法制審議会 商法(運送・海商関係)部会 第6回会議 議事録 第1 日 時  平成26年10月8日(水) 自 午後1時31分                       至 午後5時51分 第2 場 所  東京地方検察庁 第2会議室(17F) 第3 議 題  商法(運送・海商関係)等の改正について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○山下部会長 それでは,定刻になりましたので,法制審議会商法(運送・海商関係)部会の第6回会議を開会いたします。本日も御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。本日は,深山委員,真貝委員,岡田幹事が御欠席とのことでございます。   では,本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。まず,事務当局からお願いします。 ○松井(信)幹事 お手元の資料について御確認いただきたいと思います。まず,部会資料としては,6と7を事前送付しております。参考資料としては,16から19までを事前送付いたしましたほか,この席上に参考資料20を配布しているところでございます。お手元にない方はいらっしゃらないでしょうか。 ○山下部会長 それでは,本日の審議に入りたいと思います。   本日は,まず部会資料6について御審議いただいた後,検討を要する論点の二読として,部会資料7について御審議いただく予定でございます。具体的には,休憩前までに部会資料6と部会資料7のうち第1を御審議いただき,午後3時20分頃を目途に適宜休憩を入れることを予定しております。その後,部会資料7の残りの部分について御審議いただきたいと思います。   それでは,まず部会資料6の「第1 船舶先取特権及び船舶抵当権」のうち,「1 船舶先取特権を生ずる債権の範囲及びその順位」及び「2 船舶先取特権の目的」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明をお願いします。 ○宇野関係官 それでは,「第1 船舶先取特権及び船舶抵当権」,「1 船舶先取特権を生ずる債権の範囲及びその順位」並びに「2 船舶先取特権の目的」について御説明いたします。   まず,「1 船舶先取特権を生ずる債権の範囲及びその順位」につきましては,我が国では,本文(1)ないし(5)に記載されている各債権に船舶先取特権が認められており,67年条約や93年条約に比して広範ですが,船舶先取特権は,公示なくして船舶抵当権に優先するものであって,最高裁判決においても,これを広く認めると船舶抵当権者の利益を害し,ひいては船舶所有者が金融を得ることを困難にすると指摘されており,93年条約は,保険により損失を塡補し得る契約債権につき,基本的に船舶先取特権を認めないこととするなど,船舶先取特権を生ずる債権の範囲を限定しています。   このような中で,まず総論として,93年条約の理念を商法にどの程度導入することが相当か,すなわち,現行法における船舶先取特権を生ずる債権の範囲及びその順位について,船舶抵当権との優劣も含め,どのように考えるかを問うものでございます。   また,各論として,本文(1)につきましては,商法第842条第1号及び第2号に関し,これらのうち手続費用に該当するものは,民事執行法に基づき最優先の配当を受けることができる一方,手続費用に該当しないものは,条約や諸外国の法制でも基本的に船舶先取特権が認められていないこと等から,これらの規定を削除することを提案するものでございます。   他方で,同条第3号から第5号までに関しては,基本的に諸外国において船舶先取特権が認められている債権でありますが,曳船料については,条約では船舶先取特権が認められておらず,共同海損分担金については,93年条約において船舶先取特権から除外されています。   これらは,保険により損失を塡補し得るような契約債権の取扱いとも関係すると思われますところ,同条第3号から第5号までの船舶先取特権について,見直すべき点があるかを問うものでございます。   次に,本文(2)につきましては,商法第842条第6号及び第8号は,かつての冒険貸借の名残であるといわれ,67年条約や93年条約では船舶先取特権が認められていませんが,フランスでは一部認められており,抵当権に劣後する権利を認める法制もあります。この点につき,最高裁判決においては,今日では同条第6号所定の債権に船舶先取特権を認めて債権者の保護を図るべき必要性は減少している旨判示されていますが,93年条約の審議過程で,我が国は,船舶先取特権がなければ船用品供給業者の債権回収の不安が大きく,海上交通の安全に影響するおそれもあるとして,船舶先取特権を認めるべきと主張した経緯もあります。   なお,この考え方によれば,船用品供給債権の船舶先取特権は,必ずしも船舶抵当権に優先すべき必要はなく,船舶先取特権に基づく船舶の差押えさえできれば足りるとも考えられます。これらを踏まえて,航海途中における燃料油や食料等の補給に係る契約締結及びその代金支払の実務はどのようなものか,また,船舶運航会社の信用力その他の取引実態はどのようなものか,さらに,これらの船舶先取特権を維持することの当否及び船舶抵当権との優劣について,どのように考えるかを問うものでございます。   本文(3)につきましては,商法第842条第7号の趣旨は,一般に,船員の賃金確保という社会政策的目的や,船員の労務により船舶の価値が維持されるから債権者の共同の利益のために生じた債権といえることによると指摘されますが,同号の「雇傭契約ニ因リテ生シタル船長其他ノ船員ノ債権」の範囲については,下級審の裁判例が分かれており,現在も争われることが多い状況にあります。   このような中で,一般論としては,被担保債権の範囲を明確化することが望ましいといえるところ,その具体的な内容としては,67年条約及び93年条約のように,当該船舶との牽連性が認められる雇用契約債権とする考え方や,明治32年の商法制定当時の海員の雇入期間等に鑑み,当該船舶との牽連性が認められる雇用契約債権のうち,過去一定の時期,例えば1年前以降に雇止めとなった乗組みに限るとする考え方があり得,他方で,裁判例がなお分かれている事情等を踏まえ,現在の規定を維持すべきとの考え方もあり得ます。なお,船舶先取特権以外の労働債権の保護については,現在では5ページ及び6ページの(注1)ないし(注3)の各制度があるところ,これらに加え,現在の船員労働の実態や,商法第842条第7号の船舶先取特権の順位との関連性も含め,同号の船舶先取特権の範囲についてどのような事情を考慮し,どのように考えるべきかを問うものでございます。   本文(4)につきましては,船主責任制限法の船舶先取特権につき,人身損害に基づく債権に関しては,人命尊重という理念に鑑み,93年条約と同様,制限債権か否かを問わず船舶先取特権を認め,かつ,比較的上位の順位として位置付けることを提案するものでございます。   また,財産上の損害に基づく債権に関しては,93年条約では,船舶の運航により生じた物理的な滅失損傷に関する不法行為に基づく債権に船舶先取特権を認めており,これは保険により損失を塡補し得るような契約債権や,延着損害又は権利侵害に基づく債権等については,船舶先取特権を認めない趣旨であるとされています。もっとも,契約債権につき船舶先取特権を認めないとすることについては,保険代位による求償の場面における保険者の地位,ひいては保険料に影響を及ぼすとの指摘や,実務上も,契約上の請求権に基づき船主責任制限法の船舶先取特権を主張する事例は多いとの指摘があるほか,人身損害に基づく債権ほど見直しの必要性は高くないとの指摘もあります。   これらを踏まえて,制限債権か否かを問わず船舶先取特権を認めることの当否,保険により損失を塡補し得るような契約債権につき船舶先取特権を維持することの当否,その船舶先取特権の順位等について,どのように考えるかを問うものでございます。   次に,本文(5)につきましては,国際海上物品運送法第19条は,同法の制定に当たり,商法第759条を準用せず,再運送契約の荷送人等は船舶所有者に対し直接の履行請求権を有しないとされたことに伴うものといわれますが,その後制定された船主責任制限法において,傭船者も責任を制限することができるとされたため,再運送契約の荷送人等も制限債権者として同法の船舶先取特権を有することとなり,国際海上物品運送法第19条の意義は乏しくなったといわれています。   そして,部会資料3の第3の1(2)のとおり,そもそも商法第759条を削除し,内航・外航を問わず,再運送契約の荷送人等は,契約関係にない船舶所有者に対しては不法行為責任を追求するという構成に改める場合には,同条を準用しない代わりに認められたという立法趣旨の前提を欠くこととなるため,国際海上物品運送法第19条を削除することを提案するものでございます。   また,これらのほか,船舶先取特権を生ずる債権の範囲及びその順位につき見直すべき事項があるかにつきましても,併せて御審議いただきたいと思います。   最後に,「2 船舶先取特権の目的」につきましては,67年条約や93年条約では未収運送賃は船舶先取特権の目的とされていない上,一般に,債権に対する船舶先取特権には追及効がなく,担保権としての実効性に乏しいこと,実務上,未収運送賃に対して船舶先取特権を実行した事例の報告も見当たらないこと等を踏まえ,船舶先取特権の目的から未収運送賃を削除することを提案するものでございます。   なお,このような改正を行う場合には,67年条約や93年条約と同様,商法第844条第3項に相当する規律を廃止し,基本的に,航海の先後を問わず,船舶先取特権の規定順に従った順位とするとともに,救助を促進する等の観点から,救助料の船舶先取特権については,救助の作業前に生じていた他の船舶先取特権に優先する旨の規律を設けることが考えられます。   以上の点につきまして,御審議いただきたいと思います。 ○山下部会長 以上御説明があった点に関連しまして,紹介がありましたように参考資料19として田中幹事の意見書,参考資料20として松井委員の意見書が提出されております。商法第704条第2項に関係する部分も含んでおりますが,その点も併せて御説明いただいて差し支えありませんので,それぞれお二方から概要の御説明をお願いいたします。 ○田中幹事 それでは,私からは参考資料19の意見書を提出させていただいておりますので,この説明と,その背景も若干説明させていただきます。   船員の債権に関する船舶先取特権につきましては,私は,8月に法務省の事務当局宛てに詳細な報告書を既に提出しております。この報告書は,参考資料1として配布されました運送法制研究会報告書の記述の誤りを明らかにしたものであります。参考資料19として配布していただいた私の意見書は,その報告書の要約版でございます。今回,配布されております部会資料6を見ますと,運送法制研究会報告書にあった指摘につきまして,大半が記述されておりません。   しかし,今回の部会資料6の説明の中の5ページ(2)の第3パラグラフに,雇用契約債権の一部に限定する考え方の根拠の一つとして,明治32年の商法制定当時,海員の雇入期間は1年を超えることができないとされていたことを指摘する意見があることを紹介する記述があります。これは,運送法制研究会報告書の指摘を引き継いだものであります。この見解の誤りについては,参考資料19として配布された私の意見書の7ページから9ページの(1)の部分で詳細に指摘しておりますので,この部分をお読みいただければ幸いです。   次に,部会資料6の5ページ(2)第2パラグラフに,当該船舶との牽連性が認められる雇用契約債権とする考え方があるとの記載があります。この考え方は,退職金と予備船員に支払われる賃金に関して,船舶先取特権が認められる債権の範囲から除外する提案と思われます。しかしながら,この考え方は誤りであり,同意できません。   まず,予備船員について御説明いたします。船舶の建造費は高額であるため,海運事業者は,建造費を回収するために,船を遊ばせることなく24時間連続運航させるのが一般的であります。日本の沿岸航路に就航する船に関しても,東京湾や伊勢湾のフェリーなど,一部を除き基本的に1日24時間連続運航がなされております。船舶を24時間連続運航させるための船員の勤務パターンは,航路ごとに異なっております。具体的には,3週間連続乗船した後に下船し,1週間程度の休みを取ったり,あるいは2か月程度連続乗船をし,その後1か月休みを取ったり,場合によっては6か月連続乗船をして,その後2か月程度の休みを取ったりという形で,それぞれ設定されます。連続乗船の期間は,通常の国内航路ですと,3週間から長くて半年と様々であります。   しかし,船員が連続乗船している期間,毎日の勤務ダイヤは,基本的には4時間勤務し,8時間休憩,又は,4時間の勤務,すなわち当直し,また8時間の休憩を取るという繰り返しであり,これは基本的に共通しております。   連続乗船の期間中は,休日はないのが通例であります。船員には,連続乗船期間中に基本的には休日はありません。それは,労働基準法の中の労働時間と休日に関する規定の適用を受けず,船員が休日を取得するための交代要員が船には乗っていないからであります。さらに,海が荒れたりすれば,この8時間の休憩時間であっても当然配置につきます。そして,24時間連続運航する船舶の運航を担当する海員は,50歳を過ぎた中高年であっても,午後10時から午前5時までの深夜労働に交代で勤務しております。   連続乗船期間が終わり,船長から下船許可を得て予備船員になって,言葉が適切かどうかは分かりませんが「人身拘束」を解かれ,下船するとそれでもって初めて予備船員となり,1週間,1か月,あるいは2か月という休みを取ります。ですから,予備船員であるということは,船の上で全く取れなかった休日や休息のまとめ取りをしているということであります。予備船員の期間は,工場や事務所勤務の労働者の休日や休息時間と基本的には同じ性質のものであります。したがいまして,この期間の賃金を船舶先取特権の対象から除外するという考え方には合理的理由がありません。   次に,退職金であります。1928年,昭和3年の大争議の結果,船員の労働条件を定める労働協約が締結されました。その中の高級船員標準給料最低月額協定は,有休,予備船員制度を含む社員制度と退職金制度を採用している海運事業者には適用されないこととされていました。この結果,有休予備船員制度や退職金制度がない会社に雇われる船員に関しては,労働協約が定める最低月額以上の高い月給の支払が義務付けられたのに対し,有休予備船員制度や退職金制度がある会社に雇われている船員には,労働協約の水準以下の低い月給が支払われるという二本立ての賃金制度が当時作られました。   この協定は,有休予備船員制度や退職金制度のある社員制度の普及を促進しました。そして,戦後の労働協約では,退職金制度があることを前提とする賃金制度に一本化されるに至っております。この退職金制度の歴史に照らしても,船員の退職金は船舶に乗務することによって生じた賃金の一部について,その支払を事業者が留保し,退職時にまとめて支払うという性質のものであることは明白であります。したがって,退職金を船舶先取特権の対象から除外するという考え方には合理的理由がありません。   明治時代に船舶先取特権の制度が作られた際に,その背景にあった法的価値判断は,苛酷な長期人身拘束を伴う海上労働により生じた船員の労働債権の回収については,船舶所有者の投下した資本の回収や船舶抵当権者の貸付金回収よりも優先するのが社会正義にかなうというものであります。   この法的価値判断を現時点で変更する必要があるとは考えられません。とりわけ,平成元年以降,船員の労働債権に関する船舶先取特権について訴訟提起を繰り返しているのは,独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構のみであります。同機構の債権の回収を有利に進めるために船員を犠牲にすることは,社会正義に著しく反するものであるといわざるを得ません。以上が私の意見でございます。 ○松井委員 私も今回の部会の検討資料ということで意見書を出させていただきました。今,山下先生から御紹介があったとおり,2点について意見書を出させていただいております。   1点目は今,田中幹事からお話があった同じポイントなのですが,部会資料6の2ページ「1 船舶先取特権を生ずる債権の範囲及びその順位」の(3),商法第842条第7号の関係で,「船員の雇用契約債権の船舶先取特権に係る被担保債権の範囲を適切に明確化することができるか,また,その具体的内容等についてどのように考えるか」という点について,意見を出させていただいております。   もう1点は,部会資料6の8ページの「3 船舶賃貸借における民法上の先取特権の効力」という点に関して,賃貸借の場合において,船舶の利用について生じた民法上の先取特権が船舶所有者に及ぶとする現行の規律を維持することの当否につき,どのように考えるかということで意見を出させていただいております。なお,この意見書は,日弁連の関係の部会からの御承諾を頂き,私個人の名前ということで出させていただいているものです。   いずれの点についても,意見書に簡単に書かせていただきましたけれども,現行商法については様々な解釈があるということは十分理解しております。また,裁判例が分かれるなど,見解を一にするものではないとも考えております。最終的な結論は部会で御議論いただくことであると思いますけれども,結果としては,答申の一つの目的にもありますように,一般の方が読んで分かる商法の条文にしていただきたいということを切に願っております。   このいずれの論点についても,私の見解で共通して言えることは,船舶先取特権は,ある意味で民法の動産先取特権の特別法と考えるべきであるということではないかと思います。まず,雇用契約債権については,民法の動産先取特権の特別法として,対象財産であるところの当該船舶が船員の労務によって維持保存されている範囲が被担保債権であるべきだと考えます。もう一方,船舶賃貸借における民法上の先取特権の効力については,商法704条2項というのは,正に特別法としての船舶先取特権の特殊な効果と考えておりますので,民法上の先取特権一般に認められるものではないと考えている点です。   まず,雇用債権についてお話をさせていただきますと,今,田中幹事からいろいろと具体的な事実に基づく傾聴に値する御意見を頂きましたけれども,部会資料にありますように,昭和52年の福岡高裁,大阪高裁が異なる結論を出したまま,現在まで解決を見ていない。このように下級審の解釈が分かれているという点が第1の問題点であると思います。   他方,いずれの裁判例も,予備船員を含まない,当該船舶の乗組員,船内で使用されている船長及び海員をいうのであるということについて,特定船舶の航海上の労務に継続的に服する地位にあった者の債権でなければならないという点は基本的に共通していると考えます。しかし,この商法842条7号を読みますと,「雇傭契約ニ因リテ生シタル船長其他ノ船員ノ債権」という言葉になっておりまして,これは,例えば船会社で雇われている方について,その船舶とのつながりの有無にかかわらず,全ての債権が入るとも読める。文言上,この点を明らかにしていないというのがもう一つの問題だと考えています。   歴史的な経緯については,意見書の5ページ,6ページに書かせていただきましたので,ここでは割愛させていただきます。今回の商法改正の立法論といたしましては,民法の動産先取特権の特別法として,そもそも船員の労務によって当該船舶が維持されていることがこの船舶先取特権の一つの根拠であるとすれば,特定船舶に対する労務の供給,すなわち,これは雇用契約というより雇入契約にほかならないと考えますので,この雇入契約がベースになるべきであろうと考えます。   また,先ほど宇野関係官から御説明いただきましたけれども,例えば,93年条約の第4条1項(a)によりますと,この債権の範囲を画するものとして,「their employment on the vessel」ということで,船員の方の船舶への雇入れという記載が,英文では見られております。雇入契約がベースになるという考えは,この記載にも一致しており,国際的な共通認識にも合致するものと考えております。   さらに,商法制定当時の立法事実,先ほど田中幹事からもお話がありましたけれども,船員の方の劣悪な環境での労働,それから船員の雇用主に対する債権額が極めて少額で,支払われるかどうかも分からないというような点が,退職金債権を含むことで大きく変化しておりまして,雇用契約債権を広く認めると,先ほどの大阪高裁の判決においても,公示なき先取特権により担保された債権の増加が船舶抵当権に著しい不利益を及ぼす結果になることは動かし難い事実であると認めておりますので,この商法制定当時の立法事実が大きく変わっているということも,今回の立法論としては考慮に入れるべきだと考えております。   かかる観点から,船長その他の船員の特定の船舶に係る雇入契約に基づく債権のみが同法の船舶先取特権の被担保債権となり,退職金債権や,船舶の運航等とは直接関わらない業務によって生じた給与債権等が除かれることが明確になるよう,同法の文言を改めることが必要であると考えています。なお,給与債権をより先順位の船舶先取特権にすることについては,全く異論はございません。   先ほど田中幹事からお話がありましたけれども,最後のところで鉄道運輸機構だけが当事者であるというお話がありましたけれども,例えば昭和52年の判決でありますと,両方ともこれは金融機関が当事者になっております。昭和58年9月28日,私が書かせていただいている意見書の中に引用しております,5ページの2番の最後のところですけれども,これは租税債権に対するもので,福岡国税局長が相手方になっているはずです。鉄道運輸機構が相手方になっている案件も,基本的には全てが倒産案件で,共有事業者の管財人が利害関係人として入っていて,管財人が共に原告になっている例があるということについても,正しい御認識として持っていただければと考えております。   続きまして,もう1点,船舶賃貸借における民法上の先取特権の効力について,民法上の先取特権ということで,今回問題になっているのは,典型的には民法320条の動産保存の先取特権だと思います。平成14年最高裁決定もこれを問題にしております。以下,今回の立法論にフォーカスをして,歴史的な経緯については先ほどと同様,意見書を見ていただければと思います。   そもそも,商法842条6号で,船舶先取特権が民法の動産保存の先取特権と同様の趣旨で認められています。ここでは,「航海継続ノ必要ニ因リテ生シタル債権」は,別途保護されることが明示されております。したがいまして,船舶賃貸借における民法上の先取特権の効力として今ここで問題になっておりますのは,そもそも航海継続に必要のない債権のみが対象になっているということになると思います。