法制審議会 第167回会議 議事録 第1 日 時  平成24年9月7日(金)   自 午後2時30分                        至 午後3時55分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題   1 会社法制の見直しに関する諮問第91号   2 罹災都市借地借家臨時処理法及び被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法の見直しに関する諮問第94号   3 少年法改正に関する諮問第95号   4 自動車運転による死傷事犯の罰則の整備に関する諮問第96号 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○松本司法法制課長 ただいまから法制審議会第167回会議を開催いたします。   本日は,委員20名のうち,17名に御出席いただいておりますので,法制審議会令第7条に定められました定足数を満たしていることを御報告申し上げます。   始めに,法務大臣から挨拶がございます。 ○滝法務大臣 法制審議会第167回会議の開催に当たりまして,一言御挨拶を申し上げます。   委員及び幹事の皆様方におかれましては,御多用中のところ,本会議に御出席いただき,誠にありがとうございます。また,この機会に,法制審議会の運営に関する皆様方の日頃の御協力に対し,厚く御礼を申し上げます。   さて,本日は四つの議題について御審議をお願いをいたしたいと存じます。議題の第1は,平成22年2月に諮問いたしました会社法制の見直しに関する諮問第91号についてでございます。この諮問については,会社法制部会において調査・審議が行われた結果,会社法制の見直しに関する要綱案が取りまとめられ,本日,部会長から報告されるものと承知をいたしております。この諮問事項については,早急に所要の法整備を図り,適切な措置を講ずる必要がございます。このため,部会においても精力的に調査・審議をしていただいたと承知しております。委員の皆様方には,御審議の上,できる限り速やかに御答申を頂きますようお願いを申し上げます。   議題の第2は,新たに御検討をお願いするもので,罹災都市借地借家臨時処理法及び被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法の見直しに関する諮問第94号についてでございます。近年,大規模な地震が発生する危険性が指摘されるなどしており,民事法上の観点からも,今後想定される大規模な災害に備えることは喫緊の課題であると考えられます。罹災都市借地借家臨時処理法は,第二次世界大戦後の応急的・時限的な立法として制定された後,政令で定める大規模な災害に適用されるようになった法律ですが,必ずしも現代の社会に適合しているとは言えない点があることから,同法を現代の社会によりふさわしいものにする必要がございます。また,区分所有建物について,その取壊しを行うには,現行法上,区分所有者全員の合意が必要ですが,昨年3月の東日本大震災により,区分所有建物にも重大な被害が生じたことを踏まえて,大規模な災害により重大な被害を受けた区分所有建物を,区分所有者全員の合意によらずに取り壊すことができる制度を創設すべきであるとの指摘がされています。そこで,今後想定される大規模な災害に備え,罹災都市借地借家臨時処理法を早急に見直して,同法を現代の社会によりふさわしいものにするとともに,被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法を早急に見直して,大規模な災害により重大な被害を受けた区分所有建物の取壊しを容易にする制度を整備することについて,御検討をお願いするものでございます。   議題の3も,新たに御検討をお願いするもので,少年審判手続のより一層の適正化及び充実化並びに少年に対する刑事事件における科刑の適正化を図るための法整備に関する諮問第95号についてでございます。法務省におきましては,これまで被害者関係団体を始めとして,刑事法研究者,法曹関係者の方の御意見や御要望を伺うとともに,関係各方面から指摘されている御意見や,実務の運用状況等を踏まえつつ,立法的な措置を講ずる必要性のある事項の有無,その必要性の程度等について,慎重に検討を進めてまいりましたところ,少年審判手続のより一層の適正化及び充実化並びに少年に対する刑事事件における科刑の適正化を図るため,国選付添人制度及び検察官関与制度の対象事件の範囲の拡大並びに少年の刑事事件に関する処分の規定の見直しに関しまして,早急に法整備を行う必要があるとの結論に至りましたので,そのための法制審議会の御審議をお願いするものでございます。   議題の第4も,新たに御検討をお願いするもので,自動車運転に係る交通死傷事犯の処罰の在り方に関する諮問第96号についてでございます。近時,無免許運転や飲酒運転など悪質・危険な自動車運転による交通死傷事犯が社会的な問題となっており,これら事犯に対する罰則や法定刑が国民の意識に合致しているのかとの指摘があります。そこで事案の実態に即した対処をするため,自動車運転による交通死傷事犯の罰則整備について御検討をお願いするものでございます。   それでは,これらの議題についての御審議をよろしくお願いを申し上げます。 (法務大臣の退出後,委員の異動紹介があり,引き続き,本日の議題につき次のように審議が進められた。) ○野村会長 それでは,本日の審議に入りたいと思います。先ほどの法務大臣の御挨拶にもありましたように,本日の議題は四つございますが,第1の議題であります会社法制の見直しに関する諮問第91号の御審議をお願いしたいと存じます。   まず,会社法制部会における審議の経過及び結果につきまして,同部会の部会長を務められました岩原部会長から御報告をお願いいたします。 ○岩原委員 会社法制部会の部会長を務めさせていただきました岩原でございます。諮問第91号につき,先月1日に開催されました会社法制部会第24回会議におきまして,会社法制の見直しに関する要綱案を決定いたしましたので,当部会における審議の経過並びに要綱案及びこれに併せて行われました附帯決議の概要につきまして御報告をさせていただきます。   諮問第91号の内容は,「会社法制について,会社が社会的,経済的に重要な役割を果たしていることに照らして会社を取り巻く幅広い利害関係者からの一層の信頼を確保する観点から,企業統治の在り方や親子会社に関する規律等を見直す必要があると思われるので,その要綱を示されたい。」というものでございます。その背景には,会社法の施行後,相当期間が経過し,その実務への定着が進む一方で,国内外における社会・経済状況の大きな変化等に伴い,一部の規律を見直すべき必要性が生じてきたということがあったものと理解しております。   この諮問を受けまして,平成22年2月の法制審議会第162回会議におきまして,会社法制部会が設置されました。当部会では,平成22年4月から調査・審議を開始し,平成23年12月に「会社法制の見直しに関する中間試案」の取りまとめを行いました。これにつきましては,事務当局において,平成24年1月末までの約1か月半の間,パブリック・コメントの手続を行いました。その後,中間試案に対して寄せられました御意見も踏まえて,更に調査・審議を重ね,先月1日に開催されました第24回会議におきまして,「会社法制の見直しに関する要綱案」を決定するとともに,社外取締役の選任に関する附帯決議を行いました。   以上が当部会における審議の経過でございます。   次に,要綱案及び附帯決議の内容につきまして,その概要を御説明いたします。