法制審議会刑事法          (自動車運転に係る死傷事犯関係)部会           第1回会議 議事録 第1 日 時  平成24年10月2日(火) 自 午後4時41分                       至 午後6時03分 第2 場 所  東京地方検察庁会議室 第3 議 題  自動車運転による死傷事犯の罰則整備について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○保坂幹事 ただいまから法制審議会刑事法(自動車運転に係る死傷事犯関係)部会の第1回会議を開催いたします。 ○稲田委員 法務省の刑事局長をしております稲田でございます。どうぞよろしくお願いいたします。   本日は,御多忙のところを自動車運転による死傷事犯の罰則整備についての御審議のためにお集まりいただき,誠にありがとうございます。   最初に,私の方から,今回,部会が開催されるに至った経過などにつきまして,御説明を申し上げます。   去る9月7日,法務大臣から,自動車運転による交通死傷事犯の罰則整備に関する諮問,第96号が諮問され,同日開催された法制審議会第167回会議におきまして,この諮問につきましては,まず部会において審議すべき旨の決定がなされたところでございます。   そして,同会議におきまして,この諮問を審議するための部会として,刑事法(自動車運転に係る死傷事犯関係)部会を設けることが決定され,同部会を構成すべき委員,臨時委員及び幹事が,法制審議会の一任を受けた会長から指名され,本日ここに御参集いただいたところでございます。   お集まりの委員や幹事の皆様方におかれましては,初対面の方も少なくないかと存じます。  そこで,恐縮でございますが,簡単に自己紹介していただければと存じます。   なお,申し遅れましたが,本日は法制審議会の野村豊弘会長にも御出席をいただいているところでございます。   それでは,恐縮でございますが,アイウエオ順ということで,赤根委員から,順に,所属でありますとか,お名前等の自己紹介を簡単にお願いできればと存じます。よろしくお願いします。 ○赤根委員 最高検察庁の公安部に所属しております赤根と申します。最高検には,今年の4月から参りました。どうぞよろしくお願いいたします。 ○石井委員 警察庁の交通局長をいたしております石井でございます。よろしくお願いいたします。 ○井田委員 慶應義塾大学の法科大学院で刑法を教えております井田と申します。よろしくお願いいたします。 ○今井委員 法政大学で刑法を教えております今井と申します。どうかよろしくお願いいたします。 ○木村委員 首都大学東京の法科大学院で教えております木村と申します。よろしくお願いいたします。 ○塩見委員 京都大学で刑法を担当しております塩見と申します。よろしくお願いいたします。 ○井上幹事 警察庁で交通企画課長をいたしております井上でございます。よろしくお願いいたします。 ○島田幹事 早稲田大学で刑法を教えております島田と申します。どうかよろしくお願いいたします。 ○橋爪幹事 東京大学で刑法を担当しております橋爪と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○藤本幹事 内閣法制局第二部の参事官をしております藤本と申します。よろしくお願いいたします。 ○清野委員 全国被害者支援ネットワーク専務理事を仰せつかっております清野と申します。よろしくお願いします。 ○髙見委員 日弁連から参りました大阪弁護士会の髙見秀一と申します。よろしくお願いいたします。 ○武内委員 日弁連犯罪被害者支援委員会で副委員長兼事務局長をやっております弁護士の武内と申します。よろしくお願いいたします。 ○辻委員 産業医科大学神経内科の辻と申します。専門は神経内科でありますが,診ておりますのは今回から話題になりますてんかん,認知症,さらには脳卒中等を診療している立場の者でございます。さらに,それぞれの関連学会の理事長や理事をやっていますが,どうぞよろしくお願いいたします。 ○西田委員 学習院大学で刑法を担当しております西田典之でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○山下委員 日本弁護士連合会で刑事法制委員会の事務局長をさせていただいております東京弁護士会の山下と申します。よろしくお願いいたします。 ○岩尾委員 法務省大臣官房審議官の岩尾でございます。よろしくお願いいたします。 ○上冨幹事 法務省刑事局刑事法制管理官をしております上冨と申します。よろしくお願いいたします。 ○保坂幹事 法務省刑事局で参事官をしております保坂と申します。よろしくお願いいたします。 ○東山幹事 法務省刑事局刑事法制企画官の東山でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○稲田委員 ありがとうございました。まず,本日の会議でございますが,高橋委員が御都合により欠席と承っております。また,植村委員,栃木委員,髙橋幹事は,公務の関係で若干遅れて御参加と伺っているところでございます。   それで,まず最初の議題といいますか,テーマでございますが,部会長の選任をいたさなければいけないわけでございます。   法制審議会令第6条第3項によりますと,部会長は,部会に属すべき委員及び臨時委員の互選に基づき,会長が指名することとされております。   正式なやり方といたしましては,仮の議長を選出すべきかとは存じますが,特に御異論がございませんでしたら,この点に関しましては,事務当局でもございます私の方で議事の進行に当たらせていただきたいと思っておりますが,いかがでございましょうか。 (「異議なし」の声あり) ○稲田委員 よろしいでしょうか。   恐縮でございますが,当面,私の方で議事進行に当たらせていただきます。   それでは,早速,当部会の部会長を互選することといたしたいと思いますが,特に御質問等はございませんでしょうか。   よろしければ,皆様の御意見を承りたいと存じます。御推薦等がございましたら,御発言をお願いいたします。 ○今井委員 部会長につきましては,西田典之委員が適任であると考えます。   理由ですが,西田委員は,法制審議会の委員であられますし,また刑事法の分野における御経歴,実績が豊富であるということから,本部会における部会長が適任であると考えるところです。 ○木村委員 よろしいでしょうか。今,お名前が挙がりました西田委員,部会長に就かれることに,私も賛成させていただきます。 ○稲田委員 ただいま今井委員と木村委員の方から,西田委員に部会長を推薦するという御提案がございましたが,この点につきまして,ほかに御意見はございませんでしょうか。   特に御異論もないようでございますので,部会長には,西田典之委員が互選されたということでよろいでしょうか。 (「異議なし」の声あり) ○稲田委員 それでは,ただいまの御審議のとおり,部会長には西田委員が互選されましたので,野村法制審議会会長に,部会長の御指名をお願いします。 ○野村会長 ただいまの互選の結果に従いまして,西田委員を部会の部会長に指名いたします。   よろしくお願いいたします。 ○稲田委員 それでは,西田委員,よろしくお願いいたします。 ○西田部会長 御指名でございますので,ふつつかでございますけれども,部会長を務めさせていただきます西田でございます。   今後の議事が円滑に進みますよう,鋭意努力してまいる所存でございますので,皆様方の御協力をお願いいたします。   なお,法制審議会の野村会長はここで退席されました。   まず,法制審議会令の第6条第5項によりまして,部会長に事故あるとき,代行を指名しておくということになっておりますので,代行には井田委員にお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。   それから,関係官の出席承認の件についてお諮りいたしますが,法務省特別顧問の松尾浩也先生に,関係官として,当部会に御出席いただきたいと考えておりますが,御異議ございませんでしょうか。 (「異議なし」の声あり) ○西田部会長 ありがとうございました。   それでは,松尾先生には,関係官として御出席を願うことにいたします。   次に,当部会の議事録の取扱いでございますけれども,この点につきましては,昨年の6月6日の法制審議会第165回会議におきまして,既に審議並びに決定がなされておりますので,この点につきまして,事務局から御説明いただければと思います。 ○保坂幹事 法制審議会の総会における議事録の取扱い等に関する審議・決定の状況について御説明いたします。   昨年4月1日に公文書管理法が施行されたことに伴い,内閣総理大臣決定として行政文書の管理に関するガイドラインが定められ,審議会の議事録については,発言者名を記載した議事録を作成する必要があるものとされましたその趣旨からいたしますと,今後は,法制審議会総会及び部会のいずれにつきましても,発言者名を記載した議事録を作成すべきものとなります。   その上で,昨年6月6日に開催されました法制審議会第165回会議にいて,議事録の公開方法について改めて審議がなされた結果,その公開方法については次のとおりとすることが決定されました。すなわち,総会につきましては,発言者名を明らかにした議事録を公開することを原則とする一方,法制審議会の会長において,委員の意見を聴いて,審議事項の内容,部会の検討状況や報告内容のほか,発言者等の権利利益を保護するため,当該氏名を公にしないことの必要性,率直な意見の交換又は意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれの有無等を考慮し,発言者名等を公開するのが相当でないと認められる場合には,これを明らかにしないことができる,また,部会につきましても,発言者名を明らかにした議事録を公開することを原則としつつ,それぞれの諮問に係る審議事項ごとに,総会での取扱いに準じて,発言者名等を公表するのが相当でないと認められる場合には,これを明らかにしないことができる,とされてございます。   したがいまして,当部会におきましても,原則として発言者名を明らかにした議事録を作成するものの,部会長が委員の御意見をお聴きし,ただいま申し上げたような諸要素を考慮して,発言者名等を公表するのが相当でないと認められる場合には,これを明らかにしないこととすることができることになります。 ○西田部会長 ありがとうございました。   今,御説明のとおりで,法制審議会総会の決定として,原則として発言者名を公表するということになっておりますので,本部会におきましても,審議の内容を国民の皆様に知っていただくという意味においても,発言者の名前を明らかにするということを原則にしたいと存じます。   ただ,法制審議会総会の決定にもありましたように,やはり諸般の事情を考慮して,発言者名を公表しないことが適切であるという判断がなされたときは,これは,また皆様の御意見も伺った上で,そのような取扱いをしていきたいと存じます。   以上の点,よろしゅうございましょうか。 (「異議なし」の声あり) ○西田部会長 ありがとうございました。   それでは,今後の議事録につきましては,原則として発言者名を明らかにして作成し,これを法務省のホームページで,公開するという手続をとりたいと思います。   では,引き続きまして,先の法制審議会総会におきまして,当部会で審議するようにという決定のありました諮問第96号の審議に移りたいと思いますが,まずこの諮問の内容を事務当局から朗読していただきたいと思います。 ○保坂幹事 諮問を朗読させていただきます。   「諮問第96号 自動車運転による死傷事犯の実情等に鑑み,事案の実態に即した対処をするための罰則の整備を早急に行う必要があると思われるので,その要綱を示されたい。」   以上でございます。 ○西田部会長 ありがとうございました。   併せて,事務当局から,この諮問に至る経緯等について,御説明をお願いいたします。 ○稲田委員 それでは,私の方から御説明申し上げます。   諮問96号につきまして,提案に至りました経緯等は以下のとおりでございます。   まず,自動車運転による交通死傷事犯に対しましては,危険運転致死傷罪や自動車運転過失致死傷罪が適用されてまいりました。   危険運転致死傷罪は,重大な死傷事犯となる危険が極めて高い一定の類型の運転行為を行い,よって人を死傷させた場合に,致死の場合は1年以上の有期懲役,致傷の場合は15年以下の懲役に処するとされる罪でございまして,自動車運転過失致死傷罪は,自動車の運転上必要な注意義務を怠り,よって人を死傷させた場合に,7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処するとされる罪でございます。   近時,自動車運転による交通死傷事犯数及びその死傷者数は減少傾向にあるとはいえ,依然として無免許運転や飲酒運転など,悪質,危険な運転行為による交通死傷事犯が少なからず発生しているところであります。そして,危険運転致死傷罪が適用されず,自動車運転過失致死傷罪が適用された事件などを契機として,危険運転致死傷罪及び自動車運転過失致死傷罪の構成要件や法定刑が国民の意識に合致していないとして,罰則の整備を求める御意見が見られるようになりました。   こうした自動車運転による死傷事犯の実情や御意見に鑑み,事案の実態に即した対処をするための罰則整備を行う必要があると考え,今回の諮問に及んだものでございます。   当部会におかれましては,自動車運転による交通死傷事犯の罰則の整備につきまして,幅広い観点から十分御議論の上,できる限り速やかに要綱をお示しいただきますようお願いする次第でございます。 ○西田部会長 ありがとうございました。   