法制審議会           新時代の刑事司法制度特別部会           第2作業分科会(第4回) 第1 日 時  平成25年6月4日(火)    自 午前 9時56分                         至 午前11時56分 第2 場 所  東京地方検察庁総務部会議室 第3 議 題  時代に即した新たな刑事司法制度の在り方について 第4 議 事  (次のとおり)           議        事 ○保坂幹事 ただいまから法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会第2作業分科会の第4回会議を開催いたします。 ○川端分科会長 本日は,御多用中のところ御参集いただき,ありがとうございます。  本日の議事は,お手元の議事次第のとおり,配布資料の説明の後,前回に引き続き「犯罪被害者等及び証人を支援・保護するための方策の拡充」について補足的な検討を行った上で,「証拠開示制度」についての議論を行うことといたします。  なお,本日の議論においては,あらかじめお申出がありましたので,当分科会の本来の構成員である神幹事に代わって小野委員に,それから露木幹事に代わりまして島根幹事に御参加いただくことといたします。  それでは,本日の配布資料について,事務当局から説明していただきます。 ○保坂幹事 本日は,「犯罪被害者等及び証人を支援・保護するための方策の拡充」に関しまして,前回の会議で用いた資料6を再度配布し,新たに分科会資料7及び8をお配りいたしております。資料7は,第2回会議の「証拠開示制度」に関する議論に用いた資料をベースといたしまして,「証拠の一覧表の交付」について,その際の議論を踏まえて修正・加筆するとともに,「公判前整理手続の請求権」及び「その他(類型証拠開示の対象拡大)」について,考えられる制度の概要や検討課題を新たに記載いたしております。資料8は,公判前整理手続の運用状況に関しまして,事務当局において実施した調査の結果を整理したものでございます。資料7と8の内容につきましては,後ほど御議論の際に御説明いたします。また,参考資料といたしまして,各検討事項に関する参照条文等を整理した資料のほか,第2回会議において小野委員から提出いただいた「証拠開示制度」に関する資料を再配布いたしております。  資料の説明は以上でございます。 ○川端分科会長 それでは早速,「犯罪被害者等及び証人を支援・保護するための方策の拡充」についての議論に入ります。この検討事項に関しましては,二つの論点が前回の積み残しとなっていますので,順次検討を行うことといたします。  まずは,「被害者等の捜査段階での供述の録音・録画媒体の公判での活用」に関し,資料6の3ページの制度概要案を踏まえ,検討課題の(2)に記載されている論点について,御意見のある方は御発言をお願いいたします。 ○小野委員 (2)の防御や反対尋問への影響という点なのですけれども,基本的には,反対尋問は,その場で主尋問があって,そこに即応して反対尋問していくということになるわけですが,媒体が既にあって,それを基に反対尋問していくという,非常に変則的な反対尋問ということに弁護側としてはどうしても受け止めてしまう。その辺りが実際の運用として果たしてうまくいくのだろうかと。当の質問を受ける御本人も,その場で主尋問をされたわけではなくて,以前にされた尋問内容ということに関する反対尋問ということになりますので,その辺りがうまくかみ合っていくのだろうかという懸念もあって,その辺りをどう考えていくのかということが課題なのではないかという気がします。 ○上冨幹事 今,小野委員がおっしゃったことも含め,この制度設計をしていく上では,証人の負担軽減との間で,どういうバランスでこの制度を使うための要件を考えていくのが合理的なのかという視点で考えていけばいいのかなという感じがいたします。防御権との関係あるいは反対尋問への影響という意味で考えると,現行の321条の2に,ビデオリンクによる尋問結果を一定の場合について,その後の反対尋問を要件として証拠能力を認めるという規定があって,その運用もなされているわけですので,同じように,どういう形で制度をうまく組んでいけば被害者の負担を軽減しながら法廷での真相解明に役立つかという制度設計をしていけばいいのではないかと思っています。 ○髙橋幹事 現行法の規定でも第1回公判前の証人尋問の録画を用いる場合はあるのですけれども,これはまず第1回公判前の証人尋問ができるかどうかという法律上の要件をクリアし,かつ,157条の4のビデオリンクの要件も満たすという場合に限定されています。現在の制度でもそういった限られた場面で使われることになっておりますので,新しい制度を設けるといたしましても,録画を用いる場面が広がり過ぎると,公判廷に証人に来ていただいて証言を聞くという刑事訴訟の原則との関係で,問題が出てくるのではないかと思います。そういう意味では,性犯罪被害者等の保護を図るという観点から,真に必要な場面はどういう場合だろうということをきちんと考えていかなければいけないと思っております。 ○保坂幹事 今の点に関連して,この資料の対象者及び要件という検討課題で,現行のビデオリンクと同じように,157条の4第1項第1号・第2号のいわゆる性犯罪被害者のほか,その他の証人予定者についても,様々な事情を考慮して,将来の公判期日で供述するとすれば,圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがある者を対象とするかどうかという課題を一つ挙げているわけですけれども,この要件よりももっと限定的にという御趣旨なのか,この要件を基に事情の判断をしっかりやっていこうという御趣旨なのか,もし今御意見があったらお伺いしたいと思います。 ○川端分科会長 今の点について,いかがでしょうか。 ○酒巻委員 今の保坂幹事と髙橋幹事のお二人の発言に関連して,要件,対象者自体はこの検討課題に書いてあるとおり,性犯罪の被害者以外のバルネラブルな弱い立場にある方も含まない理由はないと思っています。その上で,髙橋幹事のおっしゃったようにビデオリンクは,紙を証拠にする場合よりは直接的ではありますけれども,公判中心という観点からは例外的なものであることは間違いないから,その前提要件の判断について,そういう観点からの配慮は必要だと思います。しかし,条文上,対象者を性犯罪の被害者に限らなければならないという理由はないと思います。  ついでに事務当局に質問ですが,年齢や心身の状態等の事情を考慮して,圧迫を受けて精神の平穏を著しく害されるおそれがある者,今後の議論のために,例えばどういうタイプの人がいるのかというのは,もう既に出ているかもしれませんけれども,どういう対象者が想定されるかを例示していただければ参考になると思いますが。 ○保坂幹事 適切にお答えできるか分かりませんが,典型的には,性犯罪の被害者のような状態になる人で,罪名自体は必ずしも強姦・強制わいせつではないけれども,例えば罪名は監禁だけれども,性犯罪と同様の被害を受けた方が,公判でしゃべるとすると相当な負担になるというケースはあり得ようかと思いますので,その他の証人予定者としては,典型的にはそういった方が想定されるのではないかと,資料を作った立場としては考えております。 ○小野委員 今の点なのですけれども,事件としては,例えば性犯罪としては立件していないけれども,事実上類似のものがあるという御趣旨で今言われたのでしょうか。 ○保坂幹事 類似のというのか,結局,罪名そのものというよりは,体験した被害をもう一度法廷で主尋問で一からしゃべるときの負担ということですので,必ずしも罪名が性犯罪でなくても,同じように負担になる人というのがここに入ってき得るのではないかという趣旨で御説明いたしました。 ○小野委員 ただ,確かに負担ということでは負担なのかもしれませんけれども,要するにそれはここでは公判廷で話すことの負担,それを事前にやっておくということなのですけれども,結局事前にであっても,やっておくことはやっておくわけですね。それはそれで,もし仮にビデオリンクでやるとすると,必ずしも公開の法廷とはちょっと違う場面が出てくるわけです。その方は,結局またその必要があれば,法廷での反対尋問を受けることに結果的にはなってくるわけです。もちろん,事件によっては反対尋問なしということもあり得るかもしれません。そこは分かりませんけれども,そういう場合に類型的にどこまで広げることができるのかというのは非常に疑問なのですが,今おっしゃったような趣旨だとすると,必ずしもその他の証人予定者というくくりを作っておく必要があるのかどうか,その辺はまだ私にはよく分からないところがあります。 ○酒巻委員 私は,むしろ何で対象者を広げないという発想にいくのかが分からない。性犯罪の被害者は一つの典型例であって,要するにこの制度が想定しているのは,何度も同じ被害体験のような供述を繰り返すことが心身にとって著しい負担になる人ですよね。そういう人について,まずは主尋問に当たるものをしていただいて,その後は繰り返しの尋問に代えるということですから,むしろ制度の趣旨からいえば,同じような状況にある人については同じように適用した方が自然な気がするのですけれども。 ○小野委員 繰り返しを避けようということなのですけれども,結局1回は,だから公判前に1回やるのか,あるいは公判で1回やるのかということでもあるわけですよね。だからそれは,公判で直接主尋問があって反対尋問があるというのと,繰り返しということに必ずしもなるわけではないようにも思うのですけれども,その辺は仕組みとしてよく分からないのです。 ○上冨幹事 繰り返しになるかどうか,繰り返しの必要があるかどうかというのは,公判前整理手続を経た公判段階において,どういう争い方がされるのかによってその事案ごとに変わってくるのだろうと思うのです。