法制審議会           民法(債権関係)部会           第69回会議 議事録 第1 日 時  平成25年2月12日(火)自 午後1時00分                      至 午後4時26分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○鎌田部会長 予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会の第69回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   本日は,大島博委員,安永貴夫委員,福田千恵子幹事,森英明幹事が御欠席です。   本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 本日は,前回会議で配布いたしました部会資料57,「中間試案のたたき台(5)」について引き続き御審議いただきます。新たな資料の配布はございません。 ○鎌田部会長 本日は,部会資料57について御審議いただきます。「第10 組合」から最後まで,休憩を入れずに御審議いただくことを予定しておりますので,よろしくお願いいたします。   まず「第10 組合」について御審議いただきます。一括して御意見をお伺いいたしますので,御自由に御発言ください。 ○能見委員 1のところと3のところで二つ別な質問というか,確認があるんですけれども,取りあえず1のところについて申し上げます。   この太字で書いてあるところはこのとおりでいいと思いますけれども,(概要)の説明のところで,下から3行目に「意思表示又は法律行為に無効又は取消しの原因があった組合員のみが離脱し,」というふうに書いてありまして,そのことの意味を確認したいということです。   意思表示等に無効,取消しの原因があった組合員がその意思表示に拘束されない,組合全体には影響しないけれども,当該組合員,瑕疵のある意思表示をした組合員はその意思表示に拘束されないということで,その後どうなるかということの表現として「離脱し」と書いてあるんですが,これは現物出資などをした組合員は,現物そのものが取り戻せるという趣旨なのか,あるいは脱退等の手続に従って出ていくのかという点,これは前回議論があったような気がしましたけれども,その点はわざとここでは余り明確にしないで,今後の議論に任せようという趣旨なのか,あるいはどっちかの意味を持っているのか,その点の確認だけでございます。 ○川嶋関係官 その点については,二読の部会資料では,「脱退」という書き方をしていたことに対して,それでは重過ぎるのではないかといった御意見がありまして,今回の部会資料では「離脱」という表現に改めたものです。と言いますか,確か一読の部会資料でも「離脱」という言葉を使っていたと思います。これは,脱退の手続によらなければならないというふうには解されないようにすることを念頭に置いたもので,現物出資等があった場合には,その現物出資分が意思表示に瑕疵があった組合員に戻るということを想定しているわけですが,しかし,効果についてなお議論があるということでしたら,スキームの大枠についてコンセンサスが得られた後であっても,細かい部分を更に詰めていくという作業はあってよいのではないかと思っております。 ○鎌田部会長 よろしいですか。ほかにはいかがでしょうか。 ○岡委員 今の点ですが,出資済みの組合員が詐欺で取り消した場合,他の組合員が96条3項の第三者に当たるのか当たらないのか,他の組合員が詐欺の事実について善意だった場合に,取り消した人は組合に既に出資済みの金銭の返還請求はできるんですか,できないんですか。 ○川嶋関係官 その場合でも詐欺を受けた離脱する組合員に返還されるということを念頭に置いておりましたが,第三者保護規定の適用についてもう少し検討が必要なのかもしれません。しかし,基本的には,離脱する組合員は,当初からその組合の構成員ではなかったという扱いをすることになるのではないでしょうか。 ○内田委員 これは非常に興味深い問題だと思います。形式的に言うと,他の組合員も含めて組合契約の当事者ですので,第三者ではないと答えることは可能なように思いますけれども,帰結として本当にそれが全ての組合契約において妥当かどうかについてはなお検討を要するかと思います。   ただ,このゴシックの部分は,その点については一切の決め打ちをしていないので,解釈に委ねられるということではないかと思います。 ○道垣内幹事 決め打ちをしていないということなのですが,前回,1のところについては議論があり,組合契約を全組合員の意思表示がまとまった形でしか存在し得ないと考えるならば,一人について意思表示に瑕疵があると全体が崩れてしまうのではないか,それが原則ではないか,いやいやそうではない,その人だけが離脱するのが原則であるといった議論があったわけですね。一人の意思表示が無効であるときも,他の人の意思表示の効力がそれにより当然に妨げられるものではないということが仮に妥当であるとしても,しかしながら,場合によっては組合契約自体の内容が変わってくるわけですので,必ず組合が存続するかというと,そうとは限らないだろうと思います。   そうしますと,コンセンサスが得られるところというのは,ある組合員について,意思表示又は法律行為に無効又は取消しの原因があっても,他の組合員の意思表示は当然にそれにより無効ないしは取消しになるわけではないし,当然に組合が解散するわけではないという,それだけのことであろうと思います。そこから先は,先ほどの96条3項の問題も含めまして,かなり広く解釈に委ねられるということなのではないかと思います。   そうなりますと,私は,(概要)においてであっても,離脱することになるのだと書くことも若干問題なのではないかという気がいたしまして,本文だけぐらいにとどめるべきではないかと思います。 ○鎌田部会長 この点に関連した御意見がほかにありましたらお出しいただければと思いますが,よろしいですか。   それでは,ただいままでに頂戴しました意見を踏まえて,更に事務当局で検討を深めていただければと思います。   ほかの点,組合関連で御意見がないようでしたら,能見委員のもう一つの。 ○能見委員 先ほどもう一つ質問があると言いましたけれども,私の誤解が少しありましたので,取り下げます。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。 ○中井委員 「5 組合代理」ですけれども,中身自体は従前と基本的に同じと思います。確認ですけれども,ここの「組合員の過半数による代理権の授与」というこの表現ぶりです。中身は組合員の過半数で決定する,それで代理権を授与すると,こういうことではないかと思うのですが,そういう理解でよろしいかと。   仮にそうだとすると,表現ぶりとしては,むしろ「組合員の過半数の決定による代理権の授与」などのほうが明確ではないのか。 ○鎌田部会長 事務当局から御説明を頂ければと思います。 ○川嶋関係官 今の御発言の趣旨を確認させていただきたいのですが,代理権の内容も含めて過半数による授権だということを分かりやすく表現にすべきだという,そういうことでしょうか…。 ○中井委員 誰かに代理権を授与するにしても,それは組合員の過半数で決定してA組合員に授権しているのではないかと思いますので,それがこの文章から読み取れるのかということです。また,4(1)との平仄もご検討いただければと思います。 ○能見委員 少し私の理解が混乱しておりまして,今の議論の方向を妨げるのかもしれませんけれども,自分の理解を確かめるために発言させていただきます。4と5,「組合の業務執行」と「組合代理」のそれぞれ(1)の関係なんですが,「組合の業務執行」のほうでは,(1)のところでは組合の業務,これは対内的な業務に限っているのかもしれませんけれども,もし限っていないとすると,どういうことをやるかということについて組合員が過半数で決定し,対外的な行為であれば,それを誰が行うかというのは,これは今の4の(1)ではなくて,「5 組合代理」の(1)に従って,誰が代理権を行使するかというのはまた別途決めなくてはいけない。だから,業務そのものの問題と,代理行為をするかどうかという二つ決定をしなくてはいけないという前提があるということでしょうか。 ○川嶋関係官 はい,そのつもりです。先ほどの中井委員の御発言の趣旨を理解するのに時間がかかってしまいましたが,「組合員の過半数をもってした決定による代理権」という書き方のほうが分かりやすいということであれば,それはそのとおりだと思いますので,改めることを検討いたします。 ○佐成委員 関連で,私もここはちょっとよく分からなくて,今,能見委員に整理していただいたので頭がすっきりした感じでございます。二読のときもここは発言させていただきましたけれども,業務執行は対内的なものと対外的なものがあると。対外的なものの中で更に組合代理というのを区別するという,そういう御提案かと思うんですけれども,その辺りを中間試案の補足説明にきちんとお書きいただかないと,企業実務家が混乱する危険性がありますので,是非,今,能見委員が整理されたような形でお書きいただければ有り難いなということでございます。 ○鎌田部会長 この点も御指摘を踏まえて更に(概要),その他の記述を検討してもらうことにします。   ほかには組合関係はよろしいですか。 ○深山幹事 「7 組合員の脱退」の(2)のところについて,前段で,脱退した組合員が一定の履行責任を負うということが書かれていて,2文目が「この場合において」と続いて,免責や担保供与のことが記載されているんですが,この記述が分かりにくいような気がいたしました。   「この場合において」というのがどの場合を指しているのかという点に関わるんですけれども,(概要)を見ると,組合員が脱退した場合というのを受けているようにも読み取れるんですが,そうすると,(2)の1文を受けているわけではなくて,脱退した組合員は免責なり担保供与を求めることができるということが独立の項目として立つような気がいたします。読みようによっては,履行の責任を負わされた場合に限定した規律であるようにも読めなくもないと感ずるものですから,この1文と2文の整理の仕方としては,「この場合において」という受け方で続けるのは表現として必ずしも適当でないような気がいたしました。 ○鎌田部会長 そこも少し検討させていただくことにします。 ○中井委員 (2)については同じ指摘をしたかったんです。   (1)は,内容的には異論のないところですけれども,強行規定であることをこのような形で明示するのがここだけにぽつんとある。このような無効とする定めが出てきたのはこれが初めてではないかと思うんです。今後の方向性として,ほかのところは特段なくて,ここだけは判例上明確だから残る,今はこういう御予定とお聞きしてよろしいんでしょうか。それとも,もう少しトータル的に見直すことを考えておられるのか,方向性を確認したいのですが。 ○筒井幹事 すみません,御趣旨を十分理解できなかったのですけれども,強行規定の置き場所などに関わることでしょうか。もう少し御説明いただければと思います。 ○中井委員 ここは,やむを得ない事由があっても脱退できないという合意をしても,その合意は無効だと,ここではそれを明らかにしようとしています。規定に反する合意をしても無効だというのはほかにもありますが,ここだけ明確に書かれている,ということについての整理の方針なんです。前回も大島委員が強行規定と任意規定についてできるだけ峻別した形で明らかにしてほしいというお話があって,前向きに検討するとおっしゃった。それとの関係で,全体的に,整理の方向性についてどのようなお考えがあるのかお聞かせいただきたかったと,いうことでございます。 ○筒井幹事 ありがとうございます。強行規定と任意規定の区別の明確化という問題意識を持っていることは,前回の会議で大島委員の発言に対してお答えしたとおりですけれども,中井委員から御指摘いただいたのは,47ページの7(1)のような規定を設けることが,他とのバランスで適当かどうかという議論であろうと受け止めました。そういった観点からの吟味は,今後十分詰めていく必要があって,なお検討が不足している面はあると思います。個別の項目の検討だけでなく,全体的なバランスの中で適当かどうかという検討は,これから十分していく必要があるのではないかと思います。 ○道垣内幹事 今までも書かれていた事柄なのかもしれませんので,いまさら発言するのは大変恐縮なんですが,7の(2)についてです。これはどういう場面を念頭に置いているのかということでして,ある組合員が脱退しまして,既に脱退前に組合債務が生じているとき,その債務が組合財産から履行されることを前提にして,なお余りがあるという形で持分の払戻しを受けた場合を考えますと,債務の額だけ持分の払戻し額が減っているわけですが,にもかかわらず,債権者から請求されますと,持分の払戻しで減ったにもかかわらず,なおまた更に出さなければならないということになる。これはおかしいので,免責を得させてもらったり,担保を供してもらったりする権利がある。これはよく分かります。しかし,仮に脱退時に赤字であるということになりますと,持分の払戻しはない。そして,その際,脱退したからといって,債権者との関係ないしは他の組合員との関係において,固有財産における債務を免れるという必然性はないと思います。そうなると,この7の(2)の後半は,ある一定の場合だけを念頭に置いている規定であって,そのことを何らかの形ではっきりさせなければならないのではないかと思います。誤解でなければ御検討いただければと思います。 ○鎌田部会長 その点は引き取らせていただいて,事務当局において詰めて検討をさせていただきます。   ほかに御意見は。 ○松本委員 先ほどの組合代理と組合の内部的な業務執行の決定との関係なんですが,先ほど事務当局が整理された,両方について過半数でもってやるんだということで,それでいいと思うんですが,ここで,単純共有の場合の共有物の管理との関係が全くパラレルなのかどうか,すなわち共有に関わる契約問題は,実はこの部会で余りきちんと議論していないんですね。民法252条では,共有物の管理については過半数で決めると,こういうふうに書いてあるわけで,これは言ってみれば内部的な決定についての問題だろうと思います。   その上で,それでは,共有物を賃貸借に出す場合に誰の名前で契約するんだという点については,別に内部的な決定でもって,共有者の一人の名前で契約してもいいだろうし,共有者全員の名前でしても,多分どちらでもいいんだろうと思います。単独名で契約している場合の解除は,恐らく内部的に解除することについて過半数で決めて,その上で当該契約上の名義人であるところの賃貸人の名前で解除の申入れをするんだろうと思います。   ところが,共有者全員でもって賃貸者契約の当事者になっているという場合の議論が若干曖昧でありまして,内部的意思決定の部分をすっ飛ばして過半数でもって解除の申入れをすればできるかのような感じの議論もされているところがあるんですが,私はここは先ほどの組合の場合とロジック的には同じように考えるのが適切ではないかと考えております。この辺,事務当局の整理としてこういう理解でよろしいんでしょうかという質問です。 ○川嶋関係官 ここは組合についての検討をする場面であって,単純共有の場合についての検討は議論の対象外だと考えていたのですけれども。 ○松本委員 それは全くそのとおりなんですが,単純共有の場合の契約上の問題というのも,実は債権法的に見ればかなり重要な論点だろうと。正に物権法と債権法が交錯する重要な論点だろうと思いますから,もし曖昧なところがあるのであれば,法制審として契約法の部分に限定してクリアにするという意味はあるかと思いますが。 ○鎌田部会長 個人的な理解では,今言われたように過半数で申入れをすればいいというのはおかしくて,おっしゃったように,過半数で管理の方法が決められるということです。もう一つ,今の設例の場合に問題になるのは544条の解除権の不可分性で,その点については,過半数の共有者による解除の申入れがあったような場合には,管理方法に対する決議に伴って過半数の者が全員を代表して解約の申入れをすることの合意もあったというふうに解釈しているのが普通かどうか分かりませんが,私はそういうふうに説明してきています。 ○松本委員 私も全く同じ考え方です。 ○鎌田部会長 ほかに,組合関係,よろしいですか。 ○中田委員 3の(1)の(注)なんですけれども,この(注)でこういった規定を置くことに慎重な意見が掲げられております。   私自身はアの規律に賛成ですけれども,この(注)を置くことは,これまでのこの部会での審議過程を反映するものとして適切だと思っております。   問題はその先でして,3の(1)のアのような規定を置くのか,それとも(注)の指摘を入れて,現在の676条1項に全く手を加えないのかという二者択一しかないのかどうかです。これは中間試案の後の段階での検討課題かもしれませんけれども,現在の学説の一般的な理解に従って,(概要)にも出ておりますが,676条1項を差し押さえの場合にまで拡張するというような改正の仕方も検討の対象となり得るのかなと思いました。先のことかもしれませんけれども,そういう方向もあるだろうということだけでございます。 ○鎌田部会長 ほかによろしければ,次の「第11 終身定期金」について御審議いただきたいと思います。一括して御意見をお伺いしますので,御自由に御発言ください。 ○山野目幹事 終身定期金について,太い字で部会資料として御提案いただいている部分に賛成であります。その上で注記を掲げているという御提案になっております。   今までの部会における審議を反すうなさってこういうものをお付けになったというふうに一応受け止めますけれども,私の感ずるところでは,部会における終身定期金に関する審議は,今の規定の在りようを基本的には維持するという考え方と,これをかなりバージョンアップして見直した形で終身定期金の規律群を置くというような意見とがそれぞれ盛んに唱えられたということは感じますが,典型契約からなくしてしまえという御意見がさほどに強かったものであろうかということについては余りそういう印象がないものですから,そういうことを強くおっしゃる方がおられないのであれば注記は要らないのかもしれないとも感じます。