法制審議会 新時代の刑事司法制度特別部会 第24回会議議事録 第1 日 時  平成26年2月21日(金)   自 午後1時33分                         至 午後5時01分 第2 場 所  東京地方検察庁総務部会議室 第3 議 題  時代に即した新たな刑事司法制度の在り方について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○吉川幹事 ただいまから法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会の第24回会議を開催いたします。 ○本田部会長 皆様には,本日も大変お忙しいところを御出席いただきましてありがとうございます。   本日は,岩井委員,川端委員,神津委員におかれましては,所用のため御欠席とのことでございます。また林委員と露木幹事は遅れて御出席されるとのことでございます。   本日は,お手元の議事次第のとおり,配布資料の説明の後,「通信傍受の合理化・効率化,会話傍受」,「被疑者国選弁護制度の拡充」,「犯罪被害者等及び証人を支援・保護するための方策の拡充」,「公判廷に顕出される証拠が真正なものであることを担保するための方策等」について,作業分科会での検討結果を踏まえて,議論を行うことといたしたいと思います。   それでは,本日の配布資料につきまして事務当局から説明していただきます。 ○吉川幹事 前回会議において配布いたしました資料64の「作業分科会における検討結果(制度設計に関するたたき台)」,「参考資料」及び「基本構想」につきましては,本日は重ねて配布しておりませんので,御入用の方は係にお声掛けください。   なお,「参考資料」につきましては,本日,小野委員から「逮捕段階における弁護人(弁護士)の援助に関する対応態勢の調査結果について」と題する資料の提出がありましたので,これを「参考資料(追加)」としてお配りしております。   また,あらかじめ大久保委員から御発言の際の補助資料として御意見を記載したメモの御提出があり,本日御欠席の神津委員からも御発言を記載したメモの御送付がございましたので配布させていただきました。そのほか,本日の議事進行の予定を記載した「本日の進行予定」と題する書面もお配りしておりますので御確認ください。   資料の御説明は以上でございます。 ○本田部会長 それでは,早速でございますが,「通信傍受の合理化・効率化,会話傍受」につきまして,議論を行いたいと思います。この検討事項についての議論は午後2時30分までとさせていただきたいと思います。まずは,作業分科会での検討結果について,事務当局から簡単に御説明をお願いいたします。 ○久田幹事 まず,「通信傍受の合理化・効率化」について,第1作業分科会における検討結果の概要を御説明します。   資料64の20ページを御覧ください。まず,「第1 対象犯罪の拡大」については,制度概要「1」に掲げられている罪のうち,(1)の②と,④から⑦までの罪を対象犯罪とすることにはおおむね異論はなかった一方で,それ以外の罪については慎重な意見がありました。制度概要「2」については,加重要件を設けるか否かについて意見が分かれたほか,これを設けるべきとする立場の中でも,具体的にどのようなものを設けるべきかについては,21ページの補足説明「2」に記載されているように意見が分かれたところです。   次に,23ページの「第2 立会い,封印等の手続の合理化」と25ページの「第3 該当性判断のための傍受の合理化」については,いずれも制度の基本的な考え方に関してはおおむね認識が共有されました。その上で,「第2 立会い,封印等の手続の合理化」の制度概要「2」(1)や24ページの補足説明「2」に記載されているように,技術的措置を用いる場合の暗号化・復号化に必要な鍵の生成手続等について意見が分かれたほか,同じページの上の方の補足説明「1」に記載されているように,技術的措置それ自体の適正担保の在り方について意見が分かれたところです。   次に,「会話傍受」についての検討結果の概要を御説明します。資料64の26ページを御覧ください。会話傍受については,制度概要「1」の①から③までの場面での実施を念頭に置いて,検討が行われました。まず,制度概要「2」に掲げられた罪を対象犯罪とすることにおおむね異論はありませんでしたが,具体的な要件・手続の在り方に関しては,まず制度概要「3」(1)の令状発付の要件に関し,ここに記載されている要件だけでなく,更に緊急性の要件をも必要とすべきとの意見も示されました。   また,制度概要「5」の傍受の実施中の立会いの要否に関し,立会いは要しないものとされていますが,これに対しては,会話傍受の実施の適正が担保されないのではないかとの意見も示されました。さらに,制度概要「6」のスポット傍受の要否についても,A案・B案と記載されているとおり,意見が分かれたところです。   御説明は以上です。 ○本田部会長 この検討事項は,「通信傍受」と「会話傍受」に大別され,このうち,「通信傍受」につきましては,「第1 対象犯罪の拡大」,「第2 立会い・封印等の手続の合理化」,「第3 該当性判断のための傍受の合理化」という三つの論点がございます。時間に限りがございますので,あえて議事を区切ることはいたしませんので,いずれの論点についての御意見かということを明確にしつつ,御発言をいただきたいと思います。   それでは,御意見のある方は御発言をお願いします。 ○種谷委員 警察実務の立場から何点かお話をさせていただきたいと思います。まず,手続の合理化の点についてでございますけれども,この点につきましては,私たち現場を預かる者として,これまでも限られた数の通信事業者の施設でしかできないことですとか,作業場所の確保ですとか,多数の捜査員を長期間にわたって出張させなければならないという問題点を申し上げてきました。それから我々だけの問題点ではなくて,通信事業者の方に立会いをしていただかなければならない。その立会いもやはり通信自体が深夜にわたったり,早朝にわたったりするということもありまして,大変な御負担をお掛けしてきました。その調整を図るために長い時間が必要になって機を失してしまうというようなこともあったわけであります。この点御配慮をいただいて,最新の科学技術を駆使する形で,こういう形でたたき台を作っていただいたということで大変建設的な議論をしていただいたと考えております。   それから,対象の問題でありますけれども,そこに対象犯罪という形で書かれておりますが,その議論でいわゆる組織性要件,そういった要件が更に必要なのではないかという議論がありましたけれども,やはり我々としてはそこの組織性ですとか,団体性ですとか,そういった要件をあまりにも厳しく求められてしまった場合には,これは結局手足を縛られてしまうといいますか,今でさえ共謀要件,それから犯罪関連通信が行われる蓋然性,それから他に手段がないという補充性要件という,非常に厳格な要件があるわけであって,これに組織犯罪処罰法等で求められているようなあたかも組織として有機体的に行われたものだというものを疎明しろということになりますと,そもそもそういった形で行われる犯罪であるということを立証するための道具,手段として通信傍受を認めていただくために,そこを立証しなければならないという大変な矛盾に陥ってしまうのではないかと考えているところであります。現在の共謀要件,それから補充性という形で十分であると考えております。   それから,更に対象犯罪ですけれども,20ページの記載の犯罪に更に加えて22ページにもこれまで議論していただいた犯罪を載せていただいているところであります。22ページをお開きいただきますと,そこに「組織を背景とした犯罪」ですとか,「暴力団関連犯罪」という形で類型を載せていただいています。   時間もありませんので,一つだけ述べさせていただくと,例えば「児童ポルノ関連犯罪」というのを挙げていただきましたけれども,世界において日本は児童ポルノ天国だというような非常に不名誉なことも言われているわけであります。こういったものをきっちりと取り締まっていくという観点から,是非その辺まで広げるということを議論していただきたいと考えているところでございます。   濫用のおそれを言われることもありますけれども,犯罪の類型を広げたからといって,全てそれらが共謀によって行われるということはないわけであって,検挙実績を見ても全体の2割程度しか共謀で行われているものはないという実績を見れば,どんどん広がっていってしまうという御懸念は必要ないのではないかと考えています。   それから,付け加えまして会話傍受の点についてでございます。会話傍受につきましては,先ほど御説明のあった3類型について,分科会においても御議論をいただいたところであります。この中で,それぞれみんな必要性を感じているところでございますけれども,特に振り込め詐欺を代表とする特殊詐欺につきましては,昨年,平成25年ですけれども,全国で487億円もの被害が出ている。33.6%も増加している。東京都内を見ましても88億円の被害。8%も増えているという実態がありまして,検挙もかなり頑張っておりますけれども,出し子ですとか,いわゆる受け子という取りに来る人間を捕まえることはできても,なかなか組織の実態が解明できてないというのが現実であります。   実際に彼らはビジネス型で事務所を作って,そこに集まって極めてビジネスライクに役割分担をして電話をかけて詐欺をするという形になっておりまして,正に犯罪をするための事務所ということになっていて,そこに会話傍受という形で傍受機器を設置させていただければ,そこの会話はまずほとんど犯罪に関わるものということで,非常に有効な手段になるのではないかと考えているところでございます。   それから,暴力団犯罪につきましても,今福岡,北九州でいろいろ襲撃事件等がありますけれども,実態としてなかなか検挙できていないという事実がございます。組事務所に傍受機器を付けることができれば犯人の特定,共謀の状況等々が非常に有効に把握できるのではないかと考えておりますし,コントロールド・デリバリーにつきましては新しい捜査手法ということで,薬物と銃器で認められている手法でございますけれども,実際にコントロールド・デリバリーをして監視して,配送物が受取人までいって,受取人の特定までできたとしても,実際に中身が禁制品であることを知らなかったという知情性を否認するということでなかなか検挙ができないという実情があるところから考えますと,配送物の中に傍受機器を仕掛けるということによって受け取った人間の会話,それの共謀状況というのが立証できるという点において,もちろんいろいろな手続は考えていただかなければいけないとは思うんですけれども,ここの場で是非一歩踏み込んで,会話傍受というものについても前向きに御議論していただければ,捜査現場として大変有り難いと考えているところでございます。 ○神幹事 まず通信傍受について申し上げます。日弁連は,平成10年2月に,組織的犯罪に対処するための刑事法要綱骨子に関する意見書を理事会で採択し,その中で犯罪捜査のための通信傍受の創設には憲法の保障する通信の秘密を冒し,プライバシーを著しく侵害するおそれがあるとして強く反対してきました。それにもかかわらず法律ができたわけですが,日弁連が通信傍受そのものに反対するこの姿勢は今日においても変わっていませんので,今回の「通信傍受の合理化,効率化」,特に,「対象犯罪の拡大」については反対であります。   なお,私は作業分科会でも通信傍受,会話傍受のたたき台の作成に関与してきました。対象犯罪の拡大についても反対を表明しつつ,なお特別部会での議論に資するたたき台を作るという意味では,内心忸怩たる思いで作業に携わってきました。   そこで一言申し上げたいと思います。通信傍受の有用性については,基本構想策定前の特別部会では,警察関係者から具体的に提起されていたものは,振り込め詐欺や外国人を含む窃盗団のような組織的窃盗でありました。しかし,今回のたたき台の20ページでは,対象犯罪として刑法犯だけでも大括りに7種類の一覧の犯罪が多数加えられ,更に特別法の犯罪が二つ加えられています。例えば,振り込め詐欺等の特殊詐欺で,年間480億円を超える被害が出ており,主としてその被害者がお年寄りである,そのお年寄りの弱みをつけ込む,なおかつ,老後の蓄えまで持っていかれるという悲惨さを考えると,財産犯ではあるが,この種のものに対する対応策としては有用だと言われればそのとおりかなと私も考えております。   したがって,私個人としては,仮に対象犯罪を拡大するとしても,基本的には反対という姿勢でありますが,どうしても拡大しなければならないというのであれば,振り込め詐欺など特殊犯罪や外国人を含む組織的な窃盗団による窃盗について対象犯罪とするところがいいのかと思っています。しかしながら,枠外の22ページに記載された犯罪はもとより,枠内にあってもそれ以外の犯罪を対象犯罪に加えることには反対であります。   さらに,何よりも詐欺や窃盗を対象犯罪とするのであれば,それらの犯罪が振り込め詐欺や組織窃盗に当てはまるものに限られるべきだと考えますので,濫用のおそれを防ぐためにも令状発付要件を厳格に定めておく必要があると考えています。私としては,作業分科会でも述べてきましたが,21ページに記載されているA案の2番目の考え方である対象犯罪が組織的犯罪処罰法第3条1項の要件,すなわち「団体の活動として当該罪に当たる行為を実行するための組織により行われた」ことを満たすと疑うに足る状況があることが必要とすべきであると考えています。   次に,「立会い・封印等の手続の合理化」に関して,仮に通信傍受の対象犯罪を拡大し,立会い・封印等の手続を暗号化等の技術的装置に代えることになると,これからは通信傍受の数が増えること,二つ目として対象犯罪の拡大に伴って通信の秘密や個人のプライバシーが侵害される危険性が今以上に増加すること,三つ目として立会い等が技術的な装置に代替できるとしても,立会い等がなくなることによって,立会い等があることによって心理的にもあった抑制機能,監視機能,人に見られているということによる違法行為がしにくいという認識がなくなってしまうこと,それから,傍受されている被疑者が不服申立てができるといっても,傍受されていることが必ず通知されるとは限らず,また通知されても自らの犯罪が明らかになった上で,申立てをしてもその実益がないと見られることから,不服申立て制度を利用する件数は少ないことに鑑みると,私個人としては現在の不服申立て制度に加えて,更に通信傍受の適正化を担保するために通信傍受が適正に実施されていることを後日検証する等を行う捜査機関から独立した第三者機関の設置が不可欠であると考えています。   時間がありませんので恐縮ですが,参考資料の67ページ,69ページを御覧ください。   この第三者機関は,①裁判所に送られてきた通信傍受記録等をチェックして,通信傍受が適正に行われているかどうかを確認すること,②必要に応じて傍受の様子,傍受内容等の視察をすること,③通信傍受に使用する機器,暗号鍵の管理等がきちんとされていることを確認すること,④不当な運用がある場合等については,内閣総理大臣に対する具申等を行うことを想定しています。その第三者機関の構成や職務については68ページから69ページを御覧ください。その第三者機関をどこに設置するかという点については,作業分科会では御批判もあり,生煮えの案ではありますが,69ページにイメージを示していますので御覧いただきたいと思います。   なお,記録の暗号化及びその暗号の復号化に関して,それに必要な鍵は中立的な裁判所の職員が作成するというB案によるべきだと考えます。また,鍵の生成装置については,適正担保の観点から,これも裁判所の職員が管理するべきものと考えます。   次に,会話傍受について述べます。捜査機関が住居や車両に傍受機器を設置し,会話等を傍受する会話傍受はひとたび傍受機器が設置されると,内容的にも時間的にも無制限に傍受されるおそれがあり,通信傍受以上に個人のプライバシーを侵害する危険性が大きい捜査手法であります。捜査機関がこれを濫用し,あるいは誤って犯罪と関係のない個人の会話等を傍受するおそれがないとは言えず,そのような場合には,その結果,個人が受ける被害は深刻であります。会話傍受が捜査上有用であるとしても,プライバシーの危険性の大きさに照らしますと,場面を限ったとしてもなお捜査手法としては認める必要があるとは到底考えられず,そのような制度を導入することについては絶対に許されないというべきであります。よって会話傍受の創設には断固反対いたします。 ○上野委員 私の方からは,通信傍受の対象犯罪の拡大と,会話傍受について意見を述べさせていただきます。この部会におかれまして,以前北九州を視察されたと聞いております。委員の皆様は御存じだと思いますが,北九州では暴力団排除運動に携わる市民が相次いで襲われ,けがをさせられたり,あるいは経営する店舗に火を放たれるという事件が繰り返し発生しております。私ども検察といたしましても,暴力団犯罪対策は重要課題の一つでございます。しかしながら,近時の暴力団組織は,反社会性の度合いを強めるとともに,閉鎖性,密行性も強まっておりまして,その情報を収集するのは極めて困難な状況になっております。   暴力団が関与した疑いのある犯罪につきまして,通信傍受という証拠収集手段は,かなりの効果が期待できると考えておりまして,この「制度の概要」に記載されております現住建造物等放火,あるいは傷害,傷害致死,爆発物取締罰則違反の罪を含め,少なくともこの「制度の概要」「1」に記載されております各犯罪につきましては,重大で必要性の高いものとして対象犯罪に加えていただきたいと考えております。   次に,「制度の概要」「2」に書かれております組織性の要件について申し上げます。先ほど,神幹事から,この組織性の要件につきまして,組織的犯罪処罰法3条1項の要件を満たすものに限るという趣旨の御意見が出されました。私どもが,実際に現場で捜査しておりますと,組織的な犯罪,詐欺,殺人等であろうと,そういうものについて3条1項を適用できるという場面は,正に捜査の終局場面,例えば,数カ月間にわたって捜査し,通常の詐欺で何度も起訴し,最終的に全貌が解明できて初めて組織的詐欺に訴因変更するというもので,事案によっては,むしろその全貌が解明できずに,組織的犯罪処罰法を適用できないものが結構あるというのが実情でございます。   