法制審議会 新時代の刑事司法制度特別部会 第1作業分科会(第7回) 第1 日 時  平成25年10月2日(水)   自午前10時01分                         至午後 0時40分 第2 場 所  東京地方検察庁総務部会議室 第3 議 題  時代に即した新たな刑事司法制度の在り方について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○吉川幹事 ただいまから法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会第1作業分科会の第7回会議を開催いたします。 ○井上分科会長 皆様には,御多用中のところをお集まりいただきまして,ありがとうございます。   本日は,お手元の議事次第のとおり,配布資料の説明の後,「取調べの録音・録画制度」及び「通信・会話傍受」についての議論を順次行っていきたいと思います。   なお,本日の議論におきましては,あらかじめお申出がありましたので,「通信・会話傍受」については小坂井幹事に代わって神幹事に,露木幹事に代わって坂口幹事に,それぞれ御出席いただくことにいたします。   まず,本日の配布資料について事務当局から説明してもらいます。 ○吉川幹事 御説明いたします。配布資料9及び10は本日議論が予定されている「取調べの録音・録画制度」及び「通信・会話傍受」について,「考えられる制度の概要」と「検討課題」を整理したものです。これは,これまでの部会及び当分科会での議論を踏まえるとともに,当分科会で更に具体的な検討を進めることに資するよう,事務当局において従前の配布資料に加筆,修正を行ったものです。この内容につきましては,各検討事項の議論に際して,それぞれ説明があります。   また,参考資料として,「取調べの録音・録画制度」に関して露木幹事から,「通信・会話傍受」に関して坂口幹事及び神幹事から,それぞれ資料が提出されておりますので,これをお配りしておりますし,各検討事項に関する参照条文もお配りしております。   さらに,当分科会の第2回会議において小坂井幹事から提出のあった「取調べの録音・録画制度」に関する資料及び当分科会の第5回会議において神幹事から提出のあった「通信・会話傍受」に関する資料も再配布しております。   資料の御説明は以上です。 ○井上分科会長 それでは,早速,本日の一つ目の検討事項である「取調べの録音・録画制度」についての議論に入りたいと思います。   まず,配布資料9の内容を事務当局から説明してもらいます。 ○保坂幹事 御説明いたします。資料9を御覧ください。これまでの資料からの主な変更点について御説明をいたします。   初めに,「第1」の制度案についてですが,「考えられる制度の概要」について,「1」の録音・録画の義務の対象となる取調べについて,「刑事訴訟法198条1項の規定により取り調べるとき」に,「当該事件について」という記載を加えて,身柄拘束の基礎となっている事件の取調べであることを明確にしつつ,特別部会の第20回会議で御指摘のあった,いわゆる余罪の取調べの取扱いにつきましては,検討課題で御検討いただくこととしております。   また,「1」の対象事件につきましては,「いわゆる裁判員制度対象事件」と記載しておりましたものを具体化して,「①」及び「②」として記載いたしました。   次に,「2」の録音・録画義務の例外のうち,「①」は,機器の故障等のやむを得ない事情により記録をすることが困難であると認めるときとしており,「②」及び「③」では,これまでの資料で「記録をしたならば弊害が生じるおそれがあると認めるとき」と一くくりにしていた例外事由について,検討の便宜のため,「② 1の記録をしたならば被疑者が十分な供述をすることができないおそれがあると認めるとき」と,「③ その他」に分け,「②」についてはさらに,「ア」,「イ」,「ウ」に分けて整理して記載しております。   続いて,「検討課題」についてですが,まず,「1」の「録音・録画義務の対象とする取調べ」につきまして,先ほど申し上げた「余罪取調べの取扱いについて,どのように考えるか。」を検討課題として追加しております。録音・録画制度の対象として,裁判員制度対象事件の取調べを念頭に置くとすると,「対象事件での身柄拘束中に別の対象事件の取調べを行う場合」と「非対象事件での身柄拘束中に対象事件の取調べを行う場合」の二つの場合が問題となり得ることから,それぞれについて,その取扱いを検討する必要があろうかと思われますので,そこに掲げております。   次に,「2」の例外についてですが,まず「(1)」の「録音又は録画の一方は困難であるが,他方は可能である場合の取扱いをどうするか。」については,特別部会の第20回会議での議論も踏まえますと,例外事由全般に係る検討課題とするのが適当であろうと思われましたので,位置付けを改め,「(1)全体について」の検討課題として記載をいたしております。   次に,制度概要において例外事由を先ほど申し上げたように整理をしたことに伴い,例外事由「2(3)イ(ウ)」と「(エ)」にそれぞれ制度概要に対応して「(その他)」を追加し,「(ウ)②のウ(その他)について」については,「被疑者が拒否の意思を明示した場合以外の場合であっても,被疑者が十分な供述ができないおそれがあると認める場合は,例外とするか。その場合,どのような要件とするのが適切か。」を検討課題としております。この点は「(3)ア」に記載の「検討の視点」も踏まえつつ,御検討いただきたいと思います。   次に,「(エ)③(その他)について」では,制度概要の「③ その他」に対応しており,検討課題としては従来の資料と同様の事由を挙げております。   次に,「3 実効性の担保」については,従前,見出しを「法的効果」としておりましたが,内容に即して,「実効性の担保」と改め,三つの「○」につきましては,表現は若干変わっておりますが,同様のものを挙げております。   続いて,「第2」の制度案について御説明いたします。   まず,制度概要につきましては,これまでの資料では,制度のコンセプトを簡潔に記載していましたが,今回は,具体的な検討に資するよう,これまでの議論も踏まえて,検討のたたき台としての制度案をお示ししております。   具体的には,裁判員制度対象事件の身柄事件について,「1」では,弁解録取手続の録音・録画を,「2」では,取調べのうち被疑者に供述調書を読み聞かせ又は閲覧させて署名・押印を求める場面の録音・録画を,それぞれ義務付けた上で,「3」で,被疑者が録音・録画を拒否した場合,機器の故障等の外部的事情により録音・録画の実施が困難である場合を例外とする案としております。   検討課題につきましては,制度概要を具体化したことに伴い,また,「第1」の制度案の検討課題との平仄も合わせて,記載を改めております。   当分科会では,「第1」の制度案と「第2」の制度案について,たたき台を策定する必要がありますので,各検討課題について御検討いただければと思います。   資料の御説明は以上です。 ○井上分科会長 本日の議論におきましては,まず「第1」の制度案から,議論を始めたいと思います。   「第1」の制度案に関する検討課題のうち,まずは,「1 録音・録画義務の対象とする取調べ」について,御意見がある方は,どなたからでも結構ですので御発言をお願いします。 ○小坂井幹事 ちょっと事務当局への御質問も含めてということになるのですが。「第1」の「1」で,「次に掲げる事件について逮捕又は勾留されている被疑者を当該事件に」という説明をいただいたのですけれども,これは検討課題の「1」とも関係してくるわけですが,要は「基本構想」で裁判員制度の対象事件の身柄事件を念頭に置きつつと,こういう枠組みがあるのでこういう記載になっているという理解でよろしいでしょうか。これだと言わば二重の縛りが掛かってますよね。身体拘束と当該事件という形で。検討事項の「1」とも関係してくるのですけれども。それは何か実質的な理由があってこういう記載をされたのか,それとも「基本構想」にこう掲げてあるので,取りあえず念頭に置くのはこれなのだということで出しておられるという以上の意味はないのか。そういう質問です。 ○保坂幹事 実質的な意味があるかどうかということも含めて御議論いただきたいという趣旨です。要は,裁判員制度対象事件の身柄事件を対象として義務付けるというときに,その身柄拘束の基礎となる事実なのか,さらにその取調べ対象もその事実なのかというのは議論があり得るところなので,そこを正に議論いただきたいという趣旨でございます。 ○小坂井幹事 そうすると,検討事項の「1」に関して,あるいは「第1」の「1」の文言の書き方によるのですけれども,例えば「次に掲げる事件」というのを省いてしまって,「逮捕又は勾留されている被疑者」を「次に掲げる事件」について取り調べる場合というのは当然案としてあり得るわけですね。それともう一つ,形式的には,逆に「次に掲げる事件について身体拘束されている場合」と,こういうくくり方があるわけですよね。   「検討課題」を見ていますと,私は結論を言えばこれは両方とも当然入るべきだという理解をしているのです。最初の「・」ですけれども,対象事件での身柄拘束中に別の対象事件の取調べを行う場合,これは必ず入ってくるような気がするのですけれどもね。この場合に,別の非対象事件というのは,はなから入れられていないですよね。記載されていない理由は,たまたま「基本構想」ではそれからは外れるから入っていないという理解で良いのか,そうであれば正に今後特別部会で更に議論していただくことになるでしょう。私は,「基本構想」から外れずに,対象事件で身体拘束されている以上はそこでの取調べは全て,というくくりでよいのではないかという気がするのです。ですから,その辺りをちょっと確認したいなということなのですけれども。 ○保坂幹事 おっしゃる点ももちろん御議論いただければと思います。要するに,「裁判員制度対象事件の身柄事件の取調べ」というものをどこまで及ぼすかという話でして,裁判員制度対象事件の身柄拘束中に非対象事件の取調べをするときに,そこも義務付けるということになると,これは義務付ける対象事件の範囲として裁判員制度対象事件を超えるのかなという感じもしましたものですから,ここには明示的には挙げていないわけですが,そこも含めて御議論いただければという趣旨です。 ○後藤委員 「検討課題」の「1」について申し上げます。   制度概要のこの部分は一番厳格な絞りをしていて,それだけに基準としては明確なものになっていると思います。けれども,実質論から考えると,まず身体拘束されているという状況である,そして裁判員制度対象事件について取調べを受けるという局面は非常に重要なので,取調べを録音・録画すべきだという発想が「基本構想」にあると思います。その実質論からすると身体拘束されていることと,取調べの対象になる事件が裁判員制度対象事件であるという,その実質的な基準から範囲を決めるべきではないか。そうすると,ここの「検討課題」の二つの「・」は両方とも入ってくるべきものではないかと考えます。   ただし,現実問題として考えると,どこから対象事件の取調べになるのかという問題があり得ます。取調べでのやり取りは流動的なので,最初は対象事件でないつもりで聞いていたけれども,途中から罪名が変わって対象事件の話になるといったことが起きて,判定が難しいという問題はあり得ると思います。けれども,そこは明らかに対象事件の話になったときには録音・録画義務が生ずるという考え方で対処できるのではないかと思います。 ○露木幹事 私の理解としては,この二つの「・」はいずれも対象外にすべきであると思います。対象事件を裁判員制度の対象事件に限定する。しかも身柄拘束中の取調べに限定をするということを形式的に追求するならば,この二つの「・」を対象にしてしまうと在宅が入ってくるとか,対象事件が裁判員制度非対象事件まで広がってしまうとか,そういうことになってしまいますので,その限定が意味を失うということが一つあると思います。これは形式論理の問題ですけれども。   もう一つ実質的な問題としては,これはさっき後藤委員もちょっとおっしゃいましたけれども,余罪の場合に在宅の取調べを対象にするとしますと,正にその罪名がはっきりしない場合というのが結構あると思います。ナイフで人を刺したというときに,それが傷害なのか殺人未遂なのかということはよく聞いてみないと分からないということがございますし,また,突然余罪のことをしゃべりだすということももちろんあります。あと,本人がナイフで人を刺したという場面にいたというときに,それは共犯なのか単なる参考人なのか,被疑者かそうでないのかということもはっきりしないということもありますので,この二つの「・」を厳格な意味で対象に含めるということは実際上も運用上も難しいと思います。 ○岩尾幹事 今の露木幹事の御意見に関連するのですけれども,やはり行為義務として原則全過程の取調べの録音・録画をするということを法律に規定する以上は,その対象事件あるいはその対象となる取調べの範囲というのは明確なものでなければならないということが大前提だろうと思います。   身柄拘束の基礎となっている事実は,逮捕状,あるいは勾留状で,確定していて,どの事件の取調べかどうかというのは非常に明確に分かるわけでございますけれども,余罪取調べとなるとやはりなかなか難しい面があります。これは今,露木幹事が発言されたとおりだと思います。   それに加えて,対象事件の取調べをしている場合であったとしても,その犯行に至る経緯,動機,犯行後の状況を聞く中で,包括的にその余罪事実が出てくるという場合が往々にしてございます。また,この特別部会にも法務省で調べた国内調査結果を御報告しておりますが,裁判員制度対象事件以外の事件で身柄拘束されていた間に,対象事件の余罪取調べに関して任意性が問題になったケースというのを調査しているのですけれども,件数は非常に少ない。そのごく少ない中でどんなものがあるかというと,死体遺棄と殺人だとか,あるいは現住建造物放火と非現住建造物放火を繰り返しているようなものなど,非常に密接に関連するような場合です。