よく分かりませんが,もしおられるのでしたならば,それはもちろん意見の分布を反映するのが正しい審議の進め方ですからこれ以上固執しませんけれども,すこし不思議な感じがいたしました。 ○鎌田部会長 削除論者はいないわけではなかったようにも記憶していますけれども。 ○佐成委員 私,委員として個人的には別に削除に賛成しているわけではないんですけれども,経済界の中には全面削除というような考え方もあるようでございまして,私はそれを強くここでは主張しておりませんけれども,やはり注は残しておいたほうが中間試案という性格上よろしいのかなという気もしないではないということでございます。 ○鎌田部会長 ほかに。特に御発言はございませんか。   それでは,山野目幹事の御意見も踏まえて事務当局でもう少し検討させていただきます。   続きまして,「第12 和解」について御審議を頂きます。この点につきましても一括して御意見をお伺いしますので,御自由に御発言ください。よろしいですか。 ○中井委員 「その争いの対象である権利の存否及び内容に関する事実」というこの表現ぶりが従前の表現ぶりとは変わっているわけです。前回の部会資料48の14ページの整理としては,「争いの目的となっていた事項」というのが一つ,二つが「争いの目的である事項の前提又は基礎とされている事項」,こういう切り分けをして議論をしたわけですけれども,「内容に関する事実」というのが前の切り分けで言う「争いの目的となっていた事項」に代わる趣旨と思うのですが,この表現ぶりからすれば,その前提若しくは基礎とされた事実もある意味で「内容に関する事実」として含まれているようにも読める。もし前回の部会資料を念頭に置いた切り分けとして事務当局で考えておられる範囲というものがあれば,それをまずは御教示いただければ有り難い。御教示いただけるかどうかはともかくとして,ここの整理としては,権利の存否と権利の内容そのものについての錯誤ではないのかと思うのです。   それから,「及び」で結ぶのがいいのかどうかもよく分かりませんで,「権利の存否又は内容」についての錯誤ではないのか,そのような限定のほうがいいのではないか。   もう1点,「争いの対象である権利」,これもよく見てみると,従来から「対象」という言葉を使っていたんですけれども,現在の法文は,「争いの目的である権利」,この「目的」を「対象」という言葉に置き換えているわけですけれども,ここは従前議論があったのかなかったのか,記憶がありませんけれども,現在の法文の言葉と変えたのに何か意味があるのか,その3点です。 ○筒井幹事 従来の判例などを基に整理されていた「争いの目的である事項」と「その前提とされていた事項」という整理を変更しようという趣旨ではないのですけれども,その区分,その文言をそのまま将来の条文として育てていくことには限界があるのではないかという問題意識を持っております。何かその区別をもう少し適切な言葉に落とし込むことができなければ条文化は難しいのではないかという問題意識から,今回このような案を提示してみました。この案では,なおもその区別が的確にできていない可能性があるであろう思いましたのでは,(注)を付して,規定を設けることを断念することもあり得るというスタンスで,今回の案を提示しております。   「及び」が適切でないというのは,御指摘を受けて,なるほど私もそうであろうと思いました。権利の存否についての錯誤と,それから権利の内容についての錯誤,いずれも含まれるという趣旨で原案は作成しております。   それから,「争いの対象」という言葉を使ったのは,これが適切かどうかは御議論いただければと思いますけれども,「目的」という言葉をできる限り不用意に使わないように,他の言葉で言い換えられるところは言い換えるようにするという方針に沿って,ここでは「対象」という言葉を使ったということです。 ○中井委員 後の二つは理解いたしました。   ただ,「内容に関する事実」としたとき,やはり「関する」というのが範囲を意味する言葉としては曖昧なものですから,そこまで広げると錯誤主張できない範囲が極めて広くなる。つまり前提となるような事実も「関する事実」に入るという誤読があるのではないかと思うものですから,「関する」という表現ぶりについては再考願いたいと。   そこで,端的に「内容についての錯誤」では限定し過ぎなんでしょうか。それが前回の部会での議論がそうだったかというところに戻るのかもしれませんけれども,権利の存否か,権利の中身について錯誤があってももう争いはやめようと決めたわけですから,もはや錯誤は主張できない。でも,その前提となる事実,基礎となった事実について,やはり錯誤があれば錯誤主張を認めるというのが従前の議論の流れだったのではないかという認識をしているんです。そうだとすれば,「関する」では広過ぎるという理解をしております。 ○鎌田部会長 多分,内容についての意見の違いはなくて,表現の問題だと思いますので,その点については事務当局で御指摘の趣旨を踏まえて更に検討していただくという処理にさせていただければと思います。   ほかに,「和解」について。 ○岡委員 この「和解」のところでは,過払金請求を巡る消費者とサラ金業者との和解の案件もかなり見られるところです。不実表示に基づく取消しが今回は錯誤の一事由になるようです。不実表示がある場合にまで取消主張ができないものとするというのはおかしいだろうと思います。それは除くべきだと思いますが,いかがでしょうか。 ○松尾関係官 今回,錯誤の一類型として不実表示を位置づけるという整理になっていますので,今回の原案は不実表示についても適用対象から排除する趣旨ではなかったですけれども,今の岡先生からの問題提起を踏まえてもう一度検討したいとは思います。 ○内田委員 念のための補足ですが,錯誤のところに入る不実表示というのは,消費者契約法の不実告知とは違うもので,勧誘するに際してといった要件はありませんし,重要事項という限定もありません。また,意図的に不実なことを表示するということは一切含意していませんので,全く自分は知らずに事実と異なることを表示するという場合もあります。ですから,不実表示なんだから表示した側が悪いという前提は成り立たないルールとして想定されていると思います。 ○松本委員 言わずもがなですが,消費者契約法の不実告知も告知者が事実であると信じていた場合でも適用されるわけですから,そこは変わらないですが,ただ,重要事項という縛りがある。他方,民法のほうは告知の対象は明確ではなくて,しかし何でもいいというわけではないから,消費者契約法よりは広いけれども,一定の因果関係が当然前提になっているという点は同じだと思います。   そこで,今,岡委員が指摘されたことは全く考えてもいなかったんですけれども,大変重要な指摘だと思います。取り分け,和解が消費者契約である場合,すなわち事業者・消費者間の和解契約の場合に,事業者側からの誤った情報の提供を前提にして消費者が和解に応じたというような場合に,詐欺に該当しない限り,和解として拘束力があるというのは私はかなり不当な結果になるのではないかと思いますから,そこは十分検討する必要があると思います。場合によっては,消費者契約の場合には適用されないという特則を置かなければならないということになるかもしれないです。 ○鎌田部会長 その点は少し事務当局において検討させていただきます。   ほかにはいかがでしょうか。   それでは,「第13 事情変更の法理」と「第14 不安の抗弁権」について,一括して御審議いただきたいと思います。御自由に御発言ください。 ○潮見幹事 「事情変更の法理」について,お願いというか,意見があります。   本文,それから(概要),どちらにも共通することなのですが,まず,(概要)を見ますと,一番最後のところには「事情変更の法理の明文化の要否及びその効果を中心とした具体的な在り方につき,引き続き検討すべき」と書かれています。それから,本文のほうを見ましても,要件のいずれにも該当するときは,契約の解除又は改訂の請求をすることができるものとするかどうかについて引き続き検討すると書かれています。それから,更に(概要)の上の部分をずっと見ていきますと,引き続き検討する対象というところに書かれているのは,もっぱら効果の在り方です。   裏返していいますと,事情変更の法理が妥当する要件について,この書き方ですと,ここの本文のア,イに書かれていることが言わばこの部会で大方の一致を見ているような印象を受けるかもしれないというか,むしろ,単純に読めばそのようにとられかねないと思います。むしろ,部会や分科会の中では,事情変更の法理が妥当する要件というものをどのように整理したらいいのかという部分について,なおこれこそ引き続き検討する必要があったような印象を受けておりますので,その部分について読み手に誤解のないような形で本文,それから少なくとも(概要)は書き改めていただければ有り難いと思っております。意見を含めて申し上げました。 ○加納関係官 「第14 不安の抗弁権」についてでありますけれども,ここに書かれていることはこれまでの議論とか裁判例を踏まえましてこういう規律を設けるということだと思いまして,そのこと自体は特に違和感はないんですけれども,こうやって条文として規定されるとした場合にちょっと気になる点がありまして,その点申し上げたいと思います。   特にいわゆる多重債務者がいるという場合に,多重債務者が生活に関しまして例えば介護とか医療とか,そういった役務提供の契約を締結しているというような場合を想定しますと,破産手続とか再生手続とか,そういうのがあるので,文言上要件に当たってくると。そういった介護とか医療の役務提供契約の場合に,事業者のほうが先履行義務を負うというようなことが結構あると思います。そうした場合に,文字どおりこの規律が適用されるとしますと,履行を拒否できるというようになるわけでありまして,そうしますと,そういった多重債務者の人の日常生活にとってちょっと想定外の影響を及ぼす可能性があるのではないかという点が気になりました。   不安の抗弁権の裁判例は,恐らく事業者間の継続的な取引などを前提にいろいろと判例が積み重ねてきたものだと思いまして,そのこと自体は特に問題ないと思いますし,私が先ほど申し上げたような事案でどこまでこれが適用されるのかというのは必ずしも十分議論はなかったのかもしれませんけれども,ちょっと気になります。   では具体的にこの本文をどうするのかという点については,実はちょっとそこまで思いが至っていなくて大変恐縮なんですけれども,恐らく,例えば信義則を適用するということであれば,信義則によっておのずと合理的な結論が得られるということになるんだろうと思うわけですが,条文が独り歩きしないようにちょっと注意が必要であろうと思いますので,指摘だけさせていただきたいと思います。どうするかということについては,ちょっとまた引き続き私どものほうでも検討させていただきたいと思っております。 ○佐成委員 第13と14,それぞれ意見を述べたいと思います。   まず,第13に関しては,内部では,そもそもこの論点は,「引き続き検討する」になっているけれども,削除すべきではないかという強い意見もあったところです。ただ,私としては,先ほど潮見幹事がおっしゃったように,要件の部分も含めてしっかりと検討を続けるということであれば,引き続き検討という形でもいいのかなと思っております。要するに,今言ったように,かなり強い,これは中間試案に載せるべきではないという意見もあったと,そういうことではございますが,潮見幹事がおっしゃったような形で進めていただければと思います。   それから,第14ですけれども,「不安の抗弁権」についても,やはり経済界では賛成意見と反対意見両方あると,二読のときにもそういうふうに申し上げました。これには反対意見については特に注記も何もされていないんですけれども,一応反対意見もあると,どれぐらい強いかというのはちょっと私もよく分からないんですけれども,ただ,反対意見があることは事実なものですから,こういったような不安の抗弁権については,主に濫用の懸念に基づく反対意見ということなんですけれども,(注)の形で反対意見があることも一応書いていただいてパブコメに付していただけないかということでございます。よろしくお願いいたします。 ○三上委員 第二読会の再確認になる部分かもしれないんですが,「不安の抗弁権」のところで,相手方が弁済の提供をし,又は担保の提供をしたときには抗弁権がなくなるということですが,この弁済の提供なり担保自体が否認の対象になるということはないという理解でよろしいんでしたっけ。そこを再確認させていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 その点についてはいかがでしょうか。 ○新井関係官 この不安の抗弁権のただし書でいうところの「弁済」あるいは「相当の担保を供した」ことが否認権の対象になるかどうかは,破産法なり民事再生法などで規定されている否認権の行使要件を充足するかどうかということで判断されると理解しております。 ○深山幹事 13と14について,それぞれ申し上げたいんですが,「事情変更の法理」については,先ほど潮見先生の御指摘と重なるかもしれませんけれども,一つにまとめてしまっているのが少しまとめ過ぎではないかなという気がいたします。要件の問題と効果の問題を分けるということと,効果について,ブラケットの中で「解除」とスラッシュで「解除又は契約改訂」とが並んで記載されているわけですけれども,そこは相当程度前回議論があって,契約改訂まで認めるべきかどうかということが一つの論点だと思いますので,効果についてもその辺りを問うという趣旨が分かるような形で,もう少し細分化したまとめ方のほうがよろしいのではないかという気がいたします。   「14 不安の抗弁権」ですけれども,ここについては,倒産手続開始の申立てというのを挙げて,その後ろに「その他の事由」ということで包括的に要件が立てられております。この「その他の事由」の読み方というのは,おそらく広狭いろいろ解釈の余地があって,一つの解釈としては,法的倒産手続に準ずるような事由を想定しているというふうにも読めますし,(概要)はそのようなニュアンスを感じ取れる説明になっておりますが,字面だけからは必ずしもそうではない,もっと広い解釈の余地もあるような気がいたします。ここは考え方が分かれるということもあって,あえてそこを解釈に委ねている趣旨なのかなという読み方もしたんですが,ただ,問題意識としては,少なくとも法的倒産手続あるいはそれに準ずるものに限定するかどうかはさておき,債務者の財産状態が要するに悪化しているという事態を想定しているんだろうと思います。   逆に言いますと,財産状態は必ずしも悪化していないけれども,当該当事者間において何らかの争いがあって,絶対払わないぞというような姿勢で対立しているような場合,当該債権者にとっては,その場合でも自己の債権につき履行を得られないおそれがあるというような雰囲気になるわけですけれども,少なくともそのような場合に不安の抗弁というものを主張するということは想定されていないんだろうと思います。   したがって,「その他の事由」のところをもう少し限定するという意味で,相手方の財産状態の悪化を示す事由というような趣旨を,この表現が余り練れているとは思わないんですけれども,このような趣旨が判るように,ある程度言葉を足してはいかがかという気がいたしました。 ○中井委員 14ですけれども,前回から幾つか提案をしたことを取り入れていただいているのかと思います。   さらに御検討いただけないかと思うことですけれども,51ページの(概要)の3段目のところに「履行を得られないおそれがあるとき」の要件について説明をしていただいていまして,主観的な不安感では足りない,客観的かつ合理的な根拠に基づく蓋然性が必要である,こういうことを示す趣旨であると,こう記載していただいているわけです。ここの説明自体はそのとおりと理解をするわけですけれども,その表現としての結論が「履行を得られないおそれがあるとき」となることについての違和感といいますか,もう少しこの説明部分を書き表せるいい方法はないものかと思う次第です。法文として,この「おそれ」のところに「具体的おそれ」とか「具体的危険性」とかはなかなか言葉としてこなれないのかとは思いますが,そういう趣旨なんだろうと理解をしております。それが読み取れるように更に考えていただけないかと。   それは,今,深山幹事からも発言がありましたけれども,その前段で例示がされている倒産「手続開始の申立て」というのはその典型的例示だと思いますが,それに匹敵するというんでしょうか,「その他の事由」という部分についても,そのおそれが客観的・合理的に認められるという,51ページの説明からすればそういうことだろうと思いますので,「その他の事由」のところに履行を得られない具体的おそれが客観的・合理的に認められるような事由という趣旨を何とか表現できないものか。そこに,「その他客観的・合理的な事由」と書くと,そのような表現がまた法文上余り見慣れたものでもこなれたものでもないだけに,確かに書き方としてはこうなるのかと思いつつ,なお御検討賜ればと思います。 ○岡委員 「不安の抗弁権」のところの3行目の「自己の債権につき」というこの表現の点でございます。   弁護士会で議論していたときに,この「自己の債権」というのは,これから履行しようとしている債務に係る債権を意味するであろうという指摘がありましたが,それでいいのかどうか。既に履行済みの役務に係る対価請求権が払われそうにないから今後の履行は止めると,それは含まれないということでよろしいのかどうか。   1か月間分をまとめて払う,倒産法の継続的供給契約のようなものもあると思います。もう少し特定したほうが分かりやすいのではないかと思います。 ○新井関係官 今御質問頂いた点は,岡委員の御理解のとおりでございます。現在の資料の本文の中では,その点を「自己の債務を先に履行すべき者」と不安の抗弁権を行使できる者を限定しておりまして,そのことから導かれると整理しておりますが,なお明確化が可能かどうか,検討したいと思います。 ○道垣内幹事 細かい話ですが,中井委員の発現に関連して一言申し上げます。「おそれ」というのは,民法の他の箇所にも出てきますし,倒産諸法でも出てくるのですが,主観的なおそれであるという解釈はどこにもないわけですので,ここだけその旨を明示するほうがおかしいと考えますので,直すべきではないと思います。 ○鎌田部会長 ほかに第13及び第14に関する御意見は。 ○潮見幹事 内容に関わることではなくて,むしろ本当は後のところで言いたかったのですが,便宜上ここで事務局のお考えを確認させていただきたいことがあります。   「事情変更の法理」もそうですし,「不安の抗弁権」もそうですし,17の辺りの論点もそうなのですが,これらの規律を仮に設けるとした場合に,これをどこの場面で規定をするのかということについては,今回のパブコメあるいは今後のパブコメからは外すというような御趣旨なのでしょうか。それとも,それはどこかの場面でしかるべく議論をして,その後にもう一度意見を聴くというようなことなのでしょうか。   パンデクテン方式を採用するということについては,恐らくこの部会の中ではほぼおおよその一致は見ていると思うのですが,「事情変更の法理」とか「不安の抗弁権」とか,あるいは「継続的契約」もそうかもしれませんけれども,最後の辺りの法定債権の不履行の損害賠償の免責事由などというものについては,一体これをどこにどういうふうに配置するのかということ自体について,実務家の方は問題に感じられないかもしれませんけれども,研究者にとっては非常に深刻なところもありますものですから,その辺りの見通しなど,もしお持ちであればお聞かせいただければと思います。 ○筒井幹事 少なくとも今回の中間試案に関していえば,規定の配列という問題は取り上げない形で御意見を聴こうと考えております。これまでの検討の順序を基本とし,論点相互の関係なども一応考慮しながら,現在のたたき台における配列を提示しております。特に御意見がありましたら順序を微修正することはあり得ますけれども,基本的にはたたき台の配列に従って中間試案を作成し,公表しようと考えております。   潮見幹事からお尋ねがありました各点について,確かにどこに配置するかというのは重要な問題であると思いますけれども,それらについて,形式的に申し上げれば,最終的に部会で決定すべき事項かどうかという点については留保させていただきたいと考えております。部会の審議で規定の配列まで決定し,それに基づいた法案を作成することに当然にはならないであろうと考えております。とはいえ,重要なことですので,御意見は十分に伺いたいと考えております。どのように配列すべきかということについては,専門的な見地からの御意見を伺いたいと考えております。 ○松岡委員 今の筒井幹事の御説明に関連して,1点お伺いしたいことがあります。   前回,委任のところで,代理に関する規定の改正について,前に代理で提案されたことに加えて更に書き加えられています。こういう場合は代理の中に改正案を入れ込むということでしょうか。それとも,これも含めて全てたたき台のとおりでしょうか。 ○筒井幹事 委任のところで代理の規定の見直しを取り上げている点については,このままでは分かりにくいだろうと私も思いますので,たたき台の改訂版をお示しする段階で,代理の規定の見直しは代理のところに配列する方向で修正しようと考えております。 ○山本(敬)幹事 先ほどの筒井幹事のお話について質問をしたいと思います。   規定の配列が部会での検討の対象ないしは決定の対象に入らないという理由を教えていただきたいと思います。といいますのは,規定をどこに置くかということは,改正が行われた後の個々の規定の意味内容をどう解釈するかということに密接に関わると思うからです。特に体系的な観点からの解釈は,やはり配列に応じて,少なくともそれを参考にして行うべきものだと思います。その意味で,中身についての決定とどこに置くかという決定とは切り離せるものではないと思います。それだけに,なぜ配列はここでの決定の対象にならないと言われるのか,説明をお願いしたいと思います。 ○筒井幹事 規定の配列は内容に関わるのではないかという趣旨の御質問だと思います。それは程度問題があると思いますが,実質的な内容に関わることについては基本的にこの部会でお決めいただくべきことであろうと思います。ただ,規定の配列,前後の関係などの全てがこの部会の決定事項であるということにはならないであろう。それは,法制審では実質的な内容を決めて,その規定をどのように配列するかは法制的な観点からの最終的な詰めに委ねられるという整理で,これまで運用されてきたからであります。ただいまの山本敬三幹事の御質問は,内容に関わるものについてはという御趣旨なのではないかと私は思います。そういうものであれば,部会で十分に御議論いただければよいのではないかと思います。 ○山本(敬)幹事 ここから先は私個人の意見に過ぎないのかもしれませんが,内容に関わる部分とそうでない部分はきれいに分けられるものではないと思います。やはり民法全体がどのような仕組みで成り立っているかということが,配列の中にも表れている。それを実際に目の前に見ながら,この100年間も解釈をしてきたのだろうと思います。それはやはり今後も変わらないとしますと,どのような細かい事柄であれ,単に形式的にどこに置くかという問題にはならないのではないかというのが,私の意見です。 ○大村幹事 この問題については中間試案の審議に入る前の二読の最後のときにも申し上げたのですけれども,繰り返し申し上げます。基本的には,今の山本幹事の御発言におおむね賛成です。民法典の編成をどうするかということは,法典編纂以来,長年にわたって議論されてきた問題だと思います。内容と密接に関わる問題でもありますし,法のイメージにも関わる問題であると思います。前回,そのことを話題にしたときには,この場で何らかの形で意見を徴する機会を設けてくださいと申し上げたかと思います。   その意味で山本さんのおっしゃったことに賛成ですけれども,筒井さんは,しかし,細部にわたる点で法制上の調整が必要な点もあることを指摘されたのだと理解しました。もちろん,そうした点についても私ども一人の委員としては,いいとか悪いとかとか意見は述べますが,最後,法律を取りまとめる際に法制上の調整が必要であるということは了解しております。それは法制審の外の問題としてこれまで処理してきたということであろうと思いますので,そういう領域が残るというのは確かにその通りだと思いますけれども,その上で,どのような形であれ,この場で実質的に,新しくできる法律の編成について意見を徴していただきたいと思います。 ○中井委員 関連して,弁護士会としてこうだという意見を持っておりませんけれども,山本敬三幹事,大村幹事がおっしゃったとおり,我々もこの13とか14を議論しているときに,一体どこに置かれるんでしょうねということに関心のある意見が多数出ました。しかし,先ほど筒井幹事から,取りあえず中間試案のたたき台についてはこれまでの検討経過を踏まえて今示されている順序で論点が提示される,この方針については理解をいたしました。   そこで,是非,山本敬三幹事なり大村幹事のほうで研究者としての見地からこういう13以下の論点についてどのような形で整理するのが好ましいのか,こういう全体的な見地からの案を是非次回ないし次々回,研究者の立場からお示しいただいて,議論の活性化に資するようにしていただくのが大変意義のあることではないかと思います。是非そういう見地から前向きな議論を研究者の方から出していただきたいと,希望したいと思います。 ○鎌田部会長 大村幹事,中井委員の御意見に沿う形で今後の議事は進めていきたいというふうに考えています。   ほかに,第13,第14に関する御意見,よろしいですか。   よろしければ,「第15 継続的契約」について御審議いただきます。御自由に御発言ください。 ○松本委員 1,2に共通なんですが,正当な事由がないと認められるときは原則の例外だという書きぶりになっています。この表現では立証責任の分配はどちらなのかというのが必ずしも分からないので,そこを説明していただくと意見を言いやすくなるわけです。原則からいけば,例えば1であれば,期間満了で終了するんだから,更新の申入れを拒絶する正当な事由がないことを拒絶される側が立証しなければならないのではないかと思うんですが,この日本語の表現からそういう結論になるのかどうかがちょっと分からないものですから,事務当局に立証責任の所在についての御説明をお伺いしたいです。 ○金関係官 松本委員がおっしゃったとおり,原則は飽くまで「期間の満了によって終了する」ですので,期間の満了によって契約が終了することを否定したいほうが,更新の拒絶について正当な事由がないことの主張立証責任を負担するという理解をしております。書き方の問題だけで言えば,契約が終了することを否定したいほうが,契約を更新することについての正当な事由があることの主張立証責任を負うという書き方をすることも可能だとは思います。現在は,更新の拒絶についての正当な事由の有無という観点から書いておりますので,正当な事由がないことを契約の終了を否定するほうが主張立証するという書き方になっていますけれども,それとは別の書き方として,契約を更新することについての正当な事由の有無という観点から,正当な事由があることを契約の終了を否定するほうが主張立証するという書き方をすることも可能だと思います。いずれにせよ書き方の問題で,主張立証責任の所在の実質は同じだという理解を前提としておりますけれども。 ○松本委員 ちょっと私の頭が悪いので,必ずしも日本語からぴんと来ないんですが,更新の申入れをするのは終了して困る側ですよね。更新の申入れをしたところ,終了させたい側が拒絶をしたと。その拒絶をするにつき正当な事由がないということ,ひっくり返せば,更新の申入れに正当な事由があるということですね。 ○金関係官 はい。そのことを今二つの書き方として申し上げました。 ○松本委員 そうすると,正面から分かりやすい日本語にしていただくほうが私のようなあまりクリアでない人間には混乱しなくていいかと思うんです。 ○金関係官 そこは十分に検討したいと思いますけれども,ただ,現在このような書き方になっている経緯を説明いたしますと,これまで,期間の定めのある契約の終了については,更新の拒絶が正当かどうかという観点から議論がされてきましたので,その議論を踏まえて,更新の拒絶についての正当な事由の有無という観点から要件を書いております。しかし,分かりにくいということですので,再度検討したいと思います。 ○岡田委員 同じような質問になるのですが,期間の定めのないところですが,いつでも解約できるというのが原則で,その下なんですが,「解釈の申入れをするにつき正当な事由」というのが出てきており,正当な事由がないと認められるときは解約はできないとされています。たとえば消費者と事業者の契約の場合に,消費者が解約をしたいと言ったときに,当該契約を存続させることに正当な理由がある場合は,解約はできないことになるわけですが,事業者が正当な理由を立証するという形になるんでしょうか。 ○金関係官 おっしゃったとおりだと思います。 ○岡田委員 そうすると,消費者からすれば,本来,期間の定めのない契約はいつでも解約できると消費者に啓発していますが,特に新聞の購読契約等ですが,期間の定めがなくても解約できない場合があるということになると,今みたいに期間の定めのない継続契約をしなさいと言えないことになり困ったなと思っています。仕方がないのでしょうかね。 ○金関係官 直接のお答えにはなりませんが,解約の申入れは原則として認められるというのが前提で,ただ例外的に,事業者のほうで一定の事情を主張立証して,解約の申入れに正当な事由がない,契約を存続させることに正当な事由があるということの主張立証に成功した場合に初めて,解約の申入れが否定されるということですので,その意味では…… ○岡田委員 確かにそういうことだとは分かるのですが,この「正当な理由」というのが結局は事業者が説得することですから,事業者の言うなりということになるのではないかと心配になりました。しかもこういうふうな形で決まった倍には,消費者に対してどのように啓発をするべきかと悩むことになります。   それと,もう一つですが,これは取り上げられなかったところで,2番目ですが,「消費者・事業者間の継続的契約の解除」ということで,私,これは前回のときにいつでも解約できるということで,中井先生が一生懸命それを進めていただいたにもかかわらず,私,そこまではというふうな言い方をしたのですね。でも,そこまではという言い方をしたのは,決して取り上げないでいいよという意味ではなくて,やはり取り上げてはほしいし,だけれども,いつでも解約できるという,そこまでは望まないよというふうに言ったつもりです。再検討していただけないでしょうか。   ということは,今通信販売とか,継続的な販売契約というのがトラブルもとても多いのです,特に健康食品等ですが,今回の提案の事項の中で,期限の定めがある契約に関して更新に関しては取り上げておりながら,解約に関しては全然触れていなという点でとても不本意な気がします。法律論としては難しいことでしょうが,検討していただきたいと思います。 ○筒井幹事 岡田委員から前半で御指摘があった点ですが,期間の定めのない契約について正当な事由があるときに解約の申入れが認められなくなるおそれがあるといった危惧については,正にこれから具体的な事例に即した検討を深めていく必要のあるところだと思います。そういった具体的な事例などを御紹介いただきながら,このような全くの新規の規定を設けることがいいのかどうかについて,議論を進めていく必要がある論点であろうと考えております。   後半で御指摘があった取り上げなかった論点については,岡田委員がそのように発言されたから取り上げなかったのでは決してなくて,岡田委員が留保つきであっても支持されていることを承知の上で,しかし部会全体としてその論点についてのコンセンサスを得る見通しが乏しいであろうという判断の下に,今回は見送ることにしたということです。本日の会議で改めて御指摘がありましたので,それを踏まえてもう一度考えてみたいとは思いますけれども,現状はそういう趣旨です。 ○岡田委員 よろしくお願いします。 ○松本委員 いみじくも,今,岡田委員が誤解されたように,この表現は,やはり普通の人,私を含めた普通の人には,大変分かりにくいんです。だから,表から書いて,消費者の側が正当事由の存在を立証できない限り解約できないというふうに誤解されないような表現ぶり,事業者の側あるいは相手方が契約の解約申入れの効力がなく契約が存続するんだという正当な事由を立証できる場合は存続する場合もあると,是非表から書くようにしていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 表から書くとどうなりますか。「解約の申入れが不当,不合理であることを立証した場合」というふうに書くほうが正面からの書き方になるのでしょうか。 ○金関係官 恐らく松本委員がおっしゃったのは,解約の申入れが不当かどうか,更新の拒絶が不当かどうかという観点ではなくて,契約を存続させることが正当かどうかという観点から問題を捉えて,期間の定めのある契約については,期間が満了したのになお契約を存続させることについての正当な事由,期間の定めのない契約については,解約の申入れがされたのになお契約を存続させることについての正当な事由,これを契約の存続を主張するほうに主張立証させるような書き方にしたほうがよいという御趣旨だと理解しました。 ○松本委員 そうであれば誤解は生じないと思います。 ○高須幹事 今の点でございますが,第1読会からこれまでの継続的な審議を通じて,おぼろげに見えてきたのは,一定の事項に関する要件事実ないし主張立証責任の問題については,その所在,つまり原告,被告のいずれがその責任を負うかに関しては,これまでの議論のなかで慎重な検討をしてきておるのではないかと思います。どちら側が負担するかという問題については,御提案の中にも種々御説明があり,議論が出ているんだと思います。   それに対して,何を立証の対象とするかという要件事実の具体的内容については,これはやはり難しい問題で,この審議会の中でも十分な議論ができていない部分が随所に見られるのではないかと思います。ですから,今の点も,更新拒絶の正当な事由がないのか,あるいは更新を認める事情があるのかという観点は,重要ではありますが,今まで議論してきた他の論点項目との兼ね合いで言うとそこまでの議論はほかの論点でも詰め切れてはいないと思いますので,ここだけを詰め切ることはできない,あるいは適当ではないと思います。要するに,どちら側が主張するかということだけは明確にする,その点くらいは(概要)等で記載いただくということで全体のバランスはとれるのではないかと思いますから,そのような観点から,読む方が,いずれの当事者がその点を争わねばならないのかということが分かればいいのかなと思っております。これが1点です。   それから,もう1点は,岡田委員の御意見のところなんですが,ここももう御方針を頂いているというふうに筒井さんから説明を頂戴しているわけなんですが,やはり弁護士会の中にも,継続的契約に関しては,一方ではフリーハンドの契約の終了を認めるということには慎重であるべきだという意見があり,そのような法理を構築していくとすれば,他方では消費者契約に関してはそれとの兼ね合いで何らかの例外規定を設けるべきではないかという意見がやはりあるところでございまして,その意味でも,取り上げなかった論点の1点と今の点についてももしセットになるのであれば,それはそれでより具体的な法規になるのではないかと私自身も思っておりますので,一応の御方針は出ておるということではございますが,そういう意見もあったということを御考慮いただければと思います。 ○中田委員 まず立証責任については,終了を争う側に正当な事由を証明させるということについてはコンセンサスがあるのではないかと思うんですけれども,その上で,その表現をどうするかという問題かと思っています。   消費者契約についての配慮をすべきことの実質は私も賛成ですが,現在の表現の中で,「正当な事由」の冒頭に「当該契約の趣旨」というのが入っておりまして,そこで今の点も入ってくるのかなと思っておりました。更に申しますと,「当該契約の趣旨」を最初に持ってきているということは,これは非常に重要で意味のあることではないかと思っております。   ただ,2の(1)について若干気になることは,解約申入れに予告期間を置かないということでして,解約申入れの効果が申入れの日から相当な期間を経過したときだとなっております。いろいろな立法モデルを見ますと,予告期間を求めるのが一般的ですし,相当期間経過によって終了するということになると,いつ終了したのかが当事者によく分からないという不安定さがあるような気もします。