法制審議会 商法(運送・海商関係)部会 第2回会議 議事録 第1 日 時  平成26年5月28日(水)自 午後1時30分                      至 午後5時35分 第2 場 所  法務省 第1会議室 第3 議 題  商法(運送・海商関係)等の改正について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○山下部会長 それでは,予定した時刻になりましたので,法制審議会商法(運送・海商関係)部会の第2回会議を開会いたします。本日は御多忙の中を御出席いただきまして,ありがとうございます。   本日は,岡田幹事が御欠席ということになっております。   それでは,まず,本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○松井(信)幹事 本日の資料について御確認いただきたいと思います。   事前送付いたしました部会資料2,これを用いる予定でございますけれども,もしお手元にない方がいらっしゃいましたら事務のほうからお渡しいたしますが,よろしいでしょうか。 ○山下部会長 本日は,ただいま御紹介のあった部会資料2について御審議いただく予定であります。   具体的には,休憩前までに第2のうちの「4 運送人の責任」のうちの「(3)高価品の特則」の辺りまで御審議いただき,午後3時20分頃をめどに,適宜休憩を入れることを予定しております。その後,部会資料2の残りの部分について御審議いただきたいと思います。   それでは,まず,少しずつパートを区切って御審議いただきますが,「第1 総論」及び第2の「物品運送についての総則的規律」の「1 物品運送契約」までのところにつきまして御審議いただきたいと思います。   まず,事務当局から御説明をお願いします。 ○端山委員 すみません,その前に1点だけよろしいですか。新日鐵住金の端山でございます。   前回確認すればよかったのですけれども,念のためということで。1年間掛けて中間試案を作られて,パブリックコメントに掛けられる。その後,審議を経て正式な答申という形になるのですけれども,当然ながら我々は経団連の荷主の代表ということで派遣されているのですけれども,このメンバーの中では荷主さんの数が随分少ないので,全体の議論の中でどこまで我々として取り込めるかという議論もあります。ですので,中間試案ができた後,当然ながらパブリックコメントに付されると同時に,我々は,例えば経団連の運輸部会なりなんなりというところに付して,その中でいろいろな,それほど多くないと思いますけれども,仮に意見が出た場合は,それはこちらにフィードバックして,また最終答申に向けて議論をしていただけるということで理解してよろしゅうございますか。 ○松井(信)幹事 パブリックコメントの意義といいますのは,正にそれを国民の皆様にお示しして,多様な意見を吸収するということにございますので,委員のおっしゃったように,そのような手続において,意見を是非出していただきたいと考えております。 ○端山委員 分かりました。どうもすみませんでした。 ○山下部会長 よろしいでしょうか。   それでは,第1と第2の1のところにつきまして,事務当局から御説明をお願いします。 ○髙橋関係官 それでは御説明いたします。   まず,「第1 総論」では,これからの議論の前提といたしまして,商法における運送人の意義と陸上運送,海上運送,航空運送のそれぞれの意義について,定義を設けることを提案しております。   運送人の意義について,「業とする」という文言を維持しておりますが,これは,運送に関する商法の規律には,短期消滅時効のように,運送が反復継続して行われることを前提とする規律も含まれますので,運送営業について定める現行法の規律を維持するのがよいのではないかと考えたことによるものでございます。   また,陸上運送の意義につきましては,海上運送の範囲を画する機能もございますので,平水区域における運送を陸上運送とする現行法の規律を維持することの是非なども含め,御審議いただきたいと思います。   次に,第2では「物品運送についての総則的規律」として,まず初めに,「物品運送契約」のいわゆる冒頭規定を設けることを提案しております。運送契約は請負契約の一種とも解されておりますので,請負契約に関する民法632条をベースに,利用運送の場合にも対応した文言としております。こちらも併せて御審議いただければと思います。 ○山下部会長 ありがとうございます。   それでは,ただいま説明のあった部分につきまして,御自由に御意見を頂ければと思います。 ○雨宮幹事 この御提案では,陸上運送の定義の中に,平水区域における物品又は旅客の運送が含まれておりますけれども,そうすると,物品運送全般の総則規定は,仮に平水区域が海上又は陸上のどちらであっても適用があると理解しておりますけれども,これから審議に掛けられます海上運送特有の規定如何によっては,平水区域における,正に実質上は海上運送と同視できる運送についても,海上運送特有の規定は適用がないということになるのでしょうか。その点,教えていただければと思います。 ○松井(信)幹事 今御指摘のありましたように,海上運送の特則を作る場合には,ここの定義に書いてあるとおり,平水区域を除いた部分の海上についてのものとなろうかと思います。ですので,その辺りも踏まえた上で,陸上運送と海上運送の定義の是非を御議論いただきたいと考えております。 ○山口委員 すみません,山口でございます。   先ほど雨宮委員の御指摘がありました港湾及び平水区域,これは正に海でございまして,正にそこから船が出ておりますから,既に出航しているのに,まだ陸上運送中であるという,形式上はそうなるわけなのですけれども,その形は極めて不自然だと私は前から思っております。日本の場合,湖,川の中に港があるというのは極めて少ないわけですけれども,外国ではハンブルクなどはかなり川の中に外国航路のところがありまして,ハンブルク港では,別に川であろうと海であろうと,陸上運送の規定を考えているわけではございませんので,少なくとも港湾と平水区域は陸上運送から外して海上運送にすべきではないかと私は前から思っております。実に最高裁の判例で,責任制限の関係で,平水区域のみを走る船については,これは船舶でないということで,責任制限は否定した事案がございました。海の上を走っているものはやはり船舶でありますから,それが責任制限の対象にならないというような考え方が出てくる根源はそこにあるわけですから,これを機に,やはり港湾,少なくとも平水区域の部分は陸上運送から外して海上運送にすべきではないかなと思います。 ○雨宮幹事 私も山口委員に全く同感です。平水区域として指定されているものは,例えば瀬戸内海であれば大部分が平水区域ですので,実際上は通常の内航運送と同様に,平水区域だけを航行しているけれども,それでなおかつ海上で物品若しくは旅客を運送しているものがあると理解しています。それはもう外形上は海上を航行している運送と同視できまして,実態上は何ら異ならないと考えています。それを陸上運送に含めることについては,前々から違和感を感じているところです。 ○鈴木委員 実務のほうから申し上げたいと思いますけれども,平水区域で運航している船というのは結構ありまして,実務者からすると,それが陸上運送ですよと言われると大変違和感を感じます。   この商法の規定は,特に運送人という概念で,陸・海・空と分けていないと思われるので,これをあえて運送手段といいますか,陸・海・空に分ける根拠というのは今一つ理解できないところがあります。また,将来的には宇宙とかも入るというお話もあるようなので,特に陸・海・空と分ける意義というのがよく分からないのですが。 ○松井(信)幹事 今回の御提案で陸・海・空と分けた趣旨について,一言申し上げます。   この総論や総則的規律については,確かに陸・海・空について区別する必要性はそれほど大きくはないと思っておりますけれども,次回以降にまた議論をお願いいたします相次運送に関する規定におきましては,例えば陸・陸の相次運送について一定の規律を設けるのか,それとも陸・海について認めるのかという部分も入ってまいります。   また,宇宙に関する運送については,今,旅客の関係では, アメリカのほうで募集をしている状況にあると聞いておりますけれども,これについても,私法のルールだけを率先して作ればよいというわけではなく,恐らくはそのような安全性に関する公法的な規律もセットにならなければならないだろうと思っております。   ですので,そのようなより一般的な規律として,公法的な規律もないまま規律が拡大し過ぎるよりは,まずは適切な実態があり,適切な規律が及んでいる陸・海・空について,規律を設けることが望ましいのではないかと考えているところでございます。 ○藤田幹事 1点,質問させてください。この定義が,特則規定――海上運送に関する特則だとか相次運送に関する特則――の適用との関係で意味を持ってくるだろうということは理解したのですが,そのような特則について,「運送契約」をベースに適用の有無を決めるのか,それとも「運送」をベースに適用を考えることになるのか。特則の適用は今回の話ではなく,次回以降の話なのですが,ここの定義の仕方を前提とすると,運送契約ではなくて,運送――事実行為としての運送――をベースに適用の仕方を考えているようにも読めて,少し気になるところです。   山口委員の最初に言われた質問との関係で,国際海上物品運送の契約をした場合,港を出るところまでは陸上運送で,そこから先が海上運送なのですかという疑問があります。事実としての運送をベースに考えると確かにそうなるのですけれども,契約ベースで考えるなら,引き受けたのは国際的に海上物品運送する契約なのだから,それはもう全体として海上運送契約なのですというふうに考えることになります。細かなことを言うと,あまり実務のない例だと思いますけれども,例えば運送人が約束違反をして,別の運送手段を使ってしまったような場合の処理も,どちらで考えるかによって変わってきます。   この総論の定義の仕方が,今後どういうところに効いてくるかということの御説明との関係で,特則規定について運送ごとに作るのか,運送契約ごとに作るのか,どちらを想定されておられるでしょうか。 ○松井(信)幹事 この部会資料の1番の「運送人」という定義に,「運送の引受けをすること」というふうに,「引受け」という言葉を用いていることや,また,3ページの「物品運送契約」の「冒頭規定を設ける」というところからは,やはり契約というものを前提にして規律を設けていくということが望ましいですし,伝統的にも,契約単位で国際海上物品運送法の適用の有無などが判断されており,外航航路のうち,日本の港から平水区域までのわずかな部分を分断して陸上運送の規律の適用があるとみていたものではないと考えております。 ○山下部会長 とすると,この第1の2,3,4の,陸上運送,海上運送,航空運送という言葉を定義するということの意味というのは,どういうことになるのですか。 ○松井(信)幹事 一つは,海上運送の特則が妥当する範囲というものを明らかにするという意味があろうと思いますし,また,先ほど申し上げた相次運送のところでは,判例に即した規律を設けようといたしますと,必然的に,陸上,海上,航空という概念を作る必要性があると。この点については,次回以降,また御審議いただきたいと思っているところでございます。 ○山下部会長 先ほどから,平水区域の運送については,陸ではなくて海のほうのルールがいいのではないかという御意見が出ています。ほかに,その点に関して御意見はいかがでしょうか。   よろしゅうございますか。 ○松井(信)幹事 おっしゃるような違和感というものは,漠然とは分かるのですけれども,立法しようといたしますと,何らか具体的な不都合なり事情というものが必要となります。そういうものがもしあればお示しいただけますと,事務当局としても有り難いのでございますが。 ○山口委員 先ほど申し上げましたように,責任制限の関係で,平水区域だけを運行する船舶については船舶でないということで,船主責任制限法の責任制限ができないという考え方が存在するわけであります。それは,船であり,橋脚等にぶつかって大きな損害が出るにもかかわらず,その場合に責任制限を許さないという結論になるわけですけれども,それが我々にとっては非常に違和感が強いわけであります。港湾であろうと平水区域であろうと,やはり船で運送しているわけです。   しかも,先ほど雨宮委員が指摘していましたように,瀬戸内海などはかなり平水区域が多いわけですね。瀬戸内海の運航を行っている,僕らから考えますと海上運送を行っている船が,実は平水区域だけしか動いていないので,これが陸上運送だというのは極めて一般常識からも外れますし,法規制上からいってもかなり違和感があると。   平水区域を少し出れば海上運送になるわけですけれども,その線というのは,正に平水区域の定義規定を御覧になったら分かりますように,経度・緯度をずっと点で結んでいますから,そんなものをいちいち意識して誰も運行なんかしていません。やはり海で走っているものは海上運送,陸を走っているものを陸上運送とするほうがすっきりいたしますし,しかも,瀬戸内海を走っている船について海上運送の適用を排除するというのは,また違和感があって,それこそ車による運送と同じだという考え方というのは,法の適用としては,一般の方にも非常に理解がしにくいということと,我々,法律を扱う者としても,平水区域を一歩出れば海上で,そうでなければ陸上運送だという考え方そのものが,かなり無理があるだろうと思っております。   それから,先ほど申し上げた責任制限の適用の問題で,平水区域だけを走っているものについては責任制限はできないというような考え方というのは,やはり条約上からいうと,もうおかしいのではないかと思います。以上の3点から,平水区域を運航するものは海上運送であって,海上運送の特則があるのであれば,それを適用すべきであると思います。   特に堪航能力担保義務の問題だろうと思いますけれども,やはり船ですから,堪航能力担保義務の適用があると考えてよいのではないかなと思っております。 ○箱井幹事 今の御意見との関連で幾つかなんですけれども,やはり海上に一歩出た時に海上運送になるというような理解はこれまで全然ないわけでございまして,それが先ほど藤田幹事のおっしゃったような読み方で,今般の改正でそうなってくるとしたら,これは大きな問題なので,ワーディングの問題かもしれませんけれども,その点は従来どおり,港域を出た瞬間からが海上運送などとはならないように,これはしっかりとしていただきたいと思います。   それから,今,責任制限の話が出ましたけれども,今やっているのは海上運送の議論でありまして,海上航行に関する規定はまた別でございます。それは,商法の684条とか,船主責任制限法2条の船舶の定義との関係だと思います。 ○野村(修)委員 どちらがいいかということについては,改めて審議の中で決めていくことだと思いますが,伝統的に議論していたのは,海の上といっても,やはり港の外の海のリスクというのでしょうか,危険度と,それから港湾内でありますとか,あるいは平水区域と言われているところの危険度というものが同じなのかどうかという点だったと思います。水の上であるかどうかということで区切るのではなくて,やはり法的な規制の規律の仕方としては,発生するリスクの度合いに応じて,例えば免責の必要性などに違いが生ずるのではないかという,そういう議論が従来なされていたのだと思います。   恐らく皆さん御否定なされないのは,水の上と言っても,例えば湖の遊覧船が水の上を航行していたとしても,海のような荒波の中で生ずるリスクはありませんので,責任制限ということの議論がふさわしくないということだと思います。ですから,そちらに近い領域と考えるのか,それとも,やはり危険度が大きいので,それに伴って発生する責任等に関しての一定のリスクヘッジをさせるという,そういう政策を採るのが望ましいのかということを考えることになるのだと思います。見た感じが,社会から見て,水の上かどうかで,同じだ同じだという議論では恐らくなかったと思いますので,やはり平水区域というものが,法律の規律上,高いリスクを前提とした規定を適用することが合理的なのかどうか,個々の規定ごとに丁寧に吟味することが必要なのではないかなとは思います。 ○箱井幹事 今のリスクのお話でも,商法684条の解釈でいわゆる通説が平水区域と絡めて陸上運送の範囲と同じように考えているのでごっちゃになりますけれども,今のところ,商法の海上運送人に関する基本的な規定というのは,これは商法の陸上運送に関する規定を準用しているというように,余りそこは問題がないというところも大きいかと思います。むしろこれからは,この部会で海上運送に関する特則というものをいろいろと整備していく,例えば責任制限を考えるとか,そういったことになってきた場合には,これは大きな問題になってくるのではないのかなと考えます。そことの兼ね合いで,雨宮幹事の御懸念も恐らくそういうところで,海上運送特有の規律が今後どうなるかによって,平水区域のみを航行する船舶であっても,特に瀬戸内海のような場合に,同種の規律に服させるべきだということが出てくるのではないか,そういうことは私もあり得ると思っております。 ○鈴木委員 すみません,先ほど陸・海・空などの公法の概念もあるというようなことをおっしゃられたので,もしこのまま陸上運送に川とか港湾とか平水区域を入れると,そこを走る船というのは陸運局さんでナンバープレートを取らなければいけなくなるのかなというようなことになりかねないと思いますので,余り現実的ではないなと思います。   それで,御提案なのですが,「水上運送」という言葉ではどうかなと。港湾と平水区域をもちろん含めて,川も,「水上運送」という言葉で分けられたらいかがかなと思います。 ○藤田幹事 議論を長引かせたくないのですが,今後内容が検討される海上運送の特則の内容次第で平水区域への適用の適否が決まることになりそうなので,そちらが決まってから海上運送の定義を考えるというしかなく,取りあえず現段階はそれ以上の結論を出せないのだと思います。   ただ,はっきりしておきたいのは,まず,法律上の定義を考える際には,常識的な違和感だけで議論してはいけない。それは当たり前のことなのですけれども,同時に,本当にこの定義が意味を持ってくる規律が何なのかということも明確に認識する必要があると思います。例えば船主責任制限法については,ここで運送契約の定義を変えることで適用範囲が変わるのかという点をまず確認する必要があって,それが独立なものであったら,やるべきことは,ここで海上運送の定義を変えることではなくて,その連関がないことをはっきりさせるということなのだと思います。   野村委員は,太平洋の運送と瀬戸内海ではリスクが違うというのはおっしゃられて,確かにそういう面はあるのは確かですけれども,そのリスクに応じて特則としての規律の内容が変わるべきであれば,正にそういう整理でいいのですけれども,例えば堪航能力担保義務についてそういうことが言えるかどうかは直ちには分かりません。取り分け旅客船にも堪航能力担保義務が適用されるのだとすれば,東京湾クルーズと外洋クルーズで本質的に違う規定でないといけないかどうかよく分かりません。ですから,やはり商法に特則として置かれる規定の内容が何かということ,特別法に置かれている規定がここの運送契約の概念にどれだけ連動しているかということ,それらを確認した上で,初めて海上運送に港湾を含めるべきかどうかが決まるので,取りあえずそれ以上のことはここではペンディングにしておくのが,今日できることの限界だと思います。 ○山下部会長 ただいままで御議論いただいた点は,今の藤田幹事のまとめのようなことかと思います。 ○道垣内委員 藤田さんのおっしゃるとおりだと思うのですが,そうなったときに,藤田さんの最初の質問なのですけれども,つまり,契約によって,これは陸上運送契約である,海上運送契約であるというふうに決まるのか,今何をしているかによって,陸上で運送しているよね,海上で運送しているよねというふうに決まるのかという質問に対して,松井さんは契約によって決まるというふうにお答えになったと思うのですが,それは多分,特則の性質ごとに異なるのだと思うのですね。いや,結論としては異ならないかもしれませんが,そうなりますと,その辺りもオープンにした上で,当該特則というものが何に着目して特則を置いているのかということを,まず虚心に整理をすることが必要なのではないかと思います。 ○山下部会長 ありがとうございます。いろいろ検討すべき点について御意見を頂きましたので,今後は審議の動向を見ながら,事務当局に検討してもらいたいと思います。   第1,第2,1のところ,ほかの点で何か御意見ございましょうか。   よろしいでしょうか。   それでは,この部分は以上のとおりといたしまして,次に,第2の「2 荷送人の義務」,「3 運送賃及び留置権」,この部分につきまして,また御自由に御意見を頂ければと思います。   まず,事務当局から御説明をお願いします。 ○髙橋関係官 それでは御説明いたします。   まず,「荷送人の義務」のうち「(1)運送品引渡義務等」については,アで,荷送人が運送人に運送品を引き渡す義務を負うことを明示しております。「運送に適する状態で」としておりますのは,荷送人が荷造りの義務を負う場合のほか,事案によっては,ばら積み貨物のように,荷造りを観念することができない場合もあると考えられることによるものでございます。   次に,イでは,運送状に関する規律に代えて,運送人の請求の有無にかかわらず,荷送人が一定事項について通知義務を負うこととしております。通知事項については,実質的な変更はございませんが,荷造りの種類を法律上の通知事項とすべきかについても御審議いただければと思います。   また,イの(イ)では,運送人の請求がある場合について,運送状と同様の書面の交付義務を規定しております。この場合に,署名を要求するかどうかが問題となりますが,この書面は証拠書面にすぎず,常に署名や電子署名がなければならないとするのも厳しいと思われますので,署名を要求しない案を示しております。   続きまして,(2)の「危険物に関する通知義務」では,危険物に関する荷送人の通知義務について,英米の判例法理なども参考にしつつ,通知事項を①と②に分け,危険物の品名については,運送人の主観的事情にかかわらず,通知をしなければならないこととしております。   他方で,危険物の品名さえ通知すれば,通常はその危険性の内容や取扱方法を知り得るという場合も考えられますが,このような場合にまで通知義務を課す必要はないともいえますので,この場合には,荷送人は通知義務を負わないこととしております。   この通知義務に違反した場合の効果については,6ページに複数の考え方を示しております。