法制審議会刑事法           (自動車運転に係る死傷事犯関係)部会           第4回会議 議事録 第1 日 時  平成24年12月18日(火) 自 午後2時27分                        至 午後5時08分 第2 場 所  東京地方検察庁会議室 第3 議 題  自動車運転による死傷事犯に対する罰則整備に関する事項について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○西田部会長 では,おそろいのようですので,第4回の会議を開催させていただきます。   本日は,島田幹事と藤本幹事が御欠席でございます。   それでは,前回の部会において委員から要求のありました資料並びに本日の議論のたたき台となる資料が配布されているかと思いますので,これについてまず事務局から御説明をお願いいたします。 ○保坂幹事 それでは,配布資料の御説明をさせていただきます。   本日の配布資料は3点ございまして,資料番号の17番から19番まででございます。   まず,資料番号17でございますが,こちらはドイツの刑法の条文の抜粋でございます。第3回の部会におきまして,ドイツにおける道路交通に対する危害行為罪(刑法第315条c)について事務当局から御説明をさせていただいた際に,人の死傷の結果を生じさせた場合に成立する罪との関係でお尋ねがございました。   この点について調査いたしましたところ,道路交通に対する危害行為罪には,第1項の故意犯と,第3項の過失犯がございまして,法定刑は,故意犯が5年以下の自由刑又は罰金,過失犯が2年以下の自由刑又は罰金となっております。道路交通に対する危害行為罪に該当する自動車運転を行って,故意に人の死傷を生じさせた場合には,道路交通に対する危害行為罪のほか,故殺罪(第212条)又は傷害罪(第223条)が成立いたしまして,法定刑は,故殺罪が5年以上の自由刑,傷害罪が5年以下の自由刑又は罰金となっております。また,道路交通に対する危害行為罪に該当する自動車運転を行って,過失により人の死傷の結果を生じさせたという場合には,道路交通に対する危害行為罪が成立するほか,過失致死罪(第222条)又は過失傷害罪(第229条)が成立し,法定刑は,過失致死罪が5年以下の自由刑又は罰金,過失傷害罪が3年以下の自由刑又は罰金となっております。   道路交通に対する危害行為罪と故殺罪,傷害罪,過失致死罪又は過失傷害罪は,第52条a「行為の単一」の1項の「同一の犯罪行為が,数個の刑罰法規に違反し」たものと解されて,2項によって「最も重い刑が定められた法律により決定される」ということになっております。したがいまして,例えば道路交通に対する故意の危害行為罪と故殺罪の場合には,刑は5年以上の自由刑となり,道路交通に対する過失の危害行為罪と過失致死罪の場合は,刑は5年以下の自由刑又は罰金ということになります。   続きまして,資料番号18番は,これまでの御議論を踏まえまして,より具体的な検討に資するため,検討のための叩き台として作成したものでございます。内容につきましては,後ほどの御議論の際に御説明させていただきたいと思います。   資料番号19番は,現行の危険運転致死傷罪における危険運転行為への追加の御議論の参考としていただくために,通行禁止道路の通行に関する道路交通法の規定を抜粋したものでございます。   資料の御説明は以上でございます。 ○西田部会長 ありがとうございました。   今の資料について,御質問はございますか。   それでは,資料18,検討のための叩き台を踏まえまして,議論を進めたいと存じます。   まず,第1として掲げられております「危険運転行為の追加(通行禁止道路)」について,議論を行いたいと思います。この点につきまして,事務局から御説明をお願いいたします。 ○保坂幹事 資料18を御覧ください。「1 危険運転行為の追加(通行禁止道路)」について御説明いたします。   危険運転行為に,通行禁止道路を通行するという類型を追加する場合に,これまでの御議論を踏まえますと,更に構成要件として必要な要素について,具体的に御検討いただく必要があろうかと思われます。そこで,(1)といたしまして,「構成要件として必要な要素」として考えられるものをお示しし,(2)では,「検討すべき事項」として,更に御議論いただくべき事項をお示ししております。   まず,「(1)構成要件として必要な要素」についてでございますが,構成要件要素として,まず通行禁止道路であることが必要でございまして,その認識も必要になると考えられますので,通行禁止道路[認識必要]とお示しいたしております。また,これまでの御議論で,人又は他車との関係や速度についての要件が必要であるとの御意見もございましたので,人又は他車との関係,速度を必要な要素として挙げ,これらの要素についても認識が必要だと考えられるので,それぞれ[認識必要]としております。当然ながら,運転行為と人の死傷の結果というのも構成要件として必要な要素となります。   次に,「(2)検討すべき事項」について御説明いたします。   まず,通行禁止道路という要素についてでございますが,これまでの御議論で一方通行道路の逆走,高速道路における逆走,歩行者天国の通行を,危険運転行為に追加すべき類型として挙げる御意見がございました。道路交通法における通行禁止の規制につきましては,配布資料19の方で条文の抜粋をお配りしておりますけれども,まず一方通行の道路の逆走の場合は,道路交通法第8条第1項における道路標識による通行禁止違反,高速道路における逆走というのは,道路交通法第17条第4項における通行区分違反,一般道路の右側部分へのはみ出し通行も,同じく道路交通法第17条第4項における通行区分違反,歩行者天国の通行については,道路交通法第4条等による公安委員会等による交通規制違反となりますけれども,こういった通行禁止規制のされた道路のうち,どのような範囲のものを対象にするかということを,検討事項として挙げております。   次に,人又は他車との関係という要素についてでございますが,この点につきましては,一方通行の道路の逆走であっても,夜中の交通量が少ない道路では危険性は高くないのではないかとの御指摘もございました。人や他車との関係,すなわち人や車と衝突したり著しく接近したりする客観的状況やその可能性を認識要件とするのかどうか,客観的な状況に対する認識はどのようなものとするかについて,御検討いただくことが必要であろうと思われますので,これらを検討事項として挙げております。   また,これまでの御議論で,危険運転致死傷罪の通行妨害類型における「通行を妨害する目的」に言及する御意見ですとか,通行禁止道路の類型を設ける場合にはそのような目的の要件は不要であるとの御意見もあったところでございますが,認識に加えて,超過的な主観的要件として,何らかの目的を必要とするのかどうかも検討事項として挙げております。   次に,速度の要素についてでございますが,この点につきましては,これまでの御議論で,重大な交通の危険を生じさせる速度を要件とすることも検討されるという御意見がございました。そこで,検討事項といたしまして,速度の要素をどのような規定とするかについて,例えば重大な交通の危険を生じさせる速度という要件とするかを,検討事項として挙げております。   なお,こういった点を御議論していただくに当たりましては,例えばどんな事例が想定されるのかのイメージをしながら,かつ現行法で成立する罪ですとか法定刑などを御参考いただくことが有益であろうと思われましたので,資料の中ほどのところにございますが,破線で囲ってあるところに,想定される一事例,現行法で成立する罪というのを挙げております。申すまでもないことですが,この想定される一事例といいますのは,この事例に当たるものだけを構成要件として規定するという趣旨ではございませんし,この事例が典型的なものであるという限定をする趣旨でもございません。構成要件要素を御検討いただくときにイメージする事例の御参考にしていただければという趣旨でございます。   以上で,1の危険運転行為の追加についての御説明は終わります。 ○西田部会長 ありがとうございました。   まず,今の事務局の御説明に対する質問がおありでしたら,どうぞ。議論は後でいたしますので,内容について不明確な点等ございましたら,御発言をお願いいたします。   質問はございませんようですので,議論の方に入っていきたいと存じます。   まず最初の論点は,そもそも現行の208条の2にこのような通行禁止道路への進入という類型を追加する必要があるかという,必要性の有無について,御議論をいただきたいと思います。これについては,いろいろな御意見があった2回,3回目の議論におきまして,消極,積極,中間的な御意見があったところですが,どなたからでもどうぞ。 ○橋爪幹事 以前の部会でも申し上げましたが,私は,通行禁止道路の運転行為の一定の類型については,現行法の危険運転致死傷の類型に加えて,処罰対象とするべきであると考えております。改めて,その理由を簡単に申し述べたいと存じます。   私の理解は,この類型は赤信号無視の類型と,基本的には共通の性質を持っているというものでございます。すなわち,信号を無視して自動車が突っ込んできた場合,当然,対向車や歩行者は,車が来るはずがないと信頼し切って歩行し,運転をしています。したがって,いきなり信号無視の車が来たとしても,十分な回避措置が期待できないわけでして,これが重大な危険性を意味しているわけです。そして,一方通行道路を逆走するような行為につきましても,当然歩行者やほかの自動車運転者は,そっちの方向から車は来ないと信頼して,歩行し,運転をしているわけでありますので,赤信号無視の場合と基本的な構造は共通であろうと思われます。したがいまして,このような類型につきましても,今申しましたような危険性が十分に認められる限度におきましては,危険運転に追加することがあり得ようかと思います。 ○西田部会長 ただいまの橋爪幹事の御意見は,類型的に赤色信号無視と同じであろうという御意見かと思います。 ○山下委員 この間,いろいろ意見もありましたけれども,私自身はやはり,赤色信号無視と同視することはできないと考えております。警察庁の委員からも,深夜に,深夜に近道をしようとして運転するということが多いというお話がありました。要するに,赤色信号無視は絶対的にというか,どんな時間帯であっても赤色信号を無視して車が来るとは考えられないのに対して,一方通行の逆走事例については,深夜とかで人の通行がないという時間帯に,運転手が近道をしたいということで,自分としては当然安全だと思ってそこに入っていくというケースがあり得るので,赤色信号無視のように常時そういうことがあり得ないという信頼が保証される場合ではなく,たまたま本当に運悪くそこに通行人がいて事故が起きるということがあり得ることであり,質的に,赤色信号無視とは違うと思います。   そして,現行法上,妨害運転致死傷罪という規定があり,通行を妨害する目的があれば,一方通行の逆走も現行法上成立し得る類型ですから,現行法以上に,そのような目的を外してこれを拡張するということは必要ないと考えられますので,現行法のカバーする範囲で処罰されれば,十分足りると考えます。 ○西田部会長 今の山下委員の御意見は,現行法の妨害運転でカバーできるし,できる範囲で処罰すればいいということですが,もうちょっと妨害目的というのを,一通の逆走の場合,どういう主観的な要素になるんでしょう。 ○山下委員 元々,この妨害運転の規定では,妨害目的という主観的超過要素が要求されておりますけれども,先ほどあったように,一方通行道路を逆走しているという認識だけではなく,やはりそれが危険だということを裏付けるような,深夜で安全だと思って運転しているケースにおいても,一方通行であることは認識しているわけですので,それだけではやはり危険運転の認識があると見ることができないので,危険運転ということを徴表するような,主観的違法要素が必要であり,一方通行を逆走しているという認識を超える,何らか違法性を裏付ける目的が必要ではないかと考えております。 ○西田部会長 議論を整理するためにもう一度お伺いするんですが,先ほどは妨害運転で足りるという御意見で,今の御意見は,新たに設けるとしても,何か主観的な超過要素が要るという,どちら。 ○山下委員 妨害運転以上に新たな類型を設ける必要はないんですけれども,もし作るとしたらということで,今,議論させていただきました。本来,私は,今の現行の規定で処罰できる範囲で処罰すればいいという立場ですので,新たなことを考える必要はないという立場です。 ○西田部会長 分かりました。 ○今井委員 部会長がまとめておられる発言とも重なりますが,今の山下委員のお話を聞いておりますと,山下委員は,まず質的に赤色信号無視と違うとおっしゃったのですが,御発言全体で伺いますと,質的には走行禁止が掛かっているという範囲においては,赤色信号無視と通行禁止を逆走するのは同じであって,問題は,前回も議論がありましたように,深夜人気がない所に,あるいは低速度で入っていったような場合に,危険性の量に違いがあるのではないかということを指摘されていたように思います。ですから,現在の208条の2によっては,通行禁止に違反して通行する行為は捕捉できないというのが素直な解釈だと思いますので,禁止違反があるという質的な面では,同じく危険運転ないしそれに準ずるものがあって,ただどのような危険性があるかということを具体的な状況に応じて量的に補足していくというのが,議論の方向性ではないかと思っております。 ○髙見委員 私,まだ考えがまとまっていないので,悩みつつ申し上げます。   私見みたいなことを申し上げるんですけれども,赤信号を殊更無視した場合と一方通行逆走とが同じぐらいの危険性かどうかということなんですが,赤信号無視ですと,それと交差する青信号を渡る歩行者とか車が被害者となり,被害者からしますと,加害車両は横から来るということになります。一方通行ですと,走る方向は同じになりますので,追突だったら後ろから来る,正面だったら真正面から来るんですけれども,そこで後ろから来るのと前から来るのとの危険がどうなのかを言えば,正面衝突のほうが危ないには決まっているんですけれども,ただ被害者側としても,向こうから来るというのが分かるのではないかということも考えるわけなんです。交差点では自分の前の青信号を見て渡り始めるので,右とか左には注意がいかず,赤信号を無視してまで横から来る車は予期できないけれども,一方通行だと,同じ方向ですから,前から来るのであれば,夜であれば光があるだろうし,何らかの危険というのは予知できる可能性があるのではないかということも考えたりもします。   