ただ,ここで想定されている制度というのは,捜査段階あるいは第1回期日前の段階で,将来の公判を見据えた問題として,どういう証拠を確保しておくことが,将来の公判で証人の負担を減らしながら事実を公判に出していくのにいいかということを予測しながら証拠を収集していく過程なのだろうと思うのです。その上で,公判で証人尋問を最初から請求するのか,それともこの手続によって作成されたビデオを主尋問の代わりに使うのかというのも,これは両方の選択肢が残っているわけで,例えば争い方の結果によって,ビデオを使ってもその負担が実際は減らないような事案であれば,検察官はこれを使わないかもしれないということになるのだろうと思います。その意味で,実際に負担が生じるかどうか,どういう使い方をされるかということとは,この制度自体として組むときには,若干考慮する内容が変わってくるような気がしています。  それと,対象者の問題については,まず性犯罪の被害者のような方が典型であるということと,それから実態としては性犯罪に近いような被害を受けているけれども,起訴された罪名が性犯罪に当たらないという場合,これも典型に近いのだろうと思いますが,もう一つは,性的な意味合いを含むか含まないかに関わらず,例えばその被害状況が非常に凄惨なもので,そのことをもう一度一からしゃべるということの負担をできるだけ減らした方が良いという種類の事件というのはあり得るのだろうと思っていて,その意味で一番の典型例である性犯罪の外側に,必ずしも性犯罪に限らないような事件の被害者でも対象となり得る方はいるのかということで,それも含めた制度設計をしてもいいのではないかと思います。 ○川端分科会長 最終的には反対尋問は保障されるわけですから,こういう具合に対象を広げたとしてもさほど大きなマイナスは生じないように思いますので,これ以上この点は触れなくてよろしいでしょうか。  次へ行きたいと思います。「公開の法廷における証人の氏名等の秘匿」に関し,資料6の5ページの制度概要案を踏まえ,検討課題の(1)に記載されている「対象者(「証人等」)の範囲をどのようにするか。」という論点について,御意見のある方は御発言をお願いいたします。 ○宇藤幹事 ここで挙がっている検討課題の全部ということだと思うのですけれども,まずこういった制度を設けること自体,あるいは証人を対象にすることなのですけれども,証人尋問について氏名等を秘匿するという趣旨を考えてみると,ここで挙がっているような証人についての秘匿を区別する理由は恐らくないでしょう。あと,証人尋問になれば秘匿されるにもかかわらず,それ以外の場合については秘匿されないというのも,不均衡であろうと思います。それと,証人のほかに鑑定人,通訳人若しくは翻訳人等が挙がっておりますが,これらについても恐らく証人と同様,加害行為の対象になり得るということもございますので,少なくとも①の類型の中に含めて考えるということは有益なのであると考えます。通訳人・翻訳人については,鑑定人ほど加害行為の対象となる恐れは大きくないかもしれませんが,可能性がないわけではなく,特に鑑定人と区別する必要はないと思います。 ○小野委員 鑑定人,通訳人,翻訳人がこれに当たるというのはどのような場合が想定されているのかがよく分からないのと,特に②の関係で,鑑定人,通訳人,翻訳人というのがあり得るのか,どうもイメージとして余りよく分からないのですけれども,その辺りはどんなイメージなのか,もうちょっと教えていただきたいのです。 ○保坂幹事 まず通訳人などが典型だと思いますが,通訳の仕方をめぐって組織から加害されるということはあり得るでしょうし,これは確か前に髙橋幹事が,通訳人なども例えば宣誓のときに名前を呼ばないようにするとか,他の手続でも,名前は出てこないようにする,通訳人の名前が出るというのは余りないのかもしれませんけれども,そういう配慮を実務上もしているということでした。名誉とか社会生活の平穏については,通訳人・翻訳人の方についてそういう場合があるかどうかを正に御検討,御議論いただきたいと思います。 ○髙橋幹事 実務上,通訳人の方に法廷で通訳してもらうとき,宣誓の前の人定質問の際に,お名前はこのカードに書いていただいたとおりですねという確認で済ませて,法廷の中で通訳人の名前を明らかにしないという運用を行うことが結構多いです。というのも,通訳人の方の中には,特に外国から来られている人に多いのですが,名前が知られてしまうと,通訳の仕方をめぐって,あるいは,場合によっては傍聴席で見ている人から裁判所側の人間ではないかという目で見られて,被告人に不利な判決が出た場合に,傍聴していた母国の人たち,あるいは傍聴していた人たちから母国に連絡があって,あの通訳人が通訳していたせいでこういう不利な判決になったと考えられて危害を加えられるのではないかと非常に恐れている方がいます。危害だけでなくて,誹謗中傷を受けて社会生活の平穏が害されるということを恐れておられる人もいます。そういう申出をこれまで経験上よく受けておりますので,実務的に公開の法廷でお名前を言わないという取扱いを結構しているところです。 ○川端分科会長 小野委員,そういうことでよろしいでしょうか。イメージとして,今言ったような例があるようですが。 ○小野委員 今でも確かに,証人を含めて,名前をそこで言わないという取扱いが事実上行われていると,それはそれで,そういうケースはあり得るだろうと私も思うわけですけれども,こういう形で法律を定めるまでの必要があるのかどうかということは今一つよく分からない。これは果たして通用する話かどうかは分かりませんが,当事者はもちろん名前も何も分かっているという中で,結局のところ傍聴席とか,そういうところなのだろうと思うのです。名前が分かっては困る人はもちろんあり得るだろうと思うのですけれども,逆に公開法廷でやっていながら匿名性が守られるという中での証言なり何なりということが,果たして責任ある証言と本当になり得るのかということはちょっと懸念があるところでして,確かに当事者が知っているのと傍聴席で分かるのとはちょっと違うでしょう。そのときのその人の意識として果たしてどうなのかというのはちょっと疑問に思う場合があります。これを一つの制度として作るということと,実務の運用でやっているということではおのずと違ってくるわけだろうと思いますので,その辺り,本当に仕組みとして制度として必要なのかどうかということは,もうちょっと慎重に検討した方が良いのではないかという気はします。 ○酒巻委員 小野委員がおっしゃったように,裁判所の訴訟指揮権の発動行使として,かなりのことは条文がなくてもできるのが現状だと思います。私がよく分からなかったのは,運用でできることを制度にして何が悪いのかということです。これが一つです。それからもう一つは,この制度があることによって何か被告人・弁護人の利益が害されるということがあるのですか。これは,正に怖い思いをするかもしれない人々にできる限り真実を法廷で語っていただくため,つまり正確な事実認定や公正な裁判をするという趣旨で作っている制度なので,場合によってはこれは弁護人側の証人にも使えるわけでしょう。何で弁護士会が反対するのか全く理解できないので,説明してくれますか。 ○小野委員 一つは,制度ができると,それは非常に拡大して使われる可能性が出てくる。我々の経験では,人によっては,こういうことを理由にして名前を,当事者は仕方ないけれども,周りの人には知られないということで,言わば勝手なことを言い出すという人が中にはいるわけです。それが組織的な関係の事件であったりすると,逆にそういう人が登場するということがあり得るわけです。そういう意味では,ある意味では,公開法廷で裁判をやっているということは,その人は自分自身の発言にそれなりの責任を持って話してもらうということを担保しているのだろうと思うわけです。そういうことでいうと,問題が生ずることもあり得るだろうということで申し上げているわけです。 ○上冨幹事 この制度を作ることによって法廷に真実が出る方向での力になるという面があれば,これは制度としての導入のメリットだろうと思うわけです。そういう面で,単に運用でできるかどうかだけではなくて,そういうことを制度的に明らかにすることで,より刑事司法に対して協力を得やすくして信頼を高めるという意味で,制度化自体にも意味があるのではないかという気がします。  それから,例えば匿名であるかどうかということと,通訳の正確性あるいは鑑定の内容の合理性といったことは多分余り関係がなくて,法廷でその正確性・合理性を争うなり,あるいは通訳の正確性というのは,誰が訳そうが,間違った訳は間違っていますし,合っている訳は合っているのでしょうから,通訳人の氏名が明らかでないことによって直ちに内容がゆがむといった問題は生じないのではないかと思っています。 ○川端分科会長 では,この点につきましてはこの程度とさせていただいて,次のようにまとめさせていただきます。  この検討事項については,本日も実務上の課題も含めて様々な御意見を頂きましたので,部会への報告に向け,本日の議論を整理させていただきたいと思います。 ○小野委員 今の点ではないのですが,実は前回の項目の中にビデオリンクの拡大というのがあって,今日のものとはちょっと違い,前回の分なのですけれども,同一構内でないほかの裁判所でやる場合について,ちょっと私の方で言い忘れたことがあるので,ちょっと付け加えさせていただきたいのですけれども,よろしいでしょうか。 ○川端分科会長 裁判所以外の場所を含めての話ですよね。では,お願いします。 ○小野委員 他の裁判所構内で行われるビデオリンク方式,こういう証人尋問というのは,前回もちょっと申し上げましたけれども,尋問する側としては,物を示せないとか,非常にいろいろな支障が出てくるということがありますので,そういう意味では反対尋問が事実上制限される場面があり得るということを考えると,両当事者に異議がないということを要件として定めることが必要なのではないか。そういう意見なのですが,前回ちょっと申し忘れてしまって,大変恐縮なのですが,今この場を借りてちょっと申し上げておきたいと思います。 ○川端分科会長 検討課題として,それを付け加えるということでよろしいでしょうか。 ○小野委員 はい。 ○酒巻委員 これは確か,前に神幹事が同趣旨の御提案をされたときに,私はそれは法論理的におかしいという指摘をしたと思います。ビデオリンクをやるかどうかは,証拠調べの方式に関するものであり,これは最終的に裁判所が両当事者の意見を聞いて決定するもの,これが筋です。両当事者に異議がないときしかできないという証拠調べの方式は,そもそも現行法にもないし,要するに制度設計としておかしいと思います。 ○髙橋幹事 私も以前発言したと思うのですが,例えば弁護人の方で物を直接示さないと有効な反対尋問ができないという場合は,そういう意見を言っていただければ,裁判所として,では裁判所構外でのビデオリンクが本当にふさわしいのかどうかということをきちんと考えて判断することになると思います。 ○川端分科会長 「証拠開示制度」の問題に入ります。この検討事項に関しましては,まず第2回会議において検討に至らなかった「公判前整理手続の請求権」と「その他(類型証拠開示の対象拡大)」の二つの検討事項について順次検討を行った上で,「証拠の一覧表の交付」についても,第2回会議での議論を踏まえて,補足的な検討をしていただきたいと思います。  それでは,配布資料の内容を事務当局から説明していただきます。 ○保坂幹事 御説明いたします。資料の7を御覧ください。資料の順番と前後いたしますけれども,議事の順序に従って,3ページの「第2 公判前整理手続の請求権」の方から御説明いたします。この検討事項につきましては,基本構想にあるとおり,考えられる制度の概要としては,「当事者に公判前整理手続に付することの請求権を与えるものとする。」とした上で,制度のたたき台を検討するに当たっての検討課題として2点をお示しいたしております。  1点目は趣旨等でございますけれども,公判前整理手続というのは,充実した公判の審理を継続的,計画的かつ迅速に行うために必要があると認めるときに,事件の争点及び証拠を整理するための公判準備として行うものと位置づけられております。そこで,こうした整理手続の趣旨・目的等の関係も考慮しつつ,当事者に請求権を与えることの趣旨・必要性をどのように考えるのかというのを御検討いただく必要があると思われます。基本構想におきましても,整理手続の運用状況を踏まえた検討を行うものとされておりますので,当事者が整理手続に付するべきであると申し出たけれども,整理手続をされなかった事案というのがどういう事案なのかということを前提として,趣旨・必要性あるいは制度設計を検討する必要があると思われます。また,請求権の効果をどう考えるのかということも検討課題になりますし,その効果いかんにも関わりますけれども,整理手続は公判運営に責任を負う受訴裁判所が主宰して,当事者はそれに協力するものとされていることも踏まえて,当事者に請求権を与えることがこうした整理手続の在り方と整合するかどうかという点も御検討いただく必要があると思います。  2点目の不服申立手続ですけれども,整理手続の請求権の効果とも関連いたしますが,当事者が整理手続に付するように請求したのに,裁判所が整理手続に付さないという決定をした場合,あるいはその逆の場合もありますが,裁判所の決定に不服がある当事者に不服申立を認めるべきかどうか,これを御検討いただく必要があると思います。その検討に当たりましては,訴訟手続全体の遅延の問題が生じないかといった点や,受訴裁判所による整理手続の要否の判断を別の裁判所が覆すことによる問題はないかどうか,こういった点も御検討いただく必要があろうかと思います。  次に「第3 その他(類型証拠開示の対象拡大)」についてでございますが,この事項については,基本構想におきまして,必要に応じその要否及び当否も含めて検討するとされておりますことから,まず前提として必要性,つまり現行の類型証拠開示についてどのような具体的な不都合が生じているのかというのを明らかにした上で,どのような証拠の類型を新たに類型証拠開示の対象とし,被告人側の主張明示前の段階で開示対象とする具体的必要性がどこにあるのか,また類型証拠開示の対象とすることによって生じる問題がないかどうか,これを御検討いただく必要があるかと思われます。  最後に,戻りまして「第1 証拠の一覧表の交付」でございますけれども,こちらは先ほど申し上げましたように,第2回会議における議論を踏まえて,採否の前提となる制度案の内容とすることに特には御異論がなかったと思われるものを「考えられる制度の概要」に加えるとともに,会議で指摘のあった点を検討課題に加えるなどの修文もしております。御参考までに,加えたところについては下線を引いております。  資料の御説明は以上でございます。 ○川端分科会長 まず「公判整理手続の請求権」についての議論を行います。この検討項目につきましては,基本構想において,公判前整理手続の運用状況等も踏まえて,具体的な検討を行うこととされております。そこで,具体的にどのような事例において請求権がないことによる不都合が生じているのかや,そのような事例がどの程度あるのかなどの実情を踏まえて検討を行う必要がありますが,この点について事務当局の方で調査を実施したとのことですので,その結果について説明していただきたいと思います。 ○保坂幹事 資料8に基づいて,御説明いたします。この(注)のところに書いてございますように,この調査というのは検察官から報告があったものをまとめたというものでございまして,もとより検察官が把握した限りのものということになります。  まず,「1」の概要のところにありますとおり,当事者が整理手続の申出を行った事案が全体で71件ありまして,そのうち,被告人側からの申出が61件,当事者の申出があって整理手続に付されなかった事案,(2)のところですけれども,これが25件,そのうち申出が被告人側のみであったというのが23件となっております。  次に「2」の被告人側が申し出て手続に付されなかったという事案についてでございますが,この23件のうち,検察官による任意開示が行われたものが20件,任意開示が行われなかったものが3件ありますが,これは被告人又は弁護人の申出の理由が証拠開示以外のものであったというものと,今後任意開示が予定されているものとなっております。  また,これを公訴事実の争いの有無で分けてみますと,公訴事実に争いがないというものが4件ございます。これは1例を挙げますと,弁護人が三者の打合せの場で,公訴事実は争わないけれども,検察官請求証拠以外の証拠の開示を受けたいという理由で公判前整理手続の申出を行った,そこで検察官は,任意開示に応じるので公判前整理手続に付する必要はないという意見を述べて,任意開示に応じた,それで整理手続に付されずに第1回公判が行われ,ちなみに被告人は公訴事実を認めたという事案などでございます。  他方で,公訴事実に争いのあるものは19件ありますけれども,そのうち,内訳でいうと,争点とか証拠の構造が比較的単純であると思われるものが16件ございまして,この中の2例を申しますと,いわゆる痴漢事件で,弁護人が整理手続の申出をしたものの,三者の打合せで,犯人性が争点になるけれども,検察官の主な立証が被害者の供述のみであることが確認され,検察官は証拠の任意開示に応じて,整理手続に付されずに第1回公判が行われたというものと,自動車運転過失致傷罪の事件で,弁護人が整理手続の申出をし,争点が被害車両の速度だけであって,三者の打合せで,検察官請求証拠の点数が少ないということが確認された上で,検察官が証拠の任意開示に応じて,整理手続に付されずに第1回公判が行われたという事案などでございます。  次に,争点・証拠構造が単純であるというわけではないけれども,打合せによって争点・証拠の整理をしたと思われるものが2件となっております。この中の1例を申しますと,暴行事件で弁護人が整理手続の申出をしました。三者打合せにおいて,弁護人が検察官の主張立証構造が分かる証明予定事実記載書面の提示を求めて,検察官がこれに対応した上で証拠の任意開示も行って,弁護人からも予定主張が明示されて,整理手続に付されずに第1回公判が行われて,その後も三者の打合せが行われているという事案などでございます。  資料あるいは調査の御説明は以上でございます。 ○川端分科会長 今の御説明に対する御質問は,議論の中で適宜行っていただきたいと思います。まず議論に入りたいと思います。検討課題は趣旨等と不服申立手続の二つがありますが,相互に関連しますので,併せて議論を行いたいと思います。それでは,事務当局による調査結果に対する御質問も含めて,御質問,御意見のある方は御発言をお願いいたします。 ○小野委員 今の検察官のアンケートの中で,任意開示が行われたもの20件とあるのですけれども,これは実情としてどの程度の任意開示,これは検察官側からのお答えでしょうから,あれなのですけれども,その辺まで分かってはいるのですか。 ○保坂幹事 一応その点は調べておりまして,20件ございますけれども,飽くまで報告した検察官の認識というベースですけれども,被告人側が開示を希望した証拠は全て開示したものが12件,被告人が開示を希望した証拠のうちから弊害のあるものとか事件と関連性のないものを除いて全て開示したものが4件で,その他それらに当たらないものが4件あるわけです。その4件というのは,被告人側からの具体的な開示の求めを待たずに,検察官の方で,争点に関連するという証拠を先行して開示し,それ以外については特に被告人側から開示の求めがなかったもの,あるいは検察官の方で被告人の主張内容を考慮して,整理手続に付されていたら開示の対象になるだろうと考えられる限度で開示を行ったもの,調査の時点ではまだ開示までには至っていないというもの,開示の求めがあったのを任意開示するかどうかを検討中というものです。したがって,開示しているというのは今申し上げたようなもので,全て開示したものが12件,弊害のあるものや関連性のないものを除いて開示したものが4件で,その他4件という形になっております。 ○酒巻委員 制度の大枠に関することですけれども,公判前整理手続の目的は条文と事務当局が既に説明したとおりで,これは動かさない。証拠開示はその手続目的を達成するための制度として埋め込まれている。元々公判前整理手続というのは,裁判所が主宰して事件の争点と証拠を整理するというものなのですけれども,もちろん当事者の申出によって,最終的には裁判所が決定で実施するかどうかを判断する。そういうところに当事者の請求権というものを設定することについて,どういう法律的な意味があるのか。主として被告人・弁護人側に請求権を与えてほしいという話なのでしょうけれども,与えることでどのような効果があるのか。要するに裁判所に請求権に対する裁判応答義務が発生するだけだろうと思います。そして,今の事務当局の限られた調査ではありますけれども,もし被告人・弁護人側の主たる目的が,公判前整理手続の本来の目的ではなく,その中に埋め込まれている証拠開示をしてほしいということであるとすれば,ほとんどの事案において,整理手続には付さなかったけれども,証拠開示は任意開示で行われているということです。だから,何で請求権があるとよいのかというのが,つまり分からないのです。あってもなくても余り違いがないのではないかという気がするのですけれども,どうなのでしょうかということです。 ○川端分科会長 これは,根本的な問題だと思いますね。 ○小野委員 証拠開示が埋め込まれているというお話なのですけれども,まずその埋め込まれている証拠開示が十全に実現されて初めて防御権行使ということが十分に可能になっていくという構図は,これはもう動かせないだろうと思うのですけれども,結局,実情として公判前整理手続に付する職権発動を求めて,それはしないというケースがもちろんあるわけです。そういうケースで,結局当事者の方でそうしてほしいというそれなりの理由があるわけですけれども,事実上,運用として公判前整理手続に付さないで請求予定証拠が開示されて,任意開示を何度かやっているのは,たくさんの証拠が出てきたという事件などもあって,その場合でも公判前整理手続に付するよう求めたのですけれども,それは必要ないだろうということで,結局そういうことをやりながら更に任意の証拠開示を繰り返し求めていくうちに,最終的に第1回公判で期日間整理手続に付すという決定をしているような事例もあって,裁判所は具体的な開示された証拠そのものは見ていないわけですから,そこの判断については限定されたものにならざるを得ない。  それで今,職権発動を求めるということと請求権があるということでどう違うのかというお話だったのですけれども,制度として,単に職権発動を求めるだけというものと,請求するには請求する側がきちんと請求する理由を明らかにするわけですが,それに対するしかるべき判断と,更に不服申立とも関連してくるわけですけれども,それなりの判断が更にされるという仕組みがないと,現状はなかなか,ある意味では公判前整理手続がやや重いという仕組みが影響しているのかもしれませんけれども,十全に機能していないという声はあるわけです。  先ほどの検察官の調査のように,具体的な数字として私の方で何か把握しているというわけでは必ずしもないわけですけれども,ただ,これは非常に抽象的な数字で,役に立つかどうかは何とも言えませんけれども,例えば司法統計年報などを見ると,平成23年分では,裁判員裁判の終局人員が1,525で,公判前整理手続に付された終局人員が1,893という数字があって,それから期日間整理手続に付された終局人員が262とあって,そうすると,公判前で要するに裁判員裁判ではない事件で370ほどあるようなのです。期日間が260ほどあるという。これだけの件数が行われているわけですが,他方で,否認だからみんな必要かというと必ずしもそうでもないのでしょうけれども,否認事件が全体の中で5,000件ほどあるということにもなっている。否認事件で,実際に公判前整理手続あるいは期日間に付されたものは併せて1,200ほどなのです。もちろんこの数字だけで一概にどうということは言えないと思いますけれども,本来公判前整理手続の中で検察官の証拠構造が明らかにされて,争点整理をしていく,あるいは証拠開示がなされていくということがあってよかったであろう事件が,相当埋もれているのではないか。個別の声などでも,こういう制度になっていると,裁判官・裁判所としては公判前整理手続を避けたがるという方が結構それなりにいるのだとも聞いています。  そういうことでいくと,先ほどの検察官のケースでも,逆に言えば,先ほどのお話を聞いていると,事実上,公判前整理手続と同じようなことをやってしまっているというものもあるようでして,この件数だけでどうこうということをこちらも言うつもりはありませんけれども,争いのあるものでも19件が公判前に付されていないということの実情を考えると,そこのところは証拠開示あるいは証拠構造の明確化と,事実上,公判前に付さないでやっている事件の中では,例えば早い段階で冒頭陳述の要旨のようなものを出させたとか,何かそのような取扱いをしているケースもあるわけで,結局証明予定事実に代わるものということなのだろうと思うのですけれども,そうであれば,きちんと仕組みとしてメリハリを付けて,公判前整理手続の請求権とそれに対する判断としていただく必要があるのではないか。  ちなみに,付け加えると,これは実は期日間整理手続にも当てはまることでして,請求権としては,ここでの課題としては公判前整理手続と書かれているわけですけれども,期日間整理手続についても同様な仕組みが必要なのではないかと考えています。 ○宇藤幹事 今のお話なのですけれども,請求権を認める上で肝心なのは,結局のところ不服申立制度とセットになっているということなのだろうと思います。ただ,その不服申立制度を認めることはどうなのだろうかというところで,私自身は慎重に考えた方が良いのではないかと思います。  公判前整理手続というのは,御存じのとおり,公判における審理・裁判を充実させるために行います。審理等の運営に責任を持つ受訴裁判所が自らの見通しを基に整理手続も主宰するという構造がよろしかろうというわけです。仮に,不服申立により別の裁判所の判断に付されるということになりますと,今申し上げたような趣旨が損なわれることになるのではなかろうかと思います。取り分け,整理手続に付されないことに対する不服申立の結果,整理手続に付されることになっても,その後に当該裁判体による適切な整理が可能かということについては疑問があります。せいぜい考えられるとすれば,不服申立制度ではなく,受訴裁判所に再考を促すという制度にとどめるべきではないでしょうか。 ○髙橋幹事 そもそも公判前整理手続というのは,この手続を利用して公判準備をするのがふさわしいかどうかということを裁判所が判断するわけで,その判断基準は,法律に規定されているとおり,充実した公判の審理を継続的,計画的かつ迅速に行うため必要があると認められるかどうかということです。具体的には,当事者の意見を聞いて,この手続を利用して争点や証拠の整理をする必要があるかどうかということを考えて決めるわけですので,証拠開示だけが目的ではありません。いろいろな事情を総合考慮して決めますので,例えば否認事件であっても,公判前整理手続という手段を使わなくても充実した審理ができると判断すれば,付さないわけですし,例えば弁護人が証拠開示のために公判前整理手続を利用したいというのであれば,法務省の方で調べられたように,検察官による任意開示で弁護側のニーズが満たされれば,公判前整理手続をそもそも利用する必要がなくなるということもあります。公判前整理手続は公判準備のための一つのツールですので,場合によっては三者の打合せで問題を円滑に解決できるのであればそのようにするし,場合によっては第1回公判期日をやった後に期日間整理手続で整理するのがふさわしいという事案もあると思います。その辺りは,裁判所としましては柔軟に当事者の意見を聞きながらやっています。  したがって,弁護士会として,どういうところが問題になっているので,是非請求権を設けてほしいと主張されるのか具体的なニーズをお示ししていただかないと,新たに請求権をと言われても,なかなかこちらとしてもその趣旨・必要性を検討しにくいというところですが。 ○上冨幹事 最終的な採否は別として,この検討課題で挙がっているような項目を意識した議論をしていく必要があると思っています。資料に「請求権を与える趣旨・必要性」と書いてありますが,今までの御意見で出ているように,結局,何のために請求権があって,その請求権があるとどんないいことがあるのかということを意識して今後議論していく必要があると思っています。先ほどの例で,任意の開示をしながらいろいろ事実上の打合せをしていたけれども,最終的には期日間整理になったという事案が仮にあるとして,請求権を与えると,それがなくなるのかどうか,あるいはその事案においてそういう流れがそもそもいけない流れなのかといったことも含めて必要性を考えていくのだろうと思います。  また,不服申立の関係では,先ほど宇藤幹事からもお話がありましたけれども,元々不服申立になじむのかという問題はあって,例えば地裁が公判前整理手続をしたいと言っているのを,高裁がやるなという決定ができる制度というのはどこか変ではないかという気がするわけで,結局不服申立との関係をうまく整理できないと,請求権を認めたこと自体がどういう意味を持つのかということに返ってきてしまうという感じがしていますので,そこも含めてよく検討する必要があるかと思います。 ○酒巻委員 今,上冨幹事のおっしゃった不服申立の観点も含めて,全体の一つの筋だと思うものを申し上げますと,そもそも立法事実として請求権を設定しなければならない,やむにやまれぬ理由があるとは到底思えない,その問題がある。仮に請求権という法律的な制度を設けると,裁判所に応答義務が発生する。請求があると必ず公判前整理手続に付すか付さないかを決定する。