法制審議会ハーグ条約(子の返還手続関係)部会           第10回会議 議事録 第1 日 時  平成23年12月19日(月) 自 午後1時32分                        至 午後6時09分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  ハーグ条約を実施するための子の返還手続等の整備について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○髙橋部会長 時間でございますので,第10回の部会を開催いたします。   それでは,審議に入る前に配布資料の説明を事務当局から。 ○佐野関係官 本日の配布資料は,事前にお配りしました部会資料11,要綱案のたたき台のその1の改訂版と,本日席上配布しております部会資料12,個別論点の検討(6)になります。 ○髙橋部会長 審議に入ります。   内容からお分かりのように,部会資料12は個別論点の検討の延長ですので,そちらのほうを先に。   では,「1 記録の閲覧等」の審議ですが,まず説明からお願いいたします。 ○梶原関係官 「記録の閲覧等」について説明します。   ここでは,④二の規定について検討するものです。   ④二は,子の返還を命ずる決定が確定した後においては,申立人が相手方又は子の住所地又は居所地を知る必要が生じることがあるため,一定の要件がある場合に閲覧等の不許可事由から除外するものです。   その要件については,前回の部会で提案したように,「子の返還を命ずる決定が確定したとき」とすることが考えられます。しかし,子の返還を命ずる決定が確定した後も,DV等の危険が無くなるわけではなく,他方で,子の返還を命ずる決定がされた後,常に直ちに住所等を知る必要性が生ずるものではありませんので,子の返還を命ずる決定が確定したことに加えて,「強制執行を申し立てる必要があるとき」に不許可事由から除外することが考えられます。もっともこれに対しては,強制執行の申立てのためには,相手方又は子の住所等を知っていることが必ず前提となるとは言えないのではないか。例えば,申立人が代替執行類似執行を申し立て,授権決定を得た後,返還実施のため,申立人が子の住所地に行く必要が生じるなど,申立人が相手方又は子の住所等を知る現実的な必要性が生じた場合に閲覧等を認めることとすれば足りるのではないかとも考えられます。このような場合を考えると,要件については,子の返還を命ずる決定が確定したことに加えて「強制執行をするために必要があるとき」とすることも考えられます。そこで,両案を亀甲括弧を付して提案するものです。   なお,④のただし書に該当する場合であっても,⑤に記載する事情が認められる場合には,閲覧等を許可しないことができるとする必要があります。例えば,相手方が,子が入所している施設の所在地を開示することに同意したとしても,申立人がその施設にその業務平穏を害する方法で押し掛けるおそれがある場合が考えられます。そのため,⑤では,③により閲覧等を許可しなければならない場合に加えて,④ただし書により許可しなければならない場合も含めて,一定の事情が認められる場合には,閲覧等を許可しないことができるものとしています。もっとも,④二の要件が,強制執行の必要性の有無の観点から非開示の規律を外すものであるとすると,④二の要件を満たす場合に更に⑤の要件該当性の判断において強制執行の必要性を含めた諸事情を含めた総合考慮することにより,開示の当否を判断することとなると考えられます。   そこで,④二と⑤の各要件の該当性の判断で考慮要素が重複しないのか,重複したとして問題があるのかについても検討する必要があります。 ○髙橋部会長 亀甲括弧を付してあるところが特に御意見を頂きたいわけですが,それに限定せず,どこからでも結構です。御審議をお願いいたします。 ○相原委員 まず最初の二の「子の返還を命ずる決定が確定したとき」とするのか,若しくは「強制執行するために必要があるとき」ということを加えるのかというところについて意見を申し述べさせていただきます。   私は,従来から,住所,特に相手方の住所の開示に関しては,可能な限り秘匿していただきたいと考えています。というのは,逆に中央当局が住所を知るということとの,開示義務を各種団体に課すということとの関係から,それを一貫していただいたほうがいいのではないかと考えておりました。その観点からいきまして,返還命令を確定して強制執行するために必要があるというときは,これはもうどう考えても必要で,出さざるを得ないということは考えられると思いますので,従来申し上げていた一環としまして,前回御提示になった案というよりは,「強制執行するために必要があるとき」という形で規定していただきたいと考えます。   取りあえず最初,そこだけ意見を申し上げます。 ○髙橋部会長 同じ論点ですか。 ○磯谷幹事 前回,私も意見を申し上げて,確定よりももう少し後のほうが望ましいのではないかと申し上げました。今回こういうふうな御提案を頂きましたが,結論的には,一つは,確定をした後,一定期間経過後というふうな仕切りもあり得るのかなと考えました。要するに,確定を機に,できるだけ任意の返還を促すことが期待されているわけですから,強制執行に入る前に説得のために何らかの期間を設ける必要があると思いますが,一方で,今回御提示いただいた亀甲括弧の中のものですと,一体いつなのかという時期の判断がなかなか難しいと考えられるのと,先ほど事務当局からも御説明がありましたように,その要件,考慮要素が重複するのではないかというような問題もあったように思います。   一方で,4ページの間接強制前置の中で,「決定確定後,〔二週間〕経過後でなければ」というようなお話もございまして,この辺りをヒントにもいたしまして,2週間がいいのか,1か月がいいのかはともかくとして,一定期間置いて,その間に最終的な任意の返還というのを促すと,こういうふうな形もよろしいのではないかと考えております。 ○髙橋部会長 「強制執行するために必要がある」という後ろの亀甲か,あるいは一定期間という形かという御意見を頂きましたが,他の委員幹事の方いかがでしょうか。 ○山本(和)委員 私はこの後のほうの亀甲括弧ということでよろしいのではないかと思っていました。前のほうだと,結局,この現在の執行の仕組みだと間接強制をまず申し立てて,その命令が確定した後,その間接強制金を取り立てるための金銭執行を行うか,あるいはこの次に出てくる代替執行的なものに移っていくかということになるのだと思うのですが,その金銭執行とか代替執行的なものの場合には,恐らく住所の開示というものが強制執行のために必要ということになるんだと思うのですが,間接強制の申立てそれ自体は恐らく住所は分からなくても通常できるのではないかと思いまして,前段だと,それも強制執行を申し立てる必要があるという,申し立てる必要自体はあるので,間接強制の申立ても。そこでもう開示されるということになってしまうとすると,弁護士会の先生方が言われる,やや早いということになるんだろうと思います。   それで,後段のほうだと,今,磯谷幹事が言われたこととの関係では,実質的には本体の決定が確定してからある一定の期間,間接強制の申立てをし,それについての決定がなされ確定するまでの一定の期間は任意の履行のための期間として実際上は働くことになると思いますので,結論はそれほど変わらないのかなというふうな気がして,そうであるとすれば,後段の亀甲括弧でよいのかなと思いました。 ○髙橋部会長 部会資料にも書いてありますが,重複するかしないか,またしてはいけないのかどうか,構成的な詰めもございますが,基本的にはできるだけ後ろにということで,そして,「強制執行するために必要があるとき」というのも,これ自体に強い反対があったわけでもないと了解をさせていただきます。   記録の閲覧に関しまして,他にいかがでしょうか。 ○豊澤委員 今,磯谷幹事からも御指摘があったんですけれども,「強制執行の必要があるとき」という表現にする場合,どの時点なのかというのがある程度具体的に明確になっていないと,裁判所としても,そこの判断で幅があるとか,いろいろそこで考えなくちゃいけないというようなことになると,いかがなものかと思います。どの時点という形ではっきり線が引けることになるという理解でよろしいのでしょうか。 ○金子幹事 今,山本和彦委員のほうから,具体的な場面ではこうなるのではないかという御説明があったように,個別の事案というよりは,強制執行のタイプごとに類型的に判断することができるものと考えています。 ○髙橋部会長 あとは表現とか,その辺の調整はさせていただきますが。   それでは,多少関係いたしますので,2の執行方法ですね,裁判の実現方法のほうに移ります。では,説明から。 ○佐藤関係官 「2 子の返還を命ずる裁判の実現方法」について説明いたします。   こちらの論点は,前回の部会における議論を踏まえて,代替執行類似執行の具体的な規律について検討するものです。   まず,本文の「(1)子の返還の強制執行」は,子の返還の強制執行の基本的な部分について規律するものです。   主な点について取り上げますと,①は,子の返還の強制執行について,間接強制及び代替執行類似執行,すなわち執行裁判所が債務者の費用で第三者に債務の目的である作為をさせることを決定する方法による執行によって行うことができるものとすることです。   ②以下は,代替執行類似執行独自の規律でありますが,そのうち④は,代替執行類似執行は,子の返還を命ずる決定の正本に基づいて行うことができるものとし,別に執行文の付与を受けるなどの手続を経る必要はないものとしております。   ⑤は,代替執行類似執行において,債権者に授権決定をするためには,債務者の審尋を行うものとするものです。   次に,(2)は間接強制前置について規律するものです。   前回の部会において議論いたしましたが,執行段階においても直ちに直接的な手段を用いるのではなく,できる限り任意に近い形での履行を促すように努めることが望ましいと言えます。そこで,一つの案として,間接強制前置とすることを提案いたしましたが,この具体的な規律については,(2)に記載しましたように,間接強制決定確定後,一定期間経過後に代替執行類似執行の申立てをすることができるものとすることが考えられます。間接強制前置とする場合は,どこまで行えば前置の要件を満たすのかが問題となりますところ,間接強制決定が確定すれば,金銭執行の申立てまでしなくても,債務者に対する心理的な抑制は働くと言えますので,その時点を基準にするということが相当と考えております。そして,一定期間としては,迅速な返還の実現という要請に配慮しつつ,間接強制決定を契機として履行することがあることを考えますと,現実に履行可能な期間を与える必要があるために,一つの例としては,2週間とすることが考えられます。この段階に至るまでには,この返還命令の確定後,既にある程度の期間が経過していることが想定されますので,この期間は余り長期間である必要はないと考えられます。もっとも,間接強制決定の主文が,いつまでに履行せよというように履行期限を付している場合には,その履行期限後でなければ間接強制前置とした意味がないことから,この期間の定め方については,なお検討の必要がありまして,その意味でも,亀甲括弧に入れております。   また,間接強制前置とする場合の手続的な負担を考慮し,前置に代わる手段を設けるということも考えられますが,これについても御議論いただければと思います。   次に,「(3)〔実施者〕の指定」では,実施者の指定に関する規律を設けております。   代替執行類似執行においては,債務者の子に対する監護を解くために必要な処分を行う解放実施者,及び子の現実の返還行為を行う返還実施者の指定が必要であることから,①のような規律を設け,このうち解放実施者については,前回の部会でも御提案いたしましたように,執行官とすることが望ましいことから,③のような規律を設けるものとしております。これに対し,返還実施者の指定については,申立人を基本とし,他の者についても排除するものではないという整理に基づき,現時点では②のような一般的な規律を設けることを考えております。もっとも,この点については,返還実施者となるべき者を類型的に整理し,例示や規律を設けることで判断基準を明確にすることが子の保護を図ることにもつながり望ましいということが言えますので,これについても御議論いただければと思います。   次に,「(4)執行官の権限」及び「(5)子に対する監護を解くための処分の実施」ですが,(4)は,実施に当たる執行官の権限について規律したものです。   子の利益に配慮した安全な執行を行うためには,これらのものがどのような行為ができて,どのような行為ができないのかの規律を定めておく必要があります。具体的に見ますと,執行官の権限としては,本文(4)①に記載しておりますように,債務者に対して説得をするということが考えられます。説得行為を認めるために,明文の規定が必要であるか,あるとしても法律事項とすべきか規則事項でよいかという点は検討を要するところですが,そのようなことをしてよいものか疑義が生じないよう何らかの形で明確にしておく必要があるのではないかと思われます。   本文(4)の②ですが,解放実施を行うために,債務者又はその補助者が抵抗する場合に,その抵抗を排除することができるものとしております。   (4)の③は,債務者の住居等に立ち入り,子を捜索するなどの必要な行為を行うことができるものとしております。   (4)の④及び⑤は,解放実施時においても,事案によっては返還実施者を執行官の説得の補助者として子や債務者と面会させたり,面会や返還実施の意向に必要な範囲で住居等に立ち入るなどさせる必要があることが想定されますので,不測の事態を避けるためには,これらのことは執行官の判断で行うものとするのが相当でありますことから,④及び⑤は,それを前提とした規律と考えております。   (4)の⑥ですが,執行官が抵抗を受けるときには,抵抗排除のために威力の行使ができるものとし,威力の行使の規律として,子に対する直接の威力の行使ができないこと,また,子に対する威力の行使に当たらなくても債務者又はその補助者に威力を行使することが子の心身に悪影響を及ぼす場合には,威力の行使は許されないものとしております。例えば,相手方が子を抱き抱えて放さない場合には,そのような場合に威力を行使して無理やり解放させることは,子にとって恐怖であり,心理的負担が大きいと言えますことから,許されないことになります。   また,(4)の⑥では,警察上の援助を求めることができるものとしております。これは,民事執行法第6条第1項に倣った規律であり,本手続においても,強度の抵抗や危険の発生が想定される場合はあり得ることから,警察上の援助を求めることができるものとするのが相当です。   なお,民事執行法上の援助要請を受けて現場に臨場した警察官が,何らかの事象に対面し,警察官としての職務執行上行うべきであると判断した場合には,援助要請の有無にかかわらず,警察官の固有の権限として行うことができると整理されておりますが,これは本手続において執行官の権限の範囲を規律した場合であっても変更はないと考えております。   本文の(5)ですが,解放実施を行うべき場所について規律したものです。   前回の部会において,第三者を巻き込む危険を回避し,またプライバシーを保護する観点から,債務者の住居で行うことが望ましいという提案をいたしましたが,部会においては,その他の場所においても行うことを認めるべきであるという御意見もございました。そこで,(5)では,債務者の住居においては,特段の考慮を行うことなく実施場所とすることができるとし,これを原則形態としつつも,他の場所でも執行官が相当と判断すれば実施場所とすることができるものとしております。   なお,(5)については,子が債務者に監護されているという要件を置いておりますが,これは,そもそも債務者が子と共に所在する場合でなければ,解放実施を観念できないこと,及び債務者に説得をし,場合によっては所要の協力を得て子を連れていくのが子にとっても,債務者にとっても望ましいと言えることから,このような状況を確保するために規律するものです。   次に,本文の「(6)返還実施者の権限」は,返還実施者の権限について規律するものです。   返還実施者について認められるべき権限は,子を監護しながら移動させることに尽きまして,実質は明確であるところ,ただ,行為としては様々なことが考えられることから,交通機関を利用させることのような例示に加え,その他必要な行為を行うことができるという一般的な規律を置いております。また,場合によっては宿泊を伴うことも考えられるところ,これらは監護の一内容とも思われる反面,何らかの形で明記しておくべきとも考えられますことから,亀甲括弧を付して記載しております。   「(7)外務大臣の援助」は,中央当局への援助要請について規律するものです。   前回の部会においても議論したように,中央当局にしかるべき人を派遣してもらい,立会いその他の援助を求めることができるものとするのが望ましいと言えることから,(7)のような規律を設けることが相当と言えます。   (8)は民事訴訟法及び民事執行法の規律の規定の準用について規律するものです。   代替執行類似執行については,ハーグ担保法において必要な規律を書き切ることを考えておりますが,基本的な部分以外は民事訴訟法や民事執行法の規定を準用するのが相当と考えております。もっとも,民事執行法第1条によれば,子の返還命令の執行を民事執行によることができるものと解され,そうすると,本手続に特則を規定する他は,民事執行法が適用されることになります。そこで,なお民事執行法とハーグ担保法との関係を整理する必要があると考えております。また,準用としても適用としても,民事執行法に規定がある規律のうち,どの規律を本手続で使う必要があり,どれについては除外すべきなのか,この辺りの整理も,子の返還命令の強制執行の実質的内容が決まった後にきちんと検討する必要があると考えております。 ○髙橋部会長 やや長い規定になりましたが,どこからでも御審議をお願いいたします。 ○棚村委員 大分整理をしていただいて,執行の場面とか,あるいは執行の方法等のイメージが大分具体的にできるようになりました。   それで,執行官がやはり威力を用いて抵抗を排除するというときに,かなり子どもへの配慮ということをされているのは非常に有り難いと思うのですが,執行官の判断で債務者又は補助者に対して威力を用いることが子の心身に悪影響を及ぼすおそれがあるというのが,一般的にはこういうような規律というか,文言で表すしかないんだと思いますけれども,これは執行官が独自に判断をするということをまずお考えかというのが第1点の質問です。   独自に判断をする場合に,これはお子さんがやはりかなり違う人に移されるということですから,やはり緊張とか不安とかいろいろなことは必ず伴うと思うのです。この辺りのところ,私たちは今までの執行の現場ではいろいろ御苦労されていたと思うのですけれども,普通は大体さっきのしがみつくとか,そういうようなことがあると,ちょっと執行が困難だということで執行不能ということになるんだと思いますけれども,悪影響を及ぼすおそれがあるというのが具体的に言うと,外形から見てそういうことが分かるということであるのでしょうか。例えば,子ども自身の表情とか様子とか,そういうものをどういうふうに推し量って債務者とか補助者との関係で,子どもの心情というのですか,それを確認するということを執行官が求められるのかということを確認させていただきたいと思います。文言としては,恐らくこういうような表現だとか,あるいは子どもの福祉とか心身に非常に重大な影響があるとか,こういう表現にしかならざるを得ないと思うのです。余り限定をしてしまうと,非常に柔軟な対応ができないという問題があると思うのですけれども,その辺りをお尋ねさせていただければと思います。 ○佐藤関係官 検討していなければならない重要な点だと思っておりますが,判断権者としては,やはり現場の執行官の判断ということにはなるかと思います。   それで,その判断基準については,子どもの心の中までは見えませんので,ある程度外形から判断するということになるかと思いますが,多分具体的な基準等については,今まで問題になったことがある事例も踏まえて,ある程度類型的に整理して判断しやすくするという必要が出てくるのではないかと,現時点ではこの程度の整理をしております。 ○棚村委員 実際の執行の現場でこういうことが起こるのか分かりませんけれども,よく子どもをめぐる争いで起こってくるのは,診断書とかお医者さんなんか,あるいはカウンセリングなんかを受けているということで,子どもが今環境を移すことによってものすごくダメージを受けますよというような診断書みたいなものが執行の現場か何かで,例えばカウンセラーの方とか,あるいは医師の診断書とか何かを示されたような場合に,執行官はどういうふうに対応すればいいのでしょうか,そういうイメージで質問しました。 ○朝倉幹事 若干場面が違うのではないかと思います。ここで規定されているのは,債務者に対する威力の行使が子どもにどういう影響を与えるかというところですので,基本的には現場の状況によって判断せざるを得ないと思います。ある程度経験を踏まえて類型化しておいて,できるだけ判断を現場でしやすくしますけれども,そうはいっても,どのぐらいの緊張感があるかといった辺りというのは,その場で最終的には判断せざるを得ませんので,先ほどおっしゃられたように執行官が判断することとなると思います。   一方で,環境を移す,要するに,一方の親から他方の親に子どもを移すことが,その子どもにとってどういう影響を与えるかということは,この執行の話とは違う話で,返還命令の本案判断に関わる話だと思いますので,それは執行官が判断することではないと思います。ですから,現場で,これはお母さんから引き離してお父さんのところへ持っていくとダメージがありますという診断書を出されても,よほど何か特別な事情がない限り,それは特段考慮しないのではないかと思います。 ○宮城幹事 今の棚村委員の御発言と関連するんですけれども,警察が出てくる場合となると,ここで例が挙げられているのが,債務者が多数の支援者と共に相当程度の有形力を持って抵抗する。要は,立て籠もりして周りに支援者がいる。こんな状況だと,通常そこに執行官であれ警察官であれ突っ込んでいくと,それ自体で子どもの心身に悪影響を与えるのではないかという感じがするんですが,これは事務的にいろいろ詰めてみたんですけれども,規定を置くことは法制的な整理としては分かるんですけれども,(4)の⑥のただし書以降の規定があるとすると,実際は相当早い段階で見切りをつけて,子どもがおびえるような状況であれば控えるということではないかと思うのです。