法制審議会会社法制部会           第22回会議議事録 第1 日 時  平成24年7月4日(水)  自 午後1時30分                       至 午後3時46分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  会社法制の見直しについて 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○岩原部会長 予定した時刻になりましたので,法制審議会会社法制部会の第22回会議を開会いたします。本日も,お忙しい中,御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   (関係官の異動紹介につき省略)  事務当局から,配布資料の説明をお願いいたします。 ○坂本幹事 御説明いたします。配布資料目録と部会資料25を事前にお配りしております。部会資料の内容につきましては,後ほど御説明させていただきます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございました。それでは,本日の御議論をお願いしたいと思います。部会資料25の「第2部 親子会社に関する規律」の「第1 親会社株主の保護」から始めたいと思います。まず,「1 多重代表訴訟等」について,事務当局から説明をお願いいたします。 ○塚本関係官 それでは,第2部の「第1 親会社株主の保護」の「1 多重代表訴訟等」について御説明いたします。親会社株主の保護に関しては,5月の会議では,多重代表訴訟の制度及び親会社による子会社の監督等の規律を並列的に掲げていましたが,部会資料25では,当部会における議論を踏まえ,多重代表訴訟の制度を創設するものとするA案と,株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正の確保を取締役会の職務とすることなどを内容とするB案のいずれかの案とする形で掲げています。   A案の多重代表訴訟の制度の具体的な内容は,部会資料23の第1の3のとおりであり,特に,多重代表訴訟の提起権を少数株主権とするかどうかという点は,引き続き御意見を頂ければと存じます。   B案は,従前は,「子会社の業務の監督を取締役会の職務とする」としていたものに関するものであり,部会資料25では,当部会における議論を踏まえ,これを,「株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正の確保」に変更しています。②で掲げている事情は従前と同じです。このように,B案の①では,「企業集団の業務の適正の確保」を取締役会の職務としていますが,これは,確保することができなかった場合における結果責任を課す趣旨のものではなく,このような取締役会の職務を前提として,個々の取締役が企業集団の業務の適正の確保に向けて善管注意義務を果たすことが求められるという趣旨のものです。また,企業集団の業務の適正の確保の具体的な在り方については,②に掲げている事情に応じて,確保に向けた措置が講じられるべきこととなり,企業集団における業務の適正を確保するため,内部統制システムを構築することや,子会社の取締役等に任務懈怠があった場合に,その是正のための措置やその責任の追及に係る対応を取ることなどが考えられます。他方で,このような規律を設けたからといって,直ちに,親会社について,企業集団における内部統制システムを構築することが一律に義務付けられることになるわけではなく,また,子会社に内部統制システムを構築させることが義務付けられることになるわけでもないと考えております。なお,B案の①の「株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正の確保」という文言については,法制上の観点から,その文言の変更があり得ることを念のため申し上げます。また,B案によることとすると場合には,(注)にあるとおり,部会資料23の第1の2に掲げておりました,親会社株主の通知請求権の制度も設けるものとしています。   なお,部会資料25には掲げていませんが,部会資料23の第1の1の補足説明にも記載しましたとおり,A案及びB案のいずれの案によることとする場合においても,会社法施行規則第100条第1項第5号等に掲げられている,株式会社及びその子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制が,会社法第362条第4項第6号等に掲げられている,当該株式会社の業務の適正を確保するために必要な体制の内容に含まれることを,会社法上明らかにする予定でございます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございました。A案,B案と提示させていただいたわけでありますが,A案のほうにつきましては,既に部会資料23で御提示したものと変わらず,そのとき既に御意見を頂いておりますので,本日は,それに付け加えて,あるいはそれを変更する形での御意見があれば,それを承りたいと考えております。それでは,A案とB案について,御意見いかがでございましょうか。 ○杉村委員 それでは,A案とB案のそれぞれについて,経済界としての意見を申し上げたいと思います。まず,A案ですけれども,これに対しましては,これまで述べてきたとおり反対でございまして,理由については,繰り返すことは避けたいと思います。その上で,今,岩原部会長からも御指摘ございましたけれども,A案の内容は,前回の部会資料23のとおりということでございますので,そのとき申し上げた意見,特に,少数株主権とすべきであるということを改めて申し上げたいと思います。前回申し上げたことに付け加えるといたしましたら,多重代表訴訟は,通常の代表訴訟のケースと比較をいたしましても,子会社の取締役に関しまして,一般の場合に比べては提訴懈怠の可能性が類型的に認められないのではないかとも考えられる一方で,導入に伴う弊害というのは大きいわけでございますので,そういうことを考慮しますと,通常の代表訴訟と比較して,提訴権限を制限していくということ,具体的には,少数株主権とすることは,合理性があると考えております。その点を付け加えさせていただきます。その他,前回申し上げたとおり,親会社株主と子会社の関係は間接的であることなどを,この場でも改めて確認したいと思っております。   それから,B案に関しましては,5月の部会資料23に比べますと,「監督」という文言が削除されまして,「業務の適正の確保」という形に変えられたということですが,部会資料25に記載の内容,あるいは,ただいま口頭で御説明になったことを踏まえまして発言をさせていただきます。まず,文言が修正されてはおりますが,内容的には,やはり,反対ということを申し上げたいと思います。口頭説明の中で,結果責任を問うものではないという御説明もあったところでありますが,親会社の取締役会としまして,その業務の適正の確保ということでは,一体何をもって適正を確保したと言えるのかということは,やはりどうしても不明確であります。結果責任を問わないという前提であったとしても,こういったことにつきまして,具体的に責任を問う株主あるいは債権者のほうからすると,業務の適正の確保をしていないではないかという方向に流れることは容易に想定されます。文言上,ある意味では前回までのB案よりも,むしろ,職務が重くなったという受け止めもできるところでございます。また,この文言は,内部統制との絡みも出てくると思いますが,現行法の下で,子会社の内部統制について考えますと,その子会社の取締役会の職務とされているのは,子会社の内部統制システムの基本方針の決定であり,それに基づいて,具体的に内部統制を構築して運用するのは,子会社の業務執行者の職務であるという理解が通常ではないかと思います。そのような考え方からしますと,今回の提案において,子会社自身の内部統制システムの構築そのものは,親会社の取締役会が行う業務の適正の確保には含まれないという理解になるのか,先ほどの口頭の説明も踏まえましても,その辺りは非常に疑問に思うところであります。今日の議論ではありませんが,前回の議論では,社外の要件を厳しくした上で,取締役会の中に社外者を就任させようという意見もある中で,そういった方が構成メンバーとして入ってくる親会社の取締役会一般が,子会社の内部統制システムの構築そのものについて,業務の適正の確保ということで,それを含めて職務とするということであるとするならば,それは,非常に疑問が残るということを意見として申し述べたいと思います。 ○坂本幹事 その点については,今,杉村委員御自身でもおっしゃったとおり,子会社それ自体の内部統制システム構築義務が親会社の取締役に生じてくるということまでは,当然のことながら考えてございません。 ○岩原部会長 よろしいですか。 ○杉村委員 結構ですが,その場合,親会社の取締役会が②に応じて,その子会社の在り方に応じて業務の適正の確保をするというのは,内部統制との関わりの中で一体どこまでやることになるのかということが,やはりなかなかはっきりしないという印象を持っております。 ○坂本幹事 どこまでやることになるのかということでございますが,グループ会社の内部統制ということで申し上げれば,先ほど口頭でも説明させていただいたとおり,現在の施行規則にもあるわけですので,それを既に構築してきちんと運用しておられるということであるのであれば,これが加わったことによって何か特別にやらなければいけないことが増えるのかというと,そういうことではないと考えてございます。 ○伊藤委員 我々の意見も申し上げさせていただきます。まず,A案につきましては,5月の会議でも申し上げましたとおり,多重代表訴訟自体に問題があるので,これは反対であります。   B案につきまして,前回,「取締役会が子会社の業務を監督する」という表現に対して懸念を申し上げたんですけれども,今回の部会資料25では,「株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正の確保」という表現に改められたことは,一定の前進であると考えております。しかしながら,「企業集団の業務の適正の確保」という規定の意味が明確ではないため,取締役会が何を行えば責任を果たしたと評価できるのかを明らかにするべきではないか,この規定を設けた際には,結果責任が問われるのではないかという懸念がございます。   さらに,B案の(注)の規定は,企業の事務負担をいたずらに増加させて,競争力を損なうおそれがあるのではないかと考えております。現段階では,B案には賛成いたしかねると考えております。 ○三原幹事 B案に関しまして,3点ほど質問させていただきたいと思い,発言させていただきます。まず,第1の点は,現行法で,大会社でかつ監査役会設置会社の場合には,先ほど坂本幹事がおっしゃったとおり,会社法施行規則100条がございまして,いわゆる内部統制システムというのがあります。簡単に申しますと,これと新しいB案とはどこが違うのでしょうかということが質問でございます。具体的に申し上げますと,会社法施行規則の現行法の内部統制システムというのは,内部統制そのものを決定することではなくて,体制の整備について決定することであると362条4項で規定されていますから,会社が内部統制システムを設けないという決定をしたとしても,現行法362条4項の違反は生じないというのが立案担当者の解説で,システムを設けないということも許されるという枠組みがこの施行規則100条であると説明されております。次に,施行規則において,どう決めたかは別として,決めた体制について事業報告に記載するとされ,かつ,事業報告で記載したものは,監査役の監査の対象になりますので,それが不相当であれば,監査役としては,監査報告にその旨を記載するという枠組みが現行法の100条以下の内部統制システムになっています。これは,大会社や委員会設置会社です。今回は,恐らく,大会社,委員会設置会社ということではなくて,全部の会社という御提案なのかもしれませんが,こういう現行法の枠組みと比較して,このB案は,どこが違うのでしょうか。具体的には,5月の審議の際にも御質問が出ましたけれども,これは,社内の業務の適正を確保する義務があるという御提案なのでしょうか,それとも,内部統制システムを設けないということは現行法のように許されるのか,こういう問題でございます。これは一つ目です。   それから,二つ目が,部会資料23においては,「企業集団の業務の適正の確保に必要な範囲内において」という記載がありまして,その補足説明では,「監督権限に藉口して子会社の経営に必要以上に干渉」することを防ぐ趣旨だという御説明がありましたが,今回,この「企業集団の業務の適正の確保に必要な範囲内において」という文字がなくなっておりますが,しかし,これは,監督権限に藉口してということを認める趣旨ではないと思うのです。この文字がなくなった趣旨を忖度しますと,恐らく,部会資料23にあった「監督」という言葉が消えたためにこれもなくなったという御趣旨なのかどうかということですが,その親子会社の関係における必要以上の干渉をすることに問題があるという問題意識が部会資料23にありました関係で,今回の御提案では,この点をどのように整理をされているのかというのが二つ目でございます。   