法制審議会           新時代の刑事司法制度特別部会           第2作業分科会(第2回) 第1 日 時  平成25年4月18日(木)   自 午前 9時59分                         至 午後 0時28分 第2 場 所  東京地方検察庁総務部会議室 第3 議 題  時代に即した新たな刑事司法制度の在り方について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○保坂幹事 ただいまから法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会第2作業分科会の第2回会議を開催いたします。 ○川端分科会長 本日は,御多用中のところ御参集いただき,誠にありがとうございます。   本日の議事は,お手元の議事次第のとおり,配布資料の説明の後,まずは,前回に引き続き,「公判廷に顕出される証拠が真正なものであることを担保するための方策等」についての議論を行い,その次に「証拠開示制度」についての議論を行っていきたいと思います。   なお,本日の議論については,あらかじめお申出がありましたので,当作業分科会の本来の構成員である神幹事に代わって小野委員に,それから,露木幹事に代わって島根幹事に,それぞれ御参加いただくことといたしました。   それでは,本日の配布資料について,事務当局から説明をお願いいたします。 ○保坂幹事 資料について御説明をいたします。   新たに配布させていただいたのは資料3でございまして,再配布資料といたしまして資料2でございます。資料2は「公判廷に顕出される証拠が真正なものであることを担保するための方策等」について,前回の会議でお配りしたものの再配布でございます。本日新たにお配りした資料3は,「証拠開示制度」について,事務当局において考えられる検討課題を整理したもので,その内容については,後ほど御議論の際に御説明をさせていただきます。また,参考資料として,各検討事項に関する参照条文などを整理した資料をお配りいたしております。さらに,証拠開示制度に関しまして,小野委員から資料が提出されておりますので,これもお配りいたしております。   資料の説明は以上でございます。 ○川端分科会長 それでは,早速,本日の一つ目の検討事項である「公判廷に顕出される証拠が真正なものであることを担保するための方策等」についての議論に入ります。この検討課題については,本日配布しております資料2の3ページ以降にあります「第3 被告人の虚偽供述に対する制裁」についての検討が積み残しとなっておりますので,前回の会議でなされた事務当局による配布資料の説明をも踏まえ検討を進めていきたいと思います。   配布資料2は,検討課題として(1)から(6)までが記載されておりますが,このうち,「(1) 被告人が証人となるための手続」,「(2) 包括的黙秘権及び証言拒絶権の取扱い」及び「(3) 証人尋問に関する規定の適用範囲」は,言わば制度の大枠に関する検討事項であると考えられますので,まずこれら三つの検討課題を検討していきたいと思います。   なお,前回,事務当局から説明がありましたように,これらの検討課題は被告人に証人適格を認める案を前提に記載されたものですが,別案,すなわち被告人質問における虚偽供述を対象とする罰則を新設する案につきましても,併せて御意見を頂ければと思っております。   また,検討課題の(6)の制度の採否に関連する事項についても,御発言いただいて結構ですけれども,できる限り,部会での採否の検討の前提となる具体的な制度の在り方についての御意見につきましても,併せて御発言いただきますようお願いいたします。   それでは,まず検討課題(1)から(3)までについて,いずれの点についてでも結構ですので,御質問,御意見のある方は御発言をお願いいたします。 ○酒巻委員 私は,部会でも述べましたとおり,基本的にはこの原案の枠組みである被告人の証人適格を認める法改正が適切であると思います。現在の被告人質問の制度は,黙秘権はもちろん前提ですけれども,完全に黙っているだけではなくて,被告人がしゃべりたいときはしゃべる,しかし質問に対してはいつでも供述を拒絶できる。そういう形はもうやめて,アメリカ,イギリスの法制のように証人として供述し反対尋問を受け,公判廷で真実を供述してもらう形とするのが望ましい。この部会の目的である,捜査段階ではなく,公判廷においてこそ真実を供述していただくという趣旨に最もかなった供述提供のシステムは証人尋問の制度と考えますので,被告人にも,現行法の一部を変更することによって,一般人と同じように証人適格を認める,そのような制度設計をするのが適当であろうと思います。   そうしますと,現行法において被告人に保障されている包括的黙秘権,あるいは,個別的供述拒否権という法311条の規定が問題になるわけですけれども,これをそのまま残しますと,非常に複雑で分かりにくい制度になります。この紙で言いますとB案,つまり被告人が証人となる場合には,包括的な黙秘権を放棄したと考える。そして,憲法38条との関係については,自己に不利益な供述を強要されないという点に対応した証言拒絶権を認める,つまり普通の証人と同じようにするのが適当だろうと思います。   そうするとどういうことになるかというと,包括的黙秘権を放棄して証人になった以上は,証言した事項について検察官の反対尋問にも応じなければならない。反対尋問という法技術は,供述内容の真実性,信用性についてチェックする,公判廷で真実を供述していただくための,最も的確な制度ですから,被告人も自ら供述証拠を提供する以上は,証人と同じように扱うのが適当だと考えます。 ○川端分科会長 ただいま,酒巻委員から御意見が出されたわけですが,ほかにいかがでしょうか。 ○小野委員 もしこのような制度を導入するとすれば,基本的には被告人を証人として,黙秘権はその場合には放棄したということで,今,酒巻委員が言われたとおりだろうと思います。証言拒絶権は当然あるのでしょうけれども,黙秘権を放棄したものとして証人として扱うと。本来は,今の被告人質問という仕組みそのものがやや中途半端な仕組みなのだろうと思いますので,このような制度を導入するとすれば,弁護人が請求した場合には被告人を証人とすると。したがって,黙秘権の放棄という考え方でいうと,検察官の請求とか職権は認められないだろうと。ただ,本人が「放棄します。証人で証言します」というのであれば,それは証人として取り扱うということで,そういう意味では,被告人が一方当事者としての立場が鮮明になって,自ら証言を選んだ場合には証人として話してもらうと。そういうことになるのだろうと,仕組みとしてはそれ以外はちょっと考えられないのではないかと思います。 ○川端分科会長 ほかに御意見がございますでしょうか。 ○保坂幹事 今,検討課題として挙げさせていただいている(1),(2)について御意見を頂いたところでございますが,(3)につきまして,つまり証人に関する規定がいろいろとあるわけでございますけれども,真実の証言を確保するという観点のもの,宣誓に関する規定は被告人にも適用する,その他,被告人自身による尋問権というのは,同じ立場のものになりますので,これは認めない,そして,被害者・証人保護の規定であります付添い・遮へい・ビデオリンクなどの規定は適用しないと書いていますが,この点についても御意見を頂ければと思います。 ○酒巻委員 (3)の○の一つ目については,被告人に証人適格を認めて,本人の意思による包括的黙秘権の放棄を認めるというのであれば,ほかの証人と同じように,宣誓をして虚偽の証言をすれば偽証罪の制裁があると,この部分は当然適用されることになる。   ○の二つ目については,被告人が証人とならない場合を想定した条文でありますから,これについては論理必然的にこのような規定については適用がなくなるということでよろしいのではないでしょうか。   それから,先ほど言い忘れましたけれども,私も小野委員と同じで,(1)については無理やり証人にするなどということは考え難いので,当然,被告人側から請求があった場合ということになると思います。   ついでに申し上げますと,そういう制度にしますと,裁判員裁判でもそうでなくても,被告人自身が証人になるかならないかということが公判廷において事実認定者の目の前ではっきりするわけです。しかし,そのこと自体を被告人の不利益に推認するということは適切とは思われないので,その点については,条文に書くかどうかは別として,十分慎重に配慮する必要があるというのは当然のことであろうと思います。 ○川端分科会長 ほかにいかがでしょうか。 ○小野委員 今の酒巻委員の意見に私も同意見です。(3)のところは,私も同じ考え方ですけれども,最後おっしゃった点については,採否との絡みもあると思うのですけれども,結局,証人として証言することを選ぶか選ばないかということは,事実上何らかの選択をしたわけですから,その選択をしているか,していないかということに関しての判断者の受け止め方というのは事実上あるだろうと思うのです。もしこのような制度を採るのだとすれば,より一層その点についての,どういう規定になるのか分かりませんけれども,そういう選択をしたことによって何らかの心証を基に判断をしてはいけないということは必要なのではないかと思います。 ○川端分科会長 やはり明文の規定が必要だという御意見なのでしょうか。 ○小野委員 そうですね,明文の規定があった方が良いのではないかと。だから,そこのところは正に採否の問題とも関わってくる事柄ではあるのですけれども,もしこういうことをやるのであれば何らかの規定があるべきではないかなと思います。 ○川端分科会長 酒巻委員も明文化すること自体はお認めになるのでしょうか。 ○酒巻委員 被告人が証人とならないことそれ自体によって不利益な推認がなされてはならないことは,私は当然のことだろうと思いますけれども,明文化するかどうかは,私はどちらでもいいと思います。 ○川端分科会長 分かりました。   ほかに意見がございませんようでしたら,原案どおりということで進めさせていただきますが,よろしいでしょうか。   それでは,次に検討課題の「(4) 現行の被告人質問の存廃」,「(5) 冒頭手続における陳述や最終陳述の取扱い」及び「(6) その他」につきまして,御質問,御意見のある方は御発言をお願いいたします。 ○酒巻委員 先ほど(4)については触れましたけれども,もう一度申し上げますと,現行の日本の被告人質問制度の特徴は随時供述を拒むことができるという部分です。これを併存させますと,例えば,裁判員裁判を想定しますと,非常に分かりにくいことになります。被告人はしゃべっているのですけれども,一体証人としてしゃべっているのか,自分の主張を言っているのか。そして,検察官から尋ねられると黙ってしまうという状態が今のように続きますと,何のために証人適格を認めるのか分からなくなりますので,現在の311条の被告人質問制度は廃止するのが適切であろうと思います。   アングロサクソンの被告人についても,証人適格は昔からあったわけではなくて,19世紀の終わりぐらいにイギリスでできたのですけれども,そのときは無宣誓供述もできる,証人にもなれるという中途半端な状態があって混乱し,陪審員に分かりにくいということがあった。また,これは日本の現状と同じですけれども,無宣誓供述で自己に利益な言いたいことを言って,質問を受けると黙ってしまう,反対尋問には応じないということはよろしくないという批判もあって,20世紀になってから無宣誓供述は廃止し,証人尋問一本でやるということになった。そういう実例もありますので,現在の被告人質問はやめた方がよろしかろうと思います。   それから,(5)ですけれども,現在の最高裁判例によると,冒頭手続における認否においてしゃべった内容も法廷における被告人の供述ということで,証拠になるのですけれども,私はこの最高裁判例自体が妥当でないと思っております。