法制審議会 新時代の刑事司法制度特別部会 第1作業分科会(第1回) 第1 日 時  平成25年3月19日(火)  自 午前10時01分                        至 午後 0時34分 第2 場 所  東京地方検察庁総務部会議室 第3 議 題  時代に即した新たな刑事司法制度の在り方について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○吉川幹事 それでは,ただいまから法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会第1作業分科会の第1回会議を開催いたします。 ○井上分科会長 本日は御多用中のところをお集まりいただきまして,ありがとうございます。   この作業分科会においては,私が進行役を務めさせていただくことになりました。皆様の御協力を得ながら,充実した実りのある検討ができるように努めたいと思っておりますので,何とぞ御協力のほどよろしくお願いいたします。   本日の議事は,お手元の議事次第のとおりでして,配布資料の説明の後,今後の検討予定について御説明をした上で,通信傍受の合理化・効率化に関するヒアリングをまず行い,その後,被疑者・被告人の身柄拘束の在り方についての検討を行いたいと思っております。   本日の出席者について申し上げますと,本来は小坂井幹事が当作業分科会の構成員ですけれども,本日は,あらかじめお申出がありまして,小坂井幹事に代わって,青木委員に御出席いただいております。   また,今後,議事進行や配布資料の説明,あるいは現行制度の規定や運用についての御質問などがあったときに,適切に対応させていただくために,事務当局の方に出席していただくということにいたしました。   それでは,本日の配布資料について,事務当局の方から説明をしていただきます。 ○吉川幹事 御説明いたします。お手元の配布資料1は,本日議論が予定されている「被疑者・被告人の身柄拘束の在り方」について,議論すべき事項と検討課題を整理したものです。この内容につきましては,後ほど説明があります。また,参考資料として,今後の検討予定を記載した書面,通信傍受に関するヒアリングの際に使用される書面,本日のヒアリングや議論に関する参照条文をお配りしております。さらに,「被疑者・被告人の身柄拘束の在り方」に関して,青木委員から資料が提出されておりますので,これもお配りしております。   資料の御説明は以上でございます。 ○井上分科会長 この作業分科会は,部会審議を効率的に進めるために,基本構想に記載された各検討事項について専門的・技術的な検討を加えつつ,部会での議論に資する制度のたたき台等の資料を策定することが使命とされています。   そこで,この分科会ではまず,本年6月14日に予定されている部会の次回会議に向けて,お手元の「検討予定(第1回から第4回)」と題するペーパーに記載したとおりの予定で,各検討事項について順次検討を進めていくことにしたいと思います。   各検討事項につきましては,事務当局に検討の基となる資料を作成してもらい,それをベースとして,様々な観点から検討を加えることによって,議論を深めていきたいと思っております。そして,当作業分科会での検討結果を踏まえまして,事務当局が作成した資料を改訂するという形で,部会に報告するための資料を作成するという手順を考えております。   作業分科会では,基本構想において,「採否を含めて検討する」とされた事項につきましても,考え得る具体的な制度のたたき台を策定した上で,それを部会に報告するということが求められていますので,その趣旨をも踏まえた,積極的な御議論をお願いしたいと思っております。   それでは,時間が限られておりますので,早速,通信傍受の合理化・効率化に関するヒアリングを行わせていただきたいと思います。通信傍受の合理化・効率化につきましては,基本構想において,「通信傍受をより効果的・効率的に活用できるようにするため,傍受の実施の適正を担保しつつ,通信傍受法を改正することについて具体的な検討を行う。」とされておりまして,その検討項目の一つとして,「暗号等の技術的措置を活用することにより,立会いや封印等の手続を合理化する。」ことが掲げられているところであります。暗号等の技術的措置の活用については,従前の部会において,警察庁から御提案があったところですけれども,今後の検討に際しては,御提案いただいた仕組みについて,技術的な観点を中心に,より具体的に御説明いただく必要があるだろうと思います。   そこでまず,警察庁においてこうした仕組みを技術的に検討しておられる技官の方のヒアリングを実施することに致した次第であります。本日は,警察庁刑事局刑事企画課の加藤正康課長補佐にお越しいただいておりますので,加藤補佐からお話を伺うということにしたいと思います。それでは,こちらの方にお願いします。 ○参考人 警察庁の加藤でございます。どうぞよろしくお願いします。 ○井上分科会長 よろしくお願いします。それでは,御準備がよろしければ,御説明をお願いしたいと思います。 ○参考人 本日は御説明の機会をいただきまして,ありがとうございます。当庁において検討中の傍受システムについて御説明いたします。   本日,通信傍受の関係で配布している参考資料を御覧ください。資料1につきましては,第15回の部会において,現行通信傍受法における傍受実施手続について,島根幹事から御説明した際に使用した資料です。本日は説明を省略させていただきますが,再度配布させていただきますので,適宜御参照ください。   それでは,現行法の下で,不正の防止はどのように担保されているかということを改めて確認したいと思います。資料2を御覧ください。   この図は資料1を簡素化したものですが,現行法においては,傍受が通信事業者の施設内で行われること,立会人が常時立ち会い,傍受の外形的なチェックを行うこと,裁判所に提出される傍受の原記録に立会人が署名・封印を行うこと,この3点において傍受の実施の適正が担保されると考えております。これらの点について,捜査機関による不正の防止という観点から具体的に御説明をいたします。   1点目は,通信事業者の施設内で傍受が行われることにより,警察が傍受の時点で通信データを改ざんしたり,複写したりすることは不可能になるということです。傍受の結果は,後に述べますように,記録化され,裁判所に提出されるわけですが,仮に,そもそも傍受装置に送信されてくる通信が,通信事業者から送出されたものとは異なるもの,すなわち,改ざんされたものであれば,真正な記録を作成することはできません。また,傍受の実施はスポット傍受の方法によらなければならないとされておりますが,仮に正規の傍受装置の手前で回線を分岐,枝分かれさせまして,傍受装置とは別の装置でも通信を聞くことができるのであれば,スポット傍受の方法によらずして,全ての通信内容を傍受するといった不正が可能となります。これに対しまして,傍受を通信事業者の施設内で行うとすれば,通信事業者の監視制御装置と傍受装置の間の回線につきましては,通信事業者の施設内に位置するため,これに加工を施すことは不可能で,通信データの改ざん等の不正を行うことはできないこととなります。   2点目は,立会人が常時立ち会うことにより,適正なスポット傍受が実施されているか否かのチェックが行われるということです。通信の傍受に当たっては,通信の秘密の侵害を最小化するため,スポット傍受の方法を採ることが定められております。立会人は傍受の期間中,常時立ち会うことにより,通話の中身を聞くことはできないものの,そもそも傍受装置が正しく接続されているか,つまり回線を枝分かれさせて,別の装置でも聞いているといったことがないか,スポット傍受が適切に実施されているか,また,あらかじめ設定されたスポット傍受の時間制限が遵守されているかなどといった,スポット傍受の適正な実施に関し,外形的な事柄についてチェックを行うこととされております。   3点目は,原記録用媒体には,立会人による署名・封印がなされることにより,警察による原記録の改ざんは不可能であるということです。この原記録媒体は,傍受の実施状況が全て記録され,事後的な検証等を可能とするものですが,これが改ざん可能であるならば,的確な検証は期待できないこととなります。そこで,捜査機関から独立した立場の立会人が,傍受終了時に媒体を封印することにより,記録の真正性を確保しております。   現行法における傍受実施手続は,今述べたような形で傍受の実施の適正を担保していますが,他方で,現在の仕組みは,立会人を確保しなければならないために,必ずしも迅速な実施ができず,また,深夜等の実施が困難である,それから,多数の捜査員が傍受実施場所に出張するなど,体制上の負担が大きいといった問題があると考えております。また,立会人や傍受施設の確保は,通信事業者にとっても負担であるものと承知しております。   したがいまして,立会いや通信事業者施設での傍受実施といった,捜査機関と通信事業者の双方にとって負担の大きい手続を合理化することが必要と考えておりますが,仮にこれらの見直しを行うのであれば,その前提として,見直し後の手続においても現行法と少なくとも同程度以上の傍受の実施の適正を担保し得ること,すなわち,捜査機関による不正な傍受が依然として不可能となる措置を講じることが必要と考えております。   これから御紹介する検討中の傍受システムは,このような観点から,技術的な措置により,傍受に係る負担軽減と適正担保をともに確保しようというものです。資料3を御覧ください。   これは第15回で配布された,「通信傍受の合理化・効率化案」と題する資料に,技術的な観点から若干加筆したものでございます。既にお話ししましたように,検討中の傍受システムのポイントは,立会人を置かずに,警察施設で傍受を実施するということでございます。そのために暗号技術を活用して,大きく分けて三つの段階で不正防止の措置を講じることを考えております。第15回での内容と若干重複いたしますが,御説明いたします。   不正防止に当たっては,暗号化の技術を活用することを考えています。まず,傍受の実施に当たり,通信事業者に置かれる送信装置,都道府県警察に置かれる傍受装置,地方裁判所に置かれる原記録再生装置のそれぞれに,通信データの暗号化・復号化に用いるプログラム,これは暗号の世界では鍵と呼んでおりますが,この鍵を配布する仕組みといたします。   まず,①の「通信内容の伝送」の段階です。都道府県警察の施設で傍受を行うためには,事業者の施設から警察施設に傍受対象の通信を伝送していただくことが必要ですが,この伝送をそのまま何の措置も採らずに行うと,傍受装置において傍受を行うまでの間に,通信データを改ざんすることが可能となります。そこで,この伝送に当たって,通信事業者に配布された鍵を用いて通信データを暗号化し,伝送途中での改ざんを防止します。   次に②の「データの受信とスポット傍受の実施」の段階です。送信された通信データは暗号化されており,そのままでは聴取することができません。そこで,警察に配布された鍵を用いて通信データを復号化します。この復号化の鍵は,正規の,つまり,傍受に使用できる所定の傍受装置のみで機能する仕組みといたします。したがって,鍵を入力しない傍受装置では,通信データを復号化できず,傍受することは不可能です。   また,この正規の傍受装置には,あらかじめスポット傍受の機能を組み込んでおきます。もちろん,スポット傍受自体は,犯罪関連通信に該当するか否かという人による判断を伴う作業ですので,機械によって,その判断作業を代替するということはできませんが,ここで言うスポット傍受の機能というのは,スポット傍受の開始時からあらかじめ設定した時間が経過すると自動的に傍受が中断される機能など,スポット傍受の適正な実施に関する外形的な機能を指しています。   このような措置を講じることにより,捜査機関は,傍受を行うためには,傍受に使用できる所定の傍受装置に鍵を入力し,かつ,スポット傍受の方法により,聴取せざるを得ないことになります。これによりまして,スポット傍受が適正に行われているか否かということをチェックするという立会人の機能は,技術的措置によって代替できると考えております。   さらに,③の「原記録の作成」の段階です。傍受の結果は,スポット傍受の状況を含めて,原記録用媒体に記録されます。この記録される内容には,傍受の履歴,すなわち,何時何分何秒に傍受が開始されたのか,スポット傍受は何分何秒に中断されたのかといった履歴も含まれております。そして,これらの記録は,傍受装置において自動的に,先ほどの鍵を用いて暗号化した上で作成する仕組みとします。この原記録の暗号は,裁判所がその配布された鍵を用いて復号化することができるようにしておきます。警察の傍受装置には鍵が入力されておりますが,この鍵は,後で述べますように,原記録の内容を復号化することには使えない仕組みとするので,自動的に作成される原記録及び傍受の履歴の内容を改ざんすることは不可能になります。このようにして原記録の真正性を立会人の封印によって担保するという機能につきましても,技術的措置により代替できると考えております。   ところで,ただいま説明したシステムが機能するためには,暗号化の鍵がそれぞれ適切に管理されなければなりません。これらの鍵を仮に捜査機関が複製することができるとしましたら,例えば,鍵を不正に複製して正規の装置以外の装置に入力をしまして,その装置でもデータを復号化して,スポット傍受の方法によらないで,全ての通信内容を傍受するといった不正が可能となるからです。そこで鍵の管理につきましては,次のように考えております。   まず,通信事業者と裁判所に配布される鍵,これにつきましては,通信事業者と裁判所において,それぞれ適切に管理する仕組みとしますので,警察が入手することはできません。