法制審議会 新時代の刑事司法制度特別部会 第28回会議議事録 第1 日 時  平成26年6月23日(月)   自 午後1時34分                         至 午後4時35分 第2 場 所  東京地方検察庁総務部会議室 第3 議 題  時代に即した新たな刑事司法制度の在り方について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○吉川幹事 ただいまから,法制審議会・新時代の刑事司法制度特別部会の第28回会議を開催いたします。 ○本田部会長 本日も,皆様には大変お忙しい中御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   なお,本日は,神津委員におかれましては,所用のため御欠席ということでございます。   本日は,お手元の議事次第のとおり,配布資料の説明の後,「取調べの録音・録画制度」,「犯罪事実の解明による刑の減軽制度,捜査・公判協力型協議・合意制度,刑事免責制度」,「被疑者・被告人の身柄拘束の在り方」についての議論を行うことといたしたいと思います。   それでは,本日の配布資料につきまして,まず事務当局から御説明をお願いします。 ○吉川幹事 御説明します。   資料66は,「事務当局試案」の「改訂版」でございます。これは,先に配布いたしました資料65の「事務当局試案」のうち,「取調べの録音・録画制度」及び「捜査・公判協力型協議・合意制度」について改訂が加えられたものでございます。改訂の内容につきましては,それぞれの事項について議論を行う際に御説明させていただきます。なお,席上には資料66のうち,本日議論を行う事項の部分のみを抜粋したものを配布しております。   資料67は,「身柄拘束に関する判断の在り方についての規定」に関する事務当局作成の「参考案」であり,その内容につきましても,議論に際して御説明いたします。   資料68の「取調べの録音・録画の実施等について」と題する書面は,本月16日に最高検察庁から各高等検察庁及び地方検察庁に対して発出された通知文書でございまして,取調べの録音・録画の試行の拡大等に関する指針等が示されたものでございます。「取調べの録音・録画制度」の議論に当たっての参考資料として配布させていただきました。その内容につきましては,後ほど,上野委員から御説明いただきます。   また,あらかじめ,宮﨑委員と小坂井幹事の連名で1通,小坂井幹事から更に1通,御発言の際の補助資料として,メモの御提出がありましたので,配布させていただきました。   加えて,本日御欠席の神津委員から,御意見を記載したメモの御提出がありましたので,併せて配布させていただきました。   そのほか,本日の議事進行の予定を記載した,「本日の進行予定」と題する書面もお配りしておりますので,御確認ください。   配布資料の御説明は以上でございます。 ○本田部会長 それでは,早速,「取調べの録音・録画制度」について議論を行うこととしたいと思います。「試案」の「改訂版」,つまり資料66の1ページ及び2ページを御覧いただきたいと思います。   まず,改訂された部分の内容とその趣旨につきまして,事務当局から御説明願います。 ○保坂幹事 それでは,御説明をいたします。   「試案」からの変更点は,まず「一1」において,㈠及び㈡としていわゆる裁判員制度対象事件を,㈢としましていわゆる検察官独自捜査制度を,制度の対象事件としたこと,次に,「二」において,制度の施行後における再検討についての記載を加えたこと,この2点でございます。   まず,「一1」の制度の対象事件について御説明をいたします。   「試案」におきましては,裁判員制度対象事件を対象事件とする「A案」と,裁判員制度対象事件に加えて,それ以外の全身柄事件における検察官の取調べも対象に含める「B案」を併記しておりましたところ,当部会におきまして,まず「A案」に対しましては,録音・録画制度が裁判員裁判のためだけの例外的な制度となって,録音・録画が幅広く実施されないおそれがあり,制度の出発点としても不十分であるとの御意見などがあり,他方で,「B案」に対しましては,録音・録画制度の対象とするか否かを取調べの主体によって区別することは法制度としての整合性・合理性に大きな問題があるとの御意見や,現実的に制度の円滑な運用が見込めないとの御意見などがございました。   このような御議論を踏まえますと,当部会においてできる限り意見の集約を図るためには,制度の導入に当たっては,裁判員制度対象事件のほか,法制度としての整合性・合理性を大きく損なわない範囲内で,それ以外の事件を対象とすることが相当であると考えられるところでございます。   そのような観点から検討しました結果,検察官独自捜査事件を対象とするのが適当ではないかと考えたところでございます。検察官独自捜査事件と言いますのは,検察官が,司法警察員からの送致・送付を経ずに,直接告訴・告発等を受け又は自ら認知して捜査を行う事件でございますが,この種の事件では,被疑者の取調べが専ら検察官によって行われるということになりますので,被疑者が異なる捜査機関の取調べによりそれぞれ別個の立場から供述の吟味を受ける機会というものが欠けており,取調べ状況をめぐる争いが生じた場合には,裁判所は,異なる捜査機関に対する供述状況を踏まえて事実認定をするということができないため,送致・送付事件と比較して,取調べ状況に関する事実認定に用いることができる資料に制約があると言えます。また,検察官独自捜査というのは,実際にも取調べ状況をめぐる争いが比較的生じやすい事件であることが明らかになっておりますので,録音・録画制度の対象とする必要性が大きいと考えられるところでございます。   他方で,検察官独自捜査事件を制度の対象といたしますのは,被疑者の取調べが専ら検察官によって行われ,被疑者が異なる捜査機関の取調べを受ける機会がないという事件の特質に基づくものでありまして,取調べを行うのが検察官であるか,司法警察職員であるかという取調べの主体によって区別するものではありません。   したがいまして,司法警察職員も取調べを行う事件におきまして,検察官による取調べと司法警察職員による取調べとを区別して規律するのとは異なり,被疑者の取調べについて検察官と司法警察職員とで権限の面でも証拠能力の面でも同じ取扱いをしている刑訴法の基本的構造と正面から矛盾するという問題は生ぜず,法制的な整合性・合理性が大きく損なわれることはないと考えられます。   そこで,「試案」の「改訂版」におきましては,裁判員制度対象事件のほか,検察官独自捜査を対象として制度を導入する案をお示ししており,それぞれ㈠及び㈡として裁判員制度対象事件,㈢として,検察官独自捜査事件という趣旨で,「司法警察員が送致又は送付した事件以外の事件」と記載しております。なお,この㈢の記載振りにつきましては,今後,法技術的な観点から,更に検討させていただきたいと考えております。   このように検察官独自捜査事件を制度の対象といたしますと,検察官は,いかなる犯罪についても捜査をすることができるとされているため,検察官独自捜査事件であれば,事件の罪名や法定刑の軽重等を問わず,全ての犯罪が録音・録画制度の対象となることになります。   次に,「二」の制度の在り方の再検討について御説明をいたします。   これまでの議論におきまして,新たに導入する録音・録画制度をより適切な制度としていくためには,施行後一定期間が経過した後に,それまでの施行状況を検討し,その結果に基づいて制度の在り方を見直すべきことについては,特に御異論がないように思われます。   そして,対象事件の範囲など,録音・録画制度の在り方について当部会でできる限りの意見の集約を図るためには,まずは,一定の内容で制度を導入することとしつつ,制度の施行後における再検討の機会をあらかじめ確保しておくことが特に重要であり,「試案」にもその旨を具体的に盛り込むのが相当と考えられるところでございます。   そこで,「試案」の「改訂版」におきましては,新たに「二」を設けて,「本制度の在り方については,施行後一定期間が経過した場合において,施行状況について検討を加え,必要があると認めるときは,その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。」という記載をいたしております。   御説明は以上でございます。 ○本田部会長 次に,資料68の最高検察庁の通知文書につきまして,上野委員から御説明いただきます。 ○上野委員 それでは,私の方から,お手元にございます資料68について,若干御説明をさせていただきたいと思います。   第26回部会でも申し上げましたとおり,検察では,検察改革の取組の開始から3年が経過するに当たりまして,これまでの録音・録画の試行状況等につきまして検討を行い,今後の在り方を検討したところ,先般,取調べの録音・録画の範囲を拡大等する方針を決定し,本年10月1日から実施することといたしました。   その概要が,お手元にございます資料68で,本月16日付けで各検察庁宛てに発出した通知文書の抜粋でございますので,それに基づいて御説明いたします。   最高検で,これまでの録音・録画の試行状況につき検討いたしましたところ,一部の事件におきましては供述が得られにくくなるなどの問題点も見受けられましたものの,録音・録画の記録媒体が,検察官にとっての有利・不利を問わず,取調べ状況を客観的に記録した資料として,捜査段階における供述の任意性・信用性の判断に資するなど,適正な裁判を実現する上で,おおむね相応の成果を上げているものと認められました。   そこで,検察といたしましては,これまでの試行の成果を踏まえまして,取調べの録音・録画に更に積極的に取り組むべく,新たな取組を行うことといたしました。   1点目は,お手元にございます資料68の「別添1」に記載しているものでございます。「別添1」に記載されているとおり,これまで録音・録画の試行の対象としてまいりました裁判員制度対象事件や,検察官独自捜査事件などの4つの類型の事件につきまして,「試行」を終了し,本格実施へ移行することといたしました。   2点目は,同じく資料68の「別添2」に記載しているものでございますが,これまで試行の対象としてこなかった事件も,新たに録音・録画の試行の対象とするというもので,具体的には,「第2 試行対象事件」に記載しておりますように,まず,被疑者につきましては,公判請求が見込まれる身柄事件であって,事案の内容や証拠関係等に照らし被疑者の供述が立証上重要であるもの,証拠関係や供述状況等に照らし被疑者の取調べ状況をめぐって争いが生じる可能性があるものなど,被疑者の取調べを録音・録画することが必要であると考えられる事件でございます。   次に,被害者・参考人につきましては,公判請求が見込まれる事件であって,被害者・参考人の供述が立証の中核となることが見込まれるなどの個々の事情により,被疑者・参考人の取調べを録音・録画することが必要であると考えられる事件でございます。   この新たな試行は,「別添2」の「第1 試行の趣旨」に記載されているとおり,「近時の実務において,取調べ状況の立証のために最も適した証拠は取調べを録音・録画した記録媒体であると認識され,捜査段階における供述の任意性・信用性等をめぐって争いが生じた場合に,同記録媒体による的確な立証が求められること等に鑑み,公判立証に責任を負う検察官として,そのような立証ができるようにするため」に行うものでありまして,「第3 留意点」の「1」に書いてございますように,「事案に応じて,取調べの全過程の録音・録画を含め,様々な録音・録画を試みる」ものとしております。   検察官としましては,必要な録音・録画を行わない場合には,取調べ状況の立証のために最も適した証拠を公判に顕出できなくなり,捜査段階における供述の任意性・信用性等をめぐって争いが生じた場合には的確な立証ができないというリスクを負うことになります。新たな試行におきましては,録音・録画を行うか否かの判断は検察官がすることとされていますが,検察官としては,そのようなリスクを負うため,その判断は,検察官の自由な裁量によってなされるものではなく,当該事案の内容,証拠関係,供述状況等に照らして立証に必要な録音・録画をしていくことになると考えております。   新たな試行におきましては,例えば,事件の主たる証拠が被疑者供述であって,被疑者が当初否認している場合のほか,当初から被疑者が自白している場合でも,後に捜査段階の供述の任意性・信用性等をめぐって公判で争いが生じる可能性がある場合などは,試行の対象となると考えられますので,試行対象事件に該当する事件は相当数あると考えております。そのため,録音・録画の規模は相当程度拡大していくものと見込んでおりますし,今後,試行を着実に実施できるよう,必要な体制の整備を進めることとしております。   最後になりますが,その資料の1ページ目の最後のパラグラフに記載がございますが,最高検といたしましては,これらの実施等の実情を把握して随時検討を加え,必要に応じて録音・録画の運用方針の改訂その他の適切な措置を講ずることとしております。   私からの説明は,以上でございます。 ○本田部会長 ありがとうございました。   それでは,議論に入りたいと思いますが,この事項につきましての議論は,一応午後3時までを目処とさせていただきと思います。   上野委員の御説明に対する御質問も含めて,御意見・御質問のある方は,御発言をお願いいたしたいと思います。なお,議事は区切りませんので,どの論点に関する御発言でも結構でございます。 ○大久保委員 この取調べの録音・録画制度につきましては,やはり,被害者は依然として強い懸念を持っておりますので,発言をさせていただきたいと思います。   部会当初から発言し続けていますように,虚偽供述に対する罰則がない現状では,被害者の名誉やプライバシーが害されるのみならず,捜査側も犯罪者側も,録音・録画を意識して通り一遍の追及とそれに対する供述だけになってしまって,事件の真相に迫ることができずに,事案の解明が困難になるのではないかというような危機感を感じております。   また,特に性犯罪被害者の名誉が不当に害される懸念も更に大きいのですけれども,残念ながら,この「試案」では,そのようなおそれがある場合が例外事由とはされていないどころか,「試案」には,度々被疑者・被告人という文言は幾つも並んでいますけれども,被害者という文言はどこを見ても見当たりません。   私は,第27回の部会で,性犯罪被害が弁護人の圧力によって告訴や被害届を取り下げたという例をお話しさせていただきましたが,今後は,その弁護人だけではなくて,犯罪者本人からも,被害届を出したり告訴をしたりしたら,録音・録画制度が今はあるのだから,お前の名誉やプライバシーを暴く内容が外に出ることになるぞなどと脅されるような材料ができて,被害者は泣き寝入りをせざるを得なくなるような事案が出てくるのではないかということで恐怖を感じるということもあります。   被害届も出せずに,善良な市民が沈黙をせざるを得ないことになって,その結果,犯罪者が野放しになる治安の悪化した社会を,国民は決して望んではいません。私は,また一被害者として,同じような被害者・遺族を出さないためにも,そのような社会を次世代に送るということはできません。   ですから,制度を導入するにしましても,対象事件は限定的なものにするべきだと考えますし,被害者の精神的な苦悩に対するケア,録音・録画の記録媒体の再生方法,開示制限や出口規制などは,運用だけではなくて,条文上も明記をするということが不可欠だと考えます。そうでなければバランスの取れた制度とは言えないと思いますので,よろしくお願いいたします。 ○宮﨑委員 6月23日付で私と小坂井幹事との共同提案ということで,「『取調べの録音・録画制度』の対象事件について」というメモを出させていただいております。これについてまず私から概要を御説明させていただき,あと小坂井幹事から補足をしていただくということで紹介・提案をさせていただきたいと存じます。   3月7日の特別部会で5名の有識者委員から取りまとめに向けての意見が提出され,そこで段階的実施の方法として裁判員対象事件については取調べの全過程の録音・録画を行うこととし,これに加えて,その他の全ての事件も検察官の取調べについては全過程の録音・録画を行うことからスタートするとの提案がなされました。   