ですので,原則は相当な期間の予告を求めて,やむを得ない事由があるときは直ちに解約できるというように,予告期間を置くというのを原則にしたほうがいいのではないかと思います。 ○金関係官 中田委員が最後におっしゃった点は,部会資料48では正に中田委員がおっしゃったとおりの方向で予告期間を設けることを解約の申入れの要件としておりましたが,それに対して,中井委員から,予告期間を設けなかったというだけで解約の申入れ後に相当な期間が経過しても契約が終了しないというのは硬直的ではないかという御指摘がありましたので,それを今回の資料では反映させているという状況です。ただ,中田委員から御指摘を受けましたので,再度検討したいと思います。 ○中井委員 期間の定めのない契約の終了の部分の(1)と(2)の関係をもう一度確認しておきたいんですけれども,(1)のただし書に該当すると,その解約申入れは無効である,効力を生じないというふうに理解できるのですが,果たしてそれでいいのか。つまり,予告期間,本来6か月なら6か月を置いておけば解約できた,そのような契約関係のときに,1か月という解約予告期間を置いた意思表示が,仮にただし書に当たるとすれば,1か月の予告期間だったら効力を生じませんよとなる。しかし,そのような意思表示であっても相当期間,すなわち6か月経過すれば終了してもよいと考えれば,(2)で契約は終了する。果たしてどっちなのかと。1項ただし書で効力がないのか,それとも2項で,たとえ1か月という予告期間であっても6か月経過すれば終了するのか,そのように解してよいのか,(1)と(2)の,取り分け,ただし書の記載の意味するところをもう少し明確にしないと混乱しませんか。   逆に,前回の私の提案が極論だったかもしれませんけれども,期間の定めのない契約は,解約をしたいという意思表示をすれば,それはどこかでは終了させなければおかしいと。それが即時なのか,相当期間経過なのか,その相当期間経過には,それぞれの当事者間の契約継続に対する期待若しくは他方の契約を終了させる相当な事由,これの相関関係によって決まる。   いずれにしろ,解約の申入れを無効とするまでの必要があるのかという疑問を持っているのですが,どのような整理になっているのか確認したいと思いました。 ○金関係官 (1)のただし書は,予告期間が不相当かどうかという点だけを考慮要素としているのではなくて,契約の趣旨とか契約の締結から解約の申入れまでの期間の長短とか,さらには予告期間を設けたのかどうか,つまり予告期間が不相当であったとしてもそもそも予告期間を設けたのかどうかといった,もろもろの考慮要素の検討を経て,解約の申入れをすることができるのかどうかが判断されるという構造になっています。ですので,中井委員がおっしゃった例で言えば,1か月という不相当な予告期間を定めて解約の申入れをしたとしても,種々の考慮要素を検討した結果,解約の申入れが認められないとまでは言えない,すなわち(1)のただし書の要件は満たさないと判断された場合には,(2)の局面に移って,相当な期間の経過後,中井委員がおっしゃった6か月の経過後に契約が終了するという理解をしております。他方,その1か月という予告期間を定めた解約の申入れについて,もろもろの考慮要素を検討した結果,(1)のただし書の要件を満たす,すなわち解約の申入れは認められないと判断された場合には,それは当該解約の申入れそのものが無効だということになりますので,(2)の局面には移らないという整理をしています。もう一度解約の申入れをすることはもちろん可能ですけれども,少なくとも当該解約の申入れによっては契約を終了させることはできないという前提です。 ○山川幹事 この御提案の適用範囲に関することで,本文というよりも,53ページの(備考)についてですけれども,継続的契約に関する規定がある場合にはそちらを優先するということの意味としては,一つは,継続的に存続することを想定した規定がある場合という意味と,それとも,この御提案の趣旨である継続性を保護する旨の規定がある場合という意味と,二通りあり得るような気がします。労働契約法16条や19条は,継続性保護の規定ということで,こちらが特則になることは疑いがないと思いますけれども,その他に,前回議論になりました期間の定めない準委任の解約の申入れ,本来の委任とは異なるタイプのお話かと思いますが,こちらは直接には労働契約法の適用はないという前提になりますので,この点をどう考えるかによって差が生じ得るのではないかと思います。ただ,ここは627条と同様の規定を設けるということでしたので,その意味が,労働契約法16条の類推適用のようなことも雇用等に準じて扱うという趣旨であれば,私もそういうふうに解するのが妥当だと思いますけれども,そのような場合には差が生じないかもしれません。   ただ,本来の委任について,誤解があるかもしれませんけれども,652条の解除の将来効ということなど,継続的に委任関係が存在することが前提となっている規定があり,しかし継続性の保護の規定は委任の場合はなくて,むしろ651条で委任解除が認められている。ここに委任の規定が挙げられていないということは,継続的な委任についてはこちらのほうが優先して651条が排除されることになるのかといったような問題があるような気がいたします。つまり,「継続的契約に関する規定」というのは一体どういうことを想定しているのか,それを明確化するか,あるいは先ほどの消費者のお話との関連でも,この規定の適用範囲についていろいろな議論があり得るというような形で意見を聴くとかいうことも考えられるのではないかと思います。   あともう1点だけ,52ページの第15の1のテクニカルな話ですけれども,更新の拒絶というのは一体何かというのが労働事件の問題になっていまして,つまり,労働条件を変更するなら更新してあげるよと使用者が言って,そういう条件では更新には応じられませんと労働者側が答えて,それなら更新はしないことになるという結果になった場合に,変更された労働条件の更新申込みを拒絶したのは労働者側ではないかというような話があり得るわけでして,民法528条の適用で対応できるのかもしれませんけれども,ややテクニカルな,法制的には更新の拒絶ということに意味について,契約条件の変更が問題になった場合にはやや微妙な事態があり得るということを,ちょっとコメントしたいと思います。 ○金関係官 問いとしては1点目に関するもののみであると理解いたしましたが,ルールの適用範囲も含めて意見を問うことがあり得るというのは御指摘のとおりだと思います。少なくとも,この備考欄で想定しておりましたのは,先ほどの山川幹事の表現をお借りして,継続的に存続することが想定された契約に関する規定か,継続性を保護すべき契約に関する規定かという問いに対しては,前者であることを前提にしておりました。 ○山川幹事 そうすると,継続的な委任についてもこのルールが適用されるということでしょうか。 ○金関係官 委任の規定の中に契約の継続的な存続を前提とする規定がある場合にはそちらが優先するという理解をしております。 ○山川幹事 分かりました。 ○中井委員 先ほどの意見に対しての金関係官からの御説明で,1と2の構造は恐らくそうだろうなと,思っていたとおりの回答だったわけですけれども,そうだとすると,(1)(2)という二本立てにする必要があるのか。つまり,ただし書に該当しない場合,(1)の本文の場合においては解約申入れの日から相当な期間を経過することによって終了するという一つの規律になるわけですね。場合によっては即日解約が認められる,場合によっては相当期間,6か月なら6か月相当期間経過して終了する。   だとすれば,期間の定めのない契約の当事者の一方は相手方に対しいつでも解約の申入れをすることができ,解約申入れの日から相当な期間を経過することによって当該契約は終了するという一つの規律ではないでしょうか。そこに,ただし書があって,場合によっては,予告期間の長短にかかわらず,その他事情も含めて当該解約の申入れ自体効力が生じない場面があるという例外規定が一つあるにとどまるのかなと思うのです。   そうではなくて,(1)(2)と分けたことの積極的意義が先ほどの金関係官からの説明から何だったのかなと思ったんですが。 ○金関係官 規律の実質は,中井委員がおっしゃったとおりです。ただ,ここは期間の定めのある契約に関する1と,期間の定めのない契約に関する2との関係での分かりやすさという観点もあると思っておりまして,1では(1)のところで更新の拒絶をすることができるかどうか,契約を終了させることができるかどうかという問題だけを取り上げ,それに対応して,2でも(1)のところで解約の申入れをすることができるかどうかという問題だけを取り上げて,その上で,契約を終了させることができるかどうかが決まった後の規律を,1と2のそれぞれの(2)のところに設けるという整理をしておりましたので,このような書き方になっております。ただ,そういうことにこだわる必要はないということだろうと思いますので,再度検討したいと思います。 ○中井委員 2について更に補充してよろしいでしょうか。   先ほど中田委員がおっしゃったように,通常の実務では,一定の期間予告して解約の意思表示をすると思うんです。その予告期間が問題なければそこで終了するし,それで不足していたら不足期間を足した相当期間で終了する。それであっても,このただし書のような事情があれば,予告期間の長短にかかわらず解約自体はできない場面というのが否定されない,残る。こういうことになるのかなと思いますので,実務に即した書き方のほうが分かりやすいのではないかと重ねて申し上げておきたいと思います。 ○岡委員 2点申し上げます。   1点目は,継続的契約の定義はもう諦めたのかという質問でございます。   タイトルには「継続的契約」という縛りを置いていますが,本文からはその言葉を全部削って,期間の定めのあるなしで分けております。確かに継続的契約を定義するのは難しいのは分かりますが,期間の定めのある契約全部についてこのゴシック体を適用しようとしているのではなく,見出しのある「継続的契約」のうち期間の定めのある契約についての規律だろうと思うんですが,その関係をどのように今整理されているのかを教えていただきたいのが1点目でございます。   それから,第二読会では「相当の事由」という言葉を使っていたのが,今回は「正当な事由」に変わっております。「正当な事由」でもいいのかなと思いつつ,やはり「相当」よりは「正当」のほうが厳しくなっておりますので,それでいいのかなと思いました。部会の審議を踏まえてこの「正当な事由」のほうがコンセンサスを得やすいというふうに法務省さんが考えられたのかとは思いますが,今回言葉を変えた理由について少し御説明いただければと思います。その二つです。 ○筒井幹事 「継続的契約」という言葉が本文の案文から消えているというのは御指摘のとおりであり,その言葉を積極的に定義して要件とするという方法によるのは難しいであろうという判断をしたということです。ですから,「期間の定めのある契約」あるいは「期間の定めのない契約」というところから要件を組み立てていくという方針を採った場合に,この要件,効果で適当であるのかどうかについて御検討を頂きたいというのが,我々から提示しているところです。   「正当」と「相当」について,御指摘のような違いがあるのかどうか,即答しかねますけれども,「拒絶」との関連で「正当な事由」という言葉を使うのは,先例のあることだと思います。ただ,それ以上の意味を込めてはいないので,「正当な」という言葉を使うことによって強めたり弱めたり,そういう趣旨で言葉を変えたということではありません。 ○岡委員 1点目ですが,見出しとして「継続的契約」というのは残し,将来の条文でもこの言葉は残す趣旨なんですか。 ○筒井幹事 それはどうお答えしたらよいのでしょうか。中間試案の見出しは条文の見出しではないというのは繰り返し申し上げてきたとおりですので,この言葉を条文の見出しにすることはもちろん含意しておりません。ただ,実質を適切に表す見出しがあったほうが議論しやすいであろうという意味で,この「継続的契約」という言葉を残してあるということです。もし適当でないという御指摘があれば再考いたしますけれども,少なくとも差し当たりこの論点を呼ぶときに「継続的契約」という名称で呼ぶことには支障はないのではないかと考えておりました。 ○深山幹事 今の継続的契約を定義しないということとも関連すると思うんですけれども,「3 解除の効力」のところについて,将来に向かってのみ効力を生ずるという,この規律が適用される契約というのは,やはり継続的な契約を想定しているんだろうと思います。(概要)のところには正に「継続的契約の解除には遡及効がない」ということが書かれていて,しかしながら,本文では,「継続的契約」という言葉が一切なくなっております。やはりここはもう少し言葉を本文のほうも足して場面設定をしないと,縦1の「期間の定めのある契約」というのは当然一定の期間というのが観念されているわけですけれども,「期間の定めのない契約」というのは一回的な契約も形式的には該当するようにも読めてしまいます。やはりここで前提になっているのは,一定の期間にわたって継続的に行われる契約であり,それを前提に将来効ということだろうと思います。   それともう一つ,「解除」という言葉について,一般的には法定解除も含まれる意味合いのようにも読めますが,3で言っている「解除」というのが法定解除と2の期間の定めのない契約で解約を申し入れて終了させるような場合の両方を含んでいるのかなという気もします。意味合いとしては,法定解除と解約申入れによる契約の終了とはやや違った側面があるので,「解除」という言葉を使うのか使わないのか,あるいは使うとして解約申入れも含める趣旨で使うのかという辺りをもう少し明らかにしたほうがよろしいのではないでしょうか。 ○金関係官 1点目の「期間の定めのない契約」には一回的な契約も含まれるのではないかという点についてですけれども,この「期間の定めのある契約」や「期間の定めのない契約」という用語は,契約の存続期間というものが観念できることを前提とするものとして使っておりまして,日本語としてどうかという問題はあるかもしれませんけれども,少なくともここでは,「期間の定めのない契約」は,契約の存続期間というものが観念できるけれどもあえて期間の定めをしなかった契約という意味で使っております。   次に,54ページの解除のところは法定解除も含むことを前提としております。解約の申入れに遡及効がないことは,ある意味では当然のことであると理解しておりましたので,ここでは解約の申入れを含まない趣旨で「解除」という用語を使っております。ただ,そこは分かりにくいということであれば,解約の申入れについてもこの規律の対象に入ることを明記しなければならないのかどうか,改めて検討したいと思います。 ○鎌田部会長 個人的には,解約の申入れは解除とは関係ないので,むしろ入れないほうがいいと思います。 ○道垣内幹事 法定解除が含まれるかどうかという問題は別になるところなのですけれども,それは後に回しまして,中井委員と金関係官が議論をされていたところのまとまり方が納得がいきません。と申しますのは,中井委員の御質問についての私の理解によりますと,2の(1)のただし書の中に期間の問題として解消できるものと,期間の問題として解消できないものとが含まれているということなのだろうと思います。例えば解約申入れの予告期間の有無及びその長短という問題に関しては,1か月という期間が妥当であったのに1週間と言ってしまったということになりますと,1か月たったら契約は終了しますよということであり,それは現行の541条の債務不履行解除のときにも言われていることであります。また相当の期間を定めなくて解除の意思表示をしたときにも,相当な期間が経過すれば解除の効力は発生するというのが一般的な考え方だと思います。そうなりますと,解約申入れの予告期間の有無とか,その長短の事情に照らして正当な理由が認められず,解約申入れができなかったため,解約の効果がその時点で生じなかったというときにも,(2)は働くのだろうと思うんですね。   また,微妙なのは,契約締結から解約の申入れまでの期間の長短という問題なのですが,余りに短いときに解約の申入れをした,それでは駄目だよという形で,もう少し長くたってから契約の終了の効果をもたらそうと,それはそれであり得るかなとは思います。   そこの二つは,実は(1)のことを書かなくても(2)だけで話を済ませようと思えば済ませられることなのですが,これに対して,例えば当該契約の趣旨に照らして正当な事由がないとされた場合にも,相当な期間が経過すれば当然に終了するのか,つまり,その正当事由のなさというものは期間の経過によって治癒される性格のものなのかというと,それは場合によるのではないかと思います。   中井委員の御疑問の発端の(2)や(1)との関係が分からないという問題は,(1)のただし書の中に,期間の問題として解消できるものと解消できないものとが含まれているということにあるのではないかと思います。しかるに,中井委員も(2)だけでいいではないかと最後におっしゃって,金関係官もそれもあり得えますとおっしゃったので,そうではないだろうという気がいたしました。整理の仕方にもうちょっと工夫の余地があるのではないかという気がしております。 ○金関係官 ありがとうございます。(1)のただし書の趣旨を説明いたしますと,道垣内幹事がおっしゃったとおり予告期間の長さで解消される問題と解消されない問題があることを前提に,(1)のただし書に記載した種々の考慮要素を検討して,解消されない問題だということであれば,それは解約の申入れをすることができない場合に当たるので,(2)の局面には移らない。他方,解消される問題だということであれば,それは解約の申入れをすることができる場合に当たるので,(2)の局面に移るという整理をしておりました。ただ,今の御指摘を受けて,再度考えてみなければならないと思っております。 ○道垣内幹事 そうなりますと,中井委員の最初の御質問ですが,ただし書で解約の申入れをすることができない場合には,(2)の解約の申入れをすることができるときに当てはまらないのではないかという問題に結局つながってきてしまって,そうではないのだ,ただし書に当たる場合でも本文によって解約申入れをできるというのが原則なのだと金関係官はお答えになったわけですが,そういたしますと,ただし書の中の種々の事情によって(2)の適用の可否を分類していくということになります。