要はその犯行の動機を調べていく中ではそういうことに触れざるを得ないとか,犯行に至る経緯,道行を聞く中ではそういうことに触れざるを得ないというようなケースが非常に多いんだろうと思います。   だから,余罪の取調べを対象に入れるとなると,その取調官自体が,そういった対象となる取調べをしているのかどうかというのが厳密に分からないということが多いのだろうと思います。   実際,捜査機関の今現在の運用は,弁論の併合によって裁判員制度対象事件で審理される見込みのあるような非対象事件も録音・録画の試行対象として入れております。したがって,運用面では,そういった御懸念がある部分については,当然必要と認められる限りは録音・録画はされています。それは当然のことながら将来任意性の争いになった場合には立証責任を負う捜査機関側としては,そういう行動をとるのは当然合理的に考えられる行動原理だとも言え,この部分についてはあえて行為義務として掲げなくても,運用面で十分対応できるのではなかろうかと思います。   それから,後藤委員が先ほど言われたように,余罪取調べではなくても,逮捕・勾留している罪名で調べている中で,証拠関係が変動したことによって対象事件になってくるというケースもございます。そういう場合には,やはり事前には飽くまで証拠関係としては非対象事件と思って捜査していて,その後に集まった証拠関係から対象事件になるということでございますので,事前に取調べの時点で行為義務を課すかどうかという観点から考えたときに,そういった面までフォローして行為義務を課すというのは事実上不可能ではなかろうかなと思います。   他方,先ほど小坂井幹事が言われた対象事件で身柄拘束しているときの非対象事件の取調べというのは,これは正に対象事件の範囲をどこまでにするかという議論そのものだと思います。というのは,非対象事件で身柄拘束して,その非対象事件そのものを取調べたときに対象に入らないものが対象事件の身柄拘束中に余罪として非対象事件を取調べるときにはその対象に入ってくるというのはちょっと整合がとれないのではないかなと感じており,この点は,また追って部会で議論されるであろう対象事件の範囲をどうするかという問題であろうと思います。 ○小坂井幹事 岩尾幹事がおっしゃっているのは,検討課題の最初の「・」は入るのですか。つまり,対象事件での身体拘束中に別の対象事件の取調べを行う場合についてもおっしゃってるんですか。 ○岩尾幹事 いや,私が申し上げたのは,身柄拘束の基礎となっている対象事件そのものですね。だから,例えば現住建造物放火の取調べ,それは,ある建物についての放火の取調べをしていると,どうしてそんな建物に火をつけることになったのかというと,いや,実は前にも同じようなものに火をつけて,そのときの快感から火をつける動機となったなどと,別の対象事件の事実にも,包括的に,抽象的に触れるということはあり得ます。だから,そういうものまで含めてしまうとなかなか線引きは難しいだろうと思います。   ただし,そのような場合は,元々身柄拘束の基礎となっている事実についての動機を調べているわけですから,そういう場面は,本件の録音・録画の義務として録音・録画がされているから,それは賄えているのだろうという気はしますけれども。 ○小坂井幹事 基準の明確性という観点でまず言われたところからしますとね,それこそ私は最初の「・」を外さなければいけない実質的根拠が分からないのです。二つ目については,確かにいつ始まるのかということで議論はあり得るかもしれません。ですから,その議論はあり得る,という感じはしていますけれどもね。それと,もちろん非対象事件を一つ目の「・」に入れるかどうか,これは今後の特別部会の議論だというくくりであればそれはそれで構いませんけれども。   露木幹事がおっしゃる,あるいは今岩尾幹事がおっしゃったような形で考えていくと,やはり例えばそれこそ死体遺棄の例が出ましたよね。現に運用面ではやっているのだと。そういう形で今現にフォローできているものが不明確だということにはならないように思うのです。もしそこでそういう除外を許していくと,それはどんどん潜脱ができると言うと恐縮なのですけれども,取りあえず死体遺棄でやっておいてとかいうことは現にあり得るわけですから。そこはやはり両方くくってもらうのがより明確だと思いますけれどもね。 ○井上分科会長 今言われたのは2番目の「・」ですよね。 ○小坂井幹事 2番目の「・」です。1番目の「・」は極めて明確だと思いますけれども。 ○髙橋幹事 裁判実務でどういう場合に任意性・信用性が争われるかというと,法務省の調査では件数は非常に少ないと岩尾幹事がおっしゃったのですが,余罪取調べの際に捜査官からこういうことをされたので任意性のない自白をしたというような主張が被告人からなされるということはそう少なくはない感じがいたします。このような争いがあった場合に,その取調べ状況の録音・録画がないとすると,結局水掛け論になってしまい,そのような状況はどうなのかなという気がいたします。   改めて考えてみますと,確かに理屈としては,余罪取調べについては在宅取調べと同じと言えるかもしれませんが,先ほど後藤委員もおっしゃったとおり,身柄拘束されている状態の下での取調べという意味では,純粋な在宅とはやはり質が違うのではないかと思います。なぜ身柄が拘束されている場合にこの制度を入れるかというと,そういう状態の下では供述の任意性・信用性についていろいろな疑義が生じてきているのだというところから考えると,身柄の根拠となる罪名が対象事件かどうかという区別,岩尾幹事のお話だとそれが明確なのだというお話でしたけれども,余りその辺りこだわらずに,身柄が拘束されている事件について対象事件の取調べをする場合においてというような基準も考えられるのではないかとは思いますけれども。 ○川出幹事 私も,理屈としては,身柄拘束中に余罪の取調べとして対象事件の取調べを行う場合も,録音・録画の対象とするという考え方も十分成り立つと思います。ただ,岩尾幹事がおっしゃったように,ある取調べが,余罪の取調べなのか,それとも元々の身柄拘束の基礎となった事実の取調べなのかがはっきりしないという場合があると思います。そうしますと,取調べの録音・録画を捜査機関の行為義務として課すという制度にしたときには,仮にそれに違反した場合の取扱いに問題が生じるのではないでしょうか。つまり,後で議論がなされることとと思いますが,違反に何らかの法的効果を結び付ければ特にそうですし,そうでなくても違反した場合には何らかの事実上の影響が生じるでしょうから,そうだとすると,その適用が不明確な形での義務付けをすることが果たして妥当なのだろうかという問題があると思います。   それから,髙橋幹事から御指摘のあった点ですが,余罪に関する自白について争いが生じる場合というのは,身柄拘束中に余罪取調べがなされ,その段階でとられた自白調書が証拠調べ請求される場合と,その後に余罪の方で逮捕・勾留して取り調べて,改めてとられた自白調書が証拠調べ請求される場合があると思うのですけれども,どちらの場合であれ,最初の段階での余罪の取調べが問題になり得るということであれば,恐らく捜査機関は運用で取調べの録音・録画をすることになるだろうと思います。別の言い方をしますと,先程の話との関係で,余罪の取調べなのか,身柄拘束の基礎とされている被疑事実の取調べなのかがはっきりしない段階ではなく,明らかに余罪の取調べになったという段階になれば,運用上,録音・録画がなされるということになるのではないかと思います。 ○井上分科会長 ひとわたり御意見伺いましたが,さらに何か新しい視点等があれば出していただきたいと思うのですけれども。   ここのところは,議論としては新しくできたものですので,今日はこのくらいにさせていただきたいと思います。   次に,「検討課題」の「2 録音・録画義務の例外」について,いずれの点からでも結構ですが,御意見ある方は御発言願います。 ○小坂井幹事 これはもう全体についてということで先ほど事務当局から御説明がありましたけれども,録音と録画の片方ができないときには両方やらなくてよいという理屈がちょっと立たないような気がします。ですので,それは必ずいずれか可能なら可能なものをやるというくくりで問題なかろうかと思いますけれども。 ○井上分科会長 理屈だけで言うと,こういうふうにどっちか一方でよいのだということになるのですけれども,実際問題として録画のみでよいのだという場合というのはあるのですか。 ○小坂井幹事 それは私は恐らくないと思いますけれども。事後的にスピーカーが故障していたとかなんかという稀有なケースはあり得るかもしれませんね。 ○井上分科会長 規定ぶりとしては並べて書いて全然不都合ないと思うのですけれども,実際的に考えると,録画のみというのは変だなという感じがするというだけです。 ○小坂井幹事 それはむしろ事務当局の方に聞いていただいた方が良いと思うのです。私が申し上げたいのは,要するに録画が難しい場合,例えば後の物理的障害であれ何であれ通訳人であれ全部掛かってくるかと思うのですけれどもね。そういうときに,機械が今ちょっと不都合だからというのであっても,ほかの機械をやはりきっちりチェックしていくべきだし,録画機がなければ最終的には録音機で賄うということは当然あってしかるべきではないですかということですね。 ○露木幹事 この「2」の「(1)」の話ですけれども,録音又は録画の一方のみということを制度にするのはなかなか難しいのではないかと思います。選択的であるということになった場合に,何でこの場合録音だけだったのか,あるいはあるのかどうか分かりませんけれども,この場合には何で録画のみだったのかということのその使い分けの基準がはっきりしませんので,実際に運用するのはかなり難しいと思います。   もう一つは,録音のみという場合の弊害がかなり大きいのではないかということが考えられます。音だけという場合には被疑者によっては,例えば暴力団のような場合には結構演技をしますので,取調官が机を叩いていないのに自分で音を立てて,「やめてください」とかいうふうな演技をされてしまいますと,一体どんな取調べが行われたのか分からなくなるということがあります。笑いが漏れましたけれども,実際あることなのです。   ですので,録音のみというのは機械の調達が便利だというような議論はありましたけれども,実際上は取調べで使うのは難しいだろうと思います。 ○後藤委員 今,例外として「2」の「①」,「②」,「③」があります。この「①」を仮に物理的不能的な場合と考えますと,それを厳密にどこまでにすべきかはそれ自体議論があると思いますけれども,特に私が今申したいのは「②」の部分です。端的に申しますと,被疑者が拒否の意思を明示した場合を基本に統一すべきではないか,それが一番明確になるし,適切ではないかということです。   検討課題に即して言えば,3ページの上から2番目の「②(ウ)(その他)」のところは,被疑者が拒否の意思を明示した場合に限るべきだという意見でございます。被疑者が拒否していないのに捜査官の側が十分な供述をすることができないおそれがあると認めて録音・録画しないという状況では,被疑者としては録音・録画してくれてもよいと言ってるわけです。それでもなお録音・録画をしたら十分な供述ができないだろうと取調官が判断するという状況を客観的に考えると,被疑者が自発的に言おうと思っていること以上の供述を捜査官としては引き出したいという期待がある場合になります。しかし,録音・録画の下ではそこまでは話せないだろうと捜査官が判断をするという構造になります。   しかし,そのように被疑者が自発的に語ろうと思っていること以上のことを引き出そうとする取調べを録音・録画なしに行うのは,非常に危険です。だから,本人が拒否していないのに録音・録画したら十分な供述ができないだろうという判断で録音・録画の例外にすることは適切ではないと私は考えます。 ○井上分科会長 後藤委員が言われたのは,ちょっと膨らませ過ぎではないですか。明示的に拒否の意思を示していないという場合は録音してくださってよいです,とまで言ってるというところで,論理が一つ飛んでいるのではないかと思うのです。   つまり,明示的拒否はしていないのだけれども,どっちとも態度を明らかにできない,あるいは明らかにしないという場合を主に想定しているのではないか。これまでの議論の説明としてはそういうことだったと思うのです。それを例外事由にすべきだという人との間では,前提とする場面がちょっとずれているのかなという気がします。 ○後藤委員 しかし,今の案だと被疑者が明示的に録音・録画してよいですと言っても録音・録画しなくてよい場合があることになりますね。 ○井上分科会長 それはそうかもしれません。 ○岩尾幹事 まず最初に,小坂井幹事の御意見について意見を述べたいと思います。録音はできるけれども,両方は難しいというケースを考えなければいけない場面というのは三つしかないのかなと思っております。   一つは機器の故障の場合。今,検察庁,警察も同じだと思いますけれども,全国統一の様式できちんとした機器を全国に配備して,録音と録画の両方ができる装置を用いているわけで,物理的な故障があった場合には,録音だけはできて録画ができないというような状態の故障の仕方というのは通常想定できないわけです。   前から申し上げているように,機器が1台故障したからといって直ちに録音・録画することが困難な状況になっているかというと,それはそうではなくて,代替機器は探す。それでも見付からないときにこの状態に当たるということなのですね。それで,この点も議論が出ているように,では市販のICレコーダーぐらい持ってるだろうというような意見もあるのかもしれませんけれども,やはり記録の正確性だとか改ざん防止とかが十分できていないような状態の機器を使用すれば,かえってその適正さについて紛争を膨らませるだけであって,そういったものを法律上の義務付けの対象にするのかと,そこは運用に任せた方がむしろうまくいくのではなかろうかと思います。   