引き続きまして,事務局から,この本日配布されております資料について,御説明願えますでしょうか。 ○保坂幹事 御審議の参考にしていただくために,席上に資料を8点御用意させていただいておりますので,その内容等につきまして御説明させていただきます。   まず,配布資料の番号1でございますが,先ほど朗読いたしました諮問第96号でございます。   資料番号2は,諮問第96号に関連する刑法及び道路交通法等の条文の抜粋でございます。   資料番号3は,平成13年の「刑法の一部を改正する法律」及び平成19年の「刑法の一部を改正する法律」につきまして,それぞれ衆参両議院の法務委員会で審議された際の附帯決議でございます。   資料番号4は,諮問第96号に関する基礎的な統計資料でございます。中に第1表から第8表までございます。   まず,第1表及び第2表につきましては,交通事故の発生件数と死傷者数の推移を示したものでございます。昭和30年から45年にかけて,いずれも著しく増加したものの,昭和52年頃までは,いずれも大幅に減少しております。その後,交通事故発生件数,死傷者数とも増勢に転じ,平成16年には,交通事故発生件数が95万2,191件,死傷者数が119万478人と史上最悪となりましたが,その後は減少傾向が続いておりますなお,死亡者数につきましては,平成4年がピークでございまして,その後,減少に転じ,平成23年には,昭和30年以来最少の4,000人台半ばまで減少しているところでございます。   次に,第3表は,平成13年以降の自動車等による業務上(重)過失致死傷等被疑事件の検察における通常受理人員の推移でございます。自動車等による業務上(重)過失致死傷事件と自動車運転過失致死傷事件につきましては,平成16年をピークに減少傾向が続いておりまして,危険運転致死傷事件につきましては,年による差はございますが,おおむね200人から240人の間で推移しているところでございます。   次に,第4表は,平成23年に検察庁が終局処理した人員の処理区分を示したものでございます。危険運転致死傷につきましては,公判請求の割合が非常に高く,自動車運転過失致死等も一般事件と比較すると公判請求の割合が比較的高くなっております一方,自動車運転過失傷害等につきましては,不起訴の割合が非常に高くなっているところでございます。   次に,第5表は,平成23年に危険運転致死傷罪により公判請求された212件の態様別の構成比でございます。飲酒等の影響によるものが約6割,赤信号無視によるものが約3割を占めており,これら二つの類型で全体の約9割ということになっています。   次に,第6表,第7表,第8表でございますが,これらは,危険運転致死傷罪・自動車運転過失致死傷罪等の裁判における科刑状況を示すものでございます。なお,これらの表の罪名につきましては,統計の都合上,その罪でだけでなく,例えば自動車運転過失致死傷罪と無免許運転の罪のように複数の罪を犯した場合にも,法定刑が最も重い自動車運転過失致死傷罪の人員として計上されているということに御留意いただければと思います。   このうち,まず第6表は,平成13年以降の業務上過失致死傷罪・自動車運転過失致死傷・危険運転致死傷罪の科刑状況の一覧でございます。   次に,第7表は,平成23年の危険運転致死傷罪等に刑期別構成比をグラフ化したものであり,点線の左側に当たる部分が実刑の割合ということになります。   次に,第8表は,平成19年から23年までに,危険運転致死傷罪及び自動車運転過失致死傷罪により実刑となった者について,その刑期ごとの人員の割合をグラフ化したものでございます。これによりますと,危険運転致死については,5年超7年以下の割合が最も高く,危険運転致傷につきましては,1年以上2年未満の割合が最も高くなっているところでございます。また,自動車運転過失致死につきましては,2年以上3年未満の割合が最も高く,自動車運転過失傷害につきましては,6月以上1年未満の割合が最も高くなっているということがお分かりいただけると思います。   続きまして,資料番号5は,自動車による交通死傷事犯の事例をまとめたものでございます。5の1は,自動車運転過失致死傷罪の事案で,4年を超える懲役又は禁錮が科せられたものを刑の重いものから順に掲載してございます。5の2は,自動車運転過失致死傷罪に道路交通法違反の罪を伴った事案で,同じく4年を超える懲役又は禁錮が科せられたものを刑の重いものから順に掲載してございます。   なお,これらの事例につきましては,事務当局において調査し,現時点で把握できたものであり,今後,補足・追加すべきものがあれば,必要に応じて資料として配布させていただきたいと思っております。   資料番号6は,主要国等における罰則をまとめたもので,アメリカのミシガン州,イギリス,ドイツ,フランスにおける自動車運転による死傷事犯に対する罰則でございます。各国ごとに,様々な類型の罰則が設けられております。   資料番号7は,平成24年4月以降に法務大臣に提出された交通事故被害者団体からの要望書等の要旨をまとめたものでございます。   資料番号8は,自動車運転による死傷事犯に対する罰則の見直しを求める最近の新聞記事の抜粋でございます。   以上,簡単でございますが,配布資料の説明をさせていただきました。 ○西田部会長 どうもありがとうございました。   ただいま裁判所関係の委員・幹事の方々が御到着になられましたので,暫時,切り替えまして自己紹介をお願いいたします。 ○栃木委員 東京地方裁判所の刑事部の所長代行をしております栃木と申します。よろしくお願いします。 ○髙橋幹事 最高裁刑事局第一課長の髙橋と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○植村委員 本日は,遅参いたしまして申し訳ございませんでした。最高裁の刑事局長の植村と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○西田部会長 どうもありがとうございました。   では,引き続き,ただいま事務局から相当多量の資料について御説明がございました。最後の資料の8というのは,これは最近の新聞の記事のコピーが添付されております。   これらを含めまして,資料並びにただいまの御説明に対して,何か御質疑がございましたらどうぞ遠慮なく。 ○山下委員 資料の5なんですけれども,これは自動車運転過失致死傷と道交法も含めですけれども,むしろ危険運転致死傷罪について,こういうものを作っていただきたいというか,見たいという気もするんですが,その辺りはどうでしょうか。 ○上冨幹事 事務局の方で対応させていただきたいと思います。 ○西田部会長 よろしいですか。他にいかがでしょうか。 ○辻委員 資料の6に関しまして,主要国等における罰則で,病気関係のものが全然ないようですが,集まるようだったら集めてほしいんです。てんかん発作とか認知症でこういう死傷事犯に対してどういう罰則が適用されているかを是非知りたいと思います。 ○上冨幹事 ただいまの御指摘の点についても,事務局の方でできる限り対応させていただきたいと思います。 ○西田部会長 委員御指摘のとおり,今回の一つの論点になろうかと思いますので,是非,事務局の方で資料をそろえていただきたいと思います。   他にございませんか。   それでは,先に進めさせていただきます。途中で,適宜,休憩を取りますが,まだ時間が早うございますので,今後の諮問事項の審議の進め方についてでございます。   今回の諮問は,お読みになればお分かりのとおり,要綱あるいは要綱骨子の案が付されておりません。言わば全く白紙の状態から,この諮問に応えるべく,できれば骨子案,要綱案のようなものを作り,法制審議会の議事に御報告するということに,そういう手続をとらなければならないわけですが,要綱案というものがございませんために,どういう形で今後この部会における審議を進めていくかということが問題になります。   いろいろな進め方があると思いますけれども,まず事務当局の方で何か腹案ないしお考えがあれば,まずお聞かせいただきたいと思います。 ○岩尾委員 審議の進め方につきましては,もとより部会において決定される事柄ではございますが,事務当局の立場といたしましてお願いさせていただくならば,審議の進め方に関する御審議の一環として,まず第1点として,被害者御遺族の方々の御意見,御要望を把握して,共通の認識を持つ必要があるのではないかということ,第2点目といたしまして,近時,社会的に問題とされている悪質な交通死傷事犯では,無免許運転や意識喪失を伴う一定の病気,過労運転などが問題とされていることから,審議の前提といたしまして,専門的な知見が必要となるこれらの事項について,御専門とされている方々に基本的事項の御説明をしていただいて,共通認識を持つ必要があるのではないかと思われるところでございます。   そこで,まずこれらが必要かどうかについて御審議いただければと存じます。そして,その後,引き続きまして,委員各位の問題認識を共有することができる形で,御質問,御意見,御感想等の御発言をいただけますと,審議がより充実したものになるのではないかと思います。   よろしくお願いいたします。 ○西田部会長 ありがとうございました。   部会長といたしましても,今回の諮問の契機となりましたのが,一連の交通事犯であったということ,それから被害者の方々,団体等の法務省あるいは法務大臣に対する御要望なども,今回の諮問の一つの契機になっているということからいたしますと,被害者あるいは御遺族の団体の方からヒアリングを行って,どういうことについて被害者の方々が御意見ないし御不満を持っておられるのかということで,お聞きすることは極めて重要かと思います。   さらに,今般,問題になっております,新聞等,お読みになってお分かりのとおりですけれども,無免許の場合,それから意識喪失を伴う一定の病気の場合あるいは過労運転というようなものが主たる話題となっているわけですが,無免許などというのは,大体,我々としても分かるわけですが,しかしこれも,突っ込んでいくと,運転免許制度そのもののシステムがどうなっているのか,免許の申請の際に,どういう申告をしなければいけないのかという様々なシステムといいますか,その制度の内容について,我々も一定の理解をすることが必要だと思います。   さらに,医学的な観点からは,意識喪失を伴う一定の病気,先ほど辻先生から言われましたてんかん,その他低血糖症とか,いろいろな意識喪失を伴う症状があるわけですけれども,どういうものがその実態としてあるのかという点,それから過労運転と,これは道交法や施行令にも定義規定がないようでございますけれども,しかし他方で過労運転の禁止等という道交法の禁止規定はあるわけで,過労運転等についても,我々,これからの議論を進めていきます上で,共通の理解あるいは共通の認識を共有しておくということが大事かと思いますが,まず交通死傷事犯の被害者の御意見をどのような形でこの審議に反映していくかということについて,どなたか御意見はございますでしょうか。 ○今井委員 ただいま部会長からも御発言がありましたけれども,先ほど事務当局から説明を受けました資料で見ましても,資料7のところに,今回の部会の議論の背景となりました被害者団体の方々からの要望書の要旨が挙がっております。   これを見ただけでも,様々な要望がありまして,てんかんその他病気に関わるものもありますし,遺族の方のものもありますので,こういった御意見をまずは伺って,理解を深めることが必要かと思います。   併せまして,平成13年に危険運転致死傷罪を創設いたしましたし,また19年には自動車運転過失致死傷罪を創設しておりますが,その際にも被害者団体の方からヒアリングを行っておりますので,そうした団体の方も含めまして,今般もヒアリングすることが必要だと考えます。 ○西田部会長 分かりました。清野委員から,いかがでしょう。 ○清野委員 私どもは,全国48組織で,民間の立場から被害者等の支援を行っておりますが,交通事犯の被害者,御遺族あるいは御家族と接する機会も多くあります。そういう方々は,長期にわたって,心身ともに大変な思いをなさっております。   今,お話がございましたが,是非,早い機会にこの部会でそういう被害者の方の声をお聴きする機会を作っていただければ有り難いと思います。 ○西田部会長 ありがとうございました。   武内委員,何か御意見はございますか。 ○武内委員 私の立場でも,交通事犯の被害者ないし遺族の方と接する機会も多うございますが,こちらの会合で審議を進める前提として,委員・幹事の皆様方に,被害者あるいは関係団体の皆さんの御意見を伺う機会を取っていただくのが適切ではないかと思料いたします。 ○西田部会長 ありがとうございました。   特に御異議ありませんでしょうか。   それでは,これを部会の中でやるというのは,なかなか皆さん,御多忙なので,部会の日程の中に組み込むことはなかなか難しいかと存じます。そこで,期日外ということで,なるべく早い機会,10月中ぐらいに,1日ないし2日,場合によっては3日ですが,各被害者団体の方に来ていただいてヒアリングを行いたいと思います。   しかし,これは,まだきちんとした日程が決まっておりません。一応10月末ぐらいと伺っておりますけれども,この点につきましては,更に被害者団体の方とも協議しなければなりません。   したがいまして,これにつきまして,日にち,場所,時間が決まりましてから御通知いたしますけれども,これは,全員の方が出席するというのは,これはとても無理だと考えられますので,全部でなくても一部でも結構ですので,御都合がつく限りの委員・幹事の方に御出席いただく。もちろん,そこでヒアリングしました内容については,事務当局の方でまとめていただいて,次回のこの部会に御報告していただくと,そういう手はずでヒアリングを進めてまいりたいと存じますが,よろしゅうございましょうか。 (「異議なし」の声あり) ○西田部会長 ありがとうございました。   では,そういうことで,日程,それから団体の振り分け,それから日時,場所等については,追って事務当局から委員・幹事の皆様に御通知を差し上げることにいたしたいと思います。   第2の点ですが,免許制度あるいは意識喪失を伴う一定の病気,さらには過労運転という,そういう概念あるいは実態,これらについての基本的な認識や理解あるいは概念といったものを委員・幹事の中で,一応の共通項としてまとめておく,あるいは認識しておくことが必要だと思うわけですが,この点,いかがでございましょうか。 ○井田委員 私も,今おっしゃったところは,今回の審議でキーポイントになるだろうと思います。ただ私自身,詳しい知識は持ち合わせておりませんので,ここに幸いにも専門の先生がいらっしゃいますので,時間を取っていただいて,御説明を伺えれば大変有り難いと思います。 ○西田部会長 他にいかがですか。 ○木村委員 私,現在,警察庁において開催されている「一定の病気等に係る運転免許制度の在り方に関する有識者検討会」という検討会に参加させていただいております。そこでの検討状況であるとか結論であるとかは,本部会の審議を進める上でも非常に参考になると存じますので,是非,御紹介いただければ有り難いと思っております。よろしくお願いいたします。 ○西田部会長 警察庁の方の審議状況あるいはもう結論は出ているんでございますか。 ○木村委員 現在,進行中ということでよろしいかと思いますけれども,いかがでしょうか。 ○石井委員 では,私の方から。お話がございましたとおり,警察庁といたしましては,まず基本的な免許制度につきまして御説明する準備はございます。御要望がございましたら,御説明させていただきます。   それから,被害者団体の方から,この危険運転致死傷罪の見直しとともに,実は警察庁の方に,一定の病気に係る方々の免許制度の在り方について見直してほしいというふうな要望がございまして,現在,有識者会議を設けて検討しているところでございます。   今月の半ば,中旬ぐらいには,最後の有識者会議をいただきまして,提言を頂くのが,そのときか,多少最後の段階で調整に手間取るかもしれませんので,今月中には提言がまとまるかと思っております。   その内容について,御紹介する準備はございます。 ○西田部会長 ありがとうございます。   では,免許制度及び警察庁で現在進められております一定の病気に関する免許制度の在り方についての検討会の検討状況あるいはもし結論が出ておりましたら,その結論等も含めまして,石井警察庁交通局長の方から,適宜なときに御説明を願いたいと思います。   それから,意識障害を伴う一定の病気の関係につきましては,これは辻委員のほうからレクチャーしていただければと思います。   それから,過労運転,過労という概念も含めまして,今日,御欠席でありますけれども,労働安全衛生総合研究所の上席研究員を務めておられます高橋委員から,適宜なときにレクチャーを受けたいと思っております。   これは,今後,事務当局で審議の中に適宜織り込んで,予定を作っていただければと存じます。   これから,いよいよこの罰則の整備につきまして概括的な審議に移りたいと思います。委員各位の問題意識を共有するという意味で,まず概括的な形での御質問,御意見,御感想などがございましたら,どなたからでもどうぞ。 ○橋爪幹事 現行刑法におきましては,交通事件に対応する構成要件としまして,平成13年に新設された危険運転致死傷罪と平成19年に新設された自動車運転過失致死傷罪があるわけですが,最近の報道におきましては,危険運転致死傷罪の適用範囲が狭すぎるのではないか,あるいはその構成要件の内容が,必ずしも明確ではないといった指摘があるようです。   そこで,まず審議の前提といたしまして,危険運転致死傷罪の成立段階における考え方あるいはその後の裁判例につきまして,事務局の方から御説明を頂ければと思います。 ○西田部会長 ありがとうございました。   他に御意見はございますか。   それでは,この点については,事務局の方からお願いいたします。 ○上冨幹事 それでは,危険運転致死傷罪が創設されましたときの考え方あるいはその後の裁判例などについて御説明させていただきます。   まず,危険運転致死傷罪が設けられた経緯ですけれども,この罪が創設されるまでは,御案内のように,自動車運転による交通死傷事犯に対しましては,主に法定刑の上限が5年であります業務上過失致死傷罪によって処罰されておりました。   しかし,平成13年に,当時の交通事故の発生件数や死傷者数,科刑の状況などを踏まえ,危険運転致死傷罪が創設されたものであります。法定刑は,当時,致死が15年以下の懲役,傷害が10年以下の懲役でしたけれども,平成16年に現在の法定刑に引き上げられております。   また,平成19年には,当初の構成要件にありました「四輪以上の自動車」という部分が自動二輪車などを含む「自動車」という構成要件に拡大されております。   この危険運転致死傷罪の考え方について御説明申し上げます。この罪は,故意に危険な自動車の運転行為を行い,その結果,人を死傷させた者をその行為の実質的危険性に照らし,暴行により人を死傷させた者に準じて処罰しようとするものであります。暴行の結果的加重犯としての傷害罪,傷害致死罪に類似した犯罪類型とされております。   この危険運転致死傷罪の条文は,お手元の配布資料2の参照条文の中にございますが,この条文,刑法208条の2の第1項におきましては,運転者の意思によっては的確に進行を制御することが困難な状態での走行類型,つまり具体的には,アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させた場合と,それから自動車の進行を制御することが困難な高速度で,又は自動車の進行を制御する技能を有しないで,自動車を走行させた場合について規定されております。   同じく,第2項におきましては,特定の相手方との関係で,又は特定の場所において重大な死傷事故を発生させる危険性のある運転行為の類型,つまり,やはり二つございまして,人又は車の通行を妨害する目的で,走行中の自動車の直前に進入し,その他通行中の人又は車に著しく接近し,かつ,重大な交通の危険を生じさせる速度で,自動車を運転した場合という類型と,赤信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し,かつ,重大な交通の危険を生じさせる速度で,自動車を運転した場合について,それぞれ規定されております。   これらの類型は,悪質,危険な自動車の運転行為のうち,死傷事犯の実態等に照らしまして,重大な死傷事犯となる危険が類型的に極めて高い運転行為であって,過失犯として捉えることは相当でなく,故意に危険な運転行為をした結果,人を死傷させる罪として,暴行による傷害,傷害致死に準じた重い法定刑により処罰すべきものと認められる類型ということになります。   