一方,警察の傍受装置に入力される鍵につきましては,これをコピーしたり,伝送された通信データの復号化及び原記録の作成時の暗号化以外には使うことができないような技術的な措置を採る必要がございます。そのための手段としては,例えば,パソコンの電源が切れるとデータが消える「揮発性メモリ」を用いることや,正規の傍受用ソフトウェアのみが鍵を使用できるようアドレスを指定して記憶させる「アドレス指定」を行うといった措置を講じるなどの方法が考えられます。   ここで,ただいま御説明した中に含まれる技術的な事項について,御説明をしたいと思います。資料4を御覧ください。   まず,暗号化・復号化に用いる鍵について御説明いたします。文章を暗号化又は復号化するときには,一定の規則に基づいて変換を行うこととなります。この一定の規則のことを鍵と呼んでおります。極めて簡単な例を用いて御説明しますと,元の文章がABCで,暗号化された文章がDEFの場合には,「3文字後ろにずらす」という一定の規則,すなわち鍵によって暗号化されたことになります。また,この例の場合でいいますと,復号化を行うためには,逆に「3文字前にずらす」こととなります。なお,実際に使用する鍵は,このように単純なものではなくて,非常に複雑な仕組みを持ったものを想定しております。具体的には,電子政府推奨暗号を使用することとしております。これは総務省及び経済産業省によって安全性等に関する評価が行われ,十分な強度があるとして推奨されるものです。また,暗号化に使用される鍵は,傍受の実施の都度,新たなものを生成するといったことを考えております。   次に,警察の傍受装置に入力される鍵のコピーを防ぐための技術的措置の詳細について,現在考えている方法を御紹介いたします。資料5を御覧ください。   先ほど簡単に紹介しましたように,現段階では,一案として,鍵のプログラムを傍受装置の揮発性メモリに書き込む仕組みとすることを考えております。パソコンにデータを書き込む場合には,一般的にはハードディスクに書き込むといった方法がとられますが,ハードディスクに記録されたデータは,電源が落ちても失われることがありません。このため,ハードディスクに暗号の鍵のプログラムが記録されていますと,ハードディスクを取り外して複製するといったような方法で容易に鍵を取り出すことができます。そこで,ハードディスクではなくて,RAMなどの電源が切れるとデータが失われるメモリに鍵のプログラムを保存する仕組みとし,鍵の取り出しをできなくすることが考えられます。こういったメモリは,揮発性メモリと呼ばれております。例えば,バッテリーの装着されていないデスクトップのパソコンで,メモ帳やエクセルの編集作業を行っている際に,停電などで突然電源が断たれた場合に保存していないデータが消えてしまったという御経験がある方もいらっしゃるかと思いますが,これは,パソコンでのメモ帳等の編集作業を行う領域が揮発性のメモリであるためです。   また,鍵そのものを取り出さないまでも,そのプログラムをコピーしたり,表示したりすることができれば,そっくり同じ鍵を作ることができてしまいます。そこで,アドレス指定と呼ばれる方法を用いることとします。アドレス指定とは,メモリ上のあらかじめ指定された場所にプログラムを入力することによって,特定のアプリケーションからのみ当該プログラム,ここでは鍵になりますが,これにアプローチすることができるという機能です。このアドレス指定を行いますと,指定されたアプリケーション以外から「データをコピーしろ」,「プログラムを表示しろ」と,こういった命令がなされましても,データを取り出すことはおろか,画面上に表示することも不可能となります。   このような仕組みによりまして,検討中のシステムでの傍受装置では,書き込まれた鍵は取り出すことは不可能となり,また,正規の,つまり傍受に使用できる特定のアプリケーションのみで使用することが可能である,言い換えますと,伝送された通信データの復号化及び原記録の作成時の暗号化のみで使用可能となります。   資料6を御覧ください。こちらにつきましては,資料3で説明した新たなシステムのポイントを傍受全体の流れの中に位置付けて,改めて御説明するものでございます。   まず,①の令状請求及び令状発付と,②の令状提示につきましては,現行と同様です。③で,通信事業者は,回線を特定して監視制御装置から送信装置にデータを送出します。送信装置には,今回の傍受用に生成された暗号化の鍵が入力され,通信データは暗号化されます。そして,④で,送信装置から都道府県警察に置かれた傍受装置に対して,暗号化された通信データが伝送されます。⑤の傍受装置では,鍵により通信データが復号化されると同時に,スポット傍受の実施状況の履歴を含めた全ての傍受状況が,同じ鍵により自動的に暗号化され,原記録用媒体に記録されます。先ほど申し上げましたように,都道府県警察の傍受装置に入力された鍵では,原記録用媒体のデータを復号化することはできない仕組みといたします。このように作成された原記録は,⑥で裁判所に提出されます。裁判所の原記録再生装置では,鍵を用いてデータを復号化し,原記録の内容を再生して聴取することができます。   なお,この図の中央に,「装置の真正性確認」とか,「ハッシュ値」という言葉が出てきます。これは傍受装置に鍵を埋め込む際に,その装置が真正なものであることを確認するもので,その具体的な技術的方法として,傍受装置内の傍受用アプリケーションのハッシュ値というものを確認することを想定しております。また,④の過程において,送信装置からの通信の伝送は,伝送先の傍受装置が真正なものであることを確認した上で行うとしています。ここにおいても,真正性の確認は,傍受装置のハッシュ値を遠隔によって算出して確認することによって行うことを想定しております。   次に,検討中の傍受システムで,考えられる不正をどのように防ぐことができるかを御説明します。資料7を御覧ください。   起こり得る不正としましては,主に4つの類型が考えられます。第1は,所定の傍受装置を使わず,別の不正な装置に回線をつないで,通信の全てを傍受するという不正です。これについては,検討中の傍受システムでは,通信を傍受するためには鍵が必要なところ,この鍵は正規の傍受装置から取り出すことはできず,不正な装置に鍵を埋め込むこともできません。したがって,仮に不正な装置で通信の送信を受けたとしても,暗号を解くことができず,傍受することはできません。また,そもそも正規の装置でなければ,事業者の送信装置による真正性確認ではじかれ,送信がなされないということになります。   第2は,所定の傍受装置を使いつつ,同時に別の不正な装置にも回線をつなぐことで,表向きは法の定めるスポット傍受等に従った傍受を行うように装いつつ,裏では通信の全てを傍受するといった不正です。これにつきましても,第1と同様に,不正な装置には鍵がないために復号化することができず,これを使った傍受はできません。   続いて資料の8を御覧ください。第3は,所定の傍受装置を使うものの,スポット傍受の設定を外す,または,スポット傍受の時間設定を極めて長くする,例えば,最初のスポットの時間を1時間とするなど,実質的に全ての通話を傍受するといった不正です。これについては,事業者の送信装置から遠隔でスポット傍受の時間設定についても確認することを考えております。また,仮にスポット傍受の時間設定を不正に変更することができたとしても,全て原記録用媒体に自動的に記録が残りますので,不適正な傍受をしていた実態が発覚することになります。   第4は,不適正に行った傍受の実態を隠すため,原記録の内容に加工や改ざんを加えるといった不正です。これにつきましても,原記録用媒体は自動的に作成され,警察には復号化できない形で暗号化されるので,このような不正も不可能です。このように考えられる不正は,検討中の傍受システムの下では全て不可能になります。   以上,当庁において現在考えている傍受システムについて御説明いたしました。当庁としては,先ほど述べましたような技術的措置を講じることによって,捜査機関自らの不正を防止して,現在と同様の傍受の適正の水準を保った仕組みを設けることは十分可能と考えております。   御説明は以上でございます。 ○井上分科会長 どうもありがとうございました。   それでは,ただいまの御説明に関しまして,御質問のある方は御発言をお願いしたいと思います。 ○髙橋幹事 御説明にあった鍵なんですけれども,これは令状ごとに作成されるのかどうかという点,それから,鍵の作成はどの機関が行って,どういう形で交付するのかという点について,現段階のお考えをお聞きしたいと思います。よろしくお願いします。 ○参考人 まず1点目の,鍵については令状ごとに発行されるのかどうかという御質問につきましては,ずっと同じ鍵を使い続けた場合には,使い回しといった悪用のおそれもありますし,暗号解読,これは基本的に解読されないんですが,そのリスクを少しでも減らすために,令状ごとに異なる鍵を発行して,使っていくことを考えております。   それから2点目の,鍵の発行者が誰になるのか,また,どのように配布するのかといった御質問のうち,まず発行者が誰になるかにつきましては,本日承った私の役目は技術的な手法について御説明するということでありまして,誰が鍵を発行するのかというのは法的な面に関する話でございますので,今後,皆様に御議論いただくことになろうかと思います。また,鍵の配布方法につきましては,各種いろいろございます。例えばですが,鍵を配布するときに封印をして送るといったやり方ですとか,あるいは鍵自体を暗号化して配布するといったことが考えられると思っております。 ○井上分科会長 今の最後の御説明で,前者の封印というのはアナログ的な手法だと思うのですけれども,後者の鍵自体を暗号化した場合については,誰が交付するかは別として,鍵は3か所に交付しないといけないわけですので,その受け手の所には,鍵の暗号を復号化するための鍵をあらかじめ配布しておくという形になるのですか。 ○参考人 はい。そのとおりでございます。 ○井上分科会長 分かりました。前者の方は原始的な方法で良く,USBでも何でもいいので,それを封印して,その都度渡すということですね。 ○参考人 はい。そのとおりでございます。 ○井上分科会長 分かりました。 ○後藤委員 この御説明いただいた図に,送信装置というのがありますね。ノートパソコンのイメージで描いてあります。このパソコンは誰が用意するものですか。 ○参考人 こちらにつきましても,誰が用意するのが適切かといったところは,法的に,適正担保の観点から,今後御議論いただくことになると思います。例えば,警察の方で予算を取って準備しなくてはいけないという可能性もありますし,あるいは事業者さんなりにお願いするとか,いろいろ方法はあると思いますが,そこは今後,御議論いただきたいと思います。 ○後藤委員 もし,通信事業者に用意していただくとすると,送信するための鍵をそこに入れなければいけないわけですね。 ○参考人 はい。 ○後藤委員 そうすると,鍵を,誰がどうやって入れるかという問題があるわけですね。 ○井上分科会長 後藤委員の言われた,その「入れる鍵」というのはどちらの鍵ですか。 ○後藤委員 送信するための暗号化をする鍵です。 ○井上分科会長 それは,その都度通信事業者が交付することも考えられると思いますが,その鍵を傍受を実施するに当たって誰が送信装置に入れるかという御質問ですか。 ○後藤委員 実際に,誰がどうやって入れるかということです。 ○参考人 まず前提として,鍵を誰が発行するかという点は,法的に今後御議論いただくべきことですので,本当に例えばというお話で申し上げますが,例えば,鍵を通信事業者が発行するのであれば,彼らは通信の秘密を守る立場ですので,不正はしないということで,発行した鍵を自分たちの施設内にある送信装置に自分たちで入れれば,警察が不正をする余地はなくなります。また,通信事業者以外の別の者が鍵を発行した場合,これは例えば,鍵を発行して,封印をして,それを通信事業者に誰かが持って行くこととすると,その鍵というのは,発行された正しい鍵だということが封印で担保されますので,そのような形で傍受の都度,送信装置に鍵を入れていくといったやり方が考えられると思います。 ○井上分科会長 その場合,鍵を入れるというのは,例えば裁判所かどうかは分からないですけれども,封印した鍵を交付して,それを受け取った通信事業者が封印を解いて,装置に入れるということですか。 ○参考人 はい。 ○後藤委員 それを誰が入れるのでしょうか。通信事業者が入れるのか,そうではなくて,令状を執行する人が入れるのか。 ○井上分科会長 誰が封印を解いて,実際に装置に挿入するのかということは,技術的にはどちらでも可能だと思うのですけれども。 ○参考人 はい。構わないと思います。通信事業者がその作業を嫌だとおっしゃらなければ,やっていただくのが一番確実ですし,仮に捜査機関が自ら行うとした場合は,自分たちで勝手に鍵の封印を解いてそれを入れるというよりも,その場合にはどなたか,例えば,通信事業者の方に立会いをお願いするとか,そういったやり方が考えられると思います。 ○川出幹事 御説明していただいた仕組みですと,不正な装置を使って傍受したり,所定の装置を使うけれども,スポット傍受の時間設定を変えて傍受したりしようとしても,真正性確認の過程ではじかれてしまって,そもそも通信が装置に送信されないということになるわけですね。 ○参考人 そのとおりです。 ○川出幹事 そうすると,この仕組みの下では,事後に原記録を見て不正があったかどうかをチェックする必要はなくなるということでしょうか。それとも,場合によってはそれが必要な場合もあり得るのでしょうか。 ○参考人 先ほど申し上げましたとおり,今現在,傍受を通信事業者の施設内で行うのは,データの送信途中での改ざんを防止するため,また,立会人を立てるというのは,装置自体がきちんとスポット傍受の機能を有していて,そのとおりにやっているかどうかということを外形的に確認するためですので,その2点については,検討中の新しいシステムでは,必要がなくなります。