法制審議会会社法制部会           第19回会議議事録 第1 日 時  平成24年4月18日(水)  自 午後1時30分                        至 午後6時25分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  会社法制の見直しについて 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○岩原部会長 それでは,予定した時間となりましたので,法制審議会会社法制部会第19回会議を開会いたします。本日もお忙しい中,御出席いただきまして誠にありがとうございます。   (関係官の異動紹介につき省略)   事務当局から配布資料の説明をお願いいたします。 ○坂本幹事 それでは,御説明いたします。配布資料目録と部会資料21を事前にお配りしております。部会資料21の内容につきましては,後ほど御説明させていただきます。   なお,民主党の「財務金融部門 資本市場・企業統治改革ワーキングチーム」の「企業統治強化に向けた中間提言」が,先日,民主党内で了承されたと聞いております。当部会で御審議いただいております企業統治の在り方及び親子会社に関する規律についても触れているということですので,御報告いたします。 ○岩原部会長 それでは,本日の御議論をお願いしたいと存じます。まず,部会資料21の第1の「1 社外取締役の選任の義務付け」から始めたいと思います。事務当局から御説明をお願いいたします。 ○塚本関係官 それでは,「第1 取締役会の監督機能」のうち,「1 社外取締役の選任の義務付け」について御説明いたします。社外取締役の選任の義務付けについては,パブリック・コメントにおいて意見が分かれましたが,A案とB案との間では,B案に賛成する意見が多数でした。そこで,本文は,仮に一定の株式会社に一人以上の社外取締役の選任を義務付けることとする場合,その対象を,B案のように金融商品取引法第24条第1項の規定により有価証券報告書を提出しなければならない株式会社とすることについて問うものでございます。この点について,パブリック・コメントにおいては,例えば,社外取締役の選任の義務付けの対象は,その人材確保に伴うコスト負担に耐え得る規模の会社である必要があるとの意見がありました。有価証券報告書を提出しなければならない株式会社の中にも,会社の規模が小さいものや,会社法上の公開会社ではないものなど,様々なものが存在しています。そこで,社外取締役の責任の義務付けの対象を更に限定することについて,検討する余地があると思われます。 ○岩原部会長 企業統治に関しましては,先般,東京証券取引所が,独立役員の制度等の見直しを公表し,パブリック・コメントの手続に付しておられましたが,この点について,静委員から御発言があればお願いしたいと思います。 ○静委員 少々お時間を頂戴して紹介させていただきたいと思います。ただいま岩原部会長から御案内がありましたように,私どもでは,この2月に上場制度の改正案を公表しております。この5月から実施する予定になっておりますけれども,当部会の議論と密接に関連する点が幾つかございますので,ここで,かいつまんで御紹介をさせていただきます。   発端は,皆様御存じのとおり,昨年の秋に,東京証券取引所の上場会社で相次いで不祥事が発覚したことです。この事例を詳細に分析しましたところ,私どもの上場制度そのものに幾つか見逃せないような不備が見付つかりました。もちろん,それがなければ不祥事を確実に防げたということではありませんが,今後も放置して,また同じような事件が起きるというようなことがありますと,東京証券取引所の上場会社はもちろん,市場全体に対する信頼も回復が難しくなるということを考えまして,対応を急いだというのが,今回の制度改正の経緯です。   当部会の議論と関係が深いのは,独立役員制度に関係するところです。独立役員制度は,以前にも一度御紹介いたしましたけれども,社外取締役でも社外監査役でも構わないので,独立性の高い社外役員の方を一名届け出ていただきまして,その方に,取締役会などで一般株主の利益を代弁していただくことを期待するという制度です。今回は,この制度を2点ほど補強させていただきました。まず,1点目ですけれども,これは,独立性に関するものです。実際に問題が起きてしまった会社を見ますと,独立役員の方だけでなく,独立性の基準に適合しているので,いつでも独立役員として届出をすることができるような社外役員の方を見ても,会社との間で無視することができないような関係があることが分かり,その独立性に大きな疑問が呈されました。私どもは,基本的にはグローバル・スタンダードと大差ないものを独立性の基準にしているわけですけれども,形式基準ですので,限界があります。たとえ基準を満たしていても,会社との間で無視できないような関係がある場合もありますので,上場会社には情報をきちんと開示していただかないと,投資家としてはその独立役員に本来の役割を期待してよいかどうかが分からないという事情があります。そこで今回,実際に独立性に疑問を抱かせることになった関係,具体的には,役員を相互就任させている関係,会社との間の取引関係,寄付を受けているという関係,この三つのいずれかの関係が会社との間にあるという場合には,その関係が重要な関係であっても,そうでなくても,その関係の有無と概要を会社に開示していただいて,株主総会での株主の判断に供していただくということにいたしました。この開示は,先ほど申し上げた事情を受けて,独立役員になる方だけではなくて,その具体的な予定はないけれども社外役員になっているという方についても,同様の開示を基本的にはしていただくという仕組みになっております。これが1点目で,当部会との関係で申し上げますと,会社法上のいわゆる社外性要件の強化というところに関連を持つ内容です。   二つ目の内容ですが,これは,独立役員の権限に関するものです。先ほどのように具体的な事例を見てみますと,前任者の不正を追及しようとした社長が,その前任者によって解任されようとしているという極めてクリティカルな場面であっても,独立役員が社外監査役しかいなかったということで,解任決議に参加することすらできなかったという事実があります。そういう経営の重大局面の際に,独立役員は,誰一人として関与する権限を持っていなかったということで,こういうことで良いのかという権限上の大きな疑問も呈されたということです。独立役員制度は,元々どの会社にも独立性の高い社外取締役がいるわけではないということを前提にしている制度ですので,とても根本的な問題だと思います。しかしながら,こうした問題も起きましたので,今後は,独立役員の中には議決権を有する社外役員を含めることが重要だということを踏まえていただいた上で,独立役員の構成を検討していただくようにしないと,やはり投資家としては,独立役員に本来の役割を期待することはできないだろうということです。そこで,2点目の改正ですけれども,今回は,取締役会における議決権を有する者が独立役員の中に含まれているということの意義を踏まえた上で独立役員を指定するように努めていただくこととしました。これは,役割を果たすために必要な権限という観点から独立役員の構成を検討するように求めるという内容ですので,当部会で議論されている社外取締役の選任義務付けとは異なる問題です。ただ,上場会社のサイドから見ると,その検討の前提として独立性の高い社外取締役を選んでおくことが必要になりますので,間接的ではありますけれども,やはり一定の関係を持つと理解しております。   私どもの新制度の御紹介は,以上でございます。今回の改正は,一連の現実に起きた事件で明らかになった制度上の不備を具体的な事例に即して改善するという,言わば緊急対応です。ただし,やり方によっては,現在,当部会で議論していることの結果の先取りになってしまったり,あるいは逆に制約をしたりしかねないという心配もありましたので,そういうことがないように十分な配慮をして作ったつもりでおります。ただ,一方で,それだけに,投資家の反応は,実は大変厳しいものがあります。例えば,先々週ですけれども,これは,実際にその会に出た人から聞きましたが,ワシントンDCで,アメリカの機関投資家を中心に500人以上を集めたイベントがあったそうです。そこで,先ほど申し上げた解任劇の一方の当事者でありますマイケル・ウッドフォード氏が講演に立ち,集まった投資家を前にして,日本企業には投資をするなと,今回の東証の制度改正は全く不十分だとおっしゃったそうです。私どもの新制度が,法律による社外取締役の義務付けを回避するための,言わば目くらましだと誤解されたとすれば,そういう感想を持たれるのもある意味当然かと思います。しかしながら,私どもの真意は,個別事例に対する緊急的な対応は上場制度のほうで済ませておいて,法制度のほうは慌てないで本格的な議論がしっかりできる環境を整えたいというところにございます。上場会社に投資していただいております内外のグローバルな投資家の皆様には,短絡的な判断はやめていただいて,法制度の本格的な検討がどう決着するのかをしっかり見守っていただきたいと申し上げてありますけれども,彼らの真剣な態度を見ておりますと,世界の目を意識したような,どこに出しても恥ずかしくないような議論が求められていると感じている次第です。委員,幹事の皆様におかれましては,私どもの今回の改正の趣旨,あるいは概要といったものを御理解いただきまして,今後の議論の一助としていただければ幸いでございます。 ○岩原部会長 社外取締役の選任の義務付けについては,部会におきましても御意見が分かれているところでございますが,ただいまの静委員の御報告に関して何かございますでしょうか。   それでは,第1の1について,皆様から御意見を頂きたいと思います。いかがでしょうか。 ○杉村委員 社外取締役の義務付けにつきましては,経済界としましては反対ということで意見を表明したいと思います。理由は,第一読会,第二読会等で述べてきたことと同じことですので,あえて詳細に繰り返すことはいたしませんけれども,適正な監督の可否は,社外取締役であるか,そうではないかという形式によるものではないということ,むしろ個人の資質,倫理観というところに依拠しているものであるということ,あるいは一律に形式的にルール化するということは,その企業にとりまして,規模や業種,業態に最適なガバナンスの体制の追求を制約するという意味で弊害につながりかねないということでございます。   また,ただいま静委員から詳細な御説明がございましたけれども,私どものほうも,この取組につきましては認識してございまして,まず,そういった独立役員の構成に関するルールの見直しであるとか,あるいは独立役員の機能を発揮するための環境整備という見直しなどの取組の結果を見た上で考えていくということも,必要ではないかと思います。 ○伊藤委員 私どもとしては,社外取締役の導入は,コーポレート・ガバナンス強化の一手段にすぎないと考えます。こういうことの義務化には反対でございます。社外取締役導入がコーポレート・ガバナンス強化に役立つかについては,確実な効果の実証があるわけではない。企業経営者というのは,コーポレート・ガバナンスを強化するために社内体制を強化したり,監査体制を充実させる,それから,複数の選択肢の中から,こういった各企業が自社に合った制度を構築するために常に努力をしております。確かに,昨今の企業不祥事を受けて,上場企業のコーポレート・ガバナンス強化論が論じられていることは承知しております。しかしながら,社外取締役の選任は,不祥事の防止に直結するわけではない。単純な義務付けは,自社に最適な企業統治のシステムを構築するという自発的な行為に水を差すのではないかと,私どもでは大変危惧をしているところでございます。 ○安達委員 元々,第一読会,第二読会も含めて,形式的な基準での義務付けは,反対の立場を表明したと思います。ベンチャーという立場から意見を申し上げます。有価証券報告書提出会社を対象とした一つの義務付けという御提案ですけれども,ベンチャーと言えども,上場を目指す,つまり,成長を当然目指しますので,資本金5億円というのは,結構ハードルが高いようで低い,つまり,ある時点で資本金5億円はすぐ超えますので,大会社,有価証券報告書提出会社ということは,比較的早い段階で対応が必要となる会社が多いということです。したがいまして,一律にそういうベンチャーに対しても,義務付けするということに関しては,改めて反対したいと思っております。私ども日本ベンチャーキャピタル協会の意見書等も過去に提出しておりますが,やはり,資本金のレベルに応じて,つまり,成長段階に応じた規律の導入を是非御一考いただければと思っております。 ○太田委員 私ども日本監査役協会の意見としては,繰り返しになりますけれども,やはり,企業統治におきまして,執行からの独立性を有するという前提での社外取締役の存在というのは,第三者の目という観点から見て極めて有用であるという基本的な認識に変わりはありません。したがいまして,仮にですが,義務付けるとした場合には,この補足説明等にありますように,一定の絞込みと言いましょうか,そういったことが現実的な解決策,出口の一つになるのではないかと考えております。ガバナンスの強化の必要性を会社の規模で線引きをするということは,実務的に大変難しいと考えておりますので,例えば,有価証券報告書提出会社のうち,株式の流動性を定性的な観点から区分する,いわゆる公開会社,あるいは上場会社,こういうふうに対象を少し絞りながら,実効性,あるいは出口を見付けていくという方策が検討されてしかるべきではないかと考えております。 ○前田委員 既に第一読会,第二読会でも申し上げましたように,私は,C案以外がよいと考えてまいりました。そして,A案・B案のどちらかにつきましては,業務執行者への規律付けの必要性と社外取締役を設ける負担等を考慮しなければならないと思うのですけれども,それとともに,機関設計の区分が余りに複雑になるのは制度として好ましくないということも,副次的にせよ考えておくべきだと思います。私は,現在の会社法の機関設計区分に収まるように,A案,つまり公開会社かつ大会社がよいと考えてきたのですけれども,もっと絞るべきであるという考えが多数意見なのであれば,あるいは義務付け自体に反対する意見も相当に多いことをも考慮するのであれば,大会社かつ公開会社の中でも,特に,株主による規律付けが働きにくいと考えられる有価証券報告書提出会社に絞るということも考えていいのではないかと思っております。結局,A案とB案の要件を両方かぶせる。太田委員がおっしゃいましたように,上場会社にするという考え方もあるのかもしれませんけれども,取引所が上場契約の相手方として選んだ会社に対して会社法が規律付けをするという形を採るよりは,上場会社に限るならむしろ取引所規則に任せるほうが自然だという感想を持ちました。 ○上村委員 私は,この提案に賛成なのですが,第一読会,第二読会でもいろいろお話がありましたけれども,どうも,経済界の方がおっしゃるのは,経営にとって何がよいか,そして,ガバナンスを選ぶのも経営だと,経営学の話をしておられるような感じがします。アメリカで社外取締役がどうしてあんなに普及したかと言えば,これは,何度も申し上げましたけれども,訴訟で負けるからです。裁判官を説得できないからであって,そういう意味では,まずは,法律学の世界の話が先だと思います。ただ,日本では,訴訟というプレッシャーが低いこともあって,余り普及して来ませんでしたけれども,今,東電では委員会設置会社にせよという話になっていますし,りそなもそうですし,何か問題が起きると,委員会設置会社にせよというプレッシャーが掛かるんです。東証もそうであります。ですから,そういう意味では,私は,やはり,事件が起きてから初めてそこに立法事実があるというような,そういう姿勢で立法をすべきではないと思います。ガバナンスというのは,もちろん様々な利害関係人の利害調整は必要ですけれども,特に公開会社の場合には,証券市場,あるいは金融商品取引法が要求しているディスクロージャー,それから,会計,監査,内部統制,それを実行するガバナンスという観点がやはり必要です。だとすると,グローバルなマーケットを求めておきながら,それを実行する部隊であるガバナンスだけはドメスティックな要請でいいんだというようなことでは,経済界自身が自らの首を絞めるようなことになってはいないかと思います。たびたび,「経済界としては」,とおっしゃいますけれども,これは,ちょっと失礼な言い方かもしれませんけれども,「経済界としては」ということが言える,そういうガバナンス・プロセスを経た上での発言かどうかが問われていると思います。経済界の人と言っても,私もいろいろな人と会いますけれども,あれは困ったものだと言っている人もたくさんいるのです。   それから,有価証券報告書提出会社を絞るか絞らないかという点については,ベンチャーというのは,公開を目指している企業ですから,そこそこガバナンスをきちんとしなければいけないという見方が一つ成り立ちますけれども,特定募集の場合の有価証券報告書のように,連結をやってない有価証券報告書というのがあります。そこは,連結を要請される有価証券報告書と,要求されてない有価証券報告書というのは,マーケットとの関係ではちょっと性格が違うという感じもありますので,その辺で切るというのはあり得るかもしれません。ただ,これは,私が強く主張しているわけではなくて,ベンチャーも,日本のように,民商法が徐々に発展してきて,金融法制を作ってきたという歴史的記憶が非常に乏しい日本では,やはり,ベンチャーでも,ガバナンスのレベルを一定程度きちんと要求しておくこともあり得るなと思ってはおります。ちょっと迷っておりますけれども,もし切るのであれば,連結をやっているかやっていないかというのは,一つの切り方かなと思います。これは意見です。 ○中原幹事 今の義務付けという点に関連して,義務付けうんぬんの当否ということについての意見では必ずしもないのかもしれませんけれども,これまで,当部会で,賛成意見,反対意見といろいろと御議論を賜っている中で,成案を建設的に得るという意味においては,議論の構築の仕方において一定の改善の余地があるのではないかと思っておりまして,それは,もう当然私どもを含めての責任であるわけですけれども,なぜ改善の余地があるかと考えてみますと,社外取締役,非業務執行役員の役割ということで,事務当局が解説をした補足説明などを見てみますと,例えば,利益相反のチェックというようなお話があるわけですけれども,利益相反の究極の形態であるところにおける社外取締役なり,非業務執行役員の効果という面について,何か監査・監督委員会に連動する,あるいは委員会設置会社に連動するという以外には特段効果というものがない,したがって,監査役設置会社等々においての非業務執行役員の役割,特に,利益相反の究極の形態のところにおける役割や効果というものが必ずしも議論になっていないというところに,一つ問題があるのかなと思っております。私は,例えば,監査・監督委員会設置会社のところで,任務懈怠の推定規定を外すというような御提案もありますし,そうしたものを一般に,社外取締役を選任した場合,任意に,例えば,委員会を組成した場合のその効果としてそういうことが検討されてもよろしいのではないかと思いますし,それから,取締役等の責任追及等の訴えの場合におきまして,国会で削除されてしまったところがあるわけですけれども,法制審議会での議論を経た成案でございますので,削除されてしまったものにプラスして,そうした独立役員から構成される委員会の決定などを一つかませることによって,更にその規定をこれまで以上に充実させることにする。上村委員から,非常に貴重な御指摘で,米国でこういうものが入ってきた経緯ということで,訴訟に負けるからだという話がございましたけれども,今,御教授いただいたことを踏まえて,そうした方向で規定していくということも考えられてよいのではないかなと思いましたので,義務付けそのものではないのですけれども,そうしたことの効果といったところも含めて,議論がされるべきではないかということを改めて申し述べさせていただきます。 ○神作幹事 私も,C案以外の案を採ることが大事ではないかと考えております。その理由につきましては,前田委員,上村委員がおっしゃったこととほぼ共通いたしますので,繰り返さず,C案を採るべきではないと考えているその他の理由について申し上げたいと思います。次の監査・監督委員会設置会社制度の御提案とも関連するのですけれども,今般のガバナンスの見直しは,独立取締役若しくは社外取締役の監督機能を重視してその活用を拡大していこうという方向性の下に,部会資料21の第1の1では,一定の会社に対し社外取締役の選任を義務付けることの是非について議論し,第1の2では,統治機構の選択肢の一つとしての監査・監督委員会設置会社制度について議論しているわけでございます。ところが,第1の1が全部飛んでしまう,すなわちC案が採用されるということになりますと,監査・監督委員会設置会社の位置付けが非常に曖昧になる可能性があるのではないかということを懸念いたします。例えば,委員会設置会社から監査・監督委員会設置会社に移行することを法的にどのように取り扱うのかという論点にも影響を与えるでしょうし,少なくとも現実の経済社会において委員会設置会社から監査・監督委員会に移行しようとする会社がどの程度存在するのかという現状認識とも関連いたしますけれども,独立取締役による監督機能の強化という一定の方向性を明確に示すためには,私は,相当限定してでも,一部の会社に社外取締役の選任を義務付けるということを,今般の会社法改正によって実現することが,監査・監督委員会設置会社制度の提案にとっても適切であると思う次第でございます。  もし,何らかの形で社外取締役の義務付けができるとすると,前田委員が御指摘になりましたように,A案とB案の両方の要件を足し合わせるということも考えられますし,更に限定するとすれば,公開会社と,それから上場を申請している会社の二つをくくる形で更に限定するということもあり得ると思います。いずれにせよ,社外取締役の選任の義務付けにつきましては,C案以外の提案を支持いたします。 ○中東幹事 私も,前田委員がおっしゃったように,あるいは神作幹事がおっしゃったように着地することが一つの考え方としてあり得ると思っております。ただ,いろいろとお話を聞いていても,やはり決め手に欠くというのでしょうか,最後はしっくりこないというところもあります。恐らくそれは,どうしてこれを会社法で決めなければいけないのかということに関わって,自分の中で煮え切れないところがあるのかと思っているところです。その点に関して,先ほど静委員に教えていただきました海外の投資家の反応は,東証さんのルールについて非常に厳しいものであったということでしたが,それがここでの話に直接関係するかしないかが少し分かりにくい御説明のされ方だったと思っています。東証さんから御覧になって,なぜ自分たちのルールでは駄目で,会社法でやらなければいけないのかということを言っていただければ,それはそれで私自身も割り切りがしやすくなると感じています。現に,上場会社の方々は,東証のルールを守られているわけですので,会社法になったらなぜ嫌なのかということでもあるかもしれませんが,お教えいただければ幸いです。 ○静委員 私どもは,何度も上場ルールで義務付けるということにチャレンジをしてきていますけれども,実現しておりません。義務付けの必要性は,今回のようなスキャンダルだけではなくて,部会の第2回で濱口委員から御説明がありましたように,日本には企業のパフォーマンスの悪さを改善する仕組みが入っていないというような海外投資家の声もありますし,国内の投資家も困って投資を日本の株から外国に持っていってしまうという問題もあります。ずっとそういう環境が続いていましたから,何度も,繰り返し,この問題を,上場会社に訴えかけて,実務的にはかなり改善してきたなとは思っているところです。杉村委員が,経済界としては義務付けに反対だとおっしゃるわけですけれども,経済界の枢要な会社がなかなか社外取締役の効用を認めないということで,私どもの手元で検討すると,なかなか議論が進まないというのが現実で,私どもとしては大変困っています。上場ルールでやるということについて申し上げれば,世界の投資家は,そのほうが常識だと思っているのではないかと思います。理由はそれぞれの国の事情によって違いますけれども,結果として上場ルールで定められているということです。これは上村委員が大変詳しくいらっしゃるところだと思いますけれども,アメリカの憲法は,会社法の制定権限を各州に渡していますので,連邦法でそれを規制することができず,ニューヨークの証券取引所のルールでやったほうが,事実上連邦法的な効果を持たせられるということで,政府として上場規則を利用しているということだと思いますし,イギリスの場合は,過半数が独立社外取締役であるのがベスト・プラクティスだというコードを財界で作ったものですから,それに従わない人は理由を述べなさいという規制を掛けているというだけですが,それでも,投資家のサイドから見れば,きちんとバランスを考慮して進める気があるということが世界中の投資家に分かるということです。私どもとしては,日本も,海外の証券市場と同じように,国としてガバナンスを重視して進めているということを分かってもらう必要があり,法律の問題ということで議論したほうがやる気のほどがはっきりするのではないかということで,こちらの議論を進めることを望んでいるという次第です。最終的な落としどころとして,法律でやるのは難しいということであれば,私どもとしては,規制の手段が法律でなければいけないということに最後までこだわるつもりはありませんが,しかしながら,本質的にそれが必要なのかどうかという議論をする場を取引所で設けても,経団連の方が代表で出てこられると,やはり俺たちには必要ないということだけで終わってしまいますので,皆さんが誰でも参加できる公の議論の中で,この問題についてきちんと白黒をはっきり付けていく,その姿を世界の投資家に見てもらうということが,大変大事なことではないかということで,こちらで議論させていただいていると,こういう事情でございます。 ○岩原部会長 中東幹事,よろしいですか。 ○中東幹事 ありがとうございました。お伺いしていると,むしろ杉村委員に,どうして東証さんのルールには従うけれども,会社法だったら従いたくないのかを教えていただきたいと思います。 ○杉村委員 その前に一言申し上げますと,経済界としまして,社外取締役の効用を全く否定しているというわけではございません。その点は,第一読会あるいは第二読会でも同じだと思います。現に,上場企業を見ても,現行の仕組みの中で社外取締役を導入している会社は半数ぐらいあります。