法制審議会 新時代の刑事司法制度特別部会 第21回会議議事録 第1 日 時  平成25年11月7日(木)   自 午後 1時35分                         至 午後 5時10分 第2 場 所  東京地方検察庁総務部会議室 第3 議 題  時代に即した新たな刑事司法制度の在り方について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○吉川幹事 ただいまから法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会の第21回会議を開催いたします。 ○本田部会長 皆様,大変お忙しい中,御出席いただきまして誠にありがとうございます。本日,山口委員におかれましては,所用のため,御欠席ということでございます。また,川端委員におかれましては,遅れて御出席されるとのことでございます。   本日は,お手元の議事次第のとおり,新たに幹事になられた方々の御紹介,そして,配布資料の御説明の後に,「基本構想」に掲げられました各検討事項のうち,現在,第1作業分科会で検討をしていただいている事項につきまして,同分科会における検討を踏まえて,議論を行ってまいりたいと思います。   それでは,まず,新たに幹事になられた幹事の方々のご紹介をいたします。警察庁における異動に伴いまして,島根悟さんがこの部会の幹事を退任され,新たに警察庁の坂口拓也さんが幹事に任命されました。また,内閣法制局における異動に伴いまして,藤本治彦さんがこの部会の幹事を退任され,新たに内閣府法制局の岡本章さんが幹事に任命されました。さらに,法務省における異動に伴いまして,上野正史さんがこの部会の幹事を退任され,新たに法務省の久田誠さんが幹事に任命されました。   新たに幹事になられた方々には,一言ずつ御挨拶を頂きたいと思います。まず,坂口幹事,お願いします。 ○坂口幹事 警察庁暴力団対策課長の坂口でございます。よろしくお願いいたします。 ○本田部会長 次に,岡本幹事,お願いいたします。 ○岡本幹事 内閣法制局の岡本でございます。よろしくお願いいたします。 ○本田部会長 次に,久田幹事,お願いいたします。 ○久田幹事 法務省の久田でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○本田部会長 新たに幹事になられた皆様,どうぞよろしくお願いいたします。   それでは,本日の配布資料につきまして,事務当局から御説明いたします。 ○吉川幹事 本日は,資料63として,「作業分科会における検討(2)」と題する資料をお配りしております。これは,各作業分科会における現時点での検討の結果を取りまとめたものであり,各検討事項ごとに,「考えられる制度の概要」と「検討課題」が記載されています。   「考えられる制度の概要」には,基本的には,各作業分科会において,一定程度の認識の共有が図られたと考えられる内容が記載されておりますが,それに加えて,当部会における議論に資するよう,各作業分科会での議論を踏まえて,複数の選択肢を併記したり,あるいは,一定の制度案として成り立ち得るものを御提示するという観点から必要と考えられる内容も記載されております。また,「検討課題」には,「考えられる制度の概要」に記載された内容とは異なる意見や,今後詰めの検討を要すると考えられる点を記載しております。これらの具体的な内容につきましては,後ほど,各検討事項の議論に先立って,それぞれ説明があります。   また,席上には,本年1月に取りまとめられた「基本構想」を再配布していますとともに,「参考資料」と題する書面をお配りしております。この「参考資料」は,各作業分科会において参考として配布された資料等を整理してまとめたものでございます。なお,青木委員から,第1作業分科会第6回会議で御提出されていた「被疑者・被告人の身柄拘束の在り方」に関する資料につきましては,この度,その一部を改定したものが新たに御提出されましたので,「参考資料」には,これをつづっております。   さらに,あらかじめ大久保委員から御発言の際の補助資料として,御意見を記載したメモの御提出がございましたので,配布させていただきました。   そのほか,本日の議事進行の予定を記載した,「進行予定」と題する書面もお配りしておりますので御確認ください。   資料の御説明は以上です。 ○本田部会長 議論に入るに当たりまして,まず,今後の審議の進め方について御提示をさせていただきたいと思います。   前回第20回会議の後,各作業分科会におきましては,制度設計に関する「たたき台」にできる限り近い内容の資料を作成すべく,各検討事項について,精力的に御検討を進めていただきました。分科会長をお願いしております井上委員,川端委員,また,その他の分科会構成員の方々におかれましては,誠にありがとうございます。   本日の第21回会議と来週の第22回会議は,既に御案内のとおり,各作業分科会における現時点までの検討結果がまとめられました,配布資料63に基づいて議論をいたしたいと思います。   その後につきましては,当部会での議論を踏まえ,各作業分科会におきまして,残された検討課題についての詰めの作業を行っていただくことになろうかと思います。その上で,各作業分科会において,いよいよ制度設計に関する「たたき台」を策定していただきまして,それを当部会の第23回会議に報告していただくということにしたいと思います。   そして,当部会におきましては,その報告を受けた上で,最終的な制度案の取りまとめに向けて,制度の採否をも含めた議論を進めていくのが適切であろうと考えております。そのような進め方でよろしいでしょうか。 (一同了承)   ありがとうございます。本日は,このような今後の審議の進め方を念頭に置きながら,皆様から,各検討事項につきまして,「考えられる制度の概要」や「検討課題」に関する御意見,あるいは,更に詰めておくべき点の御指摘等を頂くことを主眼といたしまして,議論を進めていきたいと思います。   もっとも,時間の制約がございますので,お手元の「進行予定」に沿って各検討事項ごとに,議論に費やす時間を区切り,「基本構想」に記載された順序で議論を進めてまいりたいと思います。   なお,それぞれの議論に際し,配布資料の内容につきましては,作業分科会での議論の概要をも紹介しつつ説明をしてもらいますが,この説明は,事務当局にお願いすることといたします。   それでは,早速,「取調べの録音・録画制度」について議論を行うことといたしたいと思います。この事項についての議論は午後2時40分までとさせていただきたいと思います。   まずは配布資料の内容につきまして,事務当局から説明してもらいます。 ○保坂幹事 それでは,御説明いたします。   資料63の1ページ目を御覧ください。資料には「第1」,「第2」として二つの制度案について,「考えられる制度の概要」等が記載されておりますので,第1作業分科会における議論の状況と併せて,順次,御説明させていただきます。   まず,「第1」の制度案から御説明いたします。この制度案については,第1作業分科会において,資料の「検討課題」の記載順とは若干前後しますが,主として「録音・録画義務の例外」,「実効性の担保」,「録音・録画義務の対象とする取調べ」の三つの検討課題を中心に,議論が行われました。   まず,制度概要の「2」,検討課題「2」の「録音・録画義務の例外」についてですが,第1作業分科会においては,機器の故障といったやむを得ない事情により録音・録画の実施が困難である場合について,例外事由とすること自体には特に異論はなく,また,加害行為等のおそれがある場合や被疑者が録音・録画を拒否した場合についても,例外とすることについて相当程度の認識の共有が図られつつありますが,他方で,具体的な要件については,例えば,加害行為等のおそれがある場合の要件を生命・身体に対する重大な加害のおそれがある場合に限定すべきであるなど,より限定的あるいは明確なものにするという観点から,なお,様々な御意見が示されています。   また,被疑者の拒否に関して,拒否の意思を明示した場合以外でも,捜査機関側の判断による例外を認めるかについては,そのような例外を認めると,例外事由が極めて不明確で広範なものとなり,事後的な例外事由の立証や判断も困難になる上,不適正な取調べが行われるおそれも大きいとして,これに反対する意見がある一方で,暴力団事件や性犯罪等における取調べの実際からすると,被疑者が拒否の意思を明示しない,又はできない場合であっても,一定の範囲で捜査機関側の判断による例外を認めることが不可欠であり,例外事由の立証や判断も十分に可能で,広範な例外にもならないとする意見もあり,例外を設けるとした場合の具体的な要件の在り方も含めて,未だ一定の方向性が得られていないというところです。   以上のような議論の状況を踏まえて,制度概要では,「2」の①,②の「ア」及び「イ」のとおりの例外事由が記載されている一方で,検討課題の「2」の(1),(2)の「ア」及び「イ」において,各例外事由について「具体的な要件をどのようなものとするか。」,「被疑者が拒否の意思を明示した場合以外でも,被疑者が十分な供述ができないおそれがあると認める場合は,例外とするか。」が課題とされております。   なお,その他の例外事由については,その要否・当否について意見の隔たりが大きいことから,制度概要の「2」の③では,「その他」とだけ記載され,検討課題の「2」の(2)の「ウ」において,「関係者の心情,名誉,利益等が著しく害されるおそれがある場合に,例外とするか,あるいは例外とはせず他の方策により対処するか。」,「捜査上の秘密や,専ら情報収集目的で行う取調べの取扱いについて,どのように考えるか。」という2点が記載されております。   次に,検討課題「3」の「実効性の担保」については,第1作業分科会において,録音・録画義務違反を防止するため,義務違反が生じた場合に証拠能力を一律に否定すべきであるとの意見や,証拠能力の制限は理論的に困難であるとしても,例外判断が慎重に行われるようにする観点から,立証・認定方法の制限を検討すべきではないかとの意見があった一方で,いずれの措置であっても義務違反の内容や程度等を問わない一律の制限を設けると,結論の妥当性に問題が生じるのではないかとの意見や,捜査機関が例外判断に過度に慎重になり,例外事由が適切に活用できなくなって,ひいては例外事由を設けた趣旨が損なわれるおそれがあるとの意見もあり,担保措置を設けることの要否・当否や,その具体的な在り方について,意見が分かれているところでございます。   このような議論の状況を踏まえ,制度概要には記載されるには至っておらず,検討課題の「3」において,「録音・録画義務違反が生じた場合の供述の証拠能力については,特別な規定を設けず,一般法則によるものとするか。」,「任意性が争われた場合の立証・認定方法の制限として,録音・録画記録を必要的なものとすることについては,どのように考えるか。」の2点が課題とされております。   そして,制度概要の「1」,検討課題の「1」の「録音・録画義務の対象とする取調べ」については,第1作業分科会において,いわゆる余罪の取調べの取扱いを中心に議論が行われ,取調べの対象が身柄拘束の基礎となっている事件か否かではなく,取調べを受ける被疑者が身柄拘束の状態にあることに着目して,身柄拘束中の余罪取調べも録音・録画義務の対象とすべきとの意見があった一方で,どのようなものが余罪取調べに当たるかの範囲が不明確であり,これを録音・録画義務の対象とすることは制度的にも実際的にも困難である上,捜査機関の運用による録音・録画で十分に対応できるとの意見もございまして,更に検討を行う必要があるとされました。   そこで,このような議論の状況を踏まえ,制度概要では,「1」のとおり,具体的な検討に資するという観点から,義務の対象が裁判員制度対象事件について逮捕又は勾留されている被疑者の「当該事件について」の取調べ,すなわち,身柄拘束の基礎となっている事件の取調べであるとされている一方で,検討課題の「1」において,「いわゆる余罪取調べの取扱いについて,どのように考えるか。」が課題とされております。   続きまして,「第2」の制度案について御説明を致します。   この制度案については,第1作業分科会では,「第1」の制度案のように,原則として取調べの全過程の録音・録画を義務付けた上で,録音・録画による弊害に対応するための例外を設けるという方法によるのではなくて,取調べのうち類型的に録音・録画による弊害が小さい場面について録音・録画を義務付けるものの,例外事由をより限定的なものとする案として,議論が行われました。   制度概要においては,具体的な制度案として,裁判員制度対象事件の身柄事件を対象として,「1」で,弁解録取手続の録音・録画を,「2」で,取調べのうち被疑者に供述調書を読み聞かせ,又は閲覧させて署名押印を求める場面の録音・録画を,それぞれ義務付けるとした上で,「3」で,被疑者が録音・録画を拒否した場合,機器の故障等の外部的事情により録音・録画の実施が困難である場合を,録音・録画義務の例外とするものとされております。   さらに,このような義務付けに加えまして,より広い範囲の録音・録画の実施を促進するという観点から,「4」では,捜査機関は,録音・録画が義務付けられている場面以外であっても,被疑者の供述が任意にされたものであることを明らかにするため,録音・録画の実施に努めるものとされています。   最後に,取調べの録音・録画制度に関する参考資料につきましては,併せてお配りをしております参考資料の1ページ以下にございますので,適宜,御参照いただければと思います。 ○本田部会長 それでは,「取調べの録音・録画制度」につきまして,今,説明のありました「考えられる制度の概要」と「検討課題」の内容を中心に,いずれの点からでも結構ですので,御意見又は御質問のある方は御発言をお願いいたします。 ○髙綱委員 警察といたしましては,社会の安全・安心に支障が生じるような録音・録画の制度設計には賛成を致しかねます。今まで申し上げてきたことの繰り返しでありますが,暴力団等犯罪組織のボスが高笑いをして,性犯罪等の被害者が泣くような制度設計,これは避けなければならないと考えております。したがいまして,録音・録画による弊害の大きい事件について適切に過不足なく対象外とすべきであると考えております。これも繰り返しになりますが,こうした事件は大きく三つの類型があると考えております。一つは暴力団犯罪を始めとする組織犯罪の事件,二つが性犯罪のような被害者のプライバシーを害するおそれのある事件,そして,三つ目が死体なき殺人のように重大な事件で物証に乏しく,被疑者に心を開かせて供述を得ることが不可欠な事件,これら三つでございます。   しかしながら,「第1」の制度案に関するここまでの第1作業分科会の議論を見る限り,これらを適切に過不足なく除外できる見通しは立っていないと考えております。したがいまして,「第1」の制度案には賛成をいたしかねるということであります。理由は前回の部会でも申し上げましたように,現場の捜査官としては録音・録画の不実施が法的に違法と判断されることを恐れて,捜査への支障が実際に大きいと認めた事件でも,萎縮をして録音・録画をしてしまうということになってしまうからであります。したがいまして,録音・録画の制度設計としては,「第2」の制度案のように弊害の少ない弁録と調書の読み聞かせ等の場面については法的義務付けとして,それ以外の場面については第1作業分科会第7回会議で当方の幹事から提案を申し上げましたように,任意性・信用性等の立証のために,録音・録画を努力義務とすべきと考えます。   もとより私ども警察といたしましても,これまでに取り組んでまいりました録音・録画の試行の積み重ねによりまして,録音・録画の有効性というものは十分認識をしておるところであります。また,任意性等の立証責任を捜査機関が負っている以上,弊害の大きい事件以外は広く積極的に録音・録画を実施してまいるつもりであります。これによりまして取調べの適正確保にも資することとなり,治安の確保と人権保障のバランスも取れる,そういう制度設計になると考えているものであります。引き続きよろしく御検討をお願いいたします。 ○露木幹事 ただいま,私どもの髙綱委員から私どもの立場は申し上げたとおりでございますが,補足といたしまして,現在,第1作業分科会で検討されております「第1」の制度案の問題点について申し上げたいと思います。   資料の1ページの「第1」の制度案の例外事由が記載されております「2」の②の「ア」でございますが,加害又は畏怖,困惑のおそれがある場合という場合が,録音・録画義務の除外事由として挙げられております。ここで想定されております典型例としては,暴力団の末端組員に組長の関与について供述をさせる場合がありますが,この制度案ではその場面だけを録音・録画しないという方法として規定をされております。   しかしながら,組長の関与については供述をせず,自分の実行行為についてのみ供述をしているという場面は録音・録画はされて,組長の関与について供述をしている場面は,支障があるとして録音・録画がストップされるという仕掛けでありますと,ストップされているという事実自体が,その者が組長の関与について何らかの供述をしたなということを推認させることになってしまい,組員としては安心して供述をできないということに変わりはないということになりますので,こういう規定の仕方では除外事由として機能しないと考えられます。   また,同じ「2」の③の「その他」として想定されているものに,次の2ページの検討課題の「2」(2)の「ウ」にありますように,関係者の心情,名誉,利益等が著しく害されるおそれがある場合があります。これを例外とするかしないか自体が議論になっておりますが,仮にこれが例外事由とされたとしましても,被疑者が何をしゃべるか,あるいはしゃべらないかということを事前に予測をすることは困難でございますので,その場面だけを的確に切り出して録音・録画をストップするというやり方は実際的でないと思われます。   こういうことから,私どもとしては先ほど髙綱委員が申し上げたように,例外事由が過不足なく的確に規定されているとは言えないのではないかと考えておりまして,この制度案には賛成し難いと考えておる次第でございます。 ○安岡委員 今のお二方の意見とは全く逆の意見を言いたいと思います。まず,一般論として例外の設定について意見を申し上げます。一般論として,例外の規定は制度の抜け穴として使われる危険を内在しているわけです。ですから,できる限り少なくしないと,日本の刑事司法の世界の得意技である原則と例外の逆転がまた起きると懸念します。そうした逆転現象が起きると,公明正大で透明性がなければならない刑事司法の世界でも,今,社会問題になっている偽装表示がまかり通っていると国民は受け止め,刑事司法に対する信頼,特に法執行機関に対する信頼を寄せようがなくなると私は懸念します。つまり,広い例外規定は,当部会で検討している新時代の刑事司法制度に送り込まれたトロイの木馬になってしまうと思います。   一般論を離れ,個別の例外規定について三つほど申し述べます。   まず,「考えられる制度の概要」の枠囲いの「2」の①の前段の「機器の故障」についてはやむを得ない事情とするということで,第1作業分科会では異論がなかったということでございますが,これに私は納得ができません。「第1」案に沿って可視化実施を義務付けるのであれば,その義務を果たせるように機器を管理するのも,当然,義務の一部でありますし,故障は予備の機器を用意しておけば,対処できることではないかと考えます。