裁判する。しないものについても,するというものについても,決定をする。すると今度はこの決定に対して不服申立制度をそもそも設定するかどうかという問題がある。  これは判決前にした決定だから,即時抗告の途を設けない限りは不服申立は無しなのですけれども,それが必要かどうか。そのとき即時抗告で問題を解決処理しておかないと後々大変なことになる,救済が難しいという場合について刑事訴訟法は即時抗告を設けているのですが,公判前整理手続をするかしないかという話が,何か決定的に将来の判決に向けてその場で解決しなければいけない問題か。そんなことはないだろう。そもそも第1回公判期日前の争点・証拠の整理というのは,公判前整理手続があろうがなかろうが,ない場合には事前準備という従来からある仕組みが働いて,相互に当事者が準備して,先ほど上冨幹事あるいは小野委員がおっしゃったように,任意開示が行われたりしているうちに争点や証拠が整理されてゆくでしょう。事前準備の段階は流動的ですから,その都度その都度状況は変わってくるわけで,状況によっては,裁判所が両当事者の意見を聞いて,やはり公判前整理手続をやりましょうかという場合もあるし,ひとまず第1回公判期日をやってからまた両方が話し合って,期日間整理をしましょうかということで,柔軟に動いていくというのが現在の制度の想定であり作動の実際です。このような柔軟な運用こそが命の部分に対して請求権というのを突っ込むと,裁判所が両当事者の準備状況いかんにかかわらずやるかやらないかの決定をしなければならん。今度は不服申立なのですけれども,これを設けるとかえって,先ほど言ったように,上の裁判所が実際の審理を担当する裁判所と違う判断をしてこうしろと言われても,私が裁判官だったら,困惑するだけであろうと思うのです。この先第一審裁判を主宰する裁判所がやらないと言っているのに高裁からやれと言われたり,やると言っているのにやるなと言われるという,それ自体が非常に奇妙な制度になる。  このような必要性の欠如と数々の不都合・非効率・硬直性に鑑みれば,不服申立を設けない,即時抗告はできないということにするのがもっとも合理的でしょう。不服申立を許さないのであれば,公判前整理手続請求を退ける裁判に理由を付す必要はないということになるはずだろう。結局,請求権を設けるということは,それだけのことで何の意味もない。現在の制度の中で今言ったような柔軟な形で運用していけば,両当事者の目的は達せられるのであろうと思います。逆に,請求権を作って,更に不服申立制度も設けるということにしますと,私の見通しでは,公判前整理手続あるいは第1回公判期日前の手続が一層無意味に遅延する結果に終わるだろうと思います。何の益もなく有害なだけだからやめた方がよろしかろうというのが私の意見です。 ○小野委員 遅延するかどうかということについては,公判前整理手続に付するか付さないかということについての判断ですから,そのことで延々と何かやるということは,ちょっとそういう場面は想定できないので,そのことによって遅延するということは考えられないのではないかと思っております。  逆に,今のような仕組みでやっていったときにかえって,先ほど申し上げたように,ずるずるとやっていってしまう。挙げ句の果てに期日間整理手続に付するような結果になってしまうということが現実に遅延を招いているというのが実情なのではないかというのが,私どもの認識であるわけです。  改めて言うまでもないわけですけれども,類型証拠開示があって,それで予定主張があって,それでまた主張関連証拠開示があってということと,立証制限などが付されている。こういう仕組みが今の公判前整理手続の仕組みであるわけですから,この仕組みを採用するのかどうかということが充実した公判になるかならないかというために,これを入れたわけです。そうだとすると,当事者がここでそういう必要性があると,特に防御の観点からその仕組みでやってもらいたいと言っているときに,言ってみれば,生の証拠を見ていない裁判所の裁定で全部決めるというものであるよりも,当事者の請求権というのがあって,更に不服申立という仕組みと一緒になった制度というのはやはり必要なのではないだろうかと思っているわけです。  例えば裁判員の区分審理などについては,これも請求あるいは職権,そして不服申立という仕組みができたりしているわけですけれども,この公判前についても,そういう仕組みがあることによって,進むものはとっとと進むということに当然なっていくだろうと。今のままだと,結局ずるずると,事件の見通しについても,今のような仕組みのままだと,例えばこの事件は4回ぐらいで全部終わるのですと発言される裁判官もおられるわけです。それは起訴状だけを見てそのようにお考えなのかもしれないのだけれども,当事者からいろいろ話を聞き,証拠を調べ,言っているそのものが「いやいや,それはそんなものではとても無理です」と言ったところで全くの水掛け論で,結局裁判所が「では,こうします」と言われて,それっきりということになっているわけです。言ってみれば,そういうところで仕組みを変えることによって全体の運用は当然変わっていくだろうというところにポイントがあるかと思っています。 ○川端分科会長 髙橋幹事の先ほどの御質問に対する回答として,今の御説明でよろしいですか。 ○髙橋幹事 具体的なニーズといえるかですが,ひとまずは。 ○上冨幹事 今,区分審理については即時抗告の制度があるという御指摘があったのですけれども,多分違うのだろうと思っていて,区分審理については,本来区分してはいけないものを区分してしまうと,防御あるいは立証に支障が生じるという,正に中身の問題で不都合が生じる。あるいは逆に,区分すべきものをしないと,裁判員の負担が加重になって,審理がきちんとできなくなるといった性格のものなので,その段階で解決しておくべきものとして即時抗告の制度が設けられているのではないかと思います。公判前整理手続については,その審理を充実・迅速に行うという目的のためにその手続をやるかどうかという話であって,例えば公判前整理手続をしなければ,主張立証の制限もないし,証拠調べ請求もできて,一方,必要な証拠が任意に開示されるのであれば,その判断の内容そのものについて即時抗告でその段階で解決しなければいけないという問題状況は多分ない,あるいはかなり問題状況が違うということなのだと思います。したがって,区分審理について即時抗告があるから,こちらにも当然あっていいという関係にはないのではないかと思いました。 ○川端分科会長 「公判前整理手続の請求権」についての検討は,ひとまずこれまでとさせていただきます。それでは,次のとおりまとめさせていただきます。  この検討項目については,請求権の付与に積極的な御意見があった一方で,必要性があると言えるか,整理手続の目的と整合するか,不服申立手続を設けて上級審が判断を覆すことの不合理性や,手続全体が遅延するおそれがあるなどの御指摘もありました。今後は,これらの議論を踏まえて,たたき台となるべき案の策定に向けて,更に詰めた検討を行っていくことになろうかと思われます。  次に,「その他(類型証拠開示の対象拡大)」についての議論に入っていきます。このテーマは,基本構想では,分科会において必要に応じ検討するとされておりますので,まず検討項目の一つ目の○として挙げている必要性に関して御発言いただき,それに対する疑問や類型証拠に加えることの問題点があれば御発言いただくという形で進めていきたいと思います。御発言のある方,お願いいたします。 ○小野委員 類型については,私の方で提出した案,今日の資料でいうと,参考資料の7ページの終わりから8ページ,9ページに当たるところですが,一つは6号で,どれが6号に当たるかという点ではちょっと解釈に争いがあるという状況になっておりまして,直接事実を知覚したわけではない者についての捜査報告書というものは,今の解釈では,高裁の判決では否定されている。ただ,実際にこれを求めたときに任意開示されるというケースはどうもあるようですけれども,検察官の請求証拠の証明力判断のために重要なケースというのがこの中であるわけですから,一応類型としては,それはそれとして類型に当たるということを明らかにしておく必要はあるのではないか。その上で個別の相当性などは別途判断されればいいわけですから,それ自体としては類型の中に入れておくことを明示するべきではないだろうかと考えています。  それから,8号,取調べ状況記録書面,これは被告人以外の者の取調べ状況記録書面自体が類型として必要であるという場合はあるわけですから,被告人に限るというものではないのだろうと思っています。  それから,証拠物の関連での証拠物の押収経過に関する捜査報告書といった類いのものです。これは,請求証拠の中に証拠物があれば,その押収経過に関する報告書,請求証拠の中に証拠物がなければ,類型としての証拠物はあるわけなので,その証拠物プラス今言った押収経過といったものを類型として明定しておく必要があるのではないだろうかと,以上,取りあえず言っておきます。 ○川端分科会長 今の点について御意見のある方,御発言をお願いします。 ○上冨幹事 まず6号の関係ですけれども,6号がこういう形で規定している趣旨というのは,一般的に言えば,供述録取書というのは,ほかに挙がっている証拠物のようなものと比べれば類型的に信用性が高いとは言えないものだし,供述ですから,罪証隠滅のおそれも否定はできないという性質を持っていて,そういうものであるけれども,特に開示の必要性が高い類型については,主張明示の前に類型として開示していくという形で6号を挙げているのではないかと思います。  そういう趣旨で6号を見たときに,先ほどおっしゃった,供述者自身は直接体験した事実でない内容,これは証拠能力の問題ではないので,それを伝聞という必要はないわけですけれども,証拠能力の問題とは別に,そういう直接体験した事実でない供述内容というのは,供述録取書に書かれているものの中でも,一般的にはその信用性は低い,少なくとも類型的には信用性が低いというカテゴリーになるのだと思います。