航海継続の必要によるものであれば,第三者に対して諸般の経済的,労務的援助を求めるということが当然に必要になってくることがあり,その債権を優先するべきだということは,もっともな結論だと考えております。しかし,そもそも航海継続に必要のない債権であれば,債権者は保存行為に当たり確実な担保を徴求すれば良いわけですから,船舶の特殊性が該当するものではないと考えております。   にもかかわらず,先ほど申し上げた商法704条2項という,賃借人が負担した債務に関して賃貸人の所有する財産上に賃借人の債権者のための先取特権が成立するという極めて特殊な考え方,その強い効力のある規定を適用するということは,船舶以外の他の財産の賃貸における,例えば転用物訴権における判例の考え方等とも一致しないのではないかと考えております。   実務点な問題点といたしましては,この平成14年決定で問題になった法定検査に伴う修繕であるとすれば,通常,修繕後に商事留置権が発生しますので,その時点で留置権による請求が可能であったと考えられます。例えば,その船舶の所有者に対して何らかの債権保全のアレンジができたはずなのですが,債権者が商事留置権を行使しないで民法上の先取特権を行使しているということを意味しています。通常の商慣習によれば1年程度で決済されるべきものが,債権者が動産保存の先取特権を主張することによって,平成14年決定の下で,本来船舶先取特権であれば1年間の除斥期間に服するものであるにもかかわらず,動産保存の先取特権が,商事債権を根拠にすれば5年間,また,本来支払を受けていない以上,賃借人も逃げ隠れしなければ,承認を繰り返すことで時効がどんどん伸びていくことによって累積するという問題が認められるのではないかと考えております。   この平成14年決定の案件というのは,修繕業者が先ほど申し上げた商事留置権を行使しなかった状態で賃借人が倒産まで行ったときに誰が負担するかという話であったわけですけれども,その事案の適否というのはまた別の問題として,一般論としては,やはり商事留置権で解決するのが本来の筋ではないかと考えております。   現在起こっている状況としても,本来自分の資産ではない,船舶所有者の財産である船の価値を把握して,通常の商慣習からいけば1年かそこらで決済をするべき修繕費等が,3年,5年より長い期間累積するという事態も見られております。こういった経済的合理性のない事態を招いている理由は,実務が平成14年決定の方向性に従っているところにあるのではないかと,せん越ながら考えている次第です。   また,商法自体の問題ではなく,意見書には余り書きませんでしたけれども,執行の問題として,平成14年決定は,商法704条2項の表現振りであるところの「船舶ノ利用ニ付キ生シタル先取特権」という言葉が,商法842条所定の船舶債権者の有する先取特権,船舶先取特権の典型的な用語ですけれども,これと異なることも一つの根拠となっていると考えられます。これに対して,商法849条,船舶先取特権と抵当権の優劣を決める条文は,「船舶ノ先取特権」は抵当権に先立ってこれを行うとあるところ,平成14年決定の立場を採りますと,この「船舶ノ先取特権」が,果たして船舶先取特権のことをいっているのか,動産保存の先取特権を含むのかということも,必ずしも明確ではありません。   意見書に書かせていただいた配当表における混乱だけではなくて,平成14年決定は,例えば,船舶に対する強制執行の手続は不動産執行に準ずる手続で行われることになっており,執行機関が裁判所となっているのに対して,動産の先取特権の実行は,民事執行法上の動産競売の手続によって行われますので,執行機関が執行官となるというような混乱もあります。また,船舶の競売を申し立てるに当たっては,一般先取特権又は商法842条に定める先取特権については私文書で行使できると書いてありますけれども,動産保存の先取特権にはその規定がございませんので,この点においても法律的な齟齬が発生していると考えられます。   もちろん,執行法の問題は実体法が変わったところで変更すれば良いというお考えもありますので,それは,現在実務上の齟齬があるという点について問題提起をさせていただいている次第です。   この問題の解決としては,意見書で書かせていただいたように,商法第704条第2項に民法の先取特権を含まないということが解決方法の一つであり,より直截な方法だと考えております。もちろん,最高裁決定が出ている以上,これ以外の解決方法もあるのではないかと思います。   例えば,登記された船舶については,特別法として船舶先取特権がある以上,動産の先取特権の発生は認められないというのも一つの考え方だと思います。多分,先ほど申し上げた民事執行法の私文書の規定などは,これに近い考え方を採っているのではないかと考えております。   他方,93年条約にも一つの解決方法があるかと思います。同条約は,その6条において,国内法に新たな船舶先取特権を規定することも許容しており,これは,船舶先取特権,抵当権よりも弱いものであれば,各国が制定することができるという規定であると理解しております。先ほど申し上げたような形で,商法704条2項については動産保存先取特権を含まざるを得ない,又は船舶について動産保存の先取特権が成立しないという考え方は無理であるというときに,一つの妥協的な解決方法としては,この動産保存の先取特権に当たるものを劣後する船舶先取特権として規定する方法もあるのではないかと考えます。   しかし,今回,御審議を頂いた結論として,立法論的には修正を行うべきと認識されるのであれば,最高裁決定があることを必要以上に考慮してそれに拘泥することは,せん越ですが,必ずしも適当ではないように考えております。最高裁も含め,裁判所は,在るべき方向の判決を出すという使命というものももちろんありますけれども,憲法違反でない限り,法律を守らなければいけないのであって,法律の文言にそういう枠組みがある限り,その中で解釈をすることが必要です。したがって,裁判所としては,当然,枠組みを超えた法令の改正は立法府に委ねるということだと思いますので,この法制審議会で,元の条文に拘束された形で出された最高裁の決定を必要以上に考慮するということになりますと,どこであるべき改正ができるのかということについて,誠にせん越ながら悩んでいるというところでございます。   長くなりましたけれども,私の説明は以上でございます。ありがとうございました。 ○山下部会長 それでは,「第1 船舶先取特権及び船舶抵当権」の1,2につきまして,御自由に御発言をお願いいたします。 ○山口委員 今,議論があった点とは全く違う点のことについて申し上げたいと思います。私が申し上げたいと思っておりますのは,船舶の所有者等の責任の制限に関する法律95条関係でございます。人身に関する損害については,この責任制限の対象にならないものについても,当然,これは先取特権を認められるべきであるし,なおかつ,これはかなり上位にしても良いのではないかということについては,全く異論はございません。ただし,財産上の損害についての債権について,契約に伴う債権について除外するということについては,強く反対したいと考えております。   これはイギリス法上,statutory right in remの権利がございまして,こういう契約上の債権についても差押えが可能な状況になっておるわけですが,それに代わるものとして,日本においては船主責任制限法95条の船舶先取特権があるということで,船舶の差押えを行う。少なくとも行うこともありますし,あるいは行うことができるということで,船舶所有者のPI保険,いわゆる賠責保険会社から保証状を取り付けてその債権を確保するということが,極めて日常的に行われている業務でございます。これは,日本の保険会社を始め,各国の保険会社が行っていることであります。これがなくなるということになりますと,いわゆる債務不履行債権について,回収が極めて難しくなるということになりますので,これについては強く反対したいと思っております。   93年条約について先ほど触れられ,それに近付けるような御発言もございましたが,93年条約は,批准しているのはまだわずか18か国だけで,いわゆる西ヨーロッパの中ではスペインだけでありますし,アメリカも当然批准しておりません。ヨーロッパで批准しているのは,ほかにセルビアとロシアだけではなかったかと思います。ロシアがヨーロッパにあるかどうかはちょっと難しいところであります。   いずれにしても,我が国と関係の深い取引相手国等々が全く批准していない状況でありますし,それにはそれなりの理由があるわけであります。それは,我が国の法律について,保護すべき法益があるわけで,それを除外するような条約を批准していないというのが一つの国の政策決定でございます。それにわざわざ合わせる必要はそもそもないだろうと思っておりますし,我が国の現状を把握した上で,この船主責任制限法95条の船舶先取特権については維持していただきたいなと思います。   なお,順位については,人身損害とは違って,これは抵当権に劣後してもやむを得ないかなと思います。これは,正に難しいところではございますけれども,船舶金融との兼ね合いもございますが,少なくとも維持していただくことに重要性がございまして,なぜ劣後してもいいかを申し上げますと,イギリスにおいては,statutory right in remについてはやはり劣後する状況にありますので,イギリスと同程度の保護を与えていただければそれで十分かと思っている次第であります。 ○松井(信)幹事 今の点について,更にお伺いしたいんですけれども,現行の船主責任制限法は,制限債権か否かという切り口で規定されているところですが,今の貨物損害について,その枠組みを残したほうがいいのか,それとも制限債権か否かを問わずという形で考えたほうがいいのか,もしお考えがあればお伺いしたいのですが。 ○山口委員 制限債権か否かを問わずというのはどういうことでしょうか。基本的に貨物について生じた損害については責任制限の対象になる債権だと考えております。 ○松井(信)幹事 極めて例外的だと思うのですが,加害者に悪意が認められたような場合などには制限債権にはならないと思いますので,そういう場合が対象になろうかとは思います。 ○山口委員 難しい御質問でございます。現実の問題として,最終的に対象になるかならないか,加害者に悪意があるかどうかというのは,当初の段階では分からない状況にありますが,悪意があるということが抗弁になる,つまり先取特権の消滅事由になるという法制は,どちらかというといかがなものかなという感じがいたします。したがって,今おっしゃられた加害者が悪意の場合には,むしろ先取特権を認めても良いのではないか,要するに,仮に最終的に責任制限債権として認められなかった,あるいは責任制限ができないという状況にあったとしても,船舶所有者の悪意という加害者側の帰責事由によって先取特権が失われるというのは,非常に抵抗感が強いと思っております。 ○石井委員 ただいまの山口委員の御意見に賛成をいたします。積荷の損害については,特に不定期船によって輸入されるバラ積み貨物等の損害の場合に,この船主責任制限法の先取特権がよく利用されているのではないかと思います。債権の保全という意味もありますが,このような不定期船の場合には,船主が外国籍でその実体が必ずしも明らかではないことも多いので,荷主はこの先取特権の行使を前提に,本船の加入するPIクラブからの保証状を取り付け,それを基に後日損害賠償請求を行うというのが,国際的に見ても通常行われる方法であります。   日本では,英米のように対物訴訟の制度もございませんので,この船主責任制限法上の船舶先取特権の規定は残していただきたいと思います。   この存置を検討する理由として一つには93年条約が挙げられていますけれども,先ほど山口委員が御説明されたように,日本は批准しておりませんし,非常に限られた国しか加入していないので,そこに重きを置いて考えるのはどうかという問題もあります。   もう一つは保険の点でありまして,契約責任について,保険により損失が塡補されるからそれは除外しても良いのではないかという考え方については,いかがかなと思います。正確に言うと,貨物の損害に対応する保険は一つではなく,貨物保険と船主が加盟するPIクラブの賠償責任保険があります。保険での塡補というときに,貨物保険を使うのか,賠償責任保険を使うのかという問題に帰着するのではないかと思います。   これは不法行為責任ですが,船舶の衝突のときにも,船舶の衝突賠償責任保険がありますし,船体の方も船舶保険でカバーされています。衝突のときの船体の損害には,船体保険が最初に使われますが,その後責任割合に応じ相手船の賠償責任保険の方でカバーされるのに,積荷の損害については貨物保険の方でカバーされた後,PIクラブの責任保険に対する実行を非常に難しくするという点は,いささか矛盾があるのではないかと思っています。もちろん当然のことながら,貨物保険でカバーされない積荷の損害もあると思いますので,その点についても考慮すべきかなと思います。 ○山下部会長 船主責任制限法95条の関係でお二方の御意見がございましたが,この点はいかがでしょうか。皆さん余り御異論がないということなのでしょうか。 ○入来院委員 前回,海法会の意見で触れていただいていたのですが,定期傭船の場合の燃料油について,例えば船主が定期傭船に出した後に,通常定期傭船の場合,燃料油というのは被傭船者が買い取って,被傭船者の財産になっていて,傭船中は傭船者が手配することになっておりますが,傭船が終わった後に随分経ってから倒産して,それで船主の船が差し押さえられることが時々あって,燃料油業者は傭船者から依頼を受けているはずですので,船主から依頼を受けていないのは分かっていると思いますので,直接は関係ない債権として,我々としては何とかならないかなと常に思っているということを,改めてまた申し上げておきたいなと思っています。 ○松井委員 入来院委員のお話しになった油のことでちょっと思い出したものですから,余り直接の関係はないんですけれども,お話しさせていただきたいと思います。   商法842条6号の「航海継続ノ必要ニ因リテ生シタル債権」の「航海継続」の問題なのですが,元々本籍港から本籍港が一航海だったのが,今は,一般的には本拠港から本拠港と考えられていると思います。ケースによっては,本拠港は一つではなくて,幾つかの本拠港からそのうちの幾つかの本拠港ということで判断されている例もあると思います。私が扱った案件の中には,不定期船で日本と韓国,中国,台湾,香港辺りをスポットで依頼を受けて運航しているものがあって,今申し上げた幾つかの本拠港にも当たる,港に帰っていないで1年以上経っているというものがありまして,そのとき本拠港というのは日本だという決定を頂いたことがあります。この点,条文はこれで良いのかいけないのかということ,それから,どのように修正すれば良いのかについて,全く確定的な意見がないままお話しするのは誠に恐縮ですけれども,一応,昭和58年の最高裁判決のまぐろ漁船については,本邦から本邦ということになっていますので,最後の決定の見解もやや乱暴とは思いますけれども,最高裁判決に照らしてあながち間違いではないというのが1点目です。   それから,油については,入来院委員のお話のあった点ももちろんですけれども,それと同時に,船舶先取特権の認められる燃料油債権を計算するときにいつも大変な思いをしておりまして,重油もA重油,C重油などいろいろな種類がございます。それから,潤滑油というのもありまして,油の種類ごとに,油を入れる前に入っていた油の量と次の本拠港といわれる所へ行くまでに必要な油の量を計算して,それに予備の1割又は何割かを足して,その差についてのみ船舶先取特権を認めるという形になっています。そのため,当事者ではなかなか話がつかないこともあって,ほとんどの場合は和解だと思いますけれども,裁判所にお手数をかけている事態が起こっています。そういう意味において,この「航海継続ノ必要ニ因リテ生シタル債権」というのは,非常に柔軟で良いという側面もあるかと思いますけれども,他方,案件ごとに裁判をやってみないと分からない。どこまでが航海なのか,どこまでが必要な費用なのかというのは,裁判所に行って,とりあえず公平な立場からの御意見を頂戴しながらまとめざるを得ないという実情になっているということだけお話しさせていただいて,事務当局の聡明なる御判断にお任せしたいと思っております。 ○藤田幹事 船舶先取特権には,いろいろなものがあって,議論もいろいろあるので,(1)から(5)まで一遍にまとめてお話しすることは避けたいと思います。まず,今問題となっているのは,「航海継続ノ必要ニ因リテ生シタル債権」としての燃料油ですが,問題の切り方について,念のために申し上げたいと思います。そもそもこれを先取特権にするか否かという話,順位の話もありますが,入来院委員のおっしゃったことの本質の一つは,定期傭船者が航海のために負った債務について,船主がどうして負担するのかという問題で,船主以外の人が債務者となる債権について船舶が担保となるということにあると思います。したがって,先取特権の成立範囲の話よりも担保権の負担者の問題――これは部会資料の9ページの(注)で,商法704条2項について定期傭船者が議論されているわけですが――と併せて議論する必要がある。入来院委員の問題に関しては,むしろこちら側の判断の方が深刻であって,「航海継続ノ必要ニ因リテ生シタル債権」の扱いの話もさることながら,704条2項との関係で,もう一度仕切り直して議論する必要があるという印象を受けました。その上で,本文(2)に書いてある燃料油などの関係については,――順位について良く考える,あるいは成立範囲について限定することはともかくとして――全面削除すべきであるというところまでは,今のところは決断がつきません。ただ,最後この点をどうするにせよ,704条2項との関係で,もう一度議論するといい気がします。   次に,本文の(4)について,まず異論の少ないところから言うと,これはもう今まで発言された全ての方と共通なのですが,人身損害について,制限債権であるが故に先取特権が与えられるという現行法の発想は余りよくないと思います。船主責任制限法では旅客債権を制限債権の範囲から外しており,これは1996年議定書を批准するときに,留保条項を使ってそうしたわけですけれども,それは旅客の保護という趣旨だったわけです。しかし,保護のために制限債権にしないと,逆に今度は先取特権が生じなくなるという,全体としてちぐはぐな状態となっています。むしろ,制限債権か否かにかかわらず先取特権を与え,それも比較的高順位で与えるという提案は,支持できるのではないかと思います。   「イ」の財産的損害については,基本的に制限債権か否かという枠組みで考えていいと思います。なお,契約債権を除くべきかという点は,非常にこれは迷っていますが,私も山口委員に近い考え方で,契約債権も含めて良いような印象を持っております。   そのほか,国際海上物品運送法19条の削除は,賛成していいのではないかと思っております。 ○山口委員 「航海継続ノ必要ニ因リテ生シタル債権」の中の,主には燃料油債権が非常に多い,食料品やその他の生活用品もございますが,まずこれについてなくすかどうかの問題ですが,これは,維持していただきたいと思っております。我が国の燃料油供給業者は,零細なところもありますが,最終的に船舶が担保になるということを考えて供給している実態がございまして,そういうところから,これがなくなりますと,いわゆる中小企業の経営にかなり大きな影響を与えるだろうと思われます。   それから,1993年条約の際に,日本が航海継続に関する債権について先取特権を認めない条約に強く反対して,それを入れるように米国と共同して提案を行ったという経緯がございまして,最終的に入れられなかったのですが,そのために日本が批准していないという状況,日本のそういう立場からいっても,これは維持すべきではないかと思います。ただし,維持していただければ,順位については,これは私個人の意見ですけれども,船舶抵当権に劣後してもやむを得ないかなと思います。これはもう少し多くの方の御意見をお聞きしないと,最終的な判断は難しいと思いますけれども,残していただくこと自体は継続していただきたいなと思っております。 ○山下部会長 今のところ,(2)から(5)までは意見書も含めて御意見があったところですが,(1)は何かありますか。商法842条1号,2号は削除してはどうか,3号から5号はどうするかということですが。1号,2号については削除で余り御異論はないという理解してよろしいのでしょうか。 ○藤田幹事 意見がないと困るかもしれませんので,議事録に残すためにも,事務局案に賛成であることを申し上げさせていただきます。 ○山下部会長 3号から5号までについて,何か御意見はございますか。 ○道垣内委員 1号,2号削除は結構なのですが,競売費用は,普通民事執行法に基づいて差押え,競売がなされるときに,最優先で配当していると思うのです。1号は,その根拠としては使われてはいないのでしょうか。 ○松井(信)幹事 競売費用は,担保権実行の場合だけでなく,強制競売の場合もございますので,必ずしも,商法842条を根拠としているというわけではないと考えております。むしろ民事執行法の考え方によって,通常はまず最優先の配当を行っているのではないかと思っておりますが。 ○道垣内委員 船舶以外の通常の動産,不動産の差押え,競売ないしは担保権の実行における競売費用の最優先順位での配当は,民法上の共益費用の先取特権等によって,実体法上の根拠があると説明されているので,民事執行法の中だけで完結して最優先で支払われているわけではないと思います。したがって,それは民法307条の問題としてやるのだと考えるならば,削除しても全然構わないのですが,ただ,削除しても実は変わらない,民法307条によって競売費用というのは第1順位の先取特権になるのだという御認識の上で削除というコンセンサスを得るべきではないかと思います。 ○松井(信)幹事 御指摘のとおり,共益の費用は,民法の一般の先取特権の中に入っております。ただ,民法上の一般先取特権の順位の問題まで考えますと,民法学説による説明が非常に難しいなと思っているところなのです。というのも,一般の先取特権は登記をした抵当権より劣後するのではないかと論理的には思うのですが,実際の競売実務では,手続費用を最優先で配当しており,そこが民法的な発想と実際の競売手続との食い違いであると思います。いずれにせよ,商法842条の1号を削除することによって,今道垣内委員がおっしゃったような民法の枠の中で優先権を考えるという考え方も十分できるでしょうし,それとは別に,民事執行法で最優先になるという考え方もできるのであり,これはいずれもあり得るのではないかと考えているところでございます。 ○松井委員 今のポイントについて,日弁連の方でお話がありましたので,一言だけお話をさせていただきます。この前提としましては,日本の民事執行法が必ず適用されるということが議論の根底になっているのではないかということです。