法制審議会ハーグ条約(子の返還手続関係)部会           第12回会議 議事録 第1 日 時  平成24年1月23日(月) 自 午後3時35分                       至 午後5時08分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  ハーグ条約を実施するための子の返還手続等の整備について 第4 議 事  (次のとおり)           議        事 ○髙橋部会長 第12回になりますが,ハーグ条約部会を開催いたします。   机上にありますように,法務省内部におきまして人事異動がございました。團藤委員が裁判所に移られ,萩本修委員が後任として就任されたわけでございますが,萩本委員は他の職名の下で既に幹事でございましたので,挨拶は省略させていただきます。   では,審議に入る前に事務当局から配布資料の説明をお願いいたします。 ○佐野関係官 本日の配布資料ですけれども,いずれも席上配布資料になります。部会資料15としまして,要綱案(案)をお配りしております。あと参考資料としまして,資料番号21ですけれども,外務省の懇談会がこれまで5回行われてきましたけれども,その結果を取りまとめた論点まとめのペーパーをお配りしております。御覧いただければと思います。 ○髙橋部会長 実はこの部会は昨年の7月13日に第1回の会議が開かれております。それで本日は第12回目ということになります。委員,幹事の皆様の御協力によりまして,前回の部会において要綱案の実質的な内容について,相当程度御審議いただけたものと思っております。そこで本日は,部会資料15に基づきまして,要綱案の取りまとめのための審議を行うということになります。   では,事務当局から前回の部会資料からの修正を加えた点を中心にして説明をお願いいたします。 ○梶原関係官 それでは,主に部会資料13からの変更点について御説明します。   なお,変更点の中には形式的な表現の変更や規律の順序の入れ替えにすぎないものが多くありますが,なお,そのようなものにつきましては,適宜説明を省略させていただき,実質に変わる変更点を中心に説明させていただきます。もっとも,その他の点につきましても,お気付きの点がございましたら,御指摘いただければ幸いです。   まず,記録の閲覧等についてですが,13ページのキ「(ウ)記録の閲覧等」についてです。相手方又は子の住所又は居所の閲覧等に関する④の記述について,住所等表示部分を原則不開示とする場合は,中央当局から提供を受けた情報である場合に限定することを明示したものです。   そもそも,原則不開示とする規律を設けることとした趣旨は,援助申請を受けた中央当局が子の所在等を確知するため関係機関から情報を受けるに際し,確実に情報提供を受けることができるようにするためには,中央当局が収集した情報を提供しないものとしていることから,中央当局の活動を担保するため,中央当局の仕組みとの足並みをそろえる必要があることによるものです。   ですから,住所等表示部分を原則不開示とするのは,中央当局から情報提供を受けた情報に限るのが一貫し,相当と判断したことによるものです。   次に受継についてです。15ページから16ページにかけての「(カ)法令により手続を続行すべき者による受継」について,この部分は第一審及び抗告審共通の手続を規律する部分ですので,「家庭裁判所」とあるのを「裁判所」と訂正しております。   16ページの「(キ)他の申立て権者等による受継」のうち,①及び③の部分ですが,①及び③の規律は,申立人又は相手方が一人の事件において,当該申立人又は相手方が死亡し,そのため,そのままでは手続を続行することができない状態になった場合を対象とすることを意図しています。   従前の案では,申立人が複数いて,そのうちの一人が死亡した場合も対象としているようにも解されるおそれがありますので,意図を明確にする趣旨で,「申立人の死亡によって,その手続を続行することができない場合」,「相手方の死亡によって,その手続を続行することができない場合」と表現を変更しています。   また,③では,(カ)③と同様に,第一審及び抗告審共通の手続を規律することを表すため,「家庭裁判所」を「裁判所」に変更するほか,用語の修正をしております。   なお,前回の部会で③の手続を受け継がせることができる期間の起算点を「裁判所が相手方の死亡を知ったとき」などと工夫ができないかとの御意見を頂きましたが,裁判所が相手方の死亡を知った日というのは,相手方が死亡した日に比べて,客観的に明確とは言い難く,手続的な明確性や公平性の観点から,相当でないと考えられますので,従前の提案どおり,相手方が死亡した日を起算点としております。   取りあえずここまでお願いします。 ○髙橋部会長 前回,御質問あるいは御意見を受けた点の全てについての説明ではない可能性がありますが,そういう点をまた気が付かれましたら,改めて御意見あるいは御質問をしていただければと思います。   それでは,以上のところにつきまして,いかがでしょうか。   では,お気付きのときにまた戻ってもいいという前提で先に進むことにいたします。   次の部分につきまして,説明を。 ○松田関係官 それでは,次は部会資料15の17ページの「(2)第一審裁判所における子の返還申立事件の手続」のうち,「ア 子の返還申立て」から22ページの「オ 審理の終結等」までの間につきまして,実質的に変更をした部分等を中心に説明させていただきます。   まず,19ページの「ウ 事実の調査及び証拠調べ等」の「(ア)事実の調査及び証拠調べ等」では,前回の部会で頂きました御意見を踏まえまして,②の規律を変更しております。変更後の②は,家事事件手続法第56条第2項の,当事者は事実の調査及び証拠調べに協力するものとする旨の規定と同趣旨の規律を本手続に具体的に当てはめた内容を規律したものです。条約の文言からも,本手続においては客観的証明責任の分配が明らかであり,各当事者がすべき協力の主たる内容を具体的に明示することが可能であることを踏まえまして,その協力内容として,当事者が返還事由又は返還拒否事由を主張し,それを基礎付ける資料を提出するための活動をするべきことを示すため,②のとおり整理いたしました。   なお,従前の提案の②は,「①の規律にかかわらず」として,②は①とは相容れないような規律となっておりましたが,②において規律する返還事由及び返還拒否事由であっても,結局は①で規律する事実の調査又は証拠調べを通じて,裁判資料となることを考えれば,②は①と矛盾するものではないので,そのような趣旨を表すためにも,「①の規律にかかわらず」という従前の文言は削除しております。   本手続では,事件の性質上,外国に資料が存在するなど,資料の入手が困難な場合も少なくないと考えられますが,①の規律があるからといって,裁判所が常に入手困難な資料についても収集しなければならない義務を負うものでないことは当然ですし,加えて,②の規律は,例えば,当事者が返還拒否事由の存在を主張せず,収集された資料からも返還拒否事由の存在がうかがわれないような場合にも,裁判所が常に返還拒否事由の存在の可能性を考えて,その存否の判断のために,自ら職権で裁判資料を収集することまで義務付けられるわけではないことの根拠になり得るものと考えられます。   