こういう6号の規定が,316条の14で定められている供述録取書という概念を引いてきて,あえてこういう書き方をしているという趣旨からすれば,恐らく高等裁判所の裁判例で言われているような解釈が妥当なのでしょうし,主張関連証拠として開示される可能性も含めて考えたときに,新たに類型としてあえて加えなければいけないということが言えるのかどうかというところに問題の焦点があって,そこで必要性をどこまで考えられるのかという問題なのかと思います。 ○酒巻委員 基本構想は,現在の証拠開示制度の2段階構造は維持した上で必要があれば検討するということだったと思いますが,それを前提にすると,小野委員の御提案されたものは全て,主張を明示され,それに関連があれば,2段階目のところで開示の対象になり得るものであろうと思います。  それから,1段階目の類型証拠というのは,まず大前提として「類型性」というものがございますので,立法者は多分今,上冨幹事がおっしゃったようなことをお考えになって条文を設定したのだろうと思います。ですから,御提言のあったものは,そういう観点から言うと,立法理由の類型性にはなかなかはまりにくいけれども,しかし全体として主張を交換し,特に弁護人側が具体的な主張をされた場合には,主張関連証拠として開示がなされるであろうと思われます。したがって,現行法の制度の下では,あえてこれらの文言を挿入する必要性は乏しいのではないかという気がいたします。 ○小野委員 確かに主張関連で出てくるということはあり得るのだと思うのです。ただ,2段階構造をとっているわけですから,類型のところで防御権あるいは主張はどのようになるのかということの前提として,検察官の請求証拠の証明力判断というところで必要なのかどうかということが正に問題となるのだろうと思うわけです。そのときに,先ほど申し上げましたような6号のそういった,便宜上伝聞と言いますけれども,それらの含まれたものが,それこそ類型的に信用性が低いというわけではもちろんないわけでありまして,それなりの捜査をして聴取しているわけでしょうから,いい加減なものを作っているわけでは当然ないわけです。そういったものが本来の供述書ではなくて捜査報告書という形で作られているという実務があって,その中でこのところは主張関連でなければ出てこないというのもおかしな話で,本来的に類型として対象とされてしかるべきものが含まれている。その後,更にそれについての先ほどの弊害その他があれば,それはそれで別途判断されるわけですから,むしろそこのところは当然類型として入れてしかるべきだろうと思います。 ○岩尾幹事 1点質問なのですけれども,1号や9号で加えられている,証拠物が押収された経過に関する供述を内容とする供述録取書等というのが,一体どこまでの範囲を想定して御提案されているのかというところをお教えいただきたい。証拠物を押収した場合には,当然,任意提出という形で捜査機関が取得したものについては任意提出書と領置調書が,あるいは差押えという形で押さえたものについては捜索差押調書が付いてくる。そういう意味で,それ自体が押収された直接の経過を示す供述録取書等になると思うのですけれども,「経過に関する供述を内容とする供述録取書等」とは,それを超えて何か広がり得る概念なのかどうかというところを御説明いただきたいと思います。 ○小野委員 こちらの方で考えたのは,言わば証拠物の関連性がどうなっているのかということは当然付いて回るものだと思うわけです。ですから,今おっしゃったような任提・領置あるいは押収というところが,類型的にくっ付いていていいのだろうという趣旨です。 ○岩尾幹事 そうすると,その範囲のものということですね。 ○小野委員 はい。 ○酒巻委員 やはり御提案に関係するところで,8号について。これは,趣旨はよく分かるのですけれども,類型証拠として被告人自身の取調べ状況と,それから被告人以外の者の供述録取書に関するものは,そもそも弊害のおそれ等の観点で類型としては違うと思いますので,これを被告人以外の者にまで広げるのは,制度の基本,立法者の趣旨からは外れるのではないかという気がいたしますが。 ○小野委員 弊害等の関係で類型的に違うということは,ちょっと私は,すみません,よく分からないのですけれども。 ○酒巻委員 被告人本人が調べられた取調べ状況と,被告人ではない多方面に及ぶ人々についての取調べ状況とは,これは第三者ですから,当然違うのではないですか。 ○小野委員 だから,弊害ということで何がどう違うのかということです。ですから,要するに被告人の記録書面というのは,それは被告人自身がそれなりに分かっている。他方で,そうでない人の供述の状況については全く分からないわけですから,それはもちろん取調べ状況記録書面自身が何か弊害があるのかどうか,今いちよく分かりませんけれども,それが類型的に存在してどういけないのかがよく分からないのですが。 ○上冨幹事 参考人であれば,被告人の供述調書とは違って,供述調書を不同意にして証人尋問することで,本来は調書自体は証拠能力を失うのであり,元々の供述調書の証拠能力という位置付けが全然違うものについて,なぜ被告人と同じようにしなければいけないのかというのが一つは分かりにくいのです。また,同じように証人として請求される人がたまたま捜査段階で別件も含めて身柄拘束を受けているときに,それは共犯者である場合もあるでしょうし,純然たる参考人としての供述かもしれませんが,いずれにしても身柄拘束を受けているという場合であるために,記録書面があるときだけ,それが一般的・類型的に開示されなければいけない類型なのかというのがもう一つ分かりにくいような気がしています。本当に個別に必要性があるのであれば,正に取調べ状況が争点になって,主張関連証拠として開示されるわけですが,なぜそれでは足りなくて,類型開示の対象にするのかというところが問題なのかなという気がいたします。 ○小野委員 記録書面がないケースももちろんあるでしょうから,それはそれでないのでしょうから,それはいいのだろうと思うのですけれども,供述録取書が類型あるいは証人請求証拠あるいはこの類型の該当するものが出てくるというときには,それに伴ってどういう状況でそれが作成されているのかということは,むしろ類型的に証拠の証明力判断のために必要なのだと普通に単純に考えているわけで,逆にそれほどややこしい話なのかという気がするのですけれども。 ○保坂幹事 私の方から1点質問なのですが,証拠物の押収経過に関する話です。検察官が証拠物を証拠請求しているという場合に,それに併せてその関連性が分かるものというのが証拠請求されていない,開示もされていないという事態を多分前提として,検察官請求証拠である証拠物の押収経過という提案をされていると思うのですが,その押収経過に意味があるものは,検察官が証拠物と併せて,例えば凶器の包丁であれば任提・領置あるいは統合報告書かもしれませんけれども,どこから押さえてきたのかといったことは通常証拠請求しているのではないかと思うのです。小野委員の御認識として,証拠物の関連性に意味があるものなのに,検察官が押収経過が分かるものを証拠請求していないということが,実態として起きているのかどうかということを教えていただければと思います。 ○小野委員 それが正に起きていて,だからこそ,つまりどこからどう持ってきたのかというのが分からないものがあるわけです。だからこそ,つまり,今のお話だと,正にそうなのですけれども,類型的に事実上一体なのだということで運用されるべきものであるとすれば,それは証拠物の請求をする,あるいは請求がないときの証拠物類型請求というところにくっ付いていてむしろ当然なのではないかと思うのですけれども,それがないケースもあるわけです,実際に。 ○保坂幹事 証拠物を請求しながら出元を検察官が全く立証しようとしないというのは,カテゴリーとして,どういうものがあるのですか。例えば証拠物たる書面のような,その意味内容に力点があるものは,どこから持ってこようが余り関係がないので,押収経過は立証しないということはあるかもしれませんが,どこから持ってきたかに意味がある証拠物なのに,それをどこから持ってきたかを検察官が立証しないというケースというのは,どういうカテゴリーのケースでそういうことが起きているのでしょうか。 ○小野委員 すみません,どういうカテゴリーかとお尋ねになられると,私は今ここではよく分からないのですけれども。 ○保坂幹事 凶器的なものとか,あるいは違法薬物なのか,文書的なものなのかということで結構なのですけれども。 ○小野委員 ちょっと勉強してきます。 ○川端分科会長 それでは,「その他(類型証拠開示の対象拡大)」についての検討は,ひとまずここで終わりとさせていただきたいと思います。  この検討項目については,類型証拠開示の対象拡大について積極的な御意見があった一方で,必要性・相当性に疑問があるなどの御指摘もありましたので,必要に応じて,今後更に検討を行っていくことになろうかと思われます。  こういう形でまとめさせていただきます。  次に,「証拠の一覧表の交付」についての議論に移ります。この検討事項については,第2回会議でも活発な御議論を頂いたところですが,部会への報告をより充実したものにするため,第2回会議の終盤で議論となった資料の検討課題5の証拠の標目の記載の在り方を中心に,補足的な検討を行いたいと思います。この点は,一覧表を交付する趣旨・必要性や現行証拠開示制度との整合性など,検討課題全般に関連することから,そのような観点をも踏まえて御議論をしていただきたいと思います。  それでは,御意見のある方,御発言をお願いいたします。 ○小野委員 ここで考えておりますのは,証拠の標目について,内容とか要旨にはわたらない,ただ,それがどういう証拠であるかということの区分けができる程度のものというのは必要なのだろうと考えております。証拠物であれば,そもそも何なのかということは当然なのですけれども,それをいつどこで入手したのかという記載は必要なのだろうと思います。  