法制審議会           民法(債権関係)部会           第68回会議 議事録 第1 日 時  平成25年2月5日(火)自 午後1時00分                     至 午後5時39分 第2 場 所  東京地方検察庁総務部会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○鎌田部会長 予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会の第68回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   本日は,村上正敏委員,潮見佳男幹事,森英明幹事が御欠席でございます。   本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 事前送付資料として部会資料57「たたき台(5)」をお届けしております。それから,机上にその部会資料57の補訂を配布しております。誤記などを訂正するものです。法務省ウエブサイトで部会資料を公表する際には,この補訂内容を溶け込ませたものを公表いたします。   また,机上に,安永委員の「中間試案のたたき台(5)についての意見」と題する書面,それから,山野目章夫幹事の「終身定期金に関する規定の見直しの適否について」と題する書面をお配りしております。また,大阪弁護士会民法改正問題特別委員会有志の方から,「消費貸借において取り上げなかった論点についての意見」と「ライセンス契約に関する意見」と題する書面を,社団法人リース事業協会から「民法(債権関係)の改正に関する中間試案のたたき台に対する提言」と題する書面をそれぞれ御提出いただいております。 ○鎌田部会長 本日は,部会資料57について御審議いただきます。具体的には,休憩前までに「第7 準委任に代わる役務提供型契約の受皿規定」までについて御審議いただき,午後3時35分頃を目途に適宜休憩を入れることを予定しています。休憩後,残りの部分について御審議いただくつもりでございます。本日の積み残しがありますと,来週にまた部会の開催ということになりますので,よろしく進行に御協力いただけますと幸いでございます。   それでは,「第1 贈与」について御審議いただきます。一括して御意見をお伺いいたしますので,御自由に御発言ください。 ○大島委員 贈与ではなく,中間試案のたたき台全体を通じて1点意見を申し上げたいと思います。たたき台のこの(1)から(5)までを拝見いたしますと,第二読会の際に審議された強行規定と任意規定の区別の明記が記載されておりませんでした。第三読会以降でどの規定を強行規定にするのかについて議論されるものと考えておりますが,中間試案公表後のパブリックコメントにおいては,ある規定が強行規定に当たるか任意規定にすぎないのかで意見の内容が違ってくると考えます。ちなみに商工会議所では,各規定がデフォルトルールだとすると,当事者間で合意により規定とは別の契約内容を決定できるのかどうかという議論が出てまいりました。そこで,任意規定と強行規定の区別の明記についての考え方を補足説明などで明らかにした上でパブリックコメントと手続に付すことを御検討いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ただいま御発言のありました点については,中間試案作成の過程で事務当局において十分な配慮をしていただくようにお願いをしておきたいと思います。 ○岡委員 私もこの(5)の審議の仕方についての意見を申し上げたいと思います。結論的には予備日も入れてゆっくり丁寧に2日間かけて審議していただきたいという要望でございます。理由としましては,昨日日弁連のバックアップ委員会で出た意見でございますが,とにかく範囲が広い点があります。ゴシック体で残された点もかなり多いだけでなく,かなり重要な論点で落とされたものが相当ございました。消費者に関する特別規定でありますとか,役務提供契約でありますとか多々ございました。それに加えて後半部分の論点ですので,議事録が公表されていないので,バックアップメンバーとしてそれを見ることができなかったという点もございます。いちいち各回の部会資料に遡ればいいんでしょうが,そういう時間的余裕もなかったことからバックアップ委員としては今回の中身について十分な審議,考えを形成することができなかったという非常に不安を持っております。それを踏まえますと,契約各則でかなり大事な論点も多うございますので,前回までは復活折衝と言っておりましたけれども,なぜ消費者に関する個別規定が落とされたのかとか,従前の部会審議を踏まえていない,突っ込んだというか一歩進んだというか一歩外れたというか,そういう表現のゴシック体も多うございますので,その辺の背景も議事録を読んだ人が分かるように丁寧にこの(5)については,(1)から(4)とはかなり違った印象を弁護士会としても持っておりますので,背景も含めた丁寧な審議をせっかく予備日もありますので,もう予備日をやる覚悟でゆっくり丁寧にやっていただきたいという意見でございます。 ○鎌田部会長 十分配慮して進行を務めさせていただきます。ほかに贈与に関連の御意見ございますでしょうか。 ○鹿野幹事 贈与に関して一つ確認をさせていただきたい点がございます。部会資料では,主に1ページの第1の2の贈与者の責任に関するところです。前提として,まず第1の1のところでは,他人の権利を取得して相手方に移転するというタイプの贈与も有効であり,これが対象に含まれることを明確にするように文言を改めるのだとされています。そこで質問ですが,第1の2における贈与者の責任の制限に関する提案は,そういうタイプの贈与契約において,約束したにもかかわらず贈与者が他人の権利を取得してまで贈与するという気がなくなったというような場合においても,贈与者は全く責任を負わないということまで意図するものかどうか,その点を伺いたいと思います。もしこれを認めるなら,書面による贈与など,贈与の撤回ができないとされている場合であっても,実質的には,そういうタイプの贈与であれば履行するまではいつでも撤回できるということを意味することになってしまいそうでもあるのですが,それでもよいのかということが気になります。   さらに,他人の所有に属するというわけではないけれど,例えば贈与の目的物に他人の権利が付着しているときに,その他人の権利の負担を除去してあなたに移転しますという約束をしたと場合も,基本的には同じであります。この場合において,贈与者が,目的物の所有権は移転するけれども,当初約束した他人の権利の負担を除去するという点については履行するつもりはないというときに,それでもこの提案によれば贈与者は何ら責任を負わず,免責されるということになるのか,免責されるとすれば,実質的には贈与者に言わば一部の撤回を認めるようなことにもなるわけですけれども,それでよいのか。その点を確認させていただきたいと思います。よろしくお願いします。 ○鎌田部会長 事務当局から説明してください。 ○新井関係官 まず1点目ですが,いわゆる他人物贈与についても有効であるということを踏まえて,1の「自己の」というのを削っていますが,それを履行しなかったときに贈与者が債務不履行の責任を負うかどうかというのは,2の(1)で債務不履行による損害賠償の責任を負うかどうかが決まる,そういう整理を前提にはしております。 ○鹿野幹事 ということは,結論的には責任は負わないということですね。他人の権利を取得してあなたに移転しますと約束したにもかかわらず,贈与者は,何ら努力しなくても,つまりその理由がどうであれ,権利を取得して移転しないことについての責任を一切負わないという趣旨でしょうか。 ○鎌田部会長 これは権利があるものとして贈与の契約を結んだけれども,実はなかったというふうな場合が直接に念頭に置かれていて,他人の権利を取得した上で贈与するという内容のものが表現上含まれるように見えるけれども,それは直接規定の対象とは考えていなかったというふうに理解していいのか,あるいはそういう場合も含めて全部免責されるという規律を作ろうとしているのかという問題にもなろうかと思いますけれども。 ○新井関係官 そのような場合も含めてこのルールは規律することを念頭に置いておりました。 ○山本(敬)幹事 今の点がよろしければということですが,それと関わる事柄を指摘したいと思います。この2の(1)では,贈与者が贈与によって引き渡すべき目的物が当該贈与契約の趣旨に適合していないことについて,債務不履行による損害を賠償する責任を負わないとしています。これは今回新たに出てきた提案ではないかと思いますが,やはり問題がかなり大きいと思います。  これは,贈与契約でも目的物の性質が契約の内容になり得るということを前提にしていると思います。ですので,引き渡された目的物が当該契約の趣旨に適合していないときには,契約に適合した物を引き渡せという請求,つまり完全履行請求ないしは追完請求が認められることは否定されていないと思います。これは,目的物が種類物の場合である場合はもちろんですし,特定物の場合でも代物請求ないしは修補請求も少なくとも一般原則に従ってできるはずだと思います。   ところが,損害賠償だけは否定されますと,例えば修補費用の賠償請求は否定されることになります。修補請求は認められるのに,自分で修理してその費用の賠償を請求することはできないとなりますと,これは深刻な評価矛盾を来すのではないかと思います。つまり,履行請求は認めておきながら,契約が履行されたのと同じ状態をもたらす損害賠償を否定するというのはやはり矛盾であって,説明不能の事態をもたらすのではないかと思います。これは前から言っていることではありますけれども,贈与契約によっては,この物を贈与するという内容でしかないというときがありますし,実際にはそういう場合がかなりあると考えられます。そのような場合には,目的物に不具合のようなものがあったとしても,契約内容はこの物を贈与するということだけですので,契約不適合はありません。したがって,損害賠償はもちろん,追完請求に当たるものも認められない。このような一般原則に委ねればよいのであって,損害賠償だけを否定するというのはデフォルトルールとしても筋が通らないし,説明できなくなってしまうのではないかと思います。その意味で,これは考えを改めるべきだと思います。 ○鹿野幹事 今,山本敬三幹事がおっしゃった問題もありましょうし,先ほどの質問も,この第1の2の提案に疑問を感じ,その前提として確認のために申し上げたものです。おそらく従来は,贈与者が有するものについて,そのままの状態で権利を移転するという事例を念頭に置いて語られていた問題があるのだろうと思います。そして,現在でもそういうタイプの贈与は多いのだと思います。けれども,今改めて,そうではないタイプ,つまり,自分が持っていない権利を移転するというタイプも含めて,贈与の約束をすることができると一方で言い,そして,いわゆる担保責任を一種の債務不履行の問題として捉える方向を採りながら,他方で,自分が持っていない権利については移転しなくても責任は負わないとすることは,一方で義務があると言いながら他方で義務がないと言っているとの同じようなことにならないでしょうか。これをどのように整合的に説明できるのか疑問に思い,あるいは不整合のようにも思われまして,先ほどのような質問をさせていただきました。その点も含めて御検討いただければと思います。 ○新井関係官 1点だけ補足しますと,確かに贈与者の義務の内容というのは契約の趣旨を踏まえて定まるという考え方を前提にしておりますけれども,それが履行しなかったときに責任を負うかどうかと,どのような要件のときに責任を負うかということについては,贈与の無償性などに照らして売買契約の有償契約と異なる責任要件を設ける余地はあるのであろうと思っております。それが現行の551条もそういうふうに説明されることがございますし,基本的にはそれを踏襲したものが(2)の1のような考え方の前提になっています。一応そういうことを念頭に置いておりました。   先ほど山本敬三幹事からは,追完請求と損害賠償,こちらで損害賠償のほうは負わないというふうにしておきながら,追完請求は何も触れていないということについての整合性について御指摘がありまして,その点については恐らく首尾一貫するとしたら(1)の枠組みをそのまま生かすとすれば,損害賠償の責任を負わない以上,この(1)の要件に当たるときには追完請求も認められないということになるのだと思います。その考え方で整理してよろしいということであれば,本文においてもそれを明らかにするということになるかと思います。もっとも,山本敬三幹事の御意見というのは,むしろこういう免責ないし責任の在り方が適切でないという趣旨も含んでいるのかなとも思いました。そのことを中間試案でどう反映するか,ちょっとそこは改めて検討させていただければと思います。 ○山本(敬)幹事 少し補足ですけれども,今の御説明で追完請求まで否定するとなりますと,特定物だけを考えればまだ多少説明が通った感じがするのかもしれませんけれども,種類物の贈与の場合はどうなのでしょうか。種類物の贈与で一定の物を引き渡した。しかし,それは当該契約に適合した性質を備えていないという場合に,代わりの種類物を持ってこいという請求ができなくなるということでしょうか。もう特定した以上は,もはや追完請求もできないということになってしまうのか。それですと,もう種類物の贈与とも言えなくなってしまうのではないかと思います。その意味でも,もう一度この規定の内容については考え直すべきではないかと思います。 ○内田委員 確認ですが,現在の2の(1)は,基本的には現行法の規律を踏襲して,権利とか物についての瑕疵があっても責任は負わないということで,損害賠償だけを書いているところはミスリーディングかもしれないと思いますけれども,要するに解除は排除しないということを言いたいのだと思います。つまり受贈者のほうはこれでは困るということであれば解除はできる。しかし,それ以上に追完請求を受けるとか損害賠償請求を受けるというような形での責任を贈与者は負わない。基本的にはそういう規律で,基本の発想は現行法を踏襲ということだと思うのですが,それを改めたほうがいいという御意見でしょうか。 ○山本(敬)幹事 現行法の起草者がどう考えていたかというのは少し議論の余地があるのですけれども,少なくとも現行法ができてから後の一般的な理解は,特定物の贈与の場合には,性質が契約内容に入らないことを前提にしているのではないかと思います。その意味では,追完請求に当たるものは,少なくとも特定物については観念できないという前提だったのではないかと思います。今回は,売買だけではなくて,そのような考え方を改めようということですので,贈与の旧来の規定をそのまま踏襲するというわけにはもういかなくなっているのではないかというのが,この規定の見直しに関する出発点ではないかと思います。つまり,そこからして考え方を改める必要があるのではないかということです。 ○鎌田部会長 ほかにこの点に関して,関連する意見はございますか。 ○岡委員 この点については弁護士会でも随分疑問が出たところでございます。一つ目の質問は,審議の経過でこういう損害賠償だけ外すという議論がどなたかから出たという記憶はないんですが,どういう審議の経過の上でこれが出たのかについてお伺いしたいのが1点でございます。   お聞きしていて,現行法を少し変えるだけだというのが真意だとすれば,それなら分からないでもないんですけれども,そんな意見が果たして第二読会であったのかどうか記憶忘れかもしれませんが,疑問に思っております。   それから,次の質問は,現行の条文をモディファイしただけとおっしゃるかもしれませんが,この2の(1)の要件のところは,債務不履行の中の一類型を取り出して損害賠償責任を免責しているのか,それとも贈与契約における債務不履行全部について損害賠償責任を免責しているのか,債務不履行と現行法の瑕疵の概念が同じなのか違うのか,今回の表現は債務不履行と2の(1)の要件とをどう考えているのか,それについてお考えを示していただければと思います。 ○鎌田部会長 それでは,事務当局から説明をしてください。 ○新井関係官 最初の点ですけれども,贈与者の責任を基本的には契約に従った義務を負うというふうにしながらも,やはり無償性を踏まえた何らかの考え方をルールの中で示すべきではないかという御指摘はそれなりに強かったというふうに記憶しております。そこを反映した規律の在り方ということで今回,基本的には551条を踏襲しつつ,概念の用い方などについては,売買の責任の在り方などと平仄を合わせた規定ぶりということをここで提案しているということです。   あと,このルールの射程についてということで御質問あったと思いますけれども,それについては,飽くまでここに上げられているものだけについて規律するということです。つまり,本文に該当する場合であれば原則として責任を負わない,ただし,知りながら告げなかったときは,この限りでないというルールは適用されるということです。 ○鹿野幹事 繰り返しになりますけれども,この提案は,現在の規定の文言を若干変えたということでしたが,瑕疵という文言を契約の不適合という趣旨の文言に置き換えたことには,大きな意味があるのではないかと思います。現行民法551条の規定は,先ほどからも指摘がありましたし,あるいは私も若干申し上げましたとおり,要するに通常の場合,つまり,贈与者が目的物をその有する限りで移転するという趣旨で契約する場合を念頭におき,その場合には,目的物にたまたま傷などがあったとしても,更に傷をなくすという形での移転義務を負うものではないということが契約の趣旨から導かれるのであるから,そのような場合の通常の契約の趣旨をここに表したにすぎないのではないかと思うのです。ですから,その意味では,今までの551条の規定は,「契約不適合」の場合の責任を規定したものではなかったのではないかと思われるのです。   このような理解を前提とすると,今あらためて,551条の文言を契約不適合として規定する場合には,大きく意味が変わってくるわけですし,その意味の違いということを踏まえてもう一度検討する必要があるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 御指摘いただいた点を踏まえて,これは2だけではなくて1とワンセットにして考えたほうがいいと思いますけれども,事務当局において更に慎重に検討させていただきます。ほかに贈与に関してよろしいでしょうか。 ○中井委員 4の贈与者の困窮による贈与契約の解除が前回資料に加えて新たに入れていただいたのかと思いますけれども,このことについては前回提案があっただけで余り議論されていなかったかと思います。   そこで,入れていただいたこと自体については前向きに考えたいと思います。その上で,一つは要件ですけれども,前回もこの提案をしたときには諸外国,ドイツとか韓国とか中国の民法規定を参照してはどうかと部会資料にも付いていたわけで,それに基づいて発言しましたが,それらの国々の規定では,この予見することのできなかったという要件は入っていない。しかし,ここでは入れられている,これは何か特別入れなければならない積極的な理由があったのかということの確認をさせていただきたい。   それから,次の贈与者の生活が著しく困窮になったときですけれども,これも諸外国では贈与者若しくはその近親者,扶養義務を負うものも含める考え方も一般的にあるようですので,この辺りの検討ももう少しする必要があるのではないか。つまり履行が終わる前の撤回ですから,その辺りの要件についてはもう少し広めに検討していく必要があるのではないか。 ○鎌田部会長 この点について事務当局から何かありましたらお願いします。 ○新井関係官 予見することができなかったという縛りをかけているというのは,ありとあらゆる困窮を解除の対象にするということは,やはり利害調整として適切でないのではないかというふうに考えまして,このような一定の絞りをかけた提案を今回してるということでございます。   あと,困窮の中身の問題ですけれども,扶養の対象になっているものが困窮したというような場面の対処がどうなのか,要するに贈与者自身の困窮に限っているということが狭過ぎるのではないかという問題意識と理解してよろしいしょうか。だとすると,そこは贈与者の生活に広い意味で含まれるというところで,そこを柔軟に解釈する形で妥当な解決を導くことも可能なのではないかというふうに,差し当たり思っております。 ○鎌田部会長 中井委員,いかがでしょうか。 ○中井委員 前者については是非御検討いただくとして,後者の問題については幾つか参考例があります。ここで贈与者に絞ったのはなぜか。それは次の問題に関わらないわけではなくて,著しい非行についても贈与者に対する非行となっていますが,これも贈与者若しくはその配偶者なども含めている立法例もあるようです。前回の議論の結果としてこのように絞られたのだとすれば,提案として理解するわけですけれども,履行前と後では要素も違うのではないか,その辺りの議論も必ずしも十分ではなかったのではないか。私のほうで具体的提案があるというわけではなくて,そこまでの検討がなされているのかという意味での質問でした。 ○中田委員 私も4と5についてあります。まず,4について3点あります。第1点ですが,困窮による解除の場合に,損害賠償責任はないという趣旨のようなんですけれども,受贈者が贈与を受けることを予定して準備していた場合などについては,損害賠償をすべき場合があり得るのではないかという気がいたしました。第2点は当事者が法人である場合を含むかどうかです。受贈者が法人であるということはあり得ると思いますが,そこでは不動産や無体財産権のような価値の大きな贈与もあり得ると思いますけれども,その場合についてこの規定で十分だろうか。それから,贈与者が法人である場合に困窮というのは,例えば経営状況が悪くなったということが含まれるのかどうか。それから,第3点は相続に関してです。解除権が相続されるのかどうか,その場合に被相続人が困窮していた場合と,相続人が困窮している場合とあると思いますけれども,それをどうするのか,あるいは遺贈の場合はどうか,このようなことも詰めておく必要があると思います。   それから,5については,著しい非行について先ほど中井委員が贈与者のみならず配偶者に対するものも含むというお話がありましたが,文言だけを見ますと,限定がされていないようにも見えまして,かなり広くなる可能性もあるように思いました。つまり5の(1)の最初のほうは,虐待とか重大な侮辱というのが入っているんですけれども,「又は」の次のところが贈与者に対する著しい非行なのかどうかということが必ずしもはっきりしないような気がいたします。ここは表現だけの問題かもしれませんけれども,御検討いただければと思います。 ○鎌田部会長 分かりました。では,それらの点について更に検討を深めさせていただきます。 ○内田委員 非常に細部にわたる御指摘を頂いたと思いますけれども,4の解除の際の損害賠償というのは,そもそも困窮による解除自体が非常に例外的,限定的な場面であり,その場面で更にまた受贈者に損害が発生する場合というのは相当限られた場合だろうと思います。そもそも著しく困窮したかどうかを判断するときに受贈者の状態なども,当然裁判官は考慮すると思いますので,そういう裁量性を考えると,あえてここで損害賠償についてまで規律を入れなくてもいいのではないかというのがこの原案の判断だと思います。   それから,法人については,贈与者の生活が著しく困窮したときという表現ですので,これは基本的に自然人を想定した規定ではないかと思います。   あと,相続については,これは解釈に委ねてもいい問題ではないかという気がいたしますし,相続人自身が全く困窮していないのに解除権を相続したから解除権を行使するというのも何か変ですので,一身専属性があると考えてもいいような気がしますけれども,その辺はやはり実際に紛争が起きたときの解釈に委ねてもいいのではないか,そういう考え方もあり得るのではないかと思います。   5の非行というのは,これは推定相続人の排除事由をそのまま持ってきている規定で,推定相続人の著しい非行というのは必ずしも被相続人に対する非行には限らないけれども,何らかの損害が及ぶような場合であると通常は解釈されているのではないかと思います。そういう排除事由についての解釈をそのままここで用いるということを前提として,同じ表現を使ったということではないかと思います。 ○中田委員 4のうち,第1点の損害賠償については,確かに適用される場面が余りないのかもしれませんので,大丈夫かもしれないとは思いますが,例えば受贈者が贈与を受ける前提で他の有利な取引を断っていたとか,あるいは贈与を受けるために施設の準備をしていたという場合が頭の中では考えられなくはないと思います。その上でどうするかというのは,ここはもう一つの判断の問題だと思います。   それから,第2点の当事者が法人である場合について,贈与者が法人である場合を含まないということは今の御説明でよく分かりました。受贈者が法人の場合は,しかし残されているのではないかと思いますけれども,そこでは大きな取引が生じうるというのは,先ほど申し上げたとおりです。   それから,三番目の相続については解釈に委ねるということであれば,それはそれで構わないと思います。   5の著しい非行については,相続の規定を持ってきたということは解説にも出ていたかと思いますけれども,受贈者が法人である場合もあり得ますので,もう少し広がる可能性はあるかなと思いました。これも解釈だということであれば,それでもよろしいかもしれませんが,一応検討対象にはなるだろうということです。 ○岡委員 弁護士会でも今出たような論点が議論されて,結果的にこの補足説明がないからかもしれませんが,議論が熟していないという印象を強く持っておるところでございます。4番の困窮により解除が許される場合というのは,損害賠償義務を負わないでいい場合の解除だろうというふうに思っておりました。損害賠償を負うような解除もあるでしょうけれども,それはこの4番の特別解除には含まれないと読むのが素直なように思っておりました。だから,損害賠償についてこの解除の場合にもあり得るのかあり得ないのか,その辺のことも補足説明に書いていただければ分かるのかもしれませんが,何か特に本当に消化不良の感じを持っておる一例です。   それから,5番のところのその他著しい非行のところでも同じような議論を弁護士会でいたしました。受贈者,贈与者に対するものではないという解釈に相続法の解釈からいくとなるけれども,それでいいのかと。このゴシック体は一体どちらを採っているんだというような質問が出て,答えられる弁護士がいなかったのでそのままになっておりますが,相続法の解釈をいかすということであれば,贈与者に対するもの以外が含まれるので,そのようなこともきちんと書いていただきたいと思います。   新しい話としては,5の(2)のところでもめちゃめちゃ細かい論点ではあるんですが,ここまでゴシック体になってくると,条文に近いものとしてイメージをして,いろいろな心配が生じます。その一つとして死亡させたときはこの限りではないということについても,意思表示ができないような重大な障害を与えた場合もあるだろうと。そのような場合はどうなんだという議論が当然出てきております。そのようなときは条文で手当てするとか解釈で手当てするとか補足説明で書いていただければいいのかもしれませんが,中間試案としてこのゴシック体,簡潔ではいいんですが,いろいろな不安を持ちます。それを解消させるようにして中間試案を出さないと適切なパブリックコメントが返ってこないように思います。 ○鎌田部会長 その点,十分配慮していただければと思います。ほかに贈与関係はよろしいでしょうか。   よろしければ,「第2 消費貸借」について御審議いただきます。一括して御意見をお伺いいたしますので,御自由に御発言ください。 ○三上委員  1(2)の書面でする消費貸借についてですけれども,この部分は御説明では,現行法上は諾成的消費貸借が解釈上認められている,それに対して今回書面がある場合にのみ諾成を認めるということで既存の場合よりも諾成的消費貸借が成立する場面を狭めたということでしたけれども,そうしますと,かなり明確な言葉の上での約束があっても,書面がなければ直前にお金を貸さないということになっても基本的には責任を負わない,契約の不当破棄に当たらない限りは負わないということになるかと思います。そうなると,恐らくその際に例えばメールとか何か融資をにおわす書面を持ってきて,当該書面がその書面であるという無用の争いが起こるのではないかと懸念しておりまして,贈与とか保証のところは「書面でする」という書き方はしていないので,むしろ書面を要求するのであれば,「金銭その他の物を引き渡し,返還することを書面をもって約する」という形で,書面の内容に何が記載してあるべきかという様式をはっきりさせるべきではないか考えております。   取りあえずこの点は以上でございます。 ○加納関係官 7ページの6の期限前弁済のところでございます。その(2)の後段の「この場合において」以下のところでありますけれども,ここについて何らかの注記を御検討いただけないかというのが意見でございます。この(2)の後段の部分の損害の内容につきましては,部会でいろいろ議論があったというのは承知しているところでありますが,やはり消費者サイドからしますと,期限前弁済の場合において期限までの利息全額を損害賠償というふうに請求されてしまうような運用がされてしまうことへの懸念というのはなお残るところでありまして,そこは検討の必要がまだあるのではないかというふうに私どもも考えております。   ここにつきましては,これまでの部会においても再運用等による利益を控除するとかというような検討がされ,それについていろいろ御意見があってこういう書き方になっているというふうに思うところでありまして,その意見の中にも,もう一度議事録などを振り返ってみますと,例えば目的物が金銭でない場合の消費貸借契約における損害をどうするかとか,そういったものもありますので,そういうのは考慮されたんだろうというふうには思うところでありますが,ただ,損害の内容について,やはり貸主が期限前に利益を得ているときには控除するというのが,むしろルールとしては当然ではないかというふうに思われるわけでありまして,そういう検討もあったということでありますと,そういった損害の内容について一定の規律を設けるということも考えられるというような注記はあってしかるべきではないかと思います。 ○岡田委員 6ページの利息のところですが,以前に参事官のほうから両方で取るようなことはないようにするということをちょっと記憶しているのですが,そのために「返還がされた日まで」というのを削除されたということですけれども,これを見ますと,受け取った日から起算してということは,一般に私たち,初日不算入という形で利限法に引き直したりするときには翌日から数えていくのですが,これからすると,その日も含めてしまうというふうに読めるもので,そこを確認させていただきたいと思います。 ○筒井幹事 ここの本文では,(概要)欄で紹介している判例で,受け取った日が算入されるという判断が示されていますので,それが明らかになるように,日本語としてやや不自然かもしれませんけれども,受け取った日から起算してという表現にしたものです。 ○岡田委員 そうすると,返した日は掛からない。 ○金関係官 判例が明示しているのは受け取った日を含むということですので,その点を明文化して,返した日については引き続き解釈に委ねることを前提としております。 ○岡田委員 現民法の期間の計算ではないということですね。 ○金関係官 期間の計算に関する初日不算入の原則とは直接には関係しないと理解しております。 ○鎌田部会長 ほかに消費貸借関連で御発言はありませんか。 ○中井委員 先ほど加納関係官から6の(2)の後段についての御発言がありました。ここに(注)を入れるかどうかは一つの課題であろうかと思います。また,同じ問題といいますか,少し前の問題として1の(4)の後段の損害賠償については(注)が入っている,ここに軽重を置かれているところは理解するところですけれども,少なくとも6の(2)には先ほど加納関係官のおっしゃられたことについて検討していただきたいというのが1点です。   併せて,これまでこの二つの規定について事業者が貸主,消費者が借主の場合に特則を設けるかということが論点とされていたわけですけれども,今回それが取り上げられていない。これは恐らく事業者,消費者という考え方を民法一般に取り込むのかどうかという議論,契約各則における特則に限って取り入れるのかどうかという議論若しくは契約総則的なところ,若しくは信義則のところにそのような考え方を取り入れるのかどうという議論,それらと関連をしている問題で,ここに特有の問題ではないのかもしれません。   その全体的な問題については第18で提案がございますので,そこで議論がなされるものと理解をしておりますが,そこでの議論はさておくとしても,消費貸借における今申し上げました金銭交付前解除の部分と期限前弁済についての損害賠償については,借主に損害賠償義務があるという解釈があり得る,若しくはそれが明文化されることがあり得るとするならば,その特則として消費者と事業者の関係では,賠償義務を負わないという提案がなお考慮されていいのではないか,なお論点として残していいのではないか。ここで中間試案に取り上げないと決めることについての是非をもう一度再考を頂けないものか。これは十分議論を尽くした結果,この問題については合意に達する見込みがないと事務当局で御判断された結果かと推測はいたしますが,なおこの論点については日弁連として極めて重要な論点と考えております。パブリックコメントに付する価値のある論点ではないかと思いますので,再考いただけないかと思います。 ○筒井幹事 御提案いただいたことについては十分検討したいと思います。従来の議論の経緯だけ改めて御紹介しますと,この点については,消費者契約に関する特則を設けることの一般的な当否に関する議論の結果というよりも,消費者が借主である場合であっても,例えば住宅ローンのような高額の貸付けにおいて,その調達コストなどの事業者の損害を観念せざるを得ないことがあるため,その損害賠償を請求できないという一般的なルールを規定するのが適当かどうかという議論の結果として,この点は「損害」の解釈に委ねざるを得ないのではないかという議論がされてきたのではないかと思います。   確かに,少額多数の貸付けを行っている貸金業者の場合には,この解除権が行使されたとしても,その資金を他の用途に回すことが通常想定されるので,損害がないという議論は当然あり得ると思いますが,それを民法レベルで一般化するのは困難ではないかという議論であったように思います。 ○鎌田部会長 ほかに消費貸借関連の御意見ございますか。 ○岡委員 まず,書面のところで電磁的記録を明文化するという点でございます。保証と消費貸借のところだけこの規定を入れて,あと,書面が出てくる贈与だとか使用貸借のところでは入れないと,こういう振り分けを意図的にされたのであれば,何かその基準みたいなものを教えていただきたいと思います。   それから,先ほど三上さんもおっしゃいましたけれども,電磁的記録によるというのが書面をメールに添付して,これでいいかと送って,これでいいですと返事をすれば電磁的記録による合意になってしまうようにも思われるのだけれども,その点はどんなふうに考えているのか,その点についての質問をさせていただきます。   それから,先ほどの4の利息のところでございますが,判例は確かにそうなんですが,実務ではそうやっていない実務が多数あるというふうに認識しております。そういうときに判例がこうだからこれでいくと,任意法規だから迷惑はかけないというような説明で本当に足りるのかという疑問を持ちました。補足説明にその辺りのことをきちんと書けばいいのかもしれませんが,何かやはり説明不十分という印象を持ちました。 ○鎌田部会長 事務当局から御発言はありますか。 ○金関係官 まず1点目ですけれども,諾成的消費貸借については電磁的記録に関する規律を提案し,使用貸借,寄託,それから現行法の贈与については電磁的記録に関する規律を提案していないのは,一応これらを意図的に振り分けた結果です。現行法の下で,保証契約には電磁的記録に関する規律があるのに贈与契約にはないことの説明としてよく言われている,保証は大多数がビジネスの場面で用いられるのに対して贈与は必ずしもそうではないという説明,基本的にはこの説明が,諾成的消費貸借については保証と同様の取扱いをし,使用貸借と寄託については贈与と同様の取扱いをすることの説明としても妥当すると考えております。ただ,使用貸借,寄託,贈与における書面が電磁的記録を含まないと考えているわけでは必ずしもなくて,そこは引き続き解釈に委ねるというスタンスです。少なくとも今回は,電磁的記録を含むことを明示しておく必要が高いものとして,諾成的消費貸借を選択しているという説明になろうかと思います。   2点目につきましては,現行法の保証のところでも存在する問題ですけれども,具体的な事案における解釈,認定に委ねざるを得ないと考えておりまして,この場で一律に電磁的記録に当たる又は当たらないという断定をすることは難しいのではないかと思います。 ○岡委員 三番目の利息のところも可能な範囲で。 ○金関係官 利息につきましては,実務の大勢がどうかというところの評価が分かれ得るのではないかと考えておりまして,例えば裁判実務で問題となるような事案において,元本を受け取った日の利息は発生しないとの合意をしている例が多数なのかどうかというのは,一概には言えないのではないかと考えております。ただ,先ほど岡委員がおっしゃったとおり,これは任意規定で合意によって変更し得るという前提ではあります。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。 ○中井委員 4の利息ですけれども,任意規定とおっしゃいました。岡委員もそのように言ったわけですが,金銭交付前の日を定めて,その日から利息が取れるという合意も有効という意味ですか。つまり諾成的消費貸借契約を認めた,1か月後に貸しますよ,しかし,契約日から利息は取ります。利息制限法に違反しない限り任意規定だから有効と,そういう理解なんでしょうか。 ○金関係官 そういう理解ではありません。金銭の交付前から利息が発生するという特約をすればそのとおりに利息が発生するのかという問題は,第一読会でも第二読会でも十分に議論がされたところで,そこでは,特約の有無にかかわらず利息は元本を交付してからでないと発生しないという理解が確認されています。その理解は,今回のたたき台でも,利息の基本的な考え方として当然の前提となっております。 ○中井委員 私もそういう認識で,今ここで任意規定という言葉が出たものですから,利息自体は交付日から発生するか,その翌日から発生するかどうかはともかく,その日からしか利息は請求できない。取るか取らないかは,取らないということについては実質免除かもしれませんけれども,その合意はできる,そういう理解をいたしました。逆に言えばこう定めたときは,これは強行規定ではないかと思いますが,いかがでしょうか。つまり取れないという意味では強行規定だと。 ○筒井幹事 そのことを強行規定として説明するかのどうかの問題なのかなと思います。その説明ぶりも含めてですが,受け取った日を算入するのかどうかということと,中井委員から御指摘があったような問題について,(概要)欄などで説明する必要があると思いました。 ○鎌田部会長 ほかには。 ○松本委員 今の議論との関係で少し整理したほうがいいと思われるのは,利息というものは何かという話と,その利息をいつ受け取ることができるのかという話は,一応別ではないかということです。すなわち利息の前払いというのは利限法による精算調整はあるにしろ,利息の前払い自体が違法だとか公序良俗違反だとかいうことではないんだとすれば,それは取れるんだけれども,例えば実際の元本交付日よりも1か月前に利息を払い,かつ弁済期までの利息も全部払うとすれば,それは元本を受け取っていない間の最初の1か月分の利息と言われているものは,実は利息ではない何かだということになります。利息制限法上はそれも多分利息に入ってしまうんでしょうけれども,ここで言う議論の対象としては,それは利息ではないというふうに整理すればよろしいのではないですか。利息ではない何かを払うという約束をしているんだと。 ○鎌田部会長 ほかに消費貸借関係の御意見は,よろしいですか。 ○岡委員 復活折衝の一つですが,先ほど中井さんが7ページのところで消費者の解除権と融資の期限前弁済の免責だけを取り上げましたけれども,今日机上配布している大阪弁護士会の意見書にもありますとおり,抗弁の接続も今回落とされております。重要な問題でございまして,部会でも,反対意見があったのは承知しておりますが,中間試案で落とすべきほどの強い反対意見ではなかったように思っておるんですが,これを是非再考していただきたいという意見とともに,どういう理由で今回落とされたのか説明を頂ればと思います。 ○筒井幹事 落とした理由については,繰り返しになりますけれども,抗弁の接続に関してどのような内容の規定を設けるのかということについて,随分時間をかけて議論をいたしましたが,その結果として,規定すべき内容について意見が分かれ,また,そもそも規定すべきでないという意見も少なくないため,コンセンサスを得る見通しが極めて乏しいという判断を現時点でしたということです。 ○岡委員 是非再考をお願いしたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。   それでは,続きまして,「第3 賃貸借」について御審議いただきます。一括して御意見をお伺いいたしますので,御自由に御発言ください。 ○松岡委員 ちょっと先のところで申し訳ないのですが,14ページの転貸の効果に関する(3)の御提案について,11の(3)の転借料,転貸料の前払いについての規律がこのままで良いのかが気になりました。第55回の会議でもこの点は問題にされていませんでしたので,いまさら申し上げるのはどうかとも思いますけれども,このままではそもそもの提案の趣旨を十分完遂できない疑いがあるのではないかと気付きましたので,あえて申し上げたいと思います。   案は,(3)で,「上記(2)の場合において,転借人は,転貸借契約に定めた時期の前に転貸人に対して賃料を支払ったとしても」と書いてありまして,前払いの意義を定義し,限定しています。確かに説明にありますとおり,これは大審院の昭和7年10月8日の判決に沿っております。ところが,この判決の事案の内容を調べてみますと,遅滞に陥った田んぼの年一回の支払の転借料を転借人が弁済期後に3回に分けて支払ったという事例であり,たしかにこの事例ではこの定式でも全然問題ないと思われます。また,この定式をここで使われた意味は,通常,前月末の賃料支払いも前払いになるのですが,ごく通常に行われているそういう前払いは対抗できるとする趣旨ではないかと推測しました。   ただ,この定式を使いますと,例えば転貸借契約を締結する際に全期間の賃料を一括払いするという合意は,転貸人に対抗できることになるはずです。契約でそう決めたのだから,転借人としては義務を履行しただけだからです。そもそも,今申し上げたこういう合意を前払いと言えるかどうかも問題ではあるのですが,やはり前払いとして処理してよいと思います。というのは,こうした合意は,詐害的短期賃貸借の場合に賃料債権や転貸料債権に物上代位を受けるのを避けるためによく行われた手口でありまして,これが対抗できることを認めますと,賃貸人の直接請求権を潜脱することを許すことになってしまうからです。例えば「通常の範囲を超える前払い」とか,あるいは「賃貸人の正当な期待を害する前払い」というような案も浮かんではきますが,通常のとか正当なという評価概念が入ってくると,基準として安定性が欠けるとか,当事者の予測可能性の点で問題があるという指摘が出てくるのは目に見えております。   あり得る規律は,これが最善かどうか分かりませんが,たとえば,「2期分を超える前払い」は対抗できないとすることが考えられます。今も維持されているかどうか分かりませんが,かつてドイツの倒産関係の規律では,このようなものがあったと思います。3期分とするのか1期分とするのか2期分とするのか,どれが妥当かはよく分かりませんが,具体的に数字を書いて明確な基準とすることを検討していただけないかと思います。  次善の策としては,(3)のような限定をあえて付すことなく,現行民法の613条1項後段のまま前払いのみ書いておいて,その中味を解釈運用に委ねるというものもあり得るとは思います。ただ,そうしますと,先ほど申し上げた前月末払いというようなものは正常な前払いだと思われますが,文言上は対抗できないと読めてしまうことになります。そのような前払いを対象から外すのであれば,規律の透明性を高めて国民に分かりやすい民法にするという観点からしますと,現行の文言のままで解釈に委ねるのは適切ではないと感じます。   以上の諸点を御検討いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 そこは事務当局で検討してもらうことといたします。 ○岡委員 それでは,転貸借のところで私も2点申し上げます。   