現状は当事者である被告人の地位とその発言に関して,当事者としての主張・意見の陳述と供述証拠の提供が明瞭に整理されていないために,冒頭手続のそういう発言も証拠になるような判例になっておりますが,証人適格を認めて,証拠として自らの供述を公判廷に提出する場合には証人として供述する,これ一本でいく場合には,問題をはっきりさせ,公判審理の争点を整理・明確化するために行われる冒頭手続の認否とか,あるいは,最終段階の被告人による陳述は証拠ではないということを,理論的にもそうだと思いますけれども,明文上もはっきりさせるのが望ましいと思います。   現行法においても,例えば被害者の心情・意見の陳述は犯罪事実認定の証拠には使えない,あるいは,被害者参加人の論告に当たる意見陳述も,これは意見陳述なのであって証拠にはならないということが明文の規定で明記されています。そういう形で主張と証拠を明確に切り分けて,証拠として供述を提出するのであれば,証人として尋問を受け供述をする。冒頭手続の認否や最終陳述は,現在もそうであるべきだと思いますけれども,はっきりとこれは単なる主張であり,証拠ではないということを明文化するのが適当だと思います。 ○川端分科会長 ほかに御意見がございますでしょうか。 ○小野委員 (1),(2),(3)で,先ほどのような意見ということになると,おのずと(4)も(5)も答えは決まっているのではないかと思います。今,酒巻委員がおっしゃったように,被告人質問は廃止するのでしょうし,被告人の陳述などについては主張であって証拠とはならないと,おのずとそういう仕組みになっていくのだろうと思います。 ○上冨幹事 私も,(4)の被告人質問については廃止するということでしょうし,(5)についてはおっしゃるとおり証拠とはならないということなのだろうと思います。   先ほどの証人尋問を選択するかどうかの事実上の影響の問題についての明文規定の問題について,ちょっと時期が遅れて申し訳ないのですけれども,証人尋問を選択しなかったことを不利益に扱ってはいけないというのは考え方として当然のことだと思いますし,それはそのとおりだと思うのですが,例えば証人尋問のときに,偽証の制裁の下で証言していることを,信用性を高める事情の一つとして考慮するということはこれまでもないわけではないような気がするのです。そういったものとの裏腹の関係について明文で規定することの意味というか,その点は,基本的な不利益に扱ってはいけないという考え方はそのとおりだと思った上で,明文にするとなると考えるべき点はもしかするとあるのかなという感じがしていて,若干そこを付け加えさせていただきたいと思います。 ○川端分科会長 今の点について小野委員,何か御意見はございませんでしょうか。明文化した場合の話ですけれども。 ○小野委員 そこのところはもうちょっと詰める必要があるかなと思いますので,今おっしゃった点についてはもうちょっと考えてみたいと思います。 ○川端分科会長 では,この点はまた考慮するということで検討事項とさせていただきたいと思います。   ほかにいかがでしょうか。今,(4)と(5)についてのお話が出ているわけですが,(6)についても意見がございましたら,お願いいたします。 ○小野委員 この(6)はなかなか悩ましいところでありまして,弁護士の間でも意見は分かれています。この際,被告人が当事者であるということを明確にした上で,証人尋問なら証人尋問ということで切り分けてやることの方がむしろいいという意見はそれなりにあります。他方で,偽証の制裁ということの下で話すということになった場合に,公訴事実についての判断プラス偽証の制裁があり得るということにもなるので,果たして本当にそれがいいのかと。そして,今,出ましたような被告人が証人を選択した場合と,選択しない,つまりその場合には被告人は主張だけはするかもしれないけれども,証拠を提供しないということになるわけですね。その辺りが弁護側としての判断,選択,非常に厳しい選択を迫られるケースもあるだろうと考えますので,そこは意見が分かれておりまして,その辺りはなかなか悩ましいなということです。   この中の(6)の四つ目の○については,偽造・変造証拠の公判での使用ということは,弁護人の弁護活動と密接に関係してくることになるだろうと。どうしてもそういうケースになってくるということになりますと,このような行為を処罰するという規定があったときに,弁護活動が制約されるのか,事実上はかなり問題が出てくるのではないかと考えまして,ここは非常に難しいのではないか。それ以上に,制度全体について,私は個人的には踏み切ってしまってもいいかなと思ったりもするのですが,かなり反対をしている人もいますので,何とも言えないというところではあります。 ○酒巻委員 小野委員の今の(6)の最後の○「被告人が偽造・変造証拠を公判で使用する行為を処罰」,現在は処罰されていないわけですけれども,これは刑法にも関わるので川端分科会長の御意見を聞きたいのですけれども,供述証拠を提供する方法として,証人尋問に応じて虚偽の供述をすれば偽証罪になるわけですね。それとパラレルに,非常に単純に考えると,それが処罰されるのだったら,別の証拠方法によって意図的に虚偽のものを提出すれば,やはり処罰されないとつじつまが合わないだろうという素朴な枠組みが考えられるので,私自身は,あとは刑法理論上の問題があるかもしれませんけれども,同じように処罰の対象にするのは一つの筋ではないかと思うのですね。   小野委員に質問があるのですが,弁護活動への影響ということをおっしゃったのですけれども,それは一体どういうことをおっしゃっているのかよく分からないのです。当然,弁護士倫理として,被告人が偽造証拠を提出しようなどということを知りながら手伝ったら,それはとんでもないことなのであって,現在でもこれは処罰可能であり不当なことは明らかですけれども,こういう処罰規定があったときに,弁護活動への影響というのは具体的にはどういうことを心配されているのかがよく分からなかったのです。 ○小野委員 結局,最終的な判断者は裁判所ですから,裁判所がある事件について,具体的には被告人の証言の内容は虚偽であると。かつ,そこで出てきた証拠は何らかの形で偽造なり変造なりされていると。ただ,その証拠,つまり証人として証言するということと,証拠が作られる,あるいは変えられる,あるいは何らかの形で出されてくるということとは,おのずと違う活動なのだろうと思うのですね。その場合に,最終的な判断としてこれはうそだということももちろんあり得るわけですし,それを承知で弁護人が加担するということは許されないのは当たり前の話なので。ただ,ここは承知であったのかなかったのかということについても,最終的には裁判所が判断することにはなりますけれども,あらかじめそういう枠組みが設定されているところで何らかの証拠を入手しましたと,その入手した証拠が実は問題があったことを知っていておかしくないという形で弁護人の行為が問題とされ得るということになってくる。   具体的なところまで今ちょっと申し上げられませんけれども,そういうふうに広がっていくことはあり得るだろうと。それは飽くまでも判断される側で,弁護側としては判断されてしまったらそれっきりみたいなところがあるわけですから。そこのところに危惧があるというか,懸念があると言いますか,そういうふうに考えているので。理屈の上ではそのようなものをしてはいけないのは当たり前で,筋としてはそうなのだろうと思います。そうなのだろうと思いますが,そういう筋があることによって,言わば規制的な効果と言いますかね,そういう効果が生ずることがあるのではないだろうかと。その辺をちょっと危惧しているということです。 ○酒巻委員 そういう問題は,現在,偽証罪がきちんとあって,証人が偽証するおそれがある場合と基本的には変わらないような気もするのですけどね。 ○小野委員 基本的には変わらないかもしれませんけれども,実務の感覚として,証拠の扱いというのと,本人が何をしゃべるのか。もちろん本人がしゃべっていることについて,これは違うぞということが分かっていながら,そのまま質問をしてそれを証拠としていくということ自体も,行為としては同じようなことなのかもしれませんが,証拠の収集その他というのを被告人がやることももちろんありますけれども,弁護人がやることもあるわけですね。そこのところは感覚として相当違う,弁護活動の中身としては違ってくるので,そこらが規制効果が生ずるのではないかという気がするのですね。   余り理論的ではなくて申し訳ないのですけれども。 ○川端分科会長 先ほどの実体法の問題ですけれども,これは当罰性があるかどうかということで問題になってくるわけですね。今回の司法制度改革の中で,重要な新たな司法制度を作るということで,これにマイナスになる行為である以上は処罰すべきだという意見は十分あり得ることでございます。その場合に本当に処罰すべきかどうか,今までの制度の枠組みとの関係をどうするかと,というような議論が出てくるかと思いますが,理論的にはそこがポイントになると思います。 ○上冨幹事 偽変造証拠の使用等の関係で更に派生する話かもしれないのですが,例えば被告人自身の供述書あるいは供述調書といったものが問題となり得る場面もあるのかなと思っております。証人として法廷で証言すれば偽証になるというときに,生の証言ではなくて,紙に書いた供述の場合はどうなるのかということがあり得る話で,それ以外の一般的な証拠の偽変造の問題と同じなのか違うのかという問題もあるかもしれませんが,考えるべき論点としてあり得るのかなと思います。 ○川端分科会長 先ほど小野委員から審判者と審判される側という観点からのお話がございましたが,もし差し支えがございませんようでしたら,高橋幹事,今のやり取りとの関連で御発言いただけますでしょうか。 ○高橋幹事 現行の量刑実務との関係について,弁護士会内の議論で特にこういうところを危惧しているとかいうようなところがあればお聞きしたいのですが。 ○小野委員 これは,現在の仕組みの中でも,例えば本人が反省をしているとか何とかということが量刑の中でも考慮されているというのが実情ですよね。それはそれで一つの考慮要素にもなっているだろうと思います。それが証人尋問という仕組みを作ったときに,証言でいろいろしゃべることが評価されるのは,証拠であるわけですから,そうなのでしょうけれども,証言しないと言ったときに,結果的にどうなのでしょう,例えば陳述,主張の中で何かを言うことになるのか。   ほとんどの事件は,基本的には事実を争わないことの方が圧倒的に多いわけですから,その場合には専ら量刑が問題になるわけですね。量刑が問題になる場合には弁護人としては証人尋問をやればいいだけのことかもしれませんけれども,それができないというか,しにくいというか,悩ましいケースが具体的にあるわけですね。そのときに仮に証人尋問しないと,ただ冒頭あるいは最後に本人が何かしゃべるというやり方もあり得ると思うのですけれども,そういうものが量刑にどういうふうに影響するのかということについてはよく分からない。   ただ,現実に今現在評価されているということで言えば,結果的にはそれほど変わらないのかもしれないと。そこらはイメージとして私まだしっかりとつかめていないところがあって,こういう仕組みができた場合に弁護側としてどうするのかということについて,まだ十分にイメージができないというか,こなれていないところがあるので,今言ったような漠然とした物言いしかできないです。申し訳ない。 ○酒巻委員 被告人は証人として供述証拠を提供することになる。これは犯罪事実についても量刑事情についても同じである。そのときに大半が自白事件である今の刑事公判の様子がどうなるかというのは,私も今,よく分からないところがあるのですね。それは弁護士の先生方がどう判断するかにもよるでしょうけれども,余り変わらないとすれば,証人尋問の形はとっているけれども,犯罪事実は争わないと,自分に有利な量刑事情については弁護人が主尋問して被告人に有利な情状事実について証言してもらう。これに対して現在であれば反対質問という形で検察官が「ちょっとそれは偏っていないか?」