甲案により,荷送人に無過失責任を負わせる場合には,運送人は荷送人に請求し,荷送人が真の荷主に求償していくことになりますが,利用運送人の保護などの観点から,乙案などによる場合には,荷送人が善意無過失の場合には免責されることとなりますので,運送人としては,発火などの原因を作った真の荷主に対して,直接不法行為責任を追及する必要があることとなります。社会全体にとっていずれの考え方がより適切であるか,御審議いただきたいと思います。   次に,3の「運送賃及び留置権」につきましては,まず(1)では,運送賃請求権について規定を設けた上で,運送品の引渡しと同時履行の関係に立つという請負契約の原則を示しております。   また,(2)は運送人の留置権の被担保債権について,取引の実態を踏まえ,付随の費用を追加して前貸しを削るという提案をしております。 ○山下部会長 ありがとうございます。   それでは,この部分につきまして,御自由に御意見を頂ければと思います。 ○加藤委員 日本通運の加藤です。   すみません,先ほど,第2の1のところでもちょっと言い忘れたのですけれども,物品運送契約の定義のところですね。物品運送契約については「運送人が荷送人から」ということで,基本的に原理原則はこれでよろしいと思うのですけれども,実務としての運送の態様としては,まず,これに合致しない例として一つ,着払というのがございます。要は,荷受人が運送賃を支払う場合です。それから,最近の商取引においては,例えば問屋さんが,あるベンダーさんから集荷をしてこいということを運送人に命じ,運賃はベンダーが払うと。ただ,納付先は,例えばスーパーマーケットであるとか,大型小売店であるとかいうようなケースもございますし,あるいは,産地直送便というのは,例えばデパートさんで皆様方が購入されますと,荷送人は産直業者で,運賃の支払人はデパート,荷受人はお客様というようなケースも考えられますので,この辺について一つ御考察を頂く必要があるかなと思いますので,ちょっと意見を述べておきます。   それから,2の「荷送人の義務」の関係ですけれども,原理原則としましては,運送に適する状態で運送品を引き渡すということについては賛成ですけれども,実態として,典型的なのは引っ越しに関しましては,基本的には,荷送人は荷造りをせずに運送人に荷造りを委託する例が大半であるという実態があるということ。それから,先ほど,運送状に関する規律の③のところで,荷造りの種類という話がございましたが,これもやはり,例えば引っ越しの場合,お客様自身が荷造りする場合もございますし,荷姿が非常に特定が難しいケースがございます。それから,例えばミルクランという形態がございます。共同配送というケースがございまして,いろいろなお客様の荷物をある特定の1か所,例えば食品業界であれば,A社の商品とB社の商品とC社の商品をある一つのお客様のところに配達するというケースも想定されますけれども,そういった場合に,A社の荷姿とB社の荷姿とC社の荷姿が違う場合,いわゆる荷物の特定が難しいというケースも考えられますので,ここについては,是非荷造りの種類について残置させていただくよう,お願いしたいと思います。 ○柄委員 商工会議所から来ました柄と申します。   実務的なことで申しますと,運送に適する状態での引渡しを荷送人の義務とすることについては,従来は例えば運送人とか保険会社がそのまま保証していたというケースの中で,この定めをすることによって,運送に適する状態ではなかったという抗弁をして,いろいろな紛争を増加させる懸念があるのかなと思います。ですから,そのような紛争が増えるということを避けるためにも,是非とも運送に適する状況の定義を明確にしていただきたいなと思います。そうしませんと,紛争が増えるばかりとなりまして,トラブルが増えてしまうのではないかと思います。   それから,運送に適する状態,これを一方的に荷送人の義務だけにするのではなくて,運送人との間で確認するとか,そういうような手立てが必要になってくるのかなと思います。一方的に荷送人の義務だけにしますと,先ほど言ったような抗弁ばかりとなって,トラブルが増えてしまうということを懸念しております。 ○箱井幹事 運送に適する状態のアとイで一つずつ意見を述べさせていただきたいのですが,まず,運送に適する状態で引き渡すことを義務化するということになりますと,今の委員からお話がありましたような懸念がやはり出てくるのではないかと私も考えております。運送人の過失については,577条で,これは推定されているわけですけれども,適する状態であったかどうかというところの問題が,義務となった条文との関係で,過失の推定とどういう関係になるのかというのがやや気になるということと,さらには,前提としてデフォルトルールをどういう形にするかということについては御意見があると思うのですが,私の場合,通則的規定を考えるとなると,やはり最大公約数でとっていくというのが基本的な出発点ではないかなと考えます。そうすると,アとかイについても,やはり違和感が出てまいります。やはり,運送に適している状態かどうかというのは,海上運送などの場合にはこれでよいと思うのですけれども,陸上運送では,先ほど引っ越しについてのお話がありましたように,基本的には運送人は運送品そのものについての専門知識はないとしても,少なくとも,こういうものを運送してほしいと言われたときに,どのような梱包をすべきかということは,基本的には運送人が知っていることです。特に陸上運送で非事業者が発送するような場合などは,これは運送人に判断してもらうしかないということ。今の標準自動車運送約款,一般貨物自動車の標準約款でも,これは適切に梱包して出しなさいとは言っていますけれども,やはり当店が判断して,不十分だったら,そこは直してもらいますよというような形になっております。要するに通則的な規定としてこれを置くというのは,今の2点からも,もう少し慎重に考えたらよいかなと思っております。   恐縮ですが,イについて一言言わせていただきます。これも「運送人の請求の有無にかかわらず」というところが大変気になっております。やはり当該契約運送においていかなる情報を必要とするのかというのは,これは運送人サイドで決めることだと基本的に思っております。これも海上運送の場合にはこれでもよいと思うのですけれども,やはり非事業者が運送を委託するような場合,このフォームに記入してくださいというように,今の実務も,標準約款もそういう形になっていると思うのですが,ですから,恐らく何も言われないまま申告しなかったということは問題にはならないと思います。このところで,なぜ「運送人の請求により」としてはまずいのかというところが,ちょっと理解できないところでございます。 ○田中幹事 私も同じ部分でございますけれども,まず,5ページのアの部分であります。運送品が危険物である場合に,その引渡し前に荷送人について運送人に対する通知義務を新たに設けるという,この点につきましては,正に輸送する立場からしますと,これは積極的に賛成をしたいと思います。   その第1の理由ですけれども,これは正しく現場の労働,運送をする立場でいいますと,どういった危険物なのか,どういう危険性があるのか,また,仮にその危険性が高くないとしても,そのことが確実に分かった上で運送するということが非常に重要であります。要するに荷物の内容とかその危険の度合いが,輸送する際に運送人も十分それが分かり得る状況というのは非常に好ましい。むしろ,それが分からなければ,いろいろな問題が派生をすると思いますし,また,危険物のカテゴリーも恐らく昔よりはいろいろなものが増えてきて,いろいろな物質も増えてきておりますので,そういった点も十分考慮をお願いしたいと思います。   それから,その下段のイですけれども,イについては,これは賠償責任ということですから,ページをめくって6ページに,甲案,乙案,丙案ということで三つ出ております。私の意見としては,望ましいのは甲案ということなのですが,ただ,様々なお立場の方がいろいろ御意見を出されているように,現実的にはどういった手法が最も輸送現場での安全性を担保し,また,輸送に従事する人たちもそういう懸念を持たずに運送に集中し,業務に専念できるという状況を,是非,規定の中に織り込んでいただきたいというのが私の意見です。 ○松井委員 松井でございます。   今,田中幹事が言われた同じところなのですが,この(2)のアの(イ)のところで「運送人がこれを知り又は知ることができるときは」「通知義務を負わない」ということを御検討されているということなのですけれども,運送人がこれを知り又は知ることができるときに請求できないという責任の範囲としては,いろいろな立場はあると思います。しかし,少なくとも通知義務というレベルにおいては,今,田中幹事が言われたように,運送人の方に通知すべきだと思います。社会経済的にも,危険物による事故を減らすというのが一番大事なポイントだと思いますので,そういう意味では明示的に,この形式での通知というのは必要だろうと考えています。もちろん,B to Bの場合には包括的に行うなど,一つ一つ個別的にやらなければいかんということはないと思います。それはまた運用で何とかなると思うのですけれども,通知義務自体は必要であると考えます。   もう一つの話としては,先ほどの荷主と利用運送人,利用運送人と実運送人の,それぞれの関係は運送契約ですけれども,荷主と実運送人の関係は民法の不法行為により判断されます。そこで,荷主が今の通知義務を負っているということになれば,一般の民法の不法行為の場合であっても過失を問いやすいと考えます。本来であれば,先ほど田中幹事が言われたように,一つの理屈だけを突き抜けていけば甲案になると考えます。甲案を支持しているという意味では全くないのですが,事故の原因になった人に責任の追及がしやすい関係という意味においては,その根拠としても,通知義務があって良いと考えております。 ○道垣内委員 発言すべき時期をうまく選択できていないかもしれませんが,(2)について一言だけ申し上げますと,通知義務を負わないというふうにすることと,通知をしなくても責任を負わないというのは,微妙に何か違うような気がするのですね。   つまり,例えば私が運送人であるとき,運送物は危ないものであると言われたならば,注意をしなければならないので,たくさんの運送費をもらえなければとてもできないと思います。しかし,通知がないものですから,そうではないと思って安い運送費で引き受けた。しかし,危険物であることを私が知るに至ったので最大限の注意をして,事故は結局起こらかなった。こういう場合には,私,つまり運送人は損なのではないかと思うのです。確かに,自分が知っているときには,きちんと通知が来ていなくても,気を付けなさいねということを運送人に課することはできても,そのときに通知義務違反があったという債務不履行を観念しないと,本来ならば高かったはずの運送費を請求することができないのではないか。つまり,自分が注意を払ったことによって掛かった費用というのが運送人の負担になるのではないかという気がします。   したがって,通知義務を否定してしまうのではなくて,知っていた場合には例えばイは適用されないとか,そういうことは分かるのですけれども,通知義務を否定するのとはちょっと違った,そして妥当でない効果が出てくるかなという気がいたします。 ○松井(信)幹事 今,松井委員と道垣内委員,お二方同様の御指摘を頂いたと思いますが,原案を作成した趣旨だけ一言申し上げたいと思います。   商法の規定が裁判規範なのか行為規範なのかというところにも影響すると思いますが,両委員のおっしゃったのは,むしろ商法を行為規範的に見て,通知すべきものは広く通知義務を負わせておいた上で,損害賠償ルールのほうで調整したらよろしかろうという御指摘だろうと思います。   原案の作成者である事務当局といたしましては,そのように行為規範的なルールを作ると,その通知義務,部会資料のア(イ)の通知義務に違反した場合に,損害賠償責任という効果を伴わない義務違反というものになるのではないかと。そこが商法のルールとして適切なのかどうかということで,論理的に裁判規範として純化したものをお出ししたところではございますが,やはり法律の見え方というものはいろいろあろうかとも思いますので,両委員の御指摘も踏まえて,今後検討してまいりたいと思っております。 ○道垣内委員 私としては,裁判規範として突き詰めた場合にこうなるのではないかという発言です。 ○松井委員 私は両方なのですけれども,行為規範の部分が,先ほど申し上げた,全ての場合に通知義務はあるべきだと考える点です。他方,不法行為の関係でいうと,裁判規範という趣旨でございます。   ただ,今,松井さんが言われた行為規範という意味においては,例えば今回の3ページのところの運送状の記載というのもありますけれども,義務に違反したら何か具体的な法的効果が出てくるのかと言われると,よく分からない規定というのは運送・海商の中に幾つもありますので,そういった意味では,通知するという出来事というか,その内容を知らしめるという部分においては,行為規範であっても構わないと考えております。 ○石原委員 2点ほどあります。一つは,先ほどから議論に出ております,例えば梱包などに関して,運送人がというお話がありましたが,私はやはり,運送人ということの定義との絡みが出てくると思います。運送人として梱包の業務を受けているのか,それとも,その前の段階の貨物運送取扱人,すなわちフレイト・フォワーダーとして貨物を受けているのかということによって,これは変わってくるのだと思います。したがって,梱包その他は,私は運送人として受けているのではなくて,これは貨物運送取扱人として,運送のための準備の段階で受けているのであって,逆に運送とこれらはミックスしてはいけないのではないかということを,まず1点。実務から見ると,そのような気がいたします。   それから,今一つは,この荷物を渡せる状態にして通知するということなのですが,最近,貨物の多くは,定期船航路の場合,コンテナなわけです。すると,コンテナでも,これ,国交省さんも非常に気にしていますのは,コンテナの中の積付けの仕方によって高速道路などでコンテナがひっくり返っているわけです。それがために高速道路その他でもって死亡事故その他も発生してきているということを考えますと,やはりこれは積付状態も分かるような形での通知義務。例えば,これは実務的にいえば,コンテナロードプランによってされるわけですが,そういったことを逆に運送人にもこれは教えてやることによって本船内での積付け場所や運送方法も変わってくるということです。したがって,私は「積付け」という言葉も一言入れていいのではないかなという気がいたします。 ○入来院委員    もう既にいろいろな方から御意見は出ていますが,危険物に関する通知義務の話ですが,「運送人がこれを知り又は知ることができるとき」というのは,大体誰が判断するのだというのもあると思うのですけれども。基本的に,特に外航は,コンテナについて申しますと,極めて短期間の間に大量に荷物が入ってきますから,荷主さんからの情報のきちんとしたものがない限り,きちんとした積付けはできないということですね。それを,例えばある品名があって,特に品名といっても商品名であったりすることもあるわけで,我々としてはきちんとした情報がまずないと積付けはできないということを御理解いただきたい。したがって,先ほどのお話ですと,行為規範かどうかという意味では,行為規範として,まずは荷主さんにきちんとした情報を与えることを義務付けていただきたいと思っております。   それから,損害賠償の問題,次に出てきますけれども,これにつきましてもこれから御議論いただくのだと思いますが,特に外航の場合は不特定多数の大量の荷主さんを相手にしておりますので,仮にそこが無過失責任でなくて過失責任だとしますと,それを我々がどう証明するのかという問題が特にありますし,逆に,では荷主さんではなくて,製造者が別にいて,製造者に対して求償するということになりますと,基本的には直接コンタクトがない方が多いですから,そこに対して求償というのは,運送人にとっては非常に酷なことであるということを御理解いただきたいと思います。 ○石井委員 危険物の責任について,若干申し上げたいと思います。   輸送中の危険物の事故というのはコンテナ船等で多発していますので,このように荷送人の責任を強化するというのは非常に重要なことだろうと思います。人的損害まで広げると分かりにくくなると思いますが,物的損害についていえば,輸送中の危険物の事故によって損害を被るのは,一つは輸送用具,例えば船舶とか,陸上であればトラックですが,同時に,積合せの貨物が大きな損害を被ることがあります。客観的に見て,危険物の荷送人の運送人に対する責任だけがこのように加重されるということになると,積合せの他の荷主から見ると,危険物の荷送人に対してその損害を賠償請求するときに,こちらは厳格責任ではなくて不法行為に基づき,故意・過失を立証しなければなりませんので,不公平感が出るのではないかと思います。   今,入来院委員のほうから,運送人のほうも危険物の事故についての立証というのはなかなか難しいというお話がありましたけれども,積合せの荷主のほうから見ると,運送人以上に,事故の発生の原因だとか,あるいは危険物の荷送人の特定すら難しいということがあります。   それと,国際海上物品運送を考えますと,運送人の荷主に対する貨物の損害賠償責任については,国際海上物品運送法上の責任制限とか,あるいはもっと広く,船主責任制限法による制限というのが適用されるわけですけれども,この逆の立場,ここでいう危険物の荷送人の責任には,今の案ですと責任制限額がありません。無過失責任というようなことを考えると,そこは運送人と荷送人との権利義務関係のバランスを欠くのではないかなと思います。   この資料の中に,保険による対応の可能性についても検討ということがありますので,ここについて述べさせていただきたいと思います。一般的にいいまして,危険物の荷送人が通知義務を怠り運送人あるいは第三者に損害を与えた場合,保険としては第三者賠償責任保険という受け皿があります。しかし,これは余り一般的には付保されてはいません。大企業などは,企業活動の賠償責任を包括的にカバーする方式としてアンブレラ保険というものもありますけれども,これもごく限られた保険であります。   今回のように通知義務を怠った場合の危険物輸送について,賠償責任保険の引受け,付保の可能性はどうかですけれども,そもそもそのような保険を引き受ける場合には,適切な輸送がなされるということが前提になるわけで,補償の対象も,一般的には契約上というよりは第三者に対する賠償責任を担保するというのが通常であります。また,かかるリスクは,危険性のリスク評価が非常に難しくて,今申し上げましたように,責任制限がないなど,巨額な賠償責任を負う場合もあるということ等々からすると,保険面で見ると保険制度の安定的な運営にはなじみにくいのかなと思います。   さらに,前提として,多分運賃の関係で,危険物の申告をしないで送るという荷主も多いと思うのですが,そのような荷送人が任意で保険料を支払ってそのような賠償責任保険に加入するというのは,余り実際的ではないのかなと思います。   ちなみに,責任の対象範囲は異なるのですが,危険物の海上輸送に関する船主の無過失責任を定めたHNS条約があります。これでは船主の責任には責任限度額が設けられていまして,強制保険の付保義務があり,荷主の拠出による国際基金からの補塡との対応になっています。 ○遠藤委員 まず,危険物に関する通知義務に関して,アの②のところ,「当該危険物の性質その他当該危険物の安全な運送に必要な情報」との記載があり,石原委員のほうから今,積付けというようなお話もあったのですが,ここは元々危険物ということなので,運送方法によって危険が生じるというようなところを含めますと,荷主の責任が無限定に広がっていくことから,,公法上,危規則など行政取締法規で規定しているところの法令上の危険物に限定していただきたいと思います。   それと,申告義務違反の効果ですけれども,やはり甲案の無過失責任というのは,荷主にとっては非常に酷なものであるというふうに考えます。理由は2,3あるのですが,今,石井委員のほうから私がお話ししようとしたところの点についてお触れになったので,重複は避けますけれども,基本的に,やはり荷送人にとっては,無過失責任は,伝統的な過失責任主義からの大きな変更であります。現状,荷主に対して責任制限制度がないところで,もし万が一事故があって,それを負担しなければならない,無過失責任で負担しなければならないということになると,企業によっては経営破綻を起こすというようなこともございます。ですから,例えば無過失責任にするということであれば,個別の責任制限だとか,先ほど石井委員がおっしゃったような,もう少し包括的,総体的な船主責任制限法的なものを設けるとかしないと,これは実務としては回らなくなるのではないのかなというふうに考えています。   それともう一つ,運送状の件なのですけれども,運送状に代えてということは,もう運送状はなくすということなのでしょうか。というのは,運送法制研究会の段階では,海上運送状の規定を新たに設けるということでしたが,その理解でよろしいのか。そうすると,航空運送状については何も規定を設けないのか。あと,立付けといいますか,そこら辺りをどう考えられているのか,ちょっと御意見をお聞きしたいと思います。 ○松井(信)幹事 商法570条の運送状につきましては,部会資料の4ページ1行目にあるように,これに相当する書面の交付の請求権というものを認めることを検討しておりますので,これが現在の運送状に相当するものという御理解を頂ければ幸いです。ですので,航空運送状につきましても,この書面に該当するというふうに考えております。 ○山下部会長 よろしいでしょうか。 ○箱井幹事 すみません,運送法の研究者としては,この危険物のところも大変悩ましいところで,先ほど総論的に申し上げたのもここに該当するので,一言だけ発言させていただきます。今までお話を伺っていますと,大方が海上運送,しかもそれは国際運送を前提としたケースで,先ほどのお話に出ましたように,この場合には条約に基づいて危険物の種類なども細かく決まっておりますし,もちろん荷送人の義務として,そういったものが課せられています。やはり,ここで一番気になりますのは,通則的規定だということです。しかも,デフォルトルールの考え方にもよりますが,最大公約数に近いということで考えますと,この場に荷主が少ないとか,あるいは消費者が少ないとかいうこともあって意見も少ないかもしれませんが,危険物というものを,通則的規定でしたら広く考えなければならなくなってくると思います。実質的には,恐らく火が出れば危険物ということになってくるかとも思いますけれども,例えばパソコンのバッテリーであるとか,家庭用のカセットコンロなどというようなものを発送する場合,あるいは,非事業者が品名を書いて申告したのに運送人がそれについて素通ししたというような場合に,やはり同じようなルールが掛かってきて良いのかというところについては,問題意識を持っております。