国際法についてきちんと考える時間がなかったので,曖昧な発言をしてしまって恐縮ですけれども,日本の船舶が海外で執行されるとき,その国の法律いかんによって,もちろん基本としては船舶の所在地法になるはずであると理解しておりますが,裁判地の国の法律によっては,日本の国際私法が出てこない裁判所もあるのではないか,日本の民事執行法を前提とした議論がそのまま当てはまらないケースはないのかという御意見がありました。そのときに日本の民事執行法で最優先になっていることは,改正の根拠になり得るのかどうかという御指摘で,私の中でも充分に整理はできてないのですけれども御紹介申し上げます。   それから,今お話のあった船の配当の場合ですと,確かに配当表の一番上に執行費用は出てくるので,その形からいくと,道垣内委員のおっしゃる御懸念もあるのかと考えております。 ○山下部会長 今のところは正確なところを詰めていただくということかと思います。 ○遠藤委員 契約債権はもちろんなのですが,それに加えて商法842条3号から5号の中にございます共同海損分担金なのですけれども,共同海損においては,荷主が債権者となる場合があると思います。その場合に,部会資料に書かれていますように,保険で損失を塡補し得るということで,93年条約において船舶先取特権から除外されたという御説明があるのですけれども,保険といいますと,国際海上においては付保されている率が極めて高いと思われるものの,付保されてない場合もございます。そもそも保険は任意でございますので,それを保険ありきで船舶先取特権の対象から共同海損を落とすということはちょっと問題があるのではないかということでございます。   そして,その共同海損との関連で,やはり救助料と共同海損は不可分ではないかと思います。また,救助する場合は必ず曳船があるということだと思います。ここであえて曳船を落としてはどうかというような御提案かと思うのですけれども,そこの背景をお聞きできればと思います。 ○松井(信)幹事 太字で書きましたとおり,見直すべき点はあるかという,そういう問い立てをしております。条約においては,曳船料について船舶先取特権を認めないということになりますけれども,アメリカでは認められているということですので,我が国でこの点をどう考えるか,皆様の御意見を伺いたいということでございます。 ○山下部会長 この点,ほかにいかがでしょうか。この商法842条3号から5号まで,特に何か削除するべきだという御意見は今のところございませんでしょうか。 ○藤田幹事 細かな質問ですが,商法842条5号の救助料というのは,前回議論しておりました特別補償を含む趣旨でしょうか。たしか,御提案では救助料扱いではなかったような建て付けだったような気もするのですが,この5号を残すときにどういう扱いにされる予定なのか,確認させていただければと思います。 ○松井(信)幹事 一般的には,特別補償については船舶先取特権を認めないという考え方ではなかろうかと思っていたのですが,もし世界の動向を御存じでしたら教えていただけたらと思います。 ○藤田幹事 世界の動向は知らないので,それはまた調べさせていただきますけれども,差し当たり,今回の改正で新たに加えられる制度をどう扱っているか確認しておきたかっただけです。原案的には,普通の意味での救助料を想定されていて,環境損害的なものに対する費用というのは,またそれは別のところで,別の理由で先取特権が生じることがあり得るにしても,ここでは生じないというものと理解いたしました。 ○山下部会長 1はこの程度でよろしいでしょうか。そうすると,全体について,ほかにございますか。 ○箱井幹事 先ほどの契約債権のところについて,山口委員がおっしゃいましたように,私も船主責任制限法95条はかなり使われていると認識しておりますが,その中身をちょっと教えていただきたいと思います。この規定は,元々改正前の商法690条,これを受けた削除前の商法842条9号がございまして,それが船主責任制限法の制定に伴い,こちらに移ってきたと理解しております。ここでは,特に衝突とか座礁とか,事故によって生じた損害についての契約債権だけが問題なのか,そうではなくて,保証渡しについて船主責任制限法95条が問題とされたこともありますが,一般の単純な債務不履行の場合も,かつての商法690条の感じで使っておられるのかどうか,その辺を教えていただけたらと思います。 ○山口委員 通常の契約違反といいますか,事故というのは難しい話ですけれども,何らかの事故があるから貨物に損害が生ずるわけでございますので,今箱井幹事がおっしゃったような区分けをしてやっているわけではなくて,一般論としては,不法行為に基づいて船舶所有者に請求する場合もございますので,いずれにしても,運送中に貨物に何らかの障害が生じ,滅失損傷を起こした場合,一般的に,この船主責任制限法95条を使って損害賠償請求をしていると考えております。 ○箱井幹事 その場合,船主責任制限法95条にある当該「事故に係る船舶」という中に解釈で含めていく,そういう御理解だということでしょうか。 ○山口委員 そういう理解でございます。 ○箱井幹事 先ほど,制限債権に当たる場合,当たらない場合ということがございましたけれども,船主責任制限法の趣旨からしますと,単純な債務不履行というのは相当違和感がございまして,商法842条のほうにもう1個増やすような話なのかなと思って聞いておりました。これは事務当局への質問ですが,人身もそうですが,制限債権に当たらないものも範囲に含めていくということになると,商法842条の話としてお考えだという理解でよろしいでしょうか。 ○松井(信)幹事 おっしゃるとおりでございます。 ○箱井幹事 そうしますと,藤田幹事も悩んでおられるとおっしゃっておられましたけれども,純粋な債務不履行について,私ももう少し考えてみたいと思っております。 ○田中幹事 船員の労働債権に関わる部分でございますけれども,繰返しの話は申しませんけれども,雇入契約,雇用契約という言葉というか,その意味が正しく御理解されてないのかなと私は思っています。そのことが主たる原因で,論点が違うのかなと思います。   第1回の部会でもお話をしましたけれども,そもそも船員は,雇用契約に基づいて企業に雇用されておりまして,そして本船に乗船する際に雇入れをされて,下船の際に雇止めをされるということで,実際上,雇用契約と雇入契約というのは別の手続であります。   それから,先ほど私は予備船員の位置付けについて意見というか実態を申し上げましたけれども,雇入契約というのは,通常ですと乗船して下船すればその日に雇止めをされるわけですが,その乗船中に発生した本来消化すべき休暇は,予備船員として下船中に取得するわけですけれども,雇入契約上は既に雇止めをされているということになるわけですから,雇い入れられているかいないかを前提にすると,これもつじつまが合わない。   それから,船員法上の船員の雇入れ,雇止めの手続としては,今は一括公認という仕組みもございまして,それは,船舶所有者が所有する複数の船舶を一括で公認して,そのどの船に乗船しても,あるいは下船しても,一括で雇入れとして公認するという仕組みもございます。そういうことからしますと,雇入れ,雇止めということが船員の労働債権の船舶先取特権の全てということは全然つじつまが合わなくて,これはやはり雇用契約に基づく船員の労働債権については,船舶先取特権でこれまでも保護されてきておりますし,その規律を改悪するというか,悪くするということについては,必要ない,してほしくないと考えている次第でございます。   それから,松井委員の意見書の中にも書かれているところで,7ページの(2)のところに書いていますけれども,船員の雇用主に対する債権額が今日において膨大なものになる傾向があり,これにより船舶金融が圧迫を受けているということでありますけれども,そのことを商法改正の理由に挙げるのは,少し議論の題材というか,筋としては私はおかしいと思っていまして,そもそも立法化された当時の客観的な事実関係,こういったものを確認しながら,必要なものは改正し,そうでないものは維持をするというのが法改正の基本なのかなと理解していますので,意見として加えておきたいと思います。 ○松井委員 私も繰返しになることは避けたいと思いますけれども,田中幹事から傾聴に値する御意見を頂きました。雇入契約と雇用契約の関係について,田中幹事の御意見書の6ページでは,大阪地方裁判所の明治43年の裁判例を引かれておられます。この裁判例は私もざっと読んだだけで恐縮ですけれども,雇入契約についての登録,行政上の手続をやっていなかった場合にも船舶先取特権が認められるかどうかというのが論点だったと理解しています。   この裁判例について,田中幹事の御意見書では,これは雇入契約と雇用契約は違うものだということの例で引いておられますけれども,この件について,先ほどの福岡高裁の昭和52年の案件について書かれた,確か判例タイムズの評釈の部分だったと思うのですが,この裁判例について,雇用契約と雇入契約が同じものであるということを前提にしている判決がこれであるとして引用してありますので,田中幹事の御意見も一つの御見解だと思いますし,そうでない見解というのも世の中にはある,この判例をどういうふうに読むかというのは人によって違うというのが1点目でございます。   先ほど,社会事実という点がございましたけれども,先ほど申し上げた注7にある加藤正治教授の意見がその一つとしてございます。加藤正治教授は,立法当時における船員の債権は概して少額であった旨の指摘をされており,こういう事実認識であったというのが2点目でございます。   それから,田中幹事の御意見の中には,その当時に船員の方も退職金があり,終身雇用があったということから,社会的な事実が違うではないかという御指摘と私は理解しております。もちろん,商船三井,日本郵船等の極めて優良な企業においてそういう事実があったというのは間違いないとのことですけれども,それが果たして一般的なものであったのかどうかということが次の問題になると思います。   当時の立法において,極めて優良企業である商船三井と日本郵船の船員の方を中心に考えていたということであるとすれば,今回の立法においても,商船三井と日本郵船等の極めて優良な企業にお勤めの船員は,多分一般企業の陸上の従業員の方以上の保護があり,そもそも船舶先取特権で保護すべきような事態が起こらない会社ではないかと思いますので,結局,それらの船員を基準としては船舶先取特権による保護を検討する必要があるとの議論にもならないと考えられます。要は,誰を中心にした社会実態,立法事実が法律の基になっていたかということをやはり検討するべきではないかということで,田中幹事の御意見とはちょっと違うのですが,一言申し述べさせていただきます。 ○田中幹事 正確な数字を持ち合わせていませんが,当時は大阪商船,日本郵船が国内の大多数の船舶を所有していました。今日のようにたくさんの海運会社が日本国内にあって,海運産業がこんなに大きくなってはいなかったわけです。船員の世界でいえば,日本人の船長が初めて生まれたのは明治30年代で,昭和10年代に初めて商船教育がスタートして,海員の教育には数十年の時間が掛かった。同じように,船舶も欧米の船舶をもって貿易をしていた。ですから,その当時の国策として船を作り,船員を作り,そのために必要な立法化をして,その中で船員の労働債権の保護というのは非常に強力なものとして船舶先取特権の中に入れられたわけですけれども,その背景というのは,私はあえて今日は人身拘束という言い方をしましたけれども,これは多分歴史的事実で,もちろんそれは誘拐して連れてきたわけではないんですが,船員が雇入れをされて乗船して,ある一定数というか定員を満たせなければ船は運航できないわけで,海員名簿というのも作って,船長が雇入れをして,それぞれの職位の船員が雇入れをされていなければその船は運航できないですし,一旦船籍港から出て就航すれば,無線設備が余りない中で,いわゆる雇入れというのは,船員の私が言うのもなんですけれども,要は,仮に船員が船を勝手に降りても,ほかの船に雇入れされることはできないということです。なぜならば,その船に「雇入れ」されているわけですから,船長が雇止めという手続をしてくれない限りは,この船は嫌だと,もっと給料のいい会社があったといっても乗船もできない。こういう事実も当時はあったということは,事実として残っています。ですから,船員の囲込みといったらおかしいですけれども,船員を雇って,そして定員を満たして運航を継続するために雇用した船員を乗船させる場合は,雇入契約という船長に持たせた強力な権限の下に,船長の指揮下で会社が無線,あるいはいろいろな指示がままならない状況でも,しっかりと積荷等,船舶,人命の安全を船長の責任で守るということが当時は今以上に求められたのは事実としてあります。ですから,その記述が今も残っているというのが事実だろうと思います。 ○山下部会長 それではまたいろいろ意見があるかもしれませんが,まだ今日は審議がたくさんございますので,1と2の点は大体以上のようなところでよろしいでしょうか。頂いた御意見を参考に事務局には検討してもらいたいと思います。   それでは,第1の3と4について審議をお願いいたします。まず,事務当局より説明をお願いします。 ○宇野関係官 それでは,「3 船舶賃貸借における民法上の先取特権の効力」及び「4 その他」について御説明いたします。   まず,「3 船舶賃貸借における民法上の先取特権の効力」につきまして,平成14年の最高裁判例は,商法第704条第2項にいう先取特権には,船舶先取特権のほか,民法上の先取特権も含まれると判示しています。この判例に対しては,同項の先取特権は,債務者以外の所有物に対して成立する点で,海商法に特異な法理であること,船舶先取特権は1年の経過により消滅するのに,民法上の先取特権はより長期の消滅時効に服するため,長期間の先取特権が付着した状態が継続し,差押え等を受ける船舶所有者の負担が重過ぎること,現在は,融資者が形式上船舶の共有持分を取得するような船舶金融の形態もあるところ,同項の先取特権の範囲を広く解すると,船舶金融に悪影響を及ぼすこと等の理由から,その結論に反対する考え方もあります。   この点につきまして,平成14年判例は,船舶賃貸借が船舶の利用に関する事項により負担する債務に係る債権者の利益と,船舶所有者の利益とが対立することを前提に判断を示しており,現在では,これに従った法適用がされているものと考えられますが,このような利害の調整の在り方に関する政策判断の適否について,どのように考えるか,また,平成14年判例の後,このような判断を覆すべき実務上の変化等が生じているかを問うものでございます。   なお,今般の改正では,定期傭船に関する規律を新設することを検討しておりますところ,平成14年判例の趣旨は,定期傭船に係る船舶の利用について生じた先取特権にも妥当するように思われますが,この点についてどのように考えるかにつきましても,併せて御審議いただきたいと思います。   最後に,「4 その他」につきましては,これらのほか,船舶先取特権及び船舶抵当権に関して,見直すべき事項があるかどうかを問うものでございます。   以上の点につきまして,御審議いただきたいと思います。 ○山下部会長 それでは,以上説明のあった部分と,先ほど御説明いただいた松井意見の意見書の部分も含めまして,御自由に御発言いただければと思います。 ○雨宮幹事 船舶賃貸借における民法上の先取特権の効力という問題ですが,商法704条2項の適用に関する問題として,最高裁で争われ,ここでもそのような問題として取り上げられています。先ほど松井委員がおっしゃられましたように,そもそも船舶に対して民法上の先取特権が成立することがこの問題の前提となっていると理解していますが,この点,賃貸借の場合ではなくて,所有者が債務を負うような場合には,船舶に対して民法上の先取特権が成立することを前提にされているのかどうか,確認したいと思います。 ○松井(信)幹事 今の最高裁の判断ですと,船舶について民法上の動産先取特権が成立するという考え方になるものと思っています。 ○雨宮幹事 となると,今回の改正でも船舶に対して民法上の先取特権が成立することは維持した上で商法704条2項の適否を検討していることになりますが,そうだとすると,松井委員の意見書にもありますように,民法上の先取特権と抵当権の順位については,法律上明確ではないので,順位をどうするのかを議論して,商法で定めるというのも一案と思っています。 ○松井(信)幹事 具体的には,船舶抵当権と民法上の動産先取特権とでは,雨宮幹事の御印象ですと,船舶抵当権の方が優先するという御見解と伺ってよろしいでしょうか。 ○雨宮幹事 はい。私は個人的にはそのように考えています。   引き続き船舶抵当権について申し上げてもよろしいでしょうか。現行法では,船舶抵当権については,不動産抵当権の規定が準用されるというような規定振りです。船舶と同じく動産である航空機,建設機械,自動車に対する抵当権に関しては,特別の単行法が設けられていますが,船舶抵当は,商法の中に準用規定が1か条あるだけです。不動産の抵当権に関する規定には,例えば民法395条で抵当権に対抗できない賃貸借の場合には引渡しを6か月間猶予するという規定があります。船舶抵当権にそのような規定をそのまま準用する必要性があるのかについては疑問を持っていまして,特別法を制定する必要性はないにしても,このまま単に全部の規定を準用するのではなくて,きちんと議論した方が良いと思っています。   例えば,航空機等の抵当権では,担保権の消滅に関する規定を準用していませんが,こういう規定についても船舶抵当権で準用するのか,それともしないのかという議論が必要と考えています。 ○松井(信)幹事 船舶抵当権につきましては,不動産抵当権の規定を大幅に準用しておりますが,どの辺りまで詳細に書くかということは,具体的なニーズとの関係で考えるべき問題ではなかろうかと思っております。ですので,船舶抵当権を実際に御利用になる方々,例えば銀行の御意見なども踏まえながら,特にこういう点で困っているということがあれば,また御紹介いただくなりしながら,考えていきたいと思っております。 ○山口委員 私も雨宮幹事と同じ意見で,最高裁の考え方には基本的には賛成できないと考えておりまして,民法上の先取特権というのはやはり一般法であり,それに対して船舶先取特権が特別法としてございます関係上,民法の規定の適用は排除されているのではないかと思っておるわけです。   先ほど松井委員がおっしゃいましたように,民事執行法の規定の形状からいっても,船舶は執行法上特別に定められておりまして,不動産とほぼ同様の規定が適用されており,動産という概念から外れております。それが民法上の先取特権の実行ということになりますと,船舶に対しても動産の執行という形で執行を申し立てないといけないということになるんですが,執行法が実体法を支配するのは不思議な感じがするんですけれども,どちらかというと,執行法は,当然のことながら船舶先取特権がある場合には特別法でありますから,船舶については民法上の先取特権が成立しないという前提で法形成がなされているだろうと思いますので,この点はどちらかというと,明確にして配慮するべきではないかと思っております。   ただ,もし最高裁の判例を前提に,船舶に対しても民法上の先取特権が成立するとするのであれば,執行法上の手当ても必要であろうし,先ほど雨宮幹事の指摘がありましたように,順位をどうするんだという問題を明確化しないと,将来的に,実務的にも非常に困るのではないかなと思っております。 ○山下部会長 民法との関係について,道垣内委員,何か御意見はございますか。 ○道垣内委員 いろいろ分からないところがありまして,先ほど競売費用について申しまして,最後の航海の保存費については申し上げませんでしたけれども,その理由は,少なくとも船舶と付属品のうち付属品の方に関しては民法上の動産保存の先取特権が成立すると考えておりましたから,別に削除しても関係ないだろうと思っていたからです。ところが,民法上の先取特権が成立しないということになりますと,商法842条2号の意味,さらには,その削除の意味自体が変わってまいりますので,そこら辺の議論は必要なのではないかと思います。   その上で,船舶に及ぶべき先取特権というのは,商法が独自に価値判断をして定めるべきだというのは十分に理解できるところではあるのですけれども,抵当権と競合したときに,抵当権が優先するというのは,少なくとも当然ではないなという感じがしています。   実は,ここら辺は民法の中で一貫した価値判断がなされているのか怪しいところがあるのです。動産保存の先取特権に関しては,動産質権との優劣においては,順位的に負ける,つまり,質権が優先するという形になっています。しかしながら,不動産保存の先取特権については,実務上そのような例はほとんどないといわれていますが,保存の直後に登記をすれば,その前に抵当権が設定されていても抵当権にも優先するという仕組みになっています。抵当権者のためにも価値を保存したのだから,抵当権に勝ったって全然おかしくないじゃないかということですね。そこで,船舶に最も近いのは何なのだろうと先ほどから条文を引いておりましたのは,自動車抵当という制度があり,そこでは先取特権と自動車抵当権の優劣に関しまして,自動車抵当の方が優先するということになっています。これらは本当にコンシステントに説明できるのかということを考えていたところだったんですが,私としては,そのような全体の価値判断の中で,日本の法制上,価値判断がコンシステントであるということが必要だろうと思うだけでありまして,民法上の先取特権は排除すべきだとか,民法は当然に適用されるべきだとか,いずれにせよ強い見解を持っているわけではございません。 ○小林委員 先ほど松井委員から出されている参考資料の2ページ目のところで,最高裁判例に対して反対ということで私の名前を出していただき,私も確か疑問があると書いたかと思うのですが,何を根拠に考えたかということを今思い出したのですが,確か法律の継受という面では,この商法704条の第2項ですけれども,ドイツ商法510条の第2項を引き継ぎそれを日本語に訳しているわけです。日本の法文では先取特権者としか書いてないわけですけれども,ドイツ商法510条の第2項では,はっきりSchiffsglaeubigerと書いておりますので,そういう意味では単なる先取特権者ではなくて,はっきり船舶先取特権者という趣旨で書いております。日本の商法704条2項がそれを引き継いだということからいえば,当然,これは最高裁判例とは違って,船舶先取特権者に限定されるのではないか,そういうことを念頭に書いたかと思います。法の継受という面からいってもそう解釈すべきではないかということだけ付け加えさせていただきたいと思います。 ○道垣内委員 1点,お話をするのを忘れていたのですが,同じく気になっていることとして,例えば船舶の保存の費用が掛かったとか,船舶の付属品の保存の費用が掛かったというときに,賃借されている船舶について,賃借人側が契約して保存のための契約をした場合には債務者は賃借人であるところ,そのときでも船舶に及ぶというのは,本当にそれでいいのですかという話が先ほどからあるわけです。しかし,この問題の背後にはいわゆる転用物訴権の問題というのがあります。つまり賃貸借がなされて,賃借人側が修繕を行って,修繕費用債務というのが未払のときに,修繕をした人は所有者に対して不当利得返還請求ができるかという問題があり,構成の仕方によっては,直接に船舶所有者が債務者であるという類型というのがあるのではないかと思います。   したがって,判断として,賃借の場合に所有者のところに負担がいくのはおかしいじゃないかという判断をするのであるならば,そういった類型についてどのように考えるのかということについても,一応の検討を経ておく必要があるのかなという気がします。感想ですが。 ○藤田幹事 概括的な意見になるのですが,商法704条の先取特権について,一般の民法の先取特権の場合に適用するのは私も反対です。何点か理由はありますが,まず,最高裁判決への敬意の払い方ということを松井委員もおっしゃられたのですが,最高裁判決自身を読みましても,明示的なポリシーがあって出ている判決かどうか良く分かりません。判旨を読み上げますと,「商法704条2項本文は,船舶の賃借人が商行為をする目的をもって船舶を航海の用に供したときは,船舶の利用につき生じた先取特権が船舶の所有者に対しても効力を生じる旨を規定しているところ,この先取特権には,民法上の先取特権も含まれると解するのが相当である。けだし,同項本文は,同条1項の賃借人による船舶の利用に関する事項により生じた債務を担保する先取特権については,当該賃借人が当該船舶を所有している場合と同様の効力を認めることによって債権者を保護しようとするものであり,その適用を商法842条に定める先取特権等に限定する必要はないからである」と言っています。   判決の論理は,現在の条文はこう書いてあり,それを前提とすれば民法上の先取特権にも妥当するとしているだけです。どういうポリシーが背後にあって,所有者ではない人に先取特権を及ぼすかという説明があればともかく,それがないような判断です。つまり,この判決は,現行法の条文をそのまま,現れている価値判断を敷えんしている以上のものではないと思います。そうだとすると,この判決を根拠に立法論を考えるのはそもそもおかしく,判決後に何か立法事実が変わったかということを問い,それがなければ立法で変更することはできないという発想も根拠はなくて,更地で考えたらいいような話になると思います。   その場合,考えるべき問題は,そもそも債務者ではない人の所有物について,こういう種類の法定担保物権を成立させるということがどこにでもあるような話なのか,それともやはり何か特殊な事情があって正当化されるものなのか,その特殊な事情というのは,海事の特有の債権全部について当然そういえるかどうかはともかく,それらにはある程度認められ,船舶所有者の負担に帰しても仕方がないといえる面があると説明がされるのであれば,それともそうは言えないかということです。   そういうことをきっちり限定した上で考えていくとすると,定期傭船におよそ適用がないという議論は,ややしにくくて,(注)のようになっていくような気がします。ただ,船舶金融についての実態,債務者以外の所有物であるものについて広げることについての実務的影響について,更にお話を伺いたいと思いますので,結論は留保しておきますけれども,とにかく賃借人のものは債務者のものであると扱うのは当然であるという理屈がいきなり全ての船舶先取特権について出てくるような話ではないと思っております。ですから,そういう意味では,限定するという立場に賛成したいと思います。 ○山口委員 今,藤田幹事のおっしゃったことと関係するところですが,船舶先取特権と定期傭船の問題については,十分な議論が今までなされていないかと思います。入来院委員の御指摘のように,定期傭船の場合に特に問題になるのは,航海継続に関する債権かと思うんですが,これについて定期傭船というものを新たに作ったときに,適用されるのかどうか,今のこの書き振りからすると適用されないということが前提になるのかもしれませんが,その点については,当然船舶に油を供給している業者の方々の利益が非常に害されるおそれがございますので,十分な議論をした上でどちらにするのか,はっきりさせる必要があればするべきだと思います。   現在のところは,どちらかとはっきりしなくて,定期傭船というのは船舶賃貸借と労務供給契約の混合契約であるという大審院の判例からして,定期傭船というのは一定の期間,船員が配乗した船舶を借りるという賃貸借の要素がございますので,この商法704条2条が適用になるのではないかという議論で,先ほど入来院委員がおっしゃったように,船舶先取特権の行使が行われている事実があるかと思います。それをどうするのかというのは,やはり利害関係を調整する意味ではしっかりした議論をして,定期傭船を設けることによって外れるということで,多くの方から意見を取った上で,最終的にどうするか決める必要があるのではないかと思います。   私は,いずれの立場に立つこともありますので,どちらがいいというわけではございませんが,明確にしておく必要があるのではないかということでございます。 ○箱井幹事 先ほどの平成14年判例でございますけれども,私も,小林委員がおっしゃられたような沿革が明白であるということと,藤田先生がおっしゃられたことと全く同感でございます。この部会資料にこれが現行法の規律であると書いてあることを見て,ちょっとぎょっとしたのですが,先ほどの大前提のところはまだ検討の余地があると思います。そもそも,動産先取特権が商法704条2項で船舶所有者にかかってくるというのは,そこは何かの勘違いではないかなと思っておりました。その点,是正されるようにしていただけたらと思っています。   山口先生は,両方の立場だということでございましたけれども,藤田幹事がおっしゃったように,定期傭船との関係は,定期傭船立法を置くとなるとかなり大きな問題になってくると思います。定期傭船契約について,これを外すことが前提とか原則というような考え方には違和感がございます。やはり船舶賃貸借に代わって定期傭船契約がこれだけ普及してきたことの実態を考えたときに,当然に関係ないとまでは言いにくいのではないかと思います。ここは更に慎重に検討していただけたらと思っております。 ○山下部会長 大体,いろいろな意見を頂きましたけれども,事務当局は,それを踏まえていかがでしょうか。 ○松井(信)幹事 商法704条2項の問題につきまして,多くの御議論をありがとうございました。この商法の規定は,民法の先取特権が被担保債権の債務者の所有物についてしか成立しないという点の特則であるといわれており,今の御議論も,おおむね原則に戻るべきであるというふうな理論的な御説明が多かったかと思います。しかし,法改正をしようといたしますと,今現にある商法704条2項,これを削るのかどうか,そこの政策判断の問題になります。そのために,今回の部会資料では9ページにありますように,船舶所有者の利益と賃借人ないし定期傭船者と取引をした修繕業者などの利益を考慮した上で,平成14年の判決の後に不適切な状況になっていないかどうか,こういうふうな現在の実情に関する問題提起をしたところでございます。   仮に法改正によりこの点に関する政策を変更するという方向を考えるのであれば,今のような理屈だけの説明では国民の皆さまの理解を得ることは容易でなく,例えば,滞納に係る法定検査費用債権や燃料油代金債権がどの程度累積しているのか,商法704条2項の規定によってどの程度の船舶所有者がどの程度の迷惑を被っているのか,その迷惑は船社側としてチェックするすべもなく,不当に損害を受けていると評価すべきものなのか。逆に,法定検査費用や燃料油の債権者側においては,そのような実情があるのかないのか。そのような実態を踏まえた上でないと,なかなか結論が出せないのではないかと思っております。二読でも議論を続けようと思っておりますので,関係業界の方々には,具体的な実情を示す資料などをお願いできたらと思っております。 ○山下部会長 その点,よろしくお願いします。 ○山口委員 今,松井さんがおっしゃった点について,一つだけ,ちょっと私が誤解したのかもしれませんけれども,商法704条2項を削除する可能性がある旨のことがありましたが,少なくとも裸傭船,船舶賃貸借について船舶先取特権が生じること,これ自体についてはさほど大きな争いはないのではないかと。定期傭船のところに入れるかどうかについては,利害関係人の関係で,調整が必要,議論が必要だと思うのですが,船舶賃貸借の場合,いわゆる裸傭船といわれている場合に,裸傭船者が債務者となる船舶先取特権が船舶所有者に及ぶということについては,これは異論はなく,世界的にはその考え方で通っているのではないかと思いますので,そこはいじられないようにしていただきたいなと思っております。 ○松井(信)幹事 先ほど商法704条2項を削るかと言ったのは私の言い間違えで,商法704条2項を船舶先取特権に限るように改めるかどうか,そういう議論でございました。 ○道垣内委員 細かな発言にかみついても仕方がないのですが,私は箱井幹事のおっしゃった,動産保存の先取特権が他者のものに及ぶというのは間違いだとしか思えないという点について,どうしてなのだろうかという疑問を持ちます。当該動産の価値が保存されて,得をするのは誰かという観点から考えたときに,債務者ではない者が所有している船舶に及ぶ,船舶所有者が負担を負う,ということには十分な理由があるのではないかと思います。もっとも,それが最終的に否定されるということになりましても,今ここで反対をしようというわけではないのですけれど。 ○箱井幹事 私の言い方がまずかったのかもしれませんが,私は,商法704条2項を介しての話で申し上げたわけでございます。そうでなく伝わっていたら,私の言い方がまずかったのだろうと思います。先ほど,小林先生がおっしゃったことと同趣旨のことしか申し上げておりません。 ○道垣内委員 商法704条2項を介さないとそうはならないわけで,私も介したときの話をしているわけですけれども。これから1個1個価値判断を検討していかなければならないと思うのです。ほかの考え方もあり得るというのを前提に置きながら議論をしていただければ嬉しいなと思います。 ○箱井幹事 ちょっと私の方がついていってないかもしれませんが,商法704条2項の先取特権がいわゆるドイツの船舶債権者権の規定からきていて,対象を船舶の利用に関連した船舶先取特権に限った規定だという見方を当然だと理解してきておりますので,平成14年判例は誤解ではないかと,先ほどの発言のように私自身の考えを述べたということでございます。 ○山下部会長 この部分については今日頂いた御意見を参考に,また検討していただきたいと思います。   それでは,「第2 商法改正に伴う国際海上物品運送法の整備等」と「第3 まとめ」を御審議いただきたいと思います。まず,事務局から御説明をお願いします。 ○髙橋関係官 それでは,「第2 商法改正に伴う国際海上物品運送法の整備等」について御説明いたします。   まず,1の所要の整備につきましては,国際海上物品運送法に関して,規律の実質が適切でないことが明らかであるものにつき見直しを行うほか,所要の整備をすることを提案するものでございます。   また,その他につきましては,運送人の責任の限度額に関し,運送品1包又は1単位について666.67SDRと滅失等に係る運送品の総重量に2SDRを乗じて得た額のいずれか多い金額を限度とすると定める国際海上物品運送法第13条第1項は,平成4年の改正において,ヘーグ・ヴィスビー・ルールズの第4条第5項(a)を国内法化したものと説明されていますが,条約の原文によれば,per package or unitという文言は666.67SDRという確定の限度額の規律には及ぶものの,滅失等に係る運送品の重量を基準とする限度額の規律には及ばないように見えます。   平成4年の同法の改正に際しては,条約の成立過程において,重量を基準とする限度額も含めて飽くまで包又は単位当たりの責任限度額を設定するとの考え方が採用されたとして立案されたようですが,現在に至るまでの世界的なすう勢を見ますと,現時点では国際海上物品運送法第13条第1項の規律は適切ではなく,これを本文のように改めることが考えられますため,その旨の提案をするものでございます。   なお,高価品免責に関する国際海上物品運送法第20条の規律につきましても併せて御審議いただきたいと思います。 ○山下部会長 ただいま説明のありました部分につきまして,御発言を自由にお願いいたします。 ○藤田幹事 1の所要の整備というのが抽象的に書かれていてよく分からないので,少し確認させてください。例えば,荷送人に対する運送人の抗弁を荷受人に対して一定の要件の下に対抗できるようにするという一般ルールを作った場合,今の国際海上物品運送法20条1項とは内容が異なることになり,それには特別な理由はありませんので,その範囲では揃えるべきだとか,そういうことを意図しているのでしょうか。 ○松井(信)幹事 今のような場合もありますし,また,船荷証券に関するルールを商法の中に整備した場合には,それと全く同一の国際海上物品運送法の規定を削除することになりますので,そのような形式的なことを意味しています。 ○藤田幹事 今言われた船荷証券の例は純粋に形式ですけれども,私が申し上げた例の方は,実質変更を伴うという違いがあるのですけれども,前者も含めて適宜そういうふうに手当てしていただければと思います。   第2の点は,賛成です。ただ,条約との整合性について検討し出すと,いろいろ一緒に考えてほしいことがありますので,若干そういう例を挙げたいと思います。国際海上物品運送法は,ヘーグ・ルールズ,現在はヘーグ・ヴィスビー・ルールズの国内法化のための立法といわれていますが,実は条約と相当文言が違っています。そうなったのはいろいろな理由があって,条約を直訳しただけだと日本の国内の法律家はうまくついて来られないだろうということで,日本法に馴染む概念に置き換えるとか,馴染むスタイルで立法し直すことをしたのだと思われます。ですから,条約と文言が違うからといって,それは理由があってそうした場合もあるので,違うところは全て直せとまでは言うべきではないでしょう。ただ,中には条約と文言を変えたことに実質的な問題があるものもあって,その適切さが疑わしいものは,かなりあります。国際海上物品運送法13条1項は,これはもうちょっと繕いようがない誤りで,直さなくてはならない典型例だと思います。   そこまでひどいわけではないものの,検討したほうがいいかもしれないものを幾つか申し上げます。一つは(注)で挙がっている高価品免責です。これははっきり誤りとまで言えるようなものではないかもしれませんが,条約に規定のない免責事由であるのは確かです。運送人の責任を強行法的に定める条約について国内法で条約にない免責事由を追加していいかというと,それは一般論としては問題がありそうです。条約に反するとはっきり書いておられる方もいます。国際海上物品運送法が高価品免責の規定を適用することが条約に反しないと言うためには,物品の高価な性質について告げないということから生じる法律問題について条約は全く沈黙していて,国内法に委ねられている事項であるといえる必要があります。もしそうなのであれば,国内で自由に立法していいということになりますけれども,もしそういう問題は,既に条約が処理済みであると考えたら,これは条約の規律が及んでいるところに,それと相容れないルールを持ち込んでいるから問題だということになります。条約4条5項(h)という規定がありまして,日本法だと国際海上物品運送法13条6項に対応するものといわれているのですが,荷送人が船荷証券中の物品の性質又は価額に関し故意に虚偽の通告をした場合の規律です。高価品免責に類する状況については,条約上はこの規定で既に手当て済みというのが自然な理解なのではないかと思います。高価品免責は,そういう意味では条約がカバーしている問題について日本法固有の規律を適用している可能性が高く,問題があるのではないかと思っています。   現行法を正当化するとすれば,条約の4条5項(h)というのは過少申告には適用がなくて,過大申告だけ規律しているから,過少申告のケースについては条約は何も定めていないと読むことになりますけれども,やや不自然な読み方ですし,実際,責任制限制度のあるような法制で高価品免責を置くようなことは内容的にも合理性がなく,ヘーグ・ヴィスビー・ルールズの締約国でこういう種類の規律,つまり高価品免責と責任制限を二重に課している国はほとんどないのではないかと思います。そういう意味でも,高価品免責の規定の適用については,かなり真面目に検討するべきかと思います。   次に,国際海上物品運送法13条3項にコンテナ条項というのがございまして,これも相当原文と違った条文になっております。条約4条5項(c)は,コンテナ,パレット又はこれらに類似の輸送用器具が物品をまとめるために使用される場合には,この責任制限の適用に当たっては,これらの輸送用器具に積み込まれたものとして船荷証券に記載されている包又は単位の数とみなし,その記載のない場合には,輸送用器具全体で一つとみるというルールです。コンテナについては,コンテナの中に何十個詰めましたと書いていたらその何十個というのが基準になるし,そうではなくて何も書いてなければ,コンテナ一つで一包という扱いだという規定です。ところが,国際海上物品運送法13条3項は,運送品の包若しくは個品の数又は容積,重量が船荷証券に記載されている場合を除き,コンテナを包とみなすと規定しています。どうしてこういう書き方をしたのか,良く分かりません。条約でいう「単位」という言葉を「個品の数,容積,重量」と読み替えて,重量等が書いてあればそれは単位の記載があるとみなして立法したことになるのでしょうか。しかし,船荷証券に物品の重量を書いたら当然に単位を記載したとみなすという立法は,諸外国でもまず例がないのではないかと思われ,日本法特有の内容だと思います。   この立法の問題点はいろいろあるのですが,例えば,コンテナについて重量幾らとだけ書いた場合,条約の文言を素直に当てはめると,コンテナ一つを1包とみてパッケージ・リミテーションがかかり,それと別に重量を基準とする責任制限がかかるということになりそうです。実務もそう扱っていると思います。しかし,現行法を見ると,重量が書いてあるので,コンテナ全体を一つとみなすという国際海上物品運送法13条3項の適用がなくなってしまうように読めて,それならばどういう扱いになるんだろうという疑問が生じます。この場合もコンテナ一つでパッケージ・リミテーションを適用するのだとすれば,条文をどう読むのだろうということになります。重量,容積の規制は条約でいう「単位」の記載とみなすという前提での立法なのでしょうが,この読み方は正しかったのか,その後の諸外国の立法を見ても日本法は非常に変わった対応をしてないかといったことを検討していただければと思います。   最後に,条約4条2項(p)の免責事由についても気になります。条約は,「相当の注意をしても発見することのできない隠れた欠陥」と規定しています。日本法では,国際海上物品運送法4条2項11号で「起重機その他これに準ずる施設の隠れた瑕疵」とあり,随分文言が異なります。船舶の瑕疵の話は堪航能力担保義務の方でカバーされているから,こちらは船舶外の瑕疵だけを指すという理解の下,立法されたようです。しかし,諸外国では,条約4条2項(p)は,船舶の隠れた瑕疵も含むと解されているようです。船舶の瑕疵を含む場合と含まない場合でどういう違いが出るのかといった細かなことは議論しませんけれども,国際海上物品運送法3条,あるいは4条1項に基づき運送人責任を追及された場合にこれが免責事由にならないというのは,理由があるとは思いません。5条と3条,4条は違った請求原因ですので,5条2項は3条,4条で訴えられた場合の抗弁にはならないからです。なお,立案担当者の書かれたものを見ると,イギリス法では同様の解釈をしているとして著名な著作の引用がなされているのですが,その著作にあたると,「相当の注意をしても発見することのできない隠れた欠陥」とは船舶外の瑕疵も含むと書かれており,船舶外の瑕疵に限るといったことは書かれておりません。どうもこれも日本独自の解釈に基づく立法だったようで,内容的にも疑問があります。   これらは全部,全く説明がつかないほどの間違いではないのですけれども,あえて条約と違った文言で国内法を作るというのであれば,やはりそれなりの合理性がないと望ましくないと思います。日本法を英訳した場合に,これがヘーグ・ヴィスビー・ルールズの国内法化だと言ったら多くの外国人が驚くような立法はいいものではないと思います。   過去の解釈が間違っていたのに直しますとは言いにくいとすれば,条約当時ははっきりしなかったけれども,その後の諸外国の立法を見てもこんなふうになっているのは余りない,そうすると現在国際的な統一という観点からは再考に値するといった説明でも,十分理由があると思いますので,今申し上げたようなことも検討に加えていただければと思います。 ○山下部会長 時間が大分経過しましたので,15分ほど休憩したいと思います。あの時計で3時45分まで休憩にいたします。この項目については引き続き御意見を頂きます。          (休     憩) ○山下部会長 それでは,そろそろ審議を再開したいと思います。   第2について御意見を頂いている途中ですが,引き続きどの点からでも御発言をお願いいたします。 ○山口委員 先ほど藤田幹事のほうからご指摘がありましたヘーグ・ヴィズビー・ルールズと国際海上物品運送法の相違についてですが,藤田幹事の御指摘の点以外を申し上げますと,ヘーグ・ヴィズビー・ルールズ,元々のヘーグ・ルールズは船荷証券に関する条約でございますので,船荷証券が発行されない限りは基本的には適用がないわけですが,我が国はそれを外しまして,一般の海上運送契約について全てに適用しております。   それについて,今回,議論の中で海上運送状というものも定めようというような状況になってきておりますので,やはり船荷証券あるいは海上運送状を発行する場合,あるいは傭船契約の場合も日本の場合は含まれていますので,傭船契約書等の書面がある場合に限り適用するというのも一つのアイディアではないかと思っております。すなわち,それは条約上そのように考えられていますので,それ以上に大きく広げる必要が余りないのではないかというのが一つでございます。   それから,先ほど藤田先生がおっしゃったように,高価品特則は必要ないだろうと思いますし,先ほどおっしゃったこの提案の責任制限については,実務上正にこの方法でやっておりますので,それも問題がないかなとも思います。   