法制審議会会社法制部会           第20回会議議事録 第1 日 時  平成24年5月16日(水)  自 午後1時30分                        至 午後5時53分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  会社法制の見直しについて 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○岩原部会長 それでは,予定した時刻になりましたので,法制審議会会社法制部会第20回会議を開会いたします。本日もお忙しい中,御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   それでは,始めたいと存じますが,初めに,事務当局から配布資料の説明をお願いいたします。 ○坂本幹事 それでは,御説明いたします。配布資料目録と部会資料22及び23を事前にお配りしております。部会資料の内容につきましては,後ほど御説明させていただきます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございました。   それでは,部会資料22の「第1 金融商品取引法上の規制に違反した者による議決権行使の差止請求」から始めたいと存じます。まず,「(1) 差止請求の対象となる規制違反の範囲」について,事務当局から説明をお願いいたします。 ○本條関係官 それでは,「第1 金融商品取引法上の規制に違反した者による議決権行使の差止請求」のうち,「(1) 差止請求の対象となる規制違反の範囲」について御説明いたします。パブリック・コメントでは,試案第3部第1のような規律における議決権行使の差止請求の対象となる金融商品取引法上の規制違反の範囲について,試案第3部第1①及び②に掲げる規制に違反した場合のほか,同(注1)に掲げる強制的全部勧誘義務に違反した場合も含めることについて,異論はございませんでした。試案では,強制的全部勧誘義務については,その内容が全面的に政令に委任されているという法技術的な問題があることを踏まえて,その違反があった場合の取扱いについて,なお検討することとしております。そこで,本文は,金融商品取引法における規定の整備により,そのような問題が解決されることを前提として,強制的全部勧誘義務に違反した場合を差止請求の対象に加えることを提案するものでございます。   また,パブリック・コメントでは,差止請求の対象となる株式の範囲が明らかではないとの意見が寄せられています。試案第3部第1のような規律を設ける趣旨は,差止請求の対象としている各規制が,支配関係の変動に際して株式売却の機会を与えることにより,株主の利益を保護する機能を有することを踏まえ,これらの規制に違反した株主―部会資料22では違反株主と呼んでいますが―による支配の取得を防ぐことで,違反株主以外の株主の利益の保護を図ることにあります。このような趣旨からは,規制に違反して取得した株式のみについて議決権行使の差止請求を認めれば足り,これらに違反することなく取得した株式,例えば,違反株主が違反の前から有していた株式に係る議決権を,差止請求の対象とする必要はないと思われます。そこで,試案第3部第1のような規律を具体化する際には,規制に違反して取得した株式に係る議決権の行使のみが差止請求の対象となる旨を,明文で定めることが考えられます。   なお,パブリック・コメントでは,違反行為後に株式数が増減した場合の議決権行使の差止請求の対象となる株式の特定方法を明確にすべきであるとの意見が寄せられています。特に,違反株主の有する株式に,規制に違反して取得されたものとそれ以外のものが含まれる場合において,違反株主が有する株式の一部を売却した場合における取扱いが問題となり得ますが,違反株主の合理的意思解釈からしますと,議決権行使の差止請求の対象となる株式から先に売却したものとして取り扱うことが相当であると考えられます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございました。それでは,この点についていかがでございましょうか。 ○栗田幹事 強制的全部勧誘義務についても規制の対象とするということでございますが,我々は,それに賛成でございます。強制的全部勧誘義務の趣旨は,全部買付義務と基本的に同じでございまして,買付けの後に手残り株が残ると,それを持っている零細株主の地位が著しく不安定になるということを考慮して定められた規制であるという趣旨から考えても,今回,議決権行使の差止請求の対象となるということにするのが適切であると考えております。なお,部会資料22で,金商法改正という話が書いてありますけれども,この点につきましては,法務省とも協議をさせていただきながら,しかるべき時期,しかるべき方法で,金商法の手当てもしていきたいと考えております。 ○神作幹事 私も,強制的全部勧誘義務に違反する場合についても議決権行使の差止請求の対象とすることに賛成いたします。その理由は,栗田幹事がおっしゃったとおりと思いますので繰り返しませんけれども,むしろ,法的効果との関係で御質問といいますか,コメントさせていただきたいと思います。現在の全部勧誘義務は,施行令8条5項3号によって,「申込みの勧誘を行うこと」を義務付けております。すなわち,政令では,強制的全部勧誘義務を,3分の2以上を取得するときには勧誘を行わなければならないという形で定めておりますので,必ずしも,違反して取得することを禁ずるという規律ぶりにはなっていないのではないかと思います。そのような強制的全部勧誘義務について,金商法上のルールに違反して取得された株式に係る議決権行使を差し止めることを認めるという御提案を適用しようとする場合には,単に,政令から金商法に規定の位置を移すだけではなくて,規律の内容自体を変更する必要があるのではないかと思われます。他方,翻って考えますと,違反して取得したかどうかというタイプの規律以外についても,少なくとも将来的には金商法の重大な違反に対して,会社法上,一定の効果を認めることがあり得ると思いますので,違反した部分についてのみ議決権が停止されるという規律以外の規律の在り方についても,更に検討を要するように思われます。   ドイツにも御提案になっているのと類似の規定がありますけれども,ドイツ法の下では,違反した場合には全ての株式について権利が暫定的に停止されたり,又は消滅する,という規定ぶりとなっており,議決権の行使だけを制約するという形にはなっておりません。特に,勧誘をしなければならないという規範の違反については,治癒が可能であると思いますので,治癒が可能なタイプの金商法上の規定の違反については,治癒がなされれば差止請求ができなくなるという規律の仕方も考えられるかと思います。理論的には,会社法上の効果も議決権の制約に限られないと思われますので,どのような金商法上のルールに対しどのような会社法上の効果を与えるのかということを,更に幅広く検討する必要があるのではないかと思っております。しかし,金商法上の重要な規定の違反に対して,会社法上,一定の効果を認めるという方向で議論を進めていくことには,賛成いたします。 ○内田関係官 冒頭におっしゃっていただいた,法律に上げるときに少し工夫が必要なのではないかという御指摘ですけれども,私どもの理解といたしましては,現行の金融商品取引法施行令第8条第5項第3号は,「申込みの勧誘を行う」という形の規律にはなっておりますけれども,その意味は,例えば,普通株についてオファーをするときに,その結果として株券等所有割合の合計が3分の2以上となるときには,そのほかの種類の株についてもオファーをしなければならないと,そういうルールだと理解しています。そういう意味では,種類株についてオファーをせずに,普通株についてのみ買付けを行ってしまった場合には,普通株の買付け等の部分が,ルールに違反した取得ということになるのではないかと理解しております。その分を対象にするという理解をすれば,法技術的にはもちろんいろいろと文言等の調整の余地はあるとは思いますけれども,現在のルールのまま法律に上げるということであっても,意図した趣旨は達成されるのではないかと考えているところでございます。 ○岩原部会長 神作幹事がおっしゃったように,確かに,金商法の重大な違反行為により取得した株式の議決権行使の差止めという問題は,これに限らずいろいろあり得ます。例えば,金商法194条,委任状勧誘府令43条違反の賛否欄の記載のない委任状を送って議決権を集めたというようなときも,本当は,当該委任状に基づく議決権代理行使を差し止められていいのではないかというような問題もあり得ると思いますが,今回は取りあえず,この問題に絞って提案されていると理解しております。 ○上村委員 前にも申し上げましたけれども,強制公開買付け全般に言えることですが,公開買付けという制度自体が会社法だから会社法的に問題になるという理解なのでしょうか。公開買付け制度は支配プレミアムの問題だから会社法だという意見もあるようですが,発行市場は,投資家が買うか買わないかの問題ですから,買い手は株主ではないのです。流通市場は買いと売りが対等です。公開買付けは,売るか売らないかが迫られるのですから,議決権や株主権を行使する局面ではないので,投資家として売りという局面に焦点が当たった制度ですので,これは,トータルに資本市場のルールだと思っております。ですから,様々な行政処分等の制度があるのも,私は,当然のことだとは思っております。したがって,金融庁としては,金商法の価値を守るために,それに違反した行為があったとか,それを損なうような会社法的な行為,例えば,公開買付けを無意義化するような株式分割などがあれば,それを金融庁として差し止めなければならないわけです。しかし,そうした差止めが機動的にできずに,それが差し止められないまま,株主権行使まで来てしまうというときに,今後はこっちの差止めの問題が出てくる。つまり,資本市場で真っ当な形で株主になっていない者は,会社法的にも真っ当な株主として扱わないという,そういう原理だと私は思っております。ですから,金融庁としては金商法の価値を守るために差止めなり何なり,あるいは市場機能の回復を図る趣旨から取引を無効にすると定めるなり,その立場においてやらなければいけないことをベストを尽くしてやるということがまずあって,その上で,そこから抜けてきたときに,金商法違反で株主になった者は,会社法的にも真っ当な株主として扱ってもらっては困ります,ということだろうと思います。前に申し上げましたことですけれども,そういうことが前提になっているはずだということを確認的に申し上げておきたいと思います。 ○神田委員 細かな点で申し訳ありませんけれども,補足説明のなお書に関連して,株を売って,それでまたすぐ買い戻すというか,買った場合はどうなるのでしょうか。 ○本條関係官 結論としては,原則として,売れば差止請求の対象から外れて,その後買ったものについては,差止請求の対象にはならないということになると思います。ただ,新たな買付け自体がまた金商法に違反しているというような場合には,その部分の株式については,改めて差止請求ができるという整理になるかと思います。 ○岩原部会長 それは,言わば脱法的な場合ですかね。 ○内田関係官 1点補足させていただきますと,もちろん,脱法的に―特に,仲間うちの人等に―株を売って,すぐに買い戻しましたというような,分かりやすい脱法的行為の場合には,制度の潜脱を許さないように解釈で対応していくという,そういった解釈論の余地はあると思っております。 ○岩原部会長 ほかに何かございますでしょうか。   よろしゅうございますか。それでは,この点につきましては,ほぼ異論なく,皆様にお認めいただいたと理解しております。部会資料22のような方向で,皆さんの意見が一致したと理解させていただきます。   次に,「(2) 差止請求権を有する者の範囲」について,事務当局から説明をお願いいたします。 ○本條関係官 それでは,「(2) 差止請求権を有する者の範囲」について御説明いたします。違反株主以外の株主のほか,株式会社も議決権行使の差止請求をすることができるものとするかどうかという試案第3部第1(注2)について,パブリック・コメントでは意見が分かれましたが,株式会社による濫用的な利用のおそれがあるとして,差止請求を認めるべきではないとする意見が寄せられているほか,同様の懸念から,試案第3部第1のような規律を設けること自体に反対する意見も寄せられております。支配関係の変動に際して株式売却の機会を与えられなかった株主を保護するという制度の趣旨からしますと,株式会社が議決権行使の差止請求をすることができるものとすることについては,上記懸念を踏まえて慎重に検討する必要があるものと存じます。そこで,本文は,株式会社は議決権行使の差止請求をすることができないものとすることを提案するものでございます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。この点については,いかがでございましょうか。 ○前田委員 差止請求権を有する者の範囲から会社を除くということですけれども,ここでは支配の公正がゆがめられているのですから,それを是正する権限は,取締役,監査役に与えておくほうがいいのではないでしょうか。つまり,会社が法令・定款に従って適正に意思決定できる状態にするための措置ですから,取締役等がそれをできないという理由は乏しいのではないかと思います。現在の案は,支配権争奪があるときに,会社の機関がそれに介入するのは好ましくないという考慮によっているのだと思いますけれども,ここは,金商法とは言っても,具体的な法令違反の行為があって意思決定がゆがめられるという特別な場面ですので,一般的に取締役等が支配権の争いに介入するというのとは,少し状況が異なるように思います。 ○上村委員 今の前田委員の意見に賛成です。支配の公正がゆがめられた,そういう言い方でもいいのですが,私は,公開買付けが強制されるというのは,金商法の競争メカニズムにのっとって支配の配分をしなさいよという,そういうルールだとも思っておりますので,そうした競争のルールにのっとらないで株主構成が決定されたということは,市場メカニズムと言いましょうか,制度の趣旨に反するので,何も会社としては言えないというのはどうかなという感じを思っております。 ○栗田幹事 私は,原案に賛成なのでございますけれども,TOBが行われる実態を見ますと,ある程度,会社と友好的な関係に立つ者がやる場合と,会社と敵対する関係に立つ者がやる場合があって,会社に差止請求を認めると,TOBの性質によって会社の対応が変わってくるということが大いに考えられます。このような場合,恣意的な運用ということになりかねないので,そこの手当てがうまくできれば別ですけれども,そうでなければ,会社に差止請求を認めることはいかがかと感じております。 ○上村委員 友好的だったら違法であっても会社としては差し止めないだろうという,そういう前提のお話のようですけれども,そう決め付けることはないので,利害関係のある株主がそれを求める場合もあれば,会社が求める場合もあるということで,別に構わないのではないかと思います。 ○本條関係官 この差止請求の趣旨に立ち返りますと,支配の公正というような抽象的な利益というよりは,会社法上の制度として,株式売却の機会を与えられなかった株主の保護を制度の目的としております。そのような具体的な株主の利益の保護という趣旨が当てはまる場合についてのみ,この制度を会社法上の制度として導入するという御提案でございます。あと,もう1点,仮に会社に差止請求を認めた場合には,株主からの差止請求との関係がどうなるのかという点についての整理にも非常に困難な部分が出てくるのではないかということもございますので,会社にも請求権を認めることは困難ではないかと考えております。 ○齊藤幹事 私は,この点については特に強い意見を持っているわけではないのですけれども,ほかの場面で,例えば,スクイーズ・アウトの場面で,本来,株主間の取引であるところに会社の機関が関与し,様々な権限が与えられているのは,会社の機関にも株主の利益を守る職責があるということを前提にしておりますので,今の御説明を貫きますと,むしろ会社を含めないということにはならないのではないかと。ですので,もう一度,整理をしていただく必要があるのではないかと存じます。 ○内田関係官 今の御指摘についてですが,スクイーズ・アウトの場面で会社の機関が関与することにつきましては,個々の株主が同意という形で関与しないので,対象会社の機関にその代わりを務めてもらうという発想です。これに対して,この場面では,個々の株主が差止請求権を有しますので,その人たちに行使してもらえば足りるのではないかと言い得るので,その点では少し場面が異なるという説明もできるのではないかと考えております。   あと,濫用のおそれという点に対して,友好的な公開買付けの場合には差止請求を行使しないのではないかという発想に基づいているのではないかという御指摘が上村委員からございましたけれども,パブリック・コメントの意見等を拝見した上での感想を申しますと,濫用と言ったときには,むしろ,敵対的な公開買付けが行われたときに,経営陣が,敵対的買収は嫌なので,自らの保身を図るために,この差止請求を変に利用しようとするのではないかという観点での懸念が一番多かったのではないかなという感想を持っておりますので,念のため補足させていただきます。 ○神作幹事 この制度の説明ですけれども,やはり,金商法上の規制のエンフォースメントに関わっているということは,正面から認めざるを得ないのではないかと思います。このような制度を設けている諸外国における説明も,金商法上のエンフォースメントが不十分なので「適切な制裁」を与えるために会社法上の効果を与えるという点が強調されていると理解しています。もっとも,それだけでは会社法上の効果を付与することとの理由にはなりませんので,当該金商法上の規律が私的な利益にも深く関与しているという視点が併せて強調されています。金商法上の規定の違反に対し会社法上の効果を付与する制度の説明としては,以上の二つの観点から説明するのが適切ではないかと考えております。 ○坂本幹事 金商法のエンフォースメントという御指摘ですけれども,こういう規定を設けた結果,その反射的効果と言うか,事実上の効果と言うかはともかくとして,そのような側面を持ち得るという解釈があり得るということ自体を否定するつもりはございませんけれども,他方で,金商法上のエンフォースメントということであれば,会社法に規定を置く理由が逆に問われるということになりまして,ここでは,飽くまで会社法上の利益,すなわち,株の売却の機会を失った株主の利益を保護するためにどういう制度を設けていくのかという観点から規定を置く,それだからこそ,会社法に規定を置く,という説明になると考えております。 ○神作幹事 このような規定を金商法に置くことも考えられるところであり,金商法に置かれた場合にも,私は,全く同じ問題が残る,つまり,金商法の中に,会社法上一定の効果を持った規定が置かれることになるということだと理解しておりますので,会社法に置かれるかどうかということは,余り本質的な論点ではないように思うのですけれども。 ○坂本幹事 金商法にはいろいろなことが書いてあるので,会社法的な規律を含むことが一切許容されないとまで申し上げるつもりもありませんが,他方で,正に議決権という株主の基本的権利の行使を差し止めるという話になってくると,金商法でどこまで書けるのか,慎重に考えざるを得ないのかなと思っております。今回は,金商法違反があったときに,会社法でどのように受け止めるのかという形で御議論いただいており,会社法上の利益ということで整理させていただくと,部会資料22に挙げている三つの違反ということが対象になってくるだろうということで,このような御提案にさせていただいているところでございます。 ○上村委員 同じテーマで3度も手を挙げるのははばかられるんですけれども,基礎理論の根幹に関わる問題なので申し上げざるを得ないのです。先ほど私が申し上げましたのは,今,坂本幹事がおっしゃったのと共通部分がかなりありまして,つまり,金商法は金商法で,例えば,契約が無効であるという規定がアメリカ連邦法のように置かれれば,そうすれば,そもそも議決権までもいかないわけです。そもそも無効なんですから。しかし,そういう解釈なり,立法なりができていなければ,そうすると,資本市場で違法であると,資本市場での振る舞いに問題があるものを,会社法上はそれを正当なものとして認めるんですかという話になります。その際,議決権の問題だと,金商法上の制度が株主保護のための制度であるというふうに会社法的に説明できたときに限って―私は,できているとは思わないんですけれども,仮にできたとすると―,会社法上議決権を問題にできるという発想は,私は,いかがなものかと思います。金商法違反というのは,公正な価格形成を阻害するとか資本市場の機能を阻害するという点で,一種の公序良俗違反に近いような,そういう性格のものですから,そうした観点が私法秩序の中に入ってくるのはごく自然なことだと思います。取り分け,流通市場として非常にはっきりしていますけれども,公開買付けの場合は,確かに,競争メカニズムとか何とかという説明の仕方にはいろいろな工夫も要りますし,私もそれなりの説明をしているつもりですけれども,少なくとも金商法にある制度の中で,株券や社債に関わる会社法と関係するような部分については,そのときに限って,投資家ではなくて,株主保護だという説明がなければならないとは思いません。 ○岩原部会長 ほかに何かございますでしょうか。   よろしいですか。確かに,金商法と会社法との関係その他一般論で説明していきますと,一体,どこまでこの制度をほかと違うものとして―先ほども,金商法194条のことを申し上げましたけれども―規定できるかというのは,なかなか難しい議論になるのかもしれません。ただ,恐らく,ここで,TOB規制に違反した場合についてのみ,こういう規定が提案されているのは,無論,会社法との関係の理論的な説明もありましょうし,その他必要性あるいは政策的な考慮等々,先ほどの金商法を御担当になっている金融庁のお考えその他を考慮して,特に広く理解を得られる範囲で,今回は立法の提案をしようということではないかと思っています。したがって,先ほど坂本幹事から御紹介もありましたように,パブリック・コメント等における意見等も踏まえた上で,この範囲で提案しているということかと存じます。前田委員の御意見あるいは上村委員の御意見等もありましたので,それを考慮した上で最終案は詰めることになると思いますけれども,基本的には,そういうような各種の考慮をした上で,最低限,各界の了解を得やすい範囲で,こういう案が提案されているのかなと私は理解しております。そのようなことでよろしいでしょうか。   それでは,先に進ませていただきます。「(3) 差止請求の効果を株式会社に及ぼすための仕組み」について,事務当局から説明をしていただきたいと存じます。 ○本條関係官 それでは,「(3) 差止請求の効果を株式会社に及ぼすための仕組み」について御説明いたします。(3)は,試案第3部第1(注3)にある,違反株主に対する議決権行使の差止請求の効果を株式会社に及ぼすための仕組みに関するものでございます。違反株主に対する議決権行使の差止請求があっても,その効果が株式会社に及ばないとしますと,違反株主が差止請求を受けたにもかかわらず議決権を行使しようとする場合に,株式会社がその議決権行使を拒むことの可否や,株式会社がその議決権行使を認めた場合に株主総会の決議の取消事由となるかどうかといった法的効果に疑義が生じ,法的安定性の観点から問題があるほか,試案第3部第1のような規律を設ける意義そのものが損なわれることにもなりかねません。そこで,例えば,第1の案としては,株主が違反株主に対して議決権行使の差止請求をしたときは,併せて,株式会社に対しても,当該違反株主による議決権行使を拒むことを請求することができるものとすることにより,株式会社にも違反株主による議決権行使を拒む義務を負わせることとすることが考えられます。   また,これとは別の第2案としては,株主から議決権行使の差止請求を受けた違反株主は,その請求に理由があるときは,株式会社との関係でも議決権を行使することができない旨の規律を設けることにより,有効な差止請求があれば,株式会社としても議決権行使を認めてはならないことを明らかにすること等が考えられるところです。この第2案による場合,差止請求をする場合には,株式会社に対してもその旨を通知するという規律を併せて設けることになろうかと存じます。