その点については,裁判所に出された原記録の確認は必要がなくなるのです。ただし,現行法でもそうなのですが,捜査機関が該当性判断を正しく行っているかどうか,これはスポット傍受を外形的にチェックしていても,立会人は確認できません。例えば,最初の試し聞きの時間で該当性が判断できて,これは犯罪関連通信だということであれば,時間がたっても中断せずに最後まで聞くといったことがありますが,この判断の当否については,現行法でも,立会人は確認できません。その意味では,検討中の新しいシステムにおいても,裁判所の事後チェックが全く不要になるかというと,そうではないと思っております。 ○川出幹事 分かりました。もう一つ質問ですが,鍵を取り出したり,コピーしたりできるかという点について,揮発性メモリに書き込んで,アドレス指定をするという話だったんですが,アドレス指定がされた場合に,指定された特定のアプリケーションを含めて,パソコンの中のデータを全部コピーしてしまうということは技術的にできないのでしょうか。 ○参考人 今の御質問に関しましては,基本的にはハードディスクであれば,電源を切った後に,アプリケーションも含めてハードディスクを丸々コピーするといったことは,技術的に可能です。   そもそも,電源が点いている状態であれば,アドレス指定によって,そもそも使える鍵にアクセスできるソフトウェアは傍受用ソフトウェアだけですよといった指定もできますし,逆に言えば,コピーをするということは,コピーをするための別のソフトウェアが動くというイメージで捉えていただきたいんですが,そのパソコンの別のソフトウェアの方から,コピーをしたいということで,その鍵にアクセスをしても,それはアクセスできず,はじく,つまり,受け付けませんということになります。一方,電源を落とした場合,先ほど申し上げましたように,ハードディスクは丸々コピーできてしまうんですが,揮発性メモリであれば,電源を落とせば,データは全て消えてしまうということで,丸々コピーはできないということになります。 ○川出幹事 書き込まれた鍵を使用できるアプリケーション自体をほかのパソコンにコピーするということはできないのでしょうか。 ○参考人 傍受用アプリケーションということで申し上げますが,アプリケーション自体は,ほかの装置にも入り得ます。ただ,1回傍受装置に鍵を入れてしまいますと,入った鍵をコピーできません。傍受装置は,1県警に1台とは限らないかもしれませんが,その中の1台に鍵を入れた場合に,その鍵を,ほかの装置にコピーするといったことはできません。傍受装置は,鍵と傍受用アプリケーションのセットでないと動きませんので,そのセットになり得るのは1台だけということになります。 ○井上分科会長 その場合のアプリケーションごとの識別はどのようにして行うのですか。そのアプリケーションごとに識別できなければ,流用できるわけですよね。 ○参考人 各都道府県警の装置は,基本的に全く同じアプリケーションを使うことになるのですが,例えば,そのアプリケーションの中に,シリアルナンバーといったような,このナンバーのものは何々県警に配ったものですといったことが分かるような形で入れておきまして,それに対応した鍵を発行して,この鍵は何々県警用ですといった場合には,その何々県警用の装置にしか入らないといった仕組みとする方法も考えられます。ただ,そのような仕組みが必要かどうかというのは,検討の必要があろうかと思いますが,そういったことも技術的には当然可能でございます。 ○後藤委員 送られてきたオリジナルなデータを警察で復号化して,いわゆるスポット傍受をするわけですね。そのときに,スポット傍受は1回しかできないものだと理解してよいですか。もう一度やり直すことはできないのでしょうか。つまり,スポット傍受の経過で捨てられたオリジナルなデータは,そのまま消えてしまうと考えてよろしいですか。 ○参考人 そのとおりでございます。例えば,スポット傍受で試し聞きをして,ある一定時間が経ったら,聞こえないモードになります。その捜査員が聞いていない部分については,録音は一切されませんので,通話が全部流れてきたとしても,聞いていない部分は記録されずにそのままなくなってしまうこととなります。 ○後藤委員 どこにもなくなるわけですか。 ○参考人 そうです。 ○後藤委員 それでは,送られてきたオリジナルなデータ自体をコピーすることは可能ですか。例えば,スポット傍受を間違う不安があるから,一応オリジナルなものを保存しておくというようなことができるかです。 ○井上分科会長 実際にスポット傍受をやっている,その傍受装置でしか復号化できないので,別の不正な装置にも送信させて,それを記録しておくということもできないし,そもそも送信装置が,傍受装置の真正性を確認した上で通信内容を送信するということですね。つまり,真正な傍受装置に送られた通信内容しか聞けないし,聞いた内容以外は記録もできないということですね。 ○参考人 はい。 ○後藤委員 その限りでは,一旦どこかに記録しないで,元々の通話を聞きながら,スポット傍受するのと全く同じ構造になるということですか。 ○参考人 御説明いたしました内容は,リアルタイムで聞く傍受の関係についてのみでしたが,事後スポットで聞くという観点でおっしゃっているのでしょうか。 ○後藤委員 両方のやり方が考えられて,今のはリアルタイムでのスポット傍受という前提のお話だったわけですね。 ○井上分科会長 後藤委員の御発言は,リアルタイムで正規にはやっているんだけれども,判断を間違ったらいけないので,もう一度判断できるように別途記録しておくということが可能かという,そういう質問だったのではないですか。 ○後藤委員 それと,私はリアルタイムでない場合も考えていたので,それも念頭において質問しました。 ○井上分科会長 今日の御説明は,リアルタイムでやっている場合に,それとは別に記録することはできませんという御説明だったのですよね。 ○参考人 はい。せっかく御質問いただきましたので,事後スポットの場合どうなるかですが,事後スポットに関しては,当然,一旦録音をしなくてはいけません。これは全部ため込みます。 ○後藤委員 ため込むのはどっちですか。通信事業者の方で一応ため込むということですか。 ○参考人 これは2通り考えられます。事業者の方で,全通話をため込んでもらって,今申し上げたリアルタイムの傍受と同様に,それを警察施設に送ってもらう方法もございます。これであれば,事業者の方で,流してしまったらデータは全部消えるという形にすれば,スポット傍受のやり直しといったことはできません。   一方,現状としましては,今日御説明したリアルタイム用の装置,少しこれを改良すれば,警察の装置でも事後スポットは可能であると考えております。仕組みとしましては,通信事業者からリアルタイムで全部の通話を流してもらったものを,一旦装置に記録をします。その記録をしたものを,例えば翌日捜査員がスポット傍受の方法で傍受を実施するわけですが,そのときにそのため込んだデータを流して,流したものを正規の傍受装置で受けて,それでスポット傍受を行う。その場合,元のため込んでいたデータにつきましては,当然,1回流してしまったら,全部データは消えてしまって,スポット傍受のやり直しはできないという仕組みとすることが考えられます。 ○岩尾幹事 2点教えていただきたい。まず,鍵の作成機関をどこにするかという質問が先ほどございまして,これは法的な検討を要するので,このヒアリングの場で議論するのは適切でないと思うんですけれども,技術的な観点から,鍵の作成はどういうやり方をするのか,簡単にできるものなのかどうなのかというところを教えていただければというのが一つです。   もう一つは,配布される鍵というのは,通信事業者も警察も,地方裁判所も同じ鍵で,その同一の鍵で暗号化も復号化もできるということだと理解しました。つまり,警察の方では,まず通信事業者から暗号化されて送られてきたものを,1個の鍵で復号化し,かつ,それを聞いた部分については,原記録として更に暗号化するというように,同一の鍵でそのまま連続して使用してできるので,そうだとすると,そのまま原記録をまた復号化して改ざんできるのではないかという,ちょっと素人的な疑問があるので,そこはどういう形で防止できるのかという点を参考までに教えていただければと思います。 ○参考人 まず,鍵の発行が簡単にできるものなのかどうかということですが,こちらにつきましては,もちろん簡単にできるようなことを考えております。例えば,イメージとしましては,パソコンに鍵を入れるUSBを挿した上で,パソコンの画面上に表示された必要事項,例えば,この鍵は何々県警用ですよ,それから,有効期間は何月何日から何月何日ですよと,また,場合によっては,時間制限があって,深夜は駄目だといったような令状上の制限があれば,その傍受ができる時間帯は,何時から何時ですよといった必要事項を画面上で入力しまして,鍵の発行ボタンを押せば,それによって,その挿したUSBメモリに鍵が埋め込まれる。こういったような簡単な仕組みを考えてございます。   次に,裁判所も警察も通信事業者も同じ鍵を配っているけれども,警察ではいろいろなことができるのではないかという2点目の御質問ですが,ここにつきましては,正規の傍受用アプリケーションというのは,できる動作が限られております。できる動作というのは,一つは,通信事業者から受けたデータを復号化して,正規のスポット傍受を行うということと,もう一つは,その傍受を行った結果,捜査員が聞いた通話内容を全て暗号化して,原記録用媒体に書き込むということです。こういった動作しかできないソフトウェアということになります。それで,発行された鍵というのは,その正規のソフトウェアでなければ,動かない仕組みにしておりますので,警察で持っている傍受装置では,それ以外の動作は一切できないと,こういったことで御理解いただきたいと思います。 ○青木委員 資料の8についてなのですけれども,スポット傍受の時間の設定なのですが,これは都道府県警察でその都度設定するという趣旨なのでしょうか。 ○参考人 それにつきましては,現状においても,傍受の実施に当たって,各都道府県警察の本部長から指示があります。最初の試し聞きは,これだけの時間ですよといった指示がありますので,それに基づいて設定がなされることになります。 ○井上分科会長 個別の事案で長短を決めるということなのですか。それとも,指示というのは,都道府県警によって一律に決まっているのですか。 ○参考人 これは個別の事案ごとでございます。 ○青木委員 それで,例えば先ほど1時間というのは長過ぎると,その場合にははねられるようなお話がありましたけれども,今の個別の時間だとすると,それが本当に長いのか,スポット傍受として適切なのかどうかという判断は,これは誰がやるということになるんですか。 ○参考人 こちらにつきましては,各都道府県警察に対して,警察庁の方から指示を出しておりまして,最初の試し聞きはこれだけの時間より長くしてはならないといったことで,全国一律の基準で運用をしております。 ○青木委員 そうすると,このスポット傍受の時間設定の確認というのは,警察庁が決めた最大時間を超えていないかどうかということだけで判断するということに,結果としてはなるわけですね。 ○参考人 この新しい検討中のシステムにおきましては,各事件ごとに,まず県警の本部長が時間設定の指示を出します。当然,それは警察庁で出している最大時間以下になりますが,その県警の本部長が出した指示というのは,現状でもそうなのですが,立会人に今回は本部長から何分とかという指示が出ていますよという確認をお願いしてもらっていますので,事件ごとに出される警察本部長の指示,この時間を確認するということになります。 ○青木委員 分かりました。 ○井上分科会長 さらに,スポット傍受自体が記録され,該当性判断の適否を含めた事後的なチェックもできるということですね。 ○参考人 はい。そのとおりです。 ○井上分科会長 ほかの方,いかがでしょうか。皆さん,よく理解できたでしょうか。   さらに御質問等がなければ,今日は技術的な点についての御説明を伺ったということで,法的評価については,この後,御説明するように,この場で我々の間で議論をするという整理にしておりますので,ヒアリングとしてはここまでとさせていただきたいと思います。   加藤補佐,どうもありがとうございました。   本日御説明いただいた仕組みにつきましては,現行法における立会いや封印等の手続と同程度に傍受の実施の適正を担保できると考えることができるかどうかということ,これが今後の中心的な論点になっていくだろうと思いますが,さらに,通信の暗号化・復号化に係る具体的な手続や方法をどのようなものとして設計すべきなのかということ,主にこれら2点について,議論していく必要があると思われます。   通信傍受の合理化・効率化については,本日のヒアリングの内容を踏まえまして,事務当局において検討の基となる資料を作成してもらい,それをベースに,本作業分科会の第4回会議で議論することにさせていただきたいと思います。   それでは次に,「被疑者・被告人の身柄拘束の在り方」についての議論に移りたいと思います。この検討事項につきましては,まず,勾留と在宅の間の身柄を拘束しない状態での中間的な処分について議論を行っていただいて,次に,身柄拘束に関する適正な運用を担保するための指針となるべき規定について議論をすることとさせていただきたいと思います。   まず,第1番目の勾留と在宅の間の中間的な処分に関しまして,議論すべき事項などを整理するために,事務当局から配布資料について説明をしていただきます。 ○保坂幹事 では配布資料1を御覧いただければと思います。