通信傍受を実施するような捜査の途中の段階で,この要件を疎明するのは,先ほど種谷委員からもお話がございましたように極めて困難でございます。また,分科会での御意見の中には,3条1項ではなくて,組織的犯罪処罰法2条1項の組織の要件,つまり「指揮命令に基づき,あらかじめ定められた任務の分担に従って構成員が一体として行動する人の結合体」による犯罪であることを必要とするという御意見もあったと聞いております。しかし,犯罪組織の有り様は一様ではございませんで,組織内部の体制,あるいは指揮系統につきましては,正直言いまして実際に捜査をしてみないと分からないことでございまして,組織的な犯罪を外部から見た場合に判明する事項を超えて,指揮命令の存在など組織内部の事情を要件としてしまうと,この場合も疎明が非常に難しくなってしまうと思われます。   証拠収集手段の多様化の一環として,通信傍受の対象範囲を拡大していただいても,このような要件を課せられますと,結局,実効性のないものになってしまうのではないかと考えます。そもそも,組織的犯罪処罰法の各種要件は,刑を加重するための要件でございまして,通信傍受の要件として,傍受そのものとの関係で,なぜそのような要件が必要となるかという観点からいたしますと,それらの御意見に合理性があるかどうか疑問を感じているのが率直な意見でございます。したがいまして,B案が相当と考えております。   続きまして,会話傍受について申し上げます。   会話傍受につきましては,通信傍受と同様,あるいはより効果的に,犯罪集団の拠点などで行われる犯罪についての決定的な証拠をリアルタイムで収集できるようにするものとして,非常に有効な証拠収集の手段・手法となり得ると考えております。犯罪情勢は,このような手法がないと検挙・処罰ができないほど,悪質化・巧妙化しているものでございます。ただ今,種谷委員から御紹介がございましたが,振り込め詐欺等の特殊詐欺につきましては,平成25年は前年比38%増の認知件数を数えたと聞いておりますが,実際に検挙,処罰されるのは末端の者でございまして,組織の上位者の処罰は非常に困難な事案が多く,なかなか組織自体を壊滅させるには至っていないのが実情でございます。そのように犯罪情勢は深刻でございますので,そのようなことも踏まえまして,会話傍受制度の導入についても検討をお願いしたいと考えております。 ○今崎委員 「通信傍受の合理化・効率化」につきまして発言させていただきます。まずこの対象犯罪,あるいはどのような要件をかぶせるかという問題は,結局この通信傍受の合理化・効率化,あるいは通信傍受という捜査手法によって,どのような行為を捕捉したいのかというところに最終的によるものだろうと思います。これまで,例えば,振り込め詐欺を含む特殊詐欺でありますとか,あるいは窃盗団による比較的大規模な窃盗などが念頭に置かれていると聞いておりますので,それらを捕捉するのであれば,それに最も適切な構成要件といいますか,実体要件,手続要件を定めるということになるのではないかと思います。   少し前に,組織犯罪処罰法の組織性のお話を一つさせていただきましたけれども,必ずしもそれにこだわるものではございませんで,それは厳しすぎるという御意見と逆にそれは緩すぎるという御意見,両方あるように伺いました。厳しすぎるという方からは,想定される対象を捕捉するに当たり,どの部分がネックになるのかという辺りについて,既に御意見をいただいております。また,より厳しい要件が必要であるというのであれば,その必要性,合理性というものを示していただく必要があるのではないかと思います。そうした上で,具体的,現実的な議論をして対象を定めていく必要があると思います。   それから,先ほど神幹事から第三者機関についての御説明がありましたが,これについては賛成ができないということを申し上げたいと思います。現行の通信傍受制度におきましても,今検討されている制度案におきましても,通信傍受を実施するというためには事前に裁判官の令状審査が必要となっておりますし,事後的には不服申立ての手続が設けられているところでございます。このような令状に基づく捜査の適正担保というのは,司法手続によって図られるべきであり,現にそうされてきたわけですし,それで十分であります。それを行政府内に設けられる第三者機関が監視,検査し,内閣総理大臣に具申するという制度としますと,これは行政権と司法権との関係でかなり深刻な問題をはらんでいるかと思います。   神幹事の御提出になったペーパーには,個人番号情報保護委員会ですとか,刑事施設視察委員会が挙げられておりますけれども,いずれも行政作用に関する第三者機関であって,今回のものとは本質的に異なるのではないかと思います。   それから,元に戻りまして対象犯罪の関係ではもう1点,今回枠囲いの中で挙がっているもの,さらに,22ページに「考えられる犯罪」ということで数多くの犯罪が挙がっております。先ほど申し上げた捕捉すべきものということとの関係になりますが,今回どういう犯罪を捕捉しようと考えているのかによって,対象犯罪というものは変わってくると思います。今回,そういう観点から言いますと,これまで挙げられてきた幾つかの犯罪類型と照らし合わせますと,ここに挙げられているのは少し広いかなという印象を持っておりますが,これについても皆様の議論に任せたいと思います。   最後に,鍵の生成について,神幹事から先ほどB案が適当だという御意見がありましたが,これについては,裁判所としては依然として疑問を持っているということは付け加えさせていただきます。 ○大久保委員 提出させていただきました資料が配布されておりますので,それを参考に御覧になっていただきたいと思います。この通信傍受,会話傍受の話が出ますと,どうしてもプライバシーの保護ということが声高に叫ばれることがありますけれども,プライバシーの保護は,当然それは重要ですけれども,でも被害者の権利,利益や捜査の必要性とのバランスにおいて,これは考慮されるべきものなのではないかと考えます。   以前にも申し上げましたとおり,通信傍受法の制定当時と比べまして現在は犯罪に関して,通信機器が多用されているということが当たり前のことになっておりますし,犯罪の形態もより組織化され,巧妙化しているなどということは国民も実感として受け止めているというのが,今の日本の社会の姿なのだと思います。実際には,誰が関与しているのかも含めて,犯罪の実態を解明するということ自体が難しい事案も増えているように思います。   そのような事案の解明のためには,通信傍受を活用するということの必要性が一層増してきているのだと思います。防犯カメラが設置された当時も,プライバシーの保護という声がかなり大きかったんですけれども,今はもう防犯カメラが定着をして積極的に設置されるようになってきているのと同様に,通信傍受についてももっと活用して,解明困難な悪質な犯罪を解明してもらいたいと考える国民がとても多いと思います。このようなことから,通信傍受の積極的な活用は時代の要請でもあるといえるため,これを可能とするような制度の内容に改めるべきだと考えています。   そこで,まず,「第1」の「対象犯罪の拡大」についてですけれども,たたき台の制度概要「1」の(1)から(3)に記載されている犯罪については,いずれも通信傍受が事案の解明に大変役立つと考えられるため,対象犯罪に追加するということは当然のことだと考えます。補足説明にはこのうちの(1)の①,②,③や(2)に記載された犯罪を追加することには慎重な意見もあったとされていますけれども,このような国民の生命,身体に重大な被害を及ぼし得る犯罪を対象外とするということについては納得はできません。   まず,(1)の②の殺人は,これはもう被害者の生命を奪う極めて重大な犯罪であり,事案の解明のために通信傍受を利用することができないというのはあまりにも不合理だと考えます。また,先ほど種谷委員,上野委員の方からも御紹介がありましたように,暴力団組織によると思われる民間人を対象とした事件も報道されておりますので,このような実情を踏まえれば,(1)の①の放火とか③の傷害,傷害致死や(2)の爆発物取締罰則についても事案を適確に解明できるように是非通信傍受の対象としていただきたいですし,また,こういうものを対象に加えるということは,国民からも十分理解を得ることができるのではないかと思います。   それと,制度概要「2」では組織性の要件の要否についてA案,B案が記載されていますけれども,私のような素人から考えても,初めから組織性があるのか分からないことが多いと思いますので,これにつきましてはB案が妥当だと考えます。   皆さんもおっしゃいました22ページです。対象犯罪に追加することが考えられる犯罪,確かに世界に対して日本は恥ずかしいなと思うような児童ポルノ関連犯罪もはびこっているように感じますし,通信傍受が大変役立つと思われるものもありますので,是非これにも通信傍受等を積極的に活用するというような時代が来たということで,新たな被害者を出さないためにも制度概要に記載されているような犯罪に関しまして対象犯罪に入れていただきたいですし,また,せっかく新時代の刑事司法制度を考える部会ですので,更に対象とする犯罪がないかどうかという辺りを検討しても構わないのではないでしょうか。   そして,通信傍受をより積極的に活用できるようにするために,たたき台の「第2」に記載されている暗号化を利用した新たな仕組みですとか,「第3」に記載されている通信の全部をいったん記録した上で聴取を行うというような仕組みについても,これは是非採用すべきだと思います。   それと,さらに,会話傍受についてですけれども,電話も頻繁に変える犯罪者も多く,会話傍受でなければ効果的な証拠収集ができないというような場面も,ますます増えて来ると思いますので,新たな被害者を出さないためにも,やはり会話傍受も積極的に導入すべきではないかというのが被害者の考えでもありますので,お話しさせていただきました。   ○小野委員 通信傍受の対象犯罪の拡大についてなんですが,もちろん通信の秘密を害する捜査手法ということですから,平成11年12月の最高裁の決定にあるような重大な犯罪について捜査上真にやむを得ないという観点からこれをどう考えるのかと限定しておく必要があるだろうと思います。特に,暴力団関連犯罪ということで,この枠囲いの中に加えられた(1)の①現住建造物等放火,それから③の傷害と傷害致死,それと(2)の爆発物の使用,それから,(3)の犯罪収益等隠匿というこの暴力団関連のところであれば少なくとも要件としては,その犯罪がいわゆる暴対法,暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律の2条の2号に「暴力団」の規定があるわけですけれども,そこに規定する「暴力団」に該当する組織によるものであると疑うに足りる状況,こういうような要件を考えておく必要があるのではないかと思います。   それから,それ以外の犯罪についてもやはり同じように重大な犯罪,あるいは真にやむを得ないということから考えると,組織犯罪処罰法の2条1項の組織,「指揮命令に基づき,あらかじめ定められた任務の分担に従って構成員が一体として行動する人の結合体」と補足説明の中の注にも書いてありますけれども,こういう組織によるものであると疑うに足りる状況,こういうような要件が必要なのではないだろうかと考えております。   それから,会話傍受については,私的領域に入るわけですから,そこでの不特定多数の会話,これは無限定に傍受するという方法になります。そういうことで考えると,全く無関係な第三者が含まれてくることが一般にあり得るわけでして,そのプライバシーを著しく侵害するということで考えると,やはり憲法に反する。導入には反対です。   もともと通信傍受というのは,そもそもこの部会の取調べ,供述調書に過度に依存した捜査,公判ということの見直しから始まったところでありますから,そうだとすると取調べの録音・録画を一部に限定するというようなことであると,結局のところ取調べに過度に依存した捜査ということが続いたままの状態,そういう状態の中で,さらに,この通信傍受の対象を拡大していくということはちょっと考えられないのではないかと考えておりますので,一言意見を述べておきます。 ○村木委員 この件に関しては,全体として取調べや供述調書への過度の依存を改める,その一方で,証拠収集の手段について適正化,多様化を図り,適正に収集された客観的証拠,供述証拠が公判に出され,充実した裁判が行われるように大胆な改革をしていくということが,この部会の大事な任務だと思っております。そういう観点から言うと,今どなたかから御発言がありましたが,通信傍受について導入の際に非常に大きな反対があって,懸念の声が大きいということは十分承知しておりますが,今回,求められている改革の方向を考えれば,やはり一方で取調べの全過程の録音・録画がきちんと広範に行われるということが前提ではありますが,その上で立会いや封印等の手続の合理化はもちろんですが,対象犯罪の拡大も一定程度認めてもよいのではないかと私個人としては考えております。   ただ,それに当たって,若干今のたたき台で窃盗とか傷害とか非常に一般的な犯罪が対象になっていて,ものすごくカバレッジが広いのかなという印象を持ちましたので,もし可能であれば,ここの20ページに列挙された犯罪がどの程度の件数があって,全体の中でどの程度のウエイトを占めるのか。また,22ページに列挙された犯罪についてはどうなのかというところは是非お教えを願いたいと思います。いずれにしても,それなりに対象犯罪を拡大して広い範囲の犯罪に網掛けをするのであれば,この枠囲みの中の「2」のA案で一定の要件をかけるという案が出ております。御専門の方からこれについてもいろいろ意見がありますので,このとおりがいいかどうかは私もよく分かりませんが,何らかの制約をかけていただくというのが,この制度に対する不安を小さくする,制度を新しく作りやすくするためにもよいのではないかと考えているところでございます。   ○周防委員 ほぼ小野委員と村木委員の言ったところと同じで,ちょっとした差はあるのかもしれないんですが,やはり私も,ここまでの通信傍受の対象犯罪の拡大は非常に怖いものを感じています。これは本当に漠然とした不安で申し訳ないんですが,大久保委員のお話を聞いてますと,ますますその不安が膨らんでしまったので,一言言わせていただきます。   単純にこれだけ街に防犯カメラがあふれ,最初はちょっとした拒否反応というかプライバシーの侵害で嫌だなと思うものがあったのに,いまやニュースを見ても何にしても,防犯カメラがあるのは当たり前という世の中になって,積極的に市民自らが防犯カメラを設置していく状況というものにもそれほどの違和感を感じなくなってしまっている。それに加えて,今回の提案のように通信傍受の対象犯罪が拡大され,今,村木委員がおっしゃったように,本当にこんなに罪種をたくさん増やす,そういう状況が起き,また会話傍受というところまで踏み込んでいく。こういうふうにどんどん,いくら要件を厳しくして濫用を防ぐとしても,私たちは本当に知らない間に自ら監視社会のような窮屈な社会の流れに乗っかって,気が付いたら,それは犯罪を縛るものだったはずなのに,我が身の生活そのものを縛っているような,そういう世界が出現してしまうのではないかという恐怖を本当に感じます。   良かれと思ってやっていることが,知らない間にいろいろなところで自分の首を絞めていく,そういう現状になってしまうのではないか。そういう不安がとても強いので,やはり対象犯罪の拡大には本当に厳しく目を向けて,本当に重大なもので,どうしてもそれが必要なんだという,それをとことん突き詰めて検討していく必要があるのではないか。そう思います。   これは意見ではなくて,一つ質問なんですが,通信傍受と言われるとついつい電話を思い浮かべるんですが,この会議の中でも何度かお話があったと思いますが,もう通信については電話だけではなくて,それこそメールやライン,インターネットというものの存在があるわけです。そういったものにもこれが適用される場合に,果たしてメールの場合はどういったことによって傍受が行われるのか。ラインの場合はどういった形で行われるのか。僕が素人だから分からないのかもしれないんですが,そういうものが具体的に見えてこないので,そういったものについても暗号化の手続とか,それがどう機能するのか。また立会いというのはどう機能するのか。そういったことが全く分からないので,そこら辺についてちょっと御説明を願えると有り難いです。 ○椎橋委員 この問題につきましては,やはり事実を基にして検討すべきだと思います。日弁連はもともと通信傍受には反対だったということで,だから今も反対だと言われます。しかし,大分歩み寄られたところがあって,内心忸怩たるものと言われましたけれども,通信傍受法については確かに制定当時から反対がありまして,大運動が起こったということがありました。その中にはこの法律が通過したら,明日からあなたの電話も盗聴されるよと。その手の類のものも週刊誌等にはたくさん載っておりました。それでは,通信傍受はそのような懸念どおりに濫用されてきたでしょうか。   通信傍受はすでに十数年の実施の運用の経験があります。運用の経験というものに基づいて,我々はこの問題を考える必要があるのではないか。もともと,この通信傍受法自体が非常に厳格な法律で,対象犯罪というものを極めて狭く限定している。それから,プライバシーが侵害されないために,通信傍受も用いるのにふさわしい重大な犯罪について,対象犯罪が行われる十分な嫌疑が存在すること,犯罪関連通信が行われる蓋然性の存在,さらには他の捜査方法では犯罪解明が困難であるという補充性を要件としている。これは非常に厳格な法律でありまして,トータルとして見ますと,世界の中で最も厳格な要件を課した通信傍受法だと言っていいと思います。私はこの点については,あまり異論はないのではないかと思います。   しかも,その運用が,当初は慎重に出発しようということもあったのかもしれません。準備の必要があったのかもしれませんが,ゼロ件の年数が2,3年続いて,それからひと桁,それからふた桁になって,昨年は80件になったと伺いますけれども,平均すると年間で2,30件程度かなという感じがいたします。   これを他の主要国について見れば,日本の100倍,1000倍の件数の通信傍受が行われているということで,その理由はもっと日本の場合よりも要件が緩いということにも関連していると思います。その中で,十数年の経験の中で,不当に通信傍受によってプライバシーが侵害されたという事例,こういうのを私は聞かないわけであります。