法制審議会 民法(債権関係)部会 第95回会議 議事録 第1 日 時  平成26年8月5日(火)自 午後1時00分                     至 午後5時33分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○鎌田部会長 予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会の第95回会議を開会いたします。本日は御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   また,前回まで幹事として出席されていらっしゃいました金子修法務省大臣官房審議官が今回からは委員に,また,関係官として出席されていらっしゃいました村松秀樹法務省民事局参事官が,今回からは幹事にそれぞれ就任されましたので御報告を申し上げます。そのほか肩書きに変更があった方もいらっしゃいますが,御紹介は省略させていただきます。   本日は,大村敦志幹事,岡田幸人幹事,餘多分弘聡幹事が御欠席でございます。   では,本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 事前送付資料として部会資料82-1と82-2を送付させていただきました。それから,委員等提供資料ですが,東京弁護士会の有志の方から「売買における「売主の義務」についての意見書」と題する書面を頂いております。また,水口洋介弁護士名で「雇用に関する危険負担について」と題する書面を御提出いただいております。 ○鎌田部会長 本日は部会資料82-1について御審議いただく予定でございます。具体的には休憩前までに「第1 法律行為総則」から「第18 保証債務」までについて御審議いただき,午後3時25分頃をめどに適宜,休憩を入れることを予定いたしております。休憩後,部会資料82-1の残りの部分について御審議いただきたいと思います。   具体的な審議に入る前に,事務当局から幾つか説明をさせていただきます。 ○筒井幹事 本日の会議に先立つ2回の会議予定日,つまり,7月22日(火曜日)と7月29日(火曜日)につきましては,事務当局の都合により会議を開催しないこととさせていただきました。直前の予定変更となり,大変御迷惑をお掛けいたしました。申し訳ございませんでした。   この会議をキャンセルした理由,そして今回の会議資料におきまして網掛けにより保留されている部分が相当程度あることについての事情を御説明いたします。既に要綱仮案の原案の審議に入った頃から,折に触れて御説明していることではございますけれども,この部会における最終的な要綱案,そして法制審総会の決定を経て答申される要綱につきましては,内閣提出法案として国会に提出することを想定し,それを目指しているものですので,内閣提出法案として提出するのに必要な手続を想定しながら,関係機関との協議などを並行して進めながら,それを踏まえて我々としても部会資料を提示し,御審議を頂いてきたところです。その関係機関との協議などに時間を要した,これは内容的に問題があるかどうかということだけでなく,専ら日程的なことにも左右されたわけですけれども,これに思いのほか時間を要した関係で7月22日,29日の2回の会議をキャンセルさせていただいた次第です。   この間に要綱仮案の原案その1からその3までについての,会議の数にして5回の審議結果に基づいて,それを要綱仮案の第二次案に反映させる作業を事務当局においてしてまいりました。それについては今回の部会資料82-1におきましても,一定程度は反映させているわけですけれども,その反映作業について関係機関との協議がまだ整うに至っていない部分について,これを本日は網掛けの形でお示しております。また,これとは別に,関係機関から問題点の指摘を受け,それについて現在協議中であるものにつきましても網掛けをしております。本日の部会資料における網掛け部分につきましては,部会資料82-1の冒頭にも注記いたしましたとおり,本日の会議におきましては審議の対象外ということにさせていただきまして,次の機会に,それについて修正をした,あるいは修正をしなかったものにつきまして,改めて御審議いただく,このような形で進めさせていただきたいと考えております。   以上につきまして御理解いただきますようよろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 よろしいでしょうか。   それでは,部会資料82-1の「第1 法律行為総則」から「第3 意思表示」までについて御審議いただきたいと思います。本日も事務当局からの冒頭の説明は省略させていただいて,直ちに議論に入りたいと思いますので,御自由に御発言ください。 ○山本(敬)幹事 2点,意見を述べさせていただきたいと思います。   1点目は,「法律行為総則」の取り上げられなかった論点ですが,暴利行為が取り上げられなかったことは非常に残念に思います。ただ,要件を限定しすぎると現在の判例法の到達点ともそごを来してしまうおそれがあり,将来の判例法の形成を阻害する可能性があるという点では,やむを得ないかもしれないと思いました。   しかし,既に判例法としてほぼ確立しているものを明文化することができないというのでは,当初の出発点からしますと,何のための民法改正だったかという思いを禁じ得ないところがあります。濫用のおそれが指摘されていますけれども,実際にそのようなおそれが数の上でどれぐらいあるのか,どれぐらいたくさんあるのかということが実数として分かりません。逆に,実際に救済をしているケースがたくさんあることは,裁判例その他の立法事実としてこれまで示されているところです。仮にこれで実際に救済を要する多数のケースが救済されないことになるのであれば,問題もあるように思います。その意味で,立法政策としては問題が残るものの,最初に言いましたように,限定しすぎる規定を置いてしまうことの問題も非常に大きいことは理解できるということは,最後の機会だと思いますので申し上げておきたいと思います。   もう1点は,第2の「意思能力」に関する事柄です。これは,前回の議論のときに,「法律行為をしたとき」というのでは,契約等の場合を考えますと,どの時点かがはっきりしなくなるおそれがあるという指摘をさせていただきましたが,今回,「意思表示をしたとき」に改めていただいたのは非常によかったと思います。ただ,その上で,規定の仕方が「法律行為の当事者」であり,そして「法律行為は無効とする」という形で,法律行為に関する規定として定められています。これは前回にも少し申し上げましたけれども,規定の性格としては,意思表示の効力の規定ではないかと考えます。  この点に関しては,行為能力制度と合わせる必要を考えられたのかもしれません。これは確か前回にも指摘があったところではありますけれども,行為能力は人に関する制度です。したがって,その人が行った行為である法律行為の効果として規定するのは筋が通っていると思います。しかし,意思能力は,人に関する規定というよりは,個々の意思表示の効力に関する規定だと思います。人に応じて能力は異なりますし,ましてや一時的に意思能力を失うというケースも対象とされています。これを行為能力と同じ並びで規定してしまうのは,体系的に見ても理論的に見ても,大きな問題をはらんでいると思います。   その意味では,規定としては意思表示の効力の規定とし,そして体系的な規定の場所については,ここでの審議の対象ではないということは伺ってはいますものの,内容に関わる問題ですのであえて申し上げますと,これを人に関する規定のところに置くことには反対せざるを得ません。今のような観点からしますと,紛れがないようにするためには,「意思表示は無効とする」という規定に改めるべきではないかということを申し上げておきたいと思います。 ○岡田委員 私も暴利行為に関してですが,前々から申し上げていますように,相談員においては公序良俗と暴利行為は必ずしも一致していないということです。つい最近,国民生活センターの研修,相談員の研修すが,そこで昨年の京都地裁の判決に基づいて,暴利行為を認定したというのがあったそうです。受講した私の周りの相談員は,常に私が審議会の経過を話しているものですから理解できたらしいのですが,大方の相談員はよく分からないような様子だったといっていました。今後,これが取り上げられなかったとしても,是非,弁護士ないしは研究者の方々に,少なくとも相談員に暴利行為というのが判例で確定しているのだよということを知らせていただくようお願いしたいと思います。 ○能見委員 「意思能力」についてですが,私も山本幹事の御指摘に基本的に賛成したいと思います。その上で,若干の補足ですが,意思能力は本来,意思表示に関する効力に関連する問題なので,直ちに法律行為の問題になるわけではありません。その意味で法律行為の無効と直結するかのような位置づけには,違和感を感じます。ただ,民法全体を通じて言えることなのですが,意思表示と法律行為の区別が曖昧なところがあります。例えば錯誤があると意思表示が無効になるのですが,その結果,法律行為の効力はどうなるかという部分が日本の民法典では余りはっきりしていないのです。今回の民法改正でもそこははっきりしていなくて,恐らく意思表示が無効になると法律行為も無効になると考えていると思いますが,そこがどういうロジックで導かれるのか分かりませんが,最後は法律行為につながっているのだと思います。このような意思表示と法律行為の関係と同じような問題がここにもあるのではないかという気がいたします。結論としては意思能力の問題は意思表示を無効にするとして,その上で,意思表示が無効になると法律行為はどうなるかの問題は,先ほど言ったように錯誤などにも共通する問題なので,どこかにその点を明らかにする規定が置ければいいと思いますが,そのような規定を置かないのであれば錯誤と同じように考えるということでいいのではないかと思います。 ○中田委員 意思能力については当初,効果を無効にするか,取消しにするかについて議論がありまして,最終的に無効にするということになったと思います。その議論の際にも,意思能力というのは意思表示がされた時点に着目して,意思表示の効力の問題として捉えるという見方と,意思能力を欠いている人の意思表示であるということに着目するという見方があり,両方の捉え方を考えて上でどういう記述がいいかということを検討した結果が現在のものだと思います。   今回,「意思表示をした時」としたことで,表現が精緻になってきたわけなんですけれども,逆に射程が限定されるという面も出てきていると思います。他の規定との関係が問題となるわけですけれども,今回の案では意思能力についての規定が数えますと五つあります。現在の第2の「意思能力」のほかに,第3の4(3)の意思表示の発信後の意思能力の喪失,第3の5(1)の意思能力の受領能力,第5の1(3)の無効行為の原状回復,第27の5の契約申込者の発信後の意思能力の喪失です。それぞれの規定の表現が微妙に違っておりまして,それぞれ意味があるのだろうと思いますけれども,意思能力というのを広く捉えて規律を置こうとしているのだと理解いたしました。   このほかに先ほど行為能力とは別だということがございましたけれども,13条の保佐人の同意を要する九つの行為がありますが,その中には厳密な意味での法律行為に当たらないものもありますが,意思能力がない場合に,それも無効になるのではないかなと思います。これは解釈かもしれませんが。   それから,代理行為の瑕疵について第4の1の規定がありますが,そこでも意思無能力の取扱いをどう考えるか。ここは議論の余地があると思います。  これらの規定の関係を考えますと,ひょっとしたら意思能力を有しない者の行為は無効であるという上位規範があって,それぞれの規定はその具体的な現れだという理解もあり得るかと思います。ただ,第2の「意思能力」の規定は一般性を持ち得ると思いますので,その位置付けについてはもう少し広い目で見て,「第3 意思表示」とは独立させたほうがよろしいのではないかと私は思います。 ○鎌田部会長 ほかに第1から第3までについての御意見は。 ○岡委員 私も暴利行為について3点,申し上げたいと思います。暴利行為がこの最終段階で落とされたことについて大変残念でございます。法務省さんがこういう決断をされたということですので,その点については仕方ないのかなと思う一方,今後に向けてどういうことをしたらいいのかというのを少し考えてまいりました。   まず,一つ目でございますが,かなり議論をしていろいろな蓄積があったわけですから,それを今後にどうしていくのかということをこの部会なのか,法務省なのか知りませんけれども,そういう今回は諦めたけれども,今度,どうするんだということについて,今後のための一問一答とかいう本ができるのかどうか分かりませんが,そういうことを考えないと,今回,余りにも残念な論点が多すぎますので,それについて,是非,何か法務省としてもしていただきたいということが1点目でございます。   その中で,今回の82-2を見ますと意見対立があり,合意形成が困難だから諦めたと書いておりますが,ある意味,立法過程で合意を絶対条件としますと,特定の団体に拒否権を与えるようなことになりかねないと思います。今回の暴利行為についてもかなり多数意見が多かった中,少数の強力な反対意見があって合意形成が困難という結論になったように思われますが,これを絶対条件としますと本当に拒否権ということになってしまいますので,それはどうかと思います。説得に説得を重ねた上で,最後,合意形成が困難な場合でも,これからは前に進むべき道があって,そういう立法があってしかるべきだろうと思います。そういうことについて法務省さんが今後,どう考えるかというのを明らかにできるのであれば,明らかにしていただきたいというのが1点目でございます。   2点目について先ほど岡田さんが弁護士と研究者は頑張れとおっしゃいました。頑張るつもりですが,私としてはそれに加えて裁判官にも頑張っていただきたいと思います。下級審の判決例を積み上げて,最後は最高裁の判決が出れば法律改正につながりやすいということですので,裁判官の方々におかれては,是非,このことも念頭に置いて一般論に近いような判決を積み上げていっていただきたいと思います。   三番目でございますが,民法となると全ての利害関係人に共通のルールになるので,なかなか,通りにくい,通しにくいということが今回あったと思います。それはそのとおりだと思います。そうだとすると,消費者契約のルールではかなり局面が絞られますので,今後は可能であれば,消費者契約のところで暴利行為を明文化するということも一つの現実的な道だと思います。そういうことを個人的には期待したいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ほかに。事務当局から何かコメントはございますか。 ○筒井幹事 今の岡委員の発言に対して私の思うところを申し述べますけれども,このような合意形成の方式で民法改正を行うことがよいのか悪いのかということを振り返って考え直す機会というのは,もちろんいずれ必要なのかもしれませんが,今はまずは今回の改正をより多くの方の賛同を得ながら取りまとめて,成果に結び付けることが何より重要であると私は思います。ここまで合意形成の方式で,それも単純に賛否が分かれたから見送るというのではなく,できる限り議論を尽くして,できるだけ合意点を見出す努力をするという形で審議を進めてきましたし,そのような形でここまで何とか到達することができた,その成果を是非まずは結果に結びつける必要があるのだろうと思っております。しかる後に民法についての初めての大掛かりな改正を行ったことを振り返ってどう評価するのかについては,いずれまた検証する機会があってもよいのかもしれません。しかし,まずはこの形で何とか成果を得るところまで努力をしていきたいと私は考えております。 ○鎌田部会長 よろしいでしょうか。   それでは,次に「第4 代理」から「第6 条件及び期限」までについて御審議いただきたいと思います。御自由に御発言ください。 ○潮見幹事 「代理」のところの,「無権代理人の責任」,9番の(2)ウですが,行為能力を有しなかったときという,こういう表現はやや狭いのではないかという趣旨の発言を前回にしたと思います。それに対して御説明も頂きました。その説明を踏まえて,なお,こういう形で維持されたのだと思います。そういうことでありましたならば,これでいくということであるのならば,立案担当に当たった方々の意見,考えということで,一問一答の中にこの前の私が発言したことに対するお答えを是非書いていただきたけませんか。将来のことがありますから,是非,それはお願いしたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかの御意見はいかがでしょうか。 ○中田委員 「第4 代理」の3の(注2)です,3ページなんですが,前回も私ともうお一方から意見があったと思うんですけれども,制限行為能力者について「当該他の制限行為能力者」の代理人を入れないのはなぜかという点について,検討するということになっていたのではないかと思いますが,どうでしょうか。例えば未成年者の父が保佐開始の審判を受けて制限行為能力者になった後で,未成年者の代理行為をしたという場合に,未成年者の母が取り消すことができるのではないか。そうすると,ここは「当該他の制限行為能力者又はその代理人,承継人」となるのではないかと思います。これは前回も出たんですけれども,もし検討していただいたのであれば,なぜ,それを入れないのかについてお教えいただければと思います。 ○鎌田部会長 それでは,事務当局からお願いいたします。 ○金関係官 御指摘いただいた取消権者の範囲の問題につきましては,できれば条文化の作業の段階で対応したいと考えております。この改正項目はある意味では大きな実質改正を伴うものでもありますので,差し当たりこの形で仮案としては提示させていただいて,細かなといいますと語弊がありますけれども,そういった部分については仮案の後に具体的な対応を検討したいと考えております。山本敬三幹事からも,前回,類似の観点からの御指摘を頂きましたけれども,同様に考えております。 ○中田委員 それでは,是非,御検討ください。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。   よろしいようでしたら,「第7 消滅時効」について御審議いただきたいと思います。御自由に御発言ください。 ○安永委員 「第7 消滅時効」,1の「債権の消滅時効における原則的な時効期間と起算点」について申し上げたいと思います。今回の部会資料は,「債権者が権利を行使することができることを知ったときから5年間行使しないとき」としておりまして,部会資料78Aにあった「債務者を知ったとき」という要件が明記されておりません。この点については前回の審議会で「行使することができる」という要件の中に,「債務者を知っている」ことが含まれているということで御説明いただいたものと記憶しております。労働の現場では契約が締結されていない当事者間で,信義則に基づく配慮義務が重要な役割を果たしておりますが,例えば,重層下請構造の末端下請で労働災害が発生したとして,安全配慮義務違反の責任を負う会社が複数存在し,これらの会社が不真正連帯責任を負っているけれども,そのうちの1社がブローカー的ダミー会社であって,その会社名等が判明しないようなケースなどについて,会社名が判明しない1社に関しては判明しない間は本提案によっても時効が進行しないという理解でよろしいでしょうか。念のため,確認をさせていただきたいと思います。 ○筒井幹事 御指摘がありました「債務者を知ったとき」という文言を削った理由については,以前の検討の機会に説明したとおりですけれども,最終的な条文化をにらんだときに,権利を行使することができるということと,債務者を知るということは文理として重複していると考えられるためであって,内容的にそれ以前の案の内容を変更する趣旨ではありません。その点は安永委員の御指摘のとおりであります。   具体的な事案を前提とするお尋ねについては,なかなかお答えしにくいところですけれども,一般的に申しますと,債務者が分からなければ権利を行使することができるとは言えないということと,それから,連帯債務では債務者ごとに時効を考えることになるでしょうから,そういった観点からいえば,御指摘のようなケースについては御心配いただくことはないのではないかと考えます。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○中井委員 今の御趣旨は理解するのですけれども,分かりやすいさという観点から今のような問題をどう考えるのか。ここの問題に限らないのですが,これは例えばということで弁護士会で案が出たのは,債権者が債務者に対し,権利を行使することができることを知ったときというように,債務者に対しという言葉を入れることによって今のことも当然含意されますので,例えばそういう言葉を入れるというのはどうでしょうか。   たまたまここで出たので申し上げておきます。それぞれの箇所で申し上げてもいいのですが,従来の法令の言葉に戻っている部分が幾つかある。審議の過程では分かりやすさから,新しい言葉を使ったにもかかわらず,今回,現行法の言葉に戻っている理由が分かりやすさの観点から考えるとどうなのか。現行法で既に使われていて,おおむね理解が一致しているから,それではいいではないかということではないかと推測しますが,今回の改正の意図が分かりやすさという観点もあったとすれば,なお,その点についてはお考えを頂きたい,今後の条文化作業の中でお考えいただきたい。   既に審議は終わっていますけれども,心裡留保という言葉についても,そのまま維持されています。弁護士会でもこれは分かりにくいから,例えばということで真意を留保しているのだから,真意留保としたほうがよほど日本語的には分かりやすいのではないかというような意見もあります。