前回の特別部会で5名の有識者委員から取りまとめに向けての再意見が提出され,「事務当局試案」の「B案」について法的な不整合を指摘する声に対して,法的整合性のある,かつ,新しい時代の刑事司法制度の第一歩としてふさわしいものがあれば賛同するので,専門家の建設的な提案が呼び掛けられました。   今回,私どもは,この呼び掛けを受けまして,裁判員裁判を中心とする現行事務当局案の範囲は今回加えられた検察の独自捜査事件を加えてもなお余りに狭く,このような状況で可視化の法制度をスタートさせるわけにはいかないという考えから,取りまとめに向けて,今回,「甲案」,「乙案」の2案を提案させていただくものであります。   「甲案」提案の趣旨は,先ほど申し上げましたこの部会で有識者委員の意見を中心とする「事務当局試案」の「B案」に法的不整合を指摘する意見がありましたが,しかし,そもそも有識者の提案は,「事務当局試案」の「B案」と少し異なり,軽微事件を除く全ての事件で録音・録画がされるべきという原則を明らかにした上で,警察の取調べについては,その対応体制の整備状況を踏まえ,当分の間裁判員制度対象事件に限るという趣旨であったと思われます。「甲案」の①,②は,その趣旨を明確にするものであります。   あわせて以前この部会で検察の取調べだけが録音・録画の対象となる間,それぞれの取調べによって得られた供述について立証制限との関係で大きな違いが出てくることを指摘する意見がありました。そこで,「甲案」③,④のように警察の対応体制が整備されるまでの暫定的な期間,警察で作成された供述調書と検察で作成された供述調書の取扱いに大きな違いが生じないようにするため,当分の間は記録媒体の取調べ請求義務を規定せず,警察の対象犯罪拡大と併せて見直すものであるということを提案いたします。   もちろん,検察官の取調べの録音・録画を先行する有識者委員の御提案は,取調べの録音・録画の対応体制について検察が大きく先行していることのほか,公訴権を有する検察官の取調べの内容は公訴提起という処分に直接結び付きやすいこと,公判を遂行する法律家である検察官の取調べで作成される供述調書は公判の証拠となる割合が高いことなどに照らしても合理的な制限であると考えていることも付言いたします。   次に,新しい「乙案」でございますが,今回可視化の範囲をできるだけ拡大し,新時代にふさわしい取りまとめを実現するために新しく提案するものです。有識者委員も述べているように,取調べの可視化の制度は一部特殊事件に矮小化されるべきではありません。そこで,「乙案」①のように,少なくとも法定合議事件と同じ法定刑の水準の事件から録音・録画の義務化をスタートすることを提案するものです。司法統計によると,法定合議事件は第一審公判の4.2%であり,これに法定合議事件から除外されている強盗の罪を加えても約5.1%であって,その取調べの全過程の録音・録画を義務付けることが捜査機関にとって過大な負担になるとは考えられません。   他方,不適正な取調べを防止する必要性は一部の事件で限られるものではありません。そこで,「乙案」②のように,当面義務化の対象とされない事件についても,公判で供述の任意性・信用性が問題となり得る事件を中心に,録音・録画の努力義務を定めることを提案いたします。   そして,④のように義務化されていない罪種であっても,検察官は公判で取調べ状況を立証するときはできる限り当該取調べの記録媒体で立証しなければならないものとすることにより,捜査段階供述を公判で証拠とすることが見込まれる被疑者等の取調べを録音・録画することを間接的に促し,取調べ可視化の取組を担保することを提案いたします。   刑事訴訟法規則の198条の4に,取調べ状況に関する立証についての規定がありますが,今回取調べの録音・録画を導入するに当たり,当該取調べを録音・録画した記録媒体が取調べ状況のベストエビデンスであることを法律上明らかにするべきだと思います。   そして,双方の運用状況を検証するため,施行後3年後に義務化の対象事件を拡大することを提案している次第であります。 ○小坂井幹事 宮﨑委員の今の御意見に補足する形で我々の提案する趣旨を御説明いたします。ただ,この「甲案」,「乙案」で例外事由という言葉が入っておりますけれども,これは現在の「事務当局試案」の例外事由を自明の前提としているものでは全くございません。ですので,例外事由という更なる大きな論点についてはまた後でと言いますかお話しさせていただきたいと思います。   それで,今,宮﨑委員がおっしゃったとおり,この「甲案」ですけれども,有識者5名の方々の意向に沿う形で考えてみるとこういう形になるのではないのかという,それをお示ししているわけです。今回示されました「事務当局試案」の「改訂版」といったものは,やはり前回有識者5名の方々がお示しいただいた意向や基準には達しているとは言えない。神津委員も今日のペーパーで説明されておりますけれども,そういうものだと思います。将来的な全事件という可視化の方向性に向けた道筋が一定程度明確にされるべきであるという基準がまず満たされておりません。相当程度の規模というか,私は事務当局「改訂版」を全く評価しないとは申しませんけれども,しかしながら独自捜査がいかにも小さい。いかにも小さ過ぎる。年間せいぜい100件ちょっとかそれほどのもので,恐らく全体の約0.1%というレベルだと思われますけれども,これを付加することによって相当程度の規模とか道筋をつけるということにはなかなかならない。また,見直し規定もちょっと不十分ではないかと,こういうことになろうかと思います。   独自捜査事件は更に対象が捜査機関側の都合で左右されるといった要素もないわけではございませんし,やはりこれだけをプラスして本部会のミッションが達成されたとはちょっと思えない。ですので,恐縮ながら,事務当局には更なる努力をしていただいて,本部会のミッションを全うするような形で取りまとめをしていただきたいと考えております。   それで,宮﨑委員が御説明になったとおり,実効性担保という問題が,やはりその整合性,耐え難い不整合という言葉も出たわけですけれども,実効性担保規定を休眠させるという「甲案」の形でいきますと,やはり耐え難い不整合と言われるまでの事態は生じないであろう。私自身前々回も申しましたとおり,宮﨑委員も少しおっしゃいましたが,客観義務を負う検察官が進んで範を示すこと自体はこれは当然のことであります。ですから,義務付け如何が検察官と警察官とで差異を生じる場面があるからといって耐え難い不整合とまでは言えないだろうと思います。   また,322条という規定が一つの問題になってくるところはあるわけですけれども,これは何も検察の調書,警察の調書だけを対象にしている規定ではございませんので,この両者だけでの差異を論じるということが必ずしも問題になるというわけではないように思います。   それで,暫定的な過程と見ることによって不整合というものは気にならないと,私はそういうことを前々回申し上げたわけですが,それは全事件をエンドとする小坂井固有のビジョンではないかという趣旨の御意見もあったわけです。けれども,この特別部会の議論をこの間ずっと聞いておりまして,拡大の方向性自体はおおむね大方の同意はそれなりにあるのではないか。例えば,前々回露木幹事は拡大の方向性に否定的意見を述べられたことは私も承知しております。しかしながら,警察の方も原則と例外は違えないという趣旨の御発言もあったわけでありますし,もちろんその発言自体は裁判員裁判内部のことという位置付けなのだという御説明になるのかもしれませんけれども,しかしながら警察におかれましても裁判員制度対象事件以外でも知的障害など可視化の運用を進めておられる。このことは間違いないわけです。可視化の有用性が裁判員制度対象事件に限定されるものではないということは十分に御認識いただいているものだと思います。   2012年春の高度化プログラムでしたか,それ以降警察におかれても努力されているとは思うのです。例えば2012年12月だったかと思いますけれども,警察におかれては取調べ教本基礎編といったものも作成され,これは現在活用されているとお聞きしたりするわけでありまして,実は取調べ技術の向上にも努力はされているように見受けられます。こういった技術向上は可視化を有用な手段として行われているものだと認識しております。   そういう御姿勢をなぜもっと広く宣伝されないのかがちょっと私は必ずしもよく分からないところがあるのです。捜査機関の側にとって今回の検察の依命通知もそうだと思いますけれども,自らの高潔性を示すということは極めて重要な問題で,警察におかれても,時間幅や変化の度合いについてはあるいは意見の差異はあるのやもしれませんけれども,少なくとも可視化の範囲をここで打ち止めにするような発想はないのではないか。本部会の皆さんの御姿勢としてもそういった姿勢はほとんどないのではないかと思います。   制度の在り方と運用をも含めつつ,その実情と言いますかこういったものを定期的に検証する必要があります。   先ほど上野委員から依命通知に関する運用の御説明がございましたけれども,やはり運用は上野委員の御説明の中でも出てきましたとおり,個別の裁量になる,取調官次第になりかねないと,こういうものであります。表現を見させていただいても,全過程を含むとは書いてありますが,全過程原則はうたわれてはおりません。在宅被疑者取調べも対象外とされているように見受けられます。それぞれ試行はされていくのでしょうけれども,しかしながら,やはり可視化の制度と,制度そのものが確立され,更に運用がえん罪防止システムとして本当に確立されて機能していくのかどうかを検証していく必要があるだろうと考えております。   「乙案」についてなのですけれども,これは法定合議プラスアルファとこういうことなわけですね。それで先ほど宮﨑委員がお話になったとおり,なんとか5%レベルですので相当規模というところはクリアしている。それで,やはり重たい事件は重たい事件なりに取調べが不適正であった場合の問題が非常に大きいわけです。ですので,そういった意味で適正化を図っていくのはやはり一種のグラデーションというと何ですけれども,そういう意味でこの法定合議プラスアルファから開始するというのは当然一定の合理性があるだろうと考えております。   他方で,裁判員裁判に限定するという形は,私が前々回申し上げましたとおり,今実務で進行しているのは裁判員裁判とそれ以外のダブルスタンダードの問題というのがある。これはなかなか大きな問題になりつつあると私としては考えております。裁判所がどうお考えなのか,検察官がどうお考えなのか,厳密にはまだ議論させていただいておりません。また,あるいは研究者の方にはなかなか伝わらないところかと思います。が,このダブルスタンダードを更に招くような措置というのは当然避けるべきであると,こういうふうに考えられます。   そこで,「乙案」的な考え方はやはり有用性という観点で,有用なものについてはこれは当然可視化をしていく。その過程として,義務化するものはきっちり義務化するけれども,更に2項としていわゆる努力義務の規定を設けることが必要ではないか。これは有用性には幾つかの観点がありまして,もちろん任意性・信用性という問題が一つの中心をなすし,それが見込まれるものは今回の依命通知のようにやっていくとこういうことにもなるでしょうし,あるいは,既に今運用されております知的障害,あるいは,供述弱者グループ,こういったものに関しては当然有用性が高い,必要性が高いということで有用性の高いものから努力義務を課していくということはこれは当然あり得る規定だと思います。   かつて「第2案」というものがありまして,警察から出されたものですが,これについても一定の範囲のものは義務化するけれども,それ以外のものについては努力義務を置くと,なっていました。こういう規定というのはこれは当然あり得る規定であります。例えば,労働法の分野などはどうもこういう規定が比較的多くて,きっちり強行規定にするものとその周辺と言いますかその外側には努力義務規定を置いて,訓示規定として機能しているものもあれば,規制を一定期間猶予するものとして機能するものもあるということで,それほど珍しい形の立法ではないと思われます。ですので,こういうものを是非置くべきだと思います。   そして,「乙案」の機能としてもう1点ですが,4項ですね,規則198条の4と言いますものは今も現在既に存在しています。そして,しばしば実務でも私などはよく使わせていただいているのですが,まだ裁判例として明確に出てきているものは見当たらないのかもしれません。が,この規定は間違いなく今回いわゆる録音・録画が制度化された段階で何らかの書き直しが必要になってくるということは当然だろうと思われます。これは新たな時代に合わせるべく,こういう規定を置いて正に検察官の側において取調べ状況が問題になったらそういう立証をしていくと,そういうものを設けることが重要になってくるのではないかと考えております。   例外事由についても併せてしゃべってよろしいですか。 ○本田部会長 できるだけ簡潔にお願いいたします。 ○小坂井幹事 いわゆる例外事由問題です。ずっと繰り返し述べてきました。前々回ですか,ペーパーも出させていただきました。けれども,今回「事務当局試案」の「改訂版」で全然訂正されておりません。小坂井の意見はしばらく無視すればとお思いなのかもしれないなと思ってみたりするわけですが,例えば前々回龍岡委員がこの例外事由についてはもっと絞るべきではないかという意見をおっしゃって,これが採用されていないのがちょっと私としてはよく理解できないなと,こういうところがございます。   いわゆる例外事由の㈠は取りあえず置いておきまして,㈡なのですけれども,これはやはり,このままで良いのかどうか。つまり,拒絶といったものを独立要件として,それとの因果関係があって初めて本人の意思が録画がないときのみ話しますということが明確であった場合に例外にする,そう明記しないと,そういった拒絶以外のものが無前提に取り込まれる危険がちょっとあるのではないかと思います。   よく黙秘は入らないのだよというような,黙秘はこの例外にはしないのだよというようなことが言われるのです。けれども,では否認はどうなのか。合理的な否認か不合理な否認かなどで区別をつけるのか,曖昧な供述をふにゃふにゃとしてる人の場合どうなのか。これはやはり全て捜査機関側の裁量によってパカッと広げられていくという危険をまだまだ内包していると思われます。   今回FBIの,これは飽くまでも仮訳ですけれども,しかし,このFBIの例外事由はこの拒絶に関しての定め方が極めて明確です。多義を許さないものになっております。こういうことを参考にして本人の拒絶に関する例外事由は規定すべきなのではないか。   併せてFBIに関して若干申し上げておきますと,我々がワシントンD.C.を視察したときにまだFBIは可視化については裁量で5割も満たないですかねというようなそういうお話だったと思うのです。ただ,時間の問題で全過程義務化に踏み込まれるのかなという印象も全くなかったわけではないですけれども,なかなかFBIもしぶといと言うとちょっと言葉がよくないですが,そういう状態だった。それが,今回,司法省副長官のメモという形で,指針と言えば指針でしょうけれども,全過程録画を義務付ける形にした。もちろん例外というのはございますけれども,そういう形で踏み込んだということはやはり我々にとっても強く認識すべきことなのではないかと思っています。   いずれにしましても,㈡の例外事由についてはそういう問題をクリアする必要があるだろうと思います。   ㈢についてなのですけれども,これも繰返し提案させていただいているのですけれども,まだ例えば困惑という文字が残っています。これは取るべきですよね。なぜなら,これは独立要件としての限定が余りにも弱過ぎまして,こういったものが残っていますと,これは捜査機関側にとっていくらでも拡張していくことが可能だという例外事由になってしまいかねないからであります。   ㈣についても前々回私は申し上げました。この問題については露木幹事に資料を送らせていただいたりもいたしました。余談めきますけれども,20年前我々が可視化を刑事司法改革の最優先課題なのだと考えましたときに,全過程,全事件をイメージしつつ,可視化の必要性・有用性が高いのは特捜事件と四課事件だろうと,こういうふうに考えていたこと自体は紛れもない事実であります。