法制審議会 新時代の刑事司法制度特別部会 第1作業分科会(第10回) 第1 日 時  平成26年1月22日(水)   自午前10時00分                         至午後 1時16分 第2 場 所  東京地方検察庁総務部会議室 第3 議 題  時代に即した新たな刑事司法制度の在り方について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○吉川幹事 それでは,ただいまから,法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会第1作業分科会の第10回会議を開催いたします。 ○井上分科会長 本日も御多用中のところお集まりいただき,ありがとうございます。  本日は,お手元の議事次第のとおり,配布資料の説明の後,「被疑者・被告人の身柄拘束の在り方」について補足的な御議論をいただき,その後,「取調べの録音・録画制度」及び「刑の減免制度,捜査・公判協力型協議・合意制度,刑事免責制度」について,順次議論を行うことといたします。  議事に入ります前に,当分科会の構成員の変更と本日の出席者について御説明をさせていただきます。法務省における人事異動に伴いまして,岩尾信行さんが特別部会の幹事を退任され,新たに加藤俊治さんが幹事に任命されました。それにより,各作業分科会の構成員は,これまで第2作業分科会の構成員であった上冨幹事が当分科会の構成員に,加藤幹事が第2作業分科会の構成員となることとなりました。  また,本日の議論におきましては,あらかじめお申出がありましたので,「被疑者・被告人の身柄拘束の在り方」については,小坂井幹事に代わりまして青木委員に,露木幹事に代わりまして坂口幹事に,それぞれ御出席いただくこととします。  それでは,まず,本日の配布資料について事務当局から説明してもらいます。 ○吉川幹事 御説明いたします。   お手元の配布資料13-1から13-3は,本日議論が予定されている検討事項のうち,「刑の減免制度,捜査・公判協力型協議・合意制度,刑事免責制度」について,考えられる制度の概要と検討課題を整理したものでございます。これは,本日の検討に資するよう,特別部会の第21回会議で配布された資料63の該当部分に,事務当局において加筆修正を行ったものでございます。この内容につきましては,各検討事項の議論に際してそれぞれ御説明いたします。   また,特別部会の資料63のうち,本日議論が予定されている「被疑者・被告人の身柄拘束の在り方」及び「取調べの録音・録画制度」に係る部分を抜粋したものを再配布しております。  さらに,参考資料として,青木委員から提出のあった「被疑者・被告人の身柄拘束の在り方」に関する資料及び後藤委員から提出のあった「取調べの録音・録画制度」に関する資料を配布しておりますほか,当分科会の第2回会議において小坂井幹事から提出のあった「取調べの録音・録画制度」に関する資料及び各検討事項に関する参照条文を再配布しております。  資料の御説明は以上です。 ○井上分科会長 それでは,早速,議論に入りたいと思います。  本日の会議におきましても,前回と同様に,「たたき台」の策定に向けて,残された検討課題を中心として,ポイントを絞った議論を行いたいと思います。皆様には闊達な,また率直な御意見,御議論をお願いいたします。  「被疑者・被告人の身柄拘束の在り方」につきましては,前回会議において議論いたしたところでありますが,本日,青木委員から新たな御提案を記載した資料の提出がありましたので,まず始めに,若干の時間ではありますけれども,青木委員からの御提案を踏まえて,「被疑者・被告人の身柄拘束の在り方」について,補足的な議論を行いたいと思います。  まず,資料の内容等につきまして,青木委員から御説明をお願いします。 ○青木委員 これまで住居等制限命令ということで,「勾留と在宅の間の中間的な処分」について提案させていただいてきたのですけれども,この度は事務当局案とかみ合った形にするために,これまでの案は撤回しまして,「勾留と在宅の間の中間的な処分(事務当局案)に対する修正案」という形で提案したいと思います。  まず1項の関係ですけれども,逮捕された者が対象であるということを明記いたしました。  それから,中間処分に付された被疑者が起訴された場合にも,罪証隠滅又は逃亡を防止するために中間処分を維持するということはあり得ることですので,中間処分の対象は起訴前の被疑者に限定せず,起訴後の被告人も対象とすべきと考えますので,被告人も付け加えました。もちろん,被告人に中間処分が付されるのは,主にこのような場合が想定されるのですけれども,例えば勾留が取り消された被告人を中間処分に付すということなども否定する必要はないと思いますので,被告人の中間処分というのは,被疑者段階で中間処分に付された者に限るという趣旨ではありません。そうなりますと,起訴後に関しては保釈と併存するということになりますけれども,保釈は勾留されている者について保釈保証金で出頭を確保する制度で,中間処分は別の担保措置,こちらの提案として,具体的には罰則を考えていますけれども,それによって罪証隠滅・逃亡を防止する制度ということで位置付けることができるのではないかと思います。  次に,事務当局案では,制度概要1の「ア」から「オ」まで,除外事由が設けられています。この点については前回の分科会でも申し上げましたけれども,このような除外事由を設ける必要はないと思います。いずれも,一律に除外しなくても,実際にはこのような除外事由に書かれているような場合には,相当性を欠くということで,中間処分が選択されないということにはなるのかと思いますけれども,例えば法定刑が重くても関与の程度が低いような場合もあるでしょうし,そのような場合に勾留請求を却下されるということもあるわけですから,中間処分という選択肢を一律に排除するというのはかえって不合理だと思います。加害のおそれの程度が大きい場合も,当然,相当性を欠くので,中間処分が選択されないということになるとは思いますけれども,そういうおそれが全くないとは言えないような場合でも,その程度が小さい場合に,一定の遵守事項を定めて監督を受けさせるということができた場合にも,一律に中間処分を否定するということは,適切ではないと思います。  それから,氏名・住居が分からない場合のほとんどは,相当性を欠くということで,中間処分は選択されないということになると思いますけれども,これも例外的かもしれませんが,例えば身動きがとれない被疑者・被告人について,本名は分からないけれども,弁護人が手配した医療機関に収容するということを前提に中間処分に付することも全くないとは言えないと思いますので,いずれの場合であっても,勾留請求を裁判官は却下することができるということとの関係で,一律に除外事由とすることについては,不適切だと考えています。  それから,2項の関係ですけれども,事務当局案では,中間処分の請求があった場合に裁判官が中間処分に付することができるとなっていますけれども,検察官から勾留の請求があった場合でも中間処分に付することができるということを提案いたします。勾留請求というのは,罪証隠滅・逃亡の防止を目的として行われるもので,同様の目的で被疑者の自由の制限の程度がより小さいものとして中間処分が想定されると理解できますので,できるだけ身体の拘束を避けるという観点から,勾留請求があった場合でも,裁判官が中間処分で罪証隠滅・逃亡の防止をすることができると判断したときには,中間処分を選択できるようにするべきだと考えます。  それから,3項の関係ですが,まず(1)について,遵守事項として,取調べのための出頭義務を課すということは,適切ではないと思います。身体を拘束されていないという前提ですので,その場合に取調べ受忍義務を課すということは,この部会に与えられた取調べへの依存の見直しという観点に照らしても適切でないと考えます。ただし,被疑者が正当な理由なく出頭の求めに応じないということが度重なったような場合に,罪証隠滅又は逃亡するおそれが大きくなって中間処分が相当でなくなるということは考えられることから,後で述べますように,このことを4項において明記いたしました。実際上は,中間処分に付された被疑者の大部分は勾留されるという重大な不利益を避けるために,取調べへの出頭には応じるということになると予測されます。  それから,3項の(3)について,出頭する官公署の中に捜査機関が例示されていますが,捜査機関を例示するのは不適切であると思いますので,例示は不要であると考えます。  それから,3項の(4)について,「中間処分の期間は,2か月」というところはそのとおりでよいと思いますけれども,「特に継続の必要がある場合においては,具体的にその理由を附した決定で,1か月ごとにこれを更新することができるものとする」ことを提案しております。起訴後についても中間処分を認めるということがその理由の一つですけれども,起訴後に限る趣旨ではありません。更新の決定に対して,もちろん被疑者は争うことができますし,後に述べるとおり,中間処分の取消しというのも制度として導入するという前提であって,無限定に期間の更新を認めるという趣旨ではありませんけれども,起訴・不起訴の判断ができるまでに相当の期間が掛かる事件もあり得るということから,裁判官が中間処分の期間を延長することに理由があって,特に継続の必要があると認めるのであれば,更新できるということでよいと考えています。  それから,4項の関係ですけれども,事務当局案では,被疑者が遵守事項に違反したと検察官等が認めた場合に,被疑者を引致することができるとされています。これ自体は良いのですけれども,引致も身体の自由を拘束するものですから,司法審査を受ける形にする方が好ましいと思いますので,原則として裁判官の発する引致状によるものとすべきであると考えます。ただし,急速を要する場合については,引致した上で裁判官に引致状を求める手続をすることにすれば良いのではないかと思います。それで不都合はないと考えています。  この後の部分について,5・6項を付け加えております。5項については,先ほど期間のところでも触れましたけれども,そのようにするということもあり,それから中間処分も,自由を制限するというものであることから,勾留取消しと同様の規定を設けるべきだと考えます。それから,6項は,中間処分の実効性を確保するために罰則を設けることを提案するものです。  次に,「身体拘束に関する適正な運用を担保するための指針となるべき規定」の修正案について説明します。まず「1」の方です。こちらについては,特別部会の資料63では,A案,B案という形で書かれておりましたけれども,事務当局案であるB案をベースにして,その修正という形で提案しております。事務当局案では,何々しないこと「のみ」を理由としてとなっているのですけれども,罪証隠滅や逃亡すると疑うに足りる相当な理由というのは,何か一つ,唯一のことを理由として認定されるようなものではないと思いますので,「のみ」というのは適切ではないと思います。一方で,否認・黙秘する被疑者・被告人について,例えば検察官が自白に向けた圧力を加える,あるいは実質的な懲罰を加えるという目的で勾留期間の延長を請求したり,あるいは保釈許可を不相当とする意見を述べたりするなど,否認・黙秘を理由として,不当に不利益な取扱いをすることは許されないと思いますので,そのことを注意的に規定することを提案するものです。以前にこちらで出した案では,一切,否認・黙秘を不利益に考慮してはならないというものでしたけれども,それは政策的にそこまですべきだといった思いは今でもありますけれども,被疑事実を認めているということが有利に判断されることまでを禁ずる趣旨ではないということとの関係が分かりにくいという趣旨の御意見や,否認・黙秘を一切不利益に考慮してはならないというのは行き過ぎではないかという御意見を踏まえて,「不当に不利益な取扱いをすることとならないよう留意しなければならない」という形の新規定として提案しております。当たり前のことだとは思いますけれども,実際に不当に不利益な取扱いが見られるという認識を弁護の現場では持っておりまして,村木委員の事件などもその一例であると考えています。  それから,「2」の方は,前回の特別部会での御議論で,資料63のA案に書かれている事情だけを実際の現場で考慮しているわけではないという趣旨の御意見がありましたので,それを踏まえまして,「その他の事情」を入れました。例えば,被疑者の家族や勤務先が受ける不利益などが,その他の事情に入ると考えられます。この要件についても,これも当然だと言われるかもしれませんが,条文に明記されていないということから,この機会に明文規定を設けることが適切であると考えております。 ○井上分科会長 どうもありがとうございました。  ただいまの青木委員の御発言をも踏まえまして,御意見等のある方は御発言をお願いいたします。 ○後藤委員 今日の青木委員の御提案は,基本的に私も考えていたような方向で具体化していただいていると思うので,ありがたく存じます。ただ,1点気になったのは,更新のところです。起訴前でも,理論上,無制限に更新ができるような作りになっているのは,恐らく捜査官にとっても使いやすいものにするという御配慮だと思います。けれども,さすがに無制限というのは問題があるのではないか。中間処分も権利制約であることは間違いないので,何らかの上限があるべきではないかと思います。 ○上冨幹事 「勾留と在宅の間の中間的な処分」の制度概要案に対する修正を工夫していただいた部分について,何点か申し上げます。  まず「1」の除外事由を削除された部分ですけれども,実態として,除外事由に該当するような場合には除外事由を設けていなくても普通は中間処分にならないのではないかという御説明もあったところではありますが,先ほど例として挙げられた住居・氏名が不明である場合まで中間処分にできるのかというところはやはり違和感があります。被疑者が入院していて身動きもできない場合という青木委員が挙げられた特殊な場合というのは,そもそも罪証隠滅も逃亡のおそれもない場合だと思うのです。そういう場合ぐらいしか考えられないような制度というのは必要性が認められないのではないかという感じがします。  それから,青木委員が言及された加害行為のおそれとの関係ですけれども,この修正案を拝見しても,実際に加害行為をしようとしたり,そういうことをしたときには,引致理由になるとなっているわけです。そうすると,そのおそれが事前に予測できるときには,みすみすそのおそれがあることが分かっていても中間処分にしておいて,実際にそういうことが起きたところで引致するという仕組みをあえて作るということになると思うのですが,一つの制度の中でそのような仕組みにする必要があるのかという感じがいたします。  それから,遵守事項の関係で,取調べのための出頭義務を削除した上で,引致理由の例示として挙げられた点ですけれども,先ほどの御説明によれば,結局は,取調べのための出頭の求めに応じないことを,罪証隠滅・逃亡のおそれを基礎付ける事情の一つとして考えて,正当な理由のない不出頭が繰り返されるような場合であれば,それが高まることもあるという一つの例示だという御説明だったと思います。もちろんそういう場合はあるのかもしれませんが,元々この中間処分という制度の中で考えられていた捜査と身柄拘束を避けるということのバランスという意味では,なお従前から指摘されていたような問題が残るという感じがします。  それから,引致について,あらかじめ裁判官の引致状が必要だという制度にした上で,急速を要する場合にはそれを要しないという仕組みにするという御説明がありました。書いてあるこの修正案だけを見ると,そういう制度が一つあり得るかと見えなくもないわけですけれども,実態として,元々罪証隠滅・逃亡のおそれがあることを前提に中間処分にしておいて,そういう具体的なことが生じている場合に,急速を要しない場合があるのかというと,多分現実にはほとんど急速を要するということになってしまうような気がするのです。ゆっくり罪証隠滅をする人というのは余りいないわけです。そうすると,こういう形の制度を一応作っても,実態は原則と例外が逆転しているわけですから,いささか言い過ぎかもしれませんが,形を整えただけという感じになっていて,実態としては配布資料の制度概要において想定されている状況と余り変わらないとすれば,実際の運用を踏まえた制度にする方が,本当は制度の在り方としては素直なのではないかという感じがします。  とりあえず主な点だけで申し上げました。 ○髙橋幹事 まず一つ目ですが,「1」の除外事由の「ア」から「オ」に関してですが,「ア」から「ウ」までは勾留請求が却下されるような場合も実際上あるかと思いますけれども,実務上,「エ」とか「オ」のような事情がある場合に勾留請求が却下というのはなかなか考えられないので,ここはちょっと切り分けて考えた方が良いのかなと思います。  二つ目は,青木委員の出されたペーパーの2ページ目の(3)「ウ」の「裁判官又は裁判所が指定する検察庁,警察署その他の官公署に出頭すること」となっているところで,「検察庁,警察署」を削除するのが相当だという御意見でしたが,では一体どこに出頭せよと裁判官又は裁判所が指定するのかというところがちょっとイメージが分からないので,ここは質問です。  三つ目が,引致の関係なのですが,これは事務当局の方にもちょっと聞きたいところでもあるのですが,元々念頭に置いているのは,中間処分の許可状が出されたときに,その条件に反したときは引致できるといった文言とかも設けられるのかどうか。仮にそういうものを設けて,その上で裁判官が許可状を出しているのであれば,それと今回青木委員が提案されたものとでどこが大きく違ってくるのかという点をちょっとお伺いしたいと思います。  それから,3ページの「6」(1)の罰則ですが,遵守事項に違反したときについて20万円以下の罰金という形で提案されておりますが,20万円という形で設定した根拠というのですか,この遵守事項違反をどう評価して20万円というものを設定したのかというをお聞きしたいと思います。  それから,最後になりますが,指針となるべき規定の修正案についての1番の方ですが,「不当に不利益な取扱いをすることとならないよう留意しなければならない」となっていますが,まず「不当に不利益な取扱い」というのがちょっとイメージが湧かないというのが一つ。それから,こういう規定を設ける以上,立法事実というのですか,先ほど青木委員の御発言の中で,今まで不当に不利益な取扱いがされていたように聞こえるような御発言があったのですが,我々裁判所としてはそのようなことをしてきたようなつもりは全くございませんので,何がこの「不当に不利益」で,かつ,そういうことがあるのでこういうものを作らなければいけないのだというところをもうちょっと明確に御説明できるのであれば,していただきたいと思います。 ○井上分科会長 御質問の部分と御意見あるいはひそかな反論の部分があったと思うのですが,ただ今の髙橋幹事の御発言に対し,補足説明や御意見がありましたらお願いします。 ○上冨幹事 罰則の関係なので,1点だけ併せて御質問させていただきます。罰則の「6」の(2)で,「遵守事項に違反して,自己の刑事事件に関する証拠を隠滅し,偽造し,若しくは変造し,又は逃亡したときは」という罰則があるのですけれども,証拠隠滅・逃亡とは必ずしも連係しない遵守事項も多分あると思いますが,この罪の構造といいますか,この遵守事項違反と証拠隠滅との関係をどう整理して作られた罪なのかも併せて教えていただければと思います。 ○青木委員 御質問に対する答えと若干補足をさせていただきます。  まず罰則の関係ですが,20万円以下についても,絶対的な根拠があるかと言われれば,そういうことではありませんけれども,基本的に,これは遵守事項という形で裁判官又は裁判所に定められた命令に違反したというものに対する制裁ということで,この程度が適切かなと考えたものです。  それから,除外事由に関しては,確かに髙橋幹事が言われるのももっともな気はするのですが,一方で,これは権利保釈の除外事由と同じですけれども,保釈の場合には裁量保釈があるわけです。ですから,一律に全て駄目という形ではない形をとりたいというのが趣旨ですので,そういう形でうまく入れられるのであれば,それはあり得るかと思います。  それから,引致の関係で,原則例外がどうだといった話がありました。確かに実際には急速を要する場合の方が多いのかもしれませんが,これも形としてはきちんと司法審査を受けるのが原則であるというのは,例えば逮捕などでも同じですから,それと同じような形にしておくのが好ましいという趣旨です。 ○吉川幹事 先ほど髙橋幹事から,引致の関係で,中間処分の許可状にはどのような記載がなされることが想定されるのかというご質問がございましたが,仮に中間処分に許可状というものがあると想定いたしますと,そこに「遵守事項に違反した場合には引致することができる」といった記載をあらかじめしておいて,それに基づいて,遵守事項違反があった場合に,別途引致のための裁判官による審査を経ることなく引致することができる,という形になることが考えられるところでございます。 ○井上分科会長 青木委員の御提案に対して,私も疑問点があるのですけれども,引致については,裁判官の許可状によることを原則とし,急速を要する場合には,まず身柄を引致して,裁判官に追認してもらうこととされています。これは緊急逮捕の規定を参考にしているように思うのですが,ここでの引致と逮捕とは性質が違うのではないでしょうか。逮捕の場合は,逮捕後留置の期間があって,その期間の身柄拘束を正当化する必要があるのですけれども,ここでの引致というのは,中間処分を取り消すかどうか,勾留に付するかどうかの審査を受けさせるために引致するわけでしょう。そうだとすると,緊急引致状の発付の審査と,中間処分を取り消して勾留するかどうかの審査というのは,理屈の上では2段階あり得るとは思いますが,結局のところ同じことになってしまうのではないかと思います。特に,付け加えられた4項で「出頭の求めに応じないことその他の事情により,中間処分が相当でなくなったと認めるとき」を引致状を発付するための要件としていますが,裁判官がこれに当たると認めるならば,中間処分が相当でなく勾留に付するということになってしまうので,切り分けられることはできないように思うのです。また,この御提案は,中間処分に付された被疑者に出頭義務を課さないことを前提にした苦肉の策であるとは思うのですけれども,これで反対の意見を鎮静させることが本当にできるのでしょうか。  さらに,「身柄拘束に関する適正な運用を担保するための指針となるべき規定」に対する修正案についてですが,特別部会の資料63の「1」のB案に関して,「のみ」ではおかしいとおっしゃるのだけれども,「のみ」では「認めてはならない」ということなので,不当に不利益な扱いをしないとするより,原案の方が厳しいように思うのです。そこは,B案の趣旨をちょっと読み違っておられるのではないかという気がします。  それと,「2」についてですが,以前,議論になり,A案は,結局のところ勾留の要件を変更しているということに変わりないので,指針ではないのではないかという反論があったのですけれども,今回の修正案でも,その反論には答えていないということになりますね。勾留の判断に当たって考慮されている事情が書き尽くされていないとの反論には一応答えていることにはなると思いますが。  さらに付け加えますと,青木委員は,中間処分の「更新」という文言を使われましたが,起訴前の勾留との関係では,「期間の延長」ということにしないと平仄が合わないように思います。  ほかに御意見はありますか。 ○坂口幹事 いろいろ工夫を凝らされている点については敬意を表したいと思いますけれども,これまで私は何度にもわたって幾つかの問題点を指摘してきたつもりですが,それに対する解決策としては示されたことになっていないと思われますので,やはり依然として御提案には反対です。  特に取調べのための出頭義務に関する問題ですが,警察としては,もちろん取調べ受忍義務というものが確保されないと賛成はできないということが前提ですけれども,その問題についてどういう理解,立場をとるかにかかわらず,ちょっとこの御提案の制度というのは制度設計としてうまくいっていないと思われます。というのは,取調べのための出頭義務というのは,結局のところ4項において相当性判断の重要なファクターになってしまわざるを得ないわけですが,1項のところでは具体的に例示はされていない。しかし,1項では森羅万象を考慮して相当性を判断するようにも読めますから,具体的に例示はしていないけれども,出頭する人かどうかというのは相当性判断の中で判断するのですという説明なのでしょうが,うまく整合しているのかというのが疑問です。  そこは整合していなくてもよいのですと言い張るとしても,結局は取調べのために出頭しないのであれば,相当性の判断の中で不相当ということになって,勾留に移行してしまうわけです。そうであるならば,遵守事項として何らかの形で出頭を確保することにまつわるような遵守事項が定め得るような制度になっているのが適当かと思われますが,今の御提案だと,出頭については全く遵守事項を定めることができないようになっています。任意的な遵守事項としても定め得ないようになっていると理解できます。そうすると,遵守事項として出頭のことを定めておきさえすれば,その遵守が期待できて,出頭が確保できそうだから,中間処分でもよいのではないかと思われるような者がいたとしても,逆にそういう者は中間処分には付し得ないということになってしまう。ではどういう人が中間処分の対象になるのかというと,遵守事項として定めるまでもなく取調べのために出頭してくるような人でないと中間処分の対象にはなり得ないという論理的な帰結にならざるを得ないと思いますが,他方で,そもそも中間処分の対象というのは罪証隠滅なり逃亡のおそれがある人ということなわけですから,それは両立し得ないのではないかと思います。  結局のところ,中間処分はどういう人を対象として,どういうことをする処分なのかということが極めて曖昧ですので,こういう曖昧な制度を作ってしまうと,作る側は満足であっても,そのしわ寄せは結局それを運用しなければいけない現場に全ていくということになります。仮にこういう制度ができた場合に,これを運用しなければいけない現場の捜査官としては,ではどういう被疑者を対象としてこの処分を求めて,どのように捜査していったらよいのかというのが全く分からない,計画も立てられない,捜査もできないということになりかねません。作る側の自己満足だけでこういうものを作ってみて,結局そのしわ寄せは全部現場へ持って行くということには到底賛成はできません。 ○井上分科会長 分かりました。  「被疑者・被告人の身柄拘束の在り方」については,前回も御議論いただいており,今回は,青木委員からの御提案を受けて,補足的な御議論を行うこととし,一通りの御意見を伺いましたので,この事項に関する議論はこのくらいにさせていただきたいと思います。  それでは,次の「取調べの録音・録画制度」について,特別部会の資料63に基づいて議論を行います。  最初に,「第1」の制度案から議論をしていきたいと思います。まず,検討事項「1」に記載されています「いわゆる余罪取調べの取扱い」,つまり余罪取調べについても録音・録画を義務付けるかという点でございます。これまでの議論では,義務付けの必要性を指摘する御意見と実際上の困難を指摘する御意見の両方が示されているところでありますけれども,現実に問題が生じるのはどのような場面かという点にも留意しつつ,できるだけ具体的イメージが抱けるような形で御議論いただきたいと思います。御意見等のある方は,御発言をお願いします。 ○小坂井幹事 この問題は,前回も申し上げたように,今後特別部会で対象事件をどう定めるかということに結び付き,結局はそこに解消される要素があり得るわけです。ただ,一応基本構想のくくりとしたら,裁判員制度対象事件の身体拘束事件を念頭に置くということなのですけれども,そうであれば,もう正に身体拘束ということで明確なのだから,かつて配布資料に記載してあった対象事件での身柄拘束中に別の対象事件の取調べを行う場合と非対象事件での身柄拘束中に対象事件の取調べを行う場合の両方を含ませるということでよい。それで,基準としては明確だろうというのが,私の従来からの意見です。 ○露木幹事 前回も申し上げたとおり,余罪の取調べは,逮捕するまでは在宅事件ということでありますし,また被疑者か参考人かの区別さえも曖昧である場合もありますので,対象事件を限定するという前提があるときには,余罪の取調べを対象にすることは難しいということです。イメージとして,死体遺棄事件と殺人事件のような場合を想定して,死体遺棄事件という非対象事件で身柄を拘束して,その起訴後の勾留を利用して殺人事件について取調べをするというのであれば,録音・録画すべきではないかという御主張も分からなくもないという面もあるのですが,そういう場合だけではありません。非対象事件で身柄を拘束して,その余罪で在宅で取調べをする。在宅というのは,起訴後の勾留中の在宅調べという意味ですが,例えば窃盗で逮捕,勾留,起訴された後に,その窃盗の余罪を調べていたところ,強盗傷害という余罪が出てくることがしばしばあります。例えば,人の家に侵入して泥棒をするという者が,たまたま家人が居合わせて事後強盗になるということがあるわけですが,捜査機関が全てそれをあらかじめ認知していて,そういう者だと思って取調べをしている場合だけではもちろんございません。突然,認知していないそういう強盗傷害が出てくるということもあります。そういう場合に,これは突然出てきたので,録音・録画の用意ができないということも予想されるわけです。それはやむを得ない場合であり,例外であると理論的には考え得るかもしれませんが,実際上は,なぜ録音・録画していなかったのだということが後で争われるということになりますと,私どもとしては,ではそういう場合も,そういう事態に備えて録音・録画していなければいけないのではないかということになってしまい,窃盗の余罪の取調べまで録音・録画の対象になってしまうという効果をも導きかねないということもありますので,なかなかその余罪については,対象事件を限定するという前提がある場合には難しいのではないかというのが私どもの実感であります。 ○髙橋幹事 これも裁判所側の意見として,繰り返しになるかもしれませんけれども,今,露木幹事が言われたような死体遺棄で逮捕・勾留して取り調べているうちに殺人について話し始めたといった場合,後々の裁判でこの初期供述の信用性とか任意性が問題になるということは少なくないというのが実感です。そうすると,裁判員裁判を念頭に置くと,その際どういう状況でそういう供述をしたのかということを録音・録画を通して裁判員にも理解してもらうという訴訟が実現できればよいというのが裁判所の思いです。確かに基準としてそれで明確に区分けできるのかという難点があるというのはそれなりに理解できますが,そこをうまくできないかと思っております。 ○後藤委員 確かに,余罪の取調べの場合,どこからが対象事件の取調べになったのかがはっきりしにくい場合があるのだと思います。しかし,逆に明らかに対象事件に当たる事実について供述調書を作っているような場合もあり得ます。そういうときに,対象事件かどうか分かりませんでしたとは言えないでしょう。だから,余罪の取調べでも,対象事件について取り調べるときは適用されるとする方が合理的だと思います。 ○上冨幹事 この問題については,以前岩尾幹事の方からあった意見と基本的に私も同じ意見なのです。例えば,今,後藤委員がおっしゃった余罪が対象事件になったかどうかの基準の問題と捉えると,明らかな場合と明らかに違う場合があるのでしょうけれども,行為としての義務付けをするのであれば,正に微妙なところが義務違反になるかどうかということが多分運用する側としては一番問題なわけで,対象事件か否かの判断が微妙な事件について,明確に判断し得るような制度にできないと,制度として動かしにくいという問題が解決されないという感じがします。  それから,一番問題となるのは,例えば,非対象事件である死体遺棄で身柄拘束中に対象事件である殺人というのが典型的な問題となる場合だというお話です。確か前回だと思いますが,髙橋幹事から,そういうときに任意性,取調べ状況が問題になることは結構あるような印象だというお話もあったのですが,この部会でも出ている法務省が行った国内調査の結果によれば,平成22年6月から平成23年5月までの1年間に裁判員裁判で判決宣告がなされた事件が1,653件あって,そのうち,別の事件で身柄拘束中に本件である裁判員裁判について取調べが行われて,その任意性が争われたという事件が何件あったかと申し上げますと,1,653件中の7件,率にすると0.4%で,その事件の全部で任意性が肯定されているということのようなのです。それが全てを網羅しているデータかどうかは別として,今そこそこの数のあるデータですし,一般的な任意性が争われる率と比べてもかなりの違いがあって,実際にこのような典型的に想定されるような場合で問題が生じる場合というのは現実には非常に少ないということが多分データとしては言えるのではないかと思っているので,この問題を議論する上では,そういった実情も踏まえた上で議論していく必要があるのではないかと思います。 ○小坂井幹事 データのお話が出ましたけれども,私どもは承知していないのですが,恐らく死体遺棄で身体拘束した場合に,そこから録音・録画を始めている運用はそこそこはあるのではないかという気がしないでもないのです。現実にどこまであるか分かりません。そういうケースがあると聞いたことがあるというレベルですから,どれだけあるのか分からないのですけれども,正にそれは録音・録画しているからこそ任意性の争いがなくなったということも場合によってはあり得るわけです。ですから,現に争われていないからといって,その必要性が低いということは成り立たないという感じがいたします。要するに,対象事件に入る段階というのは捜査官側は分かるわけですから,それに備えて録音・録画していただいたらよいということになるだろうと思います。 ○上冨幹事 非対象事件の段階で録音・録画していたかどうかのデータまで分かるわけではないので,いずれにしても,そこははっきりしないことなのでしょうけれども,録音・録画しているはずの本件における調査当時,録音・録画している,していないにかかわらずですけれども,本件で身柄拘束中に取調べをしたときの任意性が争われる割合と,そうではなくて別の事件で身柄拘束中に本件の取り調べたときの割合で明らかに争われる率に差があるということ自体は,前提としてもよいのではないかと思います。 ○井上分科会長 ほかの方,いかがでしょうか。更に付け加えることがございませんでしたら,このぐらいでよろしいでしょうか。  それでは,次に,検討課題「2」の「録音・録画義務の例外」について,まとめて議論を行っていただきたいと思います。この点は,議論を重ねてきましたので,新たな視点が出るかどうかは分かりませんけれども,特に制度概要の「2」①及び②に記載されている各例外事由の要件が適切かどうか,「③ その他」の例外事由の要否やその内容について,御検討いただければと思います。 ○小坂井幹事 必ずしも新たな視点ではないと言われるかもしれないのですが,この制度概要は,昨年11月7日に特別部会用に出されたものが今回もそのままベースになっているのです。けれども,正にこれで今後の特別部会の「たたき台」を作っていくという話なわけですね。そうだとすれば,この前の11月7日の特別部会の第21回会議で有識者の方々がおっしゃった意見はきっちり取り込む形での制度概要にするのがこの作業分科会のミッションであるし,事務当局の方にもそのようにお願いしたいということなのです。例えば,前回11月7日の特別部会ですけれども,安岡委員,村木委員,周防委員,神津委員あるいは元裁判官の龍岡委員の御意見などを踏まえてもよいわけですけれども,要するに例外事由は一義的に明確なものにすべきである,客観的に分かるものにすべきであると,これは有識者の御意見の大勢と言って間違いないのではないか。要するに,捜査官の裁量に委ねるものであってはならないという御意見は強くあったということですから,これをこの制度概要の中にきちんと組み込んで書いていく必要性がどうしてもあるのではないか。そうしますと,これは若干細かな論点も含めますけれども,私も繰り返し通訳人についていろいろ言ってきたつもりですが,通訳人という記載がずっと残っているのはいかがなものか。もうそろそろこれは下ろしてもよいのではないのかといった問題があります。  それから,一番肝心の「2」の②のところですけれども,これはやはり本文柱書きに「被疑者が十分な供述をすることができないおそれがあると認めるとき」という形でくくって,要するに取調官の裁量に委ねるようにどうしても読めてしまうわけで,ここは前回11月7日の会議の際にも有識者委員の方から相当な御批判があったところだろうと思います。ですから,この本文柱書きを取るということを御検討いただいてよい段階ではないか。仮に入れるのであれば,逆に被疑者側が停止に異議を述べないときといったくくりの歯止めが必要なのではないかと考えます。  更に言いますと,②の「ア」・「イ」なのですが,これは,私の案は元々出させていただいているとおり,「ア」かつ「イ」という案になるわけなのですけれども,ここをどのように見ていくか。