法制審議会 新時代の刑事司法制度特別部会 第25回会議議事録 第1 日 時  平成26年3月7日(金)   自 午後1時33分                        至 午後4時49分 第2 場 所  東京地方検察庁総務部会議室 第3 議 題  時代に即した新たな刑事司法制度の在り方について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○吉川幹事 ただいまから,法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会の第25回会議を開催いたします。 ○本田部会長 本日も皆様には大変お忙しい中,御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   本日は,全委員・全幹事の方に御出席を頂いております。   本日は,お手元の議事次第のとおり,配布資料の説明の後,「犯罪事実の解明による刑の減軽制度,捜査・公判協力型協議・合意制度及び刑事免責制度」,「被疑者・被告人の身柄拘束の在り方」,「自白事件を簡易迅速に処理するための手続の在り方」につきまして,作業分科会での検討結果を踏まえまして,議論を行うことといたします。その上で,「全体的な制度の在り方」として,各検討課題についての補足的な御意見等を頂くことといたします。   それでは,まず,本日の配布資料につきまして,事務当局から御説明してもらいます。 ○吉川幹事 本日も,これまでの会議において配布いたしました,資料64の「作業分科会における検討結果(制度設計に関するたたき台)」,「参考資料」,「参考資料(追加)」及び「基本構想」につきましては,重ねて配布しておりませんので,御入用の方は,係にお声掛けください。   また,あらかじめ,大久保委員,小野委員,神津委員,村木委員,また,神津委員ほか4名から御発言の際の補助資料として,御意見を記載したメモの御提出がありましたので,配布させていただきました。   そのほか,本日の議事進行の予定を記載した,「本日の進行予定」と題する書面もお配りしておりますので,御確認ください。   配布資料の御説明は以上です。 ○本田部会長 それでは,早速,「犯罪事実の解明による刑の減軽制度,捜査・公判協力型協議・合意制度及び刑事免責制度」について議論を行うことといたします。この検討事項についての議論は,午後2時30分までとさせていただきます。   まずは,作業分科会での検討結果につきまして,事務当局から簡単に説明してもらいます。 ○吉川幹事 まず,「犯罪事実の解明による刑の減軽制度」について御説明します。資料64の7ページ目の「考えられる制度の概要」を御覧ください。   まず,刑の減軽事由の内容につきましては,該当性判断の容易性等のため,より明確化すべきとの御意見を踏まえまして,制度概要「1」では,「自己の犯罪について捜査機関に知られていない事実であって,当該自己の犯罪の証明のため,重要なものを供述してその犯罪事実を明らかにしたとき」とされており,制度概要「2」でも同様の内容とされております。   また,制度概要「2」では,解明の対象となる「他人の犯罪」の範囲に関しまして,自己の犯罪と一体のものとして捜査がなされ得るものであり,併せて解明する必要性が高いものに限定するのが適当などとの御意見を踏まえまして,ここに(1)(2)として掲げているものに限定することとされております。   さらに,制度概要「3」では,制度の適正担保方策の一つとして,虚偽供述に対する罰則を設けるものとされておりますが,これに対しては,作業分科会において,罰則を設ける必要はないのではないかとの意見も示されました。   次に,「捜査・公判協力型協議・合意制度」について御説明します。資料64の12ページ以下を御覧ください。   「考えられる制度の概要」に記載されたような制度の枠組みとすることについて,全体としておおむね異論はなかった一方で,14ページの補足説明「1(1)」に記載されておりますように,即決裁判手続の申立てや求刑等についても合意できることとするか,また,同じく「1(2)」に記載されているように,合意に基づく供述を録取した供述調書の証拠能力を一定の場合に制限する必要がないかといった点については,異なる御意見も示されました。   また,配布資料に記載された制度の在り方を前提としつつ,補足説明「1(4)」に記載されているように,第一次捜査機関による捜査の機能に悪影響を与えることとならないか,あるいは,合意に基づいて収集される証拠の信用性担保方策は十分かなどという点に関しまして,異なる意見や議論があったところでございます。   さらに,16ページの補足説明の「6 その他」に記載されておりますように,制度の対象犯罪についても議論がありましたが,一定の方向性を得るには至っておらず,更に検討する必要があると考えられます。   最後に,刑事免責制度について御説明いたします。資料64の17ページの「考えられる制度の概要」を御覧ください。   検察官が免責決定を請求できる場面及び裁判所の役割につきましては,制度概要「1」,「2」に記載されたとおりとすることについて,おおむね異論がなかった一方で,18ページの補足説明「1(2)」に記載されているように,裁判所の役割につきましては,一部,異なる意見も示されました。   また,第1回公判期日前の証人尋問における本制度の利用につきましては,17ページの制度概要「3」に記載されたような,現行の刑事訴訟法第226条の要件を拡充した制度を設けることについて,異なる意見も示されました。   御説明は以上です。 ○本田部会長 この検討事項は大きく三つに大別されますが,あえて議事を区切ることはいたしませんので,御発言いただくときは,いずれの論点についての御意見かということをおっしゃっていただきたいと思います。   また,「基本構想」におきまして,必要に応じて検討することとされていた「自己負罪型協議・合意制度」についても,必要に応じて,御意見いただいて結構です。   それでは,御意見のある方は御発言をよろしくお願いいたします。 ○上野委員 私の方から三つの制度について意見を述べさせていただきますが,まず,最初に「捜査・公判協力型協議・合意制度」について申し上げます。   これまで私が長年実務におりました経験からの実感でございますが,被疑者等から見まして,事案の解明のために捜査機関に協力いたしましても,それに見合った処分等の減軽が得られる保証がないため,協力しようという気持ちにならない,要は動機付けが弱いという面がございます。私ども捜査機関といたしましても,取調べで真実を供述するよう説得するしかなく,仮に捜査段階で被疑者から協力を得たといたしましても,その協力が公判段階で維持される保証がない。このように,これまでの捜査には限界があったように感じております。最近,ますます取調べによる供述証拠の収集が困難になったと感じておりまして,特に組織的な背景を有する犯罪や密行性が高い犯罪では,その傾向が顕著であると思っております。   この「捜査・公判協力型協議・合意制度」は,捜査機関にとりまして,事案解明のための有効な手段となり得ると思っております。今回,検討対象とされております三つの制度の中でも最も必要性・有用性が高いのではないかと感じております。   現在示されております「考えられる制度の概要」は,弁護人が手続に必要的に関与するなど合意に基づいて得られる供述の信用性が十分担保できる,言わば供述の収集過程が適正化されるような制度設計になっておりますし,検察官が合意に違反した場合は,公訴が棄却されたり,証拠の使用制限が設けられるなど被疑者・被告人がこの制度を安心して利用できる,言葉を換えますと,被疑者等から真実の供述を得ることができるような制度設計になっていると思われます。このような制度設計で,是非,この制度を導入していただきたいと思っております。   この点に関しましては,これまでの部会や分科会で二点ほど疑念,懸念が出ておりますので,その点について私の意見を言わせていただきます。   一つ目は,引っ張り込みの危険があるのではないかという点についてです。この点につきましては,今申し上げましたとおり,この制度設計では,弁護人が手続に必要的に関与して,任意に合意がなされることがまず担保されております。その上で,合意に基づいて得られた証拠につきましては,合意された書面が開示された上で慎重な信用性吟味が予定されております。また,故意の虚偽供述に対しては,偽証罪に加えて虚偽供述罪による制裁が予定されております。さらに,私どもが実務で運用するとした場合,合意に基づいて得られる証拠に相当程度の裏付けがあるなど,その信用性が認められる場合に合意をし,さらに,それに基づいて有罪判決を得る高度の見込みがあると判断したときに初めて,それに基づき起訴をすることになると考えられますので,運用面でも引っ張り込みの危険は相当排除できるのではないかと思っております。   二つ目は,合意をめぐる争いを判断する手続が重くならないかという御懸念についてです。この点につきましては,合意の書面の記載内容から直ちに合意違反が判断できる場合も相当あると思われますし,例えば,被告人の供述が変遷したため,検察官が被告人の合意違反を主張して合意から離脱する場合も,供述の変遷理由が合理性に欠けること,その犯罪に関与したことを裏付ける捜査結果などを基に,被告人による合意違反を裁判所に過大な御負担を掛けることなく,判断してもらえるのではないかと考えております。逆に,そのような立証が可能な状況でなければ,検察官も被告人による合意違反を認定できず,合意から離脱することはないと思われますので,実際問題といたしましては,合意違反をめぐる争いが起こること自体が想定しにくいのではないかと思っています。   ただ,このように手続負担の御懸念やその他いろいろな御懸念があることは承知しておりますので,それを解消するためには,本制度の対象を特に有用性が高いと思われます組織的な背景を有する犯罪や密行性が高い犯罪など,例えば,財政経済事件など一定の類型の犯罪とすることや,あるいは制度の対象から被害者がいる一定の犯罪を除外するということも考えられるのではないかと思っています。具体的な方法につきましては,更に検討が必要と思われますが,対象犯罪を限定するという方向性も念頭に置きつつ,是非,この制度を導入することを検討していただきたいと思います。   次に,刑の減軽制度について申し上げます。   自首に該当しなくても,被疑者が,自ら積極的に事実を供述する場合もございますし,首謀者など背後関係者の関与を幅広く明らかにするようなこともございます。このような犯罪事実の解明に大きく貢献する供述をしても,現在では一般情状として考慮できるだけでございます。このような犯罪事実の解明に大きく貢献する供述をしたという事実につきましては,自首と同様に,量刑上積極的に評価されてよいと思われますし,事実解明への貢献を積極的に評価すべきことを刑事実体法上も明確にする意味があると思いますし,その必要もあると思います。言葉は適当かどうか分かりませんが,「正直に話した者が損をする。」,そういうふうな制度であってはいけないと思いますので,この刑の減軽規定を導入する意味は非常に大きいものがあると思います。   さらに,先ほど申し上げましたように,供述証拠の収集が困難化している現状を踏まえますと,事案の解明に大きく寄与する供述をした場合には,自首と同様にこれを積極的に評価すべきことを制度上明確にするものとして,非常に有用な制度だと思います。その意味でも導入していただきたいと考えております。   なお,本制度につきましては,法律上の制度としても,実務上,実際に法律上の減軽をする場面は多くないので,実効性が疑問であるというような御指摘がされていると承知しております。ただ,現行法にある自首につきましても,任意的な減軽事由でありながら実務では量刑等に反映されており,そのため,制度として機能していると私自身は評価しております。この刑の減軽制度も制度として十分機能すると考えられます。   最後に,刑事免責制度について,一言,申し上げます。この制度につきましては,充実した公判審理を実現可能とするためにも非常に有効な制度と考えられますので,導入を積極的に検討していただきたいと思います。また,供述証拠の収集方法を多様化・適正化するという観点からも,第1回公判期日前の証人尋問でも刑事免責制度が有効に活用できるよう,「考えられる制度の概要」のとおり,刑事訴訟法第226条の要件を拡充することが相当であると考えております。 ○安岡委員 三つの制度を合わせて意見を申し上げます。結論を言うと,この制度の適正担保方策として取調べ状況の録音・録画,取調べ状況の可視化をそれぞれの制度に組み込んでいただきたいということです。私はこの三つの制度の導入に基本的に賛成であります。しかし,これらの三つの制度はいずれも供述の獲得を目的にし,被疑者・参考人の取調べを前提としています。そこに不安の種が潜んでいます。捜査官が望む供述を得ようとして種々の問題を起こしてきた,それから,不適正,時には違法な取調べが行われた,こうした事実を忘れずに,せっかく導入できた制度が悪用されたり,不適正な使い方をされて,結局は国民の信用を失って使えなくなる事態に陥らないように,酒巻委員がおっしゃるところの性悪説に立った用心深い適正担保方策を講じておく必要があると思います。   刑の減軽制度と協議・合意制度の悪用,不適正利用を抑止する方策は,たたき台の7ページの制度概要「3」,それから,13ページの制度概要「5」にそれぞれ掲げてあります。ただし,これは被疑者が制度を悪用するおそれ,具体的には,被疑者による捜査の攪乱を狙った虚偽の供述,それから,いわゆる懸念されている引っ張り込みといった被疑者側が制度を悪用する事態に備えた,そのおそれだけに意を用いた適正担保方策だと考えます。他方で,捜査側が悪用,不適正な使い方をするおそれも考えておかなければならないはずです。具体的には,想像するに,引っ張り込みならぬ引っ張り込ませ,つまり引っ張り込みの供述を誘導するようなこと,それから,それと類似しますけれども,捜査官が望むような供述内容に誘導する,あるいは甚だしい場合には押し付けるような使い方をされるおそれがあると考えます。したがって,そうした捜査側が悪用ないし不適正な使い方をするおそれに目を向けた適正担保方策も,制度に組み込んでおかなければならないのだろうと考えます。協議・合意制度にあっては,先ほど上野委員の御発言にありましたけれども,弁護人の関与を必須と規定していますので,そこで,捜査側に目を向けた適正担保措置として,弁護人の関与が働くことが期待できます。   たたき台を読みますと,取調べ状況の録音・録画が三つの制度のいずれでも適正担保措置として検討されている,そういう意見を述べられた方がいたということですけれども,いずれもいわゆる引っ張り込みの危険を回避するためと位置付けられています。しかし,私は,取調べ状況の可視化には引っ張り込み以外の形態の制度の悪用ないし不適正な使い方を抑止する効果があると考えます。これは付け足しですけれども,供述状況を可視化しておけば,刑の減軽制度で想定している虚偽供述に対する罰則,これの中の主観的要件,有利な措置をとらせる目的でという主観的要件の立証にも役立つのではないかと思います。たたき台では三つの制度概要のいずれにも,枠囲いの中に取調べの可視化が入っておりませんけれども,これを枠囲いの中に入れて適正担保措置として用いるべきだと考えます。   私は何も検察・警察の皆さんの職務遂行の誠実,捜査を法に従い適正に行う意思を疑って,以上のことを述べたのではありません。中距離核戦力廃棄条約を米ソの間で結んだときにレーガン大統領がゴルバチョフ書記長に,信頼せよ,しかし,検証せよというロシアのことわざを持ち出して話し掛けたことは有名ですけれども,この信頼せよ,しかし,検証せよというのは何か制度を作り,動かすときのゴールデンルールだと思います。取調べの可視化は事後検証を可能にする,最も有力な手段ですので,これを検討中の三つの制度のいずれにも組み入れていただきたいと思います。 ○川端委員 「犯罪事実の解明による刑の減軽制度」について意見を述べさせていただきたいと思います。この件に関しましては,私は,この部会でも,以前に,この制度には,実体法の立場から合理性があるので,もっと詰めた議論をして構成要件の明確化等に努力していただきたい旨を発言しました。今回,第1作業分科会が非常に慎重な議論を重ねて,こういう形でたたき台を作り上げたことに対して敬意を表した上で,意見を述べさせていただきたいと思います。   先ほども出ていましたが,実体法の観点から,犯罪の事実解明に関して協力した者に対して刑の減軽を認める点については,理論的には非難可能性の減少による減軽事由として説明することができると思います。