ですから,こういうところに問題がある,こういう事案が出てプライバシーが侵害されたから問題だということを前提にして発言されるということであれば説得力があると思いますけれども,ただ,抽象的に濫用のおそれがあるというだけでは,あまり説得力がないのではないか。むしろ私の理解によれば,あまりにも通信傍受法の要件が厳格なので使い勝手が悪い。そのために傍受件数が少ない。だから,本来は通信傍受していれば犯人を挙げられたにもかかわらず犯人を挙げられなかった。言ってみれば,国民の生命,自由,身体というものが危険にさらされている状態の中で,国民の自由などの法益を守るために必要であったにもかかわらず,傍受という手法が使えなかったという状況もなかったとは言えないと思います。   そういうところから考えてみると,通信傍受の要件が厳格である。また,運用の実態というのも特別に不都合なことはなかった。その中で,使い勝手が悪いところがある。それから,新たにいろいろな人命,自由,財産というものが大きく損なわれるおそれのある犯罪があり,非常に巧妙に行われている。そういうような場合に,通信傍受の対象の範囲を広げるというのは,私は合理的なやり方だと思います。   そして,今回提案されている通信傍受のやり方についても暗号化,鍵の鍵の作成・管理といった方法によって行われるということでありますので,この運用が適切になされれば人為的なものが入る余地がその分だけ少なくなるということで,プライバシーに対する侵害のおそれはより小さなものになる可能性がある。   そう考えますと,少なくとも,「考えられる制度の概要」で対象犯罪に追加するとされているものについては,是非拡大の方向で検討していただきたい。組織性の要件を加えれば,ぎりぎりいいのではないかという神幹事の御意見もありましたけれども,組織性の要件につきましては,作業分科会でも,先ほど上野委員からも御指摘がありましたけれども,これは刑罰を加重するための要件である。つまり犯罪を組織的に実行すると,犯罪結果発生の可能性が著しく高まるし,また,犯罪の結果も社会に大きな害悪をもたらすため,組織的に行われた犯罪は重く処罰しようと,そういう立法趣旨であるということは解説書にも書かれているわけでありますので,むしろこの通信傍受の要件というのは,いかにプライバシーを侵害しない形で真実を発見して,巧妙な犯罪についても検挙できるというような観点から要件を考えていくというのが妥当であると思いますので,私はこの観点からB案に賛成でございます。  ○本田部会長 先ほどの周防委員の質問に対し,事務当局の方から説明をお願いします。 ○久田幹事 それでは,事務当局から御説明をさせていただきます。メールと電話との違いということなんですけれども,法律上の取扱いとしては,いずれもこの通信傍受法の手続にのっとった形で実施するという枠組み自体は同じになっております。確かに,電話とメールの傍受とは聞くと見るという違いはありますけれども,立会人を置いて,記録媒体を封印して裁判官に提出するという同じような枠組みで,適正担保としては十分だろうと考えております。メールを傍受する具体的な方法は,法律上想定しているものとしては,通信事業者の協力を得て,メールを傍受できるようにした上で,機械から傍受するという方法で,電話の傍受とは聞くと見るという違いがあるだけで,そのほかについては同じような枠組みということになっております。    ○井上委員 現行法の下でもメール等の傍受は当然できるわけで,技術的にも適正確保の措置についても基本的には電話の傍受と変わりはないと御理解されればよいと思います。   私も手短に3点だけ意見を申し述べたいと思います。まず,第三者機関についてですが,神幹事は,昔ながらの日弁連の立場を代弁される立場にあるようですので御苦労は多といたしますけれども,これまで既に何度か御意見を申し上げ,また,先ほど今崎委員から非常に適切な問題点の御指摘があり,私も全く同感で,そのようなものを設ける必要性及び適切性について根本的な疑問があると言わざるを得ません。その上,これも何度か申し上げてきたのですけれども,現行制度でも,通常の捜索・差押えや検証などに比べて,非常に丁寧な適正確保の措置が講じられているのに,それに加えて更にこういうものが必要だということを裏付ける立法事実,あるいは事実がなくても具体的にこういうおそれがあるということを示し,それに対しこの新しい仕組みがどのような機能を果たすかということについて十分な説明がなされていません。私の方でそれらの点について提案者の方に「説明してください。」とお願いし,確か「説明する。」と約束されたはずですけれども,今日の段階でもそのような説明を伺えませんでしたので,これ以上この点について検討を続ける必要は,私には感じられません。   第2に,組織性の要件については,これも何人かの方が御指摘になりましたが,実は通信傍受法を作るときに同じような議論をしました。そして,そのときは,組織犯罪処罰法についても同時に審議をしていたのですけれども,その組織犯罪処罰法の「組織性」の要件をそのまま通信傍受法の要件として持ってくるのは,それぞれ性質の異なる事柄なので不適切だということで,それに代わる,あるいはそれを補う担保措置として共謀性の要件と補充性の要件を置くことで十分担保できると考えて現行の手続が出来上がったわけです。   そして,現在に至るまで,それで賄えないような事例が出てきたとは承知していません。今回,確かに,罪名だけみると,窃盗とか詐欺とか,あるいは傷害,傷害致死といったふうに裸の形で掲げられているので,見かけ上は非常に広がっているように見えるかもしれませんけれども,共謀性と補充性の要件に該当する場合でありながら,おそれられる事態,つまり本来対象としてはいけないような事案が対象とされるということが本当にあるのか,それは具体的にどういう場合なのかをもう少し立ち入ってご説明いただきたいと思います。分科会の段階でも申し上げていたのですけれども,この点についても具体的な御説明がこれまでありませんので,私としてはまだ納得いっておりません。   しかも,仮にそれらの方々が懸念されておられるような事態があり得るので,何らかの要件を設けるべきだとしましても,組織犯罪処罰法の「組織性」の要件をそのまま持ってくるということではうまくいかないということは,何人かの委員が御指摘になったところでありますので,それに捕らわれずに,対象事件の範囲を適切に限定すると同時に,通信傍受の方法を有効に活用できるようにする,その両面に配慮した適切な要件を検討していくというのがあるべき姿だと思います。   第3に,会話傍受につきまして,小野委員が,「そもそも許されない」とおっしゃったのですけれども,対象者のプライバシー侵害という意味では,通信傍受と本質的な違いは基本的にはないので,理論的におよそできないとまで言うことはできないと思います。無論,何人かの方が御指摘になったように,通信傍受の場合は,その通信が行われているときだけ傍受の対象となり,プライバシーが侵害されるにとどまるのに対し,会話傍受の場合,傍受機器が一度設置されると,その場所における会話が全部拾われてしまう。その意味では侵害が大きくなり得るという面はあります。しかし,通信傍受の場合でも,要件の在り方によってはそれによるプライバシー侵害の範囲や程度は非常に大きなものになり得るわけで,無関係の人の通信や無関係の通信も広く拾われてしまうことがあり得ます。そうであるからこそ,要件を厳格にして,できるだけ限定しようとしているわけですので,そのような限定ということが会話傍受についても考えられないわけではないし,十分考えられると思います   むしろポイントは,このような手段を採用する必要性がどのような場合にどれだけ強いのかということであり,その点はさらに立ち入って検討するべきだと思われますし,もう一つの論点としては,住居等の中で会話傍受を実施するときには機器の設置等のためそこに立ち入る必要がありますので,この点については,適切な手続上の配慮を講じるべきだと思われます。そういう意味から,最終的に会話傍受という処分を採用するべきかどうかについては,私自身の考えもまだ熟しておりませんけれども,更に検討を続けていくべき課題であろうと考えています。 ○本田部会長 まだ御意見もあろうと思いますが,時間の都合もございますので,「通信傍受の合理化,効率化,会話傍受」についての議論は,ひとまずここまでとさせていただきたいと思います。   次に,「被疑者国選弁護制度の拡充」について議論を行うこととしたいと思います。この検討事項についての議論は,午後3時10分までとさせていただきたいと思います。   まずは,作業分科会での検討結果につきまして,事務当局から簡単に御説明をお願いします。 ○久田幹事 「被疑者国選弁護制度の拡充」について,第2作業分科会における検討結果の概要を御説明します。資料64の37ページを御覧ください。   まず,制度概要に記載されたように,被疑者国選弁護制度の対象を全ての勾留事件に拡大することについて,理論的な面での異論はありませんでした。他方,検討課題とされていた弁護士の対応態勢に関しては,補足説明「2」(2)に記載されているように,対応態勢が十分と認められるか否かについて意見が分かれたところです。   また,同じく検討課題とされていた公費負担の合理性についても,補足説明「2」(3)に記載されているように,意見が分かれました。すなわち,被疑者国選弁護事件数が横ばいの状況にもかかわらず,公費負担の額が年々増加していることなどの諸事情を踏まえると,制度の採否に当たっては,被疑者国選弁護報酬基準の見直しや固定給である常勤弁護士の積極的活用といった公費負担の総額を抑制する方策の検討状況をも考慮するべきであるとする意見が示されました。   他方で特別部会の各検討事項のうち,本検討事項についてのみ,公費負担の合理性を検討することは相当ではなく,被疑者国選弁護報酬基準の見直し等に関わらず,被疑者国選弁護制度を拡充すべきであるとの意見が示されました。   御説明は以上です。 ○本田部会長 この検討事項に関しましては,「基本構想」におきまして,必要に応じて検討するとされておりました「逮捕段階において弁護人の援助を得る仕組み」についても,必要に応じて,この機会に御意見をいただいても結構でございます。   それでは,御意見のある方は御発言をお願いします。 ○小野委員 勾留全件につきましては,それを導入すること自体についてはもうよろしいと思いますけれども,対応態勢の関係では参考資料96ページ以下,特に一覧表として101ページ以下に整理をしておりまして,この間,弁護士の数も増大したと。各弁護士会の態勢整備によって,勾留全件,今のところ想定しているのは10万件余ぐらいのところではあるわけですけれども,十分に対応できるということは弁護士会としては確認済みであります。   公費負担の問題について,これも前も申し上げましたけれども,もともとこの被疑者国選というのは憲法の要請によって行われる制度だと考えておりまして,その制度の実現のために公費の負担というのは当然のことだろうと考えております。この場で,この問題についてだけ公費負担の問題を論議するというのは適当ではないだろうと考えております。   なお,この被疑者国選の実現までの間,あるいは現時点での限定された被疑者国選ではどうしてもカバーできない被疑者の弁護人選任という問題が今でもあるわけです。その辺は,弁護士会においても,弁護士の資金の拠出によって制度を賄ってきたということが,ずっとこの間あるわけですが,本来の国選弁護制度の実現に向けて公費の負担というのは当然のことであろうと考えております。   それから,法テラスのスタッフ弁護士の活用という意見も出されましたけれども,現在,国選弁護で契約している弁護士数というのは,このスタッフ弁護士とジュディケアといういわゆる一般の契約弁護士で,あわせて2万2000人ほどいるわけです。それで10万件余の勾留事件を賄おうと考えているわけですが,この中でスタッフ弁護士というのが現時点で僅か211人しかいないわけです。スタッフ弁護士を活用するといっても,おのずとこなせる件数にも限度があります。そういう意味では,2万2000人,スタッフを合わせた契約弁護士全体で賄うということだろうと思います。   また,スタッフ弁護士の任務というのは,刑事事件だけではないわけです。被疑者弁護だけではないわけです。困難な裁判員裁判,これも担当することもありますし,いわゆる司法ソーシャルワークといわれている分野の活動,具体的には,高齢者であるとか,障がい者とか,経済的に困窮している方々が抱える問題への法的対応,これに多くの時間を割いているというのが実情であります。   また,実際にこの分野での活動というのは法務省も推奨しているところであるわけですから,このようなソーシャルワーク領域での必要な活動,これは維持していただかなければならないだろうと考えますので,このスタッフとジュディケアと合わせて被疑者国選を担っていくということが必要だろうと思います。   逮捕段階における国選弁護についても触れておきたいと思いますが,もともと身体拘束ということで考えれば,憲法34条からすれば逮捕段階から国選弁護人が選任されるという制度は求められているわけであります。これを厳密に選任という形に持っていくには,逮捕段階で被疑者を裁判官のところに連れていって,国選弁護人として選任する。こういうことになるんだろうと思うんですが,過去の議論の中では,時間的に逮捕時間中ということの中で,裁判官のところに連れていくということは事実上困難だとされてきましたし,また逮捕段階では判断資料に乏しいので,選任の適否を判断できないという意見もあって,結局勾留段階からの被疑者国選,こういうようなことになった経過があります。   そういうところから,今般,私どもは,先ほど事務当局からも御紹介がありました追加の参考資料としてお配りいただいているものと,それからもともとの参考資料として配っていただいているものの147ページにあるんですけれども,ここでは実質的な活動はもちろん「弁護人となろうとする者」という刑訴法上のことで活動するということにはなるでしょうけれども,逮捕段階での被疑者国選の仕組みとして,裁判官による選任ということが困難だとすると,弁護士と相談できる権利,こういうものを規定する。その権利の告知を捜査官に義務付けるという,そういう方法でやるか,あるいはそういう弁護士と相談できる権利という規定はなくても,逮捕時に弁護士と相談できる。それから弁護士会の紹介申出ができる。そして,接見の費用がかからないということを告知する。こういう仕組みで始めることができるのではないだろうか。   国費の支出には現行の被疑者国選と同じ資力要件を設けることにして,それを法テラスが審査する。これは書面審査ということになると思いますが,現実に民事の法律相談でも法テラスは法律相談についての相談料の支払いについて,書面審査でやっているということになっておりますので,そのような方法で処理できるのではないかと考えます。   逮捕段階における被疑者国選の弁護士の対応態勢については,この追加資料の方を御覧ください。現時点で考えているのは,24時間以内に接見に行くことができるようにという,そういう逮捕における時間制限を前提にそのような態勢作りを検討してきました。全国の弁護士会において,本庁あるいは支部全てについて調査を終えました。逮捕段階,被疑者国選の全件勾留でも10万件余ですが,逮捕段階まで広げると12万件余ということになるのではないかという,これはおおむねの想定数字でありますけれども,そういう意味ではべらぼうに数が増えるわけではないということで,数そのものについてはそれほど大きな問題はありません。問題はすぐに出動できるのか,24時間以内に出動できるのかという点での検討が中心になっていたわけです。   基本的に,非常に難しい支部でも本庁からの応援態勢により全て賄うことができるという調査ができまして,基本的に対応態勢ができていると考えております。ただ,実際問題として問題となるのは離島,あるいは冬の間の積雪の多い地域などについては,現実問題として24時間以内というのは困難であるということは確かにあります。   ここでは直接の接見が難しいとなるわけですが,そこのところで接見等は入れない仕組みではありますけれども,電話による連絡という方法の利用を,今現在でもごく一部で行われているわけですけれども,それも活用するという仕組みでやっていくということになる。ということで一応弁護士会側としては,このような形での逮捕段階からの出動ということが可能な態勢になっているという状況になっておりますので,御説明をしておきます。 ○種谷委員 私の方からは,今,小野委員の方から話があったうちの逮捕段階までの拡大という点について,警察の立場から懸念していることについて申し上げます。先ほど48時間ということで捜査に使える時間が非常に少ないという点から意見があったというお話でありました。確かに48時間の間に送致できるまでの捜査を尽くさなければいけない。それでなくても大変な中で,裁判官のところにそのために引致するという時間的なことを考えると,非常に難しいなというのが実感です。ただそれだけではなくて,警察としては捜査と留置の分離ということで完全に分離しておりますけれども,この部会でも留置場の視察をしていただいたそうでございますが,そのときに恐らく留置場で日課表というのを御覧いただいたと思いますけれども,厳正に日課時限をこなしていくということで,食事時間,それから睡眠時間の確保をするということを考えると,捜査の立場だけではなくて留置管理の立場からも,48時間の間に裁判官のところに連れていって,その上でこれらの時間を確保するというのは非常に難しいのではないかなと思います。   それに対応する対策として,小野委員の方から先ほど事後的な公費負担とか相談権という話がございましたけれども,実際に考えてみると,選任なり相談する段階で,将来的にきちんと相談した場合に,それがちゃんと国費で補てんしていただけるのか,それとも俗な言い方をすれば,自腹で出さざるを得ないことになってしまうのかということが分からないような状態の中で,相談したり選任したりするという制度が果たして機能するのかどうか,ちょっと疑問だなという感じがいたします。   それと,そもそも警察で処理されている事案の中には,逮捕後間もなく釈放される事件というのも,交通法規違反とか入管法違反で65条で入管局に引き渡す事件は勿論のこと,送致前釈放というのもかなりあるわけでありまして,その段階にまで被疑者国選という公費負担の制度を導入していくべきなのかどうかという点についても御議論をいただければと考えております。 ○大久保委員 私は繰り返し申し上げていますように,弁護人による弁護の重要性というものは理解していますけれども,被疑者国選弁護制度の対象事件を拡大するということにつきましては国民の理解をも得ることはできないと思います。被疑者国選弁護の事件数は横ばいであるにもかかわらず,「参考資料」の97ページを御覧いただきますと記載されておりますように,平成20年度以降,その報酬額は年々増加しています。平成25年度予算では約56億円もの経費が必要とされ,そして平成26年度の予算案には60億を超える経費が計上されているということです。これは被疑者国選弁護の報酬基準や法テラスのスタッフ弁護士の活用方法などの被疑者国選弁護制度を運用するための仕組みに,公費負担の抑制という観点から見て問題があるということが要因になっているのではないでしょうか。   それにもかかわらず,対象事件を拡大すれば抑制が十分きかないままに,ますます公費負担が増えていくことになってしまうのではないでしょうか。このような状況下で,しかも被疑者国選弁護人の弁護費用を被告人に負担させる割合も非常に低いとされる中で,更に対象事件を拡大するということについて,被害者は強い不公平感と危機感を抱きます。それは,被害者支援の現場では,被疑者に弁護士がついた途端,被疑者を黙秘させ,否認させ,虚偽供述をさせる弁護士に傷つけられたという怒りとショックの相談を支援センターでは日常的に受けているからです。このような弁護手法がなされることで,被害者は司法への信頼感を失って精神的にも回復できなくなります。国民もこのような弁護活動に公費を投入するということに疑問を感じるのではないでしょうか。日本の弁護士の方々は,まだまだ被害者支援に取り組む姿勢が十分ではないように見えます。   その意味で,弁護士さんに聞いたら,誰でもが「犯罪被害者国選弁護士も弁護士の重要な役割ですよ,仕事ですよ。」とすぐに答えるようになったときに,被害者もそして国民も被疑者国選弁護の対象事件を拡大することを検討しようと考える土壌がようやくでき上がるのだと思います。   なお,参考資料として小野委員から提出されました逮捕段階における私選弁護士の弁護費用を公費で負担するという内容の資料も配られています。これは147ページです。でも,国が選任したわけでもない逮捕段階の私選弁護人の弁護費用まで公費で負担するということについては,被疑者国選弁護制度の対象事件の拡大以上に国民の理解を得るということは難しいのではないかと思います。そして,もしそういうことが現状で制度ができた場合,弁護人が被疑者に黙秘や否認を進めることが今以上に増えて,事案の解明が大きく妨げられることになり,被害者が知りたいと思う真相等の解明にもかなりの影響が出てしまうということを非常に懸念いたします。そのためこのような制度を導入することには反対です。 ○安岡委員 今の大久保委員と真っ向から対立する意見になりますけれども,私は被疑者国選弁護の対象事件の拡大に当たって,公費負担の合理性に配慮する必要がある,端的に言えば,公費負担の総額を抑制する方策を併せて検討する必要がある,こういう留保条件を答申に付けるべしとの意見に反対です。理由は3つあります。まず第1点目として,そもそも審議会は,あるべき制度を協議して示すのが役割であり,その制度,政策にどれほどの公費をつぎ込むのが相当なのかということは,立法府の判断事項であると考えるからです。   第2点目には,たたき台の説明の38ページに記述があるとおり,この検討事項についてのみ公費負担の合理性を持ち出す根拠がない,これが2点目です。   第3点目として,こういうことを指摘したいと思います。確かこの部会でも小野委員がちょっと触れられたと思いますけれども,被疑者国選弁護の対象事件を拡大すれば,当然それに伴って公費負担は拡大しますが,被疑者国選弁護の活動には,刑事司法に掛かる公費負担,全体で見た公費負担を直接,間接に抑制する,削減する働きがあると指摘したい。これがこの問題について公費負担の総額抑制を留保条件とすることに反対する3点目の理由です。   直接的な抑制の効果とは,被疑者段階で弁護人が付いていなければ,刑事処分において正式起訴になるだろう事件が,被疑者段階での弁護活動により不起訴ないしは略式起訴で,あるいは罰金刑で済み,被告人国選弁護に掛かる費用をなくしたり,あるいは少なくする例が出てくるということです。これについては仄聞するところでは,日弁連において試算されたことがあるのではないか,もしそういう数字をお持ちでしたら披露していただければと思います。   それから,間接的な公費負担の抑制の効果とはどういうことかと申しますと,被疑者国選弁護の中で,犯罪の被害の弁償などを通じて示談を成立させて,犯罪の被害者から宥恕を得るとか,被疑者が生活困窮している者であったり,あるいは,高齢者や知的障がい者であったり,あるいは薬物依存症の被疑者など,刑務所に入れるのが必ずしも適切な刑事処分ではない場合に生活困窮者,高齢者,障がい者の不起訴になった場合の帰住先,あるいはその後の生活のための施設を探すというようなことを被疑者段階の国選弁護人の熱心な方はやってくださっているわけです。被疑者段階での弁護活動が成功すれば,被疑者の境遇にあった適切な刑事処分が検察官においても可能になり,うまくいけば再犯,再入所の繰返しを断つことも期待できる。   これがうまく回っていけば,捜査から矯正,更生保護に至る刑事司法全体に掛かる公費負担の削減につながる効果が期待できます。私が今勤務している法テラスのスタッフ弁護士の中で,こうした活動を熱心にやっている弁護士がおりまして,実際に被疑者段階の弁護活動によって,起訴を免れて適切な福祉施設なり,そういうところに入所して,生活の場を得させて,その後は再犯に至っていない。こういう事例を聞いています。   再犯,再入所の防止,とりわけ高齢者や障がい者の再犯,再入所の防止に近年法務省は力を入れておられ,特に刑事手続の入口の段階で適切な刑事処分を考えることを入口支援と呼んで,弁護士や福祉関係機関の方々と力を合わせて再犯,再入所の防止施策を試行していると承知しております。そこでは被疑者段階での国選弁護活動に大きな役割が求められていると私は考えます。   以上の次第で,被疑者国選弁護の拡大は,それ自体とれば確かに公費の負担は拡大するけれども,刑事司法全体に掛かる社会コスト,これには司法手続に掛かる公費だけではなく,再犯による社会利益の損失という社会コストも含みます,こうしたものを抑制する,削減する働きがあるので,被疑者国選弁護の対象事件の拡大自体に掛かるコスト増ばかりを問題視したのでは,いかにも視野が狭い答申になってしまうと私は懸念します。 ○椎橋委員 先ほど憲法の問題が出て,憲法は被疑者の国選弁護を要請しているという話が出ましたけれども,憲法37条には,「刑事被告人は,いかなる場合にも,資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは,国でこれを附する。」と書いてありますので,被告人については国選弁護を保障するというのは憲法上の要請であります。ですから,国はそれに従って制度をしっかりと作らなければいけない。実際,被告人については国選弁護人制度が整備されています。他方,被疑者については先ほどから出ていますけれども,憲法34条で,「何人も,理由を直ちに告げられ,且つ,直ちに弁護人に依頼する権利を与えられなければ,抑留又は拘禁されない。」ということで,身柄を拘束された被疑者について弁護人を選任するということを認めております。   ですから,これは,憲法上の要請としては,弁護人依頼権を認めるということで,国選弁護人まで認めているということにはなっておりません。いろいろ解釈がありますけれども,通説的な見解によれば,憲法は被疑者の国選弁護を設けることは憲法上の直接の要求ではないけれども,これを創設することは否定していない。従って,被疑者の国選弁護制度を設けるか否かは,立法の問題だと考えているのだと思います。立法の問題であれば,これは政策的な問題だということでありますので,そこにはいろいろな要請がある中で,どの事項にプライオリティを設けるのかということについて選択するという余地が出てくるわけであります。   そう考えた場合に,やはり作業分科会,それから特別部会でも議論されてきましたけれども,私が求めたいのは,立法事実があるのかどうかということです。現在の体制でどのような不都合が出ているのか。勾留事件全体に広げなければならない必要性というのはどこにあるかということをもう少し詰める必要があるのではないか,他方で,被疑者国選弁護を勾留事件全体に広げた場合に,それは全国的にあまねく機能できるかということも確認できる必要があるのではないか。   私も,実は憲法34条の精神としては,身柄拘束された事件全体に及ぼすのが理想だと考えているのですけれども,現在の時点で,政策的に考えた場合に,どの程度の必要性があるのかということをもう少し納得させていただきたい。   それから,公費負担の抑制という関係では,これも作業分科会でも盛んに議論されておりますけれども,単価の見直しの必要性の有無ということで,先ほど小野委員からもスタッフ弁護士は現在211人しかいないということの御指摘がございましたけれども,私はスタッフ弁護士を日本の社会としてもっとたくさん養成していく必要があるだろうと思います。やはり刑事の専門家というものを作って,刑事事件をたくさんこなして経験を積んで,そしてそれが充実した弁護,効果的な弁護というものにもつながるということで,それから裁判員裁判への対応ということを考えた場合にも,やはりスタッフ弁護士というものをもっと今までよりも大きな形で構想していく必要があるのではないかと考えております。   それから,最後ですけれども,これは大久保委員も指摘されておりましたけれども,やはりほかの予算を必要としている部分との関係で,どうしても被疑者・被告人ということになると被害者ということが出てきますけれども,これもやはり大事な視点だと思います。先ほど御指摘があったように,平成26年度の予算案では被疑者・被告人の国選弁護人,少年の国選付添人に掛かる費用として,130億余円が計上されておりますけれども,これに対して被害者の支援については1億800万円ということで非常に少ない金額であります。被害者についても法律が昨年できましたので,平成25年度から26年度は倍増しているということなんですけれども,倍増していてもこの程度だということで,このあたりの不公平感というものも,やはり国民の納得のいく司法制度ということを考える場合には,考えておく必要があるのではないかと思います。 ○後藤委員 逮捕段階における援助のことについて一言申し上げます。小野委員が提出されている資料の147ページに,逮捕段階における援助の充実化について語られています。この中のA案は,弁護士と相談できる権利という新しい権利を定めようというものなので,いろいろ難しい問題をもたらすかもしれません。それに対して,B案の方はそれほど大事ではなくて,弁護人選任権の告知の方法をもっと具体的にするというものです。その実質は当番弁護士の仕組みを説明するのとほぼ同じ中身のものだと,私には見えます。   当番弁護士が始まった当初は,本当に速やかに弁護士が来てくれるのかどうかはっきりしない,それを捜査官が説明しても大丈夫かという不安があったと思います。けれども,ほぼ20年やってきて,かなり運用が確立しているので,このような内容を告げることは差し支えないし,その方が告げられた被疑者は現実にどういう選択をしたらよいのか考えられるという意味があります。この場面での弁護士の費用を誰が負担するかという問題とは一応別にしても,ここは改正する意味があると思います。   費用負担の問題については,確かにいろいろな難しい問題があるでしょう。現在当番弁護士については弁護士会が自分たちの会費で日当を払っています。けれども,本来弁護士会にそのような義務があるわけではないので,言ってみれば社会全体がそれに甘えているような構造が続いています。それをいつまでも続けることは,適切ではないと思います。 ○川出幹事 今,後藤委員がおっしゃった逮捕段階における弁護士の援助の充実化についてですが,先ほど,小野委員は,逮捕段階の国選弁護に関してという前置きで,参考資料の案に言及されましたが,この案の実質は,国選弁護ではなく,後藤委員がおっしゃったように,当番弁護士による1回目の接見につき,その費用を国で負担するという仕組みであると思います。そうしますと,これも後藤委員が最後におっしゃったように,その根拠が問題となってきます。つまり,この段階では,私選の弁護人,正確にいえば,私選の弁護人になろうとする弁護士と被疑者の接見について,国が費用を出すということになりますので,なぜ,そのような弁護士の活動について国の費用が出るのかという,その根拠をもう少し詰めて考える必要があるのではないかと思います。   恐らく,A案が「弁護士と相談できる権利」を刑事訴訟法に規定するというのは,いま申し上げた意味での国による費用負担を根拠付けようとしたものではないかと思います。ただ,その中身を考えてみますと,弁護士と相談できる権利というのは,現在の弁護人選任権の中に当然に含まれているわけですから,それ以上のものを規定するのだとすれば,被疑者が弁護士と相談することを国家機関により妨げられない権利だけではなく,被疑者が実際に弁護士と会って相談できることが保障されること,つまり,国に対してその実現を求めることができる権利があるということになるのだろうと思います。しかし,そのような権利は,現在は,勾留段階以後でも認められていないわけでして,なぜ逮捕された段階でそれが認められることになるのかということが問題になるように思います。やはり,逮捕後の弁護士の接見について国が費用を負担すべきというのであれば,その必要性をいうだけでなく,その根拠をもう少し詰めて考えなくてはならないのではないかと思います。 ○酒巻委員 逮捕段階のことはひとまず置き,被疑者国選弁護制度の対象を勾留事件の全てに拡充することについて,委員として意見を申し上げます。   既にいろいろ御意見が出ておりますけれども,身体を拘束された人は弁護人に相談することができるんだということが日本国憲法の保障するところであり,私は,その趣旨を的確に実現する立法政策としてはこの枠の中に書いてあるとおり,勾留状が発せられている全事件に,国の費用で弁護人を付けることができるようにする法制度が妥当だと思っております。   被疑者国選弁護制度対象事件の範囲を拡大すれば一層お金が必要となることは明らかであり,その点はもとより考慮勘案すべき重要事項ではありますが,制度実現にとって何よりも重要なのは,弁護士の対応体制です。これまでも分科会の場でも小野委員が一生懸命全勾留事件について弁護士会の対応態勢は大丈夫だと何度もおっしゃっていただいて,先ほどもおっしゃられました。私としては,それを信じたいのですけれども,弁護士会としてそれをおっしゃるということは責任が伴うのであって,刑事訴訟法上の制度とする場合は,公平にどんな場所地域でも,身体を拘束された被疑者のところには,請求があれば,国選弁護人が選任されるという状況が実現されないといけない。それが正に対応態勢なのですけれども,先ほど小野委員は,逮捕事件については,離島とか寒冷地の場合は対応が困難なときがあるというお話をされましたけれども,離島であろうが寒冷地であろうが,請求があれば勾留された人には弁護人が選任できるという,その態勢整備が確実に可能であることを強く期待し,被疑者国選弁護の対象を全勾留事件に拡大することについて,賛成したいと思います。   それから,大久保委員は,被害者のこと,あるいは国民の理解ということをおっしゃいました。その点について,被疑者段階で弁護人が付く,特に身体が拘束されて自分では自分を守る活動ができない被疑者に弁護人が付くということは,弁護人が誠実に活動すれば,例えば,相手方当事者になるだろう検察官と様々なやり取りをする,被害者と言われている人と示談の交渉をする,あるいはまた,被疑者に有利な事情について,起訴不起訴を検討することになるだろう検察官にこれを的確に伝達し法律家としてやり取りができるようになる,それは,客観的な数字として,刑事司法に係る国の費用負担を軽減できるとはなかなか出せないのかもしれないですけれども,全刑事司法手続の負担を減らし,限られた刑事司法資源を効率的に投入するという方向にいく可能性もあるだろうと思います。   なお,大久保委員は,黙秘,否認を併せて言及されましたけれども,黙秘権は被疑者の権利ですから,黙秘できる権利があるということを説明することは弁護人の役割として不当なことではない。身体を拘束されて自分では何もできない被疑者のために法律家である弁護士が働くということは,刑事司法制度全体にとっては非常に重要な公正確保のためのシステムだということをこれからもいろいろなところで啓蒙,説得することが何より大事なことであろうと思います。一方で,弁護士会としては,全国津々浦々,統一的に誠実にそれができるような態勢整備を責任をもって確実にしていただけるということを望むところでございます。    ○本田部会長 まだ御意見もあろうかと思いますが,時間の都合もございますので,「被疑者国選弁護制度の拡充」についての議論は,ここまでとさせていただきたいと思います。   それでは,ここで10分間休憩をとりたいと思います。           (休     憩) ○本田部会長 再開いたします。次に,「犯罪被害者等及び証人を支援・保護するための方策の拡充」につきまして,議論を行うことといたします。この検討事項についての議論は,午後4時20分までとさせていただきます。まずは,作業分科会での検討結果につきまして,事務当局から簡単に御説明をお願いいたします。 ○保坂幹事 御説明いたします。資料の48ページ以下です。まず,「第1」の「ビデオリンク方式による証人尋問の拡充」についてですが,制度概要①から③の場合に同一構内以外の場所におけるビデオリンク方式による証人尋問を行える制度とすることについては,おおむね意見が一致しましたが,制度概要①・②の対象者の範囲・要件をより限定すべきとの意見や,そもそもこの制度のビデオリンクは当事者に異議がない場合に限って実施できるものとすべきとの意見もございました。   次に,資料51ページです。