不適正取調べのやはり温床でもありますし,不合理な区別になりかねない。これは事実ですので,㈣についても当然見直していただきたい。   そして併せて,例外事由疎明のプロセスをどうするのか,㈡については恐らくはそこまではきっちり録画するという大前提だと思われますけれども,㈢はそこはちょっとよく分からない。そういった意味では繰り返し申し上げておりますとおり,本人の意思をかませることによってやはりこの例外事由を明確にしていく必要があるだろうと思います。   取りあえず以上です。 ○露木幹事 今,小坂井幹事から何度か私の名前を引き合いにされましたので,全部に反論を申し上げる時間はないかもしれませんが,少しだけ申し上げたいと思います。   取調べの録音・録画が自白の任意性・信用性の立証に資するという利点があるということは私どもも理解しております。ただ,その一方で取調べに制約を課して事案の真相解明に支障を来すおそれがあるという問題点もあるということは,これはもうかねがね申し上げているとおりでありますし,今日も冒頭に大久保委員から性犯罪を取り上げて問題の指摘がございましたが,そういった問題点が今日再提示されました「試案」にもまだ残っているのではないかとも思っております。そういう観点から見ると,録音・録画の範囲というのは,真に必要かつ合理的な範囲に限って導入されるべきであると考えます。   そういたしますと,公判請求率や自白の任意性が争われる頻度,あるいは,録音・録画に要するコストといったようなことを勘案いたしますと,警察の取調べに関しては,裁判員裁判事件を対象とするということが合理的な範囲であると考えます。   したがって,抽象的な全事件・全過程といったスローガン的なものを根拠として例えば法定合議事件から段階的実施をスタートすべきであるというのがこの「乙案」なのでしょうが,こういう考え方には,私どもは到底賛同できないという立場でございます。   こういう対象事件がどんどん拡大するかのような考え方に従って録音・録画の義務付け,この制度を導入するという前提であれば,私どもとしてはかねてから主張しておりました「第2」の制度案,すなわち,逮捕後の弁解録取と供述調書の読み聞かせの部分を裁判員制度対象事件に限って義務付けをして,その余の部分については努力義務とするという案にやはり立ち返るべきではないのかとも思う次第でございます。 ○保坂幹事 対象事件につきまして,先ほど宮﨑委員と小坂井幹事から御提案があったものにつきまして,「試案」を作成し,あるいは,今後法律案を作成する事務当局の立場といたしまして,法制度的な整合性・合理性の観点から見た場合に,いずれも法制度化は困難であると考えておりますので,若干御説明をさせていただきたいと思っております。   まず,「甲案」についてでございます。「甲案」と言いますのは,先ほど御説明があったとおり,録音・録画義務の対象事件というものを,①と②によりまして,検察官の取調べについてはほぼ全事件,司法警察職員の取調べについては当分の間,裁判員制度対象事件としているものでございます。   しかしながら,前回の部会でも御指摘ございましたように,刑事訴訟法におきまして,被疑者の取調べについて,検察官と司法警察職員とで,取調べの権限の面におきましても供述調書の証拠能力の面におきましても,同じ取扱いをしているということでございますので,同一事件について検察官の取調べと司法警察職員の取調べで異なる取扱いをするということは,仮に録音・録画記録の証拠調べ請求義務を設けないということでありましても,やはり法的整合性を損なうということになるのだろうと考えておるところでございます。   すなわち,録音・録画義務について検察官と司法警察職員という主体で区別をするということになりますと,同じ事件におきまして,検察官が例外事由なく録音・録画をしないで取調べをするということは法的に禁止されるということになるわけでございますが,司法警察職員の取調べは何ら規制はされないということになりますので,やはり整合性を欠くということにならざるを得ないだろうと考えられます。   もう一つ,「乙案」の方でございますが,「乙案」と言いますのは,一定の対象事件に限定をして,①,③とで,録音・録画義務あるいは証拠調べ請求義務を設けて,それ以外の事件につきましても,②で,捜査機関に対して被疑者・参考人の取調べの録音・録画を努力義務として課すこととされ,④として,検察官による取調べ状況の立証方法を録音・録画記録等の客観的資料に限定するとされているところでございます。   まず,この④の規定におきましては,「できる限り」という留保は付されておりますけれども,録音・録画等により立証しなければならないとされておりまして,御提案の趣旨が下の欄に書いてある,「取調べ側の恣意性が入り込まない可視化の取り組みが担保される『仕組み』を実現する」ためであるということも併せ考えますと,どのような場合にこの義務を負うのかということの解釈におきましては,同時に定められることになる録音・録画記録の証拠調べ請求義務とその適用除外事由というものが参照されることになりますので,結局のところ,対象事件以外の事件につきましても,検察官が適用除外事由に該当しないのに録音・録画記録を証拠調べ請求しないということになりますと,できる限り立証したことにならなくて,④の規定に違反したということになるのではないかと思われます。つまり,④の規定と言いますのは,実質的には,対象事件以外の事件についても,録音・録画記録の証拠調べ請求を義務付ける趣旨のものと言わざるを得ないと思われますし,いずれにしましても,少なくとも,実際上は,対象事件以外の事件についても,録音・録画記録を証拠調べ請求することを義務付けるという効果を持つことになると思われますので,結局,対象事件を限定するという前提と整合しないものになると考えられるところでございます。   この点につきましては,②の努力義務につきましても同様の問題があると考えておるところでございます。 ○小坂井幹事 今保坂幹事の御説明に対し若干申し上げておきたい。「乙案」の④ですが,これ正に規則198条の4をベースにしているということでお話ししたのですけれども,したがって,ちょっとそういうことにはならないのではないかと思うのです。つまり,義務化されているものについては,これはもうなければ却下するのだというこういうストレートな一義的な効果が生じるとこういう規定ですよね。これに対して,立証努力義務の方は,これは例えば321条1項2号書面などのことも考えていただいたら良いと思うのですけれども,飽くまでもできる限り記録媒体による立証の努力を求めているとこういうものです。ですので,別に記録媒体がないからといって直ちに調書の証拠能力を否定するという関係に立っていないことは明らかで,これは現在は規則ですからということもありますけれども,規則198条の4の運用を見ていただいてもお分かりいただけることです。ですから,そういうような説明で整合性がないと言われるのはおかしいのではないかと思います。この二つの規定は全然矛盾,抵触しないということを申し上げておきたいと思います。   それと,「甲案」関係でも若干申し上げられたことなのですけれども,322条の規定自体が誰が聞き取るかによって区別するというシステムになっていないので,そういう意味で言いますと,それこそ警察と検察が両方義務を負う時代になっても,なおかつ整合していないと言い出せば整合していないところはあるわけなので,保坂幹事の御指摘は当たらないのではないのかなと,こういうふうに思っております。 ○香川幹事 先ほど刑訴規則のお話が出ましたので,最高裁としてちょっと御指摘しておきたいことがあります。今の論争のどちらかに肩入れするという趣旨ではございませんので,そこは御理解いただければと思います。   先ほど来お話の出ております刑訴規則198条の4でございますけれども,この規定自体,最後の文言は,迅速かつ的確な立証に努めなければならないと書いてありまして,今,小坂井幹事の御発言をそのまま聞きますと,立証しなければならないという文言が規則にあるかのように聞こえたわけでございますけれども,そこはそうではございませんで,努力義務であって,その努力の内容は迅速かつ的確な立証ということになっているという事実だけ御指摘させていただきたいと思います。 ○井上委員 この宮﨑・小坂井案についてですけれども,小坂井幹事が,保坂幹事の説明について,322条を引用されて,必ずしも整合性がとれないわけではないと説明されましたが,ちょっと論点がズレているような気がします。保坂幹事は,取調べ権限との関係で説明されたと思われ,これは前回酒巻委員からも御指摘があったとおりであって,私もそこのところは同感です。今回の「甲案」は,あたかもそのときの議論が最終的な立証制限との関係での不整合のみを不整合と指摘されていたかのような前提に立って出てきていると思いますが,それは誤解であり,不整合さの中でも際立つのが立証制限の有無の点だということに過ぎなかったはずです。   その不整合さが際立つ立証制限の有無との関係に関する限りでは,「甲案」で繕われているかのように見えますが,その点の不整合を繕うために,別の不整合を生じさせている。つまり,裁判員制度対象事件の取調べについては,検察官と司法警察職員の双方に録音・録画義務を課している一方で,その他の事件については,検察官の取調べについては録音・録画義務を課しながら,司法警察職員の取調べには録音・録画義務を課していないという,この二つのグループの間の取扱いの違いについて合理的な説明がつくかというと,つかないのではないかということです。   将来拡大していくための取りあえず差し当たっての一過程だからということなのでしょうが,それで本当に説明がつくのか。仮にともかく発足する段階のものだとしても,それ自体として,やはり合理的なものでないといけないと思うのです。   ですから,この甲案は,前の案から生ずる不整合を見かけ上繕うためだけの小手先の弥縫策のように映るのです。これでは十分な回答にはなっていないと私は思います。 ○小野委員 この「乙案」の方なのですけれども,現在「事務当局試案」では裁判員制度対象事件と独自捜査事件となっており,その裁判員制度対象事件を対象とすることに特別の根拠があるわけでもないですね。任意性・信用性の立証ということで言うと,供述調書を証拠採用するかしないかというのは裁判官が行うと裁判員法上なっているわけですから,そういうことで言うと裁判員が確かに入っていると,また現実には裁判員の意見も聞きながらその辺は判断するという運用をやっているわけですから,その辺の違いはもちろんあるでしょうけれども,だからといって裁判員制度対象事件だけがこの対象になるのではなく,証拠採否の関係で考えれば一般の裁判官裁判事件であっても何らおかしくない。   今回出された法定合議事件,仮に全件の4~5%とすると,勾留全件10万件として,4,000~5,000件という対象になる。私たちとしてはこれで足りるわけでは全然ないと思いますけれども,第一段階としては,それなりの対象,しかも重要な事件とされている法定合議とされていると,こういう事件を対象にするということには意味があるのではないだろうかと考えております。   もちろん,義務化する対象,その周辺部分,その周りの部分について,これを努力義務とすると,このこと自体はこれからの推移によってその辺が変わっていくという意味ではよろしいのではないかと考えています。立証というこの案の④についても,特段そこのことで問題がない。先ほど規則198条の4の関係で迅速かつ的確な立証に努めるものという努力義務だという御指摘もありましたが,それはそれで構わないだろうと思いますので,その辺の問題が特にこれでは不整合だと,問題があるということにはならないのだろうと考えます。   このやはりいかにも検察独自捜査100件か110件かちょっとよく分かりませんけれども,いかにも少な過ぎるということで,もう少し対象をそれなりに広げる。それによって取調べの適正化,さらには任意性立証の在り方ということを変えていくということは必要なのではないだろうかなと思います。 ○周防委員 まず,事務当局及び宮﨑委員,小坂井幹事には,私たち5人の意見書を受けて具体的な提案をしていただいたことに対して心より感謝します。ありがとうございました。それぞれの提案というものを自分なりに読んで考えましたので,まず「事務当局試案」について意見を述べさせていただきます。   「事務当局試案」は,対象事件を裁判員制度対象事件だけに限るのではなく,新たに検察独自捜査事件を加えてその範囲を広げたとそういうことになると思いますが,神津委員が今日お出しになっている書面にもありますように,独自捜査事件は身柄事件で年間100件余りということで,裁判員制度対象事件と併せても,録音・録画を義務付けられる対象事件は全体の2~3%,すなわち義務付けられない事件が全体の97~98%という実態は変わりません。そういうことなので,私たちが意見書で述べましたように,相当程度の規模を持つものということからすると,余りにも少ないのではないのか。   それともう一つ,これは僕がよく分かっていないのかもしれないのですが,検察独自捜査事件というくくり方は,すごく素人から見て曖昧な感じがするのですね。要するに検察官の都合によって独自になるのかならないのかということも決まってくるのではないのかなと思います。つまり,検察官がそこで恣意的な判断をして録音・録画対象事件になったりならなかったりするのではないか,独自捜査事件であっても,場合によっては独自捜査事件にせずに,一部警察と一緒にやりますみたいなことが起こらないのかなと思って,ちょっと何だかよく分からないというかすっきりしない感じがします。   また,多分最高検察庁の録音・録画の拡大という方針がこの時期発表されたので,運用で広げていきましょうというそういうことをお考えなのかもしれませんが,最高検の依命通知もこれも読んでみると,録音・録画の対象事件は,要するに検察官が録音・録画すべき必要性を認めた事件について録音・録画して,その上様々な録音・録画を試みるという,この様々とは何だろうとやはり思わずにはおれません。必ずしも全過程の録音・録画ではないのだなと,全過程の録音・録画をするわけではないのですよと言われたような気がします。検察官の判断で録音・録画を行ったり行わなかったりするということなので,これも神津委員も意見書で述べていますけれども,取調べ側の恣意性が入りこまない可視化の取組が担保される仕組みとは到底言えないものなので,この依命通知とこの会議の議論はちょっと違うかなと思います。   もちろん,最高検が参考人まで視野に入れて録音・録画の必要性を感じてらっしゃるということは,大歓迎という感じなのですが,是非多くの事件で参考人も含めた全過程の録音・録画を進めていただきたい,そう思います。   ここで話し合われているのは飽くまでも法制化ということなので,私としては,やはり警察・検察に全過程での録音・録画をしていくためにここで一つ決断をしていただきたいなと思っています。   また,宮﨑委員,小坂井幹事からの提案についても述べさせてもらいます。まず,対象事件の範囲ですけれども,法定合議事件ということで対象事件の範囲を広げてくださったのですが,ちょっと数字を見て,要するに第一審公判の4~5%ぐらい,そういうことだと思うのですけれども,やはりそれでも余りにも少ないのではないかと思いました。ただ,ここまで会議で話し合ってきて,警察・検察関係者の方が対象事件が余りに多いとコストや人員の面で無理があるというふうなことでかなり強くおっしゃられたので,逆に裁判員裁判の約倍ですかね,だったら多過ぎない数として,警察・検察関係者の方の同意を得てまとめるには現実的な数字ではないかと思います。   というわけで,法定合議事件から警察・検察ともスタートするという案は本当に検討していただきたい。是非そういうことの可能性は探っていただきたいと思います。   あと,先ほどから問題になっている②と④なのですけれども,まず②の録音・録画の努力義務については,本来全事件で録音・録画がなされるべきだというふうに考えていますので,法律で今すぐそういうことが決められないということであれば,こういう努力義務は是非課していただきたい。法定合議事件からとしても,実は私が一番心配している,軽微な事件が入らないというこのどうしようもない現実を,この努力義務を入れることで,実は軽微な事件も視野に入れた録音・録画制度であるということを示すことになるのではないか。