事務当局といたしましては,今のところ,第2案のほうが規律として簡素であり,手続法的な観点からも機能しやすいのではないかと考えておりますが,引き続き,検討する必要があろうかと存じます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。それでは,この(3)について,いかがでございましょうか。 ○三原幹事 御提案の内容を正確に理解したいということで,御質問させていただきたいと思います。まず,部会資料22の第1(3)の1行目に「株主が議決権行使の差止請求をした場合」と記載されており,差止請求は,通常は仮処分等の形で申請をするわけですが,これに対し,表現ぶりとして,次のページにある(5)では「差止請求によって行使することができないものとされた議決権」という表現となっています。(5)の場合とは,差止請求をし,そして,行使ができないという,仮処分申請での判断がなされた場合を意味すると思われます。しかし,(3)の場合は,「差止請求をした」との記載だけですので,差止請求をした結果,議決権を行使することはできないとされた場合に,株主の差止請求の効果を株式会社に対して及ぼすということを御議論になっているのか,それとも,差止請求をしただけで,まだ判断がなされていないという状況においても,会社としては,その効果が及んでしまうとの御提案でしょうか。恐らく,まだ決着がついていない段階で,会社が差止請求があったということで,会社が効果を受けたり,又は明らかな公開買付規制違反であるという場合,会社が自発的に議決権行使を拒否してしまうことが認められるという御提案ではないと思うのですけれども,この点がよく分かりませんでした。(3)と(5)の書きぶりが違うことも含めまして,御提案の内容を正確に教えていただきたいと思いまして,御質問させていただきました。 ○本條関係官 (3)で差止請求をした場合というのは,要件を満たす有効な差止請求があった場合という意味になります。したがって,仮処分等の有無にかかわらず,まず,要件を満たす差止請求があったかどうか,あった場合には差止めが認められるし,会社も議決権行使を拒まなければならないという趣旨でございます。 ○三原幹事 そうしますと,裁判所の判断を待つまでもなくて,つまり,仮処分ないし保全の手続による必要もなく,本案としての訴訟手続に基づくものでもなくて,請求権の有無という実体法上の権利と構成されるわけですね。そこで,例えば,会社に対して,あの人はTOB違反であるという証拠等を会社にお見せして請求すれば,会社としては,これは,差止請求権があるべき場合であるかを認定して,TOB違反株主の議決権の行使を拒否するという御提案であって,裁判所の判断に関わるものではないという御説明ですね。 ○内田関係官 そのとおりで,実体法の差止請求権と構成する以上―これは,新株発行の差止請求等でも同じだと思いますが―,それは,訴訟によって行使することが義務付けられているわけではありませんので,必ずしも訴訟手続によらなくても,差止請求の意思表示をすれば,実体法的にはその効果が生じることになると思います。   ただ,新株発行の場面でも同じですけれども,差止請求の実効性を担保しようと思えば,基本的には,株主総会の直前に仮処分の申立てをして,そこで決着を付けるということになりますので,実際上は,会社は,その仮処分の帰すうを踏まえて行動するということになるのだと思います。そういう意味では,理論的には,三原幹事の御指摘のとおりで,請求があれば訴訟によるかどうかにかかわらず,差止請求の効果が生ずることになりますけれども,実際に起こることというのは,新株発行の差止請求の場面と同じように,仮処分で決着が付くということになるものと考えております。 ○本渡委員 今のお話を聞いていますと,要件が整っているかどうか,違反しているかどうかを会社が判断して,あなたは違反しているから議決権を行使させませんよと言えるということになると思います。そうしますと,議決権を行使させてもらえなかった株主は,大変な損害が出るかもしれないし,株主総会の決議取消しの訴えとか,そういうことをやらなくてはいけなくなる。逆に,議決権を行使させた場合には,差止請求をした株主から,株主総会の決議取消しの訴えを提起される可能性もある。したがって,補足説明にありますように,法的安定性の観点から,そういうことはよろしくないのではないかと思います。したがって,請求権といっても,これは,裁判所に,仮処分になると思いますが,仮処分で議決権行使禁止の仮処分をもらって,それで,会社に対しては議決権を行使させてはならないという仮処分をもらって,そういう公的な機関が議決権を行使できないということを認めた段階で初めて,会社は議決権を拒否できるという対応にしないと,何か,混乱が生じるのではないかなという気がしております。 ○内田関係官 仮処分の効果に関する一般的な理解に関わる点かもしれませんけれども,仮処分というのは,飽くまで暫定的に権利関係を定めるものですので,その有無によって実体法上の権利があるかないかが変わってくるというのは,仮処分の一般的な理解からは容易に説明がつかないというのが,まず1点でございます。   それから,法的安定性の点につきましては,確かに検討を要する点ではありますが,株主総会決議の公正確保の要請とのバランスも考える必要があると思います。少なくとも,会社の判断で議決権行使を拒んだ場合に,拒まれた株主は決議取消訴訟を提起しなければならないではないかという御指摘につきましては,この場面に限らず,何の理由がなく拒んだ場合であっても同じかと思います。差止めの事由が本当はなかったにもかかわらず,会社が議決権行使を拒んだという場合には,そこで議決権行使を拒まれてしまった人は,普通に株主総会の時点で何にも理由がないのに拒まれてしまった人と同じように,決議取消訴訟を提起することができるわけですので,会社が議決権行使を拒むという場面について言えば,この制度が入ったこと自体によって法的安定性が害されるというものではないのではないかと考えております。 ○田中幹事 実は,私は,この案を見せていただいたときに,三原幹事が最初におっしゃったように,基本的には,差止命令が出ると―普通は仮処分でしょうが―それによって議決権を行使することができなくなるので,そのために,4ページの(5)のように,そのときは,議決権の数を分母に算入しないものとするのだと理解していたので,今までの事務当局の御説明を聞いて,私の理解は違っていたということが初めて分かりました。で,仮処分の効力の問題につきましては,伝統的な議論はさておき,少なくとも,新株発行差止めの問題に限って言えば,最高裁判例は,仮処分命令の違反によって新株発行は無効になるんだという考えなのであって,実体法上どうかというような問題ではないと理解しています。それは,実は,新株発行の仮処分だけではなくて,職務執行停止の仮処分だって,基本的には,判例は同じ考え方になっていまして,職務執行停止の仮処分も,あれに違反した行為は絶対無効になるのであって,後で仮処分に理由がないことが判明したということは関係ないというのが最高裁の考えであると理解しております。したがって,法理論的にも,仮処分が出たことによって初めて議決権が剥奪されるという効果が生じるという構成を採っても,特に問題はないのではないかと思います。   それから,法的安定性に関しては,確かに,会社が拒んだときには,株主としては,後で決議取消しの訴えを起こさなければならないというのは,何の理由もなく会社が議決権を拒む場合も同じだということは確かなんですけれども,会社として,適法に議決権行使を処理しようと思ったときに,株主が差止めを請求してきた,この人の議決権を行使させるなと言ってきた,という場合を考えますと,もしも議決権行使差止めの仮処分が出る前に総会期日が来てしまった場合には,もしも仮処分に議決権を剥奪する効力があるという理解に立てば,仮処分が出ていない以上は議決権を行使させるし,させなければならないということになるわけですが,これに対し,仮処分自体にそういう効力があるわけではなくて,実体法上,金商法の特定の規定に違反したかどうかが問題だとすると,会社としては,実体法上の違反が果たしてあったかどうかを判断して,違反があったときは議決権行使を認めてはならない,違法がなければ行使させなければならないという処理をしなければならず,かなり難しい立場に追い込まれます。ですから,やはり,法的安定性を害するという懸念は,当たっているのではないかと思います。少なくとも私が理解しているところでは,仮処分によって初めて議決権が剥奪される効力が生じるというルールにしても,それは,特に会社法のほかの問題と比べて平仄が合わないわけではないというか,むしろ,そっちのほうが自然というような考えもあるかと思いますので,この点は,是非もう一度議論を整理していただきたいなと思います。 ○内田関係官 まず,仮処分との関係というところですが,仮処分が出たときに,その効果として不作為義務が生じるということについては,民事保全法の世界の話としてはあり得るので,その限りでは,仮処分の有無によって不作為義務の有無が変わってくることはあり得るのだと思います。ただ,そのような仮処分自体の効果とは別に,実体法上の規律として,有効に差止請求をしても仮処分がない限りは不作為義務が生じないというような整理は,されていないのではないかというのが,私の説明の趣旨でございました。例えば,新株発行に関する実体法上の差止請求権をどう理解するのかということ自体が,なかなか難しいところがあるのだと思いますけれども,実体法上の差止請求権と構成している以上は,新株発行の場面でも,差止めの理由がある場合に有効に差止請求の意思表示がされれば,差止仮処分が出ていなくても,新株発行を止める義務は一応生じていて,ただ,仮処分が出ないうちに新株発行が実施されてしまうと,もはや訴えの利益がなくなり,そのような義務を観念する意味も余りなくなってしまうという整理になるのではないかと思っております。新株発行無効の場面で,差止めの仮処分に反して新株発行を強行すると,新株発行の無効事由になるという点は,新株発行無効事由が限定的に解されている中で,さすがに差止めの仮処分に違反した場合は瑕疵が大きいので無効にしようという議論かと思いますので,仮処分がなくても実体法上の不作為義務が生ずるかどうかという議論とは,少し別の場面の話なのではないかと思います。   次に,仮処分が出ていなくても,差止請求に理由がある場合には議決権行使を拒むべきことになるということで,会社の側で難しい判断を要する場面が出てくるのではないかという点については,御指摘のとおりかなとも思う一方で,実際にどうなるかを考えますと,仮処分が出ていない以上は,会社としては,よほどの場合でなければ行使を拒絶するという選択をすることはないはずで,恐らく,株主総会の実務としては,仮処分が出ていない限り,議決権行使を認めていくということになるのではないかと思います。この場合,その後の決議取消訴訟の段階で,公開買付規制の重大な違反があったのかどうかが問題になり得るということで,その限度では,既に行った株主総会決議の効力が問題になる余地が全くないとは言い切れないと思います。ただ,そもそも,この制度で差止めの対象にしている規制違反の範囲を改めて考えてみますと,3分の1ルールとか,全部買付義務に違反をしていて,しかも,重大な違反だという場面のみを対象にしているわけですので,このような場合に会社の判断が間違っていて,しかもそれが決議に効力を及ぼすというような場合に,遡って決議の効果を争う余地が全くないということになるのも,それはそれでどうなのかという気もいたします。この点は,法的安定性と客観的な決議の公正のどちらをどの程度優先するのかという話になってくるわけですが,バランス論として,制度の適用対象にしている規制違反の範囲,違反の重大性という要件を設けていること等を踏まえて総合的に考えますと,実際にはなかなか起こらない限定的な場面で御指摘のような結果が生じても,それ自体をもって法的安定性が過度に害されるということにはならないのではないかと考えまして,このような御提案をしている次第です。 ○藤田幹事 私が初めてこの提案を読んだときは,純粋にささいな法律構成の問題だけだと思って,いずれでも問題ないほうを工夫してくださればという程度の感想を持っていたのですが,議論を聞いていて,かなり深刻な問題を抱えているような気がしてきましたので,①か②かという以外の点も含めて,もう一度,提案内容を検討して整理していただければと思います。今,新株発行の差止めのケースとの対比で説明されたのですが,かなり違う側面も含んでおりまして,異なった考慮要素があります。新株発行の場合は,事後的に効力が争われる場合,実体法上の無効原因が思い切り狭く解釈されていますので,既存株主が差し止め損なったけれども,新株発行に実体法上の違法がある場合というのは,事実上余り考慮しなくて済むのですね。ところが,今議論しているケースでは,それが全然違っておりまして,議決権がある株主に行使させなかったとか,議決権がない株主に議決権を行使させたという瑕疵,しかも,一株や二株ではなくて,相当の量の議決権を行使させなかった場合ですので,原則として,株主総会決議の取消事由があって,裁量棄却もできない,取消判決を出さざるを得ないケースのはずなのです。それが新株発行と大きく違う点です。   もう一つの違いとしては,新株発行の場合,無効の事由がある場合のほとんどは,会社自身が何か違反をしている場合です。だから,会社は,自分がやったことは知ってるはずなので,それが元で,後で新株発行の効力が不安定になるというのは,ある程度仕方ないことです。ところが,今議論しているケースでは,会社自身が関与していない手続の違法が問題となる可能性があって,例えば,公開買付けに関する金商法27条の2第1項4号のいわゆるスピード制限に違反した買付けがなされたとかが問題となり,買った時期が当事者でもめているときに,会社は,違法なのかどうか,知りようがないわけですね。そういうふうに,実体的な瑕疵があるか否かについて,会社にははっきりしないようなケースというのは,こちらでは幾らでもあり得るということです。最後に,あえて言うと,不公正発行等に比べれば,こちら側は,違法事由が比較的客観的なもので,そういう意味では,微妙な判断を強いられることはないという面はあるかもしれませんが。いずれにせよ,今申し上げましたようなことを考えますと,どうせまれにしか起きませんから問題がありませんと言うのではなく,こういった利害状況をもう少しきちんと考慮する必要があるような気がします。まず,違法事由がなかったにもかかわらず仮処分命令が出された場合の処理としては,新株発行について,最高裁判決は,仮処分違反それ自身が無効原因になるとしているので,ここでのケースでも,仮処分違反の議決権行使を認めた株主総会決議に取消原因があるとすることは,論理的には必ずしも不可能ではないでしょう。深刻なのは逆のケースでして,株主総会までに仮処分命令が間に合わなかったのだけれども,金商法違反はあって,かつ,差止請求もなされていたというケースです。このケースで,問題の株主に議決権があるか否かの判断のリスクを全面的に会社に負わせるということでいいのかということについては,慎重に考えることが必要です。もちろん,最終的に条文に書けるかどうかは全く別で,例えば,先ほどの仮処分違反の新株発行の効果―本来,違法がないにもかかわらず,仮処分命令が出て,それに違反したというケース―も純粋な解釈論ですので,条文として書けるものと書けないものがあるのはいいのですけれども,もう一度考え方を整理した上で,提示していただけないかと思います。その上で,①,②といった純粋に技術的なことは,むしろ事務当局にお任せしたいと思います。 ○齊藤幹事 私も,基本的には同じ問題意識なのですが,通常,議決権を行使できる株主の特定については,株主名簿による保護がありますので,会社の負担は,それによって随分軽減されているところがあると思いますが,このように事実関係に踏み込んで会社が議決権を行使できる株主を確定しなければいけないということは,TOBが問題になる場面は限られているとはいえ,会社に重い負担を課すことになるのではないかと思います。通常,株主レベルの,例えば,株式の譲渡の瑕疵等で,議決権の停止等が譲受人と譲渡人との間で問題となる場合には,その間で議決権の停止の仮処分を得る際に,その効果を,例えば,第三債務者として会社に及ぼすなどのいろいろな法的構成が考えられていたかと思いまして,株主レベルの事情で会社の知らないことによって,会社の総会実務が直接影響を受けないような工夫も,そこではされているのではないかと思います。ですので,この場面においても,会社がこれに従えば,取りあえず,決議に瑕疵がないというような何からの指針があるような形での規制の策定を私からもお願いしたいと思います。 ○三原幹事 先ほどのお話で,(3)の話で,(2)とも関連しますが,結局,実体法違反の重大な違反がある違反株主があって,ところが,ほかの株主さんは,余り差止めに御興味がないし,インセンティブもないといった状況で,しかしながら,これは重大な違反があると会社が認識している場合にも,先ほどの(2)で御提案のあったように,株式会社には差止請求権がないという構成ですから,会社としては,これはいけないなと思いながらも,誰か株主が請求をしてくれないと何もできないということになります。先ほどの藤田幹事のおっしゃったリスクというのは,明らかに違反があって,実体法上の議決権停止事由があるだろうと思いながらも,しかしながら,仮処分の判断が出なかった場合もありますが,そもそも,誰も仮処分の申請をしない場合もあります。これらを含めて考えますと,その判断のリスクを会社に負わせるというのでは,会社としては実務的には大変困る状況になりますので,その場合には,むしろ,(2)での議論において,会社に差止請求権があるという構成にしたほうがむしろバランスが良いのではないか,そうでないとバランスしないのではないかと思い直しまして,(2)と(3)は,両方を併せて検討いただくほうがよろしいのではないかという点も含めて,事務当局で御検討をお願いしたいと思います。 ○杉村委員 本件につきましては,今,いろいろ御議論がありましたように,会社の立場からしましても,会社の負担というのは,大変気になるところであります。そもそもに立ち返りますと,この制度自体は,違反株主へのペナルティ的な性格だと理解をしておりますので,会社の実務への影響を最小限とするための配慮を是非求めたいと思います。その意味で,ただいまの議論を聞く前は,今回の御提案の①と②では,②のほうがシンプルではないか,しかし,仮に②としましても,補足説明の文言では会社がその事情を知る手立てがないようにも見えますので,先ほど御説明を頂いたように,その手当てが必要ではないかと考えていたところでございますが,その辺も併せて,更に整理していただければと考えております。 ○内田関係官 今,最後に杉村委員から御指摘いただいた,差止請求があったことを会社が知る手立てがないのではないかという点につきましては,部会資料22にははっきり書いていないところですので補足を申し上げますと,②の方法でいく場合には,差止請求をした場合には併せて会社に対してその旨を通知するというような規律を入れる必要があるかなと思っております。   いろいろと御指摘を頂いた点についてですが,やはり,仮処分が出たかどうかによって実体法上の規律を変えることができるかという点については,事務当局においても事前にいろいろと検討したところではあるのですが,仮処分というものの性質上,そういう手当てを法律で書くというのは難しいだろうと判断するに至っております。いろいろと御指摘を頂いたところを総合すると,理論的にはいろいろと難しい問題が生じ得るというのは,正に御指摘のとおりであると思いますが,他方,実務上は,仮処分で争われて,会社もその当事者になればそれに拘束されるというのが通常起こる事態だと思いますので,そのような点を踏まえて,実際上ワークする規律かどうかという観点で御検討いただければと思うところでございます。   法的安定性の点を突き詰めて,それが害されるような事態が理論的にも生じないようにするとなると,例えば,一つ思い付くのは,新たに形成の訴えの類型を一つ設けて,公開買付規制の重大な違反があった場合には,裁判所が決定すれば将来効で議決権がなくなる,というような規律も考えられるところです。実は,これも,事務当局内では検討しなかったわけではないんですけれども,その場合は,そのような訴えを本訴として仮処分ができるのかどうかという,これも民事保全法の議論等をいろいろと考えますと,必ずしも容易でない問題もあるところです。この制度が実際上機能する場面で,民事保全法との関係も含めて最もワークしやすい仕組みはどれかということを考えた結果,新たな形成の訴えというよりも,今回御提案している仕組みでいくほうがよいのではないかと考えるに至った次第でございます。部会資料22での説明は,この辺りについて舌足らずの部分がありまして恐縮ですけれども,そういう背景での御提案ということで御理解いただければと思います。 ○上村委員 今,内田関係官がおっしゃったことは分かるのですが,実体法的に理由があれば止めるという概念が会社法の場合に可能なのは,先ほど藤田幹事もおっしゃいましたけれども,取締役会を開いていないとか,株主総会を開いていないとか,会社側として分かる話が多いわけですよね。ですから,会社側としても判断できるのですが,金商法違反かどうかということについて会社が判断する,そういう実体法上の正当性があるとしたら,極めてまれなことではないかと思いますので,その辺も含めて御検討いただけたらと思います。 ○坂本幹事 今の内田関係官と同じことを申し上げますけれども,今日の御議論を伺っていますと,裁判所の命令あるいは仮処分が出て初めて差止めの効果が生じるような制度にすべきではないかという御指摘もありましたが,仮処分といっても,飽くまでも仮の話であって,飽くまで手続法的に止まっているだけで,法文上,仮処分があることを実体法上の効果の要件とすることは難しいのだと思います。とすると,今の御議論を拝聴する限りでは,形成の訴えにするしかない,という話になってくるのかなという感じがしております。   他方,形成訴訟ということにしますと,恐らく,本案訴訟は,直近の株主総会決議には間に合わないということになり,その場合,その株主総会決議はどうなってしまうのだという問題が生じます。その場合,仮処分の決定が出ていればいいのかもしれませんが,仮処分が却下された,あるいは仮処分の申立てがされていなかったということになってくると,結局,同じような問題が出てくることになるのではないかということもございまして,先ほど内田関係官からも説明しましたけれども,仮処分があった場合となかった場合,それぞれの場合でその後の本案訴訟の結論がどうなったのかということの組合せをいろいろ考えていくと,結論としてこういう形になっても,実際にはそれほど大差はないのではないかということで,こういう整理をさせていただいている次第です。他方で,形成の訴えということにしてしまうと,いろいろと理論的な問題を含めて,現状で形成の訴えとされているものとの整合性等も考えると,どうしてもうまく説明できない場面もあるのではないかということで,部会資料22のような御提案をさせていただいている旨,補足させていただきます。 ○岩原部会長 ほかにございますでしょうか。大変難しい問題で,金商法に違反した場合について,それを基に会社法上の効力を定める規定を設けるという,会社法331条1項3号のような特殊な例を除いては,余り前例のない新しい規定を入れますので,理論的にも実務的にも,実際上どう運用されるかということを含めて,きちんと詰めておく必要があるということは,多くの委員が御指摘になるとおりだと思います。新株発行差止めとの比較も大分議論が出ましたが,新株発行差止めの場合は,先に,原則としては,会社法上違法な新株発行を差し止めるということがある。ただし,これもよく考えると,著しく不公正な方法による発行というのは,会社法上違法とは自動的にはなっていないのですけれども,それについての差止めということもあるわけです。その意味では,この制度と共通する面があるのかもしれません。いずれにせよ,かなり幅広く比較した上で,理論的な問題もありますけれども,実際上うまくワークするような制度にしなければいけませんので,先ほど三原幹事がおっしゃったように,(2)の問題とも併せて,問題を詰めていただいて,次回,この問題を検討するまでに,事前に各委員・幹事の方に,よくそういう点を理解していただけるようにもう一度,問題の整理をしていただいた上で,出していただくことにさせていただきたいと思います。