国際海上物品運送特有のルールであれば,全く異論のないところでありますけれども,通則的規定としては,やや慎重に考える必要があるのではないかと思いますので,一言申し上げたいと思いました。 ○藤田幹事 いろいろあるのですけれども,まず,一番最初の物品運送契約の定義です。余り細かなすぎる注文を付けるのもどうかと思うのですが,着払いの場合が読めないのではないかという疑問が提起されたので,慌てて国際条約の定義等を見直してみました。国際条約では,なかなか上手に書いておりまして,大体,「運送賃を対価に物品の運送を引き受けることを運送人が荷送人と約する」といった具合に定義している。誰が運賃を払うかどうかははっきりしないまま,無償契約ではなくて有償契約であることを明らかにした上で,契約の当事者は運送人と荷送人であることを明らかにするような規定の仕方――例えばハンブルク・ルールズの1条6項とか,ロッテルダム・ルールズの1条1項――をしてありますので,こういった国際条約の規定を参考に,あらためてドラフトされることをお勧めします。   次に荷送人の義務ですが,引渡義務についても通知義務についても,まず,規定の性格をよく理解した上で適切な内容を考えるべきだと思います。おそらくは,任意規定として一応多くの契約に妥当しそうなことを書いたという性格だとすれば,例えば運送人に梱包させる場合もあるでしょうけれども,そういう場合もあるからおかしいと批判するのではなくて,それはやはり普通ではなくて,そういうことを定めたのであれば,運送人は,その合意に基づいて梱包の場合に一定の責任を負うことになるのは当然で,一般的にこういう荷送人の義務の規定がおかしいということになるわけではないことは注意すべきだと思います。   次に,効果との関係だと,どういうことを想定されているのかが実は余りはっきりしていないのですが――危険物のほうはわざわざ効果について議論があるのですが――,一応,違反すれば普通の債務不履行責任になり,損害賠償責任が発生するというふうに私は理解しました。もしそれが違うようでしたら後で指摘していただければと思いますが,そういう意味で裁判規範だということになります。   その上で,まず注意してほしいのは,これは,運送人の責任の成否とは無関係なことです。これまでの議論で,この点が若干混線したところがあったかと思うのですけれども,運送人の責任があるかどうかというのは,ここの義務違反があるかどうかとは無関係で,それは運送人の側の帰責事由の有無に依存している。帰責事由の判断の際に,場合によっては,荷送人の義務違反が責めに帰すべき事由がないという方向に働くこともあるでしょうし,関係ないこともあるでしょう。また,成立した責任の範囲が――因果関係の判断だとか,あるいは過失相殺の事由だとかに関連して――考慮されることはあるでしょうけれども,それは,荷送人の義務としてどういう規定を置いておくかということそれ自体とは無関係です。その辺りはきっちり整理した上で,おかしな考慮が混在しないような形で,純化して議論する必要があると思います。   通知義務につきましても,規定の性格を正しく押さえることが重要です。まず,これも任意規定であって,多くの契約について基本的には通知したほうがよさそうなことが挙げられているわけで,例えばコンテナ等につきましては,積付けというが重要な事項であることはよく分かるのですけれども,運送人が要求すれば当然通知しなければいけませんし,通知しなければ契約上の義務違反になるのは当然です。ここでは,荷送人の義務に関する一般的な規定として,ここに置くことが適切なのか,あるいはそうではないのかという角度から,例えば積付け等についても個別的に書くのが適切かどうかということを判断すれば良いことだと思います。コンテナを想定した場合の義務に関する規律について書くことにについて私自身はそれほど違和感がないのですけれども,あるいは書き過ぎなのかもしれない。その辺りは,コンテナを想定した個別的な規範をどのくらい書くかということと合わせて,今後検討していただければと思います。   ただし,それとは別に,通知事項について多少違和感を持っている点があります。現在の提案にある通知事項は,恐らく現行商法の570条の規定――これは運送状の規定なのですけれども――を通知義務の通知対象と読み替えて規定し直したものだと思います。その際,運送状の記載事項としては分かるのだけれども,通知事項として書かれると多少違和感がある事項もあるのではないかという気がします。例えば,荷受人の氏名・名称とか,あるいは到達地――「到達地」という言葉自体が私はよく分からないのですが,引渡しを約した場所,つまり引渡地という意味なら,そう書いたほうがいいと思います――が,挙がっています。   しかし,そもそもこれらは通知事項なのでしょうか。むしろ,こういったことが決まらないと基本的には運送契約が成立しない,契約の要素なのではないかという気もするのですね。運送契約の定義を見ても,こういったことについて合意があることは前提です。もちろん荷受人等は後で変動するようなこともあるような,そういう決め方はあるでしょうけれども,いずれにしても荷受人や引渡しというのは契約の要素なのであって,契約が成立した後にその契約の効力として通知義務が発生する事項とは違うような気もします。これらを運送状の記載事項として要求するというのであれば全く問題ない。運送契約成立とまた別に,書面による通知が要求される事項として列挙するのなら,全く問題ないと思うのですけれども,荷送人の義務という形でこういう規定の仕方をして良いのだろうかということが気になります。これは規定の実質ではなくて,整理の仕方として気になる点です。   さらに,運送証券については現段階でまだ規定を議論していないのですけれども,運送証券が発行されるような場合には,通知事項はまた別途考える必要があります。通知の効果としても担保義務みたいなものが出てきそうなので,ここで議論するのがいいのか,運送証券を議論するときに議論するのか分かりませんが,荷送人の義務を今ここで包括的に議論しているという前提だとすると,後で運送証券をやったときに落ちてしまいますので,そういう問題があることだけ一応ここで触れておきたいと思います。運送証券について,そもそも規定を置くかどうかも分からないのですけれども,ある種の運送証券の規定が置かれるとすれば,それに合わせた通知事項というのが別途問題になり,それについては責任内容も変わってくる可能性があることについて,念のために確認させていただければと思います。   最後に,危険物についてですが,まず通知義務の範囲について,運送人の知・不知は,――たとえ裁判規範として考えるとしても――私も何人かの委員の方の言われた方に共感を覚えます。つまり,裁判規範としても,義務の範囲が変わってくるというよりは,義務違反はあるけれども因果関係などを通じて損害賠償の範囲に結び付くというのが,普通の法律の要件事実の整理なのではないかという気がしますので,そこら辺はちょっと考えたほうが良いように思います。   実質に関わるところでは,適切なリスク配分として何がいいのか,確かに非常に難しいような気はします。一方で考えなければいけないのは,危険物については,運送人は,行政上のある種の作為義務を負ったり,あるいは危険物に起因する損害について責任を負わされたりしており,それらは故意・過失を問わないものであることがしばしばあるということです。そこで荷送人の危険物に関する義務を,義務違反の責任を過失責任にしてしまうと,結局,運送人がその手のリスクを全部最終的に負担するということを意味することになり,それは適切なのかという問題が一方であります。   他方で,これは総則的な規定で,一方当事者が消費者であるような契約にも適用されることを考えると,消費者は,自分の荷物が危険な性格を持っていて,爆発するとも思っていないというようなときに,膨大な運送人の損害について賠償を受けることで良いのかなという疑問はないわけではありません。運送手段によって規律を分けるというのもひょっとしたらあり得るのかもしれません。国際海上物品運送だと,消費者が荷送人になることは余り想定しなくていいかもしれませんし,その場合には恐らく,先ほど最初に言ったような考慮の方が強く働くでしょう。総則として置く場合の考え方と,仮に総則として一般的にある種の責任原則を置くとしても,この種の規定については各則を置く必要がないかということを,改めて各則をやるときに検討していただければと思います。 ○野村(修)委員 今,藤田幹事のほうからお話があって,ほとんど言い尽くされている面もあるのですが,1点,危険物に関しての問題の考え方の整理をさせていただければと思います。   恐らく,運送人の知・不知のところに皆さんがこだわっておられるのは,事例の一つとしては,危険物を運送人が受け取ったにもかかわらず,その通知がなかったという事例でありますが,それを,運送人が実は危険物であることを知りながらも特段の配慮をせずに運送してしまった結果,事故が起こって,どなたかに損害を発生させたとします。人に対する人身損害であるか,あるいは物損であるかは問いませんけれども,いろいろな損害が発生したと。この損害については,第一次的には運送人が賠償責任を負担すると思うのですが,それを荷主に対して,あなたが通知しなかったのが悪いのですよというふうに求償する場面で,運送人が自ら何ら配慮をせずに運送したという事実がありながら,通知がなかったことを理由に求償することが,果たして是か非かという問題があるのだと思います。運送人が危険物だと知りながら,通知がないということを奇貨として,特段の配慮もせずに運送してしまったことの責任はないのか,というのが悩ましい部分だと思います。恐らくこれが一つのシチュエーションだと思います。   この点については,そんな運送人は許してはいけないだろうというような話に傾いてくるわけで,そうだとすれば,知っていた以上,荷主のほうに通知義務違反があったとはいえないようにした方が良いという配慮があり,そのような場合については通知義務はないのだというふうに議論が進んでいきそうな感じがするわけでありますが,他方で,道垣内委員のほうから先ほど出てきていましたのは,あるいは藤田幹事のほうからも少し出ていますけれども,実際のシチュエーションとしては,危険物だと知らされずに運送人が受け取っていますので,知らないで運送を始めていて,それを知っていたら,普通はそこで高い運賃を払ってくれと言って対処するわけですけれども,それができないまま,これは危険物ではないと思いながら運送を始めたところ,後にそれが危険物であるということを知ることになり,そこで一生懸命手当てを自分なりに行った場面の問題だと思います。この場合は,行政上の義務もありますから,対処せざるを得ない面もありますし,損害賠償を払いたくありませんので,当然のことながら多大な費用を掛けてそれに対処するという行為を行い,結果的には無事に運送が完了したといったような場合に,その費用を運送人が負担するのが良いのかどうかという,この問題がもう一つあるわけです。この問題を考えてみますと,道垣内委員がおっしゃられたように,何らかの形で通知義務違反を問うということは必要なのではないかということで,議論がちょっとやや分かれたような感じがします。   解決策としては,やはり藤田幹事がおっしゃられたように,義務違反について認定はするけれども,その後,因果関係や,あるいは過失の問題というところで調整をするという形になるのかなと思います。義務については一律まず課した上で,今言った問題について,いろいろ判断は分かれてくると思いますので,きめ細やかに配慮できるような形にするのが良いと思います。そうすれば,求償相手が,荷主が消費者である場合,あるいはそうではない場合等についても,きめ細やかに配慮できるような感じがしますので,私自身としては,これら全体を一律に議論するとすれば,まず義務自体は一律に課した上で,具体的な事例ごとに調整をするというのが法律論として望ましいのではないかと考えます。そういう意味では,いずれも裁判規範としての議論という形で整理されるのが良いのではないかなと思います。 ○松井(秀)幹事 すみません,2点ほど,手短にお話をしたいと思います。   まず1点目に,運送品の引渡義務に関しまして,先ほど運送状の話が出てまいりましたけれども,今後,海上運送状について検討の可能性があると思います。海上運送状と商法570条の運送状は発行主体が違いますので,先ほど遠藤委員からの御指摘もありましたけれども,混乱を生じさせないという意味で,一方を発行する場合には運送状という表現を残し,他方を発行する場合には残さないというのがよいかと思います。例えば今回であれば,商法570条に規定されていた内容については運送状という表現は使わないで,海上運送状について規定をするときはその表現を使う。このような整理をするという方向に私は賛成で,ここでは運送状という表現を使っておられないのですけれども,それについてはよろしいのではないかと思っております。   2点目は,危険品についてです。ここでは通知義務と損害賠償の話が出ていますが,例えば国際海上物品運送法では,危険品についての処分の規定があります。もし今後危険品に関する検討がなくて,この処分について検討する場所がないというのであれば,この場で,処分に関する規定を置くかどうか,その可能性についても一応考えておいたほうがいいのではないかという感じがしております。 ○山下部会長 では,今の点は事務当局から。 ○松井(信)幹事 今,松井幹事がおっしゃったように,危険物に関し,現行法では,海上運送についての規律として,廃棄することができるというような条文がございまして,その規律を陸上運送などに及ぼすことが適切かどうかという問題提起だと思いますけれども,今回の資料には載せておりません。これについては,海上運送のところで触れるという形で対処させていただきたいと思っております。 ○真貝委員 危険物に関する通知義務の関係で,2点申し上げさせていただきます。   貨物鉄道輸送ということでいいますと,非常に大量の危険物を輸送していると,こういう実態の中で,非常に安全な運行というようなことで,それを最優先にやっているところであります。やはり一旦輸送中にそれが事故になったというようなことになりますと,社会的なダメージといいますか,社会的な責任というような意味でも,あるいは経営上のダメージというようなものでも,計り知れない損害があるというようなことでありまして,そういう観点から,(2)の②のところにある品名以外の安全な運送に必要な情報と,こういったことについての告知義務,通知義務というようなものは負っていただく必要があるというのが1点目です。   それから2点目が,損害賠償の範囲ということですけれども,やはりそういった意味から,荷送人のほうの無過失責任というようなことを負うべきではないかと,こういうふうに考えております。   それで,1点目に付随して,実務的に今どういうことでやっているかをお話させていただきますけれども,危険品については,非常に多様化しているというようなことがございまして,我々のほうもお客様との貨物運送約款の中で,品名だけではなくて,それ以外の安全な運行をしていくために必要な情報というようなことで,危険物の物性であるとか取扱い上の注意点,あるいは適用法令等の情報を網羅いたしました安全データシート,あるいはイエローカードと,こういったものの提出を求めているところであります。したがって,こういった危険物の多様性というようなこと,それから,貨物鉄道のほうで大量に,また,取扱範囲が非常に広い品目の輸送をしているというようなことで,告知義務というものを負っていただきたいと,こういうことであります。   それからあと1点,解説の6ページの下のほうに,「利用運送人が無過失責任を負うことの不利益を考慮すると」というような項目がございます。それで,利用運送人との関係,我々JR貨物は運送人ということになりますし,利用運送事業者というようなところ,トラック事業者になりますけれども,そちらとの運送契約と,こういうことで運んでいるわけでありますけれども,一旦利用運送人の方に責任が発生するというようなことでありますけれども,実際にそういった部分で,そこで責任が発生した場合には,真荷主さん,荷主さんのほうに求償するというようなことが一般的といいますか,実務的にはそういうふうに流れているというようなことでありますので,真荷主さんに責任がある場合には,そういう形でやっているので,必ずしも利用運送人の方に不利益になっているというようなことではないというふうに我々のほうとしては考えているということであります。 ○道垣内委員 私が最初に発言した内容については,野村先生が非常に的確に理解をしてくださって,おまとめいただきました。野村先生がおっしゃってくださったとおりの趣旨でして,裁判規範という意味で発言したと後から述べましたのも,そういうことでございます。   それでは,私が発言したような増加費用の問題ではなくて,実際に危険物が爆発したといった場合を考えてみたときに,甲案,乙案,丙案とありまして,これから申し上げるのは甲案が良いという意味は全然ないのですけれども,乙案,丙案において,不法行為との関係はどのように考えられているのかというのがちょっと分からなかったのですね。   つまり,故意又は過失の対象が申告義務違反とか,あるいは申告義務違反の前提となる危険物であるということに対する故意又は過失なのか,権利侵害に対する故意又は過失なのかというのがよく分かりませんで,もし仮にこちらのほうは申告義務違反ないしは危険物であるということについての話であると考えますと,不法行為を理由とする損害賠償請求権を必ずしも排斥するという形にはならないのではないかという気もするわけです。   さらには,荷送人がかわいそうな場合もあるから,申告義務違反について過失がなかった場合には損害を負わないようにしてあげようというのは良いのですが,そうしてあげようと思っても,例えば同じトラック,同じ船,同じ飛行機に第三者所有物が存在しているということになりますと,当該第三者は当該荷送人に単純に不法行為に基づく損害賠償請求はできるはずでして,その意味でも,不法行為責任が排斥されているわけではないわけですが,第三者との関係でのみ不法行為責任は排斥されていないのか,運送人との間では排斥されているのか,排斥されていないのか。   それで,故意又は過失の対象がこのように微妙に異なるというのは,どういうふうな整理の下にこういう見解が出てくるのかというのが,私が不勉強でよく分かっていないものですから,お教えいただければ大変有り難いのですけれども。 ○松井(信)幹事 事務当局といたしましては,ここの甲案,乙案,丙案というのは,契約上の債務不履行責任を問うというものでございまして,不法行為責任は別途追及できるということを考えておりました。   具体的な過失の中身が何についてなのかというのは,非常に微妙なところもございまして,民法的な観点からはむしろ私より道垣内先生のほうがお詳しいのかもしれませんが,かなり近接してくるということはあり得ると考えてはおります。 ○山下部会長 よろしいでしょうか。 ○山口委員 山口でございます。   やはり危険物の問題でございますが,特に化学物質等についてはMSDSがかなり発達しておりまして,これは徹底的に,かなり徹底されて行われていますので,少なくともMSDSに書かれているような危険物の取扱方法については,非常にスムーズに行われているのではないかと思います。   そういう意味では,ほかにも当然危険物はあるのですけれども,危険物の申告義務を荷主に課すというのは,むしろ知・不知とは関わりなく行われるべきではないかと思います。特に,知っているときはいいかもしれませんが,知り得べかりしというのは特に危険でございまして,もし仮に外すとすれば,確実に知っているときだけを外すというのはあり得るかもしれませんけれども,知り得べかりし,つまり,可能性があるぞという程度で申告義務を外すというのはかなり無理があるのではないかと。要するに,この荷主,例えば化学工場であれば,知り得べかりしといわれれば必ず知り得べかりしであって,化学工場から運んだら,それは当然,荷主は,運送人としては知り得べかりしなので,常に申告義務を負わないというような結論になりかねないわけでありますから,確実に知っているときだけ外すのはあり得ると思うのですけれども,知り得べかりしときに申告義務を外すのは,これは良くないのではないかと。むしろやはり,そうなってくると,知・不知に関わらず,一応申告義務は課しておくということは必要だろうと思います。   それから,それに応ずる責任についてなのですけれども,やはり今までの伝統的な契約違反責任というのは,基本的には過失責任に基づいていますので,これだけ無過失責任にするというのは極めて違和感を感じるわけであります。極端に荷主に負担,不都合といいますか不利益が生じ,先ほど石井委員がおっしゃいましたように,責任制限がないということになりますと,無過失責任で,なおかつ無限定な責任を負うというのは,かなり過酷な責任を負わせることになりますので,ここはやはり基本的な,伝統的な過失責任を前提にすべきだろうというふうに考えます。 ○柄委員 今更ながらの話になってしまうのですけれども,中小企業の立場から言いますと,それでは危険物とは一体何なのか。例えば,海上輸送だったら分かるのですけれども,大半が国内で陸上運送をするときに,危険物というものをどういうように捉えるのかというのによって,この見方が大分変わってくるのではないかなと思います。私どもの社内で,それでは危険物は何かと聞いてみましたら,消防法ですとか劇物とかというのは分かりますけれども,それ以外のものを危険物と称するのかどうか。これはやはり社内でも誰も答えられませんし,まず,それがはっきりしませんと,この責任の範囲ですとか,通告の義務違反ということを検討するのにも,中小の立場からいきますとなかなか理解しにくいのかなというのが現状だと思います。そうしませんと,甲案,乙案,いろいろ出ておりますけれども,それが無過失責任でいいのか,乙案又は丙案でいいのかというのを検討するのも,私たちの立場からしましてもなかなか検討しにくいのかなというのが現状だと思います。 ○端山委員 今の案にも,危険物がどういう定義かというのもあるのですけれども,先ほど山口委員がおっしゃられたことに私も同感でございまして,いわゆる危険物という,その結果が重大であるという意味からすると,運ぶ運送人だけが極めて大きな責任を負うということはいかがなものかという論理は極めて分かるのですけれども,その荷送人というものがどういうものかというと,二つあって,一つは中間の荷送りの利用人。いわゆるメーカーがいて,そこを受けて,またその受けたところが更に実際の運送会社にやると。