「第2」の「被害者等の捜査段階での供述の録音・録画媒体の公判での活用」につきましては,性犯罪の被害者などを対象として精神的負担を緩和・軽減するために制度概要にある仕組みとすることについてはおおむね意見が一致しましたが,対象者を被害者に限定すべきという意見,また,制度概要「3」におきまして,証言の際の記録媒体の謄写を禁止していますが,そうすべきでないという意見もありました。そして,このような制度の相当性・必要性につきまして,被告人側の反対尋問が不十分となるとの意見や反対尋問がされる以上は証人の負担軽減となるか疑問があるという意見も示されたところです。   次に,資料53ページです。「第3」の「1」の「証人の氏名及び住居の開示に係る代替措置」につきましては,まず,A案の方は,現行法では検察官が被告人又は弁護人に対して証人等の氏名及び住居を知る機会を与えなければならないとされているのを改めて,加害等のおそれがあるときには,防御に実質的不利益がある場合を除いて,その氏名,住居ではなく,呼称や連絡先を知る機会を与えることで足りるとし,これに加えて,検察官請求証拠の開示の場面や,裁判所の訴訟記録の閲覧・謄写の場面でも同様の措置をとることができるというものです。これに対して,弁護人には氏名・住居を知らせた上で,被告人に住居を知らせない旨の条件を付する制度とすべきとの意見がありまして,これをB案として併記しています。   次に資料59ページです。「第3」の「2」の「公開の法廷における証人の氏名等の秘匿」につきましては,制度概要の要件・仕組みとすることについて,おおむね意見が一致しましたが,要件をより限定的にすべきという意見もございました。   最後に,資料62の「第4」の「証人の安全の保護」につきましては,考えられる制度の枠組みが記載されていますが,今後の検討の在り方については,民事・行政上の課題を含め議論を尽くして,制度の概要・方向性を定めるべきという意見と,当部会における取扱いが困難な民事・行政上の課題が多くあることから,その専門家も交えた適切な場で具体的な検討がなされるように希望することとすべきという意見に分かれたところです。簡単ではございますが,御説明は以上です。    ○本田部会長 この検討事項につきましては,「第1」から「第4」までという4つの論点がございますけれども,これらについても,あえて議事を区切るということはいたしませんので,いずれの論点についての御意見かを明確にした上で,御発言をいただきたいと思います。   それでは,御意見のある方は御発言をお願いいたします。 ○大久保委員 まず,「犯罪被害者等及び証人を支援,保護するための方策の拡充」については,被害者の二次被害を防止して,被害者を含む証人の公判審理への協力を得やすくするために,幅広く導入していただきたいと思います。まず「第1」の「ビデオリンク方式による証人尋問の拡充」についての意見ですが,この制度は,被害者が安心して安全に証言ができて,精神的な回復を阻害しないようにするためにも必要であり,それは被害者以外の証人についても同様ですので,制度概要にあるとおり,導入を是非していただきたいと思います。   また,50ページにあります補足説明の「4」では,「当事者に異議がない場合に限って実施できるものとすべき」という意見もあったとありますけれども,でも被告人に異議があるときは実施できないとしたのでは,反対尋問がやりづらいなどとして多くの場合に異議が述べられてしまって,制度を利用することができずに,これを設けた意味がなくなってしまうのではないかと考えられますので,当事者に異議がないということは不要とする制度としていただきたいと思います。   次に,「第2」の「被害者等の捜査段階での供述の録音・録画媒体の公判での活用」については,たとえその後に被害者等が反対尋問を受けることになったとしても,被害者が自らの被害体験を被告人や傍聴人のいる公開の法廷で1から証言をするということをしなくても済むため,心理的な負担の軽減になります。これは単に取調べや尋問の回数の問題ではなくて,証言をする方法について,自ら選択できる選択肢があるということが安心感につながり,精神的な回復にも寄与するからです。被害者の尋問の様子が記録された媒体には被害者の表情や態度なども克明に記録されてしまいますので,証言の内容にも,被害者が本当は誰にも知られたくなかったような事実,なかったことにしたいと思っているような事実も含まれていると考えられ,記録媒体が確実に外部に漏れない仕組みが必要ですので,制度概要「3」にあるように,記録媒体の謄写を禁止する仕組みにしていただきたいと思います。   さらに,「第3」の「証人に関する情報の保護」ですけれども,「1」の「証人の氏名及び住居の開示に係る代替措置」についての意見ですが,ストーカー事件などの被害者や組織犯罪の目撃者などは被告人側に氏名や住所が知られることで更なる被害や加害行為,嫌がらせなどの報復を受けるのではないかという不安を抱きます。一般の犯罪被害者であってもそのような不安を抱く人は少なくはありません。そのため,こういった人たちが不安を抱くことなく安心して刑事司法にも協力できるように,是非,制度概要にあるように,証人の氏名や住所を被告人側に教えなくても済む制度を導入していただきたいと思います。   この制度概要につきましては,「1」の「検察官の措置」に関して,A案とB案が記載されていますが,このうちB案は,弁護人には氏名,住居を教えた上で,住居については被告人に知らせてはならない旨の条件を付するとなっています。もちろん信用できない弁護士さんばかりでないということは重々承知はしていますけれども,被害者や証人からすれば,弁護人に住所や氏名が知られたら,弁護人から被告人やその関係者にも情報が漏れてしまうのではないかという不安感は決して拭い去ることができません。これは,弁護人が条件に違反した場合,何らかの制裁を加えるような仕組みを作ったとしても,それだけで解決できるものではないと思いますので,証人の氏名や住所を弁護人にも知らせないことができるような制度にするべきだと考えます。また,氏名が知られてしまえば,それを手がかりにして住所や勤務先などが突き止められてしまうおそれもあり,氏名についても知られないような仕組みにすべきなので,A案を取るべきだと考えます。   また,この制度によって被告人側の防御の観点から対象者の範囲を更に狭めたり,要件をより厳しくするべきという意見も示されていますけれども,でも制度概要に記載されている対象者の範囲や要件はいずれも適切であると考えます。そして,59ページの「第3」の「2」の「公開の法廷における証人の氏名等の秘匿」についても,証人の協力を得られやすくするために役立ちますし,被告人の防御権には特に何ら影響がないはずですから,是非,制度概要にあるような制度を導入していただきたいと思います。 ○神幹事 4項目についてそれぞれ意見を述べたいと思います。大久保委員には誠に恐縮なんですが,私たち刑事弁護をする立場から,このような見解になります。   まず,「ビデオリンク方式による証人尋問の拡充」であります。証人は裁判官,検察官,弁護人,被告人の面前で宣誓し,証言をすることが原則であり,ビデオリンク方式による証人尋問は例外でなければなりません。したがって,安易にビデオリンク方式による尋問の要件を緩めるべきではないと考えます。遠隔地にあること,仕事の都合などの利便性のために,安易に広げるべきではなく,適用範囲は限定的であるべきです。そして,証人の在席する場所は,他の裁判所の構内に限るべきであります。そうでなければ,証人の在席する場所自体が証人に影響を与える可能性を排除できないのではないかと考えるからであります。したがって,刑事施設に収容されている者についても裁判所の構内で行うべきであると考えます。証人の保護という本来のビデオリンク方式の証人尋問の制度目的とは違った心情の安定,矯正教育の効果などは矯正当局の都合にすぎず,刑事施設で行うということについては反対であります。   また,ビデオリンク方式による証人尋問は反対尋問に対する制約となるものですので,これを行う場合には,大久保委員の見解とは異なりますが,当事者の異議のない場合に認められるべきだと考えています。弁護人は決して異議の濫発をするという形で行動することはないと思っております。   二つ目の「被害者等の捜査段階での供述の録音・録画媒体の公判での活用」について述べます。これもまた,反対尋問は主尋問の後にこれを行うことが望ましく,録音・録画媒体を主尋問に代えて使用することになると,弁護側の反対尋問がやりづらいというのが経験則上考えられています。また,防御に支障を来たすということもあるために反対であります。被害者等はこの制度によっても結局反対尋問のために公判廷に出廷しなければならず,この制度によって被害者等の負担軽減になるかどうかも疑問であります。   また,弁護人が立ち会わない場所で行われる主尋問に代わる証人尋問の基になるものというのは,誤導や誘導等がなされたとき,弁護側が異議を述べることができないという問題があります。仮にこのような制度が導入される場合には,誤導や誘導等が行われ,そのまま記録されてしまった証人尋問調書について,主尋問に代えて使用する録音・録画媒体からその部分,問題部分を削除する等の方策が必要だと考えます。   三つ目に証人に関する情報の保護について述べます。まず,「証人の氏名及び住居の開示に係る代替措置」についてということでありますが,証人の氏名が弁護人に開示されなければ,弁護人が証人の経歴や証人と被告に被害者等々の利害関係を調査することが不可能となり,その結果,証言の信用性を減殺する事実を示す機会を失うことになりかねません。また弁護士法23条の2の照会等の手続を用いて,調査することもできず,証人の利害関係や犯罪現場にいないことを立証することも不可能になってしまいます。住居についても同様で,例えば氏名のみでは証人の人物を特定できない場合,住居が開示されていなければ証人の経歴や利害関係の有無を調査することができず立証もできないことが起こり得ます。したがって,このような制度を設けることには反対であります。しかしながら,仮にどうしても設けるということであれば,対象範囲は限定されるべきであり,鑑定人,通訳人,翻訳人は対象とすべきではありません。   また,代替措置の範囲についても,本来氏名は必ず被告人に知らされ,一定の場合についてのみ住居に代わる呼称を教えることに代えることができる制度ならば理解ができないではありません。被告人に証人の氏名すら知らせず,その証言に基づいて被告人を処罰することは適正手続や反対尋問権を保障している憲法にも反するのではないかと考えています。   さらにまた,仮に何らかの形で被告人に対して,証人等の情報を秘匿する制度を導入するのであれば,証人若しくはその親族の身体若しくは財産に害が加えられるおそれがあると認められる場合で,被告人の防御に実質的な不利益が生じるおそれがないときに,弁護人に対し,証人の住居を被告人には知らせてはならない旨の条件を付することができるものとするべきです。そして,被告人が犯人性を争っている場合などは,防御に実質的に不利益が生じるおそれがあると考えるべきです。したがって,「考えられる制度の概要」については,B案を採用されるべきだと考えます。   最後に,「公開の法廷における証人の氏名等の秘匿」であります。これも何度も申し上げていますが,公開の法廷における証人の氏名等の秘匿については,現在でも弁護側の同意を得て法廷で氏名等を明らかにしない運用がなされています。そのような現在の運用で対処することで足り,法制度化する必要はないと考えています。証人が公開の法廷で宣誓し,顕名で証言を行うことが証人の信用性の担保となるのであり,安易に匿名での証言を認めることを許すべきでないと考えます。また,「社会生活の平穏が著しく害されるおそれ」程度で匿名での証言を認めることも,証言の信用性の担保の観点からも,極論を言えば,裁判の公開原則からも相当ではないと考えますので反対であります。 ○松木委員 「第3」の「1」の「証人の氏名及び住居の開示に係る代替措置」について意見を述べさせていただきたいと思います。私は,このような制度を設けることに賛成したいと思います。確かに,証人となる人や事件に関する供述をした人について,その名前や住所を知ることがその人の供述の信用性を判断するためには重要であるということはあろうと思いますし,そういったことから証人が全て匿名になってしまうということでは困るということは理解できるところでありますけれども,一方で,常に証人や捜査に協力した人の名前だとか住所が書類に記載されてしまって,被告人や弁護人に知られたり,裁判で明らかにされたりする,そういったふうにならなければいけないということまでの必要性があるのか。これについては疑問に思うところであります。   証人やその捜査に協力をする人の中には,やはり協力をすることで,その後,報復その他の不利益を受けるおそれがあるという人もいると思われますし,それから分科会の議論でも出ておりましたけれども,暴力団関係の事件などではやはり氏名や住所を被告人に知られることがないとしても,その弁護をされている弁護士さんと暴力団との関係等から弁護士さんに知られるということだけで不安に思うというようなことも少なくはないのではないかと思います。そういった人に対して,そういうルールになっていますから,あなたの名前や住所が常に被告人や弁護士に知られることになりますというふうに,一方的に協力を求めて,それを嫌がって協力しないと処罰されることもあり得るということでは,これは国民といいますか一般市民にとってちょっと酷に過ぎるのではないかと思います。   したがって,そういうような場合に事案によって適切に対処ができるような,言わばセーフガードのようなもの,これを設けておくということは,刑事司法制度を信頼できるものとしてより多くの人に協力をしてもらうという制度にするためにも必要なことではないかと考えております。このような理由から,この点につきましては,A案で制度を作るということに賛成です。 ○今崎委員 まず,「第1」の「ビデオリンク方式による証人尋問の拡充」について,基本的には賛成なんですが,これまで公判審理が行われる裁判所に出頭することが困難な証人の場合には,公判期日外の証人尋問,所在尋問と我々は呼んでいるんですが,これが利用されておりまして,証人が入院中の場合には病院に行ったり,あるいは刑事施設に収容中であれば,その刑事施設や近くの裁判所に出張したり,それから性犯罪の被害者であったり,体が不自由,入院まではしてないけれども,裁判所まで来るのは難しいという方については,その住居地の近くの裁判所においでいただくというようなことをして,証人尋問を実施しておりました。今回の制度案は,そういった制度に加えて,別の裁判所に来てもらって,ビデオリンクを利用して証人尋問することができるようにするというものだと理解しております。その意味で新しい選択肢を設けるものだと思っておりまして,裁判所としては歓迎できるものだとは思っております。   ただ,それは,飽くまでも訴訟指揮権,法廷警察権の十全な行使が確保できて,かつ回線のセキュリティ上問題がないものでなければなりません。そのために,証人の在席場所はやはり裁判所の構内であるということは必須であると考えております。その関係で,既に御意見が出ておりますが,刑事施設収容者を施設内に在席させて尋問できるようにするという案については,その例外を設けることになります。刑事施設の収容者を施設から連れ出すということになりますので,その施設の管理の方々には大変御不便をかけるということは裁判所として理解しているつもりですが,ただ,その観点から刑事施設の収容者だけ例外扱いする理由はないものと考えております。   それから,続いて「第3」の「証人に関する情報の保護」の関係でございます。まず,「証人の氏名及び住居の開示に係る代替措置」で,今回で言えば「1」の検察官の措置のA案の(1)だけだったのが,A案の(2),あるいはB案の(2)に当たるものが入ったこと。それから,A案だけだったのが,B案に当たるものが入ったことというのが大きな違いかなと思っておりまして,特に(2)が入ることによってこれまで証人だけだったのが,それ以外の供述調書などに名前の出ている様々な目撃者だとか被害者,こういう人たちがこれによって保護されることになったと理解しておりまして,これも歓迎すべきものだろうと思っております。   大きな意味でのA案,B案,どちらかという問題につきましては,裁判所が実際にこれを運営する中では恐らく大多数の事件はB案のやり方で対処することになるだろうと思っております。ただ,これまでの議論では,むしろB案のような形では対応できないということでA案が当初から提案されていたと理解しておりまして,もしそのようなケースがあるのであれば,そういった場合への対処方法というのを検討する必要があるわけであります。やり方については,このA案にあるような訴訟法上の規律に委ねるというやり方もあるでしょうし,それを含めたそれ以外の方法というのがあるのかもしれません。その点については,皆さんの御意見を伺いたいと思っております。   それから,最後にもう1点だけ,ここでは枠に挙がっておりませんが,しつこいようですが前回から申し上げております,今回新たにB案に当たるもの,あるいはA案,B案の(2)に当たるものを入れていただいたことは大変有り難いと思いますが,併せて起訴状や判決書に被害者の名前が載るという場合が依然としてあり得ます。やはり,そのような場合に,仮にそれが被害者に対する再被害のおそれがあるとかいう場合には,何らかの手当てを検討できればしていただきたいと思っております。   なお,私どもの考えでは,その場合に特に256条の3項であるとか,判決書の記載要件に関する規定の内容,実質まで変える必要はなくて,一定の場合に,送達方法に謄本だけじゃなくて抄本を加えるとか,判決謄本の請求があった場合には,原則としてそれを交付しなければならないという形になっているところを抄本も交付できるようにするようにできるとか,そんなことが考えられるのではないかと考えているところでございますので,参考までに付け加えておきます。 ○上野委員 私の方からこの問題につきまして3点申し上げさせていただきます。  「ビデオリンク方式による証人尋問の拡充」の関係でございますが,配布資料の「考えられる制度の概要」記載のとおり,①から③までの証人について,同一構内以外の場所におけるビデオリンク方式による証人尋問を実施できるようにするべきだと思われます。   