犯罪行為とは違いまして,「犯罪行為後の事情」については,実務上も理論上も,「行為後の事情」として減軽をもたらす責任非難の減少が認められております。例えば,被害者に対して誠意を示して和解をした事情等が刑を減軽する事情として扱われるわけであります。捜査における事実の解明に関して,捜査機関に発覚する前であれば自首という制度があるわけですが,その後に全面的な協力をして,実質的に同じように事案の解明に寄与したとしても,何も恩恵が与えられないというのは不均衡であると思います。先ほどのお言葉にありましたように,「正直者がばかを見る」という現状があるわけですから,この際,犯罪の事実解明に協力した者に対して刑の減軽を認めることを,制度としてきちんと明確にしておく必要があると思っております。   また,たたき台の案は,構成要件の明確化もかなり充足されていると考えます。その上で,法律上の減軽事由として裁量的あるいは任意的ですが,これを実体法に規定することの意義は非常に大きいわけであります。これを基に,現実に国民に対して,こういう場合にはこういう措置が受けられるということを明示することになり,その意味において,新たな刑事司法制度を実体法の側面から支えるという面が出てまいりますので,是非,それは実現していただきたいと思います。   それから,訴訟法的な観点から言いますと,先ほども出ておりましたが,最近,犯罪が複雑化し,巧妙化して,証拠を集める困難性が非常に高まっておりますので,そういった観点から,捜査手法の多様化がこの部会でも検討されてきておりますけれども,犯罪事実の解明による刑の減軽制度は,一環となり得ると思います。自分自身の犯罪だけではなくてほかの犯罪事実についても協力することを通して,新たな展開が生まれ,それが真相解明につながる点で,実体的真実主義の要請にかなうという面がありますので,これは訴訟法的な観点から見ても極めて重要な意義を有すると考えております。   そして,それを担保するために虚偽供述に対する罰則を新設するということですが,これも構成要件の明確化が十分になされており,適用の拡大ないし濫用の懸念は,目的規定を置くことによって解消され得ると思います。この点についての捜査や資料の収集も十分になされ得ますので,その懸念は払拭できるだろうと思っております。私はこの案のとおりに実現していただきたいと思います。 ○松木委員 私は,「捜査・公判協力型協議・合意制度」,それと,先ほど部会長の方からもありました「自己負罪型協議・合意制度」の導入について意見を述べさせていただきたいと思います。   まず,「捜査・公判協力型協議・合意制度」についてですけれども,私はこの制度は新時代の刑事司法制度において,是非,導入すべき制度だと考えております。この制度によれば他人の犯罪の捜査などに協力しようという場合に,弁護人が関与する適正な手続により協力をするかどうかの判断ができ,更に協力をする場合に得られる不起訴や検察官の求刑などの利益についての事前の保証が得られるということになります。この点で,この制度は捜査機関にとって有効な手段となるのみならず,被疑者・被告人となる人の立場から見ても,メリットがある制度であると考えます。また,他人の犯罪を明らかにするため,協力をする意思がある人からもより多くの協力が得られる可能性が高まって,刑事司法制度全体の利益にもつながるのではないかと思います。   ただ,全ての事件がこのような制度になじむか分からないというようなところもありますので,どのような犯罪を対象とするかについては更に検討する必要があると思いますが,少なくとも企業が関わります犯罪や経済犯罪につきましては,そもそもの犯罪の動機が経済的な利益を目指したものであることが少なくないので,その処分等を決めるに当たって,こうした取引的な要素のある手段を用いることにも,よくなじむのではないかと考えております。そこで,この制度を実施する場合の対象犯罪には,企業が関わる犯罪や経済犯罪を含めていただきたいと思います。   それから,「自己負罪型協議・合意制度」の導入についてですけれども,私といたしましては会社犯罪や経済犯罪につきましては,企業のコンプライアンス推進という観点からも,自己負罪型の制度を導入していただきたいと考えております。また一方,これまでのこの部会でのいろいろな議論を拝見しておりまして,こういった非常に新しい制度を導入するということになりますと,それが刑事司法全体に与える影響というものも考えながら行っていかなければならないし,段階的に新たな制度へ進んでいくということが適当な場合もあると感じております。そこで,この部会ではまずは捜査・公判協力型の制度を導入し,その運用も見た上で,将来的には,是非,自己負罪型の制度についても積極的に検討することとしていただきたいと思っております。 ○小坂井幹事 比較的といいますか,賛成意見が続いているようですので言いづらいところもあるんですが,現在のたたき台の三つの制度につきましては,いずれも引っ張り込みの危険が大きいということで反対であります。これまでの議論の中で,例えば刑事免責制度については,一方的に免責して証言させる制度だから取引的要素はないんだと,こういう議論があって,引っ張り込みの危険はないんだというようなことを言われたことがあるわけです。けれども,以前にも申し上げたことがあるのですが,実務感覚としてはこれは明らかに違うのではないか,そういうことがあります。要は証人になる方は多くの場合,取調べの過程であったり,証人テストの過程であったりするわけですけれども,そこで,公の権力側が求めている答えは分かるわけです。ですから,例えば,御本人にとっては事実なんだと,そう認識しているんだというような場合であっても,公の権力側が求めている答えに沿わない供述をすることには,非常に怖いといいますか,抵抗を感じる場面が多いと思われるわけです。捜査機関側の望むような証言をすることによって自己が免責されると,こういう結果になるわけで結果的に引っ張り込みの危険があるわけです。これは要するにあっという間に裏表の関係になってくる。こういう形で非常に危険な要素があるだろうと思っています。   この三つの制度は,いずれについても引っ張り込みの危険があるということを申し上げているわけですけれども,例えば,当該弁護人が付くことが一つの適正担保になるんだと,これは一定の意味はあろうかと思いますが,それだけでは明らかに足りない。例えば,私は当然一定の情報提供なり,証拠開示が必要になってくるのではないか,例えば,協議・合意制度の場合は特にそうですけれども,そう思います。けれども,例えば,当該弁護人はこれは引っ張り込まれる側ではないわけですから適正担保はできない。そういう意味では,安岡委員のおっしゃったことと重なってはくるのですけれども,取調べ全過程の録画・録音がどうしても大前提になってくる。その前提を欠いて議論を進めることはなかなかできないのではないかと考えております。   あるいは,先ほどいろいろな適正担保措置をしていく中で,運用面で裏付けを十分取るんだとか,そういう御意見もありましたけれども,これは結局は恐縮ながら,例えば,検察官を信頼してくれと,こういう議論にどうしてもなってしまうところがあるわけです。恐縮ながら本部会はそういう運用でやっていくことにどうしても危険がある場合は,それをきっちり防止する制度を作っていくんだと,そういうのがこの部会の立て付けだと思います。ですので,そういう前提で考えられるべきだと思っています。 ○山口委員 私も刑の減軽制度について,一言,意見を申させていただきたいと思います。この点については既に上野委員や川端委員もお話をされております。私も基本的には賛成だと考えておりまして,その理由について少し申させていただきます。   これに似た制度としては現在,自首という制度がございまして,それにつきましては合理的な根拠があるものとして,これを廃止すべきだという議論は少なくとも私は承知いたしておりません。今回の御提案は,これを拡充しようとするものだと理解しておりまして,このことについて理論的な理屈の上での根拠があるというのは,川端委員も御指摘になられたとおりかと思います。それを現在の狭い自首を拡張することによって,十分に合理性のある範囲でこのようなものを規定するということに,私は十分な根拠があると考えております。様々な問題点があるという御指摘も頂いておりますけれども,それは必ずしも克服できないものではないとも思いますし,そもそも,ここに書かれているような事情があれば,刑を減軽することができるということ自体は,否定し難いのではないかとも思いまして,これを制度化するということに私は相当の意義があると考えております。 ○但木委員 私は日本型司法取引について申し上げたいと思います。取調べあるいは供述調書に過度に依存しない捜査というのを考えた場合に,司法取引を認めるということは非常に大きな意味があると思っております。特に先ほど松木委員からも出ましたけれども,会社犯罪においてはこれは不可欠ではないかと思います。例えば,談合罪のようなものがあった場合,現在,会社はコンプライアンスという課題があるから,会社としては全て協力することを申し出て,その代わりに犯人の身柄を取るのはやめてくれ,あるいは課長以下の人は起訴しないでくれというようなことを要望するということが,多分,かなり起きてくるだろうと思います。そういったときに,きちっとした司法手続を踏んで,主犯者については処罰するけれども,その下において,その命令に従っただけの職員については起訴しないというようなことは十分考えられるし,それで刑事司法の目的は達成することができるのではないかと思います。   今まで,このような制度が創設できなかったのは,捜査段階において,弁護人が必ず選任されるというような制度でなかったことが一因であると思われます。しかし,弁護人が選任されて,その弁護人と検察官あるいは第一次捜査機関の捜査官がきちっと透明性を持って話をつけて,そして,それを何らの形できちっと書類に残して,その上で透明性を持った取引が行われるということになれば,それは非常にいいのではないかと思いますし,オレオレ詐欺でもあるいは暴力団でもいわゆる組織的な犯罪については,かなり有用性があるだろうと思っております。   ただ,日本型司法取引と申しました制度には二つ問題があると思います。   一つ目の問題は,どの犯罪でも司法取引ができるかどうかと,例えば,殺人の場合に遺族の方々を無視して,検察官が求刑をうんと低くする代わりに供述を求めるというようなことは本当にできるのか,それが国民的支持を得られるだろうかと考えます。したがって,恐らく犯罪をある程度,限定せざるを得ないだろうと思っていて,そういう意味では,日本型司法取引というのは全面にはわたれないのかもしれないなと思います。あるいは,全然別の視点から,遺族とか被害者の同意を得た上で行うというようなことが考えられるのかもしれませんけれども,なかなか,法律的には難しいのかなという気がいたします。   二番目の問題は,第一次捜査機関の関与の在り方だろうと思います。これについては,日本においては第一次捜査機関がこの制度を全く使えないとなると,非常に大きな捜査障害になる危険性があるように思います。一番最初に事件にタッチしているのは第一次捜査機関ですので,捜査対象になっている組織がどういう形態なのか,その中でどういう問題点がいろいろあるのかということを一番よく知っているのは,その第一次捜査機関ということになります。だから,第一次捜査機関の送致事件について,その機関が関与しない形でこの制度を設けることは,日本ではできないなと私は思っておりまして,第一次捜査機関が関与できる制度というのを何か工夫せざるを得ないだろうと思います。   ただし,公訴権というのはもちろん検察官が持っていますので,検察と全く無関係に第一次捜査機関が使えるという制度もまた,法的には難しいだろうと思っています。しかし,第一次捜査機関がそれなりに関与できるものとしてこの制度を考えていかなければいけないのではないか,そういう意味で,日本型司法取引というのは犯罪の範囲の問題と第一次捜査機関の関与の問題の二つで,世界にあまりない類型というのを考えざるを得ないのかもしれないと思っております。 ○大久保委員 被害者の立場から懸念することもあるということも踏まえて発言をさせていただきます。   まず,今までも繰り返し申し述べておりますように,被害者は犯人が検挙され,適切に処罰されて,その事件の真相が解明されるということをとても強く望んで,捜査にも協力をしております。真相が解明されるためには,犯罪者が真実の供述をするということが重要ですけれども,近年は犯罪者が供述を拒み,真実の解明がされない事案も増えているということも承知をしております。振り込め詐欺などでは検挙されるのは,結局,末端の者ばかりだというような報道もよく見聞きいたします。そのため,事件の実情をよく知る者が進んで真実を供述する動機付けとなるものとして,「犯罪事実の解明による刑の減軽制度」を導入する意義はあると思います。「考えられる制度の概要」の「1」の「自己の犯罪事実を明らかにする行為」と,「2」の「他人の犯罪事実を明らかにする行為」に記載されております制度は,供述の動機付けとして有効であり,検挙が困難な上位の共犯者ですとか,あるいは背後関係者などの検挙にも役立つということが期待できると思います。   ただ,一方で被害者としましては,先ほど但木委員からも少しお話がありましたけれども,重い罪を犯した犯罪者が簡単に減軽される制度は,どうしても納得がいかないというのも本心です。そのため,制度の対象犯罪は,被害者の生命が奪われたり,あるいは被害者が重傷を負った犯罪以外に限定するということが望ましいのではないかと考えます。仮に,対象犯罪を限定しないのであれば,重い罪を犯した犯罪者につきましては,刑を減軽するかどうか,より慎重に判断されるような制度とすることが必要だと思います。   次に,「捜査・公判協力型協議・合意制度」について申し上げます。全ての事件でこの制度が使われるということになりますと,被害者の立場からすれば,結果的には,自分たちのために捜査をしてくれると思っていた捜査機関に不信感を抱くことにもならないかと,とても懸念いたしますし,また,国民感情といたしましても,せっかく犯罪を通報しても,あるいは捜査に協力をしても,捜査機関が犯人と取引をするのではないかなどと考えてしまい,捜査に協力をして犯罪のない社会を目指そうというような気持ちを失って,その結果,犯罪が増えるような社会になってしまわないのかということも懸念いたします。ですから,この制度を導入するのであれば,制度の対象犯罪を,被害者がいない犯罪ですとか,そのような手段を使ってでも犯人を検挙したり,処罰する必要性が高い犯罪に限定していただきたいと考えております。 ○龍岡委員 私は,「犯罪事実の解明による刑の減軽制度」,それから,「捜査・公判協力型協議・合意制度」について意見を述べさせていただきます。既に相当議論もされておりますので,結論的に述べさせていただきたいと思います。   まず,「犯罪事実の解明による刑の減軽制度」については結論的には導入には問題が多く,賛成できません。今まで賛成意見が続いておりますけれども,反対の立場から述べさせていただきます。   その理由は,まず第1に自己負罪型については,具体的にどのような場合に減軽事由に該当するのか,なお不明確であるように思います。この制度が導入されると,多くの自白事件において被告人・弁護人から減軽を求められる主張がなされる可能性があり,裁判所はその要件の該当性について判断をしなければならなくなります。結果として裁判手続が重くなることが懸念されるところであります。さらに,捜査協力型については,減軽事由の有無が争われた場合,他人の犯罪の証明のために重要か否かを,被告人の事件において判断しなければならないことになります。一層裁判手続が重くなる可能性があると言わざるを得ません。   第2に,刑の任意的減軽は,裁判官が量刑判断をした際,法定刑の下限よりも更に下げる必要がある場合にのみなされるものでありますけれども,実際には自首による任意的減軽が行われる例も非常にまれであります。私自身も刑事事件を担当していた裁判官時代,自首による任意的減軽をした記憶はありません。このように例外的で,裁判官の裁量に委ねられる制度を設けることで,本当に犯罪事実の解明につながるのか,実効性には疑問がありますし,取調官の説明の仕方によっては,誤った利益誘導になりかねないことも懸念されるところであります。   理由の第3として,更に気になるのは,そもそも,この制度は基本構想において取調べへの過度の依存を改め,証拠収集手段を適正化,多様化するための方策の一つとして挙げられているわけでありますけれども,実際には,この制度は取調べにおいて供述を得やすくしようとする制度であり,取調べへの依存や供述調書への依存からの脱却という大きな目標につながらないのではないかという疑問があります。   