こういうふうになったときに,メーカーの立場の荷送人と,それを受けた荷送人というのは,大分その危険度若しくはいろいろな認識が違うということでございまして,仮に,どちらがということではないのですけれども,過失責任,山口さんが先ほど言ったように過失責任,いきなり無過失にするのは違和感があるというだけではなくて,仮に過失責任であったとしても,それが荷送人がメーカーであるということであったならば,その危険物については誰よりも一番分かっているわけで,輸送方法についても,これはこういう危険物で,こういう輸送方法をしないとまずい,それを指示したにもかかわらずおかしなことをやったら,それは運んだ人間が悪いということになるということなので,過失責任といっても,過失がなかったことを立証することが多分メーカーサイドは極めて難しいので,結果として,限りなく無過失責任に近いような形になるのではなかろうかと。   もう一つの,受けた荷送人の利用荷送人は,そこまでのいろいろなことを,例えば商社なんかはそうなのですけれども,それを全部分かってやるということはなかなかできないわけで,仮にそういうことでメーカーサイドは言ったよといっても,それが十分でなくて起こったときに,一旦は,荷送人という形でそこに行くのでしょうけれども,やはり荷送人から本当の荷主,メーカーに対してそれなりの求償権があるべきだし,もう一つは,不法行為も先ほどのように排斥しないということであれば,その流れでやって実が取れるのではないかということですし,仮に無過失責任にしてしまうと,本当に制限をどこまで設けるのかと。青天井というわけにいかないときに,保険で代行できるのかと。先ほど石井委員が言われたように,そういうのを,僕もそうですけれども,どういう保険でできるのかというふうに,実務として極めて困ってしまうということもあります。責任の額をどうするのかということについても,これは相当に厳しい状況になるということであれば,その後の過失の程度なりによって最終的な損害責任をどう認定するかということで,運用の世界でそれは認定すべきであって,最初の総則的な場合においては,先ほど山口委員が言われたような形のままでいいのではなかろうかと。   分かりやすく言えば,甲案というよりも,僕は,荷主の普通の立場では丙案が良いに決まっているということになるのでしょうけれども,僕自身としては,丙案というのは損害を受けた人間が立証しないといかんというのは,それは余りにもちょっと違うのであって,ここでいうと,甲案・乙案の乙案のほうであれば,やはり荷受人のほうが過失がなかったということをきちんと説明しないといかんということでしょうから,いきなり甲案・乙案・丙案のどれがいいと言うつもりはないのですけれども,甲案でという流れにはちょっと違和感があるなということでございます。 ○山下部会長 1と2についてはたくさん御意見を頂きましたが,3の運送賃及び留置権のところは何かございませんでしょうか。   今日のところは,この部分はよろしゅうございますか。   それでは,非常にたくさんの貴重な御意見を頂きましたので,なお事務当局のほうで,今日の御意見を踏まえて検討をしていただければと思います。   それでは,先に進みまして,次は「4 運送人の責任」のうち,(1)の「運送人の責任原則」から「(3)高価品の特則」まで,4の(1)から(3)までの部分について御審議を頂きます。   まず,事務当局から御説明をお願いします。 ○髙橋関係官 それでは御説明いたします。   まず,(1)の「運送人の責任原則」につきましては,条約上は厳格な責任を課す例もございますが,ここでは,現行法と同様の過失推定責任を採用することを前提に,請求原因としては,運送品の受取から引渡しまでの間に運送品が滅失等した場合には運送人が責任を負うこととしまして,抗弁として運送人が無過失を立証した場合に限り免責されるという関係を明らかにしております。   次に,(2)の「運送人の責任に係る責任限度額」では,運送人の責任限度額に関する規律を商法に新設することの当否やその内容について,幅広い観点からメリット,デメリットについて御審議いただきたいと考えております。   また,(3)の「高価品の特則」についても,責任限度額に関する規律と関係する部分もございますので,併せて御審議いただければと思います。   10ページの太字ゴシックのア,イで記載しておりますのは,高価品免責の適用がない場合として,現在,解釈でまかなわれている部分について,有力な見解に沿って規律を明確化したものでございます。もっとも,イにつきましては,運送人に重大な過失がある場合を故意と同視するような裁判例もございますので,ブラケットを付しております。 ○山下部会長 それでは,ただいま説明のございました(1)から(3)につきまして,また御自由に御意見を頂ければと思います。 ○雨宮幹事 意見というよりは確認なのですけれども,「運送人の責任原則」のところで,「引渡しがされるべき時までにその引渡しをしないときは」という,延着に関する定義と思われる規定が置かれていますけれども,この「引渡しがされるべき時」というのは,運送人と荷送人間の合意に基づく引渡時期が決められているような場合と,そういうことがなくても,通常合理的に引渡しがなされるべきであろう時期も含めて,両方を含めた形での規定というふうに読めるのですけれども,そういう理解でよろしいのでしょうか。 ○松井(信)幹事 はい,御指摘のとおりでございます。我が国では,文献上一般に,そのように解する見解が多いことから,そのように書いているところでございます。 ○道垣内委員 これは,現行法と同じ文言なので,余りここで言われても困るのかもしれませんが,「注意を怠らなかった」という,この注意はどのようにして定まるのでしょうか。つまり,現行法の条文について言葉を選ばずに言うと,こんないいかげんな文言で,なぜ法律はできているのだろうという感じがするのです。つまり,例えば,運送においてどういう注意をすべきだったのかというのは,運送契約の内容によって定まるわけであって,別に契約と離れた何か善良な管理者の注意というのがあったりするわけではないだろうと思うのですね。そうすると,場合によると,債務不履行がなかったときというだけの話のような気もいたしまして,少なくともここに急に「注意」という言葉が出てくるのがよく分からなくて。「故意又は過失」ならまだ分かるのですね。過失とは義務違反であるみたいな言い方をしますと,その義務内容,債務不履行としての過失の義務内容というのが契約によって定まるというふうに考えますと,まだ分からないではないのですけれども,一般にはどう考えられているのですか。 ○山下部会長 誰か説明できますでしょうか。 ○加藤委員 私どもの理解としては,この注意というのは,要は運送人として社会通念上求められている注意という意味だと思っていまして。   これ,ちょっとその判例かどうか分かりませんけれども,判例にあるのが,トラックの荷台のロックを掛けずに発進して荷物がなくなった場合に,損害賠償請求を認めるというのがあったような記憶をしているのですけれども,そういうレベルでよろしいでしょうか。 ○藤田幹事 もし最判昭和55年3月25日・判例時報967号61頁のことを指しておられるのであれば,あれは過失ではなくて商法581条にいう重過失についての判決です。   国際条約等では,properly and carefullyに船積みその他の作業を行うといった文言が付いていて,物品について丁寧に適切に扱いなさいという義務が規定されています。しかし,それ以上具体的に書けないのでそうなっている。ここでも,注意を尽くすというのはそういう意味なのだろうというふうに理解されていると思いますけれども,これ以上具体的に書くとやはり弊害が出そうですから,これ以上は書けないことでも仕方ないと思います。 ○松井委員 今のお話は,多分,損傷とか滅失のほうではまだ理解できるのですけれども,遅延の場合に立証すべき注意というのは,どういうことを考えていらっしゃるのでしょう。 ○松井(信)幹事 それは,一般にも迅速にすべきところを,通常以上に遅れてしまった場合。実務上どういう場合があるのかは,むしろ皆様に御紹介いただきたいのですが,概念的には考えられるのではないかと思っております。 ○松井委員 例えば荷物を積み過ぎているがために経路が増えてしまって着くのが遅れるとか,そういう想定なのでしょうか,それとも,天候とかそういったものを想定されているのか。どういうことでこの注意の立証が必要ということになるのかというのがちょっと良く分からないので御説明いただきいたいと思います。 ○松井(信)幹事 様々な場合があろうかと思います。概念的には,被用者の怠慢によって非常に遅れたというのが一番単純かなと思います。 ○山口委員 交通渋滞であるとか,それから天候によって遅れるという,これは運送人のほうに過失がない場合であって,運送人のほうに過失がある場合というのは,どこかで積替えが生じたときに,その積替場所において,次の船なり,あるいは自動車に積み込まなければならないときに,それを積み忘れる。これが遅延が一番生じやすいし,なおかつ運送人に過失があるだろうと思われる事案であろうと思われます。そのときは紛失することも多いのですけれども,やはり積替え等が生じたときに遅延が生じるということが多いのではないか。   それから,これは遅延とはちょっと違うのですけれども,誤配をしてしまって,結局,別の所へ行ってしまっていますから,それを取り返して持ってくるというときに遅延が生じるという。そういうことがやはり過失のある遅延ということになるのではないかなと思います。 ○道垣内委員 運送法につきましては,その他に条約等があるとともに,国際的にも分かりやすいルールを提示しなければならないという要請があるということは重々分かります。そして,そうなると藤田さんがおっしゃるように,他の条約等の文言との整合性というのが必要になるというのも重々分かるのですが,今のお話を伺っている限りにおいては,債務不履行がなかったときとおっしゃっているにほかならないのであり,ここだけ,ここだけかどうかは知りませんけれども,注意を怠らなかったことを証明したという,民法の一般的な規定の仕方と異なる仕方をするということの必然性が,私にはよく分からないのですが。   必然性がなくていいと,carefully,何か分からないけれども,それに合わせたのだと,それのほうが海外に向けていいのだというのならば,それはそれで一つの理由ですけれども,日本法と見たときはおかしいのではないでしょうか。 ○藤田幹事 かなりアカデミックな話なので,この場でお時間をとるのもどうかと思うのですが,道垣内先生のようにおっしゃるのであれば,運送人の責任の規定とは別に,運送人の義務の規定を置くべきでしょう。実際,ロッテルダム・ルールズでは,運送人の損害賠償義務についての規定とは別に,船積み・荷揚げその他に際しての運送人の注意義務について規定を置いています。運送人は物品の積付けと荷卸し,運送,保管等について適切な注意を払う義務を負うというふうな規定を置いて,その上で滅失・毀損・延着があった場合には義務違反が推定されるとでも規定しておけば,効果の方は民法の債務不履行の規定に任せるという形にするということも考えられなくはありません。現行商法577条の規定は,一見責任原則として書きながら,運送人の義務を定義しているような面もあって,恐らくそこが道垣内委員が感じられた違和感の原因だと思います。だから,道垣内委員の言われるとおりの面はあり,それに応えようとするなら,運送人の義務に純化した規定を置き,どういう場合に債務不履行になるかだけを規定するのでしょうが,現行法でもそうなっていることを考えるなら,そのまま義務の範囲を定義したような効果を持つ責任の規定という形で放置することも良くないとまでは言えない。最後は立法技術の話になるのだと思います。   実質的に一番深刻なのは,雨宮委員が言われた話で,延着についてどう考えるかというのも,今ここで決め打ちするよりは,延着の効果,延着についての責任の損害額についての何か特則的なものを置くか,その辺りとも関係してくるので,契約上特定の時期に届くことを合意した,あるいは少なくとも黙示的に合意した場合のように考えるか,それとも,何かもっと一般的な義務というのを当然想定するか,後でもう一度議論した方が良いと思います。いずれにせよ任意法規なので延着責任を負いませんと言えばそれまでなのですけれども,基本的な考え方として整理すべき点もありますので,今現段階で決定的な結論は出さない方が良いと思います。   最後に,ちょっと細かなことでいうと,「滅失」という言葉は物理的滅失を指していると理解してよろしいでしょうか。それとも,誤った人に引き渡して,どこかへ行ってしまった場合――物理的にあることは分かっていて,ただ,法律上,運送人が返還請求できないような場合――は含むと考えているのでしょうか。なぜ聞くかというと,運送人の責任との関係で,誤引渡しが債務不履行責任になることは間違いなく,ここで読めなくても,ここに規定されていない債務不履行は全て責任がないという趣旨ではもちろんありませんので,いずれにせよ債務不履行責任になるのですが,それはこの後の(4)等の適用範囲に関わってきますので,あえて質問しています。 ○松井(信)幹事 現在の判例や学説に倣って,物理的滅失のみならず,誤渡しなどの場合も含むというふうに考えています。 ○山口委員 責任制限と高価品の特則についてでございます。   特に陸上運送ですけれども,責任制限を設けているところはヨーロッパ等に結構ございまして,かなり低い運送人の責任を定めております。全般にいうとアジアの国々は,陸上運送について責任制限を設けていない状況にあるのかなと思います。設けるかどうかはかなり難しいのと,それから,設けるとして,いかなる金額にするかというのはかなり難しいだろうと思うのです。適切な金額があれば,それを設けてもよろしいかなとは思うのですが,もしそれがないのであれば,特にデフォルトルールとして責任制限を設けるというのは難しいかなと思っております。   我が国における運送品の滅失又は損傷による責任の上限額というのが10ページに書いてありますが,一番上の標準貨物自動車運送約款については,これは,間違いではないかと思います。これは,標準貨物自動車運送約款の9条にこの規定がありまして,1キログラム当たり2万円を超える貨物を高価品としてみなすという規定でございまして,責任制限,1キログラム当たり2万円に責任を制限するという規定ではないと思います。ですから,ここは,責任制限に変えるというなら,約款としてはあり得るかもしれませんけれども,現状においては,1キログラム当たり2万円のものを高価品とみなしまして,それについては責任がないというふうに責任のところで書き直している。確か45条ぐらいだったと思うのですけれども,そういう形でございますので,実は,特にこの自動車運送については現在も責任制限を設けていないという現状にあります。   では,高価品の特則を残すかというところですが,高価品の特則を残して,それで一定の範囲以上のものは責任を負わないとするという今の法制を維持する場合に,大きなポイントは,果たして不法行為責任を残すのか。すなわち,請求権競合を認めるのか,あるいは,契約については,特に荷受人・荷送人の関係においては契約責任だけしか認めないのかということで,大きく責任関係が変わってきます。なぜならば,もし不法行為責任を認めないとすると,そして高価品の特則だけを残すとすると,高価品については運送人は一切責任を負わないということになりまして,正に高価品かどうかによって,オール・オア・ナッシングの解決になってしまいます。   ところが,現状は請求権競合になっていますものですから,たとえ高価品の特則で運送人が免責になったとしても,運送人に具体的な過失がある場合,不法行為責任を荷主,荷送人も,荷受人を含めて請求をすることによって,一定の回収が図られます。一方において,荷送人側において高価品であるということを告げなかったことについて過失があるということで,過失相殺の議論に持って行きまして,最終的には,裁判例としては幾つかございますが,6割ないし4割の過失相殺を認めて,全額ではないとしても,ざっくりと半分ぐらいの回収を認めています。それで,事案に合った解決をしているというのが現状でありまして,そのやり方というのは,私個人的には非常に,個別事案に応じて適切な解決がなされていると思っております。   もし仮に高価品の特則を残して,債務不履行責任だけで,請求権競合を認めないという,この3点セットになりますと,極めて画一的な,しかもオール・オア・ナッシングという,非常に片方に極端に不利な結論になり得るので,その点については特に考えていただきたいなと思っております。 ○箱井幹事 今のオール・オア・ナッシングの点は,気持ちは非常によく分かりますし,様々な裁判例でも,特に裁判所が,重過失の場合の適用排除など,とにかく578条を一旦外しておいて,そこそこの結論にするという事例は非常に多い。これは指摘されているところでもありますし,趣旨はよく分かるのですが,やはり純理論的に考えますと,578条というのは運送契約の本質に関わる極めて重要な規定だと思っておりまして,それだからこそ非常にドラスティックな解決を,当初立法者が考えたのだろうと思います。   これは,同じ重量で同じ容積のものを同じ場所まで送れば,基本的には運賃も同じだという中,いかに定額賠償の制度がありましても,中身の運送品価格をベースとした責任を運送人は負わなければなりません。要するに,運送品価格を考えないで良い普通品の運送と,そうではない運送というのは,これは本質的に違うというのがやはり前提の理解としてあるのだろうと思います。本来であれば高価品として発送しなければならないものを,あえて,言葉は悪いかもしれませんけれども,ずるでというか,いんちきで出した場合のことで,オール・オア・ナッシングという関係が出てくるのだと思っております。確かに個別の事案の解決では,今まで7割の過失相殺という例がありますので,そこそこの結論が出てきているのかなとは思いますけれども,やはり金額が非常に大きくなることも予想されますし,立法趣旨というものを一応確認した上で御議論を頂ければと思っております。 ○真貝委員 運送人の責任に関わる責任限度額の設定なのですけれども,こちらの9ページの中ほどに出ていますけれども,具体的な責任限度額の例といいますか,提案というようなことで挙がっておりますけれども,我々物流事業者側からすると,荷主さんのほうが力が強いということで,具体的なこういったものがここで規定されていれば,非常に実務的にやりやすいという面があるので,是非その検討を進めていただきたいなというのがお願いであります。   それと,あと1点,ちょっと資料のほうにある,先ほども同じようなお話は出ましたけれども,10ページの上のほうの(注)のところの鉄道運輸規程のところの1キロ当たり4万円という部分については,これは高価品についての規定ということでありますので,高価品以外の一般のものについては規定はないというのが現状でございます。 ○山下部会長 ありがとうございます。   まだこの項目は審議中ですが,時間が予定の休憩時間に近付きましたので,ひとまず野村委員のところまでで休憩して,その後,この項目について引き続き御審議いただきたいと思います。 ○野村(修)委員 紛糾しないように発言したいと思います。   先ほど来からの損害賠償の責任に関する「注意を怠らなかった」ということの規定の仕方なのですけれども,現行法では,例えば会社法でも120条などには同様の文言があって,120条は利益供与した場合の規定ですけれども,利益供与した取締役に責任を課しながらも,職務を行うにつき注意を怠らなかったときは,この限りでないという形の規律になっていて,この規律についての説明は通常,過失の証明責任が転換された形での特別責任というような整理になっていたように思うのです。   そうだとしますと,元々会社法の改正のときにも議論があったのですが,債務不履行責任を念頭に置いているとすると,この規定は一般原則を確認しているだけではないのかとも考えられるわけです。つまり,債務者のほうの側が無過失の証明責任を負っているというのが現行の民法の考え方だとすれば,ここには何の特則性もなく,むしろ当然のことを規定していることになってしまうのではないかという議論が一方にあって,他方で,いや,それとはちょっとニュアンスが違うのではないかというような考え方が残っているというのが,現行の規律の解釈なのではないかなと思うのです。   もし文言として考えるとすれば,明確に過失の証明責任を議論するのだとすると,会社法ですけれども,428条に出てきます,責めに帰することができない事由によるものでないという言葉がありますので,例えば「正しい運送人が責めに帰すべき事由によるものでないことを証明した場合には,この限りでない」というのが文言としてはあり得るのだと思いますが,そうなりますと,正に債務不履行の責任に関して過失の証明責任が転換されているという一般原則を重ねて規定しているだけになりますので,不要な議論ということになってしまう可能性があります。そうだとすれば,先ほど来から議論しているように,その過失の証明責任の転換を超えるような要素がここに含まれているのかどうかということを一度きちっと議論していただいた上で,注意を怠らざることということの概念を規定しておいていただければ有り難いなと思います。 ○山下部会長 ありがとうございます。   それでは,一旦ここで,15分ぐらい,時計で3時40分まで休憩して,引き続きこの項目について御意見を伺います。           (休     憩) ○山下部会長 それでは,再開させていただきます。   先ほどの4の(1)から(3)までの部分につきまして,引き続き御意見を頂ければと思います。 ○柄委員 私どもとしましては,責任限度額,これを新設していただくということに対しては反対の意見でございます。   中小の場合,その取扱量,運送量自体も相対的に低い。こういう状況の中で,やはり保険は掛けておりません。この責任限度額ができてしまいますと,中小の立場でも保険を検討しなければいけない。そうなりますと,やはり全体の効率性から考えましても,限度額を設定することによっての保険適用というのは,経済全体から考えましても不効率かなというのを考えております。   それから,現状,格別これで不都合ということは余り聞いておりませんので,あえてこの責任限度額を作ることによって先ほど言ったような不効率が生じるのなら,新設するということに対しては反対させていただきたいと思っております。 ○松井委員 話が戻ってしまうようで恐縮なのですが,責任限度額の新設の話は一体どこからというか,何のために来るのかということについて,もう一度お考えをお聞かせいただきたいと思っています。   まず,責任限度額については,先ほどもお話がありましたけれども,無過失責任にする代わりに,責任限度額があって,早急に紛争を解決するために短期消滅時効か除斥期間を導入するという,そういう一つの価値観もあると思います。