法制審議会 新時代の刑事司法制度特別部会 第2作業分科会(第7回) 第1 日 時  平成25年10月1日(火)   自午前10時02分                         至午後 0時26分 第2 場 所  東京地方検察庁総務部会議室 第3 議 題  時代に即した新たな刑事司法制度の在り方について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○保坂幹事 それでは,ただいまから法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会第2作業分科会の第7回会議を開催いたします。 ○川端分科会長 本日は,御多用中のところ御参集いただきまして,誠にありがとうございます。  本日は,お手元の議事次第のとおり,配布資料の説明の後,まずは,「証拠開示制度」のうち,前回の会議で検討を行った「証拠の一覧表の交付」以外の検討項目について議論を行い,次いで,「自白事件を簡易迅速に処理するための手続の在り方」について議論を行いたいと思います。  なお,本日の議論につきましては,あらかじめお申出がありましたので,神幹事に代わって小野委員に,坂口幹事に代わって露木幹事に,御参加いただきます。  それでは,本日の配布資料について事務当局から説明していただきます。 ○保坂幹事 御説明いたします。本日は,「証拠開示制度」に関して,前回の当分科会で配布した資料13を再配布しているほか,新たに資料14をお配りしております。   資料14は,「自白事件を簡易迅速に処理するための手続の在り方」に関し,「自白事件の捜査の簡易迅速化を確保するための措置」,「一定範囲の実刑相当事案を簡易迅速に処理するための新たな手続の創設」の各検討項目につきまして,事務当局において,これまでの議論も踏まえて検討し,「考えられる制度の概要」と「検討課題」を整理したものです。この内容につきましては,後ほど議論に際して御説明いたします。  また,参考資料として,各検討事項に関する参照条文のほか,証拠開示制度に関して新たに小野委員から提出された資料もお配りしております。さらに,再配布資料として,当分科会第2回会議において小野委員から提出のあった資料もお配りしております。  資料の御説明は以上です。 ○川端分科会長 それでは,早速,「証拠開示制度」についての議論に入ります。  この検討事項に関しては,前回は議論できなかった「第2 公判前整理手続の請求権」,「第3 その他(類型証拠開示の対象拡大)」について,順次,議論を行いたいと思います。  それでは,まず,「第2」の検討項目について,配布資料の内容を事務当局から説明していただきます。 ○保坂幹事 御説明いたします。資料13の3ページ目,「第2 公判前整理手続の請求権」を御覧ください。これまでの資料からの主な変更点を御説明いたします。  まず,「考えられる制度の概要」についてですが,現行の刑訴法316条の2の規定の中に,「請求により」を加えて,「1」に記載している案を掲げ,「2」として,不服申立てについては,決定に対して即時抗告ができるものとする「A案」と,即時抗告の規定を設けない「B案」というものを掲げております。  次に,検討課題については,「1 趣旨等」については特に変更・追加はしておりませんが,部会での議論も踏まえて,様々な検討課題について御検討いただきたいと思います。  次に,「2 不服申立手続」については,部会において,上級審が判断資料がない状態で受訴裁判所の判断を覆すのは困難ではないかという趣旨の御指摘があったことも踏まえ,「抗告裁判所は,原決定の当否について,何を判断資料としてどのように判断するのか。」というものを追加しました。  また,部会において,受訴裁判所が整理手続を不要と判断した場合に整理手続を行わせたとして,どのような不都合があるのか明らかでない旨の御指摘があったことを踏まえ,「受訴裁判所の判断を別の裁判所が覆すことができる仕組みが相当か。」の下に,「整理手続に付する旨の決定の場合」と「整理手続の請求を却下する旨の決定の場合」とを分けて記載しておりますので,それぞれの場合について御検討いただきたいと思います。この点については,仮に即時抗告を認めるものとした場合に,前者の場合には不服申立てを設けないで,「請求却下決定に対する即時抗告だけを認めることは相当か。」という点も検討課題として追加しております。  最後に,「その他」として,当分科会において期日間整理手続についても請求権を認めるべきとの御意見が示されたことを踏まえ,公判前整理手続の請求権を設ける場合には,「期日間整理手続についても準用するものとするか。」という点を追加しております。  資料の御説明は以上でございます。 ○川端分科会長 ただいま三つの点について検討課題の御説明をいただいたわけですが,このいずれについてでも結構ですので,御意見,御質問等がございましたら御発言をお願いいたします。 ○小野委員 公判前整理手続の請求権につきましては,これまでは主要に証拠開示の必要性ということを中心にお話ししてきたと思うのですけれども,よく考えてみますと,単に証拠開示にとどまらずに,事件によっては,そしてまた裁判員対象事件以外の事件の中には,事前に争点整理をきちんとしておく必要のある事件が多々あるのが実情だろうと思います。実際に公判前整理に付さずに,公判が始まってから証拠請求があり冒頭陳述がありといった後で改めてまたその争点を整理していかないといけない事件がありますし,それなりに審理が進行した過程でまた争点が変わっていくといった事件も実際に存在しています。そういう意味では,この公判前整理手続によって,検察官の証明予定事実あるいは弁護人の予定主張をそれなりに整理しておくことが,公判の運営をスムーズにするという事件があるわけです。そこらの事件の中身を裁判所で事前にきちんと把握するということもなかなか難しい。やはり当事者がそれなりに証拠など,あるいは開示された証拠などを見ながら見定めていくという事件があるわけです。そのような事件について,実際に当事者が求めた場合に,単に裁判所の任意的な裁量でということではなくて,きちんと請求権として認めて判断してもらうという必要がある事件があるのだろうと思います。そういった実情を把握している当事者が請求し,争点も整理し,そして公判の在り方としては,元々直接主義・口頭主義ということで,集中審理を行って審理を進めるということが本来の刑事裁判の在り方であろうと思います。現在は裁判員対象事件についてだけそういうことが進められていて,かえって一般の事件が,そういう意味では逆に非常に五月雨式になりすぎていると思います。極端な例で言うと,検察官の請求証拠の証拠関係カードすら公判期日の当日にならないと出てこないとか,そのような事件もあるのが実情です。そういう五月雨式審理あるいは書面審理というのが裁判員対象事件以外の事件で行われていることがあって,ほとんどの事件が実際には裁判員対象事件ではないわけですから,そういう今の刑事裁判の実情を考えますと,しかるべき事件については,きちんと公判前整理手続に付して審理を進めていくということが本来的に望ましいのではないだろうかと考えています。  それから,不服申立ての関係なのですけれども,もちろん公判前整理手続に付する請求をするに当たっては,別に証拠を裁判所が見るわけでも何でもありません。当事者が請求して,その請求の内容,中身によって判断するということです。そういう意味では,判断材料としては,当該の受訴裁判所も,不服申立てを受けた裁判所も同じなわけです。ただ,請求内容あるいはそれに対する意見書などを見て,この事件がそういう進め方をするのが適当かどうかということを判断する判断者が異なるということにすぎませんから,それはそれで即時抗告を受けても十分に判断できますし,またそのこと自体はそれほど期間を要するものではありませんので,それによって訴訟遅延が生ずるといったことも一般的には考え難いことだろうと思います。公判前整理手続に付する決定がなされた事件については,それはそれでよろしいのではないかと思いますので,特に不服申立てを認める必要はないだろうし,それを付さないというものについて,具体的にどういう公判審理を進めていくのが適当なのかということについてはきちんと判断してもらう,このような仕組みでよろしいのではないかと思っています。 ○酒巻委員 少し不服申立てのことは置いておいて,小野委員のお話しになった,請求権を裁判員対象事件以外も視野に入れて認めるべきだという御意見の結論以外のところには私は賛成で,そのとおりだと思っています。ただ,そのような必要性がある場合には,現行法の制度でも,当事者が申出をすればいいだけのことで,今おっしゃったような内容を御説明いただいて,条文の要件に適合していれば,通常の裁判所であれば,結論としては,公判前整理手続をやるか,あるいは状況によっては期日間整理手続をやるかということになるのだろうと思います。ですから,請求権を認めるか,あるいは現在のままでいいのかということについては,請求権を作っても余り違いはないことになるのではないかと思います。  それから,部会でも出ていましたけれども,整理手続の請求権を認めることに何か意味があるとすれば,不服申立てがセットにならなければ意味がなく,当事者,つまり弁護人や検察官が申出をしたにもかかわらず,裁判所が何か判断を間違えたか,あるいは合理的な判断をして,いずれにしろ整理手続に付さない判断をしたときに,不服申立てができなければ意味はない。もちろん不服申立のない請求権という象徴的制度もあり得ないわけではないけれど。仮に不服申立を作ると,一体上級審は何を判断するのかということがやはりよく分からないですね。上級審としては,不服申立てが持ち込まれたが,審理を主宰する第一審裁判所の裁判官が必要ないと言っている,それが両当事者の意見を聴いた上での判断であることを考えると,何を素材として何を事後審査するのかよく分からないのではないかと思います。不服申立て手続を設定しても,何をどうしたらいいかよく分からないということになれば,それはただ時間が経過するだけのことになると思います。多分,小野委員が的確に指摘されていたような事情,特に裁判員対象事件以外でも,早期に争点を整理し,あるいは証拠を開示し,また,当初は争点がないと思われていたが手続進行中に具体的な争点が出てきたといった場合については,正に審理を主宰し両当事者の訴訟活動に直接接している裁判所に両当事者がそういう状態を申出の形で伝達すれば,適切に現在の公判前整理手続あるいは期日間整理手続が作動する。ですから,立法の必要性はないという考えもあるのではないでしょうか。 ○髙橋幹事 小野委員が言われたような争点整理,証拠整理が必要な事件については,公判前整理手続に付した上で整理していくべきだということには私も賛成です。裁判所といたしましても,裁判手続を主宰する立場としましては,事件を処理するための期間が長くなっていいとか,もめていいという思いはもちろん全くないわけで,できる限り迅速かつ円滑に進めようという気持ちで当然臨んでおります。したがいまして,公判前整理手続に付してほしいという申出があった場合には,両当事者の意見をよく聴いた上で,この事件は公判前整理手続に付せば審理が円滑にいくのだと考えれば,当然付すわけでございまして,そういう観点から言うと,当事者の意見を聴いたり,当事者の提出した資料などを踏まえて,かなり広範な裁量に基づいて,この事件は公判前整理手続に付すべきだ,この事件は一旦第1回公判期日に入った後にもう一回検討するのがよいだろうなどと,いろいろと考えた上で最良の方法を採るわけです。ですから,請求権というものに基づいて応答するというものとは性質が違うのかと思います。それから,抗告審に受訴裁判所の判断について不服申立てがなされても,酒巻委員も話されていましたけれども,判断のための資料は仮に同じだとしても,原審がかなり幅広の裁量の中でこの事件はこう進めていくのだということで決めたことを,どういう場合にそれを裁量の逸脱であるとして覆すのか,こうあるべきだということを抗告審から言えるのか,その辺りはなかなかイメージが湧きにくいというところでもあります。 ○酒巻委員 私自身は結論としては請求権の制度は要らないと思っておりますけれども,仮に請求権を設定する場合に,確認ですけれども,これはもちろん両当事者の請求権を認める。不服申立てはまた別かもしれませんけれども,請求権を設定するとすれば検察官の請求も当然あることになり,今の案はそうなっていますね。そうすると,弁護人が嫌だと言っても検察官が請求して,公判前整理手続に付する決定を裁判所がすることもある。それで整理手続が行われて,証拠開示がなされ,それに基づいて主張明示の義務が課されて,その結果として公判では,原則としては証拠の後出しはできないという証拠調べ請求の制限が掛かる。そういうことになるのですけれども,請求権を設定する場合には,そういう事態もあり得ることだというのは考えておいた方が良いと思います。  それからもう一つは,先ほどから言っているように,請求権を設ける以上不服申立てができるかどうかに連動しなければ意味がない。不服申立てをこのA案は,「1の決定又は1の請求を却下する決定に対しては,即時抗告をすることができるものとする。」ということですけれども,作り方としては,請求権があるのに即時抗告がないというのはやはりよく分かりませんので,そうだとすると不服申立てはできるとする。できるとするのですけれども,整理手続をしないという決定に対しての不服申立てと,するという決定に対しての不服申立てがあり得て,私は先ほど言ったように上級審は何を判断していいか分からないと思いますけれども,それでも,直接両当事者の意見を聴いた受訴裁判所が整理手続をやるという決定に対して,上級審がやるなというのは非常に変な感じがします。逆に,部会の方でも発言があったと思いますけれども,制度の設計としては,整理手続をやらないという決定に対してもう一遍再考してもらうという,やらないと言っているけれども,上級審はやりなさいというのはあり得ると思います。そういう片面的な不服申立てというのが,現在あるのかどうかちょっと分かりませんが,そういうものも設計としてはあり得るのではないかと思います。私はこの制度を作ることに反対ですけれども,作るのだったら,そういうことは考えておかないといけないと思います。 ○上冨幹事 不服申立ての関係だけ申し上げます。先ほど髙橋幹事からも御指摘がありましたし,部会でも御発言があったと思うのですけれども,事件によっていろいろな審理の進め方が考えられるわけで,例えば,事件によっては,公判前整理手続ではなく,まず公判を開いて,必ず同意されるような客観的書類,証拠をまず取り調べて,そこを土台にして期日間整理手続で争点を整理した方が良いと受訴裁判所がお考えになっているような事件もあり得るのだろうと思うのです。他方,不服申立てというのは,抗告審裁判所がある時点で判断をしなければいけないわけで,後で期日間整理手続をやろうと思っている事件であっても,それより前のいずれかの段階において,この事件で整理手続をやるかやらないかを判断しなければいけなくて,そのときやらなくて良いという判断になったとしても,事情変更があれば,当然もう一度期日間整理手続を行うことはできるはずですし,そういう意味では非常に,先ほどの髙橋幹事の言い方をお借りすれば,かなり幅広の,しかも合目的的な裁量の中で行われるものと,ある一点を切って,それについてイエスかノーかを決めるという不服申立ての手続とがうまく整合するのだろうかと考えます。  また,抗告審裁判所に判断ができるのかどうかという問題については,当然判断ができるだろうというお考えの基にあるのかはちょっと分かりませんが,元々この制度を設計するときに,公判前整理手続を受訴裁判所がやるか,それとも別の裁判所でもできるか,という論点があったように記憶しています。いわゆる予断排除の問題などを強調されて,別の裁判体がやるべきだという御意見も確か当時はあったように思いますけれども,公判前整理手続というのは,訴訟を主宰する受訴裁判所が責任を持ってやっていく制度のはずであり,別の裁判体がやるのはおかしいのではないかということで今の制度が組まれたように記憶しています。恐らく同じような問題だと思いますが,受訴裁判所が責任を持って判断していることを別の裁判体がどこまで的確に判断できるかということで,元々の出発点というか,感覚が違うのかと思いますが,今の制度設計に至った経緯を踏まえると,別の裁判体が公判前整理手続の適否を判断できるかというところは,かなり慎重によく考える必要があるかと思っています。 ○宇藤幹事 皆さん方から出た御意見とほとんど重なってしまうのですが,私自身も,現行法の整理手続を前提とする限りは,やはり請求権構成というのはなじみにくいのではないかと思います。それでも,請求権を仮に認めるとすると,先ほどからも話が出ているように,不服申立てということとセットでないと余り効果がないだろうと思うのですが,一律に認めるのはどうかと思います。せいぜいのところ,請求があるとしても,受訴裁判所自身が再考を促される程度の話にとどめるということでないと,機微のある準備手続ということにはならないのではないでしょうか。  あと,小野委員のお話ですと,期間の点でもそれほど遅延とはならないということでしたが,上冨幹事からお話があったとおり,スタートダッシュの段階でまずストップするということは,それ自体余りよくありませんし,ではその後であればスムーズにいくかというと,請求が繰り返されることも否定しきれず,ハードケースの場合にはそのたびにストップしてしまうということも考えられますので,一概に遅延ということはないという御指摘には無理があると思います。ただそれでも,仮に不服申立ての制度を設けて上級審で判断する制度を作るとすれば受訴裁判所が整理手続をしないと判断したときに,上級審において整理手続をするべきだと判断するという制度設計は,あり得るかもしれません。  その他の点ですけれども,期日間整理手続の点も,先ほど来から前提としておられるのかと思いますが,期日間整理手続と公判前整理手続との取扱いは区別する必要がございませんので,同じ取扱いということでよろしいのではないでしょうか。 ○小野委員 まず,検察官が請求する場面も想定されるわけですから,それはそれでもちろん,検察官も,これは公判前整理手続をすべきだという請求ができるわけで,それで認められれば,公判前をやればいいので,その点についてはもう当然のことだろうと思います。  それで,裁判所の現在の実情ということで考えますと,率直に言って,裁判体のいずれもが合理的で的確な判断を常にするかというと,必ずしもそうではないというのが実情です。どういうことかよく分かりませんが,受訴裁判所としては,この事件についてもこれでいいのだ,いけるのだと考えて判断されるのでしょうけれども,必ずしもその判断が常に合理的であるわけではないのです。元々人の判断ですから,そうでない判断はあり得るわけです。その場合に,現在のように,単に裁判所が裁量で決める仕組みと,そうではなくて不服申立てがあって上級審が判断する仕組みがあるのとないのとでは,おのずとその判断の在り方も違ってくるだろうと思われます。元々制度というのは,常にある特定の機関が合理的な判断を本来すべきなのだろうけれども,そうでない場合があり得る,だからこそ,それを別の裁判体が考えるという仕組みを設ける,それは当然あってしかるべきだろうと思います。  それから,現在の仕組みを作るときに,受訴裁判所以外の裁判体が判断するかどうかといった議論がもちろんありました。結果的に今のような仕組みに収まったわけですけれども,では実際に今これでやってみて,常に合理的な判断がされているかというとそうではない実情があるということを踏まえ,そうではない裁判体に再度の判断を求める仕組みを作り,それが運営されるということによって,より合理的な進め方があるのだろうと思っているわけです。争点整理のことだけではなく,証拠開示の問題についてもそうであって,まず同意する請求証拠だけを見て,それからまた更に進めるという事件ももちろんあり得ると思うのです。だけれども,そうでないルートがあって当然であり,そういうルートがある中での判断が迫られるのだろうと考えているわけです。そういうことで言いますと,不服申立てができるということによって,それなりに合理的な裁判体の判断が,より合理的かつ的確に示されることになるだろう,それが全体の刑事裁判の進行に役立つだろうという制度なのではないかと考えています。 ○酒巻委員 小野委員の今の御発言ですけれども,訴訟手続法を使う法律家が的確な能力を有しているのかそうでないのかのどちらを前提にして手続法を作るかというのは難しい問題ですが,今の小野委員の考えは,裁判官にそうでない者がいる可能性があるという前提で作った方が良いということだと思います。しかし,今の制度は,両当事者の意見を聴いて,となっているわけです。ですから,意見を聴くのと,不服申立てがあるかもしれない請求権にするのとどこが違うのか,今の制度でも意見を言えるわけですから,これはどうも裁判所が気が付いていないなと思えば,それは意見を申し上げて職権発動の申出をすればいいのではないかという気がします。ただ,いずれにしろ,公判前整理手続に埋め込まれている証拠開示については,法務省がお調べになったところでは,最初は公判前に付していないものについても,ほとんどの事件は証拠の任意開示がなされて,それで問題が解決している。また,裁判官に法律家として的確な判断が困難である人がいるかどうかについては,何か実証的な根拠があるのかどうか。それは,ただ言うだけではよく分からないので,制度設計としては,一応きちんとした法律家三者が動かすという前提で考えれば,今の制度で十分なのではないかと思います。それから,仮に的確な判断をしない裁判官がいるという前提だとすれば,上級審があろうがなかろうが,申出であろうが,請求権であろうが,結果は余り変わらないような気もします。しかし,こういう話はみんな抽象論ですから,もうこれ以上そういう観念的なところで議論をしてもしようがない,実際にこの制度を作ったときに具体的に何がどうなるかというのは,新しい制度により変わるかもしれないところはどこで,変わった結果として今より悪くなるのか良くなるのかをできれば実証的な根拠に基づいて考えて,あとは部会の先生方の御判断に委ねるというのがいいのではないかと思います。 ○川端分科会長 小野委員に確認させていただきます。請求権に基づいて決定するということが御主張の根本にあるわけですが,現行制度でも裁判官の裁量権に基づいて決定がなされるのですけれども,その裁量権の行使について必ずしも適正でない場合が現実にあるから,これを請求権として構成して是正すべきだという御意見として承ってよろしいのでしょうか。 ○小野委員 そのとおりです。実際,実証的な根拠というと,具体的な事例は幾らもあって,だからそういうことを踏まえた上でこういう意見が出てきているということは間違いないところです。それで,今ちょっと酒巻委員がおっしゃった点に関連して,今日私の方で参考資料として出した点につき,ちょっとここでの議論からはみ出す内容に触れてしまって申し訳ないのですけれども,公判前整理手続に付さない事件で,証拠開示が任意開示でやられているからいいではないかという御意見が以前から出ているわけですけれども,任意開示だからいいというのはやはりおかしくて,証拠開示請求権が公判前整理手続の中に埋め込まれていて,それが実際に機能しているということは間違いないわけです。それが公判前整理手続に付されない事件ですと,実際に任意開示をやっているではないかということですが,それは本当にきちんと本来の開示がされているかというと,その保障は全然ないわけです。しかもそれは分からない。実際の公判前整理手続の中での証拠開示の場合でも,任意開示は現に行われているわけです。それでもなお,類型証拠開示請求をすれば,また出てくるのが実情なのです。そういう意味では,現状の任意開示が公判前整理手続の中であっても,あるいは外でも,本来的に機能しているかどうかということは実は分からない。少なくとも,任意開示が足りないとなって,類型証拠を更に請求すると出てくる事例が現にたくさんあるということを考えますと,少なくとも証拠開示請求については公判前整理手続の外であっても証拠開示請求権を認めるべきではないかというのが今回出した意見で,これまでの議論とはちょっと外れるところになっていることは承知しておりますけれども,そういう仕組みをきちんと作るべきであろうと思います。