法制審議会刑事法           (自動車運転に係る死傷事犯関係)部会           第6回会議 議事録 第1 日 時  平成25年1月25日(金)  自 午後1時26分                        至 午後4時10分 第2 場 所  東京地方検察庁会議室 第3 議 題  自動車運転による死傷事犯に対する罰則整備に関する事項について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○保坂幹事 ただいまから法制審議会刑事法(自動車運転に係る死傷事犯関係)部会の第6回会議を開催いたします。部会長,よろしくお願いします。 ○西田部会長 それでは,第6回の会議を開始いたします。   本日は,前回より新たに委員になられました今崎幸彦委員が御出席でありますので,簡単な自己紹介をお願いできればと思います。 ○今崎委員 最高裁判所刑事局長の今崎でございます。1月8日付で刑事局長になりまして,前回からこの会議に参加するべきところでございましたけれども,ちょっと慣れない仕事に就いたショックからか,インフルエンザを患いまして,それで前回は欠席させていただきました。本日はどうぞよろしくお願いいたします。 ○西田部会長 それから,委員の異動でございますが,前回まで御出席でありました警察庁の石井委員の人事異動に伴いまして,新たに警察庁交通局長に就任されました倉田潤さんが委員として御出席でございます。これも簡単に自己紹介をお願いいたします。 ○倉田委員 前任の石井局長の後任でまいりました警察庁の交通局長の倉田でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○西田部会長 ありがとうございました。   本日は,井田委員,それから藤本幹事が御欠席でいらっしゃいます。   本日新たな配布資料がございますので,まず事務局からの御説明をお願いいたします。 ○保坂幹事 配布資料の御説明をさせていただきます。   本日の配布資料といたしましては1点,資料番号23でございます。これは,前回の部会で配布いたしました事務局試案の「四」の罪につきまして,加重した法定刑を加えたというものでございます。「四」の罪の加重した法定刑は,警察庁で御検討中の無免許運転罪の法定刑が3年以下の懲役というふうに引き上げられた場合を想定したものであり,前回の部会の席上で配布させていただいた一覧表でお示ししたものと同じものでございますけれども,現時点でまだペンディングということでPと打ってございます。それ以外は前回お示しをした事務局試案と同じでございます。   次に,席上配布資料について御説明いたします。   前回の部会で配布させていただいたものでございますが,「一」の罪の通行禁止道路として政令で定めるもの,「二」の罪の関係で自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるもの,この関係の資料を,再度,本日の御議論のために席上に配布させていただいております。   それから,社団法人日本精神神経学会と公益社団法人全国精神保健福祉会連合会からの各要望書を席上に配布させていただいております。まず,日本精神神経学会からの要望の内容でございますが,特定の病気と交通事故との関連は医学的に明らかでなく,特定の病名を挙げて罰則の要件とするのは障害者の社会参加や差別解消の観点から不適切であるので,慎重な審議を行ってほしいというものでございます。全国精神保健福祉会連合会からの要望の内容は,特定の疾患名を挙げた罰則とせず,罰則適用について個々の状況を慎重に審議し,適用の可否を判断するよう慎重に審議を行ってほしいというものでございます。詳しくは各要望書を御覧いただければと思います。   資料の説明は以上でございます。 ○西田部会長 ありがとうございました。てんかん協会等からの要望書につきましては,これは十分に参考にすべきものとは存じますが,これは後で特定の病気に関するときにまた御議論いただきたいと思います。この点は前回の辻委員からの御疑問あるいは御提案なども含めて,「二」のところでまた議論したいと思います。   それから,別途,髙見委員から書面で私のところに御意見が来ておりますけれども,これ,皆様のところにも。これは対案ということではないという御趣旨でございますので,それぞれの論点のところで個別に髙見委員から御主張いただいて,御議論させていただくと,そういう扱いでよろしゅうございましょうか。 ○髙見委員 はい。 ○西田部会長 ありがとうございました。   それでは,前回,第1巡目の議論を行いましたので,今日は第2巡目の議論をしたいと存じます。まず,「一」でございますが,「通行禁止道路」,これについて何か事務局から追加の御説明はございますか。 ○保坂幹事 この「一」の罪の関係では特にございません。 ○西田部会長 それでは,この「一」は「通行禁止道路を進行し」となっています。これは現行の刑法第208条の2に追加という形になり,最終的には特別法のほうに移るということになるわけでございますけれども,この通行禁止道路を更に政令で限定すると,そういう作りになっております。政令で定める部分はお手元の資料,「通行禁止道路」,特に標示などの入った資料がお手元にあると存じますが,これらの政令に委ねる部分も含めて御意見ございませんでしょうか。 ○髙橋幹事 「通行禁止道路」に該当するものとして,「追越しのための右側はみ出し通行禁止道路」が挙げられていますが,この点について質問いたします。この道路というのは追越しのために黄色の中央線をはみ出して通行することを禁止しているものであって,例えば,車両が駐車していた,あるいは,障害物があった,あるいは,道路工事中であったという場合に,こういうものを避けるために黄色の中央線をはみ出して通行することは禁止されていないと理解していますが,政令の作り込みの際には,追越し目的ではみ出した場合だけ処罰されるというような形できちんと規定が作られるのかどうかというのが一つ。   それから,更に考えていくと,対向車等からすると,このような道路において,黄色の中央線をはみ出してくる車両があるということは,追越しの場合は駄目なんですけれども,障害物等を避けてはみ出してくるということは予想し得るものなので,例えば,一方通行道路でおよそ反対側から車両が来ることはないだろうと思って進行している場合とは違って,この「追越しのための右側はみ出し通行禁止道路」の進行については,類型的に危険性が高い行為と本当にいえるのか,この点につき,事務局のほうでどう整理されているのかということを確認したいと思います。 ○西田部会長 今の髙橋幹事の御意見,いかがでしょう。ほかに委員,幹事の方からも広過ぎるのではないかという御意見があれば,政令の作り込みのときに考慮していただくということで,この場で何か御発言ありましたら。 ○木村委員 すみません。前回ちょっとお休みしましたので,もしかしたら出た議論かもしれないんですけれども,正に今の点で,追越しのためでは駄目だというのは分かるんですが,例えば自転車なんかも追い越さなければならないということがあるのかもしれないなというふうに思うんですけれども,それも本当は駄目なのかもしれないんですけれども,ものすごくスピードの遅いものがあって,それを追い越さなければならないときにはみ出すというようなことは,どういうような理解をすればいいのかというのもちょっと教えていただければと思います。 ○西田部会長 確かにこれはよく日常的にといいますか,黄色の車線をちょっとはみ出して追い越すというようなことはよくあることなので,ここまで取り込んでいいかどうか,政令の中でそこまで取り込むかどうか,現時点での事務局の御感触はいかがでしょうか。 ○保坂幹事 事務局としては,他の通行者としては,自動車が来ないはずであるという前提で通行しているという意味での類型的危険性の観点から黄色のラインのはみ出し禁止の通行についても,通行禁止道路の対象とするというふうに考えておるところでございましたが,今,頂いた御指摘を踏まえまして,事務局として改めて検討したいというふうに思っているところでございます。 ○西田部会長 それでは,交通の実情に鑑みまして,黄色い車線による追越し禁止道路まで政令の中に含めるかどうか,あるいは含めるとしても解除する場合があるかどうか,これは政令の作り方,作り込みの問題でございますので,次回最終的なお考えを事務局から示していただくということで,今日の御意見を踏まえて政令の在り方は次回に最終的に御報告させていただきます。   このほか,「一」について御意見ございませんでしょうか。 ○髙見委員 それでは,意見を申し上げます。配布していただいたペーパーとほぼ同じようになりますので,御覧いただきながらお聞きいただければと思うんですが,私が思いますのは,赤信号を殊更無視と同じだけの行為の危険性と悪質性があると言えるのかがちょっと分からないので,その点を主観的要件として入れ込むべきではないのか,というのが意見です。   といいますのは,殊更無視の条文の解釈として,「およそ赤色信号に従う意思のないものをいい」という最高裁の決定がありまして,ここに引用しているのはその一部分なんですけれども,ちょっと正確に申し上げますと,「「赤色信号を殊更に無視し」とは,およそ赤色信号に従う意思のないものをいい,赤色信号であることの確定的な認識がない場合であっても,信号の規制自体に従うつもりがないため,その表示を意に介することなく,たとえ赤色信号であったとしても,これを無視する意思で進行する行為もこれに含まれると解すべきである」というのが決定なんですけれども,この決定の意味は,確定的な認識がない場合であってもこの条文に当たるということを言っているという意味合いなのかもしれないんですが,その前提としているのがやはり赤色であるということを知っていて,あえて入ってくるという行為を元々は対象にしているのではないのかなという感じがいたします。   前回この条文が作られたときの議論を私は正確に認識しておりませんので,もし誤解があったらおわびをしないといけないと思うんですけれども,「赤色信号を殊更に無視し」という場合は,黄色から赤色に変わる微妙な場面を除くためだという前回の説明もあったかと思うんですけれども,その場合は交差する歩行者,ぶつけられる被害者側の信号も赤色である可能性もあるわけですね。信号が全赤という場合もあるわけですから,そうしますと,行為の悪質性,危険性という意味においても,そういう場面を排除する趣旨だというふうに読み込むこともできるし,あと,あえて入るという意味で責任非難も重くなるということもあると思うわけです。   前回の事務局からの御説明ですと,通行禁止であるということを標識を見落として途中で対向車のパッシングとかで認識する場合も含まれるという確か御説明だったと思うんですが,そういった場合は特に住宅街の幅員の余りない一方通行道路なんかですと,出るために結局そのまま行かざるを得ない状況にあると思うんです。もちろんもう一つの要件の速度要件がありますから,それでクリアできるはずだということも言い得るのかもしれないんですが,20キロぐらいでももう一個の要件に該当するという決定もあるものですから,必ずしもそれだけで除外できることになるのかが分からないので,ですので,やはり「殊更に無視し」といいますか,こういう通行禁止であることを認識しながら,それを「殊更に無視して進行し」というようなもう一個の要件が入ってこないと,現行の刑法第208条の2の2項の後段の「赤色を殊更無視」と同じような危険性がある行為,あるいは非難可能性がある行為とはちょっと言えないのではないのかなというのが今の私の感覚といいますか,それで申し上げました。 ○西田部会長 分かりました。今の御提案は事務局試案の「一」を,例えば「通行禁止道路であることを知りながら,殊更これを無視して進行し」というような文言に変えてはいかがかという御提案かと存じますが,これも含めまして,あるいは前回のこの刑法第208条の2の新設の際の議論も含めまして,「殊更に」という文言を追加すべきかどうか,これについて事務当局のお考えは。 ○保坂幹事 前回も御説明させていただいたかと思いますが,その「殊更に」という要件を加えたのは,信号機の場合には表示が短時間のうちに変化するということでございます。そして,そこの信号を通過するシーンを考えますと,言わば交差する部分を短時間のうちに通過することが可能なので,したがって,その変わり目に通過しようということがまま生じ得るんだろうと思います。   他方で,通行禁止道路というのを考えますと,通行禁止道路を僅かな時間で通過するということはなく,かつその通行禁止の規制というのが短時間のうちに切り替わるということは,これはおよそないわけでございます。他方,通行禁止道路を通行している他の通行者からすれば,そこに車が来ないはずであるという前提があるわけでございまして,この意味でいいますと,赤信号の場合の全赤みたいな状況,つまり他の通行者にとっても通行が禁止されるというようなシーンというのは,通行禁止道路においては生じないんだろうと思います。   したがいまして,通行禁止道路を,通行が禁止されているという認識を持って進行するという行為と,赤色信号を殊更に無視して進行するという行為は,これは同等の類型的危険性,悪質性があるのだろうと事務当局としては考えているところでございます。 ○西田部会長 事務当局の答弁は以上のとおりですが,委員,幹事の方からなお御意見ございませんでしょうか。 ○島田幹事 最後のところにつきまして,私は「殊更に」という要件は不要だと考えておりますが,重大な交通の危険を生じさせる速度の要件によって処罰範囲を限定する余地がやはりあると思います。これにつきまして,髙見委員のメモには20キロでも該当するという最高裁決定も存在するので,とありましたが,これは飽くまで赤信号の交差点における状況で,場合によっては20キロでも該当し得るということですので,一方通行などでも道路交通の状況によってはもう少し速い速度でも許される場合もあるでしょう。その一方通行の途中で気付いた場合なども重大な危険を生じさせる速度でなく,運転を継続して一方通行道路から出ることは,なお運転手が採り得る対応策として残されていると考えられます。 ○西田部会長 ほかにいかがでしょう。 ○山下委員 この議論は何度もされていますけれども,一方通行の逆走のケースについては,前から話がありましたけれども,深夜に恐らく人が通行していないと思って,近道をしようと思って通行する場合もあるので,やはり一方通行の逆走が直ちに類型的に赤色信号無視と同視できるとは言えないという問題があります。   