また,特定の返還拒否事由が問題になっている場合においても,相手方自ら容易に提出することができる返還拒否事由を基礎付ける資料があるにもかかわらず,提出しない場合であって,事柄の性質上,裁判資料が提出されないことによる不利益を当該当事者に負わせても不当と言えないようなときに,裁判所が,なお職権で資料を収集しなければならないという責務まで負うものではないといった解釈の根拠にはなり得るものと考えられます。   続きまして,20ページ「(ウ)裁判所調査官による事実の調査」の③ですが,家事事件手続法第58条第3項と同様に,法律の規定として報告するものとするとする趣旨ですので,要綱案としては,「報告するものとするものとする」というふうに修正をしております。   次に21ページの「(キ)調査の嘱託等」では,前回の部会で御説明しましたとおり,本手続の資料収集場面における中央当局の位置付けを明確にする趣旨で,中央当局を明記することとしております。   では,22ページのオまでの変更部分については以上になります。 ○髙橋部会長 いかがでしょうか。 ○棚村委員 ちょっと確認ですが,住所部分の表示の14ページのところなのですが,中央当局から提供を受けた情報であるということで限定を付けて活動を担保する。中央当局が信頼関係に基づいて得た住居の表示に関わるような部分については,不開示とするということで,その限定を付けられた場合に,そうすると,もしその住居表示部分というのが,中央当局以外のもので記録に出ている場合は,その⑤の規律のところで何らかの形でその不適当であるというふうに判断した場合には,そこでチェックをするという縛りでいいということですね。ちょっと気になるのは,もちろん中央当局の所在確定とか,円満な返還のための調整的な機能を果たすというときに,情報提供というか,住居部分について,情報をいろいろなところから得るときに,非常に支障が出ると困るということが一つあるわけです。   ただ,中央当局に関するところでやり取りをしていたときに,内閣府等はやはりDV等のおそれがあるので,かなりそこに対しては除外規定とか慎重な形でやってほしいということをちょっと強く言っておりました。こちらとしては議論全体としては,こういうような問題については中央当局が必ずしも出さなくても,それを推知してしまうような情報とか,そういうものを探している側からすると,いろいろな情報をキャッチする機会というのはかなり連続的に無限にあるということで,一応納得してもらって,中央当局に関しては,少なくとも配慮はするけれども,いろいろなところから情報を取れるようにするということになったわけです。特に裁判所との関係で問題になると思うのですけれども,何らかの事情でもって,住所に関わるものが記録上,出ている場合に,あるいは出てきた場合,住居表示に,中央当局以外のところへ,そうすると,不開示というところはやはり一般的に外した上で,その④のところでやるというわけですか。これは山本克己委員とのやり取りの中で,私は裁判で真実の発見とか審理のために必要な場合もあるし,手続の保障みたいなこともあるので,包括的な条項のところでチェックすればいいということを言いましたら,それはやはり全体として不開示にしなければいけないのではないかという話がありました。そうでないと徹底しないのではないかということがあったものですから,これでいくと,中央当局が提供したものについては担保される。だけれども,それ以外でもし住居表示部分が何らかの形で出た場合に,その危惧というのは,⑤の規律のところで裁判所がチェックするからいいという,私がちょっとイメージしていたものと近いようなことになったんですけれども,よろしいんでしょうかという確認だけです。つまり,裁量が働くということでよいのでしょうか。 ○梶原関係官 今おっしゃられたように,住居を秘匿しているような場合には,中央当局から情報を得ることになると思います。中央当局から住所等の情報を得た場合には④で原則不開示ということになりまして,それ以外のルートで入ってきた,中央当局以外のルートで入ってきた住所等に関する情報については⑤で判断されるというふうに考えております。 ○棚村委員 そうすると,結局,⑤の規律という一般的な包括的なもので中央当局以外のもので住居が表示されるものが仮に出てきたとしても,そこでチェックするということでセーフガードみたいにするということですね。 ○梶原関係官 はい,そうです。 ○棚村委員 分かりました。 ○髙橋部会長 22ページのカの前まで既に入っておりますが,いかがでしょうか。   19ページのウの「(ア)事実の調査及び証拠調べ等」につきましては,前回御指摘いただいたところで,このような形で,協力するものとするという形で条文は作ることと致しました。協力するものとする,協力しなければならないわけですが,そうでなく協力しなかった場合の効果は直接は出ていませんが,ただいまの説明にありましたように,いろいろな形で対応はできるという,そういう解釈になるはずであるということですが。 ○山本(克)委員 法制用語について,この部分で教えていただきたいのですが,これは資料を提出するほか,事実の調査及び証拠調べに協力するというふうに,こういうふうに表現した場合は,提出することは協力の一対応であるというふうに読むんでしょうか。 ○松田関係官 部会資料の段階ではその趣旨で書かせていただいておりますけれども,法制的に「ほか」と書いてしまうと,協力することの外に出てしまうということであれば,また法律段階ではその表現ぶりなどは検討させていただきたいと思っております。 ○髙橋部会長 よろしいでしょうか。また元に戻ってもいいという前提ですが。   では,次の説明に移ります。 ○佐藤関係官 それでは,次に22ページの裁判のところから26ページの不服申立ての前までの部分について説明をさせていただきます。説明いたしますのは,25ページの和解の部分になります。   こちらの和解については,和解できる事項に関する規律について,具体的な文言を検討することとしておりましたが,部会資料に記載しましたとおり,「子の監護に関する事項,夫婦間の協力扶助に関する事項及び婚姻費用の分担に関する事項」とすることで整理いたしました。子の返還申立て事件の和解において,子の返還に関連して合意することが望まれると想定される事項のうち,本来的な家事審判事項に当たるものは前回も御説明したとおり,基本的には暫定的な養育費や生活費,面会交流や居住関係の取決めです。要綱案に記載したような文言であれば,養育費や子との居住関係については,子の監護に関する事項として,配偶者の生活費や住居を準備することについては,夫婦間の協力扶助に関する事項として,離婚前の監護費用については婚姻費用の分担に関する事項として取り決めることが可能です。   和解に関しては,常居所地国に帰った後のことについて合意をする場合の問題点についても多く御指摘を頂きましたが,これについては規律には現れませんが,今後運用を考える上で留意すべき事項として整理できるかと思います。   また,和解が成立した場合の効力について,前回の部会において本質が非訟であるにもかかわらず,確定判決と同一の効力を有するとするのは相当ではないのではないかという御指摘を受けた点を検討いたしまして,確かに本来的な家事審判事項についてまで確定判決と同一の効力を有するとするのは相当ではないと思われるため,具体的な規律としては,「確定判決(子の監護に関する事項,夫婦間の協力扶助に関する事項及び婚姻費用の分担に関する事項にあっては,確定した家事事件手続法第39条の規定による審判)と同一の効力を有するものとする」というふうな規律とすることに整理いたしました。これによって,本来的な家事審判事項については,家事審判と同一の効力を有することになり,その他の事項,例えば常居所地国への旅費の支払の約束等については確定判決と同一の効力を有するということになります。   