実際に行っている者と言えますし,現在の子の状況については最もよく知り得る立場にあるということから,相手方になった場合には適切な子の返還拒否事由の主張も期待でき得るものかとも思われます。   ただ,施設長というのは飽くまで児童福祉法上の措置に基づいて子の監護を受け入れているにすぎませんし,そのような立場ですから,子の返還手続の当事者となって子の返還の要否を基礎付ける返還拒否事由を適切に主張できるかというところは疑問があるところです。また,仮に施設長を相手方とした場合に,施設長に対して子を返還せよという返還命令が出ることになるわけですけれども,施設長は裁判所の返還命令に従って子の返還を履行する権限を有しているのかという観点もやや疑問があると思います。   さらに,施設長に対して相手方適格を認めますと,同様な理由によって,例えば里親に委託されている子の場合は,里親にも相手方適格を認めるというようになるのかなと思われます。ただ,里親に対して子の返還の裁判の手続遂行の義務を課し,更に子の返還命令が出た場合には返還命令に従う義務を課すということは,里親の負担という観点からもやや問題ではないかと思われます。   以上のように考えますと,例えば施設に入所中の子につきましては,保護者を相手方とするということも考えられるところですけれども,一方で保護者がなく施設に入所している子の場合はどうするのだという問題が出てきますので,なおこの相手方適格の問題については検討を要するものかと思われます。   なお,ここでちょっと議論を外れますけれども,施設長に相手方適格を認めるかどうかは別にして,施設に入所している子について仮に返還命令が出されたとしても,実際に施設入所を解除して子を常居所地国に返還するということはなかなか困難かと思われますので,施設入所中の子については,そもそもハーグ条約に基づく子の返還手続にのっとって,子の返還を求めることができるとすること自体相当か,そのような場合には,まず申立人の側において施設入所それ自体の適否について問題としてとして取り上げるべきではないかとも考えられますので,この点につきましても,相手方適格の話の一環として御議論いただければと考えております。   以上が当事者適格の範囲の問題です。   次に,「(2)利害関係参加人」についてでございます。これまでの部会では子を利害関係参加人とすることにつきましては御議論いただいたところですけれども,前々回,第5回の部会におきましては,兄弟姉妹一般につきまして,利害関係参加人とすることは相当ではないとしても,例えば一部の子の返還が命じられると,監護している親も実際に常居所地国に帰国せざるを得ないような場合に,子の返還を命じられなかった他方の兄弟姉妹についても,事実上常居所地国に帰国させざるを得ない,あるいは,帰国する親と離れて暮らさなければならないというふうな不利益があると捉えて,そのような場合における兄弟姉妹については,利害関係参加を認めるべきではないかという意見が出されたかと思います。   しかしながら,帰らざるを得なくなるかもしれないという兄弟姉妹であっても,その兄弟姉妹が持つ利益というのは事実上のものでしかないように思われますし,返還を求められている審理対象の子を返還すべきか否かについての裁判所の判断に,別の兄弟姉妹が利害関係参加することによって影響が生じるとはなかなか考え難いところです。さらに,そのような場合に兄弟姉妹が返還拒否事由を主張するのであれば,独自の立場で参加して返還拒否事由を主張するまでの必要があるかどうかという点も疑問ですので,このような兄弟姉妹の利害関係参加につきましては,なお慎重に検討する必要があるのではないかと思われます。   その他,先ほどの(1)の当事者適格の場面におきましては,子を連れ去ったけれども,子に対して何らの関与もしていない親については相手方適格を認めなくてもよいのではないかと考えたところですけれども,なおそのような親には利害関係参加を認めるべきかどうかという点は別途問題になるかと思います。ただ子を連れ去った親であるというだけで,繰り返しですけれども,現時点において何ら子どもに対して監護をしていない,全く子どもに接触がないという親に対して,同じように独自の立場で利害関係参加人として手続遂行上の地位を与えるべきかどうかというのもやや疑問があるところですし,そのような親については必要に応じて裁判資料の対象とすればよいことではないかなと思いますので,利害関係参加人としてそのような親を認めるまでの必要はないのではないかなと思われるところです。   以上が利害関係参加人の範囲ですけれども,このような議論を踏まえまして,なお利害関係参加人としてどのような者を認めるのが相当かについて併せて御議論いただければと思います。   以上です。 ○髙橋部会長 それでは,どこからでもいいでしょう,御意見があれば。磯谷幹事。 ○磯谷幹事 意見というより問題点の指摘ということになると思いますが,先ほど子が児童福祉施設に入所している場合の御説明がございまして,その中で保護者がいない時ということがちらりとお話に上がりました。保護者がいない時というのは,施設に入っている場合には施設長が監護等に関して一定の権限を持つことになりますけれども,今回の児童福祉法改正によりまして,来年の4月から施行予定になっております規定によりますと,里親に委託されている場合には児相長が監護等についての権限を持つということになっております。   つまり,親権者がいないという場合に,里親に委託されていく場合には,現実には里親の手元で育っているということになりますけれども,児童相談所長が監護等について権限を持つ。そうすると,どちらを相手にするのかという難しい問題が出てきますし,児童相談所長を相手にするということになりますと,ハーグとの関係で果たしてどうなのか,行政機関が相手になるというのはどうなのかという気もいたします。それが一つ悩ましい問題かなと思います。   もう一つは,こういうふうに施設に入っている場合に,ハーグそのものが使えないようにすると言いますか,そういうふうな決め方も一つあり得るというお話がございました。それもなるほどと思いますが,その中で,施設入所などがある場合には,いわゆるLBPとしては施設入所そのものをまず争うというお話がございました。仮にLBPが親権者ということになりますと,その人が施設入所に反対ということになりますと,通常は児童福祉法第28条の承認の申立てを児童相談所がするということになるわけです。最終的に仮に児童相談所が負けたということになりますと,措置は継続できなくなりますので,どちらに返すかという問題に直面することになります。   このときに,特に返還命令等がなくて,LBPに返すということで果たしていいのか。一方で,TPに返すということになりますと,恐らく児童相談所は養育困難,虐待等の理由で施設入所にしているということだと思われますので,子どもの利益としてどうなのかというところで,実際措置を解除した段階にも非常に難しい問題に直面することになるのではないかと懸念をしております。   今は問題点の指摘ということで,以上でございます。 ○髙橋部会長 棚村委員。 ○棚村委員 別の点でもよろしいでしょうか。兄弟姉妹の利害関係については前回もちょっと議論させていただいたわけですけれども,一つは兄弟の不分離ということが,元の居住国に戻った場合の子の生活という点からも,抗弁事由との関係でも話題になっているということ。もう一つは,この間,山口惠美子さんというFPICの方のお話の中に出てきましたけれども,葛藤の高い父母の間に挟まっている子の場合に,兄弟がお互い同士支え合っていることが非常に重要であるということもありました。   それから,もう一つは,前回もちょっと触れたかと思いますけれども,2011年の6月10日にイギリスの最高裁判所がハーグ条約で判断を示しました。このとき,ノルウェーに住んでいたノルウェー人の父親とイギリス人の母親の双方は再婚同士で,新たに生まれた子どもが二人,7歳と4歳の娘が問題になりました。そこの中にもう一人,母親のほうの16歳の義理の姉という形になる,「step sibling」というのですが,そこの当事者適格と利害関係参加が問題になりました。   結果的には,母親のほうはグレーブリスクの条約第13条第1項bを主張したのですけれども,母親のためにノルウェーに住居を用意するということと,生活費とか困らないようにすると,こういう約束や条件を付した上で返還が命じられました。そのときの争いの中でstep sibling,義理のお姉さんは利害関係人としては,子の生活とか訴訟の結果重大な影響を与えるので参加は認められ代理人も付されました。ところが,当事者適格はそこに介入する当事者としての地位を与えることは認められないという判決なども出されています。   利害関係というのは,具体的な状況や家族の在り方とか関わり方に応じて,濃淡がありますし,先ほど磯谷幹事も言われましたけれども,里親の中にも養育里親と養子縁組里親みたいな形で,子の監護・養育に関わって,現に監護する者という中に相手方の当事者として適格が認められるケースもあると思います。当事者適格の範囲と利害関係人の範囲というのは非常に密接な関連があると思いますので,できるだけいろいろな場合を想定して考えておいたほうがいいように思います。ですから,一概に兄弟姉妹は事実上の利害関係であるから利害関係人としては排除されるというよりは,場合によっては親代わりの重要な役割も果たしている場合もあるとか,いろいろなことがあると思いますので,少し柔軟に考えてもいいのかなというのが私の意見です。 ○髙橋部会長 大谷委員。 ○大谷委員 二点ありまして,一点目は,先ほどの施設入所の子どもの場合,そもそもハーグ条約の手続の対象とするのではなくて,施設入所自体の適否を争うという考え方もあるのではないかという点について,磯谷幹事が御質問されたこととかなり近いかもしれないのですが,ちょっと別の観点で。もし私が施設入所のことについて誤解があったらどなたか訂正いただきたいのですが。そのときに誰を相手にするかはともかくとして,仮にハーグ条約の手続で返還を求めることができない,そもそも施設入所自体を先に争いなさいということになってしまいますと,そういう形で使われることはないのかというのを,聴いていて少し懸念を感じました。   つまり,taking parentsが養育困難ということで,施設に子を入れることになるという心配はないのでしょうかと,端的に言うとそういう質問です。そうしてしまうと,先に施設入所自体を争うと。そのときにはLBPが自分が親権者であるということで手続を起こすのだと思うのですが,親権の地位を証明し,その手続自体にまた非常に時間が掛かると思われるのですが,そういう二段階の形になるのだろうか。それは果たしてハーグ条約の下での在り方としていいのだろうかということを疑問に思いましたというのが一点です。   もう一点は相手方適格の話です。御説明の中で,子を連れ去ったが子の日常の生活の世話をしていないものの子に対する何らかの関与が認められる親は,相手方として認めてもよいのではないかという御説明と伺いました。実務の現実に即して考えますと,例えば自分がLBPの代理人として手続を依頼された場合どうするだろうかと考えますと,taking parentsが日本的に考えて何らかの親権があれば,その人を相手にしておかないと,現実に今監護しているというわけではなくても,返還命令が出てしまった後に,その人が反対しているからということで,あるいは,その人のところにまた子が戻るとか,何らかの形で実現が困難になるのではないかと考えて,親が連れ帰り,その親に何らかの権利があれば相手にしておきたいと思うだろうなという感じがするのですね。   そうした場合に,今の相手方適格の考え方からするとこの人が連れ去った親であると,何らかの子に関する決定について関与しているということを言えば相手方と認められるということなのかなと思うのですが,そのときの線引きが非常に分かりにくい。ある程度そこが緩やかであればいいと思うのですけれども,もう少し端的に,相手方が現に子を監護しているという以外に何らかの関与というあたりが非常に分かりにくいので,法的に権利がある人は相手方とできるみたいなことではいけないのかなというのを聴いていて思いました。今の御提案のように何らかの関与を主張して広く認められるということであれば,特段問題がないのかと思いますので,現実にシミュレーション的に考えてみた場合に,どういう扱いになるのかなというような観点からの意見ですので,今の御提案に強く反対があるとか,そういう意味ではありません。 ○髙橋部会長 山本克己委員。 ○山本(克)委員 今の棚村先生と大谷先生について,それぞれ一点ずつ申し上げたいと思います。   この利害関係参加については,前回議論した時も何度も私は発言しましたので,繰り返しになって恐縮なのですけれども,確かに兄弟連合というのは相互間において子の健全な発達において重要な役割を果たすというのは,前回の参考人の意見陳述等をお伺いしてなるほどなと思ったのですが,兄弟が同居を求める権利を法的に認められているというのであればともかく,そうでない限り法律の利益ありとは言えないのではないか。例えば,父親と母親が離婚するに際して二人の子がいて,それぞれ一人ずつ引き取られていくということを子が阻止できると,そこまでの権利があるのであれば利害関係参加を認めてもいいとは思いますが,そこまでの権利は認められていないのではないか。準拠法にもよりますが,日本法においては認められていないと私は理解しておりますので,子の福祉という観点の法律外の要因として非常に重要であることは認めますけれども,法律上の利害関係とまでは言えないのではないかという印象をまだ拭いきれずにいます。   それから,二つ目は,大谷委員の後半のほうの御発言なのですが,権利を持っている者を相手方とするということですが,準拠法上共同親権制度が採られている場合にはそれでうまくいくのですけれども,日本と同じように単独親権制度を採っている準拠法の適用があるということで,taking parentsのほうがもはや監護権を失っているというような場合にはうまくいかない可能性があるので,名案だとは思うのですけれども,そこに対する対応というのをもう一つ考えておかないと問題はなお残るのだろうという気はいたしました。   以上です。 ○髙橋部会長 村上幹事。 ○村上幹事 今の大谷委員と山本克己委員の意見と関連するのですが,私はもうちょっとシンプルに,子に対する何らかの関与にかかわらず連れ去った親に相手方適格を認めてもいいのではないかと考えていまして。理由は幾つかあるのですけれども,まず一つは,申立ての際に申立人が相手方を特定しなければいけない時に,子の現在の監護状況について詳しい情報がなくても,取りあえず連れ去った親を相手方にして申し立てられるとしたほうが申立てがしやすいのではないかという点が一つ。   それから,返還をするかどうかの審理の対象が,連れ去り前の状況というのが一つ重要になってくると思うのですが,それについて返還拒否事由との関係でも最も適切に主張できるのは連れ去った親なのではないかという点。   三つ目の点は,これは本当にうまく説明できないのですけれども,執行の際に連れ去った親を相手方とする債務名義がなくて,本当に執行がスムーズにできるのかどうかがちょっと心配というか,そこが不安な点と,以上の理由で連れ去った親というだけで相手方適格を認めてもいいのではないかなという気がしています。 ○佐野関係官 村上幹事に御意見の内容の確認だけさせていただければと思います。連れ去った親に加えて実際に監護している者も相手方と,二人とも両方にするという趣旨ですか。 ○村上幹事 はい,そうです。 ○佐野関係官 例えば,仮に連れ去った親,親権のある親なりを相手方とした場合に,その者に対しても,子を実際にはもう監護していないのですけれども,返還命令が出されるということもあり得ることになると思うのですが,そのような親に対しても裁判がなされている以上,監護している者を説得するなり何なりして子を常居所地国に連れ返す義務が生じることになるというのはちょっとどうなのかなと,その整理をどういうふうにすればいいのかというのがちょっと疑問に思ったところです。 ○村上幹事 連れ去ったのだけれども現在は全く子どもに一切関与していないというのが,どういう場合なのかがちょっと想像できないというのもあるのですが,現在子を監護している者だけに対して債務名義を取った場合に,例えば連れ去った親が現在子を監護している者から更に奪い去ってしまったような場合に,その者に対して債務名義がないと執行がまた難しくなるのかなという気がするので,保険ではないですが,取りあえず連れ去った親,本人に対しても取っておいたほうがいいのかなと,そういう印象があるということです。 ○山本(克)委員 今の村上さんの御発言について御質問なのですけれども,そうした場合に全く関与しないというのはどういう状態なのかよく分からないというのは確かにあると思うのですが,その場合に間接強制をして間接強制金を場合によってはその親に払わせるということが正当化できるのでしょうか。仮に全く関与していないという状態があるのであれば,それは説明できないのではないのかなという気がします。何らかの支配力があって初めて間接強制金による強制を受けてもやむを得ないという状態になると思いますので,そこのところをうまく説明しないと,単にtaking parentsだというだけで相手方とするというのはおかしいのではないかなという気がします。強制参加をさせるというのはあり得ると思うのですが。 ○髙橋部会長 磯谷幹事。 ○磯谷幹事 先ほど村上幹事がおっしゃった一番最初の点,つまり申立てをする場合,一体誰を相手にするのかというのは実務的にはとても関心のあるところであります。