坂本幹事がおっしゃいましたように,徹底的に完璧な制度を作ろうとすると,それは非常に難しいというか,ワークしにくい制度になり得る可能性もありますので,そこも併せて考えた上で,問題点をもう一度整理して,皆様に事前に御説明をさせていただいた上で,次回の案を出させていただきたいと思いますが,そのようなことでよろしゅうございましょうか。   それでは,次に進ませていただきます。「(4) 差止請求をすることができる期間」について,事務当局から説明をお願いいたします。 ○本條関係官 それでは,「(4) 差止請求をすることができる期間」について御説明いたします。パブリック・コメントにおいては,過去の違反行為についても差止請求が可能かどうかを明確にして,実務上無用な紛争が起きないようにする必要があるとの意見が寄せられています。規制違反によって株式が取得された後,一定期間が経過すると,違反株主による株式及び議決権の取得を前提として,様々な法律関係が形成されるため,その後に議決権行使の差止請求によって支配関係の変動を争う余地を認めることは,法的安定性の観点から適切でないと思われます。そこで,本文は,議決権行使の差止請求に時間的な制約を設け,違反行為をした時から1年以内にこれを行わなければならないものとすることを提案するものでございます。   なお,(4)は,差止請求をするまでの期間に関するものですが,この期間とは別に,差止請求が認められた場合の効果として議決権行使が差し止められる期間が不明確であるとの意見も寄せられています。現行法上の公開買付規制を前提といたしますと,期間の経過によって規制違反の状態が治癒されることにはならないように思われますので,そうである以上,差止請求の効果が及ぶ期間も限定されないと考えることになるものと存じます。 ○岩原部会長 ありがとうございます。これは,中間試案では取り上げられていなかった新しい論点ですが,いかがでしょうか。 ○藤田幹事 念のために趣旨を確認させていただきたいのですが,これは,問題の取得があってから一年以内に請求すれば,その請求によって議決権を行使してはいけないという不作為義務が発生し,その不作為義務は,ずっと続いて,その後の総会においても,その都度仮処分で議決権行使を止められるというものですね。パブリック・コメントの反対意見の趣旨には,よく分からないのですが,大昔の金商法違反を問題に出されても困るという懸念だとすれば,今のような趣旨のルールでもきちんと対応できていると思います。これに対して,1回違法な取得をしてしまうと,永久に株主総会で議決権行使ができないのですかという趣旨の批判だとすれば,それに対しては,この案では,私の理解が正しければ,対処できていないし,また,それは対処しないと判断したということですね。この2行だけの説明だとよく分からないものですから,念のため確認させていただければと思います。 ○本條関係官 正に藤田幹事がおっしゃったとおりでございまして,一度適法な差止請求があれば,その後ずっと,その効果が及ぶということになります。 ○岩原部会長 ほかにはいかがでしょうか。   よろしいですか。それでは,この点については,今のようなことで決まったということにさせていただきたいと思います。   それでは,次に,「(5) 株主総会の決議の定足数」でございます。これについて,事務当局から説明をお願いいたします。 ○本條関係官 それでは,「(5) 株主総会の決議の定足数」について御説明いたします。試案第3部第1(注4)について,パブリック・コメントでは,議決権行使の差止請求によって行使することができないものとされた議決権の数を,株主総会の決議に関する定足数の分母に算入しないものとすべき旨の意見が寄せられています。これに対して,違反株主以外の株主の有する議決権の数が僅かである場合に,これらの株主のみによって株式会社の基本的事項に関する意思決定がされることとなることへの懸念を示す意見も寄せられています。もっとも,定足数の算定に際し,差止請求の対象とされた議決権の数をその分母に算入する場合には,そのような議決権の数によっては株式会社の基本的事項に関する意思決定をすることができなくなるなどの事態が生じ,かえって,違反株主以外の株主が害される結果になりかねません。定足数の分母に算入しないことに対する懸念は,主として,違反株主の不利益に関わるものであるところ,重大な規制違反を自ら行った違反株主は,そのような不利益を甘受せざるを得ない立場にあるとも思われます。本文は,以上を踏まえ,差止請求によって行使することができないものとされた議決権の数を,株主総会の決議の定足数の分母に算入しないものとすることを提案するものでございます。 ○岩原部会長 この点はいかがでしょうか。 ○三原幹事 先ほど,(3)と(5)の書きぶりのところで申し上げたとおりですが,(5)においては,「差止請求によって行使することができないものとされた」という表現ではなくて,(5)を(3)と同じにして,差止請求された場合,当該株式の議決権の数は算入されないという記載になるのでしょうか。それとも,ここは,「行使することができないとされた」という受動態になっていますが,では,それは,誰かから何かをされたということとも思ってしまいます。形成の訴えではないという点は,先ほど御説明を伺いましたけれども,(3)と(5)の関係ですが,ここは,差止請求がなされ,その結果「行使できないとされた」という御趣旨なのでしょうか。 ○本條関係官 先ほど説明したとおりでございまして,ここで差止請求をしたというのは,(3)のほうでは,先ほど申し上げたように,適法な要件が充足した差止請求がされたということになりまして,その結果として,(5)としては,差止請求によって行使することができないものとすることになってしまうと御理解いただければと思います。 ○内田関係官 平仄が合っていないのは,御指摘のとおりかと思います。この点については,もう少し良い書き方があったのかもしれませんが,差止請求された議決権というのも言葉としてどうかなということで,差止請求の対象となった株式の議決権といいますか,そういった趣旨で,若干表現を変えた結果,このような表現になっています。逆に,それ以上の意図はありませんので,念のため補足いたします。 ○岩原部会長 先ほどからの議論ですと,これは,とにかく要件を満たした差止請求が株主によってなされた場合に,その株式について,ということですね。よろしいでしょうか。定足数との関係で,御意見はどうでしょうか。その先の要件については,大議論があったところですけれども,それは,先ほど申しましたように整理していただくこととして,議決権の行使の差止めの効果が認められるとした場合に,それを定足数の算定の上でどのように扱うかという問題について,いかがでしょうか。このような考え方を採るということについては,特に御異論はないと考えてよろしゅうございましょうか。   それでは,そのように扱わせていただきます。   それでは,次の問題に移らせていただきまして,「第2 株主名簿の閲覧等の請求の拒絶事由」に移らせていただきます。まず,事務当局から説明をお願いいたします。 ○宮崎関係官 それでは,「第2 株主名簿の閲覧等の請求の拒絶事由」について,御説明いたします。試案第3部第2本文では,株主名簿の閲覧等の請求の拒絶事由のうち,「請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み,又はこれに従事するものであるとき。」を削除するものとしていましたが,これについては,パブリック・コメントにおいて寄せられた意見の中では,賛成する意見が多数であったことから,本文は,当該見直しをすることを提案するものでございます。   なお,会社法第125条第3項第1号及び第2号並びに第252条第3項第1号及び第2号の文言を見直すことについては,パブリック・コメントでは,これらの規定に定める拒絶事由が不当に広く解されることのないよう,その文言を見直すべきであるとして,これに賛成する意見もあったものの,反対する意見が多数でした。反対する意見の理由としては,これらの各号は,株主名簿の閲覧等の請求が権利の濫用にわたるものであってはならないことを規定したものであり,見直しの必要は認められないとするものや,当該各号の文言を見直すことによって閲覧等の請求を拒絶し得るかどうかの判断に係る株式会社の負担が増大することになるとするものがございました。試案第3部第2(注)のような見直しをすることの当否については,これらの点も踏まえ,慎重に検討する必要があるものと思われます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございました。競争関係にある者による株主名簿閲覧等の請求の拒絶事由を定める会社法125条3項3号等を削除するという試案第3部第2本文については,パブリック・コメントにおいて賛成意見が多数であったわけでありますが,1号及び2号の文言の見直しの点と併せて,御意見を頂きたいと思います。いかがでしょうか。   特に御意見はございませんでしょうか。よろしいですか。 ○荒谷委員 一言だけ。3号を削除することについては,全くこのとおりでよいと思いますけれども,1号,2号について,若干,私の意見を述べさせていただきたいと思います。パブリック・コメントでは見直しに反対の意見が多かったということですが,私が懸念しておりますのは,以前,藤田幹事も確かおっしゃっていたと思いますけれども,フタバ産業事件,この事件は,金商法上の損害賠償請求権を行使する原告を募る目的で,株主名簿閲覧謄写請求をしたというケースであり,ある意味特殊と言えば特殊で,一般化できるかどうか疑問は残るかもしれませんけれども,高裁の見解を支持する最高裁の決定も出ておりますので,看過できないものと思います。ここで,高裁は,株主名簿閲覧謄写請求権は,株主を保護するために,株主として有する権利を適切に行使するために認められたものであるから,1号の権利の行使には,株主であることが当然の前提となっているとして,金商法上の損害賠償請求権は,1号の株主の権利には該当しないとしましたが,私が恐れておりますのは,このように考えますと,積極的に会社法上の株主の権利に裏付けられた閲覧謄写請求以外は認めるべきではないというような解釈の余地も出てまいりまして,この考え方を敷衍しますと,今,正に削除されようとしている3号の当否が問題となったテーオーシー事件のように,金商法上の公開買付けを行う前提として,株主構成を把握する目的ですとか,公開買付けへの応募を呼び掛ける目的で株主名簿の閲覧謄写を請求することは,請求者の競業のいかんに関係なく,つまり,3号の規定の有無にかかわらず,常に1号に該当し,会社はその閲覧謄写請求を拒絶できるということになりかねないということです。こうした懸念は,既に学説上も指摘されているところですので,本来の趣旨とは違った方向で解釈・運用がなされることが懸念される1号等の規定の仕方についても,この際,見直す必要があるのではないかという気がいたします。 ○藤田幹事 この件については,自分の意見は今まで散々申し上げてきており,その上で,あえてこういう形の提案を事務当局が出されてきたわけですので,もう今日は黙っていようかとも思ったのですけれども,せっかく荒谷委員からのコメントもありましたので,一言だけ申し上げます。かつて私が申し上げた意見は,今,荒谷委員がおっしゃってくれたので繰り返しません。ただ,先ほど,パブリック・コメントで反対意見が多数であったと紹介されましたが,率直に言って,このパブリック・コメントの反対意見というものの趣旨が十分によく分からない面があります。私が主張してきた見直しとは,1号,2号を削除して,何もなしにしろということではないのですね。1号,2号の文言が,帳簿閲覧権の拒絶事由と全く同じになっていて,裁判所は,全く同じ文言ですから,どうしてもそれに引きずられて解釈するということになっているのが少し不適切ではないですかと申し上げただけです。文言をより適切にし,権利の濫用にわたるようなものであってはならない趣旨をはっきりさせるような表現に変えたらどうでしょうかと申し上げたわけです。実は,パブリック・コメントで反対された方というのは,全部削って,権利濫用の一般条項だけで勝負しろと言われるから困るというふうな意味で反対されているのではないかとも憶測をするのですが,そうだとすると,私が申し上げてきたような意味で1号,2号の文言を再検討するということは,パブリック・コメントで反対が多かったことによって必ずしも妨げられるものではないような気もいたします。事務当局の負担が増える方向で申し訳ないですけれども,そう簡単に諦めないでもいいのではないかというような気がいたします。 ○坂本幹事 正に今の1号,2号のところは,従前から御指摘いただいていて,私どもも,文言としてどういうものがあり得るのか,いろいろ考えてみたところではございます。他方で,文言を変えることによって,副作用と申しましょうか,逆の効果を生んでしまうということも気にしなければいけないところで,いろいろ考えたのですけれども,いい文言が思い浮かばなかったというのが正直なところでございます。この規定を設けた趣旨が,権利濫用に当たる場合には拒絶できるという従前の解釈を書き表そうとしたということ自体は,恐らく争いがないところだろうなと思っておりますので,その制度趣旨の下に,今後,裁判所でどういう運用がされていくのかということについては,注視していきたいと思っている次第でございます。 ○岩原部会長 ほかに御意見はございますでしょうか。取りまとめが難しいのですが,皆さん,お考えになっていることは変わらないので,1号,2号が,荒谷委員が御懸念になるような理解のされ方がされないようにしてほしいということでは一致していると思いますが,うまい文言を考え得るかというと,事務当局としては,今のところ,難しいという御意見かと思います。ただ,そういう趣旨ははっきりしておりますので,最終的には難しいという結論になるのかもしれませんけれども,もし良いお知恵があるのであれば,藤田幹事からでも荒谷委員からでも,良いお知恵を教えていただくことにしまして,特になければ,こういう形で取りまとめざるを得ないかと思います。よろしいでしょうか。 ○杉村委員 蛇足ですけれども,仮に3号が削除されるならば,1号,2号が頼りになるというのが,パブリック・コメントの趣旨だろうと率直に思います。そこは是非,御配慮いただいたほうが有り難いです。 ○岩原部会長 分かりました。そういう経済界の御意見も考慮した上で,最終的に決めさせていただきたいと思います。ほかによろしいでしょうか。   それでは,次に,「第3 その他」に移らせていただきます。まず,「1 特別口座の移管」について,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○髙木関係官 それでは,御説明いたします。中間試案第3部の「第3 その他」については,パブリック・コメントでも反対意見は少数でしたので,部会資料22では取り上げていませんが,中間試案にあるような見直しをする方向で,詳細については引き続き事務当局において検討させていただきます。   部会資料22の「第3 その他」では,中間試案では掲げていなかった技術的・細目的事項として,二つの論点を取り上げています。まず,「1 特別口座の移管」ですが,特別口座については,例えば,上場会社間で組織再編をした場合等において,同一の銘柄の振替株式について複数の振替機関等に特別口座が開設されることとなったときに,これらの特別口座を一つの振替機関等に集約するための根拠規定が振替法に存在しないとの問題点等が指摘されています。特別口座の加入者は,特別口座がどの振替機関等において開設されるかについて,特段の利害関係を有しないと考えられますので,特別口座の移管を認めることとしても,特別口座の加入者の権利が害されるおそれは小さいと考えられます。本文は,このような観点から,特別口座に記載又は記録がされた振替株式について,当該振替株式の発行者は,一括して,当該特別口座を開設した振替機関等以外の振替機関等に当該特別口座の加入者のために開設された当該振替株式の振替を行うための口座―部会資料22では,移管先特別口座と仮に呼んでいますが―を振替先口座とする振替の申請をすることができるものとすることを提案するものです。本文のような見直しをする場合には,特別口座の加入者である株主に対して,移管先特別口座を開設している振替機関等の氏名又は名称及び住所を通知しなければならないものとするほか,移管先特別口座への振替等に関する技術的事項について,所要の規定を設ける必要があります。さらに,振替社債,振替新株予約権及び振替新株予約権付社債についても,本文と同様の規律を設けることが考えられます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。これは,部会ではこれまで取り上げられていなかった論点でございますが,実務的に考えて重要なことでございますので,こういう御提案を頂いているところであります。いかがでしょうか。   よろしいですか。これは,当然,本来必要なことであって,今まで振替法にこういう規定がなかったということのほうが問題ではないかと思っています。この後のほうでも出てきますけれども,後の部会資料23の売渡株主に対する通知の問題でもそうですし,いろいろなところで,個別株主通知の問題とか,振替法の問題がたくさんあるということが改めて認識されるような気がしております。よろしいでしょうか。   それでは,先に進ませていただきます。次に,第3の「2 略式組織再編等における特別支配会社の株式買取請求」に移らせていただきます。事務当局から御説明をお願いいたします。 ○髙木関係官 それでは,「2 略式組織再編等における特別支配会社の株式買取請求」について御説明いたします。現行法では,略式組織再編の場合には全ての株主が株式買取請求権を有するものとされています。この点について,パブリック・コメントでは,特別支配会社は株式買取請求権を有しないものとすべきであるとの意見が寄せられています。会社法が,株式買取請求をすることのできる株主を原則として株主総会において組織再編に反対した株主に限っている理由や,略式組織再編において株主総会の決議を要しないとされている理由を踏まえれば,特別支配会社に株式買取請求権を認めるべき合理的な理由はないと考えられます。本文は,このような観点から,略式組織再編の場合には,特別支配会社は株式買取請求権を有しないものとし,株式買取請求に関する通知の対象である株主から特別支配会社を除くことを提案するものです。また,略式事業譲渡等における特別支配会社についても,同様の見直しをすることが考えられます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございました。これも,部会ではこれまで取り上げられてこなかった論点ですが,いかがでございましょうか。   よろしゅうございますか。当然のことだと思いますので,そういうことで取りまとめさせていただきたいと思います。   それでは,先に進ませていただきます。部会資料23に移らせていただきます。まず,「第1 親会社株主の保護」の「1 親会社による子会社の監督」について,事務当局から説明をお願いいたします。 ○塚本関係官 まず,部会資料23の全体像についてですが,部会資料23は,本年2月と3月の会議におきまして,親子会社に関する規律について御議論いただきましたが,そこでの御議論を踏まえて,更に十分に詰めて御議論いただきたいと思われる,残された論点を特に取り上げております。   それでは,まず,「第1 親会社株主の保護」のうち,「1 親会社による子会社の監督」について御説明いたします。当部会における議論を踏まえますと,現行法の解釈を会社法上の規定上も明らかにするため,本文の①及び②のとおり,親会社の取締役会は,企業集団内における子会社の位置付け等に応じた一定の裁量を有しながら,子会社の業務を監督することをその職務とする旨の明文の規定を設けることが考えらます。他方で,当部会においては,親会社がこのような監督権限に藉口して,子会社の経営に必要以上に干渉することについての懸念が示されているほか,親会社の利益の有無にかかわらず,親会社が子会社を監督しなければならないとまですべきではないとの指摘もされています。そこで,本文の②は,親会社の取締役会による監督は,当該親会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正の確保に必要な範囲内で,当該親会社のために行うものとしています。本文のような明文の規定を設けることと併せて,あるいはこれとは別に,株式会社の業務の適正を確保するために必要な体制の内容に,当該株式会社及びその子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制が含まれることを,会社法上明らかにすることも考えられます。   なお,2月の会議で使用いたしました部会資料18の第1の1では,「多重代表訴訟の制度の創設以外の見直し」として,子会社の取締役等の責任の原因である事実によって親会社に損害が生じた場合において,当該親会社が当該責任を追及するための必要な措置をとらないときに,当該親会社の取締役の任務懈怠を推定することを取り上げておりました。この点について,当部会において,親会社が子会社の取締役等の責任を追及する場合,その方法は,損害賠償請求に限られず,人事異動や報酬の返上など,様々なものがあり得るとの指摘がされております。このような指摘を踏まえると,親会社の取締役の任務懈怠の推定の前提となる事実として,親会社が子会社の取締役等の責任を追及するために取るべき原則的な対応を類型化・具体化することは困難であると考えられます。そのため,部会資料23では,このような任務懈怠の推定規定を設けることは,取り上げておりません。   また,同様に,部会資料18の第1の1では,子会社の業務執行について不正行為等がある場合に,子会社の業務に執行に関する検査役の選任申立権を親会社株主に認めることも,取り上げておりました。これについては,親会社の株主が子会社の取締役等の責任を直接追及する手段を設けない場合,現行法の検査役制度に加えて,子会社の業務執行に関する検査役制度を設ける必要性は高くないと考えられます。そのため,部会資料23では,子会社の業務執行に関する検査役制度については,多重代表訴訟の制度の創設以外の見直しとしてではなく,後ほど御議論を頂きますとおり,多重代表訴訟の制度を創設することとする場合における親会社株主による情報収集の充実という観点から,検討する余地があるものとしております。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。それでは,この点についていかがでしょうか。 ○杉村委員 それでは,この点について意見を述べさせていただきます。結論から申しますと,繰り返しになりますけれども,明文の規定を設けることには危惧感を覚えておりますので,反対でございます。部会資料23の提案の文章を見ますと,362条2項の規定に新しい号を追加するように見えます。親会社の取締役会について考えてみますと,現行の規定におきましても,自社の取締役の職務の執行の監督の一内容としまして,会社資産の一つであります子会社株式の管理に関する職務を監督しているということだと思います。したがいまして,親会社取締役会の職務として,改めて,取締役の職務執行の監督と並列的に,①のような子会社の業務の監督を記載すべきというものではないのではないかと思います。親会社の取締役は,善管注意義務の範囲内で,子会社株式を含む親会社資産の管理を行っているのは当然だと思いますけれども,そのような中で,これを超えて,親会社取締役会に対して,こうした子会社を直接監督する義務の規定を設けるというのは,違和感を覚えるところです。このような規定を設けることによりまして,子会社化を含む企業のビジネス戦略の選択に大きな影響を与えるおそれがあるというのは,これまで述べてきたところでございます。   ①の書きぶりを見ますと,「子会社の業務を監督」となっております。子会社の業務というのは,正に子会社取締役の職務執行そのものではないかと思います。子会社の取締役会により子会社の業務の監督を行うというのが子会社取締役会の職務であろうと思いますので,そのことと,①の親会社取締役会が監督をするというのがどのように違うのか,あるいはどのような関係になるのかということにつきまして,企業としてはよく分からないというのが正直なところでございます。