それから,運送は公共のインフラですので,低廉な価格で公共インフラ,特に宅急便等を維持するために責任制限が必要であるということであれば,その分野の運送について特化して責任限度額について検討し,B to Bのものはまたそれぞれのアレンジに任せて責任を考え,高いものであればそれに見合った高い運賃を取ればいいというアレンジがあるのかと思います。それとも,国際運送と国内運送をつなげる意味で,同じ規制が良いということも考えらます。三番目の考え方ということであるとすると,国内規制としては任意規定で足り,海外と同じ規制の契約を締結すれば良いということになると思います。もちろん今回御提案いただいているところも上限にするのか,下限にするのかについてまで,まだ様々な案がありますので,価値観のご提案というところまでは行っていないと思いますが,その辺りのお考えというのはどうなのでしょうか。今回の限度額のご提案についての御趣旨なのですけれども,お考えをお聞かせいただきたいと思っています。 ○松井(信)幹事 今回の部会資料を御覧になってお分かりのとおり,指摘されている複数の考え方を提示したものであって,事務当局として特段の見解を持っているものではございません。この責任限度額については,今,松井委員のおっしゃったような,そのような見方をされる方もいらっしゃると思いますし,また,歴史的には,19世紀のアメリカのハーター法などを始めとして,運送人側で過度な免責約款を作り過ぎるということに対して,それに対して荷主国であるアメリカのほうでどのように対処するかと,そのような経緯もあったというふうに聞いておりますが,この辺りの経緯などは,むしろ専門的な学者の方々のほうがお詳しいかとも思います。もし何かあれば,御披露いただければ幸いでございます。 ○石井委員 今,松井委員がおっしゃったところは,正に私も考えていまして,やはり陸上運送の場合と国内の海上運送の場合とをそれぞれよく考える必要があるのかなと思います。   陸上運送については前回も申し上げましたし,先ほど柄委員のほうからお話がありましたが,それは一つの現状ではないかと思います。   内航の海上運送について,世界各国ではヘーグ・ヴィズビー・ルールズをそのまま適用するというのも多いのだろうと思うのですが,これを我が国で導入するのがどうか,どういうふうに考えるかだと思います。今,松井幹事のほうからお話がありましたように,歴史的に見れば,条約の責任限度額の規定は荷主を保護するためのものでありまして,運送人の免責約款の濫用を制限するために,運送人の負うべき最低限の責任限度額を片面的な強行規定として定めたという背景があると思います。   日本の内航運送の実態との関係でいくとどうかというと,どうも日本の内航運送では,そういう運送人の権利の濫用というようなものはそもそも余りないのかなと思います。先ほど来出ましたが,運送人のほうからむしろ責任を制限するために外航と同じような責任限度額の規定をを設けたいとの希望が強いように理解しています。   であれば,今特段の規定はなく契約自由ということですから,運送人のほうで契約を締結するときに,契約上責任限度額を設けるとか,あるいは,約款上そのような規定を設けることは可能です。それに際しては,当然,荷主の理解を得るとか,あるいは届出,認可を得るというようなことが必要になると思いますけれども,仮に荷主の理解を得られない,あるいは認可が得られないということになると,それ自体,とりもなおさず社会的コンセンサスを得ていないということになるのではないかと思います。そうだとすれば,そのような規定を法律で取り込むというのは果たしてどうなのか。やはり結局,契約の中で取り込むという方向に持って行くのが一番いいのではないのかなと思います。 ○藤田幹事 今,石井委員が言われたことに補足というか,同じようなことなのですけれども,松井委員の問題に対して答えようという趣旨で発言させていただきます。   歴史的な話はちょっとさておいて,責任制限があるような運送法ルールというのは,運送人の責任を強行法として定める法制において置かれていることが多いと思います。それは,歴史的なこともあるかもしれませんけれども,やはり背景には一定の論理があるのだと思います。非常に値段の高い品物を運ぶ場合,それに見合った非常に高い運賃を本来払わなければいけないはずです。そこで高いものを運んでもらう人は高い運賃を払い,安いものを運んでもらう人は安い運賃ということになればいいのですが,強行法的に運送人の責任を定め,免責約款を認めない法制の下で運送人の責任を無限責任にすると,荷送人側で自分のものについての値段を言うインセンティブはなくなってしまうのです。いずれにせよ,全部損害賠償してもらえて,免責は許さないということになりますから.運送人の側で責任を制限する代わりに運賃を安くするという交渉もできない。そこで,免責を認めないで一定の限度額で責任を抑え,その代わり免責は認めない,そしてそれを超える価値の荷物を送りたい人はきちんと告知して,高い賠償額をとれるように交渉して下さいという形にすることによって,先ほど言った,高い荷物の人は高い運賃,低い荷物の人は低い運賃というそういう状態を達成しようとしているのだと思います。   それに対して,現行法は,任意法規ですので,安い荷物だからまけてくれという人は,むしろ低い値段の限度額を定めてもらうようにしなさいという形で作られている。実際の約款では――特に宅配便等では――それがまた逆転していて,最初から責任限度額を設定した上で安い運賃がオファーされているのですけれども,それはそれでかまいません。いずれにしても,この責任を強行法的に課しているか否かということと,限度額を法律として導入するか否かというのは,それなりに論理関係があることになっているのだと思います。そういうことを考えますと,関係者としてはいろいろ御意見があるのでしょうけれども,ここでされている提案というのは一応それなりの論理があるという印象は受けます。   ただ,くれぐれも注意していただきたいのは,この問題をどう捉えるかという基本的視点です。得てして荷主の保護になるかとか,運送人の保護になるかとかいう発想で議論されることが多いのですが,そうではなくて,最終的な状態として,安い荷物を運んでもらう人が高い荷物を運送委託する人へ補助するような状況は望ましくない,できるだけそういうことにならないようにするにはどういうルール設計にすればよいかという発想で考えるべきであると私は理解しております。そしてそういうふうに理解されるのであれば,先ほど私が申し上げたような議論になると思います。 ○山下部会長 ほかに,いかがでしょうか。 ○藤田幹事 今申し上げた点と別に,高価品のほうについてテクニカルなことを2点ほど申し上げたいと思います。   まず,高価品についてですが,(3)のアとイという形で,まず,適用がない場合を二つ,運送人の主観を書き分けて規定しています。現行法でやや混乱してところを明確にしようとしているわけで,大変結構なことだと思うのですが,イの書き方で,「故意[又は重大な過失]」と書いてあります。こちら側の重過失の概念は,もしそろえるのであれば,運送人の責任制限阻却事由として国際海上物品運送法などに定められていたり船主責任制限法の中に定められる,あの手の概念に近いものと考えるべきで,そうだとすると,20ページのほうで不法行為責任との関係で,「運送人の被用者の故意又は重大な過失[損害の発生のおそれがあることを認識しながらした無謀な行為]」とありますが,この括弧書きのほうがイのほうは,「重大な過失」ではなくて,こっち側のフォーミュラのほうが適切なのだと思います。だから,したがって現段階としては「重大な過失」を入れるかどうか自身が括弧書きなのですが,もし入れるとすれば,その意味としてはこちらに近いのだと思います。   もう1点は(注)のところで書いている国際海上物品運送法の話について,今ここでは深入りしませんが,むしろ国際海上物品運送法について条約との関係で問題がある規定がないかという角度から,別のラウンドで検討し,そういうものの一環として,この(注)のものを併せて検討していただければと思います。 ○山下部会長 この部分,ほかにございますでしょうか。  それでは,この部分は御意見を伺ったということで,次に進みたいと思います。   次は,「4 運送人の責任」,「(4)運送品に関する損害賠償の額」の部分について御意見を伺います。   まず,事務当局から御説明をお願いします。 ○髙橋関係官 それでは御説明いたします。   「運送品に関する損害賠償の額」につきまして,まずアは,運送品の滅失・損傷の場合について,国際海上物品運送法の規定などを参考に,商法580条1項,2項の規律を明確化するものでして,実質的な変更はございません。   次に,運送品の延着のみにより損害が生じた場合については,商法580条1項,2項は適用されないとする見解が有力でございますが,相当因果関係が認められる全ての損害について損害賠償責任を負い得ることとなり,滅失や損傷の場合と比べて不均衡だという御指摘もございます。そこで,イでは,延着による損害賠償の額について何らかの規律を設けることの当否について,御審議いただきたいと思います。この点につきましては,延着損害と関連性のある損害の額というものを定型的に観念することがなかなか難しいということもございまして,規律を設けずに当事者間の契約によるものとすることについて,どのように考えるかという形で記載させていただいております。   ウの「適用除外」につきましては,今,藤田幹事のほうから御発言いただいたところとも関係いたしますが,ここでは,まず,商法の581条の規律を基本的に維持することを考えております。この「重大な過失」との文言について,国際海上物品運送法や条約などでは「損害の発生のおそれのあることを認識しながらした無謀な行為」という文言を用いる例もございますので,現行法において,この「重大な過失」という文言について何らかの不都合が生じているかどうかといった観点も踏まえまして,御審議いただきたいと思います。 ○山下部会長 それでは,この(4)につきまして,また御意見を伺えればと思います。 ○加藤委員 加藤でございます。   延着に関してなのですけれども,そちらの12ページの下にありますとおり,例えば標準貨物自動車運送約款におきましては,限度額として,運賃,料金等の総額ということになっております。こういった決めが必要かどうかというのは,私よりも先生方のほうの御意見もあるとは思うのですけれども,一つの考え方として,延着ということによって,例えば,運送品の価値がゼロになるかどうかという論議も含めて検討しなければいけないのだろうなと思います。確かに延着によって,その時点においては運送品がその場にないということにはなるのですけれども,遅れたとはいいながらも後々そのものが着くとすれば,そのものの価値をどう評価するのかと,こういうことについても是非論議をしていただきたいと思います。   特に最近ですと,ジャスト・イン・タイムということで,その物がその時間にないとラインが止まるということで,運送人の立場としましては,いわゆる相当因果関係があるということでいくと,ラインが止まったことに関して,例えば逸失利益等も請求されるケースが実はございますので,そこについて一定の縛りをするのがいいのかどうかということについて,ちょっと問題提起をしておきたいと思います。いずれにいたしましても,ジャスト・イン・タイムということで,在庫を持たないことによって,着のお客様あるいは荷送人さんは,保管料という意味での経済的利益を享受されているわけですから,それを差し置いて,延着のときだけ全部損害賠償に応じてくれというのはちょっとどうかなというふうには私としては思っておりますので,よろしくお願いします。 ○入来院委員 同じような意見で,延着の場合,今,外航の場合でいいますと,12ページの下にありますように,運送品の価額の差額が損害額になるとありますけれども,荷物が仮に全部滅失した場合であっても損害賠償額は一応定額化されているのに比べて,民法416条でいって,延着すると,場合によっては際限なく損害が出てくる可能性があるというのはいかにも違和感があって,最低でもやはり全部滅失の場合と均衡のあるような規定にしていただかないと,ちょっとどうかなというような感じはしております。 ○石原委員 やはり延着で,実際に私,業務委託契約の中で延着による責任を持てと実務の時に要求されたことがあります。ただし,外航では当然,今,日本のルールでは,国際海上物品運送法ですとかヘーグ・ヴィズビー・ルールズでは,運送人は延着責任を原則として一切持っていません。しかし,私の場合は,ある自動車部品メーカーさんから,組立ラインを止めたとか,そういったことに対して責任を持てというわけです。逆に,その委託契約を結ばない限り仕事を出さないということでもって,大分トラブった経緯がございました。そのとき私は最後まで結ばなかったのですが,そのときの延着,これは一つ明確化しておいてもらったほうが良いと思います。そのとき出てきたのは,例えば代替製品を作っても,残業代だとか,それからラインを止めたことによる損害賠償だとか,そういったところまでは持てと,力関係をバックに非常に理不尽な要求をしてくるケースがあるわけです。   それから,今一つは,利用運送事業において,NVOCCとしてこの要求を受け入れたとしても,実際に物を運ぶ実運送人の約款は,当然,そこは免責事項になっているわけです。その関係のところが,逆に今度は賠償責任保険が結べないといったような,実務的には難しい問題があるということをお話しさせていただきます。 ○藤田幹事 先ほどから延着についての定型化の規定についていろいろ議論があって,非常に利害が対立するところはよく分かるのですけれども,基本的な考え方として,2点ほど申し上げたいと思います。最終的には,この提案に対して私は賛成ではないのですけれども,ただ,国際海上物品運送法のような規定にすればいいというふうにも考えておりませんので,その点をちょっとお話ししたいと思います。   まず第一に,現在,国際海上物品運送法が適用される場合の延着責任は――なお,よく誤解があるのですが,ヘーグ・ヴィズビー・ルールズは延着責任を負わないとしているのではなくて,条約では扱わないとしているだけで,国内法事項になっており,日本法では延着責任があるとされています――,延着責任の損害の算定の仕方として,11ページにある算定の仕方と同じような書き方をしているものですから,間接損害――原料品の延着によって例えば操業ラインが止まった結果発生した営業損失とかそういうもの――は,一切請求できない形になっているのですね。それが適切なのかどうかということについては,確かに運送品の滅失の場合だって同種の間接損害は発生し得るのに,一切責任がないのに,延着だと,真面目に届けたら今度はそれをとらされる。それはバランスがとれないと思われるのは確かに分からないではありません。   ただ,これはどういう場合に延着が生じると考えるかということにもよるのですけれども,例えば,空港宅配などでは,必ずその時に届かないと困りますということを当事者が分かって契約し,わざわざどの便に乗るかを通知して,余裕を持ったスケジュールで運送品を引き渡すことを前提に運送を引き受けてもらっているわけです。ところが,間違って別のターミナルに持って行かれてしまって受け取ることができず,旅行中,様々な物を買わなくてはならなかったとします。これに対して運送人が,運送品を届け,延着期間中に運送品の滅失毀損も市場価格の下落も起きていない以上,賠償額はゼロですと主張しても,納得する人はいないと思います。   つまり,延着ということについて,典型的にどういう場合に責任があると考えるかによると思うのですけれども,多くの場合,運送人は届くべき時期について保証はしない。そういった場合というのは,そもそも延着責任は生じないと考えるのが多くの場合は適切なのだと思います。しかし,明らかに延着責任が生じるような場合――今の空港宅配がその例ですが――を想定すると,今度は,物品の滅失・毀損と同様の算定の仕方で損害額を算定するというのは,恐らくは契約当事者の意思に全く沿わないものになる可能性が高いような気がします。そういう意味では,国際海上物品運送法のような形で延着損害の損害額を算定するのは問題があると思います。   他方で,滅失の場合なら間接損害は賠償責任を負わないのに,頑張って届けたら何か賠償額が拡大するという先ほどの違和感はそれでも完全にはなくなっていないわけです。遅れて届けるくらいなら壊してしまえと,捨ててしまえというふうになりかねない。もちろん,運送人の故意の場合は,この規定は適用ないのですけれども,実際には証明できないでしょうから,そんなことをするインセンティブすら与えかねないという問題は確かにあると思います。   ただ,その場合の解決の方法は,延着の場合の損害賠償額は全損の場合に適用されるような損害額を超えないというルールを設けることだと思います。実際,そういう規定は国際条約にはあります。条約では,運賃を基準とする責任限度額について補足説明では引用していただいていますが,より私から見て重要と思われるのは,例えばハンブルク・ルール6条1項(c),ロッテルダム・ルールズ60条といった条文です。これらの条約では,延着の場合の運賃を基準とした責任限度額を規定しているのですが同時に,それはどんな場合であっても全損の場合に適用される責任限度額を超えないとされています。これは,責任限度額の条文として置かれているのですが,発想としては,全損の場合以上の責任を延着について運送人が負うことはあってはならないという一般的な考え方を表明したものととるべきであって,そういう形で損害賠償額の定型化の規定を適用するのであれば,むしろ国際海上物品運送法よりは適切な規律になると思います。   今申し上げたのはかなり具体的な提案ですけれども,いずれにしましても,この件については,何かいい限度額が見付からないから何も規定を置かないなどといった投げ方をするのではなくて,もう少し実態についてきっちり検討した上で,適切なインセンティブを当事者が持つようなルールを考えるべきだと思います。 ○箱井幹事 今のに若干関連するのですけれども,補足です。藤田先生のお考えに基本的に賛成でありますけれども,ただ,通則的規定として今これを検討していますけれども,通則的規定でよいかというところが,やはりこの点についても,気になります。今のようなお話で,空港へ行って,ターミナルが違って,責任を負わないのは納得しないと。でも,責任を負っても多分1500円ぐらいですか,今では。それで良いのかということですね。代替品をそろえて何とか旅立った場合とか,そういった場合も出てくると思いますので,事業者でリスクを念頭に計算でもって行動し得るものと,非事業者の場合の違いというような視点も,ここについても通則的規定でよいかというところで,また考えるべき対象になり得るのではないかなという気がいたしますので,補足いたします。 ○藤田幹事 確認ですが,今,代替品の場合というのは,正に私が言った提案そのものなのです。代替品でそろえたら恐らくは荷物の全損の場合の価値を超えることは普通はありませんので,代替品を購入した費用等について責任を負うというのは,先ほどの私の提案のもとでもそのようになります。これも払うのがいやでゼロにしたいというのであれば,もう契約で,空港宅配が延着して飛行機に積むことができなくても当方は一切責任負いませんとはっきり書くべきでしょう。そんな宅配便なら私は絶対利用しませんけれども,責任を負いたくないならそこまで明示的に契約すべきなのだと思います。   なお,先ほどちょっと言い落したことなのですけれども,滅失・損傷の場合の規定も,これ当然任意法規ですので,先ほど私が申し上げた趣旨も,いかなる場合も全損の場合を超えないというのではなくて,滅失・損傷の場合の定型化の規定を運送人が外して特約したのであれば,延着のほうも自動的に限度額は外れて,特約した全損の賠償額が上限となるという趣旨として理解していただければ幸いです。 ○道垣内委員 無駄になる発言だと思うのですけれども,やはり一言言っておきたいのですが,「正常な価格」というのが,国際海上物品運送法上にそういう言葉が使われているということは重々に承知しておりますが,幾ら何でもおかしい。「価格」で十分。   ちなみに,「正常な価格」というのは,法令データベース上は土地基本法と地価公示法と国際海上物品運送法に出てくるわけですが,土地基本法と地価公示法における「正常な価格」の意味は全然違うわけで,ということは,国際海上物品運送法だけが突出しているというふうに見るべきではないだろうかと思います。 ○山下部会長 ほかに,この部分,いかがでしょうか。 ○松井(信)幹事 すみません,藤田先生,箱井先生にちょっとお伺いしたいのですけれども,今の延着の場合に,その損害が運送品の価額を超えてはならないというロッテルダム・ルールズのような考え方というのは十分あり得ると思うのです。ただ,先ほどの滅失のところでは,責任限度額の規定というのは基本的には強行法規性とセットになりやすいというお話がありまして,こちらの延着のほうについては,延着について責任限度額的なものを設けて,しかも,それを任意規定とするということは可能なのかどうか,教えていただけますでしょうか。 ○藤田幹事 全く矛盾しないと思います。これは,全部滅失について,当事者がデフォルト・ルールとして一定の定型化を受容したという状況があるときに,当事者の意思の合理的解釈として,延着の場合については,それを超える責任を負担しないと考えるのが通常であろうという発想です。もちろんそれを外して,延着の場合に滅失の場合と無関係な責任を負うのはもちろん自由ですが,運送品の滅失の場合のデフォルトルールが適用されることを前提としたら,それを延着についての上限として考えるというのは,当事者の意思解釈としてもおかしくないと思います。これは,責任限度額と強行法規性の結び付きとは全く無関係な話だと思います。 ○山下部会長 よろしいでしょうか。   それでは,この部分は以上のとおりとして,また貴重な御意見を参考にして,なお検討していただきたいと思います。   それでは,続きまして,「5 荷受人の権利」の部分について御審議いただきます。   まず,事務当局から御説明をお願いします。 ○髙橋関係官 それでは,御説明させていただきます。   荷受人による権利の取得時期につきましては,運送品が全部滅失した場合には,運送品は目的地に到達しませんので,荷受人は運送品に対する権利を取得することができず,一部滅失の場合との不均衡が指摘されております。特にCIF条件の取引のように,売買契約上,船積みの段階で買主である荷受人に危険が移転するとされている場合には,売主である荷送人が運送人に対する損害賠償請求をするインセンティブに乏しいことから,荷受人としては,荷送人から損害賠償請求権を譲り受けてからこれを行使しなければならず,負担が大きいという指摘がございます。   そこで,まず(1)では,商法583条1項をベースとしつつ,運送品の到達と並べて,運送品の全部滅失の場合にも荷受人が権利を取得することとしております。   