「ア」についても,「財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させ若しくは困惑させる」までは,いかにも広すぎないか。仮にどんどん譲っていくことがあり得たとしても,困惑行為まで入れるようなことになっては,これは当然非常に広い裁量を許すことになるのではないかと思います。  また,まだ,「イ」に「その他の事情」が付加されており,更に③に「その他」がありますけれども,もうそろそろこれは取っていただいてよいのではないか。これらは全て出口規制で足りることが明らかですから,ここらで制度概要を,有識者の意見を踏まえていただいて,次回の「たたき台」はそれを含めた上での「たたき台」にしていただきたいというのが要望です。 ○後藤委員 私は何度か意見を申し上げましたけれども,端的に言うと,②以下のところは,被疑者自身が録音・録画を拒否した場合に限るべきではないかという意見でございます。それに対して,もしそのようにすると,拒否しなかった者は,例えば暴力団員が組について不都合な,あるいは端的に言えば裏切るような供述をしたと思われてしまうから不都合だという御指摘があったと思います。その意味について,考えてみました。その組にとって都合が悪い供述というのが,実はここで言っている「十分な供述」の意味になるわけです。そうすると,その議論の意味は,実は組にとって不都合な供述をしているのだけれども,「していません」という言い訳というか,端的に言えば嘘を言えるような状況を残した方が良いという議論に結局なっていると思います。それが本当に意味があることなのか,私には疑問です。つまり,典型的には,捜査官はそこで供述調書をとって,それを証拠に使いたいと思うわけです。そうすると,それを証拠調べ請求されたときに,「いや,あれは捜査官の作文であって,私はそんなことは言っていません。」という嘘が暴力団の中で通用するのかというのが私には疑問です。  逆に見て,嘘を言えばよいというのだったら,例えば録音・録画を拒否している場面が映っていて,その後どういう供述をしたかよく分からない場合に,「あれは,録音・録画を拒否しなければひどい目に遭わせるとその前に言われたから,仕方なくあのように拒否したやらせです。」と,嘘を言えばよいことになるのではないでしょうか。だから,明示的な拒否だけを除外事由にすると拒否した者が組にとって都合が悪い供述をしたと思われるからというのは,余り説得的な理由ではないように私には思えます。 ○露木幹事 今の後藤委員のおっしゃった点についてですが,暴力団の組員が組のことをしゃべるときに,録音・録画を拒否してそういう供述をするということは,想定し難いと思います。暴力団の組員の場合には,録音・録画を拒否しないで,むしろ求めるという方向に行ってしまうのではないかと思います。拒否したということは,正に組にとって不都合な供述をすると組側には思われるということですから,そんな危ない橋を渡るということは普通は考えられないわけで,組員としては,自分にとって安全な,むしろ録音・録画をしてもらって,組のことは何もしゃべりませんということが組側によく分かるような取調べ環境を望むであろうと思います。  あと,録音・録画をしない状態で組員に組のことをしゃべらせたときに,今度は公判で組員にそれを証言させるということは私どもは別に想定しているわけではございませんで,録音・録画をしていない状況で組員がしゃべることは調書にはしないで,それは一つの情報として,それを捜査の端緒として利用するということは,今もそうですし,今後も多分そうであろうと思います。例えば自分が車を運転していって,同乗していた組長がここで犯罪を実行したという供述が得られれば,その裏付け捜査をする。防犯カメラに映っていないかとか,高速道路を利用しているのであれば,高速券の回収をして,そのとおりの経路が裏付けられるかどうかとか,そういった捜査をすることによって組長の関与を明らかにしていくということになりますので,それを組員にそのまま証言させるといったことは別に想定しているわけではないということです。  それから,今度は小坂井幹事が先ほどおっしゃった,捜査員の裁量を許すような例外事由は設けるべきでないという話なのですが,裁量というか,判断に評価を伴うようなものはどうだろうかという御指摘のように理解しました。例えば①の例外事由について言えば,この機器の故障についても,例えばある機器が故障している,しかしながらその警察署に別に用意されている故障していない機器を利用すれば録音・録画ができるという場合には,この故障したことに直ちに該当して録音・録画の例外事由になるわけではなくて,恐らく,「記録をすることが困難である」かどうかというこの後段部分の判断になるのだろうと思うのです。ほかの機器が容易に調達できるのであれば,困難であるとは認められないということで,この例外事由には当たらないという判断に傾くのだろうと思うのですが,その困難かどうかという判断も捜査員の一定の評価を伴いますので,①であっても,捜査員の評価を排除するということは恐らくできないのだろうと思います。②についても,仮にこの柱書きを削ったとしても,「ア」の中に「おそれ」という要件はどうしても入ってくるわけです。この「おそれ」も捜査員の評価というものを伴う事柄ですから,どこまでいっても,評価を伴わない例外事由を設けるということはできないのだろうと思います。どうしてもそれを排除すべきであるというならば,もう例外なしの,正に全ての録音・録画ということになってしまいますので,そうすると実現可能性のないような制度になってしまうのではないかと思います。 ○井上分科会長 私も,「裁量」という言葉は不適当だと思います。「裁量」ではなく,認定が難しいかどうかという話であり,いずれにしろ,その要件に当たるか否かが争われれば裁判所が判断することになるわけで,そういうチェックが入るという意味で,裁量ではないのです。こういう要件があったかどうかという判断は最終的に裁判所がする,その判定が容易かどうかという問題だと思うのです。 ○上冨幹事 何点かまとめて申し上げます。①の例外の関係は,今,露木幹事がおっしゃった意見と基本的に同意見で,現在の制度概要案はそのように読むのだろうと思います。機器の故障とか通訳人の拒否ということイコール義務の解除ではなくて,そういった事情によってできないときと読むのが普通だと思われます。その点に,もし誤解があるのであれば,もっときちんと説明する必要があるのだろうと思います。  それから,例外②のうち加害行為の問題ですけれども,先ほど,畏怖,困惑させる行為のおそれ,あるいは生命・身体以外への加害行為のおそれを例外事由とする必要性についての御発言もありましたけれども,例えば人そのものを狙うのではなくて,建物に拳銃を発砲したり,家を燃やしたり,あるいは無言電話や付きまといをしたりといった様々な供述をさせないような事情というのはあるわけです。そして,制度概要2の②において確保しようとしている例外事由の趣旨というのは,別に加害行為自体を防止するのではなくて,そういうおそれによって供述が得られなくなるような場合があったら,それは回避した方が良いのではないかというための要件なわけです。そういう意味で言うと,例外事由を生命・身体に対する重大な加害のおそれがあるに限る必要性というのは,余りないような気がします。  他方で,要件をできるだけ明確にした方が良いというのは,それは制度として要件を立てる以上,ある意味で当然なのだと思うのです。もちろん,およそ評価的なことを含まない要件を書き切れるかというと,それはそれでまた現実には困難だろうと思うのですが,例えば加害行為のおそれの部分については,考慮事情をもう少し書き込むという考え方はあるのかもしれません。例えば犯罪の性質とか,共犯者を含む関係者がどんなことを言っているか,言動とか,すなわち,そういった関係者と被疑者とはどんな関係にあるのかとか,あるいはそもそも被疑者がどんな団体や組織に属していて,その団体や組織がどんな性質を持っているのかとか,そういったものを加害のおそれがあるかどうかの判断の考慮事情として例示するというのは,その要件の明確化という意味では一つあり得るかと思います。  それから,例外②の「イ」,拒否等の関係ですが,明示的な拒否以外にも,本当は拒否したいけれども,拒否できないという場面があるのだろうという感じはやはり拭えません。なぜここだけ被疑者という人はものすごく明確に意思表示ができる人になってしまうのかがよく分からないのですけれども,被疑者はそれぞれ,置かれた立場や事件の内容とか,いろいろなものから明示的な拒否はできないけれども,できたら録音・録画されたくないし,録音・録画されていたらしゃべれないという意識を持っているような実例があるのではないかと思いますし,そのような実例があるとすれば,そのような場合を切り捨ててしまうというのは,制度として不十分な部分があるのではないかという感じがします。その上で要件を明確化するという観点からすれば,例えば拒否というのを例示した上で,そういったものを始めとする一定の事情で十分な供述をすることはできないと書くとか,録音・録画の例外とすべき場面というのをきちんと例外にできるような書き方の工夫をする必要があるのではないかと思います。  その関係で言えば,先ほど暴力団の人がしゃべっていることを後で知られてしまうといったお話がありましたけれども,前にもどなたかの発言にあったかもしれませんが,例えば共犯事件のような場合に,誰が最初にしゃべったかというのが一番問題になるような事件は結構あって,一番でなければ,意外としゃべってくれるのだけれども,突破口になる最初の供述をしたのが自分だというのだけはとにかく隠したいといった場面は実際にあると思います。暴力団のような事件でも,供述をしやすくするために録音・録画をしないことが必要だとされる場面というのはあって,それは先ほど後藤委員がおっしゃったようなことを考えてもなお残るのではないかという感じがします。 ○髙橋幹事 例外については,これまでも捜査機関の行為規範としても,それから裁判所が該当性を判断するための裁判規範としても,なるべく明確に定めなければならないと思っています。  それで,先ほど露木幹事から,どのような例外事由でも評価的な側面は入るのではないかという御指摘があって,なるほど,そのとおりかと思います。しかし,例えば制度概要「2」の①あるいは②の「イ」の「被疑者が1の記録を拒んだこと」についての評価と,それ以外の,例えば「その他」で挙げられている事情の評価というのはおのずと違いがありまして,前者については,裁判所としても,これはほかの事情等に照らして,その評価が妥当だったかどうかというのは判断しやすいですけれども,後者の場合は,場合によってはかなり難しい場面が出てくる。今,上冨幹事から,②の「ア」についてももうちょっと明確になるような形で要件を設定できないかといったお話がありましたが,その辺り,工夫はあるかもしれないですけれども,現時点でも「ア」でどこまで裁判所として事後的に認定できるかというと,ちょっと心もとないと思っております。 ○後藤委員 先ほどの露木幹事の御発言について申し上げます。先ほど言われたような考え方を突き詰めていくと,本人が明示的に録音・録画を求めている場面でもなおかつ,それでは十分な供述ができないだろうからという理由で,録音・録画なしに取り調べることを認めることになります。それは適切ではないと私は思います。 ○露木幹事 今の後藤委員のおっしゃったことですが,暴力団の組員が録音・録画を求めている場合にも録音・録画をしないという運用は適当でないのではないかという御趣旨であるとすると,別に組員が積極的に求めるわけではないのです。拒否した場合にのみ録音・録画をしないで済むという例外事由の設定の仕方をすれば,それは拒否しないで,求めることになるわけでして,それはそういう前提を付けておられるので,そういう話になってしまうのだろうと思うのです。組員は別に録音・録画していない状態であれば,喜んで組のことを話しますという者もいるわけです。ですから,録音・録画をしてほしいかどうかということと,組のことを話したいか,話したくないかということとは切り離して考えないと,制度設計はできないのではないかと思います。  それから,今のこととも関連するのですが,そもそもこの②の「ア」の例外事由をどう読むか,どう考えるかということにもかかわってくるのですけれども,取調べの都度,その取調べの内容あるいは想定される被疑者の供述の内容に応じてここにいう加害のおそれの有無とか程度を判断するという仕組みですと,加害のおそれを例外事由として規定するという趣旨に反する結果を生むのではないかということは,これまでも繰り返し申し上げてきたことです。それは裁判のときに顕著になるわけで,なぜその場面を録音・録画しなかったのか,なぜこの例外事由に該当すると判断したのかということを問われたときに,正に先ほど後藤委員がおっしゃったこととも関連しますが,「これは組長のことをしゃべっているからです」としゃべることを求め,また「そのような供述があったからです」といったことを立証しなければならないことになってしまいますと,本人が後で報復を受けることになってしまいます。そういう顛末になるということが事前に予想されれば,正に組員はしゃべれないということになってしまいますので,この例外事由は機能しないということになってしまうわけです。ですから,暴力団のような暴力的な組織統制を行っているような犯罪組織の構成員という者が被疑者である場合には録音・録画の例外事由とするといった規定の仕方が必要ではないかと思います。  それから,先ほど髙橋幹事がおっしゃったことに関連してですけれども,確かに評価的要素があることはそのとおりであるとしても,その程度に違いがあるのではないかという御指摘でしたが,それはそのようにならざるを得ないということもありますし,例えば②の「イ」に関して言えば,「被疑者が1の記録を拒んだこと」が直ちにその例外事由になるという規定の仕方というのはちょっとおかしな感じがするのです。被疑者が録音・録画するか否かを選べるといいますか,録音・録画をすることが被疑者の権利であるかのように見えるので,そうではなくて,拒んだことがなぜ例外事由になるのかという趣旨を明らかにするには,それによって被疑者が十分な供述をすることができないおそれがあるということが理由であるからこそ,その例外になるということでしょうから,制度として組み立てるときには,どうしてもこの柱書きのようなものが出てこざるを得ないのではないかという気がします。 ○小坂井幹事 ちょっと上冨幹事が最後の方で,要は誰が最初にしゃべったかが分からないようにする捜査手法が有効で,これは今後も使い続けるという趣旨でおっしゃったわけですけれども,ここがある意味で一番の根幹部分かもしれないという感じがするわけです。限定的には例外事由を設けるかどうかの議論はまた別にあり得るとしても,やはり取調べの実態,つまり,誰がどういう順番でしゃべったか,それを分からないようにするということはしない。誰が最初にしゃべったか,明確に取調べの実態が分かるようにするのだというのが,正にこの取調べの全過程を録音・録画することの意味です。ですから,そこは踏まえられるべきだと思います。  なぜならば,結局はそれは,そういう順番が分からないようにすることによって事案の真相が解明できるという発想になる,もう笑えないパラドックスがどうしても生まれてきているわけですね。それを前提に取調べの実務を組んでいくこと自体に正に問題があるという理解の下での作業だと思いますので,そこは再考慮される余地があるのではないかと思います。  それと,露木幹事が言われたことの関連なのですけれども,私が②の「ア」あるいは「ア」かつ「イ」だという形で申し上げているのは,これは正に,本人は内部告発したいのだ,情報を出したいのだという場面です。だけれども,しかし録音・録画があってどうしてもできないといった極めて限定的な例外事由の場合には,それは黙秘権の行使とまではなかなか言えないから例外にしましょうと,こちらはある意味でぎりぎりの案でそれを提示したということを最初のときに申し上げたかと思うのです。そういう場合を想定しているのであって,正に露木幹事もストレートな形で後藤委員の意見に答えられなかったように,止めないでくれという人を止めることはできないと思うのです。前回井上分科会長もそういう趣旨の発言をされていたと思いますけれども,だからそこのところはそういう前提で捉えるべきではないかと思います。  それともう1点ですけれども,裁量という言葉が正しくないのは正しくないでよいのですけれども,事後にきちんと一義的にクリアである必要があるというのは,髙橋幹事もおっしゃったとおりで,先ほど,例えば非対象事件の身体拘束の余罪取調べの場合に,対象の中に紛れ込ませるとクリアでなくなるからという議論がありましたよね。それとパラレルに考えたときに,ではこの今の「2」②で書かれているようなことは,対象事件かどうか分からない場合,クリアではないから義務発生事由をきちんとしないといけないという議論との関係で考えても,まだ不明確な要素が多すぎるのではないか。やはりそこは有識者委員の方が言われたことを組み込んだ制度概要にするべきだと思います。 ○露木幹事 ③についてですが,これも繰り返し申し上げているように,性犯罪のような被害者等の関係者の名誉,プライバシーが著しく害されるおそれがあるケースがあるわけです。これは恐らく証拠開示の制限等の出口の規制で足りるのではないかという御議論もあって,なかなかこの③が制度概要の中に具体的に出てこないのかと思うのです。ただ,出口の規制,出口の開示制限という方法ですと,取調べをする段階では,被害者からすれば,自分のプライバシーの部分が開示されないということが確実に予測できない。それは最終的にはそのときの裁判官の判断によるということになりますと,安心して被害届を出せないということが現実にはあり得ます。性犯罪がそもそも被害届はなかなか出にくいという特殊な犯罪であるということもありますので,是非,少なくとも性犯罪についてはきちんと明記していただきたいというのが私どもの要望でございます。 ○上冨幹事 先ほどの小坂井幹事の御発言の関係なのですが,確か以前に部会の場で私から,録音・録画を止めれば話をするということが分かっているときに,あえて録音・録画をすることによって話が得られないということを認めるかどうかという問題なのではないかという御質問をしたときには,その点については必ずしもはっきりお答えいただかなかったような記憶なのですけれども,多分今の御発言は,その問題に対する答えが分かれ目になるのだと思います。