その言葉が的確に表現しているのかどうか分かりませんけれども,国民から見れば少なくとも分かりやすいのではないかと思います。そういう観点からも,なお引き続き条文化に当たっては検討していただきたいと思います。 ○鎌田部会長 条文化作業の過程で,十分に御意見を尊重するような検討を続けていただければと思います。よろしくお願いいたします。   ほかの御意見はいかがでしょうか。 ○高須幹事 いよいよ,まとめの段階でございますので,今後の立法へのかけ渡し,要するに引き継ぎみたいなことが気になってまいりました。7ページの不法行為の消滅時効のところでございますが,従前,20年という点について資料等でも除斥期間と捉えるという判例があったという指摘があり,一方で,そうではないという意見,あるいは判例の中にも除斥期間とは捉えない判例があるということも指摘されていて,中間試案の解説は詳しく書いていただいたと思っております。そのような経緯を踏まえて,今回,立法で時効ということが明確になるということは大事なところだと思いますが,今,この時点でもこのことで争っている裁判というのが実務ではございますので,今回の部会の中で時効ということで理解していこうということを,当初から多くの方が,そういう方向でいこうということを考えていたということを改めてここで御確認いただいて,今後の資料等の中でも除斥期間という考え方をこれまでも必ずしも是としてきたわけではないということが,分かるような形で御説明いただければよろしいのかなと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。 ○中田委員 これまでにも何度か出ていたんですが,取得時効との関係についての規律の概要をお教えいただけないかということです。例えばですけれども,164条の中断がありますが,多分,中断という言葉は変わると思うんですけれども,どういう規律になるかといったことでありまして,詳細は無理でも概要をお示しいただければと思いますが。 ○鎌田部会長 事務当局から御説明いただけますか。 ○筒井幹事 要綱仮案が固まった段階における整備的な用語の置き換えに関わるので,今の段階で何か申し上げることがあるわけではございませんけれども,むしろ,問題意識をお伝えいただければ,十分それを考慮して今後の作業を進めていきたいと思います。 ○中田委員 前回は確か7番の「時効の効果」の括弧の中についてどう書くべきかということについて,複数の委員から御指摘があったと思います。今,申し上げた164条についても中断という言葉を残すのか,完成猶予プラス更新というようなことにするかということです。これは取得時効についての規律ということで整備問題ではあるんですが,取得時効と消滅時効を通じての概念を考える上では,そちらの規律を見ておいたほうがいいのではないかという趣旨でございます。 ○鎌田部会長 よろしいでしょうか。   ほかの御意見はいかがですか。 ○佐成委員 「第7 消滅時効」の1の(注)のところなんですけれども,前回は【P】ということだったかと思います。商法第522条の削除ということで,御趣旨はこのまま単純に放置しておくわけには多分いかないということなんでしょうけれども,考え方としては二つあり得て,削除するという考え方と現行法の客観的起算点から5年というのを商事としては残すという考え方で,後者のような選択肢もあり得るかと思うんです。その辺について内部ではまだ十分コンセンサスが得られていないところがありまして,この方向でもいいのではないかという感触も得てはおりますけれども,そうはいってもまだこのまま商法第522条を単純に削除するということで通るかというのは,私自身も疑問に感じているところがあるので,もうちょっと留保させていただけないかなということであります。 ○鎌田部会長 事務当局からコメントはございますか。 ○筒井幹事 佐成委員の御発言はそのとおりで承知いたしました。それに関連して一言,申し上げますと,前回の資料でここに【P】を付けておりましたのは,商法の改正についてこの部会の正式な決定の対象である要綱なり要綱案なりに書き込むのかどうかという点については一考が必要であり,そういう理由で留保させていただいたものです。今回その【P】を取りましたのは,消滅時効における商事消滅時効,それから,法定利率における商事法定利率,この二つについては今回の民法改正と関連する非常に重要な課題ですので,これを部会の議論の外に置くのは適当ではないだろうということで,最終的にこの部分は(注)の形で盛り込むことを御提案しているところでございます。 ○鎌田部会長 ほかに消滅時効関連は。 ○潮見幹事 確認なんですけれども,仮に時効とか,あるいは除斥期間の規律が改正されて施行された場合,その後,この新法が適用の対象になる債権というのは,施行日以後に生じた債権と理解してよろしいのでしょうかということなんですが,それでよろしゅうございますか。 ○筒井幹事 今,御質問があった点は時効に限らず,いわゆる経過規定の在り方に関わる問題であり,要綱仮案の決定後に私どもが条文化作業を行う際の主要な検討課題の一つであろうと考えております。時効に関しては潮見先生の御指摘のように債権の発生時で適用関係を分けるのか,あるいは,まだ期間が満了していないものについて新たな規律を適用するという可能性も,選択肢としてはあり得るのだろうと思いますので,それらの点などを勘案しながら,今後,検討し,必要に応じてまた御相談することになろうかと思います。 ○潮見幹事 ちょうどドイツで2001年に債務法の大改正をやったときに,その後,一番混乱を来したのが時効であり,更にその部分でもう一度,改正をするような手間も掛けざるを得なかったというような事情もございましたので,是非,その辺りは慎重に検討していただければと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○中井委員 先ほど高須幹事が発言し,今,それを受けての潮見幹事の発言だったのではないかと思います。筒井幹事から今後,事務当局で慎重に検討していただけるということを伺いました。もちろん,慎重に検討していただきたいと思いますけれども,その意味は,法制審での審議対象ではないということも,含意されているのかなと思います。その点は了解するとしても,今回の改正が例えば今のような問題についてどのように適用されるかは,国民にとっても影響の大きいところですので,できることならば,仮案が確定した後,正式に要綱案に確定するまでまだ半年余りあると聞いておりますので,その間,適宜な段階でこの部会を開催していただき,その点についての意見交換なり,審議ができように,是非,取り計らっていただきたい。   取り分け,先ほど高須幹事からありました20年,除斥期間を時効に変える,果たして変えたのか,従来の解釈の確認なのかもしれないですけれども,仮に変えたとしても,適用問題として,この時点で20年経過していない債権に適用されるのか,改正後に新たに発生する債権に適用されるのか,そうだとすると20年後にしか,この改正の意味がないということにもなりかねません。是非とも意見交換,審議とは呼べないのかもしれませんので,意見交換をする機会を設けていただき,弁護士会としてもそれまでに一定の考え方を整理して,御提示もしたいと考えておりますので,お考えいただきたいと思います。 ○筒井幹事 そのような御要望は十分受け止めていきたいと思います。中井委員から整理していただきましたとおり,従来,法制審におきましては経過措置あるいは他法律の整備等については審議の対象ではないという扱いをしてきたと思います。ただ,全く議論をしないかと言えば,これまでの法制審の部会でも非常に重要な経過規定については,御意見を伺う機会を持ったこともあったと思います。それは内容次第だろうと思います。この部会に関しましては,要綱仮案を一旦決定し,しかる後に最終的な要綱案を決定するというプロセスを用意しておりますのは,その間に条文化作業を進めて,最終的な条文案に近い形で要綱案の決定を頂くことを目指したいということによるものですので,要綱案の決定の段階では経過規定についてもある程度,御報告をし,場合によっては意見を伺う機会を持つということは,あり得ることだと思いますので,その点はまた検討したいと思います。   実質的にどのような経過規定が適当なのかということについて,私どもの検討作業はもう少し早い時期に進めていくことになりますので,むしろ,私どもの方から,部会の会議の場に限らずに御意見を伺うことがあるかもしれませんし,また,部会メンバーの方から御意見などをお寄せいただくことも有益であるように思います。そのような形で,実質的な意見交換などを進めながら,今後,最終的な取りまとめに進めていけたらよいなと考えております。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。 ○山本(敬)幹事 確認だけをさせていただければと思います。「消滅時効」の6の「時効完成猶予及び更新」の中の「(8)協議による時効の完成猶予」についてです。これは,催告によって時効の完成が猶予されている間に行われたアの合意,つまり,協議による時効完成の猶予に関する合意だと思いますけれども,これは時効の完成猶予の効力を有しないとされていますが,前回,かなり強く異論が出たところだと思います。むしろ,時効完成の効力を有するものとしてよいのではないかという意見も強かったところが,当初の案のままになっているのはどうしてなのかという御説明をしていただいたほうがよいのではないかと思いますが,いかがでしょうか。 ○鎌田部会長 それでは,事務当局から説明をお願いします。 ○合田関係官 先ほど御指摘いただいた点について,確かに前回,異論もありましたけれども,本来の時効期間の満了前に協議の合意をするという制度は,それなりに合理性もあるのではないかという御意見も他方でございました。今回,こういう新しい制度を一から作るということですので,時効の完成猶予の期間というのは,制度としてかっちりと小さ目に作ったほうがいいのではないかということもありまして,前回の提案のまま維持をしているということになります。 ○鎌田部会長 よろしいでしょうか。 ○山本(敬)幹事 実際に使われる立場に当たられる方々から,実践的にも認めてほしいという御意見がかなりあったところですが,納得されたと理解してよろしいのでしょうか。 ○高須幹事 すみません,納得したわけではないということだけ発言したいと思います。御趣旨は分かるんです。今はない制度ですからどこまでのものとするかということです。今はないものをここまで作るということで,今回の内容でも,それだけでも前進だと思っておるんですが,実際に使う場面を想定すると,催告をすると催告の期限内になってしまうと,その後,結果的に話合いに発展したとしても,催告の期限内という制度設計になっていますという場合の使い勝手が余りよくないのではないかという部分は残ってしまいます。どうせ新しい制度を作るなら,そのときも話合いの効力が認められるというところまでの制度にしておいたほうが,ここは多分,使いやすいのだろうという感触は持っております。そういう意味では,事務当局の方の御指摘のように,かっちりとした制度を作るということに何も反対しているわけではなくて,今,ない制度を一歩前進させるという意味ではよろしいと思っているんですが,山本先生がおっしゃったようにどうせ作るならもう一歩ということは,あってもいいのではないかと実感しております。 ○道垣内幹事 前回も申しましたが,原案に賛成です。 ○鎌田部会長 ほかによろしいですか。   それでは,次に「第8 債権の目的」から「第10 履行請求権等」までについて御審議いただきます。御自由に御発言ください。 ○山本(敬)幹事 第8の1の「特定物の引渡しの場合の注意義務」なのですが,3行目に「契約その他の当該債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意」とあります。これを「及び」でつなげられるものかということがかなり以前に議論になりました。この第8の1以外のところは網掛けが掛かっているのですが,第8の1に網掛けが掛かっていないということは,「及び」でつなぐということは確定させるという意味なのかどうかという点だけは確認させていただければと思うのですが,いかがでしょうか。 ○筒井幹事 御指摘があった「及び」については,少なくとも要綱仮案の段階ではこのような形での取りまとめをお願いしたいという趣旨でございます。 ○山本(敬)幹事 既に申し上げたことの繰り返しになってしまうので,余りこの場では意味がないのかもしれませんけれども,「及び」でつなぐことは,以前の議論でもありましたように,前段の「契約その他の当該債権の発生原因」によって決まっている場合であっても,後段の「取引上の社会通念」に照らして,それが変更される可能性というのが出てくる。そのような意味合いでこの場での議論が進んでいたわけではないにもかかわらず,このような文言にすると,そのような文言解釈の可能性が生まれてくる。それを止めることはなかなか難しいだろうと思います。   その意味で,「及び」でつなぐという方法は,この場での議論を十分反映していないし,危険性もあるという点で問題であるということを申し上げました。何回か前の会議のときにも,中井委員からだったと思いますけれども,この点についてはもう一度,「及び」で本当によいのかどうか,弁護士会としては反対まではされないのかもしれませんけれども,しかし,本当にこれで適切なのかどうかは検討する必要があるということをおっしゃったと思います。私自身は,今,申し上げた危険性がどうしても気になります。「及び」で確定させるというのは,ほかの部分がまだ確定をしていませんので,少なくともこの場で決めることはしないでいただけないものかと思います。 ○鎌田部会長 よろしいですか,事務当局からは。 ○金関係官 簡単に趣旨だけ説明いたしますと,「及び」でつないでいるのは,契約その他の債権の発生原因と,取引上の社会通念との双方を考慮して定まるという趣旨でありまして,言い方の問題かもしれませんけれども,先に契約その他の債権の発生原因に照らして定まったものが,取引上の社会通念によってゆがめられるというイメージではなく,初めから双方を総合的に考慮して定まるというイメージをしております。反論にはなっていないと思いますけれども,大きく見れば,中間試案の取引通念に照らして定まる契約の趣旨という表現とそれほど変わらないものであると考えております。 ○鎌田部会長 ほかの御意見はいかがですか。 ○佐成委員 先ほども出ておりましたけれども,第9の「法定利率」のところの1の(注)のところに,商法第514条を削除ということが提案されておりますが,これについてはほぼ異論はないと思います。既に今日の時点でも内部ではこれに賛成という意見も頂いておりまして,この方向性は全く異論はないかなと感じております。 ○岡委員 今の商事法定利率の削除のところですが,弁護士会で議論したところ,大きな反対はございませんでした。ただ,82-2の2ページの記載についてはかなり異論がございました。二つあると思いますが,商人と非商人は同様の運用利回りを得ることも可能であると書かれている点につき本当にそこまで言えるのかという異論がございました。商人と非商人では資産運用規模が違うので,運用利回りが違うというのがぱっと印象に浮かんでくることからくる違和感かもしれませんが,市場が整備され,情報入手が可能になったので運用利回りの違いはより小さなものになったと,ここまでは言い切らないほうがいいのではないかという意見が強うございました。   加えて,この法定利率が運用利回りなのか,調達利回りなのか,そこもかなり議論があったところだろうと思います。調達利回りでいけば非商人と商人の間ではかなり違いがあると思われますので,もう少しみんなが納得できるような理屈を考えていただきたいという意見が多うございました。   それから,その次の「また」以下の段落の固定利率とする場合には,一種のフィクションとして可能だが,変動利率にすると認め難いと書いていますが,そもそも,法定利率は変動利率になってもフィクション,あるいは政策的に決める部分があるわけですから,このフィクション性が変動と固定で違うというところについても異論がございました。それほど異論があるので何でみんな反対しないんだろうということは意外なんですが,変動利率にして差を設けるのは,技術的にも政策的にもなかなか無理なんだろうなと,最終的には約定金利で合理性を担保していくことになるので,約定がない場合の最後の利率については一本でいくしかないのかと,こういう意見が基本的には強うございました。是非,分かりやすい,もう少し納得感のある理屈を書いていただきたいという要望でございます。 ○筒井幹事 御指摘をありがとうございます。今回の理由付けにつきましては,商法514条の削除を正当化する方向で,やや強目に書いている面があるようにも思いますので,御指摘を踏まえて今後の説明ぶりについて改めて考えてみたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。   よろしいようでしたら,次に「第11 債務不履行による損害賠償」から「第14 受領遅滞」までについて御審議を頂きます。御自由に御発言ください。 ○安永委員 14ページ,第13の「危険負担」,その2の「反対給付の履行拒絶」について申し上げたいと思います。今回の案では,部会資料79と同様に民法536条2項の規律についてその法律効果に関しては,「債務者は,反対給付を受ける権利を失わない。」とされている部分を,「債権者は反対給付の履行を拒むことができない。」と改めるとされております。   しかし,この点につきましては,労務供給契約において,債権者の責めに帰すべき履行不能の場合は,債務者は報酬請求権を有することをより明確化するために,「債務者は,債権者に対し反対給付を請求することができる。」との記述に改めるべきだと考えます。  この点,部会資料79では,536条1項の対象とする「両当事者の責めに帰すことのできない事由による履行不能」の場合は,債権者は解除権を有しており,履行不能による契約の解除が可能であると同時に危険負担の条文を適用することも可能であるとの重複が生じるので,その相互関係を理論的に整理するため,「履行拒絶できる」という方法が採用されているという御説明があります。   しかし,2項の対象とする「債権者の責めに帰すべき事由による履行不能」につきましては,債権者に帰責事由がある場合には債権者に解除権がありませんので,このような問題は生じません。したがって,1項に平仄を合わせて「債権者が反対給付の履行を拒絶できない」という表現にしなくても,「債務者が反対給付を請求できる」という条文で問題はないのではと考えます。  併せて中間試案では536条2項について,「反対給付の請求をすることができるものとする」という表現が採られておりましたが,履行拒絶権構成に最終提案がなった経緯と,履行拒絶権構成で「実質的に現行民法536条2項の規律を維持できる」,すなわち,「報酬請求権を根拠付けられる」とお考えの理由についてお聞かせを頂ければ有り難いと思います。 ○鎌田部会長 では,ただいまの点について事務当局から説明をしてもらいます。 ○金関係官 まず,中間試案では536条2項に相当する規律として,反対給付の履行を請求することができるという表現を用いていたことに関する御指摘につきましては,中間試案では,536条1項に相当する危険負担の規律を削除することとしていましたので,そのことを前提として,つまり536条1項が存在しない状態で,536条2項に相当する規律を表現するという観点から,反対給付の履行を請求することができるという表現を用いておりました。ところが,536条1項の危険負担に関する規律を削除するという案については,パブリックコメントなどで反対があり,最終的には536条1項を削除するという案に代えて,536条1項の効果を反対給付債務の消滅ではなく履行拒絶に改めるという案,債務者の帰責事由を要件としない方向で改正される契約の解除との制度間の重複を避けつつ,しかし536条1項の削除案に対する批判にもこたえるということで,そのような案が採られることになりました。そうしますと,536条1項の規律としては,当事者双方の帰責事由によらない履行不能の場合には反対給付の履行を拒絶することができるという表現を用いることになりますけれども,それとの関係で,536条2項は,条文上,536条1項の要件を満たさない場合という表現がされているところですので,536条1項の履行を拒むことができるという表現に対して,2項では履行を拒むことができないという表現を用いるのが法制上も自然であるという観点から,現時点ではこのような表現になっております。   次に,そのような表現を用いると,特に雇用などの場面で,従来は536条2項が反対給付債権の根拠規定として機能してきたはずであるのに,改正後はそうではなくなる可能性があるのではないかという趣旨の御指摘も頂きました。その点につきましては,前回の会議で詳しく申しましたとおり,536条2項に相当する第13の2の(2)の文言を素直に読めば,債権者の帰責事由によって履行不能となったとき,雇用の場面で言えば使用者の帰責事由によって労働者の債務が履行不能となったときは,使用者は反対給付の履行を拒むことができない,報酬の支払を拒むことができないと明確に書いております。もちろん,現行法の536条2項の趣旨やそれに基づく解釈論が様々存在し,それを尊重すべきであることは当然ですけれども,少なくとも実務上の結論としては,改正後の条文の文言上明確に報酬の支払を拒むことができないと書いておりますので,この改正案を前提としても,536条2項は従前のとおり,雇用の場面における報酬債権,反対給付債権の根拠規定としての機能を果たすことになると考えております。もちろん,書き方については引き続きよく検討する必要があると考えておりますけれども,事務局としてはそのように理解しております。   