法制審議会 新時代の刑事司法制度特別部会 第30回会議議事録 第1 日 時  平成26年7月9日(月)    自 午後3時07分                         至 午後4時20分 第2 場 所  東京地方検察庁総務部会議室 第3 議 題  時代に即した新たな刑事司法制度の在り方について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○吉川幹事 ただいまから法制審議会・新時代の刑事司法制度特別部会の第30回会議を開催いたします。 ○本田部会長 皆様には大変お忙しい中,本日も御出席頂きまして,誠にありがとうございます。   本日は,委員・幹事とも,全員御出席ということであります。   本日は,お手元の議事次第のとおり,取りまとめに向けまして詰めの議論を行うことといたしたいと思います。その上で皆様の御協力を頂きながら,最終的な取りまとめを行いたいと考えております。お手元には資料70といたしまして,「取りまとめの案」の改訂版をお配りしていますので,まずはその内容につきまして事務当局から説明してもらいたいと思います。 ○吉川幹事 それでは,資料70につきまして,前回の資料69からの改訂部分を御説明いたします。   この資料70も本文は12ページまでで,それ以降に,別添として「要綱(骨子)」の1ページからが続いておりますので,御確認ください。   まず,取調べの録音・録画制度に関して御説明します。   別添「要綱(骨子)」の2ページ目,そして,本文の10ページ目の「附帯事項」のいずれにも下線が引かれた箇所があり,これらが修正箇所でございます。なお,本文の2ページ下から3ページ上にかけて法整備の概要にも修正箇所がございますけれども,これは今申し上げた「要綱(骨子)」2ページの記載と同じものでございます。   取調べの録音・録画制度につきましては,取調べ状況の立証に関する努力義務規定を設けるべきであるとの御意見があり,議論がなされました。もっとも,これに対しては,「義務の内容や範囲が不明確である」,あるいは,「録音・録画義務と同時に規定すると,少なくとも実際上は捜査機関に対して,対象事件以外の事件についても広く録音・録画を義務付けるのと同じ効果を持つことになる」などといった反対意見が示されたところでございまして,取りまとめに向けて議論を収れんさせるという観点からは,そのような規定を設けることは極めて困難であると言わざるを得ません。   一方,この本文の10ページの「附帯事項」の「1」の記載に関連して次のような御意見,つまり「録音・録画の義務化の対象となる事件以外の事件についても積極的に録音・録画を行うことが望ましいということを明らかにするために,基本構想で確認された録音・録画制度の趣旨・目的が制度上も明確になるようにしていただきたい」旨の御意見がございました。   このような御意見を踏まえますと,取調べの録音・録画制度の見直し規定において,録音・録画制度の趣旨・目的など,基本構想及び本答申を踏まえた検討の観点を具体的かつ適切に盛り込むこと,さらに,その検討に当たっては,制度自体の運用状況だけでなく,実務上の運用としての録音・録画の実施状況なども検討対象とするということを盛り込むことが考えられ,それによって御意見の趣旨が制度上も明らかになるものと考えられるところでございます。   そこで,この改訂版資料70では,「要綱(骨子)」の2ページ目におきまして,「二」のように見直し規定の記載を修正しております。なお,ここに「基本構想及び本答申を踏まえて録音・録画の実施状況について検討を加え」と記載しておりますのは,今後の条文化の際には,検討に当たっての具体的な観点を規定することになるものの,この点については法制技術的な点からの検討が必要となることから,「要綱(骨子)」としてはこのような記載にとどめているという趣旨でございます。   さらに,本文の10ページ目の「附帯事項」の「1」の2段落目を見ていただきますと,ここにも施行後一定期間を経過した段階で行う検討について,「基本構想及び本答申を踏まえて行われるべきである」旨を明記するとともに,「見直し規定の条文化の際には,上記のような趣旨を適切に盛り込むよう検討すべきである」旨を明記いたしました。   また,この2段落目におきましては,「客観的なデータに基づき」との記載を加えますとともに,「検討の時期を具体的に定めた上で」との記載を加えております。見直し規定に関しましては,前回の部会において,「いつ,どのようなデータに基づいて検討を行うのかなどを明記すべきである」との御意見が示されました。具体的にどのようなデータを分析・評価の対象とするかについては今後策定されることになりますが,正確な現状認識に基づいて検討を行う上で,様々な角度からの客観的なデータが必要となることは間違いないところでございます。また,条文化の際には,施行からどの程度の期間が経過した段階で検討を行うべきかについて具体的な年数を定めることとなります。   そこで,この資料70におきましては,「客観的なデータに基づき」との記載,それから,「検討の時期を具体的に定めた上で」との記載を加えさせていただきました。   次に,本文11ページを御覧ください。修正箇所に下線が引いてございます。本文10ページの下から11ページに続く「附帯事項」の「2」の身柄拘束に関する規定についての言及におきましては,改訂前はその最後に「もとより,現在の運用を変更しようとするものではない」との一文を記載しておりました。この点につきましては,前回の部会において御質問があったことを踏まえて,記載内容をより明確化する観点から,その最後の一文を削除し,この規定が「現在の運用を変更する必要があるとする趣旨のものではないことに留意する必要がある」と記載することとしたものでございます。   このほかにも記載の趣旨をより明確化するなどの観点から,若干の字句の追加,修正を行っております。   資料70についての御説明は以上でございます。 ○本田部会長 今の御説明のとおり,前回の資料69に対する皆様の御意見,また,これまでの議論の状況を踏まえつつ,皆さんの御了承を得ることのできるものにするという観点から,資料69に必要な改訂を行いまして,本日資料70を御提示させていただいたところでございます。皆さんそれぞれ御意見があろうと思いますが,新たな刑事司法制度の構築に向けて,早急に一歩踏み出すということが重要ではないかと考えているところでございます。是非とも意見の集約に向けて御協力いただけますよう,重ねてお願いを申し上げたいと思います。   資料70の内容につきましては,いずれの点でも結構でございますので,御意見等のある方は御発言をお願いいたします。 ○村木委員 取りまとめをということでございますので,それに対する対応を決めるに当たり,神津委員,周防委員,松木委員,安岡委員,それから,私の5人から次の二つの点について確認をさせていただきたいと思います。   まず,確認の一つ目でございます。法施行後に行われる見直しでございますが,これはもとより様々な観点から行われるものでありますが,必ず次の2点を踏まえて行われると受け止めてよいかどうかという御質問でございます。   1点目は,基本構想に示された二つの共通認識,具体的には,「刑事司法における事案の解明が不可欠であるとしても,そのための供述証拠の収集が適正な手続の下で行われるべきことは言うまでもない」こと,「公判審理の充実化を図る観点からも,公判廷に顕出される被疑者の捜査段階での供述が,適正な取り調べを通じて収集された任意性・信用性のあるものであることが明らかになるような制度とする必要がある」こと,以上の二つの共通認識を踏まえる。   それから,2点目は,この答申の「附帯事項」,具体的には,義務化の対象とされていない取調べであっても,基本構想で確認された先ほど申し上げた共通認識を実現する観点から,実務上の運用においても可能な限り幅広い範囲で録音・録画がなされ,かつその記録媒体によって供述の任意性・信用性が明らかにされていくことを強く期待することを踏まえる。   以上の2点を必ず踏まえるというふうに受け止めてよろしいかどうか,これが確認の一つ目でございます。   確認の二つ目は,検察が新たに行う運用についてでございます。   検察が新たに行う運用は,今回義務化される録音・録画制度と方向性を異にするもの,例えば,取調べ機関による恣意的な録音・録画といったものではなく,先に述べた基本構想の二つの共通認識及び本答申の趣旨に沿うことを目指すものであると理解してよろしいかどうか,以上2点を確認させていただきたいと思います。 ○本田部会長 では,1点目は事務当局からお願いします。 ○吉川幹事 まず,一つ目の御質問につきましては,ただいま村木委員御指摘のとおり受け止めていただいて結構でございます。 ○上野委員 二つ目の御質問は検察の運用に関わることですので,私の方から答えさせていただきます。   検察の運用につきましても,村木委員の御指摘のとおり御理解いただいて結構でございます。 ○村木委員 ありがとうございます。それでは,お答えを頂きましたので,続けて意見を言わせていただきたいと思います。5人の委員を代表して申し上げます。   ただいま取りまとめに当たって不安を感じている点につきまして,事務当局,それから検察から明快な御回答を頂きましたので,これを受けて,取りまとめに関する5人の所見を申し述べさせていただきたいと思います。   私たち5人は,今回の刑事司法制度改革に当たり最も重要な考え方は,本特別部会が平成25年1月に取りまとめた「基本構想」において示された二つの共通認識に集約されると考えております。すなわち,「刑事司法における事案の解明が不可欠であるとしても,そのための供述証拠の収集が適正な手続の下で行われるべきことは言うまでもない」ということであり,また,「公判審理の充実化を図る観点からも,公判廷に顕出される被疑者の捜査段階での供述が適正な取調べを通じて収集された任意性・信用性のあるものであることが明らかになるような制度とする必要がある」ということです。   5人は,今回の「取りまとめの案」はこのことを実現していくための出発点として最低限必要な事項を担保し得たと考えます。5人は,録音・録画に関して,先に次の4つの評価基準を提示させていただきました。第1に将来的な全事件の可視化の方向性に沿うものであること,第2にそれに向けた道筋が一定程度明確になること,第3に段階的実施のスタートとして相当程度の規模を持ち,また,取調べ側の恣意性が入り込まない可視化の取組が担保される仕組みを実現すること,第4に一定期間経過後に運用状況の検証を行い,それに基づく見直しを行う手続を具体的に盛り込むこと,これらの4つの評価基準に照らしたとき,今回の法整備案における録音・録画の義務化の範囲が狭いことは誠に残念ではありますが,併せて先ほど確認させていただいたように,一つには義務化をされる事件以外でも検察において「基本構想」における前述の二つの共通認識や本答申に沿った録音・録画の運用が始まるということ,もう一つには,法施行後の見直しに関し,同じく「基本構想」における前述の二つの共通認識や本答申を踏まえて行うとの一定の方向性が示されたこと,これらをもって私どもがお願いをした4つの基準の一定部分はカバーされたと判断し,これが大きな改革の第一歩になると理解をして,多くの課題は残るものの速やかに第一歩を踏み出す方向にかじを切るべきとの判断に至りました。   本答申に基づく改正法の早期国会提出と成立を心から望むものであります。また,改めて答申文にあるように,義務化の対象とされていない取調べであっても,「基本構想」で確認された前述の共通認識を実現する観点から,実務上の運用において可能な限り幅広い範囲で録音・録画がなされ,かつ,その記録媒体によって供述の任意性・信用性が明らかにされていくことを強く期待し,取り分け当事者である取調べ機関や裁判所には,実践を強く期待いたします。5人は今回の経験を基に今後とも一般の国民の目線を共有して,改革の行方を注視していこうと思います。 ○大久保委員 まず初めに,長期間にわたり御尽力くださいました本田部会長を始めとする事務当局の皆様に心からのお礼を申し上げます。   