なお,家事審判と同一の効力を有するとされた場合の具体的な効力については,執行力との関係では,給付を命ずるものであれば家事事件手続法第75条により,執行力のある債務名義と同一の効力を有することになります。   続いて,前に「ク 審理状況についての説明」とあった部分ですが,その規律の内容に鑑みて,41ページの「第5 雑則」の1に移動したもので,全部削除としておりますが,内容に変更はございません。   以上になります。 ○髙橋部会長 いかがでしょうか。   それでは,先に次の説明に移ります。お願いします。 ○松田関係官 それでは,続きまして26ページの不服申立てから,32ページの再審までの間で,実質的に変更があった部分等について説明をさせていただきます。   まず,26ページ以降の「(3)不服申立て」の「ア 終局決定に対する不服申立て」に関しましては,27ページの「f 抗告裁判所による裁判」について,前回の案では①として「抗告裁判所は即時抗告について決定で裁判をする」として規律を設けておりましたが,「g 即時抗告及び抗告審に関するその他の手続」の①において,22ページの(ア)に記載しております,家庭裁判所は子の返還申立事件の手続においては,決定で裁判をする旨の規律と同様の規律を設けることとしておりますことと重複しておりますため,従前の①を削除しております。そしてこれを受けまして,28ページの「c 特別抗告及びその抗告審に関するその他の手続」の①,29ページの「b 許可抗告及びその抗告審に関するその他の手続」の①,31ページの「(エ)終局決定以外の裁判に対する不服申立てに関するその他の手続」の②について,それぞれf①を削除する修正を行うほか,記載の仕方を一部変更しております。   また,前回の部会で抗告審の手続に関して,申立て却下の終局決定に対する即時抗告の抗告審において,子の陳述の機会を確保すべきではないかとの御指摘を頂きました点についてですが,第一審が申立てを却下した場合に,その抗告審が原決定を破棄して,子の返還を命ずる決定を自らする場合に,子にどこまで手続保障を図るかは,抗告審に特有の問題ではなく,子の返還を命ずる決定をする際に,常に生ずる問題であると考えられますところ,本手続では第一審も抗告審も同様に,子の陳述の聴取その他の適切な方法により子の意思を把握するように努め,その意思を考慮しなければならない旨,規律することとなっておりますため,抗告審においても子の意思を把握するように努めて,これを考慮すべきことになり,子の陳述の機会は実質的に確保されていると考えられますので,特段の規律を別途設けることはしないこととしております。   次に31ページの(4)の「ア 終局決定の変更」の①では,前回の部会で御了解いただきました「当該決定を維持する必要がなくなったと認めるとき」を削除しておりますほか,ただし書の表現を一部変更しております。   変更後の④では,前回の部会で御説明しましたとおり,即時抗告の抗告審に限定する必要がありますので,その旨の修正をしております。   ⑤及び⑥では,実質的な意味は異なりませんが,通常の用例に従い,「家庭裁判所の」という限定を特に付さない表現に変更しております。また,前回の案では④として規律しておりました,「性質に反しない限り,各審級における手続に関する規律と同様の規律を設けるものとする」との規律を一番後ろの⑦に移動しておりますが,内容的には変更はございません。   再審までにつきましては,以上です。 ○髙橋部会長 いかがでしょうか。   この不服申立て辺りになりますと,かなり複雑といいますか,分かりにくくなってまいりますが,前回いろいろ御指摘を頂きました子どもの陳述権は,子どもに独立に抗告申立権を認めたこととのバランスという御指摘でございましたが,特別の規律は置かないということ,実質は裁判所において確保されるであろうということで,原案はそうなっております。あるいは,前回,これは用語の整備だけですが,申立ての取下げはあるけれども,申立ての規定が手続代理人の権限の中にはないのではないかという点は,前のほうできちんと処理をいたしました。   同じく規定は設けませんが,特別抗告や許可抗告については,解釈論ということになるのでしょうか,ちょっと説明をしていただけますか。 ○松田関係官 前回御指摘を受けました特別抗告及び許可抗告について,抗告権者等を明示すべきではないかとの点についてですが,申立人及び相手方以外の者にも裁判の効力が及ぶ者が存在することが多い非訟事件におきましては,そもそもこういった抗告権者ですとか,その前提となる特別抗告や許可抗告をすることができる裁判を明示的に定めるのは困難でありまして,非訟事件手続法や家事事件手続法においても解釈に委ねることとしております。   本手続においても,申立人や相手方についてはどのような場合に特別抗告や許可抗告の利益があるのかというのは,比較的容易に判断されると思われますが,特に子につきましては,子が即時抗告,一審の裁判があった後,即時抗告をしている場合としていない場合,利害関係参加をしている場合としていない場合など,子の手続への関わり方も様々であり得ることを考えますと,直ちに一義的に明確にすることは困難でありまして,また,明文で定めた場合には,その他の手続における特別抗告や許可抗告の解釈にも影響を及ぼすことがありまして,その点にも配慮する必要が生じることを考えますと,やはり明文で定めるというのは必ずしも相当ではないのではないかと考えられます。   そこで,今回の手続における特別抗告,許可抗告についても,非訟事件手続法や家事事件手続法と同様に抗告権者や抗告の対象となる裁判については,明記をせずに解釈に委ねることとしたいと考えております。   以上でございます。 ○山本(克)委員 私が資料をきちんと読めていない可能性が高いんですが,この終局決定の変更の申立てに係る高等裁判所の終局決定に対しては許可抗告はできるんでしょうか,できないんでしょうか,どちらになるんでしょうか。 ○松田関係官 終局決定の変更は,従前の裁判のやり直しということですので,特に終局決定の変更によってされた裁判が許可抗告の対象から排除されるというふうには考えてはおりません。 ○山本(克)委員 必ずしもそう読めるのかな,どうなのかなというのが29ページの(ウ)のaの①がそういうふうに読めるのかどうか,もう一つ,よく分からなかったので,お伺いしました。 ○松田関係官 29ページの(ウ)aの①は,高等裁判所の終局決定ということにして,②の許可の申立てを却下する決定を除く高等裁判所の終局決定には,一定の場合に抗告をすることができるということで,特にその高等裁判所の終局決定がどういう終局決定か,終局決定の変更の手続によってされた終局決定かどうかということまでは特に制限しておりませんので,ここで読めるということでよいのではないかと思っております。 ○山本(克)委員 そういう御趣旨であれば,特にありません。特別抗告についても同様だということでよろしいですね。 ○松田関係官 そうですね。 ○山本(克)委員 ありがとうございました。 ○髙橋部会長 よろしいでしょうか。では次に進ませていただきます。説明を。 ○佐藤関係官 では,次に34ページから37ページにかけての出国禁止命令等に関する部分について説明させていただきます。   まず,「(1)出国禁止命令及び旅券提出命令」の規律について,前回の部会での御指摘を踏まえまして,発令要件の記載を修正いたしました。