法制審議会           少年法部会第2回会議           議事録 第1 日 時  平成24年11月13日(火) 自 午後1時59分                        至 午後4時30分 第2 場 所  東京地方検察庁総務部会議室 第3 議 題  少年法の改正について 第4 議 事 (次のとおり)            議        事 ○佐藤(剛)幹事 大変,お待たせいたしました。予定の時刻になりましたので,ただいまから法制審議会少年法部会の第2回会議を開催いたします。 ○川端部会長 本日は御多忙中のところ,お集まりいただきましてありがとうございます。   さて,本日は前回の審議で皆様にお諮りし,御了解いただきましたとおり,まず,要綱(骨子)第二について審議した上で,少年に対する刑事事件における科刑の適正化に関する事項について審議することといたします。そして,要綱(骨子)第二については,具体的な要綱(骨子)が示されている要綱(骨子)第二の一と二について審議した上で,第二の三,その他所要の規定の整備について審議したいと考えております。本日はこのような進行でよろしいでしょうか。どうもありがとうございます。   それでは,早速,要綱(骨子)第二の一及び二についての審議を行いたいと思います。どうぞ,適宜,御発言をお願いいたします。 ○山﨑幹事 まず,要綱(骨子)第二,一,二,共通ですけれども,要綱(骨子)の提案の理由といいますか,背景について1点,お尋ねしたいと思います。少年犯罪の動向との関係という点になりますけれども,少年の凶悪犯罪,すなわち殺人や強盗,放火,強姦といった犯罪の数は,ここ数年,非常に減少傾向にあると言われております。今回の提案内容は,例えば少年犯罪の凶悪化が非常に進んできたのでこういう提案をなさったということではないと理解してよろしいのかどうか,その点を確認させていただければと思います。 ○川端部会長 今,山﨑幹事から御質問がございましたが,上冨幹事,よろしいでしょうか。 ○上冨幹事 諮問の理由について御説明した際にも触れましたように,今回の諮問につきましては,まず,不定期刑の部分につきましては,現在の規定で具体的な事件の量刑を判断するに当たり,その責任が無期刑を科すほどではないものの,現在の不定期刑の上限では十分な刑事責任の評価ができない場合があるのではないかということを前提とした諮問がまず第二の二になります。そのような観点から,不定期刑の上限を引き上げることに伴いまして,いわゆる無期刑の緩和刑の規定に関しても,不定期刑の上限が15年になることとの均衡を考え,20年にすべきではないかというのが第二の一という構造になっておりますので,基本的には先ほど申し上げた具体的な事件において,十分評価できない場合があり得ることに対処するための改正であると御理解いただければよろしいかと思います。 ○山﨑幹事 確認になりますけれども,全体の少年犯罪の動向として凶悪化が進んでいるという前提でそれに対応するものではない,という理解でよろしいでしょうか。 ○上冨幹事 結構でございます。 ○山﨑幹事 もう1点でございますけれども,そうした場合,今おっしゃられた,無期刑を科すほどではないが5年,10年の不定期刑では軽過ぎるといった,そういう評価の部分なんですけれども,事案としては,かつてから非常に凶悪な事件というのは存在していたかと思います。ということになりますと,量刑の評価自体が,ここ数年なりで変化をして,これでは軽いという量刑の評価が出てきたということが背景になっている,という理解なのでしょうか。 ○上冨幹事 一般的な量刑の評価の傾向を評価すること自体はなかなか難しいと思っております。その意味で,一般的な少年に対する量刑の傾向が重くなっているということまでを申し上げるということではないのかなと思っております。具体的な事件で当該事件について評価するに当たって,現行の規定に基づいた量刑では現在の事件の判断としてみたときに,必ずしも十分ではないという事例が散見されるのではないかということだろうと思っております。 ○川端部会長 山﨑幹事,以上でよろしいでしょうか。ほかにいかがでしょうか。 ○堀江幹事 先ほどの上冨幹事の要綱(骨子)の趣旨についての御説明に関して質問なんですけれども,御説明では,第二の二の不定期刑の短期・長期の上限を上げるという必要性がまずあって,それとの均衡から,無期刑の緩和刑についても上げる必要があるとおっしゃったと思うのですが,そこのつながりといいますか,両者の関係がどうなっているのか。御説明の趣旨は,不定期刑の長期の上限が15年になるとすると,無期刑の緩和刑の上限が15年のままだと,どちらも上限が同じだということになってしまう,それはまずいので15年から20年に上げると,そういう御趣旨なのかなと思うのですが,一方で,緩和刑の方の,下は10年というところは変えないのですよね。そうしますと,両者が重なり合う部分が出てくるわけで,およそ常に無期刑の緩和刑としての定期刑が,不定期刑であり得る刑期よりも上回っているという形にはならないわけです。その辺りは,それで問題ないとお考えだということでしょうか。 ○川端部会長 その点について,お願いします。 ○上冨幹事 今の御指摘の点でございますが,これは多分,1点はまずいわゆる無期の緩和刑というものを刑法の体系上,そもそも,どういう性質のものと位置付けるのかということにも関わる点かと思われます。それから,また,不定期刑について,これから御議論いただくことだと思いますが,不定期刑の長期あるいは短期がそれぞれ法律上,どのような意味を持つものとして位置付けられるのかといったこととも関連するのではないかと思いますが,そういったことの性質をどのように考えるかにもよるとは思いますが,結果として処断刑が無期となったものの緩和刑の結果の刑と有期刑が選択された場合の不定期刑の刑期が逆転することがあること自体は,必ずしも問題ではないだろうと私どもとしては考えているところです。 ○堀江幹事 関連してもう1点,質問させていただきたいのですが,無期刑の緩和刑の上限が現行では15年になっていることの説明として,文献などを見ていますと,かつて有期刑の法定刑の上限が15年であったことに平仄を合わせていた,それが16年改正で,有期刑の上限の方が20年まで加重されたためにずれが生じていると。そこで,今回,無期刑の緩和刑の上限を20年に上げるとすれば,その説明としては,現在の有期刑の法定刑の上限が20年になっているのに合わせるのだという説明も,考え方としてはあり得ると思うのですけれども,そのような説明はされずに,不定期刑を上げることに伴って,それとのバランス,つまり両者で上限に差をつけるために,無期刑の緩和刑を上げるというふうな御説明だったかと思いますが,今,私が申し上げたような考え方は,特に採られないと理解してよろしいのでしょうか。 ○川端部会長 その点について,お願いします。 ○上冨幹事 無期の緩和刑の上限を引き上げる直接のといいますか,主たる理由として考えておりましたのは,私が先ほど御説明したようなものと考えております。 ○川端部会長 以上でよろしいでしょうか。ほかにいかがでしょうか。 ○須納瀬委員 須納瀬でございます。先ほどの山﨑幹事の質問とも若干関係するんですけれども,具体的事案において,現行法では適切な科刑ができない事案が出てきているというような御説明だったと思いますけれども,この点について,そのような事案というのは実際は従来も一定,重大な事件というのは発生していたかと思います。そういったかつても発生していた凶悪・重大な事件とは質的に異なるような事案が最近,発生するようになってきたという評価なのか,それとも,同様の事案はかつても存在したんだけれども,それに対する評価が異なってきている,その結果として適正な科刑ができなくなったと,そういった評価をされているのか,その点についてお伺いできればと思います。 ○川端部会長 上冨幹事,お願いします。 ○上冨幹事 基本的には,今,須納瀬委員がおっしゃったうちの考え方からすれば,後者ということになろうかと思います。 ○川端部会長 以上でよろしいでしょうか。 ○山﨑幹事 今の議論とはまた違いますけれども,第二の一の,無期緩和刑の仮釈放の要件についても改正するという部分について,これはどういう趣旨なのか御説明いただけますでしょうか。 ○川端部会長 では,その点についてお願いします。 ○上冨幹事 不定期刑の仮釈放の要件については,現行法上,短期の3分の1経過後ということになっております。今回の改正で不定期刑の短期の上限が10年になった場合,短期について上限が言い渡された場合は3年4か月経過後に,仮釈放が可能になるということになります。他方,無期の緩和刑としての定期刑について,この点について現行のまま,すなわち,3年という規定のまま,仮釈放が可能といたしますと,本来,軽いはずの不定期刑が言い渡された場合よりも,無期の緩和刑の場合の方が早く仮釈放が可能になるという,言わば逆転現象が起きることになります。そのようなことを避けるためには,無期の緩和刑についても仮釈放が可能となる時期を現行の規定よりは,遅らせる改正を行う必要があると考えたところでございます。それで,今回のような諮問の御提案をさせていただきました。 ○川端部会長 そういうことでよろしいでしょうか。どうもありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。 ○川出委員 先ほど上冨幹事がおっしゃった51条2項の無期刑の緩和の趣旨ということに関してなんですが,51条2項は,まず,処断刑として無期刑を定め,その上で,更に緩和するという規定になっております。そうしますと,処断刑を定める際に,酌量減軽をすることもあり得るわけで,そのときに被告人が少年であるということも考慮した上で酌量減軽をすることもできるわけです。そして,51条2項により,その上で更に緩和できるということになっていますので,無期刑の緩和の趣旨ということからいえば,処断刑として定められた無期刑が責任刑に対応しており,その緩和は,被告人が少年であるということを考慮して,言わば恩恵的になされるものであるという位置づけになるのではないかと思います。少年であることを考慮した恩恵的な措置というのは,51条1項の方で,犯行時18歳未満の少年には一律に死刑を科さないという規定に最も端的に表れていると思うんですが,無期刑に関しても,死刑の場合と違って裁量的ではありますが,少年に対しては酷な場合があるということを考慮して,緩和しているということだろうと思います。   それを前提に,今回,無期の緩和刑の上限を15年から20年に引き上げるという点について考えてみますと,先ほど堀江幹事から御指摘があったように,これまでは,無期刑を緩和するとした場合,無期刑の次に来るのは有期刑の上限であろうということで15年になっていたということだったと思うのですが,無期刑の緩和が恩恵的なものであるのであれば,それは,一種,政策的な措置ですから,どこまで下げるかということが論理的に出てくる話では恐らくない。したがって,従来と異なる定め方をしてもよいのですが,逆に,これまでと同様の発想に立って,今までは有期の上限は15年だったのが20年になったので,緩和刑の上限を20年にするという説明も十分できるだろうと思います。   同時に,処断刑として定められた無期刑が責任刑に対応するという考え方による場合,他方で,不定期刑について,仮にその長期が責任刑だという立場に立ったとすれば,恩恵的に刑を緩和するとしても,本来,責任刑として上回っている行為については,より重い刑を科す余地を残しておくという意味での均衡という観点から,無期刑を緩和した刑の上限が,不定期刑の長期を上回るという形にすることも十分考えられるだろうと思います。