次に,この危険運転致死傷罪の構成要件につきまして,一定の解釈や当てはめを示した裁判例について,そのごく一部となりますけれども,簡単に御紹介いたします。   また,資料の2の参照条文を適宜御参照ください。   まず,208条の2第1項の前段部分に関する裁判例としては,この部分の「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」との構成要件に関して,「飲酒酩酊状態にあった被告人が,直線道路において高速で普通乗用自動車を運転中に,先行車両の直近に至るまでこれに気付かずに追突し,その衝撃により先行車両を橋の上から海中に転落水没させ,死傷の結果を生じさせた」という事案におきまして,「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」とは,「アルコールの影響により道路交通の状況等に応じた操作を行うことが困難な心身の状態」をいい,被告人が被害車両に気付くまでの約8秒間,終始,前方を見ていなかったか,又はその間,前方を見ていても,これを認識できない状態にあったかのいずれかであり,いずれであっても,「アルコールの影響により前方を注視して,そこにある危険を的確に把握して対処することができない状態」であり,これも「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」に当たるとした例があります。   また,同じく第1項の後段の「進行を制御することが困難な高速度」という構成要件に関しては,「車両を運転して,中央が隆起した橋梁上を走行していたところ,本件車両が空中に跳ね上がり,続いて着地した際に,運転制御を失って,本件車両を暴走させ,ガードレール及び電柱に衝突させるなどした」という事案におきまして,「進行を制御することが困難な高速度」とは,道路の状況に応じて進行することが困難な状態になる速度をいい,相当程度の時間にわたり危険な高速度で走行する必要はなく,「走行中の短時間の速度であっても道路の状況に応じて進行することが困難な状態になればこれに該当する」とした例があります。   次に,2項前段の関係では,「人又は車の通行を妨害する目的」という構成要件に関して,「酒気帯び運転の発覚を免れようとして被告人車を発進させ,逃走を開始したところ,警察車両が追跡してきたため,バイパスを逆行すれば,警察車両もそれ以上追跡を諦めるであろうと考えて,逆行を始め,逆行中に何台もの対向車両とすれ違ったり対向車両と衝突する危険を生じさせたことから,そのままバイパス上り車線を逆行し続ければ,更に対向車両と衝突する危険が生じることを十分に認識しながら,対向車両と衝突する危険が生じた際,いずれも対向車両に急ハンドルや急ブレーキ等の措置を取らせるなどして被告人車との衝突を回避させたことから,被告人車が更にバイパス上り車線の逆行を続け,対向車両に同様の措置を取らせて,衝突を避けさせることにより,逃走できるということを期待して,逆行を続けた」という事案におきまして,そうした事実関係においては,「自動車専用道路であるバイパスを逆行すれば,直ちに対向車両の自由かつ安全な通行を妨げる結果を招くことは明らかであり,バイパスを逆行することを積極的に意図していた以上,被告人は,これと表裏一体の関係にある対向車両の自由かつ安全な通行を妨げることをも積極的に意図していたと認めるのが相当である」とした例があります。   さらに,2項後段の「重大な交通の危険を生じさせる速度」という構成要件に関しましては,「普通乗用自動車を運転し,信号機により交通整理の行われている交差点手前で,対面信号機の赤色表示に従って停止していた先行車両の後方に一旦停止したが,同信号機が青色表示に変わるのを待ち切れず,同交差点を右折進行すべく,同信号機がまだ赤色信号を表示していたのに構うことなく発進し,対向車線に進出して,停止車両の右側方を通過し,時速約20キロメートルの速度で自車を運転して同交差点に侵入しようとした」という事案において,その事実関係においては,「時速約20キロメートルの速度は,重大な交通の危険を生じさせる速度に当たる」とした裁判例があります。   一方,「被告人車両を運転し,信号機により交通整理の行われている交差点を右折進行するに当たり,同交差点の対面信号機が赤色の灯火信号を表示しているのを交差点手前の停止線の手前約31.8メートルの地点で認めたが,警ら用無線自動車の追尾を免れるため,同信号表示を無視し,漫然,遅くとも時速約9キロメートルの速度で同交差点内に進入した」という事案において,「時速約9キロメートルをもって,『重大な交通の危険を生じさせる速度に該当する』と認定するには疑問が残る」とした裁判例などがございます。   以上,簡単ではございますが,危険運転致死傷罪が創設されたときの考え方,それからその後の裁判例などについて説明させていただきました。 ○西田部会長 ありがとうございました。   以上の現行法制並びにその後の最高裁を始めとする裁判例についての御説明について,御質問,御意見等がございましたら,どうぞ。山下委員。 ○山下委員 今,御説明いただいたものは,是非,紙でというか,日付と出典を書いた紙という形でお出しいただきたいと思うんです,今,御説明された判例,裁判例ですね。 ○上冨幹事 そのようにさせていただきます。 ○西田部会長 新聞等で問題視されているのは,むしろ危険運転致死傷罪をなぜ適用しなかったかという事例の方が問題となっているようなのですが。二,三の事例があれば,ここでは無免許の居眠りとか,あるいは過労とか,あるいは一定の病気などが問題となりながら,しかし危険運転致死傷ではいかず,自動車運転過失致死のまま,起訴がそうであると,そこが新聞等では問題になっているようですが,そういう事例について少し御説明願えますか。 ○保坂幹事 本日,事例集として配布させていただいている中に,新聞等で指摘されている事件が一部入っており,「処断刑の上限に近い刑が宣告されたという自動車運転過失致死傷事犯」の番号1は,新聞等で指摘されている事案でございますが,それ以外の報道等がされている事案につきましては,裁判がまだ確定していないことなどから,この配布資料には入れてございません。御審議に必要がございましたら,何らかの形で,当部会で御紹介する方法を考えたいと思っているところでございます。 ○西田部会長 ありがとうございます。   概略については,資料8の新聞報道などを参考にしていただければお分かりいただけると思いますが,必ずしもこの報道あるいは意見のとおり断定するわけにはいかないのはもちろんでございますけれども,少なくともそういう事案があったと,それについて批判的な意見があり,それが今回の諮問につながっているということは,間違いのないところだろうと思います。   