という方向で問い質す,それが反対尋問の形式で行われるだけで実情は余り変わらないのかもしれない。ただ,弁護人が,検察官の厳しい反対尋問に被告人が耐えられないのではないかという危惧を感じて被告人を証人にしないという判断をする事例が増えることになると,今の自白事件の刑事公判は大分様相が変わってくるのかなという気もするのですね。その辺はまだよく分からないところがある。   もう一言だけ言いますと,捜査段階の調書に過度に依存しないというのがこの部会の基本テーマなのですけれども,被告人の捜査段階の調書に関する322条という条文によれば,調書の内容が被告人に不利益な事実の承認の場合,任意性があればその調書自体が証拠になるのですね。そこには,そもそも供述調書の公判への流入をブロックする直接主義的観点が欠落している。そこが公判で直接真実を語ってもらおうというこのシステムとどう関係してくるのかというのは,超専門的ではありますが,気になっているところであります。これは,併せて考えておかなければならないところだろうと思っております。 ○川端分科会長 高橋幹事,先ほど途中までお話しされた点についてはいかがでしょうか。 ○高橋幹事 現在,自白事件の多くでは,量刑の判断において被告人が述べることも判断の要素として採り入れるようなことがあります。現行の被告人質問を証人尋問という形に変えた場合に,これがどう変容していくのかなというのがなかなかイメージが湧かなかったもので質問させていただいたのですけれども,また考えてみます。 ○川端分科会長 ほかにございますでしょうか。 ○保坂幹事 この資料の「現行の量刑実務との関係」というのは,もとより現行法の下でも,殊更に虚偽の供述をしたという場合に,反省が足りないというフィルターを通してですけれども,量刑上反映されていて,その上になお虚偽の供述を処罰するような制度が必要かどうかという点を御検討いただくためでもあるのですが,もう一つの趣旨として,虚偽の供述を一つの犯罪とした場合に,起訴されれば当然それを犯罪事実としてそれに対する量刑となるわけですが,その裁判に偽証罪として起訴されていない場合に,裁判所は証言でうそを言ったということを量刑事情に反映できるのかどうか。つまり,起訴されていない余罪を量刑上考慮したということになるのではないかということも含めて,御検討いただければという趣旨で挙げさせていただいておりますので,その点についても何か御意見があれば御発言いただければと思います。 ○高橋幹事 量刑理由の中で,「殊更虚偽の供述をし」という言い回しが出てくることがありますが,これは,虚偽の供述をしたこと自体が直接量刑に影響しているわけではなく,被告人の反省の乏しさを推認させる事情として,量刑上考慮されることになるのだと思います。しかしながら,今後,被告人の虚偽供述が処罰対象となると,量刑判断においてこのような被告人の供述態度・内容を斟酌することについて,余罪を取り込んで量刑をしたことになるのではないかというような問題との関係で,きちんと整理して考えていかなければならないのではないかと思います。 ○川端分科会長 まだ全体としてのイメージが湧いてこないというお話ですが,ここで問題点として挙がっている「刑事裁判の在り方への影響(黙秘が増加する可能性など)」の点について何か感触なり感想がございましたら,御発言をお願いいたします。 ○小野委員 自白事件では恐らく証人尋問することになるのだろうと。もちろん情状証人とか何とかいう人は出すとして,弁護人とすれば,本人がこの件についてどう考えて,何をどうしてきて,どうしてこうなったか,その他含めて,犯情についても一般情状についても証人尋問することになるのだろうなと思います。   否認になるとこれは否認の中身によるのでしょうね。そういうことで言えば,今でも黙秘しているケースがありますけれども,公判廷でも黙秘するということは選択としては極めて少ないのかなと。ただ,こういう仕組みが入ったときに,そういうぎりぎりの事案で黙秘を選ぶ,もうしゃべらないということもそれなりに出てくるのかもしれませんね。それはそれで一つの方法だから,多少増えることによって何か困るかというと,そうでもないのだろうと。そこらの見極めというか,その辺が採否そのものについての明確なこうだというのがなかなか出てこないところもあるのですけれども。   私の感じではそういう仕組みになったらなったで,弁護人が取り得る最もよい手段,この件では黙秘であるということはあり得るだろうし,この件では否認で争って証人尋問で反対尋問にも耐えてやり抜くという判断もあり得るので,こういう仕組みは仕組みで,採否ということで言えばいいのかもしれない。そこらがまだちょっと決め兼ねているところです。 ○上冨幹事 最終的には採否の判断をする上で,こういう制度を採ることが新しい刑事司法の在り方として望ましいかという問題の中で考えることなのだろうと思うのですが,当事者の攻撃防御の方法としての在り方の問題という面だけではなく,刑事裁判の法廷でどのようなことが行われるのが望ましく,あるいは,そういうことが裁判として期待されているのかといった視点もあるのかなという気がするのです。   裁判所の判決の中身だけを捉えて考えていった方が良いのか,それとも,被告人の口から何が法廷で語られるのかといったことについての国民の期待をどういうふうに考えるのかという,もう少し広い面も含めてどういう刑事裁判を法廷でやっていくのがいいと考えるのかということも,考えるべき視点としてはあっていいのかなという気が若干いたします。 ○酒巻委員 今の上冨幹事の発言に関連して,「国民の期待」というのが何であるかよく分かりませんけれども,むしろこういう制度を採ることによって,黙秘権というものが刑事被告人に保障された基本的な権利なのであるということがはっきりする。法廷で「被告人は黙秘します」,あるいは,包括的黙秘権を行使し「証人尋問には応じません」という情景が現出することが,悪いことであるとは思われません。被告人が何か法廷で語らなければならないというような期待は刑事訴訟の理論としてはやはりおかしいのであって,そういう我々専門家の常識と,国民というのは何なのか分かりませんけれども,「これだけのことをやったとして起訴されているのだから被告人は何か説明すべきだ」みたいな,そういう期待がそもそもおかしいのであるということ自体をはっきりさせる意味でも,黙秘するか,しゃべるのだったら証人になって法廷で真実を語るという,元に戻りますけれども,この制度を動かすことは日本の刑事司法にとってむしろいいことであろうと思っています。ただ,これはいろいろな考え方がありますので。そういう問題が伴っているということは上冨幹事のおっしゃるとおりだと思います。 ○川端分科会長 島根幹事,何かございますでしょうか。 ○島根幹事 今の酒巻委員の御発言に関連して,ただ今の議論はいわゆる公判段階における議論ですが,私どもとしては取調べでできる限り真相を明らかにしたいと考えているわけでありまして,この制度によりどのようにその影響が出てくるかという見極めは確かに非常に難しいと考えております。特に争いがある事件などでは,被疑者からすれば,公判段階まで見据えた場合に,取調べ段階は黙秘でいった方が良いと考える方向に進むのではないかという声も現場では聞かれるということは御紹介しておきたいと思います。 ○小野委員 今はもう捜査の中では黙秘だというのもだんだん増えてきているのではないかと思っておりますが,先ほど上冨幹事のおっしゃった点は,弁護人の立場からすると大所高所から見た制度の在り方ということよりも,被告人の防護権を全うするにはどういう仕組みが良いのかということを考えます。ただ,法廷の中で最後まで真相が分からなかったと,それは本人が何もしゃべらないで闇のままであったという批判はどうしても出てくるわけですね。特にこの国では昔からずっとお白州のような形で,ともかく洗いざらいしゃべりなさい,それこそがあなたの仕事なのだと言われ続けてきて,ここに至っているのかなという感じもありますので。   そういうことでいうと,酒巻委員がおっしゃったように,刑事裁判というのはこうなのだという観点ですっきりすると言えばすっきりするのかもしれません。ただ,飽くまでも弁護士としては被告人の防御を柱に据えて仕組みを考えていくということになってしまうので申し上げました。 ○川端分科会長 宇藤幹事,何か御意見なり御感想がございましたら,御発言をお願いします。 ○宇藤幹事 最後の方で出てきておりました,公判において被告人の供述が得られない事案が増加するのではないかという話ですけれども,今回このような議論が出てきた発端の一つは,供述が得られたとしても,それが信用するに値しないことがあるというものであったかと思います。そういうことを考えてみますと,検討すべきは,供述が得られたときに,その信用性を適切に評価することができるような制度となっているか否かであって,供述が得られない事案が増えることそれ自体は,余り過大視されるべき話ではないと思います。 ○川端分科会長 時間もかなり経っており,御意見も出尽くしたのではないかと思っておりますので,総括をして,次にいきたいと思いますが,よろしいでしょうか。   被告人の虚偽供述に対する制裁の件ですが,被告人の虚偽供述に対する制裁につきましては,採否の検討の前提となる具体的な制度案として,真実の供述の確保という観点から被告人に証人適格を認める案を対象とすべきであるとの御意見が示された一方,証人とならないことによる不利益な推認がなされないようにすること,量刑に与える影響など制度の採否に関連する検討事項についての様々な御指摘もございました。   そこで,今後は被告人に証人適格を認める案に対象を絞った上で,部会で採否を検討するためのたたき台となるべき制度案の内容と,検討課題の両面を更に具体的に詰めていくことになろうかと思われます。また,そのような検討に関連して,基本構想にもあるとおり,被告人による偽造・変造証拠の公判廷での使用を処罰の対象とする制度についても更に検討することとなろうと思われます。   こういう総括でよろしいでしょうか。では,そういうことでまとめさせていただきます。   次の証拠開示は,大きく問題が変わりますので,ここで一旦休憩を挟みたいと思います。次は11時から開始ということでお願いします。休憩に入ります。           (休     憩) ○川端分科会長 時間になりましたので,再開いたします。   それでは,次に「証拠開示制度」についての議論に入ります。この検討課題につきましては,基本構想において検察官が保管する証拠の標目等を記載した一覧表を交付する仕組みを設けること,検察官及び被告人等に公判前整理手続に付する請求権を与えることについて,具体的な検討を行うものとされ,また,類型証拠開示の対象となる証拠の範囲の拡大についても,必要に応じて検討を行うものとされております。   本日は,時間の関係等もありますので,まずは部会において活発な議論があり,検討すべき論点も多いと考えられる証拠の一覧表の交付について重点的な議論を行い,その後,時間が許す範囲で公判前整理手続の請求権や必要に応じて類型証拠開示の対象拡大についても議論を行うことにしたいと思います。   それでは,まず証拠の一覧表の交付について,配布資料の内容を事務当局から説明していただきます。よろしくお願いします。 ○保坂幹事 資料3の「第1 証拠の一覧表の交付」について御説明をいたします。資料を御覧ください。現行の証拠開示制度は,証拠開示と争点整理を関連付け,類型証拠開示の後に,被告人側が主張を明示した上で,その主張と関連する証拠開示を行うという仕組みになっており,基本構想におきましても,この枠組みは維持するものとされたところです。   そして,基本構想においては,証拠の一覧表を交付する仕組みにつきまして,段階的な現行の証拠開示制度の枠組みと整合的なものになるのか,証拠の標目等の記載にとどめるとしても,開示により生じ得る弊害を回避することができるのか,一覧表を作成する捜査機関の負担が過重なものとならないかなどの懸念も指摘されていることから,これらを踏まえて検討を行うこととされております。   