これも一種の政策的な判断ですから,そこが担保できればよいわけで,緩和刑の下限については,それが不定期刑の長期を下回ることになっても矛盾はないということになるのではないかと思います。 ○川端部会長 どうもありがとうございました。   今,川出委員から御意見が出たわけですが,これに関して何か御質問,御意見がございましたらお願いいたします。 ○植村委員 今の無期刑の緩和の10年の関係は,私も今の法制に合わせると,下限も15年に上げるというのも一つの選択肢だろうと思っているんですけれども,全然,法制度は違いますが,例えば酌量減軽で刑法の68条でいきますと,無期を減軽するときは7年まで下げられるわけですね。ですから,当然,有期刑の上限よりははるかに下がっていると。そうしますと,今,川出先生からもお話がありましたように上限もそうですが,下限の方はかなり立法者の方で,どの程度のところまで下げたらいいのかという,そういう立法裁量があるだろうということになりますと,少年のために緩刑をしているということであれば,下限を上げてもいいとは思うんですけれども,下限を上げないという制度を採っても,直ちに不定期刑の上限より下がった形になってしまうから,不合理だということにはならないのではないかなと考えております。 ○川端部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○上冨幹事 今,植村委員,川出委員から,下限についてはどのようなところまで下げられるかという判断を,立法する側として考えてもよい余地があるのではないかというお話がありましたので,その点について,今回,下限を上げないという諮問をさせていただいた一つの理由を付け加えさせていただきたいと思います。   現在,実務上,無期の緩和刑としての定期刑が科された場合に,例えば懲役12年あるいは13年といった有期刑の宣告がなされている例が現にございます。このような事案について,法改正によってそのような判決が下せなくなる,例えば少年法51条の無期の緩和刑の下限を15年に引き上げることによって,一律,同じような事案について15年以上の刑を科さざるを得なくなるような改正を行う必要性あるいは理由はないだろうと考えております。その意味で,現行の12年あるいは13年といった刑が言い渡されているような事案について,今後もその内容が適切であるならば,引き続き同じような刑を科すことができるようにする余地を維持した方がいいのではないかという考えから,今回,下限については改正をしないという方向の諮問をさせていただいているところでございます。それが言わば私どもの判断の一つであると御理解いただければと思います。 ○川端部会長 今,御説明を頂いたわけですが,これはかなり理念にも関わってきますので,いろいろ御意見があろうかと思います。御意見を承りたいと思います。よろしくお願いいたします。   今,特に御意見がないようですので,続きまして要綱(骨子)第二の三,その他所要の規定の整備についての審議を行いたいと思います。前回の部会において,要綱(骨子)第二の三,その他所要の規定の整備として検討すべき事項について,委員・幹事から不定期刑の言渡し基準など,不定期刑に関する事項について審議すべきであるとの御提案がございましたことから,事務局にその他所要の規定の整備として考えられる検討テーマについてまとめていただきました。そこで,まず,事務局から考えられる検討テーマについて説明を受けた上で,ほかに検討すべきテーマがないかを審議して検討テーマを決めたいと思います。このような方法でよろしいでしょうか。 (「異議なし」の声あり) ○川端部会長 どうもありがとうございます。   それでは,まず,事務局から,その他所要の規定の整備として考えられる検討テーマについて御提案をお願いいたします。 ○上冨幹事 御説明いたします。資料8を配布いたしますので少々お待ちください。 ○川端部会長 ただいま,資料番号8の資料をお配りしたと思いますが,全部,行き渡っておりますでしょうか。 ○上冨幹事 それでは,御説明いたします。お手元の資料8を御覧いただきながらお聞きください。事務局として,その他所要の規定の整備として考えました事項は,大きく2点ございます。1点目は少年法52条の少年に対する不定期刑の言渡し基準を明確にすべきか否かという点でございます。それから,2点目は不定期刑を適用する事件の範囲はどのようにすべきかという点でございます。   まず,1点目の少年に対する不定期刑の言渡し基準を明確にすべきか否かという点でございますが,これは第1回の部会におきまして,委員・幹事の皆様からも御提案があった事項でございます。この点につきましては,現行法上の不定期刑の言渡しの基準につきまして,様々な学説が唱えられております状況にありますが,裁判員裁判が開始されたことなどを理由として,不定期刑の言渡し基準を明確にすべきではないかという御指摘がございますので,この点につきまして,この場で御議論いただければと考えております。   この点を検討するに際しましては,更に不定期刑の長期と短期の性質をそれぞれどのように考えるべきか,不定期刑の長期と短期をどのような枠の中で決定すべきか,不定期刑の長期と短期の決定順序など,不定期刑の長期と短期をどのように決定すべきか,それから,不定期刑の長期と短期の幅について制限を設けるべきかという点についても,御検討いただければと考えております。   それから,大きな2点目,不定期刑を適用する事件の範囲はどのようにすべきかという点についてですが,現行法上,不定期刑は「長期3年以上の有期の懲役又は禁錮をもつて処断すべきとき」に適用されるとされております。不定期刑を適用すべきか否かをこの規定は処断刑で判断した上で,処断刑の長期が3年未満の場合には不定期刑を適用しないとしております。このような基準で不定期刑の適用の有無を区別することが相当かという点について,御検討いただければと考えております。 ○川端部会長 どうもありがとうございました。   ただいま事務局から,その他所要の規定の整備として考えられる検討事項について,少年に対する不定期刑の言渡し基準を明確にすべきか否か,不定期刑を適用する事件の範囲はどのようにすべきかという2点について御提案があり,更に少年に対する不定期刑の言渡し基準を明確にすべきか否か,に関する詳細な検討事項について御提案を頂きました。そのほかに検討すべき事項はございませんでしょうか。御意見がございましたらお願いいたします。 ○川端部会長 特に御意見はございませんようですので,ただいま御提案のありましたその他所要の規定の整備として検討すべきテーマに関しましては,事務局から御提案のありました少年に対する不定期刑の言渡し基準を明確にすべきか否か,不定期刑を適用する事件の範囲はどのようにすべきかの2点ということでよろしいでしょうか。どうもありがとうございます。   それでは,このような形で審議をさせていただきます。その他所要の規定の整備につきましては,ただいま決定しました検討テーマについて,少年に対する不定期刑の言渡し基準を明確にすべきか否か,不定期刑を適用する事件の範囲はどのようにすべきかという順序で審議をしたいと思いますが,それでよろしいでしょうか。 (「異議なし」との声あり) ○川端部会長 どうもありがとうございます。では,そのようにさせていただきます。 ○須納瀬委員 第二の三の議論に今から入るところですけれども,第二の一及び二の議論については,申し訳ありません,先ほど私は下限の議論を中心にやっているのかなと思って,その余の論点については発言しなかったんですけれども,その余の論点についての発言の機会をよろしければ与えていただきたいと思うんですけれども,それはこの後ということでよろしいですか。 ○川端部会長 今現在で結構ですので,お願いします。 ○須納瀬委員 申し訳ありません,順番が前後いたしまして。今回の要綱(骨子)第二の一及び二というのは,少年に対する有期刑の上限を引き上げるという点でございますので,その点について私なりの御意見を申し上げたいと思います。言うまでもなく,51条2項と52条で少年に対する刑を緩和している趣旨というのは,主に51条2項は,人格が未熟な少年は成人と比較して,責任が類型的に減少するという点を捉え,52条は少年が可塑性に富み,教育可能性が高いことから教育的処遇が必要,有効であるという点に趣旨があると言われておりまして,いずれも少年法1条の健全育成の理念というものを少年刑の適用場面においても,具体的にしたものと言われているわけでございます。そういった観点から申しますと,少年に対して刑罰を科す場合には,その刑罰の目的についてのいろいろな観点がございますけれども,それが少年の健全育成,もっと言うと,社会復帰あるいは社会復帰後の再犯防止と,そういった観点から見て適切なのかどうなのかという視点は,基本的に押さえておく必要があるのではないだろうかと思います。   先ほど来の当局の御説明などを伺いまして,一定,重大・凶悪な事件が存在して,現行法の枠内では適切な科刑ができないと判断できる事案が生じてきているということでございますけれども,率直に申し上げて,それが全体として凶悪事件が増えているという状況にはなく,そういった事件がひっきりなしに生じていると,そういう状況でもないのではないだろうかと思います。   そういった状況の下で,しかも,少なくとも従前は現行法の規定の枠内で適正な科刑が長い期間にわたって行われていたと,そういう状況にあったわけで,現時点において上限を引き上げるという判断が適切なのかどうなのかという場合には,そういった科刑が少年の社会復帰や再犯防止という観点から大丈夫なのかどうなのか,そこの辺りのきちんとした考慮が必要ではないだろうかと思う次第でございまして,要綱(骨子)では,少年にとって長期の受刑,52条でいえば10年を超えることになります,51条2項でいうと15年を超えて20年までいくと,特に51条2項の場合は犯行時18歳未満の少年ですから,そういった少年が20年間,刑務所に入った場合に,その後の社会復帰というものがきちんとできるのかどうなのかというのは,現行の処遇制度の下では大変不安があると,あるいはそういった再犯防止といった観点からは,問題が多いと言えるのではないかと思う次第で,その点についても処遇の実情等も踏まえて,慎重に検討する必要があるのではないかと考えていると,私の意見として申し上げさせていただきたいと思います。 ○川端部会長 今の点について御発言されますか。それではお願いします。 ○上冨幹事 では,1点だけ,確かに今回,諮問しました内容の法改正が行われますと,現行よりも当然,長い刑が科される場合が生じることになります。ただ,少年に対する刑罰でありましても,本来,罪刑の均衡は当然,求められるものではないかと考えております。それは,少年の健全育成や社会復帰という点を考慮したとしても,罪刑の均衡という観点の必要性は消えないのではないかと思っております。そのような意味で,具体的な事案で罪刑の均衡が必ずしも図れないような場合があるのであれば,それに対応した法改正が必要ではないかというのが1点ございます。   それから,長期ということだけを考えた場合,現行の少年法でありましても,少年に対して無期刑を科すこと,あるいは無期の緩和刑として10年から15年の定期刑を科すことはいずれも可能でございます。少年であるからといって,10年を超える刑を科すことができないとは,現行の少年法も考えていないところでありまして,今回の諮問がそういった観点から,少年の社会復帰あるいは少年に対する刑罰の考え方として適切ではない,あるいは許されない長期の科刑であるということにはならないのではないかと,事務局としては考えているところでございます。 ○山﨑幹事 私からも意見となりますけれども,少年の刑を考えるときには,少年が10代後半に犯罪を犯して,それから10年あるいは15年,20年ということになりますと,10代後半,20代,30代という,正に人格を形成させて社会での生活基盤を確立すべき年代を施設の中で過ごさざるを得ない,ということになるわけですので,より年長の成人の場合とは期間の持つ重みというのが異なる,それが社会復帰に向けた阻害要因とならないかという観点で,慎重に考えるべきだろうと思っております。また,国連の子どもの権利委員会などの様々な指摘等もありますけれども,世界的には,できるだけ身体拘束の処分を少なくしていくという方向での議論がなされていると認識しております。そういった中で,この上限を引き上げていくということの相当性といいますか,根拠が果たして十分であるのかどうか,ということに大変疑問を持っております。   関連して,当初の御説明でも,適正な量刑が阻害されているという指摘がなされているということで,その中には近時の裁判での判決なども含まれているのかと理解しております。ただ,特に,裁判員裁判の中で少年の事件が審理された例というのは,まだごく少ない数にとどまっていると思います。裁判員裁判の制度自体が発足して間もないという状況であり,その中での量刑評価というのも,今後どのように推移していくのか,更に,少年事件の裁判員裁判については,その手続の中でどこまで少年法の理念等が説明され理解されるか,という特殊な問題もございますので,そういったところを慎重に見極めた上で議論すべきことではないかと思っております。 ○川端部会長 どうもありがとうございました。   今,一巡目の議論として御検討いただいていますので,この問題についてもほかに根本的な議論がございましたら,改めて二巡目において行わせていただきたいと思っております。ほかにいかがでしょうか。 ○武委員 上限を上げるというのを私はしていただきたいです。幅を広げていただきたいんです。といいますのは,凶悪犯罪はそうは増えていないといっても起きるんです。そして,目立った事件が起きたときに,さあ,どうしましょうと考えます。改正になっていなければ適用にならないわけです。ですから,今回の改正で幅を広げるというのは大事なことだと思います。それから,幅を広げたからといって上限に全部を合わすわけではないです。幅を広げると,どうしても厳罰化だというイメージを持たれるんですけれども,全てをそこに合わすわけではないので,きちんと考えられて運用されると思うので,厳罰化ではないのです。だから,まずは幅を広げていただきたいです。   そして,山﨑先生がおっしゃったんですが,少年というのは10代から20代なので,そのとても大事な時期を長い間拘束しては社会復帰ができないのではないかということを心配されます。もちろん,私はその問題はあると思います。それには,矯正教育の問題などまだまだ足りないことがあると思います。私は以前,法務省の担当の人に,少年刑務所に行ったなら教育はされるんですかと問い掛けたことがあります。そうしたら教育はしているとおっしゃったんですが,現場の人たちに聞いたところ,実際のところはまだほんの少しだと聞いています。ですから,これからは教育の在り方を考えることは,必要で大事だと思います。でもそこで,絶対忘れてはほしくないことが一つあります。それは,その10年,15年,もし少年刑務所に入る少年がいたなら,その反対側には被害者がいる場合が多いはずです。   その被害者というのは,私たちの会であれば,被害者は13歳から24歳,そして一人お母さんがおられて62歳です。ほとんどが10代20代前半のときに命を奪われているんです。十何歳で命を奪われて,その後の人生はないわけです。そんな命を奪っているわけです。命は尊いといいます。命は地球より重たいといいます。それを考えたときに,10年,15年,長いのでしょうか。私は適正化だと思うし,罪に見合った罰だと思うので,上限を上げるということはとても大事なことです。そして,それは厳罰化ではないです。今まで罪に見合った罰がされていないだけだと私は思います。   それと,もう一つ,堺支部で裁判官の方が判決文の中に「無期懲役とまでは言えない,でも,現行の不定期刑では不十分だ」と書かれたんです。とても勇気がある判決文だと思います。私たちは喜びました。今までにそういうことはなかったんだろうか。今までもあったんだろうに,そういうことを余り言わなかったというようなことを山﨑先生もおっしゃいましたが,私は今までも裁判官は苦労されていたと思います。でも,今,ようやく裁判員裁判も始まりました。開かれた司法,開かれた裁判所という言葉がよく言われるようになりました。ようやく裁判官の方も勇気を持って,そういう言葉を使えるようになったんだと思うんです。ですから,その勇気を持った判決文の言葉は本当に大事にしていただきたいし,是非,それは考えていただきたい。そして,繰り返して言いますが,それは厳罰化ではないです。ありがとうございました。 ○川端部会長 どうもありがとうございました。 ○佐伯委員 少年の責任が成人と比べて軽いこと,また,少年にとっての時間の大切さというようなことは,当然,考慮すべきで,そういうことを考慮して少年の量刑は慎重にすべきであるというのは,須納瀬委員や山﨑幹事と全く同感なのですが,そういうことを考慮した上で,少年の責任に応じた刑を定める場合に,不定期刑の長期を少年の責任に応じた責任刑だと考えることを前提として言いますので先取りになりますけれども,少年の責任に応じた刑に10年と無期の間がないというのは不自然であり,そういう不自然さは成人の懲役刑,禁錮刑の上限が引き上げられたことによって,一層,目立つようになっているのではないかと思います。 ○川端部会長 どうもありがとうございました。   今,上限の引上げについて御意見を承っておりますが,ほかにいかがでしょうか。 ○瀬川委員 この辺で少し認識を共通にした方がいいと思いますので,質問します。少年の不定期刑というのはどこで行われているのか。少年刑務所でよろしいですか。全国にどれぐらい少年の不定期刑の受刑者がいるのか。それから,いわゆる少年刑務所はどれぐらいの規模かということを是非,教えていただきたいと思います。もう一つ,関連ですけれども,二十歳を超えた場合,どうしているのかということ,この点も教えていただきたい。 ○花村関係官 法務省矯正局成人矯正課の花村でございます。少年受刑者処遇について若干,御説明をさせていただきたいと考えております。   全国に少年刑務所がございます。少年受刑者は少年刑務所に入所いたしまして,26歳まではその少年刑務所で処遇が行われます。仮に26歳を過ぎますと,成人と同様に,A指標,B指標,犯罪傾向が進んでいる,進んでいないという指標に基づいて,成人の刑務所で処遇がなされます。   先ほど私は少年受刑者処遇というふうなお話をさせていただきました。これは少年受刑者処遇要領というものがございまして,例えば刑執行開始から3年間は少年受刑者処遇要領の下で処遇をしています。   私は先般,ちょうど,川越少年刑務所,これは犯罪傾向の進んでいない指標の刑務所でございますけれども,たまたま,調査といいますか,行くことがございました。この川越少年刑務所でございますと,大体,30名から40名ぐらいの者を常時,少年受刑者処遇の要領の下で処遇をしています。この少年受刑者処遇要領でございますけれども,3年間の中を導入期,展開期,総括期の三つの時期に分けております。導入期につきましては,自己の問題点に気付かせて改善更生の意欲の喚起に主眼を置いて処遇を行うと。展開期につきましては,先ほど,武委員からも御指摘がございました被害者の視点を取り入れた教育などを通しまして,罪障感の覚醒ですとか,家族との関係改善,それから,出所後の就労に役立つような指導などに主眼を置いて処遇を行うと。それから,総括期におきましては,将来の生活設計などに主眼を置いて,処遇を行っているところでございます。   具体的な川越少年刑務所の処遇内容でございますけれども,少年受刑者が成年,二十歳になるまで,ないしは途中で二十歳になっても1年間が経過するまでの時期につきましては,例えば夜間の居室を単独室,一人部屋でございます,こちらの方に指定を致しまして,昼間は少年工場,少年の受刑者が集まっている工場で処遇を行っておるところでございます。   例えば少年工場の日課ですけれども,平日の午前中は例えば学校と同じように教室でのホームルーム,それから,教科指導,生活指導,情操教育,教養講座,運動などの指導を行い,午後は例えば園芸といった情操の育成に通じるような刑務作業に従事をさせております。それから,先ほど申し上げました少年工場では少年受刑者の改善更生ですとか,円滑な社会復帰のために少年受刑者の家族とのつながりを強めるということで,年に1回,保護者会を行っておるところでございます。これは年に1回,保護者を川越少年刑務所施設の中の少年工場等に案内をして,少年受刑者の日常の生活の状況についてつぶさに説明をして家族の理解を得るとともに,講堂におきまして仕切りのない場所での集団の面会も実施しておるところでございます。   また,個々の少年受刑者につきましては,そういった少年受刑者の処遇の要領の実施の状況を見守るということで,各少年受刑者ごとに一人,心理の専門スタッフないしは教育の専門スタッフ,これを個別担任として指名をして付けております。個別担任は少年受刑者から提出を受けました日記の記載でございますとか,少年工場を担当している刑務官から幅広く少年受刑者に関する情報を収集して指導とか助言を行うといったことを通じまして,少年受刑者自身に自己の問題点を把握させ,社会復帰を目指すためには,何をしなければいけないかということについても考えさせて,少年受刑者の処遇を軌道に乗せるなどの役割を担っております。もちろん,家族とのつながりという観点から,少年受刑者に書かせる日記等におきまして家族関係について記述があった場合には個別の面接をして,助言・指導を行っております。   少年工場での処遇が1年を経過いたしますと,ないしは年齢が1年を経過してかつ二十歳を超えますと,今度はほかの成人の受刑者,川越少年刑務所の場合は青年受刑者と言えばいいかと思いますけれども,ほかの26歳未満の青年の受刑者と一緒の処遇を受けることになります。もちろん,川越少年刑務所の場合,理容でございますとか自動車整備,それから,情報処理,ホームヘルパー,クリーニング,18種目に及ぶ職業訓練の種目もございますので,受刑者の能力とか刑期などの問題もございますけれども,社会復帰後に役に立つような資格の取得ができますし,高等学校卒業程度の認定試験がございます。高卒認定試験の受験希望者につきましては,教育のスタッフの方から個別指導を行っています。私どもとしては社会復帰に資するための様々なプログラムを用意しておると考えているところでございます。もちろん,いろいろなプログラムがございますので,どのようなプログラムを受けるかということになりますと,個々の少年受刑者等の事情によって異なります。   個々の少年受刑者に問題が生じたときは,個別担任がケアをしますので,仮にそういった少年受刑者が反則行為をして懲罰を科されるというような場合には,それ以後の生活がきちんとできるように,必要に応じて個別担任が助言・指導に当たることになります。個別担任のほかにも,少年工場の担当の刑務官,これは普段の生活指導の方の担当もしており,少年受刑者の動静に変化があった場合には,個別担任と工場担当の刑務官との間で情報交換をするなどして,刑務所の中でのスタッフ間の結び付きを強くいたしまして,施設全体で少年受刑者の処遇を支えるという体制となっております。   少年受刑者処遇が終わった者,先ほど申し上げましたように26歳になるまでは,例えば川越少年刑務所で収容することになります。ただ,ここで少年受刑者と先ほどの個別担任の結び付きが決して切れるわけではございません。