現実には連れ去った人をまずは相手にするというのは考えるところだと思うのですが。これは御質問になりますが,例えば中央当局から子どもの監護状態について申立てをする者に対して情報提供はされるということなのか。そのあたりは中央当局のほうでどういうふうな整理になるのでしょうか。 ○髙橋部会長 これはまだ何とも言えないですかね。どうぞ。 ○佐野関係官 中央当局のほうについてですけれども,どこに住んでいるかという住所については,相手方の同意がない限り提供できないということはかねてから議論されていると思うのですけれども,実際に誰々さんが監護していますといった相手方になる者が誰かという情報を教えてくれるかどうかについては,まだ積極的に議論はされていないという状況でしょうか。 ○髙橋部会長 棚村委員。 ○棚村委員 私は関与しているということはあっていいと思うのですね。ただ,関与しているというのは,過去にこういう関わりを持っていたというだけではなくて,前にも言いましたけれども,監護状態というのは法的状態と事実状態と二つ合わさっているので,範囲が明確にできないような部分があると思います。そのときに飽くまでも迅速な返還ということが目的ですから,返還を促進できるような関与の在り方をしているということが一番重要な感じはします。ですから,説明の時にそういうふうにしていただければいいと思います。   それから,山本(克)委員からの先ほどの利害関係の問題ですけれども,夫婦も同居・協力・扶助義務はあるんですけれども,実際の実務で,「釈迦に説法」になると思いますけれども,同居請求は,長期間別居して双方が対立がある,葛藤があるようなケースの場合には,むしろそれは認めないということのほうが多いわけです。そういうことになると,兄弟の間でもそうですし,祖父母とか里親とかかなり出てくるのですけれども,それは海外のケースを見ても日本のケースを見ても,最近は祖父母について民法第766条の監護処分ということで類推適用して,当事者として認めたりしているわけです。   そういう中で紛争の適切な解決をするために,どういう人に加わってもらったらいいかということが,恐らく法律上の利害関係の判断になると思いますので,山本委員がおっしゃっているような考え方もあると思いますけれども,現在の傾向はどうかというと,離婚とか再婚とか,非常に家族の関係が多様化していますので,祖父母が事実上共働きの御夫婦の場合にはかなり子どもの面倒を見るということも多いですし,兄弟の間のきずなというのも大分前とは違った形でいろいろ出てくると思います。そういうことで法律上の利害関係の判断は,兄弟だから同居の義務とか権利とか,そういうことが言えないからないというよりは,紛争の解決の適切さということで,それを適切に解決するために法律上の利害関係をどの範囲で認めるかということなので,緩やかに認めて,認められる場合もあればないということでいいのではないですか。ないと言い切るのにはちょっと抵抗があります。   夫婦の場合でも同居の義務はもちろんありますけれども,実際には対立が起こって別居していると。そういうときに同居請求を認めるとか,そういうことはできませんし,同居義務の場合は間接強制もできないですよね,本人が嫌がっているということになれば。そうすると,利害関係の問題は当事者適格の範囲を決める時の議論と同じように,紛争解決にとって,その人を参加させないと実効的なあるいは適切な解決ができない,その人たちを参加させるということでよろしいのではないかと思うのですがいかがでしょうか。 ○髙橋部会長 山本和彦委員。 ○山本(和)委員 誰を相手方とするかという点ですけれども,相手方を誰にするかというのは,結局,誰に対して債務名義をそろえれば強制執行ができるかという問題ですので,村上幹事も言われたように,申立ての時に申立人が相手方を特定することが外観からできるような状態でなければいけないのではないかという感じはします。そういう意味では,資料にあるように子について重要事項についての決定を行うということがその要素になるのだとすると,こういうのは外から分かることなのだろうかという感じがしまして。   申立人としては,現在,外観上監護していると見られるものを相手方に起こして,それについて命令が出た後,親が外観上は関わっていないように見えたのだけれども,自分が子について重要な決定を行っていたので,自分も相手方になるべきであったという主張をすれば,そのものについてもう一度やり直さないと強制執行ができないという状況になるのはいかがなものかという感じがいたします。そういう意味からすると,基本的には「現に子を監護している者」というのは,外観上から明らかに監護をしていると見られる者に限定されるのではないか。   そうすると,親の場合は,実質的に関与している者であっても現に監護をしているとは見られない者は相手方適格から落ちるわけですが,その場合は利害関係参加で拾うしかないのかなという気がいたしておりまして,先ほど山本克己委員も言われましたけれども,その者に主張させることが適正な裁判について裁判所としては必要だと考えるのであれば,強制参加のような形で利害関係参加をさせるという形で対応する余地が残るのではないかという気がしております。そういう意味では,利害関係参加のところも,子に対して何らかの関与をしている親については参加人になる余地を残しておくべきなのではないかという感じがしております。   以上です。 ○髙橋部会長 高田委員。 ○高田委員 基本的に今の山本委員と同じことを考えておりまして,訴え提起の段階でなるべく相手方適格たるものが分かるようにすることが必要ではないかと思います。その前提として,この場合の当事者適格を定めるということがどういう議論なのかということが関係してきているのかもしれないという気がします。当事者適格は,今,山本委員がおっしゃられましたように,その者を捕まえておかなければ本案判決までたどりつきませんよという趣旨だと思うのです。   具体的に申しますと,村上幹事がおっしゃられたことですけれども,最低限監護権の外観をもつ者を捕まえるべきである。しかし,他の者についても債務名義を得ていくことが執行のために必要だと考えられる場合があるのかないのかというところがちょっと気になるところでありまして,直前の山本委員との関係で申しますと,利害関係参加ではなくて,当事者参加を認めてもよい場合があるのかないのかというところにちょっと自信がなくて発言を控えておりました。そうした場合がもしあるとすれば,そうした道も開いておく。すなわち,最低限この者を捕まえれば訴訟は進行するけれども,執行の場合を考えるとこの者も捕まえたいという場合にはそれを許す。そうした仕掛けというのが必要があるかどうかということについて,私自身もなお考えてみたいと思いますが,気になるところでございます。 ○髙橋部会長 当事者参加の点は入っているのでしょうか。 ○高田委員 当事者参加というのは当事者として参加させるという趣旨ですね。 ○金子幹事 もちろん当事者の資格を有する者というのを決めて,そこに入っているけれども,現在のところ当事者になっていない者がいれば,そこは引き込むということは考えています。その元のほうが今問題になる議論だと思いまして。 ○高田委員 そこまで含めて当事者適格を議論するのか,それとも,原告は誰を最低限捕まえればいいのかというレベルで議論するのかによって,議論の性質が違う可能性がないのでしょうかという趣旨でございます。 ○金子幹事 はい,分かりました。そこから漏れているか漏れていないかによって,それから,執行面も含めて考えるかによって,利害関係参加で拾うのか,当事者参加で拾うのかという問題があるのだろうと思います。   それから,棚村先生がおっしゃった趣旨をお聴きしていると,利害関係参加と言っても,家事事件手続法の言うような,利害関係参加人が直接裁判の影響を受けるものというよりは,応援団的な人も手続に関与させていいのではないかという御趣旨にも聞こえたので。そうすると,利害関係参加というのは民訴でいう補助参加的なものとして仕組むということも御提案になっているのではないかと思ったのですが。   その問題もあろうかと思います。ただ,今のところ,家事事件手続法の関係もあって,入った人には当事者並みの権能を与えるということを一応念頭に置いていたのと,それから,同じことですけれども,閲覧謄写等も当事者並みの要件で認めるということにしているので,当事者並みの権能を有する人が多くなるということは,それだけ手続的には煩さになり,いろいろ手続補助を及ぼす人がかなり増えますし,なおかつ,例えば閲覧謄写でも広く開示するほうがいいかというと,そうでない場面もあると思っていたので,迅速な手続であれば,当事者並みの権能を認める人についてはかなり絞るほうがいいのではないかという発想がなおあって,それで利害関係参加についても余り広げたくないなというところが今までの議論ではあったのですが,なおもう少し広く認める余地を開いておいたほうがいいという議論は別途あるのかもしれません。   今のところはそこまでは考えていなかったということです。 ○髙橋部会長 念のためのリマインドですが,家事事件手続法の利害関係参加の典型例というのをもう一回確認しておいたほうがいいかもしれませんね。 ○金子幹事 まず,審判を受ける者となるべき者ということで,積極的な内容の審判が出た時に,正に自分が審判の名宛人になるような人ですね。例えば親権喪失の審判ですと,親権を喪失させられる親,これは相手方になっていないものですから,こういう人たちは無条件で参加ということを家事事件手続法で考えています。   それから,審判を受ける者となるべき者以外の者であって,審判により直接の影響を受ける者。親権者変更の場合の子,これは親権者変更ですから,直接の名宛人ではないですが,直接の影響を受けるということで利害関係参加ができるとしています。ただ,これは許可に掛からせてているということになっています。 ○髙橋部会長 それにぴったり合わせる必要はないのですが,そういう者を利害関係参加と考えて,先ほどの説明にありましたように,補助参加のように被参加人が抵触行為をすることができるとか,そういう制約はなくて,当事者として行動できるというのが利害関係人参加です。ただし,不服申立権は次の論点ということになります。少なくとも家事事件手続法から見るとそういう者として利害関係人はイメージされているという前提で御議論いただきますか。   どなたか先ほど手を挙げていましたね。相原委員。 ○相原委員 今,金子幹事から御説明があったので,質問しようかなと思っていたところをお話しいただけたかなと思いますが,当事者と利害関係参加では,当事者参加であれば,当事者として手を挙げれば必ず参加が認められるが,利害関係参加であれば,許可に掛からせているということでそこの差があります。先ほどの兄弟のところに関しては,山本克己委員は前回からも法的な利益はないだろうと強くおっしゃっていたので,そうかなと思いつつも,事実的な観点になってしまうかもしれないのですけれども,許可に掛からせるのであれば,濃淡があるので,利害関係参加の道を,前回大谷委員が申し上げたような事例に関しては余地を残していただいても,可能性としては考えていただいてもいいのではないかなと思っておりました。それが一点です。   二点目は相手方の適格でございますが,先ほどから意見が出ていますように,代理人とすれば分からない,多分情報としては得られないということが大前提であれば,先ほどから出ておりますように,taking parentsを相手にせざるを得ないと思います。ただ,その後その人に対する執行という問題が出てきた時に,現実に監護している人に対しては当事者参加というよりも,強制的な参加をして効力を及ぼさなければいけないだろうと。   そのときに本来のtaking parentsを手続から外す必要があるのかないのかということですけれども,執行との関係で間接強制のための対象になるのはおかしいというところであれば,調査の中でと言いますか,審議の中で全く関与していない,特に具体的には帰ってきてほかの方と結婚して全く監護に関わっていないようなケースであるとすれば,適格を欠くということでいわゆる当事者の承継になってしまうのでしょう。私は,そこら辺は分からないところもあるのですけれども,可能性があると思います。ただ,日弁連の意見書でも申し上げてはいるのですけれども,申立代理人の立場からすると,taking parentsは最初の段階では必ず入れるというのは,村上先生がおっしゃっていたとおりと感じております。   もう一点。確認なのですが,命令が出た後,監護者が替わるとか,当事者適格がないと思っていたにもかかわらず,親が出てきたような場合にはその効力はその人にいくということでよろしいのですよね。監護者が変わってしまうとか,外れていたtaking parentsが,命令が出た後にまたtaking parentsのところに行ったとすれば,それはどうすればいいのか。そこら辺のところはどう理解しておけばいいのでしょうか。 ○金子幹事 これは家事事件手続法のころから非常に難しい問題をはらんでいますが,一つの考え方は,判断の基準日というのを作りましたので,その後の実際の監護者の移動があった場合は監護権者の対する決定の効力が新監護者に対しても及ぶという考え方が,一つの考え方として十分成り立つというふうに思っています。ただ,家事事件手続法も条文上そこまで全部書き切っているわけではないので,別の考え方はあるかもしれません。 ○髙橋部会長 大谷委員。 ○大谷委員 最初に発言した相手方適格のところで権限ということを持ち込んでしまったのですけれども,そのときもそれを強く今の御提案に代えて何か新しい提案をしようと思ったわけではなくて,その後のほかの先生方の御議論を伺っていて,自分がそのとき問題提起したかったことが少し明確になったのですけれども,村上先生がおっしゃられたように,まず一つは申立ての時にとにかくtaking parentsにするだろうということのほかに,執行段階のことを気にしていまして,ハーグ条約の手続が実際に迅速性がどの程度になるか分かりませんが,なるべく迅速にやろうという理念でやろうとしますと,その間どなたかに預けていても,結局は親が出てきて,外見上その時親が関わってないように見えても,そうは言いながらそれはおじいさんおばあさんであったりして,何らか親の意向が働いているのではないかみたいなことは考えてしまうのですね。   そのときに,taking parentsもいろいろな事情で帰ってこられる方はあると思うんですけれども,根底には監護権争いというのはあって,帰ってきて全く放置して全然関係ないという方がどのくらいおられるのか。最終的には御自分でこの国で育てたいということがあるのではないかみたいなことを考えてしまうと,親が相手になっていないということに非常な不安を感じる。そうすると,仮に利害関係参加で引き込めたとしても,当事者で引き込んでおかないことで問題はないのかどうか。そこら辺は専門の先生方の御意見,それから,今の承継の話などでカバーできるのかというところで伺いたいのですが。   他方,先生方が非常に心配なさっているのは,ただtaking parentsだというだけで相手にしてしまうと,間接強制の時に相手にしてよいのかというところがネックになってくるというのが先ほどから伺っていて感じるところなのですが。そういう人を相手に間接強制を掛けてしまうのが問題であると,そこは何とも解決できないところなのでしょうか。そちらのほうが解決が可能なら問題がないように伺っていて思ったのですけれども,理論的にその問題があるので相手方に入れるということに問題が出てくるのでしょうか。   質問のようなコメントで申し訳ないのですが。 ○佐野関係官 大谷委員の御質問に対する回答ではないのですけれども,この資料を作るに当たって,何らかの関与が認められる親というのはどういうものを想定していたかに関係するのですけれども,言葉は悪いですけれども,子どもを連れ帰ってきたけれどもほかの者と結婚してしまったとか,あるいは,蒸発してしまったとか,そういうような人を排除するという消極的な趣旨で書いているのであって,実際問題,執行の場面で親がいろいろ文句を言ってくるということは想定されるので,そのような親についてはすべからく広く当事者適格の中で処理することを考えていました。   ですから,相手方にならないような蒸発してしまった親とか,ほかの人と結婚してしまって子どもについては別に養子縁組等がされてしまったとか,そういう場合についてまでこの裁判で相手方にする必要もなく,執行の場面でも色々と言ってくることもないでしょうから,そういう人を除く限りで相手方適格はこう考えましょうというのが①の考え方でした。 ○髙橋部会長 山本克己委員。 ○山本(克)委員 そのときの相手方適格があることと,本案の命令の対象の関係が十分整理できていないような気がするのですね。先ほど来高田委員の発言で私も大分頭が整理されてきたのですが,そこを整理しておかないと,適格を認めることと,返還命令の名宛人になるかどうかというところがリンクしない可能性を認めるということになっているのだと思うのですね。そこをどういうふうに整理するのか。そして,複数の名宛人がある場合の返還命令の主文をどうするのかということも含めて,そこのところを整理しておかないと裁判される方は非常に困るのではないかなという気がいたしますね。 ○佐野関係官 私個人の感触なのですけれども,連れ帰ってきて全く子の監護を放棄しているという親ではない者については,名宛人になって間接強制の対象にされてもまあいいのではないかという気がするのですが。連れ帰ってきたという責任がありますし。 ○山本(克)委員 例えばおじいちゃんおばあちゃんに預けて,親は諦めて帰さなければいけないと思っているのに,おじいちゃんおばあちゃんは頑として返したくない,頑張ると言っているときに,親のほうにも間接強制が働いていくのだというふうに言い切っていいのかどうか,ちょっと私は疑問を持っているということです。 ○髙橋部会長 そろそろ方向性を出していかないといけない時期ですので。まず相手方の話ですが,申立ての時どうするかというのは中央当局の協力いかん,その仕組みいかんによって変わってきますが,先ほど来議論がありますように,実務的にはとにかくtaking parentsがいるわけですから。その後事実が段々明らかになっていって,当事者参加の道もある,強制参加の道もある。最終的に決定を出し,債務名義を出すという時,そのあたりでどこまで充実しているかということで,たたき台はできるだけ広く拾おうということで,先ほど来何もしていない人が強調されておりますが,何もしていなければそれは無理だろうというぐらいの消極的な意味だというのは,先ほど佐野関係官が言われたとおりです。そして,山本克己委員御指摘のところは少し整理してみますが。   今日ある程度方向をいただきたいのは,児童施設の長のあたりのところをどう考えるか。返還事由を争う,あるいは,返還拒否事由を主張立証する。やってやれないことはないのでしょうか,適切かどうか。   どうぞ,磯谷幹事。 ○磯谷幹事 先ほどちょっと問題点の指摘をさせていただきましたが,私は児童福祉施設の長や里親が相手方になるというのは非常に抵抗を感じます。今,部会長がおっしゃりかけたように,何も材料はないのですね。ですから,恐らく現実的には何もしないということになると思います。裁判に出頭することすら,果たしてやるのかどうか。また,子の返還申立てが認容されても児童福祉法第27条第1項第3号の行政処分に基づいてお預かりしている以上,施設長等がその行政処分を無視して勝手に返すことはできないことになっていますので,返すこともできないということになります。それから,施設はもちろんですが,里親さんが子どもを預かっているケースを思い浮かべていただくと,仮に行政処分は解除されたとしても,返還命令に基づいて子どもを外国に連れて行くということはまず無理ですし,児童相談所あるいは厚労省も,里親さんにそういうことをお願いすることはとてもできないだろうと思います。そうすると,施設長や里親を相手方にするのは,余りにも現実的ではないのではないかと思うんです。   児童福祉法上の概念を申し上げますと,施設に子どもが入っている場合にも保護者という概念は引き続きありまして,元の保護した時の親,これは親権者若しくは未成年後見人その他の者で現に児童を監護する者ということになっているわけですけれども,引き続き施設に入った後も現に監護する者ということで,保護者指導というものを掛けたりしてやっているのですね。ですから,児童福祉法の中の概念でも相変わらず保護者が監護しているとも言えるわけです。要するに,それぞれ法律は目的によって言葉も違うのだと思いますが,児童福祉法上の概念というのは,飽くまでも措置に必要な範囲での話になってくるわけで,ハーグ条約で言うような監護とはやはり違うのではないかと私は思います。   では,保護者がいない時どうするのかというところが一つ大きな悩みだと思いますけれども,ここは何らか別の手当てを考えるしかないのではないか。全く思い付きで言えば,それこそ検察官を相手方にするとか,それはどうか分かりませんが。いずれにしてもそこはちょっと別のことを考えざるを得ないのではないかと思っています。 ○佐野関係官 保護者がいない場合の別の手当てとして,例えば未成年後見人を選任するということもあるのかなと思うのですけれども,そういうことについてはいかがでしょうか。 ○磯谷幹事 しかし,子のために一体誰が未成年後見人になってくれるのかという現実的な話があるかと思います。また,選任自体は必要があれば児童相談所長が申立ては可能ということになっていますけれども,今でさえも未成年後見人になり手が問題の中で,正に相手方として戦えという形で引き受けてもらうというのはなかなか難しいのではないかと思います。もちろん相当な手当てというようなものがあれば可能性としてあるのかもしれませんけれども,現状ではやはり難しいのではないかと思います。 ○髙橋部会長 現実論はともかく,法律上はそういう手段もあり得ないではないということですね。   棚村委員。 ○棚村委員 今の点なのですけれども,施設の長にするか,児童相談所長になるのか,委託措置は確かに行政処分として掛かっているわけですけれども,大谷委員が先ほど言ったように,監護権を侵害されているという場合の監護権の定義の中にあると思うのですけれども,個人の場合もあるし,団体が持つという時に,正にここでは親権を行う人がいない場合には,一定の場合には親権という権利を代わりに持つ団体なり,その団体の責任者あたりも範囲の中にある程度入れておかないと,脱法的なことが起こらないかというちょっと心配な点が一つあります。   それからもう一つ,里親といった場合も,先ほども言いましたけれども,一時的に預かっている里親というのは1割いるかいないかぐらいで,要保護児童の場合にはそういうことが起こります。ですから,これだけをハーグのところで除くという形にしたほうが,一般的には妥当するのであればいいかと思うのですけれども,今回の件も原案はそういうふうになっていますけれども,里親さんなど委託措置で一時的に預かっている人について重い責任を負わせるとかなり厳しいと思うのです。ただ,そういう子は一切対象外ということでハーグから除いて,普通の返還の手続というような形でやったほうがいいというのはちょっと疑問があるような感じはします。   ちょっと歯切れが悪いのですが,これを完全に除いてしまうというのでいいのかなと考えております。要するに委託,里親に預けてしまうケースは余りないのかもしれませんけれども,返還を免れるためにおじいちゃんおばあちゃんに預けるだけではなくて転々とやる人たちが,里親の委託みたいなことをするということが起こった場合にどうすればいいのかなというのが,疑問というか質問です。それが解消できればいいのかなと思いますが。 ○山本(克)委員 問題点は,里親に返還を命ずることができるかどうかということですよね,児童福祉施設の長であるとか里親に。ですから,一番問題なのはハーグ条約の枠から児童福祉法上の措置を受けた子どもを外すかどうかという点で,外すと言ってしまうと脱法行為を招きかねないという話になるのですが,今議論しているのはそうではなくて,外さない場合に誰を相手にしたらいいかという問題で,そのときにすぐに長や里親になるのではないのではないかという議論をしているだけだと思いますので,脱法行為を招くから里親や長を相手にすべきだということにはならないと思いますね。 ○棚村委員 磯谷委員が言ったことに対して全て除いていいのかという意見というか質問です。 ○山本(克)委員 ですから,検察官相手にするという選択肢は適切かどうか分かりませんけれども,それは一つの合理的な選択肢だと私は思いました。それで,未成年後見人を選ぶかどうかについては,場合によっては親権喪失の審判を経て確定した上で未成年後見人を選ばなければいけない場合もあって,非常に迂遠だなという気がしますので,何か特別代理人的なものを考えたほうが,未成年後見人よりはいいのではないかなという気が私はしました。 ○棚村委員 私も同じで,海外だと「ワード オブ コート」とかいうような形で,裁判所が関与して判断したりするということがあるものですから,そういうような何らかの仕組みを作れば入れることは可能ではないのかなと思います。 ○髙橋部会長 もう少し御議論いただけますか,児童福祉施設の長。磯谷幹事。 ○磯谷幹事 今の特別代理人というのはなるほどと思いましたが,この点についても中央当局は何か対応していただけるのかどうか。正に中央当局が相手方になるというのは本来はないはずですけれども,何か例外的な場合にそれをやるのか。なぜかというと,その後の執行が非常にスムーズになる。例えば施設のほうも,中央当局に引き渡すということであれば,多分何の抵抗もなくお引渡しをするでしょうし,しかるべくその後戻していただけると思いますので,と感じました。 ○髙橋部会長 辻阪幹事。 ○辻阪幹事 今の点ですが,当然そこまで全く検討はしていないのですけれども,直感的な感じから申し上げると,中央当局に引渡しを受けるということは現実的には非常に難しいのではないかと感じております。 ○髙橋部会長 大谷委員。 ○大谷委員 余り専門的な理由付けができなくて恐縮ですが,感覚的に,児童福祉施設に入っている子について,その施設長を相手にするということはいかがなものかという意見に賛成です。その場合は,どういう表現か分かりませんが,元々の親という仕組みにしていただくのがよいと考えます。   懸念されるのは,そのような場合に,その親に対して,磯谷幹事は「保護者」とおっしゃったのですが,この場合,保護者という概念を使うのか,子を連れ去ってきた親ということなのか分かりませんが,その親に対して返還命令がもし得られれば,それだけでもって行政処分との関係で返還が受けられるのかどうか,そこのところが自分でも今十分理解できていないので,その点がクリアになるのであれば,親を相手にという仕組みが一番よいのではないか。保護者がいない場合については,私も検察官ないし未成年後見人ないし特別代理人というのに賛成です。   ただ,現実的な感じを申し上げますと,未成年後見人というのは,なり手の問題とか,親権喪失の問題のほかに,元々の求められている役割というものが,単に子の手続のためということではないと思いますので,子の手続のため,しかも,これが子の監護権の本案を定める手続ではないという性質からしても,特別代理人的な手続ないしは検察官のような形のほうが望ましいのではないかと思います。中央当局にしてはどうかという提案については,元々手続全体について中央当局は当事者的な立場では関わらないという全体の理解の中で若干違和感を感じますので,そこはそうでない何らかの,何らかのというのは具体的には私は検察官ないし特別代理人に賛成しますが,を考えていただければよいのではないかと思います。 ○髙橋部会長 山本克己委員。 ○山本(克)委員 先ほど施設の長等は何も材料を持っていないので,子の利益を守れるかどうか不安であるという御意見がありまして,それは全く同感なのですが,恐らく検察官を相手方にしても同じ状況が生じるのではないかと。人事訴訟法の改正等の議論,私も審議会に関わっておりましたので,そのときの議論を聞いていますと,検察官ではなかなか難しいだろうと思います。どの程度まで集中されるか分かりませんし,まだ結論は出ていませんけれども,一定の管轄集中がされるということであれば,当該家庭裁判所において信頼できる弁護士というのはどういう方なのかということはある程度把握しておられると思いますので,特別代理人的な制度を考える。   ただ,その場合には費用負担をどうするという問題が,ただ働きしていただくわけにいきませんので,費用負担をどうするかということは少し詰めなければいけないだろうとは思いますけれども,特別代理人的,「的」というのは本人を想定し難いので「的」と申し上げているのですが,訴訟法の言葉で言えば「法定訴訟担当」に当たるような相手方適格を有する者を,裁判所の処分で選任していただくほうが望ましいのではないかという気がします。 ○髙橋部会長 事実上の監護という事実上の概念が相手方を決めますので,どうしてもぼんやりしたところはありますが,大体広く採るという方向で考えているということを前提にいたしまして。   では,利害関係参加のほうですが,たたき台ではかなり厳しくしていますが。道垣内委員。 ○道垣内委員 相手方のことで,山本克己委員が最後におっしゃったことの関係なのですが,特別代理人を定めて,特別代理人に対して債務名義が成立したときに,先ほどの児童相談所の場合には行政処分の取消しの事由になるというのは分からないではないのですが,里親の契約というのはどうなるのですか。つまり,仮に契約関係だと考えますと,親権者ないし親と里親との関係であり,第三者が引渡しの命令を受けたことによって,その契約関係が消滅するわけではないような気がするのです。そうすると,幾ら特別代理人を相手にする債務名義があったとしても里親は手放せないのではないかという気がするのですが,そのようなことはないのですか。システム全体が私によく分かっていないのかもしれないのですけれども。 ○髙橋部会長 磯谷幹事。 ○磯谷幹事 一応今の枠組みでは里親も施設も全く同じ枠組みで,児童福祉法第27条第1項第3号という措置で入れておりますので,決定が出れば都道府県としては,つまり児童相談所としてはその措置を解除することになるということは同じだと思います。 ○道垣内委員 分かりました。そのような児童福祉法による里親という確立した概念の下の里親はいいのですが,ほかの誰かが例えば預かっているというふうな状況の場合には,それはどういうふうに執行されることになるのですか。 ○髙橋部会長 単なる占有代理人にすぎないのか,目的物の所持者に準ずるのかというような議論で,具体的にどうなるかは分かりませんが,事案にもよるでしょうが,一般論としてはそれなりの理論はあるということですね。 ○道垣内委員 分かりました。それでは結構です。 ○棚村委員 道垣内委員が正に言っているように,里親の委託措置というのは,日本の場合には行政処分ということで登録里親に委託するということですけれども,海外のを見ていると養育委託契約みたいなものを私法的な部分でも結ぶのでいます。日本の場合には行政的な措置だけで対応しているので,私法上の関係が非常に不明確で,しかも養子縁組を目的としてやる場合にはかなり長期に,しかも子を受け入れるという前提でやるので,道垣内委員が言ったように委託措置を受けないで,養育委託契約を受けて,しかも養子縁組を目的として関わっている事実上の養親みたいな方がいらっしゃった場合は,正に親から委託を受けて,今後は養子縁組の手続をしようというので,かなり法律上重大な関わりを持っている方が出てくると思います。   ですから,そういうことは議論していく必要があると思います。先ほどの法律上の利害関係を認めていいかどうかとか,返還の当事者としての適格とか地位はどうなるのだということの議論はあると思います。 ○髙橋部会長 大谷委員。 ○大谷委員 行政処分として施設に入所している場合,あるいは,委託されている場合は,解除ということになるとおっしゃった,そこが私としてはまだ十分クリアでなかったので先ほど質問したのですが。ハーグ手続による返還命令が出るだけで,仮に今想定している相手方が保護者というか親だった場合に,それだけで果たして本当に行政処分でそうなるのか。そこは何らかの立法措置なり何か橋架けというかしておかなくてよいのかというところが気になっているところです。 ○磯谷幹事 確かに論理的に当然に措置解除になるというわけではないと思います。その点は大谷委員が御懸念しているということは理解できますが,現実的に考えると,特に返還命令が出るということになりますと,taking parentsに戻すわけではないのですね。児童相談所としては恐らくほぼ100パーセントtaking parentsのほうの問題,例えば養育困難なり,虐待なりということで行政処分をしていることになりますので,そちらに戻さないということであれば,そして,それが裁判所の決定であれば,児童相談所としては引き続き子どもの身柄を確保しておく理由は全くないのですね。   ですから,そのあたりはもちろん法律できちんと定めておくというのも一つあり得ると思いますが,運用,あるいは,そのあたりの取り決めをどうするかというのは厚労省と考えなければいけませんけれども,いずれにしてもそういった約束事ができれば,児童相談所としてはそういうふうな運用になるだろうと思います。 ○棚村委員 今,要保護児童が4万人ぐらいいらっしゃいますよね。三万数千人なのですけれども,そのうち強制的な措置で入っている,同意をしないで入っている者は,去年の司法統計だと237件ですよね。そうなるとほとんどが同意を取った上で施設に収容されているわけです。そうすると,道垣内委員が言ったように,正にその子どもたちは3万人,里親で委託されているのは3,600人ぐらいですから,その子どもたちは親が養育困難で,そういう判断をして入ってはいるのだけれども,同意に基づいて入っている人たちです。それが,こういう問題が仮に起こったとしても預けることは,児相では親が困難な事情があると判断すれば受け入れるわけですから。   そういうときに,この問題に絡んで預けた,そして,養育が困難だという判断をして行政処分でやっても,親としても預かった施設としても私法上の関係というのはあるのではないかと思います。だから,前はすぐ親が返せと言うと返してしまって,再虐待に遭ったり非常に危険なことが起こったというので大分変わってきましたけれども,ほとんど同意に基づいて施設に入所している形になっていると思いますので,そういう問題はあり得ます。この問題が起こったら直ちに児童相談所は措置を解除するかというと,どっちに戻すのがいいかというので非常に悩まれるのではないでしょうかね。このような問題が起こったケースでは。   だから,それほど単純ではないのではないでしょうか。つまり,ハーグの訴えが起こされた事案で,たまたま預かっている子がそうなった場合に,ほとんどそれはそういう問題だから直ちに措置解除して元の親のところに返すという判断を児相はしないのではないでしょうか。というのは,取り合いになったケースを見ていても,措置解除をしないで委託措置みたいなものを継続して,一時保護状態にしたりして実際には返さなかったケースも事例ではあります。