少なくとも請求証拠についての開示は当然であって,請求証拠の証明力判断のための受動的な防御という観点からの類型証拠開示請求権というものもきちんと別途設けて,それはそれで,少なくとも類型証拠開示まではきちんと仕組みとして外出ししてでも作っておくべきなのではないかと思います。証拠開示の必要性・重要性ということは少なくともこの間の公判前整理手続の中で当事者が皆一様に認めているところだろうと思いますので,それは公判前整理手続に付された事件に限らないのは当然のことでありまして,そういう意味ではこの外出しをして証拠開示請求権というものを認める規定を新たに設けるということはやはり必要なのではないかと今回の議論で思ったので,この意見を出しました。 ○川端分科会長 小野委員には申し訳ありませんが,この会議では今の点には触れないという制限が加わっておりますので,公判前整理手続の段階での問題に絞ってここで議論させていただきたいと思います。 ○小野委員 大変失礼いたしました。 ○川端分科会長 それで,今,権利性ということで御意見を承っているわけですが,ほかの先生方もこの提案の検討事項でB案については消極的であったということで,権利性を認める以上はA案でいくべきだという整理でよろしいでしょうか。 ○上冨幹事 確かに,権利性を認めるのであれば,実質的な意味は不服申立てのところにあるのだろうという御意見は多いのだと思うのです。ただ,不服申立制度自体に対するいろいろな疑問点もあるわけで,その場合,A案のみを前提とした議論で部会に検討していただくのがいいのか,それともB案という余地も残した上で議論していただくのがいいのかという意味では,選択肢としてはB案をこの分科会の段階で外してしまう必要はないという感じがいたします。 ○酒巻委員 私は,A案で一致というのは整理としては適切でないと思います。即時抗告というのは,つまり上級審が何かをするということですけれども,先ほど来言っているように,そのようなことができるとは思えないというのが私の意見です。やはり,請求権を設けるとしても必ずA案というわけではなく,請求権があったとしても,そこで打ち切って即時抗告は認めないというのも十分に考えられることだと思いますので,上冨幹事と同じで,B案を外してしまうのは適切ではないと思います。 ○岩尾幹事 A案とB案の二つするにしても,A案自体は,先ほど却下のみに即時抗告を認めるべきだという意見の方が多かったような気がいたしますので,A案の方は片面的な即時抗告に修正した形でA案・B案という形で残すのが,今日の議論の中では最も中立的な選択ではないかと感じました。 ○川端分科会長 今,このままA案に絞り込むのはおかしいという御意見が出されましたので,これはこのまま残して課題として部会で御検討いただくことにさせていただきたいと思います。  次に,「第3 その他(類型証拠開示の対象拡大)」についての議論に移りたいと思います。  まず,配布資料の内容を事務当局から説明していただきます。 ○保坂幹事 それでは,資料13の4ページ目,「第3 その他(類型証拠開示の対象拡大)」というところを御覧ください。これまでの資料からの主な変更点を御説明いたします。  「考えられる制度の概要」は変更しておりませんが,「検討課題」に掲げた四つの証拠類型について,更に具体的な検討を行っていただくため,それぞれについて「類型証拠開示の対象とする必要性・相当性があるか。」というものを掲げた上,各類型ごとに検討課題を追加しております。  まず,「① 検察官が直接証明しようとする事実の有無に関する供述であって,『供述者の直接体験した事実に関する供述』以外のものを内容とする,被告人以外の者の供述録取書等」については,捜査官が供述内容を記載した捜査報告書とそれ以外のもののそれぞれについて,対象とする必要性・相当性があるかどうか,また,当分科会においては,現行刑訴法の316条の15第1項第6号の類型の範囲を拡大するものとして御提案があったところですが,そうしますと,316条の15第1項第5号の検察官側証人予定者の供述録取書等の要件との整合性はあるかといった点を御検討いただくため,これらを検討課題として追加しております。  次に,「② 検察官側証人予定者が身柄拘束中に行われた取調べの日時・場所等の取調状況を記録した書面」については,「証人予定者一般について,身柄拘束中に当該事件について取調べが行われる被告人と同様に,対象とする必要性・相当性があるか。」,すなわち,類型証拠とすべき一般的・類型的な必要性や相当性において,被告人と証人予定者一般とが同様に取り扱われるべきものなのかどうかということを御検討いただくため,これを検討課題に追加しております。  最後に,証拠物の押収経過に関する証拠については,当分科会において,直接の押収経過を示す領置調書等を対象とすべきである旨の御意見があったことを踏まえ,「③」と「④」のいずれについても「差押調書又は領置調書」とした上で,「対象は,犯罪捜査規範又は事件事務規程に基づいて作成される『差押調書』『領置調書』でよいか。」としております。  参考資料の4ページ以下と5ページ以下のところに,今申し上げた犯罪捜査規範と事件事務規程の関連する条文を挙げております。  御説明は以上です。 ○川端分科会長 幾つか検討課題が提示されておりますが,どの項目からでも結構でございますので,御意見,御質問等がございましたら御発言をお願いいたします。 ○小野委員 6号の拡大についてなのですけれども,やはり捜査の実情として,捜査報告書だけにとどめてその者の供述等を供述調書に録取しないという取扱いは現に存在しているわけです。それで,検察官の請求証拠で直接証明しようとする事実の有無ということとの関係で,請求証拠の証明力判断に必要なものが類型証拠として掲げられているわけですけれども,そこで実際に捜査の在り方によって,つまり,捜査報告書にその供述内容をとどめている場合と,そうではなくて供述を録取している場合とで,そういう捜査の進め方によってその類型の開示の対象が変わってしまうということはやはりよろしくないだろうと思います。主張関連証拠でも出てくる余地はもちろんあるわけですけれども,主張関連で出てくるからいいではないかという問題ではないだろうと思います。類型としてその証明力判断に必要なそういった証拠が現に存在し,それが捜査報告書の形で存在し,そのときにその判断に必要なものが類型として出てこないというところに問題があるわけでありまして,そういうことで言いますと,この点について,今私どもで出している6号の拡大というものが実務の必要性として非常に高いのではないだろうかと思っています。  それから,取調べ状況の記録書面についても,その供述経過などについては,証明力判断のために必要なものとして被告人に限られないのは当然のことでありまして,それ以外の証人等についてもあるいはそういった人たちの取調べ状況の記録書面が,場合によっては開示されることが捜査の在り方の中で具合が悪いということはあり得るのかもしれませんけれども,それは弊害のある場合として考えられればよろしいのであって,基本的な類型としては当然あり得るのだろうと思います。  それから証拠物についてです。これは,証拠物の押収経過は何らかの形で出てくるというのがほとんどなのでしょうけれども,もし仮にそうだとすればなおさら,表題が「領置調書」であるのか「差押調書」であるのか,あるいはそれ以外の表題であるのかはともかくとして,その経過を示す証拠としては,証拠物に付随的なものとして当然にある,又はあるべきものですから,それが類型に含まれていくのは,むしろかえって当然なのではないかとさえ思いますので,その辺りのことについてはきちんと定めておくのがよろしいのではないかと考えています。 ○酒巻委員 しばらくこの点について議論するのでしょうから,この①から④までのそれぞれの御提案を考える大前提として,先ほども少し出てきましたが,まず,この分科会は基本構想の枠の中で考える,そして,基本構想は,現在の公判前整理手続,つまり主張と争点の整理に関連付けられた段階的な証拠開示制度を前提にして,何か手直しするところはないかというのが,部会の課題であるとしている。その最初の段階である類型証拠と言われている世界は,制度を作るとき,まず,類型というのは,つまり個別にではなく,少しレベルが違って,捜査の過程で検察官の手元に送致される資料の中で,一般的・類型的にこういう材料は被告人の防御準備にとって有用であろう,それから検察官請求証拠の証明力を判断するのに役に立つだろうという考えに基づいて設計してあり,同時にこういうものは一般的・抽象的に考えても,普通は弊害のおそれが乏しいであろう,そういう大きな立法的な判断が行われて作られている。もう一点,最初に検察官請求証拠と類型証拠を示すことによって,まずは被告人・弁護人側に対し,検察官の主張について何か言うことがあるのだったら,その材料は今見せたのだから主張を明示してくださいという話になる。それで,もし被告人・弁護人側に言うことがあって主張を明示したら,更に次の段階で,今度は,主張関連あるいは争点関連ということでまた請求をすれば,必要性・重要性があるか,弊害のおそれがあるかどうかを具体的に判断し,証拠が開示される。この基本枠組みは,基本構想においても,維持してその中で考えるべきだと言われているわけです。ですから,そういう観点から,この①・②・③・④を大きな枠としては検討しなければならないと思います。  そうすると,僕は証拠物関係の調書についてはもう少し考えてみたいのでここではまず①と②について,これは,小野委員が先ほど主張関連で出ればいいという問題ではないとおっしゃいましたけれども,これらは,主張を明示すれば,多分両方とも,必要性が高く,弊害のおそれがなければ出てくるでしょう。では,法の基本枠組みとして想定された一般的・類型的なものかというと,やはり基本的な制度設計の観点からいうと,これを取り込むことには疑問があります。特に供述内容を記載した捜査報告書というのは確かにあるわけですけれども,先ほど論点として出てきた条文の,5号と6号との兼ね合いとかを見ると,解釈論として整合性がとれるのかどうか疑問に思います。立法論としても整合性がとれるのかどうかという議論はあるだろうとは思いますけれども,まず大前提として基本的な設計を維持するのだとすれば,一般的・類型的な開示の必要性という点で,やや現行法の基本枠組みとはそぐわない。検討の枠組みとしては基本的枠組みを動かさないということを前提に考えないと,どこまでも枠から外れていってしまいますので,そういう枠を設定するとすれば,今言ったような考えがあるのではないかということです。 ○川端分科会長 今の点は, やはり議論の出発点で,基本構想の中での制限があり,我々はその枠内で議論をするという前提で進めてきておりますので,そのようにさせていただきたいと思います。それを踏まえてお願いします。 ○上冨幹事 類型証拠として開示されるか,主張関連証拠として開示されるかというのは,手続段階としての区別はあるわけですけれども,結果として開示された証拠の意味というのは全然変わらないわけです。しかも公判前整理手続終結前には手続が言わば行ったり来たりすることも許容されているわけですから,まずは,全体として争点整理と防御のために必要な証拠がどれだけ開示されるかという大きなくくりで見た上で,さらに,具体的な制度設計として争点整理をし,主張を明らかにするといった目的のためにはどのように振り分けていった方が合目的的かということで,今の制度は振り分けられているように思います。したがって,主張関連証拠としてであれ,必要なものが開示されるのであれば,基本的には必要なものが開示されているという前提で考えてもいいように思います。それからまた,捜査過程そのものを明らかにすることが証拠開示の目的ではないわけですから,最終的な立証,争点との関係で必要なものが出るかどうかという観点でまずは考えていくのではないかと思います。  その上で具体的なことで幾つか申し上げます。