これは,もしかしたら重複ではないのか,つまり,非効率になってしまうのではないかとか,あるいは,悪くするとバッティングし合うのではないかということで,むしろ,弊害が生じるのではないかというおそれもございます。ちなみに,内部統制との関係で言えば,既に企業集団の業務の適正化の確保という観点で,親会社は内部統制システムを構築していると思いますが,そのことと,今,申し上げている362条2項の話とは,また少し違うのかと思っております。そのような意味で,ここで言う監督の意味というのは,一体,どういうことなのか,今,私のほうで申し上げましたような認識に誤りがあるならば,それも含めまして,御教授いただければと思います。 ○中原幹事 今の杉村委員の意見にも関連するかと思うのですけれども,前回も,先ほども塚本関係官からの御説明にもありましたように,現行の解釈というものを変えるものではないという御説明はあったわけですけれども,こういう条文を作るときに,それこそ権限ある当局等との関係で,果たして法律事項になるのかという問題がまずあるかと思います。そして,この条文の解釈としては,あえて,こう規定する以上は,これまでとは違った特別な意味付けがあるんだと理解されるおそれは,条文の解釈論としてないだろうかという懸念はやはり持っておりまして,362条の中に取締役の職務の執行の監督ということと並列して,子会社の業務の監督と書いたりしますと,同じ条文の項の号の中に同様の文言が規定されるということになりますので,一般のボードにおいて,代表取締役なり,代表執行役に対してできることと同じことを子会社に対してしなければいけないという誤解を生じかねない,生じさせる懸念はないかということを指摘させていただきます。そういう誤解が仮に生じるんだとしますと,例えば,親会社の取締役が子会社の債権者から,名目的取締役の責任のように,429条の責任を追及されかねないといったような必要以上の萎縮効果を生じさせて,場合によっては,義務の範囲が不明確になることから,ひいては,子会社の管理の実効性を減殺させてしまう懸念があるのではないかとも考えておりますので,これは,第1の1,2,3がトータルで議論されるべきことだと思いますけれども,1の規定をこのまま設けることについては,慎重に考えるべきではないかなと考えております。 ○伊藤委員 私どもは,このような規定の導入には反対でございます。株式会社が新規事業を立ち上げる際に,子会社を設立して取り組むケースが多々あります。このような場合に,新規事業の在り方の当・不当について,親会社が監督義務を負うとなると,新たな事業活動における挑戦的な試みを阻害するのではないかと懸念をしております。一方で,現行法上も,親会社の取締役会は,適切な内部統制システムの構築等を通じて,子会社の管理義務を負っていることは間違いありません。前回の議論の中でも,この規定は,そうした現行法上の義務を明文化する,それだけという指摘があったことも理解しております。会社法において監督という言葉が使われるのは,取締役会における業務執行取締役の監督とか,それから,委員会設置会社における執行役の職務執行の監督といった,かなり厳しい監督を要求する場面が多いと感じております。そのために,ここで言う監督という言葉を使わなかった場合に,現行法上,親会社の取締役会が負っている義務を確認するにはとどまらないのではないかという危惧は,払拭できないと思います。現行法の義務を確認するのであれば,「子会社の業務を監督する」という表現を,「子会社を管理する」と変更するなどのワーディングの御検討をお願いいたします。 ○坂本幹事 中原幹事と伊藤委員から,取締役の職務の執行についての取締役会の監督義務と同じ言葉を使っているから,同じように解されることはないのかという御指摘を頂きましたが,そういうものではないんだということを明らかにする意味で,②を書いているということでございまして,こういう要素を考慮して,正にそれに応じて監督するんだということになってまいりますので,そういう御危惧は当たらないと思っております。   もう1点,429条の責任を問われかねないという中原幹事の御指摘ですが,こういう規定があることによって目立ってしまう,つまり,そういう責任の追及のための明文の根拠ができてしまうということはあるのかもしれませんが,現在でも,親会社による子会社の業務の監督の義務というものがあるとするのであれば,この規定ができたからといって,別に何も変わらない,今でもできることについて,明文の規定ができただけということになるのではないかなと思っております。 ○中原幹事 坂本幹事から御説明のあった監督のところで,②を入れたということなんですけれども,しかし,②で書いていただいておりますことは,監督として何ができるかということではなくて,監督ということをする際に何を考慮しなければいけないかというようなことが書かれているわけでございまして,考慮要素は書かれていることはあるんですけれども,監督とは何かを明らかにするものでは必ずしもないものと思います。私も,建設的に理解してみようという努力はしてみたいんですけれども,例えば,取締役会による取締役の職務の執行の監督とあるときに,監督とあるわけですけれども,取締役会として何ができるかというのは,この取締役会の権限規定以外の他の規定において取締役会の権限とされているものであるところに限定されるわけではなくて,それ以外の経営判断に対して介入できたり,指示したりすることも恐らくここでできると読むんだと思います。しかし,今回の規定を設けた暁には,恐らく,株主の権利として行使できる範囲でやることをやるんだと理解するんだと思いますので,そうすると,何かやはり監督と書いても,言葉の外縁が本来違ってくるのかなという気がしまして,同じ条文の中に同じ言葉があっても,解釈の仕方が変わるというのがどこまで許容されるのかなというのは,分からないなというような危惧を抱いているところであります。 ○塚本関係官 今の点ですが,逆に,行使することができる権限が違う以上は,監督の在り方も異なってくるということになると思っております。先ほど,当該株式会社の代表取締役に対する監督と同じような監督をすることが子会社に対する監督として求められるのではないかという御指摘もありましたが,代表取締役に対する監督であれば,例えば,取締役会において,代表取締役の解職議案を出すなどといったことが考えられます。これに対して,親会社が子会社を監督する場合,親会社は,株主総会で取締役の解任議案を出すことはできますが,子会社の代表取締役を解職するために子会社の取締役会を招集することができるわけではありません。このように,飽くまでも,株主である親会社として行使することができる権利・権限の範囲内で監督することになる,あるいは,もちろん,明確な権利や権限の行使という形ではないとしても,子会社の取締役に対して何らかの指示を出すとか,事実上の行為を行うということも考えられますが,いずれにしても,やれる範囲で監督をするということになりますので,当該株式会社の代表取締役に対する監督とは異なってくると思っております。   それから,「監督」という言葉が強いのではないかという御指摘もございまして,伊藤委員から先ほど御指摘を頂いた「管理」ですとか,あるいは「監視」というような言葉も考えてはみたのですが,人によってそれぞれ捉え方が違うのではないか,例えば,「監視」のほうが「監督」よりも強いとか,あるいは,「管理」は,「公的管理」といった用語もあり,「監督」よりも強いイメージが持たれる場合もあるかと思われました。ただ,「監督」という言葉も,いわゆる監督官庁が行う「監督」とはもちろん違う内容となるでしょうし,あるいは,362条2項2号の「取締役の職務の執行の監督」ともあえて違うものだということを示すために,中間試案ではこれと同じワーディングにしていたところを,①では,「子会社の業務の監督」に変えております。基本的には,解釈を明文化したものだということで,不当に広く解されないように配慮をした上で,②も,前回から更に工夫をしたというところでございます。   最後に,杉村委員から御指摘を頂いた,362条2項2号の「取締役の職務の執行の監督」と親会社による子会社の監督義務が重複しているのではないかという点ですが,現在も解釈に従ってきちんと子会社を管理・監督をしているような会社については,親会社の監督義務を明文化した場合,結果としては,かなり重複してくるところがあるのではないかとは思っております。 ○杉村委員 今の中間試案のときから変わっているという御説明についてですが,確かに,文言は変わっておりますし,子会社の取締役を監督するという言い方はしていないと思いますが,よくよく考えると,子会社の業務を監督するといった場合,子会社の業務というのは,結局,子会社の取締役が行う業務執行のことではないかと思います。そのため,その真意を考えますと,余り意味合いは変わっていないのではないかと受け止めております。 ○塚本関係官 他方で,②において,その監督というのは,業務の適正の確保に必要な範囲内ということになりますので,そこで,絞りを掛けたということにはなるかと思います。 ○中原幹事 私の聞き間違いだったら申し訳ないんですけれども,今の御意見に関係するかもしれませんが,「取締役の職務の執行の監督」における「職務」というのは,会社の業務プラス当該会社の業務以外にも会社法で要求されたものもあるでしょうということで,そういったものを含む「職務」,会社法で要求された仕事プラス会社特有のお仕事という意味での「業務」で,それらを総合するものとして「職務」という言葉を使っているんだということだと思っておりまして,それを,何か,「子会社の業務」という言葉にしたから,何か限定したことになるとか,違うことになる,監督の内容が変わってくるということには必ずしもならないのかなと。単純に文言が違うだけということかなという気がしています。 ○中東幹事 実務の御懸念は,分かりますので,現在はまだ要綱的な書き方ですが,これが最終的な条文でどのようにパラフレーズされるかは,慎重に検討していただく必要があると思っております。ただ,こういう御趣旨だということを事務当局からお伺いする限り,あるいは,これまでの議論を踏まえますと,適切な内容になっていると考えております。むしろ,ここに書かれていることすら,現在の実務では行われていないのか,という懸念すら感じています。このぐらいは当然に実践していただいているのだろう,とすれば,それを書かれて何か差し支えがあるのか,疑問を持っています。 ○齊藤幹事 私は,この規定については,積極的に反対する趣旨での発言ではないのですけれども,つまり,この規定の文言についても,いろいろ工夫をしていただいているので,解釈としては,十分,現在の議論を将来につないでいく努力をする基盤は,提供していただいているのではないかと思いますが,しかしながら,法の解釈というのは,特定の思考パターンを持った人間だけで共有されているものでございますところ,会社法の規定というのは,実際にそのような思考方法とは余り縁のない方々にも,一つの行動指針を提供するものでございます。それで,一つ懸念をしておりますのは,今まで親会社の自由度を狭めるのではないかという点からの御議論があったかと思いますが,この規定が子会社の側で親会社の監督に服さなければいけない義務とか,あるいは,親会社の指図を事実上容認するようなものとして理解をされないかというところにございます。ですので,もしもこのような規定を設ける場合には,その点を否定する労はなるべく省かないでいただきたく思います。もちろん,私たちのほうでも怠ってはいけないと思いますが。実際に子会社に選択される行動は,子会社の取締役会は,子会社の利益を考えて,子会社の少数株主や債権者のことも考えて,親会社に対抗すべきところは対抗し,市場の圧力なども受けて,その力学で決まってくるべきものですので,何か,子会社の業務が親会社の監督に忠実に従っているという結果を求めるものではないという点については,できれば何度でも確認をしていただければと思います。 ○岩原部会長 当然,子会社に,そういう特別の,親会社に対する義務を課すようなことを意図した規定ではないということだと思いますが,ほかに何かありますか。 ○荒谷委員 私は,この規定の仕方には基本的に賛成でございます。確かに,①だけを読みますと,親会社の取締役会は,子会社の業務についてかなり広範囲な監督を行わなければならないかのように見えますけれども,②で,かなりその内容は限定されておりますので,①で茫漠としてあるものよりはかなり狭められた形になっているのではないかという気がいたします。ただ,反対の方々の御意見を伺っておりますと,やはり,「業務の監督」という言葉は,子会社が親会社と別法人であるにもかかわらず,子会社の業務に干渉し,子会社はこれに服さなければならないかのように捉えられているのかなという気がいたしますので,親会社は,子会社の株主としての立場で業務を監督するというか,監視するというか,そういうニュアンスを言葉としてもし盛り込むことができるのであれば,齊藤幹事もおっしゃっておりましたけれども,子会社が親会社の指図・監督に服さなければならないとの誤解を招くような解釈が独り歩きする懸念は少し払拭されるのではないかという気がいたします。 ○神田委員 感想程度なのですけれども,先ほど中原幹事がおっしゃったことですけれども,題名は,「親会社株主の保護」というところで提案されているので,本来はその文脈での話ですよね。ところが,先ほどおっしゃった話というのは,下から上へというか,部会資料23でいうと,5ページの第2に関わることで,要するに,子会社が倒産した場合,その債権者あるいは少数株主がいる場合には,親会社取締役会の監督が悪かったというので,429条などで,その取締役に,債権回収し損なった債権者とか,あるいは株価がゼロになった少数株主が責任を追及するという話は,本来は,第2のほうで検討されることなのでしょうが,そういう副作用があるのではないですかというのが,多分,中原幹事の御指摘で,それに対しては,今も御説明がありましたが,一つは,現行法を変えていないなら今も同じですということだと思いますし,もう一つは,②で,義務ではありませんと。つまり,何もしていなかった場合はそれでよい,親会社の取締役会が子会社について,ということなのでしょうか。現行法を変えないのであれば,とやかく言う筋合いのことではないと思うのですけれども,5ページの第2のほうで,1又は2が後で御議論になると思いますけれども,仮に1が採用されるとしますと,こっちは,今,子会社が倒産した場合に,債権者なり,少数株主が会社自身に対して損害賠償を請求しようとする場合には,不利益取引の場合だけであって,それ以外の場合はできないと。2が採用されるとちょっとあるかもしれませんが。もちろん,現行法でも一定のルールはあるわけなのですけれども,要するに,会社に対していく場合と,第1の1のような規定が設けられた場合に,取締役個人というのでしょうか,親会社の取締役会メンバーに,429条でいく場合とのバランスという問題があるように思います。何か,きちんと詰めて私は考えているわけではないのですけれども,取締役個人にいくほうがよりいきやすくなるのは,バランスがおかしいような気がして,会社にいけるという場合があってしかるべきような気がするのですけれども。私自身が一番分からなくなっているのは,結局,現行法のルールというものを変えようとしているのか,変える趣旨ではないのかということがはっきりしないものですから,私の誤解もあると思いますけれども,いずれにしましても,第1の1については,本来,第2の文脈での問題にも副作用があるかどうか,もしあるとすれば,第2の1,2との関係で,会社自身の話と親会社の取締役会メンバーが負う義務あるいは職務といったものとの関係について,整合的にというか,一貫して整合的に物事を考えていただきたいという要望です。 ○坂本幹事 第1と第2が整合的なのか,バランスが取れているのかという御指摘かと思います。第1のほうですけれども,私どもは,基本的には,現行法の今ある解釈を明文化したものであるという理解でやっておりますので,そういう意味では,下から上に請求をするという場面で,現行法より何か広がるかというと,そこは広がるものではないと理解しております。他方,下から上との関係はどうなのかということですが,これも,下から上の場面は,仮に,1という場面―不利益取引について新しい規定を設けるというところでございますけれども―,これは,下から上に対する請求についての現行法の解釈は維持した上で,新たにこういう規定を付け加えるものと整理しておりまして,この規定を新設することによって最も意義がある点としては,個々の指図行為と言うか,仕向けた行為と言うかはともかく,親から子に対してどういう行為があったのかということは特定しなくていい,そこに一番大きな意義があると考えております。仮にでございますけれども,親会社の監督義務と,不利益取引についての特別規定の両方とも新たに設けるということになったとしても,そのことによって現行法上のバランスを何か変更するというものではないと理解しております。 ○藤田幹事 非常に難しい問題のように見えて,実質はそれほど意見の差はないような気もするのですけれども,要するに,会社が子会社の重要性等を考慮した上で,必要に応じて,業務の適正を図る体制を構築し,適切に運用しなければいけないということそれ自体を否定されている方は恐らくいらっしゃらなくて,規定を置くのに反対している人を含めて,そこは反対していないと思います。実際,現に今もそうやっているはずだし,また,やっていることが,多重代表訴訟というような制度は要らないということを主張される論拠とされてきたわけですから,それはやっておられると思うのですね。ですから,問題は,こういう規定を設けた場合に,本来なら当然なされているべきことを確認する以上のものを読み込まれかねないということに尽きる,つまり,規定の表現の問題なのかなという印象を持っています。他方,どうして設けないといけないのかというと,これも以前に申し上げたと思うのですけれども,会社を超えてはいかなる監視義務もないのだというふうな解釈をした裁判例が現にかつてありました。東京地判平成13年1月25日ですが,今後も,裁判になれば,被告は,当然こういう主張をするでしょう。そういう解釈は,今の会社法ではもう生きていないのだと,持株会社化が進んだ今日,そういう解釈論はそのままは維持されていないのだということは,確認されたほうがいい気がします。散々議論して何も入れなかったことが,今,言ったようなかつての判例の立場まで含めて,オープンに残しているというふうなメッセージになるとすれば,非常によくない気がします。そういう意味では,できる限り,文言を工夫して,ある程度安心が得られるようなことがあれば一番よくて,まずはそちらを目指すべきではないかと思います。最後の最後まで文言がどうしても合意できないなら,それはそれで考えなければいけないかもしれませんけれども,まだ,その段階ではないと思います。   その上で,具体的な文言との関係で1,2点コメントを申し上げますと,まず,杉村委員がおっしゃったように,新たに設ける条文の趣旨というのは,企業グループを一体として考えるという発想というよりは,親会社取締役としては,親会社が持っている株式の価値を適正に維持する必要があり,また,その具体的な中身として,子会社に対する必要な監督というものもあり得るという発想であり,そのことは,②のア,イ,ウといった要素が列挙されることで,比較的はっきり出ていると思います。ですから,①だけ裸で書くのだと確かに大変問題ですけれども,②がきちんと適切な形で書き込まれているので,この条文でも余り問題ないと思います。ただ,「監督」という言葉がどうしても受け入れられないというのであれば,文言の調整としては,②で書かれている「子会社の業務の適正の確保」というほうをむしろ本文に上げてしまって,「親会社の取締役は,子会社における業務の適正な確保に努める義務を負う」といった形の条文にすることも考えられなくはないと思います。実体は同じです。業務の適正な確保に努めるためにやらなければいけないことの内容は,法律上,解釈上,親会社として可能な権限を行使することに尽きる。したがって,こういう条文が新たに何らかの権限を親会社に付与するものであったり,子会社に権限の行使に対する受忍義務を課すものではないという点は,はっきりしておく必要があるかと思いますが,ただ,これは,条文で書けるような話ではなくて,正面から書くのはなかなか難しいかもしれません。 ○中東幹事 私も,先ほど,最終的な条文の文言については,慎重にすべきだと申し上げましたところ,藤田幹事が一つの案をお示し下さいましたが,次善の策として,魅力的であると考えております。その点に関しまして,2ページの補足説明のなお書で,内部統制に関する注意義務等の話があり,元の文章では,「明文の規定を設けることと併せて」ということでしたが,先ほど,塚本関係官が「あるいはこれとは別に」という御説明をしてくださったかと思います。現行法でも,このレベルで企業集団における業務の適正を確保するための体制の構築義務は,課されているということでございますので,これを会社法の本文に上げるという発想につながっていくものであると思っています。内容的にも,実務の方々は,現在も実践していらっしゃることですから,同じ内容の規律が法律に格上げされても,別段,お困りになることはないと思います。また,会社法には省令委任が余りに多いと思っていまして,例えば,詐害的な会社分割の話にしても,履行の見込みとか,いつの間にか,省令事項に変わっているということがありました。やはり,大事なことは会社法で規定することが大切であると思っています。その際には,現に動いている法務省令の文言を参考にして検討していただくのも,一つの案だと思っております。 ○岩原部会長 ありがとうございます。株式会社及びその子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための必要な体制を,会社法の本文に書くようにするという御提案ですね。 ○中東幹事 そうです。さらには,企業集団における業務の適正を確保するための体制を取締役会が決定するという規律を,そのまま会社法の本文に取り込むだけではなくて,会社法施行規則の文言を基にしつつ,藤田幹事がおっしゃったように,子会社の業務の適正の確保に関する義務という形で明文化することも一案ではないかと,そういう趣旨でございます。 ○岩原部会長 多分,そうなりますと,事業報告にも,実際それをどう運用しているかということを含めて書いてもらうというようなことになっていくんでしょうね。ほかにいかがでしょうか。 ○三原幹事 ②のウの「その他の事情」というのは,具体的に何なのでしょうか。 ○塚本関係官 ケース・バイ・ケースということにはなりますが,例えば,どういった経緯で親子会社関係が作られるに至ったのかといったようなことも,入ってくるかもしれません。 ○三原幹事 御質問を申し上げた趣旨は,条文をここで議論するのは適切でないとは理解していますけれども,「その他の事情」というのをそのまま条文に書く御趣旨なのか,それとも,「その他の事情」というのを,これから要綱または条文の中で作っていく際に,「その他」の内容を具体的に列挙していかれるのか,それとも,「その他法務省で定める事情」と法律に書いて,あとは法務省令に委任していかれるのか,どういうお考えで「ウ」があるのかという位置付けをお伺いしたいという趣旨でございます。 ○塚本関係官 基本的には,「その他の事情」を法務省令に委任することにはならないと考えています。場合によっては,「その他の事情」を②にあるようなアやイのほかに更に幾つか類型化して明記するということがあるかもしれませんし,それで書き切って,「その他の事情」というのは出てこないこともあるかもしれませんが,恐らく,最後は,「その他の事情」というのが出てくるようにも思います。 ○上村委員 今の業務の適正の確保という件ですけれども,藤田幹事と中東幹事が一致して言われると,もういいや,任しておけばという気になるんですけれども,これは,子会社の業務の適正を確保するものとするという,そういう文言にするということですか。もしそうだとすると,業務の適正というのは,業務の適正を確保するための体制ですよね,体制を作れと言っているわけです。最初の案は,監督するということですね。