法制審議会刑事法           (自動車運転に係る死傷事犯関係)部会           第5回会議 議事録 第1 日 時  平成25年1月16日(水)  自 午後2時00分                        至 午後4時56分 第2 場 所  東京地方検察庁会議室 第3 議 題  自動車運転による死傷事犯に対する罰則整備に関する事項について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○西田部会長 では,ただいまから刑事法部会第5回の会議を開催させていただきます。   まず,お手元の配布資料にございます参考資料ですが,この度最高裁の事務総局で人事異動がございまして,これまで委員であられた植村稔さんが高等裁判所判事に移転なさいました。後任は,今崎幸彦委員でありますが,本日は御都合により欠席ということでございます。   このほか,木村委員,それから藤本幹事が御欠席でございます。   それでは,まず事務局のほうから本日の配布資料,20から22までの御説明をお願いいたします。 ○保坂幹事 それでは,配布資料などにつきまして御説明をさせていただきます。   配布資料といたしましては5点ございまして,資料番号の20から22,22は1から3までございます。   まず,資料20でございますが,こちらは第4回の部会におきまして,ドイツ刑法142条に事故後逃走すること自体を処罰する規定があるという御発言がございまして,その関係の資料のお求めがございましたので,その条文を配布しております。   ドイツの刑法におきましては,事故の際に救助が可能であったにもかかわらず救助を行わなかった者に対する処罰規定もございまして,それも併せて資料に書いてございます。   次に,資料21でございますが,こちらは無免許運転の加重の関係で,交通事故全体と無免許運転時の事故につきまして,当事者が死亡した事故,当事者が重傷を負った事故,当事者が軽傷を負った事故と三つに分類をした上で,それぞれの事故の割合を示したものでございます。   まず,当事者が死亡した事故というものについて御説明いたしますと,資料の赤字の部分が死亡でございます。上の段の表は,平成9年から平成23年までの15年間における交通事故全体に占める当事者が死亡した事故というものの割合の平均を出しますと,右側の欄に書いていますが,0.8%となってございます。他方で,下の段の表になりますが,同じ期間におきます無免許運転時の交通事故全体に占める当事者が死亡した事故というものの割合は,平均で3.3%になってございます。したがいまして,交通事故全体に占める死亡事故の割合と比較しますと,約4倍ということになっております。   同じ観点でございますが,当事者が重傷を負った事故については,資料の青色の字になっているものでございます。   同じく上の段の表で言いますと,15年間における交通事故全体に占める当事者が重傷を負った事故というものの割合は平均7.3%でございまして,下の段の表になりますが,無免許運転時の交通事故に占める当事者が重傷を負った事故というものの割合は平均17.9%となっております。したがいまして,この平均同士を比べますと,無免許運転時の重傷事故のほうは2.5倍ということになっております。   続きまして,資料22の1から3まででございますが,まず,資料22-1につきましては,こちらはこれまでの御議論を踏まえまして,事務当局のほうで自動車運転による死傷事犯の罰則規定の案を「事務局試案」として作成したものでございます。   資料22-2は,通行禁止道路として,事務局試案で政令で規定するということを書いてある道路として,どういうものを選定するかという関係の資料でございまして,資料22-3は,自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気として,事務局試案で政令で規定するとお示しをしている病気の内容の案でございます。   これらの詳しい中身につきましては,後ほどの議論の際に,それぞれの関係で御説明をさせていただきたいと思っております。   次に,配布資料ではございませんが,席上に配布させていただいた資料について御説明いたします。   まずは,法定刑とか処断刑の一覧表になった横書きのものがございます。こちらは,事務局試案に基づいた新たな罰則規定の法定刑ですとか,道路交通法の無免許運転罪との併合罪加重の場合の処断刑,あるいは事務局試案におきます4の罪の法定刑を書いた表でございます。こちらも後ほどの議論の際に御参照いただければと思います。   また,第4回の部会におきまして,私どものほうから,危険運転の要件におきます正常な運転が困難な状態ということの関係で,酒酔い運転と自動車運転過失致死傷罪のことにつきまして,検察官が書いた文献を御紹介し,その文献のお求めがございましたので,それを配布させていただいております。御紹介した箇所についてはアンダーラインを付してございます。   次に,冊子のほうで,「贖いの日々」というのをお配りさせていただいております。こちらは,この部会におきまして,期日外で被害者団体からのヒアリングを実施しましたが,反対当事者であります事故を起こした加害者のほうがその事故についてどのような考えを持っているのかということについても,御紹介する必要があろうかと思われましたので,その事故を起こした者が刑務所に服役をして,そのときに書いた手記を書いた冊子を配布させていただいております。   また,もう一つ,社団法人日本てんかん協会からの要望書も席上に配布をさせていただいております。御要望の内容といいますのは,特定の病気に対する差別にならないように,罰則の規定の仕方として,発作を伴う病気という要件にするのはやめてほしいなどといったものになってございます。詳しくは要望書を御覧いただければと思います。   資料の御説明は以上でございます。 ○西田部会長 本日,やっと事務局試案というものが出てまいりまして,これが法制審議会に対する答申の原案となるべきものだと理解しております。   これまで4回の部会におきまして,危険運転致死傷罪に危険運転行為を追加すべきであるという議論,それから危険運転致死傷罪と自動車運転過失致死傷罪の中間類型を新設すべきであるという議論。それと,あと2点ですが,逃げ得と言われる状況への対応,それから無免許の場合の刑の加重について議論をしてまいりました。本日,席上に事務局より提出されました事務局試案の一から四までが,それぞれに対応しているものでございます。   本日,予定では,休憩も入れまして午後5時までということです。限られた時間ですが,まず事務局から各項目を順を追って説明していただいて,質疑応答という形で審議を進めたいと存じます。   そして,今日の会議で一通りこの事務局の試案について御議論いただきまして,言わば第一読会といいますか,一巡した議論をし,今日の御議論を踏まえて,更に次回より精緻な議論をしたいと思いますので,今日は御疑問,あるいは文言の理解等も含めていろいろな御意見や御質問を頂ければと思います。   それでは,事務局からこの事務局試案第一について,御説明をお願いいたします。 ○保坂幹事 それでは,御説明いたします。   前提として,まず全体について御説明いたしますと,今,部会長のほうから御紹介があったような議論をしてまいりまして,それに対応するのが,事務局の試案の一,二,三,四というものでございます。後ほどそれぞれについて詳しく御説明はさせていただきますが,「一」の罪の構成要件にあります通行禁止道路ですとか,「二」の罪の自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気というものにつきましては,事務局試案の中にも書いてございますように,政令で定めるとしてございます。こちらは,道路交通法やその政令等を踏まえる必要があることから,政令で定めるのが適当であると考えたものでございます。   事務局といたしましては,この試案においては,一ないし四の罪を,今,刑法に規定されている危険運転致死傷罪と自動車運転過失致死傷罪とともに,特別法としての新規立法で規定するという前提で事務局試案を作成しているということでございます。   それでは,まず,「一」の罪について,御説明させていただきたいと思います。「一」の罪といいますのは,現行の危険運転致死傷罪の危険運転行為と同等の危険性,悪質性がある運転行為を危険運転行為に追加するというものでございます。   この罪で追加する運転行為としましては,これまでの議論にございましたが,一方通行道路,高速道路の中央から右側の部分,いわゆる逆走をするというものでございますが,あるいは商店街ですとか歩行者天国等の自動車の通行が禁止されている道路というような,通行禁止道路を進行し,かつ重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する,こういう行為を規定してございます。法定刑については,この「一」の罪といいますのは,従来の危険運転致死傷罪に追加をするものでございますので,危険運転致死傷罪と同じということにしてございます。   まず,「通行禁止道路」というものにつきましては,自動車の通行が禁止され,ほかの通行者としては,自動車が来ないはずであるという前提で通行している道路に限定することにしております。具体的には,道路交通法上の通行禁止の規制のうち,それを更に限定しまして,禁止に反して通行した場合の危険性ですとか悪質性に応じて,所要の手続を経る政令を定めるということで考えておるものでございます。   あわせて,資料22-2というものを御覧いただければと思います。資料22-2には,この関係の政令で定めるものを対象とするものと,そこには定めない,つまり対象としないものと分けてございます。「通行禁止」といいますのが,道路標識等によるものというのと,法令の規定によるものとございますので,まず,大きく二つに分けまして,その道路標識等による通行禁止のうち対象とするもの,そして対象としないものを,そちらに標識等と一緒にお示しし,法令の規定によるものにつきましても,対象とするものというのと対象としないものというのをお示ししているところでございます。   この「一」の罪というのは,他の危険運転行為の場合と同様に,故意に一定の危険な運転行為を行った結果,人を死傷させたものを,その行為の実質的な危険性に照らして,暴行により人を死傷させたものに準じて処罰しようというものでございますので,当然のことながら,この通行禁止道路を進行したことの認識は必要であると考えております。この認識といいますのは,道路標識等によって具体的な規制内容を認識している場合はもちろんでございますが,例えば,道路の幅員や対向車からの合図などによって,通行禁止道路であるということを認識した場合も含まれて,それで足りると考えているところでございます。   これまでの御議論におきましては,例えば一方通行道路でありましても,時刻ですとか道路状況等によっては,ほかの人とか車の通行がおよそないという場合もあるではないかということを理由としまして,危険性の要件として,ほかの人や車との関係について言及する御指摘もございました。しかしながら,この事務局試案におきましては,考え方としましては,まずこの「一」の罪というものが適用になる場面といいますのは,実際に人の死傷の結果が生じているということが前提でございまして,そもそもほかの通行者がおよそ存しないという場面ではないのではないかと考えられること,従前からある赤色信号を殊更無視という危険運転行為の類型につきましても,同じように時刻や道路状況等によっては,ほかの人や車が通行をおよそしない場合もあるのではないかということは言えるわけでございますが,赤色信号を殊更無視の類型につきましてそのような限定する要件は付されていないということを踏まえまして,この事務局試案におきます「一」の罪につきましても,ほかの人や車との関係というものの要件は付しておりません。   「一」の罪に関する説明は以上でございます。 ○西田部会長 ありがとうございました。   2点まとめますと,一つは,この事務局試案は,現在の危険運転致死傷罪,それから自動車運転過失致死傷罪と併せて,特別法として立法するという予定であると。したがいまして,政令に定める等,政令に委任している部分が含まれている。それから,「一」につきましては,これは現行の208条の2の類型の,特に赤色信号無視に準じたものであるということなので,これを追加すると。したがって,法定刑も死傷に応じて現行法と同じであると。以上の前提で,どうぞ御自由に御質問あるいは御意見をくださればと思います。 ○山下委員 何点かあるんですけれども,別々に一つずつ聞いたほうがよろしいですかね。   まず,基本的にこの資料の22-2の通行禁止道路について御説明いただきましたけれども,これのほうも対象にするものとしないものの分けた理由というんですか,なぜ一方を対象にし,一方を対象にしないのかを,もう少し御説明いただければ。特に1ページから2ページのものですね。対象としないものが幾つかありますけれども,これを対象にしない理由を是非御説明いただければと思います。 ○上冨幹事 御説明いたします。   22-2を御覧いただきながらお聞きいただければと思いますが,ここでは,例えば車両通行止めの道路,あるいは自転車・歩行者専用道路といったものについては対象にすることを考えておりますが,他方,ここに例として挙げておりますものとしては,大型自動車等通行止め道路,あるいは二輪の通行止め道路,指定方向外通行禁止といったものを対象としないこととするのが適当ではないかとお示ししております。   このように分けた理由でございますが,ここで,通行禁止道路として対象にする道路というのは,私どもの考えでは,この禁止に違反して自動車で走行することの危険性,悪質性が類型的に高いと思われるものを選んだつもりでございます。具体的に申し上げますと,他の通行者,例えば歩行者から見たときに,自動車が来ないはずであるという前提で通行していて,禁止に違反して自動車が仮に通行してきた場合には,これを回避するための措置をとることが,通常は困難ではないかという意味で,類型的に危険性,悪質性が高いと思われるものを選定したつもりでございます。   例えば,選定しないものの例として,大型自動車等通行止め道路というものがありますが,こういった規制の場合には,大型自動車でない自動車というのは,当然,進入してくることが前提となっておりまして,例えば歩行者の立場であっても,大型であるかはどうかはともかく,自動車が通行していることは前提としている道路であると言えるのではないかと思っております。   この点は,二輪の自動車や原動機付自転車通行止め道路の場合も同様でございますし,また,指定方向外進行禁止の場合は,例えば交差点のところに指定方向外進行禁止の規制がなされていたとしても,その方向からの進入でないところからの進入が必ずしも禁止されているわけではなくて,そういった意味で,先ほど申し上げたような危険性が必ずしも同等にあるとは言えないのではないかという意味で限定させていただいたものでございます。 ○山下委員 何点かあるんですけれども,続けてよろしいですか。   今回,政令で定めるものを通行禁止道路と定義するんですが,この政令で定める際に,この今回の資料22-2にありますけれども,道路交通法が引用されているんですが,その政令の中で道路交通法を引用することになるのか。そうだとすると,政令の中に道路交通法が改正されて変わった場合には,当然,その政令の内容も変わることになる。