それから,次に考えられるのは,通訳人が録音なら良いのだけれども録画は嫌だと言った場合です。これはもう運用で対応が可能なわけですね。通訳人の座ってもらう位置をその姿が機器で録画されない位置に座ってもらえば実行できるわけですから,その通訳人がそういう発言をされたからといって記録することが困難な場合には当たらないということで,実際に録音・録画が実施されるということになると思うのです。   そうすると,観念上唯一残るのは,被疑者が録音は良いけれども,録画は駄目ですと明確に言った場合だけだと思います。実際に最高検の調査結果を見ますと,「姿を他人に見られたくない」ということを理由にして録音・録画を拒否したという回答があったというのは事実なのですけれども,しかしあれは拒否している理由について複数回答可という状態の下での回答ですので,「映像がとられたくない」ということのみを理由にしているとはとても考えられないわけですね。   つまり,十分な供述ができないというのは,やはり自分の供述している内容が一言一句記録される,要は録音されることについての問題の方が大きいのだろうと考えられることから,録画だけが駄目だという理由で録音・録画を拒否するようなケースが本当にどれほどあるのだろうかというと,ほとんど考えられないのではないかなというような気がします。   実際にそういうケースがあった場合に,捜査官はどういう運用をするかというと,それは録音・録画機器のカメラの前に何か遮蔽物を置くなりして,録音だけはできるような状態で取調べをするといった対応も可能だと思うのですね。以上のような点を考慮すると,法律上の義務として,あえてほかの場面とは違ってその場面だけ録音と録画を分けて義務化するという規定を置くまでの必要性があるのかなという気がします。   実際それ以外の例外事由を想定した場合には,例えば加害等のおそれという場面を考えると,これは被疑者が十分な供述をすることができない理由を明確にしないわけですから,それが録画は駄目だけれども,録音なら良いということなのかどうかを捜査官が判断することは困難であり,そのような場合には,恐らく録音と録画を分けて規定すると,適用すること自体が困難だろうと思われます。   それからあと,後藤委員が言われた被疑者が明確に拒否の意思表示をしている場合に,「②」の事由は限定すべきだというお考えは,適用範囲として明確だということは分からなくはないのですけれども,これまでも何度も議論しているように,やはり組織犯罪のようなものを考えると,自分が録音・録画を明示的に拒否するという意思表示をしたこと自体が組織に知れたら,それは捜査機関に協力しているということが疑われるわけですね。だから,そういう意味で明確な拒否の意思表示自体ができないというケースも多数あると考えられるわけです。   さらに,組織犯罪だけではなくて,もろもろの事情によって拒否はしないのだけれども,明らかに十分な供述ができないような状態になっているということが考えられます。それはやはり録音・録画で一言一句記録されたら,それが不利な状況になるかもしれないということで極度に緊張をしている,不安を覚えているということで,録音・録画の場面ではなかなか自分の話ができない。これは何も自白に限らずきちんとした弁解でさえも一部不利益事実の承認になる部分があり得るわけですから,そういったきちんとした弁解さえ言えないというような状況も考えられますし,自分の特異な性癖だとか関係者のプライバシーを明らかにしてしまうおそれがあるということを懸念して,なかなか供述できないというようなケースも考えられて,明確な拒否の意思表示ができればよいのですけれども,それはそうではない。しかし,録音・録画が止まればもう少し率直な話ができるという方はいるわけです。   この点,そういった例外事由を挙げると例外が極端に広がるのではないかという御懸念があるのかもしれませんけれども,それは単なる不安や緊張で言葉が少し出にくいというような状態ではなくて,それぞれの事情で,要は記録をしたならば「被疑者が十分な供述をすることができないおそれ」というものが要件になっているわけですから,そういった十分な供述をすることができないおそれは,捜査機関側として争いになった場合には立証する必要がありますから,そのためには,録音・録画を止めるまでの言動については録音・録画されているということが想定されますので,その時点までの言動だとか,事件の内容や性質だとか,関係者や共犯者との立場あるいはいろいろな組織内での関係というようなことから,そのおそれを客観的に立証するということは十分考えられますし,立証ができないような場合には,それは捜査官側がリスクを負うということになって,運用上極端に例外が広がり,原則と例外が逆転するというような弊害はないものと思います。 ○井上分科会長 さっき後藤委員が最後に念押しされたことですけれども,積極的に録音してよいですよという場合には,本文の方の要件に当たると認定するのは難しいのではないかと思うのです。「被疑者が十分な供述をすることができない」ということになるのかというと,多分,「私,録音してもしゃべりますよ」と言ったら,そこの要件は欠けてくるのではないか。   だから,形式的には一部入るとしても,多くの場合はその柱書の方の要件で,そういうのは飛んでしまうと思うのです。ですから,やはりずれているのかなという感じがしますけれども。さっきの補足です。 ○後藤委員 岩尾幹事がおっしゃった前半の方で,被疑者が録画は嫌だと言った場合,言わば遮蔽して録画するのではないかというお話ありましたね。それは一応録音・録画義務を果たしたやり方と考えるわけですか,遮蔽はしているのだけれども。 ○岩尾幹事 それは法律上の義務の履行ではなくて,運用上の問題です。法律上は録音・録画全体として義務が解除された状態で,運用上録音しているという状態になるのだろうと思います。 ○井上分科会長 遮蔽して取り調べている状態を録画もしているとも言えるわけですよね。実質としてそれで賄えるのではないですかということですか。 ○岩尾幹事 もしそういう稀有な人がいれば,実質としては,全く録音もしないような状態でやることはないだろうということは言えるだろうと思うのですね。 ○小坂井幹事 岩尾幹事のお話の中の最後の方で,その場合止めることは私は困りますよという意思が表示された場合でも止められるという理屈になってしまうのですか。先ほどの井上分科会長の後藤委員に対する質問ともリンクしていると思うのですけれども,明示的に拒否する場合はそれは明確だと。逆に,止めちゃ困りますよと言った場合でも止めたりできるのでしょうかという。 ○岩尾幹事 それは一律にこういう発言があったからこうだと断定するのは難しいのだろうと思います。やはり先ほども申し上げたように,その発言がそもそも真意に基づいた発言なのかどうなのか,それは当然そのときの言動にもよりますし,繰り返しになりますけれども,事案の性質や内容だとか,共犯者等の関係とか,そういった背後関係まで考慮した上で,どういう状態なのかという認定の問題だと思います。 ○露木幹事 今の小坂井幹事の質問にも関連するのですけれども,暴力団員の場合などは,やはり自分は組織のことは絶対売りませんということを組織に対して示すためにむしろ録音・録画してくれと言うことが十分想定されると思うのですね。でも,だからといって録音・録画をそのとおり続けてしまうと,組織の背後関係を全く聞けなくなってしまいますので,そういう場合には録音・録画をやめて背後関係を聞くということを捜査機関としてはやらなきゃいけないと思うのです。ですので,録音・録画してほしいという意思表示があったからといって録音・録画をやらなきゃいけないというふうな制度の仕立てにするのは難しいと思うのですね。   それと,今の点にも関連するのですけれども,この加害類型なのですけれども,本人の実行行為について取調べをするところは録音・録画をし,その背後関係を聞こう,今から組のことを聞くぞとなったときに,そこだけ録音・録画が止まり,その取調べが終わったらまた録音・録画が再開されるということになると,その録音・録画が止まっているということ自体が組織のことについて聞かれていて,何かしゃべったということを組織の方に推測させることになってしまいます。これでは意味がありません。この加害行為のおそれがあるというその場面だけを切り出して録音・録画の義務の解除とする制度の構成というのは,この弊害を除去するという目的を達成し難いのではないかと思うのですね。   ですので,暴力団員が被疑者であるような事件については,取調べの場面ごとに例外に当たるかどうかを判断するのではなく,事件単位で判断するという構成にしないと,問題の解消にならないというふうな気もするのです。この第1の制度をとる場合の問題ですけれども。 ○小坂井幹事 今の露木幹事のような発想でいきますとね,それこそ組織犯罪問題を,仮にですよ,真にこれは録音・録画したくないんだというところを作るがために,ほかの部分も全部入れないという発想になってしまいますよね。これはもう極めて本末転倒と言わざるを得なくて,広範にどんどん広がってしまいますよね。   それと,先ほど露木幹事がちょっと言われた,要は本人の動向とかをいろいろ斟酌しながらやっていくというような,これは正に事後的なチェックというのはほとんど難しくなりますね。全て捜査官の正に裁量論に移行するわけだけれども。そうなってくるとそれこそ裁判所の判断も何も全く分からなくなってくる。ですから,もう疎明しようにも非常に難しくなってくるということになる。それでは正に特別部会で議論されたなるべく明確に一義的に,今回も一応はできる限り明確で,かつ過度に広範,過度はちょっと余計だと思うのですけれども,広範にならないものにするための要件という検討課題になっていますが,これに合致してこないと思いますけれどもね。 ○髙橋幹事 先ほど岩尾幹事がお話しされた,例えば不安だとか羞恥心だとか緊張,そういうものを捜査官が慮って,それで録音・録画されていると話せないのだろうと考えて録音・録画を止めるということが許されるとすると,裁判所の立場から言えば,そのような判断が相当であったという点について立証が功を奏するのかなという疑問があります。いろいろな要素を加味して判断したといわれるのだとは思うのですけれども,ここまで広げてしまうと事後的な判断ということまで視野を広げると,そもそも制度としてそういうものを織り込むこと自体元々相当難しい話を織り込んでいるような感じがします。やはりここは広げ過ぎるというのは疑問かなと思うのですけれども。 ○岩尾幹事 やや繰り返しにはなりますが,実際には明確な拒否の意思表示をしていない場面の典型的なものは加害,畏怖・困惑類型だと思いますね。それはその直接の言動以上に組織の背景だとか事案の内容等々で相当程度の疎明資料はそろう。しかも,直前までの録音・録画を実施しておれば,そういった言動もより明確になる。この類型以外の場面について,不安だとか緊張だとかそういうような要素というのは,例示してもなかなかうまく言い尽くせないのかもしれませんけれども,拒否もある意味十分な供述ができない状態の一事情だと思うのですね。ですから,拒否や加害類型と匹敵するような状態で,やはりそのときの言動から明らかに言いよどんでいると,ある部分の供述に関して向けられると確かに言いよどんでいるような部分が出てこないと,やはり加害類型以上に立証は難しくなるということは事実かもしれませんが。ただ,それは当然紛争になったときの立証責任の問題を考えると,十分な疎明資料を用意しなければ捜査官としてはそこの任意性は認めてもらえない,任意性・信用性という判断においては当然消極の判断がされるわけですから,それは十分な供述ができないと認定できるだけの捜査報告書なり,それまでの録音・録画記録そのものであったり,様々な観点から裁判所を説得できるような状態の証拠化はやらなければならないと思います。   だから,飽くまで十分な供述ができないおそれがあると認定できるような状況を立証するということに尽きているのだろうと思います。 ○露木幹事 今の点に関連してなのですけれども,岩尾幹事が今おっしゃったとおりだと思いますし,あと立証のためにどういう証拠をそろえるかというのは,例えば捜査機関側の判断事情を報告書にするということと,もう一つ被疑者側に語らせる,事後に,そのときに何で自分は自白をするという気持ちになったのかということを語らせるということは可能だと思いますので,立証が難しくて制度として成り立たないということは多分ないだろうと思います。 ○小坂井幹事 「2」の「①」の機械の故障と通訳人関係もちょっと一言申し上げておきたいのです。これは前回も4月25日のところで大分議論していますので,このままちょっと残っていることに私は違和感を感じておりまして。通訳人が記録を拒むというようなことで,これをやむを得ない事情の一つとすることには非常に違和感があります。機械の故障は,これは結果的にそういうことが起こってしまったということは,それは物理的にはあり得ることだとは理解しますけれども。これだと,まるで通訳人に記録を拒むインセンティブを与えかねないような条文になっておって。もちろん少数言語でどうしてもいろいろ代替を探しても見付からないという場合があってやむを得ない場合があり得るのだということ,それ自体は分かりますけれども,しかし,ここでこれを明示する必要があるのかどうか。それで,その他やむを得ない事情という形でくくっておられますけれども,例えば「困難である」も,「著しく困難である」ような場合に,より限定すべきです。この前の議論でもですよ,4月25日の議論でもプロセスを経た上で最後にこれは認められる例外事由だろうという話はおおむねコンセンサスになっていたような気もするのです。ちょっとこの条文のままでは緩やか過ぎないかなというのが一つです。   それと,もう少し本質的な問題での「②」の例外事由の中で,ちょっとこれは質問も含まれるのですが,先ほどから柱書で「十分な供述することができないおそれがあると認めるとき」と,これが最後の判断要件だという形で言われているわけです。