このように運用上の弊害が大きい一方で,その実効性,必要性に疑問があることから,こうした「犯罪事実の解明による刑の減軽制度」の導入には反対と言わざるを得ません。   次に,「捜査・公判協力型協議・合意制度」につきましてですが,この制度にも結論としては反対です。   その理由として,まず,一つは,このような制度には引き込みの危険がある上,このような制度が国民感情,特に被害者の感情に照らして正当化できるか疑問があります。   二つ目は,制度概要案の「1(1)イ」を見ますと,検察官が合意できる行為として,「即決裁判手続の申立てをすること」,「略式命令の請求をすること」,「求刑において特定の科刑意見を述べること」が挙げられていますが,量刑は裁判官が犯罪事実のほか,諸般の情状を総合的に考慮,しんしゃくして裁量により判断するものでありますし,即決裁判手続や略式命令請求については,裁判官が相当でないと判断すれば,通常手続により審判を行うことになります。そうだとしますと,このような事項についての合意には,実効性がどの程度あるのだろうか,実効性はないのではないかと思われます。   理由の三つ目として,裁判所においては,刑の量刑や略式命令の請求,即決裁判の手続によることの相当性の判断のために,捜査協力の内容について判断をする必要が生じ,裁判手続が重くなる上,このような判断が必要となるものだとすると,そもそも,類型的に略式命令請求や即決裁判手続になじむものかどうかも疑問に思われます。   理由の四つ目として,公訴を提起しないことといった検察官の裁量に属する事項について,合意違反の有無が争われることになった場合においても,被告人の裁判手続において,他人の犯罪について判断をしなければならないことになります。その判断は,公訴棄却に直結し得るものであり,裁判手続が非常に重くなることが懸念されます。   このような問題点があることを考えますと,実効性の観点からもどの程度,メリットがあるのか疑問であって,この制度の導入にもやはり反対と言わざるを得ないところであります。 ○露木幹事 私からは協議・合意制度について若干のコメントを申し上げたいと思います。   この制度の狙い,つまり,供述証拠の確保が非常に難しくなっているという現状に対処して,供述証拠の収集手段を多様化することによって組織犯罪や財政経済事件におけるいわゆる巨悪の剔抉につなげるという,この制度の狙い自体は私どもも同じ捜査機関として共感できるところがあると思います。   ただ,一方で,この制度の導入によって生じるであろう弊害ですとか,あるいはそもそも実効性があるのかどうかとか,そういう点については幾つかの懸念をこれまで申し上げてまいりました。制度化を検討するという段階でございますので,捜査の大部分,特に初期的な段階のほとんどを私ども警察が担っておって,その実情に精通しているという事実を踏まえて,弊害の解消,あるいは実効性の確保,こういった点についての配慮を是非お願いをしたいと思います。先ほど但木委員からも御指摘のあったとおりだと思います。   なお,制度の実効性確保の点では,証人保護プログラム,この導入が必要不可欠であろうと思います。特に暴力団犯罪などにこの制度を適用するという場合には,これも必要になってくると思いますので,その検討を速やかに進めるということも併せてお願いをしておきたいと思います。 ○北川幹事 私からは刑の減軽制度について意見を述べさせていただきます。   この刑の減軽制度について導入することに基本的には賛成なのですけれども,特に捜査協力型の他人の犯罪の範囲について,自己の犯罪等の関連性の範囲を限定するという方向の考え方に賛同いたします。その理由なのですが,まずは先ほど来から委員の方々から御指摘があるように,実体法上,この制度が自首制度の延長線上に位置付けられ,量刑事由の法定化という側面を持っていることを考えますと,自己負罪型のものと並んで責任非難の減少が認められるという場合に,このような減軽が考えられるという,そういうような思考から,制度の対象となる他人の犯罪を,自己の犯罪との関連性のある範囲に限定する必要があるのではないかと思う次第です。また,制度の実効性という側面について考えてみますと,この制度のほかに,基本的には「捜査・公判協力型協議・合意制度」も併せて導入されるということであるのであれば,そちらの制度の方でも,他人の犯罪の解明に協力した者を優遇する措置が採られるということになってきますので,基本的には制度案の記載にあるような共犯関係又はそれに準じるような関係等を基本線にして,殊更にその範囲を拡張する必要はないのではないかと考えます。   次に,この制度を導入する際には虚偽供述に対する罰則を制度的手当として必要とするという考え方に賛同いたします。単なる虚偽供述を一般に処罰するものではなく,制度的な手当として罰則を導入するのだという意味で,目的犯という形をとった規定形式がよいのではないかと思います。   もう一つ,意見として述べさせていただきます。「捜査・公判協力型協議・合意制度」への自己負罪型の導入の是非についてですけれども,検討方法の視点の一つとして,刑の減軽制度の導入ということも考えられているわけなので,刑の減軽制度と協議・合意制度との関係性というか,この二つの制度をどう整理し,運用していくのかということも考慮して検討する必要があるのではないかと考えてます。 ○小野委員 自己負罪型の刑の減軽についてはさておきまして,私が懸念するのは他人の犯罪について減軽制度についても,あるいは協議・合意制度においても,他人の犯罪についてということになっておりますが,こういう制度がない現状でも,共犯者の間でお互いの責任の軽減を図る供述はしばしば見られます。また,共謀に関与していない者を実はあれもいたと共謀に引っ張り込むというケースも現にあるわけです。このような仕組みが制度化されることになりますと,一層,その傾向が促進されるだろうと思います。それは本人自身がそうするということ,それから,一つは捜査官の見立てたストーリー,それに迎合していくというおそれ,その辺が非常に強くなるということで,非常に危険な制度であると思います。したがって,私はこのような仕組みを設けることについては反対です。   協議・合意制度では,弁護人がそこにいるということですけれども,それは飽くまでも減軽を図ろうとする者の弁護人であって,巻き込まれる側の弁護人ではないわけですので,ほとんど何の担保にもならないと思います。このような供述の虚偽を暴くというのはなかなか難しいわけで,実際問題として,言わば捜査側のストーリーに合うような,事実に反する虚偽が仮にあったとして,それが実際に裁かれることになるかというと,ほとんど考えられないだろうと思います。現状の偽証の運営などを見ても,同じように捜査側のストーリーに合っている偽証がほとんど裁かれていないという実情にあります。それが一層促進されるのではないかという懸念を持っています。   刑事免責制度についても,証言をする前段階では,どういう証言になるのかということが検察官との間で何らかの協議みたいな,あるいは証人テストですか,そういうことの上で免責を与えての証言強制ということなんでしょうから,そこには危険が潜んでいると,構造的に危険が潜んでいると私には思えてならないわけです。そういう意味では,このような仕組みを制度化してしまうと,これが大っぴらに利用されて,非常にゆがんだ司法になっていってしまうのではないかと思えるので反対します。 ○本田部会長 まだ,御意見があろうかと思いますが,時間の都合もございますので,「犯罪事実の解明による刑の減軽制度,捜査・公判協力型協議・合意制度及び刑事免責制度」についての議論は,ひとまず,ここまでとさせていただきます。   次に,「被疑者・被告人の身柄拘束の在り方」についての議論を行うことといたします。この検討事項についての議論は,午後3時20分頃をめどにさせていただきます。   まずは,作業分科会での検討結果について,事務当局から説明してもらいます。 ○保坂幹事 御説明します。資料64の30ページ以下を御覧ください。   まず,「第1」のいわゆる中間処分についてですが,制度概要「1」に記載されているように,中間処分を,勾留の理由のある被疑者のうち一定の要件を満たす者について特に選択し得るものと位置付けることについては,認識が共有された一方で,その要件の内容につきましては,そちらにA案・B案として記載されているように,除外事由を設けるか否かについて意見が分かれました。また,中間処分の手続につきましては,制度概要「2」にA案・B案として記載されておりますように,検察官が勾留を請求した場合にも裁判官が中間処分を選択できるようにするか否かについて意見が分かれたところです。中間処分の内容については,制度概要「3」のところに記載されているとおり,遵守事項の内容やその設定の手続について認識が共有された点もあった一方で,制度概要「3(1)ウ」にA案・B案として記載されているように,取調べへの出頭を遵守事項として義務付けるか否かについては意見が大きく分かれました。また,制度概要「4」にA案・B案として記載されているように,勾留への移行の際の引致についても,その時点で別途引致状の発付を受けることとするか否かについて意見が分かれました。また,制度概要「5」にA案・B案として記載されているように,起訴後の中間処分を設けるか否かについても意見が分かれたところです。   以上のほか,補足説明「5(1)」に記載されているように,制度の採否に関わるものとしてそもそも罪証隠滅を的確に防止できる遵守事項を過不足なく定めることや,被疑者が遵守事項を遵守しているかどうかを確実に把握することは,実際上不可能ではないかとの意見もあったところであります。これらの点も含めて御議論いただくことになろうかと思われます。   次に,35ページの「第2」のいわゆる指針規定については,「1」と「2」のそれぞれに関してA案・B案として案が併記されています。補足説明に記載されているように,いずれの案に対しましても,積極・消極の両方の意見が示されたところです。   御説明は以上です。 ○本田部会長 この検討事項につきましては,「第1」の「勾留と在宅の間の中間的な処分」,「第2」の「身柄拘束に関する適正な運用を担保するための指針となるべき規定」という二つの論点がございますが,これらについても,あえて議事を区切ることはいたしませんので,いずれの論点についての御意見かという点を明確にしつつ,御発言いただきたいと思います。 ○種谷委員 私からは中間処分について意見を述べたいと思います。   この制度を検討する前提として考えておかなければならないのは,一度,証拠が隠滅されてしまった場合には,通常の場合,二度と復元できないということ,それは遵守事項違反で後で引致・勾留しても,時すでに遅しということになってしまうということ,それから,被疑者・被告人に逃走されてしまった場合には,再び,探し出して身柄にするというのは大変な労力,コストが掛かるだけでなくて,逃走している最中にまた新たな犯罪を犯すという危険性も極めて高いということ,それから,究極の証拠隠滅とも言われますが,被疑者・被告人が自殺してしまったら,その段階で全ては終わってしまうということを前提として考えた上で,制度が現実的なものなのかどうかということをまず考えていく必要があると思います。   そういうことになってきますと,まず,遵守事項については,たたき台に書かれているものに加えて,少なくとも出頭義務,それから,滞留義務を明記し,更に取調べ受忍義務を書いていただくということを前提としたとしても,それらの遵守義務を遵守していることをどうやって確認していくのかというのは,先ほどお話もありましたように,具体的に考えていきますと,非常に難しい問題ではないかなと思います。誰か常に24時間,ウォッチングしていなければ当該遵守義務が守られているかどうかというのは分からないわけですし,先ほど最初に申し上げたように,守られなかった場合には後から修復ができなくなってくるということだと思います。警察は留置場というものも所管しておるわけでありますが,留置場で一定の場所で集中管理するのにも大変な人員が必要となってくる中,全国,様々,どんなところで,中間処分で,例えば,住居地を定めるとしても,地理的環境ですとか,物理的条件とか,そういったものが全くばらばらのところでどうやって遵守事項が守られているということを確認するのでしょうか。留置場の管理は万全を期しているつもりですけれども,それでも,逃走されたり,自殺されたりということがまれにあるわけでありまして,そう考えていくと,これはかなり非現実的なのではないかなと思います。通信禁止といったような遵守事項も付けるということも考えられているようですけれども,例えば,電話だとか,それから,メールで連絡をする,そういった通信を禁止するというような遵守事項を,一体,どういう方法で監視できるのか,チェックできるのかということを考えると,これも非常に非現実的なのではないかなという感じがします。さらに,中間処分の対象となる犯罪を限らないということになってきますと,被害者の立場に立ってみれば,犯人の身柄が拘束されていないということであると,遵守事項があるとしても,いつ,また,改めて襲われるか分からないというようなことで,精神的な立ち直りに極めて悪影響を及ぼすのではないかなと考えます。   そもそも論として,勾留請求というかなり捜査の早い段階において,証拠隠滅や逃走のおそれの程度をどの程度,高い,低いというのを判断するのか,これは非常に難しい問題だろうと思います。低いのであれば任意捜査とすべきだし,ある程度あるということになれば,先ほど言ったようなことを懸念して,勾留をしてきちっと捜査をしていくという形しかないのではないかなということで,この制度設計には無理があるのではないかなと考えます。 ○青木委員 私の方からは「勾留と在宅の間の中間的な処分」,それから,「身体拘束に関する適正な運用を担保するための指針となるべき規定」のいずれについても,是非,採用すべきだという意見を申し上げたいと思います。   勾留というのがその目的に照らして必要最小限にとどまっているかというと,現状は残念ながら,そうはなっていないと言わざるを得ません。身体拘束というのは本来,例外であるはずで,正真正銘の例外として必要最小限のものにするためには,今,勾留と在宅しかあり得ないような御意見がありましたけれども,その中間というのが当然あり得るわけで,中間処分というのを設けなければ,本当に必要な場合にのみ勾留をするということにはならないと思います。そういうことで,中間処分で足りるという場合には勾留はしないということにするべきだと思います。そして,身体拘束を必要最小限のものとする趣旨から,また,この部会に課せられた使命である取調べへの過度の依存の見直しということに照らして,身体を拘束されていない被疑者に取調べのための出頭義務を課すということは適切でないと考えられることなどから,制度の概要に記載されたものについては,いずれもB案を採用して,B案に記載された中間処分というのを是非設けていただきたいと思います。   それから,「第2」の方に関することですけれども,現在,村木委員のケースなどにも見られたとおり,特に否認している場合にはなかなか身体拘束から開放されないという実態があります。特に無実であるからこそやっていないといって否認をすると,長期間,身体拘束が続くということで,無実の人が身体拘束から逃れるために,やってもいないことをやったと自白してしまうことにもなってしまいます。すなわち,身体拘束を利用した自白の強要が行われて,その結果,誤って長期にわたって懲役刑を受けるというようなことになるといったえん罪事件も生まれてきたわけで,こういうのは1件たりともあってはならないことなわけです。否認や黙秘をする被疑者・被告人について身体拘束が自白に向けた圧力だとか,あるいは懲罰的なものを加える目的で利用されるなど,不当に不利益な取扱いがされるということは当然許されないわけですから,この「考えられる規定の概要」の指針の方の「1」のA案に記載された指針規定を是非設けていただきたいと思います。実際には,否認や黙秘をしていることが罪証隠滅あるいは逃亡の恐れの最大の理由となっている場合であっても,実際の勾留・保釈に係る判断では,何か一つの理由のみが挙げられているというものではないと思いますので,否認などのみを理由とすることを禁じるB案では効力が低いと思います。   それから,「考えられる規定の概要」の「2」についてですけれども,勾留・保釈などの全ての場面で身体拘束を真に必要最小限のものにするために判断がなされるべきですから,いわゆる勾留の必要性の要件というものを明文化する趣旨で,A案に記載された指針規定を是非設けていただきたいと思います。 ○安岡委員 私は,「第2」の「身柄拘束に関する適正な運用を担保するための指針となるべき規定」について意見を述べます。   この2件の規定,それぞれA案,B案,いずれにしても是非指針となるべき規定を設けていただきたい。