私が誤解しているかもしれないんですけれども,子会社の業務の適正を確保するものとするという,そういう意味だとすると,業務執行というのは,適正にするに決まっているわけですから,要するに,子会社の業務執行をしなさいと言っているように聞こえなくもないんですけれども,これは誤解ですかね。 ○藤田幹事 まず,私は,現在のこの提案でいいというのが基本です。「監督」という言葉がどうしても受け入れられないという意見に対する対応として,何か考えるとすれば,例えば,既に,②の文言は,既に似た表現が会社法施行規則100条にあります。もちろん,そのままでは使えないんですけれども,それを参考に,子会社の業務の適正の確保に努めるとか,ある種の善管注意義務的な形で書くことになるのでしょうけれども,そういう義務を規定し,それを前提とすると,そういうことを実現するために必要なリスク管理体制構築義務というのも出てくるので,そうなると,100条1項5号とも整合的に理解できるという整理になる。繰り返しですが,どうしても監督という言葉に抵抗があるなら,そういうふうに適正に努める義務という形で書けば,それは,現行法の条文で前提とされると思われますし,また,既に今回の提案の中にも②で出てきているので,そうすれば受け入れられるのかなという,そういう提案でございます。 ○上村委員 体制を作る義務ということですか。 ○藤田幹事 体制を作る義務を規定するのではありません。適正を確保するように努めるという,そういう内容の一般的な義務です。 ○岩原部会長 よろしいでしょうか。これについては,杉村委員,中原幹事のような御懸念もございますが,ただ,多くの方が指摘されておりますように,現行法上,一定の,そういう子会社を資産の一部として,親会社がきちんとそれを管理していく義務があるという点については一致していて,それについて,それをはっきりさせるべきではないかという御意見が多かったと思います。その上で,ただ,そういうことを超えたような印象を与えないような表現ぶりになるよう,なお検討してほしいという御意見があったのかと思います。ですから,内容的にはそれほど意見は違わないのではないかと思っていますが,そういう表現ぶりについて,なお,できるだけの工夫をするということかと思います。そういうことで,よろしいでしょうか。 ○中東幹事 先ほど,4ページの補足説明の検査役についての御説明があったと思うのですが,今,申し上げてよろしいでしょうか。これは,齊藤幹事と共に,是非ともという形で賛成をしてきたところでございますが,これまで,多重代表訴訟制度が入らなかった場合にもやはり何らかの規律が必要であると,その場合に,親会社の取締役に対する責任追及を容易にするための情報収集手段が必要ではないかと,こういう発想で提言をしてきたものです。ところが,多重代表訴訟制度を創設する場合にはという形に議論の向きが変えられた上に,余り役に立たないから要らないと言われるのは,残念な感じがいたします。役に立たないのは要件が厳し過ぎるからということも言えると思いますし,以前にも申し上げましたが,子会社におかしなことが生じている場合,まず,子会社を調査する,その上で,子会社の役員の責任追及をしていない親会社の役員の責任の有無を考える,こういう順序で考えるのであれば,このような権利を親会社の株主に認めることが必要ではないかと思っています。制度全体のバランスですので,もし,ものすごくすばらしい多重代表訴訟制度が入るというのであれば,話は別かもしれませんが,相当,対象となるべき子会社も狭められているような感じもいたします。そういった意味で,制度全体がうまく回るために,実効性に欠けるというお話もございましたが,個々の制度が力を合わせてということはあると思っております。 ○坂本幹事 何も役に立たないと申し上げているつもりはなく,多重代表訴訟制度を設ける場合には,非常に役に立つだろうということで申し上げておる次第でございます。今,中東幹事のほうから,子会社に問題があると思ったときに,まず子会社を見に行けるようにすべきではないかという御指摘がありましたが,実際問題として子会社が何かおかしい,子会社を調べたいなと思うことがあることは否定いたしません。ただ,他方で,それは,多重代表訴訟がない場面を考えたときに,何のために調査するかというと,親会社の責任を追及するためにやっていくということになろうかと思います。それは何かというと,親会社の取締役の善管注意義務違反を問うためということになっていって,そうなりますと,結局,358条の検査役制度,これは,必要な範囲で子会社を調査することができるということになっていますので,結局,そこに帰ってくる,要するに,親会社の取締役の責任を追及することに必要であるために,子会社を調査していくということになると思います。逆に言うと,その場合,子会社の問題でもって親会社の取締役の責任を追及しようと思う場合には,この現行法の検査役制度によっても子会社までいけるということになってきますので,そうすると,多重代表訴訟を設けないときには,358条とは別に,新たに検査役という制度を設けるということは,なかなか,正当化できないのかなと思っておるところでございます。 ○中東幹事 そこは,評価が違うところかもしれませんが,358条経由で親会社の業務検査役が子会社を調査する途は確かにあるわけでございます。ただ,業務検査役が選任される前提として,親会社での業務執行に関して不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があることを疑うに足りる事由があるときと,ここをまず通過しないといけないので,今の字句から言いますと,親会社の取締役等が子会社をきちんと監視してないということについて,重大な事実があるということを疎明しないと,裁判所から検査役選任の決定を頂けません。その意味で,子会社にスキャンダル等があったという場合に子会社を先に見るという,このルートは,別途あることが重要ではないかと考えております。 ○坂本幹事 親会社の株主は,自分が株を持っている会社ですら,こういう要件がないと検査役の選任を申し立てることができないということになっておりますので,子会社に対して正に多重代表訴訟がないときに,何のために子会社にいくんだということになります。しかも,子会社ということになると,間接的な関与ということになってきますが,なぜ,親会社を飛び越して子会社までいけるのかというところは,また,問題になってくるとは思います。 ○中東幹事 なぜ,飛び越していけるのかということにつきましては,会計帳簿の閲覧請求についても,裁判所の許可を頂けば,親会社の株主は,一定の要件の下で子にいけるわけですので,それは理由になっていないと思います。 ○坂本幹事 会計帳簿の閲覧請求の場合も,親会社社員の「権利を行使するため必要があるとき」という要件が掛かっておりますので,そういう意味では,現行法の検査役の場面と余り変わりはないのかなとは思ってはおります。 ○岩原部会長 ほかに何かございますか。よろしいでしょうか。   それでは,先に進ませていただきまして,第1の「2 親会社株主の通知請求権」について,事務当局から説明をお願いいたします。 ○塚本関係官 それでは,「2 親会社株主の通知請求権」について御説明いたします。本文のような通知請求権を親会社株主に認めることについては,濫用の防止のため,これを少数株主権とすべきであるとの指摘がされています。そこで,例えば,総株主の議決権の100分の1以上の議決権又は発行済株式の100分の1以上の数の株式を6箇月前から引き続き有する株主に限定するなどして,本文のような通知請求権を認めることについて,検討する余地があるものと思われます。 ○岩原部会長 いかがでしょうか。 ○杉村委員 この2につきましても,少数株主権の議論の前に,そもそも,このような通知請求権自体に疑問を持っています。前回も申し上げたとおりですが,要件であります,「疑うに足りる事由」というのは,非常に不明確で,見ようによってはかなり広く見えます。また,通知請求の中身も,当該責任の追及に係る対応及びその理由等ということになりますので,かなり機微に関わる内部事情といいますか,経営情報等を含む可能性がありますので,株主の請求に対して通知していくということは,むしろ,株主全体の利益という観点からもふさわしくないと考えます。   こういった制度を設けると仮定した場合の話としましては,やはり濫用防止ということで,少数株主権化が必要との話になると思いますが,制度の類似性等を考えれば,100分の1よりは,帳簿閲覧権や検査役の選任請求といった制度との並びのほうがむしろ近いと思いますので,少なくとも100分の3以上とするのが通常の考え方ではないかと思っております。 ○伊藤委員 このような規定を設けることに反対でございます。このような規定を設けた場合の濫用の危険性については,杉村委員が発言されたとおりなので,重ねて申し上げないんですけれども,我々は,中小企業もメンバーに多く持っている組織なものですから,中小企業の場合においては,こういうことは,嫌がらせの目的で利用される可能性が非常に高いのではないかと考えております。公開会社でない会社においては,少数派の株主であっても持株比率が1%を超える場合はほとんどでございます。仮にこの通知請求権を少数株主権としても,ほとんど濫用防止の機能を果たし得ないのではないかと思いますし,そもそも,非公開会社の株主にこのような権利を認めることは,積極的意義も見いだし難いため,規定を設けること自体に反対でございます。 ○岩原部会長 ほかにいかがでしょうか。   ほかには特にございませんか。ある意味で,通知請求権は,特に100分の1の少数株主権にするというのは,次の多重代表訴訟の要件をどうするかという問題と深く関わってきて,多分,そことも併せて考えるということになると思いますが,いかがでしょうか。よろしいでしょうか。 ○中東幹事 以前に申し上げたところでございますが,基本的には,提案権並びの100分の1が自然だと思っています。総会に至れば,責任追及をしない理由を質問され,説明義務が生じれば答えなければいけないことではあるのですが,これを期中に行うということですので,会社に過度の負担とならないように,少数株主権にするということであり,通知の内容に納得できなければ総会で取締役等の選解任に関する提案をすることができる,そういうつながりで考えれば,本来的には100分の1であると思っております。 ○岩原部会長 ほかの方は,特にないでしょうか。   よろしいでしょうか。では,ほかの方は,特に余り御異論はないようであります。100分の1については,今,中東幹事の御意見,それに対する先ほど杉村委員からの御意見があったところで,100分の1ということになりますと,先ほど申しましたように,次の多重代表訴訟の要件とも併せて考えることになるかと思います。よろしいでしょうか。   それでは,特にほかには御異論がないということで,ここで,一旦休憩を取らせていただきたいと思います。           (休     憩) ○岩原部会長 それでは,審議を再開させていただきたいと思います。第1の「3 多重代表訴訟」について,事務当局から説明をお願いいたします。 ○塚本関係官 それでは,「3 多重代表訴訟」について御説明いたします。仮に多重代表訴訟の制度を創設することとする場合におけるその具体的な制度設計について,本文は,当部会における議論を踏まえて,試案第2部第1の1のA案の内容を変更しており,実質的な変更箇所は,これに下線を付して示しております。   実質的な変更箇所について御説明をいたしますと,まず,①では,多重代表訴訟の提起権を少数株主権とすることを記載しつつ,これにブラケットを付しております。これは,少数株主権とするかどうかについて,当部会において意見が分かれていることを踏まえたものでございます。次に,①のアのとおり,最終完全親会社の株主は,多重代表訴訟が当該最終完全親会社に損害を加えることを目的とする場合には,提訴請求をすることができないものとしております。なお,2月の会議における部会資料18では,多重代表訴訟が株式会社,すなわち子会社の利益とならないことが明らかであると認められる場合に,最終完全親会社の株主は,提訴請求をすることができないものとするかどうかを取り上げておりました。この点については,当部会における議論を踏まえると,多重代表訴訟についてのみ,このような提訴請求の制限を設ける合理的理由があるとは必ずしも言えないと考えられることから,部会資料23では取り上げておりません。   ④は,子会社の取締役等の責任の原因である事実が生じた日において,④にあるような5分の1超の要件を満たすだけでなく,完全親子会社関係があることをも要するものとしております。   ⑥は,最終完全親会社は,当事者の一方を補助するため,多重代表訴訟に参加することができるものとしております。   以上のほか,多重代表訴訟の制度を創設することとする場合には,先ほども申し上げましたとおり,親会社株主が子会社の取締役等の責任を追及するに当たっての情報収集の充実という観点から,子会社の業務執行に関する検査役の選任申立権を親会社株主の少数株主権として認めることについても,検討する余地があると考えられます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございました。それでは,この点について御意見を頂きたいと思います。 ○前田委員 ①のブラケット部分,提訴請求権を少数株主権とする案は,提訴請求権の濫用に対処するためのものだと思いますけれども,濫用に対しては,既に①のア,イのような手当てがされていますし,また,担保提供などの制度も用意されているのであって,それに加えて少数株主権にまでするのは行き過ぎではないかと思います。前にも申し上げたことがあるのですけれども,多重代表訴訟の原告は,確かに,株式の保有は間接的にはなりますけれども,株式保有が間接的であれば濫用の危険が大きくなるという関係はないはずであって,通常の代表訴訟に比べて特に濫用を抑える仕組みを設ける必要はないのではないかと思います。既に完全子会社の範囲にも相当の絞りが掛けられて,多重代表訴訟を利用できる場合は相当限定的になっています。それに加えて,一般の代表訴訟との整合性が疑わしい絞りを掛けて,ここまでがんじがらめにしてしまうことは避けるべきではないかと思います。 ○杉村委員 多重代表訴訟につきましては,繰り返し述べている意見のとおり,反対です。その理由等は,繰り返しとなりますので割愛させていただきます。   この場では,2点申し上げたいと思います。まず,1点は,アンダーラインを付されて書いてある,少数株主権の100分の1というところでございます。この点に関しまして,ただいま,前田委員からコメントがあったところでございますが,一方,親会社の株主は,子会社に対して間接的な関係であるということに加えまして,そもそも,多重代表訴訟制度自体が諸外国にも余り例がない制度という認識でございますので,こういったものをあえて政策的に入れるというのであれば,親会社に対してそれ相応に大きな利害関係を有している株主に限定をしてしかるべきではないかと考えます。さらに,代表訴訟制度はこの後の論点でも何度か出てくるかと思うのですが,代表訴訟制度自体に関しましても,提訴のハードルの低さの問題や,あるいは濫訴の防止の手当ての必要性などが,他国の法制との比較におきましても,種々,課題等として指摘されていると認識しております。ここでは,濫訴等の観点から100分の1の少数株主権ということですけれども,先ほど株主総会の議案の提案権としての100分の1が挙げられたところですが,それよりもむしろ大きな割合であってしかるべきと考えております。   2点目は,これも以前に申し上げたことですが,対象子会社の総資産の5分の1基準の点でございます。これも,これまで申し上げてきたとおり,多重代表訴訟を検討しようという出発点であります提訴懈怠可能性の観点から考えますと,親会社の役員と子会社役員を実質的に同視する基準として,5分の1は,やはり,我々どもの認識とは合わないところがあります。こういった割合も,むしろ引き上げることが必要だと現在でも考えております。 ○伊藤委員 多重代表訴訟の導入には反対でございます。そもそも,多重代表訴訟が導入されると,子会社の取締役は,リスクある経営判断を行うことが難しくなると考えています。また,人事権の行使による規律付けなど,親会社による適切な内部統制システムの運営を難しくするおそれがあるのではないかなと思われます。こうした懸念は,多重代表訴訟自体の問題であって,少数株主権とすることによっては払拭できるものではないために,制度の導入には賛成できないと思っております。よろしくお願いします。 ○太田委員 4ページの一番上に,当事者の一方を補助するための訴訟参加が新たに提案をされていますが,まず,確認事項を1点申し上げた上で,後ほど意見を申し上げたいと思います。当たり前のことなのかもしれませんけれども,最終完全親会社が補助参加する場合も,監査役あるいは監査委員全員の同意が要件であると考えておりますが,そういうことでよろしいかどうか。   2点目に,最終完全親会社の補助参加におきましても,監査役,監査委員全員の同意が仮に必要だと思いますが,必要とされる場合,通常の代表訴訟と同様に,子会社の監査役,監査委員全員の同意が要件となるのか,そういうことでよろしいのかどうか,お答えを頂ければと思います。 ○塚本関係官 まず,最終完全親会社が子会社の取締役等を補助するために多重代表訴訟に参加をするという場合につきましては,2月の会議の部会資料の補足説明でも触れましたが,正に御指摘のとおり,現行法の849条2項と同様に,最終完全親会社の監査役や監査委員の全員の同意が必要であるとするのが整合的であると考えております。   それから,後段の,最終完全親会社が子会社の取締役側に補助参加をするときに,子会社の監査役や監査委員の同意も必要かという御質問につきましては,最終完全親会社の監査役や監査委員の同意があれば足りる,子会社の監査役や監査委員の同意まで必要ということにはならないのではないかと思われます。 ○太田委員 今の後段の説明部分,最終親会社の補助参加に子会社の監査役,監査委員全員の同意が実は必要ではないかということの確認のために質問をいたしました。それは,必ずしも必要ではないのではないかと考えておられるという答えなんですが,訴えられるのは,子会社の取締役,あるいは,場合によれば監査役ということになるわけです。監査役の場合,今は除外するとして,訴えるのは親会社の株主であるわけですけれども,子会社自身が正に当事者なわけですから,その人たちの一定の同意というのは要件になるのではないかと,むしろ,逆に,親会社の監査役,監査委員の同意は不要なのではないかと思います。   それともう1点,今のコンテクストの中で,実際に提訴請求を受けることになります子会社における監査役の業務の面から懸念をしているわけですが,対象となる一定の子会社の監査役による親会社に対する一定の調査が可能となる仕組みがなければ提訴請求対応の実効性が実は担保できないのではなかろうかと,従前から申し上げてきております。企業集団全体で見た場合に,片側だけではバランスが悪いという,そういう設計になりはすまいかと思っておりまして,子会社監査役に親会社に対する提訴の要否を判断するための調査権の導入,これを改めて御検討いただけないものだろうかというのが2点目の意見であります。 ○塚本関係官 繰り返しになりますが,取締役側に補助参加をするときに誰の同意が必要かという点につきまして,先ほど,子会社が当事者となっているのでという御意見でしたが,子会社が子会社の役員に対して持っている損害賠償請求権が訴訟の対象となっているということは,確かにそうだとは思いますが,特に多重代表訴訟の場合ですと,当事者自体は,飽くまでも,原告は最終完全親会社の株主で,被告は子会社の役員ということであり,子会社自身は,当事者参加をすれば当事者として訴訟に出てくることはありますが,当然に訴訟の当事者として出てくるわけではないと思います。そして,親会社が子会社の取締役側に補助参加をしようとするときに,法人としては別法人であるはずの子会社の監査役の同意がないと補助参加ができないということになると,最終完全親会社にとってはかなり使いづらいものになってしまいますし,そもそも,監査役や監査委員の同意を必要としている849条2項の趣旨に鑑みて,子会社の監査役の同意を必要とすることの説明は困難ではないかと思われます。 ○岩原部会長 その場合,最終完全親会社が被告側に補助参加するだけでなくて,子会社自体も被告側に補助参加するということもあり得るわけですか。 ○塚本関係官 その点は,現行法の代表訴訟と同じ規律として,会社である子会社自身が被告側に補助参加するケースもあると思います。両方が共に被告側に補助参加するというケースが実際にあるかというと,余りないのかもしれませんが,理屈上はおっしゃるとおりと思います。 ○岩原部会長 その場合には,当然,子会社の全部の監査役の同意が必要となりますね。 ○塚本関係官 おっしゃるとおり,子会社が取締役側に補助参加する場合には,子会社の監査役の同意が必要となります。 ○岩原部会長 確かに,子会社のほうに証拠資料等があるということがあり得ますから,子会社自体が補助参加するということも,独自の意義があるとも考えられるわけですね。そういう場合は,今,おっしゃったような制度になるのではないかということですね。 ○塚本関係官 特に,最終完全親会社が補助参加するケースというのは,恐らく,部会資料23の3ページの①のイの「訴えに係る請求の原因である事実によって当該最終完全親会社に損害が生じていない場合」という要件で争いがあるというような,正に,最終完全親会社側で主張・立証したいというケースかと思われます。逆に,こういった要件がある関係で,多重代表訴訟については,最終完全親会社側の補助参加というものが認められるということになると考えられるかと思います。 ○岩原部会長 それから,太田委員が最後に御指摘になった点は,子会社の監査役に,親会社について調査する権限を与える必要があるのではないかというものですが,前にもおっしゃった御意見ですね。 ○太田委員 親会社から子会社,つまり,元々,多重代表訴訟というものがなければ,こんな心配はしないのですが,仮にある場合において,子会社の監査役には,監査役として本来与えられている職務というか,多重代表訴訟制度を有効に機能させるための権限・責任があるというところをお忘れではないのかということを申し上げているわけです。 ○坂本幹事 まず,子会社の監査役が職務を行うに当たってというところでございますけれども,その職務は何かというと,自分の会社の取締役の責任を追及するか,しないかということの判断です。そして,子会社の役員が何の責任を問われているかというと,正に,子会社に対する善管注意義務違反を問われているということになります。そういう場面で,なぜ,そこで親会社に対する調査権というのが必要になってくるのかというところであろうかと思います。ここは,監査役が,子会社,すなわち,自分の会社に対して持っている調査権を適切に行使していくことによって,権限は十分行使できるのではないかと思っております。 ○太田委員 私が申し上げているのは,お互いの仕事をきちっと回していく上において,今,坂本幹事から御説明があったように,子会社の取締役に関する責任の追及を親会社の株主に直接与えるというコンテクストの中でこの議論がされているというのは,十分承知した上で,子会社の監査役は,当然,自分の会社の取締役の職務の執行についてきちっと監査していると,これは当然のことであります。しかし,この種のケースは,レアケースかもしれませんが,起きるというケースを考えた場合に,親と子の関係の中において,そこを完全に遮断できると言い切れるのだろうかと,むしろ,こういう制度まで入れるということであるのであれば,お互いに職務の執行の状況について,子会社は子会社なりに,親会社は親会社なりに,きちっと監査をしていくという仕組みを担保しておくのが極めて自然ではないかと思っているのです。 ○岩原部会長 むしろ,実際にそういう問題が起こり得るのは,子会社の取締役が親会社の一定の影響の下に行動することが多いからということでしょうか。 ○太田委員 御指摘のとおり,そういうことを念頭に置いております。 ○岩原部会長 とすると,むしろ,次の第2の1のほうに関わってくる問題にもなる,そういうことをお考えの上の御発言ということでしょうかね。 ○太田委員 非常にレアケースなのかもしれません。しかし,制度設計においては必要な検討事項ではないか考えております。 ○坂本幹事 今,岩原部会長の御説明で,私もそう理解しましたが,そうなってくると,正に多重代表訴訟の場面のみではなく,およそ一般的に,子会社監査役に,親会社調査権なるものを認めるかどうかという極めて大きな問題になってくるかと思いますが,他方で,そこまで大きな話をするものでもないだろうなと思います。また,多重代表訴訟に限らず,現行法の下での代表訴訟でも同じことが実は起こり得るのではないかと思いますし,仮に監査役が親会社側に問題があると思ったとすれば,現行法で親会社に対して訴訟を提起することを検討する等のいろいろな対応をやっていくことも可能ではないかと思います。これが親会社に対する監査役の調査権ということなると,話がかなり広がり過ぎる大きな話なのかなという感じはいたします。 ○中原幹事 前回も申し上げてしまいましたので,ここのタイミングでも申し上げておく必要があるかなと思っておりますけれども,社外取締役の社外性の要件の強化という議論が一方でなされておりまして,それで,その主な役割というところで,利益相反のチェックを行うところだというお話があるわけですが,利益相反が生じる究極の形態であるこの場面において,前回,上村委員からも,社外取締役がいないと訴訟で負けますからというお話があったわけですけれども,前回,申し上げたことですけれども,仮にこうした規定を導入することとする場合には,独立役員の役割等々を含めて,制度整備を図っていただくことを改めて検討することをお願いさせていただきたいと思います。 ○岩原部会長 ほかにございますでしょうか。ここについては,ある意味で,議論は十分,今まで尽くしてきた延長上のことだと思います。それぞれのお立場からの従来のお考えの御指摘がありました。すなわち,一方では,濫用を心配されるお立場からの杉村委員や伊藤委員等の御指摘があり,一方では,親子会社に関する規律をきちんと確立するためには多重代表訴訟が必要であり,それを実効的にするためには,少数株主権にするということは行き過ぎではないかという前田委員のお考え,この二つの考え方がそれぞれ主張されました。ほかの御意見がないというのは,それにほとんど尽きているので,付け加える御発言はないということだと思います。このような状況であることからは,多分,当部会の最終段階で何らかの取りまとめをするしかないのかなと思っております。今日のところは,そういうそれぞれのお立場からの御発言があったということでよろしゅうございましょうか。   それでは,先に進ませていただきたいと思います。次に,第1の「4 株式会社が株式交換等をした場合における株主代表訴訟」に移らせていただきます。事務当局から御説明をお願いいたします。 ○塚本関係官 それでは,「4 株式会社が株式交換等をした場合における株主代表訴訟」について御説明いたします。この点については,2月の第17回会議におきまして,見直しをすることに関し,御了承を頂きましたが,部会資料23では,その見直しの概要を記載しております。   まず,①のとおり,株主は,①のア又はイに掲げる株式交換等によって株式会社の株主でなくなった場合で,当該株式交換等により株式会社の完全親会社の株式を取得し,引き続きこれを有するときは,株式交換完全子会社,株式移転完全子会社又は吸収合併存続株式会社に対して提訴請求をすることができるものとしております。ただし,④のとおり,当該提訴請求の対象となるこれらの株式会社―①イの場合は,吸収合併消滅株式会社―の取締役等の責任等は,株式交換等がその効力を生ずる日までにその原因である事実が生じたものに限定しております。   次に,いわゆる株式継続保有要件については,③のとおり,要件の簡明さの観点から,公開会社である場合にあっては,提訴請求をすることができる株主は,株式交換等の効力が生じた日の6箇月前から当該日まで株式会社の株式を有するものに限るものとしております。これは,株式交換等の効力が発生した時点で,株主代表訴訟を提起することができていた者の範囲で,この規律の対象とするものです。さらに,馴れ合い訴訟防止のため,⑤のとおり,①により株主代表訴訟の提訴請求をすることができる株主は,④の要件を満たす株主代表訴訟に参加することができるものとしております。   そのほか,(注)のとおり,現行法上の株主代表訴訟に関する規律及び多重代表訴訟に関して検討しております規律に準じて,所要の規定を設けることとなります。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。株式会社が株式交換等をした場合における株主代表訴訟につきましては,2月の部会において,御異論なく了承されたものと理解しております。部会資料23では,その具体的な内容を記載させていただいております。このような内容で更に詳細を詰めるということでよろしいかどうか,御意見を頂きたいと思います。いかがでしょうか。   特に御異論はないでしょうか。それでは,部会資料23のような方向で詳細を詰めるということにさせていただきたいと思います。   それでは,次に,「第2 子会社少数株主の保護」に移らせていただきます。まず,「1 親会社等の責任に関する明文の規定の創設」について,事務当局から説明をお願いいたします。 ○内田関係官 それでは,「第2 子会社少数株主の保護」のうち「1 親会社等の責任に関する明文の規定の創設」について御説明いたします。1の本文の①から④までは,試案のA案について,当部会での御議論を踏まえまして,①の要件を変更したものでございます。具体的には,責任の発生原因としての取引条件の不利益性と結果としての損害を別の概念として整理することとした点,及び,親会社等の主観的事情による免責を認めることとした点が,試案からの実質的な変更点でございます。なお,「親会社等」という言葉や,「親会社等との利益相反取引」という言葉を用いておりますけれども,これらの意味につきましては,2月の第17回会議で部会資料18を基に御議論いただいたとおりの内容とすることを前提としております。  当部会では,このような明文の規定を設けることの当否について,意見が分かれていますが,これに反対する意見の理由は,第1に,本文の①に関して,どのような場合に親会社等の責任が生ずるのかが不明確であるため,親子会社間の取引に対して萎縮効果を及ぼすという点,及び,第2に,本文の④に関して,明文の規定に基づく親会社等の責任を株主代表訴訟の対象とすることにより,濫訴の危険が高まるという点にあるものと存じます。   このうち,第1の点については,例えば,不利益の程度が著しい場合に限って親会社等の責任が生ずるものとすることも考えられます。ただし,本文の①では,当部会における議論を踏まえ,親会社等の責任の発生原因となり得る利益相反取引を,当該取引がなかった場合と比較して株式会社に不利益となるような条件のものに限定するものとするほか,冒頭に申し上げましたとおり,親会社等の主観的事情による免責を認めるものとするなど,親会社等の責任が生ずる場面を,相当程度限定しています。そこで,このような限定によってもなお,親子会社間の取引に対して過度の萎縮効果を及ぼすおそれがあると言えるか,検討する必要があるものと存じます。   また,第2の点ですが,当部会における議論を踏まえると,本文のような明文の規定を設けることに反対する意見の主な理由は,この点にあると考えられます。他方で,親会社等の責任が追及される場面では,被告は親会社等であり,取締役の任務懈怠責任の追及のように被告が取締役個人となる場合ほど,濫訴のおそれを深刻に捉える必要はないとの指摘もされています。また,親会社等の責任が生ずる場面を不利益の程度が著しい場合に限ることとする場合には,濫訴のおそれもより小さくなると思われます。本文のような明文の規定を設けることの当否については,以上を踏まえ,本文の④のような規律を設けることによる濫訴のおそれをどのように考えるかという点を中心に検討する必要があるものと存じます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。それでは,この第2の1につきまして,皆様の御意見を頂きたいと思います。 ○静委員 申し上げたいことが2点ほどあります。今御説明を頂いた第2の1と,部会資料23の6ページの2とで,基本的に同じことを申し上げますので,併せてお話をさせていただきます。一言で申し上げますと,子会社の少数株主が親会社との不利益な取引から守られる仕組みを入れるということ自体が大変大切だと思っておりますので,それがかなうなら,どちらの案でもいいので,導入することが大事だと思っております。申し上げたいことの1点目は,どちらの案を採っても,重要なのは,代表訴訟の対象にしないと意味が乏しくなるのではないかということです。親会社との取引が不利益だとしても,子会社の取締役がそれを断ることはなかなか期待しにくいというのは,この部会で何度も出ている議論でございまして,子会社の少数株主が子会社に代わって子会社の損害を取り戻せるようにする必要があるという意味だと捉えております。代表訴訟の場合は,部会資料23にもありますように,濫訴の心配というのは分かるわけですけれども,それは,個人で訴えられる場合のコストですとか,時間ですとか,あるいは心理的な負担が非常に重いということが一番大きな原因だと思います。部会資料23にありますように,個人ではなくて親会社が被告になるということであれば,大分,深刻度は違うということを,部会資料23は指摘しておりますけれども,それはかなり説得力があるものだと私は感じております。   加えて申し上げますと,私どもの上場ルールでは,支配株主のいる会社につきましては,支配株主と取引を行う際の少数株主の保護の方策を開示していただいておりますし,毎年の履行状況についても,上場会社は,全部開示することになっております。したがいまして,親会社とすれば,子会社に,その開示内容を充実させてもらうことで,自ら濫訴の芽を摘むこともできることになっていると思います。そういうことを考えれば,濫訴防止というのも,萎縮というのも,余り理由がないと思いますので,更に踏み込んで,著しい不利益取引だけに限定する必要はないと思います。これが2点目でございます。 ○杉村委員 この点につきましては,繰り返し述べていますが,明文の規定に反対でございます。部会資料23の補足説明あるいは先ほど御説明いただいた内容によりますと,反対をしている理由は親子会社間の取引の萎縮効果あるいは濫訴の危険が高まるという形で整理されているようですけれども,これは,必ずしも正しくないと思っております。確かに,濫訴も重要な問題ではありますけれども,これだけではありません。そもそも,このような新しい法定責任の定め方自体が適切でないと考えているということでございます。   これも,以前に申し上げたかもしれませんが,グループ経営により子会社が得る利益というのは,ブランド価値だとか,現時点において必ずしも計数化が容易ではないようなものだとか,あるいは,企業活動全般にわたって個々に算定することが困難なものだということは,決して少なくありません。このような中で,利益,そして,不利益という観点から法定責任を創設するということになりますと,客観的には合理的なグループ経営に係る取引までが不利益な取引と判断されて,規制されてしまうというおそれがあるということでございます。計数化できないような利益は,余り考慮すべきではないのではないというお考えの向きもあるようではございますけれども,企業活動の中でグループに所属するメリットなど,計数化や金銭評価が困難な事象や事柄というのは多数ございまして,そのような見解には賛同はいたしかねるところでございます。   また,実際の訴訟の場面を想定いたしましても,不利益のほうは,従来の部会の議論で指摘されていたように,代表的には赤字取引が挙げられますが,これは,金額,数字の問題として,計数化は比較的容易であると考えられます。そういった不利益が立証されたとした場合,今度は,利益があるということについて,親会社の側に,事実上,立証責任が移されてしまうというのは,実務を踏まえれば,容易に想像されるところであります。不利益が数字で表れて,ある程度明確であるときに,会社が提示する利益がやや漠たるものであるとした場合に,それが裁判所に持ち込まれたときに,果たして適切に裁判所が総合判断していただけるのだろうかということがありますし,それを期待するというのも,裁判所に過大な要求をするということにもなりますし,必ずしもそのような会社の思いが伝わるような判断が出る保証というのも全くないわけです。こういった新しい責任を立法するに当たって,そもそも裁判所にそのような過大な期待をすべきなのかというところも,問題ではないかと思っております。  以前の部会では,委員や幹事の方々から,世の中にはひどい搾取の事例があるという具体的な事例の御指摘もあったわけですけれども,一部の例外的な事例を規制するためにこのような規定を設ければ,グループ経営が中心となりつつある我が国の企業全般に,深刻な影響を与えかねないという危惧もございます。   濫訴について若干付言しますと,もちろん,濫訴の懸念はございまして,補足説明でございましたように,会社が被告であることから,役員個人が被告になる場合ほど,濫訴のおそれを深刻に捉える必要はないという指摘もあるわけですが,我々からすれば,被告が会社であろうと個人であろうと,訴訟の対応の負担というのは大きいわけであります。また,会社にとりましては,評判といいますか,レピュテーションの問題もありますので,会社であれば濫訴の懸念は少ないということは,我々の感覚には決して合わないと思っております。そもそも考えれば,子会社の少数株主は,子会社の役員の善管注意義務違反を代表訴訟で直接訴えることができるわけですから,それを超えて,親会社に代表訴訟の提起を認めるということであれば,濫訴の防止措置ということで,例えば,少数株主権とするなど,何かの手当てがないと,弊害が非常に大きいと考えている次第でございます。 ○鹿子木委員 制度の当否については,意見を申し上げる立場ではないのですが,今,杉村委員からも御指摘がありましたとおり,不利益・利益を判断する上で数値化できない要素があるというのは,よく分かるところであります。親子会社であることによって,いろいろなメリットというのはあるのだと思うのです。例えば,従業員の派遣がされているとか,あるいは,低利の融資がされている,こうしたものは数値化しやすいので,それはそれで判断できると思うのですが,例えば,取引先について保証を親会社がしてくれるとか,あるいは,ブランドの活用で,NTTさんの関連会社だと,信用できるなというので取引がやりやすいとか,そういう数値化できないものというのは,裁判所がどう判断することを想定されているのか,何を期待されているのか,事務当局のお考えになっておられるところを御説明いただければと思います。   それから,もう1点,質問ですが,先ほど,不利益と損害を分けるというのが今回の見直し点とおっしゃったと思うのですけれども,そうすると,損害の判断のほうは,今のグループ会社であることの利益ということは,考慮に入れないということなのでしょうか。その点も,もう一度,教えていただければと思います。 ○坂本幹事 先ほどの杉村委員の御発言とも共通するところかもしれませんけれども,裁判所がどういう判断構造を採るのかについては,私どもとしても,一個一個の要素についてまで,これが幾らとして考慮すべきか数値化するところまでやらなければいけないとは考えておりません。いろいろな事情が出てくるわけですから,それらの事情を総合考慮して,不利益と評価できるかどうかという判断構造になっていくんだろうと考えております。   それと,損害と不利益を分けるということでございましたけれども,損害を認定するに当たって,利益となる事情というのは,当然考慮して判断していくということになってきます。損害の額の算定に当たって,そういうことも考慮して,損害額が幾らなのかということを認定していくことになると考えております。 ○鹿子木委員 なかなかイメージがつかめないのですが,損害の額は,例えば,赤字取引であるならば,本来在るべき取引と比較して幾らが親会社に有利な取引になっているということで額が出ると思うのですが,グループ会社であることによるメリット,例えば,先ほどの親会社のネームを使うことによるメリット,そういうことはきっとあると思うのですけれども,それはどう判断をするのか,何か,5割減額するみたいなことにするのか,その辺りはどういう審理を期待されているんでしょうか。 ○坂本幹事 細かい一個一個の話をしていくと,一般論として議論するのは難しいですけれども,例えば,ブランド使用料のようなものは,算定できるのか,できないのかというところで考えると,実際に,商標侵害のような事例では,現に損害額を算定しているわけですので,算定できなくはないだろうなというところはあろうかと思います。そういう各論的なところは抜きにいたしまして,損害については,今の訴訟実務でも,こう言うと語弊があるかもしれませんが,ある程度,諸般の事情の総合的な評価を踏まえて,ざっくりと差し引く,あるいはざっくりと認定しているというところもあろうかと思いますので,その辺りの判断構造が今の損害賠償に関する訴訟の構造とそれほど大きく乖離するものではないということになっていくんだろうなと考えております。 ○鹿子木委員 そうすると,損害額そのものは,証拠上,明確な金額が認定できるとしまして,諸般の事情を考慮すると,その4割をもって損害と認定するのが相当であるとか,何か,そういうことでいいのではないかということでしょうか。 ○坂本幹事 事案によりましては,そういう判断もあり得るのではなかろうかと思っております。 ○中原幹事 今の鹿子木委員と坂本幹事の論争に割って入るような能力もないのですけれども,私どもからしますと,被告の親会社側で数値化して立証しなければ,責任を負ってしまうというケースが実態として定型的に多くなるとなりますと,濫訴の懸念とか,そうした濫訴の懸念があることを理由として,子会社の取締役からの濫用とか,あるいはモラルハザードといったものをもたらして,グループ経営の適切な実証を阻害し,ひいては親会社株主の利益を阻害するというような懸念も持っているところであります。例えば,今のお話で,ある取引が原価割れで普通の市場よりも2割引きで買っていますよねというので,それが2億ですとかいうようなことで,それで,それによって損害が生じていますよねということを少数株主が主張したときに,親会社のほうとしては,例えば,ウの当該企業集団によってグループに属する利益というようなものを,これは1億ですと,イが1億です,ウが1億です,それで,その他の事情で,これこれ,こういうものがあって,これが1億で,トータルで3億で2億を超えていますので大丈夫ですとかいうような形になるのではなくて,もう少し抽象的な,定性的な判断で,親会社の立証としても許してもらえると考えていいということと理解させていただいてよろしいんでしょうか。 ○坂本幹事 裁判所に対してどれだけ説得的にものを言うのかというところで,どういう主張・立証の仕方をしていくのかというところは,また,別の問題としてあるということは留保させていただきますが,その上で,最終的に裁判所が取引の不利益性を判断するに当たっては,そういうある程度定性的な判断ということになり,その過程においては,先ほど申し上げたような1円単位できっちり積み上げて,あるいは積み上げたものを差し引いていくという判断には,なっていかないのではないかということです。 ○田中幹事 純粋に不明点をお伺いしたいんですが,親子会社間の取引で,例えば,原価割れでずっと販売し続けているという,そして,1億,2億と損失が発生しているということを正当化するときに,親会社にいることのブランドという,そういうすごく抽象的なことでしか正当化できないというのはどういう場合なのか。私は,原価割れ販売が合理的であるという場合もあるんだという話を伺ったことは確かにあるんですけれども,それは,もう作ってしまってから,買い手が付かないという場合に,廃棄するよりはまだ販売するほうがいいとか,そういうときで,その場合は,親会社がその製品を引き取ってくれるという話でして,これは,完全に子会社に利益が出ているんですよね。原価割れ販売に関する正当化というのは,私が伺ったのはそういった話だけでしたので,何か,親会社にいることでブランド価値が上がるから,原価割れでどんどん販売し続けていってもいいんだ,それが正当なのだということで,裁判所も納得できるような場面というのは,どういう場面なのかが少し分からないといいますか,もし,本当にそういうものが納得できないとすれば,何か本当にそういう利益はカウントしてはならないということなのではないかと思いまして,これは,私は,純粋によく分からないことですので,教えていただければ幸いです。 ○杉村委員 必ずしも適切に答えているか分かりませんが,先ほどからのブランド価値などの議論が想定している場面は,親子会社間の取引があるときに,赤字取引は,数字の比較においてプラス,マイナスと客観的に分かりますが,では,何でそんな取引をしたのかと言ったときに,グループに属することによって,そうした取引が成立しているケースがあるということだと思います。何で子会社が赤字なのに取引したのかということにつきましては,グループの中に属していろいろなビジネスを行う過程で,たまたま,この取引に関しては,確かに数字の比較ではそのような条件となりましたというケースのことだろうと思っております。どんどん赤字で売っていって損失が広がるとか,そういうケースとはちょっと違うような気がいたします。そうしたときに,我々のほうで申し上げているのは,グループの中で子会社がそのような取引を決断する背景には,やはり,グループの一員として,大きな戦略がある中での一つのビジネスとして,そこを請け負ったというシチュエーションがあるのではないかということでございます。 ○鹿子木委員 例えば,グループ会社であることによって,材料を仕入れるときに,現金取引ではなくて,例えば,45日サイトとか60日サイトの支払でいいですよというので,あらかじめ仕入れができるということが一つあろうと思いますし,あるいは,何々グループ会社の製品なので,何かあったときには最終的にきちんと責任をとってもらえるだろうというので,販売先にも,特段の交渉なく有利な販売ができるといったことは,きっとあるのではないのかなと思うのですけれども,なかなか,数値化が難しいので,そういうのをどう判断したらいいのかなというのが,質問したかった趣旨です。 ○伊藤委員 例えば,今の原価割れの話なんですけれども,通常,ビジネスをやっているときに我々が比較対象とするのは,コンペティターがこういう価格だから,これでなければいけないという価格が出てくると思うんです。要は,相手あってのことであって,グループ会社から何かを仕入れるときに赤字覚悟でやらなければならない。例えば,グループ会社の子会社の稼働率ということを考えると,赤字でもやったほうがいいと判断する場合があるんですよね。我々が原価計算するときにいろいろな経費を按分していくんですけれども,取れないよりは取っておいて,全体の原価を安く下げようと,そういう判断の下で我々もやったことはございます。多分,相手あってのこと,例えば,悪い例で言えば,テレビを作っていらっしゃる方が全てほとんど赤字になってしまったのが,ある大きな量販店さんに納めるときに,こういう価格でなければいけないというので価格を抑えられてしまって,結果的に日本の産業を支えたテレビの方々が今回全部赤字になっているというのを見れば,明確だと思うんですけれども,それは,仕入れ先の方がこれでなければ駄目だよと言ったら,32インチが5万円の仕入れが4万円とか3万円になってしまったり,そういうことが起きているのではないかなと思うんですけれども。 ○田中幹事 これからも更に御意見があればお伺いしたいんですけれども,今までのお話ですと,まず,伊藤委員のお話は,恐らくグループ取引とは直接関係ないのではないかと思います。どのような取引でもそういうことは起こり得る,つまり,企業は市場で競争をしているのですから,その値段でしか売れない,勝てないということは確かにあります。それは,特に親会社に売るということに固有の問題ではないのではないかと。ですから,そのことを正当化するのに,グループに残っていることの抽象的な利益ということを言う必要はないのではないか。その値段で売らない限り競争に勝てないので,原価割れ販売をするということは,別に親会社との取引に固有の話ではありませんから,現在の制度においても,会社の取締役が代表訴訟で訴えられる可能性があるわけで,その場合には,市場の競争状況によってそうならざるを得ないといって抗弁するほかないのではないでしょうか。