けれども,これはつまり例えば,「イ」の「被疑者が1の記録を拒んだ場合」,拒んでもなおかつ要はすぐには録音・録画を止めないでつけたまま,いや,そう言わないでついたままの状態で話はできるだろうと説得するということをこれイメージしていらっしゃるということなのですかね,理解としては。 ○井上分科会長 要するに,今の最後の御質問は,柱書の方が最終的な要件であり,それを認定するための一つの要因として「イ」がある。そうすると,ずれてくる場合があるのではないかという,そういう御質問ですね。 ○小坂井幹事 例えば後藤委員の見解に従えば,この「十分な供述をすることができないおそれ」というのは余計なお世話だということになると理解しているのですけれどもね。それはそれで考え方はあり得ると思うのだけれども。 ○井上分科会長 後藤委員は,「イ」を独立した要件として立てるべきだという御主張ですよね。そういう立て付けになっていないので,今のようなことを考えているのかということになるのでしょうか。これは,むしろ配布資料を用意した事務当局に説明してもらいましょうか。 ○保坂幹事 ちょっと小坂井幹事がおっしゃった趣旨がよく分からなかったのですが,拒否したから直ちに録音・録画義務が解除されるというのではなくて,拒否したという言動から,これはこのまま続けても十分な供述が得られないなという認定をしたときに義務が解除されるという仕掛けですから,録音・録画したままでよいではないかという説得をすることを必ずしも規定しているものではなくて,拒否が一つの認定事由になって十分な供述をすることができないおそれがあるということを判断するという趣旨なのですけれども。 ○小坂井幹事 録音・録画するもしないも,後は捜査官の裁量だということでしょうか。そこは「できるものとする」になっているからそうなのだろうなとも理解するのです。けれども私は最初,別に説得するということをイメージして,そう読んだものですから。そういう意味ではないのですね。このまま続けても十分話はできるだろうという説得をするのかなと思ったのですよ,明示的に拒否した場合に。 ○保坂幹事 説得しても構わないだろうとは思いますけれども,必ず説得しなければいけないからこういう要件にしているという趣旨ではないということです。 ○後藤委員 「考えられる制度の概要」の「2」の「①」について。このままで条文にする案として示されているわけではないのでどこまで細かな議論をすべきかという問題はありますけれども,今の「通訳人が記録を拒んだことその他の・・・」という書き方だと通訳人が記録を拒んだことは当然にやむを得ない事由になるというニュアンスにとられませんか。しかし,最初に頼んだ通訳人が拒否してもほかの人が応じてくれるならやむを得ない事由にはならないので,ここの「の」はとる方が良いのではないでしょうか。 ○岩尾幹事 これはむしろ逆で,「その他」とした方が並列的になるのですね。独立していることになるのです。「その他の」にした方が,やむを得ない事情の一事情だということになると思います。それに加えて,そういったやむを得ない事情だけではなくて,そういった事情によって「記録をすることが困難である」という要件がさらにかぶさっていると御理解いただければと思います。 ○井上分科会長 内閣法制局の用語例ではそうなるのでしょうね。   それでは,この点も本日はこのぐらいにさせていただきたいと思います。   次に,今の「録音・録画義務の例外」についての議論も踏まえつつ,検討課題の「3 実効性の担保」について,これもいずれの点からでも結構ですので,御意見のある方は,御発言をお願いしたいと思います。 ○川出幹事 3番目の取調べ状況の立証方法の制限の中身について確認させていただきたいのですが,私は,これは,録音・録画を義務付けられている場合には,任意性が争われた場合に,録音・録画記録を取り調べないと任意性の認定ができないという意味なのかなと考えていました。そうだとすると,これは立証制限というよりも,裁判所による認定の制限ということになるように思います。あるいは,そうではなくて,これは,取調べの録音・録画記録しか,任意性の立証に使えないという意味で,立証制限とされているのか,どちらなのでしょうか。 ○保坂幹事 なかなか難しい問題ですけれども,検察官の立証制限として構成する方法もあろうかと思われますが,そうすると裁判所が職権でほかの証拠で任意性を認定してしまうという余地があるのが問題だとすると,裁判所の認定に対する制限という構成にするという方法もあろうかと思います。   録音・録画記録媒体しか任意性の立証に使えないとすると,例えば留置中の病気の具合や投薬の状況,更に,録音・録画記録を見て分かるのかもしれませんが,取調べの日時場所といった外形的な取調べ状況,あるいは弁護人との接見状況を付加的に立証することを禁止することになりますが,そこまでの必要性・合理性がないとすると,任意性の認定のときには必ず録音・録画記録媒体を調べなければいけないというような仕組みというのが一つ考えられるということだと思います。どういう組立てにするかは御議論いただければと思います。 ○川出幹事 そうしますと,録音・録画記録がないと任意性の立証ができない,ないしは任意性の認定ができないというわけですから,義務違反があると,録音・録画記録がない以上,任意性が立証ないし認定できなくなる,したがって,自白調書の証拠能力が否定されるという仕組みになるのだろうと思います。そうだとすると,前にも部会で申し上げたのですが,それは,結局,義務違反と自白調書の証拠能力の否定を直結させることになりますので,そうなると,違法収集証拠として扱った場合に,義務違反があったら証拠能力を否定するのと同じ問題が出てくるのではないかという気がします。 ○井上分科会長 ちょっと違うように思うのですね。違法収集証拠の問題とか任意性の問題となると,その任意性一般あるいは違法収集証拠の排除一般の考え方と整合するのかというのが問題になる。しかし,立証方法の制限ないし認定の制限となると,その問題は生じてこないのです。同じ問題が生じると言われましたが,どういう問題が生ずるのですか。 ○川出幹事 違法収集証拠排除法則を適用するのとは違う枠組みなので,その意味での整合性という問題は起きてこないのですが,違法収集証拠排除法則のところで,録音・録画の義務違反,すなわち,手続に違法があったら直ちに排除するということにはしない実質的な理由は,義務違反といっても様々なものがある,重大なものもあればそうでないものもあるだろう,そうすると,例えば捜査官側の判断と裁判所の判断が異なったというような形で義務違反と認定された場合にも,直ちに違法収集証拠として証拠能力を否定するのは妥当でないということにあるのだと思います。そうであれば,立証方法の制限という形を採った場合でも,いかなる義務違反であっても録音・録画記録がないと任意性が認定できず,自白調書が証拠にできないとなると,それは同じ問題が生じるだろうということです。 ○井上分科会長 それは,しかし,結局,整合性の問題を言っておられるのですよ。整合性というのは,実質としてはそういうことなのです。ですから,整合性の問題は生じないだろうとおっしゃりながら,結局同じではないかというと,グルグル議論が回っているように見えるのですが。   要するに,違法収集証拠の排除の問題は,違法があっても直ちには排除しません,重大な場合に限る,あるいは令状主義の精神を没却するような重大な違法とか,違法捜査の抑制という観点からどうだといった基準が用いられ,それに引っ掛かると排除するということになっているので,それと整合しないではないかということが問題なわけですが,整合しないというのは,違法があれば直ちに排除するというのは不当であり,適切ではないからだと思うのですね。それと結局同じことにならないかというのは,結果として使えなくなってしまうので同じではないかということを言っているだけで,整合性の問題ではないのではないかと思うのですよね。   無論,その場合立証方法が制限されてしまう。直ちに制限されてしまうのは不当だという御趣旨なら,同じ問題になるのだけれども,そうお考えなのですか。 ○川出幹事 そのとおりです。どんな義務違反であっても録音・録画記録がないと任意性立証ができない,あるいは任意性が認定できないということになり,自白調書が証拠として使えなくなるのは,結論としては不当だと思います。 ○井上分科会長 そういうふうに見れば,同じ問題ではないかということですね。 ○川出幹事 はい。 ○後藤委員 実効性担保の問題について,私は録音・録画を義務付ける以上はそれに対する担保措置が必要であると思います。だから,何らか違反の効果に関する規定が必要であると思います。その中で最も明確なのは,義務違反をして得た供述についてはその証拠能力を一律に否定するというシンプルなやり方だと思います。   それに対する批判ないし反対論は恐らく二つの観点があり得ます。一つは,それが今の理論体系に合わないのではないかという問題と,もう一つは,実質的妥当性という問題だと思います。   前者の方について言えば,確かに仮に何の条文的な手当てをしないで義務化だけしたらどうなるかと考えると,録音・録画義務の違反は自白の任意性判断の一つの要素になるだけであって,一律排除にはならないでしょう。だから,一律排除が理論上当然の帰結であるとは言えないというのは確かだと思います。しかし,だからこそ条文を作って政策的な判断として一律排除することが一番実効性があると私は考えます。   ただし,もう一つの問題は,それだと現実問題として任意性を否定するような理由が全くないものであっても一律に排除されることになって,具体的な解決としては妥当性がないのではないかという議論があると思います。ここは一律排除による予防的な効果を重視するか,それとも具体的妥当性を重視するかの争いになるのだと思います。そこで意見が分かれてまとまらないかもしれません。   そこで,仮に一律排除でまとめられないときに,次の方法として立証制限という考え方が出ています。私は小坂井幹事の案を今回もう一度見直してみました。立証制限に当たるのは3ページにある302条の2という案ですね。この条文の意味を考えてみました。これは先ほどの川出幹事の御指摘とも関わるのですけれども,この案だと被告人の方が任意性を否定する,あるいは争う主張をしたとしても,その主張自体が失当であるような場合は証拠能力が認められることになると思います。その場合,検察官が特に任意性を立証しなくても,その主張だったら仮にそういう事実があったとしても任意性は認められますということになれば,被告人の側で争点形成責任を果たせていないので,任意性は認められることになります。だから一律排除と同じ結論にはならないでしょう。具体的妥当性という意味では,一律排除よりもこちらの方が柔軟性があるとは言えると思います。   ただし,この小坂井幹事の案の趣旨は,よく考えるとなかなか難しいです。ここでは「用いなければならない」という書き方ですね。これは先ほどの議論にあったように,言わば法定証拠として録音・録画記録しか使えないという意味なのかというと,多分そうではなくて,それを出すことが任意性立証の前提になるという趣旨だと思います。そこで,それを出さなければ任意性立証ができないという意味に理解したとしても,そこで任意性を立証するということの意味がやはり問題になります。ここでは任意性があるという検察官の主張自体は禁止されないことになります。そうすると例えば,被告人が法廷で,取調べについてこんなことがありましたと語る,それに対して反対質問するのは許されるのかとか,あるいは裁判所が職権で任意性に関する証拠を採用するのはどうなのかというような問題が,ここではまだ明確になっていないので,もう少しそこを考える必要があると思います。   具体的にどう定めたら良いかはなかなか難しいのですけれども,そのような場合に現在検察官が立証に一番使うのは取調官の証言だと思います。それが,録音・録画以外では,一番有力な任意性立証の手段として使われる証拠です。だから,この義務違反があった取調べの状況について,例えば取調官の証言は証拠にできないといった規定にすれば,立証制限の意味はもっと明確になるのではないかと思いました。 ○井上分科会長 最初に言われた二つは,結局実質は同じだと思うのですよ,理論的整合性というのも妥当性というのも。妥当ではないから今のような理論体系が出てきているのだろうと思いますので,立法をすれば何でもできるだろうということにはならないというのが,これまで難しいのではないかと言われてきたことの実体なのですよ。だから,そんなことを考えなくても立法政策でえいやとやってしまえばクリアではないかというのも一つの考え方ですけれども,そう単純なことではないと思うのですね。 ○小坂井幹事 後藤委員の言われたことに屋上屋を架すことになるのですけれども。後藤委員が言われた要するに実質論という意味で言いますと,正にこの特別部会で現在の取調べあるいは身体拘束下ということを入れてもよいのかもしれないのですけれども,それはやはり供述の自由を絶えず危機に陥れているという認識が今現在生まれつつあるわけです。ですから,それをその前提で考えていくと,録音・録画を欠いている場合には証拠能力がなくなるのですよという,一番劇薬という言葉も出ましたけれども,そういうサンクションを設けることは自然なのではないか。これは前回も申し上げたことですけれども。   それで,義務違反がある以上,やはり何らかのサンクションが出てくるべきだということで,いわゆる先ほど言われた立証制限の問題なのですけれども,これも後藤委員がおっしゃったとおり,主張自体失当であるとか,あるいは争点形成に失敗している場合にはこれは当然認められるということになってくるので,やはり証拠能力を完全に飛ばしてしまう説とは開きは当然あるということがあると思うのです。   それと,立証の仕方については保坂幹事もおっしゃっていましたけれども,取りあえずある以上はそれは出してくださいということで,あと付加的にいろいろ付けていくことはそれは当然あり得ることだろうと思います。