法制審議会 商法(運送・海商関係)部会 第7回会議 議事録 第1 日 時  平成26年11月12日(水) 自 午後1時30分                        至 午後5時33分 第2 場 所  東京高等検察庁 第2会議室(17F) 第3 議 題  商法(運送・海商関係)等の改正について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○山下部会長 それでは,予定した時刻でございますので,法制審議会商法(運送・海商関係)部会の第7回会議を開会いたします。  本日は,御多忙の中を御出席いただきまして,ありがとうございます。本日は,真貝委員,岡田幹事,それから白石関係官が御欠席と伺っております。  では,本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いします。 ○松井(信)幹事 お手元の資料について御確認いただきたいと思います。本日は,前回の会議で使用しました部会資料7と事前送付の部会資料8を御審議いただくことになっております。また,参考資料21を事前送付しております。お持ちでない方がいらっしゃいましたら,用意がございますが,よろしいでしょうか。 ○山下部会長 本日の審議に入る前に,運送・海商法制と関連いたします船主責任制限法の改正法案につきまして,事務当局より説明がございます。 ○松井(信)幹事 それでは,御説明いたします。  この臨時国会におきまして,本年10月17日,閣法第23号として,船舶の所有者等の責任の制限に関する法律の一部を改正する法律案を国会に提出しております。今回の改正の概要は,国際海事機関(IMO)において,船主責任制限制度に関する条約の定める責任限度額を1.51倍に引き上げる改正が採択され,来年6月8日にその改正の効力が生ずることから,これに合わせて,船主責任制限法の責任限度額を1.51倍に引き上げるというものでございます。条約と同一内容の改正法案であったことから,この場で御報告という形を採らせていただきますが,早期の成立を目指しているところでございます。 ○山下部会長 それでは,本日の審議に入りたいと思います。  本日は,まず前回に続きまして,部会資料7の第3の2以下について御審議いただいた後,部会資料8について御審議いただく予定でございます。具体的には,休憩前までに部会資料7と,部会資料8のうち第1から第3までを御審議いただき,午後3時15分頃をめどに適宜休憩を入れることを予定しております。その後,部会資料8の残りの部分につきまして御審議いただきたいと思います。  それでは,部会資料7,「第3 運送人の責任」のうち「2 運送品の滅失又は損傷の場合の責任の限度額」と「4 運送人に故意・重過失がある場合の取扱い」,これが前回審議に入れなかった部分かと思いますので,この部分につきまして御審議いただきたいと思います。事務当局からの説明は既に前回頂きましたので,2と4につきまして御自由に御発言いただければと思います。 ○鈴木委員 内航の方からの要望なのですけれども,個品運送を行う運送人の責任の限度額に関して,新たに外航と同じような制限を設けていただければと考えております。  理由は,昨今,運送品の商品価値が結構高くなっているということもございます。それから,最近,異常気象といいますか,気象・海象で,国内といえども余り安心できないというか,リスクが高い状況が生じております。この点は内航も外航も同じだということで,御理解いただきたいと思っております。  それともう一つは,我々運送業者の運送賃は非常に低廉な価格でやらせていただいているというところもございまして,運送賃の何十倍もする商品がございますので,こちらの賠償義務がもう天井がないぐらいになる可能性もありますので,そこに是非限度額を設けていただければと考えております。 ○山下部会長 ありがとうございます。今,内航に関して,責任限度額を設けてほしいという御意見がございましたが,委員,関係官の皆様方,いかがでしょうか。  例えば,この限度額を設けるというときの限度額について,何らかの御提案のようなものはあるのですか。 ○鈴木委員 一応,外航と同じような責任体系ということで,外航の方で取り決めておられる1キログラムにつき2SDRという,国際通貨の単位ではありますけれども,その額でお願いできればと考えております。 ○藤田幹事 まず質問ですけれども,仮にこの限度額を設けるとして,2SDRと言われたのですが,それほど厳密なパーセンテージや統計でなくて結構ですけれども,国内の貨物で2SDRを超えるものというのはどのぐらいあり,どのぐらいのものが限度額未満になるのでしょうか。つまり,ほとんどのものが限度額に引っ掛かってしまうような責任限度額を想定されているのか,それともほとんどは限度額に収まるのだけれども,ごく一部,極端な貨物だけが超えるようなものを想定しておられるのか。ちなみに,外航の方のこのルールというのは相当古い条約の限度額ですので,その後の物価の上昇などを考えると,やや特異な額だと思いますので,その辺りの感触をまず教えていただければと思います。 ○鈴木委員 1キログラムにつき2SDRというのは,邦貨で換算すると,大体20トンのトラックシャーシを対象としますと,600万円ぐらいになります。600万円以上の貨物というのはどのぐらいあるのかというと,それほど多くはないという感覚ではあります。 ○藤田幹事 もう一点確認ですが,重量による限度額について述べられていますが,1包・1単位による限度額は必要ないという理解ですか。国際海上物品運送法では,1包・1単位当たり666.67SDRという限度額があるからですが。 ○鈴木委員 そちらの方は,内航は御存じのように船荷証券を発行しておりませんので,数を何個受け取ったかというのは証明できないところもございますので,損傷を受けた貨物の総重量につき2SDRを適用いただければとは考えております。 ○石井委員 内航運送の場合には,個品運送を考えると,内航の標準運送約款が現在用いられているわけですが,そこには責任限度額は設けられていませんし,この標準運送約款を作成したときに若干関与しておりますけれども,そのときにも責任限度額という問題は出てこなかったかと思います。これを直接法律で規定する必要があるのだろうか,その辺の標準約款との関係で対応できるのではないかと思っているのですが,いかがでしょうか。 ○鈴木委員 契約ベースでそういう取決めを行うということも選択肢としてはあると思うのですけれども,一般の不特定多数の方々の荷物をお預かりするところもありまして,約款で,どちらかというと一方的ということもないのですが,限度額はここまでですという取組みをするよりは,できれば法定化していただいた方がよろしいのかなという考えでございます。 ○道垣内委員 それは,法律でやると,一方的とはならないという御理解ですか。 ○鈴木委員 一応,法律で皆さんに認知していただいたという理解でございます。 ○藤田幹事 最後の質問ですが,内航について,海上運送だから限度額があるということの理由,つまり,同じ国内運送であっても陸上運送と違って限度額を設けなくてはならない理由は,どこにあるのでしょうか。国際海上物品運送法の方は,理由ははっきりしていて,同法は強行法規ですから,自分たちで適切な限度額を設けることは,法律上できません。そこで,適切な限度額を法律上書いておかないと,無限責任ということになってしまう。そうなると,非常に高い値段の貨物の荷主の負担を低い値段の貨物の荷主が負担することになってしまうので,法律上一定の限度額を設けざるを得ない。だから,強行法規で,任意に契約によって限度額を設けることができないこととの関係で,法律上の責任限度額があるということであって,国際海上物品運送法は,海だからではなく,そういう強行法規的な責任法制だから責任限度があると説明できると思うのですけれども,そうではなくて任意法規である運送法制で,海だから違うというのは,どういう説明になるのでしょうか。 ○鈴木委員 陸上運送とかも同じような理屈になるのかなとは思います。ただ,その危険度において,やはり海上運送の方は非常にリスクが高いというところもございますので,例えば何億円とする運送品が損傷を受けた場合に,我々運送人の方で,市場価格といいますか,その全額を賠償しなければいけないということになりますと,かなり厳しいというところがございます。その辺をどのように調節されるのか,ちょっと私もアイデアはないのですけれども,一応,海上においては外航も内航も危険性が一緒だという前提に立って,責任体制というのは同じ形であるべきであろうかと考える次第であります。 ○箱井幹事 確認させていただきたいのですが,藤田幹事がおっしゃったところとの関連ですが,最初に今の御提案を伺ったときには,運送人の責任の強行規定化とパッケージであろうと認識していたのですが,藤田先生の先ほどの発言に対するお答えを伺っていますと,これは任意規定としての提案ということでしょうか。普通に考えますとパッケージなのだろうと思われましたので,最初からそういう御提案なのかと思っておりました。 ○鈴木委員 もちろん,堪航能力担保義務とか,そういう運送責任は強行規定であるという前提でございます。要は,運送責任は特約をもって軽減したりすることはできないという中で,責任限度額を設定していただければということでございます。 ○松井(信)幹事 今までの部会では,航海過失免責の合意について,商法の規定を任意規定とすることで,それを許容する余地が生ずるという議論が進められておりますので,堪航能力担保義務が強行規定であることは別として,一般的には,商法の運送人の責任は任意規定とするという前提でございます。その中で,先ほどのような御提案が整合性があるのかどうか,もう一度御検討いただいて,さらに,この部会資料にもありますが,責任の限度額に関する規律が新設されると,中小の荷主が個別に貨物に保険を付する必要が生じ,経済全体から見て非効率となるおそれがあるという御指摘がございますので,先ほどの御提案でどのように経済全体が効率的になるのか,そこもお示しになるべきではないかと思います。業界の方でいろいろ御意見があろうと思いますので,お取りまとめの上,必要であれば書面をお出しになられて,御紹介いただくことはできますでしょうか。 ○鈴木委員 一応,その限度額の金額によりけりだと思うのですけれども,要は,高価な貨物であればお客様にその分を付保していただくことが新たに増えるのではないかという御発言だと思うのですけれども,そこを御理解いただいて,運送品の価値が非常に高いということであれば,お客様の方でそれなりの付保をしていただいて,我々は今,例え話をしましたけれども,20トンのトラックシャーシで600万円までと,そこまでは弁償しますということで,多分それほど混乱は生じないのではないかという考えを持っておりますが,御指摘のように具体的にどうなのかといったところはまた改めて御報告させていただきたいと思っております。 ○山下部会長 では,そのようにお願いいたしますが,ほかに今日のところで御意見はないでしょうか。 ○松井委員 弁護士会できちんとこの点を話してこなかったので,ここで確定的な意見は申し上げられないのですけれども,重量に基づいて損害賠償が決まるということなので,多分,日弁連で議論しますと,個人の方の物品が船で運ばれることもあると思いますけれども,船が全部駄目になってしまいましたとか,先ほどお話のあった天候の問題でみんな塩漬けになってしまいましたというときに,例えばその限度額が10万円とか20万円とかという金額であれば,大体個人の方のものはカバーされると思うのですが,重さでいくと,トラックと違って非常に軽いので,その辺はちょっとお考えいただく必要があるのかなと思っております。まだ確定的な議論はしていないのですけれども,その点を御留意いただければということで申し上げます。よろしくお願いします。 ○柄委員 私たちも商工会議所で確認したところ,やはり中小の荷主としては,国内の海運で保険を掛けることはほとんどないと聞いていますので,先ほど松井(信)幹事の言われたとおり,それぞれが付保を要する状況になるというのを避けていただきたいと思います。 ○山下部会長 いかがでしょうか。よろしいでしょうか。  では,今日,鈴木委員から御意見をいただき,後ほど書面を御提出いただけるということですので,その後にまた御審議いただこうかと思います。事務当局も,また検討をお願いいたします。  2と4につきまして,ほかの点はいかがでしょうか。4でも結構です。 ○柄委員 4の方ですが,荷主の立場としては,商法581条の要件を「重大な過失」から「損害の発生のおそれがあることを認識しながらした無謀な行為」に改めるということになりますと,参考資料18の例でも示してあるとおり,運送人が例えば荷物室の扉を閉めるのを忘れたという,俗にいううっかり事例までも同条の適用除外になってしまうとも考えられますので,荷主としては大いに違和感があります。荷主は運送を頼むときは,運送品に傷を付けないとか,なくさないとか,最低限,そのような配慮を運送人がしてくれるという前提でお願いしますので,うっかり忘れたといった事例まで適用除外になるというのは問題があるのではないか,したがって,商法581条の要件は「重大な過失」で十分ではないかと思います。そのような荷主の通常の期待というものを是非とも考慮していただきたいと思っています。 ○箱井幹事 やや誤解があるのかもしれないのですけれども,うっかり事例でもって責任を負わないということではないはずなのです。今の重過失でもって,前に裁判例をまとめた参考資料を頂きましたけれども,約款の規定が無効にされるというケースがしばしば見受けられる中で,どこまで契約で定めたルールが許容されるのかというところの問題だと考えております。うっかりであれば責任を負わないとか,負うとかということではなく,通常,軽過失の場合には責任を負うと,その範囲で当然責任を負うということだと理解しております。 ○山下部会長 そのようなことなのですが,柄委員,いかがですか。全体的に負わないのではなくて,通常の市場価格に従って責任を負うという規定が適用されますが,重過失があるとそれが外れて民法によって全損害を賠償する,そのような規定が是非必要だということなのでしょうか。 ○柄委員 今まではいろいろな,全部の損害まで考慮されていたのが,物の価値だけに限定されるということにしてよいのかどうか,重過失よりももっと厳しく定めることが本当に良いのかどうかということに関して,少し違和感があるというところです。 ○松井(信)幹事 今,箱井幹事がおっしゃったのは,確かに商法581条との関係では,全額損害賠償させるか,それとも損害賠償額の定額化が働くかという規律だと思います。恐らくその前の柄委員のお話は,参考資料18の11,12の事例のうっかり事例といわれるもので,これは高価品免責や,また約款上の責任限度額の定めが及ぶかどうかという中の議論で,重過失の要件が無謀な行為というように厳格化されると運送人が免責される場合が拡大しかねないということだと思いますので,いずれの御見解も,それぞれあり得るのかなと聞いておりました。 ○道垣内委員 私はすぐ忘れてしまうので,ひょっとしたら私は以前に発言したのかもしれないのですけれども,現在の商法581条の解釈を前提としたとき,「一切の損害」というのは,これは民法416条が適用されるという下での一切の損害という意味ですよね。 ○松井(信)幹事 おっしゃるとおりです。 ○道垣内委員 そうすると,主観的な要件の変更もさておき,やはりかなり分かりにくいような気がするのです。「一切の損害」は,もっと分かりにくいかもしれませんが,「前条の規定を適用せず」の方がまだ分かるような気がします。なぜそのようなことを言うかと申しますと,民法416条の「損害賠償の範囲」の適用に関連して,それが不法行為に類推適用される場合の議論ですけれども,例えば,故意不法行為ならば,別に相当因果関係とか,そういう範囲で切らないで,全ての損害を賠償させるべきであるという考え方がありまして,私は必ずしもそうは考えませんけれども,故意不法行為と過失不法行為とは,歴史的にはそもそも帰責原理が異なるという理解に立つ見解がそのように主張するわけです。そうなると,商法581条が,帰責原理の異なる形の債務不履行事例であると読みますと,また,重過失というものをこのように「損害発生のおそれがあることを認識しながらした無謀な行為」と書きますと,ますます過失による債務不履行とかなり帰責原理の異なる類型のように読めてしまい,そうなると,その民法の一定の解釈というものを前提とした場合に,本当にどこも予見可能性などで切られない一切の損害と読めてしまう可能性があるような気がいたします。資料4そのものが提起している問題とは異なる問題ですけれども,お考えいただければ幸いです。 ○松井(信)幹事 商法581条の「一切の損害」の現代化については,十分考えながら進めていきたいと思います。 ○山口委員 「重大な過失」のところを国際海上物品運送法に存在する「損害の発生のおそれがあることを認識しながらした無謀な行為」に改めるというところでございますが,運送以外のところでは今までにない概念でございまして,国際条約ではよく使われる表現でございますけれども,それを日本の国内運送一般に入れるということについては,少し違和感がございます。最高裁の判例も,全般に重過失は故意に近いものであるという前提で,多くの法制度,民法や商法において考えられてきたところで,この運送に関してだけ特別に責任原因を打ち破る理由を高めるという理由は少しもないのではないかと。そこをどちらかというと国際条約に合わせるというお考えが基にあるのではないかと思われるのですけれども,その必要は必ずしもないのではないか。先ほどおっしゃいましたように,特に問題が多いのは高価品の特則だろうと思っております。通常の範囲で,すなわち貨物の到達地での価値範囲で常に賠償されるのであれば,余り問題が生じないかもしれませんけれども,高価品の特則がここにはまりますと,正にオール・オア・ナッシングになってしまいますので。しかも,運送人の免責を打ち破る理由が「重大な過失」ではなくて「無謀な行為」になりますと,高価品については常に賠償しなくていいということになってしまいますので,そこは少しギャップが大きすぎるのではないか。何かもう少し中間的なことを考えるのであれば,やはり「重大な過失」を維持した方が良いのではないかと私は考えるわけです。 ○箱井幹事 その点なのですが,一般的には確かに違和感があるかもしれませんので,全体的な御意見でネガティブならばそれ以上申し上げるつもりはありません。ただ,高価品特則についてだけは,これは何とかした方がいいのではないかと,判例を見ましても思っております。先ほど鈴木委員からお話がありましたように,運送人は非常に安い運送賃で,現在はかなり高価な運送品を運んでいます。どうしても,定額賠償があるにしても実価ベースの損害賠償責任を負うことになります。段ボール1箱を運んで運送賃は同じといいましても,その中に何が入っているか分からないわけです。高価品特則というのは,そのような運送契約の前提というか,正にその入口において,それを成り立たせるための本質的な規定だと思っています。したがって,無申告で高価品を発送した場合に中間的な損害賠償というのは,私は,それは不合理なのではないかと思っております。高価品に関しては極力商法578条の趣旨が貫かれるような形で考えていただきたいと思います。学説でも,運送人に重過失があっても商法578条の適用を肯定するという考え方は相当広く採られているかと思いますので,その点だけでもお考えいただければと思っております。 ○山下部会長 学説の状況は,今,箱井先生が言われたようなことかと思います。 ○藤田幹事 まず,高価品と損害賠償額の定型化を同じ概念でくくるべきかということ自体が一つの論点だと思いますし,そこはまず一応区別して,両方について合理性を考えていただければと思います。ただ,いずれにしましても,今,山口委員が言われた,余りにも見慣れない概念である,ほかのところで使われないということについていうと,そもそも予見可能性にかかわらず間接損害は賠償しないというルールそのものがほかで見ないルールなので,例えば定型化の規律についていえば,それとの関係で何か特異な主観的要件と併せてその適用範囲を考えるということはおかしくないわけで,そもそも置かれているルールそのものが運送特有のものであれば,そういうものが入ってきても必ずしもおかしくない。