本日示されました「取りまとめの案」を見ますと,どのような制度を導入するのかや導入する制度の具体的な在り方に関し,犯罪被害者の立場から申し上げてきた意見も一定程度は反映されていると思います。とはいえ,録音・録画制度では性犯罪被害者等が例外規定には入りませんでしたし,被告人の虚偽供述等の禁止等々についても入ってはいません。結局,犯罪被害者等基本法が制定されても,刑事司法の世界では被疑者・被告人が主役だということを改めて痛感させられたということも事実です。   しかし,それぞれ背負っている立場が異なりますし,様々な意見がある中で一つの結論を出すためには仕方がないことだと思っています。多分皆さんも多かれ少なかれこのような思いは抱いているのではないかと考えます。そのため,私としましては,将来更に検討が行われて,被害者からも国民からも信頼されるバランスのとれたより良いものに改められるということを期待いたしまして,今回のこの「取りまとめの案」の内容で取りまとめを行うということに賛成いたします。 ○神幹事 大分この最終取りまとめに対する賛成の意見等が表れているところですが,一つ御質問させていただきたいと思っております。一般社団法人電気通信事業協会から当部会の事務当局宛てに通信傍受の合理化・効率化に関する要望事項が提出されているところでもありますので,私の方からこの点についての御質問をさせていただきたいと存じます。   通信傍受は,通信の秘密や個人のプライバシーの制約を伴うものであり,適正な運用が確保されることが重要であることは言うまでもありません。今回の答申案においては,通信傍受の手続の合理化・効率化として改変不能な記録を自動的に作成する機能等を有する装置等を用いることにより,立会いなしに傍受を実施することができるとされていますが,その適正な運用を図る上では,捜査機関が実際に使用する装置がそのような法定の機能を有していることが前提であり,装置自体の適正性が確保されることが極めて重要であると考えています。   当部会の議論がまとまれば,装置の設計や作成など技術面での検討も進められていくこととなると思いますが,その際には,例えば民間の専門業者や通信事業者などの民間事業者の意見を聴いたり,あるいは可能な範囲で仕様書を公開するなどしつつ,法律上ないし制度上求められる機能をきちんと備えた装置が作成され,装置自体が適正に確保された上で適切に運用されると理解してよいのかどうかをお尋ねする次第であります。 ○久田幹事 神幹事の御指摘のとおり御理解いただいて結構です。 ○神幹事 ありがとうございます。 ○小坂井幹事 この機会に感じていることをなるべく手短に申し上げます。   新たな制度を作って,なおその後においても,もしえん罪の発生を防止し得なかったということになってはなりません。我々はこれを絶対に避けなければならず,その努力をしなければならないと思います。そのためには,先ほど村木委員がおっしゃったように有識者の方々,さらに,広く市民の方々にこの制度の行方を注視していただく必要があると思います。研究者の方々におかれても,えん罪を防止する視点をも組み込んだこの制度の法解釈を展開していただく必要があります。そして,何より実務そのものの動向が大事です。   可視化問題に絞って若干申し上げます。今回の制度化に当たっての問題点は従前からお話ししているとおりですので,ここでは繰り返しません。可視化制度がきちんと機能するかどうか,ひとえに実務家の日々の実践に懸かっていると思います。弁護人はもちろん弁護実践を積極的に展開しなければなりません。加えて,裁判所の適切な対応が制度のより良い発展にとって不可欠です。そして,今回捜査機関,検察・警察は可視化という課題を一つの仕組みとして引き受ける決断をされました。この制度を自らの高潔性をはっきりと証明する機会として全うしていかれることが肝要ではないかと考えております。   日弁連が取調べの可視化といいますか,この問題を刑事司法改革の最優先課題として捉えて10年以上がたっています。恐縮なのですが,あえて申し上げれば,私自身は可視化というようなことにコミットし始めてから20年ぐらいにはなります。ようやく我が国において,その対象は先ほど村木委員がおっしゃったとおり限定されているわけですけれども,とは申せ,取調べの全過程を録画・録音する制度が実現する運びになりました。これは立場の違いを乗り越えてこの間議論をしてきた結果であり,成果であると思います。もちろん立場によってその果実の大きさや味わいは相当に違うとは思いますけれども,しかし,これが調書裁判という我が刑事司法の根本部分,根幹部分を変革する大きな意義を有すること自体は,恐らく異論はありません。各々の立場にとって,例えば被害者の方の立場におかれても,この制度は価値があります。意味があります。そうであるがゆえに,今回の取りまとめ,あるいは,要綱提出を受け,更にはその後法制化がなされていくわけですけれども,それ以降の関係者の使命,取り分け実務家の責務は重いものがあると思います。これを活かしていかなければならないと考えています。   幸い先ほどお話がありましたとおり,今後の展望につきましては,今回の成案は有識者の方々の御確認をも踏まえて,一定の見直しを明らかにするものになっています。今回の可視化制度化を機に我が国の刑事司法がその手続の透明性確保に向けて大きな一歩を踏み出したことは間違いがなく,国家,国の側が説明責任を全うする,正にそういう刑事司法の実現に向かうものと考えております。   改めてこの間の議論と各位の御尽力,御努力に感謝したいと思います。ありがとうございました。 ○後藤委員 この案につきましては,私が希望した意見と違っている所もありますし,不満な点もあります。しかし,何もまとまらないで全く答申ができないよりは,これでまとまるのであれば,そのことに積極的な意義があると思いますので,これで取りまとめることに異議は申しません。   そこで,これで取りまとめて答申ができるという前提の下で,将来に向けて幾つか私の希望と懸念をこの機会に申し上げたいと思います。