また,これも前回申し上げたことで恐縮ですけれども,現行法の536条2項は,反対給付の権利を失わないという表現を用いています。この権利を失わないという表現は,ともすれば,既に発生している反対給付債権を失わないという場面でしか機能しない規定であるようにも読まれかねないものであると思います。しかし,それでも現在の実務は,雇用のように労働者の債務が履行されて初めて報酬債権が発生するような契約類型についても,536条2項の規定を適用しています。そのこととの関係で言っても,今回の反対給付の履行を拒むことができないという表現は,雇用などの場面で536条2項が労働者の反対給付債権の根拠規定としての機能を果たす上で,現行法の536条2項と比較して何らかの後退をもたらすようなものではないと考えております。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。 ○山川幹事 基本的な意見は前回に申し上げたとおりです。今の安永委員の御発言の若干補足のようなことで,それから,今の金関係官の御説明へのコメントですけれども,14ページの第13の2の(1)(2)は,今の表現ですと前半に関係官から御説明がありましたように,1項の履行拒絶の構成と2項の一対一の関係がある意味で非常に明確になりすぎているといいますか,1項は履行拒絶という効果の発生を認めると御説明もあるとおりで,2項の場合は履行拒絶という効果の発生を阻害するというのが第一の機能で,第二の機能は請求権が発生するという,この二つの場面を(2)は定めているということですと,むしろ,一対一対応の表現にしないほうが規律の内容を正確に表しているというような感じがいたします。現行法より後退しないかどうかという問題よりも,むしろ,現行法の規律ではっきりしない部分,しかも請求権の発生根拠という基本的な部分をより明確にするというのがこれまでの議論だったように思います。   明確にする仕方は536条2項の条文の問題,それから,雇用の節で規定を設ける等,やり方はいろいろあるわけですけれども,更に考えるとすれば,624条1項のただし書を設けて,ただし,536条2項による反対給付の請求は妨げられないということも,どこに置くかの問題ではあるんですけれども,一つの選択肢としてはあり得るかなと思います。つまり,624条については履行期,支払時期の問題のほかに債権の発生根拠の問題としても読めると,それで,これまでの議論の中ではノーワークノーペイのような規定は設けないということになったので,反対給付請求権の発生根拠に関して,624条1項にただし書を設けるというようなことも,もし,ほかに案がないということでしたら考えられるかなと,思い付きですけれども,考えた次第です。   もう一つ,最後になりますけれども,前回,雇用の章のところで反対給付の請求権の根拠を明示することに対して,法制上の問題というよりも実質的な問題として例えば有期雇用の解雇の場合に,賃金債権をそもそも発生させるのがよいのかという御説明がありました。理論的にはそういう疑問が生じてくるかもしれないけれども,運用上,そんなことは余り問題にならないという発言をしたところですけれども,考えてみると,この問題は恐らく賃金債権の発生の問題というよりも,そもそも,そういう場合に解雇を無効として,賃金債権の問題とするのが妥当かどうかという御疑問になるのではないかというような感じがします。それは要するに解雇について無効という構成を採るべきかどうかという問題につながる。これは現在,労働政策の中でもいわゆる金銭解決の問題として議論されているということで,それは労働政策上の問題として検討すべきではないかと思ったところです。   以上,補足いたします。 ○潮見幹事 私からもお願いですけれども,先ほどから安永委員,それから,山川幹事がおっしゃったような方向でもし考えられるのであれば,考えていただけないかというところが強うございます。ただ,536条2項にこのような一般的な先ほどの安永委員の御提案を入れるということについては,なお,ちゅうちょするところがございます。その意味では,山川幹事がおっしゃられたようなところで雇用のところに規定を置いて,それで実際に問題だとされている部分についても,それほど問題なく解決ができるということであるのならば,そして,それが法制執務的に問題がないということであるのならば,何か雇用のところで工夫できないかというところをお願いしたいと思います。   金関係官がおっしゃっていることは,非常に私はよく分かるところがあるので,余計にそう思うところでございまして,現在の民法536条2項でも,おっしゃったとおりで,反対給付を受ける権利は失わないと書いていて,別にこれが反対給付請求権の発生根拠になっているわけではありませんけれども,現在の規定はまだ反対給付を受ける権利を失わずというところなので,かろうじて引っ掛かりますけれども,履行拒絶という形を採る場合にはちょっと遠くなるのではないのかなという感じがして,そう思った次第です。   ついでにもう一つですが,536条1項の冒頭部分で,前回,松岡委員,山本敬三幹事,それから,私の3人の連名で意見書を書いたところでいろいろ御説明をさせていただきましたが,中身はお分かりになっていただけたということで,この前,御発言がございました。この書き方で書かざるを得ないということで,当事者双方の責めに帰することができない事由という形で書き出されたのだと思いますが,書くのであればせめて債務者の責めに帰することのできない事由というように書けないものでしょうか。従来の伝統的な危険負担の定義をそのまま使うのであれば,債務者の責めに帰することのできない事由による履行不能という形で,十分に従来の考え方というものが表現されているのではないかとも思うところがございまして,もし,御検討いただけるのであれば御検討をお願いしたいと強く希望いたします。 ○金関係官 ありがとうございます。検討いたします。ただ,前回の実質的な議論は一旦おいて,主張立証責任との関係でのみ念のため申しますと,潮見幹事から御指摘いただいたように,債務者の責めに帰することができない事由によってと仮に書いたとしても,536条1項の適用を主張する側が債務者の帰責事由によらない履行不能であることの主張立証責任を負うという前提ではないと思いますので,そうしますと,主張立証責任の対象になっていないのになっているような書き方になるという問題はなお生じることになると思います。そういった点も踏まえつつ,そもそも実質的な点についても御指摘を頂いている論点ですので,慎重に検討したいと考えております。 ○潮見幹事 1点だけ,すみません,短く申し上げます。私が申し上げたのは,別に主張・立証責任というところを書けというわけではなくて,むしろ,この前のお返事ですと分かりやすさ,制度の一般への理解のしやすさということを考えた場合に,この種の書き方の方が好ましいのではないかというような趣旨で御回答いただいたと思いましたので,そうであれば主張・立証ということを一歩離れて書いたとしたら,むしろ,先ほど我妻先生以来といったら叱られますけれども,債務者の責めに帰することのできない事由による履行不能と書いたほうが分かりやすいし,今までやっている危険負担の普通の定義にも相応するのではないのかなと思って言っただけですので,それ以上の意味はないということだけ御留意願います。 ○鎌田部会長 関連して。 ○山本(敬)幹事 分かりやすさの観点から,このような文言を維持されたのだろうという推測は,もちろん,前回の議論からしてはいたところですが,そのような観点と同時に,前回の議論では,解除制度との平仄が指摘されていたと思います。つまり,解除の場合は,債務者の責めに帰すべき事由によるかよらないかに関わりなく解除することができるというのが,今回の改正の大きな眼目の一つだと思います。   ところが,履行拒絶の場面では,債務者の責めに帰すべき事由によらないということが,主張・立証責任がどちらかは文言どおりではないのかもしれませんけれども,少なくともここで債務者の責めに帰すべき事由による,よらないということが要件として立てられますと,債務者の責めに帰すべき事由によるときには履行拒絶はできないということになるはずです。しかし,その場合に解除をすることは,解除の規定によるとできるはずです。そうすると,履行拒絶はできないときに,では,解除するということで解除ができてしまうとすると,何のために「債務者の責めに帰することができない事由によって」という要件を履行拒絶で立てるのか,分からなくなってしまうという問題が指摘されたと思います。その意味では,解除制度との整合性をきちんと考えるならば,そして誤解の余地のないようにするのならば,「当事者双方の責めに帰することはできない事由によって」というのは,削除したほうがよいのではないかという指摘でした。   今の解除制度との平仄が合わないという点については,結局,どう理解されてこの文言を維持されたのかということをお聞かせいただきたいところです。潮見幹事があえて口に出されていないところを口にするのもどうかと思いますが,これはむしろ誤解の余地を残すのではないかという心配がありますので,お尋ねさせていただければと思います。 ○金関係官 債務者に帰責事由がある履行不能の場合に,債権者が536条1項による履行拒絶をすることができないのは相当でないという御指摘ですけれども,債務者に帰責事由がある履行不能の場合には,債権者は填補賠償請求権を取得しますので,それとともに債権者が536条1項による履行拒絶権,この履行拒絶権は反対給付の履行請求を棄却に持ち込む機能を持ちますけれども,債権者の側に填補賠償請求権とともにこの履行拒絶権が与えられることになりますと,債権者としては,填補賠償を満額請求しながら,自らの反対給付債務の履行は永久に拒絶できるということになると思います。少なくともそのように読まれるおそれがありますので,それを回避する必要があることなどを考えて,このようにしております。債権者が536条1項による履行拒絶ではなく,契約の解除をしますと,填補賠償を満額請求できないことは明らかですので,そのような問題は生じない,したがって填補賠償請求権と解除権の双方が債権者に与えられることには何ら問題がないわけですが,536条1項の履行拒絶権と填補賠償請求権の双方が債権者に与えられることには,そのような問題があると考えております。   前回,潮見幹事からは,填補賠償請求の問題と536条1項の問題は次元の異なるものであるという御指摘を頂いておりますので,その点については十分に踏まえているつもりではありますけれども,ただ,やはり実務的には両者を切り離すことはなかなか難しいとも思われますし,現に前回の部会では岡委員がその趣旨のことを指摘されたように思います。それこれ踏まえまして,債務者に帰責事由がある履行不能の場合については,前回も申しましたとおり,填補賠償請求権と同時履行の抗弁権,この両者をもって処理するのが,現行法の下でもそのように取り扱われていることもあり,改正後もそのような取扱いでよいのではないかと考えております。   前回,そのように申し上げたことに対して,山本敬三幹事からは先履行の合意がある場合にはどうするのだという趣旨の御指摘もありましたけれども,ただ,それは現行法の下でも同じ問題が生じ得ることでもありますし,債務者に帰責事由がある履行不能の場合に関する現行法の下での取扱いを変更してまで,契約の解除と536条1項による履行拒絶との平仄を合わせる方向での改正をするよりも,ある程度,現行法の下での取扱いを前提としながら,新たな制度を付け加えるという方向での改正をする方が,全体としてみれば分かりやすいのではないかということを考えております。 ○山本(敬)幹事 最後の機会だと思いますので申し上げますけれども,そのような細かい解釈論を誘発するのがよくないのではないかと思います。危険負担に関するこのような制度を残すとしても,シンプルに解除制度と同じような解決になるということが明確に示されるほうが,余計な問題がなくなると思います。今,挙げられた例でも,履行拒絶権を行使している場合に,填補賠償が果たして解除の場合と違ってよいのかという点は,解釈論として疑問の余地があると思います。その意味では,今,指摘されたような場面を考えたとしても,債務者に責めに帰すべき事由があるかどうかに関わりなく,履行拒絶を認めるということでシンプルにしてしまうほうが,後で悩まずに済むのではないかという思いをなお禁じ得ないところです。 ○中田委員 2点,あります。   1点は,雇用のところに536条2項に相当するような規定を置くという御提案ですが,もし,その方向であれば雇用以外の役務提供契約についても同じ問題が出てくるのではないかと思いますので,併せて御検討いただければと思います。というか,元々,そういう案があったのを変えて現在のような形になっているわけですので,それを踏まえて更にどう考えるのかということだと思います。   もう1点は,今の金関係官の御説明の中で,同時履行の抗弁について言及がありました。以前にもそういう御説明があったんですけれども,その御理解は填補賠償請求権と反対給付債権とが同時履行の関係に立つということだと思うんですが,それは533条の適用があるということでしょうか,それとも類推適用でしょうか。と申しますのは,533条を準用するという規定が幾つかあります。解除の場合についてなどです。それとの関係でその解釈をどう位置付けるのかというのは,理論的には別の条文を置くべきかどうかということも含めて問題となるかもしれませんので,併せて御検討いただければと思います。 ○鎌田部会長 御指摘の二つの点については事務当局に検討してもらうということでよろしいですか。 ○岡関係官 今,検討いただけるということだったので,発言の時期が遅れてしまったんですけれども,536条2項ですが,当初,文言が変わっても解釈は変わらないんだという御説明を頂いていましたので,どうしても改正できないのなら,そういうことを一問一答なり,コンメンタールでということも申し上げようかなと最初は思っていました。ただ,今日,山川幹事から雇用の方にいろいろと入れ方もあるという御意見もありましたし,ほかの委員・幹事の方の何人かの方から検討すべきという御意見がございましたので,是非,引き続き御検討いただければと思います。 ○中井委員 安永委員から問題の提起があったことについて幾つか意見が出ましたが,本日,水口弁護士の個人名で意見書を出させていただいたのは,この論点に関するものです。参考に配布させていただきました。念のために追加して申し上げておきます。まず,536条2項については,今回のような取りまとめについて弁護士会としては反対をしない。請負,委任,雇用との関係で,中田委員から雇用について考えるなら,請負,委任についても考えてはどうかという御示唆がございましたけれども,その点については私としては慎重にしていただきたい。請負,委任については今回,削除になりましたけれども,その方向に賛成したいと思います。   その上で,雇用については山川幹事からも御示唆がございましたけれども,これに代わる規定を置くことは十分に検討に値するだろうと思います。これは前回,申し上げました。重ねて理由は申し上げませんけれども,請負,委任とは構造が違う。雇用については,日々,労務の提供をすることによって,日々,労働報酬請求権が発生する,それを債権者の事由で履行できないわけですから,日々,発生して問題はない。したがって,雇用の場面についてのみ,特則を置くということは理論的にも支障はないでしょうし,現実的解決ではないかと思います。従来の判例の平仄とも合う。そういう方向での検討を支持したいと思います。 ○筒井幹事 いくつか御発言が続きましたので,一言,コメントを申し上げますが,雇用について御指摘のような規定を設けることについては,中田委員から御指摘がありましたように,請負,委任についても同様の規定を設ける必要があるのではないかという問題があり,それについては,今,中井委員から御指摘があったような審議の経過があって設けない方向になったという経緯がございます。ですので,重ねての御指摘がありましたので,十分受け止めてもう一度考えてみようとは思いますが,そういった審議の経緯に照らしまして,それほど前のめりに検討するというものでは決してないということもまた,御理解いただければと思います。 ○中井委員 蛇足かもしれませんけれども,仮に雇用のところにそういう規定を設けることができないとなったときには,危険負担の説明において,これが決して労働の分野において従来の考え方を変えるものではないということを明確にしていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。 ○山本(敬)幹事 少しだけ戻るのですが,第11の4の「履行遅滞中の履行不能」についてです。内容というよりは,主として証明責任に関わる事柄なのですが,気になりますので指摘させていただきたいと思います。  現在は,債務者がその債務について遅滞の責任を負っている間に,当事者双方の責めに帰することができない事由によって,その債務の履行が不能になったときは,その履行の不能は債務者の責めに帰すべき事由によるとみなすとされています。これは要するに,不能についての帰責事由に原則として関わりなく,債務者が遅滞の責任を負っている間に不能になれば,債務者に履行不能についても責めに帰すべき事由があったものとみなすという趣旨の規定だと思います。そうしますと,当事者双方の責めに帰すことができない事由によってというよりは,債務者の責めに帰すべき事由によるかどうかに関わりなくという意味だと思いますので,「債務者の責めに帰することができない事由によって」と書くべきではないというのが1点目です。   もう1点は,原則は,債務者が遅滞の責任を負っている間に履行不能になれば,それは債務者の責めに帰すべき事由によるものとみなされる。ただし,履行不能について債権者の責めに帰すべき事由によるときには,その限りでないという例外になるのではないかと思います。そうしますと,規定の書き方としては,原則は,債務者がその債務について遅滞の責任を負っている間に,その債務の履行が不能になったときは,その履行の不能は債務者の責めに帰すべき事由によるものとみなす。ただし,履行不能になったことが債権者の責めに帰すべき事由によるときには,その限りでないというのが,規定の使われ方とその意味を明らかにする上でも,より適切ではないかと思いますが,いかがでしょうか。 ○鎌田部会長 事務当局から。 ○金関係官 規律の中身自体は,今,山本敬三幹事がおっしゃったとおりのことを考えております。履行不能を理由として債権者が損害賠償請求をする場面を想定しますと,債務者の側の抗弁としてその履行不能自体は債務者の帰責事由によるものではないことが主張立証されたとしても,債権者の側でその履行不能が履行遅滞中に生じたものであることを主張立証すれば,それに対して債務者の側でその履行不能自体が債権者の帰責事由によるものであることを主張立証しない限り,債務者は損害賠償請求を免れない,このような攻撃防御が展開されることを念頭に置いております。  ただ,条文の書き方の問題としてみますと,山本敬三幹事がおっしゃったようにただし書を用いて書くのと,現在の案のように書くのとでどちらが分かりやすいかというのは,ある意味では人によるといいますか,法制上の問題でもありますけれども,当事者双方の責めに帰することができない事由によってという表現が出てくる他の箇所とのバランスなど,いろいろな考慮要素があるところです。現行民法の中でも,また今回の改正案の全体を通してみても,当事者双方の責めに帰することができない事由によってという表現は,ある意味ではニュートラルなものとして用いられていて,当事者双方の帰責事由によらないことの主張立証責任があることを示すのではなく,債権者の帰責事由によるとか債務者の帰責事由によることの主張立証責任が反対の側にあることを示す表現であるという説明が一応可能だろうと思いますけれども,そのような方針の下で現時点ではこのように書いているところです。 ○山本(敬)幹事 今,最後の点でおっしゃったのは問題で,書き方と証明責任の所在が一致しないことを言わば一つの約束事として書くというのは,本来の精神からは違うのだろうと思います。分かりやすさという観点からいいましても,債務者が遅滞の責任を負っている間に履行不能になれば,それは債務者の責めに帰すべき事由によるものとみなされる。ただし,債権者に責めに帰すべき事由があるときは,その限りでないというほうが私にはよほど分かりやすいルールではないかと思います。そのようなことを踏まえて御検討いただければと思います。 ○鎌田部会長 よろしくお願いします。   ほかにいかがですか。   それでは,次に「第15 債権者代位権」及び「第16 詐害行為取消権」について御審議いただきます。御自由に御発言ください。   特に御意見はないと思ってよろしいですか。 ○中井委員 今日の審議の仕方では,なかなか意見の言い方が難しくて,前回申し上げて御検討いただいて,結果として変わらなかった部分について,前回と同じことを申し上げるのは意味があるとは思えないんですが,立場上,念のために確認だけさせていただければと思います。「詐害行為取消権」の8の「詐害行為の取消しの範囲」ですけれども,自己の債権の額の限度においてのみという限定はどうかと前回も申し上げました。結果としては維持をされております。重ねてですけれども,直接の引渡請求については確かにそうかもしれませんが,直接の引渡請求をしない場面では一個の行為,これが可分であってもその全部を取り消してもいいのではないかという考えです。余り賛成は得られなかったのかもしれませんけれども,念のため,一応,検討したけれども,こういう理由で維持したと,確認のために御説明いただけないでしょうか。 ○鎌田部会長 よろしくお願いします。 ○金関係官 この論点については,正に政策論として両論あり得るところで,中井委員がおっしゃる方向で立法することももちろんあり得ると考えております。