それから,本当に機器が故障していたのかどうかは,後日,検証できませんから,機器が故障だったことにして可視化の義務を免れようとか,あるいは一歩進んで機器のメンテをわざといい加減にしておいて,故障を多く発生させようという故意の不作為といったものによる潜脱行為も可能だと思います。   私はこの義務を履行する捜査当局の誠実を疑うものではないんですけれども,当部会の先だっての議論で酒巻委員がおっしゃった,刑事手続は性悪説に立って制度設計をしなければならないという言葉に長年の蒙を啓かれた思いがしたので,あえてこういうことを申し上げます。   それから,2番目ですが,「第1」案の検討課題の「2」の(2)の「例外②及び③」に書かれている例外事由です。前回も同じことを申し上げましたけれども,例外規定適用の当否が後に公判で争われた場合に,例外規定適用の判断が適正であったかどうか,それが事後検証できない例外規定を設けるべきではないと考えます。事後検証ができないと,取調べ,調書作成の状況をめぐって繰り返されてきたのと同じような水掛け論が,裁判員裁判の法廷に現れるのではないかと心配します。そもそも,そういう水掛け論が裁判員裁判の法廷に現れないようにするのが,可視化を制度化する目的の一つだったはずですので,このところは随分慎重な検討をお願いしたいと思います。   3番目です。検討課題の「2」の(2)の「イ」に,取り調べられている本人が明示的に,可視化しないでくれとしなかったときでも,被疑者が十分な供述ができないおそれがあると認めた場合には例外とすると,ありますけれども,この案は私は極めて問題だと思います。おそれありと認めるのは取調官でありますから,詰まるところ,取調官が自律的な判断で可視化の義務を免れられる,そういう規定だと思います。   義務を課された者が自分の意のままに義務を免れられるのでは,もはや義務付けとは言えないわけでありますから,この例外規定を組み入れるとすれば,「第1」案ではなくて「第2」案の方にするべきだと考えます。制度概要でいうと「3」の「被疑者が記録を拒んだとき」とあるところの後ろに,明示の拒否はないんだけれども,取調官の判断で拒否しているとみなすという文言を入れるのが適正な場所だと考えます。 ○大久保委員 それでは,まず,初めに作業分科会の先生方の今までの御尽力に心から感謝を申し上げます。本当に大変なことだと思います。   私の方では簡単にA4,1枚の資料を付けさせていただきましたので,それを参考にしていただければと思います。私はこれまでも繰り返し述べておりますけれども,録音・録画によって被疑者から十分な供述が得られなくなったり,被害者の精神的回復や名誉が傷付けられる,害されるというようなことがないような仕組みとしなければならないと思います。そのために資料1ページの「第1」として示されております原則として取調べの録音・録画を義務付ける案についても,そのような観点から録音・録画の対象外とすべき場面を適切に除外する仕組みでなければいけないと思います。   まず,制度概要「2」の②に例外事由といたしまして,「次に掲げる事情があり,1の記録をしたならば被疑者が十分な供述をすることができないおそれがあると認めるとき」と記載されて,録音・録画により被疑者が十分な供述ができない場合を例外とするというような,その物の考え方は正しいと思います。そして,その事情の一つとして記述されている「ア」の部分,「被疑者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を与え又はこれらの者を畏怖させ若しくは困惑させる行為がなされるおそれがあること」と記載されていますが,このような事情がある場合を例外とするということも,また,当然のことだと思います。   これに対しては,被疑者等の生命・身体に重大な危害が加えられるおそれがある場合に限定すべきというような意見が出ているということも,議事録等で承知しておりますけれども,でも,それでは例外の事情としては余りにも狭すぎると思います。また,「イ」のように被疑者が録音・録画を拒否した場合を例外の事情とするということも,私は当然のことだと考えますが,拒否した場合だけということに限ってしまいますと,例えば被疑者が明確な拒否ということがなくても,その時々のいろいろな心理状態から,録音・録画をされては十分に供述できない場合,そういうときは被疑者からの供述が得られないことになってしまいます。そのため,拒否した場合に限定するのではなくて,心情等によって十分な供述をすることができないおそれがあるというような場合も,例外の事情とするべきであると考えます。   そして,何よりも被害者として重要なことといいますのは,例外事由の検討に当たっては被害者の心情,名誉,プライバシー等が害されない仕組みとしていただきたいのです。被疑者が被害者について述べたこと全てが映像として残ってしまうということ自体が,被害者が生涯にわたって恐怖感を感じ続けながら,生きていかなければいけない状況に陥ってしまうということを被害者の心情として,是非,これは御理解を頂きたいと思います。その点,検討課題「2」の(2)の「ウ」に挙げられております関係者の心情,名誉,利益等が著しく害されるおそれがある場合についても,例外事由として取り込むなど,更に検討していただかなければ,この「第1」案というものは受け入れるということはできません。   一方,配布資料の「第2」として示されている制度案につきましては,取調べの一定部分についてのみ,録音・録画を義務付けて,そのほかは取調官の裁量に委ねているために,今,言ったような例外とすべき場合を適切に除外することができると思いますので,「第1」案の方で例外がしっかりと規定できないのであれば,私は「第2」案の方が適切だと考えます。 ○大野委員 これまでも申し上げてきたとおり,「第1」の制度案を採る場合には,録音・録画を原因として被疑者から供述を得られないという事態にならないように,録音・録画義務の適切かつ十分な例外を設ける必要があり,それが困難なのであれば「第2」の制度案も併せてよく検討すべきであると考えております。第1作業分科会においては,この問題について活発に議論していただいていると承知しておりますけれども,検察の立場から,なお,検討課題とされている点について望ましいと思う制度の在り方を端的に申し上げたいと思います。   まず,検討課題「1」についてでありますけれども,余罪取調べを録音・録画義務の対象とすることには反対であります。対象事件の在り方とも関連する問題でありますけれども,非対象事件で身柄拘束中であって,対象事件の余罪がある場合を想定すると,実務上,非対象事件の犯行に至る経緯,動機,犯行後の行動等について取り調べる過程で,関連する対象事件についての概括的な供述がなされることもありますけれども,そうした取調べについて身柄が拘束されている非対象事件の取調べと見るか,あるいは余罪である対象事件の取調べであると見るかというのは,相当に微妙な問題であって,このような場合に余罪である対象事件についての取調べを明確に区別して,録音・録画義務を課すことは困難だと考えます。   次に,録音・録画義務の例外について何点か申し上げたいと思います。   まず,「例外②」の「イ」の拒否について,拒否場面を録音・録画すべきとの御意見もありますけれども,被疑者と弁護人の連署による拒否の上申書等が存在するような場合でも,そのような録音・録画が必要するのは余りにも硬直的で疑問がありますし,捜査機関としては被疑者が録音・録画を拒否しているならば,それを後日,立証できるようにするために,通常は運用によって少なくとも1回は拒否場面の録音・録画をすることとなると思われ,それで足りるのではないかと思います。   また,被疑者が録音・録画を警戒したり,自尊心が害されるなどとして十分な供述をしない場合などもありますけれども,被疑者が供述自体をちゅうちょし,録音・録画の下での取調べであることが更にそのちゅうちょを強める状況にある場合に,そのような被疑者が明示的に録音・録画だけを拒否するものか疑問があり,被疑者が常に明示的に録音・録画を拒否するという前提に立つべきではなく,それ以外の事情によって十分な供述をすることができない場合も,適切に取り込んだ例外とするべきであると考えております。   こうした例外事由については,裁判所による事後的な例外該当性の判断が容易でないとの御意見もあったと思いますけれども,しかし,検察官としては録音・録画を実施しないこととする場合,事後的な争いに備えて,例外に該当すると判断した理由を捜査報告書などにより証拠化することになると思われます。したがって,裁判所においては被疑者が録音・録画の下では十分な供述をすることができないおそれがあると検察官において認めた根拠であって,そうした捜査報告書等に記載されたものや,録音・録画を中止した場合であれば,途中まで録音・録画された被疑者の供述態度や内容,その後の録音・録画を実施しない取調べで の被疑者の供述状況等を判断資料として,例外該当性について十分審査していただけるのではないかと思います。例外事由によっては,録音・録画を途中から再開することもあると思われますけれども,その録音・録画記録も裁判所の判断資料となると思います。   最後は検討課題「3」の「実効性の担保」についてであります。捜査官が録音・録画義務に違反したと判断される場合も,違反の態様には様々なものがあり得ると思われますし,また,録音・録画を実施されなかったということ自体は,供述する内容と直接関連しないことでありますから,むしろ,自白法則や違法収集証拠排除法則による規律によることが妥当な結果を導くのではないかと思います。現在,検討対象とされているような実効性担保方策については,いずれも慎重に検討していただきたいと考えます。 ○岩井委員 取調べの録音・録画制度を裁判員制度対象事件に限定するという,そういうところで合意がなされたわけで,そこでかなり縮小されてしまっているわけですね。ですから,取調べの可視化ということを主な検討課題として,始まったこの刑事司法制度特別部会なのに,ここでかなり縮小されてしまっているという,そのところの前提でまた「第2」の制度案を採用し,取調官の一定の裁量に委ねるというふうなことになりますと,全く取調べの録音・録画をし,取調べの可視化を図る意義が骨抜きにされてしまうと思われます。ですから,「第1」の制度案でもかなりの例外事由を認めるということになっておりますので,何か,それで骨抜きにされるのではないかという不安がよぎるわけですけれども,例外事由を皆が納得できるものを明確化して,せめて「第1」の制度案の方にとどめていただきたいと考えます。 ○本田部会長 今の件でございますけれども,現在,第1作業分科会では,取調べの録音・録画制度の枠組みについて,ひとまず裁判員制度対象事件を念頭に置いて作業してもらっているところです。その後,当部会では,「たたき台」を頂いた後に,対象事件をどうするかということを含めて議論することにしています。つまり,飽くまでも具体的な作業をするために裁判員制度対象事件として議論していただいいるということだけは御理解いただきたいと思います。対象事件につきましては,当部会の第23回会議以後に更に議論をしていくということになろうと思います。   それでは,ほかに御意見はありませんか。 ○佐藤委員 既に出ている意見と重なる部分があって恐縮ですけれども,録音・録画をするべきであるということが出てきた重要な目的の一つは,任意性の判断を容易にして公判における無用な争いを少なくし,迅速な裁判を実現するということであったと思います。そういう観点からいたしますと,新たに録音・録画を義務付けるといたしました場合には,その義務付け内容は公判において争いができるだけ生じない,そういう明確なものであるべきだと思うわけであります。   しかるに,「第1」の案に出ておりますように,義務付けをしたときに義務付け範囲が広ければ広いほど,例外を認めないと取調べ本来の目的が実現しないという,そういう別の要請からくるところの例外条件というものを定めざるを得ない。例外を定めざるを得ないとすると,例外の該当性判断というものはある程度,幅が生じざるを得ませんから,どうしてもそこは公判で争いが生じる,こういう矛盾に陥りかねない,そういう性質を持っていると思います。   しかも,先ほど大野委員が言われましたように,この義務違反があったときに,その後の負担をどのようなものとして設定するか,違法収集証拠の排除に関する一般原則によるのか,その余の定めをどのようにするのかということとも関わりますけれども,そういう証拠採用の在り方と関連いたしますと,義務付けたとしても最終的には裁判所における判断というか,自由心証といいますか,そういうところに委ねざるを得ない部分というは,どうしても生じるということだろうと思います。   そうしますと,一般原則によったとしても,結局,裁判所の任意性についての判断を捜査機関側として,あるいは検察官として適正に,自己が信ずる有利な方向で論証しようといたしますと,有力な任意性判断の証拠方法の一つである録音・録画を採らざるを得ないという現実が一方で生まれてくると,こういうこともまた事実だろうと思います。   そういうことをもろもろ考えますと,私は義務付けるとして義務付けの範囲をできるだけ明確にし,義務付ける事項を明確にし,しかし,その余の場合であっても実際には,今,申し上げましたような理由から,捜査機関側として録音・録画をせざるを得ないという,そういう環境を作り出すことが適用の該当性判断の争いを公判でできるだけ少なくして,実際に録音・録画の効果が公判で実現されるような,そういう仕組みにすることが一番的確といいますか,実際には有効な方法だと思うのであります。   そうしますと,当部会の前回会議において申しましたけれども,「第1」の案を突き詰めていきますと,今のような難点を回避していこうとすると,どうしても自由裁量の部分を設けざるを得ない。そうしますと,「第2」の案で言っているような義務付けを狭いかもしれませんけれども,明確にしておいて,あと,捜査機関側に録音・録画するように努力すべきだという義務を掛けておくということによれば,どうしても裁判所としては恐らく何で録画がないのかと,ない状態で任意性を判断しようとしたときには,それを出さない以上,より有効な立証方法を捜査機関,検察官が提起しない限りは,任意性を否定する方向に働くであろうと思いますので,そういう裁判,公判における現実を考えますと,私は「第1」の案のような案は勢いは良いですけれども,実際には機能するということになれば,「第1」の案と「第2」の案のちょうど中間にあるところへ行き着かざるを得ないのではないかと,こう思うんですよ。   そうすると,捜査側としては余罪も含めてですけれども,録音・録画されれば真相を明らかにできない,しかし,それは任意性を公判で立証することの資料は得られないかもしれないけれども,しかし,真相を確保することを優先するとしたときには,そのリスクは自らが負う。そうでない限りは,録音・録画をして将来の裁判に備えるという判断を働かすと,そういうリスクを捜査員が自分で負って,判断をして迫っていくという仕組みの方が現実的ではないかと思います。作業分科会の議論をいろいろ拝聴いたしましても,そう考えざるを得ないと思いますので,雑駁でしたけれども,意見を申しました。 ○村木委員 作業分科会の先生方には本当に心から御礼を申し上げます。ありがとうございます。   全体について申し上げれば,前から何度もお願いをしているように,取調べと供述調書への過度の依存を改めるという大きな目的に対して,実効のある制度にしていただきたいということでございます。その上で,客観的証拠や供述証拠がきちんと公判に出されて,充実した裁判が行われるような制度にしたいということで,そういう視点でそれぞれの各論を詰めていきたいと思っております。先ほど大野委員から供述をきちんと得られないような仕組みを作ってはいけないとの御発言がありましたが,そこは私も非常に賛成でございます。ただ,取調べだけに依存をして供述を取っていくというところは,改めていただきたいと思っております。その意味で,録音・録画だけではなくて,その他で提示をされている新しい制度についても,積極的に制度の導入を考えていけたらと思っております。   録音・録画についてですが,「第2」案をというお声も何人かからありましたけれども,「第2」案はびっくりするほど対象が狭くて,先ほど髙綱委員から三つのもの,すなわち暴力団,性犯罪,死体なき殺人事件のようなものは難しいというお話もありましたが,それから見てもはるかに小さくなっているのが「第2」案です。これでは実効性というのはとても得られない。特に取調官の裁量でやるのであれば,事件の対象範囲なんかは相当広くてよいはずです。また,任意性とか信用性についてリスクを負うということであれば,そこの仕組みも具体的に提示をされていてよいと思うのですが,そういう提案もなくて,最小限の録音・録画をまずやってみるというだけの案では,とても賛成ができないなと受け止めております。   是非,「第1」の案の方で議論を進めていただきたいと思います。個別に幾つか御意見を申し上げたい点がございます。   例外規定のところですけれども,制度概要の「2」の①で機器の故障や通訳人の拒否ということが言われております。録音・録画は必ずワンセットとなっておりますが,それが一番良いんですけれども,機器が故障して録音だけでもできるのなら,その方が次善の策としては良いわけです。機器が故障したら,それで終わりというのは非常に制度としては不十分な制度ではないかと思います。このことに限らず,録音だけという手段について検討がなされていないところは,議論が不十分なのではないかと感じております。   それから,通訳についてですが,通訳が録音・録画が嫌な人だったら,被疑者にとって大切な権利である録音・録画がされないというのも,余りにも不十分な制度だと思います。通訳の方については事後に音声とか画像の加工をすればよいわけですし,福祉の分野などでは,手話通訳はビデオリンクのようなものでやっているわけですから,録音・録画がオーケーの通訳を常に用意しておけば,遠隔地からでも通訳はできるわけでございますので,少数言語などはそういうことも考えて,きちんと知識のある立派な通訳をお願いして常に録音できるようにするというのが筋だろうと思います。   それから,制度概要の「2」の②ですが,「被疑者が十分な供述をすることができないおそれがあると認めるとき」ということで,こういう例外は必要だろうと私も思っております。暴力団の犯罪で報復を恐れるというようなところについては,非常に納得がいくわけでございます。ただ,これが幾らでも範囲が広がったり,後で争いが生じるというような形にはしてほしくないと思っておりますので,きちんと本人が供述を拒否したということが記録に残るような,それまでの間は録音・録画が行われるというようなきちんとした制度的な担保が必要だろうと思っております。   例えば暴力団の例は非常に納得がいくのですが,自分も経験しましたが,かつての部下は上司のことを気にして,供述ができないというようなことを裁判で検察官の方は堂々と主張されるわけですので,そんなところまで広がってしまうと,御近所だから後で地域で暮らしにくくなるからとか,幾らでも広がる可能性がありますので,本当に限定的なもの,そして,客観的に分かるものという形でやっていただきたいと思っております。   