資料では,考えられる制度の概要といたしまして,基本構想に示されたものを改めてお示しし,これから具体的な制度案を検討していくに当たりまして,検討すべきと思われる課題を資料の1から6までにお示ししております。   「1 趣旨等」につきましては,具体的な制度案を検討する前提,あるいは,各検討課題,検討事項における視点といたしまして,現行の証拠開示制度の下で証拠の一覧表を交付することの趣旨や目的をどのように考えるのか,証拠開示制度においてどういう位置付けのものとして考えるのかを検討していく必要があると思われます。   また,現行の証拠開示制度におきまして,裁判所が証拠開示をめぐる裁定をするに当たって必要があるときには,検察官に対しその保管する証拠であって裁判所の指定する範囲に属するものの標目を記載した一覧表の提示を命ずることができるとされていること,そして,裁判所は何人にも閲覧・謄写をさせることができないとされていることなど,この一覧表との関係についても併せて検討する必要があると思われます。   「2 対象事件」につきましては,証拠の一覧表を交付する制度の対象事件につきまして,公判前整理手続又は期日間整理手続に付された事件とするか,あるいは,そのうち,例えば一定の重大事件とするかといった点を御検討いただきたいと思います。   「3 交付の時期」につきましては,「1」の趣旨・目的や位置付けとも関連し,現行の証拠開示制度の枠組みとの整合性を考慮しつつ検討をしていただく必要があると思われますが,交付時期を証拠開示制度のどの段階とするか,すなわち,検察官請求証拠の開示の後から被告人側の主張明示後までの,いずれの段階とするかという点,併せて,証拠の一覧表の交付の後に検察官が新たに証拠を保管するに至った場合に一覧表を追加して交付するというものにするかという点につきましても,御検討いただきたいと思います。   「4 交付の要件」は,証拠の一覧表を交付する要件といたしまして,「2」の対象事件では必ず交付するということにするのか,そのうち,被告人・弁護人から請求があった場合に交付するものとするのか,あるいは,実質的な要件を設けて,請求があった場合のうち,交付の必要性・相当性があるときに交付するものとするのかなど,要件の在り方を御検討いただきたいと思います。   「5 証拠の一覧表の記載事項」は,証拠の一覧表の記載事項をどのようなものにするかについて,形式的な標目,例えば証拠物については,品名,所有者・被押収者,押収年月日,証拠書類については,種類,供述者又は作成者及び作成年月日などという形式的なものにするか,それとも証拠の内容に関わる事項まで記載するかという点につきまして,次の検討課題でもあります弊害との関係も踏まえて御検討いただきたいと思います。   「6 弊害への対応」は,証拠の一覧表に記載する事項を踏まえた上で,その交付によって弊害が生じる場合があるのか,また,あるとして,どのような弊害が生じるのかを検討しておく必要があると考えられますので,具体的な弊害の例といたしまして,身体,財産に害を加え,又は畏怖させ若しくは困惑させる行為がなされるおそれ,犯罪の証明に支障を生ずるおそれ,関係者のプライバシーを害するおそれ等というものを挙げております。その上で,弊害が生じるおそれがある場合に,その対処方策をどうするかという点につきましても,御検討いただきたいと思います。 ○川端分科会長 ただいま事務当局から御説明がありましたとおり,検討項目については1から6までの六つの検討課題がありますので,これに沿って検討を進めていきたいと思います。   なお,小野委員から提出された書面につきましては,各検討課題に関する小野委員の発言の際に適宜御参照いただくことといたします。   配布資料のうち,「1 趣旨等」から「4 交付の要件」までの四つの検討課題につきましては,相互に関連すると考えられますから,併せて検討することといたしますので,1から4までについて御質問,御意見のある方は御発言をお願いいたします。 ○酒巻委員 川端分科会長から検討課題について順次検討というお話がありましたが,2以降は一覧表の交付という制度を設計するに当たっての様々な論点が記載してあるわけです。しかし,基本構想にもありましたとおり,この一覧表問題は,現在存在している証拠開示制度がより一層的確に作動するように,その基本的な枠組みは前提としつつ,一覧表の交付という制度をそこに埋め込めるかどうかを,採否も含めて検討するということでありましたので,2以下は「採」という場合に検討すべき事項に当たります。私はまず1の「採否を含めて」というところについて十分詰めた議論をしていただきたいと思いますので,一言申し上げます。   私自身がたまたま現在の制度の設計に関与したことから,発想がどうしても現在の制度を維持する方向にいきがちなのですけれども,この一覧表というものが被告人・弁護人側に交付されることによって,今の制度の基本構造を変えずに,よりスムーズに,あるいは,より被告人・弁護人の防御準備にとって有用な資料が公判前に入手できるということであれば,私はそれに反対するつもりは全くありません。一覧表は飽くまで証拠開示制度を適切に動かすための道具であり,証拠開示制度の第一の重要な目的は,被告人・弁護人の防御の準備に資する資料を事前にきちんと入手し,検討してもらい,将来の公判審理における防御活動に備えること。そして証拠開示には,公判前整理手続の目的規定に書いてあるとおり,充実した公判審理を継続的・計画的かつ迅速に行うために争点と証拠整理をする,そういう目標があるわけですから,それに資するのであれば,私は法律技術屋としてよりよい制度になるのなら一生懸命考えたいと思っているのです。   けれども,一方で,もう一つの目標は,これも基本構想に書いてあったと思うのですが,証拠開示制度が埋め込まれている公判前整理手続の大目標である争点と証拠の整理に資する,そのために二段階構造が取ってあって,その二段階構造の核心は,専門用語ですけれども,争点を明確化する被告人側の主張をする前に,単に何かあるのではないかという,“フィッシング・エクスペディクション”はやめてほしいということがあるわけです。ですから,被告人の防御の利益にとって重要なものが,きちん被告人・弁護人側にいくという目標と,しかしそれは飽くまで公判の争点整理に資する形で考えなければいけない。この二つの目標を破壊することになってはいけないというのが基本構想だと思うのです。   そうすると,私にとって一番知りたいのは,今の制度で,何が足りないのかということであり,一覧表交付でそれが満たされるのかということです。つまり,先ほどの話題とも関連付けて申しますと,刑事裁判の目標は,どこかにあるかもしれない歴史的事実を明らかにするのではなくて,挙証責任を負っている検察官が公訴事実として起訴状に記載し主張する犯罪事実と重要な量刑事実について証拠を提出して立証する。それについて争うのであれば,それに合理的な疑いがあるかどうかを確かめるのが刑事裁判の目標ですから,その目標の観点から言いますと,現在の制度は正に検察官が公訴事実を立証するための証拠は全部防御する方に示される。防御の目標はその証拠の信用性を争い合理的な疑いがあるかどうかをチェックすることですから,検察官請求証拠の信用性に関わる類型証拠は請求すれば開示される。それを点検された上で,被告人・弁護人側が更に主張があれば,その主張に関連する証拠も,あれば基本的に開示されるようになっている。   その場合には,先ほど触れられたとおり,公平・中立な裁判官のところに,主張が絞られた段階で,検察官は一方当事者という意味で偏っていますから,あるものも見えなくなることがあるし,被告人側の主張に関連するかどうかは被告人側が一番よく分かるわけですけれども,そもそもそれが分からないと困るから,どのようなものがあるかについては,きちんとリストを裁判所の命令で作って,裁判所がそれを点検する。場合によっては,証拠そのものについて裁判所が見て,防御にとっての必要性を判断する。そういう仕掛けになっていて,検察官が主張する事実が合理的な疑いを越えて証明できているかどうかということを点検するのが刑事裁判のなすべき仕事であるとすれば,現段階においては現在の制度でこの目標に向けられた必要十分なシステムは出来上がっていると思うのです。   ただ,この一覧表があったら,どういう具体的な効用が被告人・弁護人側にとってあるのか。それがないことによって今の制度がうまく動いていないのだ,弁護士さんが現在の制度を使うに当たって恒常的に欠陥があるのだということであれば,その欠陥を改善するために,例えば一覧表を提供するということは考えられると思うのですけれども,その前の段階,法的ないし実務的必要性が私にはどうしても納得ができないのです。どうしてこの一覧表が必要なのかということについての具体的な必要性について御説明いただければ有り難い。そこをまず固めないことには,2以下は全部関係しますので,まずこの部分について御議論いただきたいというのが私の希望であります。 ○川端分科会長 今,議事進行に関して酒巻委員から具体的な御提案がございました。確かに1の問題は大前提になるわけで,基本的な枠組みの問題でありますので,ここで詰めた議論をしていかないと,また繰り返し循環論法になる可能性があります。そこで,まず最初に1の問題に限定して議論を進めさせていただきます。   今,酒巻委員から一覧表の提示によって何かメリットがあるのかという御質問があったわけですが,小野委員,その点に関して何か御意見がございますでしょうか。 ○小野委員 一つは,類型請求をするに当たって,被告人の立場によって大分変わりが出てくると。実際に深く関与した被告人であれば,この件ではこことここでああなってこうなって,関係がこうなっているので,こういう類型はあり得るだろうと。検察官の請求証拠の証明力判断ということであるわけですから,それなりに今の仕組みが機能していることについては何の異論もありません。   ただ,被告人の立場によっては,検察官の請求証拠との関係だけでは全く想定できない,例えば六つぐらいの会社があって,その会社でいろいろな捜査が行われて証拠が出てくる。被告人の立場によってはこういう会社も関係していることがあり得るということが仮にあるとして,そこが全く想定できないケースもあり得るわけです。その場合に,検察官としてはここの部分だけの証拠で十分であると,立証できるとして請求証拠を出してくるのだろうと思いますけれども,そうでない領域のものは検察官からすれば立証に必要がないという判断もあり得ると思うのですね。   そうではなくて,検察官にとって必要がないと思われる会社なり何なりにおける何らかの収集あるいは作成証拠が,全体の中でどういうふうに評価できるのかということを考えたときに,弁護側から見るとそれなりの必要性のあるものが含まれていることも大いにあり得るわけです。そうなったときに,請求証拠だけ,その証明力判断ということだけの判断で,存在がそもそも覚知できないものについての類型請求はできないわけですね。その上で,確かに何らかの予定主張をしたときに,主張関連で出てくるものもあり得るでしょうが,それでもやはり出てこないものがある。例えば,大阪の事件での例の吸い殻が警察段階でなくなってしまったというものについて,そもそも関係のない被告人であればそういうものがあったことすら分からないということがあり得るわけです。   そういう意味で,今回,私の方からお出しした案の前提として,警察から検察に送致するところでの証拠の整理をきちんとやって,例えば,後から返してしまったもの,あるいは,なくなってしまったもの,捨ててしまったものがあるとしても,それは一旦は証拠になっているということが検察に引き継がれ,そこからまた請求によってその一覧表が出てくると,こういう仕組みによって,これはいわゆる証拠あさりと全く違う性質のものなのですね。