この例外事由を考えていく上では,録音・録画をしなければ得られる供述がたとえ得られなくなっても,捜査過程を記録することの方を優先するのか,それとも,取調べで事情が話されて,それによって例えば裏付け捜査をしたり,引き続き捜査によって事案が解明されることをなお目指すべきなのかという部分について,どういう判断をするのかという問題が最後に部会での議論で残るのかもしれませんが,これまでの議論では,取調べによって必要な情報を得るということはやはり必要なことであって,それはそれで可能な限り維持しながらどういう制度を設計するかという議論だったように記憶しています。したがって,そういう前提でこの例外事由の在り方を議論していった方が良いかと思っています。 ○小坂井幹事 部会で上冨幹事からそういう質問を受けたときのことは,私も覚えております。ただ,私が答えたのは,そうクリアカットできないでしょうということを申し上げたと思うのです。それで,今,上冨幹事がおっしゃっているのは,正に順番をずらすか,ずらさないかということと上冨幹事があのときに質問されたこととがほぼ同義だという前提でお話しになっているように聞こえたのですけれども,そうではない。そこは完全に段階・段差があるわけですから,違うと思うのです。私どもは,部会で上冨幹事がおっしゃったところは,内部告発をしたいような人で,なおかつそれでも録音・録画を優先するのですかという質問であると捉えて,あの例外事由を昨年4月25日に提案したということです。ですから,そこは当然,録音・録画というのは価値中立的ですから,両義的に作用するので,捜査官が有利になったり,どちらに有利,不利になるかは分からないところがあるわけです。それは両方の要素が必ずあるので,どこで線を引くかという議論です。ですから,今,上冨幹事がおっしゃったように,クリアカットできるような話ではないというのが私の理解です。 ○井上分科会長 内部告発をしたいというよりは,録音・録画をしていなければしゃべるという人の場合はどうするのかという話だと思うのです。そこは,後藤委員と露木幹事の言っていることはずれている。後藤委員は,「録音してくれ。その代わり,録音されてもよいようなことしかしゃべりません」という場合を想定していると思われるのですが,その場合は録音されなくても同じことだと思うのです。他方,露木幹事は,そういう場合を想定しているわけでは多分ない。だから,上冨幹事が言われたようなところを例外事由として認めていくのかどうか。線引きの問題は確かにありますが,実質として,そういうものを例外として認めるのが適切かどうかということが焦点であるということは,確かだと思うのです。 ○小坂井幹事 ですから,そこもレベルがありますよね。正に「俺は情報提供をしたいのだ」という自発性のある人の場合があるわけです。 ○井上分科会長 そういう人もいれば,積極的ではないけれども,話の持って行き方によってはしゃべるかもしれないが,録音・録画をされたのでは絶対に嫌だという人もいるのではないかと思います。そういう人がどの程度いるかは別として,そういった場合も例外とすべきだという御意見と,そのような例外を認めてしまったら,小坂井幹事が懸念されるような部分まで取り込んでしまって,録音・録画されないことになるのではないかという御意見が対立している。そこがキーポイントだと思うのです。 ○髙橋幹事 ③の「その他」についてですが,ここに挙げられているのは,被疑者の事情ではなくて,それ以外の関係者の事情とか,あるいは捜査の事情ということですので,裁判所として事後的に判断する上での明確さという意味では更に不明確になっていくし,曖昧な要素が入ってくるという懸念があります。  それで,先ほど露木幹事からもお話がありましたが,性犯罪被害者の方々のいろいろな心情とかお気持ちとかはあるでしょうし,あるいは捜査の支障への配慮というのも必要かと思うのですが,そこは出口というか,開示の場面とか,あるいは証拠の採否,あるいは採用した場合でも,その取調べの方法をどうするかというところでいろいろ配慮しながら運用していくということでカバーできるのではないかと思っております。 ○川出幹事 今指摘がありました性犯罪関係の取扱いについてですが,一部,以前に申し上げたことの繰り返しになりますけれども,性犯罪の被害者の方の心情や名誉が害されるという場合に,被害者の方の名誉やプライバシーを害するような被疑者の供述が記録されて残ること自体が被害者にとって非常に苦痛であるという点まで考慮するということになると,被疑者が取調べでどんな供述をするかは予測できませんので,性犯罪については一律に録音・録画の例外とするということにならざるを得ないだろうと思います。被害者の方の心情や名誉を保護する必要があることは確かだとしても,一方で,録音・録画を行う必要性もありますので,それを考慮するとそこまでの保護は難しいのではないかと思います。そうすると,ここで問題とする利益の侵害は,記録されたことが明らかになることによる,被害者の方のプライバシーや名誉の侵害に収れんさせた方が良いのではないかと思います。  その上で,実際にそれが問題になるのは,録音・録画記録の証拠開示の場面と,公判での再生の場面だと思います。このうち,証拠開示に関しては,組織犯罪の場合と違って,弁護人を通じて関係者に記録の内容が流されるといったことは考えにくいので,要するに,弁護人が,記録された被疑者の供述内容を知ることが問題となるわけですが,同じことを,被告人が弁護人に直接話すこともあり得るわけですね。そうすると,それを証拠開示という形で弁護人が知る可能性があることが,録音・録画義務の例外とされるべきほどの弊害といえるのかは疑問があると思います。  それから,公判での再生については,今,髙橋幹事がおっしゃったように,そもそも立証に必要のない部分の記録は証拠調べがなされないわけですし,立証に必要な部分について,それが被害者のプライバシーや名誉を害するような場合については,その取調べ方法として,記録された被疑者の供述が公開の法廷で明らかにならないような措置がとれるのであれば,それを取り調べることによる弊害は回避できるのではないでしょうか。もし,そのような措置がとり得るということであれば,あえて,それを録音・録画義務の例外にする必要はないと思います。逆に,そうした措置をとれない場合があるということであれば,確かにそもそも録音・録画義務の例外にすることが必要になりますので,その点をもう少し詰めて考えてみる必要があるのではないかと思います。 ○井上分科会長 この問題は,被害者の方の不安とか不信というものをどれだけ忖度するかということとも絡んでくるので,そうクリアカットに片付けられるものではないかもしれません。  皆さんの議論を伺っていて感じたのですが,実質論として,こういう場合は録音・録画義務の例外にすべきかどうかということと,手続上の問題として,それを明確に認定できるかどうかというのは,一応レベルが違う問題だと思うのです。明確に認定できるかどうかという点だけに焦点を当ててみた場合には,本来録音・録画義務の対象から除外すべきでないものまでそこに取り込まれてしまうおそれがあるというのが反対論の理由になるのだと思うのですが,実質論として,対象から除外するのが適切な場合があるということであるならば,そのような逸脱が防げるような形で規定できるのかどうかがポイントになってくるだろうと思うのです。その辺を整理して議論していかないと,除外とすることが不可欠だとする意見とおよそそういうものは駄目だという意見のすれ違いだけになってしまい,生産的ではないと思うのです。 ○小坂井幹事 有識者の方の御意見で,録音問題というのがまだといいますか,昨年の11月7日の特別部会においても相当出ていたと思うのです。やはりこれは制度概要に組み込んだ上で今後の議論をすべきだと思います。 ○井上分科会長 それは最初に言われたことですよね。皆さんの最終的な御意見は特別部会の場で闘わせていただくべきものであり,そのためのたたき台として,両方の立場を抱き合わせたような形で出せるのかどうかです。作業分科会として現段階では,特別部会でその議論をしていただくための手掛かりとして一通りのものを出すしかないと思うのです。   それでは,次に,検討課題「3」の「実効性の担保」についての議論を行います。この点については,特別部会の報告に向けて,証拠能力の否定というのが一つの案なのですけれども,その方策のほか,任意性の立証,認定の制限という方策についても,具体的な仕組みを念頭に置きつつ検討を加えておく必要があると思われますので,その点などにも留意しつつ,検討課題全体について御議論いただきたいと思います。  それでは,御意見等のある方は,御発言をお願いいたします。 ○後藤委員 今回,「取調べ録音・録画義務違反の法的効果について」と題したメモを提出させていただいていますので,その中身,どういうことを考えているのかをかいつまんで御説明します。  まず,録音・録画義務の違反があった場合に,一定の効果を明文で定める必要があるかどうか自体が問題になると思います。私は結論的には,定める必要があるだろうと考えます。特別な規定を設けなくても,義務違反があれば,おのずと,任意性判断などが厳しくなるだろうという見方もあろうかと思います。しかし,後でも触れますように,義務違反があった場合に,供述が任意でないことを推定するという案に対して,録音・録画しなかったことと供述が任意でないこととの間には経験則的な関係がないという反論もあるわけです。そうすると,任意性などの判断がおのずと厳しくなるかどうかは,かなり疑問なので,裁判所としても何らかの明文規定があった方が運用しやすいであろうと思います。  規定を設けるなら,どういう規定があり得るか前にも申し上げましたように,一律排除で割り切るのが一番効果的であってかつ分かりやすいと私は思います。けれども,それに対しては,それでは行き過ぎになって,具体的な妥当性が失われるという御反論があって,今までの議論の限りでは,これはなかなかまとまり難いところだと思います。そこで,条件付き排除という考え方もあるかと考えてみました。けれども,この条件の定め方が実際にはなかなか難しくて,裁判所にとっても運用しやすい規定を作るのは難しいのではないかと思いました。  そこで立証制限という考え方になるわけです。その一つとして,供述の不任意性を推定するという案がこれまでにも議論されました。これに対しては,先ほど申しましたように,録音・録画義務の違反と供述の不任意性との間に経験則的な因果関係がないという議論があります。それと同時に,逆の方向から考えても,元々任意性の立証責任は検察官にあるところで,不任意性を推定するという規定に実際にどれだけ意味があるのかと考えると,実は余り意味がないように思えます。  そこで2番目に,録音・録画を怠った状況というのは,捜査官が残すべき証拠を残さなかったということになるので,民事訴訟法でいう証明妨害の状況に似ているのではないかと考えました。そこで,文書提出命令に従わない場合についての民事訴訟法第224条に現れているような考え方を応用できないかと考えてみました。ですが,結論的にはなかなか難しいです。証明責任の分配が基本になっている民事裁判と違って,刑事裁判では,検察官が全面的に立証責任を負うのが大原則です。そこに民事の証明妨害的な考え方を持ち込むのはなじみにくいのではないかと考えました。  その次に,小坂井幹事が既に提案されている案,つまり小坂井案の「第302条の2」という条文の案が我々の前にあります。これは,「検察官は,被告人又は被告人以外の者の供述に関し,その取調べ等の状況を立証しようとするときには,当該取調べ等の状況を○○条の規定により記録した媒体を用いなければならない」という条文です。ただし,録音・録画義務がない場合はその限りではない,というものです。これは,言ってみれば,現在の刑事訴訟規則の第198条の4の取調べ状況の立証に関する規定をもっと強化して,更にそれを効力規定に高めるという発想のものだと思います。これは担保措置としてかなり強力であるし,また一律排除に比べれば結果においても柔軟性があるという意味で,工夫されたものだと思います。ただ,実際にこの条文を作って適用しようとすると,幾つか問題が起きそうです。  第1の問題は,被告・弁護側は取調べの状況について立証することを制限されません。それに対して検察官は,反対当事者として,当然,その証明力を争いたいでしょうし,それは禁止できないのではないか。そうすると,証明力を争うことと立証することとを本当に区別できるのかという問題が起きそうです。この問題は,共犯被疑者が後で証人になって,調書と違うことを証言したので刑訴法321条1項2号ただし書のいわゆる相対的特信情況が争点になる場面を考えると一番分かりやすいと思います。弁護人は証人に対して,検事の取調べはどうだったか,いろいろ聞くことができます。そこで何を言われても,検察官は反問できないことになりそうです。その状況は弁護人にとっては都合が良いかもしれないです。けれども,検察官や裁判官にとってそれは耐えられる状況でしょうか。第2の問題は,外形的な客観的な証拠の提出まで禁止することができるのかという問題です。それにはかなり抵抗があるのではないかと考えます。  さらにもう一つの問題は,検察官は出せないけれども,裁判所は職権で取り調べることができるのかという問題です。もし裁判所が職権で調べるとなると,そのために裁判所の中立性が疑われるので,難しい問題になるのではないかと思います。かといって,職権でも一切調べられないとすると,裁判所にとっては非常にもどかしい状況にならないでしょうか。  それを解決するために,小坂井案の規定をもっと絞り込んで,録音・録画義務違反があった場合に,問題となる取調べの状況について,典型的には捜査官が証言することを禁じることにしたらどうかというのが,4番目の案です。  元々取調べの録音・録画という議論は,自白の任意性が争われたときに,被告人が取調べの状況について供述して,それに対して捜査官が証言するといういわゆる水掛け論的な立証から脱却することを目指して出てきたものです。そうすると,その義務違反があったときに捜査官の証言を禁止するというのは,一番端的な対策になると思います。  このような制度は,今までの日本の制度の中にはないので,いささか奇異な感じを受ける,あるいは,非常に特殊なものではないかという感覚があるかと思います。これは理論的には証拠禁止の一種です。ここでは,録音・録画義務をきちんと履行していただくための担保として何が一番ふさわしいかを考える必要があります。そもそも録音・録画は何のためにするのかという出発点に立ち返ってみると,これはそれほどおかしい制度ではないのではないか。同時にこれは,信義則の観点からも説明ができると思います。つまり,自分で録音・録画を怠った者が「その代わりに私の言うことを信じてください」というのは,虫がよすぎるのだろうという考え方です。だから,それはできませんよとはっきりさせることによって,録音・録画義務をしっかり履行していただく担保になるのではないかという考え方です。  ということで,私は,一番良いのは,一律排除で,一番分かりやすいとも思うのですけれども,それでまとまらない,無理だということになれば,私のメモの第2「2」の(4)取調官証言の禁止というのが良いのではないかという意見です。 ○井上分科会長 後藤委員のメモを読ませていただいたのですけれども,一律証拠排除について,それは行き過ぎではないかという反対があったというふうに書かれておられますが,それより更に根本的には,理論的に筋が通るのかという疑問があったのだと思います。そのほかの自白の排除は,任意性が疑わしいことを理由にする場合もあれば,違法な手続によって得られたことを理由にする場合もありますが,このいずれについても,広く共有されている理論的根拠がある。それと整合するのかというところが根本的な問題として指摘されていたわけです。そして,そういう問題を伴わないのは,恐らく立証制限という方策であり,証拠排除とは違う理屈付けになる。しかし,これについても,その制限の結果,任意性の立証ができなくて,結局のところ自白が証拠として使えなくなるという意味では同じで,それは過当だとすると,証拠排除であろうと立証制限であろうと同じ問題ではないか,という反対論になるのだろうと思います。  また,立証制限というのも,ここで後藤委員が取り上げられている案だけではなくて,録音・録画を義務付けられている場合には,録音・録画の媒体をまず調べなければ任意性の判断はできませんという形など,異なる案もあり得るのではないかと思います。 ○後藤委員 それは小坂井案とは違うのですか。 ○井上分科会長 小坂井案とはやや違っているのではないでしょうか。  また,最後のところの捜査官の証言禁止というのは一つのアイデアだとは思うのですけれども,これについても,理論的な説明が付くのかという疑問が感じられます。録音・録画を義務付けるのは,それによって取調べ状況を客観的に確認しようという趣旨によるものだとすると,その録音・録画によらなければその点を確認できないこととするという帰結は論理的にストレートに出てくるのですけれども,それとは違う証拠方法の使用に制限を掛けるということが論理的に説明できるのかということです。後藤委員の御説明だけでは,理論的に不十分ではないかと思います。 ○小坂井幹事 私も,後藤委員のメモを見ながらいろいろ考えてきたのですが,まだ結論めいたものはちょっと出せていない状態です。確かに後藤委員から御紹介いただいているように,私が前に出した案は後藤委員のメモの(3)案にのっとっているわけです。これに関しては,後藤委員が指摘するような難点があり得るかとも思えるわけです。これは刑事訴訟規則第198条の4を強化しようという前提での規定なわけですが,例えば取調べ等の状況という部分を取調べの中身だけに限定するようなくくりを入れれば,場合によったら外形的な状況での矛盾点のようなものについてはクリアできるかもしれない。ですので,立証対象を絞るという形の方法はあり得るかと思います。それが後藤委員の御指摘を全てクリアできているかどうかはちょっと分かりませんけれども,そういう方法もあるのではないかと思います。  もう一つの方法は,録音・録画記録媒体について,例えば韓国の第312条のように,その他客観的な方法のようなものをプラスアルファするようなことも考えられないわけではないような気がするのです。それは確かに,逆にいいますと,客観的方法の外縁を定めるのが実務上ではなかなか難しいので,どちらかといえば,取調べ等の状況という部分をより限定する形の方策をとれば,まだこの(3)案も有意義ではないかという気がします。  他方で後藤委員の(4)案なのですが,これは私の理解からすると,正に(3)案に含まれている。それを表から言うか,裏から言うかという感じがするわけです。