これは私たちの意見書に出てますけれども,録音・録画の対象事件が将来拡大されていく道筋を示すものにつながるものではないかと思いまして,非常に僕は良い考え方だなと思いました。   ④も先ほどから言われていますが,ちょっと専門家の方のおっしゃることを真に理解しているかどうか分からないのですが,非常に真っ当なことを普通に言っているので,調書の任意性・信用性判断においてできる限り取調べを録音・録画した記録媒体やその他の客観的資料により立証しなければならないというのは,正にそういうものだろうと思いますので,公判での無用な争いをなくすということにもつながっていくと思いますので,是非これも入れてほしいなと思いました。   本当はもうちょっと詳しく述べたいのですが,余り今日は時間もないようなのですけれども,ここまで述べてきたように,私は,この部会の録音・録画に対する結論を考えたときに,やはり神津委員もおっしゃっていますけれども,今,御提示されている「事務当局試案」より宮﨑委員,小坂井幹事から出された「乙案」の方が非常にふさわしいものではないかとやはり思いました。 ○但木委員 宮﨑委員,小坂井幹事の御提案,それから周防委員の御意見,それはそれなりに一つのお立場,あるいは,小野委員の御意見もそうだと思います。それが一つのお立場からの御意見であることは分かりますし,それがおかしいなどと言うつもりは全くありません。   ただ,やはりこの段階でどうかなと正直言って思っております。別にこの段階なんていうものはないではないかと言われればそうなのですけれども,ただ,みんなが一つの意見にまとめようとして,5人の有識者の方が2回に渡って出されたものを様々な立場から検討した上で,今,皆さんそれぞれが大体の帰着点に立つようになっているわけです。裁判員制度対象事件という一つの区切りに対しては,小野委員が言われるようにそれが絶対ではないだろうと,それはそうなのですが,やはり,裁判官は,職業であって,この人たちが任意性の判断のために何年かけることもできるだろうけれども,裁判員の人たちにそんな負担をかけて良いのかというと,やはり裁判員の人にはできるだけ迅速にかつ明快に判断できるようなものにしてあげなければいけない。確かに法理論の上では,任意性の判断は裁判官ではないかと言いますけれども,その任意性について何の説明もなくこれは任意性があるのだよということで裁判員裁判体が成り立つかといえばそうはいかないだろう。やはり任意性,そして信用性の問題になると,裁判員の方が入ってくる。そうすると,その二つは不即不離の関係にあって,説明をせざるを得ないわけで,その説明責任を持つのは裁判官になります。裁判官の負担というのを考えた場合に,やはり,裁判員裁判というのは,一つの大きな区切りなのであります。そういう意味で,警察が裁判員裁判については義務化結構だと踏み切ってくれたことは,やはり,この会議がまとまっていく方向での非常に大きな一つの決断であったと思うのですよね。それをまたここで,もう一つ先はどうだ,あるいは,もっと先はどうだ,そこまで見越した制度として作らなければならないのだとなった場合に,この議論を初めからもう一度始めるおつもりなのかと思います。   もう一つは,その一つ一つの内容が一体どこに溶け込ませてどういう制度として制度化していくか,もう一度分科会をやってくれという話ですよね。分科会からいろいろなものが出てきて,本会議で何回も議論をやってここまできたのに,もう一度分科会へ戻して議論をやれということは,今の段階の話ではないのではないか。御意見があるのはよく分かりましたが,今日の事務当局案には,今後の実務をちゃんと見て変えるものは変えていきますよということが既に一番最後に付け加わっているわけですよね。皆さんの御提案というのは,それが1年経ち,2年経ち,3年経ったときに,皆さん方が思ってる方向でないのならば,それはその段階でお直しになればよいことではないかということです。   皆さんは,検察の独自捜査というのはたかだか100件単位の話ではないかとおっしゃるけれども,やはり,検察の独自捜査というのは,それなりに社会的反響が大きい事件が多いのですよね。だから,それの持っている量掛ける質を考えれば,かなりの重さのものがこの中に入ってきます。しかも,321条1項2号書面を出さなければならないことが予想されるときはちゃんと録音・録画しておきなさいよということは,それをもって立証しなさいよということを言っているわけですよね。それは何も検察の独自捜査に限った話ではなくて,皆さんが何度も指摘されたITの事件にしても何にしても,あるいは,周防委員のあの映画のような事件にしても,やがて公判で争いになるような事件は,検察官が争いがあると思ったら初めから録音・録画しろということを依命通知でやるわけです。依命通知というのは命令ですからね,この命令に反することはできないのですよね。もし命令に反したとしたら,その人の判断が間違えたという話で,それは検察官としての資質あるいは能力,そういうものが現場で問われるということですよね。それはまた必ず裁判に反映するだろう。つまり,そういう事件では,争いがあって調書を出さなければならない,それが参考人であろうと被疑者であろうと,その場合には,やはり,録音・録画がなされているかなされていないかというのはかなり大きな重みを持ってくることは間違いない。最高検の依命通知が出ているわけですから,依命通知に反して何で録らなかったのかということはすごい大きな影響を与えるのは間違いないのですね。   そういう意味で,私は,周防委員をはじめとして5人の方々が前回「仕組み」ということを言っていただいたような気がするのですよ。私は,少なくとも最高検の依命通知が出るということになれば,これは正に一つの「仕組み」として機能するものではないかと思っております。   したがって,皆さん方が,日弁連の方々も,それから5人の有識者の方々もお望みになったことは,少なくとも姿勢としてその通知に全部入れたことは間違いないと思うのですね。それがワークするのが制度ではないではないかというけれども,官僚組織で依命通知が出たら,それは一つの制度として機能していくわけですよ。だから,私は,今の段階を是非御理解いただきたい。見直しのときに皆さん方が言った観点から見直されたら良いではないですかと思います。是非そういう御姿勢でお願いしたい。そうでないと,もう一度初めからおやりになるのですかというのは,いくら何でもこれまでのことを考えると現実的でない。将来において,そういう観点から厳しく見てるぞということでお許しを頂きたいなと思います。 ○村木委員 私からも,我々非専門家5人がお願いをしたことに対して,事務当局,それから運用という形で検察当局,それから小坂井幹事,宮﨑委員,それぞれにいろいろな御提案をしてくださったことに心から感謝を申し上げたいと思います。   但木委員が切々と訴えられましたので,それに応える意味でも,ここまでせっかく3年間やってきたわけですから,本当に最後の一押し,粘り強い議論を全員でして,全ての関係者の総意で最終案が取りまとめられるということを切に,私も,それから5人全員が希望しているということを申し上げたいと思います。   ただ,それであるがゆえに,第一歩としてこれがふさわしいものと言えるようなものにならないと困るというのも正直な,率直な思いでございます。幾つか私の意見と,それから質問も併せて申し上げたいと思います。   一つは,規模感でございます。我々5人は裁判員裁判だけ僅か2%,これは反対だということは明確に申し上げました。今回事務当局から検察独自捜査事件を加えていただいた,これは大変有り難いと思います。数は少ないですが,確かに,但木委員のおっしゃるとおり,インパクトは大きいのかもしれません。   ただ,先ほど周防委員も言われましたが,検察の独自事件になるのかそうでないかというのは捜査当局の都合で決まる問題で,率直に言うと,先ほど法的整合性の問題で事件の特質でみるのか取調べの主体でみるのかというような話がありましたが,そういう点で,これもやはり現実的な段階論で入ってきたものであって,法的整合性ということでここの議論を切っていった割には,きれいな整理ではないというのが正直な感想です。   率直に言えば,宮﨑・小坂井提案のような法定合議事件といったものまで広げていただけると大変有り難いと思います。それでも4~5%ということでした。コスト論で可視化に反対をするという意見も随分あったわけですから,小さいとは言え,これなら現実的なラインなのかなと思います。   一つ,そういう意味で教えていただきたいのは,検察がまず運用で拡大しましょうとこういうことでございましたけれども,相当数とか相当程度という説明がありましたが,2%と0.1%と4.2%と5.1%という数字が出てきましたので,検察の運用というのはどういう規模のものだと理解をすれば良いのかというのを教えていただきたい。これが質問の一つ目でございます。   それから,但木委員が言われたように,今更警察が大変耐えがたきを耐えて我慢しているのにもっとやれと言うのかという話がありました。現実的に段階的に進めるということに反対はしませんが,露木幹事が言われた中で,一つ私がどうしてもここは申し上げなければいけないと思っている点があります。それは,可視化の範囲を決めていくときに,例えば否認事件の割合がどのぐらいあるかとか,任意性・信用性が争われる頻度で判断するといった趣旨の発言がありました。確かに,世の中全体の問題としては,それは大事ですが,被疑者・被告人にとっては,私の人生がかかっているわけでございます。頻度が少ないから,たまたまそういう部類の事件だったから,あなたのはそういう形で立証はできないと言われるのは大変つらいことで,ここは今回決着が着かなくても,私としては最後まで求めていかざるを得ないところだと思います。   それから,二つ目でございますが,但木委員がよく読み込んでくださっているように,私どもがお願いをしたのは,取調べ側の恣意性が入りこまない可視化の取組が担保される「仕組み」です。かぎ括弧付きで「仕組み」と申し上げました。検察の試行の拡大,依命通知というのは,当然制度なのだということでございましたが,もちろんそうだと思います。ただ,これは私どもの手が届かないところで作られる制度でございます。ある日突然この依命通知が書き換えられても,私どもには手が届かないわけでございます。国会と違って国民の代表が議論する場でも何でもないということでございます。   都合のよい部分だけが録音・録画されるのか,都合のよい事件だけが可視化をされるのか,あるいは,これが継続的に実施をされるのか,発展的に実施をされるのか,様々な心配を当然いたします。録音・録画の義務化の範囲を非常に小さく絞ったままで運用でやると言われても,制度的に担保してもらったとは言い難いという部分でございます。   この点について,宮﨑委員・小坂井幹事から「乙案」というのが出されました。私も②の努力義務の所,それから,④で任意性・信用性の立証について,録画媒体その他客観的な資料により,できる限りですけれども,立証しなければならないという規定を入れていただくということについて,もしこういう規定が入れば,これと検察の運用の合わせ技できちんと担保してもらったという実感が湧くのかなと思っております。   検察の試行指針の第一の試行の趣旨の所でも,捜査段階における供述の任意性・信用性をめぐって争いが生じた場合には,記録媒体による的確な立証が求められるのが昨今であると書いてあるので,認識は共通しているのではないかと思います。   小坂井幹事と宮﨑委員の御説明も,録音・録画を記録した媒体がベストエビデンスであるという趣旨で御提案をされたので,事務当局が懸念をされて,これは難しいと言われたようなことにはならないのではないか。もしそういう心配があるのであれば,立法の趣旨を明確にすれば良いし,またそれがこの文章ではできないということであれば,建設的にこの改良案をお考えいただければ良いのではないかと思います。   もしこういうことが取り入れられるのであれば,安心して最終的な取りまとめに参画ができると思いますので,是非御検討をよろしくお願いいたします。 ○上野委員 まず村木委員から御質問のあった点について,可能な範囲でお答えいたします。   私は相当数という言葉を使いましたが,なかなか件数で御説明するのは難しいのですが,例えば,今回の試行の対象事件をもう一度見ていただきますと,公判請求が見込まれる身柄事件であって,事案の内容や証拠関係等に照らし被疑者の供述が立証上重要であるもの,さらに,証拠関係や供述状況等に照らし被疑者の取調べ状況をめぐって争いが生じる可能性があるものと規定しております。一番分かりやすいのが,送致段階での身柄事件の否認事件です。否認事件の場合は,その後自白に転じる可能性がございますので,その過程を録音・録画しておくということはやはり検察官として必要になってくると思います。私ども運用する立場とすれば,やはり否認事件は相当程度録音・録画していくことになるであろうと思います。自白事件でも,そういうおそれがある場合が入ってくるということですので,そういう意味で相当のボリュームになると思います。件数的になかなか言い難いところがありますが,今試行しており今後本格実施することとなる事件以上のボリュームになるのではないかと私自身は思っております。ちょっとお答えにならないかもしれませんが,今言えるのはこの程度でございます。   それと,私の説明が不十分だったためか,先ほど小坂井幹事あるいは周防委員から,今回の私どもの運用というのは,検察官個人の裁量によって判断されるという御趣旨のことを言われましたし,あるいは,全過程でないということも非常に不十分だというお話がございましたので,もう一度御説明させていただきます。   今回の運用につきましては,ただ今,村木委員からも御指摘がありました試行の趣旨にございますように,公判立証に責任を負う検察官として,必要な録音・録画を行わない場合には取調べ状況の立証のために最も適した証拠を公判に提出できなくなる,公判廷で捜査段階における供述の任意性・信用性をめぐって争いが生じた場合に的確な立証ができなくなるリスクを負うということが,出発点と言いますか前提でございます。ですから,そういう意味で,先ほどもちょっと申し上げましたが,録音・録画を行うか否かを自由裁量によって判断するということはできないと我々は理解しています。確かに,個別事件によって判断せざるを得ませんので,検察官が判断することになりますが,的確な立証を行えるように,やはり事案の内容によって立証が必要と思えば,取調べの全過程をする場合もあるでしょうし,あるいは,被疑者が否認から自白に至る場面,あるいは,自白に至った理由を供述する場面を録音・録画する場合もあり,そういう意味で様々という言葉を使っております。やはり最終的に立証責任を負う我々としては,将来的にそういう可能性がある事件については録音・録画をしていく,そういう運用になるということであり,自由な裁量によってやるのとは違うということだけは御理解を頂ければと思います。   併せて少し意見を言わせていただいてよろしいでしょうか。   まず1点目は,小坂井幹事が言われました例外事由の関係でございます。今回の事務当局の制度設計の例外事由というのは,その制度設計を前提とする限り,我々捜査官といたしましては,後に例外事由を十分に立証できると判断できない限り,録音・録画を義務付けられることになるものでして,例外事由が適切に機能するか否かは運用してみなければ正直言って分からないようなところがあります。実際に運用してみると,例外事由を適用できる場面は実際上相当限られてくる可能性もあるのではないかと危惧しております。   ですから,現在の「事務当局試案」の例外事由というのは,取調べを通じた事案の解明に重大な支障が生ずるような場合を例外とできるか,ぎりぎりのものだと我々は考えておりまして,是非そのことも考えていただきたいと思っております。   それと,対象事件の在り方について簡潔に申し上げます。先ほど小坂井幹事の方から,全体的に拡大していくのがこの特別部会の共通認識だというお話がございました。私どもも,この取調べの録音・録画の記録媒体というのが客観的な証拠であって,取調べ状況の立証のために最も適した証拠であるという認識であることは先ほどから御説明しているとおりですが,ただ,以前から申し上げているとおり,運用と制度化することは違うということを是非御理解していただきたいと思います。   