日記の交換が継続することもございます。こういったつながりによりまして少年受刑者の処遇が功を奏して,受刑者が長期にわたり,真摯に受刑生活を続けるというようなこともございます。こういった場合には,少年受刑者が刑務所の中で模範的な存在となって,これが他の少年受刑者の方のお手本にもなって,今度は逆にそれよりも若い少年受刑者がその者を目標にして,頑張っていくという前向きな姿勢が生じることもあるということを施設の職員から伺ってきたところでございます。   こういった少年受刑者の処遇,個別担任を始めとして,様々な職員によるサポート体制を整えておるところでございますけれども,少年受刑者の場合,相対的に刑期が長い者が多いところがあります。いろいろな教育的な働き掛けをしておりますけれども,その中の教育的な一つのきっかけができますと,受刑者自身,自己の問題を認識して,改善更生に向かわせるような効果があるのではないかと施設の職員も話しておりましたので,これからも少年受刑者処遇,矯正教育でございますとか職業訓練,こういったところを更に充実・強化をさせていきたいと考えております。   ほかに川越少年刑務所を除きますと,六つ,男子少年刑務所がございます。それから,女子の場合ですと少年受刑者を収容することになりますと,東日本では栃木刑務所,西日本では和歌山刑務所がございます。こういったところで少年受刑者の処遇をしておるところでございます。 ○川端部会長 どうもありがとうございました。   ただいま花村関係官から御説明いただいたわけですが,瀬川委員,今の点について何か御質問がございますでしょうか。 ○武委員 今の川越少年刑務所の話なんですけれども,三,四十人の受刑者が,少年がいるわけですね。三,四十人とおっしゃったんでしょうか。 ○花村関係官 川越少年刑務所の場合でございます。申し訳ございません。 ○武委員 それに対して刑務官というか,そういう人は何人ぐらいおられるんでしょうか。 ○花村関係官 様々な立場の者がおりますので,例えばの話でございますが,先ほど少年工場といいますか,少年受刑者が集まっている工場がございます。大体,これは常時10人から20人ぐらいの集まりになりますけれども,そこはもちろん,刑務官一人がその工場を戒護といいますか,保安警備に当たっています。その工場を担任している刑務官が一人ということでございまして,いろいろな処遇,面会ですとか書信ですとか運動ですとか,そういったことの場合には,それぞれ担当分野ごとの刑務官もございます。先ほど申し上げましたように心理学の専門スタッフでございますとか,教育学の専門スタッフにつきましては個別担任制がございます。一人の心理のスタッフなり,教育のスタッフなりが受け持っている少年受刑者の処遇をしている者というのは,大体,一人当たり二人とか三人とか,そういった密度で個別の担任を受け持っていると,先日,川越少年刑務所へ私が調査に行かせていただいたときには,施設の職員から伺ってきたところでございます。 ○川端部会長 武委員,よろしいでしょうか。 ○武委員 刑務官の方がとても苦労しているという話を聞いたことがあるので,今,聞いてみました。それと,少年刑務所に入れる方がいいのか,それとも,保護処分で少年院に入れる方がいいのかという議論がよくあります。可塑性のある少年だから,幾ら重大犯罪を起こしても少年刑務所より少年院の方がより教育が行き届くので保護処分の方がいいという話をよく聞きます。そのときに私は必ず言うんです,いいえ,少年刑務所でもきちんと教育ってあると聞いていますよと言うんですが,いや,それほど教育というのは力を入れていないんですよと言われてしまいます。そうしたら,これからは自信を持って少年刑務所もきちんとそういう教育はしているんですと言って大丈夫ですか。 ○花村関係官 私ども矯正局は,少年院も少年刑務所も所管しております。今,委員が御指摘の問題もございますが,少年院にしても少年刑務所にしても,それぞれ,少年の持っている問題性といいますか,特性は個々,千差万別に違います。少年院では教官が,刑務所では刑務官が中心になりますけれども,それぞれの個人の問題性に合った処遇,矯正教育,職業訓練,刑務所の場合は刑務作業も加えて,何とか少年を社会復帰させるための処遇をみんなで考えてやっているということを,申し上げさせていただければと考えております。もちろん,こういった処遇をこれからも充実・強化させていきたいと考えております。 ○望月委員 少年院と少年刑務所のことで質問があります。今お聞きした説明から,少年に対する教育にはきめ細かく様々な視点が取り入れられていることは想像できるのですが,それに取り組む職員,心理教官,あるいは専門家が被害者についての研修をどのように受けているのか,被害者のことをどれくらい理解して教育を行っているのか,私の立場からいいますととても気にかかるところですが,どうなんでしょうか。 ○花村関係官 少年院の職員にいたしましても,少年刑務所の職員にいたしましても,例えば犯罪被害者の都道府県のセンターの方々といろいろなお話をさせていただいたり,協議,連絡をさせていただいたりしております。様々な団体がございますが,いろいろな団体の皆様方からお話を聞かせていただいたりとか,御支援を頂いたりして,刑務所の中でも,今,命のメッセージ展を開催させていただいているところでございます。少年院でも実施しているところがございますが,こういった犯罪被害者の方々のお気持ちに寄り添いながら,矯正教育を続けていくことは,非常に大切なことだと考えておりますので,こういったところは更に充実・強化していきたいと考えております。 ○川端部会長 望月委員,よろしいでしょうか。 ○望月委員 まだまだ,足りていないと思いますので,是非,よろしくお願いいたします。 ○花村関係官 是非,頑張りたいと思います。 ○武委員 今のことに続いてなんですけれども,今,おっしゃったように例えば被害者支援センターとか,そういう支援に関わる人たちのところと連絡をとり合ったり,例えば意見交換をすることはあると思うんですけれども,私たちのような被害の当事者,私たちの会でもそうなんですが,集会をするときに来てはもらえないです。自分たちに余り関係ないと思われることが多いんです。私は加害少年の問題などですごく関係をしていると思うので,いつも案内を出すんです。是非,被害者の現状を知ってもらって加害者に関わっていただきたいと思うからです。ところが,そういう当事者の生の声を聞いてほしいところには余り来られないです。これからは,もっと積極的にそういうところにも来ていただきたいです。お願いしたいです。 ○花村関係官 矯正施設はゲストスピーカーということで,そういった被害に遭われた方々から,少年刑務所の場合だと成人受刑者も含めての場合もございますけれども,お話を頂く機会もございますので,そういった機会も含めまして,今,御指摘のあった点は更に充実・強化させていきたいと考えております。 ○川端部会長 どうもありがとうございました。   かなり時間がたったようでございますので,休憩をとってからまた議論を再開させていただきたいと存じます。休憩に入ります。 (休     憩) ○川端部会長 会議を再開いたします。   それでは,まず,少年に対する不定期刑の言渡し基準を明確にすべきか否かについて審議を行いたいと思います。先ほどお配りいただきました資料にその内容が記載されておりますので,この順序で審議を進めさせていただきます。まず,不定期刑の長期と短期の性質をどのように考えるべきか,それから,不定期刑の長期と短期はどのように決定されるべきか,不定期刑の長期と短期の幅について制限を設けるべきか,という順序で審議していただきたいと存じます。まず,長期と短期の性質をそれぞれどのように考えるべきかという点から御議論をお願いいたします。 ○川出委員 前回の会議で御説明があったところですが,そもそも,この点が検討課題として上がってきた理由として,不定期刑の言渡し基準が法文上,明確でなく,特に裁判員裁判を考えた場合には,どういう基準で刑を決めるのかということが裁判員の方に説明できないようでは,量刑判断は非常に難しいのではないかということが指摘されています。それはそのとおりだと思いますが,裁判員裁判への対応ということ以前に,裁判所ごとに刑を決める基準がばらばらだというのは,どう考えてもおかしいですので,その意味で,言渡し基準を明確にすることは望ましいと思います。そういう前提の上でですが,現在の刑事裁判の運用においては,不定期刑の長期と短期というものがどのように位置づけられており,どういう形で量刑がなされているのかということを御紹介いただけないでしょうか。 ○合田委員 東京地裁の合田でございます。今,川出委員の方からお尋ねの件でございますが,運用として,現在,どのように考えてやっているかということにつきまして御説明を申し上げたいと思います。確かにものの本を見ますと,いろいろな考え方が複数出ているわけでございますけれども,裁判員裁判が入る前から少年の被告人事件につきまして私自身が考えてやってきており,また,同僚裁判官のやり方を聞いても,大体,こういうところかなという具合に思っておるところを御紹介します。刑事事件で刑を決めるときには,行為責任という観点から,その犯罪にふさわしい刑事責任はどのようなものかという大枠をまず決め,そこにまた,修正要素があればそれを加えていくと,こういう具合に考えているわけでございます。   少年の不定期刑の場合に,そのようにして決まるのがどこであると考えているかといいますと,私とかあるいは話を聞いた同僚裁判官は,それは長期であると,こういう具合に考えてやっております。そこで,そのようにして長期を決めた上で,当該少年の更生可能性あるいは改善更生の見込みといった観点も考慮して短期の方を決めると,こういう形でやっておるという具合に認識をしております。   現在,裁判員裁判で少年被告人の事件をやるということもあるわけでございますけれども,裁判長は評議に先立って,あるいは評議の途中でも,必要な法令に関する説明を十分に行うということが裁判員法66条5項に書いてございます。また,その条文があるかないかにかかわらず,そこをきちんと理解していただかないと,十分な意見交換ができないということもございますので,その過程において裁判員の方に十分,その点を御理解いただいているかということを確認しながら,繰り返し,説明を申し上げてやっているという具合に聞いております。   そこにおきます御説明の内容につきましては,まず一般的な話として,なぜ,不定期刑を採っているのかという趣旨について,教育的配慮と弾力的な処遇を可能にするということを御説明した上で,具体的に長期と短期に関しましては,先ほど申し上げましたように,まず,やった犯罪に見合う責任というのはどの程度のものかという見地から長期を決め,次にその件での少年の更生可能性,改善更生の見込みと,そういったことも考えて短期を決めると,こういう形で,この点は基本的には法律解釈ということになると思いますので,裁判官の方で,そういう考え方で決めていくことになりますということを御説明をし,そこを御理解を頂いた上で具体的なそれぞれの件の刑罰を決めていると,こういうことでやっているようでございます。 ○川端部会長 どうもありがとうございました。   ただいま裁判実務の観点から,裁判官の立場からの御説明を頂きましたが,この点について何か御意見あるいは御質問がございましたらお願いいたします。 ○小木曽委員 今,極めて合理的な実務がなされているという御説明を頂きました。私はこの点は,先ほどお話が出ておりました保護処分との違いとかと少年刑の違いとか,不定期刑そのものの意義とかいったところまで議論が進むことを将来的には期待しますけれども,しかし,現行の不定期刑を残すということであれば,当然,その基準は明確にされるべきであると思います。