法制審議会 刑事法(裁判員制度関係)部会 第1回会議 議事録 第1 日 時  平成25年12月24日(火)  自 午後2時00分                         至 午後3時45分 第2 場 所  東京地方検察庁総務部会議室 第3 議 題 裁判員の参加する刑事裁判に関する法律の一部改正について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○東山幹事 お待たせいたしました。予定の時刻には若干早いようでございますけれども,ただいまから法制審議会刑事法(裁判員制度関係)部会の第1回会議を開催いたします。 ○稲田委員 法務省の刑事局長をしております稲田でございます。どうぞよろしくお願いいたします。   本日は御多忙の中,裁判員法改正についての御審議のためにお集まりいただきまして,誠にありがとうございます。   それでは,最初に私の方から,本日,部会が開催されるに至った経過などにつきまして御説明を申し上げます。   去る10月15日に,法務大臣から法制審議会に対しまして,裁判員の参加する刑事裁判に関する法律の一部改正に関する諮問第97号が発せられました。   同日開催されました法制審議会第170回会議におきましては,この諮問について,まず部会において審議する旨の決定がなされたところでございます。   そして,同会議におきましては,この諮問を審議するための部会として,刑事法(裁判員制度関係)部会を設けることが決定され,同部会を構成すべき委員,臨時委員及び幹事が法制審議会の一任を受けた会長から指名され,本日ここに御参集いただいたところでございます。   お集まりの委員や幹事の方々におかれましては,初対面の方も少なくないかと存じます。そこでまず,それぞれ簡単に自己紹介をしていただければと存じます。なお,本日は伊藤眞法制審議会会長にも御出席をいただいているところでございます。   それでは恐縮ではございますが,アイウエオ順ということで,井上委員のほうから順に御所属,氏名等の自己紹介をお願いします。 ○井上委員 早稲田大学の井上でございます。専門は刑事訴訟法でございます。よろしくお願いします。 ○今崎委員 最高裁判所刑事局の今崎でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○今田委員 労働関係の調査を長年やっておりまして,今,フリーでおります今田と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○大澤委員 東京大学で刑事訴訟法を担当しております大澤でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○小木曽委員 中央大学の小木曽と申します。刑事訴訟法が専門です。 ○木村委員 首都大学東京の木村と申します。刑法を専攻しております。よろしくお願いいたします。 ○岡本幹事 内閣法制局の岡本と申します。よろしくお願いいたします。 ○香川幹事 最高裁刑事局第二課長をしております,香川徹也と申します。よろしくお願いいたします。 ○佐藤幹事 東北大学の佐藤と申します。刑事訴訟法を専攻しております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○露木幹事 警察庁の刑事企画課長の露木と申します。よろしくお願いいたします。 ○二瓶幹事 東京弁護士会所属,弁護士の二瓶と申します。よろしくお願いいたします。 ○合田委員 東京地裁刑事部の裁判官であります合田でございます。よろしくお願いいたします。 ○児玉委員 東京弁護士会の児玉晃一と申します。日弁連の刑事弁護センターの副委員長で,今年の3月まで東京弁護士会の刑事弁護委員会の委員長をしていました。よろしくお願いします。 ○髙綱委員 警察庁刑事局長の髙綱と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○前田委員 日弁連の裁判員本部副本部長をやっております東京弁護士会所属の弁護士の前田裕司でございます。よろしくお願いします。 ○山根委員 最高検察庁公判部副部長をしております山根と申します。どうぞよろしくお願いします。 ○和氣委員 公益社団法人被害者支援センターとちぎの和氣でございます。全国被害者ネットワークの理事もさせていただいておりまして,13年前に飲酒・居眠り運転トラックの正面衝突によって娘を亡くした遺族でもございます。よろしくお願いいたします。 ○岩尾委員 法務省の官房審議官の岩尾でございます。よろしくお願いいたします。 ○上冨幹事 刑事局刑事法制管理官の上冨と申します。よろしくお願いいたします。 ○東山幹事 刑事局参事官の東山と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○稲田委員 それではこれから議事に入らせていただくわけでございますが,まずは部会長の御選任をお願いしたいと思います。   法制審議会令第6条第3項によりまして,部会長は部会に属する委員及び臨時委員の互選に基づきまして会長が指名することとされているところでございます。そこで,正式には仮の議長を選出すべきかとは存じますが,委員及び臨時委員の皆様にお諮りをしたいところでありまして,特に御異論がございませんでしたら,事務当局である私の方で当面の議事進行に当たらせていただきたいと考えておりますがいかがでしょうか。よろしゅうございますか。           (「異議なし」の声あり) ○稲田委員 それでは,当面の議事進行ということで私の方で務めさせていただきますので,御協力のほどをよろしくお願いいたします。   それでは,最初に申し上げましたように,早速,当部会の部会長を互選することといたしたいと存じますが,御質問等ございますでしょうか。   よろしいですか。それでは御質問等ないようですので,皆様方の御意見を頂戴したいと存じます。どなたからでも結構でございますが御発言をお願いいたします。 ○小木曽委員 法制審議会の委員でもいらっしゃいますし,御経歴,業績から考えますと,井上正仁委員が適任ではないかと考えます。 ○稲田委員 ただいま,小木曽委員から井上委員を部会長に推薦する旨の御提案がございましたが,この御提案に対しまして御意見ございますでしょうか。   よろしいでしょうか。よろしければ,特に御異論もないようでございますので,部会長には井上正仁委員が互選されたということでよろしいでしょうか。           (「異議なし」の声あり) ○稲田委員 それでは,ただいまの議事のとおり,部会長には井上委員が互選されましたので,伊藤法制審議会会長に部会長の御指名をお願い申し上げます。 ○伊藤会長 部会長につきましては,互選に基づいて,会長が指名することになっておりますので,ただいま互選されました井上正仁委員を部会長に指名したいと存じます。   井上部会長,どうぞよろしくお願いいたします。           (井上委員 部会長席に移動) ○井上部会長 ただいま部会長に指名されました井上でございます。非力ではございますけれども,皆様の御協力を得まして,円滑に充実した審議を進めてまいりたいと思いますので,どうぞよろしくお願いいたします。   伊藤会長はここで御退出されます。           (伊藤会長 退出) ○井上部会長 それでは,進めさせていただきます。   まず,法制審議会令第6条第5項によりまして,部会長に事故があるときにその職務を代行する方をあらかじめ部会長が指名しておくこととされておりますので,私の方で指名をさせていただきますが,小木曽委員にお願いしたいと存じます。   小木曽委員,よろしくお願いいたします。   次に,関係官の出席の件でございますけれども,法務省特別顧問をなさっておられる松尾浩也先生に,関係官として当部会に出席していただきたいと考えておりますが,御異議はございませんでしょうか。           (「異議なし」の声あり) ○井上部会長 よろしいでしょうか。それでは,松尾先生よろしくお願いいたします。   続きまして,当部会の議事録の取扱いについての御相談でございますけれども,法制審議会の部会における議事録の作成,公表方法等につきましては,平成23年6月6日の法制審議会第165回会議におきまして,発言者名を記載した議事録を作成して,原則としてこれを公表することとするとともに,一定の場合には発言者名等を明らかにしないことができるとされております。その詳細につきまして,事務局の方から御説明をお願いします。 ○東山幹事 法制審議会の総会における議事録の取扱い等に関する審議,決定の状況について御説明を申し上げます。   平成23年4月1日に公文書管理法が施行されたことに伴い,内閣総理大臣決定として,「行政文書の管理に関するガイドライン」が定められ,審議会の議事録については,発言者名を記載した議事録を作成する必要があるものとされました。その趣旨からいたしますと,今後は法制審議会総会及び部会のいずれにつきましても,発言者名を記載した議事録を作成すべきこととなります。その上で,平成23年6月6日に開催されました法制審議会第165回会議におきまして,議事録の公開方法について改めて審議がなされました結果,その公開方法については次のとおりとすることが決定されました。   