それから,制度概要の③で「その他」ということで,御本人や親族に危害ということだけではなくて,関係者の心情,名誉,利益等が害されるケースだとか,幅広く例外にするかどうかということが検討されているようでございます。また,御本人が供述ができないと言っているのではなくて,御本人の気持ちをそんたくして,取調官がそれを想像をして,予測をしてやるというようなことも検討されているようでございますが,是非,これは避けていただきたいと思っております。これから御本人が何をしゃべるかというのは,取調官が予測ができるわけではございませんし,それから,御本人の意図を過大に想像をして,録音・録画をしないというようなケースが増えますので,是非,こういったことの例外は避けていただきたい。   大久保委員が言われたように,こういう映像が長く残る,被害者にとって耐え難い供述が残る,あるいは最悪の場合,オープンにされる。このことについての手当てというは,私も非常に大事なことだと思いますので,最初から録音・録画をしないという形ではない方法で,是非,この手当てをしていただきたいと思っております。   録音・録画の対象事件については,これから,当部会で議論ということでございますので,また,そういう議論のときに申し上げたいと思いますが,できるだけ広範囲に対象事件を採っていただきたい。そうすることによって余罪うんぬんという問題もなくなるわけですので,適正な取調べが必要な事件については,全過程を録音・録画するというのが基本の考え方ということで,例外をできるだけ少なくしていただきたいと思っております。   それから,全過程をということは重ねてお願いをしたいと思います。部分的に録音・録画をするということは,極めて危険な制度になると思っております。否認をすると不利になりますよと脅す場面とか,認めれば罪を軽くしますよとか,保釈金も安くしますよとか,あるいは事件の中身を取調官が御本人に教えてしまうとか,そういう場面が録音・録画から消えてしまうということでは何のための録音・録画か,意味がなくなってしまうと思っておりますので,是非,基本的に全過程を録音・録画をしていただきたい。例外はできるだけ少なく,弊害は事後のいろいろな処理でできるだけカバーをするという形でやっていきたいということを重ねてお願いをしたいと思います。 ○周防委員 先ほどからの警察,検察関係者のお話を聴いていて,ああまだこんなことを言っているのかと絶望的な思いがします。髙綱委員がいみじくもおっしゃいましたが,被疑者の心を開かせて真実を語ってもらうのだという,要するにそういう取調べがいろいろな弊害を生んできて,ここで次の時代に向けて新たな取調べというものを考えようと,僕はそういう会議だと理解していました。警察,検察関係者の方の発言を聴いていますと,私たちが今までこれだけすばらしい取調べをやってきたのだから,それをやりにくくする可視化は許せないと,そう発言しているようにしか聞こえません。基本的に警察でも検察でも全事件,被疑者及び参考人が取調室に入った瞬間から,取調べの全過程の録音・録画を原則とする,そういうことがない限り,こういった警察,検察関係者の旧来の取調べにしがみついて,全く次の時代に向けて新しいことをやろうとしない,そういう創造的な試みができない人たちを変えるには,それしかないなと改めて強く思いました。   それと,対象事件についてですが,裁判員制度対象事件を録音・録画するという形で作業分科会で議論して,これから先,どこまで対象を広げるかという話になっていますが,例えば裁判員制度対象事件だけを録音・録画するということになった場合,世間から見れば基本的に取調べの録音・録画はしません,ただ,例外として裁判員制度対象事件だけは捜査の適正化のために録音・録画いたしますと,そう見えるぐらいの割合だと思います。そういう意味でも,私は全事件においてやるのだというのを基本に考えていただきたい。   それで,なぜ,できないかというところで,例えば物理的な問題として,今,全警察署の取調室に録音・録画設備を設けることはできないし,人的にも不備があるんだということであれば,例えば3年後にはこの範囲でできるようにして,5年後には全事件においてできるようにする,そういうふうに具体的に期限を決めてやるべきです。今,始めるときも,少なくとも検察では多くの事件で取調べの録音・録画が試行されてきたわけですから,検察においては少なくとも全事件において,取調室に入った瞬間から被疑者,参考人の取調べの録音・録画を開始する。さらに,警察においても,そういう設備が整っているところは速やかに録音・録画を開始する。今は,全事件での録音・録画は物理的に不可能だというのであれば,3年後,5年後の課題としていただきたい。   また,全過程の録音・録画をしなくてもよい場合の例外規定についてですが,一つ一つお話しするよりも私が考えているところを述べますが,被疑者,参考人が録画を拒んだときであっても,録音によって必ず記録が残るような制度にしてほしいと思っています。   つまり,取調べの記録は必ず残るようにする。それは事後の検証だけではなくて,取調べ技術の向上ということにもつながると思います。また,被疑者が録画を拒否するということについては理解できる点もあります。単純に録画といってもカメラをどう設置するかとか,その台数とか,角度とか,これから考えなければいけない問題はたくさんありますが,映っているから,それが客観的真実だと思うかもしれませんが,映画監督の立場から言わせていただければ,映像というものにもいろいろな見え方がありますし,見る方の心構えとして,どういう立場で見ているかによって,表情はいろいろな形で読み取られます。さらに,自分の顔に,要するに悪人顔であるとか,そういうコンプレックスを持っている人がいるとすると,そういうことで,映像が自分にとって不利に働くのではないかと考えられる方もいると思います。   そういう意味では,録画を拒否するということは,もしかしたら,それぞれ個人的な理由があって,それは認めなければいけないことなのかもしれないんですが,少なくとも録音はするんだと,そういう形で臨むと,捜査機関もそういう中で,一体,どうやったら真相を究明する取調べができるのかと考えざるを得なくなる。だから,例外は限りなく少なくする。全事件でやると決めてしまえば,何も難しい細かいところで例外規定の争いをすることはないわけですから,そうはっきり決めてしまえばよいと,そう思っています。   通訳人の録音・録画拒否ですが,これは信じられないことで,通訳が入る事件こそ,本当に何らかの形で記録が残らなければ,通訳の正しさという基本的な問題がきちんと確認できないわけですから,これもせめて録音だけはすべきだと考えております。   あと,例外規定があるとするならば,小坂井幹事が2013年4月25日付けの「被疑者取調べ録音・録画制度について」という資料を提出されていますが,その中にある被疑者,親族らの生命又は身体に重大な危害が加えられるおそれがあるときと,これぐらいに限って,あとは基本的に録音・録画するんだと,そういう方向で考えていただきたい。そうでなければ,警察,検察の取調べに対する考え方はまず変わらないだろうと,今日,ますます,強く確信しましたので強く訴えておきます。 ○龍岡委員 時間の制限もあるようですので,この段階で一言述べさせていただきます。まず,録音・録画を義務付ける範囲につきましては,私は段階的な拡大も視野に入れながら,できる限り広くすべきであると考えております。これまでの議論でも,最低限,裁判員制度対象事件については争いがないものと思いますが,「第1」案の「考えられる制度の概要」では,義務付ける対象は,裁判員制度対象事件について,身柄拘束されている被疑者を「当該事件について」取り調べるときと限定されています。   このような限定の仕方でありますと,例えば死体遺棄で逮捕・勾留された被疑者を殺人について取り調べる場合,裁判員制度対象事件であっても録音・録画はされず,その取調べ状況についての録音・録画は残らないということになってしまうと思われます。裁判の実務の感覚からしますと,このような場合にも初期の供述弁解,自白の任意性,信用性が争いになることは珍しくありません。このような事例を考えますと,裁判員裁判において,取調べ状況について録音・録画記録に基づいて的確な判断ができるように,身柄を拘束して裁判員制度対象事件の取調べを行う際には,できるならば,すべからく録音・録画をすべきではないかと思います。   次に,録音・録画義務の例外についてですが,捜査官の行為規範としても,又は事後的に裁判所がその該当性の判断をするための裁判規範としても,なるべく明確に定める必要があると思います。「第1」案の「考えられる制度の概要」の「2」の②の「その他の事情」や,あるいは「2」の③の「その他」については,これが入りますと例外となる範囲が既に指摘されているように非常に広くなる,取調官の側の裁量が大きくなりますために,例外事由の存否が不明確になると思います。こういう例外を規定するのは相当ではないと考えます。   もう1点,検討課題「3」の「実効性の担保」の点ですけれども,録音・録画をすべき場合にしなかったという義務違反があった場合の証拠能力については,特別の規定を設けず,一般原則によるものとすること,これも考えられますけれども,義務履行の担保としては十分ではなく,取調べの適正確保という目的からすると疑問があると思います。供述の任意性が争われた場合に取調べ状況については,これを立証するための方法を録音・録画媒体に制限するなどの方策が必要ではないかと考えます。 ○神津委員 まず,基本的枠組みに関してなんですが,私も「第2」の制度案についてはこれまでも申し述べてきたんですが,賛成はできないということを申し述べておきたいと思います。その理由についてなんですけれども,録音・録画の試行の検証結果において,取調べの適正確保に資するなどの有用性が認められ,その「有用性を我が国の刑事司法に取り込むための方策として,被疑者取調べの録音・録画制度を導入する必要がある」ということで,「基本構想」の7ページにも明確にされておるわけであります。また,当部会におきましても,「政策的に,できる限り広い範囲で録音・録画が実施されるものとすることが望ましいということに大きな異論はなかった」ということで,これも同様に「基本構想」の8ページの中にも触れられているところであります。   そういった中で,手続の透明性と国民に対する説明責任という視点に立つならば,取調官の裁量に委ねる制度は制度とは言えないのではないかと思います。そして,それは録音・録画を努力目標とする旨を追加したとしても何ら変わることはないと思います。黙秘権が自由な意思で放棄をされて,そして,供述が自由な意思に基づいて行われたということを説明するためには,「第1」案の一定の例外事由を定めつつ,原則として取調べの全過程の録音・録画を義務付ける制度とすべきということを制度の基本的な枠組みとした上で,今後,その具体的制度内容を検討すべきと考えます。   その上で,具体的な論点で幾つか申し述べておきたいと思います。   対象事件でありますけれども,私も裁判員制度対象事件の身柄事件に限定するという理由はないと思います。録音・録画制度の趣旨が適正な取調べの担保にあるとすれば,その必要性自体は裁判員制度対象事件の身柄事件に限られず,基本的には全ての取調べに妥当するはずだと考えるわけであります。   それから,2点目ですけれども,録音・録画義務の対象となる取調べについてなんですけれども,被疑者取調べの全過程を録音・録画すべきであると考えます。余罪の取調べに関してですけれども,特に身体拘束を受けている場合,そもそも,余罪取調べの適法性に疑問がある場合もあるわけでありまして,余罪取調べの適法性に関する説明責任を果たす見地からすれば,取調べの内容を問わず,全過程を録音・録画すべきだと考えます。   3点目は録音・録画の例外なんですが,まず,機器の故障ということが挙げられていますが,私もこれだけICレコーダーが普及されている今の時代において,少なくとも録音はすべきなのだろうと思います。それから,通訳人が記録を拒んだことについても例外とすべきではないと思います。通訳の当否あるいは適否ということについても,適正な取調べの説明責任として重要な内容だと思います。   それから,検討課題「2」の(2)の②のところでありますけれども,「ア」の被疑者や一定の範囲の関係者に危害が及ぶおそれがあるときということについては,具体的にそのおそれがある場合に限定すべきと思います。また,「イ」についてでありますけれども,被疑者が明確な拒絶意思を表明した場合に限定すべきであって,その場合においても被疑者の拒絶意思の表明が録音・録画されるべきだと考えます。そして,「イ」について被疑者が十分な供述ができないおそれがある場合,あるいは③の「その他」についても例外とすべきではないと思います。それらの内容,範囲が曖昧で,結果として録音・録画義務の例外として濫用される危険があるということにおいて,そう考えるところであります。   4点目は義務化の実効性の担保ですが,録音・録画を法的に義務付けることの実効性担保として,例外的場合を除いてでありますけれども,検察官が公判で取調べ状況を立証しようとする場合の立証手段を録音・録画媒体に限定すべきだと思います。   最後は参考人取調べの録音・録画でありますけれども,「基本構想」の10ページにおいて「参考人取調べの録音・録画については,被疑者取調べの録音・録画制度についての具体的な検討結果を踏まえつつ,必要に応じて更に当部会で検討を加える」とされていますが,検討の先送りはすべきではないと思います。村木委員の事件を忘れてはならないと思います。村木委員の事件がありながら,この問題を当部会で前進させることができないようでは,当部会の存在意義そのものが問われるのではないかと思います。少なくとも検察官による参考人取調べについては,録音・録画の対象とすべきと考えます。 ○本田部会長 まだ,御意見もあろうと思いますけれども,時間の都合もございますので,「取調べの録音・録画制度」についての議論は,ひとまず,ここまでとさせていただきたいと思います。   次に「刑の減免制度,捜査・公判協力型協議・合意制度,刑事免責制度」について議論を行うことといたします。この事項につきましての議論は,午後3時25分ということとさせていただきます。   それでは,まずは配布資料の内容につきまして,事務当局から説明してもらいます。 ○吉川幹事 資料63の4ページ目を御覧ください。「刑の減免制度,捜査・公判協力型協議・合意制度,刑事免責制度」につきまして,第1作業分科会における議論の状況と併せて,順次,御説明いたします。   まず,「刑の減免制度」の「考えられる制度の概要」を御覧ください。   「2」の「他人の犯罪事実を明らかにするための行為」につきましては,作業分科会では被告人の犯罪事実と全く関係のない他人の犯罪事実を明らかにする行為まで減免事由に含めるとすると,そのことを被告人の公判廷において主張・立証・認定することが困難な場合があるのではないかなどとの意見が示されました。他方で,このような観点から他人の犯罪事実の範囲に限定を加えるとしても,それを例えば共犯者の犯罪事実にまで限定するのでは,範囲として狭すぎるのではないかとの意見も示されたところでございます。そこで,検討課題の「1 刑の減免事由」の一つ目の「○」において,「他人の犯罪事実に限定を加えることとするか。限定を加えるとした場合,罪を犯した者の犯罪事実との間にどのような関係のある他人の犯罪事実に限定するか。」という内容が,課題として記載されております。   次に,制度概要の「1」と「2」の両方に規定されている「欠くことのできない」との要件につきましては,作業分科会では犯罪事実を明らかにするための被告人の行為が,欠くことのできない行為と言えるか否かをどのように主張・立証・判断することとなるのかについて議論がなされました。その中で,この要件の意味というのは,被告人の行為によって犯罪事実が解明できたという原因・結果の関係を必要とするものと解されて,一定程度の明確性はあるものの,判断の容易性等の観点から,より明確な規定の仕方がないかを更に検討する必要があるとの意見が示されたところでございます。そこで,この点が検討課題「1」の二つ目の「○」に記載されております。   さらに,制度概要の「4」の「虚偽供述等に対する罰則」につきましては,作業分科会では,他人の犯罪事実についての虚偽供述に限って処罰対象とするということに,特段の異論はございませんでした。もっとも,罰則の具体的な内容,つまり,罰則の主観的要件,処罰対象とする行為,法定刑の在り方につきましては,更に具体的な検討が必要と考えられ,この点が検討課題「2」に記載されています。   次に,資料5ページ,「捜査・公判協力型協議・合意制度」の「考えられる制度の概要」を御覧ください。   まず,「1 合意の内容等」について御説明いたしますと,作業分科会では「1」の(1)の「イ」の(オ)から(キ)に記載されている事項,つまり,検察官が特定の求刑だとか,略式命令請求及び即決裁判手続の申立てをすることに合意できるとすることについて,その実効性に疑問を呈する意見が示されました。他方で,最終的に裁判所により異なる判断がなされるとしてもそれはまれであって,外国法制でも合意の内容として認められているなど,これが機能しないとは考えられないという意見や,弁護人・被告人の立場から見てもメリットがあり得るとの意見がございました。そして,その余の事項については,これらを合意できる事項とすること自体に特段の異論はございませんでした。このような議論を踏まえて制度概要「1」の(1)において,当事者間で合意できる事項が整理して記載されており,他方で,6ページの検討課題「1」では,指摘のあった,特定の求刑,略式命令請求及び即決裁判手続の申立てについて,これらを合意できる事項とすることの要否が課題として記載されております。   また,合意及びそれに向けた協議の手続の在り方に関し,作業分科会では司法警察職員の関与の在り方に関し,送致事件における送致前の段階の取扱いなどについて議論がありました。もっとも,司法警察職員の関与の具体的な在り方については更に検討が必要と考えられ,この点が検討課題「2」に記載されています。さらに,あわせて,「合意に犯罪被害者等の意向を反映するための方策」についても,検討課題とされております。   制度概要「3」の「合意違反の場合の取扱い」につきましては,作業分科会では検察官が合意に違反した場合に,合意の類型に応じて裁判所が判決で公訴を棄却し,又は訴因変更等の請求を却下しなければならないこととすることに特段の異論はございませんでした。もっとも,これに付随して,検察官が合意に違反した場合の合意に基づいて得られた証拠等の使用の在り方については,なお検討の余地があるとして,それが検討課題「3」の(1)に記載されております。   さらに,制度概要「4」の「合意が成立しなかった場合における証拠の使用制限」につきましては,作業分科会では,合意不成立時に協議においてなされた供述の直接使用を制限することについて,特段の異論はございませんでした。もっとも,証拠制限の具体的な在り方につきましては,更に検討の余地があるとして,それが7ページの検討課題「4」に記載されております。   このほか,いまだ作業分科会では具体的な議論はございませんが,検討課題「5」として対象犯罪をどのように設定するかということが課題として記載されております。   次に,8ページ目の「刑事免責制度」の「考えられる制度の概要」を御覧ください。   まず,制度概要「1」及び「2」の全体に関わる制度の枠組みについて,作業分科会で改めて検討が行われました。