そういう意味では一義的に明確は明確だし,最低限の要請という意味では(4)案が分科会長が言われるほどには何か説明が難しい案ではないのではないか。まず最初に奇異な印象をぱっと受けられるということについては分からないわけではないですけれども,これを詰めていきますと,確かに,自分でテープ録音をしなかった義務違反をした者が,自らテープレコーダーの代わりなどはできないという,禁反言と言ってよいのかどうか,一種のそういう規定だと読めるわけです。これはこれで非常に分かりやすいし,こちらは実務家だから,こだわりが少ないのかもしれませんが,割とすんなりいくところがあるのではないかと思います。  それと,別に私は(4)案と決めているわけではなくて,(3)案にまだまだ固執したいところがありますから,そこはちょっと考えたいのですが,前回,例えば川出幹事が,立証制限案というのは結局一律排除と同じ結論になってしまって不当だということをおっしゃって,プロセスが違うからという議論があったと思うのですけれども,例えば(3)案を今私が申し上げたような形で限定していく案とか,あるいは今回の後藤委員の(4)案とかになってきますと,これはこれで確かに一律排除に比べると相当柔軟な結論が導ける要素がある。ですので,それはそれで一定の考え方に立っても採り得る要素があるのではないかと思います。  例えば,前回の最後ですか,後藤委員がこの取調官の禁止の話をされたときに,岩尾元幹事が後藤委員に,被告人質問はどうなるのですかという質問をされたという経緯があったと思うのです。あのときには,被告人質問では任意性の立証はなかなか難しいだろうという議論が一方ではあったわけですけれども,現実の実務で言わせていただければ,被告人質問で任意性の立証を終えているケースはそう珍しいことではないので,恐らく,被告人質問ができるのだったら,任意性の立証は今まではできているという含みがあってお聞きになったのではないかと私は思っているのです。ただ,そういう立証が正しいかどうかの議論は今後もちろんあるので,そういう問題はありますが,要は,より柔軟な結論が導かれるという意味で,私は(4)案は(3)案に含まれるもの,最低限の要請という意味では,支持したいと思っています。 ○井上分科会長 私は,理論的な筋が通っているかという観点からは納得できませんけれども。 ○髙橋幹事 録音・録画の義務履行を担保するという意味で何らかの効果規定を設けるべきではないかというのは,我々もこれまで言ってきたことですし,今回の後藤委員が出された提案は,なかなか精力的にお考えになっておられるので,これを踏まえて今後検討したいと思っているのですが,その関係でちょっと幾つか質問があるのです。  まず,後藤委員のメモの第1の(2)の「条件付き排除」のところで,取調べの公正さが疑われる場合には,証拠能力を否定するとして,これはイギリス法の裁量的排除に近い考え方ということで示されているのですが,恐らく義務違反といっても,捜査官としてはこれは例外に当たるだろうと思っていたけれども,裁判所の判断がそうではなかったというものから,故意的に,例外には当たらないのは明白だがこれはもう絶対に録音・録画はしないという悪意に満ちた形で違反するような場合もあって,いろいろ幅があるのですけれども,どこで線引きをされるという趣旨なのかというイメージがよく分からないというのが,まず1点目の質問です。  次に第2の(3)案なのですが,ここは二つありまして,まず下から6行目ですか,共犯者の供述の特信性の関係で検察官が立証できないのではないかといったお話がありましたけれども,これは,当該被告人ではなくて共犯者の方で録音・録画をしていなかった場合に,その共犯者の供述の証拠能力が争われた場合にも使えないということになるだろうという趣旨で設けられているのかどうか,それが2点目です。  それから,最後に3点目として,先ほど小坂井幹事も言われましたし,後藤委員も意識されているのでしょうけれども,取調べ等の状況を立証しようとするときは,記録した媒体を用いなければならないとしたときに,ある程度範囲を絞らないといけないのかなと思います。つまり,ほかの手段で立証を許すのが相当な場合もあり得るのではないかと思います。例えば,後藤委員の例示で挙げている,何時から何時まで取調べをしたと,不当に長期間に,あるいは深夜にわたって取調べをしたのだと被告人側が主張したときに,それは録音・録画媒体というよりは,被疑者の留置場等の出入りの状況等,別のベストエビデンスがあるかもしれませんし,ほかの例では,例えば取調室に入る前に捜査官からこんな脅迫を受けたとか,殴られたとか,そういう主張がなされた場合というのは,取調室の録音・録画媒体がそもそも有効な立証手段でもないという場合がありますし,それから,次の例が本当にあり得るかどうか分からないのですけれども,例えば映っていない場面,机の下で足を蹴飛ばされたとか,そもそも録音・録画で立証するのが相当でないようなものがあるとしたら,ある程度絞っていかないと,この(3)案というのはなかなか運用として動かしにくいなと思うのですけれども,その辺りをどのように考えているのかという点です。 ○後藤委員 それは私に対する質問ですか。 ○井上分科会長 後藤委員の案の趣旨を明らかにしたいという御質問だと思います。 ○後藤委員 (3)案については,小坂井案ですので,小坂井幹事に聞いていただいた方が良いと思いますが。 ○井上分科会長 では,後藤委員の案に関する点にお答えください。 ○後藤委員 まず,最初の条件付き排除の基準は何かという点です。正にそこが難しいので,一応の案をメモには書いているものの,この種の抽象的な要件を定めても,結局は裁判所に判断を任せすることにならざるを得ないと思うのです。 ○井上分科会長 イギリスの場合は裁量的排除ですので,そういうことなのでしょう。 ○後藤委員 イギリスの条文と全く同じではないのですけれども,裁判所としては使いにくいのではないかと考えて,結局私は採用していないわけです。もし何か適切な基準設定があり得るなら,この案にも可能性があるかもしれないですけれども。  2番目の問題は,録音・録画の範囲を参考人取調べにまで広げるかどうかとも関係します。一応今は被疑者取調べだけを前提にすると,共犯被疑者が後で証人になるという場面があります。その結果,刑訴法321条1項2号後段書面の採否が問題になる場面は,小坂井案も想定しているし,私の案でも想定しています。その場合にも同じ規定が適用されることになります。端的に言うと,私の案では,相対的特信情況が問題になったけれど,録音・録画すべきだったのにしていなかったときには,その取調べ検事が来て,「適切に取り調べました」と証言することができなくなるということです。 ○上冨幹事 具体的な案をお示しいただいているので,その関係で私からも何点か教えていただきたいことがございます。これまでの御説明だと,この御提案の(4)案というのは,単に検察官の立証を制約するというよりは,裁判官の判断,証拠禁止として裁判官の事実認定を制約する案だと理解しましたので,それを前提として御質問しますが,その限度で裁判官の自由心証を制約するという制度なのだろうと思うのですけれども,それは取調官という人の供述を証人として調べると,自由心証によって到達するであろう心証が誤ってしまうので,それを排除するということでしょうか。例えば,任意性のない自白であればそのようなことになるのかもしれませんけれども,自由心証を制約してまで取調官の証言という証拠方法を排除しなければいけないというのはどういう理屈から成っているのかという点に疑問があります。政策的なものだという一言で終わってしまうのかもしれないのですけれども,もう一つ何かそこに御説明があるのではないかという感じがいたしますので,もし何かお考えがあれば,教えていただきたいと思います。  また,先ほども出ていましたけれども,客観的な状況,例えば取調べを何時までやったかといったことについては,(3)案の難点としても御指摘いただいていますけれども,それは例えば取調べ状況等報告書で立証することもできるのではないかということなのですが,同じことをなぜ取調官の証言で立証してはいけないのかがよく分からないのです。同じ事実を立証する,しかも取調べ状況等報告書の作成者は普通は取調官ですから,同じ人の供述が証言なのか紙なのかによって,なぜ立証が許されたり許されなかったりするという結論になるのかが,私にはもう一つ理解できないところです。そこの点について何か整合的な御説明があるのであれば,教えていただきたいということです。  それからもう1点,(4)案は「録音・録画義務に違反したときは」ということで作られていますけれども,録音・録画義務に違反したかどうか自体が争いになるということは当然あるわけで,その立証には捜査官の証言は使えるというのが前提なのだろうと思うのです。そうすると,その証人の取調べをした結果,その中で取調べ状況についての証言もあって,心証としては,義務違反はあるけれども,任意性には問題ないという心証に至ったとしても,証拠禁止なので,そこはそういう認定をしてはいけないという制度を構築するという御提案なのかということも併せて教えていただければと思います。 ○後藤委員 まず第1点の自由心証主義との関係です。これは自由心証主義という概念をどういう意味で使うかにもかかわります。私の理解では,証拠能力の制限は自由心証主義の問題ではなくて,証拠能力があって取り調べた証拠をどう評価するかというのが自由心証主義の問題だと思います。ですから,むしろここで言うならば,実体的真実主義という言葉の方が当たると思います。捜査官証言という証拠を使えないことによって,真実が明らかにできないという場面が生じるのではないかということだと思うのです。確かにその問題はあり得ます。 ○井上分科会長 上冨幹事が言われているのは,任意性を裏付ける事実についての心証の話であって,実体的な事実についてということではないのではないですか。訴訟法上の事実についての心証ということを言われているのでしょう。 ○後藤委員 でも,問題は,同じことですね。 ○井上分科会長 同じことではないと思います。最終的な犯罪事実についての心証は,今,後藤委員が言われたとおりなのだけれども,信用性あるいは任意性を裏付ける事実についてのところも自由心証ではないのかということを言われているのだと思いますが。 ○後藤委員 それは手続法的事実についての実体的真実主義の問題ですね。 ○井上分科会長 実体的真実かどうかは別として,そこは自由心証だということなのでしょう。 ○後藤委員 これはある種の証拠禁止なので,その結果として事実が十分に明らかにならなくなるという効果は伴っていると思います。ここは比較考量の問題なので,そういう不都合が起きないように,しっかりと録音・録画義務を尽くしてくださいということになるのだと思います。  それから,紙の場合と証言の場合はどうかという御質問ですが,私の案は,厳密には」供述を用いることができない」と書いています。ですから,証言だけではなくて,報告書のようなものも含めて考えているわけです。では取調べ状況等報告書はどうなのかというと,これはちょっと難しいですけれども,私の理解では,現在,被疑者にも署名を求めているのではないでしょうか。普通はそうですね。だから,それは捜査官だけの報告書的なものとは区別して使うことができるのではないかという理解です。  それからもう一つ,録音・録画義務の違反があるかどうかということを判断するところでは,捜査官証言を使わざるを得ないのではないかという御指摘については,確かにその問題はあると思います。だからこそ,例外規定はなるべく明確で紛れがないようなものにする方が良いというところにつながると思います。 ○井上分科会長 2番目の問題は,恐らく髙橋幹事の出された問題であって,どこまでをそれによって立証するか,あるいは立証してはいけないかということなのだろうと思うのです。ただ,後藤委員の(4)案でも,そこの範囲外のところについては,別に取調べ状況等報告書でもよいし,捜査官の供述でもよいわけでしょう。 ○後藤委員 そこの範囲というのは,例えば何の範囲ですか。 ○井上分科会長 取調室の中で何が起こったかということについては録音・録画義務の対象なので,それについては,後藤委員の案では,取調官が自ら公判廷に出てきてその状況について語ることを禁止するという案ですよね。しかし,取調室の外で何が起こったかとか,外形的に別の資料で確認できるところは,そもそも録音・録画の義務の対象にはなっていないわけでしょう。 ○後藤委員 外形的な記録があるわけですから,それを使えばよいわけです。 ○井上分科会長 ですから,髙橋幹事のようなお考えで整理すると,そもそも対象として外れるということなのではないでしょうか。 ○髙橋幹事 対象として外さないというか,むしろ,元々取調室内のことは録音・録画で立証してしかるべきだったのに,それができないという状況を導き出しているわけですよね。そもそも取調べの外の話とか,時間とか,外形的なことは元々録音・録画で立証してしかるべきことではないので,そこは別に制限が元々掛からないのではないかという趣旨なのです。 ○井上分科会長 そういう趣旨ですよね。 ○川出幹事 前回,この問題を議論した際に指摘がありましたように,一律な排除に比べると,(3)案の立証制限という形であれば,確かに,ある程度柔軟な対応ができますし,(4)案だと(3)案以上にそれができるというのは,そのとおりだと思います。ただ,実際に自白の任意性との関係で取調べの状況が問題になる場面というのは,先ほどから出ています取調べ時間がどうかといった外形的なものではなく,正に取調室の中でどのような取調べがなされたのかが争われる場合だと思うのです。そうしますと,この(4)案ですと,録音・録画義務の違反があれば,捜査官の供述を用いることはできないわけですから,おそらく,被告人が言ったことがそのまま認定されてしまうということになるのだろうと思います。そうすると,前回申し上げたことの繰り返しになりますが,結局,義務違反があれば,一律に自白調書に証拠能力が認められないことになってしまいますので,(4)を採っても同じ問題が起きるのではないかと思います。 ○井上分科会長 ですから,一律に排除するというのは適切でなく,適切でないと思われる場合を何らかの形で切り分けられるかどうかということなのでしょう。それを切り分けられないので,柔軟化すると,それに伴ってまた別の問題が生じる,ということになっている。結局のところ,選択の問題であり,録音・録画の趣旨を徹底させるためには何らかの形でシャットアウトするというところまで踏み切ることにした上で,不都合な部分を切り分けるという作業をするのか,それとも,そのようなドラスティックなことはそもそも妥当でないので,柔軟な形で対応することにして,その中で妥当な対処を図るべきなのか,どちらかだということなのではないでしょうか。 ○小坂井幹事 ちょっと幾つかアトランダムな発言になってしまうかもしれませんけれども,髙橋幹事が質問されたことの幾つかの中で取調室外の問題が少しあったのですけれども,例えばこれは取調べとは何ぞやという議論に結局戻ってくるところがあるような気がしまして,取調室外でも取調べをやることはあり得るわけです。そうすると,正に先ほどの議論に戻ってしまって,それは最低限録音機器は設置すべきだということもケースによってはあり得る。取調べというものをどう捉えるかです。ですから,それは間違いなく義務の対象外ですというくくりで出発することが無前提にできるわけではないような気がしています。ですので,そこはちょっと考える必要があるのではないかという感じがしました。  それと後は撮影の死角の問題です。これは正に今のアングルで良いかどうかということもあるわけですけれども,少なくとも今のアングルだったら,机の下で蹴っているかどうかは一応分かるシステムだろうとは思います。だから,そこはそういうレベルの問題なのではないかという印象を持ちました。  それと,もう繰り返し出ていることですけれども,外形的・客観的な状況については,確かに(3)であれ何であれ,それは別枠ですという形の条文化なり,テクニカルにはいろいろ難しい問題はあるのかもしれませんが,それは可能だと思われます。ですので,そこはそういう形でクリアできる問題なのではないかと思いました。  それと,上冨幹事のおっしゃったことですけれども,先ほども申し上げたとおり,私は,義務違反をした者がテープレコーダーの代わりはできないというのは,極めて分かりやすいという感じがするのですが,そこはそういうことではないのでしょうか。それで,正に後藤委員がおっしゃったように,例外事由をどう定めるかによって正に立証の仕方が違ってくる。ですので,私は正直申し上げると,取調官がわざわざ出てきて例外事由うんぬんを言うような場面はそう今までイメージしてきていないのです。仮に万が一あるとしても,それはもっともっと客観的な事象に関してやるものなので,そこで中身についての心証まで丸ごと採るといった,それは正に要証事実が何かということを限定した上で証人は採用されるわけですから,それは御懸念のようなことに必ずしもならないのではないかと思います。つまり,例外事由をきちんと一義的に定めれば,それでクリアできる問題なのではないかという感じが実務的感覚ではないかと思います。  1点だけ分科会長に御質問なのですが,先ほど録音・録画の媒体でなければ立証できないという制度について,後藤委員が「それは小坂井案ですかね」と言ったら,「それはやや違うのではないか」とおっしゃったのですが,どう違うのですか。 ○井上分科会長 小坂井幹事の案は膨らんでいますよね。ただ,任意性の立証については,録音・録画義務がある場合には,それをまず取り調べなければならないという一点に絞れば,それは小坂井案に含まれている。 ○小坂井幹事 含まれていますね。 ○井上分科会長 その限りではそうだと思うのですけれども。それと,小坂井幹事は,御自身の案が後藤委員の案の裏返しだと言われたのだけれども,裏返しとは当然には言えない。実際的な観点からするとそう見えるのかもしれないのですが,先ほども申したように,後藤案は論理的に飛んでいるところがあるので,その意味で私には奇異に感じられるということなのです。 ○後藤委員 先ほど髙橋幹事が,外形的な状況はどうかというのを,私は(3)案に対する質問ではないかと言ったのですが,確かに(4)案についても当てはまる質問なのだと思います。それはつまり取調べの状況という意味をどのように考えるかに帰着するかと思います。 ○井上分科会長 録音・録画によって確かめるべきことの範囲をどのように明確に切り分けるのか,そこが御懸念だったわけですよね。だから,切り分けられるとすれば,その範囲外のところはそれ以外の方法でも,あるいは捜査官等の供述でも立証してよいわけでしょう。