つまり,どこに子どもを置くのが幸せかということで悩まれるのではないでしょうかね。 ○髙橋部会長 その辺は,もう決定が出ている段階ですし,細かいところになりますので,厚生労働省にお願いしておきます。ここで議論する対象としてはふさわしくないと思いますので。   それでは,利害関係参加のほうなのですが,事務当局の用意した案では,子だけに限っていいのではないかと,乱暴に言えばそういうことなのですが。   はい,どうぞ。 ○棚村委員 祖父母も当事者にもなり得るし利害関係参加の対象にもなり得るわけですね。 ○髙橋部会長 いや,そこはまだオープンです。 ○棚村委員 ああ,そうですか。 ○髙橋部会長 相手方になり得るというのはそのとおりです,事実上の監護をしていればですね。そちらで拾われるから利害関係のほうは少なくていいのではないかと,そういうたたき台なのですが。 ○棚村委員 ただ,親代わりで子に関わっているという,先ほどのどうやって引き込むかという,当事者の中に入れるか,利害関係人として入れるかということはあり得ないのでしょうか,祖父母の場合は。 ○髙橋部会長 事実上の監護ですから,曖昧なのですけれども,執行の段階でまたクレームが付く可能性がありますから,賢明な申立人であればなるべく相手方に入れておくでしょうね。そのときの主文の書き方というのは確かに問題がありますから,そこは検討するにせよ,そういう前提でお考えいただきたいと思います。ただ,おっしゃるように,曖昧ですから外れることはないとは言いませんが。どうぞ,相原委員。 ○相原委員 兄弟姉妹の御質問につきまして,私は基本的に利害関係参加,レアなケースかもしれないけれども,許可に応じて,それを前提ということで認める制度として残してほしいという意見は基本的に持っております。ただ,今回御提案がありますし,それを強くというふうにまで申し上げているつもりはないです。その場合には制度として兄弟姉妹の事情と言いますか,運用として意思等をきちっと聞くことが担保されているという状況であれば,必ずしもそれに固執するというところまでではないのです。 ○髙橋部会長 問題になっている子どもを返すか返さないか,その子を焦点に当てて兄弟と一緒にいるのがいいかどうかということは十分調査するわけですね。 ○相原委員 そうですね。そこのところは手当てが必要でしょうか。 ○髙橋部会長 引き離される兄弟の観点から見るかどうか分かりませんが,それはそのとおり。それを前提にして議論していただければと思います。   犬伏委員。 ○犬伏委員 当事者として単独で子を監護している場合だけではなくて,複数の祖父と祖母と,あるいは,先ほど来出てきたように母親とその兄弟が保育園とかの送り迎えして,補助者的に活動しているような場合,先ほどはメインの監護状態を中心として,子の監護をしている者を当事者にするというところで収まったのだと思うのですけれども,今の利害関係人というような場合に,サブ的な履行補助者と言うのですかね,補助的に監護して比較的子どもと関連しているような人たちが,明確に法律上の利害関係という形になるのは厳しいのかもしれませんけれども,先ほど補助参加といったような話も出てきたかと思うのですが,どの程度そういう手続に関与することができるのかという点はいかがでしょうか。 ○髙橋部会長 補助参加を作りたいわけではないと思いますが。 ○金子幹事 そういう趣旨ではありません。この手続で,返還命令で影響を直接受けるというと,申立人と相手方と子を考えればよくて,抽象的に言うとそこで抗弁をきちんと主張できる者を当事者とすべきだと思うのです。それ以外の人は自分に影響があるかもしれませんけれども,おじいちゃんおばあちゃんは子を手放したくないという思いはあるかもしれませんが,それは子どもの観点から見たときには飽くまで非常に間接的な思いであって,そういう人まで利害関係参加という形で認める必要はないのではないかというのが基本的な考え方なのですね。   もちろん,おじいちゃんおばあちゃんが直接監護に関与していれば,それは当事者としてきちんと子の現状が分かっているわけなので,抗弁もきちんと出せるでしょうから当事者のほうで認めるべきなのだろうと思っているわけです。だから,直接効力が及ばないような人を利害関係参加で手続に関与させるのがいいと思っているわけではないのです。 ○犬伏委員 先ほどの施設の問題が出た時に,施設は当事者に入らないという場合の利害関係参加も落とすという趣旨だったのでしょうか。 ○髙橋部会長 いや,そこは正に御議論いただきたいところです。 ○犬伏委員 はい,分かりました。 ○山本(克)委員 よろしいですか。施設なり児童福祉法上の措置がされている場合はむしろ児童相談所のほうに通知をするなり何なりというほうが,先ほど部会長がこの議論はふさわしくないとおっしゃいましたが,そういう形で何らか行政等の協力関係を築くという形で考えればいいので,特に利害関係参加というのは認める必要はないのではないかと。ほかの裁判手続でもそういう例はございますので,行政と司法の連携の在り方の一環として考えれば済むので,利害関係参加というような純然たる裁判の枠組みの中でやる必要は必ずしもないと思います。   子どもについては,再三申し上げていますけれども,利害関係参加人が増えるということは,結局期日指定の時にすごく不便を来すということですよね。全員がそろわなければいけない,できるだけそろえようと頑張ると。当然,裁判所はそうされるわけで,期日が入らないということは結局迅速な裁判ができにくいということですから,そこについては一定絞り込まなければいけない。ですから,その人たちの意向調査をどうするかということについては,調査の枠組みの中で調査官に頑張っていただくということでよろしいのではないかというふうに私は申し上げているつもりでございます。 ○棚村委員 私も大多数のケースで兄弟姉妹が直ちになるというふうに思っているわけではありません。先ほどから言っておりますけれども,例えばstep parentsの問題も,従来は法的には非常に薄い関係だということで余り取り上げられなかったのですけれども,離婚とか再婚が多くなって家族が再編されて,多様な家族の中に実質的なつながりとかきずなを持っているというときに,ある程度裁量的な判断の中で,例えば震災の時もそうですけれども,両親が亡くなって兄弟が支え合っているみたいな例を,私も岩手とか行って虐待とかいう関係の施設の職員の研修を9月に行ったのですが,そのときに現場の話を聞いたとき,そういう声がすごくあって,兄弟のきずなとか支えというのは非常に大きいと思いました。   そういうことで,事案によっては今言ったみたいに意向調査とか,あるいは,状況の調査みたいなことで済む場合は,もちろんそれでいいと思うのですけれども,そうではなくて,親代わり的な関わりを持つようなことがあったり,年齢の違う兄弟だということであれば,現在でもありますけれども,本当に親代わりのように面倒を見ているというようなケースもあるので,場合によっては,それが当事者として参加する場合もあるし,利害関係人として参加する場合もあり得るのではないかということなので,その可能性だけはあらかじめ閉ざす必要はないということを申し上げたいだけです。   ですから,特にこれだけで紛糾して時間を掛けようと思いませんし,審理の複雑化とかいろいろなことのバランスの中で判断をされることかなということで結構です。 ○髙橋部会長 大分煮詰まってまいりましたが,例えば兄弟姉妹の意見が裁判所に届かないということではないのですね。ここでの問題は当事者として,例えば親と別に独自に当事者活動ができるかという観点です。意見が裁判所に届かないということではないということを前提にして。そうすると,このたたき台は関係者は子に絞られるのではないかというニュアンスを強く出しているのですが,基本的にはそれはそうだけれども,安全弁的にもう少し広く利害関係人を置いておくべきかどうか,そのあたりに絞られたということで,今日はこのあたりで。   ここで休憩を取ります。           (休     憩) ○髙橋部会長 そろそろ再開したいと思います。   先ほどまでの議論に関係してくるのですが,即時抗告権者に移ります。   説明からお願いします。 ○松田関係官 では,2について説明いたします。   2は即時抗告権者についての検討を提案するものです。   まず,アは,子の即時抗告権について,第3回部会においても御審議いただきましたが,子の利益の観点や家事事件手続法における規律との整合性などを考慮しまして,改めて子には即時抗告権を認めないものとするのが相当ではないかと考えまして,その旨提案させていただくものです。   すなわち,本件が監護権の所在についてまで判断するものではなく,子の意思は手続上十分に配慮され,仮に裁判の結果が子の利益の観点から不当であれば,当事者のいずれかから即時抗告がされるのが通常であると考えられる点で,子に必ずしも独自の即時抗告権まで認める必要性に乏しいと考えられることに加えまして,子に即時抗告権という権利を付与することでかえって子が親の間で板挟みになることも考えられ,子の利益の観点から必ずしも相当でないと考えられることなどを総合的に考慮しますと,子に即時抗告権を認めるのは相当ではないのではないかと考えられます。   確かに,本手続における裁判の結果が子に直接の影響を与えるものであることや,子の返還拒否の意思が返還拒否事由の一つとされていることからしますと,子に即時抗告権を認める必要性があるとも考えられますが,家事審判手続における子の監護者の指定や子の引渡しなどの子の監護に関する処分の審判については,子に即時抗告権を認めておりませんので,本手続においてのみ子に即時抗告権を認めるものとしますと,子の監護に関する処分の審判事件等における取扱いとの違いについて合理的な説明ができるかどうかが問題になると思われます。   なお,部会資料の(補足説明)のアの最終段落で,「意思能力を有することに加えて,一定の年齢以上の子に限るなどの制限を付する必要はないと考えられる。」との記載がありますところ,確かに子が自ら即時抗告をする場合には意思能力は当然必要になるものと考えられますが,理論的には子の法定代理人が子に代理して即時抗告をすることが否定されるものではないと考えられますので,このなお書きの部分は特に問題にならないと思われます。この点,付け加えて補足的に説明させていただきます。   それから,イは,1の(1)でただいま御検討いただきましたとおり,当事者適格について比較的緩やかに解するという立場を採りました場合には,当事者及び子のほか,即時抗告権者の対象となり得る者について特に検討する必要はないのではないかと思われますので,その旨を提案するものです。   2については以上です。 ○髙橋部会長 御審議をお願いいたします。   磯谷幹事。 ○磯谷幹事 子に即時抗告権を認めるということにつきまして,認めるべきだという立場からの意見を申し上げます。確かに家事事件手続法などとの平仄を合わせるという視点,あるいは,手続的にもなかなか難しい面もあるのだろうという理解はしております。ただ,一つは,国境を超えて子を別の国に送るという意味ではこれは子にとっては非常に大きい決定になるだろうと。国内で監護者の指定変更等というところも小さいとは言いませんけれども,それにしても,例えば実務を見ていますと,子のほうが審判にかかわらず帰ってしまう,戻ってしまうというようなこともある。それは子自身が行動で示すこともできるわけですけれども,ハーグの場合には到底それは不可能ということになりますので,それだけ子に与える影響は大きいというのがまず一点でございます。   二つ目は,児童虐待のことに長年関わっておりますと,虐待をしていないほうの親の行動というのは必ずしも一貫しているわけでもないし,また,いつも頼れるわけではないと思っています。要するにかなり揺れ動くことがございます。特に性的虐待などと言いますと,性的虐待の事実をなかなか信じられなかったり,あるいは,一応信じるとしても父母の間での揺れる感情などもあり,結局,子を連れて夫の許に戻ったりという現実もあるわけです。現実の国境を越えて子を連れてくるケースの中でどのぐらい虐待があるのかというのは私も分かりませんけれども,一つ想像するのは,虐待があって,子がいわゆるtaking parentsのほうにせっついて日本に戻ってくるというふうなケースが,数はともかくとして十分あり得るだろうと考えています。   そうすると,確かに戻ってはきたけれども,taking parentsのほうはいろいろな意味で余り積極的ではない,むしろ子自身がその虐待から逃れたいということで必死になっているということもあり得るだろうと。そうすると,余り十分な訴訟活動もしないという中で一審で負けてしまう,そしてtaking parentsの方はそこで諦めてしまうということも考えられるだろう。そうすると,子自身にも即時抗告の権利を認めて,更に抗告審で争える道を残しておくということも重要なのではないかと考えるところであります。   したがいまして,理論的なところでは確かに難しい面はあるとは思いますけれども,是非ここは即時抗告権を認めていただきたいと思います。 ○髙橋部会長 相原委員。 ○相原委員 ほとんど同じ立場からの意見なのですが,先ほど適格の関係で児童養護施設に入所中の子どもの問題が議論されましたが,この場合をどう考えるかということもリンクしてくるのかなと思いつつ,この場合に児童相談所の施設長若しくは行政機関の担当者が当事者になる,相手方になる場合であれば,少なくとも即時抗告権を子に認めてほしいと思っております。ただ,それがまた検察官とか特別代理人という御意見も出ていた場合,この場合とどうなるのだろうとか考えていたのですが,少なくとも法的な権限として即時抗告権の道を残していただきたいと考えます。   法務省のほうからの御議論,若しくは裁判なども,子の両親のトラブルに巻き込まれると,両方の顔を見て相手方が申し立てると同時に子も即時抗告してしまうのでは,それとの関係のほうが大きいだろうという危惧でこういう御提案になって,その必要性も即時抗告権を認める実益に乏しいというお考えも分からなくはないのですが,レアなケースになるかもしれませんけれども,両親がいずれも的確な対応をしないということも十分ケースとしてありますので,そういう場合も残してほしいというのが意見でございます。 ○髙橋部会長 浦野幹事。 ○浦野幹事 私も磯谷幹事と相原委員の御意見に賛成です。子に即時抗告権を認めてあげるべきではないかと思います。お二人がおっしゃったことでほとんど理由は尽きているのですが,前回,参考人の方がおっしゃったことに子自身がイニシアティブを取って逃げてきたというようなケースもあるということでしたし,この手続自体が子の利益のためということからしますと,子自身がきちんとその利益を守れるということは必要なのではないかと思います。 ○髙橋部会長 古谷幹事。 ○古谷幹事 この点については消極に考えております。ハーグの事案におきましても,その背景には監護権の争いがあるという指摘があり,結局子に親を選択をさせることになり,子の利益を害することが懸念されるところです。   この点は,家事事件手続法でも議論があったと思いますが,申立権がある場合は別として基本的には認めないというとりまとめになったと思います。今回のパブリックコメントの際に実務庁に意見照会をしましたが大多数の庁が実務経験を踏まえて,消極の意見を述べていたところです。 ○髙橋部会長 棚村委員。 ○棚村委員 私も子の即時抗告権は認めたほうがいいというふうに考えています。これは児童の権利条約での意見表明権も尊重されるわけですけれども,一定の年齢になって自分の問題についてどこの国で暮らすのかということについて,例えば子の心情だとか,そういうことについて意思をきちっと配慮するという手続的な枠組みはある,ルールはあるということは分かっているのですけれども,子自身がかなりの分別がある,判断能力があるような年齢になって判断ができるときに,子自身にイニシアティブを取らせることも必要なことだと私は思っています。   ですから,今回改正になった,5月の新しい民法の改正の親権の停止制度や喪失などについても申立人に子を入れるという発想の中には,手続上の地位あるいはイニシアティブを与えるという意味があると思いますので,是非そういう方向で検討していただきたいと思います。先ほど古谷幹事もおっしゃっていた,当事者に親を選ばせるとか,子の代理人とかいう話をすると,必ずそういう問題で板挟みになるという反対論がかなりあります。それはよく分かるのですが,子自身が最終的に何らかの形できちっと関与したり,手続を自分で取るということは重要で,特にそれなりの判断能力を備えた子にはそれなりの手続的な地位というのも与えておいたほうがいいと思います。 ○髙橋部会長 山本和彦委員。 ○山本(和)委員 今,御議論を伺っていて,前の非訟事件・家事事件手続法の改正の時の部会の議論を思い浮かべていましたが,今出された意見はほとんど監護権に関する審判について,子に即時抗告権を認めるべきだという御議論とほぼ同じ理由での御意見のように伺いました。ただ,その点については即時抗告権は認めないということで整理がされて,既に立法化されているということが前提としてあるのではないかという気がします。   磯谷幹事が言われたように,外国の場合違うではないかということも程度問題としては分からないではないのですけれども,国内でかなり離れたところに監護権者がいるような場合の監護権の変更と質的に違うのだろうか。場合によっては家事審判でも外国に居住する親を監護権者として指定する,変更するというような審判もあるとすれば,その場合にも子に即時抗告権は認めていないというのが現在の家事事件手続法だと思いますので,その整合性がどうなるのだろうかと。