裁判員として一般の国民が刑事司法手続に参加するようになった,そういう新しい時代の刑事司法制度はどうあるべきかと考えるとき,まず,刑事訴訟法を普通の国民が読んで分かるようにする必要があるとの意見を私は申し上げました。明文化されていない刑事手続の原則を条文化することは,刑訴法を読んで分かる法律に近付けるのに必要な手立てだと考えます。   たたき台の36ページには「当然のことを規定すると,逆に,特別な意味を持たせるような解釈がなされる可能性があり,慎重な検討を要するとの意見もあった。」という記載があります。言葉尻を捉えた反論のようで恐縮ですけれども,一言,言わせていただきたい。専門家にとっては当然のことかもしれませんけれども,一般国民には当然のことではありません。仮に裁判員に選ばれた人が奇特な心掛けで事前に勉強しておこうと刑訴法を通読しても,通読すること自体,通常人には多大な困難が伴うのですけれども,仮に通読したとしても,ここで掲げてある,指針となるべき規定の内容が,当然のことだという理解には達し得ないのです。36ページにある当然のことを規定すると云々という御意見の背後には,法律は一般国民に理解できなくてもいいんだと,条文の意味もその法律の基本原則も法律の専門家だけが心得ておけばいいのだと,そういう思考がありはしないかと怪しむものであります。   当部会の中間的な合意文書と位置付けられる「基本構想」の「第2」の「時代に即した新たな刑事司法制度を構築するに当たっての検討指針」には「刑事司法制度は,できる限り制度の内容等が明確化され,国民にも分かりやすいものとなることが望ましい。」と書かれています。遡れば,裁判員制度を提案した司法制度改革審議会の意見書には,国民の司法参加のための条件整備として,こう述べられています。「分かりやすい司法を実現するためには,司法判断の基礎となる法令(ルール)の内容自体を,国民にとって分かりやすいものとしなければならない。」。原則を明文化することは国民に分かりやすい司法に近付くための重要な一歩だと考えます。 ○神津委員 今日もメモを出させていただいております。時間の関係で発言できない部分はお読み取りいただきたいと思いますが,身柄拘束の在り方について,少し要約もしながら申し述べたいと思います。   順不同になりますけれども,指針となるべき規定についてなんですが,この問題についても,前々回にも触れさせていただきました「検察の在り方検討会議」での提言,取り分け,捜査・公判の在り方について被疑者の人権を保障し,虚偽の自白によるえん罪を防止する観点,これを振り返っておく必要があるのだろうと思っています。身柄拘束の在り方についてということにおいて,様々,意見はあるわけですが,しかしながら,人質司法という極めて不名誉な呼称が与えられてきたことは事実であります。   そして,実例としても本部会設置の動機となった村木委員の事件において,一方では他人を引き込んだ虚偽の自白をした者が約40日で釈放され,真実に基づいて否認をした村木委員が160日以上も身柄を拘束されたという例があるわけであります。国民の立場からすれば,少なくとも法の執行に携わる方々には,人質司法という,こういった不名誉な見られ方があることを重く受け止めていただきたいと思います。したがいまして,たたき台の「第2」の指針となるべき規定,留意事項が2点,挙げられておりますけれども,いずれについても是非設けていただきたいと思います。   それから,関連して中間的な処分についてでありますけれども,この提案については,同じく身柄拘束が過剰に適用されていると,運用されているという懸念からのものだと思います。ただ,一方で,従来であれば在宅となったかもしれない被疑者が中間処分を受けるということにならないかという危惧も拭えないのではないのかなと思います。したがいまして,身体拘束の適正化については,適正な運用担保の指針を設けることによって適正化する方法で検討いただきたいと思います。 ○井上委員 いわゆる指針規定については,何人かの方が総論的に言われたことと,具体的に出されている案との間には,飛躍があるように思います。   総論的なことについては,私なりにかなり理解しているつもりなのですが,例えば,指針ないし留意事項について当たり前のことならそれを平明に書くべきだという御意見がありました。しかし,原則とか当たり前と思われることというのは,ぼわっと抽象的に捉えると共通認識があるようにも見えるのですけれども,それらを具体化して文字化するとなると,その表現ぶりや,どこまでのことを書くべきかといった点で様々に意見が分かれ得るので,その意味で容易でないところが実はあるのです。多くの人の間でそれらの点まで共通認識ができているならば,それを明確かつ平明な文章で規定化するというのは,今日の法律の在り方として当然だと私も思いますし,最近の立法では実際そのように心掛けられているわけですが,その前提とするところで難しさがあるように思われるのです。   例えば,「考えられる規定の概要」の「1」の方を見ても,青木委員はA案を導入すべきだとおっしゃいましたが,これまで私も含めて何度か指摘させていただきましたけれども,黙秘していることを一切カウントしてはならないとまでするのは,これまでの多くの理解とは違っている。作業分科会での議論にもありましたが,黙秘しているということが罪証隠滅の疑いを示す一つの徴表として考慮に容れられるということはあり得,それは必ずしも不適切ではないというのが多くの理解なので,そういう意味から「のみ」という語が付けられたという経緯であったはずです。ですから,それをA案のように絞ってしまうと,今までの多くの理解とは違ってくることになる。無論,異なった意見もあり得ますので,共通理解ができているのかは議論の余地があり,したがって,そう簡単ではないということです。   また,「考えられる規定の概要」の「2」についても,A案にするとなると,これまた何度も指摘させていただきましたけれども,留意事項というのにとどまらず勾留要件を実質的に変更するに等しくなるので,要件を変更するのが適切かどうかという議論をせざるを得ない。その意味で,簡単に踏み切れるものではないということです。   次に,これまで私自身としての意見を申し上げてこなかった中間処分の問題について述べさせていただきたいと思います。中間処分については,作業分科会も含めて,ずっと議論に参加してきたのですが,制度の対象として想定されているのが一体どういう人達なのか,いまだにはっきりとしたイメージを抱けないでおり,そのため,この中間処分なるものの性格がよく分からないというのが正直なところです。提案者である青木委員のお考えでは,現在の制度や運用の下では不当に勾留されている人がいる,あるいは裁判官が勾留し過ぎであり,そういった部分が中間処分の対象となるというイメージのようなのですけれども,本当にそうなるものなのか,かなり疑問に思うのです。そうはならず,逆の方向,つまり今は在宅の扱いになっている人達がこの中間処分の対象になるということも十分あり得る。そういう意味で,この中間処分なるものの性格について,確信が持てないということです。   また,既に何人かの方から指摘がありましたけれども,この処分の実効性をどのようにして担保するのかも依然問題です。当の対象者について勾留の必要があることを前提にしながら,中間処分の対象に落とし込んでいくということなので,罪証隠滅と逃亡の防止を何らかの形で実効的に担保することができなければならないわけですが,この考えられる制度案の中でそのような担保を用意し得るかといいますと,どうも確信を持って用意し得るとは言えない。さらに,作業分科会において最大の論点であった,取調べのための出頭を遵守事項とするか否かについても,あやふやな形になってしまっていますが,詰めていけば意見はおそらく一致しないだろうと思うのです。   以上の理由から,今の段階では,この中間処分なるものの導入には積極的になれないというのが,私の意見です。 ○村木委員 「2」の指針となるべき規定について意見を申し上げたいと思います。   身柄拘束についての運用が適切かどうかというのは,ここの特別部会でも随分議論があったと思います。いろいろな方に聞くと,最近,運用がよくなったと皆さんおっしゃいます。それを聞くと安心すると同時に,運用でどうにでもなるのかなという心配もまた抱えてしまうという状況です。   自分のことを思い出すと,勾留手続というのは大量の人がバスで一緒に裁判所に連れていかれて,ベルトコンベヤー式で勾留質問を受けました。私の記憶では裁判官の面前にいた時間というのは,多分,1,2分だったと思います。何をしゃべればいいか分からないので口ごもっていると,裁判官からは,非常に親切に,あなたはこういう事実はないと言っているんですねと聞いてもらったので,私が,そうですと言い,否認の趣旨を上手に裁判官が文書にしてくれて,それにサインをしました。ほかのことは何も聞かれていないんです。その後,先ほど神津委員もおっしゃってくださったように,起訴後,同じ事件で逮捕された4人のうちで自白をした3人はすぐ保釈をされ,私だけがずっと勾留が続きました。結局,否認すれば勾留,起訴後も否認している限り,勾留が続くという,そういう懸念というのはどうしても拭えない。是非,適正な運用がされるためのルールというのをここで作っていただきたいと思っております。   井上委員がおっしゃっていたお話を聞いていると,総論では意見が一致をしていると,ただ,そこを突き詰めていくと意見が非常に分かれるということは,建前の勾留のルールというのは,みんな,同じことを言っていても,そこから先が,随分,違うのかなと思います。そうすると,どういう人の身柄を拘束をするのかということについて,難しくてもルールの明確化というのをやっていっていただきたい。その意味で,プロである井上委員やその他の先生から,どういう規定を入れればいいかというお知恵を出してもらえることを,心から期待をしています。私は,仮に入念規定であっても,是非,ここに書いてあるような規定は今回,入れていただきたいと思います。 ○今崎委員 私は中間処分と指針規定と両方について簡単に意見を申し上げます。   中間処分については,ただいま井上委員のおっしゃった意見に賛成というか,全く同感であります。基本的にこういう制度自体を設けたいという気持ちはよく分かりますし,合理的な制度としてできるということであれば,裁判所にとっても,もちろん決して悪い制度ではないわけなのですが,ただ,どうもお話を伺っているとその要件判断はかなり難しそうですし,執行確保の観点からも難しいと思います。ですから,これについて現時点では積極的に賛成とは言えないものだと思っております。   それから,指針規定についてもお話がありました。これまた,井上委員に先に言われてしまったので詳しくは付け加えませんけれども,この指針規定にせよ,中間処分にせよ,まず,そもそも身柄の問題について,ただいま共通認識云々の話がありましたけれども,裁判所を含めて批判があるということは重々承知しておりますし,批判について謙虚に裁判所としても受け止めさせていただくということについては当然でありますが,裁判所を含めた現在の令状処理の運用に向けられている批判というのは,必ずしも過剰な身柄拘束がされているという批判ばかりではありません。それと反対方向の批判も常に受けているわけであります。それは,結局,今の実務に対しては被疑者・被告人,弁護人の立場からの見方と,それから,警察・検察あるいは被害者の方々からの見方と,基本的に大きく分かれているからだろうと思います。それはこの法制審の部会での様々な議論を見ていても明らかだろうと思います。多分,この点は異論のないところだと思います。   私としては,個々の委員の方々の御意見は理解いたしましたが,本部会の総意として身柄の問題を今後どう持って行こうとしているのか,これが私にはまだ全く分かりません。中間処分にせよ,指針規定にせよ,条文を考える前に現在の実務のどこにどういう問題があって,それをどのように直したいのかと,これを明らかにしていただきたい。それを明らかにしていただいた上で条文を置くかどうか,置くとしてどのような条文を置くかということが決まっていくべきものだろうと思います。対立が解消されないまま,何らかの条文を置く,あるいは制度を置くという議論をされても,最終的に運用は裁判所が担うことになりますので,これをこうしてほしい,だからこういう条文を置いたんだ,というメッセージが明確にならないと,裁判所としては責任を持って運用ができないということになります。この点を付け加えさせていただきたいと思います。 ○周防委員 法律家の皆さんに言うにはいささか文学的表現になるかもしれないのですが,今の今崎委員の言葉で言いますと,勾留して人の自由を奪うということは非常に基本的人権に関わる重大な問題なので,人の自由を奪うということについて,もう少し想像力を働かせて注意深く慎重に判断してほしいと,いささか言い方は失礼になるかもしれないんですが,それは日本人全体の問題だとも思うんですけれども,人権についての思いというんですかね,それが僕なんかが見ていると勾留するということについて,余りにも簡単に判断していると思わざるを得ないようなところが多々あるわけです。   実際,今,村木委員もお話になっていましたが,村木委員の事件についても村木委員自身が勾留を経験されて,思うところも多々あったと思うんですが,私も映画を作るときにいろいろな取材をして,要するに被疑者が裁判官と相対したときに,一言,裁判官に,否認するんですね,と確認され,次に勾留しますと言われる,というように本当に簡単に勾留が認められていく現実がある。それに驚いたわけです。今まで僕は痴漢事件の取材が多かったのですが,サラリーマンとか,普段刑事事件に縁のない人は警察に行って話を聞いてもらえず驚き,検察庁へ行っても聞いてもらえず驚き,裁判官と相対しても聞いてもらえず驚き,ということになるわけです。警察・検察の方が危惧するように,犯罪の疑いがあるわけですから,そこで証拠を隠滅されたくないとか,要するにそこで逃がしてしまうと自分の責任の大きさというものを考えるんでしょうが,逆に言うと,人の自由を奪うことの重大さということに対する想像力が欠けているのではないのかとも思えるのです。   そこにきちんと目が行くような,要するに例えば今,実務を実際にやっている人たちだけではなくて,これから法律というものを学んでいく人たちにとっても,例えば指針となるべき規定で人の自由を奪うということについての何か言及があれば,そこについて深く考えざるを得ないという,そういうことになるのではないかと思い,僕は法律家に限らず,国民の多くがもう少し人権というものについてきちんと考えをめぐらせることができるような,想像力を持てるような,そういうことも含めて,是非,素人くさい言い方で申し訳ないのですが,きちんと言葉として規定を設けておく,それぐらい人の自由を奪うことについて,それは本当に重大なことなんだと,重大な決定になってしまうんだということを考えてほしい。うまく伝わるかどうか分かりませんが,そう思っています。 ○神幹事 神です。これまでの議論を聞いていますと,どうも在宅と勾留の中間的な処分も駄目,二つの指針のうちのいずれのA案も駄目という状況になりそうな感じなんですが,本当にそれでいいのだろうかと私は考えています。なるほど,今までの議論等では裁判所や警察あるいは検察庁の方は,身体拘束については慎重に判断し,適切に行ってきているということをずっとおっしゃられました。しかし,被疑者の身体拘束というのは,本来,例外的な,言わば最終的な手段であるべきというのが国際準則なんかでも言われているところです。現実に韓国の刑事訴訟法198条1項は,被疑者に対する捜査は不拘束状態で行うことを原則とするとうたっています。これは正に身体不拘束の原則という形で規定されているのであります。   日本においては,私たち刑事弁護を担う弁護士から見ると,そして,今日ここで発言を頂いた有識者であります周防委員あるいは神津委員,村木委員という市民の目から見ても,人質司法にしか見えない。しかも,身体拘束を利用して取調べ受忍義務を認めて自白を取るという,その手法が行われていたと考えざるを得ないわけであります。検察の在り方検討会議の提言と,それを受けた昨年1月の当部会の基本構想においても,取調べへの過度の依存からの脱却がうたわれています。今,村木委員がおっしゃいましたけれども,村木委員の事件を想定してみてください。村木委員が先ほどおっしゃったとおりだと思うのです。   私もこの部会の前半のときに述べてきましたけれども,過去に身体拘束された部下たちの巻き込み供述によって逮捕・勾留され,検察側の立証が済むまで半年間,保釈が認められなかったという事案を経験しています。この事件は,一審が無罪で,村木委員と同様に一審で確定しています。この事件の被告人も否認を一貫して貫いた人です。