とすると,その観点からもう少し基準というものがもっと明確になってこないと,いわゆるどこの段階から警察が出ていくか,更に警職法の社会に移るかということがちょっと難しい問題になると思います。前回の繰り返しになりますけれども,一番問題になるのは,法制的な整理としてはこれで構わないのかもしれませんが,現実に警察官が現場に行った場合には,権限の不行使も違法なんです。この法律のただし書に従わないのも違法なんです。どっちに転んでも違法だという状態が生じ得るのが問題だということを申し上げているので,そこの辺りをもう少し場面が明確になってこないと,まだ現場では混乱するのではないかなという感じがしておりますので,申し上げておきます。 ○古市関係官 民事局の古市です。   今,宮城幹事から御指摘のあった警察の出てくる場面の関係でございますけれども,この部会資料にある事案であったり,ここまで大きな抵抗でなくても,例えば,債務者の自宅前に親族がバリケードを張ってしまって座り込みをしてしまうというような場合に,これは執行官だけでは十分な排除ができないと思います。事案によっては子の心身に対する悪影響があるため,早目に見切りをつけるという事案もあるのかもしれませんけれども,それは事案によってということになりますから,執行官が中に入るところまでは警察官にきちんと対応していただいても子に悪影響が及ばないようにできるのであれば,執行官としてできる限りのことはするということになると思われまして,これは現行の民事執行法における警察上の援助の枠組みとそれほど変わらないのではないかと思っているところです。したがって,宮城幹事が法的な整理はこれで構わないとおっしゃっておられるところですから,あえて繰り返すまでもないとは思うのですけれども,警察上の援助というものは,やはり一つの枠組みとして置いていただくというのが相当なのではないかと考えておるところでございます。 ○宮城幹事 一応こちらの案としては,要するに,ポイントは先ほど申し上げたどっちについても違法だという状況が困ると申し上げたので,であれば,片方の違法の可能性,すなわち執行官の下で,その執行の範囲内で活動しなければならないというところの規定さえなければ,要するに,現実に多分要請があれば行くんです。行くんですが,執行官の現在の民事執行法の規定によると,執行官の指揮の下とは言えませんけれども,執行官の職務権限の範囲内で執行を受けないということになっています。そこのところがネックになる。ですので,一般的な協力義務というのを置かれる分には構わないということを事務当局案への対案で申し上げたんです。ですので,そこのところについて,そういった書きようもあるのではないかな。要するに,義務の衝突だけを心配している,法制的に言うと。そこだけですので,現実にそうはいきませんよということを申し上げたのでは全くないんですが,その辺りをもう少し御理解いただければと思いますけれども。 ○金子幹事 その義務の衝突ということが今一つ分からないのですが,ここで執行官についていろいろ限界を画する規定を置いて,警察はそこからはみ出ることは,この法制で予定していることはないだろう。それに対して,警職法の観点から言うと,こういう事情にかかわらずやるべきことはしなければいけないという意味で,一方ではやってはいけない,一方ではやりなさいということで抵触が生じているのではないかという御趣旨でよろしいんでしょうか。 ○宮城幹事 厳密に申し上げると,要するに,この前も申し上げたのですが,二つの規律が同時に警察官に掛かってくる。先の規律は民事執行法の規定に倣った規律が掛かってくる。ここでは,要するに,この今の案のただし書の範囲内でしかものができない。ところが,危険な状態がいろいろ生じます。その瞬間だけ変わって警職法で動く。またその状況がなければ,また元の姿に戻る。法制的にはこうなんですが,極めて技術的だし,現場ではそんな判断を強いることは難しいだろうと思うのです。ですので,最初から,要するに,警察官が現場に行った場合には,どこまでできるんだということをはっきり示したい。要するに,今のままですと,警察官がこの場面に来たときには,まず子どもには絶対触っちゃ駄目だということになります。次に,親御さんに手を触れるときでも,子どもでも少し何か言い返そうというとやめなさい。その一方で,子の生命,身体,財産に危険が生じたら必要な処分をしなさいということを同時に判断しろ。これはかなり難しい判断になります。加えて言うと,その執行方法,執行しない,執行を解くことですね,解くタイミングも必ずしも現場の執行官の判断ですから明確ではない。どの段階から執行不能とするか明確ではないということで,法制的な整理としては分かりますけれども,現場で,このタイミングで,どの規定に基づいてどう動き,どう向きなさいということについては,なかなかいわゆる確たるものが言えないとなかなか指導もしづらい。こういった場面にはこういうふうに動きなさいよということがなかなか指導しづらい,こういった問題があるということを申し上げているということです。 ○金子幹事 今の現行法の民事執行法の下ではそういう問題は生じていないけれども,ここのただし書のようなものが入ると,そういうことが生じてしまうと,こういう御趣旨なんでしょうか。 ○宮城幹事 その可能性は非常に高いということです。今までは,要するに,基本的には手を掛けてはならないということはないわけですから,相手方に。要するに,ある段階で執行をきっちり止める。要するに,今まではこの段階で執行不能だなということがみんなが分かる。大体これで無理ですねと分かる。その段階で手を引けばよかった。そうではない,これは要するに,ある瞬間の判断,正に内心は探知できませんけれども,外形から見てどうかと,ある意味では専門的な判断ですね,その段階で執行を止めることになる,あるいは執行にいろいろセーブが掛かることになる。そこのところに専門的な判断というのはなかなか現場の警察官では難しいですよ。ですので,このただし書の部分について,より明確といいますか,具体的にはっきり分かるようなもの,明確なものがあればいいんですけれども,なかなかこのままでは混乱が起きますということを申し上げています。 ○髙橋部会長 混乱は理解できるのですが,ここは法制審ですので,例えばこんな規定を置いてはどうかというのがあれば有り難いのですが。 ○宮城幹事 それで申し上げたのは,要するに,先ほど申し上げた,どっちの法律に従ったらいいかということが分からなくならないように,一般的に警察官に協力を求めることができると書くのであれば,これは要するに警察官が現場に行くだけだ。行って,そこから先は要するに警職法を見ればいい。ということで,先ほど申し上げたトラブル防止という観点であれば,それぐらいの規定で間に合うのではないかなということで,もちろん実際に抵抗を解く部分についてどれだけ手を出せるかは別物ですけれども,いわゆる一般的な協力義務を確保して何とかできないかとは自分的には提案申し上げたということです。 ○古市関係官 繰り返しになってしまいますが,協力義務ということであるとすると,強制執行としての威力を警察官は行使しないという整理になるのだと思います。そうすると,先ほど申し上げたようなバリケードを張っている事案でも,これは執行官がやってください,私たち警察としては警職法の目的趣旨に従って治安上の問題があるとか,いろいろな問題があればともかく,そうでない限りはやりませんと言うことができるということになると思います。協力義務ですから,協力するかしないか,最後は警察官のほうで決めていただくということになると思いますが,そうであるとすると,執行現場において執行官で排除できないが,しかし,一定の有形力を行使する必要があり,それが子の心身に影響を与えないというような事案は当然想定できるわけですから,その場合に警察上の援助を受けられないということでは,やはり,他の執行の場面とは違って困難を来すというところもあると思うのです。ですから,義務の衝突の点については,先ほど事務当局等からいろいろ御説明もありましたので,それも踏まえていただき,執行現場で執行官の意思に基づいて警察官ができるものとしては限界があるけれども,警察官は,そのような場合でも常に警職法上の職務権限行使の可否について自ら判断でき,必要な場合には警職法上の職務権限をちゅうちょなく行使して差し支えないというところで整理していただけるのではないかと考えているところでございます。 ○棚村委員 議論を聴いていまして,私が最初に言ったんですけれども,実際のケース,国内の事案とか,それから国外でも問題になって,親族とか近隣の人たちも集まってしまって大騒ぎになって騒然としたというようなときは,本当に難しいと思うのですよね。是非,先ほどもおっしゃっていたように,警察官の援助とか協力ということもそうだと思うのですけれども,ガイドラインとかマニュアルみたいなものは朝倉幹事とかが中心になって少しまとめていただいて,それで執行法の場面での実務上は私自身が具体的にどういうイメージだということでお聞きしていて,なおかつ,宮城幹事がおっしゃるような,やはり警察が出ていったけれども,にらみ合いになったとか,いろいろなことがあって,不測の事態があって子どもの心身に非常に有害な事態が生ずるおそれがあるというときの執行官が判断をする,外形的な,客観的な基準みたいなものを少しガイドラインみたいな形でやっていただきたい。そうすれば,この規定自体が入るということに対して直接強制の場合の弊害みたいなものを緩和できるのではないかという御意見も反対している弁護士さんにあるようですので,こういうような規定を置いていただくことによってセーフガードというか,子どもに対する執行をめぐるマイナスの影響をできるだけ回避するということで,ガイドラインみたいなこととかマニュアルみたいなものは恐らく必要になってくると思いますので,そういうもので示していただければ。警察との調整も,恐らく全くおっしゃるとおりのことが起こっていますから,よろしくお願いしたいと思います。 ○髙橋部会長 現実にはそういうものを形式が何であるか,通達であるかどうかは別として作っていただけると思いますが,その中身を見なければ,ここでの法文の審査ができないということではないと思います,そういう御趣旨の御発言を頂きました。ここは確かにそういう問題があるということは認識いたしましたが,その他,間接強制前置のところ,この辺りはいかがでしょうか。前回,申立人の選択に任せるという案もございましたが,しかし,間接強制をまずはやってみてというのが今回の案ですが。 ○相原委員 この点につきましても,前回も申し上げたところと重複して申し訳ないんですが,いろいろな意見があるかと思いますし,それから迅速性の観点から,前置はいかがかという御意見も前回出てはいたかと思います。ただ,今日の御提案であれば,割と期限的なところも配慮されたような書き振りになっています。2週間というのが妥当かどうかというのはまた別な問題が出るかと思いますが,実際執行に関して懸念する意見と,それも意見も強い中で,かなりの配慮した執行について御検討いただいている,その関連の中で間接強制に関して前置,飽くまで間接強制,こういうことをした上で,更にそれでもなかなか対応しない人にというような順番を作るということに関しては,これを入れていただければいいと,私個人の意見としてはそう思います。 ○大谷委員 私も前回,間接強制前置については若干の懸念を申し上げたんですが,今回の御提案については,2週間かどうかの議論はありますけれども,決定確定後一定期間の経過後という形で整理していただいていて,心配なのは,特にはテイキングペアレントの場合,恐らく審理の中でも,全くお金がなくて連れて帰れないですとか,あるいは法律扶助を受けていて,間接強制金といっても金銭の支払ということが心理強制にならない場合もあるかもしれないところ,それでもなお尽くさなくてはいけないというのは,申立人側から見るとどうなんだろうということが実は気になっていたんですけれども,実際に本当に金銭の強制金の義務を課すこと自体が目的,あるいはお金を取ることが目的なのではなくて,一旦こうした心理強制の段階を置く。しかも,それが期間で明確にされるということなのであれば,相手方が恐らく支払能力という点では難しいとある程度客観的に分かっているような事案も含めいいのではないかなという気がいたします。   さっきの記録の開示のところと若干関係するので,確認をさせていただきたいんですけれども,例えば,審判で返還命令が出て,即時抗告がされないで確定する場合というのは,確定時というのが分かりやすいんですが,それと,ちょっと前の議論なので忘れてしまったんですけれども,家事事件,新しい手続法を前提にした今回の担保法では,審判の告知日,審判が出される日については,確か今回は決めるということになっていたと理解しているんですが,そういう意味でも,返還命令が出るとすれば,いつ出るということがあらかじめ分かり,即時抗告しなければ確定するということで,あらかじめの心の準備と言いますか,みたいなものも,時期も含めてイメージできるんですけれども,即時抗告した場合に,抗告審のイメージがまだそれもつかめていないんですけれども,仮に何らの新たな調査とか審問とかもなく,書面でいろいろと言い分は,主張はなされるけれども,裁判所の判断だけで決定が出るというイメージを想定しましたときに,その場合は,高裁での決定の時期というのは,これはあらかじめ当事者は分かるものなのでしょうか。 ○松田関係官 即時抗告の抗告時の手続につきましては,申立て自体が不適法ですとか,理由がないことが明らかなときは,直ちに却下することになるんですが,それ以外は,基本的には,第一審の手続を準用するということになりますので,基本的に抗告人以外の方の陳述聴取は行うことになりますし,審理終結ですとか裁判日,それも抗告審でもするということで考えております。 ○大谷委員 陳述聴取というのは,特に別に審問とは限らなくて,要するに言い分,簡単に言うと,決定日も告知されるという理解でよろしかったんですね。はい,分かりました。 ○村上幹事 私は前回,間接強制前置について直接代替執行類似執行に着手してもいいのではないかという意見を申し上げたんですけれども,今日の説明を聴いていますと,代替執行のときに既にいろいろな具体的な方法を申立人が特定しなければならないということなので,実際にはかなり時間が掛かる。いろいろ準備をして,どういう方法が採れるかというのを申立人が準備をしてからでないと結局申し立てられないので,取りあえずは間接強制の申立てをしておいて,ある意味,同時に並行して代替執行のほうも進めておけるという意味では,前回ちょっと懸念したような,余計に時間が掛かるのではないかということはそれほど心配しなくてもいいのかな。決定確定後,一定期間経過後で金銭執行までする必要はないということなので,この案で,どの程度の期間を設定するかはちょっと何とも言えないんですけれども,基本的には間接強制前置でもいいのではないかと思っています。 ○髙橋部会長 以前から間接強制だけでは目的を達しないので,もう一つ支えが必要である。しかし,できるだけ多くの事件をそれで処理しようという頭では全くないわけで,むしろ代替執行類似手続がそれほど行われるわけではないだろうという,ないだろうと言ってはいけないのかもしれませんが,頻繁に行なわれなくとも構わないという頭ですので,まず間接強制で心理的に圧力を掛けて,なるべく具体的な返還手続の話合いになってほしい。それでも抵抗する人には代替執行類似というものになりますよ。しかし,ここでも実際はまた執行の話合いが必要になるのですね,後で出てきましたが,どの場所でやるかということも,話合いがつかなければ自宅に行くしかないわけですが,穏便にできる場所があればというようなことも恐らく代理人同士は協議するのでしょうから。そういうこともいろいろ含めまして間接強制を前置する。しかし,間接金の金銭執行までいかなくてもいいのだということで時間の短縮を図る。この案で基本的にはよろしいでしょうか。   ありがとうございます。   そうすると,他にお聞きしたいのは,亀甲が幾つか残っておりますが5ページの(6)の下に亀甲があります。返還実施者は,執行官の指示に従い,また協力をする。これも書かなくてもそうなるだろうとは思いますが,書いておいたほうが規範的な意味ははっきりするということです。   そして,その下に(注)として,返還実施者は,第三者に任せることはできないということで,本人が来てくださいということですが,実施者ですので,授権決定を受けるのは申立人が普通ですが,実施者が申立人かどうかは,これはまた別問題で,どうしても外国から来られない人であれば,代理人が実施者になるということも頭の中に入っておりますので,委任をすることができないということで差し支えないということですが,それはともかく,執行官の指示に従い,必要な協力を行う。最終的な整理で消えるかもしれませんけれども,このこと自体はよろしいということでいいですかね。   あとは,説明の中にもありました,4ページの(3)の②で,代替執行類似手続では返還実施者がキーパーソンになるわけですが,何か具体的な絞り込めるような案があるでしょうか。スムーズに子どもを移すことができるような人という抽象論だけで足りるかということですが,いかがでしょうか。何かアイデアがあるかということですが。 ○古谷幹事 返還実施については,その間,子の監護を十分にできることが何よりも重要ということになるので,基本的には申立人が望ましいという構造になると考えております。ただ,どうしても申立人には任せられない,あるいは申立人が来日できないという状況がある場合には,例外的に申立人以外の者についてもあり得ると思います。そのような場合には,逆に,この人で大丈夫であるということが疎明資料なりで迅速な手続で分かる場合にはその人を使えるという形,すなわち,原則と例外が申立人と申立人以外の場合では入れ替わるような構造が適切だろうと考えております。 ○髙橋部会長 ありがとうございます。強制執行に関しましては他の点で結構ですが,何か。 ○大谷委員 2点ありまして,実施者の指定なんですけれども,今整理していただいたような考え方で私も大体賛成でして,現実には申立人本人が望ましい場合は,申立人に来てくださいというのが原則的だと思っています。それ以外の場合が絶対ないかと言われると,記録上等から,祖父母等と元々同居していたとか,いろいろな場合も想定されますので,申立人がふさわしいときは申立人のみと書き切ることもできませんし,また,従来,ハーグの手続につきましては,常居所国に返すものであって,申立人に返すものではないという意見も強い中で,ここで何か法文上,申立人と出てくるというのも違和感もありまして,そこは,恐らくイメージしているところは,皆さん大体共通のイメージを持っているのではないかと思う中で,法文にまで,担保法にまで実施者として,ある類型の人が原則であると書くことはいかがなものかなと感じております。   それから,場所の点で質問なんですけれども,前回,債務者の住居と,前回の書き方だと,債務者の住居でなければできないように書かれていたように思うのですが,今回はそちらをやはり原則とされながら,例外的にはそれ以外の場所でもできる。原則例外の書き方まですべきかというのは,私もまだ考えが整理できていないんですけれども,確認したかったのは,「ただし」以下のその他の場所についての質問ですが,「子が債務者に監護されている」というのが「その他の場所」に係っていまして,先ほどの御説明の中では,今日の説明資料にもありますように,「子が債務者と共に一時的に滞在しているホテルの一室」などが挙がっています。その後で,「公道や施設」と出てくるんですけれども,具体的には,聞き漏らしだったら申し訳ありません。学校とか保育園等は債務者が子を監護している場所に含むという理解でよろしいのかどうかという確認です。 ○佐藤関係官 それらの場所についても,「公道や施設」のうちの施設の一部と考えておりまして,債務者が子どもと一緒にいる状況であれば,そういうような場所でもしかるべき手続を採って立ち入ってやるということであれば,場所として選択すること自体は排除されるわけではないという整理です。 ○大谷委員 例えば,保育園を例に採りますと,債務者がやはり事実上の監護者であって,監護を委託しているという関係にあるんだろうと理解しているんですけれども,今の御説明だと,監護を解くための処分の実施のときに,現に物理的に債務者がその場にいる場合でないとできないという,そういう御提案になるのでしょうか。 ○佐藤関係官 提案としてはそうなります。先ほど口頭で説明した,後半のほうで言ったことにも関わるんですけれども,やはり債務者と子どもが一緒にいる場面で実施するのが実質的に望ましいのではないかという観点からも,その状況をある程度絞るのがいいのではないかという提案ということになります。 ○磯谷幹事 2点ございまして,1点目は,正に今,大谷委員がお話しになったところで,私は,「子が債務者に監護されている」ということが分かりにくいのではないかと感じました。「監護」という意味ですけれども,広い意味で捉えますと,相手方は子を監護しているからこそ相手方にもなっているし,執行の対象にもなっているわけで,つまりは相手方である以上,常に監護しているとも言えるわけです。しかし,ここでのお話というのは,むしろ現に共にいるという趣旨だとすると,そこは書き分ける必要があるのではないかと感じました。   私は以前から申し上げているように,必ずしも相手方,債務者はいなくともいいのではないかと思っておりますけれども,それはさておいても,そこは明確にしておく必要があるかと思いました。   それからもう1点は,今回の規律で,例えば,執行官が家庭に入って子どもを幸いなことに連れて来られたという場合に,併せてパスポートであるとか,子どもの衣類であるとか,あるいは勉強用具であるとか,要するに,専ら子どものために,子どもが使用すると考えられる物について執行官が持ってくることは可能なのかどうか,その点を確認したいと思いました。 ○佐藤関係官 ちょっとそこを細かく詰めていたわけではないんですけれども,もしそういう物が必要で,かつ権限として認めて差し支えないと整理ができれば,何らかの規律を設ける必要があるのかなというのが感想です。 ○朝倉幹事 前から私が申し上げていることの問題意識と共通だと思うのですが,ただ,実際問題として,執行官に権限を与えて相手の意思を介在させずに持ってこようとすると,どのような衣類を持ってきたらいいのかとか,どのような勉強道具がいいのかとか,もちろんパスポートを探すのは難しいというのは前から申し上げていることですが,なかなか難しいと思います。基本的には,持っていくのだとしたらどういう物を持っていくのかということで,そこは債務者に協力してもらわないといけない。だからこそ,債務者がいるところできちんと説得をして,債務者に,もちろん喜んで協力するということではないのでしょうけれども,渋々なり最低限の理解をしてもらって,許容してもらって,その子どもの返還をできるだけ子どものためになるようにしてあげるというような状況を現場で作っていくのだと思っています。 ○磯谷幹事 恐らく現場の対応としてはそういう感じになるかと思うのですが,仮にそのときには,パスポートが目の前にありまして,特段の反対もないものですから,それは持ってきた。ところが,その後で,債務者のほうが,あれは執行官が勝手に持っていったんだというような形にならないとも限らないわけでして,そういうときに,例えば,現実問題として家中を探し回るということでなくても,何か持ってくる権限というのがないとトラブルになるのでないかなと思うのですけど。この辺りは私も執行現場の規律について余り詳しいわけではありませんので,懸念として感じたという次第です。 ○山本(克)委員 パスポートの件ですけれども,後で出てきます保全的な措置が採られている場合はいいんですけれども,採られていない場合に見付からない。監護者も頑としてどこにあるか言わないという状況で,家探しして探せというところまでは恐らくどなたも考えていないと思うのですが,そういう場合に出国ができるようにするような旅券法上の特例措置というようなことは今回考えられていないのでしょうか。そうでないと,身柄というか,何か逮捕みたいになっちゃいますが,子どもの確保をできても,結局のところ出国できないのでは何のために手続を作ったか分からなくなりますので,その辺りはどういうふうなことをお考えなのでしょうか。 ○佐藤関係官 確かにそこは手当てがまだできておりませんので,そもそも外国籍の子だとどうするのかという話もあるんですが,何らか検討したいとは思います。 ○大谷委員 もし他の委員の先生方が強い御意見がなければ,私も最後まで頑張るつもりはないんですけれども,やはり先ほどのところで,債務者が現にいるというところと特定してしまうというのがやややはり狭いような気がいたします。相当と認めるときはということで,いろいろな場面が考えられると思いますので,必ずしも債務者がその場に居合わせないとだまし討ちみたいになってしまうとか,そういう懸念や配慮,あるいは今の持ち物の点ですとか,そういう配慮があることはよく分かるのですけれども,ちょっと絞り過ぎではないかなと感じているのが1点。   もう1点は,今の荷物やパスポートの話にもありましたけれども,債務者が任意に返還する,若しくは自分がついて帰るという場合には,その辺りが十分に元々手当てができてスムーズに行われるんだと思うのですけれども,この最終的な手段,代替執行類似の執行というところまでいってしまった場合には,これはかなり,まず子どもさんを心理的に悪影響を及ぼさないような形で安全に確保するということが一番の関心事になりますので,それ以外のところがどうしても後回しになる可能性というのはあると思います。十分に計画を立ててやるべきだと思いますけれども,その点で,当然,外国籍の子どもさんを含め,パスポートに代わる出国のための渡航証の発行だとか,そういうのが事前にできればいいんですけれども,どうしても子どもさんの引き渡しを受けた後にそういう手続をしなくてはいけないということも出てくるかもしれない。その辺りは,今日も「宿泊」という言葉が出ていますけれども,必要な場合には,その現場でということではなくて,その後,必要な措置,荷物も含めて,した後でという場面というのが出てこざるを得ないんだろうなというのが,感想めいたことで申し訳ありません。そうだとすると,(6)の亀甲括弧のところで,「宿泊」まで書き込む必要があるかというと,私はそこまでは逆にないのかなと,逆に細かいのかな,そういう場面が想定されることはありますけれども,イメージとして。それこそガイドラインとかマニュアルとかのレベルの話で,担保法にまで書く必要はないのではないかなと思っております。 ○髙橋部会長 御指摘の「債務者に監護されている」は,おのずから多少の幅はあるとは思っておりますけれども。最低限必要なのは,国家権力が監護している者の知らないうちにさらっていくという,それはしませんよということですよね。ここは御指摘のことも踏まえましてもう一度考えてみますが,代替案がすぐには出てきませんけれども,これもある意味で細か過ぎる規定だということかもしれませんね。   他にいかがでしょうか。 ○山本(和)委員 この民事執行法の準用で,第6条第2項がないことが少し気になったのですけれども,今の代替執行の一般的な規定でも,第6条第2項の準用はあるわけですけれども,ちょっと分からないんですが,返還実施者の返還実施行為を債務者が妨害しているときに,この規定だと執行官に対する援助を求めることはできないことになるのかなと思うのですけれども,それはそのようなことでよろしいんでしょうか。 ○佐藤関係官 その点いろいろ考えてはみたんですけれども,例えば,そういう場面があり得るとしても,そこから最寄りの執行官に対して援助の申請を申し立てて,執行官がそれをよしとして,その執行官が現場に来て,何らかのことをするというのが現実的かというと,そういう場面ではないのかなという気もいたしまして,そういう場面を想定して入れるというのであれば不要かと整理をしているところです。 ○山本(和)委員 確かに現実にどうなのかなというのはよく分からないところもあるんですが,全体的な制度の立て方として,この返還実施者も代替執行行為を行う者で,そういう意味では国家権力を行使しているわけですね。それに対する妨害があったときには,現在の民事執行法の枠組みはまず執行官に対して援助を求め,執行官が威力を持ち,執行官で足りないところには,更に先ほど議論があったように警察に援助を求めて警察権力を行使するという立て方で最終的に国家権力の行使が貫徹されるという枠組みになっているように思うのです。それをここで外すというのが全体的な体系的な観点から言うとやや違和感があるということを申し上げておきたいと思います。 ○髙橋部会長 御指摘のとおりですが,解放までは執行官がいるわけですね。解放後に返還実施者だけが,例えば成田のホテルに行ったところへまた監護していた者が取り返しに来たということですね。詰めて考えてみますが。 ○朝倉幹事 もう部会長がおまとめになったので申し上げるまでもないのかもしれませんが,今みたいなお話ですと,実際どうなるかということですが,例えば,長野で子が解放されて,子どもが成田まで連れて行かれたところ,成田まで相手方が来て,どうもホテルの前に来て,翌朝,子どもが空港まで行くのを妨害しているというような場合,これは長野地裁の執行官に申し立てられても,職域の問題もありますし,時間の問題もあって,到底間に合わないと思います。ですから,実際問題としては,そのときには一種のストーカー行為といいますか,それこそ警職法,若しくは刑法の問題だと思いますので,警察等の違う機関に担当していただくのがいいかなと警察庁の宮城幹事のほうを見ながら発言させていただいております。理論的には山本和彦委員のおっしゃることは,私もよく分かるのですが,実際問題,この類型に関して言うと,多分,執行官の出番は,返還実施に関してはないのだろうと考えています。 ○宮城幹事 今の恐らくストーカー規制法ではなくて,軽犯罪法のつきまといのほうでいくんだろうとは思います。ですので,逆に言うと非常に軽い罪ですので,身柄を取れるかどうかはよく分からないなというところがあります。ですから,これは飽くまで態様によります。ただ,逆に言うと,いわゆる本当に現行犯という形で逮捕しようとなると,なかなかむしろそれに当たる場合は少ないかなという感じはします,どうしても。 ○山本(克)委員 今の点は,山本和彦委員がおっしゃるのは,私の理解するところでは,別に執行官が現に活躍する場があっていいと,あるんだということをおっしゃっているのではなくて,民事執行法のほうの代替執行だって家屋の収去,建物の収去の場合のように典型的に執行官が使いやすいという場合以外にも一杯あるわけなので,そこについても適用されているものが,なぜここでは適用除外になるのかというのがおかしいのではないかということだろうと思いますから,余りそういう実際に使われるかどうかということを議論する問題ではないというのが私の感想です。   それからもう1点,同じ(8)の②のほうですが,第38条の準用というのが一つ腑に落ちないというか,これは他の者が監護している場合に,監護者は私ですよという形で第三者異議の訴えを起こすということを考えておられるということなのでしょうか。 ○佐藤関係官 その点については今後検討が必要だと思っておりまして,あり得る準用条文を今のところ並べてはおりますが,実際には理論的に合わないということになれば落とすことになるのかもしれない,今後の検討次第と思っております。 ○髙橋部会長 事実上の監護主体が複数いるときに,一人への債務名義では最終的な執行までいかないのだと以前に言っておりますから,その辺も少し法制的に詰める必要があろうかと思います。御指摘ありがとうございました。   執行関係,大体よろしいでしょうか。もう少し保全的な措置のほうに入ってよろしいでしょうか。   では,この説明を。 ○佐藤関係官 では,予防的な措置及び保全処分と題するところについて御説明いたします。   「3 予防的な措置及び保全処分」は,予防的な措置としての出国禁止命令及び旅券提出命令,並びに保全処分について検討するものです。   まず,本文(1)の「出国禁止命令」ですが,これまでの部会における議論を踏まえますと,相手方による子の連れ去りのみならず,事案によっては申立人による自力救済的な連れ去りをも防止し,子の安全を確保することが,子に対する更なる危害を防止し,子の安全な返還を実現することを目的とする条約の円滑な運用のためには必要であって,そのために子を出国させる行為を禁止する措置を取る必要があると言えます。   具体的な措置については,このような制度目的からすると,行政的な処分とすることも考えられますが,出国禁止命令が,子の出国の自由に対する間接的な制約となり得ることから,司法審査を経た上で行うものとするのが相当と考えられます。   もっとも,このような制度が機能するためには,命令の実効性をどのように確保するかという点が重要でありまして,出国禁止命令の制度を設けることについては,本文(2)旅券提出命令の制度と併せて検討する必要があると言えます。   そこで,本文(2)の旅券提出命令の検討ですが,裁判所が出国禁止命令に付随して必要と認めるときに旅券の提出を命ずることができるものとすることが考えられます。この場合,旅券を保管する提出先が問題となりますが,先ほど述べたように,出国禁止命令は,子の返還決定後の強制執行の確保のための制度というよりも,子に対する更なる危害を防止し,その安全な返還を実現するという条約第7条第2項等を背景に持つ条約実施のための制度と整理することができますことから,条約第7条第2項等について全ての適当な措置を取ることが求められている中央当局を提出先とすることが相当であると考えられます。これに対し,発令した裁判所が保管するということも考え得るところではありますが,旅券は裁判所が差し押さえる対象物ではなく,また文書提出命令とは異なって提出後に証拠資料となるものでもないのであって,これらによらずに当事者の占有物を裁判所が預かるという類似の制度はないことから,裁判所の保管にはなじまないのではないかと考えられます。   このような旅券提出命令の制度を設ける場合に,相手方がそれに従わない場合には過料に処するものとすることが考えられます。   なお,外国旅券については,これを所持人に提出するよう命ずることが国家免除の原則に抵触しないかということがございますが,同じ原則を有する外国においても実施している例があることや,旅券の性質や提出命令の法的性質などに照らしても,主権の侵害が問題とはならず,抵触はないのではないかと整理できるのではないかと考え,現在はその方向で検討を進めております。   また,本文(2)の後段ですが,旅券提出命令の制度を設けずに出国禁止命令の制度のみを設けるとすることも考えられますが,その場合,心理的な抑止効果に期待するということになり,それがどの程度期待できるのか,そのような制度を設けるのは相当かという問題があると考えております。   次に,(3)予防措置としての出国禁止命令及び旅券提出命令以外に保全処分を設ける必要があるか否かが問題となります。   これについては,これまでも御議論いただきましたが,具体的に保全処分で手当てをしなければならない場合というのは想定し難く,本手続がそもそも迅速に処理されることが予定されている手続であることに照らしても,保全処分を設ける必要はないのではないかと考えられます。   部会資料に記載したような申立人その他の者に対する子へのつきまとい行為の禁止命令ですとか,住所変更を行った場合の届け出命令等も考えられなくはないのですが,これらは結局,命令を出しても心理的な抑止効果に期待するような性質のものばかりでありまして,あえて制度化するまでの必要はないとも考えられます。 ○髙橋部会長 今まで検討の時間をお許しいただいてしてまいりましたが,こういう形で今日は提案をいたします。出国禁止命令,旅券提出命令というそういうセットですが,いかがでしょうか。 ○相原委員 この点に関しましては,外務省の懇談会で中央当局が保管するということに関してはかなり難しい,非常に厳しい状況かと理解していました。その際にも法務省が御検討くださっているということだけは伺っていたという状況です。その結果,今回御提案いただいております出国禁止命令,更にはそれを確保する手段として,これは裁判所が中央当局が保管するという形での旅券を提出することを命ずると,この併せた御提案かと考えますが,それが可能であるならば,是非前向きに検討していただきたい,このまま進めていただきたいと個人的に思っております。と言いますのは,これも外務省等で懇談会等にヒアリングで来られた,現在進行形でこういう渉外,離婚に伴うような子どもの問題を担当されている具体的な弁護士のほうから出てきた案としても,面会交流等の担保のためには,パスポートを預かる,少なくともレフト・ビハインド・ペアレントに対する不信感等が非常に大きなネックになっているということがございましたので,それを懸念して会わせないということもどうしてもあるわけなので,これが制度化されるというのは非常に重要なことではないかと考えます。 ○棚村委員 私も前から保全処分ということで,出国禁止とか,あるいはパスポートの提出,保管に関わるような決定を,子どもの迅速な返還ということの手続を実現していくためにも必要ではないかということでお話をさせていただいて検討いただいているというようなことで,有り難いと思っています。   それから,その他の保全措置で,海外では幾つかいろいろな接近の禁止とか過剰な法的手続なんかもやめるとか,それから住所を移動することを禁止するとか,ここにも出てきましたけれども,それは恐らく出国禁止とか,あるいはパスポートということが中心であって,それに付随する周辺的な保全の措置というのは,本案との関係もありますので,やむを得ないのかなと思います。ただ,できれば住所を頻繁に変えないような,必要がまた生じたら変えることもあり得るのかもしれませんけれども,そういうことも少し事前に報告を頂くとか,何らかの保全措置とは違う形の何か規定振りとか措置みたいなのは可能であればそこは御検討いただきたい。ただ,これ自身は出国禁止とか旅券の提出ということで,再連れ去りとかそういうことを防止するためには非常に有効な手段になると思いますので,先ほど山本委員のほうからもあったように,旅券法上のいろいろな措置と,それから裁判所が関与することによって,旅券による出国みたいなこともある程度制限できるということで保全処分については期待しているところです。 ○髙橋部会長 本日の案では,返還申立てはしてほしい,返還の申立て後に出国禁止命令,旅券提出命令という形とする,そして旅券提出命令は裁判所が預かるよりも中央当局のほうが適切だろうし,理屈もそうだということで,こういう案を提出いたしましたが,基本的にはこういう方向でよいか,更に関係官庁との間で折衝を進めたいと思います。   そういたしますと,ここで休憩時間を取ることができます。           (休     憩) ○髙橋部会長 再開いたします。   部会資料11の要綱案のたたき台ですが,2点あらかじめ申し上げておきます。   一つは,要綱案は御案内のとおり語尾に「ものとする。」と書く習わしですが,これは要綱案のスタイルでして,法律のときには「ものとする。」は消えます。そこで,語尾の「ものとする。」は審議のときには無視していただいてお考えください。   もう1点,これはお願いでございますが,今日この要綱案,部会資料11は説明を全部させていただこうと思っております。議論が残るのは構いませんが,あと残された部会は2回です。そういう事情がございますので,本日,説明は最後まで行くと御了承ください。6時になるかどうかは分かりません。   それでは,最初に事務当局からの説明をお願いします。 ○佐野関係官 部会資料11のたたき台について御説明したいと思います。   冒頭の部分は前回の終わりに説明しましたので,前回からの変更点を中心に説明させていただければと思います。   まず,第1の総則につきましては,前回からの変更点は特段ございません。   次に,第2の1番の「(1)子の返還の申立て」のところについても,特段の変更はございません。   2ページ目の子の返還命令等につきましては,前回全てペンディングになっていましたけれども,今回は具体的な一案として提案しております。   まず,子の返還命令等のうちのイの「子の返還拒否事由等」で記載しておりますとおり,ここでは従前の部会で検討されてきました,甲案,乙案のうち乙案を採ることを前提としまして,更に第8回目の部会で提案をさせていただきましたA案,B案のうち,B案を修正する形で規定することとしております。   これまでの部会におきましては,いわゆる返還拒否事由の甲案と乙案では,基本的に返還拒否される場合,返還拒否の判断に違いはなく,法文としての立て付けをどうするかという点につき議論がされていたかと思います。   一方で,乙案ではなく甲案につきましては,条約適合性についての疑問や誤解をされるおそれがあるのではないかという指摘がされていたかと思います。そこで,今回の提案としましては,実質的に甲案と乙案では,返還拒否について同様の判断に基本的には至るのであれば,条約適合性が問題にならない乙案を採用することとしております。   その上で,裁判所が考慮すべき考慮要素としましては,第8回目の部会で,A案としまして,「かつ」で結んだ考慮要素を提案しておりましたが,A案につきましては,例えば,他の要素とは異なる特殊な考慮が必要になるのではないか,あるいはA案のような考慮要素自体が評価を含む点で適切ではないのではないか。更に,乙案というのは,列挙された考慮要素以外の一切の事情を考慮することがそもそも許容される以上,あえてこのような複合的な考慮要素を掲げ,「かつ」ということで縛る意味がないのではないかなどの問題点が指摘されていたところかと思います。   そこで,今回の提案におきましては,第8回の部会で提案いたしましたB案のような方向性で考えることとし,複合的な考慮要素とはしない形で規定することとしました。ただ,第8回の部会で提案しましたB案,すなわち具体的には「子が常居所を有していた国において,子を監護することができる者の状況」としていたわけですけれども,このような考慮要素を規定することについては,また同様に批判がされていたところでして,例えば,B案は,他の考慮要素とは異なって価値中立的であって,裁判所における判断に困難が伴うのではないか,あるいは単に監護することができる者の状況としただけでは,具体的にどのような事情が考慮されるのか分かりにくいという指摘がされていたところかと思います。   そこで,今回の提案では,これらの指摘を踏まえまして,3ページの(イ)の三に規定しておりますとおり,「申立人及び相手方が子が常居所を有していた国において子を監護することが困難な事情の有無」という形で考慮要素を掲げることにしました。   今申し上げました(イ)の三につきましては,従前の甲案のcとの関係が問題とになりますけれども,従前の甲案のcに当たると考えられる場合には,現在の乙案を基にしたこの案の下でもなお返還拒否事由に当たるという前提で考えております。   なお,3ページの(ウ)ですけれども,これは従前の部会どおり,裁量的に裁判所がなお返還拒否があると認めたとしても返還を命じることができるとする規定ですけれども,これまでの部会におきまして,(ア)の六に該当するような場合,基本的自由の保護に反するということだとか,あるいは条約第13条第1項bに該当する四のような場合についてまでなお裁量で返還を命じるというのは相当ではないのではないかという御意見を頂きましたので,(ウ)が適用される対象は,(ア)の一,二,三,五に限る方向で今後再検討することを予定しております。   以上が,子の返還命令等の箇所になります。   前回の部会で御説明したところまで進めますと,次に,「(3)裁判所」,「ア 管轄」ですけれども,ここは前回御説明したとおりの内容となっています。   ただ,次の点で修正しているところです。   まず1点目としましては,前回,山本和彦委員からの御指摘を踏まえまして,併合申立てによって管轄が認められた場合に,形式上,7ページの③の裁量移送ができないのではないかということが指摘を頂きましたので,それができるように③の内容を一部修正しております。   また,同様の問題意識から,併合申立てによる管轄が認められる以上,6ページの(カ)の①も一部表現を変えております。   最後に,除斥,忌避のところ,7ページ以下ですけれども,ここは前回の説明から特段大きな変更点等はございません。   以上,取りあえずここまでは説明を終わります。 ○髙橋部会長 10ページの半ばごろまでということですが,どこからでも結構ですので。   返還拒否事由,時間を掛けて審議してまいりました。更になお表現を磨く必要があるかもしれませんが,基本的にはこういう方向で,前回までで言えば乙案を中心にということで,これはよろしいでしょうか。 ○大谷委員 内容のことではないんですけれども,返還拒否事由のところで1点,質問というかコメントというか。大分整理をしていただきまして,それで,例えばですけれども,条約13条第1項bに当たるところは乙案で,四では条文どおりのことが書かれて,その考慮事由が(イ)に来るという形にしていただいている中で,様々なところに,子が常居所を有していた国に子を返還した場合という,子の返還先がどこかということが明示されているところが幾つかあります。例えば,(イ)の一,二,三,それから条約第20条に相当する六とか,今,条約の条文と突き合わせながら見ているんですけれども,条約のほうは前から横山委員からも御指摘がありましたように,特に返還先については明文での規定がないところ,一種読み込んでいるところで担保法ではこのように明記されているのだと思います。