そして,その基準は今,実務もそうだという御説明でしたけれども,長期であるべきであると思います。と申しますのは,これは不利益ですから,その不利益の最大限を受けることについて,刑事裁判で争う機会が与えられるということは,憲法31条の適正手続の内容をなすのではないかと考えますので,これは,この機会に是非,明確にされるべきであると考えます。 ○川端部会長 どうもありがとうございました。   そのような観点から御議論を進めていきたいと思いますので,よろしくお願いいたします。 ○佐伯委員 既に先ほどフライングで述べてしまいましたけれども,少年に対する刑罰であっても刑罰である以上は成人と同様,責任主義に合致したものであるべきであって,その長期は少年の刑事責任に応じた,その刑事責任というのは先ほど申し上げたことの繰り返しになりますが,当然,少年であることを十分に考慮した上での責任であるべきかとは思いますけれども,刑事責任に応じた責任刑を上回ることはできないはずであり,私も長期というのは責任刑に応じたものであるべきだと思っております。 ○川端部会長 佐伯先生は実体法はもとより,刑事政策,刑事学にもお詳しい方でございますので,理論的な観点から,基準が二重になっているような感じがする点について,どのように考えるべきなのでしょうか,御意見をお願いいたします。長期の部分と短期の部分についてです。 ○佐伯委員 長期は責任に見合った形で基本的に定められ,短期については少年の更生を考慮して定められる,もちろん,成人の場合も更生を考慮しないわけではありませんけれども,考慮できる幅というのが少年については特別に大きな幅が認められている,そういう刑事政策を少年法は採っていると理解しております。 ○川端部会長 そうしますと,成人の場合と比べて,そのような特別な配慮を加えること自体は,理論的には当然であり,妥当であるという理解でよろしいのでしょうか。 ○佐伯委員 責任主義はあくまで上限を画すものであって,下限をどのように定めるかということについては,刑事政策的な観点から定めることが可能だと思っております。 ○川端部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○山﨑幹事 特に短期を考える上での前提になろうかと思うんですけれども,不定期刑の場合に,実際の仮釈放の手続ないし基準がどのように行われているのか,特に,成人の定期刑と比べた場合に,短期を迎えたときにどのようなことが実際に行われているのか,どういう基準で仮釈放が認められているのか,その点において成人と少年に違いが全くないのかどうか。その辺の御説明を頂ければ有り難いと思っております。 ○吉田関係官 法務省保護局の参事官をしております吉田でございます。ただいま,不定期刑を言い渡された少年に対する仮釈放の許可基準等について御質問がございました。仮釈放の許可基準につきましては,法務省令で定めております。その内容は,仮釈放を許す処分につきましては,悔悟の情及び改善更生の意欲があり,再び犯罪をするおそれがなく,かつ,保護観察に付することが改善更生のために相当であると認めるときにする,ただし,社会の感情がこれを是認すると認められないときは,この限りでないという規定になっておるわけでございますけれども,この基準につきましては,成人,少年を問わず,適用される基準でございますので,不定期刑を言い渡された少年についても同様ということになります。そういうことで,基準として,一律に少年だからということで考慮する事項はないわけでございますが,もちろん,個別の審理に当たりましては,本人の年齢,経歴などについては他の対象者と同様,考慮することになりますので,その範囲で一定の考慮はされることになると思います。ただ,仮釈放の許可基準自体は同じであるということでございます。 ○山﨑幹事 もう一つは,手続の開始時期なんですけれども,当然,短期がある以上は,審査の開始し得る時期が早まっているということかと思うんですが,その辺りの実情はいかがなのでしょうか。例えば,実際に施設の長から地方更生保護委員会に仮釈放を申し出るタイミングとか,その辺はどんなイメージで考えればよろしいんでしょうか。 ○吉田関係官 仮釈放のいわゆる法定期間につきましては,不定期刑を言い渡された者は,短期の3分の1を経過した場合ということになっているわけですけれども,実際の運用におきましては,短期の3分の1を経過してすぐに申出がなされるというケースは少のうございまして,前回,統計なども若干,お配りをさせていただいているかと思いますけれども,最近の運用の状況を見ますと,短期の経過前に仮釈放を許可された者が毎年1名程度でございます。あと,長期を基準といたしまして,刑期の80%から89%で仮釈放を許された者が41.7%ないし69.8%の範囲で推移をしておりますし,90%以上の者も20.9%ないし34.1%の範囲で推移しているということで,成人と比べまして,特段,少年の方が早く仮釈放の申出がされ,仮釈放が許されているということでは必ずしもないと思っております。 ○川端部会長 ありがとうございました。 ○山﨑幹事 重ねてで恐縮です。そのような実情になっている理由の分析なんですけれども,矯正施設の長から更生保護委員会に対する申出がなされる時期自体がそれほど早くできないということなのか,あるいは,更生保護委員会での許可の決定が出るのが遅くなるということなのか,その辺りはお分かりになりますでしょうか。 ○吉田関係官 基本的には仮釈放の申出があれば,比較的速やかに審理を行って決定を出すという運用がされていると承知しておりますので,少年について早く申出を受けて,審理に時間が掛かっているということは,必ずしもないのではないかと思っております。 ○須納瀬委員 今の御説明に関連して,1点,御質問をさせていただければと思います。前回,お配りいただいた配布資料4の第4表という表ですよね,今,御説明いただいた「少年に対する刑の執行状況(改訂版)」というのが配布されていると思いますけれども,これを見ますと,不定期刑の執行率はおっしゃるとおり,平成18年以降で見ますと,長期の80%から89%というものが最も多く,長期の90%も合わせると大半がここへ来ているという状況なんですが,ずっとそうかと見ますと,昭和61年や平成3年,平成8年に遡りますと,むしろ,それより執行率が低い段階で仮釈放されていると,この表を見ると見えます。この辺りについて原因というか,変わっている理由等について把握されている点があれば,教えていただければと思います。 ○吉田関係官 仮釈放の運用につきましては,御案内のとおり,地方更生保護委員会におきまして,合議体において個別具体的なケースごとに審理をするわけでございまして,その結果の集積がこういうデータになって表れているということですので,その理由がどこにあるかということについて確たることを言うのは,なかなか難しいのではないかと思っております。ただ,個々のケースを見た場合に,事案が比較的重大なケースが多く,被害者感情を始めとする社会感情が厳しい事案が少なからず含まれているということでありますとか,問題性が比較的複雑な少年が多く,相応の施設内処遇の期間を要するものが多いということが影響しているのではないかと推測はしているところでございます。いずれにしても,こういう理由だということを特定するのは,なかなか難しいということでございます。 ○川端部会長 そういうことでよろしいでしょうか。ほかに御意見等がございましたらお願いいたします。 ○植村委員 皆さんよくお分かりのところを私なりに説明することになりますが,先ほど合田委員の方から責任刑という言葉が出ましたので,要するに不定期刑について例えば先ほど来ございましたように少年に特有の刑だと,仮にその特徴を非常に強調しますと,責任刑という考えを採っても,不定期刑という形で責任刑を捉えるということもあり得ると思うんですね,要するに幅として,成人は点として捉えているわけですが,そういった刑の在り方というのもおよそあり得ないかというと,それはそうではないだろうと思うんです。   それで,先ほど来,出ております少年法51条とか52条を見ますと,51条は罪を犯すときということでなっておりまして,判決がいつになるかは関係ないわけです。ところが,今,御議論になっています不定期刑の方は少年に対してとなっておりまして,犯行時がいつかということとは関係なく,要するに判決のときに少年かどうかということで決まるわけです。ですから,同じような先ほど来も出ましたように少年なのに,長く社会復帰をさせないのは不合理ではないかということは,一面,そうだと思うんですけれども,52条がかぶってくるのは少年の場合でありますので,同じ事件で時期が変わってくると,不定期刑になるか,定期刑になるか,変わってくると。   そうすると,先ほど申しましたように責任刑の捉え方も,少年に対する場合は幅でいいんだという説明をすると,成人になると途端に点になってしまいますので,そこの同じ少年に対する刑の整合性という意味で,なかなか,説明がつきにくいだろうと思うんですね,そうしますと,先ほど,合田委員がおっしゃったように,少年に対する刑も責任刑として点として考えざるを得ないと。そうすると,点として考えるとすると短期だと短期を超える分,中間説も同じですけれども,その基準となる時点を超える部分の刑の説明が責任刑を超えるものという位置付けをされることになりそうなので,そこは非常に説明がつきにくいと。そうすると,長期を責任刑として捉えて短期は別の根拠で説明をしていくと。そう考えるのが一番妥当なのではないかと考えておりまして,それで,先ほど合田委員がおっしゃったような実務のありようというのは,そういったことを当然の前提とされているのではないかと私は思っております。 ○川端部会長 どうもありがとうございました。 ○瀬川委員 この基準についてはこれまで長い間,議論されてきたと思いますし,幾つかの文献を見ても,どれが実際上の基準なのか分からなかったんですけれども,今,合田委員がおっしゃったことで実務の中では明快になされているのだなということがよく分かりました。それから,植村先生の御発言のなかで,責任の幅があるという考えではないとおっしゃいましたね。 ○植村委員 結局,それは採れないのではないかと。 ○瀬川委員 そうすると,長期と短期も点であるということになるでしょうか。 ○植村委員 長期は点なんですけれども,短期をどうするかはまた別の問題であろうと。 ○瀬川委員 考慮する必要があるだろうという意味ですね。分かりました。 ○川端部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○藤本幹事 長期について不利益の最大限を画するものと,責任主義の観点からという点は全くおっしゃるとおりだろうと思われます。では,他方で短期をどのように考えるかということなんですけれども,現行法の規定を見ますと,少年に対して「長期3年以上の有期の懲役又は禁錮をもつて処断すべきときは,その刑の範囲内において」,つまり,処断刑の範囲内において長期を当然,定めるんですけれども,短期もそこで定めるという構成をとっておると。これは言われておることなんですけれども,仮釈放についても短期を基準として,そこから3分の1ということで定めているということを考えると,責任刑ということとの関係で何と定式化したらいいのか,よく分からないんですが,少なくとも現行法は短期についてもきちんとした刑だという位置付けなのであろうかなと。   ですから,不利益の最大限を画するものとして長期があるというのは,そのとおりだと思うんですけれども,他方で,短期についてそれから全く切り離された,純粋に政策的なものとまで言い切れるかどうかというのは,なかなか,現行法の構成からしてまた難しいところがあるのかもしれないなと。