ですから,そこはそういう意味では柔軟な対応が可能なのではないかなと思いますので,川出幹事がおっしゃるとおりにはちょっと必ずしもならないのではないかなと思っていますけれども。 ○井上分科会長 最後に言われたところがちょっとよく分からなかったのですけれども,主張自体失当である,あるいは争点形成責任を果たしてないという場合に証拠能力を飛ばしてよいのですか。それが妥当なのですか。 ○小坂井幹事 それは,そういう義務を付けた以上は別に法定証拠主義であってもおかしくないですね。 ○井上分科会長 そう言わざるを得ないとは思うのですけれども,それが妥当でないとすれば,そういう場合は認める案を採るしかないと思うのですね。そこを妥当と思うかどうか,割り切った以上はやむを得ないと思えるかどうかということが,恐らく分かれ目なのではないかと思うのですね。 ○後藤委員 今の分科会長の御発言の意味がよく分からないですけれども。その飛ぶ対象は自白そのものではないですね,小坂井幹事がこの場面で言われているのは。自白が一律に排除されるというわけではなくて,任意性の立証方法が制限されるということではないですか。 ○小坂井幹事 2番目の場合はそうですね。分科会長がおっしゃったのは最初の案です。 ○井上分科会長 そうです。証拠能力が否定されるというのは明快ではないかと言われて,それと立証方法の制限とはずれがある。今言われたようなところはずれてきますよね。あるいは,職権の余地を残せば,ずれてきますよね。その場合に,そもそも証拠能力を全部否定してしまう書き方ですと,自白そのものがもう使えなくなるということになるのです。   その場合,しかし,被告人側の主張自体から,およそ任意性には影響しないといえる場合も証拠として使えないというのが妥当かどうか,その点でどっちの方法が良いのかという視点もあるのではないかということを指摘しただけです。 ○小坂井幹事 それは正に特別部会で議論していただく対象だと思います。ただ,従来から,私の読み方がもし間違っていたら恐縮ですけれどもね,井上分科会長の名著の中でもですね,供述証拠については違法があればこれは飛ばしてよいのです,相対的な段階論をとらないのですと,私が誤読していればすみませんけれども。そういう見解はあり得るわけです。ですから,そういう意味では全て飛ばすのは説としてはありだと思います。 ○井上分科会長 名著かどうか分かりませんけれども,そこで言っているのは,要するに,黙秘権を侵害したような場合には論理的には全部証拠能力を否定すべきだろうということであり,黙秘権を侵害しているという実質があるからなのです。ところが,録音・録画義務違反があったというだけでは,黙秘権を侵害していると当然には言えないので,それと同列に議論するのはおかしいと思います。 ○小坂井幹事 録音・録画していないことイコール黙秘権侵害だというのが私の理解です。 ○井上分科会長 そういうふうに小坂井幹事が主張しておられるというのは,承知していますけれども。 ○露木幹事 実務の立場から見ますと,この証拠能力を否定する構成にしても,あるいは立証方法を制限するという構成にしても,行為義務違反があったときに一律に使えなくなってしまうということにしますと,せっかく,例外の項目をうまく整備できたとしても意味がなくなってしまうのではないかなと思います。機器の故障など捜査機関の判断と裁判所の判断に恐らくずれがないというものは差し支えないかもしれませんけれども,おそれという要件になっている場合には,その認定に捜査員の判断と裁判所の判断にずれが生じ得ると思います。   そうしますと,捜査員としては,裁判所で否定されたらやはり困るなという気持ちになって,勢いこの例外事由の判断に慎重になると思われますので,結果として十分な取調べができなくなってしまうということになります。余りトゥーマッチなサンクションを設けるというのは「第1」の構成そのものの在り方として私は不適当ではないかなと思います。 ○髙橋幹事 今のお話と関連するのですけれども,逆に裁判所の立場からすると,その例外に当たるかどうかを慎重に検討していただきたいという思いがあります。そのためには何らかの担保措置がないと,場合によってはズルズルになってしまうこともあり得るのではないか。それを防ぐためにやはり担保措置が必要で,証拠能力の制限というのは理論的に難しいかと思いますが,何らかの立証方法の制限という形でうまく枠組みが作れれば良いと考えます。 ○岩尾幹事 やはり何らかの担保措置があった方が良いという裁判所の御意見はよく分かるのですけれども,義務違反があった場合には結局その立証方法の制限でも,もはやそれ以上の任意性の立証ができないとする限りは,やはり一律排除と同じ効果が生じてしまうという意味で川出幹事の御意見のとおりではなかろうかなという気がしています。そこが本当に実質的な部分で結論の妥当性が賄えるのだろうかという危惧がやはりどうしても拭えないのが問題ではなかろうかと思います。   それから,後藤委員が言われた取調官の証言のみを禁止するということだと,被告人質問によって立証することは認めるということになるのだろうと思うのですが,そういう趣旨の御意見ということでよろしいでしょうか。 ○後藤委員 この場合被告人は任意性を否定しているわけですので,検察官が反対質問的なものによって本当に任意性を立証することができる場合というのは,あるのかもしれないけれども,現実には少ないでしょう。 ○井上分科会長 理屈の上でですね。   ひとわたり御意見を伺いましたので,この点についてはこのぐらいにさせていただきたいと思います。   次に,「第2」の制度案について議論を行いたいと思います。検討課題のいずれについてでも結構ですので,御意見のある方は,御発言をお願いしたいと思います。 ○露木幹事 今日は初めて資料を配布させていただきましたので,そちらを御覧いただきたいと思うのですけれども。   この「第2」の制度案の「1」,「2」,「3」に加えまして,「4」ということになりますけれども,捜査機関に録音・録画の努力義務を規定してはどうかという提案でございます。この制度案の「1」から「3」までですと,弁解録取と調書の読み聞け,この二つの場面に録音・録画義務が限定されるということになって,狭過ぎるという印象を恐らくお持ちになると思うのですけれども,今私どもも録音・録画の試験実施をやっておりますけれども,そういう二つの場面だけではなくて,取調べのライブの場面もなるべく可能であれば録音・録画するようにということを現場に促しておりますので,そういう実務を反映させるような方法,被疑者の供述が任意にされたものであることを明らかにするために必要な場面については録音・録画をするように努めるということを規定することが可能ではないかと思います。   さっきの「第1」の制度案の場合に例外事由がうまく過不足なく規定できるのかどうかという点については,かなりさっきの議論もありましたけれども,私ども,難しい面があると思いますので,そういう難点を回避するということを確保しつつ,他方でなるべく広く録音・録画を実施できるところは実施するということを実現する上で,こういう枠組みを規定してはどうかなという趣旨でございます。 ○井上分科会長 今の露木幹事の御発言も踏まえて,御意見があれば御発言をお願いしたいと思います。 ○小坂井幹事 ここまで言われるのだったら全過程義務化にしていただいて,あるいは何も事件を絞る必要もないのではないかなという感じが一方ではありますけれども。 ○井上分科会長 この露木幹事の追加の参考資料なのですけれども,努力義務だとすると,対象を限定しているというところが逆作用しないですか。これ以外のところは努力しないでも良いようにも読めてしまうので,それで良いのかと,ちょっと疑問に思いますけれども。 ○露木幹事 これは,「第1」の制度案も対象事件を限定しようとしており,同じような関係があるわけですね。しかし,裁判員制度対象事件については,任意性の立証に特有の問題があるわけで,その点に限定の趣旨を求めれば,合理的な説明になるのではないでしょうか。 ○井上分科会長 出発点がそうだというのは分かるのですけれども,この努力義務のところが,これについては努力しなさいと書いているものですから,それ以外についてはどうなるのか,努力しないと読まれないかということなのですが。 ○露木幹事 ここに書いてあるとおり,被疑者の供述で任意にされたものであることを明らかにするための努力義務ですので,それ以外の事件については,そういう趣旨からは努力義務がないとしてもおかしくはないかなと思うのですけれども。 ○井上分科会長 ほかの方いかがでしょう。後藤委員,何か御意見はありますか。 ○後藤委員 今まで出た意見のとおりで結構です。 ○井上分科会長 川出幹事,どうですか。 ○川出幹事 特にありません。 ○井上分科会長 ほかの方。髙橋幹事はどうですか。 ○髙橋幹事 特にありません。 ○井上分科会長 露木幹事,何か補足して御意見ありますか。 ○露木幹事 特にありません。 ○井上分科会長 それでは,特に付け加える御意見はないということですので,このぐらいにさせていただきたいと思います。   取調べの録音・録画につきましては,特別部会の報告を念頭に置いて,本日の議論をも踏まえて当分科会での検討状況を整理するとともに,必要に応じ第8回分科会でも議論をさせていただきたいと思います。   ここで5分程度休憩をさせていただきたいと思います。           (休     憩) ○井上分科会長 それでは,再開させていただきます。   次に,通信会話の傍受についての議論に入ります。まず,配布資料10の内容を事務当局から説明していただきます。 ○久田幹事 資料10を御覧ください。これは,当作業分科会の第5回会議での配布資料をベースに,その際の議論を踏まえつつ,加筆,修正を行ったものです。これまでの資料からの主な変更点を中心に御説明いたします。   まず,「通信傍受の合理化・効率化」のうち,「第1 対象犯罪の拡大」につきましては,「考えられる制度の概要」の「(1)」に具体的な罰条を追加して記載しております。また,「検討課題」の「(2) その他重大な犯罪であって,通信傍受が捜査手法として必要かつ有用であると認められるもの」についても,当作業分科会の第5回会議における坂口幹事の御説明に基づき,具体的な法律名や罰条を追加して記載しております。これら「(1)」,「(2)」のいずれにつきましても,個々の罪種につき,追加の要否・可否を御議論いただければと思っております。   また,「第2 立会い,封印等の手続の合理化」につきましては,「検討課題」の「2」につき,より具体的な検討に資するよう,「(1)」から「(3)」まで,鍵の生成など具体的な行為ごとにそれぞれ複数の案をお示ししております。これらの相互の組合せにつきましても実際の手続の流れ等を想定しつつ,御議論いただければと思います。   「第3 該当性判断のための傍受の合理化」と「会話傍受」については,修正した点はありません。   資料の御説明は以上です。 ○井上分科会長 本日の議論においては,まず「通信傍受の合理化・効率化」についての議論を行い,その後,「会話傍受」についての議論を行いたいと思います。   最初に,「通信傍受の合理化・効率化」の「第1 対象犯罪の拡大」についての議論から始めたいと思いますので,この点について御意見のある方は,御発言をお願いします。 ○坂口幹事 対象罪種の拡大につきましては,前回御提案申し上げ,御検討のお願いをしたとおりですが,多様な罪種を取り込んだ場合に具体的なイメージがやや湧きにくいという御指摘もありましたので,今日は資料も少し御用意させていただきました。もしよろしければこの御説明をまずさせていただければと思います。 ○井上分科会長 どうぞ,お願いします。 ○坂口幹事 二つほど例にとりまして,まず一つは振り込め詐欺についてどのような態様で犯行が行われているかということを御説明いたします。ポンチ絵をお配りしておりますが,これは以前に部会でお出ししたものと全く同じものです。   振り込め詐欺グループと申しますのは,中央に「首魁」がおりますが,この下に主要な数名の「中核メンバー」とポンチ絵でしておりますが,こういう者がおりまして,その配下にそれぞれ「架け子」グループ,「出し子」グループ,「受け子」グループというような者がいて,それぞれ役割分担をして一体として犯罪を敢行しているというのが通常です。   黄色で囲まれている中にいる者というのはリアルな世界には姿を現しません。リアルな世界に姿を現さざるを得ないのは金を引出しにくる出し子,あるいは金を受け取りに来る受け子でありまして,これは半分黄色い枠からはみ出しているというのがこのポンチ絵で御理解いただきたいところです。ここが犯人グループの中でリアルな世界に姿を現さざるを得ない役割の者でありますので,捜査機関としてはここを捕まえていくということをしているわけです。   しかし,残念ながら相当数の出し子,受け子を検挙しておりますけれども,検挙がここにとどまってしまいまして,その背後にいる中核メンバー,指示を出している者,さらにはそれを統括している首魁といったところにまで検挙の手を伸ばすということは極めて困難であり,結果的には多数の出し子,受け子を検挙しながらグループの壊滅をできず,被害が出続けるというのが現状でございます。   今年に入りましてからは,1日に1億円以上の被害が毎日出ているという状況であります。30分に1人の方がだまされているというのが今年の状況であります。   この出し子や受け子というのは架け子側と連動いたしまして,架け子は一日中アジトから電話をかけ続けて被害者をだまそうとし続けているわけですが,まんまと成功して,だまされた,引っ掛かった被害者が出たという場合には,この被害者を金融機関へ誘導いたします。そこでお金を振り込ませるなり,あるいは引き下ろさせるなりということをいたしまして,振り込ませた場合には犯行が発覚する前に,被害者が被害に気が付いて口座を凍結する前に引き出しをしませんと金が手に入りませんので,うまいことだまして被害者がお金を振り込んだよということの連絡がこの架け子グループの方の中核メンバーから出し子グループの方の中核メンバーへ連絡がいきまして,出し子グループの中核メンバーが出し子に対して携帯電話で指示をし,出し子がいずれかの場所のATMに赴いてそこで現金を引き出すということが直ちに行われるわけです。   