それから,希望としましては,複合運送について新たに規定を設けるということでございますので,国際海上物品運送を含む複合運送契約についての海上部分については,やはり国際海上物品運送法の適用があるような規定が必要ではないのかなと,手当てが必要ではないのかなと思います。   それから最後に,適用範囲についてですけれども,ヘーグ・ヴィズビー・ルールズについては条約上10か条がございまして,船荷証券が締約国で発行されたとき及び船荷証券の発行地ですね,船舶が締約国から出国した場合についてはヘーグ・ヴィズビー・ルールズが強制的に適用になるような規定がございまして,これについては国際私法の特則といいますか,国際私法規定であると私どもは考えておりまして,そのような考えでおられる大学の先生もいらっしゃると思います。   なぜそうであるかというと,単純に準拠法約款を入れることによって,国際条約でありますヘーグ・ヴィズビー・ルールズを安易に回避するというようなことはやはり避けるべきではないかと思う次第でございます。そういう意味では,ヘーグ・ヴィズビー・ルールズの本来の規定に則って,船荷証券が本邦で発行された場合あるいは運送状が本邦で発行された場合,それから出港地が本邦内である場合については,本邦の国際海上物品運送法ないしはヘーグ・ヴィズビー・ルールズが適用されるという規定が必要ではないのかなと思っております。 ○山下部会長 ほかにはございませんでしょうか。 ○山口委員 後ほど危険品の規定のことがございますので,そのときにまた危険品のことについては別途お話ししたいと思います。 ○松井(信)幹事 商法改正に伴う国際海上物品運送法の整備等につきましては,先ほど藤田幹事から御紹介もありましたとおり,現行法の条文が条約を解釈した上で規定しているために,様々な御意見があると承知をしているところでございます。当時の立案担当者の解説によりますと,立法により実現したかった実質は藤田幹事のおっしゃるところと余り変わらないのだと思いますが,立法技術的な面でいろいろと御指摘を受けているのかもしれません。そのような点については,実質的な改正というよりも表現振りの問題と思いますので,法制審の場で議論するというよりも,政府部内で検討してまいりたいと考えております。   他方,実質に関わるところとしては,高価品免責の規律を国際海上物品運送法で存置するかどうかでございます。まだ十分調査できていないのですが,当初この法律ができたときに,田中誠二先生などはイギリス,アメリカでも高価品免責の制度が当時あったというふうなことを書かれていらっしゃいまして,ヘーグ・ルールズの下でそのようなルールがあったのかもしれないという思いもしておりますので,もう少し調査をさせていただきたいと考えております。   また,先ほど国際海上物品運送法を船荷証券や海上運送状が出ている場合のみに純化した法律にしてはどうかという御提案もございましたが,今回の法制審議会の諮問自体が基本は商法の現代化ということで,これに伴う国際海上物品運送法の見直しというところでございますので,おっしゃられたようなそこまでの大幅な改正というのは困難であると考えてはおります。なお,今のような法体系で現実に不備がある,このような事情で困るという御事情がもし強いのであれば,教えていただければと思います。   さらに,複合運送において国際海上区間が入るような場合に国際海上物品運送法の適用があるのだということを示す規律といいますのは,今までの部会でも複合運送のところで議論しましたが,基本的にネットワークシステムを採ることを示す条文を置くことになります。ですので,その中で御意見は十分反映できているのではないかと考えているところでございます。 ○山下部会長 よろしいでしょうか。 ○藤田幹事 今の松井幹事の補足ですが,ネットワークシステムを採り,かつ,以前の部会資料にあった一番長い区間で損害が発生したと推定する規定を置かなければ,それでいいと思います。推定規定を置きますと,一番長い区間が海ではなかった場合には,今の山口委員の話との関係で面倒な問題を引き起こします。推定規定は以前の会議で評判が悪かったので,それは入れないという前提でのお答えだと理解させていただきました。 ○山下部会長 よろしいでしょうか。   それでは,この部分は頂いた御意見を参考に検討していただくことにしまして,「第3 その他」の御審議をお願いします。説明を事務当局からお願いします。 ○髙橋関係官 それでは,「第3 その他」について御説明いたします。   本部会におきましては,第2回会議から本日の第6回会議まで,商法のうち物品運送及び海商に関わる規律に関しその見直しに関する審議を行ってきたところでございますが,これまで審議対象として取り扱ったもののほかに,見直すべき事項があるか否かにつきましても御審議いただきたいと思います。 ○山下部会長 それでは,この点につきまして御自由に御発言いただければと思います。 ○藤田幹事 以下申し上げることを,提案として入れてくれという趣旨ではなくて,少なくとも議論はすべきではないかという趣旨で申し上げます。   それは,いわゆる実行運送人あるいは実際運送人といわれる者の責任です。運送契約を結んだ場合に,契約当事者である運送人,荷主間の問題だけではなくて,荷送人あるいは旅客が下請運送をしている人にも直接請求できるという制度が多くの国際条約では存在しています。そういったものの適否について,検討は少なくともしなければいけないのではないかと思います。   理由は二つあります。第1に,この種の実際運送人あるいは実行運送人の責任は,古くは航空運送に関するグァダラハラ条約がありましたが,1970年代以降の国際条約にはほぼ例外なく入っています。1974年の旅客及びその手荷物の海上輸送に関するアテネ条約,海上物品運送に関する1978年のハンブルク・ルールズ,2008年のロッテルダム・ルールズもそうですし,航空運送では,日本も批准しているモントリオール条約が実行運送人の責任を規定しております。したがって,少なくとも運送について,旅客あるいは荷送人が契約の直接の相手方である運送人以外に,実際に運送を行った下請運送人に対して,契約運送人に対するのと同じ条件で請求できるという規律は,国際的には極めて普通であり,かつ,外国法にもそういうものを取り入れている法律は少なからずあります。ですから,今現在日本の法律を検討するときに,こういった法制を検討もしなかったとなると,片手落ちのように思われるというのが一つ目の理由です。   第2に,契約相手方ではない人の責任というのは,日本からすると非常に特異に思えるかもしれないですが,国際的にはそれほど不思議ではないということに加えて,今回の提案の中でも運送人の有する抗弁を使用人その他の者が援用できるという明文の規定を置く方向で検討したり,あるいは荷受人からの権利行使に対しても一定の要件の下で対抗できるという規定を検討したりしています。抗弁の対抗については契約当事者を超えた規律を導入し,責任については直接の契約相手ではない者だからこれを認めるのは無理であるとして取り上げもしないというのは,さすがに検討の仕方としてはいかがなものかというふうに見えるとは思います。   結論として,実際運送人の責任を認めることが本当にいいかどうかということは,いろいろなところに効いてくるものですから,簡単に言い切ることはできないでしょう。だから,それを是非導入しましょうという趣旨で申し上げているのではないのですが,この論点について一切検討しないで法制審の検討が終わってしまうと,やはり後になって何をやっていたのだと言われるような気もします。これは運送法制研究会でも入っていない論点だったので,今頃出すのもややはばかられるのですけれども,検討はしていただければと思います。 ○山下部会長 ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。それでは,頂いた御意見も参考にしていただければと思います。   それでは,部会資料6についての御審議は以上のとおりとしまして,部会資料7についての審議に移りたいと思います。   まず,「第1 平水区域のみを航行する船舶の取扱い」について御審議いただきたいと思います。まず,事務当局より説明をお願いします。 ○髙橋関係官 御説明いたします。平水区域のみを航行する船舶の取扱いにつきましては,前回の審議の際に平水区域を陸上運送の範囲に含めるのか,それとも海上運送の範囲に含めるのかが問題となりましたので,今回改めて御審議いただきたいと思います。この問題につきましては,前回の審議の際に,海上運送の特則の内容を踏まえて検討すべきであるとの御指摘を頂いておりましたが,海上運送の特則のうち航行区域と関連性を有する規律として実務上特に重要なのは,堪航能力担保義務に関する規律であると考えられます。   そこで,平水区域のみを航行する船舶について堪航能力担保義務に関する規律を及ぼすべきかどうか,仮に及ぼすべきであるとしても湖や川,港の中のみを航行する船舶にも及ぼすべきかどうかといった観点も踏まえつつ,御審議いただきたいと思います。   なお,2ページの(注2)のところでは,平水区域を航行区域とする船舶については船舶検査証書の有効期間が伸長されるなどとございますが,これにつきましては,旅客船等の一部の船舶の場合は除かれるということでございます。   また,船主責任制限法の適用範囲を拡大することにつきましては,被害者の権利保護の観点から問題が生じ得るようにも思われます。   以上の点を踏まえまして,平水区域のみを航行する船舶をどのように扱うべきか御審議いただきたいと思います。 ○山下部会長 それでは,ただいまの点につきまして御自由に御発言いただければと思います。 ○箱井幹事 今,陸上運送と海上運送の区分の問題が出てきておりまして,併せて船主責任制限法にも触れられていますが,これについては,商法684条との関係で後ほどまた発言する機会があればしたいと思っております。   まずはこの区分けでございますけれども,1点確認したいのは,現行の商法569条は御存じのように陸上又は湖,川,港湾ということで,いわゆる湖川港湾と規定されております。この部会資料にありますように,商法施行法などを介しまして,最終的には船舶安全法施行規則での平水区域によることになっております。   実際,湖川港湾と思われるところよりも相当広い範囲が平水区域になっておりまして,第2回会議でもこれが話題になりました。今回の御提案は,現在の商法569条の湖川港湾に加える形で,「その他平水区域」と,明らかに湖川港湾ではないところがあることを前提にした上での御提案となっています。このうち湖や川それから港についてはある程度その範囲の限界がはっきりしていると思われますが,この「その他平水区域」まで含めるというのは,これは「港湾」の範囲が明確でないという御認識が前提になっているのかどうか,そこをまず確認させていただきたいと思います。 ○松井(信)幹事 港と湾というところも各種法律によって区分けが決められているところでございまして,なかなか商法という民事基本法の中でどう分けるかというのは難しい問題があると考えています。ですので,部会資料2で書きましたのは,現行の法体系,逓信省令まで遡りますが,そういう古い規律を全体として法律上に明文化するということであり,この点について皆様がどのようにお感じになるか,特に堪航能力の点を考えながら御議論いただきたいという趣旨でございます。 ○箱井幹事 商法684条が絡みますと非常に難しいものになると思うのですけれども,いずれにしても,ここでは陸上運送か海上運送かの限界ということで,適用法規の区分けの問題ですので,これは相当程度明瞭である必要があると考えます。また,今回の改正で責任制限などが導入されなければ,その違いは堪航能力に関する規定くらいだということであれば,それほど大きな問題ではないようにも思います。そうすれば,ある程度は技術的に決めなければなりませんので,このような御提案もあり得るのだろうと私も考えます。要は,ここでの平水区域という定め方が合理的かどうかというところが一番ポイントになってくるかと思うのです。平水区域というのは,これは船舶安全法施行規則で定めており,私の知る限りでも,これまでも削除があったり追加があったり,ここは様々に変わってきています。ですから,その妥当性はやや疑問ですが,陸上運送と海上運送を画する基準としてはこれ以外にないという判断での御提案でございますね。 ○松井(信)幹事 私どもは余り港湾について細かくまで存じ上げているわけではないので,私どもとしては,現行法を維持するという案が一つは説得力があるだろうと思っています。   また,注1に書きましたとおり,平水区域の中身を見てみますと,堪航性について関連する考慮要素もあるのではないかという思いもございまして,部会資料のような考え方も説明ができるかなと思った次第でございます。 ○鈴木委員 事業者側からの考え方なのですが,内航はほとんど平水区域を走っていたりするものもありますし,我々内航海運と呼ばれる事業者側からすると,全く商法とは関係ありませんよと言われるのは,非常に何か違和感があります。   一応,事業法として海上運送法とか内航海運業法とかがあり,事業法には平水区域に準用するという規定がございます。したがって,我々が普段商売をやっている間では,当然に商法は適用されるのだろうという認識がございます。今回この話が出て,結局航海船という船舶の定義がネックになっているのかなと思ってはいるのですけれども,特に海にこだわらなくても,湖も川も平水区域も船で商売を実施しておりますので,適用いただくのが適切かなとは思っております。   ただ,この御指摘の堪航能力担保義務,もちろんこれは当然の務めとして受けるべきだと思っておりますし,この辺は許容できると思っていますが,前から申し上げておりますけれども,商法739条の強行規定性と,それから海員さんの過失関係ですね。こちらを削除していただいて,その上で商法を適用していただけるのであれば,全く問題ないという理解でございます。 ○山下部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○山口委員 今回平水区域を明確にするということで,それも陸上運送に含めるという形になるわけですけれども,陸上運送ということになりますと,ここは航海という対象にならないということになるのでしょうか。申し上げたいのは,内航船舶で平水区域のみを運航する船舶も船舶として登記されておるかと思うのですね。その場合に,船舶先取特権の適用の問題などについてはどのようにお考えなのでしょうか。 ○松井(信)幹事 部会資料におきまして,まず説明の1番,2番では運送について書いており,次に3番では船主責任制限法について書いており,商法684条の航海はそれと別に(注)という形で取り上げております。ですので,理屈の面で申し上げますと,運送について陸上と海上の区分をどう分けるかという問題と,684条の「航海」についてどのような解釈を採るかは別の問題であろうと思っております。   先ほど鈴木委員がおっしゃったように,湖,川,港湾その他の平水区域も海上運送として堪航能力担保義務を過失責任として課すということでも差し支えないということであれば,陸上運送は陸上のみ,海上運送は湖,川,港湾,平水区域を含むような形に改めるという在り方も,明確性の観点からは分かりやすい法律ではないかとは思います。   いずれの考え方もあろうと思いますので,部会資料の太字では,どのように考えるかとして皆様の御意見を伺いたいと考えた次第です。 ○鈴木委員 すみません。私の方で問題ないと断言して責任を取らされるとちょっと困るので。実は,ここで商売されている方々には,結構旅客運送の事業者さんが多いのですね。ですので,もう1回分科会の方で御確認を頂けたらありがたいと思います。 ○雨宮幹事 この問題を以前取り上げた際の部会の審議では,瀬戸内海を例に挙げまして,そこだけを航行するような船舶でも外洋を航行している船舶と同じように海上運送を行っていると申し上げました。さらに,その際,そのような運送に従事する場合でも堪航能力担保義務を課して,海上運送特有の規律を適用すべきではないかと発言させていただきましたが,それは維持させていただこうと思っています。   ただ,陸上運送なのか海上運送なのかという区分けの明確性となると,平水区域を定める法令の改正に伴って平水区域の範囲が変わりますし,港湾の範囲が港湾法その他の法令によるとしたら,それが改正されれば港湾の範囲も変わるのですから,そういう意味では,区域としては常に関連法令によって変わり得るので,今,鈴木委員が言われたように,湖川港湾も含んだ水上に関わるものであれば全て海上運送の規定を適用するとするのも明確性では優れているかなと,今お聞きしてそう思っているところです。 ○藤田幹事 実際にどういう人にどういう影響を与えるかということまで自信を持って言えないので,理論的な整理とあと若干のここで今まで出てこなかった知識についての補充にとどめたいと思いますが,まず,事務局の努力もあり,非常に議論が整理されたことに感謝したいと思います。   最初にこの問題が出てきたときは,平水区域はどう考えても海ではないかといった感覚的な議論をしていたのですが,そういうことではなくて,どの条文でどういう形に適用されるか,その目的としてこの定義がどこに影響してどういう考慮要素があるかということを整理してくれた。これは非常に重要なことで,実際整理されて分かったのは,これはあくまで運送契約との関係で問題となるのであって,商法の海商に関する規定であっても,例えば船舶先取特権の適用等については,先ほど言われたように別の概念で画する。まして,船主責任制限法の適用は,専ら船主責任制限法の解釈の話であると整理されました。その上で,最初に議論した時はまだはっきりしていなかったのですが,一通り海上運送とそれ以外の運送についてのルールの検討がある程度済んだところで改めて検討してみると,この議論が意味を持ってきそうな海上運送特有の特則というのは堪航能力担保義務くらいしか出てこないので,それが一番重要な考慮要素だろうということも分かった。これが今回の資料の基本的なラインだと思うのですね。その意味では大変議論が進んだのだと思います。   問題は,堪航能力担保義務との関係ではどう考えるかです。例えば平水区域というのは外海とは違う面もある。それは間違いないのですけれども,堪航能力担保義務との関係でそれは有意な差かということが問題です。外洋は海上危険が高いからわざわざ堪航能力担保義務というのを課している,これに対して港湾はそうではなく,更に平水区域はどちらかという議論をすることになるのか,やはりそういう問題ではなくて,船というものはどこを航行するものであれ堪航能力を備えるべきであるという仕切りなのか,その辺りの考え方を整理すればいいということになるのだと思います。   そう考える上で,決定的な資料ではなく,参考資料ということなのですけれども,貨物の国際内水運送契約に関する条約(CMNI),通称ブダペスト条約という内水航行船による物品運送の条約があります。この条約は,内水航行船にも堪航能力担保義務を課しています。したがって,堪航能力担保義務というものが外洋が危険だからということから特に課されるものかというと,少なくとも国際的には必ずしもそうは思われていないようだということになります。もちろん,CMNIがおかしいという評価もあり得るので,断言はできませんけれども,外洋の高い海上危険と堪航能力担保義務とが結びつくものかどうかは更に検討が必要な気がします。   あとは,明確性の観点でどっちに線を引くかということです。平水区域だけを海上扱いするというのが明確性に問題があるならまずいと思っていたのですけれども,鈴木委員の意見を聞いていて,それを含めてもいいというのであれば,それもあり得る線引きかもしれません。むしろ,これは平水区域を含めて全部海洋扱い,海扱いをしない,海上扱いをしないという方がやや難しいかなという印象は持ち始めています。湖,河川の扱いはちょっと意見を留保しておきますけれども,今のところ,以上のように考えております。 ○山口委員 堪航能力の問題が出ておりますけれども,そのほかに,この前も議論しましたけれども,船舶衝突の問題,要するに内水航行船舶同士の衝突について,海上運送の規定ではなくて通常の自動車,トラック等の衝突と同様に考えるのが正しいのかどうか,その辺のところも出てくるだろうと思います。   それから,共同海損の問題,これについては,この前の御説明では,条約ではないので内水だけの航行船舶については共同海損の適用をしないというような御意見であったと思うのですけれども,まあ普通に考えると船ですので,衝突とかあるいは共同海損などはどちらかというと船舶として扱うべきではないかなと私は考えておりますので,この前から申し上げているように,平水区域は外してはどうか,というのは私の意見で,その意見は飽くまで維持をしたいなと思っています。   ただ,決めることですので,分かりやすい形で決められることが重要だと思います。それで私が思うには,平水区域あるいは港湾というのは,外す方が一般の常識にも合致しますし,あるいは堪航能力担保義務を課すという意味でも意味があるだろうと思います。   ただ,おっしゃるように,船主責任制限法については別の特殊な要素があるかもしれませんが,その他の点については,船舶ということについては余り大きな差がないのではないかと思っております。 ○田中幹事 船舶で就労する立場で少し話をしますと,まさしく船ですから,それが平水区域だけ就航していようが外洋に出ようが,それは船員として船舶で就労しているという意識でやっていますし,この部会に参加をして不勉強といえば不勉強なのですけれども,平水区域の船舶による輸送が陸上運送だと言われても,多分,船員としてはピンと来ないわけです。   実際,例えば瀬戸内を例に挙げていきますけれども,そこで仮に船の衝突が起きたとすれば,平水区域のみ航行していたとしても,当然,海技資格者であればそれは海難審判の対象にもなりますし,事故が起きれば運輸安全委員会の審査を受けますし,平水区域が陸上運送と呼ばれようが海上運送であろうが,船員の立場で船員としての責任は発生するというのが実態です。   一般的には,船は,どちらかというと海上を航行することが多く,確かに湖とか川というのは少し特殊ですが,湖は湖でも,例えば琵琶湖は大きな観光船も走っていますし,もちろん,それはみんな海技免状を持って船員として雇入れをされて走っています。ですから,それは平水区域ですけれども,陸上運送だという理解で航行はしていません。実態としてはそういう状況です。   このように,船員は平水区域だけ乗っている船員もそうでない船員も,船員としての意識に差はないのですが,この規律で実際上,船員に多少区別があるとすれば,船員として船員法上の雇入契約をされて乗船する場合は多いのですが,そうでないケースもあります。いわゆる労基法船員という言い方を我々は通常しますけれども,いわゆる船員保険は付保せずに,船員としての雇入れはせずに乗船をするというケースは,平水区域の小さい船が多いですけれども,湾内だけ就航するとか,明らかに平水区域のみを走る船では一部そういう就航形態の船もあります。   