今回のように取調べの全過程の録音・録画を義務付ける制度は,これまでにない新しい制度でございまして,先ほど申し上げました例外事由が,実際どの程度機能して,録音・録画により被疑者から十分な供述が得られなくなるという事態がどの程度回避されるかについては,非常に大きな懸念がございます。   制度の導入時点において,広範な事件を制度の対象とすることや,対象事件の将来的拡大をあらかじめ決めてしまうことは,余りにもリスクが大きいと考えております。   制度の対象につきましては,先ほどからボリュームの話がございましたが,数ではなくて,やはり類型的に録音・録画の必要性が大きい事件とし,制度の施行後一定期間経過した時点で,対象事件の範囲の在り方について,制度の施行状況を踏まえて,その要否を含めて改めて検討するというのが一番現実的ではないかと思います。その意味で,今回「事務当局試案」にその規定が設けられたことは,私としては納得できるところでございます。   このような観点からいたしますと,類型的に録音・録画の必要性が大きいとまで言えない法定合議事件等に拡大するのは相当ではないと考えております。いろいろな事件について必要性があるというお話がございましたけれども,まず制度化するのは類型的に必要性の高い事件として,それ以外の事件は,私どもの運用で,個別の事案に応じて録音・録画をやっていくというのが一番現実的で合理的ではないかと思っています。   そういう意味で,本日「事務当局試案」に示されました裁判員制度対象事件と検察独自捜査事件については,録音・録画の必要性が大きく,試行の実績もあるので相当ではないかと考えております。   検察における試行の拡大により,私どもは,必要な場合に積極的に録音・録画に取り組んでいくことになり,実際,先ほど言いましたように相当広範囲に録音・録画が行われることになると考えられます。法制度としての録音・録画制度の対象事件については,このように運用で相当広い録音・録画が行われることをも踏まえて検討していただければと思います。 ○安岡委員 私の意見の結論は,神津委員の意見書,それから周防委員の意見,村木委員の意見とほぼ重なるのですけれども,要すれば「改訂版」の「事務当局試案」を更に改訂してほしいと思います。その内容,改訂する方向は,宮﨑委員・小坂井幹事の「乙案」の中の可視化の義務付けの範囲であるとか,努力義務規定,それから見直し規定の書きぶり,この辺の所を宮﨑委員・小坂井幹事の「乙案」の内容を取り入れて再修正・再改訂していただきたい。   このうち,特に努力義務規定の「乙案」の④について意見を述べたいと思います。御説明いただいた刑事訴訟規則の198条の4は私の理解では司法制度改革審議会の意見書の中の「被疑者の取調べの適正さを確保するための措置」についての項目で改革審が示した提言に由来する規則だと考えます。改革審議会は取調べの適性を保証する手立てを種々検討した結果,我々が今議論している可視化は将来的な検討課題とし,この刑訴規則にある「書面による記録」を取りあえずの措置として提言したものと理解しています。   今回,可視化を法制化するのに合わせて,この刑訴規則を宮﨑委員・小坂井幹事提案のような形に変えた上で,努力義務規定にするべきと思うのです。いずれにしてもこの規則を法律の条項に格上げするのは,司法制度改革が実行に移り,それから当部会を設置して可視化の制度化を検討しなければならない状況に至った種々の経緯を考えれば,当然の流れ,自然な流れだと考えます。   それからもう一つ,この「乙案」の④で示した内容が,上野委員から御説明のありました検察当局の運用による可視化の拡大実施についての資料の「別添2」の「第1 試行の趣旨」と重なっていると,先ほど村木委員からも指摘がありましたけれども,重なっている所に私は注目しました。といいますのは,この「乙案」④の条項を努力義務の条項として設けることによって,10月から行われようとしている検察当局の運用による可視化の拡大実施が検察の全くの自由裁量によるものではなくて,法規定の要請に応えるある種覊束裁量的な意味合いを帯びると期待するからです。   それからもう1点,「乙案」④のような条項を設けることによって,「事務当局試案」の可視化履行の担保措置が補強できると思います。   どういうことかと言いますと,「事務当局試案」の「一1」にある立証方法の制限によって可視化履行が担保される取調べの場面は,「事務当局試案」のままですと,極端に言えば,調書ができ上がってそれを読み聞かせする場面だけでもよいわけでありまして,ここの部分に,私は可視化履行の担保措置が形骸化する危うさを感じています。「乙案」④のような努力義務規定を入れれば,今申し上げたような危うさに対する手当になると期待できるのではないかということです。   それから,最高検の上野委員から御説明のあった運用拡大についてちょっと意見を言わせてください。この場で最高検の運用について何か意見を述べるのはちょっとおかしいかもしれませんが,但木委員の御発言などに照らして,要するに我々が今議論している可視化の法制度化と,検察の運用とをセットで考えろと,法律で可視化を義務付ける範囲が足りない所は検察による運用で補うのだからそこを考慮せよと,こういう趣旨と受け止めたので意見を申し上げます。   先ほど御説明いただいた依命通知と実施要領のままでは,残念ながら録音・録画の制度化とセットにして考えるのは難しいと私は思います。すんなりセットとして位置付け,考えられるようにするには,我々の審議の結果まとまるであろう可視化制度の規定に沿った方法で検察の運用拡大も行わなければならないのではないか。具体的には可視化しないでよい例外扱いの要件であるとか,録音・録画をする範囲,全過程を録画するのかどうかということですね,その辺りが法律の内容と同じレベルで運用していただかないとセットとしては考えられないのではないか。   この場で議論している改正法が成立した後に,今日お示しいただいた試行の指針であるとか試行の趣旨を,検察の運用が法定化した可視化の制度とセットになっていることを明確にするように書き換えて依命通知を出し直していただかないと,そんなことを将来にわたって保証するのはちょっと難しいのでしょうけれども,とにかくそういう形で依命通知を出し直していただかないと,セットで考えることは難しいと思います。 ○本田部会長 まだ御意見もあろうかと思いますが,時間の都合もございますので,「取調べの録音・録画制度」についての議論は,ひとまずここまでとさせていただきたいと思います。   10分程度休憩をとりたいと思います。   午後3時20分までに,お席にお戻りください。           (休     憩) ○本田部会長 それでは,再開をいたします。   次に,「犯罪事実の解明による刑の減軽制度,捜査・公判協力型協議・合意制度,刑事免責制度」について議論を行うことといたします。各制度につきましては,「試案」の「改訂版」の3ページ以降に示されておりますので,御覧いただきたいと思います。   まず,改訂された部分の内容とその趣旨につきまして,事務当局から御説明をお願いします。 ○吉川幹事 御説明いたします。   改訂部分は「捜査・公判協力型協議・合意制度」のみでございますので,「試案」の4ページを御覧ください。この制度につきましては,「試案」の記載の一部について,技術的な見地から修正を加えていますので,それを御説明させていただきます。   まず,「一1」,それからその下の方の「一2」の一部に下線を引いておりますが,その部分は,制度の対象犯罪に関する記載の修正でございます。本制度においては,合意の当事者となる被疑者又は被告人が犯した犯罪と,合意に基づく解明の対象となる他人の犯罪の二つの犯罪が観念できますが,その両方ともがこの「一2」以下に掲げる罪の場合に限定して本制度を利用できることとしております。今回,そのことがより明確となるように,記載を改めたものでございまして,実質的な内容に変更はございません。   次に,5ページの下から6ページの上にかけてでございますが,「一7」に記載した,本制度を利用する場合の検察官と司法警察員との事前協議と,「一8」に記載した,検察官が協議における必要な行為を司法警察員に行わせる場合についても,一部修正をしておりまして,その部分に下線を引いております。これらの部分は,どのような場合に事前協議が必要となり,あるいは,どのような場合に検察官が協議における行為を司法警察員に行わせることができるかについて,それぞれの趣旨を踏まえてより明確な記載に改めたものでございます。加えまして,「一8」におきましては,司法警察員が協議における行為をするに当たって,検察官の権限行使を内容とする提案をする際に,検察官の個別の授権を要することが明確となるよう,「個別の」との文言を加えました。   そのほか,記載ぶりをより正確なものとする観点等から若干の技術的な修正を行っているものでございます。   説明は,以上でございます。 ○本田部会長 それでは,議論に入りたいと思います。   この事項は三つに大別されますけれども,議事は区切りませんので,いずれの論点についての御意見なり御質問かを明確にした上で,御発言を頂きたいと思います。   この事項についての議論は,午後4時頃を目処とさせていただきますので,御協力よろしくお願いいたします。   それでは,御意見等のある方は,御発言をお願いします。 ○種谷委員 今,捜査の現場では犯罪に関する情報収集ですとか供述を得ることが非常に困難化しているということは,これまでもいろいろ申し上げてきたところでございますけれども,そういう中で,この協議・合意制度についてお話ししたいと思います。   この協議・合意制度というのは,供述証拠の収集手段を多様化する一つの非常に有効な手段だろうということで,現場の警察を所管しております私としても,非常に良い制度ではないかなと考えているところでございます。   しかも,今回の「試案」では,捜査機関側から提示できるメニューというのは検察官の権限に係るものだけではありますけれども,警察が当事者的な立場で関与することが制度上担保されているという,制度的な工夫がなされております。そういう制度になっておりますので,警察もこの制度を利用することによって,第一次捜査機関としての役割を果たしていけるのではないかなと思います。また,検察官が,警察が送致した事件について相手方と協議を行う場合には,あらかじめ警察側と協議して,警察の捜査結果を踏まえて協議を行うこととなっているという点においても,実効性のある制度となっており,評価したいと思います。   ただ,一つだけ心配しておりますのは,この前の議論の中でも警察側から何回か申し上げているところですけれども,この制度を利用して相手方が協力してくれた場合に,その協力してくれた方をきちんと守っていかなければいけないというのが制度の大前提だろうと思います。協力した方が,関係者から口封じのために殺害されるとか,暴力団関係事件においては,暴力団の顧問弁護士から証人が威迫されるという事例が実際にありますので,そういうことを防ぐためにも,これまで証人保護プログラムの導入をお願いしてまいりました。これまでも,当然,警察としては,捜査に協力してくれた方に対しては,組織を挙げて保護対策に取り組んできているところでございますが,警察だけではなくて,様々な関係機関が協力し合いながら証人を保護していく証人保護プログラム,これをセットのものとしてやはりきちんと制度設計をしていただくことによって,この制度がより生きてくるのではないかなと考えますので,よろしくお願いしたいと思います。 ○松木委員 私も捜査・公判協力型協議・合意制度について意見を述べさせていただきたいと思います。   細かい部分では更に詰めることが必要な点も今後出てくるかもしれませんけれども,私は,概要,今回のこの改訂「試案」に記載されているような内容で,捜査・公判協力型の協議・合意制度を導入することに基本的に賛成でございます。   「試案」では,この制度の対象犯罪というものは限定もされておりますし,国民の理解が得やすいようなものになるのではないかと思います。それから,前々から私が申し上げていましたような会社犯罪だとか経済犯罪,こういったものも含まれておりますので,こういった形での限定方法というのは一つの適切な方法ではないかと思います。   現在の刑事司法制度ですと,被疑者とか参考人というのは,結局一人で捜査機関の方と向き合って供述をするか又は協力するかということを選択しなければならないわけですけれども,こういった協議・合意制度ができますと,弁護人に同席をしてもらって,その助言も得つつ,他人の犯罪という形になっておりますけれども,これに協力するかどうかを判断することができるようになるということになります。   これまでの議論を伺っておりますと,弁護人がいても巻き込みの危険を防げないというような御意見もございましたけれども,実際に被疑者とか参考人になる立場の者から見ますと,その場に弁護人がいてくれるかどうかというのは非常に大きな違いがあります。実際に,米国をはじめとする諸外国でもこういった制度が導入され活用されていると理解をしておりますので,新しい時代の刑事司法制度ということで,我が国でもこういった制度を導入すべきだろうと考えております。   まずは,今回こういった捜査・公判協力型の協議・合意制度を導入いたしまして,十分注意深く運用していただいて,この制度を我が国の刑事司法制度になじませた上で,近い将来には自己負罪型の協議・合意制度の導入というものも是非検討をしていただきたいと思います。 ○角田委員 犯罪事実の解明による刑の減軽制度,これについて申し上げます。   今回の「事務当局試案」の「改訂版」を全体として見ますと,事務当局には努力していただいて,いろいろ議論がある中で全体として一つのものにまとまりつつあると,こういうふうに思います。ただ,この犯罪事実の解明による刑の減軽制度についてだけは,裁判運営の立場からどうしても賛成しにくいことがあるということで申し上げます。   まず,これについては,そもそも論としてこういう制度を設ける必要性が極めて乏しい,やはりそういう感じがあります。犯罪解明への貢献というのは,もちろん量刑上意味があるわけですけれども,これについては,量刑は行為責任を基礎にして決めるものだということ自体は余り異論がないと思います。ですから,仮に犯罪事実の解明について貢献したとしても,量刑判断における位置付けとしては,副次的なもの,調整的なものにならざるを得ないと思います。しかも,これは,自首にも当たらないというものだと思いますから,こういったものについて減軽制度を設ける必要性があるのだろうかという根本的な疑問があります。   それから,技術的なことで,要件的に見てみますと,「犯罪の証明のために重要なものを供述」とこういう規定の仕方をしているわけですけれども,裁判所の立場でこれを見てみても,外延が非常に分かりにくい。要するに,線引きの判断が非常に難しい。例えば,犯行の方法だとか,動機についてはどうか。この制度の政策的な目的から言えば何とか考慮してやりたいという方向にいくのでしょうけれども,逆に,規定の文理というか文言からいうと入ってこないのではないかという感じもして,そういう問題点が基本的にあると思います。   最後に,一番決定的などうもこれは賛成できないと考える理由ですが,こういう制度を採用した場合に弊害が生じることがあるのではないかということが一つあります。実際の裁判の場でこの点が争われますと,任意的ではあっても刑の減軽事由が正面から争われたということで,証拠調べをしないといけないとこういうことになります。自首などに関して現在でも時々ありますけれども,捜査官を証人で呼んできて,捜査の状況がどうだったとか,その辺りを解明して初めて判断できると,こういうことになります。ところで,裁判員裁判を契機にして,公判審理の在り方が犯罪事実そのものと,情状事実に関しては重要なものに,そこに焦点を当てて主張立証をやっていこうではないかということで,運用が固まってきています。そういう在り方の中で,こういう付随的な,しかも量刑に影響を及ぼさない可能性のあるものを,かなりのウェイトをもって審議をせざるを得なくなるということになります。これでは審理の長期化の懸念もありますし,審理の複雑化の懸念もあります。そして,この弊害は裁判員裁判ではより大きいと思います。   以上のようなことで,裁判運営の立場からは,どうしてもこれは相当でない制度の提案だと思いますので,申し上げておきたいと思います。 ○神幹事 角田委員と同じ意見でございます。弁護人の立場からみても,これは問題ではないかと考えております。   この犯罪事実の解明による刑の減軽制度については,他人の犯罪事実を明らかにするという形のものが他の二者と違ってなくなったことによって,巻き込み供述ということはないとしても,現実問題として,弁護人としては,自白事件であれば自白の要件に当たれば自白の要件があるとして争ったりすることがあるわけですが,さらにその外延のところの捜査機関に知られていない事実であって,当該自己の犯罪の証明のために重要なものという曖昧と言いますかよく分からないものを供述したことまで争うということが必要になってくる場合があると思っています。   そうしますと,その事実認定をめぐって,公判が長引くと同時に,身柄が確保されていれば,その場合については身体拘束の期間も長くなるという事態になります。さらにまた,裁判所がそのような認定を仮にしたとしても,結局は,任意的減軽にすぎないものでありまして,同じ任意的減軽規定である自首のほかにこのような規定を設ける必要性や実益がどの程度あるのかが疑問であると考えますので,刑の減軽制度の創設には反対の意見を述べさせていただきます。 ○後藤委員 協議・合意制度について,幾つか疑問に思っている点を意見ないし質問として申し上げたいと思います。   一つは,5ページの「6」という所に協議の中で他人の犯罪事実を明らかにするための供述を求めることができるとありますね。この供述を求める行為の性質という問題です。この条文の作り方ですと,198条2項の規定を準用しつつ,3項以下は準用してないので,これは取調べ,つまり直接に供述証拠を得ようとする行為ではなくて,この人がどんなことを語れるかについて言わば当たりを付けるための問いかけとして想定されているのだと思います。しかし,後の「三3」を見ますと,この供述を求めたときにした供述が場合によっては証拠として使えるようにも読める作り方になっています。そこが整合しているかどうか,という問題です。もしこれが取調べでないとすれば,取調べの録音・録画という制度もここには適用されないという理解になると思います。そうしておいて後の方で,しかしそこでした供述もやはり証拠になる可能性があるとするのは一貫していないかもしれないという疑問を持ちました。これが第1点です。   第2点目は,「三1(一)」合意違反の場合の取扱いの部分で合意からの離脱が出てきます。この合意からの離脱の条件について,合意違反「その他一定の場合」となっています。「その他一定の場合」というのが漠然としてないでしょうか。ここの決め方によっては,合意の効力が大きく左右される可能性があります。ここで法律改正の要綱的なものを示そうとするのであれば,どういうものが離脱の条件になり得るかについてもう少し具体的に示す必要があるのではないか,ということです。特に,相手方がその合意に基づく行為を行った後になおかつ離脱するようなことがあり得るのかどうかなど,疑問に思いました。これが第2点目です。   第3点として,検察官が合意違反をした場合に証拠が使えなくなるという証拠禁止の規定がございます。この案の作りは,その合意の当事者だけではなくて,第三者,典型的には共犯者に対しても使えなくなるという作りになっています。ということは,この場合の証拠禁止は,合意違反をされた人に対する救済というよりも,公共的な利益のために証拠利用を禁止するという考え方だと思います。そうだとすると,しかし他方で被告人の同意があれば使っても良い,証拠にすることができるとしているのが,一貫しているかどうかという疑問です。   それから,同じく合意違反の場合の証拠利用の禁止について,検察官が合意違反したときに既にその証拠に基づく判決が確定しているような状況も理論的には起き得るのではないでしょうか。そうだとすると,その場合,既に判決が確定していても何か救済手段があり得るのかどうか。使ってはいけなかった証拠を使ったことになるのに,その救済手段はなかなか考えにくいようです。事務当局は,その点をどうお考えなのかお聞きしたいです。   最後に,5点目になります。小さな問題のようにも見えるかもしれませんけれども,私としては重要だと思うのが,「二2」,つまり,証拠請求するときに合意の中身を検察官が明らかにしなければいけないという部分です。ここの作りが,(一)の供述録書等の請求をする場合が最初に出てきて,(三)で証人尋問を請求する場合が後から出てきます。けれども,なるべく調書に依存しないで立証しようという方向で考えているはずですので,順序としては,証人尋問請求が先に来ないとおかしいのではないかと感じました。 ○吉川幹事 たくさん御質問をいただきましたので,できるだけ端的にお答えします。   まず,一つ目の御質問は,協議における供述の位置付けでございますが,これは,後藤委員がおっしゃったとおり,飽くまで検察官が合意をするべきかどうかということを見極めるために行うもので,取調べとは異なるものでございまして,被疑者・被告人の供述を直ちに証拠化することを予定しているものではございません。ただ,その手続の際に,被疑者・被告人は一定の事実を述べることになると考えられますので,やはりその被疑者・被告人がその協議で述べた内容というのは供述として取り扱わざるを得ないと考えているところでございます。そのため,理論上は,その協議の過程で被疑者・被告人が述べた供述というのは証拠になり得るものでございますけれども,ただ,これも後藤委員御指摘のとおり,合意が不成立に終わった場合には,証拠制限によってそのような証拠を公判廷に証拠として提出することは許されませんし,また,その合意が成立した場合におきましても,その協議における供述を踏まえて,合意後改めて詳細な供述をその被疑者・被告人から聞き,それが証拠化されるということになりますので,協議における供述が証拠として公判廷に顕出されるということは基本的にはないものと考えられるところです。   それから,2つ目として,,制度案の「三1」の「その他一定の場合」とはどういう場合を指すのかという御質問がございました。これは制度の細部にわたる事項と思われますが,事務当局としては,「その他一定の場合」とは,大別して,二つの類型があるものと考えております。   一つは,検察官が合意どおりの行為をしたものの,裁判所がその趣旨とは異なる判断をした場合が考えられます。具体的には,検察官が即決裁判手続の申立てをする旨の合意に基づいてその手続の申立てをした事件について,裁判所が即決裁判手続によって審判をする旨の決定をせず,又はその決定を取り消したとき,あるいは,検察官が略式命令の請求をする旨の合意に基づいて略式命令を請求した事件について,裁判所が通常の規定に従って審判をするとしたときなどが考えられます。これらの場合には,その後も被告人が合意に拘束されることは酷であると考えられますので,これらの事情がある場合,被告人に合意からの離脱を認めることが相当ではないかと考えられるところです。   もう一つは,合意違反には該当しないものの,合意自体又は合意に基づいて提供された証拠に客観的な瑕疵があることとなって,それによって他人の犯罪事実を有効に解明することができないこととなるような場合が考えられます。具体的には,被疑者又は被告人が協議において供述した内容が真実でないことが明らかになったとき,あるいは,被疑者・被告人が合意に基づいて供述した内容が真実でないこと又は合意に基づいて提出した証拠物が偽造若しくは変造されたものであることが明らかになったときなどが考えられるのではないかと思われます。   こうした具体的な離脱理由につきましては,制度のかなり細部にわたる事項でございますので,「試案」には明記していないところでございますが,「試案」に記載されたような法制度について答申がなされるのであれば,法文化の段階でこれら細部についても具体化することになろうかと考えられます。   それから,三つ目の御質問でございますが,第三者との関係でも検察官が合意に違反した場合に証拠制限が掛かる趣旨と,異議がない場合にそれを取り調べても良いという規定との関係でございます。   検察官が合意に違反した場合におきましては,制度案にも記載されておりますが,当事者である被疑者・被告人については公訴棄却等が適用されますけれども,それに加えまして,検察官による合意の履行を十分に担保するための措置として,合意に基づいて得られた証拠について,当事者である被疑者・被告人との関係でも,又他人である第三者との関係でも,証拠とすることができないとしているものでありまして,これはまさに政策的な目的に基づくものでございます。つまり,検察官の合意違反によって,その被疑者・被告人の既になした証言だとか供述が事後的に瑕疵を帯びる又は信用性が無くなるという性質のものではございません。そこで,仮にもう一度同じような供述をするとするならば,その被疑者・被告人にとっても負担がかかるということにもなりますので,当事者に異議がないのであれば,証拠とすることを認めてもよいのではないかと,このような観点から規定を設けているということでございます。   さらに,4点目として,第三者との関係の証拠制限で,確定後の検察官の合意違反の場合はどのように考えるのかという御質問がございました。   まず,合意に基づいて得られる証拠というのは,通常,他人の刑事事件の第一審で証拠として顕出されることになります。その際,被疑者・被告人が合意どおりに協力行為をするのであれば,検察官としては,あえて合意違反をするということは基本的にないものと考えられます。他方で,その際に合意の当事者である被疑者・被告人が十分な協力行為をしない場合は,その段階で検察官が合意から離脱するか否かを判断することになりますので,合意違反をめぐる争いが生じるにしても,それは他人の刑事事件の第一審の弁論終結前に顕在化することとなります。   そして,当然のことながら,合意に基づいて得られた証拠によって他人の刑事事件で有罪判決がなされた場合には,その後検察官において合意に違反する理由はないわけでして,合意違反は想定し難いと考えられるところです。確かに,概念的には検察官が合意による目的を達しておきながらあえて合意違反を行うということはあり得ないことはないとは思われますが,これは基本的に想定されないことでございまして,後藤委員がお悩みのとおり,ではその確定した場合に確定効を揺るがすような規定を設けるべきかということに関しましては,基本的には想定されないような場面を想定した上で,そのような規定を設ける必要はないのではないか,そのように考えられるところでございます。   最後に,規定の順番につきまして,後藤委員から御指摘をいたただきましたが,これは御意見として承りたいと思います。   以上でございます。 ○大久保委員 捜査・公判協力型協議・合意制度についての意見を申し上げたいと思います。   私は,制度の対象に重大な生命・身体犯も含むのであれば納得できないところでしたけれども,今回示されましたこの「試案」では,制度の対象犯罪が一定の財政経済犯罪と,あと薬物,銃器犯罪に限定されておりますので,この範囲の犯罪を対象とするのであれば,この制度を導入することには全く抵抗感もありません。   もちろん,被害者は,事案の真相が解明されて犯人が検挙され適切に処罰されることを強く望んでいるために,犯罪者から供述を得るということが重要だということは変わりはありません。しかし,先ほど種谷委員からの発言にもありましたし,今までもこの部会からの発言の中でもときどき出ていました,最近は確かに供述が得られなくなっていると聞きますし,振り込み詐欺などでも検挙されるのはその大半が末端の者で,上位の共犯者の検挙や処罰が難しいということも,報道の上でも度々取り上げられております。このような実情を考えますと,犯罪に関与した者から供述を得ることを容易にする制度としては有効だと考えます。   また,この「試案」に記載されました制度は,検察官と警察官が連携できる仕組みともされておりますので,より効果的な活用をされることが期待できますので,被疑者を含む国民からの理解も得られると思いますので,この現在の「試案」に示されました記載内容であれば,捜査・公判協力型協議・合意制度の導入については全面的に賛成をいたします。   ただ,併せて,安心して協力ができるためには,諸外国には既にあるようなやはり証人保護プログラム制度というものがありますと,より有効的にこの制度が活用されるのではないかと思いますので,その点も必要なことなのではないかと考えております。 ○今崎委員 捜査・公判協力型協議・合意制度について申し上げます。   裁判所は,この制度についてはこれまで懸念を申し上げてきたかと思います。もう一度まとめて申し上げます。   一つは,今回の協議・合意制度によって「犯罪を行った」と言わば指差される側の立場の人との関係であります。その人の裁判を運営する裁判所にとっては,今回の協議・合意によって利益を得た人が証人として裁判に現れてくるわけです。通常証言の信用性を判断するに当たり,供述者にそういう証言をすることにより何らかの利益があるかどうかという点は,裁判所が一番興味を持つ部分であります。つまり,何らかの証言によって何らかの利益があれば,それはその証言をすることについての一定の留保,疑いを持つという関係にあるという意味であります。   ところで,この種の供述というのは,いわゆる引っ張り込み供述とか引込み供述と呼ばれているもので,第三者に罪を負わせる内容の供述であります。この種の供述というのは,供述者が通常第三者にそういう形で罪を負わせることについて何らかの利益があると考えられるわけでして,例えば,共犯者の中で自分の地位が低くなることによって相対的に罪が軽くなるなど,そういった利益を期待して行われる可能性があるというわけであります。そういう意味で,裁判実務では,類型的にこの種の供述は警戒すべきものと考えられてきましたし,この点は,検察官,弁護人も恐らく同様の御認識だろうと思います。   今回の制度は,供述者にそういった利益を言わばシステムとして与えるものになります。虚偽供述に対する刑事罰というのが今回の制度の中に組み込まれていることは承知しておりますけれども,そういう制度があることによって偽証を思いとどまるかについては,実際には疑問でありまして,実効性としてはいささか足りないと思わざるを得ません。   このほかに供述の信用性を補強する,担保する,制度的な裏付けはございません。そういう意味で,裁判所からしますと,こういう形で証人が出てきた場合には,その証人の信用性には,最初から少なくともある種の疑問符と言いますか,留保というものを持ってその証言を聞くということになります。   つまり,こういう制度ができたからといって何か特別扱いされるというわけではなくて,通常の証人と同じようにその証言の供述の信用性については慎重に判断されると,こういうふうになるはずであります。こういうものとして裁判所としてはこれを受け止めておりますけれども,こういう理解でよろしいのかどうかということについて1点,法務省の事務当局の御見解を伺いたいと思います。   もう1点は,今度は,被告人,つまり協議・合意をした当人の関係であります。供述者,この本人との関係で言えば,協議・合意制度の結果,供述者の求刑について合意がされるということがあり得るということになっています。これについては,裁判所を拘束するものではないということについては繰り返し御説明いただいておりますが,そうであるとすると,検察官が真相解明への貢献度が高いとして通常の量刑より低い求刑をしたとした場合に,裁判所が同じベースで量刑をするとは限らないことになります。つまり,証拠調べの結果,本人の行為責任が重くて真相解明への貢献度を差し引いても検察官の求刑は軽すぎると考えた場合には,それに応じた量刑をするということは十分あり得るわけでありまして,その結果として合意した本人にしてみると,後で制度への期待を裏切られたということになるということは,少なくとも抽象的な可能性としては残っていると理解しておりますが,そういう理解でよろしいのかどうか,この点についても伺いたいと思います。 ○上野委員 事務当局に対する御質問ですが,現場の運用に関わることですので,私の方から答えさせていただきます。   