次に,児童ポルノの方を御覧ください。罪種は違いますけれども,図式としては振り込め詐欺とよく似ているなと感じていただければというのがこのポイントでございます。   児童ポルノにつきましてもやはり役割分担をして,「首魁」の下にそれぞれ「指示役」というのがいて,「指示役」の下に下っ端の人間たちがいて,それぞれ役割分担をして実行行為を分担しているということでございます。   まず右側に「撮影・製造班」という者がいますが,物を作らなければなりませんので,撮影・製造するグループがおります。製造というと余りまがまがしい感じがいたしませんけれども,これ実際には,要するに児童を被害者としてここで強姦や強制わいせつが行われている現場であるということであります。こういった者が撮影をいたしますと,このでき上がったものを「販売班」の方に提供いたしまして,「販売班」の方で大量に物をストックし,インターネット等を使って全国から顧客を募り,これに対して物を届けるということをやっております。   グループによっては国内に数千人の顧客を持っていて,何億円の売上をしているというようなグループも別に珍しくはありません。   買った者は,これは架空名義,借名名義のような口座に対して現金を振り込むという形で代金の決済をいたします。足がつかないようにこういう名義の口座から金を引き出すのはやはり「出し子」と呼ばれる人間が出てきて,これがいずれかの場所のATMで引き出していくというような形になるわけであります。   したがって,捜査の方もやはり姿の見えやすい出し子というところから入るわけでありますけれども,出し子をいくら検挙してみてもその背後にいるグループについては全く供述も得られないし,解明ができない,検挙ができないというのが現実でございます。 ○井上分科会長 ありがとうございました。  それでは,今の御説明も踏まえて御議論いただきたいと思います。どなたからでも結構ですので,御発言をお願いいたします。 ○川出幹事 坂口幹事に質問があるのですが,仮に,振り込め詐欺や児童ポルノの製造・販売を通信傍受の対象とする場合,今御説明があったような組織の中でそれぞれに役割を担っている者の間の電話での通話を傍受することになるわけですが,その場合には,傍受しようとする特定の電話がどのように使われているかということが分かった段階で傍受をするということになるわけですね。つまり,組織の中で,それぞれに役割を果たしている人がいて,その間で特定の電話が使われているというところまで分かった段階で令状請求すると,そのように理解してよろしいでしょうか。 ○坂口幹事 そのとおりでございまして,その通信手段が犯罪にまつわることに使われる蓋然性があるということを疎明しませんと令状をいただけないような現行法になっておりますので,それはおっしゃるとおりでございます。   それは多少難しい部分もあるのですけれども,正にそれを解明して,電話の回線,電話番号を特定するというのが捜査でございますので,それはさせていただくと。実際そういうことができるからこそ現行法上例えば覚醒剤の密売組織についても正に傍受ができて検挙ができているというところでございます。 ○川出幹事 分かりました。その上で,検討課題とされている,詐欺などについて,組織性の要件を付加するかどうかという問題についてですが,前回,組織的犯罪処罰法で言う団体要件を課すと,その疎明は難しいという話がありました。私もそれはそうだろうと思うのですが,今のお答えからすると,例えば,組織の中で一定の役割分担に基づいて犯罪がなされているという程度のことであれば疎明ができるということになるのでしょうか。 ○坂口幹事 それは程度問題ということになろうかと思うのですが,現行どうしているかということを申しますと,恐らくこういう役割分担関係になっているだろうという仮説を立てて,それぞれの対象人物がどういう通信手段を使って,普通一人で何台もあるいは何十台も携帯電話を持ってますから,それをどういうふうに使っているのかというようなものをいろいろ解明していって,一定程度疎明ができるというところになってようやく令状請求をするというのが実情ですので。そこまで捜査が進んでいると変な話ですけれども,逮捕状もとれるというか,逮捕状が出るぐらいの疎明資料は優にそろっているわけですね。そこまでしないと傍受令状が出ないというのが実務の相場観でございます。   本当にそこまで必要なのかというのがまた別の問題でありまして,立法者の意図はそこまでは要求していないのかもしれませんけれども,実務としては非常に謙抑的に運用しているということもありまして,そうなっております。   そうであるとすると,すみません,川出幹事の質問の趣旨を忘れてしまいましたが,なかなか要するに目的と手段が整合しないというか,正に組織性をもっと迅速に,効率よく解明したいからこそ傍受がしたいのに,傍受ができるまでにはもう逮捕状がとれるまでの組織性の解明が必要になってきてしまうというのが現状の問題だろうと思います。 ○川出幹事 繰り返しになりますが,先ほどの御説明で,振り込め詐欺について通信傍受を仮に認めたとした場合,組織の中での役割分担があり,それぞれの役割を担っている者の間で,特定の電話が使われているというところまで疎明して令状請求するということになるとすれば,遡って,その意味での役割分担に基づいて行われているということを,いわば犯罪の組織性を表すものとして,通信傍受の要件として加えたとしても,そのことによって,事実上通信傍受が利用できなくなってしまうような事態にはならないのではないかと思ったということです。 ○坂口幹事 質問の御趣旨が分かりました。そういうことであると,その辺は困難です。ちょっと私格好いい説明をし過ぎたかもしれませんが,例えば10人の対象者がいて,この10人が関与しているなという程度のことは分かるのですが,具体的にどの人が何をしているのかと,これは分かりません。分かる方法がないからです。なので,そういう役割分担関係というか,そこまで疎明を求められるとなると,それはちょっと現状の捜査方法では疎明することは極めて困難だと思います。 ○後藤委員 今の川出幹事の問題意識とも共通するのですけれども,前回これを議論したときに,神幹事から組織性要件の御提案があって,私からは特に「(1)のウ」の部分の窃盗とか詐欺について反復継続されたものという要件はどうかというお話をして,それに対してそれは疎明が難しいから実効性がないという議論があったと思います。   そこで,具体的な事例で現に組織性があるとか反復継続されたという疎明は難しいのかもしれないですけれども,しかし犯行態様から見てそういう性質のものだということはある程度推測ができるのではないでしょうか。そうすると,例えば,犯行態様から見て同一の集団によって同様の態様によって反復継続して行われるおそれが強いものといった,ある程度抽象的な要件であれば疎明はそれほど難しくないのではないでしょうか。 ○坂口幹事 後藤委員のおっしゃっていることの意味がよく分からなかったのですけれども,それは罪種の性質として一般的に反復継続される罪種あるいは手口だからという意味であって,その対象となっている被疑者それぞれの固有の事情がどうこうということではなくて,被疑事実である手口がそういう手口の犯罪であるからという,それで罪種を限定しようという御発想なのでしょうか。 ○後藤委員 罪種というか犯行態様,手口といってもよいもしれないですけれども,それによってある程度限定するという方法があり得るのではないかという考えです。 ○井上分科会長 振り込め詐欺なので,集団によって行われることが多いと,そういう絞り込みということですか。 ○後藤委員 そうです。 ○岩尾幹事 確認なのですけれども,前回反復継続の要件というのをどう位置付けるかというところで,私の方から後藤委員に質問させてもらいまして,それは組織性の代替要件としての反復継続性ですかとお尋ねしたら,そうではなくて,組織性は組織性であって,神幹事が提案されていた犯罪の重大性のところが反復継続性に置き換わるのだと言われていたので,組織性プラス反復継続性が必要であるとの御意見だと理解していたのですけれども,今の御発言は,組織性ではなくて,手口の類型的な反復継続性でよいという御趣旨でしょうか。 ○後藤委員 組織性の部分は今,「同一の集団によって」と表現したわけです。 ○井上分科会長 それも具体的な事案がそうであるということではなく,手口から見るとそういう…… ○後藤委員 そういう疑いが非常に強いという場合です。 ○井上分科会長 それで良いということなのですか。 ○後藤委員 そういう絞りも方もあり得るのではないかと思います。 ○井上分科会長 そうすると,それは対象罪種のところに何か書き込むということですよね。要件ではなくて。 ○後藤委員 罪種についての注記ですね,「ただし,こういうものに限る」みたいな書き方です。 ○井上分科会長 要するに,個々の令状発付の要件のところで書くのではなく,対象罪種のところに何か書き込むと。 ○後藤委員 イメージとしてはそうです。別表の中にこの注記が入るような作り方です。 ○井上分科会長 そんなの書けるのですかね。漠然とした言い方では絞り込めるように思えるかもしれませんけれども,法規定として書き込むのは非常に難しそうな感じがしますね。御趣旨はよく分かりました。 ○神幹事 前回ペーパーを出した以上のものはちょっと出てこないのですが。今日のこのペーパーを拝見して,先ほどの説明を聞いていますと,10人ぐらいは大体対象者が分かるけれども,その役割分担までは分からないと言ってましたね。今の通信傍受法はいわゆる数人共謀してという形の要件になってて,それは2人以上で良いと言ってるけれども,そこの人数をもっと増やすというわけにはいかないですかね。10人ぐらい分かってるというのだったら。 ○井上分科会長 「10人以上共謀して」などと数を具体的に出すと,その数にどういう合理性があるのかが問題になると思うのですが。 ○神幹事 振り込め詐欺なり組織性とかあるいは児童ポルノの対象になるかどうかはともかくとして,それなりに人数がここに関わっていると,しかし,誰がどう関わっているか分からないけれども,そういう人数がいるんだということであれば,なんかそこで限定はある程度できるかなというふうに思って意見を申し上げました。 ○髙橋幹事 人数で絞るというのは現実的ではないと思うのですが。今日お示ししていただいたこの図を見ても,結局は指揮命令に基づいて,かつ役割分担があらかじめ定められていて,一体となって犯罪を行う,こういったものをターゲットにしたいということであれば,今言ったような事項は,要件として組織的犯罪処罰法第2条にも掲げられているものなので。そういう形で何かやはり条文化できないかなと思うのですけれども。   また,裁判所が令状の請求を受けた際には,それは誰が具体的にどういう役割をしているかというのは明確には分からないとしても,先ほど後藤委員もおっしゃったように,経験則上あるいは疎明も踏まえてなのですが,これは今述べたような指揮命令系統がないとできない犯罪だな,役割分担もあらかじめ定められているのだなというのは一定の疎明があれば,そこは裁判所としても心証は抱けると思いますので,今言ったような形での要件で絞り込んでおくと,裁判実務の現場にとっても良いと思います。   それから,組織的な窃盗団あるいは強盗団というのは今回表された図にあるようなものとはまたちょっと違うのかなと思います。というのは,指揮命令系統がはっきりしていない場合もありますし,役割といってもその都度その都度で変わっていくような場合もあるので,それもターゲットにしたいという御趣旨であれば,またそれをカバーできるような要件というのもまた一つ考えなければいけないかなという問題はあると思いますけれども。 ○岩尾幹事 今の髙橋幹事の御意見もちょっとよく分からなかったのですけれども,後藤委員と同じように対象犯罪の中での話なのですか,それとも通信傍受法第3条の要件の中での話なのですか。そして,今言われたように,振り込め詐欺と組織窃盗のようなものが態様が違うということになると,3条の中で対象犯罪ごとに要件を書き換えるということになるのか,ちょっとよく理解できなかったのです。3条の要件をよく見ると,1号,2号,3号とそれぞれあって,2号のようなものについては元々反復継続性だとか犯行計画の一連性というようなものがあって,2号の中にそういうものを要求するということは余り意味がないでしょうから,せいぜい1号の部分に書き込むことになるのだろうと思いますが。   それからあと,数人共謀してというのは,共謀の中身の理解によるのだろうと思いますけれども,実際にはある程度の役割分担があって,それぞれ正犯意思といった形で共同実行の意思があるというふうに共謀を考えると,問題となっている組織性の要件について,抽象的に誰がどんな役割分担をしているか分からないけれども,手口から類型的に組織として一般に役割分担が常識的にあるだろうというレベルのものでよいというのであれば,それはもう数人共謀してという要件でもカバーされているのではないかというような気もするわけですね。   だから,その数人共謀しての要件に加えて,どういうような組織性を書くかというのは非常に微妙で,それが一気に組織的犯罪処罰法の団体要件までいくと,それはちょっと行き過ぎだろうと思います。 ○髙橋幹事 説明がまずかったかと思うのですけれども。基本的には通信傍受法第3条が対象とする犯罪について,組織的犯罪処罰法第2条で言う組織性の要件をかぶせたような形で,詐欺なら詐欺という対象犯罪を通信傍受法で絞り込めないかという意見です。   一方,組織的な窃盗・強盗団については,それで絞り込めるのかというと難しいので,窃盗・強盗についてはちょっと違ったような形で対象犯罪という形で何か規定しないとうまくターゲットを捕捉できないのではないかという趣旨です。 ○坂口幹事 ちょっと私の説明も悪かったかもしれませんが,岩尾幹事に補足していただいたとおりでありまして,現行法の「数人の共謀によるものであると疑うに足りる状況がある」という要件は,捜査実務にとっては極めて高いハードルであり,数人の共謀というのは何となくこの一味が関与してみんなでやってるのだろうなという程度の疎明では到底許されないわけです。   してみると,罪名のところに単に詐欺とだけ書いたとしても,それは詐欺一般に直ちに広がるというのは余りにも飛躍した発想でありまして,詐欺ではあるけれども,「数人の共謀によるものであると疑うに足りる状況」がある詐欺であり,かつ,さらに「他の方法によっては,犯人を特定し,又は犯行の状況若しくは内容を明らかにすることが著しく困難」な詐欺という,ものすごい要件が既に加わっているわけですね,現行法でも。   それ以上にいろいろな要件みたいなものを加えてみたとしても,恐らく実質的に良いものはでき上がらないのではないかと思われます。 ○井上分科会長 ひとわたり御意見を伺い,これまでとそれぞれの方の御意見はそれほど違わないようですけれども。この点についての本日の議論はこのぐらいにさせていただきたいと思います。   次に,「第2 立会い,封印等の手続の合理化」及び「第3 該当性判断のための傍受の合理化」についての議論に進ませていただきたいと思います。これらの点については,第5回会議におきまして,通信事業者からのヒアリングも行ったところでありますので,その内容をも踏まえつつ,御議論いただければと思います。   検討課題は複数挙げられておりますけれども,ここでは,一括して議論を行っていただきたいと思いますので,御意見のある方は,どなたからでも御発言をいただければと思います。 ○坂口幹事 検討課題の1点目の適正担保でありますけれども,これについては最初の分科会で警察庁の担当者から御提案させていただいたような方法によれば,十分装置の適正作動については保証されるのではないかと考えております。   それから,検討課題の2番目ですけれども,捜査機関自身に行わせていただいてもよいということであれば極めて有り難いですし,全体として関係者全員にとっての負担が一番軽いという意味でもよいですけれども,そういうわけにもいかないでしょう。そうなると,誰かが鍵を生成して,その鍵が通信事業者と捜査機関と裁判所に共有されているという状態を作り出すために,最も合理的な方法ということになりますと,やはり裁判所にある程度関与していただかざるを得ないのかなと思います。 ○髙橋幹事 前回神幹事から,それから今回坂口幹事から同様の趣旨の御発言がありましたが,前もお話ししたように,裁判所の権限としてなし得る作用としては,令状の発付はいたしますし,その中で例えば条件など付けることもあります。採尿令状の場合に,医師による相当な方法に基づくことなどと。ただ,実際にその場面でも,このカテーテルを使えとかこのコップを使えとか物を用意するというようなことはしていないわけで,今回のような鍵の生成あるいは鍵の生成装置の管理といったものは裁判所の権限としてそもそも可能なのかというところはきちんと整理しなければいけないのかなと思っております。   一方,鍵の生成,鍵の生成装置の管理というのは大きな視点で見れば正に執行の方法についてのものですので,捜査機関が行うということが理論的に整合するのではないかと考えられます。ただ,捜査機関だけがこれに関与するということについて理解が得られないということであれば,C-1案にも,捜査機関が鍵の生成を行うが,その際に裁判所の職員が立ち会わせるものとするとありますが,何らかの方法で,その適正性の担保を裁判所の関与という形で確保するということについて検討するということは考えられます。 ○神幹事 「2」については坂口幹事と同じことを前回も申し上げましたけれども,それはもう申し上げません。   「1」についてはこれも部会の中では申し上げたと思いますが,まず実際上傍受装置が適正に作動しているのか,その後も適正に作動し続けられているのかといったことがきちんと誰かに分かるような形でないといけないと思います。通信事業者の方たちにとっても,今までは少なくとも立会いをする形で言わば通信の秘密を守られるように自分たちも努力しているということが見えていたと思うのですが,それが今度は全部捜査機関だけで行うことになりますので,そこに誰が関与するかはともかくとして,やはりきちんとした適正にできるという形のものがきちんとされる必要があると思うわけです。その意味では,ここはきちんと議論しておいた方が良いと思います。   そこのところには,前に申し上げたように,監査もそうですし,仕様の公開もありますし,第三者による認証ということもあり得ると思います。 ○岩尾幹事 「2」の点の問題なのですが。まず,適正さの担保という観点からすると,やはり裁判所,通信事業者は担保する機能を果たすという意味では適切かと思うのですが,他方,通信事業者は民間の方なので,どこまで負担をしていただくのが適切かという観点は考慮しなければいけない。そもそも通信事業者が責任を負うべき領域にあるかどうかということは考えなければいけないのかなと思います。   そうすると,送信装置への鍵の入力というのは正に通信事業者の管理区域内でのものでございますので,(2)についてはA案の通信事業者が行うというのが最も適切かなと思います。   (1)については,今断定的に意見を言うつもりはないのですが,やはりどちらかというと裁判所が行うか,捜査機関が裁判所の職員の立会いの下で行うかというようなところではなかろうかという気がするわけです。裁判所の権限としてそれが許されない行為かというと,そんなことはないわけで,令状の条件について,今具体的なこのカテーテルでやれというような条件は付けてないですけれども,鍵の問題だとすると,ではこの生成した鍵を利用して実行しなさいという条件を付けること自体が裁判所の権限を越えているかというと,そういう事実行為は飽くまでも条件を付けるという裁判所の職責に関連する事実行為なので,そこは権限の問題は生じないだろうと思います。   現に今傍受の原記録を裁判官が保管しているという部分についても,ある意味不服申立てが起こされた段階で原記録を提示させた上で判断するという構造も考えられるわけですけれども,よりその適正さを担保するためには原記録自体を保管して改ざん防止を図った方がより適正なのではないかという判断からそういう立法がされているのだろうということも考慮する必要があるのかなという気がします。   さらに,もう一つの(2)の生成装置の管理については,もし裁判所が単独で鍵を生成するというのであれば裁判所が行うというのが自然なものでしょうし,もし仮に裁判所の職員が立ち会って捜査機関が鍵の生成を行うということであれば,捜査機関が生成装置を管理し,鍵の生成の都度,裁判所に生成装置を持ち込むということも考えられなくはないのではなかろうかという気はいたしますが。 ○後藤委員 この部分はやはり裁判所に期待したいと思います。鍵の生成装置を捜査機関が管理していて,実際生成するときに裁判所に持って行って例えば書記官に立ち会ってもらったとしても,それを適切に使っているのかどうかという見極めは恐らく書記官には分からないでしょう。そうすると,鍵の生成装置は裁判所が管理していて,裁判所が鍵を生成して渡すという作りにすべきだろうと思います。 ○井上分科会長 裁判所に対する期待感は分かりました。 ○神幹事 ここで新たな仕組み自体の適正担保方策の在り方ということに関連して,ペーパーを出しておりますので,そのことについて一言皆さんの御意見を伺いたいという趣旨であります。 ○井上分科会長 第三者機関ということなのですけれども,これについては以前から申し上げているように,当分科会ではなく部会で御意見を出していただいて議論すべき事項ではないかと理解しています。ただ,今のお申出の趣旨は,ここで当分科会の検討課題として出したいということでは必ずしもないと受け取ったのですが。そういうことでよろしいですか。 ○神幹事 はい。今日の段階では部会で改めて発言するに当たって,この作業分科会に一応考え方をお示しして,もし参考意見があればということでよろしくお願いします。 ○井上分科会長 分かりました。では,そういう受け止め方で御発言いただくので結構だと思います。資料もその参考資料ということですね。 ○神幹事 さようでございます。 ○井上分科会長 そういうことですので,ここで参考意見があれば出していただいて,それを参考にして,部会の方でまた御意見を出されるのであれば出していただくということになろうかと思います。   その意味で,当分科会としては,それを部会に報告するということはいたさないという,そういう扱いでよろしいですか。 ○神幹事 はい,結構です。 ○井上分科会長 それでは,お願いします。 ○神幹事 時間もないようですので,ペーパーの概略をお話ししたいと思います。   なぜ第三者機関の設置が必要かということについては幾つかの理由を述べております。1ページ目に,「通信傍受によるプライバシーの侵害の可能性が増えること」ということで,現在ここで審議されておりますように,対象犯罪の拡大がされるということと,立会い,封印の手続の合理化が検討されています。仮に対象犯罪が拡大されることになりますと,今まで以上に通信の秘密や個人のプライバシーの侵害される危険性があるのではないか。立会いをなくすと,通信傍受が適正に実施されているか,第三者の目による監視の必要性というのが高まるのではないかという点が第1点であります。   二つ目が,不服申立制度が現在ございますが,それが必ずしも実効性がないのではないかという点があります。傍受された通信の相手方に対してはその氏名等が判明しなければ傍受が行われたことの通知すらされず,被疑者についても通知の到達は確保されておらず,不服申立ての機会が十分に保証されているとは言えない。また,傍受が行われた通知を受けた者にとっても,既に実施された傍受について不服申立てをする実益が乏しいことなどに照らすと,不服申立制度によって通信傍受の不適正な実施が有効に防止されているということはできない,ということであります。   通信が傍受されていても,傍受された事実を確知できないので,プライバシーを実際に侵害された者からの不服申立ては事実上困難であり,裁判で証拠として提出されることも少ないために,裁判等による手続の適法性を検証することも困難である。その意味で第三者機関の必要性が高いと考えております。   もう1点は,新方式によって立会人が不要になる場面が非常に多くなるのですが,この点については実は日弁連がこの作業分科会とは別に通信事業者と改めて勉強会をいたしました。そこでは,結局今までの立会いというものについては,ある種の警察に対する緊張感を与える場を作っていたということと,立会いがいることによるけん制機能というのがあったのではないかと考えているという御意見がありました。私は前回第三者が見ているところでは悪さができないということで話したと思いますが,それと同じ感触を持っております。通信事業者としては業として通信を提供していますので,通信の秘密がいやしくも侵されないようにするという意味で,立会いに協力することでそれなりの協力をしてきて国民の信頼を得てきたというような理解をしているという御意見をいただきました。   そうだとするならば,これからの新しい方式というものについては,やはり国民の理解が必要になるのではないかという意味で,第三者監視が欠如したということに代えて,事後的ではあるけれども,違法なあるいは不適切な傍受がなされた場合についてチェックが別の機関でできるようなものを作る必要があるのではないかということで提案するものであります。   この機関の構成等についてはここでは内閣府に設置するなどということが書いてありますが,これは要するに捜査機関とは別の機関でもって,独立した機関で設置をしてほしいということであります。日弁連の中には内閣府という意見と,総務省でも良いのではないかという意見等もございました。ここをどうするかということはまだ考える余地があろうかとは思っております。これは常時監視をするということではなくて,抜き打ち的な形のチェックをするという形のものを考えています。構成員等についてもここに記載されたとおりであります。   第三者機関の職務としては,通信傍受記録等を確認し,通信傍受が適正に行われているかどうかを確認する。必要に応じて傍受時の様子や傍受内容についても視察を行う。通信傍受に使用する機器,暗号鍵の管理等がどうなっているかの確認をする。不正等の運用等がある場合には,もし内閣府であれば内閣総理大臣に意見具申を行うというような形のものを考えております。 ○井上分科会長 そういうことを部会で御提案されることを今考えているということで,何か参考になる御意見があればお伺いしたいということですが。 ○坂口幹事 部会に御提案されるのであれば,2点あります。一つは,趣旨を明確にされた方が良いなと思います。というのは,不服申立制度には実効性がないという御主張ですので,これは現行の不服申立制度を廃止して,事後通知もしないことにして,その代わりにこの第三者機関を設置するのだという御主張だと理解できますが,そういう理解でよいのだということは明確にされた方が良いと思います。   それからもう一つの参考意見として是非参考にしていただきたいと思いますけれども,捜査の現場では事後通知についてものすごい負担と手間暇をかけています。幸か不幸か,警察ですから本気になって調べようと思ったら相当なことが調べられるわけです。したがって,電話が1本掛かってきただけの人であっても,誰なのか,どこにいる人なのかということについて,これはそこまでやって連絡がとれないのなら仕方がないかと普通の人なら思っていただけるぐらいのところまでは調べるわけですね。相当な人数もいますし,人定を割り出してその所在まで追及していくというのは極めて負担が重い作業ですけれども,誠実にやってます。   