それ自体ははっきりして私は賛成なんですけれども,そうだとすると,五が条約第13条第2項に相当する規定では,ここは,「子が返還」と裸で出ているんですけれども,それは意図があるのでしょうか。同じように,ここも判例等を読んでいますと,決して申立人への返還を意味するのではなくて,常居所国への返還を意味するのだと一般的に解釈されていまして,そういう意味では,他のところもこういう形で書かれるのであれば,五についても同様にされることも御検討いただいてもよいのではないかという,それほど強い意見ではありません。 ○佐野関係官 特にここだけ常居所地国を落とした積極的な理由が特にあるというわけではございませんので,御指摘を踏まえて,また全体的な統一感が取れているかどうか,法制上の問題も含めて検討したいと思います。ありがとうございました。 ○髙橋部会長 管轄,関連して移送のところも,ここは前回御議論いただいて,(注)にもございますが,いろいろな事情を考えて東京家裁あるいは大阪家裁ということです。   大谷委員,どうぞ。 ○大谷委員 これも意見というより確認なんですけれども,管轄の合意と管轄の標準時の関係で,例えば,例を言いますと,東京に申立てがあり,実際の住所地からすると,大阪に管轄がある。だけれども,相手方の希望で,東京でやりたいということで合意をした,管轄の合意をした。こういうことが起きる可能性というのは,申立て後に起きる場合もあり得ると思うのですけれども,一般には管轄の合意をあらかじめして,管轄合意書を付けて申立てをするということが現在の今の家裁の実務でやっておりますけれども,これは管轄の標準時の関係ではそういうことは問題にならなくて,ここで言っている(エ)の標準時は,客観的にどこかというだけの問題なので,合意自体は返還の申立ての後になされても,合意に基づいて,今の例で言いますと東京でやることは可能なのかという,これは確認の質問です。 ○佐野関係官 基本的なポリシーとしては,事前にということを考えておりまして,事後的にどうかということになると,そこはもう移送の中で意見を聴いたりして考慮されるべき事由ではないかなと考えています。 ○髙橋部会長 言葉の使い方として,申立て後の合意は移送のほうの問題で,両代理人が東京でやりたいというのに,裁判所だけが大阪でやれとは言わないでしょうけど,常識的には。しかし,事柄としては移送の問題として処理されるということですね。   よろしいでしょうか。   除斥,忌避の関係,ここは部会でも今まで議論をしたわけではございませんが,大体手続法一般の考え方に従ってできております。   後からでもお気付きの点がありましたら,事務当局のほうにお申し出いただければと思います。   それでは,少し議論がありそうな当事者の辺りから説明を。 ○佐野関係官 では,続きまして,「(4)当事者」から説明いたします。   10ページからですけれども,まず10ページの「(4)当事者」の「ア 当事者能力及び手続行為能力」のところです。   ここでは,これまでの部会で議論されましたように,特に手続行為能力につきましては,意思能力さえあればこれを認めることを前提としまして,家事事件手続法の規律に倣った規定を設けることにしております。   まず,10ページの(ア)の①ですけれども,これは家事事件手続法第17条第1項に相当する規定ですけれども,先ほど説明しましたように,意思能力があれば,行為能力が制限されている者であっても,手続行為能力を有すると今回の制度ではしております関係上,家事事件手続法17条第1項とは異なりまして,民事訴訟法第31条を準用しないことにしております。   次に②ですけれども,ここも,意思能力があれば行為能力が制限されている者であっても手続行為能力を有するとしております関係上,成年被後見人及び未成年者は,自ら手続行為をすることができることを明示しています。また,同様に被保佐人,被補助人であっても,自らできるという規律を設けることにしております。   次の11ページの③,これは家事事件手続法第17条第2項に相当するものです。ただ,ハーグ条約に基づく子の返還手続におきましては,被保佐人や被補助人も各々保佐人,補助人の同意を得ずとも手続行為をすることができる②の規律がございますので,家事事件手続法第17条第2項の規定から保佐人,補助人,被保佐人,被補助人に関する規定は除外しております。   次に,④につきましては,これは家事事件手続法第17条第3項と同様の規律でして,家事事件手続法第17条第3項に記載されている各号の列挙行為は,手続を終了させるという意味で重要な行為ですから,後見人であっても,後見監督人の同意がなければ,ここに掲げる行為をすることができないという規律を設けることとしております。   続きまして,11ページの真ん中,(イ)法定代理人に関する規定ですけれども,ここは,家事事件手続法第18条と同様な規定を設けることを現段階では提案しているところです。   次に,「(ウ)特別代理人」ですけれども,ここは家事事件手続法第19条と同様に,意思能力がない未成年者などを想定しまして,特別代理人の規律を設けるものです。   一番最後,「(エ)法定代理権の消滅の通知」は,家事事件手続法第20条と同様のものです。   ページをめくっていただきまして,12ページの(オ),これは家事事件手続法第21条と同様の規律を設けることを提案しております。   以上が「(4)当事者」,「ア 当事者能力及び手続行為能力」になります。   次に,12ページの「イ 参加」のところですけれども,まず,イの「(ア)当事者参加」は,家事事件手続法第41条に倣いまして,当事者参加について定めるものになっています。   次に,「(イ)子の参加」のところですけれども,ここはいわゆる子の利害関係参加について定めるものです。具体的には家事事件手続法第42条を参考にしております。   まず,①では,子が参加の申出をすれば,自動的に参加することができるとした上で,④におきまして,子の年齢や成熟度等により裁判所が参加の申出を却下できることとしております。   なお,部会資料には具体的な記載がありませんけれども,このままの規定ですと,子の参加が利害関係参加人としての参加であることが不明朗ではないかと思われますので,①におきまして,「子の返還申立事件において返還を求められている子は,」の後に「利害関係参加人として」子の返還申立事件の手続に参加することができるものとするというような文言を入れることを現在検討しております。   次の③におきましては,「参加の申出は,参加の趣旨及び理由を記載した書面でしなければならない」とありますが,手続の明確性のため,書面により子が参加するという意思さえ確認できれば足りると考えますので,ここでは単に,「参加の申出は,書面でしなければならない」とすることを現在は検討しているところです。   同じく参加の中で,次のページ13ページの「(ウ)手続からの排除」という規律も設けておりますけれども,これは家事事件手続法第43条に倣った規定になります。   以上が参加の説明になります。   次に,13ページの「ウ 手続代理人及び補佐人」のところですけれども,ここはおおむね家事事件手続法第22条以下と同様の規律を設けることとしております。特段の変更ということはございません。   1点,14ページの(ウ)①の中に,強制執行,保全処分が各々ブラケットで入っておりますけれども,これは単に両制度が現在検討中ということもあり,その位置付けも含め検討するという趣旨でブラケットに付している次第です。   取りあえず(4)につきましては以上です。 ○髙橋部会長 15ページの一番上の行までということですが,どこからでも御指摘をお願いいたします。 ○織田幹事 質問を1点質問させていただきます。   例えば,10ページの(4)のアの(ア)の②の冒頭に,「成年被後見人及び未成年者は」,同じ表現は何か所か他にも出てくるんですけれども,この場合の「成年被後見人及び未成年者」という言葉は何を意味するのかと言いますか,この条約でいう子を指す言葉ではなくて,どういう人を指して,どういうものを指しているのか今一つつかめなかったので御説明をお願いしたいんですけれども。例えば,条約でいう子は16歳未満になるわけですけれども,ここで言う「成年被後見人及び未成年者」という人は,条約の適用場面でどういう人を指しているのか教えていただきたいと思います。 ○佐野関係官 申立人であるとか相手方であるとか,そういう当事者を予定しているところです。未成年者が申立人になることもあるでしょうし,申立人が成年被後見人の場合もあるでしょうし,ということです。 ○織田幹事 そうですか。ありがとうございました。 ○髙橋部会長 ちょっと想定しにくいかもしれませんが,条文上はそうなるということで。   他にいかがでしょうか。   今の御質問の関係で,12ページの法人の代表者,どういうときに法人が出てくるのかというのも,施設の長とかは相手方にならないというようなことになっていますから,余り考えにくいのですが,ないこともないだろうということで入っております。民間団体,民間の権限能力なき社団など考えられないこともないということです。全体によく考え抜かれた案ですので,想定し難い例も随分入っているということです。そういう意味では,手続代理人が弁済の受領を受けるという点も,子どもの返還手続で必要かということもあるのですが,いろいろあるだろう,手続費用の受領も含むというようなことで入っております。   当事者のところはかなり議論いただきましたので,こういうふうにまとめたということで大丈夫でしょうか。利害関係参加も条文としては子どもに絞ったということで,前回御議論いただきましたが。   また元に戻って構いませんので,少し先に進ませていただきます。   それでは,「(5)手続費用」から説明を。 ○佐藤関係官 (5)は,子の返還手続における手続費用の規律を定めたものになります。   まず,「(ア)手続費用の負担」ですが,①では,家事事件手続法と同様に各自負担を原則とするものとしております。   (注)に記載しましたとおり,本手続においては,家事事件手続と異なり,勝敗が観念しやすく,当事者に主張立証責任を求めていることからも,敗訴者負担にすることも考えられますが,子の利益のために行われるという性格もあることを考慮しますと,各自の負担とすることでよいのではないかと考えられます。   次に,②は,原則に従えば各自が負担するものであっても,その負担すべき者以外の者に負担させることを認めるものです。   この場合に,一般的には利害関係参加人に手続費用を負担させるのが相当である場合が想定されますが,本手続において利害関係参加人に当たる子については,費用を負担させるのが公平にかなうと言える場合はなかなか想定できず,また,家事事件手続法上,子への負担が認められている未成年後見人選任の審判のように,子が審判を受ける者となるものでもないため,亀甲括弧を付した部分は必要はないのではないかと考えております。   次に,「(イ)手続費用の負担の裁判等」ですが,事件を完結する裁判において,審級ごとに負担の裁判をすることを定めたものです。   なお,(注)に記載しましたとおり,調停に付した場合については,不成立となった場合は①の規律によって調停費用も含めて事件を完結する裁判の中で処理されることになり,成立した場合は,調停に付す前に要した手続費用も含めて,基本的には調停の中で解決することを想定しております。もっとも,調停の中で本手続に要した費用が解決されなかった場合には,現在の要綱案たたき台の規律だけでは対応ができないと考えられますことから,別途,家事事件手続法第29条4項のような規律を加えることが必要ではないかと考えております。   「(ウ)手続費用の立替え」についての規律です。   本手続の手続費用については,民事訴訟費用等に関する法律を適用して,必要な概算額を予納させるということを考えておりますが,迅速で円滑な手続遂行のために,立て替えて証拠調べ等を行うことが必要となる場合も想定されることから,国庫による立替えを認めるものであります。   「(エ)和解の場合の負担」は,和解をした場合の和解費用の規律について定めるものです。   民事訴訟法第72条に倣った規律でありまして,これによって特別な定めをした場合には,それにより,特別の定めがなければ,各自負担となります。   「(オ)手続費用の負担及び手続費用額の確定手続等」は,手続費用の負担及び手続費用額の確定手続等について民事訴訟法の規定を準用することを定めたものです。   次に,「イ 手続上の救助」ですが,こちらは,手続上の救助の規律について定めたものです。   手続上の救助を受けるための要件としては,(注)に記載しましたとおり,民事訴訟法と家事事件手続法の規律が異なっており,本手続においても,例えば,民事訴訟法に倣って,「勝訴の見込みがないとはいえない」などとすることも考えられます。もっとも,このような要件を設ける趣旨は,濫用防止にありますところ,家事事件手続法と同様に,不当な目的で申立てその他の手続行為をしていることが明らかである場合を排除すれば,濫用防止目的は満たすことができ,また,原則として返還することが想定されているにもかかわらず,勝訴の見込みにかからしめるのは,相手方にとって酷であるとも言えることから,家事事件手続法第32条第1項と同様の規律によるものとしております。   費用については以上です。 ○髙橋部会長 費用のところ,いかがでしょうか。家事事件は各自負担が一般的なようですが,各自負担でいくということを含めていかがでしょうか。   この辺りは技術的な面もありますので,またお気付きのときにということで,それでは,審理のほうから。 ○松田関係官 では,「(6)子の返還申立事件の審理」について説明させていただきます。   アについては,家事事件手続法第33条に倣い,手続の非公開の原則及び例外について定めるものです。   例外の「相当と認める者」については,事案ごとの判断になりますが,例えば,兄弟姉妹,子が入所している施設の職員,援助申請を受けた中央当局などが考えられます。   イについては,家事事件手続法第34条に倣い,期日及び期間について定めるものでありまして,ウについては,家事事件手続法第35条に倣い,手続の併合等について定めるものです。   次に,「エ 法令により手続を続行すべき者による受継」についてですが,この①では,当事者が死亡以外の事由によって手続を続行することができない場合には,その当事者の地位を承継する者が,その手続を受け継がなければならないものとしておりますが,この場合の「法令により手続を続行する資格のある者」としては,(注)にも記載してありますように,当事者であった法人が合併により消滅したときに合併により設立された法人又は旧法人を吸収した法人などを想定しております。   エの規律において,当事者が死亡した場合を除外しておりますのは,本手続における当事者の地位は,いずれも一身専属的な地位であり,死亡によって承継されるものではないと考えられるためです。   ②は,受継の申立てを却下する裁判に対する即時抗告について,③は,強制受継について定めるものです。   「オ 他の〔申立権者〕による受継」は,当然,承継以外の場合の受継について定めるものです。   例えば,第三者が子を連れ去り,監護権を侵害された一方の親のみが子の返還を申し立てていた場合に,当該申立人が死亡したときは,他方の親が従前の手続を引き継ぐことを望むのであれば,これを可能にするのが相当でありますことから,①では,申立人が死亡した場合には,原則として手続が終了することを前提に,他の申立権者が手続を受け継ぐことができるものとし,②において,その考慮期間を1か月として手続的な安定を図っています。   ②は,相手方が一人の手続において,相手方が死亡した場合についての規律です。   この場合には,二当事者対立構造の一方当事者が欠けることとなるため,当然に手続が終了するとする考え方と,相手方たる地位が監護という事実状態によって基礎付けられているもので死亡後も監護している者が存在していることや,返還を求める対象である子が存在していることから,相手方の死亡によって手続は当然には終了しないとする考え方があり得ると考えられます。   前者の考え方を採った場合には,手続を終了させずに新たに子を監護している者を相手方として手続を続行することができるようにするために,②のような規律が必要になると考えられます。   他方,後者の考え方を採った場合には,中間取りまとめにおける整理と同様に,新たに子を監護している者を手続に参加させる方法によって対応することで足りると考えられます。   このように,考え方が分かれ得ることから,②に亀甲括弧を付しております。   なお,これらのいずれの場合であっても,相手方の死亡後に子の所在及び新たに子を監護している者が知れず,合理的な期間内にこれらが判明しないときは,手続を終了させることができるものとして,そのために例えば③のような規律が必要になると考えられます。もっとも,この場合には,申立人にとって相手方の死亡という偶然の事情によって不利益が被ることがないような配慮も必要になると考えられます。   次に,カについてですが,家事事件手続法第36条に倣い,送達及び手続の中止について定めるものです。   (注1)に記載しておりますのは,この規定により準用される民事訴訟法第104条の送達場所等の届出に関する点です。   中間取りまとめでは,日本国内に住所を有しない申立人が日本国内に事務所等を有する手続代理人を付けないようなケースがあったような場合に,我が国の中央当局などを送達場所及び送達受取人として届け出ることができるものとするなどの手当てをすることについて検討するものとされておりましたので,この点につきまして記載しておりますが,このような場合には,個別の事案において申立人等と中央当局との間で合意ができれば,これに基づき当該申立人等が我が国の中央当局を送達場所及び送達受取人として届け出ることは,カの規定により準用されます民事訴訟法第104条により可能であると考えられますので,特別な手当ては設けないものとしております。   次に,(注2)に記載しておりますが,部会資料11の25ページの「ウ 申立書の写しの送付等」の①の後半に,「子の返還の申立書の写しの送付は,公示送達の方法によっては,することができない」旨定めております。ですので,カの規律により,民事訴訟法の公示送達と同様の規律を設けることとしておりますが,手続の当初から相手方及び子の所在が不明である場合には,公示送達によって手続を進めることができないことが前提になっております。   キは,家事事件手続法第37条に倣い,裁判所書記官の処分に対する異議について定めるものです。   クは,家事事件手続法第46条に倣い,調書の作成等について定めるものです。   子の返還申立事件の手続を期日で行った場合には,調書の作成を原則としつつ,迅速処理の要請が高い本手続の性質に鑑み,証拠調べ期日以外の期日については,裁判長において必要がないと認めるときは,その経過の要領を記録上明らかにすることをもって,調書の作成に代えることができるものとしております。   「ケ 記録の閲覧等」につきましては,先ほどの議論を踏まえまして,更に整理させていただきたいと存じます。   (6)については以上です。 ○髙橋部会長 (6)審理の関係ですが,ここは少し御議論を頂かなければいけませんが,しかし,まずは何か委員,幹事のほうから御発言を。 ○山本(和)委員 先ほど申し上げるべきだったのかもしれませんが,20ページからのケの記録の閲覧等のところの⑦裁判書のところなんですけれども,これについては,裁判所の許可が要らないという記述になっているのですが,それと先ほどの④との関係なんですが,裁判書に相手方や子の住所等が記載されているということはないという前提で読めばよいのでしょうか。 ○松田関係官 そうですね,裁判書はまず当事者に告知する,裁判を告知する関係で,裁判書を通常は送達することが考えられるのですが,ですので,そこに本来の住所が書いてありますと,そこは住所を開示してしまうということになりますので,そこは何らかの本来の住所でない記載をすることになるのかなと思っておりまして,住所を秘匿しなければいけないようなケースでは,裁判書には本来の住所が書かれないことが前提になるかと思います。 ○髙橋部会長 それでは,18ページのオの亀甲の付いているところですが,相手方が死亡したというときに,手続が終わってしまうのか,それとも子どもはいるわけですから,誰かが監護しているはずで,手続は終了していないと考えるかによって受継でいくかどうなるかということになるわけですが,ここはやや細かいところですけれども,どちらのほうがよいでしょうか。 ○山本(克)委員 仮に②のようなことをするというのは,私は別にそれ自体は反対しないんですが,先ほどの強制執行の準用の条文で,承継執行のところを外していますよね。これを入れたら承継執行を認めざるを得なくなるのではないのかなという気がするんですが,その点も併せて皆さんの御意見を伺いたいと思います。   それとまた,②のような採った場合の,次の③の「1月」というのが適切なのかどうかというのがやや疑問の余地があるのかなという気がしています。というのは,母親が連れ帰って,母親が死んでしまった。適切な監護者はいないので,前回のお話では,そういう場合には,未成年後見人を選任してもらうということになるんだとすると,果たして1月で未成年後見人の選任が可能なのかどうかということがちょっと気になりますので,1月というのを,①の場合と②の場合共通に同じような短期にくくってしまうのがいいのかどうかというのも考えていただきたいなという気がします。 ○髙橋部会長 職権はありますけれども,おっしゃるとおりですね。 ○山本(和)委員 この②なんですが,私は,この場合だけなのかなというのがよく分からなくて,死亡によるというのは一つのあれなんだと思いますが,相手方が失踪とかをしてしまって,実際上,子を監護する,この相手方の適格は,今回のものは監護しているという事実概念で整理しているので,いなくなってしまって,実際上監護している人がいない。一時的に施設とかに収容されても,施設は基本的には相手方にはならないという整理だとすると,やはり相手方がいない二当事者対立にはならないような状況が生じる場面というのが他にもありそうな感じがして,これを受継で整理するのであれば,そういった場合も受継で整理することになるのかなと思うのですが,それが適切かどうかというのは分からないところです。 ○髙橋部会長 ただ,今までの御議論,積極的に参加でやるほうがいいということでもないのですね。これは決め手のないところですが。 ○犬伏委員 先ほどの山本和彦委員の,逃げてしまったというような場合は,参加で考えるのかというイメージだったものですから,それだとすると,死亡の場合と区別つかないという先ほどの御質問で,どちらかというと,参加で全部処理してもいいのか,訴訟手続には余り詳しくないのですが,そういうふうに広まっていくと,何となく参加で一貫するのかなという気がしたのです。