1点目は(2)のところで,現行法を基準にするんだと言われたらそれまでですが,やはり普通の人間にとっては,賃貸人に対して直接履行する義務を負うという条文だけですと,転貸人に対する義務よりも賃貸人に対する義務が優先するという誤解を弁護士でも持つところでございます。ですから,これを入れるのであれば,債権者代位権のところにもあったように,転貸人に対して義務を履行した場合はこの限りではないとか,転貸人に対する義務を履行すればそれで足りるとか,何か転貸人に対する義務との関係もはっきりさせたほうがいいのではないかという意見がございました。   それから,(3)の転貸借契約に定めた時期の前にという表現のところですが,松岡先生と同じような議論が出ました。ただ,前月末までに翌月分を払うと約束したときは,「前月末までに」が転貸借契約で定めた時期なので,それは規律の対象外であろうと。しかし,転貸借契約を結んだ後で転貸人と転借人が合意して前払いを実行することはあり得ると思います。それも転貸借契約に定める新たな合意時期という解釈の余地が出てくるのではないかということで,条文ではないから,その辺は条文化するときにしっかり考えるということになるのかもしれませんが,やはりこのままでは不明確で分かりにくいという意見がございました。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○三浦関係官 ちょっと転貸以外のところですが,よろしいでしょうか。 ○鎌田部会長 はい,結構です。 ○三浦関係官 私のほうからは項目番号15番,17ページの「賃貸借に類似する契約」について申し上げたいと思います。まず,ファイナンス・リース契約なんですけれども,今回の部会資料で御提案いただいております。他方,この民法にファイナンス・リース契約を規定するということについては,業界から反対である旨の強い意思表示が早い段階から一貫してございました。その理由は前回の部会で私から申し上げたとおりでございますし,今日も配布資料が業界から配られていると承知しております。前回の部会の審議を思い起こしましても,かなり多くの反対意見が表明されたと記憶しています。また,この審議会の外でもいろいろ実務界の状況なども聞いておるんですけれども,なかなかこの論点については議論の状況が変わる見込みがちょっと立ちにくいのかなと,やや議論が尽きている感がありまして,部会資料,中間試案と載せていること自身いろいろ混乱を招いているような状況もございまして,そういう議論の見通しを踏まえて,我が省といたしましては,この際,ファイナンス・リース契約については中間試案からも削除するほうがむしろ適切ではないかというふうに考えているところでございますので,御検討をお願いしたく思います。   それからあと,同じ項目ですので,こちらは我が省の議論のアップデートという趣旨で,もう1点ライセンス契約について申し上げます。こちらは,前回の審議ではライセンス契約を典型契約として規定することについて,省内に,反対の意見と,「規定を設けること自身には賛成だけれども,賃貸借の規定を準用することには反対」という意見と,二つの意見があることを御紹介しました。その後,引き続き関係業界と検討を進めまして提案内容を吟味してきたんですけれども,やはり前者の「規定を設けること自身難しいのではないか」という方向で省内の意見が収束してきた感があったということでございまして,こちらは議論のアップデートということなんですけれども,御紹介をさせていただきました。 ○佐成委員 今,15の(1),(2)について三浦関係官のほうから意見が出ましたので,それについて私のほうからもコメントさせていただきたいと思います。確かにファイナンス・リースに関しては,実務界では評判は悪いですし,業界が反対しているという面はあります。ただ,経済界全体がこれに対してどういうスタンスをとるのかというところまでは,まだよく分からない状況もあります。あるいはライセンス契約についても,まだ議論が十分成熟していないというところもあるかもしれません。   ただ,中間試案から,この段階で本当に落としていい論点なのかというのは,私はちょっと疑問に感じております。というのは,前回も議論しましたけれども,私は約款というものについては強い反対意見を持っております。それは経済界全体がかなりの部分で反対をしているということなんです。ただ,だから論点を落とせというところを強硬に主張したことはなく,反対意見があるということを注記していただいて,やはり中間試案という形でパブリックコメントに付したほうがいいのではないかと,そういう判断をしたわけです。ファイナンス・リースに関しても,あるいはライセンス契約に関しても,確かに実務界では反対意見が強いんですけれども,ここで落としてしまって本当にいいのか。今まで我々が,3年議論した中では,ファイナンス・リースというのは,項目としては残ってきておりますし,最後まで事務当局のほうで残しているということを考えますと,本当にこの段階で落としてしまっていいのか。逆にもしここで落とすということであれば,私も議論を蒸し返さざるを得なくなるというところがございます。そこら辺は慎重にお考えいただいたほうがいいのではないかということを一言申し上げたいと思います。 ○山本(敬)幹事 ほかにもあるのですけれども,ここで議論になっていますので,この15について述べたいと思います。今の佐成委員からの御指摘もありましたように,中間試案では,少なくともこの二つをここに掲げて意見を求めるのがよいのではないかと思います。少しニュアンスは違うかもしれませんが,それが望ましいと思います。  ただ,いずれも賃貸借の節に規定を設けるものとするとして,注記を見ましても,そこに反対するという意見が載っていません。これは,私は載せていただいたほうがよいのではないかと思います。このファイナンス・リースにつきましても,前から議論がありますように,使用収益させるという側面があることは否定しにくいのですけれども,その対価が賃料という性質を持つのか,融資に対する対価なのかという点についてはたくさんの議論があったところです。その意味では,賃貸借の節の中に設けることについては,むしろ反対もあるところだと思います。   ライセンス契約についても,より一層そうかもしれません。やはり有体物を前提にしていないというところが決定的な違いだと思います。同時に複数の利用が可能であるものが正にライセンス契約の対象ですので,ここに賃貸借の規定を持ってくるのは,質的にやはり異なるのではないかという気がします。その意味では,注記の中に,先ほども言いましたように,賃貸借の節に設けるべきではないという考え方もあるということを載せていただければと思います。 ○高須幹事 今の15番のファイナンス・リース,ライセンス契約のところ,弁護士会の状況でございますが,やはり弁護士会も反対が多数です。ただ,繰り返しになって申し訳ありませんが,東京弁護士会は,この件については立法化に対して前向きという意見を持っております。今,佐成委員のお話を伺っていて,やはりそういう状況であればパブリックコメントにかけるという前提で,より広くいろいろな人の意見を聴いた上で,まだ第三読会があるわけですから,そこで結論を出しても間に合うのではないかと思います。弁護士会の中でも意見が分かれているという状況ですので,より広く意見を問うていただきたいと思っています。   それから今,山本先生から御指摘があった(注)の書き方をより詳細にというのは,ここはまっさらに何もないところに新たに規定を作ろうというところですので,細かく書けば,よりパブリックコメントが充実したものになると思います。そういう意味で,佐成委員,山本先生の御指摘に賛成でございます。 ○鹿野幹事 ファイナンス・リースではなくて,再び転貸のほうに戻るのですが,よろしいでしょうか。 ○鎌田部会長 取りあえずファイナンス・リース,ライセンスについての議論をお願いします。 ○松本委員 すみません,ファイナンス・リースに関してですが,私の個人的な見解は前から述べておりますように,税法や企業会計原則が変わると突然使われるようになる,あるいは使われなくなるというタイプの契約類型は,経済的には大変重要だけれども,民法の典型契約として置くのにふさわしいかどうかについては大変疑問を持っております。ただし,提案をしてパブリックコメントにかけようということ自体にはあえて反対はいたしませんが,そうであれば必ず消費者向けのリースについては適用除外であるという明文の規定をセットにしていただきたいと。さもないと,現在の割賦販売法における消費者保護の水準を民法上のファイナンス・リースだということにすれば,完全にすり抜けることができるということになって,現在の消費者法の水準を民法改正によって切り下げるということになります。これは許すべきではないわけで,したがって,そういう改正がなされるのであれば,消費者の地位については従来と変化がないんだという特則を必ずセットとして置かなければならないと思います。消費者はファイナンス・リースによる経済的恩典は何も受けないわけです。消費者は事業はやっていないわけだから,税法上の優遇措置なんか何もないわけですね。しかるに,瑕疵担保責任等の追及ができなくなる。この点は消費者にとってファイナンス・リースと同じ経済的意味をもつ割賦販売法上の信用購入あっせんでも同じです。ただし,販売業者に対する抗弁を主張して信用購入あっせん業者への支払いを拒むことができるという保護が与えられているわけですが,この民法の改正提案が消費者リースにも適用されると,そういう保護が与えられなくなる。すなわち消費者は経済的な恩典なしに不利益のみを負うということになるわけですから,これは消費者保護の規定とセットで提案を頂きたいと思います。   ライセンスについても,経済的には大変重要な契約ですが,この程度の規定をちょこっと置くぐらいで何の意味があるのかと。すなわちライセンス契約という契約があるということを民法が認知するという程度の意味しかないわけです。人畜無害だから置いてもいいでしょうということになるのかもしれないですが,大阪弁護士会等の意見書を見てみますと,むしろ賃貸借の規定を適用することによる弊害があるのではないかという指摘もありますから,ライセンス契約がありますよという規定を置くだけであれば,置かないほうがいいのではないかと思います。 ○三上委員 私から言うのもちょっとおかしい話になるんですけれども,リース業界自体は規定を置くことに反対で,各論の議論はしないという状況ですから仕方ないのかもしれませんが,一つはほとんど契約に必要な条項が書いてあって,民法に載せてもらっても意味がないという部分はある程度説得があるといいますか,今回も将来債務引受けだとか損失補償契約とか,存在することは認めるけれども,民法に書くことに意味がないという理由で落ちた部分はたくさんございます。 実際にリース業界の法務の担当の方に話を聞いていると,いろいろなリース契約をめぐる解釈の意見は内部で分かれていて,例えば先ほど山本敬三幹事がおっしゃった賃貸借部分に置くことの是非に関しても,どうせ置くなら賃貸借の延長のほうがいいという人もいれば,違うほうがよいという人もいるし,どこにアレルギーを示すかというと,資料に上げてある660条とか608条以上に611条だという人もいると。この場の議論とか過去の部会の議論を考えて,全部落とすことが難しいのであれば,置く以上は本当に困るところはどこなのかということを,リース業界からなんとか聞き出して,より深い議論がされるよう努力を是非事務当局には続けていただきたいと思います。そうしないと,決して条文にしたところで使われないし,いいものにもならないのではないかという気がしております。   すみません,ちょっと差し出がましいことでした。 ○三浦関係官 すみません,再び。今,何人かの委員の御発言を伺って,恐らくいまさら落とすということについて,この段階で落としてしまうことへのある意味少し心理的に違和感というのをお持ちの方がいらっしゃるかなと思いました。この辺は引き続き事務局で御検討いただくんだと思いますけれども,恐らくこの中間試案の編集方針なり作り方の哲学なり,それが世の中にどう見えていくかということともちょっと関連するのかなと思います。つまりもちろん中間試案にはまだいろいろな未整理の論点が残っていて,約款など悩ましい論点も残っている中で,なぜこれは落とすのかという議論も分かります。一方で,他方もう既に落ちている論点もたくさんあるわけですね。そして,本件については今日も心理的違和感としてはいろいろな御発言があったと思いますけれども,内容についてはどのぐらい強いサポートが残っているのかどうか,いろいろ濃淡があるのだろうと思います。ですので,ちょっとそういうところも勘案しながら,ここまでいろいろな慎重論が出ているような論点で,それでもなお残っている論点というのがほかにあるのかとか,既に落ちている論点との比較とかを踏まえて,どう整合的に外に説明できるのかということも大事かと思いますので,今後の検討の際にはその辺もよろしくお願いしたいと思います。 ○筒井幹事 様々な御意見,ありがとうございます。今たくさんの御意見を頂きました論点に関しては,中間試案に残すのかどうかということも含めた議論がありましたので,本日の議論を踏まえてよく考えたいと思います。 ○鹿野幹事 転貸借のところで,部会資料では14ページの11についてです。先ほど(1)や(3)については御意見がありましたが,(5)について一言申し上げたいと思います。適法な転借人の利益保護という観点から,賃貸人が賃借人の債務不履行に基づき解除をするときには,解除の前に転借人に通知することを要求するべきではないかという解釈論が従来から主張されてきましたし,この部会でも言及されたことがあったのではないかと思います。ところで,(5)は,賃貸人と賃借人との間の合意解除については原則としてその効力を転借人に主張できないという判例法理を明確にするとともに,例外として,合意解除であっても債務不履行解除の要件が満たされていたときには,転借人にその合意解除の効力を主張することができる旨の規定を置こうとするものです。そうであれば,この場合にはなおさら,それが実質的に転借人の容易な追い出しにつながらないように,転借人への通知等,何らかの方策を設けるべきではないかと思います。いまさらこれを本文に設けるということは難しいかもしれませんが,せめて(注)や補足説明にでも一言そういう考え方についてお書きいただけないのかと思いまして,一言意見を申し上げました。 ○鎌田部会長 そこは少し工夫の余地があるかどうかについて,事務当局で検討してもらいたいと思います。 ○沖野幹事 賃貸借の13ページの10の項目の(1)の後段部分です。賃借人の責めに帰すべき事由によって一部の使用収益をすることができなくなったときに賃料は減額されないということで,説明では536条2項後段の規律が(3)については示されておりまして,これらとの関係もあるのかと思いますが,念のため確認をさせていただきたいという趣旨です。賃借人の責めに帰すべき事由のみではなくて,他の事由と競合する場合があります。賃貸人側の責めに帰すべき事由ですとか,あるいは賃貸人の支配すべき状況などによってこのような事態が生じたときの処理はどうなるかというのがどうもいろいろなところに出てくるような感じもいたしますものですから,その場合はどのような扱いになる前提の下でこの規律を設けるかということです。幾つかの可能性があるように思われます。   一つは,この部分の解釈として読み込むとか,あるいは専らとか主としてとかそういうようなものを読み込むとか,あるいは信義則によって更なる調整をかけるとかも考えられます。考慮されず結論に関係がないということは余りないと思うんですけれども。この点の扱いに関してその趣旨なり想定なりを確認させていただければと思うのですが。 ○筒井幹事 現時点での整理としては,責めに帰すべき事由という言葉を使う場合には,双方に責めに帰すべき事由がある場合を含むという整理の仕方をするのではなく,総合的に判断して,賃借人であれば賃借人の側に「責めに帰すべき事由」があると言えるかどうかを判断するという建て付けで考えておりました。 ○沖野幹事 補足説明になるのかと思いますが,可能ならこの点についての説明を加えていただけるとよいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 そこは検討させていただきます。ほかには。 ○山本(敬)幹事 幾つかあるのですけれども,まず,9ページの4の不動産賃貸借の対抗力について,前から申し上げていることですが,もう一度だけ述べさせていただければと思います。具体的には,4の(1)と(2)以下の関係です。  概要を拝見しますと,第三者に対する賃借権の対抗の問題と,第三者への賃貸人たる地位の移転の問題を区別して,前者の対抗の問題を(1),後者の地位の移転の問題を(2)で規律することによって,規律の内容を明確にするとしておられます。この二つが異なる問題だということはおっしゃるとおりで,これは私も従来からずっと申し上げてきたつもりです。しかも,(2)以下を,現行法では物権の取得になっているのですけれども,これを譲受けに限定されたというのも,正確でよいと思います。   問題は,(1)で両者を含めて「対抗」と呼んでいるところです。これは,やはり「対抗」の意味を混乱させるのではないかと思います。というのは,賃借権というのは,賃借人と賃貸人がいて,賃借人が賃貸人に対して目的物を使用収益するのを妨げるなと言えるものです。賃借権の「対抗」というのは,本来,この賃貸人に対して言えることを他の第三者に対しても言えるようにすることを意味するはずです。つまり,自分は賃貸人から目的物を借りている。この目的物を使用収益するのを妨げるなと,第三者に対しても言えるようにするのが本来の「対抗」の意味だと思います。ところが,相手方が不動産の譲受人である場合は,別に賃貸人がいて,自分は賃貸人から借りているので,それを「対抗」するというのではなくて,正しく(2)にありますように,不動産の譲受人が賃貸人の地位を承継してしまうので,むしろあなたは私に貸している。だから,返せとはもう言えないと主張できるというものだと思います。その意味で,これを「対抗」と呼ぶのは適当ではないと思います。   したがって,譲受人以外の者については(1)で「対抗」として定め,譲受人に関しては(2)以下というように明確に分けるほうがよいのではないかと思います。それによって,現行の民法605条の意味が明らかになるように思います。くどいようですけれども,やはりこの「対抗」は非常に気になってしまうということをもう一度申し上げておきたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○山本(敬)幹事 ほかでもよろしいでしょうか。若干関わるかもしれませんが,11ページの6の不動産の賃借人による妨害排除請求権です。これによりますと,不法占拠者に対しても対抗要件を備えないと妨害排除請求ができないのかということが問題になります。そして,概要で引かれている引用判例のうちの昭和30年4月5日判決は,不法占拠のケースです。しかし,この判例に対しては学説から非常に強い批判があるところです。少なくともこの裁判例は概要から外しておく方がよいのではないかと思います。そして,考え方としても,不法占拠者に対して対抗要件を備えないと賃借人は妨害請求できないというのはやはり問題だろうと思います。その意味では,どう書くかというのは少し難しい問題があるのですけれども,少なくとも,不法占拠者はそこで言う第三者に当たらないという解釈ができるような余地を残していただきたいと思います。 ○鎌田部会長 それぞれ検討させていただきます。 ○佐成委員 7の敷金ですけれども,これの(2)のところで,敷金の返還時期についての規定が提案されていまして,このこと自体は全くいいんですけれども,実務上は,返還時期に関してはいろいろ特約が付されるということがございます。そこで,ここには「賃貸人が賃貸物の返還を受けたとき,又は賃借人が適法に賃借権を譲渡したとき」となっておりますけれども,これはあくまで任意規定で,そういった特約が有効であるということを補足説明に一応お書きいただくか,何らかの形で言及していただくと実務的にはパブコメに対応しやすいということでございます。   それから,13の収去義務あるいは原状回復義務についても,これもやはり実務上特約を付されることが多く,補足説明で同趣旨の言及をしていただきますと助かります。 ○山本(敬)幹事 13について少し補足させていただけたらと思います。終了後の収去義務と原状回復義務について,(1)と(2)を区別して,(2)で損傷がある場合について定めているわけですが,これはこのような区別でよいのではないかと思います。ただ,(2)で,通常損耗を超えるような損傷が生じたときに,常に原状回復をする必要があるかといいますと,検討の余地があるのではないかと思います。例えば,賃借人にはもうどうしようもない事情,例えば天災などの不可抗力で賃借物が損傷した場合に,そのようなときにまで賃借人が原状回復までしなければならないと考えられているかというと,そこまでは契約上予定されていないのではないかと思います。したがって,そのような場合には,賃借人は原状回復義務を免れることができるというように,書き方をどうするかはもちろん難しいのですけれども,やはり定めておく必要があるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 その点も検討させていただきます。 ○中井委員 13の(2)の後段ですけれども,これはいわゆる通常損耗に関わる部分だと思います。いわゆる自然損耗,経年変化に関することも一つの概念としてありますので,それを入れることによって今の山本敬三幹事のおっしゃられたような事象も含まれるのではないかと思います。   別ですけれども,9ページの4(1)は登記をしたときと,こう書かれているわけですけれども,その次の6のところでは登記をした場合と借地借家法その他の法律が定める賃貸借の対抗要件を備えた場合としています。これで平仄が合っているのかという素朴な質問です。   それから,4の(3)について,従前様々な議論があって,今回,留保する旨の合意と賃貸する旨の合意という二つの合意を要件として,その後,この賃貸借が終了したときに承継する,そういう規律にしたのだと思いますが,この賃貸する旨の合意という形に限ることの当否について,果たしてこれでいいのか,整理として工夫されたんだろうなと思いながら,だからどうだというところまでの意見を私は持っているわけではないんですが,弁護士会の多くからこれについては疑問視する,このような限定の仕方であれば,かえって問題が生じる場面もあるから,それならこのような提案はむしろないほうがいいのではないかという意見も含めて,更なる検討が必要ではないかという意見です。   敷金については金銭債務を担保する目的という形で,明確に敷金を定義付けるということだろうと思います。