すなわち,まず,総会につきましては発言者名を明らかにした議事録を公開することを原則とする一方,法制審議会の会長において,委員の意見を聴いて審議事項の内容,部会の検討状況や報告内容のほか,発言者等の権利利益を保護するため,当該氏名を公にしないことの必要性,率直な意見の交換又は意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれの有無等を考慮し,発言者名等を公開するのが相当でないと認められる場合には,これを明らかにしないことができることとされました。   また,部会につきましても,発言者名を明らかにした議事録を公開することを原則としつつ,それぞれの諮問に係る審議事項ごとに,総会での取扱いに準じて,発言者名等を公表するのが相当でないと認められる場合には,これを明らかにしないことができることとされました。   したがいまして,当部会におきましても,原則として発言者名を明らかにした議事録を作成するものの,部会長におかれて委員の御意見をお聴きし,ただいま申し上げたような諸要素を考慮した上で,発言者名等を公表するのが相当でないと認められる場合には,これを明らかにしないこととすることができることとなるわけでございます。 ○井上部会長 ただいまの御説明につきまして,何か御質問がございますでしょうか。   よろしいでしょうか。   ただいまの御説明を踏まえて考えますと,当部会におきます審議の内容を広く国民の皆さんにも知っていただくという点からも,発言者名を明らかにした議事録を公開するのが適切だと思われますので,私としましては,原則として発言者名を明らかにした議事録を作成し,法務省のホームページ上において公表するという取扱いにさせていただきたいと思いますが,いかがでしょうか。   もっとも,今の御説明の中にもありましたけれども,審議事項の内容その他の事項を考慮しまして,発言者名の氏名を公表するのは相当でない,適当ではないと考えられるような場合には,その都度皆様にお諮りして,部分的に公表しないという措置を採ることもあるという留保を付けた上でございますけれども,そういう取扱いでよろしいでしょうか。           (「異議なし」の声あり) ○井上部会長 ありがとうございます。   それでは,議事録につきましては,今申したとおりの扱いとさせていただきます。   次に,先の法制審議会総会におきまして,当部会で審議するように決定のありました,諮問第97号について審議を行いたいと存じます。   まず,諮問を朗読していただきます。 ○東山幹事 それでは朗読いたします。   諮問第97号。   裁判員の参加する刑事裁判に関する法律の施行の状況に鑑み,裁判員の参加する刑事裁判の制度が我が国の司法制度の基盤としての役割を十全に果たすことができるようにするため,早急に法整備を行う必要があると思われるので,別紙要綱(骨子)について御意見を承りたい。   別紙 要綱(骨子)。  第一 長期間の審判を要する事件等の対象事件からの除外。    一 地方裁判所は,裁判員の参加する刑事裁判に関する法律(以下「法」という。)第二条第一項各号に掲げる事件について,次の1又は2のいずれかに該当するときは,検察官,被告人若しくは弁護人の請求により又は職権で,これを裁判官の合議体で取り扱う決定をしなければならないものとすること。     1 公判前整理手続における当該事件の争点及び証拠の整理の経過又は結果により,審判に要すると見込まれる期間が著しく長期にわたること又は裁判員が出頭しなければならないと見込まれる公判期日若しくは公判準備が著しく多数に上ることから,法第二条第二項に規定する員数の裁判員及び必要な員数の補充裁判員を選任することが困難な状況にあるとき。     2 法第二条第一項の合議体を構成する裁判員の員数に不足が生じた場合において,審理の経過により,その後の審判に要すると見込まれる期間が著しく長期にわたること又はその期間中に裁判員が出頭しなければならないと見込まれる公判期日若しくは公判準備が著しく多数に上ることから,不足する員数の裁判員を選任すること又は新たに必要と認める員数の補充裁判員を選任することが困難であるとき。    二 一の決定又は一の請求を却下する決定は,合議体でしなければならないものとすること。ただし,当該法第二条第一項各号に掲げる事件の審判に関与している裁判官は,その決定に関与することはできないものとすること。    三 一の決定又は一の請求を却下する決定をするには,最高裁判所規則で定めるところにより,あらかじめ,検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴かなければならないものとすること。    四 一の決定又は一の請求を却下する決定をするには,あらかじめ,当該法第二条第一項各号に掲げる事件の係属する裁判所の裁判長の意見を聴かなければならないものとすること。    五 刑事訴訟法第四十三条第三項及び第四項並びに第四十四条第一項の規定は,一の決定及び一の請求を却下する決定について準用するものとすること。    六 一の決定又は一の請求を却下する決定に対しては,即時抗告をすることができるものとすること。この場合においては,即時抗告に関する刑事訴訟法の規定を準用するものとすること。   第二 重大な災害時における裁判員となることについての辞退事由の追加。      法第十六条第八号の裁判員の職務を行うこと又は裁判員候補者として法第二十七条第一項に規定する裁判員等選任手続の期日に出頭することが困難な者として,裁判員となることについて辞退の申立てをすることができる事由に,「重大な災害により生活基盤に著しい被害を受け,自らその再建のための措置を講ずる必要があること。」を加えるものとすること。   第三 非常災害時において呼び出すべき裁判員候補者等から除外する措置の追加。      裁判所は,法第二十七条第一項又は第九十七条第二項の規定にかかわらず,裁判員候補者又は選任予定裁判員を裁判員等選任手続の期日に呼び出すに当たり,著しく異常かつ激甚な非常災害により,交通が途絶し若しくは遮断され又は郵便物の取集,運送若しくは配達が極めて困難である地域に住所を有する者については,法第二十七条第一項又は第九十七条第二項の呼出しをしない措置を採ることができるものとすること。   第四 裁判員等選任手続における被害者を特定させることとなる事項の取扱い。    一 裁判官,検察官,被告人及び弁護人は,刑事訴訟法第二百九十条の二第一項又は第三項の決定があった事件の裁判員等選任手続においては,裁判員候補者に対し,正当な理由がなく,被害者の氏名,住所その他の被害者を特定させることとなる事項を明らかにしてはならないものとすること。    二 裁判員候補者又は裁判員候補者であった者は,一の事件の裁判員等選任手続において知った被害者の氏名,住所その他の被害者を特定させることとなる事項を公にしてはならないものとすること。 ○井上部会長 続きまして,ただいまの諮問事項につきまして,事務当局の方から説明していただきます。 ○稲田委員 それでは,私の方から諮問第97号につきまして,提案に至りました経緯について御説明を申し上げます。   法務省では,裁判員の参加する刑事裁判に関する法律附則第9条におきまして,「法律の施行後3年を経過した場合において,この法律の施行の状況について検討を加え,必要があると認めるときは,その結果に基づいて,所要の措置を講ずる」とされていることなどから,平成21年9月,法曹三者,刑事法研究者,その他の一般有識者の方々からなる,「裁判員制度に関する検討会」を設けまして,裁判員法の施行状況やそれを踏まえた措置の要否などについて,検討を加えてまいりました。   平成25年6月の第18回検討会におきまして,その検討結果が取りまとめられたところでございます。   同検討会では,法改正を要する事項といたしまして,公判審理の期間が極めて長期に及ぶ事案について,例外的に裁判官のみによる裁判を実施することができることとする制度を導入すべきであるとの意見,甚大な災害などによって,一定の候補者が辞退の申出をすれば,これが許可されることがおよそ明らかであるものの,その申出自体が著しく困難である場合に,裁判所が例外的にそのような候補者に呼出しをしないことを可能にする規定を設け,また,非常事態にあるがゆえに出頭が困難であるとの辞退事由を新しく設けるべきとの御意見,裁判員等選任手続における被害者等のプライバシー等の保護を通じて,その負担への配慮を図るために,裁判員等選任手続における被害者に対する配慮義務を定めるような規定を設けることが望ましいとの御意見が多数を占めたところでございます。   法務省では,この検討会での取りまとめ結果などを踏まえまして,裁判員制度が我が国の司法制度の基盤としての役割を十全に果たすことができるようにするために,所要の法整備を行う必要があると考え,今回の諮問に及んだものでございます。   今回の諮問に際しましては,事務当局において検討いたしました案を要綱(骨子)としてお示ししておりますので,この案を基に具体的な御議論をお願いいたします。