そこのところは何か区別をするということが事務当局としてあったのでしょうか。 ○松田関係官 失踪してしまった場合というのは,現に監護している者はいなくなったんですけれども,相手方とされている者はいるので存在はしている。相手方適格はないんですけれども,相手方とされている者は存在はしているので,取りあえず手続は終了しないという整理が可能かもしれないんですが,相手方が死亡してしまった場合は存在自体が,相手方とされている者の存在自体が無くなってしまっているので,そこでもう手続自体が死亡と同時に無くなってしまうのではないか。そうしたときに,そもそも参加する手続が無くなってしまっていたら,参加という形では観念できないのではないかという疑問がありまして,そこはどう考えればいいかということを御意見いただきたいと思いまして提案させていただきました。 ○髙橋部会長 先ほどの失踪の局面での承継はまた考えさせていただきますが,相手方死亡,②に対する御疑問も若干頂きましたが,特にこっちでなければいけないという強い御意見はなかったということで,それを前提に考えさせていただきます。   他にいかがでしょうか。   公示送達もいろいろ前回の御議論を受けて,当初からのときには,公示送達に基づいては手続を進めないと,こういう形でいくということです。 ○山本(和)委員 今の公示送達のところなんですが,質問なんですけれども,25ページの先ほど御紹介があったウの①で申立書の写しの送付は公示送達の方法によってはすることができないという,この規律の意味なんですけれども,その申立書の写しを送付しなければならない主体は家庭裁判所ですが,公示送達ですることができないということになると,家庭裁判所は一体どうすればいいのか。結局,送付はできないので,手続はずっと係属したまま残ると。 ○髙橋部会長 却下にしてしまう。 ○山本(和)委員 そうであるとすれば,規律の対応としては,支払督促のように,この手続の申立ては公示送達でしなければいけないときにはすることはできないとかという規律になるのではないかという感じがする。これだと,それが却下になるということは読めないような気もするんですが。 ○髙橋部会長 探していらっしゃいという補正をさせて,正確な意味の補正ではないのかもしれませんが,却下をする。裁判所がどうするかはまだ分かりませんが,すぐ申立書を却下ではなく,もう少し探してくださいとか,多少の期間はあってもおかしくないでしょう。すぐに却下してもおかしくはないのかもしれませんが。考え方としては,公示送達に行くときにはもう却下になるのだ。その代わり1年たったとしても,あえて逃げ回っていたようなときには,1年ということの返還拒否事由の評価がそこに響いてきて,事案によりますけれども,返還命令が出ることもある。だから,逃げ回る人を助けるために公示送達を考えるのではないという点は押さえてあるのですね。御指摘のように,送達すればもう初めから公示送達では駄目だという規定にしてしまってもいいのかもしれませんが,早く申立書を出したいという人は出して,それから居場所を調べることもあっていいかなという辺りですね。御指摘はありがとうございました。   確認ですが,途中からの公示送達は使えるという,そういうことでございます。   それでは,次が「(7)付調停」ですね。こちらの説明。 ○佐藤関係官 「(7)付調停」ですが,(7)は付調停の規律について定めるものです。   「ア 付調停」は,調停に付する手続について規律したもので,前回部会での議論を踏まえまして,当事者双方の同意を要するものとしております。   本手続で認める付調停は,家事調停に付するというものですので,付された後は,家事の一般調停として扱われ,家事事件手続法の規律の中で処理されることになります。もっとも,家事事件手続法の規律とは異なる規律で対応すべき場合もありますことから,これについては,「イ 家事事件手続法の特則」で特則を設けております。   具体的な特則としては,まず,管轄については,家事事件一般の管轄に従う,原則として相手方の住所地となってしまいますが,子の返還申立事件について専属管轄を認めた裁判所以外の裁判所が処理するものとするのは,迅速処理の要請に照らすと相当ではなく,また家事調停に付する者としても,他の調停事件とは異なる運用上の工夫をすることが期待され,また,事案によっては,子の返還申立事件と同様に,子の常居所地国の法令の知識等も必要になることから,調停に付した裁判所自らが行うものとしております。もっとも,子の返還申立事件において管轄が認められた二庁の家庭裁判所間で,他方の裁判所に行わせることとしても,専門性の観点からは問題がなく,事案によってはそのほうが迅速処理の要請に資することも考えられますので,特に必要があると認めるときは,そのような処理をすることを可能にするため,①のただし書において,これを認めております。   また,②は,付調停によって開始された調停が成立した場合の効力について定めるものです。   調停において,子の返還の合意が成立した場合は,子の返還の合意部分は,子の返還を命ずる決定と同じ効力を持つものとし,同様に執行ができるものとすることが,調停の紛争解決機能を高めるためにも相当です。これに対し,その他の合意部分については,家事事件手続法の規律に倣い,事項ごとに効力が認めることで足りるものと言えます。そこで,②のような規律を定めることとしております。   「ウ 子の返還申立事件の手続の中止」は,調停に付した場合に,子の返還申立事件の手続を中止することができること,「エ 子の返還の申立ての取下げの擬制等」は,調停が成立した場合には,子の返還の申立ては取下げがあったものとみなすことを認めるものです。   「(8)電子情報処理組織による申立て等」についても御説明いたしますと,これは,家事事件手続法第38条と同様,電子情報処理組織による申立て等について定めるものです。 ○髙橋部会長 職権付調停ですが,職権とは言っても,当事者の同意を得てということですので,当事者の了解の下に調停になるということで,いかがでしょうか。 ○大谷委員 後のほうに出てくるのかもしれないんですけれども,前に議論のありました調停で提出された記録が,調停が成立しなかった場合に使うことができるかどうかという点については,この整理ではどのようになっているのでしょうか。 ○佐藤関係官 その点については,従前の議論のとおり,事実の調査として用いることも制限されるものではないという前提で特段の規律は置いておりません。 ○髙橋部会長 普通は,まずどちらかの当事者から出してくださいという釈明,あるいは自発的に出てくるので処理できるのでしょうが,それで出てこなくて,かつ,子どもの利益に極めて大きな影響を与えるものがあれば,そこは裁判所が職権で入っていくこともできるという,そういうことが多いとは思っておりませんが,それはできるという規定です。 ○大谷委員 この法制審での議論では,そこが随分議論されたので,今のようになったというのが結局何かも書いていなければ,先ほどのとおり事実の調査のところで含まれているんだと読むのだということで分かるんですけれども,前から懸念申し上げておりますように,外国では調停の場合に,そこは切り離すという考え方が強いところもあり,そうすると,そこは結局,担保法では特にこの点について注意的なことも何も書かれないので,御担当の裁判官なり代理人等において十分にここでの,日本での手続はこういうことですよということをこの付調停については当事者の同意となっていますが,ここで十分に説明をした上でという,運用上の問題になるという,そういう理解でよろしいんでしょうか。 ○佐藤関係官 はい,そのように整理しております。 ○髙橋部会長 条文には出てこないですね。 ○大谷委員 絶対に使えないといって頑張るつもりはないのですけれども,やはり前からの懸念は残っています。裁判官の教示によるとか,いろいろお話はあったと思うのですけれども,結局,担保法には何も書かれないということで,担保法ができたときに,外から見ると,その辺りよく分からない。外国における調停と同じ理解がなされてしまう可能性があって,その辺りは運用によるしかないということなんでしょうか。特段強く反対しているものではないんですけれども,やはり非常に懸念があるということは申し上げたいと思います。 ○髙橋部会長 この法律は非常に重要な法律ですので,慣例に従えば,法務省民事局参事官室の一問一答とか,そういう解説書は出るはずです。それはしかし,外国人は読めませんから,それを踏まえて代理人の方がということでしょう。そしてあと,裁判所が職権付調停するときにどういう教示をするか。担保法では教示義務などは定めておりませんが,そこの工夫もいろいろあるのかもしれませんね。御指摘の懸念はあり得るでしょう。 ○大谷委員 今のを伺って不安になったので確認だけなんですけれども,「職権で」というのは,飽くまで「当事者の同意を得て」は係っているんですね。 ○髙橋部会長 それは,もちろんそうです。 ○大谷委員 分かりました。 ○髙橋部会長 一問一答に必ず書くとまでは私が約束できるわけではないのですが,議事概要まで読んでいただければ,法制審では随分議論したということは分かっていただけると思います。   他にいかがでしょうか,調停に関して。 ○棚村委員 前にもちょっと大谷先生も恐らくミディエーションなんかについての秘密性の保持というんですか,ですから,連続性みたいなものを一旦断ってやるべきだということについては,また理念としてはおっしゃっていました。ただ,海外を見ていると,やはり審理の促進とか,それから調停が功を奏しなかったときの当事者の意向の問題もあって,当事者が同意することによって,それを基礎として使うというところはあるわけですし,ロサンゼルスが割合と厳格なコンフィデンシャリティを守って,一旦切るということを原則にしているところがある。ただ,アメリカでも,他州を調査していたときは,やはりかなり連続性を,一旦同意を通してやったり,今回運用の中で,やはり必要な事実があれば出してもらって,なおかつ,裁判所が職権でもやるというようなことについて,外国の方にきちっと説明をするという中で,つまり職権で調停に付する場合,同意も要らないのではないかと思ったんですが,大谷委員なんかの御意見もあって,確かに外国の方は,なかなか分かりにくいだろうということもありますから。ただ,問題は,調停ということの手続も,どちらかというと,裁判所の手続の中で,判決という形ではなくて,一個外に置いて取り込むわけですよね。そして,取り込んでコンセントオーダー的な形で判決の中に組み入れるという手続がありますので,そういうことも含めて説明をした上で同意を取らないと誤解を生じるというのは賛成です。ただ,基本的には,日本の調停制度というのが他とは違うということをきちっと当事者に説明した上で,子どもの迅速な返還ということが問題になっていますから,そこまで切り離して同意ということになると,調停でいろいろやったことで,裁判所としての判断に使いたいし,当事者もそれを使ってもいいという場合もあると思うのです。一方の当事者がそれについて反対をしたから資料として使えないというのもどうかなとちょっと思う部分もあるので,説明をきちっとすることによって,大谷委員の御懸念されている部分は,むしろ調停の手続とか,全体の返還の手続の在り方,それ自体もきちっと説明をした上で調停をきちっと付調停にする。その付調停で功を奏しなかった場合も,そこでの資料が一切使えないという形よりは,やはり使えるような例外的な場合はやはりきちっと置いておいたらいいと思うのです。調停における秘密性の保持や調停と決定の手続の切断への配慮は必要だと思っています。 ○大谷委員 元々任意の解決,話合いによる解決を促進したいという気持ちを非常に持っていまして,そういう意味では,調停の活用というのは非常に期待しているんですけれども,ただ,今,棚村委員のお話を伺っていて,私自身が持っている調停のイメージと,もしかしたら皆さんが持っていらっしゃる調停のイメージが違うのかなという気がしました。私自身は,やはり調停を何回もいろいろな資料を出しながら,時間を掛けてじっくりやる手続と,この手続に関しては思っていませんで,基本的には審理がどんどん進めなくてはいけないんだけれども,話合いの機運のある当事者たちが同意しているときには,調停を試みるというような手続と理解していることとの関係もあって,完全に切り離すという言い方が正しいかどうかは分からないんですけれども,そこでじっくりいろいろなものを出してもらってやったんだけれども駄目だったので,戻したときにもう一度やり直すということもまた時間も掛かるし,せっかく出たもので子の利益の観点から審理のために必要があるものは,それは当事者が同意しなくても使えるのだというようなイメージでは元々余り考えていないと,これは多分イメージの違いかもしれませんので,規律の問題ではないかもしれませんけれども,イメージとしては,私はそのように捉えておりますということだけ申し上げます。 ○髙橋部会長 和解もありますので,どういうふうに調停と和解と本体の返還手続を使っていくか,法律ができた後いろいろ知恵を出し合って工夫していくべきものだろうとは思っておりますが。調停はよろしいでしょうか。   それでは,次のほうにお願いします。 ○梶原関係官 「2 第一審裁判所における子の返還申立事件の手続」についてです。   「(1)子の返還の申立て等」の規律のうち,「ア 申立ての方式等」については,おおむね家事事件手続法第49条に倣った規定です。   子の返還申立書の必要的記載事項に関する②二の規定は,〔子の返還申立事件の手続により子の返還を求める旨〕又は〔申立ての趣旨〕とする両案を併記していますが,いずれの案を採るにしましても,返還を求める子の記載が必要であること,監護権に基づく引渡請求など他の手続ではなく,子の返還申立事件の手続に基づき返還を求めるものであることの記載が必要であることについては問題ないかと思います。   ここでは,部会資料には記載しておりませんが,申立ての趣旨における常居所地国の記載をどうすべきかについても御検討いただきたく思います。例えば,アメリカに返還せよという特定の国の記載まで必要なのか,それとも,国の特定までは必要なく,単に常居所地国へ返還せよという記載で足りるのかどうかについてです。仮に常居所地国が異なれば,申立ては別であると考えると,申立書には常居所地国を特定した記載が必要であると考えられます。   ③についてですが,申立人は,二以上の子について,一の申立てにより返還を求めることができる旨の規定です。   家事事件手続法第49条第3項は,二以上の事項について,一の申立てにより審判を求めることができる場合の要件として,手続の同種性や審判を求める事項が同一の事実上及び法律上の原因に基づくことを必要としていますが,本手続において事件の性質は一つであり,事実上及び法律上の原因が異なる場合は想定できないため,このような要件は不要としています。   イの「申立ての変更」についてです。これは,家事事件手続法第50条に倣った規定です。   まず,先ほどの申立ての趣旨と絡み,また(注)にも記載しておりますが,申立ての変更の要否が問題となるケースとしては,例えば,申立人がアメリカとカナダに住居を有し,子と共に両国を行ったり来たりする生活をしていた事案で,返還の申立ての際には,アメリカを常居所地国としていたものの,審理の過程でカナダを常居所地国とすべきと考えられたため,当該返還の申立てにおける常居所地国をカナダに変更する必要がある場合が考えられます。常居所地国が異なれば,申立ては別と考えることになるのか,それとも,同一の申立ての範囲内なのか,御検討いただければと思います。   なお,(注)の最後には,常居所地国の変更は,同一の申立ての範囲内であって,申立ての変更は不要であると考えれば,申立ての変更の規律も不要となると記載してあるのですが,この点につきましては,部会資料に記載していないものの,申立ての変更の可否の問題として,子の変更の場合を検討する必要があると考えています。例えば,同じ常居所地国から同時に長男と次男を連れ去った相手方に対し,申立人が,当初は長男のみの返還を求めたものの,申立て後に次男の返還も追加するという追加的変更ができるのかどうかです。そもそも子ごとに返還事由,返還拒否事由が異なるので,申立ての基礎は異なり,申立ての変更の場合ではないと考えるのか,同時の連れ去り事案で,事実関係が一部共通し,裁判資料の利用可能性があるので,申立ての基礎に変更はなく,申立ての追加的変更を認められるのか疑問があります。このように,返還を求める子の変更について,申立ての変更を認めるべきかどうか御議論いただきたく存じます。   ウにつきましては,申立書の写しの送付等について,おおむね家事事件手続法第67条に倣った規定です。   当初から,相手方及び子の所在が不明である場合の公示送達除外については,先ほど説明したとおりです。   併せて(2)についても説明しますが,「(2)子の返還申立事件の手続の期日」についてです。こちらのアからエまでの規定は,家事事件手続法第52条から第55条までに倣った規定になっています。 ○髙橋部会長 (1)と(2)ということですが,どこからでも。 ○大谷委員 申立ての変更というか,先ほどの常居所地国の特定が必要かどうかというところとの関係で,私は,必要とすべきではないかと思います。それで,先ほどの,例えば25ページの(注)で挙げておられる例などを考えますと,常居所地国をどこと考えるかというのは,監護権の発生根拠にも関わりますし,あと返還拒否事由のほうでも,どこに返すかということにも関わってきますので,重要なことで審理の中では,それが特定され,また申立てとしてはやはり別物と考えざるを得ないのではないかと思います。   それから,子の追加のほうにつきましては,やはり子ごとに年齢その他返還拒否事由等変わるので,先ほどの例に挙げられたので言いますと,やはり子ごとに申立ては別であって,追加的変更で申立ての範囲内というのは難しいのではないか,別のものとして審理が証拠等について共通する部分が多いということで,それは併合という扱いと考えるのがよいのではないかと思います。 ○髙橋部会長 この辺は手続法の細かい規定に関係いたしますが,申立書に特定国,あるいは,更に言えば準拠法が違うということを考えれば,アメリカだと各州かもしれませんが,書いておかなければ申立書が却下になるか,補正を命じて書くでしょうけれども,却下になるかというところが第一関門です。それは審理の過程で動いていいのだとラフに考えていいのかというところですね。しかし,ここは,そういう問題だということで,まず特定のところからまいりましょうか。 ○棚村委員 私も大谷委員が言ったことに賛成で,横山委員が前に言ったような例外的な事由は事情がある場合はあるでしょうけれども,原則は常居所地国のほうに返す。国といっても,髙橋部会長が言ったように,州なんかが準拠法になって,常居所がどこかというのは,正に大きな問題ですから,そこへ返すか返さないかということが問題になるので,やはり申立人は多分特定できると思いますし,その後事情が変わって,常居所が変わっていった場合は,それに対してやはり少し対応する必要があると思いますけれども,基本的には申立ての中に常居所地国というのはやはりきちっと特定させる必要があると思います。   それから,二人の兄弟についても全く同じで,繰り返すことになりますけれども,やはりそれぞれの子どもについて判断をしていかなければいけないので,同じようなときに連れ去られて,似たような状況があったとしても,子どもごとに,子どもにとって返還拒否に当たるような,子どもというか,子どもについて重大な危険があるとか,そういうような事情があるかどうかを判断せざるを得ないので,やはり追加的な申立てというような形になるのだろうと思います。手続のほうは知りませんので,むしろ御教示いただければと思います。 ○山本(克)委員 まず,州うんぬんですが,これは条約の当事国に返せばいいということが条約で要求されているんだと私は従来理解してきました。またこれは外務省の方に教えていただければと思いますが,二つ目の二人目の子を追加するほうですが,何か議論が混乱しているように思うのですが,ここで問題になっているのは,一旦申立てをして,裁判所が併合決定をしなければ併合できないのかという問題でしかなくて,新たな申立てを手続中ですることによって,当然に併合審理から出発して,場合によっては弁論を分離するという流れに乗るのか,それとも,別手続として,まず一遍起こしてもらって,その後,場合によっては移送プラス,移送がない場合は普通でしょうけれども,併合決定をして初めて併合審理できるのかという流れの問題ですので,おっしゃっているのは,ちょっと議論がかみ合っていないような印象がありました。私は,そういう追加申立てによる併合,当初から併合するというのは別にそれほど違和感を持っては聞いておりません。   それから,主文の申立て時点で常居所地国を特定するかどうかという点ですが,これは申立てが,この常居所があった国に返還せよという申立てをすると,それを認容する場合の主文も同じようにするということでしょうか。そうすると,間接強制との絡みでちょっと難しい問題が出やしないのかという気が,執行段階で難しい問題が出はしないのかという気がしますので,やはり私は国名を特定したほうがよくて,こういう問題にされているようなケースだと,申立て代理人がきちんと予備的併合の形で申立てておくということで対応すべき事柄ではないのかなという印象を持っています。 ○髙橋部会長 御指摘のように,ちょっと手続法的な細かいところですが,申立ての変更を認めるということは,それでしかできないということではありませんので,次男について別の申立てをすることもできるし,一緒にということも当事者ができるということですね。しかし,これを申立ての変更の対象にしない,あるいはそもそも申立ての変更を認めないとすると,必ず別に申立てをして,しかし,管轄は東京と大阪ですから,裁判所は併合してくれるだろうとは思いますが,併合してくれる保障はない。   他方,申立ての変更でいけば,まずは申立人が選択権がある。逆に,それだけであって,併合しても分離があるかもしれない。別に申し立てても,併合されてしまうかもしれない。ですから,そういう意味では,小さなところなのかもしれませんが,考え方としてどうかということです。   山本克己委員は,申立ての変更で構わないということですね。はい。 ○古谷幹事 基本的なところを確認したいですけれども,民事訴訟でいう訴訟物をここでどう規定するかという話かと思っております。条約としては,常居所地国に返還せよと規範としては命じているわけなので,一番広めに考えると,常居所地国に戻せという返還請求権があると観念することもできると思っております。実際問題として,間接強制などの問題を考えると,主文としては常居所地国を特定する形にするとは思いますが,審判物としては,常居所地国一般に返還せよというものも観念し得るのではないかと考えております。