この中で1点だけ,ちょっと申し上げますと,この補足説明,48ページの(2)に書いてありますが,畏怖・困惑行為がなされるおそれがある場合にまで広げることについて疑念を呈されている方がいらっしゃるということでございますが,やはり,「制度の概要」のとおり,事案に応じまして,証人の精神的な負担を軽減する措置を講じることができますよう,畏怖・困惑行為がなされるおそれがある場合も含めて,制度化するのが相当であると考えております。   次に,「被害者等の捜査段階での供述の録音・録画媒体の公判での活用」でございますが,この点につきましても,「制度の概要」に記載されておりますとおり,①の性犯罪等の被害者,②の精神の平穏を著しく害されるおそれがある証人を対象として,この制度を導入する価値は十分あると思います。私自身の経験でも,特に性犯罪の被害者等には,被告人や傍聴人がいる公開の法廷でその被害の経験等を一から証言しなければならないということは,非常に辛く大きな負担でございます。主尋問に対応する証言を第1回公判期日前の証人尋問でしておきまして,公判廷で繰り返しの証言を避けることによりまして,そうした被害者等の負担を少しでも軽減することができるのであれば,この制度を導入する価値が十分あるのではないかと思っております。   現行法でも,ちょっと場面は違いますが,刑事訴訟法321条の2の規定によりまして,ビデオリンク方式での証言を記録した記録媒体を共犯者等の公判で証拠とすることができ,その場合には,訴訟関係人に反対尋問の機会を与えれば足りるという仕組みは既にでき上がっているところでございます。   最後に第3点といたしまして,「証人の氏名及び住居の開示に係る代替措置」について申し上げます。私どもが,日ごろ犯罪の被害者,あるいは目撃者等,将来証人となり得る方と接しておりますと,やはり,本名や住所を知られると被告人側から報復や嫌がらせを受けるのではないかということで,捜査への協力,あるいは公判出頭を非常に渋る方がいらっしゃいます。その場合,警察官の協力も得まして,何とか説得して御協力いただいているというのが実情でございます。   証人になり得る方の立場から見た場合,やはり弁護人というのは被告人の代理人でありまして,B案のように弁護人に知らせた上で被告人に知らせないという条件を付したといたしましても,証人となる方の不安感や不信感を払拭することは非常に困難であると思っております。そのため,なかなか協力をお願いするというのはB案では難しく,現行法でも刑訴法299条の2に配慮要請というのがございますが,これも配慮をお願いすることができるだけのことでございますので,私どもが制度を説明しても,それではなかなか安心していただけないというのが実情でございます。   このような観点からいたしますと,「制度の概要」の「1」につきましては,証人尋問請求,証拠開示の双方の場面で,被害者だけでなく通訳人などその他の証人となり得るものを含めて,A案による制度とすることが相当であろうと考えております。   先ほどからお聞きいたしておりますと,A案をとった場合には,被告人の防御に実質的な不利益があるような趣旨の御発言がございましたけれども,A案の制度自体は,正に被告人の防御に実質的な不利益がある場合は除く制度設計になっていると私自身は理解しております。この制度は,証人の氏名や住居そのものを知らなくても,証言の信用性の吟味など防御の準備に支障がないような場合に,むしろ制限的に用いられることになるのではないかと思います。この「制度の概要」では,被告人の防御に実質的な不利益を生じるおそれがあるか否かにつきまして,私ども検察官と被告人・弁護人の評価が異なった場合は,裁判所の裁定を求めることができるなどの制度設計もされております。   ですから,例えば被告人や被害者等と関係がなく,たまたま犯行場所となった店舗の従業員が犯行状況を目撃したという場合には,その目撃者の本名等を明らかにしなくても,「現場店舗の従業員男性A」とするような代替措置をとることによって,十分被告人の防御というのはできるのではないかと思います。決して匿名裁判という事態を招くものではないと考えております。   このような代替措置による開示で足りる場合も十分想定されるわけでございますので,証人の住居だけでなく氏名も含め,この制度を導入していただければと思っております。 ○小坂井幹事 この被害者及び証人の保護等の問題なんですけれども,神幹事の言われたことに屋上屋を架すことになるかもしれませんので,なるべく手短に申し上げます。例えば「第4」の「証人の安全の保護」の必要性,保護政策の必要性,こういったものはそれこそ相当長期の検討にならざるを得ないとは思いますけれども,そういう必要性自体は当然あるだろうと私どもとしても思っております。ただ,今現在,ここで何点か挙がっている保護策というものはやはり本当に有意義か,どこまで意味があるのか,むしろ小手先の改変になっているのではないかという疑問を感じざるを得ないところがあります。   まず,ビデオリンクの問題です。あまりそもそも論を持ち出すことが適切かどうか分かりかねますけれども,ビデオリンクを経験すれば分かるわけです。これは直接主義にのっとった審理と言えるかどうかと言えば,やはり明らかにより間接的なわけです。同一空間で交互尋問をきっちりやって,その場での事実認定が導かれる,その場合に適正な事実認定が導かれるというものとやはりずれがあり得る。そのような制度であること自体,これは間違いない。ですので,ビデオリンク自体がもうでき上がっている制度ですから,それはそれで当然運用されていくとしても,やはりルーズな運用をされてはならないし,きっちりとそれは歯止めをかけていく必要は強くある。そういう制度だと思っています。   そういう見地からしますと,やはりこの例外制度に更に例外を設けるといいますか,更にこの例外を拡充していって広めていくというような形が本当に適切かどうか。やはり相当問題なのではないか。そういう感覚を持っています。そういった意味において,そういうオプションがあるのであれば,当事者間に異議がないからそういうオプションを設けるという形で,まず運用していくのであればそれはそれで理解可能です。けれども,そうでなくて強行的にといいますか,そういう形でやられていることについては,やはり反対せざるを得ないと考えています。   第1回公判前の被害者の証人尋問,これを録画するという問題ですけれども,果たしてこれがどこまで負担軽減の実があるのかどうか。選択の可能性が広がるという意味で意味があるという趣旨の御発言もありましたけれども,やはりこれを導入することによって,失われるものは非常に大きい。正に証人審問権の侵害の要素が当然あるわけです。これも同じことを申し上げるようですけれども,同一空間で正にその場で主尋問,反対尋問をやって事実認定をする。それが適正な事実認定の在り方であることは間違いないと思います。   この第1回公判前の証人尋問というものをそれまでの取調べ状況を問題せずにといいますか,不問に付して,あるいはその第1回公判前の証人尋問といったものの証人テストの有り様,そういったものも踏まえずに,この証人尋問手続,第1回公判前の証人手続だけを特出しするということになりますと,それはいかに録画されたとしても,非常に危険な一部録画になる要素がある。証人テストで最近話題になったりしていますけれども,証言が事前に固められてしまう。そうすると,それを後でいかに公判廷に持ち出すとしても,果たして本当に公判中心主義なのかという疑問が生じるのではないかと思っています。   従来から申し上げておりますように,こういう観点での被害者の保護,あるいは証人の保護という視点も重要な観点だと思いますから,私は例えば司法面接のような制度,これはまた検討には長期の期間を要するのかもしれませんが,そういう形を検討する。回数の問題ではないと大久保委員はおっしゃったけれども,例えば捜査段階で一回初期段階の壊れもののような供述をきっちり取り出すという作業をする。その上で公判廷できっちりと交互尋問でチェックするという形で負担軽減を図るという運用が確立されていく,あるいはそういう制度ができる。そういうのであれば,それはそれで私は有意義だと思います。けれども,今回の制度概要はそれとは相当質が違ってしまっているという感じがします。問題があって,導入には反対だということになります。万が一導入するのであれば,それこそそれまでの取調べ過程等は全過程を録画,録音してチェックできるようにしていただかなければ,それは制度導入はかなわないのではないかと思っています。  それと,氏名,住所,秘匿等の問題で,これは私は以前にも申し上げたんですが,私の理解が間違っていれば恐縮なんですけれども,刑訴法299条は極めて重要な規定だと教えられた記憶があります。それはやはり証人の氏名,住居の情報開示が公平公正な裁判を実現するための根幹に位置している問題なので,こういう感覚がどうしても強いわけです。けれども,恐らく機能的には事前の証人テスト,証言チェック,当該証人に関する情報を踏まえての防御準備をどうするかという,そこの手当ての問題だということに機能的にはなってくるとは思います。そういった意味では,先ほどもちょっと議論が出ましたように,実質的に害を及ぼすケースがどういうケースなのかというのは,トータルな意味ではレアなケースかもしれない。何が何でも住所を知らなければいけない,何が何でも本名を知らないといけないということは,特にこれは代替措置を設けてちゃんと事前の一定の連絡,一定の情報収集はできるという立て付けだと私は理解しているんですけれども,そういうことを考えると,それはある意味でレアかもしれない。けれども,さりとてレアだからといって,原則的に制限していいんだと,こういうことにはなかなかならないのではないかと思います。   それともう1点,これも以前に申し上げたことなんですが,先ほどもありましたとおり,最終的には裁判所が判断するんですよという言い方をされるわけです。けれども,事案の性質上,正に加害行為かどうか,あるいは更に実質的に不利益を防御上生じるかどうかをこれまた仮に当該裁判体が判断するとなれば,正に本案の先取りみたいなことをやらないといけない。そういうことになりかねないので,やはり非常に問題が多いのではないか。   そういった意味で,この制度については問題があり,仮に万が一,A案,B案ということになれば,これはB案ということになるでしょう。ただB案自体についても今申し上げたような見地から問題で,この秘匿制度自体に問題があると。要するに299の2や3が既にある状態の中で,更にこれを設けなければならない理由はないのではないかと思っています。 ○坂口幹事 各論点について簡潔に意見を述べたいと思います。まず,第1のビデオリンク方式ですが,是非これは御提案のあったような形で制度化を図っていただきたいと思います。   これは捜査現場においても大変切実な問題であるということを以前御紹介いたしましたが,公判段階ということになれば,確かに証人ということになりますが,その人は多くは捜査段階で,参考人という方なわけで,任意で捜査に御協力をいただかなければならない人たちです。しかし,将来的に公判の場に出て,とても怖い思いをして,命の危険を冒して証言をしなければならなくなるかもしれないということを思えば,捜査段階からもう既に協力をもらえないというのが現状でありますので,是非これについては積極的な形で制度化をお願いしたいと思います。   弁護人は異議の濫発はしないという御発言もありましたが,現状を見れば到底そのようなことにはならないと思います。異議がない場合にだけこういうものが発動できるとしてしまったならば,およそ組織犯罪においてはその制度は機能しないこととなるでしょう。制度を導入する意味が全くなくなると思います。異議がない場合に限るということにはならないようにお願いしたいと思います。   第2の被害者等の捜査段階での供述の録音・録画媒体の問題ですが,これについても是非制度化を図っていただきたいと思います。特に,性犯罪の場合は認知率がまずもって大変低いということも以前御説明したと思いますが,被害に遭っている多くの被害者の中で警察に被害届を出せる人は本当に限られた強い人だけです。そういう人であっても長期間にわたる捜査,公判の中で何度もくじけそうになるという姿を私は見てきました。やはり人間の心は揺れ動きます。死ぬ思いで決心して警察署に被害届を出しに来たけれども,途中でやっぱり怖くなったり不安になったりと,被害者の心理というのは動くものです。そういうときにこういう選択肢もある,いろいろな選択肢があって,その中から最善のものを選べるようになっているということは,とても有用で必要で大切なことではないかと考えます。   証人の情報の問題について,最初の代替措置の関係ですが,これについては先ほどからちょっと議論がかみ合っていないなと思いながらお聞きしておりましたけれども,上野委員が言われたとおり防御に実害がない場合に限った上でこうしようという御提案なのですから,それに対して防御の実害があるということを言ってみてもそれは反論になっていないのではないかと思います。   これもやはり以前に暴力団のケースを例に出して御説明いたしましたが,渡世名等で誰であるのか,どういう人物であるのかということは十分被告人側にも分かるというケースもありますし,連絡をするということもできますし,防御活動のために必要な調査なり何なりに支障を来たさないということも十分考えられますから,大変有用な制度であると思われます。   それから,2番目の公開の法廷の問題ですが,実はこれが嫌だから捜査に協力したくないという人も多いです。警察だけ,あるいは関係者だけだったらいいですけれども,公開の公判で傍聴人にまで,この人こんなところにいたんだなというのが分かってしまうのでは困る。それを心配して捜査に協力していただけないというような方も多いわけですから,是非こういうことを制度化していただきたいと思います。   最後に,証人の安全の保護の問題であります。これについては作業分科会でも相当いろいろ御議論もいただいて,これは特別部会マターであろうから,私も,この場で是非いろいろな御意見をお聞きしたいと思いますが,刑事司法手続の中で最も欠けていると思われるものの一つはこの点であります。証人には生活があります,仕事もあります。そういう中で危険を冒して,特に組織犯罪の場合は報復の危険が常にあるわけで,そういう危険を冒して出てきて証言してもらわなければいけない人です。出てこないと,勾引もされかねない。出てこないと罰金も科せられかねない。一方ではそれだけのものすごい制裁が用意されているのに,国民の義務を果たして証言をしたら,その後はいったい誰が守ってくれるのか。誰も何もしてくれないというのが現状です。これでいいとは思えません。その結果,結局捜査には協力できませんということで,協力が得られない。そうすると捕まえなければならない犯罪者も野放しのままというのが現状です。   これは,今,制度がありませんから,運用として,要するに現場の警察官が,自分の犠牲と自分の負担の下で何とかカバーしているのが現状ですが,限りがあります。どうか力をお貸しいただきたいと思います。 ○小野委員 「第3」の証人の氏名及び住居の開示についてだけちょっと一言申し上げておきたいんですが,ここの「被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがある場合」,この判断を検察官なり,裁判官が行うということになっているわけですけれども,そもそもこのような判断をすることはできないのではないかと考えているわけです。例えば,たまたまその場にいた店舗の店員が目撃証人だった。それはたまたまいたということなのかもしれないけれども,実はその人は何らかの関係者であったということだって大いにあり得るわけです。実際に弁護人がその証人の氏名なり,あるいは住居なりを知って調査して初めて,何らかの関連があるかないかということが分かるわけです。その調査の手がかりすら与えられなければ,その辺のところは全く分からないまま推移してしまうという意味では,その点は,このような要件を客観的に検察官なり裁判官なりが判断することは不可能だろうと考えております。   あるいはここで,「氏名にあってはこれに代わる呼称」であるとか,「住居にあってはこれに代わる連絡先」。前にもここでお話したのかもしれませんけれども,例えば,暴力団関連犯罪で往々にして問題が生じることがあるわけです。その証人はもう組を抜けて,堅気で仕事をしていますという人の住居をよくよく調べてみたら,実はその組の関係の者が影響している場所であった。こういうケースも現にあるわけです。結局のところ,実はその人は堅気でも何でもないと,組も抜けてないと。この場合に,住居に代わる連絡先だけではそのような調査をすることもできないということになってしまうわけです。   そういう意味では,場合によって被告人にこれを知らせないという措置がもしかしたらあり得るのかもしれませんけれども,少なくとも弁護人にこれを知らされないということでは実質的な防御を否定するということになってしまうと考えます。   このような仕組みは,絶対に入れていただいては困ります。弁護権・防御権が完全に侵害されてしまうと考えます。是非その点は御判断を慎重にいただきたいと思います。 ○周防委員 「犯罪被害者等及び証人を支援・保護するための方策の拡充」は是非とも進めるべき問題だと思っています。ただ,小坂井幹事や小野委員から懸念を聞いておりますと,やはり私としても,今ある裁判というシステムのことを考えたときに,例えば,「証人の氏名及び住居の開示に係る代替措置」において,A案のように弁護人に氏名,住居を知らせないという,そういう状態で本当にそれは裁判と言えるものになるのだろうかという疑念がどうしても起きてしまいます。本当に素人的な物言いで笑われてしまうかもしれないんですが,どこの誰とも知らぬ人の証言によって有罪が立証されるというのは,果たしてそれは裁判だろうかという素朴な疑問があります。   あと「第4」にある「証人の安全の保護」ですけれども,これは本当に是非とも確立していただきたい。ここの部会ではちょっと範囲が広すぎるという御意見もありましたが,もしそうであったとしても,是非とも早急に,本当に具体的にどうやれば証人の安全の保護というものを達成できるのかということに関しては,深く議論して早急に何らかの形を作るべきだろうと思います。 ○川出幹事 1点だけ,ビデオリンクによる証人尋問について,当事者に異議がない場合に限って認めるという提案について意見を述べたいと思います。