ここの御議論は分かる部分もあるのですけれども,そこが非常に気になって私にはなかなか整理できないところです。 ○髙橋部会長 大谷委員。 ○大谷委員 家事事件手続法の時の議論で決着はついているではないかと言われると苦しいのですが,私も即時抗告権を認めることに賛成の立場から意見を申し上げます。   理論的な理屈的なことで大変恐縮ですが,事務局から御説明のあった親が子の利益を考えて手続をすることが期待できるからというのは,そこはそうとは言い切れないのではないか。それから,子が親の間で板挟みになると,親を選択させることになるという御意見もよく出るのですけれども,現実的にはある意味子は巻き込まれている状況なわけで,そこで更に子のために即時抗告権を認めないと,そのことのほうが子を守ってあげるからという考え方自体が,本来的な子の利益の考え方と違うのではないかと個人的には思っております。   また,国内での監護権の時に認めなかったのに,この条約の時に特別扱いをするのはなぜかということについて,お答えになっているかどうか分からないのですが,別の観点から言いますと,この条約に日本が入るかどうかという議論がずっとありましたが,私自身としては,入るとすればこの条約に入ることが大きな意味で子のためになると信じて入るものだと思っております。ただ,そのときに最大限国連の児童の権利条約の観点に沿った運用の仕方,新しい仕組みを作るということが非常に重要で,この局面もそういう観点から考えております。そうした意味で,この条約の運用の仕方ということで,必ずしも国内の監護権本案のときに決着がついたことと違う扱いをすることについては許されるのではないかと思っております。 ○髙橋部会長 磯谷幹事。 ○磯谷幹事 私も,国内の監護者の指定変更や親権者の変更などと,このハーグ条約の枠組みはかなり異質なのではないかと思います。というのは,監護に関しては,相手方が諦めるということは,監護についての意欲が余りないのかもしれません。そうすると,それにもかかわらずなお子の即時抗告権を認めるのはどうかという議論もあり得るのかもしれません。私は家事事件手続法に関する議論の場にはいませんでしたから,分かりませんが。しかし,ハーグの場合はそうではなくて元いた国に戻れという話になるわけでして,監護の問題はその先に出てくるのかもしれませんけれども,直結はしない。むしろどこの国かという話になりますので,ここは状況がかなり違うのではないかと思います。 ○髙橋部会長 山本克己委員。 ○山本(克)委員 返還拒否の事由として,子が一定の成熟度を持っているときに帰りたくないと言えば帰さないというルールがあって,なおかつ成熟度のない子を前提としていると言わざるを得ないですよね。成熟度に達していない子に即時抗告権を与えると,返還命令に対比する関係では,ということになりはしないのかなという気がするのですが,そういうことが本当に必要なのか。むしろ即時抗告権を与えるとして意味があるのは,成熟度のある子が元の国に帰りたいのに棄却決定がされたという場合に,即時抗告権が必要かどうかという問題になりはしないのでしょうか。つまり,成熟度の判断を返還事由と即時抗告権のところで変えるということでないと,今おっしゃっている議論は相当前提を欠くように思うのですが。 ○金子幹事 そこは,山本克己委員の御発言をどこまで理解しているか心許ないのですけれども,成熟度に達していて子が帰りたくないという意向を表明したけれども,諸般の事情によりなお返還命令が出てしまうということはあり得るわけですよね。あるいは,子の意見聴取のところがうまくいかなくて,本当は僕はここまで主張したのに汲んでもらえなかったとか,あるいは,成熟度の認定の誤りで,本当はきちんとしんしゃくすべきであったのに,まだそこに達していないと判断してしんしゃくしなかったがゆえに,返還命令が出てしまったとか。理屈の上ではそういう場合はあり得るのではないか。だから,おっしゃるとおり,その場合になお帰りたいほうの子が却下になったときに即時抗告できないかという側面で顕在化されて,実際そういう場面は起こり得るのだろうと思います。 ○髙橋部会長 山本和彦委員。 ○山本(和)委員 帰りたいほうは申立権がないわけですよね,「自分を帰してください」という申立権を子は持っていないので,それにもかかわらず裁判に対する不服申立てだけ認めるというのは何かおかしいような気はするのですが。 ○金子幹事 私,当局として逆の立場のことを申し上げるつもりはないのですけれども,申立権がないので即時抗告まで認める必要がないという議論は,逆に言うとここでは当てはまらなくなってしまって,子からしますと申立てのしようがないのです。申立権がないので即時抗告権も認めないという議論は必ずしもここでは成り立たないということも言えるということと,子は帰りたくないと言った場合は,それはしんしゃくして棄却になるという道が保障されているので,そこに子の一定の意向を手続上反映させることは必ずしも不自然ではないという気がするのですが。もちろん権利として帰るという権利はないにしてもですね。 ○山本(和)委員 最初に言われたことがよく分からなかったのですが。要するにこの裁判は子を元の常居所地国へ返還せよということですよね。それは申立権がないということではないのですか。裁判を求める申立権は子に与えられていないということですよね。 ○金子幹事 与えようがないというのですかね。 ○山本(和)委員 その「よう」というのをどういうふうに考えるかということだと思いますけれども,与えられていないという点ではそういうことなのかなと思ったのですけれども。 ○髙橋部会長 清水委員。 ○清水委員 実務感覚としてですが,恐らくこの事件類型というのは,申立人側にも相手方にも代理人が付かれることがほとんどではないかなと思われまして,確かに理屈の問題としては,相手方と独立した子の主張を代弁すべく即時抗告ということが考えられるということはあるでしょうが,実際問題,申立人と相手方が代理人弁護士を通じて主張,立証を尽くし,その上で判断されるというときに,裁判所の判断が何らかの事情で適切でないというときには,どちらからか間違いなく即時抗告されるのではないかなというイメージがありまして,本当にそこで子というところに力点を置いて,即時抗告ということに実際どこまでの実益があるのだろうかというのが率直な疑問としてあるのです。 ○髙橋部会長 大谷委員,どうぞ。 ○大谷委員 逆に言うと,子に即時抗告権を認めることにどのぐらい問題があるのでしょうかという気がしていまして。繰り返しになりますが,理念からして認めたほうがいいと思うのです。実益が実際に必要な場面がどのぐらいあるかと言われるとおっしゃるようなことがあるかもしれないのですが,それでも先ほどから磯谷幹事や相原委員がおっしゃっているように,私もそう思うのですが,全くないとも限らない。そうすると,理念的にもあったほうがいいし,置いておいたほうが何かの時にはいいかもしれないというと,置くことに何か問題があるかというと,家事事件手続法との整合性なのだろうかと先ほどから伺っていて感じておりまして,もしそこだけが問題なのであれば,置くということで日本としてはこの手続全体について子の利益を最大限に考えていますということで,問題ないのではないかと思うのですが,なお問題でしょうか。 ○松田関係官 事務当局としましても一番気になるのは家事事件手続法との整合性というところだと思いまして。子の利益を最大限考えてこの手続については即時抗告権を認めますという整理をするとしますと,家事事件手続法のほうは子の利益を最大限考えていないのかということにもなりかねず,家事事件手続法も子の利益はもちろん最大限尊重すべきものとして,児童の権利条約というお話もありましたけれども,その趣旨も踏まえて子の意思の把握ということで,手続的に子の意思を把握するようにという規定も入れました。このように子の利益に配慮した上で規律しておりますので,片方で子に即時抗告権を認めていないのに対して,こちらで子に即時抗告権を認めるということ,そこの説明がどうできるのかなというところが一番悩ましいのかなと思っております。 ○髙橋部会長 棚村委員。 ○棚村委員 先ほど家事事件手続法との整合性ということをおっしゃっていましたけれども,この先の問題もいろいろあるかと思います。そうすると,家事事件手続法とハーグの返還手続というのは類似するところもありますけれども,子どもの元の居住国への迅速な返還という点では既存の手続と併存し得る手続として位置付けられると思います。そうなると,手続全体の構造の中でどういう者に即時抗告権を認めるか。先ほど金子幹事が言ったように,申立権は当然子を元のところへ帰すか帰さないかが問題になっているので,申立てはちょっと認められないかもしれないけれども,その結果に対しては重大な利害関係もあるし,異議とか不服みたいなものを言うチャンスは与えて手続には加える意味がある。それが二重になったり三重になったりするから,子の利益を守れないというよりは,それを使えるか使えないかよりも,子もそういう即時抗告権というイニシアティブを持つ機会があっていいのではないかという理念の側から賛成したいと思います。   だから,家事事件手続法と違うところは幾らでも出てくるのではないかと思います。当事者適格の議論をした時も,ハーグの特殊性や目的というところから家事事件手続法とは違う配慮が出てくるわけですから。家事事件手続法で監護の問題については即時抗告権を認めないというのは,監護の問題は元の居住国に行ってゆっくり将来のことを考えて判断すればよい。しかし,迅速な子の返還という新しい手続として構想する場合については,家事事件手続法と少し違う規律になったり制度設計になっても,むしろそれを全く同じに並べていく発想のほうが問題で,これをどういうふうな位置付けにしているのかが分かりにくくなるのではないかと思います。 ○髙橋部会長 豊澤委員,先に。 ○豊澤委員 家事事件手続法では,子の監護に関する処分で,子に即時抗告権を認めていない。親権や監護権の帰属とか,あるいは子の引渡しといった処分においては,本案について将来を見越して子の福祉を考えて判断するという枠組みの下ですらそういうふうになっている。これに対して,ハーグ条約に基づく返還手続は,常居所地国から他方の親の監護権を侵害する形で連れ帰ってきたという場合に,拒否事由がない限りは取りあえず常居所地国に子を返して本案の判断を行わせましょうという手続であり,その意味では原状回復的ないし暫定的な側面のある手続ですので,そこでの子の利益の考慮のされ方が本案の場合と同程度ないしそれ以上でなくてはならないのかという点については検討の余地があるのではないかと思います。 ○金子幹事 すみません,私,先ほどうまく表現できなかったことに気が付きました。こういう場合も問題になるのですかね。子は本当は帰りたくないのだけれども,返還命令が出てしまったと。この場合は帰りたくないという方向では申立権は認めようがないので,およそそういう申立権は手続選択として認めなかったのではなくて観念し得ない。しかし,返還拒否事由に子の意思というのが入っていて,子としては帰りたくないという意向を伝えようとしたけれども,最終的には返還命令になってしまったと。相手方である親は諦めてしまって対応してくれないと。   このときに子が,本来例えばきちんとしんしゃくしたら返還申立ては却下になったにもかかわらずそれを代弁する人がいないとすると,自分でやるしかないということはなお残るのではないかと思ったのですが,そこはどうでしょう。 ○棚村委員 原状回復的な返還の問題だからなおさら必要ないという話ですけれども,子自身がどこで暮らすかということについて,意思もそん度するし,抗弁事由の中でも重大なリスクがあれば十分考慮する,そういう枠組みの中で子の利益について余り考えなくてもいいというふうにおっしゃっていますけれども,どこで暮らすか,どこで自分が幸せになれるかということについて,この手続の中で即時抗告権を認めることの弊害と,迅速な審理ができないとか,複雑な話になるとか,子を父母の対立の渦中に置くということと,子の側で,今,金子幹事もおっしゃったような問題が生じて,十分に不服があるのだけれども,親同士と利害が対立して,親の考えと子が違った時に,そのイニシアティブというか,即時抗告みたいなことで,審理をきちんとしてもらえる,上訴して判断をしてもらえる機会ぐらいは与えていいのではないでしょうかね。 ○長嶺委員 ハーグ条約にもあります子の意見を聴くというのは,児童の権利条約にある意見表明権と同根なのかなと思うのですけれども,意見表明権というのは子が意見を言うということ,それに対応する義務としては意見を聴く,聴いてあげる義務というのがあるのだろうと思いますから,この手続を仕込む際には,子に対して「あなたの気持ちはどうなのですか」というのを聴く手続があって,その中で意見が表明されるというのが前提なのだと思うのですね。   ですから,金子幹事が挙げられた例というのは,例えばそういう機会がなくて決定がなされた時に,僕は,私は実はこうだったのだというのがあるから,即時抗告の理由になるということを前提に考えるのではなくて,本来子の意見は手続の中で聴かれると,それは表明されているというのを一つの要素として組み込んだ上で,それが拒否事由に当たるのであれば,それに基づいた判断に結び付くと。そういう構成でいくのかなと私は考えていたので,今の設問に対しては若干違和感を覚えるという気がいたします。 ○髙橋部会長 山本和彦委員。 ○山本(和)委員 確かに今の家事事件手続法では15歳以上の子の意見は聴くと。当然,意見を聴いたらそれを十分にしんしゃくして,最終的には子の幸福を考えて裁判所が判断をするという構造だと思うので,それに対して子は,自分が意見を言ったのにそれとは違う結果になったと。しかし,そこは不服申立ては認めてないわけですよね。ハーグの場合の子の拒否権というか,帰りたくないということが,家事事件手続法での子の意見の表明と質的に違うかどうかという問題かなと思います。ですから,そこが質的に違うかどうかというのはよく分からないのですが,質的に違うとすれば,確かに子に即時抗告権を認めるということはあり得るのだろうと思います。 ○髙橋部会長 大谷委員,いいですか。では,横山委員,先に。 ○横山委員 4ページから5ページに書かれてある事柄は,家事事件手続法の考え方を子の奪取条約についても推し及ばすことができるという前提です。議論を進めていくうちに,しかし,この条約が前提としている状況は国内的には監護権の帰属の問題とは違うはず。それはなぜかというと,子の常居所地国が移動するというのと全然違う。日弁連の方々の議論がもう一つ蒸し返し的に取られるのですが,それは確かに違うと思います。   純国内的事案では,監護権の場合は裁判所でやった審判が結果的に間違っていて,最終的に子の利益に反するような結果をもたらすというような場合があったとしても,即時抗告を認めずにあったとしても,いずれは日本の裁判所は何らかの形で介入できるはずですけれども,一旦国境を越えて子が移動していったら日本の裁判所はもう手出しできないということになってしまう。出てしまうと,日本の裁判所が後になってあのとき帰さなければよかったのにと思っても,今更何も手を出せないということですね,条約の枠組みの中では。   もう一回返せとは日本の裁判所は言えないので,一旦返してしまったら全ては元の常居所地国の裁判所の実体に関する判断に完全に委ねるという前提でやっているわけですよね。とにかく手は出せないので,即時抗告は認めなかった結果として,結局,子にとって不利益な結果が起こっても,後で何らかの形で日本の裁判所とかその他の機関が救済する手だてがゼロになってしまうという点が,家事事件手続法の手続との整合性を持たす必要がないという理屈であろうと思います。今,山本和彦委員がおっしゃった質的相違は,要するに手出しができるか,何らかの形で裁判所の介入その他日本の国家機関の介入が,子の利益にその後もあり得るかどうかが基準になると思います。家事事件手続法のロジックを条約上の返還手続にも推し及ぼすことができるかどうかを判断する基準になりえます。   ただ,条約の前提としては,子の最終的な利益についての判断は,元の居住地国に返還する以上は元の居住地国の裁判所の適切な判断に委ねるという前提でやっているので,一旦渡したらもう手出しするつもりはないということでやっているので,そこのところに躊躇を覚える時は即時抗告権を認めよという議論になると思うのです。条約の立場では一旦手を離した以上は元の居住地国の裁判所の判断に委ねるということなので。国際私法学の上では手続と実態の調整ということを言っているのですが,条約上はどちらでもあり得ることなのだろうと思います。 ○髙橋部会長 いろいろな御意見を頂きましたが,この即時抗告権者のところはゼロから議論するのではなく,家事事件手続法でこういう規律になったということを前提にした上で,そこから離れる合理的な理由があるかどうかと,そういう議論となります。大谷委員からは子の利益を重視しているということを国際社会にアピールできるという御意見も頂きましたが,今日はそういう御意見をいろいろ伺ったということなのですが,ゼロからではないということをもう一度メンションさせていただきます。   それでは,次にいきましょう。複数の相手方の場合です。説明をお願いいたします。 ○佐野関係官 3の「相手方適格を有する者が複数ある場合の規律」ですけれども,ここは第5回目,前々回の部会での議論を踏まえまして,相手方適格を有する者が複数ある場合においては,そのうちの一部の者に対する返還命令のみでは子の返還の強制執行をすることができないと考えることを前提としまして,複数当事者の規律としては特段何らかのものを設けない,すなわち通常共同手続と同様に考えるということを提案しております。   