その結果,この制度の本質は,証言についての派生使用免責が制度上保障されることにより,その証人尋問手続における証言が証人にとって憲法第38条第1項にいう「不利益」なものではなくなり,その結果として証言が義務付けられることとなる点にあると考えられ,この点について,認識が共有されました。   これを踏まえ,制度概要では,この制度の要点は「1(1)」の「ア」の条件,つまり,証人に対して証言についての派生使用免責を付与するという条件と,「イ」の条件,つまり,刑訴法第146条の規定にかかわらず,証人が証言を拒絶できないという条件の下で,証人尋問を行うという裁判所の免責決定であると位置付けられております。そして,制度概要「1(1)」にあるように証人尋問を請求するに当たり,尋問すべき事項に自己負罪事項が含まれる場合,あるいは制度概要「2(1)」にあるように,証人尋問の開始後に証人が第146条の規定により証言を拒絶した場合には,検察官は裁判所に対し,免責決定を請求できることとされています。その上で,制度概要「1(2)」「2(2)」に記載のとおり,請求を受けた裁判所は,そのような適式性の審査のみを行って免責決定を行うものとされております。   作業分科会における多くの意見は,このように裁判所が適式性の審査のみを行って免責決定をするものとし,また,裁判所の職権による免責決定は認めずに,検察官の請求に基づく制度とするというものでございました。このような意見の理由は,本制度を利用して証人に免責を与えると,証人の訴追が事実上困難となるので,当該証人を訴追する必要性と,当該被告人を訴追する必要性との比較衡量が必要であり,それをなし得るのは裁判所ではなくて検察官であるというものでした。もっとも,このような意見に対しましては,裁判所が適式性のみならず,免責決定の必要性及び相当性を実質的に審査する仕組みとすべきであり,裁判所の職権による免責決定もできるようにするべきであるとの御意見もございました。そこで,この点が,9ページ目の検討課題「1」の「裁判所の役割」に記載されております。   最後に,作業分科会では第1回公判期日前の証人尋問に本制度を利用できることとするかについて議論がなされました。この点に関しては同証人尋問に弁護人の立会権が認められていないことから,その点に懸念を示す意見があった一方で,それは本制度に特有の問題ではないとの意見も示されました。そこで,検討課題「2」に第1回公判期日前の証人尋問の在り方が課題として記載されております。   以上,御説明いたしました三つの検討事項に関する参考資料につきましては,併せてお配りした参考資料の9ページ以下にございますので,適宜,御参照ください。 ○本田部会長 それでは,「刑の減免制度,捜査・公判協力型協議・合意制度,刑事免責制度」につきまして,いずれの点からも結構でございますので,「考えられる制度の概要」,また,「検討課題」の内容を中心に,御意見等のある方は御発言をお願いいたします。 ○安岡委員 この三つの制度のうち,刑の減免制度と刑事免責制度,これについてはいわゆる取引的司法の制度ではないという御説明を当部会で聴いたのですけれども,例えば,刑事免責制度については,9月10日付けで,当部会あてに多くの刑事法学者連名の意見書が届いていまして,その中に刑事免責制度について「取引的要素はこの制度に内在しないが,制度を利用する過程では生じる,協議・合意制度などと同様,検察官側と当該証人の側との取引と併せて利用される可能性が高い」という旨の記述がありました。私もアメリカの法制度視察でワシントンDCへ行きましたときに検察官から免責証言制度の説明を聴いて,取引的司法の一環というのでしょうか,その一つの手段として使っているという印象を受けました。   それから,刑の減免制度です。この制度を適用するというときに,もちろん,被疑者・被告人が自発的に自己の犯罪事実,他人の犯罪事実を明らかにするための行為をなすと,こういう場合も当然あるわけですけれども,一般的には先ほど村木委員が可視化のところで述べられた御意見の中で触れられたとおり,実際には取調官が被疑者に「素直に認めれば,こういう制度があって,こういう規定があって,刑を減免されるチャンスがある」と働き掛けるというケースがありましょう。それから,刑事免責制度についても,証人となるべき人をいきなり裁判所に呼び付けて,免責決定をするということはあり得ないわけで,当然,証人になるべき人に対して,当該事件との関わりを捜査当局は捜査をし,直接取調べもするでしょう。その中で考えられる場面としては,「これこれの証言をするならば,裁判所に対して免責請求をする。その場合,免責が認められれば,お前の罪は不問となるから,そういうふうにきちんと証言してくれ」と,こういう持ち掛けをすることは大いにあり得るのだろうと思います。ということで,今,御説明のあった三つの制度をまとめて取引的司法制度と捉えて意見を言います。   取引的司法の制度というのは,現在のグローバル化の進展,犯罪もグローバル化している現実を考えると,国家間の司法共助が犯罪者を追及し,犯罪を取り締まる上で必要になってくるわけですけれども,ロッキード事件丸紅ルートの最高裁判決で分かるとおり,この制度を日本側にも用意しておかないと,司法共助の妨げになる局面が予想されます。ですから,新時代の刑事司法制度を構想する上では,取引的司法の制度は積極的に取り入れる必要があるのだろうと私は思います。   ただし,検察側と協議する被疑者・被告人あるいは刑事免責制度であれば証言者は,取引的司法制度はもとより,刑事手続全般の知識がないのが普通です。しかも,身柄を拘束されていたり,あるいは在宅のままであったとしても,警察,検察の取調べを受けることで,精神的に普通の状態ではない,追い込まれた状態であるわけですから,弁護士が寄り添っていないと,被疑者・被告人あるいは証言者の権利が不当に侵され,不当に不利な合意条件をのまされるという事態が心配されます。   そこで,制度的にそこの部分を手当てすることが大事だと思います。具体的には,協議・合意あるいは免責,減免を持ち掛ける場面は,取調べの中に混在して現れるわけですから,取調べの過程の可視化,それから,弁護人を付けること,手当てといえば,そういうことが考えられます。   あと,捜査・公判協力型協議・合意制度について質問があります。「考えられる制度の概要」を読むと,この制度を使うためには弁護人を必ず被疑者・被告人に付けなければいけないと理解しますが,それでよろしいのでしょうか。もし,弁護人必置だということであれば,現在,当部会で別途考えている被疑者国選弁護の範囲が全勾留事件に拡大したとしても,なお,弁護人が付かない場合にどうなるか。具体的には逮捕段階,それから,在宅で勾留されずに取調べを受けている被疑者や刑事免責制度の場合の証人には国選弁護人が付かないわけですけれども,この人たちに弁護士を付けることを,どのように保障するのでしょうか。それから,もう一つ,質問があります。この合意制度で制度概要の「1」の(2)に,「被疑者・被告人及び弁護人が連署した書面により,合意の内容を明らかにする」となっていますが,書面化するのは合意の内容だけなんでしょうか。合意に至るまでの経過,どちらから発議して,どういう協議を経て,こういう合意に至ったと,その経緯も記録しておく必要があると思うんですけれども,先ほど言った取調べの可視化をしておけば,この経緯の記録は必要ないかもしれませんけれども,制度の概要にいう文書は合意の内容だけを記せばよいのか。質問は,以上の2点です。 ○岩尾幹事 まず,協議の過程にも弁護人が関与するかという点については,そのとおりだと考えておりまして,合意には,書面自体に連署するということになっておりますように,当然関与しますし,協議の開始から基本的には全て弁護人が関与し続けるということを前提に考えております。その際の国選弁護の問題につきまして,これは別途,検討すべき事柄と思います。国選弁護制度がなく,かつ,私選弁護人が付かないというようなケースになれば,それは協議・合意をすることができないということになるわけですが,必ず国選弁護人が用意されていなければ,この制度が制度として成り立たないかというと,そのような問題ではないと考えておりますので,ここは別途検討ということになろうかと思います。   それから,合意書の内容でございますが,合意書面としてどういう内容のものを作るかというのは,更に今後の制度設計の中で検討していくことになるとは考えておりますが,少なくとも協議の経緯のようなものまで入るということは考えておりません。基本的にはここでそれぞれの合意した内容,すなわち,被疑者・被告人としてはどういう協力行為をするのか,検察官はどういう恩典を付与することとするのかというような,基本的にはそういった合意の内容部分が記載されることになると想定しております。 ○本田部会長 それでは,ほかに御意見はございますか。 ○松木委員 協議・合意制度についてですけれども,今,安岡委員がおっしゃられたところと大分重なるのですけれども,私もこういった刑事手続において被疑者・被告人が弁護人から十分な援助を受けた上で,利害得失を十分理解して対応できるようにしていく,そしてまた,証拠の収集,これがそうした明確で公平な仕組みを通じて行われるということは,取調べへの過度の依存から脱却するという,この特別部会の使命にも沿うものであると考えております。したがいまして,以前にも私は申し上げたのですが,新たな時代の刑事司法制度に象徴的な制度として自己負罪型の制度も含めて,この制度の導入というのは検討していくべきだろうと思っております。正にこういったことができるということは,グローバル化の中で企業がいろいろな犯罪に不幸にして直面してしまうようなときにも,こういった制度というものが日本にないと,なかなか対応しにくいというようなところも安岡委員が言われたとおりございます。   協議・合意制度につきましては,作業分科会で検討していただきまして,細かい部分では更に検討の余地があるとしても,検察官が合意に違反した場合だとか,合意が成立しなかった場合のルールがだんだん明確になってきていると感じております。こうしたルールが制度としてきちんと定められているということは,被疑者・被告人の方としましても安心して,この制度を利用できることに資するものであると考えますので,有益なものだと考えております。   細かなところですけれども,協議・合意制度の検討課題の「1」のところで,検察官の求刑や略式命令請求などについても,合意できることとするかという点が掲げられております。検察官の求刑というものが裁判所の参考になるものにすぎないとしましても,一般的には検察官の求刑は,最終的な裁判の結果とそれほど大きく異なることがなく,影響が大きいものであると理解しておりますし,検察官による略式命令の請求がなければ,正式な裁判を避けて略式の手続で事件を処分してもらうことができないのですから,こういう意味では,略式命令の請求も被疑者・被告人にとって意味のあるものだと思います。   こういった合意の内容が最終的に裁判所を拘束するという仕組みが可能であれば,恐らく最も望ましいものなのかもしれませんけれども,それが難しいということであっても,検察官と被疑者・被告人との間でこれらのことに合意できるようにするということも,被疑者・被告人の側から見まして十分に意味のあることだと思いますので,このような合意を認める方向で検討していくということに私としては賛成です。 ○角田委員 それでは,刑の減免制度ないし刑事免責制度の関係について一括して簡潔に申し上げたいと思います。まず,刑事免責の制度につきましては,当初の案と比較しますと,裁判所の方で請求の適式性だけを中心に審査するという方向になっていると理解しております。これであれば現実の制度としてもワークするだろうと,つまり,供述を引き出す制度として有効性があるだろうと私も思いますので,基本的に賛成したいと思います。ただ,制度の具体的な作り方によって,免責の必要性とか相当性とか,その辺りを裁判所が何らかの形で審査するような,そういう方向のものを考えることになってしまうと,それは裁判所の能力を超えるところもあり,余り適当でないだろうと思いますので,是非,現在の案の方向でお願いしたいと思います。基本的に賛成です。   それから,刑の減免制度の関係について,今まで出た御意見と違うニュアンスのことを申し上げることになると思いますけれども,捜査への協力ということを一般情状を超えて量刑上の刑の減免事由にするというのは,現行の量刑判断の中にはない発想だろうと思うんですね。取り分け裁判員裁判になって,特に量刑については量刑判断の透明化とか,合理化とかが非常に強調されるようになって,行為責任を中心に考えていこうということで,それが定着しつつあると思いますが,自己負罪型であろうが,あるいは他人の犯罪の申告型であろうが,こういった捜査への協力を減免事由とすることは,刑事政策的にあえて制度を設けて導入するということになると思います。これはもちろん可能なことだろうと思いますけれども,ただ,それをやる前提としては遡って「基本構想」で挙げられている取調べへの過度の依存を改めて,証拠収集手段を適正化,多様化する,こういう政策目的を実現するために,捜査協力,取り分け他人の犯罪への捜査の協力で刑の減免を正当化することが理屈の上でできるのかどうか,さらにその手段として刑の任意的な減免というのが有効適切なのか,これらの観点からの掘り下げた議論が必要なのではないかと思います。しかし,これまでの当部会での議論の中では,その点は必ずしも十分ではないのではないかというのが私の印象です。   時間の関係もあるでしょうから1点だけ具体的に申し上げたいと思います。政策目的の実現に的確な方策だろうかということに関して,今まで余り議論に出てこなかったことだろうと思いますが,捜査協力型の場合の問題点です。共犯者の供述については,元々,自分の責任を免れたり,あるいは軽くするために引っ張り込みの危険があります。これは共通認識だろうと思いますけれども,現状は特に刑の減免というような特典がなくても,そういう問題が時折,起こって非常に事案が複雑になったり,あるいは無罪事例になったりということが現実にはあるところです。一線の捜査官としては,そこのところは非常に苦労しながら吟味をしているというのは私も理解しておりますけれども,ただ,これが今のような特典がない状況でも,元々そういう危険があるものを,刑の減免という非常に俗な言い方をすれば,かつぶしというのか,そういうものとの引き換えでもって,共犯者の供述を引き出していこうとすることの中に,弊害が出てこないだろうかという危惧を払拭し難いところがあると思います。   ですから,これまでの検討の中でも,この場合の虚偽供述にサンクションを掛けたらどうかという議論も出ているわけで,それは一つの方策だろうとは思います。ただ,こういう場合のサンクションというのは迂遠な複雑な制度になって非常に機能しにくい,偽証罪がなかなか機能しにくいのと同じような構造になりかねないだろうと思いますが,そういう問題点をはらんでいると思いますので,今の形のままで賛成ですということは私としては言いにくいなと思っております。   個人的な意見を言えば,犯罪の類型によって,要するに,これは被告人側で損得計算をして行動に出るわけなんですけれども,そういう損得計算が非常にしっくりする類型の犯罪なのか,そうでないのか,実はそういう問題もあるのかもしれません。たとえば独禁法の分野で最初に告発した者には課徴金を免除し,他のところに課徴金納付を命じる制度がありますが,これはある程度機能しているではないかと,私もそういう認識は持っています。ただ,それは元々,関係者がみんな,損得計算で動いている,そういう類型の面がちょっとあり,これが自然犯の殺人だとか,強姦致傷だとか,そういう類型の事件について,想定されているような制度を正面から取り入れて刑を減免していくということは,本当に説明が可能なのかどうなのかという問題提起をしたいと思います。   あと,この制度に関しては前回も申し上げましたけれども,実務的な観点からは刑の減免ができるかどうか,判決が出るまで分かりませんというタイムラグの問題であるとか,あるいは争いがあるかどうかにかかわらず,他者の犯罪の有無が争われたときに非常に手続が重くなるとか,そういう問題がありますので,それとの兼ね合いは当然考慮して考えていかなければいけないと,こう思っております。   捜査・公判協力型協議・合意制度については,多分,機能的には刑の減免制度というのが前提になっていて,こういう制度を考えるということになるのではないかと思うので,基本的には今のままでは賛成しにくいというふうに考えております。前回,申し上げたことなので繰り返しませんけれども,量刑判断が結局,裁判所の裁量であるとか,あるいは検察官の合意違反が争われたときの手続が重くなるとか,刑の減免制度について指摘したのと同じような問題がかぶってくるかなと考えております。 ○髙綱委員 協議・合意制度についてですが,これまでの作業分科会における議論を伺う限りでは,証拠制限や取調べ制限等からくる捜査への支障,そして,第三者の引き込みの危険,架空の情報提供による捜査の攪乱といった制度の悪用可能性,こういった弊害,デメリットというものを有効に排除できるような仕組みは,いまだ示されていないと考えます。そして,被害者の心情や国民感情との整合性についての議論も不十分と考えます。したがいまして,私ども警察としては少なくとも現時点で配布資料に提示されている案では,賛成いたしかねると思っております。今後とも更に慎重な検討を願いたく存じます。 ○但木委員 新しい時代の新しい証拠収集の在り方,あるいは刑事手続の在り方というのは,新しい時代にふさわしいものにしていくべきだと私は思っております。いわゆる減免制度あるいは協議・合意制度というのは,全く新しいものを開こうとしているわけですが,その理由の一つとして,今まで隠れてあったことをオープンにして公正なものとして位置付けるべきだということがあります。きちんとルールを公にして,そのルールに従ってやるべきだと思っております。そのルールを確立するためには弁護人制度というのが充実していなければ,到底できない。今般の司法制度改革で弁護人制度というのは以前から比べれば,はるかに充実してきた。その中で初めてこうした司法取引ができるという客観的基盤が出来上がったのだと思います。   もう一つは,先ほどから出ていますとおり,犯罪がものすごく大きくなってしまって,いわゆる共犯がどうしたとか,そういうラインからはるかに超えて,グローバルな巨大な犯罪というのが行われる危険性というのがあるわけで,例えば企業犯罪にしても,真に処罰されるべき者と,それを実行した者との間には完全な違いがある。その場合に実行した者を不起訴にして,本来,処罰されるべき者,利得を得た者を処罰する一つの手段として,非常に有用ではないかと思います。前に申しましたけれども,エンロンのあの巨大な事件で3人だけですね,起訴されたのは。あと,部下は百何十人,みんなこの制度で免責されているわけですよ。だけれども,その3人が巨万の富を得たわけで,その3人を処罰すれば刑事罰は良いのだという新しい時代の考え方というのだって十分あり得る。特に先ほど例に挙がりましたけれども,ロッキード事件で証拠排斥になってしまったように,こういう制度がないと外国での証人について免責はできないわけです。その捜査の壁というものが今後もなくならないということになった場合に,日本で起こる巨大な企業犯罪というのはほとんどできなくなってしまう。