ただ,前回も申しましたとおり,やはりポイントとせざるを得ないのは,100万円の被保全債権しかない者が1億円の弁済を取り消す,直接の引渡しはもちろん100万円の範囲でしか請求できないことを前提にしても,しかし1億円の弁済を全部取り消してしまう,一般論としてこれを認めるような制度としてよいのかどうかという点です。もちろん,中井委員がおっしゃる方向は,そういう問題については保全の必要性の要件で網をかぶせればよいということだと思いますけれども,しかし具体的に100万円の被保全債権しかない者が1億円の弁済をどの範囲で取り消せるのかという点についてははっきりしない,はっきりさせることは不可能だろうと思います。そうであれば,むしろ被保全債権の範囲でのみ取り消せることを原則とする比較的かっちりとした制度を作る方向で立法する方が,全体としてみればよいのではないかというのが,理論的にではなく飽くまで政策判断の問題としてこちらの方がよいという程度のことですけれども,この間の検討の結果です。   これに対しては,例えば大阪弁護士会から頂いている御指摘で,弁済が取消しの対象となるような事案では,受益者が必ず取消し後の強制執行手続に参加してくるので,被保全債権の範囲内でしか取消しを認めないとすると,取消債権者にとって常に二度手間になりかねないという趣旨の御指摘を頂いているところです。確かに場合によっては,詐害行為取消訴訟の認容判決が確定しても,その後に再度取消訴訟を起こさなければならない場面が生じ得ると思いますので,そこは十分に検討もいたしましたが,ただ,そのような場合には,取消債権者には既に被保全債権の範囲内で取消しを認めた認容判決がありますので,そこにいう二度手間は必ずしも致命的な負担になるとまではいえないとも考えられるのではないかと思われます。大阪弁護士会から頂いた意見書には,弁済を取り消された受益者が取り消されるたびにその後の執行手続に参加してきて,取消訴訟と配当が何度も繰り返される事態となるのではないかといった趣旨の御指摘もありましたが,債務者も受益者も経済合理的な人間であることを前提にしますと,そのようなことは実務上は起きない,実務上はそういうことにはならずに穏当で合理的な処理がされるのが通常ではないかとも思われるところです。それこれ考えますと,御指摘の点を殊更に強調して立法するのはなかなか難しいところであるというのが現状です。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。   よろしければ,次に「第17 多数当事者」及び「第18 保証債務」について御審議いただきます。御自由に御発言ください。 ○中原委員 27ページ,「保証人保護の方策の拡充」で,公正証書の作成の点について1点,意見を述べさせていただきたいと思います。保証契約を締結する際に公証人に対する口授の内容として,主たる債務の元本,主たる債務に関する利息,違約金,損害賠償その他その債務に従たる全てのものとなっております。前回の議論では,これは最大値を口授すればいいという話ではございました。しかしながら,前回もお話しましたが,利息については貸出の直前まで決まらないケースが間々あります。例えば固定金利貸出は,貸出し実行日の2営業日前にならないと確定しません。   そして,実際に保証人に保証履行を求める場合には,債務者に債務不履行が生じている状況ですから,通常の利息ではなくて損害金の請求という形になります。したがいまして,保証人の保護という観点からすれば,損害金利率が保証人の責任の上限になりますから,確定しない利息の利率よりもむしろ損害金利率だけを口授の内容とすることで十分かと思いますが,この点はいかがでしょうか。 ○筒井幹事 損害金についての利率が定められるのであれば,それも対象になると思いますが,他方で,保証人として履行請求され得る範囲を認識してもらうという趣旨から,利息についての口授も必要であろうと思います。ただ,その上で,前回の議論の機会に中原委員から御指摘があったように,直前まで利息が定まらないという事情については,当然に考慮されてしかるべきであろうと思いますし,そういう意味では,想定されている範囲の最大値によって公証人の面前での口授が行われ,その内輪で実際の利息の取決めが行われるということであれば,それはこの要件を充足していると考えてよいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがですか。 ○大島委員 同じく「保証債務」のところです。28ページの下の方から29ページの頭にかけてですが,6の「保証人保護の方策の拡充」の中の(2)の「契約締結時の情報提供義務」のについては,以前にも申し上げましたとおり,主たる債務者が保証人に財産や収支の状況などを説明することは当然であると考えており,提案の趣旨は理解ができます。しかしながら,今回の規定は事業会社が債権の履行確保のために行う取引保証についても適用されるものと思いますが,事業会社は主債務者が十分な説明を行ったかどうかを確認する手段を有しておらず,このような場合に保証の取消しを認めることは,事業会社が新たな取引先と取引することをちゅうちょさせる懸念がございます。そこで,このような取引保証への影響を最小限にとどめるため,イで取消しを認める者は主たる債務者が貸金債務の場合に限るなどの方策を検討していただけないかと思います。 ○鎌田部会長 今の点について何かコメントはございますか。 ○筒井幹事 範囲を限定するかどうかというのは,もちろん実質に関わるこの場での議論によることになりますけれども,これまでの審議の経過からいたしますと,必ずしも貸金債務に限らずに適用され得る,その合理性を持ち得る規律ではないかということで,審議が進んできたのではないかと思います。大島委員の御懸念はもっともであると理解できるところがありまして,債権者が金融機関である場合と,必ずしも金融のプロとは限らない事業会社である場合とでは,様々な事情をどれぐらい把握することができるかという点について,差があり得るのではないかという問題意識であろうと思います。その点については,実際に主債務者から事実と異なる説明をされた場合などに保証人が取り消すことができるためには,債権者が知り,又は知ることができたという要件を満たす必要があるとすることによって,適切なバランスをとることがここでは目指されているのだと思います。したがって,この要件が適切に機能することによって,大島委員から指摘されたような御懸念には,対処できているのではないかと考えております。 ○鎌田部会長 ほかに御意見はございますか。 ○中井委員 「第17 多数当事者」の「2 連帯債務者の一人について生じた事由の効力等」のうちの「(5)相対的効力の原則」のところです。このただし書を付けている意味をもう一度,確認しておきたいんですが,中間試案のときには,書き方が更改,免除,混同,時効の完成その他の事由は,当事者間に別段の合意がある場合を除き,他の連帯債務者に対してその効力を生じないものとするという形で,当事者間の別段の合意がある場合を除きという形で規定をされていた。   つまり,免除しても相対効なんだけれども,当事者との間で別段の合意をすれば変えることができますよという,ごく当然の規定だったわけです。この前ぐらいから,(5)のように基本的には他の連帯債務者に対してその効力を生じない。その本文では,当事者間に別段の合意がある場合を除きというのが削除されている。そのかわり,ただし書で,債権者及び他の連帯債務者の一人が別段の意思を表示したとき,とした。この意味は,つまり,当事者間,債権者と債務者Aとの間で免除等の行為をする,他方で債権者と他の連帯債務者Bとの間で別段の意思表示をしたときは,他の連帯債務者Bに対する効力はその意思に従う,つまり,その合意に従う。   こう素直に読めるわけですけれども,そうすると,このただし書というのはこれもごく当たり前のことですね。債権者が免除をしていない他の連帯債務者との間で別段の合意をするわけですから,このただし書にしているのと中間試案で本文の中で,当事者間の別段の合意としていた,そこは明らかに違うんですけれども,ここでただし書を入れた積極的な意味は何なのか,つまり,債権者とAの当事者間とは違う債権者とBの当事者間で違うことを合意すれば,それは当然のことだと実は思うものですから,質問が的確であるかどうかですけれども,このただし書のもう一度,意味を確認しておきたいのです。 ○脇村関係官 私も先生の御指摘を正しく理解できていないかもしれないんですけれども,趣旨としては中間試案と大きく変更しているようなことは考えていません。先生がおっしゃっていたとおり,問題となっている債権者と問題となっている債務者の二人で合意したときについてはその意思に従うと。ここの趣旨としては,一つには例えば免除とか,更改とかした,それぞれのときというよりも,最初に契約した段階で私たちの間では絶対効にしましょうとか,そういったことを合意したときは,そうできるんですよということを明確にしたいということを念頭に置いております。先生の問題意識を正しく私が理解できていないのかもしれませんので,もし,何か不都合であれば,また,御教授いただければと思います。 ○中井委員 私の質問が適切でないのかもしれません。中間試案は債権者と連帯債務者の一人Aとの間について,その債権者と連帯債務者との間で別段の合意をしている場合を除いて相対効ですよと書いていたわけです。ところが今回は当事者間での別段の合意のある場合を除きというのをまず一つあえて省いている。あえて省いていることには余り意味がなくて,単にこれは任意規定ですから書かなくてもいいから省いただけかもしれません。   その上で,次にただし書で入っているのは,当該債権者と債務者Aではなくて,債権者と他の債務者Bとの合意については,他の債務者Bに効力が及びますよと書いているのです。そういう意味では,ただし書に何か積極的な意味があるのかどうかがよく分からなかったわけです。債権者,連帯債務者Aとの間で何らかの合意をした,ただし書で債権者と他の連帯債務者Bとの合意が当然,債権者と他の債務者Bとの間ではその効力に従うとなっているわけで,債権者がAとBでそれぞれ合意すれば,当然,AとBでそれぞれ決まると思うものですから,積極的なただし書の意味付けを教えていただければと思ったわけです。かえって,債権者とAとの合意では,相対効と異なる合意はできないように誤読されませんか。 ○内田委員 中間試案のときには,更改,免除,混同等の当事者の合意を想定していたと思うのですが,そうすると民法のデフォルトルールとしては相対効であるのに,当事者間の合意によって第三者にそれと違った効果が及んでしまう。つまり,他の連帯債務者に効果が及んでしまう。それはおかしいのではないかということで,そこで効果の及ぶ債務者との間の合意がなければ,相対効の例外は生じないとしようということで,こういう規定になったのだと思います。中間試案の後の審議でも,そういう前提で議論していたように思います。 ○中井委員 そうすると,前に,免除のところで岡委員から質問があり,幾つかのやり取りがあって,免除について債権者が連帯債務者の一人Aとの間で免除の合意をしたとき,その負担部分についての絶対効を持たせるように,債権者と当該連帯債務者Aとの間で合意をしても,つまり,負担部分絶対効の合意をしても,それはもはやB,Cに対して効力は及ばない,別途,Bとの間でAの負担部分について免除しますよという合意,Cとの間で別途,負担部分を免除する合意がそれぞれ必要になってくる,若しくは意思表示が必要になってくる。そう理解しなければならないということでしょうか。前回の審議の過程では,Aとの間でも負担部分については可能であると理解したものですから,そこの確認をもう一度させていただけないでしょうか。 ○脇村関係官 問題設定としては連帯債務者A,Bがいるケースについて,債権者とAとの間で和解等で免除等をしたケースを想定しているという理解でよろしいかと思うんですけれども,これまでは,債権者とAとの間でAについて免除した場合の効果についてどうしようかという規律について,ずっと議論をしてきたいと思います。   それで,前回の部会で出た議論は,XがAに対して免除したわけではなくて,全体について免除するケースについてどう処理されるのかという御質問を頂きまして,これは共同不法行為等のケースについて全体債務者の一人に対して,全員について免除する意思でしたケースについては特にほかの人にしなくても,その人に対する意思表示でいけるのではないかという議論がありましたので,そういったものが今回の規律,相対効にしたケースについてもどう影響するのかという御質問を頂いて,それに対して私の方から,これまでの議論というのはAについて免除するという意思表示をした効果を議論していたのであって,Aに対して全体について免除する意思表示,つまり,一人に対する免除ではなくて全員に対して免除したケースについては,別途の議論ではないでしょうかと。判例法からすると,今後とも今回のケースでAに対して全員について免除するという意思表示をしたケースについては,全員に対して及ぶということは,可能ではないかということをお答えさせていただいたと記憶しております。   ですので,今のお答えに対して,連帯債務者の一人に対する意思表示をもって全員に対して免除を及ぼすようなことができるかということについては,解釈上,できるのではないかと思いますが,ここで議論をしているのは,一人に対して一人について免除したことを絶対効にするかどうかを議論しているんだと理解しています。一人にしたケースについて先ほどのケースですと,Aについて免除したケースについて事前に債権者とBとの間でAについてのことも,自分の方に絶対効を及ぼしていいですよという合意をしていれば,Aに対する免除であってもBに対して及ぶということは,ただし書でできるんだと理解しております。 ○中井委員 今の説明と内田先生の説明は,符合しているのかどうか。内田先生の御説明によればAとの間の効果がB,Cに及ぶのは不適切だから,B,Cとの間での合意も必要であると,それを明らかにするのがただし書である。脇村関係官の説明からすれば,Aに対する意思の中に全部の免除という意思が含まれていれば,それは妨げられないという御発言のように聞こえたのですが,それは符合しているのでしょうか。 ○脇村関係官 従前議論していましたのは,先ほど言いましたように一人に対してしたことをどうするかという議論だと思うんですが,免除のケースについては正に債権者の一方的意思表示によって全部を放棄できるというものだと思いますので,例えば更改とは少し違うと思うんですけれども,Aに対して放棄します,全員に対して放棄しますということはあるのかなとは思います。そこは免除が少し違うことではないかという気がするんですけれども。 ○道垣内幹事 細かな話で恐縮ですが,逆に細かな話だからこそ簡単に直せることなのかもしれませんので発言します。519条の免除については触らないというのが前提ですよね。そのとき,519条との関係で,Aに対する免除が全員に対するその部分の免除の意思を含んでいる場合に,Aに対してしか免除の意思表示がなされていないのに,なぜ,B,C,Dについても免除が生じるのでしょうか。Aに対する意思表示の内容がAもBもCも免除するよという意思表示の内容であったからといって,当然にはB,Cに対する免除の効果は生じないのではないですか。 ○鎌田部会長 それは免除の意思表示がどういう形になれば効果が生ずるかの問題であって,絶対的効力,相対的効力の問題ではないという御説明と受け取ったんですけれども,そういう趣旨ではないですか。 ○脇村関係官 さようでございます。 ○道垣内幹事 なるほど。 ○潮見幹事 確か私が何か言ったと思うんですけれども,私は脇村関係官の説明で説明がついているのではないかという感じがいたしました。内田委員の説明とも矛盾,そごはないのではないかという感じも併せていたしました。つまり,脇村関係官がおっしゃったように,XがAに対して,あなたを免除するという,そういう意思表示をした場合と,Aに対してほかの人たちを全員合わせて免除するという意思表示をした場合とは違うんだと。後者の場面については今回の規律の対象外であると,それについては解釈に委ねられている,実際に最高裁の先例によれば,全員に対する免除というものを一人に対してしたところで,それはそれとして効力を有するという考え方はあるけれども,恐らく道垣内幹事がおっしゃったような,なぜ,そうなるのと,受働代理でもあるまいしとか,何か,そんな話が出てくるというのはまた解釈論として,その先例に対してどう評価をするかで変わってくるけれども,しかし,先例としてはそうです。でも,それは今回のここの問題ではない。   今回,問題になっているのはXがAに対してAを免除するという意思表示をした場合に,その場合の効果がどうなるのかということであって,Aを免除しますという意思表示をしたからといって,そして,そのときにAがXとの間で,自分に対する免除はほかの人に対しても影響を及ぼすんですよという合意がされたからといって,それがBとかCとか,そこに及ぶかどうかというところは,ここでの規定に従えば,そんなことにはならなないよという,そういうことであって,中間試案以降のお話と言われた内田委員の御説明は,ここでも生きてくるのではないかという感じがいたします。 ○中井委員 そうすると,結局は債権者の免除の意思表示の中身の問題,Aに対する免除だけをしたのか,B,Cにも効果を及ぼすのか,Aの意思表示の中身の解釈の問題として脇村関係官の説明した効果を認めることもできると,こう理解したらいいということですね。 ○潮見幹事 基本的にはそうだと思いますけれども,ただ,恐らく解釈論としては例えばXがAに対して免除の意思表示をしたときに,更にその場面においてXとAとの間で,私に対する免除というものは,ほかのBとかCにも影響を及ぼすんだという趣旨の合意をした場合に,そうしたら,その合意の中にAの負担部分に関して,Bの債務あるいはCの債務を一応免除するという意思が入っているのではないかということは,問題として起こるかもしれません。ただ,これは解釈論でどう考えるかというところに委ねられているのではないかという感じがいたします。 ○中井委員 だとすれば,(5)のただし書の追加がされた経緯も含めて,今のような債権者の意思の中身の問題については,なお,解釈論として残ることについては,是非,御説明いただければと思います。 ○鎌田部会長 ほかには。 ○中田委員 今の御説明で尽きていると思うんですけれども,仮に全員に対して免除の効力が及ぶという場合であっても,それは負担部分についてでありますので,それ以外の分について他の連帯債務者が弁済をし,その分について求償していくということはあり得るわけです。それを除くためには最初のXとAとの間で求償権についてもどうするかということまで,最終的には合意がどうだったかということが問題になるのではないかと思いますが,その辺りは解釈の問題だと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはどうですか。   それでは,よろしければ「第19 債権譲渡」から「第22 契約上の地位の移転」までについて御審議いただきたいと思います。御自由に御発言ください。 ○山野目幹事 債務引受の成立要件の規律の表現のことについて細かなことになりますし,また,法文を起草する段階の問題であるかもしれませんけれども,引受人と債権者との契約によってすることができるという案文で御提示を頂いているところは,もしかすると引受人となろうとする者と債権者との契約となるものかもしれませんから,御検討いただければ有り難いと感じます。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがですか。 ○中田委員 今のと似たような表現の問題かもしれませんが,「債権譲渡」の方なんですけれども,第19の1で「債権の譲渡性とその制限」というところの(1)のイと,(2)で悪意又は重大な過失がある第三者となっています。更に(3)のアでは被供託者として債権者という表現が出ています。これらはいずれも部会資料74Aでは譲受人と表示されていたのですけれども,82-1では第三者になったわけです。第三者としたのはなぜかというと,譲受人だけではなくて質権者を含めるという趣旨なのかなとも思ったんですけれども,もし,そうだとすると,結果としては分かりにくくなっているのではないかと思います。特に質権者が入るとすると,(2)の規律ですと質権者が質権設定者たる原債権者に履行しろと言わせるという規律になってしまうんですけれども,それはおかしいような気がします。質権者については質権の目的財産の譲渡可能性についての議論もあるので,解釈に委ねるという方法もあるのではないかと思います。  現在の466条は債権譲渡禁止特約が元の債権者と債務者との間であっても,その特約は第三者に対抗できないということですから,第三者という表現がぴったりくるんですけれども,今回の規律は譲渡制限特約があっても債権譲渡は有効だというものですので,第三者と書くとかえって分かりにくいのではないかと思いました。これは法制的なことかもしれませんので,私は譲受人と書いたほうが分かりやすいように思いますが,あるいは「譲受人その他の第三者」とするようなことも含めて,分かりやすい表現を考えていただければと思います。 ○鎌田部会長 何かコメントはありますか。よろしいですか。   ほかにはいかがでしょうか。 ○中田委員 「有価証券」に移ってもよろしいでしょうか。第20の1(2)アで手形法の規定の準用について,前回,民法が特別法の規定を準用するというのは,適当ではないのではないかと発言いたしましたが,この点について検討していただきまして,その結果を部会資料82-2の8ページでまとめていただいております。御検討していただいたことに感謝を申し上げます。私自身は依然として準用方式は避けたほうがよいと考えておりますけれども,そこでの理由の第3点に書かれたような技術的制約を考えますと,この段階では原案を受け入れざるを得ないのではないかと思います。ただ,その上で2点,意見を申し上げたいと思います。   