それから,3番目は,今回,これを法律レベルに引き上げるということになるのかもしれませんが,施行規則にある現行の100条以下の規定を法律に引き上げるということが,具体的にはどのような効果を持つとお考えなのかということ,ちょっとこれは漠としている質問でございまして恐縮ですが,法律に引き上げるということになった場合,その背景なり意図ということがもしあるのであれば,教えていただきたい。   長くなりましたが,以上3点でございます。 ○坂本幹事 まず,1点目ですけれども,会社法施行規則100条1項5号と何が違うんだということでございますが,まず,業務の適正の確保が取締役会の職務となり,その実現のために取締役が善管注意義務を尽くしていくということになるわけでございますけれども,その手段として,内部統制システムを構築する義務が当然に生ずるわけではなくて,ほかにも業務の適性を確保するための手段・手法というのはいろいろあるわけでございますので,個社の事情に応じ,適正な対応をとっていくということを想定しているということでございます。それとの関係で,会社法施行規則100条の1項5号では,内部統制システムを置かないという決定が許されているけれども,このような規定を設けても同じなのかということですが,この「業務の適正の確保」を取締役会の職務とするからといって,このことから内部統制システムの構築義務が当然に導かれるわけではありませんが,他方で,業務の適正の確保に努めなくていいということはおよそ考え難いことかと思います。   2点目でございますけれども,監督権限に藉口してということでございますが,その発想自体は,「企業集団の業務の適性の確保に必要な範囲内において」という文言を削ったからといって,変えたという趣旨ではございません。その点は,従前どおりということでございます。元々,その文言は,確認的な意味で,議論の整理という意味も含めまして,あえて書かせていただいたものでございます。しかし,あの文言を入れることによって,日本語としてはうまくつながらないところがあったのですが,ましてや,今回,文言を変えることによって,なおさらそういう側面が出てくるということもございましたので,今回はその文言を削ったということでして,何か実質を変えたというものではございません。   3点目の,法律に引き上げることの効果,意図ということでございますけれども,具体的な効果というより,むしろ意図ということで御説明したほうがよろしいのかもしれませんけれども,これは今,会社法施行規則に書いているものでございますけれども,この部会でも重ね重ね御議論いただいているとおり,親子会社間のガバナンスと申しますか,業務の適正の確保ということの重要性ということがるる指摘されておりますので,そのように重要なことであれば,規則ではなく,むしろ法律で書くというのが本来の筋であろうということが基本的な発想ということでございます。 ○藤田幹事 今回の条文案は,恐らく,前回私が思い付きで言ったことを,事務当局が丁寧に咀嚼して書いてくださったものでしょうから,まず感謝申し上げます。前回の会合での発言の繰り返しですが,私は,前回の案にあった「監督」という言葉がどうしても抵抗があるというのであれば,こんな表現もあり得ますという趣旨で申し上げたもので,そもそも積極的にこれで行きましょうと言っているつもりは全くありません。それでも,今回の提案内容には若干責任を感じますので,多少補足させていただければと思います。   先ほどからのやり取りを聞いておりますと,やはり,前回私が申し上げた趣旨が,きちんと伝わっていないような印象を持ちます。まず―事務当局と私は,同じ考え方かどうかはよく分かりませんが―,前回の私の提案の考え方を,念のために説明させていただきますと,実質としては,会社の資産である子会社の株式の価値を維持するために必要・適切な手段を講じることが親会社取締役の善管注意義務から要求される,そして,株主である親会社として,取ることのできる手段を適切に用いて対処するというのも,当然その内容に含まれ得るというのが出発点で,そのこと自体は,余り異論がなく,そういう趣旨をいかに表すかという話をしているということです。この点は,当部会の議論を通じて,ずっと変わっていないと思います。そこで,問題は,それを条文作成上どういうテクニックを使って表現するかということですが,今の提案について誤解されているところがあるのではないかと思われる点について補足的に申し上げたいと思います。第1に,これは,子会社の業務に関するリスク管理体制構築義務を規定した条文ではないということです。リスク管理体制構築義務の根拠を直接定めているのではないのみならず,直接の根拠条文ですらありません。この点で,既に一部の方に誤解があるのではないかと思います。それどころか,この提案は,そもそも,取締役の義務を書いたものですらありません。飽くまで,取締役会の職務について書いたものであり,現行法で言えば,362条2項1号から3号に加えて,恐らく4号といった形で加わるような条文なのでしょう。そして,そのもう一つの特徴は,親子会社の関係の特殊な義務として規定しているのではなくて,自社を含めた業務の適正の確保という形で職務内容をくくり出しているということで,これまでずっと親子会社の問題として議論してきたのですが,最終的な作りとしては,自社を含めた業務の適正の確保を職務として明文化し,その中に,子会社や企業集団のことも言及するという形を採っています。説明の仕方としては,恐らくは,近時,企業のコンプライアンスというのが非常に重視され,強調されるようになってきていることとなったから,取締役会の職務として明記することとした,従来も,もちろん,業務の適正の確保が取締役会の職務であることは疑いの余地はなかったけれども,それを明示するようにしたと,そういうふうに説明することになると思います。その際に,自社のみならず企業集団全体の業務適正の確保と書いてあるので,結果的には,これまでずっと議論してきた子会社についての一種の監督というようなものも射程に入ったような書き方となっている,ただ,この表現そのものは,既に会社法施行規則100条に似たものがありますので,突然出てきたものではない。会社法施行規則100条は,恐らく,グループ全体の業務執行の適正の確保が取締役会の職務の内容に含まれていることは当然前提としてということでしょうから,それを明示的にしただけで,実体を変えているわけではないと思います。   それでは,このような取締役会の職務に関する規定が,取締役の義務とどう結び付くかということなのですが―多くの方には申し上げることもないと思うのですけれども―,次のようになります。例えば,取締役は,職務執行に関する監視義務を負うとされていますが,判例がこれをどう説明しているかと言いますと,株式会社の取締役会は,業務の執行につき監督するということが362条2項2号で規定されていて,そういう取締役会のメンバーとして,各取締役は,善管注意義務を尽くしてそれを行わなくてはいけない,そこから,善管注意義務を尽くして監督するという義務が出てくるという論理で導いているはずであります。362条2項に今提案されている条文が入った場合は,同じような理屈で取締役の義務を考えることになって,取締役会の構成員である各取締役は,取締役会の職務である業務執行の適正確保ということを,善管注意義務を尽くしてやらなければいけないという形で,取締役の義務という形になります。善管注意義務を尽くして行う職務ですので,当然,一定の裁量は認められるということになりますし,ここは,坂本幹事が言われたことと違うようですが,善管注意義務をもって判断しなければいけないことの中には,リスク管理体制を構築するか否かについての判断も含まれると思います。もし善管注意義務を尽くしたものとして適切なのであれば,リスク管理体制を作らないという判断も,理論的には当然には排除されない。もっとも,上場会社について,うちの会社は立派ですからリスク管理体制は要りませんという判断が,善管注意義務を尽くしたものと評価されるかというと,事実上,難しいことが多いとは思いますが,条文上は,そういう判断が一律に排除されているわけではない。その限りでは,従来の362条5項の解釈とも整合的に理解できるものだと思います。このように,今の新しい提案がリスク管理体制構築義務の条文ではないことはもとより,厳密には,その直接の根拠条文でもない,リスク管理体制構築義務は,取締役の善管注意義務から導かれるというふうに整理されるということだと思います。   なお,この条文の下でどんなことをやるのか分からないということが再三述べられています。私も,それはそのとおりだと思うのですが,現行法上も,同じ内容の義務が解釈上存在しており,そこで具体的に何をすればよいか全く分からない状況は全く同じであります。その点について,この条文ができたから突然何か新しいものが課されるということではありません。この条文が分からなくしているのではなくて,元々分からないのですが,従来は条文がないために余り意識もせずに,分からないままで放置していたところが,条文が明示的に設けられると,考えなくてはならなくなる,この条文に引っ掛けて訴訟を起こしてやろうと活用する人が出てきたときに,従来から明らかでなかったリスク管理体制構築義務などの射程がきっちり議論されるようになる,それが嫌だと,曖昧であるという批判の実体は,理論的にはそういうことに過ぎないと私は理解しております。 ○坂本幹事 ありがとうございます。もしかすると先ほど私の説明の仕方が不十分だったのかもしれませんので,1点だけ補足させていただきます。藤田幹事のほうから,坂本幹事が言ったことと違うようですがとおっしゃっていただきましたけれども,事務当局といたしましても,リスク管理体制構築義務がこの条文から導かれるわけではなく,リスク管理体制を構築すべきかどうかというのは,取締役の善管注意義務の内容として別途問題となり得ると考えておりまして,そこは,藤田幹事の御意見と同じ考え方で整理させていただいているということは,補足させていただければと思います。 ○三原幹事 私の最初の質問の趣旨をもう少し敷衍させていただきますと,非常に簡単なことなのですが,B案の①は,「業務の適正の確保を行う」と書いてあるわけですから,恐らく,業務の適正を確保する義務があるのかなというふうに読みまして,そして,現行法の100条は,業務の適正を確保するための体制の整備に関する決定になってございますので,適正を確保するということではなくて,確保するための体制の整備に関する決定になっているものです。そのように,最後の言葉尻のところが何段階か違う形になっていますので,それで違う解釈になるという,非常に低レベルかもしれませんが,そういうワーディングの違いをどういうふうに分析されているのかということをシンプルにお伺いしたというだけでございました。このB案の①は,業務の適正を確保するという義務があるということであろうと思ったのですが,そこは違う理解でございますでしょうか。 ○岩原部会長 私が口を挟むことはなるべく控えるべきかもしれませんが,会社法の,例えば,362条4項6号で言うところは,飽くまで,「体制の整備」の「決定」なのだから,それを部会資料25で提案されているような「体制の整備の確保を行う」という書き方にすると,単にその決定についての職務の規定から,それを超える意味を持つのではないか,「決定」ということだと,先ほどおっしゃったように,決定しなくてもいいということも含まれるという読み方もできるけれども,「体制の整備の確保を行う」とすると,それを超えて,「体制の整備」を常にしなければならないというような意味が中に入ってきてしまうのではないかというのが,三原幹事の御質問だと思います。これは,私個人の感触ですけれども,現在の362条4項6号は,確かに,こういう書き方になっていますけれども,その前提には,先ほど藤田幹事のおっしゃったような取締役の監視義務があるわけで,その監視義務を果たす過程で,業務の適正を確保する体制を整備するということが,本来,監視義務の一部の中に経営判断を含めて入っているはずで,それを前提に決定する手続を委任できるかどうかということをここに書いてあるだけであって,別に,こういう書き方をしているから,そもそも体制の整備の決定を全くしなくていいということまでインプライしているわけではない。現行362条4項6号の前提には,先ほど言った監視義務の下で,一定の条件の下では取締役の善管注意義務の内容として,そういうこともやらなければいけないということがあるはずで,それを前提に,ただ決めるときの手続としてはこういう委任ができますよという書き方になっているので,そういう意味では,B案は,現行法で求めていることを変えようとしているわけではない。現行法は,監視義務が存在することを前提にして,規則ではこういう書き方にして,362条4項6号と規則で分けて書いているけれども,現行法が前提にしていることを含め,意味をより分かりやすい形で書こうというのがB案だというのが私の理解ですけ。多分,藤田幹事もそういう御理解ではないかと思っていまして,B案はそういう意味だと理解していただければと思います。よろしいでしょうか。 ○安達委員 私は,5月の部会を欠席しましたので,そのときお話ししたかったことも踏まえて発言させていただきます。   まず,A案,B案に関してですけれども,私としては,両案とも反対の意思を明確に表明したいと思います。