それから,今の主観面の問題ですけれども,元々この通行禁止道路の進行によってこういう重大な結果が生じる場合というのは,現行法の妨害運転致死傷罪の中の行為でもあったわけで,そこでは「人又は車の通行を妨害する目的」という要件が付け加えられています。これについては,その危険運転致死傷罪新設についての法制審議会刑事法部会の平成13年7月25日の第3回会議の事務当局の説明を見ますと,「目的犯とすることによりまして,その処罰する範囲を極めて危険かつ悪質なものに限定して,より明確にすることができたのではないかと考えております」という説明がなされており,主観面でこの危険運転致死傷罪の成立範囲を限定するということが明確に述べられていたわけです。   ところが,今回全く同じ行為なのに通行禁止道路の進行ということで,そういう主観面,すなわち「人又は車の通行を妨害する目的」という要件もなく,かつ今,髙見委員からも述べられましたが,「殊更に無視」という要件もなく,単に通行禁止道路の進行ということと重大な交通の危険を生じさせる速度で運転しているということで,そのような認識,故意があれば危険運転致死傷罪は成立するというのは,やはりバランスを失しているというふうに言わざるを得ない。妨害運転罪の中からその一部を取り出して主観面を緩和して,同じように重く処罰するというのは,バランスを失しているのであって,やはり今回の通行禁止道路の進行による危険運転致死傷罪というのを拡張するというのは,私はそういう主観面の限定が弱過ぎる,危険運転致死傷罪は本来限定的に解釈すべきであるにもかかわらず,主観面の限定が弱過ぎる,限定がされていない。そして,通行禁止道路を進行しているという認識は,先ほどの深夜の運転のケースを考えてもあるわけですけれども,いや,安全だと思って通行しているということがあり得る,しかし,行為としてはそれでもう十分であり,あとはスピードだけ認識していれば成立するとなりますと,主観的には,自分としては全く問題ないと思って,つまり危険運転だと思っていなくて走行していてもこれに当たるということになってしまうので,やはり主観面の限定がないという点に重大な欠陥があると思います。ですので,私としてはこのような類型を作ること自体について反対せざるを得ないと思っております。 ○西田部会長 山下委員の意見は,この「一」については全面反対ということでよろしゅうございますね。 ○山下委員 はい。 ○西田部会長 それはよく分かりますので,それはそれとして,御意見として承っておきますが,髙見委員の御提案についていかがでしょうか。 ○橋爪幹事 恐らく髙見委員の御懸念は,過失によって誤って一方通行に入ってしまった後,逆走行為の最中に初めて一方通行であることを認識した場合について,処罰範囲が十分に限定できるのかという点にあるかと思います。その点に関係して,間違えて一方通行に侵入した後,一方通行であることに気が付いた場合は,運転者はどのような対応をすべきなのかということについてお伺いしたいと思います。   自動車はそこにあるわけですから,置いて帰るわけにもいかず,いずれにせよ運転をしなければいけないわけですし,場合によっては先ほどの御指摘のように,そのまま一方通行を逆走し続けなければいけないような場合もある気がいたします。まず議論の前提としまして,このような場合には道路交通法上どのような運転行為が要求されているかにつきまして,関係の先生方からお教えいただけますと幸いです。 ○西田部会長 もしよければ。 ○井上幹事 一方通行を逆走し始めた。ところが,当初は標識を見落としておってそういう認識がなかったと。途中で逆走していることにほかの車両が反対からやってくるとか周りの人が注意をするとかで気付いた場合どうするかということでございますが,基本的にはまず安全な方法で停車をしていただくと,左側端に寄って停車をしていただく。その上でどうするかなんですけれども,そのまま進行するとそれは違反行為を認識した上でやるということで,こういった問題ともリンクしてくるし,道路交通法の規定にも違反することになりますので,何らかの方法で一方通行逆走行為をしないでそこから退避していただくと。要は安全な方法で一つはバックをしていただくと。十分後方確認をしていただく,場合によったらほかの方に誘導していただいてバックしていただくか,バックをする余地がない,余地が仮にあれば転回をしていただいて,一方通行規制の順行の方向で戻っていただく,若しくは転回する余地がない場合には後方をよく確認するか誘導していただいてバックしていただく。それのいずれもできない場合というのは,例えばJAFレッカーを呼んでいただいて,そういった業者によって輸送していただく,何らかのいずれかの方法をしていただくというのが道路交通法のルールを守っていただくための方法ではないかと考えております。 ○西田部会長 部会長の権限を逸脱するかもしれませんが,直近の道路までゆるゆると行って,そこでUターンして戻るということはやはり駄目なんですか。緊急避難として許されるとか。 ○井上幹事 正に緊急避難という観点ですとか,実際に道路交通法違反を実際に検挙する場合に,全ての形式的な違反を検挙しておるわけではないと,それは検挙に値するかどうかという観点からはおっしゃるような限界事例は出てこようかと思いますが,ルールに沿って理解した場合には,今御説明申し上げたようなことになるということでございます。 ○西田部会長 よく分かりますので,事務局のほうからはいかがですか。 ○保坂幹事 道路交通法の関係は,今御説明があったとおりなんだろうと思いますが,この「一」の罪との関係で,この罪に当たるかどうかということで言いますと,進行するときに重大な交通の危険を生じさせる速度という要件がございますので,仮にこれに当たらないような極めて低速の最徐行で進行した場合には,少なくともこの罪との関係ではその要件を満たさないということになろうかと思います。 ○西田部会長 私も危険運転致死傷罪の創設のときの委員を務めたものでございますので,私の経験から一言だけ申し上げますと,やはり「殊更に」というのが入りましたのは事務局からも御説明ありましたように,黄色が赤に変わりそうなときに交差点に入ったような人まで,途中で赤に変わったからといってこれに当たるというのはやはり行き過ぎであろうと。それから,交差点には数秒間かもうちょっと長いですか,全部の信号が赤になるといういわゆるクリアランスタイムというのが設けられております。そういういろいろな事情を勘案しますと,単に赤信号を無視したというのでは,少し広過ぎるという御提案が強くて,それではそういう場合を除くという趣旨で「殊更に」というのを入れようということで決まったという経緯がございます。   それと比較した場合に,この「通行禁止道路」がどうかということですが,先ほど事務局からも御説明がありましたとおり,「通行禁止道路」についてはそういうある意味不安定な時間帯というものは存在しない,「通行禁止道路」は常に「通行禁止道路」であって,黄色から赤に変わるというような,そういうペンディングな状況というのはないと,それが一つ。あとは故意としてどういうものを認識するかという部分を明確にしていけば足りるのではないかと,そういう御答弁になろうかと思うんですけれども,更に髙見委員,何かございますでしょうか。 ○髙見委員 私はその立法過程といいますか,部会に参加していなかったもので理解がちょっと間違っていたのかもしれないんですけれども,ただ,一旦できた条文をどう解釈していくのかということはまた一つ別の問題でもありまして,このとても重い法定刑に当てはまる行為なのかどうかというときに,捜査当局としてもちょっとこれで起訴するのはどうかなというような気持ちが働くのかも知れないのですが,「殊更に無視」という要件が違う意味合いを持たされていると言ったら変なんですけれども,こいつは許せないではないかといいますか,ひどいではないかという悪質性が高いという行為であることを基礎付ける要件のように解釈されつつあるのではないかなと思うのです。解説書なんかもちょっと見ますと,そういうような趣旨で解説をしている本も結構ございまして,例えばパトカーに追い掛けられているから,赤であろうと青であろうとも,とにかく信号に従う意思は全くなくてとか,暴走族が集団で暴走行為をするとかいうことがこれに当たるんだと,そういうような解釈をしている解説本もあるので,ちょっと違うのではないかなと,今ちょっとうまく言えませんが,そういう感覚がございます。 ○西田部会長 ほかに今の髙見委員の意見に賛成あるいは必要ない,いずれでも結構ですが,御意見ございますでしょうか。   ございませんようでしたら,今の髙見委員の御意見も踏まえまして,次回最終的な要綱骨子案を作成する際に,場合によってはその点を争点として採決するということになるかもしれませんけれども,今日の時点では,「一」についてはこの程度にさせていただきたいと思います。どうぞ。 ○井上幹事 この事務局の試案の「一」について修文なりを求めるというものではございませんが,実際にこれに基づいて法律となっていった場合に,現場の捜査を預かる立場として1点申し上げておきたいことがございます。   赤信号を殊更無視の類型の危険運転致死傷罪の捜査におきましては,例えば複数の赤信号を連続して無視して進行した状況ですとか,信号待ちをしているほかの車の横脇をすり抜けて交差点に進入した状況を,例えばその道路の脇にある防犯ビデオの映像等で立証するなどして,その被疑者の故意を立証するというようなことを行っておるわけでございますけれども,これは若干以前も石井のほうから申し上げましたけれども,この類型においては,やはり信号機よりもはるかに視認性の劣る道路標識,標示について例えば仮に被疑者が見落とした,気が付かなかったというような抗弁,主張を行った場合,現に名古屋市におけるブラジル人による死亡ひき逃げ事件においても,被疑者は一方通行であることに気付かなかったと主張しておるところでございますけれども,仮にそういう場合には先ほど申し上げたような赤信号の殊更無視の類型のように,抗弁,主張を覆す客観的な事実を収集できる場合ももちろん例外的にあるかもしれませんけれども,かなり困難なのではないかなというふうに我々は考えておりまして,例えば生活圏内,その被疑者といいますか通行者がいつも通行しておる道路であるというような事情で,日頃からそういうことをよく分かっておられる方がその道路を進行しておられるような,何らか特別な事情で急いでいるから,分かっていたけれども,そこを通ったんですよというような,そういう特別な事情が認定できるような場合は格別,それ以外の場合には立件にはそれなりの困難が伴うのではないかと私どもとしては考えておるということはここで申し上げておきたいと思います。 ○西田部会長 その点は承っておきますが,何か事務局からコメントありますか。よろしいですか。   それでは,次に,「二」について事務局から御説明を願います。 ○保坂幹事 「二」の罪の要件としております「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」という要件につきまして,前回の御説明を敷衍しまして補足説明をさせていただきたいと思います。   この「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」といいますのは,前回も御説明しましたが,自動車を運転するのに必要な注意力や判断能力あるいは操作能力がそうでないときの状態と比べて相当程度減退している危険性がある,こういう状態を言いますけれども,この状態としましては,言わば支障が生じつつある,あるいは生じているという場合と,将来の走行中に支障が生じるおそれがある場合というのがありまして,いずれをも含むものというふうに考えております。その上でアルコール,薬物,政令で定める病気,それぞれの影響の関係でこの「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」に関して御説明をさせていただきたいと思います。   まず,アルコールの影響による場合の関係でございますけれども,身体に酒気帯び運転罪に該当する程度のアルコールを保有していれば,通常,自動車を運転するのに必要な注意力等が相当程度減退し,あるいは減退しつつあって危険性がある状態にあると思われますので,「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」にあるということになりますし,その程度のアルコールを保有した状態の認識があれば,「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」の故意があるということになります。運転開始当初に酔いがいまだ回っていない場合でありましても,身体に酒気帯び運転罪に該当する程度のアルコールを保有していれば,通常は,いずれその影響で今申し上げたような危険性がある状態になり得る具体的なおそれがあり,その「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」にあることになりますから,その程度のアルコールを保有した状態の認識があれば,この「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」の故意があるということになろうかと思います。   他方で,酒気帯び運転罪に該当する程度に満たないアルコールを保有するにとどまる場合でございましても,例えばアルコールの影響を受けやすい体質であるという事実があるときには,「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」となる場合がありまして,その程度のアルコールを保有している状態でも危険性があるという認識があれば,「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」の故意があるということになろうと考えております。   また,酒気帯び運転罪に該当する程度に満たないアルコールを保有するにとどまる場合で,アルコールの影響に加えて過労や薬物等ほかの要因も影響して「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」となる場合もありますが,アルコールのあいまった影響によることの認識がないという場合には,「アルコールの影響により」「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」の故意に欠けるということになろうと考えております。   