そういうことで,非常に涙ぐましい努力というか,それは必ずしも直接検挙活動とは関係がないとは言いませんけれども,それでも捜査員はやっているわけですよ。正直もう泣きそうです。それでもやってるというのが実情だというところを是非御参考にしてください。 ○井上分科会長 神幹事に御趣旨を明らかにしていただきたいところがあります。この2ページ目の「氏名等が判明しなければ傍受が行われたことの通知すらされず」というところは,通知しようがないから通知しなくてよいということになっているわけですが,その次に,「被疑者についても通知の到達は確保されておらず」と書かれているのですけれども,これは,通信の当事者が被疑者以外のものである場合も,被疑者にも通知しろということをおっしゃっているのですか。 ○神幹事 うーん。 ○井上分科会長 なぜ通知しないといけないのですか。その傍受によって侵害される通信の秘密というのは通信の当事者の権利ないし利益であって,その侵害された人に対して,あなたの通信は傍受されましたよということを通知する。そうすることによって不服申立ての機会を担保するという仕組みになっているわけですけれども,何で被疑者にまで通知をしなければならないことになるのでしょうか。   もう一つ,通信傍受については不服申立てをする実益が乏しいと述べられているのですけれども,こんなこと言ってしまってよいのですか。通信傍受法で準抗告に相当するような不服申立ての仕組みにしたのは,それによって,不当なあるいは違法な通信傍受があった場合に救済を受けることを確保するためなのです。録音とかされていると秘密であるはずの部分がそのまま残ってしまっているわけなので,それを消去することを求めるのは実益があるから,そういう途を設けているのです。そういう実益もないなんて言ってしまったら,これは不要なのかと,正に坂口幹事の言うような論法になってしまうと思うのですが。 ○神幹事 私どもの方では,実際問題として通信傍受されてしまって犯罪事実が全部分かってしまった場合には,そういうことについていちいち通信の記録を全部チェックをしてやるということをほとんどやられていないのではないかということです。 ○井上分科会長 通常の捜索差押えの場合だってそういうことはあるわけでしょう。メリットを感じなければわざわざ裁判所に持ち込んで何かするということはしないというだけの話なので,制度として実益がないとまで言ってしまうとちょっと大変なことになるのではないかという気がするのです。救済ないしチェックの方法として不十分だという議論ならば,まだ分かるのですけれども。 ○神幹事 分かりました。御指摘も含めて部会の方できちんと意見を述べさせていただきます。 ○後藤委員 今の部分,実益が乏しいというのは申立人本人にとってという意味で,制度としてという意味ではないのではないですか。そういう申立ては余りしないだろうという趣旨で言われているのでは。 ○井上分科会長 ただ,そのことをここに書かれている趣旨は,それに代えて,あるいはそれにプラスして第三者機関というのを置いてチェックしないといけないということの理由としているわけなので,やはり制度の問題なのですよ。個人にとって実益があるかどうかという問題を単に言っておられるのではなく,制度としても実益が乏しいので,それに代えてという論法になっているのですから,制度の問題として考えざるを得ないのです。このペーパーの書き方はですね。   質問をもう一つさせてください。ほかの制度を参照していますね,マイナンバー法の個人番号情報保護委員会と刑事施設視察委員会。しかし,それらは,いずれも行政機関の行政的な行為に対するチェックの仕組みであり,そこには司法的なチェックが入らない。そういうものについて設けているものなので,通信傍受の場合,司法的なチェックとして事前のチェックもあれば事後的に不服申立ての機会も設けられていますから,それらを参考として引いたから直ちに,通信傍受についてもそういうものが必要だとか,あるいは意味があるということには必ずしもならないのではないかという気がするのです。 ○神幹事 御意見,ありがとうございました。 ○井上分科会長 ほかに御意見ございますでしょうか。   それでは,通信傍受の合理化・効率化についての議論はここまでにさせていただきます。   次に,会話傍受についてですが,予定の終了時刻が迫っていますので,坂口幹事からイメージを記載した書面が提出されておりますことから,本日は,坂口幹事からその内容について御説明をいただき,次回に,引き続いて議論を行うこととさせていただきたいと思います。それでは,坂口幹事から御説明をお願いします。 ○坂口幹事 私どもとしては2パターンがあるのかなと考えております。一つは,暴力団の組事務所や振り込め詐欺グループのようなものの犯行拠点であります。それが1枚目のフローであります。それから,もう一つはコントロールド・デリバリー,CDと呼んでいる場合のフローでございます。これが2枚目でございます。   まず1枚目の方ですけれども,一定の要件,制度を用意していただきました場合に,傍受令状の請求をしまして,裁判所から発付を受けるということをいたします。これをいただいた後に傍受装置,これはその場所において音を拾って飛ばす機械ということになりますが,送信機を取り付けるということになります。ここの取り付けで現実問題として,立会人をどうするのかという問題が生じます。実際問題,暴力団の組事務所のようなところで立会人を得るというのは非常に困難であると思われますが,他方,振り込め詐欺のアジトですとかあるいは自動車のようなものに取り付けるというような場合には立会人を得るということも不可能ではない場合もあると思われますので,手続の適正を保つという意味からも,それから正しくその会話がその場所で行われた会話であるということを担保するためにも,立会人というのは得られるのであれば得るべき仕組みとしておいた方がよいのではないかということで立会人と書かせていただいております。   具体的には,先例に倣いますと,場所の管理者,隣人又は地方公共団体職員ということになろうかと思われますが,組事務所の場合は当然そうですし,それから振り込め詐欺のアジトなんかの場合も場所の管理者はグルであると,共犯的な立場にいる場合が多いということもありますので,現実問題としてはやはり現場でこういうとき頼りになるのは消防なので,地方公共団体職員ということになっていくのかなと思われます。   装置を取り付けますと傍受が開始されるということになりまして,ここでスポット傍受を要することとするのかという問題がまた一つございます。これはやるのだということになった場合には,通信傍受とは違いまして,その会話の単位というかユニットはありませんので,もうこれは決め打ちで一定のきっかけあるいは一定の時刻をもってスポット傍受を開始して,もう決め打ちで一定の時間が経過したらオン,オフ,オン,オフを断続的に繰り返すということにせざるを得ないのかなと。それにいかほどの意味があるのかないのかということはまた別途の価値判断になろうかと思いますが。最小化の措置として考えられるのはそういうようなやや強引,やや漫画じみたやり方かもしれませんが,そういうものしかないのではないかなと思われます。   会話で犯罪との関連性,該当性があるということになりますと,通信傍受と同じように傍受を継続いたしますし,該当性がないあるいは明らかでないというような場合にはこれまたスポット傍受と同じことが行われるということであります。   令状記載の期間が経過いたしますと,傍受装置を回収するということで,これは確実に終わらせたということをはっきりさせる必要がありますから,回収という手続も重要であろうなと思われます。立会人というのも可能な限り立ち会っていただくということが必要だろうと思います。   期間としては恐らく数日から10日間程度になるのが,捜査実務から考えると一般的ではないかなと思われます。通信傍受よりも長いということは,余りそういう必要はないのかもしれませんが,通信傍受よりもはるかに短いというような期間設定ですと十分な効果を期待することはできないと思います。   最後に事後通知という問題になります。これも会話傍受というものが誰に対するどういう処分なのか,誰の権利を事後的に救済しなければいけないのかという構成の仕方,理解の仕方にもよると思われますが,何らかの,誰かに対する事後通知というのはやはり必要なのではないかなと考えているところでございます。   これが1枚目のアジトパターンでございます。   2枚目がコントロールド・デリバリーの場合であります。コントロールド・デリバリーの場合は実態として配送物が国外から搬送されてくる場合と国内で搬送される場合の両方あります。国外の場合は普通は税関の外郵のところで検査していただいて,中に物が入っているということが分かるわけであります。ここで傍受令状を請求して発付をすると。   国内の場合には,配送業者の荷物取扱い場のようなところがイメージされますけれども,そういうところで,中に確かに禁制品が入っているということが分かった場合にオペレーションが始まるわけですけれども,いずれの場合であっても会話傍受の令状というのは請求し,発付を受けると。ここで傍受装置を取り付けるということになりますが。取付けというのは,この場合は荷物の中に送信機を仕込むということになるでありましょうから,立会人としては税関職員あるいは配送業者,これは確実に立会いを得ることができるであろうと思われます。   こういった人の立会いを得て,傍受装置を取り付けまして,配送ということになりますが,この時点ではまだ配送業者の管理下にありますので,配送業者に配送をしていただくと。   いざ受け渡しの直前というところで送信装置が作動するように電源を入れまして,ここからスポット傍受が開始されるということになろうかと思われます。   アジトの場合と違うのは,受け渡しが始まった途端に現行犯状態が始まって,現行犯状態が継続するので,それでもスポット傍受というのが必要なのかというのは,また別途の議論があろうかと思いますし,実際問題そこから犯行が始まっていますので,物を届けた人とのやり取りの部分からずっと含めて,結果的には全部該当性があるということで聞き続けることになることも多いのだろうと思いますけれども,一応観念的にはスポット傍受というのが必要であるならば,やはり時間決め打ちで一定時間でオン,オフを繰り返すというようなことが考えられないわけではありません。   結局配送物が届けられまして,開披されますと,そこで捜査員が踏み込んで検挙するということになります。検挙をしたところで傍受装置は確実に回収できますので,これをもって傍受は確実に終わるということが担保ができるということであります。   期間としては,これは配送物の態様で転々とする場合もありますので,そうすると数日ということにもなっていくわけですが,通常は配送物が届いてから開披されるまでの間ということになりますので,短ければ半日程度,長ければ数日間程度ということになるのではないかと思われます。   事後通知でありますが,これはもう検挙しているわけですから,普通は,成功すればですね。必要かという話はありますけれども,やはり事後通知というのを一応用意させていただきました。実際の現場オペレーションとしてはそういうふうになるのではないかなと予想しているところでございます。 ○井上分科会長 今御発言いただいた中で,趣旨不明とかこの点はどうかという御質問があれば伺いますけれども,議論については次回引き続いて行うということにさせていただきたいと思います。 ○神幹事 質問を一つだけ。アジトの会話傍受のフローなのですけれども。一応一定の期間が過ぎてしまったときにはもう送信機を撤去をするということなのですが,撤去をする前に事実上それ以上は会話を聞けなくするということは可能なのですか,技術的に。要するに10日なら10日過ぎたら聞けなくなるという。なかなか暴力団事務所ですから行って撤去したりすると非常に難しい部分があるので,聞けなくすればそこでもう事実上は終わりになると。そういうことが技術的に可能かどうかということなのです。 ○坂口幹事 それは可能だと思います。送信装置側に仕組んでおいて,音を飛ばさなくするようするという方法もあるでしょうが,より現実的なのは受信装置側で受信装置がどういう動作をしたのかを改ざん不能な形でログを残すことができます。これは通信傍受の場合と同じです。同じ技術を活用すれば,送信装置は残っているけれども,聞いていないということが客観的に検証できるような用意はできると思います。 ○井上分科会長 多分送信機側で何か組み込むとなると,それ自体がまた大きくなったり,大変なことになるかもしれません。   ほかによろしいですか。本日は,御説明を伺いましたので,これを含めてよく考えていただき,次回引き続いて議論したいと思います。   本日の議事である「通信・会話傍受」につきましては,会話傍受のところが議論未了ですけれども,それ以外のところは,部会への報告を念頭に置いて,当分科会での検討状況を整理させていただきたいと思います。   次回は,会話傍受について引き続き議論を行った後,部会への報告に向けて更に議論が必要と考えられる検討事項を取り上げて議論を行いたいと思います。具体的には本日の議論をも踏まえて整理をさせていただき,議事次第を含め,早急に事務当局を通じて皆様に御連絡させていただきたいと思います。   本日の議事はこれにて終了したいと思いますが,本日の会議につきまして,議事録に関しましては,公表に適さない内容にわたるものがあるか否かについて再度御発言の内容を確認した上で,発言者名を明らかにした議事録を公表することとさせていただきたいと思います。   また,これまでと同様に,議事録ができるまでの暫定的なものとして,事務当局において,本日の議論の概要をまとめて,全委員・幹事にお送りするということにさせていただきたいと思います。   次回の日程は,10月23日水曜日の午前10時から午後零時半までを予定しております。場所については,追って御連絡をさせていただきたいと思います。   本日はこれで閉会いたします。どうもありがとうございました。 -了-