A案,多重代表訴訟の制度です。私の個人的な見解ではありますが,多重代表訴訟という制度そのものの導入が,あたかもコーポレート・ガバナンスの世界標準であると,そんなふうな雰囲気を感じてしまいます。私は,その考えが必ずしも正しいと思っておりません。欧米等の事例や実情を御紹介いただきましたけれども,本当に限定的な場合のみこれが導入されていることで,当然のことながら,濫訴を防ぐための仕組みがしっかり手当てされ,又は,その事例がほとんどないと理解しています。このような内容の多重代表訴訟制度を創設するということは,当然,濫訴のことも懸念されますし,これは,やはり,日本の経済力を明らかに萎縮する方向になると思います。グループ経営というのは,一つの有効な手段として企業の成長に資してきましたけれども,現在の日本の環境にあえてこれを導入することは,結果的に,日本の経済発展,企業の成長する活力を大きく削ぐというふうに私は判断しております。   それから,B案ですけれども,先ほど杉村委員,それから伊藤委員がおっしゃったとおりで,反対の理由は全く同じですので繰り返しません。各委員の方々の業務適正の確保,それから,362条4項等々も含めて,かなり議論いただきましたけれども,そもそも,これだけの審議会の中でもそれだけ議論があるということは,多分,解釈によってものすごい違いが出てきます。したがって,そのような解釈の疑義が生じ得る条項をあえて国の基本法に組み入れるということに関しては,やはり非常に問題があるのではないかと思います。   それから,(注)にあります通知請求権,これに関しましても,そもそも,こういうことは,株主総会等で正々堂々と議論してもらえばいいわけで,あえて,こういう通知請求権を法律に入れるというのは余り意味がないと,私は思っております。 ○三浦幹事 ごく手短かに。私のほうから,杉村委員,伊藤委員の御発言に賛成ということのみ申し上げたいと思います。A案については,特に強調したいのは,濫訴の懸念ということについては,御配慮いただきたいと思っていることです。したがいまして,少数株主権とするというのも一つの案であると考えます。   B案のほうは,今いろいろな御議論を伺っていて,そういう整理は正しいのかもしれませんが,恐らく,実務上の懸念というところがポイントだと思います。したがいまして,そこについて懸念がないことを明らかにすることが必要ではないかと思っておりますので,どうぞよろしくお願いいたします。 ○上村委員 私は,多重代表訴訟,A案に賛成ですけれども,これの議論の過程で,経済界の方は,内部統制をやっているからということを,これに反対する理由として挙げておられたわけですね。それが,B案になると,今度また,B案も反対だということなんですけれども,私は,今,議論がありましたように,B案のような規定を設けることは,別に当たり前のことであって,何ら不思議はないと思います。特に,金商法の内部統制は,これは,金融庁の監督の下で現に行われていて,しかも,その内部統制は,企業会計審議会で作った原則にのっとって,全社的内部統制を現にやっているわけですね,つまり,親会社は既に子会社内部統制に対して責任を負っているのです。この財務に関する内部統制というのは,これは,広い意味で,業務の適正に関する体制の中に含まれる重要な要素だと思います。業務の適正確保のほうが広範な内容を持ち得ますが,その重要な一部をなす財務に関する全社的内部統制,現に金商法で要求されているとしてやっていることの根拠が明らかでないのではないでしょうか。なぜやっているのですかと聞かれて説明できるのでしょうか。それでも現にやっているわけです。ですから,やはり,その辺の根拠を明らかにするという意味からも,B案のような説明は当然で,学者の間にそれほど意見の対立もあるような話とも思えないというのが率直な感想です。 ○野村幹事 今の善管注意義務の解釈の中で十分読み込める事柄が明記されるだけのことですので,B案については,通知義務を課すこと以外は,特段の新規性はないと感じます。   私自身は,A案を限定的に適用するということに賛成なわけですが,その理由は,上場企業の中で社会的影響力の大きい大規模な企業でありながら,100%子会社の形,いわゆる持株会社形態で運営をすることで,代表訴訟を免れている会社があるということに対して,社会的に見てどうかという疑問は多く存在しているわけでありますから,いわゆる代表訴訟が持っているコーポレート・ガバナンスにおける規律付けの重要性を考えれば,私自身は,本来,A案に賛成したいと思っております。ただ,万が一それがかなわないときであったとしても,むしろ,B案を明確化することによって,当然の解釈として行われてきたことについて,より明確な議論をすることができる礎を設けるのが望ましいのではないかと考えております。B案については,先ほどから,結果責任があるのではないかという御発言がありましたが,会社法上,取締役の責任を追及するとすれば,423条か429条だと思いますけれども,この法規制の中に結果責任を問う仕組みというのは存在しておりませんので,いかなる規律が設けられたからといっても,結果責任を問えるという仕組みは,我が会社法の中に導入されることはないだろうと思います。あるとすれば,423条3項のように,例えば,会社に損害が生じたということを立証すれば,任務懈怠が推定されるみたいな,そういう規定があれば,事実上結果責任に近いような形のものが出てくる可能性はあるかもしれませんが,B案を採用したからといって,直ちにそういった効果が発生することは全く考えられませんので,そういう意味では,結果責任が問われるということは一切ないだろうと思います。 ○岩原部会長 よろしいでしょうか。   B案の表現ぶりについては,今日新たな問題として更に御議論いただきましたけれども,A案,B案全体については,今までもかなり議論されてきまして,それを踏まえた上での今日の御議論だったと思います。この問題については,今日ここで一定の方向を結論として出すことは難しいと思いますので,今後,最終的な調整を図らせていただきたいと思っております。したがいまして,今日の議論はこれぐらいにさせていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。   それでは,次の問題に進ませていただきたいと思います。次に,第1の「2 株式会社が株式交換等をした場合における株主代表訴訟」について,事務当局から説明を頂きたいと存じます。 ○塚本関係官 それでは,「2 株式会社が株式交換等をした場合における株主代表訴訟」について,御説明いたします。部会資料に掲げています内容は,5月の会議におきまして,御異論なく御了承いただいたものと同じでございます。   なお,(注)につきまして,5月の会議で使用いたしました部会資料23では,現行法上の株主代表訴訟に関する規律のほか,部会資料23の第1の3で検討していた多重代表訴訟に関する規律に準じて所要の規定を設けるものとしていましたが,部会資料25では,個別の項目を例示した上で,所要の規定を整備するとのみ記載しています。この点に関しまして,多重代表訴訟の制度に関して検討している規律に準じた規律としては,例えば,株式交換等によって株式会社の株主の地位を失った者,すなわち,旧株主や株式交換等の対価である株式を発行する完全親会社が責任追及等の訴えに係る訴訟に参加する機会を確保するため,②ア及びイに掲げている株式交換完全子会社等が責任追及等の訴えを提起したときや,訴訟告知を受けたときは,当該株式交換完全子会社等は,完全親会社にその旨を通知しなければならないものとし,かつ,当該通知を受けた完全親会社は,旧株主に対してその旨を通知又は公告しなければならないものとすることが考えられます。また,2にあるような新しい規律の創設を無に帰することがないようにするため,株式交換完全子会社等の取締役等の責任を免除するには,株式交換完全子会社等の総株主の同意だけではなく,旧株主の全員の同意を必要とするものとすることが考えられます。なお,ただいま申し上げました規律は,いずれも,④と同様に,株式交換等がその効力を生じたときまでに,その原因となった事実が生じたものに係る責任追及等の訴えや,その責任の免除にのみ適用されることになります。 ○岩原部会長 どうもありがとうございました。これは,5月の会議におきまして,御異論なく了承されたものでございますが,部会資料25にあるような方向でまとめるということで,よろしゅうございましょうか。   それでは,そのように取り扱わせていただきたいと存じます。   次に,第1の3「親会社による子会社の株式等の譲渡」について,事務当局から説明をお願いいたします。 ○宮崎関係官 それでは,「3 親会社による子会社の株式等の譲渡」について,御説明いたします。本文は,基本的に,試案第2部第1の2と同様の内容でございますが,子会社が株式会社以外の法人である場合についても,同様の規律の適用があるものとすることを示すため,「株式又は持分」としております。なお,(注)につきまして,部会資料25では,事業譲渡等に関する規律の適用があるものとするとしておりますが,具体的には,親会社による子会社の株式等の譲渡についても,第468条第1項で定義されている「事業譲渡等」に該当するものとして,反対株主の株式買取請求制度や略式事業譲渡等の規律が適用されることになります。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。基本的には,中間試案と同じ内容でございますが,いかがでございましょうか。特に御意見はございませんでしょうか。 ○伊藤委員 2月の部会でも申し上げたんですけれども,子会社株式の譲渡について,事業譲渡とか会社分割の場合とはその性質が異なると考えます。元々,別法人となっている子会社の譲渡が譲渡会社に与えるインパクトというのは相対的に小さいと考えており,5分の1の要件にこだわる必要はないと思います。この要件は,例えば,2分の1とか,それよりも高い比率に定めたらどうか,御検討いただけたらと思います。 ○岩原部会長 ほかに御意見ございますでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,ただいま伊藤委員から御発言がございましたが,それ以外には,特に,御異論はございませんでしたので,基本的には,部会資料25の方向で考えていくということに取り扱わせていただきたいと存じます。   それでは,次に,「第2 子会社少数株主の保護」に移らせていただきます。事務当局から説明をお願いいたします。 ○内田関係官 それでは,「第2 子会社少数株主の保護」について御説明いたします。親会社等との利益相反取引における親会社等の責任に関しては,当部会で御意見が分かれていることから,第2では,第20回会議において御議論いただいた二つの案を併記しております。A案,B案とも,第20回会議の内容からほとんど変更しておりませんけれども,A案の①につきましては,濫訴に対する懸念等から,不利益性が著しい場合にのみ親会社等の責任が生ずるものとすべきであるとの御意見もあったため,ブラケット付きで,「著しく」という文言を挿入しております。なお,第20回会議においても御説明いたしましたとおり,「親会社等」や「親会社等との利益相反取引」の意味については,2月の第17回会議で部会資料18を基に御議論いただいたとおりの内容とすることを前提としております。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。これも,先ほどの第1の1と並んで,大きく意見が分かれている問題でございますが,A案,B案について,いかがでございましょうか。 ○静委員 両案併記ということですけれども,どちらの案につきましても,子会社少数株主は直接に親会社を訴えられる形になっておりますので,大きな枠組みとしては,狙いに沿ったものになっていると思います。それから,子会社の少数株主保護が大事なのと同様に,親子間の健全な取引が余り萎縮してもいけないということも,同じように大事なことだと思いますので,本当に悪質な搾取に限定して損害賠償を認めるという方向性についても違和感がありません。   ただ,1点だけ申し上げたいのは,先ほど御説明いただいた,「著しく」という文言の部分でございます。この部分については,「著しく」という言葉は要らないのではないかということを申し上げたいと思います。下請法にはこの規律とよく似た規律があり,「著しく低い下請代金の額を不当に定めること」を問題にしております。ただ,下請法では,「通常支払われる対価に比し」てとされておりますので,いわゆる独立当事者間取引基準に相当するものだと思われます。しかも,同じ当事者間で行われるほかの取引まで考慮に入れるということは,想定されていないと思います。したがいまして,下請法の場合には,通常よりも低い対価の取引がみんな対象になってしまうと困るので,「著しい」という言葉で限定するというのは,健全な取引を萎縮させないことに配慮するという意味で,一理あると思います。一方で,この局面はどうなのかということですけれども,元々取引しない場合と比べて,取引した場合のほうが不利益かどうかを見るという,独立当事者間取引基準よりもかなり緩めの基準を採っているということに加え,親子間の他の取引を考慮し,企業グループに帰属していることによって受ける利益も考慮し,その他の一切の事情も考慮します。