そして,そのような分類は,この文章からは難しいだろうと思いますので,その観点からの整理が必要になるのではないかと思います。 ○金関係官 文章の分かりにくさは御指摘のとおりだと思いますけれども,先ほど私が中井委員にお答えしましたのは,(1)のただし書で解約の申入れをすることができないとされた場合には(2)の局面には移らない,(2)の問題にはならないということを申し上げたつもりでした。 ○道垣内幹事 そうすると,解約申入れの予告期間が不当に短かったときには(2)は働かないということになるのでしょうか。 ○金関係官 予告期間が不当に短くても,ほかの考慮要素,契約の趣旨とか契約の締結から解約の申入れまでの期間の長短などを総合的に考慮した上で,予告期間が短いだけでは解約の申入れを否定することはできないと評価されることもあると思いますので,その場合には(2)の局面に移るという理解をしておりました。 ○道垣内幹事 なるほど。つまりそれは,即時に終了することはあり得ないという前提に立っているわけですね。 ○金関係官 はい。 ○道垣内幹事 理解はできましたけれども,この案文からは理解はできません。 ○鎌田部会長 ほかに。 ○松本委員 もう一度,最初に発言しました立証責任の問題に戻って若干確認なんですが,例えば1の(1)の「更新の申入れを拒絶するにつき正当な事由がないと認められるときは」という表現についてです。つまり,立証責任の表現の仕方として,正当事由がないと認められるということは,正当事由がないことを立証して裁判官がそう認めたときという意味なのか,そうではなくて,正当な事由があるという側がそれを立証できなくて,結果として裁判官がこう認定したという場合なのか。ある事実を立証できなかったということと,ある事実がないということを逆の側が立証したということはイコールではないと思うんです,普通の事実の場合は。ここは,ひょっとすると,正当事由という規範的な構成要件だから,どちらが立証という話に最終的にはならないからこういう書き方でも構わないという話なのかもしれないんですが,私は,規範的構成要件についての細かい議論はできないので,この辺は裁判官なり民訴の専門の方にお話しいただければいいんですが,これは表から書くのと裏から書くのと,本当に倒置なんでしょうかということです。 ○山本(敬)幹事 余計に混乱させる可能性があるのですが,(1)の本文とただし書が同じ書き方になっていないのが分かりにくさの原因の一つではないかと思います。本文で「期間の満了によって終了するものとする」というのは,法的には余り意味はないのかもしれませんが,期間が満了して,その後更新の申入れがあっても,更新を拒絶することができるということを意味する。この原則が書かれていないので,ただし書をどう理解するかが難しくなっているのだと思います。「更新を拒絶することができる」となっていますと,拒絶すればいいだけなので,それ以上何もいらない。それが許されないという側で,拒絶することに正当な事由がないということを立証しないといけないというように続けていけば,分かりやすいだろうと思います。   ただ,期間満了によって終了するということは,拒絶する必要もないのですね。本当は。期間の満了によって終了するわけです。ですので,ただし書の書き方は,本来ならば,「更新の申入れを拒絶するにつき正当な事由がないと認められるときは」,(2)ですね,「従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす」と書かれれば疑義も生じないだろうと思うのですが,分かりやすくするために(1)と(2)を区別したのが,分かりやすくなった面と分かりにくくなってしまった面の両面があるのではないかと思った次第です。 ○筒井幹事 書き方に関していろいろ御意見を頂いたところは,それを踏まえてもう一度考えます。 ○鹿野幹事 しばらく前に山川幹事が質問されたことに対する回答の確認なのですけれども,継続的契約と委任ないし準委任との関係がどうなのかという御質問があり,それに対して,関係官からは,委任等の規律の中に契約の継続的存続を前提としたものがある場合はそちらのほうが優先して適用されるのだという御回答があったように伺いました。それでよいのかということをまず確認したいと思います。  その上で,そのような回答だったとした場合に,その趣旨をさらに確認させて頂きたいと思います。委任あるいは準委任の規定は,必ずしも継続性があるかどうかということで分けて設けられてはいないのですが,先の回答によれば,分けて設けられていないとしても,継続性があるものであっても委任はこの規律内容でいくものとして規定が置かれている場合であれば,継続性があるものも含め専ら委任の当該規定が適用されるのであるから,継続的契約のルールはその限りで妥当しないということになるのだろうと思うのですが,そういう理解でよろしいのか。   そして,今の理解でよいということになると,継続的契約に関するルールというのは多くのいわゆるサービス提供型の契約については適用がないことになり,むしろこのルールは,ここに書かれているフランチャイズのようないわゆる非典型契約であるとか,あるいは物品を継続的に供給するような形での契約を主な適用対象とすることが考えられているように思われるのですが,その理解でよろしいでしょうか。この点についてもお答え頂ければと思います。 ○金関係官 その理解で結構です。 ○中井委員 先ほどの道垣内先生と金関係官のやりとりの確認をさせてください。このただし書の趣旨ですけれども,予告期間を定めていない場合,若しくは定めたけれども短かった,しかし,諸般の事情を斟酌すれば,それの予告期間の有無にかかわらず解約の申入れは効力が生じないという場面,そのときは解約申入れをしても,幾ら期間が経過しても契約はその解約申入れによっては終了しない。それを明らかにしたものがただし書である。   しかし,予告期間は短かったかもしれない,若しくは予告期間を言わなかったかもしれないけれども,諸般の事情からすれば解約申入れの効力自体は有効と解される場面がある。これについては予告期間の定めの有無,若しくは期間にかかわらず,場合によっては申入れのとおりかもしれませんし,場合によっては相当な期間を経過して契約は終了する。この二つの規律だと理解して整理したんです。今の提案がそれを的確に表現しているかどうかは疑問なんだけれども,そのように理解したんですけれども,その理解について違うというのが道垣内先生の御意見なのかどうかということを確認したいのです。念のために。 ○道垣内幹事 いえ,それで結構です。ただ,それならば,結局,正当事由があるかないかのところでは,予告期間の有無とか長短は考慮されていないというのと同じではないかと思うのです。 ○鎌田部会長 あえて言えば,中井委員が整理されたもののほかに,予告期間が短いということだけが欠点であるというケースがあり得る。そういう場合には,予告期間が短いということだけを理由にして正当な理由なしというふうに言うのか,その場合には,相当期間経過後に終了するんだから,相当期間の経過を待って終わらせるということで,予告期間が短い,あるいは明渡しまでの猶予期間が短いという部分は(2)で治癒されてしまうんだから,それだけを理由にして正当理由なしというふうに判断するのはむしろおかしいという,ちょっと堂々巡りかもしれませんけれども,そういうふうなことになるのではないかという御指摘も含まれていたように思うんですけれども。 ○道垣内幹事 多分,結論としてもたらそうと思っている結果についてはほぼ異論がないのだろうと思います。あとはどう整理するかの問題だろうと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはいいですか。   ほかにないようでしたら,次に「第16 契約の解釈」について御審議いただきます。 ○山本(敬)幹事 「契約の解釈」について,本文について2点と,(概要)の書き方について1点,少し指摘させていただきたいと思います。   まず,本文の1ですけれども,契約の内容について当事者が共通の理解をしていたときは,その共通の理解に従って解釈しなければならないということだと思います。そうしますと,後段のほうの「当事者が理解した意味に従って」というのは,もちろんこれでも分からないわけではないのですが,「その理解に従って」とか「その当事者の共通の理解に従って」というほうが紛れがないのではないかと思います。しかし,これは分かる範囲内での話だと思います。   二つ目は,3のいわゆる補充的解釈についてです。これは,56ページの(備考)欄のところに書かれていますように,当事者が合意していなかった事項について紛争が生じた場合に合意されていない事項をどのように補充するかという問題に関するものだという説明がされていて,これは全くそのとおりだと思います。要するに,契約を成立させるだけの意思表示の合致はあるけれども,付随的な事項等について合意されておらず,事後的にその事項について紛争が生じた場合に,その事項についてどのように契約を補充するかという問題に適用されるということでして,全くそのとおりだと思います。   問題は,54ページの3の「上記1及び2によって契約内容を確定することができない場合」という表現で,今の事柄を過不足なく示しているかどうかということだと思います。先ほどの趣旨を示すためには,「上記1及び2によって契約内容を確定することができない事項が残る場合」というような書き方をするほうがよいのではないかと思った次第です。   三つ目は,(概要)の書き方の問題なのですが,非常に詳細に理論的な事柄も説明してくださっていますが,契約の成立と契約の解釈の関係がどうもこれでは問題が残るのではないかと思いました。   54ページの(概要)を見ますと,1行目が正にそうですが,「契約の解釈は,契約が成立したことを前提として,その内容を確定するために行われる」という理解に基づいて全体が書かれているようです。しかし,契約が成立したかどうかは,その契約がどのような意味を持つかということを抜きにして判断できないのではないかと思います。内容が明らかでないのに契約が成立したという判断ができないのではないかということです。   例えば,(概要)ですと,54ページの下から2行目以下にありますように,契約は,要するに表示が合致したことによって成立すると理解されているようですが,表示が合致したかどうかは,表示の内容を確定しないと判断しようがないと思います。あるいは,表示で使われた文言が一致しているということをどうも指しているのかなという気もしますが,文言が合致しているだけで契約が成立したとはいえないと思います。契約が成立したときには,特に無効事由がないときには,それで契約の効力は生じるという評価だと思いますが,内容が確定されていませんと,どのような効力が生じるか決まりませんので,これを契約の成立と呼ぶことはできないのではないかと思います。   同じことは55ページの2行目にも言えることでして,表示が合致しているというのは,文言の一致だけであって,それを契約は成立したと呼ぶことはできないと思います。   特に顕著なのが,(備考)欄の「契約の成立との関係」でして,ここでは2行目で,「契約の成否は,契約解釈に先立つ作業として独立して行われる」とされて,「契約の成否は意思表示の合致の有無によって判断される」とされています。しかし,意思表示が合致したかどうかは,意思表示の意味が明らかにされないと判断できない。表示の文言が合致していても,契約は成立していない。成立したと言えるのは,意思表示の意味が明らかにされて,それが合致されているときである。要するに,言いたいことは,契約の成否の判断と契約解釈の判断は,離れて行うことはできないということです。   もう少し正確にいいますと,この54ページの提案の1と2は,いわゆる狭義の解釈でして,契約の成否を判断するためにはこれを行う必要があります。そのようにして契約が成立したという判断の後で行われるのが,16の3の補充的解釈だと思います。 理論的な説明をくどくどしましたけれども,紛れがないように少しその辺りの説明を今のようなところに従って修正していただければ有り難く思います。内容については,先ほど申し上げた程度の修正で足りるということです。 ○内田委員 大変難しい問題なので,学界で異論の出ない内容で表現するというのは非常に困難な作業のように思うのですが,日本では,契約の成否が争われることが少なくとも英米などに比べると少なくて,成立した契約の解釈の問題として裁判が行われることが多いように思います。そのときは,厳格に当事者双方の意思が合致していたかどうかということを飽くまで追求した上で契約の成否を判断しているというよりは,こういう内容でいきましょうと一方が言い,相手がそれでいいと言ったということで,一応表示について客観的には合意が成立しているように見えるけれど,その個々の契約条項の意味について,あるいは合意内容の意味について当事者間に齟齬があるというときに,成否を争うというよりは,成立した契約の解釈の問題として処理していることが多いのではないかと私個人としては理解しています。そういう立場からすると,1も2も成立した契約の解釈の問題と理解することができるのではないかと思います。   ただ,その点についてどこまで詰めて表現すべきかについては,今,山本敬三幹事から御指摘のとおり非常に難しい問題があるので,できれば余り一方の立場にコミットしない形で書ければいいのではないと思うのですが,今のように言われるとやはり特定の立場になりますので,一定の立場にコミットしない書き方について何かお知恵をお借りできれば思います。 ○山本(敬)幹事 特定の立場を述べたつもりは全くありませんでしたので,どう言えばよかったのかと思っているところなのですが,契約の解釈が紛争になるのは大きく分けて二つの場合があって,一つは,契約の対価や給付内容のいわゆる本体部分について意思表示の一致はある場合で,それ以外の部分について何か合意しているけれども,その意味内容が必ずしも明らかでないというようなケースです。このようなケースが多いということをおそらく内田委員はおっしゃったのだろうと思います。   しかし,とりわけ錯誤の問題になるようなケースですけれども,契約の本体部分についてそもそも意思表示が一致しているかどうかが争いになる,あるいは意思表示は一致しているとしても,それに対応した意思が欠けているかどうかが争いになるケースもあります。正にそのような場合に,1と2が重要な意味を持ってくるのではないかと思います。そのような場合でこそ意味を持つというよりは,そのような場合でも意味を持つという方が正確かもしれません。   そのような問題については,先ほど私が申し上げたとおりでして,意思表示の一致があったことを確定するためには,やはり意思表示の意味を確定しないといけない。それを抜きにして意思表示は合致している,あとはその解釈の問題だと簡単には言えないのではないかというのが先ほどの説明でした。これは特定の立場なのでしょうか。ここには御専門の方がたくさんおられますので,補足ないしは反駁していただければと思いますが,いかがでしょうか。 ○大村幹事 補足でも反駁でもないのかもしれませんけれども,この議論を進めるためにどうしたらいいかということについて感想を述べたいと思います。山本さんがおっしゃっていることには一定の幅があると思いますけれども,一番コアの部分というのは,契約の効力を争う段階での解釈とは別に解釈ということが問題になるということがあるはずである。そのことがここからは捨象されているということなのではないかと思います。その点について,内田さんはそれは実際上は余り争われることはないとおっしゃったのだと思います。しかし,やはりそういうことはあることはあるわけです。ここでは,そういうレベルでの解釈を規定しているわけではなくて,契約が成立しているということを踏まえて,履行段階でその意味内容が問題になったときの契約解釈準則なんだということを分かるように説明してもらうということで先に進むというのがよろしいのではないかと思います。   契約の解釈あるいは意思表示と契約の関係をどう考えるのかということについて,ここにいる全員が納得する形で説明を書くというのは極めて困難なことだと思いますので,皆さんがそれで許容できるという形で収めるためには,契約の成立段階では解釈ということはおよそ問題にならないという説明だけはやめていただくということなのではないかと思いますが,山本さん,いかがでしょうか。 ○鹿野幹事 私も,山本敬三幹事が先ほどおっしゃったこととほぼ同じことを考えていました。既におっしゃいましたので余り付け加えることはないのですけれども,あらためて申し上げると,この部会資料の記載は,意思表示が表示の外形レベルで合致していたらまず契約の成立が確定され,解釈は専らその次の段階において問題となるという考え方で書かれているように見受けられるのですが,果たして常にそうなのかという疑問があります。端的な例を挙げると,例えば表示が外形的には一致していないように見える場合であっても,その表示において各当事者が何を考えていたのかを調べてみると,結局同じことを考えていたことが明らかになるという場合もあり得ます。その場合には,意思表示の解釈の結果,両当事者の意思表示が合致していることが認められ,契約は成立していたと認められることになるでしょうし,その契約の中身は,その当事者が共通して考えていた意味ということになると思います。これはおそらく今日における一般的理解だと思います。   ですから,外形的に表示が合致しているように見える場合だけが契約の成立とは言えず,意思表示の解釈という作業を通して契約の成否の判断が行われるということがあるのではないかと思うのです。ただ,これをどう書いてまとめるのかについては,大村幹事がおっしゃったように,契約の成否は客観的に判断されて解釈は成立後に専ら問題となるというような書き方をやめていただければよろしいのではないかと思います。これは本文自体に直接関わるのではなく,むしろ(概要)とか(備考)が誤解を招くような書き方になっているのが問題なのではないかと思います。 ○潮見幹事 私は,鹿野幹事がおっしゃったのと基本的に同じ意見です。本文に書かれていることについては,契約の解釈というのはこのようにするという方向でのルールを今回示そうとしているのであって,これについて,個別の点に関する字句調整はともかくとして,基本的な方向性というもので合致ができるのであれば,基本的に積極的に進めていくべきであると思います。   