法制審議会会社法制部会           第17回会議議事録 第1 日 時  平成24年2月22日(水)  自 午後1時30分                        至 午後5時47分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  会社法制の見直しについて 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○岩原部会長 予定した時刻となりましたので,法制審議会会社法制部会第17回会議を開会いたします。本日もお忙しい中,御出席いただきまして,誠にありがとうございます。約2か月半ぶりの開催となりますが,よろしくお願い申し上げます。   (委員及び幹事の異動紹介につき省略) ○岩原部会長 まず,事務当局から配布資料の説明をお願いしたいと存じます。 ○坂本幹事 それでは,御説明いたします。配布資料目録と部会資料18を事前にお配りしております。部会資料18の内容につきましては,後ほど御説明させていただきます。このほか,本日の机上には,「会社法制部会の日程(予定)」と部会資料19を追加して配布させていただいております。これらにつきましても,後ほど御説明させていただきます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございました。次に,今後のスケジュールについて,事務当局から御説明があります。よろしくお願いします。 ○坂本幹事 では,御説明させていただきます。これまで,本年5月までの部会の日程についてはお知らせしておりましたが,本日席上にお配りいたしました「会社法制部会の日程(予定)」では,本年6月以降の日程を新たに記載しております。  今後の審議の予定につきましては,本日は,パブリック・コメントの手続の結果を簡単に御報告させていただき,その後,第三読会を開始させていただきたいと思います。第三読会では,中間試案におきまして,多重代表訴訟の制度を創設しないものとするというB案に付けていた(注)の具体的内容について,これまで部会においても必ずしも御議論いただいていたわけではなかったことから,まずはその点の御検討をお願いしたいと思いまして,親子会社に関する規律から取り上げさせていただいた次第でございます。親子会社に関する規律に関する個別論点について御検討いただいた後に,企業統治の在り方に関する個別論点の御検討をお願いする予定でございます。要綱案の取りまとめをお願いする時期などにつきましては,現時点では引き続き未定ということでございまして,今後の審議の状況などを見ながら,追って部会にお諮りさせていただければと考えております。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。ただ今の事務当局の御説明のとおりでよろしゅうございましょうか。  御異論はないようでございますので,そのように進めさせていただきます。どうもありがとうございます。次に,パブリック・コメントの手続の結果について,事務当局から報告をお願いいたします。 ○坂本幹事 それでは,御説明させていただきます。中間試案に対して寄せられた意見の概要につきまして,簡単に御報告させていただきます。意見の概要をまとめたものが本日机上配布いたしました部会資料19でございますので,こちらを御覧いただければと存じます。  まず,私のほうからは,意見の概要の全般的な事項について御報告させていただきます。部会資料19の1ページの(前注)に記載してございますとおり,中間試案に対しては,団体から119件,個人から72件,合計191件の御意見をお寄せいただきました。御意見の中には,当部会の委員・幹事が所属されている,あるいは関連されている団体からの御意見も含まれてございます。年末年始のお忙しい中,短時間で,かつ,詳細に御検討を頂き,また,非常に有益な御意見を頂戴いたしまして,誠にありがとうございます。この場をお借りいたしまして,御礼申し上げます。  中間試案に対して寄せられた御意見につきましては,1ページの(前注)に記載しておりますとおり,賛成や反対,その他の意見などに,私どもで適宜分類させていただいて,その理由などの概要を記載しております。寄せられた御意見は,非常に多岐かつ詳細にわたるものでございまして,また,できるだけ多くの御意見を御紹介させていただきたいということから,意見の要旨をまとめて記載させていただいております。紙幅の関係や時間の制約などによりまして,分類の方法や要約の方法,表現ぶりというところにつきましては,不十分な点あるいは不正確な点ということもあり得,もしかすると,御意見の真意を反映していないということもあり得るかもしれませんけれども,その点は,どうか御容赦いただければと思っておりますので,どうぞよろしくお願い申し上げます。  団体の御意見につきましては,部会資料19の最後に別添として付けております「意見提出団体とその略称対比表」というものに従って,賛否やその理由の箇所にその略称を付させていただいております。フルネームを挙げさせていただくと,団体名がかなり長い団体の方もいらっしゃいますので,私どものほうで適宜略称を付させていただいたということで,特に他意を持ってこの略称を考えたというものではございませんので,飽くまで,部会資料19限りの便宜的な略称ということで,御了解いただければと存じます。  なお,個別の意見につきまして,お寄せいただいた意見書そのものを御覧になりたいという方がおられましたら,私のほうから右手の窓際の段のところに4冊のファイルを用意しておりますので,これを適宜御参照いただければと思います。  全般的な事項につきましては,以上でございます。個別の論点に関する各意見の概要につきましては,関係官から御報告させていただきますけれども,御質問や御意見などは,御報告を一通りさせていただいた後にお受けしたいと思いますので,よろしくお願い申し上げます。 ○塚本関係官 それでは,まず,「第1部 企業統治の在り方」の「第1 取締役会の監督機能」の「1 社外取締役の選任の義務付け」について御報告いたします。お手元の部会資料19の1ページを御覧ください。社外取締役の選任の義務付けについては,A案からC案まで掲げておりましたが,C案に賛成する意見が最も多く寄せられました。もっとも,A案とB案のそれぞれに賛成する意見の数を合計いたしますと,社外取締役の選任を義務付けるかどうかということ自体については,これに賛成する意見の数が,現行法の規律を見直さないというC案に賛成する意見の数よりも多くございました。社外取締役の選任の義務付けに賛成する理由としましては,社外取締役には,経営全般の監督機能や利益相反の監督機能のほか,取締役会における議論の活性化やその透明性の向上を期待することができることなどが挙げられております。他方で,反対する理由といたしましては,会社の事業に精通しているわけではない社外取締役を導入することによって,直ちに監督機能が向上するとは限らないことなどが挙げられております。社外取締役の選任を義務付けるべきであるという案のうち,A案に賛成する意見は,その理由として,会社債権者の保護の観点や,B案では,対象となる株式会社の範囲が狭過ぎることなどを挙げるものがございます。これに対して,B案に賛成する意見の中には,その理由として,A案では,対象となる株式会社の範囲が広過ぎることを挙げるものがございます。さらに,A案からC案まで以外につきましても,様々な意見を頂きまして,そちらにつきましては,4ページの上のほうから,「その他の意見」として御紹介しております。この中では,選任を義務付ける社外取締役の人数につきまして,中間試案にございます一人では足りないということで,例えば,二人以上が望ましいとか,3人以上,あるいは取締役の3分の1,2分の1,過半数といった非常に多様な意見を頂いております。対象とする会社の範囲につきましても,B案では,有価証券報告書を提出しなければならない会社としておりましたが,上場会社を対象とするなど,いろいろな意見をお寄せいただいております。また,選任を義務付けること自体には賛成であるけれども,会社法ではなく,上場規則で義務付けることが望ましいといった意見も頂いております。  続きまして,「2 監査・監督委員会設置会社制度」について御報告いたします。6ページを御覧ください。まず,監査・監督委員会設置会社制度の創設については,賛否が分かれました。反対する意見の中には,その理由として,監査・監督委員会設置会社の企業統治の水準が監査役会設置会社の水準と同等かどうかが疑問であるということを挙げるものがございました。他方で,試案の内容に加えて一定の条件が満たされ,監査役会設置会社と同等以上の水準となる場合には,賛成する余地があるということで,留保付きの反対意見も複数ございます。  具体的な内容についてですが,8ページの「(1) 監査・監督委員会の設置」に対しては,基本的には,試案の内容に賛成する意見が多数ございました。意見の中には,④の会計監査人の設置につきまして,監査役会設置会社と同様に,大会社ではない監査・監督委員会設置会社には,会計監査人の設置を義務付ける必要はないのではないかという意見もございました。  次に,同じく8ページの「(2) 監査・監督委員会の構成・権限等」につきましても,基本的には,試案の内容に賛成する意見が多くございましたが,特に,②の監査・監督委員に占める社外取締役の人数につきましては,試案にあるような過半数ではなく,半数以上とすべきであるという意見を複数頂きました。試案の中で「なお検討する」としていたもののうち,まず,④の(注1)は,監査・監督委員会が選定する監査・監督委員が取締役の選解任について株主総会において意見を述べることができるものとするかどうかというものでしたが,このような意見陳述権を付与すべきであるという意見が多くございました。次に,④の(注2)は,取締役との利益相反取引について,監査・監督委員会が事前又は事後に賛成した場合に,取締役の任務懈怠の推定規定である会社法第423条第3項を適用しないものとするかどうかというものでしたが,反対の意見が多く寄せられております。また,⑤の(注)は,常勤の監査・監督委員の選定を義務付けるかどうかというものですが,賛成の意見が多数ございました。  次に,11ページの「(3) 監査・監督委員会の経営者からの独立性を確保するための仕組み」につきましては,試案にあるような株主総会選出型の内容に賛成する意見が多数ございました。他方で,試案では取り上げてはおりませんでしたが,取締役会で選定するタイプのほうがいいのではないかという意見,あるいは報酬についても,基本的に現行法下での取締役の報酬の決め方のままでいいのではないかといった意見がございました。監査・監督委員である取締役の任期につきましては,試案では,これを2年とし,それ以外の取締役は1年としておりましたが,全て1年で統一すべきであるという意見がある一方で,監査・監督委員である取締役については,2年では足らず,監査役と同じ4年とすべきであるという意見もございました。  最後に,13ページの「(4) 監査・監督委員会設置会社の取締役会における業務執行の決定」につきましては,まず,本文にございます①の重要な財産の処分及び譲受け並びに②の多額の借財の決定を取締役に委任することを認めることにつきましては,賛否が分かれております。これらの事項に加えまして,(注1)に掲げた事項の決定の委任を認めることについては,反対する意見が多く寄せられました。また,一定の要件が満たされた場合に,重要な業務執行の決定の委任を認めるという内容の(注2)でございますが,こちらにつきましても意見が分かれております。14ページのアとイそれぞれについて賛否を頂いておりますが,他方で,アやイのような要件を課すことなく,重要な業務執行の決定の委任を認めるべきである,すなわち,(注1)に掲げているような事項以外についても,特段の要件を課すことなく,取締役にその決定の委任を認めるべきであるという意見も多く頂いております。 ○宮崎関係官 続いて,15ページの「3 社外取締役及び社外監査役に関する規律」について御報告いたします。まず,「(1) 社外取締役等の要件における親会社の関係者等の取扱い」について寄せられた意見を御紹介いたします。(1)の本文については,意見が分かれておりますが,A案に賛成する意見が比較的多数寄せられております。A案に賛成する意見としては,親会社関係者や親族は,類型的に,当該会社及び経営者と利害関係を共にすると考えられ,社外役員の重要な役割である利益相反の実効的な監督機能を期待することができないなどという意見が寄せられております。これに対し,B案に賛成する意見は,まず,A案の①ア及び②アに反対する理由として,親会社関係者は,企業価値向上のインセンティブを共有しており,当該企業の業務内容等についての知識や経験を持つことから,社外取締役等としての実効性を積極的に評価すべきであるという意見が寄せられております。また,①イ及び②イに反対する理由として,単に使用人の近親者であることから,当然に株式会社の経営者からの独立性に疑義が生ずるとまで言えるか疑問があるという意見が寄せられております。また,これら以外のA案に反対する理由は,社外取締役等としてふさわしい人格・識見を備えた人材の確保は現在でも困難だが,このような見直しがされると,人材確保が更に難しくなるという意見が寄せられております。その他,A案,B案を支持する立場以外の意見として,企業の意思決定に関与しない使用人等の親族が社外取締役等に就任しても,有効な監査,監督が困難になるとは考えにくいので,「その他の使用人」は,支配人その他役員に近い影響力を有する重要な使用人に限定すべきであるなどという意見が寄せられております。続いて,19ページのA案の(注1),親会社の子会社の関係者でないものであることを追加するかどうかについて寄せられた意見を御紹介いたします。これについては,賛否が分かれておりますが,賛成する意見が多数寄せられております。賛成する意見としては,株式会社の親会社の子会社,すなわち,いわゆる兄弟会社の関係者は,当該親会社からの独立性が強く疑われる以上,社外取締役・社外監査役の要件においては,当該親会社の関係者と同等に取り扱うべきであるなどという意見が寄せられております。これに対し,反対する意見としては,当該会社と兄弟会社の関係も様々であり,画一的に取り扱うことは適切ではないなどという意見が寄せられております。A案の(注2),重要な取引先の関係者でないものであることを追加するかどうかについて寄せられた意見は,賛否が分かれておりますが,賛成する意見のほうがやや多く寄せられております。賛成する意見としては,重要な取引先等の関係者についても,取引関係を原因とする経営者への影響力を無視することはできないなどという意見が寄せられており,反対する意見としては,重要な取引先は,株式会社に重大な利害を有するため,より実効性のある監査を期待することができるなどという意見が寄せられております。また,賛成・反対以外のその他の意見としては,法的安定性を確保する観点から,「重要な取引先」の判断基準として,ある取引先に対する株式会社の売上高が一定金額以上であることなどの形式的な基準を設けるべきであるなどという意見が寄せられております。  続いて,20ページの「(2) 社外取締役等の要件に係る対象期間の限定」について寄せられた意見を御紹介いたします。これについても賛否が分かれておりますが,賛成する意見のほうがやや多く寄せられております。反対する意見としては,退任後一定期間が経過したとしても,経営者との関係が希薄になるとは考えにくいため,対象期間の限定はすべきではないなどという意見が寄せられております。その他の意見としては,社外取締役の要件の問題と連動させる論理必然性はないことから,(1)のA案を採るかどうかに関係なく見直しをすべきであるといった意見や,グローバル化が進み経営にかかる速度・技術進歩が著しい現代においては,10年は長い,上場企業の経営者がおおよそ5年から6年で交代していること等を考えると,5年程度に緩和すべきであるなどという意見が寄せられております。(2)の(注)については,反対する意見は特に寄せられませんでした。  続いて,22ページの「(3) 取締役及び監査役の責任の一部免除」について寄せられた意見を御紹介いたします。この点については,賛否が分かれております。反対する意見としては,責任限定契約の目的は,専ら,人材確保が困難な社外者の招へいにあったのであるから,それを認める範囲も,社外者に限ればそれで足りるなどという意見が寄せられております。その他の意見として,社外取締役の要件の問題と連動させる論理必然性はないことから,(1)のA案を採るかどうかに関係なく見直しをすべきであるなどという意見が寄せられております。  次に,「第2 監査役の監査機能」について寄せられた意見を御紹介いたします。まず,23ページの「1 会計監査人の選解任等に関する議案等及び報酬等の決定」については,B案に賛成する意見は少なく,A案に賛成する意見とC案に賛成する意見に分かれております。A案に賛成する意見としては,会計監査人の選解任に関する議案等及び報酬等を,会計監査人による監査を受ける立場にある取締役・取締役会が決定する仕組みは,利益の相反が生ずる可能性があり,会計監査人の独立性が損なわれるおそれがあるなどという意見が寄せられております。B案に賛成する意見としては,監査業務における監査役・監査役会又は監査委員会と会計監査人の連携を重視すれば,選解任等に関する議案等についての決定権は,監査役・監査役会又は監査委員会が有するものとするのが適切である,しかし,会計監査人の報酬等については,費用支出に関する経営判断の要素が強く,監査役らがそうした任務を果たすにふさわしいとは思われないなどという意見が寄せられております。C案に賛成する意見としては,会計監査人の独立性は,監査役・監査役会又は監査委員会が,同意権や議案提出請求権等を適切に行使することにより,十分確保することができるなどという意見が寄せられております。  次に,25ページの「2 監査の実効性を確保するための仕組み」について寄せられた意見を御紹介いたします。まず,本文については,賛否が分かれておりますが,賛成する意見が多数寄せられております。これに反対する意見としては,監査の実効性の確保は,各企業が経営のシステムの中で自主的に取り組むべき課題であるなどという意見が寄せられております。また,(注)の監査役の一部の選任議案を従業員が決定するものとするかどうかについてですが,これに反対する意見が多数寄せられております。賛成する意見としては,監査に資する情報を有する従業員と監査役との信頼関係の構築という観点から,従業員選任監査役は意義がある制度であるなどという意見が寄せられている一方,反対する意見としては,会社に対して善管注意義務を負うべき監査役について,特定のステークホルダーの代表という位置付けをすることは,他のステークホルダーとの利益相反が生じて適切ではないし,適正な監査に支障を来すおそれもあるなどという意見が寄せられております。 ○内田関係官 続きまして,28ページの「第3 資金調達の場面における企業統治の在り方」の「1 支配株主の異動を伴う第三者割当てによる募集株式の発行等」のうち,「(1) 株主総会の決議の要否」について御報告申し上げます。まず,本文については,A案に賛成という意見が多数ございました。B案に賛成する意見は,数としては少なかったということになりますが,A案と合わせますと,広い意味で何らかの規律の見直しが必要であるという趣旨の意見が,数としては多かったという整理も可能かと思います。ただし,C案に賛成する意見も相当数ございまして,この点については,意見が分かれたということになろうかと存じます。寄せられた意見のうち主なものを御紹介いたしますと,まず,A案の具体的な内容については,例えば,「取締役会が特に必要と認めるとき」という例外要件が不明確ではないかといった趣旨の御指摘があったところでございます。それから,取締役会が特に必要と認める場合には,株主が異議を述べたかどうかにかかわらず,株主総会決議の省略を認めるべきであるという方向での意見があった一方で,それとは逆に,取締役会が特に必要と認める場合には株主総会決議を省略することができる旨の例外は,そもそも認めるべきではないという意見もあるなど,A案の内容について,いろいろな意見が寄せられております。それから,B案につきましては,株主総会決議を必要とするために必要となる反対通知の数が多く,ハードルが高いのではないかといった意見もあったところでございます。また,C案に賛成する,つまり現行法の規律を見直すべきではないという見解の理由としては,株主総会決議が必要となれば,資金調達の機動性が害されるといった意見や,取引所規則等で導入されている規制の効果を検証する必要があるのではないかといった意見が寄せられています。次に,31ページの(注1)につきましては,寄せていただいた意見の数としては,規律の対象を広げるべきであるという趣旨の意見が多数でした。それから,32ページの(注2)ですが,募集新株予約権の発行等についても,同じように規律を設けるべきであるという意見が寄せられており,この点について特に異論は見られなかったところでございます。  続きまして,「(2) 情報開示の充実」については,本文,(注1)及び(注2)のいずれについても,おおむね賛成意見ということで,明確な反対意見は,ほとんどありませんでしたが,具体的な規律の内容につきましては,非上場の公開会社にまで同種の規律を適用すると,負荷が大きいのではないかといった意見も寄せられております。  続きまして,「2 株式の併合」のうち「(1) 端数となる株式の買取請求」については,36ページから意見の内容を記載しております。まず,制度の創設については,団体から寄せられた意見は,全て賛成意見でしたが,制度の設計につきましては,幾つか指摘を頂いております。例えば,①について,買取請求をすることができる株主を反対株主に限定すべきではないという意見を頂いております。他方で,この点については,反対株主以外の株主については,通常の端数処理手続に参加することで一定の保護がされ得るので,買取請求を有する株主は反対株主に限定すべきであるといった意見もあったところでございます。それから,①の(注3)は,併合の割合に応じて買取請求を認めない旨の例外を設けるべきかどうかという論点ですが,賛否両論の意見に分かれております。 ○宮崎関係官 続いて,37ページの「(2) 発行可能株式総数に関する規律」について御報告いたします。これについては,賛成する意見が多数寄せられ,特に異論はございませんでした。  次に,38ページの「3 仮装払込みによる募集株式の発行等」については,本文と(注)のいずれにつきましても,賛成する意見が多数寄せられ,いずれも異論はございませんでした。 ○髙木関係官 39ページの「4 新株予約権無償割当てに関する割当通知」については,ライツ・オファリングにおいて割当通知の期限がどれだけ弊害となっているのか慎重に検討すべきであるとの意見もありましたが,ほぼ全て賛成意見でございました。 ○塚本関係官 次に,40ページの「第2部 親子会社に関する規律」の「第1 親会社株主の保護」の「1 多重代表訴訟」について御報告いたします。まず,多重代表訴訟の制度の創設についてですが,43ページにおきまして,B案に賛成する,すなわち,当該制度を創設しないという意見の数が,当該制度を創設するというA案に賛成する意見の数を上回っております。もっとも,団体の意見だけで見ますと,A案とB案は,同数となります。A案に賛成する意見の理由といたしましては,親会社の取締役と子会社の取締役との間の人的関係などによる提訴懈怠可能性などが挙げられております。これに対しまして,B案に賛成する意見の理由としましては,子会社の取締役に問題があった場合には,内部統制システムの構築義務違反や,子会社の取締役の責任を追及しないことなどについての親会社の取締役の責任を問うことにより,親会社の株主を保護することができることなどが挙げられております。また,A案の多重代表訴訟の制度が極めて限定的な内容となっていることから,A案に反対し,むしろB案の(注)のような内容を充実させるべきであるという意見も寄せられております。  次に,44ページの多重代表訴訟の制度設計についてですが,A案の内容に対しましては,多重代表訴訟の制度の創設に反対する立場からも様々な意見が寄せられております。A案における制度設計の大きなポイントといたしましては,まず,②の提訴請求時に完全親子会社関係があることを要するというものと,④の原因行為時にいわゆる重要な子会社の取締役等であることを要するという2点がございますが,これらのいずれにつきましても,多重代表訴訟の制度の創設自体に賛成する意見からも,反対する意見が寄せられています。まず,完全親子会社関係があることにつきましては,45ページの真ん中より少し上の「②について」という箇所にございますとおり,完全子会社に限るべきでないという意見が複数寄せられております。また,④の重要性の基準は,株式の帳簿価額が親会社の総資産額の5分の1を超える場合というものでございますが,46ページの一番下の「④本文について」という箇所にございますとおり,多重代表訴訟に賛成する意見からは,むしろこのような要件を加えるべきでないという意見があり,逆に,多重代表訴訟に反対する立場からは,5分の1では低過ぎるという意見が,それぞれ主に寄せられております。次に,45ページの下の③の(注)アは,多重代表訴訟の提起権を少数株主権とするかどうかというものですが,賛否が分かれております。他方で,子会社の株主の共同の利益とならないことが明らかである場合には,提訴請求を認めないこととするかどうかという③の(注)イについては,46ページにございますとおり,反対意見が多数を占めました。  次に,多重代表訴訟の制度を創設しないこととする場合の別の方策に関するB案の(注)についてですが,48ページを御覧ください。まず,この(注)全体についてですが,(注)自体は,仮に多重代表訴訟の制度を創設しないこととする場合という記載をしておりましたが,多重代表訴訟の制度を創設するかどうかにかかわらず,つまり,多重代表訴訟を創設する場合であっても,(注)のアからエまでにあるような規律を設けるべきであるという意見を頂いております。他方で,これらの点についても慎重に検討すべきであるという意見も頂いております。次に,アからエまでのそれぞれについて,まず,49ページの「(注)アについて」というところでございますが,アは,親会社の取締役が子会社の取締役を監督する義務というものでして,賛否が分かれております。アに反対する意見は,子会社管理の在り方は様々であるため,一律の監督義務を課すことは適切でないということをその理由として挙げております。次に,50ページのイ,これは,一定の場合に親会社の取締役の任務懈怠を推定するというものについては,賛否が分かれておりまして,反対意見のほうが若干多いという状況でございます。反対の理由といたしましては,子会社取締役の責任の追及の在り方も様々であるということで,推定までするのは過剰ではないかというものでございます。ウとエも,いずれも賛否が分かれております。まず,ウの通知請求権を付与すべきであるかどうかという点につきましては,濫用の懸念などを指摘して,反対するものがございます。また,エの子会社に対する検査役の制度につきましては,現行の制度で十分ではないかという意見が多数寄せられております。以上に対して,アからエまでに賛成する意見につきましては,その理由としては,これらの規律は,親会社株主が親会社取締役の責任を追及しやすくするものであるという点に意義を見いだして,賛成するという意見が多くございました。  最後に,(後注)についてですが,52ページを御覧ください。これは,現行の会社法第851条を拡張して,株主代表訴訟がまだ係属していない段階で株式交換や株式移転が行われた場合にも,その完全子会社の元株主に株主代表訴訟の提起権を認めるべきかどうかというものでございます。これにつきましては,賛成意見が多数を占めておりまして,反対する意見はございませんでした。 ○宮崎関係官 続いて,同じく52ページの「2 親会社による子会社の株式等の譲渡」について御報告いたします。まず,本文については,賛否が分かれておりますが,賛成する意見のほうがやや多く寄せられております。反対する立場の意見としては,迅速な意思決定という企業集団における経営メリットが損なわれるなどという意見が寄せられております。また,賛成・反対以外のその他の意見としては,総資産額の5分の1という基準では,株主総会の承認が必要となる重要な子会社の範囲が狭過ぎるなどという意見や,総資産額の5分の1という基準は低過ぎるので,例えば,総資産額の3分の1といった,「投資対象の基本的な変更」と評価することができる水準に引き上げるべきであるなどという意見が寄せられております。(注1)及び(注2)につきましては,反対する意見は寄せられてはおらず,異論はございませんでした。 ○内田関係官 続きまして,「第2 子会社少数株主の保護」の「1 親会社等の責任」について御説明申し上げます。55ページですが,親会社等の責任に関する明文の規定を設けることの当否につきましては,団体の数で申し上げますと,A案とB案への賛成意見がほぼ同数となっており,意見が大きく分かれたところでございます。A案に賛成する理由といたしましては,親子会社間の利益相反取引においては,親会社が子会社の利益を犠牲にして自己の利益を図ろうとするおそれがあるといった意見や,明文の規定を設けることで子会社の利益搾取が許されないと明らかにすることは,日本の株式市場の健全性を示すために有益であるといった意見,それから,A案のような規定であれば,親会社等が支払義務を負うことになるのは,子会社を食い物にする典型的な利益相反取引に限られるので,企業集団における効率的な経営を不当に妨げるおそれもないのではないかといった意見等が寄せられているところでございます。他方で,B案に賛成する理由といたしましては,親子会社間の利益相反が本当にあるのかといった趣旨の意見や,A案は,要件が不明確であること等から,企業集団内の取引に過度な萎縮効果をもたらすのではないかといった意見があったほか,現行法上も,子会社取締役の任務懈怠責任や親会社の不法行為責任等によって子会社少数株主の保護が図られているのではないかという意見が寄せられたところでございます。その他,A案とB案のいずれに賛成する立場からも,A案の具体的な要件の在り方につき,様々な意見を頂いております。例えば,「不利益」の概念について,もう少し明確化が必要ではないかといった意見や,親会社側の主観的事情も考慮できるようにすべきではないかといった意見が寄せられたところでございます。  それから,58ページの「2 情報開示の充実」につきましては,ほとんどが賛成意見ということで,明確な反対意見は,ほとんどありませんでした。  続きまして,「第3 キャッシュ・アウト」の「1 特別支配株主による株式売渡請求等」につきましては,61ページ以降で意見を紹介しております。制度の創設につきましては,特に閉鎖型の会社における少数株主の利益への配慮等の観点から,反対する意見も一部見られましたが,賛成意見が多数でした。制度設計につきましては,例えば,①について,非公開会社等を一律の要件で対象会社に含めることに対して慎重な姿勢を示す意見が見られました。この点については,制度創設に反対する意見の中にも,同様の観点からのものがあったところです。それから,⑪の(注)は,取得日後も一定期間は価格決定の申立てを認めるべきかどうかという論点ですが,これに対しては,認めるべきだという賛成意見と,認めるべきでないという反対意見がそれぞれ出ておりまして,意見が分かれているところかと存じます。それから,その他の関連意見といたしましては,この制度の導入に伴って,併せてセル・アウトの制度も検討されるべきであるという意見も頂いているところでございます。 ○髙木関係官 続いて,65ページの「2 全部取得条項付種類株式の取得に関する規律」の「(1) 情報開示の充実」は,全て賛成意見でした。ただし,更に取得対価の算定方法や考え方,第三者による株価算定書等も開示対象とすべきであるとの意見がありました。また,新たにキャッシュ・アウト制度が設けられるのであれば,全部取得条項付種類株式の取得等の既存のキャッシュ・アウト制度について,禁止又は制限すべきであるとの意見がありました。  66ページの「(2) 取得の価格の決定の申立てに関する規律」は,賛成意見が大多数でした。ただし,①について,公告による通知の代替を認めるべきではないとの意見が複数ありました。  67ページの「3 その他の事項」は,実務への影響に十分な配慮が必要であるとの意見もありましたが,他は,全て賛成意見でした。  なお,中間試案では掲げなかった「その他の事項」として,キャッシュ・アウトのための株主総会の決議要件について,総株主の議決権の90%以上の賛成や,いわゆるマジョリティー・オブ・マイノリティーの賛成を要件とすべきとの意見がありました。  続いて,「第4 組織再編における株式買取請求等」に関する意見を御紹介します。68ページの「1 買取口座の創設」は,賛成意見が多数を占めました。  69ページの「2 株式買取請求に係る株式等に係る価格決定前の支払制度」についても,賛成意見が大多数でした。2の(注4)は,頂いた意見の中では,株式買取請求をした後は,反対株主は剰余金配当受領権を有しないものとすべきとの意見が多数でした。  71ページの「3 簡易組織再編等における株式買取請求」は,反対意見もありましたが,賛成意見が多数を占めました。反対意見の主なものとしては,簡易組織再編の要件を満たす場合であっても,株主に影響が生ずるおそれがあるとの意見がありました。  同じく71ページの(後注)は,賛否が分かれました。賛成意見の主なものとしては,組織再編の具体的条件の公告の後に株式を取得し,その後,株主総会で反対して株式買取請求をすることは,株式買取請求権の本質的な利用ではないとの意見がありました。これに対して,反対意見の主なものとしては,不当な組織再編に対する抑止的効果の観点から株式買取請求権を否定すべきではないとする意見のほか,既に株主である者が株式を買い増し,株主総会で反対して株式買取請求をすることは不当ではないとの意見がありました。  73ページの「第5 組織再編等の差止請求」について,明文の規定を設けるかどうかに関しては,A案に賛成する意見とB案に賛成する意見が分かれました。A案に賛成する意見の主なものとしては,組織再編の効力を事後的に否定することは,法律関係を錯綜させるおそれがあるという意見や,現行法の下では,株主が組織再編を差し止めることが困難であるという意見がありました。B案に賛成する意見の主なものとしては,組織再編に対する萎縮的効果や濫用の危険を指摘する意見のほか,現行法の下でも少数株主の保護が図られているとの意見がありました。A案の(注1)については,(注1)に掲げる事由を差止事由とすべきという意見と,すべきでないという意見に分かれました。また,本文のA案に賛成する意見の中でも,差止事由を手続的な違法事由に限定すべきであるとの意見がありました。(注1)に掲げる事由を差止事由とすべきとする意見の主なものとしては,実務で問題とされるのは,組織再編の対価の公正であるとの意見がありました。これに対して,差止事由とすべきでないとする意見の主なものとしては,裁判所において短期間での判断が必要となるという意見や,この場面における少数株主の保護は,株式買取請求権で十分であるとの意見がありました。 ○宮崎関係官 続いて,76ページの「第6 会社分割等における債権者の保護」のうち,「1 詐害的な会社分割における債権者の保護」について御紹介いたします。民法上の詐害行為取消権に加えて,会社法において,承継会社等への直接の支払請求権を認めることは,詐害性のない会社分割を利用した組織再編への悪影響が大きいという理由で反対する意見もございましたが,賛成する意見が多数寄せられております。ただし,反対する意見以外にも,具体的な制度設計について,様々な意見を頂いております。例えば,①の「害することを知って」については,「詐害の認識」だけでは不足であり,「債務の全額を弁済することができないことの認識」を追加すべきであるなどという意見や,①の責任限度額については,「承継した財産の価額を限度として」という責任限度額を設けるべきではないなどという意見が寄せられております。また,①の吸収分割承継会社の悪意を要件とすることについては,「残存債権者を害すべき事実」とは,その時点での清算価値を下回ることとすべきであるなどという意見が寄せられております。また,②の権利の行使期間につきましては,会社分割をしたことを知った時から2年,会社分割の効力が生じた時から20年とすることは,利害関係者が多数に上る可能性がある会社に関するものとしては長過ぎるなどという意見が寄せられております。①の(注),いわゆる人的分割をする場合には,①の規律を適用しないものとすることについてですが,これに反対する意見は寄せられておらず,異論はございませんでした。1の(注),事業譲渡についても,①及び②と同様の規律を設けるものとすることについては,賛否が分かれてはおりますが,賛成する意見のほうがやや多く寄せられております。これに反対する意見としては,事業譲渡については,現在と同様に,民法の詐害行為取消権に委ねることで足りる,包括承継である会社分割と特定承継である事業譲渡は,相応に別異に扱われるべきであるなどという意見が寄せられております。  続いて,78ページの「2 不法行為債権者の保護」についても,賛成する意見が多数寄せられております。反対する意見としては,会社分割時に定めた債務移転の範囲とは無関係に,不法行為債権者は,分割会社と承継会社の双方に債務の履行を請求することができるとすれば,移転債務の範囲をいつまでも確定することができず,実務上の弊害が生ずるなどという意見が寄せられております。  79ページの(後注),従業員の意見等を開示するものとするかどうかという点についてですが,反対する意見が多数寄せられております。賛成する意見としては,組織再編等に関する労働組合への情報提供はされているものの,情報提供は事後的である点について課題を提起する声が多く出されている,また,組織再編や事業譲渡を従業員がどう考えているかは,その後の企業価値にとって大きな影響を有しているなどという意見が寄せられております。反対する意見としては,様々な利害関係人のうち従業員についてのみこのような手続を設ける根拠が十分ではないなどという意見や,従業員の意見の集約に時間的・手続的コストを要し,迅速な組織再編の実現を困難にするなどの懸念があるなどという意見が寄せられております。 ○内田関係官 続きまして,「第3部 その他」の「第1 金融商品取引法上の規制に違反した者による議決権行使の差止請求」についてですが,寄せられた意見の内容は,81ページ以降で御紹介しております。本文について,すなわち,このような制度を作ること自体については,数の上では賛成意見が多数でしたが,反対意見も見られました。反対意見の主な理由としては,金融商品取引法上の規制の違反に対しては,同法上の制裁措置によって対処するほうが望ましいといった意見のほか,差止請求の要件・効果が不明確なのではないかといった,制度設計に対する懸念を示す意見もあったところでございます。それから,賛否を明示しない立場からも,具体的な要件・効果の在り方について,様々な意見が寄せられております。株主総会の運営に混乱を生じさせないように慎重な検討を要するという趣旨の意見も頂いております。それから,(注1)につきましては,本文のような制度を作るのであれば,強制的全部勧誘義務の違反も同様に差止めの対象とすべきであるという意見があり,この点について特に異論はなかったところでございます。(注2)の,会社自身にも差止請求権を認めるべきかどうかという論点については,意見が分かれております。反対意見の理由といたしましては,濫用的な利用のおそれが挙げられております。また,(注4)につきましては,差止めを認める以上は,差止めの対象となる議決権は定足数から除外すべきであるという意見があった一方で,残存株主のみによる株主総会決議の効果について懸念を示す意見もありました。 ○宮崎関係官 次に,83ページの「第2 株主名簿等の閲覧等の請求の拒絶事由」ですが,本文につきましては,賛否が分かれておりますが,賛成する意見のほうが多く寄せられております。反対する意見としては,競業者による会社の資本政策や取引関係等に係る情報の把握が懸念されるなどという意見が寄せられております。(注)の会社法第125条第3項第1号及び第2号並びに第252条第3項第1号及び第2号の文言を見直すべきかどうかという点については,賛否が分かれておりますが,反対する意見のほうがやや多く寄せられております。見直すことに賛成する意見としては,濫用的な請求が例外的に排除されることを法文で明確化すべきであるなどという意見があり,反対する意見としては,会社法第125条第3項第1号及び第2号については,権利の濫用に当たる場合を確認的に規定したものであることから,見直しの必要性は認められないなどという意見が寄せられております。  続いて,86ページ以下の「第3 その他」について御報告いたします。まず,「1 募集株式が譲渡制限株式である場合等の総数引受契約」についてですが,本文については,賛成する意見が多数寄せられ,異論はございませんでした。1の(注)の,募集新株予約権を引き受けようとする者がその総数の引受けを行う契約を締結する場合であって,当該募集新株予約権が譲渡制限新株予約権であるとき等についても,同様の規律を設けるものとするという点につきましても,反対する意見はございませんでした。  次に,「2 監査役の監査の範囲に関する登記」については,賛否が分かれておりますが,賛成する意見のほうが多く寄せられております。反対する意見としては,監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会社は,中小企業が多く,中小企業にとって負担が増すなどという意見が寄せられております。賛成・反対以外のその他の意見としては,変更の登記が必要となる会社が多数に上ることが予想されるため,その負担に配慮した経過措置等を検討すべきであるなどという意見が寄せられております。  最後に,87ページの「3 いわゆる人的分割における準備金の計上」,「4 発行可能株式総数に関する規律」については,いずれも,賛成する意見が多数寄せられておりまして,異論はございませんでした。 ○岩原部会長 どうもありがとうございました。ただ今の御報告につきまして,御質問や御意見等ございますでしょうか。  よろしいですか。大部なものでございますし,すぐには御意見等はないかもしれませんが,よろしいでしょうか。それでは,パブリック・コメントの手続の結果については,以上とさせていただきたいと存じます。  それでは,本日の御議論をお願いしたいと存じます。ここから,第三読会に入らせていただきます。まず,部会資料18の「第1 親会社株主の保護」の「1 多重代表訴訟の制度の創設以外の見直し」から始めたいと存じます。まず,事務当局から説明をお願いいたします。 ○塚本関係官 それでは,第1のうち「1 多重代表訴訟の制度の創設以外の見直し」について御説明いたします。当部会においては,多重代表訴訟の制度は,飽くまでも,親会社株主の保護の手段にすぎず,仮に同制度を創設しないこととするとしても,それは,親会社株主の保護という観点から,親子会社に関する規律を見直す必要は一切ないということを直ちに意味するわけではないとの指摘がされております。このような指摘を踏まえ,中間試案第2部第1の1では,B案の(注)として,仮に多重代表訴訟の制度を創設しないこととする場合における親会社株主の保護のための規律の見直しを例示いたしましたが,その具体的な内容については,部会において必ずしも御議論を頂いていたわけではなく,また,そもそもそのような多重代表訴訟の制度の創設以外の見直しの要否についても御議論を頂いていたわけではございません。そこで,1では,そのような見直しの要否及び必要であるとした場合におけるその具体的な内容を検討することとしています。  まず,本文の(1)は,親会社の取締役会が子会社を監督する義務を負う旨の明文の規定を設けることについて問うものでございます。これは,中間試案において,B案の(注)のアとして掲げていたものでございます。パブリック・コメントでは,これに対して賛否両論に分かれましたが,反対する意見の中には,一律の監督義務を課すことは適切でないとの意見などが出されています。そこで,(1)では,この点を踏まえ,企業集団ごと及び子会社ごとに監督の在り方は様々であり,親会社の取締役会に一定の裁量が認められることを明らかにするために,中間試案から文言を変え,株式会社及びその子会社から成る企業集団における重要性,株式の所有の態様その他の事情に応じて,子会社を監督するものとしております。このような考慮要素の中には,株式の所有目的も含まれ得るものと思われます。子会社に対する親会社の取締役会の監督義務の内容としては,例えば,内部統制システムの構築の一環として,当該親会社及びその子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制を構築することや,子会社の取締役等に任務懈怠があった場合,その是正のための措置やその責任の追及に係る対応を取ることなどが考えられます。  次に,本文の(2)の①から③までは,中間試案のB案の(注)のイからエまでに掲げていたもので,パブリック・コメントでは賛否両論の意見が出されましたが,中間試案から,内容は変更しておりません。