つまり,言ってみれば,ありとあらゆる事情を考慮して,それで不利益の有無だとか程度を判断するということになっているわけでございまして,そこまでした上に不利益な取引を,下請法と同じように「著しく」という言葉で更に限定しなければ,親子間の健全な取引が委縮してしまうなどということが果たしてあり得るだろうかと,私は思います。したがいまして,「著しく」という言葉を入れる必要はないと思いますし,仮にそんなことをしますと,本当に悪質な搾取は認めないという元々の趣旨すら,本気度を疑われてしまうと思いますので,この言葉を取るのが適当ではないかと思います。 ○杉村委員 では,これについても意見を述べさせていただきます。A案,B案,それぞれありますけれども,ともに反対でございまして,その内容・理由は,これまで述べてきたとおりです。できるだけ繰り返しにならないように申し上げますと,私どもとしましては,親会社が子会社の利益を犠牲にして自己の利益を図る行為,こういったものが横行しているような状態にあるということは,到底,認識としてございません。確かに,一部,例外的な事例というのはあるだろうとは思いますが,それを規制するためにこういった大掛かりな規定を設けるということは,角を矯めて牛を殺すというような言葉もありますけれども,グループ経営が我が国の企業の競争力を支えている現状に対しまして,莫大な対応コストを課すということで,深刻な影響を与えかねないと思います。アンチビジネスという言葉があるようですけれども,そのアンチビジネス規制の最たるものになってしまうのではないかという危惧を覚えますので,このような規律は設けるべきではないと思います。   それから,部会資料25で新しく加わった,A案の「著しく」について,若干コメントさせていただきます。この「著しく」という文言は,前回の議論を踏まえたもので,実質的に,その対象事案をより限定的にしようという試みと評価をしたいところでございます。ただ,これも繰り返し述べてきたとおりですが,不利益と利益を比較する,なかりせば基準ということですが,不利益は数値化がある意味容易な半面,利益については,会社のほうでなかなか計数化が困難というシチュエーションにおきまして,この「著しく」という,ある意味定性的な言葉を追加していただいたとしても,企業の実務の懸念の払拭に果たしてどれだけ寄与するかというところは,懸念が残るところでございます。   仮にこうした規律を設ける場合として,5月の部会資料23では,濫訴の危険についてかなり分量を割いて議論があったように思います。部会資料25では,前回の議論を踏まえて何が変わったかというと,確かに「著しく」という文言が加わっていますが,それ以外,具体的な手当てがないように見受けられます。しかしながら,従来から,我が国の代表訴訟制度の他国に比べた問題点として,提訴のハードルの問題,あるいは濫訴の問題などが指摘されております。そうした中で,代表訴訟という手段をもって少数株主を保護するという規律を設ける場合には,前回議論がありました延長として,濫訴防止に向けた十分な手当ては,やはり不可欠ではないかということを,改めて申し述べたいと思います。 ○伊藤委員 5月の部会で,A案につきまして,「不利益」という表現が分かりづらいということを申し上げたところ,私どもの提案のとおり,部会資料25で,「著しく不利益となるような」という表現が入ったことは,前進したと思っております。ただ,ブラケット付きというのは,ちょっと気になります。しかしながら,原価割れ取引が直ちに不利益取引に該当すると解されるおそれがあることや,合弁会社において悪用されるおそれがあることから,A案には反対でございます。   また,B案につきましては,不法行為の推定規定がなかったとしても,賛成することが難しいと考えております。仮にB案を導入する場合には,少数株主権とするなどの濫訴防止策を講じる必要があると考えております。 ○前田委員 A案の「著しく」というブラケット部分について,このA案は,よほどのことがないと親会社に責任が生じないように既に十分配慮されていると思うのですけれども,今,御意見がございましたように,なお経済界で濫訴の危険があるとか,あるいは要件が不明確だという御批判があるのであれば,無用の紛争を排除し,あるいはまた,要件の明確を図るという観点から,私は,「著しく」を入れることで,差し支えないと思います。先ほど静委員からは,既に②のようにいろいろな要素を考慮しているのに,更に絞る必要はないという御意見がありましたけれども,逆に,②のようないろいろな要素を考慮するからこそ,既に実質的には「著しく」というのを入れても規律の実質は変わらないのではないかと思います。私は,このブラケット部分はあっていいのではないかと考えております。 ○三浦幹事 A案については,1月に消極に解したいという意見を提出させていただきまして,その意見を今も維持せざるを得ないかなと考えているのが現状であるということだけ申し上げます。中身はもう繰り返しません。親会社が子会社を搾取するというような非常に悪質なケースを何とかしなければならないということは,多分,経済界の方も含めて全く異論はないのだと思いますけれども,そういう極端な事例であれば,現行の法制度でも,ある程度は対応できるのではないかという中で,新しい制度を設けることによるメリットと,いろいろな親子間の取引の萎縮というデメリットを比べてみて,前者が後者を上回っていると本当に言えるのかというところについては,まだちょっと明確ではないなと考えております。 ○上村委員 私は,静委員の意見に賛成したいと思います。これは,部会資料25の②のところを見ますと,「①の不利益の有無及び程度は,当該取引の条件のほか」ということで,ア,イ,ウとなっていますね。そこで言う「当該取引の条件」というのは何かというと,上で言う「著しく不利益となるような条件」を言っているのだろうと思うんですね。だとすると,この中にア,イ,ウ,エが入っているから結果的には同じだというふうにおっしゃいましたけれども,実質的には,著しく不利益の判断で事実上は全てが包括されてしまっていて,そのほかに「次に掲げる事情を考慮」するということの意味はほとんど喪失してしまうのではないかというのが一つであります。   それから,子会社の利益を犠牲にするようなことが横行しているかのような前提で議論することが問題だというお話がありましたけれども,横行していなければ,こういう条文があっても機能しないだけでありますので,何ら問題ないわけですね。横行していれば機能するわけでありますから。ですから,杉村委員がおっしゃったことが正しければ,機能しなくなるだけでありますので,横行するとまで言わなくても,これが必要な場合というのはあり得るわけですから,この規定そのものに反対する理由にはならないと思います。そうでないと,不正は横行するほどにならないと立法というのはできないんだということになったら大変ですね。これは,どうなったら横行したことになるのかも全然分からないですね。ですから,やはり,論理的に合理的な規定であれば,きちっと入れておくという姿勢が正しいのではないかと思います。 ○安達委員 上村委員の後に発言するのは非常に緊張しますが,あえて発言します。今,横行という言葉がありましたので,私も,ベンチャー業界を知るものとして,経済界代表として発言しますと,やはり,日本の社会において,こういう利益相反取引が横行していることはあり得ないことです。もちろん,特殊な例があるかもしれません。それはそれで,当然,一罰百戒といいますか,そういう罰則規定も含めてきちんと対応すればいいわけです。国の基本法である会社法にそこまで特殊な制度を入れ込むということに対しては,将来必ずこれは禍根を残すと思います。したがって,私は,個人的な言葉を使いますけれども,必要性のないこの規定を今この時点で設けることに関しては,どうしても私は納得できないということを申し上げたいと思います。 ○上村委員 日本ではあり得ないとおっしゃいましたけれども,外国には,この種の制度があるのがむしろ普通ですよね。ドイツのコンツェルン法もありますし,英米のように支配株主の忠実義務というような概念が一般化している国もあります。諸外国では,そうした法制があるのはむしろ普通なので,そういった制度がない日本で,そういったことが日本だけで起こっていないというようなことは,私はあり得ないことだと思っております。 ○岩原部会長 よろしいでしょうか。この問題につきましても,非常に意見が分かれておりますので,本日ここで一定の方向の取りまとめを行うということは難しいと思います。今後,事務当局のほうで何とか取りまとめのほうに御努力いただくということで,今日の議論は,これぐらいにさせていただきたいと思います。よろしいでしょうか。   それでは,先に進ませていただきたいと思います。次に,「第3 キャッシュ・アウト」について,1から4までを一括して,事務当局から御説明いただきたいと思います。 ○内田関係官 それでは,「第3 キャッシュ・アウト」について,1から4までを一括して御説明いたします。まず,「1 特別支配株主の株式等売渡請求」については,第18回会議及び第20回会議において,具体的な制度設計に関する様々な論点について御議論いただきましたので,これらを踏まえて更に詳細を詰めたものを,(1)から(3)に整理して記述しております。基本的に,当部会において概ね御了解いただいた内容のとおり記載しておりますので,ここでは,これまでに当部会で正面から御議論いただいていなかった部分を中心に御説明を申し上げます。   まず,(1)は,株主等売渡請求の内容に関するものです。①から③までは,当部会で既に御議論いただいてきたものですので,部会資料25の4ページの中段,(2)の直前にある(注)についてのみ御説明申し上げます。株式売渡請求や新株予約権売渡請求は,株主や新株予約権者の全員に対して行わなければならないことが原則となります。しかし,特別支配株主の議決権割合の算定に当たって合算される株式,すなわち,特別支配株主がその完全子会社等を通じて間接的に100%保有している株式等は,既に特別支配株主の完全な支配下にあると言え,これらを常に売渡請求の対象とすることを強制する必要はないと思われます。そこで,(注)では,特別支配株主は,これらの完全子会社―ここでは,特別支配株主の議決権割合の算定に当たって合算される株式を保有している法人を意味するものとして,「特別支配株主完全子会社」という定義語を用いておりますけれども―を売渡請求の対象から除外することができるものとしております。   次に,(2)は,株式等売渡請求の手続等に関するものです。この手続については,これまで,株式の売渡請求を中心に御議論いただいてきましたが,新株予約権の売渡請求も認めるということになりますので,(2)では,そのための手続も含めた具体的な規律をまとめております。部会資料25の5ページにある②では,株式売渡請求と新株予約権売渡請求の両者を併せて,株式等売渡請求と定義しておりますが,ここでは,その両者の関係等を中心に御説明を申し上げます。まず,②の(注1)についてですが,新株予約権売渡請求は,株式売渡請求がされた後に新株予約権が行使されることにより,株式売渡請求の目的が達せられなくなる事態を避けるために,株式売渡請求に付随して認められるものです。したがいまして,株式売渡請求が対象会社の承認を得られず実行されないにもかかわらず,新株予約権売渡請求のみが承認され実行される結果となることは,制度目的に沿わないということになります。そこで,株式売渡請求に併せて新株予約権売渡請求がされる場合に,新株予約権売渡請求のみを承認するということはできないものとしているのが,(注1)でございます。また,③は,株主等への通知について定めるものです。イでは,売渡株式等の登録質権者に対しても通知を要するということとしております。公告による代替につきましては,当部会での御議論を踏まえ,(注1)で,売渡株主への通知については公告による代替を認めないということとする一方,(注2)で,売渡株式が振替株式である場合には,公告による代替を義務付けることとしております。それから,⑥では,当部会での御議論を踏まえ,取得日の前日までに対象会社の承諾を得た場合に限って,株式等売渡請求の撤回を認めるものとしております。ここでも,新株予約権売渡請求が株式売渡請求に付随して認められるものであることを踏まえ,(注3)において,株式売渡請求に併せて新株予約権売渡請求がされた場合には,株式売渡請求のみを撤回することはできないものとしております。また,⑧の下の(注)では,⑧までに掲げるもののほか,株式等売渡請求に関する手続等について,所要の規定を整備するものとしております。具体的には,売渡株式等に設定された質権の効力が売渡株式等の対価として交付される金銭に及ぶことその他質入れの効果に関する規律や,対象会社が株券発行会社である場合における株券の提出に関する手続等を定めることとなります。   部会資料25の7ページにある(3)は,売渡株式等が株式売渡請求の有効性や対価等を争うための仕組みに関するものです。①について,売渡株主による差止めは,株式売渡請求について法令違反等がある場合に認められるものとしておりますが,そのような差止事由がある場合には,株式売渡請求のみならず,新株予約権売渡請求も含めた株式等売渡請求の全体が差止めの対象となるものとしております。