希望の一つは,特に私が度々発言した自白事件の簡易迅速処理の部分についてです。この案について,当初の事務当局の御説明では,起訴のための嫌疑の基準を下げるものではないという趣旨の説明をされました。確かに検察官にとっての犯人らしさの程度という意味では,起訴基準としての嫌疑の程度は下げないのでしょう。けれども,その後の議論の過程でもはっきりしましたように,言わば証拠の厚みといいますか,理論的に言うと解明度という概念が当たるかもしれないですけれども,それについてはある種の事件ではもっと下げて起訴しても良いという含意を持つ案であることがはっきりしました。   その目的自体について,私は反対ではないです。ただ,そのようなこの案の含意は立法の過程で国民に向けて明確に説明される必要があると思います。と申しますのは,それに対しては当然反対の意見があり得るからです。今までいわゆるあっさり起訴論に反対してきた方は,それは手抜き捜査による起訴を許容するものだと批判をされる可能性があります。そのような批判はしっかり受け止めて議論する必要があると思います。そこを明確に議論することを避けないようにしていただきたい,というのが希望です。   懸念と申しますのは,今回,有罪の答弁制度は見送られたわけですけれども,将来有罪の答弁制度がもう一度現実的な立法の課題になるとこともあり得ます。そのときにこれと同じような再起訴制限の緩和という方策を適用しようという議論にならないかということです。つまり,検察官は有罪の答弁が得られると思って起訴したけれども,それが得られなかった場合,すぐに公訴を取り消して捜査に戻るというようなやり方にするのは,適切ではないでしょう。もしそういうことになると,私が懸念した弊害がより大きくなってしまいます。そういう方向の議論にならないでほしいということだけ申し上げます。   長くなってすみませんけれども,もう一つ希望を申し上げます。検察の在り方検討会議から始まった今回の議論は,村木委員が当事者になられたあの事件から発生しました。あの事件のために検察に対する信頼の危機があって,それを回復することが大きな課題だったと思います。この間,検察当局は,取調べの録音・録画についてもかなり柔軟な姿勢を示されるようになってきたのでそれは大変結構なことだと思います。けれども,他方で最近の再審無罪事件で,無罪判決につながる証拠が検察庁にずっと眠っていたと指摘されているのに,それに対する検察庁の問題意識はまだはっきりと見えません。   それから,警察にとっても,いわゆる志布志事件などで取調べの在り方について,国民の間に疑念や不安が生じたと思います。その不安は,この答申案で完全に解消されるまではいかないと思いますので,捜査・訴追に当たる方々には,今後とも国民の信頼を回復することに一層意を用いていただくことをお願いいたします。 ○酒巻委員 この要綱で取りまとめること,委員として賛成したいと存じます。全体について一言発言させていただきたいと思います。   私はこれまで法学者として,主として理論的あるいは法制度的な整合性の観点,あるいは,制度が出来上がったときの合理的な運用可能性の観点から,いろいろと意見を述べさせていただきましたけれども,恐らくこの度まとまるであろう要綱は,日本の刑事司法の将来,正に新時代の刑事司法に,これまでと違った大きな変化,影響を及ぼすものだろうと認識しています。この意味で,私は,この要綱作成に関与した者の一人として,非常に重大な責任を将来の日本の刑事司法に対して負わなければいけないと感じております。   刑事司法制度の全体の健全・適正な運用というのは,先ほど小坂井幹事がおっしゃったとおり,出来上がった法制度や法技術を実際に毎日,毎日行われている刑事事件の場で動かして運用する法律実務家の方々,警察,検察,弁護,裁判に携わっている人々にひとえに懸かっていると思っております。私はそういう実務の今後の推移を実際にやるのではなくて,観察する立場ではありますけれども,そのような法律実務家に新たな制度の精神を伝える,あるいは実務家の卵にこれを教育するという仕事にまた戻って専心したいと思っております。どうかここでお願いは,法律実務家の皆様が新しくできるであろう制度について,その運用に英知を尽くして,健全な,そして,適正な刑事司法の実現に携わっていただきたいと心より願っている次第でございます。これは感想でありまして,以上でございます。 ○松木委員 私ども一般有識者5名を代表しての意見は先ほど村木委員の方から述べていただきましたので,私としては若干の補足の意見といいますか,感想といいますか,述べさせていただきたいと思います。   まずは,今回のこの「取りまとめの案」作成への部会長及び事務当局の方々の御尽力に改めて敬意を表するとともに,お礼を申し上げたいと思います。この「取りまとめの案」は,取調べの録音・録画制度はもちろんのこと,捜査・公判協力型の協議・合意制度の導入を含めて,正に新たな時代の刑事司法制度を構築するというこの部会のテーマに対応した,総体として非常に充実した内容になっているのではないかと思います。それぞれの考え方というものはあろうかと思いますけれども,取調べ及び供述調書への過度な依存を脱して,新たな時代に一歩を歩み出していく,踏み出していくということが正に重要でありまして,我々の総意によってこの取りまとめを行い,この改革が早期に実現するよう積極的に後押しをしていくということが正に肝要であろうと感じております。   こうした観点からも,私としても,この「取りまとめの案」に賛成する次第であります。 ○神津委員 本日取りまとめということだと思いますので,そういった中で一言申し述べたいと思います。   私も基本的な認識については,先ほど代表して村木委員の方からお話があったとおりであります。その上において,二つ申し上げさせていただきたいなと思います。   一つは,感謝の気持ちであります。自分自身初めてこういう場に参画をさせていただいて,実に扱っている事柄が大変な事柄であって,そしてまた,大変な議論の場であるということの痛感を3年間してまいりました。