そうした場合に,いわゆる敷引特約等についてどのような考え方になるのか,これも議論といいますか,確認をしておいたほうがいいのではないかと思います。そこに一定の御見解をお持ちであれば教えていただきたいと思った次第です。 ○金関係官 まず1点目についてのみ説明いたします。4の(1)では借地借家法について記載をしていないのに6では借地借家法について記載をしているという点ですけれども,4については,借地借家法上の対抗要件を具備した場合に対抗できるということは借地借家法の条文に既に書かれていますので,この4のところでも対抗できると書いてしまうと,既に存在する規律を更に重複して規律することになります。これに対して,6の妨害排除等請求権については,借地借家法上の対抗要件を具備すれば妨害排除等請求権を行使できるということは借地借家法の条文には書かれていません。その意味で,6についてだけ借地借家法上の対抗要件を具備した場合の規律を置いたとしても,一応平仄は合っているのではないかと考えています。 ○筒井幹事 現在の案がこうなっている理由は,金関係官から説明した通りですけれども,それで平仄が取れているのかどうかという中井委員の問題提起については,なお考えてみようと思います。   4(3)で賃貸する旨の合意を要求していることについて,なお御懸念があるという点は,正にパブリックコメントに付するのに適した話題なのであろうという感想を持ちました。これまでの議論の経緯を踏まえると,賃貸する旨の合意を要件とするのが現時点では適切であろうと考えておりますけれども,それで不都合がある事例がどれくらい想定されるのかといったことについて,是非パブリックコメントの結果を踏まえて,次のステージで深めていきたいと思います。 ○金関係官 では3点目の敷金について説明いたします。御指摘のあった敷引特約というのは,敷金が担保目的で交付される金銭であることを当然の前提とする特約だと思いますので,その意味では,7の規律が現在の敷引特約の考え方に特に影響を及ぼすことはないと考えております。 ○中井委員 筒井幹事がおっしゃられたことの確認です。4の(1)と6の関係についての説明,分けた理由は分かりました。ただ,仮にそうだとすれば,借地借家法にあるからという理由で,民法で使い分けをするのはいかがなものか。むしろ,民法で明らかにした上で借地借家法の規定が要らなくなるというのが素直ではないか。そうしたときに,整備法との関係でどうなるのかという問題なのかと思いますが,引き続き留意していただければと思います。 ○松本委員 一つか二つ前の山本敬三幹事が指摘された13の(2)についてです。通常損耗を超える損傷が発生しているけれども,その原因が自然災害等にある場合について,このままでは賃借人に不当な負担が掛かるのではないかと。だから,そうならないような明文の規定を置くべきだという御指摘で,政策判断としてはそのとおりだと思うんですが,債権総論のところの履行請求権の限界とか,あるいは損害賠償のところで契約の趣旨から責めに帰すべき事由がない場合には,賠償義務がないという条文がありますから,賃貸借のところでそれをもう一度繰り返すような趣旨の規定を置くのは親切といえば親切だけれども,置かなければならないのかどうか。置くならほかの典型契約についても同じように債権総論に書いてあることをよりパラフレーズしたような規定を置くという原則でやるのかやらないのか,そういった一般的な民法の体裁の問題とも関係してくるのではないかと思います。賃貸借には債権総論の規定が適用されないということはないですよね。 ○山本(敬)幹事 一言だけですが,少なくとも履行請求権の限界は,この問題とは重ならないのではないかと思います。履行請求権の限界は履行不能が典型ですけれども,原状回復ができないないしはそれが非常に困難である場合に,原状回復請求が制限されるというものだと思います。しかし,ここで私が先ほど少なくとも問題にしたのは,そのような場合ではなくて,原状回復はできるかもしれないけれども,原因が天災等の不可抗力によって生じたという場合にまでなお賃借人が原状回復しなければならないのかということです。その意味では,履行請求権の限界に関する規定が適用されると思いますけれども,それではカバーできない。  もう一つの損害賠償請求に対する免責事由がどうなるかという点については,やはり原状回復請求は損害賠償請求と性格が異なるとすると,その規定がそのまま適用されるわけではないだろう。とすると,何もなければ,原状回復請求は履行請求権の限界事由に当たらない限り認められてしまいそうである。だから,規定する必要であるというのが一応の答えではないかと思います。 ○松本委員 恐らくそういう趣旨でおっしゃっているんだと推測していたんですが,部会資料53のたたき台の1の34頁のところに契約による債権の履行請求権の限界というのがございまして,三つ挙げられているんですね,ア,イ,ウと。アが物理的不可能,イが過分の費用,ウがその他ということで,当該契約の趣旨に照らして債務者に債務の履行を求めることが相当でないと認められる事由というのがあります。原案ではこのウが入っているというところが大変大きな意味があるのではないかと思います。したがって,山本敬三幹事の履行請求権の限界というのは,このウの入っていない場合の民法について指摘されているわけで,もし債権総論がそうなれば今のケースは全く免責されない可能性があるので,賃貸借のところに明文の規定を置くべきだということになりますが,そうだとすると,ほかのところ,売買なんかのところでも同じような手当てをしていく必要が出てくるのではないかと思われます。 ○鎌田部会長 今,頂戴した御意見を踏まえて少し検討をさせていただきます。 ○山野目幹事 少し前に筒井幹事と中井委員の間での意見交換があった4の(1)と6の間の賃貸借の登記の整合性の問題でございますけれども,少し心配なので念のため申し上げさせていただきます。この2か所で使われている文言の関係については,金関係官が御説明になったことで既に平仄が整っていて,整合性ある説明が与えられていると私は理解いたします。筒井幹事が平仄が合っているかどうかをもう一回考えてみたいとおっしゃって,考えてみていただくこと自体はよろしいですが,変えていただくことは困るという印象を私は抱きます。借地借家法の規律を民法に統合するということは,ここでの議題にはなっていないはずでありますから,十分にそこのところを御留意いただければ有り難いと感じます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかに賃貸借についてよろしいでしょうか。 ○岡委員 細かい点でございますが,2点申し上げたいと思います。4の(3)の賃貸人たる地位を留保するときに,譲受人と譲渡人の間に賃貸借契約を要求するというところでございます。単位会の一弁で議論していましたときに,余りこういう実務をやっていない人間は分かりやすくていいではないかと肯定的な評価をしたんですが,こういう実務をやっている人間は困ると,非常に狭められて使いづらくなるのでやめてほしいと,こういう意見が出ました。パブリックコメントに付す論点だとは思いますが,先ほどのリース業界もありますとおり,実際に使う人たちにとってどうかというところも加味してパブリックコメントの本体を書くべきだろうと思いました。今から業界の意見を聴くのはどうか,無理かもしれませんが,一弁の議論で素人がいいと言って,玄人が困ると言ったのが印象的でしたので,御報告申し上げます。   それからもう一つ,部会資料12ページの8番の修繕義務の修繕権のところでございます。(2)ですが,説明を読むと,事前通知の上,直さないときは賃借人ができる,急迫な事情がある場合は通知なくできる,この規定で今まで第二読会は来たと思っておりまして,これでいいのではないかと思っていたところ,急に比較的抽象度の高い要件,すなわち履行しないときは賃借人ができる,となりました。ただ,これは非常に誤解を招きやすいあるいは混乱を招きやすい表現ではないかという意見が多うございました。部会資料でそんな急迫の事情だとか通知なんかではなく,もっと簡単なものでいいではないかという意見が多数であったという記憶は余りないんですが,部会の多数あるいは法務省が今こちらのほうが多数意見を形成できると思っていらっしゃるのであれば,あえて反対するのではないですが,やはり普通の人が読むと,履行しないときは自ら修繕できるというふうに読んでしまって,誤解及び紛争を招くのではないかというふう思いました。 ○鎌田部会長 その点もちょっと引き取らせて。 ○筒井幹事 一言だけ申し上げますと,前回の部会資料,第二ステージの部会資料で少し踏み込んだ具体的な要件を提示して御議論いただきましたところ,それはそれで難点があって議論が分かれていたところですので,それを踏まえて丸めた要件として現在の案を御提示しております。これでは不明確だという御意見があることはよく理解いたしますけれども,そういった議論の経緯も紹介しながら,パブリックコメントの手続に付することも考えられるのではないかと思っております。 ○鎌田部会長 ほかに賃貸借関係はよろしいでしょうか。   それでは,「第4 使用貸借」について御審議いただきます。一括して御意見をお伺いいたします。   使用貸借については特に御意見はないと思ってよろしいでしょうか。 ○中田委員 無理だとは思いますが,一言だけ。1の成立の(2)で書面によらない使用貸借の解除という部分ですけれども,書面があれば貸主が解除できなくなるとすると,親族間などではかえって紛糾を生じるおそれがあるのではないかという気持ちがまだぬぐい切れません。ビジネスの場での使用貸借と,親族間の伝統的な使用貸借との両方考えたときにどのような規律が望ましいのかという問題でありまして,書面による解除権排除合意のある場合に解除できないという案を(注)なりに入れていただければ有り難いと思いますが,これは最後に一言という感じです。 ○鎌田部会長 ほかには特に御意見がないようでしたら,続きまして……はい。 ○岡委員 冒頭に申し上げたのは,その場で考えることも含めた議論を許してほしいということでございました。使用貸借は無償の行為の一つの例としてあるわけでございまして,それで書面の話が出ているんだろうと思います。それで,あるものが言っておりましたのは,終了事由のところでもう少し若干抽象的な終了事由もあっていいのではないか,その点についてはどんな検討をしたのかという話がございました。具体的には,贈与における忘恩行為だとか困窮による解除と同様なものが使用貸借のところになぜないのかという問題提起でございます。先ほどの中田先生の話にもつながるのかもしれませんが,やはり忘恩行為あるいは困窮による終了というのが使用貸借にないのは,事例がないこともあるのかもしれませんが,やはり贈与と使用貸借の違いから来る当然の帰結だというふうに考えてよろしいんでしょうか。その点,無償による使用貸借の終了原因のところに,無償に応じた特殊な終了事由がないことについてどんなふうな検討をされたのかについて説明を頂ければ有り難いです。 ○筒井幹事 実際問題として,何を想定して御指摘のような使用貸借の規定を設けるかというのは大変難しいのだろうと思います。使用貸借に関しては,ビジネスの一貫として行われる場合も少なくないといった指摘もあり,忘恩行為のような規定を設けるニーズがどれぐらいあるのかについては,具体例を踏まえて一定の結論に到達しているわけではないと思っております。ですから,現時点ではこのような案にしておりますが,それについての不都合があるという具体的な指摘があれば,更に議論を続けることはあり得ると考えております。 ○深山幹事 使用貸借の新たな終了事由については従来から議論があっわけですが,今回取り上げなかった論点のほうに落ちてしまっております。贈与になぞらえて言えば,忘恩行為などに対応するようなものについて,この部会でも議論をして,確かに規定の仕方が難しいという指摘も含めいろいろな意見があったかと思うんですが,しかしながら,全く落としてしまうこと,全く規定を設けないということについては,非常に残念に思います。そこまでの議論の一致はなかったように思いますし,今,筒井幹事からも言われたように,なお議論の余地があるという認識がある程度あるのであれば,ここで落としてしまうということには反対をしたいと思います。どういうものを想定するかによって違ってくるという難しさを概要等で説明しつつも,やはり論点として残していただきたい。先ほど岡先生のほうから贈与と使用貸借の違いというようなことにも言及がありましたけれども,私の感覚からすれば,贈与というのは一回的な無償行為であるのに対して,使用貸借というのは継続的な関係ですから,使用貸借を始めた頃の事情がずっと続くということではなくて,時間がたつことによって事情が変わるということが当然あり得る契約類型なわけです。そういう意味で,贈与との違いを言うのであれば,贈与について規律があるのであれば,なおのこと使用貸借には,困窮等を理由とする終了事由や忘恩行為を理由とする終了事由というのはあってもよろしいのではないかという気がいたします。少なくとも議論の土俵に残していただきたいと申し上げたいと思います。 ○高須幹事 弁護士委員,幹事が続けての発言で申し訳ありませんが,ここも今,両先生から出たように新たな終了事由として,これまで議論しておったところについてもう少し考えてもいいのかなと。中田先生が先ほどおっしゃったように,使用貸借がビジネスだけで使われるのかどうかということも考えると,やはり大きな問題のような気がします。そういう意味で,親族間で使われるという余地を含めて今後の議論につなげるためには,検討項目から落としてしまうとなかなか難しくなるのではないか。どのような要件にするかについては,以前にもちょっと紹介させていただきましたけれども,最高裁の昭和42年11月24日などという判例がベースになって,第二読会の提案というのはなされておったんだと思いますが,そういった余地は認められてもいいのではないか,あの判例は同族会社における事業承継に絡む問題でしたので,ある意味ではやはりビジネスに係る面もあったと思っておりますので,もう少しその辺りも検討して,今後の議論の余地を残しておいたほうがいいのではないかと思います。同じような意見で申し訳ありませんが,以上です。 ○鎌田部会長 では,検討してもらうこととします。 ○佐成委員 一言だけ申し上げます。ビジネスに関するというところです。親族間の使用貸借ではなく,ビジネスに関するところでいきますと,そういうふうに事情が変わって終了させられるというのは非常に取引の安定を害するものでして,相当慎重にやっていっていただきたいということは,論点として取り上げる,取り上げないという問題とは別に,是非御考慮いただきたいと思いますし,概要とか補足説明とかでもその点には十分御配慮をよろしくお願いしたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○山野目幹事 佐成委員の前に弁護士の先生方から3人続いて新たな終了事由の復活折衝の御発言があったことについて,私として感じたことを少し申し上げさせていただきます。恐らく事務当局においては,この論点そのものについて何か強く設けるべきではないというような御所見をお持ちになって仕事をなさったのではなくて,これを中間試案に載せようとすると,取るに足りるだけの規律の具体的なイメージについて成案を得ることができなかったから外したというふうに想像いたします。これを復活させるという御議論は,今伺っていてそれぞれに根拠のあるものと感じましたとともに,復活させようとすると,恐らく引き続き検討するという文言で復活することになるであろうと思います。そう考えたときに,今後中間試案そのものもそうですけれども,中間試案の後にこのテーブルにいる私たちに課せられる作業として,委員,幹事のエネルギー,精力,それから事務当局のマンパワー等というようなものを考えたときに,引き続き検討するというものを乱発というふうに言うと叱られるのかもしれませんけれども,それはよく考え込んでリストを絞っていかなければいけないのではないかというふうに感じます。   もちろん一つ一つ考えていくべき事柄であって,一概に述べることは控えなければいけないですけれども,今話題に上がった新たな終了事由の問題との関係で申し上げますと,私なりに2点理解していることを申し上げさせていただきますが,一つは無償契約への贈与の規定を準用するという論点自体が落とされていますけれども,あれが落とされたということは,贈与に関する規律を参考にして無償契約の法律関係の解釈運用をしてはならないということを意味しているものではなくて,無償契約の多様性がゆえに有償契約のときのような準用規定を置かないという趣旨でございますから,贈与のところについて置かれた規律を使用貸借の性質が許す限り,使用貸借の法律関係の規律においても参考にするという裁判所による法律運用は,将来的に期待することができるのであろうと考えます。   それからもう1点は,判例上形成されている使用貸借についての,著しく信頼関係が損なわれた場合の終了を考えるという議論は,これも今回この論点を落としたからといって否定されたものではないであろうというふうに理解しております。ただし,あの判例上形成されている考え方は,余りにも一般条項ないし規範的要件によってのみ組み立てられているものであって,法制化になじまないという色彩が非常に強いものでありますから,そのようなことを考慮して今回,この取り上げる論点から外されているのではないかというふうに感じますが,そのような考え方による裁判所による解釈運用は今後も続けられていく,そのことは毫も否定されていないと理解しておりました。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかに使用貸借についてはよろしいですか。 ○山本(和)幹事 細かい点で,しかも,概要の説明のところですけれども,19ページの1のところで,概要の第1段落の最後のところで,引渡し前に当事者の一方が倒産手続開始の記載がありまして,特段の規定を設けず解釈に委ねるというのは賛成なんですが,破産法53条等だけが上がっておりまして,これ,そういう解釈になるというのが一つの考え方であろうとは思うんですけれども,もうこういう場合は当然失効させると,それだけ失効させるという解釈論もありそうな感じがして,そうだとすれば,その場合の解釈の根拠は消費貸借のほうの規定の類推適用みたいなことになるのではないかと。破産法53条から当然失効というのを導くのはかなり苦しい解釈になりそうな感じがするので,ですから,貸借型のほうの規定としてそちらを持ってくるということもありそうな感じがしますので,そういう余地を残して,ここにそういう消費貸借のほうの解釈ということもあり得るというような感じで書いておいていただければ広がっていいかなということです。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかにはよろしいでしょうか。 ○中井委員 引渡し前に倒産手続が開始した場合ですけれども,ここで申し上げるか,ほかで申し上げるかですけれども,典型契約によって取り上げたり取り上げていなかったりで,それが気になっております。基本的には,破産法53条若しくは消費貸借準用型で処理していくのか,もう少し丁寧にそれぞれ規定を置くのか,ここでも考えるべきだろうと思います。 ○鎌田部会長 それでは,次に「第5 請負」について御審議いただきます。御自由に御発言ください。 ○加納関係官 21ページの1の(1)のイの「必要な行為を注文者がしなかったこと」というところであります。ここは,いろいろな検討をされてこういう表記を考えられたんだと思いまして,例えば従前,部会資料46とかでは注文者の支配領域で生じたというふうに書いておられたところを,こういうふうな考え方に至ったのではないかと考えているんですけれども,この部会資料46で述べられている考え方自体はそれなりに合理的なものではないかというふうに思っておりまして,それがそういう考え方に基づくものですよというのがこのイのところでも読み取れればもうよいのではないかという気がしております。   具体的に,その概要のところ,22ページの上の辺りで,その注文者が必要な行為をしなかったというのはどういう場合ですかということについては,括弧の中で材料を提供しなかったとか,目的物を適切に保存しなければいけないのにしなかったと,こういう場合が想定されているんだということでありまして,これはそういう場合にはしようがないのではないかという気がするわけでありますが,他方で,そういうことを注文者がやろうと思っても不可抗力その他でできないという場合には該当しないんだと,そういうのは支配領域と言えないんだということであれば,そういうことが分かるように,概要でもいいかと思いますけれども,解説が補足されれば,そうであれば規律としては合理的なものではないかと思いますので,そもそも私が今申し上げた考え方がちょっと間違っているのかもしれませんけれども,そういう理解でよろしければそういう付記をするということが御検討いただけないかと思います。 ○鎌田部会長 分かりました。ほかには。 ○岡委員 今のところなんですが,注文者の責めに帰すべき事由による注文者の必要行為不作為の場合は(3)で処理されて,全部報酬を払うんですよね。そういう理解でよろしいんでしょうか。部分的に払うのは責めに帰すべからざる注文者の必要行為不作為という規律に読めるんですが,まず,そういう理解でいいのかどうかという点と,そうだとしても,この(1)のイは極めて分かりにくいという印象を多くの弁護士が持っておりました。 ○鎌田部会長 その点について。 ○笹井関係官 今の岡先生の御質問ですけれども,帰責事由がある場合には(3)が適用されて反対給付を全部払わなければならないことになります。したがって,(1)のイが意味を持ってくるのは注文者に帰責事由がなかった場合であるというのは岡先生のおっしゃるとおりであると考えております。 ○中井委員 そうだとすれば,もう一回,加納関係官に今の回答を前提としても,先ほどの御意見になるのかを確認しておきたいんですけれども。 ○加納関係官 同じであります。 ○中井委員 そうだとすると,この22ページの上側の概要の説明は,関係官がおっしゃられたことを表現したものでしょうか。(1)のイは帰責事由がない場合の規定で,注文者に帰責事由はない,しかし,請負人は一定のことはやった,やった成果は全く価値はない,しかし,報酬請求できる,そのはずですが,ここでの公平というのは仕事を完成させることができなかったことに注文者側に原因がある以上,報酬請求できる,先ほどの関係官の説明とこの表現は平仄が合っているのか,もう一度確認をさせていただいてよろしいでしょうか。 ○加納関係官 私が申し上げましたのは,この帰責事由がある場合については(3)で処理されるんだろうということを前提に,そうでない場合の危険負担に代わる考え方として,この(1)のイの考え方が今回提案されていると。危険負担に代わるといっても,その背景は部会資料46でいうところの支配領域というような考え方を応用しているということで,今回新たな規律を提案されているんだろうというふうに資料を読んで私なりに理解をいたしました。   そうしますと,その場合にどういう場合が公平かと。その公平の中身を詰めるということが非常に重要であろうというふうに思った次第でありまして,材料を提供するとか目的物の適切な保存とかをやろうと思えばできるのにしなかったという場合に負担させるというのは,規律としては合理的であると私は思います。ただ,不可抗力とかによってそれがどうしてもできない場合には,別途この必要な行為をしなかったというわけではないよというふうになるべきではないかというふうにも同時に考えておりまして,そういう場合にはこの必要な行為をしなかったというものではないというふうに規律をしたらどうかということで申し上げました。 ○中井委員 私が混乱させたかもしれません。笹井関係官に平仄を確認したかったのですが,大変御迷惑をかけたのかもしれません,加納関係官に。 ○笹井関係官 ここで言っているのは,例えば,何かの物を製作するという仕事を内容とする請負契約で,注文者がその原材料を供給するなり,あるいは必要な指示をするなり,そういった注文者の行為がなければ請負人が仕事を完成させることができないという場面で,請負人が労力を提供して途中まで作ったんだけれども,途中で注文者の行為がされなかったために,最終的に仕事が完成しなかったという場面で,原材料を提供しなかったことについて注文者側に帰責事由があれば(3)が適用されますけれども,その原材料の入手が非常に困難になってしまって材料を提供することができなかったことについて帰責事由があるとは言えないというような場面があり得ると思います。この場合には,その必要な行為をしなかったということが原因ではあるけれども,それについて注文者に帰責事由があったかというとそうではなく,注文者が(3)の責任を負うとは言えない。一方で,注文者側の支配領域に基づく履行不能だということで,請負人が現に労力を提供した部分の報酬請求権を認めてはどうかという考え方です。 ○中井委員 笹井関係官のお考えは分かりました。ここで原因があるという記載からそのような趣旨を表明しているということを理解いたしました。しかし,それは誤解を与えると思います。それであれば,端的に注文者側に帰責事由がない場合,提供できないけれども,帰責事由がない,それであってもそれまでの仕事の報酬は請求できる,そういう規律を設けることの適否とお聞きになるほうが適切ではないかと思った次第ですが,趣旨はそういう趣旨ではないんですか。 ○笹井関係官 注文者に帰責事由がないというだけだと,注文者とは全く関係のない領域で生じた事由による履行不能も入ってしまうので,それは除外するという趣旨です。 ○内田委員 (1)のイというのは一部の報酬が取れるわけですね。(3)は全部取れる。ですから,要件としては(1)のイのほうが緩やかな要件になっているわけで,これは,元々は注文者の側に生じた事由という言葉で表現されていたわけです。その「側に生じた事由」というのが分かりにくいということで批判が多かったので,単にその表現を変えたということです。(3)は,当初は注文者の義務違反というふうに表現されていて,これも評判が悪かったので帰責事由という言葉を復活したということですけれども,元々はイのほうが広くて,当初の表現の義務違反,つまり現在の案の帰責事由があるかどうかを問わず注文者の側に生じた事由によって履行不能があったと言えれば一部は取れる。そのとき,帰責事由がないということをわざわざ言う必要はないわけですね。しかし,帰責事由があったということが積極的に言えれば(3)で全額が取れるという構造なのだと思います。その際,(1)で必要な行為をしなかったことという表現を使った。これが何か一定の作為義務に違反したみたいに読めるとすれば誤解を招くのかもしれませんけれども,元々は加納関係官がおっしゃった,支配領域内で生じた事由という趣旨を表現しようとしたものだと思います。ですから,ここに積極的に帰責事由がない場合と書くことは不要ではないかと思います。 ○道垣内幹事 「必要な行為を注文者がしなかった」場合の例として,22ページの3行の括弧内に「目的物を適切に保存することなど」と書いてあって,いかにも注文者に帰責事由がある場合を書いているような感じがするということが問題なのだと思うのです。中井委員も,帰責事由があるとかないとかというのをゴシック体のところで書けとおっしゃったのではなく,仮に内田委員の説明されたような趣旨であるとするならば,概要のところの22ページの5行目の「注文者に原因がある以上」という言葉の後に,「その契約の趣旨に照らして注文者の責めに帰すべき事由があるかないかにかかわらず」といった言葉を入れないと,正確な理解に基づくパブリックコメントがされないのではないかということだと思います。 ○鎌田部会長 今の御指摘のようなことでよろしいですね。 ○中井委員 そういう趣旨です。 ○中田委員 内田委員の御説明は非常によく分かりました。それで,確認だけなんですけれども,本日の補訂とも関係するんですが,資料の29ページのこれは委任のところですが,事前に頂いた資料では,(イ)では,括弧の中に委任者に帰責事由があるときは除くというふうになっていましたが,本日の補訂版を拝見しますと,ここが削除されております。それも今,内田委員がおっしゃったような御趣旨ではないかと思ったんですが,そういう理解でよろしいでしょうか。 ○鎌田部会長 それでよろしいですね。ありがとうございました。ほかにはいかがでしょうか。 ○岡委員 今のイについての説明も内田先生の話を聞いて確かによく分かったんですが,冒頭に申し上げたように,部会資料では注文者側に生じた事情というのでずっと議論してきて,それをこんなふうな言葉に深めたんだということというのが今分かりました。それは勉強不足だと言われたらそれまでなんですが,補足説明等には今のような経緯も書いていただければ,それを具体化しようとしたのがこれなのかというふうに分かって,この議論について付いてきているみなさんにはより理解が深まるだろうと思いました。それが1点でございます。   それから,2の瑕疵担保責任のところについてでございますが,2の(1)で売買との比較について質問させていただきたいと思います。まず,売買には確か相当の期間を定めてというのがなかったはずですが,請負にはこれが乗っかっていると,それはどうしてかというのが一つでございます。   それから,二つ目に,売買では修補代替物請求,不足物の追完と例示が挙がっておりました。請負でも修補が典型的だとは思いますが,代替物を持ってこいという請求も,足りない分持ってこいというのも,あり得ると思います。それを追完請求の中で修補だけ売買と違って限定しているのはどういうことでしょうか。その売買とこの請負の違いの説明を質問させていただきたいと思います。   それから,三番目に要件のところですが,仕事の目的物が契約の趣旨に適合しない場合にはというところでございますが,これは目的物に関する債務不履行と全く同義なのか,目的物に関する債務不履行の特定の場合を拾い上げて,債務不履行とは違う瑕疵担保責任というのを作っているのかどうか,先ほども同じような質問をしたと思いますが,請負について,今の三つについて質問させていただきたいと思います。 ○笹井関係官 634条は,できるだけ売買に合わせようと思っているのですが,今の634条の書きぶりを意識した上で,明確に変わる部分を明らかにするという書き方になっているので,少し売買のところと平仄がとれていないのかもしれません。そこはちょっとまた全体的に見直そうと思っております。   また,売買の規定は包括準用されるので,そちらに委ねて請負のところに重複する規定を設ける必要はないとも考えられますので,そういった観点も含めて請負のところにどういう規定を設ける必要があるのかということを最終的にもう少しよく検討したいと思います。   それから,目的物が契約の趣旨に適合しないというところですけれども,これも基本的には売買と同じだと思っており,目的物についての債務不履行とは異なる類型として瑕疵担保責任という類型を作ろうという趣旨ではございません。 ○岡委員 目的物に関する債務不履行と同じなのか,少し狭めたものなのかという質問にはどうでしょうか。 ○笹井関係官 結局作るべきものを作らなかった,作るべきものが契約に適合していないという意味では,同じなのではないかと思います。 ○鎌田部会長 よろしいですか。ほかにはいかがでしょうか。 ○岡委員 相当の期間を定めてというのが売買にはなく,こっちにはある質問について,先ほど理解していないのでそれが一つと,それからもう一つ,売買のほうには追完をしないときは一般原則に従って損害賠償,契約の解除ができるという条項があるんですが,請負のほうはないようです。これは何か意味があるんでしょうか。 ○笹井関係官 繰り返しになるかもしれませんが,今634条に「相当の期間を定めて」という文言があるので,それを修正することは問題になっていないという趣旨です。解除を否定するというつもりはありませんが,これは解除の一般原則に委ねておけばよいということでは記載しておりません。 ○岡委員 売買には書いて請負には書かないのは,何か意味があるんですか。結構気にする人間が多うございまして。 ○笹井関係官 もう一度,何が必要なのかということは全体を横断的に精査したいと思いますけれども,実質として変えるということではありません。 ○中田委員 別のところでもよろしいですか。 ○鎌田部会長 取りあえず別のところへ移って,何かあれば戻るということにします。 ○中田委員 破産との関係なんですが,3の規律の趣旨は理解したんですけれども,仕事完成前に注文者が破産した場合において,第5の1の(1)のアに該当する場合,つまり目的物が可分であるというときにどうなるのかです。仕事の結果が部分的にも破産財団に帰属するということが前提になるのだとしますと,同じような手当てがここで必要になってくるのではないかなと思いました。ただ,そこまで細かく規定するのかどうか,あるいは破産法53条を適用した結果とのバランスを考えるというのは,どこまで書き込むのかという問題になると思うんですが,取りあえずは1,(1)のアの場合にどうなのかについてお教えいただければと思います。 ○笹井関係官 十分にお答えできるかどうか分からないのですけれども,この第5,1(1)のアの場面では,解除することはできません。これは,624条が適用される場面で今でもある問題だと思いますが,今の解釈論としては,(1)のアに該当する場合には,その既履行部分については解除ができないと理解しております。この点は,今後も同じであると理解しておりました。それをどこまで明確に表現するかについては,もう少し考えたいというふうには思います。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○中井委員 3の本文のゴシックの部分についてこのような形でパブコメすることに異議があるわけではございません。ただ,概要の「また」以下ですが,完成後引渡し前の場合にどうなるのか,ここでは積極的に破産管財人による解除を認めない,こういう趣旨を含む提案となっていますが,そう理解してよろしいんでしょうか。それともここについては何も書いていなくて破産法53条等による解決が予定されていると考えるのか。現在の民法と倒産法との関係は,倒産法の規律が原則で,民法で例外を定めているという位置付けかと思います。そうしますと,ここの「また」以下を読みますと,双方未履行の双務契約の状態であることは間違いない,53条の適用はあるはずであるにもかかわらず,ここでは破産管財人の解除を認めないと積極的に書かれているものですから,このゴシックの意味するところは,破産法の特則として破産管財人の解除を認めないという趣旨を含むのか。私は結論としてそれは不適切ではないかと思うものですから。 ○笹井関係官 二読のときに,仕事完成後引渡し前に破産したらどうなるかについては,倒産法上もいろいろ見解が分かれているので,必ずしも明確に決めないほうがよいという意見があったように理解をしております。これを踏まえて,この点については解釈に委ねるというつもりで,26ページの上から2行目以下が書かれております。 ○中井委員 仮にそうだとすれば,25ページの下ですけれども,問題としては「完成後引渡し前に破産管財人の契約解除を認めると」うんぬんで始まるところ,結論としてはバランスを失するから請負人が仕事を完成しない間に限定すると,こう書いているものですから,破産管財人の解除を認めない積極的規定だと読んだ次第です。確かにその後にはよく考えなければいけない,破産法の解釈に委ねられるという記載はあるんですけれども。 ○笹井関係官 ここでの趣旨は,破産管財人に642条による解除を認めるという趣旨だったと思います。そうすると,昭和53年の最判が適用されてくるのでバランスが悪いという指摘です。 ○中井委員 その点で申し上げておくと,642条というのは,本来は注文者の管財人に解除するか履行の選択権がある,それだけでとどめておくと,請負人側に不利益が生じる場面が生じる,だから請負人に特別の解除権を与えましょうというのが元々で,今回,完成していればもはや請負人に解除権を与える必要はないのではないかということから,従来の642条より請負人の解除権を行使できる範囲を狭め,完成前に限った。その限りで請負人側の解除権の範囲の定めなんだろうと思いますから,破産管財人側のことについてコメントする必要はない,それは破産法に委ねられているという理解を素直に書いていただくほうが誤解が生じなくていいように感じました。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。   よろしければ,ここで15分間の休憩を取らせていただきます。           (休     憩) ○鎌田部会長 再開させていただきます。   「第6 委任」及び「第7 準委任に代わる役務提供型契約の受皿規定」について御審議いただきます。御自由に御発言ください。 ○加納関係官 32ページの4の準委任でありますが,今回のこの提案はこれまでの部会の御議論を踏まえてこういうふうに提案をされているものというふうに理解しておるんですけれども,「第7 準委任に代わる役務提供型契約の受皿規定」が今回は検討対象から外されるということを踏まえますと,元々この準委任の規律は,役務提供契約の受皿として準委任が機能していたと。ところが,それが広過ぎるということで,準委任に代わる役務提供契約の受皿規定を別途設けつつ,準委任の規律を適切にということで検討があったというふうに思うわけでありますけれども,この第7の受皿規定が仮に導入しないということになりますと,ちょっと前提を変えて準委任の規定についても検討する必要があるのではないかという気がいたしますので,その点を申し上げたいと思います。   取り分け4の(2)の解除に関しましては,結構きっちりとした規定を設けるということでありまして,これ自体はあり得ると思っておりましたが,例えば第7の受皿規定のところでも役務提供契約の解除に関する規律というのが検討をされていたと。部会資料47におきましては,その解除について例えばいつでも契約の解除をすることができるとか,そういう提案もされていたということだと思います。   そうしますと,引き続き準委任の規定がその役務提供契約について受皿としての機能を果たすということになりますので,この(2)につきましては,現行の規律,民法651条の規律を維持するという考え方もあるということが注記されたほうがよいのではないかと思います。 ○道垣内幹事 取り上げなかった論点なのですが,部会資料46第2の1(6)「委任者の金銭の消費についての責任(民法647条)」についてです。これはこれまでの部会資料では削除するという形になっていたところが取り上げないという形で整理されたわけですが,647条が意味不明であることは明らかだと思います。受任者が例えば10万円を委任者に対して引渡す義務を負っているときに,どのような状態になったらその利益のために用いるべき金銭を自己のために消費したときに当たるのかというのはよく分かりませんし,例えば当該10万円を引渡す義務を負っている場合,その義務の履行期がいつなのかは契約で定まり,履行期が来ても引渡さないということならば,費消の有無にかかわらず遅延損害金は生じるはずですから,効果も意味不明です。今までの部会でも一部647条の存置という意見があったのは確かなのですけれども,削除論もそれなりに強かったような気がするので,取り上げないという結論になるのはどうしてなのか,私は疑問に思います。 ○鎌田部会長 その点について何かありますか,説明が。 ○笹井関係官 道垣内先生がおっしゃったとおりかもしれないのですが,一方で,一応教科書や注釈レベルでは,例えば費消時のときからの利息が生ずるであるとか,その場合に損害の立証が不要であるとか,それぞれこの規定の意味がそれなりにあると説明されており,また,削除不要論も一読の段階からありましたので,そういう意味で置いておくというのもあり得るのではないかと考えたということです。 ○道垣内幹事 それならば「削除」と書いて,(注)で「残す意見がある」と書いていただきたいと思います。今,笹井関係官は,履行期になくても費消されれば利息が生じるという特殊性があるとおっしゃいましたが,どういう状態になれば「費消された」ということになるのかということは,一般に金銭の場合,大問題なわけでありまして,では無資力になったときを要件にするのかとなりますと,その立証は大変であり,損害の立証の方が楽ではないかとも思います。たしかに教科書や注釈書には説明がありますが,それらは条文があるとき,それをすっ飛ばして書くわけにいかず,必ず書くわけであり,そのことが一定の合理性の存在を示していることにはならないと思います。 ○鎌田部会長 すみません,関連ですか。 ○三上委員  教科書類を見ていると,そもそも勝手に使うんだからこれは罰則規定だという書き方をしてある本もたくさんありまして,かつ最近は信託法の分野で,預かったお金をたまたま運用して大きく当たって10倍になったときに,それが預けたほうに帰属するのか運用したほうに帰属するのかは争いが出てきている中で,このような規定を残しておくと,法定利息さえ払えばどう運用してもうけても,もうけたほうの利得であるということを民法が保証するという形になりますから,私もこのような規定は削除すべきだと考えております。 ○安永委員 32ページの4の準委任について,私どもの意見の要点のみ申し上げたいと思います。詳細につきましては,意見陳述メモを提出しておりますので,そちらでご確認下さい。   準委任の終了については,(2)のアからウのような規定を設けることに賛成をいたします。そして(1)では,その対象を[受任者の選択に当たって,知識,経験,技能その他の当該受任者の属性が主要な考慮要素になっていると認められるもの以外のもの]に限定していますが,こうした限定は設けず,準委任の全てについて,その対象としていただきたいと思います。   仮に上記(2)ア~ウの規律の対象について,上記(1)のような区別基準を設けざるを得ないというのであれば,ブラケットとされている区別基準のあり方について,意見陳述メモの(理由3)の箇所で指摘したような問題も考慮の上,現場で混乱が生じないような規定ぶりとするよう検討を深めていただきたいと思います。 ○鹿野幹事 大きく2点申し上げたいと思います。   第1点は,32ページの4の準委任のところについてです。基本的には先ほど加納関係官がおっしゃったことと同じ問題意識ということになろうかと思います。つまり,従来は,役務提供契約の多くが準委任と見られて,651条による任意解除権が肯定されてきたように思われます。特に消費者契約である役務提供契約の場合には,消費者による651条に基づく解除を肯定した上で,既払金の返還請求を認める方向で処理をした事例も多かったのではないかと思いますし,消費者契約法9条1号の規定も,そのような前提の下で適用されたものがかなりあったのではないかと思います。そしてそれは,実質的には,消費者を長期間の役務提供型契約の拘束から解放するという機能も果たしてきたのではないかと思います。ところが,このたたき台においては,委任と準委任との規律を明確に区別し,準委任については期間の定めある準委任における解除につき特に制限を加える提案がなされておりますし,また,役務提供契約についての受皿規定も設けないということですし,更に,52ページの継続的契約においても,解除については従来の651条のような形での任意解除ができるようにはなっていないようです。またもう一方で,消費者契約に関する特則規定としてどういうものを置くかにつき,今まで幾つか具体的な議論がありましたけれども,これも今回のたたき台では置かないという方針を採るもののように見受けられます。   そうすると,今回のたたき台の規律の下では,役務提供型の消費者契約において,従来と異なり任意解除が否定される場合が出てくるのではないかという危惧を覚えます。もちろん特別法がある場合,特に例えば特定商取引法において,特定継続的役務提供に該当するものについては,中途解約と言われているところの将来に向かった解除の規定がありますし,それに関する清算の規定も置かれているので,そのような場合には問題は解消されるようにも思われるのですけれども,これに該当するのは一部にしか過ぎません。特定継続的役務提供に該当するのは今のところ政令で指定された六つの類型に過ぎないので,例えば英会話教室であれば認められるけれども,例えば音楽教室の場合には認められないというようなことになってしまいます。もちろん,特別法の規律が今のままでよいのかという問題もあるのですが,解除に関しては従来,民法の準委任の規定によってカバーされてきた部分がかなりあったように思います。それにつき,今回のたたき台によれば否定される場合が出てくるとすると,消費者の利益という観点からは問題が残るのではないかという気がしております。委任,準委任の区別については私自身共感するところがあるのですが,仮にこのような問題が出るのであれば,むしろ従来のままの規定のほうがよいということになるのではないか,そのようにも考えるところです。   それから,第2点は,30ページの4の(1)に記載された準委任ではない委任契約の任意解除権についてです。ここでは,委任が受任者の利益をも目的とするものである場合について,この場合にも解除は認めるけれども,原則として損害を賠償しなければならないということと提案されています。