帰責原理,すなわち責任を負うか否かのようなところについていうと,確かにちょっと特殊かもしれませんけれども,今言った定型化のようなルールについていうと,それは必ずしもおかしくないのかもしれません。  ただ,今結論を出したいと申し上げるよりも,むしろ考えるべき論点を現段階でできるだけ幅広くしてきた方がいいと思いますので,そういう観点から今まで議論がなかった点を一つ申し上げますと,配布資料などを見ておりますと,「重過失」と「無謀な行為」には差があるのだろうかといったやや疑問形の問題提起がされているように読ませていただきました。ただ,国際海上物品運送法のフォーミュラは,「無謀な行為」と「重過失」との対比だけでは語れない部分があることに注意していただきたいと思います。実は判例がはっきりしないのでよく分からないところなのですが,国際海上物品運送法のフォーミュラでは,「損害の発生のおそれを認識し」という要件も加わっているのです。問題はそこでいう「損害」でして,抽象的に何か損害があるという認識であれば,これはほとんど意味がない限定になるのですけれども,間接損害についてのある程度の具体的な蓋然性についての認識が要求されていて,それが単なる予見可能性以上のものを含んでいるのだとすると,これはかなり大きな限定になるのです。これが定型化などとの関係では重要な要素なのかもしれません。つまり,間接損害については基本的に責任を持たないというルールが現在の運送責任の定型化のルールなのですけれども,間接損害について責任を持たせる要件として,単なる予見可能性ではないある種の認識というものを前提に,しかも無謀に行動している。「無謀」を「重過失」と言い換えていいかもしれませんけれども,そういうことを要件としているルールであるというわけです。そうなると,現在の商法とは相当違った世界だということになります。それがいいかどうかというのはまた別問題なのですけれども,定型化との関係では確かにそういう話もあり得るのかなという気はしております。だから,違いを限定するときに,「無謀」という「重過失」が故意に近いか否かというのは,飽くまで物品の滅失などに向けられた認識だと思うのですけれども,それ以外の認識が国際海上物品運送法13条においては問題になっている可能性があることは注意していただければと思います。 ○鈴木委員 質問というか,確認なのですが,この無謀な行為というのは,運送人自身の行為という限定があるのでしょうか。あるいは,実際起こるとすると,船の場合は乗組員さんの行為が影響することが想定されるのですが,要は,使用人とか,そういう方々の無謀な行為というものもこの中に含まれるという理解でよろしいのでしょうか。 ○松井(信)幹事 部会資料の10ページの(注2)に記載しておりますけれども,国際海上物品運送法では,御指摘のように,運送人自身に限ってこの無謀な行為というものを考えています。しかし,今回の提案は,我が国の民法の履行補助者の理論などを見ておりますと,国際海上物品運送法のような規律を一般法化することには恐らく皆さんの合意が得られにくいのではないかと考えまして,履行補助者についても故意なり無謀な行為というものを考えた方がいいだろうということを書いております。御意見があれば頂きたいと思います。 ○山下部会長 ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。  それでは,第3の2と4につきましては,今日頂いた御意見を基に,なお検討していただくことにいたします。  次に,続きまして,「第4 荷受人の権利」について御審議を頂きます。まず,事務当局から説明をお願いします。 ○髙橋関係官 それでは,御説明します。  運送品の全部滅失の場合に荷受人に運送契約上の権利の取得を認めるかどうかにつきましては,CIF契約などが多く利用される国際運送においては整合的であるとする御意見や,荷受人による権利の濫用を招くおそれがあるとして,これを認めるべきではないとする御意見などを頂きました。  運送は,運送品の売買の局面でのみ利用されるものではなく,荷送人と荷受人の関係には様々なものがあると思われますが,そのような中で,現行法の規律は,運送品の全部滅失の場合には運送品に対する実質的な利益が荷送人,荷受人のいずれに帰属するのかを問わず,荷送人のみに運送契約上の権利を取得させる規律であると言えます。そこで,このような規律を改める必要があるかどうかについて,運送が利用される様々な場面を踏まえた上で,特に荷主の皆様の御意見を伺いながら御審議いただきたいと思います。 ○山下部会長 それでは,ただいま説明のあった部分につきまして,御意見を御自由に頂ければと思います。 ○遠藤委員 第2回の会議におきまして,今,髙橋関係官から御説明がありましたように,国際海上運送では妥当な点が見出せるものの,国内の陸上運送では運送品の到着まで荷送人が危険を負担する例が多いことから,規律を改める必要性はないのではないかという御指摘がございました。当方でその後調べた範囲内では,国内陸上運送においても,買主が売主の施設や指定営業倉庫に引き取りに来る,いわゆる置場渡しとか戸前渡しといわれる条件の,買主が荷送人となる条件の形態が相当程度あるとの認識を持っております。しかしながら,本審議会に参加している荷主の数は限られておりまして,情報収集することには限界もございます。実態については,荷主や貨物の特性などで異なるというところもございますので,中間試案の取りまとめに当たりましては,提案内容をパブリックコメントに付していただくことが適当ではないかと思料いたします。  この要望を申し上げた上で,この点について二つ質問がございます。御提案の(1)のところで,今回新たに,「又は運送品の全部が滅失したときは,運送契約により生じた荷送人の権利と同一の権利を取得する」ということを追加されているわけなのですが,別に商法582条2項と583条1項を一緒にする必要はないのではないか,この(1)だけの変更でよろしいのではないかと思った次第です。  というのは,商法582条2項は運送品処分権の話でございまして,全部滅失の場合は,運送人が運送品の占有を喪失しているということですので,荷送人も荷受人も運送品処分権を持たないことになり,そうすると,ここは抱き合わせで商法583条1項と一緒にする必要はないのではないか。現行の583条1項というのは,貨物が到着して請求すれば,荷受人に運送契約上の荷送人の権利が移るのではなくて,荷受人がこれを取得するということですから,両者が持つという関係でございます。この場合,荷受人の権利が優先するということですので,今言いましたように,「又は運送品の全部が滅失したときは」ということを付け加えることによって対応できないのかなと思っています。  と申しますのも,商法583条の現行条文でも,仮に国内陸上運送で納め込みが多いということになりますと,貨物が到着して一部滅失とか一部損傷した場合というのは,荷受人が受け取ってはいるのですが,危険負担を荷送人が負担していますので,本来は,権利としては荷送人にあるべきところですけれども,両者に持たせていることになります。ただ,荷受人に到着したときは荷受人の権利が優先するということからすると,今の実務においても,この条文はそもそも合っていないのではないかと思います。ということからすると,我々は荷主ですので,特に今回の場合は荷受人の観点から提案させていただいたのですが,荷送人の立場もありますので,ここの(2)になりますと,「荷受人がその損害賠償の請求をしたときは,荷送人は,その権利を行使することができない」ということになり,ここは御批判があった点だとも思いますので,そこのところは当初申し上げた(1)の条文だけで対応できないかという点でございます。  それと,次の確認点は,商法582条と583条は国際海上物品運送法第20条で準用されていますが,商法の海商の規定ではどうも準用されていないようですので,これは法律制定時に何か特別な理由があったのか,全くオーバールックして落としたのか,よく分かりませんが,これは海商の方で準用する必要があるのではないかという御提案というか,確認でございます。 ○松井(信)幹事 2点目の確認からお話ししますと,海商編で商法582条,583条を準用していないという点には,合理的な理由がないと言われておりますので,今般,運送契約についての総則的規律として陸・海・空共通の規律を作るという方針の下で,その部分を解消していきたいと考えております。  1点目については,中身が複雑ですので,また追って御相談したいと思いますけれども,商法583条1項で,荷受人が荷送人の権利を取得するというのは,損害賠償請求権も運送品処分権もいずれも含むものでして,このように荷送人の権利と荷受人の権利が競合する場合には,いずれが優先するかを定める必要があると思っております。運送品の全部滅失の場合に運送品処分権が想定できないというのはおっしゃるとおりなのですが,運送品の一部滅失の場合には,部会資料10ページの枠の中の(2)のように,荷送人と荷受人の運送品処分権及び損害賠償請求権の優先関係を定める必要があり,運送品の全部滅失の場合にも両者の損害賠償請求権の優劣関係を定める必要があると考えています。 ○藤田幹事 事実としてちょっと確認させていただきたいのですが,遠藤委員の最初の御発言で,国内について調べてみたところ,運送中の物品について売買契約上危険を買主が負担することもあると言われたところなのですが,その場合の運送契約の荷送人は誰なのでしょうか。その荷送人が買主なのであれば,従来の規律には全然影響してこないはずです。他方,買主が荷受人であるということであれば,これはまた全然違ってくるのですが,これはどちらなのでしょう。 ○遠藤委員 私が理解している限りでは,買主が引き取りに行く置場渡しや戸前渡しでは,買主が荷送人になり,かつ荷受人になるということだと思います。 ○藤田幹事 そうすると,余りここでの従来の規律で困るような例ではなかったということですね。 ○遠藤委員 そういうことです。ただ,これがどこまで国内陸上運送に妥当するのかというのは荷主により異なりますので,そこのところはパブコメで確認した方がいいのではないかというところでございます。 ○藤田幹事 続けてもう1点いいですか。今のは事実についての質問だったのですが,次は法律論の質問です。御提言で商法582条2項に相当するようなものは要らないのではないかと言われた点ですが……。 ○遠藤委員 そうではなくて,商法582条2項はそのまま残しておいて,変更するのは583条1項だけでよろしいのではないかという提案です。 ○藤田幹事 そうしますと,全部滅失の場合,損害賠償請求権は荷受人も取得して,しかし損害賠償請求をしたからといって荷送人の損害賠償請求権が消えるわけではないという規律ですね。 ○遠藤委員 ただ,ここは提案の(2)では,荷受人が損害賠償を請求したら荷送人の損害賠償請求権は消えるということになっておりますが,現行法だと,そこのところは別に荷受人が請求したら消える云々までは別に触れていないという意味なのですが。 ○藤田幹事 (2)だけを削除しますと,荷送人と荷受人の双方が損害賠償請求権を有し,かつプライオリティーを決めるルールがないということになりますので,その場合にはその両者の損害賠償請求権行使の優劣というものはどう判断されるのですかというのが質問です。優劣を決める基準があれば,これはルールとしてワークするかもしれませんし,あるいは優劣を決めないが運送人はどちらでも好きな方に払えば免責されるということでもあるいはワークするのかもしれない。いいかどうかは別ですけれども。ただ,そういったことを全く決めないまま,(2)だけをなくしてしまうと,今言った問題が起きるのではないかという質問です。 ○遠藤委員 ただ,現行法も,583条1項というのは,権利として賠償請求権を含んでいるわけですが,荷送人と荷受人の優先関係は何も書いていないと理解しています。 ○松井(信)幹事 確かに,損害賠償請求権の優劣については現行法に書いていないのですが,商法582条2項の運送品処分権についての優劣の規律を参考にして,荷送人と荷受人の損害賠償請求権の優劣を決めているのが一般的な解釈だと思います。ですので,その解釈を明文化したというのが,部会資料10ページの(2)の提案であります。 ○山下部会長 運送品が到着した場合には,現行法はそういう解釈であって,全部滅失した場合も同じようにするということですか。 ○藤田幹事 全部滅失した場合は,そもそも現行法では荷受人は権利を取得しないのではないでしょうか。 ○松井(信)幹事 今私が申し上げたのは,運送品の一部が滅失して到達した場合には,荷送人・荷受人が同じ内容の権利を,損害賠償請求権も含めて有することになる。そのときの優劣については,現行582条2項という運送品処分権の優劣の規律を類推しながら読んでいる。それが分かりにくいので,今回部会資料10ページの(2)で明らかにしてはどうか,加えて,運送品の全部滅失の場合もこのルールに乗せてはどうかということでございます。 ○道垣内委員 売買契約と運送契約との関係がよく分からないのです。つまり,売主が買主に対してある物を売却して,それの引渡しに当たってここにいう運送を用いたとします。そして,例えば,種類物の売買契約において品物が届かなかったということになると,別に危険負担が問題でも何でもなく,売主は更に当該種類物を再送しなければならないというだけの場合もあるわけですよね。あるいは,そうではなくて,発送によって危険が移る,ないしは少なくとも特定して危険負担の問題となるという場合ももちろんあるのでしょうけれども,最初に申し上げた事例で考えたときに,損害賠償請求権を荷受人が取得した後には,当該運送契約の前提となっている売買契約における商品の引渡義務は履行されたことになるのですか。つまり,これは危険負担についてどのような約定がなされているのかということを調査しなければならないと書いてあるのですけれども,危険負担等の在り方によって在るべき規律というのは全然変わってくるのであって,80%の契約においてこういう危険負担がなされています,95%の契約においてこういう約定がなされていますということがあったとしても,残りの5%の範囲で別の約定がなされている限りにおいては,こんな規定はできないのではないかという気がするのです。それと,代償請求権の話なのか何かよく分からないところもありまして,どういう場合にどうなるのかということの具体例がちょっと私には理解しにくいのですけれども。 ○山下部会長 そういう売買契約との関係がなかなか難しいので,こういう提案でいけばいいのだというところがまだ決めかねているところかなと思います。 ○箱井幹事 実情というものも確かに検討が必要だと思うのですが,ただ忘れてはいけないのは,この商法583条というのは,運送契約の場合に必然的に必要となる荷受人というもの,これは特殊な立場ではあると思うのですけれども,これを我が国の法律の中でどう位置付けるかということに関する非常に基本的な規定だということです。これは,現行法では非常にシンプルな形で規定しているわけですけれども,特に前回の御意見を伺っておりまして,様々なお考えがあるとしましても,これは複雑にならないような形にしていただきたい。今の規律でもって相当深刻な問題があるということであれば,それは検討の余地があろうかと思いますけれども,これは海上運送でも船荷証券が発行されていれば問題がないということのようでございますし,それから部会資料を見ておりましても,海上運送に関する特則としては考えず通則的な規定としての提案のようでございますので,そういった点を考慮して,現状の分かりやすい形を維持することを前提としながら,よくよくの不都合があるのかということでお考えいただければと思っております。 ○石井委員 海上運送と陸上運送を同時に考えると分かりにくいのですが,国際海上運送でSea Waybillがかなりの範囲で使われている現状を見ると,これは相当深刻な現状になっていると思います。特に,国際海上運送のときは,当事者の一方が海外にいて,一方が国内にいるわけなので,そのどちらに請求権があるのかということで,現状のこの商法の規定でいえば,Sea Waybillが使われる場合で見ると,実際,売買契約上はほとんどの場合に権利がない荷送人に運送契約上の権利があるという不自然な状態になっているわけです。   片や陸上運送の場合には,保険者の立場から,運送業者の貨物賠償責任保険のクレームを多く見て来ましたが,国内の運送業者が,誰が被害者で誰が荷主か分からないということは実務上ほとんどありません。通常,契約当事者から「輸送途中で貨物が全部滅失しました。」と言われ,そこで損害賠償請求が出てくるわけですが,全然聞いたこともない荷主さんから賠償請求されれば,運送業者さんは当然確認するわけです。海上運送のように当事者が国内と海外で分かれている場合と,陸上運送のように容易に誰が荷主かが分かる場合とを一緒に考えるから分かりにくくなっているので,立法の立て方として総則規定を設けるから併せて考えざるを得ないというところはありますけれども,今のような分け方から言えば,海上運送については問題が出ているので,是非御提案のような形で解決していただく必要があるのではないかと思っています。 ○山下部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○山口委員 この前は,この荷送人がその権利を行使することはできないという案と,それから荷受人の権利が後れるという提案とがございましたように思うのです。それで,この規定にして,荷受人の請求を行うときに,権利があるということの立証責任を負わせれば,問題が,権利の濫用というのはその分出なくなるということが書いてあるのですが,そうであれば,その場合には荷送人が権利を持っているので,荷受人の権利を残す必要があるのではないかと思うのです。そうすると,この荷送人はその権利を行使することはできないのではなくて,荷送人は荷受人の権利に後れるという規定の方が適切なのではないかと私は思うのですが,その点はいかがでしょうか。 ○松井(信)幹事 ここで「権利を行使することはできない」と書いておりますのは,権利を有しているがこれを行使することができないという趣旨であり,学説上,荷送人の権利が荷受人の権利に後れると言われているのと同様でございます。表現振りについては引き続き検討したいと思いますが,考えている意図は,山口委員と同じでございます。 ○山口委員 このようにしますと,荷送人の権利は完全に失われると今読めてしまいますので,表現は難しいのですけれども,もし私の申し上げたように「後れる」ということであれば,何らかの形で荷送人に権利がある場合もあることをただし書か何かでうまく表現できないかと思う次第であります。 ○山下部会長 ほかによろしいでしょうか。 ○箱井幹事 もう1点,先ほどの海上運送の場合には,確かに,船荷証券が発行されていない場合であっても,Sea Waybillが発行されていたり,あるいはSurrenderedでも裏面があるといった場合には,契約内容はある程度荷受人の方でも分かると思うのですが,陸上運送の場合には果たしてそうなっているのかというところも気になっております。要するに,特約などは基本的には全部が荷受人に対抗可能であると思うのですけれども,元々の契約当事者は運送人と荷送人でありますので,荷受人が権利を行使した場合,管轄その他の特約での対抗を受けることになるなど様々な問題があると思いますので,そういった点も気になると申し上げておきたいと思います。 ○山下部会長 よろしいでしょうか。また,遠藤委員からは,先ほど少し実情を調べてということでございます。そういうことも併せて,なお引き続き検討していただくようにお願いいたします。  では次へ進みまして,「第5 運送人の責任の消滅」,「1 受取による責任の消滅」と「2 期間の経過による責任の消滅」の部分について御審議をお願いします。事務当局から説明をお願いします。 ○髙橋関係官 「1 受取による責任の消滅」に関しましては,前回の審議の際に,商法第588条第1項ただし書について,売買の瑕疵担保責任の規律と比べて,荷受人に不利益に過ぎるのではないかという御指摘がございました。もっとも,運送契約におきましては,運送人は運送品の詳細を知る立場にはなく,反復継続して大量の運送品を短期間のうちに引き渡すことを要するという特殊性から,このような短期の期間制限が設けられてきたという経緯もございます。そこで,この点につきまして,理論的観点・実務的観点からどのように考えるべきか御審議いただきたいと思います。  