第1点ですが,民法が私法の一般法であるという性質を考えますと,民法が特別法を準用することは適当ではないという基本は動かすべきではないと思います。確かに改正前の民法35条2項は,営利社団法人について商事会社に関する規定を準用しておりましたけれども,これは旧民法,旧商法から現民法,現商法に至る法典論争と,それに伴う施行の延期,法改正という流動的な状況の下で置かれた規定でありました。しかも平成18年の法人法改正に伴いまして既に削除されております。それから,商法519条が手形法を準用しているという点ですけれども,これは民法と商法との関係にも関わる問題で,意見はいろいろあると思うんですが,少なくともこの規定があるからといって,民法でも準用規定を置くべきだということには当然にはならないのではないかと思います。今回,民法が手形法の規定を準用するとすれば,それは一方で手形法が国際条約の規定を国内法化したものであるという非常に特殊な地位を占める法律であるということと,他方で技術的制約もあるということによる飽くまでも例外的な取扱いだと理解したいと思います。   それから,もう1点ですが,民法の有価証券の規定は各種の有価証券に一般的に適用される通則的規定なのか,それとも手形法の補充的規定なのかという点であります。私はこの準用方式を採ることによって,当然に後者の見解を採ったことにはならないと考えます。つまり,この準用規定は技術的理由によるものであって,この準用にもかかわらず,民法の有価証券の規定は有価証券に関する通則的位置を占めるというのが私の理解です。もちろん,これとは違う考え方もあり得ると思うんですけれども,少なくともこの点はオープンであって,今後の学説の展開に委ねられているという理解をしたいと思います。   こういった2点の留保の下に,原案に対して異論を唱え続けることは断念するというのが現段階の私の考えです。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。事務当局からはよろしいですか。   ほかに御意見はありませんか。 ○中井委員 「債務引受」の「免責的債務引受の成立」の(2)引受人と債権者との契約によってする場合の規定ですけれども,大阪のある有力委員から,是非,確認をしてほしいという要請があったのでお尋ねします。これは,引受人と債権者が契約をした後,債権者から免除の意思表示をするというのがかつての構成でしたが,その後は免除構成ではなくて事実の通知ということになり,事実の通知については既に契約は成立しているので,債権者からの通知若しくは引受人からの通知,いずれでもその通知によって効力が発生するという案となり,その審議を経て,債権者からの通知のみになったという経緯だと思います。   確認したいことは,引受人と債権者の契約,これが肝心でその後は通知によって効力を生じるとしたとき,この通知は契約が成立したという事実の通知だから,ある意味で誰から通知しても,つまり,債権者からでも引受人からでもいいのではないかという考え方はそれなりに合理性がある,これを債権者だけとすると,あとは債権者の一存であるときに通知をした途端に従来の債務者から新たな引受人に債務の履行主体が代わる,責任主体が代わることになり,そのタイミングは債権者に委ねられる。そういう構成が果たしていいのか。改めて債権者と引受人のいずれからの通知であってもいいのではないかという,こういう質問でした。これは,ここでの審議を経て債権者だけの通知になったとは理解しているのですが,もう一度,債権者に絞った理由について念のために御説明いただければ有り難いと思います。 ○鎌田部会長 それでは,お願いします。 ○松尾関係官 中井委員から御指摘があったとおり,事務当局としてもこの通知については主体を限定する必要はないということで,案を作ったことがあったわけですけれども,部会の中でどのような御意見があったかということの御紹介を申し上げますと,要するに,債務者としては引受人と称する者から免責的債務引受がありましたよという通知があったとしても,その者が真実の引受人かどうかが分からないことがあり,それが本当に免責的債務引受があった上での通知なのかどうかということを判断するのは,困難なのではないかという問題が指摘されたと思います。   債権者からの通知であれば,債務者は債権者を知っていて,その者から通知が来れば,その内容も確かだろうということも担保されているわけですので,通知の主体を債権者に限定したほうが債務者としても安心することができるのではないかという御意見があって,そのような御意見を支持するほうが有力であったと我々は受け止めておりますので,従前の案を修正して通知の主体を債権者に限定したということでございます。   あとまた,中井委員から債権者からの通知を効力要件にしてしまうと,通知の有無によってタイミングやあるいは本当に免責的債務引受が生ずるかどうかということについても,債権者の一存にかからしめられるので,それは適当ではないのではないかという御意見もあったと思うのですが,ただ,それは,通知を要件としたことに伴い生ずる問題であって,引受人を通知の主体に委ねたからといって解消するのかどうかよく分からないところがあります。現行法では,債務者の知らない間に免責的債務引受が生ずることになっているということがあり,それも適当ではないという御意見もあったところだと思いますので,そこは正に政策判断というか,価値判断の問題として通知にかからしめて,債務者がいつ免責的債務引受の効力が生じたのかということを知ることができるようにしておくほうが,望ましいのではないかというような議論があって,このような形にあったと整理をしております。 ○中井委員 審議の経過として引受人からの通知が来たのであれば,それだけで本当に免責的債務引受があったかどうか,債務者としては不安になったりする場面もあるでしょう,そういう意見が出たことは確かそうだったと思います。一般的に免責的債務引受が起こるのは,債務者と引受人との間に,例えば親族であるとか,親子であるとか,何らかの関係があってこそ引受けが起こるわけです。仮に,親族の誰かから俺の方で払ってあげるという通知が来れば,本当にそういう合意が成立したのと確認しさえすれば足りるわけで,あえて引受人からの通知を削除しなければならない積極的理由があるのだろうかという疑問が生じたものですから,そういう意見があったことを重ねてお伝えしておきたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがですか。   よろしければ,「第23 弁済」から「第25 更改」までについて御審議いただきたいと思います。御自由に御発言ください。 ○松岡委員 しつこいようで申し訳ございませんが,弁済による代位について2点,質問させていただきます。   前回,私は欠席して意見書を出しましたので,同趣旨の発言を潮見幹事からもしていただいたところですが,39ページの10の(2)のウの部分でございます。第三取得者の中に括弧を入れて,債務者から担保の目的となっている財産を譲り受けた者に限るという表現になっておりますが,これだと転得者は入らないことになってしまって,不適切ではないかと申し上げました。担保保存義務違反が問題になる代位権者につきましては,担保目的不動産の直接の取得者のみならず,転得者も入るというのが判例だと私は理解しております。その点からも,ここの「に限る」は非常に限定的な表現になっていて,このままではまずいのではないでしょうか。そういう指摘があったにもかかわらず,現在,なぜ,この表現を維持されているのかを伺いたいと思います。   もう一つは,保証人と物上保証人を兼ねる者がある場合の40ページの(オ)でございます。私一人が異を唱えているのかと思いましたが,必ずしもそうではなく潮見幹事からもそういう御発言を頂いたように思います。また,この案は,いわゆる保証人一人説を表現していますが,最高裁の頭数一人説とも違います。具体的にいろいろ問題が生じるとの指摘があり,それに対しては有効な反論はなかったと思います。ほかの個所では意見が一致しないと判例のルール化は避けようという慎重な態度が採られているところ,ここでは具体的に問題があるという指摘があるのに,なぜ,案を維持されるのでしょうか。理由を説明していただいて納得できればよろしいので,是非,以上の点を御説明願いたいと思います。   この2点でございます。 ○松尾関係官 まず,1点目で10(2)ウ(ア)の,債務者から担保の目的となっている財産を譲り受けた者に限るという表現は,よくないのではないかということについては,ここは表現ぶりの問題ですので,できれば法文化の際に検討させていただきたいなと思っております。問題意識は十分に受け止めたつもりでございます。   もう1点の,(オ)のルールを書くかどうかということなんですけれども,松岡委員が御指摘のとおり,意見書の中でも具体的に問題が生ずるのではないかというような御指摘はあったのですが,他方で部会の中では,確かに御指摘があったように判例の基準については適当な結論が導けない部分があることはあるが,ほかの基準であってもなおそれぞれ一長一短で,適切な解決が導けない場合があるわけです。全てに適切に対応することができる基準というのは,現状,見当たらないわけではあるのですので,その中で何が一番妥当なのかという観点から議論が進んできたところでありまして,御指摘のような問題というところについては,それはそれであるのだけれども,ほかの基準が採り難い,特に二人説の考え方によれば,実務的に二重資格者の負担が大きくなりすぎるということに非常に違和感があるというような御意見があったことなどを踏まえると,基準としてはまず判例の考え方を立てるべきなのではないかというような御意見があったことなどを考慮したわけです。松岡委員の御意見はもちろん理解はしているつもりなのですが,現在の基準が部会の中ではよいという御意見が多かったのではないかと受け止めて,なお,この案を維持させていただきましたが,ほかに御意見があればまた伺いたいなと思っております。 ○松岡委員 重ねて発言して恐縮ですが,私が主張していた二人説が,実務的に必ずしも十分支持されないことは十分理解しておりまして,二人説をここで規定して欲しいと申し上げているのではありません。ただ,頭数一人説または保証人一人説によるルール化をすると現に問題が生じる場合があり,しかも元になった最高裁判例の事案をよく見ると共同根抵当で極度額が同じ,つまり,不動産価格は異なるが担保価値が同じという事例でしたので,それを一般化することに問題があって,ルール化は時期尚早ではないのかと申し上げたのです。積極的に一人説でルールを明確にしたほうがよいという意見がこの場で本当に多数を占めていたのでしょうか。その点でも私には感覚的に違和感があります。 ○潮見幹事 お名前も出していただいたので,私も同じ違和感を持っております。私も同じことを申し上げたつもりだったんですけれども,別に二人説だとか,あるいはある特定の考え方に立ってルールを設けてほしいという主張をしているわけでは決してありません。このような形で簡素化された基準を示したルールが民法の中に設けられることによって,本来,想定されていなかったような,あるいは場合によっては適切さを欠くようなケースについても,この規定が形式的に適用されて,処理をされるということに対する危惧を強く覚えるからです。   今の松尾関係官の松岡委員に対するお答えを伺っていて少しだけ感付いたことは,要するにここで条文を仮にこのような形で設けた場合であっても,これは比較的シンプルなケースを想定して,この種の規定が妥当すると考えておるのであり,それ以外のものについては,この規定によっては処理をしないというようなことが意味として含まれていたのではないかというように私は思いました。他方,先ほどの御説明ですと,最高裁の判決と同じように他に代わり得る基準がないので,簡易明瞭なこの基準によって問題を処理するのが適切ではないかというような趣旨が,発言の中に若干含まれていたような印象も受けました。   どちらの観点からで考えるのかによってかなり違ったことになるわけでありまして,そうであるならば,その辺りまではっきりしないのに,このような規定をここに設けるということについては,ちょっと危ないのではないかという感じが余計にしてまいりました。しゃべっているのが二人だけなので,それ以外の方々がこれでいいということであれば,申し上げませんけれども,でも,趣旨は御理解いただければと思います。 ○鎌田部会長 関連して御意見はございますか。 ○筒井幹事 原案をサポートする御意見が出ないと,この項目の取扱いが非常に難しくなるのですが。事務当局としてどうしても一定の考え方でまとめなければならないとは思っていないのですけれども,しかし,この項目についてなお異論があるから規定を設けないということで,引き続き解釈に委ねるということでよいのかどうかに関しては,是非この機会に規定を設けるべきであるという方向の意見の方が大勢を占めていたのではないかという理解の下にここまで進んできました。それに対しては有力な異論もありますけれども,しかし,見送るよりもこの機会に規定を設けて,少なくとも典型的な場面についてはルールをはっきりさせたほうがよいという理解をしておりました。この点について最終的な取りまとめの段階でどうすべきかについて,何か御意見をお聞かせいただければと思います。 ○鎌田部会長 いかがでしょうか。実務界からの御意見は。 ○内田委員 実務界ではないのですが,まれにしか生じないような場面であれば,あえて明文化することは避けて,意見も分かれているので解釈に委ねようといういき方もあるとは思うのですが,実務上,しばしば生ずる場面であり,そして,解釈が分かれて混乱していたところに最高裁が一定の立場を示し,それに基づいて,一応,実務上のルールができていますので,これをあえて異なったルールで明文化するということになると,かなり強いサポートが必要ではないかという気がいたします。一応,最高裁のルールができているので,それが現在の文言で完璧に表現されているかどうかは御異論があるかもしれませんが,文言の調整はさておき,最高裁のルールを取りあえず実務上のルールとして明文化する,実務に指針を示すということが支持を受けているという理解で,原案が維持されているものと考えております。 ○中田委員 今の内田委員のお考えとほぼ同じなんですが,厳密に申しますと,このルールについても更に検討すべき点はあると思います。全員が物上保証人と保証人との資格を兼併しているという場合には,保証人として取り扱うのではなくて,物上保証人として取り扱うのが妥当だと思いますが,ただ,そういったことについては解釈で対応できるのではないかと思います。そうしますと,しばしば起きる問題について一応の基本となる方針を決めておくというのは,意味があるのではないかと思います。もちろん,異論があるのに取りまとめていいのかということについては,私自身,ほかのところで非常に思っているところがありまして,今日は言わないで我慢しているんですが,この点については,基本的には,一応,最高裁のルールを原則的な規定として置くということでいいのではないかと思います。 ○松岡委員 それでもなお,どうしても申し上げておきたいことがあります。実務上,しばしば問題になると御指摘がありましたし,私も最初はそう思っていたのですけれども,この部会での実務家の方々の御発言は,それほど問題になっていないとして,提案した問題についても比較的冷淡な反応をお返しいただきました。実際,判例,裁判例も10件ぐらいしかないのですが,多分,紛争にならないだけで実務上は問題があるのだろうと思います。物上保証人の持っている財産が第三者に抵当権付で移転することもないわけではありません。そういうときに,具体的に弊害が出ることを指摘して,それで良いのかと問いかけているのです。   中田委員は,ここで決めるルールは限定的にしか機能せず,全員が物上保証人を兼ねているような場合は別で解釈で対応できるとおっしゃいましたが,どのようにその原則と例外のルールを振り分けることになるのでしょうか。むしろ,例外のルールがないと,先ほど潮見幹事がおっしゃったとおり,原則ルールなるものが独り歩きするするおそれがあります。たとえば説明義務などの条文化を検討したときには,たくさんの裁判例や判例があっても,運用の際に弊害が生じるかもしれないという抽象的な危惧感を主張して条文化は駄目だとおっしゃる方が多いのに,なぜ,ここはそうならないのかが私には腑に落ちないところです。 ○鹿野幹事 私も,松岡委員と潮見幹事がおっしゃったことに共感を覚えます。先ほど内田委員が判例のルールがあるとおっしゃったのですが,最高裁の当該判決をもってそのように一般化できるようなルールを示したものと捉えられるかということ自体,私は疑問に思っておりまして,むしろ事案によっては妥当しないのではないかと思います。当該事件の事案については,その判断には合理性があり,そこにおける判例の考え方が示されたと言えるかもしれませんけれども,これが他の場面においても妥当し一般化できるようなものとは私は考えておりませんでした。   それから,これも今,松岡委員がおっしゃったことですけれども,中田委員がおっしゃったように,こういう場合は別だというような場面が想定されるのであれば,それにもかかわらずこういう形で規律を一般的な形で置くということが果たして適切なのだろうかという点でも,疑問を感じます。しかも,先ほど中田委員がおっしゃったような場面以外にも,このルールが適合しない場合があるのではないかと私は考えておりまして,例外的な場合は解釈に委ねればよいという限度を超えているように思います。それをこのような形で一般的に規律を置くことには疑問を持っております。 ○鎌田部会長 この問題が指摘されて,随分,たつわけですが,この時点で原則なしという状態にすることが妥当かというのも一つの問題意識で,事務当局としては原案を提示しているわけですけれども。 ○岡委員 弁護士を32年やっておりますが,この間,初めてこの問題を真剣に考えました。会社と社長と奥さんとお母さんの4者全員が破産し,経営者と奥さんとお母さんの三人が共有物件を物上保証にしていた事件でした。その物件が任意売却されて物上保証人の価格の按分に基づいて,破産会社のために物上保証を履行していただきました。それで終わりかなと思っていたところ,そのうち,経営者本人だけが連帯保証をしておりました。  今回,このような問題が議論されておりましたので,何か問題があるから調べなければいけないねと思い,昭和61年の最高裁の判例解説を久しぶりに読んで勉強しました。でも,あの判例解説を読む限り,請求権競合説ですか,物上保証人としての責任と保証人としての責任のうち高いほうで請求できるとする説が一番理解しやすいように思いました。でも,中田裕康先生の教科書を読むと,これは理論的だけれども,いろいろ難しいことがあるのでなかなか採用し難いと書かれておりました。判例解説でも,簡明でないので採用できないと書かれておりました。そういうことで,32年ぶりにこういうことがあったので真剣に読んだけれども,あの最高裁の判例は保証人として扱うのがやむを得ないのではないかと,そんなような印象を受けました。   最終的にはこの事件では,物上保証人が三人で財産の価格で責任を負うけれども,経営者本人だけが連帯保証をしていたので,物上保証の財産の価格プラス保証の責任を負っているのだから,その人は全体の3分の1までの責任を負うべきであろうという処理をしました。たまたま経営者本人の持分が3分の1未満でしたので,微々たる金額ですけれども,奥さんとお母さんが経営者本人に代位に基づく,破産届出の処理をしました。結果としては,責任金額が高い方である保証人としての責任を認めたということで,請求権競合説でも説明できる処理です。そういう意味では,保証人として計算するというのを適用はしたんですが,私も32年ぶりに初めて当たった事件でした。その事件に当たるまでは部会で発言をしなかったのは,これがいいのではないかというよりは,ややこしくて余りよく分からないので,法務省さんが言うのだったら,それでいいのではないかという程度の意見でございました。そういうことでまとめると,実務的にあるのかもしれないけれども,真剣に考えることはそれほど多くないのではないかと。結論的には(オ)のような規定を設けなくとも,あの判例を基にケース・バイ・ケースでそれなりに解決できるのではないかというのが実務家としての感想でございます。 ○鎌田部会長 よろしいですか。   ほかの点についての御意見はありませんか。   それでは,ここで一旦,15分間の休憩を取らせていただきます。           (休     憩) ○鎌田部会長 それでは,再開します。   「第26 契約に関する基本原則」から「第29 第三者のためにする契約」までについて御審議いただきたいと思います。御自由に御発言ください。 ○安永委員 43ページ,第26の「契約に関する基本原則」,1の「契約自由の原則」について申し上げたいと思います。労働契約の合意解約のうち,労働者からの退職願という合意解約の申込みの意思表示とこれに対する使用者の受理,すなわち,申込みに対する承諾の意思表示の手続に関しましては,労働者の意思確認というものを慎重に行うために,就業規則で退職願を書面で提出するよう義務付けております例が多くあります。   この点,今回,提起されております条項は,前回の御説明では任意規定であるということですが,1の(2)の「契約の成立には,法令の特別の定めがある場合を除き,書面の作成その他の方式を具備することを要しない」との書きぶりからしますと,強行規定のようにも読めます。本提案が条文化された場合に,それが強行規定と解されてしまいますと,就業規則に退職願を書面で提出するよう義務付けている場合でも,労働者から口頭で合意解約の申込みがされ,使用者が口頭で承諾した場合には合意解約の契約が成立し,契約解除の効果が生じることを心配しております。本提案が強行規定を予定していないのであれば,任意規定であることが明らかな条項としていただくか,若しくは部会資料75Aにありましたように,「契約は,法令に特別の定めがある場合及び当事者間に別段の合意がある場合を除き,当事者の合意のみによって,成立する。」