そのこと自体に対して特に反対というわけではないのですが,委任が受任者の利益をも目的とするものであるときという文言の意味するところについて,明らかにする必要があると思います。   御案内のとおり,判例においては受任者の利益をも目的とする場合という概念は,解除の可否との関わりにおいて用いられてきましたし,判例には変遷があるものの内容は限定的に捉えられてきました。例えば最高裁の昭和58年9月20日の判決も,651条1項に基づく解除の可否が問題となった事案ですが,継続的,定期的に報酬を受領するというだけでは,ここにいう受任者の利益を目的とする場合には該当しないという判断を示しているところでございます。おそらくそのようなことも意識して,この提案の本文でも丸括弧の中に,その利益が専ら報酬を得ることによるものである場合を除くという文言が加えられているのだとは思います。けれども,ここでは解除の可否ではなく損害賠償責任を負うか否かの基準としてこの概念が用いられているということもあり,従来の判例におけるこの概念のとらえ方を引き継ぐものなのか,それがうまく表現されているのかということに不安を感じます。私はここでの提案の趣旨それ自体に反対するということではないのですが,受任者の利益をも目的とする場合というのが誤解されて広く解されるということになると,その結果として,要するに受任者に利益がある委任契約の場合には委任者が解除をするには損害賠償をしなければならないというメッセージを与えてしまうかもしれないという気がします。私の単なる老婆心に過ぎないということであればよいのですけれども,その点について,丸括弧の中あるいは補足説明を少し御検討いただけないかと思います。 ○大島委員 私も32ページの4の準委任のところですけれども,準委任契約にはアウトソーシングなどのサービス契約も含まれる可能性があると思います。中小企業は給与計算とか情報システム管理など様々なアウトソーシングを利用しております。(2)のような解除について一律の規定を設けるとなると,次のアウトソーシングを行うための引継ぎ期間などが十分に取れず,実務が混乱する懸念がございます。また,準委任の終了についての規律についてはまだ議論の余地があるのではないかと考えております。   そこで,準委任の終了に関する(2)については,引き続き検討すべきであると思いますので,本文の末尾を「引き続き検討する」などに改めていただけることを御検討いただきたいと思っております。 ○鎌田部会長 それぞれの御意見については事務当局で検討していただくということでよろしいですね。 ○山川幹事 やはり準委任のところですけれども,今回の御提案は言わば本来の委任と同じに取り扱うべきものとそうでないものを区別するという発想で,その点自体は妥当な発想ではないかと考えております。恐らくこれは部会資料46の甲案が発展したものではないかと思います。それは,651条等の適用に当たって信頼関係というものを主たる指標,本来の委任との関係で主たる指標としたものと考えられます。そのように区別するということは,先ほど安永委員の御意見もございましたけれども,区別しないとなると,準委任という規定自体の存在理由の問題が起きるので,やはり区別することはあり得ると考えております。ただ,区別の仕方の問題として信頼関係の指標として,知識,経験,技能その他の属性というものが主要な考慮要素になっている点はちょっと曖昧になる可能性はあり得る。今回,通常主要な要素になるという点が個別的に考えるような方向に統一されていますけれども,むしろこれは客観的に考えたほうが区別としては明確になるような感じがいたします。   ただ,それでいいかという問題もありまして,例えば雇用との区別で言いますと,部会資料46では裁量という要素が出てきているのに対し,今回は裁量という要素が落ちているのですけれども,雇用の中でも知識,経験,技能に着目して相手方を選択する場合があるものですから,何らかの形で裁量というものが入ってくると雇用との違いが出てくるかなと思います。これは事務の委託という言葉でもしかしたら読み込まれるのかもしれないんですけれども,いずれにしても本来の委任と同視される指標の明確化においては,相手方の選択の要素になるものの問題と,役務提供における裁量の問題との二つが考慮されるのかなと思います。   消費者の関係について,私は専門でないんですけれども,本来の委任で認められている651条の任意解除権の趣旨と消費者に関する任意解除権の趣旨がどういう関係にあるのか。もしそこが整理できるとしたら,このブラケットの中でうまく組み込めるようなものがあるとよいのではないかなと素人ながら思いますけれども,その点についてもちょっと考慮ないし今後検討していくことはあり得るのかなと思います。あるいは消費者に関する規定を別立てにして,そもそも651条と規律の根拠が違うものとするとしたら,それはそこまた別に考えるということはあるのかもしれません。この点はちょっと専門外で申し訳ございません。 ○鎌田部会長 分かりました。 ○畑幹事 31ページの破産手続開始による委任の終了でありますが,この種の議論がされてきたことは確かですので,こういう提案を中間試案としてするというのはよろしいのではないかと思いますが,ちょっとその概要,備考辺りにちょっと何か若干気になるところがありまして,それは前から申し上げている判例の理屈に依拠するのがどうかということに関係するのですが,取り分け32ページの備考の一番最後の「なお」という段落なのですが,こういうことになるのかどうか,ちょっと疑問があります。つまり破産で言えば,財団に帰属する財産関係についての委任をしていると。しかし,この本文の規律が仮に採用されたとして,誰もどちらからも解除がされず,履行の選択がされたという場合に,その場合は単純に財団と受任者との関係として維持されるという帰結が十分あり得そうでありまして,ここに書いてあるように,受任者が処理することができる事務はないことになるというのは必然ではないような気がいたします。ほかにもちょっと気になることはあるのですが,この「なお」の段落はないほうがいいのではないかなという気が個人的にはしております。 ○山本(和)幹事 私も今,畑幹事が指摘されたところですが,今「なお」のところで言われたのは私も全く同じ感想を持っています。例えば破産財団に帰属する不動産について売買の仲介の委任を手続開始前にやっている場合に,それは破産管財の権限に属する行為ではないかと思うんですけれども,それについて解除しない場合に,履行が選択された場合には,受任者はそのまま売買の仲介を処理することになるのではないかと思います。それが財団債権,報酬は財団債権になるということで何ら不思議ではないような気がして,ちょっとこの「事務はないことになる」というのは誤解を招く表現になっているのではないかと思います。   それから,あと2点ですけれども,(2)のアのところですけれども,当然に契約を失効させずに解除,履行の選択に委ねるということは,基本的には賛成というかあり得べき規律だと思うのですけれども,破産管財人の権限あるいは管理処分権に属する行為と,それには属しない行為をこのアは両方書いているような気がするんですけれども,破産管財人の権限に属しないような行為,例えば組織的な行為で取締役との委任契約のような場合を考えてみますと,それは恐らく破産管財人が委任の解除をすることはできるというのは出てこないのではないかと。つまり管財人の管理処分に属さない契約というのは,破産者が管理処分をすることになるのだろうと。つまり契約当事者は依然として会社と取締役ということになるんだろうと思うので,それを管財人が解除するというのは考えにくいように思います。ですから,そこはこのアの本文で書くのか,あるいはこのアは飽くまでも破産管財人が管理処分する場合を当然前提にしているのであるということであるとすれば,概要の説明でもいいのではないかと思いますけれども,そういう管財人の解除権というのが生じないような委任というのがあるんだということは注記したほうが誤解を招かないのではないかと思います。   それからもう1点はウですけれども,これは今のお話とちょっと逆なんですけれども,この委任者のほうからの解除権を書いているんですけれども,受任者の破産管財人の権限に属するような委任契約のような場合には,受任者の管財人も契約を解除あるいは履行する選択権を持つのではないかと思います。ウは当然それを,つまり破産法53条で管財人が履行の解除選択権を持っているということは当然の前提として書いているようにも思えるんですが,アのほうではわざわざ破産管財人の解除権も書いていまして,ちょっとそこがどういう整合性になっているか,先ほどちょっと中井委員が53条との関係について論及されていましたけれども,そこの関係がちょっと必ずしもはっきりしないので,ちょっと不透明になっているかなという感じがします。ですから,これは,恐らくは管財人の解除権というのはあるということは前提として書かれているだろうと想像はしますけれども,やはりこれも概要等でその点は明確にしたほうがよろしいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○中田委員 今の部分のアの適用範囲なんですけれども,受任者の委任事務処理が終わっている場合は含まないのかなと思ったんですが,つまりその段階では報酬請求権は破産債権になるのではないかと思うんですけれども,いかがでしょうか。ここは委任事務処理が完了していない段階であると理解してよろしいんでしょうか。「既にした履行の割合に応じて」と書いているからそうなのかなというふうにも思ったんですけれども。もしそうだとしますと,今度は,先ほど来,出ております双方未履行ということで,破産法53条の規律との関係がどうなるのか,これは請負についての中井委員の先ほどの御質問,あるいはただ今の山本和彦幹事の御質問とも関係するんですが,どこかで書いておいていただくと有り難いと思います。 ○中井委員 この破産手続開始による委任の終了の提案は,前回の提案と変わったわけですけれども,果たして前回の議論を受けての変更なのかどうかがよく理解できなかったわけです。これは一つの考え方としてあり得ますので,あり得ることをパブコメに出すこと自体反対するものではありません。しかし,議論の不十分さを感じるところです。   一つは,既に山本和彦幹事から御指摘がありましたが,アについて破産管財人の権限の範囲内の事柄と範囲外の事柄がありますけれども,それを一体的に書いています。しかし,それは一体的でよいのでしょうか。それから,両先生からおっしゃられたことですけれども,備考のなお書き以下の部分を読むと,仮に権限に属することについては破産管財人の専権に属するので,契約が継続しても処理する事務はないということになれば,これはむしろ当然終了説をいっていることになって,前回の部会提案の結論と一致するだろうと。一致することをなお書きに書いておきながら,アのところで履行を認める形になっていて,論旨が何か一貫しないように思われます。   権限外と権限内のことを分けて,今のが権限内の話だとして,権限外の部分についてどう考えるのかですけれども,前回はそこについて642条のような規律の導入を書いたわけですけれども,山本和彦幹事がおっしゃられたように,そこはそもそも管財人が解除するとか選択するとかできる部分ではない。そうすると,そういう部分があるとすれば明確にしなければいけないと思います。ここは前回の部会の審議を踏まえた議論なのか,踏まえているとしても,少し整理としては未成熟ではないか,と思った次第です。 ○鎌田部会長 ほかに関連した御発言ございますか,今の点について。事務当局から何かありますか。 ○筒井幹事 ありがとうございます。破産手続開始に伴う各種契約の終了等に関する民法上の規律については,各契約類型の平仄も考えながら今回の案を提示しているのですけも,なお検討不十分なところがあるという御指摘はそのとおりだろうと思っております。そういったこともあって,(概要)欄では関連する論点について倒産法との関係に留意する必要があるという説明を加えております。大切なのは,中間試案の後,最終的にどういう形で議論を詰めていくのか,その議論の進め方も含めた問題があるのだろうと理解しております。 ○鎌田部会長 よろしくお願いします。深山幹事,関連ですか。 ○深山幹事 関連ではないです。 ○鎌田部会長 そうしたら,先ほどから挙手されています山本敬三幹事,次に深山幹事,松本委員の順でお願いします。 ○山本(敬)幹事 それでは,26ページの受任者の自己執行義務について意見を述べたいと思います。この問題については,かねてから議論のあるところで,現行法どおりというよりは,現行の復代理に関する規定に104条に従った規定を置く。そのまま置くか,それとも特にやむを得ない事由という部分を変えて少し広げたような形で書くかという点については両論がありましたが,議論の結果,ここでは現行の復代理に関する規定をそのまま定めるという提案がされていると思います。ただ,もう一つの案が必ずしも十分な支持を集めなかった理由は,適切な表現の仕方がなかなか見つからず,不安が持たれたというのが一番大きかったのではないかと思います。この点について,こう考えることができるのではないかということを少し述べてみたいと思います。   これとよく対比されるのは,信託法の規定です。信託法も,かつては非常に限定的にしか第三者への信託を認めていなかったわけですけれども,それが2006年の改正でどうなったかといいますと,原則として委託してはいけないというのはそのままですが,その例外として,まず,信託契約で特に第三者が使うことを許した場合が定められました。これは,ここで言う本人の許諾におおむね対応すると思います。さらに,もう一つの例外として,信託契約に定めがないときでも,第三者に委託することが信託の目的に照らして相当である場合は,第三者を使ってよいというものが加えられました。それ以外では,更に,信託契約で第三者を使ってはいけないと書いてある場合には,やむを得ない事由があるときに限って使うことができるという規定も付け加えられました。   このうちの二番目の例外,つまり第三者に委託することが許されるのは,第三者を使うことが合理的だというだけではなくて,その委託の趣旨に照らして第三者を使うのが相当と認められるときであるという考え方は,委任の場合にもそのまま使える考え方ではないかと思います。要するに,どのような委託をするかということは委任契約で決められるわけですから,その委任契約の趣旨に従って第三者を使えるかどうかも決まってくるという意味で,筋が通っていると思います。その意味で,ここでも,本人の許諾がある場合又は委任契約の趣旨に照らして第三者を使うことが相当と認められる場合というように定めることが,考え方としてあり得るのではないかと思います。それで,なお不安が残るというのであれば,委任契約で第三者を使ってはいけないと定められたときには,やむを得ない事由があるときに限って,あるいはそのようなときを除いて使うことができないという信託法の規定を参考に,念のため定めるということがあり得ると思います。   もしこのように定めるとしますと,先ほどから出ている準委任のところで,この自己執行義務の規定の適用除外を書いていますけれども,適用除外にする必要はなく,飽くまでも準委任契約の趣旨に照らして第三者を使ってよいかどうかを決めるということで足りるのではないかと思います。   これは更に言いますと,もっと大きい問題につながっています。準委任の中でも,先ほど出ていましたように,委任になぞらえて考えることができる場合と,準委任の受任者の一定の属性に着目して契約がされる場合に分かれるということですが,厳密に言いますと,これは委任でも同じことが言えるはずでして,委任契約でも個人的な信頼に基づいて委任がされる場合もあれば,受任者に当たる者が一定の属性を備えているから,その人を選んでいるという場合もあり得ると思います。先ほどの信託を参考にした定め方は,このような場合を受けとめることもできるのではないかと思います。その意味でも,もう一度考えてみることが適当ではないかなという提案をしてみおきたいと思います。 ○深山幹事 先ほど幾つか意見が出た準委任のことについて,少し戻ってしまって恐縮なんですが,申し上げます。今回の提案は従前の部会資料46の甲案,乙案,丙案のうち,甲案の発展系というふうに先ほど山川先生からも御指摘があり,そのこと自体はそうなんだろうなというふうに読めるわけですが,ただ,部会資料46と,それに続く47も含めて,従前の議論は,役務提供契約についての規律を設けるということの提案と,理屈の上ではセットではないんでしょうけれども,事実上頭の中ではセットで考えていて,役務提供契約というものについての規定を何らか設けることを念頭に置きつつ,準委任契約の適用範囲を正しく絞って限定するというような発想で私自身も考えていましたし,弁護士会の中でも多くの弁護士はそういうふうに理解していたと思います。   今回,役務提供型の契約に関する受皿規定のところがすっぽりと提案から落ちるということになると,準委任規定の意味合いというのはそれなりに違ってくるんだろうと思うんです。昨日の弁護士会の議論でも,役務提供契約に関する規定についてはいろいろ問題があるので散々議論したわけですが,結論はともかくとして,ここですっぽり諦めてしまうことについての違和感というか喪失感が随分述べられていました。ここで復活するかどうかということはともかくとして,そういう議論があった上で,それがある程度反映した形でこの準委任規定の提案が今回登場しているんだとすれば,これは補足説明レベルの記載になるのかもしれませんけれども,やはり何かそこに言及がないといけないのであり,従来の議論の単純な延長でこの準委任規定の範囲を議論するというのは,少し議論が違ってきているのではないかと思います。規定の仕方も,従前は準委任規定の適用範囲を絞るというときの絞り方の提案という形に甲案,乙案はなっていたわけですけれども,今回はむしろ逆で,原則適用されるんだけれども,一定の準委任契約については準用する規定を一部絞るというような提案で,ちょっと反対側から規定する形になっています。いずれにしても,それとは別の役務提供契約一般のような規定があることが前提なのか,ないことが前提なのかということによって,議論の前提が違うということを意識して,パブコメに付すに当たっては,議論の経過として紹介するなどして少し問題点を分かりやすくする工夫が必要なのではないかと思います。 ○筒井幹事 ありがとうございます。補足説明で十分な説明をせよというリクエストを頂いた点は,適切に対処したいと考えております。 ○松本委員 私も準委任のところです。先ほどの議論の中で何人かの方から,この案だと従来の準委任の場合より狭くなるから,特に消費者契約の場合,従来651条で解除ができていたのができなくなるという点で,不利ではないかという御指摘があったわけですが,そうかなという疑問なんです。すなわちこの提案は,従来の準委任を二つに分けて,委任の規定が651条も含めてストレートに適用されるタイプの準委任と,そうではないタイプの準委任に分けようという提案であって,受任者の選択に当たって知識,経験,技能その他当該受任者の属性が主要な考慮要素になっているというものは,651条適用タイプの準委任のほうに位置付けるわけですよね。そうすると,消費者が事業者との間で役務提供契約をする場合というのは,基本的にその事業者の専門家としての知識,経験,技能その他に着目して,プロだからお願いをしているわけなので,基本的にはみんなここに入ってくるだろうと思うんです。英会話教室は特商法の対象で,音楽教室は対象外だという違いがありますけれども,音楽教室でレッスンを受けるというのは,正にその教室の音楽を教える専門的な技能に着目をしてお願いしているわけだから,ここでいけば当然651条で任意解約権が認められるタイプに入ってくると私は思います。したがって,消費者契約については余り影響がないのではないかと思います。むしろこういう文言が入ることによって,より解除権の存在がクリアになる。他方で,事業者が単純事務処理のために他人を準委任の形で使っているという事実上,雇用に近いようなタイプの準委任について任意解約権が制限されるという結果になってくるわけです。それは事業者としてのビジネス上不都合だから反対だという意見が一方であり,労働界からは恐らくそのほうがいいんだという意見があると思うのですが,それはそれでまた別の政策判断をしていただければいいと思います。消費者契約に関しては,私は影響がないというふうに--もしこのブラケットがこのまま残るとすれば--というふうに読みます。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。 ○高須幹事 やや細かなところで恐縮ですが,1の自己執行義務の(3)の105条削除の点でございますが,昨日の弁護士会の会議でも言及があったのですが,第二読会では105条1項の削除ということをずっと検討してきておって,その意味では2項は何らかの形で残るのではないかというイメージを持っておったものですから,今回105条全部削除ということになると,2項の取扱いはどうなるのかと。この点は余り議論してこなかったという経緯もありますので,本人の指名に基づく復代理の選任のような場合ですね。何らかの規定があってもいいような気もしておるもので,少なくともパブコメに出す中間試案を作るときには,今回の指摘でも1項の説明しかありませんので,2項についてどうするのかというようなことも読むほうが分かるように規定していただく必要があるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 そこはよろしいですか。 ○笹井関係官 はい。 ○沖野幹事 別の点で,30ページの任意解除権のところです。改めて考えて少し気になるところがあるものですから,これもまた確認ということになるかもしれません。委任者の側からの解除について,651条の規律を維持した上でこれらを加えるということは,基本的に任意解除権は維持した上で,一方で不利な時期の解除であった場合は,そのことによる損害賠償とやむを得ない事由による調整と,それに加えて受任者の利益を目的とするという場合には損害賠償と,ですから,損害賠償を請求できる場面が二パターン出るという形かと思います。そうした場合,今度は逆の受任者のほうからの任意解除権ですけれども,こちらのほうは不利な時期に解除されたことによる損害倍書だけが残る形になるように思われます。ただ,そもそも委任というのは,基本的には委任者の利益のためであるということからすると,その切捨てはいいのかということでして,これを今まで支えていたのは,無償原則といいますか,基本的には無償であるというパターンを民法は念頭に置いているということから説明していたようにも思われるのですけれども,無償原則はもう完全に外してしまうということになりますと,そちらの受任者のほうからの任意解除権の行使というものをそのまま置いておいていいのか,手当てをしなくていいのか,準委任の類推あるいは準用との関係での話も出てくるかと思います。