次に,仮に商法第588条第1項の規律を維持することとした場合には,荷受人において延着による責任を追及する意思があるのかどうかを早期に確定させるため,運送品の延着の場合について,部会資料2のイの規律を新設することも考えられますが,中間試案に向けて,どのような取りまとめが考えられるのか,具体的な期間として,一部滅失や損傷の場合と同様に,2週間とすることの当否などについて御審議いただきたいと思います。  「2 期間の経過による責任の消滅」につきましては,前回の審議の際には,これに賛同する意見がある一方,荷主にとっては除斥期間の制度は厳しいとの御指摘も頂きましたが,除斥期間に改めることによって,運送人の善意,悪意によらずに権利関係を画一的に処理することができるという面もございます。そこで,これらの面も踏まえまして,除斥期間に改めることの当否について今一度御審議いただけますと幸いです。 ○山下部会長 ただいま説明のありました部分につきまして,御自由に御発言をお願いいたします。 ○松井委員 2番目の点に関し,今,髙橋関係官から御説明いただいた最後の点なのですけれども,除斥期間に改めることによって主観的態様と関係なくというお話がありましたが,これは余り理由になっていないのかなと。単に今ある商法566条の主観的な態様の部分を切ればいいだけのことなので,あえて除斥期間にしなければいけないという理由は何かあるのでしょうか。請求する側としては,請求しておけばいいので,請求する意思はその段階で除斥期間であろうと時効であろうと余り変わらないと思うのですけれども,逆に請求を受ける側がその責任をある程度認めているということであれば,除斥期間である必要もないと思いますし,ポイントとしては,除斥期間になることによってそれほど大きな違いがあるのかというところで疑問であるという点でございます。 ○山口委員 この「期間の経過による責任の消滅」のところの除斥期間の話なのですけれども,この除斥期間にすることによって,合意による除斥期間の延長を認めるというのがセットになるのですよね,当然のことながら。私の理解では,時効を除斥期間に改めるというところのメリットは,合意による延長を認めるということをセットにして,スムーズに動くことを前提としていると思っております。時効だと,今の民法の規定があるために,果たして合意による延長は可能なのかどうか,基本的には駄目ではないかという話がありますので,そこを変えるということが基本的な考えだと思っているのですが,いかがでしょうか。 ○松井(信)幹事 部会資料14ページに書きましたのは「国際海上物品運送法第14条のような除斥期間等の規律を設ける」ということですので,今,山口委員がおっしゃったような点をセットでというつもりで考えております。なお,現在,民法についても法制審議会で議論がされており,消滅時効について協議による時効の完成猶予という制度が作られようとしておりますが,そのルールと国際海上物品運送法のルールもまた違うものでございますので,余り複雑にするよりは,現在動いている国際海上物品運送法14条で統一するというのが分かりやすいのではなかろうかという配慮でございます。 ○山下部会長 今の点はいかがでしょうか。 ○道垣内委員 また不勉強をさらすので恥ずかしいのですが,現在の商法566条の解釈・運用についてお聞きしたいと思います。例えば私が荷受人で運送品を受け取ったときに,1年以内に何をすることが求められていたのでしょうか。つまり,例えば現行の民法の瑕疵担保の規定においては,発見してから1年以内というのはありますが,その1年以内に請求をすれば,その時点で損害賠償請求権なりが発生するのかどうかというと,言い方は難しいのですが,その後通常の消滅時効が別途進行すると考えられていると思うのです。しかるに,ここでは,「時効」と書いてありますので,1年以内に最終的には裁判上の請求までしなければならないとも読めるのですけれども,それはどう解されていたのかということと,除斥期間としたならば,その点はどう変わるのかということです。 ○松井(信)幹事 現在の商法566条は,1年以内に訴えを提起すべきと解されていると思います。請求権を保全するためという意味ではないと思います。これを時効から除斥期間に変えますと,時効の中断などがなくなって,原則としては画一的に1年以内に訴えを提起すべきことになり,当事者間で合意が成立すればその限りでないというルールに改められることになると思います。 ○山下部会長 よろしいでしょうか。 ○道垣内委員 異様に短い感じがするのですけれども。 ○松井(信)幹事 恐らく,民法の売買との関係を重視される道垣内委員からすると短く感じられると思いますが,部会資料にも書きましたとおり,まず,商法588条に関し,旧商法ではもっと短かったというものが,当時の法典調査会でかなり議論がされた結果,妥協の産物として,2週間以内に通知せよとされたものでして,その上で1年以内に訴えを提起せよと,そのようなルールとして今まで定着してきたという歴史的な経緯があるのかなと思っております。 ○道垣内委員 ちょっともう1点。これも現行法の解釈なのですが,商法566条3項の「悪意」というのはどういう内容なのですか。 ○松井(信)幹事 こちらは,最高裁まで争われ,学説でもいまだに争われている点であろうと思いますが,ここでいう悪意は,運送品に毀損や一部滅失があることを知って引き渡したという趣旨であるとの最高裁の判例があるところでございます。 ○道垣内委員 そうすると,これは延着も含むのですね。延着の責任はここには適用されないのですか。つまり,何が言いたいかというと,お分かりかと思いますが,延着についてはいつも悪意ではないかという感じがするものですから。 ○松井(信)幹事 御指摘のように,全部滅失の場合や延着の場合には,運送人が悪意になると言われていると思います。 ○道垣内委員 そうですか。ごめんなさい。ありがとうございました。  ちょっとしつこいようですが,そうすると,なぜ一部滅失だけが短くなるのですか。 ○松井(信)幹事 それが部会資料に書きました「証拠の散逸を防ぐ」というところだと一般には言われておりますが。 ○道垣内委員 それはおかしくないですか。 ○箱井幹事 商法の問題が指摘されているようでございますけれども,今の最高裁判例のような考え方は,従来,商法学者は誰一人言っておりません。これは運送品を故意に滅失・毀損させ,又は故意にそれを隠蔽した場合をいうということで,商法566条と588条を同様に解していたわけでございますけれども,商法588条については,これは責任の特別消滅事由ということで,正に運送人が損害の事実を知っているか知らないかが問題になるところでございますので,商法588条の「悪意」については,これを善意・悪意の悪意と解する学説はございました。ところが,最高裁は,よもやと申しますか,ほとんどの場合に時効が認められないような結論を採られているので,今回私どもの内心の期待は,商法566条を除斥期間に改めまして,こんなことを言っていいのか分かりませんけれども,その判例が実質的に消えてくれれば,ノーマルな形になろうかなと期待しているところでございます。 ○山口委員 この短期消滅,「受取による責任の消滅」なのですけれども,ここについては商法588条2項は残すという前提ですよね。つまり,悪意の場合はこの限りでないと。しかしながら,時効のところ,除斥期間のところは悪意の部分は消すという前提でございますね。 ○松井(信)幹事 おっしゃるとおりです。 ○山口委員 すみません,もう1点。これは私の感覚なのですけれども,延着について,受取の日から2週間以内に運送人に対して当該責任を追及する意思がある旨の通知を発しないときは消滅する旨の規律を設けることについて,どう思うかということなのですが,この2週間を採った理由というのが,商法にほかにあるからということでございますが,遅延については,モントリオール条約においては21日という規定がございますので,むしろそれに合わせた方がいいのではないかと私は感覚的には思っているのですが,通常の滅失損傷とはちょっと違いますので,遅延の損害はすぐには認識できないということもあろうかと思うので,モントリオール条約も通常の滅失損傷より長い,14日より長い21日という規定を置いているのであれば,それに合わせて遅延については通知期間を21日にしてはどうかという提案でございます。 ○松井(信)幹事 それも考えたのですが,一方で,確か国内航空運送約款では7日間ということにもなっておりまして,この辺りのバランスも考えて,デフォルト・ルールとしては2週間ということもあり得るのではないかと思ったところでございます。 ○山口委員 国内航空運送約款は私は正確に記憶していないのですけれども,滅失損傷については確か7日だったのですけれども,遅延も含めてでしたか。 ○菅原委員 いずれも7日間です。不着の場合が,その事実を知ることができるはずであった日から14日以内。一部滅失・毀損の場合は受取の日から7日以内,延着の場合は貨物到着の日から7日以内に損害賠償請求しなければなりません。これが現在の国内運送約款の規律でございます。 ○箱井幹事 第一読会で申し上げたことを繰り返すつもりはないのですが,この場でも言っておかなければいけないのか分かりませんので,一言だけ言わせていただきますと,私はイの規定は第一読会で申し上げた理由で反対なので,それを維持させていただきたいと思います。 ○遠藤委員 今の箱井幹事の御意見は,イは反対ということですか。 ○箱井幹事 通則的規定としては反対ということを第一読会で申し上げまして,議事録のとおりです。 ○遠藤委員 そのときに箱井幹事がおっしゃったと思うのですけれども,この運送人の責任の特別消滅事由というのは,非常に強い効果を持っていると思うのです。例えば,2週間以内にNotice of Claimを運送人に出さなかったら,もう請求権を失う。失権するということですので,非常に強い効果があります。現状は延着については規定がないということで,それは運送人側からすると同様の規定をということなのですけれども,我々荷主側からすると,新たに延着についても運送人の責任の特別消滅事由として期間を設定するということで,非常に影響が大きいということを申し上げたいと思います。  ちなみに,国際海上物品運送法では,受取時に損傷があったかどうか分からない場合には3日以内に通知しなければなりませんが,これは滅失及び損傷なく引き渡されたと推定されるという規定であって,荷受人の権利を失権させるというものではないとされているところです。それと比較してもこの国内商法は非常に厳しいものがあると思っております。 ○山下部会長 ほかにいかがでしょうか。かなり違う意見があるというか,評価が違うところの一つかなと思うのですが,よろしいですか。  では,この点もなお引き続き,今日までの意見を参考にして検討していただくことにします。  次に進みまして,「第6 不法行為責任との関係」についての御審議をお願いします。まず,事務当局から説明をお願いします。 ○髙橋関係官 御説明します。  いわゆる請求権競合の問題につきましては,前回の審議の際には,平成10年の最高裁判例の考え方を踏まえ,荷受人の範囲の限定を示唆する御意見が多かったように思われます。そこで,今回の案では,「荷受人」のところに括弧書きを付して「当該運送契約による運送を容認したものに限る」こととしております。ここでは,最高裁判決にならって「運送を容認」という文言を用いていますが,このように荷受人の範囲を限定することの当否につきまして御審議いただきたいと思います。  なお,荷送人・荷受人以外の第三者にも運送契約に関する規律の効力を及ぼしてよいかどうかにつきましては,単にその者が運送を容認していたというだけでこれを認めることにはちゅうちょもあり,信義則等の一般則に委ねるのが相当であるようにも思われます。 ○山下部会長 それでは,ただいま説明された部分につきまして,御自由に御発言をお願いいたします。前回の議論を踏まえて,新しい荷受人の限定の仕方を考えてみたということですが,この点はいかがでしょうか。 ○鈴木委員 運送人側からしますと,是非,契約責任でまとめていただきたいと思います。不法行為責任がどこかから湧いてくるというのも困りますので,運送契約の範囲内で責任を負わせていただければと考えております。もし,そうは言いながらも,全く荷物の所有者の方が知らなかったという場合に,結果的に運送人の方に帰責事由がある場合まで責任は負えませんというのが公平に失するということであれば,あるいは善意の第三者に対抗できないという対抗要件のような形で,所有者からの訴えというか請求権をある程度許容するというのもアイデアかなと独り考えております。 ○山下部会長 この荷受人以外の第三者というか,所有者からの請求についても,荷受人と同様に,原則的には競合を認めた方がいいのではないかということですか。 ○鈴木委員 はい,そういうこともあるかなという個人的なアイデアでございます。 ○藤田幹事 基本的に,私は現在の提案がいい線ではないかと思っています。いい線というのはこの括弧書きの制限です。ただ,荷受人についてこの括弧書きのような要件を想定するのはいいと思うのですが,全面賛成する前に,この中身を厳密に知りたいと思います。「当該運送契約による運送を容認する」ということが,何を認識していいと思っていればいいということなのかが今一つよく分からないところがあります。例の最高裁の判決ですと,宅配便というのは特殊な低廉な運賃で大量に運ぶものだから,この種の責任制限条項が入っているのは合理的であるということを述べた上で,信義則を介して荷受人との関係で責任制限を認めているのですけれども,そのときに,宅配便であることを認識しているのみならず,特定の業者の宅配便を利用することを容認していたことを認定しています。容認していたのは,その当該業者を使うことを容認していることなのです。ただ,提案の書き方のように,「当該運送契約による運送」と言ってしまうと,特定の契約条件,とりわけこのような責任制限条項や抗弁などを容認している必要があるようにも読めます。そこで,これはどの程度の認識と主観的要件を想定されているかということをお聞きしたいと思います。その理解の仕方次第では最高裁判決より厳しいことにもなりかねないので,御説明いただければと思います。 ○松井(信)幹事 非常に限界線の難しいところではあるのですが,「当該運送契約による運送を容認」と書いているのは,その運送契約を特定する要素として,運送人が誰か,荷送人が誰か,何を運送しているか,その辺りの状況を知った上で容認している,そのようなことがデフォルト・ルール,一番基本的なルールとしては妥当なのではないかとは思っております。荷受人がこの規律に服する根拠としては,一つには,荷送人と運送人の間の運送契約には商法上の責任減免規定の適用があるのが通常であること,一つには,商法583条2項も,荷受人が運送を容認して運送品を受け取ると一定の義務を負うとしていることがあると思いますが,これらによれば,荷受人が契約条件まで知っている必要はないと思います。他方で,最高裁の事案のように,宅配便によっていることを容認していたという事例もあるかもしれませんが,法律への規定の仕方も難しく,後は,信義則を具体的な事案に適用することによって,また,標準約款の使われ具合によって,このような要件をもう少し広げていくというのはできるのかもしれません。 ○藤田幹事 すみません,言葉尻を捉えるようですが,デフォルト・ルールと言われましたけれども,これは荷受人に対する対抗ですので,契約条項で変えられる話ではありません。この要件というのはかなり法律的意味を持ってきますね。 ○松井(信)幹事 デフォルトと言いましたのは,法律に規定するミニマムな要件としては「当該運送契約による運送を容認」と書いて,運送当事者と運送品で特定してはどうかと。それをもう少し漠然とした認識で許すかどうかというのは,標準約款の使われ具合などを踏まえ,解釈の問題で広げていくという余地はあり得るかと思っています。 ○藤田幹事 分かりました。少なくともここの文言が,特定の契約であるとか契約条項であるとかの認識を要求するものというまでの意味ではなくて,ある程度の解釈を許すようなものとして提案されている,この文言がその内容の表現として最終的に適切かどうかはともかく,意図はそういうものだという趣旨ですね。例えば,ある業界では,ある種の運送手段では,もうある種の常識のように入っているようなものであれば,そのような運送手段でやるという合意があれば認められることもあるでしょうし,特定の業者の宅配便を使うという合意があればそれで足りるということもあるだろうし,また,同じ業者であっても,異なる条件の運送が一杯ある状況であれば,業者のみならず運送の種類まで合意していないとこの容認にはならない場合もあり得る。その辺が解釈に委ねられ得るようなものとして提案されているということですね。 ○野村(修)委員 第一読会のときに,私は,判例に照らして,一定程度荷主の方に配慮すべきだという発言をさせていただきましたので,それに対する御回答として今回のこういう文言が挿入されたことに対しては,私自身は賛成の立場です。  ただ,恐らく運送人の方から違和感があるのは,要するに,この不法行為責任の追及のありやなしやの問題が,荷送人と荷受人との間の事前の情報のやり取りというのでしょうか,例えば「自分できちんとうちまで持って行きます」と言っていたのに運送されてしまったとかという事情によって運送人の責任が変わってくるということに対して,何となく運送人の側としては違和感があるのではないかという感じはするのです。  ただ,前提はやはり,請求権が競合していて,本来は両方請求できるということが我が国の法制では前提になっているということだけ御理解いただければ,運送人の方は,例外的に自分が追及を受けなくなるというケースがごく例外的にあると御認識いただけるのではないかと思うのですが,何となく法条競合的な形で,本来運送契約に全て集約されているはずなのに,不法行為責任を追及される例外があるような理解になってしまいますと,もうちょっと何か違ったルールにしてほしいという声が出てくるのではないかと思いますので,私自身は,本来は両方とも請求できるという現行の我が国の法制を前提とした上でのごく例外的な取扱いとしてこのようなルールを作るということを前提にすれば,御理解いただけるのではないかと考えている次第です。 ○箱井幹事 野村先生とは発想が少し違うのかもしれないのですけれども,あれは赤帽運送の事件でしたか,平成2年判決の藤田嗣治画伯のデッサンの事件のときに,このときは,所有者は荷受人で,荷受人に損害を賠償して,荷送人が荷受人の権利を代位行使したといった構成だったと思うのですけれども,そのときにこの問題を議論しました。先ほど関係官からお話がありましたように,全くの第三者に対して契約上の抗弁を主張するのはさすがに厳しいのではないか,ただ,荷受人までは広い意味での運送契約関係にある者とみるといった理屈を付けて,解釈努力をして,そこまでは契約ルールでいこうということで考えてきたという流れがございます。けれども,先ほどの藤田先生との議論を聞いていますと,この「当該運送契約による」という「当該運送契約」というのは,相当具体的なことまで認識していなければ駄目なのだという理解でしょうか。要するに,遠方からなので当然運送で送られてくるのだろうといった程度の荷受人の認識では駄目だという御提案なのかどうか,1点確認させていただきたいと思います。 ○松井(信)幹事 当方で規律を考えたときは,やはり,誰と誰の間で何を運ぶという契約がされたのか,それぐらいは知っているべきだろうと思っておりました。それは,荷受人が実際に運送品を受け取ろうとするときには,通常分かることであります。ですので,荷受人の元に運送人が持ってこられた運送品について,荷送人からこの物がこの人によって運ばれてきたのだなということで,それを受け取るということになれば,商法583条2項により運送賃支払義務も負うことになりますし,運送契約を容認したとして責任の減免に関する規律が及ぶという形でもいいのではないかと思っておりました。 ○箱井幹事 荷受人が運送品を受け取る場合はいいと思うのですけれども,先ほどのような全部滅失で,荷送人が荷受人に損害賠償金を支払ったといった場合,その論理は成り立つのかどうかということがちょっと気になりますが。 ○松井(信)幹事 やはり通常は,運送に際して,荷送人と荷受人の間のやり取りなどで「この運送品がこの人によって運ばれます」という話を聞いて,「分かりました。それでお願いします」と言うかどうかであり,そのようにして運送を認容しているのであれば,荷受人に対してこの規律が及ぶものと思います。