本日,一つの方向性を確認し合ったことについて,部会長の御尽力はもとより,全ての方々に敬意を表したいと思います。   そして,取り分け,この議論に至る発端ともなった村木委員の事件,その中で大変長い期間拘束をされながら,正しいことを正しいと言い続け,間違っていることを間違っていると言い続けられた村木委員の精神力,そして,粘り強さがなかったら今日,こういう取りまとめというものに果たして至ったのだろうかというふうにも思うわけでありまして,そういったことを含めて,様々な意味で心より敬意を表しておきたい思っています。   それから,もう一つなのですけれども,これはお願いを含めてですが,引き続き国民の目線が大事だということであり,透明性,説明責任が大事だということを是非是非念頭に置きながら,関係の方々を含めて,当たっていただきたいなと思います。そもそも私のようなものがこの部会に関わらせていただいたというのは,煎じ詰めればそういったことにこだわり続けるという意味であったのかなというふうに思っております。時に言いたいことも言わせていただきました。そういう思いをまた受け止めていただいたことに事務当局の皆さん方も含めて感謝を申し上げたいと思います。   大変に勉強もさせていただいたと思っています。私なりに引き続き,国民目線で見守り続けてまいりたいと思います。ありがとうございました。 ○周防委員 刑事裁判の取材を始めてからもう12年が過ぎ,こうして法律の専門家の皆さんと3年間にわたって話し合う機会を得たことで,正直に申し上げれば,刑事司法の内実に少しだけ詳しくなった分,最初の頃感じていた刑事司法の現状に対する素朴な「驚き」,「疑問」,いわば市民感覚のようなものが,自分自身,非常に薄れてきているように感じます。これはどんな世界でもそうかもしれませんが,自分がその新しい世界へ入った時の戸惑い,驚き,違和感といったようなものが,徐々にその世界の常識に染まることで,何の疑問を持つこともなく,当たり前のこととなっていきます。私は映画監督として,今まで様々な世界を取材してきましたが,絶えず自分に言い聞かせてきたのは,「はじめの驚きを忘れるな。」,ということです。その世界を知り過ぎると,全てが当たり前になってきて,その世界を初めて見た時に感じた「驚き」や「面白さ」を忘れてしまう。しかし,その「驚き」や「面白さ」こそが,映画を初めて見る観客にとっての最良の入り口になるのだと信じ,映画を作ってきました。   是非,法律の専門家の皆さんにも心に留めておいていただきたいのは,専門家であるが故に当たり前に思っていることが,決して多くの市民にとっては当たり前のことではない,ということです。専門家に任せておけば良いのだ,ということではなく,多くの市民にも理解できるように言葉を尽くしていただきたいと思っています。その責任が専門家にはあると思います。   余計なことを申し上げましたが,ここで話し合われてきたことについて,その忘れてはならないと思っている市民感覚で,少しお願いのようなものを述べさせていただきたいと思います。   非法律家5人の意見については,村木委員の方から伝えていただきましたので,ここでは個人的に危惧している点について述べさせていただきます。   今回,3年にわたって議論し,ようやく取調べの録音・録画制度を法制化するよう答申することになったわけですが,ここで思い出していただきたいのは,第18回会議で松尾関係官がおっしゃったことです。松尾先生は,取調べや供述証拠に過度に依存している現状は,刑事訴訟法の運用が必ずしも厳格に行われてこなかったからではないか,というように述べられました。   法律が決まっても,その運用によっては必ずしも事態が改善されるとは限りません。特に調書裁判と批判される,過度に供述調書に依存した裁判を作りあげてしまった刑事司法の現場の皆さんには,今回の取調べの録音・録画制度を厳格に運用して,適正な取調べを実現していただきたいと心から願っております。それと同時に,私もその運用について,外からしっかりと見ていくつもりでおります。   また,検察の裁判員裁判対象事件以外の事件に対する取調べの録音・録画の運用についても,恣意的なものになっていないか,特に「様々な録音・録画」というやり方について注目していくつもりです。この会議で話し合われた,全過程の録音・録画が取調べの適正化を図る上で重要であるという点をないがしろにして,検察独自の一部録音・録画という,制度化される録音・録画制度とは違う録音・録画制度が広く行われるようなことがないよう,切に望むものであります。   また,警察の取調べにおいて制度化される録音・録画は,裁判員裁判対象事件についてだけですが,もちろんそれ以外の事件でも供述調書の任意性・信用性に争いが生じることは予想されますし,不当な利益誘導や自白の強要といった不適切な取調べの疑いが生じる事件もあると思われますので,制度化される対象事件以外でも,当然のことですが,適切な取調べに努めていただきたいと思います。   一点,付け加えさせていただくなら,取調べの録音・録画にばかり注目が集まりましたが,弁護士の取調べへの立会につきましても,今後,法制審議会で議論が深まることを切に願っております。『それでもボクはやってない』,『終の信託』といった映画を外国で上映した時,「どうして取調べに弁護士が立ち会わないのだ。」という質問が寄せられました。日本でも議論を深めるべき問題だと思うゆえんです。   この会議に臨むにあたって,取調べの録音・録画のほかに私が強く訴えたかったのは,証拠開示についてでした。裁判の取材を始めてすぐ,被告人そして弁護士は全ての証拠を見られるわけではないという現実を知り,とても驚きました。実際にこの会議での議論を終えた今でも,例外はあるにしても,なぜ事前一括全面証拠開示が許されないのか理解できないでおります。ただし,今回の部会では,公判前整理手続に付される事件についてだけではありますが,証拠の標目のリスト開示が決まりました。これは,小さいけれども非常に重要な決定だったと思っております。