次に(2)では,現行法上,運送品処分権に関する商法582条2項と同様に,運送品の到達後に荷受人がその引渡しを請求したときは,荷送人の権利が荷受人の権利に劣後すると解されておりますので,この解釈を明文化するとともに,全部滅失の場合について,これとパラレルに,荷受人が損害賠償請求というアクションを起こしたときは,同じく荷送人の権利が劣後し,その権利を行使することができなくなることとしております。   他方で,14ページの別案のように,運送品に対する損害賠償請求権を荷送人と荷受人の連帯債権として,損害発生後は両者ともに請求可能とすることも考えられますが,連帯債権者の一人に対してした債務免除の効力は相対効が原則とされますので,実務上は,荷送人か荷受人のいずれか一方との間でした和解の効力が他方に及ぶようにしてほしいとの声もございます。しかし,このような絶対効の規律,特則を設けますと,和解に関与しない当事者の利益が一方的に害されるという懸念もございますので,ゴシックの部分では,この案は取り上げてはおりません。   なお,15ページの下にあります(注)では,運送品処分権の内容について,実務に即した,より適切な例を示すことを提案しておりますので,この点につきましても御意見等を頂戴したいと思います。 ○山下部会長 それでは,ただいまの「荷受人の権利」につきまして,また御意見をどうぞ。 ○箱井幹事 質問を一つと,あと,包括的な意見を述べたいと思います。   5の(1)で,「荷受人は,運送品が到達地に到着し,」で切れて,これで権利を取得するというのは現行法どおりですけれども,「又は運送品の全部が滅失したときは,」とありまして,この「とき」というのは平仮名になっていますし,実質的に考えても滅失した瞬間ということはないだろうと思うのですけれども,この権利取得の時期というのは一体いつで考えておられるのかというのが質問であります。   もう一つは,意見でございますけれども,やはり提案されているバックグラウンドが海上運送であり,取り分け国際海上運送における不都合が中心ではないかと思われます。私は,海上運送として委員の皆さんがこういうものが必要だということであれば,その限りでは全く賛成でございますけれども,やはり通則的規定として,現行の583条を変える必要があるのか,そこについては疑問だと思っておりますので,意見として述べさせていただきます。 ○松井(信)幹事 1点目の御質問ですけれども,部会資料13ページ(1)にある,全部が滅失したときに荷受人が荷送人の権利と同一の権利を取得するというのは,正に全部が滅失したという物理的な時を指しているものでございます。その時に,概念的に荷送人と荷受人の双方が権利を有することになると。しかし,(2)のように,荷受人が積極的な行為を採ったときは,荷受人の権利が優先をすると,そういうことを考えているところでございます。 ○山下部会長 よろしいですか。 ○箱井幹事 そうしますと,多くの場合,荷受人には分からない段階で,一応観念的には権利を取得しているということになると。そこは今までと大分違いますよね。もっとも,今でも運送品が目的地に到達したときに,到達したから必ずしも権利取得を知るというわけではないわけですか。分かりました。ありがとうございました。 ○入来院委員 今回の問題をキャリアの立場から見ますと,要するに荷送人なり荷受人なり,どちらに対して何をすればいいかということで,法律を書くときいろいろ考えられると思うのですけれども,我々としては何をすればいいのですかということをはっきりしてほしいと思っております。   運送法制研究会の議事録をちょっと昨日読んでいたのですけれども,その中に,確か第7回だと思いますけれども,アメリカの法制はキャリアが何をすれば免責されるかを中心に考えられているという言葉がありまして,我々は要するに,荷主さんであれ,荷受人であれ,どちらに対して支払なり引渡しをすればいいのかということさえはっきりしていればいいわけでして,どういう法律構成がいいかはこれから御議論いただけばいいと思うのですけれども,そういう希望があるということを了解していただきたいと思っております。 ○松井(秀)幹事 実際に権利行使する場合,滅失の事実というのは権利行使する側が多分立証していかなければいけなくなると思うのですけれども,いつまでたっても届かないという状況が続いたときにはどうなるのでしょうか。つまり,それが延着なのか,あるいは滅失なのかがはっきりしないという状態があり得るのではないでしょうか。例えば,どこかにまだ荷物はあるかもしれないのだけれども,いつまでたっても届かないという場合,これを全部滅失とみなして,この権利を行使することはできるのでしょうか。あるいは,やはりどこかにある可能性があるということが残っている限り,これは滅失ではなくて延着として考えなければいけないのでしょうか。   これは先ほどの話と関連があるのかないのか分からないのですが,全部滅失と延着というのは非常に連続性がある話で,全部滅失の立証というのは決して簡単ではないのではないかという気もしています。この制度を機能させるためには,場合によっては,ある一定期間届かない延着のような場合にはもう滅失とみなすとしないと,機能しない場合があるのではないかというちょっと素朴な疑問があるのです。その辺りは何かお考えがあるのか,あるいは,そこはまだ白紙の状態で制度を作るということを考えておられるのか,確認をさせていただければと思います。 ○松井(信)幹事 今の御指摘は,理論的な面と実際的な取扱いの面,両方が複雑に絡み合っていると思うわけですけれども,物が届かないという状態で,それが滅失なのか延着なのかが分かりにくいという状態,これは実際あると思います。しかし,実際に損害賠償を請求しようとするときには,どちらで構成して,どのように損害を組み立てていくかというのを恐らく考えられるだろうと思います。それに沿った証拠なり交渉を相手方としながら,どのような証拠を集めていくかということになろうと思います。   ですので,理論的には,先生がおっしゃるように非常に分け難いところもあるわけなのですけれども,現実問題としては,恐らく荷主と運送人との間で交渉する中で,どちらかの形で進めていく,そのときの損害額は幾らであるというふうになるのではないかと想像していますが,ここにいらっしゃる実務家の方々にも,その辺りの取扱いがもしあれば,御披露いただきたいと思います。 ○加藤委員 今,松井幹事がお話しになった件ですけれども,実際に実務の立場からいいますと,荷物が届かない場合に,結局,お客様というか,荷送人になるのか,荷受人になるかは別にして,当然着かないわけですから,その間にいろいろな交渉をする中で,当社の中で,例えば当社の場合でいくと,どういう扱いをするかというと,まず全国捜査をしますと。我々の全営業所に対してイントラネットで,こういう荷物が,荷姿とか数量だとか特徴を示した上で,こういう荷物がありませんかという全国捜査をしまして,そこから一定の期間,通常2週間程度ですけれども,2週間内にそれが出てこなければ,お客様に対して,これは滅失だという判断をしていただくという実務になっております。 ○松井(秀)幹事 逆に言うと,どこかにあるということがはっきりしている場合には,やはり,滅失という扱いをされると,それは運送人の側としては非常に困るというイメージなのでしょうか。 ○加藤委員 はい,そうですね。要は,滅失と判断されてしまうと,その物自体の,運送品自体の帰属の問題もあると思いますので。基本的には引渡しをしなければいけませんので,ある場合には,幾ら時間が掛かっても,お客様が荷受拒否する場合は別にしても,基本的には,荷受拒否すれば発のお客様に戻しますし,着のお客様に受け取っていただける場合には着のお客様に,遅くなっても配達するというのが原則だと思います。 ○松井(秀)幹事 そうすると,滅失なのか延着なのかというのは,それは,制度としては開いておいて,状況に応じて当事者が選べるような形にしていくというイメージでこの制度を見たほうがいいということですね。ありがとうございます。 ○山下部会長 他にございませんか。 ○松井委員 中身の話ではなくて表現ぶりの話で恐縮なのですけれども,13ページの5の1のところで「同一の権利を取得する。」と「同一」と入れておられるのは,多分権利としては,荷受人が荷送人の権利を併存して持つという御趣旨で入れていただいていると思うのです。私は,これまで583条1項と704条1項が,条文を読む限りでは意味が分かりませんでした。逆に,704条1項のほうは賃借人だけが権利を持つはずなのですが,「同一ノ権利ヲ取得ス」と確か反対の趣旨で書いてあります。「同一の権利」という言葉は,今回の法制審議会では,併存するときには「同一」ということで統一されるということでよろしいのでしょうか。704条がまだ議論されていませんので,どういう表現になるか分かりませんけれども,できましたら,長年の疑問を解決していただけると大変有り難いと思っております。 ○松井(信)幹事 立案に当たって,他の法制上の表現を踏まえつつ,進めてまいりたいと思います。 ○藤田幹事 今の提起された問題は,単なる言葉遣いの問題ではないと思います。「同一の権利」ということが,先ほど,入来院委員の運送人として何をすればいいか分からないという話に関係していることを,お話ししておきたいと思います。   まず,現行法の場合も,この提案の場合も,一定の期間で荷送人と荷受人の権利が競合する状態が併存する場合があるということを前提にしています。このような権利が併存する期間があることは,恐らく避けられないのだろうと思います。   問題は,その場合の処理です。引渡請求権の場合は,荷送人と荷受人が競合しても,要は先に請求してきたほうに渡せばいいというルールさえあれば,さして困らないでしょう。これに対して損害賠償請求権の場合,先に請求した側に払えばいいということになるかというと,損害賠償の場合には損害を被っていない限りは損害賠償請求権そのものが存在していないので,損害を受けていないにもかかわらず先に損害賠償を請求した側に払ってしまった場合,どんな効果があるのか,今一つよく分からない。それがこれまで言われているような話で,当事者間で,いつ危険が移ったか,いつ所有権が移ったかといったことは運送人には分からないので,そういうことに巻き込まれたら困るということだと思います。   同一の権利というので,荷送人,荷受人双方が,実際に被った損害と無関係に運送品の価格相当の損害賠償請求権を取得するとして,いずれに対してであれ運送人が払ったら免責されるというなら,それはそれで完全に運送品処分権の場合と引渡請求権の競合の場合とパラレルになるのですけれども,そう考えていないのだとすると,この「同一の権利」という言葉を使っていることから始まって,損害賠償請求権の競合というのは,なかなか面倒くさい問題をもたらしている可能性があると思います。その辺りをきちんと整理してもらわないと,確かに実務的にワークしない危険はあるような印象は受けております。 ○松井委員 今,藤田先生からお話のあったところも含めての確認なのですが,5の2のところで,今回御提案を頂いている条文からいくと,荷送人が最初にコンタクトをしたとしても,荷受人のほうがアクションを起こした瞬間に権利は移転するという理解で良いのでしょうか。 ○松井(信)幹事 現在の商法において,一部の損傷や滅失が生じた場合にも,今,委員が御指摘のような問題はあると思いますけれども,その場合にも,文献によりますと,荷受人のほうが権利を行使すれば,そちらが優先すると言われていると思います。ですので,それを延長したという案になっておりますが,現実には,荷主間でいずれが請求をするかが決まっているためか,今言われたような状況になったという指摘は聞いたことがありません。 ○遠藤委員 損害賠償請求権の件に関し,先に行使した際に,自己に本当に損害が発生しているかどうかというような点については,御議論を頂きたいと思います。   ただ,実務的に申しますと,売買契約でどちらがリスクを負担するかということが明確になっているので,その点については,実務上は売買契約が歯止めになっております。例えば国際貿易取引において,CIF契約である場合,売主が日本から輸出し,航海途上で事故が起こったというようなときは,もう船積みの時点でリスクは相手方に移っており,売主としてはリスクを負担していません。当然のことながら買主がリスクを負担していますので,その場合には,保険を付保していることから,保険会社さんが代位をして運送人さんに請求をすることになります。例えば荷主の,荷送人の立場であるとすると,リスクが移っているので,買主(荷受人)に対して助力はする,保険求償とかの場面で助力はしなければなりませんけれども,自らはリスクがありません。要は,被保険利益がないにもかかわらず,運送人さんに例えば請求をするというようなことは,基本的に実務上はないので,売買契約が歯止めになります。 ○藤田幹事 松井幹事は,現行法の下でも,運送品に一部滅失や瑕疵があった場合については損害賠償請求権が移るということになっていて,同じ問題はもう現行法上既にあるのだと説明されたと思います。しかし,一部滅失だとか物品の損傷の場合は,運送品の受取を請求したり,あるいは一部は受け取ったりした後なので,そうなると,売買当事者間でリスクはもう移転しているというのが,まず間違いない。したがって,荷受人が行使したら,そこに損害があると考えてほぼ間違いない場合だと思うのです。ところが,およそ届きもしなかったときに,リスク移転しているのだろうか,荷受人に損害があるのだろうかになると,実は相当疑わしい。ですから,もし仮に損害は立証しないと損害賠償請求できないとすれば,先に損害賠償請求をすればその人が優先するというルールを採って機能するのだろうかという問題は,現行法の一部滅失や毀損の場合に損害賠償の競合があるということから簡単に済ませることができるものかよく考える必要があると思います。 ○道垣内委員 松井幹事が,その踏まえた上で再検討するとおっしゃったので,別に口を挟む必要はないのですが,あえて申しますと,もちろん合理的に考えれば,リスクを負っていない側は損害賠償請求しないだろうということなのだと思うのですが,理論的にはあり得るわけです。   例えば,ツタヤオンラインで私がCDを借りて,ツタヤから送られてくることになっていたのですが,送られてこない,着かなかったとか,途中で壊れたという話になったときに,私自身はほとんど損害は被らないのだと思うのですけれども,私がその滅失に対して何らかの損害賠償請求権を行使すれば,荷送人の側はもはや損害賠償請求権を行使できないのかというと,そうはならないと思います。というのは,損害の対象が違うからでして,損害の対象が異なる場合には,そんな権利は移転しないのではないかという気がします。権利の移転が生じるというのは,同一の損害に対する帰属の,損害賠償請求権の帰属しか説明していないのではないかということです。   だから,全体としては,本来ならばそれぞれの人が契約上どういう利益を有しているか,荷受人の場合,契約上の地位ではないかもしれませんけれども,どういうふうな利益を持っているのか,こういうことによって損害賠償請求ができるというだけではないでしょうか。自らの利益の侵害として損害賠償請求ができるというのを,権利の移転という方式を採ることによって説明をしようという,移転ではないですかね,併存プラス場合によっては片方の消滅という形で説明しようとするのか,仕組みの合理性が私にはそもそもよく分からないのですが。 ○山口委員 この御提案の考え方というのは,海上運送においては比較的ぴったりくる場合が多くて,100%ではないのですけれども,C条件といわれる,いわゆる船に乗ったときにリスクが移転する,荷受人側にリスクが移転して,つまり,被保険利益が荷受人側にあるという場合が約7割から8割,ほとんどの場合ですので,途中で紛失したときに,荷受人側に権利がないのが非常に不都合になっているのは,これは事実であって,それを助けていただく規定,今の規定が不都合である分,これで助けていただく規定になるわけですけれども,今度,陸上運送,つまり国内の陸上運送の場合は,どちらかというと逆の場合が多いのではないか。つまり,先ほど道垣内先生がおっしゃったように,売手と買手の契約関係で,売手が物を売って売買契約をするときに,届けると。届けて,そこの引渡場所は,例えば買主の倉庫であったり,買主の店舗であったりというところが多いわけで,そうすると,着くまでは売手のリスクであることがどちらかというと多いような感じがいたしますので,この規定が陸上運送と海上運送の両方――海上運送でも特に国際海上運送ですけれども――に適用されるのであれば,何か陸上運送の場合には齟齬が生じそうな感じがすると考えます。   そういう意味では,良いかどうかは分かりませんけれども,陸上運送,国内の陸上運送と海上運送は,やはりちょっとデフォルトルールが違うのではないかなという感じがしております。ですから,これ,今の国際海上物品運送法に適用されるのであれば,極めてぴったりくる可能性が高い。ですから,これがデフォルトルールであるということでよろしいのではないかと思うのですけれども,これが陸上運送ではやはり,先ほど道垣内先生がおっしゃったように,ちょっと違うのではないかなというふうに,そういうふうな感じを持っています。 ○山下部会長 陸上運送事業をされている方とか,あるいは荷主の方で,こういう点について何か御経験とかございますか。 ○加藤委員 それでは,陸上貨物運送の立場から申し上げますけれども,先ほど道垣内委員からも話がありましたとおり,例えば売買であれば,所有権が移転するということで,比較的荷送人と荷受人の立場は分かるわけですけれども,先ほどの例でいけば,例えばレンタルという形で,要は所有権は移転していないと。飽くまでも今回の場合でいうとツタヤさんという荷送人が所有者であって,それは荷受人が荷物を受け取ったか受け取らないかにかかわらず,そのCDの所有権はツタヤさんが持っているというケースであれば,逆もまたあると。   例えばレンタルしたものを戻したときに,荷受人が本来の所有者であるので,本当は荷送人は損害賠償請求できるのかなという部分もありますし,先ほどから申し上げているように,いろいろな態様がある中で,例えばベンダーさんの件とか先ほど申し上げました,産直の件も申し上げましたけれども,では,果たして荷送人と荷受人だけが利害関係者かということでいくと,それもまたちょっと一律には律せられないのかなとは思います。   ただ,どこかで仕切りをしなければいけないとすれば,原理原則という意味でいけば,この形が基本中の基本ですけれども,今申し上げたような,荷送人,それから荷受人,運送人,それから所有者というのですか,ちょっと所有者という言い方がいいのか分かりませんけれども,その運送品の所有権を持っている人に関する法的な縛りというのは,なかなか一律に掛けるのは難しいような気もします。ですから,そこにいきなり,では所有者という言い方をするのがいいかどうかは,できないと思いますけれども,ちょっと一工夫が必要かなと思います。   それは,多分後でまた論議されると思うのですけれども,平成10年の最高裁の判例の件が後ほど出てきまして,これ,当事者は私どもなのですけれども,これも実は荷送人と荷受人と所有者という三すくみの状態で起きた事件ですので,それも含めて,ちょっとまた御意見,御議論いただく必要があるのかなと思いますので,よろしくお願いします。 ○松井(信)幹事 今御指摘がありましたとおり,運送契約の背景として,実質的な利益が誰に帰属するかという点が,事案によって非常に様々であると考えております。そのような中で,現行法は,運送品の全部の滅失のときに荷送人のみに損害賠償請求権を帰属させるということで単純化しているわけでございますが,逆に,荷受人側が利害を持つ場合には非常に窮屈な規定となっております。原案の作成の意図としましては,荷送人と荷受人双方に権利が生じ得るものとした上で,実務の適切な運用,交渉によって,いずれの方も請求はできるようにしてはどうかという案であったわけでございます。   ただし,それに対しては,権利の濫用のおそれがあるという御指摘はもちろん妥当するわけでございます。その濫用の危険を重視して,荷送人だけが権利を持つというふうにすべきなのか,それとも,もう少し柔軟な形にするのかというのは,この部会で御議論を更に深めていっていただければと思っておりますが,先ほど議論がございましたように,例えば陸・海・空で別の規律にするということについては,荷受人の権利というのが運送契約の中で非常に重要な地位を占める中で,各運送形態によってばらばらになるとすれば,非常に分かりにくくなるのではないかという懸念は持っております。   また,今回の提案のような形にすると,荷送人にとって不利益が生じる可能性があるということについては,どの運送手段についても潜在的に妥当するところであり,それが多いか少ないかというだけで,その方々の利益を無視してよいのかという疑問もございます。ですので,その点については慎重に考えるべきではないかなと考えている次第でございます。 ○山下部会長 よろしいでしょうか。 ○水口幹事 まず,商法583条は,そのまま踏襲されるべきなのですけれども,これをCIF契約等で,遠藤さんが言われたように,これが売買の売地でもって責任が移動すると,その売主が購入者に保険を送ることによって,購入者に保険を請求しなさいという新しい契約関係を持つことであって,それは,新しい契約関係を持つことによって新しい契約にシフトしていると考えるべきなのですね。したがって,新しい契約関係が成り立つならば,もうそこで新しい契約関係とみなして,そこで片が付くということになるかと思うのです。   それで,先ほどのツタヤの話ではないですけれども,それぞれ,ツタヤの場合はツタヤオンラインの約款があるので,その約款をベースに考えるということは言えると思うのですね。ですから,それぞれの当事者がどういう契約を履行するかによって,それぞれの契約を考えれば良いということになるかと思います。 ○山下部会長 ほかに,よろしいでしょうか。 ○遠藤委員 13ページの「荷受人の権利」の,5番の冒頭のところの書きぶりなのですけれども,船荷証券その他の運送証券が発行されない場合については,582条の第1項では「荷送人又は貨物引換証」となっています。藤田幹事のほうから先ほど御発言ありましたけれども,運送証券というところで改めて船荷証券や貨物引換証の存廃を含めて議論されるということでよろしいわけですよね。 ○松井(信)幹事 その予定でございます。 ○山下部会長 では,よろしいでしょうか。   大変難しい問題が含まれておりますので,今日頂いた御意見を参考に,なお事務局で検討していただければと思います。   それでは続きまして,「6 運送品の供託及び競売」,「7 運送人の責任の消滅」の部分について,御審議をお願いします。   事務当局から御説明をお願いします。 ○髙橋関係官 それでは御説明いたします。   6の「運送品の供託及び競売」につきましては,現在,陸上運送と海上運送とで規律が異なっており,分かりにくい状態にございますので,規律を統合し,物品運送についての総則的規律として整備することとしております。また,海上運送には運送品の義務供託について規定する箇所もございますので,これは供託権に改めております。   なお,(1)の③にブラケットを付しておりますけれども,運送品の引渡しに関して争いがある場合というのは,なかなか類型として分かりにくく,要するに,争いがあるために荷受人が運送品の受取を拒む場合といえますので,②の類型に統合することも考えられるという観点によるものでございます。もっとも,②の受取拒絶につきましては,現行法上,荷受人に対する通知も要しないほど明確な拒絶の場合が想定されておりますので,③を②に統合して,より広い意味での受取拒絶に関する規定とする場合には,②の場合につきましても,荷受人に対する通知を要求することが考えられます。   次に,7の「(1)運送品の受取による責任の消滅」につきまして,まずアは,一部滅失や損傷の場合について,商法588条1項本文から運送賃等の支払という要件を削除するとして問題がないかどうかというものでございます。   また,延着の場合につきましても,法律関係の早期確定のために何らかの規律を設ける必要はないかという観点から,例えば荷受人としては,今回の到達の遅延が延着に当たると考えていて,今後責任を追及する可能性があるというような内容を一定期間内に通知させるということの当否について,御審議いただきたいと思います。   ウにつきましては,利用運送においては,最終の荷受人から利用運送人が通知を受けたとしても,既に実運送人に対する通知期間が経過しているため,利用運送人は荷受人から受けた損害賠償請求について,実運送人に求償することができないという問題を解決するために,国際海上物品運送法14条3項に類似する規律を整備するものでございます。これによりますと,19ページの図にございますように,利用運送人甲が荷受人から通知を受けた時点では,既に実運送人乙に対する通知期間が経過しており,乙の責任は消滅しているはずのところを,その時点から更に例えば2週間の間は乙の責任が消滅していないということになります。   最後に,「(2)期間の経過による責任の消滅」につきましては,運送人の責任の短期消滅時効について,国際海上物品運送法14条と同様の期間制限の規律に改めるものでございます。これにより,運送人の責任については,運送人の主観的態様を問わず,1年の期間制限に服することとなり,損害発生後は当事者間の合意によって延長することも可能となります。また,20ページの(注1)にございますように,運送人の荷送人又は荷受人に対する債権の短期消滅時効につきましては現行法を維持することとしておりますが,この点につきましても御審議いただきたいと思います。 ○山下部会長 それでは,ただいま説明のありました6又は7の部分につきまして,御自由に御意見をお願いいたします。 ○加藤委員 加藤です。   幾つか質問と意見がありまして,一つは,17ページの7のアのところですが,基本的には,異議なく引き渡し,受け取ったときは消滅するということでよろしいと思うのですが,「直ちに発見できるものに限る。」ということでいくと,逆に言うと,直ちに発見することができない場合については,期間の定めがないような形になっておりますが,現行法の2週間以内ということにするのかどうかについて御質問がございます。   それから,意見という意味では,除斥期間の件ですね。19ページから20ページの関係ですけれども,研究会報告書を見ましても,除斥期間に関する意見のほうが多かったというふうに聞いておりますけれども,要は「合意により延長することができる」ということに関していいますと,いわゆる荷主さんと運送人の立場からいうと,荷主さんの立場が圧倒的に強いという傾向がございます。そういう意味からしますと,合意によってどのぐらい延長するのかという上限があるのかどうか。これを1年という,例えば,合意によっても更に1年というふうに切るのかどうかということと,先ほど御説明がありましたように,一方で(注1)のところで,運送賃請求権については,短期消滅時効については一定の理解をしますけれども,それのほかに,いわゆる危険品,危険物に関する通知義務違反による損害賠償請求権,あるいは運送品の性質・瑕疵に起因する損害賠償請求権が,一方で一方的に1年で時効として消滅するのに対して,運送人の責任は1年以上延びるという,除斥期間ということで延びる可能性があるということの整合性,これについて,ちょっと御意見を頂きたいと思います。 ○松井(信)幹事 御質問の1点目につきましては,ちょっと読みにくいところだったかもしれませんが,18ページの上から7行目の(注1)のところで,直ちに発見することができない運送品の損傷があった場合については,御指摘のとおり2週間以内に通知をするということを維持したいと考えております。   2点目につきましては,1年間の期間を当事者間の合意により延長することができるとする現行の国際海上物品運送法14条の規定について申し上げますと,それについて,延長幅というもののルールは特にないと承知しているところでございます。   (注1)の関係の,1年の消滅時効との整合性につきましては,既に国際海上物品運送法において,運送人の責任は除斥期間の制度,運送賃請求権は消滅時効の制度となっているところですが,これをそろえるべきという御意見もあれば,性質が違うという御意見もあろうかと思いますので,正にこの部会で御議論いただければと考えております。 ○箱井幹事 588条についてですが,若干理論的な懸念がございますので,意見を述べさせていただきたいと思います。   まず,アでございますけれども,これは,説明を伺っていますと,御趣旨はよく分かるのですね。運送賃の支払が大分遅れる場合というのが実務上かなりあるということで,御配慮されたというのはありますが,次の点とも関連しますが,588条というのは商法の中でも相当特殊な規定と認識しておりまして,非常にドラスティックで,運送人の責任が消滅する,特別消滅ということでございます。元々の立法者も運送賃の支払というものを一応要件にしたということは,基本的な債権債務の関係が継続しているというところを大分意識されているのではないかなと思います。要するに,運送品が引き渡されて運送賃が支払われれば,運送契約の基本的な関係が終了したと見られます。今回の場合では,片方が運送賃支払債務をずっと負ったまま,他方の運送人に関する責任が,これは運送品が壊れていても全く損害賠償責任を負わないということになってしまいます。このことの理論的な点,私も実はきちんとは考えていないのですけれども,恐らく立法者はそういう辺りを考えて,この運送賃を――そうでなければ運送賃は,余り関係ないと思うのですけれども――入れたと思われる点を考えますと,更にいえば566条で――また今回,除斥期間のような御提案があるところですが――,1年間の責任消滅期間がある中,このような変更を通則的な規定としてすべきかどうなのかと。これが若干の理論的な疑問です。こちらのほうは大した話ではないかもしれません。   問題だと思っていますのはイのほうでございます。イのほうは,これもやはり海上運送などについて,このような希望があるということならば分からないでもないのですけれども,今,現行法の予定している状況とはかなり違うわけですね。今,アの規律が現行法に近いと考えますと,これは運送人が損害が発生しているかどうか分からないので,それでもって引き渡した運送人を保護するという趣旨ですけれども,イの場合には,損害の発生が分からないということはお書きではありますけれども,少なくとも延着が生じていることについては,これはもう十分分かっておりまして,延着に伴って損害賠償責任を負うかもしれないということについての予見は,これはあり得るわけでございます。この非常にドラスティックな588条の規律にこういう要件を載せていくということに関して抵抗感があるというのと,それから,やはり陸上運送とか非事業者の関係を考えたときに,何度も今日は同じことばかり言っておりますけれども,通則的な規定として――デフォルトで任意規定なのだからよいという考えもあるのかもしれませんけれども――,やや違和感を感じているということで,意見として述べさせていただきます。 ○石井委員 除斥期間の点ですけれども,これは新たな規定というよりも,陸上運送人と荷主との間の損害賠償請求の件で,海上運送と同じように,1年間の期間内に解決できない場合というのが多々あるわけです。現行はどうなっているかというと,陸上運送の場合には,国際海上物品運送法と違って,時効ということなので,便宜的に既経過期間の利益を放棄するという形で,実質的に時効を延長するという対応をとっているわけです。これがどうも法律的に余りはっきりした根拠というのが今一つということがあるので,それを現在の実務に合わせて,国際海上物品運送法と同じような規定にしたらどうかということだと思います。   これが逆に延長できないとなると,例えば中国なんかは確かそうですけれども,そこでは,話合いをしていて1年たってしまった場合,示談交渉を続けられなくなりますから,提訴するか,あるいは請求を取り下げるかの判断をしなければなりません。現状のように交渉が続いている最中に時効の1年が来たときには,両者合意の上で引き続き話合いを続けるというのは非常に妥当な方法であり,法律も,国際海上物品運送法に合わせた形にするのが妥当なのではないかと思います。 ○道垣内委員 素朴な質問で恐縮なのですが,商法588条は,これは荷受人が別に商人でなくても適用されるわけですよね。これはなぜこのような短期の責任消滅を定めていると説明されているのでしょうか。まさか短期の処理が必要となるのでというトートロジカルな説明だけしかないとは思えませんが。 ○松井(信)幹事 恐らく私が答えるお話は教科書的なつまらない話になると思いますので,むしろ学問的な御経験の深い先生方のほうから御紹介いただいたほうがよろしいかと思いますが,一般的には,道垣内委員のおっしゃるように,運送人が反復継続して大量に多様なものを運んでいる,それを保護するためと言われているということが多かろうとは思います。 ○道垣内委員 普通,そういうことは,荷受人にも保護の必要性がないということを示し,そのことと運送人の保護の必要性の両方があって初めて成立する論理であって,なぜ運送人を保護しなければならないのかがわからない。反復継続していようが,自分のところに荷物が反復継続して来るわけではない私からしますと,相手が反復継続していようが知ったことではないという感じがしますが,どうしてなのですか。 ○松井(信)幹事 一つには,証拠の保全が困難ということも……。 ○道垣内委員 証拠は,よくそういう説明がなされるのですが,証拠は,こちらの側で証拠があるときにしか請求していけないので,証拠が散逸しているからなんて言ったら,散逸していないから請求しているのだと言うわけであって,その説明にならないと思うのですがね。 ○松井(信)幹事 今の点は,正に588条の存在意義自体がないではないかという御指摘にもなるのですけれども,皆様,いかがでしょうか。 ○道垣内委員 存在意義がないというよりは,存在の合理的意義がない。 ○加藤委員 先ほどの話にまた戻りますけれども,そうすると,では,何で運賃債権だけ短期消滅時効なのですかということになるのではないかと思いますけれども,私らの立場としては。 ○道垣内委員 それは,運賃債権は誰が債務者であるという前提ですか。 ○加藤委員 いや,それは荷送人か荷受人か分かりません。一般的には荷送人ですよね。 ○道垣内委員 一般に荷送人だったらば,荷受人の権利を制限する理由にはなりませんよね。 ○松井(秀)幹事 推測でしかないのですけれども,これも100年以上前の規定でして,恐らくは道垣内委員の最初のお話に含まれていますように,元々は商人が荷受人になることを想定して規定ができているのではないでしょうか。無論,運送の実態はそうではない方向に動いていますので,合理性が説明できなくなっているのかもしれません。ですから,あり得る説明としては,歴史的にそうであったという説明が一つではないでしょうか。 ○山下部会長 歴史的のみならず,今でも多くの場合に残っている規定ではなかったでしょうか。 ○松井(秀)幹事 荷受人が商人である場合には,合理性を担保できるかもしれない,ということかもしれません。 ○山下部会長 各国法で,大体そういう状況なのでしたでしょうか。   宅配便の約款なんかではどうでしたか。これと同じようなことをやはり書いてありますか。 ○松井(信)幹事 例えば引越運送の場合などには,3か月間猶予すると。588条が任意規定ですので,3か月間という形で消費者の方の保護を図っているということがあろうかと思います。 ○道垣内委員 現行法をドラスティックに変えるというのはなかなか難しいと思いますので,固執はしませんが,売買の瑕疵担保に関して,一般の人には,その者が買主だからといって,引き渡された目的物をチェックする義務を課すわけにはいかない。そこで,瑕疵担保責任の存続期間は,瑕疵を発見したときから起算する。それに対して,商人にはそういう義務を課してもいいのだと考え,検査義務を課したうえで,担保責任の期間を変えている。そして,これは商人と非商人との違いとして説明されているわけですよね。   しかしながら,ここでは,荷受人は2週間以内に問題を発見できるように検査をしろと言っているのにほかならなくて,売買の瑕疵担保について言われていることと整合していないのではないかという気がします。今回そこまでは変えられないということならば,もちろん結構ですが。 ○松井(信)幹事 非常に重要な,難しい御指摘を頂いたと思っておりますが,商法制定のときから,商人間の売買に関する526条と区別して588条を作っておる次第でございまして,もう少し事務当局としても,この辺りの立法経緯を調査してみたいと思っております。 ○藤田幹事 今議論されているように,片方が消費者である場合に合理性があるかというのは問題があるのですけれども,恐らくは消費者取引が余り考えにくいヘーグ・ヴィズビー・ルールズ――国際海上物品運送法の元となったものですが――でもこれに相当する条文は置かれていません。通知義務の規定はあるのですけれども,通知しなかったからといって損害賠償請求権がなくなるという効果はない。ですから,そういうことを考えると,実は日本法の中のみならず,運送責任を定める国際的なルールと比べても,やや突出している面があるかもしれないので,そういう意味では,注意したほうがいいかもしれません。   ただ,それと延着の場合の話との関係がよく分からなくて,面白いことに,国際条約等では,延着の場合は似た規定があったりするのですね。延着の場合は,先ほどの箱井先生の説明は,運送人だって延着だったら分かっているだろうというのですが,実はそうとは限らないことが問題なのだと思います。はっきり期日を定めた場合であれば,運送人は延着について知っていると言われても仕方ないのですが,はっきり期日を定めていない場合にも延着があり得ると考えるとすれば,そもそも荷主側で延着と認識しているのか否かは運送人には分からないし,延着だと思って文句があるのなら早く言って欲しい,ずっと後になって言うのはやめて欲しいというのは分かるし,瑕疵のように検査しないと分からないのとは違って,荷主が受け取った時点で分かっている話ですから,すぐに言いなさいということになってもおかしくない。だから,荷主が延着と思っているのなら,延着責任を追及する意思表示を早めにさせるというルールは,別の存在意義がある可能性はある。ただし,それは「延着」として何を想定しているかに依存します。具体的な合意がある場合にだけにしか延着と考えないというのであれば,箱井幹事が言われたようにこのような特別な規定は要らないかもしれませんし,雨宮幹事が質問されたように,合理的な期間内に届かない場合というのは延着だというルールを想定しているのであれば,こういう規定にはまた独自の存在意義があるということになる。ただ,このように延着の定義次第でもあるのですけれども,簡単にパラレルで議論していい話でもないということは留意していただければと思います。 ○山下部会長 全員よろしいでしょうか。   それでは,立法趣旨から諸外国の状況まで,もう一度精査して,合理性があるかどうかを検討してみましょう。 ○山口委員 全然違うところで,供託と競売のところなのですけれども,一番最初に,供託することができるという供託の権利が書いてあるのですが,この前も運送法制研究会のときにお話ししたのですが,供託というものが実質上動いていなくて,法務局でこんなものを預かるという制度自体,制度はあるのですけれども実務が存在しないのを,いまだに維持するというのはどうかなと。もう正に2項からだけ始めてしまっても十分ではないかなと私どもは思うのですけれども。供託を維持されるのであれば,何か供託ができるような道といいますか,そういうものをもう少し制度的に補完されないと,全く無意味な規定をまた残すということになるのではないかなと思うのですけれども。 ○松井(信)幹事 物品に関する供託は,法務局で実際に物を預かるというわけではなくて,供託法に基づき法務大臣が倉庫業者を指定しておりまして,そちらとの間で預かってもらうという契約をする形になっております。   しかし,今,山口委員がおっしゃったように,実務上なかなか動いていない。といいますのは,倉庫事業者のほうが御自身の扱い得るものしか受け取ってくれない,そういうふうにしか契約が結べないということで,なかなか実態として難しいという側面があることは十分承知しているところでございます。   ただ,事務当局としましては,供託という制度をなくしてしまうと,債務者が債務を免れるすべ自体がなくなってしまう。一応弁済供託をすれば債務を免れるという効果が法律上は認められているのですけれども,供託を廃止して別の手段を作れるかといいますと,なかなかそれも難しいということで,一応存置する案を考えております。この点についても,皆様のほうで更に御意見あれば,お願いしたいと思います。 ○山下部会長 いかがでしょうか。 ○山口委員 運送人の方に御質問しますけれども,実際,供託をやられたことはございますか。あるいは,やって効果があって,債務を免れたということはどうですか。 ○入来院委員 私の経験ではありません。弁護士さんに供託したいのですけれどもとお願いしたら,やったことないのでできませんと言われたことはあります。 ○加藤委員 陸上貨物運送でもありません。実際には,私どもはたまたま倉庫業者も兼ねているので,自分のところで預かって自己競落するという形が多いですね。 ○菅原委員 航空についても一応申し上げておきましょうか。航空運送における供託権・競売権に関しても,陸・海と同様で,これらが現実に権利行使されたという実例は,私の知る限りございません。国内貨物運送約款上は,供託権及び競売権の規定を定めております。また,国際の運送約款では,供託権の定めはないものの,荷受人による受領拒絶の場合の競売・任意売却による処分を認めています。   実務のお話ですが,荷受人が受領を拒絶するという例はございます。この場合には,荷送人に連絡をして,その指示を仰ぎ,荷送人に送り返すか,又は航空運送人が処分することが多いようです。一方,585条1項にあります荷受人不確知の事例は,ちょっと調べてみたのですが,航空の実務では国内・国際ともに見当たりませんでした。 ○山下部会長 よろしいでしょうか。それではそういう状況を踏まえて,なお御検討いただければと思います。   この6,7について,ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。 ○柄委員 ちょっと実務的なことで,細かいことなのですけれども,お聞きしたいのですが,7の(1)のアのところに「異議をとどめないで運送品を受け取ったとき」という文言がございますけれども,このときに,後で検品をするというようなこともあろうかと思うのですが,これは異議をとどめたということで理解してよろしいのでしょうか。 ○松井(信)幹事 一般にはそのようにいえるのではないかと思います。 ○柄委員 というのは,コンビニなどの配送を考えていただきますと,コンビニ店,一日にかなり何回も配送します。そのときには,店側で検品する人がいない夜中だったり朝方だったりするようなことがありまして,そのときには検品できないで,後から検品するということがかなり実務的に行われていますので,是非ともそれが,後から検品するという意味合いで,異議をとどめたというようにしていただけませんと,この項目自体がちょっと意味がなくなってしまいますので,それはそのように理解してよろしいですか。   はい,分かりました。 ○増田幹事 意見というより,ちょっと単純によく分からないので,御説明いただければと思うのですが,588条に戻りまして,19ページの図がありますよね。これは一体どういう場面を想定しているのかというのが,私には余りイメージが湧かなかったので,お教えいただければと思います。というのも,これは,日数的には恐らく海上運送で利用運送人が運送契約を締結するというケースを想定しているのだろうと思いますけれども,そうすると,海上区間というのは基本的にヘーグ・ヴィズビー・ルールズが掛かっている部分なのだろうということになります。その場合に,日本法において,こういった責任の消滅に関する日本法のルールと関連する例外規定を,特則を置いておくということに,一体どういう意味があるのかということが,よく分からない点でございます。 ○松井(信)幹事 例えば,国内の海上と国内の陸上が組み合わさる場合には,有用になり得るのではないかという観点ではありますけれども。 ○増田幹事 すみません,では,そうすると,これは飽くまでも国内運送に限定した規定という理解でいいのでしょうか。やはり契約の相対効に対する,かなり大きな例外になる規定だと思うのですね。ヘーグ・ヴィズビー・ルールズの対応する規定についても,イギリスの体系書など見ていますと,どういう適用関係にあるのかよく分かりませんねというようなことが書かれていたりする部分だったように,ちょっと記憶が曖昧ですが,記憶しております。   ただ,それでもヘーグ・ヴィズビー・ルールズはやはり条約ですし,ほとんど海上運送限定のルールですし,ほとんどの海上運送がヘーグ・ヴィズビー・ルールズでやっているということになるので,それほど不都合はないのかなと思います。けれども,これが一般的な総則として置かれるとすると,どういう働き方になるのかというのが少しよく分からないものですから。 ○松井(信)幹事 適用場面としては,先ほど私が申し上げたような内航と陸上の場合もあると思いますし,外航についても,ヘーグ・ヴィズビー・ルールは延着について直接規律していないと思いますので,外航にも及び得る規律としての提案をしております。