荷送人の名前も分からない,誰が持ってくるのかも分からない,何を運んでいるのかも分からないというのでは,やはりこの規律を妥当とさせるのは厳しいのではないかと思った次第です。 ○道垣内委員 別方向に働く話を二つしたいのですが,一つは,最高裁平成10年判決の読み方なのですけれども,これは宅配便によって荷物が運送されることを容認していたということなのですが,それは,宅配便によって荷物が運送されるときには,一定の損害賠償額の制限の条項があるといった認識が当然に付随するということになるのでしょうかということです。そうなると,「当該運送契約による運送を容認した者に限る」というときの「容認」というのは,別に運送がなされるという話ではなくて,ポイントは責任制限条項が存在するというところにあるのではないかという気がします。  それと逆方向の話としてもう一個申しますと,この問題は考えてみると非常に難しい問題で,例えば私がある人から預かっているものを寄託する,寄託のときに何らかの契約をする,しかしながら,寄託料はすさまじく安いものですから,自己のものと同一の注意で足りるとか,いろいろな特約があり,責任額の制限もある。そのようなときに,「他人の物でした」という話になると,「えっ,僕は悪くても10万円しか賠償金を負わないからこんな安い額で引き受けたのに」という話になるわけですよね。そうなると,そのような場合に,受寄者はその所有者に対してどのような義務を負っていて,どの義務違反がどのような形で民法709条の過失になるかというのは,いろいろなところに出てくる問題なのだと思うのです。したがって,これは要綱そのものを書いていらっしゃるわけではないので,今の段階でこういう形になっていることは一切構わないのですけれども,書くときには,「不法行為が成立するときには」といった言葉を用い,当然に不法行為責任が発生するわけではないと読めるようにすることによって,荷受人に対しての配慮をしていただいた方がいいと思います。このままですと,荷受人に対しても当然不法行為は成立すると読めまして,そのときに制約するかどうかだという感じになりますとちょっと問題があるように思いますので,少し言葉を丁寧にお使いいただいた方が危なくないかという気がいたします。 ○松井(信)幹事 最高裁の判決で,容認していたなどの事情を示したのは,一般に,宅配便において低い金額の責任限度額が定められているとの認識があることによるのではないかという御指摘ですが,確かに,判例が信義則上そのような解決をしたのには,そのような背景があると思います。それに対して,今回の案は,そのような契約条項への認識までは要求していないと先ほど申し上げました。それは,部会資料の提案は,最高裁の事案のように,合意による責任減免事由を荷受人に及ぼすかという問題ではなく,商法の規定による責任減免事由を荷受人に及ぼすかという問題であるためです。また,もう一つの考慮として,運送品を荷受人が受け取ると,商法583条2項により運送賃の支払義務が生じ,海上運送ですと商法753条1項により救助料や共同海損の支払義務まで生ずるという,具体的金額は承知していないけれども,一定の不利益を受ける場合が当然に予定されておりますので,それとのバランスも加味して,契約条項まで知っていなくても足りるのではないかと考えたところであります。 ○野村(修)委員 私は,先ほどこの案に基本的に賛成と申し上げたのですけれども,それは最高裁の判決があるからということを前提にしていまして,もし全く理論的に問題を分析して考えたときにどういうことが考慮要素かと言われれば,先ほど私は申し上げたのですが,運送人の納得感というのがなかなか得にくいルールになると思うのです。つまり,当事者がどういう情報提供をしていたかに依存してしまう。ですから,もう一つの考え方としては,単純な不法行為責任ではない,例えば不法行為の中でも重大な過失があった場合については,運送人側にもそれはもう損害賠償を払うことに対して特別な事情があるのだからということで,言わば契約上の特権というか特約はもう主張できなくなるのですという方が,恐らく運送人としては納得感があるのではないかなと思うのです。そうだとすると,もう一つの作り方としては,それ一本にしてしまって,その契約の段階で当事者間にどういう情報があったかとか,どういう運送だったかということは一切関わりなく,運送人側の不法行為の発生要件のところで絞るというのも一つの考え方としてはあるのだろうとは思うのです。   今回の御提案はそういう方向ではないということなので,そちらを採らずにこういうルールにするということの合理性ということをやはり運送人の方々に納得していただけるような形で御説明いただくことが必要なのかなとは思います。 ○遠藤委員 先ほどから議論がありますように,容認についてどこまで具体的に書くのかというところが非常に問題になっておりますけれども,以前に藤田幹事から御指摘がありましたように,ヘーグ・ヴィスビー・ルールズでは,この運送契約に関する規定をそのまま不法行為の損害賠償責任に準用するということになっています。もっとも,日本の国際海上物品運送法は,船荷証券だけではなくて,その他の運送書類が発行された場合も広く取り込んでいます。ヘーグ・ヴィスビー・ルールズの前提としては,船荷証券であり,当然のことながら荷受人はそれを受領して,裏面約款にも先ほどから議論がありますように責任限度額も明示されているといったことをもって初めて適用が可能になっているとしますと,この容認とは何なのかというところが非常に問題になるのではないかと思っています。  裁判例として請求権競合説がずっと続いているという背景には,商法における運送人の減免事由の趣旨が不法行為の請求によって没却されると言われる一面がある一方で,裁判官の方というのは,運送人の減免ということが非常に強力だというところでもって,そこでバランスをとっているとちょっと推測もしたりします。ここは荷主にとっても非常に大きな問題なので,この案はこの案で,もう一つの案と両論併記でパブリックコメントに付していただくようにお願いしたいと思います。 ○山口委員 説明の中に高価品の特則が少し触れられていて,その中で,運送人に重過失がない限り,荷送人は運送人の責任を問うことができなくなるといった説明があるのですが,この不法行為責任との兼ね合いにおいては,運送人に重過失がある場合は適用にならないということなのですか。どういうことなのでしょうか。つまり,重過失がある場合は不法行為請求ができるというお考えですか。 ○松井(信)幹事 運送人に重過失があれば,不法行為請求は当然できますし,契約上の高価品免責の規律も働かないということになると思います。 ○山口委員 先ほどの損害賠償額の定額化の議論のところで,この到達地の価格を打ち破る要件として,「重大な過失」ではなくて「無謀行為」という規定にするとおっしゃっていましたので,ここでは「無謀行為」の問題ではなくて,「重過失」で足りるということでよろしいのですね。 ○松井(信)幹事 先ほど議論をした部会資料の9ページは,そもそも「重大な過失」という概念と「無謀な行為」という概念のどちらが良いかという問い掛けを皆さんにしたものでございます。ですので,当局として「無謀な行為」が良いと特に思っているつもりでもございませんし,皆様の今日の御意見を踏まえながらまた検討していきたいと思っています。したがって,そのような変更をするという前提はありませんので,「重大な過失」という現行法をベースに部会資料の14ページ以下を書いているというだけでございます。 ○山口委員 そうすると,「無謀行為」でない限り不法行為が成立しないという考え方にもなり得るということですね。単なる「重過失」では不法行為を請求できなくて,運送人に「無謀行為」があるときに初めて不法行為を請求して,いろいろな責任制限を打ち破るということでしょうか。 ○松井(信)幹事 まず,不法行為は民法の規律でありますので,故意又は過失があれば請求はできまして,それに対する抗弁として,商法上の運送契約に認められた抗弁を不法行為請求に援用できるかが問題になります。その中で,高価品について申告しなかったという事情があるときに,「無謀な行為」に当たるか当たらないか,これによって不法行為請求についても免責できるかできないかが決まってくるという,抗弁が立つかどうかという問題になるかと思います。 ○山口委員 だから,そこは「重過失」ではなくて「無謀行為」の問題だと。もし前のところが「無謀行為」になれば,「無謀行為」の問題になるということですね。 ○松井(信)幹事 おっしゃるとおりです。 ○菅原委員 14ページで示されている御提案に特段反対するものではございませんが,委員・幹事の先生方から御指摘があるように,「運送契約による運送を容認した」という文言の明確化というのは,やはり重要ではないかと思います。「容認」という文言表現ではありますが,ここでの趣旨は,恐らく当該運送契約の要点ないし骨子といいますか,例えば,運送人・荷送人・荷受人が誰なのかとか,出発地・到着地がどこなのか,あるいは運送の手段が何なのか,延着責任が問題になる場合には期待される到達日時がいつであったのかなど,運送契約の骨子について,「容認」というよりも,むしろ「認識」しているといった意味合いではないかと考えているところでもございます。その辺りは今後の御議論の中で明確にしていただければと存じます。  先ほど道垣内先生から,容認のポイントは責任制限条項が存在するところにあるのではないかとの御指摘があり,なるほどと思って伺っておりました。この点,実務では,本当は責任制限の存在を容認している状況にありながら,むしろそれを容認しているからこそ,「そんなものは読んだことがないし,知らない」などと主張し,不法行為で訴えるという例が多いように思います。したがって,責任制限条項の存在を容認したかどうかという点は,条文の書き振りによって,裁判実務等と少し違うような取り扱われ方がされる懸念もあり得るのではないかと感じました。飽くまで感想でございますけれども,以上です。 ○雨宮幹事 日弁連の事前検討会において,請求権が競合するのが原則であることから,運送契約の場合に不法行為に基づく請求に対しても契約責任に基づく抗弁を出せるということに疑義があるという意見がありました。しかし,今回の御提案は,最高裁の判例に則しているということで,荷受人については運送契約を容認した者に限るということについて,詳細に検討がなされたわけではありませんが,荷受人が一定程度契約内容について知るような場合に限るということ,不法行為についても契約上の抗弁が出せるということの2点については特に強い反対の意見は出ませんでした。 ○藤田幹事 先ほどからちょっと気になるのですけれども,この「容認」という言葉が認識という意味であるといった御発言があったかと思いますが,それは違うと思います。つまり,どなたかに私が物を送ると,その人にとって非常に貴重な物だから,「これはきちんと保険を掛けて特定の運送条件で送って,絶対にそれ以外の普通の宅配便などでは送るな」と言われているときに,私がそれをわざわざ普通の宅配便で送ったとすると,荷受人がそれを知ったとしても,運送人の契約上の抗弁を対抗されるはずはないわけです。「そういう安い宅配便で送っていい」と言ったからこそ,荷受人はその状況を甘受しなければいけない。これは認識の問題ではなくて,そういう運送の仕方について認める――「容認」という言葉が最終的に良いかどうかはともかく――という要素が必要で,荷送人が荷受人との約束に違反してそんな送り方をしているといった認識だけでは足りないことは明らかです。そういう意味では,普通の意味での故意とか悪意とかというものとは違った概念だと思います。最終的に「容認」という文言がいいかどうかというのは,それはまた別途検討の余地があるかもしれませし,差し当たりは最高裁判決がそういう言い方をしているから使っているのだと思いますけれども,これは認識の問題とは全く違った主観的要件が必要で,「同意」とまで言うと,個別の何か申込みと承諾がないといけないかのようになるので狭すぎるから,そういう言葉は使わないけれども,これはちょっと注意していただきたいと思います。 ○箱井幹事 当然そういう約束だったのに別の送り方をしてしまったということの問題は当事者間の問題としては非常によく分かるのですけれども,運送人との関係で果たしてそういったことを問題にしてよいものか,全てが裁判になるわけではありませんでしょうが,問題解決ができるのかというところが今話を聞いていて非常に心配になってまいりました。 ○菅原委員 航空運送事業者の場合,御案内のとおり,モントリオール条約29条の規律に慣れ親しんでいるという事情もございます。また,決して「容認」と「認識」の定義概念そのものを混同しているわけでもありません。そのような観点からいたしましても,ここでいう不法行為責任にも準用すべき相手方につきましては,「容認」という文理よりも,レベル感としては,もう少し「認識」に近い概念で規律すべきではないかと思っている次第でございます。 ○山口委員 高価品の特則で問題になるとすれば,高価品を送るときに荷送人が価格を明告して申告すれば,当然全額について運送人が賠償責任を負うわけでありますよね。それで,ここが問題になっているときは,荷送人がその明告をしなかったと。それで事故が生じたというときに問題が生じるわけであります。そうなってくると,荷受人としては,当然明告してくれるものであると考えていたと。要するに,明告しないことを容認していたということが必要だという趣旨でよろしいのですか。つまり,明告しないことを容認しないと,高価品の特則を荷受人に対して主張できないのか。それとも,その点は別に曖昧で,単純に明らかに明告するということが契約内容になっていない限りは,容認したことになるというお考えなのでしょうか。 ○松井(信)幹事 今のお話も,契約条項をどこまで知っているべきかという議論と似ているところだと思いますが,部会資料は,一つは,この最高裁の判決を踏まえつつ,運送契約については商法上の責任減免規定の適用があるのが通常であることに基づいて,もう一つは,運送品の受取が運賃支払義務など一定の負担を生じさせるものであることに基づいて,このような案を提示しているところでございます。ですので,明告していないことを容認したという要件までは予定しておらず,この人によってこの物が運ばれてきてそれを受け取った,ないしは運送契約についてそれでよいと容認したと,これで足りるというのが一番核となる規律ではないかと思ったところであります。 ○遠藤委員 最高裁の宅配便の事例で「容認」とされたのは,荷受人が宅配便を使って宝石の送付をしていた期間が長くて,何度も同じ送付をしていたということがかなり大きな背景としてあったのではないかと思います。宅配便の30万円の責任限度額を認識していたかどうかは分からないのですけれども,高価品である宝石の度重なる送付をただ黙認して行っていたという事実でもって容認とみなしたのではないのか,その辺りはちょっとうろ覚えなので分からないのですが,間違っていたら御教授いただければと思います。例えば,1回とか2回での送付時に事故があった場合に,それを容認してしまったということになるのかどうかというのは,ケース・バイ・ケースで判断が難しいのではないかと思う次第です。 ○山下部会長 よろしいでしょうか。大きな方向性としてはこの提案の方向でいいというのが意見の大勢かと思いますが,細かいことを詰めていくと様々な問題があろうかというところで,この点をなお次のラウンドに向けて事務当局にも検討いただくことにしたいと思います。  それでは,予定より遅れておりますが,ここで休憩したいと思います。           (休     憩) ○山下部会長 それでは,そろそろ再開したいと思います。  それでは,部会資料7の審議は一応終えたということで,今度は部会資料8の方へ進みたいと思います。  まず「第1 船舶に対する差押え等」についての御審議をお願いします。事務当局より説明をお願いします。 ○山下関係官 「第1 船舶に対する差押え等」について御説明いたします。  第3回会議では,商法第689条を改め,発航の準備を終えた船舶に対する差押え等を許容する方向性に異論はありませんでしたが,停泊していない航海中の船舶に対する差押え等まで許容するか否かについては,両論がございました。  なお,ここでいう停泊につきましては,(注2)にありますように,いわゆる海上交通三法と同様に,「けい留」又は「びょう泊」の状態,すなわち船舶が係止している状態にあることをいうと解することが考えられます。  停泊していない航海中の船舶に対する差押え等まで許容するかについては,法制的にはいずれもあり得ますが,我が国の実務ではこのような例は報告されていないこと,このような船舶から船舶国籍証書等を取り上げることは現実的ではなく,海上交通に危険を生ずる可能性もあることなどを踏まえると,許容しないことが相当であるとも考えられますが,この点につきましてどのように考えるかを問うものでございます。 ○山下部会長 それでは,ただいま説明のあった部分につきまして,御自由に御発言をお願いいたします。 ○雨宮幹事 事前の日弁連の検討会では,この御提案に賛成の意見もございました。また逆に,単に689条を削除して,差押え可能かどうかについては,執行不能か否かにより判断すればいいという意見もあり,両方の意見が出ておりました。  ただ,689条を削除した上で,例えば12海里の領海内であれば,裁判所の差押命令が出れば,船が航走していたとしても,執行が可能であれば執行すべきといった意見に対しては,航走している船を,執行官を乗せている船やヘリコプターで止めることが実際に可能かといった,民事執行法上の問題を指摘する方もいました。その観点から執行が不可能であるような差押命令が出せるような実体法の改正には疑義があるという意見も出されていました。ただ,広く差押えを認めようという意見は,例えばイギリスのマレーバ・インジャンクションなど,命令の対象に外国も含めるようなものもあり,最初から執行不能であることを前提とする命令も海外ではあるので,仮に執行は不可能としても,これは実体法の問題であるので,できる限り差押えの範囲を認める方向での改正が妥当であり,執行不能かどうかは執行官に現場で判断してもらえばいいというものでした。このように両方の意見が議論されました。 ○松井委員 今,雨宮幹事から御報告を頂いたのは日弁連の議論でございます。補足するということでもないのですけれども,弁護士の立場からいきますと,執行できるかできないかということも大事なことなのですが,裁判所がある程度実体法上の権利の存否を確認していただくことで,通常の企業・法人であれば,決定の趣旨に従って話合いのレベルに進むことができる。ですから,ヘリコプターで追いかけるとか,映画のようなことをするという意味ではないのですけれども,過度に執行可能性を実体法の中に取り入れるのは適切かどうかという御意見があったということだけ付け加えさせていただきます。 ○田中幹事 航行中に船舶を差し押さえるということは,全く理解不能ですし,全くあり得ない。それから,船舶国籍証書を失えば法的な船舶航行の要件を失うわけですから,航行中の船舶にそういうことが起きるということは,安全上も全く考えられないということです。もし仮にそういうことを洋上で航行中に行うとすれば,人命に関わる非常に危機的な状況に陥るということです。船員としてはそのような状況は全く想定できませんが。法律的な議論としては分からないでもないですが,航行中の船舶の差押え,すなわち船舶国籍証書を押さえるということはあり得ない。そこに乗り組む船員は,船舶国籍証書に基づいて雇用され雇入れされているという現実から乖離した規律にはしていただきたくないという意見です。 ○山下部会長 ほかにいかがでしょうか。日弁連の中での御意見には分布があるという話ではありましたが,こちらの委員・幹事・関係官の方ではいかがでしょうか。是非この点,積極的に差押えの範囲を広げるべきという御意見はございますか。特にはそういう方向の御意見はないということでしたら……。 ○遠藤委員 航行中に差し押さえるのは技術的には不可能だろうというお話なのですが,もし可能であったとしても,我々荷主からすると,船が差し押さえられますと,例えば貨物を他の船に移すとかということが生じますので,航海中で差し押さえられると荷主の貨物にも大きく影響するので,これについては反対させていただきたいと思います。 ○山下部会長 今日頂いたような御意見の方向という感じでよろしゅうございましょうか。