これも,新株予約権売渡請求が株式売渡請求に付随するものと位置付けられることによるものでございます。そのほかは当部会において既に御議論いただいたものですが,価格決定の申立て及び無効の訴えについては,ここに挙がっているもの以外にも,詳細な規定の整備が必要となりますので,この点を末尾の(注)に記載しております。   続いて,部会資料25の8ページから11ページ上段にかけましては,「2 全部取得条項付種類株式の取得」,「3 株式の併合により端数となる株式の買取請求」及び「4 株主総会等の決議の取消しの訴えの原告適格」について記載しておりますけれども,これらはいずれも,当部会において御議論いただいた内容のとおりでございます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。それでは,まず,「1 特別支配株主の株式等売渡請求」について,(1)から(3)まで一括して,御議論をお願いしたいと存じます。いかがでございましょうか。 ○伊藤委員 議論を後退させる意図というのはないんですけれども,一言だけ申し上げさせていただきます。何度も申し上げているのですけれども,全株式譲渡制限会社は,キャッシュ・アウトの対象から除外すべきだという考え方に変わりございません。今回は,法制度の平仄を合わせるため,これらの企業も対象とされたと理解をしております。要綱案の取りまとめに当たっては,私どもが懸念する現場での混乱が生じないよう十分配慮していただくよう,お願い申し上げます。 ○三原幹事 部会資料25の7ページの(3)の差止請求等の①の2行目で,「売渡株主は」とあり,「売渡株主等」と書いておられないので,ここには,新株予約権者は入っていないと思うのですが,この売渡株主が差止請求をするという本文につきまして,この(注)で,「売渡新株予約権者についても,同様の規律」と書いてあります。この(注)の御趣旨の確認ですが,売渡新株予約権者についても差止請求をする原告適格を認めるという御趣旨なのでしょうか。この者についての同様の規律というのは,ほかにどういう御趣旨があるのかを含めて,この(注)の読み方,特に,「同様」というのはどこを指しているか,教えていただければと思います。 ○内田関係官 正におっしゃっていただいたとおりで,売渡新株予約権者にも差止請求権を認めるという趣旨でございます。 ○三原幹事 売渡新株予約権者の全体の議決権の割合等にかかわらず,1個の予約権であっても,全体を差止めすることができるということを認めるということであって,特に量的な制限はないということでよろしゅうございますか。 ○内田関係官 株主について,一株でも差止請求ができるのと同様に,新株予約権1個であっても差止請求ができるという建て付けを想定しております。 ○岩原部会長 ほかに御質問や御意見はございますでしょうか。よろしいですか。   それでは,事務当局から御説明いただきました1の(1)から(3)までにつきましては,伊藤委員から配慮してほしいという御発言がございましたので,その点に配慮しながら,部会資料25に沿った形でまとめていくということで御了解いただけますでしょうか。   それでは,そのように取り扱わせていただきます。   次に,「2 全部取得条項付種類株式の取得」については,いかがでございましょうか。   特に御質問,御意見はございませんでしょうか。   それでは,全部取得条項付種類株式の取得につきましても,部会資料25に書かれている方向で取りまとめるということにさせていただきたいと思います。   次に,「3 株式の併合により端数となる株式の買取請求」については,いかがでございましょうか。   よろしいでしょうか。   それでは,これにつきましても,部会資料25に記載されている方向で取りまとめるということにさせていただきたいと思います。   最後に,「4 株主総会等の決議の取消しの訴えの原告適格」についてでございますが,これは,当部会におきまして,今まで特段の御異論はなかったところと理解しております。部会資料25のような方向で取りまとめるということで,よろしゅうございましょうか。   どうもありがとうございます。それでは,そのようにさせていただきたいと思います。   それでは,「第4 組織再編における株式買取請求等」に移らせていただきたいと思います。1から4までを一括して,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○髙木関係官 それでは,「第4 組織再編における株式買取請求等」について,1から4までを一括して御説明いたします。「1 買取口座の創設」は,当部会において,特に御異論がなかったことから,基本的に,当部会において御議論いただいた内容のとおりとしています。④について,当部会議での御議論を踏まえ,株式買取請求に係る株式の買取りが効力を生ずる日を,組織再編等がその効力を生ずる日に統一することから,発行者が買取口座から自己の口座への振替の申請をすることができない時期について,組織再編等がその効力を生ずる日までとしています。また,⑤では,中間試案では,「直ちに」としていましたが,発行者の負担を考慮し,「遅滞なく」としています。なお,(注1)に記載しておりますとおり,買取口座に係る事項その他の技術的事項については,所要の整備をすることとさせていただきます。また,(注2)のとおり,新株予約権買取請求についても,同様の規律を設けるものとしています。   「2 株式等の買取りの効力が生ずる時」について,①は,当部会での御議論を踏まえ,現行法では,株式買取請求に係る株式の買取りの効力が代金の支払の時に生ずることとされているものについても,当該買取りの効力は,組織再編等がその効力を生ずる日に生ずるものとするものです。②は,株券が発行されている株式について株式買取請求がされた場合にも,株式買取請求の撤回制限の実効化を図るため,株主は,株式買取請求をしようとするときは,株券発行会社に対し,当該株式に係る株券の提出をしなければならないとするものです。また,③は,株券不発行会社においては,株式買取請求に係る株式について,意思表示のみによりそれを譲渡することができることから,株式買取請求の撤回制限の実効化を図る観点から,株式買取請求に係る株式を譲り受けた者が株主名簿の名義書換請求をすることができないようにするものです。   「3 株式買取請求に係る株式等に係る価格決定前の支払制度」及び「4 簡易組織再編,略式組織再編等における株式買取請求」は,当部会において,特に御異論がなかったことから,当部会において御議論いただいた内容のとおりとしています。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。それでは,まず,「1 買取口座の創設」についてでございますが,これは,当部会におきまして,特段の御異論はなかったところと理解しております。部会資料25のような方向でまとめるというふうなことでよろしゅうございましょうか。   それでは,そのように扱わせていただきます。   次に,「2 株式等の買取りの効力が生ずる時」につきまして,②及び③は,新しい事項でございますが,何かございますでしょうか。   これにつきましても,特に御異論等はございませんでしょうか。   それでは,「2 株式等の買取りの効力が生ずる時」につきましても,部会資料25にあるような形で取りまとめさせていただきたいと存じます。   次に,「3 株式買取請求に係る株式等に係る価格決定前の支払制度」は,当部会におきまして,今までにも特段の御異論はなかったところでございますが,部会資料25のような方向でまとめるということでよろしゅうございましょうか。   それでは,そのように取り扱わせていただきます。   最後に「4 簡易組織再編,略式組織再編等における株式買取請求」について,これも,当部会におきまして,従来おおむね御異論がなかったところでございますが,部会資料25のような方向で取りまとめるということでよろしゅうございましょうか。   それでは,そのように取り扱わせていただきます。   次に,「第5 組織再編等の差止請求」に移らせていただきます。事務当局から説明をお願いいたします。 ○髙木関係官 それでは,「第5 組織再編等の差止請求」について御説明いたします。当部会における御議論を踏まえ,①から③までに掲げる行為について,これらの行為が法令又は定款に違反する場合において,株主が不利益を受けるおそれがあるときは,株主は,株式会社に対し,当該行為をやめることを請求することができるものとしています。なお,略式組織再編の差止請求については,(注)に記載していますとおり,現行法の規律を維持するものとしています。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。この点につきましても,当部会におきまして,概ね御異論はなかったかと理解しておりますが,部会資料25のような方向でまとめるということでよろしゅうございましょうか。   どうもありがとうございます。それでは,そのように取り扱わせていただきたいと思います。   次に,「第6 会社分割等における債権者の保護」に移らせていただきます。1と2を一括して,事務当局から説明をお願いいたします。 ○宮崎関係官 それでは,「1 詐害的な会社分割等における債権者の保護」及び「2 分割会社に知れていない債権者の保護」について,一括して御説明いたします。まず,1に掲げている内容は,(注)も含めまして,試案第2部第6の1と基本的に同様の内容でございまして,当部会では,御異論がなかったところでございます。   次に,2につきまして,試案第2部第6の2では,会社分割について異議を述べることができる債権者のうち,不法行為によって生じた分割会社の債権者であって,分割会社に知れていないものの保護を図るための見直しをするものとしており,この点について,当部会では,御異論がなかったところでございます。これに関し,分割会社が官報公告のみをした場合は,分割会社に知れていない債権者―例えば,無記名社債権者―に対する各別の催告は不要とされており,このような債権者は,各別の催告を受けなかったとしても,吸収分割会社及び承継会社等のいずれか一方に対してしか債務の履行の請求をすることができないと解されます。しかし,官報広告のみがされ,知れている債権者と知れていない債権者いずれについても各別の催告がされなかった場合に,分割会社に知れていない債権者と分割会社に知れている債権者との間でその保護の在り方に差を設ける合理的な理由はないものと思われます。そこで,部会資料25では,分割会社が官報公告のみを行った場合における分割会社に知れていない債権者についても,各別の催告を受けなかった場合には,分割会社及び承継会社等の双方に対して債務の履行の請求をすることができるものとしております。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。それでは,まず,「1 詐害的な会社分割等における債権者の保護」につきましては,当部会におきまして,このような請求権を創設することについて,今まで御異論はなかったところと理解しておりますが,部会資料25のような方向で取りまとめるということでよろしゅうございましょうか。 ○鹿子木委員 この制度の導入については賛成でありますが,運用面におきまして,何点か問題がありますので,若干質問させていただいて,意見を申し上げたいと思います。まず,1点目の質問でありますが,「承継した財産の価額を限度として」という限定が付けられておりますが,これをその主文の中ではどのように表すことを考えておられるのか,まずお尋ねしたいと思います。今の点で申し上げますと,相続財産の限定承認の場合でありますと,主文において,相続財産の限度で幾ら幾らを支払えという主文になりますので,恐らく,そういったことが考えられるのではないかと思いますけれども,それでよろしいのかという質問です。   それから,2点目ですが,平時の場合についてですけれども,請求をする債権者が競合した場合に,どのような調整がされるのかという問題です。先ほどの相続財産の場合ですと,相続財産に対する差押えを行いまして,差押えが競合したときに,相続財産を換価して配当するという手続で調整されるわけですが,そうした手続でよいのかという点が一つ。それから,本件の場合には,相続財産と異なりまして,事業のために必要な財産ですので,その財産に代わる金銭での弁済をするという道が必要になってくると思われるのですけれども,財産に対する差押えですと,そうした金銭で代えるという手続がありませんので,それについて何らかの手当てを考えていく必要があるのではないかという問題です。   それから,3点目ですが,分割会社について,破産手続が開始された場合の問題です。前にこの点について御質問したときに,この請求権を破産管財人が行使することはどうかとお尋ねいたしましたところ,これについては,責任財産を保全するための制度ではないという位置付けであり,破産管財人が,この要綱で提案されている権利を行使することは考えていないという御説明でした。仮にそれはそうだといたしまして,破産管財人が会社分割につきまして否認権の行使をした場合,その取戻請求権と,それから,破産債権者―この残存債権者でありますが―によるこの制度に基づく請求が競合した場合,そのときにはどうなるのかという問題です。