その考え方に立つと,国が違っても審判物としては同じという話になって,当事者にとっては不意打ちの問題が出てくると思われます。その場合は裁判所から釈明するなりの手当ては必要かとは思いますけれども,考え方としては審判物を広く取る考え方はあり得るように思います。 ○山本(克)委員 今おっしゃったように,申立てと主文がそごするというか,主文でより特定するというのが可能であれば,そういう法制を採るとここで決めれば,それは私の先ほど言った懸念は消えるんですけれども,ただ,より細かいことを申しますと,A,B二つの国が常居所地国候補としてあって,A国は条約の当事国で,B国は当事国でないというような場合を考えると,申立て段階から特定しておいたほうがいいのかなという気がしなくてはないんですが,それはちょっと細か過ぎるかもしれません。 ○髙橋部会長 ここのところ全部細かい議論なのですが,古谷幹事おっしゃるように,申立書の記載と判決主文が食い違うことはおかしくはないと思います。理屈は執行のために特定したにすぎないというような形で処理はできるのかもしれませんが,ここはしかし,皆さん大体特定国は出すでしょう。これは条文の書き方ではなくなるのですが,運用としては,考え方としては特定国まで要求してもおかしくはないということでよろしいでしょうか。先ほど州と申しましたが,確かに条約上は国となります。しかし,申立書のどこかに州まで,準拠法がどこかぐらいは書いていただきたいとは思いますが,それはしかし,必要的記載事項ということではないということですね。   それから,それにも関係いたしますが,二人目の子どもの追加というのも,御議論を伺っている限りは,裁判所のほうも申立ての変更で来ても,それはそれで,後で弁論の分離をするかしないかですが,大体御感触は伺ったと思っております。   他にどうですか。 ○大谷委員 先ほどの二人目の子のということが手続法上の御説明よく分かりました。ありがとうございました。その上で1点だけ,細かくて申し訳ないんですが,確認したいんですが,申立ての変更できたときも,条約第12条第2項との関係で,1年の起算点が返還の申立てという先ほどの要綱案の拒否時のところでそういう書き振りになったと思うのですが,そこは先ほどの手続的な,先ほどの御説明ですけれども,二人目の子について申立ての変更,すみません,よく分かっていなくても,でもそこで申立てということで取るという,そういう解釈というか理解になるということで,そこは問題ないんですね。 ○髙橋部会長 その辺は株主総会決議取消し事由の追加とか,いろいろなところでも問題があります。元からの事由と追加された事由との関係をみたりするという具合に,解釈論は両方成り立つのでしょうけれども,この場合,子どもの返還ではどうでしょうかね。 ○山本(克)委員 民訴法に追加的変更の場合,変更の申立てのときに事項なりの中断なり期限の遵守は,追加申立書の提出時だというふうな規定がありますから,それと同じ並びで考えればよろしいのではないでしょうか。 ○髙橋部会長 なるほど。 ○金子幹事 今までの御議論で,そもそもPと付けたのは,申立ての変更の規律無しでもいいという考え方もあり得るかなと思って一応付けてあったのですが,追加的変更で,当初から併合を認めるというのでもいいではないかという御意見を頂きましたが,やはり無いと具合が悪いというものでしょうか,その辺りはいかがでしょうか。つまり別申立てを常にやっていただくということで,あとは別申立てプラス併合という形では具合が悪いかということなんですが。 ○山本(克)委員 それがいいのかどうか分からないですが,一人目の子どものときの手続が最初に係属していて,そこで証人調べをして,その後に二人目の子どもを考えるときに,若干後から併合するのか,追加的変更でいくのかで変わっていく,証人尋問の最中の必要うんぬんのところが変わってくるような気もするんですけれども,そういうことを考えれば,私は追加的変更でいいような気がするんですが。 ○髙橋部会長 規定を置かないとすると,申立書の事実上の訂正で処理される可能性があって,理論的にはそれはおかしいかもしれない。しかし,うるさく言うほどのことでもないかもしれないという辺りなのですがね。それも含めますが,正面から規定を置いたほうがいいと,おっしゃるとおりかと思いますが。   ここは少し手続内部的なことですので,もうちょっと検討いたしますが,他のところはいかがでしょうか。   では,(3)の証拠調べ関係のところに移ります。 ○松田関係官 それでは,(3)から(5)まで説明させていただきたいと思います。   まず,「(3)事実の調査及び証拠調べ等」についてですが,「ア 事実の調査及び証拠調べ等」の①は,本手続における裁判資料の収集方法として職権探知主義を原則とすることを表す趣旨の規律であり,②は,この①の原則と相まって,1(2)の子の返還事由及び子の返還拒否事由については客観的証明責任を負う当事者が第一次的に資料を提出すべきものとしつつ,必要と認めるときは,裁判所が職権で事実の調査及び証拠調べをすることができる旨を表す趣旨でありまして,中間取りまとめにおける考え方を維持するものです。もっとも,1(2)ア及びイにおいて「裁判所は,返還事由のいずれにも該当すると認めるときは,子の返還を命じなければならない。」,「裁判所は,子の返還拒否事由のいずれかに該当すると認めるときは,子の返還の申立てを却下しなければならない。」旨がそれぞれ規律されておりますことから,子の返還事由及び返還拒否事由については,それぞれ申立人及び相手方が第一次的に裁判資料を提出することになり,裁判所による職権探知等は必要に応じてされるものと位置付けられると思いますが,そのことを確認するために,②のような規律を明文で設けることも考えられますので,②には亀甲括弧を付しております。この点について御意見を頂ければと存じます。   また,③につきましては,本手続では,子の返還事由及び返還拒否事由について,②のように,第一次的に当事者が資料を提出すべき地位にあるとの考え方を採っている以上,③のような当事者の協力義務をあえて規律する必要がないと考えられますことから,亀甲括弧を付しております。この点についても御意見を頂ければと存じます。   「イ 疎明」は,民事訴訟法や家事事件手続法と同様の規律を置くものです。   「ウ 家庭裁判所調査官による事実の調査」は,家事事件手続法第58条と同様に,家庭裁判所調査官に事実の調査をさせることができるものとした上で,家庭裁判所調査官の事実の調査の報告等について規律するものです。   次に,「エ 家庭裁判所調査官の期日への立会い等」は,家事事件手続法第59条第1項及び第2項と同様に,①で家庭裁判所調査官の期日の立会いを,②で立会いの場での意見の陳述を定めるものです。   なお,家事事件手続法第59条第3項及び第4項では,必要な場合に,家庭裁判所調査官に社会福祉機関との連絡その他の措置を取らせることができる旨の規律を設けておりますが,この手続では,審理の対象が常居所地国への子の返還の可否に限定されておりまして,家事事件の手続のように,子の家庭環境その他の環境の調整を行う必要が生じる場合が想定されないことから,これらの規律を置かないこととしております。   次に,「オ 裁判所技官による診断等」は,家事事件手続法第60条と同様に,医師である裁判所技官に事件の関係人の心身の状況について診断させることができることなどを規律しております。   「カ 事実の調査の嘱託等」では,家事事件手続法第61条と同様に,他の家庭裁判所への事実の調査の嘱託,再嘱託,受命裁判官の事実の調査についての規律について規律するものです。   もっとも,①及び②では,本手続においては,事実の調査の嘱託先及び再嘱託先に簡易裁判所を含める具体的な必要性はないものと考えられますことから,家事事件手続法第61条第1項及び第2項と異なり,嘱託先及び再嘱託先を家庭裁判所に限定しております。   「キ 調査の嘱託等」では,事実の調査として行う調査の嘱託等に関する規律です。   本手続では,条約第7条第2項dに規定する中央当局間の情報交換に基づく調査等を裁判所が中央当局に対して嘱託することができるということを前提に,中央当局に対して嘱託することができる旨を明示すべきか否かにつきましては,法制的な観点も考慮して検討することとしたいと存じます。基本的に,家事事件手続法第62条と同様の規律となっておりますが,本手続における事件の性質を踏まえまして,必要な報告を求める先としましては,学校及び保育所を例示しまして,また,求められる事項としては,子の生活の状況等を例示することとしております。   次に,「ク 事実の調査の通知」では,家事事件手続法第70条と同趣旨の規定であり,当事者の手続保障を図るための規律となっております。   「ケ 陳述の聴取」は,家事事件手続法第68条と同様の規律であり,①では,原則として当事者の陳述を聴くものとし,②では,陳述の聴取を審問の期日を開いて行った場合の規律を定めております。   「コ 証拠調べ」では,①で,本手続における証拠調べの手続を,基本的に民事訴訟法第2編第4章第1節から第4節までの規律を準用するものとしておりまして,家事事件手続法第64条の規律と異なり,真実擬制の規律も除外しないこととしております。   また,本手続における証拠調べの手続では,基本的に民事訴訟法の規定に倣った規律としておりまして,家事事件手続法第64条第5項のような「家庭裁判所は,当事者本人を尋問する場合には,その当事者に対し,子の返還申立事件の手続の期日に出頭することを命ずることができる。」ですとか,「子の返還申立事件の手続の期日に出頭することを命ずることができる。」旨の規律はあえて設ける必要はないとの考え方を前提としております。   31ページの「サ 不法を証する文書の提出」は,条約第15条を担保するための規定です。   ハーグ条約の下では,子の連れ去り又は留置が不法なものかどうかは,子が常居所を有していた国の法令等に照らして判断されますが,条約第15条は,その判断の資料とするために,子の返還の申立てを受けた司法当局は,申立人が子が常居所を有していた国の当局から,子の連れ去り又は留置が不法なものであるとする証明を得ることができる場合には,申立人に対しその証明を得ることを求めることができる旨規定しています。そこで,我が国において,子の返還の裁判が行われる場合,すなわち外国から日本への子の連れ去り事案において,申立人が,子が常居所を有していた国の当局から,そのような証明を得ることができるならば,我が国の裁判所の審理,判断に資すると言えますから,裁判所は,申立人に不法性を証明する文書を提出するよう求めることができるものとする規定を設けることとしております。   「(4)子の返還申立事件における子の意思の把握等」は,家事事件手続法第65条と同様に,子の返還申立事件の手続においては,子の利益を確保する観点から,子の年齢にかかわらず,子の意思を把握し,それを考慮することの重要性に鑑み,裁判所が,子の陳述の聴取,裁判所調査官による調査その他の適切な方法により,子の意思を把握するよう努めなければならず,また,裁判をするに当たり,この年齢及び発達の程度に応じて,子の意思を考慮しなければならないものとする規定をも受けております。   「(5)審理の終結〔等〕」については,ア,審理の終結日を定めるものとする家事事件手続法第71条と同様の規定を設けるものです。   また,イは,実際の裁判日を定めるものとする家事事件手続法第72条と同様の規定を設けるものです。   (5)までは以上です。 ○髙橋部会長 ここもやや細かいところですが,いかがでしょうか。 ○磯谷幹事 2点ございます。   1点目は,27ページの(3)アの②が必要かどうかという点でございますけれども,以前も申し上げましたけれども,私は必要ないと考えております。この申立人が返還事由について,それから相手方が返還拒否事由について資料を提出するというのは,これはそこに勝敗が懸かっているわけですから,書かなくても明らかであると考えておりまして,むしろこういうふうなことを書いてしまいますと,1項の職権探知主義の原則,特に子どもの福祉に配慮した職権探知主義が薄らいでしまうのではないかと懸念をしておるところであります。したがって,②は必要ないと考えております。   2点目ですけれども,28ページの下のところで,調査官の社会福祉機関との連携等の措置に関してですけれども,確かに具体的な活用場面というのは少ないのかもしれませんが,この申立事件においては,子どもが日本のほうに残るということも想定されるわけでして,そうすると,児童相談所その他の福祉機関と連絡するというようなことというのはあり得るのではないか,あえて家事事件手続法第59条第3項,第4項の規定を排除する必要はないのではないかと考えます。 ○髙橋部会長 最初の点は職権探知主義と矛盾はしないとは思っておりますが,むしろ書かないと,個人的な経験で恐縮ですが,ベテランの弁護士さんでも職権探知主義だと裁判所が全部やってくれるものだと思っていたという人がおりました。若いころ思っていたということです。確かに無くてもいい規定であることはそのとおりなのですが。 ○清水委員 今言われたようなことだと思うのですけれども,今までの議論に出ているように,職権探知と言っても,飽くまで補充的なものだという位置付けだと思うのです。第一次的には当事者のほうで客観的な主張立証責任があるわけですから,それを明らかにするという意味では,これを入れておくほうが私はいいと思います。 ○山本(和)委員 私も清水委員の御意見に賛成で,実質的にはというか実態的には要するに勝ちたいと思っていて,証明しないと勝てないわけですから,証明するだろうということは言えるだろうと思うのですが,規範的に見れば,やはりここで1の(2)のアとかイで書いてあることは,客観的証明責任を書いているだけなので,それが主観的証明責任とか主張責任に反映するというのは,教科書では弁論主義に基づくということが書かれているわけで,ここは職権探知主義ですから,話は別なので,やはり理論的にはこういうふうにするのであれば書いておくべきなのだろうと思います。 ○松田関係官 家庭裁判所調査官の期日への立会いのエの28ページのところの社会福祉機関との連絡その他の調整ですが,この手続で家庭裁判所調査官が調査に入るのは,返還するか,返還しないかという点を判断する上で,返還拒否事由に当たるようなものがあるかどうか,子の意思も含めて,子が返還されたときに受ける心身の害悪ですとか,そういうものの有無というのがあるかどうかというのを調査するのが主だと思いまして,日本に残ることを前提に,残った場合の社会福祉機関との連携ということは,今回の手続の家庭裁判所調査官の職務の範囲外になるのではないかと思いまして,常居所地国に返すことができない,子の福祉に反するので返すことができないとなって残らざるを得ない場合も,何か調整をする必要があるときは,また他の社会福祉機関がそれこそ自らが出てきてということになるのではないかなと思います。そういう意味で家事事件手続法第59条第3項,第4項というものは落としておりますので,ここを入れると,自ら家庭裁判所調査官が,子が国内に残る前提でいろいろ調整に回るみたいなことが正面から認めてしまうようなところで,相当ではないのではないかなと考えております。 ○髙橋部会長 事務当局はそういう考えだということですが。 ○磯谷幹事 今の点ですけれども,この事件の処理に関しというところ,どのぐらいに捉えるかというところはあるかと思いますけれども,やはりここを余り限定して捉える必要もないのではないか。やはり子どもの福祉という点から必要な,これは必要があると認めるときはということでもございますので,やはりそういった規定を置いておいたほうが,子どもの福祉という立場からするとスムーズに関係機関とつなげられたりということがあり得るのではないかと思います。余りここを限定的に捉える必要はないのではないかと思います。 ○古谷幹事 今の点は,先ほどの事務当局からの説明のとおりで,基本的に子の福祉に配慮しなければいけないのはそのとおりなのですが,返還手続の中では,家裁調査官は一定の場合には子どもの意思,あるいは子が状況になじんだかどうかなどの調査を行うことになりますが,そこから離れて連絡調整的なことをすることは予定されていない枠組みだと考えられます。 ○髙橋部会長 他の点も含めていかがでしょうか。 ○大谷委員 というのは,私は今の範囲ではなくて,その前のところで漏らしたところがあったんですけれども,後で戻ってきたほうがよろしいでしょうか。一旦全部終わってから。 ○髙橋部会長 申立ての辺りですか,もっと前ですか。 ○大谷委員 一つは付調停のところで,もう一つは,具体的には26ページの音声送受信のところなんですが。 ○髙橋部会長 では,そちらは。調停は最後に時間が余ればということで。 ○大谷委員 はい,分かりました。   音声の送受信のところで,26ページの下の(注)に,外国にいる当事者のことを注書きで書いてくださっていて,「主権侵害の問題があるので,原則としてできないことを」,ここは当部会での議論の中で,遠隔地というのが,その表現上からは外国は除外されているわけではないけれども,主権侵害の問題があるというお話だったと思います。場合によっては,中央当局を通じて,当該国が同意する場合もあるので,主権侵害の点が問題にならない場合もあり得ると思っているんですが,それは,ここに書いてあるとおり,原則としてできないと書かれていることから,そのようなことが明確に確認できる場合には,音声送受信が外国にいる当事者との間でもできると理解してよいのかどうかという,これは確認のための質問です。 ○長嶺委員 「原則として」とございますから,当然,今,大谷委員が御指摘のように,相手国の同意を得てというのはあり得ることかもしれません。ただ,その場合にやはり相互主義が掛かるということもありますので,我が国において同じような手続を採られたときに,日本側としてそれを同意を与えることができるか,同種の件において,そこら辺の判断も入ってくると思います。基本的には(注)に書いてありますように,原則としてはないというのが前提で,その上で個別のケースについてどうするかというのはあり得るとは思いますけれども,基本的な考え方は,この(注)の考え方かなと理解しています。 ○大谷委員 今,相互主義のお話も出てきたんですが,現場でこの種の事件をやっている者としまして,前にも申し上げたんですが,実際外国の手続に関して日本にいてテレビ会議若しくは電話で参加するということが現に起きていますし,特にアウトゴーイングケースを考えますと,そうしたことが本当に日本にいる日本人,LBPのために必要な場合というのが現実にあります。そうしたことも踏まえて今後御検討いただきたいと思っております。 ○髙橋部会長 証拠調べ関係はよろしいでしょうか。 ○山本(克)委員 先ほどの27ページの(3)ア②ですが,ちょっと置くべきだという御主張にも理解できないところはないわけではないんですが,同じような要請は人訴手続や,あるいは家事事件手続法上の審判の,現行の家事審判法でいう乙類に相当する審判事項についても言えるはずなのに,ここだけ置くと反対解釈が家事事件手続法と人訴であるということも,そんなこと言う人は余りいないと思うのですが,あり得るし,なぜ横並び,同じようなことがあるのに別になっているのかということの説明がやや難しいのではないかなという気がします。   それとともに,返還事由については,返還事由の例外事由的なものも更に認めているわけです。返還拒否事由の例外的なものを認めていますので,これだけでは書き切ったことには必ずしもなっていないということもありますので,私は余り変に規定を置かないほうがよろしいのではないかという感じでおります。 ○髙橋部会長 御指摘もごもっともですので,例えば,規則ではどうか,規則でも理屈は同じですね。 ○山本(克)委員 ええ,そうですね。 ○山本(和)委員 私もそれでもっともかなと思う部分もあるんですが,人訴の場合には,背景に民訴があって,基本的には民訴が適用になっているので,民訴の様々な条文の中から,こういう趣旨が表れていると読むことも,口頭弁論をするとか,あるいは証拠の申立てを当事者がするということはこちらのも人訴のほうの適用になっているので,そういう全体から表れていると,苦しい説明かもしれませんが,そういうふうに読むこともできるのではないか。   それから,別表第2の関係は,これは更に苦しいかもしれませんけれども,かなりのものはそこの別表第2の対象になっている事件というのは,裁判所の裁量的な判断に基づく財産分与とか遺産分割とか,明確な,いわゆる要件事実的なものが観念できないようなものなので,それでこういうこと,②のようなことはなかなかそもそも書くのは難しかったかなという感じがするんですが,この事件は割合そこははっきりしているのでということで,何とかそういう反対解釈が生じるということは防げないかなとは思っているんですが。 ○山本(克)委員 別表第2の事件も,前提問題については一応主張立証責任,客観的証明責任は観念できるはずですので,確かに最終的な主文で判断する事項ですね,遺産分割ならどういうふうに分けるかというところはそうですが,それの前提問題というのはまた別の問題ですね,遺産帰属性の問題であるとか相続権の問題,相続権があるかないかという点については,当然,証明責任を観念できるはずですので,あるいは私はそれだけでは弱いのではないのかな,ここだけなぜ設けるのかというのがやはり説明が必要なのではないかという気がします。 ○髙橋部会長 両方の御意見を伺いました。   それでは,「(6)裁判」。 ○佐藤関係官 「(6)裁判」について御説明いたします。   まず,「ア 裁判の方式」について,子の返還申立事件の手続において,裁判を全て決定で行うことを定めるものです。   次に,「イ 終局決定」は,家事事件手続法の審判や民事訴訟法の終局判決に対応する概念として,本手続では,非訟事件手続法に倣った終局決定という概念を用いることとし,終局決定を行う規律について定めるものです。規律そのものは家事事件手続法第73条に倣ったものです。   「ウ 終局決定の告知及び効力の発生」について定めるものです。   まず,告知する対象者としては,本手続では,子に即時抗告権を認めておりますことから,当事者のみならず,子に対しても告知をするのが基本的には相当であると考え,子を入れております。もっとも,場合によっては,子に告知することがかえって子の利益を害し,相当でないと判断される場合もあり得ることから,家事事件手続法第170条第1項ただし書に倣って,ただし,子にあっては,子の年齢及び発達の程度,その他一切の事情を考慮して,子の利益を害すると認める場合は,この限りでないものとするという規律を置いております。   ②は,終局決定の効力の発生時期について定めるもので,却下した決定については,告知によって効力が生ずるものとし,返還を命ずる決定については,確定しなければ効力を生じないものとしております。   「エ 子の返還を命ずる決定の執行力」について,執行分の付与を受けるなどの特段の手続を要することなく執行の申立てができるようにするための規律ですが,このような規律を設けることなく執行手続の章で,例えば強制執行は,子の返還を命ずる決定の正本に基づいて実施するというような手当てをすることも考えられるため,ペンディングということで【P】を付しております。   「オ 終局決定の方式及び裁判書」についての規律ですが,(注)に記載しましたとおり,裁判書の必要的記載事項のうち,「理由」については,家事事件手続法と異なり,子の返還申立事件の性質や返還事由,返還拒否事由について当事者に主張立証の責任を課している構造から,理由の要旨ではなく,理由の記載を必要とする,それが相当であると考えております。   「カ 更正決定」の規律でありまして,基本的には家事事件手続法と同様の規律としておりますが,更正の原因については,子の返還の裁判書に計算違いがあることは想定されないことから,家事事件手続法と異なり,誤記その他これに類する明白な誤りとしております。   「キ 終局決定に関するその他の手続」として,民事訴訟法上の自由心証主義や変更の判決,裁判の脱漏の規律と同様の規律を設けるものとしております。   「ク 中間決定」を認めるものです。   中間決定を行う場合としては,当事者適格や常居所地国の認定等に争いがある場合に,子の返還に関する終局決定をする前提として,これらについての判断を行うことなどが想定されます。   「ケ 終局決定以外の裁判」,すなわち手続的な裁判についての規律でありまして,家事事件手続法第81条に倣ったものです。   続いて,「(7)裁判によらない子の返還申立事件の終了」について御説明いたします。   (7)は,裁判によらない子の返還申立事件の終了についての規律でありまして,具体的には取下げ及び和解について定めております。   まず,アは,「子の返還を求める申立ての取下げ」についての規律でして,家事事件手続法第82条第2項と同様のものです。   ①では,部会の議論を踏まえまして,確定までは取り下げることができるとしつつも,終局決定後は相手方の同意を得なければならないとしております。   イは,「和解」についての規律です。   まず,①では,裁判所がいつでも和解の勧試ができること,民事訴訟法上の,いわゆる受託和解や裁定和解ができることを定めるものです。   ②は,部会での議論を踏まえまして,子の返還申立事件の手続における和解において,本来的な家事審判事項についても合意をすることができるものとするものです。もっとも,家事審判事項のうち,どの範囲について和解をすることができるものとするかについては,検討が必要なことから,亀甲括弧を付しております。   これについて,一つの考え方としては,家事審判事項についても,本手続における和解で解決することができるようにするのは,子の返還事件の解決のためにそれが有益であるからでありまして,そうであるとすれば,子の返還事件と関連して解決することが望まれることが類型的に想定される子の親権をめぐる問題ですとか,監護をめぐる問題,夫婦間の問題のうち,子との生活に影響する夫婦間の協力扶助に関する諸分野,婚姻費用の分担に関する処分等に限り,本手続での和解事項として認めるというものです。   他方の考え方としては,本手続において広く一介的な解決をする余地を認めるために,純粋な夫婦間の問題である離婚や財産分与,離婚等の場合における祭具等の所有権の承継者の指定や,年金分割についても合意をすることができるようにするというものです。この点についても本日御議論いただければと思います。 ○髙橋部会長 裁判と裁判以外の終了原因ということですが,いかがでしょうか。 ○大谷委員 今までの部会で議論があったかどうか記憶にないのですけれども,35ページの「ク 中間決定」について,特別に反対を申し上げるつもりはないのですけれども,ただ,この中間決定の規律をこのように置くというのが,そもそも手続として迅速な判断が求められていまして,実際,当事者適格の中には申立人が監護権者かどうかとかも入ってくるでしょうし,返還事由,返還拒否事由の一部,それから常居所地国がどこかという認定というのは,これはもうどこの国の裁判例を見ていましても,結局それが争点に大きく影響して,全体的に返還拒否事由の有無も含めて判断されているのが見られるところ,こういうことについて取り出して決定をするということがそもそもできるという規律を置くということに違和感を感じますので,皆様の御意見を伺えればと思います。 ○髙橋部会長 恐らく実際にこれが大きく使われるということはないと思います。しかし,中間決定,中間判決というのは,本来は審理促進のためであって,ここはもう決まりました,他のところだけやりますということで,審理促進のためなのですね。これは中間上訴はしないのですよね。中間上訴はあり得ない。 ○金子幹事 ありません。 ○髙橋部会長 これで上級審に行くこともないということで,御指摘のように,どうしても無ければいけない規定ではないかもしれませんが,法制的には逆に,なぜ置かないのかと聞かれると,それも困るというような,そのぐらいのものでしょう。しかし,裁判所としては,あれば使いたがるかもしれないというような御懸念は,これに関してはないと思いますけれども。   いかがでしょうか。確かに無くていいかもしれませんので,無いほうがいいということであれば。 ○金子幹事 今,部会長の整理で,結局この前提となるような話を裁判の形でするのか,心証を明らかにして進めるのかという問題だけだと思います。常居所地国はここでという前提で審理をしましょうと裁判所が言わないと,心証を明らかにしないと次の審理に進めないという場合が出てくると思うので,そのときに,一つ自分を縛る意味での中間決定というのを出しておくかという問題なんだろうと思います。ですから,どうしても必要かというと,それはおっしゃるとおりなんですけれども,かえってこの規律を置くと手続が遅れるということは本来予定しているものとは違うのではないかなと思っていますが。 ○大谷委員 今の御説明よく分かりました。ありがとうございます。さっきから何度か申し上げている審理のイメージとまたかぶっているのかもしれないんですけれども,先ほどの職権主義の事実の調査のところにも関係するかもしれないんですが,今の御説明どおりだと思うのですけれども,例えば,私のように,こういう規定があることを逆に受ける人がいるかもしれなくて,私の思っていることを申し上げますと,このハーグ手続というのが,今までの日本に無い,一種新たなものを今回作るという中で,どうしても何か非常に重たい審理構造が予定されているような印象を受けてしまったんですね。今正に御説明あったように,その常居所地国がどこかがまず決まらないと次へ行けないとか,私も他国の審理を特別たくさん知っているわけではないんですけれども,他国の審理から受けているイメージからしますと,それはもうお互い,言わばごっちゃになって,常居所地国についても当然争いながら,返還拒否事由についても当然争いながら,そこはとにかく全部出すようにということで,裁判所のほうで訴訟を指揮されながらやっていくというようなイメージで見たときに,ここだけ先に何かお決めになるのかなというのが,逆のイメージで捉えたということですので,特別反対はしないんですけれども,私のように受け止める人もいるということで御検討いただければと思います。 ○髙橋部会長 御指摘は分かりました。中間決定をするのが原則的な審理だとは毛頭考えていないということを前提に,法制的な整備も考えてみます。   他の点いかがでしょうか。 ○大谷委員 続けて申し訳ありません。   次,和解のところで,先ほど調停のところで発言し損ねたこととも関連するんですが,今,和解のところですので和解についてだけまず意見を申し上げますと,イの②で,和解の対象事項ですけれども,まず,広いほうから言いますと,離婚,それからそれに伴う財産分与まで,この手続の中で和解をすることができるという規定を担保法に置くこと自体に大変懸念があり,ここはもう少し御検討いただけないかと思っております。前回も申し上げたことに関連しますが,できるだけ一回的な解決を,あるいはそうできることによって任意の話合いの促進をという御趣旨はよく分かりますし,同じ気持ちを持っておりますが,現実には,そういう規定を置くことによってかえってやはりそこまで話合いの対象になってしまうということのほうが懸念されます。また,今年6月の締約国会合で,そうしたどこまでの事項を調停和解で決めることができるかということについては,条約第16条違反かどうかという問題ではなくて,その難しさが今議論されている中で,他の国の法律でここまでできるということを明示的に決めている国は私はないのではないか。その中で,現実どうするかということを,どこの国も悩みながらやっていらっしゃると思うのですが,日本でここまでできるということをうたっていいのだろうかということは非常に懸念されます。そうしたことまで決めたいという当事者の意向があって合意までしてきているときに,裁判所がそれを認めないと言っていいのかという問題意識でいらっしゃると思うのですが,そこは何か別途他の方法,今代替案が思い付かないんですけれども,この手続の中の和解でなくてはいけないのかということをもう少し御検討いただけないかなと思います。同様に,親権についても,子の監護に関する処分についても,前回の議論,意見を繰り返しますが,暫定的な子の監護に関する合意は私はいいと思っていますけれども,終局的な親権まで定めることは,特に帰る場合を想定しますと,当事者たちがどこまで,あるいはその代理人も含めて,どこまで本当に理解しているのかという点でも懸念があり,それは,確かに当事者は一回的な解決を求めるかもしれませんが,特に返還の場合は返還後の常居所地国において最終的に決定すべきことではないかなと思っております。 ○髙橋部会長 御指摘のこの点は御議論,御審議いただきたいところですが,今,大谷委員御自身もおっしゃったように,規定がないと審判事項ですのでワンストップの処理ができなくて,他のところに行ってくださいということになる。そこで広めに取ってあるわけですが。立案者の趣旨としては,こういうものを積極的に和解勧試の中に入れろということでは決してないということは共通の了解だとし,もうここまで合意して話は決着付きましたということで裁判所に言ってきたときに,窓口はあちらですということがと,そういうような種類の問題なのですが,いかがでしょうか。 ○山本(克)委員 私の人訴法の理解が間違っていたのかもしれないんですが,人訴法上の離婚事件の和解で附帯事項以外のものについては和解できないんでしょうか,附帯処分に係る事項以外のものは。そういう理解だったんですか。 ○髙橋部会長 事務当局はそういう頭です。 ○山本(克)委員 しかし,訴訟外で合意はできるわけですね。それと,なぜそこで和解ができないと言わなければいけないんでしょうか,それがもう一つよく理解できなかったんですが。 ○髙橋部会長 民訴の研究者としては,私も同じ疑問を持ちましたが,しかし,そういう前提で作っております。 ○山本(克)委員 そうですか,ちょっとショックを受けました。 ○髙橋部会長 積極的にやるということではないというのはいいですよね。 ○金子幹事 そうですね。 ○髙橋部会長 しかし,ここをこういうふうに規定を置いておくと,少なくとも当事者の一方が期待してこちらのほうに引きずり込むと言ってはいけないのでしょうが,そうなるかもしれないという懸念は確かにあります。 ○古谷幹事 実際に和解が成立するときのイメージでかなり話が違ってくるという感触を持っております。裁判所としては,離婚なり,あるいは親権者なりで話がほぼまとまりましたというときに,和解ができるという規定がないために,そもそも返還手続では和解できませんというのは,それは非常に使い勝手が悪い,特に子も親も日本国に残る前提で話がまとまってくる場合には不都合が大きいと思います。   仮に,和解の規定が入ったとしても,裁判所としても,かなり合意が難しい事件で半ば強引に説得して和解させようという運用は考えにくく,当事者間の隔たりが大きいのであれば,それはもう返還手続を進める。多少脈があるなら付調停にするといった運用になるのかと思っております。条約適法性の問題がないのであれば,基本的には規定を置いて和解を使えるという形にしておくのが望ましいと考えております。 ○道垣内委員 ぎりぎり詰めたときには条約違反ではないのかもしれませんが,このようなことをここに書くことによって,本来形式的に決めるべきものについて,日本は,他の交渉材料,つまり返還を求める権利がある者に一定の譲歩を求めることのできるような交渉材料を与えているというイメージは拭えない気がいたします。したがって,私は対外的には好ましくない規定ではないかと考えます。 ○大谷委員 今,道垣内委員が,私がずっと言いたかったことをうまくおっしゃってくださったんですが,同じような感想を持っております。それと,日本に残る場合は,前回も申し上げたんですけれども,余り私は異論はないんです。帰る場合についてもできるということについて強く懸念を申し上げているのであって,では,ワンストップでできないということにすることによってどのぐらいの不利益が本人たちにあるのか,そこまでこの担保法に書かなくてはいけないことなのかということなんですけれども,書かなかった場合,それは他の方法として,例えば,どうしても離婚をその場で成立させてからでないと帰れないのだという人たちが,例えば協議離婚の方法ですると,例えばですけれども,それは可能なわけですよね。あるいは,また管轄とか準拠法とかは問題になってきますけれども,協議離婚では,帰ったときの効力等について心配があるのでということで,調停でやるんだということは可能なわけですよね。それをどうしてここでここまで担保法に書いてそれができるということにしなくてはいけないのか,またその懸念を,特に親権のことを決めるということについて,帰る人たちですから,なおさら,ここで合意したこと,裁判所が和解調書という形で決めたことの内容が戻った後の国で,一体どのように受け止められるのかということについて,日本の代理人と裁判官とで決めて,和解調書にするということについて非常にリスクを感じるんです。 ○横山委員 この条約は国籍いかんを全く問わないものですから,日本人の家族がタイ国の工場に一家で働きに行って工場で指導している。夫婦関係が壊れて,母が子を日本に連れて帰ってしまったというケースですね。タイ国も締約国でありますので,子の条約の適用があります。こういう際に,離婚等の場合における祭具等の所有権の承継なんというのが,アメリカとの関連でどんな意味があるのかよく分かりませんけれども,基本的にこれ日本人の親子,家族で生ずる子の奪取事件というのは,今のような人口の移動を考えたら当然生ずるわけで,幾らインカミングの奪取事件であっても,全ての構成員が日本人の間でも生じ得る。しかも,究極的な生活のベースは,現常居所地国というよりも,将来日本に生活するという人たちにも起こってくるわけですから,むしろ現実に意味を持つのは,少なくとも日本の観点からいったら,タイ国その他東南アジアの国で一家全員で行ってしまうというケースではないでしょうか。その中での本当なら純国内的な事案で処理できるものが,子の奪取という形で生じてしまうというのがかなりな率であり得るのではないかと思うので,これを置くこと自体が条約に不適合かというと,少なくとも日本を取り巻く環境の下で言うならば,何もこれは純日本人のことを考えているんだと十分考え得るし,それでよろしいのではないかなと,起こること自体を排斥する理由はないと思います。 ○山本(克)委員 さっきのことで完全に疑問が解消されたわけではないんですが,事務当局の裁判手続の役割分担の前提を承認いたしますと,私もやはり大谷委員や道垣内委員の御意見に賛成です。と言うのは,やはり条約自体がトランジットな処理をするための条約ですので,確定的な処理の話を持ち込むことはやはり何か担保法の役割を逸脱しているような気がするんです。飽くまでも最終的な処理は常居所地国でやりましょうと言っているのに,大谷委員がおっしゃっているように,返すという内容の和解にいろいろなことが確定的に定まっているというのは何か妙な感じがしますので,やはり少なくとも返還するという内容のときには,そういうものは入れないという,ちょっと片面的になってしまうんですが,なることもあり得るんですが,そういうふうに考えたほうがよろしいのではないのかなという気がいたします。 ○大谷委員 最後に一言だけなんですけれども,横山委員の挙げられた事例もなるほどと思って伺っていました。結局,駄目だということにしたときに,別にそういう合意をするなと言っているわけではないので,どうしてもリスクを承知ででもしたいのだということの場合に,それは別の調停で申し立ててくださいというのが,私はやはり筋ではないのかな。そこは可能だという前提で私はさっきからお話ししているつもりなんですけれども。 ○髙橋部会長 それはいいのですよね。 ○金子幹事 はい。 ○髙橋部会長 調停は完全に可能です。   この点,今日決めてしまうことではありませんので,多少末節的なことかもしれませんけれども,手続全体にとっては意味のあることですので,また継続審議とさせていただきます。   時間が迫っておりますので,不服申立てのところは抗告,再審,取消しとありますが,一気に説明をお願いいたします。 ○松田関係官 では「3 不服申立て等」について御説明いたします。   「(1)終局決定に対する不服申立て」の「ア 即時抗告」につきまして,「(ア)即時抗告をすることができる裁判」では,これまでの議論の結果を踏まえまして,①で,当事者に即時抗告権を認めるほか,②では,子の返還を命ずる決定について,子に即時抗告権を認めることとしております。   「(イ)即時抗告期間」では,①で,これを2週間とし,②で,即時抗告期間の起算点を,終局決定の告知を受けた日を基準とすることを定めております。③では,子による即時抗告権の起算点について,子が終局決定の告知を受けない場合もあるため,子が終局決定の告知を受けた日を起算点とすることが相当でないことや,基準の明確性等を考慮しまして,家事事件手続法第172条第2項各号に定める子の即時抗告期間の起算点の規律と同様に,申立人又は相手方が終局決定の告知を受けた日のうち最も遅い日を起算点としております。   「(ウ)即時抗告の提起の方式等」では,家事事件手続法第87条と同様に,即時抗告の提起の方式を①及び②で,現裁判所による即時抗告の却下を③から⑤までで,抗告裁判所の裁判長の抗告状審査権を⑥で規律しております。   「(エ)抗告状の写しの送付等」では,家事事件手続法第88条と同様に,①で,抗告状の写しを原則として送付しなければならないものとした上で,②で,送付の費用の予納がない場合の抗告状却下について定めております。   なお,家事事件手続法第88条第1項ただし書では,抗告審における手続の円滑な進行を妨げるおそれがあると認められる場合には,即時抗告があったことの通知で足りるとの例外措置を設けておりますが,本手続では,抗告状の写しの送付によって抗告審における手続の円滑な進行が妨げられるおそれがあることが具体的に想定されず,迅速処理の要請から,抗告状の写しを抗告の相手方に送付して,抗告に対する早期の準備を可能にする必要性のほうがより高いと考えられますことから,写しの送付について例外措置は設けないこととしております。   「(オ)陳述の聴取」では,家事事件手続法第89条第2項と同様に,原則として,原審の当事者の陳述を聴かなければならないものとしております。   「(カ)抗告裁判所による裁判」では,家事事件手続法第91条と同様に,抗告裁判所の裁判の形式を決定とし,即時抗告を理由があると認めるときは,自ら裁判することを原則としております。   「(キ)即時抗告及び抗告審に関するその他の手続」では,家事事件手続法第93条と同様に,①では,原則として,第一審の規律と同様の規律を設けることとし,②では,抗告状の写しの送付を要しないときは,直ちに即時抗告を却下又は棄却することができることとし,③では,民事訴訟法の規定と同様の規律を設けることとしております。   次に,「イ 特別抗告」の「(ア)特別抗告をすることができる裁判等」は,家事事件手続法第94条と基本的に同様の規律を設けるものですが,特別抗告の対象となる裁判は,不服申立てをすることができない裁判ですので,本手続において特別抗告の対象となる終局決定は,高等裁判所の終局決定に限られると考えられますことから,①では,これに限定して規律しております。   「(イ)原裁判の執行停止」は,家事事件手続法第95条と同内容です。   「(ウ)特別抗告及びその抗告審に関するその他の手続」は,家事事件手続法第96条と同様の規律です。特別抗告の対象が,高等裁判所の終局決定に限られるという観点から,同条を一部修正しておりますが,実質的内容に違いはありません。   「ウ 許可抗告」の「(ア)許可抗告をすることができる裁判等」は,家事事件手続法第97条同様の規律ですが,家庭裁判所の終局決定で即時抗告をすることができないものはないため,家事事件手続法第97条第1項ただし書の家庭裁判所の審判であるとした場合に,即時抗告をすることができるものであるときに限る旨の規律は設けておりません。   「(イ)許可抗告及びその抗告審に関するその他の手続」は,家事事件手続法第98条と同様に,①で,即時抗告及び特別抗告の規律に倣った規律を設けるものとし,②で,民事訴訟法の規定と同様の規律を設けるものとしております。   「(2)終局決定以外の裁判に対する不服申立て」の「ア 不服申立ての対象」は,終局決定以外の裁判について,特別の定めがある場合に限り,即時抗告を認めるものとしております。   「イ 受命裁判官又は受託裁判官の裁判に対する異議」では,家事事件手続法第100条と同様に,受命裁判官又は受託裁判官の裁判に対する異議の手続について定めております。   「ウ 即時抗告期間等」は,①から③までは,家事事件手続法第101条と同様の規律となっております。④につきましては,いわゆる再度の考案について,終局決定は二当事者対立構造の手続で審理の終結手続を経てされるものであるため,再度の考案になじまず規定を設けておりませんが,終局決定以外の裁判に対する即時抗告の場合には,これを認めるのが相当と考えられますので,ここで規律を設けております。   「エ 終局決定以外の裁判に対する不服申立てに関するその他の手続」では,終局決定以外の裁判に対する特別抗告については,家庭裁判所がした終局決定以外の裁判であっても即時抗告をすることができないものもその対象となり得るかことから,エでは,その点も踏まえた規律を設けることを前提としております。   