以前の部会でも議論が出ましたとおり,複数の相手方適格が認められる者が存在する場合に,一部の者のみの返還命令で強制執行ができると考えますと,他の監護している者の利益が損なわれ適切ではないという御意見が出ましたので,強制執行するには全員を相手方としなければならないということを前提としています。これを前提として,申立人としては相手方適格ある者全員を相手方として申立てなければならないという規律を設けるとしますと,後に相手方適格を有する者があったことが判明した場合,手続が無効になってしまって,適切ではないと考えられますから,特段何らかの共同的な規律は設けないというふうに考えた次第です。   この点に関しまして,第5回目の部会におきましては,申立人は相手方適格を有する者全てを相手方として申し立てるとした上で,なお裁判後に相手方となっていなかった者がいたことが判明したとしても,その場合には手続を全て無効にするのではなく,もう一度新たにその者を相手方として申し立て直せばいいではないか,そういう規律を設けてはどうかという御意見が出されたかと思います。しかしながら,そのような規律の手続法上の効果,意味を考えると,それは飽くまで行為規範として相手方適格を有する者は全員を相手方としましょうということにすぎないと思われますので,特段そのようなことを手続法上何らかの形で規律する必要はないのではないかと考えた次第です。   また,実際の裁判においては,申立人が確知し得る相手方適格を有する者は,通常,全員を相手方とされると考えられますし,裁判後に相手方となるべき者が他にあることが発覚した場合には,裁判所としてもそのような者を相手方として引き込むということは考えられるので,実際問題として特段不都合が顕在化することないのではないかと考えています。   以上です。 ○髙橋部会長 特段の規定を置かないということですが,いかがでしょうか。   犬伏委員。 ○犬伏委員 御説明にありました「相手方適格を有する者が複数ある場合において,全員についての返還命令がなければ強制執行はできないものと考える」というのは,基本的には相手方があって,返還命令があって,強制執行はすると。だけれども,後でほかに出てきたというような場合にということなのでしょうか。つまり,手続的な流れの中で当事者として,ほかにいるというような場合は,先ほど言ったように裁判所か引き込んだりというようなことがあって,その審理においてはこれで当事者は分かっていると。だから,それで強制執行するというのは通常だと思うのですが,この「できないものと考えるのは相当である」というニュアンスはどういう意味でしょうか。 ○佐野関係官 例えば具体例として,裁判所としても申立人としてもこの人たちが相手方適格を有する者として手続を遂行したのですけれども,いざ執行の場面になると新たにこの人も監護していることが分かってしまいましたと。そういう場合においては,その人から「私も監護者なのです」という異議申立てがあった場合には,強制執行はその場面ではできませんよと。手を挙げてきた人を相手にもう一回裁判をして,そこで債務名義を得てまた併せて強制執行を申し立ててくださいという意味です。 ○髙橋部会長 理屈の上ではこうなるけれども,こういうことが起きないように実務上はいろいろと知恵を絞るから,実際には起きないので。むしろ濫申立てのほうが心配されるかもしれませんね。事実上の監護をしていないのに,していると言って出てくるほうが。しかし,それは理屈の上では仕方がない,粛々とそういう濫申立てははねるしかないと。 ○犬伏委員 特段の規定を設けないということですので,何も出てこないのかと思うのですけれども,ここで殊更「全員に対して返還命令がなければ強制執行はできない」と言われると,一体いつになったらできるのだろうというような心配がちょっとあったものですから。 ○髙橋部会長 はい,分かりました。法律的に厳密に書いたので,こういうことがむしろあってはならないということになります。   では,記録の閲覧。 ○梶原関係官 4の「記録の閲覧等」について説明します。ここでは,第5回の部会に引き続き当事者からの記録の閲覧等の請求があった場合に,裁判所が許可しないことができる事由として,どのような規定を設けるのが相当かを検討するものです。   事務当局としましては,実質的に開示不相当なものとしてどのようなものがあるのかを想定した上,①から③を置くことを相当と考えていますが,更に④として審理の状況,記録の内容等の個別的な事情に照らして開示が不適当な場合に不開示とできる包括規定を置くことを相当と考えています。   本手続は,事件の性質は一つですが,官庁・公署等から多様な種類の資料が提出されることが予想されますところ,その中には当事者の手続遂行の上からは開示の必要性が乏しい一方で,公務の適正な遂行や関係者のプライバシー保護等の要請から不開示とする必要性が高い場合,つまり開示の必要性と開示した場合の弊害との利益衡量により不開示と判断すべき場合があり得ると考えられます。   例えば,施設で監護されている子の生活状況に関する施設からの回答書のうち,施設の規律及び秩序の維持に関する記載や,中央当局が警察等の関係機関から提出を受けた情報のうち,開示されるとそれら機関の業務の遂行に支障を来したり,関係者のプライバシーを害するおそれがある場合の当該情報に関する記載が考えられます。また,中央当局が外国の中央当局から情報収集をする際の照会文書の控えや,中央当局が外国の中央当局から当事者に開示をしないという条件の下に入手した情報に関する記載が考えられます。   また,例えば申立人によるDVを疑う事情がなく,相手方の住所を申立人に知られても,申立人が押し掛けるおそれが乏しいため②の事由には該当しないものの,相手方が申立人による子の再連れ去りや申立人による報復などに不安を抱き,住所の秘匿を強く希望している場合が考えられます。この場合,相手方の住所を申立人に知らせなくとも申立人の手続遂行は可能である一方,相手方の住居はプライバシー性の高い情報であり,不開示とする必要性が高いと言えます。   このように本手続においては多様な記録が提出されることが予定され,開示を許可すべきでない場合も様々であり,想定されるあらゆる場合を列挙するのは難しく,開示の拒否は裁判所が個別的事情に照らして弾力的に判断するのが相当であることから,④の包括規定を置くのを相当と考えています。もっとも記録の閲覧等が当事者の手続保障の根幹をなすものであることには変わりありませんから,包括規定については「特別な事情」という文言を置き,閲覧等の制限が限定的であることを要求するものです。   以上を踏まえまして,包括規定を設けることの賛否と,ほかにこの包括規定により不開示とすべき場合の例がございましたら,併せて御議論いただきたいと思います。 ○髙橋部会長 包括規定を置くことを前提にして更にもうちょっと具体的なものがあるかということですが,いかがでしょうか。   大谷委員。 ○大谷委員 若干前回も申し上げたことの繰り返しになりますが,この手続で非常に特殊な点は相手方の住所を知らないまま手続が開始できると。その場合に申立人としては相手方の住所を知らないけれども,中央当局の協力によってその場所の特定ができると。こちらでの返還手続の議論と外務省懇談会での所在特定のための在り方とが分かれて議論されているのですが,それを統一的に考えた場合に,私どもが考えているのは,中央当局は確実に子の所在特定のための情報が取れると。そのための担保として,得られた情報を申立人や申立人のほうの中央当局等には知らせないと,出口のところをしっかりすることによって情報を確実に得られるという仕組みにすべきではないかと考えております。   その関係でこちらの手続を考えた場合にその情報,具体的に言いますと,相手方の住所及びその住所の特定につながるような情報というのは,ここで言っている許可の判断,すなわち個々的な裁量の中で場合によっては裁判所が開示できるかのような書き振りにするのではなくて,そのような情報,つまり相手方に知らせないことを条件に中央当局が取得した情報は手続の中でも開示しないという特別の規律にすべきではないかと考えております。 ○髙橋部会長 どうぞ。 ○鶴岡委員 外務省の懇談会を通じまして行いましたヒアリング,あるいは,パブリックコメントの中でも,特に中央当局の業務を行うに当たりましては,ただいま大谷委員からの御指摘がございましたとおり,子あるいは奪取して戻った親の所在を承知することは不可欠だと思うのですけれども,その情報が得られない状況があれば中央当局としての任務を果たすことはほとんど不可能になってしまいます。   他方,元々逃げ帰ってきている人たちでありますから,その所在を明らかにすること自体相当な困難が伴うだろうと予想しておりますが,そのための協力を得るためにも,その情報は中央当局の中にとどまるものであって,それ以外には出ないということを保証しない限りは,中央当局としての任務をはなから始めることができなくなるおそれが高いと思っております。また,パブリックコメント,ヒアリング双方において,中央当局が入手した情報がそのまま公開されることは避けるべきであるという強い要請を受けております。   したがいまして,今の提案では,④の特別の事情がある場合に裁判所としては原則公開であるが非公開とするという判断の余地を残す書き方になっているわけでありますけれども,より明確に,例えば相手方や子の所在情報は開示しないという明確な保証が法文上表れたほうが,安心感を持って私ども中央当局のほうで情報収集する際の得られる情報が確保されていくのではないかと思っておりますので,その点是非よろしく御配慮いただきたいと思います。 ○髙橋部会長 磯谷幹事。 ○磯谷幹事 基本的には異論があるわけではないのですが,先ほどの前の議論でもそうでしたが,今,監護している者が一体誰なのかということなどについては,こういった情報についても開示をされないという趣旨なのかどうか。その点,大谷委員と鶴岡委員に対して確認をさせていただきたいのですが,このあたりどうなのでしょうか。 ○大谷委員 具体的に考えてその所在を開示しないということと,誰が監護しているかということを開示しないこととの区別なのですけれども,私が考えていたのは,飽くまで住所,どこにいるかという情報が開示されないことということを念頭に置いて先ほど発言していました。先ほどからの議論で,相手方を誰にするかというのは申立人にとって大変重要な必要情報ですから,それ自体も知らせないということでは手続が進まないのではないかと思っています。より具体的に言えば,そうではなくて,そこの部分は開示の必要があるけれども,もっと端的に言うと住所,どこにいるかという所在の部分というふうに考えています。 ○鶴岡委員 ただいまの大谷委員の御意見と同様でございます。 ○髙橋部会長 祖父母と一緒にいるというのを出すということですか。   清水委員,どうぞ。 ○清水委員 確認をさせていただきたいのですけれども,今の問題提起として,記録の閲覧の制限事由として①から④まで挙がっていて,④の条項を入れること自体がどうなのかという提案があったと思うのですね。それに対して,それを入れた上で更に相手方の住所を閲覧謄写の対象にしないという御趣旨なのか,それとも④自体に問題があるという趣旨なのか,そこをまず確認させていただきたいのですが,いかがでしょうか。 ○大谷委員 ④は正に私が申し上げたようなところを事務局のほうで汲んでくださった御提案なのだと思うのです。ただ,私の発言の趣旨としては,④ではまだ「特別の事情」という言葉にかからしめられていること,及び裁量になっていることが足りないのではないか。つまり,鶴岡委員の御発言の趣旨と同じですが,明確に「裁量の余地をなくし,かつ,対象の範囲として例えば相手方の所在は開示しない」というぐらいにはっきりと書くべきではないかという意見として申し上げましたので,仮にそういう提案が受け入れられるとすれば,それにもかかわらず④は置いておいたほうがいいのか,そういう規定があれば④は要らないのかという話に今度はなろうかと思っています。そういう意味で,④があって困るということはないので,④それ自体に差し支えは感じていません。 ○髙橋部会長 朝倉幹事。 ○朝倉幹事 先ほど大谷委員がおっしゃった,所在は開示しないけれども,監護者は開示するという点ですが,私どもは実際にDVの保護命令事件などを担当しているものですから一言申し上げますと,例えばおじいちゃんが監護していると言ったら,申立人はおじいちゃんの場所は分かっていますので行ってしまう,おじさんが監護していると言えば,申立人はそこへ行ってしまうと思います。それらの場所が従前いたところと違うところであればもちろん分からないのかもしれませんが,そうではないところだとすると,それまで夫婦でいた相手方ですから,親戚の所在もよく知っていてということはあり得るのではないかと思います。   そういう意味で,重なってしまった場合にどちらを優先するのかということは,もしそういう規定を置くのであればよく考えて置く必要があるのではないかと思うところです。ちなみに,DVの事件では掛かっていた医者の診断書の住所まで消してあったのに,病院の名前が載っているだけで見付けてくる事案がありますので,相手は非常に執念深いということを前提に考えたほうがいいのではないかと思います。 ○髙橋部会長 大谷委員。 ○大谷委員 今の例の中にあった病院の住所などは実際に実務の中でもそういうことはありますし,弁護士の住所が分かっているだけでも,そこからとか,いろいろなことがありますから,所在を隠すということがどのくらい大変かということはあります。その関係で,先ほど理論的には誰が監護しているかということと子の所在とを分けて申し上げましたが,今御指摘のような話が多分出てくるのだろうと思うのです。それで,ここで申し上げる,法制審の議論かどうかよく分からないのですけれども,理念的には先ほどの私の意見のとおり変わらないのですが,実際に実務でそういう手続をやってみた時にシミュレーションとしてどのようになるのか,可能なのか,どうすればよいのかみたいなことは,理屈的な議論とは別に現実的に実務的に考えてみないと,法文でどう書くかということだけでは済まないのだろうなという印象は持っております。 ○金子幹事 確認させてください。社会的背景に関する情報も,外国の中央当局から例えば日本の中央当局に情報がもたらされることがあって,これは本人の同意がある時を,今,外務省の検討ではされていると思うのですが,中央当局に出すまでの同意と,それが裁判手続を通じてオープンになることというのは,また別の問題があるように思います。例えば,日本の裁判所が日本の中央当局に調査嘱託等を通じて日本の裁判所にもたらされる子の社会的背景に関する情報についても開示はまずいということになるのでしょうか,住所以外にですね。そうすると,攻撃防御上の影響もかなり大きいような気もするのですが,その点はどうなのでしょう。 ○辻阪幹事 今御指摘の点は,日本の中央当局が外国の中央当局からもらった情報という理解でよろしいですか。 ○金子幹事 それと,日本国内で,日本の当局から収集されたものも含まれるかもしれませんが。 ○辻阪幹事 日本の中央当局が外国の中央当局に対して情報をくれと言って,向こうがくれたものを裁判所に出すという前提で向こうの中央当局からもらっていて,更にそれを開示していいかどうか,そこは再度外国の中央当局との間でやり取りが必要になると思います。 ○佐野関係官 今の話は,社会的背景に関する情報を向こうの中央当局から取ってきて,日本の中央当局にきた場合,それを外に出す場合にも本人の同意という要件が今の外務省のパブリックコメントであるのかどうか,そこは本人の同意は要るのかどうかということかという話かと思います。仮に本人の同意が必要となると,全く住所と同じ問題が社会的背景に関する情報でも起こるのではないですかという問題提起だったかと思うのですけれども。 ○髙橋部会長 関連したものですね。どうぞ。 ○大谷委員 外務省に質問されているのに私が答えるのはおかしいのですけれども,ちょっと混乱が生じているような気がするのです。外務省の懇談会の議論で社会記録の話で言いますと,外国にある子どもに関する社会的記録を日本の中央当局が外国からもらえるようにするという話と,外国の中央当局から要請があって日本の国内で社会記録を集めて,それを向こうに出す場合とあるのですが,後者に関して同意要件の話があると思います。あるいは,開示しないという話があると思うのですけれども,このときは基本的には集めた情報は外国に渡すこと,私の理解では外国で手続がなされていることを念頭に置いて話していると思っていて,子の同意を必要としている情報の流れを,日本におけるハーグ返還手続に出すということは,あの仕組みの中では考えていないと思うのです。   なぜなら,そのような場合は,日本の裁判所は返還手続を行っている時,日本の中央当局を介さなくても,直接日本の中のどこかの当局,関連省庁あるいは機関に直接調査嘱託が必要であればなさると思いますので,そういう意味では,今の御質問が場面として当たっていないのではないかと。あるとすれば,日本の裁判所から日本の中央当局が調査嘱託を受けたので,それは外国にある証拠だから収集に協力してくださいと言って,外国の中央当局にお願いしてもらったものは,それを公開していいかどうかというのは,向こうの法律なり何らかで,日本で今議論しているのと同じように開示しないという制限が掛かっていれば,それは開示してはいけないという話になると思いますけれども,そうでない限りは,これは裁判所に出すものとしてもらってくるわけですから,裁判所に出した後は,今の議論の中で言うと日本における相手方及び子の所在特定に関わらないものである限り,あるいは,この①から④に掛からない限りは,同じ情報として公開ができると。