前回提示した規律の下でも結局具体的に要件となるのは,子が連れ去られるおそれがあるか否かでありまして,前回の部会資料に記載しておりました害悪の発生の防止や子の返還を実現するというのは連れ去り防止の目的にすぎないと整理できます。そのため,発令の要件としては,「子が日本国外に連れ去られるおそれがあるとき」としておけば十分であると言えます。   また,前回の提案では,問題とするのが国外への連れ去りですという点が明示できておりませんでしたので,「日本国外への」と記載を付け加えております。このような観点から,「子が日本国外へ連れ去られるおそれがあるときは」という要件といたしましたが,このような規律としたことで,前回御説明した実質的な要件や要件審査の考え方に変更を来すものではございません。   また,出国禁止命令については,前回の部会において,「子の返還の申立てについての裁判の確定により失効する」としている点について,TP,子を連れ去った親に対して命令が出ている場合は,確定により直ちに失効するものとするのは相当ではないという御指摘を受けましたが,原案どおり確定により一律に執行するものと整理したいと考えております。   確定後,何らかの条件,例えばTPが任意に履行することを約した場合には執行するとすることなども考えられますが,いつ執行するのかが不明確となってしまいますし,その場合も結局,約束した内容に反して,返還せずに第三国に出国することはあり得ることから,それほど効果的な手段であるとは言えません。   また,出国禁止命令の目的の一つは,子が海外に出ることによって,およそ返還決定という債務名義の取得ができなくなる事態を避けることにもありましたが,確定まですれば,債務名義の取得はできており,後に帰国すればそれを基に強制執行することも可能となります。   出国禁止命令については,この他にも事後的に旅券のみ提出命令を出すことや,事後的に旅券提出命令のみを取り消すことを認める必要がないかという御指摘を頂きましたが,基本的には旅券の所持が認められない事案では,出国をするおそれも認められず,出国禁止命令自体が出ないということが多くなると考えられます。   そのため,後に旅券提出命令のみを発することが必要になる場合というのは,それほど想定されず,旅券の取得がうかがわれた後に,改めて出国禁止命令の申立てをしてもらえれば足りるということになるのですが,仮に出国禁止命令だけが発令され,後に旅券を取得したような事案があったとしても附帯裁判のみが後に独立して申し立てられ,本体である出国禁止命令とは別個に発令されるというのは相当ではないと考えられますので,このような例外的な事情がある場合には,出国禁止命令の申立てを一度取り下げてもらい,再度出国禁止命令を旅券提出命令とともに発令することにより,対応することが可能であるというふうに考えております。   出国禁止命令については以上になります。 ○髙橋部会長 いかがでしょうか。 ○棚村委員 ちょっと前回遅れてきて,この部分は御説明を聞いていなかったので,もう既に議論されているかもしれませんけれども,この出国禁止命令と旅券提出命令の両者の関係なんですけれども,これは別々に求めるということがあり得るのか,原則はワンセットなのかで,仮に出国禁止命令だけを申し立てて,それが命じられた場合でも,余り実効性がないのではないかということもあるかと思います。   ただ,出国禁止命令だけを求めることの何かメリットみたいなものがあるのかどうか,つまり,それは常にワンセットで申立てをするということを想定されるのか,それとも,別々ということもあり得るのか,それによって,先ほど御説明された事後的に旅券提出命令だけを申し立てるとか,それ自身の必要性がなくなった場合の取消しということが出てきたものですから,これをワンセットとして考えているから,そういう必要がないということになるのか,つまり,出国禁止命令だけを求めた場合に何かそれだけでメリットないし,効果が期待されるのか,これは違反した場合にはどれも過料か何かで20万円という形での強制手段というか,間接的な強制みたいな形のペナルティになるのだと思いますけれども,ちょっと出国禁止命令だけを申し立てて,それを命じられたときの効果との関係で,実効性とかメリットがかなり高いのかどうか,それとも,通常予定されているのはこのワンセットということであれば,ワンセットが原則ですから,それだけを切り離して命じるとか,それを一方がどうなったからこっちもこういう影響を受けるということはないという説明はよく分かるのですが。出国禁止命令と旅券提出命令の双方の関係を確認させてください。 ○佐藤関係官 今,御質問があった点ですが,基本的にはワンセットと考えております。少なくとも旅券提出命令は出国禁止命令が発せられることを前提に,その附帯的な裁判として発せられるということを考えておりますので,旅券提出命令のみが申し立てられて,それのみ発令されるということはまずないという整理です。出国禁止命令のみを申し立てることが法律上認められないかといいますと,それを認めないというふうにしているわけではないのですが,御指摘いただいた実効性の観点については,出国禁止命令の実行性を担保するものが旅券提出命令であり,その旅券提出命令の実行性を担保するものとして,旅券提出命令の違反に対して過料を課すものとしております。つまり,出国禁止命令そのものについてはそれの違反というのは,すなわちもう国外へ出てしまっている場合ですので,特段措置を採ることができないというふうに整理しておりますので,出国禁止命令のみ発令したとしても,実効性については特段担保する手段がないという状況で,余り意味がないものというふうには整理しております。 ○棚村委員 付け加えると,他の国なんかだと居所です。今住んでいるところを変えてはいけない,住所を変更してはいけないとか,それを届けろとか,そういう移動の禁止部分が独立して問題になる場合があるわけですね,国内であろうが,他の国であろうが。そういう場合にはかなり意味を持つと思うのですけれども,旅券がなければ基本的に出られないのが原則だろうと思いますから,旅券を止めてしまえば,出国を禁止ということの目的はほぼ達せられるのではないかと思います。   出国禁止命令と旅券提出命令とは,基本的にはワンセットのものだと思います。出国禁止するから,手段として旅券はやはり保管をさせてもらわないといけないということなので,他の国のように,出国の禁止,居所の変更禁止ということがむしろ段階的に認められるのであれば,出国禁止だけを特に取り上げる意味は出てくると思います。とにかく今の場所を移動してはいけないとか,それから,もちろん海外も含めてですけれども,そういう意味がないのであれば,やはりワンセットで考えていくということでいいのかなというふうに。確認です,これも。 ○山本(和)委員 ちょっと説明を聞き落としたのかもしれませんが,この(2)の35ページの③の「出国禁止命令があった後であっても,取り下げることができる」という部分が削除されている趣旨についてお聞かせをいただければと。 ○佐藤関係官 こちらについては,実質的な変更はございませんが,取下げをすることができるというのは,規律がなくても当然で,取下げをする際に,この場合には取下げができませんですとか,取下げをする場合には,こういうことをしないといけませんと,そちらのほうを法律で規律しないといけないということになります。