まず,①のような推定規定については,子会社の取締役等に任務懈怠があった場合に,親会社がその責任を追及するためにいかなる措置を取ることが原則として求められるかを検討した上で,親会社の取締役の任務懈怠の推定の前提となる事実を類型化・具体化する必要があります。次に,②のような親会社に対する通知請求権を親会社株主に付与することについては,親会社が子会社の取締役等の責任の追及について適切に対応することを促すなどの機能を期待することができると考えられますが,濫用のおそれにも配慮しつつ,その当否を検討する必要があります。③は,親会社の業務執行についての不正行為等の有無にかかわらず,子会社自体の業務執行について不正行為等がある場合に,子会社の業務執行に関する検査役の選任申立権を親会社株主に認めるものですが,現行の検査役制度に加えてこのような検査役制度を設けることの当否については,その目的・趣旨を踏まえ,検討する必要があります。 ○岩原部会長 どうもありがとうございました。これは,中間試案において,多重代表訴訟制度を創設しないというB案の(注)として記載されたものでございますが,部会では,具体的な内容について必ずしも御議論を頂いていたわけではございませんので,今回改めて御検討をお願いするものであります。(1)と(2)を一括して,御議論をお願いしたいと思います。いかがでしょうか。 ○杉村委員 (1)と(2)の両方ということで,少し長くなってしまうかもしれませんが,経済界の考えを述べさせていただきたいと思います。まず,(1)につきまして,部会資料18の提案は,先ほど御説明があったように,中間試案からは変更されたということでございますけれども,それを踏まえましても,このような形での明文の規定を設けることには反対でございます。以下,理由を述べます。  まず,(1)は,取締役会は子会社の業務を監督しなければならないとなっておりまして,これを見ますと,全ての子会社を監督の義務の対象にする規定と捉えられます。しかしながら,現行法の下での内部統制システム等により子会社を適切に管理するということと,ここにあります自社の取締役の職務執行に対するような監督とは,必ずしも同じものではないと思います。子会社の中にも,ベンチャー投資的なケースもありますし,一般的な子会社のケースでも,何十,何百と保有する子会社の中には,その運営については,基本的には自主性に委ねているといった管理の形態もあるわけでございまして,これらを指して,ここでいう監督ということが言えるのかという疑問がございます。(1)の責任の明確化の意図が,現行の内部統制,あるいは親会社取締役の善管注意義務を超える責任を課すということになるのであれば,現行の枠組みを変えてしまう大きな変更ではないかと存じます。さらに,(1)は,先ほど御説明がありましたとおり,「当該株式会社及びその子会社から成る企業集団における重要性,株式の所有の態様その他の事情に応じて」ということで,一定の裁量が認められる提案であるとは理解しておりますけれども,それぞれの子会社に対してどの程度の監督を行えばその義務を遂行したことになるのかということは,不明確であります。このことから,本来裁量の範囲と評価できる場合であっても,外形上子会社に何か損害があれば,監督義務違反ということで,濫用的な訴訟提起も含め,拡大して利用されることが懸念されます。また,明文で規定を設けるとなれば,親会社への作用としまして,必要以上に子会社の経営に干渉することにもつながりかねませんので,本来期待される子会社の自主性が損なわれることになるという問題もありますし,グループ経営そのものに対する萎縮効果も懸念されます。  (2)についても続けて発言させていただきます。まず,(2)の①の親会社取締役の任務懈怠を推定するということでありますけれども,その前提になります,責任を追及するための必要な措置の範囲が不明確ということは否めないと思います。親会社取締役が子会社取締役の責任を追及する場合でも,状況に応じまして,損害賠償のみならず,人事異動や報酬返上など,様々な方法を採る場合があり,こういったものがどこまで必要な措置として考慮されるか不明であります。そのようなことを条文として明確化して整理することができるのかということについても,疑問を持っています。また,現行法上,子会社取締役には,責任の免除も認められている中で,子会社取締役の責任の追及をするか否かというのは,一切の事情を考慮して総合的に判断するものでありますし,例えば,再発防止策を導入するとか,あるいは内部統制システムを充実させるという措置のほうが,グループの価値を高めるように作用するケースもございます。部会資料18にございますような,原則として損害賠償等の措置を求めることは適切ではないと思います。原則としてこうだというのは,有事の際の対応の柔軟性を失わせる結果につながりかねませんので,①については,慎重な検討が必要だと思います。②につきましても,「疑うに足りる事由」となりますと,通知請求できる場面が余りにも広く,いたずらに濫用の危険性や会社の対応の負担が増す可能性が考えられます。さらに,「当該責任の追及に係る対応及びその理由等」とありますけれども,この内容は,場合によっては極めて守秘性の高いグループの経営の情報を含む可能性もありますので,株主からの通知請求であったとしても,安易に通知できるものではないのではないかと存じます。そのため,②に関しましても,慎重な検討が必要だと思います。③につきましては,部会資料18にも記載がございますとおり,現行法の下でも,検査役は,子会社の業務及び財産の状況を調査することができますので,現行の制度に加えてこの新しい提案を検討することの必要性については,やはり検討が必要と考えております。 ○伊藤委員 杉村委員同様,経済界としての意見について,(1)と(2)についてお話をさせていただきます。まず,(1)についてですけれども,部会資料18にあるような明文の規定を設けるべきではないと思います。部会資料18に書かれておりますように,子会社の重要性に応じて,監視とか管理の内容というのが異なるのは当然であると思います。ここに,「監督」という言葉が入っているため,結果的に,重要でない子会社についても積極的なモニタリング等の行為が要求されるように読み取れます。これは,子会社に裁量を与えて自由にやらせてみるという実務を否定するようなものではないかと思います。企業の分社政策に多大な影響を及ぼすものではないのかと大変懸念しております。仮に重要であった場合に,どこまで監督しなければいけないのか,重要でない場合に,どの程度の監督でいいのか,「監督」という言葉が非常に緻密な子会社経営への関与を経営者に要求するものであって,これに伴う萎縮効果に十分に配慮が必要ではないかと思います。企業が分社政策を採る際には,意思決定を迅速化して,経営のスピードを速くすることを目的としております。このように分社政策に影響を及ぼす可能性がある規定は導入すべきではないと考えております。  それから,(2)について申し上げます。(2)の①につきまして,明文の規定を設けることは,有害であり,これには強く反対いたします。親会社は,子会社の取締役が損害を与えた場合,グループ全体として企業価値の増大を図るという観点から,人事権を背景とした更迭や異動,それから減俸などをもって内部統制の建て直しを図ることが多くあります。つまり,親会社は様々な手段のうち最適な手段で内部統制を行っております。子会社の取締役に,株主として損害賠償を請求するのは,最後の手段であると考えます。部会資料18の(2)の①のような安易な推定規定を置くと,子会社に損害が発生する場合,親会社が子会社の取締役を提訴することが増えると思われますが,そのことが長期的な企業価値の増大に役立つとは思われません。推定規定は,親会社の裁量を奪うものでありまして,①の規定を設けることには反対であると考えております。 ○前田委員 まず,(1)のような明文規定を置くことの意味なのですけれども,これが,コスト等から見て,たとえ親会社の最善の利益にならない場合であっても,親会社取締役会が監督義務を負うことを意味するのだとしますと,このような規定を設けることは,単に現行法の親会社取締役の親会社に対する善管注意義務の内容をふえんするにはとどまらない,それを超えた新たな義務を課すということになるのだと思われ,その意味で,実益のある提案であると思います。ただ,監督義務があるとは言いましても,ただ今杉村委員,伊藤委員から御懸念のあったところではありますけれども,具体的に何をどこまでどう監督するかは,結局は,親会社取締役による子会社株式の管理であって,親会社取締役に広範な裁量が認められる事項です。ですから,監督義務があるとは言いましても,適正な監督がされなかったときに,親会社取締役が責任を負うことは現実には考えにくいと思われ,ひいては子会社取締役に対する規律付けも弱いものになってこざるを得ないと思います。ですから,(1)の案そのものには何ら反対ではないのですけれども,それほど大きな意味を持つ規定ではないと思いますので,これを置くからといって多重代表訴訟制度を無しにしていいかというと,それには疑問を感じます。多重代表訴訟制度無しに(1)だけですと,子会社取締役に対する規律付けが弱過ぎるのではないかと思います。  (2)のほうで,親会社株主の立証責任の負担を軽減したり,あるいは情報収集を容易にしたりして,親会社取締役の責任追及を容易にする工夫をしてみましても,事が子会社株式の管理という広範な裁量の認められる事項についての取締役の責任ですので,そう大きな意味はないのではないか,例えば,子会社で不祥事があったときに,子会社取締役に対してはしかるべき報酬の減額をしましたとか,あるいはしかるべき降格をしましたと親会社取締役が言えば,親会社取締役の責任を問うことは,通常は困難だと考えられます。ですから,(2)につきましても,それぞれの提案に異論はないのですけれども,親会社取締役を介した子会社取締役に対する規律付けでは弱いのであって,これがあるから多重代表訴訟を無しにしようという方向の議論になるのであれば,それについては疑問を感じます。 ○静委員 (1)は,私どもが中間試案の取りまとめに際して御提案差し上げたものを改良していただいたものだと思いますので,一言意見を申し上げたいと思います。結論から申し上げますと,部会資料18にあるように,取締役会の子会社に対する監督義務を明定するという方向でいいのではないかと思います。部会資料18の中でも紹介されておりますように,現行会社法で親会社の取締役が子会社を直接―細かいところではないのでしょうけれども―高い立場から監督するということが既に想定されているということはそのとおりではないかと思いますし,先ほど出ておりました企業集団としての内部統制について取締役会で決議するという定めから見ても,そういうことは読み取れるのではないかと思います。会社法を離れて考えてみましても,企業集団の中で親会社が子会社を含めて全体の業務執行を大きな目で監督するというのは,今や当然だと思いますし,実態にも合っているのではないかと思います。そのように考えますと,子会社の取締役の任務懈怠で企業集団ないしは子会社の利益が害されたといった場合には,親会社が,部会資料18にありますように,是正措置をとったり,あるいは責任追及をしたりということを通じて監督責任を果たすというのは,大変自然なことではないかと思います。実際に,私どものマーケットで起こっている事例でも,創業家が支配力に物を言わせて子会社から引き出したお金を私的に流用するといった最近の例もあるわけです。例えば,これをどうするのかといったことを考えたときに,資金を渡した子会社の取締役を「返せ,返せ」と責めるよりも,むしろ親会社の取締役の責任として,こういうことが起こらないような是正措置を取っていただくほうが,親子の取締役の関係を考えても公平なようにも思えますし,再発防止にも効果的ではないかと思いますので,私は,現行規定からそう飛び出さない範囲で子会社に対する監督義務を明定するという方針については,賛成したいと思います。 ○太田委員 (1)と(2)を通してお話ししたいと思います。まず,(1)の子会社の監督について,親会社取締役会に対して一定の裁量権を付与するか否かと,その明文化について述べます。今更申し上げるまでもなく,いわゆる連結経営の時代にあって,親会社の取締役が子会社を監督して,企業集団としての最大価値を目指すということは,極めて当然の企業実態になっているわけです。したがいまして,資本市場も,連結ベースでの企業価値を評価しているということだろうと思います。しかしながら,その企業集団,企業グループの中にあって,子会社の管理は,必ずしも一様ではありません。企業集団ごとに様々な業種・業態がありますけれども,実効性のある手法が現実的に工夫されているというのが実態だろうと思います。したがいまして,親会社の取締役に子会社の監督責任を求めるという明文規定を新設するということに対しては,一般論として慎重であるべきではないかと思います。さらに,明文規定を設けるとした場合ですが,その場合にあっても,企業集団における子会社の位置付けと,これに応じた一定の裁量があってしかるべきだと思いますので,親会社の取締役会に一定の裁量権が認められるということを明確にした今回の部会資料18の(1)程度の表現は,私は,極めて好ましい,望ましいと思っております。逆に言えば,重要性に係る判断が各企業集団に任されていることを押さえているから,望ましいのではないかと考えるわけです。ただ,先ほどの前田委員の指摘の中で,私がちょっと引っ掛かったのは,この明文化,明定化することは,従前から認められている取締役の監督義務に新たな義務を課すのであるという解釈がされるのだという言われ方をされたように聞いたのですが,本当に新しい何を課そうとしているのか,逆に言えば,監査役の立場からは,そのことをどのように見ていくのかということについて,後ほど解説をお願いできればと思います。私どもの理解では,新たな義務を課すものでは必ずしもないという前提で理解されるべきものではないかと思っておりますので質問をさせていただきます。  続いて,2点目を申し上げます。親会社取締役の任務懈怠の推定及び理由の通知請求権の付与に関しまして,一つずつ申し上げたいと思います。まず,任務懈怠の推定に関しましては,先ほども触れましたように,親子会社間の関係というのは様々でありまして,子会社の取締役等が親会社の従業員であることも,実際は多いわけです。したがって,いきなり損害を賠償させるといった措置を取ることを原則とするというのは,実務の感覚から見ますと,大変違和感のあるところであります。親会社は,逆に子会社に対して損害賠償を求めなければ,親会社取締役の任務懈怠が推定されるということになるわけですから,本来,親会社の取締役は,企業集団全体にとって望ましい措置を講ずるべき,又はそのように平常は行動するわけですけれども,損害賠償請求以外の措置を取った場合には,株主代表訴訟が提起されるという可能性も出てくるわけで,こうした事態を招くということは,親会社の監査役にとっても,実務上極めて不都合があると懸念するところであります。そもそも,この本文にも書かれていますけれども,類型化とか具体化というのは,極めて難しいことでして,推定規定を設けることが,企業集団,企業グループにとって本当に最適な措置を取るということを妨げる懸念があるのではないかということを申し上げておきたいと思います。もう一点,②の理由の通知請求権の付与に関してなのですけれども,部会資料18でも指摘されておりますように,親会社株主による濫用のおそれ,これはやはり否定できないと思います。したがいまして,全ての株主の権限とするのではなく,一定の株式の所有要件を課す,具体的に言えば,少数株主権とするということが適当なのではないかと考えるものです。例えば,③の項目に書かれておりますけれども,検査役制度の要件との平仄も踏まえるとすれば,総株主の議決権の100分の3以上といった具体的な基準を設けていくといったことが実践的な解決策になるのではないかと思います。  それと,あと1点だけ。多重代表訴訟制度の創設以外のケースには限らないわけですけれども,企業集団における情報開示の充実,このことは,私どもは,極めて大事だと思っております。部会資料18の2ページ目にも書かれていますが,企業集団における内部統制システムの構築にとどまらずに,その運用状況の概要などを事業報告の内容とするということは,子会社に対する親会社取締役会の監督義務の内容としては極めて適切であると思っておりますということを最後に付け加えておきたいと思います。 ○神作幹事 第1の1の(1)を中心にコメントをさせていただきたいと思います。会社法制部会で議論されてきた親会社株主の保護というときに念頭に置いてきた典型的な例は,純粋持株会社等の株主が経済的・実質的には子会社に対し投資をしているほどの重要な業務を子会社が行っているような場合であると理解しています。このような場合には,正に子会社の経営者が任務懈怠等を行うことによって親会社の株主も損害を被る関係にあると思われます。また,例えば,定款に,株式の所有を通じてある事業を営む旨の規定が置かれているような場合には,すなわちその会社は元々子会社を通じてある一定の業務を行うということを定款上想定している場合においては,親会社の株主は,親会社の経営者が子会社の業務について適切な監督,コントロールを行うであろうということは,当然に期待しているのではないかと思われます。そのような観点からいたしますと,第1の1の(1)にございますように,「企業集団における重要性」とか,「株式の所有の態様等」によっては,親会社が子会社の業務について合理的な監督義務を負うということを一般的に規定することは,意味があるように思われます。ただ,他方で,多くの委員・幹事の方が指摘されたように,親子会社における監督の在り方というのは,多様であるべきであり,相当の柔軟性を確保しなければなりませんので,補足説明にありますように,基本的には,グループレベルでの内部統制体制,リスク管理体制を通じてコントロールしていく,つまり,監督の在り方についてその内容にまで立ち入って法律で具体的・明確に規定するということはしないで,少なくとも組織的な対応をしてもらうという方向の義務付けをすることにとどめ,後は解釈論によって対処することが適切であるように思われます。  細かな問題になりますけれども,その場合に少し気になりますのは,例えば,親子会社関係だけではなくて,孫会社等を含めて,階層構造が構成されているときに,中間的な親会社についてもそのような監督義務が生ずるのかという点です。私の直感的な感想にすぎませんけれども,今申し上げたような意味での監督義務というのは,トップの親会社にのみ認められるべきものなのではないか,その辺りについて更に検討する必要があるのではないかと思われます。他方,先ほど杉村委員も御指摘になりましたけれども,監督に藉口して,逆に,子会社に対して,子会社の経営に対する健全な監督を超えた不当な影響力の行使や指図を行うことも考えられるかと思います。恐らく,この点は,会社法の前提としては,子会社であっても,子会社の経営者は,子会社の利益のために行動すべきでありますから,親会社から,そういった,監督に藉口した不当なコントロール等あるいは指図等が行われたときには,当然にそれを拒絶すべきであると思われますが,そのことは改めて確認しておく必要があるのではないかと思ったところでございます。最後に,前田委員が御指摘になったように,(1)を入れたら,(2)の措置は不要かというと,そうではなく,特に,(2)のうちの②や③は,前向きに,(1)に加えて検討していく必要があるのではないかと思っております。 ○田中幹事 私も,第1,1の(1)の案について意見を述べさせていただきます。実は,私は,昨年の中間試案の取りまとめのための議論に当たり,事務当局が,部会の委員・幹事に,多重代表訴訟以外の規律の見直しについてのアイデアを募集したときに,この案に相当する意見に近いものを出しましたものですから,その意見をどういう動機で出したかといったことも含めて御説明したいと思います。この案が,そもそも現行法の義務を何か変えるもの,つまり,現行法の義務よりももっと広い義務を課すものになっているかどうかという点については,私自身の考えでは,特にそれはそういう趣旨ではない,現行法の義務を確認したものであろうと考えております。それは,株式会社の取締役というのは,会社の財産を管理してその価値を維持・向上させるという義務を負っていると考えられますところを,子会社の株式というのも会社の財産の一部でありますから,その財産を維持・向上する義務がある,その場合,どのようにそれを維持・向上するかということは,株式所有の形態によって様々ではありますけれども,子会社に相当する株式を持っていれば,それは,相当の範囲で子会社の業務を監督し,子会社の業務を通じて財産価値を維持・向上させていくということになるのではないかと考えていたわけであります。しかしながら,このような解釈は,従来必ずしも一致して認められてきたわけではなかったわけです。特に,部会資料18の補足説明で引用されている裁判例は,下級審判決であり,しかも,事例判決であって,果たして一般論としてそれほどまでに先例的な重要性を持っているかどうかは不明ではありますけれども,少なくとも一般論だけからすると,親会社の取締役というのは,子会社に対して積極的に指図をして違法な行為を行わせたといった場合を除いては,子会社に損害が生じても,親会社取締役は,親会社取締役としての善管注意義務に違反しないという裁判例があるわけであります。そのような裁判例については,二つの問題が起きてくるだろうと考えております。一つは,その裁判例は,改正前商法時代の裁判例であるわけですけれども,少なくとも現行の会社法の下では,取締役会が内部統制システムについて決定する際には,親会社及び子会社を含めた企業集団に関する業務の適正についてもこれを決定することになっております。しかし,省令というのは,飽くまで,法律の委任に基づいて,法律上の義務を具体化するためにそういった義務を負わせているはずですから,仮に,親会社の取締役に先ほど言ったような積極的に指図して違法な行為をさせること以外は何の義務も負っていないということになりますと,現行の省令の下で企業集団の業務適正について子会社も含めて何らかの決定をしろというのは,法律の委任に基づかない違法な省令になってしまうという可能性があるということです。しかし,恐らく,あの省令は,現在の企業集団の実務を普通に反映して,当然今でもそういう決定をしているはずだから,それについて明示的に決定して開示してくださいというだけの話であって,決して,あれが新たな義務を課したとは考えられていないと思います。ですから,そういう意味で,ちょっと実務と,少なくとも裁判例に表れた法理との乖離が生じてしまっているのではないかという懸念が一つあったということです。