お手元の配布資料2-1が,この「会社法制の見直しに関する要綱案」でございます。配布資料2-2が,附帯決議でございます。要綱案は,「第1部 企業統治の在り方」,「第2部 親子会社に関する規律」,「第3部 その他」の3部構成になっております。この要綱案の項目に従って御説明をさせていただきます。   まず,第1部は,企業統治の在り方に関するものでございます。要綱案の1ページの「第1 取締役会の監督機能」では,社外取締役の活用等によって,取締役会の監督機能を充実させるための方策を掲げております。   まず「1 監査・監督委員会設置会社制度(仮称)」におきましては,株式会社の新たな機関設計として,監査・監督委員会設置会社制度を創設するものとしております。これは,自ら業務執行を行わない社外取締役を複数置くことで業務執行と監督の分離を図りつつ,そのような社外取締役が,監査を担うとともに,業務執行者の選定,解職等の取締役会における決定に関与することを通じて監督機能を果たすための制度でございます。   (1)③にございますように,この制度では,監査役が置かれず,3人以上の取締役によって組織される監査・監督委員会が監査を行うことになりますが,(2)①のとおり,監査・監督委員である取締役については,それ以外の取締役とは区別して株主総会の決議によって選任するなど,監査役と同様に,業務執行者からの独立性を確保することとしております。  また,2ページの(3)②にございますように,監査・監督委員会の過半数は,社外取締役でなければならないものとしております。取締役会の役割については,特に監督機能に重きを置くという観点から,4ページの(6)⑤及び⑥にございますとおり,取締役の過半数が社外取締役である場合や,定款の定めがある場合には,委員会設置会社と同じ範囲で,重要な業務執行の決定を取締役に委任することができるものとしております。   続いて,5ページの「2 社外取締役及び社外監査役に関する規律」におきましては,冒頭に(前注)を置いております。これは,一定範囲の株式会社に社外取締役の選任を義務付けるかどうかという議論に関連するものでございます。現時点におきましては,社外取締役の選任を義務付けることについては反対意見も強く,部会において意見の一致には至りませんでした。しかし,そのような議論の過程で,公開会社かつ大会社である監査役会設置会社のうち,株式についての有価証券報告書提出会社においては,社外取締役が存しない場合には社外取締役を置くことが相当でない理由を事業報告の内容とすることにつき,意見の一致に至りましたので,これを(前注)として盛り込んだものでございます。この内容は,法務省令で規定されることになります。さらに,当部会における議論の成果を踏まえ,上場会社について,取締役である独立役員を確保することの努力義務を金融商品取引所の規則に定める必要があること等,配布資料2-2のとおりの附帯決議を行いました。   同じく5ページの「(1) 社外取締役の要件における親会社等の関係者等の取扱い」では,親会社等又は兄弟会社の関係者や,株式会社の取締役等の近親者は,社外取締役等に期待される機能を実効的に果たすことができないのではないかと考えられることから,これらの関係者や近親者でないことを社外取締役等の要件に追加し,その要件を厳格化するものとしております。   また,7ページの「第2 会計監査人の選解任等に関する議案の内容の決定」におきましては,会計監査人の独立性を確保する観点から,会計監査人の選解任等に関する議案の内容の決定権を,監査役又は監査役会に与えるものとしております。   次に,「第3 資金調達の場面における企業統治の在り方」でございますが,当部会で特に議論がございましたのは,同じく7ページの「1 支配株主の異動を伴う募集株式の発行等」でございます。支配株主の異動については,経営者ではなく株主が決定すべきであるとの考え方から,募集株式や募集新株予約権の引受人が公開会社の議決権の過半数を有することとなる場合に,情報開示の充実を図るとともに,10分の1以上の議決権を有する株主が反対の通知をした場合には,原則として株主総会の承認決議を要するものとしております。   次に,11ページの「第2部 親子会社に関する規律」に入ります。第2部は,近時,持株会社等を利用した企業グループによる経営が広く行われていることを踏まえまして,親子会社に関する規律を見直すというものでございます。   中でも,当部会で最も議論となりましたのが,11ページの「第1 親会社株主の保護等」のうち,「1 多重代表訴訟」でございます。現行法では,親会社の株主は,子会社の役員等に対して自ら代表訴訟を提起することはできませんが,多重代表訴訟の制度は,一定の要件の下でこれを認めるものでございます。①及び12ページの④にございますように,完全親子会社関係があり,重要な子会社である場合,すなわち,子会社の株式の帳簿価格が完全親会社の総資産額の5分の1を超える場合に,多重代表訴訟の提起を認めることとしております。また,この提訴権は,完全親会社の議決権又は株式の100分の1以上を有する株主に認められるものとしております。   次に,14ページの「第2 キャッシュ・アウト」におきましては,まず「1 特別支配株主の株式等売渡請求」において,株式会社の総株主の議決権の10分の9以上を有する特別支配株主が,その他の少数株主に株式の売渡しを請求することができる等の制度を創設するものとしております。この制度では,18ページの(3)にありますとおり,差止請求や裁判所に対する売買価格の決定の申立て等により,少数株主の保護を図ることとしております。   次に,22ページの「第3 組織再編における株式買取請求等」は,株式買取請求制度について,会社法の施行後に多くの事例が蓄積し,制度上の問題点が指摘されたことを踏まえまして,規律の合理化を図るものでございます。また,23ページの「第4 組織再編等の差止請求」は,法令又は定款に違反する組織再編等によって不利益を受ける株主を保護するため,株主が組織再編等を事前に差し止めることを認めるものでございます。   このほか,24ページの「第5 会社分割等における債権者の保護」は,会社分割や事業譲渡における債権者の保護を充実させるものでございます。特に,「1 詐害的な会社分割等における債権者の保護」は,近時,詐害的な会社分割等の事例が現れてきたことを踏まえまして,そのような場合に承継会社等に承継されない債務の債権者が,承継会社等に対して債務の履行を請求することを認めることとするものでございます。   25ページの「第3部 その他」は,その他の規律の見直しを掲げております。当部会で特に議論がありましたのは,「第1 金融商品取引法上の規制に違反した者による議決権行使の差止請求」でございます。これは,会社支配の公正を確保し,株主の利益を保護する観点から,金融商品取引法上の規制に違反した株主以外の株主が,違反した株主による議決権行使の差止めを請求することができるようにするものでございます。この差止請求は,公開買付規制のうち,いわゆる3分の1ルール等について,重大な違反があった場合に認められることとされております。   そのほか,第3部では,株主名簿等の閲覧等の請求の拒絶事由等,会社法の施行後に問題点が指摘されていた事項について,所要の見直しをするものとしております。   以上,簡単でございますが,要綱案及び附帯決議の概要について,御説明を申し上げました。よろしく御審議のほどお願い申し上げます。 ○野村会長 どうもありがとうございました。   それでは,ただいまの御報告及び要綱案並びに附帯決議の全般的な点につきまして,御質問及び御意見を承りたいと思いますが,まず,御質問がございましたら承りたいと思います。どなたか。 ○伊藤委員 ちょっと質問と意見という区分のいずれに入るのか自分自身が判断がつきかねるところもございますが,要綱案に書かれていることの趣旨についての私の理解が正しいのかどうか,それも質問の中に含めてよろしゅうございましょうか。 ○野村会長 どうぞ御発言お願いいたします。 ○伊藤委員 それでは,2点についてお伺いしたいと思います。   第1点は,11ページ,つまり「第2部 親子会社に関する規律」の第1の「1 多重代表訴訟」に関するものでございますが,その①のアとイの二つの場合において株主が責任を追及する訴えの提起を請求することができないことになっております。これは,この要件のいずれかが欠ける場合には,その後のいわゆる代表訴訟についても訴えが不適法になると理解をしてよいということと,特にイに関して,私の理解が十分でないせいかと思いますけれども,「当該最終完全親会社に損害が生じていない場合」とございますが,最終完全親会社であることが要件になっておりますので,当該株式会社,つまり子会社でしょうか,に何らかの意味での損害が生じていれば,完全親会社にも損害が生じていることになると考えられますが,そうなるとこれは訴訟要件の問題というよりは,むしろ本案の問題になるように考えられます。しかし,要綱案の考え方は,これを訴訟要件として定めるように理解いたしましたが,どういう場合を想定しておられるのか,部会における審議の内容などを御説明を頂ければ有り難いと存じます。   第1点は以上でございます。 ○岩原委員 それでは,ただいま頂きました御質問について,お答えします。   まず最初のほうの御質問ですが,11ページの「1 多重代表訴訟」の①のア,イの場合でございますが,これらは,いずれかの要件に当たると代表訴訟を提訴することができなくなるということになりますので,伊藤委員御質問のとおりの意味の要件と御理解いただければと思います。   その上で,このイの要件の意味でございますけれども,これは,こういう企業集団におきまして,特にこれは完全親会社,つまり100%子会社を持っている親会社とその子会社との間の関係で,親会社が子会社の利益や資産等を親会社に移転させるようなことがあり得ます。しかし,そのような場合に,親会社,そして,親会社株主には何ら損害が生じるわけではありませんから,親会社株主に子会社取締役等に対する多重代表訴訟を認める必要はありません。また,最近の大きい企業集団におきましては,親会社は複数の子会社を持っていることが多いわけであります。そういう言わば企業集団としての経営方針から,ある完全子会社の利益や資産等を別の完全子会社に移転するというようなことも起こり得るわけであります。例えば,A完全子会社とB完全子会社の間で売買をするというようなことがあり得るわけでありますけれども,企業集団全体の事情から,そのときの売買の条件がA子会社にとって不利益で,B子会社にとっては有利であるという場合もあり得ます。A子会社にとっては,損害を被ることになりますから,当然,A子会社の株主は,本来,A子会社の取締役等に代表訴訟を起こせるはずでございます。しかし,この場合,当該企業集団を全体として見ますと,単に完全子会社のA会社から完全子会社のB会社に利益が移っただけのことでありまして,それをA子会社,B子会社,双方,100%株式を所有している最終完全親会社の立場から見ますと,全く損害を被っていない。単に言わば自分のある事業部門から別の事業部門に資産を移転したのと同じことになりますので,そういう場合は最終完全親会社ひいてはその株主に損害が発生しないということで,この多重代表訴訟の対象にはならない。そういうことを想定して,このイは書かれているのです。 ○野村会長 それではその次。 ○伊藤委員 よろしゅうございますか。ちょっと後のページの事項に関することでございますが,24ページの会社分割等の関係で,確認させていただいてよろしゅうございましょうか。24ページにございます,詐害的な会社分割等における債権者の保護に掲げられている内容についてでございますけれども,ここで認められております分割会社の残存債権者の承継会社等に対する債務の履行請求権の理論的根拠について,どのような検討がなされたのかについて,お尋ねしたいと存じます。少し敷衍して申しますと,24ページの記述を拝見いたしますと,この請求権の発生要件として,分割会社が残存債権者を害することを知って会社分割をしたということが定められております。  また,請求権の内容といたしまして,承継した財産の価額を限度として,当該債務の履行を請求することができることが記述されております。これを踏まえますと,詐害的な会社分割によりまして,残存債権者に対する責任財産が減少し,分割会社がそのことを知りながらあえて分割を行うことがこの請求権を認めることの根拠になっており,承継会社等に対する請求権は,詐害的に移転,あるいは承継された財産を,それぞれの残存債権者のための責任財産として取り扱うことを目的としていると理解してよろしいかということが,まず出発点でございます。   仮にそういう理解が誤っていないということであれば,法律的な仕組みこそ違いますが,民法上の詐害行為取消権と発想としては共通するようなところがあるかと思います。そうしますと,②の下の(注1)に記載されている,破産手続開始の決定等があるとこの請求権の行使が認められないとの考え方の根拠としては,破産手続等が開始されると,詐害的分割によって分割会社から逸出した責任財産を回復する職責,これが破産管財人等の否認権行使に委ねられるために,残存債権者による個別的な請求権の行使の余地はなくなると自分なりに考えてみたわけでございますが,果たしてこういった理解が立案の趣旨に沿ったものといえるかどうか,お伺いできればと存じます。と申しますのは,こういう考え方が立法化された暁には,様々な局面での解釈問題等が生じ,それはその時点で裁判所が判断を示すことになるかとは思いますが,その前提として,ここに掲げられていることの基本的な趣旨を御教示いただきたいということでございます。 ○岩原委員 私の理解する範囲で申しますと,正に伊藤委員が今御指摘いただきましたような趣旨の制度として,第5の1の詐害的な会社分割等における債権者保護のためのこの新しい制度の提案がされていると理解しております。正に最近では,会社分割制度をある意味で濫用して,債権者からの追及を逃れるために会社分割をして,分割会社のほうに債権を残して,そして優良資産だけを承継会社のほうに移すというような形での債権者からの追及逃れが非常に多くなっているわけです。それに対して,裁判所におかれましては,詐害行為取消権ですとか否認権,いろいろな手段を使ってそういう事態に対応されているわけでありますけれども,一般法理である詐害行為取消権等においては,その要件その他について,細かい難しい問題がなお残るので,そういう場合の債権者保護をよりスムーズに行うための新しい制度を作るべきだという御意見が強く,それを受けて,このような制度を提案したものであります。  したがって,制度の基本的な性格は,おっしゃるように一種の詐害行為取消権と同じような,そういう債権者を保護するための制度として作られております。したがいまして,要件も,ほぼこの詐害行為取消権に準じた形で設けられました。そしてまた,法的な倒産手続が開始された場合,例えば破産手続開始決定があったような場合には,その時点からは破産管財人の方にその破綻処理を委ねることにして,この請求権を行使できなくなります。その場合に,残存債権者としてどのようにして権利行使をするかといえば,その破産手続の中で破産債権の届出をするという形で権利を行使することが想定されているわけです。   