あと,道幅とかにもよりまして,確かに狭い道,一方通行,正面衝突といったら非常に危険だと思うんですが,道幅も少し広い場合もあるだろうし,あと,想定している道というのも,例えば一方通行でも3車線道路みたいな,すごく高速道路に近いような場合もあれば,住宅街の,道がそれほど広くない,離合するのにはちょっと行きにくいので一方通行にしているというような住宅街の道もありますので,その辺のところが,この現行法の208条の2の2項後段の赤信号又はこれに相当する信号を殊更に無視しというのと同じ危険があるのかどうかが,ちょっと自分のおなかの中で落ちないものですから,申し上げました。 ○西田部会長 ありがとうございました。その場合,例えば歩行者天国の場合とか,あるいは高速道路の逆走,分かっていながら,インターを間違えてしまったので逆走して出てしまうというような場合,これについてはいかがですか。 ○髙見委員 危険性については,本当に危ないのはもちろんですし,あと歩行者天国とかですと,2項の前段のほうの構成要件でもいけるのではないのかなという感じもするんですけれども,妨害する目的でという妨害というのが,相手方に衝突を避けさせるために急ブレーキとか急ハンドルを採らなくてはならないようにさせる行為という定義であるとすれば,歩行者天国でもそれでもいけるのではないかと思うので,ただ,高速道路の一方通行逆走は,正に危険なことは間違いないので,それ自体については私も申し上げることはないです。ただ,高速道路に逆向きに入ってしまう方がどういう方なのかとか,今までお聞きすると,老人の方が間違えて入ってしまって,おろおろしてどうしようかということもありますので,またそれは別の観点だと思いますが,危険性については確かに危ないこと,これ以上ないくらいだと思っております。 ○木村委員 一つは,危険ということなんですけれども,今,夜中でも,車も人も結構動いていますので,夜中が一般的に危なくないという問題の立て方がそもそもできるのかなとは,個人的には思いました。   それとあと,危険で比較すれば,確かに交差点の赤信号無視のほうが危ないではないかというような議論はあり得るかもしれないんですけれども,やはり標識を守らないで堂々と逆走するというのは,それなりにやはり規範的に非常に問題が大きいという気がします。ですので,危険性だけではなくて,そういう面も勘案すれば,十分この処罰に値するというものにはなるのではないかと思います。 ○橋爪幹事 先ほどの発言に少し補足させていただきますが,私も,全部の通行禁止道路の走行を処罰範囲に含めるべきということを申し上げているわけではございません。飽くまでも赤信号無視に匹敵するような実質的な危険性がある限度で,そのような行為類型を処罰対象に含み得るということを申し上げている次第でございます。どのような限定があり得るかは,更に検討を要するかと思いますが,例えば道路の幅員が狭いように,ここで一方通行の逆走が行われれば,およそ歩行者や車両が回避することは期待できず,高い可能性で事故に至り得るような具体的な状況に限定することが必要でしょう。また,赤信号無視に匹敵するという観点からは,重大な危険が生ずるような高速度で走行することも必要になるでしょう。このように全部の通行禁止道路の走行を危険運転として処罰対象にするべきというわけではなくて,その中で一定の類型に限って,危険運転に含める余地があると申し上げている次第でございます。 ○西田部会長 論点の中の二番目の,どんな範囲の通行禁止道路にするかということにまで,今,議論が及んでいるわけですが,確かにこれは切り離して考えることができないことでございますので,危険運転致死傷に追加するかどうかという視点と,どのような通行禁止道路を追加するかという視点,これを混在させながら,そういう点も含めて御意見を賜れればと思います。もし必要であれば,これは道交法から引っ張った文言になっておりますので,必要であれば事務局から更に御説明をいただくこともあるかと思います。 ○石井委員 審議の御参考に,2点,申し上げたいと思います。   1点目なんですが,近年,国土交通省と警察庁のほうで,交差点の在り方について,信号による交差点だけではなくて,ラウンドアバウト,環状交差点といいましょうか,ロータリーと言ったほうが分かりましょうか,入っていくと右回りで回っていくような,全国で大体100か所ぐらいございます。こういうふうなものを右回りでなくて,左回りで行くのも対象と考えるのかどうなのかというところも御議論いただくと,警察としては実務的に大変分かりやすいところなんです。   それと,もう1点なんですけれども,一方通行の危険性のところで,大部分のイメージとしては正面衝突のイメージなんですけれども,実際,ブラジル人の事件などを見てもお分かりのとおり,一方通行の出口といいましょうか,一番端のほうでの交差点部分でぶつかっているというケースが結構ございますので,その部分も一方通行の中に含めて考えるのか考えないのかという点も御議論いただきますと,大変警察の実務としては有り難いところでございます。 ○西田部会長 ありがとうございました。   石井委員,最初におっしゃった用語は,確かにヨーロッパなどでよく見かける,信号のない右回り,時計回りですーっと出ていく,車線を選んで入っていくというルールで,信号のない,あれは何と申しますか。 ○石井委員 ラウンドアバウト。ロータリーとか,若しくは日本語で言いますと環状交差点です。 ○山下委員 その場合,道交法の何条違反とか,何か道交法上の違反は。 ○石井委員 現時点は,そのものを規制するようなルールは,道交法上ないです。ですから,ここは指定方向外進行禁止ということで,左へ曲がれという標識,左へ曲がってしか行けませんよというのを付けていることになります。 ○山下委員 それは標識違反になるんですか。 ○石井委員 はい。 ○山下委員 石井委員の説明で,その後の方の,一方通行の出口を出た所の事故という話があったんですが,もうちょっと具体的に,どのようなケースが多いんでしょうか。 ○石井委員 ケースが多いかは別ですが,例えば今回問題になりました名古屋のブラジル人のケースで言いますと,一方通行を逆行して,大きな道路にぶつかる所で,そこの交差点で,一方通行が切れてしまって交差点に入った所で,左のほうから来る自転車の方とぶつかっていると。だから,一方通行はもう終わってしまっている段階でぶつかっているんですね。どうしても交差点の出入口が一番事故になる。一方通行の出入口が事故になりやすいような感じがいたします。 ○西田部会長 いろいろな御意見が出ましたけれども,もしこれを入れるとして,先ほど橋爪幹事からも御指摘がありましたけれども,全ての通行禁止道路を入れるという考え方ではないという御意見もありました。この点についてもう少し議論したいと思いますが,いかがでしょうか。   一方通行の逆走,それから歩行者天国,それから高速道路の逆走,それから,今,石井委員の御指摘を踏まえますと,環状交差点の逆走,これらは道交法上は,道路標識による通行禁止違反の場合,それから通行区分違反の場合,それから公安委員会の指定による交通規制違反の場合ということになろうかと思いますが,それはもし立法するとして,文言に表す場合という,そこまで厳密に考える必要はございませんけれども,今まで御議論になったような事例に限定するということでよろしゅうございますか。 ○山下委員 今の点について,橋爪幹事のお話で,全ての場合ではなくて,道路が狭いとか,幾つかの条件に限定したものだという話があったんですが,具体的にそれを構成要件でどういうふうに限定できるのか,それがよく分からないんですけれども,どのような構成要件を書けばそういう限定ができるのか,それとも抽象的に書いておいて適用のところで考えるという趣旨なのか,どういうふうにこれを限定しようとされているのかよく分からなかったんですが,教えていただければと思います。 ○保坂幹事 通行禁止道路での規制につきましては,様々なものがございまして,まず,今の論点といいますのは,通行禁止道路の中でもどのようなところをまず対象として考えるかという御議論ですけれども,その参考のために若干御説明させていただきたいと思います。   先ほど資料説明の中で,道路交通法上の通行禁止の規制について申し上げました。そのうちの,例えば道路標識・標示による通行の禁止というのが8条で定められているわけですが,その中には,例えば一方通行もございます。あるいは車両の通行を禁止する車両通行止めというのもございます。大型自動車等の通行を禁止する大型自動車等通行止めというのもございます。あるいは,一定の重量を超える,あるいは一定の高さを超える車両の通行を禁止する重量制限及び高さ制限というのもございます。あるいは,交差点において特定方向外への方向の進行を禁止する指定方向外進行禁止というのもございます。   いろいろ通行禁止規制があるわけでございますが,これまでの御議論であった歩行者天国ですとか,あるいは一方通行道路の逆走,これがなぜ危険なのかということの一つの考え方として,ほかの人とか車が禁止に反して車が通行してこないことを前提に通行等していて,回避が十分に採れないという点に着目する御意見がございました。こういう御意見の考え方からしますと,道交法8条1項の通行の禁止の中には,そういう歩行者天国というのもその禁止に反するわけでございますが,同じ通行の禁止の中でも,例えば先ほど申し上げた大型自動車等通行止めですとか,あるいは指定方向外の進行禁止というのもございます。こういうものも,先ほど申し上げたような観点から対象にするのかどうかという,そういう御議論なのかなと思いますし,他方で,高速道路の逆走といいますのは,先ほど申し上げた道路交通法第17条第4項の通行区分に違反するということになるわけですが,同じく通行区分に違反する行為でございましても,例えば道路の中央線に白線が引かれている道路,これを追い越しの際にその中央線を越えてはみ出す行為というのも,これも通行区分に違反すると,こういうふうになってくるわけでございます。   したがいまして,そういう場合に,ほかの車あるいは人がそういう所に車が通行してこないという前提で通行されているのかどうか,そういった観点から考えるものなのかなと考えているところでございまして,まずはどういう観点からその危険性を切り出していくのかというところを御議論いただければと思います。 ○西田部会長 今の事務局の説明も踏まえた上で,更に御意見ございますでしょうか。 ○高橋委員 今の御説明に関して,以前に秋葉原でトラックで突っ込んだという事件がありました。その事件と,今回追加するかもしれない類型というのは,どのような関係があるのでしょうか。 ○西田部会長 その事件について,事務局は把握しておられますか。 ○保坂幹事 具体の事件の内容は直ちに把握しておりませんが,人との関係で言いますと,例えば突っ込んだときに,人に衝突して死亡させる又は負傷させるという認識があった場合には,殺人罪なり,殺意までなければ傷害致死罪なりで処罰されるということもあり得ようかと思います。そこまでの認識,故意がない場合に,この通行禁止道路をある一定の状態で進行していった場合に,これを危険運転に匹敵するものとして類型化するかどうかということを,今,御議論させていただいていると思っております。 ○西田部会長 恐らく,もしこれを導入するとして,通行禁止道路というのを構成要件で書き切ることができるかどうか,制限列挙的に書き切ることができるか,それとも例示を入れて,あとは法令あるいは政令で定める道路というような書きぶりにするか,恐らく幾つかの方策はあるかと思いますが,基本的にこういう一定の危険,類型的に危険のある道路と考えられるものについて,危険運転致死傷に追加していいとお考えになるか。それとも,現行法の妨害運転等で把握し切れる限りで,あるいはそちら,その中間にもし設けるとしても,妨害目的のような主観的な要素を付加すべきだという,これは御意見というよりは,もしそうであればという程度の山下委員の御意見だったと思います。基本的には現行法で足りるという御意見と,類型的に危険な場合には追加すべきであるという御意見があったと。   これはこの段階で決を採る性質のものでもございませんので,山下委員あるいは髙見委員の御意見も十分踏まえながら,次回,要綱案というものを出していただきますので,それについて更に御批判なり反対意見なりという形で,また出していただければと思います。その際には,どういう道路を規制の対象にするかということについても,制限列挙なり例示に伴う政令あるいは法令を引っ張るかどうか,その点も含めて,事務局で要綱案を作っていただきたいと存じます。   なお,申し遅れましたけれども,速度の要素についてどうするかという論点が挙がっておりますが,これ,もし赤色信号ということであれば,現行法に倣って,重大な速度でというのが当然付加されることになろうかと思います。この点,もし立法するとすればそういう要件が付くということについて,御異論はございませんですね。   では,この点は,次回,要綱案を見て,更に議論を深めることにしたいと思います。   次に,少し説明が長くなるかと思いますが,中間類型ですね。2の危険運転致死傷罪と自動車運転過失致死傷罪の間に中間的な類型を設けるかどうかということについて,事務局から御説明をお願いいたします。 ○保坂幹事 それでは,御説明いたします。   資料18の2ページ目以降を御覧いただければと思います。2の「危険運転致死傷罪と自動車運転過失致死傷罪の中間類型の新設」というところでございます。   これまでの御議論で,一定の病気の影響による運転,危険運転行為に至らない程度の薬物を摂取した上での運転,危険運転行為に至らない程度のアルコールを摂取した上での運転を,中間類型として検討していくということになりましたが,これらの各類型ごとに具体的に検討する前提として,中間類型の構成要件の基本的な考え方を改めて確認し,その上で各類型ごとに検討することが必要であろうと思われます。   そして,中間類型の罪の法定刑の在り方につきましても御議論いただく必要があろうかと思われますので,大きな項目といたしまして,(1)基本的な考え方,(2)類型毎に検討すべき事項,(3)中間的な加重類型の法定刑の在り方というものを,項目として設けております。   まず,「(1)基本的な考え方」についてでございます。これまでの御議論におきまして,もとより中間類型の罪を設けること自体に消極的な御意見もあったわけでございますが,中間類型を設ける場合の,言わば総論的な事項としまして,資料のアからウまでにお示ししておりますように,構成要件は現行法の危険運転行為よりは危険性の程度が低いが,なお危険な運転行為を行い,人を死傷させた場合を定めるものとするか,そのような運転行為として必要な要素は何か,そのような運転行為と死傷結果との間に現行法の危険運転行為と同じ,正常な運転が困難な状態を客観的な要素として必要とするのかを,各論に入る前提として確認しておくことが必要であろうかと思われます。   