次に,薬物の影響による場合について御説明いたします。   薬物の場合,その薬理作用やその発現時間,発現の仕方が様々でございますので,運転開始当初から薬理作用が発現しているあるいは発現しつつあるという場合と,運転開始当初には薬理作用がいまだ発現していないという場合があると考えられます。まず,運転開始当初から薬理作用が発現しているあるいは発現しつつある場合で,自動車を運転するのに必要な注意力や判断力,操作能力が相当程度減退していて,あるいは減退しつつあって危険性がある状態にあれば,「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」にあることになります。その故意についてもそのような認識があれば,「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」の故意があるということになります。   また,運転開始当初には薬理作用がまだ発現していないという場合でも,将来の走行中に先ほど申し上げたような危険性がある状態になり得る具体的なおそれがあれば,「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」にあることになりますし,そのような具体的なおそれの認識があれば,「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」の故意があるということになります。   他方で,例えば初めて服用する薬物で,その薬理作用について未必的な認識すらないという場合には,客観的には「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」であったとしても,それに対応する故意に欠けるということがあり得ると考えられるところでございます。   次に,政令で定める病気の影響の場合について御説明をいたします。   政令で定める病気でございますが,その症状や症状の発現の仕方は様々でございまして,運転開始当初から症状が発現しているあるいは発現しつつある場合と,運転開始当初には症状が発現していないという場合が考えられます。   まず,運転開始当初から症状が発現しているあるいは発現しつつある場合で,自動車を運転するのに必要な注意力,判断力,操作能力が相当程度減退してあるいは減退しつつあって危険性がある状態にあれば,「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」にあることになりますし,そのような認識があれば,その故意があるということになります。また,運転開始当初には症状が発現していない場合でありましても,将来の走行中に危険性がある状態になり得る具体的なおそれがあれば,「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」にあることになりますし,そのような具体的なおそれの認識があれば,正常な運転に支障が生じるおそれがある状態の故意があるということになります。   他方で,例えば初めて発作が生じた場合ですとか,発作により意識障害や運動障害をもたらす病気の方が医師から薬を服用すればその発作を抑えることができると診断されて,その薬を正しく服用していたにもかかわらず発作が起きたという場合には,客観的には「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」でありましても,本人にとってはその認識がないことから「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」の故意に欠けることになろうかと思われますし,また,薬を服用しないと発作が起きる状況にあるにもかかわらず,その発作を抑える薬を服用し忘れて発作が生じたという場合には,客観的には「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」でございましても,服用していないことを認識していないという場合には,その「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」の故意に欠けるということになろうかと思います。   「二」の罪の関係の説明は以上でございます。 ○西田部会長 ありがとうございました。   一般の御質問に移る前に,まず,私宛てに日本精神神経学会あるいは全国精神保健福祉会連合会あるいは日本てんかん協会から,このてんかんという病名を法文に使うことは差別を助長するおそれがあるので,慎重にしていただきたい旨の要望書がまいっております。この点よく要望の趣旨は理解できるのでありますけれども,この事務局試案にございますように,「病気として政令で定めるもの」というふうな規定ぶりにしました場合には,現在の道路交通法施行令にも出ておりますように,政令の中で全く病名に触れないということは,これは立法技術としてはとても不可能と言わざるを得ませんので,てんかんその他病名に一切触れずに政令を作るということは無理であると言わざるを得ないというふうに部会長としては考えております。しかし,これは政令マターでございますし,また事務局のお考えもあろうかと思いますが,事務局にもそういう方向で動いていただくというつもりでございます。   第2点は,前回,辻委員からこの病気のうちでも一定の症状を示すものという限定を付してほしい,あるいは付したほうがいいのではないかという御意見がございました。この点について辻委員,何か。 ○辻委員 その前に,この日本精神神経学会の要望は,てんかんだけではなくて,統合失調症とか躁うつ病とかの,精神疾患に対する要望だと思います。 ○西田部会長 いずれにしても,病名を全く出さないということは…… ○辻委員 それは理解しておりますし,医療の現場におるものとしても病名を書かざるを得ないというのはよく分かります。というのは,最近いろいろな人とディスカッションして私も気付きましたが,道路交通法施行令は,病名,症状名,中毒者などいろいろなものが混在しています。だから,それらを全部病気名にしたら,何十という病名を挙げなくちゃいけないということで,あのような記載にならざるを得ないというのはよく分かりますが,やはり病気名の記載は差別を助長するので,一定の症状というのを付けていただきたいという強い希望です。例えばてんかんの患者さんでは,7割は寛解,すなわちてんかん発作が全くなくなるわけです。だから,2,3割の人が難治てんかんということで,運転免許を取れないだろうという立場です。従って,大部分のてんかん患者は免許を保持できます。同じように統合失調症や躁うつ病でも大部分の人は免許を持てる,そういう状況なので,病名だけを出すと患者さんへの差別,病気による差別ということを危惧します。   それともう一つ気になりますのは,政令のこの今日の席上配布にあります「自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気」についてで,これは道路交通法の資料の次のページで,ここに対象としないということになっているのでよろしいんですけれども,アルコール等の中毒者というのは,これは依存症のことです。今日審議されている薬物とかアルコールは急性中毒の話であり全く対象が違うことになりますので,薬物に関しても道路交通法とは違う内容になってしまっているということで,非常に混乱が起こる可能性があるのではないかなと思います。   それと,髙見委員から今日席上配布していただきました書面の内容は,私もこのとおりだと思いまして,てんかんで2年以上発作がなくて正規に免許を持っている人は危険運転にならないと思いますし,てんかんなどの病気とアルコールや薬物は別の対象にすべきです。警察庁の検討会でも同様な議論をして別のものと一般的に考えるということで決着がついているように思いますので,よろしくお願いいたします。 ○西田部会長 では,関連しまして髙見委員,御意見を。 ○髙見委員 私も今の事務当局の御説明ですと,きちんと薬を飲んでおられた方は故意の部分で除外できるという御説明だったとは理解するんですけれども,ただ,あの条文だけを見ますと,未必的な認識の場合でも含まれる条文になっていますし,きちんと薬を飲んでおられるけれども,もしかしたらそういうこともあり得るかもしれない,でも大丈夫だろうと思って,でも実際にほかの過労とか精神的な何かともあいまって発作が出てしまって,不幸にも事故を引き起こすということがないとは思わないんですね。その場合に,明確にそういうものは大丈夫だよということを明示しておくことが大事ではないかなと思うものですから,「ただし,きちんと法による条件を満たした上で運転免許を適正に取得した者の行為についてはこの限りではない」というような文言を入れるべきではないのかなと思っています。   あと,条文は別にすべきだというのは,やはり本人の意思でアルコールを飲んだり薬物を飲んだりしている人と,御自分に責任のない病気の方はやはり違う条文で規定すべきであろうというふうに思っております。 ○西田部会長 この点について事務局から何か。 ○保坂幹事 辻委員御指摘の病気の症状という部分を法律のほうに書き込むべきだという御意見は理解をしており,検討はしております。他方で,事務当局からお示しをしている案におきましても,政令の中で,運転免許の欠格事由を参考にして,症状が要件とされているものは症状を特定していく,あるいは除くものは除くということで考えているところでございます。これを法律のほうに書けるのかどうかというのはかなり技術的な問題もございます。   次に,髙見委員が御指摘のアルコール・薬物と病気の関係を同じ要件だとしても別の条項にすべきではないかという御指摘でございますが,同じ要件を満たす以上は同じような当罰性があり,構成要件が同一なので同一の条項に事務局試案では書いております。この点については,条文化をするときに同じ要件のままで項あるいは条を分けるということが相当かどうかは立法技術上の観点も含めて検討することとはしたいとは思います。   そして,髙見委員の御指摘で,「二」の罪の関係で法による条件を満たした上で運転免許を適正に取得したものはこの限りではないというのを加えるべきではないかという御提案もございましたが,先ほど髙見委員もおっしゃいましたように,医師から発作が起きるおそれがないという説明を受けていて,服薬によって発作が抑えられるという説明を受けていて,運転者のほうもそのことによって発作の起きるおそれがないというふうに考えていたにもかかわらず,それこそ不幸にも発作が起きたという場合については,そもそも「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」の認識がないということがありますので,故意に欠けますから,この罪の成立はしないということなんだろうと思います。   その上で,運転免許を適正に取得したかどうかをその基準とすることとしますと,運転免許は適正には取得できたものの,例えばその後に病気に罹患して症状が悪化していった場合が考えられますけれども,その上で行為者のほうに,罹患をし,症状が悪化したというふうな認識があるのであれば,運転免許取得時にそういう状態になかったとしても,運転行為時の危険性としては違いはないんだろうということで考えております。その取得時にどうだったかということになりますと,その前に病気に罹患しておられたかどうか,免許取得後に病気に罹患したかどうか,この罪の成否が,それだけで直ちに左右されるということになりますと,運転時の危険性に着目をしてこの本罪を設けるということと整合しないのではないかと思っております。したがいまして,その御提案のような文言を加えることは,事務当局としては適切ではないのではないかと思います。   他方で,先ほど申し上げたように,認識が欠ける場合というのは,この要件におきましてもあるということでございますので,事務当局としては,その文言の追加は必要ないというふうに思っております。 ○西田部会長 辻委員の御意見に対しては,これは政令段階で可能な限り考慮するという御意見だと思いますが。 ○岩尾委員 すみません,別の話でよろしいでしょうか。辻委員に1点教えていただければと思うのでございますが,道路交通法施行令の対象でありながら,今回新しく病気類型としては取り込まないものとしてアルコール・薬物の中毒者がありますが,これらについては,先ほど,いわゆる依存症だと御説明いただきました。そういう人たちも当然依存症であるがゆえにアルコールや薬物に手を出しやすいと。そうした場合には,やはり同様に急性の中毒症的な影響によって事故が起こりやすいということで,もうこれはあえて取り上げる必要はないんだろうという判断をしているわけでございますが,慢性の依存症がゆえに急性の中毒とは違うような形で何か運転に支障が生じるような事態というのがあり得るのでしょうか。 ○辻委員 それもあり得ると思います。慢性で依存であっても,また多量に服用する可能性はあり,そのときには症状は急性に強く出る可能性があります。 ○岩尾委員 その慢性の人がまた新たにアルコールなり薬物を摂取して急性的な症状が出る場合は,多分病気類型としては政令に上げなくても,アルコールないし薬物類型としてこの「二」の罪で処罰することはできるんですが,そういった急性症状とは違う慢性のこういった依存症を持っているだけで何か危険な症状というのは,生じることはないという理解でよろしいでしょうかということなんですが。 ○辻委員 それは依存症の程度によると思います。ひどければ高次脳機能低下を起こすとか認知や判断力の障害というのは起こってきますので。 ○岩尾委員 分かりました。どうもありがとうございます。 ○辻委員 これも警察庁の会議でも議論しましたが,覚せい剤等の薬物中毒は,違法薬物による中毒者として,別の法律で対処できるからということで終わったように思います。別に道路交通法で処罰しなくて,ほかの法律でやれるから,あえて取り上げないという話になったように思いますけれども,井上幹事,いかがでしたか。よく覚えておりませんが。   それと,保坂幹事の御説明,納得しましたが,一つだけ,発作が一回だけのうんぬんが出ましたが,例えばてんかんの場合,一回の発作ではてんかんという診断をいたしません。