少なくとも私の認識では,そのような事件において,それが理由に過酷な責任を取締役が問われたという事案を私は見たことがないんです。   それから,杉村委員のお話は,グループにいることの利益というのは,漠然とした概念を持ち出さなくても,例えば,5年とか10年ぐらいのスパンで取引状況も決めていますというような,もっと具体的な形で反論を出せる話なのではないかと思いまして,グループに残っていることの利益という非常に抽象的なものでしか正当化できないような取引条件だとすると,何か逆に問題なのではないかという疑問を少し持っております。そうは言いましても,私も,全て取引のことをよく知っているというわけでは決してありませんから,どうしても取引の実態的な内容を知らなくて,過酷な責任を課されてしまうというようなこともあり得るかもしれませんので,そういったことを考えて,例えば,代表訴訟の要件を少数株主権化するとか,そういったことは十分あり得るのではないかとも思っておりますけれども,グループに残ることの利益という非常に抽象的なことを言わなければ正当化できないような取引があって,かつ,それは正当化される,それは代表訴訟による責任追及から守らなければならない取引であるという前提自体が本当にそうなのかというのを私は疑っておりまして,発言させていただきました。 ○杉村委員 補足になるかどうかは分からないのですけれども,グループに属していれば,例えば,グループの中でのR&Dの成果といった技術的なものも得やすいでしょうし,あるいは,グループ間の取引であれば,リスクの問題も,グループ外よりははるかに少ないですし,信用調査などリスク管理に掛かるコストもすごく低いと言えると思います。あるいは,秘密保持など,そういう危険性についても,グループ外とは異なるということで,それはメリットだと我々は理解をしております。こうした点について,グループに属しているからこそ,そういうことができるのであるということを裁判でどう主張していくのかというところが非常に難しく,計数化は困難であるということを申し上げている次第です。 ○齊藤幹事 損害の認定についてのお答えにはなっていないのですけれども,このようなグループに属していることによって,一見不利益であるようなものも,場合によっては合理性があるかもしれないというもので,よく諸外国の企業結合法制で問題になりますものに,子会社が持っているキャッシュを中央で管理するキャッシュ・マネジメントの仕組みというものがございます。子会社は,それぞれ業務として,何かを販売していたり,作っていたりするわけですけれども,そこでキャッシュが余った場合に,そのキャッシュを親会社なり特定のグループ企業に集めて,それをグループ内で足りないところに回して融通を図るというものでございまして,その場合に,第三者に貸し出すときよりも,緩やかな条件で資金を吸い上げられるというようなものが,どこまで適法かというようなことが議論されることがあります。例えば,ドイツにおいては,そういう仕組み自体に合理性がないわけではないとは考えられておりますが,ドイツの場合,企業結合法制は,現提案とは少し違いますが,子会社にとって不利益と評価すべきかどうかが議論になっており,キャッシュを中央に集める仕組み自体が直ちに不利益と判断されるわけではないけれども,例えば,子会社の資金繰りが危うくなるようなぎりぎりのところまでは吸い上げてはいないとか,様々な条件を満たした場合ではないと不利益ではないとは言えないというような議論がなされていたりします。そういうキャッシュ・マネジメントは,貸し手の子会社には一見不利益であるようだけれども,その会社が危機に陥ったときには,また,それによってメリットがあったりするわけですし,子会社が何かを作っている会社で,親会社を通じて販売をしていたりいたしますと,販売先がある程度,親会社のブランド価値等によって確保されるというような,グループに帰属していることからメリットを享受していることもありまして,それをどうやって差し引きするのかが非常に難しい問題として,この規定ができたら,日本でも現れてくるだろうというところまでは指摘できるかと思います。実際にどう解決するかというのは,ここですぐにお答えすることはできないんですけれども。 ○伊藤委員 先ほどの田中幹事からの問い掛けについて,答えになるか分からないんですけれども,例えば,僕が言うコンペティターというのは,まず,最終製品の市場というのがございまして,我々がメーカーとして参入している市場の中に,他社からものすごく安いものが仮に出てきた,これが,だから,最終製品のまず競争というものがあるではないですか。今度,厳しい製品価格に対して部品を構成していく上で,各々の見積りを取るわけですよね。ある主要部品があって,この部品は幾らで作らなければならない。自社のグループ会社に頼んだら幾らだったと,では,これをうちに所属していないグループ会社以外から買ってみたら実はこうだったと,となると,安いほうを採るではないですか。このお話の中で,全体的にグループ会社にいるブランド・メリットというお話もありましたけれども,それだけではなくて,グループ会社を生かしていかなければならないメリットというのは,親会社にも当然あるんですよね。となると,グループ全体で効率化を図ったら,そのグループ会社の部品を今の会社ではできないんだけれども,ほかから取った見積りと同じ価格に合わせる,やはり,こういう部分は,当然安くてもいいではないか。田中幹事は,それは罰せられないとおっしゃったけれども,そういう説明をすれば,そういうことになるのでしょうけれども,結果的に赤になってしまうような部分というのは,出てくるのではないかなというのを感じるんですけれども,そんな感じで。 ○上村委員 今の議論は,それなりに面白い議論だとは思うんですけれども,ここが数値化されないと,制度そのものをやめてしまえという話になぜなるのかがよく分からないんですね。損害賠償の話でしたら,そもそも,取締役の対会社責任の軽減について,2倍,4倍,6倍というのがありますけれども,あれは随分ひどい制度で,重過失だったら800億だけれども,軽過失だったら数千万とかになるのですね。重と軽だけでこんなに違う。そういうひどいのを経済界は放置していて,何で,ここで一所懸命細かい議論をしているのか,私にはよく分からないですね。   この度の商法改正は,大ざっぱな話で恐縮ですけれども,規律面の改正は,18年ぶりなんですね。日本が資本市場と対決するような非常に取扱い困難な会社法を作ろうとしなければいけないときに,むしろ,病人対策ばかりを優先させて規制の緩和ばかりをしてきたわけです。18年前も,代表訴訟の改正ですけれども,印紙が2億円掛かるという話を,それはやめようではないかという改正でして,当たり前と言えば当たり前の改正なんですね。その間,諸外国では,様々な不祥事もありましたけれども,様々な規律面の改正をしているときに,何もしてこなかった,日本は。そして,今やどうなっているか。私は,経済界のために心配しているのですが,諸外国の人が日本に来ると,自分の国だったらやってはいけないことでも日本ならできると,こういうことになっている。ガバナンスのチェックは弱いし,親会社の責任はないし,スティールみたいに,100%買うぞというようなことも平気で言える。アメリカだったら,100%買ったら,もちろん,経営責任がありますよね,労働者に対する使用者責任もあるわけです。それがないから安心して,日本では好き放題やって,利益を持ち帰る。   私は,前に,ある会議の座長をやったことがあるんですけれども,外国の金融界の人が来て,日本は銀証分離だから,いろいろ手続が面倒で困る,一本化してくれと言ってきました。私は,お宅のようにユニバーサル・バンクでやっていけるのは,いわゆるジェントルマンズ・ルールというか,共同体の規範意識が極めて高い,だから,ユニバーサル・バンクでもやれる。それなら,ヨーロッパの行為規範を日本でもそのまま守ると宣言してくれないか,ヨーロッパと同じように,業界から追放するとか,そのぐらいのことをすると宣言するのだったら,日本も考える必要があるかもしれない,と言ったら,それは,成長に伴う痛みだというのですね。要するに,その程度の未熟な国なんだからしようがないだろうということなのです。こう言われて,私は,頭にきました。こう見えても,私は結構愛国者ですから。結局,支配株主の責任についても,その他の問題でも,そこそこ欧米並みの水準のルールを持っていませんと,外国のルールは域外適用されるけれども,日本は域外適用できない。つまり,そこそこの法的対抗力を持っていないと,国益を守れないのではないですかね。   私は,経団連の戦後の商法改正意見を弟子に調べてもらったことがあるんですけれども,それをどこかで公表したこともあるんですけれども,見事に,反対したことが5年後ぐらいに実現するという歴史です。見事に先見性がない。欧米に対応するそこそこの水準のルールを持とうとする意思を持つべきではないかと私は思います。アメリカは,いろいろなことが自由ですけれども,規律もすごく厳しいですね。ヨーロッパは,本当にジェントルマンズ・ルールというか,そういう共同体の規範意識が極めて厳しいです。どちらも持たないで自由だけを追求して,今ここに改正を必要とするような立法事実があるかないかばかりを言っている。要するに,不正が起きてどうしようもないような事態がくるまで待っているのと同じような主張をしているというのは,責任のある対応ではないのではないか思います。この問題に限りませんけれども,社外取締役は要らない,多重代表訴訟は嫌だ,親会社の責任は要らない,これも要らない,あれも要らないということで本当にいいのか。経済界は,幹部たちは,本当に長期的に日本の企業社会の将来を考えて,いろいろ意見を言っているのかどうか,その辺は非常に疑問に思います。一方的な意見で恐縮ですけれども,感想だけ述べさせていただきました。 ○伊藤委員 一応,商工会議所としての意見として,杉村委員同様,私も,この規定の導入は反対でございまして,部会に出ていれば,補足説明で,規定が,親会社等の責任が生ずる場面を相当程度限定しているということは理解できました。しかし,今,数値化しようとかいう不利益という部分,この文言自体がすごく広い概念を想起させるものだと考えております。親会社が子会社の利益を吸い上げるような事例に限定するような趣旨であれば,著しい不利益とか,不当な不利益とか,何か,そのような文言を用いたらどうなのかなというのを考えております。合弁会社でこのような規定が逆に嫌がらせの目的で使われることも懸念をしております。 ○中原幹事 最後に一言だけ申し述べさせていただきたいのですけれども,上村委員から御提起いただいたような根本にあるフィロソフィーそのもの,資本市場をきちんとしたものにしていかなければいけないということ自体については,異論はないところだとは思うのですけれども,親子間で利益相反が果たして現在の日本において深刻なのかということについて,立法事実という観点からいきますと,早稲田大学の宮島教授等の御研究では,それほど深刻な事態は起きていないとされており,立法的な手当てをしなければならないほど深刻なのかというと,必ずしもそうではないのではないかとも思われます。そうした前提を踏まえますと,新たな規律を設けるかどうかを検討するに当たり,どこまで被告株式会社で数値化を立証しなければいけないかうんぬんという点について不明確な解釈を招来するのであれば,こうした規定を設けることについては慎重に検討されてしかるべきだと存じますし,田中幹事から御指摘がありましたように,仮にこの規定ができた暁に,全部,100%子会社化するというようなことになったとしたら,投資家に魅力ある投資機会を十分に提供できないことになり,きちんとした資本市場からはかえって遠ざかっていかないか,果たして実態として日本人を幸せにしないのではないかという問題もあるかと思いますので,その場合には,何か,田中幹事に御指摘いただいたような案ですとか,私が先般来申し上げているような,独立役員の機能を何か847条のところにかます等々の工夫は,是非していただきたいなと考えております。 ○岡崎幹事 今回の事務当局の御提案の②のところに,ア,イ,ウ,エという考慮要素を挙げていただいているところを踏まえ,また,先ほど杉村委員,齊藤幹事,伊藤委員からグループ会社の中でどういう場合にウのような利益のケースがあるのかについて御紹介を頂き,仮にこれを裁判所に持ち込まれたときに,どのような判断になるかということを想定したときには,この利益というものは,先ほど坂本幹事がおっしゃったように,かなりざっくりとした認定をせざるを得ないのではないかと感じるところでございます。実際,利益にしても損害にしても,特に損害についてこれまで損害賠償訴訟の中でどう認定しているかというと,ここでの例として適切ではないかもしれませんけれども,詐欺的な商法に遭ったという取引的な不法行為の中で詐欺的な商法に遭った側にも大きな落ち度があったというときに,そのような落ち度をざっと認定をしまして,これらを総合的に考慮すると,損害額の何割をもって本件の損害と認めるのが相当であるなどとして,過失相殺を相当ざっくりとやるというのが実務でございます。それとちょっと似たようなところがあるのかなという印象を持ちました。   そこで,先ほど伊藤委員の御発言があり,部会資料23にも挙げられているのですけれども,不利益のところに,程度が著しい場合というようなことを盛り込んではどうか,又は,例えば,子会社にとって一方的に不利益であるというような,対価性がないといったニュアンスが出るような文言を入れることが,工夫のしどころとしては考えられるかとも思います。「著しい」という文言が入りますと,厳密な数値化にはなじまない表現になってくると思いますので,大ざっぱに見てかなりの問題のある取引だということで,大きなところでざっくりと認定するというようなことが文言上から窺われ,裁判所の立場から実際の事実認定ということを考えたときにも,審理はスムーズにいくのではないかと考えた次第でございます。 ○藤田幹事 議論を長引かせるのは大変恐縮なのですけれども,一部の委員から「著しい」という言葉を入れるというふうな提案がありましたことの関係で,中身もそもそも分からないまま終わらせたくないものですから,確認させていただきたいと思います。「著しい」というのを入れるということは,部会資料23で,「利益相反取引……以下『不利益取引』という。」,これは,全部外した上で,「著しい」一本にするということでしょうか。著しく不利益な取引あるいは一方当事者に一方的に不利益な取引一本でやるというのは,これまでこの部会でも出てきた考え方で,それはそれで一つの案として分かるのですが,これまでの議論では,「著しい」というのでは余りにも不安定だからということで,それよりはましだろうということで,何もしないよりもっとひどい内容の取引という基準で,「著しくひどいもの」を拾おうとしてきたわけです。更にそれに「著しい」をかぶせるという提案だとすると,何か過剰なような印象を受けます。ただ,いずれにせよ,「著しい」と言われていた御提案がいずれの趣旨なのかというのは,かなり重要なポイントだと思い,確認させていただかなくてはいけないことかと思います。   次に,少し前のやり取りを聞いておりまして,田中幹事が指摘されている問題との関係で,幾人かの委員から出された答えがかみ合っていないような印象を受けました。グループに属することによってもたらされる利益というのがあり得ることは全くおっしゃるとおりだと思いますし,それが数値化しにくいということもおっしゃるとおりだと思うのですが,ポイントは,そこではなくて,数値化できないから何か非常に困るかということです。何もやらないよりましという形で定義されている「不利益取引」をやっておいて,それを正当化するために,そういうものまで持ち出さないと困るようなことは,どのぐらいあるのですかというのが田中幹事の聞かれているポイントです。そもそもが規制の対象の取引が非常に狭くなっていることが前提で,それとの関係で数値化できない「グループに属することによる利益」というのがあり得ることが,どこまで取引を害するかというと,それに対する答えは,余り具体的なものがなかったような印象を受けています。原価割れ販売をしてでも売らなくてはならないケースがあるという話は,そもそも,「グループに属することによる利益」などを持ち出さなくても,競争のために必要という説明で十分な話だと思いますし,齊藤幹事が出されたキャッシュ・マネジメント・システムも,そもそも「不利益取引」の要件を満たしていないような気がします。得べかりし利益的なものはカウントしないということですので,ほかの融資等と比べて利率が安いということだけだと「不利益取引」とはならないのではないかと思います。そうすると,今まで挙げられてきた例は,いずれも入口の要件のところではねられるものばかりであって,そういうものを正当化するために,数値化できない利益があることがどこまで必要なのか。グループ内取引が危機的なことになって,日本中の会社が100%子会社になってしまうような,そんな話なのかということは,余り誇張し過ぎないほうがいいかと思います。   ただ繰り返しですが,仮にその懸念があるとしても,「著しい」とかぶせるというのは,「不利益取引」の代替案としてそういう文言にするのか,今の「不利益取引」の定義を維持した上で重畳的にかぶせるのか,後者であるとすると,幾ら何でも過剰かなという印象は持っております。前者であれば,裁判所の負担がかえって重くなるような気がするのですが,そのほうが使いやすいというのであれば,考えられる選択肢として私はありだとは思います。 ○内田関係官 部会資料23の意図といたしましては,今までの御議論の蓄積を踏まえて,得べかりし利益の分配というようなものが入ってくると,それ自体で判断が難しく,萎縮効果も生ずるというような議論がベースになっているものですから,今,藤田幹事が御指摘になった二つの考え方のうち,どちらかと問われますと,今まで御議論いただいていた,取引がなかった場合と比較して不利益という基準を前提としつつ,これに上乗せして更に限定を掛けるという意図で,この部会資料23は取りまとめている次第でございます。ただ,もちろん,論理的には両方あり得るというのは,御指摘のとおりかと思っております。 ○齊藤幹事 先ほどちょっと言葉足らずでありましたけれども,キャッシュ・マネジメント・システムについて,私が申し上げようといたしましたのは,それ自体で不利益であるというわけではなく,その取引を個別に見たら不利益に見えるけれども,合理性があると認められる場合があること,ただ,外国の議論においては,企業グループ資金の中央管理の体裁をとっていれば全て問題ないとされているわけではなく,子会社にとって甚だしく不利な仕組みは,日本のこの規定であっても違法になる場合もあり得るのではないかということでございました。 ○岩原部会長 たくさん御意見を頂きましてありがとうございます。グループに属することによって利益がある場合があることは十分あり得ると思います。その中には数値化しにくいものもあり得ましょう。そのようなことも十分に考慮するということについては,多くの方のお考えはそれほど違わないのではないかと存じます。そこで,今までの御議論の中で具体的に一番本当に問題になるのは,そういうことを具体的な損害額を認定する上で,どのようにして裁判所としてはうまく反映できるかという鹿子木委員や岡崎幹事の御指摘かと存じます。そこについては,かなりざっくりした解決をせざるを得ないのではないかと,坂本幹事はお答えをされていたと思います。実際,そういう運用になるのではないかと思います。それをうまく表現する表現ぶりとして,十分に考えた上で,この案は,私は作られていると思いますが,御懸念をなお強く持たれている方がいらっしゃる中で,多くの方がなるべく不安を抱かれないような表現ぶりとして,なお改善の余地があるかということにつき,事務当局に更に考えていただくということにさせていただきたいと思います。よろしいでしょうか,そういうことで。   それでは,先に進ませていただきます。次は,第2の「2 親会社等の不法行為責任の追及の実効性を確保するための規律の見直し」でございまして,事務当局から説明をお願いいたします。 ○内田関係官 それでは,「2 親会社等の不法行為責任の追及の実効性を確保するための規律の見直し」について御説明いたします。当部会においては,仮に1のような明文の規定を設けないこととする場合には,親会社等の不法行為責任の追及という現行法上の少数株主保護の方策がその機能を適切に果たし得るようにする観点から,現行法の規律を見直す必要があるとの指摘がされています。具体的には,第1に,親会社等との利益相反取引に関し,取締役の任務懈怠によって株式会社に損害が生じた場合には,親会社等が故意又は過失によって当該任務懈怠をさせたものと推定することや,第2に,親会社等との利益相反取引に関する親会社等の不法行為に基づく損害賠償責任を会社法第847条第1項の責任追及等の訴えの対象とすることが考えられます。   このうち,第1の点に対しては,そのような法律上の推定が働く理由が明確でないとの指摘や,親会社等との利益相反取引によって子会社が不利益を受けた場合に,逐一,子会社取締役の任務懈怠を通して親会社の責任を考えるのは,迂遠であるとの指摘がされており,そのような迂遠な法律構成を主たる責任追及の方法と位置付けることが適切かどうか,慎重に検討する必要があると思われます。   また,第2の点につきましては,規律を見直す必要性があること自体について,強い異論は出されていませんが,株主代表訴訟制度の濫用のおそれがあるとの指摘がされています。この点については,先ほどの1の本文の④の点と同様に,濫訴のおそれをどのように考えるか,検討する必要があるものと存じます。   本文は,以上を踏まえまして,親会社等との利益相反取引に関する親会社等の不法行為に基づく損害賠償責任を,会社法第847条第1項の責任追及等の訴えの対象とすることについて,どのように考えるかを問うものでございます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。それでは,この点についての御意見を頂きたいと存じます。いかがでしょうか。 ○杉村委員 不法行為責任というかなり広範な概念につきまして,株主代表訴訟の対象にするというのは,過度に濫用の危険性が高い手当てであることが懸念されるところであり,このような見直しには反対でございます。代表訴訟につきましては,先ほど来の議論と重複する課題でありますけれども,この部会の中でも,たった一人の株主の提訴に関する判断を尊重して,最後まで付き合ってしまう制度になっているのではないかというように,我が国の代表訴訟制度自体の抱える問題の指摘もあったと認識をしております。今日の議論でも,濫訴について様々に指摘されておりますので,代表訴訟制度を次々に拡大するといいますか,適用範囲を安易に広げるということは,すべきではないと思っております。 ○岩原部会長 なお,これは,1のほうの親会社等の責任に関する明文の規定を創設しないこととした場合の提案ですね。それを前提に御意見を頂きたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○伊藤委員 親会社が不当に子会社の資産を吸い上げるような行為を行った場合は,これに対して不法行為責任を認めることについては,反対はいたしません。今回の部会資料23の補足説明にある①の不法行為責任の推定規定は,検討から外れたものと認識を今回しております。この点を評価いたしまして,今回の提案のように,これを株主代表訴訟の対象にするということは,濫訴の懸念が極めて高いため,慎重な検討が必要なので,よろしくお願いいたしたいと思います。 ○岩原部会長 ただいまの御意見は,いずれも,そもそも代表訴訟制度そのものに対する御異論ということかと思います。ほかにはないですか。そうしますと,代表訴訟制度そのものをいじらないのであれば,特に反対ではないと理解してもよろしゅうございますか。   分かりました。それでは,もし1の制度を設けないのであれば,代表訴訟制度一般に関する御議論はありますけれども,現行法を前提にすれば,2のような考え方があり得るということかと思います。   それでは,先に進ませていただきたいと思います。次に,「第3 特別支配株主の株式売渡請求」に移らせていただきます。まず,「1 対象会社の範囲」について,事務当局から説明をお願いいたします。 ○内田関係官 それでは,「第3 特別支配株主の株式売渡請求」のうち,「1 対象会社の範囲」について御説明いたします。