次に,「(2)類型毎に検討すべき事項」のうちの,アの「一定の病気の影響による運転」についてでございます。一定の病気の影響による運転を中間類型の対象とする場合に,これまでの御議論を踏まえますと,更に構成要件として必要な要素について御検討いただく必要があろうかと思われますので,(a)として「構成要件として必要な要素」として考えられるものをお示しし,(b)として「個別に検討すべき事項」をお示ししております。   まず,構成要件として必要な要素についてでございますが,一定の病気の影響による運転を中間類型の罪とするにつきましては,まず一定の病気に罹患していること及びその認識が必要であろうと思われますので,必要な要素として,一定の病気に罹患[認識必要]とお示しをしております。   また,これまでの御議論で,病気の影響により正常な運転が困難になるおそれ及びその認識が必要であるとの御指摘もございまして,客観的要素として,例えば現行の危険運転行為の要件にもある,正常な運転が困難な状態というのを例として,そのような状態になるおそれが必要か,その認識が必要かということを御検討していただく必要があろうかと思われますので,正常な運転が困難な状態になるおそれ[認識不要・必要?]とお示しをしております。   また,中間類型につきましては,これまでの御議論でも,死傷結果との間に正常な運転が困難な状態という客観的な要素が必要であるが,その認識までは必要とはしない類型として新設するということでございますので,資料には,正常な運転が困難な状態になったこと[認識不要]とお示しをしております。   その下の破線の四角の中には,先ほど御説明したのと同じ趣旨で,想定される一事例,現行法で成立する罪というのをお示ししております。   次に,(b)の「個別に検討すべき事項」についてでございますが,まず,一定の病気に罹患という要素については,これまでの御議論では,その対象にすべきものとして,運転中に発作を起こすような病気ですとか,あるいはてんかんというものを挙げる御意見があったほか,運転免許における欠格事由,すなわち申告すれば運転免許を取得できない病状を隠して,運転免許を不正取得した人などに言及する御意見がございました。そこで,一定の病気としてどのようなものを対象とするか,具体的に言いますと,例えば運転免許の欠格事由となる一定の症状を呈する病気というのを対象とするかということを,検討事項として挙げております。先ほど構成要件要素でも御説明しましたように,現行の要件にもある,正常な運転が困難な状態というのを例にしまして,更に正常な運転が困難な状態になるおそれですとかその認識を必要とするかということも,検討事項として挙げております。この運転行為の客観的状態ですとかその認識について,具体的にどのような規定の仕方が適切かも含めて,御議論いただければと思います。   次に,イの「薬物を摂取した上での運転」についてでございます。この類型につきましても,同じように,(a),(b)として,構成要件として必要な要素,個別に検討する事項としてお示しをしております。   まず,「構成要件として必要な要素」についてでございますが,先ほどと同様でございますけれども,まず,薬物を身体に保有していること及びその認識というのが必要であろうかと思われますので,必要な要素として,薬物を身体に保有[認識必要]とお示ししております。また,これまでの御議論で,薬物の影響により正常な運転が困難な状態になるおそれ及びその認識が必要であるという御意見もございまして,客観的な要素として,例えば現行の危険運転行為の正常な運転が困難な状態というのを例にして,正常な運転が困難な状態になるおそれ[認識不要・必要?]とお示ししております。   この類型につきましては,先ほども御説明したのと同様でございまして,客観的に正常な運転が困難な状態となるということを必要とするが,この認識までは必要としないという類型ですので,正常な運転が困難な状態になったこと[認識不要]とお示しをしております。   下の破線の四角の中には,先ほど御説明したのと同趣旨で,想定される一事例等をお示ししております。   (b)の「個別に検討する事項」につきましては,先ほどと同様でございますが,正常な運転が困難な状態になるおそれやその認識を必要とするかということを検討事項として挙げておりまして,その客観的状態ですとか認識につきまして,どのような規定の仕方が適切かも含めて,御議論いただきたいと思います。   次に,「アルコールを摂取した上での運転」についてでございます。(a)「構成要件として必要な要素」については,アルコールを身体に保有していること及びその認識が必要であろうと思われますので,アルコールを身体に保有[認識必要]とお示ししており,アルコールの影響により正常な運転が困難な状態になるおそれ及びその認識という点につきまして,それを必要とする御指摘を踏まえて,正常な運転が困難な状態になるおそれ[認識不要・必要?]とお示ししております。これまでと同様でございますけれども,客観的に正常な運転が困難な状態になったことということは必要で,かつ認識は不要というような類型で考えられておりますので,そのように資料にお示ししております。   下の破線の四角の中にある事例ですとか,現行法上で成立する罪については,同様の趣旨でございます。   「個別に検討する事項」についてでございますが,まず,飲酒の上での運転につきましては,道路交通法上,酒気を帯びた運転が禁止されておりまして,一定の数値以上のアルコールを保有した場合を酒気帯び運転罪とし,正常な運転ができないおそれがある場合を酒酔い運転罪として,処罰対象とされております。これらのそれぞれにおける運転状態ですとかその認識というものはどのようなものかということを,念頭に置きながら,この中間類型の要件を検討する必要があろうかと思われます。また,薬物の影響の類型との比較,つまり薬理作用による影響とアルコールによる影響とで,運転状態ですとかその認識に違いがあるのかどうかということも念頭に置きながら,御検討いただく必要があろうかと思われますので,これらを検討事項としてお示しをいたしております。   続きまして,(3)の「中間的な加重類型の法定刑の在り方」についてでございますが,このような中間的な加重類型を設けた場合の法定刑の在り方につきましては,この類型が現行法の危険運転行為よりは危険性の程度が低いが,なお危険な運転行為を行って人を死傷させた場合について,自動車運転過失致死傷罪よりも重い法定刑とする罰則規定を設けるというものでございまして,したがいまして,危険運転致死傷罪の法定刑ですとか,あるいは自動車運転過失致死傷罪,それと道路交通法違反の罪との併合罪加重との均衡を考える必要があろうかと思われますし,また,自動車運転過失致死傷罪は,致死の場合と致傷の場合の法定刑が同一のものとなっている一方で,危険運転致死傷罪のほうは,致傷と致死の場合で法定刑が分けられております。この中間類型の法定刑につきまして,致死の場合と致傷の場合とを同じにするのか,区別するのかという点も,御検討いただく必要があろうかと思いますので,検討事項として挙げております。   御参考までに,現行法の法定刑及び処断刑,罰金刑は除きますが,それを整理した表を挙げさせていただいております。   中間類型の新設につきまして,御説明は以上でございます。 ○西田部会長 ありがとうございました。   議論に入ります前に,今の事務局からの御説明についての御質問がございましたら,どうぞ。 ○石井委員 質問というより,捜査を行う警察としてのお願いになってくるんですが,今の御説明がございましたように,中間形態を創設する場合に,客観的に正常な運転が困難な状態にあるという要件について,設けることについて,お触れになりました。こういうふうな正常な運転が困難な状態を警察で捜査する場合には,実際上,証拠収集について,なかなか難しいところがございます。そのために,捜査を尽くしても証拠が集まらずに,危険運転致死傷罪の立件を断念せざるを得ないケースがままございます。   新たに中間類型を設ける場合でも,客観的に正常な運転が困難な状態が要件になる以上,やはりその客観面を立証する証拠収集は依然として必要であることから,その立証のハードルが下がることはないと考えております。   捜査現場におきましては,要件を立証するためにどのような証拠を収集するかが重要でございますので,仮に立件を断念せざるを得ない場合でも,御遺族,被害者の方に対して,具体的な条文,要件,文言に基づいてその理由を説明することが必要となります。したがいまして,今,部会長からもお話がございましたとおり,できるだけ早い時期に,具体的な条文に近い形でお示しをいただきまして,その具体的な要件の文言に基づいて,どのような事実を立証できましたら要件に該当するのか,十分御議論いただきたいと思います。   次回以降,条文に近い形の要綱が示されれば,具体的な文言に基づいて,十分時間をとって御議論いただけるように,御配慮をお願いしたいと思います。 ○西田部会長 ただいまの御指摘はごもっともでございまして,なかなか要綱案という形でここに提出できないということについては,部会長としてもお詫び申し上げる次第でございます。しかし,議論がなかなか収れんしていっておりませんので,なお要綱案という形で出すのにはちょっと時期尚早かということで,今回まではこういう形で出させていただきました。次回には,当然要綱案という形でお示しするつもりでございます。   以上の点について,なお御意見がおありであれば。 ○塩見委員 お尋ねですけれども,3ページで想定される事例,あるいは4ページの真ん中辺りでも想定される事例を挙げてくださっていて,その中で,「うんぬんの状態を認識しながら,すぐには薬物Xの効果が出てこないだろうと考えて」とか,あるいは「運転して帰ることができるであろうと考えて」と書かれているんですが,これはおそれを認識しているという趣旨なのか,結局認識していないという趣旨なのか,設例ですから,どういうお考えで書かれたかということで結構ですけれども,御説明いただければと思います。 ○保坂幹事 資料を作った趣旨は,おそれは認識しているという前提でございます。ただ,運転をするときに大丈夫だろうというぐらいの軽い気持ちでという表現を,ただここでしたかったというだけで,おそれの認識はあるという前提の事例をお示ししたつもりです。 ○西田部会長 ただし,ここで示してあるところでは,「認識不要・必要?」ですから,それはなおここでの議論に委ねるという,しかし考えられる事例として示してあるとお考え願えればと思います。 ○髙橋幹事 先ほど警察のほうからも要望という形でお話がありましたけれども,裁判所の立場からいたしましても,実際に法適用を行うという立場にありますので,先ほど部会長からも要綱案を早めに出すというお話を頂きましたが,やはり我々も具体的な条文を想定して,どんな場合であれば構成要件に該当し,どんな場合であれば構成要件に該当しないのか,そういった当てはめの議論を,是非この部会の中で,条文に近い形での要綱案を示していただいた上で,議論していくことが重要だと考えております。そのような形で議論することによって,実際の裁判実務,あるいは警察の捜査実務の際に,いろいろな疑義を生じさせないという側面もありますし,また,実際にどういう構成要件にするのが相当かと検討する際にも,構成要件を明確化するということに資するという側面があると思いますので,是非次回以降はそのような形で要綱案を示していただきまして,かなり時間を掛けて議論したいと思っております。   例えば,先ほどの,1番の危険運転行為の追加の議論につきましても,恐らく具体的な形で要綱案を示していただきますと,ではこの道路は本当にこの構成要件に合致する道路と言えるのかとかいう議論ができますし,あるいは,ここでは「人や他車との関係」の要素について書いてありますが,仮に,要綱案に,人や車と衝突したり著しく接近したりする状況を要件として具体的な形で提示されたとすると,では,客観的にどういう状況はこの要件に当たるのか,行為者としてどういう事情を認識していれば,故意が認められるのか,そういう具体的な当てはめを通した議論ができると思います。この1番の部分も,それからこれから議論する2番以降の部分も,そういった形で,次回議論できればと思っています。   本日個別に検討すべき事項という形で,抽象的ではありますが,議論のテーマを素材として提示していただいていますので,それなりに有効な議論はできるとは思っておりますが,更に深い議論をする必要があると,これもお願いということで,是非よろしくお願いいたします。 ○西田部会長 その点は事務局にも頑張っていただきまして,次回には要綱案という形で,是非とも提出して,事前に皆さんにお示しして,十分議論を尽くしたいと存じております。しかし,そのためにも,今日,この中間類型を作るかどうか。作る場合に,事務局から提示していただきました一定の病気の場合,それから薬物を摂取した場合,それからアルコールを摂取した場合,さらに,今,それらについて中間類型を設けるとした場合,その法定刑の在り方について,ここでなるべく御議論いただいて,それを基に,次回,要綱案としてお示しできるような御議論をいただければと存じます。   まず,基本的な考え方,これは中間類型は要らないという考え方と,要るという考え方だと思います。これはもう余り議論しても仕方がないのですが,しかし決意表明をどうぞ。 ○山下委員 決意表明ではなくて,先ほど塩見委員が指摘された,3ページとか4ページを見ると,普通,正常な運転が困難な状態になるおそれを認識していないように見えるわけですが,先ほど事務当局からは,これは一応認識がある場合だという説明がありました。今回の例を見ても分かるんですが,結局,この中間類型というのは,危険性の程度が低いというよりも,危険運転に対する認識の程度が低いと。これは以前に,井田委員からもそういう御指摘があったんですけれども,そういう場合を捉えようとしているのかなと。   それは,この主観面をどう認定するかという問題が大きく関わってくるといいますか,現行の危険運転致死傷罪よりも低い程度の認識でも,中間的な危険運転致死傷罪は成立するというようにしようとしているのかなとも思われますので,それは主観面を弱めるというか,薄い主観,認識でもよいということになりますと,犯罪の成立が大変に曖昧になるし,立証が極めて困難になります。