ただ,問題は,(概要)のところで,契約の成立と解釈との関係について踏み込んで書いてしまったものですから,結局(概要)の記載自体がある特定の立場に依拠した形での補足説明になっているのです。そうであるのならば,契約の解釈に特化した形で粛々とこの1,2,3ということが何を意味しているのかということをお書きになられたらそれで十分なのではないかと。(備考)なんていうのが本当に必要なのかというのが個人的な意見です。 ○山本(敬)幹事 既に十分におっしゃっていただきましたので,それで結構かと思います。もう余計なことは言わないほうがよいのでしょうが,16の2に関していいますと,「契約の内容について当事者が異なる理解をしていたときは」,「当該契約の当事者が合理的に考えれば理解したと認められる意味に従って解釈しなければならない」とされていて,これで契約の意味内容が一応確定するわけですけれども,一方当事者がそれと異なる意思を有していた場合には錯誤が問題になります。そうしますと,これは,成立判断に続いて無効判断が行われる可能性があることを示す書きぶりになっていると見ることもできると思います。   その意味でも,先ほども申し上げたような形になるのではないかと理解していましたが,内容については,最初に言いましたように,若干の字句修正を除けばこれでよいと思っていますので,後は少し(概要)の書き方を整理し直していただければ有り難いと思います。 ○沖野幹事 「契約の解釈」のところなんですけれども,今,御指摘が様々あったように,また,この問題自体は言われた本体部分といいますか,成否を左右するような事項の場合と,それ以外の事項の場合,それから,解釈の対象が意思表示の解釈なのか,契約の解釈なのかといった問題に絡み,かつ,ここに書かれているような成立,解釈,錯誤というのをどう考えるかという問題に絡んで,そう一枚岩ではないのではないかと思われるところでもあり,それを丁寧に書くというのはなかなか難しいのかなと思われます。   山本幹事や鹿野幹事の御指摘はもっともだとは思いますけれども,他方で,こういう説明の仕方は,伝統的,一般的な説明の仕方でもあったというふうにも思われますので,典型的にはとか代表的には……代表はちょっとおかしいかもしれません,伝統的にはといった文言の補足というものも考えられるかとは思います。   ただ,成立と解釈がおよそ独立の作業かというと,それはやはりそうではなく,第16の2の結果,意味を確定できない場合はどうなるかというと,かつその対象が成否に関わるような事項であれば不成立というような帰結もあり得ますので,一定の関連づけはあるということで,余り独立した作業である,それが当然の前提で,成立があって解釈があって錯誤というようなことにしか進まないということではないんだという含みが出ればよろしいのではないでしょうか。   ただ,それが非常に難しいようであれば,もうその点は置いて,例えば(概要)も「民法には契約の解釈に関する規定が設けられていない。」というところから始めるというようなことも考えられるかと思います。   それが一つ目ですけれども,あと2点申し上げたいと思います。   もう1点は,第16の3の書き方です。説明のところでは非常によく分かるような書き方になっておるんですけれども,本文の方は少し分かりにくいかと思います。   先ほど,山本幹事から御提案があったような形に修正されるのであれば,なるほどそれは分かりやすくなると思われまして,それがよろしいかと思うんですけれども,元々考えておりましたのは,3の2行目の「そのことを知っていれば」という「そのこと」というのも,このままですと,あたかも契約内容を確定することができないことということを指すようにも思われて,正確さの点で難があると思います。日本語の問題として,合意がないけれども,それについて検討の機会が与えられたならば合意をしたであろうという趣旨が分かるような日本語にするほうが望ましいのではないかと思います。   3点目は,取り上げなかった論点です。条項使用者不利の原則はここでは確かに議論があって,意見の一致を見なかった事項ではあります。ただ,一定の支持もあった,あるいは一定の支持があった事項だというふうに考えておりますし,かつこの条項使用者という形で必ずしも定式化されるわけではありませんけれども,多義的な契約条項について一定の解釈準則を置くということ自体はローマ法以来の知恵であって,普遍性を持った準則であるという指摘もあり,立法例でも多々見られるところです。   そうだとしますと,御懸念があることも十分承知しておりますけれども,論点として取り上げて,注でこのような準則を置くべきではないという考え方もあるという形で取り上げ,懸念される事項に対してどのような対処の方策があるのかを含めて中間試案で問うことが適切ではないだろうかと考えます。 ○大村幹事 この「16 契約の解釈」についての(概要)及び履行についての御説明について,いろいろな御意見が出ましたので,修正をしていただいたほうがいいのではないかとは思います。ただ,今回事務局がなぜ立ち入った御説明をされたのかということを私なりに考えたのですけれども,これは,契約の解釈に関する準則をこのように導入することによって,契約の成立というのが何か不安定になりはしまいかという懸念が前回の議論の際に一定程度示されていた。それとの関係について,大丈夫ですということを示そうとされてある程度理論的に踏み込んだ説明をされたのではないかと想像いたします。しかし,この説明以外にも大丈夫だという説明はあると思いますので,そちらの方向を工夫していただくというのがよいのかと思って伺いました。 ○岡田委員 この契約の解釈に関して,消費者センターではもろこれを素人ながら一生懸命やっているわけなのですが,今のところ,全くよりどころがないという状況なですから,1と2ぐらいが条文の中に入ってくると,相談員も自信を持って解釈できると思います。   3になった場合は,これは専門家のほうへお願いするという振り分けができるような形になるのではないかと思いますので,これは入れてほしいと思います。   それから,沖野幹事がおっしゃった条項使用者不利の原則ですが,二読のときに私がドイツの民法にこれが100年ぐらい前に採用されていると言いましたら,山本敬三幹事がいや400年前からあるよとおっしゃって,次に内田先生がいやもっと前と言われて,これは今度は絶対改正の中で検討してもらえるなとうれしかったのですが,これが取り上げられないということだったら,あれは何だったのかなと思いました。是非検討していただきたいと思います。 ○筒井幹事 様々な御意見を頂き,ありがとうございます。岡田委員からは非常に前向きな発言も頂きました。ただ,現状認識としては,私は,契約の解釈に関する規定が最終的に残るかどうかについても,それほど楽観視はしておりません。中間論点整理の頃から実務界において強い懸念の声があるということは,前提として十分に踏まえておく必要があるのではないかと思います。それには,誤解に基づく意見も少なくないと思いますが,そうであるからこそ,誤解を解いていく努力,その趣旨を適切に伝えていく努力というのが必要であろうと思います。   今回に部会資料の(概要)欄や(備考)欄でいろいろ書きましたのはそういう試みの一つで,大村幹事からもその旨の解説を頂きましたけれども,その試みを継続する方向で,本日の頂いた御意見を踏まえて手直しをしてみたいと思います。いずれにいたしましても,規定を設けることの意味を分かりやすく伝える工夫をしていかないと,この論点は全体が落ちることになりかねないということを十分自覚して議論を進めていく必要があると私は考えております。   条項使用者不利の原則について復活をという複数の御意見を頂きましたので,改めて考えてみたいとは思いますけれども,取り分けコンセンサスの形成が難しい論点になってきているというふうに現時点では判断しております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ほかに。 ○内田委員 もう事務当局の応答が終わってから余計なことを言って恐縮なのですが,この(概要)とか,それから(備考)というのは随分苦労して書かれたもので,しかし,それでもやはり誤解を生んでいるように思います。ここに書かれているのは,表示さえ一致していれば契約は成立する,あとは契約の解釈の問題だ,などということでは全くないわけで,契約の解釈の前に契約の成否を巡って意思表示の解釈の問題があるということを当然の前提とした上で,仮に表示が一致しているという場面で契約の成立が認められたとしても,契約の解釈が問題になって,こういうルールが適用されるということを趣旨としては書いていると私は理解しております。それでも駄目だと言われるかもしれませんが,ただ,何も書かないと,契約成立との関係はどうなっているのだという指摘が必ず出てくると思いますので,一つの考え方としてこういう内容が書かれているということです。   成立の段階が,解釈が問題になる重要なレベルであるというのは全くそのとおりで,それを軽視するという趣旨ではありません。ただ,いろいろ御指摘は頂きましたので,成立との関係の記述を全部落とすのがいいのかどうか分かりませんけれども,なるべく異論を受けないような,しかしなぜこの規定を置くのかという趣旨が分かるような解説を更に工夫をしてもらいたいと思います。 ○鎌田部会長 御意見の多くは,(概要)や(備考)の書き方,それが提案の前提となっている考え方かという部分での御議論だったと思います。提案の内容については更に表現の工夫,改良の必要があるかとは思いますけれども,大筋ではこの内容について正面から異論はなかったようにも受け止めております。 ○佐成委員 特に正面からどうこうという話ではないですし,先ほど学者の先生方が議論されていた契約の成否と解釈ということの中身にまで踏み込むつもりは全くなくて,実務家として一言だけ発言いたします。   最近,契約書ひな型を使った大きな取引で紛争があって,そのことについてです。微妙に契約条件の違う2種類のひな型を継続的に使っていて,個々の取引は全く独立で,別々のものなんですね。つまり,この契約書ひな型を,AとBと仮にしましたときに,Aの契約条件でやって,次はBの契約条件でやってという具合に,そのときに応じてA,B,A,Bというふうにやっていっていたところ,うっかりコピペで直前の契約書ひな型をそのまま一方の担当者が使ってしまい,その時期はどちらかというとBが多かったんですけれども,他方の担当者も気付かず,外形上はAの契約書が完全に成立してしまったんですね。両当事者は契約締結時には全くそのことについて何も考えていない。ところが契約の成否と解釈が後で問題となった,要するに後でその契約がAだとしてしまうと,代金とかそういうものではなくて,契約条件自体がかなりどっちかに有利になったり不利になったりするものですから,不利になったほうが後から問題にするというようなケースが実際深刻な問題として最近ビジネス上起こっております。ここの部分は,これが入るからそういう紛争が解決するとは思えませんけれども,実際上そういう種類の紛争は割とあるということだけちょっとコメントさせていただこうと思います。 ○鎌田部会長 それでは,御意見を踏まえて事務当局において更に検討を続けさせていただきたいと思います。 ○岡委員 3については,弁護士会としてはかなり反対というか,違和感の強いところでございます。今日,山本先生から「できない事項が残る場合」とか,沖野先生から「そのことを知っていれば」という案が出されました。そういうふうに修正されてくるとかなり分かりやすくなってくるのではという印象を受けました。   それに加えて,1点だけですが,「考えられる内容」という表現が,ここも違和感が強いところでございまして,裁判規範だとすると2にあるような「認められる場合」と同じ意味だとすれば,そのように変えていただければなお分かりやすいだろうと思いました。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは次に,「第17 契約以外を発生原因とする債務の不履行による損害賠償責任の免責事由」について御議論を頂きます。御自由に御発言ください。 特に異論はないと思っていいですか。 ○中田委員 この本文の規律自体に異論はありません。契約債権の場合にそろえたということで,こういう規定を置いておいたほうがよいということだと思いますし,419条3項を削除した結果,金銭債権の不履行でも不可抗力の抗弁があり得るということですので,そうなると思います。   ただ,そのことと,この文章にある「その債務が生じた原因その他の事情に照らして債務者の責めに帰することのできない事由」ということとの関係がなお分かりにくいのではないかと思います。   例えば,不法行為ですと,被害者の損害のてん補という理念があるので,帰責事由の有無の判定に当たっても不当利得とは違って解釈すべきだというのであれば,それはそれで分かるのですけれども,そうではなくて,不法行為の具体的内容によって影響を受けるのだとすると,それは一体どのようなことなのかというのがどうもイメージが湧きにくいのです。   ですから,この規定について,どのような趣旨でどのような場合に免責事由が働き得るのかということの説明ないし例示をしていただくと分かりやすいですし,意見も出しやすいのではないかと思いました。 ○鎌田部会長 この点について。 ○筒井幹事 適当な例を挙げることができるかどうか,考えてみたいと思います。 ○道垣内幹事 例を巡って議論をするというのがよく分からない。つまり,中間試案に対するパブコメにおいて,(概要)に書いてある例がおかしいという議論をするのかというのが少し分からなかったんですけれども,結局,契約の趣旨に照らして債務者の責めに帰するということが,契約の趣旨というのを契約がない場合には何か一定のものに置き換えざるを得ないということであって,そこにおいてどのような事情が考慮され得るのかということはかなり開かれているから,その他の事情ということになっているわけです。私は,これ以上例を出すということ自体適当なのかというのがよく分かりません。 ○中田委員 具体的な例と申しますよりも,「その債務が生じた原因」というのが,不法行為か不当利得かというレベルの話なのか,そうではなくて,不法行為の具体的な態様などというレベルなのか,それさえも現在のものだと分かりにくい。だから,そこをもう少し説明したほうがいいのではないかという趣旨ですけれども。 ○潮見幹事 個別に例を挙げる必要は私もないとは思いますが,今直前にも中田委員がおっしゃったように,これは不法行為その他の法定の制度に照らして考えた場合に免責が相当であるかどうかという形で一般的・抽象的な枠組みのもとでの判断をするのか,それとも,当該損害賠償債務を発生させた当事者間に存在する個別の事情をも考慮に入れて,免責の要否を判断するという観点から「その債務が生じた原因その他の事情」ということを書いたのかという辺りは,少し明確にしておいたほうがいいかと思います。   特に(概要)の部分で,これは太字で書かれている部分とは違って,「債務の発生原因及びこれを巡る一切の事情」とお書きになられているものですから,気になるわけです。そこに,中田委員の発言にくっ付けて申し上げますと,契約のほうでは,この部分に対応するのが「当該契約の趣旨に照らして」というところで,「当該契約の趣旨に照らして」という部分には正に当該契約における諸般の事情というようなものが当然に考慮に入れられて個別的に判断されるというように捉えられるかの表現ぶりになっておりましたから,だから,どういうことなのかというところぐらいは少しぐらい書ければ書いたほうがいいのではないかと思います。   まして,先ほど中田委員がおっしゃったことにここまで意味が含まれているのかどうか分かりませんけれども,不法行為の損害賠償の場合に,これは被害者の損害てん補というところが第一義的であるゆえに免責は認めないという方向で考えるという観点から免責を考えるのであれば,「その他の事情」という字句が本当に必要なのかも,問題になってくるかもしれません。その辺りは誤解のないように書いていただければというように希望します。 ○内田委員 書いていただければという意見が幾つも出たのですが,書けば,書いた内容について本当に意見は一致するのでしょうか。不法行為か不当利得かということは考慮される。不法行為の中で人身損害なのか,それとも取引行為的な不法行為なのかということも重要な要素だとか,そういうことを書くということになるのでしょうか。 ○潮見幹事 あえて申し上げますけれども,個人的には,この部分について,果たして意見がここで一致しているのかと思わざるを得ません。   それから,別の問題でいいですか。これは事務局に確認するだけですが,取り上げなかった論点の上のほうの○ですが,取り上げないということは,規定は置かないということで,後は解釈に委ねるという趣旨ですか。   もし仮に現行の416条が改正され,新しいものに改まったとたら,その段階で不法行為の損害賠償の範囲についてはどうあるべきかについては,不法行為法の解釈によって,あるいは実務の蓄積の中であるべき準則を作り出せばいいという理解で取り上げなかったのでしょうか。それとも,ある一定の方向でいこうという見通しがあってこのようにお書きになられたのでしょうか。 ○筒井幹事 不法行為の損害賠償に関する現在の理論が416条を参考として形成されたものであるにしても,それは不法行為の損害賠償の理論として存在するわけであり,それ自体を今回の改正で変更しようとするものではないわけです。他方で,金銭債権ではない法定債権の不履行による損害賠償については,416条を契約に基づく債権のみに適用される規定に改めるとすると,適用される規定がないことになるけれども,それでよいのかという議論をかつてしたと思いますが,その点については規定を設けなくてもよいという整理をしたということです。 ○潮見幹事 不法行為損害賠償に関して何らかの規律を置くとか置かないとかは,今回はそもそも取り上げないという理解ですね。 ○岡委員 少なくともこの原案は「その他の事情」と書いていますので,先ほど内田先生がおっしゃった人身損害か,悪意なのか,過失なのか,取引不法行為なのか,それを考慮し得るという案ですよね。その確認をさせてください。 ○筒井幹事 基本的にはお尋ねのような点を解釈に委ねるものだと思います。