との規律に戻していただければ有り難いと思っております。   それから,その次,第27の「契約の成立」の「3 承諾の期間の定めのない申込み」について申し上げたいと思います。第93回会議を欠席しました際,意見書を提出させていただいたことと重なりますので,ごく簡単に申し上げたいと思います。この項の提案につきましては,退職願の提出後も使用者の承諾の意思表示がなされるまでは,それが信義に反すると認められるような特段の事情がない限り,自由に撤回することができると解している裁判例に抵触するものであり,労働の現場に大きな影響を及ぼしかねないと心配をしております。  このため,本提案の条文化に当たりましては,「継続的契約を合意解約するための申込みについてはこの限りでない」といったような文言を付すなど,退職願の撤回が本提案の適用から除外されるようにしていただければ有り難いと思います。 ○鎌田部会長 関連した御意見はございますか。   では,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○筒井幹事 御指摘のありました第1点,契約自由の原則のところの書面の点ですけれども,この点については従前も御説明したことかとは思いますけれども,当事者間に別段の合意がある場合というのを一つ一つ明記するかどうかというのは,法制上の整理の問題がありまして,この点について現時点では法令に特別の定めがある場合の方だけを書く案を御提示しているということでございます。   しかし,実質的な意味におきましては,安永委員から御指摘がありましたように,任意規定という言い方になるのかどうかは別として,要するに基本的な合意が先にあって,その基本合意において書面要件が定められている場合には,書面を欠く退職願などについては効力を有しない。その結論については全くそのとおりであろうと思っております。したがいまして,そういった別段の合意がある場合を除くということについては,当然のこととして,解説等においてその趣旨を明らかにすることで対処させていただければと考えております。   それから,もう1点の「承諾の期間の定めのない申込み」については,かねてから御懸念の指摘を繰り返し頂いていた点でございまして,93回会議の際にも同様の御指摘がありました。それについてその際,詳細に理由を御説明したとおりですので,繰り返すのは避けようと思いますけれども,御指摘いただいたような労働の分野におけるこれまでの裁判例については,今回の改正とは無関係であり,今回の改正があった後も特段の影響を受けないものと理解しております。その点を繰り返し申し上げておこうと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。   よろしければ,「第30 売買」及び「第31 贈与」について御審議いただきます。御自由に御発言ください。特にないようでしたら次に進みます……。 ○岡委員 先ほど中井さんも言いましたが,7月15日にしゃべった意見について採用されないで,網掛けがない状態で返ってきているのが多々ございます。それについて再度,発言しないのは決して承認したということではなく,積極的な反対まではしないということでございます。その上で,何をしゃべればいいのかというのは非常に難しいところでございまして,前回,申し上げた意見の中で,特に,弁護士会としては契約の趣旨という文言がなくなったことについて非常に危惧感を持っております。今日,東京弁護士会の篠塚先生,児玉先生ほか6名の名前で意見書が出ております。これもその流れの一つでございます。   1ページ目を見ていただきますと,契約の内容という言葉だけですと,合意といいますか,契約の解釈もあるのでしょうけれども,取引上の社会通念あるいは通常性というのがどこにも出てこないという心配でございます。この東弁の意見書を見ていただくと,通常の使用に適する種類,品質,数量を有しないときは推定すると。推定するというやわらかい形でもいいので,通常性だとか,取引上の社会通念だとか,そういう言葉あるいは概念が債務不履行あるいは瑕疵担保責任のところに何とか実現できないかという問題意識が,このペーパーに表れています。後ろの方を見ていただくと,ウイーン売買条約にもこういう文言が使われているのだから,何とか通常あるいは取引上の社会通念というのを,契約の趣旨という文言が実現できないのであれば,こういう形でも何とか考えていただけないかと,この問題提起を再度させていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○山本(敬)幹事 今の点ではなく,しかし,趣旨は似たような感じなのですが,「贈与」の方の2の「贈与者の瑕疵担保責任」について確認をさせていただければと思います。これは前回,かなり立ち入って議論をさせていただいたところで,この部分だけでなく後ろの方でも議論がされました。その中で,私自身,事務局の考えが正確に理解できているのかが少し不安になりましたので,まず,それを確認させていただければと思います。   つまり,「贈与の目的となることが確定した時の状態で引き渡し」となっている部分がそのまま維持されているわけですが,前回の御説明の中では,少なくとも何人かの関係官の方からの御説明によりますと,基本的には,契約の解釈によって確定された品質や数量の物を引き渡す義務を負う。特に種類物の場合はそうである。所定の品質や数量を備えていない物を引き渡しても,特定しないということだったと思います。そうしますと,ここでいう贈与の目的となることが確定した時の状態で引き渡すというのは,履行認容受領のようなものがあった場合には,それで引き渡すということなのかと,その折に言われたことを理解しました。   しかし,それが本当かどうか。本当だとしますと,それが,贈与の目的となることが確定した時の状態で引き渡すということで示されているのだろうか。更に言うと,そのような状態で引き渡すことを約したものと推定するという問題なのだろうかというのが分からなくなりました。つまり,履行認容受領を債権者,このケースでいうと受贈者がしたときには,当然,受贈者はそれでよいと言っているわけですから,目的物としてはそれで確定するということであって,何か推定する必要はあるのだろうかというのが分からなくなりました。まずはその中身をもう一度,確認させていただければと思うのですが,いかがでしょうか。 ○村松幹事 前回,申し上げた考え方について,今,山本先生から御紹介いただいたと思っておりまして,こちらの説明は,今,先生がおっしゃったとおりだと思っております。そういう意味では私が申し上げた理解はそのとおりであったと。前回も申し上げたところではあるんですけれども,そうであるとすると,恐らく贈与については通常,特定物が基本的に念頭に置かれると思われますので,こういった推定規定で違和感はないけれども,種類物の贈与だというのを念頭に置いたときに,どれだけ意味があるのかという点については若干,疑問もあるかもしれない。   そういう意味では,そこも含めて山本敬三幹事がおっしゃったところと同じですけれども,どれだけ意味があるのか,当たり前のような話ではないのかと言われると,そのとおりだと。ただ,ここであえて特定物,種類物と分けた規律を設けるということにするよりは,まとめてこういったデフォルト的な意味でのルールというのを規定として設けるほうが,よろしいのではないかというような御示唆がこの間あったと認識しておりまして,ここでは特定物,種類物を問わずに推定ルールを置くというのが一つよろしいのではないかと考えたということです。 ○山野目幹事 今,山本敬三幹事が内容についておっしゃったところと同じところについてでございますけれども,贈与者の瑕疵担保責任というこの言葉を用いて,部会が決定する文書の最終的な見出しの表現とすることがよいかどうかということについては,私ももう少し考えてみたいと思いますし,少し悩ましいところがあると感じております。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。 ○中田委員 今の点なんですが,表題についてはこれまでの経過を受けたもので,必ずしも内容を反映していないこともあるという理解でおりまして,ほかのところでも同じような問題点はあるんですけれども,今のような理解でよろしいんでしょうか。 ○筒井幹事 御指摘のとおりでして,中間試案以来の見出しをそのまま引きずっている項目もありますし,現状では必ずしも適切でないものがあります。ただ,中間試案の見出しを変えないという方針できているかというと,必ずしもそういうわけではなくて,適宜の手直しをしたところもあるわけでございます。そういう意味では,見出しが適当かどうかというのは必ずしも精査されていない面も確かにあるとは思います。現時点で修整可能であれば考えようとは思いますが,飽くまでも項目名としての仮置きのものですので,基本的にはこのままで要綱仮案の決定をしていただいて,その後,最終的な要綱案として取りまとめる段階で,更に必要に応じては修正をするということにさせていただければと思います。 ○松本委員 今の御指摘と同じような疑問を私も持っていまして,不能という概念と限界という概念が見出しで出てきたり,本文で出てきたりというところがあります。当初の案では不能という概念自体を抹消しようということだったので,限界事由という言葉が一杯出てきたわけですが,その後,なぜか不能という概念が復活したようにも見えるんですが,いまだに限界という用語がいろいろなところに出てきているということで,一体,改正される民法はどういう用語を使うつもりなんだろうと。用語については事務局にお任せくださいという話なのか,私は用語も含めて議論していると理解をしていたのですが,その辺りはいかがなんですか。 ○筒井幹事 用語も任せてくださいと言っているつもりはなくて,用語も含めて御議論いただこうと思いますが,ただ,要綱仮案は条文案そのものではないということを繰り返し申し上げているわけです。限界という言葉があちらこちらにという御指摘ですが,確か「請負」のところに残っていたのではないかと思います。それは修正しようと思いますけれども,ほかにもありましたでしょうか。 ○松本委員 網が付いているから議論しても無駄かも知れませんが,43ページのところ,「履行請求権の限界事由が契約成立時に生じていた場合」というところで,見出しは限界事由なんですが,本文は不能になっているという辺りです。伝統的には履行が不能という概念があって,不能は抹消したいから限界事由と置き換えるんだということで,本文が限界事由になっているというのが昔の考え方,当初の事務局の案だったと思うんです。それがひっくり返って見出しのところに限界事由という用語が出てきているというのは,何か逆の感じではないかと。つまり,先ほどの瑕疵担保の話も,瑕疵担保と言われていたものをこうしましょうということだから,見出しが瑕疵担保というのはそれなりに分かるんです。従来,瑕疵担保と言われていた何条についてこう変えましょうという提案なんだと。 ○筒井幹事 御指摘は分かりましたけれども,その部分は網掛けですので検討中ということです。先ほど申しましたように,見出し以外の本文については基本的に言葉も含めて御議論いただいておりますし,見出しについてももちろん御意見を承ることができればと思うのですが,見出しまで必ずしも精査されていないところが残っているということを先ほど申し上げたわけです。その点について要綱仮案に間に合うようであれば,できるだけ中身に合うような見出しにしようと思いますけれども,その作業にそれほど精力的に時間を割いている余裕がないものですから,その点については少し先の課題とさせていただくことも含めて,御理解いただければと申し上げたつもりです。 ○山本(敬)幹事 用語については今後の課題というのはおっしゃったとおりだとしますと,前回も少し申し上げましたけれども,現行法で改正の対象として上がっていない部分についても,担保責任という言葉が残っていまして,それを改正法においてそのまま使うことは平仄が合わないだろうと思います。その点も合わせて御検討いただきたいと思いますし,もしアイデアがあれば,もちろん,提案もしたいと思います。ただ,改正にとって中心的な部分に係ることですので,取りあえず,これで出して後で詰めるというよりは,可能ならば要綱仮案の段階で出すことができたほうが望ましいのではないかとは思います。 ○鎌田部会長 その点については,是非,前向きに検討していただければと思います。 ○中井委員 「売買」に関して,最初に岡委員が発言した部分は次回の26日までに検討していただけるものと理解をしております。   「売買」の3の「売主の追完義務」の(2)ですが,これも前回,何人かから発言があったのではないかと思いますけれども,その前の段階では単に「買主に不相当な負担を課すものでないときは」だけではなくて,「売主の提供する方法が契約の趣旨に適合し,かつ」という言葉でつながれていたかと思いますが,それが削除されています。   このままだと単純に異なる方法による履行の追完ということになって,売主の提供する異なる方法が,契約の趣旨若しくは契約の内容に適合しているということが,抜け落ちているように見える。契約に適合したもので異なる方法であることは,当然の前提にしているのだと思いますし,前回もそういう説明だったかもしれません。ただ,法文にするときの分かりやすさの観点からすれば,単に買主に不相当な負担を課すというだけでいいのか,その前の表現の方がよかったのではないかということで,前回,意見が出たかと思います。ここは再考の余地がないのかどうか。これが1点です。   もう一つは表現の問題で大変細かなことですけれども,売買の9で,「買主は,その危険の限度に応じて」という言葉になっています。この危険の限度というのは非常に違和感のある言葉ですが,法文を見ると危険の限度という言葉が現行法でも使われている。その前後には,不適合の程度という言葉が「売買」のところでも出てきますけれども,危険の程度のほうが日本語的には分かりよい。こういう表現上,必ずしも現行法の言葉遣いが適切とは思えないけれども,それが残ったままになっているのはどうか,と感じる部分があります。   ついでですから,発言は控えていましたけれども,第4の9,「無権代理人の責任」のところ,4ページですけれども,ここでも自己の代理権を証明したときという言葉,これも現行法が自己の代理権を証明したときですけれども,これは代理権を有するとき,代理権のあるときのことだろうと思います。それがそのまま現行法の言葉が残っている。   「第7 消滅時効」の「時効の効果」,9ページですが,従前は,時効の期間が満了したときは当事者は時効を援用することができるという表現ぶりでずっときていたのですが,現行法に合わせて「援用しなければ,裁判所がこれによって裁判をすることができない」と変わっている。どういう経緯で変わったのかよく分かりません。従来の表現の方が分かりやすいのではないか。内容が同じであれば,この機会に直せるところは直してはどうかと感じる次第です。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがですか。   よろしければ,「第32 消費貸借」から「第34 使用貸借」までについて御審議いただきます。御自由に御発言ください。 ○渡邊関係官 それでは,民法第609条と610条の関係でございます。農林水産省の農地政策課長でございます。前回,「減収による賃料の減額請求等」のこの609条と610条を削除ということで,当方から御意見をさせていただきました中身につきましては,法務省さんの案では農地法20条に同様の規定があるので,適用の対象はないのではないかという御議論だったんですけれども,そこにつきましては農地法20条というのは社会的な事情変更に基づいて,将来に向かって解約ができるという規定に対して,今回の民法の方は不可抗力,要は災害によって生じた減収を賄うために,今現在,締結されている契約について減収を請求ができると,減額請求ができると,こういうことなので,適用の場面が違うということで削除ではなく,存置をお願いしたいと御意見をさせていただいたと思っております。   今回,更にまた,削除ということで案が出てきましたので,この609条,610条は実際の適用場面を詳しく調べたわけではございませんけれども,東日本大震災などでもかなり多くの農地がその年は使えないという場面が多くあったかと思いますけれども,特に賃料の問題で余り大きな問題が出なかったのは,民法のこの規定があることを思って,現場で地主さんと貸借人との間で調整が行われたと理解をしているところでございます。   また,この規定を削除すべきという御意見の中に,例えばゴルフ場などの収益が上がらないことを思って,これを適用するのはおかしいではないかという御意見があるやに聞いておりますけれども,まず,そういうものが不可抗力によるものなのかどうかというのもかなり疑問だと思いますし,宅地については民法上はこの限りではないと書いてありまして,宅地はこの減額請求権の対象にならないということになっておりますので,今の例のゴルフ場なんかは農地転用を必要とする施設でございますので,宅地に当然,含まれると思っておりますので,そういう点でも問題はないのではないかと思っておりますので,609条,610条については存置をお願いしたいと思っております。 ○山野目幹事 同じことの審議が繰り返されることは,効率がよろしくないということを申し添えた上で,申し上げさせていただきたいと感じます。   第94回会議におきまして,農林水産省の関係官の方から609条の削除に抵抗感を感ずるというお話があって,その際に,それまでの法務省事務当局の部会資料における609条の削除の理由付けが,農地法に20条の規定があるから要らないという説明がされていたことついて異論を感ずるという御指摘があり,それに対して部会の席上,二人の幹事からその御指摘はごもっともであると受け止めた上で,しかし,その理由付けは適当でないとしても,別の観点から609条,610条の削除が相当であるということの指摘の発言があり,それを受けて筒井幹事からも従来の理由付けは適当でなかったと考えられるけれども,改めて収益を目的とする土地という概念が広範にわたっているということを踏まえ,609条,610条の法制的な在り方について考えていきたいという発言があり,それを踏まえて法務省事務当局に対して検討を求めた上で,本日,この要綱仮案の第二次案が出てきているものと理解いたします。   その際に,内容として発言したことの繰り返しになりますけれども,収益を目的とする土地という概念は広うございまして,農業政策上の観点も重要でございますけれども,農業政策のみで決めるべき民事法制上の基本規定ではございません。再生可能エネルギーの問題を今後,どうするかというような国家の基本的な国土政策ないし産業政策が関わっている問題であるということも,あの際,指摘させていただいたとおりでありまして,今回,第二次案で提起されている方向で,609条や610条の処置をお決めいただくことが適切であると考えます。 ○渡邊関係官 今の御指摘の太陽光パネルなどの話も,パネルを設置するためには農地転用が必要でございますので,これは農地になりませんので,そういう意味では609条ただし書の宅地の賃貸借については,この限りでないというので,それは読めるものであると思っております。したがいまして,収益を目的とする土地の賃借人という土地の部分が,ただし書の宅地の部分についてはこの限りでないと書いてあるところでかなりの程度,御心配されている部分は外されているのではないかと思っております。また,農業サイドのことだけだとおっしゃいますけれども,この部分についてはメインは農地なわけですけれども,609条,610条というのは昔から民法の中に規定をされているというのが非常に大きな事実としてございまして,いきなり609条,610条がなくなるということ自体が,現場としては非常な誤解を招きかねないということもございますので,先生方が御心配なさっているような部分は,現行法令上は宅地の概念の中で大体処理できるのではないかと思っているということでございます。 ○山野目幹事 太陽光パネルの設置のための実務というものは,既にいろいろな蓄積が見られるものでありまして,そういうものに関して少なくとも私が見知っている限りでは,宅地の概念で処理することができるから大丈夫だろうというふうなことを容易に言うことができるものではないと考えます。 ○渡邊関係官 農林省の転用の部分は私は担当しておりませんけれども,太陽光パネルの話は太陽光パネルを設置する以上は,転用許可が必要な取扱いに今はしておりますので,転用許可というのは,農地を農地以外のものにするという場合に許可をするというものですから,宅地に該当すると考えております。 ○山野目幹事 不動産登記制度上の地目である山林や原野,雑種地についても太陽光パネルの設置は行われるものであり,農林水産省が所管しておられる不動産登記制度上の地目である田や畑のみに太陽光パネルが設置されるとは限りません。 ○渡邊関係官 山林の場合は,また,山林の方で開発許可や何かが出ますので,要は宅地というのは住宅地ですとか,工場用地だとか,そういうところを普通,指しているのでございまして,森林とかないしは山林,農地は宅地には該当しないと考えております。 ○潮見幹事 農地法を変えることでは駄目ですか。 ○渡邊関係官 なぜ,この規定だけが農地法にやってくるのかという説明ができないかと思っております。 ○潮見幹事 それは農地が問題になっているからではないですか。 ○渡邊関係官 要は,だから永小作権などはそのまま民法の中の存置をされているわけですけれども,この契約の部分だけこちらにやってくるというのが,なかなか説明がしづらいかなというようなものもございますし……。 ○潮見幹事 そういう説明を発言の最初にされなかったのにはどういう理由があるんですか。 ○渡邊関係官 必ずしも最初の意見で全部を表明をしないといけないんでしょうか。