さらに,前回,上冨幹事からは,そういう立証ができない場合にその認定が落ちるところで,何かそれを受け止めるものが必要なのではないかという意見もあったと思うんですけれども,そういう観点から,中間的な類型を作るというのは,これは立法技術としては非常に問題があると思います。   そういう意味で,私は,改めて,今回,具体的な例を見た上でも,中間的な類型を作るというのは犯罪の成立を曖昧にするもので,大変問題が大きい,作るべきでないということを,改めて強く感じたということを述べたいと思います。 ○井田委員 一つの考え方としては,自動車運転過失致死傷罪の法定刑を上げるということだと思います。ただ,既に申し上げましたように,それを支える立法事実がどうもないのではないか。また,単に過失犯ということになりますと,いわゆる開かれた構成要件であり,何をしてはいけないか,何をすべきかについて,ブラックボックスになってしまっている。そのまま刑を上げていくというのは,一般市民に対し行動準則を示すという観点からもよろしくないと考えます。   したがって,こういうことをしてはならないという行動基準,行動準則をはっきり示すような刑罰法規のほうが望ましいと思うのです。そうなりますと,何らかの新しい犯罪類型を考えていくということになりますが,現行の道交法違反と自動車運転過失致死傷罪の併合罪という評価では十分ではないような,それ自体,刑事犯としての実質を持った犯罪類型を考えることになるでしょう。一つの中間類型としての捕捉を考えることになりますが,例えば,基本的には酒気帯び運転と認められるような運転行為が行われ,そのうちに酔いが回って,酔いのせいで居眠りの状態に陥り,暴走して,道路端の通行人を数人はねて死亡させてしまったというような事例を考えてみます。もし暴走を始めた段階,あるいは始める直前のところでその行為者自身が,きちっと今のその状態を認識していれば,場合によっては危険運転致死罪の適用が可能だったかもしれません。しかし,現実には,その段階ではもう既に居眠り状態になっている,あるいはもう意識が失われている状態があり,同罪の適用は困難です。そうなると,更にその1つ前の段階の段階,つまりそれ自体としては酒気帯び運転を行っている状態を意識した心理状態の部分に処罰の根拠,あるいは問責の対象を求めることが考えられるわけです。   既に私が申し上げたように,ABCという段階で言えば,酒気帯び運転を意識しているのがAの段階で,次のBの段階は,現行の危険運転致死傷罪における危険運転行為,そしてCの段階として死亡ないしは傷害の結果があるということになります。今の危険運転致死傷罪がBとCという2段階でできているとすれば,その1個前の段階にAの段階があり,それは抽象的危険を認識している状況であって,そういうものを基本犯として考えるような結果的加重犯の構造を持った犯罪類型というのは,理論的にも十分考えられるし,実例を考えてみても,それは道交法違反と自動車運転過失致死罪の併合罪という以上の刑事犯的実質を持っているのではないかと考えるわけです。そういう意味で中間類型を作るという方向のほうが支持したいと思っております。 ○髙見委員 ちょっと質問になってしまうんですけれども,今の208条の2の1項との関係で言いますと,今度,この中間類型というのは,今の1項は,アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させとあるものを,アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態になるおそれのある状態で自動車を運転させというような,そんな感じなんでしょうかね。ちょっとそのイメージが具体的に。 ○上冨幹事 御説明いたします。おっしゃるとおりで,現行の危険運転致死傷罪については,現に正常な運転が困難な状態にあって,しかもその認識がある状態で運転行為をするということが前提となっている構成要件だと理解しておりますが,ここで今,私どもで資料の中で作成させていただいた中間的な類型というのは,正常な運転が困難な状態になるおそれとその認識について,ここではそれ自体が必要なのかどうかを含めて御議論いただきたいということでございますが,一つの考え方としては,そのようなおそれがあり,そのおそれがあるということを認識した状態で運転するというのも,一つの定め方ではないかと思います。   ただ,先ほどの山下委員の御発言との関係で若干申し上げると,こういった部分について,故意の対象となる行為をどのように規定することで明確な構成要件になるのか,あるいは故意の対象となる範囲をどこまでと捉えるのか。ここで申し上げれば,正常な運転が困難な状態になるおそれというものについて,そもそも認識が不要だと考えるのも,考え方としてはあり得ると思いますので,そういった点も含めて御議論いただければと思っているところでございます。 ○山下委員 御説明はよく理解できるんですが,例えば,3ページの,現行法で成立する罪というのは,道交法違反との併合罪で,処断刑の上限は10年以下の懲役・禁錮ということで,これは自動車運転過失致死傷罪の7年よりも3年重い刑になるわけですけれども,中間と言われているのは,それでも足りない,やはり危険運転致死傷罪とこの併合罪加重の10年以下というものとの間ぐらいの刑の重さになるような中間的な類型を作る必要があるという御主張なんでしょうか。 ○井田委員 一定の類型の事案に対し,これは何年から何年だと,直ちに刑の分量が出てくるわけではありません。やはりバランス論として考えるしかないと思います。自動車運転過失致死傷罪と道交法違反の併合罪に対する処断刑,それから現行の危険運転致死傷罪の法定刑,その中間ぐらいにこの類型があるとすれば,重さとしても,その中間ぐらいの刑になる。数学的な真ん中という意味ではありませんが,その間に入ってくるような刑になります。自動車運転過失致死傷罪と道交法違反の併合罪よりも重く,そして危険運転致死傷罪に対するものよりも軽い法定刑ということになるだろうと思います。 ○上冨幹事 併合罪加重による処断刑の関係で申し上げますと,このような,ここで想定されているような事例について,現行法で成立するのは,自動車運転過失致死傷罪と道路交通法違反の罪の二つの罪の併合罪になるだろうというのはそのとおりなのですが,併合罪加重の場合は,事故との関係を問うものではありませんので,このような状態で道路交通法違反を犯しているけれども,事故の原因はほかの原因であるという場合であっても,同じ併合罪で処断刑になります。そのような場合と,事故の原因となっているような事案との区別がなく,同じ処断刑となっているというところが,今の併合罪加重の考え方の持っている性質なのだろうと思っておりまして,それを超える評価が刑法上必要なのかどうかということが問われるのではないかと考えております。 ○塩見委員 井田委員に質問させていただきます。先ほど正常な運転が困難な状態になる前の状態がA,それでBが来て,死亡結果のCが来るという因果の流れを要求された,Aから直接に,ですから正常な運転が困難な状態になる以前の段階で事故を起こして死傷の結果が発生をしたという場合については重く処罰する必要がないという御趣旨だと思うんですけれども,それほど違いがあるのかということです。それから,配布資料の表題,3ページとか4ページの薬物,アルコールについては,「危険運転行為に至らない程度の薬物」,あるいは「危険運転行為に至らない程度のアルコール」と書いてありますので,それほど飲んでいない状態を前提にしているように読めます。その理解が正しいかどうかの問題はありますが,仮にそうだとすると,やった行為がその程度であるのに,客観的要件として正常な運転が困難になる状態を要求するのは,少し合わない気もするんですが,そこら辺はどういうふうにお考えですか。 ○上冨幹事 まず資料のことでございますので,若干事務局のほうから御説明しますが,私どもの表現が稚拙だったのかもしれませんが,3ページ,4ページの危険運転行為に至らない程度のという括弧書きが掛かるのは,その後の,アルコールを摂取した上での運転全体に係るというつもりで書いております。必ずしもアルコールの量が少ないということを申し上げたつもりではなくて,言わば故意のある運転行為のものが,現行の危険運転行為にはまだ至っていないような運転行為という趣旨で書いたつもりでおります。 ○西田部会長 この中間類型を作るかどうか,これはもちろん部会での御議論によるわけですが,基本的には,現行の危険運転致死傷罪に問えないような類型,アルコール,薬物,それから病気の場合ですね。現行法上,自動車運転過失致死と道交法違反との併合罪ということですが,遺族や被害者団体の方からの聴取でも明らかになりましたように,どうしてもそれでは自分たちの気持ちが収まらないという御意見が非常に強かったわけでございますね。   そこで,危険運転致死傷を広げるという部分もあり得るけれども,やはり現在より中間的な類型を作って,被害者団体の御要望のうち,もっともであるということで応えられる部分には応えようということで,この中間類型という案が出てきていると。これが立法事実といいますか,背景にあるということだろうと思います。   その上で,では果たして,本日要綱案という形でお示ししておりませんので,なかなか御議論が難しいかとは思いますが,捜査実務あるいは裁判実務においての適用の困難さということも頭に置きつつ,いろいろな御反対も当然踏まえながらですが,本日,少し議論を先に進めてまいりたいと存じますので,反対あるいは批判的な御意見は,また要綱案というところで出していただくことにして,もし作るとすればどういう点に注意していけばいいかという点,(2)の「類型毎に検討すべき事項」の検討のほうに移らせていただきたいと存じます。   アが一定の病気の影響による運転でございますが,ここではまずどういう病気を取り込むかということが問題になるわけでございますが,この点について。 ○辻委員 一定の病気というのはやはり問題があると思います。ここに書いてありますとおり,運転免許の欠格事由となる一定の症状を呈する病気を対象とすべきだと思います。というのは,1年以上発作がないてんかん患者さんの交通事故率は,てんかん以外の一般の人の交通事故の発生率と変わらないという欧米から多くのデータから出ています。だから,発作がきちんとコントロールされている人は,事故の危険運転にならないという認識になりますので,一定の症状に是非表現を変えていただきたいと思います。 ○西田部会長 運転免許の欠格事由となるというのを付けるべきだという御意見ですか。 ○辻委員 一定の症状を呈するという事由にしていただきたい。一定の病気というと,てんかん全てが危険ということになります。この欠格事由となる疾患は十幾つありますが,かなりの疾患は条件付きですすなわち,認知症以外は条件付きで運転免許を取れるという法律になっていますので,そういう点を明確にしていただいたほうがいいだろうと思います。   それと,破線の中の例は,医学用語のいろいろなのが一杯混じっているので,これは都合が悪いんですけれども,仮眠とか,ちょっと困る用語を使ってあるのは,これはそのまま法律には出てこないですよね。 ○西田部会長 事例でございますから。 ○辻委員 昏睡の人は運転できないし,すぐに昏睡にならないわけで,また,意識障害は朦朧状態,混迷,半昏睡,昏睡と,厳密な分類が医学的にありますので,その点もよろしくお願いしたいと思います。 ○西田部会長 今,辻委員からは,この2ページにあります運転免許の欠格事由となる一定の症状を呈する病気という表現が望ましいという御意見がございましたが,ほかに。 ○辻委員 それともう1点よろしいでしょうか。やはり認識をしているということで,例えばてんかんの患者さんも,もう今の法律を皆さん理解し始めているし,交通事故が問題になっているので,医師は運転免許を更新できない患者さんには運転してはいけないという指導をやっていると思います。カルテにきちんと書くように言っています。それで,そういう点で,てんかん患者が病気のことを認識している,していないというのは,カルテを見れば分かると思います。恐らく書いていないと,今後は医者が訴えられるような状況になるだろうと思いますので,認識をしている人に対しては危険運転という考えを適用したほうがいいのではないかと思います。 ○西田部会長 今のは,2番目の認識を必要とするかという点については,必要とすべきであるという御意見ですね。ありがとうございました。 ○上冨幹事 先ほどの辻委員の御発言の関係で,参考までに若干御説明いたしますと,現行の道路交通法で運転免許の拒否事由となっている病気というのは,法律に掲げられたものが,更に政令で具体的に定められるという形になっているようでございます。   その中で若干の例を申し上げますと,法律上,例えば発作により意識障害又は運動障害をもたらす病気であって,政令で定めるものと書かれているものの,その政令の中に,例えばてんかんが挙げられております。ただ,辻委員御指摘のとおり,てんかん全てではなくて,てんかんと書かれた上で,さらに,発作が再発するおそれのないもの,発作が再発しても意識障害及び運動障害がもたらされないもの並びに発作が睡眠中に限り再発するものを除くという形で,それ以外のてんかんだけが運転免許の拒否事由となるというような形で,病名に加えて,一定の症状を限定する形での規定となっているようでございます。それ以外の病気についても同様の規定がなされているものが多いということになっております。 ○辻委員 もう一つ,追加でよろしいですか。認識という点では,認知症の患者さんは認識できません。いくら指導しましても。だから,そういう病気に対しては危険運転の対象にならないのではないかと,医療側からは考えると思います。 ○西田部会長 それは客観的に病気の類型で落とすか,それとも認識がないということで落とすかということですね。 ○辻委員 はい。だから,一定の病気には認知症は入っているんです。即取消しという法律になっていますけれども,アルツハイマー等の認知症の場合は,自分が認知症であるということを認識できませんので,そういう病気は危険運転に入らないということになるかと思います。病気によっていろいろな状態があるので,精神症状を呈する,統合失調症とか,躁鬱病も認識できない人がいる可能性がありますので,そういう個別の疾患に対する考えも必要になってくると思います。 ○西田部会長 ありがとうございました。 ○橋爪幹事 先ほどの辻先生の御意見に同感でございまして,私としましても,一定の病気それ自体に意味があるわけではないと思います。飽くまでも病気の影響で,運転中に発作を起こし,意識を失う危険性が高いから,そのような病状を呈する方の運転行為には危険性があり,一定の状況においては,中間類型として処罰をする必要性があると考えるべきではないでしょうか。