というのが現時点での岡委員への回答なのですけれども,一つ前に潮見先生が意見は一致していないのではないかとおっしゃったこととの関係が,やや気になっております。潮見先生の御発言は,現在「たたき台(5)」の第17で提示されている案文そのものについて異なる意見が相当あるという趣旨なのか,それとも案文の背後にある考え方なりについて異論があるということなのでしょうか。背後にある考え方のレベルで異論があるのは常にあり得ることで,やむを得ないと思うのですが,どの辺りのことをおっしゃったのかお伺いしたいと思います。 ○潮見幹事 従来,この辺りの議論をやっていたときに,契約債務不履行の場合の損害賠償とパラレルに議論していました。そして,契約の場合には,債務の発生原因たる契約,それからその内容,性質,その部分について合意だとか,社会通念だとかいういろいろな意見が出て様々な議論があって,そこで契約の趣旨に照らしてという観点からある程度落ち着きどころというのは見出されたと思います。   それに対して,法定債権の場合にそれに対応するものがどのようなものかという議論の際に,契約に対応するものは何かということで債務の発生原因というものを手掛かりとして免責の問題を捉えていくべきではないかという部分に関しては,異論はなかったとは思います。   ただ,それを超えて,発生原因のほかにどんな事情を考慮に入れて判断すべきなのかとか,それ以上にまた細かい部分については,そもそも議論自体がこの間の部会の中で十分にされてきていなかったのではないかという懸念を払拭することができないわけです。   そうした中で,ここでその他の一切の事情ということをお書きになられて,かつ今の岡委員の発言に対するお答えで,これは解釈に委ねますということであるのならば,そうしたら,結局のところ,基本的な考え方というものがどのようなものかということが不安定なままでこのような文言についての意見を求めるということになります。そして,その結果として,何かしら同床異夢の世界が作り上げられるのではないかということを少し懸念します。それゆえ,先ほどの発言をした次第です。 ○松本委員 今の点,私は本当は重要だと思うんです。しかし,今までのこの部会の議論では結構そういうことがあったと思うんです。同床異夢でいいではないか,あとは後の解釈に任せましょう的なものがあって,ここの点を条文上クリアにしてくださいといってもしないというのがかなりございました。だから,ここだけクリアにしろというのは少しアンバランスであって,ここも曖昧で構わないという判断は十分あり得ると思うのです。クリアでなければ改正しないということであれば改正案をほとんど出せないんだろうと思います。もっとも,それでもいいではないかということであればそれでいいわけですが。 ○筒井幹事 松本委員から応援していただいたのか,批判を受けたのか,受け止め方に迷っておりますけれども,今までの御議論を踏まえますと,本文では「原因」の後に「その他の事情」という文言を付けるかどうかが一つのポイントだと理解してよろしいでしょうか。そこは「その他の事情」という表現であれば様々な解釈を吸収し得るのだろうと思いますけれども,(概要)欄のほうでは「一切の事情」と書いたため,この説明ぶりに違和感を感じられた方が複数いらっしゃったように思います。そういう理解でよろしければ,なお説明ぶりなどは考えてみたいと思います。 ○鎌田部会長 これは不法行為による損害賠償そのものではなくて,それの遅延損害金の免責をするかどうかの話です。私はどちらかというと債務の発生原因が不法行為か不当利得かを考慮することよりも,なぜ遅延したかのほうがはるかに重要で,「その他の事情」をなくすよりも,逆に「その債務が生じた原因」をなくしたっていいのではないかと思うんですけれども,それはやはり違いますか。 ○松岡委員 個人的な感触ないし意見を申し上げるなら,私は,鎌田部会長が今おっしゃった意見に近い理解をしております。発生原因以外のかなりの要素が入ってくるのではないかと思います。発生原因である事務管理か不当利得か不法行為かだけが考慮されるのかというと,むしろそれらはそれほど重要であるようには思えません。 ○鎌田部会長 引き続き御意見を踏まえて事務当局で検討させていただこうと思います。   次に行ってよろしいでしょうか。よろしければ,「第18 信義則等の適用に当たっての考慮要素」について御審議いただきます。御自由に御発言ください。 ○三上委員 では,口火を切らせていただきますが,まずこれは第二読会の最後に提案されたときと比べますとかなり規定の仕方が縮小されていて,置かれる場所としては契約総則の一部であるということですけれども,先ほどどういう順番に並べるということが話題になったんですが,少なくともこの部分は当初の提案が民法の1条とか2条とか,債権法を飛び出したところに規定するという提案から,契約総則の一部になったというところに変わったわけですから,それが分かるような書き方にすべきではないかというのが第1点目です。   それから,2点目に,「事業者」「消費者」という文言が最初に出てきますけれども,事業者,消費者という概念を民法に取り込むかどうかという論点と,ここで出てくる格差の論点は別の論点ではないかと考えております。情報や交渉力に格差がある者という集合と消費者契約という集合は,消費者契約のほうが部分集合になるんだろうと思います。   そういう意味で,冒頭の「消費者と事業者」から「のほか」までの部分は要らないと考えます。むしろこれがあるがために前回大演説させていただきました民法の対象が事業者と消費者に二分できるのかとか,消費者保護を民法で規定すべきかとか,そちらの論点のほうに目が行ってしまって,格差の考慮うんぬんというここで提案されている本筋に行く前に,入り口の「事業者」「消費者」という段階で拒絶反応等々別の反応をして無用な議論を喚起するのではないかと危惧いたします。ということで冒頭の例文は無用と思います。   それから,3行目の「その他の規定」という言葉ですが,これをそのまま読むと,民法の全ての規定というふうにも読めます。この提案の範囲は,信義則等を具現化した各条項の裁量の当てはめの判断に当たっては,という趣旨だと思いますので,それが分かる記載というのは非常に難しいとは思うのですけれども,例えば「1条2項,3項及びこれらを具体化したその他の規定」というようにするか,そのような文言では法制局を通らないということであれば,別にその他の規定の部分に2項,3項が適用されないわけではなく,それを具現化しているだけですので,「その他の規定」という言葉自体が要らないのではないかと思うわけです。   それから,次に,「格差の存在」ということ自体が,これは一種の要件事実のように,ある,ないとかを立証したりする要件になるという提案をされているのかどうかという点も確認したいと思っております。   例えば,5年間の包括根保証契約の2年目にワンマン社長が内紛で追い出されてしまったと。その後の残った期間の間に新規で借り入れた債務について,追い出された社長が保証責任を負うか否かというよくある論点がありますけれども,そこで包括保証の責任を負うか否かというのは正に信義則の解釈問題になるわけですが,その解釈にワンマン社長と金融機関が保証契約をするときに情報とか交渉力に格差があったかなかったかは関係ない論点だと思うんですね。にもかかわらずそこは「考慮しなければならない」というマストになっています。そういう意味で,マストになっている以上は,「これは格差は関係ないところです」ということ自体が一つの立証の要件みたいになってしまうのか,もしそうでないのであれば,「しなければならない」という書き方は見直すべきではないかと考えております。   それから,最後に蛇足のようになりますけれども,格差という言葉は依然として私は非常に危険な言葉だと思っております。あるいは「情報の質」とか「量」とか「交渉力」という言葉は,これはそのまま条文になるという前提でここに書いておられるのでしょうか。条文にするときにはもう少し違う言葉になるであろうと推測されるのであれば,そういう言葉を使っておかないと,最終この提案が通るにしろ,そのときに条文の貌に置き換えたときに,置き換えられた言葉とここで提案されている言葉のニュアンスの違いで表現が後退しただの,想定以上に強まっただの,別のニュアンスの議論になってしまうような懸念を持っている言葉群だと思います。ですので,条文にするときにはどんな言葉を選ぶのかということを考えた上での慎重な言葉の選択をお願いしたいと思います。 ○大村幹事 三上委員のおっしゃった一般的な方向性に賛成です。やはり言葉を慎重に選ぶということが必要なのではないかと思っております。無用な誤解を避ける必要があるというのは正にそのとおりではないかと思います。   私自身,最後におっしゃった格差ということとの関係で気になるのは,これは事務局のお作りになるものなのでとやかく言うことではないのかもしれませんが,(備考)欄の「格差の是正を民法の解釈基準とすることについて」というのが少し曖昧で,様々な憶測を呼ぶ表現ではないかと思います。「情報,交渉力の格差の考慮というのを民法の解釈基準とすることについて」というのが太文字で書かれていることにふさわしい内容なのではないかと思いました。   それから,太文字のところについてですが,これは「何々のほか」とかあるいは「その他」というふうになっているところが2か所あるわけです。三上さんはそれぞれについて言及されましたが,私はどちらも例示は必要なのではないかと思います。「民法第1条第2項及び第3項その他の規定の適用に当たっては」というのは,第1条第2項及び第3項だけではなくてほかも規定もあるわけですけれども,ではそのほかの規定はどういう規定なのかというと,それは第1条第2項や第3項が挙げられていることからその内容を想定せよということになります。その内容については太文字には書けないけれども,(概要)や(備考)で説明がされていると思って伺いました。   それから,「情報の質及び量並びに交渉力の格差」の例示として消費者契約というのが挙がっているということであると理解しております。 ○岡田委員 民法改正に関して,相談員も当初から全く関心がなかったという状況が続いていたんですが,今回,今月に国民生活センターのフォーラムでNACSという消費者団体が消費者にとっての民法改正というのを発表するというんで,私はやっと理解してくれたなと思っていたんですけれども,その内容をちょっと私もまだ確認していないんですが,今回18というのが突然ぱっと出てきて,場所が何でここなのかとか,その辺は思いつつも,やはりこれが出てきたということによって意義をとても感じているんですね。   私個人的には,やはり人というところに格差とか何か,消費者とか事業者とか,その辺入れるかどうかはともかくとして,115年前の人と今の人は違うんだよということを何か盛り込んでいただければなと思っていたんですが,どうもそれも通らないみたいで,資料49の18のところに書いてあったんですけれども,民法は経済取引についての原則的なルールを規定するもので,そこでは抽象的な人を想定して対等な主体間のルールを規定すべきというというふうに書いてあるんですけれども,対等ではないから人というものをもっと分類しなければいけないのではないかと私は思うものですから,そこが全く今回盛り込まれないのかどうかということ。   それから,当初のときに個別に消費者に関しての規定と10ぐらい並んでいましたよね。あれはものすごく期待したんですよね。ですけれども,あれもかなりなくなってしまったような感じなので,この18の規定というのはやはりいかしてほしいし,場所は前の総則のところに入れてもらえないんだろうかと思います。 ○山野目幹事 岡田委員がおっしゃったことは基本的な考え方として誠にごもっともなことであると共感します。そのような観点から,第18の提案は活かしていただきたいというふうに感ずるという基本的なことを申し上げた上で,細かなことを三つ申し上げます。   一つは,第18で提案されているものに相当する規律の置き場所,配列に関してのことでございますけれども,これについては慎重にお考えいただきたいということを希望します。(概要)等について,そういうことについて踏み込んだ記述をしないほうが適切なのではないかというふうに考えます。しばらく前に,少し前の論点の際に規定の規律ないし配列のことについては形式的には恐らく最終的な答申の中には盛り込まれないであろうという筒井幹事のお話があり,同時に筒井幹事からは,専門的な見地からは配列の問題について積極的に御意見をお出しくださいということの御案内もありました。ここについても私はその方針で引き続き議論をしていくべきであって,そのような見地からいうと,今,配列について踏み込んだことをまだ考える段階ではないだろうというふうに感じます。   2点目ですけれども,細かな文言のことです。「民法第1条第2項及び第3項その他の規定の適用に当たっては,」というときの「その他の規定の適用」という文言を巡って御意見も頂いたところでありますが,恐らく法制的には,こういうときの「その他の」というのはこのままでは用いることがない言葉であると感じます。   ですから,ここで御提案いただいているのは,このまま法文になるという趣旨なのではなくて,中間試案で一般に対してこういう考え方の規定を出していく際には果たしてどういう問題がありますかということを問いかけるという観点からお出しいただいているし,その観点からいえば,現在の表現で基本的にはそれほど大きな問題はないであろうと感じます。   それから,3点目ですが,57ページの下から4行目,(備考)の表題のところについて,大村幹事が御指摘になったことはごもっともなことであると内容としては思います。   その上で,(備考)は私の理解では,これは今日の部会資料の審議のためにお出しいただいているものであって,このまま補足説明に載るものではないであろうと思います。しかし,もし補足説明に何らかこれに対応することを書く際には,大村幹事の御注意のようなことを踏まえていただければ有り難いと感じます。 ○鎌田部会長 ほかに。 ○鹿野幹事 この「信義則等の適用に当たっての考慮要素」についてですが,「格差」という文言を若干修正するかどうかはともかくとして,いわゆる格差が存在する場合にその格差に配慮するというような一般的な規定を置くということについては,私も以前から賛成の意を表しておりましたし,本文の細かな点はともかくとして基本的な考え方に異論はありません。ただ,先ほど指摘のあった「その他の規定」という点について,さらに一言意見を申し上げさせていただきたいと思います。   確かに,この(備考)等にも書いてありますように,格差に配慮するということが特に機能するのは,信義則とか権利濫用という場面においてであろうとは思うのですが,例えば契約の解釈のうちの特にいわゆる規範的な解釈などにおいてもこのような要素が考慮され得る余地があるようにも思われます。また,このほかにも例えば,帰責事由の有無の判断,あるいは前に検討した錯誤における重過失,とりわけ錯誤の中でも不実表示型の錯誤における重過失の有無等の判断などにおいても,このような格差等が考慮され得る余地があるのではないかと私自身は考えているところです。   ですから,第18のこの本文のところにつき,もう一歩踏み込んだ書き方でもよいのではないかという気も一方でするのですが,ただ他方,このような点については「その他の規定」という文言に含まれているとすれば,それでよいと思えます。条文ではこういう書きぶりにはならないかもしれませんが,提案の本文においては,それ以外の規定の適用においてもこのような考慮がなされる余地があるという考え方を示すものとして,「その他の規定」という文言を残すべきだと考える次第です。 ○佐成委員 ゴシックの部分ですけれども,先ほど,三上委員が「消費者」「事業者」という部分,それから「その他の規定」について御指摘されて,それに対して,例示であるということを大村幹事のほうから御指摘されたところでございます。   (注)にこのような規定を設けるべきではないという考え方が示されており,経済界では恐らくこれが一般的な考え方なんですけれども,仮にこの提案を何らかの形で活かすとすると,まず「消費者」「事業者」の部分に対しては過剰に反応する可能性は高いということだけは申し上げておきたいと思います。ですから,このままの形で提案すれば成るものも成らない可能性もあり得るということかもしれません。要するに,消費者,事業者という概念が曲がりなりにも規定上入ってしまうということに対しては非常に抵抗感が強いという現状がございます。   それから,「その他の規定」という言葉によってどこまで対象が拡張されてしまうのか。しかも,「格差」という,今日はあまり出てまいりませんでしたけれども,政治的な色彩の強い言葉が民法という一般法の中に入るということについてのアレルギー反応と申しますか,そういったところもありますので,中間試案等はこの形でもいいのかもしれませんけれども,かなり反発を受ける可能性があるということも踏まえつつ中間試案を仕上げていただくのが望ましいのではないかということを申し上げたいと思います。 ○中井委員 まず,第18を一般的にこういう形で問うことについて,弁護士会としては賛成です。幾つか表現上の修正なり提案がありましたけれども,それについては積極的に考えていただければと思います。   弁護士会としては「格差」という言葉はともかくとして,今日,契約当事者間には様々な違いがある。それはここで例示されている情報力や交渉力かもしれませんけれども,それ以外にやはり様々な違いのある中で契約が成立している。その違いを考慮して民法,信義則であったり権利の濫用の適用をすべきだし,先ほど鹿野幹事からございましたけれども,解釈においても考慮すべきであると考えています。幾つかの例示がありましたが,それ以外にも,例えば,任意解除権の行使についてもそういう違いを考慮して考えていくべきであると,こういう基本的な考え方,これが今回民法の中に取り込まれる。それが改正の一つのテーマになっていることを弁護士会としては大変重視しておりますし,またそういう方向で改正されることについて評価をしているところです。   ただ,先ほどの三上委員や佐成委員の発言にあったように経済界から大変な御心配,御懸念の声があることも十分承知しております。しかし,実態的な,先ほど言いました違いの存在することは恐らく否定されないし,その違いのある中でいかに適正な契約関係を成立させるかという基本的な方向については御理解いただけるのではないかと思いますので,表現ぶりでこの考え方が葬り去られるのは大変残念に思います。   