否認していること自体,逮捕・勾留が続けられ,更には保釈がなかなか認められないというのは私たちからすればおかしい,そのように考えています。   指針の中の「1」のA案あるいは「2」のA案といったものが,井上委員がおっしゃったようにいろいろな意味合いがあり,いろいろな批判があるということは分かっています。私たち弁護士の多くは,入口のところの「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある」という条文の解釈がかなり緩かったのではなかったのか,という認識を持っています。そうだけれども,これまでは,それを正面から言ってしまうとその先の議論がなかなかできなかったというところがありました。現実に私たちはドイツの実務家を呼んで,ドイツではどうなっていますかと聞いたら,おそれがあるだとか,疑うに足りる相当な理由などというものはいずれも将来の予測であって,そう簡単には判断できることではない,したがって,そんな簡単に勾留にはならないという,こういう意見をお聞きました。   しかも,日本では,身柄を取ってしまえば取調べ受忍義務が認められて,自白が取りやすいということもあり,そこで隘路になってしまっているような気がするのです。ここで議論していては多分,混乱すると思われるので,何らかの形で身体拘束の在り方というのは,今崎委員がおっしゃったように,ここで駄目でも,別の場所で,法曹三者で議論をし合って,何か前向きに提案できるものを作らなければならないと考えております。そうでなければ,ここまで議論して何もないというのは本当に惜しいなと思っています。 ○髙橋幹事 今の裁判所の身柄の処理に対する姿勢についての御批判をいろいろ受けて,考えているところを述べたいのですが,少なくとも勾留請求があった際に裁判官が勾留を認めるか,あるいは却下するか,これは簡単に判断しているものではありません。想像力という言葉が使われましたけれども,想像ではなくて,正に被疑者がこういう事件を犯したとされて勾留請求されている場合に,本当に罪証隠滅のおそれがあるのか,逃亡のおそれがあるのか,それが具体的かつ現実的にあり得るのかというのを一つ一つ判断しております。その結果,勾留の却下率というのは最近,昔と比べてですが,それなりにアップしているという状況でもあります。先ほど痴漢の被疑者の場合に簡単に勾留されているというようなお話もありましたが,それがいつの取材の話なのかよく分かりませんが,最近の実務では痴漢事件であっても本当に罪証隠滅のおそれがあるのか,逃亡のおそれがあるのかを判断し,それらが具体的にないという場合には却下されている事例が多いと認識しております。   今回,出されている指針の関係では,特に「1」のA案で,不当に不利益な取扱いをしないようにという案なんですが,分科会の際にも実際の実務の運用で何が不当に不利益な取扱いなのかと,そこをきちんと示していただかないと何をどう変えていけばいいのか,それに従ってどういう条文が必要なのかということは考えられないので,そこをきちんと示してくださいということを言っておりましたが,それに対して実証的なものは何も示していただいておりません。そういうところをきちんと議論した上でないと,どういう指針規定がふさわしいのかというようなところに話は及ばないと思いますので,一言,付け加えたいと思います。 ○椎橋委員 全体の状況を見てみる必要があると思うのですけれども,先ほど来,日本は人質司法だという汚名を着せられているという意見がありましたが,これが正しい評価かどうかということについては,私は非常に大きな疑問を持っています。人質司法というのは要するに身柄拘束が不必要に多く認められている,それから,身柄拘束するかどうかの裁判というものが機能していない,こういう主張だと思うんですけれども,果たしてそうなのかどうかということなんです。   比較がし易い最初の身柄拘束について考えてみますと,日本は,毎年12万余件ぐらい逮捕があります。これに対して,フランスの仮留置と言われているものは80万件ぐらい,ドイツが82万件ぐらい,また,イギリスにおいては120万件ぐらい,それから,アメリカに至っては1200,1300万件ぐらいの逮捕の数があります。また,無令状逮捕が英米では多用されています。勾留については,逮捕と同様に,それぞれ当事者主義の国,職権主義の国とでやり方が違うので,それぞれ特色がありますので慎重な比較法的検討が必要です。日本は比較法的にみて諸外国に比べて,1桁,2桁,3桁,逮捕の数は少ないんですね。ですから,日本は,勾留の率が高いと言われますけれども,最初に身柄拘束をする事件を絞っているから,勾留の率もそういう意味では,ある意味では高くなるというところはあります。また,身柄拘束の絶対数が非常に少ないということの理由ですが,私は,これは関係者がかなり慎重に行っている,身柄拘束するかどうかについて慎重に対応されている結果だと思っております。   青木委員がおっしゃるように,確かに身柄拘束というのは大きな人権侵害でありますから慎重に行うべきであり,最終的な手段,例外的だというのはそのとおりだと思います。しかし,先ほど述べたように,果たして身柄拘束が慎重に行われている場合に在宅と身柄拘束の中間の処分というのがどのくらいあり得るのか,可能なのかということなのです。青木委員の認識によると,相当,これは幅があるのではないかと思われているのではないかと思うんですけれども,私は,日本の場合は,これはそれほど幅がたくさんあるような領域ではないのではないかと思っているのです。   そういう中で,このたたき台に出されているものを考えてみますと,まず,中間的な処分について一定の除外事由を認めない,あるいは中間処分に処す場合に特に取調べへの出頭を遵守事項とする規定は設けないというような,そういう立場を採ってみると,非常に捜査段階における捜査というものは,身柄拘束をめぐって非常に煩瑣な手続になってしまって,果たして捜査を短い時間に早く済ませるというような,そういう狙いを達することができるのか,むしろ,中間処分が妥当かどうかをめぐって多くの時間が費やされてしまうのではないかと思います。   つまり,まず,中間処分に除外事由を設けないということになると,一般的に罪証隠滅とか,逃亡のおそれの高い罪種の被疑者についても中間処分から一律には除外されませんので,罪証が隠滅されてしまえば事件が解明できなくなってしまうというおそれがある中で,それらの被疑者についても個別的に判断するということになろうかと思います。   それから,中間処分に付された者が出頭しなかった場合,直ちに勾留へ移行するというのではなくて,その者を引致して,更にその後に勾留するかどうかを決めることとなる。だから,中間処分に付するかどうかについては,まず,勾留の理由があるか否かを判断し,中間処分にするかどうかの判断をする,その後,中間処分にしたときに,遵守事項というものを全く決めないというわけではないでしょうから遵守事項を決める,それに違反したおそれがあるというときに刑事施設に引致する,そして,裁判所が勾留に移行するかどうかを判断する,ということになると,非常に煩瑣な手続になってしまい,そのための時間もかかります。これは短い日数の中で嫌疑の有無を明らかにしなければならない捜査段階においては非常に大きな問題になってしまうと思います。特に青木委員などは,身柄が拘束されていないということが重要なんだということをおっしゃるわけですが,身柄が拘束されていないことが重要であるのならば,そういう中間処分になった場合に,取調べのための出頭を求められた場合に正当な理由がある場合を除き,これに応じることを,何で遵守事項にしないのか,何で遵守事項違反にならないのかということに疑問があります。遵守事項として実効性を担保して中間処分にすれば,身柄が拘束されていないわけですから,被疑者にとっても非常に良いことだと,大事なことだと思うんですけれども,何でそれを遵守事項にするということについて,それほど抵抗があるのかということなんですよね。勾留の理由があるという人が対象なわけですから,一般的に言って,捜査の必要性も高いという場合に,正当な理由があって取調べを求める,それに応じるというのは,その辺りのところの負担というものは遵守事項というような形で担保しなかったならば,全くこれは合理的ではないのではないかという感じがしております。   それから,指針について申し上げますと,余り当たり前のことを書いて,しかし,実質的には何か法律の要件を変えるようなやり方というのは,実質的にはそんな感じを受けるのですけれども,それは姑息なやり方ではないでしょうか。当たり前のことだったら,私が前から申し上げておりますように,憲法,刑事訴訟法,犯罪捜査規範,これらにおいて,任意捜査が原則だということは書いてあるわけですから,それで当然カバーされていることなので,それ以外のことを書いても余り意味がない,あるいは意味を持たせようとすると,迂回路をとって現在よりも何かをプラスした勾留の要件,そういう要件を決めるというように等しくなってしまうので,そういうやり方は正当ではないような気がいたします。 ○後藤委員 中間処分について,一言,申し上げます。   問題を現実主義的に考えないといけないと思います。ある被疑者あるいは被告人が,逃亡するかしないか,証拠を隠滅するかしないかを確実に予測することはできないでしょう。だから,もしそれらを完全に防ごうとするなら,全ての人を勾留して,厳格に監視しなければいけないことになってしまいます。その結果は,本当は必要がない,過剰な自由の制約をすることになってしまいます。だから,逃亡あるいは証拠隠滅が起きる危険と,自由の過剰な制約をしてしまう危険とを比較して考えて,どこかで線を引かなければいけないという問題になります。   現在の法律ももちろんそういう考え方に従って,要件を定めているのだと思います。ただ,やや大まか過ぎるのではないか,選択肢が少ないために捜査機関や裁判官にとっては安全策を採るという方向で選択がされて,その結果,本当は必要がない自由の制約がかなり起きているのではないか,さらには身体拘束が自白させるための道具としての機能を持ってしまっているのではないかという問題が提起されています。村木委員が経験された事件でも,典型的にそういう問題が見えています。ですから,ここは裁判官にとってもっと柔軟な対応ができるように選択肢を増やすことに重要な意味があります。私はもし自分が裁判官だったら,そういう選択肢があった方がやりやすいだろうと感じます。ですから,現職の裁判官の方たちが余りそう感じないというのが,なぜなのか私にはよく分からないところです。 ○小坂井幹事 手短に済ませます。ここにいらっしゃる裁判官の方,あるいは元裁判官の方はきちんと判断していらっしゃるのだろうと思います。ただ,ここで,今,議論をお聞きしていますと,要は何か共通基盤がないんだと,だから,できないということになるような話になっているんですが,逆説的な言い方なんですけれども,共通基盤がないような状況自体が今の人質司法と呼ばれている状況になっている,正にそれが実務上の問題なのではないのかなと,こういう印象を持ちました。今,後藤委員がおっしゃったことと重なるのですけれども,「身体を拘束しなければ,時すでに遅しになる,遅しになるかもしれない。」,こういうことで拘束しているんだと,こういうことですよね。そうすると,入れておくか,おかないか,微妙な事案は入れておくことにどうしてもなってしまうわけです。   更に言えば,先ほど新たに犯罪があるかもしれない場合,未決拘禁でも,どうもそういう場合でも入れておかないといけないと,こういう発想になってきますと,どんどん入れておく発想にどうしてもなるわけですね。共通の基盤はあるんです,というか,ないとおっしゃる方がいるから「あるんです。」というしかないわけだけれども,新人弁護士で否認事件を2件でも3件でもやれば,何でこの人は勾留されているのかと思う事件に必ずぶち当たります。保釈になればなおさらそうです。何で,この人はまだ保釈されへんのやろうと思います。   最近,保釈なんかもよくなっているというような話もありますけれども,例えば私が30年前に弁護士になった頃は,まだ,起訴後,直ちに保釈しているケースというのはわんさかあったと思うんです。けれども,今は起訴後,直ちに保釈なんてまずめったにない。第1回公判期日で,もちろん,公判前整理手続を踏まえればまた別のルートはありますけれども,第1回公判期日で本人がはっきりと認めた段階で出しましょうかというのが,むしろオーソドックスな感じになっている。こういうのは,弁護実務上は非常に実感といいますか,リアリティのある話なのです。私は基本的に青木委員の意見に全て賛成しますけれども,すみませんが,そういう発想は分るんだと,気持ちは分かるんだということであれば,例えば指針規定がどうしてもこれはまだ問題だというのであるならば,そこは当然,もう少し知恵を絞るべきではないかと思います。 ○上野委員 弁護人の方とよって立つ立場も違うのかもしれませんが,飽くまでも中間処分というのは,罪証隠滅あるいは逃亡のおそれがある人を対象としている制度でございまして,それについて,今の制度設計案では,勾留と比較して罪証隠滅や逃亡を防止するという機能は明らかに劣っていると思います。そういうことからしますと,罪証隠滅等が行われて捜査に重大な支障を来さないような制度上の設計をする必要があるということになろうかと思いますが,その観点からしますと,ここに書かれております制度設計案については,仮に採用するとしたら,全てA案でなければいけないのではないかと思います。   率直に申しますと,冒頭に種谷委員が言われましたように,このように遵守事項を幾ら決めたとしても,現実に罪証が隠滅されてしまえば,その証拠自体を再現することは不可能ですし,実際,逃げてしまえば,再度,身柄を拘束するというのも非常に大変な労力が要るわけですから,そういうことから考えますと,中間処分自体を今の勾留と在宅の間に設けることの意味が本当にあるのか,必要性があるのか,あるいは機能するのか,いろいろな観点から私自身はかなり消極的に考えております。 ○本田部会長 まだ,御意見もあろうかと思いますが,時間の都合もございますので,「被疑者・被告人の身柄拘束の在り方」についての議論は,ひとまずここまでとさせていただきます。   それでは,ここで15分間,休憩を取りたいと思います。午後3時35分までに,お席にお戻り下さい。           (休     憩) ○本田部会長 それでは,再開させていただきたいと思います。   次に,「自白事件を簡易迅速に処理するための手続の在り方」につきまして議論を行うことといたしたいと思います。   この検討事項についての議論は,午後4時5分ごろまでということにさせていただきたいと思います。   まずは,作業分科会での検討結果につきまして,事務当局から簡単に説明してもらいます。 ○保坂幹事 御説明します。資料64の71ページ以下を御覧ください。   まず,「第1 自白事件の捜査の簡易迅速化を確保するための措置」のうちの制度概要「1」の「公訴取消後の再起訴制限の緩和」については,起訴に至るまでの捜査の簡易迅速化のため,制度概要「1(1),(2)」に掲げられた事由によって即決裁判手続によらないこととなった場合に,公訴を取り消して再起訴することができる途を設けておく仕組み自体におおむね異論はありませんでしたが,そもそも捜査の簡易迅速化のための有効性に疑問を示す意見などがございました。   次に,制度概要「2」の「同意等の撤回の制限」及び「3」の「第1回公判期日前の陳述手続」については,即決裁判手続による旨の決定を起訴後早期に行えるようにするとともに,その決定があった事件は,原則として同意・有罪陳述を撤回できないものとすることにより,否認に転ずることを想定した捜査の必要がなくなるようにして捜査の簡易迅速化を図ろうとするものでございますが,公判の被告人質問で否認に転ずることを禁止できない以上,実効性が乏しいのではないかという意見や,被告人側としては,撤回制限のために制度の利用を躊躇してしまうのではないかという意見もございました。   次に,75ページ以下を御覧ください。   「第2」の「一定範囲の実刑相当事案を簡易迅速に処理するための新たな手続の創設」については,執行猶予に限定した現行の即決裁判手続と併存させることを前提に,考えられる制度の具体的枠組みが記載されていますが,制度を設けるとすると,このようなものになるということにおおむね異論はありませんでしたが,制度の採否に関して,実刑相当事案について一定期間内に判決言渡しをするものとすると,情状に関する弁護活動の面や裁判所の量刑判断の面で判断が難しくなるという意見もございました。   御説明は以上です。 ○本田部会長 この検討事項につきましても,「自白事件の捜査の簡易迅速化を確保するための措置」と「一定範囲の実刑相当事案を簡易迅速に処理するための新たな手続の創設」という2つの論点がございます。   