独立役員の制度の中でも,もちろん社外監査役が指定されていることもありますけれども,社外取締役も活用されている状況にあります。申し上げているのは,それを一律に義務付けると,自分たちの創意工夫による最適なガバナンスを阻害するという弊害があるのではないかということでございます。その点に関しましては,会社法であろうが,証券取引所のルールであろうが,義務付けるべきでないという意味では変わらないと思っております。そうは言っても,会社法となれば,国の基本法ということでもありますし,影響も大きいですから,検討の過程においては,その辺りの波及のところについては十分に考慮しなければいけないと思います。当たり前ですけれども,どちらだと従いたくないとか,そのようなことは一切ないと思っております。 ○静委員 1点だけ追加させていただいてよろしいでしょうか。義務付けの有無の問題だと,効用は認めるというお話がいつも出てくるんですけれども,私どもは,本当に認められているのかどうか,一番そこが疑問だと実は思っております。なぜかと申しますと,先ほど二つのパターンがあるとお話をしましたけれども,まず,ニューヨークの規律と同じように選任を義務付けるという方法がありますが,これは,上場ルールを使っていますけれども,実は法律みたいなものです。しかしながら,ロンドンのようなやり方だってあるわけです。これは,独立社外取締役の選任は有用だと認めた上で,有用なことだけれども,選任できる会社も選任できない会社もあるので,選任できない会社はきちんと言い訳をしなさいという方法です。しかし,このような方法でも嫌だと,財界の皆さんはおっしゃる。そんなものはいいかどうか分からないということで,絶対に認めないわけです。先ほどから何度か出ておられるように,会社のガバナンスの形は,それぞれあって,何がいいか誰にも全く分からないので,放っておいてくれという議論になってしまうわけです。本当は,実は,財界は効用があることも認めていないのではないかというところが私の疑問です。これは大事なことで,ベスト・プラクティスはそちらにあるんだということがはっきりするのであれば,どこのルールでどうするという問題については,比較的簡単にけりがつくのかもしれませんが,そこの議論に行かないでせめぎ合うと,なかなか話がかみ合わないということになってくると理解しております。 ○濱口委員 何回か申し上げたことですが,私も,義務付けには反対で,その効果がよく分かりません。やるとすれば上場規則での対応がいいのではないか。社外取締役を入れないのであれば,なぜそうなのか,どういう理由があるのかというのを投資家に説明して,それが納得いけば,投資家は,そのまま株の保有なり,買増しとかに踏み出すわけですから,そういう中での,正に市場を通じてのガバナンス,それでいいと思います。一方,私は,持合いとかほかの要因で,市場を通じてのガバナンス,基本的なガバナンスが効いていないと考えており,これは非常に大きな問題だと思いますが,それは別に社外取締役の問題ではない。社外取締役を義務付けることが世界の投資家のコンセンサスとしてそういう意見だと言われますが,静委員のところには,そう言いたい人たちだけが来るので,そう思われるのでしょうが,私は,投資家の立場で,世界の運用会社,ファンド・マネージャーと話をし,日本株に投資するファンド・マネージャーとも話をしていますが,ガバナンス若しくは社外取締役のことを主に言う人はいません。別に,トヨタとかキャノンとかも,みんな買っているわけですし,現に,外人保有は市場の3割ぐらいある。売買高になると4割ぐらいでしょうか。 ○静委員 売買高は7割ぐらいではないでしょうか。 ○濱口委員 そのように十分に取引しているわけですから,今おっしゃったように,日本株を買わないとか,全然そんな状況ではないんです。ICGNとか,ガバナンスがテーマの会議で,それに積極的な人が集まったところでは,そういうコメントも出るのでしょうが,本当に株を取引し,投資判断をしている人,運用会社のファンド・マネージャーは,そこまでのことは思っていない。基本的に,個別の会社で適切なガバナンスの形を選択していいし,社外取締役が日本の環境の中では必要ないという選択肢があるのであれば,それはそれでよくて,その代わり,パフォーマンスを見せてもらいましょうということなんです。最初に言った,日本株のパフォーマンスが悪いのは,マクロの要因とか,金利が低いとか,デフレだとか,労働法制の問題とか,いろいろ大きな問題がほかにあるわけで,この問題が決して主ではない。これを解決したからといってその状況が変わるとは全然思わないし,それが,運用,投資の現場の,外国人も含めた運用会社,投資会社の現場の感覚であろうと私は思います。 ○上村委員 アメリカもヨーロッパも,法は当たり前なんですよ。ですから,それは,そこそこきちんとしたルールがあるのは当たり前だという前提で物を言っているので,まさか日本のルールがここまで欠落しているとは知らないというだけの話だと私は思います。違反した場合の効果が分からないとおっしゃいますけれども,分かりすぎているのではないですか。つまり,法で書けば,違反した場合の効果は,もしかしたら,取締役会の決議の無効になったり,そこで決めたことの行為に影響するわけです。しかし,東証のルールでやれば,違反した場合の効果は,ますます分かりません。東証は,上場廃止のときだけ張り切りますけれども,それ以外のときは,余り張り切らない,あるいは張り切れないです。せいぜい注意銘柄に指定したり,部門長注意とか,私も,自主規制委員会の委員をずっとしていましたけれども,現場の人は,本当はこれで行きたいんだけれど,ここまでしかできないと言って切歯扼腕するという世界です。ですから,法で書くとはっきりしているんです,違反した場合の効果も。ですから,要は,自主規制で書けば,はっきりしないからいいと言っているだけなのではないでしょうか。中東幹事がそのような意味で言われているとは思いませんが。アメリカ,ヨーロッパのルールの厳しさというのは,相当なものですね。日本でも順調にいっている立派な会社が一杯あるじゃないかと言われればそのとおりです。こういうシステムが入ったからといって,別にパフォーマンスが上がることはないではないか,それもそのとおりだと私は思います。しかし,立派な会社でも,ガバナンスが駄目なら訴訟になったときは負けます。立派でない会社でも,ガバナンスがきちんとしていれば,訴訟になれば勝ちます,あるいは有利になります。そういう効果を長年経験して今のようなシステムを彼らが備えてきて,それはもう当たり前の世界になっている。そういうことが話題にならないというのは,そういう他国のことは全く知らない,特に,アメリカ人は。私は,アメリカ人のことを言う資格はない,大変ドメスティックな人間なのですが,彼らは,外国法を学んだりしないです。比較法的視点などは持っていない。世界のいろいろな制度の中でアメリカ法がこういう位置付けである,だからこうだという主張はできないわけです。日本人は,そういうことを一生懸命してきた珍しい民族です。ですから,そういう意味では,濱口委員の御発言には,私は全く賛成できないということだけ申し上げておきたいと思います。 ○中東幹事 上村委員,ありがとうございました。私も,会社法で決めた場合の私法上の効力が問題になり得る余地があるということが大切だと思っています。今のお話を伺っていまして,ドラスティックに変えるのはなかなか難しいのかもしれないという気もいたします。元々の発想は,監査役がなかなか理解されない,これは,トップを解任することができないからであるというお話だったと思うのですが,この部会でも,それでは,監査役に議決権を与えたらどうだという話が既に出ていたと思います。そちらのほうがドラスティックな制度改革ではないと思いますし,太田委員がおっしゃったように,全ての事柄にもし取締役会で監査役議決権行使ができるということになれば,これは,執行と独立しているということが監査役の重要な点だということに反すると思いますので,例えば,代表取締役あるいは業務執行取締役の選解任についてのみ,監査役は,取締役会で議決権を有するとすれば,ウッドフォードさんの解任のときでも監査役は参加できていたことになりましょうか。そういった道も考えながら,また,対象となる会社の絞り方としては,補足説明のような感じで書いていただくのも一案かと思っております。 ○岩原部会長 非常に多様な御意見を頂きましたが,一部に,社外取締役の有用性について御議論もございましたが,比較的多くの方は,有用性は認める,ただ,それについて,どういう形で社外取締役の導入を進めていったらいいかという方法論について,若干意見の違いがあったのかなと思います。確かに,アメリカやイギリス等は,証券取引所の規則という形でそれを求めていますが,ただ,少なくともアメリカに関して言えば,連邦法の後ろからの強制があって,証券取引所は,そういうルールを強化している,少なくとも,現在の,取締役の過半数の独立性を求めるといったようなことは,サーベンス・オクスレー法などの法律による強制があって,それを前提に進めていた。実際に,証券取引所での,そういうルールの制定が進まないときには,連邦議会が,場合によっては法律で直接規定するぞという形での働き掛けがあることを前提に,証券取引所の規則という形で実質的なガバナンスのルールを発展させていったというのが,多分アメリカの実状ではないかと思いますので,観念的に,本来,これは,法律,すなわち会社法の領域で決めるものか,あるいは証券取引所規則といったソフト・ローでやるべきかということを,それほど厳格に考える必要はないようにも思われます。もちろん,そのような区別は理念的な問題としてはありますけれども,ルールの形式より内容について,まず,どういうようなルールが最終的に実現することが望ましいかということを考えていただきたいと思います。その場合,強制として仮に社外取締役を入れるとしたら,どの範囲が最適なのかというのは,これまた議論があり得るところで,仮に何らかの形で社外取締役の義務付けを入れるにしても,義務付けの範囲については,どの範囲がよいのかということについて,今日かなりの方から御意見を頂いたと思います。例えば,前田委員からは,A案プラスB案という形の御意見がありましたし,神作幹事からは,それと同じような考えが出されました。太田委員からは,それを更に限定して,上場会社と,確か限定の仕方で,これは,金融商品取引法24条1項の中でも第1号の場合に限るというような案が示されたかと存じます。ルールとして何らかの強制を入れることによって,全体として独立性がある取締役というか,社外取締役の導入を促進していくにしても,どういう範囲でそういう義務付けを伴った促進策を採るかということについては,いろいろな考え方があり得ると存じます。それの中で比較的多くの方に受け入れられる考え方を更に詰めて,なるべく多くの方に受け入れられる案を何かまとめることができたら,司会役としてはうれしいと思います。   何かございますでしょうか。確かに,A案プラスB案というのも一つの考えですし,それから,太田委員のおっしゃるように,上場会社というのも,考え方の一つとしてあり得ると思います。更に言えば,上場会社と言ってもいろいろあるという御意見もあるかもしれません。そこら辺は,皆さんの知恵の出しどころかと存じます。それを最終的にどういう形で義務付け的なルールにするかということについても,これまた知恵の出し方がいろいろとあるところであって,会社法の中に書くというのも一つでしょうし,ほかの形で実現するということも,あると思います。なお,社外取締役を入れることがコートポレート・ガバナンスを改善する万能薬だとは,誰も思ってないと思いますので,現状よりも少しでも良くするためにはそれも一つの在り方ではないかということで議論されていると思っております。   今日は,これぐらいにさせていただきまして,次の第1の「2 監査・監督委員会設置会社制度」に移らせていただきたいと思います。まず,「(1) 監査・監督委員会の構成・権限等」について,事務当局から御説明をしていただきたいと存じます。 ○塚本関係官 それでは,「2 監査・監督委員会設置会社制度」のうち,「(1) 監査・監督委員会の構成・権限等」について御説明いたします。まず,本文の①は,試案第1部第1の2(2)④(注1)に関するものですが,パブリック・コメントにおいては,この(注1)にあるような意見陳述権を監査・監督委員会に付与するべきであるとの意見が多数を占めました。なお,部会資料21では,この(注1)に掲げていた意見陳述権と,監査・監督委員である取締役の選解任等について各監査・監督委員が有するものとされている意見陳述権との関係を整理して記載しております。   次に,本文の②は,試案第1部第1の2(2)④(注2)に関するものですが,パブリック・コメントにおいては,これについて意見が分かれました。本文の①のような規律を設ける場合には,監査・監督委員会は,取締役に対する一定の監督機能を有することになると考えられます。そこで,本文の②のような規律を設け,監査・監督委員会に,利益相反の監督に係る権限をも付与するものとすることが考えられます。なお,監査・監督委員会による賛成の対象となる利益相反取引が監査・監督委員である取締役との利益相反取引である場合には,本文の②のような規律を適用しないものとすることも,検討する余地があります。   本文の③は,試案第1部第1の2(2)⑤(注)に関するものですが,パブリック・コメントにおいては,これについて意見が分かれました。監査・監督委員会に,常勤の監査・監督委員の選定を義務付けるべきであるとの意見の中には,その理由として,社内の情報の把握において常勤者が重要な役割を果たしていることを挙げるものがありました。この点について,現行法上,監査役会と委員会設置会社の監査委員会とでは,常勤者の要否が異なります。これは,監査手法の違いによるものであり,内部統制システムを利用した監査を行う監査委員会では,常勤の監査委員を義務付けることはしなくとも,情報収集の点で問題がないと考えられていると言えます。したがって,監査委員会と同様に内部統制システムを利用した監査を行うこととなる監査・監督委員会についても,常勤の監査・監督委員の選定を義務付けなければ情報収集の点で問題があるとまでは言えないと考えられます。また,仮に,監査・監督委員会について,常勤の監査・監督委員の選定を義務付けることとする場合には,委員会設置会社の監査委員会についても,同様に,常勤の監査委員の選定を義務付けることとなると考えられます。しかしながら,平成14年の旧商法の改正により委員会等設置会社を導入するに当たっては,米国におけるように,監査委員の全員を社外取締役とする場合もあることを考慮して,常勤の監査委員を置くことが義務付けられなかったとされています。そして,例えば,東京証券取引所に上場している委員会設置会社の半数近くにおいて,常勤の監査委員がいないとのデータがあります。以上を踏まえますと,監査・監督委員会について,常勤の監査・監督委員の選定を義務付けるものとすることは,適切ではないと考えられます。この場合,監査・監督委員会が監査・監督委員の中から常勤の監査・監督委員を選定するかどうかは,その任意の判断に委ねられることになります。この点について,常勤者の役割の重要性についての指摘を踏まえ,監査・監督委員会が任意に常勤の監査・監督委員を選定した場合にあっては,その理由及び当該常勤の監査・監督委員に関する事項を,また,常勤の監査・監督委員を選定していない場合にあっては,その理由を,それぞれ事業報告の記載事項とすることが考えられます。   なお,パブリック・コメントにおいては,監査・監督委員会の構成について,監査・監督委員に占める社外取締役の人数は,過半数ではなく,半数以上とすべきであるとの意見が寄せられています。しかしながら,監査・監督委員会は,委員会として組織的な監査を行うものであることに鑑みると,監査・監督委員に占める社外取締役の人数は,委員会設置会社の監査委員と同様に,過半数とすることが適切であると考えられます。 ○岩原部会長 まず,監査・監督委員会に,取締役の選解任等に関する意見陳述権を付与するという(1)の①については,パブリック・コメントにおいて,賛成意見が多数であったようでありますが,そのような規律を設けるということでよろしいでしょうか。御意見を頂ければと思います。   特に,御異論はございませんか。それでは,そのような方向で考えていくということにさせていただきたいと思います。より詳しい詳細は,事務当局のほうで詰めていただきたいと思いますが,基本的な方向としてはそのように考えさせていただきたいと思います。   次に,取締役の任務懈怠推定規定の適用除外に関します②については,いかがでございましょうか。 ○前田委員 監査・監督委員会は,代表取締役等からの独立性が確保されておりまして,代表取締役等の職務執行を監査するのには適していますけれども,利益相反取引一般について,監査・監督委員会が特に審査に適しているという直接の関係はないと思います。確かに,この後の社外取締役の要件といたしまして,親会社関係者を除くということにするのであれば,親子会社間の利益相反取引については,監査・監督委員会の承認に何か特別な効果を結び付けることは考えられなくはないと思うのですけれども,利益相反取引一般について,監査・監督委員会の承認に特別な効果を結び付けるというのは,少し無理があるように思います。監査・監督委員会の制度ができるだけ使われるようにするための御提案だとは思うのですけれども,少し難しいように思います。 ○三原幹事 監査・監督委員会設置会社の制度につきまして,中間試案の補足説明の3ページから4ページでは,監査役会設置会社であれば社外監査役と社外取締役を選任すると重複感があり,委員会設置会社であれば指名委員会と報酬委員会に抵抗感があり,したがって,新たな機関設計が必要であるという点から補足説明が始まります。その上で提案内容は,監査役会設置会社の形に近い制度を考えているのか,委員会設置会社に近い制度を考えるのかということであり,これは第二読会でも議論がありましたが,結果的には,委員会設置会社にかなり近い御提案だと思います。例えば,中間試案の(2)の④では,監査・監督委員会と各監査・監督委員には,委員会設置会社の監査委員会と各監査委員と同様の権限が与えられる,という御説明があり,その(注2)として,パブリック・コメントの際に,423条3項の推定規定を設けることはどうかという提案が書いてあったわけです。しかし,委員会設置会社の場合の現行制度では,423条3項の推定規定を外すというような規定がないわけでございます。監査・監督委員会設置会社では,報酬委員会,指名委員会がなくなるわけでございますが,委員会設置会社にかなり近いこの監査・監督委員会設置会社の場合に,委員会設置会社で認められていない423条3項の推定規定を外すということが,どういうふうに整合するのかはよく分からないというのが意見ないし御質問でございます。整合性のところは,次の③の常勤のところでは―常勤は後で議論するかもしれませんが―,そこは,整合性から常勤は認められないという御説明でしたが,この推定規定のところには整合性がない御提案になっているのがどういう理由なのかはよく分からない,という点が質問の一つ目です。   次に,部会資料21の2頁目の②の御説明の中で,「事前又は事後に」と書いてあって,この「事後」というところが分かりません。事後となりますと,何か事が起こってしまって,その後に事後承認をするような形を意味すると思いますが,例えば,訴訟で考えますと,問題が起こって,それで訴訟になって,口頭弁論終結時の前までにこの事後承認がなされれば,その時点で推定規定が覆るということをお考えなのか,事後というのはどういうような状況まで考えておられるのかというのはよく分からない。なぜかと言うと,訴訟提起されて損害賠償請求されたところであっても,監査・監督委員会が事後承認をすると推定規定がなくなるわけでございますから,そうすると,その場合の訴訟はどうなるのか,事後承認を認める場合にその関係が分からないので,どういう御提案なのかを教えていただきたいというのが,質問の2点目でございます。 ○塚本関係官 まず,1点目の,委員会設置会社の監査委員会と監査・監督委員会設置会社の監査・監督委員会との整合性という点ですが,そもそも,監査・監督委員会設置会社は,委員会設置会社及び監査役会設置会社とは別の,新しい第3の類型として考えております。他方で,機関設計に関して現行法上既に存在している規律がございますので,それと整合させるべきところは整合させ,あるいは参考となる点は参考とするということになり,例えば,監査・監督委員会の権限については,委員会設置会社の監査委員会の権限を参考とし,あるいは監査・監督委員会の独立性確保の仕組みについては,監査役の独立性確保の仕組みを参考としています。しかしながら,繰り返しになりますが,監査・監督委員会設置会社制度は,機関設計の第3の類型であるということがまず前提としてございます。そして,一定の場合に423条3項の適用を除外するという点については,第一読会,第二読会では,監査・監督委員会は,社外取締役が過半数を占める委員会であると,そして,社外取締役には,利益相反の監督機能を期待することができるというところから出発して,そのような適用除外が認められないかということをお示しいたしました。今回は,この点を整理し直しまして,(1)の①で,取締役の選解任についての意見陳述権を監査・監督委員会に与えることにより,一定の監督機能が監査・監督委員会に与えられることになるだろうと,そのようなことから,423条3項の適用除外を導くことができないかと考えるに至った次第です。これに対して,委員会設置会社の監査委員会につきましては,今回,そのような規律を監査・監督委員会に認めるのであれば,監査・監督委員会と同様に社外取締役が過半数を占める監査委員会にもこれを認めるべきではないかという考え方ももちろんあり得るとは思いますが,監査委員会は,飽くまでも監査をする委員会ということで,委員会自体に監督の権限があるわけではないことからいたしますと,監査・監督委員会とは性格が異なるのではないかとも考えられます。そこで,まずは,監査・監督委員会の権限・規律として考えられないかということで御提示しております。したがいまして,監査委員会と監査・監督委員会とで整合していないというのは,利益相反の監督といった点では,委員会の性格が異なるためであり,あえて異なる権限とすることにも理由があるのではないかと考えております。   それから,2点目の,「事後」の賛成という点ですが,訴訟が提起された後のどのような時点でこの事後の賛成がされると,当該訴訟においてどのように取り扱われることになるのかということは詰めて考えているわけでないですが,具体的に紛争になって訴えられたというような場合に,その時点で賛成をするということも,この「事後」の中には含まれると考えております。 ○田中幹事 この②の提案につきましては,もし会社法でこうしたルールを入れるとすれば,その前提として,利益相反取引について,社外取締役が過半数を占める取締役会において承認を得た場合には,任務懈怠の推定規定を適用しないと,そういうルールを作るべきかと思います。それが本則であって,本来は,そういうルールであるけれども,監査・監督委員会設置会社の場合には,社外取締役が過半数いる委員会の承認を受けている場合には,本体である取締役会に社外取締役が過半数いる場合の承認を受けている場合と同じように扱いましょうという,そういうふうなルールにするのが筋ではないかと思います。元々,日本の利益相反取引規制が取締役会の承認を受けていても,取締役は免責されないどころか,むしろ賛成した取締役も任務懈怠が推定されるというルールは,同僚取締役は,基本的にはひいきするというか,馴れ合いが生じるだろうということがもう推定されている,そういう構造になっているわけですが,社外取締役は,その会社あるいは経営陣からの独立性の高さから,そのような馴れ合いをするとは推定しない,ということかと思われます。もう一つは,訴訟というのは非常に非常事態なわけでして,通常のコーポレート・ガバナンスというのは,訴訟とは違う部分で規律を働かせていくほうが重要なわけですから,社外取締役がそのような通常のコーポレート・ガバナンスにおいて規律を働かせてくれるということを期待して,訴訟については,ある程度緩やかな規制にすることによって,経営陣に対しても社外取締役の選任に賛成するインセンティブを与えるという二つのところから,こういったルールを作ることが考えられるのだと思います。   私は,部会で何回か,こういう制度を作ることに慎重な意見を唱えてきたかと思いますが,それは,こういったものが余り広がり過ぎますと,言わば,社外取締役,あるいは独立の取締役を入れることが自己目的化して,こういったものにメリットが期待できないのに,とにかく入れておけば訴訟からガードされて経営者に有利になると,つまり,経営者に有利にするために,いろいろなルールを作るという,そういうところに流れていってしまうのではないかという懸念から,そういう慎重論を唱えてきたわけです。しかし,他方において,経営陣に社外取締役を入れるというインセンティブを与えるということも重要ではないかと。ひたすら義務付けて,何もインセンティブを与えないということでは,ガバナンスも経営陣のある程度の協力がなければ進まないわけですから,鞭ばかりでは駄目でないかという,そういう議論も確かにあり得るところです。また,現行法の,とにかく同僚の取締役は馴れ合うことを推定するというルールも,やや極端なところもないわけではありません。そこで,この提案のように,法律が一律に訴訟をシャットアウトするのではなくて,推定規定の適用を除外するという規律であれば,社外取締役がお飾りになっていて誰が見ても不公正な取引が行われたときには,裁判所としても,任務懈怠を認めることもできるわけですから,推定規定の適用を除外するという形でルールを作るというのは,考慮に値するのではないかと思います。   ただ,その場合には,やはり,私自身としては,本体の取締役会において社外取締役が過半数を占めているときには,推定規定排除の効果を認めるんだと,それが出発点でないといけないように思います。監査・監督委員会設置会社のここだけにそういう効果を認めるというのは,いろいろと,制度の平仄とか,おかしなことがあるのではないかと思っております。アメリカ法でも,出発点は,取締役会の過半数が社外,あるいは独立であるというところから特別な効果を認め,そのコロラリーとして,取締役会の過半数が独立でなくても,過半数が独立の委員会が承認していたらそれに近い効力を認めましょうと,そういう話になるわけですから,制度の筋としては,まずは,取締役の過半数が社外取締役のときに独立の効果を認めるという制度を作るのが筋だろうと思います。