てんかんというのは慢性の疾患であるという大原則がありますので,二回以上発作があって初めててんかんの可能性を考えていくということになりますので,一回の発作では当然危険運転としての処罰の対象にならないということになると思います。 ○西田部会長 ありがとうございました。髙見委員の御意見については,事務局の回答としては,アルコール・薬物と,それから病気の関係を別途に規定する案は現在のところ考えていないということでありました。この点につきまして御意見ございますでしょうか。   では,ほかの点,どうぞ。 ○島田幹事 髙見委員の二つ分けて規定すると案に私も賛成です。病気は自分の意思でかかるものではない点もございますし,病気の場合とアルコール・薬物の影響の場合,現れ方がやや異なる場合が多いというのも1つの理由となり得るかもしれません。アルコール・薬物の影響は正に今感じているということでありますし,病気はいつ発現するか分からないけれども,発現したら大変なことになるといったような場合が考えられますので,若干解釈が異なるというか,若干解釈に幅を持たせるような余地を認めるという観点からも,二つ分けるというアイデアが十分考えられるのかなと思いました。もちろん文言が同じなのに書き分けることが,立法技術的に可能かといったことはあるかと思いますが,差別的に見えることを避けるように並列的すべきでないという観点と,解釈の幅を持たせるという両方の点から,分けることが望ましいと思っております。 ○西田部会長 その場合は,何か要件に違いが出てくるとか,そこまでの御意見ですか。 ○島田幹事 支障が生じるおそれという要件は同じでも,具体的判断方法にやや違いが出てくるかもしれません。 ○西田部会長 文言としては変わらないけれども,判断方法に違いが出てくると。分かりました。   ほかに御意見ございますか。 ○髙橋幹事 事務局から冒頭説明していただいたことについて確認を含めて質問させていただきたいと思います。アルコール,薬物,病気につきそれぞれ質問したいことがありますが,まずアルコールの関係から質問いたします。この案で言う「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」というものをどういう形で立証するのかと考えた場合,ここで言う状態というのは,先ほどの説明ですと,自動車を運転するのに必要な注意力だとか判断能力,操作能力が相当程度減退して危険性のある状態をいい,そういう状態というのは,通常で言えば酒気帯び運転罪に該当する程度のアルコールを保有する状態を指すと。では,実際の事件で立証をする場合に,そういった程度のアルコール濃度が検出されたということを立証すれば足りるとお考えなのか,いやいや,そうはいっても注意力,判断能力,操作能力の減退という以上,例えば運転開始時にふらついていた,あるいはふらつく可能性があるような状態であったとかそういうところまで立証が必要なのかどうか。認識についても,自分がどういう状態だったかというような具体的な認識まで必要とするのか,それともそこまでは要らずに,例えば,酒気帯び運転に値する程度の酒を飲んでしまった,つまり,ビールで中ジョッキ3杯ぐらいを飲んだという認識があれば立証は足りるのか,その辺り,実際の法適用の場面での立証についてどうお考えになっているのかお聞かせ願えますか。 ○上冨幹事 まず,1点目でございますけれども,今御質問の中にもありましたように,「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」というのは,先ほど保坂のほうから御説明したような趣旨でございます。具体的には,アルコールの影響の場合について申し上げれば,身体に酒気帯び運転罪に該当する程度のアルコールを保有していれば,このようなおそれがある状態と言えるのだろうというふうに思っております。そして,立証の問題として事故後に行われた被疑者,被告人の呼気検査におきまして,呼気1リットル当たり0.15ミリグラム以上のアルコールが検出されたという事実があれば,その事故後の検出結果によって事故時のアルコール保有量がそれ以上であったというふうに認められるのであれば,通常はそのことによって「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」にあったと認定してよいのではないかというふうに考えております。   次に,認識の問題でございますけれども,今のようにおそれの内実を理解した上での問題ですが,この場合の「支障を生じるおそれがある状態」に関する故意については,アルコールの影響による場合について申し上げれば,具体的には通常の一般人を基準とした認識として,自動車を運転するのに必要な先ほど申し上げたような意味で注意力,判断能力あるいは操作能力がそうでないときの状態に比べて相当程度減退する程度,すなわち酒気帯び運転罪に該当する程度のアルコールを身体に保有していることの認識があれば足りると思っております。   お尋ねの例で申し上げれば,運転前にビールの中ジョッキを2,3杯飲んだという事実があって,そのことを認識していれば,通常の一般人を基準とした認識としては,先ほど申し上げたような意味で酒気帯び運転に該当する程度のアルコールを身体に保有しているという認識はあるというふうに認めて差し支えなく,したがって,先ほどのおそれとの関係で申し上げれば,「おそれがある状態」の認識もあるというふうに考えてよいのではないかというふうに思っております。 ○西田部会長 髙橋幹事,いかがですか。よろしいですか。 ○髙橋幹事 先ほど御説明があったと思うんですが,では,呼気1リットル当たり0.15ミリグラム以上のアルコールは検出されなかったと想定して,ただ過労もあいまって,最終的に眠ってしまって事故を起こしてしまったというような場合でも,この「二」の類型に当たるのか,あるいは先ほどのお話だと,何かどこかで故意が欠けるようなお話もあったような気がしたんですけれども,具体的にはどのように当てはめをしていけばよろしいんでしょうか。 ○保坂幹事 先ほど申し上げたところでございますけれども,もう一度言いますと,今おっしゃったような呼気1リットル当たり0.15ミリグラムに満たない程度のアルコールを保有しているという状態でも,そのアルコールの影響に加えて過労だったりほかの影響もあって,「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」に客観的になることはあるんだろうと思います。その上で,認識の問題として,そのアルコールのあいまった影響によるということの認識がない場合には,「アルコールの影響により」「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」というところの故意に欠けるということがあるということを今御説明したところでございます。 ○西田部会長 髙橋幹事の御質問は,要するに競合事例みたいなものをどう理解したらいいかと。ですから,結局運転に支障が生じたんだけれども,その主たる原因は過労で,副次的な原因としてアルコールがあるような場合もこれに当たるのかと,そういう御質問だと思うんですけれども,これは現行の危険運転致死傷罪も「アルコール又は薬物の影響により」と書いてあるので,全く同じ問題はあるわけですけれども,それが一ランク下がったときに,更にその問題が顕在化するのではないかと,そういう御質問だと思いますので,そういう御質問として事務当局からもう一度お願いします。 ○上冨幹事 今,部会長のほうから御説明があったとおりだと基本的に理解しておりまして,現行の危険運転致死傷罪について,競合した場合にアルコールの影響のみでそのような状態に陥ったことが必ずしも必要とされないのと同様に,中間類型についても,原因が競合した場合であっても罪が成立することはあり得るのだろうと思っています。   先ほど保坂のほうから申し上げたのは,むしろ逆の場合についてでありまして,客観的には競合しているけれども,アルコールの影響そのものを行為者が認識していないような場合には,客観的に競合していたとしても故意が欠ける場合があるのではないかということを申し上げたという趣旨だと思います。ですので,競合の場合であっても,アルコールを身体に保有していて,そのアルコールの影響を含めて先ほど申し上げたような意味での能力の減退があるということの認識があれば,それはこの罪に当たり得るということだろうと思っております。 ○橋爪幹事 今の御説明について確認させていただきたいのですが,酒気帯び運転罪に該当する程度の十分な量のアルコールを摂取している場合については,アルコールを摂取していること自体が原則として危険性を根拠づけるので,そのような事実が客観的にあり,その点に関する認識があれば,「正常な運転に支障が生じるおそれ」とそれに関する故意を認定できるのに対して,アルコールの量が十分ではないが,例えば体調不良や過労があいまって運転に支障が生じるおそれがある場合も客観的にはあり得るわけですが,この場合には,アルコールの摂取量に加えて体調不良等の付加的事情が一体となって危険性の内容をなすので,これに関する故意を認定するときについては,例えば今日は疲れているとか風邪を引いているとか,そのような事実についても認識していなければ「支障が生じるおそれ」の認識は認められないという理解でよろしいでしょうか。 ○髙橋幹事 例えば,2日間ぐらい寝ていなくて,結構ふらふらな状態で元々危ないなと,運転しても寝てしまうかもしれないなという状況の下でアルコールを飲んだ場合に,それほどアルコール度数が出るほどは飲んでいなかった。そういう状態でアルコールをある程度飲んでいるという前提で,相当体調も悪いと,かなり酒が効きそうだなというような認識はあったというときにどうなるのかなということなのですが。 ○上冨幹事 御指摘のような場合であれば,この罪の要件に当たり得る場合が当然あり得るだろうと思っています。考え方としては,先ほどの保坂幹事の説明の中にありました通常の人よりも体質からしてアルコールの影響を受けやすい人が,酒気帯び運転に該当する程度に満たないアルコールを保有する場合についての考え方と恐らく同じ考え方になるのではないかと思います。 ○髙橋幹事 今は認識の話だったんですが,これとは別に因果関係の問題で,実際にそれが過労の影響だったのか飲酒の影響だったのか,これは立証する過程でうまく立証できない場合というのもあり得るんですか。これはアルコールに限らず病気の場合とか薬物の場合とかでも,元々非常に疲れていた,寝不足だったというところでアルコールを飲んだり,何か薬を飲んだ,あるいは何かの病気があった,そういう場合に元々の過労の影響なのか,それともアルコール・薬物あるいは病気の影響だったというのが判然としないような場合というのもあり得るということでよろしいですかね。 ○上冨幹事 立証の結果として判然としないという場合は当然あり得るだろうと思いますし,立証としてはアルコールの影響によるということの立証は必要なのだろうと思います。 ○山下委員 認識の問題ですけれども,先ほど酒気帯び運転の程度の呼気検査で0.15ミリグラム検出されたという場合に,通常はそういうものを認識して,一般人を基準としてそういうものを認識していれば故意があるという話があったと思うんですね。しかし,基本的にこれは故意犯なので,一般人基準ではなくて,やはり飽くまでその個人の認識だと思うんですね。先ほどの例の逆のパターンを言うと,0.15ミリグラムのお酒は飲んだんだけれども,本来自分はお酒が強いと。ただ,そのとき意識しなかったけれども,過労があったために何かちょっと酒が効いてしまって事故が起きたと,こういう場合には,その認識はない。そういうことがあり得るように思うので,一般人を基準に,酒気帯び運転程度のお酒を飲んでいることの認識があれば,この故意があるというのは言い過ぎで,やはりそれは個人の状況といいますか,そのときのその個人の認識ですね。   先ほど言われた将来の予測についてですね,現にもうお酒の影響がある場合にはもちろん問題ないんですけれども,将来の予測については,先ほどから具体的な認識という言葉が何度も言われてはいるんですけれども,所詮将来の認識ですから,非常にそこは微妙だと思うんですね。その上で今言ったように,自分はお酒に強くて,通常であれば酒気帯び運転に当たる程度のお酒を飲んでいたとしても十分運転をきちんとできる。しかし,たまたま過労があって,しかも,過労を全く認識しないで運転しているうちにお酒が効いてしまって事故に至ったということはあり得るので,そういう場合にも故意があるとは言い難いのではないかと思うんですが,その点はいかがでしょうか。 ○岩尾委員 ここで要件としているのは,客観的な状態として走行中に「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」でということで,それはある程度一般化できるのであろうと思いますし,その客観的な状態について認識しているかどうかということを判断するときには,その本人に「支障が生じるおそれがある」という評価まできちんと認識していることを求めるわけではなくて,そういった評価の基礎となり得る事実,すなわちこの程度のアルコール量を飲んでいるというような事実で通常は十分認識を認定することができるのではないかというふうに考えているところでございます。 ○山下委員 ちょっと今の点ですが,やはり前提事実としてもちろんお酒を飲んでいると,どれぐらい飲んでいるという認識は当然あるわけですけれども,通常自分はお酒に強くて全く運転に支障がないと思っている人がいて,正に客観的にもそういう事故を起こしたことは全くない人がたまたま過労の影響でお酒が効いてということはあり得ると思うので,そういう場合に,客観的なことを認識していれば当然故意も既にあるとされるとしても,おそれのある状態を認識していないといけないという故意なので,評価の前提となる事実を認識すればよいとはいえ,そこにそういうことも入ってくるのではないかなと思うんですが。 ○西田部会長 議論は尽きませんが,それはこれが立法化されたときの解釈論の参考ということで,基本的にこの文言自体を動かすものではないと思います。そろそろ時間でございますので,ちょっとまとめさせて…… ○山下委員 違う点もちょっとお聞きしたいんですけれども。 ○西田部会長 いや,もうこれは…… ○山下委員 病気の点をちょっと1点。 ○西田部会長 では,その点だけどうぞ。 ○山下委員 今回,「自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気」については,前回いわゆる脳血管疾患,アルツハイマー病,その他の要因に基づくもの,いわゆる認知症なとを除外するということで,それは責任能力に関わるというお話があったんですけれども,統合失調症も正にその責任能力に関わる問題でして,なぜ認知症のほうは外して統合失調症は入れるのかということがあります。そして,統合失調症については,これは私自身もいわゆる医療観察法の事件を多数やっていますけれども,統合失調症が大部分でありまして,当然責任能力がないということで医療観察法が適用になっているわけです。そして,統合失調症の場合は全く病識がない方も非常に多いわけです。そうすると,客観的には病気ですけれども,認識が常にないと,病識がないということになると適用できないとも言えるわけで,そういう意味では,この統合失調症をここに入れるということについては,非常に違和感がございます。   それで,今日は社団法人日本精神神経学会の要望というのが提出されていますけれども,特に統合失調症を入れることについてはかなり懸念が示されていると思うんですけれども,責任能力との関係でもこれを入れたとしても適用する場面がほとんどないのかなという気がいたしますので,これを対象に入れることについては極めて問題ではないかと思っております。 ○西田部会長 分かりました。それは政令の中に織り込むかどうかということで,次回最終的な方向性を事務局からまた示させていただきます。   今日,「二」について整理いたしますと,少なくとも要綱案のレベルでは,辻委員の御意見には沿えませんが,「一定の症状を呈する」というのを入れるのは無理であると。したがって,これについては政令レベルで可能な限り対応させていただくということで,辻委員には御了解いただいたと。あとは,髙見委員あるいは島田幹事から出ましたアルコール・薬物の影響の場合と,それから一定の病気の場合とで書き分けるべきであるということでございます。これは具体的な対案となり得ることかと思います。ただ,髙見委員のおっしゃるように,正規の免許を受けている場合を除くというような形で除外規定を置くとすれば,これは意味のある提案かと思いますが,単に書き分けるというだけで構成要件的に要件の違いが出てこないのであれば,書き分ける意味は余りないのかなという気がしております。したがいまして,これは髙見委員の御提案の正規の免許を受けたものの場合はこれを除くというような除外規定を政令レベルで置くかどうかということかと思いますので,そういうことを考慮するかどうか,これはまた事務局にお考えいただいて,それでもなお政令レベルではやはり足りないと,この法文レベル,要綱案レベルでアルコール・薬物と病気とを書き分けるべきであるという御意見の方は,次回までのしかるべきときに対案として案を事務局まで提出していただきたいと存じます。   では,「二」につきましては,今日のところはここまでということにいたしまして,ここで15分ほど,3時まで休憩させていただきます。           (休     憩) ○西田部会長 議事を再開したいと存じます。   次に,「三」についてまず事務局から検討結果を御報告願います。 ○保坂幹事 それでは,「三」の罪の関係で5点御説明をさせていただきたいと思います。   まず1点目でございますけれども,「三」の罪の性質について,前回の部会で御議論がございました。事務当局としての考え方を補足して説明させていただきたいと思いますが,まず,「三」の罪といいますのは,前回も御説明いたしましたが,アルコール又は薬物の影響によりその走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転すること,自動車の運転上必要な注意を怠り,人を死傷させたこと,その運転のときのアルコール又は薬物の影響の有無又は程度が発覚することを免れる目的で,更にアルコール又は薬物を摂取すること,その場を離れて身体に保有するアルコール又は薬物の濃度を減少させること,その他その影響の有無又は程度が発覚することを免れるべき行為をすることの複合形態でございまして,これらのいずれもが実行行為であると考えております。   そして,このアルコール等の影響の発覚を免れるべき行為をした時点での認識の対象として何が必要かということでございますけれども,そもそもこの「三」の罪を設ける趣旨,すなわち救護義務違反の罪を犯してでも危険運転致死傷罪の適用を免れようとするものが生じやすくなるのではないかといういわゆる逃げ得の状況が生じていることが相当でなく,これを是正して当罰性の高い行為に対して適正な処罰が可能となるように設けるということを考えますと,人を死傷させたことの認識は必要であると考えております。といいますのも,仮に人を死傷させたことの認識が不要であるとする場合には,アルコール等の影響によりその走行中に「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」で自動車を運転し,物損事故を起こしたという認識しか有しない場合にもこの「三」の罪が適用され得るということになりますが,これは先ほど申し上げたこの罪を設ける趣旨との関係で適当でないと考えております。   他方で,「必要な注意を怠」ったこと,すなわち過失があったことの認識を要するかどうかにつきましては,その運転上必要な注意を怠った,すなわち過失の中には認識すべきものを認識しなかったという過失もございます。元々認識していないことに対する認識を求めるというのは背理であるというふうに考えられますことから,運転上必要な注意を怠ったことの認識は不要であるというふうに考えております。   少し具体的に言いますと,例えば,信号に全く気付かずに脇見をして事故を起こしたという場合に,その「免れるべき行為」をする時点で,その信号を認識しなかったということの認識を求めるということになるのは,これは背理であろうと,そういう趣旨でございます。   次に,「三」の罪の関係の2点目として,「アルコール又は薬物の影響の有無又は程度が発覚することを免れる目的」というこの目的の要件の意義につきまして御説明をいたします。   前回の部会で,その場から立ち去ったらアルコール等の影響の発覚を免れる行為もあるということになってしまうから,この目的の要件が限定になっていないのではないかという趣旨の御指摘がございました。この「三」の罪といいますのは,「アルコール等の影響により正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」にあったことが前提であり,その場を離れるという行為は,時間の経過によりアルコール等の濃度を減少させるということになりますので,アルコール等の影響の発覚を免れる目的が存する場合が多いというふうには考えられますが,他方で,結果としてアルコール等の影響の発覚を免れるべき行為に至る場合でありましても,その発覚を免れる行為とは全く異なる別の目的のためにその場を離れたという場合も考えられて,これを除外するということでございます。   「三」の罪は,先ほども申し上げたように,逃げ得の状況が生じていることは相当でないということから,適正な処罰を可能とするために設けるものということでございますので,アルコール等の影響の発覚を免れる行為とは全く異なる別の目的のために,その場を離れる行為までをこの「三」の罪の対象とすることは適当ではなく,そういった言わば例外的な行為あるいは目的について,この免れる目的というのを要件とすることによって処罰対象から除くという意義があるというふうに考えておるところでございます。   次に,3点目でございますけれども,この「免れるべき行為」が,いつそれが既遂になるのかという点について御説明をさせていただきます。   この「三」の罪の免れるべき行為というのは,危険犯としての性質があるというふうに考えておりまして,道路交通法の不救護・不申告の罪のように事故現場から立ち去ることにより即時に既遂に達するというものではない一方で,現に免れたということまでを要求するものではなく,「免れるべき行為」と言える程度の行為である必要があると考えるところでございます。   例えば,いわゆる追い飲みをしたり,アルコールの分解を促進する薬を服用するなどして身体に保有するアルコール等の濃度を人為的に増減させる行為をしたという場合には,その時点で,運転時のアルコールの影響の有無又は程度の発覚に影響を与える危険が生じていると考えられますので,この「免れるべき行為」と言えると考えられます。   次に,その場から離れる行為につきましては,その場から離れた後に一定程度の時間が経過して身体に保有するアルコール等の濃度に変化が生じることによって,運転時のアルコール等の影響の有無又は程度の発覚に影響を与える危険が生じることが必要であると考えております。一定程度の時間としてどの程度の時間であれば足りるのかということにつきましては,アルコール濃度の低減率が人の体調や体質によりまして様々でございまして,これまでに研究をされた知見によりましても,1ミリリットル当たりの血中アルコール濃度でいいますと,日本人の平均の低減率は1時間当たり0.15ミリグラムとされておりますが,この低減率というのは0.15ミリグラムという平均に対して,1時間当たり0.11ミリグラムから0.19ミリグラムの幅というのがございます。したがいまして,一概に一定の時間を示すということは困難であると考えておりまして,個別の具体の事案ごとに判断されるべきものだと考えております。   次に,4点目でございますが,前回の部会で御議論のありました「三」の罪において,「免れるべき行為」にだけ関与した者の刑事責任につきまして,事務当局なりの考え方を御説明したいと思います。   「三」の罪といいますのは,アルコール等の影響により正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転する行為,その運転上必要な注意を怠り,よって人を死傷させる行為,免れるべき行為の複合形態でありまして,先ほど申し上げたようにいずれもが実行行為であるというふうに考えております。その「三」の罪におきます「アルコール又は薬物の影響により正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転したものが運転上必要な注意を怠り,よって人を死傷させた場合」,この「場合」までのところがいわゆる身分犯におけます身分かどうかにつきましては,身分犯における身分の考え方にも様々あろうかと思いますが,事務当局といたしましては,身分犯における身分ではないというふうに考えております。そういたしますと,「免れるべき行為」にだけ関与したものにつきましては,基本的には,自身が実際に加担をした「免れるべき行為」についてだけ責任を負い,これは他人の刑事事件の証拠隠滅を行ったということになりますので,刑法第104条の証拠隠滅罪が成立し得るものというふうに考えております。   その「免れるべき行為」に対する加担の程度が,証拠隠滅罪の正犯のそれには達しなくて,教唆又は幇助にとどまるという場合には,これに対応する本犯といいますのは,自己の犯罪についての証拠隠滅という対応関係にありますので,刑法の証拠隠滅罪は成立しないということになります。したがいまして,「免れるべき行為」についてのみ教唆,幇助の限度で関与したものについては,教唆犯,幇助犯は成立しないというふうに考えられるところでございます。   なお,こういった今申し上げたような行為が犯人隠避罪ですとかあるいは道交法上の救護義務違反の共犯などほかの現行法上の処罰規定に該当するかどうかというのは,これは別途検討対象になるかとは思われます。他方で,免れるべき行為にだけ加担をしたというものがいわゆる承継的共同正犯としまして,その「三」の罪全体の共同正犯が成立するかどうかという点につきましては,承継的共同正犯というものに対する判例の理解いかんにも関わるところでございまして,恐縮ですが,事務当局としては直ちに一義的なお答えをすることは困難であるということを御理解いただければと思います。   次に,5点目でございますが,訴因変更の関係につきまして,すなわち「二」の罪と「三」の罪の関係で,前回の部会でお尋ねがありました。もとより訴因変更の要否・可否といいますのは,具体的な事実関係ですとか訴訟の動態いかんによることになりますので,統一的に言うことはできないのですけれども,一般的にはこれから御説明するような整理になろうかというふうに考えております。   危険運転致死傷罪のアルコール・薬物類型と,「二」の罪のアルコール・薬物類型との間の訴因変更については,まず,危険運転致死傷罪のアルコール・薬物類型の公訴事実に対して,「二」の罪のアルコール・薬物類型の事実を認定しようという場合,公訴事実の同一性はあると考えられますので,訴因変更は可能であると。他方で,事実関係に変更がない場合には,いわゆる縮小認定に該当する場合ですので,この場合には訴因変更は不要であると考えられます。もっとも危険運転致死傷罪の公訴事実に対しまして,正常な運転が困難な状態で自動車を運転したその時点における被疑者,被告人の故意が立証できないというために,その時点よりも以前の時間,それよりも時間的,場所的に前の時点における正常な運転に支障が生じるおそれがある状態での運転行為,これを実行行為として訴因を構成するという場合には訴因変更が必要となるというふうに考えられます。一方で,「二」の罪のアルコール・薬物類型の公訴事実に対しまして,危険運転致死傷罪のアルコール・薬物類型の事実を認定しようという場合には,これも公訴事実の同一性がありますので,訴因変更は可能であるというふうに考えられますが,より重い罪を認定するということになりますので,危険運転致死傷罪の事実への訴因変更が必要になるというふうに考えられます。   次に,「二」の罪のアルコール・薬物類型と「三」の罪との間での訴因変更について御説明いたしますと,「二」の罪のアルコール・薬物類型と「三」の罪につきましては,死傷の結果が同一であれば公訴事実の同一性があろうと思われますので,相互に訴因変更は可能であると考えられますが,「二」の罪の公訴事実に対して「三」の罪の事実を認定しようという場合には,免れるべき行為が訴因として掲げられるかどうか,死傷の結果が故意の犯罪行為により発生したのか過失により発生したのかの点で「二」の罪の事実とは異なりますので,これらの事実を新たに認定する必要がありますから,訴因変更が必要になるというふうに考えられます。