しかし,再審請求審における証拠開示については,裁判所,また事務当局から,すぐに法制化できるようなものではないが,各々努力しているというお話がありました。であるなら,今,正に再審を争っている事件にありまして,速やかに証拠開示がなされるよう,切にお願いいたします。一市民にとって,袴田事件のように証拠開示に数十年も費やすようなことがあっては,どんなに法制化することの難しさを言われても,納得できるものではありません。しつこいようですが,裁判所及び検察に対して,心より証拠開示への積極的な取組をお願いする次第です。再審請求審であっても,裁判所は真実発見に資すると判断した場合は,せめて証拠のリスト開示を検察官に促し,検察官もまた速やかに応じていただきたいと,心よりお願いします。これは今すぐにでもできることだと思います。   最後に,身体拘束についてです。なぜ刑事訴訟法60条に書けないのかということについては,法律の素人からみれば,未だ理解し難いのではありますが,刑事訴訟法90条に身柄拘束に関する判断の在り方についての規定を入れるということであるなら,その規定について一つお願いがあります。この会議でも村木委員が御自身の経験から,起訴後勾留が続くことで,裁判で闘う準備にいかに支障があったかというお話をされました。そこで,是非,90条には「被告人の防御権への配慮」を入れていただきたいとお願いします。   以上,長い時間をいただきまして,お願いを申し上げさせていただきました。3年間の会議の中で,私の発言に不快な思いをされた方もいらっしゃると思いますが,すべて外から刑事司法を見てきた者の正直な発言であり,素人には刑事司法がこう見えているということだと御理解いただきたいと思います。法律ができれば,後は実務の世界でどう運用するかということで,今回の改革の真の成果が問われることになります。是非,皆さんの御努力で,今回の改革を実りのあるものとしていただきたいと心より願う次第です。ありがとうございました。 ○但木委員 村木事件の衝撃から始まりまして,そのときもちろん村木委員の自由・人権を著しく侵害したということに対して申し訳ないということが第1でありますが,第2は若い検事が何でそんなことをやったのかという何とも言えない悲しみであります。その土壌というか風土というのを作ってきた一人の責任者として,やはり何としてでも新しい時代,検察官が胸を張って日々の仕事をしてもらえるように何とかしたいというのがもう一つの大きな気持ちでありました。その気持ちで検察の在り方検討会議からこの法制審議会の場へと合計4年間,皆さんと一緒に論議させていただきました。本当にありがとうございました。   この部会は,基本的には,部会長の公正で寛大な会議の運営のお陰で,最後まで本会を空中分解せずにこられたのだと思いますし,新しい時代の正しい捜査の在り方,刑事司法の在り方を取りまとめようという気持ちにさせてくれたのだと思っております。   もう一つは,やはり5人の有識者の方々に対する本当に心からの感謝の念であります。犯罪被害者を含めまして,刑事司法に携わるものの立場はそれぞれ違います。それぞれの筋がございます。よく言えば筋を通す論議,悪く言えば頑迷固陋という議論が果てしなく続くわけでありまして,5人の方々は多分途中で本当にこんな人々と一緒に結論を出せるだろうかと思ったに違いないと思います。ただ,法曹三者も含めて刑事司法に携わる人たちはそういうお互いの衝突の中から新しい合成物を作っていくということでありまして,これは学者の方々も同じであろうと思っております。   5人の方々がそういう世界とよく長い間つき合ってくださって,一つの方向性を最後お示しくださったということについては,私はもう本当に心から感謝したいと思います。最初からでありましたけれども,この部会で5人の有識者の方々の中から一人でも反対者が出たら,この部会は私は失敗だと思いました。国民の権利義務に深く関係する刑事司法に関する立法について,ここの場で3年間も議論した有識者の方々の御納得を頂けないということであれば,それだけでやはり失敗なのだというふうに私はずっと思い続けてまいりました。そういう意味で,皆さん方が最後まで力を尽くしていただいて,新しい時代を切り開いていただいたことについては,心から感謝申し上げたいと思います。   言ってみれば,その代償として,法学者の方々にもそうですし,法曹三者にも責任がかぶせられたというふうに思っております。皆さん方が何を考えておられるのか我々はもうよく分かっております。我々はその方向が新しい方向であることはよく分かっております。それを裏切れば,我々法曹三者の信頼は地に落ちるであろう,あるいは警察を含めて捜査当局の信頼を国民から得ることはもう難しいだろうと思っております。それだけの覚悟を持ちながら,新しい時代へ向けて,我々は託されたものをやはり担っていかなければいけないのだというふうに思っております。   これから検証,見直し等が将来あると思うのですが,そのときに公正な捜査と国民から評価されるような地点に立っていることを目標にして,是非現役の皆さんに頑張ってもらいたい,法曹三者,なかんずく,この運用には裁判所に非常に大きな責任を担ってもらわなければならないと思います。調書の採否にしても,今後裁判所がどういうふうな判断を示していくかによって,実務は大きく変わっていくだろう。裁判員裁判導入後の裁判所は,明らかに新しい方向に歩み出しているように私には思えます。それはもはや不可逆的な方向性であると思っておりまして,今回録音・録画,裁判員裁判と,検察官の独自捜査事件に限って義務化されましたけれども,その方向性というのは,私は恐らく裁判所によって今後必ず新しい時代にふさわしい刑事司法になっていくものだというふうに確信しております。 ○栗生委員 本日の取りまとめに当たりまして,警察を代表して一言申し上げます。   まず初めに,時代に即した新たな刑事司法制度の構築というこの大きな課題につきまして,いろいろな立場から様々な意見がある中で,取りまとめに御尽力いただきました部会長と事務当局に敬意を表したいと思います。   