まず,②の取調べ状況を記録した書面の関係ですけれども,これも今申し上げたことで言えば,被告人の供述調書は,不利益供述であって任意性があれば当然に証拠となるという証拠法があって,それを前提に,その取調べ状況というのが類型的に問題となり得るという仕組みで作られているわけです。被告人以外の者の供述調書については,同意しなければ証人尋問で話が聞けるわけで,調書自体が法廷に出るということは原則としてはなく,法廷に取り調べ過程での調書自体が出るのは,いわゆる2号書面請求をしたときに限られるわけですから,そこが争点になっているときに主張関連証拠として開示されることでなぜ足りないのかという視点から,この問題は検討しなければならないと思います。その観点でなお必要とされるのであれば,類型証拠として取り上げるという思考になるのではないかと思います。実際には,たまたま身柄拘束をされているか否かで本当に違いがあるのでしょうか。身柄拘束をされている人の中には共犯者もいるでしょうし,全然別件で身柄拘束をされている人が偶然に目撃者でもあったということもあるわけで,そういった場合も含めて類型証拠として一律に取り扱うのが適切なのかどうか疑問に思います。  それから,証拠物の捜索・押収経過の関係では,まず③の請求証拠の場合に,実務的にその関連性を示す証拠をそもそも刑訴法316条の14で開示していないということがどれほどあるのだろうかという気がしております。それは捜索差押調書という形で請求する場合も報告書の形で請求する場合もあるでしょうけれども,ほとんどの場合は何らかの関連性を示す証拠は請求されているのではないかと思います。その上で,仮に捜索差押調書ではなく報告書という形で請求されているのであれば,その報告書の信用性を争うための類型証拠として,請求されていない捜索差押調書があるのであれば,現在でも当然類型証拠になるわけです。そうすると,全く関連性に関する証拠が開示されていない場合というのは,強いて考えれば,検察官としては関連性が明らかなので被告人質問で一言確認すればいいという立証方針を立てているようなときぐらいかと思います。そういうときは,多分被告人もよく知っているからそういう立証方針なのでしょうし,そこに争いがあるのであれば,当然主張関連証拠として請求できると思っています。ですから,まずは請求証拠としての押収経過について,新しい類型を立てる必要があるのかどうかについて,なお具体的な必要性を考えた方が良いかと思います。  いずれにしても,③と④に共通で書いてある点ですけれども,まずもって考えるべきは捜索差押調書,領置調書というもので,恐らく仮にこの制度で類型を拡大するとすれば,まず一次的に類型として挙げるのはこういうものであり,その上でその信用性を争う必要があれば更に関連するものが出てくるということで,恐らくは足りるのでしょうから,仮に③・④についてこういったものを類型証拠として追加するのであれば,その中身はこのそれぞれの「・」の二つ目にありますように,差押調書や領置調書といったものでいいのではないかと考えます。 ○酒巻委員 この点で僕がちょっと分からないのは,③は上冨幹事が今おっしゃったのだけれども,④というのは,証拠物が類型証拠である場合の押収経過ですよね。更に具体的に教えていただきたいのですが,例えばこれはどのように類型的に役に立ち得ることを考えているのだろうか,証拠物が類型証拠とはどういうことですか。 ○川端分科会長 供述関係の①・②と証拠物関係の③・④を分けて議論しようかと思っていたので,まず供述関係を議論してからまた今の問題のところで詰めて議論していくということでよろしいでしょうか。 ○酒巻委員 はい。 ○川端分科会長 先ほど酒巻委員からも,上冨幹事からも,供述関係の問題と証拠物の問題とは性質が違うため,それをもっと詰めて考えた方が良いのではないかという趣旨の御発言がありましたので,その線で①と②をまとめてこの部分から議論して,その後③・④の問題に入っていきたいと思います。今,上冨幹事から御発言がありましたが,小野委員,今の点に関して何か御意見がございますでしょうか。 ○小野委員 証拠開示としてはどこかで出てくるだろうという,それはそうなのかもしれません。ただ,本来的には類型証拠として出てくるべきものが出てこない,そこで予定主張という仕組みになっているわけですが,本来,検察官の請求証拠の証明力判断のために必要な類型として捉えられていなければいけないものが外れてしまっているケースがあるのだというところが一番の問題であろうと思うのです。そういうことで考えますと,それは予定主張などで手続が行ったり来たりすることもあり得るのでしょうけれども,もし仮にそういうことで,それこそまた改めて類型証拠開示請求のようなことをやったりなどして行ったり来たりしていいわけではないので,本来的にその類型から外れているもので,かつ証明力判断に必要なものについては,仕組みとしてあって当然なのだろうと考えているわけです。実際に実務の運用は,私もそれほど広く知っているわけではありませんけれども,捜査報告書の形で,意図的にかどうかは別として,類型から外れるような証拠の作り方というものが現に相当数存在しているのが現状と認識しておりまして,そこはきちんと類型として捉えられる必要があるのだろうと思います。 ○露木幹事 ①の捜査報告書なのですけれども,冒頭に酒巻委員がおっしゃった前提を基に考えますと,類型性が満たされるためには,証拠としての重要性と,それを開示することによる弊害,これを天秤にかけてここに当てはまるかどうかを考えるべきだろうと思います。そこで,証拠としての重要性という点で捜査報告書を考えますと,言うまでもなく,捜査報告書は捜査員が作成したものであって,そこに記載されている内容を供述した本来の供述者は確認していないわけです。つまり,取りあえず聞き取った捜査員がその内容を記載したというものにすぎないわけですから,それ自体が証拠として重要であるとは通常は考えられないと思います。その中で重要なものは,もちろん本人に供述してもらって供述調書という形になり,それはこの類型に該当すれば類型証拠として出ていくわけですから,そういう経過を経ていない,まだ前段階のものを類型証拠として一次的にまず開示しなければならないというのは,そこまでの重要性があるとは少し考えにくいと思います。他方で,その弊害の話になりますが,何か事件が発生したときには,限られた時間内に限られた捜査員で一斉に現場の状況などを聞いて回るということが行われるわけです。その中には,私どもが,「もし聞いたこと,あるいは見知っていることがあればお話ししてほしい」と言うことに対して,「いや,気付きませんでした」とか,「よく見えませんでした」といったことをおっしゃる方が大半なわけです。また,その中には,何で私がこんな捜査に巻き込まれるのだろうかと,捜査員が来ること自体が迷惑だという方もいらっしゃいますし,たまたまそこにいたアベックの人にも話を聞いたりするわけですけれども,「私たち二人がここで会っているということが何かの形で表に出たりしないのでしょうか」といったいろいろな懸念を言われる中で,何とか捜査に協力していただいているという状況であります。証拠として外に出ていくときには,改めて先ほど申し上げた供述調書として証拠化をする段階できちんと「表に出ていく話です」と説明した上,納得が得られれば証拠化をするというものなわけです。その前段階の第一次的な捜査の段階で,捜査報告書にまとめるからといって,そういう手続をいちいちとっていたら,これはもう捜査が立ち行かなかなくなる,非常に捜査に支障が生ずるということにもなりますので,弊害の程度はかなり大きいと思います。そういうことを考えますと,重要性に乏しくて,他方で弊害が大きいというものを類型として規定するということについては,私どもとしてはこれも反対せざるを得ないと思います。  それから,②の取調べ状況報告書です。これは,先ほど上冨幹事がおっしゃったとおり,たまたま身柄を拘束されて取調べを受けていた方が,証人になるというときにだけ,この類型に乗ってくるというのはおかしな感じがするのです。通常の証人・参考人は,身柄を拘束されていないことが一般的だろうと思いますので,そういう方が類型から外れて,たまたま身柄を拘束されている人が参考人として取り調べられているときにこの対象に乗ってくるという半端なものは,正に制度としてはなじみにくいだろうと思います。 ○保坂幹事 確認なのですけれども,小野委員がおっしゃっている①の類型として加えるべきものについては,今は捜査報告書というものが前提で議論が進んでいますが,それでよろしいのかという点と,これは6号の拡大という趣旨での御提案だと理解していますけれども,5号の証人予定者から聞き取った捜査報告書は念頭に置いておられないという趣旨なのかどうかという点を確認させていただければと思います。 ○小野委員 もちろん,5号で該当するものは5号で類型証拠開示請求になるのだろうと思います。ですから,今お尋ねになった趣旨がちょっとぴんとこなかったのですけれども,5号該当は5号該当で当然存在するわけですから,これはこれでよろしいのだと思うのです。それで,6号の中に今の御指摘の捜査報告書の中に,そういう供述録取をしないままのそういう供述の報告があるということを念頭に置いて申し上げているわけですけれども,よろしいですか。 ○保坂幹事 まず,前提として,捜査報告書,つまり捜査官が聞き取ったものを書類にしたためたものを念頭に置いておられるということでよろしいのですね。 ○小野委員 そうです。 ○保坂幹事 次に,5号についてですが,5号の証人予定者の捜査報告書というものは対象として考えておられないという趣旨でよろしいのでしょうか。 ○小野委員 はい。それから,ちょっといいですか。②の点について,たまたま身体を拘束されていると今おっしゃったわけですけれども,身体拘束されている中での供述というものと,そうでない状況での供述というものは,現状では違うことがはっきりしているわけです。だからこそここでは,身体拘束中の取調べ状況記録書面が当然そこには存在し,そういう場面,そういう状況での供述録取というものがあるときに,どういう経過でどういう過程でどういう状況で供述がなされたのかということについては,その必要性が格段に違うのではないかという趣旨で提案しているということです。 ○上冨幹事 例えば,ある殺人事件で身柄拘束されている人が別の交通事故の目撃者であったという事例で,20日間の間に1時間だけ,目撃状況についての取調べをしてその目撃状況の供述調書が作成されたといったときに,その交通事故の事件の類型証拠として,20日分の殺人事件の分を含む取調べ状況報告書を一律に開示するという仕組みに多分なるのだろうと思うのです。しかし,交通事故の目撃状況を話したときの取調べ状況しか恐らく問題にならないであろうというときに,それがなぜその主張関連証拠では駄目で,一律に類型証拠になるのかというのが,多分制度として据わりの悪さなのかという感じがいたします。 ○川端分科会長 具体例で質問が出てきておりますので,それに即してお話ししていただければ有り難いのですが,御意見はございませんでしょうか。 ○小野委員 今お話のあった具体例は,余りにも通常考え難いケースを基にお話しされていると私には思えまして,その希有な場合を想定してこの類型を考えるのが議論として適当なのかどうかということについては,非常に疑問に思います。 ○川端分科会長 今の例は,罪種が違うので,特殊すぎるということなのでしょうか。 ○小野委員 そうですね。 ○川端分科会長 例えば,強盗殺人とか強盗等に関連する窃盗事件等の場面ではいかがでしょうか。 ○小野委員 だから,むしろ,もちろんそういうケースは一般的にあり得ると思うのですけれども,そういうケースでこそ身体拘束の状況の中での供述ということになるわけですから,その必要性は高まるのではないかと思います。 ○川端分科会長 上冨幹事,罪種の問題のようなので,御意見がございましたらお願いいたします ○上冨幹事 どんな制度を組むのかという問題だと思いますけれども,そうすると,何らかの関連性のようなものを持った事件に限って類型の対象にするという御趣旨になるのでしょうか。