このような,会社債権者等を保護するための会社法上の権利と倒産手続の調整という問題は,いろいろな制度で常にあるものでございまして,会社法429条の第三者に対する詐害による取締役等の責任等についても,似たような問題が起きるわけであります。会社法は,そういう場合について,一つ一つ全部,倒産法との調整の規定を置いているわけではないんですけれども,この会社分割等における債権者の保護に関しましては,そういった倒産法との調整について,調整を図る規定を入れることが必要であるという御意見が部会でございまして,他の制度との比較の上で,必要な範囲で,このような規定を設けたということでございます。 ○野村会長 それでは,ほかに御質問ございますでしょうか。特に御質問がないということでございましたら,次に御意見を伺いたいと思います。 ○古賀委員 私どもの組織からも,会社法制部会にメンバーを送り出しまして議論に参加をさせていただきましたので,今回,提起されました要綱については,妥当であると判断をしております。   その上で,2点,意見・要望を申し上げておきたいと思います。1点目は,会社法における従業員の位置付けについてでございます。会社法というのは,言うまでもなく,企業の在り方の根本を規定する法律でございますけれども,私どもから見れば,株主と経営者の関係が中心になっているのではないかと思っております。したがって我々は,会社法の中に重要なステークホルダーの一員である従業員の役割を明確に位置付けるべきだと考え,その旨,提起をしてきました。しかし,専門家の皆様とは具体手法の点でかみ合わなかった,そういう部分が多くあったのではないかと認識しております。したがって,冒頭申し上げましたように,この要綱案については妥当だと判断しておりますけれども,私どもは今でも,この会社法の中に重要なステークホルダーの一員である従業員の役割というものを明確に位置付けるべきという課題は持ち続けているということを,この本審でも提起をさせていただきたいと思います。   二つ目は具体的なことですけれども,この要綱の中に,監査役による使用人からの情報収集に関する体制に係る規定の充実・具体化を図るという記載が盛り込まれております。私どもも現場の情報を有している従業員からの情報提供の必要性を主張してまいりました。したがって,我々はこうした考え方が反映されたものと受け止めております。是非,今後の政省令の制定において,適切に反映されるよう,そのことを要望し,意見に代えさせていただきたいと思います。 ○野村会長 どうもありがとうございました。それでは,八丁地委員どうぞ。 ○八丁地委員 まずはこの要綱案を取りまとめられました岩原部会長及び部会の委員の方,幹事の方,法務省の担当官の方の大変な御尽力に対しまして感謝申し上げたいと思います。ありがとうございました。   私自身は,この審議が始まりました2010年4月から前半の1年間,ほぼ毎月でありましたが,委員として会社法制部会の議論に参加をさせていただきました。思い出しますと,昨年の3月11日の東日本大震災の直前までお世話になりまして,その後,震災後の中断の期間がございまして,ただいまの御説明のあったような要綱案がまとまったと理解をしております。当初より,非常に多様な御意見がございまして,この会社法の見直しに対する関心は大変高かったと理解をしております。そういう状況下で,岩原部会長の円滑な部会の進行でありますとか,意見の取りまとめでの御尽力が大変大きかったと,改めて思っているところでございます。   会社法改正への企業のスタンスにつきまして,昨今,もう20年続いております厳しい経済情勢の中で,懸命に事業活動を続けている全国のあらゆる会社にとって,この会社法は法的インフラ,法的基盤でありますので,会社法を見直すということは,本来,企業にとっては,慎重に検討されるべきことではないかということは,かねがね申し上げてきたところであります。この会社法の見直しに伴う企業の実務ですとか,法務的な変更とか,修正を行ういわゆるスイッチングコストも,非常に大きな負担になるという企業も,日本の企業の中には少なくはないと主張をしております。この議論のスタート以来,法制審議会の会社法制部会において,経済界といたしましては,これを見直すことが必要な事実といいますか,見直さなくては企業法制上に不具合が生じる懸念があるのかどうか,すなわち,その立法すべき事実がどの辺にあるのかということを確認して共有をいたしたいと,真摯にお願いをしてまいったところであります。   今回,岩原部会長の御説明の要綱案を拝見し,また今,改めて部会長のお話を伺いますと,会社法制部会では,こうした経済界の懸念と期待に関しましては,充分に御理解いただけたのではないかなと受け止めているところであります。この要綱案ができた段階で確認したいことは,会社法は言うまでもなく,日本中のありとあらゆる会社に適用される法律でございますので,まずは,これを実務に展開するための技術だとか,ガバナンスへの反映ということに関しましては,企業の法務の前線だけではなくて,企業関係者全てが取り組む必要があります。加えまして,ステークホルダーの皆様の御支援を広く得るという努力が必要であります。企業関係者は,もちろん最大限の努力をさせていただく覚悟でございますので,是非先生方を始め,法務省の方々の更なる御指導をお願いしたいと念じております。 ○野村会長 どうもありがとうございました。ほかに御意見いかがでしょうか。 ○佐久間委員 まずは今,八丁地委員からもお話がありましたように,部会のほうで,岩原部会長の下,大変精力的に取り組んでいただきまして,誠にありがとうございました。   我々としては,実態に即した形でまとめていただけたと考えております。ただ,これには新たな制度,今までにない仕組みも入ってございます。ですから,その円滑な実施のためには,やはり実際に施行される時期については十分な配慮を,今後,法案作成準備の段階では行っていただきたい。経過措置を是非講じていただきたいと思っております。   例えばということで申し上げれば,今回,社外取締役,社外監査役の要件厳格化が提案されてございます。御案内のように,監査役は任期が4年であります。あと,現在,社外役員の選任ということになりますと,かなり高い独立性が求められているということでございまして,例えば6月総会の会社でいえば,年内に候補者についていろいろ考えを巡らし,実際,その候補者の方とコンタクトをするのが,遅くても,例えば12月とか1月です。そこからいろいろやり取りがあって,議案が固まっていくということで,やはりかなり時間を要します。そういう点を是非御配慮いただきたいと思います。   あと,もう一つ,多重代表訴訟という全く新しい制度が入りました。これについては,施行前の事案に遡って適用されることがないように,是非,御配慮いただきたいと思います。   あと附帯決議についてですが,これは当然ながら,実行するとなると取引所の規則制定ということになってまいると思います。そこはやはり関係者がしっかりと参加し,デュー・プロセスに基づいてその中身を検討していくことで進められると理解してございます。また,この附帯決議というのは要綱案とある意味ではパッケージだと理解してございますので,やはりその適用についても,先ほど申し上げた経過規定への配慮のようなものが是非必要だと思っています。はっきり言ってしまえば,会社法の今回の改正の施行と同じタイミングであるべきだろうと理解してございます。   最後に,これは今回の検討のことではございません。また今後,会社法というのは世の中が変わるにつれ,また見直しがされるだろうと考えてございます。そのときに,部会の構成についてですが,これはいろいろな法律がある中で,やはり会社法というのは企業のルールでございますので,やはり企業活動の現場の声がより反映されるような形の構成にすべきと考えてございます。