その内容の詳細は幹事に説明をさせますが,十分御審議の上,できる限り速やかに御意見を賜りますようお願いを申し上げます。 ○東山幹事 引き続きまして,要綱(骨子)について,若干お時間を頂きまして御説明いたしたいと存じます。なお,先ほど朗読いたしました,要綱(骨子)につきましては,お手元に資料1としてお配りしておりますので,適宜御参照いただければと存じます。   初めに,要綱(骨子)第一の「長期間の審判を要する事件等の対象事件からの除外」についてであります。   裁判員制度の趣旨は,仕事や家庭を持つ一般の国民が幅広く裁判に参加することで,その感覚が裁判内容により反映され,司法に対する国民の理解が増進し,その信頼の向上が図られることにございます。その趣旨からいたしますと,現行の裁判員裁判対象事件については,できる限り裁判員の参加する合議体で取り扱われることが望ましいこととなるわけであります。   しかしながら,審判に要する期間が著しく長期にわたる事案などにおいては,裁判員の負担が過重となる事態が生じ得るわけでありますが,そのような事態はできる限り避けるべきであろうと思われます。   また,審判に要する期間が著しく長期にわたるなどした結果として,仕事や家庭を持つ一般の国民が幅広く裁判員となることが困難となれば,裁判員制度の趣旨にももとることとなります。   加えて,審判に要する期間が著しく長期にわたるような事案においては,裁判員候補者の辞退が相次ぐなどして,裁判員等の選任が困難な状況に陥るような場合などが生じ得ますが,そうなると迅速な裁判を受けるべき被告人の利益を不当に損なうことにもなりかねません。   そのような場合にまで,あえて裁判員の参加する合議体による審判を行おうとすることは,かえって裁判員制度の趣旨に反するとともに,刑事訴訟法の目的からしても問題が大きいと言えます。   そこで,審判に要する期間が著しく長期にわたるなどの場合には,裁判員の参加する合議体ではなく,裁判官のみの合議体で審判を行うことを可能とする規定を置くこととするものであります。   規定の中身についてですが,この要綱(骨子)第一のうち,漢数字で一とされている部分が,裁判員裁判対象事件から除外する実質的な要件を定めているものになります。そしてそのうち,アラビア数字の1とされている部分が,公判が開始される前に除外決定がなされる場面,2とされている部分が,公判が開始された後に除外決定がなされる場面になります。   どのような場合に除外決定を行うかについては,先ほど御説明いたしました,本規定を置こうとする趣旨に照らしまして,具体的には,例えば審判に要する期間が年単位に及ぶような場合や,審判に要する期間は年単位にまでは及ばないものの,公判期日が週に約5回の頻度で多数回続けられるような場合を想定しております。   次に第一の二についてですが,この規定は,除外決定又は除外請求を却下する決定については,対象事件を取り扱う合議体の構成に関わる重要な決定であるため,決定を行うに当たり,合議体による慎重な判断を必要とし,また,当該事件の審判に関与している裁判官が,裁判員の関与を回避したのではないかとの疑念が生じることを避けるため,その裁判官は決定に関与することができない旨を規定するものであります。   第一の三は,除外決定又は除外請求を却下する決定については,対象事件を審理する裁判所の構成につき例外的な取扱いをするかどうかを決定するものであることから,決定を行うに当たり,あらかじめ訴訟当事者の意見を聴取することを義務付けるものです。   第一の四は,要綱(骨子)第一では,対象事件からの除外決定は受訴裁判所とは別の合議体がこれを行うこととしておりますが,公判前整理手続における争点及び証拠の整理の状況や,公判審理の経過については,受訴裁判所の裁判長が最も詳しく把握していると考えられるため,除外決定又は請求を却下する決定を行うに当たり,受訴裁判所の裁判長の意見を聴取することを義務付けるものであります。   そして,第一の五及び六は,刑事訴訟法上の事実の取調べに関する規定などを準用することや,除外決定又は請求を却下する決定に対しては,即時抗告をすることができる旨などを規定するものであります。   以上,御説明いたしましたとおり,要綱(骨子)第一は審理が著しく長期又は多数回に及ぶ場合について,一定の要件の下で裁判員裁判対象事件から除外することができることとする規定でありますが,この規定が適用される場面について若干補足的に御説明させていただきます。   裁判員制度の趣旨に照らしますと,裁判員裁判対象事件については,できる限り裁判員の参加する合議体で取り扱われることが望ましいことと考えられることは,先ほど申し上げたとおりであります。   そのため,要綱(骨子)第一の規定の適用を考えるに当たっては,まずは,例えば,公判前整理手続で証拠を厳選したり,区分審理制度を活用するなどして,審理が長期又は多数回に及ぶことを可能な限り避けるべきであることが前提になると思われます。   しかしながら,事案や争点の内容によっては,公判前整理手続で可能な限り証拠を厳選したとしても,なお取調べが必要な証拠が膨大な数に上らざるを得ない場合があり得ますし,区分審理制度についても,裁判員法第71条第1項ただし書に該当し,区分審理決定ができない場合もあり得,審理が著しく長期又は多数回に及ぶことを避けられない場合もあり得るものと考えられます。   そして,例えば,組織的な集団による複数のテロ事案で,共犯者が多数関与し,しかも,各事件によってその関与者や関与の形態が異なり,被害者も多数に上るようなものでは,証人尋問や書証等の取調べに多大な時間を要し,審判期間が年単位に及び,公判期日の回数も数百回に及ぶような場合も想定されるところであります。   そして,このような事案については,これから述べるような事態が生じ得るものと考えているところでございます。すなわち,仮に当初必要な員数の裁判員や補充裁判員を選任できたとしても,長期の審理が進む中で,例えば裁判員の方が仕事や家庭の都合で辞任を申し立てられたり,病気のために公判期日を欠席されるなどして解任され,裁判員の員数が徐々に減っていき,補充裁判員を新たに裁判員に選任していったものの,ついには,裁判員が5名となり,補充裁判員が0名になってしまったような場合には,追加で裁判員を選任しなければなりませんので,その選任手続を行うこととなります。   この場合,まずは裁判員等選任手続に呼び出すべき裁判員候補者の選定を行った上,選定された裁判員候補者に対して呼出状の送付を行う必要がありますが,その送付は,原則,裁判員等選任手続の6週間前に行うこととされており,新たな裁判員等の選任には,相当な期間を要することとなります。   なお,当然のことですが,この追加選任が行われるまでの間は,公判は開かれないこととなります。   裁判員等選任手続が行われ,1名の裁判員と最大6名の補充裁判員が追加選任できれば,公判は再開されることとなりますが,この場合,新たに選任された裁判員や補充裁判員の方々は,これまで行われた審理を全く御覧になっていないということになります。したがいまして,公判手続の更新を行うこととなります。   その際,裁判員裁判では,公判の直接主義,口頭主義を徹底する観点から,従前のいわゆる裁判官裁判で行われていたような,比較的短時間で終了する更新手続ではなく,それまでに行われていた証人尋問については,録画されたDVDを視聴し,書証等の取調べについては基本的に全文朗読がなされるということになります。   その結果,更新手続には従前に行われていた審理の期間に応じ,相当長期間を要することとなると考えられます。   この場合,更新手続までに行われた公判期日が多ければ多いほど,その分,更新手続に要する期間も長くなるという関係にございます。   そして,この更新手続が終了すれば,また審理が進んで行くことになりますが,その間にも辞任の申立てなどによって裁判員が解任され,結局,再度,裁判員が5名,補充裁判員が0名となってしまうような事態も想定されるところであります。   このような場合には,再度,追加の選任手続に進むこととなりますが,これにも,先ほど御説明したのと同様に相当な期間を要することとなり,その間,公判は開かれないこととなりますし,新たに裁判員等が選任された場合には,再び長期間にわたって更新手続を行う必要があります。   この場合の更新手続に要する期間は,当然ながら1回目の更新手続に要した期間より長くなるということになります。   そして,その更新手続が終了した後,審理が再開されることとなりますが,その時点では既に審理期間は極めて長期間となっているものと考えられ,その後の審理を行ううちに更に裁判員が不足する事態が生じることは十分あり得まして,その場合,また更に長期間の更新手続等を経る必要がございます。   その結果,追加選任,更新手続の繰り返しとなり,結局判決までたどり着かないという事態も生じるものと考えられます。   要綱(骨子)第一の一の2はそのような事態を念頭に置いた規定となっております。   以上御説明したような事態が公判段階で生じるわけでございますが,公判開始前の段階でも問題は生じ得ると考えております。   