今ここで検討課題として記載されているのは,恐らく事件の関連性とかは問わずに,専ら供述者の身柄が拘束されているという状態にあるかどうかだけで決めるという制度だと理解していましたので,そうすると制度の外縁がかなり広いものになるのだろうし,それが類型証拠の在り方として適切かという点を,今後考えていく上では意識すべきかと思って指摘を申し上げました。 ○川端分科会長 ①・②の問題は,今言ったような問題点があるということを踏まえて,再度課題として検討させていただきたいと思います。  次に証拠物についての③・④ですが,先ほど酒巻委員から④について御質問がありましたので,事務当局から御回答願います。 ○保坂幹事 小野委員から御説明をしていただくのがいいかもしれませんが,証拠物が類型証拠として開示されるというのは,例えば,供述調書の中にある特定の人物の行動が書いてあるといったときに,その行動が本当かどうかを確かめるため,その人のスケジュール帳などが類型証拠に当たり得るのだと思うのです。その上で,そのスケジュール帳が誰から出されたものなのか,どこでどのように領置されたものなのかというところを,領置調書や差押調書で確認したいという趣旨でおっしゃっているのだと思います。  少し問題提起も含めて申し上げますが,証拠物を類型証拠として開示するときには,必ずその領置調書や差押調書もパックで開示するという趣旨なのでしょうか。それとも,その証拠物は,刑訴法316条の15第1項柱書きの重要性要件をクリアする必要がありますが,その証拠物の領置調書や差押調書も同じように重要性要件をクリアするものだけが開示されるという趣旨なのか,そうではなくて,その領置調書や差押調書にはまた別の要件を設けるということなのでしょうか。3通りぐらい考えられるかと思うのですけれども,どのような趣旨でおっしゃっているのかを確認させていただければと思います。 ○小野委員 必ずしも常にパックでということではないのだろうと思うのですけれども,一般的にはパックになるのだろうと思います。ただ,もちろん,もしこういう類型を定めるとして,その類型では,その証拠物があると,言わば証拠物の出てきた経過,どこにあったかといったことについての必要性・重要性ということの判断はあるのだろうと思いますけれども,通常,実情としてはパックになってしまうのでしょうね。 ○川端分科会長 ③・④に関して,ほかに御意見はございませんでしょうか。 ○保坂幹事 先ほど差押調書や領置調書に関して,表題はこれに限らないという御発言が小野委員からありましたが,事件事務規程や犯罪捜査規範を見ていただくと,捜査機関が証拠物の取得をした場合には,このいずれかを必ず作らなければいけないということになっておりまして,それ以外にもいろいろな捜査書類というものは考え得るわけですが,証拠物を取得したときにはこのどちらかを必ず作るということになっております。表題が別のものとおっしゃったのは,差押調書・領置調書以外のものという趣旨にも聞こえたのですが,そのような趣旨ではなく,証拠物には必ず差押調書・領置調書が存在するのであれば差押調書・領置調書が対象になるという理解でよろしいのでしょうか。 ○小野委員 現状で「差押調書」「領置調書」という表題ではなくて「報告書」といった表題でそういう経過について記載されているものが現にあるのではないかと思うのです。 ○保坂幹事 おっしゃるとおりあるのですが,そのときにはその報告書をも類型証拠の開示対象にせよとおっしゃるのか,それとも,あるにせよ差押調書・領置調書を類型証拠開示の対象とすれば足りるという趣旨なのかを確認させていただきたかったのです。 ○小野委員 ですから,あるので,そういう報告書も対象とするべきではないかという趣旨です。 ○上冨幹事 領置調書か差押調書が必ずあるということを前提とすれば,多分それをまず開示すれば足りて,その内容がおかしいと思えば,今度はその証拠に関連する内容の報告書の開示に移るという形で十分な気がするのですけれども。 ○小野委員 その場合は,類型証拠ではないので,主張関連証拠ということになるのですか。 ○上冨幹事 そうです。だから,捜索差押調書が元々刑訴法316条の14で開示されている③の類型の場合であれば,それの類型証拠として報告書が出てくるし,元々の開示が刑訴316条の15の開示であるとすれば,刑訴法316条の20の主張関連証拠の開示ということになるのだろうと思います。 ○酒巻委員 全く上冨幹事と同じことですけれども,要するに③・④について,④についてもどういう話かようやく分かりましたが,一般的・抽象的に言って,類型証拠開示の対象とする,つまり条文化して新たに付け加えるような必要性・相当性があるかどうかそのものを検討していただいた方が良いのではないでしょうか。そして,③についても,④もそうかもしれませんけれども,普通はそのものが証拠調べ請求されるのだろうから,そうしたらそれが開示されるのは当たり前で,あとは,その差押調書や領置調書自体がよく分からない,疑わしいということをお考えになって,更にそれ以外の付随の紙を開示請求されるのでしょうが,そのことに本当に何か意味があるのですか。 ○小野委員 だから,基本的にはもちろん差押調書・領置調書なのでしょう。 ○酒巻委員 そういう捜査報告書のようなものは,やはり類型証拠ではないのだろうと思います。 ○小野委員 いや,そうなのですか。証拠物にそういうものが付いているということであれば,逆に類型証拠なのではないですか。もちろん請求証拠で出ることが多いのでしょうけれども,そうではない場合もあるわけで,その場合にそれをこそ類型証拠と言っておかしくないのではないかと考えてはいるのですけれども。 ○岩尾幹事 以前に,③と④の対象として考えているのは差押調書や領置調書でいいですか,どうなのですかということを質問させてもらったのですけれども,元々小野委員の提案された改正意見としては,「証拠物が押収された経過に関する供述を内容とする供述録取書等」と書いてあって,このように「経過に関する」と言われても,その外縁が全然定かではなく,先ほど言われた捜査報告書等のあらゆる形態の証拠にも,押収経過に関連するものがあるということになってしまうと,これはなかなか類型証拠にはなじみにくいと思います。そうすると,必ず作成される必要最低限の差押調書や領置調書が検察官請求証拠になっていれば,それを更に膨らませた捜査報告書は類型証拠になるのだろうし,正に証拠物しか請求されていない,あるいは証拠物自体が類型証拠であれば,少なくとも差押調書や領置調書自体を類型証拠としておけば,それについて更に何らかの主張があれば,主張関連証拠として捜査報告書が含まれる。こういった考え方が正に段階的証拠開示の考え方ではないかと思うのです。以前質問させていただいたときには,この不明確な文言は「差押調書」「領置調書」のみで良いとおっしゃっておられたのが,また変わってしまったのかという確認なのですけれども。 ○小野委員 御指摘のとおり,以前,私も確かにそのように申し上げたことを覚えておりまして,だけれども本当にそれだけで足りるのかと考えて,そこはちょっと広げる必要があるのではないかというのが本日の意見でありまして,そこは以前申し上げたこととちょっと変わりました。すみません。 ○酒巻委員 そのように広がるのであれば,類型証拠にすることにはより一層反対という議論になると思います。 ○川端分科会長 この件に関して,かなり議論が進んできておりますが,これもやはり完全に意見を決めるといった問題ではございませんので,課題として検討させていただきたいと思います。  それでは,「第3 その他(類型証拠開示の対象拡大)」の問題はこれまでとさせていただきたいと思います。  内容的に区切りがいいので,ここで休憩を取りたいと思います。           (休     憩) ○川端分科会長 再開いたします。  次に,「自白事件を簡易迅速に処理するための手続の在り方」について議論したいと思います。  この検討事項に関しましては,配布資料に沿って,「第1 自白事件の捜査の簡易迅速化を確保するための措置」,「第2 一定範囲の実刑相当事案を簡易迅速に処理するための新たな手続の創設」の各検討項目について順次,議論を進めていきたいと思います。  まず,「第1」の検討項目について,配布資料の内容を事務当局から説明していただきます。 ○保坂幹事 資料14の1ページ目,「第1 自白事件の捜査の簡易迅速化を確保するための措置」を御覧ください。これまでの資料からの主な変更点を御説明いたします。  まず,「考えられる制度の概要」については,具体的な制度案の検討に資するため,A案・B案とも,より具体的に記載しております。  A案は,被告人側が有罪である旨の陳述や即決裁判手続によることの同意をしない,あるいは撤回したために即決裁判手続によらないこととなった場合には,検察官が公訴を取り消したときの再起訴制限を緩和するというものですが,即決裁判手続によらないこととなる事由をより具体的にし,「1」においては,被告人側の「ア」から「ウ」までのいずれかの事由によって検察官の申立てが却下された場合を,「2」においては,被告人側の「ア」又は「イ」の事由によって裁判所の決定が取り消された場合を,それぞれ掲げております。  次に,B案ですが,まず「1」は,即決裁判手続によることの同意や有罪陳述は,やむを得ない事由がなければ撤回できないとするものですが,その起点となる時期や対象事件を明確にするため,「即決裁判手続によることの決定があった事件」としております。  B案の「2」ですが,これは新たに第1回公判期日前の陳述手続を設けて,いわゆる冒頭手続から即決裁判手続によることの決定までを,起訴後早期の段階で行うことができるようにするというものですが,「2」の「(1)」として,検察官が即決裁判手続の申立てをした場合で,弁護人がそれに同意をしているときには,第1回公判期日前の陳述手続を行うよう裁判所に請求することができることとし,「(2)」として,裁判所は,陳述手続において被告人が有罪陳述をし,かつ,被告人・弁護人が即決裁判手続によることに同意をしている場合には,この手続において即決裁判手続によることの決定ができ,「(3)」として即決裁判手続の決定がされた事件では,第1回公判期日前に行った陳述手続を,公判期日における冒頭手続とみなすこととしております。  なお,従前の資料では,「1」の撤回制限と「2」の第1回公判期日前の陳述手続を逆の順序で記載しておりましたが,「2」の陳述手続は即決裁判手続による事件の全てについて行うものではない一方で,「1」の撤回制限というのは第1回公判期日前の陳述手続におけるものも含めて即決裁判手続によることの決定があった事件の全てに適用するものですので,本日の資料にあるとおりの順序としております。  続いて,検討課題について御説明いたします。まず「1」のA案についてですが,「(1)具体的な制度内容」の一つ目の「○」は,再起訴制限の緩和の対象とすべき事由,具体的には,制度概要案においては,先ほど御説明したとおり,被告人側の事由として,有罪陳述や即決裁判手続によることの同意をしなかったり,あるいは撤回をしたりした場合を掲げておりますが,そもそも,公訴取消し後の再起訴制限の緩和の趣旨が,被告人側の応訴態度の変更によって簡易迅速な手続によらないこととなった場合には,再捜査・再起訴の途を設けておくことによって最初の起訴に至るまでの自白事件としての捜査が簡易迅速化されるというものであることからすると,有罪陳述が撤回された場合と同様の事態となる,被告人質問で否認に転じて即決裁判手続が相当でないとして取り消されたと場合も,再起訴制限の緩和の対象事由とすべきかどうかについて御検討いただきたいと思います。この点については,いわゆる即決不相当として取り消された場合の事由というのが手続上明確になるものかどうかも踏まえて,御検討いただければと思います。  次に,「(1)」の二つ目の「○」は,当分科会において,身柄拘束を必要とする立場とそれを制限的にすべきとする立場の双方から御指摘があったことを踏まえ,そもそも「現実に身柄拘束が必要となる場合がどの程度想定されるか。」という点と,「公訴取消による公訴棄却後も引き続き身柄拘束ができることとする規定を設けるとすれば,期間や要件等についてどのように考えるか。」