当部会では,全株式譲渡制限会社においてはキャッシュ・アウトの必要性が小さいこと,株式の価値の評価が困難であること等を理由に,株式売渡請求の制度における対象会社から全株式譲渡制限会社を除外すべきであるとの指摘がされています。もっとも,全株式譲渡制限会社を対象会社から除外すべきとする立場からも,全株式譲渡制限会社においてもキャッシュ・アウトの必要性自体は存するとの指摘がされています。また,株式の価値の評価の点は,他の手法によるキャッシュ・アウトにおいても異ならないところです。そして,当部会においては,株式売渡請求の制度においてのみ全株式譲渡制限会社を対象会社から除外することは,現行法上の他の手法によるキャッシュ・アウトが全株式譲渡制限会社についても可能とされていることと整合せず,合理的な説明は困難であるとの指摘がされています。   本文は,以上を踏まえ,株式売渡請求の制度において全株式譲渡制限会社を対象会社から除外しないことを提案するものでございます。なお,当部会における議論を踏まえますと,対象会社が全株式譲渡制限会社である場合には,株式売渡請求による売渡株式の取得の無効の訴えの提訴期間は,取得日から1年間に伸長することが考えられます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。それでは,全株式譲渡制限会社を対象会社から除外するかどうかについては,3月の部会でもいろいろな御意見を頂いたところでございますが,いかがでございましょうか。 ○伊藤委員 これを主張しているのは我々だけだと思うんですけれども,前回も申し上げましたけれども,全株式譲渡制限会社は,キャッシュ・アウトの対象会社から除外すべきだと考えております。上場会社を念頭に置きますと,この制度によって迅速な取引を行うことが可能となり,ひいては,MBO取引の強圧的な問題が生じにくくなることについては,十分に理解しております。他方,全株式譲渡制限会社を一律に対象とした場合,企業によっては,本制度による不必要な権利行使によるトラブルが発生してしまう懸念があると思われます。   それから,株式価値の算定が困難な企業である場合に,例えば,不適切な対価で少数株主を追い出すとかの濫用をされてしまう可能性があるのではないかなと思います。現状の略式組織再編において,9割以上の議決権があれば株主総会の省略が可能であることとの整合性から,全株式譲渡制限会社を対象から除外しないとする考えは理解できます。この制度は,租税上の問題から,キャッシュ・アウトにおいては利用されていないと私どもは聞いております。このため,株主総会によらないキャッシュ・アウトの弊害が顕在化していない可能性があります。新しい制度を導入すれば,この弊害が顕在化する可能性,また,おそれがあります。そのような制度と今回のキャッシュ・アウトの間での整合性をとる必要はないのではないかなと思われます。   また,専門家の方々からは,この件に関して,現在でも,募集株式の発行については,公開会社と非公開会社の間では,異なった法規制が採用されていると伺っておりまして,新株発行ならば株主総会を省略できないのに,キャッシュ・アウトならば株主総会を省略できるというのは,バランスを失しているなと感じておりますといった意見も聞いています。以上を踏まえて,多種多様な閉鎖会社に対して,このような規定を一律に導入することは,予想し得ない反応を引き起こすおそれがあるので,反対であります,ということを意見とさせていただきます。 ○齊藤幹事 私も,反対をしていた者の一人なのですけれども,しかしながら,私が反対している問題意識は,既に現行法の株主総会を使ったキャッシュ・アウトにおいて,全株式譲渡制限会社とそれ以外は形式的には区別されていない点においても生じている問題でございますので,ここでだけ頑張っても,というような気持ちもいたしております。全株式譲渡制限会社かどうかにかかわらず,閉鎖的な会社と上場会社において,規律を異にすべきではないかという問題意識でございますので,この制度でのみ線を引くということは,説明が難しいというのは,おっしゃるとおりかと思います。   ただ,この御提案を支持し得るのは,その前提といたしまして,無効事由については比較的広い解釈の余地を残すということがあります。それから,ここで議論をして解決する問題ではないのですけれども,実際に少数株主が泣き寝入りしないように,多くの方に頑張っていただきたいと思います。詐害的会社分割につきましては,幸いにも声を上げる原告の人たちがたくさんいましたので,議論が深化をして,速やかな裁判所による対応と立法による修正の提案がなされたわけですけれども,この制度の場合は,中小企業の少数株主がどのくらい,法的なアクションを起こすかということについて,いささか心配をしているところでもございます。問題がなるべく法廷で取り上げられて議論が深化していく形で,無効事由が精緻化していくように願っています。 ○中東幹事 私も,伊藤委員と同じ立場でいましたが,齊藤幹事の意見に賛成させていただきたいと思います。ただ,可能なのであれば,特例有限会社だけは対象外にしていただきたいと思っています。この間,特例有限会社は,法改正の大きな影響を受けてきたこともございますし,特例有限会社については,株式交換ができないということになっており,組織再編行為の中で最も売渡請求制度に似ているものが使えないということになっていますので,特例有限会社は除外するという形で会社法整備法の改正をお願いできればと思っております。 ○坂本幹事 先ほどの伊藤委員の御意見は,反対ということで,現行法の現金株式交換は税制との関係で使われていないではないかという御指摘がございましたけれども,これは,税制の関係で事実上使われていないというだけでございまして,法制度としては存在するというのもまた事実です。税制が変われば使われる余地があるということになってまいりますので,そういう意味で,9割を取ってしまえば,株主総会を開いても,結局通ってしまうから,そこはあえて株主総会を開かせる必要はないのではないかというところは,この場面でも同じであろうと思っております。   濫用してしまう危険ということでございますけれども,それを言ってしまうのであれば,極論かとは思いますけれども,キャッシュ・アウト自体,そもそもできないことにしてしまわないと,本当は整合性がとれないんだろうと思っております。しかしながら,さすがにキャッシュ・アウトすることの意義自体までは,否定しておられるわけではないということは,また,承知しているつもりでございます。そういった現行法との整合性等を考えますと,全株式譲渡制限会社であるからといって,この制度を使えなくするということは,理屈の問題として説明しづらいだろうと思っております。   加えて,先ほどの不必要な権利行使によるトラブル―端的に言うと,自らが濫用してしまう危険ということかと思いますけれども―への対策として,制度を一律に使えなくするということについては,過剰な対応策ではなかろうかと思っております。制度として創設する以上,不適切な形で使われるというのは,本意ではございませんので,その辺りのところにつきましては,正に商工会議所を含め,関係当事者の皆様と協力させていただきながら,不適切な使われ方をしないように,制度の本来の趣旨・目的の周知徹底に努めさせていただきたいと思っておりますので,そういう方向でお願いできればと思っている次第でございます。 ○伊藤委員 絶対に勝ち負けで考えたら負けてしまうんですよ。ですけれども,必ず総会を開くと,中小企業にとって少数株主の心情的な部分,こんなのが何になるかというお話,それと,後はよからぬ弁護士さんが,相続は簡単にできますと,仮に電車の中に一杯シールが張られる,何かそういうものが懸念されるというので,その辺を考慮していただければ有り難いなと。 ○上村委員 これは,ここまで来ていると坂本幹事がおっしゃるように,また抗し難いかなと齊藤幹事もおっしゃったのですが,元々,譲渡制限会社の場合には,新株引受権が法定されていたのですね。そして,定款変更とか,場合によっては他の場合でも頭数の多数決をやって,その上で資本多数決をやるというやり方が肯定されているわけです。その精神は,僅かの株主でも,小規模閉鎖会社の場合にはいろいろな形での貢献の仕方があり得るから,単に資本多数決だけでは一刀両断にはしない。そういう精神があると思うんですね。キャッシュ・アウトというのは,そういった精神からはかなり反しているなという感じもします。僅かしか株式を持っていなくてもその存在意義を認める会社なのですから。そこで,最低限,具体的な対応によっては,齋藤幹事がおっしゃったように,動機・目的によっては無効だということを,かなり一般的に認めていく必要があると思います。 ○坂本幹事 先ほどの齊藤幹事と今の上村委員の御指摘でございますが,前回,キャッシュ・アウトを議論したときにも,確か,無効の範囲はどうなのかという御質問が出て,お答えさせていただいたかと思いますけれども,恐らく,株式の発行の無効,あるいは,もっと言うと,組織再編の無効よりも,無効事由は広くなってくるという余地は,十分にあり得ると考えております。改めてそこは確認させていただきたいと思います。 ○岩原部会長 よろしいでしょうか。総会決議を経ないことによって,多数決濫用による決議取消しというチャンネルは使えないけれども,その分,無効事由を広く考えていこうというのが,今の坂本幹事の御指摘かと思います。よろしいでしょうか。   それでは,この問題については,伊藤委員の御指摘もございましたが,その他の多数の委員・幹事の方は,部会資料23のような方向で基本的には考えていらっしゃると受け取らせていただきました。その上で,伊藤委員の御懸念のようなことについては,事務当局で十分それを受け止めて,立法化を進めていただきたいと思います。それからあと,齊藤幹事や中東幹事の御指摘のあった点については,これは,言わば,この制度だけにとどまらない,キャッシュ・アウトを認める制度一般の大きい問題になってきますので,それは,そういう枠組みの中で今後,考えていくということになるかと思います。   それでは,先に進ませていただきまして,次に,第3の「2 売渡株主に対する通知等」に移らせていただきます。まず,事務当局から説明をお願いいたします。 ○内田関係官 それでは,「2 売渡株主に対する通知等」について御説明いたします。株式売渡請求に関する売渡株主への通知につき,対象会社が公開会社である場合に,公告による代替を認めることに対しまして,当部会においては,売渡株主の知らないうちにキャッシュ・アウトの効力が生じ,価格決定の申立期間も経過してしまうという事態が生ずることへの懸念が示されています。そこで,このような懸念に対してどのように対応するべきか,検討する必要があるものと存じます。   この点について,当部会においては,対象会社が公開会社であっても,公告による代替を認めず,常に売渡株主に対する通知を要するものとすべきであるとの指摘がされています。このような指摘を踏まえ,当該通知が売渡株主に対する個別の意思表示に代わる機能をも有することをも考慮しますと,公告による代替を認めないものとすることも考えられるところです。この場合でも,対象会社は,通知の時点における株主名簿の記載に従って通知を発すれば足りることになると考えられるため,キャッシュ・アウトに掛かる時間的・手続的コストが不当に増大することにはならないとも思われます。もっとも,振替株式については,株主名簿の記載は,その時点における真の株主とは必ずしも一致せず,株主名簿に記載された株主に通知を行う意味が乏しいことから,振替株式を発行している会社における一定の通知については,社債,株式等の振替に関する法律第161条第2項において,公告による代替が義務付けられています。売渡株主に対する通知についても,これと同様の趣旨が妥当しますので,対象会社が振替株式を発行している会社である場合には,公告による代替を義務付ける必要があると考えられます。   また,公告による代替を認めることに対する懸念への対応としては,公告による代替を認めないものとすることが当然に必要となるわけではなく,これとは別のアプローチとして,売渡株式の取得が行われたことを売渡株主が知り得るときから一定期間にわたって価格決定の申立てを認めることでも足りると思われます。そこで,対象会社が公開会社である場合に,公告による代替を認めることとする場合には,公告による代替がされた場合における価格決定の申立期間を,例えば,売渡株式の対価として交付される金銭に係る弁済の提供がされた日後20日間を経過する日までの間に伸長することについても,検討する余地があるものと存じます。この場合には,当該金銭の交付は,取得日の前日に株主名簿に記載又は記録されていた住所又は株主が別途通知した場所において行うべきものとするなど,配当財産の交付方法等に関する会社法第457条等の規律を参考にした規律を,併せて設ける必要があると考えられます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございました。「2 売渡株主に対する通知等」についても,3月の部会でいろいろな御意見を頂いたところでございますが,いかがでございましょうか。 ○杉村委員 この点に関しましては,前回の部会でも述べましたとおり,公開会社のほかの制度と同様に,公告による代替を認めるべきであると思います。部会資料23の補足説明では,そうではないとしたときに,2と,それから3と,二つ提案があると思うのですが,その二つのうちであれば,多数の株主がいる中で実務の安定性を確保するという観点を踏まえますと,前者のほうの,振替株式について記載されている提案を支持したいと思います。 ○田中幹事 前回,通知を強制することを考慮すべきではないかと言った立場から申し上げますと,基本的には,私は,第1案でいいのではないかと考えております。すなわち,振替株式は,事実として公告しかできない仕組みであるということもありますけれども,それ以外に,振替株式の発行会社は上場会社であって,公告による周知というのもかなりできるのではないかということと,それから,この制度が使われる場面を考えると,二段階買収の形で,初めにTOBをして,そして,二段階目の取引でこのキャッシュ・アウトを利用するということですから,キャッシュ・アウトされるということは,既にその会社の株主は分かっていると考えられます。そこで,振替株式すなわち上場株式に関しては,公告で足りるものとする。これに対し,公開会社であっても上場されていなくて,株式がそれほど流通していないというケースもあろうかと思います。そのような場合には,実のところ,私は,キャッシュ・アウトの制度を考えていたときに,二段階買収の二段階目での利用以外は,それほど具体的なイメージを持っていなかったということもありまして,それ以外の場面で,通知のコストを節減しても,どんどんやってくださいというほどのことではないのではないかと思っておりまして,そしてまた,これまでも議論されているように,濫用の危険性というのも否定できません。そうしたことを考えますと,公開会社においても,上場株式すなわち振替株式を発行している会社以外は,一般的に通知を要求するという制度でよいのではないかと考えております。 ○前田委員 私も,売渡株主に対する通知等については,売渡株主が受けるおそれのある不利益の大きさに照らして考えますと,公告による代替は認めず,通知を要するとするのが適切であると考えていたのですけれども,ただ,振替株式については,補足説明にございますように,公告によらざるを得ないのですね。今,田中幹事からは,上場会社だから差し支えないという御意見もあったところですけれども,幾ら上場会社とはいえ,公告だけで売渡株主の保護が十分かという懸念が残りますし,また,振替株式以外の株式の扱いと随分均衡を失してしまうことになります。かといって,過去の一定時点の株主に権利行使させるという場面ではありませんから,総株主通知でも対応しにくいところだと思うのですね。このような問題があることを考慮しますと,私は,むしろ部会資料23の補足説明3で御提案くださっていますように,価格決定の申立期間を伸長するという方法で価格決定申立ての機会を確保するのが,むしろ,真の売渡株主の保護になるのではないかと,考えが傾いてきています。この補足説明3で御提案くださっていますように,取得日から20日というのではなくて,弁済の提供がされた日から20日とすることで,通常は売渡株主に申立ての機会が確保されると見ていいのではないかと思います。 ○本渡委員 通知が必要であるということは,結局,株式も,御本人にとっては大事な財産なので,全く自分があずかり知らない間になくなってしまったというのは,御本人にとっては非常に憤慨する可能性があるなということで,通知は必要だということを申し上げたわけなので,それがクリアできればいいんですね。それで,振替株式については,9割以上の株式を取得したわけですから,振替株式から振替株式ではない普通の株式の株主名簿にして,その株主名簿に従って通知をするという方法もあるのかなとも思っておりますが,それが難しいということであれば,振替株式を使っているのは上場会社ですから,上場会社が90%以上の株式を取得したということは,株式公開買付けをやったということだと思いますので,その後,すぐに売渡請求するのであれば,株主も売渡請求されるのではないかと思って身構えているだろうから,公告も見るのではなかろうかと思いますので補足説明の2の御提案でよいと思います。 ○三原幹事 この点に関する発言で,今まで第二読会までで行った発言のまた繰り返しになって恐縮ですが,上場会社は恐らく3,500社ぐらいありまして,非上場の全ての会社は恐らく250万社という数だと巷間言われております。全株式譲渡制限会社に関する先ほどの御議論で,全株式譲渡制限会社であっても,キャッシュ・アウト制度を適用するという方向におまとめがなされたように思います。第二読会で申し上げたのは,議決権について,そういう中小の小さい会社では,議決権が実は配当のための財産権ではなくて,例えば,事業だったり,あるいは,土地・家屋や,そういった財産に直結しているような持分であったりするのが株式の形をとっているという事例があり得るということも想定されますので,普通の上場会社で考えているような,支配権なり配当なりということ以上の財産権的な色彩が強いという実態があり得ますので,公告だけの場合というのは実際には紛争が起きやすいのではないか,不満なりが起きやすいのではないか,という懸念を実務的には思っております。そういう観点で,少なくとも通知をしたほうがいいと申し上げているわけでございまして,二読のときに申し上げたのは,そういう支配権なり,財産権なりと直結している実態があるという250万社の一部―上場会社3,500社を除いたこれ以外の会社―について,懸念をしているということであります。そうでありますから,補足説明の2にありますような,少なくとも上場会社でないところについては通知をするということは,あってよろしいのかなと考えます。全株式譲渡制限会社はキャッシュ・アウトの対象にしないということであれば,こういう発言はしなかったかもしれませんが,恐らくそうではないということを踏まえますと,通知をしたほうがよろしいのではないかと思っております。上場会社につきましては,総株主通知をしても,それほど時間は掛からないということもありますので,先ほど,前田委員から,総株主通知はどうかという話がありましたけれども,総株主通知をした上で株主を確定するということも,上場会社によってはあるのかもしれませんが,ただ,懸念をしているのは,非上場会社の場合でありまして,先ほど申し上げたように,実態的には株主権以上の価値がある株式のキャッシュ・アウトが通知なしでなされる部分の実態を懸念して,このような発言をしているということでございます。 ○岩原部会長 ほかにありますでしょうか。よろしいですか。  そうしますと,上場会社,実際には振替株式制度を使っているところ以外については,少なくともその部分については通知が必要だという御意見が多かったかと思います。振替株式制度を使っているところについては,総株主通知をさせるという御意見もありましたが,実際上は,上場会社で9割株式を持つというような場合には,二段階TOBが行われているのが通常であって,実際上株主が知っているから,そこまで考える必要はなくて,振替株式制度上予定されている公告だけでも足りるのではないかという田中幹事等の御意見が比較的多かったかと思います。前田委員が御指摘になった点について,三原幹事はそれでもいいということですか。振替株式については公告でという点については。 ○三原幹事 それは考えていただくに当たって重みが違うと申し上げたわけで,重みは非上場の場合についてはかなり重いのではないかと思っているということです。 ○岩原部会長 先ほど申し上げたんですけれども,私は,現在の振替株式の制度は余りうまくいっていない点があるように思っています。それを考えると,ややどうかなという気もしますが,ここで振替株式の制度をもう一度全部見直すということはできませんので,現行の制度を前提にすると,比較的多い御意見は,この問題に関し,振替株式については,実際上二段階TOBが行われるのが通常だということを前提にして,公告で代替してはどうかという意見が比較的多かったかと理解させていただきました。そういうことで,よろしいでしょうか。   それでは,先に進ませていただきます。最後の問題ですが,第3の「3 株式売渡請求の撤回」に移らせていただきます。まず,事務当局からの説明をお願いいたします。 ○内田関係官 それでは,「3 株式売渡請求の撤回」について御説明いたします。特別支配株主が対象会社の承諾を得て株式売渡請求を撤回することができるものとすることについて,3月の第18回会議では御意見が分かれており,これを認めるべきではないとの御意見もあったところです。しかし,対象会社の取締役会は,撤回の承認に際して売渡株主の利益に配慮する必要があり,売渡株主の利益に反するような撤回の承認は許されないということになりますので,制度上,撤回の余地が認められているからといって,売渡株主の利益が不当に害されるというものではないと考えられます。むしろ,特別支配株主の財務状態が悪化して,対価の交付が困難となった場合等において,株式売渡請求の撤回の余地を全く認めないとすることは,かえって売渡株主の利益に反する不合理な結果につながるおそれがあります。当部会においても,そもそも,株式売渡請求の制度は,対象会社の承認によって売渡株主の同意を得ることなく売買契約のような法律関係を生じさせるというものであるため,その撤回に際しても,対象会社の承諾があれば足り,個別の売渡株主の同意を得ることまでを求める必要はないとの指摘がされているところです。3は,以上を踏まえまして,特別支配株主は,取得日の前日までに対象会社の承諾を得た場合には,株式売渡請求を撤回することができるものとすることを,改めて御提案するものでございます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。この点についていかがでしょうか。   よろしいですか。特に御意見はございませんか。特に御意見がなければ,部会資料23のような方向で撤回することができるということにさせていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。   どうもありがとうございました。それでは,以上で,本日予定しました審議を終えたいと思います。本日の審議の終了の前に,次回の部会の予定について,事務当局から説明をお願いしたいと思います。 ○坂本幹事 次回は,6月13日水曜日の午後2時から,終了予定時刻は5時半まででございます。開始時間がふだんと異なりまして,午後1時半からではなく午後2時からでございますので,御注意願います。また,場所も,本日とは異なりまして,隣の建物の東京地検の15階の会議室でございます。時間と場所のいずれも本日とは異なりますので,御注意をお願いいたします。   次回御議論いただくテーマですが,企業統治の在り方について御検討をお願いする予定でございます。具体的には,中間試案に掲げておりました株式の併合以外―株式の併合は,キャッシュ・アウトの項目で整理させていただいておりますので,それ以外―の企業統治の在り方全般につきまして,要綱案のたたき台の作成に向けた御議論をお願いする予定でございます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。それでは,法制審議会会社法制部会第20回会議を閉会いたします。長時間にわたり,御熱心な御審議を頂きまして,誠にありがとうございます。 -了-