1点目の点についてでございますけれども,確かに今崎委員御指摘のとおり,本制度の下で合意に基づいてなされた供述につきましては,少なくともその外形上,その供述動機の全部又は一部が合意による利益の保障にあると見られることになりますので,それが裁判における証拠として用いられる場合には,本制度を利用せずに得られた供述に対比して,より慎重な信用性の吟味が必要となると私どもも考えております。   その供述の信用性が認められるためには,他の信用性考慮要素,例えば,他の証拠との整合性等がより一層強く求められることになると考えております。したがいまして,検察官といたしましても,このような認識に基づいて,協議段階及び合意後の段階で被疑者又は被告人がした供述について十分な裏付け捜査をすることとなり,相応の裏付け捜査の結果その他の信用性を担保するに足りる事情があると判断したときに初めて,合意に基づいて得られた証拠を証拠として用いるという運用をすることになると考えております。   このような供述が裁判の証拠とされる場合には,合意に関する書面等が他人に開示されまして,その他人の側でその信用性を争うのであれば,合意の存在及び内容を踏まえた徹底的な反対尋問が弁護人・被告人から行われることになると思われます。   また,今御指摘ございましたように,他人の事件を審理する裁判所も,合意の存在及び内容を把握した上で,特に慎重にその供述の信用性を吟味することになると思われます。   その慎重な信用性吟味の結果,その信用性が肯定されれば,それに基づいて判決が下されることになりますし,その一方で,検察官がその信用性を担保するに足りる事情を十分示せなければ,その供述の信用性が否定されることになると理解しております。   このように合意に基づいて得られた供述証拠につきましては,特に慎重な信用性の吟味が必要となること自体は私どもも異論ございませんが,そうであるとしても,そのような供述証拠が信用でき,裏付け等が十分になされる場合も少なくないと思われますので,合意に基づいて得られた供述の信用性が一般的に乏しいこととなるものではなく,本制度自体の導入に否定的な要素にはならないと考えております。   あと,求刑の関係でございますが,確かに,これも再三この部会でもお話がございましたし,私どももそういう認識をしておりますが,求刑に関する合意は飽くまで検察官がそのような行為をすることについてなされるもので,裁判所を拘束するものではないことは言うまでもございません。ただ,検察官の求刑というのは,実務上,裁判所の量刑判断における重要な判断要素の一つとなっており,被疑者・被告人に捜査・公判協力の動機づけを与えるものとしての実効性を期待できるのではないかと考えています。   また,被疑者・被告人におきましても,刑の量刑自体が最終的に裁判所の判断によることを告知・助言されるなどしてそれを十分理解した上で,なお合意を望む場合になされることになると考えておりまして,このように合意が有効に機能する場面もあることから,求刑の合意についても,必要性・有用性が否定されるものではないと考えております。   特に,本制度の下での事例が蓄積されれば,他人の犯罪事実を明らかにするための協力をどの程度被告人に有利な事情として量刑上評価するかという点についても判断例が集積されて,それを踏まえて,検察官と裁判所の判断が大きく異なることのないような形で求刑合意がより一層有効に活用されるようになるのではないかと思っています。   被疑者・被告人により提供される協力の内容・程度には様々なものが考えられますけれども,多様な場面に応じて,検察官が協力内容に見合った適切な処分の軽減等を提供することに合意できるようにするためにも,この求刑の合意自体も可能な制度として取り入れていただければと思っております。 ○小坂井幹事 手短に済ませます。   協議・合意制度と免責について若干申し上げます。   協議・合意なのですが,繰り返し申し上げているとおり,引込みの危険への配慮がこれで足りているのかどうかという問題です。先ほど松木委員が言われたことは大変よく分かるわけですけれども,これは繰り返し我々が申し上げておりますとおり,当該弁護人は,その人にその依頼者に対して誠実義務を尽くす立場でございまして,元より引込み供述をされる他人に対するロイヤリティは何もございません。ですので,それが歯止めになるわけではありません。また,今崎委員が言われたように,罰則が歯止めになるとも思われません。それと,上野委員が言われた反対尋問を十分やれば良いではないかとこうおっしゃるのだけれども,それがそれほど容易なものだとも思えません。   これは検証が必要ですけれども,最近のアメリカのイノセントプロジェクトなどの報告によりますと,15%ぐらいが引込みの取引,うその引込み取引供述だとこういうような報告結果が出ていたりしているわけで,ここはちょっと十分な検証が必要なのではないかと思います。   これ前提条件として,ばかの一つ覚えのようにお前同じことを言うなと言われるのは承知の上ですが,基本構想でもこれはいわゆる減免の方ですけれども,「取調官の誘導による虚偽自白又は引込みの危険を招くことになりかねず,取調べの全過程の録音・録画などの手続的保障を併せ講じる必要があるのではないかなどの指摘があった」と記載されているわけで,繰り返しそういう意見を述べさせていただいているわけです。これはきっちりとした適正さを担保するためには,そういう発想をやはり組み入れるのが筋ではないかと思います。   今回独自捜査を取りあえず事務当局の訂正案に入れるというのであれば,それはそれで一つのパッケージにはなり得るかもしれません。が,そういう非常に小さく生んで大きく育てることもお考えになった方が,もしどうしても必要だというのであればですね,考える必要があるのではないか。   免責に関してですけれども,これも以前から繰り返し申し上げておりますとおり,尋問への答えがこれ分かるわけです,この免責される人は。そういう場合に引込みがないという考えは,これはやはり実務的には事実問題としては正しくない。ですので,引込みの危険をどうするかということからしますと,やはりこれもきっちりと可視化された下でのそういうことであればまだ容認の余地はあるだろうけれどもという考えになります。   今後いろいろな要素で可視化されていく,そこに話を戻すなと言われるかもしれませんが,そういうことをされていくのであればということがまだ可能性としてはありますけれども,そうでない限りは賛同できないという意見になります。 ○川出幹事 今も御指摘があった引込みの危険についてですが,前提として,検察官が一定の有利な取扱いをすることと引き換えになされた被疑者・被告人の供述が,あたかも類型的に虚偽であるおそれが高い,すなわち,類型的に引込み供述である可能性が高いかのように考えることはおかしいのではないかと思います。つまり,有利な取扱いをしてもらえるということが,そうでなければ言わなかった真実を言う動機として働く場合もあれば,逆に,有利な取扱いを受けたいばかりに虚偽の供述をする場合もあるわけでして,その意味で,有利な取扱いをするということは両方の誘因として働くわけです。そうしますと,そうした前提の下で,虚偽の供述ではなくて真実の供述をするような仕組みを作れるかどうかということが,この問題の本質ということになるのだろうと思います。   その観点から見ますと,先ほど御指摘がありましたように,検察官が供述の裏付け捜査をしっかりやる,協議・合意がされたことを明らかにした上で,裁判所の面前で反対尋問がなされる,虚偽供述を処罰するといった対処を行うことが予定されています。加えて,弁護人の関与に関しても,恐らく日本の弁護士の方は依頼者が虚偽の供述をして利益を得ることを見逃すということはないと思いますので,その意味で,協議・合意に弁護人が必要的に関与するということもやはり意味があるだろうと思います。   以上のように,今回提案されている制度においては,そもそも虚偽供述がなされないようにするとともに,仮に個別の事案で虚偽供述がなされたとしてもそれをチェックできる仕組みが整えられていると思いますので,引込みの危険があるということから,制度そのものを採用すべきでないということにはならないだろうと思います。   さらに言えば,一般の共犯者の供述の場合でも引込みの危険はあるわけですが,だからと言って共犯者の供述が一律に証拠にならないとは考えられていないわけです。そのことからも,引込みの危険があるから制度自体の導入が否定されるというものではないと思いますので,その必要性に鑑みれば,この制度を導入することに賛成いたします。 ○小野委員 この協議・合意をする側の弁護人からすると,例えば,共犯事件で役割分担がどうだああだとかいろいろあるとすると,その被疑者に対してはこういう制度がありますよと,それが本当かうそかということは実はその弁護人には本当のところは分からない,当たり前の話ですよね。こういう仕組みがあればどうなのということで,これについてあなたはどう考えますかと,こういうこともあるのですよとなっていけば,ではではということでどんどん拡大していくと,こういうことを言わば推し進める仕組みだと思います。   刑事免責についても,その免責請求に至る過程で,やはり同じようなことが行われていくと,こういうふうになっていくだろうと思います。つまり,現状でも確かに引込み供述の危険性というのはあるわけですけれども,それが一層促進されていく仕組みになるのではないだろうかと思います。   他方で,言われる他人側の弁護人からすると,手の打ちようがない。この仕組みに対しては,少なくとも現状で反対尋問するなり何なりと,それはいろいろ材料集めたりいろいろな証拠との関係でそういうことはやるということはもちろんできるとしても,このような新たな仕組みができたときに,では他人側の弁護人にとって何ができるのか,どういうことをチェックできるのかということは何一つない,この仕組みには。それまでの過程が,例えば,その当該協議・合意をしようとする,あるいは,免責を受けようとする被疑者の取調べ状況が客観的に明らかになっているならばまだ手掛かりはあるいはあるかもしれません。先ほど小坂井幹事は,そういうことがあればまだしもと言われましたが,私はそういうふうには思えない。そういうことがあってもなおかつこの危険な仕組みについて,一層仕組みとして,制度としてそれを促進していくと,他方で他人側の弁護人の手の打ちようがない,何もここに保障がないというような仕組みが本当に作って良いのかと思います。川出幹事は両様あり得るのだと言われました。確かに両様あり得るでしょう。両様あり得るでしょうけれども,間違った方向に進み,より促進するという仕組みを私はやはり入れるべきではないだろうと思っています。 ○本田部会長 まだ御意見もあろうかと思いますが,時間の都合もございますので,「犯罪事実の解明による刑の減軽制度,捜査・公判協力型の協議・合意制度,刑事免責制度」についての議論は,ひとまずここまでとさせていただきます。   次に,「被疑者・被告人の身柄拘束の在り方」についての議論を行うことといたしたいと思います。   「試案」の「改訂版」の14ページの「身柄拘束に関する判断の在り方についての規定」につきましては,改訂しておりませんけれども,その代わりに,事務当局から,資料67の「参考案」を御提示させていただいております。この「参考案」を御提示した趣旨やその内容につきまして,まず事務当局から説明をお願いします。 ○保坂幹事 それでは,御説明をいたします。「試案」の「改訂版」の14ページと資料67の「参考案」を御覧いただければと思います。   前々回の第26回会議で御説明いたしましたように,被疑者・被告人の身柄拘束の在り方につきましては,検討の前提となる現在の運用についての認識の相違が非常に大きく,どのような現状認識を前提として規定を設けるかにつきまして,何らかの一致点を見出すということは困難な状況にございます。   したがいまして,身柄拘束に関する判断の在り方についての規定を設けるという場合には,現在の運用についての特定の事実認識を前提としない確認的な規定とするほかなく,その場合,そのような規定を設ける趣旨というのは,「現行法の解釈上一般的に認められている身柄拘束に関する判断の在り方を確認的な規定として法律に明記し,国民にも分かりやすい形で示すことが,刑事司法に対する国民の信頼という観点からも重要である」という点に求めることになろうかと思われます。このような確認的な規定である以上,もとより,現在の運用を変更しようとするものではないということが大前提となります。   このような観点からいたしますと,勾留の要件について規定する刑事訴訟法第60条,これは「参考案」の下の方に書いてございますけれども,この60条第1項を改正して,現行法に規定されている「罪を犯したと疑うに足りる相当な理由」,すなわち,犯罪の嫌疑と,「罪証を隠滅し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由」等の勾留の理由,この要件のほかに,現行法の解釈上確立した要件としての勾留の必要性というものを明記するとともに,その判断の際の考慮事情として,「参考案」に例示しているような事情を明記するということが一つの案として考えられるところでございます。   すなわち,60条1項におきましては,勾留の必要性が勾留の要件として明記はされておりませんが,これが勾留の要件であるという解釈は,学説・実務において確立されており,その「勾留の必要性の判断は,被告人の身柄を拘束しなければならない公的な利益と,これにより被告人が受ける不利益とを比較衡量して行うものであり,その際,様々な事情を総合的に考慮する」というのが確立した解釈であるということから,これらを踏まえて,勾留の必要性に関するその確立した解釈を条文上明記するという案が一つは考えられるわけであります。   もっとも,60条と言いますのは,「裁判所」による起訴後の勾留に関する規定でございまして,「裁判官」による起訴前の勾留については,60条が207条1項によって準用されますけれども,その起訴前の勾留については,勾留の必要性の意味合いですとかその判断の仕方について,見解が分かれてございます。すなわち,「勾留の理由があるにもかかわらず,勾留の必要がないとして勾留請求を却下することができるのは,明らかに必要がない場合や,その請求が権利の濫用と認められる場合にとどまる」という見解がございます一方で,「起訴後勾留と同様に,被疑者の身柄拘束の必要性とこれにより被疑者が受ける不利益とを比較衡量して,勾留の必要性がないときは,勾留請求が却下される」という見解もあるところでございます。   現行の60条におきましては,勾留の必要性が要件として明記されておらず,その際の考慮事情も明記されていないため,今申し上げた二つの見解というのが,いずれも同様に成り立つと言えます。   仮に60条を改正して勾留の必要性の要件やその際の考慮事情を明記するという場合には,起訴後勾留に関する確立した解釈に従って,考慮事情を並列的に記載をするということになると思われますけれども,そのような改正を行うと,207条1項による起訴前勾留の準用に関して,起訴前勾留についても,60条に掲げる考慮事情を起訴後勾留と同様に並列的に考慮すべきという趣旨であって,先ほど述べた前者の見解,つまり,「起訴前勾留については身柄拘束の必要性にウェイトを置いて判断すべき」という見解を否定する趣旨であるという見解を生む可能性があると考えられます。   すなわち,60条を改正すると,207条1項による起訴前拘留への準用の際に,その解釈に影響を与えるおそれがあり,ひいては,現在の運用を変えるおそれがあることから,冒頭に申し上げた検討の前提と相容れないと考えられます。   したがいまして,60条を改正する案には難点があると言わざるを得ず,これを採用することはできないと考えられるところでございます。   一方で,現在の運用についての特定の事実認識を前提としない確認的な規定を設けるという観点からいたしますと,刑事訴訟法第90条を改正して,裁量保釈の判断の際の考慮事情を明記するという案が考えられるところでございます。それが資料67の「参考案」の枠囲いの中でございます。   現行法上確立している解釈として,裁量保釈の判断に当たりまして,被告人の身柄を拘束しなければならない利益とこれにより被告人が受ける不利益を含めて,様々な事情を総合的に考慮するとされております。そこで,このような確立した解釈を条文上明記するというものでございまして,保釈に関する現在の運用を変更しないという前提に立つものでございます。   