そういう意味で,これは危険運転致死傷罪の危険運転の認識というところに関わる問題ですけれども,そもそも政令にしたことによって曖昧になる上に,その政令が道路交通法を引用してしまうと,道路交通法が変わると政令の中身も変わるということで,前提となる通行禁止道路の概念に対する認識について非常に認定が難しくなるし,行為者としても,何が通行禁止道路かということについて,政令が変わり,かつまたその先の道路交通法が変わることなどによって,しょっちゅう変動するということであると,何が通行禁止道路なのかということに関しての認識が非常に難しくなるように思うんですけれども,その辺の技術的な問題ですね。   これを特別法にするということで回避しようとしているように見えますけれども,特別法にしたからといって,それでいいということが言えるのかどうか。これまで危険運転致死傷罪という刑法にあった罪を,たまたま特別法にしたからといって,政令を引用して故意の認識を曖昧にしていいというわけではないと思いますので,その辺の技術的な問題についてどのようにお考えなのか,お聞きしたいと思います。 ○上冨幹事 まず,通行禁止道路の範囲を政令で規定するということについてでございますが,まず,ここで私どもが,今,お示ししております通行禁止道路というものは,既に道路交通法におきまして,まず通行が禁止されている道路であることが前提でございまして,その中から更に本罪の対象となるものを政令で限定しているという構造になっております。   したがって,運転者,通行者の立場からすれば,広くそもそも通行してはいけないという規範があって,その規範は当然知った上で道路交通をしているということが前提でございますので,その中から更に政令で限定するとしたとしても,政令に委任されている範囲は元々明確でございますし,そのことによって故意の対象が曖昧になる,あるいは行為者にとって不利益な扱いになるということにはならないのではないかと考えております。 ○山下委員 あと2点。   もう1点は,今回道路標識若しくは道路標示で通行禁止になっているということのほかに,その他,法令の規定で通行を禁止されている道路ということで,今回,資料22-2の資料の中の2ページの「その他法令の規定によるもの」として,「高速道路の中央から右側部分」というのがありますが,これは結局,標識等はないわけでありまして,そういう場合と道路標識や道路標示がある場合とでは,行為者として,そこが通行禁止かどうかについて認識をするかどうかについて,若干違いがあるような気もするんですけれども,これを同列に扱って規定しようとしていることについてどのようにお考えなのかを,御説明をお聞きしたいと思います。   もう1点は,今回の議論の中では,この類型は,赤色信号無視に近い類型といいますか,それと同視できる類型であるという御説明がされてきたと思いますが,赤色信号無視の類型については,現行法上は,「殊更に無視する」という要件が入っていたわけですが,今回のこの案の中には,殊更に無視という要件は入っていない。赤色信号無視の類型と同視するのであれば,通行禁止道路であることを殊更に無視して進行すると書くのが相当だと考えられますが,どうしてこれが入っていないのかについて御説明いただきたい。   この2点でございます。 ○上冨幹事 まず1点目でございますが,道路標識あるいは道路標示によって規制されている場合であると,法令の規定によって禁止されている場合であるとを問わず,当該道路を通行してはいけないという規範が一般にあって,自動車の運転者がそれに従って行為すべきであるということについては,特段の差異はないのではないかと思っております。   その上で,現在考えておりますその他法令による規制であって,対象にするものといいますのは,高速道路の中央から右側部分と書いてありますが,先ほど保坂幹事からの説明にも若干ありましたように,この中央から右側部分というのを通行してはいけないというのは,要するに高速道路を逆走してはいけないという規範でございます。そのような規制について,今回の通行禁止道路の対象に加えるということが規範として曖昧である,あるいは行為者にとって不利な規制になると考えているものではございません。   2点目の,赤信号の場合と異なり,殊更無視という要件を付さなかった点についてでございますが,赤信号を殊更無視の類型と同視できるのではないかという問題と,殊更無視という要件が必要かどうかという問題は,必ずしも直接結び付くものではないのではないかと考えております。   元々現行の危険運転致死傷罪で殊更無視との要件が付されたのは,この規定が審議された法制審議会の議論の中で,例えば信号機の場合には,信号が黄色から赤色に変わるということが予定されていて,そのような場合,黄色から赤の変わり目で認識し,実際の交差点進入時には赤色になるというような場合について,未必的な認識で進入することがあり得るのではないかということで,そのような場合を除くべきではないかという議論がなされたものと承知しております。つまり,信号機の場合には,青から黄色,黄色から赤という形で,短時間のうちに交通規制の内容が変化するために,今,申し上げたような信号の変わり際という状況が現実に生じ得るわけでございます。したがいまして,故意に赤色信号に従わない行為のうち,およそ赤色信号に従う意思のないものに限定するという趣旨で,この殊更無視という要件が付されたものと承知しております。   一方,本罪につきましては,通行禁止道路を進行し,かつ重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為を処罰対象としているわけですけれども,赤色信号無視の場合とは異なり,信号の変わり際というような規制の内容が短時間で変化するという事態は,元々生じ得ないものであります。あえて殊更無視との要件を設けて,危険運転致死傷罪の類型としての処罰の対象から除外すべき場合が特段生じるとも考えられないことから,この場合には殊更無視との要件を設ける必要はないのではないかと考えたものでございます。 ○西田部会長 ありがとうございました。   広く御意見を伺いたいのですが,どなたか。 ○石井委員 この条項,事務局試案を適用する場合に,細かい点につきまして何点か教えていただきたい点がございます。   まず1点目ですが,通行禁止の交通規制というのは,実は補助標識でいろいろと細かい条件を決めているところがございます。例えば,スクールゾーン規制の場合は,子供さんの通学時間帯のみ通行禁止であるというふうな時間の規制。それから,あとスクールゾーンの中でも,例えばそこに住んでいる方の生活の便宜のために,通行許可を出して,特定の車について通行してもいいような許可証を出している場合。更に細かい話をいたしますと,ここのところで,その他法令の規定により自動車の通行が禁止されている,「法令の規定により」という意味なんですが,警察官が事故現場で交通規制をする,通行禁止措置を掛けて事故処理を行う。こういうふうな標識とか標示ではなくて,警察官が行動で示すような場合,こういうふうな場合は含まれるのかどうか,こういうふうなのを3点申し上げましたが,この点に対する御見解を教えていただきたいと思います。 ○西田部会長 それは,そのうちのどれを政令で定めるかという御趣旨ですか。 ○石井委員 いや,そういうふうなものを定めるつもりがおありになるか,ないかということでございます。 ○保坂幹事 今,3点頂きました,一つ目のスクールゾーンというものでございますけれども,こちらは,時間帯によって通行が禁止されるというものだと理解をしてございます。事務当局といたしましては,配布資料の先ほどお示しした22-2にある道路というものでございまして,時間帯によって通行が禁止される道路ということでございましたら,それは通行禁止道路に当たり,かつ,それを政令で規定をしていくんだろうと考えてございます。もちろん,この場合には,通行禁止といいますのは,その禁止されている時間帯だけでございますし,かつ認識といたしましては,その禁止されている時間帯である,その禁止されているということを認識している必要があろうかと思っております。   それで,若干順番は違いますが,もう一つ,警察官が手信号によって交通規制をしている場合にどうなるか,通行禁止道路になるのか,ならないのかという御質問につきましては,警察官が手信号によって規制をするというのは,例えば交通事故などの場合に,一時的に手信号によって交通を禁止したりする規制をするということだろうと思われます。そうしますと,そのような道路といいますのは,ほかの通行者も,そこを通行すること自体が少ないのではないかと考えられることと,警察官がその場で,その状況に応じて禁止あるいは規制をするというものであることからしますと,類型的に危険性,悪質性が高いという意味での通行禁止道路に含めるのは適当ではないんだろうということで,政令には入らないと考えておるところでございます。   他方で,通行が禁止されている道路であっても,警察署長等がその通行を許可している場合にはどうなるのかということでございます。道路交通法におきまして,例えば保管場所に出入りするというような場合ですとか,その場所を通行しなければいけないという,政令で定めるやむを得ない事情があると認めたときに,警察署長の許可を得て,標識等による通行禁止道路であっても通行が許されるというものがあると理解をしております。通行禁止道路というのは,この事務局試案にも書いてございますように,自動車の通行が禁止されるということが前提であるということでございますので,通行の許可を受けている場合には,この「一」の罪の対象にはならないのだろうと考えておるところでございます。 ○石井委員 今までの御質問は交通規制の絡みの話でございましたが,もう1点,前にちょっとお話ししたことがございますが,ブラジルのひき逃げの事例のとき,通行禁止,一方通行の道路を逆行して,その出口の交差点で自転車とぶつかって亡くなられたという事案でございますが,こういうふうに一方通行の道路に接続するような交差点部分,こういうふうなところでの,特に出口での事故については,因果関係があればこの規定が適用される。場所的には交通規制の道路より外れているところなんですが,接続するような交差点でぶつかった場合には,因果関係があれば含まれるという理解でよろしゅうございましょうか。 ○上冨幹事 御理解のとおりで,もちろん個別の事案によりますけれども,通行禁止道路を進行して,それから重大な危険を生じさせるような速度で運転したということと,死傷との間に因果関係があれば,実際に死傷が生じた場所が通行禁止道路内であるかどうかは,必ずしも問われないものと考えております。 ○山下委員 今のやり取りの中で,確認をお願いしたいんですが,先ほどの石井委員からの質問に対して保坂幹事が答えた,通行禁止道路の関係でスクールゾーンのような時間帯によって禁止になるものですね。これは今回の資料22-2には書いていないように思いますけれども,それも追加されるという趣旨だったでしょうか。 ○保坂幹事 この標識の関係は警察庁のほうから御説明いただいたほうがいいかもしれませんが,特定の時間帯について,標識によって通行止め,あるいは歩行者用道路となると理解をしております。したがいまして,ここにある時間だけというような限定条件が付いているという理解でございますので,正にこの標識によって禁止されるということで考えているところでございます。 ○山下委員 この図の,1ページの一番上の車両通行止め道路の中の一部ということですか。スクールゾーンの。 ○保坂幹事 それでよろしいかと思います。 ○山下委員 その関係で言うと,先ほど上冨幹事から赤色信号無視の場合との対比を話されて,赤色信号の場合は,青が黄色になって赤になるということがあるけれども,こちらの通行禁止はそういうのはないと言われたのですが,今みたいな時間帯によって禁止になったりならなかったりするとしたら,やはり赤色信号無視と同じような,つまり時間帯によって違うわけですから,当然,同じようなことが起こるような気がするので,先ほどの御説明は,その点についてはどうなるのかなと思ったのですが。 ○上冨幹事 もちろん,御議論いただくことだと思いますが,赤信号無視の場合は黄色から赤に変わる瞬間に,赤になるだろうという認識で交差点に進入していくことを除く必要があるのではないかという問題だと思うのですけれども,スクールゾーンのような場合に,これからスクールゾーンになるという瞬間にそこから先相当の長さがあると思われるスクールゾーンの中にあえて進入していく行為を,類型から除かなければいけない理由はないのではないかと,私どもとしては今のところ考えております。 ○西田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○髙橋幹事 2点ほど質問があります。1点目は,先ほど石井委員から質問があった,例えば一方通行の道路の出口で事故が起こった場合については,因果関係があれば,この規定が適用され得るということなんですが,逆に,一方通行の道路に入ろうとして出てきた車とぶつかった場合はどうなるのかというのが1点です。   それからもう1点が,この規定の要件として書かれている「重大な交通の危険を生じさせる速度」について,どの程度の速度かという点なんですが,恐らく道路の状況とか,いろいろな事情を加味して判断することになるのではないかと思いますけれども,一般的にどういうふうに考えればいいのか。   この2点を教えていただければと思います。 ○保坂幹事 まず最初の点,通行禁止道路に入る前に死傷させたという場合の話でございますが,その通行禁止道路に入る前の段階では,そもそも「通行禁止道路を進行し」という構成要件には当たらないということですので,「一」の罪は成立しないと考えております。これは,実質に鑑みましても,通行禁止道路というこの類型につきましては,ほかの通行者が,自動車が来ないはずであるいう前提で通行していることに実質的危険性の根拠を見いだすということでございますので,通行禁止道路に入る前の段階ではそのような前提に欠けるということで考えています。   それで,次の御質問でございますが,「重大な交通の危険を生じさせる速度」ということの意味合いということだと思います。具体的な当てはめは,その証拠関係,事実関係によるところでございますけれども,この言葉といいますのは,現行の危険運転致死傷罪におきます通行妨害目的の類型ですとか,あるいは赤色信号の殊更無視の類型に用いられている言葉でございます。その用語と同じと考えており,例えば通行禁止道路を進行した場合に,自分の車が相手方と衝突すれば大きな事故を生じさせると一般的に認められる速度,あるいはそのような大きな事故になることを回避することが困難であると一般的に認められる速度ということを基準として,当てはめをすることになるのだろうと考えておるところでございます。 ○橋爪幹事 先ほどの一方通行の逆走の出口の事故について,私からも質問をしたいと存じます。   先ほどの,一方通行の出口で別な自動車と鉢合わせになった場合につきましても,通行禁止道路における危険運転行為と因果関係があれば本罪に該当するという御説明がございました。私の質問は,一方通行の出口で衝突した段階においても「重大な交通の危険を生じさせる速度」で進行している必要があるかという点でございます。すなわち,試案の一は,通行禁止道路を進行し,かつ,そのときに「重大な交通の危険を生じさせる速度」という規定ぶりになっておりますから,通行禁止道路を通行するときに限って,「重大な交通の危険を生じさせる速度」で進行することが要求されているとも理解できます。   