審判期間が年単位に及ぶような事案につきましては,後ほど御説明いたします,鳥取地裁における強盗殺人等被告事件のデータ等に鑑みますと,1回の裁判員等選任手続では,十分な裁判員候補者の出頭を確保できず,必要な裁判員や補充裁判員を選任できないということも考えられます。   そのような場合には,裁判員候補者名簿に残数があれば,追加で裁判員候補者を呼び出すこととなりますし,名簿に残数がなければ名簿の補充を行う必要がありますが,いずれにしても相当程度の期間を要するものと考えられ,迅速な裁判の要請に反しかねないこととなり得ます。   また,裁判員等の選任のために期間を要し,裁判手続が進まずに長期化することによる影響,すなわち,例えば,被告人の身柄が拘束されていれば,その拘束期間が長くなることや,証人の記憶が減退していくことなども考慮する必要があると考えられます。   そして,名簿を補充するなどすれば,最終的には6名の裁判員と最大6名の補充裁判員を選任すること自体は何とか可能な場合もあると思われますが,名簿を補充しなければならないような事件の場合,先ほど御説明したように,公判開始後に裁判員の員数が6名に満たなくなり,追加選任と更新手続が繰り返され,終局判決まで結局たどり着かないような事態に陥ることが,公判開始前の段階であらかじめ予測可能な場合もあると考えられます。   そのような場合,実際に公判が開始されていなくても,裁判員裁判対象事件から除外する決定を行うことが相当な場合もあると考えられます。   要綱(骨子)第一の一の1につきましては,今まで御説明したような状況を念頭に置いているものであります。   以上,少し長くなりましたが要綱(骨子)第一について御説明させていただきました。   次に,要綱(骨子)第二の「重大な災害時における裁判員となることについての辞退事由の追加」について御説明申し上げます。   この度の東日本大震災の経験などに鑑みますと,重大な災害により生活基盤に著しい被害を受け,自らその再建のための措置を講ずる必要がある方々については,裁判員となることについて辞退が認められるのが相当であると考えられます。   しかし,現行法上は,辞退事由を規定した裁判員法第16条第8号を受けて規定された政令におきまして,「裁判員の職務を行い,又は裁判員候補者として法第27条第1項に規定する裁判員等選任手続の期日に出頭することにより,自己又は第三者に身体上,精神上又は経済上の重大な不利益が生ずると認めるに足りる相当の理由があること。」を辞退の申立てをすることができるやむを得ない事由として包括的に規定しておりますが,重大な災害によって被害を受けた場合を明確な辞退事由とした規定は存在してはおりません。   そこで,重大な災害により生活基盤に著しい被害を受け,自らその再建のための措置を講ずる必要がある裁判員候補者については,これが辞退事由に該当することを明確に法律で規定しようとするものでございます。   次に,要綱(骨子)第三の「非常災害時において呼び出すべき裁判員候補者等から除外する措置の追加」について御説明いたします。   現行法では,裁判員候補者又は選任予定裁判員については,裁判員等選任手続の期日に呼び出すことが原則とされておりますが,極めて重大な災害の被害を受け,交通が途絶するなどした地域に住所を有する裁判員候補者又は選任予定裁判員の方々については,裁判員の職務を行い又は裁判員等選任手続の期日に出頭することが困難であることが明らかであると言えます。   そして,仮にこれらの方々が辞退の申立てをした場合には,これが認められることも明らかではありますが,交通が途絶するなどした状況においては,そもそも辞退の申立てを行うこと自体が困難であるのが通常であると思われます。   そのような方々に対して,過料の制裁を伴う出頭の法的義務を生じさせる呼出しの措置を講ずることには問題があり,被災者に対して過度の負担を強いるものであって,相当ではありません。   そこで,著しく異常かつ激甚な非常災害によって交通が途絶するなどした地域に住所を有する裁判員候補者等に対しては,一律に呼出しをしない措置を講ずることができる規定を置くこととするものでございます。   なお,この要綱(骨子)第三の規定は,裁判員法上,呼び出すことが原則とされている裁判員候補者等につきまして,一定の地域に住所を有する方を一律に除外する措置でありますので,その対象となる災害は,特に例外的な甚大な災害に限定すべきものと考えられます。   そのため,要綱(骨子)第二とは異なり,その対象となる災害を「著しく異常かつ激甚な非常災害」と規定し,例えば,阪神・淡路大震災や東日本大震災が該当するような例外的な災害に限定しております。   最後に,要綱(骨子)第四の「裁判員等選任手続における被害者を特定させることとなる事項の取扱い」について御説明いたします。   現行法上,裁判員等選任手続においては,裁判員候補者が不適格事由に該当しないかなどの判断をするために,裁判員候補者に対して,被害者の氏名等を明らかにせざるを得ない場合があります。   しかしながら,そのような正当な理由がないのに,被害者の氏名等が裁判員候補者に明らかにされてしまうことは,被害者のプライバシー等の保護の観点からは可能な限り避けるべきです。   この点,刑事訴訟法に規定されております被害者特定事項の秘匿決定の効果は裁判員等選任手続には及ばないため,被害者特定事項の秘匿決定がなされるような被害者のプライバシー等の保護の要請が一般に高いといえる事件につきましても,現行法上,裁判員等選任手続に関しては,その保護を図るための法的根拠に欠ける状況にございます。   そこで,要綱(骨子)第四の一において,被害者特定事項の秘匿決定がなされた事件について,裁判官や検察官等は,裁判員候補者に対し,正当な理由がなく,被害者を特定させることとなる事項を明らかにしてはならない旨の規定を設けることとするものであります。   また,そのような規定を設けたとしても,正当な理由が認められるなどして,被害者の氏名等が裁判員候補者に伝えられる場合があり得ます。   しかし,裁判員又は補充裁判員に選任されなかった裁判員候補者については,現行法上,いわゆる守秘義務が課せられてはおりませんが,裁判員候補者又は裁判員候補者であった者が,裁判員等選任手続で知った被害者の氏名等を公にするなどということがあれば,当該被害者のプライバシー等の保護の関係から大きな問題が生じると言わざるを得ません。   そこで,そのような場合についても,被害者のプライバシー等の保護を十全なものにするため,要綱(骨子)第四の二において,裁判員候補者又は裁判員候補者であった者は,被害者特定事項の秘匿決定があった事件の裁判員等選任手続で知った被害者を特定させることとなる事項を公にしてはならない旨の規定を設けることとするものであります。   なお,要綱(骨子)第四では,今御説明したような趣旨で,新たな規定を設けようとするものでありますが,第四の一及び第四の二の両者共に,この規定に違反した場合について罰則は設けないこととしております。   要綱(骨子)の概要は以上でございます。 ○井上部会長 もう一つ,配布資料がございますが,これについても事務当局の方から簡単に説明していただきます。 ○東山幹事 それでは配布資料の御説明をさせていただきます。   御審議の参考にしていただくために,席上に事務当局から資料8点を御用意させていただきましたので,その内容等について御説明申し上げます。   まず,資料番号1は,先ほど朗読いたしました諮問第97号です。   資料番号2は,平成21年9月から本年6月まで,18回にわたり開催された「裁判員制度に関する検討会」において取りまとめられた報告書の概要をまとめたものです。   資料番号3は,諮問第97号に関連する裁判員法及び刑事訴訟法等の条文の抜粋です。   資料番号4は,裁判員裁判対象事件の起訴件数を地検別,罪名別に集計したものです。   資料番号5は,要綱(骨子)全体に関係がございます裁判員及び補充裁判員の選任手続について,その大まかな流れをまとめたものです。   資料番号6は,審理期間が比較的長期に及んだ裁判員裁判対象事件の概要を取りまとめたものです。   これまでの裁判員裁判対象事件で審理期間が最長となったものは,さいたま地裁における殺人等被告事件であり,裁判員の方々の職務従事期間は100日でした。   2番目に審理期間が長期となった事件は,鳥取地裁における強盗殺人等被告事件であり,裁判員の方々の職務従事期間は75日でした。   資料番号7は,ただいま御説明いたしました,さいたま地裁における殺人等被告事件と,鳥取地裁における強盗殺人等被告事件について,裁判員候補者名簿の被登録者数,選定された裁判員候補者数,辞退が認められた候補者数等を取りまとめたものです。   鳥取地裁の事件を例に挙げますと,この強盗殺人等被告事件の裁判員等選任手続が行われた平成24年度については,鳥取地裁の裁判員候補者名簿の被登録者数は1,500名でした。   そのうち,当該事件のために選定された裁判員候補者が700名いらっしゃいましたが,裁判員等選任手続に出席した裁判員候補者数は55名にとどまり,これは選定者数の約7.9%でした。   また,辞退が認められた裁判員候補者の総数が606名に上り,選定者数の約86.6%に上りました。   