それから,供述調書などについては,作成日と供述者ということでいいのではないかと思います。  それから,鑑定などについては,鑑定をした作成日と作成者と鑑定対象,何を鑑定したのか,どういうことを鑑定したのか,例えば毛髪のDNA型を鑑定したなら鑑定したということなのだろうと思います。  実況見分などについては,その作成者と作成日,そして見分対象,例えばどこの6畳間の何とかの実況見分調書といった記載が考えられます。  捜査報告書については,作成日と作成者ということになると思いますけれども,具体的な捜査報告の中身が,どういうことを報告したのか,例えば鑑定結果の報告であるという類いのことになるのであろうと考えています。前回もちょっとこの辺は申し上げましたけれども,例えばどこそこにおける鑑識活動経過であるとか,そういった類いの標目を記載するということになるのではないかと考えています。 ○上冨幹事 記載事項としてどこまでのことを書くかというのは,個別に議論していかなければいけないことなのだろうとは思いますけれども,その際には一義的に裁量の余地なく決められるということが必要なのだろうと思うのです。その上で,これも更に議論することなのでしょうけれども,例えば採取場所とか見分場所といったものについてもどの範囲で書いていくのかというのは,実際にリストを作ることになった場合には,そのリストを作る立場からすると,それなりに裁量の余地がある話で,あるいは捜査報告書のようなものになってくると,同じ捜査報告書という標題で,その中身を識別可能なものとするという意味でどこまでのことが記載として必要なのかということは,一定の裁量が生じる得るものなのではないかという気がします。  この裁量が生じる記載になってしまうことの問題は,後に不要な争いのもとになりかねないということと,同時に,リストを作る捜査機関にとっての負担の程度,逆に言えば,元々そのリストを作る目的やメリットがどこにあって,その目的やメリットとの関係で要する労力が見合ったものになっているのかということも含めて具体的に検討していかなければいけないと思っていますので,今後の検討の視点として申し上げておきます。 ○島根幹事 一覧表の記載事項の関係です。今,小野委員から具体的な項目についてお話がありました。一つ気になったのは,捜査報告書で何についてどのような内容かというのがある程度分からないと,他との識別ができないだろうといったお話がありましたけれども,その内容が,客観的な,例えばどこどこの現場を見たとかというものならばまだいいのですけれども,例えば,ある人の話した内容について報告するといった中身などになってきますと,こういう人間が警察に何かを話したのだということが分かるということで,供述者に対する働き掛けということも起こり得るということもあります。そういった事項については必要な配慮をしなければいけないと考えておりますので,私は個人的には,かなり形式的な内容にとどめるべきなのではないかと考えております。 ○酒巻委員 お三方のお話を聞いていて,「識別するに足りる」というのは条文の言葉でもあったと思いますけれども,標目を作る方としてはできる限り裁量の余地のない形で作れて,識別するに足りるような,例えば捜査報告書をどうやって書けばいいのだろうというのが全然分かりません。識別するに足りるけれども,余り裁量の余地がなく書けるということがあるのですかという質問ですが,誰が答えてくれるのか,よく分かりませんが。 ○上冨幹事 リストを作る目的によるのだろうと思うのです。私は,開示を請求する側が,この証拠はこういう内容のはずだからこれを開示してくれというところまで言える必要は本来なくて,こういうカテゴリーの証拠があったら,それは洗いざらい開示してくれという請求をすれば,検察官の方で探してきちんとチェックをして開示するという仕組みが元々あって,それにプラスアルファのツールとしてリストを作るという位置付けなのだと思っているのです。だとすると,「識別するに足りる」というところを余り固く作る必要は元々ないし,それを追及していけばいくほど,今,酒巻委員がおっしゃったように,現実に無理なのではないかという方向に行ってしまうような気がします。結局,制度趣旨をどこに位置付けるかということではないかと思います。 ○小野委員 今言われた,一定のカテゴリーの捜査報告書ということで開示を求めたとして,現実的にはそれは識別が足りていないということで開示されないのが実際なわけで,それで開示されるということになると,ワーッとみんな出てくるということになるのでしょうけれども,そうはなっていないわけです。当然,それでは識別が足りないと。その識別のための手掛かり,つまりこちらの方が証拠開示に当たって識別をきちんとして類型証拠請求するという場合の手掛かりとなるようなものということを申し上げているわけです。  その場合に,例えば捜査報告書で誰それに対する聞取り捜査報告書ということがあるとすると,そのリストには誰それという名前が出てくる。ただ,問題となるのは,仮にそれが誰それに聞いたということ自体が問題だと,つまり,弊害との関係で,誰それからの供述があること自体,これが分かってもらっては困るというケースはあり得るのではないかと思っています。ただ,リストとしては,誰それに対する聞取り捜査報告書というリストがあって,しかし,そのリストを交付するに当たって,例えばその部分はちょっとまずいということで墨塗りをするという取扱いがあり得るのかもしれない。ただ,それはもちろん,誰それのところは墨塗りされて,誰に対する聞取り捜査報告書というところだけが分かるというものになるのかもしれません。そのときに,こちらが,こういう人間があり得るということで,どこまでそれを識別できているかということは問題はありますけれども,開示請求をするときに,開示請求に当たっては,それは弊害があるから駄目だということは当然取扱いとしてはあり得るのだろうと思うのです。そういうことで言うと,今言った程度の捜査報告書の標目としては,ある意味では比較的機械的に書くことができるのではないかと思っているわけです。 ○上冨幹事 非常に細かい話で恐縮なのですけれども,例えば捜査報告書などを考えると,必ずしも一つの内容が書いてあるわけではなくて,聞取り捜査報告書にしても,複数の人間の聞取り結果が書いてあったり,あるいは聞取り結果と,そのとき聞取り場所で捜査官が気づいたことが加えて書いてあったりとか,基本的に非常に不定型なものだと思うのです。標題を書けばいいということであれば一義的なのですけれども,内容について書かなければいけないとなると,では主要な部分以外は「等」と書けば全ていいのかという点が問題となるのです。多分実務的にはそういうところが非常に問題で,「等」と書いてあるのでは識別としては意味がないから,網羅的に書かなければいけないという方向に傾くでしょうから,「識別可能」ということに完全性を求めると,多分実務的には作りようがないということになってしまうような気がしていて,そこが問題なのではないかという気がします。 ○小野委員 内容的に網羅的に書かなければいけないというところまで考えているわけではないのですけれども,もちろん捜査報告書にはいろいろなものが含まれているということでいえば,ある意味では,やや混然一体となった報告書もあり得るのだろうと思うのですけれども,ただ,それを大きな枠でくくるということは当然できるわけで,どういう関連のことに関する捜査報告書かということは,言わば一くくりにできることということは当然どのような報告についてもあるだろうと思うのです。それは捜査する側にとっても,一体手元にどれだけの証拠が集められて,どういう形でこれを捜査上分析して検討していくのかということを考える場合に,自分の手元に集まった証拠,いろいろなところからいろいろな捜査官が作って集めてきた報告書が送られてくるというものには何がどのようにあるのかということは当然捜査上も分かっていないと,捜査を進められないのではないかと,私は捜査をしたことがないのでよく分からないのですけれども,普通に考えて,捜査官自身が全体を把握して捜査されることになるのだろうと思うのです。そういったものは,ただ漠然とポンと捜査報告書がずっと20も30も並んでいたところで,それだけでは一体どういうものがあるのか分からないだろう。そういうものがどういう類いのものかというのが分かる標目というのはむしろあって当然なのではないかとも思うのですけれども,その辺はちょっと私は実際の現場が分からないというところもあります。 ○上冨幹事 最後に申し上げますが,捜査機関あるいは捜査官が,自分が捜査状況を把握するという問題と,リストとして弁護人の便宜のために開示するということは違っていて,結局リストの記載の正確性とか完全性とかいうことが後で証拠開示にとってミスリードしたと言われてしまうと,後でそのような指摘を受けるリスクというのがある中で,裁量的な判断を伴う記載事項というものを伴ったリストを作るというのは,相当難しい制度になるのではないかと思います。 ○川端分科会長 今,記載事項に関して議論が終始しておりますが,それ以外にもこの一覧表に関して御意見等がございましたら,御発言をお願いします。 ○宇藤幹事 検討課題の趣旨等のところなのですけれども,一番初めに「一覧表を交付する趣旨・目的」と出てきているのですが,本日ここでのお話を伺っておりますと,最後の「証拠管理等」ということには,余り議論が及んでいないように思います。その上で,どちらかと言えば,真ん中の「証拠開示をめぐる争いの解消」という点に検討の中心があるとの印象も受けるのですが,いかがでしょうか。 ○小野委員 いや,むしろ,例えば類型証拠開示請求をするときに,結局,捜査の状況などはある程度分かっても,実際のところは分からない。こんな捜査もしていた,あんな捜査もしていた,こんなこともあったと。それらのものの中に請求証拠の証明力判断に重要なものというのがあるとして,どこにどういうものがあり得るかということをいろいろ想像してもなかなかそれは分からない場合が実際にあるわけです。  