その意味で,部会資料の18ページ,下から13行目で,任意規定として,陸上と海上と国内航空を掲げているところではございますが,そのような適用関係を前提に,今御指摘のあったような問題意識を持ちながら考えてまいりたいと思います。 ○増田幹事 ありがとうございました。 ○山下部会長 よろしいでしょうか。   それでは,この部分につきましても,頂いた御意見を参考に,なお検討していただければと思います。   最後のパートで,「8 不法行為責任との関係」について,まず,事務当局からお願いします。 ○遠藤委員 運送人さんの責任の消滅について,ちょっと発言をさせていただきたいのですが。   1年の除斥期間にするという提案なのですけれども,参考にしている法律が国際海上物品運送法だと思います。そちらは1年の除斥期間ということなのですが,1年の除斥期間で,現状,運送人さんと荷主間の事故の処理というのは1年で基本的に終わっていて,延長制度もあり,問題ないということだと思います。それは,国際海上のほうは保険を基本的に荷主が付保をしているということで,荷主を代位する保険会社さんと運送人さん,あるいはその代理人の弁護士さんの専門家が処理をしているということがあり,1年の除斥期間プラス延長制度でうまく回っているのではないかと思います。   片や一方で,国内については,第1回目にお話がありましたように,ほとんど荷主は保険を付保していないというようなことになると,専門家ではないわけですから,荷主が運送人さんと交渉しなければならないという状況になるわけでございまして,そこのところは,国際海上物品運送法で1年で問題ないからといって,それをそのまま国内に持ってくるのは,ちょっと違うのではないのかと思います。国内はそれに加えて消費者の利用も多いわけですから,それも考慮すると,別に1年の現行の短期消滅時効で良く,除斥期間にする必要はないのではないのか。除斥期間は厳しい制度だと理解しています。   もう1点,国際海上物品運送法はヘーグ・ヴィズビー・ルールズを国内法化したものですけれども,新たにロッテルダム・ルールズがまだ批准はされておりませんが成立はしています。こちらは除斥期間を2年に延長しているというようなこともございまして,あえて国内の1年の短期消滅時効を除斥期間に変更する必要はないのではないのか。あるいはロッテルダム・ルールに,まだ批准されておりませんし,いつ発効するか分かりませんけれども,それに合わせるのであれば,例えば除斥期間を2年に延長するというようなことも一つ考えられるのではないのかなと思います。 ○藤田幹事 ロッテルダム・ルールズは2年というふうな御指摘がありましたので,なぜ2年になっているかだけ説明しておきます。議論の過程では,運送人の物品の滅失・毀損などに関する責任について限定するのであれば,2年である必要はなく1年で十分というのがかなり多数の意見でした。それではなぜ2年になったかというと,ロッテルダム・ルールズの期間制限は荷送人の責任にも適用があって,例えば危険物の爆発等で船体に損失が出た場合の請求にも適用があるのですけれども,そういった場合の責任追及については,事故の原因の解明まで相当時間掛かることもありますので,1年はきついということで,長めの期間となった。運送人と荷送人の債務の両方を同じ時効期間に服せしめるというふうな考え方を採った結果,むしろ荷送人の責任に引きずられて2年に延びたと理解していただいたほうが正確なのだと思います。したがって,(注)でも,(注1)辺りで書かれているのですが,運送人の債権の消滅時効について起算点も,期間も,個別に別途考えるというのであれば,ロッテルダム・ルールズで2年になったということは,ひとまず忘れて良い話なのだと思います。 ○山下部会長 よろしいでしょうか。 ○髙橋関係官 先ほどの増田幹事からの御質問について,補足的に御説明いたしますと,この図の例では海上区間,陸上区間という例を掲げておりますところ,海上区間としたのは必ずしも例として適切であったかどうかは分からないところがあるのですけれども,この規律自体は利用運送一般について妥当し得る規律でして,図の例では海上区間となっている実運送人は,これが仮に陸上運送人であったとしても,観念上は規律の適用があり得ることを前提としております。 ○山下部会長 よろしいでしょうか。   それでは,ただいまの御意見も,なお参考にしていただければと思います。   それでは最後,8の「不法行為責任との関係」につきまして,事務当局から御説明をお願いします。 ○髙橋関係官 それでは御説明いたします。   運送品の滅失等による損害に対しましては,運送契約上の責任を追及することのほか,所有権侵害等を理由に不法行為責任を追及することも可能ですけれども,不法行為責任に対しましては,一般的には運送人の契約責任の減免に関する商法の規定の適用はないと解されていますので,不法行為責任を追及することにより,これらの規定を免れることができてしまうという問題がございます。   そこで,国際海上物品運送法20条の2と同様に,これらの規定の効力を不法行為責任にも及ぼすことが考えられます。この場合に効力が及ぶ人の範囲について,国際海上物品運送法では,荷送人及び荷受人としておりますが,契約当事者である荷送人についてはともかく,荷受人については,平成10年の最高裁判例なども踏まえまして,何らかの限定を付す必要がないかが問題となります。また,荷送人・荷受人以外の所有者については全く効力が及ばないものとしてよいのかという点についても,併せて御議論,御審議いただければと思います。   また,運送契約に関する規定の効力を運送人に対する不法行為責任に及ぼしたとしても,運送人の被用者に対する不法行為責任に及ばないのでは,実質的にこれらの規定の立法趣旨を没却することにもなりかねませんので,国際海上物品運送法と同様に規律を整備することが考えられます。 ○山下部会長 それでは,8につきまして御意見を頂ければと思います。   いかがでしょうか。特に(1)は,どのように考えるかということで,まず皆様方の御意見を伺いたいということですね。(2)は一応の提案があるわけですけれども,なかなか難しい問題かとは思うのですが,いかがでしょうか。 ○野村(修)委員 一般的には,請求権の競合を安易に認めると,せっかく運送人の責任に関して定めている規律が骨抜きになるということが前提だとは思うのですけれども,ただ,やはりどうしても,荷受人との関係での不法行為責任を完全に運送契約上の規律におさめてしまっていいのかどうかという問題は,若干気になるところです。   これはもう元々,先ほど来からいろいろ議論が出ています荷受人の権利に関する,同一の権利を取得するということをどう見るかという問題もありますし,また,先ほど出てまいりましたけれども,そもそも責任の消滅に関して受取人が何も調査しなくても,要するに異議をとどめずに受け取ってしまうと消滅してしまうというのも,ちょっと過酷ではないかという話も先ほど出てきましたが,これらの問題は,不法行為責任が残っているのであれば解消できる可能性があるわけです。それをも含めて,全てをこの588条の規律の中に押し込めてしまうと,これは通例よく言われている例ですけれども,人に貸していたものを返してもらうときに,まさか宅急便で送ってくるとは思っていなくて,当然慎重に箱に詰めて,「ありがとうございました」と言って持ってきてくれるものというふうに信じていたにもかかわらず,ぽーんと宅急便で送られてきて,それで,例えば高価品についての通告はなかったとか,あるいは何らかの形で免責に掛かる,そういう事態になってしまったときに,どうなるかといった問題に直面します。私はそんな送り方を容認していなかったということが通用しないのかどうかですね。ここはやはり平成10年の最高裁の判例との関係も踏まえて,最後ぎりぎりまで,慎重に検討しておく必要がある論点ではないかなと思います。 ○山下部会長 実務のほうはどうですか。 ○加藤委員 すみません,せっかくそう言われたので,ちょっと一言だけ。   平成10年の最高裁の判例はどういうケースかというと,ダイヤモンドを宅配便で送ったというケースで,ダイヤモンドの原石を一回千葉に送りまして,千葉で加工して,その完成品を上野にございます宝飾店が受取人。ただ,その宝飾店も所有者ではなくて,その宝飾店に加工を依頼した別の所有者がいたと。その所有者に,要は弁済をしたわけですね,なくなったということで。その地位を代位したということで,荷受人が当社を訴えたと,こういう事例ですけれども,ある意味,中身がダイヤモンドだったかどうかということも我々は知りませんけれども,そもそも受取人である宝飾店と所有者との関係というのを我々は全然知らないと。ですから,それは不法行為であれば仕方ないと思いますので,不法行為によって,例えば仮に,所有者が私どもに対して損害賠償請求するというのはあると思いますけれども,先ほどから申し上げている,荷主と荷受人と所有者と,いろいろな法律関係というか,運送契約に関しては所有者というのは全く出てこない中で,そこまで運送人に責任を負わせるのが本当にいいのかどうかと。先ほど野村委員がおっしゃったように,貸し借りについての部分というのは貸主と借主との関係であって,そこで解決をしていただければ有り難いなというのが私どもの率直な意見です。 ○野村(修)委員 特段反論する意図はありませんが,正に今おっしゃられたように,あの事件は所有者を代位して請求していたという問題と,それから,宅配便で送られてくるということは,ある程度は荷受人側のほうも容認していたということを信義則上認定できるという,そういう一定程度の条件付きで範囲が限定されている。今ここでやろうとしているのは,一律に不法行為責任はもう追及できなくなるというか,その請求権は競合しなくなるということにしてしまいますと,今いみじくもおっしゃられた,所有者からの不法行為責任であればというようなものも,全部封じられてくるということをどう考えるかということを申し上げただけで,平成10年の判例がおかしいと言ったわけではないということです。 ○藤田幹事 野村委員の言われたことでほぼ尽きているのですが,それを推していくとどういうことになるかという点と,この(2)のほうについて一言だけコメントしたいと思います。   荷受人が不法行為で訴える権利,例えば荷受人が所有者である場合に不法行為で訴える権利を運送契約の規律によって制限していいかという話は,かなり慎重に考えなければいけない問題であるのは確かだと思います。運送契約による輸送というのを認容したとかいう要素が入ってくると,そういう制限もかなり正当化されるのでしょうけれども,それがおよそないような場合にまで国際海上物品運送法のようなルールを採っていいかどうかは,かなり疑問だとは思います。   国際海上物品運送法の立法は確かにそこを割り切っているのですが,運送法制研究会の報告書には書いてあったように,ヘーグ・ヴィスビー・ルールズでは船荷証券が出ている場合にだけ適用されるので,請求者である船荷証券所持人は運送契約を容認して権利を取得している人といえるため,最高裁判決の論旨によっても責任制限等が認められるケースなのです。ヘーグ・ヴィスビー・ルールズを国内法化するときに,船荷証券の取得の有無と無関係に荷受人による不法行為請求一般について規定してしまったところは,ひょっとしたら勇み足だったのかもしれない。これを強調しますと,ここで我々がする決断次第で,国際海上物品運送法を見直すべきだというところまでいかないと,論理的に一貫しないのかもしれません。そこまで含めて検討されることを望みたいと思います。   次に,国際海上物品運送法の規定の仕方で良いかというと,それも非常に気になるところです。これも条約の文言で非常に違った形で国内立法がされた典型例の一つだからです。細かいことは省略しますけれども,まず,使用者に対する請求を制限するのは,使用人が運送人と経済的に一体性があるような場合というのは,使用人が責任を負うと結局運送人の負担となるのと同じとなるので,被用者を訴えることで,運送人の責任についていろいろ特殊なルールを置いたのが骨抜きになることを防止するのが問題だという趣旨のはずなのです。だから,経済的な一体性があるか否かが基本のはずなのですが,国際海上物品運送法はなぜかそういう表現を採らずに,単に「使用する者」という書き方をしています。この「使用する者」という言葉は,実は国際海上物品運送法も商法も,多様な意味の使い方をしておりまして,使用する者の過失がある場合に運送人が責任を負うとかいうときは非常に広く解釈していて,下請運送人も含む。ただ,このコンテクストでは,運送人が不法行為責任を負う場合ですから,使用者責任の場合の被用者に相当するものであろうという形で限定的に解釈している。だから条約の趣旨に合致するのだというのが平成4年国際海上物品運送法改正の際の発想だと思うのですが,そもそも観点が違うのですね。その人の行為が当然に使用者の不法行為を成立させるような範囲の人ということと,経済的一体性があるからその人の責任を認めたら使用者が責任を認められたのと同じようになってしまうということとでは,発想が全然違いますので,それをこういう借用概念で表現しようとしたこと自身,間違いだったのではないかと思っております。実際,国際海上物品運送法20条の2第2項は,教科書,体系書なんかでは時折批判されております。  したがって,(2)のルールはあっていいと思いますし,規定することが適切だと思いますけれども,現在の現行法とはいえ国際海上物品運送法20条の2第2項に沿った文言で表現するのはやめたほうがいいと思います。それは,最終的には海上物品運送法の表現も考え直したほうがいいということでは,(1)についてのコメントと連なるような疑問であります。 ○山下部会長 ほかに,いかがでしょうか。 ○真貝委員 (2)についてなのですけれども,我々,鉄道貨物ということなのですけれども,集配についてはトラック事業者さん,利用運送事業者というようなことでお願いしている部分があるのですけれども,トラック事業者の場合,実態的には業務委託であるとか,あるいは下請であるとか,こういったところを使っているというケースが多々あるわけでございまして,そこまで考えると,22ページの一番最後のところに書いてありますけれども,「下請運送人等の独立の履行補助者を含まない」と,こういうような解釈になっているようなのですけれども,ここら辺についても,やはり実態を踏まえると,含んでいただいたほうがいいのではないかというのが我々のほうの意見でございます。 ○山下部会長 ほかにございませんでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,8について特にこれ以上ないということでしたら,一応一通り終わったのですが,1点,ちょっと御意見を伺いたいところがございまして,13ページの上のほうに「3 本文ウについて」というところで,商法581条について少し問題提起といいますか,重大な過失というふうな現行法の規定ぶりを変えなくていいのか,国際海上物品運送法等の,より主観的事由を絞り込む,そういう規定ぶりに変える必要があるかどうかということなのですが,この辺りについて,まだ御意見がなかったように思いますので,もし御意見ございましたら,伺えればと思いますが,いかがでしょうか。 ○箱井幹事 今,損害の発生するおそれのあること,認識ある無謀行為のところでございますね。これは,各所に出てきておりますが,私は基本的に賛成でございます。藤田幹事も途中でお話しされておりますが,今も確かに不法行為責任の場合とか,ヒマラヤ・クローズの場合,どこまで運送契約,あるいは契約法の範囲内で対応し得るかということはありますけれども,やはり不法行為責任を追及されることによって,契約責任で予定したルールが妥当しないということであってはいけないと。これはもう基本的には共有された認識だと思いますし,既に下級審の裁判例ではその趣旨のものがたくさん出ておりますが,恐らく平成10年の最高裁判決もそれに近い立場かなと理解しているところです。   私が強調したいのは,今日は責任制限の話も出ておりましたが,やはり任意規定であるから契約でどうぞというような話が多々出てきていると思うのですけれども,そうなれば,なおさら契約で規律した内容でもって,その後の当事者間の問題が解決されるように,これは徹底していく必要があるだろうと思います。   その中で1点,これも恐らく研究者の中では共有されていると思いますが,先ほどの車のトランクのロックの話ですが,要するに,僅かな注意さえすれば損害の発生を避けることができたにもかかわらず,それすら怠ったという,うっかり事例です。うっかり事例であっても,これらにはたくさん重過失が認定されていくと。最高裁は,重過失がありますと責任制限とか免責約款は恐らく認めてくれないというのがここのところの傾向ではないかと思います。そういう点では,既にかなり長い間,細々ではありますけれども,我が国の法律の中で,条約由来ではあっても存在している「認識ある無謀行為」の概念で,そういうことを明確に,積極的に表していくことの意義は大きいのではないのかなと思っております。   最近,運送人の重過失が推認されるというような下級審判例も散見されるようになってきております。というのは,損害の原因が分かれば,今は相当――ここに日通さんとかもいらっしゃいますが――きっちりしていますので,損害の原因が分かってしまえば,大体これで重過失ではないかという話になってしまうことが多い。ところが,きちんと調べないで黙っていれば,原因が分かりませんということで,せいぜい過失止まりであってというようなことになる。それで業を煮やしてということか,重過失の推認などと言い出す裁判所が幾つか出てきて,裁判例が出てきていると。これもやはりそういったところのアンバランスの表れではないかと思っておりまして,特に内航関係で強行規定化をしない,責任制限は導入しない,極力739条も外して,当事者でもって自由に合意してくださいというのであれば,それが実現するということのやはり裏付けも,我々はここで考えていかなければならないのではないかと考えております。 ○藤田幹事 基本的に条約や国際海上物品運送法に近付ける方向で表現を変えるということには賛成です。すなわち,うっかりした度合いが大きいというのはちょっと違ったタイプの主観的要件で損害賠償額の定型化の適用の除外などを決めるというのはいいと思うのですが,ただ注意していただきたいのは,これは二つの違った問題を抱えているということです。単にうっかりした度合いが大きい場合とは異なる無謀な行為に限定するということと,もう一つは,被用者の主観をカウントするかということです。これらは論理的に次元の違う問題でありまして,それがごっちゃに書かれているところは気になるところです。   資料13ページでは,「国際海上物品運送法については,運送人自身の故意又は無謀な行為を意味し,その被用者の故意又は無謀な行為を含まないと解されている」とありますが,後者については,「損害の発生のおそれがあることを認識しながらした無謀な行為」という文言から当然出てくるわけではない。このように二つの次元の違う問題について,両方検討した上で,それらが間違いなく伝わるような表現様式を採る必要はあると思います。実は,国際条約では,運送人の被用者等の故意・無謀な行為では足りないということを表現するために,“the damage resulted from their personal act or omission, committed with the intent to cause such damage, or recklessly and with knowledge that such damage would probably result”というように“personal”という語をあえて入れるものもあります。そこまでする必要があるかどうか,あるいは日本法でも同様の工夫の余地があるかどうかはともかく,二つの点について実質判断した上で,それが間違いなく規定されるように,規定の在り方を考えていただければと思います。 ○山下部会長 ありがとうございます。そういう点の留意が必要かなと。 ○道垣内委員 2対0はよくないので,そうかなという気がするということを一人だけでも述べておきたいと思います。 ○山下部会長 それも踏まえて,なお考えてもらいましょう。   他にございませんか。よろしいでしょうか。   菅原委員,所用で遅れていらっしゃいましたが,来られる前の部分で,是非この点は,特に航空運送の観点等から注意したほうがいいというような点,特にございましたら,お願いします。 ○菅原委員 今日は先約所用により遅参し,失礼いたしました。前半の御議論を聴いていないので,どの論点が重要で,補足的に申し上げるべきかが分かりかねますが。 ○山下部会長 いや,このペーパーを御覧になってのところでも結構ですが。 ○菅原委員 本日は遅刻することとなりますため,実は部会資料2の前半部分のみ,私のコメントのメモを事前に事務局宛てに送信させていただきました。このうち1点だけ申し上げるとするならば,5ページの「危険品に関する通知義務」に関してでございます。本日どういう御議論が席上あったか存じないまま申し上げて,あるいは全く的外れな意見なのかもしれません。  国際航空貨物運送の荷送人は,航空運送状の記載内容の正確性・完全性につき責任を負い,その不適法・不正確・不備による損害に対して責任を負います。国内航空運送においても,約款上,荷送人の申告に虚偽があり,当該虚偽によって生じた損害については,運送人は免責となることが明記されるのが一般的です。これらはいずれも申告内容に関する荷送人の過失を要件としておりません。  特に危険物の航空輸送は,ひとたび事故が起これば,地上第三者も含めて甚大な被害が発生する可能性があり,人的・物的・経済的損失のみならず社会的影響も甚大となります。こうした航空の特殊性からは,通知義務に違反した場合の荷送人の責任について,無過失責任を負うと規定すべきではないかという点をコメントさせていただきます。 ○山下部会長 ありがとうございます。   それでは,よろしゅうございましょうか。   それでは,御協力いただきまして,ほぼ予定の時間で全体を議論することができました。ありがとうございます。   それでは,最後に次回の議事日程等につきまして,事務当局から説明してもらいます。 ○松井(信)幹事 次回は来月,6月25日水曜日,時間は今日と同じく午後1時半から午後5時半頃までを予定しております。場所もこちら,法務省20階の第1会議室となります。   次回の議題につきましては,専ら海上運送に関する特則と,商法の海商編のうち,初めのほうの船舶,船舶所有者及び船長という部分を考えております。運送法制研究会報告書で申しますと,32ページから43ページ辺りと,72ページから79ページ辺りを考えております。 ○山下部会長 よろしいでしょうか。   それでは,本日の審議はこれで終了といたします。熱心な御議論を頂きまして,ありがとうございました。 -了-