それからもう一つは,昨今の企業不祥事がありまして,その中で,子会社に親会社の役員が指図して不当な貸付けなどをさせたということがあったわけです。これは,不当な貸付けをさせた役員自身は,先ほど言った裁判例でも,自ら違法な指図を行っているわけですから,責任を負わされてしかるべきであるわけですけれども,そのような違法な貸付けが行われていることを,特に子会社管理を担当しているような取締役が知った場合にこれを放置した,という場合であっても,その裁判例を文字どおり適用しますと,何の義務違反の責任も負わないことになってしまうのではないか,つまり,そのような解釈によると,昨今行われていたような企業不祥事に対して,現行の会社法が適切に対処できないのではないかという疑問があったということです。  そのようなことから,決してそれはそういうことではないと,適切に解釈すれば,親会社は,子会社の業務に関しても,相当な範囲で監視の義務を負っているのであって,少なくとも,子会社で違法な不正な行為が行われていることを知り,あるいは違法なことが行われていると疑われる事由を知りながらそれを放置していた場合には,監視義務違反の責任を負うことが十分あるのだということを明確化するような規定を置くのが望ましいのではないか,そういう趣旨で提案させていただいたという経緯がございます。そういうことですので,私自身も,親会社の取締役会が子会社の業務をどのように行っていくかについて,あれやこれやと子会社に口出しをしなければならないとは決して考えていなかったわけで,子会社の管理というのは多様なものがあるわけですから,それについては当然相当な裁量の範囲が認められるであろうと思います。しかし,そうであっても,やはり,親会社の取締役会は子会社の管理について何らかの義務を負うと言わなければいけないのです。義務を負うと言いませんと,子会社の管理が幾ら多様であっても,義務を負わないのであれば,何をしようとしまいと,例えば,違法なことが行われていて放置していても,義務がないのですから,何の責任もないということになってしまうわけです。むしろ義務を負っていると言ったほうが,その義務の内容は十分な裁量が働くのだから,責任を負わされるのは飽くまで非常に不相当な場合に限られるのだという解釈ができるわけであります。  ただ,一点だけ,この現在の提案内容について意見を申し上げれば,「取締役会は」という部分とその最後の部分をつなげると,「取締役会は業務を監督しなければならない」となって,そうすると,様々な事情に応じて,その範囲は様々ではあるけれども,結局監督しなければならないのではないかという批判が出てくるのではないかということです。これについては,恐らく,子会社といっても,それは本当に企業集団に組み込んで,企業集団の経営政策の中で事業をやっていってほしいというものと,法律上は子会社なのだけれども,それは飽くまでも投資目的で株式を保有しているにすぎない,したがって,その子会社については飽くまで株主としての権限行使しか予定していないといったものもあると思います。私は,後者のようなものも「業務の監督」と言っていいのだと考えています。提案に対する批判の中で,「監督」というのは非常に強いものを想定していると,本当に手取り足取り指図するようなものを想定していると考えられているような人もいるようですけれども,私は,民法の議論は知りませんが,会社法で「監督」といった場合は,必ずしもそういうものではないと考えております。例えば,株主権の中で共益権というのは,しばしば,会社の業務を「監督」する株主の権利だと説明しているのでして,株主は,取締役の一々の行動を指図することはもちろんできないのですが,それでも「監督」という言葉を使うのです。ですから,例えば,投資の目的で子会社の株式を保有しているのだ,したがって,それは,株主総会における権利行使と,非常に子会社が業績が悪くなったら株式を売るとか,その程度のことしか想定していなくても,それはその程度のことをするというのが相当な判断であって,それも,「業務の監督」に含まれると思っております。そこまでこの「業務の監督」というものを広く解釈できるのであれば,基本的には,この文言によって現行法の解釈を確認したと考えて差し支えないのではないかと私は考えております。 ○安達委員 私は,今回の多重代表訴訟制度の創設しない場合の規律ということに関しましては,いろいろな議論があることは十分承知しておりますけれども,非常に先鋭的かつ弊害が多い改正案ではないかと思います。ある意味では,多重代表訴訟を創設しない場合の規律ということですから,私が勝手に解釈したわけですが,これは,何か交換条件,すなわち,創設するA案のほうがメリットが多いからと,誘導するようにも私は感じております。あえて,国の基本法である会社法にここまで手当てする必要があるかということに関しては,強く違和感を覚えております。これに関しては,十分慎重に議論していただいて御判断いただきたいと私は思っております。先ほどありました杉村委員,伊藤委員の御意見のとおりですので,同じことは繰り返しません。ここでは特に(1)に関しまして,二つばかり,私なりの理由付けを申し上げたいと思います。まず,この御提案では,公開・未公開又は上場・非上場に関係ないと私は解釈していますので,全ての会社に適用される前提で考えますと,今の田中幹事の言葉にありましたように,「監督」という言葉の意味付けもいろいろと議論はあるとは思います。一般的には,「その他の事情に応じて,その業務を監督」となりますと,人によってはかなり幅広く解釈されます。例えば,先ほど杉村委員の発言に「ベンチャー投資」という言葉があったと思います。たまたま卑近な例で申し上げますと,我々ベンチャーキャピタルのステークホルダーは,もちろん親会社もありますけれども,外部のいろいろな方の資金も入っておりますので,当然その判断においては,親会社の利益相反を排除するということが非常に重要な事項になっております。この利益相反ということと,親会社からの監督ということが,利益が必ずしも一致せずコンフリクトを起こす可能性が常に存在すると考えられます。ベンチャー投資は飽くまで一例であって,その他にも監督という概念がなじまない例はいろいろあると思います。一律に,定義が非常に幅広い解釈をされる「監督」という言葉を使った規定を基本法に設けることに対しては非常に抵抗感があります。したがいまして,慎重に検討してほしいということが私の意見であります。それと,もう一つ加えますと,再三この部会でも申し上げておりますM&Aのことです。M&Aは,一つの例ですけれども,これが日本の経済の活性化,特に競合過多あるいは同一業種において過当競争している分野に対して構造変化をもたらす効果があります。これは,ベンチャーにおいても全く同じことが言えます。これを,M&Aという手段を使って,企業再編といいますか,産業を再編する必要性が求められているにもかかわらず,こういう規定が仮に法律になりますと,買収企業から見て,非常にやりづらくなることは必至です。つまり,M&Aを阻害するといいますか,萎縮効果を与える可能性が高く,繰り返しになりますが,慎重にも慎重に御判断いただきたいというのが私の意見でございます。 ○三原幹事 3点ほど確認させていただきたいと思います。部会資料18の1ページ目,(1)のところでは,「企業集団における重要性,株式の所有の態様その他の事情に応じて」と書いてありまして,その御説明が,部会資料18の2ページ目の真ん中の「そこで」と書いてあるパラグラフにありますが,子会社の監督の在り方は,企業集団ごとに様々であり,位置付けに応じた一定の裁量があるということは,今まで御議論がありましたとおり,法務省でも御認識になっておられると思います。その上で,この「重要性,株式の所有の態様その他の事情に応じて」というワーディングが記載され,部会資料18の2ページ目で,「例えば,本文の(1)のような文言とすることが考えられる」という御提案のようですから,ここでの議論は,法文上こういう文言になるという考え方ないしは想定であると捉えてよろしいでしょうか。つまり,現行会社法362条2項2号は,御提案のような「何かに応じて」という規定ではなくて,単に「取締役の職務の執行の監督」と規定され,これに対して現在の提案は,例えば,「何かに応じて」ということを文言として入れる法文を想定するイメージでお考えになっているのではないかと思っておりますが,その理解でよろしいでしょうか。それが1点目です。  それから,同じく部会資料18の(1)に「重要性」と「所有の態様」とありますところ,重要性ということは,多重代表訴訟制度におけるA案の場合には,5分の1という要件があるのに対し,恐らく,この重要性に応じてということになりますと,(1)では,5分の1の要件ということは当てはまらないという御提案と理解します。それから,所有の態様という記載がありますので,多重代表訴訟のA案であれば,100%子会社に限られますけれども,所有の態様に応じてということは,少数株主がいる場合も含むということでしょうから,(1)というのは,多重代表訴訟で考えているよりも,基準の点の5分の1と,所有の100%かどうかという両方においても,制限がない,つまり全部の場合を含むという理解でこれは議論しているということでしょうか。当然なのかもしれませんが,確認させていただきたいと思います。  それから,部会資料18の2ページ目の真ん中辺りに「一定の裁量が親会社の取締役会に認められることを明らかにするため」とありますところ,この裁量というのは,先ほど現行法を変えない,うんぬんというお話がありましたけれども,それと併せて考えますと,経営判断の原則が,この裁量ということの意味とほぼイコールだと考えていいのでしょうか。つまり,単なる裁量があるのか,いわゆる経営判断の原則という意味での適用を考えての「一定の裁量」があることを「明らかにするため」というこのパラグラフでの議論がされているのかということ,この(1)の内容というのは,議論の対象をもう少し明確にしたいということがありまして,お尋ねする次第です。  それから,部会資料18の1ページ目の(2)の①に関してですが,2ページ目の一番下のパラグラフにあります「任務懈怠の推定の前提となる事実を類型化・具体化する必要がある」という御提案でございます。この類型化につきましては,またこれを言うとちょっと怒られたりするのかもしれませんが,法律での規定をお考えか,それとも施行規則に委任するのかということで,また問題が出てきてしまうかもしれないのですけれども,どのようなレベル感でこの類型化を行うのかについて,何かお考えがあるのであれば教えていただきたいと思います。  それから,(2)の①の3行目に,「追及するための必要な措置をとらないときは」とある点ですが,この必要な措置につきましては,3ページ目の一番上に「当該子会社に生じた損害を賠償させるための措置が考えられる」とあります。これは,例えば,訴訟をしなければ,つまり,親会社が子会社に対して何らかの訴訟を提起しなければいけないなど,そういう明らかな行為が必要なのか,それとも,そうではなくて,単に処分,更迭又は減俸その他のことも含むのか,こういったことはどのように考えればよいのか,例えばでいいのですが,もしお考えがあれば教えていただければ,更に議論の対象が定まるのかなと思ってお伺いする次第です。 ○塚本関係官 ただ今の三原幹事からの御質問のうち,1点目の(1)の文言については,実際に条文として定めるときに,(1)にあるような具体的な考慮要素を法律に掲げたほうがいいであろうと考えております。  次に,子会社の範囲については,御指摘のとおり,多重代表訴訟とは異なりまして,完全親子会社関係に限られるわけではなく,また,5分の1超などの基準による重要な子会社に限られるわけでもなく,監督の程度はもちろん様々あり得ると考えていますが,子会社である以上は,基本的には一定程度の監督をしなければならないであろうということで,部会資料18を作成しております。  経営判断原則についての御質問ですが,部会資料18の補足説明にある監督についての「裁量」のイメージというのは,一般に言われているような経営判断原則と基本的には同じであろうと考えております。  (2)の①について,「必要な措置」を法律で書くのか,それとも省令に委任するのかという御質問ですが,法律上の推定の前提事実ということになりますので,①のような規律を設けるとした場合には,法律で定めるということになろうかと思います。  また,①に関連して,損害賠償についての御質問ですが,①では,「必要な措置」ということを仮置きで書いていますが,実際に①のような規律を入れるとした場合には,もっと具体的な前提事実を定める必要があると思っております。そこで,部会資料18の2ページから3ページにかけて,補足説明では,飽くまでも,「例えば」ということで,損害を賠償させるということを挙げていますが,その場合における任務懈怠の推定に対する反証としては,子会社の当該取締役を更迭したとか,減俸・減給処分にしたといったことが考え得るかと思っております。もし,「必要な措置」という文言で前提事実が定められるとした場合,減給や更迭でも,「必要な措置」として足りるかどうかという点は,解釈の問題にはなりますが,これらが当然に入らないということで部会資料18の3ページの記載をしているわけではございません。 ○前田委員 先ほど,太田委員から,(1)の案が,親会社取締役の善管注意義務の内容を具体化したものにすぎないのか,それを超えるものなのかということについて御指摘を頂きましたので,ごく簡単に補足させていただきたいと思います。現行法の下でも,親会社取締役は,親会社の最善の利益になるように子会社株式を管理しなければいけない,そして,子会社株式の管理の中に子会社の業務に対する監督が含まれる,ここまでは,恐らくは異論のないところではないかと私は理解しておりました。この(1)の規定は,親会社の利益になるかどうかにかかわらず監督義務を課すという点で,現行法の善管注意義務の内容を超える部分があるのではないかと考えて,先ほど意見を申し上げたところですけれども,この点については,先ほど田中幹事から御指摘がございましたように,現行法の下での義務を確認するにすぎないという読み方もあり得ると思って,御意見をお聞きしていたところです。 ○田中幹事 ちょっと確認したいのですが,親会社の利益にならなくても,子会社の業務を監督するというのが,この提案の趣旨になるのだという御意見でしょうか。 ○前田委員 こういう明文規定を置くのだとすると,提案の趣旨をそう考えれば,規定を置く意味,つまり実益が出てくると思ったのですが。 ○田中幹事 この規定にいう「その他の事情に応じて」というのは,それが親会社の利益になるかどうかという観点から,いろいろな事情を考慮する,という解釈になるのではないでしょうか。少なくとも私は,親会社の利益の有無にかかわらず,子会社の業務を監督しなければならないとは考えておりません。もちろん,例えば,子会社に指図して,親会社の利益になるけれども子会社の不利益になるような取引をどんどんさせるといったことが,親会社の取締役会の義務になるといった解釈はもとより考えられないわけですが,それは,そのようなことをすれば,子会社少数株主らから責任を追及されるおそれがありますから,結局,それは,親会社の利益にはならないので,そういった形での監督はもとよりすべきではないし,この条文も,そういうことを考えているわけではないと思います。一般的には,様々な事情に応じて監督するというのは,それが親会社の利益になるという観点から監督するということになるのではないか,そして,先ほどの三原幹事の言葉で言えば,どういう方法が親会社の利益になるかというのは,それは,基本的には,親会社取締役の経営判断の問題であって,経営判断原則が働くものだと考えております。 ○本渡委員 まず,1の最初に,「仮に多重代表訴訟の制度を創設しないこととする場合における」と書いてありますが,(1)の業務の監督をする義務を課すということですけれども,これは,多重代表訴訟を創設することと,この規定を設けることとは全く相反しないことであって,この規定は,私の感覚から言いますと,現在の実務において当然入ってしかるべき規定だと思います。それはなぜかと言いますと,現在の親子会社間においては,監督というか,管理しているわけですが,現在の法律を見ますと,結局,株主としての権利しかないわけです。つまり,100%子会社であれば,臨時株主総会を開いて,自分の言うことを聞かない取締役は解任できる,だから,選任・解任権を通じて事実上管理しているわけです。そのため,現在の実務に適合するように法律で明確に監督できますという規定を設けることは,非常にいいことで,私は,基本的にこれには賛成しています。  それと同時に,ただ,これは,確かにこういう一般規定なので,一般規定だけだと,今ここでおっしゃっているような解釈がそのまま当てはまるとは思いますが,ちょっと心配なので,この補足説明のほうに書いてあるように,内部統制システムを構築する義務―これは,もう現在ありますが―,その運用状況の概要を取締役及び監査役のほうで調査して,それで何か問題があれば,それに対して適切に対処するといったことが,この義務の主たる内容ですということが分かるような条文も,要するに具体的に,監督義務というのはこういうのが基本ですといったことも書いてもらえれば有り難いかなという気がしております。 ○上村委員 いろいろ御意見が出ておりましたけれども,今,現に全社的内部統制というのはやっているわけです。しかし,私は,昔から疑問に思っていたのは,親会社が子会社に対して指揮命令権も何もないのに,なぜ,全社的内部統制を親が子に対してやれと言えるのだろうか。これは,先ほど田中幹事がおっしゃっていた疑問とも共通しているかもしれませんけれども,でも,現実にやっているわけです。では,その根拠はどこにあるかと言いますと,金商法の内部統制の内閣府令で,企業会計審議会で定めた準則によりやればよいとされていまして,要は企業会計審議会で作った準則によって全社的内部統制をやっているわけです。もうこうなっている以上は,これは,裁判になれば,子会社の内部統制の状況が非常に悪ければ,その状況に責任を持っているのは親会社ですから,当然,その親会社のほうに責任がいくというのは,黙っていてもそういう判例は近いのではないかと思っています。ですから,例えば,お隣におられる太田委員がおっしゃっていましたけれども,監査役が子会社調査権を行使した際に,子会社の内部統制の状況がこんなのでは困ると思ったときに,金商法の全社的内部統制という企業会計審議会のルールをやりなさいというのでは,根拠は非常に弱いのです。ですから,会社法のガバナンスの問題としてこの状況をきちんと受け止めて,親会社に子会社に対する監督ですか,監督ということは半分は指揮命令権のようなものがあるという感じだと思いますが,そういうものがあって,そして,監査役としても,親会社としてきちんと子会社の内部統制を監督してくださいと言えるようになるわけです。ですから,そういう意味では,現在の全社的内部統制を現にやるという状況を皆さん受け入れているわけですから,それをガバナンスの問題としてきちんと正面から受け止めるというのは,私は,当然のことだと思っております。  それから,多重代表訴訟が認められたとしましても,これは,かなり要件が絞られたものになりそうであります。したがって,それが認められたとしても,そのコントロールが及ばない子会社というのは当然あるわけで,しかし,その子会社には少数株主も債権者もいるわけです。そして,そうした人々にとっては,取締役の任務懈怠の重要性には何も変わりがないわけです。したがって,多重代表訴訟がA案で認められたとしても,一般的な制度の充実というのは図っておく必要があって,そういう意味では,多重代表訴訟を認めた上で,B案の(注)にあるような一般的な制度の充実をきちんと図っておくということが非常に必要であり,望ましいと思います。部会資料18の1の書き方は,「創設以外の」となっていますけれども,最初は,多重代表訴訟でA案の提案がされて,何もしないというB案があったのですが,このB案というのが余りにも味気ないので,(注)が付いた。(注)が付いてみたら,A案もできた,B案も充実したということになれば,これは,大変すばらしい流れではないかと思います。そういう意味では,私は,A案はA案できちんとやった上で,しかし,これには相当漏れがあるわけですから,B案の(注)に掲げられたことをも充実させるということには全面的に賛成であります。 ○中東幹事 先ほど,これは,多重代表訴訟の話と交換条件ではないかという話もありましたが,私は,研究者の委員・幹事の中で恐らくは一人だけ,多重代表訴訟制度の創設に消極的な意見を述べましたので,気楽に発言させていただきます。先ほど来,本渡委員を始め,皆様からありましたように,(1)の内容について理解いたしますと,これは,現行法の義務と何ら変わらないと思います。それを前提としまして,先ほどから伺っていますと,反対されている方には,経済界の方が多くいらっしゃるわけですが,中身が同じなのに,会社法で規定するということになると,非常に反対されるとも理解できそうです。これによって,何ら実質を変えずに,緊張感を持ちやすくなるということでもあろうと思いまして,そうなのでしたら,これを明文で定めることについては賛成でございます。  私自身は,これこそが大事だと思っているのですが,太田委員あるいは神作幹事がおっしゃいましたように,開示がやはり重要であると思っております。取り分け,私は,(2)の②,③に関心がございます。②につきましては,太田委員がおっしゃいましたように,無節操に使われると非常に困るということも分かるのですが,他方で,もし株主総会において,実際に取締役に説明義務が生じることになった場合には,たとえ一株持っている株主が行った質問に対しても丁寧に説明しなければなりません。ただ,期中に頻繁に請求されると大変だろうとは思いますので,その点を考慮するのであれば,例えばですが,提案権並びの少数株主権にするということもあり得べしかとは思っております。提案権の要件を満たす株主が期中に通知を受けて,内容に不満であれば,次の株主総会で取締役の解任等を提案するという枠組みも,考えられるとは思います。  ③につきまして,このようなものはなくてもいいのではないか,現行法で十分ではないかという見方もあり,この規律の存在意義ということでございます。現行法ですと,当該会社についての業務執行に関して不正な行為又は法令・定款違反の重大な事実があることを疑うに足りる事由の存在が疎明されなければ,検査役の選任の申立ては認められません。そうなりますと,ここではまず,親会社の取締役が子会社を監督していないことについて,法令違反の重大な事実等があることを疑うに足りる事由を疎明しなければならなくなります。その上で,検査役は,職務を行うため必要があるときは,子会社を調査することができるという,間接的な方法になります。