ですから,先ほど幅の議論は成り立ち得ないのではないかというお話もあったんですけれども,それもあり得ないことではあるいはないのかなとも考えております。 ○川端部会長 今,短期の方に関して別の観点からの御議論が必要かなという状況ですが,この点についていかがでしょうか。長期については責任刑の幅で異論はないわけですが,短期につきまして,ほかに何か御意見がございましたらお願いいたします。 ○佐伯委員 短期が刑であるということは当然のことだろうと思いますし,責任を全く無視して短期を定めるわけにはいかないというのも,そのとおりかと思いますけれども,しかし,責任の範囲内でどのような刑罰を科すかというのは,国の刑事政策に基づいて定められるべきものだと思っておりますので,結局,言い方の問題だろうとは思いますけれども,短期を少年の更生を考慮して,成人の場合に認められる幅よりも大幅に認めて定めるというのは,刑事政策によって刑の短期が決められているということではないかと思います。それから,それを全て責任の幅で説明するというのは,よく幅の理論に対して言われることですけれども,ごく狭い幅であれば,説明しやすいのだろうと思いますけれども,現在あるような,一番上ですと5年と10年というような幅を全て責任だけで説明する,同じ原理で説明するというのは,やや難しいのではないかと思います。 ○川端部会長 どうもありがとうございました。   今の点に関しましてほかにいかがでしょうか。 ○上冨幹事 今,藤本幹事からもお話がありましたが,短期を考えるに当たって現在の少年法は,短期についても処断刑の範囲内でと規定されているわけですが,この点についてどのように考えたらよろしいのかについても,もし,御意見があれば伺わせていただきたいと思います。 ○川端部会長 分かりました。今,お話がございましたように短期の定め方の問題について御意見がございましたら先にお伺いしたいと思います。いかがでしょうか。 ○川出委員 短期は,責任刑の幅の下限ということではなく,責任の上限として長期が定まり,その責任の範囲内で少年の改善更生ということを考慮した上で,言わば政策的に定めるというものであるとすれば,それは,責任刑の枠とでもいうべき処断刑の範囲内に入る必要は必ずしもないということになるのだろうと思います。 ○川端部会長 どうもありがとうございました。   藤本幹事,今の点について,何か御意見がございますでしょうか。 ○藤本幹事 刑事政策として,それは当然,あり得るべきだろうと思います。ただ,私が申し上げたかったのは,どちらかというと,今の処断刑の枠の中に入っているであるとか,あるいは仮釈放の起算点が短期になっているということを考えた場合に,現行法の考え方としてはそうなのではないでしょうかということを申し上げたのみでございます。 ○川端部会長 川出委員,今の点はいかがでしょうか。現行法の枠内で考えた場合の問題ですが。 ○川出委員 現行法において,短期についても処断刑の枠内において定めることになっている点を説明するのに,短期についても責任に対応するものだからとする方が説明しやすいというのはそのとおりかと思うんですが,しかし,その場合には,長期から短期にまたがる責任の幅ということを考えざるを得ないわけで,この点は,佐伯委員がおっしゃったように,現行法の規定がそのような前提で作られていると考えるのは難しいだろうと思います。実際の量刑の運用においても,現在の量刑というのは,まず犯情によって責任に対応する枠が決まり,その枠内で一般予防とか特別予防に関わる要素を考慮して宣告刑を決めるのだと言われますが,責任に対応する枠が決まるという場合のその枠というのは,それが5年から10年といったような広いものではないと思います。そうしますと,現行法が短期についても処断刑の枠内としたのは,長期と短期が責任刑の幅に対応するからというのではなく,短期も刑だからという形式的な理由によるもので,必ずしも理論的な必然性はないと考えられるのではないでしょうか。それから,仮釈放の起算点が短期の3分の1になっている点ですが,仮釈放というのは正に政策的なものですから,より早く仮釈放する余地を認めるという観点から短期が基準となっているということで,短期が責任刑かどうかとは関係なく説明ができるかと思います。 ○岩尾委員 藤本幹事にもう1点,御質問なんですが,責任刑の幅で考えると,短期は責任刑の下限ということになるのかもしれませんけれども,そういう考え方を前提とした場合でも,短期が処断刑を下回るということはあり得るというようなお考えでよろしいんでしょうか。 ○藤本幹事 すみません,余り確固として,そういうあれを持っているというものでもないんですけれども,幅としてといいますか,確かにおっしゃるとおり,不定期刑の現行の規定は幅については何も実は語っていないという,そういう点があるのはそのとおりでございます。ですから,申し上げたのは今の不定期刑の仕組みからすると,そうなのではないかということを言ったまでのことで,確かにおっしゃるとおり,仮釈放の点についても政策的に別の説明をし得るということもあり得るでしょうし,短期について処断刑の枠から出すということもあり得るんだと思うんですけれども,その場合は多分,不定期刑の性格としては現行のものとはちょっと違うんですよというものとして,御説明をしないといけないのだろうなということになるのかなと考えております。 ○川端部会長 岩尾委員,よろしいでしょうか。   上冨幹事,先ほどの御質問との関連で何かございますか。 ○上冨幹事 特には。 ○川端部会長 特に御意見はないということでよろしいでしょうか。 ○武委員 とても難しくて分からないんですけれども,私たちは不定期刑が元々分かりにくいものなんですが,短期と長期は責任刑だと思っていました。短期が別のものというか,少年の更生を考えるために作られたものというのは余り認識がなかったんですね。それで,それが処断刑を下回る,上回るという話をされるんですが,とても分からないです。それで,私は少年事件にあってたくさんの遺族から話を聞いたり,私たちはまだ少年法が身近なものですけれども,裁判員裁判になった一般の人はもっと分からないのではないかと,とても心配をします。もう少し分かりやすくしてください。 ○上冨幹事 武委員がおっしゃったのは,この場での議論を通じて制度が分かりやすいものになることを望みたいという,そのような御趣旨でよろしいでしょうか。 ○武委員 そういうことです。 ○川端部会長 そういう御趣旨ですか。分かりました。では,そのように進めさせていただきたいと思います。   今の点は第一巡目の議論として,ここまで詰めて議論をしたということでよろしいでしょうか。ほかにございましたらお願いします。なければ,次に進みたいと思います。 ○岩尾委員 今,検討事項1の少年に対する不定期刑の言渡し基準を明確にすべきかという点で御議論いただいていまして,実質的にはそこの下に丸を記載しておりますが,二つ目の丸まで御議論いただいたと認識しておりますが,今までの議論の中では,まだ,不定期刑の長期と短期の幅について制限を設けるべきかどうかという点について,まだ,御意見を頂いてございませんので,この点について御協議いただければと思います。 ○川端部会長 ありがとうございます。   今の点につきまして,長期と短期の幅に制限を設けるべきかどうかということに関してお伺いいたします。いかがでしょうか。 ○植村委員 幅がどうなるかは別としまして,一般的な考えとしては,余りに幅のある不定期刑というのは相当でないだろうと考えております。ですから,例えば現行では10年か,5年というのが最大の幅になるわけですけれども,その辺が一つの目安になるのであって,10年とか,そういった幅のある短期と長期というのは,実際問題としても非常にイメージがしにくいわけですけれども,処遇の面でも非常に困難を伴うのではないかなと思いますし,少年として考えますと,受刑者としての年齢も10歳も違ってくるとかになってくると,相当,社会に出た場合の状況も違ってくると。そういうのを裁判所が刑を決める際に宣告していいのだろうかという疑問があります。ですから,何らかの関係で幅の制限というのはあった方がいいのではないかと考えております。 ○川端部会長 どうもありがとうございます。 ○川出委員 御指摘のような問題のほかに,長期と短期の幅が余りに広いと,短期が責任からかけ離れたものになり,少年の行為に対する非難を基礎とする制裁という側面が失われてしまいかねないという問題もあるかと思います。そうした点からは,幅の制限を設けるのは妥当だろうと思うんですが,反面で,幅の制限を設けたことにより,現在行われている適切な運用が封じられてしまうというのも問題だとも思います。そこで,事務当局にお伺いしたいんですが,法律上は幅の制限は一切ないんですけれども,実際の運用としては,どの程度の幅の不定期刑が言い渡されているのでしょうか。 ○佐藤(剛)幹事 お答えいたします。平成14年から平成23年までの10年間ですが,この10年間で不定期刑が確定して刑事施設に収容された者について見ますと,不定期刑の長期と短期の幅,これは最大で5年でありまして,5年を超える例というのはありません。 ○川出委員 わかりました。恐らく実務の感覚としてもそのくらいが限度だろうということだろうと思いますので,基本的には今の運用を前提として,5年ぐらいの幅を限度とするというのが妥当なところかなと思います。もっとも,現在,5年を超える例がないというのは,おそらく,短期と長期の上限が5年と10年ということになっていることによるものだと思うのですが,今回の要綱案にあるように,不定期刑の上限を上げるということになった場合,10年を超える場合が出てきますので,そのときにも幅の限度が5年でいいのかは,別途,問題になり得ると思います。 ○川端部会長 どうもありがとうございました。 ○佐伯委員 現行法では長期10年の場合,短期5年までということで,それは長期の2分の1という意味も持っているわけですけれども,法律を改正して10年を超える長期の言渡しを認める場合に,長期と短期の幅が最大5年までということになりますと,例えば一番長い15年の場合には短期10年ということになって,それは長期の3分の1しか言い渡せないということですから,少し幅の割合が小さすぎるのではないかと思いますし,現行法の短期の上限である5年と比べますと,絶対に必ず短期が2倍になるというのは,少し厳し過ぎるのかなと思います。したがって,10年を超える部分については5年よりも大きな幅を持たせる,例えば現行法の最も重い不定期刑の長期と短期の場合と同じように,長期の2分の1まで認めてもよいのではないかと思います。   先ほど現行の下では5年で収まっているという御説明があったんですけれども,常識的に考えますと,長期が上がるにつれて,長期と短期の幅も拡大していくような傾向があるのではないかと推測いたしますけれども,実際,どうなっているのかという点について,もし,データをお持ちでしたら御説明いただければと思います。 ○佐藤(剛)幹事 先ほどと同じ平成14年から平成23年までの10年間で不定期刑を言い渡された事例について調べますと,長期と短期の幅が長期の重さに比べて,どう変化しているかということですが,まず,長期が2年以下の場合で見ますと,幅の平均が大体0.73年ぐらい,つまり,1年に満たないぐらいになっています。それで,長期が2年を超えて4年以下の場合になりますと,その幅というのは大体1.2年ぐらいになっています。それから,また次の長期4年を超えて長期6年というものを見ますと,平均で大体約2.01年ぐらい,それから,次に長期が6年を超えて8年までということになりますと,今度は平均で3.08年,それで,最後,長期が8年を超えて10年以下の場合ですが,この場合が平均4.77年となっていますので,佐伯委員がおっしゃるように幅としてはどんどん広がっているという現状にございます。 ○佐伯委員 そうであれば,10年を超える部分については幅がだんだん大きくなっていくというイメージで,5年より大きな幅を認めるのが適切だと思いますし,その方が今回の改正というのが単純な厳罰化ではないということを示す意味でも,適切ではないかと思います。   それで,長くなって大変恐縮ですけれども,そういうふうに長期が上がるにつれて長期と短期の幅も拡大していくという意味では,むしろ,一律に長期の2分の1という定め方も考えられるかと思いますけれども,先ほど川出委員の御指摘にもありましたように,現行法の下で例えば1年から3年というような不定期刑というのが行われているとすると,それを今回の改正で言い渡せなくする必要はないように思いますし,また,長期が下がっていきますと,短期との幅を取りにくくなりますので,少年の更生意欲を喚起するという意味では,ある程度,低い部分については幅を広げるということもあり得ることだろうと思います。かと言って,先ほど細かい分布を説明していただきましたけれども,余り細かく定めるということも煩雑ですので,現在ある10年,それから,今回,新たにもし設けるとすると10年を超える部分ということで,二つに分けて規定するというのは,適切なことではないかと考えます。 ○川端部会長 どうもありがとうございました。 ○瀬川委員 今回の法改正がなされて,幅について長期が15年を超える部分についても幅が5年としますと,長期が15年のときに短期は10年ということに,固定化されてしまうという懸念があると思います。そういう意味では,裁判所の裁量ということを考えますと,量刑が硬直化するおそれもありますので,この点は考慮すべき問題ではないかと思います。そういう意味では,佐伯先生のおっしゃるような方向性が考慮に値すると思います。それから,少年に対する教育的な配慮,改善更生を期待するという不定期刑の本質という観点からも,その方が望ましいのではないかと考えます。 ○川端部会長 どうもありがとうございました。 ○須納瀬委員 今,御発言された先生方は幅を設けた方がいいという御意見だと思います。これについて私は確定的な意見を持っているわけではないんですけれども,例えば少年の場合,結果としては大変重大な結果をもたらした犯罪,例えば殺人等の事件で,大変重大な結果をもたらしているけれども,その成育歴等から見ると,改善更生の可能性は極めて高いというような事案があるというのも少年事件の特徴かなと思います。そういう意味でいうと,不定期刑の場合に長期については,責任という観点から重い刑を科さなければいけないけれども,少年の改善更生の可能性から考えれば,より柔軟に短期を定めるという余地が残っている,そういったケースが少年事件の場合にはあり得るのではないかなということも考えますので,現行法で設けられていない幅を設定するというのが適切なのかどうなのかは,少し慎重に考えた方がいいのではないかなという意見を持っております。 ○川端部会長 どうもありがとうございました。   今,長期10年を超える場合の下限の幅の問題が焦点になってきておりますが,その点に関してほかに御意見がございましたらお願いします。 ○岩尾委員 須納瀬委員に御質問なんですけれども,今現在,幅という観点ではないんですけれども,先ほども議論になりましたように,短期については処断刑の範囲内という限定はあるわけでございます。その点と絡めて考えてみた場合,長期と短期の幅に何も限定がないとなると,それで,かつ短期に処断刑の枠をなくしたとなると,短期は全く自由に決められてしまうということになってしまいます。そこで今の御意見ですが,現行どおりの処断刑の枠内という限定はあった方がいいという御意見だと伺ってよろしいんでしょうか。 ○須納瀬委員 必ずしも処断刑の枠を外すこととセットで申し上げたわけではございませんので,そことセットでどう考えるのかというのは,また,別個の考慮が必要かなと思いますが。 ○佐伯委員 度々,申し訳ありません。少年の意欲を喚起して更生を図るために短期を定めるとすると,少年は可塑性に富んでいるので,短期の幅を広く取ることが必要であるというのは,そのとおりだと思うのですが,しかし,一方で,余りに広い幅を認めてしまって,短期が現実に機能しないということになると,少年に現実と離れた期待を抱かせてしまい,少年の更生にかえってマイナスになるおそれもあると思いますので,現状のデータに基づいた幅を規定するということは,むしろ,少年の更生にとっても適切なことではないかと思います。 ○上冨幹事 先ほど不定期刑の短期というものは,責任の上限を画する長期とは違ったものとして考えていいのではないかという御意見があったと思います。その場合,責任の最大限よりは低いけれども,他方で,刑であることは間違いないと。そこでいう短期の刑というのは,どのようなものとして考えたらいいのかといいますか,その意味をどう理解すればいいのかについて,長期と短期の幅を考える上でも意義があると思いますので,もし,お考えがあれば更に教えていただければと思います。 ○川端部会長 どうもありがとうございました。   今,上冨幹事から御意見ないし御質問が出ておりますが,これに関して御意見がございましたらお願いいたします。いかがでしょうか。 ○植村委員 先ほど来,責任刑という考えが出ているわけですが,長期にしましても,そもそも,51条では刑の緩和がされていて,52条も仮に現行法でいきますと15年ぐらいの責任刑だと思っても,10年に下がってしまうわけですね。ですから,現行法の不定期刑自体が生の責任刑ではなくて言わば恩恵的な修正のされた,そういう意味で刑の緩和がされた不定期刑だろうと思うんですね。ですから,その意味で,先ほど来,ありましたように短期も責任刑だといえば,それは言えなくはないんですけれども,元々,そういう修正されたものですので,短期について厳密に責任かどうかというのを議論するといっても,余り有益ではないのではないかなと個人的には思っています。ただ,判決でもちろん言い渡しますので刑であることは間違いないわけですが,短期についてはいろいろな目的を盛り込んでも別にそれで直ちに不当かというと,そういうことにはならないのではないかなと考えています。 ○川端部会長 どうもありがとうございました。以上でよろしいでしょうか。   ほかにいかがでしょうか。御意見がございましたらお願いいたします。 ○稲田委員 多分,今,おっしゃったところなんだろうと思うんですけれども,責任の最大限のところが緩和された結果としての長期なのでしょうけれども,そこから更に政策的に,そこは一つは例えば少年の可塑性の問題であるとか,そういう今まで言われている幾つかの要素を加味した上で定められる刑が短期と考えるのかなと。そこにいろいろな要素が入り込むと,そこの一番典型的なのが正に今後の少年の可塑性を一つ考えるんだという,そういう理解なんでしょうかね。 ○武内委員 理論的な側面と違って,被害者支援の立場の弁護士としては,現場で少年刑の言渡しを受けたという場面を考えたときに,なぜ,この被告少年にこういう刑が言い渡されたのかというのを,被害者あるいは御遺族に説明をしなければならない。私も個人的には不定期刑というのは責任に応じて長期が定められるものだというのが,一番,法律家としてはしっくり理解ができる立場なんです。けれども,では,なぜ,短期があるのかと問われたときに,可塑性とか改善更生に期待をした政策的配慮であるという部分は説明できたとしても,余りに長期と短期がかけ離れている場合,責任に応じた長期の刑とは,一体,何なんだという疑問が必ず返ってくると思いますし,現実にそういうような経験をした事例もあります。実際に,短期というのが,お配りいただいた資料からは,実務の中で一定の幅の中に収まっているという運用が見受けられますし,それであれば,現実に長期と短期の間に何らかの幅を設けたとしても,裁判の実務に大きな不都合が生じない。あるいは,政策的配慮といっても無限定のものではないんだという形で,被害者の人に説明をしやすい。そういう観点から,私としては幅を設けるというのは,一定の合理性があるのではないかと考えております。 ○川端部会長 どうもありがとうございました。 ○武委員 私たち遺族から見ると,長期も短期も責任刑であってほしいと思います。それでないと,どうしても納得ができないところがあります。でも,短期を定めるのは何となく,ついているものだと思っていました,少年だから可塑性があるから,その少年を見たときに,この子だったらと思って5年,幅があるんだなと思っていたんです。でも,それが頭にあるのは責任刑というのがあるから思えたんです。だから,是非,責任刑だと前に掲げた上でのいろいろな要素を考えましょうということであってほしいと思います。それで,余りにも幅が大き過ぎると遺族は不安です。例えば何年も幅があると,短期で出るのではないかというか,出されてしまうのではないかという不安がとてもあるので,幅の大きいことは不安の材料になってしまうので,余り長いのはとても心配です。 ○川端部会長 どうもありがとうございました。 ○松尾関係官 今日の御審議は少年法ながら,刑罰に関するものでありました。少年に対する不定期刑の言渡しの基準について少し感想を述べたいと思いますが,この問題については現在,考え方が幾通りか提示されているわけで,いわゆる複数の学説があるということになります。昭和40年代に刑法の全面改正を論じておりましたときに,学説の公定ということが問題とされました。要するに,法制審議会の議論で複数の学説のうちのどれか一つを取り上げるということは,学説の公定につながるのではないかという批判的な主張がなされたわけです。しかし,私は法律の制定というのは議論を尽くした上で法制審議会が,さらには国会が最終的な判断をするわけで,その場合,複数の学説のうちのどれかが採択されていくということになるのは,当然,あり得ることであって,学説の公定論は採るべきでないと考えておりました。   しかし,それは一般論でありまして,個別の問題については,また,更に考えなければなりませんが,不定期刑の言渡しの基準の問題は刑の本質に触れる問題であって,刑は責任に応じたものでなければならないという考え方が,ほぼ支配的になっているとは思いますけれども,そういう明文を刑法典に置くことはまだできておりません。少年法について,ここではそういうむき出しの表現ではなくて,法定刑の範囲内でまず第一次的に長期を決め,それに基づいて第二次的に短期を決めるというやり方をすることよって,基準が長期説になったことは明白であるという考え方が表明されるといいますか,そういうえん曲な表現は適切であると思いますけれども,反面,それによって長期説を採ることが完全に明白になったとは,申し難いのではないかと思われます。   第一次的に長期を決めるといっても,それは責任を中心としながら,改善・更生・保安の視点を加味して長期を設定する,更に,それに対して何年かを減じて短期を設定するというような考え方も,全くできないわけではないと思われますので,将来,改正案に即して法律が制定された後も,判例が分かれることを絶対に阻止することはできないだろうと思います。ただ,しかし,その際,この部会での御議論が一つ有力な解釈の基準になり,それによって,その方向に収れんしていくであろうという期待は持てるように思います。そんな感じで御議論を伺っていた次第です。 ○川端部会長 どうもありがとうございました。   ただいまの御議論を踏まえて,松尾関係官からおまとめを頂いたことになりますので,この議論はこれで終わりとして次に入りたいと思いますが,よろしいでしょうか。   では,続きまして不定期刑を適用する事件の範囲はどのようにすべきかという検討テーマについて検討を行いたいと思います。