そうしますと,通行禁止道路を抜けた瞬間,その出口においても,更に高速度を継続して運転し,それによって事故が発生する必要があるのか。あるいは,通行禁止道路を抜ければ,それ以降は「重大な交通の危険を生じさせる速度」でなくても,出口で事故が起きれば本罪が成立するのかという点につきまして,御質問したいと思います。 ○上冨幹事 正確にお答えできるかどうか自信がありませんが,やはり重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転したということと因果関係がある死傷の結果であれば,該当し得るのではないかと考えております。実際に衝突する瞬間の速度というのは,例えば衝突を回避しようとする行為などで様々変わるわけでございますし,それは恐らく現行の危険運転致死傷罪のような場合にも,その衝突する瞬間の速度の問題というのは様々なものがあり得るということは同じなのかなと考えております。 ○橋爪幹事 この問題は私もこれまできちんと考えたことがなかったのですが,差し当たり私なりの意見を申し上げたいと思います。   危険運転行為と因果関係を有して死傷結果が発生していれば,本罪が成立すると考えておりますが,ただ,飽くまでも実行行為の危険が具体的結果に現実化している限度で因果関係が肯定できると思うのです。そして,今,御説明いただきました一方通行の出口での鉢合わせというのは,それ自体は,逆走運転の際の速度いかんを問わず,いずれにしても生じ得る事態ではないかとも思われますので,飽くまでも具体的な運用におきましては,一方通行を「重大な交通の危険を生じさせる速度」で逆走したことの危険の現実化として事故が発生したことを明確に認定することが必要ではないかと考えまして,その旨を質問させていただきました。 ○西田部会長 では,時間も押しておりますので,「一」について,最後に私から,この政令で定めるということでございますが,法制審議会総会に対する答申案には,この政令案も付けて提出,答申として出すのでしょうか。その点だけお伺いしておきたいと思いますが。 ○上冨幹事 政令そのものにつきましては,政令を定めるための所要の手続を別途経た上で定める必要があると思いますし,その実際の定め方についても別途検討が必要だと思っておりますので,答申そのものに政令案を付すことはなかなか難しいかと思います。ただ,政令の中身となるべき基本的な規制の内容というのは,正に罰則の内容そのものでございますので,その点については,部会でも十分御議論いただいた上で,それを踏まえたものとして答申の案を作成していただければと考えております。 ○西田部会長 私の理解では,これは通行禁止道路の中でも更に類型的に危険性の高いものに限定しようという御趣旨で,わざわざ政令で定めるとお書きになっておられるので,そこまで答申案の中に盛り込むことが無理だとしても,そういう方針でこの答申案ができているということは,付記されることを望んでおきたいと思います。   では,以上で「一」につきまして,消化不良かもしれませんが,時間の都合でここまでといたしまして,次,「二」について事務局から御説明お願いいたします。 ○保坂幹事 それでは,事務局試案の「二」の罪について御説明させていただきます。   この「二」の罪といいますのは,暴行に準じるような危険運転行為と同等とまでは言えないものの,なお危険性,悪質性の高いと認められる運転行為をあえて行い,客観的に正常な運転が困難な状態に陥って人を死傷させた場合について,危険運転致死傷罪よりは軽く,自動車運転過失致死傷罪よりは重い法定刑とするものでございます。言わば危険運転致死傷罪と自動車運転過失致死傷罪の中間類型の罪を新たに設けるというものでございます。   具体的には,アルコールの影響,薬物の影響,又は自動車の運転に支障を及ぼすおそれがあるものとして政令で定める病気の影響により,その走行中に正常な運転に支障を生ずるおそれがある状態で自動車を運転し,その影響により正常な運転が困難な状態に陥るという客観的な経過を経て,人を死傷させたという,構成要件の規定にしております。   構成要件のうち,まず「アルコール」と「薬物」ということの意義につきましては,これは現行の危険運転致死傷罪におきます「アルコール」あるいは「薬物」と同義でございまして,自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気の関係につきましては,所要の手続を経て政令で定めるということを想定してございます。   この病気に関して政令で定める内容が,資料の22-3というものでございます。資料22-3を御覧いただけますでしょうか。   ここで対象とすると挙げている病気といいますのは,道路交通法におきまして運転免許の欠格事由の対象とされている病気と同じでございますが,1点だけ,2の発作により意識障害又は運動障害をもたらす病気というところの,無自覚性の低血糖というものがございます。こちらは注3に書いてございますように,道路交通法あるいは道路交通法施行令の扱いと異なっております。道路交通法及び施行令で言いますと,人為的に血糖を調整することができるものについては,運転免許の欠格事由の対象とはされておりませんが,ここで議論をしている「二」の罪の関係で考えますと,そういう人為的に血糖を調整することができるという場合でございましても,例えば薬を飲まずに,それを分かって,走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で,それを認識して運転をし,その影響によって正常な運転が困難な状態に陥るということによって人が死傷したという場合には,やはり「二」の罪の対象とするのが適当であろうと考えたものですから,人為的に血糖を調整することができるというものについても含めているところでございます。   また,この「二」の罪の関係でいいますと,「その走行中に正常な運転に支障を生ずるおそれがある状態で」という要件を付してございます。これにつきましては,アルコールの関係で言いますと,極めて僅かな量を摂取した場合についてもこの罪の対象とすることは適当ではないということのほか,そもそも健康人の通常の血液中にも常時一定濃度のアルコールが保有されていて,単にアルコールを身体に保有しているということではやはり足りないのだろうということ,薬物の関係で言いますと,薬物の薬理作用というのが様々あるということ,そして,病気の関係につきましては,発作等が生じない場合には自動車の運転に支障が生じないというものもあることから,そこを限定する趣旨で,「正常な運転に支障を生じるおそれがある状態」という要件が必要だと考え,かつそのことを認識しているという場合に限ってこの罪の対象として処罰するという規定にしてございます。   「その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」という要件について,アルコール,薬物の場合と一定の病気との場合に分けて,御説明させていただきたいと思います。   まず,アルコールですとか薬物の影響の場合,この今申し上げた状態といいますのは,実行行為時点の運転者の心身の状態をいうと考えております。その状態といいますのは,危険運転致死傷罪の「正常な運転が困難な状態」すなわち,道路及び交通の状況等に応じた運転操作を行うことが困難な心身の状態であるということになりますが,そこまでは必要がないものの,自動車を運転するのに必要な注意力,判断能力あるいは操作能力が,そうでないときの状態と比べて相当程度減退して,危険性のある状態にあるということが必要であると考えております。   更に具体的に言いますと,アルコールの影響による場合を例にとりますと,道路交通法の酒酔い運転罪の構成要件にある「正常な運転ができないおそれがある状態」ということにまで至る必要はないものの,酒気帯び運転罪に該当する程度のアルコールを身体に保有している状態であることが必要なんだろうと考えております。この「正常な運転に支障を及ぼすおそれがある状態」といいますのは,要件にございますように,アルコール又は薬物の影響によるものであることが必要でございます。もっとも,この点は,専らアルコール又は薬物の影響によるということを要求するものではございませんで,危険運転致死傷罪の「アルコール又は薬物の影響により」という要件と同様に,アルコール又は薬物とほかの要因が競合した場合も,これは含まれると考えております。   「その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれのある状態」に関する認識につきましては,アルコールの影響を例にしますと,具体的なアルコールの保有量についてまでの認識を必要とするというわけではございませんが,その実行行為時点での運転者の状態を基礎としまして,自動車を運転するのに必要な注意力や判断能力あるいは操作能力が相当程度減退して,危険性のある状態にあるという認識が必要であると考えております。   なお,具体的に言いますと,通常の一般人を基準とした認識としまして,自動車を運転するために必要な注意力等がそうでないときの状態と比べて相当程度減退する程度の,すなわち酒気帯び運転罪に該当する程度のアルコールを身体に保有しているということの認識が必要になろうと考えております。   次に,病気の影響による場合について御説明いたします。   ここでいう病気といいますのは,先ほど少し御説明しましたように,運転免許の拒否事由に当たる一定の症状を呈する,例えばてんかん等を政令で定めるということといたしておりますが,それを前提として,「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」といいますのは,その実行行為時点における心身の状態というのは同じなのですが,その内実,中身といいますのは,てんかんの発作により意識喪失に陥るという場合を例にしますと,運転開始当初はもとより,走行中のある時点で発作によって意識喪失に陥るなどして,自動車を運転するのに必要な注意力や判断能力あるいは操作能力というものが相当程度減退して,危険性のある状態になり得る具体的なおそれがあるということが必要になると考えております。この状態に対応する認識につきましては,先ほど申し上げた,運転開始当初はもとより,将来,そのような状態になり得る具体的なおそれがあるということの認識が必要になろうかと考えております。   なお,「その走行中に」としてございますので,その走行中にそのような状態になり得るおそれがあるということでございまして,故意としましては,それに対応する認識が必要であり,それで足りると考えております。   次に,次の要件でございます「よって」というところの以下の部分になりますが,先ほども御説明しましたように,因果経過としまして,客観的に「正常な運転が困難な状態に陥り」ということが必要になります。これは実行行為としてのものではございませんで,このような状態に陥ったことについての故意は必要がないという規定にしてございます。   なお,アルコールと薬物の影響の場合につきましては,この「二」の罪と現行の危険運転致死傷罪の双方の成否というものが問題になり得ますので,その点について若干の御説明をしたいと思います。   危険運転致死傷罪とこの「二」の罪との違いといいますのは,正常な運転が困難な状態であることの認識の要否,必要か否かということでございます。   この「二」の罪が適用される具体的な場面として想定されるのは,正常な運転が困難な状態であることの認識がない場合として,例えば,運転開始当初は,アルコールの影響で注意力や判断力が散漫な状態,先ほど御説明した正常な運転に支障を生じるおそれがある状態ではあったけれども,その後,仮睡状態になって正常な運転が困難な状態に陥ったものの,その仮睡状態で正常な運転が困難な状態の時点では,その状態にあることの認識を有しない場合,あるいは,同様に薬物の場合で言いますと,運転開始当初は薬物の影響で眠気を催したり,注意力,判断能力が不十分になっていて,運転操作にも支障を来していたということでございましても,薬物の薬理作用が進んで,急に意識を喪失して正常な運転が困難な状態に陥ったものの,その困難な状態に陥った時点では,その状態にあることの認識を有しないという場合が考えられるところでございます。   さらに,正常な運転が困難な状態にあることの認識を立証できない場合,例えば,正常な運転が困難な状態で人を死傷させたけれども,被疑者,被告人が正常な運転が困難であったこと,それを基礎付けるような事実の認識を否認して,ほかの証拠ではその認識を有していたことを合理的疑いを超えて立証することができない,他方で,被疑者,被告人が運転を開始した,あるいは運転の時点において,アルコールの影響により注意力,判断力が減退したことと,正常な運転に支障を生じるおそれがある状態であることについては認識していたことが立証できるという場合,そういう場合にも,この「二」の罪というのが適用され得ると考えられるところでございます。   「二」の罪に関する説明は以上でございます。 ○西田部会長 ありがとうございました。   「二」の罪が,いわゆる中間類型を定めるものということになりますが,御説明を伺っていても分かりにくい点も多々あるかと思いますので,どうぞ御質問を。 ○今井委員 確認をさせていただきたい点がございますが,「二」の中で,アルコールの影響により走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態というものも入っておりますが,先ほどの御説明で,これは,例えば酒気帯び運転をしている,そしてそういうことの認識がある場合にここに当たるという御説明でしたが,それは現行法制の下でも,酒気帯び運転というのが走行に悪影響を及ぼす基本的な例として挙がっていることを踏まえての御説明かと思いましたが,そのような理解でよろしいでしょうか。 ○上冨幹事 はい,そのような趣旨で御説明いたしました。 ○髙橋幹事 ただいま事務局から説明を受けましたが,「その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」というものの客観的状態と,その認識については,恐らくアルコールの場合と薬物の場合と病気の場合で,それぞれ具体的な当てはめをしようとする場合,少しずつ違うのではないかと思います。まずは典型的な場合で結構ですので,アルコール,薬物,病気のそれぞれの場合に,どういう状態が走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態と言えるのか,もっと具体的な事例を紹介していただくとともに,そのような状態であるという認識については,どのような事実についての認識があれば足りるのか,更にブレークダウンしてお話しいただければと思うんですけれども。 ○西田部会長 これについては,前回か前々回,想定される事例等でお示ししたことがあったかと思いますが,それなども参考にして,今,事務局お答えになれますか。 ○保坂幹事 今,私の説明でなるべくブレークダウンして,酒気帯び運転罪というのも,一つの分かりやすい例として挙げたつもりでございまして,どんな場合を典型というかというところの説明というのはなかなか難しくて,今,申し上げたようなアルコールの関係で言えば,運転に必要な注意力とか判断能力あるいは操作能力というのが相当程度減退していて,アルコールの例で言えば,酒気帯び運転罪で,政令値で0.15ミリグラムとなっているわけですが,それと同じような状態にあるということが客観的な状態として,例えばということで申し上げた次第でございます。