なお,60条は改正しないで,90条だけを改正するということになると,一つの指摘としては,「起訴前・起訴後を通じて勾留には問題がなくて,裁量保釈にだけ問題があるため,その点に対処するものである」という意味合いを持つのではないかという指摘も考えられないわけではございませんが,しかし,60条を改正しないというのは,先ほど申し上げたとおり,起訴前勾留への準用に際しての難点が存するためであって,90条のみを改正するということになりましても,「60条が改正の必要がなく,90条のみ改正の必要がある,すなわち,裁量保釈を含む保釈の運用に問題がある」という意味を持つことにはならないと考えられます。   これは,これまでのこの部会における議論というのが,起訴前勾留・起訴後勾留のいずれか一方,あるいは,勾留・保釈のいずれか一方のみを対象としたものではなくて,その全てを対象とするという議論が行われてきたことからも明らかでございます。   以上を踏まえまして,本日の部会におきましては,90条を改正して,裁量保釈の判断に際しての考慮事情を明記するという案を,一つの「参考案」としてお示しをいたしております。   この案も踏まえつつ,どのような選択肢があり得るか等について,御議論いただければと思います。 ○本田部会長 それでは,議論に入りたいと思います。   この事項につきましての議論は,午後4時45分までを一応の目処とさせていただきたいと思います。   御意見等のある方は,御発言をお願いいたします。 ○龍岡委員 それでは,ただいま示された「参考案」の90条のみに規定を設けることについて意見を述べさせていただきます。   この特別部会でこれまでも指摘されていますように,本来新たな立法をするということでありますと,その前提となる現状についての一定の評価を基にして,このような現状を改め,このように変えるべきであるからこうした提案をするという形になるのが恐らく筋であろうと思いますが,これまでの議論からしますと,ただいま保坂幹事からも説明がありましたとおり,そうした前提についての一致が非常に難しい,これは困難であろうと,そういうふうに思われます。そのような議論の状況の下で,先に示された基本構想に述べられているような趣旨にも鑑みますと,合意できるところで,現状の運用を分かりやすくするという観点から,確認的な規定を設けるということについては,それ自体にも意義があると考えられますところから,90条について現状の実務の運用を変更するものではないと,こういう前提で,考慮事情を明記するという提案は一応考えられることではないかと思われます。今までこの点について消極的意見を申し上げてきましたけれども,この「参考案」に関しては,そういうふうに感じます。   もっとも,身柄拘束については,ただいまも説明ありましたけれども,勾留の在り方,保釈の在り方は,いずれも重要なものでありまして,本来は両方に確認規定を置くということになるはずではないかと思われ,今回事務当局から「参考案」として裁量保釈に関するもののみが示されたことについては,やはり若干違和感があると言わざるを得ないと思います。しかし,勾留と保釈の両方について確認的な規定を設けることがただいま説明のありましたとおり,法制上難しい,確かにそういう問題があろうかと思います。御指摘のような問題があろうかと思われ,法制上難しいということであれば,90条についてのみ確認的規定を置くということにした,ということも理解できないわけではなく,今回の案については,規定の表現ぶりについてはなお検討する必要があると思いますけれども,方向性としては,強く反対することではないのではないかと思います。 ○青木委員 まず,やっとこういう形で「参考案」という形にはせよ,具体的な案が出されたということについては非常にうれしく思っております。   ただ,今御説明はありましたけれども,ここに60条について条文だけが掲げられていて,これについては確認的な規定すら設けられないということについては,やはりそういうことではまずいのではないかと思っております。   今いろいろ御説明はありましたけれども,起訴前であれ起訴後であれ,明らかに不必要な勾留がなされるということを避けなければならないということには異論はないと思います。そういうことで,勾留についても確認的な規定を設けるということは可能だろうと思います。   例えば,事案の性質,被告人が罪証を隠滅し又は逃亡するおそれの程度,勾留により被告人が受ける不利益の内容及び程度その他の事情というのを勾留の必要性判断に当たって考慮すべき事情として明記するということはできるのではないでしょうか。その場合に,確かに刑事訴訟法第207条によって被疑者段階の勾留についても考慮すべき事情が同じ形で適用されて,それが不都合だというようなお話が今ありましたけれども,同じ文言であったとしても,手続の段階が異なるわけですから,それによっておのずと判断の違いというのが生じてくるのは当然のことであって,そのような規定を設けることによって支障が生じるとは,少なくとも私は余り考えられません。   それから,裁量保釈の判断についての考慮事情を明記するということについては是非お願いしたいと思います。そして,その考慮事情の中に,被告人の防御権に配慮した内容も是非入れていただきたいと思います。被告人が保釈されているか否かによって,例えば,弁護人との打合せ一つをとっても,必要なときにいつでも顔を突き合わせて同じ書類を見ながら打合せができるというのと,曜日や時間帯の制約が非常に大きい中でアクリル板越しにしか打合せをすることができないということの差は非常に歴然としています。   この保釈に関しては,裁判員制度の導入が決まった頃から,保釈の判断に当たって,被告人の防御権に配慮するというようなことが意識されてきたと思います。裁判員制度の導入が決まって連日開廷というようなことが出てきたことも相まって,保釈実務に関して大きな影響を与えたと評されている松本裁判官のジュリストの論文でも,被告人は当事者として防御の権利を有するが,身体を拘束されている状態では防御権の行使に制約を受ける,弁護人と被告人とが綿密かつ十分に打合せをする機会を保障し,防御権の行使を十全なものにするためには,可能な限り保釈が認められる必要がある。また,裁判員制度の下で連日的開廷が現実のものになると,弁護人と被告人とが打合せに際し十分な意思疎通を図って準備をし,公判前整理手続や公判の審理には十分な準備が整った状態で臨めるようにする必要がある。そのためには,可能な限り身体拘束から解放された状態で訴訟の準備を行う必要性が高いという趣旨が指摘されています。   このような配慮というのはされてきたことだろうと思いますし,この部会でのこれまでの議論からしても,公判中心主義ということを掲げて新たな時代の刑事司法制度の在り方を取りまとめるに当たっては,考慮事情の中に被告人の防御の準備の必要性を明記すべきだと思います。   そこで,例えば,この「参考案」との対比で申し上げますと,逃亡するおそれの程度を考慮してはいけないと言うつもりはありませんけれども,考慮事情としてあえてここに掲げるような一般的なものではないように思いますので,それは外していただいて,事案の性質,被告人が罪証を隠滅するおそれの程度,被告人の防御の準備のために保釈することの必要性の程度,勾留による拘禁による被告人が受ける不利益の内容及び程度その他の事情を裁量保釈の判断に当たっての考慮事情として明記するというようにしていただきたいと考えています。 ○村木委員 一言だけ。今,まだまま子のように「参考案」ということになっておりますので,是非。身体拘束は本人に非常に大きな負担がかかりますし,今青木委員が言われたように,裁判の準備をしなければいけないときに閉じ込められていて,電話も使えずパソコンも使えず資料も手に入らずという中で裁判の準備をしろと,こういう形になるわけでございます。非常に大きな制約がかかって,十分に裁判も戦えない状況だということを是非考慮いただきたい。   90条だけというのは非常に違和感があるのですが,専門家がこれだけおられて最後に知恵がなければ90条だけでも仕方がないのかもしれませんが,是非規定を入れていただきたいと思います。 ○後藤委員 先ほど保坂幹事から,勾留についてはその拘束の必要性とそれからそれによって対象者が被る不利益とを比較して考えるのが一般的な理解だとおっしゃったと思います。もしそれが一般的な理解として共有されるのであれば,この規定を裁量保釈の部分に限る必要はなくて,勾留一般についても同様な規定を設けることに支障はないように私には思えます。確かに被疑者勾留の場合,検察官に請求権があるのに対して,被告人勾留だと職権によるしかないという違いはあります。そのため,検察官の請求権の意味をどう理解するかという確かに難しい問題はあると思います。しかし,それは勾留を認めるためには比例原則的な利益の権衡が必要だという実質的な原則には影響しない部分ではないかと思います。勾留と保釈の両方に適用される条文,あるいは,それぞれに同じような条文を作ることに,それほど難しい支障はないように私には思えます。   それから,もう一つ細かいことですが,資料67参考案に「逃亡するおそれの程度」という表現があるのが気になります。現在の60条1項各号は「おそれ」という言葉を使わないで,「疑うに足りる相当な理由」と書いています。これは,旧法で「虞」となっていて運用が緩やかになるきらいがあったために,意識的に「相当な理由」と直したのだと思います。それを考えると,ここで「おそれ」という言葉を使うことには抵抗があります。現存の条文に忠実に言うなら,「疑いの程度」というような表現の方が適するのではないかと思います。 ○坂口幹事 60条改正について意見を申し上げます。   身柄拘束に関してきちんとした調査をして,現状認識を共有した上で,しかるべき手当てをするという作業の可能性について否定するものではありませんが,今のところは,「事務当局試案」で御提示になられたように,確認的な規定を設けるということが我々のゴールであると理解しております。   してみますと,事務当局から冒頭御説明がありましたように,60条について,この「参考案」にあるような事柄を書き足すという形での改正をするというのは,事務当局御自身がおっしゃったとおり難点があると言わざるを得ません。その解釈自体が適当だとか優れているとかいう問題ではなく,現に現行60条,起訴前勾留と起訴後の勾留についての見解は統一されているわけではなくて,いろいろな見解があるということは事実ですので,60条について手を付けてしまった場合に,単なる確認規定にとどまらず,起訴前勾留の要件の実質的な変更がこの改正でなされたのだと解される余地はあるということは,どなたのどういう御見解を採る方でも否定はできないと思われます。そうであるならば,そういう改正をしてしまうと起訴前勾留に係る現在の運用に影響が出るおそれがあるため,警察としてもそのような案には反対です。 ○安岡委員 私はこの「参考案」に出ているような規定を是非条文化してほしいと望みます。理由は,何とかの一つ覚えで恐縮なのですけれども,刑訴法を普通の国民が読んで分かる法律に近付けてほしいということです。この「参考案」を条文化すれば,読んで分かる部分が増えるということで是非お願いしたいと思います。   この部会を構成している専門家の皆さんには,普通の国民が判断者として刑事裁判に参加するときの心情,不安感に思いを致して,法曹三者をはじめとする刑事司法を運営する者は国民の協力に応えるために何をしなければならないかをもう一度よく考えていただきたいと思います。   もう1点,普通の国民が理解できるのかという観点から述べますと,「参考案」のような条文を90条には入れられるけれども,60条には入れられない,あるいは,入れるのは不適当である理由は,先ほど事務当局から縷々説明を頂きましたけれども,全く理解できません。私の人の意見を聞く能力が低いのか,あるいは,頭が悪いのかと心配していたのですけれども,今,後藤委員,それから龍岡委員の発言を聞いて,別に私の頭が悪いから理解できないわけではないのだなと安心した次第です。   ともかく,憲法が保障する最も大切な権利である自由を国家が奪ってよい条件というのが読んで分かるように丁寧に規定されていないのは一国民として耐え難い。   ということで,60条にも是非「参考案」のような条文を入れるようにしていただきたいと思います。 ○周防委員 今,安岡委員がおっしゃったことに私も同意というか,ほぼ同じように考えています。本当にこの席で僕もしつこいように人質司法について話してきましたが,その都度,警察,検察関係者又は裁判官から思いのほか強い反発を受けてかなりショックを受けました。   刑事裁判の取材を始めてすぐ軽微な事件の被疑者取調べで,認めれば出してやると,認めないなら泊っていってもらうというような利益誘導とも脅しとも取れるようなそういう取調べがあったというのは本当にたくさんの被疑者若しくは被疑者を経験された方から聞きました。本当にそういう取調べがあるのかどうかは,今,録音・録画がなされていない状況では,真偽のほどは確かめようがないわけで,それは先ほども話しに出ました取調べの録音・録画の範囲の問題とも非常に大きく関わってくるのですけれども,こういった軽微な事件での問題を本当にどういうふうに解決していったら良いのかというのは,この会議に参加して3年間話し合ってきても,結局僕の中には絶望感だけが残りました。   ただし,ここで人質司法という言葉を使わなくても,今,安岡委員がおっしゃったように,せめて裁量保釈,90条に関して青木委員がおっしゃったように防御権ということに触れながら,この「参考案」にあるように一つきちんと一文入れていただく,本当にそうして欲しいと思います。そして60条に関しましても,やはり私たち一般人が読んで分かるような形で是非一文を入れていただきたいと,そこをもう一つ頑張って考えてくださると有り難いと思います。 ○上野委員 私も先ほど坂口幹事が言われたことと結局同趣旨になってしまいますけれども,事務当局から先ほど御説明がございましたとおり,刑訴法60条と207条をめぐる解釈が必ずしも一定でないと私自身も認識しておりますし,その中で60条に「参考案」のような考慮事情を規定すると,やはり身体拘束に関する判断の在り方についての確認的な規定を設けるという趣旨を越えてしまって,相当ではないのではないかと考えております。   仮に何らかの規定を設けるのであれば,事務当局「参考案」のように90条に規定を置くことを検討するのが相当ではないかと思われます。 ○本田部会長 それでは,御発言もなさそうでございますので,本日の議論は,ここまでとさせていただきたいと思います。   それでは,今後の審議の進め方につきまして,御提案をさせていただきたいと思います。   当部会では,御案内のように,第26回会議から本日までの3期日にわたりまして,「事務当局試案」に基づきまして,各事項について議論を行ってまいりました。いまだ意見が相違する点もございますけれども,全体としては,議論は熟しつつあり,当部会として結論を出す段階に入ってきているのではないかと思います。   そこで,事務当局には,これまでの議論を踏まえまして,「事務当局試案」の内容を改訂しつつ一定の取捨選択を行った上で,これまで当部会におきまして共有されました理念や将来的な課題等をも付記した形での最終的な「取りまとめの案」を作成してもらいまして,次回は,それに基づきまして,詰めの議論を進めていきたいと考えております。   このような形で審議を進めてよろしいですか。 (一同了承)   ありがとうございます。   皆様におかれましては,最終的な取りまとめに向けまして,より一層の御協力をよろしくお願い申し上げます。   なお,次回の具体的な議事予定につきましては,近日中に事務当局を通じましてお知らせいたしたいと思います。   予定いたしておりました事項は全て終了いたしましたので,これにて本日の議事を終了したいと思います。   なお,本日の会議におきまして,特に公表に適さない内容にわたる発言などはなかったと思いますので,発言者名を明らかにした議事録を公表させていただくことといたします。   次回は,既に御案内いたしておりますとおり,6月30日,来週の月曜日,午後1時30分から午後5時までを予定いたしております。場所は,本日と同じ,ここの部屋でございます。   それでは,閉会します。   どうもありがとうございました。 -了-