弁護活動の中で証拠あさりなるものを実際にどれだけの弁護人がやろうとしているのかと考えると,私の経験では証拠あさりなどということを考えている場合ではないわけです。関係があるかないかということはもちろんこちらには分からないわけですけれども,全く想定できない領域のものは全く出てこない。   例えば,ゴビンダさんのケースでは,再審事件で被害者の体内の残留物とか何とか一杯出てきたわけですね。あるいは,服に付いていた,体に付いていたと。これは警察で保管されていたようで,検察も事件当時は把握していなかったようですけれども,そういうものが存在すること自体が全く分からない立場の者にとってみると,類型でもそういうものを請求するのにものすごく困難が伴っているのが実情なのだろうと思うのです。ほとんどの事件がそういうことではないのでしょうけれども,類型証拠を考えるという作業は非常に難しい。いろいろな事件の経験があって,こういう捜査ではこういうものが作られているのだということについての幅広い知識がある弁護人であっても,そこらのところはなかなか困難であると。   他方で,今申し上げたような全く出てこない,検察官の手元にもいっていないというようなものが存在し,この存在によって事件全体の実態が明らかになっていくというケースも現にあるわけです。そういうことで言いますと,今の仕組みがよくできているということについて,私は異論ありませんけれども,それでもまだ現実に足りないものがあって,それがそもそもあるのかないのかすら全く分からない,想定もできないというものがあるということであれば,そこのところはきちんとしたリストが作られていなければいけないだろうと。それは防御のためということだけではなくて,本来の証拠の管理の在り方としてもきちんとなされていなければならないだろうと。例えば,フロッピーディスクを返してしまいましたと。それは元々証拠としてきちんと含まれていて,それが一覧表で出て,あるのであれば,返したものであってもそれは存在していたのだということが分かるわけです。   そういうことからしても,弁護の現場では難しい作業を,もちろん限られた事件ではありますけれども,強いられているのが実情だと。他方で,弊害との関係でもあるのですけれども,一覧表の識別の具合によるわけですけれども,それによって恐らく弊害を生じ得るとして,実際に考えられる弊害はごく限られたものに過ぎないだろうと,大まかなところで言うとそのようなところになります。 ○酒巻委員 小野委員はたくさんのことをおっしゃって,現在の類型証拠開示請求でさえなかなか難しいのだとおっしゃったのですけれども,そういうふうにおっしゃる弁護人に一覧表が交付されたならば,それほど劇的に類型証拠開示がしやすくなるのですか。つまり,私が知りたいのは,一覧表を眺められて何か本当に変わるのかどうかです。小野委員がおっしゃったようなほかの関係会社とか,そういう話が一覧表を見ることによって何かが分かって,それが起訴されている被告事件の検察官請求証拠の証明力を争ったり,あるいは,その後,主張は被告人がすることですから,被告人は弁護士さんと十分相談できるわけですから,被告人が知っている内容を秘密に聴いた上で,一覧表があることによって何か劇的に変わるところがあるのかどうかというのが私には全く分からないのです。私は弁護人をやったことがないから分からないのかもしれないし,「お前は実務を知らない」と言われるのかもしれないけれども,現在のシステムに一覧表が付くことによって,突如として被告人の防御準備が画期的に変わるようなことがあるのでしょうか。普通の事件で構造的にそういう問題になっているのだろうかというのが私の質問です。 ○小野委員 普通の事件というのをどう想定するか。元々のあれでも被告人側からの請求によって一覧表ということですから,一覧表は要らないという事件は多数あると思うのです。 ○酒巻委員 では,ぎりぎりの場合を想定するのですね。 ○小野委員 ですから,正にぎりぎりの場合を想定したときに,被告人が実際に関与しているのであれば,類型というのはそれなりに考え得る余地はあるだろうし,もちろん主張関連でも出てくるということについては,そうなのだと思うのですけれども,そうでない被告人の場合にとって,どういう関係性になっているのかということが分からない事件の場合は,被告人自身が想定できない,当然,弁護人も想定できないということがあり得るわけですね。   そこで,標目の書き方についてもいろいろあろうかと思うのですけれども,例えば鑑識活動に関する捜査報告書というような標目があるとしますね。単なる捜査報告書は多分何も分からないと思いますけれども,今でも現に括弧書きなどを入れたり,今のようなどこそこの鑑識活動に関する捜査報告書というものがあったとすると,その標目が,そういう活動がここでされているのだと,捜査は行われているのだと,それがどことどうつながっているかということはもちろんほかの関係で,そこで直ちに全てが分かるわけではありませんけれども,そういう証拠は存在しているのだということによって,その関係性の中でこれは証明力判断に必要なのだということが理解できる場合が大いにあり得るだろうと。劇的に変わるかどうかというのは何とも言えませんけれども,大いにそれはあり得ることだと考えているわけです。 ○酒巻委員 有罪か無罪かは最終的に判決で決まるので,手続過程において,やっていない,関与していない被告人か,関与しているかという分類で制度設計を考えること自体よく分からないところがあるのですが,仮に自分は無実であるという主張をされる被告人の弁護士さんであれば,まずは第一段階で公訴事実を否認するわけだから,類型証拠開示請求はできますわね。今,小野委員がおっしゃったような話は,正に否認という主張に関連して,今のシステムでも,裁判官がそういう主張ならばということで,先ほど話題になった現行法の主張関連証拠の一覧表が裁判官のところに行って,裁判官は中立な立場で主張と関連するものがあるかどうかチェックして,出てくるように作ってあるわけですよね。ですから,一覧表をあらかじめ見るというのがどうして役に立つのかというのが今一つ分からない。そして,現にある一覧表提示の制度によって,主張があるのであれば,主張に関連するリストは正にそこで作られて,具体的な主張であればあるほど,そのリストも具体的に作られるはずですから,それを裁判官にチェックしてもらうという形で,無実の被告人であってもそういう形でもし重要な証拠があれば出てくるのではないでしょうか。   一番最初の段階で,しかも,先ほど小野委員は証拠管理のことと一緒におっしゃいましたけれども,管理のことは当然きちんとしなければいけないのですけれども,まだ検察官請求証拠を示した段階で,警察にあるかもしれない,残っているかもしれないというレベルから一覧表を作り,それを全部お見せしてどうなるか,弁護士に対する悪口ではないけれども,結局,あてのない無意味な開示請求をやることになるのではないでしょうか。具体的な被告人側主張をはっきりしていただければ,それに関連するものはできる限り一覧表も作って,裁判官に判断してもらう。それでうまくいくのではないかというのが現段階の私の意見です。 ○小野委員 予定主張としてそれなりの主張を展開できる場合に,主張関連で出てくるということはあり得るでしょうね。また,裁判官がリストを見て出てきたりということはあり得ると思うのですけれども,予定主張として,例えば否認する,あるいは,知らないという場合に,どういった主張関連があり得るのかということで,その予定主張を出すための前提として,一覧表があれば空打ちになるような当てずっぽうの何たらかんたらというのは逆に,私は一覧表の実務があるわけではないので何とも言えませんけれども,「こういう証拠があるの,これは関係ないね。あれはこうだね」ということは,やみくもな類型請求にはならないのではないかと私は思っておりまして,それなりに識別されている証拠の標目があれば,その点において無駄な争点が拡大していくということにはならないのではないのだろうかと。   また,そういったものがあるとないとでは,予定主張を組み立てる上でも,例えば,AとBとCのこういう関連のストーリーだということで,検察が証明予定事実を記載して,それに関連する証拠。ところが,そこにXとYとZという事実があって,これが絡まるとA,B,CではなくてAXであると,あるいは,YZであるとか,そういうような絡みが全く違う事件の仕組みが出てくるということは,非常に抽象的な言い方で申し訳ないのですけれども,あり得るわけですね。そのときに,全くそれと違うところでの証拠の存否そのものが分からない場合には,それがなければどうにも手の打ちようがないのだということはあるわけです。   それから,先ほどのゴビンダさんの例で言うと,そもそも被害者がいつどこで何をしていたかということが分からないときに,被害者のどこそこに残置された何らかの痕跡自体も全く分からないわけですから,それについてDNAを調べるか調べないかというところまで到底到達しないという問題になるのだろうと思うのです。そういうことで言いますと,今の仕組みの中で手が届かない,また,届けば被告人にとって事実が解明されるということは間違いなくあるだろうということだと思うのです。 ○川端分科会長 具体的にはリストを開示されたことによって,あるいは,交付されたことによって,新たな証拠の手掛かりがそこで発見されるという事態があり得るという御主張なのでしょうか。 ○小野委員 そうですね。今の例で,ゴビンダさんの例を引くのが適当かどうか分かりませんけれども,現に当時そういうものがあったことはあったわけですよね。もちろんあれは証拠物ですから,類型証拠として出てくるべきものはあるのでしょうけれども,そもそもそういうものがそこにあったかなかったかということについては,なかなか想定しにくい場合はあるだろうと思います。そういうときに,現実には収集した証拠の中にはこういうものがあるのですよという標目が出てくれば,そこのところが証明力判断に必要かどうかと,それがどこにあったか,どこから出てきたか,そういうものの判断でできるのではないかと思うのです。 ○酒巻委員 具体的事件の話は,私は記録を読んだわけではないので確たることは何も言うことはできません。抽象的には,小野委員のおっしゃることは,ほとんど検察官請求証拠について,その証明力を争うのが弁護人の仕事であって,違うストーリーを作るのが仕事ではありませんから,検察官の証明予定事実を支えている証拠の証明力を争うためで,しかも,類型的に,例えば鑑定だったら,検察官の支えている鑑定もあれば,そうでない鑑定もやっていたら,それは今の制度で請求したら出てくるわけですよね,裁判所の裁定まで持ち込むことになるかもしれないけれども。だから,そこにリストがあると何が変わるのですかというのがまだよく分からないのです。結局,今の制度をきちんと使いこなしていないのではないでしょうかというのが私の根本的疑問です。それを使いこなすために一覧表がどうしても必要だという理由を御説明いただきたいということであります。 ○上冨幹事 リストを交付する制度を新たに付け加えるというテーマについて,そもそもそういうことが必要なのかというのを議論すべきであることは間違いないと思うのですが,その上で,例えば弁護人の立場からすれば一覧表があった方が良い場合があるということは,それはそうなのだろうと私も思うのです。今の制度がうまくできているかどうかとは別の問題として,一覧表はあった方が便利であろうという御意見があるのは分かります。その上で,ここで最終的に部会にどのような案を挙げるかということを考えたときには,基本構想にも書いてありますし,先ほど酒巻委員もおっしゃったように,なぜ今のような公判前整理手続の中で証拠開示を組み込むというシステムを作ったのかを踏まえる必要があると思います。   以前の,争点も明らかにならないまま公判が始まり,延々と力点のはっきりしない主張や反証が続いて,いずれ争点が明らかになっていくというような公判ではいけないという反省の下で,今の仕組みが当時作られたわけなので,その仕組み自体が駄目であるというなら,また別でしょうけれども,迅速で充実した公判をやるためには現在の仕組みが必要なのだという前提を崩さないのであれば,それを崩さないような一覧表の交付制度をどうするのかということを考えていくべきなのかなと思います。