そして,最終的に裁判員等選任手続において裁判員及び補充裁判員の選任の対象となった裁判員候補者数は38名にとどまり,これは選定者数の約5.4%でした。   最後に資料番号8の御説明をさせていただきます。   この資料は,平成25年10月15日に開催され,諮問第97号について御審議いただきました法制審議会総会の議事録の抜粋です。   総会では,委員の皆様から,主に要綱(骨子)第一について様々な御発言がありました。   詳細については,お配りした資料を御参照いただきたいと思いますが,その概要を紹介させていただきます。   総会におきましては,要綱(骨子)第一の具体的な検討に先立って,除外対象となる事件の範囲をどのように考えるか,あるいはその除外対象事件に該当するか否かの判断基準は何かといった点について十分議論を行い,その上で明確な法文として書き表すとどうなるかという検討に進んでほしいという御意見,要綱(骨子)第一については,裁判員裁判対象事件から除外する規定であるため,その要件は厳格な書きぶりのものにする必要があるという御意見,「著しく長期」という要件が抽象的であり,その要件がどういった意味を持つのか議論が必要であるという御意見,裁判員裁判対象事件からの除外決定をする場合には,裁判員に意見を聴くなど,裁判員がその判断に関わるような形の方が望ましいのではないかという御意見,裁判員が1名から5名になってしまった場合にも,それらの方々が手続に参加する意思があれば,その裁判員は「国民アドバイザー」のような名称で審理に立ち会ったり,評議等において裁判官に対してコメントができるといったような制度を設けることも議論していただきたいという御意見などが委員の皆様から出されたところでございます。   本部会での御審議に当たっては,このような総会委員の皆様の御意見も踏まえ,議論を進めていただければと存じます。   以上,簡単ではございますが,配布資料の御説明をさせていただきました。 ○井上部会長 諮問事項に関する審議のこれからの進め方につきましては,後ほど皆様にお諮りして決めていきたいと思っておりますけれども,この段階で,ただいままでの事務当局の御説明に関しまして,質問等がございましたら,どなたからでも御発言をお願いしたいと思います。   御質問等はございませんでしょうか。   よろしいですか。   やや長い説明でお疲れだったと思いますので,リフレッシュの意味で,少し休憩を取った後に,また先に進めるということにさせていただきたいと思います。           (休     憩) ○井上部会長 皆さんおそろいのようですので,再開させていただきます。   それでは,諮問事項の中身の審議に入りたいと思います。   今回の諮問には要綱(骨子)の案が付されており,これを中心に検討するというのが本部会の使命とされているところでありますが,その審議の進め方についてお諮りしたいと思います。事務局の方で何かこの点についてお考えがございましたら,御披露してくださいますか。 ○岩尾委員 審議の進め方につきましては,もとより部会において決定される事柄であると承知しておりますが,事務当局の立場から一点お願いさせていただければ,まず最初に要綱(骨子)の案につきまして,どの部分からでも,あるいは全体についてでも構いませんが,委員皆様の問題意識を共有することができるような形で御質問,御意見,御感想等の概括的,包括的な御意見を頂けますと,その後の審議をより充実したものにできるのではないかと思っております。   議事の進行を御協議いただく際には,そのような点も御考慮いただけると幸いであると考えているところでございます。 ○井上部会長 私としましても,今後の進行をスムーズに行うために,ただいま御提案のあったように,まず全体について,御疑義があればそれを明らかにしていく,あるいは総論的な御意見があれば,それをまず御披露いただき,それをベースにして先に進むのが良いのではないかと思います。   よろしければ,最初に概括的,包括的な議論を行い,できるだけ皆様から,重要な論点がどこにあるのか,それらの点についてどういうふうに考えておられるのかということを含めまして,率直な御意見,御疑問などお聴かせいただけたらどうかと思いますけれども,そういう運びでよろしいでしょうか。           (「異議なし」の声あり) ○井上部会長 ありがとうございます。   それでは,この要綱(骨子)全般について,概括的,包括的な御審議をお願いしたいと思います。御質問でも御意見等でも結構ですので,どなたからでも御発言いただければと思います。 ○前田委員 委員の前田でございます。   先ほど,事務当局の説明にもございましたが,法務省に設置されました「裁判員制度に関する検討会」の委員をしておりましたので,その立場でお話をさせていただきたいと思います。   裁判員制度に関する検討会におきましては,今日,要綱(骨子)として出されている以外の論点につきましても議論を致しましたが,検討会の意見の大方がこの要綱案に出されている内容でまとまりましたので,それ以外の論点につきましては,個人的には意見はございますが,特には申し上げません。   この要綱について二つの意見を述べたいと思います。   一つは,長期間の審理を要する事件についての除外に関して,もう一つは第四の二の裁判員候補者に対する守秘義務の件でございます。   まず,第一の点ですが,この規定が設けられた趣旨につきましては,私自身も十分理解をしているつもりです。先ほどの東山幹事の御説明にありましたが,裁判員の参加される事件で審理を年単位で考えなければならないような事件につきましては,除外してもやむを得ないのではないかという意見を申し上げましたのは,ほかならぬ私でございまして,検討会でその趣旨のことを申し上げました。   ほかの委員の方々も,極限的という表現を使われた方もおられますし,極めて例外的というお話もございました。また今まで行われた裁判員裁判の事件については,先ほど御説明がありましたが,100日を要する事件とか,75日を要する事件ですとかがありましたが,これらを除外したほうがいいという意見が検討会では出なかったことも事実です。それらを踏まえて,事務当局の方々がいろいろ工夫をされて,この案を提出された。その御苦労は多といたしますが,規定を見ますとその議論の趣旨を踏まえた事件だけを除外するような規定になっていないのではないかという疑問がございます。確かに著しく長期ですとか,著しく多数という,そういう表現で,その趣旨が現れていると読めなくはないのですが,今まで我々が実際に行ってきた事件で相当長期にわたる事件をも,この規定ですと除外されかねない規定ぶりになっているわけでして,そこにつきまして何とか歯止めをかけることができないだろうかということが一つでございます。   またこの規定は,よくよく読みますと,結局検察官や被告人の援助者であります弁護人,裁判所,裁判官の判断で,国民にとっては少し長いので無理ではないかという判断をする構造になっています。   いずれにしても,法律を職業とする法曹三者の判断で,国民の皆様方にとっては難しかろうという判断をして一定の事件を排除する,こういう構造になっておりますので,その点についてなんとかもう一つ工夫がなされる必要があるのではないかと思っています。   もう一つは,選任手続における裁判員候補者の守秘義務の点です。選任手続における被害者特定事項の秘匿につきましては「裁判員制度に関する検討会」の中でも議論がありまして,裁判所から出ておられる委員の方も述べておられましたし,私も全く同じ考えでしたが,現在,選任手続における被害者の方の特定に関しましては,相当な配慮がなされていて,現実には氏名や住所等が明らかになるような運用がなされておりません。したがって,運用上の配慮が十分なされておりますので,特に法律で規定することまでの必要性もないのではないかとも思われるわけですが,逆にこれに強く反対する理由もございませんので,規定を置くこと自体私自身も反対はしませんでした。   第四の一につきましては,正にそういう議論を踏まえて規定がなされているわけですが,二につきましては,必ずしも検討会で議論が尽くされていたわけではありませんで,この要綱案を見たときにやや唐突な印象は拭えませんでした。新たに守秘義務を課すといいましても,罰則規定を設けるものではございませんので,その趣旨をより徹底するというのならば,この規定を置いてもいいのではないかというのは一理ありますし,これもまた特に強く反対する理由もないようにも思われるわけですが,議論の経過を踏まえますと,やや議論が不足している中での提案であったのではないかと思います。   そこで,ここまで設ける必要性,立法事実的なものについても更に検討する必要がありますし,もう一つ,この規定があることによって,どれほどの影響があるか全く予測に過ぎませんが,裁判員候補者に対する守秘義務が,罰則がないとはいえ,課されることになりますと,今まで,裁判員候補者の裁判所への出席率,これは相当高い率を誇ってきているわけで,最近やや下がったとはいえ,8割近い出席率が維持されているわけですが,それに影響をすることはないのかという心配もしているところでございます。以上の2点につきましては,十分に議論をする必要があるのではないかというのが私の概括的な意見でございます。 ○井上部会長 ありがとうございました。   ただいまの点でも結構ですし,別の点でも結構ですので,御意見があればお聴かせ願いたいと思います。 ○合田委員 東京地裁の合田です。   私も前田委員同様,検討会に参加をしておりまして,今,同じ点でもよろしいという話がありましたので,第一の点とそれから第四の二につきまして,若干だけ申し上げさせていただきたいと思います。   前田委員からも御指摘がございましたように,検討会の議論のときにこの第一の関係をどのように考えるかということについて私の方でも意見を申し上げました。   先ほど,職務従事予定期間が100日の件と75日の件の御紹介があったわけでありますが,そのときも裁判官の感覚から言いますと,この100日とか75日の事件は,これはそれだけの期間は要しましたけれども,結局のところ国民の御協力を得て順調に審理をすることができたということで,特に途中で支障を生じたということではなかったわけでございます。したがいまして,こういったような期間のものにつきましては,これは実際に実施できているわけでありますし,今後も恐らく実施できていくのだろうという具合に考えておりますので,このようなケースを除外するような規定を置く必要があるとは考えておりません。   そういう意味で,現在までの事件を見ますと,差し迫った立法措置の必要性があるという具合に認識をしているわけではございませんが,ただ,これから先,長い間制度を運用していくときに,やはり先ほど極限的というような言葉がございましたが,ごくごく例外的な場合においてそういった措置を採るほうが適切であるという場合も想定されますので,そういう場合のためにそういう規定を置いておくということ自体については,これはその必要性を否定しないと言いますか,それは分かる,こういうようなことを申し上げました。   ただ,そのときに併せて申し上げましたのは,そうなってまいりますと,そういったような極限的な場合に適用されるものであるという面におきまして,要件をどのように書くのか,それがうまく書き分けられるのかということです。   裁判所の方は,この規定ができますとその規定を実際に適用していく立場になるわけでございまして,そういう意味で,どのような場合にそのような除外が行われるべきなのかということが,解釈・運用を行う裁判所にとって明確である,それは適用を受ける関係当事者と,あるいは国民にとっても明確であるということになるわけでありますから,そこの部分が明確である必要があるという具合に考えておりますし,そのような立法をするのであれば,そのようなものになることを期待しているところでございます。   そういったことで見ますと,なかなかその要件を書くのが難しいということは,私も承知しておりまして,今回の要綱も大変いろいろ御苦労をされてこういう表現になっているということは想像できるわけでございますけれども,現在の要綱そのものを拝見いたしますと,これにつきましては,私なんかの感覚で言いますと,除外対象事件のイメージが明確で具体的に読み取れるかと言いますと,さらに検討する必要があるのではなかろうかと思います。   例えば,1のところでございますが,ここでは審理に要する期間が著しく長期にわたる,あるいは出頭しなければならない公判期日が著しく多数に上るということが挙がっているわけでございますが,他方におきまして,現行法上の運用としましても,事件の中身によっては選定数を増やすでありますとか,あるいは次の年にそれがあることが分かっていれば,調製する名簿の人数をどうするかといった手当てをしておくということが可能ですし,さらには法律上は名簿の追加調製ということも可能である,こういったような規定もございます。そういったものがあることを前提にした上で,こういった著しく長期にわたる,あるいは著しく多数回に上るということと,選任が困難な状況にあるということとの関係をどういう具合に見るかといった辺りについて,こちら側の希望からしますとより具体的にその辺の適用すべき事案かそうでないのかというところが分かるような格好の書き方ができないかなどを皆さんの御意見を伺いながら検討していって,より良いものができれば,そういう立法をしていくという方に進んで行くのではなかろうかという具合に思っております。   それから,第四の二の点でございますが,ここは前田委員がおっしゃったように,検討会の議論をそのままストレートに反映しているのは第四の一だという具合に承知をしているところでございます。   第四の二は,罰則はないけれども守秘義務を課すということになるわけでございまして,そういたしますと,先ほど前田委員から守秘義務を課す立法事実がどの程度あるのかという御指摘がありましたけれども,そういうようなこととの関係で,現在裁判員に課されている守秘義務とこの部分の関係,それからもう一つは,被害者特定事項の秘匿決定が行われた場合,法廷ではその特定事項は出てこないはずでありますが,これが何かの手違いあるいは関係者の理解が十分でないことによって,法廷で特定事項が出てしまった場合,法廷にいる傍聴人がそれを聴くわけでありますけれども,もちろん傍聴人には守秘義務というものはないわけでございます。   したがいまして,裁判員候補者,呼び出された候補者であって,傍聴人ではないけれども,しかし裁判員ではないという人について,果たしてその位置付けをどのように置くのかということが,それぞれの守秘義務があるなしと現行法上で定めているところと,整合がとれたものになるのかどうかという辺りは,立法をどうするかについては議論をする必要があるのではないか,このように思うところでございます。 ○井上部会長 ありがとうございました。   ほかの方はいかがでしょうか。 ○児玉委員 弁護士の児玉です。   私も第一の点につきまして,ちょっと意見と言いますか質問なのですが,従前の検討会の経緯を存じ上げないものですから,先ほどの御説明を伺っても生じ得るというところは,生じ得るんだろうなとは思うんですけれども,諮問の本文のところで早急に法整備をする必要までが若干感じられないものですから,そこが従前今まで出ている100日,75日についても今,合田委員の方から特に問題なく行われたという御説明がありました。データを拝見しますと,今日頂きました資料7の選任状況を見ると,少ない感じもしますけれども,最終的に34人,38人残っていれば,これは私も裁判員裁判を6件やりましたけれども,それに比べても全然変わらないか,むしろ多いぐらいの人数が残ってやられているなというふうな印象を受けます。ですので,どうしても反対するというわけではないんですけれども,早急に改正する必要性というところは,今一つ感じられないと考えております。 ○今田委員 私は労働に関する調査に従事してまいりまして,法律の専門家というわけではないんですけれども,今回の裁判員制度に関しては調査の観点から関心を持ち,関わりを持ってきて,そういう立場から意見を述べさせていただきます。   当初,裁判への国民参加ということで,いろいろ懸念されてうまくこの制度が運用できるのかというのが,たくさん,国民側からもいろいろ心配とか懸念とかあったんですけれど,いざ,実施してみた結果として,私どもの調査なんかで知ったことですけれども,国民参加が非常にスムーズにいって,いろいろ深刻な,シビアな問題も起こるというふうに考えられていたのが,意外と日本国民の努力と勤勉さの結果,安定した制度として運営されているというような状況になって,そういう意味で,非常によかったという,総括ということが現状では言えるのではないか。   この時点で,もう一度制度を国民にとって安心できる安定した制度として整備して構築しようという,そういう意図でこの諮問がなされ,関係者が議論をしているという,そういうことだろうと思うんですが,今までの現状というのは,そういう意味で安定したわけですけれど,少し参加の辞退とか状況などを見ていると,少し国民の参加のレベルも非常に僅かですけれども下がって,今後もこの制度が万々歳であるというふうには必ずしも読めない,それなりの国民参加へのいろんな試みというものをやっていかなければいけないのではないかなという,両方の面が垣間見られる現状だと思うんですね。   その時点での今回のテーマということになるのですが,この改正そのものが国民のこの制度に対する安心とか安全を確保するという,そういう基本哲学で,さらにそれは国民参加という,この制度そのものの基本哲学というのですか,それをもう一度再確認するべき,そういう改正なんだろうなというふうに理解しております。   そういう意味で検討会の結果,非常に厳選されたいろいろなテーマを総合的に検討されて,改革案としては非常に厳選された項目が最終提案として出され,事務局としての案も出されているのだろうと思います。