このような御議論の過程でいろいろな御議論がなされて,その際の意見として申し上げているというのでは駄目だということなんでしょうか。 ○潮見幹事 もう一度,すみません,1点だけ,過去の経緯とおっしゃられた民法ができた経緯という,この規定をどこまで,どのぐらい御理解されて先ほどの発言をされたわけですか。私は起草者の趣旨も全部読みました。そのところで対象としているのは,正に農地が問題となっている場面を想定した議論の上に,この規定ができてきているわけであって,しかも現在の状況を考えた場合に,収益が問題になるという場面というのはそれ以外に一般的にあるわけです。民法の規定というものはそういうものを一般的なルールとして,どのように定めていこうかということを想定しながら規定を設けなければいけない,それが単にただし書があるから,そこで例外ができるからということで一般ルールということをねじ曲げてしまうというか,そのことには大きな無理があるのではないかと思います。 ○渡邊関係官 すみません,私も立法の趣旨までは読んでおりませんけれども,いろいろな解説書で609条,610条は農地賃貸借がメインで作られたというのは勉強しております。ただ,先生がおっしゃられたただし書があっても,それはメインではないからというのは,それは条文解釈上,おかしな話でございまして,ただし書も含めて1条がなされているわけですから,そこで解釈で対応できるというものについて,なぜ,それが駄目なのかというのは理解に苦しむところでございます。 ○筒井幹事 確認なのですけれども,前回の会議で申し上げたように,農地法20条でカバーできているからこの規定は不要であるという説明は今後はしないようにしようと,その点は前回,御指摘いただいたところで私も理解いたしました。その前提に立った上で,しかし,農地以外のものについて,本日はただし書の宅地の賃貸借というところにスポットを当てた御説明を頂いたのですけれども,しかし,それで賄えないような賃貸借が一定程度あること自体は争いようのないことなので,そういった農地以外の一般的な場面において,この規定が極めて不合理であるという意見は,これまでに多数寄せられており,少なくともそれについて民法609条,610条の規律は不合理であり,見直しの必要があるという点では,大方の賛同が得られていたわけです。   ですから,その上で農地について,あるいは農地プラスアルファがあるのかもしれませんけれども,それをどうするかということは,また別途,今後も議論が必要だということを前回会議で御指摘いただいたのだと思います。その場合に,規定の置き場所などという点については法制上の問題もかなり入ってきますので,これは省庁の間で議論したほうがよいのかと思っております。   ただ,民法609条,610条を農地について,最初に申し上げましたように農地法20条があるから不要であるという説明は一切しないつもりではおりますが,逆にこれらの規定を存続させるとする場合に,農地の賃貸人の立場から見てこの規定が合理性を持つのかどうかといった点の検討が不要なのかどうかがやや気になります。その点の問題提起をさせていただいた上で,また引き続き協議をさせていただければと思うのですが,いかがでしょうか。 ○渡邊関係官 協議には応じたいと思いますけれども,農地法の世界は基本的には地主よりも借り手の賃借人を保護するというのが基本原則になっておりますので,民法のこの規定は地主ではなくて借りている側が一方的に請求すれば,そういう願いがかなうという意味では,農地のそういう全体の法制度ともマッチングをしていると考えております。実際に先ほども申し上げたように,609条や610条をもって東日本大震災のときなども恐らく現場では減額請求をして減額ということになって,もめごとが収まっているという現実はあるのかなと思っておりますので,その点も踏まえて御検討いただければと思います。 ○鎌田部会長 それでは,省庁間協議も含めて検討していただくということにします。民法上は農地と宅地の二元主義ではないので,宅地を除いた部分が全部農地かというと,直ちにそうは言い切れないと思いますので,その点も含めて検討していただければと思います。   ほかの点はよろしいでしょうか。 ○中田委員 大議論の後で小さなことで申し訳ないんですけれども,「使用貸借」のところで第34の4の(3)です。54ページから55ページにかけてです。借主の原状回復義務が規定されておりまして,使用貸借が終了したときは,「その損傷を原状に復する義務を負う」とあります。他方で,「賃貸借」について第33の13の(3),53ページですけれども,こちらを見ますと同じ表現なんですけれども,損傷の次に括弧書きがあって通常損耗と経年変化は除くという規定になっております。これは賃貸借についてはもっともなことでありまして,その分は賃料に含まれているからだと思います。   そこで,使用貸借については反対解釈をしますと,通常損耗と経年変化についても,借主は原状回復をすべきだというように表現上は読めることになってしまいます。そうしますと例えば新築建物を何年間か借りて通常損耗と経年変化が生じた後,返すときに元の新築の状態で復旧しなければいけないということになってしまいそうなんですが,それは恐らく通常の使用貸借における当事者の意思とは違っているのではないかと思います。また,もしもそれをさせるということになると,事後的に賃料の一部に相当する額を払わせるということにもなってしまうと思います。そこで,使用貸借について先ほどの第34の4(3)のただし書で対応する,つまり借主の責めに帰することができない事由による損傷という概念で対応するということも考えられるんですが,しかしながら,賃貸借についても第33の13(3)に全く同じただし書が入っているので,それでもうまく解決できないように思いますし,解釈が複雑になると思います。   対応としては「使用貸借」の方に原状に復する義務というところの前に,「その使用貸借の目的に応じて原状に服する義務を負う」というような趣旨の規定を置けば,それで手当はできると思うんですが,それも難しいかもしれません。ただ,今のままですとストレートな反対解釈がしやすくなってしまいますので,何かそうはならないような解釈上の手掛かりを残せればと思います。 ○住友関係官 更に検討したいと思います。 ○高須幹事 これまでの部会の議論の際に,確かに「賃貸借」のところで弁護士会の意見として,括弧書きのことを何度か発言させていただいた記憶がございます。ただ,そのときの発言でも使用貸借のことは別扱いにすると考えていたわけではなくて,賃貸借の事例が裁判例等では大変,多い,弁護士は日頃から,そういう事件を多数,扱っているという趣旨で,判例等もありますと,賃貸借のところで議論させていただいた趣旨でございます。ですから,例えば「使用貸借」のところでその点を私が発言していなかったという意味は,別な取扱いにすることを考えていたという意味ではなくて,今,中田先生がおっしゃったような趣旨で思っておったということでございます。 ○鎌田部会長 ほかによろしいですか。 ○潮見幹事 「使用貸借」の5,600条に次の規律を付け加えるものとするとあるんですが,付け加えるものとするということは,現在の600条をそのままといいますか,これを維持した上で,それに何かこんなものが入るということなんですか。つまり,600条というのは,「契約の本旨に反する使用又は収益によって生じた損害の賠償及び借主が支出した経費の償還は,貸主が返還を受けた時から,一年以内に請求しなければならない」,付け加えるというのは,ここに2項が入るというような,しようもないことですけれども,そういう理解ですね。だから,損害賠償のところだけ1年という,これを時効完成ということで入れるということですよね。 ○住友関係官 はい。 ○潮見幹事 分かりました。それだけです。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。 ○中井委員 「使用貸借」の4の(3),先ほどの中田委員の御発言に関わる部分ですけれども,元々,賃貸借では通常使用と経年変化については除くという意見を弁護士会も強く申し上げてそれが入った。私としては使用貸借においても横並びでいいのではないか,使用貸借として無償で貸した,借りたほうは通常の形で使用した,その結果,返すときは通常使用に伴う損傷は貸した側が負担する。これも一つの考え方だと思って申し上げたわけですけれども,確かに審議の経過では,使用貸借の場合はただで貸すのだから,そこの部分の負担を求めることはあり得るという御意見が出て,このような案でまとまったのかと思います。それでいいのかなと思っておりました。   ただ,中田委員がおっしゃられたように,新築建物を親族の方がどうぞ,自分が使わないからただで使っていいよと言って5年たった後,返すときに,この解釈で解決するというのも一つでしょうけれども,原則,経年変化も通常損耗も元に戻せということだとすれば,それは明らかに当事者の意思に反するというのは,中田先生がおっしゃるとおりだろうと思います。そういう解釈が普通に起こり得るなら,また,そういう理解になるのなら,賃貸借と同様にこの損傷の後ろに括弧書きを付けて,使用貸借契約をするときに当事者間の特約として,原状回復はしてもらわなければ駄目だ,賃料はただだけれども,返してもらうときには経年変化部分も直して返す合意を別途するのが,素直なように聞こえました。   議論が煮詰まって,別々の原状回復にしましょうと決めたものの,中田委員の発言を聞いて,そのままでいいのかなと改めて思ったものですから発言を致しました。別段の合意は容易にできるので,確か企業が使用貸借をするときにそういうことがあるのではないかということから,賃貸借とは変えたわけですけれども,考え直してくださいとまで強く言うものではないのですが,意見として申し上げます。 ○鎌田部会長 ほかに関連した御意見はありますか。日常的な修繕は使用借人の負担とするという契約類型も多いと思いますけれども,それに従うと通常の使用に伴う損耗は使用借人の負担であるということになるので,これは特約があるときだけそうなるのか,デフォルトがそうなのかというところの考え方の差になるのかもしれません。経年変化は違う要素があるのかもしれませんけれども,できれば委員・幹事の御意見を伺った上で最終的に判断したほうがよいと思います。 ○松本委員 使用貸借の実態が必ずしもよく分からないんですが,賃貸借のように契約書を取り交わすような形の使用貸借がメインなのか,そうではないのかという,親族間なんかであれば,恐らく口頭の合意ぐらいで動いているケースが多いんだと考えています。そこで,原状回復について特約をしないで,単に無料で使っていいという感じで使用しているケースが多いんだとすると,デフォルトがどちらかというのはかなり重要なファクターになってくると思うんですね。契約書を取り交わすのであれば,そこに何かの特約を書くということも可能だけれども,口頭の合意の中で民法と違う約束をあえてやるかというと普通やらないだろうと思います。   そうなると,口頭で行われることが多いのであればそちらをメインに置いて,貸手側が企業であるような場合のように,きちんと契約書を取り交わしてやる場合には書面による特約を付けることが簡単にできるわけだから,その場合はひっくり返るという形の方が現実には適合するのではないかと思います。したがって,何人かの委員の方がおっしゃっているように,賃貸借と同じようなデフォルトルールを置いた上で,それをひっくり返すのを書面でやるというほうがいいのではないかと思います。 ○内田委員 これまでの審議では使用貸借というのは,既に言われていることですが,非常に多様で,通常損耗についてデフォルトルールを置くということが非常に難しいので,置かないことにしようという判断で現在の案ができているのだと思います。中田委員の御発言は,それを変えて一定のデフォルトルールを置けとおっしゃったのではなくて,デフォルトルールを置かないというスタンスを採っているけれども,賃貸借との関係で反対解釈を招くおそれがあるではないか,だから,表現を工夫せよとおっしゃったのだと理解を致しました。それはそうだろうと思いますので,その点は検討を要する課題だろうと思いますけれども,これからデフォルトルールをどっちにするかを決めるというのは,これまでの審議をひっくり返すことになるので,やや無理があるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 内田委員に整理していただいたような考え方で,この後,どういう規定にしていくのが適切かを更に詰めさせていただきたいと思います。   ほかの点についても御意見がありましたらお出しください。   よろしければ,「第35 請負」から「第37 雇用」までについて御意見をお伺いいたします。 ○安永委員 続けて3点申し上げたいと思います。   まず,「第35 請負」の「1 仕事を完成することができなくなった場合等の報酬請求権」でございます。これにつきましても先ほどと同様,欠席を致しました第93回会議の意見書に記載したことと重なりますので,簡単に申し上げたいと思います。請負だけでなく,委任,雇用にも共通することとなりますが,民法536条2項については,部会資料72Aの段階では,536条2項を実質的に維持する規定を債権総論等に置くことと併せて,役務提供契約の各章に報酬請求権の発生根拠を明確化する条文を置くこととされておりましたが,前回の部会資料82から提案の方向性が変わって,役務提供契約の各章に規定が置かれることは見送る提案がされております。この点につきましては,部会資料72Aの提案どおり,役務提供型契約の各章に報酬請求権の発生根拠を明確化する条文を置いていただきたいという意見を現在でも強く持っておりますので,この点については,重ねて意見として申し上げておきたいと思います。   それから,57ページ,「第36 委任」の「3 委任契約の任意解除権」についてでございます。受任者は,委任者の解除に対して,報酬部分について報酬請求権の行使か,あるいは不法行為又は信義則違反等の債務不履行に基づく損害賠償請求権の行使かを選択し得ると理解しております。この点,今回の提案では部会資料80と同様に,委任契約の任意解除権についての損害賠償の範囲に関して,「受任者が報酬を受けることができなかったことによるものを除く」との括弧書きが付されており,今回の変更によって報酬部分について損害賠償請求権を行使できなくなることが懸念しております。このため,この括弧書き部分の記載については,削除していただきたいと考えるところです。   次に,「受任者の利益をも目的とする委任」について申し上げたいと思います。労働の現場では使用者の賃金,退職金などの不払いがあったとき,労働組合が組合員のために権利の保全のための手段として取立委任を利用することが多くあります。この「取立委任」は受任者の利益をも目的とする委任に該当すると思いますが,本提案では当事者が損害賠償さえすれば解除が可能とされております。しかし,さきに述べましたような事例においては,事の発端は使用者に資力がないことにあるために,損害賠償請求が認められたとしても,労働組合・労働者は何らの救済を受けることができなくなってしまうことが懸念されます。現行法では「取立委任」については,委任者が事前に解除権を放棄したと認められる事情がある場合として,やむを得ない事情がある場合以外は解除が認められなかったのではないかと思いますが,これについての御説明があればお聞かせいただきたいと思います。   最後に,「第37 雇用」の2と3,民法626条,627条に関して意見を申し上げたいと思います。「第37 雇用」の提案に関しては,今後もその内容を維持していただきたいと考えますが,取り分け,労働者からの解除の予告期間及び解約の申入れ期間を2週間に統一している提案箇所については,契約期間が5年超の場合等や,年俸制で契約期間の定めがない場合,労働基準法の適用により,労働者の解約予告期間の方が使用者の解約予告期間よりも長くなるという従前の法制度の矛盾が解消されるという点,また,現行の3箇月という人身拘束上の問題点が解消される点から,支持を申し上げたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○合田関係官 今,御指摘いただきました点についてお答えしたいと思います。   まず,「請負」について御指摘いただいた点につきましては,先ほどお答えしたとおりでして,これまでの部会での審議において,役務提供型契約のそれぞれの箇所に報酬請求権の発生根拠を明文化する規定を置くという考え方に対しては,特に請負について強い反対意見があり,コンセンサスを形成するのは難しいと考えております。前回,この論点を取り上げたときも,それから,本日においても,「雇用」にのみ,そのような規定を設けるという考え方の御提案を頂きましたので,その点については検討してみたいと考えておりますが,他方で,「雇用」にのみ,そのような規定を置いた場合には,請負や委任について反対解釈のおそれがあるのではないかという御指摘が前回からあったと思いますので,なかなか難しい問題であると考えております。   次に「委任」について,まず,受任者が報酬を受けることができなかったことによるものを損害から除くという括弧書きを付した点ですが,この3の規律によって認めるべき損害の内容として,報酬を受けることができなかったことによるものは含まれないということを前提としております。特に,「受任者の利益をも目的とする委任」には,有償契約であるというだけでは,これには含まれないというのが判例法理ですので,そうすると報酬を得ることができなくなったということは,ここで賠償の対象とすべき損害には含まれないと考えられます。現在の判例法理が不適当であり,報酬を得られなくなったということについても損害として認めるべきであるという御指摘は,これまでの部会の議論の中では余りなかったのではないかと認識しており,この規律は今の判例法理を実質的に維持した規律になっていると整理しております。   もう1点,取立委任についてですけれども,取立委任は一般に受任者の利益をも目的とする委任に当たると考えられると思いますが,取立委任であれば常に解除権を放棄したと認められる事情があると言えるかどうかというと,それは解釈の余地があるんだろうと考えております。結局は解除権自体を放棄したと解される事情があるかどうかという議論になると思いますので,解除権自体を放棄したと解される事情があれば解除できないという結論については,この規律を今回こういう形で設けたとしても,今後も維持されると思いますので,従来の判例法理をこの規律によって変更したということではなく,今の判例法理を維持した規定であると考えております。 ○鎌田部会長 ほかに御意見は。 ○佐成委員 第37の「雇用」の3についてです。前回,627条2項,3項について使用者側だけ現行法を維持すると,そういうような片面的なものは好ましくないのではないかという意見を第93回の部会で述べましたところ,補充説明の82-2の説明のところで,そういう指摘があったが,労働基準法,多分,労基法の20条ということだと思うんですけれども,それが優先適用されると,そういうことを前提とすれば問題はないのではないかと,そういう解説になっているかと思います。   それで,ある程度は理解はできるので,あえて,これについて反対しようというわけではないんですけれども,ただ,この説明では,要するに「労働基準法の規定が優先して適用されるという考え方を前提とすれば」と,こうなっておるんですけれども,内部の労働法の専門の方々の御意見ですと,この辺についての解釈というのは学説とか,いろいろな考え方があるようでありまして,その一つの考え方を採るとこうだというのではなくて,端的に労働基準法が優先して民法の適用が排除されると,そういう前提であれば我々としても受け入れられるけれども,その幾つかある学説のうちの一つを前提にして,こう言えますよと言われてしまうと,それでは納得できないと,そういうような意見がございましたので,そこら辺は今後の説明のやり方次第だと思いますが,御斟酌いただきたいということでございます。 ○筒井幹事 ただいま御指摘がありました点は,解釈に委ねられると書いたつもりではなくて,労働基準法の方が優先して適用されるので,実質においては使用者側に不利益になるものではないという趣旨でございました。説明の書き方にやや不十分なところがあったという指摘だと受け止めて,今後,気を付けるようにいたします。この点に関する安永委員の御指摘も,労働者側に関して2週間という規律が維持されることを特に求めるという趣旨だったと思いますので,この原案でそのまま進めさせていただきたいと考えております。 ○山野目幹事 第35の「請負」に関して小さなことでございますが,2の(3)の期間制限に関する規律の案文の,修補請求とか,損害賠償請求,契約解除を1年以内にしましょうということが記されているものの中に,代金の減額の請求という用語表現が出てまいります。私はもう少し考えてみようとは考えますけれども,「代金の」ではなくて報酬の減額の請求であるかもしれないと感じますから,一言,申し上げさせていただきます。 ○神作幹事 第36の3について先ほども話題になりましたし,前回も関連の御発言があった部分についての御質問です。委任契約の任意解除の場合の損害について,受任者が報酬を受けることができなかったことによるものは除くという規定に変更することが提案されています。会社法などに関連する規定がございまして,正当な理由がある場合を除いては,会社は解任された役員や会計監査人に対して損害を賠償しなければいけないと定められています。会社法のこの規定における「損害」の解釈においては,得べかりし報酬は「損害」に基本的には含まれると解釈されてきたと理解しています。同様の規定が一般法人法にもあるかと思います。これらの規定の解釈については,それぞれ会社法や一般法人法の解除に係る規定における「損害」の解釈によると理解してよろしいでしょうか。