それに対応する認識ということで,今,御説明させていただいたものでございます。   病気の関係で言いましたら,先ほど申し上げたように,病気の場合には将来も含めた,つまり途中までは全く支障なく運転をしている場合というもの考えられて,そこも含めた,将来も含めた走行中のある時点で,先ほど申し上げた支障が生じるおそれがある状態になるということも含んだものとして考えておりまして,それに対応する認識であるということでございます。 ○上冨幹事 若干補足いたしますと,病気の場合には,これは政令の定め方にもよるとは思うのですけれども,政令の定め方の段階で,既に一定の病気であって,しかも運転中に運転に支障が生じるような症状が生じるようなものに限定して対象とすることを考えております。したがいまして,通常の場合には,そのような病気であり,そのような症状であることの認識であれば,一般的にはそのようなおそれは認められるでしょうし,そのような病気であり,そのような症状であることの認識であれば,故意としても足りるのではないかと考えております。   したがいまして,更にややブレークダウンしますと不正確になる面は否めないかもしれませんが,免許が取れないような病状であるということを,例えば医師などからの指摘で認識している方であれば,一般的には,ここでいうところの正常な運転に支障が生じるおそれがある状態であるといって構わないのではないかと考えております。 ○髙橋幹事 例えば病気の場合だと,そのような病気であり,そのような症状であるという認識が必要であるとすると,例えば,客観的には,事故当時に重度の眠気の症状を呈する睡眠障害だったということが,事故後の医師の診察で分かったんですが,事故を起こす前は特に医者にもかかっていなかったので,具体的な病名は知らなかった。ただ,夜中寝ているときに,奥さんか誰かから,夜中,呼吸が止まっているよ,大丈夫といった指摘は受けていて,ちょっと怪しいなと思っていた。このように具体的な病名は知らないけれども,何となく症状は分かるといった場合なんですが,こういう場合は構成要件に当たらないということになるんですかね。   あと,先ほどブレークダウンと言ったのは,恐らく今後,いろいろな事件が起きてきたときに,実際に,捜査段階でもそうですし,検察官が起訴するとき,あるいは裁判官が法を適用するときなど,実際の事件の処理に直面した際,この部会で,ある程度,こういう場合はどうだろう,こういう場合はどうだろうと議論をしておかないと,つまり,この部会でどんな議論をした上でこのような構成要件になったのかということがないと,現場では混乱することがあると思うんです。   今お尋ねしたのは病気の例なんですけれども,薬物の影響の場合でも,例えば風邪薬を服用した際に,そのときの体調などの状況によりますと,風邪薬の影響もあって,寝てしまうようなこともあり得ると思います。特に過労が激しいような場合などが考えられます。このような体調の下,風邪薬を飲んで,結果的に正常運転が困難な状態になって,事故を起こしてしまったというような場合,これも中間形態の構成要件に該当するとして検察官は起訴をするようなものとして,今回,この構成要件が立てられているのか,この点を教えていただきたいと思います。 ○上冨幹事 まず病気の場合についてですけれども,具体的な病名の認識が必ず必要かという観点から申し上げれば,必ずしも必要ではない。具体的な病名の認識がないからといって常に故意がなくなるという関係にはないのだろうと思います。先ほど医師から具体的に指摘がある場合と申し上げたのは,典型的な例でございますけれども,そうでない場合であっても,客観的にはこの政令に定める病気に当たるものであって,主観的にも運転に支障が生じるおそれがある状態であることが,医師からの具体的な指摘以外の事情からも本人が認識しているのであれば,成立する余地はあるのだろうと思います。ただ,髙橋幹事がおっしゃったとおり,これも具体的な証拠に基づいた個別の判断にならざるを得ないという面はあろうかと思います。   それから,薬物につきましては,ここで言う薬物については,例えば違法薬物に限るという趣旨ではもちろんございませんので,薬物に当たるかどうかという点で申し上げれば,例えば風邪薬のような薬物も,薬物という概念から申し上げれば当たり得るのだろうと思います。   ただ,それでは一般的な風邪薬のような薬により,走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態にあると言えるかどうかという問題については,まず客観的な面から言って,そのような薬理作用のある薬物かどうかということが問われる上に,主観的な問題として,通常の風邪薬のようなものを飲んで運転することが,運転者として,この走行中にその薬のために正常な運転に支障が生じると具体的に思うのかどうかということからすれば,当たらない場合も十分にあるというか,むしろ当たらない場合もあり得るのだろうと思います。個別の判断でございますので,一律に風邪薬の場合はどうかというのは申し上げるのは難しいところでございますけれども,現行の危険運転致死傷罪について,従前,同様の問題について御説明してきたことと,基本的には,程度の問題はありますけれども,考え方としては同じなのではないかと思っております。 ○島田幹事 ただいまの髙橋幹事のおっしゃったこととも関係いたしますが,走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがあること及びその認識について,特にその認識についてですが,はっきり免許拒否事由に当たるような病気であることを認識しているといったような場合であれば,一旦それが発現すると非常に危険ですから,その症状が今回の運転中に現れる具体的な兆候は,比較的弱くても,その認識が認められる。一方で,酒ですとかそれから風邪薬などでありますと,もちろん一定の危険はありますが,一般には,その影響で,直ちに全てがコントロールできなくなるというおそれが類型的に高いものとまではいえないので,具体的な状況で,具体的な走行状況などで,自分の今回の運転が危ないというようなことまで認識すべきである。必要な認識の程度は,そうした影響による危険の程度と当該走行中に危険が生じる可能性と掛け合わせといいますか,その相関関係によって決されると理解しているのですが,支障が生じるのおそれの認識についてはそのような理解でよろしいでしょうか。 ○保坂幹事 今御指摘いただいたような理解で結構かと思っております。 ○西田部会長 これは,現行の刑法208条の2が,アルコール若しくは薬物の影響により正常な運転が困難な状態でという,それをワンランク下げたというか,走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態でと,それに対応した認識が必要だという,大ざっぱに言えば,そういう認識でよろしいんですよね。   ほかにいかがでしょうか。 ○山下委員 3点ほど質問しますが,まずは,自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令に定めるものということについてなんですが,資料22-3にその内容が挙げられているんですが,本来,道路交通法上は運転免許を与えないものに入っているけれども,今回,中間類型の犯罪の対象となる病気にしないものとして,脳血管疾患,アルツハイマー病その他うんぬんということで,これが外されていますが,なぜ外されているのかということが1点目でございます。   それから,二つ目は,1ページの2番の最初にあるてんかんですけれども,このてんかんのところの説明として,「発作が再発するおそれがないもの」うんぬんとあります。それで,今回,てんかんについて,発作が再発するおそれがない,例えば2年間発作が全く生じていないという人がいたとして,それで自分はもう治ったと思って運転していたが,発作が起きてしまったということがあり得ると思うんですが,発作が再発するおそれがないてんかんだということの認識と,走行中に正常な運転に支障を生ずるおそれということの認識との間には重なる部分もあろうかと思うんですけれども,そういう場合にこの「二」の罪に当たる,成立すると言えるかどうかという点が2点目でございます。   3点目は,今回,アルコール若しくは薬物又は病気の影響により,正常な運転が困難な状態に陥るというところは,これは実行行為ではないという御説明があったんですが,しかし,実際にはその行為からこの結果が生じているわけでございまして,結局,これはいわゆる原因において自由な行為という理論をここで使っているという趣旨なのか。つまり,実行行為は飽くまで前のほうにある,運転に支障が生じるおそれのある状態で自動車を運転するということが実行行為なんですが,その段階と,その後の正常な運転が困難な状態になったという結果との関係というんですか,これは原因において自由な行為かと思われますけれども,そのような前提でこれを立法しようとしているのかと。   その3点を御質問したいと思います。 ○西田部会長 今,山下委員の2点目の御質問ですが,この表ではてんかんとあって,発作が再発するおそれがないものは除くということになっています。 ○山下委員 だから,ここから除かれるので,自分はここに当たらないと思うことがあり得るわけですね。しかし,てんかんというのはそういう場合でも,例えば2年間発作がなくても,発作が生じ得るというものであるとしたら,そして,そのことをもちろん本人は認識しているとして,自分はこれに当たらないと思った場合に,走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがあるということの認識があると言えるのかどうかということでございます。 ○西田部会長 分かりました。これについて,・・・。 ○辻委員 てんかんの場合は2年以上発作がない場合となっていますが,欧米では1年です。しかし,1年以上発作がなければ,ほとんどそういう発作は起こさないということが前提になり,運転免許は取得,保持できるということになりますので,てんかん患者さんは2年以上,日本は大事をとって2年と,欧米より2倍以上と長くし,アメリカは3か月という,ものすごい短い期間にしている州もあります。だから,そういう点でここの除外規定に当てはまれば,ほとんど発作は起こさないだろうと考えていいということで,患者さん自身は認識しないということになると思います。 ○山下委員 それに関連していいですか。 ○西田部会長 ちょっとお待ちください。今ので山下委員の2番目の質問に対しては,辻先生がお答えになったもので。 ○山下委員 それは分かった上で質問しているんですが,ただ,一応答えはしていただければ。 ○西田部会長 山下委員の質問に,まず事務局からお答え願って。 ○保坂幹事 3点質問を頂きまして,まず1点目の資料のほうの対象にしないものの例と挙げている,脳血管疾患とか,アルツハイマー病その他というものとか,あるいはアルコール,麻薬,大麻,あへん等々の中毒者ということでございます。こちらは,まず上の段のほうにつきましては,この病気の対象とするかどうか以前の問題として,そもそも責任能力等の観点から,この人たちに対して,責任能力の点とか,あるいは運転に対する認知というところがそもそも欠けて,類型的に一定の病気ということの対象にすべきではなかろうと考えたところであり,また,アルコール等の中毒者の関係は,この病気ということで対象に取り込まなくても,中毒に至っているまでの必要はないんですが,アルコールや薬物の影響によるという類型で,危険運転致死傷罪や,あるいは「二」の罪の対象になり得るということで,「病気」との関係では対象にしておらないということでございます。   それで,てんかんの関係で,この資料で言いますと,発作が再発するおそれがないものということで言いますと,認識の問題もあるのかもしれませんが,そもそもこの病気の影響によりということでございますので,再発するおそれがないものというのは,そもそもこの「二」の罪における病気から除外されるということになります。したがって,客観的にそもそも病気に当たらないということになろうと考えております。   それから,最後の,原因において自由な行為なのかどうかということで,これはいろいろ考え方はあろうかと思いますが,今,申し上げたように,実行行為としては,正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転し,その「よって」以下のところは,正常な運転が困難な状態に陥っているというところは因果の経過として規定しているということでございます。仮にこの因果の経過としての正常な運転が困難な状態に陥ったということを要件として規定しないとすると,およそアルコール等の影響とは関係のない,あるいは過失によって事故が起きたというような場合も対象となってしまうという不具合があろうかということで,その成立範囲を絞り込むという意味で,このような因果経過を要件として加えたということでございます。 ○上冨幹事 1点補足させていただきますが,いわゆる原因において自由な行為の考え方の問題と,今回の構成要件の定め方というのは,直接関係はないんだろうと思っております。今,保坂幹事のほうから御説明したとおり,客観的な因果の経過としてそのような状態になったことが必要だということを言っているだけであって,そのときの責任能力の有無といった観点からの構成要件の定め方をしているわけではございませんので,その責任能力の問題についての説明としての,いわゆる原因において自由な行為といった考え方と直接つながるという理解をする必要はないのだろうと思っております。 ○辻委員 細かい点ですけれども,「自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気」という書き方は,病気全部が対象になるという誤解が医療側では起こるのではないかと思うので,自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある一定の症状を呈する病気か何かにしていただいたほうが理解しやすいのではないかと思います。これは警察庁での委員会でも,病気としたら,てんかんという病気は全て駄目だという誤解等が生じる可能性があるので,表現はちょっと変えたほうがいいのではないかということになりました。 ○保坂幹事 御指摘は書き方のものかと思います。御覧のとおり,政令の中身としましては,症状を呈するものはその旨を規定するという趣旨でございますので,それを法律に規定できないかということでございますので,その点については検討させていただきたいと思います。 ○西田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○石井委員 これも適用のときの確認なんですが,例えばてんかんの場合でございますと,薬を常時飲むことによって発作のおそれがないという病状の方がおられます。たまたま飲み忘れてしまったと。こういうふうな場合,血中の薬の濃度が下がってまいりますと,発作を起こしやすく,逆になってしまうんですけれども,こういうふうな場合は,飲み忘れてしまったので,この場合,認識がないので適用がないというふうな理解でよろしゅうございましょうか。 ○上冨幹事 結構だと思います。 ○石井委員 その次なんですが,先ほどの御説明の中でも,アルコール,薬物,病気の影響プラス,例えば過労みたいなものが入った場合でも適用があるということと,もう一つは,アルコールと薬物が複合的な原因でなった場合,一番典型的なのはバルビタール系の睡眠薬プラスアルコールみたいなもので,それぞれではそれほど効果はないんだけれども,両方飲んだために効果が顕著になる。ですから,因果関係としては,一つのものから導き出せないようなものについても適用があるというふうな理解でよろしゅうございましょうか。 ○上冨幹事 その点もおっしゃるとおりで結構だと思います。 ○西田部会長 ほかにございませんか。 ○島田幹事 病気につきまして,確認です。薬物の飲み忘れの場合というお話がありましたけれども,飲み忘れに気付いたといったような場合は,やはり運転を中止すべきだというお考えでしょうか。 ○保坂幹事 おっしゃるとおりでございまして,飲み忘れた上に,本人はすっかり飲んだ気でいるという場合が,故意がない場合であって,飲み忘れたなということで,飲んでいないという認識がある場合には,その意味での薬を飲んでいない認識が生まれてくるということですので,今,島田幹事の御指摘のとおりだと思います。 ○山下委員 確認ですけれども,結局,薬を常時飲んでいて,てんかんの発作が起きない状態になっている人が,たまたま飲み忘れたケースは,てんかんには当たる。つまり,「自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令に定めるものの影響」ということの認識はあるけれども,「走行中に正常な運転に支障を生じるおそれがあるという状態」の認識がないという理解でよろしいということですか。 ○保坂幹事 今の点は御指摘のとおりだと思います。 ○西田部会長 これがもし,法文になった場合,当然,ここでの議論が将来の解釈の指針にもなりますので,いろいろな事例を想定して活発な御議論を頂くと,これが将来の解釈論にとっても非常に重要でありますので,しかし,今日はちょっと時間がございませんので,「二」につきましてもここら辺で一応終了させていただきまして,次回,更にお考えおかれた上で,いろいろな限界事例,あるいは問題事例など,大いに御議論を戦わせていただいて,将来に備えたいと思いますが,今日のところは「二」については,以上とさせていただきまして,ここで休憩をとることにいたします。   3時40分まで,15分間休憩させていただきます。           (休     憩) ○西田部会長 では,おそろいのようですので,審議を再開したいと存じます。   次は事務局試案,「三」の罪につきまして,まず,事務局から御説明をお願いいたします。 ○保坂幹事 それでは「三」の罪につきまして,御説明をさせていただきます。   「三」の罪といいますのは,救護義務違反の罪を犯してでも危険運転致死傷罪の適用を免れようとする者が生じやすくなるのではないかという,いわゆる逃げ得の状況が生じていることは相当でなく,これを是正して,当罰性の高い行為に対して,その適正な処罰が可能となるように設けるという趣旨でございます。   具体的に言いますと,アルコール又は薬物の影響により,その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転し,その運転上必要な注意を怠り,よって人を死傷させた者が,その運転のときのアルコール等の影響の有無又は程度が発覚することを免れる目的で,更にアルコール又は薬物を摂取すること,その場を離れて身体に保有するアルコール又は薬物の濃度を減少させること,その他その影響の有無又は程度が発覚することを免れるべき行為をしたという構成要件の規定にしてございます。   まず,構成要件のうち,アルコール又は薬物の影響により,その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態といいますのは,先ほど御説明をした「二」の罪と同じでございまして,自動車を運転するのに必要な注意力や判断能力あるいは操作能力が,そうでないときの状態と比べて相当程度減退して,危険性のある状態にあるということが必要であり,その故意も必要であると考えております。   なお,「その影響の有無又は程度が発覚することを免れるべき行為」ということについても,故意は必要でございますが,人の死傷の結果につきましては,その運転上必要な注意を怠った結果発生したということで足りるとしておりますので,この「三」の罪といいますのは,言わば故意犯と過失犯の複合形態になると考えております。   この「三」の罪の保護法益につきましては,まず,走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転するという危険性,悪質性が認められる運転行為と,運転上必要な注意を怠り,よって人を死傷させた場合という過失による人の死傷を構成要件として取り込んでおり,危険,悪質な運転行為を防止し,人の生命身体を守るということが主たる保護法益であると考えております。また,この罪は,更にアルコール又は薬物を摂取すること,その場を離れて身体に保有するアルコール又は薬物の濃度を減少させることなどをすることにより,重要な証拠となるアルコール等の影響の有無又は程度に関する証拠収集,保全を妨げるものでございますので,刑事司法作用というものも併せて保護法益であると考えております。   「その運転上必要な注意を怠り」という要件につきましては,現行の自動車運転過失致死傷罪の構成要件と同じでございます。この要件を付しておりますのは,この「三」の罪といいますのは,「二」の罪との対比で言いますと,正常な運転が困難な状態に陥るということを要件としておりません。したがいまして,無過失で人を死傷させた場合にまでこの「三」の罪を対象とすることは適切ではないということから,「その運転上必要な注意を怠り」ということを要件としたということでございます。   なお,アルコール又は薬物の影響とは無関係な過失でございましても,文言上も,「その運転上必要な注意を怠り」というところには当たり得るということで考えております。   次に,アルコール又は薬物の影響の有無又は程度が発覚することを免れるべき行為という要件につきましては,道路交通法の不救護罪のように,事故現場から離れる,立ち去ることにより即時に既遂に達するというものではなく,免れるべき行為と言える程度の行為が行われることが必要であると考えております。   法定刑につきましては,この「三」の罪といいますのが,いわゆる飲酒運転,酒気帯び運転罪と自動車運転過失致死傷罪,証拠隠滅罪,それぞれの複合形態であることを踏まえまして,これらの法定刑の合算したものより重い法定刑とするのは相当でないと考えまして,かつ,自動車運転過失致死傷罪が人を死傷させた場合と負傷させた場合とで法定刑を同じにしているということも併せ考慮いたしまして,人の死傷にかかわらず,法定刑は12年以下の懲役としてございます。なお,この「三」の罪と道路交通法の救護義務違反の罪につきましては,併合罪の関係に立つと考えているところでございます。   「三」の罪に関する説明は以上でございます。 ○西田部会長 どうもありがとうございました。   1点だけ,最後のおっしゃった本罪と道路交通法の救護義務違反の罪は併合罪の関係ということですが,そうすると,117条の第2項で10年以下の懲役の場合ですと,現在併合罪で15年以下,これができて,併合罪になると18年以下という処断刑になるということでよろしゅうございましょうか。 ○保坂幹事 はい,御指摘のとおりでございます。 ○西田部会長 そういうことでございます。   以上を前提といたしまして,どうぞ御自由に御質問,御議論いただければと思います。 ○武内委員 「三」の罪の後段のほうになります。その場を離れて身体に保有するアルコール又は薬物の濃度を減少させることとありますが,これは,単にその場を離れることだけでは足りず,よりその濃度を減少させるための何らかの作為ないし行為を要求するという御趣旨ですか。それとも,その場を離れることによる時間的な離隔というか,時間の経過に伴うアルコールないし薬物の濃度の減少で足りるということでよろしいんでしょうか。 ○上冨幹事 後者の趣旨でございます。特段の別途の作為を要するとは考えておりません。 ○武内委員 併せて,もう1点よろしいでしょうか。その後の「その他」以下ですね。「その影響の有無又は程度が発覚することを免れるべき行為」というところですが,現場で更にアルコール又は薬物を摂取する,あるいはその場を離れるということのほかに,具体的にどういったことを想定されておられるか,何かイメージがありましたら開示願えませんでしょうか。 ○保坂幹事 更に追加的にアルコールを飲んだりとか,あるいは,アルコール濃度を時間とともに減少させることのほか,水を大量に飲んだりとか,排泄を高めるような行為も,その対象になり得るということだろうと思います。今申し上げた水を飲むというような行為については,その場を離れていなくても,追加的に薬物,アルコールを摂取するという行為でもなく,例えばその場で水をガブガブ飲んだというような行為は「その他」の行為として対象になり得ると考えております。 ○髙見委員 御説明があったかもしれませんが,念のためお伺いするんですが,認識の点なんですが,その運転上必要な注意を怠り,よって人を死傷させたという認識を必要とするという解釈でよろしいわけですか。 ○保坂幹事 今御指摘の,運転上必要な注意を怠り,よって人を死傷させたというのは,今の自動車運転過失致死傷罪と同じ要件でございますので,この点は言わば過失ということでございます。注意を怠って人を死傷させたということですので,そこの認識という問題ではなくて,そこは正に過失ということでございます。 ○髙見委員 伺いたいのは,自分の行為でけがをしたり亡くなっているという状態を認識している必要があるかどうかということなんですが。 ○上冨幹事 過失を基礎付ける事実の認識は必要だと思いますけれども,それで足りるのではないかと思います。死傷の結果の認識も必要だと考えております。 ○髙見委員 それも必要と。分かりました。 ○山下委員 今の質問に関連してですけれども,前半は過失犯ということですが,最初の「アルコール又は薬物の影響によりその走行中に正常な運転に支障を生じるおそれがある状態で自動車を運転した者」という,ここは本来過失犯ですけれども,故意が要るのか要らないのか。この書きぶりだと故意が要るかのように読める。それが,逆に先ほどの後の目的犯の行為の認定の前提になっているように見えるんですが,これはどうなんでしょうか。 ○保坂幹事 今,御指摘のあったその支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転するということについては,先ほども御説明しましたが,そこは故意が必要であるということで考えております。 ○山下委員 それで,この書きぶりですけれども,「よって人を死傷させた場合において」とありますね。この書きぶりは,いわゆる構成要件的状況のようにも見えますけれども,これは過失犯と故意犯の結合犯のようにも見えるんですが,自動車運転過失致死傷罪は成立しないという,それは吸収されるということかと思うんですけれども,その辺りについて,この書きぶりとの関係はどうなんでしょうか。 ○上冨幹事 別途自動車運転過失致死傷罪は成立しないという理解でよろしいかと思います。 ○山下委員 それは,吸収されるという。 ○上冨幹事 吸収と呼ぶのか,あるいは法条競合と呼ぶのか,その辺は刑法学の問題かもしれませんが,いずれにしても別途成立しないという結論になろうかと思っております。 ○山下委員 これを結合犯と呼ぶかどうかは別として,自動車運転過失致死傷罪と後半の免れるべき行為という,二つを併せて規定しているわけですが,いわゆる結合犯というときには,刑事学上,それがほぼ一緒に行われるということが顕著といいますか,そういう場合に結合犯というのを作るということですが,今回のケースは必ずしもそうではない,逃げる人も逃げない人もいると思うんですね。   それから,後半は明らかに国家法益に対する罪というんですかね。発覚を免れるべき行為というのは国家法益に関する罪で,前半部分の行為が,人に対する生命身体に対する個人的法益とは違うものを結合犯的に規定するというのは,立法技術としていかがなものかという気もするんですが,その点はどういうふうに考えられるでしょうか。 ○上冨幹事 まず,このような罪を設けることの前提としての実態があるかという点については,これはもう認識の違いなのかもしれませんけれども,酒を飲んで人を死傷させる事故を起こした人が,酒の程度を発覚することを恐れるために逃げるという実態があるのではないかと,我々は考えており,そのような認識を前提として考えた罰則でございます。そのような意味では,先ほどおっしゃられたようなものとそれほど違いはないのではないかと考えているところです。   次に,法益の違いがあるものを一つの罰則にまとめることができるのかという御指摘でございますが,必ずしもそのような罰則を設けることが,そのこと自体で特に問題だと私どもは考えていなかったものでございます。もし更に御指摘があれば承りたいと思いますが。 ○山下委員 もう一言だけ。刑法体系からいくと,国家的法益と個人的法益とかは,一応分けて刑法典上は配列されています。今回,これを特別法にするという話もありますが,免れるべき行為は,いわゆる証拠隠滅罪とか,そういう類型に近いものだと思うんですけれども,そのように法益が異なる犯罪を,今回こういう形で合体して結合犯にすることについては,かなり違和感があります。   それから,もう一つは,これは道路交通法上の救護義務違反との併合罪になるということで,18年以下の懲役という相当重い処断刑になるんですけれども,これは「二」の類型の中間類型よりも明らかに重くなります。そのような中間類型以上のものを作るということにも違和感がありますが,「三」の罪について,法定刑を12年以下の懲役にされた理由は何か。条文だけ見ると「二」の類型より1ランク下げたように見えますけれども,道路交通法上の救護義務違反に非常に重い法定刑が規定されており,それとの併合罪になることが想定されていながら,法定刑を12年以下の懲役にした理由を御説明いただければと思います。 ○上冨幹事 まず,後者の点から申し上げます。中間類型の罪を犯した場合であっても,その後,更に救護義務違反を犯せば,当然,救護義務違反の罪が成立して,併合罪の関係になり,その場合には22年6か月が処断刑の上限ということになるわけで,比較の対象として,救護義務違反が成立しない中間類型の法定刑と比較するという必要は,私どもとしてはないのではないかと考えております。 ○今井委員 個人的な意見でございますけれども,先ほど上冨幹事が回答されておりましたように,この試案の第三として予定されている犯罪類型を作る際の事実認識として,ここで想定されているような行為が現に存在しているといたしますと,それに伴ってどのような法益が侵害されるかという評価が次に来るのだろうと思います。すなわち,自動車運転過失致死傷罪等に相当するような行為をして,その後,人身の保護も尽くさず,また同時にそれが証拠隠滅的な評価を受ける行為であるとして,私は,そういう実態はあると思いますけれども,その際にどのような法益を個別に侵害しているかを踏まえていって,それをトータルで見て一つの犯罪として作り上げるということ,これは,十分理論的に可能ではないかと思っております。 ○髙橋幹事 4点ほど質問があります。   