巨大な企業犯罪は国内の企業だって外国を通じてやるわけで,外国にいる人たちについて免責できないということになると,新しい時代の捜査としてはものすごく不自由になってしまうのではないかと思います。   ただし,日本では,事実が違うものまでお互い当事者間で合意したらば,事実と違う認定をして,それを裁判所に押し付けるということはできないのですよ。例えば,アメリカならば本当は謀殺なんだと,死刑もある謀殺なんだけれども,故殺でそれでは当事者は合意しましょうといったら,訴因を故殺に変えて,それで起訴して,それで有罪になっているのですね。それは日本の裁判風土ではできないのですよ。   また,先ほど言われました,正に犯罪類型によっては,この制度はワークできない,ワークさせない方が良いというものがあるのだと思います。その辺の切り取りをしっかりやる必要はあるのだと。しかし,逆に日本では適用できない分野があるから,全部やめてしまおうというのは,新しい時代の捜査手法としていかにも不自由ではないかと思います。私は,新しい時代には,新しい捜査の在り方というのがあるんだと思います。   それで,この特別部会は,それをどうやって発見し,国民に理解を得られる制度にしていくかという,そういう議論をやっている場だと思うのです。犯罪類型等も考えるべきではないかという御意見は,誠にそのとおりだと思いますし,この中でなかなか難しい制度があるなと,根本問題についてまだ論議されていない分野があるのではないかと,それも御指摘のとおりだと思います。それを全て尽くすべきだと思いますが,私はこの制度は,是非,入れた方が良いと思います。   警察との関係がありますけれども,警察が送致してくる事件であっても,巨大な組織的な豊田商事のような詐欺事件とか,あるいは振り込め詐欺の巨大な組織犯罪とか,そういうものについて末端の人たちを免責することによって首謀格の者の姿を現させる,それは,今後,利用できる制度としてあり得るのではないか。その仕組みをどうやって作るか,それを担当する警察官がどうやったらその制度を利用して,真に処罰すべき者を明らかにすることができるのか,その辺はきちんと研究する必要があると思いますけれども,私はこの制度は,一定の分野に限って,是非,設けるべき制度であると思っております。 ○後藤委員 補強法則の問題について,一言,意見を申し上げたいと思います。ここで想定されている制度の目的は,主として共犯者供述を得やすくすることだと思います。共犯者供述が犯罪の立証のために有効な場合が多いというのは確かでしょう。けれども,他方では,共犯者供述はいろいろな危険がある,特に実は関係ない人を引っ張り込んで,その人に責任を負わせるといういわゆる引っ張り込みの危険とがあることが経験から知られていいます。実際,裁判所が誤った共犯者供述を信じてしまうとことは,典型的な誤判原因の一つだと認識されています。   そのような危険があるからこそ,これまで共犯者供述についてもそれ以外の証拠,つまり,補強証拠が必要かどうかという議論が学説にはあって,判例はそれは不要であるとしているわけです。けれども,今回これらの制度を入れることによって,そういう誤判の危険も増すという面があると思います。このような制度を作って共犯者供述を活用しようとするのであれば,それに対する手当てが必要ではないでしょうか。ただし,そこで必要とすべき証拠は,誰かがこういう犯罪をやっただろうという証拠ではなくて,被告人がこの犯罪に関与しているという点について,共犯者供述以外の証拠も合わせて必要だとする法則が必要ではないでしょうか。   実際問題として,検察官が起訴する事例では,被告人の関与について共犯者の供述しか証拠がないということは余りないのだと思います。だから,現実的な効果としては確認的な規定になるでしょう。それでも,事実認定者に対して注意を促すものとして,意味があると思います。私はこれを作業分科会では申し上げたのですけれども,恐らく少数説ということで,今日の配布文書には反映されていないので,この点の御検討をお願いしたいというのが私の希望でございます。 ○酒巻委員 三つをセットにして議論しているので,どうしてもそれぞれの制度の趣旨が混濁するところがあるようでありますけれども,特に刑事免責制度の検討課題に掲げられた事項に関して申し上げます。まず,先ほど安岡委員が引用された御見解について,多分,御理解いただいているのだと思いますけれども,協議・合意制度とは異なり,刑事免責制度そのものについては法制度として取引の要素は一切ない。これは間違いのないところです。そして,このセットの三つが全体として機能するときには,私の予測では,刑事免責制度そのものが取引的に使われるということはなく,真正面から取引的な要素がある協議・合意制度が働く場合に,刑事免責制度を使うということは,余りないのではないかと考えています。   それから,刑事免責制度に関して,検討課題の「1」の「○」の二つ目の「裁判所の職権による免責決定を認めるか。」という点について,先ほど角田委員もおっしゃいましたとおり,現在,ここで示されている制度では,裁判所の仕事は適式性の判断,そして,必要性・相当性については立ち入らないというものであります。これに対して職権による免責決定というのは,必要性・相当性をおよそ判断ができる立場にない裁判所にやっていただくというものですので,この基本的な設計にはなじまないと思います。この制度は専ら検察官の訴追裁量権限を前提にして,検察官の判断でどういう証拠をどういう方法で集めるか,それに際して一定の人間については刑事訴追と有罪判決を諦めるかどうかの判断を訴追側に委ねる,そういうものでありますので,裁判所の主導・職権による方式は認めないのが良いと思います。   それから,検討課題の「2」の第1回公判期日前の証人尋問における利用について。当然,制度の動かし方として,ターゲット,しゃべっていただきたい人については,捜査の段階からその人についてどうするかということが問題になるはずですから,広い意味で捜査手続の段階にある第1回公判期日前の検察官の請求による証人尋問の制度,具体的には現行法では刑訴法第226条等で行い得る証人尋問の制度についても,その証人尋問において免責を付与して,証言をしていただくというシステムを導入するのが適当だと思います。   導入するについては,いささか技術的な問題ですけれども,現在の第1回公判期日前の証人尋問制度の要件は非常に厳格になっておりますけれども,その部分はもう少し,この制度を入れるのだとすれば,要件を変更して,第1回公判前も刑事免責制度による証人尋問の利用可能性を拡張するのが望ましいと思います。 ○大野委員 三つの制度についてまとめて御意見を申し上げたいと思いますけれども,これまでも申し上げてきたとおり,これら三つの制度はいずれも有用であって,私も新たな時代の証拠収集手段として,是非,導入していただきたいと考えます。特に捜査・公判協力型協議・合意制度につきましては,作業分科会での御検討によりまして,制度の内容が相当具体的になってきたと思っております。   協議・合意制度については引き込みの危険があるとの御指摘もあって,その理由は被疑者が恩典欲しさに他人を引き込んで,うそをつくということにあると思われます。しかし,現在の制度案によれば弁護人が関与する手続において供述がなされ,その信用性がある程度,確かめられた上で合意されることとなるものであって,その信用性が疑わしければ検察官は合意をしない,あるいは合意から離脱することができますし,合意に基づいて得られた証拠については,合意の内容が明らかにされた上で,他人の刑事事件において十分な反対尋問その他の慎重な信用性の吟味がなされることとなります。そして,合意をした被疑者がうそをついていたことが明らかになれば,合意に係る恩典が得られなくなるだけでなく,虚偽供述罪等によって処罰されることとなるのでありますから,恩典欲しさで被疑者がうそをつくというのが引き込みの危険が懸念される理由であるとすると,これらはそのおそれを払拭するに十分なものだと思います。   検討課題「1」の求刑,略式命令請求や即決裁判手続の申立てに係る合意については,先ほど松木委員もおっしゃいましたけれども,検察官による求刑が裁判所にとっても重要な参考意見となってきたことは,否めないところではないかと思いますし,略式手続や即決裁判手続については検察官の請求や申立てがなければ,採られることがないという手続であって,検察官がこれらの行為に合意することは有効な捜査,公判協力の動機付けとなりますから,是非,制度に含めるべきであると考えております。   次に,協議・合意制度と刑の減免制度に共通する問題として,裁判所が被告事件以外のことについて判断する手続や審議の負担があるという御意見があります。しかし,刑の減免制度については,減免事由の対象となる行為に係る他人の事件の範囲を被告事件と一定の関連を有するものに限定すれば,御懸念は解消するのではないかと思います。     また,協議・合意制度については,検察官が被告人による合意違反を主張して合意から離脱した後に,合意内容と異なる行為をした場合に,被告人が自分に合意違反がないとして,逆に検察官による合意違反を主張するなどといった形で,検察官と被告人との間で合意違反をめぐる争いが生じ得ることに懸念を示す御意見もあります。しかし,そもそも,そのような争いは無限定に生じるわけではなく,飽くまで被告人が合意した範囲内の事項についてのものであります。そのため,裁判所においては合意書面と,その前後における被告人の供述状況,その他,当事者が提出する関係証拠を踏まえて合意違反の有無を判断することが十分可能であると考えております。   最後に,刑事免責制度の検討課題「1」についてでありますが,免責決定は大まかに言えば,証人について証言を得る代わりに,事実上,その証人を起訴したり,処罰したりできなくなってもよいという判断を伴うものでありますから,裁判所に職権で免責決定をするかどうかを判断していただくのは難しいのではないかと思われ,免責決定は飽くまで検察官の請求に基づいてなされるものとするべきであると考えております。 ○小野委員 刑の減免制度ですけれども,一つは自己の犯罪事実について自首との関係なんですが,自首というのは,捜査官が全く関わりのないところで行われる行為であるわけですけれども,ここでの減免制度というのは,捜査官が関っているところでの行為ということになるわけですが,ただでさえ,虚偽供述を迫るというのが,現在,いろいろな場面で見られる中で,減刑ということで軽くなるのだったら,多少,うそでも認めてしまおうという虚偽供述を誘発すると,こういう危険があるような仕組みではないかと考えて,非常に問題があるのではないかと考えています。   他人の犯罪事実については,これまでもいろいろな方から出ているように,引っ張り込みの危険が非常に大きい。現在,実際に既に事実上,行われているということがあるわけですけれども,それを制度化することによって,公然と,そういった危険が顕在化していくのではないかということを考えますと,非常に難しい制度ではないかなと思います。捜査・公判協力型協議・合意制度についても,これは他人の犯罪事実に関してのことであって,同じような危険が生ずるわけです。   虚偽供述の処罰などという制裁があることによって,これは回避できると言われますけれども,そのような仕組みで回避できるとは到底思えないわけです。それからまた,協議においての供述というような表現もあるわけですけれども,協議においての供述というような形での,その供述を求めるような協議ということがあるのは適正な制度ではないだろうと,飽くまでも協議は弁護人と検察官とが行うべきものであって,供述は供述,取調べは取調べということに厳密に分けるべきだろうと思います。   この協議・合意制度を活用するかどうかについての弁護人の判断をするに当たっては,証拠開示がされていないことには正しい判断ができない。場合によって虚偽の合意をしたときに,本人が処罰されるということもあり得るわけですから,その弁護人としては実際にこういう合意に乗って,将来,処罰されることがあるか,ないかということをチェックするためには,証拠開示がきちっとなされていなければならない。   いずれの場合においても,供述過程の中から,当然,それを利用しようと考えるかどうかということを捜査官は考えるわけですけれども,どういう供述がなされているかという過程については,きちっと録音・録画されていなければ,それを後で検証することもできないということになりますので,そういったことが前提になるだろうと思います。   それから,時間がないのであれですが,刑事免責制度については,先ほどから,これには取引的要素はないのだとおっしゃっておられるようですけれども,ただ,私の受け止め方からすると,ほとんどの場合は共犯関係にある,何からの形で関わりのある人間が刑事免責を受けて証言強制をするということになるわけですが,そこに至る過程については,どうするかということでの取引的な要素は,どうしても入り込んでしまうだろうと考えます。そういうことでいうと,この制度は十分に慎重に検討されなければならないだろうと思います。   それから,第1回公判期日前の証人尋問における利用というのも,結局,そこでなされた証言というのは,例えば公判廷に来なかったり,あるいは何も言わなかったりということになると証拠となり得る,そういうものですから,ここに弁護人の立会権がない,あるいは仮に弁護人が立ち会って反対尋問するということがあっても,証拠開示がこの時点でほとんどなされていない状況だろうと思いますので,有効な反対尋問はできないということも考えると,なかなか,この制度も実際に使うということになると,非常に厳しいものになってしまうのではないかということで,私自身はこの三つの仕組みについては,いずれも導入にすることについては賛成できません。 ○本田部会長 まだ,御意見もあろうかと思いますが,かなり時間もたちましたので,「刑の減免制度,捜査・公判協力型協議・合意制度,刑事免責制度」についての議論は,ひとまず,ここまでとさせていただきたいと思います。 ○井上委員 一つだけ発言させて下さい。今日は,作業分科会で作成した「たたき台の前段階的なもの」をお示しして,それに対する御意見を伺うという趣旨なので,作業分科会の関係者としては我慢しながら黙っているのですけれども,決して意見がないわけではありません。作業分科会でも,制度の採否といったことについて意見をなるべく言わないようにして,飽くまで特別部会での議論に資するための考えられる案を描いてみるという前提に立って議論をしています。ですから,どちらでも意見を言いにくい立場に置かれているのですが,決して意見がないわけではないということを御承知おきください。今日いただいた御意見については,また作業分科会の方で,それを踏まえて議論させていただきますけれども。 ○本田部会長 よろしいですか。それでは,区切りの良いところですので,ここで休憩を取らせていただきたいと思います。次は午後3時50分に再開いたしたいと思います。よろしくお願いします。           (休     憩) ○本田部会長 それでは,再開いたします。   次に,「通信傍受の合理化・効率化,会話傍受」について議論を行うことといたします。この事項につきましては,午後4時30分までということにさせていただきたいと思います。 ○宮﨑委員 議事進行についてですが,前半の議事進行を聴いておりましたけれども,ひがみかもしれませんけれども,捜査側の発言の当てられる回数が極めて多い。例えば,録音・録画についての議論の際に,日弁連委員は手を挙げていたのにもかかわらず,1回も指名されていません。司法取引につきましても,ようやく小野委員が最後の最後に指名されました。それまで,捜査の側は何回か指名が当たったということを考えますと,進行について一定の妥当性というのか,公平性というのか,そういうことについても配慮いただきたいと思います。特に刑事弁護の一線を担っている弁護人の意見も適切に聴いていただきたい,こう要望いたします。 ○本田部会長 皆さんの挙手のタイミングと時間との関係だと思いますが,部会長の責任でございますので,できるだけ,おっしゃるような方向で努力していきますので,よろしくお願いいたします。   今,申し上げましたように,この事項についての議論は,午後4時30分までということにさせていただきたいと思います。   まず,配布資料の内容について,事務当局から説明してもらいます。 ○久田幹事 資料63の10ページを御覧ください。まず,「通信傍受の合理化・効率化」について御説明いたします。   この検討事項については,第1作業分科会において前回部会における御意見を踏まえつつ,「対象犯罪の拡大」,「立会い,封印等の手続の合理化」,「該当性判断のための傍受の合理化」につき,具体的な制度案の検討が行われました。資料には,これまでの議論の状況を踏まえ,「第1」から「第3」まで,現時点で考えられる制度の概要と検討課題が記載されていますので,議論の状況と併せて御説明します。   まず,「第1 対象の犯罪の拡大」について御説明します。「考えられる制度の概要」(1)に掲げる罪については,これらの対象犯罪に追加すること自体に反対する御意見はなく,その点では,おおむね認識の共有が図られたと思われます。そこで,(1)においては①から⑤までとして具体的な条文を記載し,従来,「逮捕・監禁」,「略取・誘拐」といった形で犯罪類型が記載されていたものをより具体的に記載することとされたものです。一方,これらの罪のうち,特に「窃盗,強盗,詐欺,恐喝」については,前回部会において,組織的な犯罪であることを要件とすべきではないかとの御意見が示される一方,組織性について厳しい要件を掛けてしまうと,通信傍受を活用できなくなるのではないかとの御意見が示されました。   作業分科会においては,これらを踏まえつつ議論が行われ,組織的犯罪処罰法の組織性の要件を付加しつつ,その組織性については疎明の程度を下げることとするのはどうか,同様の態様で反復継続したと疑うに足りる相当な理由があることを要件とするのはどうかといった御意見が示される一方,いずれについても,それらの要件を満たすことの疎明は実際上,極めて困難であるとの御意見が示され,なお,隔たりがありました。そこで,検討課題には(1)の「イ・ウ共通」として「対象犯罪に組織性の要件を付加するか,通信傍受の有用性を損なわない形で組織性の要件を規定することは可能か,具体的にどのようなものが考えられるか」が記載されています。   また,「考えられる制度の概要」の「(2)その他重大な犯罪であって,通信傍受が捜査手法として必要かつ有用であると認められるもの」については捜査の実情等を踏まえ,検討課題の(2)の「ア 組織を背景とした犯罪」から,「エ その他」までに掲げる罪をいずれも対象犯罪に追加すべきであるとの御意見が示されました。他方で,これらを対象犯罪に追加することに慎重な御意見も示されたところであり,意見の隔たりがあったことから,個別の罪名や条文はいずれも「検討課題」に記載されています。   次に,資料の13ページの「第2 立会い,封印等の手続の合理化」について御説明いたします。「考えられる制度の概要」の「1」の新たな仕組みによって立会人の役割や封印の機能を代替し得ることについては,前回部会においても特段の異論はなかったところであり,作業分科会においては,この新たな仕組み自体の適正を担保する方策の在り方や,通信の暗号化,複合化に用いる「鍵」に関し,実際にこれを作成する行為を誰が行うか,その生成装置は誰が管理するかといった点を中心に議論が行われました。   