そこはそのように整理できるのだろうと思います。この点については,このぐらいにしたいと思います。  それでは,次に,「第2」の制度案について,御議論いただきたいと思います。「たたき台」として,この制度概要の内容が適切かについて,御意見等がある方は御発言を願いたいと思います。 ○露木幹事 前回に特別に加えることはないのですが,ただ,この間の部会での議論も聞いていて,この「第2」の制度案が元々基本構想で取調官の裁量に委ねるものとする制度と位置付けられたことから来る印象なのかもしれませんけれども,取調官の自由裁量で,その恣意的な運用を許すものだという決め付けたような御意見もあったものですから,今回,この分科会では,私どもは努力義務というものを新たに提案させていただいて,一応法律上の位置付けをするということにしておりますので,自由裁量でももちろんありませんし,恣意的な運用を許すというものでもないということは,これはもう明らかになっているのだと思います。特に,この制度概要の「4」のところを見ていただくと分かるとおり,被疑者の供述が任意にされたものであることを明らかにするため,録音・録画をするよう努めなければならないということでありますので,捜査上特段の支障がないにもかかわらずその努力を尽くさず,結果として任意にされたものであることが明らかでないと裁判所に認定されれば,この4項の努力義務違反として,自白調書の任意性が否定されるということももちろんあり得ると思いますし,それが捜査機関の悪意によるものであるという場合には,公務員法上の信用失墜行為として懲戒処分などの制裁もあり得ると思いますので,そう勝手気ままな運用を許すものではないということは言えるのではないかと思います。  また,先ほどの「第1」の制度案の実効性の担保として,証拠能力の制限とか立証制限の議論がございましたが,私どもから見れば,例えば供述拒否権告知の義務違反があったときに,直ちに自白の任意性が否定されるわけでももちろんないですし,そういうこととの均衡を考えたときに,そういう効果が生じ得るような「第1」の制度案の仕組みであるとすると,それには賛成し難いというのもあって,努力義務の場合にはそういう問題はもちろん生じないわけですので,そういう意味でも「第2」の制度案の方が良いという気持ちを更に強くしたというところであります。 ○上冨幹事 今日の議論でも,録音・録画義務の例外事由をうまく作れるかどうかというところについて,議論がなかなか収束しないというか,基本的な考え方も含めて,意見の隔たりがかなりあるわけです。「第2」の制度案というのは,「第1」の制度案できちんとした例外が制度として作れるのかどうかとの見合いですから,なお第2案を検討していく余地というのは残っているのだろうと思っておりまして,今の制度概要を前提として部会に上げていくということが適切なのだろうと思っています。 ○井上分科会長 ほかの方はいかがでしょうか。  結局,ここのところは,先ほど私が申した実質論,こういう場合は例外とすべきではないか,例外とするのが適切ではないかという問題と,それが肯定された場合に,それを明確に要件化できるかという問題があり,後者の点で,それを明確に要件化することができないとすると,結局第1案にはよれないので,第2案しかないというのが,第2案の基本的考え方なのだろうと思うのです。無論,その前提となる,こういう場合には録音・録画義務の例外とすべきだという実質論のところで,そんなのは例外にならないという前提に立ってしまえば,それとは正反対の意見になってしまうのでしょう。  更に付け加えて御議論がありますでしょうか。なければ,先に進ませていただいてよろしいでしょうか。それでは,「取調べの録音・録画制度」についての議論はここまでとさせていただきたいと思います。  次に,「刑の減免制度,捜査・公判協力型協議・合意制度,刑事免責制度」のうち,まず「刑の減免制度」についての議論に入りたいと思います。特別部会の資料63に加筆修正が行われたものが資料13-1として配布されていますので,まずは,主な変更点について,事務当局から説明をしてもらいます。 ○吉川幹事 御説明いたします。資料13-1でございますが,「考えられる制度の概要」は特別部会の資料63から変更はありませんが,「検討課題」につきまして,本日の議論に資するよう若干の加筆修正をしておりますので,その点について御説明いたします。  検討課題1の「刑の減免事由」につきましては,まず「犯罪事実を明らかにするために欠くことのできない(行為)をした場合」との規定ぶりにつきまして,より明確な規定の仕方は考えられないか,ということが従来から検討課題とされてきましたが,この点に関しては御意見が示されていないところでございます。そのため,本日の議論に資するよう,より明確化した別の案として記載しているのが,「例えば」ということで,「自己(他人)の犯罪について,捜査機関に知られていない事実であって当該犯罪の証明のため重要なものを供述してその犯罪事実を明らかにした場合」という記載でございます。つまり,従来の「犯罪事実を明らかにするために欠くことのできない(行為)をした場合」という規定をより分析的に考えてみますと,それは,「当該犯罪事実についての嫌疑があったとしても,その嫌疑が弱い状況におきまして,供述者が,捜査機関に知られていない事実であって当該犯罪の証明のために重要な事実を含めて供述して,それによって,当該犯罪事実が明らかとなったような場合」と考えることができるのではないかと考えたところでございます。そして,そのような場合は,当該犯罪事実を明らかにするために重要な貢献・寄与をしたと評価でき,制度趣旨とも合致すると思われますので,このような観点から別案を記載させていただきました。  次に,「他人の犯罪事実」の範囲につきましては,その範囲に限定を加えるとした場合に,その限定の在り方が検討課題とされてきましたが,この点に関してもこれまでに具体的な御意見が示されていないところでございます。そこで,本日の議論に資するよう,これまでの当分科会での議論を踏まえて,「罪を犯した者の犯罪事実と他人の犯罪事実とが相互に関連するものに限定する」という観点から,相互に関連するものとして,①から⑤までの関係を記載させていただきました。  具体的には,①の「共犯関係又はこれに準ずる関係」というのは,共同正犯となる関係,正犯と教唆犯,幇助犯の関係,あるいは,いわゆる必要的共犯となる罪をともに犯す関係などを念頭に置いております。  ②の「一方が他方の罪証隠滅等をすることを内容とする関係」は,本犯とその犯人蔵匿や証拠隠滅の関係などを念頭に置いております。  ③の「犯行の対象となる人や物等を共通にする関係」は,具体的には,詐欺と組織に対する犯罪収益等隠匿の関係や,未成年者略取と被略取者引渡しの関係などを念頭に置いております。  さらに,④の「一連の犯行計画に基づいて実行された関係」とは,同様の文言をもって規定されている通信傍受法第3条第1項第2号ロと同様に,例えば,組織間の抗争において一連の犯行計画に基づいて複数の犯罪行為が行われたような場合を念頭に置いたものでございます。  もう一つ,⑤「その他」を記載させていただきました。  このような案も踏まえた上で御検討いただきたいと思っております。  御説明は以上です。 ○井上分科会長 それでは,まず検討課題「1」の「刑の減免事由」について議論を行います。御意見等のある方は,御発言をお願いいたします。 ○川出幹事 一つ質問があるのですが,今回,(2)のところで,「他人の犯罪事実」の範囲を限定するとした場合のいくつかの類型を提示されています。前に問題になっていた,振り込め詐欺の組織内に別々のグループがあって,そのうちの一つのグループに属する者が,他のグループがやっていることについて供述するといった場合は,このうちのどれに当たることになるのでしょうか。 ○吉川幹事 そのような場合を含めるか否かという点も含めて御議論いただきたいと思っておりますが,基本的には,お示しした①から④の関係の中には,そのような場合は入っていないという整理でございます。あえて入れるとするならば,⑤「その他」に入ると考えることはできると思います。 ○上冨幹事 「1」の(1)の関係ですが,部会に「たたき台」を提出するという観点からすると,刑の減免事由をより明確化できないかということで,今回別案として出ている案は,一つ検討対象になり得る案なのだろうと思います。従前の制度概要で「欠くことのできない供述」と,言わば後から見て,それが欠くことができなかったかという,かなり評価的な書き方をしていたのに比べると,別案の方が,「捜査機関に知られていない事実」といった自首の規定からも持ってこられるような書きぶりも入っていますし,一つ一つ判断していくのに,よりふさわしい案として,とりあえず「たたき台」としてはこのような案にした方が議論がしやすいかと思います。実際にどんなことを想定してこの制度を作るのかという意味でも,この案の方が議論がしやすいのではないかと思います。  それから,「1」の(2)の「他人の犯罪事実」の範囲というのも,「他人の犯罪事実」として,たまたま知っていた何の関係もない他人の犯罪事実まで含めるのかという御指摘が以前ありましたが,その御指摘はやはり踏まえる必要があると思いますし,行為者本人の犯罪と何らかの関係があるものに限定するという観点は必要なのだろうと思います。その上で,この①~⑤という切り取り方が唯一のものかどうかは更に部会で議論していただくにしても,こういったものをターゲットにするのだということを明示する意味で,一つ案としてこのような案を示した方が部会での議論が具体的なものになると思いますので,そうしていただいた方が良いかと思います。  実際,一つ一つは申し上げませんが,こういった関係のある事件というのは,多分広い意味では一体のものとして捜査もされることが多いでしょうし,その意味で解明の必要性という点で,この制度の必要性や合理性を根拠付けることにもなるのではないかと思っています。 ○髙橋幹事 一つ確認なのですが,「犯罪事実を明らかにした場合」という,その犯罪事実なのですけれども,例えば分かりやすいのは,犯人性あるいは犯行への関与という点について,供述によって犯罪事実を明らかにするというのは分かるのですけれども,いろいろ考えていくと,主観的要素が問題となる場合,例えば,ひとまず傷害でしょっぴいたのですけれども,被疑者の話を聞いていたら,殺意が認められるようなことになって,結局,殺人未遂で起訴がなされた場合,これは自分の犯罪の場合を想定しているのですけれども,そういう場合に,被告人の供述によって,捜査官もこれは殺意ありだろうということが固く認定できたので,それで起訴に持ち込んだときも「明らかにした」に該当するのですか。 ○吉川幹事 これも議論していただく前提ではあるのですけれども,要するに,当該認定された犯罪というもの自体が認定できないような状況で当該供述がなされて,それによって,当該認定された犯罪自体が認定されることとなったような場合は,「その犯罪事実を明らかにした」という要件に当たるのだろうと思っています。もっとも,さらに,「当該犯罪の証明のため重要なものを供述」することも要件とされていますので,この要件との関係では,今髙橋幹事がお示しされたような事例が,正にこの減免事由に当たるかどうかということについては,ケース・バイ・ケースだろうとは思います。 ○髙橋幹事 ありがとうございます。こういう質問をしたのは,以前,法務省の幹事の方が,この問題が争われることはそれほどないのではないか,立証の場面で裁判手続が重たくなるということは余りないのではないかといった趣旨のお話をされたのですが,そうすると,例えば自白事件で,弁護側としては,被告人がしゃべったから,これは殺人未遂で起訴できたのだろう,だからこれは減免事由になるべきなのだといった主張をされたときに,検察官としては,いやいや,ほかの証拠,凶器の形状あるいは刺し傷の多さとかでそもそも殺意は立件できただろうと思っていたような場合,それにはおいそれと乗れないわけです。そういう意味で,自白事件でも,何か弁護人の主張によっては一応争点になるような場合がある程度出てきてしまうのかなどというイメージもちょっと持ったりしているのですけれども,その辺りはどうなのですか。 ○吉川幹事 制度を作ると,争点にはもちろんなり得るのでしょうけれども,おっしゃるような認定自体が困難になるような事態というのはそうそうないのではないかと思います。今回,例としてお示しした案は,自首について判断ができるのであれば,同じように判断できるのではないかといった前提でお示しさせていただいているということでございます。 ○井上分科会長 ほかの方はいかがでしょうか。 ○川出幹事 今の点ですが,そうすると,この「当該犯罪のため重要なものを供述して」というのは,ある程度捜査機関側で分かっていた事実をより具体化するようなものでは駄目だという趣旨と理解してよろしいのでしょうか。 ○吉川幹事 ここに例としてお示しした案は,まさにそういう趣旨でございます。 ○小坂井幹事 基本的にこの制度は引っ張り込みの危険があるということを繰り返し申し上げているわけで,検討課題から外れてしまって恐縮なのですが,「たたき台」として出される以上はやはり全過程の録音・録画は必ず入れていただきたいと思っております。  それと,今議論になっている点は,これは実務的に,恐らくですが,仮にこの制度ができれば,弁護側はいろいろ主張することには当然なってくるだろうと思われますので,このくくりで良いのかどうかはちょっと直ちに何とも言えない。それと,罰則までは要らないのではないですかというのが率直な感想で,偽証罪で足りるレベルは偽証罪で足りるのではないかと思います。 ○上冨幹事 検討課題ではなくて,この制度概要を改めて見直して,何点かちょっと直した方が良いかと思う点がありますので,その点について申し上げます。  まず,現在,本犯者の行為について,「犯罪事実を明らかにするために欠くことのできない供述,証拠の提出その他の行為」となっているのですが,「証拠の提出」といっても,多分供述を伴わない証拠の提出というのは観念できなくて,ここにこういうものがあるので提出しますという話を当然伴うのだろうと思うのです。その意味では,減免事由を明確にするという先ほどの問題意識と同じ観点からすれば,「供述」と書いてしまってもさほど問題はないのではないかと思います。特に「その他の行為」というのが何なのかというのを書き切るよりは,恐らく「供述」ということでくくっても,対象とすべき行為を過不足なく捉えられるのではないかと思いますので,そこはそれでよいのではないかと思います。  それから,「1」の自己負罪型も「2」の他人の犯罪の方も,①~④まで考慮事情がいろいろ書いてあるのですが,ここはもうちょっと整理できるのではないかと思います。まず,両方に「当該行為をした時期及びその内容」という形で,当該行為,その協力行為の内容というのが考慮事情になっていますけれども,先ほど申し上げたように,もし別案を採るのであれば,行為の内容は割と明確に書かれることになるので,重ねて考慮事情とする必要はないかと思います。  それから,同じように「当該行為の時期」,それから「当該犯罪の軽重及び情状」というのは本人の事件の情状として当然考慮するべきことでして,現行規定上,自首でそういう考慮事情を書いていないのに当然考慮されていることとの関係を考えると,ここだけ明示的に書く必要があるだろうかという感じがします。  それから,「他人の犯罪事実」の関係だけで出てくる考慮事情で,③で「これらの犯罪の関連性」とありますが,これも別案のように関連性を最初から要件としてしまうのであれば,重ねて考慮事情にする必要はないかと思っています。  そのように考えると,自首では出てこない事情でもありますし,「他人の犯罪事実」の方の関係で,「自己及び他人の犯罪の軽重及び情状」という比較の問題だけは,考慮事情としてなお残るかと思っています。そうするとかなりすっきりとした形で制度概要の①ないし④の考慮事情を整理できるのではないかと思っています。  それともう1点ですが,これは全体の話なのかもしれませんが,「他人の犯罪事実を明らかにするための行為」の効果として,刑の減免があって,自己負罪の方の効果として刑の減軽が認められていることとは区別されているのですが,新しい制度でもありますし,少なくとも刑法総則の自首は,犯罪が発覚していない段階の自首でも減軽にとどまっていることを考えると,この制度でどうしてもあえて免除まで設けなければいけないかということではないのかとも思います。その意味で自己負罪の方とそろえて,刑の減軽の制度としてもよいのではないかと思います。 ○川出幹事 今の御発言の中に出てきた,「他人の犯罪事実」の範囲についてですが,私は,別案のように,関連性のあるものに限定するのが良いと思います。この刑の減免制度の根拠が政策的なものであるとすれば,関連性を要求しないという選択肢もあり得るわけですが,以前から指摘がなされていますように,全く無関係な犯罪事実まで「他人の犯罪事実」に含めますと,公判でそれについての審理をしなければならなくなるという問題が出てきます。これに対して,関連性を持つ犯罪事実に限定すれば,それは,被告人の公判において審理の対象となっている犯罪事実と関連するものですから,その延長線上で審理が可能であり,審理の範囲が無限定に広がるということはなくなります。それが,関連性のある犯罪事実に限定した方がよいと考える理由の一つです。  二つ目の理由として,この制度の有効性という点から見ても,先ほど上冨幹事がおっしゃったように,ある程度の関連性があり,一体として捜査が行われるようなものについてこういう制度を設けた方が,実効性があるだろうと思います。  三つ目として,元々の起訴された犯罪の被害者との関係でも,自分が被害を受けた犯罪と全く無関係な犯罪事実の解明に,被告人が協力したということでその刑が減軽されることについて納得を得るのは難しいだろうと思います。それに対して,関連する犯罪事実であれば,ある程度納得していただける場合もあるのではないかと思います。  最後に,四つ目としては,以前に,他人の犯罪事実の解明への協力をした場合に,免除まで認める根拠として,単に政策的なものだけではなくて,責任非難の減少ということもあるのだという話がありました。全く関係のない他人の犯罪事実の解明に協力したという場合,そのことが,自分が行った犯罪に関する責任非難を減少させるということはできないと思いますが,関連性のある犯罪であれば,恐らく,他人の犯罪事実について供述する際に,同時に自分が行ったことについても供述するということになるでしょうから,そこも含めた形で考えれば,責任非難の減少ということも基礎付けられると思います。