単純に①から④で判断すればよいということになるのではないかと理解しています。 ○髙橋部会長 ①から④,表現はいろいろ考えるとしても,基本的にはこれを置くことに異論はまずないように理解しております。   これに加えてというのですかね,特別に切り出して,住所について特別の規定を置くか。この説明でも住所を出さないということを前提にしているのですが,規定として出すかというところが,今対立しているところだと思います。原案,たたき台は,条文の美学かもしれませんけれども,織り込まれていることを前提にして敢えて規定を置くかどうかという問題かと思います。   清水委員,どうぞ。 ○清水委員 これも言わば家事事件手続法並びの規定だと思うのですけれども,④の中に相手方から住所は開示してほしくないという希望が述べられていると,強い希望があるという場合にはそれはまずいので,④の中の重大な事情と考えて開示しないということになると思うのですが,それと同じようなことでどうなのかなと考えているのですが。 ○髙橋部会長 先ほどと同じように外国もありますから,条文で明示したほうがより望ましいという御意見が出てきているわけですね。実質が変わると私は理解していないのですが,条文に出すか出さないかですね。   大谷委員。 ○大谷委員 今回気にしているのは,外国ではなくて国内でして。確かに法律家が読めばここに入っていると,間違いなくこれは運用上も,裁量とは言いながら開示されないということで安心なのかもしれないのですけれども,やはり国民一般,この手続に関わるであろう人たち,それから,中央当局からの求めに応じて情報を出すことになる各関係者等からしますと,それが場合によっては裁判所の裁量で出てしまうのではないかと,そこの部分が法文上明確に書かれているか書かれていないかということは,今回の手続の作りとしては大きいと思っています。大は小ということで入っているということではなくて明確に切り出していただくこと,及び「住所」という言葉で切り出すかどうかという点のほかに,現在の書き振りですと,やはり裁量になっていると思うのですね。そこを開示しないということにするべきではないかという意見です。 ○髙橋部会長 鶴岡委員。 ○鶴岡委員 繰り返しで恐縮なのですけれども,外務省が中央当局を務めるということは,先ほどからほかの法律の名前が出ているようですが,私はその法律を見たことも聞いたこともない。そういう人たちがこの仕事をするので,今言われたようなことを,例えば中央当局員として,いろいろな部署に対して,あるいは,最終的には個人のところに出掛けていって協力を要請したりするような時に,明確に示せる条文がないととても仕事にならないと思います。   相手は法律のプロかもしれませんけれども,こちらは素人が行ってやるのですから,「裁量の余地があるではないか」と言われたときに,「いや,先例上」とか何かとか,六法も引けないような外務省員がほとんどなわけですから,申し訳ありませんけれども,ここは明確に疑問の余地なくすぐそこで示して,相手方が何らの疑問を持たないようにしていただくことが,任務を果たす上では必要ではないかと思っております。 ○髙橋部会長 磯谷幹事。 ○磯谷幹事 基本ラインは特に異論があるわけではないのですが,先ほど朝倉幹事もおっしゃったように,住所は出さないとしても,相手方として特定する際に必然的に分かってしまうことがあり得るのではないか。そうすると書き方がなかなか難しいのではないかと懸念をするのですけれども。 ○髙橋部会長 山本克己委員。 ○山本(克)委員 今の御懸念は分からなくはないのですけれども,閲覧謄写の不許可に対しては,即時抗告権を与えると家事事件手続法と横並びにするという仕切りだと思うのですが。裁量の余地があるのに不許可にしたというと,即時抗告を誘発するのは明々白々なのだろうと思うのですね,申立人がどうしても知りたいと思っている場合には。ですから,端的に「条文上駄目ですよ」と書いておいたほうが,即時抗告を誘発しないという観点からも有用であると私は思いますし,外務省のおっしゃることもよく理解できますので,ここは家事事件手続法とは違う仕切りにしていただいたほうがよろしいのではないかと思います。   それともう一点,これは執行の話になりますが,前も発言しましたが,執行段階で相手方の住所が分からないと,取り分け間接強制金に係る金銭執行する場合には,相手方の住所が分からないという場合があり得るということを認めることになりますが,その場合に備えて執行裁判所の管轄についての特則を何らか置かないと,ここでそういう仕切りにしてしまいますと,そちらのほうで問題が生じますので,その点も御勘案いただければと思います。 ○髙橋部会長 議論は大体煮詰まったと思います。住所を見せないということは共通の了解,理解ですが,それを条文として出すか出さないか,家事事件手続法との整合性もありますけれども。私は余り言いたくはないのですが,法制局的な面もありますので,ここは今日の御議論は承ったということにさせていただきます。   それでは,5の真実擬制について。 ○松田関係官 では,「5 証拠調べにおける真実擬制の規律」について説明させていただきます。   まず(1)では,第5回部会でも御議論いただきましたが,証拠調べ手続において真実擬制の規律を設けることについて改めて御検討をお願いするものです。本手続では,子の返還事由及び子の返還拒否事由について,当事者が第一次的に資料を提出しなければならないものとすることを想定しておりますところ,これらの事実を基礎付ける資料を他方当事者が所持していることも少なくないと考えられますことから,文書提出命令の規律を設けた上で,民事訴訟と同様に真実擬制の規律を設けることが考えられます。   この場合,まず職権探知主義を基本とする人事訴訟法や家事事件手続法で真実擬制の規律が排除されていることとの関係が問題になると思われますが,(補足説明)の1(1)にも記載しましたとおり,人事訴訟でも家事事件手続でも実体的真実に合致した裁判の要請が強いと考えられるのに対しまして,本手続では当事者間での任意の合意に基づく履行も可能な行為を判断の対象としております点で,必ずしも人事訴訟や家事事件手続と同様の規律とすることが要請されるものではないと考えられると思います。   また,本手続で真実擬制の規律を設ける具体的な必要性も問題になると思われますが,(補足説明)1(2)にも記載しておりますとおり,本手続では裁判資料となり得る文書等の範囲がある程度限定されており,一方当事者がこれらを専ら所持しているというような状況も少なくないと考えられますので,文書提出命令のように他方当事者等の所持文書にアクセスすることのできる手段を設けておく必要があると考えられますところ,このような規律の実効性を持たせるために家事事件手続法と同様に過料の制裁とするのでは,現実には国外にいる申立人に対して制裁として機能しない点で必ずしも相当でないと考えられます。   本手続でも,例えば,一方当事者が文書の一部を裁判資料として提出し,その文書の所在が明らかである場合に,他方当事者がその文書の未提出部分の提出を求めまして,裁判所が当該文書の提出を命じたにもかかわらず,一方の当事者が合理的な理由なくこれに従わないというようなときに,真実擬制をすることが有用である場合もあり得ると思われますので,真実擬制の規律を設ける必要性が全くないというわけではないと考えられます。   以上のように,本手続で真実擬制の規律をあえて排除する理由はないと考えられますし,他方でこれを設ける必要性は否定されないと考えますので,真実擬制の規律を設けるものとすることが相当ではないかと考えます。   本文(2)は,本手続において,真実擬制を設けないものとした場合に,これに代わる措置を設けるか否かについての検討を提案するものです。真実擬制に代わる制裁としましては,家事事件手続法と同様に過料の制裁を設けることが考えられますが,外国での裁判の執行ができない点で衡平を失するものと思われますので,本手続で新たにこのような制裁を設けることは相当でないようにも思われます。そうしますと,ほかに適当な代替措置がなければ制裁的な措置は特に設けないものとすることになりますが,文書提出命令の規律等を設けつつ制裁的な措置を設けないものとすることについて御意見を頂ければと存じます。   5については以上です。 ○髙橋部会長 ここも,今日の議論の多くがそうであるように,真実擬制をどんどん使うという趣旨では全くなくて,真実擬制を排除してしまうことは問題ではないかと。伝家の宝刀かどうか分かりませんが,置いてはおくと,そういう提案です。いかがでしょうか。   相原委員。 ○相原委員 前回も少し議論になったところかと思いますが,出される例示が,前回は正直言って理解し難いというか,むしろ非常に疑問を持った例示が一部あったかと思っています。今回御提示されている,11ページにありますのは,申立人が一部引用した連絡帳を相手方がほかの部分にこういうのがあったという主張なので,この前提であれば理解できなくはないかなということを印象として持ちました。   ただ,一方で今まで家事事件手続法が前面に出てきたのに,ここでいきなり弁論主義的な発想になっていますので,そこら辺のところが若干違和感を感じるのと,これ自体,弁論の全趣旨等でいくのはどうか,真実擬制がどうしても必要になるのかなということを,思ったことを印象として申し上げさせていただきます。 ○髙橋部会長 今の御質問に対して。 ○松田関係官 家事事件手続法との平仄につきましては,今,御説明を申し上げ,また,1(1)のほうにも記載しておりますが,実体的真実発見の要請の強さの違いというところで一応説明は可能かなと思っております。 ○髙橋部会長 そして,従来から当事者主義的運用によるというわけでもないのですが,返還拒否事由は両当事者が主張立証することが望ましいと,そういう頭ですから,ここは対立当事者構造というところが入っております。   それからもう一つは,弁論の全趣旨でいける場合もあるでしょう。あれは事実上の因果関係が認められる,経験則がある場合ですよね。しかし,それでは苦しいときがあるから真実擬制の担保が必要だというのは民訴でもそうですからね。そういう意味で排除してしまうとよくないという趣旨ですね。もちろん弁論の全趣旨でいける場合がないということではありません。   大谷委員。 ○大谷委員 結論的にこの御提案に強く反対するものではありません。ということを申し上げた上で申し上げるのですが。かつ,印象論で申し訳ないのですけれども,家事事件手続法との整合性について御説明いただいたというのはそのとおりですが,全体的な印象として一応説明が可能であると,あるいは,あえて排除すべき理由はないとか,これを設ける必要性は否定されないと言える等の御説明で,その根底に,非常に申し上げにくいのですが,通常は国外に居住していることが想定される申立人に対しては過料の裁判の執行ができない以上と言ったような御説明を聞くにつけても,全体的な印象として,なぜここにこれだけ力が入るのだろうかという印象を受けたのは率直なところです。   もちろん連れ帰りの背景にはいろいろな事情がありますから,ニュートラルにいろいろな場合を考えて議論すべきだと思うのですけれども,そうだとすると,本来的には,子を連れ帰られて,そこで返還の手続をするという立場に置かれている,国外にいるのは当然なわけで,その人に日本の過料の執行ができないということがここで非常に強調されて,なので真実擬制を置いておかなくてはいけないという御説明を全体に聞きますと,非常に違和感を感じたというのが正直なところです。   ということを感想として述べまして,この点について非常に強く議論して,非常に強く反対するというところまでの意見ではありません。 ○髙橋部会長 ほかにいかがでしょうか。山本克己委員。 ○山本(克)委員 私も前回消極的なことを申し上げ,前回というかこの議論をした前の時点ではネガティブなことを申し上げたのですが,それは結論の当否よりも理由の書き方がどうも腑に落ちなくていろいろと申し上げたのです。端的に過料では役に立たないケースがあるのだということをなぜ認めないのかと。最終的にそういうお話を伺ってそれならいいなと思ったのですけれども,いまだになぜそういうふうに,つまりこれは少々のお金は払ってでも拒否したい人たちがいるのだと。定型的にそういうものではサンクションとしては役に立たないと想定されるということを正面からなぜ認めて議論しないのかというのがよく分からないですね。   ですから,サンクションとして,過料では駄目ですよと言えばいいだけの話のような気がするのですけれども,なぜこういういろいろな理屈立てを,特に海外にいる申立人のほうを念頭に置いた議論をなぜするのかというのがよく分からないところです。むしろ想定されていたのは,相手方のほうが少々お金を払ってでもとにかく協力したくないという場合にどうしようかという話を念頭に置いているのだと,前回の最後のほうの議論では伺ったのですが,なぜそれを出さないのかというのがもう一つよく分からないと思います。大谷委員が「あっても悪くないけれども腑に落ちない」とおっしゃるのも,理由の書き方の問題にあるのではないかと私は感じております。 ○髙橋部会長 はい,承りました。   大きな方向性は見えたということで,次に6の裁判の取消しの説明をお願いします。 ○松田関係官 では,「裁判の取消し等」についてですが,本文の(1)は裁判の取消し等について,まず中間取りまとめの甲案を採用することを前提にしまして,その具体的な規律について提案させていただくものです。   ①は,子の返還を命ずる裁判確定後の事情変更を理由とする場合に,当該裁判をした裁判所が申立てにより裁判の取消し又は変更することができるものとしつつ,常居所地国に戻った後は,これらの取消し又は変更の裁判をすることができないものとしております。なお,この取消し等の申立てをすることができる者については当事者を念頭に置いております。   ②及び③は,具体的な審理手続について,基本的には子の返還を求める申立てについての裁判手続と同様の規律としつつ,陳述聴取については裁判の取消し又は変更する場合にのみ必要なものとしております。   ⑤及び⑥は即時抗告権者について定めるものです。   なお,(補足説明)の1(4)に記載しておりますように,客観的には裁判時に存在していた事実が裁判確定後に判明した場合につきましては,新たに判明した当該事実を前提としますと,当初の裁判を維持することが明らかに子の利益に反すると認められるようなときは,裁判の取消し等の規律の趣旨を踏まえた解釈等によって,個別に救済する余地は否定されないものと考えております。   本文の(2)は,仮に乙案を採るものとした場合に,a,b,cの問題が生じると考えられますが,これに対する具体的な対応方法についての御検討をお願いするものです。   まずaの再審の規律との調整の問題につきましては,(補足説明)2(1)に記載しておりますとおり,例えば再審の規律を設けないものとすることも考えられますが,そうしますと,裁判の結果いかんにかかわらず,手続上の重大な瑕疵を是正する手段がなくなってしまうことになりますが,その相当性が問題になると思われます。   また,裁判の取消し等を求めることができる理由から,再審事由を除外することが考えられますが,再審事由がありますと,裁判の内容が不当であっても裁判の取消し等の申立てを直ちにすることができなくなるという点で,相当性が問題になるかと思われます。さらに,裁判の取消し等の理由となる裁判確定前の事由を子に関する事由に限定することなども考えられますが,結局規律が相当程度重複することが問題になるように思われます。   次に,不当な裁判の蒸し返しを防止する手当てについてですが,乙案は裁判確定後も確定前の事情を理由に取消し等を求めることができるとするものですから,裁判の不当な蒸し返しが起こることが考えられ,特に子の返還を命ずる裁判に対して,その執行の引き延ばし等の目的で裁判の取消しの申立て及びその却下決定に対する即時抗告がされ,その結果子の迅速な返還の実現が阻害されるという事態が生じることが懸念されると思われます。このような事例が多発すれは諸外国からの厳しい批判にさらされることも考えられると思われます。このような蒸し返しを防止するために,実効性のある手当てを講ずることが不可欠であると考えられますので,その点について御検討をお願いするものです。   また,乙案につきましては,裁判確定前の事由を理由とする場合には,一定の期間制限をする必要があると考えられますが,その期間をどの程度にするのが相当か,御意見を頂きたいと存じます。   6については以上です。 ○髙橋部会長 いかがでしょうか。磯谷幹事。 ○磯谷幹事 この点につきましては,前回でしたか,前々回でしたか,議論させていただきました後,日弁連の内部でも議論いたしました。基本的に乙案の難しい点は理解しておりますけれども,最終的にそれでもなお納得し難いと私どもが考えるのは,事務当局の別のところの案で手続の開始の段階から公示送達でいけると,公示送達で開始して裁判までいってしまうということも想定されていると聞いております。そうすると,最初から全く手続に参加できずに終わってしまった裁判すら取消しが困難になるというのはいかにも問題であろうと。特に所在がつかめなかった理由が,中にはもちろん相手方となるべき者の責めに帰すべきという場合もあるだろうとは思われますけれども,必ずしもそういう場合だけではないだろうということ。加えて,子の立場に立ちますと,子は本来利害関係参加もできるはずですのに,そういった参加も全く機会を与えられないまま裁判がこのように確定してしまうということは非常に問題であろうと思うわけです。   