あえて議事を区切ることはいたしませんので,御質問,御発言のときには,どの論点についてかということをおっしゃっていただきたいと思います。それでは,御意見のある方は御発言をお願いします。 ○小野委員 前にも申し上げましたが,第1の自白事件の簡易迅速化の確保の措置ですが,やはり同意等の撤回の制限,要するに認めていたものを撤回する,否認に転ずることが封じられるという制度は,やはり実際に被告人にとって,その事実がどうであったかということの究明をそこで止められてしまうことになっては非常にゆがんだ制度になりかねない,実際にこういうことがあるとやっぱり弁護側としても使いにくいということにもなってしまうのだろうというふうに思っています。   それから,実刑相当事案についても,結局のところ,この実刑ということが予想されるわけですから,それなりの情状弁護なり,何らかの弁護活動をしなくちゃいけない。それなしではなかなか適当な刑を科すのは難しいだろうというふうに考えられます。   そのために,やっぱりこの準備期間では非常に困難であって,弁護人としてもほとんど使えないだろうと考えられます。あえて考えられるとすれば,もうこれはこの事案ではどうも情状弁護の具体的な手立てがないと,非常に難しいなと,あまりないだろうと,かつ3年なら3年,上限に張りつくような事件であれば,もしかしたら使えるかもしれない。逆に言えば,これでいけば仮に3年という上限を定めてあれば,3年ならいいかというような事案であればもしかして使うことがあるかもしれないという仕組みなんですね。   そうすると,ほとんどのケースで,そういうようなケースだと今度は逆に検察官としてはやや微妙な3年を越えるということを求めるような事案というふうにも一般的には受け止められる方も多いでしょうから,結局のところ,この仕組みを使われるということはほとんどないんじゃないか。そういう意味では,ここでこれを作ることにどれほどの意味があるのか,ほとんど意味がないような仕組みをあえて何らかの有効利用を期待して作るということについては,どうも消極的な考えを持たざるを得ません。 ○上野委員 私の方からは,「自白事件の捜査の簡易迅速化を確保するための措置」のうちの,「1」の「公訴取消後の再起訴制限の緩和」について意見を言わせていただきたいと思います。   この点につきまして,これまでの部会,あるいは作業分科会におきまして,起訴後に被告人が否認に転じたとしても,検察官として公訴を提起するに足りる証拠があると判断して,一度起訴した以上,公訴を取り消した上での再捜査の途を認める必要はないというような御意見があったと承知しております。   この点について,若干具体的な事例を基に意見を言わさせていただきますが,例えば,現状では,無銭飲食の現行犯で被疑者を逮捕し,被疑者が自白している事件につきましても,将来公判で被告人が親族,あるいは知人に立替払いをしてもらうつもりだったという弁解が出ることを想定いたしまして,起訴前にいわゆる念のために被疑者の親族等の取調べを行う,あるいは被疑者の資力等についての証拠収集を行うということをしているのが実情でございます。そういう捜査をしている関係で,なかなかこのような犯罪類型について即決裁判手続が十分に利用されてないのではないかというふうに考えております。   これに対しまして,公訴取消後の再起訴制限が緩和されますと,検察官としては,このような念のための捜査をせずに早期に被疑者を起訴することができるようになりますし,そうすれば即決裁判手続の申立てにもつながりやすくなるのではないかと思います。   今申し上げました無銭飲食の事案について,被疑者及び弁護人が即決裁判手続に同意したため,検察官として念のための捜査をせずに起訴したところ,公判で被告人が知人に立替払いをしてもらうつもりだった旨の弁解をした場合は,誰に立替払いをしてもらうつもりだったのかなどにつきまして,被告人から弁解を詳細に聴取するとともに,その裏付け捜査を尽くし,さらに,そのほか被告人の資力に関係する資料などを押収するなど,いろいろな捜査をする必要が出てくると思います。   ところが,このような起訴後の取調べにつきましては,判例により違法ではないとされているものの,なるべく避けるべきものとされておりますし,また,起訴後の捜索差押につきましても,第1回公判期日後はできる限り避けるという見解が有力だというふうに認識しております。   そういうことを踏まえますと,結局,起訴後にこうした捜査ができないということになれば,結果的に公訴の維持が困難となりかねませんので,遡って,私ども検察官としては,被疑者が捜査段階で自白していても,念のための捜査を遂げた後でなければ起訴できないということになってしまうと思われます。   このように,念のために行う捜査を省略化するなどして自白事件の捜査を簡易迅速化することは,単に私ども捜査機関の便宜というだけではなく,刑事司法制度全体を効率化することにも資するものと思われますので,少なくともこの「第1」の「1」の「公訴取消後の再起訴制限の緩和」だけでも実現していただければというふうに思っております。 ○川端委員 この制度の採否自体について意見が分かれているようでございますが,私は,刑事司法制度の新しい在り方という観点からしますと,やはりある意味無用な手続に関与されずに解放されるという要素を持つ意味は大きいと思うんです。   今,捜査官側からの立場から,自白を取り消した場合に念のために最初から全部証拠をそろえておくんだというようなことで,ある意味丁寧過ぎる捜査がなされるという発言がありましたが,こういう事態になりますと,かなり被疑者側にとっては時間をとられて,自白しているにもかかわらず拘束が長引いていくということで,刑事手続から解放されるという点がかなり無視されてしまうのではないかということがあります。実効性の問題などは,また後で考えればいいことなので,制度自体としては,刑事司法制度全体の絡みの中で簡易迅速化を進める方がいいという観点から,私は賛成でございます。そして,再捜査ができるようなシステムで実効性を保っておかないとうまくいかないだろうと考えておりますので,私は,この点からも,このたたき台の案でいいのではないかという意見でございます。 ○角田委員 これらの制度がもし導入されますと裁判所の方で運用すると,こういうことになりますので,その観点で第1と第2双方の項目について申し上げたいと思います。   まず,最初の再起訴制限の緩和についてでありますが,これはこれまでの法制審での議論を振り返ってみても,この措置によってどの程度捜査の簡易迅速化が図られるか,その点について得心できる,なるほどというような説明というのは余りなかったのではないかというふうに思います。一言で言うと,実効性が不明だということなんですけれども,ただ,今実効性はともかくとして制度を導入してみてはと,こういう御提案もあって,それも一つの考え方なのかもしれません。けれども,一旦公訴を取り消して再捜査を遂げた上で再起訴する余地は認めると,こういう仕組みで簡易迅速化を図ろうと,こういうことなんでしょうけれども,やはり証拠の散逸のような問題がどうしても中身としては,その点に関して言えばあるかなというふうに思います。   無銭飲食の参考人なんかの事例だといいのかもしれませんけれども,これは罪名を問わず導入しようとこういう提案なので,今申し上げたような問題があるかなと思います。もうちょっと踏み込んで考えてみますと,これは即決裁判手続によることの同意の撤回制限ということを仕組みとして考えているわけなんですけれども,これは同意の撤回を制限してみても事実上否認に転じるというようなことは,これは防げないということが一つあろうと思います。   それから,第1回公判期日前の陳述手続,これはなかなか発想としては工夫された提案だなというふうに私も思ったんですけれども,ただ,弁護人の方が起訴後早い段階で撤回不能な,そういう有罪の陳述というのをアドバイスできるようなことが本当に可能なんだろうかと,これは裁判所が言うことではないのかもしれませんけれども,そういう点について疑問を感じました。   いずれにしても,これは実効性に疑問がある一方で,仮に導入してしまうと非常に影響の大きい面もあるというふうに考えられますので,それに対応する十分な議論がされていない以上,賛成はしにくいと,こういうふうに思っております。   それから,もう一つ,いわゆる新手続ですね,これは中身を見ますと実刑即決といっていい制度だろうと思います。つまり,裁判所が被告人を刑務所に現に入れるという判断をする場合なわけですが,量刑事情の主張,立証,あるいは量刑判断に時間を要するか,要しないか,ここのところの判断は罪名だとか法定刑で一律に決まるということではなくて,本当にケースバイケースだというのが実態だと思います。制度概要にあるとおり,14日以内に公判期日を定めるとか,3年以下の懲役又は禁錮の言渡しをする事件とするとか,特に,審判の決定の日から5日以内に判決の言渡しするとか,こういった一律の手続に乗せて円滑に運用していくのは,なかなか裁判所の立場から見ると難しいのではないかというふうに思います。さらに,再来年の施行だったと思いますけれども,刑の一部執行猶予制度が動き出すわけですけれども,こういう実刑即決の制度を考える場合には,一層判断を難しくするという面があって,これも一つ指摘しておきたい点であります。   遡って考えると,私も非常に多数の刑事裁判を処理してきたわけですけれども,実刑事案でも自白事件であれば,合理的な期間内に迅速に事件を処理していくための工夫は重ねてきており,恐らく実現されています。これは検察・弁護の立場から見ても実現されているという感じを持っておられるのではないでしょうか。これ以上の省力化というか,簡易迅速化という余地が本当にあるんだろうか,根本的にはそういうことを感じますし,周りの裁判官に,こればらばらですから余り統計的なものではありませんけれども,こういう制度が,今,法制審で議論されているんだけどというふうに紹介してみても,それはいいと,それは使えるという意見はまず聞くことがありません,それはなかなか難しいんじゃないか,という反応であります。   そういう意味で,第1,第2について提案としてはおもしろいと思いますけれども,結論的には現時点では反対というふうに考えております。 ○後藤委員 「第1」の方の簡易迅速化を確保するための措置について意見を申し上げます。   まず,「1」の再起訴制限の緩和については,何度か申し上げましたように,依然としてこの場面でなぜ検察官が公訴を取り消す必要があるのか疑問です。先ほど上野委員から御説明いただいた例は,無銭飲食の事件で新たな弁解を被告人がするようになったという事例です。それなら弁解内容を確定する目的であれば,法廷での被告人質問で詰めればよいことだと思います。そして,被告人が知人から借りて払うつもりだったというのなら,その知人なる人から事情を聞くために公訴を取り消す必要はありません。補充捜査としてすれば十分なので,なぜ公訴を取り消さないとできないのか分からないです。   そう考えていくと,結局,公訴を取り消すことの意味は,今まで被告人だった者を被疑者の立場に戻して,身体拘束中であれば,いわゆる取調べ受忍義務を課して取り調べることによって,否認に転じたものをまた自白に戻す,そういう機能を持つことになるのだと考えざるを得ません。それはまさに自白に依存したやり方を再生産しようとする考え方で,この部会の目的には合わないと思います。   次に,同意の撤回の制限について,先ほども御指摘があったように,事実上,否認に転じることは禁止できないですね。そうすると,この条文を設けることの法律的な効果は,被告人が否認に転じていても即決裁判手続ができるということになります。その場合の具体的な効果として一番重要なのは,事実誤認を理由とする控訴ができないことでしょう。   そうすると,このような制度は,被告人に早い段階で有罪の陳述をさせることによって,その後,事実認定について争う手段を限定する,そういう効果を持つものになります。特に「3」の第1回公判期日前の陳述手続を作る場合には,それが一層はっきりします。それが適切かどうか私には非常に疑問です。それは早い段階に自白を固めて,それによって事件を処理しようとするやり方になってしまうので,それもある意味で自白に依存し過ぎたやり方になるように感じられます。したがって,この部会の役割には沿わないものになってしまうのではないかと考えます。 ○本田部会長 ほかに御意見ございませんか。   それでは,御意見もないようでございますので,「自白事件を簡易迅速に処理するための手続の在り方」についての議論は,ここまでとさせていただきたいと思います。   これで,たたき台の全ての項目について議論を一応終えたわけでございますが,時間の関係もあり,十分に御発言いただけなかった方もいらっしゃると思います。そこで,次に,「全体的な制度の在り方」として,検討事項のいずれについてでも結構でございますので,補足的な御意見がありましたら,それを述べていただくことといたしたいと思います。また,そのほか,最終的な取りまとめに向けて,どのようにして議論を収れんさせていくべきかということなどについても,もし御意見があれば頂きたいと思います。   いずれにいたしましても,より建設的な御発言をよろしくお願いいたします。   午後4時半ぐらいまでをめどとしたいと思いますので,御意見のある方は御発言をお願いします。 ○大久保委員 それでは,皆様にもう一度被害者の現状を是非知っていただきたいと思いますのでお聞きいただきたいと思います。   まず,配らせていただきました手元にございます資料の2ページをお開きください。青い字が見えるかと思います。   この青字で書かせていただきましたのは,ある一人息子さんを殺害された御遺族の方が書いた詩です。「『法律』 法律は,人々の平和な生活を守るためにあるものと信じて疑わなかった。ことさら法律を意識することなく生きてきた。我が子を殺されてしまったあの日までは。『殺人』という動かぬ事実を前にして,法律は私を裏切ったのだ。被害者の人権を無視して,嘆き怒りの訴えに耳を貸さず,加害者の人権を必要以上に擁護したり,明治の衣を着たまま現代人を縛りつける法律の存在。もはや,そんな法律は死んでいるに等しい。法律は生き物なのだ。今この時代に合った。」,被害者が置かれる現状ですとか,心情は,この詩に書かれたとおりなのだと,被害者はみんな思っています。   そこで,同じく2ページの(2)のところには,犯罪被害者等が現状の刑事司法に思うこととして,①,②,③に記述したとおり,犯罪者は司法という名前の土俵の上にスポットライトを浴びて立っていて,周りにいる関係者からは手厚い支援を受けて社会復帰も果たすことができています。しかし,被害者は,現状ではまだその土俵に近づくことも余りできずに,暗闇に放置されている現実を被害者になって初めて被害者自身も知るわけです。正しく生きていれば自分を守ってくれると信じていた司法から,つまり国から裏切られたという被害者の思いといいますのは言葉には尽くせないほどの絶望感,孤立感,疎外感で一杯になり,自分自身が生きていく価値,意味を見出すことができずに自己否定に陥ってしまいます。それでも,日本は心ある関係者の皆様の御尽力により少しずつ改善されてきました。   レジュメ3ページの(3)を御覧いただけますでしょうか。   ここにありますように,昨年の12月10日には,「世界一安全な日本」創造戦略が閣議決定されました。そこでは,犯罪被害者等の保護策として,1つは刑事手続等における犯罪被害者等施策の推進,2つ目が,犯罪被害者等に対する各種支援の一層の推進,3つ目が,犯罪被害者等に関する啓発活動等の推進等が策定されました。そのため,次の(4)に記述をした刑事司法制度の在り方を検討する視点を生かしていただきたいと思います。刑事司法制度の在り方を検討する際には,今までは多分強い立場の国と,それに対して弱い立場の被疑者・被告人という構図だったかと思いますが,でも,犯罪者の対極には犯罪者によって心身の健康を奪われたり,命を奪われた犯罪被害者等がいるということを是非認識していただきたいのです。   犯罪被害者等基本計画の中では,犯罪被害者等については事件の当事者であるとされて,刑事司法は犯罪被害者等のためにもあるということもできようというように指摘されるに至っております。今では犯罪被害者等の存在は無視できないということが常識となっていますし,社会的にも認識されるようになったと思います。   また,最近は特に通り魔事件的なものも多発していますので,いつ,誰が犯罪の被害に遭うのかも分かりません。このような現状も鑑みまして,刑事司法制度の在り方を検討する上では,犯罪被害者の視点も是非持っていただきたいと思います。   