ただ,多くは,例えば瀬戸内就航船なんかも,平水区域しか走らなくても船員として船員保険を付保され,船員法に基づく雇入れをされて乗船をしているというケースが非常に多いわけであって,それが商法上の区分けで陸上運送ですと言われることがどのような影響を及ぼすのかというのは,少し船員の立場では分かりにくいと思います。   ただ,就労している上では,平水であっても陸上運送しているという自覚で運航はしていませんので,まさしく海上運送をしているという意識で就労しているということを意見として述べておきます。実態として申し上げておきます。 ○山下部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○野村(修)委員 先ほどからもう既に藤田幹事の方から整理されていると思うのですが,今ここで議論しているのは,この船が陸を走行しているのか海を航行しているのかということを議論しているわけではありません。世の中の人から見ればそれは船ですから,水の上を航行していることは誰もが分かります。ただ,それに対してどの条文を当てはめるのかという極めてテクニカルな問題だと思います。   それぞれの法律にはそれぞれの目的があって,例えば公法的な規律であればそれは公法的規律で船といわれているものであれば統一的に適用されているものもあるでしょうし,また,先ほど出てきましたように航海の意義の解釈の仕方によっては,あまねく船とみんなが理解しているものは共通のルールの適用があるということが十分考えられますので,今ここで走っている船が陸を走っているかどうかという議論は余りしても意味がないと思います。   その上で,恐らく問題は堪航能力担保義務を課すかどうかという1点に集約されているというのは整理のとおりだと思いますので,具体的に平水区域のみを航行している船というのはどんな船で,その船がどのような程度の堅牢性を確保することが法律上の義務として要求されるのかということ1点を確認すれば良いのかなと思います。そういう意味では,例えば,はしけや,独航力のあるはしけ類似の施設などがありますよね。岸壁に接岸し係留することが難しいので,そうしたはしけのようなものに荷物を積んで運ぶことはよくあるわけですが,そうしたエリアを行ったり来たりしているこの道具に,いわゆる堪航能力担保義務を課す必要があるのかといったことを,そういう具体的な形で検討すれば良いのかなと思います。議論がやや混乱している感がありますので,その点だけ整理していただければと思います。 ○端山委員 今の野村先生の意見に賛成なのですけれども,実際,当社にも,鋼材を運ぶはしけで平水のみを走っているのがあるのですね。簡単に言うと,正に,姫路の広畑製鉄所から堺の方へ。そのときのはしけというのは,普通の内航に使っている船と比べると見栄えも含めてですけれども,そんなに大して立派なものではない。   したがって,やはり内水で走るもの,それが船なのかはしけと呼ばれるものかは別にして,それとそれ以外の多少外洋に行くという,内水以外の所に行く船舶とでは,当然,担保すべき能力が違うので,それがきちんと担保できるものを個別に規定してやれば,それで用が足りるのではないかと思いますので,正にそのとおりだと私も思います。 ○鈴木委員 一応,この航行区域に合わせて船舶安全法という法律がありまして,技術的な法律ですが,これで個別に要件,船舶の堪航能力の定めがございますので,それが一つの目安になるかなと思います。平水を走る船は平水を走る用の設備ですし,外洋を走る船は外洋を走る用の設備を備えなさいというふうに定められております。 ○山下部会長 問題点が大分整理されて,法律家の議論としては大体問題ごとにいろいろな整理ができてくるというところで,大きなところでは方向性が見えているのかなという気がしますが,何か分かりにくいカテゴリー作りという感じはします。何となく皆さんまだ違和感が若干残っているのかなと思うのですが,事務当局から何かありますか。 ○松井(信)幹事 今,最後にはしけの問題なども出ましたので,我々の方でもどういう船舶があるのかどうかをもう少し調査をし,また,船舶安全法を始めとする法令ももう少し確認をして,堪航能力担保義務を課すのに適切なものなのかどうか,再度お諮りしたいと思います。 ○山下部会長 そこのところを詰めていただいて,次の段階でまた御審議いただこうかと思います。ほかにこの点についてございませんでしょうか。   それでは,次の「第2 危険物に関する荷送人の通知義務」について御審議いただきます。まず,事務当局から説明をお願いします。 ○髙橋関係官 危険物に関する荷送人の通知義務につきましては,前回の審議の際に運送人の主観によって通知義務の有無を分けるのではなく,通知義務は一律に課した上で,これに違反した場合の損害賠償債務について相当因果関係や過失相殺の判断によって柔軟な解決を図るべきであるとの御指摘を頂きました。   そこで,今回は,部会資料2のア(イ)に相当する規律を削った案を示しております。運送人が危険物につき悪意の場合には荷送人の通知義務違反と損害との間に相当因果関係がないとされることも多いでしょうし,運送人が過失によって知らなかった場合には過失相殺もされ得ることとなりますが,今回の案では,これに加えて通知の内容についてブラケット部分の規律を付すかどうかによって二つの考え方を示しております。   ブラケット部分の規律を付さない考え方は,荷送人の主観的態様を問わず,一律に客観的に必要な情報の通知義務を負わせるというものです。これに対し,ブラケット部分の規律を付す考え方は,荷送人の事情に応じて通知の内容を変動させることを意図したものです。例えば荷送人が消費者である場合には,ある程度概括的な内容の通知でも足りることとなります。   このような点を踏まえて,まず,通知義務の内容についてどのような規律にすべきかを御審議いただいた上,通知義務に違反した場合の荷送人の責任を過失責任とするか無過失責任とするかについて,中間試案においてどのような案を示すのが相当であるかといった点も含めまして,御審議いただきたいと思います。 ○山下部会長 それでは,ただいま説明のあった部分につきまして,また御自由に御発言をお願いいたします。 ○柄委員 荷送人の立場から,第2回の部会で,荷送人の義務と責任を明確にするために,危険物とは何か,これを具体的に示していただきたいという話をさせていただいたと思います。今回の部会資料によりますと,基本法としての商法の性格上,その具体的な定義が難しいということであれば,是非とも次善の策として,ここの別案で示されています荷送人が知り又は知ることができたものに限るというこの明言を是非とも入れていただきたいと思っております。   この知ることができたという表現は,まだ曖昧さがあるので,この表現でいいのかどうかというのは,もっと具体的に示していただきたいと思っております。 ○山下部会長 例えば何か代案のようなものはございますか。 ○柄委員 これは代案ではないのですが,無過失責任か過失責任かということについて,過失責任に近いような表現がされれば荷送人の立場としてはありがたいのかなと思っております。 ○山下部会長 そういう趣旨ですね。 ○遠藤委員 まず1点確認したい点がございます。第2回のときにもお話しさせていただいたのですが,当該危険物の品名,性質その他の当該危険物の安全な運送に必要な情報ということを明記されているのですが,当該危険物の安全な運送に必要な情報,そこでいうところの当該危険物というのは,危規則等行政取締法規で特定されている危険品を指しているのか,それとも元々運送品は危険品ではないのだけれども,運送の方法によって危険品となり得るというところを指しているのか,そこのところはどういうふうにお考えなのでしょうか。 ○松井(信)幹事 今おっしゃった運送の方法によって危険になるという表現も,例えばあるものを近くに置くとか積むと危険になる,単体では危険ではないけれども,積むと危険になるというような場合もございまして,どういう御趣旨でおっしゃっているのでしょうか。 ○遠藤委員 端的に申しますと,第2回目でもお話ししましたけれども,運送品は危険物ではない,例えば材木で,固縛の状態だとか積付けによって他の貨物にも損傷を与える場合を含んだ意味なのかどうかという点でございます。 ○松井(信)幹事 今の御趣旨であれば,ここで述べている危険物というのは,国際海上物品運送法に出てくる危険物という表現,これと揃えてはどうかという考えでして,一般に,国際海上物品運送法では木材などについては危険物と取り扱っていないだろうと思っております。基本的には,その物自体の性質によって危険なものを指していると考えております。 ○遠藤委員 もう1点よろしいですか。第2回のときに提案された案というのは,性質と当該危険物の安全な運送に必要な情報については,運送人がこれを知り又は知り得ることができるときは荷送人は通知義務を負わないということでした。これは今回の部会資料にも明記されていますように,英米の判例を踏まえた我が国の判例ということでございまして,これを変更するということは,ここに正に問いともなっているのですけれども,どういう考え方をもってこれを変更するということなのでしょうか。過失相殺だとかというのは冒頭に書かれているのですけれども,具体的になぜ判例の踏襲をしないのかという点を,皆様にお聞きしたいと思います。 ○入来院委員 前回も申し上げたと思うのですけれども,特に今回のブラケットの部分ですね,荷送人が知り又は知ることができたものに限るというふうにすると,こういった一般法という性格上,消費者から一般の輸出・輸入業者まで全部含むということになるといろいろ難しいのだと思いますが,少なくとも外航に関しては,特に,荷物が入ってきて積むまでの短い時間の間にはっきり危険品だと認識できる時間がないことも多々あって,資料のところに運送人において調査等を行えば容易に知ることもあると書いてあるのですが,実際には商品名でブッキングがあってそのまま入ってくることもあって,それを全て我々調べろと言われても実際無理なわけですね。   ですから,この部分については,きちんと危険品であれば危険と,あるいはどういう取扱いをすれば危険ではないのかについて,やはり荷主さんの方でしっかり記載していただきたいと思っております。特に外国の場合は船も今大きくなっておりますし,本当に火災が起きて沈没してしまった場合の損害も大きいですし,船員さんも乗っているわけで,場合によっては人命にも影響があるので,ここについては重ねてお願いをしたいと思います。   それから,もう一つ。知り又は知ることができるというふうに書いてありますが,誰が立証するのだということもありますね。運送人が知ることができると思ったとしても,それが正しいかどうかを誰が判断するのかというのがありまして,そう思ったけれども,実はそうではなかったということがあるわけですね。ですから,ここについては,やはりどちらに責任があるということははっきりしていただきたいなと思っております。 ○増田幹事 大変基本的な前提を今頃になってお聞きするのもおかしいのかもしれませんが,これは国際海上物品運送法との適用関係についてはどのような理解の下に御提案されているのでしょうか。というのも,国際海上物品運送法の基になっている条約に関しては,4条6項という危険物に関する規定がございまして,少なくとも条約の4条6項をそのまま読みますと,運送人が危険性を知って同意をしたということなしに危険物が船積みされた場合には,全ての損害について荷送人が責任を負うと言っており,危険物責任の議論というのは国際的には海上運送の世界だと4条6項ベースで行われていると思うのですね。しかし,日本の場合は国際海上物品運送法11条が必ずしも条約の文言そのままには書かれていないので,どうやら一般法に委ねられているという理解になっていると思われるのですが。ここの部分は,事務当局の理解としてはどのような理解で御提案されているのでしょうかという質問です。 ○松井(信)幹事 国際海上物品運送法11条2項については,解釈上,過失責任主義の見解と無過失責任主義の見解があり,我が国の学説でも争われております。   この点について,そもそもの義務の内容に関する規定が商法にも国際海上物品運送法にもないため,まずは,民事基本法として,陸上も内航も外航もですが,その前提自体を明記してはどうかという提案でございます。そして,その効果についてどう考えるかということも,議論を頂きたいと考えております。 ○増田幹事 前提のところまではこちらの提案に従って処理されることになって,効果の部分は国際海上物品運送法で処理するという,そういうことになるのですか。 ○松井(信)幹事 国際海上物品運送法11条2項は,運送人の荷送人に対する損害賠償の請求を妨げないという規定ですので,商法の中に危険物の通知義務の規定を設けることも適切ではないかと思うのですが。 ○増田幹事 そうすると,条約の4条6項はあってないような規定になるというか,4条6項はどうなるのでしょうか。ヘーグ・ヴィズビー・ルールズの4条6項との関係は一体どうなるのかなというのが,若干疑問に感じるところです。 ○山下部会長 そういう問題があるということですね。遠藤委員,今の議論に関連したことでしょうか。 ○遠藤委員 はい。増田幹事が言及された二つの項についてですけれども,もともと国際海上物品運送法11条というのは危険物の処分ということですよね。国際海上物品運送法では,明確な荷送人による通知義務というのを課していないのだろうと思うのです。ですから,危険物に関しては,11条1項で,爆発性その他の危険性を有する運送品で,船積みの際船長及び運送人の代理人がその性質を知らなかったものは,いつでも,陸揚げし,破壊し,又は無害にすることができるという運送人による処分権限を規定しているということで,荷送人が通知すべきだとかは書いていません。運送人が知らなかった場合に,先ほどおっしゃった運送人の荷送人に対する損害賠償の請求を妨げないということになっています。今回商法では,そこのところの通知義務をいかに規定するかという新しいお話だと思っています。   それで間違っていませんでしょうか。 ○松井(信)幹事 そういう趣旨でございます。 ○山下部会長 それと条約との関係はどうですかという御質問かと思いますが。 ○加藤委員 今,商法の話になっているのですが,第2回の部会ではちょっと言い漏らしていますけれども,既に約款上,標準貨物自動車運送約款,それから利用約款では,第15条で,危険品の特則として,荷送人は,危険品については明告ないし明示義務があるということ,第30条で,危険品がいわゆる危害を及ぼすおそれがあるときには処分をすることができるということについて,既に規定があります。それを一般化するのが商法だと思いますけれども,若干,この国際海上物品運送法と違うのは,損害賠償についての規定はなくて,その同じ約款の30条2項で,要するに運送人がその性質,それが危険品であったことを知らなかったときは,処分費用は荷送人の負担とすると,そういう書き振りになっています。以上,御紹介します。   それから,髙橋関係官から危険品に関する実務の関係で調査依頼がありまして,まだちょっと書き切れていないので今日は御披露できないのですが,この20年ぐらいずっと調べてみましたけれども,我々として危険品を知らずに受けたという事例はないです。結果的にうまく運送が終わって分からなかったのかもしれませんが,危険品の明告を受けなくて途中で事故になったケースは今までなかったと。   ただ,唯一あるのが,これを危険品と捉えるのがいいかどうか分かりませんけれども,毒物を品名「サンプル」ということで受託して,途中で紛失してしまったのですが,荷送人に確認したら実は毒物だったということで,大至急探してくれという事件が1件だけありました。以上,簡単に御披露します。 ○山下部会長 ありがとうございます。今の点のところに関係して何かございますでしょうか。 ○藤田幹事 先ほど問題になった条約と国際海上物品運送法の整理についてだけ発言しておきたいと思います。これも見ようによっては,先ほど私が言った問題と似た問題を含んでいる条項ではあるのですね。現行法がどういう前提で作られているかというと,条約4条6項は,「引火性,爆発性又は危険性を有する物品で,運送人,船長又は運送人の代理人がその性質又は特徴を知っていればその船積を承諾しなかつたものについては,……これらの物品の荷送人は,その船積により直接に又は間接に生ずるすべての損害及び費用について責任を負うものとする」と規定していて,条約上,荷送人の責任発生原因として書かれているのですね。ところが,国際海上物品運送法は,責任発生原因について明示的には書かずに,同法11条2項は,危険物の処分権限を規定する1項に続けて,「前項の規定は,運送人の荷送人に対する損害賠償の請求を妨げない」とだけ規定する。現在は恐らくは不法行為を根拠として訴えていると思います。条約4条6項の条文は,少なからぬ国では,無過失責任を定めたものだと読まれています。つまり,直接間接に生じる全ての損害について責任を負うと書いていて,過失があったかどうかは問題にしていないからですね。これが正しい解釈だとすると,不法行為でしか荷送人を訴えることができない現行法は条約とは異なるルールだということになる。   ところが,もう一方で,条約4条3項は,「荷送人は,運送人又は船舶が被った滅失又は損害で,荷送人又はその代理人若しくは使用人の作為,過失又は不注意によらない原因から生じたものについては,貢任を負わない」と規定しておりまして,危険物にもこれは適用があると読んで,危険物についての荷送人の責任も過失を前提にしたものだと条約を解釈する余地もあります。そう読んだ上で,過失責任だとすれば不法行為と同じことだと解釈し直して,だから日本法は特に責任原因を書かずに,不法行為による損害賠償を妨げないとだけ規定することにしたと説明することもできる。現行法を正当化するとすれば,こういう整理なのですね。   仮に,商法で危険物に関する荷送人の責任について請求原因を書いて,今の国際海上物品運送法の規定振りをそのままにしておきますと,「損害賠償の請求を妨げない」とされた場合には,不法行為ではなくて商法を根拠に損害賠償を請求することになるのだと思います。条約との整合性は今もある問題ですけれども,改めてここで条約の解釈は過失責任を定めたものであるということを確認したということを意味します。無過失責任を国内法で定め,国際海上物品運送にもこれを適用した場合に条約に反するかどうかというのは,条約の読み方を変えたという位置付けになるのだと思います。   いずれも論理的にはあり得るし,説明が付かないわけではない。ですから,私も,先ほどは国際海上物品運送法を見直す必要がある例としては指摘しなかったのですけれども,大きく条約の文言を変えた上に,このぐらい長々と言わないと条約と国内法の関係の整理ができない例ではあります。ただ,説明できないわけではなくて,いずれを採っても何らかの説明ができるとは思います。   もう一つ,ちょっと純粋に質問なのですけれども,今の第2の1の中の「当該品名,性質その他安全な運送に必要な情報(荷送人が知り,又は知ることができたものに限る。)」の意味なのですが,運送品の名前まで分かっていて,いかなる物質かは分かっているのですが,しかしそれが危険物であることを知らなかったし,また,それは荷主として仕方ない面がある,よく調べれば分かるのだけれども,素人の荷主としては分からなかったという場合も,免責されるということになるのでしょうか。つまり,物品それ自体については何か分かっているが,その危険性についての評価の誤りについての過失がない場合というのは,救われるという趣旨の条文なのか,それともこれはやはり中身を知らないことについての過失を専ら対象にしているのか,いずれの趣旨なのか。 ○松井(信)幹事 このブラケットを加えるとする場合には,荷送人が消費者か事業者かによっても,知ることができた内容が変わってくるだろうと思います。ですので,事業者であり通常の取扱いの範ちゅうの中のものであれば,当然危険性についても考えるべきであろうし,そういうものを余り取り扱ってない場合には,知ることができなかったということもあり得るのではないかなと思っているところです。 ○藤田幹事 必要な情報というのは,その人が危ないものと思わなかったら,ここでいう必要な情報として通告しなくていいというふうに読めるわけですね。 ○松井(信)幹事 ブラケットの外側の必要な情報は,飽くまで客観的に,ある物を運ぶに当たって必要かどうかを客観的に見る。その上で,ブラケットの中では,それを荷送人の主観的な属性なり主観的態様に照らして知ることができなかったのであれば通知義務は課さないということ,これがブラケットの意味でございます。 ○藤田幹事 重要なので念のためにくどいけれども確認したいのですが,物質の名前が分かっていても,その物質が危ないということを知らなくて,消費者だからそんなものが危ないとは分からなくても仕方ないという場合であれば,このブラケットによって救済されるのでしょうか。 ○松井(信)幹事 申し訳ございません,もう一度よろしいでしょうか。 ○藤田幹事 物質の名前について,実荷主から荷送人が通知を受けて,それはそのまま運送人に伝えた。しかし,素人なものですから,それが危ない物質であることを荷送人は分からなかった結果,品名だけ教えたというときに,このブラケットによってその荷送人は保護される可能性があるのかどうかです。 ○松井(信)幹事 具体的な事実によりますけれども,素人の方には知ることができないという場合には,そのような荷送人を保護しなければならないという前回の議論を踏まえたものでございます。ただ,危険品の運搬を依頼する事業者を念頭に置いてみると,通常は,品名を知っていればそれに応じた危険性は分かるだろうと思いますので,荷送人が知ることができたはずだとみられる場合も多いのではないかと思います。 ○山下部会長 そこら辺で,知ることができたかどうかということで処理できる問題なのか,その前提としての……。 ○藤田幹事 そうなのです。「荷送人が知り,又は知ることができたものに限る」という限定は,荷送人の物質が何かということのみならず,物質の危険性についての誤解も救済するものなのかということです。 ○山下部会長 そもそも通知すべき情報に該当するかどうかという,そこの問題があるのではないかという御指摘ですかね。 ○石原委員 そこのところというのは,逆に運送人の立場からするとやはり非常に厳しいところですよね。運んでいる商品が危険品か危険品でないかを一番良く知っているのは荷送人です。しかも,今,運送人の中には実運送人と利用運送事業者と二人いますから,逆にいうと,そこで荷主から利用運送人への通告がおかしく,逆に船会社に対する利用運送業者がそれがために過失になってしまった。そうすると,立場の上でいきますと,船会社に対する責任は利用運送事業者が負わなければいけません。そういうデメリットがあります。   それから,逆にいうと,危険品は相当の専門家でないと知識は持ってないと思います。