その結果,鍵の生成は裁判所の職員が立ち会うなど,裁判所の関与の下で行うこととすることが考えられるのではないかとの御意見や,送信装置への鍵の入力は通信事業者が行うこととするのが適当ではないかとの御意見が示され,基本的な方向性についてはおおむね異論はありませんでした。   そこで,「考えられる制度の概要」の「2」の(1)では,暗号化や複合化に必要な鍵は捜査機関が裁判所職員の立会いの下に作成するものとされ,また,(2)では通信事業者,捜査機関,裁判所職員がそれぞれ所定の鍵を保持し,送信装置への鍵の入力は通信事業者が行うものとされた上で,検討課題の「2」として(1)から(3)まで,それぞれ鍵の生成の際の立会人,送信装置への鍵の入力の主体,鍵の生成装置の管理の主体をどうするかという点が記載されています。   「第3 該当性判断のための傍受の合理化」については,従来から特段の異論がなかったところであり,前回部会の配布資料からの変更点はありません。   次に,資料の15ページを御覧ください。会話傍受について御説明します。   会話傍受については,通信傍受と同様に,第1作業分科会において,具体的な制度案の検討が行われ,資料にはこれまでの議論の状況を踏まえ,現時点で考えられる制度の概要と検討課題が記載されていますので,議論の状況と併せて御説明します。   会話傍受については,会話傍受の一連の手続に沿って議論が行われ,それに伴って検討課題については前回部会での配布資料の記載を整理し,会話傍受に関する一連の手続に沿って,「1 令状発付の要件」,「2 傍受の実施の開始までの手続」,「3 傍受の実施をしている間の手続」に分けて,これを記載しました。   まず,検討課題の「1 令状発付の要件」については,作業分科会で「考えられる制度の概要」の「3」に記載された補充性の要件に加えて,緊急性も要件とするかについて議論が行われました。会話傍受は,通信傍受以上にプライバシーを制約し得るものであることなどを理由として,緊急性も要件とすべきとの意見がある一方で,緊急性については補充性の要件の中で検討されるべきものであり,別個独立の要件として設ける必要はない旨の意見が示され,意見の一致に至らなかったので,この点については検討課題として残しております。   また,検討課題の「2 傍受の実施の開始までの手続」については,作業分科会で傍受機器の設置の適正を担保するための立会いの要否について議論が行われ,③の場面では傍受機器の設置の際に,配送業者等に立会人になってもらうことが可能であるとの意見が示されましたが,この点について十分に議論が尽くされたとまでは言えないことから,「傍受機器の設置の適正(対象場所とは別の場所に設置されないこと等)を担保するために立会いを必要とするか。」が検討課題として追加されています。   さらに,検討課題の「3 傍受の実施をしている間の手続」については,作業分科会でスポット傍受の要否,傍受の実施の適正を担保するための立会いの要否について議論が行われました。スポット傍受の要否については,そもそも,会話傍受の場合,日常会話がなされ得ることから,スポット傍受によっても犯罪に関連する会話を選別することはできないのではないかとの意見が示された一方,①ないし③の場面に限定されており,犯罪と関連しない会話が行われる可能性が類型的に低く,スポット傍受は必ずしも必要ないなどの意見も示されました。また,傍受の実施の適正を担保するための立会いの要否については,作業分科会で会話傍受では不適正な捜査を抑止するため,通信傍受と同様に立会いが必要であるとの意見が示された一方,通信傍受について提案されている技術的措置を用いれば,立会いを不要とすることも可能であるなどとの意見も示されました。このように,これらの点については意見の一致に至らなかったことから,いずれも検討課題に残されています。   なお,作業分科会での議論では事後通知を必要とすることについて,特に異論はなかったことから,「考えられる制度の概要」の「5」として,「傍受の対象場所の管理者等に対し,事後通知をしなければならないものとする。」が追加されています。   なお,これらの検討事項に関する参考資料につきましては,併せてお配りした参考資料の20ページ以下にございますので,適宜,御参照ください。 ○本田部会長 それでは,「通信傍受の合理化・効率化,会話傍受」につきまして,「考えられる制度の概要」と「検討課題」の内容を中心に,いずれの点からも結構でございますので,御意見等のある方は御発言をお願いいたします。 ○小谷委員 まず,通信傍受の対象犯罪についてですが,これまでも当部会,それから,作業分科会で御説明させていただいておりますが,検討課題の10ページから12ページにかけて掲げられております各法令の罰条,これはいずれも通信傍受の必要性,有用性が高く,捜査現場においても拡大を望む声が上がっているものばかりでございますので,是非,対象としていただく方向で御検討をお願いいたしたいと思います。   委員の中には,通信傍受が必要以上に行われることがないよう,罪名に加えて組織性など何らかの要件を付して限定することが必要だと,お考えの方もおられると承知しておりますが,現行法においても共謀要件,すなわち,数人の共謀によるものであると疑うに足りる状況があること,そして,補充性の要件が設けられておりますので,これらを総合いたしますと,実質的には組織性が要件とされ,限定が付されているということになるのではないかと考えております。   また,万引きや無銭飲食といった単純で軽微な犯罪まで,傍受の対象となってしまうのではないかとの御懸念をお持ちの方もおられるようでございますが,そのような御心配には及ばないと考えております。この点,平成24年中の都内における犯罪統計を元に理由を御説明いたします。   まず,詐欺につきましては,共犯事件の検挙件数1,304件のうち無銭飲食,無賃乗車,無賃宿泊といった無銭詐欺は43件,割合にして3.3%にすぎないということでございます。すなわち,無銭詐欺の共犯事件の検挙はごく僅かでございます。加えて,仮に詐欺が通信傍受の対象犯罪となった場合には,補充性の要件や,裁判官の令状審査がございますので,こういった犯罪までもが傍受の対象になることはないと申し上げてよいかと思います。   次に,万引きについて申しますと,通常,万引きと言われるものは,店頭に陳列されている商品を店員の目をかすめて盗むことでございますが,万引き事件の平成24年の検挙件数1万2,581件に占める共犯事件は334件,割合にして2.7%にすぎません。ですから,万引きについてはほとんどが単独犯であるということがお分かりいただけようかと思います。   一方,共犯による万引き事件の中身を見てみますと,外国人を含む職業的な犯罪者グループが数都道府県にわたって高価な小型家電や化粧品等を大量に窃取するといった,広域かつ多額の組織窃盗事件等がございます。こうした組織窃盗事件は犯罪手口の上では一応,万引きに分類しておりますが,中には1グループ当たりの事件の被害額が数千万円に達するケースもございます。したがって,こうした組織的窃盗集団に対しましては,通信傍受によって突上げ捜査を推進し,首謀者以下メンバーを一網打尽にする必要があると考えております。   次に,会話傍受について申し上げます。会話傍受の必要性につきましては,前回の部会でも申し上げたところでございますが,例えば土産物の置物の中に覚醒剤を封入して密輸入するといった事件がございますが,これに対しては捜査機関の監視の下に,その置物の運搬を許してその配送経路を追跡し,不正取引に関与する人物等を特定するコントロールド・デリバリー捜査,略してCD捜査というものを警察で実施することがございます。   こうした事件におきましては,配送物を受け取った者が,中身が覚醒剤であることを知らなかったなどと知情性を否認することが少なくなく,現実に公判で争われるケースもございます。こうした現状に対して配送物の中に傍受装置を仕組んで,会話傍受によって配送物の受取人の受け取った際の言動や,あるいは関係者に受領した旨を連絡するとか,配送物を転送するための相談をするといった状況を傍受することができれば,知情性等の立証に大きく寄与することが期待できると考えております。会話傍受の導入に向けまして,是非,積極的な御検討をお願いできればと思っております。   最後に,会話傍受の検討課題とされております補充性に加えて,緊急性を要件とすべきかについて申し上げますと,例えばCD捜査を行う場面は薬物犯罪が正に現行犯により行われている状況でございまして,既に緊急性が高いということは明らかでございます。更に緊急性の説明を求める必要はないのではないかと考えております。   また,その他の二つの場面である振り込め詐欺の拠点となっている事務所など,あるいは対立抗争の場合における暴力団事務所や暴力団幹部の使用車両についても,ごく限定された場面でございまして,振り込め詐欺のアジトであることや,対立抗争中の暴力団事務所あるいは暴力団幹部の使用車両であることを疎明する必要は当然あろうかと思いますが,これらを疎明することができ,かつ,会話傍受以外の方法で犯人の特定には至らないという補充性の要件等をクリアできれば,あえて緊急性を要件とする必要はないと考えております。 ○本田部会長 ほかに御意見はありますか。 ○神幹事 私の意見は,作業分科会でも意見を述べていますので,ほかの委員・幹事の皆さんに意見を多く話していただいた方が良いと思いますので,なるべく簡略に述べさせていただきます。   まず,一つ,通信傍受の犯罪対象の拡大なんですが,これについては,元々,日弁連はこの制度そのものに反対しておりましたので,なかなか,すぐ,うんとは言えない状況にございます。その中で特に当部会の中で議論のあった,いわゆる振り込め詐欺だとか,組織的な窃盗についてはかなり困っておいでになるという話もありました。そうだとするならば,そこには組織性の要件が必要だという観点から,今日の参考資料の46ページに,私の方から「通信傍受法の対象犯罪の拡大について」ということで書いたペーパーを提出しています。要するに,今までは,組織的殺人などの場合に構成要件として「組織性や団体性」の立証がきちんとできないと,なかなか令状を出してもらいにくかったということでしたので,これを令状要件にして少し立証を容易にするという趣旨で提案したものです。しかし,これについても,不十分であり使い勝手が悪いという御意見を伺っていますけれども,私たちとしては,組織性の要件は何らかの形で必要だろうと考えています。   それから,対象犯罪のそのほかの問題についても殺人はともかくとして,逮捕・監禁,略取・誘拐についても組織要件は要るのではないかと考えています。   それから,枠外の「検討課題」の(2)にあります「その他重大な犯罪であって」というところにいろいろな犯罪が挙がっていますが,頂いた資料に付け合わせてみますと,死刑・無期のものから3年以下の懲役といったような軽いものまで雑多に並んでいます。この「検討課題」の冒頭にあります「犯罪の重大性」,「捜査手法の通信傍受の必要性・有用性」という観点のうちの重大性の観点からこれらを全部入れるということは到底納得できません。したがって,私はそういう意味で問題のあるものが含まれていますので,今回,にわかにこれらも含めて対象犯罪を拡大とすることについては反対であります。   それから,通信傍受の「立会い,封印等の手続の合理化」については,機器そのものが適正になされているものであれば,そこに改ざんの余地がないとは思いますので,正常に作動する機器がきちんと納品されて,その後もそのとおりに正常に作動しているということが担保されているのであれば,いろいろな細かいことを言っても仕方がないので,それはそれとしてしようがないのかなとは思っております。   ただ,その場合でも,鍵の生成とか,あるいは鍵の入力管理をどうするのかという形については問題が生じないようにしておく必要があると思います。作業分科会の中では裁判所にやってもらうだとか,通信事業者にやってもらうとか,いろいろな意見がありましたけれども,この鍵の生成については,今回の資料の裁判所は捜査機関が作るものに立ち会うというだけということですと,裁判所の担当者が,それがどのようなものかということが分かっていないと,非常に問題があるのではないかと思っています。内容の分かる人がきちっと立ち会わないと,今までの通信傍受の場合の立会い以上に,ただ,いるだけということになってしまい,担保としての意味がないのではないかという意見を述べておきたいと思います。   それから,通信傍受の適正さの担保策に関連しては,第三者機関によるチェックということで,作業分科会で私が今日の参考資料の51ページから53ページにペーパーを出しております。これについてはいろいろな御批判とか,御意見を頂戴いたしました。これを全部お読みするとまた時間がなくなりますので,全て省略しますけれども,ここでこの提案をしたのは,現行で行われている不服申立手続をなくするという意味ではございません。   それから,もう1点,52ページの「被疑者についても通知の到達は確保されておらず」というくだりなのですが,ここについては私も作業分科会で曖昧な返事をしたために,井上委員からいろいろな御批判を頂きました。この趣旨は,被疑者の名前が分からないとか,あるいは所在場所が分からないという場合については,通知の到達は必ずしも確保されないという趣旨でございます。そういった場合についてきちっと不服申立ての機会がその人間には保障されない制度になっているということと,現実にそういった事件で通知がなされても,本体である犯罪事実が明らかになれば,そういうことで細かく争う人も少ないという意味では,実益が乏しいということを述べました。そこで,この不服申立制度を残しつつ,それと並列して,第三者機関によるチェックを提案したものです。第三者機関が全ての傍受記録等をチェックするというのではなくて,事後的なものも含め,抜き打ち的に,具体的な日時のこれこれについてはチェックさせてくださいという形でチェックできる制度としてその創設を提案したものであります。以上の点を補正した形で意見として述べさせていただきます。   会話傍受については,元々,通信傍受に反対ですから,更にプライバシーの程度が広くなる会話傍受については,非常に問題ではないかと考えております。その意味では反対であります。ただ,コントロールド・デリバリーの際の会話傍受の場合については,場合によっては傍受される時間帯が非常に短い等の議論があったりなんかしているので,これについては一言申し上げておきたいと思います。コントロールド・デリバリーが実施される場合の配送物で会話傍受がなされることが法的に認められれば,恐らく当事者の人たちは,それが分かった段階から具体的にそういった配送物が届いても,その後はそういった会話はしなくなるという意味で,一過性の効果しかもたないのではないかと思いますので,これについても強く反対であります。 ○宮﨑委員 先ほどから録音・録画につきましての議論を聴いておりますと,僅か3%の裁判員裁判についてこれを広げる,これから広げるということであります。一方,通信傍受,罪名だけから見ますと50%以上になるのですよね,罪名だけから見ますと。したがって,どうもバランスが悪い。本来は,可視化をするため自白が得られなくなるために,通信傍受をしようではないか,新しい捜査手法をしようではないかということだったんですが,それがいつの間にか,吹き飛んでしまって非常に肥大化しているというように思います。   これにつきまして,もちろん,録音・録画の範囲が大幅に広がると,こういうことの,いわゆるこれから御議論いただくということに期待を寄せておりますが,それとともに通信傍受あるいは会話傍受の範囲についてもきちっとした,何か,先ほど聴きますと,そういう事実上の令状発付の運用でカバーすると,こういうようなことでありますけれども,それだけでは足りないのではないか。ともかくバランスよく制度について考えていただきたいと,このように思います。   そこで,今日は少し質問をさせていただきたいと存じます。作業分科会の議論を見ますと,携帯や固定電話を想定した議論,あるいはその濫用防止がなされていますけれども,今や若者のほとんどはLINEとかSkypeとか,そういう方法で会話をしているのではないかと思いますが,これについて,これは通信傍受法の適用範囲だと,こういう具合に思うのですが,そうだとしますと,これについての濫用防止について議論がなされていないように思うのですが,これを発案された事務当局において,こういう濫用防止とか,そういうことについてどうお考えなのか,先ほど言いましたように暗号キーだとか,あるいはその機器をどちらが管理するかということでは済まないような議論が必要ではないかと思うのですが,この辺,教えていただければと,このように思います。 ○久田幹事 LINE等の新たに出てきている通信手段と今の傍受の関係はどうかと,そういう御趣旨かと思います。今,現行の通信傍受法は特段,通信の種類を分類せずに,通信に該当する限りは現行法によって傍受をすることができる。その上で,通信の種類に共通の形で,いろいろな濫用防止ということになると思うのですけれども,不適正な取扱いがなされないような担保措置というのが講じられております。   今回,特に検討されているものというのは,立会いという機能を分析の上で代替し得るかどうかということでありますので,現行の立会い等々の手続が通信手段を特に分類せずに行われているという観点からは,もし,立会いと同様に置き換えるということができるのであれば,濫用防止という観点からは,同等の措置が図られると思っております。   いろいろな通信方法があろうかと思いますけれども,それに対する担保措置として,現行法の枠内の中で置き換えができるかどうかという観点から検討が行われておりますので,今,仮に検討されている案というのが適正に代替できるというものであれば,担保方策としては十分であろうと思っております。 ○井上委員 作業分科会で議論しなかったことなのですけれども,今,久田幹事がおっしゃったとおりで,LINEとかSkypeとか比較的最近流行ってきているものであろうと,特定のある事業者が提供しているプログラムないしアプリケーションを使った通信というだけで,技術的には,通常の電話やEメールなどと同様,電気信号の形で通信が行われるものなので,それを傍受するという意味では同じなのです。今でもインターネット電話もメールも通信傍受法に基づいて傍受できるわけで,それと基本的に変わりはないのですよ。それらの新奇なサービスを利用した通信を傍受対象とすることによって新たにどういう濫用の危険が生じることを懸念されているのかということを言っていただかないと,それに対する対策を用意しているのかと問われても,お答えしようがありません。   傍受に当たっては,令状発付の際に目的とする通信を特定しなければならず,それへの該当性の判断においても,スポット傍受という方法で,できる限り限定的に行うことになっている。そして,それが適正にきちっとなされているかは,傍受した通信は全て記録し,その原本を裁判所の下で保管して,問題があればそれをチェックするという形で担保しているわけです。そのような仕組みの下で,おっしゃるような新奇のサービスによる通信を傍受するのでは,今行われている通信傍受の場合とは異なる何らかの濫用の危険があるとおっしゃるなら,それがそのような危険なのかを明示していただかないと何とも答えようがないのです。 ○宮﨑委員 文科系の私にその危険を言えというのは,そもそもおかしいのであって,いろいろ装置を考えている人たちが,こういう形で濫用防止をしている,こういう形で濫用防止を図っているということを言っていただいて,我々がそれをつたないながら検証するということになるのではないかと思います。