この消してある③の元々参考にしていた部分が,子の返還申立て事件の取下げの規律で,決定があった後であっても,取り下げることはできるけれども,相手方の同意を要するんだという規律があったんですが,そちらは結局,取下げができるとするところに意味があるというよりも,相手方の同意を得なければならないとしているところに意味がある規律でしたので,特段命令があった後であっても,取り下げることができるとするだけであれば,置く必要はないかと考えて,こちらのほうを削除いたしました。それで,④のところ,取下げの方式については書面でしないといけないというところについては,規律を置かないといけませんので,③のほうは削除いたしまして,新しい青字で書いてある④のほうを追加したという整理です。 ○山本(和)委員 この子の返還の申立ての取下げのところは,終局決定が確定するまでという時的な限界を抱えていますね。 ○佐藤関係官 そちらもございます。 ○山本(和)委員 それで,これもそうですか。ただ,先ほどの佐藤関係官の説明だと,例えば出国禁止命令が発令されて,しばらくたって,何か旅券を取得したというような事情があるときには出国禁止命令を取り下げて,改めて申し立てればいいのではないかという話があったわけですが,それは出国禁止命令が確定した後でもそうかなという気がしたんですが。 ○佐藤関係官 その時点においても取下げは制限されないものとして整理しております。 ○山本(和)委員 そうすると,裁判が確定した後も取り下げられるという。 ○佐藤関係官 はい。暫定的な処分ですので,取り下げること自体はできるのではないかと整理しております。 ○山本(和)委員 それは書かなくてもできるということなんですか。 ○佐藤関係官 そこの部分は,民事保全のところでも解釈かなと考えておりますので,同様に特段明文の規定を置かなくてもできるものとして考えておりますが,もし何かおかしい点があれば御指摘いただければと思います。 ○山本(和)委員 別におかしいとは思いませんが,最初に③,元のやつを書かれていた趣旨はそれを含めて書いているのかなと思ったものですから。 ○佐藤関係官 当初はそのつもりでした。 ○髙橋部会長 実態を変更するつもりもないということですが。 ○朝倉幹事 前にここで議論になったと思うんですけれども,お子さんが修学旅行に行きたいと言ったような場合には,この取消しのところを使うんでしょうかというのが一つ目の質問です。二つ目は,お子さんが外国旅券を持っていて,日本に滞在しているときに,例えばビザの更新が必要だとか,若しくは旅券の更新時期が来て,大使館に持っていって,更新しなければいけないといったようなときに,出国しないので出国禁止はそのままでいいんですけれども,旅券は取りあえず一回返してくれないかというようなことがあり得ないのかどうか。もしあり得るとした場合には何らか手当がされているのかどうかといったことについて,極めて実務的な質問ですが,教えていただければと思います。 ○佐藤関係官 まず,1点目の修学旅行に行きたいような場合には,取消しを使うことを想定しているのかという点についてはそのとおりでして,おっしゃったとおり,取消しの規律によって,その辺について調整すると,必要があれば取り消すということを考えております。   2点目のビザの更新等の場合に旅券を必要とする場合がないのかどうかという点ですが,こちらは日本の入管法の規律するところになるかとは思いますが,調べた範囲では特段旅券がなくてもそれに代わるようなものを法務大臣が発行して,手続を執ることができるというふうになっているようです。 ○髙橋部会長 他にいかがでしょうか。 ○長嶺委員 法制上の問題で確認ですけれども,ここで言う旅券は当然日本国政府が発行する旅券と外国旅券と両方があるということになりますので,外国旅券に関しては,入管法上の規定がありますから,恐らくそれが平行移動してくるのかなと思っておりますし,日本国政府が交付する旅券は,旅券法上の旅券ということになりますので,旅券という言葉を一般名詞として使う場合には,それを法制上どういうふうに位置付けるかというところは何らかの工夫が要るのかなということが一つと,それから,これは旅券があると認めた場合に動く仕組みになっていると思いますので,旅券を有していない場合には,旅券発給の手続を執り,有効な旅券を所持したところで初めてこの規定が動くようになると,こういう理解でよろしいですね。 ○佐藤関係官 基本的にはそういう流れになるかと考えております。 ○織田幹事 単純な質問なんですけれども,先ほどビザの更新の話が出ましたけれども,これは外国旅券を更新しなくてはいけないような事情が生じた場合には,これは一時的に返還はしてもらえるという理解でよろしいでしょうか。 ○佐藤関係官 基本的に旅券は,子どもにとっては少なくとも渡航文書かと思いますので,旅券の更新が直ちに必要なのか,一度切れた後,また新しいものを取得すれば足りるのではないかというところで,後者でいいのかなと思っていたんですけれども。 ○村上関係官 答えになっていないかもしれない補足ですけれども,当該外国の旅券の法制上,切替発給に際してどういった書類が必要か,要は当該旅券の冊子が必要なのか,必要でないのか,どこで発給の申請をするのか,国によって違うというところがございます。なかなか一般化して,当該旅券の冊子がないと駄目だというようなことも今ここでは分からないですし,そこは場合によりけりではないかと諸外国とのやり取りしている中で感じるところでございます。 ○朝倉幹事 しつこいようですけれども,そうすると,旅券が必要な国もあり得るということですよね。その場合には,提出を受けた旅券を一律返さないというような,今の手続だと返す手続は多分ないんだと思うんですけれども,それで大丈夫なんでしょうかというのが多分織田幹事のおっしゃっている趣旨で,先ほど私が申し上げたのもそういう趣旨なんです。一律返さなければいけないと思っていないし,返さなくても手続ができる国も一杯あるんだろうと思うんですけれども,旅券が必要な国がもしあるならば,旅券を提出した親から,手続のために子どもの旅券がどうしても必要なんですと言われたら,無下に断ってしまうんですか。 ○佐藤関係官 ビザの問題だけであれば,入管法上は。 ○朝倉幹事 いや,今のは外国旅券の更新の話ですね。 ○佐藤関係官 外国旅券の更新が何のために必要になるという前提での御議論なんでしょうか。すみません,織田幹事が御質問されたのは,外国旅券そのものの更新が必要になる場合があるのではないかというお話ですか,それとも,ビザの更新のための前提になりますか。 ○織田幹事 いえ,旅券そのものを最初は考えておりましたけれども。 ○大谷委員 何かちょっと議論が混乱しているような気がしまして,最終的には旅券のとおっしゃったんですが,その前に御質問されたときのビザの関係で言いますと,日本に滞在している外国人が在留資格の更新のために有効な外国旅券が必要という場合は確かにありまして,ただ,子どもさんが日本国籍を有しない場合というのがないとはもちろん思いませんけれども,多くの場合,インカミングのケースで言うと,日本国籍も有しているお子さんがかなり多くて,その場合は日本に日本人として滞在しているという場合ですから,在留資格の問題が生じない。それから,日本国籍を有していないお子さんが日本に連れ帰られたという場合はもちろん想定はできるのですけれども,その場合,そもそもそのときにどういう在留資格で入国しているかといったところから,問題になるのかなという気がして聴いておりまして,そういう意味では御質問になられたような場合が全くないとは思わないんですけれども,事務当局のほうがお答えになられた,外国旅券が出国のために,渡航のために必要かどうかという観点であれば,場合によっては一回失効して,もう一度申請してもらうのでもよいのではないかというお答えに聞こえて,私も最終的にはそれでもやむを得ない場合はあるのかなと思います。 ○佐藤関係官 今,大谷委員のほうから御指摘ございましたビザの関係ですけれども,入管の関係部局に確認したところ,外国人であっても旅券が何らかの関係で紛失しているとか,切れているという場合でも,別の書類を発行することによって手続自体執ることが可能であるというふうに確認しておりますので,必ず外国旅券が,有効な旅券が必要になるというものではないと思っております。 ○髙橋部会長 この出国禁止,旅券提出関係は,何分新しい制度ですので,効力を失う時期とかいろいろ問題はあるのですが,余りきめ細かく最初から作るわけにもいかないというところもございまして,こういう形で条文はということなのですが。   では次の部分に進みます。説明をお願いします。 ○佐藤関係官 では続きまして37ページ以降の執行手続以降,最後まで御説明したいと思います。   まず,37ページから始まります,執行手続については,「1 子の返還を命ずる決定の強制執行」の規律について,前回の部会でも変更予定について御説明いたしましたが,民事執行法第171条の適用を前提にしたものとしております。もっとも,これによって前回御提案した規律に実質的な変更はございません。すなわち,部会資料13に記載しておりました執行裁判所の管轄についての規律は民事執行法第171条第2項の適用により,債務者の審尋については,同条第3項の適用により,債務者への費用前払い決定については,同条第4項の適用により,執行抗告については同条第5項の適用により,同じ結論となります。また,前回も説明いたしましたとおり,民事執行法第6条2項は準用しないということにしたことから,1の③で同法,民事執行法の171条第6項については適用しないという,同じ規律は設けないということにしております。   また,これも実質的な変更点ではございませんが,民事執行法上の代替執行そのものであるというふうに整理したことから,「子の返還の授権による執行」ではなく,「子の返還の代替執行」と呼ぶこととしております。この他,規律の順序を基本的に手続の流れの順序となるように,解放実施に関する規律を返還実施の規律よりも前に置くなどの修正をしておりますが,実質的な変更はございません。   続いて面会その他の交流についての家事審判及び家事調停の特則部分について,40ページから始まる部分について御説明いたします。部会資料でいきますと41ページの記録の閲覧の特則の部分ですが,これについて,子の返還申立て事件の手続における記録の閲覧についての変更と同様,住所等表示部分を一律不開示とするのではなく,住所等表示部分が中央当局から提供を受けた情報である場合に限り,不開示の原則を適用するものとしております。従前の提案では,およそ子の住所の確知とは無関係な援助を受けたとしても,また,中央当局から提供を受けた情報でなくても,およそ住所等表示部分は特別扱いされることになっておりましたが,そのような事態は,住所等表示部分について,特則を設ける趣旨に比して特別扱いする範囲が不当に広きに失し,相当でないと考えられます。そこで面会交流等の申立て事件のうち,裁判所が中央当局から子や相手方の所在に関する情報の提供を受けた場合に限り,中央当局から提供を受けた情報に限って,この特則が適用されるものとしております。   また,(2)の3行目に「家庭裁判所」と書いてございますが,「裁判所」と変更したいと思います。中央当局から情報の提供を受けるのは面会交流を受ける審判の抗告審である高等裁判所の場合もあると考えられることによります。   なお,40ページ,41ページも同様ですが,(1)と(2),その管轄の特則と記録の閲覧の特則の部分で,民法第766条第2項及び第3項の規定に基づく,子との面会その他の交流の定め又はその変更を求める家事審判又は家事調停の申立てというふうに記載してございますが,準拠法が外国法になるという場合もありますので,根拠となる法令がこれに限るとする趣旨ではないということで整理したいと思います。   説明としては以上になります。 ○髙橋部会長 最後まで行きましたが,いかがでしょうか。 ○相原委員 これは変更面ではなくて,確認というか,運用のところになるのかとは思うのですが,執行手続の実施者の指定のところです。子の返還の代替執行の申立ては,返還実施者となるべきものを特定してしなければならないものとすると。これの場合,一人だけみたいな,つまりAさんを執行返還実施者となるべきものであるという形で,Left Behind Parentのほうは返還命令に基づいてやるということを想定しているということでよろしいのでしょうか。つまり,Aさん若しくはBさんとか,そういうことはあり得ないのかどうかというのが1点です。   それから,2点目として,実施者の指定のところに執行官の指定というのと,それから債務者に代わっての返還実施者の指定というようになっていますが,結局これは執行の中には子の所在地の何々裁判所の執行官を指定し,それからあと返還実施者に関しては,裁判所が特定して申し立てられた返還実施者を指定するという,そういう理解でよいでしょうか。同じ指定という言葉が並んでいますが,概念は若干違うということでよろしいでしょうか。   あともう一つ,3点目,申立てを却下された場合というのは,これに対して不服な場合というのは,執行に対する執行抗告と同じように理解してよいのですか。この人を特定して,返還実施者としてほしいということに対して,子の福祉の観点から,駄目と言われた場合には申立て却下された場合の不服に関してはどう理解しておけばよかったのでしょうか。ちょっと確認です。よろしくお願いします。 ○佐藤関係官 では,まず1点目の返還実施者となるべき者の指定が,一人でなければならないのか,複数のような場合も想定されるのかという点ですけれども,一人だけに絞らないといけないという,一人だけ書かないといけないというものではないんですが,複数挙げる場合は予備的ですとか,択一的,この中の誰かということを特定するような形で記載していただくことを基本的に考えております。   また,複数選任が相当であるというのであれば,複数を特定し,その複数とする理由などを書いていただくということになるのではないかと思います。   2番目の,執行官の指定と返還実施者の指定の概念の違いですけれども,実務的な運用としては,執行官については,現在の代替執行の場合と同様,申立てを受けた執行官を指定するという形にして,どこどこ地方裁判所の執行官とするところまでは指定しないのではないかと。それで,申立てを受けた執行官と指定されれば,授権を受けた債権者が執行官に申立てをして,その申立てを受けた執行官が実施者となり,その人がやるという流れになるかと思います。   そのため,返還実施者については特定の人を指定いたしますので,概念としては若干異なるということにはなるかと思います。その時点で特定の執行官が定まっているわけではないということになります。   3番目の不服申立てですけれども,民事執行法第171条第5項によって,不服があれば執行抗告を申し立てることができるということになりますので,こちらの結果の裁判に対しては,これを使って不服を申し立てることができるということになるかと思います。 ○山本(克)委員 37ページの第2の1の②の2段落目ですが,この強制執行は,確定した子の返還を命ずる決定として(確定した子の返還を命ずる決定と同一の効力を有すもの)という形で,和解調書と調停調書を指しておられるんだと思うんですけれども,これで指したことになるんでしょうか。