という点,そうではなくて「現行法下と同様の再逮捕・再勾留の取扱いによるものとした場合に,身柄拘束期間を制限する仕組みについてどのように考えるか。」という点を追加しております。  続いて,「2」のB案についてですが,B案の「ア 第1回公判期日前の陳述手続」について,一つ目の「○」として,これを行う時期を検討課題としております。この陳述手続を設ける趣旨からすると,起訴の当日も含めて,できるだけ早期に行うことが起訴に至る捜査の簡易迅速化に資するということになりますが,そうすると,弁護人が証拠の開示を受けて即決裁判手続によることの同意をするかどうかの態度を決定する期間がほとんどなくなってしまうことから,制度概要案においては,弁護人が意見を留保している場合は対象とせず,同意をしている場合だけを対象としております。このような観点から,陳述手続を行う時期と,弁護人の同意を要件とするかどうか,逆に言うと,留保しているときもこの陳述手続を行うことができるものとするかどうかということを併せて御検討いただければと思います。  次に,二つ目の「○」においては,第1回公判期日前の陳述手続を行った場合の,第1回公判期日における手続の在り方を検討課題としております。陳述手続においては,いわゆる冒頭手続から即決裁判手続によることの決定までを行うこととしておりますが,その上で,公判期日において,改めて冒頭手続を行うのか,行わないとした場合には,陳述手続の結果を顕出する必要があるのかを御検討いただければと思います。  そして,「3 制度の有効性」については,「(1)」として,「A案又は(A案に加え)B案のいずれが捜査の簡易迅速化を図る仕組みとして有効か。」,次に,「(2)」として,B案について,撤回を認める「やむを得ない事由」としてどのようなものを想定するかという点のほか,これにも関連しますが,当分科会でも御指摘のあった,「原則として同意・有罪陳述が撤回できないものとすると,被告人側が躊躇して利用されなくなるおそれをどのように考えるか。」や,「被告人質問で実質的に否認する(相当でないとして即決裁判手続によることの決定が取り消される)ことがあり得る点をどのように考えるか。」を検討課題として掲げております。  資料の御説明は以上です。 ○川端分科会長 この検討項目は,後ほど議論する「第2」の検討項目とも密接に関連するものですが,まずは,捜査の簡易迅速化を図る仕組みとして具体的にどのような制度が考えられるかという観点から御検討いただいて,そして,新たな手続の在り方との関係での課題や留意事項については,「第2」の検討項目の議論において適宜御指摘いただければ有り難いと思います。  それでは,最初にA案として示されている「公訴取消後の再起訴制限の緩和」という案に加えて,B案として示されている「同意等の撤回の制限」という案の検討課題について,それぞれの案についてのものでも結構ですし,あるいは両案に関わるものでも結構ですので,御意見,御質問等がございましたら,御発言をお願いいたします。 ○髙橋幹事 制度の有効性というところに関係する点で,このA案・B案は現行の即決裁判手続を前提として,その上でA案・B案を取り入れたらどうかということだと思うのですが,現行の即決裁判手続については,平成20年をピークにかなりその申立件数が下がってきているという状況がありまして,その原因は何なのだろうかと思うのです。逆から言うと,例えばこういうA案・B案のようなものを取り入れると,本当に捜査が省力化されて現行の即決裁判手続の利用促進が図られるのかというところなのですが,申立てをする側の実情というか,感覚のようなものを教えていただきたいのです。 ○保坂幹事 その点については,従前,部会や分科会でもいろいろと議論があって,それぞれその都度説明してきているかと思うのですが,即決裁判手続の利用が低調である理由はいろいろと考えられて,一つ言われているのは,簡易で自白しているような事件でもいわゆるフルスケールの捜査をやらざるを得ないとなると,公判だけが簡易迅速化される手続を検察官として選択するインセンティブが働かず,また,メリットも余りないのではないかということです。そして,なぜフルスケールの捜査をせざるを得ないかというと,結局,被告人が否認に転じ得ることをも想定して捜査をしているからそういうことが起きるのだろうと思います。そこで,A案においては,いざとなれば公訴を取り消して,捜査にまた戻れるという途を設けておく,加えてB案で,被告人側の応訴態度を早期に固定することによって,その時点以降は少なくとも追加的な捜査は基本的に必要ないだろう,逆に,陳述手続において否認に転じるというのであれば,その時点でA案とパックになることによって早期に捜査に戻れるということです。それが本当にどうなるのかということになると,先の見通しですのでなかなか確たることは言いにくいわけですけれども,今までの議論ではそのような意見があって,このような提案に至っているという次第です。 ○髙橋幹事 これも従前御説明があったとは思うのですけれども,例えば否認に転じた場合でも公訴の取消しをしないで,通常は,裁判所の方で不相当と認めて即決裁判手続を取り消して通常裁判に移行すると思うのですが,ある程度の捜査というのは被告人の身分を保ったままでもできると思うのです。それを被告人ではなくて,公訴の取消し,公訴棄却を経て,言わば被疑者の状態に移行させることによってどれほど捜査がしやすくなるのかということもまだよく分からないというのが一つです。  それから,B案でも検討課題として挙げられているのですけれども,否認に転じた場合は,裁判所としては不相当ということで通常手続に戻すことになると思うのですが,そうすると,同意あるいは有罪陳述の撤回の制限をかけたところでそのような事態は防げないのかなと思うと,どれほどの意味というか,縛りをかけることの実効性があるのかという辺りもちょっと疑問なのですが,その辺りについてはどのようにお考えですか。 ○上冨幹事 先ほどの御質問にも関連しますが,即決裁判の申立て件数が制度設計のときに考えていたほど伸びていない理由は,多分いろいろとあるのだろうと思っていますが,この提案でその全てを解決することができるとは恐らく考えていなくて,簡易迅速な手続に向いていると言われる事件の捜査をどのようにやるかというところの発想を変えるための制度提案なのだろうと理解しています。捜査については,もちろん自白が重要な証拠になるとは言われていますが,必ず自白がなくとも立証できるのか,あるいは自白を後に撤回しようと思っても撤回できないような裏付け証拠があるのかということを考えるのが捜査の基本だと,恐らくどの捜査官も最初から発想していると思います。そして,残念ながら現行の即決裁判手続では,そこの部分について,幾ら簡易迅速な手続であると言っても,なかなか捜査のところまでその影響が及んでいなかったという問題があるのではないかというのが,この提案の発想の基なのだろうと思います。その意味で,おっしゃるとおり,公訴の取消しまで必要になる事件というのはごく限られているのかもしれませんけれども,最終的に公訴を取り消す可能性を認める仕組みを設けておくことで,捜査にもめり張りがあって良いのだという意識を導入し,簡易迅速な手続に向いている事件は,それに必要十分な捜査でまずは手続を前に進めるということが,捜査機関の立場からも安心してできるような制度的手当てとして発想されているのだと思います。この制度で全ての問題が解決するかどうかは別として,一定の効果は見込めるのではないかと感じているので,検討する価値はあるのだろうと思います。 ○露木幹事 なぜ即決裁判の申立てが減っているのかというのは,私も実務を精緻に分析したわけではないのでちょっと感覚的な話になるのですけれども,これは元々制度発足当初からそうだったと思うのですが,ボリュームのあるものを対象にしないと意味がないわけで,そのボリュームがあるものの中で,傷害罪のように身体犯という被害者のいる犯罪にはちょっと使いづらいということがあって,被害者のない犯罪である覚せい剤事犯とか,不法入国のような入管法違反といったものが主として適用の対象として考えられていたのだろうと思います。入管法違反は,御案内のとおり情勢が変わってまいりまして,そもそもの事件数が減りましたのでその分がちょっと落ち込んでいるということがあると思います。あと,覚せい剤事犯などは,本来,例えば使用罪で捕まえた人はそれをどこから調達したのかということを捜査しないといけませんので,ちょっとなじみにくいという面もあるのです。組織犯罪という側面を帯びているところもありますので,入手先を追及しようとするとこれはちょっとなじみにくいということもあって,そこの見通しをどのように立てるのか,これは追及しても無駄であると考えれば,10日間で捜査を終えてこの手続に乗せるものもあれば,これは少し背後関係を追及する必要があると考えれば,この制度に乗せないで通常捜査で通常公判ということになっているのだろうと思います。その後者の割合が今増えてきているのかもしれません。  あと,財産犯,万引きなどが時々対象になっていますけれども,捜査の省力化の効果がそれほど見込めないということもあって,恐らくそれほど件数が伸びていないのだろうという感じでおります。 ○川端分科会長 ほかにいかがでしょうか。 ○小野委員 要するに,捜査の省力化という言い方はちょっと適当でないかもしれませんけれども,必要十分な捜査ではあるのでしょうが,実際に事件としては,今,露木幹事がおっしゃったようなケース以外にも対象となるものがあり得るのだろうと思うのです。それで,どうも感覚的な話でちょっと恐縮なのですけれども,勾留全体が長くなっているというか,10日は取りあえずもういいから20日が普通といった感覚もちょっとあるのかという気もしないでもないのです。大した捜査をしなくても起訴できる事件というのは現にあって,取調べの回数もそれほど要らない事件もあり,証拠収集についてもそれほど時間の掛からない事件が現にあると思うのです。ただ,実際にそれも,きっちり勾留だけは続くといった実情があるように思われます。ではこういう仕組みを入れたからそこは変わるのかどうかというのはよく分からないのですけれども,もし変わる余地があるとすれば,そこの見極めといいますか,早い段階で見極められる事件もあり,見極めたらこれでいくのだという仕組み,道筋をつくっていく意味はもしかしたらあるのかもしれないと思います。ただ,ここで出ている同意の撤回を制限するということはなかなか難しいことでしょうし,実際に否認供述に転じてしまったらそれはそれでもうしようがないわけですから,そこの仕組みがちょっと難しいと思うのですけれども,もし再捜査という途があって,それを捜査官の方で使えると思うのであれば,そういう仕組みがあってもいいのかもしれません。ただ,本当に捜査の実情として,こういう仕組みがあったときに,現場の方々が使ってみてもいいと思われるのかどうか,そこが私どもには感覚的によく分からない。だから,A案・B案ということで言えば,同意の撤回制限は実際にはなかなか難しくて,そういう仕組みがあると弁護側としてはちょっと乗りにくいと思いますけれども,A案のような仕組みがあったときに,本当にこれを使ってくれるのだったらそれはそれでいいのだろうと思うのです。その感覚がどうなのかという,こういう仕組みがあったらいいと思われるのかどうか,そこをちょっとお聞きしたいという気がするのです。 ○上冨幹事 似たような話の繰り返しになってしまうかもしれないのですけれども,まず,同意が撤回されても特段の補充捜査をしなくても公判が維持できるだろうという証拠関係の事件というものが恐らく相当数あるのだろうと思います。次に多いのは,補充捜査はするけれども,公訴の取消しまではせずに起訴後の補充捜査をするという類型であって,最後に,被告人という地位をまずなくさないとできないような,例えば,強制捜査までしなければいけないというところまで撤退するような類型があって,そこまでいざとなれば使えるのです,そういう余地もあるのですということを捜査機関の側で認識して,本当の意味での必要十分な捜査に限るという方針をきちんと捜査機関が持てば,一定の効果はあり得るのではないかという感じはします。