そういう意味で,私のような素人から見ても,十分練られた案だろうと思うんですけれども,少し私も,今言いました前提から考えた場合に懸念があって,特に1に関してですけれども,除外するというルールに関して,国民参加であるこの制度という観点から,国民の納得できる除外規定というものが,是非必要なのではないか,非常にあり得ることとして,理路整然とこういうことがあり得るという,そういう御説明というのは,それなりに理解できるし納得がいくのですが,今言いましたように,国民参加というこの制度にとって,この例外規定を設けることというのを,もう少し参加という観点で性格を持たせるような形でできないものなのか,この案だと三者がこの除外規定を決定する,そこに国民の参加というのが見られないというのは,やはりこの制度としては,何らかの国民も参加した上での除外決定というような,そういうルールにできないものなのかというのが,私のような素人,よく言えば国民目線ということになるんですけれど,としての希望と言いますか懸念と言いますか,そういうものでこれから御出席の委員の先生方にもう少し専門家としての御議論があって,そういう観点から,私のような素人の議論というのは素人でしかない,やはり専門的な観点から言えば,制度としてはかくなるものというような,そういう着地点が見受けられるだろうということを期待して,この議論に参加したいと思っております。 ○井上部会長 私も検討会に出ておりましたので,少し補足させていただきますと,全体としては皆さんがおっしゃったとおりで,そのようなトーンで議論が進められたと思います。   第一の「早急に」という点につきましても,これは第二,第三についても同じで,すぐに何かまた,あれだけの大惨事が起こるかというと,そうは考えられないのですけれども,起こったとしたら,現行法のままでは困る事態が生じるので,それに備えて,今から手当てをしておくべきだという趣旨でして,裁判員法の3年後見直しに合わせて,そういう手当てを講じるというのが,「早急に」ということの意味だと思うのです。   そして,ここでいう「長期」というのも,これまであった事例がそれに当たる事態だという認識は,検討会でも,ほとんどの人は持っておられなかったと思うのですけれども,今後いつ,どのような事例が出てくるかもしれないわけで,出てきてしまって対処のしようがなくなるということも全く考えられなくはありませんので,そのような万一の場合に対処できるような制度的手当をしておく必要がある。そういう趣旨のものだろうと思います。   そのための具体的要件につきましては,一応提示された諮問事項の中に盛り込まれておりますが,それで問題があるとお考えの場合は,こういうふうに改めればいいのではないかという御提案を是非していただき,具体的に詰めた議論をしていければと考えています。検討会でも,私が座長として,そういうふうにお願いしたのですけれども,なかなかそこまで詰めきれませんでしたので,生産的な審議とするためには,具体的にこうすべきだという御意見を是非出していただきたいと思います。   ほかの方いかがでしょうか。 ○和氣委員 被害者の立場からお話しさせていただきたいのですが,被害者にとっては裁判は,人として人間としてやっと参加できるようになったものです。被害者遺族は正当で適正な判決を早く頂きたいと思っております。   しかし,この裁判員を選ぶために時間を要したり,その審理が進まなかったりすることによって,審理が長期化することは,被害者にとっては非常に負担です。ですから,長期になった場合には,このような制度があると非常に私たちは助かると思いますので,要綱(骨子)第一のような規定は必要だと思います。   それから,実際に私も裁判員になる可能性もある立場から言わせていただきたいのですけれども,さいたま地裁であった職務従事期間が100日というような長期にわたる事例もあって,仕事や家庭,そういうものに非常に影響し,負担になってまいりますので,今後もこの地裁の例を超えて,更に審理期間が長期になるような事件が起こらないとは限りません。是非裁判員の負担ということも考えていただきまして,要綱第一のような規定を作っていただくということを御検討お願いしたいと思います。   それから守秘義務の件なのですけれど,被害者,特に性被害とかDV被害の被害者は,自分の名前や住所,そういうものが知れるということに非常に神経質になっております。そういうことも是非考えていただきたいと思っております。 ○井上部会長 ありがとうございました。 ○大澤委員 今,御議論を伺っていて,これまでの裁判員制度の運用の中で,今回の改正を必要とするような事態があるのかどうかということについて,幾つか問題意識が表明されたのではないかと思います。   第一の点につきまして,いろいろと御意見がございましたけれども,裁判員制度というものを導入した下で,その対象となる重大事件については裁判員が参加する形でやるのが望ましい,できる限りそうすべきであるということについては,恐らくどなたも御異論のないところでありましょうし,それがうまくできないような極限的というのかどうかわかりませんが,そういう事態があるのかどうか,それとこの間の運用の中で,実際にできなかったケースはなかったんだけれども,そういう事態が生じ得るということが,何か予想できるというか読み取れるような,そういう事態があったのかどうかという辺りが一つ問題になってくるのかなと思いました。   これまでは,幸いにしてうまく裁判員が参加できる形で行われてきたわけでございますけれども,この種の第一のような場合については,実際に事態が生じてからだとなかなかうまくいかない,困った事態になってしまうということであろうかと思いますので,本当に極限的と申しますか,そういう場合に備えた安全装置とでもいうべきものをこの機会に定めておくべきかどうか,その必要というのは,先ほどの御説明を聞いていて,それなりにあるような気もしたわけでございます。   要綱(骨子)第一の一の1と第一の一の2と並べて見ていきますと,特に第一の一の1の部分で30人ぐらい残ればそれなりに選任もできるのではないかというような感じもしないでもございませんけれども,他方,第一の一の2の方で,裁判員6名プラス補充裁判員6名を選任してやっていったところ,何かその先に支障が生じて,再選任と更新が繰り返されるというふうに御説明があった点については,確かに考えてみると,そういう事態が起こるとどうしようもないサイクルに入ってしまうなという気も致したところでございます。   ただ,実際にそういう事態が生じ得るような具体的な例みたいなものがもう少しあると考えやすいのではないかということを思いましたのと,仮に条文化するとして,どんな文言になっていくのかということは,十分に考えていかなければならないと思った次第です。   あと,第四の点につきましては,今,被害者の立場で和氣委員からもお話しがありましたけれども,やはり被害者が安心して裁判に臨めるかどうかということが一つ問題であろうかと思います。これまでそういう被害者特定事項が漏れるような事態というのは,余りなかったんだという御指摘もございましたけれども,その問題ともう一つ別の次元の問題として,被害者の方が安心して参加できるだろうかということも考えておかなければいけない問題ではないかと思いました。 ○井上部会長 ほかの方いかがでしょうか。 ○今崎委員 改めて裁判所の立場についての説明を申し上げておきたいことがございます。   今回の要綱全てを通じまして,裁判所からすると今のところ実際にこういう問題が生じた,どうしても困るということで立法当局に制度の創設をお願いしたいと考えている事項は,現時点ではないようには思います。   この種の問題というのは,元々は先ほど申しましたような,現実に支障が生じた場合に,実務上の必要性からその制度が作られるというのが,本来の方法なのだろうと思いますが,今回はどちらかというと,こういうことがあるかもしれない,将来的に生じた場合に困るだろうということを立案当局の方でお考えいただいて御提案いただいているということで,大変有り難いことであると同時に,ある種思考実験で制度を作るという難しさがあるのかなという気はしております。   例えば今回,第一について申し上げますと,このような規定が必要になるだろうということは,裁判所の立場からも多分抽象論としては全く異論がないところだろうと思います。その意味で,こういう規定を設けることを御検討いただくというのは大変有り難いことであります。   ただ,裁判所がちょっと複雑な立場におりますのは,この裁判員裁判に付するかどうかということが仮に問題になった場合に,裁判所がこれは付さないという判断をするときには,本当は裁判員裁判をやりたくないからやらないのではないか,本当は回避したいのではないかという,いわば懐疑の目に常にさらされる立場にあるということであります。こちらは決してそんなつもりはないとしても,本当はそういうつもりがあるのではないかというふうに疑われるのではないかという思いは常にございます。そういう意味で,もし,規定を作っていただいても,できる限り裁判所はやはり裁判員裁判の形で,オーソドックスな方法でこれを運用していこうとするだろうと思います。そういうふうに運用していくだろうと思いますが,他方で規定がございますと,今度はそういう負担の大きい事件を担当することになる裁判員,あるいは裁判員候補者の方からは,何でこういう規定があるのに使わないのだというふうな声が出てくる可能性がございまして,裁判所としては,ある意味で板挟みになるということを心配するわけであります。   