なお検討はしていただくことにして,特にこの点,他の意見がないようでしたら,以上ということにして,次へ進みます。  次に「第2 船舶の共有」についてでございます。まず事務当局から説明をお願いします。 ○山下関係官 それでは,「第2 船舶の共有」について御説明いたします。  まず「1」ですが,第3回会議では,商法第697条の削除の提案に対して,民法の規定や他の船舶共有の規定との関係から疑問を呈する意見がございました。この点につきまして,部会資料8の3ページから4ページに記載しました表のとおり,船舶共有の規律は,商法で自足的に規定されるものではなく,民法の特則に限って商法に規定が設けられていると考えられますところ,損益分配に関する商法第697条の規律から,分配時期に係る部分を削除する場合には,民法の解釈と異ならないこととなりますため,同条を削除することが考えられますが,その当否を問うものでございます。  次に「2」ですが,第3回会議における意見を踏まえ,船舶管理人については,同じく包括的代理権を有する支配人と同様に,第三者にとって重要な事項でありますため,その登記を義務付けることが相当であり,また,行政上の監督等の観点からもその必要性が高いものの,その登記の効力につき商法に規定がないところ,支配人の登記と同様の規律を及ぼすことが相当であると考えられますため,その旨を提案するものでございます。  以上の点につきまして御審議いただきたいと思います。 ○山下部会長 それでは,ただいま説明のあった部分につきまして,御自由に御発言をお願いいたします。 ○松井委員 今回の部会資料のところに私が前回に申し上げた民法の特則云々ということを書いていただいておりますけれども,まず今回の改正の御提案に関しては,分配時期を削除するということは賛成でございます。  前回もちょっと言葉足らずだったように思いますので,出した例がよくないのか,特許は逆に物理的制約がなくて,共有者が両方並行して使えて,ライセンスをするときには他の共有者の同意が要るというものですけれども,船は逆に出航していなければ利益を生みませんので,この民法249条などが本当に適用されるのかというのが前回の疑問でございました。私の疑問としましては,船の利用に関する事項は各共有者の持分の過半数で決まる,新たな出航については反対した人は買取請求ができるという現行の規定ですけれども,そのような形になっているので,前回お話のあった民法249条の適用があって,そういう決議によって他の人が使っているときに不当利得の請求ができるということについては疑問があると申し上げた次第です。ただ,今回の資料で民法の適用があるという調査結果であるので,そこについては何か根拠があるなら教えていただきたいというアカデミック・キュリオシティはあるのですが,結論においては賛成でございます。 ○山下部会長 ほかにいかがでしょうか。「1」については商法697条を削除してはどうかと,「2」についてはこういう登記の規定を準用してはどうかという方向ですが,この二つについて,特に御異論はないと理解してよろしいでしょうか。  それでは,そういう御意見だったということで,この点は今後作業を続けていただきたいと思います。  では更に続きまして,「第3 船舶賃貸借」について御審議いただきます。まず事務当局から説明をお願いします。 ○山下関係官 「第3 船舶賃貸借」について御説明いたします。  第3回会議では,民法第606条第1項の特則を設け,船舶賃借人に修繕義務を課すという方向性に異論はありませんでしたが,その場合に,賃貸人が修繕義務を負うことを前提とする民法の他の規定についても適用除外等の検討をする等の必要があるとの御意見がございました。そこで,例として,部会資料8では民法第606条第2項及び第611条第1項を取り上げておりますが,いずれにつきましても,デフォルト・ルールとしては適用があることとし,必要に応じて特約によって排除すると整理することが考えられますところ,その当否を問うものでございます。  以上の点につきまして御審議いただきたいと思います。 ○山下部会長 それでは,ただいま説明のあった部分につきまして,御自由に御発言いただければと思います。 ○道垣内委員 2点あるのですが,1点は,前回異論がなかったということでありまして,民法606条1項の特則を設けるということなのですが,それ自体については,それが必要であるのならば私にも異論はないわけですけれども,現在の民法の規定というものを前提といたしますと,例えば,賃貸人がこういった性能のものを貸すといった債務を負っていて,当該性能が引渡し時から欠けている場合を考えてみますと,それは賃貸人の最初の段階の賃貸義務の不履行であるとしても賃貸人に責任がありますし,修繕義務の不履行であると考えても賃貸人に責任があるということで,そもそも在るべき性能が欠けているのか,修繕すべき状態にあるのかという話を厳密に区別しなくても,適用可能なようになっているのではないかという気がするのです。しかるに,「必要な修繕」という概念を入れ,それを賃借人の義務にした場合には,賃貸借の最初の段階で,賃貸人から賃借人に引き渡された段階で在るべき状態が欠けているというときについては,それは恐らく賃貸人の責任は残るわけですよね。したがって,現在の民法606条の原則といいますかルールを逆にすることによって,その問題がクリアに表に出てくるということを何らかの形で御説明いただくべきではないかと思います。それが感想的なものでございます。  もう1点は,実は説明がよく分からなかったのですが,5ページから6ページにかけまして,現在の民法611条1項は,一部滅失の場合の賃料減額請求権を定めていて,現在ではこれは改正されるという方向が打ち出されているところ,船舶についても「同項の適用があるものと整理することが考えられるが」というわけですが,この同項というのは,改正前の同項のことをおっしゃっているのか,改正後の同項のことをおっしゃっているのかということがちょっと読んでいて分からなかったのですが,お教えいただければと思います。 ○松井(信)幹事 2点目は,改正後のこの規律という意味でございます。  1点目も,使用収益させる債務と修繕義務の関係という意味では,今の点と密接に絡むと思います。部会資料5ページの下から3行目以下を御説明しますと,現行法では,使用収益させる債務と修繕義務の両方が賃貸人の義務の形になっているわけなのですが,民法の法制審の議論では,611条について,賃借人の過失によらない事後的な一部滅失の場合に,使用収益をさせていないことから当然に賃料減額の効果が生ずるとしつつ,賃貸人は修繕義務を負うこととされています。このように,賃貸人の使用収益させる義務と修繕義務とを必ずしもパラレルに考えず,別の問題と整理をしていることを考えると,今回の提案のように,修繕義務を逆に賃借人に課したとしても,賃貸人の使用収益させる債務がなくなるわけではなく,改正後の611条1項の規律の適用があるものと整理されると考えているところでございます。  もっとも,委員御指摘のように,賃貸人からの引渡し当時から性能の欠陥があるという場合には,単なる賃貸人の債務不履行ではないかとも思われ,なお検討させていただきたいと思います。 ○山下部会長 いかがでしょうか。 ○道垣内委員 ちょっと分からなかったのだけれども,もう少し考えます。 ○松井(信)幹事 追ってまた御相談させていただければと思います。 ○山下部会長 ほかにいかがでしょうか。この点は,特に道垣内委員の先ほどの御疑問に対する説明はなお留保するとして,方向性としては,この2か条の規定の適用があるという整理で特に問題ないということでよろしいでしょうか。  それでは,そのような御了解があったということで,今後作業を進めたいと思います。  では続きまして,「第4 定期傭船」についての御審議をお願いいたします。まず事務当局から説明をお願いします。 ○山下関係官 それでは,「第4 定期傭船」について御説明いたします。  第3回会議では,定期傭船に関する規律を設けることに関しては一定の賛成意見がございましたが,その法体系上の位置付けにつきましては,フランス法を参考にして,3種類の傭船契約と整理してはどうかとの意見もございました。いずれもあり得ますが,現行法の整理を前提として定期傭船に関する規律を設ける場合に,3種類の傭船契約に共通する規律はそれほど想定されず,かえって,航海傭船と個品運送を全く別個の契約類型と整理することは,運送という実質の統一的理解の面から見て適当でなく,船舶の利用契約の一つとして位置付けることが考えられますところ,その当否を問うものでございます。  なお,(注1)は,第3回会議での意見を踏まえ,定期傭船契約の意義のうち,「当事者の一方が一定の期間船舶に船員を乗り組ませて相手方の指示に従いこれを航海の用に供することを約し」とある部分を,「当事者の一方が一定の期間船舶に船員を乗り組ませてこれを相手方の利用に供することを約し」とすることの当否を問うものでございます。  また,(注2)は,定期傭船者の指示権について,現時点において何らかの具体的な提案があるかを問うものでございます。  なお,その前提としまして,(注3)にありますように,定期傭船者の第三者に対する責任については,明示的な規定を置かないものとする方向性を考えております。  以上の点につきまして御審議いただきたいと思います。 ○山下部会長 それでは,ただいま説明のありました部分について,御自由に御発言をお願いします。 ○小林委員 第3回の会議で発言させていただいたのですが,結論的には,御提案のとおり定期傭船につき新しい規定を設けるということについては賛成です。ただ,問題は定期傭船に関する規定の法体系上の位置付けをどうするかということだと思うのですが,御提示いただいた案は,どちらかというと新しいドイツ法を参考にされて,運送契約の中に個品運送と航海傭船を捉え,船舶の利用契約の中に船舶賃貸借と定期傭船を捉えるという考え方の下に分類なされたと思うのですが,私自身はどちらかといいますと,前の会議のときに発言させていただいたように,傭船契約については3分類でくくられてはどうかと考えているということで,その考え方は変わっておりません。部会資料6ページでは,3つの傭船契約に共通する規定が特にないからということで書いてありますけれども,共通する規定でくくってまとめるという趣旨ではなくて,個々の傭船契約についてそれぞれ別々に,とにかくどれに近いかという形ではまとめないで,ばらばらに書いたらどうかということで発言させていただいたということであります。  その理由としては3点あるのですが,1番目の点は,どちらかというと,新しい規定を作るときには,実際に実務の方がやられているやり方をできるだけ尊重して,それに近い形で立法される方がいいのではないかということを考え,その場合に,実務は英米法の考え方に近いので,そういう形式に近い方が良いのではないかと考えたということです。  2番目の問題点としては,航海傭船と個品運送を運送契約として捉え,船舶の利用に関する契約がこれと別にあって,船舶賃貸借と定期傭船が入るとなると,定期傭船というのは運送契約ではないということをはっきり示してしまうことになり,それでは運送契約に関する規定の適用はどうなるのかというような点も問題になるのではないかということを少し懸念しているということです。  3番目の問題点としては,従来の日本の裁判例は,どちらかというと定期傭船は船舶賃貸借に近いからということで,船舶賃貸借に関する規定を類推適用するという形で処理してきて,船舶衝突に関しては,国際的にそぐわない結論を出してしまったということに問題があったということからすると,定期傭船を船舶賃貸借に近いという形で一つにくくるのが果たして妥当なのかという疑問を持っているということであります。  それから,イの点に関しては,(イ)の指示権のところで,「ただし,船長の職務に属する事項については,この限りでない」と書いてあるのですけれども,どちらかというと,「職務」というと少し言葉が曖昧ですので,いわゆる海技事項という意味で,例えば,「船舶の運航に関する事項については,この限りでない」というような形で示された方がよろしいのではないかという気がしております。 ○山口委員 私は小林委員とは少し違う考え方でございまして,大審院の判例を機として,定期傭船契約というのは労務供給契約と船舶賃貸借の混合契約であるという考え方が長く定着して,それからいろいろな派生的な判決が出てきたわけでございます。小林委員が御指摘になったように,世界的にちょっと不都合な判例もあるにはあるのですが,基本的な多数学説もそれで今までは動いてきたのを,これを典型契約にすることによって,賃貸借とは全く別の契約であるとして,一切の類推適用を許さないといった考え方は,大きく実務を変えてしまうと思われますので,定期傭船契約というのは,これは私の個人的な考え方なのですけれども,正に船舶の船倉部分を借り受けて,一定期間,つまり通常は月額でそこを借りて使用収益しているのですから,賃貸借の要素があることははっきりしているわけで,そういう意味では船舶賃貸借の要素が全く否定されるということについては強い抵抗感がございまして,ここで第三者に関する規定を置かないということでございますので,そこを解釈に委ねるというのであれば,今までと余り変わらないのでよろしいかと思うのですが,賃貸借とは全く違う別物で,賃貸借の規定を一切類推適用を許さないのだという考え方には強い抵抗感を持っているというところでございます。  規定の仕方としては,この前の「航海の用に供する」というよりは,「相手方の利用に供する」ということで,それに対する対価である定期傭船料――これは英語でいうとCharter Hireですけれども,要するに使用料を払うということであれば,規定の仕方からも賃貸借の一類型と考えられないこともないので,もし規定を置くのであれば,私も新たに提案された形でよろしいのではないかと思うのです。それであれば,ひょっとしたら,これは解釈の問題ですけれども,類推適用の可能性も残しておいて,今までの状況とそう大きく変わらないので,それでよろしいのではないかと思います。  ただ,もう一つ考えると,これぐらいの規定しか置かないのであれば,定期傭船自体も全て解釈に委ねるといいますか,契約に委ねる今までの状況で,それほど変わらないのではないかという気もします。というのは,先ほど小林委員から御指摘がございましたように,元々英米法的なものが先行しておりますし,裁判例も英米法の裁判例が多くて,英法主導で動いているような状況の中のものを日本法に入れてしまうというのも少し難しい部分があって,規定がこの程度のものであれば,置く必要も意味もさほどないかなと思っております。 ○箱井幹事 今,定期傭船契約を船舶賃貸借と併せて船舶の利用契約の一つとして規律した場合に対する御懸念がありましたが,私はこれをニュートラルに捉えております。要するに,オーナーとチャータラーとの関係での船舶の利用に関する契約ということで,これは割と実務感覚に合っていると思います。これには,運送契約として捉える方針の航海傭船とされているものが入ってこないということですが,船舶の利用契約として捉えられたから,定期傭船契約は賃貸借ベースであることが確認されたのだとか,されないのだとかということではないのだろうと思います。心情的には小林先生のお考えにも,長年海商法を,またフランス法を見ておりますと,非常にシンパシーを感じるのですけれども,このように定期傭船契約を船舶利用契約の一つとして整理した場合の心配というのはさほど持っておりません。  更に言いますと,ここに定期傭船,裸傭船,航海傭船と三つ並んでいるわけですけれども,定期傭船の場合には,確かに「定期傭船契約」という新しい用語を入れても,正に実務の船舶利用契約,オーナーとチャータラーとの関係だという点は出てきますので,問題はないと思います。むしろ航海傭船ですが,これは実は今もおかしなことで,学生に説明するにはかなり難しい。商法は「航海傭船契約」という言葉を使っておりませんので,「傭船者」とか「傭船料」というのは出てきますけれども,商法上の傭船契約は船舶の全部又は一部を運送契約の目的とする,正に貸切運送だということで説明してきております。実務にいう航海傭船契約は,ほかの傭船契約と同じように,オーナーとチャータラーとの関係で捉えていて,そこでの契約内容からして運送契約と理解されるのだと,非常にややこしい説明をずっとしてきているのです。今回,「航海傭船契約」として運送契約の方に整理されるというのは,理論的にはすっきりして,それ自体は賛成なのですけれども,やはりここでこの船舶利用形態,すなわち実務における傭船契約類型の一つを意味するかのような「航海傭船契約」という言葉を使われるのでしょうか。 ○松井(信)幹事 現時点では一般に使われている言葉でもあり,また外国法制でもそのように訳されていることもあり,「航海傭船契約」という言葉が適切ではないかと思っております。 ○箱井委員 それがちょっと気になるという意見もあるということを今日は一言申し上げておきます。 ○入来院委員 これはちょっと質問なのですけれども,先ほど山口委員からの御質問の中にもちょっとあったのですが,今回の御提案で,定期傭船の法的性格についての御提案と理解しているのですが,前回の御提案にも一部あったのですけれども,当事者間の関係について,部会資料でいうとイの(ウ)以下の部分などに一部御提案があって,それから海法会の提案にも当事者間の関係についてある程度規定を設けた方がいいという提案があったかと思うのですけれども,この辺について,どうお取扱いになるつもりかということをお聞きしたいのですが。 ○松井(信)幹事 具体的には,どういう規律を設けた方が良いという御提案がありますでしょうか。前回御質問があった,例えば安全港指定義務の話などは,前回お答えしたように,何をもってデフォルト・ルールとするのか,その辺りの問題があるという御指摘はさせていただきました。ですので,むしろこういう規律を置いた方がいいという御提案をいただければと思いますが。 ○入来院委員 ということは,そういうものがない限りは,ここに御提案になったものが定期傭船に関する規律の全てになると理解すればよろしいのでしょうか。 ○松井(信)幹事 今回の資料は,法体系上の位置付けでという聞き方しかしておりませんので,前回の部会資料3で議論されたことが基本的なベースになろうと考えております。 ○山口委員 定期傭船ということですので,多分「傭船料」という言葉になると思うのですけれども,時効との兼ね合いにおいて,定期傭船料というのは,いわゆる運賃の性格を有しませんので,1年の消滅時効に係るのではなくて,一般の商事時効に係るということになるわけでしょうか。その辺が結構不明確なところで,今まで日本法上,「傭船料」というと1年ということになっておりますので,日本法のところでは安全を見て1年とやっていたのですが,イギリス法上は6年といったかなり長い時効がございます。ここで定期傭船というものを一つ新しく作れば,特別規定がない以上は一般の商事時効になるという理解になろうかと思うのですけれども,いかがでございましょうか。 ○松井(信)幹事 部会資料3の8ページにかつて書いたところではありますが,傭船料債権については,運送関係債権の1年の短期消滅時効とは前提が異なるものとして,特段の短期消滅時効の規律を設けないといった御提案をしているところでございます。これについては,特に反対が強いといった事情はなかったと記憶しております。 ○野村(修)委員 もう一つ,先ほどの話に戻るのですけれども,今回,どのような形で規定するかによって定期傭船契約の法的性質が決まったかのような議論は避けた方がいいかなと思っていまして,先ほどニュートラルという話がありましたけれども,カテゴリーとして類型化するというだけであって,法的な性質の議論をしているわけではないということを前提にすべきではないかと思います。  ただ,むしろ逆に,ここの部会資料7ページの(注1)のところにありますが,定期傭船契約の定義のところの書きぶりというのが二様に書かれていまして,「当事者の一方が」とあって,これはオーナーのことだと思うのですけれども,オーナーがタイムチャータラーに対して,傭船船員を乗り組ませて,「相手方の指示に従いこれを航海の用に供する」という形に書くと,オーナーの方が運航の責任を負っているかのような表現ぶりになるイメージです。これは別にそう解釈すべしという意味ではありませんが,語感としてそのようなニュアンスを持ってしまうということです。