どうぞ御発言をお願いいたします。 ○小木曽委員 このテーマが検討事項として取り上げられた理由をもう少し詳しく御説明いただけるでしょうか。 ○岩尾委員 現在,少年法52条1項本文は,少年に対して「長期3年以上の有期の懲役又は禁錮をもつて処断すべきとき」という要件が設けられており,処断刑が3年以上かどうかで,少年に対して不定期刑を適用するかどうかというのが定まっているわけです。その点について見直す必要があるのかないのかという点で御議論いただきたいと思っているのは,処断刑が3年以上のもの,例えば傷害罪を考えてみますと,傷害罪の責任刑については2年程度のものが当然考えられます。そうすると,処断刑が3年未満のもの,暴行罪のようなものでも2年程度のものというのは当然考えられて,責任刑としては,あるいは責任刑の上限と比較した場合には同じであるにもかかわらず,一方は不定期刑を,他方については定期刑を言い渡すという区分をすることが今の目で見た場合に,なお,維持する必要があるのか,あるいは見直すべきなのかという点が一つの問題意識でございます。   そして,そもそも,現行法が処断刑が3年未満の場合には定期刑としている趣旨について検討してみましたところ,少年法52条というのは,元々は大正少年法の8条からきているわけですが,その大正少年法の理由書には,このような短期のものについては不定期刑を宣告する価値なきなりとされております。ただ,現実には処断刑の軽重で不定期刑か,定期刑を決定しておりますので,長期が3年を下回るような不定期刑は相当数ございます。すなわち,言渡し刑は3年を超えないというものは当然ございますので,そうであれば,短期間の刑について不定期刑を科す価値がないというような考え方を維持するのが相当なのだろうかと,こういった問題意識を持って御提案させていただいたということでございます。 ○川端部会長 どうもありがとうございました。 ○小木曽委員 そうすると,結論としては不定期刑を科す幅が広がると理解すればよろしいでしょうか。 ○岩尾委員 もし,この要件を仮にどうするかというところで,そこは,その選択肢は幾つかあろうかと思います。単純に3年以上のというような要件を削ってしまって,有期の懲役又は禁錮をもって処断すべきときと見直すということになれば,御指摘のとおり,広がるということになりましょうし,この要件の見直し方いかんによっては,逆の結論ということもあり得るのかもしれません。 ○川端部会長 今の点についていかがでしょうか。 ○川出委員 岩尾委員から御説明がありましたように,現行法が不定期刑につき「3年以上の有期の懲役又は禁錮をもつて処断すべきとき」と定めた趣旨というのは,余りに短い刑期の懲役,禁錮刑であっては不定期刑という形をとる意味がないということにあったとされています。しかし,もし,そうであるなら,それは宣告刑を基準にすべきであって,処断刑を基準としていることが元々の趣旨に合わないのではないかと思います。ですから,仮に何らかの枠を残すとすれば,宣告刑を基準とする形にすべきであろうと思います。   その上で,最後におっしゃった,不定期刑を言渡し得る下限を定めるべきかということなのですが,現在は,3年を下回るような短期の不定期刑の言渡しがかなりあるわけですから,それが実際に機能していないかどうかということを見た上で,どういう形で見直すべきかを検討すべきことになろうかと思います。そこで,短期の不定期刑が,実務の感覚として,有用なものとして考えられているのかどうかについて伺わせていただけませんでしょうか。 ○川端部会長 ただいまの件につきまして佐藤幹事,お願いします。 ○佐藤(剛)幹事 第1回の少年法の部会でお配りした資料の中に資料4の第3表という,言ってみれば不定期刑の科刑状況について表した表がございます。それは横軸に長期をとって,縦軸に短期をとっているものなわけですが,それを見ますと,数字を丸めて申し上げますが,長期が3年以下の不定期刑,その結果,短期が1年以下のものもあれば,1年を超えて3年ぐらいまでのものもあるわけですが,それが実数にしていきますと,6年間で合わせて67件,割合でいきますと大体24%強ぐらいあります。ですから,6年間のうち,大体4分の1ぐらいは,3年より下のところで不定期刑が言い渡されているという,そういう実情にございます。 ○川端部会長 どうもありがとうございました。   ただいまの実情を踏まえまして,何か御意見等がございましたらお願いいたします。 ○佐伯委員 短期を定める趣旨が少年の可塑性を考慮した上で,少年の更生の意欲を喚起するということにあるとすれば,長期が低くなれば幅は狭くなりますので,その効果は減少するでしょうけれども,しかし,なお,意味がないかというと意味があることだと思いますので,私はむしろ制限することなく認めるのが適当ではないかと思います。 ○川端部会長 どうもありがとうございます。   ただいま,佐伯委員から制限すべきではないのではないかという御意見を頂きました。この点に関して御意見がございましたらお願いします。   先ほど小木曽委員は3年以上の刑の問題について御質問されたのですが,今の御意見を受けて何か御感想ないし御意見がございましたらお願いします。 ○小木曽委員 実務上も法律はこう書いてありますけれども,3年を下回る不定期刑があるということですし,24%ぐらいで機能しているということですので,そうすると,法律の規定自体が3年以上という制限を掛けるというか,上限を付けることの意味が失われているのであれば,佐伯委員の御指摘のように取ってしまえばよろしいのかなと思いますが。 ○川端部会長 どうもありがとうございました。 ○植村委員 確認の趣旨で発言しますが,制限を取っ払った場合に単純に浮かぶ疑問としては,例えば一月になった場合に不定期刑にしなくてはいけないから,本来,責任刑は一月なんだけれども,一月と二月にするという,逆に責任刑を上回る長期を無理やりに設定せざるを得ないというのは明らかにおかしいわけで,そうすると,下限として一月を除くとか,仮にそういうのを考えることもできるんですけれども,ただ,私は法定刑は詳しくありませんが,一月,例えば酒気帯び運転とか,そういうのが頭に浮かびますけれども,そういった場合は罰金も選択できますので,そういった究極の事態になると,少年でもありますし,罰金の選択によって,そういった問題を回避するということになるのかなと。窃盗もあり得るんですけれども,幸い,窃盗も罰金が出てきましたので,私がぱっと浮かぶ限りでは仮に全く制限を除いて,今,申しました一月とかいう変な設例を出しても,実態として少なくとも実務的には支障は生じないのではないかなと思っていますが,その点はいかがなんでしょうか。 ○岩尾委員 今,罰金の話も出ましたけれども,一月の実刑という判決というのはどういう場合になるのであろうかというようなことも,一つ考える必要があろうかと思います。その上で,仮に長期3年以上の処断刑という要件をなくした場合に,有期の懲役又は禁錮で処断すべきといった場合には一月という問題が出てくるわけですが,それに限らず,宣告刑基準で仮に1年なり2年なりというようなものを不定期刑を科すか否かの基準として設定したとしても,それは同様に責任刑がその境界線上にきた,1年なり2年にきたということになると,短期はそれを下回らざるを得ないのではないかというような疑問が当然出てこようかと思います。そうすると,一月が責任刑というような究極の事例だけではなく,処断刑等との関係で,一般に短期の定め方というものをどうするかということと併せて今後,なお,議論していく必要があるのかなと思っております。 ○川端部会長 その他所要の規定の整備につきまして,熱心に御議論いただきましたが,これまでの議論を踏まえますと,不定期刑の言渡し基準については長期を基準とする形で明確にすべきである,それから,不定期刑の長期は,刑事責任の程度を超えることは許されないので,処断刑の枠内で決定すべきであるが,短期については少年であることを考慮し,処断刑を下回ってもよい,それから,不定期刑の長期と短期の幅については制限を設けるべきである,そして,不定期刑適用に関する要件について,「3年以上の有期の懲役又は禁錮をもつて処断すべき」となっているのを「有期の懲役又は禁錮をもつて処断すべき」と改め,懲役又は禁錮について実刑を言い渡す場合は全て不定期刑とするという点につきましては,多くの委員の賛同を得られたのではないかと考えております。しかし,不定期刑の長期と短期の幅について具体的にどのように定めるべきかなど,更に議論すべき事項があると思われます。   そこで,私としましては,事務局に今後の議論のベースとなる試案を作成していただいて,その試案を基に更に審議を行うのが相当であると考えておりますが,こういう形での審議はいかがでしょうか。よろしいでしょうか。どうもありがとうございます。   それでは,今,申し上げたように事務局において試案を作成していただきたいと思いますので,よろしくお願いいたします。 ○上冨幹事 それでは,事務局の方で本日の議論を踏まえた内容で試案を作成させていただいた上で,試案ができました段階で,次回の会議より前に委員・幹事の皆様には送付させていただき,事前に御覧いただけるようにするという段取りにしたいと思っております。よろしくお願いいたします。 ○川端部会長 では,そういうことでよろしくお願いいたします。   続きまして少年に対する刑事事件における科刑の適正化について審議を行いたいと思います。この点について何か御意見あるいは事務局に対する御質問等がございましたらお願いいたします。   科刑の適正化の問題について御意見がございましたらお願いしたいと思いますが,特にございませんようでしたら,今回は第1回目ということでもございますので,また,別の観点から議論する際に改めて御意見をお述べいただきたいと考えております。そういうことでよろしいでしょうか。どうもありがとうございます。   本日,予定した議題はこれで大体終わったことになりますので,審議はこの程度として,次回以降の審議について決めさせていただきたいと思います。次回の審議につきまして,特に御意見がなければ,まず,少年に対する刑事処分について事務局に作成していただく試案について審議を行った上で,国選付添人制度及び検察官関与制度の対象事件の範囲の拡大について第二巡目の審議を行いたいと思います。その際,第1回部会におきまして植村委員からお尋ねのありました付添人の担い手である弁護士のレベルアップのための弁護士会の取組について,須納瀬委員から御説明いただければと思っておりますが,須納瀬委員,よろしいでしょうか。では,よろしくお願いいたします。   ほかに何か御意見がございましたらお伺いいたします。特にございませんようですので,次回はまず,少年に対する刑事処分について事務局に作成していただく試案について審議を行った上で,国選付添人制度及び検察官関与制度の対象事件の範囲の拡大,これについて第二巡目の議論を行うこととし,その際,付添人の担い手である弁護士のレベルアップのための弁護士会の取組について,須納瀬委員から御説明いただくこととさせていただきます。   本日の会議につきましては,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を公表することとさせていただきたいと思います。よろしいでしょうか。どうもありがとうございます。   最後に,次回の部会の日時,場所等について事務局から御説明をお願いいたします。 ○佐藤(剛)幹事 次回の部会は12月17日,月曜日の午後4時から,法務省20階法務省第一会議室で行うこととしております。 ○川端部会長 それでは,本日はこれで散会いたします。   長時間にわたり,どうもありがとうございました。 -了-