すなわち,病気であることではなくて,病気によって一定の症状を呈しており,もし運転免許を受けようと思っても受けることができないような状態にあることを明確に要求すべきであると思います。 ○西田部会長 同じような問題が薬物についてもございますので,一定の病気に戻っても結構でございますが,併せて薬物,次のページのイの,「薬物を摂取した上での運転」についても御議論していただければと思います。   この薬物は,現行の208条の2の薬物と同じ意義ということでよろしいですね。 ○辻委員 薬物に関しましても,私は覚せい剤とか,そういう法律に違反するような薬物によるものかということを考えておりましたら,保坂幹事から説明を受けましたときに,治療中の薬物でもそれを認識していたら危険運転になるのではないかという話を聞いて驚きました。   例えば,パーキンソン病という病気の一般的な内服治療薬でも,突然眠気を起こす副作用が言われております。もちろん,医師側も,車の運転に対しては内服薬の影響を非常に注意している状況なんですが,医療現場で使う薬というのは,眠気という副作用は起こす人がいます。100%起こせば,それは内服薬として認可されませんが,やはり少数は必ず副作用は生じるものですから,そういう治療中の薬によって,特に抗パーキンソン薬は全く自覚せずに,突然眠ってしまう副作用があります。だから医者は困っているんですが,そういう薬もあります。 ○西田部会長 そういうときには運転はしないようにという御指導をなさるんですか。 ○辻委員 指導はしていますけれども,その薬をやめることはできないという問題があります。指導しないと,医者は訴えられますので,いろいろな指導はしています。 ○西田部会長 御指摘としては,この薬物は違法薬物に限るのか,それとも治療中の薬物も含むのかという。 ○辻委員 警察庁の道路交通法の審議では,違法薬物が主体だったものですから,そうしたら今回は,治療中の薬剤も入るのではないかという意見を聞きましたので,その点をまた審議していただきたいと思います。 ○西田部会長 大事な御指摘だと思います。 ○今井委員 若干,先ほどの病気一般の話にも戻るかもしれませんけれども,前々回でしょうか,過労運転や居眠り運転との関係で発言させていただきました。それらの運転の場合も,最終的には,先ほどの一定の病気によって意識障害を起こす場合と同じような状況に至るわけですけれども,例えば少し疲れて運転している,少し眠気を感じて運転しているときでも,本人としては大丈夫だろうと思って運転していて,突然ぱっと寝入ってしまって事故を起こすという場合は考えられるところです。そういう際には,正常運転が困難なおそれの認識ということがない場合が多いでしょうから,今回の審議の対象から外すべきだと申し上げたのですけれども,同じような発想で,最終的にはどのような症状を,治療の副作用といいますか,効果の一例としてそういうふうな障害が起こるかによるとは思うのですけれども,患者さんあるいは薬を使っている方,あるいは疲れている方の意識を十分踏まえて,こういうふうな状況があり得るということを知りながら乗っている際には,ここで新たに設ける中間類型の中に織り込んでもよいと思います。他方で,そうした認識がない場合には,中間類型からは外していくという,実質的な整理をしていったほうがよいかと思います。   その意味では,違法な薬物かどうかという切り口よりも,その薬が持っている作用というものをもう少し具体的に議論したほうがいいなと思っております。 ○西田部会長 この点の表現の仕方は,現行法の208条の2自体が,単に薬物としか規定しておりませんので,専ら解釈に委ねられているということで,この条文,要綱案がどうなるかということで,これも挙げて,次回のテーマになるかと思いますが,そこで辻先生の御指摘も踏まえた上で,要綱案を考えさせていただくということで,この議論はひとまずということにさせていただきたいと思います。   大分時間も過ぎましたので,ここで休憩したいと思います。           (休     憩) ○西田部会長 皆様おそろいのようですので,議事を再開させていただきます。   休憩前に引き続きまして,叩き台の第4ページ目にございます,「アルコールを摂取した場合の中間類型」について,まずアルコールを身体に保有するということ,これは認識が必要。次に,その影響によって正常な運転が困難な状態になるおそれ,これは認識が必要か不要か。それから,正常な運転が困難な状態となったことということですが,これは特に道交法上の酒気帯び運転,道交法65条1項,その罰則であります117条の2の2の第1号ですとか117条の2の第1号につきまして,最高裁の判例もございまして,基本的には,これは昭和45年の最高裁の決定でございますけれども,酒酔い運転の罪の範囲としては,飲酒によりアルコールを自己の身体に保有しながら車両等の運転をすることの認識があれば足り,そのアルコールの影響により正常な運転ができないおそれのある状態に達していることまで認識している必要はないという最高裁の判例もあるところでございますので,この点を考えながら,特に真ん中の正常な運転が困難な状態になるおそれについての認識が要るか要らないか,御議論が必要かと思います。   以上,余計なことを申し上げましたが,御意見を,そういう最高裁判例があるということも念頭に置きつつ議論する必要があるかと思います。 ○髙橋幹事 先ほど井田先生がおっしゃったABCという段階があるというお話の中で,うまく理解できなかったところがあるので,教えていただければと思うんですけれども,例えば,今回4ページに挙げられている想定される一事例,飽くまでも一つの事例ということで挙げられているんですけれども,通常は,お酒に酔って運転しているような場合,実際に人身事故を起こすまでの間のことを考えてみますと,運転の際にお酒に酔っているなと分かる。そのうち酔いが更に回ってきて,これちょっと危ないぞというような認識が,後々になってはもう忘れているかもしれないんですけれども,恐らくその時点ではそう認識している。その後,仮睡状態ということで,意識を失って,事故を起こしてしまうと。   そういうふうに見ていきますと,その事故を起こす前のある程度の段階では,通常は,正常な運転が困難な状態にあるという客観的な状況,プラス,そのような状態にあることの認識もあるというのが,事実としてはあり得るのかなと思います。井田先生のお考えだと,その前段階で,おそれのあるところでそこで切ってしまって,そこで処罰するんだとおっしゃるんですけれども,通常は,危険運転,つまり,正常な運転が困難な状態であるという認識というのはどこかで持っているのではないかと思います。事案によっては,今言ったような事案で,実際に危険運転致死傷罪で処罰されている事例とか幾つかあると思うんです。   だから,今回,仮に新たにこういう類型を設けた場合に,どこで区別するのか,メルクマールみたいなものがあるのかということがよく分かりません。恐らく,また今後,要綱案が示された後に詰めた議論をすべきことかなと思いますけれども,もし今,お考えになっていることがあれば,教えていだたきたいと思います。 ○井田委員 先ほどの塩見委員の御質問とも関係するのですが,私自身,その中間類型を作るときに,なるべく現行の危険運転致死傷罪の構造に近いもの,ないしそれを借りるような構造をもったものを作るのがよいと考えるのです。それは危険運転致死傷罪の処罰規定も,施行後何年もたって,ある程度,裁判例や学説等も蓄積してきていて,この犯罪類型の構造自体がだんだん明確になりつつあります。   それを前提に,それを借りるといいますか,その理解の上に立って新しい類型を作ったほうがよいのであって,全く新しい要件を組み立てて中間類型を作るというのは,効率的でもありません。立法上も法適用上も労力が掛かることだし,また一からやらなければいけないのは大変です。なるべく現行のものに倣って考えたほうがよいだろうと思うのです。   ですから,現行の危険運転致死傷罪が,もしBとCという2段階の構造だとすると,その前の段階でAというのを想定することができる。Aの状態の自然な発展,つまりAの状態の持っている危険性を実現したものとしてBの状態があり,Bの状態のそのまた危険の実現,つまりその自然な発展のところにCの状態があるというイメージで考えております。   そこで,問題は,Aの段階で行為者にどういう認識があればよいのかということになります。一番これを緩やかに考えるとすれば,先ほど部会長の御説明もありましたけれども,最高裁の判例では,酒気帯び運転罪については,アルコールを体内に保有しているという認識さえあればよいということのように,判例は考えているようですが,ここでも体内にアルコールが入っているということの認識だけでよいとするのが一つの考え方であろうかと思います。ただ,それは余りにも認識として希薄すぎると思われますので,もう少し絞りの掛かる要件のほうがよいであろう。それはどういう文言になるか分かりませんが,「走行中運転に支障が生ずるおそれがあることの認識」を要求するのがもう一つの考え方であるかと思います。   そういう状態の自然な発展として,二つ目のBの状態になったが,そのBの状態自体は,もはや故意を語り得るような,あるいは事後に故意を認定できるような状況ではもはやない。その状態というのは,例えば居眠りしてしまっている状態です。その居眠りする直前のところでは,場合によっては正常な運転の困難な状態の認識を肯定できるポイントがあるかもしれません。それをもし認定できるのであれば,それを立証できるのであれば,現行の危険運転致死傷罪の成立を求めることが可能なはずです。その立証が事実上できないというケースが,この中間類型に入ってくるような場合なのではないかとも思うわけです。   若干,まだ私自身もイメージがいま一つはっきりしないのですが,理屈で考えるとそういう説明になるのではないかと考えております。 ○西田部会長 髙橋幹事,よろしいですか。 ○髙橋幹事 まだちょっと。よく考えてみます。 ○塩見委員 正常な運転が困難な状態を,認識が不要としても,客観面で要求すると,先ほどからいろいろ御指摘がありますように,非常に認定が困難になって,条文を作ったけれども適用は認定できませんでしたという話になったら困るなという,ちょっとそういう感じもありまして,理論的にどう詰めたらいいのか,私自身もよく分かりませんでしたので,質問した次第でございます。 ○保坂幹事 先ほど髙橋幹事から御指摘があった点について,若干御紹介したいと思います。髙橋幹事の御指摘は,アルコールの場合には,正常な運転が困難な状態である認識があるのが通例ではないのかという,こういう御指摘だと理解をしましたけれども,検察実務をやっている検察官が書いた文献がございますので,その中身を若干御説明させていただきます。   酒酔い運転で自動車を運転し,死傷事故を起こした場合,その多くは,理論的には危険運転致死傷罪で処理することが可能であろうと考えられる。もっとも,実務では,証拠上やむなく酒酔い運転と自動車運転過失致死傷罪で処理することがあるが,その多くは,正常な運転の困難性を基礎付ける事実の認識について十分な証拠を得ることができなかった場合である,というものでございます。   この文献によると,証拠上,正常な運転が困難であるという認識が認められないというケースがあるということで理解をいたしております。 ○植村委員 今の御説明を伺っていて,この問題,私は前からよく分からないところで,最後は立証の問題だという,そういうお考えを伺うことが多いんですが,先ほど髙橋幹事も発言されたとおり,客観的には正常な運転が困難な状態になりました。私もたしなむほうなので,自分では酩酊状態というのは分かっているつもりですが,そんな急速に,恐らく病気の方のように,突然意識がなくなるということはまずなくて,徐々に徐々に意識状態が低下していって,まどろみ状態になって,それで最終的には継続的な仮睡状態,そういうのを仮睡というのかどうかよく分かりませんが,そういうグラデーションの問題だろうと思うんですね。   そうなので,具体的に検察側が起訴状を提出するときに,どこまでの証拠がないと起訴しないのかという問題とも関係するのかもしれませんが,事実としては,恐らくそういう運転困難状態の仮睡状態にあった者は,その直前にはまどろみ状態のような状態が必ずあって,それはもう客観的に見て,実際に仮睡に至らなくても,正常運転困難状態であり,かつそれを本人も認識しているのではないかと思われるわけであります。   それを直接証拠で立証しようとすると,供述に依拠して,供述調書を取ろうとされるのかもしれませんが,それはかなり難しくて,特に時間が経過すると記憶そのものが失われていることもあるので,そういう状態になったとすれば,事実上の推定はかなり働くのではないかという気がしておりまして,起訴をされる側が,どういう基準で危険運転致死傷罪にし,それからどういう証拠関係であれば自動車運転過失致死傷と酒酔い運転にされているのか,その辺も次回には教えていただければ幸いかと思っております。   なかなかこれは私自身もよく分かっていないところでございますので,そういう発言になってしまうのでございますが,また議論していただければと思います。 ○高橋委員 正常な運転が困難な状態になるおそれの認識のところなのですが,免許を取るときもそうですし,飲んだら運転してはいけないということは,ほぼ毎日聞くような状態ですので,それが必要かどうかというのは議論の余地はないのではないかと思います。 ○西田部会長 必要であるという。議論の余地がないというのは。 ○高橋委員 認識の必要はないと思います。 ○西田部会長 認識の必要性はないと。分かりました。 ○山下委員 この正常な運転が困難な状態になるおそれということに対する認識が必要かどうかという議論になっていると思うんですが,これは危険運転過失致死傷罪のとの,主観面,つまり故意に基づく結果的加重犯なわけですから,やはり主観面が重要でありまして,正常な運転が困難な状態になるおそれの認識がなくていいというのは,理論的にあり得ないのではないかと思います。   井田委員も,抽象的なおそれ,抽象的な危険の認識ということを言われているんだと思うんですけれども,それは前倒しすればするほど,非常に希薄化するわけですし,そういうものをどうやって認定するのか。結局,それはアルコールを身体に保有していたらそうだと。抽象的には危険だとなり,その認識ということかもしれませんが,それだとほとんど意味がないし,道交法についての先ほどの最高裁の解釈も,あれは道交法の解釈だからそうなのであって,それとこの危険運転致死傷に類する亜流のものを作るときに,それと同じであってはならないわけですから,当然,主観面,すなわち危険運転に対する認識が必要なのであって,それが必要ないという議論は,理論的にはあり得ないと思うんですけれども,議論の中で,明確にその認識が必要ないと言い切っている方は,先ほど髙橋委員からそういうお話がありましたが,これまでは余り詰めた議論がなされていなかったと思うんです。