この時期になって問題提起というのもどうかという感じがするのですが,いかがでしょうか。 ○笹井関係官 そういう問題があるのではないかということは少し意識していたのですけれども,従来余り議論されていなかったところでもあり,委任とはそういうものではないかと考えておりました。部会の総意として受任者からの解除を制限すべきだということであれば,それはまた検討の対象になってくるのかもしれませんけれども。 ○鎌田部会長 少し検討させていただくということにしてお許しを頂ればと思います。 ○鹿野幹事 先ほど松本委員からおっしゃったことと,いま沖野幹事がおっしゃったことに関して,一言ずつ申し上げたいと思います。まず,先ほど松本委員がおっしゃったように,このブラケットの中をそのように,いわゆる消費者契約である準委任はほぼここに入ると捉えるのであれば,消費者契約の場合には,この32ページの4の(2)のイのような解除の制限に係る規律の適用はなく,むしろ通常の委任の規律によるのだということになりそうであり,そうであれば,先ほど指摘した問題は解消されるのだろうと思います。ただ,その点も含め,このブラケットの中にどのようなものまで入るのかということが今のままでは分かりにくいように思われまして,今なされたような議論を踏まえて少し説明にその点を書き込んでいただいた方がよいのではないかと思います。   それからもう一つは,そのように捉えると,消費者契約をはじめブラケットに該当する準委任契約については,通常の委任契約の任意解除権に関する規定が適用されることになるのだと思うのですけれども,その際,30ページの4の(1)につき,沖野幹事が今おっしゃったことにも関わる点が気になります。つまり,従来でも,消費者契約である準委任契約については,委任者である消費者の方から解除することはできるけれども,受任者である事業者の方は651条に基づいて自由に解除することができるわけではないと考えられてきたのではないかと思います。そのことは規定の上でははっきりしないのですが,現行法には準委任については独自の規定がなく,その上で,委任の規定をそのまま適用するのではなく準用するとされているに過ぎないことから,準委任の性質や各規定の内容等に応じてある程度柔軟な解釈を行う余地が存在していたのではないかと思うのです。   ところが今回,委任と準委任について契約の終了に関する規律を明確に区別して設けた上で,例外的に消費者契約などブラケットに該当する場合には,終了につき委任の規律に従うとすると,ブラケットに該当する準委任については受任者からの解除もできるということを意味するようにも見えてしまいます。委任本体の規定が,受任者からの解除につきこのままでもよいのかという問題が提起されましたが,ブラケットに該当する準委任についても問題となると思いますので,これも併せて御検討いただければと思います。 ○大村幹事 私も準委任について意見を申し上げます。現在の提案されているもので消費者契約がどうなるかということについては,この太字の部分について言うと,松本委員がおっしゃったようになるのではないかというのが第一点です。   第二点は,しかし,そうではない理解が出てくる理由もあるのではないかと思います。今回はここでの表現によると,知識,経験,技能その他というようなことを考えていない単純な事務処理を別扱いするということを提案しているのだろうと思いますけれども,従来はそういう議論では必ずしもなかったように思います。信頼関係があって委任に準じて考えられるものとそうではないものとを分けていて,そうではないものの中に消費者契約のようなものも入ってくるのではないかという意識があったのだろうと思います。   実は,この概要の33ページの説明がございますけれども,上のパラグラフの一番最後のところに「このような特殊な関係にない,通常の事務処理契約には必ずしも該当しないと考えられるからである」と,こう書かれております。この「通常の事務処理契約」という言葉が割と広いものを想起させるということもあって,理解の差が生まれているのではないかと思いますので,御注意を頂ければ思います。それが第二点です。   これは深山幹事がおっしゃったことと全く同じことですけれども,今回,準委任に代わる役務提供契約の受皿規定を除きましたので,その影響というのが出てくることになる。その種の問題の整理が必要になってくるのだろうと思います。準委任に代わる役務提供契約の受皿規定というのは,この会議でも随分検討した問題でありますし,かつ現代の社会状況から考えたときに,サービス型の契約について新しい民法はどういう対応をしたのかというのは大きな関心事の一つだと思います。そうだとすると,第7がなくなるとして,それについて我々はこの準委任のところで一定の対応をしようとしているのだということを明確に示したほうがよろしいのではないかと思います。 ○岡委員 2点申し上げます。1点目は準委任について屋上屋を重ねるような意見でございますが,要するに準委任のうち信頼関係を基礎としないものについては,期間の定めがある場合にはいつでも自由に解除できるという規律は取っ払うと。期間の定めがあるときは,やむを得ない事由があるときにのみ解除できると,多分これが主眼だろうと思います。ただ,そういう議論は今まで部会ではほとんどしてこなかったように思います。突然ここに出てきた印象を非常に強く持っております。それはそれでもいいんですが,今,大村先生がおっしゃったように,役務提供契約は落とす,でもサービス型契約について最低限の対応をするために準委任の一定の信頼関係のないものについて任意解除権を制約するというものを設けたんだと,こんな整理になると思うんです。しかし,なかなかイメージできないです。信頼関係を基礎としない委任あるいは準委任というのは何なんだと。安永さんが賛成されていたような雇用契約を粉飾したような準委任については,任意解除権を制限するのに賛成だというのは分かりますが,しかし,それも特定の個人の能力に依拠した準委任だと言われてしまえば終わりでしょうし,そういう契約も結構多いんだろうと思います。   そうすると,今回の準委任で設けようとしている信頼関係を基礎としない準委任というのはこういうものだ,本当にそういうのがあるのか,今回の大改正で位置付けようとするほど大きなものなのか一つイメージができませんので,単純な事務委託というのは,コンピュータのクラウド契約がそうなのかもしれませんが,でも,あれも機械の性能に着目したサービス契約のような気もしますので,大村先生と全く一緒ですが,こういうものについて任意解除権の制約を設けるところに意義があるんだという分かりやすい説明を是非していただきたいと思います。それが1点目でございます。   それから,2点目は27ページの650条3項についての改正提案でございます。ここも受任者が過失なく被った損害を委任者が負うという規律について受任者が専門的な知識,技能を有するもので,その事務の処理に沿って損害が生ずるおそれがあることを専門家ゆえに知り得るときは,過失なく損害を被ってもお前が負えと。その専門家なんだから,素人の委任者に責任を負わせるのは相当ではない,こういう趣旨だろうと理解しました。方向性としてはそうなのかなという気もいたしますが,この部会でそういう議論をしてこれが出てきたのかというところに若干の疑問を持ちますとともに,この「専門的な知識又は技能を有する」,こういう言葉でうまく目的を達せられるのか,突然新しい言葉が出てきて不安を持っておるところでございます。条文ではないので方向性だけだと言われればそれだけかもしれませんが,中間試案の最終段階になってゴシック体は条文にかなり近いものとして国民も弁護士も受けておりますので,もう少し条文に近い分かりやすい用語ができるのであれば,最後の中間試案にはそういう表現を取り入れていただきたいと思います。 ○道垣内幹事 また私だけ分からないのかもしれず,恐縮です。30ページの4(1)につきまして,これは651条の規律を維持した上で付加するという内容ですから,当事者の一方が相手方に不利な時期に委任の解除をしたときには賠償しなければならないという規律があって,その次に,受任者の利益を目的とする場合において解除した場合には受任者の損害を賠償しなければならない,ということになります。しかし,そうすると,受任者の利益が害されるような解除は,受任者にとって不利な時期における解除なのではないのという感じがしまして,既存の2項とこの新しく加えるというものをどのように適用分けをするつもりなのか,という疑問が生じます。そのことが条文の形で示されるということが必須かどうかはわかりませんが,概要のところにおきまして,2項が何を念頭に置いた規律だというふうに考えて,3項の付け加えが必要なのだというふうな形で説明をしないと,恐らくは理解ができないのではないかという気がいたします。ちなみに私は理解ができていません。 ○鎌田部会長 今の点について説明してもらえますか。 ○笹井関係官 651条2項は,解除の時期が不利なものであったことに基づく損害の賠償を内容としていると言われていると思いますので,そういう意味では30ページの4(1)のこのゴシック部分とは損害の内容が違っているのではないかと思っております。 ○道垣内幹事 その理解について争うと申し上げているわけではありません。今の笹井関係官の説明でも結構なのですけれども,どういうふうな振り分けになっているのかという話を概要なり補足説明のところで書かないと理解はなかなか得られないだろうということです。 ○鎌田部会長 ほかに委任関係で御発言ございますか。 ○山下委員 先ほど岡委員の650条3項に関する御意見に関連します。前のラウンドで確か岡委員がこの650条3項について,取締役の責任に関して代表訴訟の提起を受けて,結局取締役がそれは勝訴したけれども,その訴訟費用などを会社から償還してもらうという根拠条文になっているというようなお話があったと思いますが,今回そこが委任事務が専門的な知識,技能を要するものという言葉になって,これを読めば普通は取締役などというのは含まないのだろうという気はするのですが,いわゆる銀行の取締役についてはそれなりの高度の能力が要る,善管注意義務を尽くすのに要求されるというような議論もあるので,そこら辺は余り紛れないようなことにしておく必要があるということでございまして,この650条3項は,会社法の分野ではやはり取締役が代表訴訟や今後は第三者からの損害賠償請求もいろいろな根拠で受ける場合に,この条文を除いて責任がないとされた取締役を事後的救済するような条文がほかに会社法にもなくて,民法にもこれぐらいしかないので,そこら辺りに支障が出ないような条文として御検討いただければと思っております。 ○松本委員 頭がぼやっとしているんですけれども,委任のメルクマールとしての信頼関係あるいは信認関係と言われている事柄の中身と,それから,準委任で今回専門的な知識とか技能とかいう言葉が分類のメルクマールとして出されてきて,そして,今,山下委員が言っておられる650条3項のところにも専門的な知識とか技能が出てくると。そうすると,信頼関係と専門的な知識,技能との関係が一体どうなのかというところがずっと私,引っ掛かっているところでありまして,これは信頼関係という言葉の曖昧さに由来しているところが一つあると思います。多くの契約は相手方を信頼するからしているんだといえば,それは信頼関係に基づくんだということになります。売買契約だって売主が変なものを扱っていないんだということを信頼して買っているんだと。雇用だって正にそうなわけです。ただ,委任の場合の信頼関係というのは,そういう意味の相手方を信頼しているから取引するんだというのとは恐らく少し次元が違うんだろうと思います。相手方を信頼するから取引するという場合の大きなメルクマールとして専門的な知識とか技能とかプロだからというところが一つはあるんだろうと。ところが,法律行為の委任の場合には,弁護士に委任をする場合であれば,これは正に専門家だからであって,それに対する信頼に乗っかっているんだろうと。しかし,専門家でない友人に委任する,親戚の人に委任するということもあるわけで,これは個人的な信頼関係というものに乗っかっているんだろうと思います。そうなると,準委任についてそういう個人的な信頼関係で行われるようなものというのは,果たしてあるんだろうかと。ないことはないのかもしれないけれども,多くの場合は,つまり消費者が事業者に頼む場合であれば専門性,技能等に着目しているんだろうし,事業者が頼む場合もやはりそういう形で頼んでいる場合と,そうではなくて単純労働力として準委任という形でやっている場合に分かれるんだろうと考えると,信頼関係という言葉で委任と準委任を両方併せて議論すると,混乱が起こってくるのではないかなと思います。   どちらかというと,私は専門性とか技能とかというのを中心に委任というのを考えて,そうではない,個人的な信頼関係から来る法律行為の委任というのも別にあるんだろうし,歴史的にはそっちのほうが最初かもしれないんですけれども,現在の経済社会における意味からいくと,むしろ専門性や技能のほうを中心に考えるほうがいいのではないかという印象を持っております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかに。 ○山川幹事 先ほど信頼関係の意味についてやはり不明確な部分が残るだろうというふうに申し上げましたけれども,今の御指摘は大変重要な点かと思います。先ほど若干申し上げたのは,法律行為についての本来の委任に近付けるといいますか,それに準じて取り扱うというのはどういう意味かということでありまして,確かに信頼関係というのは非常に多義的で,雇用もある意味では相手方の属性に着目しているということがあるんですけれども,ちょっと門外漢で間違っているかもしれませんが,独立性のようなものが考えられないか。つまり専門家であっても親戚であっても,法律行為の委任につき,元々委任が代理として取り扱われていたというのは,それだけ独立性のある行為を委託するので,単純に解除ができるような仕組みにしている。専門性がある場合もそういうことになるかもしれません。そういう意味では役務提供における独立性というようなことと信頼関係とがもしかなり共通部分が高いのでしたら,独立性ということで切り分けることはあり得るのかなという感じもします。   ブラケットの中に消費者が入るという場合も,正に消費者を相手にするサービス事業者などは自分で,独立でサービス内容を決定しているという点で読みこめるのかなという感じがしています。一度言ったことがありますが,役務提供契約のうち雇用に準ずるものは雇用の規定を準用するという趣旨のことを申し上げまして,そのような形が(2)に結果的には反映されているとも考えられるので,私はこういう考え方でよいとは思うんですけれども,雇用と本来の委任というのは一体どういうふうな意味で区別されるのかという観点から,今松本委員の御指摘に非常に触発されまして,独立性のようなことをうまく盛り込んで行けないのかなと考えた次第です。 ○大村幹事 まず,山川幹事のお話は,準委任の(1)のブラケットの中をどうするかということについての御提案として伺いました。これは更に洗練していく余地はあるだろうと思います。その上で,委任と準委任に共通に表れてくる人的な信頼関係と,それから,このブラケットの中で示されているような現代的な考慮要素というのがあるかと思いますけれども,これについて松本委員のお考えは,根本的に委任,準委任を通じて現代的なものを前面に出したらどうかと,そういう御趣旨だと伺いました。それは一つの考え方だろうと思いますけれども,この案の作り方は,委任については従前の考え方を踏襲している。しかし,準委任については現代的なもので置き換えるということだろうと思います。その置き換えのときに,概要の33ページの4行目に出てくる「委任契約と類似しており」という言葉によって,従来の意味での人的信頼を重視するということと,ここに出てくるある種の専門性のようなものに対する括弧付きの信頼というものを,機能的に似たものとして捉えるということで準委任を捉えようとされているのだろうと思います。準委任が取り分け現代的な社会現象に対応するために使われてきたあるいは使われ得るというときに,ここのところの置き換えをしないと使い勝手が悪いだろうというのがこの背後にある考え方だろうと思います。もしこのままにするのならば,そこのところを明確に説明するということが大事だろうと思います。私は,今の流れでいくと,ここはこのままにして,説明を詰めていくことになるのだろう,山川さんがおっしゃったような点について詰めていくというのが現実的だろうという気もしております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○中井委員 表現のみに関する確認ですけれども,今日配布していただいた補訂で第6,「3 報酬に関する規律」の(3),アの(イ)の括弧書きを削除されているわけです。先ほどの請負のところの「第5 請負」の「1 仕事が完成しなかった場合の報酬請求権」の(1)のイの規律と対応する(3)のアの(イ)の規律ですが,ここは削除されました。これは実質的に内容を変更するものではないというのが先ほどの内田委員の説明でも請負との平仄からでもそうであると理解をしているんですが,ゴシックは法文ではないわけですから,むしろこの括弧書きがあったほうが誤解は生じず,読んだときには分かりやすいと思ったわけです。先ほどの「第5 請負」の1のところの(1)イと,ここの(3)について,どうなんでしょう,ゴシックでパブコメをするに当たってこの括弧書きは説明文章だからといって削除されたのかとも思いますが,あっても害にならず分かりやすいのであればゴシックに残しておくという選択もあるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。 ○鹿野幹事 すみません,繰り返しになって申し訳ないのですが,先ほどの準委任の終了のところについてです。御意見を伺っていて,32ページ4(1)のブラケットについての私の理解が狭過ぎたようだということに気が付いたのですが,ブラケットにおける例外と,委任が信頼関係を基礎とするということとの関わりをどう理解すればよいのかが,資料の33ページに若干言及はあるものの,なおよく分かりません。委任は高度の信頼関係を基礎とするものであり,準委任の中でもそれと同じように取り扱われるべきものがここで委任の規定に服することになり,残りが終了等につき委任と区別された準委任独自の規定に服するものとして残るのだとして,これを整理し説明することが一応考えられます。そして,ブラケットの専門性という点についても,例えば,有名な歌い手であるこの人だから自分の歌のレッスンを頼みたいという場合には,正にこの整理が妥当しそうに思われます。ですが,例えば幼稚園の子供に,全国で展開している音楽教室のどこでもいいから,とにかく音楽の基礎を教えてほしいということで,たまたま近所の教室にお願いしたというような場合は,大分違うような気がしていたのです。ただ,先ほどのお話を聞いていると,後者も含めてかなり多くの場合がこのブラケットの中に該当するということのようでもありました。   また一方で,このようにブラケットを広く捉えるとすると,およそ相手の属性などに全く関わりなく,他人に法律行為以外のことを委託するという準委任が,特に有償の場合にはあり得るのだろうか,どれほどあるのだろうかという疑問も出てきます。つまり,準委任の独自の規定をここに置いたとしても,いかなるものが実際その適用対象として想定されているのかということが判然としません。いずれにしても,この準委任の規定はどういうものを対象にするのか,例外はどういう趣旨に基づき,どういう場合を想定しているのかにつき,もう少し分かりやすく解説を加えることにつき御検討いただければと思います。 ○鎌田部会長 御指摘の点がこの準委任のところでは一番重要なポイントになると思いますので,そこのところの意図が正しく伝わるような提案内容,それから,概要の記述ということを工夫してもらおうと思います。   よろしければ,次に,「第8 雇用」について御審議いただきたいと思います。 ○安永委員 1点だけ確認をさせていただきたいと思います。1の報酬に関する規律について,(1)の提案にある「既にした履行の割合」という文言の解釈についてですが,労働基準法12条1項1号に規定をされている「出来高払い制その他の請負制」の下での出来高の割合,完成の程度又は達成の程度などを基準に算出される「既にした履行の割合」を含むという趣旨で理解しておりますが,そうした理解に間違いないかどうか確認したいと思います。 ○筒井幹事 そのような理解で結構かと思います。時間的な割合に限る趣旨ではございません。 ○山野目幹事 部会長から第8についてという御案内でしたが,第7について一言だけ所感を述べさせていただきたいのですけれども,お許しが頂けますでしょうか。 ○鎌田部会長 はい,どうぞ。 ○山野目幹事 第7で取り上げない論点というもののリストの御提示を頂いています。33ページから34ページにまたがってでございまして,これと32ページの準委任の提案が密接な関連を持っているということが先ほどから議事で明らかになっているというふうに受け止めます。その上で,何かこの32ページの準委任の事務当局の御提案が唐突であるというような印象をお述べになった発言が複数あったように見受けますけれども,第58回会議の議事を想い起こしていただきたいと考えます。役務提供契約についてのかなり総括的な提案がその会議までされてきたところでありますけれども,委員,幹事で議論をしてきましたし,事務当局も御努力をなさったものですが,いろいろ難しい面があって役務提供契約の概念を導入することが難しいのではないかという発言があったのを受けて,あの際に内田委員から,民法651条の適用関係ないし準用関係を中心とする契約の終了に関しては,現在の法律運用が不明確であったり不適切であったりする部分があって,ここに関する限りでは放置することができないという問題意識の開陳があって,それを受け止めて部会長から引き続き準委任及び役務提供契約等について事務当局が検討を深めるようにという指示があったものであります。   こういう経過全般を受け止めて事務当局として御努力いただいて,本日の32ページの提案になっておりますし,33ページから34ページにまたがっての取り上げない論点のリストアップになっているものでありまして,一言で言いますと,58回会議の論議の様子を忠実に受け止めて事務当局が御努力いただいた結果であるということがございます。