そして,犯罪被害者等が安心して刑事司法に精一杯関わることができて,それによって人としての尊厳をもう一度取り戻して,こんな被害には遭ったけれども,それでも私は生きている価値があると思えて,誇りを持ってその後の人生を生き抜いていくことができる制度を是非構築してください。   裁判員制度も定着してきた現在は,被害者からも国民からも信頼される制度にしなければならないと思います。そのためにも社会の安全・安心に寄与しているということを国民自身も実感できて,被疑者・被告人の権利・利益ばかりに比重を置かない,バランスのよい刑事司法を是非目指していただきたいと思いますので,あえてもう一度発言させていただきました。ありがとうございました。 ○村木委員 お手元の資料に,5人のメンバーで紙を整理してお配りしていただきました。25回の審議を重ねる中で,特に非専門家委員ですが,議論を重ねるうちにかなり共通な意見を持っているということを認識するに至りましたので,こういう形で紙にして,一度我々の意見を言わせていただこうということで整理をいたしました。   取り分け,この紙は,取調べの録音・録画に関してだけ整理をしたものでございます。この特別部会が発足したときに,取調べ及び供述調書に過度に依存した今の捜査・公判の在り方を見直し,取調べの録音・録画の方法によって記録をする制度の導入と新しい時代に合った刑事司法制度を構築するということが言われました。   我々,特に私なんかは,自分が参加するのは場違いかなと思っていましたが,第1回のこの会合に参加したときに,専門家の知見だけでなく,広く国民の声を反映した審議を行っていただく必要があるということで,委員として参加をしてもらうんだということを言われました。それを受け止めて,ある日突然被疑者になる,被告人になる,あるいは大久保委員がずっと言われてきたような被害者になる,あるいは証人になる,裁判員になるという一国民の立場としてこの審議に積極的に参加をしてきたつもりです。その中で,取り分けこの大事なテーマ,取調べの録音・録画制度についてこういうふうにしてほしいという思いがあって,このペーパーをまとめてあります。   1枚目の下の方に,取調べの録音・録画に関する基本スタンスということがあります。我々の基本スタンスは,去年の1月にまとめていただいた基本構想そのものです。「刑事司法における事案の解明が不可欠であるとしても,そのための供述証拠の収集が適正な手続の下で行われるべきことは言うまでもない。」「公判審理の充実化を図る観点からも,公判廷に顕出される被疑者の捜査段階での供述が,適正な取調べを通じて収集された任意性・信用性のあるものであることが明らかになるような制度とする必要がある。」ということです。私どもはこの基本構想に全面的に賛成をしているものです。   したがって,この基本構想の考え方に立って,取調べの録音・録画制度についてのたたき台で言えば,是非,「第1」の案をとっていただきたい,取調べの一定の部分だけを録音・録画したり,取調官の裁量に,取調べの録音・録画の実施が委ねられるような方法をとっていただきたくない,それではこの基本構想に言われた趣旨は全うできないというふうに考えております。   それから,対象とすべき事件については,作業分科会ではなくてこの場で議論をするということになっております。この部会でも裁判員制度対象事件だけを対象にすればいいという意見も随分出ました。ただ,取調べの録音・録画の目的というのが取調べの適正化,証拠の任意性・信用性の確保ということであるのであれば,これは裁判員制度対象事件だけに限定する理由はないと思っております。本来,原則として全ての事件がその対象となるべきと思います。取り分け,裁判員裁判だけと言われれば,年間およそ2,000件,公判に付される事件の3%ということになります。   私が体験した郵便不正事件も,先日問題になったPCの遠隔操作事件も,それから,えん罪が多いと言われている痴漢事件も全く対象にならないということです。新時代の刑事司法制度といって,取調べの録音・録画制度がメーンの諮問事項でありながら,そういう結末になってしまうということでは,余りにもわい小化されていると言わざるを得ないというふうに思っております。   ただ,いきなり全部やってくれと言っても仕方がないということも,ここの議論を通じて私どももよく分かりました。原則は原則,その原則をしっかりと明確にした上で,実務的な観点から段階的な実施をするということは,我々もこれに積極的に賛成をしていきたいというふうに思っております。段階的実施の方法としては,何度かこの部会で委員からも提案がありましたが,裁判員制度対象事件については,取調べの全過程の録音・録画を行い,これに加えて,検察官の取調べは比較的準備が整いやすいという印象をここの議論で持ちましたので,その他の全ての事件については,軽微なものは除くとしても,検察官の取調べについては全過程を録音・録画していただくと,そういうところからスタートしてはどうかということでございます。その後どうするかというような方向性も,きちんと何らかの形で示していただきたいというふうに思います。   コスト論が随分出ましたが,コスト論を言うなら録音だけで出発していただきたいというふうに思っています。対象を絞るよりはその方がまだましだという印象でございます。   それから,録音・録画の例外ですが,できるだけ制限的であってほしいですし,取り分け,客観的な基準による,後で争いが起こらない基準で例外規定を作っていただきたい。取調べに問題があるということが言われて,制度を導入するのですから,取調官の判断にいろいろものが委ねられるという仕組みにだけはしないでいたただきたい。ですから,一定の例外を設ける,例えば,被疑者が十分な供述をすることができないというようなことを想定して例外規定を設けるときでも,被疑者本人が録音・録画を望むときには,録音・録画をしてもらえるという制度に是非していただきたいと思っております。   それから,被害者の方の御心配というのは,非常に大久保委員の御意見を聞いてよく分かりました。御心配のところをどういうふうにして工夫できるか,私たちは取調べの録音・録画はきちんとしていただきたい,その上で,記録媒体の証拠開示,または公判での再生等について適切な対応をしていただきたいと,我々からもお願いをしたいというふうに思います。   また,実効性の担保については,供述調書に頼り過ぎているということがスタート地点にあるわけですから,取調べの録音・録画の規定が入って,その規定を無視して作った供述調書について,今までと同じような証拠能力があるという形にはしていただきたくないということで,一定の制限を設けていただきたいというふうに考えております。   参考人の取調べについては,これは私個人的な体験で言えば是非やっていただきたいんですが,一遍にいろんなことが無理だというのはよく分かりますので,せめて,いわゆる2号書面との関係で,検察官の取調べだけでもやっていただきたいというふうに考えております。   以上がこのペーパーの趣旨でございます。この紙をあえてこういう段階でお出しをした一番大きな理由は,せっかく3年間もかけてこの議論をしていく中で,わずか2,000件の裁判員制度対象事件だけが取調べの録音・録画の対象になるというような結末になってしまわないか,取調べの録音・録画をせめて原則,一般的なものにしていただきたい,例外的に,取調べの録音・録画をするという制度にだけはしていただきたくないという非常に大きな危機感であえてこういう紙を出させていただきました。   ただ,警察の方々が実務の大変な難しさも言われました。こういうことに配慮して,それならば検察からスタートというようなこと,そういったところはしっかり皆さんの意見を聞いて妥協していかなければいけないということはよく理解しているつもりでございます。部会長の顔つきが3年間のうちにどんどん険しくなり,また,井上委員からもたびたびの御叱責を頂いているのでそれは十分受け止めているつもりですが,いろんな問題事案が起きた後で我々が本当に普通の一般国民の感覚としてこの問題について抱えている懸念というのを,是非御理解を頂きたい。その上で我々もこれからも積極的に議論に参加をして合意形成に向けた努力を惜しまないということをお約束して私からの発言を終わらせていただきたいと思います。ありがとうございます。 ○但木委員 学者を含めまして,法律関係に携わっている人以外の五人の方が一つの御意見をまとめていただいたということは,非常に有り難いことだと思います。本日を含め25回の部会があったわけですが,大変皆さん御熱心に今まで議論に参加していただいて,この度,皆さんが一つの世の常識として,あるいは世の良識として,こういうふうに見えますよ,こういうふうにしてほしいですよ,ということを意見をまとめられたことにつきましては,誠に重要なことであると思います。刑事司法手続に関与する人たちは,やはり虚心坦懐に,この意見をまず読んで,その中からどうできるのかということについて考えていく真摯な態度がまず必要だろうというふうに思います。   この中で取調べの録音・録画の対象事件は裁判員制度対象事件だけとすべきであると叫んでいる人がいたというのは,多分私の一言が一つのケースで挙げられているんだろうと思いますけれども,私は,その裁判員制度というのはいろんな意味ですごい大事だと思っています。国民が司法に参加した,それこそが一番基本でありますけれどもそれだけではありません。例えば,裁判員の人たちは,今までの裁判官のようには時間がありませんし,それから,記録を裁判員の人たちがみんなうちへ持ち帰るなんていうことをやり始めたら大変なことになる。だから,必然的に公判中心主義にならざるを得なかった。これが今の刑事司法を大きく変革しているわけです。だから,僕は何も裁判員制度という制度だけを大事に思って言っているんではなくて,今の刑事手続というのは裁判員制度を中核にしながら変化していっているんだということを基本に置きながら,やはり裁判員制度に関する制度をきちんと法制化していくことが大きく刑事手続を変えていくだろうなと思います。それは,証拠開示の問題にいたしましても,あるいは供述調書の採否の問題にいたしましても,あるいは公判準備の問題にいたしましても,身柄の問題につきましてもやっぱり裁判員制度が果たした役割というのは,非常に裾野が広い変革をもたらしているわけなんです。   ですから,私は,裁判員制度というのをものすごい大事に思っていますし,裁判員制度でまず取調べの録音・録画制度を作ったらどうですかというのは,私は,広い裾野が裁判員制度には含まれているということを前提に申し上げているつもりでございます。村木委員に誠に申し訳ないことをいたしたわけですけれども,それでも裁判段階で無罪になったのも,そういう大きなうねりの中の一つの歴史であるという評価も私はできるんだろうと思っております。   皆さん方の御意見の中でもう一つ具体的に考えたこととして,取調べの録音・録画制度の例外事由についてはできるだけ分かりやすくしないといけないということについては,私もそう思っております。それは,裁判員の人たちに今までの裁判官裁判と同じ苦労を押し付けるんだと,それは何のためにやるのかという気がします。ですから,裁判員の人たちが判断に迷うような例外事由の作り方をしない方がいい,むしろ端的に言えば,例えば,暴力団事件を除外しましょうというのは,暴力団事件は除外と,そのようなことをした方がいい,それは,一つは裁判員の方々への負担をできるだけ軽くしたいということと,もう一つは,現場で本当にやるかやらないか決断しなきゃならない刑事さんのことを考えると,私は,あんまり難しい判断をさせるというのは,一刻を争うような事件ではできないのではという気がいたします。   ですから,僕は例外事由は必要だろうと思っていますし,それはこれからいろいろ皆さん御論議なさるんだろうけれども,例外事由の規定はできるだけ分かりやすく作ってもらいたいなと思います。それは,裁判員のためもあるし,それから,現場でそれを扱わなければならない捜査員の人たちのことを考えたときには,ここに書いてあることの中で,私はなるほどなという気がいたしました。   ただ,ここに書いてある内容を全部やってくれということで言われますと,なかなかそうはならないんじゃないかなと思います。村木委員もこれからまとめる方向で御論議に参加させていただきますとおっしゃいましたので,そんなことはないんだろうと思います。   私が,法務省の官房長の時に,当時官房長官であった野中さんという人に呼ばれたことがありまして,野中さんに挨拶に行った中で,第1回目のときですけれども,いきなり言われたのが,法務省は監獄法をどうするんだということです。そのとき監獄法なんか全然問題になっていなかった時期でものすごいびっくりしたんですけれども,私からは,それはもう弁護士会と法務省と警察といろいろ話し合っているんですが意見が合いませんと申し上げたら,君たちは何を考えているのか,一日一日刑務所に収容されている人たちが100年前の無権利状態に置かれているのにあなたたちは何をいつまでも自分たちの論争のためにやっているんだということを言われました。私は,この会がそうであってはならないと思っております。やはり刑事司法が新しい時代に向けて歩みを始めなきゃいけない,そのために集まっている部会であるということを考えますと,どうしてもまとめなきゃいけない。   自分の理想を言えば,皆さん不満でしょうと,私だって決して100%満足というわけにはいかないだろうと思っています。だけれども,私は,反対はしないだろうし,皆さんも大賛成だと言っていただかなくても反対はしないでもらいたいなと思います。これは,我々がこれから最後の力を振り絞ってみんなが反対しないで済むような案というのを何としてでも工夫して作り上げていかなければいけないだろうと思います。そうじゃなかったら,まさに日々の監獄に入っている人たちの人権を君はどう思うんだという質問に対しての答えができないという気がいたします。そういう意味では,新しい時代に向けた是非新しい刑事手続の在り方を合意するような方向でお願いしたいと思います。   だから,これを書いてくださった5人の方々も,是非これからもこの紙に書いてあることを1文字でも外したら俺は反対だなんて言わないで,やっぱりみんなで非常に貴重なものを出していただいたわけですから,これを一つの軸にしながらみんなで論議し合って,できるだけ前へ進めることを,私は是非お願いしたいと思います。 ○今崎委員 取調べの録音・録画制度について少し申し上げさせていただきます。   たしか第21回の会議だったと思いますけれども,佐藤委員がこの問題を取り上げられて,捜査機関側として適正に任意性立証をするためには,有力な証拠方法の一つである録音・録画をとらざるを得ないという現実が生まれていくので,捜査側として録音・録画をしないという判断をした場合にはそのリスクを自らが負い,そうでない限りは,録音・録画をして将来の裁判に備えるという判断を働かせるというような趣旨の御発言をされたように覚えております。あるいは,別のところで,録音・録画を義務付けるとしてもその範囲はできるだけ明確にする一方で,その場合によっても,実際には捜査機関側として録音・録画せざるを得ない環境を作り出すと,こういうような形にすることが一番的確・有効な方法であるともおっしゃっておられます。   佐藤委員の御発言自体は,第2案を念頭に置いたものであるということは重々承知しておりますので,こういう形で引用されるのは心外だとお叱りになるかもしれませんが,私自身は,第1案をとっても第2案をとっても,今の御発言自体はまことに正鵠を射たものであるというふうに思っています。裁判所としても,裁判員制度の導入を契機として,最も分かりやすい,心証形成に適した証拠というのがどのようなものであるかということは真面目に考えてきたつもりです。現在,裁判員裁判における供述の任意性立証には,原則として取調べの録音・録画の記録媒体が用いられており,任意性立証のために最も適した証拠が取調べの録音・録画の記録媒体であるということについては,おおむね共通認識が得られてきているものと思っております。このように,心証形成のための取調べの録音・録画の必要性,これは裁判員に限らず,裁判官にとっても同様であります。   今回,様々な議論を経て取調べの録音・録画の義務が何らかの形で定められるということになると思いますので,その場合には任意性立証における最良証拠としての取調べの録音・録画記録媒体の位置付けというのは法律上よりはっきりするということになるわけであります。   そうすると,証拠構造上,被疑者の供述が鍵となるような事件におきまして任意性が争われた場合には,個々の裁判においては従来のような取調べ官の証人尋問を中心とした証拠調べではなく,恐らく最も優越した証拠である録音・録画の記録媒体を中心とした証拠調べ,これが行われていくことになるものと思われます。その結果,最終的には,これはもとより個々の裁判ごとの,事案ごとの判断になりますが,録音・録画媒体がない場合には,その取調べで得られた供述の証拠能力に関し,証拠調べを請求する側に現在よりも重い立証上の責任が負わされるという運用に恐らくなっていくのだろうと思います。