まず,1にあります,勾留と在宅の間の中間的な処分につきましては,部会において,新たに中間的な処分を設けるべきであるとの御意見は示されておりましたが,必ずしも具体的な制度案をお示しできるまでには至っていなかったと思われ,他方で様々な懸念も示されたところでございます。したがいまして,この分科会におきましては,部会で採否を検討する前提として,制度の具体的内容として,どのようなものが考えられるかというところから議論をスタートすることになろうかと思われます。その検討に当たりましては,まず,中間的処分の内容,例えば,裁判所や裁判官が一定の作為や不作為を命じる制度を採るとすれば,その具体的な内容や効果が議論すべき事項になろうかと思われます。   また,中間的な処分に付するための要件,中間的な処分と勾留のいずれを選択するのかという基準,中間的な処分では不十分であったときに勾留に移行する要件など,中間的な処分と勾留との関係,さらには,中間的な処分に付することができる事件の範囲をどのように考えるかや,中間的な処分にどのような期間制限を設けるのかといった点も議論することになろうかと思われます。   また,部会での議論におきましては,勾留以外の方法によって罪証隠滅や逃亡を実効的に防止することができるのか,被疑者の取調べ等のための捜査機関への出頭を確保することができるのかとの懸念も示されたところでございます。そこで,中間的な処分において,罪証隠滅の防止を確保する方策,被疑者の捜査機関への出頭を確保するとともに,逃亡の防止を確保する方策,また,現行法上,起訴後には保釈制度が設けられていることをも踏まえまして,起訴後についても中間的な処分を設けるものとすべきかどうかといった点を念頭に置く必要があろうかと思われます。   以上,御説明した点を,配布資料1の(1)の考えられる制度を検討するに当たっての議論すべき事項と,(2)の検討課題として,記載をいたしております。資料の説明は以上でございます。 ○井上分科会長 どうもありがとうございました。この勾留と在宅の間の中間的な処分に関しましては,部会におきまして,青木委員からその新設を求める御意見が出されており,本日は,青木委員から,御意見の具体的内容を記載した書面を提出していただいておりますので,まず,議論の出発点として,青木委員から御発言をお願いしたいと思います。 ○青木委員 それでは,今日付けの私の名前のペーパーの「住居等制限命令制度について」ということで,勾留と在宅の間の中間的な処分について考えていることを述べさせていただきたいと思います。今,お話がありましたように,現在は勾留か在宅かの二者択一となっているわけです。こちらの理解としては,拘禁というのは最後の手段であって,でき得る限り避けるべきだということからすると,勾留の目的が勾留以外の方法によって達成できるのであれば勾留をしないという選択肢も,在宅ではないけれども勾留もしないという選択肢,すなわち,義務条件を課すことによって勾留と同様の目的を達するということができる部分というのもあるのではないかということで考えてみたものです。   それで,このペーパーは現行法のどこをどう変えるかということも多少念頭に置きながら作ったものですので,起訴後のことから始まっておりますけれども,中身としては,起訴前のことの方が重要だと思いますので,話の順序としては,起訴前のことから始めさせていただきたいと思います。   まず,起訴前についてですけれども,当然,逮捕前置ということになると考えております。ペーパーでいうと2ページの下の方の○のところです。逮捕された被疑者に対してということで考えております。そして,住居等制限命令の請求が認められる要件としては,現在の勾留と同じ要件ということで考えております。これは1ページ目の最初の○です。ただし,ここで勾留の要件そのものについて,この住居等制限命令を入れるということによって現行法の要件を若干変えるという部分で,2ページの60条1項改正というところで,現在の勾留の要件はあるけれども,そのほかの今の住居等制限命令によっては,これを防止することが困難であるということも勾留の要件の中に入れるというのが改正点です。そして,この住居等制限命令に違反したら勾留されるという意味で,住居等制限命令に違反したときというのも勾留理由の中に入れるというのが改正点です。その60条の最初の方に付け加えている部分があるんですが,勾留の必要性について明記したということで,これは現在でも実際にはそのように行われているとは思いますが,全ての事件について,全ての裁判官がそのように行っていただいているかというと,必ずしもそうではないのではないかという部分もあって,現行法を変えるということではないですけれども,明記したということで,現在の勾留と同じ要件といっても,その部分,勾留の要件自体について,こういう改正も考えているということになります。   そして,勾留の要件が認められる場合に,現在は,勾留の請求をして,勾留が認められるか,却下されて在宅になるかというどちらかですけれども,勾留が認められる場合には,勾留請求もできるし,住居等制限命令の請求もできるとします。2ページ目の下の方の○で,勾留要件がある場合に,住居等制限命令も請求できるというふうになります。勾留請求をされた場合に,もちろん勾留が認められることもあるでしょうし,却下される場合もあるでしょうけれども,勾留請求はされたけれども,勾留は認めずに住居等制限命令を発するということもあり得るということで,3ページの下の○ですけれども,勾留の請求を受けた場合であって,何らかの条件を付せば勾留しなくても済むという場合には,勾留ではなく,住居等制限命令を発するべきであるということにしています。   この住居等制限命令を発令する場合に,このペーパーでは特に触れてはいないんですけれども,やはり勾留質問と同様に,被疑者の陳述を聞くということも必要ではないかと思いますので,そういう意味では,そこの部分は法改正が必要かなと考えております。   そして,その命令の具体的な内容としては,1ページの一番最初のところで,「住居の制限,被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族への接触の禁止,特定の場所への立入りの禁止その他罪証の隠滅又は逃亡を防止するために必要な事項」と,多少抽象的に書いていますけれども,一定の人との接触禁止を命じるとか,あるいは,一定の場所に立ち入ってはいけないとか,あるいは逃亡防止との関係では,一定の場所に毎日出頭するとかというようなこともあり得ることだと考えております。   それから,この住居等制限命令の期間をどう考えるかということについては,これは起訴前のことですけれども,4ページの下の○のところで,これも根拠は何かと言われると,絶対的な根拠があるわけではないですけれども,最初30日,最大30日ずつ2回まで延長できるということで,一応考えてみました。   それから,命令違反があった場合について,3ページ目の上の方の○の括弧の中ですけれども,命令違反があったときは,職権で被疑者を勾留することができるとしました。例えば,裁判所に毎日出頭しなさいと言って命令したところが,出頭してこなかったということであれば,命令違反だということで勾留をすることも,つまり職権勾留もできるということです。ただ,これは職権でということですけれども,検察官が勾留請求をしてはならないという趣旨ではなく,勾留請求ということも当然あり得ると思いますし,そのように請求された場合には,実際には一応必要性判断を経ることにはなるでしょうけれども,ほぼ勾留ということになるだろうと思います。ですから,命令違反があれば勾留されるという状況になるということになると思います。   それで,そのような場合,要するに命令違反があって,勾留するという場合の期間については,4ページの上の○ですけれども,勾留状を執行した日から10日ということになると思います。その命令違反による勾留を実際にどのように執行するのかということについては,これはいろいろ考え方はあり得ると思います。まず,一つの問題としては,その段階で初めて勾留ということになるわけですから,勾留質問をしなければならないのかどうかという点があると思います。これも勾留質問をする方が好ましいのかもしれませんが,ただ,住居等制限命令を発するに当たって,実際には被疑者の陳述を聞いているということで,改めて勾留質問は要しないという考え方もあり得るのではないかと思っております。   いずれにしても,その被疑者をどういう形で勾留するのかということについては,勾留状をいきなり執行するのか,勾引をして,勾留質問をしてということになるのか,あとぎりぎりの,例えば,逃亡してしまっていて,そこで捕まえておかないと本当に逃げおおせてしまうというような場合にどうするのかというような問題もあるかと思いますが,そのような場合には再逮捕ということもあり得るのではないかというふうには考えております。それについて,法改正をする必要があるのか,再逮捕について現行法の解釈でできるのかということについては,それも検討の余地があるかなと思っております。   勾引状を執行するということに関しては,法改正が必要だと思います。それと,住居等制限命令についても,違反すれば勾留になるわけですが,一方で,その必要性がなくなれば,当然取消しもあり得るということで,勾留と同様に取消しがありますよというのが,2ページ目の上の○です。   あと起訴前の勾留の場合に,勾留をしていて,その取消しがあった後に,住居等制限命令を発することができるのかどうかということも検討の余地はあるというふうには考えています。ただし,起訴前にそのようなことを認めると,実質的には起訴前保釈と同じことになるのではないかと,その期間との関係でどうなのだろうかという問題はあろうかと思いますので,起訴前にその勾留取消しをした上で,住居等制限命令を発するというような制度にするのかどうかは,どちらがいいかについて,検討する必要があるのではないかと考えています。   仮に,そういう起訴前に勾留されている人を,勾留は取消した上で,住居等制限命令のような形で命令に付するとした場合に,そのようにして一旦釈放された人が,また命令違反をしたといった場合に,また勾留できると。そうしたら,勾留の期間がどうなるかということも検討しなければならないことになるわけです。そうしたときに,その後,最初の勾留の残りの期間ということも理論的にはもちろんあり得るでしょうし,それとは別に改めて勾留期間が始まるということもあり得ると思いますが,どちらにしても,起訴前にそういう勾留になったり,住居等制限命令になって,また勾留になったりということを認めるのがいいかどうかというのは,一つの問題だろうとは思っています。   被疑者段階,起訴前についてはそのようなことで,次に,起訴後の住居等制限命令についてです。このペーパーは,起訴後についても当然あり得るという前提で,起訴後の住居等制限命令についてのところから始まっていますが,まずその被疑者段階でそのような命令が付いている場合には,そのまま取り消されない限りは住居等制限命令が課されたまま,要するに接触禁止とかということがそのまま続くということで,起訴前についてこういうものを認めるのであれば,そのまま起訴後についても当然必要だと思います。もちろん取消しはあり得ると思いますが。   それと,被疑者段階では勾留されていたという場合に,先ほどは起訴前でそのようなことについて触れましたけれども,起訴後についても,勾留が取り消されて,住居等制限命令に変更されるということもあっていいのではないかと思います。ただ,これは保釈との関係をどう考えるのだろうかということが当然出てくると思いますけれども,現行の保釈は基本的に保証金を積んでということですが,この住居等制限命令についてはそういうことではなく,もちろん保証金を全く排除する趣旨ではないですけれども,そうではない形の条件を付するというようなことで,勾留を完全に取り消すわけにはいかないけれども,条件を付せばいいというような場合に,起訴後もこのような制度があってもいいのではないかと考えています。そして,この起訴後の住居等制限命令の期間については,現行の起訴後勾留と同じでよいのではないかと考えております。それが1ページ目の2番目の○に書いたところです。   細かいところや,全ての条文をどうするかというところまで検討ができているわけではありませんし,絶対にこういう形でないといけないということで考えているわけではないですけれども,議論のたたき台にしていただいて,あとは御質問いただければと思います。 ○井上分科会長 ありがとうございました。   それでは,先ほど事務当局から説明があった議論すべき事項につきまして,ただいまの青木委員の御発言をも踏まえつつ,御意見をいただきたいと思います。どなたからでも御意見がある方はお願いします。 ○後藤委員 御趣旨の確認でもありますけれども,住居等制限命令を被疑者に対してかけたとします。その後で,特に命令違反はないのだけれども,例えば逃亡の可能性が増したとかというような場合は,どういう対応になりますか。改めて勾留請求をするという対応になりますか。 ○青木委員 一つは,逃亡の可能性を勾留ではない形で更に条件を強化することによって防げるのであればそうでしょうし,もう勾留するしかないということであれば,改めて勾留請求をするということになるのではないかと思いますが。 ○井上分科会長 前者の趣旨はどういうことですか。既に一度,条件を付けて,命令を出しているのですよね。その命令の変更を請求するということですか。 ○青木委員 そうですね。命令変更を請求するというようなこともあっていいのではないかと思います。要するに,捜査の進展によって,もしかすると削る方向もあるでしょうし,場合によっては,今言われたように,逃亡のおそれが強くなるとか,あるいは口裏合わせをしそうな人が判明したというような場合に,それを更に強化するということもあっていいのではないかとは思っています。 ○川出幹事 この制度の基本的な性格について確認させていただきたいのですが,以前に部会では,これは勾留の代替手段ではなくて,独立した中間的処分だということをおっしゃっていたと記憶しています。仮にそうだとすると,現行の制度の下で勾留がなされているような事案について,御提案されている住居等制限命令という形で対応する場合もあれば,逆に,例えば,逃亡や罪証隠滅のおそれはあるけれども,それが必ずしも大きくはない一方で,被疑者に対する不利益が非常に大きいので,現行の制度の下で勾留は認められないという事案について,この住居等制限命令の対象にすることにより,逃亡や罪証隠滅を防止するという場合もあり得ると思います。後者のような場合についてこの制度を適用することもお考えになっているのでしょうか。 ○青木委員 勾留の必要性がないというか,比較衡量して,勾留までは認められないという,今だったら在宅になるというものについて,住居等制限命令が認められるかという趣旨ですよね。勾留の目的,要するに,罪証隠滅とか,逃亡のおそれは残ってしまうけれどもという趣旨なのですか。 ○川出幹事 現在の運用で,勾留の必要性が欠けるとされる場合というのは,逃亡や罪証隠滅のおそれはあるけれども,例えば,身柄を拘束することによる対象者の不利益を考慮して勾留を認めないという判断をしているわけですよね。そうすると,この住居等制限命令であれば,身柄は拘束されず,対象者の被る不利益の程度は小さくなるわけですから,勾留が認められない事案について,逃亡や罪証隠滅を防止するためにこの制度を使うということもあり得ると思うんですが,そこまで含んだものなのかということです。 ○青木委員 多分あり得るんだと思います,実際上は。 ○井上分科会長 今のお答えに関連して,逮捕前置主義を飽くまで前提にするということでしたけれども,それは必然なのですか。 ○青木委員 必然かどうかというのを突き詰めて考えたわけではないんですけれども,いずれにしても,住居等制限命令に違反すれば,勾留に移行してしまうものということで考えているので,逮捕もされないようなものについて,そういうものを認めていいのだろうかというのもあって,一応逮捕前置ではないかなと思います。要するに勾留の代替ではないんですけれども,ただ,将来,勾留になり得るものということなので,全くの全て任意で行われるようなものとは区別する必要があるのではないかという感覚なのですが。 ○井上分科会長 分かりました。 ○川出幹事 今のお答えに関連するのですが,御提案の文言から見る限り,この住居等制限命令というのは,勾留の要件が備わっている被疑者・被告人について,一定の命令をし,それに違反した場合には,勾留に移行するということによって,逃亡や罪証隠滅を防止するというものになっています。これを,例えば,現在の保釈と対比してみた場合,保釈の場合は,例えば,逃亡すれば保釈が取り消され,再度身柄が拘束されるわけですが,それだけではなくて,保証金を納めさせ,逃亡すればそれが没取されるという形をとることにより,出頭を担保できるという建前になっているわけですね。そうすると,この住居等制限命令についても,命令をし,それに違反したら勾留するというだけではなくて,例えば,命令違反に罰則を付けるとか,そこまでしないまでも,外国で行われているように,対象者を電子監視に付すなどの,何らかの付加的な措置を伴わないと,本当に逃亡や罪証隠滅が防止できるのだろうかという懸念があるのですが,その点はどうなのでしょうか。 ○青木委員 罰則というのは,確かに理論的には考えられると思いますけれども,それはちょっとどうかなと思っています。それから,電子監視というのは,かなり広い意味があると思っておりまして,絶対駄目だというものではないような気はしているんですね。ただ,電子監視をどんな形で認めるのか,どういう形でやるのかというのは,相当いろいろなことを検討しなければならないと思っていますが,検討の余地はあるとは思っております。それと,実際にこのような形で逃亡とか,罪証隠滅が防げる人というのは,やはりそれほど誰でも彼でもというわけではなくて,要するに勾留そのものが,勾留されることそのものが相当痛手になるような人というのが実際には適用される可能性が強いんだと思うんですね。要するに勾留されてしまうということ自体が心理的な威嚇になって,条件を守るというような人に使うという意味合いが強いものになるのではないかと思っています。   あと保証金をプラスするということも,それは全く考えられないわけではないと思いますが,ただ,保証金というのがメインになるような話ではないと。あと,起訴後の保釈ということとはやはり違うのではないかと思っております。 ○井上分科会長 その最初に言われた,「罰則をかけるのはちょっと。」という,「ちょっと」の理由がよく分からなかったのですが,御説明いただけますか。 ○青木委員 要するに,勾留というのは罰則ではないわけですよね。要するに最終的に勾留されるということ自体でもうそれはいいのではないかと思います。違反そのものについて,何か改めてペナルティというのは,未決の人について適切なことなのかどうかということです。 ○井上分科会長 川出幹事の御質問の趣旨は,ペナルティというよりは,何らかの威嚇ないし制裁の予告によって遵守させることを考えなくてよいのかということだと思いますけれども,罰則はやはり強過ぎるということですか。 ○青木委員 逆に質問したいんですけれども,例えばどんな罰則があり得るんですか。要するにペナルティという,守らなかったらこうなるよということで,誰もがそれは仕方がないですねと思うようなものがあって,勾留よりはましだよと考えられるのであれば,それは全くないわけではないのかもしれないですけれども,もしあるとすれば,具体的にどんなことなんでしょうか。 ○岩尾幹事 単純な罰則規定として考えられるのは,裁判官の発した制限命令に違反した者は処罰するという,そういう単純な形もあり得るのではないかとは思いますけれども。 ○青木委員 その場合はどうなってしまうんですか。 ○岩尾幹事 それ自体は,制限命令が出された元々の犯罪とは別個の保護法益を侵害したものでございますから,それを処罰すること自体は何も未決だからできないという関係には立たないという理解になろうかと思います。 ○井上分科会長 一種の司法妨害罪のようなものでしょうか。 ○青木委員 要するに司法手続に協力しなかったというようなことで,それに違反したことについて,例えば罰金とか,そういうようなことですか。 ○井上分科会長 理屈の上では,罰金刑も自由刑もあり得ると思います。いろいろなことが考えられると思いますが,そういう措置を講じなくて大丈夫ですかという御質問なのだろうと思います。 ○川出幹事 青木委員の御提案では,命令に違反しても,その効果としては,結局,勾留されるだけであるわけです。「だけ」と言うと語弊があるかもしれませんが,この制度は,元々勾留の要件がある場合を対象としているわけですから,命令に違反したとしても勾留されるだけであれば,見方によっては特に不利益はないということもできると思います。もちろん,御指摘されたように,勾留されること自体がものすごく負担になるような人には,それでも効果があるのかもしれませんけれども,それで本当に逃亡や罪証隠滅がなされないことを担保できるのかなと疑問を持ったということです。 ○井上分科会長 分かりました。 ○髙橋幹事 青木委員御提案の制度がワークするためには,罪証隠滅の防止や逃亡の防止について,きちんと実効性のある措置が採られることが大事だと思います。ただ,本日御説明された内容からすると,その辺りが具体的にどうなっているのかよく見えないところがありまして,例えば,実際に逃亡しようとしている,あるいは,証拠を正に隠滅しようとしているというような場面を想定すると,それを防止するためには,本日の説明だと,場合によっては再逮捕ということがあり得るかもしれない,あるいは職権又は請求による勾留ということもあり得るかもしれないというようなお話でしたけれども,特に勾留の場合など,一定の手続が必要となりますよね。そうすると,その間に逃亡されてしまうとか,証拠がなくなってしまうということがあり得ると思います。その辺り,罪証隠滅の防止,逃亡の防止に向けた実効性のあるようなサンクションが作れないかということについて,これまで御議論されたかどうかということをお聞きしたいんですけれども。 ○青木委員 今のお話は,先ほどのお話とかなり重なる部分だと思うんですね。そういう意味でいうと,かなり限定されてしまうんでしょうけれども,一応こちらが考えたものとしては,勾留そのものを避けたいというような人にはそういう圧力が働くであろうということで,勾留されてしまうということ自体が心理的な威嚇になるということで考えていたんです。それで,今のそれ以外に更に別途守らせる手段ということについては,具体的には検討していなかったんですけれども,先ほど言われたような罰則とか,そういうのも理論的にはもちろん考えられると思います。あと保証金を積むということも理論的には考えられると思います。   それと,先ほどの,勾留要件はあるけれどもその必要性なりというところで,勾留は認められなくて在宅になるような人が実際に罪証隠滅行為に及ぶ場合だってあり得ます。今,要するに,在宅の人が罪証隠滅行為に及ぶとか,逃亡するということももちろんあり得るわけですよね。だから,それと同じようなことはもちろんこの場合でもあるけれども,それよりは,こういう形で条件に違反したら,勾留になりますよという方が,まだ守る可能性は高いのではないかということは言えるのではないかと思います。 ○井上分科会長 そうすると,勾留は本来の趣旨のものではなくて,ペナルティとして身柄拘束するという位置付けになるのではないですか。それで良いのですか。 ○青木委員 ペナルティではないですが,勾留されてしまうということは,実質的にはペナルティというか,実際にはかなり,その人の社会生活上,大きな影響のあることですので,その社会生活上,非常に大きな影響のあるようなものを避けたいという思いが,罪証隠滅とか,逃亡とかということを抑止するというふうになるような人たちもいるのではないかということです。 ○島根幹事 元々この制度をお考えになったのは,勾留以外の方法によって勾留と同様の目的を達成できるのであればということからであると,先ほど伺いました。まだ条文的にどうこうという段階ではないと思っておりますが,先ほどの参考資料の60条の部分に,「かつ,住居等制限命令によってはこれを防止することが困難である」とありますから,要するに,実質的には補充性というか,まずは勾留よりも住居等制限命令を考えるべきだということで,この制度を組み立てておられると思います。けれども,まず,そもそも被疑者段階で逃走のおそれや罪証隠滅のおそれというものを認定しているにもかかわらず,命令でそこの部分は担保できるというためには,やはり相当その担保措置が,今の勾留と同程度のレベルで担保されることが必要ではないかと考えます。命令に違反したならば,細かい手続はともかく,また勾留に行きますよと言われても,捜査する立場からすれば問題がある。特に罪証隠滅されてしまえば,それは基本的には非常に回復し難い状況になるおそれがかなりあると見ていいのではないかと思います。命令に違反したからといって,当然ながら,犯罪事実そのものが推認されることにはならないでしょうから,やはり罪証隠滅のおそれをこの命令で担保するのはかなり難しいのではないかと考えております。命令には,接触禁止命令等,様々あるとは思いますけれども,今は,いろいろな形での通信方法といったものも非常に発達していて,なかなかそういう接触を完全に禁止することができるのかというところがありますし,また,そのような命令違反を認知することも必要だと思いますけれども,接触や働きかけを受けた人間がそれを黙っておこうと思ってしまえば,その認知はかなり難しいのではないかと考えられます。   また,先ほど逃走の防止のところで,実際に適用されるのは,勾留されると非常にダメージを受けられるような方なのではないかというような御説明がありましたが,それは恐らく,実際上そういう身柄拘束を使って間接的に供述を得ようとしているのではないかという,そういう御懸念の上での御説明なのかもしれませんけれども,やはりそこも当然ながら,逃走の防止が客観的にどういうふうにできるのかどうかというところから,必要性を考えるべきではないかと思っております。 ○髙橋幹事 青木委員の説明だと,今,勾留却下になっているような者も,一部この中間的な形態に入っていくだろうというお話でしたが,川出幹事のお話にもありましたとおり,これまでの実務でも,罪証隠滅とか逃亡のおそれの強弱と勾留の必要性を比較衡量して判断しています。例えば,元々罪自体がそれほど重い罪ではなく,罪証隠滅や逃亡のおそれがさほど高くないと考えられる一方で,勾留されると会社を解雇されるとか,いろいろな社会生活上の不利益があるという場合には,総合的に判断して,勾留の必要性がないとして却下する場合も多いと思います。そういう事案が中間形態に入り込むというようなお話だったんですが,では一方で,逆に勾留することが心理的威嚇になるので今まで勾留していたものを中間形態に取り込もうという類型にどういうものがあるのかということですが,ちょっとその辺りのイメージが具体的に湧かないのです。例えば,その心理的威嚇というのが,勾留されることによって,例えば,会社を解雇されてしまうというために勾留されたくないというのであれば,既に,今の現行の実務でも,勾留を却下するときに,ある意味そういう要素というのは判断しているんですよね。ちょっとその辺りの具体的イメージがなかなか湧きにくいんですけれども,教えていただければと思います。 ○青木委員 確かに却下されていれば,その方がいいんだと思うんですが,例えば,罪証隠滅のおそれがあるというようなことで,共犯者がいるとか関係者との関係で,社会生活上,非常に勾留はその人にとって不利益だけれども,やはり罪証隠滅のおそれの方は重く見なければならないというような場合は,やはり今,勾留されてしまっているのではないかと思うんですね。