やはり今回について数字で言えば,16人の方の委員に,15人の方の幹事と,こういう規模の中で,民間企業からは3名の方が参加されていたということで,はっきり言ってしまえば多勢に無勢ということでもございます。その点は次回以降ということではございますが,是非御配慮いただければと思います。 ○野村会長 ほかにいかがでしょうか。どうぞ佐々木委員。 ○佐々木委員 本当にこの会社法についてなんですけれども,今直前の委員からの御発言もありましたけれども,企業のやはり現場の実態というものが,法律の今までの実態と少し違うかもしれませんので,これはこの部会だけに限るものではないといつも感じておりますけれども,今,多様性,ダイバーシティが重要視されている時代ですから,部会の進行に関しましても,委員の構成等を見直しながら,次回以降は検討していただきたいと思っております。   また,社外取締役に関しましても,やはり世界中の動きからすると,今回の改正は,少し私からすると物足りないのであります。この日本国の企業というものがどんなふうになっていったらいいかというビジョンに基づくような,そして余り規制の厳しくない,しかしその方向性が見えるようなものになっていったらよいなと思って読んでおりました。 ○野村会長 どうもありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。   それでは,いろいろ内容にわたる意見,あるいは今後の法制審議会の部会の在り方に関わる意見もございましたけれども,原案につきまして採決に移りたいと思いますがいかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは特に御異議もないようでございますので,そのように取り計らわせていただきます。   諮問第91号につきまして,ただいま会社法制部会から報告されました会社法制の見直しに関する要綱案及び附帯決議のとおり答申することに賛成の方は挙手をお願いいたします。           (賛成者挙手) ○野村会長 念のため反対の方ございましたら,よろしいでしょうか。   それでは,採決の報告をお願いします。 ○松本司法制度課長 採決の結果を申し上げます。   議長・部会長を除き,ただいま委員15名が御出席されておりますところ,原案に賛成の委員は15名の皆様でございました。 ○野村会長 それでは,採決の結果,委員全員賛成ということでございますので,会社法制部会から報告されました会社法制の見直しに関する要綱案及び附帯決議は,原案のとおり採決されたものと認めます。採決されました要綱及び附帯決議につきましては,本日の会議終了後,法務大臣に対して答申することにいたします。   岩原部会長,どうもありがとうございました。   それでは,続きまして第2の議題である新しい諮問事項のうち,「罹災都市借地借家臨時処理法及び被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法の見直しに関する諮問第94号」の御審議をお願いしたいと存じます。   始めに,事務当局に諮問事項の朗読をお願いいたします。 ○岡山参事官 民事局で参事官をしております岡山でございます。諮問を朗読させていただきます。   「諮問第94号 今後想定される大規模な災害に備え,罹災都市借地借家臨時処理法を早急に見直して,同法を現代の社会によりふさわしいものにするとともに,被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法を早急に見直して,大規模な災害により重大な被害を受けた区分所有建物の取壊しを容易にする制度を整備する必要があると思われるので,それぞれその要綱を示されたい。」 ○野村会長 続きまして,この諮問の内容,諮問に至る経過及びその理由等につきまして,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○原幹事 民事局長の原でございます。それでは,諮問第94号につきまして,提案に至りました経緯及び諮問の趣旨等を御説明申し上げます。   近年,首都直下地震や東南海・南海地震など,大規模な地震が発生する危険性が指摘されております。そこで,今後発生が想定される大規模な災害に備えて,民事法上の観点から必要な法制を整備することは喫緊の課題であると考えられます。   ところで,大規模な災害が発生した場合に,被災した借地人や借家人を保護するための特例措置を定めた法律として,罹災都市借地借家臨時処理法,いわゆる罹災都市法がございます。罹災都市法は,第二次世界大戦により住居を失った被災者の保護等を主たる目的として,昭和21年に制定された応急的・時限的な法律ですが,その後に政令で定める災害にも適用ができるように改正され,最近では,平成7年1月17日に発生した阪神・淡路大震災や,平成16年10月23日に発生した新潟県中越地震において適用がされました。なお,昨年3月11日に発生した東日本大震災におきましては,関係市町村から罹災都市法の適用を求めないとの回答が示されたことなどを踏まえまして,その適用が見送られました。   このように,罹災都市法は,政令で定める災害に適用されてきましたが,その制定以来,全面的な見直しが行われていないため,必ずしも現代の社会にそぐわなくなってきていると考えられます。例えば,罹災都市法には,政令で定める災害により建物が滅失した場合には,その借家人が他の者に優先して借地権を取得することができるという優先借地権制度や,その借家人が他の者に優先して当該建物の敷地に最初に築造された建物を賃借することができるという優先借家権制度がございます。しかし,優先借地権制度は,借地権が相当の財産的価値を持つ現代の社会には整合しないものとなっておりますし,また,優先借家権制度は,自らも被災者である場合も少なくない賃貸人にとって過重な義務を課す制度であり,この制度のためにかえって建物が再建されないおそれがあるとも考えられます。そこで,罹災都市法を早急に見直して,同法を現代の社会によりふさわしいものにする必要があると考えられます。   また,災害により滅失した区分所有建物の再建等を容易にする法律として,被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法,いわゆる被災マンション法がございます。被災マンション法は,政令で定める大規模な災害により滅失した区分所有建物について,敷地共有者全員の合意によらずに,その敷地の上に区分所有建物を再建することを可能とする特例措置を定めた法律でございまして,阪神・淡路大震災の後に制定されて,同大震災において適用がされました。なお,東日本大震災においては,滅失に至るまでの被害を受けた区分所有建物があるとの情報に接しませんでしたので,被災マンション法の適用は見送られました。   ところで,区分所有建物に関する現行法には,区分所有建物が重大な被害を受けた場合に,当該区分所有建物を復旧したり,建て替えたりするための規定や,区分所有建物が災害により全部滅失した場合に,その敷地の上に区分所有建物を再建するための規定はございますが,重大な被害を受けた区分所有建物を取り壊すことについての特別の規定はございません。そのため,重大な被害を受けた区分所有建物を取り壊すためには,区分所有者全員の合意が必要となります。東日本大震災においては,区分所有者全員の合意により区分所有建物が取り壊された事例があったようですが,災害により区分所有建物が重大な被害を受けた場合に,その取壊しについて常に区分所有者全員の合意が必要になるとしますと,大多数の区分所有者が取壊しを望む場合であっても,取壊しに反対する区分所有者が一人でもいるときは,取壊しができなくなり,ひいては被災した区分所有建物の管理が放棄されるような事態が生ずることも懸念されます。   