また,「三」の罪の公訴事実に対しまして,「二」の罪の事実を認定しようという場合にも,正常な運転が困難な状態に陥ったかどうか,死傷の結果がアルコール又は薬物の影響により正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転し,よって正常な運転が困難な状態に陥ったこととの因果関係があるかどうかの点で,「三」の罪の事実とは異なり,これらの新たな事実を認定する必要がありますので,訴因変更が必要になろうというふうに考えております。   次に,「二」の罪のアルコール類型と,酒気帯び運転あるいは酒酔い運転罪と自動車運転過失致死傷罪との関係での訴因変更につきましては,これは危険運転致死傷罪のアルコール類型の事実と,酒気帯び運転罪及び自動車運転過失致死傷罪の事実との関係と同様でございまして,公訴事実の同一性がありますから訴因変更は可能であるというふうに考えられます。「二」の罪のアルコール類型の公訴事実に対しまして,酒気帯び運転罪等と自動車運転過失致死傷罪の事実を認定しようという場合には,死傷の結果が故意の犯罪行為により生じたのか過失により生じたのかという点で異なっておりますので,この事実を新たに認定する必要がありますから,縮小認定をすることができず,訴因変更が必要であるというふうに考えられます。罪数が一罪から数罪に変更することになりますが,この点は,例えば強盗致傷を窃盗と傷害に訴因変更するという場合などと同様でございまして,訴因変更の可否とは直接関連をしないというふうに考えております。また,酒気帯び運転罪等と自動車運転過失致死傷罪の公訴事実に対しまして,「二」の罪の事実を認定しようという場合にも,より重い罪を認定することになりますので,訴因変更が必要であろうと考えられます。   次に,「三」の罪と酒気帯び運転罪及び自動車運転過失致死傷罪との間での訴因変更についてでございますが,「三」の罪と酒気帯び運転罪及び自動車運転過失致死傷罪の関係につきましても,酒気帯び運転行為と人の死傷の結果が同一でございますので,公訴事実の同一性はあり,相互に訴因変更は可能であるというふうに考えられます。「三」の罪の公訴事実に対しまして,酒気帯び運転罪及び自動車運転過失致死傷罪の事実を認定しようという場合,自動車運転過失致死傷罪との関係では縮小認定の関係にはございますが,酒気帯び運転罪につきましては,血中又は呼気中のアルコール濃度というのを訴因として掲げる必要がありますので,訴因変更が必要になるというふうに考えられます。   自動車運転過失致死傷罪及び酒気帯び運転罪の公訴事実に対しまして,「三」の罪の事実を認定しようとする場合には,先ほど申し上げたような新たな事実を認定して,また,より重い罪を認定するということになりますから訴因変更が必要になると考えられます。罪数の変更につきましては,先ほどと同様,訴因変更の可否とは直接関係はないというふうに考えております。   以上で,「三」の罪の関係の御説明を終わります。 ○西田部会長 ありがとうございました。「三」の罪についての事務当局からの御説明は長きにわたっておりますし,なかなか複雑でございますので,直ちに整理してお考えはまとまらないと思います。5点御報告がありましたが,最後の部分は,これは訴訟法的な問題でございますので,余りここで議論する必要もないかと存じます。その前の4点について個別に議論を進めたいと思います。   まず,第一に御説明がありましたのは,この「三」の罪の故意として前回認識の対象となるのは何かと。二つありまして,運転上必要な注意を怠ったこと,すなわち過失行為を行ったことの認識,それから人を死傷させたことの認識が要るという考え方と,それから,人を死傷させたことの認識があれば足りるという考え方,それと更に,この文言では人を死傷させたことの認識が必要だということが十分に表れていないのではないかという御意見などがあって,これに対して事務局のお答えとしては,まず,運転上必要な注意を怠った,すなわち過失の認識については,いわゆる認識なき過失というものもあり得る以上,その認識なき過失を認識するということは背理であるから,これは認識の対象ではないと。他方,人を死傷させたという事実については認識の対象であると。その認識が必要であるということは,この文言において十分表れているというこの3点が事務局からの答えになっていると思いますが,この点について御意見,御質問がおありの方はどうぞ。 ○塩見委員 人の死傷についての認識が要るというのは,やはり私も必要だと思うのですけれども,試案では,条文の作りとしましては,「おそれがある状態で自動車を運転した者が」というのが主語になっていて,「よって人を死傷させた場合において」,その後,一定の目的で「免れるべき行為」をしたとなっていますので,このままだと人の死傷についての認識が要るというのは必ずしも出てこないのではないかと感じます。先ほどはこれで問題がないということだったんですが,もう少し説明をしていただければと思います。 ○上冨幹事 若干繰り返しになるかもしれませんが,「三」の罪は「その運転上必要な注意を怠り,よって人を死傷させた場合において」,アルコール等の「影響の有無又は程度が発覚することを免れるべき行為を」することというのが要件になっているわけでございます。つまり人を死傷させたということは,アルコール等の影響の程度が発覚することを免れるべき行為の正に前提でありまして,そういったことがない場合であれば,免れようとするものがなくなるといいますか,人を死傷させたこと,それを前提として,その際のアルコールの影響の程度が発覚することを免れるというのが正に犯罪の行為になっているという意味で,私どもの今の理解では,現在の試案上もこのアルコールの程度が発覚する行為を免れるに当たっては,その前提とされている人を死傷させたことの認識も当然必要であるというふうに理解することができるのではないかというふうに考えているところでございます。 ○西田部会長 よろしいですか。要するに物損事故だと思ったけれども,酩酊運転が発覚するのは嫌だというので逃走したというような場合は含まれないと,そういうお答えかと思いますけれども,いかがでしょうか。 ○塩見委員 御趣旨はよく分かるんですけれども,それが文言上確保できているのかと。 ○山下委員 人を死傷させた場合を認識しても,それについて自分には何も問題がない,自分に帰責的な理由は何もないと思っていた場合に,こういう目的があるということになるのか。これは主観的違法要素ということなんでしょうけれども,そういう場合にそういう目的があるとすることが適当なのか。自分の責任で人を死傷させなければ逃げるということもないわけなので,単に人を死傷させた場合ということの認識があればいいというのは,ちょっと限定になっていないのではないかなというふうに思うんですが。 ○上冨幹事 まず,客観的に過失があることは必要でございます。その上で,そのような客観的には過失によって人を死傷させたという事実があったときに本人の認識として人を死傷させたという事実の認識があって,その際のアルコール等の影響の程度が発覚することを免れる目的で逃げたということでありますから,およそ自分に帰責性のない人の死傷についてまで免れるべき行為をしたことを処罰するということではないのは明らかではないかと考えております。 ○山下委員 ただ,先ほどから,過失を自分が認識するというのは背理だから,この「運転上必要な注意を怠り」という点に関する認識は要らないと。しかし,自分のやったことが過失かどうかも分からないというか,人を死傷させた理由,原因が自己に帰責しているのかどうかというのが分からないで単に人を死傷させた場合というだけでは,この違法な目的というか,免れる目的ということにならないというか,それを根拠付けることにならないのではないかというふうに思うんですが。 ○上冨幹事 御指摘の趣旨は承りますが,自らの運転によって人を死傷させたということは当然の前提だろうと思います。その上で,その死傷の結果について過失があったことも当然の前提で,そのことについての過失の有無について言わば評価の問題について認識している必要は必ずしもないということでありまして,自分の運転行為と関係ないところで起きた死傷まで責任を負うということではないのは,過失による死傷という結果を客観的な要件としている点でまず違うのでありまして,そのようなことまで処罰の対象にしているという趣旨はございません。 ○西田部会長 塩見委員の御意見ですと,「人を死傷させた場合において」というところを「人を死傷させたことを認識しながら」というような文言にすべきだということでしょうかね。 ○塩見委員 あるいは,「死傷事故に際し」とかそういう言葉を入れるとはっきりはします。試案ですと,免れるのは飲酒を発覚することを免れるところだけに係っていて,死傷事故について免れることには係っていませんので,死傷についての認識というところまで確保できるのかなと,ちょっとそういう疑問を感じたということです。 ○西田部会長 ただ,消火妨害罪なんかの場合は火災の際にうんぬんというとき,当然その火災の際の認識は必要だという解釈ですから,それと同列だと考えれば,当然死傷の認識も必要だということになるのではないかと考えますが,いかがですか。 ○塩見委員 救護義務違反ですと,「交通事故があったとき」というような書き方になっていますし,「火災の際」とあれば,火災の認識が要るというのは分かると思います。書き方がここは過失犯を受けた形になっていますので。いや,こだわりません。ちょっとどうなのかなと疑問に感じたということです。 ○西田部会長 ほかに。 ○橋爪幹事 ただいまの塩見先生の御指摘でございますけれども,私も基本的には共通の認識を持っておりますし,自らの運転によって人が死傷したことについて認識が必要であることを明示するような規定ぶりになれば,その点が明確になり,好ましいと思います。もっとも,あえて申し上げますと,この試案の文言のままでも辛うじて,そのような趣旨を解釈で賄うことが可能であるようにも思いますので,若干,私の考え方を申し上げたく存じます。   まず第一に,先ほど御説明にございましたように,本罪は飲酒等の影響がある状態で自動車を運転させ,過失によって死傷事故を惹起する行為と,アルコール等の影響の発覚を免れるべき行為をすることの両者を実行行為とする結合犯の形式になっておりますけれども,前者の行為によって死傷事故が発生したことを前提として後者の犯罪類型が規定される形式になっております。ということは,人が死傷したという結果は先行する犯罪の構成要件的結果であると同時に,先ほど部会長からも御指摘がございましたけれども,後行犯罪の言わば構成要件的状況の一部をなしているという解釈が可能であるかと思います。そして,議論はございますが,構成要件的状況については故意の認識対象であるというのが一般的な理解でございますので,このような理解からは運転によって人が死傷しているという状況について認識が必要であるという解釈が可能であるように思います。   もう1点でございますが,先ほど塩見先生からも御指摘がありました道路交通法の救護義務違反罪の規定形式です。道路交通法の第117条1項では,「当該車両等の交通による人の死傷があった場合において,第72条の規定に違反したとき」と規定されておりまして,試案における「人を死傷させた場合において」と基本的には共通の規定ぶりになっておりますが,この場合につきましては,死傷事故があったことの認識は当然に必要であると解されております。なぜこのような解釈が正当化できるのかという問題はもちろんあるのですが,このような救護義務違反罪に関する解釈を前提としますと,試案のままでも辛うじて死傷事故に関する認識が必要であるということは解釈論的に正当化できるのかとも思い,その旨申し上げさせていただきました。 ○西田部会長 時間の都合がございますので,第1の点はこのくらいにさせていただきまして,第2の点は,この「免れる目的」というのが限定になっていないのではないかという御指摘に対する御意見で,結論としては,これと,それから「免れるべき行為」の既遂時期の二つについて事務当局からの御説明がありました。「免れる目的」については,全く別の目的の場合はこれに入らないということで,やはり限定の意味はあると。それから,「免れるべき行為」の既遂時期につきましては,現場で追い飲みをするようなときは,その時点で既に既遂である。それから,単に場所的に離れる,それによって血中アルコール濃度が減少するような場合は,これは人それぞれの体質にもより,時間的あるいは計量的な説明はできないので,個々の事案によって判断するしかないと,これが事務局からの御説明でありましたけれども,以上2点ですね。「免れる目的」の意義,それから「免れるべき行為」の既遂時期としての意義,この2点併せて御意見ございませんでしょうか。 ○井上幹事 「免れる目的」の立証に当たっての問題点といいますか,質問でございますけれども,例えば被疑者が飲酒運転が発覚するのが怖くて逃げたというような被疑者からの供述が得られれば,立証したことになるというような理解でよろしいのかどうかという質問と,併せて実際の飲酒ひき逃げ事件の捜査の現場においては,被疑者が,逃走したのは気が動転していたためであると供述するということが大変多くございますので,こういった場合には,今正におっしゃったとおり,この「免れるべき目的」に当たるというような別の事情,同乗者,家族などからの供述によって故意が立証できるような場合,あと,当然追い飲みという具体的な行為があれば別ですけれども,そういったような場合以外について故意の立証ということについては,これについてもなかなか難しい点もあるのかなと思いますが,質問は冒頭の1点でございますので,お答えいただければと思います。 ○保坂幹事 御質問は,被疑者から飲酒運転がばれるのが怖くて逃げたんだという供述が得られれば,それで足りるのかということだったと理解をいたしましたが,その供述が真実であるということが前提であれば,飲酒運転がばれるのが怖くてというのは,アルコールの影響の発覚を免れる目的ということだと通常は思われますので,その場合にはこの目的が認められ得るということだろうと思います。 ○西田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○今井委員 既に保坂幹事が回答されているところですが,私も,井上幹事と同じ感想を持っております。