おっしゃるとおり,この制度を使う上で,捜査機関がこの制度がある以上きちんと使うのだと決めなければいけないのだろうと思いますけれども,その上であれば一定の効果はあるのではないかという感じはします。 ○髙橋幹事 その意味では,先ほど小野委員も身柄の拘束期間の話をされたのですけれども,捜査を省力化する以上,例えば起訴までの期間も,この手続に乗せられるような場合は10日間,あるいはそれよりも短い段階で起訴するといった形で省力化した結果,身柄の期間も短くなるのだと,そのような意味でのいい効果も現れるというところまでも考えているということでしょうか。 ○上冨幹事 実際には個別の事件で決まることなのでしょうから,一律の話ではないのでしょうけれども,即決裁判手続あるいはこういう制度に乗せていく事件は当然捜査も比較的短期間で終わるでしょうし,本来時間を要するであろう詳しい裏付け捜査などを省力化するのが元々の目的だとすれば,捜査期間も短くなるのだと思います。逆に,そこを短くできないのであれば,捜査機関においてもメリットはないわけで,人的な,あるいはいろいろな資源を少なく済ませようという話ですから,そこは当然そのような方向に動いていくべき制度なのだろうと思います。 ○宇藤幹事 私はもちろん実務家ではございませんので,この制度の実際の有効性がどの程度あるのかは分かりませんけれども,現行制度よりは利用しやすくはなるはずだと思います。従来問題になっていたことの一つは,当初の予定どおりならば,証拠の量は少なくとも十分に合理的な疑いを容れない程度の立証が可能であるところ,仮に被告人が争い始めれば,そのままの証拠の量では立証が崩されかねないということを極度に恐れるという場合があることです。いわば懸念を先取りし,回り込んで証拠を積み上げるような対応を,検察官がとるということです。そうであるとすると,その懸念を払拭するために証拠の量をどの程度積み上げるかというところで,少数のものでも足りる,あるいは足りないことが分かれば,元へ戻して足りない分の証拠を積み上げるのも許されるという制度があるということは,十分に意義のあることだろうと思います。 ○川端分科会長 まだ今の点で御意見はございませんでしょうか。 ○上冨幹事 ほかの点なのですけれども,ちょっとだけよろしいでしょうか。検討課題のうち枠内の制度概要に関わる部分について,2点ほど申し上げたいと思います。  検討課題の最初のところ,被告人質問で否認に転じたことにより不相当ということになって決定が取り消されたときの取扱い,現在の制度概要ではそれは対象になっていませんので,そこについてですが,多分,実質的な意味からすれば,否認に転じた場合に公訴の取消しができるようにするという仕組みにしなければ,つまり同意や有罪陳述の撤回という手続なのか否認なのかで意味が変わってしまうのであれば効果が減殺されてしまうという意味では,否認の場合も同じように対象とすべきだということになるのだと思います。ただ一方で,決定の取消しがどのような理由で行われたのか,否認に転じたために不相当になったのかということが手続上明らかにならないと,公訴取消し後の再起訴が適法かどうかの分かれ目になる部分が明らかでないことになるので,仮にここで否認に転じた場合も含めるとすれば,なぜ取消しになったのかというところを手続上明確にできるかどうかということも含めて考えるのがここの論点なのだろうと思っているのが1点目です。  もう1点は,B案の関係で,今の制度概要では弁護人の同意があるときだけ陳述手続を行うということになっていて,留保の場合をどうするかということがありますが,留保されている事件には,弁護人が証拠を見ないと同意するかどうか判断できないと言っている事例が結構多いのだろうと思います。仮にそういう事件について事前の陳述手続をかなり早期に設けたとしても,結局同意が得られるかというとなかなか難しいとすれば,弁護人の立場としてこの事件は同意で良いと言っている事件に限って陳述手続を設けることとすれば,まずは良いのではないかと思いますので,制度概要の範囲でいいかと思っています。 ○川端分科会長 今の点は後で検討事項として考えさせていただきたいと思います。  それでは,次に「第2 一定範囲の実刑相当事案を簡易迅速に処理するための新たな手続の創設」についての議論に移りたいと思います。  まず,配布資料の内容を事務当局から説明していただきたいと思います。 ○保坂幹事 それでは,資料14の4ページ目,「第2」のところを御覧ください。これまでの資料からの主な変更点を御説明いたします。  まず,「考えられる制度の概要」のうち,「1」の「(1)」について,一定の対象事件を前提として,検察官が新手続の申立てをすることができる要件につき,これまでの御議論も踏まえ,「事案が明白であり,かつ,重大でないこと,証拠調べが速やかに終わると見込まれることその他の事情を考慮して相当と認めるとき」としております。  また,「1」の「(2)」及び「2」については,検察官が被疑者又は弁護人に新手続によることについて同意するかどうかの確認を求めるときの手続や,裁判所が被告人に新手続を理解させるために必要な事項について説明するときの手続について,より具体的に記載し,「3」から「5」までについては,表現振りを改めていますが,内容的には従前と同じです。  次に,検討課題についてですが,対象事件については,例えば常習累犯窃盗等については対象としてもよいのではないかという御指摘もありましたので,「いわゆる法定合議事件を除く事件とするか」として,具体的に対象になってくる事件を書き出し,「(以下の罪を対象とすることの要否・当否)」を検討課題としております。具体的には,現行の即決裁判手続や簡易公判手続では対象となっていないものの,常習累犯窃盗など,この手続で対象とすることが考え得る罪名を挙げておりますので,その要否・当否を御検討いただければと思います。  続いて,「(2)検察官の申立ての要件」と「(3)手続保障」についてですが,制度概要案をより具体的にしたことに伴いまして,検討課題としては,それぞれ,「検察官の申立ての要件は,制度概要案のとおりとするか,事案の軽重(「重大でないこと」)についてより適切な要件が考えられるか。」,そして,手続保障については,「制度概要案に掲げたもの(検察官・裁判官による告知)のほかに手当てが必要なことがあるか。」としております。  「(4)科刑制限」及び「(5)判決の言渡し時期」についても,当分科会での御議論を踏まえ,それぞれ,「制度概要案のとおり(3年以下の懲役・禁錮)とするか,より適切な科刑制限が考えられるか。」という点と,「判決の言渡し時期について,制度概要案のとおり(できる限り5日以内)とするか,より適切な期間が考えられるか。」を検討課題としております。  次に,「(6)予定科刑意見の告知」ですが,被告人側はこれを前提として新手続に同意するかどうかの選択ができるようにするというものでありまして,その実効性にも関係しますが,「告知した予定科刑意見を裁判所に知らせるものとするか。知らせるとした場合,どのような手続によって行うものとするか。」と,「告知した予定科刑意見の変更を許すか。許すとした場合,どのような要件・手続を行うものとするか。」を検討課題として追加しております。  最後に,「2 その他の課題」として,これまで部会や当分科会で示された御意見あるいは御懸念を踏まえまして,情状立証の準備を含めた量刑判断に要する証拠調べの必要性をどのように考えるか,一部猶予事案の話もありましたが,そのようなものも含めた実刑事案における裁判所の量刑判断の在り方や必要な期間についてどのように考えるかということを検討課題としております。  資料の御説明は以上です。 ○川端分科会長 検討課題のうち,「その他の課題」も念頭に置きながら,具体的な制度内容として示されている点について,御意見,御質問のある方は御発言をお願いいたします。 ○上冨幹事 対象事件についてですけれども,制度概要には具体的なことが書いてありませんが,検討課題にあるように,法定合議事件は除く,単独でできる事件を対象とするということで良いのではないかと思います。資料に書いてあるように,法定刑が重い事件でも,現行法上,単独裁判所で審理できるとされている事件は対象としても良いでしょうし,他方,やはり合議体でなければ審理できないとされている事件をこの制度に乗せるというのはどうかという感じがいたします。 ○酒巻委員 対象事件の手続要件ですが,即決裁判手続の条文には「軽微であること」と書いてあって,今度の新しいものには「重大でないこと」とある。この表現は何とかならないのかという気がするのです。表現だけの問題ですが,「軽微」と書いてしまうと,実刑相当だからちょっとうまくないのでしょうね。普通は「重大である」というのはよく要件にあるけれども,「重大でないこと」というのはとても気持ちが悪い。内実としては,上冨幹事が言ったようなものを考えているというのはよく分かりますが,要件としてはどのように書くのが良いのかを考えないといけないと思ってしまいます。 ○川端分科会長 内容のほかに用語上の問題になりますので,それはまた後で検討させていただきます。 ○髙橋幹事 幾つか意見あるいは質問があるのです。まず,検討課題1の「(1)対象事件」のところなのですが,確かに殺人のような法定合議事件,このような重大な事件を扱うのは相当でないというのは分かるのですが,例えば単独でも処理できるようなここに書いてある強盗罪とか常習累犯窃盗罪とか,こういった罪名についても,この事件だから即決裁判手続でいいのだと決まるのではなくて,ケース・バイ・ケースで,同じ強盗でも即決裁判手続になじむ事件となじまない事件はあるわけで,そもそもこういう新しい制度を設けることに疑問を持っている立場からすれば,裁判所としては,個々の事件でその被告人あるいは事件の特性を踏まえて,この事件についてはどれぐらい審理期間をかけるのか,あるいは判決までにどれぐらい熟慮が必要なのかということを判断していくのでありまして,特に実刑が見込まれる事案についてはそう簡単に判断できるものではないというのはこれまでお伝えしたとおりです。そのような観点から言うと,罪名で切り分けるということにも違和感を覚えているところです。  それから二つ目は,先ほど酒巻委員もおっしゃったのですが,「重大でない」というのがなかなかイメージが湧きにくいというところがあります。  それから,手続の関係で,被疑者に対して新手続を理解させるために必要な事項について説明するという義務が裁判所に課せられているのですが,現行の即決裁判手続ではそのような規定はない一方で,今回の実刑即決の場合に付けるのはなぜかと,これは質問です。むしろ現行の即決裁判手続でも,「こういう手続でこれから進みます」あるいは「上訴制限などが掛かっています」と,こういう手続で進むのだということを被告人に分かってもらうということは大切なことで,実刑であろうが猶予であろうが,そこに重大な差はないかと思うので,なぜ実刑即決の場合だけより丁重な説明をする必要があるのかという点がちょっと分かりにくいと思います。  さらに,判決の言渡し時期について,「できる限り5日以内」とするか,より適切な期間が考えられるかとあるのですが,これもこれまでお話ししたとおり,それは事件ごとによって決まるものですので,法律で何日以内というのはなじまないと思います。  それから,検討課題(6)の「予定科刑意見の告知」についてです。告知する時期はここでは明らかではないのですけれども,これを裁判所にあらかじめ知らせることの意味,そこで何を求めているのかという狙いがよく分からないので,これは質問になります。 ○川端分科会長 御質問が2点出ていますので,それから先にお願いします。 ○保坂幹事 質問も含めてですけれども,まず対象事件というのは,いわば最初の入口でありまして,今は短期1年以上のものを除くとしているときに,それを法定合議事件を除くとすると,含まれてくる事件としてはこのようなものがありますとお示ししているわけで,罪名を列挙するという趣旨ではありませんし,対象罪名の事件であっても,その後ろにある,明白性や証拠調べが速やかに終わる,そのような要件を満たすかどうかを,個別の事案を見た上で,検察官は申立てをし,弁護人もそれに同意するかどうかを決めることになりますので,一律に対象罪名の事件であれば全てこの手続に乗せるような誤解があるとすれば,そのような趣旨ではないという点が一つ目です。  