事務局は,その認識が必要ないという見解があり得るという前提で,このペーパーを作られていますので,その認識が必要ないという方がいらっしゃるなら,是非その意見を開陳していただきたいと思います。 ○上冨幹事 事務局として,この資料を作成したときの認識で申し上げますと,現行の危険運転行為に至らないけれども,やはり危険な行為としてどのようなものが必要で,どのような認識が必要かといったときに,例えばアルコールの場合,お酒を飲んで運転しているということ自体が,抽象的ではあるけれども,既に危険性があって,その認識があれば足りるんだという考え方もあるでしょうし,さらに,単にお酒を飲んで運転しているというだけではなくて,正常運転が困難な状態なおそれ,あるいは先ほどの御発言であれば,運転に支障を生ずるおそれがある状態だということの認識も必要だというところまで,実行行為として必要だと考えるかという,そういったことが問題になるのではないかということで,このような資料でお示ししたものです。したがいまして,出発点として,およそ危険性のない行為を前提として結果が生じた場合を全て加重類型とするということを考えているものではありません。 ○辻委員 医学的に,アルコールを飲むと個体差があるので,少し酔っぱらっても認識,高次機能が低下する人がいます。更に小脳機能が一過性に障害されるから,熟練した動作はできなくなります。高次機能に影響しない段階でもそれは起こってくるし,アルコールはかなりいろいろな症状を出すわけです。酔っぱらいの歩き方とか,ろれつが回らないというのは,アルコールが小脳に影響して,小脳の機能を低下させている状態です。   だから,アルコールが入ったら運転できないというのが,認識うんぬんの問題ではないように考えられます。飲んだ人が運転するのは,その時点でアルコールの大脳への影響により認識の低下が生じているわけです。飲まない時点では,アルコールを飲んで運転してはいけないというのはきちんと分かっています。しかしながら,皆さんやってしまうのは,飲んでしまったらその抑制がとれてしまっているわけですから,そういう面でも,アルコールが入ったら運転ができないようにすることが,やはり基本ではないかという感じがします。 ○今井委員 今の辻委員の御意見は大変よく分かりますし,それが恐らく道路交通法の解釈のバックグラウンドにはあるのではないかと思います。しかし,今ここで議論しておりますのは,中間類型というものでして,危険運転致死傷罪のもう少し外縁にあるような類型を取り出してくることができるかということでして,交通危険犯というものを考えていく必要があります。   そうしますと,先ほど井田委員からも御発言がありましたけれども,少なくとも,今,辻委員も,お酒を飲んだとき個体差があるという御発言でしたが,お酒を飲んでいることは分かっているけれども,その先に運転をすることによって,具体的な運転によって交通に支障を及ぼすおそれがあるかどうか,あるとして,どの程度のおそれか,運転者は事前にそのおそれを認識していたのか,そういったもう少し実質的な点を踏まえて検討をすべきではないかと思っております。 ○武内委員 この場では被害者の方が直接おられないので,やや法律的ではないかもしれませんが,被害者の方の感覚で意見を述べます。もしこれを私が支援の現場で被害者の方に御説明をする場合,あの方はお酒を飲んで車を運転していたが,正常な運転が困難な状態になるおそれを認識していなかったから,中間類型な加重処罰は受けなかったというのは,非常に被害者の人たちにとって理解しづらい論理ではないのかなということを懸念しております。私も,抽象的危険犯あるいは結果的加重犯といった議論が全く分からないわけではないですが,薬物あるいは一定の症状を伴う病気と違って,アルコールを体内に摂取しておいて,正常な運転は自分はできるであろうと考えること自体が,もう既に正常な運転が困難な状態になるおそれを十分認識していると言えると,ほぼ等価に近いのではないかと考えます。そういう意味では,この類型に限っては,その認識をかなり緩やかにする,ないしそもそも認識不要にするという考え方は,あり得るのではないかと考えております。 ○橋爪幹事 この問題と申しますのは,中間類型一般の問題でもあると思いますけれども,要は運転している段階において既に一定の危険性が必要であって,かつその危険性の認識が必要であるという構造が前提にされていると思います。飽くまでも抽象的に危険な行為の結果的加重犯として中間類型を考える以上,抽象的危険性の認識は当然に必要だと思います。そして,抽象的危険の認識というのは,病気,薬物,アルコールごとに,ある程度,異なって判断されるように思うのです。   例えばてんかんの患者さんで,きちんと投薬を受けていない,発作も頻発しているような方が,本来,免許を受けることもできない病状にあることを知りながら運転をしているというときには,御本人が運転中に発作を起こさないと軽信しているとしても,このような病状の認識があれば危険性の認識として十分だと思います。   同様に,例えば覚せい剤を打ちながら運転をするとか,あるいは強力な睡眠導入剤を飲んで運転をするという場合につきましても,薬物の性質を分かった上で服用していれば,当然に危険性の認識も認められると思います。   問題は,ビール1杯でも,アルコールを体内に含んでいるという認識があれば,今申し上げたような例と同程度の危険性の認識があるかということだと思います。この問題は,この中間類型でどのくらいの危険性が必要かという問題にも関係してくるように思います。例えば,花粉症の薬や風邪薬でも,運転中に眠ってしまう危険があるといわれているわけですが,そのような可能性があることを知りつつ,これらの薬を飲んで自動車を運転し,万が一,本当に運転中に眠ってしまって事故を起こした場合でも,中間類型で処罰できるのかというと,やや慎重に考えないといけない気がします。具体的にどの程度の危険性が必要かという問題一般に関係してくると思うのです。   もちろん,アルコールを飲んだら一般的には運転が危険になることは誰もが分かっていると思うのですが,例えば栄養ドリンクの中にもアルコールが含まれているものがあるようですし,あるいはほんのビール1杯でも,例えば体調が非常に悪い場合に,体調不良があいまって過剰な影響が生ずる場合もありますので,アルコールの保有の認識があれば,それだけで常に危険性に関する認識があると言えるかについては,慎重に考えるべきではないかと思います。 ○西田部会長 いろいろ御議論いただきまして,まず,客観的に正常運転困難な状態となるおそれのあること,これを否定する方はおられなかったと思いますけれども,その認識及びその認識についての立証の難易度,どういう証拠関係があればいいのか,これは警察あるいは裁判実務,あるいは検察実務の立場から,それぞれ御意見がありました。   委員の中からは,認識は不要とすべきであるという考え方と,それから,認識はやはり必要であるという御意見がありました。これはなかなか統一することは難しいかと思いますが,これについては,両様の形で要綱案というのを作らせていただく予定にしたいと思います。それで,基本的には,これ刑法に入るかどうかは分かりませんけれども,刑法犯であるとすれば,基本的には,やはりおそれの認識は必要であるという方向に,私自身は傾くのではないかと考えておりますけれども,これは両様の御意見があったということを踏まえまして,どちらかに決め切ることなく,次回要綱案の段階で更に御議論いただいて決めさせていただきたいと思います。   続きまして,法定刑,これは5ページにありますように,中間類型を設けました場合に,危険運転致死傷の場合,致死の場合が1年以上20年以下,致傷の場合が15年以下,下限が1月ということですが,これと道交法上の様々な犯罪類型が併合罪になった場合の処断刑が,一番下の欄に書いてあるわけです。ここでの問題は,要するに中間類型を設けた場合,この自動車運転過失致死傷と道交法違反の併合罪より重く,しかし危険運転致死傷罪より軽くという,そういう類型とした場合の法定刑の在り方,更には危険運転致死傷のように,致死の場合と致傷の場合とで加重の程度を異ならせるかどうか。この2点が問題になっているんですが,これはなかなか,今,何年以下何年以上とか,なかなか具体的な数字は言いにくいと思いますので,こういう中間的なものであるから,当然併合罪よりは加重すると。しかし危険運転致死傷罪よりは低いというところで,これは意見,もし設けるとすればという前提で,そういうものにならざるを得ないと思いますが,致死と致傷について区別するかどうか,この点だけ御意見を伺えればと思います。 ○井田委員 もしそういう規定を設けるのであれば,致死と致傷は区別すべきだと思います。現行刑法でも,確かに過失致死傷の罪は区別しておりませんが,それ自体がむしろ異例であります。他方,危険運転致死傷罪ははっきりとこれらを区別しておりますので,それに準ずる形で区別するのが当然なのではないかと考えます。 ○西田部会長 御異論ないでしょうかね。   それでは,もし中間類型を設ける場合には,中間的な加重類型とし,その際には致死と致傷で区別するという方向で,要綱案を作っていただくことにいたします。   では,本日最後の論点であります,3の「人の死傷との間に直接的な原因関係が存しない類型への対応」,これについて,まず事務局から御説明をお願いいたします。 ○保坂幹事 御説明いたします。資料18の6ページ以降でございます。   まず,「(1)無免許運転による加重」についてでございます。無免許等での運転をし,人を死傷した場合に加重した処罰を可能とする規定を設けるにつきましては,まず無免許等での運転の対象となり得るものとして,資料に記載しておりますとおり,免許を受けないで運転をした場合,免許が失効したにもかかわらず運転した場合,免許の効力が停止されているにもかかわらず運転した場合,国際運転免許証又は外国運転免許証を所持しないで運転した場合,偽りその他不正の手段により免許証の交付を受けて運転した場合というのが考えられるところでございます。   そして,無免許等で運転した上で,人を死傷させる事犯としまして,資料に記載しているとおり,危険運転致死傷罪,新たに創設が検討されている中間類型の罪,自動車運転過失致死傷罪というのが考えられるところでございます。   次に,「検討すべき事項」といたしましては,まず道路交通法上の無免許運転罪との併合罪よりも重い処罰を可能とする根拠についてでございます。これまでの御議論で,道路交通秩序を無視して運転する点に責任非難が可能であり,道路交通の一定の技能を有していない者が運転する点について,道路交通や道路関与者の生命身体に対する危険が認められて違法性もあるとの御意見がございました。これを踏まえまして,資料のほうには,道路交通法上の無免許運転罪との併合罪による処罰よりも重い処罰を可能とする根拠(責任・違法性)の中に,更に二つ書きまして,自動車運転のための最も基本的な義務に反していて,規範意識を欠いている点(責任),運転免許制度が予定している運転に必要な適性,技能及び知識を欠いている点(違法性)とお示ししております。   次に,このような重い処罰を可能とする根拠を踏まえつつ,検討すべき事項として,無免許等での運転のうちどの範囲のものを加重の対象とすべきか,加重の対象とするかどうかを区別する理由があるかという点を,検討事項として挙げております。   同様でございますけれども,重い処罰を可能とする根拠を踏まえつつ,検討すべき事項として,危険運転致死傷罪,中間類型の罪,自動車運転過失致死傷罪のうち,どの範囲のものを加重の対象にするのか,その加重の対象とするかどうかを区別する理由があるかどうかという点を挙げております。この点,危険運転致死罪につきましては,既に相当重い法定刑が定められていることを踏まえて,無免許等で運転した場合に,更にその刑を加重することの要否や当否を御議論いただく必要があろうかと思われます。   御参考としまして,危険運転致死傷罪,中間類型の罪,自動車運転過失致死傷罪のそれぞれの法定刑と,現行では1年以下の懲役,罰金もありますけれども,とされている無免許運転等の罪と,その併合罪となった場合の処断刑を整理した表を載せさせていただいております。   順番が前後しましたが,破線の四角の中には,これまでと同じような趣旨で,想定される一事例ですとか,現行法で成立する罪を挙げております。   続きまして,(2)の「ひき逃げ」について御説明いたします。   (2)ひき逃げにつきましては,これまでの御議論で,逃げ得と言われる状況に対応するため,従来よりも重い処罰が可能となるような方策を検討すべきであるとの御意見も出されたところですが,どのような具体的な方策があるのかは今後の検討課題となってございます。   御参考までに,破線の四角の中に,危険運転致死罪との関係で生じていると言われる,逃げ得として想定される一事例を,現行法で成立する罪と処断刑も併せて挙げております。検討すべき事項につきましては,逃げ得と言われる状況への対処の在り方として,これまでの御議論を少し整理した検討事項を挙げておりますが,まず,対象とすべきひき逃げ行為の範囲についてでございますが,いわゆるひき逃げの対応や動機には様々なものが考えられるところでございます。今後の検討において,全てのひき逃げ行為を対象としていくのか,それとも被害者団体等からの御意見,御要望の中で,逃げ得として特に御指摘があった,アルコールや薬物の影響があった場合のひき逃げを対象として検討していくのかということが,検討すべき事項だろうと思います。   次に,道路交通法上の救護義務違反の罪との関係につきまして,現行法上,いわゆるひき逃げ行為というのは,道路交通法の救護義務違反の罪の対象とされまして,救護義務違反が行われた場合に,人の死傷が運転行為に起因するときは10年以下の懲役又は100万円以下の罰金という法定刑になっているところでございますが,この罪の対象となる行為ですとか,その法定刑との関係を踏まえて検討していくことが必要でなかろうかと思われます。   併せて,従来よりも重い処罰を可能とする趣旨ですとか,どのような法益を保護するものとして考えるのかということを検討するにつきましては,前回の御議論でも御指摘がございましたように,保護責任者遺棄罪ですとか証拠隠滅罪との関係というものを十分に検討する必要があろうかと思われます。   御説明は以上でございます。 ○西田部会長 ありがとうございました。   ただいまの事務局の説明について,御質問がございましたらどうぞ。   