当事者,実際には被告人ということになると思いますが,それに異義がない場合に限って認めるという制度の前提となっているのは,ビデオリンクによる証人尋問の方法を採ることにより,被告人の何らかの権利制約があり,かつ,それが被告人によって放棄されない限りは,そのような方法を採ることは許されないという考え方だろうと思います。そうしますと,ビデオリンクによる証人尋問の方法を採った場合に,いったいどのような権利制約が生じるのかということが問題になるわけですが,この点につき,神幹事は,先ほど反対尋問権の侵害があるとおっしゃっていました。反対尋問権,憲法では証人審問権ということになりますが,ビデオリンクによる場合も,証人への尋問そのものはできるわけですから,要は,証人と法廷で直接に対面して尋問する権利というものが,証人審問権に含まれており,ビデオリンクによる証人尋問によって,それが侵害されるということになるのだろうと思います。   しかし,そもそも憲法37条の証人審問権の中に,対面権というものが含まれているのか否か自体に議論があるところですし,また,仮にそれが含まれるとしても,それは証人審問権の中核をなすものではないと考えられていると思います。実際,最高裁も,ビデオリンク方式による証人尋問を合憲だとした判例の中で,それによる証人審問権の制約がないと判示しています。この判例は,対面権というものは,証人審問権の内容ではないとしているのか,それとも,内容ではあるけれども,中核的なものでないので,制約が許されるということを述べているのか,どちらの解釈もあり得ると思いますが,いずれにしても,対面権というものが,およそ被告人が放棄しない限りは制約できない権利とはとらえていないわけです。そうだとしますと,異議がない場合に限ってビデオリンク方式による証人尋問がなしうるというのは,理屈として成り立たないのではないかと思います。   それから,これとは別に,ビデオリンクによる場合は,証人と直接に対面して反対尋問ができないため,適正な事実認定を導くことが困難になるという発言もありました。しかし,もし,そのように,ビデオリンクによる証人尋問が,適正な事実認定の妨げになるというのであれば,そのような証人尋問の方式は,当事者に異議があるかないかにかかわらず行うべきではないことになるはずで,異議がない場合に限るという主張は,やはり成り立たないと思います。 ○酒巻委員 神幹事の結論に全部反対なのですけれども,1個1個言うのは大変なので,二つだけ申し上げます。まず,「ビデオリンク方式による証人尋問の拡充」について,被告人・弁護人側の異議がないときに限って実施できるというような法制度は,もしあるとすれば理屈としては何かの権利侵害があるけれども,それを放棄するという形になるのでしょうけれども,それは今,川出幹事が理論的に明晰な説明をされたとおり,そういうものではないだろうと思います。   これは,要するに証拠調べのやり方を両当事者の意見を聞いて裁判が決めるという大きな制度的枠組の中の一つなので,そのような証拠調べの方式について,片方の当事者が嫌だと言ったらできなくなるということ自体がそもそも訴訟法上の制度として前代未聞であろう。このような荒唐無稽な仕組みはお考えにならない方がいいのではないかと思います。そして,しきりに直接法廷での証人尋問との対比をおっしゃいますけれども,証人出廷がかなわなければ,ビデオリンクよりももっと間接的な,証人尋問の調書が証拠になるというのが現在の法制度です。書面が証拠となるよりははるかに直接的なリアルタイムの証人尋問をやる,そのための制度を作ろうとしているのだということだと思います。   それから,「証人の氏名及び住居の開示に係る代替措置」について,「どこの誰だか分からない者」が証人となるのは妥当でないという意見がありましたが,制度趣旨を誤導するこのような表現は,冷静な議論のための表現方法として適切とは思われない。もちろん裁判所はどこの誰か分かっている。分かっている人物の実名や住所を知らせる代わりの表示措置を可能としようとするものです。そして,防御準備に関して小野委員がおっしゃったような懸念については,正に防御の準備にとって具体的支障があるということであれば,それを言っていただき,裁判所に判断していただいて,その結果として防御活動に支障があると認められる場合には,氏名,住所を秘匿するということはないという手当がしてあるわけです。   他方,条件を付けて弁護人にだけはお知らせするということでは,要するに,ほとんど今ある配慮措置を期待する制度と変わらないわけです。私の理解では,このたび導入しようとする制度は,弁護人にも知られない形にしないと実名等が被告人に知られる不安で公判廷で証言できないという方々がいるであろうこと,そして,第2分科会で徹底的に検討したとおり,氏名や住居が被告人にあるいは弁護人に知られなくても現在の証人予定者の供述内容開示等の法制度の下で十分防御・具体的には証人尋問の準備ができる場合はあり得るということが想定されます。こういうオプションを作っておくことが公判期日に直接証人に出頭していただき公判証言により事実を明らかにすることに資する,ひいては適正健全な刑事司法のために必要であるという考えに立って提言されているものであり,その点を御理解をいただければと思います。以上の次第で,A案が望ましいと思っております。 ○宇藤幹事 私からは,「第1」と「第4」について意見を述べさせていただきたいと思います。まず,「第4」の方から。証人の安全の保護は非常に重要であり,いずれ検討・整備されなければならない課題であろうということについては認識しております。ただ,これに関連する制度を機能するものとして構築しようとすると,行政法の分野,あるいは民事法の分野など,様々な分野にわたります。その点を考えますと,この部会で取り扱うのはいかがなものでしょうか。この部会では残念ながら,各分野の専門家の方々が必ずしも揃っているわけではございませんので,いずれ場所を移して深く議論していただくのが適切であろうかと思います。   次に,「第1」のビデオリンクですが,このビデオリンクの先,証人がどこに在席すべきかという点について,意見を述べさせていただきます。先ほど,今崎委員からオプションとしては非常にいいんだけれども,訴訟指揮権,あるいは法廷警察権のことを考えると,リンク先が裁判所であるということを外して考えることができず,同一構内でないとしても,他の裁判所との間でつなぐというのがよろしいのではないかという趣旨の御意見があったかと思います。この点につき,御発言の趣旨を裏返して考えてみますと,ビデオリンク方式を使っても,訴訟指揮権,あるいは法廷警察権の点で仮に問題がないという事案があったとすれば,その事案については在席場所が他の裁判所でなくても別に構わないということになろうかと思います。もちろん,一律に裁判所以外のところでなければならないということではありません。裁判所のほか,それ以外の場所も含めて,適宜御判断いただくということで十分対処できるのではないか,ということです。   あとセキュリティの点についての言及があったと思いますけれども,現在でも,民事裁判との関係では,裁判所以外との間でリンクをつないでいると聞いております。そのことを考えますと,裁判所間でのリンクでしかセキュリティが確保できないというというわけでもないと思いますので,この点についても検討いただきたいと思います。   また,矯正等の目的に限って裁判所以外のところでビデオリンクをするのはいかがなものかという疑問も呈されましたけれども,所在地尋問と法廷での尋問のことを考えてみますと様々な目的を勘案して使い分けているということがございますので,そのうちの1つの要素として矯正目的を考慮することを否定する特段の理由はないのではないでしょうか。 ○本田部会長 まだ御意見もあろうかと思いますけれども,時間の都合がございますので,「犯罪被害者等及び証人を支援・保護するための方策の拡充」についての議論はひとまずここまでとさせていただきたいと思います。   次に,「公判廷に顕出される証拠が真正なものであることを担保するための方策等」についての議論を行いたいと思います。この検討事項についての議論は午後5時までとさせていたただきます。   まずは,作業分科会での検討結果につきまして,事務当局から御説明をお願いします。 ○保坂幹事 御説明をいたします。資料64の64ページ以下です。   まず,「第1」の「証人の出頭及び証言を確保するための方策」についてですが,「1」の証人不出頭等の各罪の法定刑の引上げにつきましては,民事訴訟法上の同様の罪との整合性に関する御指摘がございましたが,具体的な法定刑としては制度概要のとおりとすることにおおむね意見が一致したところです。   また,次のページになりますが,「2」の「証人の勾引要件の緩和」につきましては,勾引要件を緩和することで意見が一致いたしました。具体的な要件の内容につきましても,制度概要「2」のとおりの要件とすることで,おおむね意見が一致しましたが,制度概要「2」にある「召喚に応じないおそれがあるとき」という要件に対して,これをより限定的な要件とすべきとの意見もあったところでございます。   次に,資料66ページの「第2」の「証拠隠滅等罪等の法定刑の引上げ」につきましては,各罪のそれぞれの法定刑を引き上げることを前提とすると,具体的な法定刑は制度概要のとおりとすることには異論はありませんでした。   続いて,68ページになりますが,「第3」の「被告人の虚偽供述に対する制裁」につきましては,制度概要の内容としては被告人質問を廃止して,被告人に証人適格を認めるというものにされております。その制度概要のうち「4」の被害者参加人等による被告人への尋問については,この制度の下でおよそ認めるべきではないという意見がありましたが,そのほかの点につきましては意見が一致しております。もっとも,制度の採否に関わるものとしまして,70ページの補足説明の3(3)に記載していますように,現行の被告人質問は虚偽供述に制裁がない上に,反対尋問に応じる義務がなく,真実性担保の仕組みとして不十分であるとの意見があった一方で,本制度を設けることにより黙秘する被告人が増加することになるのではないかという意見もあったところでありまして,以上のような点も含めて当部会で御議論いただければと思っております。御説明は以上です。    ○本田部会長 この検討事項につきましても,「第1」から「第3」まで三つの論点がございますけれども,あえて議事を区切ることはいたしませんので,御発言のときにはどの論点についての御意見かを明確にした上で,御発言をお願いしたいと思います。 ○大久保委員 まず,「第3」の「被告人の虚偽供述に対する制裁」についての意見ですけれども,制度概要に示された案では現行の被告人質問を廃止して被告人に証人適格を求めるというものですけれども,制度概要「4」では現行の被害者参加人等による質問と同様の範囲,要件で被告人への尋問が認められるとされています。でも,被告人が証人にならないということを選択した場合,被害者参加人等は被告人に尋問する機会を得ることができなくなってしまうのではないでしょうか。その結果,被害者参加制度によって認められた被害者等の権利が狭められるようになるのであれば,それは決して容認はできません。なお,補足説明には,被告人に証人適格を認めるという案を前提に,被告人が証人となる場合には被害者参加人等による尋問をおよそ認めるべきではないという意見もあったとされています。でも,このような意見は,被害者参加制度において被告人への質問が認められたことの意義というものを十分に理解していないと言わざるを得ませんし,被害者の立場からは到底受け入れることはできないものです。   そして,この制度は,被告人の虚偽供述によって被害者が一番望んでいる事案の真相解明が妨げられることから,これを防止するために必要だと考えられたもののはずです。しかし,この制度によって被告人の黙秘の増加が懸念されるというのであれば,当初の目的にも逆行してしまいます。被告人の虚偽供述に制裁を科す必要はあると考えますけれども,被害者が望む事案の解明の道が閉ざされることによって,精神的に回復するということに支障を来たすばかりでなく,必死の思いで署名活動もして,血のにじむ努力によって得た被害者参加制度の権利まで狭められかねないような制度では受け入れることはできません。   したがって,この制度により黙秘が増えるということが考えられたり,被害者参加人等の権利が狭められるのであれば,むしろこの制度とは違った形で被告人に公判の場で真実の供述を促して,仮に虚偽の供述をした場合には相応に罰せられるという制度を是非検討していただきたいと思います。 ○神幹事 三つの点について,いずれについても意見を述べたいと思います。「証人の不出頭,宣誓・証言拒絶の各罪の法定刑の引上げ」については,そもそもそのような改正を懲役刑まで新設して行う立法事実があるのか極めて疑問であります。また,民事訴訟法において証人の不出頭等が同じ法定刑で定めているところでありますが,刑事訴訟法のみを改正することになると不整合が生じてしまい,同じような法廷での同じような宣誓をした証言にもかかわらず,異なる法定刑について国民として違和感を抱くことになり,相当ではないと考えます。   二つ目の「証拠隠滅等罪等の法定刑の引上げ」についても,立法事実があるかどうか疑問であります。これらの犯罪は立件されている犯罪数も少なく,これまでの運用においても上限に張り付く宣告刑が相次いだという例はなく,法定刑が低すぎて不当だという声も聞いていません。その意味で反対であります。   三つ目に,被告人に証人適格を認め,被告人の虚偽供述に制裁を設ける制度にも反対であります。被告人の供述が虚偽かどうかを判断することは容易ではないし,またその事実認定を巡って裁判所は本罪とは別の裁判をしなければならなくなるという制度になります。そのような制度でよいかどうか大いに疑問です。   そして,何よりも本罪が全くえん罪事件であった場合には,被告人の供述が客観的には事実であっても,検察官がそれを虚偽だとして訴追をすることになれば,例えば私は無罪ですといった供述が偽証だとされてしまえば,本罪のえん罪に加えて,偽証罪もえん罪ということにもなりかねず,二重の処罰がなされることになるので,問題は大きいと考えます。また,被告人は争いのない事件であっても,情状に関する事実を述べるに当たって,その事実を信じてもらえない場合には偽証となることを恐れて,証人になることを躊躇することも予測されます。証人とならない場合には,情状に関する資料が被告人の口からは何も出ないという事態が想定されます。   加えて英米と異なり,事実認定や量刑判断の手続が二分されていない我が国においてこのような制度が本当になじむのかという問題もあり,刑訴法の根幹に関わるこの議論をなくして,このようなドラスティックな制度を導入することには強く反対です。 ○角田委員 「第1 証人の出頭及び証言を確保するための方策」と「第2 証拠隠滅等罪等の法定刑の引上げ」について申し上げたいと思います。基本的に刑事裁判の変化ということが明らかだと思いますけれども,公判中心の審理の徹底とか,それから人証中心といいますか,証人の証言をなるべく確保する,そういうことの重要性を考える,こういう方向で動いているのは間違いないと思います。そうだとすると,それに対応して証人の不出頭であるとか,あるいは宣誓・証言の拒絶に対して,これに対するサンクションをある程度強いものにすることには合理性があると考えます。   もちろん,全体の法体系のバランス,ほかの類似の規定とのバランスという問題があると思いますけれども,この制度概要案で提案されている程度の引上げであれば,十分合理性の範囲内に入っていると思いますので,私としては賛成したいと思います。   この点について,そう言えるとすると,あわせて「第2」の問題につながっていくと思いますけれども,「証拠隠滅等罪等の法定刑の引上げ」,これは多少広がりがあって,証人威迫の罪なども含まれていますけれども,これは事案の適正な解明を妨害する行為に対するサンクションということで,最初の問題と裏腹の関係になると思いますので,これについても制度の概要案で提案されている程度の引上げであれば,合理性の範囲内にあると思われますので,賛成したいと思います。   ちょっと一つ戻りますけれども,「第1」の「2」,「証人の勾引要件の緩和」のところは,これは裁判所の立場としても是非実現していただきたいと思います。というのは,これは現行の制度ですと,出頭してこないことが明らかだ,そういう事案でも一度空振りになる期日を設けて,要するに無駄な期日を設けて再度召喚してということをやっているわけですけれども,これは裁判官裁判の時代にも不都合が意識されていた問題ですが,裁判員裁判については特に不都合が大きいと思います。   ですから,これについて賛成でありますが,要件としては「正当な理由がなく,召喚に応じないおそれがあるとき」には勾引ということでいいと思います。これに付加して「明らか」というような要件は不要だと考えております。 ○但木委員 前回から今回にかけて,年寄りの発言が非常に激減しているというか,ほとんど沈黙を守っております。私は,なぜかなと思うんですが,どうもそれぞれのお立場の人がそれぞれのお立場のことを言っておられて,どうなるのかなと,それぞれのお立場の人は新しい時代の刑事司法はこうなってほしいというそういうものをお一人お一人お持ちであるが,それがほかと絡まるとまた全然新しい方向には踏み出したくないということで,いったい着地点はどこだということが見えてこないというではないかと思います。年寄りはあまり先行きが長くないということもあるんですけれども,そう長々とやっていられては困るなと。   つまり,えん罪という意味だったら,えん罪の危険をどんどん長引かせますという話ですし,あるいは,通信傍受の話ならば,検挙できる犯人を検挙できないまま長く放置していいのかという問題です。あるいは参考人の問題であれば,参考人が証人として十分な保護を与えられてない状況をそのまま長く持つんですかという意味です。やはり長引かせていいということはないのではないかと思います。所詮は,ある一つの権利が絶対的なものとして働くわけではないので,それぞれの権利の調整という考え方が非常に大事ではないかと思います。   それでは,「公判廷に顕出される証拠が真正なものであることを担保するための方策等」というテーマに関して申し上げます。