一つ目は,刑法では,自己の犯罪に関する証拠隠滅行為というのは,期待可能性がない,あるいは薄いということで,不可罰となっているんですけれども,それとの関係がきちんと整理できるのかというのが一つ。 ○西田部会長 長いようでしたら区切って。その点から,証拠隠滅との関係。   この点について御意見のあるほかの委員,幹事の方も,関連してどうぞ。 ○上冨幹事 御指摘のように,刑法の証拠隠滅罪等につきましては,自己の刑事事件に関する証拠は処罰対象とされていないところですが,その説明として,一般に期待可能性が欠如,あるいは低いのではないかというような御説明がされていると承知しております。ただ,例えば犯人が他人の自己の刑事事件に対する証拠の隠滅等を教唆した場合については,教唆罪の成立を肯定するというのが判例でありますし,学説等でも,定型的に期待可能性がないとは言えないというような御説明がされていると承知しております。そうしますと,自己の刑事事件に関する証拠の隠滅行為であっても,常に期待可能性がないから処罰できないということではなく,一定の場合には期待可能性があるという考え方をすることは十分に可能ではないかと考えております。   その上で,今回,私どもの試案にある類型を考えてみますと,道路交通法が規定しておりますとおり,交通事故が発生したという状況のもとでは,車両等の運転者等は救護報告などを行わなければならないということが罰則で義務付けられているところであります。そして,そのことは広く一般国民の常識となっているのだろうと思っております。   実際に,例えば,自動車による死傷事犯の年間の発生件数,約85万件余りでございますが,他方,救護義務違反の件数というのは1万件余りということでございます。もちろん,逃走した場合が全て救護義務違反が成立しているかということは,必ずしもそうではないかもしれませんが,こういった数字を見ますと,ほとんどといいますか,非常に多くの運転者は逃げずに義務を果たしているというのが実際の現状であろうと思われ,一般の犯罪に広くこの種の罰則を設ける場合は,また別途の検討が必要かもしれませんが,少なくともこういった自らの運転行為によって人を死傷させたというような状況下において,自己の刑事事件に関して証拠の隠滅行為を行わないとすることの期待可能性は十分にあるという前提で罰則を設けることは可能なのではないかと考えているところでございます。 ○西田部会長 この問題,刑法104条の証拠隠滅から犯人が主体から除外されている,その理由は期待可能性の欠如であるというのは,ほぼ一致したところでありますが,他方,犯人が自分の証拠隠滅を教唆した場合は教唆犯として処罰できるという,これも最高裁の判例があるところであります。他方,これが自己負罪拒否特権に反しないかという問題もあるわけですが,これについても救護義務違反,報告義務違反は自己負罪拒否特権に反しないというのも最高裁の判例のあるところでございます。しかし,新たな立法でございますので,この点は非常に重要な論点ですので,髙橋幹事の質問を契機といたしまして,この点について御意見のある方はどうぞ。 ○島田幹事 確かに重要な問題だと思いますが,私自身は先ほどの上冨幹事の御説明に加えて,対象が証拠隠滅,一般に限定されていない点も重視すべきだと思います。つまり,アルコール又は薬物の影響の有無又は程度というのは,時間とともに消えやすい証拠であり,証拠一般よりも隠滅が容易です。その分,その証拠隠滅行為の違法性が高いと言えるのではないかと思います。   更に言えば自己の罪証隠滅行為は期待可能性がない,という説明も常に妥当するのか,疑問があります。例えば,事後強盗罪では,罪跡を隠滅する目的の暴行・脅迫によって加重されています。自己の罪証隠滅だと,そのことによって直ちに期待可能性がなく不可罰になるわけではない,と思います。 ○今井委員 今,部会長から御指摘のありました自己負罪拒否特権のところで個人的な意見を申し上げますと,御案内のように,憲法38条1項に,「何人も,自己に不利益な供述を強要されない」と規定されておりますが,この事務局試案の「三」におきまして処罰対象となっている行為は,薬物を摂取すること,その他発覚を免れるべき行為をするということでありまして,供述を強要するという書きぶりにはなっておりませんので,まず文言上も自己負罪拒否特権というものには抵触しないだろうと思います。   また,そこについては理解の違いがあるかもしれないのですが,自己負罪拒否特権というのは,かなり論者によってその適用範囲が異なって理解されてきていることは,刑事訴訟法の学説においても共有された認識だと思います。元々この権利が生まれてきましたコモン・ローでの状況を見ますと,どのような法益を守るためにこの特権が必要かということが議論され,相関的に,すなわち他の利益との調整において,当該権利が正に特権として守られたり,あるいは特権でないような処理がなされたりするということが,現在に至るまでなされてきております。こうした状況をも踏まえますと,今回の事務局試案の「三」が自己負罪拒否特権に抵触するおそれはないだろうと,個人的には感じております。 ○山下委員 先ほど上冨幹事と西田部会長から,他人に教唆した場合の話が出されたんですけれども,今回は他人に教唆した場合ではなくて,正に自分自身がした行為なので,その例を出すのは不適切かと思います。   そして,先ほどからこれはよくあるケースだと言われておりますけれども,よくあるということは正に期待可能性がない,つまり普通の人はやってしまうということですから,期待可能性がないということかと思います。   それから,「その場を離れて」というところの行為なんですけれども,先ほどアルコール又は薬物の濃度を減少させることについては,積極的な行為ではなくてもいい,つまり不作為でもいいというような話もあったと思うんです。そうなると,その場を離れただけでこの行為に当たることになってしまうと,それは証拠隠滅よりも相当犯罪性の弱い行為かと思うんですが,それを罰するというのはどうか。しかも,証拠隠滅罪は他人の刑事事件に関する証拠であっても,それは2年以下の懲役になっているのに,ここでは重い刑が科せられることになる。「この場を離れて」というのは,もちろん免れる目的によって限定されるとは思いますけれども,結局,その場を離れただけでもそういう重い罪になってしまうというのは,刑の作り方として非常に問題があるのではないかと思います。 ○上冨幹事 法定刑の関係について若干補足して御説明させていただきますが,この構成要件は,先ほどの説明を前提としますと,酒気帯び程度のお酒を飲んでいたことがまず要件となっていて,更に自動車運転過失致死傷罪が成立し,更に加えて申し上げたような事後の行為をするということを全て行った場合に12年という刑になっております。法定刑の定め方は,必ずしも他の個別の犯罪の法定刑の積み上げではございませんし,それ自体として考えるべきものではございますが,道路交通法上の酒気帯び運転罪が,現在,上限が3年となっておりまして,自動車運転過失致死傷罪は7年でございます。証拠隠滅罪については,現行刑法上2年という法定刑になっておりまして,そういった他の罪の法定刑とのバランスを考えたときに,この12年という法定刑が著しく高い,あるいは厳しいとは考えておりません。 ○西田部会長 どうもありがとうございました。これは,この問題,証拠隠滅との均衡,他方で救護義務違反,更に大きい問題としては,自己負罪拒否特権との関係,これは更に次回も続けて御議論いただくことにして,これはまだ髙橋幹事の質問の途中でございますので,第1の質問についてはこの程度で,髙橋幹事,よろしゅうございましょうか。 ○髙橋幹事 はい。 ○西田部会長 では,第2の質問にお移りください。 ○髙橋幹事 二つ目の質問ですが,この構成要件では目的が必要とされていて,その運転の時のアルコール又は薬物の影響の有無又は程度が発覚することを免れる目的があった場合に,12年以下の懲役になるというものですが,このような目的ではなくて,自分が犯人であるということを発覚されないがために逃走するという場合もあると思います。だとすると,その場合には,この構成要件に当たらないで,むしろ刑が低く設定されてしまうことになるのかなと思うんですけれども,何かそこは非常にアンバランスのような感じがして,それはそれでやむを得ないと考えておられるのかというのが二つ目の質問です。 ○西田部会長 要するに犯人性の隠蔽の目的のときはなぜ入らないのかという御質問だと思いますが,いかがですか。 ○上冨幹事 犯人性を隠蔽したいという目的があるということと,アルコール,薬物の影響の有無,程度が発覚することを免れる目的があるかどうかという問題は,当然ながら択一関係にはなくて,両者が併存しても一向に構わないということは,まず前提だろうと思います。その上で,今回のような新たな罰則を設けることを根拠付けるといいますか,正当化するための要件として,アルコール,薬物の影響の有無,程度が発覚することを免れる目的という主観的要件がないにもかかわらず,目的を設けないままにこのような罰則を設けることができるかということについては,やはりこのような目的があって,このような罰則を設けることが正当化されるのではないかという意見があり得るのではないかと考えて,この案では,このような目的を加えたものでございます。   その上で,先ほど最初に申し上げましたが,結局,このような罰則を設けることを正当化するための要件として,この目的が必要かどうかということであって,それ以外の目的があったかどうかということを問うものではないのではないかというのが,一応の今のところの考えでございます。 ○西田部会長 この目的犯的な構成並びに目的をこれだけに限定していいのかという,これに関連して委員,幹事からどうぞ。 ○石井委員 この目的の発生した時期といいましょうか,よくあるのは,事故が起こったとき,びっくりして逃げましたと。しばらくしてから,いや,これは大変だからと,アルコール追い飲みをしようとか,水を飲もうというふうなところで,後から目的が生じて行為が出た場合には,これに当たるんでしょうかね。 ○西田部会長 行為ですか,故意ですか。 ○石井委員 行為ですね。 ○保坂幹事 今,御指摘のあったような,例えばその事故現場から時間的,場所的に離れた場所で目的が生じて,その上で免れるべき行為をしたということであれば,この罪の対象にはなり得ると考えているところでございます。 ○山下委員 目的犯にしているわけですが,一見すると,この目的犯で非常に限定しているように読めますけれども,先ほど述べたように,「その場を離れて」云々という行為がありますので,結局,逃走した事例は全てそのような目的があるかのように認定されるのでないか。つまり,何ら限定になっていないのではないかという感じがちょっといたします。こういう目的の場合に限定するという議論があったことは確かですが,結局,現場から逃げたというだけで,逃げたんだから,当然,これはアルコール又は薬物を減少させるためだろうと言われて,目的があると認定されるのではないか。もちろん,目的というのは主観ですけれども,客観的なものから認定するわけですから,逃げたという行為からそのように認定されるとしたら,これでは,この目的には限定の意味がないのではないか。そのような気がいたします。 ○西田部会長 山下委員の御指摘は極めて重要かと思います。例えば事故を起こして,気が動転して逃げて,3日ぐらいたって,やはり自首しようといって自首したというような事例まで入ってくるのか。さらには,この目的というのをどうやって客観的な証拠で立証できるのか。そういう御批判は,当然,この規定ぶりについては生じるかと思いますので,この点については,もう少し詳しい事務局のお考えをお聞かせ願えればと思いますが。 ○保坂幹事 この免れる目的の立証というのは,もちろんいろいろあり得るかと思うんですが,例えば典型的なことで言えば,事故のすぐ後にコンビニに行ってお酒をその場で飲んだとか,あるいは知り合いの人に,酒を飲んで事故を起こして罰せられると具合悪いから,酒が抜けるまで逃げるんだというようなことを告げていたとか,そういった目的を推認させるような事実を,そのような関係証拠,コンビニの防犯ビデオやレシート,あるいはその知人の供述といったようなことから立証していくということが,一つ考えられると思っております。 ○高橋委員 罰則の正当化に関係するのかもしれないのですが,運転者の責任ということとも関係するのではないかと思います。運転中はしっかり運転するのは当然であると同時に,万が一,事故を起こしてしまった場合にどう対処するかという点です。その場を逃げる,あるいは更に自分のアルコール濃度を下げるとかということは,被害者から見れば,そもそも事故を起こしたということだけでも許されないのに,更にその証拠を隠そうということは,二重三重に怒り心頭になると思います。そういう意味で,ここの文言はとても具体的に書かれていますので,こういう罰則の持つ社会的なインパクトは大きいのではないかと感じます。 ○山下委員 それとの関係で,目的があって,例えばその場を離れて,先ほどのコンビニの例でもいいんですけれども,正にこれから酒を飲もうとしたときに逮捕されたという,いわゆる未遂的な行為もあるような気もするんですが,そういう場合,これはどのように適用されるのか。未遂犯というものがあるのかないのか。その辺は,どうなんでしょうか。 ○西田部会長 これ未遂犯規定は予定していないので,免れるべき行為,べきというところで読み込むんだろうと思いますが,いかがですか。 ○上冨幹事 未遂犯の処罰規定を設けることまでは,この案は考えておりません,したがいまして,どの時点で当該行為が免れるべき行為として既遂になるかという判断の問題ではないかと思います。もちろん,いわゆる追い飲みをしてしまえば,免れるべき行為をしたということは明らかでございますし,逆に,追い飲みをしようとしたけれども,全くそこに至る前に検挙されてしまったということであれば,恐らくいまだ既遂には達していないということになろうかと思います。   その途中のどの段階で既遂に達するかというのは,なかなか個別の事案で難しい問題かもしれませんが,実際に,例えば既に購入して,いざ飲もうとしている段階に至れば,一般的には既遂になるのではないかと,今のところ私自身は考えておりますが,更にそこは御検討いただければと思います。 ○山下委員 結局,実行の着手がいつかということになりますね,つまり,実行の着手はあったけれども結果を遂げる前に逮捕されたという場合は,今のお話だと,未遂犯は特に規定を作らないので,現行法上の罪,つまり自動車運転過失致死傷罪と道路交通法上の救護義務違反の併合罪ということだということですね。 ○岩尾委員 追い飲みのケースについて考えますと,その場を離れずに追い飲みをしようとした,しかもそれを飲んでいないとすると,これはやはり明らかに実行の着手がない。あるいは,少なくとも未遂なので処罰されないと思うんですけれども,その場を離れてコンビニに行って酒を買おうというような行為をしたときには,もうその場を離れること自体,もう一定の時間を稼いでアルコール濃度を減少させる行為でございますので,追い飲みをしたかどうかだけを判断基準にするのではないのではないかと思うところでございます。 ○山下委員 先ほどから言っているように,そうだとすると,その場を離れて身体に保有するアルコール濃度又は薬物の濃度を減少させることという行為が,結局,その場を離れたら,基本的には実行の着手はあるし,免れるべき行為なんだと読めてしまいそうだと。