これから今後の審議のやり方あるいは論点の絞り方について御意見を伺うわけですが,大分,時間も過ぎましたので,ここで暫時休憩させていただいて,それから継続したいと思います。           (休     憩) ○西田部会長 おそろいでしょうか。   時間も参りましたので,審議を継続したいと思います。   先ほどの上冨幹事から現行法制並びにそれを前提とした裁判例の概略について,御説明をいただきました。以上を前提といたしまして,今後の審議の進め方について,皆様の御意見を伺いたいと思いますがいかがでしょうか,どなたからでも。井田委員。 ○井田委員 先ほど,諮問に至る経緯をお聞きしていて,また今日頂戴したたくさんの資料を見ておりまして,この部会のミッションといいますか,この部会で検討すべきことの中核的な事柄は,かなり見えてきたという感じがしております。   つまり,それは,現行の危険運転致死傷罪の適用は難しい,それにはなかなか当たらないが,他方で,自動車運転過失致死傷罪だと,評価として不十分と思われるような,そういう悪質・危険な運転行為から死傷結果が発生したという事例について,どういう適正な処罰が考えられるか,そういう観点から罰則整備を行うということなのではないかと思います。   もしこういう理解が正しいとすると,つまり今の現行法を変えようとすると,ほぼ三つの行き方しか存在しないのではないか。一つは,今の危険運転致死傷罪の規定の適用範囲ないし対象範囲を少し広げるという方向の改正です。第2は,今の自動車運転過失致死傷罪の刑を引き上げるという方向の改正です。第3は,その中間といいますか,危険運転致死傷罪と自動車運転過失致死傷罪の中間の犯罪類型を考えるということです。こういう三つのやり方が考えられますが,これらは,別に択一的ではありませんで,三つを一緒にやるということも考えられなくはない,検討に値する事柄なのではないかと思うのです。   他方で,先ほど感じたことですけれども,今,申し上げた中で,二つ目の選択肢,つまり自動車運転過失致死傷の法定刑を上げるということがどうかといいますと,この頂いた資料で見る限り,その量刑の傾向は,必ずしも法定刑の上限に集中しているとか,上限を突っ突く現象が生じているということではどうもない。   となると,平成19年でしたか,この自動車運転過失致死傷罪を作った当時は,私も部会で参加させていただいたわけでありますけれども,そのときには,従来の業過の最高刑の5年では対応が難しくなっているということが言われた記憶があります。これに対し,同じような状況が今はないということになりますと,自動車運転過失致死傷罪の上限を引き上げて業過との差をつける,今は,5年と7年ですが,これを5年と10年にするというような改正は可能であろうかといえば,その理屈はなかなか立たないのかなという感じがいたします。非常に雑ぱくなお話で申し訳ないんですけれども,そのように考える次第です。 ○西田部会長 どうもありがとうございました。 ○山下委員 確かに,今,御指摘があったように,可能性は余りそれほどないとは思うんですが,一つは,自動車運転過失致死傷の法定刑の引き上げで,それが新設のときに5年だった業務上過失致死傷の5年を7年に上げたというのは,当時,遺族側からの要求は10年に上げてほしい。それは,財産犯の窃盗でも10年なので,何でそれより軽いんだという意見があったりして,それだったんだけれども,法制審の議論の中で,7年というところに落ち着いたという経緯があったわけですね。   それで,今回,一つは,まず先ほど経緯の説明が,危険運転致死傷罪の立法制定の経緯の議論がありましたけれども,では逆になぜ今回のようなてんかんとか,それから過労とか,そういうものが,危険運転致死傷罪を作るときに考慮されなかったのかということが一つある。   それから,無免許の問題については,現行法では,一応,制御困難というか,その議論の中で無免許のことは,一応,議論はされてはいるわけですが,実際には,運転技能があれば,逆に危険運転ではないということで,無免許だから直ちに危険運転にならないということが,むしろ確認されていたわけですが,現在のどちらかというと市民感覚的には,無免許で一晩中運転して,それが事故を起こしたのに,なぜこれが危険ではないのかと,今回の京都の事件では,そういう議論がされたわけですね。   本当にこの方向性は難しいんですけれども,危険運転致死傷罪は,今,5類型に類型が限定されて,非常に厳格に一応類型を定めた上で,重罰というか重い刑を科すことにしているというこの立法経緯から見ると,これを広げるといっても,現在の類型とほぼ同程度の危険だと言えるものでなければ,同じように拡張することはできないように思いますし,逆にそれより少し危険が劣るけれどもということで,準危険運転致死傷みたいな,新聞報道がありましたけれども,そういうのを作るのかとか,あと遺族の間にあるのは,やはり自動車運転過失致死傷の法定刑と危険運転致死傷罪の法定刑の差が余りにもありすぎる,危険運転致死傷罪が外れたら,そこに当たらなければ,もう一気に7年という法定刑に落ちる。ただし,これは,道路交通法との併合罪の問題がありますから,直ちに7年となるわけではないわけですけれども。したがって,自動車運転過失致死傷だけではなくて,実際は先ほどの表にもありましたけれども,道路交通法とのセットで,併合罪での処理で何年になるかという問題がありますが,いずれにせよ,非常に微妙といいますか,単純に,危険運転致死傷罪を広げれば一番良いんですけれども,広げられるのか,同じような危険だと言えるのか。そして例えば京都の事件なんかは,今回,一番問題だったのは,むしろ居眠り運転だったということで,要するに故意性といいますか,認識がなかったという問題もあって,では果たしてそれをカバーできるのかとか,非常に,今回,遺族からの声といいますか,希望は確かに大変よく分かるのですけれども,果たしてそれが,刑法理論とか刑法体系から見て,それをどこまで取り込むことが可能なのか。又は危険運転致死傷罪,どこまで広げることが可能なのかということは,私は非常に慎重な議論をする必要があると思っております。   今回,こういう機会を作っていただいたので,是非その辺,議論,せっかくですからきちっと議論して,刑法理論上,やはり無理のない議論をしていただきたいと思っております。 ○西田部会長 ありがとうございました。 ○今井委員 今の井田委員と山下委員の御意見と,重なるところもありますが,感想めいたことを言わせていただきますと,自動車運転過失致死傷罪を作った際には,やはり井田委員も御指摘がありましたけれども,他の業務上過失致死傷罪とは類型が異なるということに着目しまして,重い法定刑を持った過失犯というものを作ったというのが経緯だったと思います。   確かに,自動車は走る凶器とも言えることから,免許制度が採られておるところですし,自動車事故の結果については,人が死傷するという点で同じであったとしても,ホテルの火災のような業過事例とは類型が違うだろうということが,当時の立法段階では考えられていたと思いますし,そういうことは,今でも妥当すると思います。   