だから,その区別がなかなか難しいのかもしれませんけれども,具体的に口裏合わせをしそうな相手がいるというような場合に,勾留が全て却下になっているかといったら,そうではないのではないかと思うのです。具体的にこういう事件とこういう事件があってどうですというのは,なかなか難しいのですけれども。 ○岩尾幹事 今の御質問とも関連するんですけれども,やはり勾留との関係の整理が余りはっきりしないなという疑問が一つあります。特に,勾留の相当性といいますか,勾留の必要性についての規定の修正部分で,「被告人の身体を拘束する必要性の程度並びに身体を拘束することによって被告人が受けるおそれのある不利益の内容及び程度を考慮して相当と認める場合に限り」というような要件を加えるという点です。これは,現行の運用,あるべき運用ということなのかもしれないですが,その運用を明記するだけだと言われるのですが,本当にそうなのだろうかというところに疑問がございます。確かに勾留の理由のほかに,勾留の必要性も判断されると言われていて,それは共通の認識ではあるんですが,その場合,勾留の理由がある場合でも,被疑事件の種類だとか,軽重,態様,また,捜査の進展の具合だとか,個人的事情を含めて,その他諸々の事情を総合的に判断して,勾留すべきでない,勾留の必要性がないと認められたときには,勾留しないというような運用がされているということだろうと理解しているのです。   例えば勾留されると心理的な威嚇になる人を対象とするというようなことを言われておりましたが,こういった身柄拘束による不利益という内容がそもそも非常に不明確でありますし,主観的要素なので,その外縁もよく分からないという状況の中で,そういった不利益というのは,勾留の必要性自体を直接否定するような形で働くものではないのではなかろうかと思います。それは,勾留の理由があるという,つまり罪証隠滅のおそれや逃亡のおそれがあるということは,そもそも,身柄拘束の必要がある場合が類型化されていると考えられるわけですから,勾留の理由がある場合の身柄拘束の必要性とおっしゃられているような身柄拘束による不利益というのが,単純に比較衡量されるべきものなのかなというところが,やや疑問に思うところでございます。 ○後藤委員 青木委員がおっしゃっているのはそういう趣旨ですか。勾留されることが大きなダメージになるような人の身体拘束を回避するという効果はもちろんあるのだと思いますけれども,青木委員が先ほどおっしゃったのは,そういう人にとっては,命令に違反したら,勾留になるということが十分なサンクションになるのではないかという御趣旨ではないですか。 ○青木委員 今,言われたとおりです。確かに,今までそういう人は勾留が全部却下されていたんですよと言われてしまうと,話がそこで終わってしまうんですけれども,そうではない場合もあるでしょうということで言うと,要するに勾留の目的はもちろん罪証隠滅とか,逃亡の防止であって,その危険はあるけれども,その人が例えば20日間も会社を休んでしまったらクビになってしまうというような人は,勾留そのものは非常に避けたいわけですから,そういうことでもし違反した場合には,勾留になるということ自体が,条件を守るための,その人にとっての担保措置的なものになるのではないかという趣旨で申し上げたつもりです。 ○後藤委員 この措置をとっても,逃亡とか罪証隠滅の可能性があるのではないかという懸念は当然あり得るでしょう。けれども,その種のおそれを完全に防いで,ゼロにしようとすると,逆に非常に過剰な拘禁をしなければならなくなります。だから,比較衡量によって,どこかの線で調整しなければならないのだと思います。どんな制度でもリスクをゼロにはできないということは,考えておく必要はあるだろうと思います。   もう一つ,先ほど川出幹事がおっしゃった,保釈との対比でこれが十分な担保になるかという問題についてです。私はそれを最初にお聞きしたときには,元々住居等制限命令は勾留までは必要ない人に対して出されるのに対して,保釈は一旦は勾留された人に対してのものなので,保釈の方が言わばより強い担保効果が必要になるという違いがあっても,おかしくはないと思いました。ただ,住居等制限命令の担保効果が弱いと受け取られると,これまで勾留されていた人たちは同じように勾留されて,かえって今まで単純な在宅で済んでいた人たちが,この命令をかけられるようになるという方向で,この制度が働いてしまうおそれもあります。青木委員が期待されるのは,そうではなくて今まで勾留していた人を,住居等制限命令で済ますことのはずです。それを実現するためには,担保効果としても,ある程度納得してもらえるものがあった方が,むしろその目指される方向に動きやすいかもしれないという気はしました。 ○井上分科会長 従来は勾留されていたであろう人を住居等制限命令の方に移すというのが青木委員の御趣旨だとすると,保釈の場合の保証金に相当するような担保措置がないと,理屈の上で,代替ということにはならないのではないかという感じがします。今,後藤委員は,そもそも勾留の必要はないという場合について,こういうものを認めるとすると,青木委員の御趣旨と違う方向に動くので,勾留の必要はあるけれども,勾留が控えていますよという形で勾留まではいかない中間処分にするというのであれば,やはりその中間処分の実効性を担保するものが必要になってくると言われました。そうすると,それはもう保釈と同じということにならないかという感じがします。 ○後藤委員 そこで勾留の必要性とはどういう意味で言われているかが問題と思います。青木委員が言われる勾留の必要性というのは,もっと限定的ですね。つまり,60条各号の事由があるというだけではなくて,もう一段階絞り込まれますね。 ○井上分科会長 現在の勾留の解釈や運用を前提にして勾留が認められる場合を限定していこうというのが青木委員の構想だと思うのですが,そうなると,勾留の要件も変わってくることになるわけです。変わった後で必要がないということではなくて,現在では勾留の必要が認められるものについて限定しようとするわけですので,理屈の上では,やはりその担保措置というものが,保釈と同じように問題になるのではないかということです。 ○岩尾幹事 いろいろな制限命令で,罪証隠滅のおそれだとか,逃亡のおそれが完全になくならないと,つまり完全な担保措置は難しいんだという後藤委員の御発言は,非常に重要な点だと思うわけです。やはり勾留と比較すれば,当然こういった防止効果というのは,非常に劣るわけであり,勾留が今現在果たしている機能,罪証隠滅を防止したり,逃亡のおそれを防止したりするという機能は,やはり素直に評価する必要があるんだろうと思います。島根幹事も言われたように,罪証隠滅は一旦行われると回復はもうほとんど困難な場面が多いのではないかと思われますし,逃亡もされてしまうと,どういう形で元の勾留の状態に戻すのかというのは,青木委員も最初御説明されたとおり,なかなか非常に難しい問題があるのかなという気がします。そうすると,やはり勾留の理由があることを前提として,こういった中間処分を組むのであれば,御提案のような,補充性の要件を設けて勾留と中間処分の原則と例外を逆転してしまうというのは,やはり行き過ぎではないのかなという気がします。まず,勾留の要件,勾留の理由を満たす以上は,勾留は可能だという前提で,罪証隠滅や逃亡のおそれが小さくて,中間処分によって一定程度の防止も期待できるような何らかの積極的な相当な理由が認められるときに,中間処分に付するというような形での検討の方向性の方が,むしろ適切ではなかろうかなという気がしております。   それからまた,こういった新しい制度を設けるに当たっては,その対象犯罪の限定を検討する必要があると思います。保釈であれば,権利保釈の除外事由もあるというような仕組みと比較すると,やはりこういう制度を設けるに当たっては,対象犯罪をどうするのかというようなことも,検討する必要があるのではなかろうかと思いますし,それ以外の権利保釈の除外事由のような要素というものも要件として考慮する必要がないのだろうかという点も気になるところでございます。 ○島根幹事 逮捕や勾留と,捜査や取調べとの関係について,青木委員のお考えと私どものそれとがそもそも違うのだろうという前提でのお尋ねなのですけれども,新しい制度ということを考えるのであれば,私どもは,今の状態がどういうふうに変わるかというところにどうしても関心を持たざるを得ません。現在であれば,逮捕や勾留の期間に,私どもは,一定の取調べを含めた捜査を被疑者に対して行っているわけであります。今回,この住居制限命令で,先ほど逃亡の防止として,例えば,一定の場所に毎日,出頭させるというような例が挙げられましたけれども,恐らくこれは命令を出した裁判官,あるいはそれに準ずる方の場所に出頭するというようなことを想定されていると思いますが,私どもの呼出しに対して,正当な理由なく出てこないというときは,この命令との関係でいうと,そこはどういうふうに今の時点でお考えになっておられるのかということをお尋ねいたします。 ○青木委員 御質問の中にもありましたように,その前提の考えが違うので,そこに踏み込んでしまうと難しいことになるのですが,要するに逮捕・勾留されている場合であっても別に出頭・滞留義務はないという前提で考えると,ましてやということになるので,それ自体が義務違反になるという,要するに命令の対象になるとか,義務違反になるということは考えられないとは思っております。ただ,実際上,例えば弁護人が付いているような場合に,これについて一定の人との接触禁止と併せて,実際上は,例えば,誓約書を出して,出頭を命じられたら必ず出頭しますというようなことを約束するということはあり得ると思います。実際上,それはそういう形でやる以上は守られるのではないかと思いますが,ただ,その部分については守られないからといって,命令の中身ではないので,だから勾留というふうにはならないということだと思います。 ○井上分科会長 その誓約書を出させる根拠はどうなるのですか。 ○青木委員 それは任意です。要するに誓約書を出すということについて,例えば,誓約書が出ているから罪証隠滅についても多少そのおそれが減るであろうと考えてもらうためにとか,そういうような形で任意に出すというようなことです。 ○井上分科会長 今問題にされているのは,例えば,捜査機関の取調べのために出頭を要求されたような場合に出頭しますという,そういう誓約書というふうに伺ったのですけれども。 ○青木委員 そうです。そういう誓約書です。 ○井上分科会長 罪証隠滅とは違いますよね。 ○青木委員 もちろん違います。違いますけれども,そういうふうに取調べにも応じるし,要するに手続にきちんと協力しますよという態度そのものが全体として,義務をきちんと履行するというふうに見てもらえる材料になるのではないかという意味です。 ○髙橋幹事 今の関連で,これは勾留請求の段階なので,弁護人が付いていないことが結構多いと思うんです。そういう場合は,被疑者にそういう誓約書を書いてもらうということなんですか。 ○青木委員 できるだけその段階で弁護人がいるようにしたいというのはありますし,あと私選弁護人が付いているような場合はそれなりにあると思いますが,そうでない場合に,もちろん被疑者がということも全くないわけではないと思います。 ○髙橋幹事 それから,冒頭の御説明で,裁判所に毎日出頭させるという命令もあり得るというお話しがありましたが,裁判所に出頭させて,何をするのでしょうか。 ○青木委員 要するに,裁判所でもどこでもいいんですけれども,きちんと一定の範囲の場所に,少なくとも例えば会社に行く前にどこかに寄っていくということで,遠い所に行っていませんよ,ここにいますよということをただ確認してもらうだけです。別に何かをするわけではないです。 ○井上分科会長 細かなことを2点確認したいのですけれども,まず,違反があって勾留に移るときに,裁判官による質問は必ずしも必要ないと言われたのですけれども,これは既にヒアリングをしているからということなのですが。そうすると,同じ裁判官が勾留の判断をするということを想定されているのですか。 ○青木委員 いえ,同じ裁判官ということには実際はならないと思うんですけれども,例えば,東京地裁でいえば,14部の裁判官というような形に,そういう抽象的な形で記録上は聞いているというふうにしかちょっと考えられないのではないかと思うんですけれども。 ○井上分科会長 そこは理屈としてしんどいかなと思います。また,再逮捕をすれば良いということでしたけれども,再逮捕の要件はあるのですか。理屈の上だけの問題なのですけれども,既に逮捕が行われ,さらに,勾留請求ないし中間処分の段階へ移っているわけですよね。もう一度逮捕するためには,普通,理屈の上では特別の事情変更とか,そういうことが必要だとされているわけですが,この場合どのような事情変更があるのでしょうか。 ○青木委員 それはもしかしたら立法が必要なのかもしれないです。その義務違反があって,その逃亡のおそれが高くなっているというような場合には,要件があるとするような形の立法をするということはあり得るのではないでしょうか。 ○井上分科会長 そこは便宜的な感じがするのですよ。立法するとしても理屈がないといけないので,そこのところをもうちょっと詰めてお考えになった方が良いのではないかという感じがします。 ○後藤委員 仮に再逮捕を認めるとしたら,その場合に想定されるのは令状逮捕ですね。しかし,そうだとすると,逮捕状を取るような時間があるなら,勾留状を出して,すぐに収監した方がいいということに多分なるのだと思います。 ○青木委員 要検討だと思います。 ○井上分科会長 ほかに御意見,あるいは御質問等ございますか。 ○後藤委員 細かいことですけれども,一旦勾留してから,勾留までは要らないだろうということで,この制限命令に移行するという構想もあるわけですね。