その上で,委員会設置会社の監査委員会は,監査・監督委員会と同じように考えるべきかどうかというのは,ちょっと2番目の問題として考慮すべきかなとは思いますけれども,少なくとも,利益相反取引に限って言えば,これは,完全に適法性の問題なのですから,委員会設置会社の監査委員会についても同じような権限を認めるというのは,十分考慮に値するのではないかなと思います。   それから,最後に,三原幹事のおっしゃった事後の賛成の件ですけれども,私も,この関係では,やはり,事前の賛成に限ったほうがいいのではないかと思います。事後の賛成は,その決議に参加する取締役にとっては,そういう事後の承認をしておかないと自分が責任を問われるのではないかとか,そういう問題によってちょっとインセンティブに歪みが生じてしまうということがありますので,新しい制度を作るとしたら,それは当然,その取引をするときに事前に承認を得た場合に限って,こういった効力を認めると,それで特に問題も生じないと思いますので,そういった制度にした上で,こういう制度の導入を検討されるのがよろしいのではないかと思います。 ○中原幹事 私は,部会資料21を頂いたときに,行間がいまいち読めていなかったのかもしれませんけれども,②のような,監査・監督委員会について,任務懈怠の推定規定を外す,適用しないということにした場合には,当然,その整備ではないんですけれども,委員会設置会社も外されるんだろうなという,ほとんど整備くらいのマターだから書いていないだけなんじゃないかというくらいに読んでおりました。監査・監督委員会の権限規定をどういうふうに書くのかな,どういうふうに条文化するのかなというのは,昔から思っていたんですけれども,中間試案では,それぞれ委員会設置会社の監査委員会と同様の権限を有するものとすると書かれております。そのように考えますと,そこは,同様に考えられるべきではないかと思っております。   また,社外取締役の意義について,先ほども申し上げましたけれども,監督機能と利益相反のチェックというようなお話がある中で,利益相反の究極の形態のところで,役者が登場しないというのが,何か議論が貫徹しないかなという気もしまして,やはりこういうときには,任務懈怠の推定規定を適用しないという要件を入れるべきでありますし,もっと言うと,独立役員から形成される委員会を任意に形成したときにもこうした規定が適用になるということも,本来は考えられてしかるべきではないかとも思います。   それから,事後の問題につきましては,確かに検討すべき問題があることは間違いないわけですけれども,例えば,代表取締役なり,代表執行役なりがそういう利益相反取引をやって問題になりそうだというときに,それにもかかわらず,事後的に独立役員が集まって承認をするという,場合によっては,そうした独立役員の責任自体が問われかねない状態にもかかわらず,事後にそういう承認をするというのは,やはり推定をそれだけ外すような根拠があるかと思いますので,何か一律に事後が全部駄目としてしまうのは,やはり酷な面があるのではないかなと思います。実際に,訴訟のタイミングとの関係は,一般的な訴訟の中に出てくる法理によって解決されていくのではないかなと思っております。 ○岩原部会長 ほかにはございますか。この点については,大分御意見が分かれまして,このような推定規定の適用除外を認めるような条件を満たしたものかどうか,あるいは政策的にそれが適切かということを含めて,かなり多様な御意見を頂いたかと思います。今日の御議論を伺っていて,もし推定規定を外す規定を入れるとすると,そのためには併せて考えるべきことがいろいろあるということも示唆されたように思います。委員会設置会社の場合も,同じように考えることができるのかとか,取締役会において承認しても,むしろ賛成した取締役も全て同じ責任を負わされるという,現在の利益相反取引の承認システムの在り方そのものと合わせてもう一度見直す必要が多分出てくるということが示唆されたかと思います。意見は完全に分かれていますので,ここでどちらかの意見を採用するということはできないと思います。もし推定規定を外すような考えを採る場合には,今申し上げたようなことを含めて,全体として,どういう制度整備がなされた場合に,そういう考え方を採り得るかという点を事務当局のほうで整理していただき,最終的に皆様になるべく受け入れられやすいところを最後に判断していただくということにさせていただきたいと思います。それでよろしいでしょうか。   それでは,先に進ませていただきたいと思います。③の常勤の監査・監督委員の選定の義務付けについて,御意見を頂きたいと思います。 ○川島委員 この常勤委員の選任の義務付けについてですけれども,仮にこの委員会を設置するといった場合に,このガバナンス強化という今回の部会での議論の方向性と,それと常勤者を配置することの有用性,重要性に鑑みまして,これを義務付けるべきだというように考えております。今回,部会資料21で,義務付けをしないとした理由としまして,委員会設置会社における取扱いとの整合性が挙げられております。それはそれとして受け止めるものではありますが,この点について,委員会設置会社の取扱いに合わせるという考えもあれば,一方で,今回のこの新たな制度に合わせるという考えもあるのではないかと,また,あるいはこの内部統制のシステムを利用した監査といったものが,委員会設置会社である場合と今回の新たな制度である場合と全く同じものということに実態としてなり得るのか,決して,私は,ここで議論を混ぜ返すつもりはないんですが,そうした検討,議論もあってもよいのではないかというように感じました。今回,常勤者の義務付けをしない場合に,常勤者の選定の理由を,事業報告の記載事項とすること,このことについて,私は,常勤者の自主的な配置を促すということが目的であるというように受け止めました。そのような理解でよろしいのか,果たして,そのことがそのような効果を生むものとして,期待できるものなのか,この点については,御説明なり,あるいは有識者,御専門の立場からの御意見も伺いたいと思っております。 ○塚本関係官 常勤の監査・監督委員を選定していない場合にあっては,その理由を事業報告に記載するものとすることが,常勤者の自主的な配置を促すものであるということまで言い切れるかというと,なかなか難しいところがあるのではないかと思っております。と申しますのは,補足説明でも書いておりますとおり,基本的には,内部統制システムを利用した監査ということで,常勤者がいなくても監査をすることができる仕組みであるというのが,建前となっており,それを前提に,あえて常勤者を置くのであれば,当該会社にはなぜ常勤者が必要であると考えたのかということを明らかにしてもらったほうがいいであろうと,他方で,常勤者を置かないのであれば,常勤者が必要である,重要な役割を果たしていると考えている人からすると,なぜ常勤者を置かないのかということになるかと思いますので,その理由を開示してもらうというものになるかと思います。そのため,事業報告に記載するという点で,常勤者を自主的に配置すべきかどうかという観点については,ニュートラルなものになるのではないかと思っております。 ○太田委員 私どもの日本監査役協会でのアンケートの調査結果の中では,部会資料21にも記載していただいていますけれども,常勤者がやはり果たす役割がいかに重要なのかということについては繰り返しません。今の川島委員の質問とも類似するかもしれませんが,基本的に,部会資料21のトーンは,常勤者の差を含めたそこの機能について,先ほどの社外取締役の義務化ということと同様に,まず,基本的に有用であるというような前提に立っておられるのか,はたまた立っていないのか,今のお答えでは必ずしも立っていない,ニュートラルだという御説明でありましたが,その見解には違和感があります。しかし,仮に義務化までは求めないとしますと,部会資料21の最後のほうに,大分苦労されたとは思うんですが,事業報告の記載内容とするというところの書きぶりが,どういうふうに書かれるのかということが,非常に私どもの関心事になってまいります。乱暴な言い方をすれば,それを設置しない,常勤者を置かないということの理由が,仮にですが,不要なので設置しなかったというような書きぶりでは全く意味をなさない。したがって,これからの議論に委ねるところは大きいと思いますけれども,事業報告の記載ぶりについて,もう少し丁寧なと言いましょうか,立場によって丁寧さの書きぶりは当然変わることはよく分かっておりますが,その有用であるということの前提に立った書きぶり,これが少なくとも私どもは是非望みたいと考えます。 ○本渡委員 私は,常勤者が必要であると考えております。今現在,監査役会設置会社における,監査役会がかなりよく機能し始めているのではないかと考えております。それはなぜよく機能しているのかというと,やはり,常勤者が一人とか二人とかおりまして,その方々が大体ウィークデイには会社に出て,会社のいろいろなところに行って,内部の従業員の方たちとも親しくお話をし,調べているということによって,かなり情報を多く,また細かく把握できる,それによって,その後,月に1回ぐらいだと思いますが,監査役会を開いても,そういう自分たちが把握した事実に基づいて話ができますので,実質的な議論ができるわけです。それに対して,仮に常勤者がいなくなりますと,社外取締役だけで3人か4人集まっても,月に1回ぐらい集まって内部統制システムに基づいて,報告は受けるでしょうけれども,月に1回くらい集まって内部監査室などから報告を受けても,余りきちんとした監査・監督はできないのではないかと,非常に疑問を持っております。したがって,この,常勤者は必要ないというような法律は作ってはいけないし,今の委員会設置会社においても,できれば常勤者を義務付けたほうがいいのではないかということを私は考えているぐらいであります。 ○神田委員 私は,昔から,制度として常勤ということを要求することには疑問を持ってきましたので,少数説かもしれませんけれども,その立場からちょっと意見を述べさせていただきます。この問いについては,私は,この原案というか部会資料21に書かれていることに賛成します。補足説明に書かれていることもそのとおりだと思います。ここでは,ちょっと違った観点を申し上げてみたいと思います。最初に申し上げておきたいことは,今まで若干の委員の方々から常勤者の役割について,それが重要である,重要な役割を果たしておられるという御指摘がありました,そのことに反対するものでは決してありません。私が従来から疑問に思ってきましたのは2点ありまして,一つは,常勤という概念がよく分からないということです。例えば,現在,常勤監査役という制度がありますけれども,複数の会社の常勤監査役を兼ねる方もいらっしゃいますし,そういうこともできると理解されているかと思います。ですから,常勤というのは,そうだとすると,フルタイムという意味では恐らくないということになるのだと思いますけれども,昔,私も,広辞苑を見たことがあるのですけれども,意味がどうもよく分からない。どこか諸外国の制度を見ても,役員,すなわち日本で言う取締役とか監査役について,常勤を要求するという制度は余り聞いたことがなく,聞いたことがないから不適切だということに論理的にはなりませんが,しかし,常勤という概念が分からないのは,私だけかもしれませんけれども,昔から私にはよく分からないということが一つあります。   それから,もう1点は,取締役とか監査役というのは,常勤ではなくて,必要に応じて仕事をするという職責だと思います。本当に必要なときは,常勤以上に仕事をしなければいけないのではないかと思います。ですから,必要に応じて仕事をするという役割ですので,今現在存在する制度については,ここでは直接審議の対象にはなっていないと思いますけれども,殊に,この監査・監督委員会の委員について言えば,必要なときは常勤以上に仕事をしなければいけないと思いますし,それは,取締役もそうだと思います。もちろん,社内の人と社外の人とはそれぞれ置かれている立場や状況に応じてということは当然あるでしょうし,24時間必要なら仕事をせよという状況でも,それは,睡眠を取らなければいけない,そういう当然常識的な話はあると思いますが,繰り返しになりますけれども,役員は,必要に応じて仕事をするということがキーポイントですから,そういう意味で,常勤を要求するというのは,ちょっと違うのではないかなと思います。部会資料21で言う常勤の人を置くということを実務としてされることにもちろん反対するわけではありません。 ○三原幹事 私も,常勤が必要ではないかと申し上げてきた関係から補足させていただきます。神田委員に適切におまとめいただいたと思いますけれども,常勤者の現在における実務の有用性というのは否定できないし,恐らくそのような現状の実務認識といいますか,有用性はあると思います。現在,上場会社の2%弱の委員会設置会社があって,委員会設置会社が悪いとか良いとかという話ではなくて,その場合に常勤者がなくても果たして実際にきちんと回っているのかどうかというのが,実務感覚的によく分からないところもございまして,制度としては内部統制システムでやればよいのだとなっているのですけれども,委員会設置会社の実例が60社から80社程度の中で,大きな問題が起こったらどうなるかはよく分かっていないということと,今回,この98%超の監査役会設置会社が何割かが,もしもこの監査・監督委員会会社に移行したときに,常勤者が存在しなくても果たして大丈夫なのかどうかというところが分からなくて心配しているというのが意見の実態であるということです。   次に,中間試案の補足説明の6ページ目の14行目から23行目に御説明があるとおり,委員会設置会社に近付けてこの監査・監督委員会会社を考えると,内部統制システムがあるから,これは,常勤者は要らないのであるとなるわけでございますけれども,監査役会設置会社からの移行という実務的な経過措置的なことを考えますと,いわゆる監査役会設置会社から多くの会社が移行するためには,それに近い制度というのがあるのではないかとずっと提案してきたわけですが,中間試案の補足説明の6ページ目の14行目にあるような制度というのは,実際には,採用していただいておりません。結論としまして,常勤者を入れていただきたいという意見は今も維持したいと思います。ただ,もし維持できないということでこの法制審議会全体が御判断になる場合で,したがって,常勤者の存在が御提案のとおり任意のものとなってしまったとしても,次善の策として,条文には,常勤という立場なり概念なりを―広辞苑的には常勤とは何かという御意見もあったわけですけれども―,残していただいたほうがよいと考えます。実際に選任するときに,任意とは言え,常勤者が法律上の根拠ある立場の機関になるというのが一つの理由であり,それから,常勤者は,実際にどういう権限があるのかということがはっきりしないわけでございますけれども,委員会設置会社の場合に,現行法405条1項では,監査委員会で指定した監査委員は,業務・財産調査権があるとなっていまして,これは,監査役会設置会社における381条で,当然に独任制で,監査役は全員業務・財産調査権があるというのとは違って,委員会設置会社の場合には指定を受けた人だけが業務・財産調査権があるという形になっているわけですけれども,常勤者ということを選定した場合には,イコール405条1項の財産調査権があるという形にしていただくのがいいのではないかと思います。これは次善の策でございます。もし,常勤が任意であるとしても,常勤者と指定した以上は,405条1項の適用があるという形にしていただくといいのではないかという提案です。なぜかと言うと,常勤者を入れました,ところが,業務・財産調査権も何もないと,毎日来ても何もやることがないという形になってしまいますので,それであると,常勤者を認めて有用性を考えるという現在の状況とは齟齬が生じます。常勤者を入れるということは,突き詰めて考えると,その方がお一人でも業務・財産調査権があって,必要な調査が自分だけでできる,だからこそ,常勤として存在し意味がある調査をし,ほかの常勤ではない方が来たときにも御説明ができるということになりますので,この405条1項との連動性を,常勤者としての効果として考えていただくということができるのではないかということを,次善の策として御提案申し上げたいと思います。 ○野村幹事 私自身の意見を申し上げさせていただきますと,私自身は,常勤というのは義務付ける必要はないのではないかと考えております。と言いますのは,今,何名かの委員の方々から,現行の監査役設置会社における常勤監査役の有用性の御指摘がありましたが,それは,内部統制システムを直接的にではなく間接的に利用されておられる会社システムの中では常勤者がいたほうがいいという,そういう御意見かと思うからであります。今,これから作ろうとしておりますガバナンス・システムというのは,業務執行のラインの中に監査をする人を置くという新しいコンセプトでありまして,正に取締役が監査をするというこの新しい制度の中で,どのような監査の仕組みが合理的なのかということを考えていく必要があるだろうと思います。委員会設置会社においては,確かに,実例が乏しいために,そのような実務が確立していないわけでありますけれども,本来ならば,業務執行のラインの中に存在しております内部監査部門,あるいはいわゆる広い意味での内部統制システムと言われるものを自由自在に使いながら監査をするということが予定されているわけであります。つまり,内部監査部門の部門長を部下として指示を出しながら,内部監査の指揮命令を行いつつ監査をするというスタイルのほうが,監査が充実する可能性があると私は思うからであります。業務執行から独立していることが重要だという考え方の中で構成されてきた監査役の仕組みの下では,ある時期までは,内部統制部門とは没交渉というのが基本にあったところ,これではやはり監査の充実が得られないということから,内部監査部門との連携というものが行われてはおりますけれども,それは,先ほど御指摘があったように,時々説明を受けるというような程度にとどまっているわけでありまして,これが新しい委員会システムのものでの内部監査部門と監査者との間の関係のモデルではないと私自身は思います。その連携不足の部分を常勤監査役が埋めてきたんだとすれば,むしろ縦横無尽に内部統制システムを使いつつ,その監査を行うことが善管注意義務の内容になるという,そういう形での監査の実務を作っていくことが,新しいガバナンス・システムを導入することの意味ではないかと私自身は思いますので,常勤ということにこだわる必要はないだろうと思っています。 ○太田委員 先ほど神田委員から,常勤者が兼務している事例もあるのではないかという御指摘があったかと思うんですが,そういう御発言だったでしょうか。私も,データがきちんと手元には今ございませんが,これは水掛け論に―水掛け論と神田委員に申し上げるのは大変失礼なんですが―なるかと思います。したがって,実証的に監査役協会で早急にデータを取りますが,私が知る限りでは,少なくとも常勤者の常勤兼務事例はほとんど聞いたことがございません。それはなぜかと言えば,やはり常勤者が今,野村幹事からも御指摘がありましたけれども,内部統制部門との連携は,今おっしゃっていただいた以上に,実は,監査役及び監査役室,監査役事務局と称していますが,監査補助人が日々実は連携し,それを監査役に上げ,あるいは執行との連携を取って漏れのないような,そして,彼ら自身も,監査の対象であると,こういうやり方の中で内部統制システムを回しているというのが実は実態ではなかろうかとまず思っておりますので,まず,兼務事例がほとんどないと私は思いますが,それは是非実証的に次回にお示ししたほうがよろしいかと思います。   私も国語の専門家ではございませんが,常勤というのは,正に時間制約ということではなくて,専らそれに当たりながら,いついかなるときでも,例えば,従業員からの内部通報であったり,いろいろな仕組みのところの受皿にきちんとなりながら,やはり,実査も日々行う,会計監査もスーパーバイズする,こういうことをやっているのが監査役の実態であろうと思います。今,野村幹事からも御指摘のように,これは,新制度の話なんだということも十分分かりますけれども,どちらからの類型がこの新しい監査・監督委員会制度に行くのかという議論は,監査役設置会社からの移行がどうしても視野に入って来ざるを得ないものですから,その延長の中で,やはり常勤者の役割というのは相変わらず重いということを繰り返しておきたいと思います。 ○上村委員 これまでもいろいろ申し上げましたけれども,私は,この三つの選択肢はかなり無理矢理三つに分けている。委譲の範囲がちょっとずつ違うとか,免責はここはできるけれどもここはできないとか。前にも申しましたように,基本的に,取締役会と代表取締役,代表執行者の関係そのものについては,三つとも構造そのものに変わりはないのです。ですから,私は個人的には,これは,一元化していくプロセスだと思っております。一元化に向かう過渡的対応としては,そういうプロセスが必要なのかなと思えなくもないのですが。今の議論は,沿革的に申しますと,例えば,最初に,監査役が会計監査だけをやるというところからスタートしまして,そのときにはまだ公認会計士監査は定着していなかったわけです。それが途中から定着してくる。昭和30年代半ばですね。その後,監査役の監査報告書に相当性,適法性といったことを書かなければいけないとなりました。公認会計士の監査というのは,正に内部統制システムがあることを前提にして,太田委員もおっしゃいましたけれども,試査をして監査意見を形成するのですね。これは,期中の監査中心の監査ですので,監査役の監査もそれに類した会計監査中心だとすると,やはり常勤がいないとできないのではないかと,こういう感覚があったのだと思います。ところが,それがそうではなくなってきまして,先ほど神田委員がおっしゃったように,必要に応じて監督する,そして,取締役の決議事項も減っていく,こういうことになりますと,どちらかと言うと,適法性意見とか適正意見とかそういう会計監査に関する意見表明の主体としての監査役よりは,ガバナンスの主体としての監査役という観点が重視されるようになってきます。野村幹事がおっしゃったように,内部統制,会計監査に傾斜した業務監査,それは,当然内部統制システムがあることが前提ですが,この観念は基本的に公認会計士監査のための観念です。そこで翻って,現在提案される三つの制度の選択肢のどれを採っても,監査役は会計監査人による監査の結果の相当性意見を述べることになっておりますけれども,その辺をもし重視すると,かつての戦後始まったばかりの監査役制度のように,これは,監査の結果の相当性は,公認会計士というプロの監査の結果の相当性の意見を述べるんだから,これは,内部統制があって,期中監査ができなければ意見を述べられないはずではないかと,大上段から行くと,だったら常勤を入れなければいけないのではないか,むしろここでの説明と逆になるかもしれませんが,そういう感じがします。   他方で,繰り返しになりますけども,神田委員がおっしゃったように,モニタリング機能が中心ということですと,アメリカでもヨーロッパでも,公認会計士がやった結果についてそれが相当かというような意見を述べるというようなことはないので,ただし,野村幹事がおっしゃったように,会計監査,内部統制,内部監査に傾斜した業務監査としての機能を果たす,そうなりますと,前から私が申し上げておりますように,監査の結果の相当性意見表明というのは,そもそも外してもいいというところまで行くのではないかと思います。今すぐそれができないということを前提に議論しますと,やはり,モニタリング・システムに傾斜していく過程で常勤がいるのかという議論と,監査役の監査意見も公認会計士の監査証明と同じような感覚で意見表明するということが前提だと,内部統制と一体になって期中監査をしろみたいな話になるわけですけれども,そういう議論なのかと,その辺がちょっと割り切れないので,三つの選択肢なんて言っているのではないかなと,私は,そういうふうに思っているんです。この議論は,モニタリング・システムのほうに向かっていく一つのプロセスなので,お前はどうなのかと言われると,監査の結果の相当性意見について,監査役さんたちが一生懸命やっていることは,私もよく分かっているんですけれども,それよりは常勤がなければいけないという形での構成にこだわる必要はないのではないかと思っております。 ○中原幹事 太田委員が御指摘のように,これまでいろいろ常勤という役割を置くことによって監査の実務を充実していただいてこられた,そうした取組というものは,十分に尊重する必要があるのだとは思います。ただ,委員会設置会社などの内部統制システムを使った監査というのが何か必ずしも充実したものではないのかと言うと,それぞれの問題ごとにリスク管理規程を作って,それを監査委員会がきちんと承認をして,その監査計画に基づいて内部監査部門を使ってその監査をしていく,何か問題が生じた場合には,執行役なり監査委員会なりに同じ内容を通報して改善を図る,内部監査部門が構築する監査計画と違う監査計画に基づいて抜き打ちチェックなどもするというようなことで,現場の実際のリスクというものを見ながら,システムがいかにうまく回っていくかというのをかなり充実させるような形でやられているという面もあろうかと思いますので,必ずしも,この概念をなくしたら,監査の実態が直ちに危なくなるというようなことではないんだろうと思います。   先ほど,常勤ということについて,よく言えば常勤,悪く言えば馴れ合いということになるんですけれども,太田委員,神田委員のやり取りの中で,複数者が勤務している例はないというお話がありましたけれども,私もかつて調べたことがありまして,そのときに,数社の常勤という例はちょっと伺ったことがありまして,実証的に少なければいいというよりは,解釈論として一社でないと駄目だということになることがどうなのかという問題なので,恐らく実証していただいて,たかだか20%だったという問題だったらいいじゃないかという話では必ずしもないのではないかなと考えております。   そうは言いながら,これまでいろいろと構築してこられたいろいろな実務の取組というのは,それなりに監査の一つの手法として重く受け止める必要があるかと思いますので,その意味では,事務当局の御提案というのは,そういったところにも配慮されたものではないかと考えております。 ○本渡委員 ちょっと繰り返しになると思いますが,モニタリング・モデルということで,結局,役員というのは,下から,内部統制システムとかそういうので上がってきた報告を聞いていれば,それで仕事はできるんだというようなお話なんですが,しかし,実際に,自分は社外取締役だからそれほど毎回行くわけではないにしても,誰か自分の仲間と思えるような人がきちんと会社に毎日のように出社して,それで内部統制の係の従業員と付き合いながらやっているような人が,委員会設置会社だったら委員会において仲間で打合せをするとか,そういうことができないと,実際には回らないのではないかなと,仕事にならないんじゃないかなという気がするんです。   