「免れる目的」に関してですが,頭が真っ白になって逃げたのですというな被疑者が出てくることも予想されるのですけれども,その際には,当該被疑者がどういう状況を認識しながら,どういう行動を取ったのかという点を分析していきますと,気が動転していたという弁解がなされていたとしても,この条文との関係では,「発覚することを免れる目的」が存在したことを,客観的事実から認定できることは多いのではないかと思っております。 ○髙見委員 限定になるかどうかということなんですけれども,例えば頭が真っ白になって現場から立ち去りましたという供述しかなかったとします。だけれども,立ち去るということは認識をしているわけですよね。そうすると,立ち去ってアルコール濃度が下がるということは理屈としてはもう明らかですよね。そのときにこの目的ありというふうになるのかどうかというところが分からないんですよ。例えば捜査官はこう言うと思うんですよ。「お前,離れれば時間がたつんだからアルコールが下がるのは分かるやろう」,「そうです。私は現場を離れればアルコールが下がることは分かっておりました」というような供述しか出てこないというときがあると思うんですよね。それが本当かどうかというのはまた別途ちょっと置いておきますけれども,そういうことがあるので,ちょっと私のメモにも書いてあるんですけれども,現場を離れる,つまりそうしたら発覚が遅れる,アルコール濃度が下がるのは当たり前のことだから,現場を離れるということを認識している以上は,アルコール濃度が下がる行為をしているということを認識していることになってしまって,限定にならないのではないのかなという気がするものですから。 ○西田部会長 ごもっともな御疑問であり,御意見だと思います。ですから,ぎりぎり頭が混乱して恐怖心から逃げたという言い訳が出てきたとき,それをどうするか。あるいは自分が犯人であること,犯人性だけを隠したかったと。アルコールが原因であることを隠すことが目的だったわけではないというような,そういう事例,いろいろな事例があり得るかと思いますが,ここはなかなか悩ましいところなんですが,今の髙見委員の御質問あるいは御批判に対して,事務局としてどういうふうにお答えになりますか。 ○上冨幹事 運転者がどういう説明をしているか,あるいは取調べにおいてどんな供述をしたかということは,もちろん証拠の一つにはなるわけですけれども,現場を離れて立ち去ったという事実があったときにその行為をどういう理由でやったのかということは,供述も一つの証拠ではあるにしても,それ以外の逃げた状況や逃げた前後の行動あるいは場合によっては飲酒の状況も含めて,そういったことからいずれにしても事実として認定が必要になることなのだろうと思います。そして,このアルコール等の「影響の有無又は程度が発覚することを免れる目的」というのが構成要件として設けられている以上は,それら様々な証拠によってその目的が認定できなければ犯罪が成立しないのは,結論としてはそのとおりなのだろうと思います。   一方で,現場を離れるという行為があり,そのことを認識していれば,あとは事実認定の問題としてそのような場合にはアルコールの「影響の有無又は程度を免れる目的」があったと言えることは多いのだろうと思いますけれども,正に具体的な事件の証拠に基づいて目的が認定できるかどうかという問題として理解するしかないのではないかと事務当局としては思っております。   なお,今,部会長から犯人性が発覚することを免れる目的の場合はどうなのかという点も含めてのお話がありましたけれども,この「三」の罪はその「アルコール又は薬物の影響」での走行により,「走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転した者が過失によって「人を死傷させた場合」にという要件になっているわけです。この場合のこの罪の犯人性というのは,結局実態としての事実としては,アルコール等の影響によってその走行中に正常な運転に支障を生じさせるおそれがある状態で自動車運転過失致死傷罪を犯したということの犯人性なわけでございまして,そのアルコール等の影響によって走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがあることの発覚を免れる目的はないけれども,犯人性については発覚することを免れる目的があるというような場合を現実に想定することは,一般には相当難しいのではないかと思います。現実にはなかなか想定しにくいとは思いますけれども,頭の整理として考えるならば,アルコール等の影響の発覚とは無関係に,専ら自動車運転過失致死傷罪の犯人性であることだけの発覚を免れる目的ということが事実として認められるのであれば,犯人性が発覚することを免れる専らその目的である場合には,アルコール等の影響の発覚を免れる目的がないという認定になることはもちろん可能性としてはあり得るのだろうとは思います。先ほど申し上げましたように,実態としてはそれが分離できるような事実関係があるのかといえばなかなか難しいのではないかとは思っております。 ○髙見委員 今の事務当局からの御説明を聞いていても思ったんですけれども,結局はほとんど入ってしまう,専ら別の目的としか言えないような場合だけ除外すると,そういう結論になってくるような気がするんですけれども,そういう条項を作っていいのかということをちょっと考えないといけないのではないかなと思うんですが,もちろん追い飲みをするということは本当に許し難いことだと思います。だから,そういうことに限って具体的なこういう行為をした場合は,やはりこれは幾ら何でもひどいのではないのということは言い得ると思うんですけれども,現場をちょっと立ち去ってしまう,事故を起こして「えらいことをしてしまった,どうしよう」と思って立ち去ってしまうという人も多いのではないかと思うんです。自分の行為についての証拠隠滅行為については処罰しないという価値判断を,もう刑法典で加えているわけですから,それと違う価値判断を入れ込むためにはやはりよっぽどひどいことをしているということが明らかな行為に限って処罰対象とすべきなのではないのかなという気がするものですから。 ○西田部会長 その点は,この試案では目的で,「更に」というところで「アルコール又は薬物を摂取すること,その場を離れて身体に保有するアルコール又は薬物の濃度を減少させることその他」という例示が一応入っておりますので,アルコール又は薬物を摂取する,すなわち追い飲みをするという行為,それと並んで現場を離れるというのが例示として挙がっているということを考慮すれば,それに匹敵するような現場を離れる行為という理解もできるかと思いますが,それでもなお,やはり不十分だという御意見でしょうか。 ○髙見委員 この現場を離れて身体に保有するアルコールの濃度を減少させることということ自体,やはり離れてしまうとこの構成要件に当たりますから,やはり追い飲みをするということとは大分違うのではないのかなと思うんです。 ○今井委員 すみません,少し戻しますが,今,髙見委員がおっしゃったことは,試案の「三」というものを作ることの正当化の理由ということと,それから,具体的に例示されるべき行為がこれで限定されているかということの2点であったと思います。先に第2のほうに議論が移っていたのですが,第1点目の御指摘も大変重要な難しい問題だと私も理解しております。髙見委員が席上配布されたペーパーにも証拠隠滅罪の不可罰性,自己の犯罪に関する状況についての御説明がありますが,考えなければいけないのは,ここで今私たちが検討しているのは,自動車運転という場面に限定された問題であるということです。最高裁の,自動車運転をしていて事故を起こした者に係る報告義務に関する大法廷判決でも示されておりますけれども,自動車の運転という本来禁止されている危険な行為を例外的に許可されている者がどの範囲でどのような義務を負うのかということについては,特別な考慮があってしかるべきであると思います。そういたしますと,刑法第104条との関係では自己の犯罪についての証拠隠滅は当然不可罰ですけれども,自動車運転との関係では,期待可能性の理解について,逃げたいという本能的な行動と,そういうことを許してはいけないという道路交通の安全確保という別の観点からのせめぎ合いが,より具体的に問題となってきます。この点を踏まえますと,試案の「三」で書いてあるような,事務局からも御説明があった,予定されている構成要件に該当している行為がここまで挙がっている場合においては,このような行為を処罰することも,辛うじて正当化されるのではないかなと思います。 ○上冨幹事 若干付け加えて御説明いたしますが,人の死傷が発生をした場合に,このような現場を離れてアルコールの影響が低下して発覚が免れるという行為自体の当罰性に関する評価の違いなのかもしれませんが,そのような行為自体は,基本的にはやはり悪質な行為なのではないかと考えることもできようかと思います。その上で,その現場を離れた目的が例外的ではあれ,そのようなアルコールの影響の発覚を免れる目的とは無関係の別の目的である場合を除くという趣旨で,目的による縛りを掛けるということ自体には,意味があるのではないかと思っておりまして,そのことによって現場を離れるような行為について本罪の対象となることが多いかどうかという問題は,目的の縛りの有無の問題ではなく,恐らくそのような行為をそもそも当罰性のある行為として捉えるかどうかという理解の問題なのかなというふうに考えて,この試案については作成したつもりでおります。 ○西田部会長 現場を離れた行為をしているんだけれども,「免れる目的」はないというような具体例というのはもう少しありますかね。 ○保坂幹事 いろいろなケースが考え得るかと思いますけれども,例えば自宅で飲酒をしていたらば,子供が熱を出して病院に連れていく,その途中で事故を起こしたんだけれども,とにかく子供を病院に連れていこうということで先を急いだ,病院で無事が確認できたので,最寄りの警察署に行きましたと,こういう場合には,もちろんその状況によっては緊急避難等に当たる場合もあるのかもしれませんが,そこまで達しない事実関係によっては,アルコールの影響の発覚を免れる目的とは全く異なる目的でその場を離れたというふうに判断できる場合として考えられるのではないかと思います。 ○武内委員 今の保坂幹事の説明を受けてですけれども,私は「免れる目的」が認められないケースとして,例えば人気のない場所,地方で言えば携帯電話の電波も届かないような場所で,救護を求めるに当たってはどうしても現場を離れなければいけない場合というのが一応観念できるだろうと考えておりました。そういうケースは確かに当罰性が低い,そこでまた再度運転をするとなったらまた別ではありますが,走って人通りの多いところあるいは近隣の民家,距離がある民家へ向かって離れていって救護を依頼するというようなケースというのは,やはり当罰性は低いのではないかというふうに考えておりました。 ○今崎委員 今崎でございます。当罰性等の目的について裁判所のほうは,それについて今何か申し上げることではないかとは思うんですけれども,ただ,今の議論を聞いていまして,依然としてちょっと心配をしておりますのは,いわゆる立ち去り事案の構成要件としての明確性がどのぐらい担保されているかという問題でございます。具体的には,この条文でいえば「その場を離れて身体に保有するアルコール又は薬物濃度を減少させることその他その影響の有無又は程度が発覚することを免れるべき行為」に当たるかどうかと,こういうことになるわけだと思います。   ただいま部会長のほうから,「アルコール又は薬物を摂取すること」という例示に匹敵するような具体的な行為というその限定が付されないかというお話を聞いて,これもなるほどなとは思ったんですが,なおそれでも実際にこういうこの事件,構成要件が裁判で問題になったときには,やはり裁判官はその場を離れるという行為,もうそれが直ちに抽象的にいえば恐らく保有するアルコール濃度を減少させる危険性が当然ある行為と見られるでしょうから,それこそ極端な話,10メートル離れたら,もう離れたことになるのか,あるいは100メートルなのか1時間なのかと。もう少し何か具体的な指針のようなものがないかなという感じは依然として感じております。   本日お答えいただくのは難しいかと思いますので,ちょっと事務局のほうでもう少し御工夫を頂けないかとお願いする次第です。 ○西田部会長 今の今崎委員のお言葉の御趣旨は,ワーディングとしてももう少し工夫が必要だと,そういうことでございますか。 ○今崎委員 はい,望むらくはそういうことです。 ○山下委員 事務当局の説明で,最後の「免れるべき行為」というのは危険犯であるという説明がありました。しかも,その場を離れたというケースについては,その血中濃度が下がるのはかなり個人差があるということでした。先ほど数字も挙がっていましたけれども,これは故意犯ですから,「免れるべき行為」に対する認識が必要なわけですが,それについて,その場を離れたということは認識していますけれども,その後どのぐらい離れていたら「免れるべき行為」と言えるかということに対する認識がどの程度あればいいのか。もちろん,抽象的危険犯と捉えるとしたら離れたら直ちに「免れるべき行為」になるとも考えられますが,そうでないとしたら,どのぐらい離れたら「免れるべき行為」になるのかということに対してどの程度の認識が必要なのか,故意として必要なのかということが不明確なので,そこを事務当局としてどのように考えているか教えていただければと思います。 ○西田部会長 この点はもう今崎委員,山下委員の御意見を踏まえまして,次回文言上,多少修正を加えることも考慮するということで,場合によってはこのままの文言を維持し,飽くまでも解釈に委ねるということになるかもしれませんけれども,更に次回への宿題にさせていただきたいと思います。今日は時間の関係がございまして……。 ○髙橋幹事 すみません,ちょっと1点だけ簡単な質問を。 ○西田部会長 では,簡単にお願いします。 ○髙橋幹事 この「三」番の罪,それから「二」番の罪もですが,少年法の第20条2項の原則逆送事件に当たるのか当たらないのか,説明していただければと思います。 ○保坂幹事 まず,「二」のほうでございますけれども,この構成要件は「アルコール等の影響により正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転し」という故意の犯罪行為によって,客観的には正常な運転が困難な状態に陥り,人を死傷させるというふうになっております。したがいまして,少年法第20条2項でいうところの「故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪」に当たるというふうに考えております。   