無免許の範囲について,石井委員,この6ページの一番上に五つ並んでおりますが,これですと大体よろしゅうございますか。 ○石井委員 これも参考に1点だけ申し上げたいと思いますけれども,偽りその他不正の手段により免許証の交付を受けて運転の中に,実は免許証を二重に,遺失したと言って新しい免許証をもらう者がございます。これは,どうしてそんなことをするかということですけれども,いろいろな理由があるんですが,その免許証の裏面にいろいろなことを,違反などすると書かれてしまいますので,それがないように,わざと新しいまっさらのを欲しいとか,それからいろいろなことに悪用しようということで2枚もらうやつが出てきますので,この文章そのものではそういうふうなものも含んでしまっておりますので,そういうものも含めて処罰をするのかどうか,御検討いただいたほうがいいのではないかと思います。   それから,あと,無免許運転の罰則の件でございますが,現行法は1年でございますけれども,今,引上げについて,警察庁としては検討いたしております。ただ,では何年にと言われますと,まだそこまでは検討は進んでおりませんので,次とまでは申し上げませんけれども,しかるべき時期にある程度のことは御報告ができるかと思います。 ○西田部会長 ありがとうございました。 ○保坂幹事 事務局の方から御質問させていただくのは恐縮ではございますけれども,先ほどあった不正取得の関係で,私も報道ベースでしか存じ上げないんですが,カンニングによって不正取得した事案というのが報道されておりまして,それも併せて,どんなケースだったのかということも御紹介いただければと思います。 ○石井委員 今,御質問がございましたのは一番典型的なケースでございまして,本年,中国人らによる組織的な運転免許の不正取得,カンニングの事案がございました。これは,日本語に不自由な方が免許を取ろうとして,試験を運転免許センターで受験するときに,電子的な機器を使いまして,小さなマイクを耳の穴に挿入しまして,外部から分からないような形で答えを教えていったという事案でございます。これなど典型的なケースでございます。   ただ,こういうケースがままあるかといいますと,これだけ大規模なやつというのは初めてのケースでございまして,ほとんどが他人名義の本人確認資料を用いて他人に成り済まして運転免許証を取得するというようなケースか,二重に取得するようなケースでございます。 ○西田部会長 その場合,摘発前にその免許証を携帯して運転すれば,無免許運転罪は成立するという解釈でよろしいんですね。 ○石井委員 成り済ましについては当然無効と考えておりますので。 ○髙橋幹事 石井委員に一つ質問と,あと事務局に質問があります。まず,石井委員に対する質問ですが,無免許運転の罰則の引上げについて,今,検討されているということで,何年にするというお話はまだ時期的に無理だということですけれども,引き上げるという方向についてはもう大体まとまりつつあるということでしょうか。 ○石井委員 さようでございます。今,その方向で検討いたしております。 ○髙橋幹事 次に,事務局に対する質問です。この無免許だからゆえに加重する根拠がなかなか理解しづらいのですが,運転免許以外で,例えば何か免許制を採っている,あるいは許可制を採っているような分野で,現行法上,業過致傷を起こした場合に,無免許あるいは無許可であるがゆえに刑が重たくなるという類型がほかの分野であるのかどうか,参考までに教えていただければと思います。 ○保坂幹事 現時点では承知しておりませんが,御指摘がございましたので,あるかどうか調べてみたいと思っております。 ○井田委員 今の髙橋幹事の御質問に対して,お答えになるかどうか分からないですし,また,私,石井委員の横でこういうことをお話しするのは勇気がいるのですが,一言申し上げます。免許制度とその更新の制度を併せて,これにより自動車運転という危険行為に対する国の管理,コントロールが行われているのだろうと思っています。その際には運転技能とか交通知識のチェックももちろん行われますけれども,免許更新のときに法令の改正について情報を与えるとか,あるいは最近の交通事情はこうなっている,というようなことについての情報を与える,あるいは最近の事故の傾向はこうだというようなことについてもインフォメーションを与えるというようなこともあるわけです。そういう意味で,一定の教育的な指導とか,あるいは啓発とか,あるいは働きかけというのも当然可能になっている。そういう規制の外に出てしまって,そのアウトサイドに出てしまって,車を運転するということの持つ危険性は大きいと思うのです。それ自体としては行政的な不法であるのかもしれませんけれども,それは単に技能の問題だけではなく,もっと広い意味で,危険な運転が行われている。運転するのに適切でない人間が運転しているという事態がここにはあると思うわけです。   その上で,そういう人が事故を起こすとなりますと,その事故の惹起に対する評価のは重くなってよいのではないか。違法性が重くなるか,責任が重くなるか,いろいろな理由付けが可能かもしれませんけれども,国の管理の外に出てしまい,広い意味での危険な運転行為が行われ,その危険の実現として,事故が起きたというときには,普通とはちょっと違った評価が可能になってくると思われます。その理由付けは十分可能なのではないかと考えています。 ○山下委員 私は,無免許だから加重するというのは,余りにも問題があると思うんですけれども。結局,無免許というのは,いろいろな事情のうちの一つにすぎない。確かに免許制度というのが自動車運転の基本にあることは確かですけれども,それは道路交通法で,正に無免許運転罪の問題として処理しているわけです。   それで,前には,無車検とか無保険とか,そういう話もあったんですけれども,なぜ無免許だけを取り上げるのか。それから,石井委員から前に御説明がありましたけれども,警察では,免許をそもそも一回も取得したことがない人なのかどうかということに関するデータを持っていない,立証することが不可能であるという話もありましたので,そうなりますと,免許をたまたま今持っていないという事情だけで,なぜ,その事故の違法性や責任が加重されるのかというのが,理論的にはよく分からないといいますか,それは単に一事情にすぎない。それによって,元々,事故との因果関係はないわけですから,それを違法性とか責任を加重する条件として挙げるのは,余りにも無理があると思います。   髙橋幹事からも言われましたけれども,業務上過失致死傷罪においても,当然,自動車以外にも無免許の問題はあり得ると思うんですが,そこを一切触らず,今回,自動車運転のところだけをいじるというのは,大変問題であり,なぜ無免許だけをこんなに特別扱いするのかというのは,非常に不公平だと思います。   そして,危険運転致死傷罪は,先ほど事務当局から説明がありましたように,極めて重い重罰が規定されて,これは2の中間類型であってもある程度重い罪になると思うんです。だから,それをまた更に重くすることになる。しかも,無免許は結果に直接因果関係はないというものであり,なぜ,たまたま運転免許証を持っていない,無免許だというだけの理由で,それを更に重罰化するというのは無理なことです。自動車運転過失致死傷罪についてそういう議論があり得るとしても,その場合でも,先ほど言った業務上過失致死傷との関係での無免許の場合とパラレルに議論しないといけない。なぜか自動車運転のところだけを無免許だということで重罰化するというのは,やはり,理論的に無理がある,問題があると思います。 ○今井委員 今の山下委員の意見も分かるのですが,この部会の議論としては,危険な運転に起因して人の死傷という結果が生じた場合に着目して,議論をまず進めるべきだろうと。その議論がどこまで広がるかというのも,並行して検討しないといけないと思いますが,無免許の方が危険運転あるいはそれに準ずるような危険な運転をして,人の死傷結果を起こしたという場合には,井田委員も言及されておりましたけれども,そもそも運転をしてはならないというルールを破って,それにもかかわらず運転をした結果,潜在的な危険が実現したという説明は十分可能でありまして,それは少なくとも責任非難を高める要素としては考慮してしかるべきだろうと思います。   ですから,今,山下委員は,理屈が成り立たないのではないかという御発言だったと思いますが,必ずしもそうではないということを,一言申したいと思います。 ○栃木委員 裁判所の栃木です。法律を適用する者から見まして,例えば前方不注視で交通事故を起こしました,左折の際に左側不注視で事故を起こしましたというような事故がありましたときに,それが無免許であるがゆえに違法性を高めるというようなことがあるのか,ちょっと疑問がありまして,無免許であるがゆえに違法性が高まるとか交通の危険性が高まるというのは,ちょっと抽象的すぎて理解しかねるところがあります。   また,免許失効者とか,免停者とかは,確かに免許がないということで,道路交通法上,運転してはいけないという義務を課されていて,その点は,当然無免許運転の罪が併合罪加重されるわけですから,その範囲で重く責任は背負わなければいけないんですが,だからと言って,その人たちが,例えば免許取得して間もない人と比べると,それほど運転技能がないんだろうか,それほど道路交通法上の知識がないんだろうかというと,そういうわけでもないわけなんです。   ですから,もうちょっと責任加重なり違法加重する理由をはっきりしていただかないと,やはり法律を実際の現場で適用する者にとっては,なかなか適用上,非常に不都合というか,困難が生じるものがあるので,もうちょっとそこら辺のところを詰めた議論していただきたいというのが要望でございまして,無免許であるから潜在的な危険性が高いのではないかとかというのは,ちょっと飛躍があるのかなという気がいたします。 ○西田部会長 加重の根拠についての根本的な御疑問と承りました。これに対して,井田委員,今井委員からは,加重すべき根拠はあるという御意見でしたけれども。 ○高橋委員 今回のいろいろな大きな事件を見ていると,一般市民の目からは,やはり無免許であるということは説明が全然付かないのではないでしょうか。つまり技能があるとかないとかというところではなくて,そもそも,そもそもおかしいというところが世の中にも広がっているのではないかと思います。免許があったかなかったかで犯罪のレベルにそれほど差がないというのは,今の時点では国民に対する説明がつかないのではないかと思います。   そういう意味で,ここの検討すべきところの2番のところに,無免許等で運転のうち,どの範囲のものを加重すべきかというところですけれども,例えば自分が免停とか,免許を持っていないことを知らない人は絶対いないと思います。自分が免停とか,何らかの形で失効したことをちょっと忘れてしまったというのと,免許を持っていないことを当然に知っていながら運転するということは,大きな差があります。そういう理解でよろしいでしょうか。 ○西田部会長 はい。1番目の責任加重というのはそういう意味だと思います。   高橋委員からは,一般市民のレベルからは,無免許で運転すること自体,当然に加重されてしかるべきであるという御意見でしたけれども。 ○山下委員 確かに,最近の報道ではそういうものが目立つんですけれども,実際,全体の交通事犯において,正にこの自動車運転過失致死罪と道交法の無免許運転の事案というものが,どれ位のパーセンテージというか,全体の交通事故の中でどのぐらいの割合を占めるのか。要するに,無免許運転が交通事犯の中の類型として現にあるのか。それを特別に類型化して加重しないといけないだけのそういう実態があるのかということを,データとして,データを持っているのが警察庁かもしれませんが,そういうものを,是非,出していただきたい。そういう類型が本当に類型としてあるほど,加重すべきような類型があるのかどうなのかという立法事実があるのかどうか。その点がよく分からないまま抽象的に議論していると思うんですけれども,あるならあるということを示していただければと思います。 ○上冨幹事 準備させていただきたいと思います。 ○西田部会長 1点,部会長から申し上げると,この類型は,被害者団体からのヒアリングにおいて,特に亀岡の事件の,免許を持たないで,しかし何度も無免許運転を繰り返していたので,技能未熟で危険運転致死には問えなかった事例についての御遺族の御不満。それから,名古屋のブラジル人の事件もそういう事件で,ですから,恐らく立法事実としてそういうものがあるかどうか,恐らくそれはないのかもしれませんが,被害者感情としてはこれが非常に強いということは,山下委員もヒアリングに出ておられたから御承知のとおりだと思います。 ○山下委員 立法事実とか,理論的に説明できるものでないと,いくら遺族が望んでも作るべきではないと思います。それができるかどうかを議論するのが法制審議会なので,是非そこは冷静な議論をしていただきたいと思います。 ○西田部会長 それはもちろんそのとおりだと思いますが,高橋委員のような御意見もあると。しかし,山下委員や栃木委員の御意見も当然のことでございます。   しかし,要するにここは道交法における無免許運転の刑の引上げが,引き上げる方向で検討されているということですから,場合によってはそれと自動車運転過失致死傷罪との併合罪加重で,これで十分ではないかという結論になるかもしれません。それも見極めながらということですが,これは加重類型にはしないという結論はいつでも出せるわけですので,一応要綱案としては,加重類型を設けるとした場合どうするかと,そういう要綱案を作らせていただいて,これに対して反対の御意見が強ければ,それは設けないということで足りるわけですので,これは両様の案を作る必要はないと存じます。   そういうことで,次回,要綱案を作らせていただき,その法定刑については,これは恐らく道交法の改正をにらんでということで,次回までに石井委員,明確にもう大体分かっておりますでしょうか。 ○石井委員 次回はちょっと。 ○西田部会長 そうすると,次回の要綱案には,法定刑の部分までは書き込めない,そういうものになるかと思いますが,一応加重類型とした場合,恐らく先ほどの事務局の御説明では,危険運転致死傷については要らないだろうと。中間類型と自動車運転過失致死傷について加重類型をという,恐らく皆さんもこの点については御異論ないと思います。 ○山下委員 私は異論を言いましたけれども。 ○西田部会長 いやいや,それは設けないという発言ですね。 ○岩尾委員 危険運転致死傷を加重するかどうかという議論の場合は,危険運転致死罪の方は,法定刑が既に20年という有期の上限となっておりますが,致傷の方は15年でございますので,ここはまだ議論の余地があるのかなと思っております。 ○西田部会長 御指摘ありがとうございました。