神田委員がおっしゃったように,役員なんだから必要があれば一生懸命になって仕事をする,それは,社外役員だって同じで,何か問題が起これば一生懸命やると思いますが,しかし,問題があるかどうかさえが分からなければどうしようもないので,やはり常勤者がいなくなって,社外取締役が三人ぐらい集まったとしても,きちんとした監査・監督はできないのではないかなと,特に,監査部分ができないと思います。監督というのは,業績の報告を受けて,こんな業績じゃ駄目じゃないかと,この社長ではちょっとやっていけないねとかいう判断はできると思いますが,しかし,監査というのは,ある程度細かく会社のことを知らないと監査はできないと思います。したがって,やはり常勤者は必要であると考えております。 ○野村幹事 確かにおっしゃっておられることは,私は,よく理解できるんですが,それは,今の監査役制度を想定しておられる御発言だと思います。監査役には,スタッフがいなくて,部下もいなくて,それで会社の社長が作った業務執行のラインの人たちがいろいろ動いている。その中に内部統制部門があって,内部監査の人たちも業務執行のラインの中で動いている。それを外から見ている,その人たちにとっての仲間は監査役しかいませんので,後は,監査役室として何人かの若干の事務局員がいるという程度のもの,この人たちの中の仲間がいつもいてほしいと,こういう話ですよね。でも,これは,今の監査役制度のコンセプトだと思うんですけれども,今,議論しています委員会設置会社型の監査というのは,この内部統制部門はみんな自分のスタッフと同じぐらいの部下なわけです。その人たちが毎日,自分の指示に従って,監視・監督をしているわけです。この方々に,例えば,リモートな場所から,これをすぐに報告してくれとか,ここに行ってくれとか,そういうような形で指揮命令をしなければ善管注意義務が果たせないという,そういう形のモデルが一方にあったときには,今の御発言とは大分会社の様子が違うと思うんですよね。ですから,正に監査役だけで監査をするという,独立性の概念から発していますと,仲間は監査役しかいませんから,その中で誰かはいてもらわないと困るという,その御発言はよく分かるんですけれども,その延長線上で新しい制度を構成してしまいますと,どうもせっかく委員会型というものが世界にある程度理解されていて,みんながどういう仕組みで動いているのかということが世界の共通認識となっている中で,やや違った形の動き方を,あって弊害というわけではありませんけれども,根本のコンセプトが全然違ってきてしまうような感じがします。やはり,基本的なコンセプトを一致させながら,更にそこに充実させる意味で,任意に常勤者が必要だと考える会社であれば,それはそういうものを任意に設置すればいいというので,私は必要にして十分なのではないかなと思いました。ちょっと,すみません,繰り返しになってしまいました。 ○神田委員 余り発言しない者が二度も発言して申し訳ありません。それほど大事でない問題だったとしたら,本当に申し訳ないのですけれども,幾つか言われましたので,もし調査をしていただけるのであれば,常勤というのをどういうふうにお考えになっているかも併せて調査していただけると有り難いと思います。というのは,例えば,ある会社の常勤監査役の方が他の会社の常勤監査役を兼ねているケースがあり得るかどうかというのが一つありますけれども,他の会社の非常勤の,例えば,監査役とかその他の割と重要な役職を兼ねているケースがあるかということもあります。それはともかくとしまして,私も,結局問題の本質は何ですかと問われますと,これは,上村委員と野村幹事にうまくおっしゃっていただいたとおりのことだと思いまして,昔から監査役で恐らく議論があったと思うのですけれども,監査役というのは,「監査する役なんですか,監査させる役なんですか」,これは私が会計学を習った先生の言葉なのですけれども,そこにかなり本質が示されていまして,現在,委員会設置会社でどうしているかというと,監査委員会が全員非常勤の場合には,先ほどから御指摘いただいている御意見の中で言う常勤的な人というのを外に置いているわけです。それで連携している。あるいは監査委員会の中に常勤監査委員というのを置いている会社もある。ですから,中に置くか外に置くかという違いはありますけれども,それは正に御指摘のとおり常勤で中核となる人がいて動いているということなわけです。しかし,残りの人からしてみると,その人たちのする監査活動というのは,先ほどの表現を使わせていただくと,自分で監査するのではなくて,監査させるということになるわけです。歴史的な経緯は,上村委員がおっしゃったとおりだと思います。今,この新しい制度を構築するときに,どちらもあり得るのだとは思うのですけれども,私の感じは,モニタリング・モデルという言葉が使われているようですけれども,やはりそちらを指向するのが自然ではないかと,私も,監査役制度というものの重要性を否定するものではありませんし,全くそう言うつもりもありませんけれども,恐らく,冒頭,静委員が御紹介になったアメリカかどこかの会議でも,そのときの日本の監査役の仕事とか,役割については,評価のみならず言及もなかったのではないかと推測します。したがって,そういうところは,今後改善していかなければいけないと思うのですけれども,今ここで提案されている新しい監査・監督委員会を構想するときには,制度が世界から遠ざかるほうをわざわざ選ぶにはそれだけの理由が必要であって,そこまでしなくても,そこは,日本人の知恵で,実際には常勤者を置くということで,中に置くことも可能ですし,外に置くことも可能ですから,委員会設置会社のやり方と言ってしまえば,それまでなのかもしれませんが,そういう対応で十分御指摘の点の良さとか危惧には対応できるように思います。 ○岩原部会長 御意見が分かれまして,今日ここでどちらかの意見に集約するということは困難かと思います。今,神田委員がおっしゃいましたような新しい理念に従い,モニタリング・モデルに基づくような内部統制システムを使った監査・監督委員会という在り方を認める場合には,法律で,常勤者がいるということを義務付けるまでのことをするのは,そういう新しいタイプの監査・監督委員会による監査・監督の在り方を排除することになってしまうのではないかというのが,多分神田委員の御懸念だろうと思います。法律で常勤者を義務付けるということをすることがどれだけ必要かということについて,考え方が分かれており,これ以上は,今日の段階ではどちらかの意見を採るということはできないと思います。新しいモニタリング・モデルというのは,ある意味でちょっと理念的なところもありますので,その理念にどれだけ忠実なものにするかという点については,もうちょっと時間を掛けて議論することとし,今日は取りあえずこれぐらいの議論にさせていただきたいと思います。 ○杉村委員 3ページの補足説明に4というのがありますが,パブリック・コメントを引いていただきまして,監査・監督委員に占める社外取締役の人数は過半数か,それとも半数かという話が紹介されております。これについて,手短に,確認も含めて発言させていただきます。このパブリック・コメントの意見は,部会でも申し上げたとおり,期中に欠員が生じることを懸念した場合に,社外監査役は半数以上である一方で,この新しい制度では過半数とすることに伴う,実務上の負担への懸念を背景とするものだと理解しております。その辺りの負担を軽減する手当てが必要ではないかということが,まず1点です。これに関連して,更に1点確認ですけれども,もし仮に,期中に監査・監督委員である社外取締役が欠けてしまって,法定の過半数要件を満たさなくなった場合には,一時役員という制度があるかと思うのですが,裁判所が一時役員として監査・監督委員である社外取締役を選任するという緊急措置のようなことも,その対象になるという理解でよろしいのでしょうか。 ○塚本関係官 おっしゃるとおり,監査・監督委員である社外取締役が欠けた場合も,一時役員の対象になると考えております。 ○岩原部会長 それでは,次に移らせていただきたいと思います。「(2) 監査・監督委員会設置会社の取締役会の権限等」について,事務当局から説明をお願いしたいと思います。 ○塚本関係官 それでは,「(2) 監査・監督委員会設置会社の取締役会の権限等」について御説明いたします。本文①は,監査・監督設置会社制度の趣旨が取締役会の監督機能の充実にあることを踏まえ,委員会設置会社の取締役会の権限を参考として,監査・監督委員会設置会社の取締役の権限を定めるものでございます。   次に,本文の②から④までは,監査・監督委員会設置会社における業務執行の決定の取締役への委任に関するものでございます。まず,本文の②は,監査・監督委員会設置会社には,指名・報酬委員会が置かれないことを踏まえ,監査・監督委員会設置会社の取締役会から取締役に対する決定の委任が認められる業務執行の範囲は,原則として,監査役会設置会社の取締役会から取締役に対する決定の委任が認められる業務執行の範囲と同様,すなわち原則として,重要な業務執行の決定を取締役に委任することはできないものとしています。   他方で,監査・監督委員会設置会社の取締役の過半数が社外取締役である場合には,執行と監督が分離し,取締役会の監督機能の充実が更に図られていると考えられます。そこで,本文の③のような規律を設けることが考えられます。さらに,監査・監督委員会設置会社制度の趣旨は,取締役会の監督機能の充実を図る点にあるところ,取締役会による監督を実効性のあるものとするためには,社外取締役を始めとする経営を監督する者が個別の業務執行の決定に逐一関与するのではなく,監督により専念することができるようにすることが望ましいと考えられます。このような観点から,監査・監督委員会設置会社においては,取締役の過半数が社外取締役である場合以外の場合にも,重要な業務執行の決定の取締役への委任を認めることについて検討する必要があります。この点について,経営の監督という観点から,社外取締役を含む監査・監督委員会設置会社の取締役全員で決定すべき業務執行の範囲については,各社の状況によって様々であり得るため,その点を踏まえた株主の判断に委ねるものとすることが考えられます。また,監査・監督委員である取締役以外の取締役の任期は,1年間とするものとしております。したがって,監査・監督委員会設置会社の株主は,毎事業年度の定時株主総会において,当該取締役の選任を通じて当該取締役による業務執行の決定を含む職務執行の状況を監督することができます。以上の点を踏まえ,本文の④のような規律を設けることが考えられます。本文の④のような規律に対しては,パブリック・コメントにおいて,監査・監督委員会設置会社には,指名・報酬委員会がないことを理由に消極的な意見が寄せられています。このような意見も踏まえ,監査・監督委員会に,監査・監督委員である取締役以外の取締役の選解任等についての意見陳述権を付与することに加えて,例えば,監査・監督委員会が選定する監査・監督委員は,監査・監督委員である取締役以外の取締役の報酬等について,株主総会において,監査・監督委員会の意見を述べることができることとした上で,本文の④のような規律を設けることも,検討する余地があると思われます。 ○岩原部会長 それでは,(2)の①から④までを一括して,御議論いただきたいと存じます。いかがでしょうか。 ○前田委員 ③,④のうち,③の案は問題ないと思うのですけれども,④の案は,これで委員会設置会社あるいは監査役設置会社との整合性が取れているのかということは,やはり考えておく必要があろうかと思います。取締役に決定権限を委任することには,定款の授権が必要だということになっていますけれども,通常は,監査・監督委員会設置会社になる定款の定めをするときに併せてこの定めもするでしょうから,結局,この④の案は,監査・監督委員会設置会社の代表取締役に,委員会設置会社の代表執行役と同等の大きな権限を認めることになるのだろうと思います。監査役設置会社では,いかに定款の定めをもってしても,重要な業務執行の決定まで代表取締役に委任することは認めていないにもかかわらず,監査・監督委員会設置会社の代表取締役の権限をここまで大きくして,本当に大丈夫かという懸念はどうしても残るのですけれども,委員会が一つしかないことを補うためにお考えくださっている幾つかの方策,つまり,選解任等についての意見陳述権,更には報酬に関する意見陳述権あるいは監査・監督委員以外の取締役の任期を1年にするなど,いろいろな方策によって,監査役設置会社よりは代表取締役等に対する取締役会の監督機能は相当に充実することは確かだと思いますし,あるいはまた,補足説明で御指摘のように,監督する者が余りに多くの意思決定に関与するのは好ましくないという問題があるのは,そのとおりだと思います。さらには,制度を作るからには,やはり現実に使われる制度にしないと意味がないということも考慮いたしますと,この④につきましては,委員会設置会社,監査役設置会社との整合性が完全にうまく図られているのか,全く疑問がないわけではないのですけれども,これでやむを得ないという感想を持っています。 ○齊藤幹事 私も,前田委員と同様に,(2)の提案に賛成いたします。さらに,追加的にお願いできるとすればということではあるのですが,現在の取締役会の権限に関する規定のコンセプトを見直してはいただけないでしょうか。現在は,362条が原則を定めつつ,新しい機関構成ができるたびに例外を作るということになっており,取締役の権限が,何とか委員会ができるごとにグラデーションのように変わっていったりするものであるという印象を与えかねないところがございます。しかし,これは,取締役会というものに期待される本質的な役割を非常に分かりにくくしているのではないかと思います。規律の内容ではなく,コンセプトの問題なんですけれども,取締役会の基本的な権限には,416条1項で挙げられているコアな権限があり,法律でその内容が定められたいろいろな委員会の設置がオプションとして認められている,しかしながら,社外取締役がいない場合,あるいは委員会を通じた別の形でのガバナンスの強化が図られていない場合には,せめて重要な業務執行は取締役会の権限とすることとするというような整理にしていただくほうがよいのではないかと思います。ガバナンスに関する規定というのは,今後も社会情勢等によっていろいろ手を加えられていくことが考えられるわけですけれども,先に述べたような考え方で法規定を設ければ,その都度手を入れやすくなるのではないかと思っております。少し大掛かりな変更になってしまうかもしれないので,今回の改正でそこまでお願いするのは難しいかもしれないとは思ってはおりますが,長期的にはそういうことを考えていただければと思っております。 ○三原幹事 ③と④の点についての意見でございますが,③につきましては,全取締役の過半数が社外である場合でありまして,この場合には,モニタリング・モデルということで,このような一部の決定を取締役に委任することができるということで,③がいいかどうかは分からないですけれども,一つの考え方としてはあり得るのかなと思います。なぜかと言うと,実態として,社外取締役が全体の過半数ですので,そことのバランスをもって一定の権限を社外から業務執行取締役等に委任するという制度だと思います。これに対して,④のところはやはり,私は,整合性が付かないのではないかと思っております。なぜかと言うと,恐らく定款自治という考え方から機関設計を考えた場合にこのような制度もあり得るのではないかと思われるのかもしれませんが,③が認められる根拠が,全体の過半数が社外だという実態があるために,モニタリング方式的に一部を委任するということになるのに対し,④において,定款で定めたとしても,実態がないわけであって,実態がないにもかかわらず,定款自治であるからといって③と同じことができるとはならないはずです。つまり,実態がないにもかかわらず認めるというのが定款自治だということではないはずであって,④は行き過ぎではないのかと思います。実態があるような③の場合に限って認めるのは,個々の具体的な業務執行の決定でございますからあり得るとしても,④というのは,やはり整合しないと思っております。 ○杉村委員 この件につきましては,全体として提案を支持する意見でございます。④につきましても,定款の定めを要件にこのような形で委任することができるとすることは,株主の判断も十分に尊重する仕組みであり,妥当な提案であると認識しております。 ○本渡委員 私は,委員会設置会社において,代表執行役にほとんどの業務執行を委任できるという法制にした理由は,やはり3委員会があって,監督がきちんとできる,代表執行役を始めとする執行役に対する監督がきちんとできるということが前提となって,ああいう制度ができたと考えております。それに対して,③は,社外取締役が過半数ですから,これはいいとしても,④は,定款自治を強くし過ぎて,この定款変更さえできれば,もう実質上は,代表取締役が,代表執行役と同じように,ほとんどの業務執行権限を持って執行できてしまう,そうなると,取締役会で議論しながら,良いか悪いか議論して,それで重要な業務執行をやりましょうという,今の監査役会設置会社の制度とはかなり違ってきますし,実際に,取締役会に議案を上程して,ほかの取締役の意見も聴くという,その手続を取るだけでも,かなり慎重な考慮ができるのではないかと思っておりますので,④については行き過ぎではないかなと考えております。 ○中原幹事 また空気を読めてないのかもしれないんですけれども,③の規定を監査・監督委員会について設けていただくとした場合に,一般に監査役会設置会社で過半数の社外取締役がいて,半数以上の社外監査役がいるというときに,こうしたいわゆるモニタリング・モデルみたいなものが採れないとする必要性がどこまであるだろうかということもちょっと思いまして,その意味では,そうしたところの整合性もちょっと御配慮いただけるといいのかなと思います。 ○岩原部会長 ほかにいかがでしょうか。   よろしいでしょうか。委員会設置会社の場合と比べて,③のところまではほぼ皆さん認めていただいていると思います。④については,委員会設置会社のように3委員会制度を用意することによって,きちんとした社外取締役を中心とした監督体制が確立している委員会設置会社と比べて,監査・監督委員会設置会社の場合,同じような権限の委任を代表取締役にすることができるかということについて,感覚的にどこまでいけるかということで若干の意見の違いがございました。前田委員は,積極的ではないけれども,監査・監督委員会が単に監査・監督だけではなくて,選任,解任や報酬についても意見を述べることができるというところをプラスαに考えると,やや委員会設置会社にある程度近付いたと見ることもできるので,委員会設置会社と同じだけの権限の委任を認めることができるというお考えなのに対して,本渡委員や三原委員のお考えは,やはり制度的にそこは違いがあるのではないかということだったと思います。そこら辺は,どこまでかという程度の問題の認識であり,最後は,どう決断するかという問題なのかと思います。取りあえず,今日は,そこまで詰めたということで,先に進めさせていただきたいと思いますが,ここで休憩を取りたいと思います。           (休     憩) ○岩原部会長 時間でございますので,審議を再開させていただきたいと思います。   第1の「3 社外取締役及び社外監査役に関する規律」に移らせていただきます。まず,「(1) 社外取締役等の要件における親会社の関係者等の取扱い」のうち,「① 親会社の関係者の取扱い」について,事務当局から説明をしていただきます。 ○宮崎関係官 それでは,「(1) 社外取締役等の要件における親会社の関係者等の取扱い」のうち,「① 親会社の関係者の取扱い」について御説明いたします。本文のア及びイは,試案第1部第1の3(1)A案①ア及び②アに関するものでございます。これについて,パブリック・コメントにおいては,親会社の関係者は,子会社の企業価値向上のインセンティブを共有していること等を理由に,B案に賛成する意見があったものの,親会社の関係者には,親子会社間の利益相反についての実効的な監督を期待することはできないこと等を理由に,A案に賛成する意見が多数でした。なお,パブリック・コメントにおいては,社外取締役の要件に,株式会社の親会社の社外取締役でないものであることを追加すべきではなく,また,社外監査役の要件に,株式会社の親会社の社外取締役又は社外監査役でないものであることを追加すべきではないとの意見が寄せられておりますが,親会社の社外取締役又は社外監査役であれば,経営者が親会社の利益を図ることについての実効的な監督を期待することができると言えるかについては,慎重に検討する必要があると考えられます。 ○岩原部会長 それでは,親会社の関係者の取扱いについて,いかがでございましょうか。御意見を頂きたいと思います。 ○太田委員 これも繰り返しの主張になりますので,簡潔に申し上げたいと思いますけれども,親会社のいわゆる社外監査役が子会社の社外監査役の兼務を可とすべきであるというのが,私ども日本監査役協会の主張であります。その理由ですが,あえて申し上げますと,やはり取締役と監査役を同等に扱っているという,そもそも出発点が間違っていると思っておりまして,親会社の社外監査役は,少なくとも監査役である以上,経営からは独立をした存在であるということ,それから,子会社経営者への実効的監査を,そういった観点からは期待ができると思っておりますし,加えて,実務上のニーズが非常に大きいと思っておるところであります。実務上のニーズと申しますと,現実に親会社の社外監査役が傘下の子会社の社外監査役を兼務している事例が非常に多いことが私どもの調べる範囲でも,相当数に上りますので,仮にですが,社外要件の厳格化が導入された場合には,実務上大変な混乱を来すということは,間違いのない事実であります。会社によりましては,新たなる社外監査役の選任を要すると,こういうことがすぐ出てまいる課題になります。したがいまして,仮にこれが通るという場合の懸念なんですが,その場合には,最低限時間的な猶予というものをきちんと取っていただかないと,非常に実際上困ることになりますということをあえて申し述べておきたいと思います。 ○杉村委員 ①に関しまして,見直しにはやはり反対でございます。これまでの議論と同じ意見でございますけれども,パブリック・コメントでも意見が寄せられておりますように,親会社関係者は,企業価値向上のインセンティブを共有しておりまして,社外取締役あるいは社外監査役としての実効性を積極的に評価すべきであるということでございます。また,冒頭に東京証券取引所の制度の見直しのお話がございましたけれども,社外要件の見直しの部分に関しましても,開示ルールの強化などの見直しが行われるとのことでございますので,社外取締役・社外監査役としてチェック機能を果たし得るか否かを株主総会の役員選任議案におきまして,株主の判断に委ねるという形が適当であろうと思っております。なお,①で,親会社の関係者についての取扱いにも反対しておりますので,当然のことながら,次の②の兄弟会社につきましても,同様の理由で,一連のものとしまして,反対ということを申し述べさせていただきます。 ○伊藤委員 親会社の関係者が社外役員に就任できないという規定を置くことに対しては,反対でございます。親会社の関係者というのは,子会社のガバナンスに対して,重大な関心を持っているということを基本的に我々は考えております。業務に関する知識というものも十分に当然あります。監査・監督を行う資質を備えていると私どもは考えております。親子会社において,子会社の不祥事は,親会社の経営にも大きく当然影響しますし,親会社との利益相反が実際に生じる場合は,それほど頻繁には起こらないのではないかと,それから,親会社の関係者を一律に社外取締役,社外監査役の要件から除外する必要はないのではないかと考えております。 ○静委員 私は,これを要件として追加して,社外者から除外すべきだと考えております。部会資料21にあるとおりでございますけれども,親会社関係者の除外はもはや当たり前のことであると思います。杉村委員がおっしゃっていたように,親会社関係者が子会社のことをよく知っていて,関心も高いし,ガバナンスの向上に貢献することもあるということ自体を否定するものではありません。大変役に立つと私も思いますが,そういう方の独立性が低いということも考えなければいけない。そういう方が取締役になってはいけないと言っているわけではありません。取締役になっていただいて結構だけれども,社外とは呼ばないほうがいいのではないか,もっと言えば,その方とは別に,独立性の高い社外の方を選任しておく必要があるのではないかということを申し上げたいと思います。   それから,取引所の新制度への言及がありましたけれども,社外か社内かすらも投資家の判断に委ねるというのは,余りにも乱暴すぎて制度としては体をなさないと思います。 ○上村委員 これは,ただの確認ですけれども,私は先ほど,監査・監督委員会設置会社の取締役の過半数が社外の場合は重要な業務執行の決定を取締役に委任できるという場合の「社外」というのは,当然今出てきた社外の要件が満たされるということが前提だと思って議論に参加していたわけですので,ここが駄目ということになれば,あちらも消えることに当然なるんだろうと思いますので,その点をちょっと確認しておく必要があると思います。 ○岩原部会長 ほかに何かありますでしょうか。   特にありませんか。特に御意見がないというのは,御発言にならない方は,この部会資料21に書いてあるような方向を,基本的には認められていると理解したいと思います。ただいまの太田委員,杉村委員,伊藤委員のようなお考えもあるということを十分配慮する必要がありますが,多くの委員の方は,基本的には部会資料21に書いてあるような考え方を了解されているということかと思います。   それでは,次に,「② 兄弟会社の関係者の取扱い」について,事務当局からの説明をお願いしたいと思います。 ○宮崎関係官 それでは,「② 兄弟会社の関係者の取扱い」について御説明いたします。本文のア及びイは,試案第1部第1の3(1)A案(注1)において,なお検討することとしているものでございます。パブリック・コメントにおいては,いわゆる兄弟会社の関係者は,親会社からの独立性が疑われる以上,親会社の関係者と同様に取り扱うべきであるとして,本文のア及びイのような見直しをすることについて,賛成する意見が多数でした。そこで,親会社の指揮・監督を受ける立場にあると考えられる兄弟会社の関係者には,本文の(1)①の親会社の関係者と同様に,株式会社の経営者が当該株式会社の利益を犠牲にしてその親会社の利益を図ることについての実効的な監督を期待することができないものとして,社外取締役等の要件に兄弟会社の関係者でないものであることを追加することについても,検討する必要があるものと思われます。