そして,そういう問題というのは,実は個々の事件処理の当否の問題を超えて,裁判員制度そのものに対する批判,あるいは不満というものにつながりかねない性質のものでございます。これは,ただいま今田委員が御指摘になったとおりだろうと思うわけであります。   ですから,これが裁判所の複雑な立場なわけでございまして,この機会にお願いしたいことは,実際にどういう場合に除外をするのかということについての実体を是非,御意見を頂戴して中身を固めていただきたい。その上でそれにふさわしい条文というものを作っていただくという,こういう順番で議論を進めていただけると大変有り難いと思っております。   部会長から先ほど,できる限り具体的な案を出すようにというお話がございました。私の方はそうしたいことは山々でございますけれども,申し訳ございませんが,今の時点でその実体要件としてこういう案がよろしいというような具体案を持ち合わせているわけではございませんけれども,そういう形で議論を進めていただくということを是非お願いしたいと思っております。   それからもう一つ,第四の二についても若干議論がございましたが,これも既に議論が出ているところではございますが,これまで裁判所は運用でやってまいりました。運用においてもできる限りその被害者の方の特定事項がまず分からないように,お示しするということのないような形でやっていて,どうしても必要な場合に限り,候補者の方に個別質問に来ていただいて,その個別質問の中でお名前を出すことがあるかもしれないというような,極めて慎重な運用をしてまいりまして,少なくとも現実には大きな支障は生じていないと考えております。これは言わばソフトなやり方で運用してきたわけでございます。   今回,新たに法制化するということになると,一面で確かに法制化されますのでやりやすくなるという面はございますが,他方でやはりそういう法律ができるということになると,裁判員あるいは裁判員候補者の方々がどういうふうに考えるかということは,やはりこの制度の運用を預かる裁判所としては考えざるを得ません。特段こちらの都合も聞かないで呼出状で呼んでおいて,終わったらあなたはもう要らないと言われて帰れと言われ,その際にここで聞いたことはしゃべったら駄目だと言われると,平たく言えばそういうふうな不満を持たれる可能性がないわけではないということになります。弊害というと強過ぎますけれども,そういった点も裁判所は心配をしているということは,議論の過程では御考慮をいただければと思います。 ○井上部会長 ありがとうございました。 ○小木曽委員 要綱(骨子)第一の点ですけれど,先ほどから議論が出ていますように,何かあったときのためであるということ,あってからでは逆に言うと遅いということがあるかもしれないということでありますし,資料に入っていますが,さいたまの事件と鳥取の事件の具体的な数字を示していただいておりますけれども,裁判員制度の理念というのは,裁判への国民の理解の促進ということであったと思いますけれども,実際にこの裁判員の候補者数,三十何名という人々が理想として様々な国民の各層と言いますか,職業であるとか年齢であるとかといった様々な人たちがその裁判員を構成するということが望ましい裁判員制度なのだろうと思います。それが公正な裁判というものだろうと思いますけれども,何かあって辞退者が増えたというときに裁判員になる人々が,アメリカではフェア・クロス・セクションなどということを言いますけれども,できるだけいろんな社会の階層の人たちを,階層というと語弊がありますが,職種・年齢の人たちがここに反映されるということが望ましいのだろうと思いますけれども,その裁判員の負担が増えるということで,裁判員になることのできる人たちが,その様々な人々が反映されないような構成になるということになると,その裁判員制度の理念というものが揺らぐことにもなりかねないという,正に極限的な事態がもしあった場合には,このような制度が必要であるかもしれないとは思います。   それから要綱(骨子)第四の点についても,やはり先ほど呼ばれて用がなくなったら帰れと言われるということで,それが国民の不満につながるかもしれないということでしたけれども,制度を維持する以上はそういうものなのだろうと思いますので,そこで知ったことを自由にと言いますか,気楽にしゃべられて,それによって害を受ける方が出る,被害者がそのような目に遭うのは避けるべきであるということからすると,このようなことを書いておくというのは,その考え方を示す意味で意義のあることではないかという気がいたします。 ○井上部会長 ほかの方いかがでしょうか。   2度目の御発言でも結構ですけれども。ほかに御意見ございませんでしょうか。   一通りの概括的な御議論はこれぐらいでよろしいでしょうか。更にこの先,具体的に突っ込んで御議論いただくことになると思いますので,本日の段階での概括的な審議は,これぐらいとさせていただいてよろしいでしょうか。           (「異議なし」の声あり) ○井上部会長 それでは次に,次回以降の審議の進め方について御協議をいただきたいと思います。これについて,まずは事務当局の方でお考えがあれば,お示しいただきたいと思います。 ○岩尾委員 次回以降の審議の進め方につきましても,もとより部会においてお決めいただく事柄ではございますが,今回の諮問につきましては,要綱(骨子)が示されておりますので,要綱(骨子)第一から第四でございますが,その順番に従って御審議していただくのが良いかと思っております。 ○井上部会長 そのような事務当局の方での一応のお考えですけれども,私としましても,それが自然な進め方かと思いますので,そういう順番で順次審議を進めていくということにさせていただいてよろしいでしょうか。           (「異議なし」の声あり) ○井上部会長 ありがとうございます。   それでは次回は,要綱第一から順次,御審議いただくことにしたいと思います。なお,繰り返しになりますが,諮問の趣旨からは,要綱(骨子)を中心に具体的に検討していただくということになるわけですけれども,本日の審議の中で何人かの方から御指摘がありましたように,特に第一につきまして,なお,どのような事態,どのような場合にこういう除外規定が発動される,適用されると想定されているのかについて,具体的なイメージが抱けないという方が多いように感じられました。   そこで,次回に,この第一について御審議いただく前提として,皆様により具体的なイメージを持って審議していただけるよう,事務当局の方で,主としてこういう事態が想定されているのだということについて,具体的に説明をしていただき,それを踏まえて審議を進めていきたいと思います。今崎委員が言われたように,具体的な要件を示せと言われても,想定されている事態について共通認識がなければ,こうすべきだと言うことは難しいところがある。ですから,その前提となる,想定される事態について,具体的に例示するなど,更に補足的な説明を事務当局の方からしていただき,その点について皆さんで御議論いただいて,こういう場合なら除外もやむを得ないだろう,否,それでは広過ぎるのではないか,ラフでも結構ですので,そういった意見を交わしていただく。そして,その辺についてある程度の共通認識を持った上で,具体的な要件をどうするのかについて議論する。そういう進め方をするのが適切かと思われますので,そのようにお願いしたいのですけれど,事務当局にお願いできますか。 ○東山幹事 御指摘を頂きましたので,資料を作成するなどして,次回の部会で具体的な説明をさせていただきたいと思います。 ○井上部会長 では,そのようにさせていただきたいと思います。   事務当局の方で次回以降の会議のスケジュール,その他の手配についてどのようになっているか,御説明いただけますか。 ○東山幹事 本日を含めまして,来年,平成26年の3月までに一応3回の会議が開けるように準備しているところでございます。第2回,次回は平成26年1月28日火曜日で既に調整させていただいておりまして,第3回は,来年,平成26年3月18日火曜日を一応の仮押さえとさせていただいているところです。第4回以降の日程についてでございますが,これは審議の進行に応じまして,後日追って調整させていただきたいと考えているところでございます。   なお,第2回会議の場所については,現在調整中ですので,決まり次第皆様に御連絡したいと思っております。時間につきましては,本日と同じ午後2時から午後4時頃までを予定しているところでございます。 ○井上部会長 それでは,ただいまお話がありましたように,次回は来年の1月28日,火曜日午後2時から,おおむね2時間程度ということで御予定いただければと思います。場所は,追って事務当局の方から御連絡させていただきます。   内容的には,まず要綱(骨子)第一の点について議論を進め,進行の状況によりますけれども,可能ならば,引き続き要綱(骨子)第二以降に関する事項についても議論できればというふうに思っております。   なお,本日の会議につきましては,特に公表に適さない内容のものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を作成し,公表するということとさせていただきたいと思います。   どうも,ありがとうございました。 -了-