次に,「(3)裁判の取消し又は変更」の「ア 裁判の取消し又は変更」では,子の返還を命ずる決定が確定した後,重大な事情変更が生じて,その決定を維持することが不当と認めるに至ったときの非常の救済手段として規律を設けております。   なお,これまでこの規律を「裁判の取消し又は変更」としておりましたが,本手続で想定されます取消し又は変更の裁判は,常居所地国へ子を返還せよという主文を取り消して,子の返還を求める申立てを却下すると変更する旨の裁判でありまして,基本的に取消しのみをすることは想定し難いことから,その趣旨を正確に反映したような用語になるように改めて検討したいと考えております。   まず,①では,これまでの議論を踏まえまして,取消し変更の要件を定めております。すなわち,子の返還を命ずる決定が確定した後であること,事情の変更により,子の返還を命ずる決定を維持することが不当と認めるに至ったこと,または維持する必要が無くなったと認められること,当事者の申立てがあること,及び子が常居所地国に戻っていないこと,これらが認めるときに取消し,変更をすることができるとしております。   ②は,取消し・変更の申立書の必要的記載事項を定めるものです。この取消し・変更の手続は,子の返還を命ずる決定が確定した後の非常の救済手段であることから,同じく裁判確定後の非常の救済手段である再審の規律に倣い,理由についても必要的記載事項とすることとしております。   ③は,陳述調書についての特則を設けるものです。   ④では,取消し・変更の手続を各審級の手続に関する規律に倣うものとしておりまして,その具体的な手続としては想定されるものとしましては,部会資料11の45ページの(注3)に記載しております。   ⑤及び⑥は,取消し変更の申立てに伴う執行停止についての規律です。裁判確定後の非常の救済手段であるという性質から,再審における執行停止の要件と同様の要件としておりますが,「執行により償うことができない損害が生ずるおそれ」というのは,子の返還を命ずる決定の執行停止の場合は定型的に認められると考えられますことから,この部分は要件に含めておりません。   「イ 即時抗告」では,①で,取下げ・変更の申立てを却下又は棄却する家庭裁判所の決定に対しては,当該申立てをした者に限り,即時抗告を認めることとしております。これに対しまして,②では,取消し変更の裁判に対し,当事者に即時抗告権を認めることとしております。   「(4)再審」の「ア 再審」は,家事事件手続法第103条と同様です。   「イ 執行停止の裁判」は,家事事件手続法第104条と同様です。 ○髙橋部会長 抗告,取消し,再審。少し量が多いかもしれませんが,どこからでも。 ○山本(和)委員 38ページの上の子による即時抗告の期間なんですけれども,結局,子は告知を受ける場合もあれば,受けない場合もあるためという理由で,当事者が告知を受けた日の中で最も遅い日ということになっているんですけれども,しかし,両当事者のほうが先に告知を受けて,子が一番遅かった場合には,そうすると,子は自分が告知を受けてから2週間以内に申し立ててももう切れていますよと言われることがあるということなんですが,それはせっかく告知をするのにちょっとひどいような感じがして,例えば当事者又は子が告知を受けた日で最も遅い日という規律にするといけないんでしょうか。それでも明確な規律になるような気もするんですけれども。 ○松田関係官 子に告知した日というのが,告知できたかどうかということも含めて余り明確にきれいに判断できないところもあるので,そういう意味も含めて基準の明確性ということから,当事者を基準にすることとしております。受告知能力があるのかどうか,子が告知を受けたと評価していいのかどうかというところの認定ですとか,そういったものの認定がなかなか明確に一義的に決まらない場合もあることが想定されますので,子を含めずに他の者で基準としているということだと考えておりまして,これは家事事件手続法第172条第2項に,特に親権喪失等の取消しの審判に対する即時抗告の,子の即時抗告の起算点が,親権喪失等の審判の取消しを受ける者に告知された日を基準としていることとの関係から,本手続でも家事事件手続法の規律との平仄なども考えまして,確かに山本委員が御指摘されるように,子がせっかく告知を受けたのにという場面はあるとは思うのですが,家事事件手続法の規律との関係もありまして,ちょっと悩ましいかなと思っているところでございます。 ○相原委員 私も利害関係参加のところでそれなりの年齢とか成熟度等の上で利害関係参加していると思っていました。ですから,相当でない場合というようなことで,子の利益を害すると認める場合に関しては,一瞬そういうこともあるのかとこれを読んで思いましたが,そもそも利害関係参加までしている子の,特に自分が返還されようという内容が決まることであり,後々執行とか何かということについて,終局決定の告知ということに対して即時抗告できるかどうかに掛かってくるのかと思いますから,それなりの対応をするためには2週間という告知期間を制度化するということに意味があるのではないかなと思っております。 ○髙橋部会長 御指摘ありがとうございました。   他にいかがでしょうか。 ○大谷委員 私は質問なんですけれども,38ページの「(エ)抗告状の写しの送付等」の②で,抗告状の写しの送付の費用の予納が期間内にないときには,抗告状が却下になるという,この規律なんですが,ここで想定されている場面というのがどのようなものかというのを確認したいのと,私のほうから例を挙げての質問なんですが,相手方,返還を命じられた者が抗告した場合で,原審の申立人が外国にいる場合に,抗告状を翻訳して送付するというような場面をお考えになっているんでしょうかという質問です。 ○松田関係官 翻訳してということまでは考えていなかったです。写しを送付するのは裁判所になりますので,単に写しの送付の費用として必要なものが予納されていない,本来予納されるべきものが予納されていないときは,申立書を却下,抗告状を却下するということで考えておりました。 ○髙橋部会長 外国にいる申立人は,中央当局を送達場所とする届出もできますし,御指摘のようなことより,一般規定なのですよね,費用がないとだめですよというのはあちこちにあるのですが。 ○大谷委員 元々代理人ができれば就いていることが望ましいですし,就いていないときには中央当局を送達場所にすることができるということになってきていたのは理解しているんですけれども,私が挙げたような例が何か考えられているのかと気になったものですから質問したので,そういうことではありません。今みたいな場合には,抗告状を日本語のまま普通に中央当局に出すことになりますからというような扱いになるということなんですね。 ○松田関係官 中央当局が送達受取人になっているかどうかは別問題として,送達すべき場所に送達するだけの費用を予納してもらえればよくて,翻訳のことまではここでは含めておりません。 ○髙橋部会長 取消しのところも随分御議論いただきましたが,こういう形で。そして,初めからの公示送達は外れますので。ただ,規定の整備はまだもう少しいろいろな規定を見ないといけないかもしれませんが,大体不服申立て関係はよろしいでしょうか。   そういたしますと,履行の確保を一緒にやりましょうかね。 ○佐藤関係官 では,「履行の確保」以下について説明させていただきます。   4では,履行の確保のための手段として,いわゆる履行勧告の制度を定めております。家事事件手続法第289条とほぼ同様な規律となっておりますが,先ほども話題に出ておりました家事事件手続法で認められている,いわゆる環境調整,第289条第3項の措置については,今後,国内で安定した生活を築くのではなく,常居所地国への返還を予定している本手続においては,必要とされることが想定されないことから認めないものとしております。   なお,④に中央当局を明示的に記載するか否かについては,子の返還申立事件の手続における調査の嘱託と同じ問題があると考えております。   第3の「保全手続及び執行手続」については,全体がペンディングとなっておりますが,本日の議論を踏まえて次回までには具体的な要綱案の形にする予定でおります。   「第4 その他」,まず「1 審理の状況についての説明」ですが,1は,条約第11条第2項を具体的に担保する規定です。ハーグ条約第11条第2項は,裁判手続の開始から6週間が経過した場合には,司法当局に対し支援の理由の説明を求めることができるものとしております。そこで,ここでは,子の返還手続の申立人と中央当局は裁判手続の開始,すなわちこの返還の申立てから6週間が経過したときは,子の返還事件が係属する裁判所に対し,審理の状況について説明を求めることができるものとしております。   「2 親権者の指定等についての家事事件の取扱い」は,条約第16条を具体的に担保する規定です。   条約第16条は,子が連れ去られた国の司法当局又は行政当局に対し,不法な連れ去り又は留置があったことの通知がされたときは,子の返還に関する紛争の決着が付くまでの間,子の監護に関する実体裁判を判断することを原則として禁止しております。そこで,国内法においても,これと同旨の規定を設けることが相当ですから,監護の実体に関する紛争に該当することとなる親権者の指定若しくは変更又は子の監護に関する処分についての家事事件のほか,人事訴訟法に基づく離婚事件における附帯処分の裁判等,すなわち人事訴訟法第32条第1項及び第3項に相当するものにつきまして,連れ去り又は留置がされたことが通知された場合には,当該事件についての裁判をしてはならないものとする規律を設けております。   なお,暫定的な面会交流や養育費の取り決めに関する裁判については,中間取りまとめの際の部会において議論されましたように,子の返還までの間の暫定的な面会交流,養育費の取り決めは,子の返還の手続と並行して審理されることによって,子の有効的な返還というハーグ条約の趣旨の実現に資する面もあると考えられるため,判断が禁止されるものではないと考えております。また,条約第16条と和解調停との関係ですが,子を返還しないとする和解調停において親権者の指定等を合意することは,条約第16条に抵触しないことはもとより,子を返還するとする和解,調停においてこれを合意することも従前の部会での議論を踏まえ,なお条約第16条に抵触しないと整理しております。そのため,資料記載のブラケット部分の調停,和解は削除いただければと思います。   また,(注)の記載ですが,実際に実体判断についての事件が係属している裁判所に,子の連れ去り又は留置があったことがどのようにして通知されることを確保すべきかという点について記載しております。内容的には規則事項に属するものかと思いますので,今後検討していきたいと思っております。 ○髙橋部会長 条約第16条との関係は御議論ございましたが,関係当局の理解によるとこうだということで,たたき台は作っております。つまり抵触しない,帰った先のこともということで。今日はブラケットありますが,削除するという頭でおります。   「履行の確保」以降のところでいかがでしょうか。 ○宮城幹事 さっきの調査の嘱託のところも出てきまし,履行のところもそうですけれども,いわゆる中央当局の関与,これは入れるかどうかは別の話として,恐らく一番最初の居場所の探知から始めて,多分,中央当局と関係府省庁がいろいろ申合せをして仕組みを作るということになっていると思います。ですので,その仕組みを利用すれば二度手間が無くなるという感じがいたしますので,書くかどうかは別にいたしまして,いわゆる最初の段階で作る中央当局と関係府省庁の枠組みに乗っかれるような運用といいますか,そういったことを考えていただいたほうがいいのではないかと,これは念のためということでございます。 ○髙橋部会長 ありがとうございます。 ○山本(和)委員 最後のところですが,私は基本を分かっていないんだろうと思うのですけれども,これは裁判をしてはならないというのは,審議はできるということを包含しているということなんですね。 ○佐野関係官 条約上はそのような解釈だと思います。 ○磯谷幹事 最後の48ページの第4の2のところですけれども,これは聞き漏らしたかもしれませんが,司法当局が通知を受けた以降は,当該事件が係属している裁判所は裁判してはならないということですけれども,これは条約のほうでの司法当局というのは,特定の裁判所と理解していいのか,例えば,東京家庭裁判所が申立てを受けた場合に,他の家庭裁判所が事件が係属している場合に,要するに,通知があったということになるのかどうか。仮にそうだとすると,仮定的なお話で恐縮ですけれども,その間に何か決定がなされた場合の効果の問題はどう考えるのか,この辺りはどう考えればよろしいのでしょうか。 ○佐野関係官 一般的に条約の解釈としては,司法当局というのは個別具体的な裁判所,担当裁判所を指すものではないものと物の本には書いているので,それを前提に考えると,東京家庭裁判所に子の返還の申立てがあったときは,どこかで係っているであろう本案の裁判所も本案の判断を停止するということに一応なるのではないかと,物の本によると書いているところです。それはさておき,仮にそういうことが無視されてしまい,本案の裁判所において判断が出てしまったという場合も全くないとは言えないと思うのですが,その場合の担保としては,条約は恐らく第17条というのがありまして,第17条によると,もし本案の裁判が出てしまったとしても,ハーグの裁判所はそれを考慮してはいけませんよという規定があるので,条約17条がある意味,今のようなことのセーフガードになって働くのではないかと思います。ただ,その効力自体については,判断は出てしまっている以上,直ちに取り消される,否定されるということはなかなか言い難いのではないかと思います。 ○勝亦幹事 今の条約第16条の御指摘のありました司法当局の解釈が特定のものか全般的なものかという点に関しましては,今,佐野関係官のほうから御説明がありましたとおり,これは例えば日本における個別の個々の司法当局という特定なものを指すのではなくて,全体として日本における司法当局ということになりますから,そういう意味としてこの条約第16条の義務が掛かっている。   それから,第17条におきましては,仮に今おっしゃりましたようなケースで実際のこちらのハーグ手続とは別のところで本案に関する決定は,万が一仮に行われたようなケース等を踏まえまして,そういうものがあったとしても,それをもって返還を拒否する事由にはならない,こういう解釈になるかと思います。 ○早川委員 今の点で一つ確認なんですけれども,私が聞き落としたのかもしれませんが,具体的にはどういうふうにするのかについて何か決まっていたのでしょうか。 ○佐野関係官 その点は裁判所の規則事項的なことですので,今後追い追い事務レベルで検討されればと思っています。 ○早川委員 誰が通知を出すかは決まっているんですか。 ○佐野関係官 一応第一次的に考えられるのは,実際に裁判をやっている当事者が一番情報を持っているので,その当事者が,「私,この裁判をやっているから止めてください。」と申し出るというのが経済合理性にかなうのではないかと個人的には思っているところですけれども。 ○髙橋部会長 その辺はもう少し詰める,あるいは運用マターかもしれませんが。   他にいかがでしょうか。 ○大谷委員 すみません,ちょっと戻るんですけれども,先ほど宮城幹事がおっしゃったこととの関連で,ページで言うと29ページの下のキの「調査の嘱託等」から30ページの(注1)にかけての中央当局が嘱託先になるかどうかという点で,中央当局が外国にある証拠を情報収集することが期待されて,それが裁判所から嘱託という形で出されるということは想定されてこれまで議論してきたことかなと思うのですけれども,中央当局が子の所在確知のためにいろいろな官公庁,公私の団体等から収集した情報が漏れないことというのが,子の所在確知のためにまず情報を取ることとの関連で慎重に議論してきたところだと思います。その関係では,弁護士会の中の議論の中で,子の住所そのものは手続が必要なので,伝えることになるけれども,生の情報と言ったらおかしいんですけれども,何が取れるかにもよるんですけれども,子の所在確知のためにいろいろ周辺的な情報が中央当局に集まり,それが結局,調査嘱託という形で出てしまうということについて懸念がありました。私どものほうでも十分に詰めた議論をしているわけではないんですけれども,そうした懸念があったということだけお伝えしておきたいと思います。 ○相原委員 履行の確保の観点なんですが,これは一番最初に御提案があって,それで途中で一度消えたような気がして,それでまた是非履行の確保を入れていただきたいというようなことを申し上げた経緯があります。間接強制も前置という形で今日御提案があったと思うのですけれども,履行の確保は提案しておりますし,適切だと思っております。   ただ,その中でそれに関する勧告というのはそうなんですけれども,調査というのが割と細かく出ていまして,これは私が失念しているのかもしれないので,確認させていただきたいんですが,48ページのところで,勧告をするということは,それは子の返還についての勧告だと思うのですが,④のところですが,学校,保育所,その他,「子の生活の状況その他の事項に関して必要な報告を求めることができるものとする。」これは大体どういうことをイメージしているのでしょうか,それを教えてください。 ○佐藤関係官 調査のところまで積極的に活用することをすごく想定しているというわけではないんですが,考えられるとすれば,今,学校に通っていますか,それとも,転校手続とかを取って,もうそういう準備段階に入っていますかとか,その辺の情報は,客観的なものはこういうところから集められるということはあるのではないかと思われます。 ○髙橋部会長 それでは,全体に戻って御発言をお願いいたしますが,調停のことを大谷委員がおっしゃいましたが。 ○大谷委員 これも確認だけなんですが,22ページの②で,要するに,返還を合意したときには債務名義にすることができるという趣旨でこのような規律になっていると理解しているんですけれども,それ以外のことについては(注3)の下のほうの御説明ですと,具体的には調停事項によるということなんですが,具体的に質問したかったのは,例えば返還しないという方向で合意した場合,それはこの付調停になった,全体としてはハーグ返還手続の中で合意ができて,その効力は個々具体的によると,そういう理解でよろしいんでしょうか。 ○佐藤関係官 返還しないという場合で合意がされた場合は,正に一般の家事事件と同様に,事項ごとに執行力がある債務名義と同一の効力,若しくは確定判決と同一の効力ということになるかと思います。 ○清水委員 確認なんですけれども,付調停の場合に,いわゆる本人出頭原則というのは維持されているという理解でよいのかどうかというのを確認しておきたいんですが。 ○佐藤関係官 その点については特別の手当てをしておりませんので,その原則自体は維持されておりまして,すなわちそれが不都合な場合は和解の御利用というのが考えられるのではないかと整理しております。 ○髙橋部会長 次回また全体を見る機会はございますが,今日の段階で,この点もう少し事務当局に,検討しておくべきだというのがございましたら,是非お聞きしたいのですが。 ○棚村委員 1点だけなんですけれども,先ほど,磯谷幹事が言われた調査官の関係機関との調整ですよね。それは子どもの返還ということなので必要ないということで,調査のときはこういうような形で関係する学校とか保育所とか,そういうところに生活の状況を聞くことができる。私は,調査官というのは非常に重要な役割をすると思いますので,家事事件手続法第59条第3項,第4項の辺りを意図的に排除した理由が,調査との関係でいくと,調査と調整というのが厳密に,理論的には区別されるんですけれども,実際上はやはりそういう規定の可能性はあっても邪魔にはならないと思います。それが必要かどうかというのは,個別事案で検討する必要がありますし,ですから,そういう辺りについて私は家事事件手続法のこの部分はハーグに特殊なことだから必要ないという部分と,それから,いや,あってもそれは,使うとか使わないかは非常に例外的だけれども,中間判決のお話を聴いていても,なるほど,必要な場合があれば迅速な判断のためにこういう仕組みは置いておいてもいいだろうと,そういうことで言うと,調査官の連絡調整みたいなことについて,副次的な機能ですから,それが必要な事例というのは余りないかもしれませんけれども,その機関の独自の判断とか,そういうことを促すことによってできるのかもしれませんけれども,あえて余り外すところまで必要ないのではないかというのは私も同じ意見ですので,今後御検討ください。 ○村上関係官 先ほどの和解のところでちょっと明るくないものですから確認させていただきたいと思います。それは,本人出頭原則がある,不都合がある場合は調停よりも和解が適当ということだったのですが,これは要は,調停の期日が2回なり3回なりあったら,外国に住んでいる当事者が必ずその2回なり3回につき出頭する必要がある,そのために来日することが前提になるという理解でよろしいでしょうか。 ○佐藤関係官 調停についてはそうなります。原則ですけれども,出頭困難という場合に例外に当たるとする余地はもちろん残っております。 ○大谷委員 すみません,私が勉強不足なのかもしれないんですが,ちょっと混乱してきました。家事事件手続法で,今のお話なんですけれども,成立のときだけではなくて,毎回の期日後に本人出頭主義ってそれほど厳しく規律になっていましたか。 ○髙橋部会長 条文上は少なくとも。 ○佐藤関係官 家事事件手続法第258条第1項で準用しています第51条第2項に規定されています。 ○大谷委員 現在の現行法の下でも,それは法文の根拠があるのかとよく実務家の間で議論になっていまして,中には運用だという人もいて,私が今混乱ぎみになっているので,重要なところなので,特に外国にいる申立人にとって。また,先ほどの音声等の外国は原則できないというようなお話があったりして重要なところなので,確認させてください。 ○髙橋部会長 今日でなくともよろしいですね。 ○大谷委員 はい。 ○髙橋部会長 調べておきます。   他にはいかがでしょうか。   それでは,最後の回はある程度まとめですので,それほど実質的な審議はできないかもしれません。もちろん禁ずるわけではありませんが。そうしますと,次回が非常に重要になります。次回期日について。 ○金子幹事 では,次回の議事日程について御連絡いたします。   次回は,1月16日月曜日,1時30分から,場所は地下1階の大会議室になりますので,よろしくお願いいたします。1月の2回目が,一応この部会の最終回ということで,23日月曜日を予定しています。 ○髙橋部会長 次回で大方の議論は尽くすということで会議を持たせていただきたいと思っております。   本日も熱心な御審議どうもありがとうございました。 -了-