なお,本文のア及びイは,現行法の社外取締役及び社外監査役の要件における子会社の関係者の取扱いを踏まえ,社外取締役の要件に,兄弟会社の業務執行取締役若しくは執行役又は支配人その他の使用人でないものであることを追加するものとし,また,社外監査役の要件に,兄弟会社の取締役,会計参与若しくは執行役又は支配人その他の使用人でないものであることを追加することを検討する必要があるものとしております。 ○岩原部会長 それでは,この②について,いかがでしょうか。先ほど,杉村委員から御意見を頂きましたが,いかがでしょうか。基本的な議論は,先ほどの①と同じであって,先ほどの杉村委員の御発言のように,①についてのお考えが杉村委員や伊藤委員のようなお考えの場合ですと,②についても同じに考えますが,それに対して,①についての静委員あるいは上村委員のお考えによれば,部会資料21に書いてあるような考え方になるということかと思います。 ○前田委員 先ほどの①の親会社の関係者を除くというのは,補足説明にございましたように,子会社経営陣からの独立性を確保するためではなくて,親会社と利益が衝突する場面で,親会社の関係者は純粋に子会社の利益だけを考えて行動することを期待しにくいというのがその理由だったと思います。そして,この②の兄弟会社の関係者はどうかですけれども,こういう形で会社の利益だけを考えて行動することを期待できるかということをずっと問題にしていきますと,きりのない話になって,規制も余りに複雑になりますので,どこかで線を引かざるを得ないのだと思います。そういたしますと,定型的に直接の利益衝突の可能性があるということで,親会社関係者だけは除くという選択肢も十分あり得る,つまり,①は必要ですけれども,②までは必ずしも必要ないのではないかという考え方も十分採り得るところであるというように思います。 ○岩原部会長 今のような御意見がございましたが,ほかに,その点についていかがですか。前田委員のお考えでは,②については,このような社外性の除外は認める必要はないということでしょうか。 ○前田委員 はい,規制が余りに複雑になるのもいかがなものかと思いますので,①だけで考えるという選択肢は十分あり得ると考えております。 ○岩原部会長 その点を含めて,御意見はいかがでしょうか。ほかの委員,幹事の方はどうですか。①と②を分けて考えるというのが今の前田委員のお考えですが,①のほうについて部会資料21のような考え方をサポートされた考え方の方で,前田委員のようなお考えを採るという方はいらっしゃいますでしょうか。   特にはないですか。ということですと,前田委員の御意見がありましたけれども,基本的には,①についてと大体同じ考え方の分布であるという理解でよろしゅうございましょうか。それでは,そのように考えさせていただきたいと思います。   次に,「③ 株式会社の関係者の近親者の取扱い」について,事務当局からの御説明をお願いいたします。 ○宮崎関係官 それでは,「③ 株式会社の関係者の近親者の取扱い」について御説明いたします。本文のア及びイは,試案第1部第1の3(1)A案①イ及び②イに関するものでございます。これについて,パブリック・コメントにおいては,本文のア及びイのような見直しをすることに賛成する意見が多数でした。他方で,パブリック・コメントにおいては,株式会社の使用人の近親者も社外取締役等から除外されることになれば,法的に不安定となるとの意見が寄せられています。この点について,株式会社の使用人の近親者については,その経営者から指揮・監督を受ける立場にある当該使用人と同様に経営全般の監督機能を実効的に果たすことを期待し難いとも思われます。他方で,そもそも,株式会社の経営者が,当該株式会社の利益を犠牲にして,その使用人又は当該使用人と経済的利益を同一にするその近親者の利益を図る類型的・構造的なおそれがあるとはいえないため,当該使用人の近親者が社外取締役であることにより利益相反の監督機能の実効性を確保することができないとまでは言えないようにも思われます。社外取締役等の要件に,株式会社の関係者の近親者でないものであることを追加することとする場合であっても,例えば,株式会社の支配人を除く使用人の近親者でないものであることは追加しないものとすべきかどうかについては,以上の点を踏まえ,検討する必要があるものと思われます。 ○岩原部会長 それでは,③について御意見を頂きたいと思います。いかがでございましょうか。 ○杉村委員 ③に関しましては,仮に見直しを行う場合であっても,使用人の近親者でないものであるということは追加しないものとすべきであると考えます。パブリック・コメントでの御意見を先ほどの御説明の中で紹介いただきましたけれども,そこでの懸念は,会社によりましては,何万人という従業員,使用人がいる場合に,その変動に伴いまして,社外取締役,社外監査役の該当性が変動するということは,実務の負担にもなりますし,法的な不安定性にもつながるということです。そのため,使用人については追加すべきではないと思っております。 ○安達委員 私も,使用人を含めることに関しては,反対でございます。やはり,有為な人材を登用して社外取締役等に任命する必要があるにもかかわらず,人材の選択肢を狭めることになり,問題があると考えます。これは,適切な例かどうかちょっと分かりませんが,例えば,社外取締役に就任している任期中に,その方の子息が結婚される,たまたまその相手が使用人だったということも想定されます。その瞬間に,この法律のため,すぐ退任するかということで,どうもこれは現実的ではないような気がしますし,やはり,そういう点からも,この使用人を含めるということに関しては,私は,反対したいと思います。 ○伊藤委員 仮に(1)の③を採用する場合であっても,部会資料21にあるように,使用人の二親等以内という親族が経営者に対する有効な監督ができないと思いません。一方,これらの方々を社外取締役,社外監査役の要件から除外した場合に,取締役会等の決議が無効になるリスクを回避するために,企業が現在・将来にわたっての,今,安達委員がおっしゃったようなことも含めて,使用人との関係を確認する必要がある。例えば,確認するためにどうしたらいいかというと,戸籍謄本を取って調べるとか,個人情報保護法の観点からこれはまた非常に難しい。解決策を見いだすことは非常に難しいので,そのために,その他の使用人の二親等以内の親族という記述を本規定には入れるべきではないかと思います。 ○静委員 近親者を社外性要件として追加することについては,私も,そうすべきだと思いますが,使用人の近親者の取扱いについて意見を申し上げたいと思います。部会資料21でも分析していただいていますけれども,使用人の近親者に対して経営全般の監督は期待できないことは,他の近親者と同じだと思います。したがって,これも,除外するというか,社外性要件として追加するというのが筋だろうと思います。特に,日本では,終身雇用が多いので,社外取締役という偉い人でも,近親者の雇用や処遇というのはどうしても気になるということが背景にあります。ただし,全部が全部そうなのかと言われると,確かに,使用人のところは程度問題もあると思っておりまして,例えば,アルバイトのような人であれば,近親者を追加するということは必要ないのではないかということもあります。この辺りは,実態に即したことを考えてもよろしいのではないかと私は思っております。 ○齊藤幹事 これまでの社外取締役に期待される役割の議論から言いますと,近親者に対する警戒があるということは,確認する必要があるのではないかと思います。その近親者の範囲について,使用人を外すというときに,それは,使用人の関係者は社外取締役に期待される機能を果たし得るからという理由で外すのは望ましくないと思います。それは,理由の問題ですけれども。ただ,ここでやはり問題になるのは,使用人にもいろいろなレベルがあるということであろう。取締役と上級の使用人の社内の位置付けというのも,大きな違いがあるとは言えないので,使用人だから問題ないと言い切れない。しかし,使用人にもいろいろなレベルがございますので,例えば,先ほど出たようなアルバイトまで,気にするのかという問題かと思います。また,法規定に入れてしまいますと,法的な効力に直接影響を及ぼすのではないかという問題が必ず付きまといますので,企業の側としても慎重にならざるを得ない,それによって調査などの負担が過剰に生じる可能性がございますので,このようなものこそ法規定ではなくて,上場規則等で,使用人の近親者も社外取締役の該当者からはなるべく外してほしいというメッセージを何らかの形で発するという形で対応せざるを得ないのではないかと思います。 ○中東幹事 私も,使用人の範囲を限定した上で,近親者については社外性を否定することに賛成でございます。理由は,もう何度も出てきた話でございますが,反論として挙がっている点について,若干申し上げたいと思います。決議の効力に影響するのではないかということについて,今も,伊藤委員,齊藤幹事からも御発言がありましたし,次の④に関しては,かねてからいろいろな意見が出たところかと思います。ですが,私は,思考の順序が逆だと思っています。つまり,社外性としてどういうものがふさわしいかという基準の問題と,たまたまそれを満たせなかった場合にどういう効力になるのかという決議の効力の問題とは,この順番で考えるべきものであると思っています。社外者がいるべきところいなかったとしても,当然に決議が無効になると解する必要はないと考えております。もちろん,会社が社外者の要件を満たさないことを知っているにもかかわらず,その人をわざわざ選んでいると,そういう場合にはまた別途考えるとしまして,社外性に関する瑕疵が当然に決議の効力に結び付くものではないと解釈論上考えております。もし,その解釈が不安だというのであれば,そういう立法をして,実務の御懸念を拭えばよいことでございます。   もう1点,安達委員がおっしゃった点に関して,途中で社外性を失ったりするなどの変動があるではないかと,これも,おっしゃるとおりで大変なことだと思います。一時取締役であるとか,あるいは補欠の役員を設けておくとか,そういった対応も,現行法でも可能なわけでございます。これに加えて,例えば,パブリック・コメントでも御提案があったと思うのですが,選任時において社外の要件を満たしていればその事業年度については満たしたものとして取り扱う,そのような形で安定性を図ればよいと思います。任期の途中で社外性を失う可能性については,従来も子会社でなかったものが子会社に突然なったりする可能性があるわけで,しかも,それが会社や社外役員の意思によらない場合もあり得るわけです。そういう意味では,任期途中で社外性を失う可能性があるからという理由で,本来あるべき姿を変えるのは,順番が逆であると思っています。 ○岩原部会長 ほかにございますでしょうか。今の御議論を伺っていますと,問題になるのは,使用人の近親者を除外するかどうかということで,それについては,使用人と言っても,その範囲を限定して考えるべきではないかという御意見が多かったかと思います。その上で,資格を,社外性が否定されるときの法的効果については柔軟に考えることができるのではないかというのが,中東幹事からの御意見でございました。そこら辺のところを,事務当局のほうで,実際に使用人の範囲を限定したり,あるいは法的効果についてなるべく支障が生じないようにするにはどういう手当てが考えられるかというところを,更に考えていただけたらと思います。 ○坂本幹事 1点補足させていただきます。使用人と言いましても,いろいろなものがあるということは当然理解しておりまして,アルバイトのようなものまで対象にするのかというところの御指摘は,ごもっともな側面があると思って,実はいろいろと考えてはみたのですけれども,今のところうまく仕切れる用語,言葉を思い付いていないというのが正直なところでございます。   先ほど,中東幹事から,結局,知っているか知らないかで決議の効力の手当てをするという発想もあり得るのではないかという御指摘を頂いたところでございますけれども,確かに,社外取締役の要件を欠いたからといって,取締役会の決議が全て無効になるということにはならないであろうと私どもも思っており,その範囲では,中東幹事の御意見と違わないと思います。他方で,取締役会決議が無効となる場合もあり得ることは確かだろうと思いますが,それを知,不知という主観で分けるという中東幹事から御提案があった区分でいいのかどうかというところはいろいろと御議論があり得るところだろうなと思っております。また,先ほど,中東幹事のから,社外取締役としてどういうものがふさわしいかを考えてから,それを欠いた場合の決議の効果を考えるべきだという御指摘を賜りましたけれども,他方で,やはり無効になってしまう場合があるということから遡って要件を考えなければいけない場面が生じてくるということも,またあり得るのではないかと思っておりまして,そこは,悩ましい問題があると思っているところでございます。何のお答えにもなっていないかもしれませんけれども,私どものこれまでの思考の経過をお話しさせていただきました。 ○田中幹事 すぐに発言すればよかったんですが,この場合については,私も,ちょっと何とも意見を決めかねているのですけれども,一つ考えたのは,素朴な印象として,取締役,執行役の近親者であるということと,使用人の近親者というのは,やはり違いがあるのではないかと思っています。つまり,取締役,執行役の近親者であると,それは正に,社外取締役が監督することを期待されている人の近親者になるわけであります。直接的な関係があります。これに対して,使用人の近親者の場合は,社外取締役は,使用人を直接監督することは期待されていない。それはもう,社内取締役,執行役に任せておけば十分なはずです。ですから,ここで近親者が問題になっているのは,結局,社外取締役が監督を期待されている人,つまり,取締役,執行役といった人たちに監督されている人の近親者,そういう関係なんですね。それがなぜ問題なのかというと,恐らく,社外取締役が取締役,執行役を厳しく監督すると,近親者である使用人に厳しく当たって報復を招く,その報復を近親者はつらく感じるので,取締役,執行役に対する監督に手心を加えるだろうということだと思うんですね。これは,必ずしもそういうことはないだろうとは申しません。そういうこともあるかもしれませんが,ちょっと,取締役,執行役の近親者と比べると,少し間接的なのではないかということぐらいは言えるのではないかと思っていました。   実は,私は,この部会に来るまでは,使用人の中で区分を設けるとか,あるいは使用人に関しては,会社が善意であれば,社外取締役の選任決議を有効にして,その後も,次の総会までは有効にするとか,そういうことをいろいろと考えてみたんですけれども,ちょっとそういうことを考えてみたけれども難しいという坂本幹事の御発言もありましたので,仮に,使用人の近親者を外すというロジックがあるとすれば,それはないわけではないのではないかというのが,私の発言の趣旨です。私は,取締役,執行役の近親者が社外取締役になれるというのはやはりどう考えてもおかしい制度ですから,早急に改善が必要だと思いますから,そのような改革を可能にする上で,より難しい使用人の近親者については,継続的に検討するという形で,取締役,執行役の近親者を社外取締役の要件から外すことを急ぐというのもあり得る考え方ではないかと思いました。 ○中東幹事 今の田中幹事のお話に関係して,監督が期待されるものという意味では,例えば,会社法362条で,取締役会決議事項とされている支配人その他の重要な使用人,これは,実務的に運用できている基準なわけですから,これをそのまま使っていただくということも一つの案だと思います。また,坂本幹事には,丁寧にお答えくださいましてありがとうございます。極端な例として挙げたつもりでございまして,一定の調査を行って,社外だと判断したのであれば,それはそれで尊重してはどうか,効力に直ちに結び付ける必要はないのではないか,そういう趣旨で申し上げました。 ○岩原部会長 ほかにありますでしょうか。   よろしいですか。確かに,使用人を限定したりするのは非常に難しいということもあり,それならば,取締役,執行役の近親者とある意味での違いはあることがあるのだから,取りあえず,規定のしやすいところから規定していくということも一つの考えだという田中幹事の御指摘もあったところでございます。実際,どれだけのことが可能なのか,事務的に詰めていただきまして,場合によりましたら,田中幹事のようなお考えもあり得るということかと思います。   それでは,先に進ませていただきたいと思います。「④ 重要な取引先の関係者の取扱い」について,事務当局から説明をお願いします。 ○宮崎関係官 それでは,「④ 重要な取引先の関係者の取扱い」について御説明いたします。本文は,試案第1部第1の3(1)A案(注2)において,なお検討することとしているものでございます。パブリック・コメントにおいては,まず,重要な取引先の関係者について,取引関係を原因とする経営者への影響を無視することができないこと等を理由に,本文のような見直しをすることに賛成する意見が寄せられています。この点について,仮に重要な取引先の関係者でないものであることを社外取締役等の要件に追加するときには,法的安定性の観点から,重要性の基準は,一義的に明確なものとする必要があります。パブリック・コメントにおいては,ある取引先に対する売上高が一定金額以上であること等の形式的な基準を設けるべきであるとの意見が寄せられています。しかしながら,ある取引先が株式会社の経営者に対して有する影響力の有無や程度は,当該取引先の代替性の有無や交渉力の程度等によって異なります。そのため,法的規律として,一律の金額等の基準により重要な取引先の範囲を定め,その関係者でないものであることを社外取締役等の要件に追加することが適切と言えるか,慎重に検討する必要があります。   次に,パブリック・コメントにおいては,株式会社の経営者は取引先の選択を通じて,重要な取引先の関係者に対して影響力を及ぼすとして,本文のような見直しをすることに賛成する意見も寄せられています。この場合における重要性は,当該取引先が当該株式会社にとって重要かということではなく,当該取引先にとって当該株式会社が重要かという観点からの検討が必要となります。このような観点から一定の取引先の関係者でないものであることを社外取締役等の要件に追加することについても,株式会社が,ある取引先にとって自社が重要かどうかを判断することの困難性や,重要性の基準について,法的規律として,一律の金額等の基準により定めることが適切かということを踏まえ,慎重に検討する必要があるものと思われます。 ○岩原部会長 この点について,いかがでしょうか。 ○静委員 部会資料21のほうで整理していただいているのは,大ざっぱに言うと,本質的な議論で必要だ,必要でないということというより,技術的に大変難しいということですが,技術的な問題だけで諦めるというのは,なかなか納得がいかないと私は思っております。世界中で,重要な取引先というのは,必ず独立性の要件に入っている,つまり,世界中で運用されているということでございますので,日本でだけできないといっても,それでは理解が得られないということだと思います。海外の実例を参考にするなどして,具体的に検討していくという姿勢で臨むことが大事ではないかと思っているということです。世界では,実質基準を用意して,重要かどうかは自分で考えろということが多いですけれども,それは,基準の設定が難しいということもあるかもしれませんが,実際の運用を考えれば,形式基準のほうが分かりやすくていいのではないかと思っております。余り例はありませんけれども,例えば,アメリカの基準を借用して,売上げの2%又は100万ドル,1億円ぐらいですか,その程度の金額を軸に案を検討してみてはどうかという御提案をさせていただきたいと思います。実際に,上場会社の中でも,この基準,あるいはこれに類似する基準を使って,社外取締役の選任に利用している会社を私は少なからず知っておりますし,日本でも使える基準であることはそれでも実証されているのだろうと思います。更に申し上げますと,私どもから先ほど御紹介させていただいた制度では,原則として,全ての社外役員について会社との取引関係を調査して開示してもらうということになっておりますので,実務的な負担が追加的にあるというわけでもないと思います。最後に申し上げますと,この2%とか1億円という基準であれば,自社が取引先にとって重要かどうかという判断にも,逆に,取引先が自分の会社にとって重要かどうかという判断にも,どちらにも使えますし,実際の上場会社の実例でも両方に使っているということでございますので,問題は余りないと理解しております。 ○杉村委員 本件に関しましても,静委員からの御指摘もありましたけれども,従来から指摘されております問題点がクリアできないと実務の混乱を招くことは否めないと思っております。一律の基準という話もございましたけれども,企業にとりましては,その会社の経営者と取引先の相互の関係というのは,取引内容を巡るそのときの具体的状況に応じまして,変わってくるわけでございます。そういったことも踏まえますと,企業によっては,そういうことができるところもあるかもしれませんし,そうではないところもあるかもしれないということで,一律にどうするという基準の立て方自体が困難でありますし,必ずしも適切ではないと考えております。   それから,先ほど③のところでございましたが,法的な効果への懸念という話につきまして,中東幹事から,解釈論でという話も御紹介いただいたところではございますけれども,実務の観点からしますと,解釈論で大丈夫ですから安心しましょうということはなかなか難しく,実際上の取締役会の運営におきましても,やはり何かきちんとした明確なものがないと難しいわけです。そのため,この重要な取引先基準につきましては,従来の主張のとおりでございますが,やはり見直しに反対でございます。 ○安達委員 私も,これに関しましては反対の意見を表明したいと思います。ベンチャーの立場から申し上げますと,仮に上場仕立ての会社が売上規模等も小さいにもかかわらず,一律の基準を設けられますと,実務上非常に困難な場合が想定されます。多分,重要な取引先は,その会社にとってベンチャーをどうやって成長させて,自分のところのビジネスを伸ばすかというシナジーの発想を持っています。基本的には,やはり,インセンティブという意味では一致しておりますので,それを一律に除外するのは難しいのではないかと思っております。   一つ質問ですが,この重要な取引先という言葉は,いわゆる仕入れ・売上げが発生するという意味なのか,その他も含めてなのか,そこら辺はいかがなんでしょうか。一つの例で申し上げますと,銀行からの派遣取締役もあり得ますが,念のため質問したいと思います。 ○宮崎関係官 ここでの「重要な取引先」については,仕入れ・売上げが発生する取引先には必ずしも限られないと考えております。 ○安達委員 例えば,株主も入るわけですか。一定のパーセントを持っている株主の場合はいかがでしょうか。 ○宮崎関係官 株主が取引先というのは考えにくいのではないかと思います。 ○岩原部会長 通常は,使わないですね。親会社になれば,先ほどの問題になりますけれども,含まれないと思います。 ○安達委員 直接の仕入れ・売上げになるような取引はたくさんありますので,それこそ,何らかのパートナーシップや協業関係を結んだ契約の当事者とかいろいろありますけれども,そういうものを含めて入るということでよろしいですね。 ○宮崎関係官 そうですね。仕入れ・売上げが発生する取引先には限られないというのは,例えば,金融機関の場合でしたら,売上げとは普通言わないと思います。そういうものも,「重要な取引先」に該当する場合があると考えております。 ○中東幹事 私は,静委員のお話を聞くまでは,諦めざるを得ないかと思っていたのですが,やはり,何らかの形で会社法に入れることができれば望ましいと思っています。技術的に難しいものは仕方ないという気持ちでいたのですが,一定の原案を出していただいたような形ですので,より具体的な御提案を頂ければ,有り難いと思っています。そのときには,重要な取引先かどうかの判断を金商法の開示のレベルまで厳格に考えるべきかというと,必ずしも,そうでもなくて,さすがにこれは社外性を否定すべきであるという,そういう基準を考えるというのも一つの考え方かと思います。それを超える部分は,取引所のルールで定めていただくことにして,さすがにこれは駄目だなというものについては,会社法で対応することにし,私法上の効力を否定するという厳しい制裁があり得ることにすることも一案であると思います。杉村委員がおっしゃいましたことにつきまして,法的な不安定さをもたらすべきではないと私も考えておりますし,解釈に委ねて安心できる基準にならないことへの御懸念は分かりますが,その点については,立法も含めて対応することを検討していただきたいと思っております。 ○前田委員 この重要な取引先の関係者という要素を考慮すべきだという実質は非常によく分かるのですけれども,やはりこれを社外性で考慮するといたしますと,補足説明にもございますように,経営陣からの独立性という面,つまり,経営陣から影響を受けるほうの側面,それと,会社の利益だけを考慮して行動できるのかという面,つまり,経営陣に影響を与えるほうの側面と,これら二つの面から社外性が問題になってきて,この二つの面を両方満たすように重要性の概念を定める必要が出てくるのだと思います。そして,特に重要なのは,経営陣からの独立性の面だと思いますけれども,補足説明で御指摘のように,これは,取引先のほうから見て,会社が重要かどうかを問題にしなければなりません。会社のほうから見てさえ,ある取引先が重要かどうかの線引きが容易でないのに,ましてや,取引先のほうから見て,会社が重要かどうかというのを明確な基準で決めるのは無理ではないか。法的安定性の問題につきましては,先ほどから御議論があって,中東幹事が御指摘のように,資格のない者が加わってした決議であっても有効と解する余地があり得るのかもしれませんけれども,やはりここまで範囲の不明確なものを会社法で社外取締役の要件に取り込むということには,かなり無理があるのではないかと感じています。 ○静委員 私の言葉足らずだったのかもしれませんので,ちょっと補足させていただきますと,両面から重要性を見なければいけないということで,2%基準を使っている会社の中には,自分の売上げの2%か,相手の売上げの2%かの両方を見ると言っているものがあります。