ここが消極的な行為,つまり不作為でもいいとすると,現場から逃げた行為そのものが免れるべき行為になるとすると,これは余りにも行為として広げ過ぎというか,逃げたらもう駄目だと。しかも,逃げたんだから免れる目的もあると認定されることになると,全く限定になっていないのではないか。そういう行為を罰していいのか。人間として,事故の現場から逃げること自体については,期待可能性は絶対ないと思うんですね。事故現場から,とにかく逃げたいと思うのは人間の気持ちとしては分からないわけではないので,そういう行為を全部罰することになるとしたら,それは行き過ぎではないかと思うんですが。 ○武内委員 今のその場を離れての類型で特に問題になろうかと思うんですけれども,その場を離れたとしても,具体的に身体に保有するアルコール又は薬物の濃度が大きく減少していないだろうと思われるケースがあると思うんです。運転中のアルコール濃度というものは,そもそも計測ができないわけですから,元々対比が困難かと思いますが,その場を離れたけれども,検挙されて,そこで飲酒検知等をやったところ,およそ正常な運転ができない程度の数値が出たというケースです。このような場合は,現実にアルコール濃度が減少したことに伴う立証妨害という結果の発生は要求しないという理解でよろしいんでしょうか。   そうだとすると,その場を離れて減少させることというのは,一体どこまで離れて,何時間ないし何分たっていたら離れたことになるのかというのが,そこが若干不明瞭なので,山下委員の御指摘のような部分につながってくるのではないかと思うんですが,いかがでしょうか。 ○上冨幹事 まず,結果として減少してしまったということまで必要かという点からすれば,既遂に達するためには,そこまでのことは必要はないだろうと考えております。ただ,実際の罰則の適用を考えた場合,逃げたのだけれども,あるいは逃げようとしたのだけれども,実際には逃げ切れずに,あるいはすぐに戻って出頭して,アルコールの検知ができて,その結果,中間類型,あるいは危険運転致死傷罪の成立が認められるというような場合に,この「三」の類型の罪の適用自体が問題にならないのではないかと考えております。 ○山下委員 今の点に関連ですけれども,結局,時間がたつことによって,生理作用としてアルコールや薬物の濃度が減少する。時間がたてば減少するとしたら,それは行為がなくても時間,つまり逃げるという行為によって時間が経過すれば,自然の摂理として濃度が下がるとしたら,それを不作為みたいに捉えて罰するのはおかしいので,何らかアルコールや薬物の濃度を減少させる積極的な行為がないといけない,例えば,眠いから家へ帰って寝た,起きたら濃度が下がっていたと。これをここで言う免れるべき行為として罰するというのは,いかにもおかしいと思うんですね。やはり,自然作用で時間がたったから濃度が下がるというのではなく,追い飲みをするとか,水を飲むとか,何か積極的な行為がないといけない。自然作用で時間がたったから濃度が下がったということを捉えて,免れるべき行為と評するのは,余りにも問題ではないかと思います。 ○西田部会長 ただし,目的の縛りはあるし,それから,更にアルコール又は薬物を摂取することという例示も一応あるわけですから,その例示と同等のその場を離れてというのも,それと同等であるという。 ○山下委員 それは分かっています。先ほどから,減少させる行為や積極的な行為は特に必要ないという説明をされているので,あえて私は言っているんですが,明確にその場を離れてうんぬんというところの解釈としてそのような解釈をされれば,結局,逃げて,時間がたって濃度が下がった行為も当たるかのように見えるので,あえて指摘をしているわけです。 ○上冨幹事 1点だけでございますが,その場を離れるという類型について,私どもとしては決して不作為犯として考えて構成しているわけではございません。ここに書いてあるような目的を持って体内のアルコール濃度が減少するという状況を作り出すためにその場を離れるという作為を行ったということを捉えて,構成要件としているつもりでございます。 ○西田部会長 それでは,またお待たせしました,髙橋幹事の第3番目の御質問に戻りたいと思います。 ○髙橋幹事 共犯者がいる場合のことなんですけれども,例えば,この構成要件の前段にあるような状況で自動車事故を起こした者がいて,その車に同乗していた者が運転手に,このままだと危険運転致死傷罪が成立するので,お酒を飲みなさいと勧めて,お酒を飲ませて,アルコール濃度を上げた,追い飲みをさせたといった場合の,その同乗者の罪責というのは,どうやって規律するのかというのが,三つ目の質問です。 ○保坂幹事 今の例で言いますと,同乗者が,その運転者の罪証を隠滅したという行為が前提だとすれば,その同乗者は他人の刑事事件に関する証拠を隠滅したということによって,今の刑法の規定によって処罰され得るということになると思います。その前段のところというのが,同乗者自体は車の運転もしておらないで,アルコール等の影響により正常な運転に支障が生じるおそれがある状態での運転もしていないということになりますと,その点についてはその同乗者は何の関係もないと。何の罪責も負わないので,今の考えでいきますと,その罪証,証拠隠滅行為が同乗者に成立するということになるのではないかと考えます。 ○山下委員 この問題は正に承継的共犯の問題だと思うんですが,それをどう考えるか。結合犯の場合における承継的共同正犯の議論とか,いろいろありますけれども,何か今の話だと余りにも形式論というか,要するに承継的共犯否定論だと思いますが,判例はそうでもないと思いますし,今の御質問は恐らく,この「三」の類型の共同正犯が成立するのかという御質問だったと思うんですが。 ○髙橋幹事 そこがよく分からないなと思って,質問しました。 ○西田部会長 ですから,これは場合によっては事後強盗において,事後の暴行・脅迫・傷害にのみ関与した者が事後強盗致傷の罪責まで追うかという問題とパラレルな論理構造を持っているので,必ずしも単純に同乗者は証拠隠滅の教唆,そうしますと証拠隠滅自体が不可罰ですから,その教唆も当然不可罰だということ。あるいは間接正犯みたいな考え方を採るか,そこは非常に理論的には,考え出すといろいろな問題をはらんでいることは確かでございます。   しかし,今,事務局にそこについての回答を要求するのはちょっと無理なようなので,御指摘の点,要するに構成要件的状況と考えるのか,それともこれを一つの身分として考えるのか,さらに,その同乗者が追い飲み等を教唆した場合に,それは身分犯の共犯という形になるのか,それとも単純に不可罰な証拠隠滅の教唆犯にとどまるのか。考え出すと,いろいろな理論的な解釈論上の問題が出てまいりますので,これはちょっと引き取らせていただいて,次回まで事務局に考えていただいてということにしたいと思います。 ○山下委員 今の議論の関連で。今,同乗者と言われていたんですけれども,同乗者でなくて,事故を起こした人が電話して友達を呼んだということもありますから,いろいろな形で承継的共同正犯かどうかが議論になると思うんですね。確かに,今,部会長が言われたように,これが構成要件状況なのか,身分犯なのかということがあるので,そこを明確にしていただかないと。法律を決めた後は解釈になりますというのでは,判例を作る裁判所としては困ると思いますので,この条文は,身分犯なのか,構成要件的状況なのかを明確にしていただく必要があるのではないかと思いますが。 ○西田部会長 基本的には,構成要件的状況というか,要するに自動車運転過失致死傷罪が前提となっているという作りになっているので,その後で,アルコール又は薬物の影響の検知を妨げる目的で,それを免れるべき行為をしたと。ある意味では単純なんですけれども,解釈のしようによってはなかなか,ですから,これは構成要件的状況だと考えればそれほど複雑ではないのですけれども,身分犯のことを言い出すと…… ○山下委員 結局,これを構成要件的状況と見てしまうと,いわゆる承継的共犯についての解釈で,非常に軽くなってしまうと。介入した共犯者はえらく軽くなってしまうのではないかという不均衡が生じます。こんなに主犯を重くしていながら,途中から関与した人は非常に軽くなるというので本当にいいのかという,それらも含めて,共犯を意識してこの規定を作る必要があるのではないかと思うんですが。 ○西田部会長 その点は,次回に引き継ぎたいと思います。   4番目の御質問を。 ○髙橋幹事 前段の罪だけだと,道路交通法違反と自動車運転過失致死傷罪の併合罪になっているんですけれども,最後の追い飲み等の行為が加わることによって,これがポンと1罪になってしまう。今までなかなか見たことのないような類型の構成要件なので,これが実務上,何が問題になってくるかというとことを考えてみたところ,これも今すぐ御回答いただけるかどうか分かりませんが,訴因変更の場合にどう処理していけばいいのかという点が問題となり得ると思います。   例えば,危険運転致死傷罪で起訴したのですが,その審理で,検察官は,情状に関する事情として,追い飲みをしているという主張をしていたところ,審理の過程で,なかなか危険運転致死傷罪の認定が難しそうだとなった場合に,検察官として,道路交通法違反と自動車運転過失致死傷,プラス,追い飲み行為ということで,この新しい類型の罪に訴因変更しようという場合,いわゆる公訴事実の同一性という観点から問題がないのかといったことについて,どういうふうにお考えなのかというのをお聞きしたいと思います。 ○上冨幹事 今の御質問の趣旨は,元々の訴因が危険運転致死傷罪だった場合に,この新しく設ける罪に訴因変更することができるかということでしょうか。   この新しく設けようとしている罪と,元々想定されていた危険運転致死傷罪とひき逃げ,道路交通法違反の罪との間での社会的な事実という面で見れば,公訴事実の同一性は通常であれば認められてしかるべき事案ではないかと考えております。 ○山下委員 今の点,危険運転致死傷罪のときには,普通,救護義務違反の道路交通法は起訴されていないという理解でよろしいですか。それとも,起訴されているんですか。つまり,最初は1罪だったのが,2罪,結局この「三」の類型と救護義務違反,道路交通法違反と2罪が成立するとしたら,それは罪数が変わるということですから,当然,同一性はないことになると思うんですが。 ○髙橋幹事 救護義務違反は置いておいて,危険運転致死傷罪の場合は,自動車を進行させて人に傷害を負わせたというのが,正に基本となる事実なのですが,この新しい類型の罪は,その後の事後の行為,つまり,追い飲み等といった発覚を免れるべき行為,それが加わっているので,どうなるのかという趣旨です。 ○山下委員 ただ,「三」類型は1罪ですよね。自動車運転過失致死傷罪を含んだ,先ほど何か吸収かどうかとあったけれども,「三」は自動車運転過失致死傷罪を含んだ1罪,「三」という1罪だけが成立するので,1罪から1罪の訴因変更はできるのではないかと思うんですけれどもね。 ○西田部会長 それはできないのではないかな。公訴事実の同一性はないでしょう。 ○武内委員 ないでしょうね,これは。 ○西田部会長 だって,追い飲みとか何とかを付加するわけだから。 ○山下委員 行為は確かに,追い飲みは確かにない行為ですから,元々にない行為だし,時間的にも…… ○西田部会長 危険運転致死傷罪に含まれない行為がここに加わっているので,それは訴因変更ではなくて,追起訴か予備的訴因で上げておかないと,これは無理でしょう。 ○上冨幹事 実務上いうところの追加的訴因変更という手法になるのではないかと思いますが。結果としては1罪でございますので,別の訴因としての追起訴ではなくて,新たな事実を加えた立証をするとともに1罪になるという構造ではないかと思います。 ○西田部会長 だから訴因変更が必要ないということではないんですね。   髙橋幹事,よろしいですか,今の。 ○髙橋幹事 まだきちんと頭の整理ができているわけではありません。 ○西田部会長 では,それも更に次回に持ち越しということで,いろいろと事務局に宿題が出ましたけれども,時間の関係もございますので,「四」に移りたいと思います。   事務局から御説明をお願いいたします。 ○保坂幹事 それでは,事務局試案の「四」の罪の1から4までの無免許運転による加重につきまして,御説明をさせていただきます。   この「四」の罪といいますのは,危険運転致傷罪と,この試案でいう「一」の罪,「二」の罪,「三」の罪,又は自動車運転過失致死傷罪を犯した者が,そのときに無免許運転であったときには,加重した法定刑とするという罪を設けるものでございます。   お示ししている事務局試案におきましては法定刑を示しておりませんが,こちらは道路交通法の無免許運転罪の法定刑がどうなるかというところでもございまして,他方で席上配布させていただいた一覧表におきましては,無免許運転罪の法定刑が1年以下から,仮に3年以下の懲役とされた場合を,一つの想定といたしまして,その「四」の罪の法定刑を右のほうに書いているものでございますので,それを御参照いただければと思います。   まず,無免許運転による加重の趣旨につきましては,無免許運転というものが,自動車運転のための最も基本的な義務に反した,著しく規範意識を欠いた行為であること,それに加えて,運転免許制度が予定している運転に必要な適性,技能及び知識を欠いているという意味で,抽象的,潜在的ではあるが,危険な行為でもあるところでございますが,無免許運転の機会に人を死傷させたという事案におきましては,無免許運転の反規範性ですとか,その抽象的,潜在的な危険が,言わば顕在化,現実化したと評価できるということで,その場合の法定刑を併合罪加重による処断刑以上になるように定めるということでございます。   加重処罰の対象となります無免許運転につきましては,事務局試案の末尾の(注)というところに記載しておりますけれども,道路交通法の無免許運転の罪が成立する場合と同じでございまして,具体的には,道路において,運転の免許を受けず,かつ国際運転免許証又は外国運転免許証を所持しないで自動車を運転した場合と,免許の効力が停止されているにもかかわらず自動車を運転した場合,これを無免許運転と定義をしているところでございます。   次に,加重した法定刑の考え方を御説明いたします。   危険運転致死傷罪と事務局試案の「一」の罪につきましては,既に人を死亡させたときには1年以上の有期懲役,したがいまして,法定刑の上限は有期刑の上限である懲役20年になるということと,法定刑の下限を引き上げるまでの必要はないということから,人を死亡させた場合,こちらは加重処罰の対象とはしないということにしてございます。   一方で,人を負傷させたときにつきましては,これは15年以下の懲役ということになりまして,その無免許運転による加重の場合の法定刑は,道路交通法の無免許運転罪との併合罪加重による処断刑以上の法定刑にするという必要があると考えられるところでございますが,先ほど申し上げたように,道路交通法の法定刑の引上げというのがまだ最終的に決まっておらないということで,事務当局の試案では,○○の懲役・P,ペンディングとしてございます。   なお,無免許運転罪,危険運転致死傷罪の進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる類型,いわゆる無技能類型の場合の関係については,危険運転致死傷罪の方だけが成立して,併合罪加重すらされないということでございますので,それとの均衡におきまして,この無免許運転による加重の対象としては,危険運転致傷罪における無技能の類型については除外をするということにしてございます。   