逆から申し上げれば,委任契約の任意解除権に係る「損害」について,今回提案されている得べかりし報酬は除外するという限定は,会社法その他の特別法がある場合には及ばないという理解でよろしいかについて御教授いただければと思います。 ○鎌田部会長 では,説明をお願いします。 ○合田関係官 会社法の規定については,従前から,残余期間の報酬も損害として請求することができるという解釈がされてきたと思います。今回,この規定ができたとしても,その点についての解釈に影響はないものと考えております。 ○岡委員 同じ問題意識のところでございます。委任の任意解除の損害について,括弧で報酬をカットしたところでございます。例えば普通の委任契約で2年という明確な合意があった場合について途中解約された場合,あるいは2年間は任意解除権は行使しないと書いてあったにもかかわらず,任意解除した場合,そういう特約がある場合には,得べかりし報酬も損害賠償の対象になると思うんですが,それはそう理解してよろしいんでしょうか。 ○合田関係官 そのような帰結でいいんだと考えております。結局,特約で解除権を放棄した場合に当たる,あるいは解除権自体を放棄したとまでは言えなくても,解除権を行使しないということが特約で定められていて,その義務違反として損害賠償義務を負うという解釈もあり得るのではないかと思いますので,その場合にはこの規律の範囲ではなくて,この規律とは別に損害賠償を請求することができるという解釈があるのではないかと考えております。 ○岡委員 それをこの表現で読めるのかという問題意識でございます。民法の元の651条は,各当事者がいつでも解除をすることができるとそっけなく書いていますので,任期の定めがある場合でも解除できると読めてしまいます。最高裁の判例を明確化するために,この括弧書きを入れたということでしたけれども,何か弊害の方が大きすぎるようにも思いますので,もう一度,検討していただきたいと思います。入れるんだということであれば,先ほどのようなこういう約定がある場合には,得べかりし報酬も損害になる場合があるということは明記していただきたいと思います。 ○中井委員 同じところですけれども,前回もここについて質問し,説明していただいて,結局,不利な時期に解除したことによって生じた損害を賠償するということの説明だろうと思います。その説明を理解したうえで,損害の後ろにあえて括弧書きを置く意味ですが,大原則の損害賠償の範囲について,通常損害,特別損害の形で残るわけですけれども,ここは解除によって生じた損害の範囲の問題ですが,特にこの損害に限って括弧書きで限定するということ,仮にそれが判例法理を明らかにするものであり,この解釈としてありうるものだとしても,そのことに違和感を感じます。仮にこういう損害一般についての解釈基準のようなものを入れるとすれば,「消費貸借」における期限前弁済における損害には,例えば括弧して約定利息は含まないとか,そんな意見もありうるような問題にも通じるものですから,あえて括弧書きを入れる意味について教えていただきたい。 ○合田関係官 ここであえて括弧書きを入れた理由としては,仮にこの括弧書きを書かずに単純に損害を賠償しなければならないと書いた場合には,報酬を得ることができなくなったということも損害に含まれるという誤解を生ずるおそれがあるのではないかということが理由です。   先ほどから御指摘いただいている点ですけれども,いつでもどちらからでも委任を解除することができるというルールを特約によって排除することができるというのは,不利な時期であるとか,受任者の利益をも目的とする委任に限らず,委任全般に当てはまることだと思いますので,それとは別に不利な時期に委任を解除した場合と,受任者の利益をも目的とする委任を解除した場合の損害賠償義務の規定をここに設けたということです。解除したことによって特約違反としての損害賠償義務を負うということは,この規律とは別の問題だと整理しておりましたので,ここでは報酬を受けることができないということが報酬に含まれないことを明記しておいたほうが分かりやすいのではないかと考え,括弧書きで記載しておりますが,それがかえって弊害があるという御指摘ですとか,この括弧書きがなくてもそれは読めるのではないかという御指摘があるならば,少し考えてみたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかに御意見はいかがですか。 ○山本(敬)幹事 これも前回,議論したところだけに,何度も同じことばかり言うのは気が引けるのですけれども,「請負」について2点あります。1点は,ここに書いていないことですけれども,634条2項はそのまま維持するということが適当なのかどうかということを前回,申し上げました。つまり,修補に代えて,また,その修補とともに損害賠償の請求をすることができると定めた規定です。   繰り返しになりますけれども,これは債務不履行の一般原則ではなく,法が定めた特別の責任であるという考えを前提にしますと,ここに損害賠償請求ができるということを書くのは,法が定めた特別の効果だという意味を持ちますし,そして,従来,例えば我妻先生などは,これは売買の担保責任の特則でもあるので,無過失責任を定めた規定であるという解釈をしてきました。しかし,今回の改正では明確に,売買もそうですけれども,請負の従来,担保責任と言われてきたものは,債務不履行の一般原則に基づく責任であるという考えでできていると思います。   そうしますと,損害賠償については規定をする必要も本来ないはずなのですが,仮に規定をするとしても,債務不履行の一般原則に従って請求できるとしませんと,誤解の余地がかなり大きいのではないかと思います。取り分け,634条2項には,債務不履行の一般原則と違って,債務者に責めに帰すべき事由がない場合には,損害賠償責任は負わないということは書いていないわけです。そのような解釈が独り歩きしないようにする工夫が必要ではないかと思います。   そしてまた,先ほど山野目幹事が指摘されましたように,代金減額も請負について認めるわけですけれども,これは請負のところに規定があるわけではなくて,前回も少し確認しましたけれども,売買の規定が有償契約で準用されるという構造になっています。そうすると,634条2項は本当に書かないといけないのか,債務不履行の一般原則でいけるものは書かない。解除は書かないことにするわけですので,それと同じでよいのではないかという疑問がなお払拭できません。今後,解釈の問題として何かまた複雑な解釈をもたらす可能性があるという点は気になるところです。   もう1点は,今日の最初の方でも申し上げたことと実は同じなのですけれども,「請負」の1で,「注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなった場合」等と書いてあります。この「注文者の責めに帰することができない事由によって」は削除すべきではないかということを前回,かなり強く申し上げました。しかし,規定の分かりやすさという観点から残されたのだろうと推察するのですけれども,今日も何度も申し上げていることと重なりますが,これは要件ではないのです。つまり,仕事が部分的に完成した部分の報酬は原則として取ることができる。それが注文者の責めに帰することができる事由による場合は,「危険負担」の規定に従って全額について取れる可能性がある。解釈として否定する立場はあるかもしれませんけれども,可能性がある。そのことを示すために,「注文者の責めに帰することができない事由によって」と書かれているというのが,前回の説明だったと思います。   ただ,これはこの35の1の要件ではないのです。注文者の責めに帰することができない事由によってということを証明する必要はありませんし,そもそもナンセンスです。相手方が自分の責めに帰することができる事由によるのであるということを抗弁するのもナンセンスです。これが分かりやすいのかというと,私は,要件にならないものを書いてしまうということがむしろ問題ではないかと思います。これは請負だけではなく,委任等についても当てはまるところですけれども,これはどうしても再考していただきたいと思います。ルールの明確化というのは,何が要件かということを明確に示すことだと思います。これは不適切だろう。ここではこの程度にしておきますけれども,言わずにはおれないということで御容赦ください。 ○道垣内幹事 山本敬三幹事のおっしゃった後半部分につきましては措きますが,前半部分につきましては,私は必ずしも山本幹事の解釈が民法全体に整合的で,必然的な解釈なのかとは思いません。したがって,一方に決め付けることはできないという状況であるならば,現状のままということは十分にあり得るのではないかと思います。 ○山本(敬)幹事 よく分かりませんでしたので,もう少し内容を御説明いただけないでしょうか。 ○道垣内幹事 634条2項の損害賠償というのが通常の債務不履行の損害賠償とイコールなのかという話ですが,ここは修補に代える損害賠償です。そして,請負というものが仕事の結果に対して報酬を支払うということになっていると理解しますと,無過失責任だとか,過失責任だとかという議論とは無関係に,請負人の責めに帰すべき事由による,それは抗弁事由かもしれませんけれども,仕事の不完全性につき責めに帰すべき事由があるときだけ損害賠償請求が認められるのかというと,そういう考え方も十分あると思うんですが,それは必ずしも必然的な解釈ではないと思います。したがって,それを現在の時点で一方に決めてしまうというのは,難しいのではないかということです。 ○山本(敬)幹事 十分に理解できていないままで言うのはどうかと思うのですけれども,請負に関しては,これは現在の学説でいう結果債務に当たりますので,請負人の責めに帰すべき事由がないという抗弁を認めるとしましても,結果債務としてのそれであるということで,免責が認められる可能性はかなり限られた範囲になるだろうと思います。この点はコンセンサスがあって,ここまで議論してきたのではないかと思います。  そして,損害賠償の範囲に関しても,現行法でも実は問題になるわけですけれども,恐らく現在の416条に相当する規定に従って賠償が認められる。といいますのは,現在でも,我妻先生もそうなのですけれども,これは債務不履行責任の特則でもあり,売買の担保責任の特則でもあると言われるわけで,担保責任の特則と言われるときに出てくるのが,無過失責任であるということなのですが,仕事完成義務があることは認められているわけですし,請負の場合に信頼利益の賠償に限ることはあり得ない話で,416条に従った損害賠償が認められるということだったと思います。ここまでの議論でも,担保責任の特則という側面をなお維持すべきだという考え方は出ていなかったと思いますし,むしろ,債務不履行の一般原則に従った責任であり,その中で請負について特に規定をすべきことは何であるか,それは規定するということだったと思います。  そうしますと,コンセンサスが得られているという理解できたつもりだったのですけれども,そうではなかったということでしょうか。 ○道垣内幹事 山本幹事がおっしゃった範囲内においてはコンセンサスがあると言ってもよいのかもしれませんが,現行634条2項というものが,債務不履行であるとしても,その賠償範囲について416条が当然に適用される,その一連の枠組みに乗るものかどうかというのは,必ずしも議論の対象になったわけではないと思いますし,幾つかの考え方はあり得るのではないかという気がいたします。私が解釈論として山本幹事に賛成しないとか,するとかというふうな話ではなく,現行法の「修補に代えて」ということにも一定の意味はあり得るという解釈は今後もありえて,それの方が妥当な場合というのもあるかもしれないという話であります。別に特に強い私見があって申し上げているわけではございません。 ○鎌田部会長 ほかの点についてはいかがでしょうか。 ○山野目幹事 今,御議論いただいた2の(1)の関連で,634条2項の扱いということは,確かに部会における審議を顧みますと,634条1項のことはかなり熱心に回を重ねて議論をしてまいりましたし,だからこそ,この要綱仮案に文章として反映されていると思います。他方,634条1項をこのように見直すということ,加えて債務不履行に基づく損害賠償責任の在り方についても,抜本的な規律の見直しをするということを踏まえた上で,634条2項をどうするかということについては,きちんと議事録を精査してみれば散発的に議論があったのかもしれませんし,今日の御議論に触発されて事務当局でも点検していただきたいと望みますけれども,恐らくそこが集中的に議論されてきたことはなかったというふうな印象を抱きます。   そうすると2の(1)の論点に関連して,634条2項を関連してどのように整備するかという問題になってくるのかもしれません。決め打ちして要綱仮案の中に文章化して,こういう方向にということが書きにくいという面もあるかもしれませんけれども,今の山本幹事と道垣内幹事の御議論で明らかになったように,何も検討しないで634条2項をそのまま残すということが最終的な法律の姿になったときには,少し難しい問題を抱え込むと印象も抱きます。要綱仮案に何か項目を起こして,新たに書き加えてくださいというお話に直ちにならないかもしれませんけれども,一度,過去の審議の経緯を踏まえ,改めて提案されている債務不履行の損害賠償請求の本則との関係を事務当局でも御検討いただき,私たちも検討した上で,要綱仮案に向け残されている時間で考えてみる必要があるのではないかということを感じました。 ○岡委員 先ほどに戻り,「委任契約の任意解除権」の損害に関する括弧書きのところですが,二つ申し上げて括弧書きを削除するほうが相当ではないかという意見を申し述べたいと思います。   一つ目は,先ほどのように任期の定めがない,あるいは解除権の放棄の定めがないフラットな場合について,なおかつ,報酬が月額報酬だった場合,その場合にはいつでも解除できるというデフォルトスタンダードが当事者間に認知されていますので,任意解除されてもそこから向こうの将来の報酬は損害にならない,予見可能性がないという考え方で報酬を損害賠償から外すことが,損害賠償の一般理論で可能ではないだろうかということが一つでございます。   もう一つは,委任の場合の報酬についても,従前,二つの報酬タイプがあるという分類がされていたと思いますけれども,請負と同じように委任業務が可分であって,途中で終わった場合でも利益がある場合,そんな場合もあり得ると思いますので,そのようなことも考えると,報酬は必ず除くという固い規定はないほうが相当と考えます。 ○内田委員 また,先ほどの議論に戻るのですが,山野目幹事から御指摘がありましたように,634条2項をそのまま残すかどうかについて,十分,詰めた議論をしていなかったというのは多分,そうだろうと思います。そして,その問題について山本敬三幹事がおっしゃったように,これは債務不履行の一般原則の適用そのものなのだから,特段,規定を置くべきではないし,置くと誤解を招くおそれがあるという御指摘は,そういう考え方も十分にあり得ると思います。私自身は学生時代からこの責任は契約責任であると習ってきましたので,法定責任説の根拠になるなどとは全く思いもしないのですけれども,しかし,そういう懸念もあり得るということは理解を致しました。   ただ,他の異なる考え方もあり得るということで,道垣内幹事に加えて一つ意見を申し上げたいと思います。請負というのは仕事に何らかの不適合があった場合の救済手段が,原則としてまず修補である。これは売買と大きく異なる点で,売買の場合は修補というのは幾つかある救済手段の一つであり,しかも,そうメインではないだろうと思います。それに対して請負の場合は原則として修補で,相当期間を定めて修補請求するという救済がまずある。そして,その救済と損害賠償との関係についての規律が必要になるという点で,一つの典型契約としての救済のリストを示しているという意味が,634条1項,2項にはあるように思います。もちろん,私も契約責任だと考えていますので,一般原則そのものではないかと言われれば解釈で導けないことはないのですが,しかし,典型契約の中で認められる典型的な救済方法について任意規定を置いておくということには,それなりに意味があるように思います。   あと,もう一つ,2項の削除ということについて非常にちゅうちょを感じるのは,634条2項にただし書が付いていて533条が準用されています。これも一般原則そのもので解釈で導けるのですが,しかし,634条2項ただし書をめぐっては重要な判例が存在します。この判例をそのまま維持をするのに支障が生じないようにしなければいけない。もちろん,削除して一般原則が適用されるとし,今までの判例は一般原則についての判例と読み替えればよいと言ってもいいのですけれども,請負特有の判例法を維持するためには,置いておいたほうがいいのではないかという気もいたします。そういう考え方もあるということだけ申し上げたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがですか。   よろしければ,時間の関係もありますので「第38 寄託」と「第39 組合」について御審議いただきたいと思います。御自由に御発言ください。よろしいですか。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。ほかに御意見が特にないようでしたら,本日の審議はこの程度にさせていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。 ○中井委員 「請負」の35の2の(1)ですが,注文者に帰責事由があるときについて特に書いていないのですが,これはこれでよろしいのでしょうか。つまり,売買では買主に帰責事由があるときはこの限りではないとあります。当たり前だから書いていないという理解なのか。そういうことは想定できないから書いていないのか。売主の追完義務では不適合が買主の責めに帰すときには追完請求できない,請負でも仮にこの不適合が注文者の責めに帰す場合には,追完請求できないという論理になると思ったものですから,念のためにここになくてもいいのかという確認です。売買は追完だけれども,請負は本来,完成しなければいけないから帰責事由が注文者にあろうがなかろうが完成する義務,修補する義務があるのか。 ○道垣内幹事 私もよく分からないのですけれども,636条が存在しているわけですね。注文者に帰責事由があるときの追完義務の不存在は636条で規律されていて,現行法では,逆に請負についてだけ明文規定があったというべきなのだと思います。しかるに,改正にあたって他のところにより一般的な規定を置こうとしているため,請負についてだけは逆に狭いのではないかという話になったというのが現状ではないかと思います。そのときに方向としては二つあって,636条というのがあって,それの解釈で対応できるのだから,請負についてはあえて一般規定を置く必要はないのではないかというのが一つの考え方で,もう一つの考え方としては,逆に636条だと請負だけが狭くなってしまっておかしいので,636条を削除して,およそ注文者の責めに帰すべき事由があるときは,この限りでないということにするというものです。私は,636条で対応すれば何とかなるのではないかなという気がしますが。 ○中井委員 なるほど,636条で処理できるわけですか。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。 ○岡委員 636条は物の場合だけですよね。目的が物ではない場合には対応できなくなるので,何か売買と同じような広目の規定の方がいいように思いますが。 ○鎌田部会長 634条からずっと完成した目的物に着目した規定ですから,636条も物になっていますので,物の引渡しを要しない場合についてはこれの類推か何かをして,全く違う原理で処理するということはあり得ないと思います。それを物の引渡しを要しない場合に広げるとなると,634条からやり直さなければいけないということになりそうで,636条だけの変更というのは難しいかもしれないように思いますが,なお,少し検討してもらいます。 ○中井委員 「請負」の2ですけれども,ここでは目的物の修補がメインだからというお話がありました。しかし,前回,山本敬三先生か,潮見先生から御指摘がありましたように,(3)では代金の減額の請求が出てくるが,その定めをおかないなど,全体的に構成が非常に分かりにくくなっていると思います。今の問題,634条2項の今日の議論,かつ636条も踏まえて,ここはトータルに御提案をしていただくほうが分かりやすいというか,このままでは分かりにくいと思います。御検討いただければと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。   それでは,本日の審議はこの程度にさせていただきます。次回の議事日程等について事務当局から説明をしてもらいます。 ○筒井幹事 まず,次回の会議日ですが,8月26日(火曜日),午後1時から午後6時まで,場所は法務省20階第1会議室でございます。次回の議題につきましては,本日の部会資料について最後まで御議論いただけましたので,要綱仮案の第三次案という名称になるかどうか,そこはまた追って考えますけれども,次のバージョンの案を御提示しようと思います。その際には網掛けがないものを御提示できるようにしたいと考えております。それについて御議論いただいた上で,それで御異論がないということであれば,次回会議で要綱仮案の決定ということも可能性としてはあり得るわけですけれども,それについてなお議論がある可能性もありますので,その場合には更に9月2日(火曜日)に会議が続行になるということもお含みおきいただいて,是非,日程を確保していただければと考えております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 それでは,本日の審議はこれで終了といたします。本日も熱心な御議論を賜りまして誠にありがとうございました。 -了-