まず,新しい時代というのは何かという話ですけれども,私は,国民が司法の領域で主権者として働くことだろうと思うんですけれども,国民といっても,国民は,被疑者にもなれば,被告人にもなれば,被害者にもなり,証人にもなり,あるいは参考人にもなるということでありまして,そういう国民がいろいろなポジションに立ったときに,公正公平に取り扱うようになっているかどうかを国民が監視できる唯一の場が公判廷であります。したがって,公判中心主義というのは裁判が正しく行われることという意味だけではなくて,やはり裁判の公開を定めている憲法の精神に基づいて,国民が直接今の刑事司法手続が適正に働いているのかどうかを見て,これを批判できるようにするという意味だろうと思います。そういう意味では,公判中心主義というのは非常に大事な新しい時代の考え方だろうと思います。   私も角田委員と同じく,証人の不出頭であるとか宣誓・証言拒絶,あるいは罪証隠滅等について法定刑が引き上げられるというのは,公判中心主義をとる以上,当然のことでないかと思います。公判には虚偽性がある証拠は出さないようにする,出させないようにするということが公判中心主義の当然の帰結ではないかと思うのです。   そして,私は,一つだけ付け加えたいんですが,被告人だけは公判廷で虚偽を言ってもいいんだよという制度はやはりおかしいと思います。公判中心主義である以上,被告人もまた公判廷において真実義務を負っているんじゃないかと,少なくとも自分の記憶どおりに言うべき立場にあると思います。   加えて,もう一つ,司法での国民主権の問題として,裁判員裁判があるんですが,それについて言えば,やはり関係当事者の全ては,この裁判員裁判が適正に行われるように協力していかなければならない義務を負っているだろうと思います。司法警察員,検察官,弁護人,裁判官,そういう訴訟当事者も当然裁判員裁判が適正に行われるようにしなければいけない。職業裁判官は生活がかかっていないということは変な言い方ですけれども,例えば真実が分かるまでに2年かかっても3年かかっても生活はできるんですが,裁判員はそうはいかないわけです。自分の生活を犠牲にして裁判員になっているわけです。だから,そんな長いことはできない。できるだけ分かりやすい証拠を取り調べて,自信をもって迅速に判断できるような仕組みを作っていかなければいけない。これは訴訟関係人の全てに課せられた義務ではないかと思います。もちろん証人としてお出になる方も,それから被告人も裁判員に負担をかけないという意味で,虚偽の陳述をすることは当然禁止されるべきである。真実を言う義務があると思います。   一つの考え方として,そう言っちゃったら被告人は法廷で何もしゃべらなくなるぞというんですけれども,実際の問題を考えていただきたいんですが,例えば,私は反省していますという証言が偽証であるということを立証できるはずはない。たとえ,被告人が嘘をついたって,その嘘が裁判官,あるいは裁判員が嘘だと思えば,それは量刑において一つの事由として考慮される。だから,そんなときに,わざわざまたお前は偽証だから起訴するぞと,そんなことには恐らくならないと思います。   ただ,真実義務を担保する制度そのものはやはり大事だと思います。例えば,どこかで偽装工作をしてわざわざいろいろなことをやった上で,公判廷においてわざわざ虚偽の陳述をするという者については,やはり何かの制裁が必要なのかなという気もします。要は,被告人の真実供述義務というのは,被告人の黙秘権は当然の前提として,ものを言う以上は嘘を言ってはいけないよという点では,被告人でも証人でもみんな同じはずだということです。特に裁判員裁判を導入した以上は,国民の責務として,やはり裁判員の負担を重くするようなことをしてはいけませんという責務はかかるのではないかなと思っております。 ○龍岡委員 「第3」の「被告人の虚偽供述に対する制裁」の点について,ただいま,但木委員から御意見がありました。総論的には理解できるところが多いのですが,やや見解を異にするところがありますので申し上げさせていただきます。   制度概要案のように,被告人に偽証罪の制裁の下で証言する証人適格を認めた場合に,被告人が公判で供述しなくなる可能性があるという指摘がございます。その場合には被告人の供述書や供述調書などが乙号証として用いられることになると考えられますけれども,そうなりますと公判中心主義に逆行する事態になるのではないかと懸念されます。被告人に証人適格が認められている米国において,どの程度被告人が証言しているのか,その実態については第10回の第2作業分科会で,米国の大学教授の論文を引用する形で若干の紹介がなされている程度で,十分な検討がなされているとは思えません。   このような制度が取り入れられている国の歴史的背景にも照らし,制度を比較し,その実情を調査することが必要ではないかと思います。また,被告人に偽証罪の制裁が科せられない大陸法諸国についての実情調査も,必要ではないかと思います。刑事裁判においては,事実関係についてはもちろん,情状等量刑に関する事項についても,被告人の弁解,弁明を十分に聞くことが大変重要であると思います。我が国の公判では,量刑に関する立証も行われており,大部分の自白事件では,量刑が主たる判断対象となっております。   しかし,被告人に証人適格が認められている米国では,公判審理は否認事件でしか開かれていません。量刑審理の段階では,公判段階におけるような証拠法や厳格な手続上の要請がなく,被告人の供述は宣誓なしで行われているとも聞きます。諸外国における量刑手続において,被告人の供述がどのように用いられているのかについても,こういった調査も必要ではないかと思われます。   他方で,仮に被告人に証人適格を認めたとしても,被告人は今までどおり法廷で供述するという可能性も指摘されております。この場合,被告人が偽証した場合,偽証罪として適正に立件起訴されるのかはよく分かりません。現在,被告人に対する偽証罪の検挙もごく僅かであり,被告人という立場の特殊性から,被告人の偽証罪での立件は,証人の場合と比べても難しいと考えられます。また,被告人に対し,偽証罪の制裁があった場合に,法廷での供述の真実性を確保する上で,どの程度効果があるか,こういった点の検証も必要であると思います。   いずれにしましても,被告人に証人適格を付与することは,我が国の刑事裁判の形を大きく変え得るものであり,法改正に当たっては,その必要性,外国における制度の在り方,その運用の実情を詳しく調査し,実際の偽証罪の適用場面や立件の在り方などを検討して,このような制度を採用した場合の実務がどのようなものになるか,十分に吟味する必要があると思います。それが不十分な段階では,この改正には反対と言わざるを得ないと思います。 ○井上委員 証人適格の問題については,私自身,最終的な意見は留保しておりますけれども,あまりにも不人気ですので,一言,二言コメントさせてください。   この問題は,但木委員がおっしゃったように,法廷で被告人も虚偽のことを言ってもらっては困る,特に,それが証拠として意味を持つ場合には困るということから,虚偽の供述をした場合に制裁を加えることに仮にする場合,どのような制度が考えられるかという検討の中で出てきたものであったと思います,そして,そのような方向に対して,他方で,被告人の法廷での陳述には防御上の主張,例えば実際自分がやっていたとしても法律上戦えるところは戦うということがあり得るし,アリバイを主張したりすることも可能なはずで,それができなくなるのは困るという御意見もあったことから,防御上の主張と証拠としての供述を分けるようにしたらどうか。つまり,陳述というか防御上の主張として言うのは結構なのだけれども,供述を証拠として取り扱ってもらうためには証人として証言をする必要があり,その証言については,他の証人と同様,虚偽は許さないという仕分けをした方がよいのではないかということで,証人適格の問題が検討対象となるに至ったと私は理解しています。そういうふうに振り返って見た場合,結局振り出しに戻って,現行のままでよいのかと言いますと,そう簡単に切り捨てることはできないのではないかと私は思います。   また,大久保委員は,被告人質問の場合には被害者が質問できるけれども,証人適格を与えると証言しなくなるので,質問できなくなるということを懸念されておられるようですが,理屈で申しますと,被告人質問の場合も被告人がそもそも何か話すかどうか,あるいは個々の質問に答えるかどうかというのは,飽くまで本人の任意ですので,トータルに被告人質問を拒否する,一切話さないということもできるわけです。したがって,そこのところは,少なくとも理屈の上では,違わない。問題は,証人として出ないと供述できないことにした場合,実際上,被告人が黙秘することが増えるのかどうかということでして,龍岡委員の御指摘は適確なものだと思うのですけれども,前にも申しましたように,アメリカでは公判で事実審理をするのは専ら否認事件だけでありまして,その場合はもともと被告人側は正面から事実を争っていますので,その争い方として被告人自身を証言台に立たせた方が良いのか,それとも立たせない方が得策なのかという判断をする。被告人が証言台に立つとかえってリスクを負うので立たせないという訴訟戦術上の判断を弁護人がすることも少なくないのですけれども,我が国の場合,多くを占める自白事件で量刑上有利な事情を話すために,被告人質問であれば話すけれども,証人としてだったら話さないということが本当にどれほどあるのかです。   偽証罪の制裁を恐れてしゃべらないのではないかということですけれども,本当のことをしゃべるんだったら恐れることはないはずです。ですから,そこのところは,伺っていても今一つ説得力がない。虚偽であっても被告人がとにかく話してくれれば,それを材料にできるという御発言が裁判官の方からもありましたけれども,言われるほど本当にその真偽を見分けられるものなのでしょうか。見分けられるということなら,通常の証人の場合も偽証罪の制裁など不要なはずなのに,常にそうとは言えないからこそ,偽証罪が設けられているはずですし,また手続としても宣誓させた上,公開の法廷で証言させ,反対側の反対尋問にさらして厳しくチェックするという制度になっているわけでしょう。   また,えん罪の被告人が二重に処罰されることになるという主張については,既にかつて青木委員の御意見に対してだったと思いますが,意見を申していますので繰り返しません。   この被告人証人適格の問題は刑事訴訟の根幹に関わるという御発言がありましたが,確かに今の刑事裁判の有り様を変えることは間違いないですけれども,根本原理を変えるように言われるのは違和感がありまして,皆さん弁護士会の方も裁判所の方も多くの方が当事者主義,公判中心主義の徹底ということを強調されながら,ここだけは,どういう形にしろ被告人に語ってもらって,それを基に裁判をしないといけないという,そういう固定観念みたいなものがおありになり,言葉は悪いかもしれませんけれども,どうもお白州的なイメージがあるように思えて仕方がありません。当事者主義,あるいは公判中心主義というものを徹底した場合に,本当に念頭に置かれているような公判の姿になるのだろうかということです。   現にアメリカとかイギリスの法廷を見ますと,被告人が語らないことも結構多いですけれども,それはある意味,当事者主義,公判中心主義を最も徹底した形だと思うのですけれども,どうも多くの皆さんのイメージされているものは違っている。そういう意味で従来の固定観念を壊すことになることは確かなので,根幹に関わるということなのかもしれませんし,そう簡単には結論は出ないと思いますけれども,簡単に斥けてしまえる論点でもないように私は思います。 ○青木委員 今の「第3」の点についてごく簡単に申し上げたいと思います。さっき龍岡委員が言われたことに賛成なんですけれども,私も被告人が法廷で嘘を言っていいと思っているわけでは全然ないですし,この部会の最初の方で,実は証人適格を認めるべきかどうか非常に迷っているという発言をしたことがあります。実際にそういう部分があります。ただ,今の制度を前提としてこのまま被告人に証人適格を認めるということについてはやはり反対です。当事者主義というようなことを言われましたけれども,それをもっと徹底するのであれば,もっとほかに整備するべきものがあると思います。   例えば,量刑の問題なども出ていますけれども,手続二分にするとか,あるいは有罪答弁制度を導入するとか,そういうことができるかできないか,それが日本に合っているかどうかという議論も含めて,制度全体,そういうところまで含めて見直して,証人適格ということはもしかしたらあるのかもしれませんが,今の時点では,むしろ被告人質問というのはそれなりにうまく機能していると思いますし,先ほども裁判所の方からもありましたけれども,逆の立場で言われたのかもしれませんが,実際虚偽供述に対しては量刑が重くなる,虚偽と判断された場合には重くなるというような形で実際には真実を述べることを促進する機能が働いていると思いますので,現状を前提とすれば,被告人質問を廃止することによって懸念されるものの方が大きくて,証人適格を認めることによって得られるものの方が少ないように思いますので,現時点では反対です。 ○小坂井幹事 聞けば聞くほど,やはり被告人の証人適格の問題は大問題だなということを改めて思わざるを得ないわけです。井上委員が例えば主張と供述を区分けする,そういうことを徹底していく過程が一つの前提になるような趣旨でおっしゃった。それは,論理的には今,青木委員がおっしゃったことと,縦と横の二分論に論理的に結び付くかどうか議論があるかもしれませんが,実務的にはこれは明らかに結び付きます。二分して,その上でということにどうしてもなるのではないか。そういうことがまずあります。それと偽証問題がちょっと出たので,念のために申し上げておきますけれども,本当のことを言えば大丈夫だと言ってやっぱり本当のことを言って偽証でやられている人は現にいるわけです。ですので,そこは偽証告発の手順というものをきっちりと考え直すような制度枠組みをまず考えていただかないと,やはり検察側がどうしても弁護人と依頼者の間に,その関係性に手を突っ込むことが可能な制度になります。ですので,その点の整理が必要なのではないかと思います。 ○上野委員 今の「被告人の虚偽供述に対する制裁」の関係でございますが,この制度を導入した場合に,被告人や弁護人が証人尋問請求しなくなる,公判廷で被告人の供述が聞けなくなるという懸念が数々示されております。国民に協力いただく証人に対しましては,不出頭罪の制裁の下で出頭してもらって,偽証罪等の制裁の下で真実の証言を求めるという負担をお願いしているところですが,その一方で,当事者である被告人につきましては,嘘が交じっていても,自由にその供述を証拠にできる仕組みのままでよいということで,本当に国民の納得を得られるのだろうかというところを若干疑問に思っています。   先ほど井上委員が言われましたように,この制度のように証人適格を認める形にいたしましても,供述しようとする内容が真実なのであれば,また,偽証罪との関係では,自分の記憶に反しないのであればいいわけですから,被告人や弁護人が証人尋問請求を躊躇するということはむしろ考えにくいのではないかなと私自身は思っております。公判廷で被告人から真実の供述が得られるような仕組みが設けられましたら,その分は捜査段階での供述への依存度を軽減することもできると思われます。この部会の趣旨にも,そのことは沿うことになるのではないかと思いますので,この制度の導入についても引き続き御検討いただければと思います。   なお,併せて簡潔に申し上げますが,「第1」の「1」の「証人の不出頭,宣誓・証言拒絶の各罪の法定刑の引上げ」及び「第2」の「証拠隠滅等罪等の法定刑の引上げ」につきましては,実務におりましても,少なくとも証人の不出頭等の罪の法定刑が10万円以下の罰金というのは,やはり公判での立証がますます重要になる中で,証人の出頭を確保するためのものとしては,甚だ不十分だと思いますし,さらに,証拠隠滅等の司法妨害的な行為に対しましては,より厳正に対処していく必要もあると思いますから,いずれも「制度の概要」のとおり,法定刑を引き上げていただければと思います。   ○後藤委員 被告人の証人適格について現状でこれだけを導入するのは反対であると前に申しましたので,それは繰り返しません。それを前提にして,今出ている制度の概要案について確認したいことがあります。それは証人尋問請求の時期について,公判前整理手続との関係は,分科会でどういう議論があったのか。つまり,これも公判前整理手続であらかじめ請求しなさいと要求する想定なのか,そこはどんな議論があったのでしょうか。 ○保坂幹事 その点は第2作業分科会で御議論がございました。今の被告人質問の場合には狭義の証拠調べではないので,立証制限はかからないけれども,証人として証言をするということになりますと,正にそれは証拠調べとして行うことになるので,公判前整理手続を経た後の立証制限の対象になるため,整理手続中に請求をしていただくということになる,その上で,やむを得ない事由があったときにはその立証制限が外れる,という議論がございました。それに対しては特段異論はなかったと記憶しております。 ○本田部会長 それでは,時間の都合もございますので,「公判廷に顕出される証拠が真正なものであることを担保するための方策等」についての議論はひとまでここまでとさせていただきたいと思います。   予定しておりました事項は全て終了いたしましたので,これにて本日の議事を終了したいと思います。   本日の会議におきまして,特に公表に適さない内容にわたる発言などはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を公表することとさせていただきたいと思います。 (一同了承)   次回は,「犯罪事実の解明による刑の減軽制度,捜査・公判協力型協議・合意制度及び刑事免責制度」,「被疑者・被告人の身柄拘束の在り方」,「自白事件を簡易迅速に処理するための手続の在り方」を議論したいと思います。その議論の後,「全体的な制度の在り方」としまして,時間的な関係で言い足りなかったこともあるでしょうから,まず,皆様から補足的な意見をいただいた上で,私から,今後の審議予定につきまして,御提案させていただきたいと思います。   次回は,既に御案内してありますとおり,3月7日午後1時30分から午後5時まで,場所は本日と同じ,この会議室で行うこととなります。よろしくお願いいたします。   では,以上で今日の会議は終わります。 -了-