次に,その事務局試案の「二」の罪を犯した者に対する加重につきましては,その法定刑の考え方は,「二」の罪を犯した者が,事務局試案ですと,人を負傷させたときは12年以下,人を死亡させたときは15年以下の懲役としてございます。加重する場合には,それぞれ無免許運転罪との併合罪加重による処断刑以上の法定刑とする必要があると考えるところでございますが,そのときには,無免許運転罪の法定刑の引上げですとか,先ほど申し上げた「一」の罪で,あるいは危険運転致傷罪で負傷させたときの加重法定刑との均衡を考慮する必要があるということで,この事務局試案では,その「二」の罪の関係の法定刑も,同じくペンディングということにしてございます。   そして,「三」の罪を犯した者についても,「三」の罪を犯した者が,死亡,負傷を問わず12年以下としてございますので,加重する場合には,それと無免許運転罪との併合罪加重の処断刑以上の法定刑とする必要があると考えられるところでございますが,道路交通法の無免許運転罪の法定刑との関係で,事務局試案におきましてはペンディングということでしてございます。   そして,最後に,自動車運転過失致死傷罪を犯した者に対する無免許運転による加重につきましては,自動車運転過失致死傷罪の法定刑が7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金とされてございますから,加重する場合には,無免許運転罪の併合罪加重の処断刑以上の法定刑とする必要があると考えられるところでございますが,同様の理由で,事務局試案ではペンディングとしてございます。こちらは,席上配布の表のほうを御覧いただければ,道路交通法の無免許運転罪が3年以下の懲役と引き上がった場合を一つ想定して作ってございますので,そちらを御参照いただきながら御議論いただければと思います。   「四」の罪の説明については,以上でございます。 ○西田部会長 ありがとうございました。   末尾に道路交通法の無免許運転罪の法定刑が3年以下の懲役となった場合の処断刑という一覧表が付いておりますが,もし石井委員,お差し支えなければ,見通しを。 ○石井委員 まだ関係方面と議論している最中で,結論は出ておりませんが,3年を軸に,今検討しているところでございます。 ○西田部会長 そうすると,3年となったときは,このペンディングの部分が,全部この法定刑が入ると。それで処断刑がこうなるという。そうすると,これは法定刑と処断刑とどっちですかね。 ○保坂幹事 この横書きの表の一番右の欄に,無免許運転による加重(四の罪)という欄がございます。こちらが,その事務局試案でいいますペンディングで抜けているところにそれぞれを当てはめていただければ,それが出来上がった姿です。その参考といたしまして,言わば元になる罪の法定刑が,一番左の欄に書いてあって,道路交通法の無免許運転罪,これは3年に引き上がったということを一つ想定しておりますけれども,それとの併合罪加重による処断刑を真ん中の欄に書いているということでございます。 ○西田部会長 もしよろしければ,次回のペーパーではこの部分だけ,一応3年になったものとして,懲役の年数も仮の数字として入れたほうが,ビジュアルには分かりやすいかという気がしますが。 ○保坂幹事 警察庁のほうとも御相談させていただいて,そのような方向で検討させていただきたいと思います。 ○山下委員 今のこのペーパーについて,質問というか,結局,今の横書きのペーパーの一番右側の数字を,今の「四」のところに入れるということなんですが,もし,無免許運転罪の法定刑が3年以下になった場合の併合罪加重による処断刑は真ん中にあるんですけれども,それと同じ法定刑のものもあるわけですね。それも「四」の方には,処断刑と法定刑は同じだけれども,条文は作るという趣旨なんですか。 ○保坂幹事 はい,そのような趣旨でございます。 ○山下委員 その併合罪加重の処断刑と法定刑か同じ結果でも作るという意味がよく分からないんですが,将来,道路交通法がまた改正されてもっと重くなった場合は,逆に刑法というか,特別法ですか,これを変えないといけないことになるかもしれないんですが,それにもかかわらず,何で新しいものを作る必要があるのかがちょっとよく分からない。同じなのにですね,処断刑と法定刑が。 ○上冨幹事 おっしゃるとおり,その当該死傷事犯のときの無免許運転ということだけを捉えた場合には,処断刑と新たに設けられる罪の法定刑が並ぶということになります。しかし,例えばその当該死傷事犯とは別の機会の無免許運転について,更に併せて起訴されるような場合については,併合罪の基礎となる刑が異なることになります。例えば余罪である無免許運転を更に1件起訴した場合の処断刑は13年ということになるわけで,仮にこの刑を設けなかった場合には,余罪を2件起訴したとしても,10年6か月が併合罪加重した場合の処断刑の上限ということになりますので,その意味でも,このような規定を新たに設けることには意味がないとは考えておりません。あるいは,再犯加重のような場合を考えた場合も,その加重の基礎となる刑が元々変わるということになりますので,やはりこのような規定を設けることの意義はあるのではないかと思っております。 ○山下委員 道路交通法の無免許運転罪が,3年以下の懲役から5年以下の懲役に上がったという場合には,今度は特別法の法定刑の方が軽くなるという事態なので,結局,そのときは道路交通法に合わせて改正せざるを得ないということですか。処断刑よりも法定刑が軽くなる事態が生じるので,そのときはまたこれをいじらないといけない。つまり,道路交通法が変わる限り,こちらの特別法も常にいじり続けなければならないという,そういう関係にあるということですか。 ○上冨幹事 そのような事態が生じたときには,また改めてこの規定についての改正の要否を別途検討するということの必要性はあろうかと思います。 ○山下委員 今は,現在検討されている道路交通法の無免許運転罪の法定刑が3年以下の懲役になった場合を想定した併合罪加重による処断刑を前提に,これと同じ又は重くするという前提ですから,当然,道路交通法が将来変わったら,必ずそうしなければ,立法理由から見るとおかしなことになりますよね。そうすると,いつまでたっても,これはずっと変わり続ける可能性があるという,そういう規定だということですか。 ○上冨幹事 その点はそのときの状況,あるいは道路交通法の改正内容次第なんだろうと思います。余り具体的なことを申し上げても仕方がないかもしれませんが,例えば無免許運転の罪が非常に重い法定刑になったような場合で,併合罪加重された結果の処断刑が非常に重いものとなった場合に,今考えられている罰則をどのような形で設けるのかというのは,また別途考えなければいけないことで,必ず道路交通法の改正に伴って,必然的にこちらが変わっていかなければいけないかといいますと,そこはやはりその段階で,その改正内容を踏まえて検討せざるを得ないのではないかと思います。 ○西田部会長 ほかに「四」について,御意見,御質問ございませんでしょうか。 ○山下委員 もう1点だけ,配布資料の関係で,今日,資料21というのが配布されたんですが,ここで交通事故の中で,無免許運転時の交通事故と対比した表が配布されていますね。この見方なんですけれども,例えば平成23年というのを見ると,交通事故全体の件数は65万5,875件で,そのうち無免許運転時の事故は2,587件,つまり約0.4%しかないですね。そういう類型を特別視して,類型的にそれを重くする。無免許だからそれを重くするという根拠として,この資料が果たして意味があるのかですね。   元々,数としても,交通事故全体の数を見ると65万件でして,無免許運転は単なる2,587件,こんなに分母が違うものを対比して,0.8%が3.3%になっているということを示しても意味はないのではないか。そうではなくて,全体の交通事故の中の無免許運転の割合というものを見ると極めて少ない割合なので,これを類型化してわざわざこれを罰するという意味がよく分からないんですが,その辺はどうなんでしょうか。 ○今井委員 この資料の表の読み方でございますが,私は先ほど事務当局が御説明されたときに,例えば上の交通事故,下の無免許運転時の交通事故を比較したときに,同じ感想を持ちました。すなわち,下にいきますと,当事者が死亡した事故は約4倍になりますし,また,当事者が重傷を負った事故は,約2.5倍になっております。もちろん,交通マナーの向上,進展と,医療体制の充実等によって,重大な結果が生じることは毎年減ってきてはおりますが,それにしても,現在においても,無免許であるということでこれだけ大きな差があるということは厳然たる事実であります。そこで,私は山下委員とは意見を異にしておりまして,無免許であるということを,一つの類型として捉えるような事態は,十分に存在しているのだろうと思います。 ○西田部会長 山下委員の御意見は,無免許加重は不要であるという御意見,それはそれとして一つの御意見,十分成り立ち得る御意見なので,それは意見としてまた最終的に考えますけれども,現時点ではこの「四」についての御意見,御質問をお願いしたいと思います。 ○髙橋幹事 例えばこの横長の表で見させていただきますと,危険運転致傷罪の加重の場合,6か月以上20年以下といった幅の刑が必要だという認識で作られていると思うんですが,例えば殺人未遂罪の有期懲役刑も,上限は20年までということになっているのと比較すると,無免許運転による危険運転致傷罪というのも,それだけ重たい刑が必要なんだという認識で作られていると思いますが,検察官も20年に近い求刑をすることがあり得るんだという,そういう立法事実のようなものは,どこから求められるんでしょうか。例えば,殺人未遂罪の事案でも,懲役20年あるいは18年の求刑というのは,相当悪質な事例でないと,なかなかないと思うんですけれども,この危険運転致傷罪の無免許運転による加重というのが,併合罪処理で対応するのではなくて,20年までの有期懲役刑が必要なのかと言う点について,その根拠というか,立法事実というか,その辺りをどのようにお考えなのかというのをお聞きしたいと思います。 ○上冨幹事 先ほど若干保坂幹事のほうからも申し上げたところですけれども,無免許運転の持つ悪質性,それから潜在的な危険性が実際に発現した事故を,そのような事故として評価するのか,それとも,そのような点は言わば特別評価することなく,事故が起きなかった場合の行政法規である道路交通法違反との併合罪で評価すれば足りるのかという点が,恐らくこのような規定を設けることの必要性なのではないかと思っております。   先ほど言及のありました資料21の統計についても,やはり無免許運転というものが,それ自体,重大事故を惹起する危険性を有している行為であるということは,母数の違いという御指摘はありましたけれども,この数字を見る限りは有意な差があると見てよいのではないかと思っておりまして,そのような無免許運転の持つ危険性が実際に発現したという事故を当該事故として評価する,併合罪ではなく,その事故そのものとして評価するということ自体に意味があるし,必要なのではないかと考えているのが,試案の考え方でございます。 ○西田部会長 一言申し添えますと,やはり被害者団体からのヒアリングの中で,無免許運転に対する被害者あるいは遺族の方の非常に憤りの強さというもの,そして,そもそも無免許の人が運転すること自体がそれだけで非難すべき行為だという,そういう被害者の意識が非常に多くヒアリングの中で見られましたので,そういう被害者の方々の声を何らかの形で立法に反映するとすれば,行政犯的な無免許運転と自動車運転過失致死傷罪との併合罪よりも,多少やはり加重した類型を考えるべきではないかと。それが基本的な出発点でこのような形になっていると,私は理解しております。   大体そういう理解でよろしゅうございますか。 ○山下委員 1点だけ,技術的なことで確認したいのですが,この無免許運転の概念ですね。(注)が付いているんですが,先ほどいろいろ政令を引用した条文がありましたけれども,無免許とは何かということがどこかに定義されるのか,されないのか。これはどうなんでしょうか。 ○保坂幹事 正にこれが無免許運転をしたということの中身でございますので,この無免許運転については定義を置くということで考えたものでございます。 ○武内委員 1点だけ念のため,基本的なことですけれども,確認させていただきます。「四」の罪ですけれども,これは罪を犯したときに無免許をした者であれば適用がされると。すなわち,自分が無免許であることについて行為者のほうに認識等は特に必要ないという理解でよろしいでしょうか。 ○保坂幹事 今の点でございますが,こちらは故意は必要であると考えております。規定ぶりもそのような理解でございます。 ○武内委員 では,もう一つ追加で,いわゆるうっかり失効ですね。自分としては,まだ期限内であると思っていたけれども,実は更新の手続をとり忘れていた場合というのは,構成要件には客観的には該当するけれども,認識を欠くという形で,結果的に「四」の罪は成立しないという理解でよろしいでしょうか。 ○保坂幹事 おっしゃるとおりです。そこは今の無免許運転罪と同様でございます。 ○西田部会長 それでは,今日の議論はこれで終了して,次回,2巡目の議論に入りたいと思います。   三つお願いがございますが,まず,こういう立法は必要でないという反対の御意見も当然おありかと思いますが,それはそれとして承ります。最終的に必要であれば,そういう御意見としてペーパーで出していただくということになるかもしれません。   次に,今回のような立法も必要だけれども,やはりこういう点はなお詰めるべきである,あるいは文言として適切を欠くとお考えの委員,幹事の方は,前もってである必要はありませんが,具体的な修正案を用意していただいて,この部分を,この文言をこう変えるべきであるというような具体的な提案をなるべくしていただきたいと思います。   第3には,文言上も大体これでいいとお考えの方も,将来,これがもし立法されましたときには,いろいろなところでここでの議論が解釈の参考となると思いますので,可能な限り詰めた議論をし,こういう場合がこの条文の中に入るのか,入らないのかという,言わばマージナルな事例も考えて,ぎりぎり詰めた議論もしておくことが,将来のためには必要かと存じます。   そういう意味で,次回の日程をこれから事務局に御説明いただきますけれども,次回までに今の3点を御考慮の上,十分御準備をお願いできればと思います。   さらに,事務局に対しては,もし今日の御議論を踏まえて,別途この要綱,試案に修正を加えるべきであるという結論に達しましたときは,修正を加えたものを事前に委員,幹事の皆様に配布させていただきたいと思いますが,今日の時点では,私の考える限りでは,現時点では修正案というか,事務局試案自体を今,修正する必要はないように思いますので,次回もこの試案を基礎に議論を続けたいと思います。   では,次回の日程をよろしくお願いいたします。 ○保坂幹事 次回の日程でございますが,1月25日金曜日,午後1時30分から午後4時頃まで,場所は東京地検3階の会議室を確保してございます。 ○西田部会長 ありがとうございました。   本日の議事録でございますが,別段掲載を差し控えるべき事柄もなかったと思いますので,そのまま顕名,名前も明らかにして議事録を作成したいと思いますが,よろしゅうございましょうか。   では,長時間,御苦労様でした。本日はこれにて散会いたします。 -了-