その意味で,リスト交付の趣旨については先ほど酒巻委員がおっしゃったように,現行の証拠開示制度がよりよく動くために作る制度なのだというのは共通の理解をしてよいのではないかと思います。   その中で,言葉尻を捉えるわけではありませんが,例えば主張するための証拠開示というものは今の制度の中にはないのだと思います。公判前整理手続で主張は出し入れ自由で,出した上で証拠開示を受けて,その主張が根拠を失ったから,その主張は撤回するというのはオーケーですということで作られている制度であり,例えば,一覧表交付の目的として主張を組み立てるためにこういう証拠があるかどうかを事前に知りたいというのは,今の制度の枠組みを越えたものだし,被告人に主張を明示するインセンティブを与えようという制度趣旨からしても,かえってそれを崩してしまうものになりかねない。そういうところでおのずとリスト交付の趣旨は明らかになってくるのかなと思います。   その上で,それ以外の2以下の論点についても,同じようなというか,基本的な視点からすればおのずと方向性が見えてくる,あるいは,検討の視点が明らかになってくるのかなと思っております。 ○宇藤幹事 まず警察段階から検察にどういう証拠が送られるのか,もちろん,基本的には全部行くのだということですけれども,実際にどの程度のものがどのような形でというところになると,実態はよく分からないところがあります。恐らく小野委員からのお話には,その部分についてどうなのだという疑問もあるのだろうと思います。その点は確かに議論しなければいけない問題であろうとは思うのですが,証拠開示の一覧表の交付制度にまで必然的に繋がるかというと,若干論点が違うのではないかなと思います。   それから,もう一つ,仮に交付制度を設けるとして,交付された一覧表を見た段階で,例えば,たばこの吸い殻があるよとかいったことが分かって,従来なら届かないようなものにまで届くようになるのだというお話ではあったのですが,そのような一覧表には何が記載されているべきかというところが問題になろうと思います。先のたばこの吸い殻のような事案で,標目だけを見てぴんとくるということは恐らく余りなく,通常は,もう少し付け加えた付加情報みたいなものがないと,ぴんとこないのではないかと思われます。そうすると,お話のようなところを目指すとして,具体的にどのようなの一覧表が考えられるか,そしてそれが現行法の趣旨等に照らして考えられるのか,というところを詰めていかないと答えは出ないのではなかろうかと思うわけです。その意味で,上冨幹事が言われたような,具体的には制度設計との兼ね合いで話をこれから詰めましょうということのほうが生産的ではないかと思います。 ○小野委員 主張をするために,立証するためにリストが必要だと言っているわけではないのですけれども,主張の中身もいろいろあるわけですね。例えば,「知らないよ」という主張は一つの主張ですし,あるいは,検察官の証明という事実についてこうこうであるということも当然主張になってくるわけですね。ですから,当然のことながら,そのために正に類型請求があるわけです。そういうことで言いますと,積極的な何かの主張を展開するために証拠を見たいということとはちょっと違うわけです,当然のことながら。そこのところはちょっとニュアンスがあれかもしれません。   正に証拠の標目の在り方と言いますか,例えば,先ほど申し上げたことに付加して言えば,今の捜査実務でもどのようにしているのかということは私もつまびらかにはしませんが,「○○会社の○○部長の机の中から押収したもの」という一つの特定の仕方もあり得るだろうと思います。単に「段ボール一箱」ということではないのだろうと。実際の証拠の捜査の現場でも,何でもかんでも「捜査報告書」とか,「段ボール箱一個」とか,「ファイル一つづり」とかいうことでは,捜査する側だって何だか分からないわけでしょうし,現実の記録などを見ても,今言ったような特定の仕方が適当かどうか分かりませんけれども,誰それさんの部署のどこそこのキャビネットに収容されたファイル幾つとか,そういったような特定も当然あり得るし,そうであるべきだろうと思うのですね。   そうしたときに,そういった証拠の有無というものが,それによって標目だけで一定程度理解することができるということになったときに,それが検察官の主張しているものと関連で関連があり得ると。その部署なりその人なりの存在が,この請求証拠との関連で関連があり得るという判断がそこで初めてできるわけで,そういった程度の識別できる標目の存在によって,その類型に該当していれば開示を求めると,こういう活動になっていくのだろうと思うのですね。標目との関係で言うと,大ざっぱに言えばそのようなところになるのではないかと思います。 ○川端分科会長 実務の現状がどうなっているかという点ですが,検察官側として,この手続によってリストを弁護側に開示されていると思うのですが,実際にはどういう形でなさっているか,について御説明していただけますでしょうか。 ○上冨幹事 分かる範囲で申し上げますと,まず刑訴法316条の14に基づいて請求証拠を開示するわけですね。そのときに実務的には裁判所の証拠カードに標目と立証趣旨を記載したものを示すなりして,併せて請求証拠を開示する。それに先立ってまず証明予定事実を明らかにして,証明予定事実のどの部分はどの証拠で立証しますというのが分かるように,証拠との関連を明らかにした証明予定事実を出すというのが流れですね。   だから,一般的に言えば,検察官が立証しようとしているある事実の具体的なこの部分を争おうと思うのであれば,その事実を証明しようとしている甲何号証というものの信用性を争うということになって,それに関連する証拠物があったら出してくれ,あるいは,同じような立場の目撃者の供述があったら洗いざらい出してくれというような請求を普通はなさることになって,検察官はそれに該当するものが全部あるかどうかをもう一度確認の上,あるかないか,あるとして法律上の要件を満たすかということでお答えするというのが一般的な流れで,その中でそれ以外のリストのようなものをお示しするということは一般には行っていないということだろうと思います。 ○酒巻委員 今,上冨幹事のおっしゃったのが現行法のシステムですけれども,基本構想にあるように,争点整理のために作られたこの制度は,そして,刑事裁判の仕事は,何度も言いますけれども,検察官の主張している事実が証拠上証明できるかどうかなのですから,今,上冨幹事がおっしゃったように,その主張を支えている証拠,これは弁護側に開示される,それを攻撃する材料,これもあれば開示される。もし御主張があるなら出していただいて,それに関連するものがもしあれば裁判官も関与して出る可能性がある。   以上と関係ないものも全て並んだものが一覧表ですから,私の考えによれば,今言った現行法の基本的な構造からすると一覧表というのは在るべき位置がないのですよ。どこにそれを置く理論的な根拠があるのかというのを,必要性とともに説明してほしいというのが私のずっと言っていることなのです。それは便利かもしれないけれども,それを置く場所というのは,現行法の一覧表なら分かります,現にある。   一覧表が必要だ,あれば便利かもしれんという実務的根拠はあるのかもしれませんけれども,争点整理のための公判前整理手続を設定している現行刑事訴訟法の基本構造と矛盾しない理屈がないのではないかというのが,現段階の私の意見です。刑事裁判でなすべき仕事と関係ないものも載った一覧表が出るということは基本的な構造に反するのではないか,煎じ詰めて言うと,そういうふうに思うのですが,いかがなものでしょうかということですね。 ○高橋幹事 現行の証拠開示の枠組みはよくできてきて,通常であれば,類型証拠開示,主張関連証拠開示で,必要な証拠はきちんと出てくるはずだと思います。場合によっては裁判所が裁定という形で関与することもあるのですが,これは当然,当事者の間でもめた場合です。   小野委員が説明されているのは,リストがあれば,例えば類型証拠開示などでも,非常にスムーズに手続が進むということではないでしょうか。例えば被告人の関与が薄いと思われる事件について,類型証拠開示請求をしようとして,いろいろと想像たくましく考えてもなかなかいい請求書が書けない,あるいは,証拠が出てこない。そういうところで時間をかけてしまっている。それが,今問題になっている公判前整理手続の長期化にも影響しており,そういうことを解消できるような一つのツールになり得る。そういうものを想定されているのではないかと思います。そういう前提でどういう標目にすれば,弊害もなければ,類型証拠開示とか主張関連証拠開示をしやすいものになるかと,そういう理解でよろしいのですよね。 ○小野委員 基本的には今おっしゃったとおりなのですけれども,先ほど来酒巻委員がおっしゃった理論的な位置付けと言いますか,そこらは私,十分に説明する能力がなくて。仮にリストがあったときに関係ないものも含まれているのだろうと思うのです。もちろんばあっと捜査するわけですから,関係あるものもあれば,関係なかったことが分かったというものもあるのは当然のことですよね。しかし,検察官の立証しようとするストーリーの中で,それは一つの判断として関係がないという判断がされているわけだから,関係ないと言えば関係ないのかもしれない。   でも,この証明予定事実について,実は関係がないと判断されたこのものが,この証明予定事実を崩すものに当たるという判断はあり得るわけですね。それは検察官の判断と弁護人の判断は全然違うこともあり得るわけですよ。その際に,今のように例えば知らないなら知らないという予定主張をして,関連で関連証拠の請求をどういうふうにできるのだということなのですよね。つまり,裁判官に裁定なり何なり求めて初めてリストが出てくるということになるのかもしれないけれども,どういう形で関連証拠の開示をするのかということが全然分からなくなってしまうわけです,現場では。そこのところが問題なのです。   そこは,先ほど来御指摘のあるような理論的な位置付けということの答えに全然なっていないのかもしれない,多分そうなのだろうと思いますが,実際の実務では判断として捜査官の判断があるのは当然なので,それは別にいいのですけれども,そうでない判断があり得るということなのです。そうでない判断があり得るとしたときに,関係がないものが,実はこれはこの主張を崩す証拠として成り立ち得るのだということがあって,その存在が全く分からないときに,それをどうやって今の仕組みの中で出てくるような形に弁護人は持っていけるのかということになると,手立てがない場合があるのですよね。そこは弁護人がきちんと使い切っていないのだとおっしゃるかもしれないけれども,使い切れないケースがこの仕組みでは出てくるのだと,それしか言いようがないですね。 ○川端分科会長 御議論が白熱していることはよく分かります。これは根本的な問題で必要性の有無について議論がなされているわけですけれども,これはもう一度詰めて考えておく必要が出てくる場面があると思いますから,今までの御議論を踏まえた上で,2,3,4までそれを議論しながら,また新たに必要性についても議論の余地が出てき得ると思うのですね。   時間の関係もありますので,1は大体これで詰めた議論がなされたということにしていただいて,ほかの問題点について御発言をお願いしたいと思います。 ○酒巻委員 私はまだ納得していませんけれども,仮に一覧表というものを制度設計するとすると,対象事件は,今の証拠開示制度が設定されている公判前整理手続を円滑に動かすためというのが立法趣旨でしょうから,前提として公判前整理手続や期日間整理手続に付せられた事件にするのが当然であろうと思います。   それから,小野委員がおっしゃっているとおり,ぎりぎりの争う事件が想定されているとすれば,全て一律にというよりは,要件としては請求があった場合にするのが適当だろうと思います。