ですから,もし,責任非難の減少ということも,刑の減免の根拠とするのであれば,その点からも,関連性を要求するのが妥当ではないかと思います。  その上で,先ほど質問をしました,一つの振り込め詐欺の組織の中で別々のグループが犯行を行っている場合に,他のグループが行った犯罪について供述した場合を減免の対象に含めるべきかという点ですが,制度の実効性,有効性という点から考えると,その場合も対象となるような形にした方が良いのではないかと思います。 ○井上分科会長 そうすると,それは「関連」というところの作り方ですよね。 ○川出幹事 そうですね。そのような場合が,検討課題に記載されている①~④に入らないというのであれば,⑤の「その他」の一つとして,それを含むような類型が作れるかどうかということだと思います。 ○井上分科会長 ほかの方はいかがでしょうか。  それでは,次に,検討課題「2」の「虚偽供述等に対する罰則」についても,御意見等のある方は,御発言をお願いします。 ○上冨幹事 私は,やはり罰則は設けるべきなのではないかと思っています。偽証罪でカバーできない部分がなお残るのは明らかですので,そのことと,やはりこの制度に対していわゆる引っ張り込みの危険があるという指摘がされていることを踏まえると,そういったことを排除するための手当てというのは制度的に設けておいた方が良いのだろうと思います。その上で,検討事項に書かれていることの関係ですが,この制度を利用して有利なことをしてもらおうというための嘘を避けよう,引っ張り込みを避けようというための罰則ですので,この検討課題に書いてあるような行為の目的といった何らかの主観的要件を付する必要があるのだろうと思います。  ただ,その目的を法的効果である刑の減軽だけに限ってしまうと,減軽までは求めるつもりはなくて,情状で有利に考慮してもらおうと思っていましたという否認が成立することとなり,それは不合理なので,有利な取扱いを受けるということも含めた目的にしておかないと,実効性のないことになるかと思います。  それから,先ほど私が申し上げた意見を前提とすれば,減軽事由に該当する行為を供述に絞るのであれば,対応する罰則も供述で足りるということになろうかと思いますし,その供述の相手方は誰でもよいということではなくて,裁判所や裁判官や捜査機関であることが必要なのだろうと思います。  あと,法定刑についてはなかなか難しいところですが,犯人蔵匿や証拠隠滅が現行法上2年以下の懲役と定められていて,特に他人の犯罪行為の場合には,第三者にも迷惑を掛ける危険性の高い行為ですし,元々こういう主観的要件で絞りを掛けている悪質なものということからすれば,それよりは重くてよいのだろうと思います。  他方,偽証罪と同じように10年以下の懲役とすべきかというと,宣誓までして証言しているというものと並ぶほどではないかと思いますし,虚偽供述に対する罰則は取調べで捜査機関から聞かれて答えたことも含めて対象になるとすれば,そこよりは低くすべきと思います。そこで,間を取ると,5年以下の懲役ぐらいの法定刑が良いという感じがしています。 ○後藤委員 今,上冨幹事がおっしゃった罰則の目的要件のところですが,そのように広げてしまうと,逆に本当に判断ができるのかという問題がありそうです。何か別の目的が積極的に立証されない限り,少なくとも潜在的にはそういうことを期待していただろうといった推論というのはほとんど常に成り立つような気もします。これが例えば協議・合意に基づいて供述したという場合であれば非常に明確になるわけですけれども,今言われたような拡大した目的規定でうまく機能するのかどうかはやや疑問です。 ○井上分科会長 機能というのは,限定機能を果たすかということでしょう。 ○後藤委員 はい,そうです。 ○井上分科会長 ほかに御意見はございませんでしょうか。それでは,この点についてはこのぐらいにさせていただきたいと思います。  次に,「捜査・公判協力型協議・合意制度」についての議論を行っていただきたいと思います。この制度につきましても,特別部会の資料63に加筆修正がなされたものが資料13一2として配布されていますので,主な変更点について御説明願います。 ○吉川幹事 若干説明させていただきます。資料13-2を御覧ください。特別部会の資料63からの変更点を中心に御説明します。  まず,「考えられる制度の概要」についてでございます。これまでの作業分科会での御議論等を踏まえまして,「3(3)」におきまして,「検察官が1(1)の合意に違反したときは,被告人が協議においてした他人の犯罪事実を明らかにするための供述及びその合意に基づいて得られた証拠は,原則として,これらを証拠とすることができないものとする」という,証拠の使用制限について記載いたしました。  次に,検討課題につきましては,前回の特別部会での御意見を踏まえまして,「2」(1)において,「協議手続における被疑者又は被告人の供述聴取の在り方等」を掲げ,○として,協議段階で被疑者・被告人から供述を聴取する手続は,通常の取調べと区別するか否かという点,そしてもう一つ,○として,合意が成立しなかった場合に協議段階での供述に使用制限を設けるかという点を記載いたしました。  また,「3」におきましては,「(1)合意からの離脱事由の在り方」,「(2)検察官による合意違反への対処」及び「(3)被疑者又は被告人による合意違反への対処」について,本日の議論に資するよう,その内容を具体的に記載いたしました。特に「3(3)」の虚偽供述等の処罰規定の在り方につきましては,これまでに明示的な御意見がありませんでしたので,犯罪構成要件及び法定刑の在り方の双方について御議論いただければと思います。  最後に,「4」の「対象犯罪」については,対象犯罪を限定することの要否に加えて,限定することとする場合であっても,その趣旨・目的や限定の方法について,更に具体的な議論を頂けるよう,それらの点を記載いたしました。  御説明は以上でございます ○井上分科会長 この制度につきましては,特に検討課題「2」から「4」までを中心に御議論いただければと思います。まず検討課題2について,いずれの点でも結構ですので,御意見等がございましたら,御発言をお願いします。特に「(1)協議手続における被疑者又は被告人の供述聴取の在り方等」について,御意見をいただければと思います。 ○川出幹事 (1)は,部会で,被疑者・被告人の供述聴取については,協議手続とは区別して取調べという形を採るべきではないかという意見があったことに対応したものだと思います。恐らく,そうした意見は,協議というのは検察官と弁護人の間で行われるものであって,被疑者・被告人はそこには関与しないといったイメージを前提としているのではないかと思います。確かに,例えば,アメリカの有罪答弁を前提とした自己負罪型の協議・合意であれば,要するに,起訴事実を認めるかどうかだけの話ですから,協議は弁護人と検察官だけでやればよいという話になるのかもしれませんけれども,ここで問題としている協議・合意制度はそうではないわけでして,他人の犯罪事実の解明のためにどういう協力ができるかといったことを含めて,被疑者・被告人に協議の場に出てきてもらって,直接,供述を聴取するということも必要になるだろうと思います。そうだとしますと,その聴取手続を協議手続と別のものとして,取調べとして行うというのは不自然ですので,それは,協議手続の一部として行うという形にするのが良いのではないかと思います。  仮に,そうではなく,被疑者・被告人からの供述の聴取は取調べの形をとらなければならないとしますと,例えば,合意が不成立の場合に,その取調べによって得られた供述の扱いがどうなるのかといった複雑な問題も出てきますので,その点からも,協議手続の一部として行うという形にするのが妥当だろうと思います。 ○後藤委員 私の意見は,今の川出幹事とは違う方向で,協議と取調べははっきり分けた方が良いのではないかということです。確かに,協議の中に被疑者自身が加わって,そこでいろいろやり取りがあってもよいと思いますけれども,そこは弁護人もいて,その三者で話し合うことにすべきだと思います。それと取調べとははっきり分けて,取調べとは録音・録画の対象になるので,協議とはまるで違うものです。なので,協議の結果一定の供述が得られるとなったら,そこで今度は協議に基づいた取調べに移るということで,はっきり区別するべきではないか。協議の過程で言ったことは一切証拠にしないということで区切る方が合理的であるという意見です。 ○川出幹事 私が申し上げたのは,協議の過程で被疑者・被告人から供述を聴取する手続は,取調べという形ではなくて,飽くまで協議手続の一部として行うべきだということでして,それとは別に通常の取調べを行うかどうかは別の問題です。恐らく協議をしている段階で通常の取調べを行うことはないのではないでしょうか。 ○上冨幹事 結論としては私も川出幹事と同じ意見なのですが,ここでイメージしている聴取というのは,検察官の立場からすれば,どんな協力ができるのかということについて,まず概括的なことは当然弁護人からお話があるのでしょうけれども,弁護人からの説明だけでは,言わばそれに乗れるかどうかの判断がつかないようなときに,協議の中で,実際のところどんな協力ができるのかということを被疑者又は被告人からも聞けるようにするか,それとも一切聞いてはいけないという仕組みにするかという話で,一切被疑者又は被告人から聞いてはいけなくて,もし聞きたければ別に取調べという場をもう一回設定しなければいけないといった融通の利かない手続にすると,協議自体が円滑に進まないのではないかという問題なのではないかと思うのです。したがって,協議の中で供述した内容が取調べと同じようなものかというと,そこは違っていて,飽くまで協議の一環として,被疑者自身からも話を聞けるようにしてもよいのではないかという意味で,私もそれに賛成です。その上で,そこには取調べとは違って弁護人も関与するでしょうし,弁護人が恐らく「いやいや,直接被疑者から話を聞いてもらっては困る」と協議の中でおっしゃるのであれば,それは現実には聞けないというだけの話なのではないかと思っています。 ○小坂井幹事 今の上冨幹事に対する質問あるいは川出幹事に対する質問になるのですが,ではそこで仮に供述が出てしまった場合,それは使えないということで良いのですね。 ○上冨幹事 次の検討課題と絡むのでしょうけれども,私は,合意が成立しなかった場合に,そこで話した内容は使えないということで,よいだろうと思っています。合意が成立した場合は,協議手続において話した内容と合意の結果話す内容は結局同じになるなので,そこに問題は多分生じないのだろうと思っています。 ○井上分科会長 協議手続における供述というのは,それ自体の性質は,こういうことを後に供述しますよという予定の主張のようなものでしょう。それを事後的にどのように利用できるかということは,論理的にはそういう性質とは区別して考えることもできるのですけれども,本来的にはそういう主張的な性質のものであり,その趣旨を貫徹すれば,そのようなものは証拠として利用することはできないと整理することもできなくはないということではないですか。 ○後藤委員 川出幹事がおっしゃったことが,上冨幹事がおっしゃったようなことであるとすれば,私の考えもそういうことです。そうすると,食い違ってはいないです。 ○井上分科会長 川出幹事が言われたのはそういうことなのでしょう。協議をするときに,協議の材料というか,弁護人が提供したものだけで検察官が納得できればよいけれども,それでは十分に分からない場合があり,被疑者等から直接聴取するとすれば,それは協議の一環と整理すべきということなのでしょう。 ○後藤委員 私の意見でも,それを被疑者から聞くことそれ自体はしてもよいです。でも,それは協議の一環であって,弁護人が立ち会うべきだということです。 ○井上分科会長 そういうことであれば,全く矛盾していないと思います。 ○上冨幹事 細かいことを言えば,弁護人が「私は席を外すので,勝手にやってください」と言ったときまで,被疑者又は被告人から聴取できないかというと,それは構わないのではないかと思いますけれども,基本的には弁護人の関与の下で行われるのだろうと思っています。 ○小坂井幹事 そこはむしろ,基本的にはというか,絶対に弁護人の関与は必要だと思うわけです。それで要は,もし私の理解がずれていれば申し訳ないのですけれども,協議開始までの取調べは全過程をきちんと録音・録画してもらう。その上で協議開始の場面があって,それは主に弁護人と検察官の間で行われ,もちろん被疑者が立ち会う場面があって,そこで何らかの主張が出る場面があるのはよいのですけれども,飽くまでもそれは合意後の履行の予定ですよね。ですから,それはパラレルに考えてよいかどうかは分からないけれども,今の公判前整理手続の予定主張がだんだん証拠扱いしないということで定められて,実務上も動いているように思われますけれども,そこはそういう区切りをきちんとした上で合意が成立すれば,その後はまた取調べの中できちんと約束を履行してもらって,録音・録画してもらうという仕組みになるような気がしているのですけれども。 ○井上分科会長 その前提のところの取調べの部分については,そういう場合は全てということになるかどうかは別論であり,録音・録画義務の対象となる取調べの範囲の問題として議論しなければならない問題だろうと思います。 ○露木幹事 直接,今御議論されている点ではないのですが,この制度概要の「4」の「合意が成立しなかった場合における証拠の使用制限」のところなのですけれども,供述は証拠とすることはできないとあって,直接証拠としては使用制限が掛かり,派生証拠は掛からないという整理なのだろうと思うのです。ただ,今,現場の捜査員などからもヒアリングなどをやっているのですが,この部分は,この制度を仮に作るとしたときに,デメリットが大きいのではないかという意見がかなり強い。これはこれまでも繰り返し申し上げてはいるのですが,例えば組員が,組長がここで拳銃を捨てましたとか,ここで死体を埋めましたとかという話を協議の中でして,その合意を成立させるかどうかという見極めのためには当然裏付け捜査をしないといけないだろうと思います。そして,そのとおり,拳銃が発見されました,死体が発見されましたというときに,派生証拠たる拳銃なりその死体なりは証拠たり得るとしても,合意が不成立の場合には供述部分が証拠として使えなくなってしまうということになりますと,この場合,組長の犯人性立証のために重要なのはその供述の部分であって,例えば死体なり拳銃からDNAの資料が出るとかということになれば別ですが,通常そういうことは期待できませんので,派生証拠の物の方だけ残っても,捜査としては非常に不都合がある。しかも,その後の取調べで同じ供述を得るということは事実上かなり難しいだろうと思いますので,そういう犯罪組織の場合には,そこを逆手にとっていろいろな協議を持ちかけて,そこであえてしゃべるということが想定されるということが,現場の捜査員の感覚としてそういう意見が出てきていますので,この証拠の使用制限については,ちょっといろいろ再検討していただかなければいけないのではないかというのが,今の私の感想であります。 ○上冨幹事 合意不成立の場合の証拠の使用制限の問題については,今御指摘のような問題点も含めて更に検討は必要だと思うのですけれども,他方,先ほどまでの議論でも出ていたことも踏まえて申し上げますと,協議の過程で話したことが,合意が成立しなくても全て証拠になってしまうと被疑者側から見たときには,結局合意が成立しなくても,協議の途中で示したものが検察官に利用されるとすれば,そもそもこの協議に入ること自体をちゅう躇するという動機付けにもなりかねないという面もあって,その意味で,どこでバランスをとるかという問題なのだろうと思います。今の案を前提にして,協議外のものはまた別とした上で,当該協議の中で話された供述そのものも証拠となるというのは厳しいかと思います。他方で,先ほどお話がありましたけれども,派生証拠まで一切禁止してしまうかというと,正に悪用というか,一旦協議で話してしまえば,そこから生じた証拠はおよそ使えなくなるということであれば,協議に入った以上,検察官はもう合意に至らない自由を失ってしまうに等しいということになるので,制度として余りにも偏ってしまうかと思っています。そこで,今の時点で「たたき台」として提示するものとしては,当該供述そのものの使用ができないという案とするのが適切ではないかと思っています。 ○井上分科会長 この点は,まだ御意見もあろうと思いますけれども,このぐらいでよろしいでしょうか。  次に,検討課題「3」と「4」について,どちらについてでも結構ですので,御意見がある方は,御発言をお願いいたします。 ○後藤委員 まず,「3」の中の検察官が合意に違反した場合の使用制限です。この案はそれ自体はもっともなような感じがするのですけれども,実際にこれをやろうとすると,幾つか問題が起きそうです。まず,一つは,この場合,被告人自身は別に権利侵害されていないのだけれども,排除の申立人適格を認めるという前提ですね。供述者が約束違反されたので,それを被告人が排除理由として主張できる適格を認めるという考え方に立っていますね。それ自体は間違いではないかもしれないけれども,一つの決断ですね。  もう一つは,この供述者が供述する前に検察官が先に条件を履行するような場合だったら分かりやすいのですけれども,実際には,供述してもらってから検察官は反対の義務を履行するという形を採る場合が多いのだろうと想像します。そうすると,供述を証拠から排除する機会があるでしょうか。仮に後から検察官に義務違反が起きても,供述者が証言した事件の判決が既に確定していたら,どうしようもないですね。今更排除することはできないし,仮にそれがまだ確定していないとしても,合意による供述者,つまり証言した人に対して検察官が義務違反をしたことが,証言された方の事件の当事者に分かるでしょうか。それが分かるという保証がありますか。たまたま分かる場合はあるでしょうけれど。 ○吉川幹事 また細かいところは詰めていただければと思いますけれども,検察官が合意違反すると,合意の当事者である被疑者・被告人というのは通常合意から離脱することになると思います。その離脱の方法については,基本的にはその理由を記載した書面を相手に交付して告知することが考えられるかと思っておりまして,それを前提にいたしますと,今回提示しております合意書面のみならず,離脱した場合において交付する書面も,合意の当事者である被告人の公判,そして後藤委員が御懸念の第三者の公判にも提出されるような仕組みを採ることが考えられるのではないかと思います。要するに,離脱した場合に,その離脱を示す書面がその第三者の公判にも提出されるような仕組みが考えられるのではないかと考えているところでございます。  