次に,新手続について,「2」で裁判所の告知を要することにしている点です。これは,現行の即決裁判手続は結論が執行猶予しかないものでした。もちろん手続保障は必要ですが,検察官が同意を求めるときに必要な手続については告知をすることまでが規定されています。他方,新手続では結論において実刑もあるということになるとの観点からよりそこを手厚くする必要があるのではないか,要するに結果として上訴制限が掛かるとか,科刑制限はこうであるということを,重ねてにはなるかもしれませんが,裁判所の方からも手続の冒頭のところできちんと説明することが,結果との関係において,より手続保障を厚くするという趣旨で設けているわけであります。  それと,判決の言渡し時期については,事件ごとに違うというのは,そのとおりだと思うのですが,そのような意味で言うと,執行猶予という結論しかない現行の即決裁判手続においてもできる限り即日に判決を言い渡すこととされていて,それでも事案にはよるけれども,それにふさわしい事件がその手続に乗って即日判決になるということですので,実刑を言い渡す場合に,もう少し時間を取ればある程度の事件が手続に乗ってくるということであれば,何日以内ということが考えられるのではないかという趣旨での提案になっています。  また,予定科刑意見を告知したときに,それを裁判所に知らせるかどうかについて言いますと,これは正に御議論いただきたいことでありまして,検察官が被告人・弁護人に予定科刑意見を告げて,それを前提として被告人・弁護人はこの手続に乗る,その上で審理に臨むというときに,裁判所はそれをまるで知らないで審理するのが良いのか,やはり知った上で審理するのが良いのかという点も含めて御検討いただければという趣旨です。 ○酒巻委員 一連の議論に関連して,特に手続保障の面は今の即決裁判手続と違うというのは確かにそうなのだけれども,これは理屈の話なのかどうか分かりませんが,結論がやはり今の即決より重大というか,重くなるわけですから,その分,手続の主宰者である裁判所の丁寧な御説明が行われるということ自体について,これを手厚くするということでいいのではないかと今は思っています。  それから,科刑意見の告知についても,被告人・弁護人側には当然この手続に入っていただくかどうかの判断の素材として,それは非常に重要なことだろうとは思うのですが,それが裁判所を拘束するようなことは法制度としては考えられない。けれども,その上で,僕には分かりませんが,裁判所がそれをお知りになっていた方が審理がやりやすいのか,裁判所だけは全然知らないまま,こちらの当事者側では予測可能性はある程度立っている,仮にこれを作るとすれば,そのどちらがいいのかという問題なのでしょう。 ○川端分科会長 今の予定科刑意見の告知の件ですが,髙橋幹事に裁判所の立場としてどのように思われるのかをお伺いさせてください。今のような場合に,訴訟指揮上,何か影響が出てくる可能性があるのかどうかについて,感覚的にその辺はいかがお考えでしょうか。 ○髙橋幹事 裁判所は予定科刑意見や求刑には拘束されないわけですが,いずれにしろ刑についての検察官の意見は訴訟手続の求刑の段階では知り得るわけです。その求刑を踏まえて,それより低い刑,あるいは場合によっては同じか又は高い刑を科すことがあるのですが,それは御意見としては基本的にはその段階で分かればいいかと思います。例えば,訴訟が始まる初期の段階で,この事件では2年求刑をすると被告人・弁護人に言っておきましたということを知らされて,ではそれで裁判所の訴訟活動が何か変わってくるのかというと,それは腹の中で「軽いな」とか,あるいは「それほど重いことを言っているのか」と思うのかもしれませんけれども,当事者はその手続に同意して即決裁判手続に入ってくるわけなので,例えば弁護人に何か更なる情状立証を促すとか,そういうことの原動力になるようなものでもないと思うので,それにどういう効果があり得るのかというイメージが今の段階では全然湧かないというのが率直なところです。 ○小野委員 弁護人とすると,根本的にもちろん裁判所は科刑意見に拘束されない仕組みしかないのだと思うのです。そうするとやはり,例えばこれが10か月なのか1年6か月なのか2年なのかということで,仮に科刑意見があらかじめ知らされて,もちろん科刑意見が更に変更を許すということになってしまうと,もうどうにもならなくなってしまうと思うのですが,科刑意見は変えないとしたとしても,1年6か月だとなった科刑意見を前提に,弁護人が公判でどこまでの証拠を出す必要があるのかないのかということを考えてみると,一応出せるものはみんな出しておかなければしようがないということになるだろうと思うのです。それで実際には科刑意見が1年6か月だけれども判決が2年になってしまいましたということになってしまったら具合が悪いので,その辺も考えると,弁護活動としてどこまでやらなければいけないかという判断も難しいことになりますし,それがおろそかになってしまったために刑が重くなってしまったらとんでもないことになってしまうということで,どういう手続保障があっても,やはり使いにくいと思ってしまいます。 ○宇藤幹事 まず,予定科刑意見の告知というところなのですけれども,これが使いづらいか使いづらくないかというところは,判断が付きかねるところはあるのですが,拘束力がないということであれば,理論的に見て問題はないだろうと思います。   あと,手続的保障の点なのですけれども,今回,制度概要案ということで出ている制度は,基本的に現在の即決裁判手続を前提としながら,実刑を下し得ることを踏まえてより保障を手厚くするということですので,基本的によいのではなかろうかと思います。  次に,判決の言渡しの時期なのですけれども,今回の制度は,一定の事件については早く処理できるというところを確保することが主眼かと思います。したがって,全ての事件について5日で処理するということを求めているわけでもありませんし,飽くまでもこの手続になじむ事件についてこういう制度はどうかという形になっているかと思いますので,5日以内が適切かどうかというところは議論のあるところだろうと思いますけれども,一定の期間を切るような形で設定するということは適切であり得るのだろうと思います。  あと,先ほどから出ている「重大でないこと」ということなのですけれども,諸外国の制度の詳細は承知しておりませんが,例えば教科書レベルだと,「中程度の犯罪」といった表現を見ることはあります。それが日本の法文の書き方になじむかどうかというところは分かりませんが,そういうことが表現できればよろしいかと思います。 ○露木幹事 捜査段階からみたときの話なのですけれども,対象犯罪で常習罪あるいは累犯加重の対象になるような場合も想定されているということなのですけれども,例えば常習窃盗ですと,常習性のあるものですから,捕まった本件以外に,余罪多数ということが見込まれることが通常であろうと思います。そういう場合には再逮捕ということになりますので,事案明白ということにはちょっとなりにくいと思いますし,覚せい剤も累犯加重で常習性があるというときには,自己使用で捕まったとしても,何回も買っているということであれば,どこから買っているのかとか,ほかの人に譲り渡したのではないかとか,そういう組織性も解明しなければならないと思われますので,これも事案明白ということには多分ならないのだろうと思うのです。  あと,資料にも書いてありますが,加重傷害とかの被害者のいる犯罪については先ほども申し上げたように,今この制度はほとんど使われていないと思いますけれども,もしこれをやるとなると,被害者の方の意見はどうなのかということも勘案しないといけないことになるのではないかと思います。ですから,実刑相当という場合に一体どういうものを今対象として想定しているのかということを明確にして議論しないと,この制度の意味というものがはっきりしないまま抽象的な議論だけが続いていくような感じもいたします。 ○上冨幹事 今おっしゃった対象犯罪の件については,実際上のメリットをどう考えるかということなのだろうと思います。今の即決裁判手続等にここに挙げられているような罪を加えるということに関しては,私は先ほど申し上げたように検討していいのだろうと思いますが,結局は,個別の内容を見たときに,この新手続でも構わないような事案であっても手続に乗せることができないのが今の仕組みなので,そこに加えることができるといいのではないかという問題なのだろうと思います。ここに挙げられているものは,実刑ではあるけれども,事案によっては,比較的分かりやすいというか,簡易な手続になじみやすいものが個別に見ると一定数あり得るようなものとして,制度の有効性を高めるためには検討に値するのだろうと思います。  それから,まだ御意見が出ていないことの関係で,予定科刑意見の変更の問題ですけれども,先ほど小野委員がおっしゃったように,この手続に乗っているにもかかわらず,予定科刑意見が検察官の事後の判断で一方的に変わってしまうというのは,さすがにこの制度とはなじまないだろうと思います。基本的には,この制度を前提とするのであれば,予定科刑意見を重く変更することは原則としてできないような仕組みにするという方向での検討が適当なのではないかと思います。ただ,もちろん事案によっては,この手続に乗ることを決めた後の段階で,例えば傷害で当初の証拠関係とは違う重大な後遺症が判明したとか,結果が大きくなってしまっていて,当初の求刑意見ではとても適切な対応ができないといったことは個別にはあり得るのだろうと思います。その場合に検察官の一方的な判断で別の求刑ができるのではなくて,恐らくそのような事実関係をきちんと立証した上で,裁判所の御判断で手続不相当ということであれば,通常の公判に移行していくということはあり得るのだろうと思います。他方,そういうことにならない限りは,基本的には,被告人が「新しい重い求刑でも構いません」と異議を述べないという事例があれば別かもしれませんけれども,重い方に変えるというのはなかなかこの制度としては考えにくいかと思います。 ○川端分科会長 確かに,禁反言(エストッペル)の原理がありますので,検察官がそのように申し出た以上は,それを維持することになると思うのです。しかし,軽い傷害だと思っていたら,実は重い後遺症が生じたり, 死亡したりした場合には,今言われたように事情変更が生じておりますから,新たな手続に移行していくという制度設計になるかと思います。  まだ御意見はあると思いますが,時間の関係でこの問題はこれで終わらせていただきます。後日何か問題がございましたら,再検討させていただきたいと思います。  では,これで本日の議論を終えたいと思います。  本日の議論については,特別部会への報告を念頭に置いて,事務当局作成の配布資料に加筆・修正を加えつつ整理させていただきたいと思います。  次回は,「被疑者国選弁護制度の拡充」について担当部局からのヒアリングを行うほか,本日まで当分科会で御議論いただいた検討事項のうち,部会への報告に向けて更に議論が必要と考えられる検討事項について議論を行いたいと思います。具体的な検討事項につきましては,本日の議論を踏まえて検討させていただいて,議事次第を含め,早急に事務当局を通じて御連絡させていただきます。  それでは,これにて本日の議事を終了したいと思います。  なお,本日の会議につきましても,特に公表に適さない内容にわたるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を公表することとさせていただきます。  また,議事録ができるまでの暫定的なものとして,事務当局において本日の議論の概要をまとめて,全委員・幹事に送付していただくことといたします。  次回の日程は,10月22日火曜日午前10時から午後零時30分までを予定しております。場所につきましては,追って御連絡させていただきます。  それでは,本日はこれで閉会いたします。どうもありがとうございました。 -了-