他方において,乗り組ませて,道具として,いわば人がついた形で道具を提供して,相手方の定期傭船者,タイムチャータラーが利用するのに,「利用させている」という書き方の方が,どちらかというと運航の主体が定期傭船者であるかのような印象を与える書きぶりになると思うのです。ここからまた何か法的性質を導くのも余り概念法学的でいかがなものかとは思いますが,この書きぶりについて,どちらが望ましいのかということは慎重に御検討いただいて,議論を深めていただいた方がいいかなと思います。  それから,中身について,定期傭船契約の当事者間については,種々,本来,定期傭船契約自体が定型契約書式に基づいてその存在が認識されますので,余り法律に書き込む必要性はないのかなとは思いますが,安全港の問題は若干あるのと,それから紛争になるとすれば,最終の航海の指図と,それから船舶の引揚げと言っていますけれども,終了の問題が時々紛争になっているように思いますので,「船舶の引揚げ」と訳しているのだと思いますけれども,あれは契約の終了に関する法律問題だと思いますが,何かルールを決めるのであれば,そういう議論はあるのかなとは思います。一応,かかる規定の必要性だけは検証していただければ幸いです。 ○遠藤委員 先ほど山口委員から,定期傭船に賃貸借が類推適用されるというお話があったかと思うのですけれども,現行,日本海運集会所の定期傭船契約にははっきりと,これは賃貸借ではないと明記されているのですが,こことの関係というのはどのようにお考えになっているのでしょうか。 ○山口委員 これは確か裁判例にもあったと思うのですけれども,そう書いたとしても,性格上賃貸借であれば,賃貸借の規定を類推適用するというのが裁判所の考え方ではなかったかなと思います。ですから,それがあったからといって,賃貸借の性質を失うものではないと私は考えております。  それで,ちょっと前のところに戻って誠に恐縮なのですが,もしこれが利用契約だとすると,民法の賃貸借のところで転貸禁止がございまして,これが賃貸借でないとすると何の問題もないのですが,民法612条2項の規定がございまして,もし定期傭船契約が賃貸借だとすると,この1項にも関わるのですが,2項の方は,「賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは,賃貸人は,契約の解除をすることができる」となっておりますので,もし性格的に賃貸借の要素があるのであれば,民法612条というのは船舶の賃貸借には適用にならないとすべきかなとも思ったという感じのところなのですけれども。 ○松井(信)幹事 今,先生が最後におっしゃったのは,定期傭船について民法612条が適用にならないという御趣旨でございますか。 ○山口委員 そうですね。それから,船舶賃貸借,これは実務がよく分からないのですけれども,裸傭船契約が続くということがもしあるとすれば,これは外してもいいのかなと思ったのですが,ほとんどなければ,別にどうかなという気もしますけれども。 ○松井(信)幹事 事務当局としましては,裸傭船については,この民法612条のように,賃貸人の承諾を得なければ,賃借権を譲り渡したり,転貸はできないと認識しておりますので,民法の規定がそのまま適用になって差し支えないと原則としては思っております。もしそれを外したければ,別途特約をしていただければいいという話だと思います。  他方,定期傭船については,そもそも賃貸借とは違う類型として設けますので,民法612条の規定は元々適用がないということになりますので,契約自由ということで,債権契約を別途していただくのは全く差し支えはない,承諾は何ら必要がないということになろうかと思っています。 ○山下部会長 ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。 ○藤田幹事 念のために確認ですが,これは入来院委員の質問に対する答えを聞き違えていなければなのですけれども,今回新たに提案されているのは,従来から更に議論を深め訂正しようとしているところであって,前回の部会資料3に載っていて今回載っていない部分は全部落とすという趣旨ではないわけですね。そこが多分入来院委員の一番確認したかったところだと思うのですが,それはそう理解して,例えば運送契約などの必要な適切なものは,同じようなものを入れたらどうか,あるいはデフォルト・ルールで多少書き込んだらどうかとか,そういったものは全くブランクで残っていると理解してよろしいですね。どうも第三者責任だけは,(注3)を見ると,ややネガティブに今回は提案されているようですが。そのような具合の受け取り方でよろしいわけですね。 ○松井(信)幹事 はい。部会資料3に記載したという方向性については変わっておりませんが,更にそれに加えて何かということがあれば御提案いただきたいという趣旨でございます。 ○藤田幹事 第三者責任については,今回はややネガティブになっておりますね。その上で,そういうものと受け取った上でのことですが,これまでの議論に出たものについて何点か感想を申し上げます。ここで挙がっている規定だけであれば,このようなものだけがあって何の役に立つのかという議論が出るのも分かるのですけれども,その他,従来の部会資料3に書かれていたものもある程度は残るような前提で考えると,全く意味がないような規定とは思いませんので,それらとセットとしてであれば定期傭船に関する規律を残すことには意味があると思います。  その上で,定期傭船のこういう船舶利用に関する契約という形で整理することの性格付けについては,私は箱井幹事が最初に言われた部分に非常に近い印象で,比較的中立性が保たれたような規律なのだと思います。逆に,小林委員の言われたことにはかなり抵抗があります。とりわけ,こういう書き方をすると船舶賃貸借との類似性が強調されることになるという意見に対しては,そのようなことは全くなくて,むしろ船舶賃貸借と違った契約類型を商法が典型契約として認知するということによって,そこの部分にはある程度距離感が置かれたということになるのだと思います。これは山口委員の意見とも関係するのですが,こういう形で規定を設けたら,従来と比べて賃貸借の規定の直接適用はできなくなる。類推適用についても,よほど合理性,必要性が言えない限りは簡単にはできなくなるという程度の効果はあると思いますし,またそれが適切なのだと思います。その典型例の一つが先ほどの転貸などの規律で,ああいうものは,もうこういう形で定期傭船について契約類型を書いて,船舶賃貸借とは違うという類型を典型契約として書いた以上は,基本的には適用がない。定期傭船に名を借りた実質完全な船舶賃貸借のような形のものであればそれはまた話は別に考える余地もあるかもしれませんけれども,そういうものを除けば,典型的な定期傭船であれば,適用がなくなるというのは当然なのだと思います。  最後に,運送契約的な要素が排除されてしまうと言われた小林委員の意見については,部会資料3に書かれていたところで,運送契約の要素のうちの必要な部分の規定というのは何らかの手当を置くといったところがきっちりなされることで対処するべき問題であって,定期傭船の性質決定あるいは規定の置き場所で対処すべきような問題ではないと思います。基本的には,現行の提案が,中立的というか,定期傭船の法的性質論に余り深くコミットすることが少ない,一番無難な提案なのではないかといった印象は持っております。 ○遠藤委員 御提案のイの(イ)のところなのですが,「定期傭船者は,船長に対し,船舶の利用に関する必要な指示(航路の決定に関するものを含む。)」と書いて,具体的にこの例を挙げているのですが,船長さんに対しては,スピードあるいは安全港とか,指示する項目は多々あるので,これだけ1項を取り上げて書くのはいかがなものかなという思いがちょっとありまして,ここで指摘だけさせていただきたいと思います。 ○山下部会長 よろしいでしょうか。  では,今日はまたいろいろな意見が出たかと思うので,それを踏まえて検討していただいて,次のラウンドに続けていただければと思います。  それでは,続きまして「第5 船長の権限及び責任」の部分について御審議いただきます。まず事務当局から説明をお願いします。 ○山下関係官 それでは,「第5 船長の権限及び責任」について御説明いたします。  まず「1」ですが,第3回会議では,海員の雇入れ等に関する船籍港での船長の法定代理権について,実務への配慮を求める意見がございましたが,実務については,部会資料8の8ページに記載したとおりでございまして,一般的に,海員の配乗権は船長ではなく船舶所有者にあるとされていることを前提とすると,商法第713条第2項を削除し,必要に応じて船舶所有者が船長に代理権を授与すれば足りると考えられますため,同項の削除を提案するものでございます。  次に「2」ですが,第3回会議では,商法第705条の船長の損害賠償責任に関する規律の削除に対して,一定の賛意が示されましたが,その後,船長が積荷処分権を行使する場合に限っては,同条の規律を維持すべきであるとの意見が寄せられました。確かに,船長に法定の積荷処分権を存置することとの関係では,その行使の場合につき厳格な責任を維持するという考え方もあり得ますが,他方で,現在では船長個人の責任追及は稀であることや,実際の訴訟での主張立証を想定すると,同条を削除するとの考え方もあり得ますところ,この点についてどのように考えるかを問うものでございます。  なお,運送契約に関する書類の備置き義務につきまして,現在の実務を前提とすると,これを削除することが考えられますところ,この点につきましても併せて御審議いただければと存じます。 ○山下部会長 では,ただいま説明のあった部分につきまして,御自由に御発言をお願いいたします。 ○田中幹事 まず事務局案に賛成ということを述べてから,ちょっと確認をしたい点がございます。まず,船長の権限の部分ですけれども,商法第713条第1項で,船籍港外において船長は航海のために必要な一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する旨の規律がございますが,今回の論議で,同条第2項の船籍港において船長が海員の雇入れ及び雇止めをする権限の規律を削除した場合でも,船籍港外における船長の海員の雇入れ及び雇止めをする権限については維持されると理解してよいかどうかを確認したいと思います。  前回も申し上げましたけれども,加えて,この規律を削除したとしても,実務的には船員法第37条で定められております船長の雇入れ及び雇止め手続に関しての影響はないという理解でよいかどうかということを確認したいと思います。  それから,船長の責任の部分ですが,これも今,事務局から説明がありましたけれども,私の方は前回意見として申し上げましたけれども,非常に重い船長の責任ということと,現代においての船長の雇用の実態等を踏まえて,この商法705条については削除するということで,民法の一般原則より厳格な責任ということについては,非常に過大な責任であろうかと思いますので,削除の方向でお願いしたいと思います。 ○松井(信)幹事 今回の部会資料では,商法713条2項の削除の提案をしておりますが,同条1項については,前回の会議ではこれを維持すべきという意見が多かったものと承知しております。  なお,このような改正をしましても,雇入れ・雇止めの手続に悪影響ができるということは考えてはおりません。 ○山下部会長 よろしいでしょうか。 ○田中幹事 はい,了解しました。 ○山下部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○端山委員 船長の責任を厳格に問うのは今の流れからしていかがなものかという,その事象については全く異論がないのですけれども,この規定を外すとなると,民法の規定が類推適用される。そのときには多分,立証責任は荷主側にあるということになりますね。ただ,ここに書いているように,実際の訴訟では,船長がそれを廃棄したということに合理性があるなり,やらざるを得なかったということを説明するので要らないということなのですけれども,やはり立証責任はぎりぎりのことを言えば荷主なので,荷主はきちんと証明しろと言われたときに,現場にいない荷主がそのことを説明なり証明もできないので,本当にこれがなくなったときに,船長に厳格な責任を問うべきだとは全く思いませんけれども,立証しろといったときに,それは最後は荷主に来るとなると,ちょっと現場にいない荷主にそれを説明しろと言われても困るなと,その決め事をどういう形にすればいいかは全く分からないのですけれども,そういう感じを持っております。 ○松井(信)幹事 理屈の面では立証責任というものがございますが,一般の裁判官の訴訟指揮を考えますと,双方当事者にそれなりの主張立証を求めるということが多かろうと思います。その中で,現に非常事態があって積荷を処分するという事態があるわけでございますので,双方の主張立証を促すという形になり,いたずらに主張立証責任のみで判断が出るというわけではなかろうとは思っております。 ○端山委員 それは懸念にすぎないので,心配するなと理解しておけばよろしいのでしょうか。 ○藤田幹事 今のやり取りを伺っていて一点疑問があります。立証責任が荷主と言われた点ですが,普通は荷主が責任を追及する相手は運送人だと思います。これに対して船長の個人責任を証明責任の助けを借りてまで追及しなければいけないとお考えなのでしょうか。そして荷主にとって船長の過失が立証できないから問題があるとお考えなのでしょうか。荷主が運送人を追及するためには,もちろんそういったことは主張立証しなくていい,物がなくなった,着かなかったと主張すれば,それだけで足りて,運送人側で無過失を立証しなければならない。それに加えて船長の個人責任を追及しようとすれば,荷主側が更に船長の過失を主張立証しなければいけないというのが,この提案だと思うのですけれども。 ○端山委員 そういう意味からすると,船長そのものに対してというのではなくて,最後は運送人に対してきちんと言えればそれでいいという判断なので,ただそのときに,この引き金が船長の行為によって行われたということで,結果としてそのときに船長の行った行為が正しかったのかどうかというのを,この規定がなくなったときに,一体誰が証明すべきことになるのかという趣旨でお話ししたのですけれども。 ○藤田幹事 それは当然運送人側です。それは,この規定があろうがなかろうが,運送契約上は運送人の側で免責事由を主張できない限り責任は免れない。船長の責任に関する規定は全く関係ないと思いますが。 ○端山委員 その意味合いにおいて分からなかったので今お話ししたので,当たり前だろうと言われて,心配するなと言われたので,それについては今理解しました。 ○山下部会長 ほかにいかがですか。この点は2点とも,今の点が了解されたら,御異論は特にないということで,よろしいでしょうか。  では,そういう御了解があったということで,次の作業へ向けて検討していただくということにさせていただきます。  続きまして,「第6 運送人の危険物の処分権」についての御審議をお願いします。まず事務当局より説明をお願いします。 ○山下関係官 それでは,「第6 運送人の危険物の処分権」について御説明いたします。  第3回会議では,運送人の危険物の処分権につきまして,陸上運送や国内航空運送を含めて,運送一般に関する規律とすることを提案する意見等がございました。この点につきまして,部会資料8の9ページから10ページに記載しました陸上運送及び航空運送における危険物の処分の実情を踏まえますと,海上運送におけるものとは異なっており,かかる違いを考慮しないでこれと同一の規律を適用するよりも,具体的な事案に応じて民法第720条の正当防衛又は緊急避難に該当するかどうかを判断することが適切であると考えられますため,その旨の提案をするものでございます。  なお,第3回会議では,人命に対する危害の場合も同様に考えるべきであるとの御指摘がありましたところ,もとより,その御指摘の内容は正当ではありますが,危険物船舶運送及び貯蔵規則の規定や規律の統一という観点を踏まえますと,商法の規定では明示しないことが考えられ,この点につきましても併せて御審議いただければと思います。 ○山下部会長 それでは,ただいま説明のありました部分について,御自由に御発言をお願いいたします。 ○山口委員 国際海上物品運送法11条の危険物の処分のところは特に問題はないのですが,荷送人の責任を定めております,損害賠償請求ができるという規定ですが,11条2項については,この前も危険物の荷送人の責任のところで問題になったわけですが,当然その1項からいきますと,危険物について,その性質までを含めて通知をしなかったときの荷送人の責任の問題が議論になって,無過失責任なのか,あるいは推定された過失責任なのか,あるいは単なる過失責任なのかという議論があったわけです。この国際海上物品運送法11条2項は正にその議論が残るところなのですけれども,それについては事務当局としてはどのようにお考えなのでしょうか。 ○松井(信)幹事 すみません,国際海上物品運送法11条2項についてはどう思うかという御質問の趣旨はどういうことでしょうか。 ○山口委員 つまり,これは無過失責任なのか,通常の契約違反の推定された過失責任とお考えなのかどうかというところです。その損害賠償請求の根拠となる請求原因は何なのか。要するに,危険物を積んだというだけで責任を負うのか,あるいは危険物を積んだことによって過失が推定されて,無過失の立証を荷送人側がすれば損害賠償責任を免れるのかという,そこなのですけれども。 ○松井(信)幹事 まず,陸上運送などについては,前回の議論の結果,また引き続き検討することになったとおりでございます。国際海上運送については,ヘーグ・ヴィスビー・ルールズの解釈が商法の特則になり得るという考え方でございます。  国内海上運送についてというのが今回の部会資料の9ページに書いてある部分ですが,これについては,ヘーグ・ヴィスビー・ルールズと同じような考え方でどうであろうか,国内と国際の海というものを合わせてはどうであろうかといった考えでございます。事務当局として,どちらかといった決め打ちをしているものではございません。 ○山口委員 この前,正にヘーグ・ヴィスビー・ルールズがどうであるかという議論もありまして,増田先生から御指摘があったように,イギリスでは,これは1998年のハウス・オブ・ロードの判決で無過失責任だという判決がございまして,アメリカではセカンドサーキットでそれに従う判決が出ているのですが,まだそれだけでございまして,逆にまた,シビルローといいますか,大陸法の国では,フランスなどを始め,推定された過失責任を維持しているだろうと思われますし,ということは各国の解釈に委ねられているということになるわけですけれども,そういう理解でよろしいのでしょうか。 ○松井(信)幹事 おっしゃるとおりです。 ○藤田幹事 ちょっと山口委員と似たようなことなのですけれども,今,荷送人の危険物に関する責任について立ち入って議論しようとするつもりはないのですが,今回の提案で,危険物について,少なくとも処分権限に関しては海上運送だけの特則を作るという提案をされているのですね。それで,危険物に関する荷送人の責任についても,海上運送であるがゆえの特則を作ることは,このような処分権について作った以上は,できる方向で議論しやすいのかどうかという点の感触を伺えればと思うのです。これまで,運送手段によって荷送人の責任の中身を変えるという議論は余りしなかったですし,どちらかというと,それは抵抗があったようなのですけれども,少なくとも危険物について,処分権についてこういう規定を置いた以上は,そこは差を設けられるのであれば,危険物に関する責任についても,そこは開かれたと考えてよろしいですか。海上運送については荷送人の責任についての特則を考えてはどうかといった意見がかなり強かったものですから。 ○松井(信)幹事 この場で御議論いただければよろしいと思いますが,国内海上と国際海上はそろえることも十分に考えられるのではないかと思っているところであります。 ○藤田幹事 荷送人の責任で,運送手段ごとに,どことどこをそろえるかはともかく,違いが出ることそのものは,特に危険物については,議論する上ではもう余り抵抗はないと考えてよろしいですか。 ○松井(信)幹事 恐らく運送事業者の方から見ると,どの運送媒体であっても,皆さん,危険物に関しては非常に深刻に捉えられると思います。ですので,条約の関係から一定の影響があるというのはともかく,陸・海・空でばらばらに作っていくというのが皆さんの御理解を得られるかどうか,その辺りが皆さんの御議論の焦点になろうかなとは思います。 ○山下部会長 という辺りで御意見はいかがでしょうか。特に分けることについては,今の時点で疑問があるといった御意見はございますか。 ○松井委員 日弁連の部会のバックアップ会議で出た話なのですけれども,もちろん船,それから飛行機は,陸上とは違うということは事実なのですが,海だからといって,安易に危険物を外へ捨てていいのかという議論はございました。太平洋で捨てている危険な廃棄物が東アフリカにたまっていて,漁業ができなくなったので東アフリカの漁民が海賊になったといったお話もありますので,船の場合にも危険物を投棄等する基準のようなものはしっかりお考えいただく必要があるという議論があったことだけ一応お話ししておきます。 ○藤田幹事 私が申し上げるまでもないと思いますけれども,無責任な海洋投棄については,ロンドン海洋投棄条約を始め,そういうものを規律する国際的な取決めがきちんとあるので,そちら側の領域の話で規律されれば十分で,ここで問題となっているのは危ないときに捨てることが荷主との関係で運送人に許されるかという話ですから,ちょっと違った次元の話ではないかという印象を持っております。 ○山下部会長 ほかにございませんか。 ○松井(秀)幹事 念のための確認なのですけれども,例えば,陸上運送で危険物の処分に関する規定を設けないのは,運送人自体に処分権を認めて,かつ,賠償責任に関しては免除するのは,被害状況からして不適切であるとの認識から来ているのかどうかです。つまり,資料の説明を拝読しますと,陸上運送であれば,危険物の処分はしかるべき第三者に委ねることが最も適切であるから,したがって,運送人に処分権を与え,かつ,免責の効果を与えるというのは,過剰な保護であるといった理解をすればよろしいのでしょうか。 ○松井(信)幹事 例えば,国際海上物品運送法11条1項では,危険性を有する運送品で,船積みの際に運送人がその性質を知らなかったときは,いつでも陸揚し,破壊し,無害にすることができるといった規定を設けておりますが,民法720条と比べると,緻密な利益考量が余りされていないという印象を受けます。特に陸上運送では,もう少し緻密な利益考量をした上で,それが正当行為になるのかどうか,これが議論されているのが現行法だと思いますし,それを維持するということも十分あり得るのではないかと思った次第です。 ○松井(秀)幹事 どうもありがとうございます。陸上運送については,恐らくそういうことなのだろうということで理解しているのですが,航空運送の場合は,おっしゃるとおり,実際に飛び立ってしまうと,それを現物処分するのはほとんど不可能であるということだと思うのです。ただ,例えばということで,荷物を積んで,飛行場内を動き始めたのだけれども,そこで危険物が発見されたといった場合,それは陸上と同様の考量をすべきであって,処分される品物とその他の守られるべき利益とのきめ細かな考量をした方が好ましいといった説明でよろしいでしょうか。 ○松井(信)幹事 民法720条の正当行為も,運送人が緊急事態で貨物を廃棄等すること,これは許容していると思われますので,その規定に従って,適切に判断されればよいだろうと思っています。 ○山下部会長 よろしいでしょうか。ほかに。 ○山口委員 陸上運送については標準貨物自動車運送約款に規定がございまして,先ほど御指摘のように,少し弱い表現で処分ができるということになっているのですが,海上についてはこの規定を維持して,陸上運送については,多くの場合,トラック運送の場合は標準貨物自動車運送約款が適用になりますから,その約款に委ねるということを考えているということになりますか。 ○松井(信)幹事 おっしゃるとおり,陸上について規定を設けないで,約款で当事者が決めれば,その約款に従うということになろうと思います。 ○雨宮幹事 国際海上物品運送法11条と同様の規定を設けるとした場合,11条3項では,危険物について「船舶又は積荷に危害を及ぼすおそれが生じた」という限定がされていて,人命に対する危害については,条約に従って規定されていないところ,今回の商法の改正でも規定しないことが提案されています。その理由の一つとして危規則の規定などが挙げられていますが,この危規則の規定により処分できるとしても,国際海上物品運送法は,11条4項で,そのような処分をしたときには運送人は損害賠償責任を負わないと規定していることに意味があると思われます。ただ,これは強行規定ということで意味があるといわれていますから,任意規定である商法の場合,特に11条4項と同様の規定を設けることは意味がないのかもしれませんが,日弁連の事前検討では,あえて条約に合わせて人命に対する危険に関して規定しない必要があるのかといった指摘がありました。 ○山下部会長 ほかによろしいでしょうか。  それでは,今日頂いた意見を参考に,なお事務当局に御検討をお願いいたします。  続きまして,「第7 航海傭船及び個品運送」について御審議いただきます。まず事務当局から説明をお願いします。 ○山下関係官 それでは,「第7 航海傭船及び個品運送」について御説明いたします。  第3回会議では,航海傭船及び個品運送に関する商法の規律の在り方に関し,現代の取引実態に即した合理的なデフォルト・ルールの存置を求める意見や,解除や危険負担について民法との整合性も考慮すべきであるとの意見などがありましたところ,参考資料21は,このような観点から,試みの案として規律の見直しの例を掲げたものであり,御審議いただき,全体について幅広く御意見を頂ければと存じます。 ○山下部会長 それでは,ただいま説明のあった部分につきまして,御自由に御発言をお願いいたします。 ○入来院委員 この資料を頂きまして,ちょっと関係者でいろいろ議論をしたのですが,時間切れになりまして,改めて書いたもので意見を出したいと思いますので,この場ではちょっと申し上げられないのですが,次回の会議までに何とかしたいと思っております。 ○山下部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○鈴木委員 頂いた資料をざっと読んだだけで,ちょっと確認したいことがございまして,参考資料21ですけれども,商法741条に「船積スルニ必要ナル準備カ整頓シタルトキハ船舶所有者ハ」と書いてあるのです。今,一般的に船長の方からこういう通知が出るというのが実務的です。 ○松井(信)幹事 商法741条の関係ですが,741条の「船舶所有者」とあるのは,これは「運送人」という形で表現を改めたいと思っておりますが,実務上,船長が通知を発するということは認識した上で,義務の主体としては「運送人」と書いておいて,実際には船長がされるという理解でよろしいのではないかと思っていたところです。 ○鈴木委員 もちろん運送人がやるのですけれども,船長はその代理として通知を出すと。そうすると,もう一つ,揚げ荷役のときに荷送人に通知する規定がございまして,商法752条です。こちらは「船長ハ遅滞ナク荷受人ニ対シテ其通知ヲ発スル」と書いてあるのです。 ○松井(信)幹事 御指摘の趣旨は承知いたしましたので,現行法がなぜこのようになっているかも含めて,考えておきたいと思います。 ○鈴木委員 よろしくお願いします。 ○遠藤委員 細々した点で恐縮なのですけれども,最初に,部会参考資料21の個品運送について,実態が現行法とずれているとの指摘がございます。商法749条では,運送人は荷送人から運送品を受け取ったときは,その船積み及び積付けをしなければならないと規定されています。現行法は,元々荷送人が行う,いわゆる直積みと称する積み方なのですけれども,実態としては,見直しの例にあるように,運送人の方で全部船積みをする,総積みと呼ばれている積み方が主流であることからそれに合わせるとの提案です。ただ,直積みが全くないということではないと思うので,ただ大半としては個品運送の場合は総積みが多いのではないのかなということでございます。  その観点で航海傭船の方を見ますと,商法747条の見直しの例で,先ほど鈴木委員が言われたところの下の第2号として,「運送費の陸揚げに要する費用の額」を傭船者が払わなければならないとする提案です。これはバースタームを前提とした,要は運送人が荷揚げをするという前提の改正例ではないのかなと思いますが,実態としては,個品運送と比べて,いわゆる荷主が船積み・陸揚げをするFIOのケースも結構ございまして,こちらの方はバースタームとFIOが半々ぐらいではないのかなという認識をしております。そうするとこちらは半分ぐらいは該当しなくなってしまうというところをちょっと指摘をさせていただきたいと思います。 ○松井(信)幹事 今御指摘の商法747条というのは,傭船者の方が自己都合で契約の解除をしたいと申し出た場合の特別なルールでございまして,その場合には運賃の額に加えて陸揚げに要する費用も払っていただくというルールでございます。傭船者の自己都合という点を考慮すれば,それほど不都合なルールではないのではないかと思っているところです。 ○遠藤委員 それともう1点,航海傭船のところの,例えば商法745条とか748条の見直しの例に,新たに,運送賃だけではなくて,それに加えて,「又は損害を賠償して」という文言が追記されているのですけれども,これはどういうケースを想定されて書かれているのか,ちょっと教えていただきたいと思います。 ○松井(信)幹事 現行法は,運賃の額などの定型的な額を基準にして,それを支払って契約の解除をすることができるとなっているわけですが,場合によっては,実損害の額がもっと少ない場合もあり得ると思います。例えば,契約を解除するけれども,別の荷主を見付ける余裕が十分あるような場合が挙げられます。そのような場合には,運賃まで支払わなくても,実損害を賠償して契約の解除をすることができる余地を傭船者に認めた方が良いのではないかと考えたところです。 ○遠藤委員 運送賃ではなくて,それより実損が低ければ,そちらでよろしいということですか。 ○松井(信)幹事 おっしゃるとおりです。 ○遠藤委員 分かりました。 ○松井(信)幹事 民法641条の請負契約のルールが,基本的には損害を賠償して解除をするということになっております。商法では,現行法では定型的に運送賃の額などをベースにしておりますが,運送賃の額よりも実損害が少なければ,それを支払って解除がされたとしても,運送人側は満足であろうという配慮でございます。 ○遠藤委員 ありがとうございました。 ○山下部会長 ほかにございませんか。 ○遠藤委員 先ほどの御回答に関して,逆に振れた場合というのはどうなるのでしょうか。 ○松井(信)幹事 実損害の方が高い場合も,低い方の運送賃の全額を支払って解除することができるという現行法の規律は,そのまま維持されることになります。 ○遠藤委員 分かりました。 ○道垣内委員 これも私が分からないだけなのだと思うのですが,商法745条に関連しまして,発航前に契約の解除をするときには,これは無理由の解除でしょうけれども,運送賃の全額を支払うわけですね。しかるに,発航後においては,運送賃,付随の費用,立替金,停泊料となっており,共同海損には救助は関係ないのかもしれませんけれども,どうして発航前には付随の費用とか停泊料とかは払わなくてよい仕組みになっているのですか。 ○松井(信)幹事 現行法では,商法745条で,発航前には運送賃の半額を支払えば解除ができるとなっており,それに対して商法747条では,運送賃の全額に加えて,付随の費用である関税の費用とか,そのほかにも,発航に伴い諸費用が掛かっているかもしれないので,それも支払う必要があるという趣旨だと思っていますが,御質問の趣旨を取り違えていたら,申し訳ありません。 ○道垣内委員 いや,取り違えてはいないのですが,典型例を考えると分かると思うのですが,例えば停泊料とかというのは,発航前に解除する場合にはなぜ払わなくていいのですか。停泊料は運送賃に含まれているのだということになると,商法753条にどうして別立てにしているのかという感じもしますし。 ○松井(信)幹事 御質問の趣旨は,発航前において停泊料を払わなくてよいのに,発航後では払わなければいけないのはなぜかということですか。 ○道垣内委員 そうです。つまり,無理由解除なのだから,掛かった費用は払いましょうというのであるときに,その掛かった費用において,場合によっては通関費用はまだ掛かっていないかもしれないというのは当たり前の話ですし,発航前においては救助は起こっていないだろうと,それは当たり前の話なのですが,商法745条に関しては,雑にというと語弊がありますが,「運送賃の全額」とだけ書いて,他方で753条はなぜこのように細かいのかというのが私の疑問です。 ○松井(信)幹事 分かりました。碇泊料といいましても,船積期間に対応するものと船積期間経過後のものがあります。後者の場合について,商法741条2項では,船舶所有者は傭船者に相当の報酬を請求することができるとしていますが,これが,商法上にいう碇泊料となります。これに対して,前者のものは,運送賃の合意の中で実質的に計算されており,商法には規定されていません。   ですので,それを前提にすると,商法745条1項では,船積期間を経過していないので,停泊料の話が出てこないということになります。他方,今回改正案で示しているように,船積期間を超えて停泊の合意をして,運送人と傭船者の間で一定期間延長してその間に積み込みますということもございますので,商法753条には停泊料の話が出てくることになります。 ○入来院委員 ここに書いてある停泊料といいますのは,恐らくいわゆるデスデマと言われているものだと思うのですけれども,いわゆる運賃とは別に,特に不定期船の場合には,大体その港に行った場合には何日間停泊するというのを事前に荷主さんと契約して,それを超えた場合には一定額の船のコストの何割とか全額とかと決めて,お金のやり取りをするということが通常行われています。そういうものですので,船がいたからすぐ発生するということはないのですが,ただ,現行の商法745条で発航前には停泊料が発生しないといいますのは,確かに読んでいておかしいので,船に荷物を積んで,船が例えば3日で出るはずだったのに10日いて,そこで解除しますと言われたときに,停泊料が出ないというのはちょっとおかしいかなと思います。ただ,新たな御提案では「損害を賠償して」とありますから,その部分はカバーされるのでいいと思うのですけれども……。 ○道垣内委員 「又は」ですが。 ○入来院委員 そうです。だから,両方になければいけないと思うのです,あるのであれば。ただ,我々は実務ではこの規定は全く使用しておりませんでしたので,気にも留めていなかったというのが事実であります。 ○道垣内委員 結局,だから現行法ですと運送賃の半額とかと縮減していますので,運送賃を基準として考えるという形になっていると思うのですが,そういう限定は理由がないということになれば,掛かった費用の全額を払うということになるのではないかなという気がします。 ○松井(信)幹事 ただ単純に「損害を賠償して」とだけ書きますと,その損害額をめぐって,幾らなのかというのが争いになりやすいと思います。現行商法は,そこを一定の額と定型化することで迅速な商取引というものを考えているのではないかと思いまして,これを並列的に並べたということでございます。 ○道垣内委員 おっしゃるとおりですが,それは発航後も同じではないですか。御検討いただければと思います。 ○山下部会長 これは正に細々した規定で,逐一逐条的に審議しているわけでもないところなのですが,やはりそれぞれどういう規定を置いたらいいのかという重要な問題でございますが,入来院委員の方では,更に実務の方から少し御意見をまとめていただけるということでございまして,その他の点でほかの委員・幹事・関係官の方々からも何かお気付きの点があれば,事務当局の方へ御連絡いただければと思います。そういうことを踏まえて,次の段階で更に御検討いただくということでよろしいでしょうか。  では,この点はそういうことにして,次に進みたいと思います。  「第8 船荷証券等」についての御審議をお願いいたします。まず事務当局から説明をお願いします。 ○山下関係官 それでは,「第8 船荷証券等」の「1 複合運送証券」について御説明いたします。  実務上,陸上運送及び海上運送を一の契約で引き受ける複合運送につき複合運送証券が発行されていますが,これに関する明文の規定はございません。第4回会議では,このような複合運送証券も現に船荷証券と同様のものとして流通しているので,そのような明文規定を設けるべきであるという御意見があったことを踏まえまして,本文1の規律を設けることを提案しております。  次に,「2 船荷証券の不実記載による責任」につきまして,第4回会議では,船荷証券の不実記載による責任についても,商法に規律を設けることを検討してはどうかとの御意見がありましたところ,現行法の下では,このような場合には,一般的には不法行為責任を追及しているものと思われ,裁判実務上,証券取得者における立証責任の負担が過大であるとは必ずしも言えない状況であると思われることに加えまして,船荷証券上の記載全般につき,一律に不実記載による責任に関する規律を設けることが,他の有価証券との均衡や我が国の国法全体の体系上適当かどうかという疑問が残るとも思われます。これらの事情も踏まえまして,船荷証券の不実記載による責任に関する規律を新たに設けることの当否について御審議いただきたく存じます。 ○山下部会長 それでは,ただいま説明のありました部分について,御意見を御自由にお願いいたします。 ○増田幹事 複合運送証券のところについて,質問させていただきます。  まず一つ,素朴な疑問として,陸上運送及び海上運送を一つの契約で引き受けたときで,実務上使われている複合運送証券がカバーされているのかどうかということを疑問に思いました。  もう1点は,この複合運送証券が発行された場合の国際海上物品運送法と,複合運送に関して新しく設けようとしている規律との適用関係はどのようになるという理解の上で,この御提案をされているのかという点です。事務当局の前提をお伺いできればと思います。 ○松井(信)幹事 まず1点目については,航空運送を含む複合運送については,Air Waybillを使っているということのようですので,複合運送証券については,陸上運送及び海上運送という複合運送を考えれば足りると考えております。  もう1点の方は,例えば,複合運送人の責任の在り方については,部会資料の第10の複合運送の部分の規律が適用になると考えており,部会資料11ページで船荷証券に関する規定を準用すると言っておりますのは,具体的には,商法の第767条から第776条までの船荷証券に関する規定,例えば受戻証券性とか,その辺りの規定を国際海上物品運送法と統合したものを複合運送証券に準用するという形になろうと思います。 ○山下部会長 増田幹事,よろしいでしょうか。 ○増田幹事 事務当局の御理解については,よく分かりました。ただ,今,複合運送証券として発行されているものは一種の船荷証券のような理解がなされているのではないかという気がいたしまして,それとの整合性は果たしてとれているのかという点,実務的な理解との平仄というのはとれているのかというのが,若干疑問に思った点でございます。  もう一つ,条約の適用範囲との関係で,ヘーグ・ヴィスビー・ルールズは,船荷証券が発行されたら強行的に条約を適用しなければいけないという発想に立っているものだと思いますので,そのこととの関係で,複合運送証券が発行されたら複合運送のルールが適用されて,国際海上物品運送法が適用されるわけではないという整理をしてしまいますと,恐らく現行法上国際海上物品運送法で強行的に規律されていると思われている範囲よりも,国際海上物品運送法が適用される範囲が狭くなるのではないかといった印象を持っているのですけれども,そうではないですか。 ○松井(信)幹事 まず1点目ですが,これまでの部会の議論の中で,現行商法の船荷証券という概念では,今実務上使われている陸・海の複合運送証券をカバーできていないという委員からの御指摘があったので,そのような御指摘に従いながら,今回の提案をしているところです。  2点目については,この複合運送証券についても,部会資料の第10の複合運送について後に議論しますように,運送品の滅失等の原因が生じたのが国際海上運送であれば国際海上物品運送法を適用することになりますので,ヘーグ・ヴィスビー・ルールズとの関係は特段問題ないのではないかと考えておりますが,いかがでしょうか。 ○山口委員 増田幹事とほぼ同じ質問を考えていたのですが,もう一つ,今の話ですと,船荷証券の記載内容について,商法上の記載内容と国際海上物品運送法の記載内容が違っているわけなのですが,その場合,これは統一をした上でこの複合運送証券の方に準用するということをお考えということですね。それであれば結構かと思うのですけれども,あと,複合運送証券と通常の船荷証券で違うところとすれば,記載内容としては,受取地及び引渡地というのが出てきますので,それだけ付加的な文言として入れていただければと思います。 ○山下部会長 よろしいでしょうか。ほかに,2の点についてもいかがでしょうか。 ○箱井幹事 2の点でありますが,これは長々お話ししましたので,特に繰り返すつもりはないのですが,挙げていただいた例は分かりやすい例だろうと思います,後日付のケースですね。文言証券性でカバーされないというところがあります。私はこの規律の新設に固執するつもりは全くないのですが,部会資料の説明の3(2)のところで様々な疑問点が出されているのに関連して申し上げます。この具体例としまして一番気になるのは,いわゆる補償状を取ってのClean B/Lの発行です。これがかなり行われているのではないかと考えております。これは1920年代からヨーロッパなどでもずっと議論されてきておりまして,実際,フランスの国内法とかハンブルグ・ルールにも直接的な規定が置かれておりますけれども,このようなことが構造的な問題として認識されているということでは,ここで他の証券との関係が課題になるという問題点が指摘されていますけれども,ある程度船荷証券についての特別な規定の必要性というのは説明が付くのではないかと考えております。  特に船積み前の損傷などについて,荷主と運送人とのやり取りでもって無留保船荷証券が発行されますと,揚地で損傷があった場合には,これは運送中に生じたものだと推定されて処理されるでしょう。保険会社からしてみれば,全く払わないでよい保険金を払わされるということになります。通常はそれでも保険代位で運送人の責任を追及するのだと思いますけれども,そうしますと,責任制限その他運送契約上の問題が出てきますので,これは保険者固有の損害ではないかと思っております。これは,通常の実務を否定するわけではなくて,正に不実記載責任,不実記載証券を発行したという場合ですけれども,そういった場合には一定の困難な問題というのが世界的には意識されてきて,それに対する対応もなされているということでございます。そこで,このAnti-date以外にも,そういった問題点についても併せて御検討いただいた上で,やらないならやらないということで決めていただければよろしいと思っております。 ○山下部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。 ○松井(信)幹事 箱井幹事にもう少し教えていただきたいのですが,今の補償状を取ってのClean B/Lの話というのは,船荷証券の文言性の議論では,証券取得者は保護されない類型になるのでしょうか。 ○箱井幹事 もちろん,証券取得者は運送人に対して損害賠償請求ができるということですけれども,結局満額取れない場合が多いと思います。ハンブルク・ルールなどでも,フランス法もそうですけれども,一番大きい問題は責任制限です。いずれも,この場合の責任については責任制限を排除するというような規定になっております。ですから,これも全く別な責任として構成すれば,恐らくそういうことになっていくのだろうと考えます。 ○道垣内委員 誰も興味を持たない点について1点。部会資料12ページの説明の2の2行目の「損害が発生することについての運送人の故意又は過失」という文言につきましては,「故意又は過失」の対象は,損害が発生することについてなのだろうかという理論的な疑問点を感じさせますので,若干修正をして,ごまかしていただければと思います。 ○松井(信)幹事 何と書こうか迷ったところなのですが,何と書いたらよろしいでしょうか。 ○道垣内委員 少なくとも,損害発生についての故意がなくても権利侵害についての故意があれば,損害発生というのは権利侵害の結果の問題だと思います。だから,そうするとここは「不実記載につき運送人の故意又は過失を立証して」とか,ごまかさなければ。そう露骨に書かないでよという,それだけです。 ○野村(修)委員 この2のところの責任に関連する話で,今,箱井先生から出ていた外観上良好な記載に関しては,文言性で処理できるかなと私は個人的には思いましたので,そこはもう少し詰めていただければと思うのですが,この13ページの(注2)のところに書いてある空券の問題なのですけれども,この問題はこの責任を規定しても解決できないのではないかなという感じが個人的には少ししまして,これは元々要因証券ですから,船荷証券そのものの効力が否定されてしまっているのではないかと思うので,船荷証券の記載を引用する,そこから発生する責任規定が適用されるという議論にはならないのかなと,実はよく分からないのですけれども,そこはどうなのですか。 ○箱井幹事 これは正に落合先生が言っておられる不実記載行為そのものに着目した不法行為類似の責任だと考えておりますので,空券の場合こそ使い勝手があるのかなとも思っております。  それから,先ほどのClean B/Lの場合ですけれども,Clean B/Lを発行できる状態で運送品を受け取ったという記載が証券上あった。揚地で確認すると,実際は損害が生じていた。しかも外観も不良であって,これに関連していたということになった場合は,私の理解では,運送中に損害が生じたということの推定が働くということではないかと思うのです。その推定を覆すことは,これは第9条でできないですよね。推定が働くことを覆すことはできないわけです。要するに,船積みの時から外観不良でしたとは言えないわけですから,この推定が生じるところまでは甘受しなければいけないけれども,果たしてその推定をプレシップメントダメージがあったという主張立証で覆すことができないのかというところは,できないとした下級審裁判例もありますけれども,理論的には問題ではないかなと思っております。 ○野村(修)委員 余り議論するつもりはないのですけれども,元々そのprima facie evidenceとして最初にClean B/Lがありましたということを主張して,そこでの争いに関しては文言性の問題という話ですよね,そこは。恐らく今議論していたのは,行き違いになっていたのは,その問題についてこの規定が何か影響するかということについては,影響しないのですよね。 ○箱井幹事 船荷証券上の請求は全然別のもので,それは可能でありますが,その代わり運送契約上の抗弁の対抗を全部受けるということになります。この不実記載責任は,それとは別の,不実記載そのものに着目した責任として構成されたらいかがかなという考えですが,全く必要ないというのであれば,何も固執いたしません。 ○野村(修)委員 分かりました。要するに,船荷証券に係る責任なのか,それとも全く船荷証券とは別個のいわゆる不法行為責任の特則をここに設ける必要があるかというところを整理していただいた上で議論した方がいいかなということで質問したわけなのです。要するに,船荷証券というものを利用して人に危害を加えるという行為が不法行為になるわけですけれども,それについて別途規定を設ける必要があるかが今ここで議論されている話だと理解しています。 ○山下部会長 ほかによろしいでしょうか。 ○入来院委員 今,御議論の中で不実記載の話があるのですが,Clean B/Lを発行する話は実務ではいろいろあるという話があって,我々は文言証券性の話だと思っていたのですが,いわゆるバックデートについては,これは今はほとんどないというか,あるべきではないと思っていますし,空券などは聞いたことがありませんので,学問上の御議論はよく分かるのですけれども,あえて議論する必要があるのかなと思っております。  それから,実際にバックデートがあったとして,今のこの情報化時代に,我々は荷主さんの御希望によって船が入港した間のデートを出しますから,それ以外の日付があった場合にはすぐ分かると思いますので,あえて特別な規定を作らなくても,不法行為で,当然不法であるということは,やる人は分かってやっているはずですから,受荷主の方でも調べればすぐ分かる話ではないかと思いますので,我々としては,この記載でいえば部会資料12ページの説明の2でいいのではないかと思っておりますけれども,いかがでしょうか。 ○石原委員 今,入来院委員のお話があったのですが,実は,空券はあるのです。逆に,日本の場合は,私はこの不法行為の規定でいいと思うのです。最近どこでバックデートや空券発行が行われているかというと,中国とか,韓国とか,中近東とか,あの辺は最初から詐欺目的で盛んに行われています。それで,バックデートについても,実は大手の銀行さんからも御相談を受けたことがありましたが,先に月初めにB/Lを出してしまって,月末に貨物が上がってくるというパターンで,先に金を取ってしまう。逆に,それをやるのが物流業者のサービス行為だと考えている物流事業者は,結構アジアの中で今でも多いのです。ですから,日本ではそういうことはありませんから,私は日本の商法はこの規定でいいと思いますけれども,事例としてはそういう事例があるということだけお話しさせていただきます。 ○山下部会長 ありがとうございます。そういうことも含めまして,なお詰めた検討をお願いするということにしたいと思います。  この点は,ほかによろしいですか。  では続きまして,「第9 海上運送状」についての御審議で,まず事務当局から説明をお願いします。 ○山下関係官 それでは,「第9 海上運送状」について御説明いたします。  第4回会議では,現在の実務のように,海上運送状においてCMI統一規則を摂取するか否かを当事者の判断に任せる方が適切ではないかなどの御意見があったことを踏まえますと,文言性の規律や,これと密接に関連する荷送人の通知の正確性担保義務の規律を商法に設けることは,適切でないと考えられます。  また,海上運送状の実務では,「for the Master」という記載がされることもあるようであり,また,電子メール,ファクシミリやインターネット上で情報を閲覧させる方法なども利用されているとのことでございました。  そこで,本文1から3までのような規律を設けることに留めることが考えられ,これによって,当事者は,取引上のニーズに応じ,船荷証券又は海上運送状のいずれを発行するかを選択し,さらに,海上運送状を発行する場合には,CMI統一規則を摂取して文言性を担保するか否かなどを選択することができるという整理が明確となるものと考えます。  以上を踏まえまして,海上運送状に関して,本文1から3までの規律を設けることとすることにつき御審議いただきたく存じます。 ○山下部会長 それでは,ただいま説明のあった部分につきまして,また御自由に御発言をお願いいたします。 ○山口委員 私は,この3番目の「電磁的方法により提供することができる」ということについては反対でございまして,電磁的方法というのがどういうものかが具体的に特定されていないという問題もありますし,海上運送状というものは非常に船荷証券とよく似た形態のものであるのですが,そういうものが発行されることがやはり海上運送状であろうと思いまして,電磁的なものというのは違うのではないかと思っておりまして,本文第9の3を除いては賛成でございますが,3については,恐らく我々が認識しておりますJIFFAの実務ではやっていないことでございますので,外していただきたいと思っております。 ○松井(信)幹事 この3番目の規律は,両者の合意があることを前提にしているものでございまして,荷送人・傭船者の承諾があるときには,運送人は電磁的に提供しても構わないということなのですが,そのような合意があるという事情の下でも不都合があるということになるのでしょうか。 ○山口委員 実務的にやっていないもので,必要ないかなという趣旨で申し上げているところでございます。合意が将来的に出てくるのであれば,必要な場合も出てくるのかもしれませんけれども。 ○松井(信)幹事 私どもが聞いた範囲では,電子メールやファクシミリ,IDパスワードを用いてインターネット上で閲覧などという手法があるようなのですが,どなたか御紹介できれば,お願いいたします。 ○入来院委員 これも実際,実務ではかなり先行しておりまして,それこそファックス,電子メールあるいはPDFで,もちろんこれはお客様といろいろな細かいことを決めた上でやるのですが,実際に行われていることであるというのはまず間違いないことです。もうちょっと前の時代ですけれども,紙のSea Waybillができても,オリジナルはお客様が取りに来ないで,コピーだけ下さいという時代もありまして,情報だけ流せればいいという実態があったのが,今は更にもっと進化というか変化しまして,本当に電子的な世界だけで,電子的というのは元々あるのですけれども,それを電子的な手段で送るのがかなり増えてきているというのは事実でございます。 ○遠藤委員 署名に関してなのですが,ここで部会資料4のエ及びオのような効力を認めない場合には,署名は不要ではないかということなのですけれども,海上運送状は,船荷証券と違う点は,1点,有価証券性がないというところで,共通点は,運送契約の証拠書類だということと,運送人が貨物を受領したという受領の証という点です。やはり海上運送状は運送人さんが作成されるので,ここは署名を入れていただきたいと思います。  荷送人が作成することになる航空運送状は,モントリオール条約でも事細かく署名を規定しております。運送人用,荷送人用,荷受人用と,署名を事細かく規定しておりまして,加えてロッテルダム・ルールでも,今回は船荷証券だけではなくて運送書類全般を規定することになっているようなのですけれども,運送書類に署名をするという条項があるようですので,ここのところは署名を入れていただきたいと考えております。 ○松井(信)幹事 この事務当局の案も,今やっていらっしゃる実務を否定しようとするものでは全くございません。条約などで,非常に細かいレベルまで決まっているというのは,世界的に統一するという観点から必要なのだろうと思います。ただ,我が国の法制においては,法律に規定すべき事項と実務に委ねるべき事項というものを区別しているというのが最近の傾向でございます。例えば,株主総会の議事録は,当然に署名なり記名押印されるのが通常だと思いますけれども,法令上は義務付けていないということでございます。ですので,法令上義務付けないというだけで,実務上は当然求められるべきであるし,それが証拠の関係で望ましいというのはもっともであると我々も考えておりますので,御理解いただきたいと思います。 ○石原委員 先ほどのSea Waybillの電磁化というか電子化の問題ですが,実は財務省さんが今やっている,関税局が使っているNACCSの中で,盛んに今これを逆にセールスポイントにしています。ですから,やはり,NACCSを使ってできるということを,これをいかに普及させようかということで今関税局の中では盛んにPRしていますので,そういった点からもこれは入れておいた方がいいと思います。 ○山下部会長 ありがとうございます。ほかによろしいでしょうか。 ○松井(秀)幹事 説明の仕方の問題として,確認をさせてください。海上運送状につきまして,商法としては,運送人が海上運送状を発行した場合には,船荷証券を発行する必要がないことを明らかにするために海上運送状の規定が入るということのようです。これは,例えば荷主の側が「船荷証券を発行してくれ」と言ったときに,「うちは海上運送状を出すから,船荷証券は出しません」ということが言えるわけではないわけですよね。やはり,当事者の合意で海上運送状というものを選択するということになるわけですね。 ○松井(信)幹事 13ページの本文1にありますように,荷主側の請求によって,船荷証券を出すのか,それとも海上運送状になるのか,それを決めるという形で考えております。 ○松井(秀)幹事 そうしますと,海上運送状は船荷証券に代替する機能を持っているところ,当事者が海上運送状を必要とする場合に,それを出せることを法律として認めていくといった位置付けになるということですよね。ただ,そのような意味での海上運送状の発行は,今でもこの規定なしにできます。ですので,この点に関する規定を置くことの意味というのは,商法が海上運送状という運送書類を認知して,その型を示し,あとは任意にこれを発行できることを示す点にあるのではないかとも思うのですけれども,この辺りはいかがでしょうか。 ○松井(信)幹事 新しい規定の持つ効果としては,御指摘のような説明の仕方もあろうかと思います。ただ厳密に言いますと,法律事項は国民の権利義務に直接影響する事項ということになるところ,ここでの説明は,現行法は,運送人側の船荷証券交付義務を規定していますが,今後は,荷主の選択によって,船荷証券又は海上運送状の交付義務があるという形になる。そのように思っていたところです。 ○松井(秀)幹事 荷主の側が「船荷証券を発行してくれ」と言わなければ,そもそも船荷証券の発行義務は発生しない。海上運送状の場合も,「海上運送状を発行してくれ」という請求が来て,それに対して発行する義務が生じる。その限りにおいて,権利・義務という形になるのですね。ただ,先ほどのエとオが落ちると,海上運送状の規定はなくてもいいように感じまして,あえて置くのであれば,別の説明の仕方もあるのかと思い,確認をさせていただいた次第です。 ○山下部会長 では,どういう説明をするかをなお詰めてもらいましょう。  ほかにいかがでしょうか。大体こういう内容でよろしいでしょうか。 ○水口幹事 銀行の方からはちょっと言いにくい話なのですけれども,海上運送状とか貨物証券について,e-billとかe-Sea Waybillというのが徐々にもうできつつあって,それで,先ほどNACCSの話も出ていましたけれども,我々の方で今,海上運送状についてe-Sea Waybill化というものの論議を進めようとしています。それで,海外では,先週トルコでICCの会議,銀行委員会があって,それに参加してきたのですけれども,e-billというものについて,かなり突っ込んだ議論が行われていまして,日本ではまだ使ってはいないのですけれども,海外ではもう既に使われ始めていて,これにどうやって対応するかというのは少し議論を重ねなければならないなという感じはしました。それで,e-billも,そのほか国際航空貨物運送協会の方で,これに絡んでちょっと申し上げますと,Air Waybillも,e-Air Waybillというのを作って,それを広げようという動きがありまして,日本の方でも待ったなしでこの対応策を考えなければいけない事態に陥っていまして,もう電磁化というのは時間の問題であると思います。  ただし,ソフトランディングするために,具体的に,コピーでもいいとか,あるいは3通用意しなければいけないとか,そういうものが例えば信用状に明細に書かれていなければいけないとか,そのような形でソフトランディングを図っていくということだと思います。 ○菅原委員 補足だけさせていただきます。今御指摘がありましたように,電子航空運送状(e-AWB)でございますが,IATA主導により,その普及が推進されているという状況があります。必要とあらば,正確な数を後ほど御報告いたしますけれども,IATAとe-AWB契約を締結済みのエアラインは,恐らく現在80社くらい,フォワーダーでは約1000社ございます。そういう意味で,e-AWBは国際的に普及しつつあるといっていいと思います。 ○山下部会長 よろしいでしょうか。  それでは,大体この方向でよろしいかなということかと思います。  それでは,資料8で「第10 複合運送」以下がまだ残っているのですが,これは大分議論が予測されますので,今日はこれぐらいにして,次回に御議論いただくことにいたします。  それでは,次回のことにつきまして,事務当局から説明をお願いします。 ○松井(信)幹事 次回の議事日程等について御連絡いたします。次回は,12月10日水曜日午後1時半から午後5時半まで,東京地方検察庁15階の総務部会議室で開催いたします。次回の議題につきましては,船舶の衝突,海難救助,海上保険,船舶先取特権などの二読を予定しているところでございます。 ○山下部会長 それでは,そういうことで,次回もよろしくお願いいたします。  それでは,本日の審議はこれで終了といたします。本日も誠にありがとうございました。 -了-