例えば,工場の土地建物と生産設備が承継されたという場合を考えてみますと,破産管財人は,否認権の行使によりまして,それらの財産を現物で返還を求めるというのが原則になります。仮に,その債権者に対する弁済があらかじめ行われたとした場合,今の事務当局の位置付けでは,それは責任財産を保全するための制度ではないということになりますので,管財人の取戻請求権に影響を及ぼさないということになろうかと思います。その点の調整がどういうふうに考えられるのかということを,お尋ねしたいと思います。 ○坂本幹事 大きく言うと3点,細かく言うと4点という御質問かと思いますけれども,まず,1点目,主文をどうするのかということでございますけれども,鹿子木委員もおっしゃったように,限定承認がされた場合の主文が参考になるであろうというふうにイメージしておりました。   2点目,競合した場合の調整ということですけれども,差押えが競合したということをまず考えますと,最初から競合すれば,その債権に応じて按分して配当ということになるので,通常の債権の差押えが競合した場合と同じだろうと考えております。また,金銭での弁済が必要になった場合の話ということですけれども,結局,差押えまで至ってしまえば,仕方がないことなのかなと思っております。 ○鹿子木委員 そこで申し上げますと,要するに,競合したときに何らかの調整をする必要があると思うのですが,相続財産ですと,相続財産に対する差押えを経由させることによって,配当手続の中で調整が行われるわけです。同じように,本件でも,差押えをさせて配当手続による調整を行うということは考えられるわけですが,差押手続の中では,当該相続財産を換価することが予定されるのに対し,本件の場合には,これが工場や生産設備だとしますと,それを換価してしまうと,承継会社の事業が立ち行かなくなりますので,そこは,財産に代わる資金を配当するといった手続が必要になるのではないかというように考えられます。しかし,そういう制度が恐らく今ないので,何らかその手当てを考える必要があるのではないかという問題です。 ○坂本幹事 承継会社にキャッシュがあるのであれば,キャッシュを適宜分配すればいいと思うのですが,差押えまで行ってしまうのであれば,差押えの対象として何を選ぶのかは,債権者の自由ということになってきますので,そこで,代わりに現金を出して承継した財産の換価を免れるというのは,この請求権特有の問題とは考えていないのですが。 ○鹿子木委員 そこは,キャッシュを出せばいいではないかとおっしゃるんですが,承継会社の立場からしますと,キャッシュを払ってしまうと,もう一つの債権者に対する問題で,どういうふうに調整するかという手続上の問題が出てまいりますね。 ○坂本幹事 承継した財産の範囲内で,という限定が掛かっておりますので,ある一人の債権者に対して払ってしまい,その結果,承継した財産の価額のものを払ってしまったということになってしまうと,その後やってきた債権者に対しては,既に支払済み,自分の承継した財産は支払済みであるということについて抗弁として主張できる,あるいは,執行については,請求異議という形で主張できると考えております。 ○鹿子木委員 時期的に相当ずれて行われた場合にはそうなのですが,同時的にその請求が行われたらどうなるのでしょうか。 ○坂本幹事 同時に執行ということですか。 ○鹿子木委員 同時にその請求が出て,同じ頃にその判決が出て,私は,どっちに払ったらいいのか分からないという場合は,どのような解決をするのでしょうか。 ○坂本幹事 強制執行には至っていない場合の規律は,設けない予定でございますので,強制執行まで至らなければ承継会社のほうで判断して払っていくことになり,その場合に按分で払うということをやっても,それはそれでもちろん構わないと思います。ただ,そこは,法的に何か強制されるという世界ではなく,任意の世界でやるというふうに考えております。 ○鹿子木委員 ちょっとそれは置いておきます。そうすると,3点目の管財人との関係では,どういう調整になりますでしょうか。 ○坂本幹事 管財人との関係でも,特段,何か調整の規定を置くということは今のところ考えてございません。基本的には解釈論ですが,承継した財産の価額の限度で支払うということから,承継会社が二重取られとなることをどのように考えるかという観点からの解釈もあり得るというふうに考えております。 ○鹿子木委員 そうしますと,先にその債権者がその支払を受けた場合には,管財人が否認権を行使したときに,その限度で財産の取戻しはできないということでしょうか。 ○坂本幹事 その点が正に今申し上げたところでございまして,二重取られということになってしまいますので,仮に二重取られは認めないという考えに立つのであれば,否認による取戻しはできないということになるかと考えております。 ○鹿子木委員 そこで,管財人の立場からいたしますと,取り戻す財産というのは,総債権者の引当てになるものですので,もし,今おっしゃったのが,各債権者が個別に執行する,管財人は総債権者のために否認権の行使をする,その間の調整は予定していないと,早いもの勝ちだという御趣旨だといたしますと,それは,倒産手続が開始した後の債権者平等原則に反する問題でありますので,倒産手続の世界では到底認められない結論だと思われるわけです。したがって,まずは,倒産手続が開始された後のルールについては,きちんと設ける必要がありまして,倒産手続が開始した後は,各債権者の権利行使は認められない,許されないという制度が必要です。したがいまして,その財産の取戻権は,管財人に専属するという規定を整備すべきだと考えます。また,破産手続開始前における,その承継会社等から残存債権者に対する弁済が行われた場合におきましても,それが破産法第162条の否認の対象になるような時期に行われたものであれば,管財人が,それについては,破産財団からの弁済と同視して取戻しをできるような手当てが必要だろうと考えます。その前提として,この承継会社から債権者に対する弁済は,破産手続が開始された場合には,破産者からの弁済とみなすといった手当てが必要になってくるのではないかと考えるところです。いずれにしても,破産手続が開始された後のルールについては,倒産手続のルール,つまり,債権者平等原則がきちんと実効的に行使されるような手当てが必要だという意見を申し上げたいと思います。 ○坂本幹事 破産手続開始後の御意見の御趣旨は理解したつもりですが,手続開始前のことまで何か手当てをすべきだという御意見でございますか。 ○鹿子木委員 具体的には,破産法第162条でいきますと,支払停止の後に本旨弁済がされたとしても,それは,否認権の対象になるわけです。したがって,承継会社から残存債権者に対して弁済が行われたとしましても,その財産というのは,本来管財人が否認権の行使によって取り戻すべきものだとしますと,それは,破産財団からの弁済,破産者からの弁済と実質的には同視されるものでありますので,それについては,管財人が否認権の行使によって取り戻して,総債権者の財産とした上で配当を行う必要があるという意味です。要するに,倒産手続の中における債権者平等の原則がきちんと貫徹されるような手当てをお願いしたいという趣旨です。 ○坂本幹事 今のような場合について,詐害行為取消権の場合にどうなのかということを考えますと,危機時期に詐害行為取消権を行使して,まだ破産手続が開始決定に至っていない状態で,その詐害行為取消権者が弁済を受けたという場合には,現行法上,明文で何か制限されておりますでしょうか。それと基本的には何が変わってくるのかというふうに思いますけれども。 ○鹿子木委員 現行法では,残存債権者から承継会社に対する請求ができないわけですが,本件を設けるとしますと,本来,その管財人が取り戻すべき財産からの弁済が各債権者に行われるということになるわけですね。そこが現行法と違った手続を取るわけでありますので,いざその倒産手続が開始された後のルールについては,きちんとした配慮をお願いしたいという趣旨です。いずれにしても,平時の調整ルールを設けていただきたいのが1点と,それから,破産手続が開始された場合における倒産の債権者平等原則との調整のルールを設けていただきたいというのが主たる意見でして,後は,細かい制度設計の問題ですから,ここで皆さんを前に議論しても大変迷惑だと思いますので,その意見を申し上げておきたいと思います。 ○坂本幹事 御指摘のうち,破産手続開始前の点については,何か対応する必要があるということは考えていなかったところです。他方で,破産手続開始後の点は,それはそれでそういう問題が生じ得るということは分かりつつ,特に明文の調整規定は設けないと考えていたところでございますが,御指摘を受けて,改めて検討してみたいと思ってはおります。 ○岩原部会長 会社分割に関して,現在,詐害行為取消権を用いた救済が行われており,その途中で分割会社が破産手続に入ったときにどうなるのかというのは現在でもある問題ですけれども,このたび改正をするに当たって,分割会社が破産手続に入ったようなときの調整規定を用意する必要があるのか,入れるとしたらどのような規定を入れるかというような問題かと思います。それでは,事務当局に御検討いただくということにさせていただきたいと思います。よろしいでしょうか。ほかに何かございますでしょうか。 ○伊藤委員 濫用的な会社分割が多くあり,立法上の手当てとしてこのような規定が置かれることは,反対をいたしません。3月の部会で申し上げましたとおり,良い会社分割と悪い会社分割があって,例えば,債権者と十分な交渉を経て会社分割を行うような場合に,一部の債権者が悪用することがないような規定ぶりにしていただければと思います。よろしくお願いします。 ○岩原部会長 ほかにございますでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,この問題につきましても,ただいま鹿子木委員から御指摘のあったような問題について事務当局に御検討いただき,そして,また,伊藤委員の御要望も踏まえた上で,基本的には,この部会資料25の線に沿って案を取りまとめるということで御了承いただけますでしょうか。   それでは,そのように取り扱わせていただきたいと存じます。   次に,「2 分割会社に知れていない債権者の保護」は,官報公告のみをした場合において,分割会社に知れていない債権者の保護についても手当てをするという点を加えるものでございますが,部会資料25のような方向でよろしゅうございましょうか。   それでは,そのように取り扱わせていただきたいと思います。   それでは,「第3部 その他」に移らせていただきます。まず,「第1 金融取引法上の規制に違反したものによる議決権行使の差止請求」について,事務当局から説明をお願いいたします。 ○本條関係官 それでは,第3部の「第1 金融商品取引法上の規制に違反した者による議決権行使の差止請求」について御説明いたします。議決権行使の差止請求の実効性を確保する観点からは,有効に差止請求がされた場合には,株式会社が当該差止請求に係る議決権の行使を拒むこととする必要がございますが,そのためには,有効な差止請求を受けた株主は議決権を行使することができない旨の規律を設けることが最も直截かつ簡潔であると思われます。そこで,本文の④は,そのような規律を設けるものでございます。また,本文の③は,差止請求があった場合に株式会社が適切な対応をするための前提として,差止請求をした株主は,併せて,当該差止請求をした旨及びその理由を株式会社に通知すべき旨の規律を設けるものでございます。   この点に関し,当部会においては,特に,株主総会の直前に差止請求がされ,株主総会までに仮処分命令が間に合わなかった場合に,当該差止請求に係る議決権の行使を拒むべきか否かを株式会社が判断しなければならないものとすることは,株式会社を困難な立場に追い込むおそれがあり,法的安定性の観点から慎重に検討する必要があるとの指摘がされています。そこで,本文の⑤は,株式会社は,本文の③による差止請求の通知を受けた場合でも,当該通知の日から2週間以内の日に開催される株主総会においては,差止請求に係る議決権の行使を任意に認めることができるものとするものでございます。これにより,差止請求の通知を受けた株式会社に,差止請求の理由の存否などを確認し,株式会社における対応を検討するための時間的余裕が与えられることとなります。また,このような時間的余裕がない場合,すなわち,株主総会の日の2週間前の日以降に差止請求の通知がされた場合には,株式会社は,差止請求に係る議決権行使を任意に認めることにより,株主総会の決議の有効性に疑義を生ずることを回避することも可能となります。他方で,差止請求に理由がある場合には,差止請求に係る議決権の行使を拒むこともできますが,これを拒まなかったからといって,決議取消事由となるものではございません。   なお,株式会社にも議決権行使の差止請求権を付与すべきであるとの御意見もありましたが,第20回会議でも御説明しましたとおり,株式会社による濫用的な利用のおそれがあるとの御意見もあることや,本制度の趣旨が支配関係の変動に際して株式売却の機会を与えられるという個々の株主の具体的な利益を保護することにあることを踏まえ,株式会社には差止請求権を与えないこととしております。