そして,もう一点,第三者の判決が確定してしまった場合という御懸念もございましたが,基本的には,検察官が例えば被疑者との間で不起訴合意をしておいて,その上で第三者の犯罪に関する合意の履行を得たにもかかわらず,第三者の判決が確定した後に,当初の合意をひっくり返して,当該被疑者を起訴しますということは,基本的には想定されないだろうと考えております。あるいは,求刑合意におきましても,基本的には被疑者・被告人から供述を得た上で第三者の刑事事件の解明を進めるということになるのでしょうから,検察官が,合意の履行を受けたにもかかわらず,第三者の判決が確定した後に,合意に違反する求刑をすることは,時期的な点からも,基本的には想定されないと考えておりますが。 ○後藤委員 そうなのだと断言できるのだったら,こういうことを心配する必要はそもそもないのだろうと思うのですが。 ○井上分科会長 理論的な可能性としてないわけではないけれども,常識的に見て,考えられないのではないかという趣旨なのでしょう。 ○後藤委員 今,吉川幹事がおっしゃったような,後から起訴してしまったという事例だったら,それ自体を,公訴棄却してしまうという対応はあり得るのだと思います。けれども,証言された方の人にとっては,救済のしようがないことにはなると思います。   それとは別に,主として制度概要「1」(1)「ア」の合意の内容のところに関係して,前に私は,(1)アの(ア)と(イ)は常にセットですべきではないか,つまり証言の約束をしてもらうべきではないかということを申しました。それに対して,証言はしないけれども,情報をもらうということもあるのだという議論があったと思います。私の懸念をもう少し率直に申しますと,言わば取引的な共犯者供述を伝聞例外として全く反対尋問ができない形で使うのは避けるべきではないかということです。もっとはっきり言うと,悪く考えるので申し訳ないのですが,例えば法廷では証言を拒絶してもよいから,ともかく調書を作らせてくれといった合意を,さすがに露骨にそういうことは言わないとしても,暗黙のうちにそのような了解で調書を作って,その筋書きに従って法廷では証言を拒絶するとします。そうすると,今の解釈だとその供述調書が刑訴法321条1項2号前段によって当然採用できることになります。しかし,全く反対尋問の機会のない共犯者供述で,しかも取引的な供述なのに,それが有罪判決の根拠にされるということが起きてもよいかという疑問です。そうすると,合意に基づく供述は伝聞例外にしないで,法廷で堂々と証言してもらわないといけない作りにすべきではないかというのが私の意見です。 ○井上分科会長 そういう頭の中で想像して出てくるような事例の危険性と,公判廷以外のところでとるべき必要性とのどちらを優先させるのか。結局はそういう問題だと思うのです。 ○上冨幹事 今の点から申し上げますと,ある意味,非常に限定された懸念のために協議・合意制度そのものの射程を狭めてしまおうという御意見だと思うのです。つまり,公判での証言を前提としない捜査協力ということをそもそも協議・合意制度の射程から外してしまうという御提案になると思うのです。それはバランスの問題としていかがなものかという感じを受けております。  それから,この合意違反の場合の取扱いの問題については,まず先ほどの検察官の合意違反があった場合の証拠の使用制限の問題について申し上げます。先ほどもちょっとお話に出ていましたけれども,まず検察官が合意に違反したときの基本的な制裁というのは公訴棄却であり,合意の内容に類したものですので,検察官が合意に違反したとしても,相手方は合意を履行されたのと同じ効果が得られるという意味では,合意内容の問題はそれで済むということがまず前提にあるだと思います。つまり,不起訴合意があったのであれば,起訴されたとしても公訴棄却になるので,結果としては得られるものは得られてしまうというのがまず前提にあって,それに加えて証拠の使用制限をすることが必要かどうか,必要であればどの範囲かという問題なのだろうと思います。やはり,この場合も,協議の当事者になる被疑者・被告人の立場からすれば,安心して協議・合意に入って,真摯に協議・合意ができるためには,その合意違反があったときには,自分がした協力の結果を自分のためにも他の人のためにも使えないという制度とすることが制度の利用価値を高めることであって,合理的で有効だと思いますので,そういう政策的な意味で,そういう効果を与えるのはよいかと思います。  その上で,そのような証拠の使用制限とは別に,例えば検察官が当初から悪意を持って,守る気もないのに,合意をした上であえて合意違反をしたといった場面がもしあれば,そのときには多分別途一般法理で証拠排除の問題が生じてくるのだろうと思いますが,そのような一般法理による規律がなされることを排除する必要はないのだろうと思っています。 ○後藤委員 1点だけちょっと釈明します。私が前に申し上げた案は確かに合意の範囲を狭めるという案だったのですけれども,今日申し上げたのはそうではなくて,法廷外でだけしゃべるという行為はしてもよいという前提で,ただ,そうであれば,その供述を伝聞例外として使うのはやめるべきではないかということです。 ○井上分科会長 それは,あらゆる場合にということですか。 ○後藤委員 あらゆる場合とは例えばどのような場合ですか。 ○井上分科会長 ですから,後藤委員がおっしゃったような公判廷における証言を意図的に回避するような場合に限って伝聞例外を認めないというのではなく,あらゆる場合において伝聞例外を認めないという趣旨なのですか。 ○後藤委員 例えば,証言する約束もありましたという場合で,でも実際は証言を拒んだといった場合も含む趣旨です。 ○井上分科会長 証言をしなかった場合に,公判外の供述が証拠として出てくることがないようにするとのことですが,では,その供述をした者が死んでしまった場合はどうするのですか。 ○後藤委員 その場合は難しいです,確かに。率直に言えば,死んだ場合は伝聞例外として認めてもよいかという気がしないでもないですが。 ○井上分科会長 死ぬことを合意することはできませんよね。 ○後藤委員 ただ,今は証言拒絶も認めているので,非常に問題が多いです。 ○井上分科会長 そういう事態は,常識的にはちょっと考えられないように思うのですけれども,理屈の上では,後藤委員がおっしゃったようなことも生じ得るとして,しかし,そのような問題が生じた場合には,それへの対処法ないし論理というのは多分他にあり,それほど大きな問題ではないように思いますね。 ○小坂井幹事 対象犯罪というテーマにはもしかしたら全然そぐわないのかもしれないのですが,いわゆる引っ張り込みの危険が極めて高いということで,もし対象事件を限定するのであれば,協議前の取調べが全過程録音・録画されているものという形で,この対象は区切るべきではないかと思います。その限定する趣旨・目的は引っ張り込みの危険を防止するということでありますし,恩典付与の対象となる事件が正にその対象であるという理解をすべきではないかと思っています。仮に制度化するとすればです。 ○上冨幹事 具体的な案が出ていないということですので,虚偽供述の処罰規定について申し上げますと,今御指摘のあった引っ張り込みの危険に対する対処という意味でも,それから最終的にはこの制度の信頼性を確保する意味でも,虚偽供述に対する罰則は設けるべきなのだろうと思います。そこで対象とするのは,多分合意に係る行為をする場面で,他人の犯罪事実について嘘を言ったといったことを捉えて犯罪化するということになるのかと思っています。法定刑については,先ほどの刑の減免制度の際のお話と似たような話で,証拠隠滅罪や偽証罪との並びなどを考えると,5年以下の懲役というところが一つの線になるかと思っています。  それから,「4」の「対象犯罪」については,多分,恩典を提示する対象となる犯罪の問題と,解明すべき対象となる犯罪の問題と,二つの面があって,それぞれについて限定する必要があるのか,あるとすればどういう理由でそれを限定するのかということを考えていく必要があるだろうと思います。多分この基本となる制度をどのように組むかを前提として,そのような制度の射程としてどのように決めていくのかということになろうかと思うので,まずは今の制度概要案を前提に部会で御議論いただいて,その上で更に対象犯罪のことについても御議論いただくこととせざるを得ないかと思っています。 ○井上分科会長 解明すべき対象となる犯罪の方は制度の必要性とか有用性の話ですね。それに対して,恩典を与えるべき対象となる犯罪の方は,国民の眼から見て,抵抗感があるかどうか,抵抗が強いかどうかが一つの視点に恐らくなるのだろうと思うのです。例えば,個人的法益を侵害する罪で被害者がいて,特に亡くなっている場合などは後者の点からは対象とすることには抵抗感が強いですよね。その両面に配慮しながら,更に突っ込んで議論していく必要があると思いますね。 ○上冨幹事 離脱事由の在り方についての点なのですが,合意違反があった場合に双方の相手方当事者が離脱できるというのは基本として,合意違反がなくても離脱できる場合というのが多分あり得ると思いますので,それも考えておいた方が良いと思っています。  一つは,被告人側から見たときに,検察官は合意どおり不起訴にしたのだけれども,検察審査会が起訴したとか,あるいは略式命令や即決裁判の請求をしたけれども,裁判所の容れるところにならなかったとか,求刑合意の問題とか,合意を対象に含めるかどうかの議論とは別に,仮に含めるとした場合に,当事者の両方が見込み違いをして結果として違うことになったという場合にも,被告人の側からすれば,離脱を認めてしかるべきということになるかと思います。  一方,検察官の側からすると,合意違反とは言えないのだけれども,例えば協議の過程で協力すると言っていた内容自体がそもそも嘘だったとか,あるいは合意どおり話をしたけれども,あるいは合意どおり証拠物を提出したけれども,その証拠物が偽造の証拠物だったとか,合意の前提となる部分にそもそも瑕疵があったような場合というのは,形式的に合意どおりの行為がなされていたとしても,なお検察官側に離脱を認める余地があり得るのではないかと思っていて,制度を組んでいく上では,そういったことも検討した上で可能な範囲で盛り込んでいった方が良いかと思っています。 ○吉川幹事 ちょっと議論を戻してしまうのですが,先ほど後藤委員の方で,検察官調書の伝聞例外の適用を排除するという方向のお話を頂いたと思うのですけれども,そもそも協議に基づいて録取された供述調書自体の信用性が一般的に他の供述調書と比べて低いわけでもございませんし,かつ供述調書というのは基本的に公判において立証することを前提として作られているので,合意に基づいて録取された調書が公判廷に出ないことを前提とするような制度というのは,果たして理屈に合うのかというところが,少しよく分からなかったというところでございます。 ○後藤委員 でも,元々調書は伝聞証拠だから,原則的には証拠能力はないわけですよね。 ○井上分科会長 しかし,伝聞例外の事由に当たるときには証拠能力は認められているわけでしょう。それを前提に議論されているわけで,供述調書の信用性というか,信用性の情況的保障というか,その点で,後藤委員のおっしゃるような場合だけが,なぜ伝聞例外から外すということになるのかを問題とされているのだと思います。ですから,後藤委員のような対応ではなく,公判廷における証言がなされることを回避するような脱法的なことを検察官が企んだ場合は,別の理屈で証拠とはできないという扱いにしていく方が,理論的にはすっきりすると思いますし,そういった理屈は恐らく立てられるような感じがしますけれども。  最後に,「刑事免責制度」についての議論に入りたいと思います。この制度についても,特別部会の資料63に加筆修正がなされたものが資料13-3として配布されていますので,まずは,主な変更点について事務当局から説明してもらいます。 ○吉川幹事 資料13-3でございますが,「考えられる制度の概要」については,特別部会の資料63から変更はありませんので,「検討課題」について加筆した点を御説明いたします。  検討課題「2」の二つ目の○,つまり,仮に第1回公判期日前の証人尋問を請求できる場面を拡げるとした場合に,どのような要件が適切かという課題につきましては,これまでの御議論において「犯罪の捜査に欠くことのできない知識を有すると明らかに認められる者が,刑事訴訟法第223条第1項の規定による取調べに対して,虚偽の供述又は不十分な供述をした場合を要件とするのが相当ではないか」との意見が示されたところでございます。そこで,本日の議論に資するよう,その点を検討課題に記載するとともに,更なる要件として,検察官が免責決定を併せて請求する場合に限ることとするか,という点を記載いたしました。  御説明は以上でございます。 ○井上分科会長 この問題については,検討課題「1」,「2」についてをまとめて御意見をいただきたいと思いますが,特に,検討課題「2」の「第1回公判期日前の証人尋問における利用の在り方」について議論いただければと思います。 ○上冨幹事 結論を申し上げますと,現行の第1回公判期日前の証人尋問の要件を若干拡げることが適切ではないかと思います。その上で具体的には,「虚偽の供述をした」ではなくて,ここに掲げられているもので言えば,「十分な供述をしなかった」という場合について拡げるべきだと思います。  ただし,これを拡げる理由というのは,元々刑事免責制度の利用との関係での拡充ですので,一般的に第1回公判期日前の証人尋問の要件を拡げるのではなくて,刑事免責とセットで請求する場合に限って拡げれば足りるのではないかと思っています。「十分な供述をしなかった」というのは,実際には全て供述拒否ではなく,供述を拒否している部分もあるし,嘘を言っている部分もあって,それらが混然一体となった供述がそういう場面では多いと思いますので,そういうことを捉える表現として「十分な供述をしなかった」という言い方が過不足ないかと思っています。 ○後藤委員 虚偽の供述の部分は,これは裁判官として判断に困るのではないですか。つまり,虚偽かどうかということを判断しないと,証人尋問を命じるべきかどうか分からないことになるので,その判断はこの段階では非常に難しいのではないでしょうか。 ○上冨幹事 それはもちろん認められなければできないというだけなのですけれども,請求する側としてはそれを疎明することが必要なわけで,例えばその段階で収集されているほかの証拠と照らして,彼の話していることは真実と合っていないということを疎明することが必要なのだと思います。 ○後藤委員 今の上冨幹事の御意見は,これを入れるという趣旨ですか。これは入れないで,「十分な供述をしなかった」場合だけにするという御趣旨ではなかったのですか。 ○上冨幹事 「十分な供述をしなかった」というのは,虚偽も含む概念として申し上げたつもりなのです。 ○後藤委員 私の意見は「虚偽の供述をした」というのを独立の要件とすると,難しい問題になるのではないかということです。 ○上冨幹事 私は,虚偽も含むし,虚偽も供述拒否もあって,それらが混然となっていて,全体として「十分な供述をしなかった」という要件で足りると思っていますが,その中には,具体的な疎明としては,ここの部分は明らかに虚偽を言っていますという疎明は,事案によって必要ならすればよいのだと思っていますし,可能だと思います。 ○小坂井幹事 質問ですけれども,これはやはり「十分な供述をしなかった」ということ自体の判断がかなり難しいことはないのですか。それほど簡単にできるものですか。今の規定は明確ですよね,第1回公判前の規定のしぶり自体は。これ自体に非常に問題があると私どもは思っていますけれども,それはさておいても,これは「十分な供述しなかった」で請求して,はい,はいと裁判所が採用するようなものでもないと思うのですけれども,どうでしょうか。 ○上冨幹事 「十分な供述をしなかった」という表現の当否は更に検討すべきだと思うのですけれども,現行法上の法令で使われている用語としても,「十分な供述をしなかった」という言葉の意味としては,分析していくと,虚偽と供述拒否と,それから双方がないまぜになっていずれともつかないという意味であって,何か100点の供述があって,そこまでいかなければ十分でないという意味ではないつもりで使われているのだと思いますし,今もそういう前提で,何条でしたか,実際に法令で使われていたと思いますが。 ○髙橋幹事 お話を聞いていると,裁判所の該当性判断がなかなか難しいという気もしてきまして,ここは慎重に今後検討しなければいけないと思います。 ○井上分科会長 ほかに御意見はございますでしょうか。それでは,本日の御議論は,ここまでとさせていただきます。  これまで当分科会においては,特別部会での議論に資するよう,採否に関する意見は基本的に留保しつつ,制度の「たたき台」の策定に向けて,議論・検討を続けてきました。検討事項の中には,意見の一致を見ていない点もありますが,一定程度認識の共有が得られた点も少なくないように思います。この限られた時間的な範囲内では,特別部会における議論に資する,かなりの程度の議論はできたのではないかと思いますし,論点もかなり抽出されたと思います。これまでの皆さんの御協力に対し,心より感謝いたしたいと思います。  当面の目標としては,本年2月14日に予定される特別部会に,各分科会での議論・検討を踏まえて,制度の「たたき台」を報告することとされていますので,早急に,本日までの議論を整理した上で,「たたき台」の原案のようなものを作成し,それをまず皆さんにお示しして,御意見をいただきたいと考えています。その御意見を踏まえて,修正すべき点は修正するという含みですけれども,何度か申し上げていますように,これはあくまで特別部会での議論に資するための「たたき台」という性質のものですし,最終的な調整や取りまとめは分科会長の役目と思っておりますので,御意見を十分お聞きするのは当然のこととして,最終的には分科会長である私にお任せいただければと思います。時間的な制約のこともありますので,その点は是非御了解いただきたいと思います。  特に付け加えて御発言がなければ,これで本日の会議は終了したいと思います。  なお,本日の会議につきましても,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったのではないかと思いますので,発言者名を明らかにした議事録を公表させていただきます。  また,議事録ができるまでの暫定的なものとして,事務当局において,本日の議論の概要をまとめて,特別部会の全委員・幹事に送付していただくということにします。  それでは,本日は,これで閉会させていただきたいと思います。どうもありがとうございました。 -了-