むしろ,子会社に法令違反の重大な事実等があると疑われるのであれば,まず,子会社を調査することができることとして,その結果に基づいて,親会社の取締役に監視等に任務懈怠があったかどうかを検討する,こういう手順になるのが直接的であると思われます。このような意味において,この③を加える意義があると考えております。  最後に,これも,太田委員に大賛成なのでございますが,部会資料18では別のところで書かれているわけですけれども,グループ全体の内部統制の運用について,事業報告等で開示させるということにつきまして,大賛成でございます。 ○岡崎幹事 (2)の①の規律の趣旨について,お尋ねしたいと思います。ここでは,親会社が子会社の取締役の責任を追及するための必要な措置を取らないときに,一定の推定をするということになっているわけですが,その必要な措置というのは,親会社に損害が生じた後でとる措置だということを前提にしたものと読めるわけです。親会社に損害が生じた後に一定の必要な措置を取らないときに,任務懈怠が推定されるという趣旨と思われます。そうすると,そこでいう任務懈怠の結果,親会社の取締役が一定の責任を追及されるということが前提なのだと思いますが,そこで,親会社の取締役が追及される責任におけるその損害というのが何なのかというところがよく分からないと思った次第でございます。既に親会社に損害が生じていて,子会社の取締役に対して責任追及をする,これによって何か一定の損害が回復するということがあるというのを前提にされているのか。要するに,例えば,損害賠償請求をして,子会社の取締役から一定の金銭を取り立てて,これができなかったことが損害になるのか,それとも,当初親会社に発生した損害そのものを問題にする趣旨なのか,このような損害との関係で,任務懈怠が何を意味しているのかというところについて教えていただければと思います。 ○塚本関係官 ①の「損害」についてですけれども,基本的な発想としては,子会社の取締役に何か問題があり,それによって子会社に損害が生じ,更にその結果,親会社にも損害が生じた,典型的には,親会社が持っている子会社の株式の価値が下落したというものです。そのような,親会社にも損害が生じたということを前提として,親会社の取締役の任務懈怠を推定するというものでございます。中間試案の補足説明でも書きましたが,そういった関係にあるときには,逆に,子会社に生じた損害を賠償させれば,親会社の損害も回復されるという関係にあると考えられるということで,それにもかかわらず,親会社の取締役が何もしていないということになると,子会社の取締役の責任を追及するための必要な措置を取らないということが,親会社の取締役としての任務懈怠になるという理解です。 ○岡崎幹事 任務懈怠のところは分かるのですけれども,そうすると,子会社の取締役の責任を仮に追及したとして,それで回復されない場合もあり得るわけです。要は,今御提案の補足説明の中でも,「例えば」ということで,子会社に生じた損害を賠償させるための措置というのが挙がっているわけですけれども,先ほどの議論の中では,例えば,解任するとか,配置替えをするとか,その辺りも含むかのように聞こえるわけですが,仮に配置替えをしたところで,既に発生してしまっている子会社なり親会社の損害が回復されるわけではないわけです。そのときに,この任務懈怠と親会社の取締役の責任というのがどういうものになるのかという質問なんですが。 ○坂本幹事 今の御質問は,結局のところ,任務懈怠が何ぞやという問題に収れんしてくると思います。すなわち,適切な措置を取ったか,取らなかったかということ自体が任務懈怠があったかどうかということになりますので,例えば,解任という子会社の損害を金銭的な形では回復できない措置を取った場合に,それが任務懈怠に当たるかどうかということが問題になり,そのような措置が,例えば,不祥事の程度や子会社の位置付け等に照らして適切なものであったということであれば,それは,任務懈怠に当たらないことになってくるという整理になろうかと思います。 ○岩原部会長 ここで書かれているのは,正に,任務懈怠なのかどうかということです。任務懈怠の効果は,親会社の取締役の責任の問題だけに終わるわけではございませんので,例えば,親会社の取締役の解任事由にも挙げられることになります。そういう他の効果も出てきますので,ここで書かれている任務懈怠は,損害賠償にすぐに結び付かなくても,意味はあり得るところだろうと理解しております。よろしいでしょうか。 ○岡崎幹事 分かりました。 ○荒谷委員 私も皆さんと同じなのですけれども,意見が分かれているようですので,私の意見を一言言っておいたほうがよいかなと思いまして。私が率直に思いますのは,多重代表訴訟に反対される方の御意見を伺っておりますと,おおむね皆さんおっしゃることは,現行法の下でも,親会社の取締役は子会社に対する監視義務を負っているとか,内部統制などを通じて子会社を管理しているので,子会社に問題があった場合には,親会社は,子会社に対して適切な措置を講じ,場合によっては,株主として取締役の責任を追及することができるので,それで十分なのだという説明をされるのですけれども,よく考えてみますと,現行法では,そもそも親会社の取締役が子会社の業務執行について義務を負っているという明文の規定はございません。そうしますと,本来,親会社と子会社は別法人ですから,先ほどからお話に出ておりますように,子会社の業務について親会社あるいは親会社の取締役は子会社に対して監視義務はないということになります。そうしますと,親会社は,子会社に対して支配権・管理権は持っているけれど,任務懈怠責任を問えるような明確な義務はないということになりますので,親会社の株主が親会社の取締役の子会社に対する管理責任等を追及することはなかなか難しいといことになります。実際なかなか訴訟にならないのは,こうした理由からではないかと私は常々思っております。ですから,多重代表訴訟を導入するかどうかは別として,少なくとも,多重代表訴訟に反対されている方が,現行法の下でも親会社の株主は子会社に対する親会社取締役の責任を十分追及できるのだと言うのであれば,こうした義務が親会社の取締役にあるということを明文化していないだけということになりますから,恐れるに足らず,日ごろおっしゃっていること,つまり親会社の取締役は子会社に対して監視義務があるのだということを明文で確認するにすぎないのだと,気軽に考えていただければよいのではないかと思いますが。今まで議論してきたことはそういうことではないかと私は考えてきたところです。ただ,「監督」という言葉は多義的で人によって受け取り方も様々でありますし,非常に響きが強いので,この「監督」という言葉を別の適切な言葉に置き換えれば,問題は解決するのではないかという気がいたします。また,部会資料18の御提案ですと,「重要性,株式の所有の態様その他の事情に応じて」という言葉を入れてくださっておりますので,この監視義務が仮に明文化されたとしても,経営判断の問題として十分対応できると思いますので,恐らく導入に反対されている方にとっても,それほど恐れるに足るものではないと私自身は考えております。  それから,(2)の②につきましても,私は,この規定を設けることには,非常に賛成なのですけれども,濫用の懸念があるということは確かですので,少数株主権にするなど濫用的な行使を防ぐ手立てを講じた上で,これを導入することに前向きであってほしいというのが私の意見でございます。 ○杉村委員 先ほど長く話した後にもう一度発言させていただき恐縮ですが,どうしても一言申し上げたいと思います。確かに,これまで多重代表訴訟の反対論として,荒谷委員御指摘のように,親会社がしっかり管理しているということを申し上げてまいりました。管理という言い方をしたかもしれませんし,監督という言い方だったかもしれませんが,そういう意味では,現在何もやっていないということを言うつもりはありません。実態としても,内部統制でやっているということは,当然認められることだと思います。しかしながら,今日の議論でもありましたように,親会社取締役会による監督の明文規定を設けるということが,現行法の解釈がそのまま明文化されるだけだから安心だろうという議論に収れんするのかという疑問があります。また,規定が拡大して適用される懸念もあり,それはある意味では,濫用の危険性につながりますし,あるいは企業にとっての萎縮効果ということも問題となると思います。そのような観点から,反対を申し上げたということでございます。その意味では,今日考え方を改めたということではありませんで,今までの延長線上で意見を申し上げたということでございます。 ○塚本関係官 (1)についていろいろ御議論を頂いたところでございまして,杉村委員からは懸念を御指摘いただきましたが,(1)の子会社の「業務を監督」という言葉が,やや多義的であるかもしれませんが,基本的には,今日の御議論の中でも出ておりましたとおり,現行法上考えられている義務に何らかの義務を加重するということまでは意図していません。そのことは,補足説明にも記載したつもりでございます。他方で,では,監督義務が解釈上認められているのであれば,わざわざ明文化する必要はないではないかという御指摘もあるかもしれませんが,補足説明にも挙げました平成13年の東京地裁の裁判例がやや独り歩きをしているところもあり,解釈論としてなかなかはっきりしないという問題もあり得るため,(1)のような明文の規定で改めて確認することとしてはどうかということで,御議論をお願いしたものでございます。 ○岩原部会長 よろしいでしょうか。今までの御議論を伺っていまして,違った御意見も若干はございましたが,基本的には,賛成意見も反対意見もそれほど違ったことを言っているわけではないように思っています。子会社というものも,株を持っている親会社の資産の一部でありますから,その資産を持っている目的に従った管理をする義務が親会社の取締役にあることは恐らく当然だと,従来も考えられてきたと思います。しかし,先ほどのような下級審判決もありましたので,それをはっきりさせる規定を入れてはどうかというのがこの御提案ではないかと思います。本渡委員御指摘のように,B案の(注)は,本来,A案と矛盾するものではないと,私もそのように思っています。ただ,少なくともB案を主張されるのであれば,その意図をはっきりさせるためには,(注)のように明文化したほうが,B案の主張がよりはっきりするのではないでしょうかというのは,正に,荒谷委員御指摘のとおりかと思います。後は,御懸念を表明されました委員・幹事の方の御懸念がなるべく生じないような形で法文化するなどの努力をする必要があると思いますけれども,B案の(注)について,実体のところでは,それほど大きい意見の違いはないのではないかという感じを持っております。そのような感じで,よろしいでしょうか。  それでは,ここで休憩といたしたいと思います。           (休     憩) ○岩原部会長 時間ですので,再開させていただきたいと思います。次は,第1の「2 多重代表訴訟」について,(1)から(3)まで一括して,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○塚本関係官 それでは,「2 多重代表訴訟」について御説明いたします。多重代表訴訟の制度の創設の当否については,当部会において意見が分かれていたことから,試案第2部第1の1においては,同制度を創設するものとするA案と,これを創設しないものとするB案を掲げていました。先ほど御報告申し上げましたとおり,パブリック・コメントにおいても,団体からの意見の数は,A案とB案で同数となるなど,大きく意見が分かれる結果となっております。2では,仮に多重代表訴訟の制度を創設することとする場合における具体的な制度設計について,主に,中間試案のA案において,なお検討するものとしていた事項を取り上げております。  まず,「(1) 提訴権が認められる親会社株主」は,多重代表訴訟の提起権が認められる親会社株主に関するものです。本文の①の多重代表訴訟の提起権を少数株主権とすること及び本文の②の,親会社の株主は,多重代表訴訟が子会社の利益とならないことが明らかであると認められる場合には,提訴請求をすることができないものとすることは,それぞれ中間試案のA案の③の(注)ア及びイにおいて,なお検討することとしていたものです。本文の②は,趣旨をより明確にするため,中間試案における文言から変更しております。本文の③は,パブリック・コメントにおいて,親会社株主が提訴請求をすることができない場合として,多重代表訴訟が当該親会社に損害を加えることを目的とする場合を加えるべきであるとの意見が出されていることを踏まえたものでございます。その当否を検討するに当たっては,具体的にいかなる場合に,多重代表訴訟の対象となる権利の主体ではない親会社に,同訴訟によって損害が生ずると考えられるか,検討する必要がございます。  次に,「(2) 多重代表訴訟の対象となる子会社の範囲」は,中間試案のA案④に関するものです。本文の①は,親会社が間接的に有する子会社の株式の帳簿価額の算定方法が過度に複雑なものとなることを避けるため,子会社の取締役等の責任の原因である事実が生じた日において,A案④にあるような5分の1超の要件を満たすだけでなく,完全親子会社関係があることをも要するものとするとともに,間接保有分の株式の帳簿価額について,当該株式を直接有する法人等,すなわち中間子会社における帳簿価額を足し合わせるものとすることを提案しています。次に,本文の②のように5分の1超という基準を引き上げることの当否については,親子会社関係の実態も踏まえて,検討する必要があると思われます。  最後に,「(3) その他の事項」は,パブリック・コメントの手続において寄せられた意見を踏まえたものであり,最終完全親会社が多重代表訴訟の対象とされている完全子会社の株主でない場合であっても,当該訴訟に補助参加することはできるものとすることについて問うものでございます。なお,これに関連して,最終完全親会社が完全子会社の株式を直接有している場合と間接的に有している場合のいずれであっても,完全子会社の取締役等の側に補助参加するには,監査役等の同意を得なければならないものとすることなどが考えられます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございました。多重代表訴訟制度の創設の当否につきましては,部会におきまして,大変御意見が分かれているところではございますが,本日は,仮に当該制度を創設するとした場合における具体的な制度設計について御議論いただきたいと思います。まずは,「(1) 提訴権が認められる親会社株主」について,いかがでございましょうか。 ○杉村委員 多重代表訴訟の導入自体は,経済界としまして反対という立場でございます。他方,今,岩原部会長からございましたように,仮に導入する場合の議論ということで発言させていただきます。(1)の①に関しましては,まず第1に,親会社の株主と子会社の関係というのは,親会社を通じた間接的なものであるということ,第2に,多重代表訴訟という制度は諸外国でも余り例のない制度ということで,親会社株主による介入を政策的に認めるのであれば,親会社の価値に大きな利害関係を有する株主に限定すべきであるということ,第3に,通常の株主代表訴訟制度につきましても,日本の制度は,諸外国に比べて提訴のハードルが低く,濫訴防止の必要性というものが指摘されているという実態があることなどを踏まえまして,①は,100分の1以上という提案でございますが,更により大きな割合の少数株主権とすべきであると思われます。それから,②あるいは③に関しましても,会社の価値の保護の必要性あるいは濫訴防止の観点ということから,手当てが必要ではないかと思います。なお,③の親会社に損害を加える目的の訴訟の具体的なケースに関して若干付言いたしますと,例えば,親会社あるいは親会社を中心としたグループ全体のレピュテーションの低下を狙ったような訴権の濫用や,親会社あるいはグループに関する経営情報や営業秘密の取得を主眼とする訴訟が想定されます。 ○前田委員 (1)の①から③は,提訴請求権の濫用を抑えるための措置であって,確かに,多重代表訴訟の原告は,通常の代表訴訟の原告とは違いまして,株式保有が間接的にはなりますけれども,何が提訴請求権の濫用に当たるかという場面では,特に差はないのではないでしょうか。つまり,濫用になるような行為は,直接保有であれ,間接保有であれ,違いはないのであって,直接的に保有していれば濫用にならないけれども,間接的に保有していれば濫用になるという事態は考えにくいように思います。ですから,何が濫用に当たるかは,通常の代表訴訟と特に別に考える必要はないのであって,(1)の①,②のような絞りを設けるべき理由はないのではないかと思います。ただ,③につきましては,今,杉村委員が御指摘になったように,親会社の信用を害する目的で提訴するというように多重代表訴訟特有の問題があり得なくはありませんので,入れることは十分に考えられるところではないかと思います。 ○伊藤委員 多重代表訴訟については,制度を導入すべきではないと私どもは考えております。あえて意見を述べさせていただきますと,仮に導入する場合には,①のように,少数株主権とすることが望ましいと考えております。親会社の株主は,必ずしも子会社の業務について十分な情報を有しているわけではなく,通常の株主代表訴訟と比較しても,多重代表訴訟は濫訴のリスクが高いのではないかと思います。今回の提案のように,訴えることができる主体を制限することは,濫訴防止に効果的であると考えております。その上で,中小企業についてのコメントをさせていただくと,中小企業の株式の保有状況から照らし合わせますと,100分の1の株式保有要件というのは,濫訴防止の効果はほとんどないのではないかと思われますので,より引き上げるべきではないかと思っております。 ○岡崎幹事 ②についてなのですけれども,これは,中間試案の表現をより明確にするような改善が図られているという理解をしておりますが,ここで言う「当該株式会社の利益とならないことが明らかであると認められる場合」というのが,なお,何を意味しているのか,どのような事態を想定しているのかという点に関して,もし何かこういう事態だということを思い描いておられるのであれば,事務当局から御説明いただけると助かるのですが。 ○塚本関係官 ②につきましては,このような案は,現行法の下で,株主一人が株主代表訴訟を続けたいという場合には,それ以外の株主全員が当該株主代表訴訟は続けるべきではないと考えているときであっても,続けることができるという問題意識に基づくものであると理解しています。これを踏まえますと,「当該株式会社の利益とならないことが明らかであると認められる場合」の例としては,取締役の資力の問題等から,多重代表訴訟に伴う費用に対して,当該訴訟により得られる利益が非常に少ないという場合が考えられます。 ○藤田幹事 若干の確認と補足的な意見を述べさせていただければと思います。  まず,確認ですが,部会資料18の2(1)には①から③まで掲げられていますが,①以外は,これは,特殊な事情ということで,原則これを原告が立証できないと却下されるという話ではないということ,つまり今の847条1項ただし書のような形で入ってくるというイメージで理解してよろしいですか。①から③まで三つ並列的に書かれているものですから,若干気になったものですが,それは,そのように受け取ってよろしいですかというのが確認したい点です。  その上で,③について申し上げますと,これは,前田委員がおっしゃったように,多重代表訴訟固有の話で,既に847条1項で通常の代表訴訟で認められているような考慮を多重代表訴訟の局面ではこういう形で適宜変容させて付加しないと足りないのではないかということです。これについては,余り異論はないと思います。  それに対して,②のほうはより問題です。会社の利益にならないとはどういうことを意味しているのかという御質問もありました。具体的にどういう例があるのかと言われると少し困るのですが,現在の日本の代表訴訟の大きな特徴として,一人の株主の提訴に関する判断を尊重して,被告はこれに最後まで付き合うというつくりになっていること,幾ら何でも会社の利益を害することが明らかな訴訟であっても最後まで付き合わなくてはならないこともあるのではないかという意識は,多くの方が共有されているのではないかと思います。請求原因も具体的に立てないで,リスク管理体制構築義務違反だとかいった抽象的な請求原因だけ主張しているような原告に対して,最後までそれに付き合わなくてはならないのかといった疑問,そういう無駄な訴訟を早期に終結させる方法がないという問題が意識されるようになってきているのではないかと思います。そういった問題点は,代表訴訟制度の適用範囲を広げるときにはより顕在化するだろうということで,こういう提案が出てきているのだと思います。確かに,前田委員もおっしゃるとおり,これは,決して多重代表訴訟固有の問題ではなくて,代表訴訟一般に関する問題です。そして,以前の部会で,私は,似たような提案を申し上げたことがあるのですが,それは,飽くまで代表訴訟一般についての改善策として申し上げたもので,多重代表訴訟固有の手当てという形で申し上げたわけではありません。そういう意味では,②について,中身については反対ではないのですが,こういう形での提案の仕方については多少違和感を持っています。その点では前田委員と同じであります。こういう形の提案になっている理由は,飽くまで想像ですが,補足説明のところで示唆されていますように,かつてこういうことが議論されたけれども,あるところで削除されてしまったという経緯があったため,それと正面から矛盾する形のものは提案しにくい,ただ新たに多重代表訴訟制度を設けるのであれば,提案できるかもしれないということで,スコープを限定して書かれているのかもしれません。そこから先をどう考えるかは,難しくて,本来は多重代表訴訟固有の話でなく筋が違うと言って入れないほうがいいということになるのか,いや,部分的であってもないよりはあるほうがいいと考えるのか。これは一つの割り切りですので,私は,入ってもいいとは思っておりますけれども,それは今言ったような若干屈折した割り切りを含めて賛成していると理解していただければと思います。 ○塚本関係官 1点目の御質問ですけれども,おっしゃるとおり,(1)の②と③は,847条1項ただし書と同じように,原告株主のほうから,②や③にあるような事情が「ない」ということを言わなければならないものではないと理解しております。 ○岩原部会長 他にいかがでしょうか。  よろしいですか。特になければ,先に進ませていただきたいと存じます。次に,「(2) 多重代表訴訟の対象となる子会社の範囲」について,いかがでございましょうか。 ○杉村委員 まず,(2)の②の重要性の基準として,5分の1よりも大きな割合とすることをどう考えるかということでございます。