その点も含めて,法定刑は道交法の改正との絡みで,なお未定の部分がございますけれども,一応加重類型を設けるとすれば,どういう要綱案になるかということを提示していただいて,その適否について更に議論を重ねたいと存じます。   では,本日最後の論点でありますが,7ページ(2)の「ひき逃げ」について,まず,逃げ得と言われる状況への対応,これは非常に被害者団体の方から強く言われたところでありますが,そこで,ひき逃げ一般を対象として加重類型にするか,それともアルコール,薬物など,検査,検知を免れる目的で逃走するという類型に限定するか,あるいはこの両者も含めて,およそこの場合は道交法上の救護義務違反の類型との併合罪ということでも足りるのではないかという御意見もあると思います。 ○山下委員 その前に,石井委員の方でもし分かればということで質問したいんですが,最近の報道で,飲酒量を遡って検出するという方法で有罪判決が出たというのを,新聞報道で,その方法の名前もそこに書いてあったと思うんです。つまり,事故後に逃げて,後から出頭してきたけれども,遡って事故当時の飲酒量を計算するという方法があるという話を見聞きしたんですが,そういうのがあるんでしょうか。 ○石井委員 はい。そういうふうなものはございます。1932年,ドイツの法医学者,ウィドマークという方が発案した計算式でございまして,アルコールの摂取量と体重と体内分布係数による算出した血中アルコールから,飲酒後,時間経過によってアルコールが分解され,減少する一定の割合を差し引くことによって,血中アルコール濃度を推定するという,ある程度確立されたやり方がございます。ただし,これはある程度幅を持っての推定になりますので,うまく基準値に入っていると立証はできるんですが。 ○山下委員 報道では,何かそれが2件目の事例だと書いてありまして,それがもっと活発といいますか,活用されて,逃げても捕まりますよというか,逃げてもきちんと有罪になりますよということが確立すれば,こういう例は減ると思うので,まずそういうものがあるということを前提に考えたいと思います。 ○西田部会長 山下委員,御意見はいかがですか。 ○山下委員 前回お話ししたんですけれども,ひき逃げのケースについては,併合罪加重で処断刑が15年以下の懲役・禁錮ということで,それでも,まだ不十分なほど軽いということになるのかどうかですね。もちろん,危険運転致死傷罪を適用した場合と比べればもちろん軽いんですけれども,これは立証ができないということで適用されていないわけです。前回も少し議論がありましたけれども,事後的な,すなわち犯罪行為の後に行われた,しかも自分自身の刑事事件に関する証拠の隠滅的な行為なので,期待可能性がないと考えられます。しかも,いろいろな理由があって逃げていることもありますので,検知を妨げる目的でということが本当に立証できるのかということもあろうかと思いますので,私は,今回,ここを立法で解決するというのは難しいのではないかと考えております。 ○橋爪幹事 この問題ですが,まずは議論の方向について申し上げたいと存じます。まず,ひき逃げ一般について刑を加重すべきかという問題があるかと存じますが,結論から申しますと,そのような必要性は乏しいと思います。現行法でも,道路交通法の救護義務違反罪では10年以下の懲役が規定されておりますので,ひき逃げ一般について更に刑罰を加重するという議論をすべきではないように思います。飽くまでも,アルコールや薬物の影響の発覚を免れる目的で逃走する行為について,どのような法的評価を下すかという観点に絞って議論すべきであると思います。   刑事実体法でこのような犯罪類型を設ける場合ですが,それがどのような罪質であり,いかなる法益を侵害する犯罪であるかについて,考えてみたいと思いますが,恐らく生命身体に対する危険性を惹起したことに加えて,証拠隠滅的な行動を行うことによって,明らかに重大犯罪に該当し得る状況があるにもかかわらず処罰を免れるということが,処罰の実質的根拠となってくると思います。   こういった議論をしますと,刑法では,証拠隠滅罪は飽くまでも他人の事件に関する隠滅行為に限って処罰しておりますから,自己の犯罪の隠滅行為はおよそ処罰できないという議論も,当然にあり得ると思います。ただ,あえて考えてみますと,道路交通法には呼気検査妨害罪という処罰規定がございますので,自己の罪責を免れようとして証拠隠滅的な行為をすることを,法が常に期待可能性がないとして,放任しているわけではないようにも思われます。例えば,銀行法等の特別法には,検査忌避,検査妨害の罪が多数,規定されております。このような状況に照らせば,自己証拠に関する隠滅的な行為がおよそ処罰を加重する根拠になってはいけない,とまではいえないような気もいたします。   このような観点からは,さらに,明らかに重大犯罪になり得る状況があるにもかかわらず,その処罰を免れる目的で一定の証拠隠滅的な行為をするということにどのような意味があるのか,という問題について,更に分析,検討する余地はあるように思います。 ○西田部会長 ひき逃げ一般ではなくて,呼気検査等を免れる目的の場合に限定して考えてみてはどうかという,そういう御意見でしたけれども,ほかに御意見ございますか。 ○栃木委員 ちょっと不勉強でよく分からないんですが,呼気検査妨害罪の場合は,新たな交通の危険を発生させるおそれがあるから,ひょっとしたら呼気検査を強要できるのであって,それを妨害した場合にこういう妨害罪が成立するのではないでしょうか。自己の証拠隠滅行為であっても処罰するとかという,そういう趣旨は入っているんでしょうか。ちょっとそこのところ,不勉強でよく分からないんですけれども。 ○橋爪幹事 私のほうが不勉強な発言をしてしまい,大変恐縮なのですが,確かに呼気検査妨害罪が証拠隠滅の特別類型という議論はされてはいないとは存じますが,少なくとも自己に不利益な状況を隠蔽することが処罰されているという意味におきましては,そのような性質が全くないわけでもないのかなと思いまして,今のような発言をさせていただいた次第でございます。私の誤解であれば,もちろん撤回させていただきます。 ○栃木委員 法律を適用する者にとって,自己負罪拒否特権がありますので,それとの関係でそういう説明をしているのかなとちょっと疑問に思いまして,不勉強なものですから。 ○西田部会長 救護義務違反と同時に,報告義務違反自体も,大法廷判決が幾つも出ているわけですから。 ○栃木委員 それは別の法益保護のためだと思うんですけれども。 ○西田部会長 その延長で考えるか,それとも質的に異なると考えるかということになろうかと思いますが,そういう限定ではなくて,むしろひき逃げ一般を加重して,救護義務違反との関係を整理すべきだという御意見はございませんか。 ○井田委員 私自身も何か頭の中に案があるわけではないのですが,被害者団体の方々の御意見をお聞きしていると,事故後の逃走行為をきちんと処罰してほしいという御意見が強かったと思います。正攻法として見たとき,事故が生じた後の逃走行為にどういう法的評価が加えられるかと考えると,一つは,単なる事故ではない,重大な事故であったとすれば,被害者保護の見地から負傷者を助けなければいけないという側面もあります。もちろん,それは事故報告義務や救護義務違反でカバーされているという面はあるのですが。二つ目として,事故が起こってしまった後,今,交通現場自体をきちっと元に戻さなければいけないという要請もあるにもかかわらず,そのままに放置してしまうことの持つ危険性も考慮されなければならない。そしてさらに三つ目として,先ほど橋爪幹事がおっしゃったような形で,重大な事故を隠蔽するというような形で逃げることの持つ公益侵害の側面。そういう複数の法益を考えて,何らかの犯罪類型を考えられないかということ自体を,積極的に考えてみる必要があると考えます。 ○西田部会長 ありがとうございました。 ○井上幹事 呼気検査拒否罪の関係,今,橋爪先生から言及がございましたが,道路交通法の67条3項で定められておりまして,これについては,その者が車両等を運転するおそれがあると認められるときということで,今後の継続的な運転行為があると認められるときに呼気検査をすることができ,それに従わなかったことに対して罰則が掛かっているということでございますので,これまで行っていた行為についてということではございませんで,そういう意味では,今までの状態についての検査を拒否した場合には,令状を取って採血するというような時間を要する,若干手間を要するような行為を採らざるを得ない場合もございます。 ○西田部会長 ありがとうございました。井田委員のような御意見も踏まえて,今日はなかなかこの点について…… ○山下委員 先ほどから被害者団体の意見という話が何度も出ておりますが,もちろんそういう意見があることは理解できるんですけれども,実際,このひき逃げ事例というのは,刑法の世界では保護責任者遺棄罪とか,遺棄致死罪とか,不作為の殺人罪とか,それとも併せて議論されているところでありまして,悪質な事例とか,そういう場合ですと,不作為の殺人とか,保護責任者遺棄致死罪とか,それらの併合罪ということも考えられるところで,自動車運転過失致死傷罪と道路交通法違反だけで議論しているのは,そういう議論が抜けているのではないかと思います。いろいろな事案に応じて,適切な処罰をすべきことは確かなんですけれども,一般的にひき逃げということで何か新しい類型を作るというのは,先ほどから言っている事後行為,犯罪の事後行為ですから,それを犯罪として捉えるというのは,法理論的に無理があるのではないかと,そのように思います。 ○西田部会長 そうすると,何か具体的な場合に限定すればいいという御意見ですか。 ○山下委員 そうではないんですけれども,余りにも類型が想定できないというか,現在,現行法を使って適切に処罰されているのではないかと。あとは情状の問題というか,量刑の問題だと思います。 ○木村委員 すみません,全く理論的なことではなくて申し訳ないんですけれども,ほかの例えば保護責任者遺棄等で対応できるのではないかというお話なんですが,このような逃げ得を狙ったひき逃げはかなり類型としてもう固まったものとしてありますよね。かなり多く見られるという事象であれば,それはそれなりに,特別なものとして対応する必要はあると思います。ですので,確かに井田先生がおっしゃるとおりで,工夫しなければいけない部分は多いと思うんですけれども,何らかの,やはりかなり特定の問題が生じてしまっているので,それに対する対応というのは必要ではないかと思います。 ○井田委員 ちなみに,ドイツ刑法は事故後逃走罪という規定を持っています。142条であったかと思いますが,その規定などは,事故の重さにかかわらず,事故後逃げてしまうこと自体を処罰の対象としており,3年以下の自由刑を科しています。その種の規定を刑法典の中に設けることは,考えられないことではないと思います。 ○塩見委員 ちょっと違った観点から確認なんですけれども,先ほどからの,アルコールを摂取した上での運転について中間類型を作るという話で,運転困難な状態になるおそれの認識が要らないという立場を採った場合には,ひき逃げで逃走して,血中アルコール濃度等をごまかした,認識について立証ができないという場合を,そちらで拾うというか,中間類型の作り方にもよりますけれども,そういうことはあり得るんでしょうか。それとも無理があるんですか。 ○上冨幹事 もちろん,中間類型の作り方による面はあると思いますが,現在検討されている中で,少なくとも客観的な事情としては,正常運転が困難な状態に陥ったことということをもし要件とするならば,現場を逃走した結果,その客観的な事実自体が立証できなくなるという場合はあり得るのだろうと思います。したがって,作り方によりますけれども,中間類型を設けたから全ての問題が常に解決するかというと,必ずしもそうではないという関係になろうかと思います。 ○塩見委員 考え方としましては,この新しい類型というのは,飽くまで危険運転致死傷罪が本来なら適用されそうな類型を前提に逃げた場合を捉えようとするのか,より広い事情のもとで現場から逃げた場合の加重類型を作る,そちらの方に重点があるのか,基本的な方向を教えていただければと思います。 ○西田部会長 恐らく後者なんだろうと思いますが。   いろいろな御意見が出まして,現行法で賄い得るという御意見,それから一般的に現場逃走罪,事故後逃走罪のような形で加重類型を設けてもいいのではないかという御意見,その中間に飲酒,薬物等の検査を免れる目的で行われたときに限定して設けることも考えられるのではないかという御意見が出ました。設けないという案は,もうこれは作る必要はございませんので,一般的に設ける場合,どういう文案が考えられるか。目的犯的に構成する場合にどういう要綱案が考えられるか。これは事務局のほうで検討していただいてよろしいでしょうか。いかがですか。 ○上冨幹事 はい。 ○西田部会長 まだ時間がございますが,一応これで一通り御議論が出ましたけれども,なお遡ってこの点について補足したいという御意見がございましたら,どなたか。よろしゅうございますか。 ○武内委員 議論ではないんですけれども,資料としてちょっとお願いしたいと思いまして,先ほど事務局から御紹介をいただきました,検察官の書かれた論稿ですね。もしよろしければ是非拝読したいと思いますので,御提供いただければ有り難いと思います。   併せて,先ほど来の議論で出ておりましたドイツ刑法での事故後逃走罪というものの構成要件の立て方,是非知りたいと思いますので,資料の提供をお願いいたします。 ○西田部会長 それは事務局で対応していただきたいと思います。   ほかにございませんか。   それでは,今日の議論については議事録で公開することに差し支えのあるようなことはなかったと思いますので,発言者名を明らかにして議事録に載せたいと存じます。   今年は今回で最後でございまして,次回は来年でございますが,次回の予定について,事務局から御説明願います。 ○保坂幹事 次回の会議は,来年1月16日水曜日,午後2時から午後5時頃までを予定しておりまして,場所は東京地検3階の会議室を押さえております。 ○西田部会長 では,そういうことでございます。 ○山下委員 先ほどから要綱案の話が出ていますけれども,できれば事前にというか,直前ではなく,ちょっと少しぐらい前に頂いて,検討した上で次回の会議をした方が,皆さんよろしいと思いますので,1日前とか2日前ではなく,1週間以上ぐらい前でお願いしたいと思います。大変だと思いますし,年末年始なので申し訳ないですが。 ○西田部会長 そこは事務局もいろいろ御多忙のことと思いますので,可能な限り対応させていただくということで。   では,これにて閉会いたします。 -了-