私どもとしては乙案を依然として支持するわけですけれども,ここに書かれている問題の解決が難しければ,例えば公示送達によって手続を開始したときに限って確定前の事情も考慮するとか,そういった形で例外を設けて救済をしていただきたい。以前のレジュメの中で,そういう案件については最高裁の裁判例などもあるので個別救済をという話がありましたが,個別救済でやらなければいけない事態というのは,立法段階でそういうふうに考えるのはいかがなものかと思いますし,ある程度出てくるのではないかと。これは中央当局の所在発見の力と言いますか,そのあたりにも大きくよってくるところで,ひょっとするとほとんどないのかもしれませんが,逆に所在が分からないケースもかなり出てくる可能性もあるので。そうすると,個別救済ということを最初から考えているのはおかしいのではないかと思います。 ○金子幹事 今の公示送達の場合なのですが,相手方の方があえて見付からないように逃げ回っているというケースは救済しなくてもよろしいというようなお話に聞こえましたが。 ○髙橋部会長 前回ですね。 ○金子幹事 それ以外で,中央当局の力も借りて,なお住所も発見されない,そういう場合は実質は子の返還の申立てを控える場合も多いと思うのです。なおそれでも実効性がなくても裁判だけは取っておこうということでやるという場合,そこまで想定しないといけないのかなという感がしますが,どうでしょう。特にこのハーグ事案で公示送達のところを特別に扱うだけの理由がありますでしょうか。 ○磯谷幹事 ほかの家事事件と同格に言われるとそこは何とも言えませんが,先ほども申し上げたように,相手方が逃げ回っている場合に,相手方が不利益を被るのはやむを得ないのだろうというふうな実質的な判断はあり得るでしょうけれども,だからといって,子自体が全く意見を言う機会,異議を述べる機会も保障されないまま,判断が出るということは問題ではないかと思うのですね。もし私の言い方がまずければそれは修正いたしますが,相手方が逃げ回っているときは認めなくていいということではなくて,相手方が逃げ回っていてもなおそれは子の立場からするときちんと裁判の取消しができるようにしてもらいたなと考えております。 ○松田関係官 今の御意見のように,相手方が逃げ回っていて,相手方は仕方がないのだけれども,子の利益を考えてということであれば,相手方が分かっていて逃げ回っているような場合でも,子の利益を考えれば事後的な裁判確定前の事由を理由として取消しの申立てを認めるということになってしまうので,結局逃げた者勝ちみたいな結果になってしまって,どうかなというところが懸念されるのですけれども,その辺はいかがでしょうか。 ○磯谷幹事 おっしゃるところはよく分かります。しかし,同時に子の利益は考えなければいけないわけで,そこのバランスなのだろうと思います。いずれにしても親が逃げ回っていることで子が不利益を被っている状態というのは問題だろうと思っているのですね。ですから,確かに今おっしゃるような問題は出るかもしれないけれども,そこのところをもうちょっと絞るなり何なりという工夫ができるのかどうか。私もちょっとそこまでは分かりませんが,基本的な枠組みとしては既に申し上げているとおりです。 ○髙橋部会長 古谷幹事。 ○古谷幹事 基本的には甲案を支持するところでございます。公示送達の場合というのは,確かに悩ましいのと思うのですが,実際問題として救済すべきケースがどれぐらいあるかにも関わってくるかと思います。本当に救うべきケースもあり得ると思うのですけれども,それは個別事情に応じて最高裁の決定を援用するとか,あるいは再審の枠組みを使うとか,そのような形での救済が現実的であると考えているところです。 ○髙橋部会長 取消しの必要がある場合があることを否定しているものではないということはお読みいただければ分かるとおりです。しかし,それを乙案のようにしますと,決定が出て,比喩的に言えばすぐ次の日に,それがはねられたらまた次の日と,そういう条文のスタイルになってしまう,これは立法としてはいかがなものかと。では,不当な蒸し返しを防ぐために規定ができないかと言えば,理屈だけから考えれば,簡易却下とか,濫申立てに対しては制裁金を課すとか,いろいろなものが考えられないことはないかもしれませんが,いかにも不釣り合いなものになってしまいます。帰すのが原則だというハーグ条約の趣旨の中で帰さなくていいような規定をどんどん作ることに対する抵抗感というものもあります。   そして,16ページの(4)にありますように,本当に必要な場合については,個別の裁判所の判断によって救済される余地はあり得るかと思います。従来の枠組みで言う再審で使うか上訴の追加を使うか,それはまた弁護士さんを含めて工夫していただくとして,本当に必要なことがあればそれが否定されるというものではありません。あるいは,仮処分の事情変更による取消しの実務の運用などというものも参考になるかと思います。   したがって,私の理解ではここも実質がそう違っているわけではなくて,条文の表現としてどこまで出すかだと,そういうように理解いたします。そして,事務当局と言いますか,立法当局としては,条文としては甲案でいきたいと。しかし,御指摘のようなものは十分分かっているつもりであると。それを一問一答で書くかというのはまたそのとき考えることかもしれません。状況はそのように私としては認識しております。その上で甲案,乙案,いかがでしょうか。   大谷委員。 ○大谷委員 よく御趣旨は分かりました。その上での質問なのですが,磯谷幹事の質問に関連して,甲案をベースにしながら公示送達の場合をということも難しい。それをやってもやはり,言葉がよくないのですけれども,逃げ得的なインセンティブになるのではないかと,そういうお考えでしょうか。公示送達がどのぐらい申し立てられるかというのは全く予想はできないのですけれども,代理人の立場からしますと,見付からないと,「何ができるのですか」と言われると,できることは説明せざるを得ない。そのときにやるやらないは本人の判断なので,そこまでいけば諦めるだろう,余りそこで実効性のないのをやるはずはないだろうとは正直言って分からないです。   それから,前にも申し上げたかもしれないのですけれども,公示送達ができるという形にしていたのは確かドイツがそうだけれども,余り使われていないという御説明を伺ったと思います。本年6月の特別会合,委員会で,イスラエルが子が見付からないままに返還命令を出したと,その後になって子が見付かって,結局はやり直しをしたという事例が紹介されたときに,子が見付からないままでそのような手続をしたということ自体に,場内で衝撃的な反応があったというふうに私自身はその場にいて感じました。   そういう意味では,公示送達で返還命令をバンバン出すことになってしまうとしたら,それ自体が外国にとっては不思議に思われるかもしれないのですけれども,実際子が見付かったときに,そこで必要があればやり直しましょうということになるのは,仮に逃げ得になったとしても,子の状況とか観点がきちんと審理されていないままの命令で本当にいいのかというところは,共通理解として比較的理解が得られるところではないのかなと思っています。 ○髙橋部会長 もう最後の段階にきているものですから,公示送達を切り出すことができるかどうかちょっと検討させていただきます。   ほかに裁判の取消しについて御意見,御注意いただく点がございましたら,是非お願いいたします。   それでは,幾つか宿題を頂きましたが,基本的には甲案をベースにして,次回要綱案のほうを考えていくことにいたします。   それでは,7の審問の期日の立会い,これの説明をお願いいたします。 ○松田関係官 では,「7 審問の期日の立会い」について御説明します。7は,裁判所が審問の期日を開いて当事者の陳述を聴くこととした場合における他の当事者の立会権の有無についての検討を提案するものです。   本手続では,当事者の手続保障の観点から原則として当事者の陳述を聴かなければならないものとする規律を設けるものとしつつ,本手続における迅速処理の要請を踏まえ,審問の方式によるかどうかは裁判所の適正な裁量に委ねることを前提としております。その上で,裁判所が審問の期日を開いて当事者の陳述を聴くこととした場合の他の当事者の立会権の有無について,子の返還申立事件の構造や当事者の手続保障の観点から基本的にはこれを認めるものとするのが相当と考えられますが,本手続における迅速処理の要請に反することもあり得ることから,状況によっては他の当事者に立会いの機会を与えることなく,審問の期日を開いて当事者の陳述の聴取をすることができるものとし,当該審問の期日については,裁判所からの事実の調査の通知をきっかけに記録の閲覧等をすることによりその内容を確認することができることで,手続保障を担保するのが相当であるとの考え方もあり得ると思われますので,この点に関しまして御意見を伺いたいと存じます。   なお,当事者に立会権を認める場合でありましても,例えば申立人のDVが疑われる事案など,他の当事者が立ち会うことによって事実の調査に支障を生ずるおそれがあると認められる場合には,他の当事者の立会いを認めないものとする例外の規律を設ける必要があると考えられます。   7につきましては以上です。 ○髙橋部会長 いかがでしょうか。山本克己委員。 ○山本(克)委員 おおむね賛成なのですが,なお書き以下の場合にいきなり立会権を否定するところに飛ぶのがいいのかどうかというのは考えたほうがいいと。つまり,映像等の送受信によるうんぬんという方途があり得るわけですね。別々の部屋に呼び出して,映像を飛ばしてということもあり得ますので。それを立会権を否定したというのであればそれでも構わないのですが,立会権を認めないというのは完全に排除するのだという趣旨に読めますので,そういう中間的な解決を考えずにいきなり立会権を全面否定するのはいかがなものかという気がいたします。 ○髙橋部会長 はい,分かりました。   ただいまの御意見を十分考えますが,基本的には立会権を認める方向で例外を作るということでよろしいでしょうか。  まだ時間がございますので,言い残したとか,この点もう少し議論したいということがございましたら,どうぞ御遠慮なく。前に戻って結構ですので,御意見を賜ればと思います。  大谷委員。 ○大谷委員 言い残しではないのですが,私が聴き落としていましたら申し訳ございません。パブリックコメントでどういう意見があったかという御紹介とか,それが今後の議論に反映するかとか,その辺について御説明いただけるようでしたらお願いいたします。 ○金子幹事 パブリックコメントの期間は10月31日までで,現在結果を集計中です。次回の部会におきまして,その結果を取りまとめたものを御用意して書面で配布するとともに,内容について事務当局のほうから概要を御説明したいと考えています。 ○髙橋部会長 集計中でしょうが,件数だけでも。結構出たのですね。 ○金子幹事 全体を通じて意見をお寄せいただいたのは非常に限られていて,数行のものも含めてですが,件数としては二百数件だったと思います。 ○髙橋部会長 相原委員。 ○相原委員 それとの関連になるかと思うのですが,これからも期日が入っておりまして,少しずつ出てくるかと思うのですけれども,ほかとの関係と言いますか,主文と執行の問題,それから,逆に例えば証拠の開示とか秘匿の問題で管轄の数の問題とかが連携して,全体像を見ないといけないと思います。先ほどの公示送達の問題もそうなのですけれども,ここだけを考えるとこうなのだけれども,ほかのところを見るとちょっといかがなものかという意見も出てきたりするものですから,次回以降そこら辺のところを,関連するところでの議論が,全体像ができると望ましいかなという思いを持っております。   希望,要望でございますが,以上です。 ○髙橋部会長 皆さん全員そういう希望をお持ちだと思いますが。これは事務当局のキャパシティもありますので。御希望は十分承ったということで。   棚村委員。 ○棚村委員 すみません,記録の閲覧のところで発言をしようと思っていたのですけれども,中央当局の懇談会に出ていますと,結局,中央当局を外務省がやるということになって。ほかの国などを見ると,司法省とか法務省で家族法関係の部局や課が担当する,子どもの課がするということがあって。私自身もそういうところで審議に加わっていて考えるところがあります。例えばですけれども,四つの条項の中でどれがどういうふうに当たってくるかというと,どれも帯に短したすきに長しというところがあるので,包括条項を入れるにしても,これは美しくないのだと思いますけれども,中央当局の任務とか業務を遂行する上で著しく支障が出る場合とかいうので例示の1個に挙げていただいて,そのほか特別の事情がある場合というような包括的な条項を置いていただくということも御検討いただけるとありがたいと思います。   御懸念がある部分というのは,いろいろな情報を集めるけれども,朝倉幹事も言っていたように,実際にはいろいろな情報から推知したり,分かってしまうということはあるわけです。そうかと言って,中央当局はまず所在の特定から社会的な背景に関する情報を取るとか,いろいろな形でもって国内外から取る情報について,例えば業務とか私生活とかいろいろなことの包括的な抽象的なものはあるのですけれども,国内の家事事件であれば割合とそれに当てはまって許可しないというところが限定されてくると思います。   ハーグ事案のときにちょっと懸念があるのは,もし可能であればですけれども,中央当局の業務とか任務を遂行する上で著しく支障があるとか,重大な支障が生ずるおそれがある場合というのを入れていただいて,最終的にはそれが裁量の判断のファクターになるという,折衷案みたいで申し訳ないのですが,一言お願いしたいかなと思います。 ○山本(克)委員 今の御意見ですけれども,中央当局の活動との関係では,そのときに中央当局の活動を阻害しないとする場合には却下できるというような書き方をすべきだと。しかし,その場合の情報活動というのをどう捉えるのかというのがあると思うのですね。当該事件における活動なのか,一般的に活動なのかということだと思うのですね。外務省がおっしゃっているのは一般的に困るというお話ですので,それについて裁量の余地を考える余地がないような気がしますし,裁量に掛かっている限りはやはり阻害するのだと思うのです。   ですから,外務省のお考えを尊重するのであれば,端的にこれは閲覧謄写の対象から外れると書いておかないと。事前の問題ですから,あらかじめこうなっていますから,お話を聴かせてくださいと言わなければいけないわけで,裁量に掛かっている限りはどう条文を書いてもおよそ同じような問題になるのではないでしょうか。 ○棚村委員 情報の範囲を限定する場合に,先ほども出ていましたけれども,仮に住所だけを不開示というか,扱わないとしても,ではほかの情報はどうなるのだという問題はやはり出てきますので,最終的には裁量にはなってしまうのだと思います。山本委員が言うような限定的にそこだけは絶対出さないというものがもし作れるのであれば,私も構わないかと思うのですけれども,真実の発見とか,裁判所が適正な審理をするために必要な資料の収集とか,当事者が開示を求める情報と,それから,開示させたくない,あるいは,させることでいろいろな支障があるようなことというと,最終的にはそれをファクターの中に入れるということぐらいしかなかなか難しいのかなというのが私が考えた理由です。 ○髙橋部会長 これは,先ほども書き方を検討するという宿題を頂いておりますので,その中で。   大谷委員。 ○大谷委員 先ほど相原委員から子の返還手続の議論の中で相互に関係するものというお話があったのですけれども,私がそれに加えて気になっているのはこちらの議論と外務省の懇談会とのすり合わせなのです。一番気になっているのが,今日の記録の開示のところで,情報を得ることと,それが裁判手続でどうなるかというところは議論していただいたのですけれども,もう一点気になっているのが接触というか面会交流のところです。こちらの関係では,従前どおり条約第21条に関しては特別の手続を設けないという話で終わっているのですが。他方で,外務省の懇談会では繰り返し繰り返し,そちらについての支援の在り方とか,今日も冒頭に辻阪さんから御紹介ありましたとおり,面会交流がうまくいくのであれば解決が促進されるケースもあると,それに対する期待というものが語られている。   実はそこに非常に大きなギャップを感じていまして。それを全体的に見たときに,ハーグのための新しい面会交流の手続は設けないという中で,それぞれの関係者の認識が共通に進んでいるのだろうかと。この法制審のマンデートからは外れるお話をさせていただいているのですが,そういう話が最後の最後まで何となく積み残されたままいっているような印象を受けていまして,ちょっと時間があったので発言させていただいているのですが。ここで必ずしも何か結論を出すということでないのは理解しているのですが,従前から気になっていることとして申し上げさせていただきました。 ○髙橋部会長 ありがとうございます。   それでは,今日の議題につきましては,この程度とさせていただきます。   次回以降につきまして,説明を。 ○金子幹事 次回,第8回会議の日程ですが,11月28日,月曜日,13時30分から,場所は法務省地下1階の会議室に戻りますので,よろしくお願いします。   次回の予定ですが,先ほど申し上げましたとおり,パブリックコメントの御紹介にある程度の時間を掛けたいと思います。そのほか,なお積み残しの論点等について,事前に資料をお送りいたしますので,御覧いただければと思います。 ○髙橋部会長 本日も熱心な御審議,どうもありがとうございました。 -了-