32ページの議論については,そのようなことですから,ここで提示していただいているような仕方で育てていくべきでありますし,松本委員が総括的におまとめになったことに説得力があると感じますとともに,それについて大村幹事と山川幹事からお出しいただいた御注意を踏まえて,この方向で検討を深めていただきたいと考えます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。では,引き続き第8についての御意見をお伺いします。 ○佐成委員 1の(1)ですけれども,ここは異論のない解釈を明文化するというふうに概要には書かれてあります。確かにそういう面があるんだとは思うんですが,経済界の中では,賞与の支給日在籍要件等の関係で実務を害する懸念が依然としてあります。ということで,この(1)については異論があるということ,こういう明文規定を設けることについて異論があるということを,(注)なり何なりの形で入れていただきたいということでお願いしたいと思います。 ○鎌田部会長 その点については事務当局で検討させてもらいます。ほかに雇用関係で御発言ございますか。   よろしければ,「第9 寄託」について御審議いただきます。御自由に御発言ください。 ○佐成委員 続けて,1の(1)のイについてです。有償の寄託ですから,諾成契約ということになるわけですが,引渡しを受けていない場合の受寄者側のほうの--主に倉庫業界ですけれども--の立場からの解除権でして,部会資料では,この場合に寄託者は受寄者が受け取るまでは解除することができるとして,この場合においては受寄者に損害が生じたときには,寄託者はその損害を賠償しなければならない,即ち,損害賠償で解決するというふうになっているわけです。けれども,倉庫業界さんのほうでは,空きスペースを確保しておくということを長期間続けるということがそもそもの問題であって,損害賠償として解決するだけではなくて,解除という形で解決することはできないのだろうかという疑問があります。そこら辺の確認がありまして,仮に解除ができないというのであれば,解除ができるというような形に提案を改めるなり,そういったような考え方もあるのではないかということを注記していただけないかと,そういう意見がございました。 ○鎌田部会長 受寄者側の解除権。 ○佐成委員 直前にもらった意見ですから,ちょっと私も十分説明できず,申し訳ないんですけれども。 ○道垣内幹事 その事例は,受寄者側の解除権は債務不履行解除ですよね。 ○佐成委員 受寄者が自分たちで解除したい。 ○道垣内幹事 イは債務不履行がないのに解除できる場合だけを書いているわけですから,債務不履行解除について注記は不要なのではないでしょうか。 ○佐成委員 この提案自体は任意解除権であって,要するに,結局引渡されない,約束をしたんだけれども引渡されないという場合は債務不履行解除として処理すればいいのではないかと,そういうことでしょうか。 ○道垣内幹事 そうだろうと思います。 ○佐成委員 その辺りが,もしそうならば,そう分かるように,パブコメの関係で,概要で明らかにすることを検討していただければと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○三上委員  消費寄託にいきなり飛んでよろしいですか。前回のここが議論されたときに,現行民法の消費寄託には消費貸借の準用という形しかなくて,今回規定の整備において適用条文の見直しが必要ではないかということを申し上げて,その意味で具体的な提案があったのは今回が初めてではないかと思うのですが,その前提でお伺いするんですけれども,まず,(2)の,寄託に関する前記1が適用になるという形で始まっておりますが,1の部分には有償の寄託と無償の寄託が分かれておりますけれども,この有償,無償の区分ということに関しては,例えば預金契約のように利息,つまり受寄者の側が委託者に払うというものを有償と考えているのか,日本では珍しいほうになるかもしれませんが,口座維持手数料のような形で本来の委託契約の並びである委託者のほうが受寄者に払う手数料がある場合を有償と考えておられるのか,適用内容が変わってきますので,その辺りを明らかにしていただきたいということが1点。基本的に消費寄託契約として,我々は預金契約しか余り頻繁に使われる事例を思い付かないんですが,それ以外にどのような消費寄託契約を念頭に置いてこういう提案をされているのかという疑問を前提のとしての質問になるわけですけれども,2点目は662条がそのまま適用になると書いてあるんですが,これは,662条は一応任意規定という理解での適用ということでよいか。御存じのように定期預金の期限の利益は銀行の側にあるという最高裁判例がありまして,それを前提に自動継続定期は時効にかからないという判断が出ているわけです。これを変える趣旨ではないと考えておりますので,任意規定であるということを確認したいと思います。   それから,3点目は,663条2項もそのまま適用になるかのように読めるんですけれども,例えば定期預金を受働債権として相殺する際には,これまでの教科書には定期預金の期限利益は銀行側にあるので,銀行側はその利益を放棄して相殺適状に持って行けるという説明がなされていたと思います。つまりこの部分は消費貸借を前提に考えたというべきか,消費貸借を介して137条がそのまま適用になると考えたかは別として,そういう理解だったと思います。それが663条が適用ということになりますと,相殺すべき回収の必要があるというときというのが「やむを得ない事由」となるのかならないのかという新たな論点の提示をされているかのように読めるという問題点が出てまいります。そう読めると断言しているのであればいいんですけれども,私としましては一応その懸念が残りますから,むしろ663条2項に変えて591条2項といいますか,今回の提案でいきますと,7ページの6の規定でも構わないんですが,その規定の適用という形に改めるべきではないかと考えております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。事務当局から何かございますか。 ○松尾関係官 今三上委員から確認を求められた点のうち,まず1点目ですが,本文の1の規定の適用に当たって,受寄者が利息を支払う預金契約はどちらに当たるのかということの御質問を頂いたと思うんですけれども,1の(1)の中では,寄託者側が受寄者に対して報酬を支払う類型のものを有償の寄託と整理することを前提としておりますので,今,三上委員がお尋ねいただいたものは,ここで言う有償の寄託には当たらないことになると考えております。   また,662条の適用を合意によって排除することができるのかというお尋ねを2点目で頂いたと思いますけれども,それは恐らく今もできていると理解していますし,今回の改正によっても引き続き可能であろうと考えております。   3点目については御意見として承りましたので,検討させていただきます。 ○松本委員 先ほどの佐成委員と道垣内幹事のやり取りについてです。すなわち佐成委員が倉庫業界の声として,寄託の契約をして倉庫を空けて待っているんだけれども,いつまでも荷物を預けにこないから解除したいんだという要望を紹介されたのに対して,道垣内幹事は債務不履行だから解除できるのは当たり前だとおっしゃったんだけれども,空けて用意している倉庫の寄託料を払っていなければ債務不履行なんでしょう。しかし,寄託料を払っているが,空き倉庫でずっと置いてあることが,倉庫業者としては不都合だから解除したいという場合に債務不履行で解除できるのか。すなわち預ける義務,引渡す義務までが寄託者の側の契約上の義務としてあるのかという点を議論しないと,今のように当然債務不履行で解除できるということにはならないのではないかと思います。   契約のタイプによっては,受寄者のための,単なる寄託料という報酬以外の現実に寄託を受けることに何か利益があるんだということであれば,それは恐らく債務不履行ということになるんでしょうが,そうでなくて単に預かって,その対価としての報酬をもらうという契約であって,空き倉庫なんだけれども,報酬だけは払われているという場合に,受寄者の側からの解除権を認める経済的ニーズがあるということであれば,それは民法ないしは商法できちんと手当てをしておかないと,あるいは特約で付けておけばいいだけなのかもしれないですけれども,一定の何か根拠がないと,債務不履行というふうに単純にはならないのではないかという気がします。 ○道垣内幹事 私の発言の曖昧な点を御指摘いただきまして,どうもありがとうございました。ただ,倉庫業界は荷物を引渡されないで保管料だけを支払ってもらっているときにたいとは思わないと思いますので,別段寄託料の不払いだけを債務不履行だと見ても先ほどの実務的なニーズに支障を来すということはないのではないでしょうか。 ○鎌田部会長 ほかに寄託について。 ○畑幹事 すみません,また破産手続の開始の関係ですが,2か所に分かれておりまして,36ページの(2)と,それから,41ページの9であります。この辺り,それほど時間をかけて議論はしていないと思いますが,非常に強い反対があったということでもなかったと思いますので,中間試案として出してみるというのはよろしいかと思います。   ただ,41ページの9のほうには(注)としてこのような規定を設けるべきでないという考え方が示されており,それは受寄者の権利というのは財団債権として保護されるものだからよいではないかという考え方だと思うのですが,そうだとすると,それは36ページの(2)のほうにもある程度は同様に妥当するような気もいたしますので,少し御検討いただければと思います。   それからもう一つですが,このような規定を設けるべきでないという考え方のほうなのですが,先ほどちょっとほかの契約類型について話題になったと思うのですが,このような規定を設けないとするとどうなるかということがあり,双方未履行の双務契約だとすると,倒産法の一般原則によって管財人が解除するということはできるはずなのではないかと思われますので,ここでもその辺りはちょっと注意して表現していただく必要があるのではないかという気がしております。 ○鎌田部会長 それは引き取らせていただいて検討するということでいいですか。 ○松尾関係官 今,畑幹事から御指摘いただいたことを少しだけ補足しておきます。41ページだけなぜ(注)があるのかという御指摘についてですが,部会でこれまで取り上げられていたのは,1の(2)の論点だけでありまして,9は今回新たに取り上げたものでございます。その趣旨は,備考のところに書いたとおりなのですけれども,寄託物の受取前と受取後で解除の可否に違いがあるのはおかしいではないかというのが,一つの考え方としてあり得るのではないかと検討の過程で考えたので,新たに取り上げたわけです。しかし,元々は,諾成契約化に伴って寄託物の受取前の契約の拘束力をどれだけ弱めるのが適当かという観点から,1の(2)の議論がされていたと理解していますが,9の論点は,それとは趣旨が異なることになるので,異論があるのではないかとそんたくし,(注)の考え方を併せて取り上げた次第です。つまり,畑幹事から御指摘をいただいたように,報酬債権が財団債権として保護されるという理由だけでこの違いが説明できるわけではないので,書き方は更に検討したいと思っております。 ○中田委員 1の(2)の規律は,引渡し前は解除で処理するということですが,他方で消費貸借については,4ページにあります第2の1の(5)で当然に失効するということになっています。先ほどもちょっと出てきたと思うんですが,預金契約の場合には消費寄託であって,寄託のルールが適用される。しかし,銀行の貸付けの場合には消費貸借であって,第2の規律が適用されるということになると思います。それは十分御検討の上でそういう違いを設けていらっしゃると思うんですけれども,なぜそれが違うのかということをどこかでお示しいただくと分かりやすいのではないかと思います。   それから,別の点,もう一つよろしいですか。今度は寄託に戻りまして,39ページの寄託者の損害賠償責任のところです。ここではこれまで出ておりました消費者か事業者で分けるという分類ではなくて,有償か無償かで分けるという分類を採られています。これは一つの選択としてこういう御提案になられたのだと思います。ただ,この場合に問題となるのは,事業者間の有償寄託でも寄託者が善意であると賠償義務がないということになると理解してよいのかどうかです。仮にそうだとすると,実際の取引において支障がないだろうかということが若干気になります。それも何らかの形で指摘していただければと思います。例えば補足説明でも結構だと思いますけれども。 ○中井委員 また破産手続開始との関係で申し上げておきたいのですが,36ページの(2)のところでは642条を使っている,寄託者の破産について。受託者の破産については特に取り上げていない。それは,その後の寄託物受取り後についても,寄託者について取り上げて受託者には取り上げていない。他方で,委任のところでは,31ページですけれども,委任者破産については642条型にしているんですが,こちらは受任者についても取り上げている。それぞれ典型契約によって違いがあることを考慮されているのかもしれませんけれども,その考慮がそれほど決定的な理由になるのかというので疑問を持ちます。   委任のほうで言うならば,仮に受任者に破産手続が開始したときに委任者に解除権を認めたとき,これは損害賠償義務を認めるのかどうかが前回の第二読会のときに議論になって,賠償義務なくして解除できる趣旨という点で特別な解除権を認めようという方向ではないか。仮にそうだとすると,受託者側で破産手続開始になった場合,委託者側にも解除権を認める。本来的に解除権はあるんですけれども,本来的解除権の場合は賠償義務がくっ付いている。破産の場合に解除権を認めるのは,賠償義務なくして解除できるところに意味があるという考え方の整理も一応できるだろうと。そういう意味で,こうでなければならないというわけではないんですけれども,取り上げているところと取り上げていないところがある,その決定的理由がもう一つよく分からない。取り上げるならきちっと破産法53条との関係について先ほどから御指摘ありましたし,賠償義務がないならないということについて明確にする必要があるだろうと。そういう意味で,整理をしていただく必要があるのではないかと思います。   そのときの整理として,先ほど中田委員からもお話がありましたけれども,一つの考え方は失効する,消費貸借のところでは従来から予約は失効する,消費貸借について諾成とした場合には金銭交付前は失効する。従来,委任については終了するですけれども,実質将来に向かって失効する,先ほど使用貸借についても山本和彦幹事から失効するという考え方もありますねという御示唆がありました。一つは目的物引渡し前については失効型,終了型があり得るだろう。委任の場合は目的物は関係ありませんけれども,終了型だろう。他方で,従来の請負の642条で原則双方未履行双務契約として破産管財人側に解除権若しくは履行の選択権があるんだけれども,それだけだと相手方が不利益なので,相手方に積極的に解除権を与えようと,相手方の利益を保護するパターンがある。もう一つは,相手方の保護が要らない場面で破産法53条の双方未履行双務契約のみで処理をする,切り分けとして恐らくその三つになるんだろうと思います。それらを各典型契約についてもう少し緻密に御確認いただくほうがよいのではないかと思いました。 ○鎌田部会長 その点はいずれ整理をさせていただかなければいけないと思いますので,よろしくお願いいたします。ほかに寄託関係での御発言ございますでしょうか。 ○岡委員 2点申し上げます。1点目は中井さんとほぼ同じでございますが,41ページの9の(1)のところの破産管財人は寄託物の返還を請求できるというのは,破産法53条の解除権とほぼ同じはずでありますので,先ほどの賃貸借の登記のところでは借地借家法にあるから民法には置かないという整理をしたと同じ整理をするのであれば,破産法53条に規定のあるものは,もう民法にダブっては書かないというほうが分かりやすいように思うんですが,そのダブっても書きたいと,書く意味があるということであれば,その理由を教えていただきたいと思いました。   それからもう一つは,この9の(2)の末尾の「破産財団の配当に加入するものとする」と,1の(2)にも「破産財団の配当に加入するものとする」と,今の現行民法もこの条文なんですが,非常に分かりにくいと思います。これはもう破産債権として請求できるとか,何か倒産法に即した分かりやすい表現に変えたほうがいいと思います。この「財団に加入するものとする」というのは可能であれば直したほうがいいというように思います。 ○沖野幹事 関連してですけれども,元々642条の請負の場合の規律が参考になるものとしてあり,これが展開しているという形のところがあるかと思います。破産法53条との関係では,642条自体が重複して書いているというところもありますので,もし改めるとすると,642条自体もどうするかということを考えていかなければならないんだろうと思います。   それから,642条も含めてということですけれども,642条のほうでも元々は双方未履行の双務契約が想定されているところ,それが書き切られていないという問題もあると思われまして,それが委任のところでしたか,中田委員の御指摘にもつながっているということがあったかと思いますので,元々は現在であれば破産法の規律を前提にしているところ,やや過不足があるということかと思います。ところが,今回の御提案におきましては,少しそれを超えている部分もあるように思われまして,これもはっきりとしないのですが,委任のところですと,受任者について破産手続開始の決定を受けたときというのは,有償,無償ということを特に書いていないのですけれども,そうすると,破産法53条等の規律を前提にしたのとは違うところへも拡大する,特に損害賠償との関係でということがありますので,それが適切か,規律を置くのが適切かということも含めて整理が必要なのだろうと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかに寄託関連の御発言ございますでしょうか。弁護士会は「第10 組合」についての検討が不十分ということでございましたけれども,組合に入らせていただいてよろしいでしょうか。 ○中井委員 この後,25分で最後までいくのかどうかに関わるんですが,それがもう困難であるとこの段階で見極めが付くのであれば,誠に申し訳ございませんが,弁護士会は,この辺りの検討がほとんどできていませんので,予備日を使っていただいて,ここから議論を始めるということでいかがでしょうか。 ○鎌田部会長 最後まで残りの時間で終えることは余り期待ができませんし,いずれにしろ,来週開催しなければいけないということになりますので,ここで本日の審議を終了させていただきまして,「第10 組合」以下は来週御審議いただくということにさせていただきます。   次回の議事日程等について,事務当局から説明してもらいます。 ○岡委員 請負と任意解除権のところについて1点忘れたものを発言してもよろしいでしょうか。 ○鎌田部会長 はい,どうぞ。 ○岡委員 21ページの「第5 請負」の(3)のところで,注文者の責めに帰すべき事由により仕事を完成できなくなったときは全額報酬を払えと,この規定に関連して,注文者の任意解除権の規定はそのまま残すと。注文者はいつでも損害を賠償して請負契約を解除できると,これは残るということなので,これと1の(3)との関係について質問がありました。注文者の任意解除権というのは,注文者の責めに帰すべき事由の典型的なものであろうと。しかし,任意解除という構成を採れば損害を賠償して解除できると。それは,その条文が残るとすると,注文者の責めに帰すべき事由による仕事不完成には任意解除権は入らないという整理になるんでしょうか。 ○鎌田部会長 この点についていかがでしょうか。 ○笹井関係官 第5,1(3)は,末尾だけちょっと変わっていますけれども,現在の536条2項を基本的にそれを受け継いだものですので,今と整理は変わらないというのが形式的なお答えになるのだと思います。御指摘の問題は意識していなかったわけではないんですが,任意解除権は当事者が合意で排除するということもあり得ると思いますので,そういった場合にはこの(3)が意味を持ってくるだろうと思います。任意解除権を行使できる場合には,契約の趣旨に照らして,注文者の責めに帰すべき事由によると言えるのかどうかが考慮されてくるというふうに考えておりました。 ○岡委員 別ものであって,アプローチは違うけれども,多分結論はほぼ同じになるという理解でよろしいですよね。 ○笹井関係官 任意解除権が正当に行使され,もう仕事をしなくていいと言われて仕事が完成しなかった場合には(3)の全額の報酬義務を負うということにはならないと思いますが,ただ,任意解除権の場合は641条で損害賠償しないといけないので,それはもちろん適用されてくることになると思いますけれども。 ○岡委員 分かりました。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。 ○山下委員 先ほどの39ページの5で中田委員から御指摘のあったことと同じようなことですが,運送とか倉庫のような営業の観点から規律するとなると,例えば危ないものを預けるというようなとき,こういう5のようなルールの立て方ではなくて,預けるものについて寄託者あるいは運送の依頼人から内容を申告させる,その中身については申告したとおりであるという法的な担保をさせるというようなルールになると思うので,この5の(2)のアですか,寄託者に過失がなくて知らなかったかどうかという切り分けよりはルールの立て方が違うので,これでいいのかなというのは私も来る前に思っていたのですが,佐成委員のほうから倉庫業界の御意見としては特段この点についての御意見はないようでございますので,これでもいいのかと思ったのですが,念のためまた御確認を頂ければいいのかなと思いました。 ○鎌田部会長 それでは,次回の議事日程等について事務当局から説明してもらいます。 ○筒井幹事 次回は来週2月12日火曜日,午後1時から午後6時まで,場所は法務省地下1階の大会議室です。   次回は,本日の積み残し分のみを御審議いただくことを予定しております。その翌週,2月19日から,たたき台の改訂版の御審議に入っていただきます。2月19日はたたき台(1)から(3)までについての改訂版をお届けし,審議していただくことを予定しております。その資料は,今週末の金曜日から翌週にかけてお届けすることになると思いますが,来週の会議における審議対象は,本日の積み残し分のみになります。 ○鎌田部会長 それでは,本日の審議はこれで終了といたします。   本日も熱心な御議論を賜りまして,誠にありがとうございました。 -了-