ただ,私自身が,まず最初に思うのは,非常にピント外れかもしれませんけれども,今議論されているのは,携帯電話にしろ,何にしろ,暗号装置があって,それを受信できる機器が一つだけあり,それが捜査当局の中に入って暗号キーでほどくということですが,他方で,Skypeなどの場合はメールアドレスさえ分かれば,どの機器でも成り済ましというんですか,受信できることになるのではないかと,そういう点で濫用防止というのはどういう具合に担保されるのだろうかという素朴な疑問を持っています。また,それ以外にいろいろな方法が考えられるのではないかと,こう思って,それについて文科系ではない人たちが集まって検討していただいて,濫用防止策について一定の提言をしていただけないのかと,このように考えているところです。 ○井上委員 私も文科系の人間ですけれども,新しいシステムでは現行以上に濫用があるのではないかというように言われたので,それは具体的にどのようなことを意味しておられるのか,釈明を求めただけです。それは不当でも何でもなくて,法廷でもよくあることですよね。御質問の趣旨が,現行制度の下での新奇のサービスによる通信を対象にすることによる濫用の危険ということではなく,今検討されている通信傍受実施方法の合理化・機械化をした場合に特にそういったサービスによる通信を対象にすると,今と同じような担保措置が採れなくなるのではないかということでしたら,これまでに既に説明されたことで十分だろうと思いますけれども。 ○本田部会長 時間の関係もございますのでよろしいでしょうか。 ○宮﨑委員 よくはないけれども。 ○今崎委員 今回の通信傍受の合理化・効率化は,基本的には今の通信傍受の制度がなかなか使いにくいということと,一方で,現在の犯罪現象にきちんと対応できているのかという観点からは,合理性があるのだろうと考えております。ただ,その対象犯罪について,随分,分科会でも御議論いただいているようですし,先ほど小谷委員の方から実証的なデータに基づいたお話を伺いましたが,確かにおっしゃるとおり,共犯事件における軽微犯罪の割合というのは意外に少なくて,実際には捕捉しなければいけないものがかなりあるんだろうと,これはよく分かりました。   ただ,実際に法律を作るときに,例えば振り込め詐欺を念頭に置きますと詐欺罪をそのままの裸で別表に入れるような形になると,振り込め詐欺以外の複数人による詐欺事件も抽象的には対象になってしまう。法律の在り方として,それは決して望ましいことではないように思います。具体的には先ほど来,御意見がありますけれども,組織性の要件をかぶせるのが一番良いところではないかという気がします。   組織的犯罪処罰法上は,組織性の要件があり,団体性の要件があり,さらに団体の活動の要件という大きな三つの概念がございますが,通信傍受に団体性あるいは団体の活動の要件までかぶせてしまうと,非常に重たいものになるのはそのとおりだと思います。組織的犯罪処罰法は実体法として,そういう行為を処罰・規制する必要性が高いという理由から,そうしているのだろうと思いますので,傍受にまでそれを全てかぶせる必要はないだろうと思います。逆に,組織性というものにまで落とすのであれば,裁判所の立場からそれで疎明が簡単になるなどとは決して言えませんが,ただ,しかし,例えば振り込め詐欺の事案を考えますと,これは振り込め詐欺の事案であるという事実の確認ができて,通常,振り込め詐欺というのは複数の自然人が指揮命令系統に基づいて,それぞれ,あらかじめ定められた役割分担に従い,一体として行動すると,こういう要件に通常は当たると見る場合が多いだろうと思いますので,実務上,そんな無理を強いることにもならないのかなと思いますので,飽くまで一つのアイデアのようなものでございますけれども,その点を更に作業分科会でも議論を深めていただければなと思っております。   あと,細かいことになりますが,先ほど神幹事のお話にありました鍵の問題です。裁判所が一定の役割を果たすべきではないかという御議論は確かに分かるのですが,裁判所の立場からしますと,裁判所は基本的には令状の判断者であって,令状の執行に関わるのは裁判所ではないと思っております。ですので,理論的にないかと,あるいはあり得ないかと言われれば,もちろん,立法政策であり,そういうのもあり得るだろうとは思いますが,そういうものに関わるのが良いかどうかということについては,なお,私どもとしては疑問を持っているということを申し上げておきたいと思います。 ○佐藤委員 私は宮﨑委員が発言すると何か発言を誘発されるような傾向に過去にありまして,今,宮﨑委員の発言の中で,通信傍受が録音・録画との関連で論じられてきたということを忘れられているのではないかというような発言がございました。しかし,私が指摘しておきたいことは,もう一つ,大事なことが忘れられているのではないかということです。といいますのは,録音・録画をするということは取調べを非常にやりにくくするということで,実態を解明する,真相を明らかにすることについて,困難が生じるということ,それに代わるものとして物的証拠等を収集しやすくするなどの新たな制度を構築するなり,拡充する必要があるという議論がありました。   そうだとしますと,日本の法体系の下では,刑法その他の刑罰法令に定める構成要件が,故意等の行為と密接に関連した内心の問題が非常に重視された要件になっている。特に目的規定,目的罪といいますか,そういうものによって適用罪名が大きく変わってくるという,そういう体系の刑罰法令になっておりますけれども,この部分に手当てをしなければ取調べが困難になってくるということに不整合であるという問題があり,私もそれを指摘しておりましたけれども,しかし,今回はその点は一応さておいて議論を進めましょうということであったように理解を致しております。   そうだとしますと,せめて通信傍受ぐらいは使い勝手の良いものにしてやらないと,捜査の現場は誠につらいという現実があるということを申し上げ,その改善についてお願いをしてまいった次第でありますので,その辺りの経緯も,宮﨑委員,どうぞお忘れなきよう,お願いをしておきたいと思います。 ○小坂井幹事 私の話は緻密な議論ではありませんで,手短に済ませます。最初に小谷委員が御心配には及ばないという趣旨でおっしゃられたんですが,率直に申しますと,心配です。警察の不祥事は多いです。余り大きな声で言いたくはないですけれども,報道されているのを,いちいち,言おうとは思わないですが,非常に最近も報道されていますね。今の通信傍受ということ自体が非常にセンシティブな問題です。市民の方も非常にそういう意味では関心を持たれている対象だと思いますけれども,そういった中で,これだけばっと罪名を増やしてしまうことが,理解されるか。万引きでは共犯は少ないんですとか,無銭飲食は詐欺の中でごく僅かですという,それは私は論理としてはどうしても逆で,それで罪名を全部入れてよいということにはどうしてもなりようがないと思うんですね。   基本的にこれは反対ということになるんです。けれども,万が一,増やしていくのであれば,当然,先ほども話が出た組織性なりの要件をきっちりはめ込んでいくという限定を付していかないといけない。市民の方々の拒否反応は,私は想像以上に強いと思いますから,そこはよほど慎重に限定した議論をされないと,逆の意味で難しいのではないかなという感想をどうしても持ちます。   それと,今,佐藤委員が言われたことで,「基本構想」を読んでいますと,「基本構想」4ページに,まず,被疑者取調べの録音・録画の導入を始めということからなんですよね,取調べへの過度な依存からの脱却と,もちろん,証拠収集の適正化・多様化と,こういう形になっているわけですけれども,まず,前提として当部会のミッションはなんだったのか,村木委員の事件の再来を防ぐことであるとか,そういう大前提の発想がどうしても必要です。そもそも論を申し上げて恐縮なんですけれども,そういうものを抜きにして,今の佐藤委員の御意見だったら「基本構想」を超えて,そういった昔の議論をまた蒸し返して,そうであればせめて通信傍受はというのですけれど,そういうことにはならないのではないか。「基本構想」もいろいろ時間が経って,各方面から批判をいろいろ受けていると思いますけれども,それはさておくとしても,「基本構想」がパッケージ論を採っているかどうかは,文言の限りで必ずしもよく分かりませんが,どちらにしても,やはり,やるべきことをまずやってからというのが議論の順番ではないかと思っています。 ○青木委員 一言だけ,今日の資料の31ページに通信事業者の方のヒアリングをしたときの資料があるんですけれども,31ページの一番下のところに,「通信事業者は通信の秘密を守ることにより,利用者の信頼性を確保する必要があります。したがって,今回の議論に当たりましては,こうしたことへの配慮をお願いいたします。」という記載があります。それから,45ページにも同趣旨の記載があります。これとは別に私どもが通信事業者の方からお話を伺ったときにも,今までは通信事業者の施設で行われていたことが今度は捜査機関で行われると。そこについて国民の理解を得ないと困るというようなことをおっしゃっておられました。ですので,そういうことが国民にきちんと説明できるような制度にしていただきたいと思います。取りあえず,一言だけ申し上げます。 ○露木幹事 先ほどから対象犯罪に組織性の要件が必要かどうかという議論がありますが,必要であると主張される方々が理由とされるのは,対象犯罪が広がりすぎるように見えるから,と私には聞こえるのですが,対象犯罪が広がりすぎるように見えるかどうかというのは,それ自体,非常に曖昧な主張だと思います。対象犯罪というから要件とは別個独立の法律上のものが存在しているかのように聞こえるのですが,法律上は別表に掲げる罪と規定されていて,これは傍受令状発付の要件の一つにすぎないものです。   ですから,傍受令状発付の要件全体を見て,組織性というものが要求されているかどうかということをまず判断しなければならないのですが,先ほど来,当方の小谷委員からも話がございましたが,数人の共謀によると認められる状況があるときということが規定されておりますので,そういう意味では,組織性というものが要求されております。それに加えて,別表に掲げられている罪の中に,組織性のようなものを更に規定しなければならない理由は,一体,何なのかということをきっちりと論証していただきたいと思います。 ○本田部会長 それでは,まだ,御意見もあろうかと思いますが,時間の関係もございますので,次に「被疑者・被告人の身柄拘束の在り方」につきまして,議論を行うことといたしたいと思います。この事項についての議論は午後5時20分までとさせていただきたいと思います。   まず,配布資料の内容につきまして,事務当局から説明してもらいます。 ○保坂幹事 資料63の16ページ以下を御覧ください。   この検討事項につきましては,第1作業分科会におきまして,前回の部会での御意見を踏まえつつ,「第1」の勾留と在宅の間の中間的な処分,いわゆる中間処分と,「第2」の身柄拘束に関する適正な運用を担保するための指針となるべき規定,いわゆる指針規定につきまして,それぞれ,検討が行われました。資料にはいわゆる中間処分として指針規定につきまして,それぞれ,「考えられる制度の概要」と「検討課題」が記載されておりますので,作業分科会における議論の状況と併せて御説明させていただきます。   まず,「第1」の中間処分についてでございます。作業分科会におきましては,制度概要の「1」,検討課題の「2」,すなわち,勾留と中間処分の関係をどう考えるか,それを前提として中間処分の要件をどう規定するかという点について議論が行われました。その議論の内容としましては,中間処分で足りる場合には中間処分を選択しなければならない旨の規定を設けることにより,勾留に補充性を必要とすべきである,中間処分の対象事件を限定すべきではないとの御意見が示される一方で,中間処分によって罪証隠滅・逃亡を防止し得るのは限定的な場合にとどまる,中間処分の対象となる事件・被疑者は限定すべきであるとの御意見も示され,なお,意見の隔たりがございました。そこで,制度概要の「1」におきましては,中間処分の対象となる事件や被疑者について,「ア」から「オ」までの各事由に該当しないこと,これが要件として記載されていますが,なお,検討課題の「2」におきましては,以上の点について検討を要する旨が記載されております。   また,制度概要の「1」の中間処分の要件のうちの相当性の要件につきましては,作業分科会で御意見のあった考慮事情として,「被疑者が罪証を隠滅し又は逃亡するおそれの程度,隠滅するおそれのある罪証の内容及び性質その他の事情」という事情が記載されておりますけれども,この要件も含めて検討課題とされております。   次に,作業分科会において制度概要の「3」,検討課題の「4」,すなわち,中間処分に付されている被疑者が遵守すべき事項について議論が行われました。制度概要の「3」の(1)と(3)のように,遵守事項を中間処分に付されている全ての被疑者が遵守すべき一般的な事項と,個々の事案ごとに必要に応じて定めれば足りる個別的な事項とに分けて規定すること自体には御異論はなく,その遵守事項の内容につきましても,後で御説明をします「3」の(1)の「ウ」,すなわち,「第198条第1項本文の規定により出頭を求められたときは,正当な理由がある場合を除き,これに応じること。」,それ以外は特段の御異論はなかったところでございます。   この第198条第1項本文の規定により,途中を飛ばしますが,これに応じることというものにつきましては,制度概要のように出頭を義務付けるだけでは不十分であり,取調べに応じること自体も義務付けるべきであるという御意見が示される一方で,勾留中であっても出頭・滞留の義務は認められるべきではないのであるから,中間処分についても同様とすべきであるという御意見も示されたところであり,大きな隔たりがございました。そこで,制度概要には,「3」(1)「ウ」というものが遵守事項として記載されておりますけれども,なお,検討課題「4」の一つ目の「○」には「取調べのための出頭を義務付けることとするか。」というのが,検討課題として記載されております。なお,制度概要の「3」の(3)の「ウ」のところにも出頭とございますけれども,こちらの出頭は取調べのための出頭ではございませんで,定期的な所在確認のための出頭という趣旨で記載されております。   このほか,作業分科会におきましては制度概要の「4」の勾留への移行,特に「4」の(1)「イ」のように遵守事項違反を勾留への移行事由とするかや,遵守事項の遵守をどのように担保するのかといった点についても議論が行われましたが,なお,意見の一致を見ておらないことから,検討課題「4」の二つ目の「○」と三つ目の「○」に,これらの点が検討課題として記載をされているところございます。   次に,「第2」の指針規定について御説明します。   「1」は被疑者・被告人が犯罪事実を否認又は黙秘しているとして,安易に勾留がされないように,という問題意識を前提とした場合に考えられる規定として掲げられております。A案は,その提案者によって前回の資料から文言が若干修正がされまして,B案は,前回のこの部会での資料と同じです。   「2」の方は,捜査を行う上で身柄拘束はできる限り避けるべきであるという問題意識を前提とした場合に,考えられる規定として挙げられているものです。B案は,前回の資料と同じでございますが,A案につきましては,前回の資料では,「検察官,検察事務官及び司法警察員は,できる限り,被疑者の身柄拘束を避け,身体を拘束する必要がなくなったときは直ちに釈放することに努めなければならない。」というものであったところ,作業分科会におきまして,これに代えて新たな規定案が提案されたことから,その案がA案として記載されております。この新たなA案は努力義務にとどまらず,身体拘束の必要性の程度と身体拘束による不利益の内容程度を考慮して相当と認める場合に限り,身体拘束を継続することができるとするものでございます。   「1」,「2」のいずれにつきましても,現行の運用に関する認識の違い等を背景として意見の隔たりが大きく,ほかに適切な規定があり得るかを含めて,検討を要するものとして検討課題に記載がされております。なお,これらの検討事項に関する参考資料につきましては,参考資料という冊子の73ページ以下にございますので,御参照いただければと思います。 ○本田部会長 それでは,「被疑者・被告人の身柄拘束の在り方」につきまして,「考えられる制度の概要」と「検討課題」の内容を中心に,いずれの点からでも結構でございますから,御意見等をお願いします。 ○髙綱委員 いわゆる中間処分についてでありますが,このような制度については,捜査段階における罪証隠滅や逃走の防止を担保する措置や,取調べのための出頭を確実に担保する措置,これが取れる仕組みにならない限り,こうした処分を設けることには反対の立場を採っているということは,これまで申し上げてきたとおりであります。そこで,これまでの作業分科会の議論を踏まえさせていただいて,2点,申し上げたいと思います。   一つは,仮にこの制度を検討する場合でも,配布資料のように出頭義務だけを遵守事項として規定するのは不十分と考えます。少なくとも現行刑訴法198条1項ただし書と同様に,出頭義務だけでなく滞留義務をも明記して,取調べ受忍義務があるということを明示しなければ,出頭だけすればいつでも帰ってよいというような解釈になりかねず,遵守事項としては不十分であると考えます。   また,前回の部会でも申し上げたことでありますが,遵守事項を義務付けても義務違反があった場合に,これを担保する法執行力というものを社会全体としてどう考えるのかという視点を持つべきだと思います。仮に私ども警察が例えば所在不明になってしまった際の探索や引致などをするのであれば,限られた捜査力をこれに割かれるということとなりまして,場合によっては治安全体の水準低下にもつながりかねないと考えます。そもそも,こうした制度の導入によって年間,どの程度の人数の中間処分者が生まれるのか,彼らの引致や所在探索というものをどのような主体が,どのような方法で,どれだけの人数を掛けて行うのかといったようなことが試算されているのか。この制度を考えるに当たってはそうした視点からの検討が不可欠と考えますので,よろしくお願いをいたしたいと思います。 ○安岡委員 中間的な処分についての質問です。これまでの当部会での議論と,それから,「基本構想」の文言から,私は中間処分を導入した場合には,勾留請求を審理,判断する裁判官が従来は請求却下と勾留を認めるの二者択一だったところに3つ目の中間的な選択肢を設けると,こういう制度かなと思っていたんですけれども,制度概要の枠囲いの「2」と,検討課題「3」の上の方の「○」を読みますと,作業分科会で議論している制度案の基本線は,検察官に対して第三の道を与える,つまり,検察官は身柄の扱いについて,今は釈放するか,勾留請求するか,この二つに一つだったわけですけれども,それに加えて中間的な処分を請求する選択肢を与えると。裁判官の方は自分から勾留請求に対して,これは中間処分で良いとする選択肢はなくて,検察官の請求があって初めて中間処分に付す決定ができるという制度を検討しているのでしょうか。 ○岩尾幹事 今,枠の中の「考えられる制度の概要」で書いている内容自体は,検察官が中間処分の請求をした場合に,裁判所がその旨の決定ができるという枠組みになっております。