他方で,「三」の罪につきましては,人の死傷の結果というのは運転上必要な注意を怠った結果発生したことで足り,故意は必要とされておりませんので,少年法第20条2項によるところの故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪には該当はしないと考えております。もし,別途の手当を講じて少年法第20条2項にいう原則逆送の対象となる罪の対象にすべきという御意見の方がいれば御発言いただければと思いますが。 ○西田部会長 よろしいですか。   それでは,免れるべき行為にのみ加担したものの刑事責任ということですが,これについての御説明は,それ自体が証拠隠滅罪の正犯あるいは犯人隠避罪に当たる行為,あるいは救護義務違反の共犯に当たる行為でない限りは,本罪の後半の部分にのみ加担したものは,原則は無罪である,不可罰であるという御説明でした。ただ,承継的共犯の理論によって「三」の罪の共同正犯ないし共犯となり得るかどうかについては,これは理論的な問題であるので,事務当局としては現時点ではお答えを差し控えると,こういう結論であったと思いますが,余り時間がございませんけれども,この点について少し御議論を。 ○島田幹事 先ほど承継的共同正犯ないし承継的幇助犯の問題が生じるという御説明がございましたが,現在の一般的な考え方では,このような場合には,もはや承継を認めることは考えられないと思います。と申しますのも事務当局の御説明でも,この罪は生命・身体犯があるから12年という重い処罰が基礎付けられるということでありました。中心となる法益侵害が既に発生してしまっている場合に,その後の部分にのみ加わったということでありますと,その既に生じた結果についてとの因果性を欠くということで共犯の成立は否定されるだろうというのが現在の有力な考え方でありまして,傷害罪の事案ではありますけれども,平成24年の最高裁もそのような判断をしております。昭和13年に古い強盗殺人罪の殺害後の幇助行為と,財物奪取のみの幇助行為というので強盗殺人幇助にしたという古い判例がありますが,今はもう生きているかも分かりませんし,学説上はほぼ全員一致で批判されている判例です。そのように考えますと,そうした者については承継的共同正犯ないし承継的幇助犯は認められないという理解でよろしいかと存じます。   あと,一つだけ質問させていただきたいのですが,「二」の罪と「三」の罪が同時に行われるということ,事実として同時に行われるということもあると思うのですが,そのような場合に罪数関係がどうなるかということは確認させていただければと思います。 ○西田部会長 「二」と「三」の関係ということですね。 ○岩尾委員 先ほど訴因変更のところでも述べさせていただきましたけれども,この「二」と「三」のそれぞれの中心的な行為である自動車の運転により人を死傷させたという部分で重なり合いがあり,社会的事実としては同一だということからしますと,両者が並存するということはないという理解でおります。 ○西田部会長 以上の点は専ら解釈論の問題でございますので,次回で継続して審議しても足りることかと存じますので,時間の関係上,「三」の点については以上といたしまして,最後に「四」について事務局から御説明をお願いいたします。 ○保坂幹事 「四」の関係では特にございません。 ○西田部会長 「四」1から4までについては,今日事務局試案の中に今までペンディングでした法定刑につきまして,一応道路交通法の無免許運転罪が3年以下の懲役となった場合という仮定の下での法定刑が示された案が新たにお配りされているかと思いますが,この「四」につきまして御意見,御質問ございませんでしょうか。 ○島田幹事 前回,髙橋幹事もおっしゃっていたこととも若干関連しますが,1ですけれども,これは無免許加重を危険運転致傷罪についても認めることですね。しかし,被害者団体へのヒアリング等でも無免許運転がなぜ危険運転と同等でないのだという声はかなり強かったと思うんですが,危険運転を更に無免許加重せよという声まではなかったと理解しております。そして,更に言えば,致傷の事案で死の結果が生じていないにもかかわらず,ここまで重い刑にすることには,やはり慎重さが必要かなと思うのですが,その辺り更に詳しく理由等を教えていただければと思います。 ○保坂幹事 かねてより御説明をしているように,この無免許運転による加重の趣旨といいますのが,無免許運転の機会に死傷させた場合というのは,無免許運転の反規範性ですとか抽象的・潜在的危険性が言わば顕在化,現実化したものであることに着目をして,その場合の法定刑を人を死傷させたときとは別の機会における無免許運転罪との併合罪加重における処断刑以上に重いものとするということでございます。この点につきましては,危険運転致傷罪を犯したときに無免許運転であったという場合にも同様に当てはまると考えておりまして,無免許運転による加重の対象とするか否かにつきまして,危険運転致傷罪を「二」の罪とか自動車運転過失致死傷罪と区別する特段の理由は見い出し難いと思っております。   また,危険運転致死罪の場合は法定刑が既に1年以上の有期懲役,その上限は有期の上限たる20年ということになっておりますから,これを加重するというふうにはしておらないところでございます。確かに島田幹事がおっしゃるとおり,危険運転致傷罪の法定刑というのが15年以下と既に重いものとなっておりますけれども,無免許運転罪との併合罪加重をした場合の処断刑というのは18年以下ということになります。したがいまして,有期懲役刑の上限であります懲役20年まで加重する余地というのがある以上,あえてこれをしないという理由も見いだし難いところだと考えております。   更に言いますと,「二」の罪におきまして人を死亡させたという場合の法定刑が15年以下ということで提案させていただいておりますが,これは危険運転致傷罪の法定刑と同じでございます。これはすなわち両罪の類型的な違法性の程度が同程度であるというふうに考えられるところでございまして,そういたしますと,無免許運転による加重の趣旨は,「二」の罪を犯して人を死亡させたときに無免許運転であったという場合と,危険運転致傷罪を犯したときに無免許運転であったという場合に同様に当てはまると考えられるにもかかわらず,その無免許運転による加重について違う取扱いをするというのは,やはり均衡を欠くのではないかというふうに考えて,そのような事務局試案になっているということでございます。 ○西田部会長 大体よろしゅうございましょうか。「四」についてはさほど問題はないかと存じます。 ○武内委員 前回の議論を踏まえて,被害者団体の方ないし支援に関わる弁護士のほうとちょっと意見交換をしたところ,自動車運転過失致死傷罪を生じた場合の加重に関する4ですか,ここが10年以下の懲役になるとした場合,それではまだ軽いのではないかというような御指摘を頂いておるところです。そこで,事務当局のほうに,この類型の加重の法定刑を10年とした趣旨について今一度ちょっと御説明を頂ければと思います。 ○保坂幹事 御説明いたします。前回にも御説明をさせていただいたかもしれませんが,自動車運転過失致死傷罪というのが今,7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金というふうにされております。この法定刑をこの無免許運転による加重をするという場合に,ほかの罪に対する加重のバランスということでいいますと,「一」の罪とかあるいは危険運転致傷罪を犯したものとか,「二」の罪を犯したものとの加重との均衡ですとか,自動車運転過失致死傷罪の過失犯としての法定刑を考慮いたしまして,その上限としましては3年の加重が適当であるというふうに考えて,10年以下の懲役というふうに提案をさせていただいているということでございまして,これ以上の加重をするということになりますと,ほかの刑との均衡あるいはバランスを欠いてしまうのではないかというふうに考えておるところでございます。 ○武内委員 今,ほかの罪との均衡というふうに御説明を頂きましたけれども,今検討中の「二」の罪ですね。「二」の罪で人を負傷させた場合,死亡結果が生じない,傷害結果にとどまった場合が12年以下の懲役ということになっておるかと思います。こちらは一応故意犯としての立て方で,傷害結果が生じたときには12年以下というのに対して,「四」の4の加重類型の場合は一応過失犯を犯したものが無免許であったときの規定であるので,この「二」の傷害結果の罪との均衡を考慮されたというふうに伺ってもよろしいでしょうか。 ○保坂幹事 御指摘のとおり,そのような点も考慮してのことです。 ○西田部会長 それでは,時間も来ましたので,今日の議論はこの辺りでと思います。 ○山下委員 ちょっと全体について1点だけ質問します。今回,事務当局は,度々,現行刑法の自動車運転過失致死傷罪と危険運転致死傷罪を外に出して,今回のこの事務局試案と併せた特別法とするというお話をされていると思うんですね。この危険運転致死傷罪の創設が刑事法部会でかつて議論されたときには,これは刑法に規定すべきであると,これは基本法典である刑法にこれを規定すべきであるという意見が最後に出されていて,実際刑法典に入ったという経緯があるんですが,今回それを全て出して特別法にするということで,その場合,基本法ではないので,もう法制審議会は経ないで法務省だけで簡単に改正できるようになるということなのか,その辺りについてどのように考えてこれを特別法にしようとしているのかお聞きしたいと思います。 ○岩尾委員 特別法になったからといって,法制審議会の対象にするかどうかについては,要は基本法というのをどのように考えるかという問題でございますけれども,現在これを特別法にすべきだという理由といいますか根拠と,法制審議会の審議の対象となるかというのは全然理由が違いますので,今はこういった法形式の問題としては,技術的には特別法というのが最もふさわしいのではないかということでございまして,御質問の点についてはこれから検討してまいりますが。 ○山下委員 今回,自動車運転過失致傷罪も外に出すということで,これまで刑法典にあって,国民が誰でも知るべき,知っておくべきということで入っていたと思うんですが,今回,全部自動車関係だけを外に出してしまう。業務上過失致死傷罪だけは残るんでしょうけれども,刑法からそういうものが全部抜けてしまって特別法に行くとなると,国民にとっては何がいけないのかという行為規範としての刑法という観点から見ると,その趣旨が変わってしまうように見えるので,なぜこれを特別法にしないといけないのかについて,もっと積極的な理由が要るのかなと思うんですが。 ○西田部会長 それはもう要するに政令マターが入ってくれば刑法典には当然書き切れないというのはもう常識的に山下委員もお分かりのことだと思いますが,要するに政令委任がある以上は,これは刑法にはやはり置けないというのがもうほとんどそれに尽きるかと思います。私も基本的には,これ刑法に残したいというのは山下委員と意見は一致しているのですが,涙を飲んで仕方がないと思っております。 ○山下委員 自動車運転過失致死傷罪は別に政令を引用しているわけではないですよね。 ○西田部会長 いやいや,この中で要するに政令で定める「一」,「二」というところ等に病気の定め方とか,それから通行禁止道路を道路交通法よりも更に制限するために,政令委任をせざるを得ないわけですから,そうすると,どうしても刑法では書き切れないと,そういうことにならざるを得ないわけですよね。私も心情的には,もうこれは刑法に残してほしいと思っているのですけれども,もう本当に涙を飲んでというところですね。 ○岩尾委員 自動車運転過失致死傷罪の関係では,そもそも「三」の罪や「四」の加重のところで自動車運転過失致死傷罪も出てまいります。そういった関係で出てくるのに,刑法をわざわざ引用するのかと,そういった形式のものが分かりやすいのかどうか,法律としてはやはり自動車運転に伴って人を死傷させる罪ということで一括して国民に提示するという観点は,またそれなりに積極的な意義があるのではなかろうかと考えております。 ○西田部会長 時間もまいりましたので,以上で今日の審議を終わりたいと思いますが,次回で一応答申案の策定に至りたいと存じます。したがいまして,内容の解釈につきましては,次回十分時間を取りまして,今後の解釈の指針となるような活発な御議論をしていただいて結構だと思いますが,この試案が答申案となって親委員会に行く前に,この答申案の文言について修正を加えたいという御提案があります場合,特に今日出てきました議論をお聞きする限りでは,髙見委員からは「一」については,殊更通行禁止道路であることを無視してというような文言のほうがいいのではないかという御提案,それから,「二」については髙見委員や島田幹事から,アルコール・薬物の場合と病気の場合とは書き分けたほうがいいのではないかという御提案,それから,「三」については今崎委員のほうから,現場離脱の場合の処罰の限界がなおこの文言では明確性を欠くのではないかという御指摘がございました。   以上の3点については,これは単に解釈論を深めればいいという問題ではないように思われますので,次回の予定,私の聞いておりますところでは2月13日でございますので,できれば積極的に対案をお出しになりたい方は少なくとも1週間前,できれば10日前までには事務局のほうに具体的な対案を提出していただきたいと思います。もちろん事務局のほうでも今日の御指摘を踏まえて修正が可能かどうかあるいは妥当かどうかについてなお検討を加えていただき,その結果を次の部会に提出していただきますが,もし修正の必要なしというのが事務局の原案であるとしますと,委員,幹事の皆様から出されました対案がございませんと,その場で対案を出してコピーして配ってというのは,なかなかこれは審議の都合上できかねますので,できる限り早く具体的な対案をお出しになりたい方は事務局に提出していただきたいと存じます。   では,本日の議事に関しましては,別段議事録に顕名で発表して差し支えないと思いますが,よろしゅうございましょうか。   では,そのように取り扱わせていただきます。   では,次回の日時,場所について事務局から。 ○保坂幹事 次回会議の日程でございますが,2月13日水曜日,午後2時から午後5時頃までを確保しておりまして,場所は法務省地下の大会議室でございます。 ○西田部会長 では,本日の会議はこれにて終了いたします。 -了-