これは,相手にとって重要なのか,自分にとって重要なのかというのを2%の物差しで測るという一つの知恵ではないかと思いますので,前田委員の疑問に答えているかどうか分かりませんけれども,そういう形で処理されているところがあって,それはそれで一つのやり方なんだろうなと思います。   それから,中東幹事がおっしゃっていましたけれども,法律でやるのはレベルが高いところでいいんじゃないかというのは,私もそのとおりだと思います。考え方として,「取引先関係者はむしろガバナンスの向上に役立つからどんどん社外にしてしまえ」というのは誤りであるということをはっきり示す意味でも,レベルの高いところでもいいので,誰でも納得ができるぐらい大きなものだけでもいいので,取引先関係者の除外を入れてはどうかと思っております。 ○伊藤委員 重要な取引先でないということを付け加えるべきではないと主張いたします。重要な取引先というのは,皆さん議論されたり,補足説明でも結構迷っているような感覚がございます。企業にとっては,やはり迷う,判断に迷う場合がよくある。狭い地域で活動されている企業,例えば,地方銀行さんの場合等を想定すると,そういう方を避けるようになると,社外取締役とか社外監査役のなり手の範囲を狭めてしまって,かえって,形ばかりの社外役員になってしまったりするのではないかという懸念を持っております。それから,静委員がおっしゃるように,重要な取引先に該当するという具体的・形式的な基準が出てくれば,我々も,そこから議論できるのではないかと思います。重要な取引先というと,余りにも害が大きくて,とても賛成ができない。したがって,要件に重要な取引先の関係者でないものということをこの文言に追加するのは反対でございます。 ○上村委員 理念的にはやはり,重要な取引先が社内取締役になることも,会社に対する忠実義務という観点からは疑問があるように思いますけれども,それが社外でもよいというのは望ましくないというのは,理念的にはそういう方向性が正しいと思います。それがなかなか基準作りが難しいから断念するというのはどうでしょうか。私が学部長のときに学生にいつも言っていたのは,理念が正しければ最後まで一応頑張りなさい,すぐに諦めてはいけませんということです。閉鎖会社の判例なんかを見ますと,法人格否認の法理も取締役の第三者責任でも,それから株券がないけどどうだとか,取締役会の承認が必要なのにないけどどうだとか,そういう曖昧な根拠に基づく,あるいは実質基準判例だらけで,言わば制定法があっても判例法の世界です。なぜ大規模公開会社になると,形式ばかりを求めて,実務自身が自らルールを設定していくための努力をしないのか。そして,立法には,とにかく形式的に明快な,交通信号みたいな法律を作ってくれというようなことばかり言っているというのは,私は,いかがなものかと思います。私は,取りあえず,立法担当者の方々が,まず一生懸命努力してみて,その姿を見せていただきたいと思います。 ○岩原部会長 ほかにございますでしょうか。   この問題については,理念としては賛成できるけれども,基準の安定性というか,明確性,あるいはそれが法的効力に及ぼす影響等が心配であって,そういうことから導入について反対,あるいは慎重という御意見もかなり出されたところであります。一方で,静委員からは,具体的なそういう基準を設定している例を挙げられて,工夫の余地が十分あるという御意見があり,それについて,中東幹事や上村委員等からサポートがあったところであります。ということですので,これについては,どれだけ明確性のある基準が作れ,そして,法的安定性について支障がないようにできるかというところが議論の中心ですので,静委員からの御提案は,実際に,外国ではそういう例があるということでありますので,それを参考に,日本においてどこまでのことができるかということを事務当局において検討していただいた上で,もし難しいということであれば断念もあり得るということかと思います。   それでは,次に進ませていただきたいと思います。「(2) 社外取締役等の要件に係る対象期間の限定」について,事務当局から説明をお願いしたいと思います。 ○宮崎関係官 それでは,「(2) 社外取締役等の要件に係る対象期間の限定」について御説明いたします。試案第1部第3(1)のA案のような見直しをすることとする場合に,同(2)のような見直しをすることについて,パブリック・コメントにおいては,賛成する意見が多数でした。そこで,本文は,(2)のような見直しをすることを提案するものでございます。なお,パブリック・コメントにおいては,社外取締役等の要件について,社外取締役等として就任する前5年間程度の期間における株式会社との関係によるものとすべきであるとの意見も寄せられていますが,試案第1部第1の3(2)の趣旨や,社外監査役の要件に係る対象期間に関する改正の経緯を踏まえますと,社外取締役等の要件に係る対象期間の限定に関して,現時点において,当該期間を5年間とすることについては,慎重に検討する必要があると考えられます。 ○岩原部会長 社外取締役の要件に係る対象期間の限定については,パブリック・コメントにおいて,賛成意見が多数であったようでありますが,この点は,いかがでございましょうか。特に御意見はございませんか。 ○杉村委員 先ほど来の議論のとおり,A案自体の見直しに反対ではありますけれども,仮に何らかの見直しを行う場合ということで発言しますと,提案は10年ということでありますが,10年よりも短い形で対象期間を限定すべきと考えます。5年にすることが難しい理由といたしまして,補足説明の10ページの下のほうには,平成13年改正前と同じ規律になることへの問題意識ということが記載されていると思います。しかし,A案のような見直しを行うことが前提ですので,そうだとすれば,社外取締役,社外監査役となることができるものの範囲はかなり限定されるといいますか,要件が厳格化されるということでありますので,対象期間を5年としたとしても,平成13年の改正の前と同じ状態に戻ってしまうという懸念は,必ずしも当たらないと思います。そのため,10年よりも更に短い期間を検討すべきだと思います。   なお,パブリック・コメントには,本来,この期間限定の見直しについては,A案を採るか否かにかかわらず検討すべきであるという意見があったかと思います。この点は,やはり,問題意識としてはまだありますので,念のために付言させていただきます。 ○中原幹事 私も,問題意識自体は重要なことだと思うのですけれども,社外取締役に期待される役割との関係でどのように要件を設定していくかを考えたときに,こうした要件は,どちらかと言うと,消極的な要件で何か期間を定めたら,ズバリと,社外取締役あるいは社外監査役に果たしていただく役割に当たるかというと,必ずしもそうとも言い切れない,その人物の置かれた状況などによることも多いと思いますので,やはり10年というのは,現在のグローバル化の流れとか,技術進歩の流れ,あるいは労働市場の流動性も従来より増えているということを考えると,少し長いのではないかと思います。経営陣の指揮命令系統に一旦属した者で,その後5年が経過して社外取締役として復帰したら,私だったらやり返してやるぞという感じになるような気もしていまして,それでもし問題があるのであれば,5年を原則としつつ,何年経っているかというのを開示していただいた上で,株主の判断に委ねるというようなことも検討されていいのではないかなと思います。 ○伊藤委員 第二読会のときにも申し上げたんですけれども,対象期間の限定というのは,社外取締役,社外監査役の要件の問題と連動させる必要性はないと思います。やはり,こういうグローバルな経済社会において,変化のスピードが非常に年々早くなっている中で,10年というくくりが非常に長過ぎる。部会資料21を見させていただいても,期間を10年にするということについての積極的な理由が見付けにくいと思います。それから,社外役員の候補者の過去の経歴を調査するということが,企業の負担になるため,この期間は短いほどいいのではないかと思います。それから,先ほども申し上げましたとおり,社外役員の独立性については,形式より実質が重要だと考えており,対象期間はなるべく短く設定していただいて,個々の社外性の是非は,株主の判断に委ねさせていただけたらなと思います。 ○岩原部会長 ほかに御意見はございますでしょうか。特にございませんでしょうか。 ○坂本幹事 形式より実質というところで,総論として,形の問題よりも中身の問題だろうというところは,恐らく皆さんそう思っておられるところかと思います。その上で,どうしても法律の規定として規律を区切る以上,さすがに実質では区切れないので形式的に見ざるを得ないということだろうと思います。5年がいいのか10年がいいのかと,伊藤委員から積極的に理由が見付けにくいという御指摘を頂きましたけれども,これは,理論的にスパッと割り切れるというお話ではないものでして,ある程度,ちょっと言葉は悪いかもしれませんが,感覚的な側面というのもあることは否定できないと思っております。   人材の流動性という御指摘を,中原幹事から頂戴いたしましたけれども,実質ということからぎりぎりと詰めて申し上げますと,例えば,20年会社にいた人間が5年会社を離れて戻ってきて,それで社外と言ってよいのかという考え方もあり得ると思います。したがって,これを実質という形でいっていくと,会社を離れる前の会社との関係の深さということを考慮に入れなければいけなくなるのかもしれませんが,それを言い出すと正しくきりがなくなってきます。また,トップが長く君臨している会社ほどいろいろ問題が起こるということが言われているところもございますので,その辺りも考えながら,5年というのは,ちょっと短いのではないかということで,10年とさせていただいております。   先ほど,伊藤委員から,調査の負担という御指摘を頂きましたが,確かに,期間が長ければ調査の手間が増えるということは御指摘のとおりだとは思いますが,現行法は,期間無限定ですので,それを考えれば,10年ということで,負担は緩和されることになるということは言えるのではないかと思います。 ○岩原部会長 ほかに何かございますでしょうか。   若干の御意見を頂きましたけれども,特に御発言がない方は,基本的には,この部会資料21に書いてあるような方向でお考えいただいているということかと思います。ということで,比較的多数の方は,部会資料21のようなお考えであると一応理解させていただきたいと思います。   次に,先に進ませていただきまして,「(3) 取締役及び監査役の責任の一部免除」につきまして,事務当局から説明をお願いしたいと思います。 ○宮崎関係官 試案第1部第1の3(1)のA案のような見直しをすることとする場合に,取締役及び監査役の責任の一部免除につき,同(3)のような見直しをすることについては,パブリック・コメントでは,賛成する意見が多数でした。そこで,これについては,中間試案に記載したような見直しをすることを提案するものでございます。 ○岩原部会長 いかがでしょうか。御意見を頂きたいと思います。   特に御意見はございませんでしょうか。ということですと,(3)のような見直しをするという方向で考えていくということでよろしいでしょうか。それではそのように理解させていただきたいと思います。   それでは,次に,「第2 会計監査人の選解任等に関する議案等及び報酬等の決定」に移らせていただきたいと思います。事務当局から説明をお願いいたします。 ○宮崎関係官 それでは,「第2 会計監査人の選解任等に関する議案等及び報酬等の決定」について御説明いたします。試案第1部第2の1については,パブリック・コメントにおいて,意見が分かれましたが,現行法の規律を見直すものとするA案とB案との間では,A案に賛成する意見が多数でした。   A案については,会計監査人の独立性の確保の観点から,これに賛成する意見があった一方で,特に,監査役等が会計監査人の報酬等の決定権を有するものとすることについて,会計監査人の報酬等の高額化を招くおそれがあることや,監査役等に業務執行に関する権限を付与することになることを挙げて,C案に賛成する意見が寄せられています。また,B案に賛成する意見の中にも,会計監査人の報酬等の決定権については現行法の規律を見直さないものとする理由として,当該報酬等の決定は,費用支出に関する経営判断の要素が強いことを挙げるものがございました。本文については,これらの意見も踏まえ,検討する必要があるものと思われます。   なお,A案は,ただいま申し上げましたとおり,会計監査人の独立性の確保を目的とするものでございます。この点に関し,会計参与及び監査役については,現行法上,取締役からの独立性を確保するため,定款又は株主総会の決議によってその報酬等の額を定めなければならないこと等が定められています。そこで,会計監査人についても,取締役からの独立性を確保するため,これらの規律を参考として,定款にその報酬等の額を定めていないときは,株主総会の決議によってこれを定めるものとすることなども,検討する余地があるものと思われます。この場合には,会計監査人の報酬等についての監査役等の権限を強化することによる当該報酬等の高額化というA案に対する懸念に対処することにもなると思われます。仮にこのような見直しをすることとする場合には,会計監査人の報酬等に関する議案等の決定権を取締役若しくは取締役会又は監査役等のいずれが有するものとすべきか,また,このような決定権を有しない他方の機関に,当該議案等への同意権及び当該議案等の提案権を付与するものとすべきかについても,現行法における会計参与等の報酬等に係る規律も踏まえつつ,検討する必要があるものと思われます。   なお,試案第1部第2の2の,株式会社の業務の適正を確保するために必要な体制について,監査を支える体制や監査役による使用人からの情報収集に関する体制に係る規定の充実・具体化を図るとともに,その運用状況の概要等を事業報告の内容に追加するということについては,パブリック・コメントにおいて,これに賛成する意見が多数寄せられました。したがって,今後,事務当局において,規則の整備を行うというという方向で,検討させていただければと思います。 ○岩原部会長 それでは,この第2について,皆様の御意見を頂きたいと思います。いかがでしょうか。 ○太田委員 今,御説明いただきましたように,この目的が会計監査人の独立性の確保ということにございますので,その観点から考えれば,やはり,シンプルに考えて,監査を受ける取締役が会計監査人の選解任の議案であるとか,あるいは報酬決定権を持つという仕組みは,本質的に矛盾していると思いますし,これまでの主張を繰り返したいと思います。併せて,2以下のところで,独立性の確保を目的とするという観点から,株主総会の決議を要するとしたらどうかと,その理由の一つに,会計監査人の報酬等の高額化を招くおそれがあると,ここは,見過ごしておこうかなと思ったところなんですが,そのような懸念は,まず基本的にないだろうと固く信じておりますが,あえて株主総会に付議することの妥当性といいましょうか,実務的なことから考えますと,いわゆる企業集団,あるいはグローバル企業の中においては,期中において,分社化,合併,たくさんの企業の連結の在りようが実は変わっていきます。スピン・アウトしてくるところもあります。そういうことが決して珍しくありません。そういう前提の中で,期首に,総額を株主総会に付議できるような適正な見積りが本当に可能なのだろうかという実務的な難しさがあるということを指摘しておきたいと思います。   しかしながら,仮に,総会付議を要するというような場合に当たりましては,先ほどの独立の観点から,やはり,A案のように,これは,監査役に,提言と言いましょうか,そういった権限を付するということが一貫した論理になるのではないかと考えております。 ○栗田幹事 この会計監査人の選解任に関する議案等及び報酬等の決定につきましては,私も,中間試案A案に提示されていますように,監査役又は監査委員会に決定権が付与されるべきであると考えております。この論点については,会計監査人の経営者からの独立性を制度的に担保するということが企業の会計不祥事を防止するという観点から検討がなされてきたと承知しておりますけれども,昨今の事例を見ますと,経営者が粉飾決算をやっていて,それを隠匿するために会計監査人を変更しようというインセンティブがあるということが明確になっているわけでございまして,こういうような行為を防止するという観点からも,やはり,これは,経営者ではなく,監査役のほうに決定権があるべきではないかと考えます。   それから,このA案については,パブリック・コメント等で,報酬が高額化するのではないかという指摘が出ておりますけれども,監査役も,取締役と同様に,株式会社に対して善管注意義務,あるいは忠実義務を負っておりまして,それに反すれば損害賠償の対象にもなるということでありますし,会計監査人の報酬は,事業報告の対象にもなるということでございまして,その点から,無用な高額化への歯止めというのは既に掛かっているのではないかと考えられます。それから,無用に高額化することは避けるべきであるというのは当然ではございますけれども,やはり,会計監査人がきちんと監査をするには,それなりの人員と時間を投入しないといけないのであって,そのような,実効性のある,きちんとした監査を行うために,それなりのお金は掛かるということでございまして,それを支払わないとしたいというのは,ちょっとおかしいのではないかと考えております。   それから,部会資料21に,新たに,報酬について定款に定めのない場合は,株主総会決議によって定めてはどうかという提案が出ているんですけれども,この点については,今の太田委員と同じような懸念がありまして,期首に決めておいたとしても,例えば,期中に大規模な組織再編があったというような場合,あるいは,監査をやっている途中で粉飾決算の芽が見付かったというような場合には,この監査法人というのは,やはり,人員を大量に投入して,きちんと監査をやらないといけないということになるわけでありまして,そうすると,人手も掛かるし,お金も掛かるかもしれないということでございまして,それが事前に総会で決まっているから変えられませんということになると,これは,本末転倒でありまして,効果的な監査ができなくなってしまう。最悪の場合,監査法人は,監査が十分できなかったから意見不表明だということになっては,会社にとってもいいことはないのでありまして,この点についてよく検討する必要があるのではないかと考えております。 ○宮崎関係官 今の栗田幹事の御指摘の点ですが,期中に何かしらの事象が発生したときにどうかというところについてなんですけれども,それは,総会でどのように報酬を定めておくかというところにも関わるのかなと思っております。その点についても御議論いただければと思っているのですが,例えば,総会におきましては,報酬の上限でありますとか,あるいは算定方法を定めておくということも考えられると思っております。その場合には,期中で,何らかの予期していなかった事象が発生していたとしても,対処できるということになるのではないかと思っておりますが,その点も含めまして,御議論を頂ければと思っております。 ○栗田幹事 その点,正におっしゃるとおりで,例えば,算定方式を定めるような方法はいいと思うんですけれども,上限を定めるような方法については,上限に張り付いていると同じ問題が起こるので,そこは,ちょっと考えないといけないかなと思います。確かに,おっしゃるように,そういう工夫をすれば,何とかなる余地はあるかとは思いますけれども,どの程度のことが期中に起こる,あるいは監査中に起こるかということは,必ずしもうまく予見できない可能性もあるので,その点についてよく検討する必要があると考えております。 ○田中幹事 新たに,株主総会決議で定めるという案が補足説明の中で提示されたわけですけれども,現行法の中で参考になる条文として,監査役の報酬が挙げられているわけですけれども,監査役の報酬は,確かに,教科書的な説明では,監査役の独立性を高めるための様々な方策の中にこれが挙げられているんですけれども,実際の効果は,この規律がどういうふうに働いてくるかといいますと,監査役が代表取締役との合意で報酬を決めたり,あるいは退職金規程によって退職の要件が決められていても,後で代表取締役と対立して,代表取締役が株主総会に議案を上程しないで退職慰労金を拒む,支給を拒むと,ほぼそれに尽きるというか,監査役が報酬を受けられにくくするということに尽きるものになっています。監査役の報酬規制の改正を提言するつもりはないのですけれども,現実的にそうなっていると私は思っております。ですから,独立性を高めるために,会計監査人についても,定款又は株主総会決議で決めるというのは,ちょっと違うのではないかなと思います。基本的には,株主総会で決めるというのは,お手盛りを防ぐという,それは,非常に分かりやすい考え方なのですけれども,会計監査人に関しては,そうであるかどうかというのは問題でして,今この場で,報酬の高額化という論点が出されたわけですけれども,それについては,全くこの場ではこれまで議論していなかったことですから,ちょっとこういうものを理由に規制の改正を提言するということになれば,それこそ報酬が現実に高額化しているかと,これは単に過去に比べてすう勢的に増えている傾向があるというだけではなくて,増えている傾向があるというのは仕事が増えているということとも関係していると思いますから,国際比較からしても日本が突出して増えているとか,そのぐらいのことまで言えないと,ちょっと立法事実としてはどうかなという感じがしていますので,ちょっと何らかのはっきりした証拠が出ない限り,そういう報酬の高額化という観点からの規制の改正というのは,慎重にやられたほうがいいのではないかなと思います。   それから,もちろん,先ほど太田委員がおっしゃったように,期中に急に仕事が増えたときに,報酬の改定が難しくなる,正に報酬を受けられにくくするという,そういうことになるわけなんですけれども,そうなるかと思います。また,上限や算定方式を決めるという方法もできるのかもしれませんが,もし上限が期中に何か予期せぬ事態が起きて報酬が増えるようなことまで考えて十分な枠を取っているということになると,実質的に何も規律がないのと同じことではないかと思いますし,算定方式というのも,単純にタイムチャージとか,そのようなものであればうまくいくのかもしれませんが,組織再編のようなイベントですと,本当にそういう形で単純に時間が増えたからその分増えるというような簡単な計算式でできているのかどうか,ちょっと私は,実務は分かりませんけれども,疑問もあるかと思いますので,ちょっとこの新しい提案には慎重に考えられたほうがいいのではないかと思います。 ○杉村委員 提案への賛否の話なのですが,パブリック・コメントの中でも,C案,つまり,現行の規律を見直す必要がないという案も,相当程度支持されていると認識しております。私どもの考え方としても,第一読会,第二読会と同じですけれども,監査役が既にお持ちの権限を十分発揮していただいて,選任あるいは報酬の決定の同意権により関与をしていただくことによりまして,そのリスクは排除できると考えております。そのため,従来どおり,見直しは必要ないという認識でございます。 ○宮崎関係官 先ほどの田中幹事からの御指摘ですが,部会資料21に記載しておりますのは,現状として,会計監査人の報酬が高額化しつつあるということを前提として,あるいは事務当局としてそのような現状認識を持っているということで,「会計監査人の報酬等の高額化を招くおそれがある」という記載をしたわけではございません。飽くまでも,パブリック・コメントにおきまして,監査役に会計監査人の報酬等の決定権を付与すると,それが高額化するおそれがあるという指摘が寄せられましたため,それを記載したものでございます。 ○上村委員 余り大したことではないのですが,やはり,報酬は評価と一体であるのが望ましいのではないかと思います。取締役報酬についても,報酬委員会が評価して報酬が決まるというのは理解できますが,株主総会ということになると一律に上限を決めたりということになるので,やはりできれば,監査役なり監査委員会なりがその公認会計士の業務を先ほども話題になりましたけれども,内部統制や内部監査の状況等も含めてきちんと評価をする。その結果として高額化するのであれば別に全然構わない。株主総会に持っていくと何となく安心するという雰囲気がありますけれども,監査役なり監査委員会がきちんと評価機能を持つ,そういう実力を付けて評価をした上で決めるというのが望ましいのではないかと思っております。 ○岩原部会長 ほかにはございませんでしょうか。御議論があったのは,会計監査人の選任・解任だけでなく報酬決定も株主総会の付議事項にすべきかという問題と,付議事項にする場合には議案の決定権という形で,それを監査役ないし監査委員会の権限にするかという問題についてです。現行法上は委員会設置会社についてのみ選解任権の議案の決定権だけが監査委員会に与えられていますけれども,それを選解任と報酬の両方とも監査役,監査委員会に決定権を持っていくべきかということです。まず,報酬の決定を株主総会の付議事項にするかということについては,比較的慎重な御意見が多かったかと思います。むしろ積極的にサポートするという御意見はございますか。   先ほどの田中幹事の御指摘等によりますと,慎重論としては,一つは,そもそも論,なぜ株主総会の権限にするかという点についてです。取締役の報酬を株主総会の付議事項としているのは,基本的にお手盛り防止のためというのが一般的な理解ですけれども,それと同じことがここでは必ずしも妥当しないのではないか。無論,監査役については,お手盛りという面と,むしろ監査役の独立性を担保するという面と両方あるのかもしれず,この会計監査人の場合も,監査役に近い問題かもしれませんけれども,果たしてそもそも理屈として,株主総会の付議事項にすべきかという点で御意見がございました。それと,株主総会で決めるというやり方でうまく機能するかという点についての御意見があって,お手盛り防止ということですと,上限を定めればいいということになるでしょうけれども,余り高い上限を定めるということですと,株主総会に付議することの意味が余りないのではないかというのが田中幹事の御指摘だったかと思います。何らかの基準に従って定める,決まるというような算定方法を株主総会決議で採択するとしても,それを実際に具体的にうまく定めることができるのかどうか。会計監査人の報酬には,いろいろな側面があると思います。単に形式的な会計に関する処理のチェックをするというだけではなくて,更には,今ですと,内部統制等に関するアドバイス機能等を含めたいろいろなかなり複雑な機能を会計監査人は果たしており,会社側にも予期せぬ事態も生じ得ますので,実際やってみたらどれだけの作業が必要になるかというのは,実際に監査に入ってみてないと分からない面もあります。