この論点は,提訴懈怠可能性の観点からの議論だと理解しておりますが,親会社の取締役と子会社の取締役を実質的に同視し得る場合を対象にするならば,5分の1では余りにも低過ぎであり,むしろ5分の1よりも大きな割合とすることで,引き続き検討すべきであると思っております。  それから,(2)の①,②にはありませんが,以前の部会で,海外子会社に対する訴訟リスクについて若干議論がありました。これに関しては,中間試案の補足説明等で一定の記載をしていただいておりますが,パブコメあるいは最近公表された調査研究などを踏まえますと,依然としてこれに対するリスク懸念があることを念のため申し添えさせていただきます。 ○前田委員 この5分の1という基準の意味について,もう少し検討をしておく必要があると思います。なぜ5分の1かということについては,補足説明でも,実質的に親会社の取締役等と同程度の提訴懈怠の可能性があるからだという説明がされているところですけれども,提訴懈怠の可能性は,子会社の規模には関わらないのではないか,別に規模が小さくても変わらないように思われるのです。そして,小規模な子会社の取締役は,親会社で言えば部長等にすぎないのだから,対象から外すべきだという考え方もこの部会で示されたところですけれども,通常の単体の会社でも実質従業員にすぎないような名目的取締役はあり得るのであって,その者も代表訴訟の対象にはなるのですね。そういう実質従業員にすぎないといった要素は,責任発生のレベルでは考慮されることがないではないとしても,代表訴訟の対象になることについては,従来異論のなかったところではないかと思います。このように,5分の1要件の根拠は必ずしも明確ではありませんし,また,これが入りますと,既に議論されていますように,中間子会社が入ってきたような場合,制度が非常に複雑になりますので,私は,当初はこの5分の1要件はないほうがいいと考えていたのですけれども,もしこれを入れるのであれば,根拠としては,5分の1以下の子会社であれば,その事業の在り方いかんが親会社株主に与える影響が重大ではないから,株式保有が間接的である親会社株主に監督是正の権利を与えるほどのことはないという理由を挙げるのが適切なのではないかと思います。つまり,親会社株主は,仮に子会社が倒産したとしても,ちょうど5分の1以下の親会社財産が流出したのと同程度の影響しか受けない,そこで,簡易組織再編等と同様の考え方から,5分の1要件を課すと考えるがいいのではないかと思います。ですから,結論として,もし子会社の重要性で絞りを掛けるのだとすると,5分の1という基準は維持すべきではないかと思います。 ○太田委員 私どものパブコメの意見の中でも申し上げたところなのですけれども,この多重代表訴訟に関する監査役協会の会員のアンケート結果は非常に大きく意見が分かれているところです。理解するとする立場の者と,実行・運用上なかなか難しい課題を抱えているとする意見が相半ばしていると申し上げたほうがよろしいかと思います。その中で特に指摘されている事項は,多重代表訴訟を入れる場合,企業集団の監査の在り方ということが実は大事だという指摘が多く寄せられています。前回も申し上げたのですが,いわゆる連結監査の在り方というワーディングで申し上げていますが,責任のある監査を多重代表訴訟の提訴がされた場合,どのように具体的に監査役の皆さんが実務として展開していけるのかという観点から問題意識がございます。それは,下から上への調査権と言い変えてもよいと思われますが,子会社が親会社の状況を何らかの形で調べていく,そういう仕組みをどのように担保できるのかということがきちんと完備されませんと,この多重代表訴訟というのはなかなか難しいのではないかという意見です。したがいまして,連結経営における子会社の監査役さんが親会社の状況を調査する何らかの手法,こういったものが是非担保されるべきだと思っております。子会社に従業員が監査役で派遣されているケースが相当ありますので,仮に多重代表訴訟制度が入る場合,その本来の目的を果たすためには,子会社の監査役が親会社の状況を調査する何らかの手段等が具備されませんと,多重代表訴訟はなかなかうまく機能しないのではないかという懸念を持っているというところであります。 ○岩原部会長 ここで議論している多重代表訴訟は,子会社の取締役等が子会社に対して責任を負っているけれども,親会社が株主として代表訴訟等を提起しなくて責任を追及しないときに,親会社の株主が代わって代表訴訟を起こせるかということが問題なわけですけれども,子会社の監査役等が親会社を調査できないと,そのような多重代表訴訟は難しいのではないかという今の太田委員の御指摘は,具体的にどういう問題があるからそれは難しいということなのでしょうか。 ○太田委員 私が想定しているケースは,親子間の利益相反に関連して多重代表訴訟が提起され,損害が発生した子会社の取締役が訴えられる場合,監査役としては,親会社に対する調査が効率的に行われる制度上の担保等がないと,仮に会社を代表して監査役が株主の提訴請求に対する判断をする際に,適切な判断や対応がなかなか難しいものがあるのではないかということを想定して申し上げたつもりです。 ○岩原部会長 ということは,つまり,子会社の監査役の責任が問われかねないことになるということですか。 ○太田委員 監査役として適切な仕事ができないのではないかという前提で申し上げています。 ○岩原部会長 つまり,多重代表訴訟によって子会社の監査役が親会社の株主によって責任を追及される可能性が出てくる,そういう場合に備えて,子会社の監査役がきちんと自分を正当にディフェンドができるような体制が必要である,そのためには,親会社を子会社の監査役が調査することも必要になり得る。そうおっしゃったのですか。 ○太田委員 おっしゃるとおりです。 ○岩原部会長 分かりました。他にありますでしょうか。  なければ,先に進ませていただきたいと思います。次に,「(3) その他の事項」について,いかがでしょうか。 ○杉村委員 一言だけですが,直接の子会社でないケースにおきましても,最終完全親会社には訴訟のコストあるいは子会社の管理,グループ内部統制等々の観点からの利害関係が考えられますので,訴訟参加できるとして検討することが適当ではないかと存じます。 ○中東幹事 私も,仮に多重代表訴訟制度を創設するとしたら,杉村委員の御意見に賛成でございます。ただ,今のお話を伺っていますと,ちょっと話が戻って申し訳ないのですが,先ほどの1の話に関して,いかに一般の会社はグループ会社の業務についてしっかり管理しており,また,責任感を持っていらっしゃることの表れであるとも思いました。 ○太田委員 「(3) その他の事項」に関して,賛成であるということを申し上げたいと思います。最終完全親会社が完全子会社の株式を間接的に保有する場合にも,補助参加は認められるべきであろうと,まず,そのように思っておりますし,ここに書かれていますように,監査役・監査委員全員の同意が当然その要件になるだろうと考えているというところであります。 ○岩原部会長 よろしいでしょうか。  それでは,先に進ませていただきます。第1の「3 株式会社が株式交換等をした場合における株主代表訴訟」に移らせていただきます。事務当局からの御説明をお願いいたします。 ○塚本関係官 それでは,「3 株式会社が株式交換等をした場合における株主代表訴訟」について御説明いたします。これは,中間試案の第2部第1の1の(後注)において,会社法第851条を拡張するものとして掲げていたものでございます。パブリック・コメントの手続では,この(後注)に反対する意見はございませんでした。そこで,3では,(後注)で掲げていたような規律を設けるものとすることを提案しております。なお,中間試案の補足説明では,主に,株式交換又は株式移転があった場合を想定して記述していましたが,いわゆる三角合併により消滅会社の株主が当該合併の対価として存続会社の完全親会社の株式を取得する場合も,株式交換等と同様の問題が生じることから,3の②では,この場合についても手当てをするものとしています。3のような規律を設ける場合には,提訴請求等の一連の手続について明文の規定を設けることになるものと思われます。 ○岩原部会長 いかがでしょうか。何か御意見はございますでしょうか。 ○杉村委員 現行法の下では,訴訟提起後であればこういった株式交換等の場合でも原告適格を維持できると思いますが,そのことと,3の提案にある訴訟提起をしていなくても原告適格を認めるということとは,考え方のベースが少し異なっていると思います。例えば,3の見直しは,株式交換時点よりもある程度過去に遡った関係に着目しているという考え方であれば,原告適格自体も過去の行為時の株主に限定する必要はないかなど,その辺の関連性を検討しなければならないのではないか,という疑問を呈させていただきます。 ○岩原部会長 今の御発言に関して,あるいはそれ以外についても,何かございますか。  よろしいですか。それでは,これについては,パブリック・コメントでも反対意見はございませんでしたので,基本的には,この方向で,事務当局に今後進めていただきたいと思います。次に,第1の「4 親会社による子会社の株式等の譲渡」に移らせていただきたいと思います。事務当局からの説明をお願いいたします。 ○宮崎関係官 それでは,「4 親会社による子会社の株式等の譲渡」について御説明いたします。本文は,試案第2部第1の2のような見直しをすることを提案するものでございます。なお,パブリック・コメントでは,いわゆる簡易事業譲渡や分割会社における簡易分割に係る「5分の1」の要件の緩和を求める意見も出されておりますが,平成17年改正前の商法の下では20分の1以下とされていたものが,会社法において5分の1以下に緩和されたという改正の経緯に鑑みると,現時点において,当該要件を更に緩和することは適切ではないと考えられます。 ○岩原部会長 いかがでしょうか。これについての御意見を承りたいと思います。 ○伊藤委員 子会社の株式の譲渡につきましては,事業譲渡の場合とは性質が異なると考えております。現行の事業譲渡の場合には,まず,事業の譲渡に当たるという絞り込みがあって,その後で,総資産の5分の1以下の場合は総会決議が不要であるというルールになっております。例えば,譲渡される資産が総資産の5分の1を超える場合でも,譲受会社が事業活動を継承するとか,譲渡会社が競業避止義務を負うのでなければ,総会特別決議は不要であると伺っております。このような観点からすると,中間試案は,専ら定量的に総資産の5分の1という基準だけで総会決議の必要性を区別しているのですけれども,単に5分の1を超えるだけの場合には,元々別法人となっております子会社の譲渡が譲渡会社に与えるインパクトは相対的に小さいのではないかと考えております。事業譲渡や会社分割の場合と合わせて,5分の1要件に固執する必要はないのではないか,補足説明の記載は分かるけれども,要件については引き続き見直していただけないかと思っております。 ○杉村委員 伊藤委員の御意見と同様ですが,第二読会でも,このような制度を導入する場合は,親会社の株主の想定の範囲を超えるような株式譲渡に限って導入すべきではないかということを申し上げ,その観点から5分の1要件の緩和に言及いたしました。補足説明でも御紹介いただいておりますが,パブリック・コメントでそのような意見があったということは,親会社株主総会の承認を要するとなれば,迅速な意思決定というグループ経営のメリットが毀損するとの懸念が表されているのだと思います。この要件につきましては,更なる慎重な検討を改めて申し上げたいと思います。 ○岩原部会長 他に御意見はございますでしょうか。  特にございませんか。それでは,次に進ませていただきます。それでは,「第2 子会社少数株主の保護」の「1 親会社等の責任」に移らせていただきたいと思います。まず,(1)について,事務当局から説明をいただきます。 ○内田関係官 それでは,「第2 子会社少数株主の保護」の「1 親会社等の責任」のうち(1)について御説明します。親会社等の責任に関する明文の規定を設けることの当否につきましては,当部会で意見が分かれたことから,試案第2部第2の1においては,明文の規定を設けるものとするA案と,これを設けないものとするB案を掲げておりました。冒頭で御紹介いたしましたとおり,パブリック・コメントにおきましても,大きく意見が分かれる結果となっておりますが,明文の規定を設けることとする場合における具体的な要件等の在り方につきましても,様々な意見を頂いているところでございます。そこで,本文の(1)では,試案のA案のような明文の規定を設けることとする場合における具体的な要件等について検討しております。  まず,①は,責任の主体に関するものです。アの親会社のほか,イでは,その他株式会社の経営を支配している者も含めるものとし,その詳細については,現行法における親会社の定義を参考に,会社法施行規則に所要の規定を設けることが考えられます。親会社と同等の影響力を有する者を責任の主体に含めることにつきましては,パブリック・コメントにおいても,特に異論はなかったところでございます。次に,②ですが,明文の規定の適用対象となる親会社等との利益相反取引の定め方に関するものです。この点につきましては,従前から御説明申し上げてきましたとおり,取締役との利益相反取引に関する規律を参考に,間接取引を含む旨の定めとすることが考えられます。③は,子会社が受ける不利益についての考慮要素に関するものです。試案のA案②では,そのような不利益の有無及び程度は,親会社等との利益相反取引の条件のほか,本文イに掲げる「当該取引以外の取引の条件」や,エに掲げる「その他一切の事情」を考慮して判断されるものとしていました。これに対して,パブリック・コメントにおいては,グループ経営による子会社の利益が十分考慮されないおそれが残るなどの意見が出されています。そこで,ア及びウのような事情を考慮要素として掲げることにより,これらの事情が考慮される旨を明確にすることが考えられます。それから,部会資料18の7ページの補足説明のなお書きについて,補足して一言御説明申し上げます。こちらは,不利益に関する考慮要素そのものに関する議論ではないのですが,不利益の概念をもう少し明確化する趣旨の補足説明ということで,ここに記載している次第です。A案におきましては,取引条件の決定時において合理的な条件が合意されていた場合には,結果的に株式会社が損失を被ったことをもって直ちに親会社等の責任が生ずることにはならないと考えられます。このように,親会社等が結果責任を負うものではないという点をより明確化する観点から,不利益の有無は,取引の結果ではなく,取引条件そのものについて判断される―取引の合意時点を基準として判断されるという言い方もできるかもしれませんが―,そういう趣旨がより明らかになるような表現とすることも考えられます。具体的には,A案①の要件を,この補足説明のなお書きの段落に記載したように見直すことにより,責任の発生原因としての取引条件の不利益性と,結果としての損害を,明確に別の概念として整理することについて,検討の余地があると思われます。それから,④は,主観的事情に基づく親会社等の免責に関するものでございます。試案のA案では,親会社等の主観的事情に基づいて親会社等の免責を認めるものとはしていませんでしたが,パブリック・コメントにおいては,そのような免責について検討すべきであるとの意見が出されています。そこで,例えば,株式会社が不利益を受けることについて,親会社が善意・無過失であるような場合に,親会社等の免責を認めるべきかどうか,そのような免責を認めることの理論上及び実務上の意義を考慮しつつ検討する必要があるものと存じます。 ○岩原部会長 ありがとうございました。親会社等の責任に関して,中間試案のA案にあるような明文の規定を設けることの当否につきましては,部会におきまして御意見が分かれているところではございますが,本日は,仮に規定を設けるとした場合における具体的な内容について御議論を頂きたいと存じます。(1)について,①から④まで一括して,御議論をお願いいたします。いかがでございましょうか。 ○伊藤委員 本規定を導入することには反対の立場です。ですけれども,あえて導入された場合の要件について申し上げたいと思います。まず,ここで「不利益」という言葉が使われているのですけれども,事務当局のイメージだと,「損害」というよりもうちょっと強い概念だということは理解しております。しかし,一般的に「不利益」というワーディングは,そのように理解されなくて,むしろ「損害」よりも「不利益」のほうが広いという語感があるのではないかと思っています。この辺は,産業界としては非常に大きなインパクトをもたらす可能性があると懸念しておりまして,積極損害であるということを条文上明らかにすべきではないかと考えております。また,ジョイント・ベンチャー,いわゆる合弁会社というのは,合弁当事者の持株数の差がある場合に,少数株主が多数株主に対して,このような制度を嫌がらせの目的で使う可能性を懸念しております。このようなときには,合弁当事者間の紛争は,本来は合弁契約の内容に応じて解決すべきだと考えております。このような嫌がらせを排除する必要があると考えております。このような弊害を避けるために,親会社が③のアにありますように,子会社の取引条件に関する検討や交渉の態様が適正であれば,不利益はないと解釈されることを明確にしていただきたいと思います。それから,中小企業においては,株主代表訴訟は,同族間の内紛が発生したときに,その武器として使われるケースが多いのではないかと思います。このような代表訴訟に付き合わせることは,企業にとってとても負担が重く,また,得られる成果が少ないものと考えております。そのため,親会社の責任について明文規定を置くとしても,子会社株主に代表訴訟の提起権を認めることについては慎重に検討すべきであり,必要以上に株主代表訴訟の可能性を付与することには反対でございます。 ○田中幹事 新しい提案に関してですが,私は,7ページの補足説明の3段落目の表現にするということで,このような提案に賛成してもいいのではないかと,すなわち,「親会社等は,株式会社との間で株式会社と親会社等との利益が相反する取引(当該取引がなかった場合と比較して株式会社に不利益となるような条件のものに限る。)をしたときは,これによって株式会社に生じた損害を賠償する責任を負う。」として,かつ,8ページの親会社等の免責を入れる,つまり,親会社等が善意でかつ過失がないときに,親会社等は免責される,このような要件にした場合は,基本的には,正に,親会社が子会社を食い物にするという類型を捉えて,それに限定して親会社等の責任を問うことにしたのだということが明確になるのではないかと思っております。  それで,先ほど,不利益要件が明確ではないのではないかという御意見がありましたが,確かに,「不利益」という言葉がそれだけで使われていれば明確ではないかもしれませんが,この「不利益」というのは,飽くまで,「当該取引はなかった場合と比較して株式会社に不利益となる」という形で使われているということです。つまり,取引によって利益が生じているのだけれども,更に多くの利益を与えなければ親会社に責任が生じるのではないかという懸念を完全に払拭させるということです。もしも,この「不利益」という要件に代えて,独立当事者間取引基準を使うと,子会社に利益が得られているときでも親会社に責任が生じる可能性が十分あるところを,あえて,この規制は,そういう問題にはもうタッチしません,そのケースではなくて,本当にこの取引によってマイナスが生じるとき,正に「積極的損害」という表現が適切かと思いますが,積極的損害が生じたときだけ規制するのだということを明確にするということです。ということは,この条文ができたときには,「損害」という言葉も同じように解釈されなければならない,つまり,この基準は,取引がなかったときと比較して子会社に不利益になったときにだけ責任が生じるわけですから,この条文における損害というのは,積極損害に限ると解釈しなければならない,これは,恐らく,解釈に争いは生じ得ないのではないかと,条文の趣旨からして当然そうなると考えております。このように,不利益の部分と損害の部分を分けたのはどういうことかというと,それは,先ほどの説明にもありましたように,取引の時点では子会社に損害が生じていないけれども,結果として損害が生じることがある,例えば,長期契約をしたときに,長期契約をした時点では,子会社に十分有利な取引であったけれども,その後の経済情勢によって,例えば,原材料価格などが変動して,結果として子会社に不利益になってしまったという場合は,取引の時点で不利益がなかったということから,責任は否定される,逆に,取引の時点では,不利な取引だったけれども,経済情勢が好転して子会社に損害が生じなかったときも,責任が否定されるということになると思っております。その上で,取引の条件が不利益であっても,不利益であるという事情について親会社等が知らなくて,しかも,知らないことに過失がなかったという場合は免責される,そういう場合はどのぐらいあるのかはちょっと分かりませんが,一般的にはそういう可能性もあるわけですから,それも免責されるということでして,これと7ページ目の③に掲げている当該取引の不利益に関する考慮要素には,ここに掲げられた当該取引の条件に関する検討及び交渉の態様,取引の条件,その他企業集団に属することによって享受する利益,その他一切の事情を全て考慮することによりまして,親子会社間での通常のグループ企業の取引だけではなくて,かなり特殊性を持つ取引であっても,企業集団の取引ということで一応の説明ができるものは責任の発生する取引から除くということになって,結局この条文によって責任を追及できるのは,正に何年か前に起きた春日電機事件のように,上場会社を乗っ取ってしまって,その後もものすごく不公正な取引によって被買収会社の利益を吸い上げてしまうという本当に食い物にするような取引に限定されるのではないか。本当に食い物にするような取引においては,現行法ですと,子会社の少数株主は,基本的には子会社が親会社等の責任を追及することに任せるしかなくて,現実的には子会社等の経営陣は親会社等に支配されている可能性は高いわけですから,責任追及はされない。もちろん,子会社の役員の責任を追及することはできるかもしれませんが,資力の関係から一般的には十分な救済にならない可能性が高いということに加えて,そもそもそういう食い物にするような取引において利益を得るのは親会社なのですから,そのときに,子会社の取締役だけが責任を問われて,親会社等が責任追及から免れるということ自体が端的に言って不正義である,そういうことがあるのではないかと思います。