ただ,その在り方については様々な議論があるところでございます。今,こういった考えられる制度案にしている一つの理由として,作業分科会で出た意見は,そもそも,捜査段階での強制処分については,逮捕だとか勾留だとか捜索差押え等,全て捜査機関の方が請求して,その処分が適当かどうかという形で許可なり,命令なりをするという枠組みになっているので,それとの整合性を考える必要があるのではないかというもので,その上で,今の制度の概要が作られておりますが,ただ,この点はそうでない仕組みも当然考えられるところでございますので,それは検討課題の方に書いてありますとおり,正にこの点の御意見も頂ければと思っております。 ○椎橋委員 私の感想ですけれども,中間処分というのはどういう要件を充足した場合に認められるのかという,そのこと自体がよく分かりにくいのですけれども,もし,そういう場合があり得るとしても,非常に限られた場合なのではないかと思います。また,罪証隠滅・逃亡のおそれという要件が存在すれば,適正な裁判ができないということになりますので,それは確実に防止しなければいけない。そこで,罪証隠滅・逃亡を防止する有効な手立てが必要だということになりますけれども,それが果たして担保されているのかどうかということです。これについて作業分科会では条件に違反した場合には一定の処罰を設けるという案も出ているようで,これはかなり思い切った案だと思うのですけれども,しかし,それでもこの案では私は罪証隠滅を防止し,出頭を担保するには不十分だと思います。この案では,「1年以下の懲役又は20万円以下の罰金」と参考資料の78ページに書いてありますけれども,私が知っている例えばウィスコンシン州の例によりますと,告発された犯罪が軽罪の場合には9か月の拘禁刑,プラス,1万ドル以下の罰金,また,告発された犯罪が重罪の場合に,その条件に違反して逃亡したというような場合は6年以下の拘禁刑,プラス,1万ドル以下の罰金ということで,告発された犯罪とは独立した,相当に重い刑罰が科されます。そもそも,条件違反を処罰するかどうかの前に,告発された事件自体が非常に重い場合は,その事件が証明できなくなってしまうということ自体が計り知れない損失になりますので,罪証隠滅・逃亡を防止しようということで罰則まで設けるということになった場合にも,この案程度の軽いものではとても担保できないだろうと思います。しかも,アメリカでは実際にベイル・ジャンピングという犯罪,これは告発事案とは別の独立した犯罪ですけれども,この案件というのは非常に多くて,これらの事件処理のために,また,刑事司法機関の貴重な人的・物的財源が使われますので,そのことをも考えると,果たしてそういうところまで考えて設けるべき仕組みであり得るのかどうか,かなり疑問を持っているところでございます。 ○大久保委員 日弁連の先生方は,まだ,御存じでない方も中にはいらっしゃるのかもしれませんけれども,犯罪被害者等基本法ができております。その重点課題では「被害者は再被害を受けることに対する恐怖,不安を抱いたり・・・」(中略)「このような犯罪被害者の精神的,身体的被害に対し,回復・軽減し,又は防止するための取組を行わなければならない」と明文化されています。このことからも,刑事司法は被害者の視点を重視したものでなければならないと私は考えます。   この制度概要の「3」で示されておりますような遵守事項を定めたとしても,被疑者による罪証隠滅や逃亡を確実に防止するということはできないと思うのですね。そのために捜査に著しい支障を来す事犯が生じて,それによって社会の安全が脅かされるということは,一国民としてもとても不安です。また,被害者は先ほど言いましたように,再被害の恐怖や不安を抱えていますので,このような制度ができてしまいますと,被害申告をもためらわせるようになりかねません。そのために勾留と在宅の間の中間的処分そのものについて私は反対です。繰り返し申し上げますけれども,刑事司法は国民のためにあるものでもあると思いますので,被疑者の立場のみに軸足を置かないで,被害者や国民の視点を忘れないようにしていただきたいと,再度,お願いしたいと思います。 ○大野委員 中間的な処分について検察の立場から,検討課題とされている点について意見を申し上げたいと思います。   まず,検討課題「4」に関してでありますけれども,この制度を設ける場合には,取調べのための被疑者の出頭を確保できる仕組みが不可欠であると考えます。捜査機関の立場からしますと,取調べのための出頭確保の仕組みがなければ,この制度は在宅とほとんど変わりがないものとなってしまうといっても過言ではなく,検察官が中間処分を請求することもなくなるであろうと考えます。   次に,検討課題「2」の勾留との関係でありますけれども,被疑者の身柄を拘束しない以上,中間処分による罪証隠滅や逃亡防止の効果は,勾留と比べて十分でないのでありますから,そのような不十分な仕組みを原則的な形態とすることは問題であり,「考えられる制度の概要」にあるような仕組みとするべきであると考えます。   そのほか,検討課題「3」については捜査段階への強制処分であり,証拠が未収集の段階における捜査機関の捜査の進め方に関わる問題であります。検察官が請求した場合のみ中間処分に付すことができる仕組みとするべきだと思います。また,同様の理由から,一度,勾留に付されたのに,途中から中間処分に変更できる仕組みとすることにも賛成はできません。また,検討課題「5」の起訴後に中間処分に付することができることとするかについても,起訴後には既に保釈制度がありますから,中間処分を設ける必要はないと考えますし,保釈制度と異なる意義のある制度とできるのかも疑問があります。 ○村木委員 身体拘束についての議論を是非,お願いをしたいと私が申し上げてきたのは,必要以上に身体拘束をするということが取調べ側の自白獲得の手段として使われているのではないか,そのことを非常に危惧しているからです。ですから,世の中の治安が悪くなったり,被害者の方が非常におびえて暮らさなければいけないようなものまでやってくれという趣旨ではありません。今の運用には非常に問題があるので,是非,そこをまともなルールのところへ持っていく方法を考えていただきたいというのが,作業分科会の方々へのお願いでございます。例えば私が勾留をされなくて家にいても,誰もおびえて暮らす人はいないはずですから,それなのに164日も拘束をされたという,こういう現状を変えていただきたいということでございますので,是非,よろしくお願いいたします。   勾留することというのが一種の自白を引き出す手段にも使われることがあるというような現状を考えたときに,この検討中の制度が検察官からの請求で成り立つ制度,しかも,できるという規定の制度だということになると,うまく機能するのだろうかという心配がございます。この点について,是非,更なる御検討をお願いをしたいと思います。   それから,もう一つは,技術的なことでもあるのかもしれませんので,是非,作業分科会で御検討いただきたいのですが,この制度だけを見ると,取調べのための出頭義務が課される。しかも,中間的な処分について2か月間という期限になっている。そうすると,私がもし,この中間処分というような状況になったら,毎日毎日,呼び出されて,20日間ではなくて最悪2か月間,ずっと呼び出されて,それに行かなければいけないという制度になっているように見える。そうすると,取調べに過度に依存するどころか,取調べ期間を延ばす制度になってしまうようなリスクを持っているのだろうかということを心配を致しました。黙秘権もあるわけですから黙秘するんですと言っても,毎日毎日,呼び出されるとか,そういうことまで起こってしまうのかなという点が非常に心配になりました。取調べの必要性は私は分からなくはないので,この2か月間に,何かしら,取調べが適正に行われる,常識的に行われるというルールがもう一つ要るのではないかというふうな印象を持ちましたので,是非,御検討をお願いしたいと思います。 ○周防委員 今,本当に実際に勾留の経験をされた村木委員の方からお話があったので,迫力不足にはなると思うんですけれども,私も最初に刑事裁判の取材を始めて,すぐ,たくさんの元被疑者の方から言われたのは,「認めれば出してやる,否認するなら何日でも泊まっていってもらう」というやり方です。勾留というものが,そういうふうに使われているという事実は,僕はもう疑いようのないことだと思っています。また,元検察官で,今,弁護士をやっている方にお話を聴いたときも,検察官のときはそう思わなかったけれども,弁護士になってみると,どう考えても勾留の必要はないと思う事件であっても,否認していれば出してもらえない。   確かに立場の違いによって,以前,当部会でもおっしゃっていましたが,裁判官の方も適切に判断して勾留すべきものは勾留し,勾留しなくてよいものは勾留してないんだとおっしゃっていましたが,立場によって物の見え方は違ってくるので,それは本当によく分かるんですが,でも,取りあえず,身体拘束というのは本当に重大な人権侵害になるということをもう一度,考えていただいて,本当に慎重に判断すべきものだと思います。ですから,中間的処分の更なる検討も含めて,勾留に関して適切な判断がなされるように規定を明文化する,そんなことは当たり前ではないかと法曹関係者の方は思っていて,あえて,そんなことを書く必要はないとおっしゃる方がいると思いますが,でも,こういった身体拘束は重大な人権侵害なのですから,適切に勾留判断をしなければならないといったような明文化を是非していただきたいなと思っています。 ○酒巻委員 私は「第2」の方の訓示規定というか,指針規定なのですけれども,箱の中は結論から言うと,御提案された方に説明してもらった方が良いのかもしれませんけれども,まず,「1」の方の否認供述を不利益に考慮してはならないという,この全体の書きぶりは細かくは言いませんけれども,問題があると思います。B案の方は当たり前のことなので,周防委員は当たり前のことも書けという趣旨なのかもしれませんけれども,余り意味はないというか,当然のことだろうと思います。   2番目の「必要性の判断に関する留意事項」と書いてあるのですけども,A案というのは留意事項ではなくて,明らかに法律に要件を新たに書き加える話であろうと思います。そして,A案に書いてあることだけでは多分,不十分で,法律には書いてありませんけれども,裁判所の勾留請求に対する必要性・相当性と言われている,解釈上,認められている要件の一部を取り出して書いてあるとしか読めない。ですから,これは留意事項ではおよそないと思いますし,要件を書くとすれば,これでは全然不十分なので適当でないと思います。   それから,B案は,これも当然,考慮されていることだろうと思いますので,そもそも,なかなか,こういう条文を留意事項という形で書くことそれ自体について,私は全面的に疑問がある,そういう意見でございます。 ○龍岡委員 既に出ておりますので,多少,重複の感があるかもしれませんけれども,2点ほど意見を述べさせていただきます。   まず,中間処分の点につきましては,制度概要案における中間処分に付することの相当性の判断については,これまでにも何回か述べてきたと思いますけれども,現在の勾留の判断において,勾留の必要性として判断してきておりまして,勾留の必要性の判断の内容と重複することになるのではないか,このままの形で制度を導入しましたとしても,中間処分は,主に,現在勾留請求が却下されているような事案について利用されていくことになるのではないかと思われます。この制度が,そのような事案について,より確実に身柄を釈放するという趣旨に基づくものであるとするならば,それを明らかにしないと裁判の現場は混乱するのではないかと懸念されます。逆に,現在,通常勾留されているような類型について,その一部を中間処分に付するという趣旨なのであれば,そういった制度として,これが現実に機能するように,遵守事項や遵守事項に違反したときの担保措置についても,もっと検討し,整理する必要があると考えます。   それから,指針規定の点につきましては,「第2」の「1」の「否認及び黙秘の取扱いに関する留意事項」のA案については,否認等には,自白をしている場合と比較しまして,反射的な不利益というのが当然あるわけでありまして,このような条文は仮に作られたとしても機能しないのではないかと考えられます。逆に,B案は余りにも当然のことであって,立法する意味がどの程度,あるのだろうかと疑問に思われます。   「2」の「身柄拘束の必要性の判断に関する留意事項」のA案につきましては,被疑者・被告人の身柄拘束に伴う不利益は,これまでに何回か述べていると思いますけれども,勾留の必要性の判断の中で考慮しており,新たな規定は不要であると思います。むしろ,このような形で勾留の必要性を明文化することは,先ほども指摘がありましたけれども,これまでの必要性の判断をカバーできているのだろうかという疑問があります上に,60条1項各号との関係でどのように位置付けるかという点が不明確であって,このような規定を設けるのは相当とは言えないと思います。   B案につきましても,このような規定をすることで,その他の事情について留意する必要が相対的に低下してしまうのではないか,そういう弊害もあると考えられますので,このような規定を設けることも適当ではないと考えます。 ○坂口幹事 私も作業分科会の構成員として,この問題の検討に参画させていただいておりましたが,先ほど正に周防委員が御指摘になったとおり,立場によって物の見方が異なるというのは,全くそのとおりだろうと思います。そうであるからこそ,冷静に建設的な議論をするためにも,客観的な立法事実に基づいて議論をするということが,是非,必要だろうと思っております。   私の捜査実務の経験からしますと,捜査を尽くした後で処分の段階になってから,振り返ってみて,この身柄の措置で適当だったのかと思うケースがないわけではないですが,逮捕してから48時間しかたっていない段階で,これから捜査をしようというときに,まだ,証拠も集まっていない,事案の概要もよく分かっていないというときに,果たしてこういう中間的な処分という選択肢を増やしてみたところで,適切に判断ができるのかというのは大いに疑問です。そういうことが可能なのかどうかというのを実証的に検討してみるためにも,例えばこういうケースが中間処分の対象となるというような立法事実のようなものがないと,検討の手掛かりすらないということで,いつまでたっても,観念的,抽象的な議論に終始せざるを得ないのではないかと思います。 ○青木委員 技術的な書き方の問題は別としまして,身体拘束の在り方という点で何をどうしたいのかということで申し上げます。そもそも,当部会が始まった経緯からしましても,同じ話の繰り返しになってしまうかもしれませんけれども,身体拘束を利用して取調べが行われて,しかも,取調べの中身が事情を聞き出すということを超えて,一定のストーリーを押し付けるような形で行われ,虚偽の供述がなされるということが現実に行われてきたということがあります。また,やっていない人は,当然,やっていないわけですから否認する,そうすると,そのことによって身体拘束が長引くということが現実としてあるわけです。身体拘束というのは本当に大変なことだと思いますが,そういうものを受けている人がいるわけですね。それをどうやったら避けられるか。一人だったら,不必要な身体拘束を受ける人がいても良いというふうな立場には立てないです。一人でも二人でも身体拘束が避けられるのであれば,避ける方策というのは設けるべきだと思います。そういう意味で,中間的な処分に当たるような人が本当にいるのかと,多数,いるのかといえば,多数ではないかもしれませんけれども,できるだけ身体拘束をしないという観点で考えたときに,中間的な処分というのがないということで,勾留の方に流れるようになるということは考えられることですし,諸外国でもできるだけ身体拘束をしないという観点に立って中間的な処分があるわけですから,そういう観点で,中間的処分を設けていただきたいと思います。   それで,中間的処分と取調べの関係ですけれども,先ほど申し上げましたように,取調べと身体拘束,要するに身体拘束を利用した取調べというのが弊害を生んでいるということは事実ですので,むしろ,それをどうやって回避しようかという議論をしているときに,取調べありきの議論というのは反対方向の議論だと思います。実際に中間処分に付される人は,取調べに応じる人かもしれませんが,先ほど村木委員が言われたように,毎日毎日,呼び出されて取調べということではなく,常識的な範囲で取調べに応じますという事実上の約束をして,取調べに応じるような人が中間的な処分に付されるということになるのだろうとは思いますけれども,それが義務化されるというのは,また,全然違う問題だと思っております。 ○岩井委員 一度勾留の必要性が認められると,保釈の請求をしないと出られない,勾留から逃れられない仕組みですので,勾留の必要性がそう認められなくなったという人も,保釈の請求ができなくて出られないという人もいるのではないかと思うのです。それと,勾留の必要性をきちんと裁判官の方は考えているとおっしゃるのですけれども,余り必要がなくなった人たちが勾留されているのが現状なのではないかと思うのです。ですから,出頭義務というものをきちんと規定して,勾留の必要のない人というのは,中間的な処分で済ませるという,そういう中間的な処分を設けた方が良いのではないかと私は思っております。 ○後藤委員 私も第1作業分科会のメンバーですけれども,制度の必要性についての意見ですので,申し上げてもよいかと思います。元々,この案は,現在,勾留されている人の中で,逃亡とか罪証隠滅の可能性がないとは言えないけれども,本当は勾留まではしなくてもそれがほぼ防げる人たちがある程度の割合でいるのではないか,それをこちらの手段に回す方が合理的だという考え方から提案されているものです。   議論の経過をみると特に裁判官の方たちは,現状ではそういう人たちは勾留の必要性がないとされてほとんど勾留されていないという現状認識でいらっしゃるようです。そこが現状についての認識が一致しない部分だと思います。けれども,私はこれが弁護士会側から提案されているという議論の構造を見ないといけないと思います。つまり,もし現状で逃亡とか罪証隠滅の可能性はあるけれども,勾留までは相当ではない,必要がないということで勾留請求却下になっている人たちがたくさんいるとすれば,むしろ,検察官の側から,勾留が駄目だというのなら,それに代わる措置を作ってほしいという要求が出てきてもおかしくはないはずです。でも,現実には弁護士会の側からこれが提案され,要求されているという,議論の構図を見る必要があると思います。 ○本田部会長 ほかに何か御意見はございませんか。   それでは,「被疑者・被告人の身柄拘束の在り方」についての議論は,ここまでとさせていただきたいと思います。   引き続きましての議論は,次回に行うことといたし,今日はこれにて議事を終了したいと思います。   なお,本日の会議におきましても,特に公表に適さない内容にわたる発言などはなかったと思いますので,発言者名を明らかにした議事録を公表することとさせていただきたいと思います。よろしいですね。 (一同了承)   次回は,既に御案内しておりますとおり,11月13日,午後1時30分から午後5時までということで予定しております。場所は,本日と異なりまして,法務省第1会議室,法務省ゾーンの20階です。お間違えのないようにお願いをいたします。   それでは,長時間,皆さん,ありがとうございました。閉会といたします。 -了-