仮に株式会社に差止請求権を付与しますと,株主と株式会社の双方が別々に差止請求をした場合に,特に,訴訟法的な観点から,両者の関係について困難な問題が生じ,関係者間の法律関係が複雑なものとなるおそれもあるため,この観点からも,株式会社に差止請求権を付与することは相当でないと考えております。 ○岩原部会長 どうもありがとうございます。この問題につきましては,5月の部会で,様々な御意見を頂いたところでございますが,それを踏まえまして,第1の⑤のような案を工夫していただいたということでございます。いかがでございましょうか。 ○神作幹事 差止請求に係る議決権の行使を拒むべき場合に会社が議決権を行使させた場合等には株主総会決議の取消事由となり得るために,会社の株主総会を安定的に運用することを可能にするために,今回新たな規律が提案されたと理解いたしました。これは,一つの考え方だとは思いますけれども,議決権行使の差止めを認めることとする最大の理由は,金商法上の一定の規制に対する重大な違反があったため議決権行使が差し止められる場合とは,3分の1ルールですとか,全部買付け・勧誘義務のように,会社の支配権ですとか,少数派株主のイグジットする権利のように,株主の私的利益に非常に深く関連することからいたしますと,会社の株主総会を安定的に運用するという利益はもちろん非常に大事な利益ではありますけれども,やはり,大元になっているのは,ほかの株主の支配権ですとかイグジットする権利についての侵害ではないかと思われるわけです。そこで,新たな御提案である⑤について御質問なのですけれども,株式会社が議決権行使を認めるかどうかの判断については,会社が当該規制の違反について悪意である場合であっても議決権行使を認めるという判断をすることが認められるのか,会社が⑤の判断をするに際し善管注意義務が掛かってくるのか,さらには,何らかの調査をするような,もちろん限られた時間内ですので,それほど厳密な調査をすることもできないと思いますけれども,⑤の会社の決定というのは,その有効性について争う余地があるものなのかどうかについてお尋ねしたいと思います。むしろ,御提案の趣旨としては,議決権行使を認めるかどうかに係る会社の決定は,それが無効であるとか争う余地があるというものではなくて,正に,議決権行使の差止請求が認められるための条件として構成されているのか,⑤における会社の決定の位置付けについて御質問させていただければと思います。 ○内田関係官 御質問の点ですけれども,基本的には,⑤というのは,株主総会の運営という観点で法的安定性を確保するという趣旨のものでございますので,基本的には,会社としては,株主総会の直近2週間以内に通知が来てしまったら,基本的に議決権行使を認めれば,ある意味免責されると言いますか,株主総会決議取消しのリスクは回避できると,そういう制度でございますので,何か積極的に調査をする義務が生ずるというようなものではないと考えております。ただ,よほど背信的な場合と言いますか,会社と違反者とが共謀して重大な違反を一緒にやっているというような状況の場合に,この規定があるからといって,無条件に違反者による議決権行使を認めてよい,それを全く争う余地も解釈上も全くないという,そこまでのことは意図しておりません。そのようなひどい場合にどうするかという点については解釈の余地があると思いますけれども,基本的には,先ほど申し上げたとおりの理解による御提案でございます。 ○神作幹事 ⑤における会社の決定は,取締役会設置会社の場合には,取締役会の決議事項となりますでしょうか,それとも,代表取締役限りで決めてもいいのでしょうか。 ○内田関係官 明文で,取締役会決議事項にするということではございませんけれども,やはり,重要な事項ですので,実際上は,取締役会決議で行うということが多くなるのではないかとは思います。 ○田中幹事 私は,この案が出てきたときには,当初は,仮処分の帰すうでもって会社は,対応を決められるという制度にすればいいのではないかと申し上げました。つまり,議決権の差止めの仮処分が出たときには,その議決権を行使させず,出なかったときには,議決権を行使させる,これでいいのではないかということを申し上げたわけです。しかし,よく考えてみますと,会社支配の問題に関する事項で,特に,これは,議決権を行使させるのとさせないのとで,決議の結果が180度変わる可能性もかなりあるものですので,そういう重大な問題について,仮処分で全て決めてしまうというのは,本来は,本案訴訟で争うべきことであるという考え方とずれてしまうような気がしましたので,その意見は,撤回させていただいて,やはり,基本的には,実体法上,金商法違反かどうかということで決まるのであって,ただ,株主の意思を尊重するために,一度は,株主が差止請求という形で行わなければならないのであると,ただ,それは,決議前に仮処分命令まで得ていなければならないものではないということでいいのではないかと思っています。   今回の御提案ですと,2週間以内にそういう差止請求をした場合には,会社としては,議決権の行使を認めることができますが,2週間よりも前の日に,裁判外であっても,会社に対して差止請求が来ると,会社としては,議決権を行使させるかどうか態度を決めなければならず,その決定が後で決議取消訴訟という形で覆されるという可能性も否定できないという形になっています。ただ,金商法違反かどうかという問題が,会社に判断が難しいときは,裁判所にとっても判断が難しいケースもあり得るわけですから,一度成立した決議が取り消されるということになっても,ある程度ここは甘受しなければならないところなのではないかなという感じがしておりまして,そういった意味で,現在の提案でよろしいのではないかと思います。それから,金商法違反であるにもかかわらず,議決権を行使させてしまって,後で決議が取り消されたというようなときに,取締役が善管注意義務違反の責任を問われ得るかという点につきましては,それは,確かに,取締役はどんな職務も善管注意義務を尽くして行わなければなりませんから,抽象的な可能性としては,そういうこともあるわけですけれども,しかし,限られた時間内で,しかも,会社が調査をすると言っても,現実には,任意に証拠の提出を求めることぐらいしかできないわけですから,そういった中で,後日,決議が取り消されるというようなことがあったとしても,実際には,取締役に過失がないという形で責任を否定できることが多いと思います。仮に責任があるとしても,それは,本当に金商法違反をした買収者と取締役が共謀しているとか,そういう悪意のような場合に限られてくるのではないかなと考えております。 ○前田委員 先ほどの神作幹事の御意見にも関連することなのですけれども,私も,最初⑤を見たときには,幾ら差止請求が株主総会直前にされたのであっても,重大な違反のあったことが明確であって,差止事由が存在することが明らかだという場合にまで,会社の善意・悪意を問題にせずに,何の限定もなしに議決権行使を認めることにしていいのか,少し気にはなりました。つまり,あからさまな違反があるのに,例えば,違反者が友好的な買収者である場合だけ議決権行使を認めるというような恣意的な扱いがされないかということを懸念したのですけれども,しかし,そういう恣意的に議決権行使を認めるようなことをいたしますと,その議決権行使は,この⑤によって法令違反にはならないとしても,著しく不公正となって,決議取消原因にはなり得るのではないか,そうすると,会社がこの⑤を恣意的に使うことを,そう心配する必要はないのではないかと考えるに至りました。ですので,会社の負担を考えますと,この⑤の扱いは,優れた解決方法ではないかと思いますので,賛成をしたいと思います。 ○藤田幹事 私も,現実的な解決としては⑤ぐらいしかなくて,また,これで何とかワークするだろうという意味で賛成したいと思います。前回の会合で問題となったのは,実体法上の差止請求権の有無だけによって議決権行使させるべきだったか否かを判断するという原則を完全に貫徹してしまうと,幾ら何でも実務的に問題が起きないかという指摘だったと思います。二つ問題があって,一つは,差止めの仮処分に従ったのに,実は,理由がなかったことが後で分かったら,違法だったということになるのですかという話,もう一つは,議決権行使をしないように請求はしてきたが仮処分がないという場合に,請求に従うか従わないか,会社が全面的に自分のリスクで判断しなければいけないのですかという話です。前者につきましては,よく考えますと,ここに限った話ではなくて,請求の理由がない議決権行使禁止の仮処分が出ているときに,それに従ったらどうなるのですかという一般的な問題があって,その解釈のほうで解決できるのでしょう。後者のほうがむしろ問題で,直前に議決権の行使を止めるように請求が来たが仮処分はないときに,会社が自己責任で理由の有無を判断させられるのは困るということですが,それに対して一番完全に対処するには,仮処分があって初めてこの議決権停止という効果が現れるようなルールを作ることが考えられます。しかし,理論的には,田中幹事のおっしゃったような問題もありますし,そういう制度は,余りほかにもないですから,ちょっと大掛かりすぎるかもしれません。そうだとすれば,現実的に一番考えられるのは,2週間あれば大体仮処分を取るだろうということで,それだけの時間的余裕があるようにしておけば,事実上,紛争は少なくなるだろうと期待して,一定の期間制限を置くということです。そうすると現在提案されている案のようなものになるのかなと思います。   ただ,この提案の書き方が,通知の日から2週間以内であれば議決権を行使することを認めることができるというふうに,会社の立場から書いているので,何か非常に違和感があるように映ったりするのですが,その趣旨は,できるだけ,仮処分が出せるようなタイミングで申し立てさせることを狙ったものだと理解すべきなのでしょう。2週間で仮処分が出なかったらどうなるのかとか,そもそも,差止権を行使しただけで仮処分を掛けてこないようなケースだと問題は解決していないとか言い出すと,確かに理論的には完全な対処になっているとは言い難いですが,まあ多くの場合は一応はワークする程度にはなるのかなということで,賛成したいと思います。 ○荒谷委員 私も,⑤について同じような懸念を持っておりまして,前田委員がおっしゃっておられましたように,もし,悪質な違反事実があるにもかかわらず,違反者が会社にとってフレンドリーなものである場合に,会社がその者の議決権行使を認めたというようなケースについては,決議取消事由になるというふうに解釈するのであれば,私は,⑤はこのままでもよいのかなという気がするのですが,ちょっと誤解があるかもしれませんのでお伺いしたいのですが,15ページの括弧書きのところで,「(他方で,差止請求に理由がある場合には,差止請求に係る議決権の行使を拒むこともできるが,これを拒まなかったからといって,決議取消事由となるものではない。)」という説明がされておりますので,これだけ解釈しますと,もし⑤とリンクさせるとするならば,会社のほうが,差止理由があるということが分かっていて,それにもかかわらず議決権行使を拒むこともできるけれども,拒まなかったとしても,決議は取り消されない,有効になってしまうというふうに読むこともできますので,そうであれば,私は,こうした解釈には賛成し難いので,この辺りは,どういう趣旨で書かれたのか御説明いただければと思います。 ○内田関係官 この補足説明の記載は,⑤を使って議決権行使を認めた場合には,差止事由が客観的にあったからといって,決議取消事由になるものではないという,正に⑤の規律の趣旨そのものを書いているということでございます。そこから先,非常に悪質な場合における解釈論については,補足説明ではそこまで言及していないということになります。悪質な場合も含めて決議取消事由になる余地が解釈上完全に否定されるということまでを意図したものではございません。 ○荒谷委員 それであれば,その趣旨が,立法化された後で誤解を招かないような説明をしていただきたいというのが私の希望でございます。 ○内田関係官 本日,このような御議論を頂いたことは,議事録という形で明らかになるのではないかと思います。 ○岩原部会長 将来,立法ができたら,解説文を書かれるのでしょうから,誤解のないように書いていただくということになるかと思います。 ○杉村委員 この規律について何か異論があるわけでもありませんし,⑤についても異論はないのですけれども,少し細かい点ですが,先ほど神作幹事より,会社の判断をどの機関が行うのか,取締役会なのかという御発言がありまして,それに対して,事務当局から,必ずしも決まっていないけれども,大事なことであるので取締役会決議で行うと考えられるというニュアンスの御説明があったと受け止めました。しかし,⑤は,時間がないときのことを配慮したものだと思いますので,株主総会の2週間以内で時間がない中で,特に,直前になればなるほど時間がない中で,例えば,前日とか,あるいはその日の総会が始まる前とか,そのようなときに請求があった場合にも,取締役会決議で行うとして余り手続を重くしてしまうと,実務上非常に困難なことになるというところもあります。請求が直前であればあるほど会社が困るではないか,適正手続が取れないではないかという話になると,それはおかしいような気もしますので,ここは,2週間なら2週間と割り切って,例えば,代表取締役の判断で行うとか,ある程度機械的に進めるというスタイルがよろしいのではないかと思います。 ○内田関係官 先ほども申し上げましたとおり,取締役会決議によらなければならないという明文の規定を設ける予定はございませんので,改めて補足申し上げます。 ○上村委員 私も,今の⑤を見たときに思ったのですが,要するに,実質的には,金商法違反を株式会社が判断しろということですよね。これは,具体的な問題としては,金商法違反の効果がはっきりしない場合には,仕方ないので当面こうせざるを得ないということはあり得るのだろうと思うのですが,しかし,金商法違反を株式会社が判断して,議決権の存否がそれに左右されるという発想に,非常に気持ち悪さを覚えます。私は,前にも申し上げましたけれども,これは,上場会社のケースですから,全体の株式の相当部分は,流通市場で日々売買されているわけです。そこでは,時間優先,価格優先,投資家の完全平等,ディスクロージャー,そういった市場原理で売買されているわけです。そういうときに,3分の1を超えるような固まりが私的取引であるということは許しません,というのが,公開買付強制の根拠だろうと思っております。ですから,そういう意味では,これは,市場メカニズムについて行政責任を負っている金融庁として,金商法の目的に反するような行為が行われた場合には,金商法が守るべきミッションを達成するために,例えば,緊急停止命令を出すとか,それから,こういう取引は,例えば,以前に問題になりましたToSTNeTみたいな取引ですと,これは,相対取引だから取引自体が無効だと,言おうと思えば言えます。そうなると,そもそも,そうした取引で株式を取得したと言っても,そもそも株主ではないのですから議決権がないのは当たり前ということになります。あるいは違法な公募だけど流通市場に混入してしまっていて無効にしたくてもできないから有効にせざるを得ないという,そういう有効もあると思います。結局,基本的には,やはり,金商法の価値がきちんと守られるための解釈や措置が取られているかどうかという問題がまずあって,それがはっきりしないときに,会社としては取りあえず,議決権を行使させておけという,そういう処理になっているわけですね。しかし,こういう全体の構図そのものが非常に気持ち悪いという感じを受けておりまして,ですから,その意味では,議決権行使の有無のところに金商法違反のような問題の一切を委ねる前に,金商法としての立場ないし解釈がはっきりと示されることがまずは大事なのではないかと思います。その上で,しようがないので,最後の最後のところに会社法的対応もあり得るかもしれませんが。当事者にしてみれば,その法的なリスクというのは分かりませんので,最高裁に行って,7対8になって変わるかもしれないわけですから,それは分からないので,当面ここにあるような形で処理をするということもあり得るかなと思いますけれども,この問題は,株主と他の株主との間の私的利益調整という話ではなくて,金商法が守るべき価値をどう守るべきかということがまずあって,その上で出てくる問題だと思いますので,その点を意見として申し上げておきたいと思います。 ○栗田幹事 今,上村委員から御指摘がありましたので,一言だけ御発言させていただきたいと思います。公開買付規制における一定の違反行為については,課徴金の対象になりますし,訂正届出書の提出命令というようなこともあると思います。それは,ただ,飽くまで,我々,あるいは監視委員会が違反行為を認識できた場合ということに残念ながら限らざるを得ないということと,あと,私法上有効か無効かの判断は,行政当局として,そこまでの判断は,恐らくできないのではないかと思います。法令違反だから多分無効だろうということは言えたとしても,我々が,これは無効だというところまで踏み込んだ判断はなかなかできないのではないかと思っております。この金商法違反の議決権差止請求という提案をさせていただいたのは,当然,我々がやるべきことはいろいろあって,それをやるんですけれども,それでも抜けるものがあったときに,そのまま議決権を行使させると,やはり,株主総会の議決がゆがんでしまうのではないかという問題意識からお願いしたものであって,当局が何もやらないという前提でお願いしているわけでは全然ないということだけ申し上げたいと思います。 ○上村委員 契約を無効にすることで市場の秩序が回復するということもあるわけですよね。大量の違法な株式の市場への参入が放置されて公正な価格ということはあり得ませんので。それから,公募で株式が流通市場に混入していて取引の追跡可能性すらないというような場合ですと,取引を有効にせざるを得ないですが,そういう場合には,会社として違法な株式に相当する株式を市場で買い入れて消却しなさいというやり方もあり得ます。それによって市場機能を回復させる機能を持ち得ます。その意味で,市場機能を回復するという観点から契約の効力に言及するということは,金融庁の立場として,私は,当然あり得るし,むしろ,その責任ではないかと思います。アメリカの1934年法などには,違反した場合には無効だというような条文もあったかと思います。契約の効力の問題は,およそ行政当局としてはできないという立場ないし前提になりきってしまうことには大いに疑問があります。 ○神作幹事 今までの議論に関連いたしまして,また御質問させていただければと思うのですけれども,今度は,株主の側,議決権行使を差し止められる側からの御質問です。先ほど田中幹事も御指摘になっていたかと思いますけれども,金商法の当該規定に違反するかどうか,非常に微妙なケースというのも少なくないのではないかと思います。そのような場合に,ある株主がいろいろ問合せをしたり,法律の専門家の意見を聴いたりして,違反はないだろうと慎重に判断した上で当該行為をしたけれども,客観的に見ればやはりそれは金商法の当該規定に違反していたというようなときは,違反する事実が重大であるというときの「重大性」の判断に当たって,そのような主観的な事情,すなわち違反者の側で慎重に調査をし当局や専門家の意見等を聴取したといった事情を考慮することができるのかどうか。違反の効果が,議決権の停止,しかも,違反して取得された当該株式については永久に停止されるという前提であると思いますので,停止される株主の側から見ると,非常に重大な法的効果が生ずるわけですから,違反した側で十分に注意を尽くしているようなときには,そういった事情も加味されるべきではないかとも思うのです。違反する事実が重大であるという場合における「重大性」の中には,そういった主観的な事情は考慮される余地はないという前提でしょうか。 ○内田関係官 解釈論ということになってくるとは思いますけれども,基本的には,株主の利益を確保するという趣旨の規定として整理しておりますので,株主の利益が客観的に害されたかどうかというのが,やはり中心になってくるとは思います。したがいまして,違反をした株主の側の主観的な事情というものを考慮するということは,余り考えておりませんでした。主観的な事情も考慮されるという解釈の余地を全く否定するつもりもございませんけれども,基本的には,やはり,客観的に株主の利益が害された程度というものが,一番の考慮要素になってくると思います。 ○岩原部会長 先ほどの上村委員から御指摘のあった問題は,金融庁としては,これは,金商法第192条の差止命令で議決権行使の差止めを裁判所に求めることもできるんですか。 ○栗田幹事 無登録業者に対して裁判所が差止命令を発した事例もあり,不可能ではないと思いますが,意外に時間が掛かっていまして,実際問題として即時に命令が出るというものではないということでございます。 ○岩原部会長 全く別のケースですけれども,何件か申し立てられているようですね。 ○栗田幹事 5件ほど申し立てられています。 ○岩原部会長 それでは,よろしゅうございましょうか。   それでは,いろいろ御議論がございましたけれども,具体的な問題の解決としては,この部会資料25に書かれているような方向が穏当なところではないかという御意見が多かったかと思います。そういうことで,この部会資料25のような方向で取りまとめさせていただくということでよろしゅうございましょうか。   それでは,そのように扱わせていただきたいと存じます。   それでは,最後に「第2 株主名簿等の閲覧等の請求の拒絶事由」及び「第3 その他」に移らせていただきたいと思います。「第2 株主名簿等の閲覧請求の拒絶事由」は,3号を削除することについては,格段の御異論はなく,また,第3の1から5までにつきましても,特別の御異論はなかったところでございますので,事務当局からの説明は省略させていただきたいと思います。第2及び第3をまとめて,いかがでございましょうか。 ○伊藤委員 「2 監査役の監査の範囲に関する登記」について述べたいと思います。このような規定を置く趣旨は理解できますが,追加することによって,中小企業の登記に関する実務が混乱することが想定されます。登記事項が追加されることを徹底的に周知していただくと同時に,十分な経過措置を導入していただき,登録免許税の減免措置を考えていただけると有り難いと思います。登録免許税の話は法務省の本来の仕事ではないとは思いますが,そのように考えております。よろしくお願いします。 ○坂本幹事 登録免許税のことはともかくとして,周知の件につきましては,相当の数の会社に関係するであろうと思っておりますので,そこは,私どもとしても,できるだけ周知に努めさせていただきたいと思っております。また,経過措置につきましても,例えば,施行と同時にやらなければいけないとすると,それは,恐らく,大きな混乱を招くと思っておりますので,そこも,一定程度の経過措置を置くことは考えております。 ○岩原部会長 ほかに何かございますでしょうか。よろしゅうございましょうか。   それでは,今,伊藤委員から御指摘のあった点につきましては,坂本幹事からお答えいただきましたような配慮をしていただくということで,部会資料25のような形で,第2及び第3についても進めるということにさせていただきたいと思います。よろしゅうございましょうか。   どうもありがとうございます。本日は,幸いにして,休憩も入れずに議事を終えることができました。これは,ひとえに,皆様の御協力のお陰と厚く御礼を申し上げます。 ○太田委員 今日,前半部分の多重代表訴訟と,あるいは3ページ目の子会社少数株主の保護の辺りについて,意見の溝がまだ随分あると思われますが,これから御説明があるのかもしれませんが,これまでの意見の相違について,更に知恵を出してこの溝を埋めていけるものなのか,相当難しいのではないかと思うところもあるように感じます。これからの調整あるいは知恵出しとおっしゃっているのですが,どういう方向や手段で,また,どういうスケジュール感で議論がされようとするのか,その辺のおよその見込み又は納期について御説明いただければと思います。 ○坂本幹事 抽象的に申し上げると,埋められる溝は埋めていき,溝を埋められないときに,どうするかという判断をしていただくことになると思っております。御承知のとおり,法制審では,両論併記ということはございませんで,一定の結論を出さなければいけないということになっておりますので,それを踏まえて,では,どこまでどういうことができるのかというところで結論を出していただかざるを得ないだろうと思っております。   今後の予定ということですけれども,最後に御説明する予定だったのですが,御質問なので,この段階で答えさせていただきますと,次回に,前回御議論いただいたものと今回御議論いただいたものを合体して,要綱案の第1次案的なものをお示しする予定でございます。ただ,太田委員が御指摘になった,今日の御議論で申し上げますと,上からの問題及び下からの問題,前回の御議論で申し上げますと,社外取締役の義務付け,その他幾つかのまだ御意見がまとまっていない論点につきまして,どこまでどういうお示しの仕方ができるかということについては,この段階ではっきり申し上げることは控えさせていただきたいとは思っております。ただ,納期があるというのは,正におっしゃるとおりでございまして,4月の会議で申し上げましたが,基本的には,本年の夏頃をめどに要綱案のお取りまとめをお願いしたいと思っております。 ○岩原部会長 よろしいでしょうか。何とか埋められる溝は埋め,そして,決断せざるを得ないところは決断して,皆様につらい夏をなるべく過ごさせないで済むように事務当局と私のほうで努力したいと思っておりますので,どうか皆様の御理解を頂きたいと思います。以上のようなことでございますが,よろしゅうございましょうか。   それでは,そのようにさせていただきたいと思います。既に一部お話しがあったところではございますが,本日の部会の終了の前に,次回の部会の予定について,事務当局から説明をお願いいたします。 ○坂本幹事 次回の予定でございますが,7月18日水曜日午後1時半から,予定では午後5時30分まででございます。場所でございますけれども,本日とは異なりまして,地下1階の大会議室でございますので,お間違えなきよう,お願い申し上げます。   次回の予定は,先ほど申し上げましたとおり,本日の御議論と前回の御議論の分を合体した要綱案の第1次案的なものをお示しして,意見が分かれている点を中心に御検討をお願いする予定でございます。 ○岩原部会長 どうもありがとうございました。   それでは,法制審議会会社法制部会第22回会議を閉会いたします。本日も,熱心に御議論に御参加いただきまして,どうもありがとうございました。 -了-