この点は,録音・録画義務が課されない事件についても,被疑者の供述が鍵となる事件においては,リスクの意味合いという意味では同様のことが言えるのではないかというふうに考えております。   現在の裁判所の方の認識を申し上げさせていただきました。 ○岩井委員 取調べの録音・録画のところでちょっと発言できなかったものですから申し上げます。今この会議の課題は,やはり取調べの可視化,そして,捜査の適正化というところにあるわけですから,対象事件はせめて被疑者・弁護人が要求する事件については録音・録画をするという,そこまで広げるべきだというふうに思っております。それと,例外事由を認めるというものについては,被疑者が拒否する場合はできないかと思いますが,それぐらい何か後に被疑者がいろいろ被害を受けるというふうな場合にはきっと拒否するのでしょうから,それぐらいの例外事由を認めておけば取調べの録音・録画を全て実施するという,そういうことでやっていけるのではないかなというふうに思っております。 ○佐藤委員 先ほど,今崎委員の方からも引用がございましたのでそれも含めて,取調べの録音・録画制度の法律構成の在り方について,私の意見を申し述べたいと思います。   今,今崎委員が引用されたことについては,私の発言は間違っておりませんし,そのとおりであります。ただ,違うのは,第2案の上に立脚した意見ではないということであります。   本日まで,これについての議論は第1案と第2案が対峙状態にあったままであり,この第1案の法律構成上主要な論点となったのが,録音・録画義務の例外事由とその範囲でありましたし,両案に共通する論点となったのは,録音・録画義務の実効性を担保する証拠法上の取り扱いいかんであったと思います。   しかし,これらをめぐる議論は出尽くしておりますし,はっきり申し上げてこう着状態にあると言ってよいと思います。先ほど但木委員が申されましたけれども,今からはこれまでの議論を踏まえて具体的に法律構成を構想すべき,そういう段階に入っていると思います。これは皆さん,共通認識ではないかなと思います。   そこで,取調べの録音・録画制度を法律構成するに当たって肝要なことは何かということについて考えてみますと,これは村木委員が言われたことと同様でありますけれども,公判廷に顕出する捜査段階での供述が,適正な取調べを通じて収集された任意性・信用性のあるものであることが明らかになるような制度とする必要があり,また,適正を欠いた取調べが繰り返されるのを防止し,かつ公判廷における分かりやすい立証と,円滑・迅速な裁判を確保する要請に応えるという,取調べの録音・録画制度の導入の趣旨を実質的に実現する構造にすることだと思います。この実質的にというところが私は大事だと思うわけです。と言いますのは,この取調べの録音・録画制度を法律構成するという視点に立って現状の議論がこう着している理由がどこにあるかをそんたくいたしますと,取調べを録音・録画することを,検察官,検察事務官,司法警察職員,これらを検察官等と申しますが,直截的に検察官等に義務付づける法律構造にしようとしている,その前提で議論が展開されてきたところに原因があると言わざるを得ないわけです。   このような法的構造が,適正を欠いた取調べが繰り返されるのを防止する要請に端的に応えようとするものであることは十分理解できますけれども,この構造では取調べの録音・録画を直截的に行為義務とするがゆえに,取調べの録音・録画をしなかった場合に義務違反の存否が公判で争点となることを回避することは難しく,かつ公判廷における分かりやすい立証と円滑・迅速な裁判を確保するという要請に応えることが難しいということにならざるを得ない。直截的な行為義務の構造のままでこの難しさを解決しようといたしますと,供述調書の証拠評価を取調べの録音・録画記録媒体の存在・不存在と直結させる必要が生じてきますから,この点は作業分科会で議論されておりましたけれども,刑事訴訟手続の証拠法体系と整合させるのが非常に難しいという問題に直面せざるを得ないということだと思います。   こうしたジレンマ的な状況から抜け出るにはどうするかということでありますけれども,今回の作業は刑事訴訟法の根幹に変更を加えることなく,取調べの録音・録画義務を導入するということであろうと思いますので,例えば,取調べの録音・録画制度が捜査段階における検察官等の行為の在り方と,公判における証拠調べの在り方とが直結する制度であるという,ある意味特異な制度となるということを直視いたしまして,取調べの録音・録画がある場合と取調べの録音・録画がない場合のそれぞれに応じた証拠調べ手続規定によって,取調べの録音・録画を義務付ける法律効果が生じる構造にするなどを工夫いたしまして,現行刑事訴訟法体系の中で制度導入の目的を実質的に実現できる法律構造を模索すべきだと思います。つまり発想を逆転して,取調べ段階における捜査官,検察官等の行為義務を直截的にするのではなくて,証拠調べの段階における規制,これを明確に定めることによって取調べにおける行為を実質上規制していくという,そういう構造にしなければ,なかなかこのこう着状態を抜け出ることはできないだろうと思う次第です。その意味で,今崎委員が引用された私の発言は間違っていないと申し上げた次第であります。   ただ,こういう仕組みにしていくということにいたしますと,事は極めて技術的な事柄を含む訴訟遂行の仕方の問題となってまいりますので,これからはどうぞこの訴訟遂行に直接関わる英明な方々と,それから,刑事訴訟法学の専門家各位の知恵と御尽力に期待して取りまとめの方向を進めていただくよう部会長の御采配を切に願うものでございます。何としても,但木委員が言われたように実現しなければなりませんが,飽くまでも法律をどう仕組むかということですので,是非体系として実現するという発想に立った構想をしていくべきではないかと思う次第でございます。 ○宮﨑委員 佐藤委員の哲学的なお話の後で,私は現実的なお話になってしまうかもしれませんが意見を申し上げたいと思います。時間もありませんので,簡単にいたします。   私は,今日,神津委員,周防委員,松木委員,村木委員,安岡委員の意見書に接しまして,非常にこれは画期的なことだなと思いました。中でも企業法務をやっておられる松木委員,労働関係をやっておられる神津委員,この企業関係業務に従事されているお二人も現在の取調べ当局の捜査に非常に懸念を持っている。取調べを可視化したい,透明化してほしいと,こういう意見は重く受け止めなければならない,と思っています。私は前何回かの議論にとても違和感を覚えておりました。取りまとめ,あるいは諮問の事項は,過度に取調べ,あるいは供述調書に偏した刑事司法を改革すると,こういうことでありましたのに,ここに来ますと,取調べの可視化は裁判員裁判に限り範囲を広げることは必要かどうかという形で議論されておりますし,一方,通信傍受と言いますと,取調べの可視化で捜査能力が落ちるからそれの代替として導入するというそもそもの経緯が忘れ去られて,捜査の必要性がある,これも便利,あれもいい,こういう形でどんどん適用罪名が増えていく,はっきり言えば,取調べの可視化とは関係なく,捜査に便利だからという観点から通信傍受が取り入れられていく,こういう議論がされていくことについてとても違和感を抱いております。   私は,取調べの可視化の範囲については,やはり拡大する方向で,今後,議論をしていくべきだと思います。また,通信傍受については,便利だからということではなく,本当に必要のある範囲に限定すべきだと,このように考えております。具体的にどう実践するかということについては,村木委員などがまとめられた検察捜査を中心に可視化の範囲を広げていくというのが実践的ではないかと思っています。難しいということですが,検察官は法律家ではありますし,また,我々は検察の在り方検討会議で議論してきた中で,検察の理念の研修とか監察という形で,検察官は司法警察員に比べて随分と訓練もしているはずだと思われます。   したがって,一番現実的な方法ではないかと考えているところでありますし,また,検察全件という負担が重ければ,私も件数,あるいはその他で絞る工夫をすればよいのではないかと思っています。法廷の立証という視点から佐藤委員がおっしゃった捉え方もありましょうけれども,我々としては捜査全体を透明化する,こういうことにも非常に意味があると,このように考えておりますので,やはり全過程録画ということを基本的に広めていく方向で考えるべきだと考えています。従って,これからの何回かの会議については,取調べの可視化,透明化の範囲をどうすれば広げられるかと,こういう点から議論をしてほしいと思っております。 ○井上委員 時間がないので簡潔に申し上げますと,5名の方が出された案は建設的で実際的なアプローチをしておられ,敬意を表したいと思います。ただ,第23回会議でも申し上げましたように,取調べの録音・録画制度の対象事件をどう設定するかについては,数がどうだとか,あるいは実行するのに抵抗が比較的少ないだろうとかいった考慮も,もちろん必要かもしれませんけれども,そういうことだけで決めるのは基本法の在り方として不適切だろうと思われます。仮に,何人かの方がいわれるように最初の一歩だとしても,それ自体として理論的正当性ないし筋道が通ったものでなければならないと思われます。   5名の方から出された案の基本にある思いはわかるのですが,それを形にした具体的な案について,いま申したような理論的正当性が十分説明されたかといいますと,少なくとも私には,そう思えず,納得できるには至りません。   この案でいきますと,検察官の供述調書と警察官の供述調書で取扱いを大きく異にすることになるわけですが,同時に,録音・録画義務の違反の効果については,証拠能力の制限,あるいは立証方法の制限というものを提案されています。この両方の点が理屈として筋道の通った説明がつくかというと,かなり難しいように思います。おそらく,録音・録画義務の点で提案のような差をつけながら,後者の点で整合性を確保するには,違反の効果としては,任意性または違法収集証拠についての一般法則に委ねるという形にならざるを得ないのではないかと思います。本日伺った限りの印象ですが,そのような感じを持ちます。   ですから,この対象犯罪の具体的な設定の仕方については,但木委員も先ほど確認されましたが,この案を絶対死守するということではなく,建設的な議論のための第一歩とする御提案というふうに受け止めさせていただき,なお建設的な方向で議論ができればと思っております。 ○小野委員 本日付のペーパーについて一言申し上げます。   本日付で「弁護人選任手続の教示」規定改正案というのをお渡しいたしました。これは,逮捕段階の弁護活動を念頭に置いたもので,逮捕段階における国選弁護の実現を目指してはいるわけですけれども,現時点ではそのための実現に向けてのワンステップとして最低限,逮捕段階における捜査官の告知義務をより具体的に定めておくということを目指す規定として考えました。ここでは刑訴法第203条と第204条があるわけですが,最初の第37条の2第1項というのは,いわゆる第2段階の被疑者国選弁護制度の対象事件と,そこのところを削りましたが,この勾留請求の前のところで,ここに弁護士会に弁護人の選任の申し出をすることができる,あるいは当番などの制度があるときにはそれを告げるという刑訴法の第31条の2に定めてある弁護士会に弁護人の選任の申し出をするという中身をこの教示事項の中に入れるという形で自主的な弁護活動の保障ということを入れると,こういう考え方でこのような規定を提案いたしました。これで直ちに逮捕段階の国選弁護ということになるわけではありませんけれども,そのステップとしてこのような規定を入れることを是非検討していただきたいと思います。貴重な時間を申しわけありませんが,説明させていただきました。 ○本田部会長 御指摘の点についても,今後の審議の過程の中で必要に応じて取り上げていきたいと思います。 ○種谷委員 長々話すつもりはありませんけれども,やはり現場を扱う人間として一言だけちょっと申し上げたいのは,取調べの録音・録画制度については,バランス論を是非考えていただきたいという点についてでございます。   任意性の立証の必要性と,それから,真実解明機能に対するデメリットというバランス,その点で,現在提出されている第1案につきましては,やはり暴力団事件ですとか被害者のプライバシー,これは特に性的犯罪の問題ですけれども,これについての配慮がなされてないというふうに思います。アウトプット規制でいいと,出口を抑えればいいという点については,懸念は既にいろいろ申し上げたとおりですし,あと,本人が望む場合は全てという点については,これだと暴力団員は望まなかった場合には組織に対して悪いことを言ったという形になってしまって,暴力団員が全部望むという形になってしまうので,やはり問題があるのではないかと思います。   それから,検察の取調べだけ先にやっていくという点については,やはり基本的には,被疑者の供述調書については,法的に検察官,司法警察職員というのは同等という形になっているわけですから,それを区別した場合に過渡的な段階において法的にどう考えるべきなのかという問題があると思います。そもそも準備が整ったところからどんどんやっていくというのは,ちょっと取調べの本質論からしておかしいのではないかなというふうに思っています。   それから,コストの点については,これまでも我々は,人員ですとか予算のコストだけじゃなくて,最終的な社会的なコストという点についても懸念してお話しさせていただいています。前向きに取りまとめていくことに協力していくということは当然のことであるという前提で申し上げさせていただきました。 ○本田部会長 ありがとうございました。皆様から,大変貴重な御意見を頂きました。   それでは,今後の審議の進め方について,皆様に御提案させていただきたいと思います。第23回会議から本日までの3期日にわたり,制度設計に関する「たたき台」を中心に,各検討事項について議論してまいったわけであります。検討事項によりましては,具体的な制度の在り方とか,また,その採否について,ほぼ異論のない事項もありますし,一定の方向性が見えてきている事項もあると思います。他方で,それぞれの立場から様々な意見が示されまして,いまだ意見の隔たりのある事項があることも事実であります。   ただ,当部会としては,そろそろ議論を収れんさせて,最終的な取りまとめを行っていく時期に差し掛かっているのではないかということについては,恐らく皆さん共通の認識になってきているのではないかと思います。   そこで,制度設計に関する「たたき台」と,これまでの議論を踏まえまして,最終的にどの制度を採用するか,また,どのような形で採用するかについて,事務当局に一つの「試案」を作成させたいと思います。そして,それに基づきまして,当部会において,最終的な取りまとめに向けた議論・修正を行っていくのが非常に建設的・合理的ではないかというふうに考えております。   事務当局にとっては,大変な御苦労だと思いますけれども,一つの「試案」を作成してもらい,それを踏まえた具体的な議論をして,だんだん最終的なものにして,早くまとめいくということにさせていただきたいと思います。   このような形で今後の審議を進めることについて,御了承をいただければと思いますが,よろしいでしょうか。 (一同了承)  ありがとうございました。 ○宮﨑委員 事務当局案ということですが,事務当局はどうしても捜査側の方でいらっしゃいまして,検察の在り方検討会議のときも,やはりまとめでその色が出たことがあります。したがって,事務当局案をまとめる際には,やはり様々な各方面の意見とのすり合わせも十分していただきたいと要望させていただきます。 ○本田部会長 御要望として伺います。もちろん事務当局は,皆さんの御意見を踏まえながら「試案」を作ることと思いますけれども,それ自体が大変な苦労だと思いますので,そのことも御理解いただく必要があると思います。そして,「試案」が作られた後は,それを中心に,議論していきたいというふうに思いますので,よろしくお願いいたします。本日は,より一層素晴らしい御意見等を頂きましたので,今後とも,前向きに検討を進めていきたいと思います。   それでは,時間もまいりましたので,これにて本日の議事を終了いたしたいと思います。   本日の会議におきましても,特に公表に適さない内容はなかったと思いますので,御発言者を明らかにした議事録を公表させていただきたいと思います。   なお,次回につきましては,確定次第,事務当局からお知らせしたいと思いますので,よろしくお願いいたします。   それでは,本日はこれにて閉会いたします。どうも長時間ありがとうございました。   -了-