これまで申し上げてまいりましたように,本「取りまとめの案」の個々の項目を見れば,私どもの考えと異なる所もございます。しかし,裁判員裁判の導入以来,国民の司法参加に対応し得る分かりやすく迅速な刑事裁判が強く求められるようになっており,また,取調べや供述調書への過度の依存を改め,証拠収集手段を多様化するとの理念が本特別部会全体の総意であること,また,「取りまとめの案」には私どもの立場から見て前進と評価できる制度の見直し等も盛り込まれていることなどから,「取りまとめの案」に盛り込まれた全ての制度が一体のものとして制度化されることを前提に,この「取りまとめの案」に賛成するとの判断をいたしました。   特に録音・録画について最後に申し上げたいと思います。裁判員裁判対象事件は,事案が重大で犯人の検挙,事件の解決を求める被害者の思いや国民の期待が極めて強く,第一次捜査機関として真相解明が最も強く求められる事件です。この裁判員裁判対象事件について全過程の録音・録画に踏み切ることは警察にとって重い課題となりますが,新しい刑事司法制度の構築を目指す以上,将来この「取りまとめの案」に従って制度化がなされた場合には,しっかりとこれに取り組む決意であることを申し上げます。今後とも警察捜査への御理解と御協力をよろしくお願いいたします。 ○龍岡委員 既に「取りまとめの案」に賛成の意見が述べられておりますので,ここではそれほど意見を述べる必要はないのかもしれませんけれども,若干の感想的なものを含めて少し時間を頂いて,意見を述べさせていただきたいと思います。   これまで本特別部会におきましては,新たな刑事司法制度の構築に向けて多くの論点について様々な立場や観点からいろいろな意見が述べられ,充実した議論がされてきたと思います。法律専門家以外の方々も含め,これだけ多くの方々が刑事司法制度の在り方についていろいろな角度から真剣に考え議論をしてきたことは,刑事司法に携わってきた者として,また,この特別部会が設けられる契機となりました検察の在り方検討会議の委員を務めました者としましても,感慨深く,大変意義のあることだと思います。この特別部会に与えられましたテーマには多くの論点があり,それぞれいろいろな立場からの御意見がありましたことからしましても,全ての方が今回の「取りまとめの案」に100%満足というわけにはいかないのだろうと思います。私がかつて籍を置きました裁判所の立場からも同じことが言えるのではなかろうかと思います。そうであるとしましても,全員がそれぞれの立場から100%を求めていたのでは到底合意に到達することはできないと思います。私は,30回にも及ぶ会議で真剣な議論がされてきましただけに,これを活かすためにも大局的な見地に立ち,結論を出すときが来たというふうに感じておりました。   録音・録画につきましては,本特別部会の議論を通じ,供述の任意性や信用性の判断に当たり,最良の証拠は録音・録画記録媒体であるということが今や共通の認識になっていると言ってよいと思います。私自身こうした観点から,取調べの録音・録画は,できる限り広く実施されることが望ましいという発言もさせていただいております。それはそれとしまして,多くの時間を掛け議論を重ねてきたことにより,おおむね議論が収れんしてきたという審議の経過や状況を考えますと,現時点で大事なことは,これまでの議論を大局的な見地から取りまとめ,制度化を実現させ,検察庁等が運用として行うとされている取組をも含め,録音・録画の試みを早急に実施に移し,実務に定着させることではないかと思います。そして,それが円滑に行われるためには,国民の理解とともに,立場は違いますが,法曹三者及び警察関係の方々の相互的な理解と協力,信頼関係が何より重要であると考えます。また,そうした運用が適切かつ確実に推進されていくためにも,裁判所が果たすべき役割,担うべき責任も大きいと思っております。これは但木委員が御指摘されたとおりであると思います。   本特別部会は,新時代の刑事司法制度について広範囲にわたり議論してきました。その結果の取りまとめにより,録音・録画を始め多くの新しい制度が立法化され,実施されることになります。これまでの多岐にわたる議論を踏まえ,制度化の第一歩を踏み出し,その中で実施状況を見ながら必要な場合には再検討を加えるということが制度改革としても現実的であり,最も有効な方策であろうと思われます。私は,このような見地から,特別部会で議論をした結果に基づき立法化がされ,適切に実施され,的確に運用されることを強く期待するという思いを込めて「取りまとめの案」の内容で取りまとめを行うことに賛成したいと思います。   最後に,この部会に関わられた,ここにおられない方を含め全ての方々に対し,御意見を拝聴させていただき,また,議論に参加させていただきましたことに感謝を申し上げます。特に部会長として,白熱し,時には錯綜する議論を見事に取り仕切られた本田部会長には心から敬意を表し,本特別部会全体を舞台裏で支えられた事務当局の皆さんにも心から御礼を申し上げたいと思います。ありがとうございました。 ○宮﨑委員 この特別部会は深刻なえん罪事件の原因である取調べ及び供述調書に過度に依存した捜査・公判を抜本的に見直し,取調べの可視化を含む新たな刑事司法制度の構築を目的として設置されたということについては,多くの委員の方々と認識を共通にしております。このような部会設置の経過と目的に照らしますと,「取りまとめの案」には従来申し上げてきましたように,取調べの録音・録画義務の対象事件や例外事由のように不十分な点も多くあります。また,通信傍受の大幅な拡大や効率化など,それ自体に重大な懸念を抱かざるを得ないものも含まれています。これらの点について弁護士委員・幹事が従来述べてきたことは,今後も見解が変わるわけではありません。   しかし,えん罪の原因である取調べ及び供述調書に過度に依存した捜査・公判の見直しは喫緊の課題であり,先送りが許されるものではありません。