そういうのを株主総会の決議という形で一定の基準の設定がうまくできるのかという問題が多分あって,それは,田中幹事や栗田幹事が御指摘になった点だと思いまして,そういう点も考えて,株主総会の付議事項にするのが適切かどうかということは,もう一度事務当局によく考えていただいたらよろしいかと思います。   その上で,実質論として,監査役あるいは監査委員会が選解任及び報酬の決定について決めるべきかという問題があります。これは,株主総会の付議事項にするにしても,原案の作成を誰がやるか,仮に原案の作成をしても,上限を定めるような方式ですと,上限の範囲内で具体的な額をどう決めるかという問題が更に次に来ますから,そこのところで,それを誰が決めるかということで,やはり問題になってくると思います。この点については,太田委員の御意見など,監査役・監査委員会に移すべきだという御意見と,杉村委員の,経済界としての移すことに反対の両方の御意見を頂いただけで,それ以外の学者の委員の御意見などは伺うことができなくて残念ですが,これについては,御意見はございませんか。 ○齊藤幹事 どちらかに賛成という意見ではないのですが,私はある場所で,この点につき,決定権の問題だけ規定を変えても余り意味がなくて,決定をするに当たっては,事前に候補者とネゴシエーションをしなければいけませんし,それから,業務執行に関連する部分について,いろいろ内部で調査したり,意見を聞いたりしなければならないので,そのようなところにおける監査役等の役割も踏まえて権限を見直さないと意味がないのではないか,決定権の所在だけ変えるということだけでは,シンボリックな意味があるかもしれないけれども,現実を変更することにはつながらないのではないか意見を述べたことがございます。現段階でもそのように思っておりまして,現状を期待されている方向に変えるほどの大きな意義がある提案か,現在でも疑問を持っているところではございます。 ○神作幹事 本日新しく提案された株主総会の付議事項にするという点につきまして多くの方から消極的な意見が述べられたのは,報酬というのは,上村委員が御指摘になりましたように,評価を伴うので株主総会で判断するのは容易でもなく適切でもないという事情があるためと思われます。株主総会で選任・解任するというのは,これは,例えば,ドイツ法も採用していますが,株式会社の場合には,報酬を含む会計監査人との契約の締結自体は,監査役会の権限とされています。その点では,ドイツ法の下ではA案に近い法制のように思われますが,他方,ドイツ法の下では,上場会社については,監査役会のメンバーに財務会計についての専門的知識を有する独立した者が最低1名は含まれることが義務付けられています。そのような観点からすると,私自身特に定見があるわけではないのですが,例えば,A案の場合も,監査役の資格に,会計とか財務に通じたものが含まれることを要件にするというような場合であれば,A案でいくことも大いに考えられると思うのですけれども,そのような規律とセットになってない状況の下でA案を採用することには,それが「インセンティブのねじれ」を解消するためにどれだけの意味があるのかについては,やや疑念があるところでございます。そのような意味において,私は,現時点ではB案を支持します。 ○岩原部会長 今,最後に神作幹事が御指摘になった点は,監査役がどれだけそういう会計監査人の提供しているサービスについて評価する能力があるのか十分な自信が持てないと,多分そういうことですね。これは,先ほどの内部統制や内部的な財務のシステムに監査役がどれだけ関わっているかということと関わっていて,監査役がそれを十分に把握して知った上であれば,会計監査人の提供しているサービスをきちんと評価して,それに対する適切な報酬の決定ができるであろう,もし,現状がそうでないとすると,そういう点について不安があり得るというのが,多分,神作幹事の御指摘かと思います。ですから,これは,最後は,事実認識の問題と,もう一つは,制度を変えることによって監査役がそういうことを果たせるようにしていくという方向を考えるかという政策にも関わると思います。 ○太田委員 今,おまとめいただいた点が本質ではないかと考えます。今,締めの段階でお二方の幹事から意見を頂きました。いちいち思い当たる点はあるんですが,これも,従来主張してきたところではありますけれども,先ほど杉村委員からも御指摘がありましたけれども,現在の同意権でなぜいけないのかという議論,それと,今御指摘のあった実力があるのかという議論,いずれもなかなか答えにくいところではありますが,きちんとした会社と言ったらいけないんですが,そういうところは今,岩原部会長からも出たように,きちんとできているところはできているんです。当たり前なんですが。当然,会計監査人の監査の実査にも同席して会計監査人の業務を見ております。これは,財務部の人たちがやるのと同様のレベルには必ずしも及びませんけれども,限られた人数の中でやっているというのがまず事実であります。したがって,現状を是とするか,目指すべき方向をどのように考えるのか,この視点の差であるという御指摘は,そのとおりだと思っていますが,同意権すら実は十分に発揮できていない会社もあることも一方の事実であります。私どものアンケート調査でも,そういったことが見えております。したがいまして,昨年の3月にとりまとめた当協会の監査役監査基準の中で,我々等しくやはりそのあるべき方向に向けて,同意権をまずきちんと果たすこと,加えて,それが主体的に関与できるように業務を遂行していくべきである,その方向を目指さずしてどうするんだと,こういう激励の意味を込めまして申し上げているというところを是非御理解を頂きたい。逆な言い方をすれば,至らないところに対する底上げ論を法的な制度で担保したいと考えているものです。 ○岩原部会長 問題点の一番根本のところを御指摘いただいたように思っております。それを踏まえて,最終的な調整は,事務当局のほうにお願いしたいと思います。   それでは,次に移らせていただきたいと思います。これまた大きい問題ですが,「第3 支配株主の異動を伴う第三者割当てによる募集株式の発行等」に移らせていただきます。「(1) 株主総会の決議」について,事務当局から説明をお願いいたします。 ○内田関係官 まず,第3の御説明に入る前に,部会資料21で取り上げていない資金調達関係の事項の取扱いについて御説明申し上げます。試案第1部第3では,資金調達の場面における企業統治の在り方に関しまして,部会資料21の第3において取り上げている事項のほか,株式の併合における発行済株式総数に関する規律,仮装払込みによる募集株式の発行等及び新株予約権無償割当てに関する割当通知といった事項を挙げておりましたけれども,パブリック・コメントにおいては,これらに反対する意見は,ほとんどございませんでした。これらにつきましては,部会資料21では取り上げていませんが,試案のとおりの見直しをするということで,後は,事務当局において詳細を詰めさせていただければと考えております。   それでは,「第3 支配株主の異動を伴う第三者割当てによる募集株式の発行等」のうち,まず,「(1) 株主総会の決議」について御説明いたします。試案第1部第3の1(1)は,支配株主の異動に伴う第三者割当てによる募集株式の発行等に関し,一定の場合に株主総会の決議を要する旨の規律を設けることに関するものでございます。この点につきまして,パブリック・コメントでは,意見が分かれましたが,何らかの規律を設けるべきであるとする意見,すなわち試案のA案又はB案に賛成する意見が多数でした。これに対して,そのような規律を設けないものとするC案に賛成する立場からは,株主総会の決議を要するものとすると,資金調達の機動性が害され,かえって株主の利益に反する結果となることもあり得るとの懸念が示されております。そこで,A案又はB案のような規律を設ける場合には,その具体的内容の検討に際して,資金調達の機動性を不当に阻害することがないように配慮する必要があるものと存じます。このような観点からは,A案及びB案のいずれにおいても,株主総会の決議を要しない場合において,募集株式の発行等のために最低限必要となる期間が現行法に比べて不当に長くならないようにすることが適切であると考えられます。そこで,試案第1部第3の1(2)にありますように,公開会社が募集株式の割当てに関する事項を払込期日の2週間前までに株主に通知しなければならないものとすることを前提に,株主総会の決議を求める株主は,当該通知の後2週間以内に異議を述べ,又は反対通知をすべきものとすることが考えられます。   その上で,株主総会の決議を要することとなる場面について,A案とB案の実質的な相違点を検討しますと,①株主総会の決議を省略するための要件として「取締役会が・・・特に必要と認めるとき」であることを要するものとするかどうか,及び,②株主が異議又は反対通知によって株主総会の決議を求めるために有すべき議決権数,これらが異なるということになります。まず,①につきましては,パブリック・コメントでは,「取締役会が・・・特に必要と認めるとき」という要件が不明確であるとの意見が寄せられております。募集株式の発行等に係る手続の適法性に関わるものであることも踏まえますと,このような要件を課すことが株主総会の決議の省略に萎縮的効果を与えるおそれがないか等について,検討する必要があると思われます。次に,②につきましては,株主総会の決議を求める株主が有すべき議決権数が総株主の議決権数に占める割合として,A案では100分の3を,B案では4分の1を,それぞれ基準としております。A案については,「取締役会が・・・特に必要と認めるとき」には,株主の異議にかかわらず株主総会の決議の省略を認めるべきであるとの意見も寄せられているところでありまして,総株主の議決権の100分の3を有する株主の異議によって,取締役会の判断を覆すことを認めることが合理的といえるか,検討する必要があると思われます。また,B案においては,株主総会の決議要件を普通決議とする前提で,これを阻止する可能性があるような議決権数として,総株主の議決権の4分の1を基準としています。この点について,パブリック・コメントでは,決議要件を特別決議とすべきであるとの意見も寄せられていますが,当部会における議論を踏まえますと,会社の経営を支配するものを決定するという点で類似する面のある取締役の選任の決議と同様,普通決議によるものとすることが考えられます。なお,パブリック・コメントでは,この普通決議の定足数に関しまして,取締役の選任の決議に関する会社法第341条と同様,定款による定足数の排除を制限する旨の規律を設けるべきであるとの意見も寄せられております。支配株主の異動という決議内容の重要性に鑑みると,そのような規律を設けることも考えられるかと存じます。 ○岩原部会長 いかがでございましょうか。 ○杉村委員 結論から言いますと,A案又はB案のような規律を設ける必要はないと考えております。理由は,これまで述べてきたとおりでございまして,繰り返しませんけれども,資金調達の機動性に十分配慮する必要があるということでございます。特に,A案については問題が多いと考えております。資金調達の必要性や緊急性を勘案した取締役会の判断ということで,これは極めて重大な局面ということであろうかと思いますけれども,それを総株主の議決権の100分の3という割合で覆すことができるというのが合理的であろうかと,多大な疑問があります。 ○静委員 私の問題意識も,杉村委員と非常に似たところがあります。元々,この問題というのは,支配権の異動を取締役会が決めるというのは本末転倒なので,総会で株主の意思を問うてもらうというのが出発点なんですけれども,一方で,杉村委員の御発言のように,第三者割当てには,かなり緊急性が高いという場合も確かにあります。したがって,そうした場合には,取締役会だけで対応する手当てが必要だと思います。原則は株主総会,緊急の場合には取締役会という形が私はいいと思いますので,A案をベースに練るのが正しいと思います。ただし,A案ですと,100分の3の異議で総会決議が必要になってしまうので,100分の3の株主の異議で資金繰りに行き詰まって倒産してしまうということも考えなければいけないのではないかと思います。そこで,私は,緊急の場合には,異議の申立てを認めないというぐらいのことにすべきではないかと思います。そうしますと,この例外的な部分が濫用されるということが心配になりますので,ここをきちんと塞いでおかなければいけないのではないかと思います。例えば,急に投資をしたいという案件を見付けたので,緊急だということになりますと,それが結局は,支配権の争奪の局面で,防衛策代わりに使われるのを黙認することになり,何のために総会の開催を求めたのか全く分からなくなってしまうので,濫用への配慮が必要と思っています。濫用に対しては,差止めで対抗してもらうことにしまして,裁判所のほうには,恐縮ですけれども,総会の開催を要求すれば倒産状態になるのではないか,あるいはそれに類するような致命的な事態になったりするのではないかという蓋然性を判断してもらって差止めを考えてもらって,それほど緊急でなければ総会で決めさせるという解決が合理的なのではないかと思います。第三者割当てがないとすぐに倒産するというのは本当かと思われる方もいるかもしれませんが,代表的な例では,リーマン・ショックの際に,モルガン・スタンレーが本来必要であった株主総会―アメリカですけれども,総会が必要とされています―を省略して取締役会決議だけでMUFGに第三者割当てをして破たんを免れたというのは,皆さん御存じのとおりだと思います。そのような大企業であっても起こり得ることなので,しっかり考える必要があるのではないかと思います。 ○伊藤委員 中小企業とかベンチャー企業の立場から申し上げましても,A案とかB案のような規定を設けることは,資金調達の可能性を阻害するおそれがあることで,反対であります。会社法上の公開会社には,中小企業が含まれます。一般的に資金調達の手段が限られる中小企業にとっては,調達のタイミングというのが極めて重要であり,迅速な対応が不可欠であります。仮にB案であったとしても,中小企業のケースでは,一人で4分の1を超える株主が存在するケースが多く考えられます。そこで,検討に当たりましては,上場会社のみでなくて,中小企業の会社法上の公開会社に該当する企業の資金調達の便宜にも十分考慮していただきたいと考えております。 ○前田委員 第二読会と同じように,私は,C案以外がよいと思っています。どれだけの株主が求めれば株主総会決議が必要になるかにつきまして,今は3%か25%かだけが検討対象になっているのですけれども,必ずしもいずれかの比率でなければならないというものでもないと思います。つまり,まず,この3%という数字は,責任の一部免除のところでは,取締役会でやるのはごく例外的にすべきだという考え方から,比較的低い比率の株主が株主総会決議を求められるようにしているのだと思います。そして,大量の第三者割当ても,支配権変動は,本来は,株主総会決議で決定すべきだという考え方からいたしますと,それと類似した状況と言えるのかもしれませんけれども,他方,責任の一部免除はできなくなっても,会社が倒産することはございませんけれども,静委員が御指摘のように,大量の第三者割当てのほうは,会社の存立に関わることもありますので,必要性あるいは緊急性の程度は,相当に異なると考えるのがよいと思います。3%という比率では低すぎると思います。   他方,この25%という数字は,簡易組織再編のところでは,通常は,株主の受ける影響は軽微だという考え方から,比較的高い比率の株主でないと,株主総会決議を求められないようにしているのだろうと思います。しかし,大量の第三者割当ては,通常は,株主の受ける影響が軽微だということは言えないはずでございまして,やはり状況は相当に異なるのではないか,つまり,25%という比率は高すぎると思います。すなわち,責任の一部免除とか,簡易組織再編とは相当に状況は違いますので,必ずしもこれらの比率にこだわる必要はないのではないかと思います。 ○田中幹事 以前から,このような支配株主の異動を伴う第三者割当てによる募集株式の発行等については,公開会社においても株主総会決議を要求すべきではないかと主張してまいりました。理由は,公開会社においても,株主が取締役を選んで経営を任せるというのが株式会社の姿ですから,取締役のアカウンタビリティというのは,やはり株主の支持によっていると,それなのに,取締役自身が新しい支配株主を選ぶことができると,アカウンタビリティの喪失を招くということであって,これは,従来から支配権争いの場面における新株発行によって多くの紛争が起きているわけでありまして,それに対する立法的な対処として,こういうものを入れるべきであると考えております。その上で,先ほど来の議論では,結局何らかの例外を設けるべきだということであって,国際的に見ても,このような支配権異動に伴うような新株発行は,原則的には株主総会決議を要求するのが通常なわけですが,ただ,少なくともアメリカ,それからイギリスにおいては,いずれも資金調達の緊急性がある場合に例外を認めているわけです。その場合,例外を判断するのは,アメリカにおいては,取引所規則ですから,取引所であり,イギリスの場合は,テイクオーバー・パネルが規律していますから,パネルということになるわけですが,日本は,会社法を使うとすると,それに相当する規制官庁というのが余り考えられなくて,原則的には裁判ということになると思います。確かに,それは,困難な作業ではありますけれども,現在でも,支配権争いの場面における新株発行の差止めが争われる場合には,そういう新株発行をする必要性を,少なくとも最近の裁判所はかなり厳しく見るようになっているのではないか,これは,学説あるいは投資家からの批判をかなり意識してそうしているのではないかと思っております。実質判断が必要になる場面があるということは確かなわけですから,この点は,裁判所において審理していただくことがどうしても必要ではないかと思います。ただ,その際に,必要性,緊急性というのは,会社がそれがあると主張している資金調達計画を前提にして,それに照らすと資金調達が必要であるというのではなくて,本当に会社の存立がこの資金調達をしないと阻まれてしまう,そして,そのときに株主総会決議を採っていては間に合わないという形での緊急性,必要性ということになりますから,かなり限定的な場面であるということかと思います。私は,ニューヨーク証券取引所で,この問題についてお聞きしたことがあるんですけれども,基本的には株主総会決議を採ってもらうのであって,本当に例外的な場面でしか免除なんて認めていないというお話をお聞きしましたので,日本においても,そのような形で例外規定は運用されているのではないかと思います。そういうふうに考えますと,A案のように,取締役会が必要性,緊急性を勘案した上で,決議の省略を認めるのだが,3%の株主の反対があれば,結局決議を採らなければならないというのではなくて,やはり,必要性,緊急性が証明された場合には,株主の異議があっても取締役会の責任で発行できるという形にして,株主は,必要性,緊急性を差止請求の中で争えるということにすべきだと思います。その上で,もし株主が反対したときだけ決議を要求するとすれば,原則である総会決議が必要になる場面で,100分の3の株主が要求したときだけ必要になるというような形が場合によっては考えられるのではないか。つまり,ほとんどの株主がそれでよしと言っているのに,わざわざ株主総会決議を必要とすることはないではないかとか,そういう考え方でありまして,A案のような比較的小さい持株比率を考えるのであれば,むしろそのようなルールを考えたほうがいいのではないかと思っております。 ○中原幹事 A案のような規律を設ける場合に,仮に,例えば,独立取締役のところで御提案のような見直しをすることとなった場合には,正にこういうときこそ,支配権の異動を伴って利益相反関係が直面する典型的な例かと思いますので,仮に独立取締役などが過半数を構成する取締役会,あるいは特別委員会というようなものの決議を株主総会の決議に代替するというようなことも,検討されていいのではないかなと思います。 ○田中幹事 ただいまの御指摘についてですが,そのような制度もあり得ると思います。検討に値すると思います。ただ,その場合には,社外取締役が判断すべきことは,その資金調達は会社の存立のために緊急かつ必要かどうかを判断するという制度にすべきだと思います。つまり,必要,緊急ではないけれども,でも,この資金調達はやるべきなので,株主総会が反対するとしてもやりましょうという形で社外取締役を使うべきではないと思います。と言いますのは,会社の支配の問題は,社外取締役によって左右される話ではないと私は思っています。株主が反対しているのに,どうして社外取締役が賛成すれば支配の問題について株主の意見を無視していいのでしょうか。社外取締役に意味があるとすれば,緊急性,必要性という要件の判断が裁判所には難しいという場合に,社外取締役が例えば過半数を占める取締役会が会社の存立のために緊急かつ必要であるという判断を行ったのであれば,裁判所は,最終的な審理の上でその判断を考慮する,ある程度尊重するという形でそれを考慮するということは考えられるのではないかと思います。 ○上村委員 この件は,いろいろな視点があり得ると思いますけれども,そもそも,第三者割当増資というもの自体をこんなに自由にやっている国があるんだろうかというのがまず1点です。これは,前にここで申したことがありますから,最小限にしますが,やはり,アメリカでもそうだと思いますけれども,普通やらないのではないかと思います。公募か株主割当てが基本です。イギリスの場合は,株主は個人がほとんどですから,まずは,株主割当てが基本で,次が公募で,それで破たん処理とかになると,第三者割当てもあり得ると聞いております。アメリカでも,第三者割当てと言うと,なぜそんなことをするのかとむしろ問われると聞いております。日本は,割当自由を過度に強調して第三者割当増資を原則自由だと思い込んでいる。そのことの意味合い,本当は,もっと踏み込んで考える必要があるのではないかなと思っております。その上で,あるいは他方で,日本の支配株主というのは,諸外国のそれに比べて権威が弱いと思います。まず,アメリカのような支配株主の忠実義務は負わない。それから,ドイツように支配企業の責任制度もない。しかも,個人や,個人に厳しい責任を負う機関投資家を背後に有する支配株主ではなく,事業法人株主で支配株主である場合が多い。そこに責任を持たせようと思うと,現在の議論のように経済界は反対すると,そういう支配株主でありますから,ほかの国に比べると,責任を伴わない支配を常に一方的に全面的に主張しているという面が強く,国際的に見ると,余り権威のない支配株主が多いのではないかという感じがします。責任を否定することで権威の乏しい支配を経済界自身が作ってきたように思います。   そこで,何が言いたいかということですけれども,ちょっと乱暴な言い方かもしれませんが,確かに,今までお話が出ましたように,株主が取締役を選ぶのであって,取締役が株主を選ぶのではない,これは,大原則であります。しかし,企業買収のときですと,例えば,濫用的買収者であれば,株をたくさん買っても支配についてノーと言えるわけです。それから,スティールみたいなものも,濫用的買収者とは言わなかったけれども,結果的に否定されたわけですから,要は同じ扱いであります。株主になった後はどうかというと,なった後は,支配株主ですといって,責任を伴わない支配を全面的に享受していられるものなのか。今,話題になっている創業家というのがどうなのかちょっと分かりませんけれども,非常に権威がないことを前提に議論をしてよい場合があり得るように思います。要するに,一定の場合には,私は,経営が株主を選別する,あるいは排除するということもあり得ると思っています。ここでの必要性,緊急性ですが,その要件は,必ずしも資金調達に限られないかもしれないなと思っております。ちょっと今までの話とずれているかもしれませんが,資金調達等の「等」には様々な可能性があり得るようにも思えます。現にいる支配株主に対して第三者割当てで対抗して,そして,支配株主をひっくり返すことに緊急性,必要性があることがあるかと言うと,普通は,けしからんと言われるだろうと思いますので,一般的にはない話ですが,日本の支配株主というのは,責任を伴わない支配を享受し続けるのなら,権威のない支配株主に対しては経営が優位を持つ場合が出てくるかもしれないと思います。なかなか急に一般的な理解を得られないかもしれませんが,そういう印象を持っております。意見として申し上げております。 ○岡崎幹事 先ほどの田中幹事のお話は,ただし書にある例外事由はかなり狭いものだという御発言だったと思うのですが,それをお伺いして,そういうことであればあり得る話かなと思ったのですけれども,この種の紛争というのは,裁判所では,仮処分で非常に短期間での判断を要求されるという場合が多いと思われるところです。その場合に,このただし書に当たる要件の明確性に関しては,特に強い要請が働くのではないかと考える次第でございます。今の上村委員の御発言なども伺っておりますと,どういう考慮要素が盛り込まれるのかということをある程度法文上明確にする,又は法文にうまく書き切れないとしても,何らかの形でそれが分かるように御配慮を頂ければと思うところでございます。 ○神作幹事 A案について,私がやや問題ではないかと感じている点は,取締役会の決議がそもそも緊急性,必要性がないので無効だと主張して一人の株主でも差止めの仮処分命令を求めることが,A案の下でも排除されていないということを前提にいたしますと,A案の場合には,本当に必要な場合,例えば,資金調達に真に緊急性がある場合に,必ずしもその目的が達成できない可能性がある点でございます。もし,先ほど述べた前提に誤解がありましたら正していただければと思いますけれども,その前提が正しいといたしますと,非常に限定された範囲でありますけれども,25%を超える株主が重大な議決権割合を希釈化されることについて,総会決議の開催を求める権利を持つというB案の考え方でまずは法律は作って,更に実質的に又は事実上,A案の規範に近付けることにつきましては,グット・プラクティスと申しますか,この規律によってはカバーされないけれども支配権に影響を与え得る第三者割当増資については,その実務において,必要性及び緊急性等の判断基準等について模索するとともに,望ましい手続を探っていくことが考えられると思い,B案を支持して参りました。 ○岩原部会長 何かほかに御意見はございますでしょうか。   今までに頂きました御意見からしますと,そもそも,このC案を採りたいという御意見が一方にあります。