そこで,被災マンション法を早急に見直して,大規模な災害により重大な被害を受けた区分所有建物の取壊しを容易にする制度を整備する必要があると考えられます。   以上のように,今後発生が想定される大規模な災害に備えて,罹災都市法及び被災マンション法を早急に見直す必要があると思われますので,諮問事項について法制審議会の意見を求めるものでございます。   以上が諮問第94号についての御説明でございます。どうかよろしくお願いいたします。 ○野村会長 それでは,ただいま御説明のありました諮問第94号につきまして,御質問,御意見ございましたら承りたいと思います。 ○吉田委員 今回の諮問は,非常に適切なものであり,また急ぐべきだと思います。私,実は政府の復興推進委員会の委員を務めておりますけれども,土地に関わる問題について,あるいは建物に関わる問題について,多々生じているということを側聞しております。   今回,先ほど御指摘あったとおり,土地の特性上,区分所有の問題は余り多くはないと聞いておりますけれども,来たるべきというか,懸念される首都直下等,この問題大きくなりますから,この問題は是非早急にやるべきではないかなと思います。   それと,今回こういう形で区分所有の取壊しということは出ておりますけれども,そのほかにもいろいろ土地建物に関わる問題はあるのではないかと。もし,専門的な知見で,そういう問題があれば,早急に法制上の見直しをしていただきたいとお願いをここでさせていただきます。 ○野村会長 ほかに御意見,御質問ございましたらお願いいたします。   特によろしいでしょうか。   それでは,続きまして,第3の議題であります,これも新しい諮問事項ですけれども,「少年法改正に関する諮問第95号」の御審議をお願いしたいと存じます。   始めに事務当局に諮問事項の朗読をお願いいたします。 ○濱企画官 刑事局で法制企画官をしております濱でございます。諮問を朗読させていただきます。   「諮問第95号 少年審判手続のより一層の適正化及び充実化並びに少年に対する刑事事件における科刑の適正化を図るため,早急に法整備を行う必要があると思われるので,別紙要綱(骨子)について御意見を承りたい。   別紙。要綱(骨子)。   第1 国選付添人制度及び検察官関与制度の対象事件の範囲の拡大。   1 家庭裁判所は,少年法第3条第1項第1号に掲げる少年に係る事件であって死刑若しくは無期若しくは長期3年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪のもの又は同項第2号に掲げる少年に係る事件であって,これらの罪に係る刑罰法令に触れるものについて,同法第17条第1項第2号の措置がとられており,かつ,少年に弁護士である付添人がない場合において,事案の内容,保護者の有無その他の事情を考慮し,審判の手続に弁護士である付添人が関与する必要があると認めるときは,弁護士である付添人を付することができることとすること。   2 家庭裁判所は,少年法第3条第1項第1号に掲げる少年に係る事件であって,死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪のものにおいて,その非行事実を認定するための審判の手続に検察官が関与する必要があると認めるときは,決定をもって審判に検察官を出席させることができることとすること。   第2 少年の刑事事件に関する処分の規定の見直し。   1 少年法第51条第2項の規定により無期刑をもって処断すべきときに有期の懲役又は禁錮を科す場合における刑は,10年以上20年以下の範囲内において言い渡すこととすること。この場合において,言い渡した有期の刑の仮釈放の要件について「3年」が経過したときから「その刑の3分の1」が経過したときに改めること。   2 少年に対して少年法第52条の規定により言い渡す不定期刑の短期と長期の上限をそれぞれ,10年と15年に改めること。   3 その他所要の規定の整備を行うこと。」 ○野村会長 続きまして,この諮問の内容,諮問に至る経緯及びその理由等につきまして,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○稲田幹事 それでは,諮問第95号につきまして,提案に至りました経緯及び諮問の内容などにつきまして御説明申し上げます。   少年審判及び少年の刑事裁判に対する国民の信頼を確保することや非行少年の再犯防止は重要な事項であり,法務省におきましては,被害者団体関係者,刑事法研究者,弁護士などの法曹関係者から広く少年法全般について見直しを要すると考えられる事項につきまして御意見を承り,意見交換を行ってまいりました。   また,本年7月に犯罪対策閣僚会議において取りまとめられました「再犯防止に向けた総合対策」におきましても,再犯防止のために少年・若年者及び初入者に対する指導及び支援を行うことが求められております。   こうした状況などを踏まえ,検討いたしました結果,法務省といたしましては,少年審判手続における一層の事実認定の適正化など,少年審判手続のより一層の適正化・充実化を図るため,国選付添人制度及び検察官関与制度の対象事件の範囲拡大を行うとともに,少年の刑事裁判における科刑の適正化を図るため,少年に対する刑事処分に関する規定の見直しを行う必要があると考え,今回の諮問に及んだものでございます。   次に諮問の内容について御説明申し上げます。  始めに要綱(骨子)「第1 国選付添人制度及び検察官関与制度の対象事件の範囲の拡大」についてでございます。少年審判において非行事実の存否及び適正な処遇を決定するためには,少年審判手続において適正な事実認定が行われることが何よりも重要でございます。また,犯罪を犯した少年による再犯を防止するためには,少年審判手続の段階から少年が再犯に及ばないような環境を整えることが重要であります。そして,このような視点からいたしますと,現行法においては,家庭裁判所がその裁量により国選付添人を付し得る事件及び検察官関与の決定をし得る事件の範囲は,故意の犯罪行為により人を死亡させた事件及び死刑又は無期若しくは短期2年以上の懲役若しくは禁錮に当たる事件とされておりますが,これらの事件以外にも,少年審判手続における事実認定や環境調整に検察官や弁護士である付添人の関与が必要であると考えられる事件が存在します。   そこで,家庭裁判所がその裁量により国選付添人を付し得る事件及び検察官関与の決定をし得る事件の範囲を死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪にまで拡大することといたしております。   次に,要綱(骨子)「第2 少年の刑事事件に関する処分の規定の見直し」についてであります。少年に対して,有期の懲役刑又は禁錮刑を科す場合において科し得る刑の上限は,少年法第51条第2項によりいわゆる無期の緩和刑として有期刑を科す場合を除けば,5年以上10年以下の不定期刑とされております。しかし,少年が被害者の生命を奪う犯罪行為を行った場合などにおいて,少年に対して無期刑を科すのは酷であるものの,5年以上10年以下の不定期刑では軽過ぎると考えられる事案が存在し,このような事案に対しては裁判所が適正な量刑を行うことが困難な状況にあると考えられます。   そこで,少年に対して,有期刑を科す場合において科し得る刑の上限について,不定期刑の長期と短期をそれぞれ5年引き上げ,15年と10年とするものであります。