そのときに,現行法との関係では,勾留の執行停止との関係を少し整理する必要があるかもしれない。 ○青木委員 執行停止ではなくて取消しではないでしょうか。 ○後藤委員 勾留取消しよりも,勾留の執行停止と住居等制限命令への移行とをどう使い分けるのかという問題が起きそうです。 ○青木委員 すごく細かく詰めているわけではないんですけれども,変更するというような,変更ができるというような形で立法することもあり得るでしょうし,取消しをした上で,改めて住居等制限命令を請求して,それを同時に近い形でやるということで,勾留の後に続いて命令ということもあるのではないかとは思っていますが。 ○井上分科会長 そのほか,この事務当局の作成した資料にある検討課題のうち,「起訴後についても中間的な処分を設けることの要否・当否」という点についても御意見をいただいておいた方が良いと思います。青木委員は当然入れるべきだということなのですけれども,この点について他の方は御意見ありますか。 ○川出幹事 この点については,先ほど出ていましたこの制度と保釈との関係がどうなるかということが問題になるだろうと思います。青木委員の御意見ですと,この制度は,保釈の場合のような担保措置を伴わない形のものになりますので,両方あってもいいということになるのだろうと思います。他方で,担保措置を含めて,保釈と同じような機能を果たすということであれば,あえて,起訴後に,保釈に重ねてこうした制度を入れる必要があるかは疑問があります。 ○青木委員 先ほど申し上げましたように,起訴前にこういうものがあるとすると,それが消えてしまわない限りは,起訴後も続くという意味では,起訴後も必要なのではないか,最低その範囲では必要だというふうには思います。 ○川出幹事 その場合に,起訴後に改めて勾留手続をとって保釈するというのは煩瑣であるということであれば,確かに,そのような場合に限って認めることはありうるかもしれませんね。 ○青木委員 それに限っての趣旨ではないですけれども,仮に保釈と重なる部分があるというふうに言われるとしても,その部分は残るのではないかと思います。もちろん起訴後には,その必要はなくなるということももちろんあるとは思いますが,自動的にすぐに消えてしまうわけでもないと思います。 ○保坂幹事 議論の整理として質問させていただきたいのですが,先ほど,勾留されている起訴前の被疑者について,この住居等制限命令になって,それで例えば命令違反があったときに,また勾留に戻るということを想定すると,起訴前の段階ではそういうふうに行ったり来たりするようなことになると余りよろしくないということで,否定的なニュアンスの御発言があったようにお聞きいたしましたが,なぜよろしくないと思われるのかということと,起訴後についても,勾留されている人が住居等制限命令になって,命令違反により勾留になるというように,同じようなことが起きると思うんですが,起訴前と起訴後とで,身柄が行ったり来たりすることの不具合というのがどう違うから起訴前はそれが余りよろしくなくて,起訴後は別にいいではないかという,そこの違いを教えていただけたらと思いました。 ○青木委員 それほどすごく詰めているわけではないんですけれども,実際上,この住居等制限命令の期間というのは,起訴前に相当長くできる形で考えてしまっているものですから,そうすると,かなり長い期間にわたってそういう状態に置かれることになってしまうので,起訴前についてまでそれが必要かなと,起訴前は勾留した人はもうその勾留のままということもあり得るかなと考えたのです。要するに起訴前保釈的なものは,勾留された人については,もうそこはなしという選択肢もあるのかなという程度のものです。 ○後藤委員 この30日,60日という期間について捜査をされている方の感触を伺いたいです。これは勾留ほどではない緩やかな形だけれども,逃亡とか,証拠隠滅を防ぎながら捜査ができる期間になります。そうすると,捜査機関の側から見ても,これを導入するメリットがあるのではないかという感じがするのですけれども,実感としてはどうでしょうか。 ○島根幹事 今勾留されている事件のうち,どういう事件がこちらの命令に移るのか,その言い方も変なのですけれども,事件の内容によって多分かなり変わると思います。関係者が多数いるような複雑な事件がこちらの方に移ってくるというのは,難しいのではないかという感覚を持っております。今までの原則10日,延長して更に10日という期間が変わることにより果たしてどうなるのかというのは,個々の事件の種類や態様によりますので,一概には申し上げづらい,そのような印象です。 ○井上分科会長 よろしいですか。あともう一つ議論しないといけないことがありますので,まだ御意見はたくさんあろうと思いますけれども,この中間的な処分については,ひとまずここまでとさせていただきたいと思います。   熱心に御議論いただきました中で,このような制度を積極的に取り入れるべきだという青木委員の御意見もありましたが,その一方で,幾つかの問題点が指摘されました。勾留の要件自体が変わってくることが相当なのかどうかという御指摘,あるいは,中間的な処分の内容として,罪証隠滅や逃亡の防止を実効的に確保する制度となり得るのか,青木委員の御提案だと十分とは言えないのではないか,という御意見もありました。また,罪証隠滅や逃亡のおそれが生じたときに,それに迅速に対応できる制度になり得るのかどうかという御指摘もあったと思います。それから,対象犯罪を限定するべきではないかという御意見もありましたし,被疑者の捜査機関への出頭の確保について,これを法的に,あるいは,青木委員は事実上の担保ということを言われましたけれども,担保する仕組みを設けることが仮に可能だとして,どういうふうな仕組みとするべきなのかという御指摘もなされました。それから,起訴後については,保釈と同じような制度が考えられるのかどうかという点に関する御指摘もありました。今後,このような御指摘も踏まえて,検討を進めていくということになろうかと思います。   ただ,今日具体的な検討が始まったばかりですし,また,皆さんの間で前提となる勾留等の運用に対する現状認識もかなり対照的に食い違っているということもありますので,まず,今日出していただいたいろいろな観点,御指摘,御意見を整理した上で,更に詰めた議論を行っていくということとさせていただきたいと思います。   それでは次に,身柄拘束に関する適正な運用を担保するための指針となるべき規定についての検討を行っていただきたいと思います。   この点に関しても,議論すべき事項などを整理するために事務当局の方で配布資料を用意していただきましたので,まず,それについての説明をお願いします。 ○保坂幹事 御説明いたします。同じく資料1を御覧ください。2と書いてあるところでございます。身柄拘束に関する適正な運用を担保するための指針となるべき規定について,部会におきましては,身柄不拘束の原則を明文化すべきであるとか,否認や黙秘をしている,あるいは,供述調書に署名をしないということについて,不利益な取扱いをしないことを法律上明確にすべきであるなどの御意見が示されたところでございますが,他方で,様々な懸念も示され,どのような規定を設けるのか,その具体的な射程や外縁は示されていないものと思われるところです。したがいまして,この分科会におきましては,部会で採否を検討する前提として,新たな規定の具体的内容としてどのようなものが考えられるのかというところから議論をスタートすることになろうかと思われます。その検討に当たりまして,身柄拘束に関するどのような事項を対象とすべきかや,規定の内容をどうすべきかといった点について,議論することになろうかと思われます。そして,新たな規定の法律上の効果ですとか,現行法の解釈や運用に与える影響,そして,関連する刑事手続に関する諸原則との関係をどのように考えるかといった点が主な検討課題になろうかと思われます。配布資料には,「(1)考えられる規定」,あるいは「(2)検討課題」ということで,今,申し上げた点を挙げております。   御説明は以上でございます。 ○井上分科会長 この点に関しましても,青木委員の方から御意見の具体的内容を記載した書面が提出されておりますので,出発点としてまず,青木委員に御発言,御説明をお願いしたいと思います。 ○青木委員 「身体拘束の適正な運用を担保するための指針について」ということで,2点出してあります。1点目は,「否認等の不利益取扱いの禁止」ということで,これは前提の認識として,否認をしているということ,あるいは326条の同意をしないことなどが実際に不利益に判断されて,特に無実の人は否認をせざるを得ないわけですけれども,そのことによって,不利益を被っている,防御権の行使も困難になっているという実態が残念ながらあるという認識の下に,こういうような規定があった方がいいのではないかということで考えてみたものです。   中身は書いてあるとおりで,不利益に考慮してはならないという意味合いが多分一番問題になるんだろうと思いますけれども,否認しているということ,そういう事実を,それだけで不利益に判断するということは恐らく,そんなことはあり得ませんよということなんだろうと思うんですね。けれども,否認しているということがもしなければ,例えば,勾留は,要するに否認しているということ,いろいろなほかの事実があって,それにプラス否認しているということがあって,例えば,罪証隠滅のおそれがあるとかというふうに判断されている場合というのは実際にあると思います。   それで,否認しているということを,ちょっと言い方を変えると,罪証隠滅のおそれの判断の証拠として使ってはいけませんよと,その間接事実の一つとして,証拠としては使ってはいけませんよということを,その否認ということを抜きにしても,そういう罪証隠滅なり,何なりということが認定できるということでなければ,不利益に判断してはいけませんよと考えてもらう方がいいのではないかということで,このようなものを設けたいということです。   実際上,供述態度として客観的な事実に矛盾していることを言っているとか,非常に供述が変遷していて,しかも,その変遷の理由についても非常に不合理であるとか,そういうことも全く考慮してはいけないということではなくて,否認している人がそれに当てはまる場合ももちろんあるわけで,そういう供述態度そのものはもちろん考慮していいわけです。けれども,その否認しているということ,そのことは証拠としてはいけないということです。また,自白している場合と否認している場合に,では全く違いはないのかというと,自白しているということは,プラス材料として当然考えられるんでしょうから,その裏返しとして,自白している人と比べて否認している人の方が不利益になる場合ももちろんあるとは思います。そういう意味で,否認しているということが,およそどんな場合にも何らの影響もしないという趣旨ではありません。   次に,「身体不拘束捜査の原則」というのは,これも原則として任意捜査なのですよというのは,現在の法律上,はっきりしていることでしょうということだと思いますけれども,では実際に,本当に身体拘束が必要な場合にだけ,その期間,必要な期間だけ拘束されているのかというと,拘束されている側からすれば,1日でも早く釈放してもらいたいわけですけれども,必要がなくなったときに,では,すぐに,直ちに釈放できるかというと,そうなっていないし,本当に身体拘束が必要な場合だけ厳密な形で身体拘束がなされているかというと,そうではないということです。努めなければならないものとするという書き方にしているのは,直ちにというのがなかなか実際にはできないけれども,そういう意識を持ってやっていただきたいということです。例えば,検察官は,当然,必要がなくなったら釈放するんですよと言われるかもしれませんけれども,その必要がなくなっていないかどうかということについて,時々刻々状況が変化しているところで,必ずしもその必要性をいちいちチェックはされていないと思うんですね。一定の期間,勾留になれば,そのまま勾留ではなく,もちろん途中で釈放される場合もあるとは思いますけれども,その必要性について,厳密にその都度,評価し直して,釈放することに努めていただきたいという趣旨も含めて,このような規定で考えてみたものです。   それで,条文に入れるという趣旨でこれは書いたものですけれども,条文上の位置としては,最初の「否認等の不利益取扱いの禁止」に関しては,勾留の規定の前,もし先ほどの住居等制限命令が入るとすると,その前にそれが来るのかもしれないんですが,その前辺りということを考えています。   それから,「身体不拘束捜査の原則」に関しては,196条の訓示規定のところに入れるというようなことを考えております。 ○井上分科会長 先ほどの事務当局からの説明があった議論すべき事項について,ただいまの青木委員の御発言をも踏まえつつ,御意見をいただければと思います。 ○髙橋幹事 身柄拘束に関する判断の際に,被疑者・被告人が否認している場合に,それがゆえにそのまま不利益な判断につながっているわけではないというのは前から御説明しているとおりであります。罪証隠滅の客観的な可能性とか,そういう罪証隠滅をして実効性があるかというのを見た上で,では主観的に罪証隠滅する意図があるかどうかというときに,否認というよりは,被疑者や被告人の供述態度とか,供述内容を見て,そういう主観的な危険性があるのかどうか判断しているわけです。そうすると,これまで一貫して事実を認めて,捜査機関にいろいろお話ししている人と,そうではなく,供述を変遷させていたり,不合理なことを言っているような人とを比較すると,やはり主観的な意図というのはおのずと差が出てくるわけなので,それによって結論が違ってくることがあり得ます。このこと自体を否定されるわけではないんですよね。 ○青木委員 もちろんそれを否定する趣旨ではありません。