「格差」という言葉に過剰反応されるなら,そこは本当に契約当事者の違いを考慮できるような表現を是非入れていただきたいと思いますし,最初の例示で「消費者と事業者」という概念の使い方で拒否反応が出るのであれば,これは一つの例示ですから,問題はその後ろの「情報の質」以下のところの違いを適切に表現できれば,それを民法の適用なり解釈の中に持ち込む考え方を宣明することは極めて価値のあることだろうと考えております。そういうことを考慮しながら検討を続けていただきたいと思います。 ○道垣内幹事 大村幹事が「消費者と事業者との間で契約される締結(消費者契約)のほか,」というのは例示であるというふうにおっしゃったわけですが,その心は何なのかというのが気になります。勝手に大村幹事の発言を解釈しますと,これは大手のAという電気会社と大手のBという電気会社がありまして,A会社がある発明をしたのだけれども,それがどれだけの製品に使えるものかということにはAには情報がない。これに対して,Bはそういうものがあればこれだけの新しい製品が作れるという情報を持っている。こういうときに,Aは大した発明ではないと思っているからBに安く売る。Bはそれをやると何百億円という儲けが得られることを知っている。そのときに教えてあげる必要はないわけですよね。   そうなると,実はこの「(消費者契約)のほか」というふうに書いてあるのは,この規範のむやみな拡大を防ぐための重要な例示なのではないかと思います。したがって,経済界がこれがあると駄目だとおっしゃる理由が私には理解できなくて,なかったらかなり怖い規定だろうという気がいたします。しかし,感覚の問題でもありますし,理念の問題でもありますので,そういうことも踏まえて再度検討をお願いできればと思います。 ○鎌田部会長 ほかには御意見いかがでしょうか。   特にないようでしたら,頂戴しました御意見を踏まえて事務当局で検討を深めさせていただきます。 ○松本委員 前回の部会,最後のほうは時間を繰り上げて終わった関係もあって,寄託について部会の後で少し考えて,まだ問題提起せざるを得ないところがあるのではないかという気がいたしておりますので,若干時間を拝借して発言させていただきたいと思います。   それは,佐成委員が業界の意見として言われたことをずっと考え続けておったわけであります。すなわち,寄託契約において,寄託者が寄託物を受寄者のところに持ってこないという場合に解除できないのは困るという意見が業界からあったということでした。   ただ,その点については,標準約款では手当てをしてあって,諾成契約だけれども,受寄者が荷物を持ち込まなければ解除できるという特約があるので,実際は問題にはならないわけです。約款で定めていれば手当てが要らないということであれば,民法における任意規定は要らないという話になって,リース契約なんていうのは民法には全く要らないという話になるわけですが,約款がない場合にどうなるのかということを定めるのが民法の規定だというふうに考えますと,やはり今のケース,有償の寄託契約で寄託者が荷物を約束の期日に持ってこないという場合に,寄託者サイドからは損害賠償を払って解除できるという規定が提案されておりますが,受寄者サイドから解除できるのかということであります。   すなわち,報酬支払債務の不履行という形で解除できるではないかという議論も前回ちょっと出たわけですが,寄託も役務提供契約の一種なんだから,役務の提供をした後でなければ報酬請求権が発生しないというルールに確かなっているはずです。そこが賃貸借のような場所を貸す契約と多分違うところだろうと思うんです。そうしますと,荷物が持ち込まれなければ報酬請求権は発生しないから,報酬支払債務の不履行を理由にした解除はできないということになります。   他方で,スペースを用意しているのに持ってこないということは一種の受領遅滞ではないかとも考えられます。しかし,受領遅滞の一般論としては,今回のこのたたき台では解除権は認められていません。売買において,契約適合したものであるにもかかわらず引取りを拒否する場合は,これは債務不履行として解除できるだろうと思います。   損害賠償はどうかというと,これも明文の規定はないわけですけれども,少なくとも信義則上の義務違反を理由にして損害賠償はとれるのではないかと思います。しかし,解除については必ずしも明文の規定はないので,寄託者が荷物を持ち込まない場合に受寄者の側のイニシアチブで契約を打ち切ろうと思っても打ち切れないということに今の提案からはなるのではないかと思います。信義則上の損害賠償がたっぷり取れるのであれば,その点を寄託者に告げれば,寄託者の側として早い段階で解除したほうがいいと判断するかもしれないので,事実上はそれで解決することが多いのかもしれませんが,法律論としてはやはり落ち着きどころが悪いのではないかと思います。   こういうふうに考えますと,消費貸借契約の場合も実は全く同じ構造になっておりまして,諾成契約だけれども,利息支払債務は実際に金銭が引き渡された後でないと発生しないということになっているようです。ただ,損害賠償は多分取れるんだろうということですから,金利相当の損害賠償だということになると,借主の側から解除して一定の損害賠償を払う形で早く終焉させたいと思うインセンティブは働き得るんでしょうが,やはり貸主の側からのイニシアチブで早い段階で打ち切るという手当てもあってもいいのではないかと思います。寄託と消費貸借双方について,同じように,一方からの損害賠償の支払を伴う解除権は認められているけれども,他方からは解除権そのものが認められていないという点についてもう少し配慮する必要があるのではないかという意見です。 ○筒井幹事 元々,以前の部会資料で取り上げていた論点ですので,規定を設けるべきであるという御意見が改めて述べられ,それに御賛同があるなら,復活させることにやぶさかではありません。以前の議論の際には,要物契約を諾成化する場合に,それに伴ってどのような規定が必要となるかを検討し,考え得る様々なものを御提示したところ,そこまで規定を設けなくてもよいのではないかという方向で議論が進んだと理解して,「たたき台」では取り上げていないというのが現状であると思います。 ○鎌田部会長 御意見ございますでしょうか。 ○佐成委員 先ほど松本委員が言及された前回の私の発言は,業界のほうから規律を設けてほしいという意見を頂いていたんで,それで御紹介したわけでございます。 ○鎌田部会長 それでは,御意見を踏まえて事務当局で検討させていただきます。   ほかにはよろしいですか。   ほかに御意見がないようでしたら,本日の審議はこの程度にさせていただきます。   最後に,次回の議事日程等について事務当局から説明してもらいます。 ○筒井幹事 次回会議は来週2月19日火曜日,午後1時から午後6時まで,場所は本日と同じ法務省地下1階大会議室でございます。   次回の議題は,新たに配布いたします部会資料58,これは「たたき台」の(1)から(3)までの改訂版になりますけれども,この部会資料58に基づいて御審議を頂くことを考えております。たたき台の改訂版は,先週の金曜日から一部のメール送信を始めており,今日のうちに残りの部分もお届けする見通しです。たたき台の3回分を1回の会議で御審議いただくことになりますので,これまで以上に本文について更に修正が必要かどうかという点に議論を集中していただきたいと考えております。   なお,部会資料58をお読みいただく際のお願いですが,資料作成の際に,(注)を含む本文をどのように手直しするかということについては,これまでの審議を踏まえて一生懸命に考えたつもりですけれども,(概要)欄の記載の修正までは十分な目配せができておりません。本文を修正したことに伴う手直しなどは最低限のこととして行っておりますけれども,それ以上には作業を行っていない部分が少なくありません。(概要)欄については,元々,中間試案が確定した段階で事務当局の責任で執筆するものという位置付けでもありますので,この段階では十分な手直しができていないということをあらかじめお断りさせていただきたいと思います。また,改訂版において本文や(注)で取り上げなかった御意見についても,少なくとも補足説明において詳しく紹介することを考えておりますので,そういうことを前提に改訂版を是非お読みいただきたいと考えております。 ○中井委員 お許しいただければ,戻りますが,松本委員の御提案,そして筒井幹事のおっしゃった寄託物の受取り前の当事者の法律関係が前の部会資料47の第3の1の2のウで取り上げられていました。今回,それを取り上げないことになったことについて,弁護士会の多くからは特段の異議はなかったんですが,一つの会,大阪弁護士会ですが,先ほどの松本委員,そして佐成委員のおっしゃるように,諾成契約を認めた場合に寄託者が引渡し時期を経過して引渡しをしない場合に,受寄者は契約の拘束力から離脱できる方向で検討すべきではないかという意見がありましたので,記録に残させていただけますか。 ○岡委員 二つ,手短に。   今の場合は,諾成契約で引き渡す債務を負っているわけですから,その債務不履行で解除できるのではないですか。間違えていたら結構です。   もう一つ,たたき台の改訂版を頂いたんですが,従来と違って,今回のゴシック体は多数派を形成できると見込める案を採用していますと。まだ多数意見ではないですという辺りのことを総則にきちんと書いて,(注)が記載されていない場合でも反対意見があるような内容ですよと,そういう特殊性をきちんと書いていただけるというふうに説明を受けていたつもりでございます。   今回の改訂版を見ると,その冒頭部分はまだ書かれておらず,現行法維持という(注)が増えているだけの印象を受けておりまして,総論部分を見せていただくというわけにはいかないんでしょうか。 ○筒井幹事 中間試案はそもそも中間的な取りまとめであって,確定的な部会の考え方を提示するものでないことや,(注)が付されていないことは部会内部で異論がないことを直ちに意味しないといったことについては,この部会で私が繰り返し発言してきたことですので,そのこと自体で説明されていると理解しております。従来から,中間試案なり要綱案なり,部会で決定するものに,その文書の一部として説明書きが付いたことはなかったと思います。そのような説明は,必要に応じて,それとは別に作成される補足説明などで書くことになると思います。今回でいえば,中間試案の補足説明の冒頭において総論的な事項として説明することになると思います。中間論点整理のときの補足説明における全般的事項の部分と同じであろうと思います。 ○岡委員 位置づけとしてそれであれば結構なんですが,かなり重要な論点で,その総則部分がしっかりしておれば現行法維持の案があるという単純な(注)はなくてもよくなると思います。補足説明は法務省の責任で書くもので,部会には出さないというのが原則かもしれませんが,見せていただくと次回以降の審議がスムーズになるような気はいたしました。 ○道垣内幹事 それはおかしいのではないでしょうか。ここで多数派の確定という作業をするのですか。そうではないとするならば,それは全くもって補足説明であって,ここで決定すべき事項ではありませんので,部会の場に示すこと自体に反対です。 ○岡委員 私が言ったのは,今回のゴシック体は,現時点での多数意見ではないという確認がどのような文章でなされるのか見たいということです。 ○道垣内幹事 多数意見ではないというのも確定するわけですか,ここで。 ○鎌田部会長 それに限らないということですね。 ○岡委員 ここで補足説明の一部を確定したいと言っているわけではなく,大事な部分の文章がどうなっているかを見せていただけると審議がスムーズになるというだけでございます。 ○山野目幹事 文章を見せていただくと岡委員から2回御発言がありましたが,あれが多数派だと認めたのではないということを筒井幹事がここで今もお話しになったし,複数回お話しになっておりまして,あの内容を補足説明の冒頭のところに事実上の蓋然性として恐らく間違いなく書きますよということを今もおっしゃいましたから,この後何かそのようなことがバックアップ会議に伝わるようになればよいのですよね。そうしていただければいいだけの話であると考えます。 ○岡委員 分かりました。 ○岡崎幹事 パブリックコメントに答える人たちが何を読むかということを考えると,人によっては,補足説明はあまり読まず,中間試案の本文と(概要)欄を中心に読むのではないかと思います。だからこそ,何度も時間を頂いて,(概要)欄について,もう少しこういうような書き方をされてはどうかという発言をさせていただいているわけですけれども,今,岡委員のおっしゃったことは非常に重要なことだと思っております。過去の法制審議会では,中間試案として出されるゴシック体の部分は,かねてここでも御発言があったかと思いますけれども,基本的には多くの委員,幹事が賛成している案を示しており,パブリックコメントで特段の新しい発見がなければそのとおり改正作業を進めていくという趣旨で提示されてきたかと思います。   そうすると,今回パブリックコメントに答える人たちは,このゴシック体で書かれたものがここにいらっしゃる委員,幹事の多数の意見を表していると捉えるのではないかと思います。そうした誤解を避けるためには,補足説明を読まない人がいることも踏まえて,冒頭の前注のようなところで今回のゴシック体の持っている意味をしっかり書いていただくのがよろしいのではないかと思います。   もちろん,補足説明にしっかり書くというのはありだと思いますけれども,それとは別に,中間試案本体の冒頭に今回のゴシック体はこういう趣旨であるということを,ごく簡潔で構わないと思いますけれども,書いていただくのがよろしいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 中間試案の中に盛り込むのか,あるいはパブリックコメントをする際の前書き的なものの中で処理するのか,何通りか対応の仕方はありそうにも思いますので,事務当局と,それからパブリックコメントをする主体はここではなくて法務省ですね,パブコメの実施主体である法務省とで相談しながら,どういう工夫ができるかを検討していただければと思います。 ○佐成委員 今の岡崎さんの意見に基本的に賛成で,書き方とかそういうのではなくて,やはりパブコメを受ける側の国民から見て,一応中間試案が出た,この方向で行くんだろうというふうな誤解をされてしまうと非常に困るなと思っております。論点の中にはかなりいろいろ意見の対立もあるわけでございますし,このまま成案になるとも思えない部分も相当あるんだと私は思っております。ですから,その辺の誤解のないような形で是非お願いしたいということでございます。別に(注)を書けとか,文案を見せてくれとか,そういうことを申し上げるのではないんですけれども,あくまで中立的にしていただき,この方向でというふうに誘導されるような,そういうパブコメの仕方はやめていただきたいということを念のために申し上げたいと思います。 ○鎌田部会長 一定の方向性の提案であることは間違いない。 ○佐成委員 それはもちろんそうですね。ただ,対立があるということを明示する形で是非お願いしたいということです。そうでないと,更に議論していかないと中間試案としていかがなものかという感じにもなりますし,不安を感じてしまいますものですから。 ○松本委員 特に対立する案として,現状のままでいいではないかという案があるものが一定数あるわけですね。この点について,こう変えるというのと,変えないで現状維持というのを甲案,乙案という形で並べるということは中間試案の体裁上まずいからそれはやらないということで,条文を改正する案しか本文には載せなくて,注のところで変えないという案もあるという書き方になっているわけです。しかし,ここはAの方向に変えるとBの方向に変えるという案が対立している,変えるべきだけれども変え方について対立しているというのとは少し質が違うところだと思いますから,特に現状維持という対案がかなり有力な案としてあるところについては,そこが誤解をされないような形できちんとパブコメに付すべきだろうと。テクニカルな点があるから,現状維持という案は甲案,乙案という改正案と同列には並べられないんだということをはっきり書くべきだと思います。 ○鎌田部会長 とはいえ,ここの中間試案がどちらの方向性も示していないというふうな印象を与えるようなものにはやはりできないだろうと思うので,頂戴した御意見を踏まえて少し検討させていただくということでお許しいただければと思います。   ほかにはよろしいでしょうか。 ○潮見幹事 次回どういう形で議論するのかの確認だけの質問ですが,結局,今送っていただいているものも少し拝見していますと,先ほどのお話にもありましたように,(概要)の部分についてはまだいじられていないところが結構あるということから,実際に次回と次々回でここで審議をする対象というのは,太字の部分についての字句修正というものがこの間の議論を踏まえてうまくいっているかどうかという点の確認と,それから,一部あるようですけれども,前のたたき台のところでは本文のところに書かれていたものが取り上げなかった論点のほうに回されているようなものもあり,そのような位置づけが果たしていいのかどうかというところの検討,それに集約されるというように捉えておけばいいということでしょうか。 ○筒井幹事 基本的にそういう議論に集中していただきたいということを申し上げたつもりです。 ○中井委員 私も先ほど岡崎幹事がおっしゃられたことに賛成です。中間試案の前注として今二つの項目が案として出ておりますけれども,2については改正が検討されているものを取り上げている,取り上げていないものについては基本的に現状維持することを想定していると,この2文になっているわけですけれども,ここに先ほど岡崎幹事がおっしゃられたようなことを一言入れることはそれほど困難な話ではないと思われますので,そういう方向で御検討いただけるなら有り難いということで補足しておきます。補足説明より本文に入るという趣旨でございます。 ○鎌田部会長 熟慮していただく必要があると思いますので,よろしくお願いします。   ほかの点も含めて御意見,よろしいでしょうか。   それでは,本日の審議はこれで終了といたします。   本日も熱心な御議論を賜りまして誠にありがとうございました。 -了-