また,少年に対する不定期刑の長期の上限を5年引き上げ15年とすることから,これに併せて,罪を犯したとき18歳に満たない者に対して無期刑を科すときは有期刑を科すことができるという,いわゆる無期の緩和刑の規定についても見直しを行い,無期の緩和刑として科し得る有期刑の上限を20年に引き上げるものでございます。   さらにそのほか,いわゆる無期の緩和刑についての仮釈放の要件について,3年経過後となっていたものをその刑の3分の1経過後と改めるほか,所要の規定の整備を行おうとするものでございます。   要綱(骨子)の概要は以上のとおりです。十分御審議の上,できる限り速やかに御意見を賜りますようお願いいたします。 ○野村会長 それでは,ただいま御説明のありました諮問第95号につきまして,御質問,御意見ございましたらお願いいたします。 ○山根委員 処分規定の見直しについてですけれども,報道などによりますと,いわゆるこの厳罰化というのは裁判員制度がスタートして,そういったところの中から国民の声で改正の声が高まったというような報道のされ方ですけれども,そういう判断でよろしいのかどうかということをちょっと質問したいこと思います。   逆に,そういった国民からの声ということで考えますと,裁判員裁判等が始まったことで,そういった事件が身近に感じられると。そして,少年の立ち直りであるとか,背景にある家庭環境とか,教育の問題とか,様々なことに気が付いて,ある意味,厳罰化とは逆の,違う考えを持つ市民も増えたのではという感触を持っているのですけれども,その辺り何か分かっていること等あれば教えていただきたいと思います。 ○稲田幹事 ただいまの御指摘は,裁判員制度が実施されて3年余りになりますが,そのことから国民の声の中から厳罰化というのがあるのではないかという御指摘も踏まえてのお話もあろうかと思うのですが,裁判員裁判が実施されたことに伴って,量刑がどのように変わってきているかというのは,なかなか一概に申し難いところがございます。確かに一定の罪について,ある程度その量刑が重くなっているという実証的なデータもあるようではございますけれども,必ずしもその裁判員裁判実施後に量刑が重くなっている,あるいは国民の厳罰化を求める声が上がっているというところまでは,私どもとしては認識しているところではございません。   ただ,今回の諮問にあります点について,1点,裁判所のこれまでの御判断の中でありましたものを申し上げますと,これは裁判員裁判で指摘されたものでございますが,少年に対しまして有期刑を選択する場合に,現在の不定期刑の範囲が懲役5年から10年までの不定期刑が上限とされているということでございまして,先ほど申し上げましたように,無期刑にするには余りにも無期刑は重いのではないかという場合に,他方でこの5年以上10年以下の不定期刑ではいささか問題があるのではないかという指摘がなされた裁判もございました。そのことも一つの契機ではございますけれども,必ずしもそのことだけが今回の諮問に当たっての契機であったわけではありません。他方で,成人の懲役刑の上限が併合罪の加重等がない場合に20年とされていることとのバランス等も考えますと,裁判所における刑の選択の範囲を少年が犯した行為に応じて適正な範囲に広げることができるようにするという意味で,裁判所の選択肢をある程度広げることができるのではないか。そういう観点から御審議をお願いしたいと考えているところでございます。 ○野村会長 よろしいでしょうか。ほかに御質問,御意見ございましたら。   それではほかに御意見がないようでございますので,最後に第4の議題であります,これも新たな諮問事項ですが,「自動車運転による死傷事犯の罰則の整備に関する諮問第96号」の御審議をお願いしたいと存じます。   始めに,事務当局に諮問事項の朗読をお願いいたします。 ○保坂参事官 刑事局で参事官をしております保坂でございます。諮問を朗読させていただきます。   「諮問第96号 自動車運転による死傷事犯の実情等に鑑み,事案の実態に即した対処をするための罰則の整備を早急に行う必要があると思われるので,その要綱を示されたい。」 ○野村会長 続きまして,この諮問の内容,諮問に至る経緯及びその理由等につきまして,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○稲田幹事 それでは,諮問第96号につきまして,提案に至りました経緯などにつきまして御説明を申し上げます。   自動車運転による交通死傷事犯に対しましては,危険運転致死傷罪や自動車運転過失致死傷罪が適用されてまいりました。危険運転致死傷罪は,重大な死傷事犯となる危険が極めて高い一定の類型の運転行為を行い,よって人を死傷させた場合に,致死は1年以上の有期懲役,致傷は15年以下の懲役に処するとされる罪でございます。他方,自動車運転過失致死傷罪は,自動車の運転上必要な注意義務を怠り,よって人を死傷させた場合に7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処するとされる罪でございます。   近時,自動車運転による交通死傷事犯数やその死傷者数は,減少傾向にあるとはいえ,依然として無免許運転でありますとか飲酒運転など,悪質・危険な運転行為による交通死傷事犯が少なからず発生しております。そして,危険運転致死傷罪が適用されず,自動車運転過失致死傷罪が適用された事件などを契機として,危険運転致死傷罪及び自動車運転過失致死傷罪の構成要件や法定刑が国民の意識に合致していないとして,罰則の整備を求める御意見が見られるようになりました。   こうした自動車運転による死傷事犯の実情や御意見に鑑み,事案の実態に即した対処をするための罰則整備を行う必要があると考え,今回の諮問に及んだものであります。   当審議会におかれましては,自動車運転による交通死傷事犯の罰則の整備について,幅広い観点から十分御議論の上,できる限り速やかに要綱をお示しいただきますようお願いをいたします。 ○野村会長 それでは,ただいま御説明ありました諮問第96号につきまして,御質問,御意見がございましたら承りたいと存じます。 ○吉田委員 この諮問は,新しい類型を作るということなんでしょうか。つまり,大臣は準という形で述べておられるわけですけれども,その準というのはいわゆる故意,この危険運転致死傷罪ですか,これを作った際には故意犯だということを明確にし,更に附帯決議をされていたと記憶しています。すると,準と言った場合には一体故意の類型を広げるのか,あるいは量刑上は下げるけれども,悪質なものだという新しいカテゴリーを作るのか,そこはどういうふうにお考えになっているのでしょうか。 ○稲田幹事 私の方からお答え申し上げます。確かに一つの考え方として,今御指摘のありました準危険運転致死傷罪という考え方もあろうかと思います。ただ,私どもといたしまして,それを言わば最初から答えとして考えているというところまで現時点で思っているわけではなく,今後の御審議の中でいろいろな形を御検討いただきたいと思っております。そのやり方といたしまして,従来からある危険運転致死傷罪の類型を見直すというか,新たな形があり得るのかどうかという考え方もあろうかと思いますし,現在の自動車運転過失致死傷罪の法定刑の在り方を考えるという考え方もあろうかと思います。それに加えて,今,御指摘のありましたような考え方もあろうかと思います。   ただ,いずれにいたしましても,危険運転致死傷罪は自動車運転過失致死傷罪と異なり,故意犯であるということはこれは大前提でございまして,今後,新たな類型を作っていくといたしましても,故意犯なのか,過失犯の見直しなのかというところは当然十分その点を御審議いただきたいと考えているところでございます。 ○佐々木委員 この件に関しましては,やはり様々な事故が起きるときの報道で,多くの人が関心を持っているのではないかと思われます。私の記憶によると,正しいかどうか,もし間違っていれば訂正していただきたいですが,無免許運転で事故を起こした人が危険運転にはならなくて,過失に確かなったと。それは無免許運転で長く運転をもうずっとしていたし,事故が起きるまできちんと何時間か運転していたのだから,無免許運転は危険運転に入らないという解説をテレビでしていたのを聞いて,それだったらそもそも免許証というものを取りに行く理由がないではないかと私は思った次第です。なので,この今回の法律の見直しのように,一般の人たちがより多く使ったり,学んだりしたいという法律に関しては,多方面から見直し,どういうケースが入るのかということが具体的に示されて,分かりやすい言葉で書き直されるなり書かれ,是非曖昧さのない,分かりやすいものにしていただきたいなというふうに要望します。 ○岩間委員 自動車のひどい事故が多いので,それを何とかしなければというのはよく分かるんです。ただ,211条の業務上過失犯では1項と2項で5年と7年の差がある。自動車であるかないかだけで,2年の違いが既にある。これを自動車だけ更に重くするとしたら,自動車の場合と自動車ではない場合の差が更に大きくなるということでしょうか。ケースが多いから必要性があるというのは分かるのですが,自動車の方がより罪が重いということに,何らかの法的合理性はあるんでしょうか。業務上,過失を犯して,人を死なせた場合,それが何であっても罪の重さというのは変わらないのではないかと思うのですが,その辺りいかがでしょうか。 ○稲田幹事 先ほど私の方から,三つの考え方を現時点で考え得るものとして申し上げました。今,委員から御指摘のありました点は,正に二つ目に申し上げた自動車運転過失致死傷罪の法定刑を見直すとした場合のやはり最大の論点だろうと思います。一般の業務上過失致死傷罪との法定刑の差異をどう考えるのかということは,これは非常に重要なポイントになるかと思いますので,その点も含めましていろいろ御審議を頂きたいと思っているところでございます。 ○野村会長 ほかに御発言いかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,ほかに御意見,御質問ないということでしたら,この諮問94号ないし96号の審議の進め方について,御意見を承りたいと存じます。 ○西田委員 いずれの諮問も,非常に専門的な事項にわたるものでありますし,答申に当たっては立法技術的にも,なかなか困難な問題を含んでいると思いますので,それぞれの諮問につきまして部会を設置し,そこで調査検討していただいた結果をここに御報告していただき,その報告に基づいて,更にこの法制審で議論を継続していかがかと思料をする次第です。 ○野村会長 ただいま西田委員から,部会設置等の御提案がございましたけれども,これにつきまして御意見いかがでしょうか。 ○佐々木委員 私が一番最初にこの委員を拝命いたしました頃に申し上げたのは,専門の委員会ができて,結構ある程度決まったところでここに報告をされて意見を言っても,もう取り返しがつかないというか,最後に議事録に残るだけというのでは,余りにも審議会の意味がないので,中間報告など小まめにしてほしいという要望でした。御提案しましたところ,適切に改善していただいたと認識しておりますが,それでも専門家でない私にとっては,何となく回数が少ないように思います。1回例えば欠席したり見逃してしまうと,もうすごく大きく進んでいて,やはり意見を言っても「聞いておきます」ということで終わってしまう。これだけ以前と違って法律というものに世の中で関心を持つ人が増えてきて,みんながディスカッションして,どうやって国を良くして,生活を良くしていくのかと考える時代となった今は,是非このような,特に少年法の話もそうですし,運転についてもそうですけれども,本当に多くの人の生活と関係して,日々のニュースとも関係してくるような案件ですので,今まで以上に小まめな中間報告なり,途中経過の報告や,こういうことがディスカッションされているけれども,ほかに考えるべき視点はないかというような問いかけを簡単にしていただくなり,ということをして,是非専門家の皆様とこの審議委員がより対話の時間というか,意見交換ができる時間を増やしていただけたらと願います。 ○野村会長 ほかに御意見いかがでしょうか。   それでは,特に御異議がないということのようでございますので,諮問94号から96号につきましては,新たに部会を設けて調査・審議することとしたいと存じます。   それから,次に新たに設置する部会に属すべき総会委員,臨時委員及び幹事に関してですが,これらにつきましては会長に御一任を頂きたいと思います。よろしいでしょうか。           (「異議なし」の声あり) ○野村会長 どうもありがとうございました。   それでは,この点は当職に御一任をしていただいたということにしたいと存じます。   次に部会の名称でございますが,これも従来,総会で決めておりまして,諮問事項との関連から,諮問94号につきましては,「被災関連借地借家・建物区分所有法制部会」,それから諮問95号につきましては,「少年法部会」,諮問96号につきましては,「刑事法(自動車運転に係る死傷事犯関係)部会」という名称にしたいと思いますが,いかがでしょうか。よろしいでしょうか。           (「異議なし」の声あり) ○野村会長 どうもありがとうございました。   それでは,そのように取り計らわせていただきます。   ほかに御意見はございますでしょうか。   それでは,第94号ないし第96号につきましては,各部会で御審議いただくこととし,部会での審議に基づいて総会において更に御審議をお願いするということにしたいと存じます。   それでは,本日の予定は終了となりますが,ほかにこの機会に御発言いただけることがございましたらお願いいたします。特によろしいでしょうか。   それでは,ほかに御発言がないようでございますので,本日はこれで終了するということにしたいと存じます。   本日の会議における議事録の公開方法につきましては,審議の内容等に鑑みて,会長の私としては,議事録の発言者名を全て明らかにして公開することにしたいと思います。なお,審議会第151回の会議の決定に基づきまして,資料番号刑11の新聞記事については,著作権の関係上,資料としては公開しないということにさせていただきます。それでよろしいでしょうか。   それでは,以上のような扱いをさせていただきたいと存じます。   なお,本日の会議の内容につきましては,後日,御発言を頂いた委員の皆様には議事録案をメールにて送信させていただき,御発言の内容を確認していただいた上で法務省のホームページに公開したいと思います。   最後に事務当局から連絡事項ございましたらお願いいたします。 ○小川関係官 次回総会の開催予定について御説明申し上げたいと思います。   法制審議会は,2月と9月に開催するのが通例となっておりますが,次回の総会につきましては,現在のところ,例年どおり2月中旬に御審議をお願いする予定でございます。具体的な日程につきましては,後日改めて御相談をさせていただきたいと存じます。つきましては,委員,幹事の皆様方におかれましては,御多忙のところとは存じますが,今後の御予定につき御配意いただきますよう,よろしくお願い申し上げます。 ○野村会長 ありがとうございました。   それでは,これで本日の会議を終了いたします。本日はお忙しいところをお集まりいただき,熱心に御議論いただきまして,誠にありがとうございました。どうもありがとうございました。 -了-