これは4ですね。   それから,3の時期は1と非常に関連するのであります。読ませていただいた日本弁護士連合会の案は最初の段階ですね。検察官請求証拠の開示の後で,類型証拠開示請求をする前に,一覧表を全部と言うのですけれども,それは現行法の基本的な構造になじまないと考えます。その理由は先ほどから言っているとおりですけれども,主張も何も明らかにしない前に証拠の存在形態の全貌をお示しするというのは,現行法の基本的な制度の構造とは相容れないように思います。   仮に一覧表を作って開示するのであれば,時期はそれほど早い段階は望ましくないというのが私の意見です。一覧表の中身とか対象とか,警察にあるものとか,検察にあるものとか,そういう技術的な問題は一杯ありますけれども,その都度また議論したいと思います。 ○川端分科会長 大前提に違いがあるとしても,御議論にはお付き合いいただきたいと思います。   ほかにいかがでしょうか。 ○上冨幹事 2,3,4についてですけれども,私が先ほど申し上げたような趣旨を前提とするならば,公判前整理手続や期日間整理手続に至った段階の事件ということになるのだろうと思います。その上で,交付の時期との関係もあるのですけれども,いつごろまでにそのリストを作らなければいけないのかということを考えたときに,現行制度を使いやすくための便宜ということを前提としたときに,リストを作ることに要するコストというか負担も無視はできないだろうと思います。   公判前整理手続になる可能性のある事件をあらかじめ全部リストを準備しておくということまで本当に必要なのかといったことも考えながら,結論としてどの範囲という意見が今の時点であるわけではないのですけれども,公判前整理手続になった事件の全てについて対象とする必要があるのかどうかは,交付制度の趣旨とかメリットとの兼ね合いで決めていくことなのかなと思います。   それから,交付の時期についても,結局は公判前整理手続をやることの目的に反しないような時期はいつなのかということで決めていくしかなくて,それがかなり早い時期なのか,一番最後であれば予定主張が提出された後なのか,どこであれば便宜と制度に対するデメリットのバランスがとれるのかという観点から決めていくしかないのかなと思います。   あと,交付の要件との関係で言えば,資料にもありますけれども,被告人側からの請求がないものについて交付する必要はないのでしょうから,交付の請求があったときということになるのかなと思います。   若干前後しますが,交付の時期の関係で,一覧表をどの時点で交付するかにもよるのですけれども,追加の捜査などが行われて,交付した後に警察から送られてきた証拠もあり得るのでしょうし,あるいは,起訴後の補充捜査もあり得るわけですから,そういったものについては随時追加していくという仕組みにならざるを得ないのかなと思っております。 ○小野委員 もちろん請求があった事件だけということですから,全てのものについてあらかじめその一覧表を用意する必要はないのだろうと思うのですね。公判前整理手続が比較的短い期間に終わるような類いの事件では,恐らくぎりぎり争わなくてはいけないような証拠も考えられませんから,一覧表のことは多分問題にならないだろうと一般的に考えられるわけです,運用としては。   公判前整理手続が長期にわたる事件は鑑定とか何かということを別にしてあるわけですね。それは類型についても,もちろん任意でパッと出てくることだってあるのですけれども,そうでない事件の場合には必ずしもそうではない。つまり,類型をめぐってずっと手続をやっていくということはあるわけですね。そういう場合に類型の前でなければいけないということではないのかもしれません。ただ,少なくとも最後の証拠意見とか何とかということは別として,類型をやっている最中であってもそこに一覧表が出てきたとすると,それによって類型のやり取りは非常にスムーズにパッパッと,本当にパッといくかどうか分かりませんけれども,当然のことながら傾向としてはスムーズに進み得るわけですね。例えば,一覧表に載っているやつを開示されて,見たら,それは証明力を争う,全然役に立たなかったということはあり得るでしょう。今だってそのようなことは幾らでもあるわけですから。   現実的に類型を延々とやっているような事件であれば,どうせなら早ければそれに越したことはないと思いますけれども,どこかで出てくれば,それでそれなりに類型のやり取りが収束していくのだろうと。その作業との関係で言うと,膨大な証拠がある事件についてはそれなりの時間がかかることは当然あるわけで,それによって公判前整理手続もそれなりの期間を要してしまうことはあり得ると思うんですね,その上で主張を整理していくわけですから。今だって類型が全部出なければ主張しないということではなくて,類型がある程度出れば主張できるものはするということで実務が動いていることは間違いないので,扱いとしては類型の途中だって構わないだろうと思うのです。ただ,それだったら出来次第出しているねということになると思うのです。   実際に私どもの出したものであるんですが,捜査との関係,警察との関係であらかじめそれなりのリストがあれば,それに随時加えられていけば,また随時それが出てくればいいだけのことで,それを基に更に検察官が捜査を進めると,そこに追加していくものは当然あるわけですね。そういった形で実務の現場でどれほど大変なのかということは,私はそういう捜査に携わったことがないので余り言えないのですけれども,それなりのものを積み上げてやっていけば,それはできるのではないのかなと。それこそすぐに出せということではないわけで,一定の期間があるわけですから。特に限られた事件でやることになるのでしょうから,できないことではないのだろうなと,今だってそうであるべきなのでしょうね,本来的に。捜査の在り方としては,いうふうに思うのですが。 ○酒巻委員 半分質問です。先ほどから私,偉そうなことを言っていますけれども,一つも実際の事件をやったことがないので。小野委員の今の御発言の,類型証拠開示でそもそも紛争化しているというような事案が,リストが出ることによってスイスイッと紛争が収まるというお話だったのですけれども,本当にそうかなという気もするので。検察官のお立場と裁判官のお立場から,類型証拠開示の段階で手間取るというか長引いているということは,検察官がこれは出すものではないという形で争っているような話なのか。リストがそこに加わると何で争いがスイスイッと消えてなくなるのかというのが全然分からないので,教えてもらえますか。 ○川端分科会長 時間もかなり経過していますので,上冨幹事と高橋幹事の話をお聞きして,これは終わりにしたいと思っております。 ○上冨幹事 私も感覚としてつかみにくいところではあるのですが,一覧表の交付ということで,今,小野委員がおっしゃったような,ある特定の問題について既に争いとなっているような場合に,一般的な一覧表の交付ということは何となく過剰な対応のような気がしないでもないのです。もし既に一定のことが争いになっているのであれば,現行法にある一覧表を必要な範囲で作ることで足りそうな気がしていて,御提案の仕組みが必要なものを必要な範囲で作ればいいというのではなく,今,争点になっているところとは関係ないことも含めて,そういうときには全ての一覧表を出さなければいけないというものだとすると,それによって何かが解決することが多いかというと,私は今一つ感覚がつかめないところがあります。 ○小野委員 ちょっといいですか。必要という判断者はその場合には検察官なのですよね,現在は。少なくとも一次的には。だから,そういう判断の限りで言えば,それは必要ではないという判断がそこで一定あるわけですよね。そこでずっともめているということになっているのではないでしょうか。そこに元々ボンとあれば,「こういうのがあるではないか,これはこうではないか」という話になるのではないかということなのです。 ○上冨幹事 ある一覧表が最初からあってということの仕組みとしてはそういうやり方はあるのかなと思うのですが,先ほどの小野委員のお話では,具体的に類型証拠の開示についてもめてしまっているときに役に立つリストということであれば,もめている点について,現行法では316条の27で裁判所の判断で必要な範囲のものは作れるという前提で仕組みが作られているわけなので,その範囲の一覧表で足りてしまわないのかなという気がするのですけれども。 ○小野委員 説明が余りよくなかったのかもしれません。要するに,集めた証拠みんな含めたリストを想定しているわけで,今現在,裁判所の裁定を求めるために作られるリストとはちょっと違うのですよね。そのためにわざわざリストを作るということではなくて,捜査の過程で収集あるいは作成された証拠があるわけです。もちろん関係ないものも含まれているのでしょうけれども,そういったものの全体のリストということになるのだと思うのです。 ○高橋幹事 実際に裁定に持ち込まれるのは,ある証拠が類型証拠に該当するかどうかという該当性の問題とか,あるいは,弁護人があるはずだと言っている証拠が本当にあるのかないのかとかいった場合であり,そういったときに,一定の範囲を定めて証拠の標目一覧表を提示させて,最終的には証拠を提示してもらって,本当にそれが該当するのかなどというような形で裁判所が裁定するのだと思います。   小野委員が提案されているリストというのは,そもそも今の証拠開示をより適切にするため,あるいは,迅速にするためのツールとして用いたいのだという趣旨であれば,それはそれ限りのものであって,裁定に持ち込まれるような争いとの関係で,どのような効用を持つのかは少し分からないところがあります。   それから,2から4に関しては意見を述べたいと思います。2が公判前整理手続,期日間整理手続に付された事件とするというのは今の立て付けの中に入れ込むということで,そのとおりだと思いますし,3番の交付時期はできる限り早い方が良いのかなと思います。   4番は,請求があったものに限るということでいいと思うのですけれども,一点気になったのが,必要性・相当性があるときに交付するものとするかという点なのです。リストを新たな制度として設けるとしたら,このリストがあることによって手続がスムーズに行ければよいということだと思いますので,必要性・相当性の判断が介在すると,かえってそこが紛議の元になってしまって公判前整理手続が長期化してしまうこともあるような気がしますので,ここまでの要件は要らないのではないかと思います。 ○川端分科会長 仮に採用すればという前提での議論も進んできているわけですが,残りの5と6もありますので,この点についても御発言をお願いいたします。 ○宇藤幹事 5と6一緒でよろしいですか。   まず5の方ですけれども,標目に限るか,それとも内容まで含むような記載にするかということですけれども,現行法の趣旨を維持したままで,内容を含むものまで考えるのはかなり難しいのではないかと考えております。理由は,内容まで含めた一覧表にいたしますと,従前言われておりますような証拠あさりの危険性がどうしても出てくるだろう,あるいは,高まるだろうと思われます。   それから,内容を書くにしても,どのような観点からまとめるのか,文章であれば要約を付するということになるでしょうが,どういうふうな観点から内容を書くのかというのはなかなか難しいのだろうと思います。というのは,ここで問題になっている証拠は,証拠調べの請求をしないものであることを前提にしておりますから,どういう観点からと言われてもなかなか難しい,そういう証拠なのだろうと思います。そういう点からすると,そもそも内容を書くのが難しい。更に付け加えると,書くのが難しいものを膨大な量をラベリングと言いますか,一覧表に書き込んでいくということになりますので,その点でもかなりのコストになってくるだろうと思われます。したがって,先ほど申し上げたような感じになると。   