だから,そういう形で実際に具体的な供述態度だとか,そういうようなことで判断されることはもちろんあるという形でやられているんでしょう。ただ,実際上,その否認しているということが相当重く見られているというようなことに関しては,村木委員が部会で発言されていたように,なかなか保釈が認められなかったという理由の一つとして,全面的に否認をしておりとかというのが入っていたというようなことがあって,全面的に否認をしているということが,やはりかなり重きを持って見られてしまって,もし否認をしているということではないのであれば,そのほかの材料ではなかなか罪証隠滅とか何とかということを言い切れないような場合であっても,否認しているという材料が加わることによって,不利益に判断されてしまっている場合があるのではないかと,全てがそうだとは言いませんけれども,そういうことは避けてほしいということです。 ○髙橋幹事 ほかの条件が全部一緒で,ではこちらはこういう供述態度・供述内容,あちらはああいう供述態度・供述内容ということで,結論に差が生じ得ることというのは,あるのではないですか。 ○青木委員 それは先ほど申し上げましたように,要するに自白している,認めている,協力しているということがプラス材料になって,否認しているということがマイナスというか,プラスにはならないという意味で差が付くということはあり得るでしょうね。だから,例えば,罪証隠滅のいろいろな兆表はあるけれども,そういう危険性も一般的にはあるけれども,自白をしていることによって,その人は別に勾留の必要はないというふうにされる。一方の人は,同じような状況だけれども,自白をしていないから,否認しているかどうかは別として,そのほかの材料でやはり罪証隠滅のおそれがあるという具体的な事情があるとした場合には,同じ状況だけれども,自白した人は勾留されず,否認している人は勾留されるという場面はもちろんあるだろうと思います。 ○髙橋幹事 自白,否認という切り分け方をされるので,違和感があるんですけれども。 ○青木委員 自白,否認という,そんな単純な区別ではないというのも確かだと思いますが。 ○後藤委員 今,青木委員はやや妥協的な説明をされているような気もします。原理的に突き詰めていくと,基本には,未決拘禁が自白させるための手段になってはいけないという考え方があって,だとすれば,罪を認めていないからといって,不利益な扱いをすることは,原理的にいけないという考え方があり得ます。イタリア刑訴の罪証隠滅についての条文は,そういう考え方を表現しているように見えます。黙秘や否認を罪証隠滅の危険の根拠としておよそ考慮してはいけないと読めるような書き方になっていますね。このように徹底すれば,自白していれば多分逃げたり隠れたりしないだろう,罪を認めているなら証拠隠滅はしないだろうという推認はできるけれども,それらの逆の推認はできないという議論になるのだと思います。そういう条文を作るとすれば,先ほど青木委員がおっしゃったように,勾留などの条文の前ではなくて,その中に置くべきものではないでしょうか。つまり,条文が定める勾留の要件をどうやって認定するかという問題ですから。したがって,条文としては,この各号の要件を被疑者が黙秘あるいは否認していることから推認してはならないといった書き方になるのではないでしょうか。そこを,およそいけないと書くのか,もう少し緩めて,それのみから直ちに勾留要件があると認定してはいけないという書き方にするか,選択肢があるのだと思いますが。 ○青木委員 残念ながら,それのみから判断している裁判官が全くいないかどうかはちょっと分かりませんけれども,さすがにそれのみから,否認のみからというのは。 ○後藤委員 それでは当たり前だから,意味がないですか。 ○青木委員 それだけではない,何と言ったらいいでしょうかね。それは余りに当然過ぎるのではないかというような気がします。 ○井上分科会長 前提事実として,それを証明することはできないということなのではないでしょうか。また,イタリア刑訴については,その規定だけをつまみ食い的に援用するのはどうかなと思いますので,それが設けられた背景や趣旨はどういうものなのかを,もう少し立ち入って調べてみる必要があるだろうと思います。   ちょっと難しいのは,2番目の「身体不拘束捜査の原則」です。青木委員の資料には,捜査機関しか主体として書いていないのですけれども,恐らく青木委員の学ばれた刑事訴訟法理論では,逮捕も裁判官の命令であるという位置付けになっていたではないでしょうか。もっとも,逮捕についてはまだ,199条が捜査機関を主体として書いているので,説明も可能かもしれませんけれども,勾留となると,明らかに裁判官の処分ですよね。そうすると,ここは裁判官も避けるべきだというふうに書かないと平仄が合わないような気がするのですけれども。先ほどは,196条の訓示規定のところに入れることを考えていると言われたのですが。 ○青木委員 ただ,実際上,裁判官が直に何かをやるということはなくて,必ず請求されてやっているわけですよね。命令を出すのはもちろん裁判官ですけれども。 ○井上分科会長 でも立法ということになると,実際上どうであるかということではなく,やはり仕組みとして整合的なものにしなければ駄目だと思うのですよ。 ○青木委員 確かに日本語としてもどうかなと自分で思っているところもあって,ただ,とにかく任意捜査の原則とかいうような形の,任意でやるということも,例えば,犯罪捜査規範の中にも書いてありますし,そこはそうなのでしょうけれども,それについて何らかの形ではっきり書き込む,もっと分かりやすい形で書き込んでおきたいなということなので,むしろそういうものであれば,こういう書き方をすればきちんと法律にはまるよというものをもうちょっと考えてみたいと思います。 ○川出幹事 「身体不拘束捜査の原則」の内容について伺いたいのですが,資料では,「できる限り,被疑者の身体拘束を避け」となっています。先ほどの御説明では,必要もないのに身柄を拘束しているという御指摘をなさっていましたので,そこから考えると,これは,要するに,捜査機関は身柄拘束の要件が備わっているかどうかを常に考えなさいということを意味しているということになると思いますが,それでよろしいでしょうか。あるいは,「できる限り」というのは,それ以上に,身体拘束の要件が備わっている場合でも,身柄拘束を避けるべく努力しなさいという意味なのでしょうか。 ○青木委員 確かに法律の条文として考えると,今のような御質問が出てしまうのかもしれないんですけれども,やはり身体拘束というのは,本当に最後の最後の手段であって,そうではないものを,本来は身体拘束はしないということで。 ○川出幹事 例えば,逃亡や罪証隠滅のおそれがあるという場合でも,直ちに身体拘束をしないで,何らかの別の手段を使って捜査をするように努力しなさいということまで要求するものなのでしょうか。 ○青木委員 いや,はっきりした形で罪証隠滅のおそれがあって,逃亡のおそれがあって,勾留の要件があるときまでそうしろという趣旨ではもちろんないです。 ○島根幹事 「身体不拘束捜査の原則」についてですけれども,基本的には,身柄の拘束という重大な権利侵害を講ずる際は当然,いわゆる令状主義ということで,裁判官の審査を仰いでおります。また,そもそも原則と例外が逆転した運用という前提自体に,にわかには納得し難いというところがございます。以前の部会でも申し上げたとおり,刑法犯被疑者の強制・任意の別を見ますと,7割以上は任意です。罪種で見ても,殺人等であれば,95%ぐらいは強制になっていますが,粗暴犯,窃盗犯,窃盗犯の中でも常習性がかなり高いような侵入盗や非侵入盗など,様々な態様のものがあり,これらはあえて数字を申し上げませんが,現場としては,身柄拘束という非常に重大な処分をする際には,当然ながら十分な判断をして,その必要性があると認められた場合に令状請求をし,それが裁判官の御判断で認められております。そこにあえて,先ほどのような規範を設けることの意味についてやや疑問に思いますけれども,そもそもの前提として,今の運用が非常におかしいという前提で,こういうことを御提案されることには,私どもとしてはいかがなものかと考えているところでございます。 ○後藤委員 私自身は,ここで言われていることは当然のことなので,そういう条文を作っても支障はないと思います。けれども,実効性という点から考える,抽象的な規定よりも,身体拘束の要件を個々の具体的な条文がどのように決めているかの方が,重要だと思います。その方が,実際の運用に直接に影響するので。先ほどの勾留の要件をどうするかという議論は,そこに関わっています。勾留の期間についても,現在,起訴前勾留の期間が一応10日,それから延長で20日となっています。けれども,例えば川出理論は,それは起訴か不起訴を決定するための期間なので,それが決められたら,すぐに釈放するか,起訴するかしなければいけないという考え方ですね。それは正しいと思うけれども,条文の上では必ずしも明示的ではありません。例えばそこをもっと明確に書くというようなことの方が,抽象的な規定よりも実効性があるのではないかという気がします。 ○井上分科会長 ほかに御意見はございますか。 ○岩尾幹事 最初の方の「否認等の不利益取扱いの禁止」でございますが,説明を聞いても,どういう規定の書きぶりで,どういう効果が発生するのかというのが,やはりちょっと分かりにくいなと思います。端的に言うと,被疑者や被告人の供述態度を罪証隠滅の主観的可能性を推認する事情として考慮していいのかどうなのかというところが,やはりよく分からないなという気がするんです。仮に,罪証隠滅の主観的可能性を認定するための事情として,供述態度を排斥すると,裁判官の適切な判断ができなくなると思いますので,そこの部分の裁判官の自由心証主義というのは,やはり維持されるべきではないかなということで,もう少し検討する余地があるのではないかなと思います。 ○青木委員 ある意味でその自由心証の一部について,否認しているという,否認とか自白とかという単純なことではないというのは分かった上で言うんですけれども,認めていないということを証拠から排除するといいますか,罪証隠滅を判断するための証拠から排除するというような,ある意味で自由心証の制限的なものも,政策的にあってもいいのではないかと思います。もちろん,先ほど言ったように,そうだとしても供述態度を一切判断の材料にしてはいけませんよということではないので,具体的な供述態度の中で,結果として,否認している人が不利益に判断されることはあるんでしょうけれども,その認めていないということを証拠排除するというような感覚なのですが,うまく通じないですかね。   例えば,同種前科があるから,この人がやったんだろうというふうに判断してはいけませんよという,ちょっと違うかもしれないんですけれども,そういうようなところで,とにかく,認めていないからといって,それイコール全て罪証隠滅とかというふうに判断されているとは思いませんけれども,認めていないということは,一応別にして,それ以外のところできちんと判断してくださいということです。 ○井上分科会長 まだ御意見が多々あるかと思うのですけれども,そろそろ予定された時刻となりましたので,この2番目の,身柄拘束に関する適正な運用を担保するための指針となるべき規定については,この段階ではひとまずここまでとさせていただきたいと思います。   この事項につきましても,前提となる認識にかなり対照的な食い違いがあることから,こういう規定を設けることの要否あるいは当否についても意見が分かれたと思います。また,仮にこういうものを設けるとしても,特に1番目の「否認等の不利益取扱いの禁止」の中身というか,要件の書き方については,御議論があったところですが,まだまだ課題とすべき点が幾つかあるなというのがお伺いした印象です。   いずれにしろ,今日御議論いただきましたので,それを整理した上で,刑事手続に関する現行法や諸原則と整合する形でどういう規定が考えられるのかについて,更に議論を行っていきたいと思います。   そういうことで,本日の議論につきましては,部会への報告を念頭に置いて,事務当局作成の配布資料に加筆,あるいは改訂をするということで整理をさせていただきたいと思います。その上で,本日検討した「被疑者・被告人の身柄拘束の在り方」を,第4回会議で更にどういうふうに議論するのかということについては,今後の議論の状況を勘案して,検討させていただければと思います。   次回は,先ほど冒頭で配布していただいた予定表のとおり,「取調べの録音・録画制度」に関する議論を行いたいと思います。具体的な議事次第については,更に検討させていただき,事務当局を通じて御連絡をするということにさせていただきたいと思います。   これで予定した議事を終了したいと思いますが,本日の会議のうち,一番最初の通信傍受の合理化・効率化に関するヒアリングの内容につきましては,もう一度精査させていただいて,公表に適さない内容がありましたら,公表して差し支えない形で議事録を作成するということで御了承いただきたいと思いますが,その際は,あらかじめ御確認いただきたいと考えております。それ以外の部分につきましては,特に公表に適さない内容はなかったと思われますので,発言者名を明示した形で議事録を公表するということとさせていただきます。   そのほか,当分科会に出席されていない委員・幹事の方々に,分科会での議論の内容をなるべく速やかにお知らせするということが必要だと思いますので,事務当局において,正式の議事録ができるまでの間の暫定的なものとして,概要をまとめて委員・幹事に送付していただくということにしたいと思います。   次回の日程は,既に御案内のとおり,4月25日の午前10時から午後零時30分を予定しております。場所については事務当局から追って御連絡させていただきたいと思います。   それでは,これで閉会したいと思います。どうもありがとうございました。 -了-