今申し上げたような取引は,上場株式会社ではもうほとんどないでしょうとおっしゃるかもしれませんが,ほとんどないのであれば,この条文が入っても,責任追及はほとんどなされないのではないか,そして,まれにではありますが,先ほど言ったような事件は起きるわけで,そのときに,何らかの子会社少数株主が親会社等に責任追及する現実的な手段はありませんというほうが,むしろ日本の会社法制に対する投資家の信頼を損なってしまうおそれがあるのではないか,そういうことをあれこれ考えますと,確かに負けるのを承知で責任追及してくるという事件が起きないということは,もちろん保証の限りではないわけですけれども,代表訴訟自体が年間100件程度しか起こっていないという現状の中で,果たして濫訴に関する懸念がどの程度あるかということも考慮しますと,ここまで限定された要件であるならば,親会社等が子会社及び子会社少数株主に対して一定の責任を負うのだということをはっきりさせるという点でも,このような制度を導入したほうがいいのではないかと考えております。 ○岡崎幹事 中間試案に対するパブコメの際にも指摘させていただいているところでございますが,仮にこういう責任規定を新設することによって,具体的にどういう事案において,親会社等に責任を負わせることが想定されているのかが明確でないという意見や,裁判所がいかなる事情を考慮してどのような判断をすることが求められているのかが分かりにくいのではないかといった意見が下級審の裁判所から寄せられているところでございます。今回部会資料18の中で,③について,アとウの要件を新たに考慮要素として加えていただいて,より分かりやすくはなっているところでございますが,こうした考慮要素が加わったとしましても,例えば,今回ウに掲げられております「株式会社が親会社及びその子会社から成る企業集団に属することによって享受する利益」をどのように数値化するかというところが非常に難しいところでございまして,子会社の受ける不利益の有無あるいは具体的な額を算定する方式について,どういうイメージを持ったらよいのかというところが悩ましいところではないかと思っております。例えば,原価割れの価格で親会社に製品を販売したことによって子会社に積極的な損害が生じたというケースを想定した場合に,その取引以外の機会にその子会社が有形無形の利益を親会社から受けているというケースがあり得ると思いますが,そうした利益を控除した額が子会社の被った不利益になるという理屈は分かるのですけれども,肝心の有形無形の利益をどのように算出するのかというところが難しい問題ではないかと感じているところでございます。こうした点が明確にならないまま法律を作っても,なかなか運用の面で窮するところが出てくるのではないかと考えます。その意味で,この子会社が被った不利益の額の算定はどのようにして行われるのかといったところの審理あるいは判断のイメージが分かるようになると,大変よろしいかなと思うのですが,いかがでしょうか。 ○内田関係官 親子会社間の取引における不利益の有無や程度については,実際には判断や主張立証が難しい場合もあるというのは,御指摘のとおりかと思います。そういった場合は,この明文の規定が適用される場面に限らず,他の訴訟類型でも生じ得るわけですが,この規定に関して申しますと,不利益について判断する際に考慮すべき内容としては,例えば,親会社の傘下にあることで資金調達コストが安く済んでいるといった事情が考えられるわけですが,その分の金額というのは,具体化の余地が全くないというほどのものではないように思います。このような例に限らず,親子会社関係にあることによるメリットの中には,何らかの形で具体化し得る利益も恐らくあるはずで,そういったものを考慮していくことになるのだろうと思います。逆に言うと,親会社から利益を受けていると言っても,それが具体的にどの程度の利益なのか何ら説明できないようなものまで考慮されるという発想ではございません。当事者や代理人の側での主張・立証上の工夫は必要だと思いますが,どう工夫してもやはり全然具体化できませんでしたというようなものまで考慮せよといった無理を強いるものではないと思っております。 ○杉村委員 私どもの考え方も,そもそもA案には反対という立場に変わりありません。導入する場合の論点として,③について意見を申し上げさせていただきます。岡崎幹事と事務当局とのやり取りと関連するところでありますが,中間試案で「一切の事情」とされていたものを,今回ア,イ,ウ,エとして考慮要素の明確化を図っていただいているということでございますけれども,幾ら例示を挙げたとしましても,訴訟の場で争われるまでどの程度の事情が考慮されるかということは明確にはなりませんので,勝訴するか,敗訴するかは別にしまして,訴訟対応自体が多大なコストという中にあって,濫訴も含めて,訴訟が拡大していくことを防ぐことにはならないと思っています。また,先ほど,ア,イ,ウと掲げられているものに関しまして,他の取引によるメリット,グループに属するメリット,ブランド価値などについては立証の工夫があるというような指摘もございましたが,それらは極めて計数評価が難しいと言わざるを得ないと思います。さらに,グループに属するメリットについては,営業秘密や戦略に関わる事項もある中で,今回の制度の建て付けでは,親会社側がこういった考慮要素の立証責任を負うということを考えますと,親会社側はかなり困難な責任を負わされることになると思います。こうした点は,以前からこの制度自体に反対する大きな理由として申し上げてきたところであります。こうした問題は,ア,イ,ウと考慮要素を列挙しても解決されないと思います。そして,このような明文の規定を置くことにより,企業に対してどのようなマイナスの影響が生じるかということですが,子会社の取引におきまして,過度に保守的な判断に振れてしまうことや,取引の際に極めて厳格な確認の手続を採るためコストが多大なものになってしまうなど,グループ経営のメリットを大きく損なうことが危惧されますし,グループ戦略上,活発な親子間取引で企業価値を高めるという戦略に対する萎縮効果も懸念されます。さらに,先ほどの合弁会社における事例の話に加えまして,少数株主がいる子会社形態あるいは子会社上場といった組織形態に対してネガティブな反応になってしまうという,組織選択のゆがみの心配もあります。我々としては,③の考慮要素の明確化では,問題の解決にはなっていないと考えております。  なお,これに関連しまして,④の免責の話でございますが,補足説明にありますように,計数化できないものについて主観的な要件で考慮するということ自体は,趣旨として理解できるものであります。他方,先ほど田中幹事の御発言の中にもあったかと思いますが,どういったことを立証すれば免責につながるかというのはなかなか分かりにくいところもありますので,この点は引き続き検討していく必要があると思います。いずれにしましても,この免責の仕組みを入れたからといって,先ほど申したような懸念自体が払拭されるということにはならないと考えております。 ○岩原部会長 一般的な考えに従えば,この不利益の立証責任は,親会社ではなくて,責任を追及する側にあるのではないでしょうか。 ○中原幹事 第2に関しまして,まず,この規定を設けることによって捉えようとしているものが,田中幹事がおっしゃったような上場会社ではほとんど起きないだろうという不祥事のような事案であるのか,それとも―第2の1の(1)の②のアによれば,親会社と子会社とが取引をすれば,これは,定型的に全て利益相反取引であるということでこの規定の射程に入るものとされていますが―,先ほど岡崎幹事と内田関係官とのやり取りの中であったような通常の取引自体も全て射程に入れた上で,このルールでテストしていきましょうと考えるのかで,意見の申し上げ方が難しいと思っております。  その上で,先ほど,ほかの訴訟類型でも有形無形の利益・不利益の立証には困難が伴うものであるから,ここでも頑張ってやればいいのだという趣旨のお話がございました。しかし,合理的な通常の経済取引について,立証責任の転換なども含めて新たな責任規定を創設することを考えるときは,頑張ってやれば何か立証できる場合もあるだろうからいいだろうということでは必ずしもないだろうと思います。まずもってどういう射程で具体的に何を捉えようとしているのか,岡崎幹事がおっしゃったことと相通ずるかもしれませんが,そういったところが明らかにならないと,なかなか意見を申し上げにくいところがあります。 ○岩原部会長 先ほども申しましたように,基本的には,この不利益の立証責任は,責任を追及する側にあると考えられるとは思います。 ○中原幹事 立証の責任の転換に関して申し上げますと,例えば,④の親会社の主観的な免責ということでこの要件を設けた暁には,親会社のほうで立証しないといけないということを想定されて制度設計をされているのではないですか。 ○内田関係官 親会社自身の主観的事情の部分については,親会社側が証明するほうが公平ではないかと思われますので,親会社側が立証責任を負うという前提で,このような問題提起をさせていただいております。 ○中東幹事 基準の明確化については,田中幹事がおっしゃったとおりで,従前やられているとおりにやっていればこれに抵触することはないという意味において,十分に明確であると思います。ただ,杉村委員がおっしゃいましたように,そうは言えども訴訟対応そのものが大変だろう,濫訴の懸念はあるということそのものは私も理解いたします。ですが,そのためにこそ,優秀な法務部があるのではないか,あるいは法律事務所があるのではないかと私自身は思っております。  濫訴という点では,代表訴訟の場合の濫訴とこの場合の濫訴は,私は,決定的に違っていると思っています。つまり,代表訴訟の場合には,被告になるべき者が現任の取締役である可能性もあります。取締役が個人として訴えられると,経営に専念できないという問題が顕著に表れることになります。ところが,この場合は,飽くまで被告になるのは会社そのものですので,正に法務部が一生懸命頑張っていただければ大丈夫ということだと思います。ですので,仮に濫訴のおそれがあるとしても,代表訴訟の場合ほど深刻に捉えることはないと考えています。この点も踏まえますと,原案で十分だろうと思っております。 ○静委員 考慮要素を増やして,かなり明確化されたと思いますし,非常に分かりやすくなったと思います。その上で更に主観的な要素で免責までする必要が本当にあるのかとも思います。しかしながら,この問題の肝というのは,先ほど中原幹事の御指摘もそういった趣旨だろうと思いますけれども,少なくとも親会社が子会社を不当に搾取するということは許されないということをはっきりさせることだと思いますので,これでもやむを得ないかなとは私は思います。①から④まで,これでよろしいのではないかと思います。 ○藤田幹事 なぜ今のような形の提案になっているかという歴史といいますか,ここの部会での議論の経緯については今一度確認しておいたほうがいいかと思いましたので,くどいかもしれませんが,まず最初に,念のために申し上げます。規制することに余り異論のない子会社の搾取のようなかなり極端な状況を想定し,それをどういう形で捉えるかということで,いろいろな案が出されてきたわけです。支配株主の忠実義務とかいった諸外国でよく見られるアプローチもあったのですが,曖昧で裁判規範としてはマネージできない,運用できないという意見が強く,それでは,利益相反取引型の規制なら何とかなるだろうかということで,まず,そちら側に舵が切られました。その上で,中原幹事が言われたことと関係しますが,どんな取引を対象にするかということの絞り込みをする必要があり,それがある程度客観的にできないような基準は困ると言われたために工夫がなされていった。最初は「著しく不公正な取引条件」といった要件も候補だったのですけれども,それは曖昧だからということでやめて,いわゆるナカリセバ基準,つまり何もしなかった場合よりもひどい結果となるときといった比較的客観的な要件で足切りをすることとした。決して理論的とは思えないし,諸外国にも例のないような独特な基準なのだけれども,主として客観的な運用の可能性ということからこれが採用された。さらに,不利益の判断基準時といったことまで明確化しようということで,今回更に表現を改めた。現在の文言は,こういう積み重ねを経てきている提案だということです。それでもなお駄目だという意見があるというのは理解しますけれども,最初は何もセーフガードがない「著しく不公正」から始まって,少しでも客観的な基準とすべく,努力を積み重ねてきた結果だということは,これまでの議論の経緯としては押さえておくべきだと思います。  その上で,今回の提案については,いろいろな意味で中間試案と比べて良くなっている点があると思います。改善点の中で私が一番良くなったと思ったのは,このなお書きで書かれている点です。これは,ともすれば見落としがちなのですが,重要な点です。中間試案の書き方には,私はかなり懸念を持っておりまして,それは,中間試案では,「株式会社が不利益を受けた場合」という要件の書き方をして,しかも,「受けた不利益に相当する額を支払う」という効果の書き方をしてあったものですから,何か結果論として不利益が出た場合に当然に責任が発生し,それをそのまま賠償させるというルールであるかのようにも読めた。そういう趣旨ではなかったのかもしれないけれども,そう読めた。これに対して,今回の提案では明確にそうではない,飽くまで,規制対象か否かは取引時の条件で判断する,賠償範囲の損害は,また別に考える。そして,取引時点でフェアだったら常に損害はないとは言えないという点は,田中幹事が説明されたとおりで,だから用語も,「不利益」と「損害」を分ける。ただ,基本的な考え方として「ナカリセバ基準」での規制なので,想定している損害は基本的には,原状回復という意味での損害を考えている。このように概念をきちんと整理し直して,かつ実質的な内容としても正しい方向に向いたと思います。  もっとも,こういう整理をしますと,静委員が言われたように,親会社の免責で何を意図しているのかということが分かりにくくなるところはある。つまり,取引時点で何もしないより不利益のような条件で取引した場合だけにしか適用がないとしながら,そのような取引をしたことについての過失をどのように問題にするのだろうかという疑問があるかもしれません。一つは,補足説明で書かれているように,評価しにくいものの評価を誤って,なかりせばという基準は満たすと思ってやってしまったということは,観念的にはあり得るので,それを拾うというのはあるかもしれません。ただ,1点教えていただきたいこととして,親会社の善意あるいは無過失といったものをどのように捉えるのかということです。その捉えようによってはまた別の免責の可能性も出てくるからで,それが想定されているかどうかを確認させていただけたらと思います。伺いたいのは,一部の従業員の故意・過失は,このルール運用上の故意・過失ということになるのかということです。つまり,子会社の一部の人と親会社の一部の従業員が結託して非常に変な取引をやっていたといったときに,ルールはどう適用されるか。親会社の一種の監督責任の話ですので,そういったものは無条件で生ずる責任ではなくて,過失責任的に考えて,例えば,きっちりリスク管理体制を整えていれば免責の余地があり得るという方向も考えているのか。それとも,親会社が,条件の評価を誤ったことについて補足説明に書かれているような観点からの免責しか考えないのか。この辺りは,いずれを想定されているのかによって過失責任の評価は変わってくると思いますので,過失としてどんなものが拾われるのか,先ほど言ったことの繰り返しですけれども,取引の条件を取引時点を基準に考えて,しかも,ナカリセバ基準を満たしながらも,それでも無過失とされるケースとしてどんなものを想定しているかというのは確認させていただければと思います。  最後に,③の不利益に関する考慮要素なのですが,ここに列挙することはいいと思うのですけれども,最初の御説明で,これでいろいろなものが考慮できるようにしたといった御説明がありました。ただ,この列挙についてもいろいろな捉え方があると思います。その前提として,そもそも元来どんなことがここで考慮されていたかということを押さえておく必要があります。大きく分けて,二つの違った理解があり得ると思います。一つは,例えば,企業再建のときに債権放棄と新株の引受けといったものをパッケージで考えたときに,債権放棄だけを取り出して,不利益だと言われたらたまらない,あるいは,ある種の取引を親子会社間で始めて,当面は赤字だけれども,いずれ好転して,そのうち元が取れるでしょうというときに,最初の数か月だけを見て不利益と言われたら困る,こういった話を想定して,対処しようとしているのか。つまり,社会通念上,「ひとまとまり」といえるような関連性を前提としているのか。それとも,もっと長期的,かつ包括的に,親子会社で,例えば,年単位,更には数年単位で見て,全体として赤字が出ていなければ構わないという発想でものを見ているのか,その出発点をどちらに取るかによって,列挙事由の読み方が相当変わってくると思うのです。いずれの趣旨かを条文で書けとは申し上げませんけれども,こういうときにどちら側の発想で少なくとも提案しようとしているのかということは,明示的に議論しておいたほうがよいと思います。一つには,親子会社の取引というのは,包括的に,個別の取引の条件を考えずに長期的・総合的に考えるものですといった意見があったと思います。それを強調すると,これは,私が申し上げた後者のような考え方,一定期間の親子会社間のありとあらゆる取引を全部合算するといった形で考慮されかねないのですけれども,どうも話を伺っている限りは,そういうことは想定されておらず,社会通念上「ひとまとまり」と言える範囲での総合考慮のように思います。この辺りの感触は,どちらの方向で捉えられているのかということを確認させていただければと思います。 ○内田関係官 まず,④の親会社等の免責について,親会社が免責されるのはどのような場合かという点ですが,ここで想定しておりますのは,例えば,部会資料18の7ページの補足説明のなお書きのような形に表現を修正することを前提にいたしますと,取引条件の不利益性が責任発生の原因になりますので,その不利益性の評価を基礎付ける事実について何らかの認識の誤りがあって,かつ,その認識の誤りがやむを得ないものだったといえるような事情があった場合には免責が認められる,そういったことを想定しております。  それから,③の不利益の考慮要素として,どこまでの事情が考慮されるのかという点につきましては,例えば,極端な例かもしれませんが,子会社に大きな赤字が出るような条件で親子会社間の取引が行われる場合に,その3年前に全く関係のないところでたまたま親会社が子会社に利益を与えていたことを持ち出して,「3年間をトータルで見れば赤字にはなっていない」として直近の取引の不利益性を否定するというようなことまでは,想定していません。藤田幹事のおっしゃった二つの発想のうちどちらに立つのかは,非常に線引きが難しく,はっきりとした回答は申し上げづらいところではあるのですけれども,ある取引の条件だけ見れば子会社にマイナスが生ずるように見えても,実は他のところでそれが補填されているといった関係が一定程度説明できる範囲のものでないと,取引の不利益性を否定する理由にはならないのだろうと思います。別の角度から申し上げると,企業グループ内の取引は,色々なものが相互に関連し合って全体として成り立っているから,個別の取引だけ見て不利益かどうかを判断すべきではない,という御指摘がありますが,正に,個別の取引との関連性があり,その取引での不利益を補っている関係にあると説明できる範囲の事情であれば,考慮要素に入ってくることになるのだと思います。  改めて簡単にまとめますと,「その他一切の事情を考慮する」といっても,あらゆる事情を際限なく取り込んで全て勘案しなければいけないというものではなく,合理的に関連性があるものを考慮することになるわけですので,そこは当然,一定の歯止めが掛かってくることになると思っております。 ○中原幹事 先ほどの藤田幹事の質問に関連しまして,親会社等の免責について,この案は,普通であったら,例えば,不法行為だったら,子会社少数株主のほうで故意・過失も立証するというところを,こういった規定を設けることによって,言わば債務不履行的な状況を作り出して,親会社のほうに立証責任を転換する,ただし,そういうことができる損害の類型については,一定の限度で絞り込みましょうといった考え方でこの案はできているのかなとも理解したのですが,そうした理解で良いか質問させていただきます。 ○内田関係官 不法行為責任と比較すると,立証責任を一部転換しているという見方もできるのかもしれないのですが,元々の発想が不法行為責任そのものかというと,必ずしもそれを明確に意図していたものではありません。これまでの議論では,責任の性質をどのように説明するかということよりも,むしろ,実質として,どのような場合に明文の規定による親会社の責任が生ずることにすべきかという観点で議論が行われた結果,当該取引がなかった場合と比較して子会社に不利益な条件で取引が行われる場合には,取引の相手側にいる親会社が責任を負うべきではないかということで,その限度で明文の規定を置いてはどうかという議論になってきたものと理解しております。責任の性質については,これを法定責任と呼ぶべきなのかどうかは分かりませんけれども,必ずしも不法行為責任という位置付けを不動のものとして議論してきたものではないと思っております。したがいまして,確かに,不法行為責任との比較で言えば,主観的事情の部分に限って立証責任が転換されているという見方をする余地もあるとは思うのですが,議論の出発点をどのように理解するのかによって,見方が変わってくる話なのかなと思います。 ○田中幹事 今の不法行為責任との関係ですけれども,従来からも言われていることですけれども,この責任は,何よりも会社法847条1項の株主代表訴訟にリンクさせているということから,その責任追及の対象になるものなので,不法行為責任で追及した場合は責任が認められるようなときでも,この規制によるときは責任を認めないということになる,つまり,端的に言って,この規定は不法行為責任よりも責任の発生原因を狭めているという考え方が適切ではないかと思っています。つまり,不法行為責任ですと,子会社取締役の任務懈怠に対する教唆・通謀という構成になるので,子会社取締役が任務懈怠になるようなケースというのは,ここに書いてあるような不利益要件というのは必ずしも必要とされなくて,例えば,独立当事者間取引と比較して少ない利益しか得られていない場合は,逸失利益という形で損害が発生しているから任務懈怠になって,その逸失利益分は,親会社も不法行為責任が認められる可能性があるのですけれども,この規定で責任追及をする限りは,そういうものは責任追及の対象から排除するということになるので,純粋に責任の認められる範囲を狭めているのではないかと思います。そういうのがこの規定の趣旨ですから,先ほど言った立証責任転換といったことはもちろん意図されていなくて,取引が不利益になっているということは,当然,責任追及者側が主張・証明しなければならない。