それから,6の方でございますが,ペーパーに出ております(1)の三つの弊害はそれぞれあるのであろうと考えます。したがって,一覧表を交付するということであったとしても,例外はあってしかるべきでしょう。そういたしますと,具体的な事案において例外を付けることの当否がどうなのかを考えなければいけない場面が出てきますが,それは証拠開示そのものの話として不服申立て等を制度設計すればよくて,一覧表に例外を付するかどうかということそれ自体について不服申立ての制度を設ける必要はないではないかと考えております。 ○酒巻委員 宇藤幹事と基本的には同じなのですけれども,まず一覧表を作るとすれば,その記載事項は形式的な標目に限るべきだと思います。内容について書くのが難しいとかいう話ではなくて,一覧表に証拠の内容に関わる事項まで記載して交付するものとしますと,それは実質的に証拠の事前全面開示をやるのに等しいのであります。そして,被告人側が主張関連証拠の開示を受けるために主張を明示するという基本的な制度の構造を破壊します。さらに,めったにはないと思いますけれども,当事者主義の観点からも,証拠の全体構造を示すことによって,それと矛盾しない虚偽の弁解を作り出すという全面開示論に対する重要な問題点ですけれども,そういう危険もありますので,争点と証拠の整理と連動した現行の証拠開示制度の基本枠組みの趣旨に反しますので,内容に係るようなことは書かない,形式的な一覧表に限るべきであろうと思います。それが一つです。   それから,弊害については,あり得る場合にはもちろん例外は設けなければいけないでしょうし,必ずや起こると思いますので,形式的な一覧表の完全性とか弊害の有無についてまた争いが起こらないようにするためには,つまり,手続を健全的確に運営していくためには,不服申立てはそこではなくて,証拠開示そのものについての裁定に委ねるのが真っ当な制度設計であろうと思います。 ○川端分科会長 ほかにいかがでしょうか。 ○小野委員 標目なのですけれども,形式的なということの意味なのですが,例えば,「ファイル一つづり」という標目なのか,あるいは,「○○の注文書と題するファイル」というような形にするのかというところだろうと思うのですね。あるいは,普通の標目でいって,「領置調書」であるとか,「犯罪捜査復命書」ということになると,それ自体は何が何やら分からないということになるだろうと思うのですね。その場合に,「誰それの着衣の領置調書」といった類いの証拠の標目の書き方が問題なのだと思うのです。それは証拠の特定として識別できる特定ということになるのだろうと思うのですけれども,それは必要だろうと考えています。   それから,弊害はもちろんあり得るわけですけれども,リストを開示することによって生じ得る弊害というのは極めて限られた場合なのではないか。そのリストがあることによって,その標目があることによって生ずる弊害は非常にまれなケースだろうと。例えば,この事件の捜査の絡みで全く別の関連の人間の捜査が紛れ込んでしまう,あるいは,どんどん広がっていく,あるいは,その辺の限界のものがあるということはあり得るのでしょうから,そうなったときにはその人のプライバシーとか何とかいうことはあり得ると思うのです。もちろん,弊害がある場合にはそこのところの規定は必要だろうと思いますけれども,例外的には考えられるのではないかと思います。 ○酒巻委員 弊害の点はそれほど気安く考えられないのではないかと思っております。特に小野委員が冒頭の方でおっしゃった,およそ自分の事件とは関係ないところに何か有利なものがあるのではないかというような場合ですと,これは,場合によっては他事件の捜査中かもしれないし,あるいは,既に捜査は済んでいるかもしれませんが,そこで誰々さんが話を聴かれたと,供述録取書ではなくて,そういう捜査報告書がリストに載っていたら,捜査の対象になっている人,あるいは,関係者にとりましては,そういうリストが他の被告人・弁護人のところに行くのだと,そういう制度なのだということを前提にしたときに,自分が話を聴かれたことが,将来的に別の被告人に知られるかもしれないと思ったら,私だったら捜査に協力したくなくなるだろうなと思いますね,そういうことは外国でも言われていることですね。ですから,このような弊害はめったにない話ではないように思っております。 ○島根幹事 5,6に関連して,今,弊害のお話が出ましたけれども,私どもは特に組織犯罪とか,内偵型の犯罪のような場合には,特に捜査の端緒を得るに当たって供述者の人定事項等について保秘に気を付けなければならないということは当然ですし,それ以外の殺人事件等であっても,なかなか協力を得られにくくなっている中で,そういった弊害への措置がきちんと担保されているということは必須の条件だろうと考えております。したがいまして,先ほどの証拠の一覧表の記載事項に関しましても,形式的な事項にとどめるべきだと考えておりますし,場合によっては供述者名などのマスキング措置なども必要になる場合もあるのではないかと考えております。   それから,全体との関連でも出てくるのですけれども,証拠品の管理そのものをきちんとしなければいけない,一部,誤廃棄の事案や紛失事案が発生していることは大変遺憾に思っておりまして,これの対策はしっかりとやっていかなければいけないということは当然でございます。ただ,それと証拠開示の問題は基本的には違う問題だろうと考えております。先ほどの日弁連の御提案で,現在の送致の246条に関する規定と,その後の一覧表の316条の14の2の新設の規定が,基本的には同じような書き方になっております。これは,例えば警察が送致する際に,警察段階で何か記載するものが必要になるということになると,先ほどのような弊害の問題もありますので,懸念がございます。管理,すなわち検察に送致したものが何かということが分かるということであれば,現在も一定の目録等で目次的に分かるようになっているので,こういった規定の意味はどうなのだろうかという感想を持っております。 ○上冨幹事 一覧表の記載事項の関係については,正に形式的な標目が具体的にどのような内容なのかということが一番問題になるのだろうと思います。それもこの一覧表を交付する制度を何のために作るのかというところと同時に,どこまで書くことがメリットがあり,デメリットが最小なのかというバランスで決めざるを得ないのかなと思います。同時に,実際のことを考えると,例え内容を識別するための情報であっても,内容にわたることまで多少なりとも書くということになると,その正確性の点でかえって誤解を招いて,そのような報告書だとは思わなかったなどということになるリスクもあるような気がします。先ほどほかの方からも出ていましたが,私は,リストの問題について独立の不服申立制度を設けるべきではないと思っています。それを前提とした場合,裁量が生じるような記載事項にするのは適切ではないだろうなと思っております。 ○高橋幹事 酒巻委員と上冨幹事が言われた不服申立てというのは,即時抗告のレベルなのですか,それとも裁判所の裁定の仕組みは要らないだろうと,どちらを指しているのでしょうか。 ○上冨幹事 私としては両方というか,その後の裁定も要らないだろうと。 ○酒巻委員 私も同じです。 ○上冨幹事 本案での裁定に委ねれば足りるのではないかと思っています。 ○高橋幹事 本案というのは証拠開示そのものの裁定ということでしょうか。 ○上冨幹事 証拠開示そのものの裁定でやるのが迅速でしょうし,それで足りるだろうなと思っています。 ○高橋幹事 その点,私もその意見に賛成だということだけ一言。 ○川端分科会長 そろそろ時間が迫っておりますが,何か最後にお話したいということがございましたら,どうぞ御発言をお願いいたします。 ○酒巻委員 日弁連の御提案をじいっと読んでいたんですけれども,「識別するに足りる」という言葉はなかなか渋い表現ですが,どのくらいのことを具体的にお考えなのか。例えば,証拠物について「識別するに足りる」というのは,具体的に何か書かないと識別できないような気もするのですね。書類についてもただ「捜査報告書」とかでは駄目なわけですよね。具体的にはどのようなものを想定されているのかなというのがちょっと気になりまして。 ○小野委員 先ほど来申し上げているように,例えば「誰それ方の鑑識活動経過捜査報告書」,例えばですよ。そこは「捜査報告書」だけではなくて,「どこそこの」,あるいは,「何に関連する捜査報告書」とか,そういうのは現にあるわけですから,そういうことなのだろうと。先ほどちょっと申し上げたファイルなら,「ファイル」ではなくて,「何々と題するファイル」であるとか,「何々の関連する一式」であるとか,そういうことを想定しているわけです。 ○川端分科会長 まだまだ御意見がおありかもしれませんが,時間の関係でこの問題についての検討はひとまずこれで終わらせていただきます。   総括なのですが,次のようにまとめさせていただきたいと存じます。   この検討項目につきましては,現行証拠開示制度との整合性や位置付けをどう考えるかという課題は残るものの,記載事項を形式的な標目とすること,一覧表の交付による弊害が認められる一定の場合に例外的な扱いを認めること,整理手続に付された事件で被告人側からの請求がある場合を対象とすることについては大きな異論はなかったと見受けられます。今後は,こうした議論の状況を踏まえ,更に具体的な検討を行っていくことになろうかと思われます。   こういう形の総括をいたしますが,よろしいでしょうか。 ○酒巻委員 しつこいですが,採否の部分について,私は否の意見をかなり強く主張したつもりですので,その点は御配慮いただきたいと希望します。そういう意見もあったということは部会の方に御報告いただきたいと思います。私はもし一覧表交付制度を採用するとすればということで議論させていただきましたので,そこはどうぞよろしくお願いいたします。 ○川端分科会長 今の点は,十分にその趣旨をくみ取るような形で報告させていただきます。 ○小野委員 「形式的な」とおっしゃった点ですけれども,その形式の中身については,私が申し上げたようなことが含まれているという理解でよろしいのでしょうか。 ○川端分科会長 識別の要件でしょうか。 ○保坂幹事 御議論によりますと,識別事項としてどこまでを要求するのかということには必ずしも一致してはいないのではないかと見受けました。日付とか作成者で区別がされていればそれで足りるのか,さらに,その場合でも多少なりとも何に関するということまで書かなければいけないのかも含めて,意見の一致はみていないようでしたが,他方で,内容にわたらないものにするというところは異論はなかったという総括の趣旨だろうと思います。 ○川端分科会長 内容に関しては触れないということでまとめさせていただきます。具体的には後で検討させていただきます。   本日の検討に使用したたたき台の資料については,部会への報告を念頭に置きつつ,本日の議論を踏まえて整理をさせていただきます。   次回は,予定に沿って,自白事件を簡易・迅速に処理するための手続の在り方,それから,被疑者国選弁護制度の在り方に関する議論を行います。   なお,証拠開示制度のうち,本日議論ができなかった検討項目についての議論は,第4回会議にて行うこととしたいと思います。具体的な議事次第については更に検討させていただき,事務当局を通じて追って連絡させていただきます。   それでは,本日の議事を終了したいと思います。   なお,本日の議事につきまして,特に公表に適さない内容にわたるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を公表することとさせていただきます。   また,前回同様,事務当局において,議事録ができるまでの暫定的なものとして概要をまとめて全委員・幹事に送付してもらうことといたします。   次回の日程は,5月21日,火曜日,午前10時から午後零時30分までを予定しております。場所については追って御連絡させていただきます。   それでは,本日はこれにて散会いたします。どうもありがとうございました。 -了-