今回の「取りまとめの案」はそのような認識を前提として一定の重大事件につき,取調べの全過程の録音・録画を制度として義務付けるとともに,実務上の運用において可能な限り幅広い範囲で録音・録画がなされ,かつその記録媒体によって供述の任意性・信用性が明らかにされていくべきことを特別部会の総意として確認するものとなっています。特別部会の審議の過程では,裁判所の委員からも録音・録画義務が課されない事件についても,録音・録画媒体がない場合には,その取調べで得られた供述の証拠能力に関し,証拠調べを請求する側に現在よりも重い立証上の責任が負わされるという運用になっていくだろうという認識も表明されました。そして,今回の「取りまとめの案」では,制度自体の運用状況だけではなく,運用上の録音・録画の実施状況や公判における供述の任意性・信用性の立証状況をも検討の対象として見直しをすることとされています。刑事司法に携わる関係者・関係機関が今回の取りまとめを誠実に実践するならば,不適正な取調べや公判の在り方は大きく変わると信じています。   日弁連は,1989年の松江市における人権擁護大会において,当時の刑事司法の状況を嘆き,取調べの在り方や自白調書の問題点を指摘し,以来,当番弁護士制度の創設,裁判員制度の導入,証拠開示制度の法制化と刑事司法改革に真剣に取り組んできました。可視化の運動もその一つです。今回の取りまとめにおいては,取調べの録音・録画の制度化とともに,被疑者国選弁護制度の拡充,証拠開示制度の拡充,公判前整理手続の請求権の付与,身体拘束の判断の在り方に関する規定の新設など,従来の運動の延長上にある重要な改革が含まれております。私たちは刑事司法の一翼を担うものとして,この答申の理念を実現する責任を負う覚悟とともに,本「取りまとめの案」を了承したいと思います。   私たち弁護士は,今回の取りまとめがもたらす刑事司法,中には全く新しい制度構想があります,弁護士としてこれらに真剣に取り組み,更に刑事司法を健全に発展させるため,より一段の努力,更に覚悟が求められているものと自覚しなければならないと考えております。   最後になりますが,取りまとめに至る過程で関係諸機関の皆様には多くの重い御決断を頂きましたし,また,分科会を含め熱心な御討議を頂いた委員・幹事の皆様方に厚く御礼申し上げます。中でも本審議会には非法律家の有識者委員が参加して活発な議論を頂き,その結果,より厚みのある議論ができたように思います。えん罪をなくす,取調べに過度に依存した刑事司法を改革する観点から,建設的な意見を述べ続けてくださった一般有識者委員の皆様には,むしろ十分サポートできなかったという内心じくじたる思いと感謝を,また,犯罪被害者の気持ちを真摯に訴えられた有識者委員の御発言にも随分と有益な勉強をさせていただきました。また,部会長には何よりも粘り強い議事進行と取りまとめを頂いたことに感謝申し上げます。   なお,事務当局の皆様は,今後法務行政,検察の運営に枢要な役割を果たされると存じます。取りまとめに至った御努力に改めて感謝するとともに,本答申の重要な部分が検察の運用に委ねられているところから,今後とも,本取りまとめの趣旨をいかした録音・録画の適正な運用にも更に御尽力いただきますように改めてお願い申し上げ,私の意見といたします。どうもありがとうございました。 ○本田部会長 ありがとうございました。ほかに御意見ございますか。   それでは,かなり多くの方から御意見を頂きまして,意見が出尽くした感がございます。そこで,取りまとめを行うこと,そして,資料70の内容につきまして御異論もないようですので,当部会としての意見の取りまとめに移らせていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。 (一同了承)   ありがとうございます。   諮問第92号は,時代に即した新たな刑事司法制度を構築するための法整備の在り方についての御意見を承りたいというものであり,これを受けまして,当部会で3年間にわたり審議を重ねてまいりました結果,資料70が作成されたところでございます。そこで,この資料70をもちまして,諮問に対する当部会としての意見としてよろしいかどうか,皆さんにお伺いしたいと思います。   皆さんにお伺いする方法としましては,挙手による採決という方法もあり得るところですけれども,これまでの皆さんの御意見を踏まえますと,特段の御要望がなければ,あえて挙手による採決をするまでもなく,当部会の総意で取りまとめをさせていただくのが望ましいと思っております。そのような方法で取りまとめを行うことでよろしいでしょうか。 (一同了承)   ありがとうございます。   改めてお伺いしますが,資料70をもって,当部会の意見とすることということに決したと,全会一致で決したということでよろしいでしょうか。 (一同了承)   ありがとうございます。   それでは,当部会としての意見として,資料70のとおり取りまとめさせていただきます。   なお,諮問第92号につきましては,この秋にも開催が予定されております法制審議会総会に報告することとさせていただきます。この報告につきましては,慣例として部会長に一任いただくということのようですけれども,今回もそのようにしてよろしいでしょうか。 (一同了承)   ありがとうございます。それでは,特に御異議がないようでございますので,法制審議会総会に対しては,私の方から報告をさせていただきたいと思います。   本日のこの取りまとめによりまして,新たな刑事司法制度の構築に向けて大きな一歩が踏み出せたのではないかなと考えております。今日も御意見がありましたけれども,これからももちろん,運用の中で更なる努力,そしてまた,見直しという中で更なる一歩を進めていくということが大事だと思いますけれども,まずは一歩が踏み出せたということで,これまでの皆様の御尽力,御協力に心から御礼を申し上げます。本当にありがとうございました。   なお,本日の会議につきましても,特に公表に適さないというものはなかったと思いますので,発言者名を明らかにした議事録を公表させていただくことといたします。   それでは,以上をもちまして散会いたします。本当にありがとうございました。 -了-