それと,例えばある類型証拠開示請求をして,出てきたものがある。それを見て,なるほど,こういうこともあり得るのか,あれもあり得るのかということが,弁護人にとってだんだん分かってくる。つまり,類型を繰り返していく中で出てくるもので,これもあるのか,こういうのもあるのかということが分かっていくという過程があるわけです。その間相当の期間が掛かってしまうわけで,そういうときに,一応リストがあって,標目の問題はあるのでしょうけれども,こういう捜査がこういうところで行われているのだということが分かれば,もちろん必要なものについて,これが証明力判断に必要だと考えれば,これとこれについての類型証拠開示請求をするということなのだろうと思うのです。今のように,言ってみれば類型などが五月雨式に出てきたりする,あるいはこちらの方で識別がきちんとできていないと,それは不存在という回答になって返ってくるわけです。今度は識別を変えれば,違う識別をいろいろ工夫して考えて請求すると,それも出てくるというのが実情なので,そういうことで結構,それは争いのある事件ということになるわけですけれども,類型の段階でそれなりの期間を要してしまうということがあるわけで,そういうことでいうと,そのリストによって,それを手掛かりとしてどういう類型証拠開示請求ができるのかということのツールといいますか,そういうことが我々にとっては非常に大きいのだろうと思うのです。  証拠開示をめぐる争いの解消などというのは,その結果副次的にそういう効果があり得るかもしれませんが,一番の問題は,そちらの便宜という言い方が良いのかどうかは別にして,こちらがいろいろ想像をめぐらして請求をするための手掛かりと考えています。 ○上冨幹事 制度の趣旨について言えば,私も基本的には,証拠開示という手続を円滑あるいは速くやるための一つの道具というかツールとして位置付けるのが基本でいいのではないかと思います。その具体的な現れが小野委員がおっしゃることと同じかどうかは別としても,基本的な趣旨はそういうものなのかと思います。  他方で,証拠開示に関する争いが,ではリストがあればなくなるかというと,リストに載っていないとしても,今の制度を維持する以上は,弁護人は,こういうものがあれば開示してくれということは当然言えるわけでしょうし,そうすれば検察官は開示したリストに載っているものであろうとあるまいと,捜査機関が持っている証拠をもう一度点検して,該当するものは開示するという仕組みになっているわけです。あるいはその上で不存在という回答をしても,弁護人が「いや,あるはずだ」ということで裁定申立てをすれば,やはり裁判所はリストに書いてあるかどうかは別として判断せざるを得ないというのは,今の仕組みを維持する以上は当然残る話で,争いが事実上減る面があるかというと,あるのかもしれませんが,制度趣旨の中心に据えるほどのことはないという感じがします。 ○酒巻委員 質問というか,感想ですけれども,何度もおっしゃる,あれこれ想像をめぐらさないとできない,あるいは想像することもできないことが,リストといっても「識別するに足りる」の内容にもよりますが,そういうリストを眺めると突如として何事かができるようになるのですか。 ○小野委員 それは,よりできるのではないでしょうか。類型請求というのは結構厳しい作業です。一般的なごく当たり前の事件であれば,それほどややこしいことはないわけでしょうけれども,思いもよらないところで捜査があった,あるいは全く違うところでこういうことがあったということがどこかで関連してくるということも当然あるわけで,こちらは捜査の現場にいないわけですから,どういう捜査が行われているかということについては全く分からない。分かるのは今のところ請求証拠だけ。さらには,どこかで類型証拠開示請求をやっていれば類型の出てきているものだけ,あるいは関係者からこちらが聞き取るということなのだろうと思うのですけれども,それは,リストによって,識別にもよりますけれども,格段に違うということには当然なるのだろうと思います。そういうことで,もちろんリストに漏れているものは当然あり得るわけで,それは更に追加のリストということになるかもしれませんし,リストに載らないけれども,存在するものはあり得るでしょう。それはそれでまた別途,それは物事には限界というのはありますから,載らないものは載らないもので,別途そういうことがあれば,思い付けば,開示請求することもあるのでしょうけれども。 ○島根幹事 先ほど,そもそも捜査の現場にいないからどんな捜査を行われたか自体分からないというお話もあったのですが,結局のところこの証拠開示の問題というのは,要するに争点との関係でその証拠がどういう意味を持ってくるかというところがポイントになってくるだろうと思いますので,余り争点や証拠構造と離れた形で,何か捜査で一体どんなことが行われたのかというのをこのリストによって表そうとするというのは話としては違う次元の問題かと思っております。そういう意味で,正に今の検察官が主張しようとしている事実に対して果たしてどうなのかという,今の構造の中身で考えると,先ほどの開示の趣旨,それから実際上は記載事項にもつながってくるのですけれども,おのずと限定というか,範囲というのが出てくるかと考えております。 ○川端分科会長 今,記載事項に関連して,記載の仕方に重点が置かれているようですが,それ以外に何か論点に関連して御意見がございましたら,御発言をお願いいたします。 ○小野委員 ですから,今申し上げたような趣旨で言うと,ほかの論点で言えば,類型証拠の前にリストがあるということでこちら側としては考えております。あとはこの論点で言うと,公判前整理手続に付された事件を前提としつつ,限定するべきかどうかということについては,公判前整理手続に付されて,それで類型・主張関連といく段階的な構造の中では,これは限定する必要はないだろうと考えています。 ○上冨幹事 今のどの範囲の事件で作るかということについては,必要性がある場合に作るというのが制度としてのあるべき姿なのだろうと思っています。特に公判前整理手続については,裁判員裁判の場合には必要的になっていて,実際にはいわゆる争点がほとんどないようなものも必要的になるわけで,その場合に,全ての事件について,この識別に足る事項をどこまで書くかにもよりますけれども,それなりの労力を掛けたリストを必ず作らなければいけないのか。それも,時期も含めて,結果として使われないようなリストを作るようなことが必要的なのかということは,今後の論点としては残るのだろうと思います。 ○小野委員 ここの枠組みは,一覧表の交付というのは被告人側からの請求によるわけですから,その請求などしなくても分かるような事件はもちろんたくさんあって,言わばこちら側というか,弁護側からも,いちいちそんな請求をする必要のない事件がたくさんあるだろうと思うのです。ですから,そういう意味では,何も全部について作れと言っているわけではなくて,そういう請求があればということで,絞られていると言えば絞られているのだろうと思います。 ○川端分科会長 小野委員はほかにもいろいろ出されているようなのですが,ほかに何か御意見がございましたらお伺いしたいと思います。これで証拠開示制度の問題を終わりたいと思いますので,もしございましたら御発言をお願いします。 ○小野委員 一応これまでの中で,ちょっと明確に切り分けてお話をしなかったかもしれませんが,一通りのことは申し上げたつもりです。 ○川端分科会長 それでは,「証拠の一覧表の交付」についての検討はこれで終わりまして,「証拠開示制度」についての今までの議論をまとめさせていただきます。  「証拠の一覧表の交付」の問題ですが,この検討項目に関し,本日は特にどのような証拠についてどのような事項を記載することとするのかといった点について,一覧表の趣旨,必要性,実務上の問題として裁量の余地が生ずることの相当性の観点から,それぞれ異なる御意見,御指摘がありました。今後は,本日の議論も踏まえて,部会での再検討のたたき台となる諸制度について,更に詰めた検討を行っていくことになろうかと思われます。  こういう形でまとめさせていただきます。  「証拠開示制度」についての検討はひとまずここまでとさせていただきます。  本日までの4回の会議を通じ,当分科会において検討すべき事項について一通りの議論を行うことができました。更に詰めた検討が必要な検討事項も少なくありませんが,他方で一定程度の意見の一致を見た検討事項もあり,おおむね各事項について今後の検討の中心となる課題が明らかになったのではないかと思われます。  今後は,今月14日に開催が予定されている部会への報告のため,本日の議論も含め,これまでの当分科会での議論も踏まえ,本日の議論で用いた資料6や資料7のような形で,事務当局作成の配布資料を加筆・修正することにより資料を作成したいと思っております。その内容につきましては,事前に当分科会の構成員や御発言を頂いた委員・幹事の皆様にもお示ししたいと思いますが,議論のためのたたき台であるという資料の性質と,部会までに時間的余裕がないことから,資料の取りまとめについては基本的には分科会長にお任せいただきたいと存じます。そういうことでよろしいでしょうか。  どうもありがとうございます。では,そのようにさせていただきます。  それでは,予定していた事項は全て終了しましたので,若干早めではございますが,本日の議事を終了したいと思います。  なお,本日の会議につきまして,特に公表に適さない内容にわたるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を公表することとさせていただきます。  また,前回までと同様,事務当局において議事録ができるまでの暫定的なものとして概要をまとめて,全委員・幹事に送付していただくことといたします。   本日はこれで閉会いたします。どうもありがとうございました。 -了-