飛行機の場合は,UNコードに基づく形できちっと,しかもシッパーにデクラレーションをさせた上で,連絡先だとか全部聞いてやっているわけです。時間からみて,貨物は受け取るけれども,中身をチェックしているわけではありませんから,要するにデクラレーションだけでやっているわけですから,それを,品名を聞いたら運送人が当然に分かるはずだというのは,ちょっと実務の立場からすると非常にきつい1行だなという気がしますので,先ほど入来院委員も言いましたけれども,是非これは外していただきたい1行だと思います。 ○道垣内委員 藤田幹事がおっしゃったことにも関係するのかもしれませんが,端的に言えば,「運送人に対し」の後に「運送品が危険であること」という一言が要るのではないかと思います。つまり,危険であることプラスその危険物を取り扱うのに必要な情報というのが必要なので,「危険であること」というのが,告げなければならないこととして抜けているのが気になるところです。   それとの関係で,先ほどからいろいろな解釈の話なのですが,括弧内を残すか残さないかというときに,私,条約との整合性についてはよく分からないのですけれども,ただし書にするかしないかということは,大きな問題であろうと思います。今のままだと,このままだと民法709条でいけばいいのではないかという感じが若干しますので,あえて置くのであり,かつ,それが運送人と荷送人との間の妥当な危険配分のための規定であるということならば,まあせいぜいただし書かなという感じがいたします。 ○箱井幹事 ブラケットを外すべきだという御意見が二つ,今,石原委員と入来院委員から出ておりますので,確認をさせてください。今,前提とされているのは,結局,海上物品運送とかその周辺のことだと思います。入来院委員の御発言では,消費者の場合もあるのでという留保をされていたと思います。今は通則的規定として提案されておりますので,それを踏まえた上でのブラケットを外すという御意見なのか,そうではなくて,消費者のようなものは別として,――海上物品運送に関する特則にしないというのが当局の御意向のようではございますけれども――特則などの形として外すべきという御意見なのかどうかということを確認させてください。 ○入来院委員 理解できると申し上げたのは,通則であればこういうアイデアが出ることは分かると申し上げたのですが,もし特則を作っていただけないのであれば,このまま外していただきたいなと思っております。 ○柄委員 本当に危険物が明確であれば,私たち荷主としましても,それは調べて通知する義務というのは当然だと思っているのですが,このまま引火性があるとか爆発性というだけで危険物の表現がされてしまいますと,やはり消費者や卸売業だったらその中身までよく分かってないというようなこともあります。危険物の内容が余りにも幅広く捉えられるようであれば荷主の立場としては困るというのが前提にあるかなと思います。 ○山口委員 先ほど藤田先生がおっしゃったことと関連するのですが,条約とこの国際海上物品運送法に若干齟齬がございますが,それに対しての荷送人の責任というところは,無過失責任か過失責任かというのは条約は決めていないのだろうと思うのですね。そのために各国の判例,裁判例あるいは内国の債務不履行に関する規定に任せていると私は考えておりまして,これについてはイギリスにおいては無過失責任の判例が出ております。アメリカは多少そごがございまして,無過失責任的な判例と推定された過失責任的な判例と両方が混在しているだろうと思っています。   日本ではどうかというと,これはやはり危険物かどうかというのを伝えるかどうか,これは明確には書いていないのですが,危険物を黙って運送させるというのはやはり契約に基づく信義則上の義務であろうと思われますので,これは,契約上危険物だと知りながら伝えなかったということは債務不履行になるだろうと思いますので,債務不履行のレベルで議論するのであれば,国際海上物品運送法のこの規定あるいは荷送人の不申告義務というのは,最終的には推定された過失責任という,正に一般的な債務不履行の規定の適用になるので,この知り又は知り得べき場合を除くを削ったとしても,もし債務不履行の前提でいくならば推定された過失責任に落ち着くことになるだろうと思います。   そうすると,結局最終的に責任をどうするか,無過失責任にするのか推定された過失責任にするのか,そこに係ってきまして,日本の場合は無過失責任というのは極めて例外ですから,特に無過失責任という規定を置かなければ,基本的には推定された過失責任になるのではないかなと思います。だから,削るか削らないかというのと後ろの責任関係というのは,極めてリンクしているのではないかなと思います。ですから,削らないでただし書などに入れてしまうと,過失責任であることがはっきりしてしまいますから,後ろの無過失責任がどうかという議論は生じないかなと思います。   それから,翻って運送人の知不知の問題ですが,知り又は知り得べき場合はいいという当初の御意見は削られるということなのですが,それはそれでいいかなと思います。   先ほど来御指摘のある,物の名前を聞いただけでは分からないという,これはそのとおりであろうと思います。それで,最近の確か平成25年2月28日の東京高裁の判例は,危険物運送中に,危険物かどうかはちょっと分からないですけれども,要するに燃えるものを運送中に,燃料タンクで熱せられて,そのせいで貨物が燃え出したあるいは爆発したという事案で,不法行為に基づいて他の貨物とそれから船舶所有者が荷送人を訴えた事案がございますが,その際に,荷送人の義務として東京高裁は極めて重い責任を,これは不法行為責任ですが,負わせておりまして,荷送人はもし危険物だということが分かり得る立場にあるならば,自分の方で調査をして,検査をして,あるいはいわゆるUNリストといわれる国連条約に則ったリストのどの部分に,九つに分類されているのですが,その危険物がどの種類に該当するのかということまで特定した上で荷送人としては運送人に対して申告する義務があって,それを怠った以上は過失責任だというふうに認定をしているわけです。現在最高裁に行ってますので,最終結論はどちらになるか分かりませんが。   その前提からいきますと,たとえ過失責任だとしても,少なくとも国際海上運送については,判例法上,かなり重い責任が荷送人に課されているという状況であろうと思います。   一方,消費者保護,消費者が申告すべきかどうかというところについては,やはりこれが裁判所で判断されると,先ほど松井さんがおっしゃったように,いわゆる商社あるいは事業者が行う通知義務違反の責任と一般消費者の通知義務違反の責任とは,裁判例としては多少ずれが出てくるといいますか,ケースバイケースの判断になるのではないかなと思います。事業者については判例法上はかなり重い責任が負わされている状況でありますので,特に無過失責任とするのではなくて,推定された過失責任で契約責任の延長線上で処理するのが僕はよろしいかなとは思っております。 ○松井(信)幹事 今回のこの提案とヘーグ・ヴィズビー・ルールズとの関係について,手元に条約がないもので先ほど少し私の方で不正確なことを申し上げましたけれども,今,山口委員がおっしゃったとおり,国際海上物品運送法11条2項の基になるヘーグ・ヴィズビー・ルールズは,過失責任主義か無過失責任主義かが諸外国で分かれているといわれております。   今回の提案で,仮に過失責任主義を運送法総則として設けた場合に,条約で無過失責任主義を採用しているとしても,条約違反になるわけではなく,一般法である商法と特別法である条約ないし国際海上物品運送法の関係になるだけだと思います。条約の解釈自体はここで決めることはできませんが,逆に商法も条約も過失責任主義だということになれば,商法は条約を具体化したものということになります。   もう1点,この議論の冒頭で遠藤委員の方から御紹介があった部会資料5ページ,上の方の我が国の判例や英米の判例と異ならせる理由について,この場にいらっしゃる方からあまり御意見がなかったようですので,もう一度お願いをしたく存じます。   最後に,この点は,それぞれのお立場があって取りまとめが難しいと思います。基本法として過失責任主義的なものを作った上で,特則なり約款で無過失責任的なものを入れていくという在り方もあるのかもしれません。今後の中間試案の取りまとめに向けてどういう形があり得るのか,例えばという形でも結構ですので,御意見があれば頂けたら幸いでございます。 ○山下部会長 今2点ばかり問題提起がございましたが,何か御意見はありますか。 ○増田幹事 先ほど松井幹事の御質問の前の段階の話として,ヘーグ・ヴィズビー・ルールズ4条6項についての比較法的な状況に関して,若干補足させていただいてもよろしいでしょうか。   過失責任主義と厳格責任主義が条約4条6項の解釈として分かれているというのは,確かに事実だろうと思います。ただ,全体的な流れとしては,やはり,恐らく厳格責任主義が主流であると思います。  条約4条6項自体は確かに厳格責任か過失責任かということを明示はしておりません。ただ,イギリスの1998年の貴族院判決は,条約の文理解釈として,4条6項は4条3項との関係で特則に当たる規定だということで,4条6項が厳格責任を定めていると,そのように言っております。その後に出てまいりました2002年のアメリカの連邦第2巡回区控訴裁判所の判決においても,イギリス貴族院の考え方を踏襲しております。制定法の文理解釈としてそうなるという理由と,さらに,実質的な理由として,やはり荷送人の方がそういった危険物かどうかの判断を行う,そういったリスクをコントロールするのに適した立場にあるからということで,貴族院の立場を踏襲しているということです。   大陸法の立法例においても,例えばドイツですと,危険物責任,危険物についての申告義務違反の責任は無過失責任とされております。これは,2013年の海商法改正によってこういう形になったのではなくて,元々ヘーグ・ルールズを採用した時点からこのような条文になっております。これは条約4条6項を,無過失責任を定めたものだと理解したことによるものです。   過失責任だと恐らく解している国としては,確かにフランスなどがそうだろうと思われます。それほど議論の蓄積がない部分で,最近ようやく議論されるようになってきた部分のようなので,ちょっと詳しい状況まではよく分からないのですが,一応,フランスは,通常の契約責任という理解だろうと思います。ただ,そこでもやはり,一般的に荷送人は過失責任を負うと定めているヘーグ・ヴィズビー・ルールズ4条3項との関係では4条6項は荷送人責任を強化しているという理解が示されておりますし,フランス法系に属するベルギーでは,厳格責任であるという理解がございます。   したがって,条約解釈としては分かれているのだけれども,恐らく全体的な流れとしては厳格責任説の方がかなり強い状況にあるということです。平成5年判決は,確かに英米の判例を踏まえてはいるのですけれども,かなり古い時代の判例を踏まえた判決であるということも併せて指摘させていただきたいと思います。 ○端山委員 先ほどの世界的な流れが荷送人に対して厳格主義になっているという流れについては分かるのですけれども,ただその厳格主義と無過失とはまたちょっと違うと思ってまして。飽くまでも私の意見は,先ほどのどなたかがおっしゃられたように,ただし書にすることだろう。ただし,ただし書にすれば過失責任主義だと堂々と言うことよりも,それを書くことにおいて,実態としてどうなんだという判断が入ることになるわけですね。これは,入らないと無過失で問答無用で全部だめだということになるのですけれども,入っていることにおいて,その中身の精査というか判断があって,その判断の中で限りなく厳格主義の流れに多分なってくるのだろうと思います。したがって,情状酌量があるのかないのかも含めて,その判断をきちんとするというワンステップがあって厳格主義になる分については問題ないと思うのですけれども,そのステップがないままいきなり全て荷送人が全部悪いというのは,今度は逆に,先ほどどなたかが今までの段階だったら運送人が余りにも酷だという話がありましたけれども,それをやってしまうと今度は余りにも荷送人が酷だということになるので,そういう意味合いで考えていただければと思います。 ○藤田幹事 今後の議論ということを言われたので,できるだけ中立的に申し上げますが,やはりこの段階に至ってなおあまり全部オープンのままで議論し続けるのもどうかと思いますし,そうたくさん選択肢はないのだと思います。   一番大きな分かれ目は,まず運送の種類によってルールを変えるという選択肢があるかないかです。これがあるかないかで相当その後の議論の仕方が変わってきます。これが仮にあるとすれば,例えば海上物品運送あるいは少なくとも国際海上物品運送は別という規律も確かにあり得る。航空なんかも多分相当違いそうな気がします。先ほど増田幹事が言われた,厳格責任あるいは無過失責任が国際的な潮流だというのは,国際海上物品運送の話なのであって,国内の消費者の宅配便についてまで各国で同じとは思えません。だから,まず運送手段ごとに規律を分けられるかどうかというのが最初の問題です。   これが無理だというふうになると,今度はどこかで決め打ちしなければいけないのですが,今度は決め打ちした場合の裁判所にその荷主の性格によっていろいろ判断を変えてもらえるであろうという期待をすることを前提として,どこのところでそれをどう表現するかということです。こちらも選択肢はそうたくさんなくて,まず一つは,通知義務の範囲を自分が知ることができたものに関して通知義務を負うという形で限定した上で,ただしそれをしなかったら当然に責任を負いますよという意味での無過失責任にするというのが一つです。今のこの提案は,そういうことを想定されたのかもしれません。   もう一つは,ここはもう一切限定せず,とにかく客観的に危ないのは通知しなければならず,それをしないと義務違反になる。ただし,債務不履行の一般原則としての帰責事由が要求されるということで,無過失の立証による免責の余地は完全には否定しない。この部分を債務不履行の一般原則に委ねるのか,商法で個別に規定するかはテクニカルなところがありますけれども,それは大きな問題ではありません。重要なのは,通知義務の段階で過失の要素を取り込むか,責任原因のところで取り込むかということです。消費者を含めて全ての場合に客観的に危険なら常に通知義務があり,かつ無過失責任を採るということはできないと思いますので,結局,今申し上げたどちらかで調整することになるでしょう。両方で二重に過失を導入するのは,ルールを複雑にするだけでしょうから,そうはしないというのが恐らく今後の方向性だと思います。   私は,本当はこれは運送の種類によって分けるというのが可能ならできればそういうふうにしてもらえればと思うのですけれども,それが無理であれば,今言ったことになるのかなというふうな気がします。   最後に,条約との関係で話を複雑にしたくないのですが,山口幹事が言われたことで1点だけ気になるので補足します。仮に何らかのルールを決めたときに,国際海上物品運送法11条2項の書き方を変える必要があるか,あるいは削除することを含めて考える必要があるのかもしれません。ただ,繰り返しですが,条約は請求原因まで書いていて,ただ過失責任か無過失責任かに関する解釈が分かれ得るのですね。国際海上物品運送法は独自の請求原因を書いているわけではなくて,それはほかの法律によるのだというふうにパスしているのであれば,商法で荷送人の責任の規定を置いたらそれが適用されることになって,その内容が今度は条約と合っているのかどうかということを検討するという形で整合性を判断することになります。   条約の解釈はいずれにせよ両方あり,諸外国と違う解釈を採っても構わないですが,場合によっては従来の解釈を変えることにもつながるので,国際海上物品運送法と商法との整理適用関係は,一度検討していただければと思います。 ○野村(修)委員 今藤田さんがおっしゃったとおりで何も付け加えることはないのですけれども,先ほど来から国際海上物品運送法との関係がいろいろ議論されていますが,国際海上物品運送法を作るときに日本法との接合をむしろ積極的に検討して,ブランクにしたりとか,あえて大陸法の制度に置き換えたりしたわけですよね。あの当時,そうした作業を無批判にやっていたわけではなくて,相当知恵を出して一生懸命やっていたのだと思うのですね。そのときによく議論になっていましたのは,英米法では損害賠償なら損害賠償の請求というのは一つのものとして捉えられているが,日本では請求権が競合しているので債務不履行のほかに不法行為というのが存在していると。その不法行為というものを活用できる部分についてはブランクにしておけば不法行為の責任のほうに流れていくのだみたいな議論を一生懸命やっていた方もおられたわけですね,当時の議論でいきますと。   そういうふうな考えからいけば,恐らく当時の議論ではその不法行為責任という世界をどう活用するかという議論と,それから証拠法則で議論されているものについて日本ではそういう議論をしていないので,要件で書き下していくということをやっていた部分と,それから,エストッペルという法理で議論しているものを権利外観理論に変えるみたいなことを一生懸命積極的に議論した方々がおられたと。その努力を一旦認めた上で,ブランクにした部分を変更するということは,結果的には開いていたはずの元の部分が変わるわけですから,実質それは条約を変更することにも等しいのだというふうにきちっと理解をしていただいた上で,この一般法のところをいじっていただくということが必要なのかなと思います。   むしろそこは積極的に検討した上で,条約との整合性を保つためにあえてブランクにしたり制度を置き換えたりしたわけですから,そこを変えることは,場合によっては条約からかい離することになるという意識を持って議論していただいた方がいいのかなと思います。 ○山下部会長 ほかによろしいでしょうか。   今日この点については,集約するところにはまだ至ってないと思いますが,検討すべき論点は大分整理されてきたかなと思いますので,引き続き次のラウンドに備えて検討いただければと思います。   それでは,大分時間が押してはいるのですが,もう少し審議を続けたいと思います。「第3 運送人の責任」の1から4までのところを御審議いただきたいと思います。まず,事務当局から説明をお願いします。   失礼しました,遠藤委員どうぞ。 ○遠藤委員 危険品のところの最後の(注)に運送状に関する規律というのが書かれていましたので。基本的には商法第570条を維持するということで,2点違うのは,荷送人の署名を不要とし,電磁的方法による提供を認めるというところだけを改正するということなのですが,荷送人の署名を不要とするということになると,例えばドラフト段階なのか,最終の運送状なのかというところが分からなくなるのではないのか懸念されます。ですから,果たしてこの荷送人の署名を不要としていいのかちょっと疑問に感じています。 ○松井(信)幹事 この趣旨としましては,最近の立法では,法令で署名を要求するのはそれによって特別な効力が生ずる場合を念頭に置いております。会社法などでもそのような整理がされているところです。この運送状の実務上の慣行として,署名や記名押印を維持していただくことは全く問題ないですし,紛争防止の観点から望ましいことだろうと思っておりますが,法律上あえて規定すべき事項ではないという観点から,法律上は削るという御提案をしたところでございます。 ○遠藤委員 こちらの運送状は荷送人の署名を省略して,別途おそらく規定されるであろう海上運送状の方は運送人が発行して署名をしているわけですけれども,そちらとの関連もあって,御確認させていただいた次第です。 ○松井(信)幹事 商法570条の運送状と海上運送状について,効力についてそれぞれどうするかという議論もございましたけれども,バランスをとりながら考えてまいりたいと思います。 ○山下部会長 それでは,説明をお願いします。 ○髙橋関係官 それでは,「第3 運送人の責任」について御説明いたします。   まず,1の運送人の責任原則につきましては,前回の審議の際に,注意を怠らなかったことというのは注意の内容が明らかでなく,また民法の規定振りとも整合しないとの御指摘を頂いておりました。   そこで,例えば6ページの下の「これらを踏まえると」で始まる段落にあるような規定振りに改めることも考えられますが,他方で,商法第577条のこれまでの表現を改めるべき実際上の必要性がどこまであるのかという問題もございますので,この点についてどのように考えるべきか,皆様の御意見を伺えればと思います。   次に,2の滅失又は損傷の場合の責任の限度額につきましては,これまでの審議を踏まえて中間試案に向けてどのような取りまとめをすることが考えられるのかという観点から改めて御審議いただきたいと思います。特に,規律を新設するという考え方を一つの案として示す場合には,どのような基準や考え方によって具体的な責任の限度額を定めるのかというところを決めておかなければ,中間試案として幅広く意見を伺うのに適切でないように思われますので,この点につきましても皆様の御意見を伺いたいと思います。   3の延着の場合の責任の限度額につきましては,運送品の滅失や損傷の場合には損害賠償が定額化されるのに対して,延着の場合には相当因果関係が認められる限り転売利益等を含めた損害賠償責任を負うこととなり,均衡を失するという問題意識を踏まえまして,前回の審議において運送品の価額を上限とする考え方が示されたところでございます。そこで,本文ではこのような考え方に基づく案をお示ししております。   他方で,この案は任意規定であることを前提とするものではありますが,このような規律は比較法的にはあまり見られないものでありますし,また,これにより延着の場合における約款上の責任限度額の定めが消費者契約法などにより無効とされるおそれが生じないかといった問題も含めまして御審議いただきたいと思います。   最後に,4の運送品に故意・重過失がある場合の取扱いにつきましては,前回の審議では比較的容易に重過失を認定する裁判例が少なくないことから,国際海上物品運送法などと同様に,いわゆる無謀な行為の規律に改めるべきであるとの御指摘がございましたので,御審議をお願いするものであります。   判例上の重過失と無謀な行為とでは,特に部会資料10ページに記載しておりますようないわゆるうっかり事例において結論に差が出るようにも思われます。   参考資料18を本日お配りしておりますが,こちらでは,物品運送を中心に重過失に関する裁判例をまとめております。このうち例えば⑪,⑫のようなもの,自動車の後ろの扉の閉め忘れの事案などですが,このうっかり事例に当たるものと思われますが,これらの事案について無謀な行為がないとして損害賠償額の定額化の規律や高価品免責の規律などの適用を認めるのが妥当か,それとも重過失があるものとして損害全額の賠償を認めるのが妥当なのかという点も含めまして,具体的な事例に基づいて御審議いただけますと幸いです。 ○山下部会長 それでは,ただいま説明のありました部分につきまして,また御自由に御発言いただければと思います。 ○箱井幹事 3からでよろしいですか。3の延着の場合の責任限度額で,前回はなるほどと思って伺いまして,その後,今回資料を頂いて幾つか疑問に思いましたので,質問とそれからまた意見を別にさせていただきたいと思います。   まず,運送品の価額を限度とするとありますけれども,この運送品の価額というのは,実際問題としては,この趣旨からしますと,全部滅失の場合に運送人が負うべき損害賠償の額のことを言っているのか。例えば,明告を欠いた高価品などの場合,これはゼロになるのか,客観的な運送品の価額でいくのかというところなど,どのようにお考えなのか,教えていただきたいと思います。 ○松井(信)幹事 明告を欠いていれば運送人は損害賠償の責めに任ぜずというふうに現行の商法578条にございますので,その場合にはゼロになるということを考えております。 ○箱井幹事 そうすると,過小申告などの場合,国際海上物品運送法上は13条に規定がありますけれども,そういった様々な運送品の価額ということについて多少とも条文の方に書き込む必要があるように思うのですが,そういった点は御検討されたのかどうかと。また,運送品の価額という場合,いつの時点でどこでの価額かということも,運送品の場合,問題となってまいりますね,これをどのように理解したら良いのかと,併せての質問でございます。 ○松井(信)幹事 おっしゃるような過小申告の場合には,国際海上物品運送法13条7項でその申告額が運送品の価額とみなされることとなると思いますが,この規律を採用すべきということになった場合には,更に丁寧に考えてまいりたいと思います。 ○箱井幹事 それから,意見でございます。前回,代替品のことを考えていて,かなり納得してなるほどと思ったのですけれども,先ほど御説明がありましたように,延着の場合には必ずしも代替品の損害に限られません。特に,損害がかなり広くなり得ることから,限度,リミットが必要だということでこういった提案がされていると思うのですけれども,やはり,諸外国に例がないということをみましても,延着損害と物品の価額というのは直接の関係はないのだろうと思います。全て代替品があればそれでもって足りるのだというように非常に抽象的に考えれば,何らかの関係はあると思うのですけれども,これまで例として挙げられているものとしましては,工場の不稼働の損害などがございます。   例えば,楽器が来ないのでコンサートができなくなった場合という状況で考えましても,楽器の価額というのは千差万別であろうと思いますし,非常に高い楽器であれば損害をカバーできたにもかかわらず,そうでなかった場合にカバーできないということになります。これは非常に不合理だと思います。不合理だと思いますが,恐らく実際にはそういうことにはならないのは,先ほど御紹介があったような約款で結局は解決されるからではないでしょうか。運送賃額のリミットというのが例でございます。   そうすると,ここに書いてある消費者契約法との関係でこのようなデフォルト・ルールを作ったときに,果たしてそこの効力がどうなのかという懸念とも併せて,前回は代替品を考えてなるほどと思って肯定的な発言をいたしましたけれども,若干その後考え直して異なった考えを持ったということで発言させていただきました。 ○遠藤委員 延着の損害については,どういう事例があるのか考えてみますと,やはり一番多いのが,延着のために相手方が受領拒絶をする場合です。そうすると,そこまでの運送費も支払ってまして,貨物代金だけでは収まらない損害が出ます。先ほどちょっと保険の話をしたのですが,遅延については保険の方は免責事由になっていますので,ここは保険でも全くカバーできないということがございます。   また,例えば,あらかじめ船で運んでいたのだけれども間に合わないといった場合には,代替品である貨物を緊急に航空で送る場合があります。そうすると,航空運賃というのは海上運賃とは比較にならないほど高い上に,二つの貨物が着いてしまうわけですね。その場合,一方の貨物を処分しなければいけません。プラス海上運賃に代わる高額の航空運賃の支払もあり,全部滅失の場合とは異なって,箱井幹事が言われたように,やはり延着による損害額というのはなかなかその額を定めることが難しく,民法の一般原則で対応するのが適切ではないかと思います。 ○山下部会長 3の点について,お二人の意見がありましたが,この点についてほかにいかがでしょうか。 ○藤田幹事 3の延着の限度額の議論が続いていますので,その流れでお話ししたいと思います。この新しい提案というのは,私が申し上げたことをかなり忠実に反映したものだと思います。その意味では大変ありがたいと思うのですけれども,価額を限度とするという書き方から生じる細かな問題というのは,詰めてもらう必要はもちろんあると思います。アイデアは,いうまでもありませんが,全部滅失の場合の責任よりも重い責任を負ったらおかしいという思想で,それが適切に表現できるような文言にするということなのだと思います。   消費者契約法のことを気にされているようですが,私はなぜこれが問題になるかが理解できません。つまり,物品の価額より低い額を約定した場合に,消費者契約法10条によって,民商法の任意規定に比して,消費者の利益を一方的に害するものとして無効となる危険があるかということを心配されているのでしょうか。もしそうだとすると,全く当たらないと思います。この規定の趣旨は,運送人は相当因果関係の範囲にある損害について責任を負うが,その場合,物品を超えることはないという性格の規定なのですね。したがって,もしこういう条文を置いたら,延着損害についての約定損害の定めが消費者契約法に触れると判断されるのであれば,この条文を削除して,相当因果関係の範囲で当然に全部責任を負うという一般原則――その方がより厳しい責任ということになります――の下でも,やはり消費者契約法に触れるということになるはずです。この規定を置いたことで消費者契約法により無効とされる可能性が増えるというのは私には理解できません。   更にいうと,消費者契約で問題になることは非常に少ないと思います。そもそも延着責任を負うということ自身がほとんど限られた場合なのだと思います。引渡し時期は保証できませんというような書き方は,これは義務の内容の限定ですので,消費者契約法の問題には基本的にならないと思いますので,そうだとすると,そこでほとんどの問題は解決され,それほど気にする必要はないように思います。   そういう意味だと,これで立法して,あまり見慣れないという批判は,ある条約ではそういうのをある部分で使っているものの,あるかもしれませんが,その点以外はこれで基本ラインとしてはいけるような道は持っております。 ○松井(秀)幹事 私も藤田幹事の意見と基本的には一緒なのですが,若干付け加えますと,延着の場合について,諸外国などでは運送賃の何倍というような立法例があります。それと比べて,滅失を念頭に置いて運送品の価額を上限にするというのは,一応の説明がつきやすい分だけ,より合理性があるのではないかという感覚があります。   また,一応の合理性ある説明ができるのであれば,消費者契約法との関係でも滅失の場合を基準にして運送品の価額を上限にしているという説明で足りるのではないかという感じがしております。若干感想めいたことですけれども,以上,付け加えたいと思います。 ○加藤委員 前回も申し上げたと思いますけれども,いろいろと御意見もあるとは思いますが,ここがやはり荷送人と運送人の利権がかなり対立する部分だと思いますけれども,現状,先ほど御紹介があったとおり,各種約款では運賃,料金の総額を限度とすると決めている以上,ここがいきなり運送品の価額を上限とするとなりますと,運送人としては厳しいといわざるを得ない。   要するに,運送品の価額というのはそれぞれバラバラですから,それによって危険負担が急に変わるというのはちょっと厳しいかなと思っております。先ほど遠藤委員から航空運賃うんぬんという話がありましたけれども,実務的にいうと,延着が予想される場合に,運送人としては荷送人と協議をして別の手段で運送すると思いますけれども,その場合の運賃は基本的には運送人が負担するのが常識に,これは取引慣行上の常識ですね,になりますので,それを荷送人さんに御負担いただくというのは基本的にないと思っております。   それから,第2回の会合でもお話ししたとおり,延着したことによって,ではその運送品の価額がゼロになるのかという論議からいうと,私はそれはゼロではないと思っておりますので,先ほどの上限とするという言い方はそれはそれで正しいのでしょうけれども,ここを一律に規定をしてしまうと,それを盾にというのは変ですけれども,運送人が極めて厳しい立場に置かれるような気がしますので,ちょっとそこだけ付言しておきます。 ○山下部会長 限度とするという書き方でも,やはり非常に大きな懸念があるということですか。 ○加藤委員 限度とするというと,その金額でしょうということになる可能性はありますね。 ○藤田幹事 延着責任の範囲について,相当因果関係に委ねると運送人にとってはあまりに不安定となるという懸念が海上物品運送については事業者から強く示されたので,この条文のような形で限定をすることを提案したものです。運送人の側が,これではかえって責任が重くなるという御理解で,こういうルールは嫌だというのであれば,この提案を撤回することに何一つ躊躇しません。これは非常に政策的な規定で,技術的にはいろいろ難しいこともありますので,削除して民法416条で考えるとする方が,立法技術的にははるかに簡単です。ですから,運送人側の支持がないのであれば,躊躇なく削除すべきだと思います。ただ,加藤委員とは全く逆の意見を強く聞いたこともあるものですから,慎重に検討していただければとは思います。 ○加藤委員 藤田幹事の非常に心温かい御配慮をいただきまして,感謝申し上げます。ただ,やはり,パブリックコメントを求められたとすると,恐らく運送人の立場からは相当批判が出るとは思います。その真意というのは,多分理解されないという感触を持っています。 ○山下部会長 3の点について,ほかにありますか。 ○入来院委員 多分,業界によって延着の場合の責任の決め方は違うと思いますので,全てが運賃の何倍ということもないと思いますし,我々国際海上運送の場合には,正に先ほど藤田幹事がおっしゃったように,相当因果関係で際限なく広がるのを考えれば,せめて運送品の価額全部滅失の場合で切られるのであれば,そこはもう仕方がないのかなと考えていたので,我々としては,これでいっていただけるのならそれはそれでありがたいなと思っております。 ○道垣内委員 前回と同じ発言をしてしまうかもしれませんし,前回で決着がついている話なのかもしれないのですが,1に関連して一言述べたいと思います。運送取扱人というのが仲介で出てくるときの実務的な流れがよく分からないのですけれども,運送取扱人が仲介をするとき,独立の業者であるということを前提にして,現行法上は,なぜ延着の場合に運送人が運送取扱人の不注意についてまで責任を負い得るということになっているのだろうか,そして,その運送取扱人という言葉を商法577条から削除するということによってどのような変化が生じるということなのだろうか,それとも変化は生じないということなのだろうか。少し分からなかったのですけれども,私は何か根本的に勘違いをしていますでしょうか。 ○松井(信)幹事 商法577条は,運送人とその履行補助者の責任についての規定です。これに対し,運送取扱人というのは,本来は,荷主が適切な運送人を探すために,荷主と契約をして運送取次ぎを行う者ですので,通常は,運送人の履行補助者ではないということになります。ただし,極めて特殊な事例,ちょっと細かく文献を見ないと分からないですが,その特殊な事例についてのみ運送人の履行補助者になる余地があり得る。確か,運送人が使用した着地運送取扱人といわれている,運送人が着地まで運んで行った後に運送取扱人に渡すような場面であったのではないかと記憶しているのですが,そのような特殊な場合にのみ運送取扱人が履行補助者になり得るという規律だったかと思います。その意味で,これを削除しても,一般的な民法の理論として,履行補助者の行為は運送人と同様とみるという形でカバーができるのではないかと思った次第でございます。 ○道垣内委員 全くそれで正当だと思うのですが,それならば現行の商法577条は,運送取扱人と運送人の関係いかんにかかわらず,運送取扱人の注意を怠ったという事情により,延着その他滅失ですか,について責任を負うかのように読める規定になっているところ,そのような誤解を避けるためにこの部分を削除するということを明確化したほうがよろしいのではないでしょうか。 ○松井(信)幹事 そこで,同じような考えでそのような御提案をしております。 ○道垣内委員 すみません。 ○山下部会長 ついでに言うと,1については,道垣内委員が前回,注意を怠らなかったこととの関係で指摘をされましたが,その点については御意見はございますか。 ○道垣内委員 いや,別に。私は責めに帰すべき事由というところに全部読み込むということに関しましては,現在債権法の改正があって,責めに帰すべき事由というところにも「契約その他の当該債務の発生原因」と「取引上の社会通念」といった修飾語がかぶされようとしている現在,責めに帰すべき事由という言葉をそのまま使うというのは,民法との整合性は逆に保てないということになろうかと思います。かつ,この部分において責めに帰すべき事由よりも内容がより明確な形で現在規定してあるところをわざわざ曖昧にしていく必要はないのではないかと個人的には思いますが。 ○山下部会長 というのは,注意を怠らなかったというそういう書き方で良いということになるのですか。 ○道垣内委員 いや,私が良いと言えば良いというわけではないと思いますけれども,個人的には別に文句はない。 ○山下部会長 前回ややその表現には問題があるのではないかというトーンだったと思ったので。 ○道垣内委員 前回申し上げたのは,その注意というのがどのレベルで定まる注意なのかということについて発言をさせていただいたと思うのですけれども,それも踏まえてこういう文言であるということならば,それはそれで。 ○山下部会長 分かりました。   ほかに1について何かございますか。 ○藤田幹事 今日はあまり深入りしないつもりなのですけれども,基本的には前回の提案とか今回の提案のような,こういう枠組みでいいのだと思います。運送取扱人を落とすことも含めて,基本的には,運送人の債務不履行責任のうち,物品の滅失,毀損,延着に係る債務不履行に限定して請求原因を書き,それに対してまた本来債務不履行責任なので責めに帰すべき事由がないことによる免責があるところ,このコンテクストにおける責めに帰すべき事由についての特則とでもいうべき事由を抗弁として具体的に書くという,要件事実的に整理すればそういう立法になると思いますけれども,そういう形で書くのであれば,それはいいと思います。   注意という言葉の用語法としての問題というより,むしろここでは,責めに帰すべき事由についての特則として,何についての注意かということを特定することで,このコンテクストではどこにフォーカスを当てているのかを明らかにするというような意味もあって,こういうので基本は私もいいのだと思います。   その上で,ただ,今の条文ぐらいのぼやっとした書き方でいいのではないかという意見が出るのは重々承知なのですが,いくつか考えた方がいい点があります。例えば複合運送との関係で,損害の発生原因について言及するような条文を以前書かれておられたのですが,ここで「損害が発生した」と書きますと,あちらが「損害の発生原因」と書いていることと対比して,こちらは原因ではないと書いているので,原因では足りないのかとかいった疑念を引き起こす可能性がある。今の条文は,そういう細かなことを書いている条文はほかにないからこれで済んでいるという面があり,今回の立法全体を見たときに,責任原因としてどこまで書き込まなければいけないかということを,ほかの条文との関係でも良く検討する必要があります。今困っていないからこの体裁でよろしいというほど簡単ではないことについて,注意喚起だけはしておきたいと思います。   ただ,ほかの条文も決まってないところで文言を細かくギリギリ詰めても仕方ありませんので,現段階では,何を表現しようとしているかということの実質だけはコンセンサスを早めに得た上で,技術的なことに集中できればと思います。   何点かあるのですが,まずは,運送人が無過失あるいは責めに帰すべき事由の特則のようなものを立証することで責任を免れるということで,ここまでは異論がないでしょう。ただ,請求原因のレベルでいうと,滅失,毀損その他の原因が運送中に発生していればやはり請求原因として十分であると考えるかどうか,つまり,損害の発現は引渡後であっても,請求原因はあると考えるか否かということを決めなくてはなりません。これはイエスだと言うのであれば,その原因という言葉を加えなければいけないかどうかはともかく,そういうつもりで立法しましたということをはっきりさせる必要があります。私はイエスだと思いますし,ほかの運送条約だろうが外国だろうがみんなイエスだと思いますけれども,まず,実質としてそこを決める必要があります。   これに対して,逆のパターンもあります。損害発生は運送中なのだけれども,原因が運送前からあった場合にどう考えるかというのは,ちょっと難しい問題であると同時に,運送中に損害が発生した場合には,基本的にはそれで請求原因としては十分で,ただ,今言った事情というのはひょっとしたら運送人側が言わなければいけないのかどうか,この辺りはちょっと逆の問題として本当は考え方を詰めておいたほうがいいのかもしれません。   第3に,無過失を立証する場合,物品の滅失・損傷等の原因を特定することが要求されているのかということも,気になります。たとえばヘーグ・ヴィスビー・ルールズでは,「運送人又はその代理人若しくは使用人の故意又は過失によらない原因」によって物品の滅失・損傷がひきおこされたことを免責事由としていて(4条2項(q)),恐らく原因を特定した上でそれが責めに帰すべき事由ではないことを立証することを要求する趣旨だと思われます。同旨の立法例も見られます。   ここでそういう考え方を採れば,普通の債務不履行との関係でかなりはっきりとした特則――普通の債務不履行ですと一般論として責めに帰すべき事由はないと言えばいいはずですので――になってくるのですが,この物品の滅失,損傷などについてはそういう考え方を採るのか。つまり,原因不明のままでは運送人は免責されないということにするどうかも,実質として決めておくべき話かと思います。原因が分からない場合というのは,これはやはり悪いと言われるのが普通ですので,実務的にはあまり差はないかもしれませんが,考え方としては整理した方がいい点ではあります。   最後に,責めに帰すべき事由と損害の間の因果関係の問題があります。物品に関して注意義務を怠っていたのですが,仮に怠っていなくてもいずれにせよ何らかの事情で損害が発生した場合は,責任を負わないということで良いと思うのですが,これも実質として決めるべき点です。そして,もしそういう実質だとすれば,提案されている条文も現行法の条文も,とにかく注意を怠らなかったことを立証しないと免責されないと書いてあるので,今言った点はうまく表現できていないように思われます。ただ,まず実質としてどちらなのかということをはっきりさせた上で,その次に,それが過不足なく表現できているか,過度に複雑になりすぎていないかという辺りからチェックしていただければと思います。   私が今申し上げた実質について異論があるのであれば,できるだけ現段階でコンセンサスを得ておいたほうがいいように思います。 ○山下部会長 1について,ほかに。 ○野村(修)委員 今の議論につながると思うのですけれども,おそらくこういう条文ができたときに,私たち解釈をする側として,民法の条文をただ確認的に規定したものだというふうに読んでしまう人と,それと何かここに特則的な意味を見出そうとする人とに分かれてくると思うのです。   後者だとしますと,今藤田先生が整理をしていただいているように,例えば受け取ってから,例えば船積みしてから荷揚げするまでの間にあったはずの運送品が何の原因か分からないけれどもなくなっていますということを言いさえすれば,それで後はそのことについての注意を怠らなかったという方に,全て運送人側の方に何らかの証明の責任というものが転換されているのだと読んでくる方々も当然出てくると思うのですが,それを志向しているのであれば,条文のこの書き方でそれが本当に伝わるのかどうかということがやや気になります。   それから,おそらく原因が前にあったということであっても,今のような特則として書き下していると,それは運送している最中に壊れたのだから運送人に責任があるでしょうとまず言われて,実はそれは運んでくる前,船積みする前の段階とか,その前の段階に原因があったのですということを言わないと免責されないというのは,一般の債務不履行のときとはやはり違う感じがします。運送人の保管中に何かが起これば,まずはそのことだけを主張すれば,その原因に関する反論は運送人側でかなり事細かく証明しなければ免責されないという規律になるということをもうちょっと分かりやすく条文に書き下していただくことが必要なのではないかなと思います。 ○山下部会長 細かく考えていくと御指摘のような問題がいろいろあるのかなというところではあるのですが,どこまで書くかというのはなかなか難しいところではあろうかと。なお指摘されたところを御検討いただければと思います。   そうすると,今日のところは,私の進め方の不手際で,第3のうちの1と3についてはおおむね御意見を頂いたということではないかと思います。2と4が残りましたが,もう時間も相当回りましたので,今日はこのくらいにして審議を終えたいと思います。   そこで,次回につきまして,事務当局からお願いします。 ○松井(信)幹事 今日は熱心な御審議をありがとうございました。   次回は11月12日水曜日,午後1時半から午後5時半頃までを予定しております。場所は,本日と同じこの17階,第2会議室となっております。   次回の議題につきましては,今日の部会資料7の残りの部分と,更に次の資料といたしまして,部会資料3,4で検討いたしました船舶,船長,海上物品運送の特則,複合運送,運送証券などの二読を用意する予定でございます。   なお,この部会の第1回会議で御承認いただきました旅客運送分科会を,この10月22日から行う予定でおります。メンバーがまだ全員確定していなかったためにこの場で名簿等をお配りすることはできなかったのですが,参考となる情報につきましては,おってメール等で御報告させていただきたいと思います。 ○山下部会長 それでよろしいでしょうか。   それでは,大分時間を超過して申し訳ございませんでした。本日はこれで終了いたします。どうもありがとうございました。 -了-