それに対して,C案ではなくて,本来は,会社の支配者を変えるような新株の発行というのは,取締役会限りで決めるべきではなくて,株主総会で決めるのが本筋だという御意見があります。学者の方は,ほぼそうだったと思いますけれども,その場合の要件の決め方として,A案で,ただし,必要性,緊急性がある場合であっても,100分の3が反対すれば,原則に戻って株主総会の決議が必要になるという点については批判が多くて,必要性,緊急性がある場合は,むしろ,取締役会の判断で,取締役会限りで新株の発行ができるようにすべきだというお考えが多かったかと思います。その代わり,実は必要性,緊急性の要件を満たしていない場合には,株主が差止請求ができるという形の株主の保護の制度を考えるべきだが,そういう例外が認められる場合は厳しく考えるべきだという御意見があって,差止めの際の判断については,新株発行の著しく不公正な新株発行の差止めと同じように,裁判所が仮処分等で判断しやすいように要件をなるべく法律の条文として書いてほしいという御意見を頂いたところかと思います。今まで頂いた御意見の要約というか,整理としてはそのようなことでよろしいでしょうか。   ということで,C案か,今申し上げましたA案を,神作幹事からはB案の御意見がありましたけれども,それ以外の学者委員,幹事の方は,A案をむしろ修正したような考え方の御意見が多かったかと思います。 ○田中幹事 緊急性,必要性がある場合は,総会決議省略を認めるということに加えて,原則一定比率以上の株主が異議を唱えたときだけ総会決議を要するという,言わばA案,B案の組合せ的なものもあり得るのではないかなということを発言しました。 ○岩原部会長 確かにそういう御発言もございました。そのような御意見を頂いたところで,この先,どちらにするというのは,決めるのは難しいと思います。今日は,そういう皆様の御意見の状況の整理ということでとどめたいと存じますが,よろしいでしょうか。A案を修正するような多数の学者委員等の御意見に従うとしたら,どういうような形の条文,法文になるかということは,事務当局で考えていただければと思いますが,よろしいですか。 ○内田関係官 御議論の確認ですが,試案のA案では,「特に必要と認めるとき」ということで,取締役会がそういう判断をしたことが株主総会決議の省略の要件になっていますが,今回の御議論は,生の要件として,資金調達の緊急性,必要性があることを要件にすべきだという御議論だったと理解してよろしいでしょうか。 ○岩原部会長 そうだと思います。むしろ,客観的な要件として,必要性,緊急性がある場合,それを取締役会が客観的に要件を満たしていると判断したときは,自らの責任で発行することができる,ただ,それに対して,もし客観的な要件を満たしてないときは,株主が差止めの請求を起こし得る,そういう制度を何人かの委員,幹事の方が御意見として述べられたと理解しています。 ○内田関係官 それを満たすかどうかを,裁判所が差止めの仮処分等の手続の中で判断されるということですね。 ○岩原部会長 そういうことだと思います。ですから,先ほど申しましたように,著しく不公正な新株発行の差止めと似たような形の審理の在り方になるかと思います。よろしいでしょうか。   それでは,先に進ませていただきたいと思います。次に,「(2) 規律の対象となる募集株式の発行等の範囲」について,事務当局から説明をお願いしたいと思います。 ○内田関係官 それでは,「(2) 規律の対象となる募集株式の発行等の範囲」について御説明いたします。まず,本文の①は,募集株式の発行等がA案又はB案のような規律の対象となるために引受人が有することとなるべき議決権の割合に関するものでございます。試案第1部第3の1(1)(注1)について,パブリック・コメントでは,引受人が総株主の議決権の3分の1を超える数の議決権を有することとなるような場合にまで規律の対象を広げるべきであるとの意見が多数でしたが,3分の1では一義的に明確な支配権の変動を生ずるわけではないとして,これに反対する意見も寄せられているほか,そもそもA案又はB案のような規律を設けること自体に反対する意見も,少なからず寄せられております。本文の①については,以上を踏まえて,資金調達の機動性の確保にも配慮しつつ検討する必要があるものと存じます。   次に,本文の②は,A案又はB案のような規律の対象外とされる引受人の範囲に関するものでございます。この点について,試案では,引受人が募集株式の発行等の前から公開会社の親会社等である場合は,規律の対象とならないものとしており,パブリック・コメントでも,この点について,異論はありませんでした。規律の対象外とされる親会社等には,公開会社の親会社に加えて,その他当該公開会社の経営を支配しているものも含まれるものとし,その詳細については,現行法における親会社の定義を参考に,会社法施行規則に所要の規定を設けることが考えられます。  以上のほか,パブリック・コメントにおいては,いわゆる公募に際して証券会社が引受人として株式を取得する場合が規律の対象外になるように検討すべきであるとの意見も寄せられております。公募の場合,いわゆる買取引受けを行う引受人は,公募に係る株式を自ら取得した直後に,これを多数の投資家に転売することになるため,募集株式の割当てにより当該引受人が一時的に多数の議決権を有することとなるとしても,そのことをもってA案又はB案のような規律を適用することは,必ずしも実態にそぐわないとも思われます。他方で,公募の場合であっても,いわゆる親引け,すなわち発行者が指定する販売先への売付け等,引受人による募集株式の配分の方法の在り方によっては,株主割当ての方法による場合とは異なり,経営者による割当先の決定によって支配株主の異動が生ずる余地がないとは言えないため,そのような割当先の決定について,株主総会の決議を要する旨の規律を及ぼすべきであるとも考えられます。公募の場合における引受人への募集株式の割当てを規律の対象外とすることの当否については,以上を踏まえ,公募の場合に引受人が募集株式の割当てによって一時的に総株主の議決権の過半数を有することとなるような事態が実際上生じ得るかどうか等の実務上の必要性や,規律の潜脱に用いられないように「公募」を適切に定義することの可否も考慮しつつ,検討する必要があるものと存じます。 ○岩原部会長 引受人が有することとなるべき議決権の割合に関する①について,御議論をお願いしたいと存じます。いかがでしょうか。 ○静委員 私は,結論から申し上げますと,3分の1とすべきだと思います。理由は二つです。一つは,まず,上場会社のサイドでは,通常,買収防衛策を入れているところがまだ一杯ありますが,そのトリガーは,一般に20%に設定しております。これは,それ以上保有比率があると,支配権に影響があると考えているからという理由ですので,5分の1になると支配権に影響があると上場会社自身で皆さん認めていらっしゃるということだと思います。   二つ目に,会社法の世界で考えたときに,会社が他の会社の議決権の4分の1以上を持っているときには,経営を実質的に支配することが可能な関係にあるという理由で,支配されている会社が支配している会社に対して議決権行使をすることは認めないということになっております。これも,4分の1で経営を実質的に支配することが可能だと会社法が認めているという実績があるということだと思います。したがいまして,本来は,5分の1とか,甘く見ても4分の1ぐらいに設定するべきものだと思いますが,パブリック・コメントの結果をまとめていただいたところによりますと,3分の1なら,頂いている意見のほとんどが一致しているということのようですので,最低でも3分の1にするということが必要なのではないかと申し上げたいと思います。 ○杉村委員 従来から申し上げているかもしれませんが,今,幾つか基準となる考え方の説明や意見もありましたけれども,やはり,3分の1では,必ずしも一義的に支配権の変動が生ずるわけではないと認識しております。先ほど来の意見にあります,資金調達の機動性に影響を及ぼす基準ということを考えましても,3分の1ではなく,半数ということで検討されるのがよろしいのではないかと考えております。 ○田中幹事 私は,以前から,この規律の対象になるものを,3分の1超程度に引き下げたほうがいいのではないかと申し上げてきましたので,もう余り長くは申し上げませんが,やはり,特に上場会社に関しては,多数の株主が実際には議決権を行使しないということがあり得ますので,過半数の議決権を取得していなくても,実質的に会社を支配できる可能性が高いということ,それから,公開買付規制が3分の1を一つの基準にして,それが支配権の移転を生じさせる比率であると捉えて強制公開買付規制を課しているということからして,3分の1を基準にすることが良いのではないかと申し上げてきました。もちろん,過半数にして,それについては株主総会決議を原則として要求するという規律を作ること自体にも,大きな意味があると思いますので,3分の1に引き下げなければこの規制はしてはならないということではないと思います。出発点として,過半数とする考え方もあり得ると思いますが,私自身の意見としては,支配権の異動というような形での規律を設けるのであれば,過半数にこだわる必要はなくて,実質基準によって3分の1にすることがいいのではないかと考えております。 ○濱口委員 これは,前にも申し上げましたが,過去の実例でも,3分の1前後の割当てで買収防衛的に使われたケースがあったのではないかと思います。日本の場合には,持合いとか友好的株主が結構おりますので,過半数まで出さなくても,十分その中で,経営側で株主をコントロールできるというケースが多いわけです。したがって,3分の1まで下げないと,本来の趣旨の尻抜けになるのではないかと危惧します。 ○岩原部会長 ほかにございますでしょうか。   特に御意見はございませんか。ということですと,御意見を頂いた中では,3分の1以上という御意見が多かったようでありますが,一方で,少なくとも過半数であるべきだという御意見もあったところで,今日のところは,そういうふうに御意見が分かれたということで取りあえず整理することにとどめさせていただきたいと思います。   先に進みたいと思います。引受人の範囲に関する②について,補足説明にある公募の取扱いを含め,御議論を頂きたいと思います。いかがでしょうか。 ○栗田幹事 証券会社が金融商品取引業の引受けとして行う場合に取得する株式については,適用除外にしていただきたいと考えております。この引受けというのは,証券会社がリスクを取って企業の資金調達を円滑にさせるという,極めて重要な機能でありまして,これが阻害されるというのは非常にまずいと考えております。そもそも,特定の誰かに支配権を取得させるために,一旦証券会社が取得するというような行為は,そもそも,金商法上でいうところの引受けにはならないのではないかと考えられまして,公募概念で行くのもあるかもしれませんけれども,引受概念のほうから整理する手もあるのかなと考えております。それから,部会資料21では,親引けの懸念が示されておりますけれども,今,親引けは,証券業協会の自主規制で原則禁止となっておりまして,例外的にできる場合もあるんですけれども,公正な配分ルールということで,親引けは原則的に禁止されている。それから,類似するものとして,例えば,ライツ・オファリングで,引受証券会社が,行使されなかった新株予約権を行使して株券を取得する場合があるんですけれども,その場合でも,議決権は行使しないというルールになっておりまして,部会資料21に書いてあるような御懸念であれば,それは,証券業協会の自主規制等で十分対応できるのではないかと考えております。 ○内田関係官 今の栗田幹事からの御指摘の点で,まず,御質問になりますけれども,特定の人に支配権が移るような場合は,引受けの概念から外れるのではないかというところについては,金商法の読み方として,引受けという定義のどの文言でそのように読むのか,少し詳しく教えていただければと考えております。   もう一つが,日本証券業協会のルールで,親引けについては,規制が掛かっていて,原則禁止となっているというのは,そのとおりかと思いますけれども,日本証券業協会のルールを見てみますと,「有価証券の引受け等に関する規則」というものがあり,その第31条第3項で,親引けが原則禁止とされているんですけれども,例外的にそれが認められる場面が各号で列挙されていまして,そのうち第3号で,「業務提携の関係・・・を形成しようとする者が一定の株式を保有するために必要な場合」というのが例外として定められているところでございます。これは正に,親子会社関係が生ずるような資本業務提携等をする場合に,その関係を形成するために必要な範囲では親引けができるというルールであるようにも見えるものですから,その辺りのルールの理解について,もし御存じであれば教えていただけるとよいかなと思っている次第でございます。さらに,この日本証券業協会のルールにつきましては,最近,親引けの規制を柔軟化するという方向で御議論がされていると認識しております。公募における買取引受けを例外とするかどうかについては,その辺りの状況も踏まえながら考えていく必要があると考えております。 ○栗田幹事 まず,引受けの概念については,引受けというのは,顧客に取得させるということをそもそもの目的としてやる行為でございますので,それを潜脱するような目的でやるのがそもそも引受けになるのか,ここは,詰めた議論をさせていただきたいと思いますけれども,ということです。   あと,親引けルールについては,確かに,今,見直しもされておりますけれども,もしここにあるような規律を会社法で導入するということであれば,証券業協会のルールを見直せばいいのであって,それは,柔軟に対応できるということを申し上げたということでございます。 ○上村委員 これは,栗田幹事に確認なんですけれども,こういう場合に,一時的な議決権行使はしないというのが今の御説明ですか,ひょっとして,議決権を有して行使しなければならないようなタイミングがあったとした場合には,行使しないということですか。 ○栗田幹事 それは,ちょっと説明があれかもしれませんが,ライツ・オファリングに関して申し上げたものです。今,証券業協会の自主規制規則の中で,ライツ・オファリングに係る引受業務において引受証券会社が新株予約権証券を取得した場合に,取得日から起算して60日を経過するまでの間に総会の基準日があったときには,新株予約権を行使して取得した株券の議決権を行使してはならないとされているということでございます。 ○上村委員 一般的に,部会資料21に書いてあるように,一時的に多数の議決権を有することになるとしても,という,こういう場合はなくはないような気がするんですけれども。 ○栗田幹事 ルールの作り方によると思いますけれども,こういう規律が入った場合に,もし証券会社が何らか自分で持ってしまって,議決権を行使しないといけないような状況になった場合については,そのときは議決権を放棄するというルールを自主的に作れば,ここにある懸念は多分払拭できるかと思います。 ○上村委員 行使しないことで支配がわい曲されることもあり得ますよね。その辺が結構難しいかなと。例えば,こういうルールが入ったときに,この種の公募引受けみたいなものを間にかませば,ルールを潜脱できるとなってはおかしいですし,議決権を行使しないことで,支配には影響を与えることができるので,ちょっとその辺は,何かルールを新たに考える必要があるのかなという感じがしたんですけれども。あるいは,その場合には,厳しい受託者責任を課す。株を売ってしまった後の議決権行使みたいなのがありますが,あれに準じたような扱いを受けるのか,ちょっとその辺はよく分かりませんが,それが一つです。   それから,日証協のルールは,私は,非常に権威のあるものだと思っているんですけれども,少なくとも損失補てんのときに,裁判所は―あのときはいろいろなことが起きましたので,標準になるかどうか分かりませんけれども―,所詮,自主規制のルールだから,取締役の行為規範にはならないと判決しているんですね。そういう見方はもうないのだ,という前提で考えていかないと,と思います。検討すべき点が多々あるなという感じがしました。 ○齊藤幹事 これは,意見というよりも質問なのですが,議決の対象外とされる引受人の範囲で,「親会社等」と書いてあることと,先ほどの3分の1基準との関係なのですが,御提案は,3分の1という基準を超えるときに必要であるということですが,その後,3分の1を超えた後に追加的に発行する場合はどうなるのでしょうか。一つの考え方として,3分の1超えるときにも株主総会が承認する必要があり,追加的な引受けには不要ということなのであれば,親会社等をわざわざ適用除外にしなくとも,条文から不要となるのではないかと思われます。これに対して,3分の1を超えるときと,また,過半数を超えるときは大きく話は違うので,そのときにも株主総会の承認は必要,ということもあり得ると思うのですが,試案を拝読していても,その辺りのところをまだよく分からないので,どのようなお考えで作られたのかについて,もう少し教えていただければと思います。 ○内田関係官 まず,そもそも,3分の1を基準にした場合に,当初親会社だった人という要件のままでいいのかどうかは,いろいろな考え方があり得るところかなと思っております。むしろ,当初3分の1持っていたような人を除外するといった考え方もあり得るかもしれません。齊藤幹事の御指摘は,いずれにせよ,一定の基準を超えるときに株主総会決議が必要という規律にするのであれば,当初からその基準を超える議決権を持っていた人は,当然に規律の対象外となるはずであり,あえて適用除外にする旨の規律を設ける必要はないのではないか,という御趣旨かと思います。この点は,実質としてはそのとおりかと思いますが,後は,規定の作り方次第かと思っております。試案では,ある募集株式の発行等によって基準を超える場合ということではなく,募集株式の発行等の結果として引受人が一定の基準を超える議決権を有することとなる場合という,出来上がりの姿で規制対象を捉えるような規定を想定しているため,当初から親会社等であった者を適用除外とする必要があると考えている次第です。後は,齊藤幹事のおっしゃったように,例えば,3分の1を超えるときと半分を超えるときというような複数の段階を付けて規律を作ることも,論理的にはあり得ると思いますけれども,そこは,どこまで規律を細かく作り込んでいくかというところで,他方で,規律が複雑になるのを避けるという要請もあると思いますので,その辺りの兼ね合いで考える必要があるのかなと思っております。 ○岩原部会長 よろしいですか。確かに,細かく考えていくときりがなくて,議決権の3分の2を支配するに至る株式の,新株の発行なんて,更に影響力は大きいですから,もうそれで定款を変更して,場合によっては,全部取得条項付種類株式を発行して,完全に支配を握ってしまうということも可能になるので,そういうときは,むしろ,株主総会の特別決議が必要ではないかとか,考え出すと一杯問題はあり得るのですけれども,ここでは取りあえず,会社の支配を握る最初の入口のところに絞ってこういうルールを作ってみてはどうかということで提案されていると理解しております。 ○杉村委員 A案,B案に反対である中で,意見を申し上げることになりますが,先ほどの公募の場合に証券会社が引受人として株式を取得する話について,パブリック・コメントでも指摘があったと思いますが,関係する企業の意見も踏まえまして,本来,ここで規制しようという趣旨と,証券会社のケースとは,元々想定している状況が違うわけですので,やはり,まずは規制の対象外とする必要があると存じます。その上で,先ほど来,御指摘のあるような何かほかのルール等で対応することについては,必要であれば別途やっていただくということかと思います。 ○岩原部会長 この引受人の範囲につきましては,先ほどから,栗田幹事からの御発言等にございましたように,引受概念その他金商法上の問題を含めてなお詰めるべき点があり,証券業協会のほうの規則とも併せて考えていくということが多分必要かと思います。今日は,そういう点の御指摘があったと理解しております。そういうことでよろしいでしょうか。   それでは,次に,「(3) 募集新株予約権の発行の取扱い」のうち,まず,「① 株主総会の決議」について,事務当局から説明をお願いいたします。 ○内田関係官 それでは,「(3) 募集新株予約権の発行の取扱い」のうち,「① 株主総会の決議」について御説明いたします。試案第1部第3の1(1)(注2)について,パブリック・コメントでは,募集株式の発行等に関して試案第1部第3の1(1)のA案又はB案のような規律を設ける場合に,それが容易に潜脱されることを防止するため,募集新株予約権の発行についても同様の規律を設けるべきであるとの意見が寄せられており,これに対して異論はありませんでした。そこで,募集新株予約権の発行についても,何らかの規律を設けることを検討する必要があるものと存じます。  そのような規律の対象となる募集新株予約権の発行の範囲については,新株予約権の目的である株式の数について,その算定方法を定めることも認められていること等を踏まえて検討する必要があります。ただ,新株予約権の内容の多様性に鑑みると,当該算定方法に従って理論上発行される可能性のある株式数の最大値をもって規律の対象を画するのは,例えば,希薄化防止条項が定められている新株予約権の発行が常に規律の対象に含まれることとなりかねないなど,過剰な規制となるおそれがあります。そこで,規律の対象は,一定の日に新株予約権が行使されたと仮定した場合に,当該算定方法に従って発行されることとなる株式に係る議決権数をもって画することが適切であると考えられます。このような「一定の日」としては,例えば,募集新株予約権の引受人が新株予約権者となる割当日とすることが考えられますが,その場合,算定方法の定め方によっては,規律の対象を画する議決権数を割当日までに確定することができない事態が生じ得るほか,株主に対する通知等による情報開示に支障を来すおそれもあります。このような観点からは,「一定の日」を,募集事項の決定日又はその前日とすることが相当であるとも考えられます。   なお,取得条項付新株予約権の取得も,株式を対価とする場合等には,新株予約権の行使と実質的に同様の結果を生ぜしめることとなるため,募集株式の発行等に関する規律を容易に潜脱し得る方法として用いられるおそれがあると思われます。そこで,募集新株予約権の発行に関する規律においては,新株予約権の行使によって発行される株式のみならず,取得条項に基づく取得の対価として交付される株式に係る議決権数も考慮に入れるものとすることが考えられます。  これに対しまして,取得請求権付株式や取得条項付株式については,その発行のためには定款の定めを要し,株主総会の決議が必要となることから,募集株式の発行等に関する規律の潜脱に利用されることは考えにくいと思われます。そこで,これらの株式の取得対価として交付される株式に係る議決権は,募集株式の発行等に関する規律の対象には含めないことが考えられます。 ○岩原部会長 この問題について,いかがでしょうか。これも,細かい議論をやり出すときりがないのですが,いかがでしょうか。   よろしいですか。かなり技術的な問題も含まれていますけれども,特に御意見がないということであれば,部会資料21に書いてあるような方向で基本的には考えていくということで,よろしゅうございましょうか。   それでは,そのように扱わせていただきたいと思います。   それでは,最後に,「② 情報開示の充実」について,事務当局からの説明をお願いいたします。 ○内田関係官 それでは,「② 情報開示の充実」について御説明いたします。②は,募集新株予約権の発行に関し,募集株式の発行等に関する試案第1部第3の1(2)と同様に,割当てに関する事項について,情報開示の充実を図ることを提案するものでございます。具体的には,公開会社が先ほどの①のような規律の対象となる募集新株予約権の発行を行う場合に,割当日の2週間前までに株主に対する通知等をしなければならないものとすることが考えられます。この場合,規律の対象となる引受人の氏名又は名称及び住所や,当該引受人が割り当てられた募集新株予約権の行使等によって株式の交付を受けた場合に結果的に有することとなる議決権の数を通知事項とするほか,当該募集新株予約権の発行についての取締役会の判断の内容や,社外取締役,監査役等の意見も,通知事項に含めることが考えられます。 ○岩原部会長 この②についていかがでしょうか。   よろしいですか。特に御意見がないということであれば,この部会資料21に書いてあるような方向で進めさせていただくということにさせていただきたいと思います。   それでは,本日の部会の終了の前に,次回の部会の予定につきまして,事務当局から説明をお願いいたします。 ○坂本幹事 次回は,5月16日水曜日午後1時30分から,予定では5時30分まででございます。場所は,本日と同じ20階第1会議室でございます。次回のテーマにつきましては,本日,ガバナンスを一通り御議論いただきましたので,残るは,「その他」の論点として,金融商品取引法に違反した場合の議決権行使の差止請求等の個別論点の御検討をお願いする予定でございます。さらに,その後で,親子会社に関する規律のうち,親会社株主の保護と子会社少数株主の保護の問題など,御意見が大きく分かれている論点について,改めて御検討をお願いする予定でございます。   また,今後のスケジュールについて,前々回の会議で御案内をさせていただいたところでございますけれども,要綱案を部会でお取りまとめいただく時期につきましては,これまで,パブリック・コメントの結果も踏まえてまた御相談させていただきたいということで,未定とさせていただいておりました。まだまだかなり意見の対立があるところではございますけれども,それぞれのお立場からの御意見は,かなり出尽されてきまして,そろそろ決めの問題と申しましょうか,どの辺りで御判断していただくのかというところになってきたとも思っております。そういうことも踏まえまして,まだ流動的なところもあり,確定したものではございませんが,可能でございましたら,本年の夏頃をめどに要綱案のお取りまとめをお願いするということも視野に入れて,今後の御検討をお願いしたいと思っておりますので,どうぞよろしくお願い申し上げます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございました。今後のスケジュールにつきまして,ただいまの御説明のようなことでよろしゅうございましょうか。   ありがとうございます。特段の御異論がないようですので,そのように進めさせていただきたいと思います。   それでは,法制審議会会社法制部会第19回会議を閉会いたします。本日も,長時間にわたりまして,熱心に御議論に御参加いただきまして,ありがとうございました。 -了-