しかし,その配布資料を見ておりまして,井田委員も御指摘のとおり,自動車運転過失致死傷罪の法定刑の引き上げに伴って,それに伴う量刑も上がっていくかというと,そこには,やはりいろいろと問題があり,過失犯自体の問題もあるために,重く処罰すべき危険な運転に対して,自動車運転過失致死傷罪だけで適切に対応できているかというと,そうではないというのが現実だろうと思います。   そういたしますと,先ほどの井田委員が3分類に分けられておりまして,それには賛成ですが,中間的な類型として,現状よりも重く処罰すべき悪質で危険な運転行為というものをくくり出すことができるのかどうかということを,まずは検討し,それに対して重い法定刑でもって当たるということを考えていくのが,この部会に課せられた課題ではないかと思っているところです。   その際には,今,てんかんの話,過労運転の話もありましたけれども,広くまず無免許運転というもの,あるいは運転の途中において意識を喪失したような場合について,私たちの認識を深めた上で,対応を考えるということも大事な課題だと思っております。 ○西田部会長 ありがとうございました。   山下委員,何か更にございますか。 ○山下委員 先ほどに付け加えますと,特に,意識を失った者になった場合,今回は居眠り運転とかがありますよね,これは,理論的にはいわゆる「原因において自由な行為」みたいなものが過失犯にあるかというのもありますけれども,そういう理論的なものが言えるのかどうかという,そういうことも含めて,検討する必要があるかなと思っております。 ○西田部会長 ありがとうございました。   他に御意見はございませんでしょうか。   ございませんでしたら,大体,最初に井田委員が整理してくださった三つの論点,一つは,現在の危険運転致死傷罪をもう少し広げることができるかどうか,これについては,山下委員,御指摘のとおり,慎重に考えなければいけないということだろうと思います。   しかし,他方で,一挙に自動車運転過失致死傷罪の法定刑を例えば15年まで上げるということについては,今井委員も御指摘のように,やはりそれは個別的な事案に応じて考えるべきことであって,一律に自動車運転過失致死傷罪の法定刑を業務上過失致死傷罪より一遍に上げてしまうというだけの合理的な根拠はないだろう。   そうすると,井田委員,御指摘の第3の方向,すなわち危険運転致死傷と自動車運転過失致死傷の間に,山下委員のお言葉によると,準危険運転致死傷罪のような類型をうまく切り出すことができるかどうか,そこに,多分,収れんしてくるんだろうと思います。   したがいまして,現在の自動車運転過失致死傷罪の法定刑を一律に上げるということは,一応,議論の対象とはいたしますけれども,これは,恐らく,一応,議論の対象とするということで,やはりそこからはそれてくるだろうと思います。   結局は,現行の危険運転致死傷罪をどこまで広げることができるか,これは慎重に審議しなければなりません。そこで,その間を埋めるものとして,現在いろいろ問題になっているものをうまく構成要件的にきちっと明確な形で切り取れるかどうか,それが次の課題になってくると思いますが,以上のような取りまとめでよろしゅうございましょうか。 (「異議なし」の声あり) ○西田部会長 ありがとうございます。   では,以上のような取りまとめの上で,審議を進めていきたいと思います。   大体,本日予定しておりましたことは,これでほぼ議論が尽きたと思いますので,本日の審議はこの程度といたしまして,次回の審議について決定していただきたいと思いますが,今後の予定について,事務局からお願いいたします。 ○岩尾委員 次回以降の審議の進め方でございますが,この点につきましても,もとより部会において決定いただく事柄ではございますが,ただいま御審議をお聞きする限りでは,次回の部会までに被害者団体からのヒアリングを行いまして,次回の部会でその結果を事務当局から御報告させていただく。   また,さらに,委員の御都合を伺った上で,運転免許制度や意識喪失を伴う一定の病気などについて,基本的事項をお聞きしつつ,また本日の概括的な審議の議論も踏まえまして,要綱骨子案の方向性に関する検討をしていただいてはどうかと思います。 ○西田部会長 ありがとうございました。   今,岩尾委員,御発言のような方向で審議を進めてまいりたいと思いますが,よろしゅうございましょうか。 (「異議なし」の声あり) ○西田部会長 ありがとうございます。   では,次回以降,会場の手配等について事務局から。 ○保坂幹事 事前に皆様方の御予定を伺いましたところ,11月30日金曜日の午後,12月4日火曜日のお昼過ぎ,12月18日火曜日の午後,来年の1月16日水曜日の午後であれば,なるべく多くの方に御出席をいただけるようでございましたので,その日程を確保したいと思っております。   被害者団体から御意見を伺う日程につきましては,皆様の御予定と,あと被害者団体への連絡などに要する時間を考えまして,10月の下旬,10月25日とか26日辺りで調整させていただきたいと考えておるところでございます。 ○西田部会長 ありがとうございました。   ただいま事務局から御報告のとおりの日程で開催するということにしたいと存じます。   それでは,今月,10月の下旬をめどに,幾つかの被害者団体からのヒアリングを実施いたします。この日程については,決まり次第,委員・幹事の皆様にお伝えいたしますので,お時間の許す方は,なるべく多くこのヒアリングに参加していただきたいと思います。   そのヒアリングの結果,報告などの準備もございますので,次回までは多少お時間を頂きまして,第2回の会議は,11月30日金曜日の午後2時から午後5時頃までを予定しております。   場所は,追って御通知いたします。   さらに,本日の会議の議事録ですが,発言者名を明示してホームページに載せることについて,別段,支障のあるようなことはなかったと存じますが,それでよろしゅうございましょうか。 (「異議なし」の声あり) ○西田部会長 ありがとうございました。 ○山下委員 1点だけ追加でよろしいでしょうか。   資料5の事例集ですけれども,これも,もし裁判例で公開されているものがあれば,それも,出典が分かるものがあれば,それも教えていただければと思っております。 ○稲田委員 この載っているものについてということですね。 ○山下委員 はい,そうです,資料5に載っているものでということでございます,すみません。 ○上冨幹事 事務局の方で対応させていただきます。 ○山下委員 はい,ないものは,もう仕方ないということで。 ○西田部会長 では,これで審議終了となりますが,特にこの際ですから,御発言がございましたら,よろしゅうございますか。   では,本日は,長時間,ありがとうございました。   これをもって,第1回の部会を終了いたします。 -了-