つまり,調停調書については家事事件手続法が適用されて,確定判決と同一の効力と言っておりますね。それで,和解調書についても先ほど確定判決と同一の効力というふうにしておられるわけですが,決して確定した子の返還を命ずる決定と同一の効力というふうには表していないので,ちょっと特定の仕方としてこれはまずいのかもしれないなという気がしているんですけれども。 ○佐藤関係官 御指摘いただいた点については,和解の部分では25ページの③のただし書部分です。子の返還の合意を調書に記載したときは,返還の合意に係る記載部分は,確定した子の返還を命ずる決定と同一の効力,付調停についても同様に,子の返還の合意を記載した部分,合意に係る記載部分については,子の返還を命ずる決定と同一の効力としておりますので,その返還を約束する部分だけについては,この執行が適用可能となるという整理としております ○山本(克)委員 失礼いたしました。私の資料の読み方が浅かったということで,失礼します。撤回させていただきます。 ○大谷委員 記録の閲覧なんですけれども,ちょっと分からなくなったので確認のために質問させてください。まず,付調停の場合ですが,付調停になった場合の記録の閲覧の規律なんですけれども,この場合は,家事事件手続法の調停のほうの記録の閲覧についての規律が係ると理解するのかなと思ったんですが,そうすると,このハーグの手続のための特別の規定,つまり,住所部分は許可しないと。それで,調停のほうの記録の閲覧の規律ですから,相当のときは許可するという形なので,そもそも許可をしないということなんでしょうけれども,ただ,ハーグ案件などで住所部分は全く開示されませんよということは係っていないように読めるのですが,私の理解が間違っているのかという点を教えていただきたいのと,同じような質問ですけれども,面会その他の交流についての家事審判及び家事調停の特則という40ページの2で,やはり記録の閲覧等の特則のところでは,家事審判の申立てがあった場合,審判事件というふうになっていまして,調停の場合はこの特則は係らないで,同じ質問ですが,家事事件手続法の一般の記録の閲覧に関する規律だけで行くということになるのかということを確認させてください。 ○佐藤関係官 調停の場合はそもそも原則許可するという規律ではなく,裁判所が相当と認めたときに限り許可するという規律ですので,直接,住所不開示,原則不開示のあの規律が当てはまるものではございませんが,元々弱いものであるというところから,家事事件手続法どおりの相当と認めた場合だけ許可するという規律を置いておけば足りるというふうに整理しております。 ○大谷委員 今,御説明のあったとおりなんだろうなと思って読んでいたんですが,ただ,まず大丈夫だと思っているんですけれども,拾えているかというと,拾えているというか,懸念はカバーできていると思うんですが,そうは言いながら,「許可することができる」なので,何かその場合はもうまるっきり許可しないと,ハーグの特殊性で,言わばハーグ案件の調停事件なので,そこはもう許可しないというふうに決打ちで書いてあるほうが安心な気はするんですけれども,それは何か,もう不要ということでしょうか。 ○佐藤関係官 そこまで明記する規律を設けなくても足りるということで整理しております。 ○棚村委員 先ほど聞いた趣旨もそうなのですけれども,運用でそういうような形でハーグ案件については特に住居表示部分については,非常にセンシティブな情報なので,裁判所としては基本的には不開示の扱いのような形で厳格に運用するということをやはり少し確認しておいたほうが,先ほどもあったように,ハーグの案件の方たちはやはり中央当局が任務を果たしていくために情報収集について例外を定めないと,それはもう不開示にしたほうがいいんだということをここで議論をしておいて,裁量によって住所部分,それ以外の例えば写真とかいろいろなところに,私が知っている事件でも,例えばたまたま看板だとかいろいろなのが出て,非常に特徴的なものがあって,そこから推測していくとか,非常に巧妙というか,こっちのほうがむしろ出したものであっても,それが分かってしまったりということも起こるわけです。そうなると,基本的にどういうところで安心感というか,それを担保するかという,そういう話になったときに,今,大谷委員もおっしゃっていましたけれども,住居部分不開示ということで,余り裁量に関わらせないということであれば,むしろ住居部分が出てきている場合には,それは原則として開示しない方向で許可をしないのだというようなことで少し確認をするなりしておいたほうがいいのかなと思います。そうでないと,そこは裁量だということで言うと,返還の手続はかなり中央当局が出したものということで限定をした上で,範囲を狭めているわけです。ところが,調停とかそういうところになると,話合いでやった場合に出た記録については,相当としないという,従来の規律でいくということになると,また不安だとか危惧感とかいう話が出てくるような感じがしますので,最終的にはそれで結構だと思いますけれども,基本はハーグの返還手続の案件と同じように,中央当局が出したもの,それから,それ以外でもやはり運用上はかなり慎重にやるというようなことでいいのかなという感じはしました。 ○佐藤関係官 恐らく本体で不開示とされているものが調停に付された途端に開示するのが相当と認めるという判断になることはないのではないかという前提ではおりますが。 ○古谷幹事 個々の事案につきましては,各裁判体の判断ということになりますが,中央当局からの情報については絶対的な規律を設けておき,それ以外の情報については家事事件手続法の規律にのっとって判断するという形にしたとしても,住居表示部分の秘匿の要請に配慮した適切な運用がされていくものと考えております。 ○髙橋部会長 他の点でいかがでしょうか。 ○山本(和)委員 前回質問させていただいたところなんですが,一番最後の41ページの2のところで,子の返還申立てを却下したときはこの限りではないという趣旨が,即時抗告をされた場合には裁判をできることになるのかどうかという点についての整理を教えていただければと思います。 ○佐野関係官 前回お答えしましたように,確定する必要があるというのが条約の趣旨かと思いますので,即時抗告されているときには,この規律は当てはまらないというふうな考えでおります。 ○山本(和)委員 これで読めるという趣旨だということですか。 ○佐野関係官 いえ,これを子の返還の申立ての却下が確定するまでと条文上書くかどうかについてはちょっとまた法制的な点も含めて検討したいと思います。 ○髙橋部会長 部会資料15の全体に戻っていただいて結構ですが,御意見が更にあればお願いいたします。 ○織田幹事 和解のところで表記について,私だけかもしれないので,気になるので,ちょっと1点確認させていただきたいんですが,25ページの下から9行目に,和解をすることができる事項についての最終章に,子の監護に関する事項という表記があって,御説明はもうそのとおりと思って伺っていたんですけれども,私のようにそそっかしい人間ですと,何か監護のほうは,いわゆる監護権がどちらにあるかというような問題まで含んでいるというふうに受け取られないかというところがちょっと気になっているんですけれども,いかがなんでしょうか。そこをよろしくお願いいたします。 ○佐藤関係官 文言上,そこを排斥しているものではございませんで,絶対に今御指摘いただいたような監護に関する,どちらを監護権者とするかという判断が,この文言上できないかと言われるとできることになります。