したがって,一切の事情を考慮した結果,取引が子会社に不利益なのか不利益でないのかよく分からないと裁判所が判断する場合は,請求は棄却されるという規定だと思います。  それから,③の不利益に関する考慮要素の特にウというのは,かなり広い事情を考慮するものだと思っています。例えば,先ほど話に出まして,子会社は親会社の企業グループに入っていることで有利になるのだから,例えば,困っている親会社を助けるという理由で,そうでなければ,親会社に対して貸付けなどはしないときにでも親会社に貸付けをするとか,そういうのも,恐らくこの「一切の事情」の中で考慮されるという解釈になるのではないか,つまり,普通に考えたら,ちょっとこれはやってはいけないのではないかと思われてもおかしくないものまで免責するような形でこの事情は考慮されるのではないかと思います。海外でも,潰れそうになった親会社に子会社が融資して貸倒れになったときに,刑事責任を追及されるような例もどうもあるようなんですけれども,そういったケースであれば,多分,「子会社から成る企業集団に属することによって享受する利益」という文言を援用して,独立の経済主体だったらまずそんな融資はしないときでも,その融資をしたときに免責されるという形で多分働いてくるのではないかと思っています。そういう風に,この規定は,相当責任が認められにくい要件を作ったということを意味しているのではないかと思っています。  最後に,岡崎幹事から,こういう要素を挙げられても,実際の裁判においては,不利益性の認定が難しいこともあるという御指摘がありました。それに関して,こういった問題については随分たくさんの訴訟があるアメリカだとどうしているかというと,結局は,独立取締役に頼るわけです。独立取締役が親会社との交渉を経た上でこの取引をよしとしているということになりますと,その取引はフェアであるという推定が働くことになるわけです。もっとも,提案されているような規定によれば,そもそも独立当事者間取引,つまり,市場のすう勢を考慮した取引であれば,基本的には「不利益」となる可能性はないわけですから,そもそも始めから責任追及の対象にはなりません。独立当事者間取引とは言えそうにない取引,しかも「不利益」が要件なのですから,帳簿上は損失が発生しているというような取引だけが対象になるわけです。そのような場合にあっても,様々な利益を考慮して決めた取引条件を独立の取締役,独立の役員がきちんと調査して,それでよいと言った場合には,その取引は子会社にとって「不利益」ではないという推定が働くのではないかと思います。そのように申し上げると,我が社にはそういう独立の取締役,独立の役員はいません,社外取締役も社外監査役も全部親会社出身者ですという会社もあるのかもしれませんが,その場合,そういう会社を上場していること自体の問題点というのが多少なりとも問われる必要があるのではないかと思います。いずれにせよ,不利益の立証責任は責任追及者側にあります。また,先ほど議論になったように,利益というのは必ずしも数値化しなくてもいい,それは,取締役の責任が追及されている場面の経営判断の合理性を考えるときでも必ずしも利益というのは数値化されておりませんので,一応筋が通っているという程度のことを要求している,というのが裁判所の考え方であろうかと思いますから,数値化される必要は必ずしもないということであろうかと思います。 ○岡崎幹事 不利益の立証責任に関して,先ほどから若干お話が出ているところですが,不利益の要件というのは,恐らく,いわゆる規範的要件ということになって,積極的に不利益を基礎付ける事実について責任追及する側が立証責任を負い,それに対して消極方向に働く事実,つまり,むしろ利益になっているのだといった事実を親会社側が負うというのが,現在の裁判実務の多くの扱いではないかという理解をしております。そういう意味では,利益になっているということは,高度の蓋然性をもって親会社の側で立証しない限りは,しんしゃくされない。今,田中幹事がおっしゃったとおり,不利益は,一般に責任追及する側の立証責任だと言われることがあるわけですけれども,これは,どういう意味かというと,立証された積極方向と消極方向がいずれも同価値だというときには,責任は認められない,こういう意味では当たっていると思いますけれども,立証できるかどうかという観点から議論するときには,利益があるかどうかということについては,飽くまで親会社の側で立証しないと,裁判では負けるというのが現在の裁判実務だと理解しているところでございます。 ○岩原部会長 今の裁判実務というのは,不法行為責任が追及された場合の話ですか,親会社と子会社の間で。 ○岡崎幹事 はい。不法行為責任の過失の立証などでも同じことだと思いますけれども,こういう不利益といった規範的な要件の立て方をした場合には,一般的にそのような理解をしていると思うのですが。 ○坂本幹事 この不利益というのを,規範的要件と見るのか,それとも不利益自体を主要事実と考えてこの各考慮要素を間接事実と見るのかということは,明確にきちんと割り切れる話でもないのだろうと正直思っております。しかしながら,どちらで考えたとしても,トータルとして不利益であったと言えるのかどうかということ―これを評価の問題と言うのか,事実認定の問題と言うのか,整理によっては両方の言い方があるかもしれませんけれども―,それについて,トータルとして不利益と評価できない,あるいは不利益とは認定できないということになれば,原告が負けるということで,そういう意味では,結論は同じになると考えております。 ○岡崎幹事 今,坂本幹事がおっしゃった点に関して,利益になっているということが真偽不明になったときはどうなるのでしょう。「享受する利益」というのが,③のウのところに挙げられているわけですが,それについて真偽不明のときにどういう判断になるのかが問題となる局面かと思います。 ○岩原部会長 主要事実は,不利益な行為かどうかということですから,不利益な行為の立証がされなければ,それは責任追及する側が敗訴するのではないのですか。 ○岡崎幹事 そういう理解でいいのかどうかというところなんです。私が先ほど申し上げたのは,規範的要件だということになるとすると,そうはならないという理解をしたのですが。 ○坂本幹事 御指摘の点は,規範的要件の評価障害事実を証明できなかったと整理するのか,間接事実による反証に失敗したと整理するのかという要件事実の整理の問題ではないでしょうか。 ○岡崎幹事 ただ,いずれにしても,仮に条文を作られるとした場合には,その点を明確にしないと,結論が変わってくる話になるのではないかと思いますが。 ○内田関係官 要件事実論でいうところの主要事実が何か,それについての立証責任はどちらかという意味では,議論が変わってくるかもしれないのですが,実際問題としては,そのような厳密な意味での立証責任の所在というよりも,むしろ,結局,トータルで見て不利益だということを裁判所に説得できない場合にどうなるか,という点が,ここでの主な関心事項であると理解しております。そして,そのような場合には原告が負けるということについては,結論は変わらないと思います。 ○杉村委員 この点は,非常に重要な話であります。もちろん原告側が不利益を十分に主張する必要があるのだと思いますが,会社側から,立証か,反証かは分かりませんが,いずれにしても利益を証明をすることは困難が伴うものであり,この規定を検討する上で非常に大きな要素だと考えておりますので,改めて申し上げます。 ○岩原部会長 立証責任論については,学説もなかなか議論が収束しない問題ですけれども,これは,私の個人的な理解ですけれども,不利益だということが立証できなければ,それは,原告のほうが敗訴することになると私自身は理解しております。違う理解があれば,御指摘いただきたいと思いますけれども。 ○本渡委員 これは,不利益だということは,最初にこういう取引をして,その条件で子会社のほうが利益が出ないということを言うわけですから,それでもう不利益だということはあるわけです。そうすると,ここに考慮要素として書いてあることは,これは当然,会社側が主張・立証して,原告が言った不利益に対して,それを上回るような利益があるのだということは会社側が立証しないと,大概裁判では負けると思いますけれども。私の経験では,そうなると思います。 ○坂本幹事 理論的に要件事実論をどう整理するのかという問題と,実態の問題が混じり合ってきたようですので,少し整理させていただければと思います。 ○岩原部会長 では,そのようにしていただきたいと思います。 ○神作幹事 立証責任の問題ではなくて,「利益」の内容について一つ御質問をさせていただきたいと思います。「利益」を判断するときに,その取引の時点で判断するということなのですが,「利益」については,将来当該企業グループにいることによって合理的な利益を得る期待があるというものもカウントされることになるのでしょうか,それとも,ここで言っている「利益」というのは,正に数値化と申しますか,現実に得られている利益とか,事後であっても現実に補填がされたというものに限るのか,ここは,どのように考えればよろしいのでしょうか。 ○内田関係官 今の御提案の趣旨としましては,現実化していないものは利益・不利益の判断に取り入れられないということまでは,意図しておりません。非常に蓋然性が低くて,全く抽象的な期待にすぎないようなものまで入るかどうかは別だと思いますが,既に現実化されたものしか入らないという趣旨ではございません。 ○岩原部会長 よろしいでしょうか。非常に難しい議論になってしまいましたので,そういう立証責任等に関する技術的な問題の詰めは,今後事務当局において問題の整理をしてもらうこととして,先に進ませていただきたいと思いますので,今日のところはこれでよろしゅうございましょうか。  それでは,次に進ませていただきたいと思います。次に,(2)について,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○内田関係官 それでは,(2)について御説明します。(2)は,仮に試案のA案のような明文の規定を設けないこととする場合に,親会社等の不法行為責任の追及に関する規律を見直すことの当否を問うものでございます。パブリック・コメントにおいては,試案のA案のような明文の規定を設けることに反対する意見の理由として,A案の要件が不明確であることのほか,現行法上も子会社取締役の任務懈怠責任や親会社等の不法行為責任等の追及が可能であること等が挙げられています。もっとも,子会社取締役に対する責任追及は,資力等の問題から十分に機能しないおそれがあるとの指摘がされています。また,親会社等の不法行為責任については,親会社等の具体的な行為の特定や故意・過失の主張立証が困難であるほか,子会社取締役が親会社等に対して責任を追及することは期待し難いようにも思われます。そこで,仮に試案のA案のような明文の規定を設けないこととする場合には,親会社等の不法行為責任の追及という方策がその機能を適切に果たし得るようにする観点から,現行法の規律を見直す必要がないか,検討する必要があるものと存じます。具体的には,親会社等の行為の特定等が困難であるという点に対応するものとしては,子会社取締役の任務懈怠を前提に,補足説明のアのような推定規定を設けることを検討する余地があると思われます。また,子会社取締役による親会社等の責任追及を期待し難いという点に対応するものとしては,補足説明のイのように,親会社等との利益相反取引に関する親会社等の不法行為に基づく損害賠償責任を,子会社における責任追及等の訴えの対象とすることを検討する余地があるものと存じます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。(2)は,仮に中間試案にあるような明文の規定を設けないとした場合における子会社少数株主の保護に関するものでありますが,いかがでございましょうか。 ○中東幹事 規律を見直すべきであると考えます。理由は,補足説明の第2段落の「もっとも」の段落で述べていただいているとおりです。 ○伊藤委員 親会社が不当に子会社の資産を吸い上げるような行為を行った場合は,これに対しては不法行為責任を認めることに反対はしません。しかし,補足説明のアにあるような規定の仕方では,不法行為が認められる要件が広過ぎたり,先ほど利益をどのように算定するかというお話がありましたけれども,A案と変わらないのではないかと思います。それで,アのような推定の規定を設けることには反対でございます。それから,先ほども申し上げましたけれども,中小企業の中において,株主代表訴訟の負担が大きい割に,紛争の解決策としては適切でない場合も多くて,そのような観点からイのような規定を設けることも反対させていただきたいと思います。 ○杉村委員 ただ今の意見と若干重複するところもありますけれども,補足説明で挙げられております見直しは適切ではないと考えております。まず,アでは,子会社取締役の任務懈怠によって子会社に損害が生じた場合に,なぜ親会社が任務懈怠をさせたという推定が働いてしまうのか,その関係が明確でないといいますか,論理の飛躍がかなり大きいと存じます。また,イでは,利益相反取引に一応限定されてはおりますけれども,不法行為に基づく損害賠償責任について,親会社を被告とする株主代表訴訟を検討するということになっておりますので,過度に濫用の危険が高いと言わざるを得ないと思います。規律を見直す必要性というのはあるのかもしれませんが,それによる濫用あるいは企業への萎縮効果という弊害とのバランスを考慮して検討しなければいけないと思います。この提案では,そのようなバランスが本当に取れているのかというところに疑問がありますので,極めて慎重な対応が必要だと思っております。 ○太田委員 結論においては,今御発言の各委員の意見と同様になろうかと思うんですが,先ほどの第1のほうでありました,多重代表訴訟制度創設以外の見直しの欄でも申し上げたように,推定規定の創設あるいは場合によっては代表訴訟が認められるようなケースのことを考えますと,監査の実務の観点から相当詳細な規定をしていかないと,具体的なアイデアはなかなか今私は申し上げられませんけれども,過剰な負担を監査役に負わせることになるということに対して大変懸念しているところであります。したがいまして,私ども協会としても,もう少しこの辺の論議の内容について,ではどのようにすれば本当にいいのかということを監査の実務の目線からまた検討し,機会があれば提言をしていきたいと思います。 ○静委員 先ほども少し申し上げましたけれども,元々の案のほうは不法行為責任と大差がなくなっているのではないかという気もいたしますし,もし(1)の案を導入しないということであれば,不法行為責任の規律を見直すというのが正解だと私は思います。アとイについては,いろいろ問題提起があるのは分かりましたけれども,それにしましても,こういうものがないと立証できず,責任を追及し切れないということも事実だろうと思いますので,その点も含めて,もう少し検討してはいかがかと思います。 ○前田委員 この(2)に基づく親会社の不法行為責任と,A案に基づく責任とでは,責任追及の容易さとか責任の範囲などは微妙な関係になるのだと思いますけれども,いずれにせよ相当に重なってくると思います。そうしますと,親会社との利益相反取引で子会社が不利益を受けたときに,一々子会社取締役の任務懈怠を通して親会社の責任を考えるというのは,利益衝突の実態から見ますと迂遠な感じがしまして,せっかく今回A案のように,合理的なグループ経営にも配慮して,端的に親会社に責任を負わせる形の規律が提案されているのですから,あえてA案を避けて(2)のような方法を取るのは賢明ではないと思います。ただ,A案にプラスして(2)ということは考えられなくはないのかもしれません。 ○岩原部会長 他に,よろしいでしょうか。  それでは,先に進ませていただきたいと存じます。次に,第2の「2 情報開示の充実」に移らせていただきたいと思います。事務当局からの説明をお願いします。 ○内田関係官 それでは,「2 情報開示の充実」について御説明します。2は,親会社等との利益相反取引に関する情報開示の充実を図ることを提案するものでございます。パブリック・コメントにおいては,監査報告等による情報開示に関する規定の充実について賛成する意見がほとんどであったことを踏まえ,部会資料18では,その具体的な内容をお示ししております。  まず,①は,現行法において個別注記表等に表示されることとなっている関連当事者との取引のうち,親会社等との利益相反取引に関して,株式会社の利益を害さないように留意した事項並びにその利益を害さないかどうかについての取締役又は取締役会の判断及びその理由を,事業報告の記載事項に追加するというものでございます。そして,②は,そのような事業報告の記載事項についての監査役等の意見を監査報告の内容とするというものです。これは,表示の適正さのみならず,①に掲げた事項の内容に関する意見も含み得るという趣旨で,買収防衛策に関する監査報告の記載事項を定めた会社法施行規則129条1項6号等の規定を参考にしたものでございます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。この情報開示の充実につきましては,パブリック・コメントにおきましても賛成意見が多数であったわけでありまして,部会資料18ではその具体的な内容を記載しております。いかがでしょうか。 ○太田委員 結論から申し上げますと,私どもは,今回の提案に賛成したいということです。あえて申し上げれば,親子会社間の利益相反取引に関しまして,子会社の少数株主の保護の実効性を高めていくという観点から申し上げるわけですけれども,監査役意見の開示によって情報開示の充実を図るということが大事だと,まずそのように思っています。  そういった意味で,①のア,イの記述を事業報告の内容とするということは極めて適切であると思います。同様に,②に記載されていますように,これを事業報告の内容とする事項に関しまして,監査役あるいは監査役会あるいは監査委員会の監査報告書の内容とするということも,極めて適切であると申し上げておきたいと思います。 ○杉村委員 経済界といたしましても,情報開示の充実の趣旨自体は理解しておりますが,見直しが行われた場合の実務への十分な配慮をお願いしたいと思います。特に,①の事業報告の開示に関して,例えば,アの「利益を害さないように留意した事項」として,グループ経営の機微に関わるような,営業秘密の中身に関わるような情報の開示を求めるということはよもやないと思いますし,あるいはイの「判断及びその理由」として,一つ一つの取引に鑑定書をそろえるといったことまでは求めないと思っておりますけれども,それではどの程度の開示が求められるのかというところが明確ではありません。求められる開示の程度によりましては,過剰な調査や手続が必要になってしまうという実務の懸念がございます。そこで,ある程度,包括的あるいは抽象的な内容でも足りるとするとか,あるいは具体的な内容を求めるよりは方針の開示とするなど,工夫ができると思います。実務上のワークということも考慮した検討を是非お願いしたいと思います。 ○神作幹事 先ほどのように,親子会社間の取引について不利益があったかどうかということが非常に多様な要素から判断されるということになりますと,ここで開示されるべき事項というのは,有益かつ実効的な開示がなされるためには,相当細かいことや機微に触れる情報まで書いていただかないと有用な判断ができないような気がするのですが,他方で,それをすると,企業に関する機微情報が開示されてしまうことも懸念されるところでございます。ドイツにおける従属報告書は,非開示の書類となっていまして,監査役や会計監査人はアクセスできるけれども,一般の者の目に触れることはありません。そのような開示とは別の形で情報の入手を行う方法も一つ考えられるのではないかと思われます。 ○太田委員 1点,確認ですけれども,全面的に賛成と先ほど申し上げましたが,ある一定の前提に基づいてお話ししているものですから,確認をしたいと思うんです。現行法上,非公開会社であります会計監査人の非設置会社におきましては,個別注記表に関連当事者との取引に関する注記の記載を要しないとされているわけですが,同じく非公開会社であっても,会計監査人を設置している会社において,これは記載が必要だということになっています。この場合,事業報告への開示を必要とするのか否かという辺りについても定見がおありならばお聞きしたいし,これから詰めるということであれば,その辺の過程でまた論議をしていただきたいと思います。 ○内田関係官 親会社等との利益相反取引にについては,子会社が公開会社でも非公開会社でも,同じような懸念があり得ると思いますので,非公開会社をこの規定の適用対象から除外するといったことは,現時点では余り考えていなかったところです。ただ,それでは実務上問題があるといった事情があるようでしたら,御指摘を頂ければと思います。 ○太田委員 私ども自身も,もう少しそこを実務の観点から,適切で,かつ過大にならないようにするための範囲の提言等々について,また機会があれば申し述べたいと思います。ありがとうございました。 ○岩原部会長 他にございますでしょうか。よろしいでしょうか。  それでは,この第2の「2 情報開示の充実」については,基本的には皆様の御了解を頂いたものと理解しております。その上で,御指摘のあったような点の配慮は,恐らく法律自体に書くのは難しくて,実際には会社法施行規則などの中で,具体的にそういう御懸念になるようなことが生じないような配慮をしながら,開示内容を詰めていくということになると思います。  他に何かございますでしょうか。基本的には,この「情報開示の充実」につきましては,中間試案に従って進めさせていただくということでよろしゅうございましょうか。  それでは,そのようにさせていただきたいと存じます。  以上をもちまして本日の審議を終えたいと思います。本日の部会の終了の前に,次回の部会の予定について,事務当局から御説明をお願いしたいと思います。 ○坂本幹事 本日も,約2か月半のブランクにかかわらず,大変熱心に御議論いただきましてどうもありがとうございました。次回は,3月21日水曜日の午後1時半から,予定では午後5時半まで,場所は,法務省地下1階の大会議室でございます。本日と場所が異なりますので,御注意をお願いいたします。次回は,本日に引き続きまして,親子会社に関する規律に関する個別論点の御検討をお願いする予定でございます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございました。それでは,法制審議会会社法制部会第17回会議を閉会させていただきます。本日も,長時間にわたって大変御熱心な討議を頂きまして,誠にありがとうございました。 -了-