もっとも,そのような和解をすることが相当かという問題については,この部会でも御指摘を受けましたとおり,いろいろ問題点があることから慎重に取り扱うべきだろうという,運用に委ねるということになるかと思います。 ○髙橋部会長 この部会としては,今日が最後になりますので,ただいまの御意見もそうだったと思いますが,このように運用すべきだというような,運用に関する御意見,御要望でも結構でございます。立案過程の部会での議事録に残りますので,御遠慮なくそういう点も。 ○相原委員 運用面で,実務家の観点からお願いしたいのは,書面等を翻訳して出さなくてはいけない場面に関しましては,手続費用等を考えますと,通常の国内案件に比して,多大なる費用が掛かるのではないかと推測されます。したがいまして,法律上はかなり当該必要な書面は訳して,日本語にしてということになるかと思うのですが,そこはもう本当に運用の場面で限りなく御配慮いただきたいと。これからの検討事項になるかと思いますが,切にお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。 ○髙橋部会長 以前からそういう御意見を伺っておりますが。 ○横山委員 ちょっと言葉の問題で終わってしまう可能性があるのですが,23ページの終局決定の告知のところで,告知をすることが子の利益を害すると認めるという,子の利益概念がここでは用いられていて,それから,38ページの実施者の指定のところで,実施者を指定することが,今度は子の福祉に照らしてという言葉に変わっていて,あとはできるだけ子の利益という言葉は使わずに,例えば38ページの執行官が威力を用いることは,子の心身に有害な影響を及ぼすというような形で,割とスペシフィックな表現を用いているのですけれども,子の利益に関わるような事柄については,違う理由があるところは違うべきであるし,そうでもないときはできるだけ言葉として統一したほうがいいのではないかなと思います。 ○髙橋部会長 ありがとうございます。他にいかがでしょうか。   それでは,委員,幹事の皆様からの御意見は頂戴できたかと思いますので,要綱案の取りまとめの決定に移りたいと思います。本日の部会資料15のとおり,当部会として要綱案を決定するということでよろしいでしょうか。   御決定いただいたということに扱わせていただきます。   なお,他の部会でもこういうことを申し上げるわけでございますが,この要綱案につきましては,これまでも字句,表現の修正がいろいろとされてきております。今後も,総会での答申までの間に法律案作成の観点,その他から形式的な表現等の修正があり得るものと思われます。このような形式的な修正につきましては,恐縮でございますが,部会長である私と事務当局に御一任を頂きたいと思っておりますが,よろしいでしょうか。   ありがとうございます。そのように処理させていただきます。   では,事務当局からこの部会後の予定につきまして説明をお願いいたします。 ○金子幹事 それでは,御説明いたします。部会での御審議ありがとうございました。この後は,法制審議会の総会にこの要綱案をお諮りするということになります。2月7日に法制審議会の総会が予定されております。この総会で要綱案が了承されますと,要綱になりまして,法務大臣に答申いただくという手続になります。その後は,その要綱を踏まえまして,私どものほうで所要の法案をこの手続部分について作成するということになります。また,外務省におかれましては,中央当局部分についての法案の検討を別途されているところですので,それらを1つにまとめまして今年の通常国会に提出して,その成立を図りたいということを考えている次第でございます。   以上です。 ○髙橋部会長 通常国会提出ということでございます。   それでは,民事局長でもある原委員より御挨拶をしたいと聞いておりますので,よろしくお願いいたします。 ○原委員 委員,幹事の皆様には,昨年7月13日に開催されました第1回会合から,本日の第12回会合までの約半年間にわたりまして,大変熱心に御議論を頂きまして,誠にありがとうございました。当部会で御審議を頂きました,ハーグ条約を締結するための国内担保法案につきましては,諸般の事情から,今年の通常国会への提出が求められましたので,大変タイトなスケジュールでの御審議をお願いすることになってしまいましたが,委員,幹事の皆様の御理解と御協力によりまして,本日,要綱案を取りまとめていただき,本当に感謝を申し上げる次第でございます。これで,ハーグ条約の締結に向けた手続が大きく進展するということになります。事務当局を代表いたしまして,皆様方に厚く御礼を申し上げる次第でございます。ただいま事務当局から御説明いたしましたが,来月7日に法制審議会の総会が予定されておりますので,総会において答申が得られ次第,外務省が検討してまいりました,中央当局の任務等に関する規律をも併せた法案を明日召集予定の通常国会に提出いたしまして,外務省と協力して,会期内での法律の成立に全力を挙げて当たっていきたいと考えております。   しかし,皆様御案内のとおりの国会情勢,あるいは政治情勢でございますし,また,ハーグ条約の締結につきましては,なお慎重ないし反対の意見がございますので,法律の成立までには幾つもの山があるのではないかというふうに思っております。そういう意味で,皆様方には引き続き御支援,御協力を賜る機会があろうかと思いますので,どうか引き続きよろしくお願いいたします。   最後になりましたが,髙橋先生には,当部会の部会長として,審議の円滑な進行と要綱案の取りまとめのために多大なお力添えをしていただきました。また,竹下先生には,法務省特別顧問として,折に触れて貴重なアドバイスをしていただきました。両先生に対しまして,格別の感謝の意を表させていただき,私からの御挨拶とさせていただきます。   本当にどうもありがとうございました。 ○髙橋部会長 私,部会長の髙橋からも最後に一言御挨拶を申し上げます。   要綱案あるいは条文と言ってもよろしいかと思いますが,条文は以上のようにできたわけでございます。言わば仏像はできたわけでございますが,これにどのように魂を入れていくか,これがこれからの作業ということになります。裁判所の方は裁判所として,弁護士の方は弁護士として,そして研究者は研究者として,それぞれこの法律の解釈,運用に対して,これからもっともっと知恵を出していかなければいけないものであろうと思います。私も幾つか法案の,法制審議会に関与してまいりましたが,どの法律ももちろん難しい法律でございますけれども,分けてもこの法律は解釈,運用につき,未知の部分がございますので,総力を挙げて知恵を出し合っていかないといけないものだというふうに痛感しております。   委員,幹事の皆様方は,立案作成過程に関与されたわけでございますので,是非引き続き解釈,運用のほうに力添えをお願いしたいと存じます。もちろんそれは一つにまとめるということではございません。条文の解釈に関しましても,いろいろな御意見があっていいと思います。いろいろな御意見があって,もまれて,解釈が磨かれていくというわけでございます。そのように部会長としてもお願いを申し上げます。   互選によりまして,部会長をさせていただきました。力不足であることは当初から分かっておりましたが,皆様の御協力によりなんとか要綱案の決定にたどり着くことができました。審議につきまして,御協力いただいたことに心より感謝申し上げます。   それでは,座って申し上げますが,我々ハーグ条約部会の審議は今日で終了でございます。長い間,熱心な御審議,どうもありがとうございました。 -了-